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米中経済戦争(その10)(新型コロナの収束で始まる 「米中全面対決」の危険性、習近平 トランプにひれ伏したか?徴収した報復関税の返還命令、米国の対ファーウェイ禁輸措置と台湾TSMCの半導体工場誘致の深層) [世界情勢]

米中経済戦争については、昨年8月14日に取上げた。久しぶりの今日は、(その10)(新型コロナの収束で始まる 「米中全面対決」の危険性、習近平 トランプにひれ伏したか?徴収した報復関税の返還命令、米国の対ファーウェイ禁輸措置と台湾TSMCの半導体工場誘致の深層)である。

先ずは、本年5月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した国際政治評論家・翻訳家の白川 司氏による「新型コロナの収束で始まる、「米中全面対決」の危険性」を紹介しよう。
・『アメリカの貿易戦争の参謀が参戦した意味  「新型コロナウイルスが武漢研究所から漏れた可能性があることが徐々に明らかになっている。だが、これは生物兵器ではなく、対応能力がアメリカと同等か、アメリカより上であることを見せつけるためのウイルスだった」 国家通商会議トップで、ホワイトハウスの通商戦略ブレーンであるピーター・ナヴァロ氏が、4月19日に放映されたFOXニュース『サンデー・モーニング・フューチャーズ』に出演し、こう断言した。 さらに次のような発言も行っている。「ウイルスが中国で広まっているときに、中国政府はWHOと共同で事実を隠蔽して、PPE(the personal protective equipment 医療マスクや防護服など「個人防護具」)の国際市場を独占して利益を上げている」 ナヴァロ氏はトランプ政権が「米中貿易戦争」を仕掛けたときの、戦略的な支柱となっている人物である。 その彼が表舞台で新型コロナウイルス拡大における中国の責任を追及したということは、米中貿易戦争が次のフェーズに進んだことを意味する。 新型コロナウイルス拡大の責任をアメリカに転嫁して、ウイルス禍の混乱に乗じて5G敷設などの世界戦略を進めようとしている中国に、真っ向勝負で阻止に入ったということだ。 当初、トランプ政権は中国との対立を避けて、新型コロナウイルス封じ込めに集中する戦略をとっていた。だが、明らかに方向転換したとみられる』、「方向転換」させた要因は何なのだろう。
・『中国からの医療物資に高まる礼賛  ナヴァロ氏の発言からさかのぼること約1カ月前の3月12日、イタリア北部のロンバルディア州の空港に、中国の医療チームが30トンの医療物資とともに到着した。 この様子は中国のテレビでも大々的に取り上げられて、「人類共通の枠組み」で取り組んできた外交の成果だと自画自賛した。 すでに2月以降、イタリアでは北部を中心に新型コロナウイルス感染が拡大して深刻さを増していた。時を経るごとに死者が激増。特に人工呼吸器などの医療機器が大幅に不足し、医療崩壊が始まっていた。 イタリア政府はすぐにEUに医療物資支援を求めたが、3月になってもそれに応える国はなかった。それどころかドイツが4日にマスクなどの輸出を禁止、フランスも3日にマスクの政府管理を始めて、国境を閉鎖。イタリアはEUへの失望を隠さなかった。 そんなときに救いの手を差し伸べたのが中国だったわけである。 ロンバルディア州政府は中国の配慮に感謝の言葉を述べた。 EU各国が中国への警戒感を強める中、EUの主要国でありながら中国の国際投資政策「一帯一路」を受け入れたイタリアは恩人でもある。最近はそのイタリアですら中国に警戒を見せ始めていたが、今回の速やかな対応はイタリア世論にも微妙な影響を与えた。 イタリア以外の国でも、医療器材が到着した際、ナイジェリアは大々的な記者会見を催し、ベネズエラは国営テレビが中継して中国をたたえている。 中国が勢力拡大のため、新型コロナウイルスのパンデミックを利用しているのは明らかである』、「イタリアですら中国に警戒を見せ始めていたが、今回の速やかな対応はイタリア世論にも微妙な影響を与えた」、「EU各国」の「イタリア」への対応は致命的なミスだ。
・『批判殺到で変わるマスク外交の狙い  世界でマスクなどの医療防護具の不足が深刻化する中、中国政府はすでに30億枚のマスクと300万セットの検査キットを世界に輸出したと報じられている。 これが可能な理由は、新型コロナウイルスが中国から始まったことで、中国における感染の収束と、欧米における感染の拡大が、ほぼ同時並行で起こったからである。 中国は新型コロナウイルス禍で中国共産党に近い企業に命じてマスクや医療器材の増産を積極的に進め、さらには国内にある外国の工場の一部にも禁輸を強要した。 そして、新型コロナウイルスが収束して在庫を積み上がったことを利用して、今度はそれを外国に振り向け、いわゆる「マスク外交」による勢力拡大に活用し始めたわけである。 マスク外交の初期は、5G敷設を進めるファーウェイの設備導入という見返りを求めた。 だが、アメリカ共和党のマーク・グリーン下院議員がFOXニュースのインタビューで「中国がフランスに対して、マスク10億枚と引き換えにファーウェイ社の5Gを導入することを提案した」と語ったことが報じられると、中国への批判が殺到した。 中仏の両政府ともにその事実を否定したものの、誰もがファーウェイの真の意図を見抜いていた。中国にとって5G敷設は世界のIT覇権を握るための中核であるが、マスク外交はそれを進めるため手段だった。 だが、その後は露骨な5Gの売り込みを批判されて、ナヴァロ氏が言うように、医療マスクや防護服などの国際市場を独占することに目標をシフトさせたのだろう』、「中国にとって5G敷設は世界のIT覇権を握るための中核であるが、マスク外交はそれを進めるため手段だった。 だが、その後は露骨な5Gの売り込みを批判されて・・・医療マスクや防護服などの国際市場を独占することに目標をシフトさせたのだろう」、中国のやり方も余りに露骨だ。
・『中国政府の隠蔽をトランプ氏は批判せず  中国・武漢では、昨年12月の時点で、医師が新型コロナウイルスに感染していたこと、そして、それを当局が把握していたことが発覚している。 言い換えると、遅くとも昨年末の時点で、中国政府は人から人への感染を把握していながら、医師たちを口止めして、「新型コロナウイルスは人から人へはうつらない」という当初の発表が間違っていることを知りながら、1カ月半にもわたり隠蔽(いんぺい)していたことになる。 昨年12月31日に、反中国共産党メディア「大紀元」が「中国、武漢で原因不明のウイルス性肺炎が起こり、7人が重篤。SARS再来の懸念もある」と報じて、世界中のマスコミが後を追い、この事実は徐々に知られていた。 だが、武漢の公安当局は1月1日、「ネット上に真実ではない情報を広げて、社会に悪影響を与えた」として、新型肺炎の存在を知らせようとした医師8人を拘束している(このうちの1人が、2月上旬に新型肺炎で亡くなって国民的英雄になった李文亮氏)。 中国当局は他にもこの問題を告発した市民ジャーナリストを次々と拘束した。 そのため当事者である武漢市民が新型コロナウイルスの深刻さをいつまでも知らされることなく普段どおりに過ごし、結果的に感染拡大が増長した。 こうした中、習主席はWHOのテドロス事務局長と組んで、ウイルス感染拡大の責任を隠蔽すべく、次々と手を打った。 WHOのパンデミック宣言を遅らせ、中国からの渡航制限をする国の政府を批判し、「マスクは不要である」とまで言わせたのである(このことは筆者がダイヤモンド・オンラインに執筆した「中国寄り批判受けるWHO事務局長、『パンデミック宣言』の本当の狙い」で詳しく述べた)。 それでも、トランプ大統領は、自らの責任を隠蔽しようと画策する中国政府をあからさまに批判することはなかった。 米中間で無用な対立を引き起こせば、新型コロナウイルスについて最も情報を蓄積している中国に協力を拒まれ、アメリカ国内のウイルス対策が遅れることを懸念してのことだろう』、「中国」の隠蔽ぶりは確かに目に余るものがあったし、「WHOのテドロス事務局長」の中国寄りの対応も酷かった。
・『アメリカ犯人説で米中対立が激化  そんな折、習主席に融和的だったトランプ大統領を激怒させる事件が起きた。 3月21日に中国外務省の趙立堅副報道局長が「アメリカ軍が新型コロナウイルスを武漢に持ち込んだ可能性がある」とツイートしたのである。 実は「新型コロナウイルスを持ち込んだのはアメリカだ」という主張は、中国の人民解放軍も以前から主張していたのだが、外務高官が発言したことで、国内外で大きな波紋を呼んだ。特に反米的な中東メディアは「新型コロナウイルスの犯人はアメリカ」と事実のように伝えたとも報じられている。 トランプ大統領が新型コロナウイルスを「中国ウイルス(Chinese virus)」と呼び始めたのはこのツイートの後のことである。 新型コロナウイルス拡大の責任を、中国がアメリカに転嫁する戦略だと確信したトランプ大統領が、真正面から中国の責任を問う姿勢に転じたわけである。 トランプ大統領は相手国の政治体制をそれだけで批判することはない。その点は民主主義に反した行為があれば批判を繰り返したオバマ前大統領とは対照的である。 だが、たとえ相手国が同盟国であろうとアメリカの国益を脅かすことについては、妥協を許さず徹底的に戦うというのがトランプ流の合理主義であり、それを貫いている。 そこを中国は見誤った。 ニューヨークを中心に新型コロナウイルスが拡大したことで、トランプ政権とニューヨーク州が激しく対立し、海軍空母セオドア・ルーズベルトでの感染拡大で太平洋を中心とする防衛力が著しく低下していたため、今が攻め時だと判断したのだろう。 こうしてトランプ大統領は中国に対して厳しい態度へと転換した。 トランプ大統領が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼んで中国を批判し始めたとき、あたかも気まぐれに態度を変えたように報じたメディアもあったが、確信的な中国への反撃であったと思われる。 実際、ポンペオ国務長官も3月24日のG7外相会合の共同声明では、「武漢ウイルス」の文言を入れることに固執した(そのため、共同声明は見送られている)』、「趙立堅副報道局長が「アメリカ軍が新型コロナウイルスを武漢に持ち込んだ可能性がある」とツイート」、中国政府トップの了解の上でやった筈だが、「習主席に融和的だったトランプ大統領を激怒させる」とは、情勢を読み違えた愚挙だ。
・『くすぶる米中対立の可能性  だが、これで「米中対立」が終わったわけではない。 習主席の責任隠蔽とは別に、軍を中心に新型コロナウイルスをアメリカに責任転嫁しようとする動きが終わるとは思えない。 そもそも今はあくまで「休戦」であって、「新型コロナウイルスの責任転嫁をする」という目標に変わりはないからだ。 現在、黒竜江省で感染が再び拡大していており、「アメリカからの帰省者が原因だ」との報道がある。これをきっかけに「アメリカ犯人説」が蒸し返される可能性もある。 また、アメリカでも中国政府に対して、集団訴訟する動きが始まっている。フロリダ州を皮切りにテキサス州やネバダ州がすでに訴訟に入っている。他州でも追随する動きがあり、さらには世界に拡大する可能性もある。 新型コロナウイルス感染の収束後は、米中の全面対決になる可能性がある。新型コロナウイルスの他に、今後は中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)やアメリカ大統領選も絡むことになり、米中両国の今後の動向が注目される』、もともと「米中対立」が技術や貿易で深刻化していたところに、「新型コロナウイルス感染」が「対立」をさらに複雑化させたことは確かなようだ。

次に、5月15日付けNewsweek日本版が掲載した中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏による「習近平、トランプにひれ伏したか?徴収した報復関税の返還命令」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/05/12-512_1.php
・『中国は12日、米中貿易協定第一段階を実行すべく、米国から徴収した報復関税を返還する指示を出し、オーストラリアからの肉製品輸入を停止した。後者は報復措置か。強い者に弱く、弱い者には強く出る中国の戦略がそこにある』、興味深そうだ。
・『中国政府「米国から徴収した報復関税の返還手続きをせよ」と国内企業に指示  アメリカのトランプ大統領が激しく対中批判を強化している中、中国政府はアメリカに対して、米中貿易協定「第一段階協議」に即して、それを粛々と実行すべく、5月12日に政府指示を発布した。 発布したのは「国務院関税税即委員会」で、通知のタイトルは「第二期対米追加関税商品第二次排除リストに関する国務院関税税即委員会の公告」で、文書番号は【税委会公告〔2020〕4号】である。 内容は以下の通りだ。――<対米追加関税商品排除活動試行展開に関する国務院税関税即委員会の公告>(税委会公告〔2019〕2号)に基づき、国務院関税税即委員会は申請主体が提出する有効な申請に対して審査を開始し、決められたプロセスに沿って第二期対米追加関税商品に対する一部分の第二次排除の関連商品名を以下のごとく公告する:添付リストに列挙している商品に対して2020年5月19日から2021年5月18日までの1年間、米国の301措置に対抗する追加関税を課税しない。また既に徴収した追加関税に関しては、これを返還するものとする。関連する輸入企業はリストを交付した日から6カ月以内に税関に対して規定に沿って手続きを行わなければならない。 公文書の文言なので非常に硬いが、咀嚼してご説明すると「これから1年間は米国からの輸入商品に対して(報復関税としての)追加関税を徴収しないようにしますよ」ということであり、「すでに徴収してしまった関税は、6ヵ月以内に返還するよう手続きをしなさいね」ということなのである。 前代未聞の措置ではないか。 5月14日のコラム<感染者急増するロシアはコロナ対中包囲網にどう対応するか_モスクワ便り>の前半に書いた通り、トランプ大統領は「アメリカは国家として中国を提訴し、損害賠償を要求する用意がある」と言い、「アメリカ、イギリス、イタリア、ドイツ、エジプト、インド、ナイジェリア、オーストラリア」の8ヵ国の弁護士会や民間シンクタンクあるいはアメリカの場合は州の検察当局などが対中損害賠償請求を用意している中、中国はアメリカに「跪(ひざまず)いている」と言っても過言ではない。 新型コロナウイルス論争に関する「舌戦」はさておいて、中国は実効的には世界最大の強国・アメリカには今のところ逆らわず、返す刀で「弱い国」と中国が看做(みな)している「オーストラリア」を斬りつけるという曲芸をやってのけている』、「追加関税」を既に徴求した分も含め返還するというのは、確かに異例だ。
・『オーストラリアの肉製品企業4社からの輸入を停止  同日(5月12日)、中国政府はオーストラリアの企業4社からの肉製品の輸入を停止する措置を取ると表明した。 もし今コロナ問題がなかったら、実はほぼ当然のような動きなのである。 2019年12月16日のコラム<棘は刺さったまま:米中貿易第一段階合意>をご覧いただければわかるように、筆者は昨年末の時点で、「アメリカから農産物を余分に輸入すると中国が約束したのなら、農産物が余って、結局どこかの国からの輸入を減らす以外にない」として、その国とは「オーストラリア」か「ブラジル」だろうと分析していた。 この農産物は畜産物に関しても言えることで、フォーカスは「オーストラリア」に絞られる。 しかし、今はどういうタイミングかを考えてみれば、誰でも邪推もしたくなるだろう。 それはオーストラリアのモリソン首相が「新型コロナウイルスの発生源などを調べるため、独立した調査委員会を立ち上げるべき」と提案し、中国外交部が、この提案に対して「国際協力を妨害するもので、支持は得られない」と反発していたという事実があるからだ。 だからこれは中国のオーストラリアへの「報復措置」で、意趣返し以外の何ものでもないと誰でもが考えてしまうのである。 かてて加えて中国は、WHOが組織する調査委員会なら受け入れると言っている。ということは親中のテドロス事務局長が采配を振るう調査ならば調査結果にも「柔軟な」調整があり得るだろうと考えているのだろうと、誰でも思うではないか。 おまけに5月14日のコラム<感染者急増するロシアはコロナ対中包囲網にどう対応するか_モスクワ便り>に書いた通り、オーストラリアはこの対中損害賠償を求める「8ヵ国聯合」(香港メディアの命名)の中の有力な一国であり、かつファイブアイズ(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの間の諜報同盟)の一員であり、その中では反中的とみなされている。 コロナに関する独立調査委員会の提案も、もちろんトランプ大統領らと相談の上だ。 だから中国はいきり立ってオーストラリアを攻撃しているのだが、肝心かなめのアメリカには舌戦以外では実効的措置を取っていないというのは、何とも「中国的」ではないか。 強い者には今の段階では腰を低くしておいて、弱い者(中国から見ればオーストラリア)には強硬策に打って出て、言うならば「でかい態度」を取る。まるで「弱い者いじめ」で、そのようなことをする国こそ「弱虫」だと思うが、これがなかなかの曲者。ひれ伏した「ふり」をしておいて、やがてアメリカを乗り越える算段を胸の中ではしているのが中国という国だ。 「8ヵ国聯合」が「100ヵ国聯合」にならない内に、「束」では崩せないが、その中の崩しやすい国を一つずつ切り崩していこうというのが中国の魂胆である』、「8ヵ国聯合」「の中の崩しやすい国を一つずつ切り崩していこうというのが中国の魂胆」、さしずめ次の候補は「イタリア」だろうか。テレビのニュースによると、WHOのテドロス事務局長に対し、トランプ大統領は中国からの独立性を示すよう求め、満たされなければ脱退も示唆したようだ。
・『オーストラリアは見せしめ  オーストラリアの最大の貿易国は中国だ。輸出の40%は中国なのである。おまけに今般輸出停止を受けたこの4社は、肉製品の35%を占めている。この4社が輸出を禁止されれば、オーストラリアへのダメージは相当に大きい。肉製品以外にもオーストラリアはワインや小麦なども対中輸出しており、その額は中国からの輸入の2倍に相当する。またオーストラリアにいる外国人留学生も40%が中国人なので、感情的に「嫌豪」が広がれば、オーストラリアの痛手は大きい。 となると、もしかしたらオーストラリアが寝返るかもしれないと、中国は虎視眈々と戦略を練っているわけだ。こうすれば対中損害賠償要求という運動が世界に広がっていくのを食い止められるかもしれないという寸法なのである。他の国への「見せしめ」の一つと位置付けると、この先が見えやすいかもしれない』、「オーストラリア」が「中国」からの脅しにどう対応するのか、当面の注目点だ。

第三に、5月19日付け日経ビジネスオンラインが掲載した中部大学特任教授(元・経済産業省貿易管理部長)の細川昌彦氏による「米国の対ファーウェイ禁輸措置と台湾TSMCの半導体工場誘致の深層」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00035/?P=1
・『米中技術覇権の主戦場である半導体を巡る米中の綱引きが激化している。中国を半導体の供給網(サプライチェーン)から分離する米国の戦略は確実に進展している。拙稿「新型肺炎から垣間見えた、対中・半導体ビジネスの危うさ」で指摘した「部分的分離」戦略は決定的だ。 5月15日、世界第1位の半導体ファウンドリーである、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)が米国のアリゾナに最先端の半導体工場を建設する計画を発表した。米国の連邦・州政府からの支援を受けて総額約120億ドルを投じ、2021年から建設を始める計画だ。 TSMCを巡って米中が工場誘致に激しい綱引きを演じていたのは周知の事実だ。米中がそれぞれ、自国の半導体供給網(サプライチェーン)にTSMCを取り込もうと争奪戦を繰り広げた。TSMCの半導体工場は台湾に集中しているが、中国政府の要請で、南京に先端半導体の工場を建設しており、2018年から稼働している。一方、米国に有する工場は世代が古い工場であった。 この報道に関していくつかの誤解を招きかねない点もある。 米国に建設する半導体工場は“最先端”ということになっている。だが、現時点では微細加工の線幅5ナノというのは確かに最先端ではあるが、TSMCは22年に台湾で3ナノの量産を始める予定だ。さらに2ナノも開発段階にあり、24年に生産開始を計画している。つまり、その時点では5ナノも最先端ではなくなっている。まだまだ米国と中国の取引、駆け引きは続きそうだ。 軍事用途の半導体生産だとの指摘もあるが、これも疑問だ。一般的に半導体は軍事にも使われるので、その点ではもちろん「軍事用途」ともいえる。しかし、本件の誘致問題に米国の国防総省による特段の関与はほとんど見られないことから、この工場が特に軍事用途だというわけではないのだろう。 また米国が半導体の自給自足を目指しているとの報道もある。確かに米国の半導体大手のブロードコムやクアルコムはいずれもファブレス企業で量産工場を持っているわけではない。インテルの生産だけでは心もとない。半導体生産の受託製造(ファウンドリー)の最大手TSMCの量産工場を誘致することは生産面で大きな意味を持つ。 ただし米国だけでの自給自足は無理だ。半導体のサプライチェーンを見ると、日本の部材メーカーや日米欧の製造装置メーカーからの供給も含めたエコシステムとして成り立っている。中国との関係では、日米欧でサプライチェーンを押さえておくことに意味があるのだ』、TSMCが「米国に建設する半導体工場」は、とりあえず「米国」の顔を立てるためなのだろう。
・『日本の戦略は単純な量産工場の誘致ではない  一方で「日本が米国のインテルや台湾のTSMCの最先端工場を国内誘致へ」というスクープ記事が一部で流れ、一瞬ギョッとした。だが、筆者の取材では経産省に「水面下で動き始めた極秘計画」といった大げさな動きが今現在、現実味をもって進められているわけではなさそうだ。 私もかつて「日本も大戦略がなければ、米中のはざまで埋没するだけだ。TSMCを日本に誘致するような大胆な発想があってもよい」と指摘したことがある。かつて世界を主導する半導体メーカーを複数抱えていた日本も、今や国内に強力な半導体メーカーはなくなった。韓国、台湾の半導体メーカーの大胆な投資戦略とコスト競争力が敗因だ。現在の日本の強みは装置メーカー、部材メーカーであるが、これらも大口顧客である海外の半導体メーカーの購買力に引っ張られて、海外流出しかねない懸念がある。半導体メーカー自体を誘致して、半導体産業のエコシステム全体を日本に保持したいとの思いは理解できる。 また韓国は昨年の日韓輸出管理問題もあって、半導体生産の日本依存から脱却して内製化を進めようとしている。文政権が先般の総選挙に勝って、今後反米親中路線が色濃く出ることも予想される。サムスンも中国傾斜を強めていることから、日本にとってのパートナーが台湾のTSMCになるのは自然な流れだ。 しかし現実は日本の電気代、水道代などの立地コストの高さはなかなか克服できない。したがって量産工場を日本に建設することに経済合理性はない。海外の半導体メーカーの量産工場を誘致するのではなく、むしろ国内で研究開発を共同で進める方が現実的だ。ただし知的財産権など技術の流出に注意を要するのは当然だ。 経産省には、1100億円の基金を活用して、ポスト5Gで必要となる次世代の微細加工のロジック半導体の製造技術を開発しようという新規事業がある。ただ、これを外国半導体メーカーの最先端工場を国内誘致する政策とするのは少々飛躍がある。 むしろ日本の部材メーカーなどとの共同研究の結果、この基金を活用して開発段階の試作までは期待できるだろう。そして開発まで見えてくれば、量産の一部ということも将来視野に入ってくる可能性もある。そうなれば日本の強みを生かした戦略といえるだろう』、「海外の半導体メーカーの量産工場を誘致するのではなく、むしろ国内で研究開発を共同で進める方が現実的だ」、というのは確かなようだ。
・『日本企業にも影響、ファーウェイへの禁輸措置の強化  TSMCの米国工場の建設計画発表された5月15日、米国は中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)に対する事実上の禁輸措置の強化を発表した。まさに同じタイミングでの発表だけに、TSMCの工場建設と取引するのではないかとのそれまであった臆測も一蹴するものであった。 昨年5月から米国製品のファーウェイへの事実上の禁輸措置を講じているが、韓国のサムスンや台湾のTSMCといった半導体メーカーを通じて半導体が輸出され続けていて問題視されていた。 米国の技術やソフトウエアが使われている割合が25%以下である外国製品は規制対象外という「25%ルール」が“抜け穴”になっていると見られていた。25%以下であっても、米国製の製造装置や米国企業がデザインしたソフトウエアを使って作られたものであれば米国政府の許可が必要で、原則許可されず、事実上輸出できなくなるという規制がある(直接製品ルール)。今回の規制強化は、ファーウェイ向けの輸出製品にもそのルールを適⽤したのだ。 韓国のサムスンや台湾のTSMCは、米国の規制対象となっている米国企業のアプライドマテリアルズの製造装置やクアルコムのデザインしたソフトウエアを使って半導体を製造し、ファーウェイに輸出している。これが事実上ストップすることになるので、ファーウェイにとってスマホや通信基地局の生産に大打撃だ。中国は半導体の米国依存からの脱却を急ぎ自給自足を急いでいるが、すぐには代替できない。 TSMCは米国政府の要求に応じて米国新工場の建設を表明することでこうした規制を免れる取引を模索したようだ。しかし、米国政府との取引は不成立に終わったようだ。 ただ、一部に「米国製の製造装置などで製造した半導体などを今後はファーウェイに輸出できなくなり、大変だ」と騒ぐ向きもあるが、これは規制内容を誤解したものだ。今回の規制強化がピンポイントで限定されていることも注意して見る必要がある。 すなわち、「ファーウェイ・グループの開発した技術・ソフトウエアに基づく製品」であることが前提であり、典型的なのはファーウェイ傘下の半導体設計のハイシリコンから委託を受けて生産した製品だ。いわゆる汎用品の半導体は規制対象外とされている。産業界からの慎重な規制を求める声を受けて、相当緻密な規制になっているようだ。その結果、今回の規制強化による実際の影響がどこまであるかは精査が必要だ。 今回の規制強化を受けて、「TSMCがファーウェイからの新規受注を停止した」との報道もあるが、これも上記の“受注”生産に限定したものだ。 日本企業にとっても他人事ではない。ファーウェイに半導体や電子部材を供給している日本企業は20社にも及ぶが(公表されているのは11社)、中にはこのルールに引っかかる取引もあるだろう。さらにサムスンやTSMCに半導体の部材を供給している日本企業にも、間接的に影響が波及してくる』、「サムスンやTSMCに半導体の部材を供給している日本企業にも、間接的に影響が波及してくる」、「サムスンやTSMC」が「半導体」をどこに売るのかまでは、「日本企業」は関知しないが、「ファーウェイ」に売れなくなれば、その分「間接的に影響が波及してくる」ということなのだろう。
・『米中の半導体戦争は泥沼化か  またトランプ大統領による選挙対策だと指摘する向きもある。大統領選を控えて、新型コロナの感染拡大の責任を巡って中国への批判を強め、対中強硬姿勢に傾斜している。前日の14日にトランプ大統領は「中国との関係遮断もできる」と発言して、対中強硬姿勢をアピールした。 しかしファーウェイへの制裁強化をこの一環と見るのは本質を見誤っている。前述の“抜け穴”については昨年来、議会も含めて問題視され、これを防ぐための措置が議論されてきたものだ。新型コロナ騒動以前には、一時25%を10%に引き下げて規制強化する案もあったが、トランプ大統領自身が拒否した経緯もある。議会はむしろトランプ大統領がファーウェイへの制裁を中国とのディールに使って安易に譲歩することを懸念しているぐらいだ。 したがって今回の規制強化はトランプ大統領による“気まぐれ対中強硬策”ではなく、根深く、じっくり検討されたものと見るべきだ。 中国政府は予想通り早速、強い反発をした。今後何らかの報復措置があることもちらつかせた。中国が策定することを表明している「信頼できない企業」リストに米国企業を掲載する可能性もある。 また中国はIT機器を調達する際に安全保障の審査を行う「サイバーセキュリティー審査弁法」を今年6月から施行する。これは米国による中国製情報通信企業の排除に対抗するものだ。これを使って米国企業を排除することも予想される。 まさに米中の半導体戦争は泥沼の様相を呈してきた。 コロナ禍に目が行っている中で、米中対立は半導体を主戦場にして、「部分的な分断」が着実に進行中だ。米ソ冷戦期の「鉄のカーテン」になぞらえて、米中間の「シリコン・カーテン」とも言われている。好むと好まざるとに関わらず、こうした状況に直面して、日本政府の政策も日本企業の経営も安全保障を踏まえた判断を迫られているのだ。(補足以下は省略)』、「シリコン・カーテン」とは言い得て妙だ。「米中の半導体戦争は」、「トランプ大統領による“気まぐれ対中強硬策”ではなく、根深く、じっくり検討されたもの」で、「泥沼の様相を呈してきた」、のであれば、日本企業も慎重な対応が求められるようだ。
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