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米中経済戦争(その11)(コロナ後の米中 「対立から衝突」の可能性に備える必要、英ジョンソン、中国ファーウェイの5G参入制限へ 新型コロナ危機で方針転換、半導体の歴史に重大事件 ファーウェイは“詰んだ” 台湾TSMCが米国陣営に 中国「一帯一路」構想に大打撃) [世界情勢]

米中経済戦争については、5月19日に取上げた。今日は、(その11)(コロナ後の米中 「対立から衝突」の可能性に備える必要、英ジョンソン、中国ファーウェイの5G参入制限へ 新型コロナ危機で方針転換、半導体の歴史に重大事件 ファーウェイは“詰んだ” 台湾TSMCが米国陣営に 中国「一帯一路」構想に大打撃)である。

先ずは、5月24日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元外務審議官で日本総合研究所国際戦略研究所理事長の田中 均氏による「コロナ後の米中、「対立から衝突」の可能性に備える必要」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/237650
・『コロナ後、米中対立が深刻化し、火を噴く可能性に備えなければならない。 東アジアは日米中という大国の興亡の歴史の舞台であり、飛躍的に台頭を遂げた国と既成の勢力との対立は、国内要因にも起因し、幾度となく戦争へとつながった。 コロナ危機は今日の相対的国力の変化の中で各国の国内情勢を揺さぶり、米中はさらなる厳しい対峙となるだろう。 それが軍事的衝突に至る前に、何としてでも止めなければならない』、興味深そうだ。
・『コロナで失策のトランプ氏 大統領選に向け「中国カード」  コロナ危機は11月の米国大統領選挙が佳境に入っていく時期に大きな影を落としている。 再選をかけた大統領選挙ではほとんどの場合、現職大統領が圧倒的に有利だが、その前提は経済が大きく落ち込んでいないことだ。 現職が敗北したまれな例である1980年の大統領選挙でカーター大統領が敗北した理由は、イランによる米大使館員人質問題での屈辱と、またインフレと失業による経済不況が大きかった。 コロナ危機が米国にもたらしたのは、リーマンショックを超える経済成長率の大幅な落ち込みと14.7%という戦後最悪の失業率だ(4月末時点)。トランプ大統領はコロナ感染防止のためのロックダウンから早急に脱し、経済のV字的回復を11月の大統領選挙前に示すことで「コロナ危機を克服した大統領」として打って出る戦略だと思われる。 しかしその見通しはどんどん暗くなっている。 ニューヨークなど大都市での新規感染者は減りつつあるが、内陸部ではまだこれから感染拡大が起こり得るし、大都市周辺では2次、3次と感染の波が押し寄せる可能性は強い。 大統領選挙までにコロナ危機を克服したと宣言できるか。仮に克服できたとしても人々の生活形態や企業の活動形態はコロナ前と同じではあり得ず、「ソーシャル・ディスタンス」は残り、経済の回復には相当長い期間を要する。 トランプ大統領は初動の段階で新型ウイルスの脅威を過小評価し対策が遅れたことが米国の爆発的感染の大きな要因だっただけでなく、大統領の発言が一貫性を欠くことに国内で強い批判がある。 支持率は低下傾向にあり、トランプ大統領再選の見通しは明らかに暗くなっている。このことを背景にトランプ大統領は民主党のバイデン候補との差異を際立たせるため「中国カード」を使い始めた』、「トランプ大統領は初動の段階で新型ウイルスの脅威を過小評価し対策が遅れた」、のは致命的な打撃だ。
・『再選見通し暗くなるほど対中姿勢、厳しくなる懸念  オバマ前大統領とともにバイデン前副大統領を対中融和派と位置づけ、自身が中国に強硬なことを際立たせる作戦だ。 中国の新型コロナウイルス発生源としての責任や初動が遅れたことで武漢から感染を大規模に拡大させた責任を問う姿勢を鮮明にしているだけではなく、本年1月に合意された中国との「第1段階の貿易合意」の中国側の履行が進んでいないことも、攻撃の材料にしていくつもりだろう。 トランプ大統領は再選の国内的見通しが暗くなればなるほど、中国を厳しくたたく行動に出るのだろう。 大統領選挙キャンペーンとしての対中批判にとどまるばかりか、中国側の反応いかんでは両国間の熾烈な対立にエスカレートしていくのは必至だ。 特に11月までに、香港での立法会選挙や台湾問題が引き金になって対立が燃え盛る可能性もある』、「再選見通し暗くなるほど対中姿勢、厳しくなる懸念」、困ったことだ。
・『経済回復を印象付ける中国 年率5.6%の成長軌道目指す  習近平総書記にとって最大の関心は国内だ。 コロナ危機は習近平体制、ひいては共産党体制を崩壊させかねないと考えているのだろう。初動の誤りに対する批判を抑える上でも、何としてでも早くコロナ問題に終止符を打ち、経済成長を取り戻す必要がある。 すでに武漢の封鎖も解除し、国内での北京への出入りも通常に戻した。そして3月に延期した全人代・政治協商会議をそれぞれ5月22日および5月21日に開催すると発表した。 ただ感染を完全に終息させることにはならないだろうし、感染拡大の第2波、第3波が起きるリスクはある。 しかし共産党独裁体制の下、感染防止の管理体制は主要先進国に比べはるかに有効であるようにみえ、経済回復を一刻も早く軌道に乗せることを優先するのだろう。 その観点では、全人代で李克強首相が2020年の経済成長目標をどう掲げるかが大きな意味を持つ。 おそらく2010年比でGDPを倍増させる公約実現に必要な年率5.6%の成長に向かって邁進するという図式を描くのではないか。 また中国がコロナ・パンデミックに責任があるという議論は国内の体制批判につながりかねず、トランプ大統領やポンペオ国務長官の批判に対しては今後も極めて敏感に反応するだろう。 米国だけではなく、独立した調査を要求する豪州などの動きにも神経をとがらせている』、昨日のブログでも紹介したように、「全人代で李克強首相」は「2020年の経済成長目標」の発表を見送ったようだ。
・『「マスク外交」と経済支援 東南アジアでの存在感強める  経済活動の再開という点では、中国は他の主要国の数カ月先を走りだし、この優位性を最大限使おうとするだろう。 中国発の新型コロナウイルスが「一帯一路」構想に象徴される中国人の大規模な移動により感染拡大につながったことも事実だろうし、「一帯一路」構想の参加国が感染拡大で大きな経済的打撃を受け、債務負担に苦しむ諸国が救済を求めることも容易に想像できる。 おそらく中国はマスクや医療機器の支援という「マスク外交」に加え、積極的に経済支援に乗り出すのではないか。その試金石は東南アジアだ。 特にASEAN諸国は中国との貿易拡大に支えられ高い経済成長率を達成してきたが、新型コロナ感染拡大によりその経済活動を大きく制限されることになった。 輸出先の日米をはじめとする先進国市場が当面厳しいマイナス成長に落ち込むと予想される中で、東南アジア諸国が成長軌道に戻るためには、政治的な躊躇はあっても結果的に中国依存が増すことになるのではないか。 先進国企業はサプライチェーンを見直し、中国以外の市場にシフトする動きも出てくるのだろうが、中国市場が真っ先に回復していく中では、中国離れは大きな流れとはならない』、「中国はマスクや医療機器の支援という「マスク外交」に加え、積極的に経済支援に乗り出すのではないか」、「中国市場が真っ先に回復していく中では、中国離れは大きな流れとはならない」、「中国」は悪運が強いようだ。
・『中国は「米国依存」に見切りをつけるか 独自の経済圏構築で動きだすことも  ここ数年の飛躍的な中国の台頭が決定的な米中衝突にまでならなかった最大の理由は、米中間の経済相互依存関係が圧倒的に大きかったからだ。 東西冷戦時代の米国と旧ソ連との間とは比較にならない経済相互依存関係と、米中間の軍事力格差の大きさが背景にある。 しかし、習近平総書記が2049年に達成を公約する「社会主義現代化強国」では、中国は経済規模だけでなく軍事力でも米国と肩を並べることを目標としている。 米国でも昨今は、議会や国家安全保障担当機関といった伝統的エスタブリッシュメントが中国の追い上げを深刻に懸念する。 そのような認識が、貿易不均衡是正や5G技術を独占するファーウェイ制裁をはじめとする先端分野での制限、サイバー分野での規律強化、中国からの投資・中国への投資の制限、留学生を含む人的交流の制限などあらゆる面での中国との交流の制限につながっている。 今後も、こうした制限はトランプ大統領の再選戦略と軌を一にして強化されていくのだろう。 中国は経済面で米国と競争できる体力はないことから、米中協議では貿易不均衡是正に取り組む「第1段階の合意」を受け入れた。中国は引き続き米国と正面から決定的に対決するような対抗措置は取らず米国と協力を続ける素振りを見せ続けるのだろう。 しかし、コロナ危機は中国に新しい展望を開いたといえるかもしれない。 米国は、世界最大の感染国になり、消費や生産の落ち込みで圧倒的な経済的打撃を受けているだけでなく、国内の社会的分断はますます深刻化し、どんどん内向きになっている。 一方で、中国は国際協力を前面に出し影響力を世界に浸透させようとするだろう。 国際社会にも中国の経済回復の早さは魅力的に映るに違いない。そのような中で、中国は米国が対中制限措置をエスカレートすれば米国との経済相互依存関係に見切りをつけ、また米国との全面的な対決を覚悟しながら、独自の経済圏の構築に大きく踏み切る可能性は高い』、「トランプ大統領」は、次の先進国首脳会議で、「中国」を「コロナ危機」に責任重大として、孤立させる意向のようだが、そうは問屋が卸さないだろう。「中国」が「独自の経済圏の構築に大きく踏み切る可能性は高い」、日本にとっての悩みの種が1つ増えることになるだろう。
・『中国、「核心的利益」では強硬姿勢を強める可能性  米中対立の火に油を注ぎ全面的対決の引き金になり得るのは香港、ウイグル、南シナ海、台湾といった中国が「核心的利益」とする問題の帰趨だ。 南シナ海や東シナ海への海洋進出に中国は積極的な姿勢を変えておらず、領土や漁業権を巡って係争するフィリピンやベトナム、インドネシアなどとの間で緊張が高まる事態も考えられる。 香港では、6月から7月にかけて天安門事件記念日や200万人デモ1周年、香港返還記念日があり、そして9月には立法会選挙が予定されている。 おそらくどこかの段階で民主化デモが再び起きるだろうし、中国はそれに備え、強権的な取り締まりをする体制作りに人事面などで着々と手を打っているようにみえる。 米国では「香港人権民主主義法」に基づく議会への中間報告が義務付けられており、香港でデモが再開され、香港当局の呵責なき弾圧がまた繰り返されれば、国際社会の非難の強まりとともに、米国が新たな対中制裁措置を取るといったことが起こり得る。 香港情勢の悪化は台湾に飛び火する。コロナ危機の対処で支持率を上げ自信をつけた蔡英文総統は独立的傾向を強め、中国を刺激するのだろう。 これに対して、コロナ危機を他国に先駆けて克服し経済を回復軌道に戻した中国は、米国の指導力低下の間隙を縫って国際的な影響力拡大を狙い、対外的にも従来以上に強硬な態度を取ることを躊躇しないだろう』、「香港」に対しては、全人代で突如、「香港版国家安全法」を成立させ、表立って締め付けを一気に強化した。ここまでは、さすがの田中氏も想定できなかったようだ。
・『トランプ大統領の思惑次第で軍事的衝突も起こり得る  こうした中国を抑止する力は米国に求めざるを得ないが、トランプ大統領が再選に向けた国内政治的な思惑が優先し、中国に強硬に出れば、米中が軍事的に衝突する事態もあり得ないことではない。 現段階では米中の軍事力格差は大きく、全面的戦争になるとは考えられないが、限定的にしても軍事的衝突は避けなければならない。 そのために考えられるおそらく唯一の方策は、日本が前面に出てEUやASEANとともに国際的な協調体制を構築し、米中に自制を求めることだ。 単に米国側に立って米国の行動に追随するわけにはいかない。日本が新型コロナウイルスの感染防止で、国際的な協力体制を敷くために積極的な役割を果たせていないのは残念だが、米中の衝突回避では日本が最も効果的な役割を果たし得る国だ。 日本政府はこのことをよく認識すべきだ』、「米中の衝突回避では日本が最も効果的な役割を果たし得る国」であることは確かだが、そのためには、安部首相がトランプべったりの姿勢を転換する必要がある。

次に、5月24日付けNewsweek日本版「英ジョンソン、中国ファーウェイの5G参入制限へ 新型コロナ危機で方針転換」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2020/05/5g-11.php
・『英国のジョンソン首相は、次世代通信規格「5G」の通信網構築で、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の参入余地を制限する方針だ。英紙デーリー・テレグラフ(電子版)が22日、伝えた。 今年1月に限定的な参入を容認する方針を示していたが、新型コロナウイルス危機で方針を修正したもようだ。これに先立ち、英紙タイムズは、ジョンソン首相が、新型コロナ危機を踏まえ、必要不可欠な医療用品などの調達で中国への依存をやめる計画の策定を指示したと伝えていた。 英首相官邸はコメントを差し控えた。ファーウェイのコメントは現時点で得られていない。 英政府は今年1月、ファーウェイの5G参入を限定的に容認すると発表、4月下旬に政府高官が、その方針を確認していた。 テレグラフによると、関係筋は「ジョンソン氏は依然、中国との関係を望んでいるが、ファーウェイとの契約は大幅に縮小しようとしている。ファーウェイの参入を減らす計画を早急に策定する指示が出ている」と述べた。 米政府は、安全保障上の懸念があるとして、同盟国にファーウェイ製品を使用しないよう要請。ファーウェイ製品を使用する国とは機密情報を共有しないと警告している』、「ジョンソン首相」が自らも「新型コロナウイルス」感染で、一時は集中治療室に入るほど重体だったことも影響しているのかも知れない。

第三に、6月2日付けJBPressが掲載した技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長の湯之上 隆氏による「半導体の歴史に重大事件、ファーウェイは“詰んだ” 台湾TSMCが米国陣営に、中国「一帯一路」構想に大打撃」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60730
・『2020年5月14日は、世界半導体産業の歴史に刻まれる日になる――と直感した。この日に、次の2つの“重大な事件”が明らかになったからだ。 (1)台湾のファウンドリ(半導体受託生産メーカー)TSMCが120億ドルを投じて、12インチウエハで月産2万枚の半導体工場を米アリゾナ州に建設することを発表した。 (2)同日、米商務省が中国のファーウェイ(華為技術)への輸出規制を強化すると発表した。それを受けて、TSMCは2020年9月以降、ファーウェイ向けの新規半導体の出荷を停止する。 ここ数年、TSMCは、米中ハイテク戦争に揺さぶられ、両大国からの綱引きにあっていた。しかし結局、TSMCは、中国ではなく、米国に付くことにしたわけだ。 TSMCにとっては、ファーウェイ向けの半導体受託製造ビジネスは全売上高の約15%を占めており、これは最大顧客の米アップルに次ぐ規模である。にもかかわらず、全面的に米国の要請を受け入れたのは、TSMCの売上高の約60%が米国向けだからである(図1)。 図1 TSMCの直近5年間の地域別売上高比率(リンク先参照)) TSMCが120億ドルを投じる半導体工場は、2021年に着工し、2024年から月産2万枚で、5nm(ナノメートル)プロセスの量産を開始する。120億ドルの投資は、2021~2029年の長期間としており、月産2万枚で留まらず、もっと規模を拡大すると予想される。 というのは、TSMCの台湾の工場群の半導体製造キャパシテイは、12インチウエハ換算で月産約110万枚もある。120億ドルを投じる米国の半導体工場が、わずか月産2万枚で留まるはずがない。 また、TSMCは、台南のサイエンスパークに、2022年に157億ドルを投じて3nmプロセスによる量産を開始する。したがって、いずれ、米国工場にも3nmプロセスをコピーするだろう』、「TSMCの売上高の約60%が米国向け」、「ファーウェイ向けの半導体受託製造ビジネスは全売上高の約15%」、というのでは、「ファーウェイ」切り捨ても理解できる。
・『TSMCの米国の半導体工場建設が差し止め  ・・・などと想像していたら、3人の米上院議員が、TSMCの米国工場建設に待ったをかけた(EE Times Japan、5月15日)。この記事の中で、TSMCの元主席弁護士のディック・サーストン(Dick Thurston)氏は、「TSMCがアリゾナ州を選んだのは、『知事が共和党の州を支援したい』というトランプ大統領の都合が優先されたためだろう」と述べている。 つまり、TSMCがアリゾナ州に半導体工場の建設を決めた背景には、トランプ大統領が再選されるか否かに注目が集まる今年の大統領選など、政治的要因が関わっている可能性が高いというわけだ。そのため、チャック・シューマー(Chuck Schumer)氏ら3人の民主党上院議員が、米商務長官のウィルバー・ロス(Wilbur Ross)氏および米国防長官のマーク・エスパー(Mark Esper)氏宛に書簡を送付し、調査を行って、関連当局や歳出委員会が概要について十分把握するまでは、TSMCの米工場建設に関するあらゆる交渉や議論を中止することを要求したのである。 このような経緯から、TSMCが本当に米国に半導体工場を建設するのかどうかが分からなくなってしまった。 そこで、本稿では、TSMCの米国半導体工場建設には触れず、TSMCがファーウェイ向けの半導体受託製造を停止することの影響について論じたい。結論として、TSMCのこの決断は、ファーウェイにも、中国にも、そして日本のサプライヤーにも甚大な影響が出ることを指摘する』、「「TSMCがアリゾナ州を選んだのは、『知事が共和党の州を支援したい』というトランプ大統領の都合が優先されたためだろう」、「調査を行って、関連当局や歳出委員会が概要について十分把握するまでは、TSMCの米工場建設に関するあらゆる交渉や議論を中止することを要求」、米国はこうした公正さにはうるさいようだ。
・『米商務省によるファーウェイへの輸出規制強化  米商務省は、ファーウェイが世界中に配置している通信基地局にバックドアを仕掛け、米国の秘密情報などを不正に入手しているとして、昨年2019年5月に、ファーウェイをエンティティーリスト(EL)に追加した。 その結果、クアルコム、ブロードコム、インテルなど、米国製の半導体は、ファーウェイへの輸出が禁止された。また、ELに載ると、米国製でなくても、米国の知財が25%以上含まれている場合、輸出が禁止される。そのため、スマートフォンのOS(Operating System)のAndroid上で動くアプリ(例えばGmailなど)をファーウェイは、使うことができなくなった。 ここで、TSMCの挙動に注目が集まった。というのは、ファーウェイは、傘下のファブレス(工場を持たない半導体設計会社)のハイシリコンにスマートフォン用プロセッサや5G通信基地局用半導体を設計させ、これらの半導体をTSMCに生産委託していた。そして、TSMCは、アプライドマテリアルズ、ラムリサーチ、KLAなどの米国製の製造装置を使って、ファーウェイ向け半導体を製造していたからだ。 そのような中、TSMCは、米国の弁護士事務所に徹底的な調査を行わせた結果、「25%規制には該当しない」と結論し、ファーウェイ向けの半導体製造を継続していた。冒頭で述べた通り、TSMCにとってファーウェイは、売上の15%を占めるビッグカスタマーであるという理由もあっただろう。 しかし、これを問題視した米政府は、2019年後半から、「ファーウェイに限っては、米国の知財が10%以上含まれている場合、輸出を禁止する」という法案を検討していた。 筆者は「一体どうなるのだろう」と推移を見守っていたが、今年5月14日、とうとう、米商務省は、ファーウェイ向けに特別な設計がなされている半導体の輸出を全面的に禁止した。この規制は、「米国知財が10%以上含まれていたら輸出禁止」ではなく、「全面的に禁止」という厳しい内容である。そして、TSMCはこれに従うことを発表したのである。このTSMCの決断は、ファーウェイにとって、あまりにも甚大である』、「半導体の輸出を全面的に禁止」とは、米国の「ファーウェイ」潰しは本気のようだ。
・『ファーウェイにとって致命的な打撃  図2に、2018年と2019年における企業別のスマートフォンの出荷台数を示す。ファーウェイは、米国から輸出規制を受けていたにもかかわらず、2019年に2.4億台のスマートフォンを出荷した。ファーウェイは、3位のアップル(1.9億台)に5000万台の差をつけて突き放し、1位のサムスン電子(2.9億台)にあと5000万台に迫る勢いである。図2 企業別スマートフォン出荷台数(リンク先参照) また、ファーウェイは、5Gの通信基地局でも、世界の約70%を独占しようとしている。ファーウェイを排除しようとしているのは、米国、日本、オーストラリアくらいしかなく、それ以外の多くの国々はファーウェイ製の5G通信基地局を導入する予定である(図3)。 図3 ファーウェイの5G通信基地局を導入する国と排除する国(リンク先参照)  通信基地局メーカーとしては、欧州のノキアやエリクソン、韓国のサムスン電子などがあるが、ファーウェイ製はこれらより3~4割も安価である上に性能が優れているとされ、それが日米豪以外の国々が導入を決めた要因となっている。 しかし、年間2.4億台のスマートフォン用プロセッサや世界の約70%を占める5G基地局用通信半導体は、ほぼすべてをTSMCに生産委託している。 そして、TSMCは世界最先端の微細加工技術で、ファーウェイ向けの半導体を製造してきた。2018年第3四半期には、7nmプロセス(N7)の量産を開始した(図4)。図4 TSMCの微細化の状況(リンク先参照) また、2019年後半からは、最先端露光装置EUVを使った「N7+」で先端半導体の量産を実現した。そして、今年2020年第2四半期からは、さらに微細化を進めた5nmプロセス(N5)での量産を開始する。加えて、10月から3nmプロセス(N3)の開発に着手し、2021年前半にN3による量産を立ち上げる予定である。 昨年、ファーウェイが出荷したスマートフォンのハイエンド機種「Mate 30 Pro」用プロセッサは、TSMCのN7+プロセスが使われた。同時期、アップルのiPhone11用プロセッサはEUVを使わないN7プロセスで製造された。したがって2019年に、ファーウェイのスマートフォン用プロセッサが世界最先端であることが明らかになったわけだ。 今年、ファーウェイは、TSMCがN5プロセスで製造するプロセッサを使ってハイエンドのスマートフォンを生産する計画だった。来年2021年は、TSMCのN3プロセスを使うことを視野に入れただろう。しかし、これらの計画が全て瓦解した。 さらに、5G通信基地局には、N7プロセスを使った通信半導体を搭載する予定だったが、これも雲散霧消した。TSMCの生産委託を打ち切られたファーウェイに、打開策はあるのか?』、「5G通信基地局」が「3~4割も安価である上に性能が優れている」、「スマートフォン用プロセッサが世界最先端」、これらが全て崩壊するようだ。
・『ファーウェイへの打撃  いま一度、図1に示したTSMCの地域別売上高構成比を見ていただきたい。2019年第4四半期に20%以上あった中国比率が、2020年第1四半期に約10%に低下していることが分かる。これは、米国による規制強化の動きを察知したファーウェイが、半導体の生産委託先の一部を、TSMCから中国のSMIC(中芯国際集成電路製造)に切り替えていることを意味している。 今年の第3四半期以降は、ファーウェイは、TSMCに生産委託できなくなるため、ほぼすべてをSMICに変更せざるを得なくなる。しかし、SMICに、ファーウェイ向けの半導体を製造する能力があるのだろうか? その答えは、2つの観点から「No」ということになる。 第1に、SMICには、TSMCのような最先端の微細加工技術がない。図5は、SMICの半導体受託ビジネスにおけるプロセスノード(微細加工技術)の割合を示している。SMICでは、2019年第4四半期に、やっと14nmプロセスのリスク生産が始まったところで、そのビジネス規模は、2020年第1四半期でもわずか1.3%しかない。これでは、ファーウェイが必要とする7nmや5nmプロセスによる半導体はまったく製造することができない。 比較のために、TSMCの微細加工技術の全貌を図6に示す。ただし、これは、ビジネスではなく、各プロセスノードの12インチウエハ換算の出荷枚数であるため、あくまで間接的な比較であることを断っておく。 図6によれば、SMICの14nmに相当する16/20nmをTSMCが量産に使い始めたのは、2014年第3四半期である。その後、TSMCは、2017年第2四半期に10nm、2018年第3四半期に7nmを立ち上げ、2020年第2四半期には5nmが立ち上がる。したがって、SMICは微細加工技術において、TSMCより5年ほど遅れを取っていることが分かる。 図6 TSMCの四半期ごとのウエハ出荷枚数(12インチウエハ換算)(リンク先参照) ▽SMICは生産キャパシテイも足りない(第2に、生産キャパシテイの問題がある(図7)。たとえ、SMICが奇跡的に微細加工技術を進めることができたとしても、ファーウェイ用の半導体をすべて製造するのは困難である。というのは、2019年の平均月産ウエハ出荷枚数(12インチ換算)で、TSMCが108.3万枚であるのに対して、SMICはその5分の1以下の20.5万枚しかないからだ。 図7 TSMCとSMICの月産ウエハ出荷枚数(12インチウエハ換算)(リンク先参照) もし、売上高とウエハ出荷枚数が比例していると仮定すると、TSMCのファーウェイ向けのウエハ出荷枚数は毎月、108.3万枚×15%=16.2万枚となる。これは、SMICの全ウエハ出荷枚数の約80%に相当する。要するに、大雑把に言えば、SMICの生産キャパのほぼすべてをファーウェイ向けにするようなものであり、いくらなんでもこれは無理だろう。 このように、SMICの微細加工技術はTSMCの5年遅れであり、その生産キャパシテイはあまりにも貧弱である。そこで、生産キャパシテイを拡大するために、中国政府がSMICに対して、約2400億円の出資を決めた。 しかし、この程度の出資では、一気に微細加工技術を進めることは難しく、生産キャパシテイを飛躍的に拡大することもできない。国家的な支援としては、1桁金額が小さいように思う』、中国の「SMIC」では、当面、「TSMC」を代替するのは無理なようだ。
・『メンツ丸潰れの中国政府  中国政府は、建国100年の2049年までに、「一帯一路」と呼ばれる世界最大のインフラ群を構築しようとしている。その一環として、5G通信で世界を制することが掲げられている。そして、この構想を実現するべく、図3に示したように、ファーウェイは、世界の約70%の国や地域に、5G通信基地局を導入する契約締結を進めてきた。 ところが、TSMCがファーウェイ向けの半導体製造を停止するため、7nmプロセスを使った世界最先端の通信半導体が調達できなくなってしまった。ということは、ファーウェイは、安価で高性能な5G通信基地局を、契約を結んだ世界の国や地域に提供できなくなるということだ。 このことは、中国の一帯一路構想が頓挫することを意味する。中国政府にとっては、メンツが丸潰れになるということだ。 中国の政府系新聞「環球時報」は、米企業のアップル、クアルコム、シスコ、ボーイングを名指しで警告し、中国政府が報復措置を取る構えを見せていることを報じている。しかし、いくら報復措置をとろうとも、TSMCの最先端技術と生産能力がなければ、5G通信で世界を制する夢は叶わない。TSMCの代わりになるファウンドリは、世界のどこにもないのである』、「メンツ丸潰れの中国政府」、「一帯一路構想」などで舞い上がった周近平が米国の虎の尾を踏んだということなのだろう。
・『ファーウェイの悪あがき  ファーウェイは、この窮地を何とか回避するべく、打開策を講じようとしている。例えば、日経新聞(5月23日付)は、「ファーウェイの半導体は、傘下のハイシリコンが設計しているが、これを台湾MediaTekと紫光集団傘下のUNISOCが設計するよう打診している」と報道している。 しかし、MediaTekもUNISOCもファブレスであり、どこかのファウンドリに生産委託するしかない。 MediaTekは、TSMCに生産委託するしかなく、そのTSMCはファーウェイ向けの半導体を製造しない。また、UNISOCは、SMICに生産委託するしかなく、SMICではどうにもならないことは既に述べた通りである。 MediaTekとUNISOCが、7nmの量産を開始しようとしている韓国サムスン電子に生産委託するという方法もあるが、もしそのようなことになったら、米商務省は、サムスンにもファーウェイ向け半導体の出荷停止を要求するだろう。 さらに、奇跡が起きて、SMICが、10nm、7nm、5nmの技術の開発に成功したとしても、米商務省は、SMICをELに加え、AMAT、Lam、KLAの装置輸出を禁止するかもしれない。実際、SMICは、最先端露光装置EUVを、2019年にASMLから導入しようとした。ところが、米国政府がオランダ政府を通じて圧力をかけたため、ASMLはEUVを出荷できなかった。 結局、ファーウェイにとっては八方塞がりの状態であり、最先端の半導体を調達する道は閉ざされたように思う』、「ファーウェイは“詰んだ”」のは確かなようだ。
・『日本のサプライヤーも打撃を受ける  個人的な憶測だが、米国政府がこれほど厳しい輸出規制をファーウェイに課した背景には、「中国が新型コロナウイルスの情報を隠蔽した結果、米国で最も多数の感染者と死亡者が出た」ことに対する恨みが込められているように感じる。 いずれにしても、TSMCがファーウェイ向けの半導体製造を停止することをきっかけとして、米中ハイテク戦争は、ますます激化するだろう。 そして、TSMCのこの決断は、日本のサプライヤーにも波及する。 ファーウェイは、2019年に世界2位の2.4億台のスマートフォンを出荷した。しかし、今年9月以降、TSMCがファーウェイ向け半導体の出荷を停止するため、今後ファーウェイのスマートフォン出荷台数は激減する可能性が高い。すると、ファーウェイのスマートフォンに使われているKIOXIA(旧東芝メモリ)のNAND、ソニーのCMOSセンサ、村田製作所の積層型セラミックコンデンサなど、日本のサプライヤーのビジネスが打撃を受けることになる。そして、これら半導体や電子部品を製造するために必要となる製造装置や材料ビジネスにも、ドミノ倒し的に、その影響が波及する。 2020年はコロナ騒動で幕を開けた。日米欧で、やっとコロナの第1波のピークが収まったと思ったら、今度は米中ハイテク戦争の激化である。さらに、TSMCの米国工場建設を巡っては、一波乱も二波乱もありそうである。まったく心休まる暇がない。なんという年になったのかと溜息が出る思いだ』、「日本のサプライヤーのビジネス」や「製造装置や材料ビジネス」に影響があることは事実だが、納入先が「ファーウェイ」以外になるだけで、それほど深刻視する必要はないのではなかろうか。
タグ:ファーウェイへの打撃 ファーウェイにとって致命的な打撃 米商務省によるファーウェイへの輸出規制強化 「英ジョンソン、中国ファーウェイの5G参入制限へ 新型コロナ危機で方針転換」 米中経済戦争 (その11)(コロナ後の米中 「対立から衝突」の可能性に備える必要、英ジョンソン、中国ファーウェイの5G参入制限へ 新型コロナ危機で方針転換、半導体の歴史に重大事件 ファーウェイは“詰んだ” 台湾TSMCが米国陣営に 中国「一帯一路」構想に大打撃) ダイヤモンド・オンライン 田中 均 再選見通し暗くなるほど対中姿勢、厳しくなる懸念 「2020年の経済成長目標」の発表を見送った トランプ大統領の思惑次第で軍事的衝突も起こり得る 「コロナ後の米中、「対立から衝突」の可能性に備える必要」 経済回復を印象付ける中国 年率5.6%の成長軌道目指す 「マスク外交」と経済支援 東南アジアでの存在感強める 中国は「米国依存」に見切りをつけるか 独自の経済圏構築で動きだすことも 中国、「核心的利益」では強硬姿勢を強める可能性 コロナで失策のトランプ氏 大統領選に向け「中国カード」 Newsweek日本版 湯之上 隆 (1)台湾のファウンドリ(半導体受託生産メーカー)TSMCが120億ドルを投じて、12インチウエハで月産2万枚の半導体工場を米アリゾナ州に建設することを発表 JBPRESS 「半導体の歴史に重大事件、ファーウェイは“詰んだ” 台湾TSMCが米国陣営に、中国「一帯一路」構想に大打撃」 2)同日、米商務省が中国のファーウェイ(華為技術)への輸出規制を強化すると発表した。それを受けて、TSMCは2020年9月以降、ファーウェイ向けの新規半導体の出荷を停止する TSMCの米国の半導体工場建設が差し止め メンツ丸潰れの中国政府 「一帯一路構想」 ファーウェイの悪あがき 日本のサプライヤーも打撃を受ける 舞い上がった周近平が米国の虎の尾を踏んだ
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