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ドイツ(その3)(旧東独中心に過熱する極右・ネオナチの暴力、ドイツ憲法の番人が危うくするEUの一体性 EUの司法判断を無視する動きが広がるおそれ、ドイツが「消費税率3%下げ」に踏み切る意味 歳出削減を徹底 単なる景気対策ではない) [世界情勢]

ドイツについては、2018年1月30日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その3)(旧東独中心に過熱する極右・ネオナチの暴力、ドイツ憲法の番人が危うくするEUの一体性 EUの司法判断を無視する動きが広がるおそれ、ドイツが「消費税率3%下げ」に踏み切る意味 歳出削減を徹底 単なる景気対策ではない)である。

先ずは、昨年11月21日付け日経ビジネスオンラインが掲載した在独ジャーナリストの熊谷 徹氏による「旧東独中心に過熱する極右・ネオナチの暴力」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/112000113/?P=1
・『旧東ドイツでは、旧西ドイツよりも右派ポピュリズムが高まりを見せている。旧東ドイツでは右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の人気が旧西ドイツよりも高い。2017年の連邦議会選挙、今年の欧州議会選挙ともに、AfDは旧東ドイツで20%を超える得票率を記録した。これは旧西ドイツでの同党の得票率の2倍を超える。 AfDは2017年の連邦議会選挙で第3党となり、約100人の議員を送り込んだ。これは旧東ドイツの有権者の強力な支持なしには不可能だった。ドイツの全ての州議会に議席を持っている』、いまや「AfD」は無視できない大きな勢力になったようだ。
・『旧東ドイツでの右派ポピュリズムの高まり  今年9~10月にザクセン州、ブランデンブルク州、チューリンゲン州で実施された州議会選挙でも、AfDは得票率を前回の選挙に比べて2~3倍に増やし、これらの3州で第2党になった。キリスト教民主同盟(CDU)やドイツ社会民主党(社民党、SPD)の得票率は、どの州でも大幅に減った。バイエルン州トゥッツィング政治教養センターのウルズラ・ミュンヒ所長は、「AfDは旧東ドイツで地域政党として定着するだろう。AfDの躍進は、一時的な現象ではない」と指摘する。 AfD幹部の発言には、排外主義、人種差別主義、反ユダヤ主義、ナチスの犯罪の矮小(わいしょう)化などの傾向がはっきりと表れている。彼らは、第2次世界大戦後の西ドイツ政府・社会の歴史認識や常識を修正しようとしているのだ。つまりこの国の時計の針を戻そうとする過激政党だ。 例えば11月13日には、連邦議会・法務委員会のシュテファン・ブラントナー委員長(AfD所属)が、委員たちの投票によって更迭された。同氏は、ドイツのある歌手が連邦功労十字章を授与されたことについて、「この歌手はAfDを批判したために国から勲章をもらえた。まるでユダへの報酬だ」とツイッターに書き込んだ。 新約聖書によると、「イスカリオテのユダ」はユダヤ人で、キリストの12使徒の1人だった。彼はキリストを裏切って群衆と祭司長たちに引き渡した。ユダはその報酬として銀貨を受け取ったが、キリストが磔刑(たっけい)に処せられると聞くと、銀貨を神殿に投げ込んで自殺した。このエピソードを基にして、反ユダヤ主義者はしばしば「キリストを裏切って殺したのはユダヤ人だ」と非難する。 ブラントナーの発言については、政界・言論界から「反ユダヤ主義の表れ」という強い批判が上がった。議会の法務委員長が委員の投票によって更迭されたのは、この国の歴史で初めてのことだ。筆者の知人の連邦議会議員(キリスト教社会同盟=CSU所属)は、「ブラントナーは、『私にはユダヤ人を非難する自由もないのか』と不満を述べていた。AfDはファシストの集まりだ」と語っている。AfDの連邦議会進出が、この国の政治をいかに混乱させているかを如実に表す出来事だ。 奇妙なことにAfDのガウラント党首、ワイデル院内総務、チューリンゲン州のヘッケ支部長、ブランデンブルク州のカルビッツ支部長はいずれも東ドイツ人ではなく、旧西ドイツの出身だ。 それでも多くの旧東ドイツ人がAfDに票を投じるのは、戦後ドイツのタブーを破る政党を支持することによって、現体制への不満を表現するためだ。つまり有権者にとって、AfDが抗議政党であることが重要なのであり、指導者が東の出身であるかどうかは二の次なのだ。いわんや多くの支援者たちは、AfD党員の一部が「ネオナチに近い思想を抱いている」として連邦憲法擁護庁に監視されていることも、気にしていない。ちなみに同庁は、連邦内務省傘下の情報機関で、国内で活動するテロリストやスパイなどの過激勢力の監視を任務としている』、「多くの旧東ドイツ人がAfDに票を投じるのは、戦後ドイツのタブーを破る政党を支持することによって、現体制への不満を表現するためだ。つまり有権者にとって、AfDが抗議政党であることが重要なのであり、指導者が東の出身であるかどうかは二の次」、欲求不満のはけ口になっているようだ。
・『極右の暴力が東を中心にエスカレート  もう1つ統一後のドイツに暗い影を落としているのが、極右による暴力事件やヘイトクライムの増加だ。その傾向は特に旧東ドイツで顕著だ。 1990年以降に極右の暴力が増えた背景には、東西間の移動が以前よりも容易になったため、ルーマニアやブルガリアなど東欧からの亡命申請者が増えたという事実がある。極右勢力は亡命申請者の増加を理由に、排外的なムードをあおり立てた。 社会主義時代の東ドイツにも極右勢力がいたが、国家保安省(シュタージ)の取り締まりが厳しかったため、暴力事件は少なかった。だが1990年に社会主義政権とシュタージが消滅し、警察力が一時的に弱まったため、それまで抑えられていた過激なナショナリズムが解き放たれた。 統一後に、外国人を狙った極右の暴力が最初にエスカレートしたのは、旧東ドイツだった。1991年にザクセン州のホイエルスヴェルダで、約500人の極右勢力がベトナムやモザンビークからの出稼ぎ労働者が住んでいた宿舎を取り囲み、投石した。1992年にはメクレンブルク・フォアポンメルン州ロストクで、亡命申請者の登録施設をネオナチが襲撃し、放火した。近くに住んでいた市民は、ネオナチが火炎瓶を建物に投げ込むと、拍手喝采した。 2011年には、旧東ドイツの極右勢力による連続テロ事件が明るみに出た。チューリンゲン州を地盤とする「国家社会主義地下組織(NSU)」というグループが、ミュンヘンやハンブルクなどでトルコ人、ギリシャ人、ドイツ人警察官など10人を2000年からの7年間に殺害していたことが判明した。3人の旧東ドイツ人は、銀行強盗や外国人を狙った爆弾テロも繰り返し、被害者を揶揄(やゆ)するDVDも制作していた。 極右による暴力犯罪の件数は2015年の難民危機以降、再び増える傾向にある。連邦内務省によると、外国人を狙った極右の犯罪(暴力だけではなく誹謗=ひぼう=中傷なども含む)は、2014~16年に129%増加した。そのうち暴力犯罪は、133%増えている。外国人に対するインターネット上の誹謗中傷などのヘイトクライムも、2014年からの1年間で176%増えた』、「社会主義政権とシュタージが消滅し、警察力が一時的に弱まったため、それまで抑えられていた過激なナショナリズムが解き放たれた。 統一後に、外国人を狙った極右の暴力が最初にエスカレートしたのは、旧東ドイツだった」、ドイツ統一の皮肉な裏面のようだ。
・『反ユダヤ主義の再燃  特に気になるのは、旧東ドイツを中心に反ユダヤ主義が再び強まる傾向を見せていることだ。 ベルリンなどでは、数年前からキパと呼ばれる丸いかぶり物を付けていたユダヤ人が唾を吐きかけられたり、罵倒されたりする事件が起きている。2018年4月には、ベルリンでキパを被って歩いていた21歳のイスラエル人が、若者にベルトで殴られた。2019年11月には、19歳のユダヤ人学生が、旧西ドイツのフライブルクのスポーツ・ジムの更衣室で、見知らぬ男から「薄汚いユダヤ人め」と罵られた。男は、学生がかぶっていたキパを奪い取って唾を吐きかけ、ゴミ箱に投げ捨てた。周りにいたドイツ人たちは、誰も男を制止しなかった。 このためドイツ・ユダヤ人評議会は、ユダヤ人に対して公共の場所でキパをかぶらないよう勧告している。筆者がドイツに来た29年前には、想像もできなかったほどに治安が悪化している。 昨年8月にザクセン州のケムニッツで起きた暴動では、極右勢力が外国人を路上で追いかけ回し、ユダヤ人が経営するレストランに投石した。 今年10月には散弾銃や爆薬で武装した極右テロリストが、ザクセン・アンハルト州ハレのユダヤ人礼拝施設(シナゴーグ)で多数の市民の殺害を図ったが、扉の錠を破ることができず侵入に失敗。代わりに通行人ら2人を射殺した。犯人の旧東ドイツ人は、ネット上にホロコースト(ナチスによるユダヤ人虐殺)が実際に起きたことを否定する声明を発表し、「今回の攻撃でユダヤ人を1人でも殺せれば成功だ」と語っていた。 戦後ドイツで極右が多数のユダヤ人の殺害を図った事件は、例がない。この国では、極右によるテロが、イスラム過激派によるテロ並みに高い危険性を帯びてきたと言っても、過言ではない。 これまでネオナチの暴力は、主にトルコ人やシリア人などイスラム教徒に対して向けられていた。その矛先がユダヤ人に向けられ始めたことは、極右の暴力の質が大きく変化したことを意味する。第2次世界大戦から74年たって、ユダヤ人が身の安全を心配しなくてはならない時代が再びやってきた。 欧州では近年、フランスを中心に反ユダヤ主義が高まっており、イスラエルに移住したり、万一の事態に備えてイスラエルにアパートを買ったりする市民が現れている。かつての加害国であり、ナチスを批判する歴史教育に戦後力を入れてきたドイツで、今日のような事態が発生するとは、統一前には想像もできなかったことである。 ドイツの大手メディア企業アクセル・シュプリンガーのマティアス・デップナーCEO(最高経営責任者)は、「私はドイツ人がナチス時代の犯罪から何かを学んだと考えていた。人間性が、狂気に対して勝ったと言いたかった。しかし、今の私はそう言えない。反ユダヤ主義は克服されていない。むしろ逆である」と述べ、現在のドイツの状況を強く批判している。 ドイツのユダヤ人向け新聞「ユーディッシェ・アルゲマイネ」は、2018年12月にEU基本権保護局(FRA)が行ったアンケート結果を公表した。FRAによると、ドイツに住むユダヤ人の44%が、「この国がユダヤ人にとって安全だと感じられないので、他の国への移住を時々考えることがある」と答えた。 欧州の反ユダヤ主義は、中東情勢ともリンクしている。11月にイスラエル国防軍がガザ地区のアパートを攻撃し、テロ民兵組織「イスラム聖戦機構」 の指揮官と妻を殺害した。これに対する報復として、パレスチナ側が約400発のミサイルをイスラエルに向けて発射したため、イスラエル側はガザ地区を空爆し、11月16日までに非戦闘員を含む35人が死亡している。欧州諸国では、イスラエルが取る対パレスチナ政策への批判が根強い。ガザ紛争のエスカレートとともに、ドイツなどで反ユダヤ主義がさらに高まる恐れもある。 極右の暴力は旧西ドイツにも広がり、悪質化する傾向を見せている。今年6月2日にはヘッセン州カッセルのリュブケ区長(CDU所属)が、極右テロリストによって自宅で射殺された。リュブケ氏は、アンゲラ・メルケル首相の難民政策を支持していたために、極右から敵視されており、ネット上の「殺人リスト」に住所を公開されていた。第2次世界大戦後に、政治家が極右によって暗殺されたのは初めてだ。他にも緑の党の政治家や、難民支援に積極的な地方自治体の関係者らが極右から殺人予告を受けている。 ドイツの政治家らは、「AfDは2015年の難民危機以降、ソーシャルメディアを通じて、排外的なメッセージを流し続けた。この言葉の暴力が、実際の暴力を助長している」と指摘する。これに対しAfDは、「極右の暴力がエスカレートするのは、我々の主張とは無関係だ」と反論している』、「これまでネオナチの暴力は、主にトルコ人やシリア人などイスラム教徒に対して向けられていた。その矛先がユダヤ人に向けられ始めたことは、極右の暴力の質が大きく変化したことを意味する。第2次世界大戦から74年たって、ユダヤ人が身の安全を心配しなくてはならない時代が再びやってきた」、「AfDは2015年の難民危機以降、ソーシャルメディアを通じて、排外的なメッセージを流し続けた。この言葉の暴力が、実際の暴力を助長している」、深刻な事態になってきたようだ。
・『「新たな壁を崩せ」  多くの政治家たちは、今日のドイツの状況を深刻に受け止めている。今年11月9日にベルリンで行われた壁崩壊に関する記念式典で、フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー大統領 は「我々は、ドイツに新しい壁を築いてしまった。それは、不満と怒り、疎外と憎しみの壁だ。この壁は目に見えないが、ドイツを今も分断している。新たな壁を打ち崩せるのは、私たちだけだ。手をこまねいていないで、この壁を打ち崩そう」と聴衆に訴えた。彼の言葉には、ベルリンの壁崩壊という歴史の輝かしい1ページに、東西間のアイデンティティーの亀裂が暗い影を落としていることがはっきり表れている。 メルケル首相はドイツの新聞が最近行ったインタビューの中で「私は以前、東西間の違いがもっと早く消滅すると考えていた。しかし今では、統一が完遂されるまでには50年もしくはそれ以上かかると考えている」という悲観的な見方を明らかにしている。 コール政権、そして多くの西ドイツ人たちは天文学的な額の資金を注ぎ込んで、生活水準さえ引き上げれば東西間のアイデンティティーも平準化されると考えた。しかしその考えは、甘かった。人はパンのみにて生くるものにあらず。西側は、旧東ドイツ人たちがいかに急激な変化を体験し、困難な適応を強いられ、心の傷を負ったかについて十分に配慮しなかった。効率を最優先し、感情への配慮を二の次にするのは、ドイツ人の国民性の1つでもある。つまり金についてばかり語り、心の統一をおろそかにしたことが、今日のアイデンティティーの亀裂につながった。旧西ドイツ人たちは、今ようやくそのことに気づきつつある』、「多くの西ドイツ人たちは天文学的な額の資金を注ぎ込んで、生活水準さえ引き上げれば東西間のアイデンティティーも平準化されると考えた。しかしその考えは、甘かった。人はパンのみにて生くるものにあらず。西側は、旧東ドイツ人たちがいかに急激な変化を体験し、困難な適応を強いられ、心の傷を負ったかについて十分に配慮しなかった。効率を最優先し、感情への配慮を二の次にするのは、ドイツ人の国民性の1つでもある。つまり金についてばかり語り、心の統一をおろそかにしたことが、今日のアイデンティティーの亀裂につながった」、「心の統一」とはなかなか難しい問題だ。 
・『ドイツ経済・独り勝ちの時代の終わり?  経済の分野でも、ドイツの前途には注意信号がともっている。第2四半期のGDP成長率は、マイナス0.2%だった。マイナスのGDP成長率が2四半期連続とならなければ、景気後退(リセッション)とは定義されない。第3四半期のGDP成長率は、プラス0.1%だった。このためドイツのメディアは「ドイツはかろうじてリセッションを避けられた」と報じた。だが経済学者や投資アナリストの間では、「米中間、米欧間の貿易摩擦の影響で、この国の景気が大きく冷え込んでいることは間違いない」という意見が有力だ。 IFO経済研究所が発表する景況指数も、今年10月には前年同期(102.6)から約8ポイント下がって94.6となった。ドイツ機械工業連盟(VDMA)によると、今年1~8月の機械メーカーの受注額は前年同期比で9%減った。 一部の自動車メーカーでは、すでに昨年から業績が悪化し始めていた。BMWでは昨年の当期利益が前年比で16.9%減、ダイムラーでは同22%減となった。このため、両社とも配当の減額に追い込まれた。BMWが配当を減らしたのは、10年ぶりのことである。同社の減益傾向は今年も続いており、8月1日の発表によると、2019年上半期の当期利益は前年同期に比べて約半分に減った。 このあおりを受けて、多くの自動車部品メーカーが従業員を削減する計画を発表している。中国の自動車市場で販売台数が減少傾向を見せていることも、ドイツ企業にとっては大きな不安の種だ。 ドイツ政府は昨秋、2019年のGDP成長率を1.5%と予想していたが、今年夏には0.5%に引き下げた。国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しによると、これはイタリア(0.0%)に次いでユーロ圏で2番目に低い成長率だ。ユーロ圏平均(1.2%)の半分にも満たない。ドイツでは「この国は再び欧州の病人になるのか?」という声すら出ている。 ドイツ人たちは2020年、東西統一から30年というもう1つの歴史的な区切りを迎える。だが彼らは、伝統的な二大政党の弱体化、アイデンティティーの亀裂、極右による暴力のエスカレート、景気の冷え込み、製造業・金融サービス業の変革の遅れ、米中に大きく水をあけられたデジタル化など様々な難題に取り組まなくてはならない。このため2020年の記念式典でも、祝賀気分はささやかなものにとどまるだろう。シャンパンに酔いしれている暇はない』、5月8日の記念式典は、コロナ危機を反映して、参列者のない式典だったようだ。もともと、これだけ多くの課題を抱えていては、「祝賀」どころではないのだろう。

次に、本年2月19日付け東洋経済オンラインが掲載した第一生命経済研究所主席エコノミストの田中 理氏による「ドイツ憲法の番人が危うくするEUの一体性 EUの司法判断を無視する動きが広がるおそれ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/350191
・『5日にドイツの憲法裁判所がECB(欧州中央銀行)の国債購入策を違憲とする判決を出して、波紋が広がっている。 判決では国債購入策によって達成されるべき目的とそのために取られる手段とが釣り合っているか(法律用語で「比例性原則」という)の検討が不十分であるとし、ECBに対して3カ月以内に検証と説明を求めている。期限内に適切な説明がない場合、ドイツ連邦銀行(ECB傘下のドイツ中央銀行)が国債購入プログラムへの参加を取り止め、これまで購入したドイツ国債を売却することを命じている。 2015年3月に金融政策の一環で開始されたECBの国債購入策については、財政救済を禁じたEU(欧州連合)条約に抵触するとして、ドイツの法学者などが違憲審査を提起した。ドイツ憲法裁判所は2017年7月に条約違反のおそれがあるとして、欧州司法裁判所に法的見解(予備判決)を求めた。しかし、欧州司法裁判所は2018年12月にドイツ憲法裁判所の判断を退け、ECBの国債購入策が金融政策上の権限を逸脱せず財政救済にも相当しないとする法的判断を下していた』、「ドイツ憲法裁判所」と「欧州司法裁判所」の対立とは、興味深い展開だ。
・『EUとドイツの司法が正面衝突  EU法を解釈する権限は欧州司法裁判所に帰属する。予備判決で示されたEU法の解釈は既判力を有し、照会を求めたEU加盟国の裁判所だけでなく、すべての加盟国の裁判所を拘束する。ところが今回、ドイツ憲法裁判所は欧州司法裁判所の法解釈に疑問を呈し、越権行為に基づく予備判決は無効とし、ECBの国債購入策の一部を違憲とした。 欧州委員会のフォンデアライエン委員長は10日、EU法の統一的な運営が損なわれるおそれがあるとして、今回のドイツ憲法裁判所の決定に強い懸念を表明した。ドイツに対するEU法の侵害手続きを開始することも含め、法的手段を検討していることを示唆した。 今回のドイツ憲法裁判所の判決は、ECBの金融政策運営ばかりかEUの司法制度や一体性を脅かしかねない。今後3カ月以内に国債購入策が物価安定目標を達成するうえで不適切でないことをECBが証明しない限り、ドイツ憲法裁判所はドイツ連邦銀行(連銀)に国債購入の停止を命令する。ドイツの国内機関であるドイツ連銀はその決定に拘束される。 ドイツ国債はECBが購入する国債の約4分の1を占める。ドイツ連銀が購入を停止した場合も、ECBの資産買い入れ規模が必ずしも小さくなるわけではない。ドイツ以外の加盟国中央銀行がドイツ国債を代わりに購入し続け、ドイツ連銀が売却する同国債も購入するといった対応が可能だ。 また、欧州を直撃するコロナ危機対応でのECBの中心的な政策ツールは、今回問題となっている国債購入策(PSPP)ではなく、3月に新たに開始した時限的な国債購入策(パンデミック緊急購入プログラム、PEPP)だ。PEPPは今回の法的判断の対象には含まれていない。危機対応の強化が必要となった場合、PEPPの総額7500億ユーロの枠(8日時点で1529億ユーロを利用)を増額したり、ひとまず年内となっている期間を延長したりする判断を妨げるものではない。 だが、感染終息後のユーロ圏経済の回復には長期間にわたって緩和的な金融環境を維持する必要がある。景気低迷が長期化し、中期的な物価安定が脅かされる場合、追加利下げ余地の乏しいECBは、資産買い入れのさらなる強化で対応することになろう。 ドラギ前総裁の下、ECBが昨年9月に金融緩和策を強化した際、複数の理事会メンバーから異例の反対意見が噴出した。後を継いだラガルド総裁は、理事会内の不協和音の解消を目指し、政策決定の透明化や意思疎通の改善を掲げて就任した。 ECBの金融政策決定は、正副総裁と理事、輪番制で投票権を持つ加盟国中銀総裁の多数決で決まるが、最大出資国のドイツが合法性を疑問視する中での資産買い入れ強化のハードルは高い。ドイツがECBの重要な政策への参加を拒む事態となれば、ECBの金融政策運営の実効性やユーロ圏の一体性が疑問視されかねない』、「欧州委員会のフォンデアライエン委員長は・・・ドイツに対するEU法の侵害手続きを開始することも含め、法的手段を検討していることを示唆」、ドイツ出身の「委員長」としても苦しいところだろう。
・『反EU的な東欧の国々を勢いづかせる  今回のドイツ憲法裁判所の決定による波紋はそれだけにとどまらない。EUでは近年、ハンガリーやポーランドの旧東欧諸国を率いるナショナリズム政党が、EUが決めた難民の受け入れ分担を拒否し、自国の司法、メディア、教育機関、非政府組織(NGO)への介入を強める事例が目立つ。ハンガリー議会は最近、コロナ危機対応の一環で政府の権限を無期限で強化する緊急法案を可決した。 EUは両国のこうした行為がEUの基本価値違反に当たると糾弾し、EU条約第7条に基づく制裁手続きの開始や、基本価値違反を繰り返す加盟国に対するEU予算の配分を見直すことなどを検討している。両国政府はEUの国内政策への干渉を批判し、制裁決定に従わない意向を示唆するなど、対決姿勢を強めている。 第7条に基づく制裁手続きは、問題国を除く全加盟国の一致がある場合に、重大かつ持続的な基本価値違反があることを決定する。最終的にはEU加盟国としての権利(例えば政策決定時の投票権など)が停止される。だが、ポーランドへの制裁発動にはハンガリーが反対し、ハンガリーへの制裁発動にはポーランドが反対するため、EUは両国に対して有効な法的対抗手段が取れずにいる。 ドイツ憲法裁判所が欧州司法裁判所の法解釈に公然と異を唱えた今回の判決は、EUに懐疑的な政権が率いるハンガリーやポーランドが欧州司法裁判所の決定を無視するうえで格好の口実を与える。欧州司法裁判所は先月、ポーランド政府に対して同国の裁判所判事の選出方法が司法の独立性を脅かす懸念があるとして是正命令を出したばかりだ。近くハンガリー政府の難民政策がEU法に違反するかの判決も言い渡す予定だ』、「ポーランドへの制裁発動にはハンガリーが反対し、ハンガリーへの制裁発動にはポーランドが反対するため、EUは両国に対して有効な法的対抗手段が取れずにいる」、「制裁」が一国だけを想定した手続きになっているためだろう。二国もいたので、機能しなくなったようだ。
・『EUは難しい立場に追い込まれた  EUは難しい立場に置かれている。ドイツ憲法裁判所の独自見解を容認すればEUの法体系の安定性を危険にさらすばかりか、東西欧州間の対立を助長しかねない。ハンガリーやポーランドは自国ばかりが槍玉に上がり、ドイツが特別扱いされる二重規範を攻撃材料にするだろう。欧州委員会のフォンデアライエン委員長がドイツの閣僚出身であることも、批判の的となる。 だが、ドイツに対してEU法の侵害手続きを開始すれば、ドイツ政府がドイツ憲法裁判所の決定に対して責任を負い、ドイツ国内の権力分立という別の問題に直面することになる。ドイツ基本法(憲法)の番人であるドイツ憲法裁判所の下した法的判断に、ドイツ政府が介入することが果たして認められるのだろうか。司法の独立性を脅かす干渉との批判を招き、欧州司法裁判所やEUに対するドイツ国民の不信感を招く可能性がある。 今回のドイツ憲法裁判所の決定は、さまざまな形でEUの屋台骨を揺るがしかねないリスクを内包しているのだ』、誠に悩ましい問題を「EU」と「ドイツ」は抱え込んだもので、今後の展開が楽しみだ。

第三に、6月8日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学 経済学部教授の土居 丈朗氏による「ドイツが「消費税率3%下げ」に踏み切る意味 歳出削減を徹底、単なる景気対策ではない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/354869
・『ドイツのメルケル政権は6月3日、日本の消費税に相当する付加価値税の税率を7月から12月末までの半年間、引き下げると発表した。これは、2020年と2021年に実施する総額1300億ユーロ(約16兆円)の景気対策の一環だ。 消費減税は、標準税率を19%から16%に引き下げ、軽減税率を7%から5%に引き下げる。減税規模は200億ユーロ(約2.5兆円)で、新型コロナウイルスの感染拡大前の付加価値税収の1割弱に相当する。今後、この内容を閣議決定し、連邦議会に提出する』、興味深そうだ。
・『健全財政路線を捨てたわけではない  メルケル政権は、どうして消費減税に踏み切ったのか。当然のことながら、政治的経緯や世論動向などが背景にある。 それを公共経済学の観点から分析すると、消費減税は均衡財政主義を放棄したのではなく、将来の増税を避けるために財政黒字を維持してきて、その黒字の余力を使って消費減税で還元しようとしていることがわかる。 メルケル政権は、2005年11月から今日まで続く長期政権である。公共経済学の観点からメルケル政権の財政運営の特徴を説明すると、歳出削減を軸とした健全財政路線である。 メルケル首相が党首を務めてきたキリスト教民主同盟(CDU)は中道右派政党で、今日の財政赤字は将来の増税をもたらすことを強く意識している。メルケル政権の財政運営も、それが基本となっているといってよい。それに対し、CDUのライバルである社会民主党(SPD)は中道左派政党として拮抗している。 メルケル政権は発足してすぐの2007年に、当時17%だった付加価値税率を19%に引き上げた。これもあって、2007年にはドイツ全体(一般政府)で財政収支が黒字になり、前のシュレーダー首相率いるSPD政権で続いていた財政赤字を解消した。 その後、リーマンショックに端を発した世界金融危機が起きて景気が後退した。2009年には実質経済成長率がマイナス5.6%を記録した(以下、経済財政統計はOECD資料による)。 それでも、メルケル政権は消費減税をしなかった。この頃、ドイツ全体の財政収支(対GDP)は2009年にマイナス3.1%、2010年にはマイナス4.4%と赤字に陥った。これにより、政府債務残高の累積に対処すべきとの機運が高まり、2009年6月には、財政収支均衡原則を盛り込む基本法(憲法)の改正が行われた。この原則は、連邦政府および州政府の予算は、原則として公債発行なしに均衡させなければならない、とするものである。 リーマンショック直後に実質経済成長率が大きく落ち込んでも、ドイツは付加価値税を増税したまま税率を下げなかった。その直前に財政赤字が続いて政府債務残高が累増していたのが、当時のドイツ財政だった』、「財政収支均衡原則を盛り込む基本法(憲法)の改正」とは、思い切ったことをしたものだ。
・『失業給付抑制や年金支給開始年齢を引き上げ  財政収支均衡原則が盛り込まれた基本法の下、メルケル政権は財政改革に着手した。 歳出面では、長期失業者に対する失業給付の抑制、長期失業者に対する年金保険料支払いへの補助の廃止、子供を持つ親に対する手当の給付抑制、2012年以降に年金支給開始年齢の65歳から67歳への段階的引き上げ、公的医療給付の財源である連邦補助に法定上限を設けた総額管理、4万人規模の連邦国防軍兵士削減を含む防衛費の抑制、各省の裁量的経費の抑制といった策を実施した。 メルケル政権下では、社会保障支出の伸び率は名目経済成長率を下回っている。医療費は、診断群分類(DRG)と呼ばれる患者分類に応じて医療費を定額払いにする制度の下、定額払いを徹底して医療費を削減してきた。 日本でも、DRGに相当するとされる診療群分類包括評価(DPC)があるが、これは定額払いと出来高払いの混合で、出来高払い部分で医療費が膨張する恐れがある。入院医療にはDRGが適用されたが、外来医療では「家庭医中心医療」を掲げ、最初は登録した家庭医に診てもらい、その判断に従って専門的な医療を受ける仕組みを推進した。家庭医を含む開業医は地域ごと、診療科ごとに定員制をとっており、開業医の制限を徹底している。 他方、メルケル首相やCDU幹部らは、付加価値税率のさらなる引き上げには否定的だった。徹底した歳出削減に軸を置いて財政赤字を削減しつつ、付加価値税率を19%に維持し続けた。 こうした財政改革により、ドイツ全体の財政収支は2012年以降、黒字に転じ、8年連続で黒字を続けた。その単純合計は約2220億ユーロ(約27.3兆円)にのぼる。ドイツ全体の政府債務残高は、2014年末の2兆5043億ユーロ(約308兆円)から2019年末には2兆3509億ユーロ(約289兆円)へと1534億ユーロも減らしていた。日本のように、政府債務残高が減らなくても、政府債務残高対GDP比が低下していればよいという、悠長な国とは次元が違う。 ここには、ドイツが政府債務を自国通貨建てでは負えない(ユーロ建てで負うが、ユーロの発行権は欧州中央銀行が持つ)という発想は一切ない。あるのは、財政黒字によって将来の増税が避けられるという論理である。 お金に色はついていないものの、8年連続の財政黒字の単純合計約2220億ユーロのうち、1534億ユーロを政府債務残高の削減に充てたとみれば、財政収支の黒字のうち約7割を政府債務残高の削減に充ててきたと言える』、「財政収支の黒字のうち約7割を政府債務残高の削減に充ててきた」、並大抵のことではない偉業だ。
・『債務残高削減は将来の増税回避につながる  政府債務残高の削減は、将来の増税を避けることにつながる。ただ、現世代への恩恵はどうか。今の第4次メルケル政権内でも、財政黒字の還元策をめぐりコロナ前から意見が割れていた。第4次メルケル内閣はSPDも連立与党であり、CDUは法人税や所得税の減税を求める一方、SPDは公共投資拡大を主張していた。 ここにも、メルケル首相やCDUの志向が表れている。財政黒字の還元として、メルケル首相やCDUは、政府規模がより大きくなることを避けることに腐心している。前掲の財政改革で社会保障を含む歳出削減を徹底したことと共通している。 そうした前提のうえに、今般のドイツの消費減税がある。CDUは、コロナ前には法人税や所得税の減税を財政黒字の還元策として打ち出していた。さらに、日本ではあまり報じられていないが、コロナショック対策として、付加価値税率をめぐる議論は既にあった。連邦議会では、レストラン等の外食への軽減税率適用(ドイツでは外食は標準税率)について審議が継続している。 ドイツの消費減税は、財政収支が黒字になるほど税収を多く得ていたから減税するという話である。ただでさえ財政赤字なのに減税してもっと財政赤字を膨らますという話とは次元が違いすぎる。加えて、ドイツでは、歳出削減を徹底した後で減税するという話である。医療費を含む歳出削減を批判しつつ、減税に賛成するという辻褄の合わない話ではない。 ドイツの消費減税の真の狙いは、経緯をきちんと踏まえて理解する必要がある』、日本とは余りに状況が違う。日本では、財務省でさえ、本当のところは自分たちの権限縮小につながる「歳出削減」には後ろ向きのようだ。せっかく、消費増税をしても、景気対策の名目で、歳出増加をする。歳入・歳出が大きくなって自分たちの権限拡大が図れればいいようだ。やれやれ・・・。
タグ:ドイツ 東洋経済オンライン 日経ビジネスオンライン 土居 丈朗 田中 理 熊谷 徹 ドイツのための選択肢(AfD) (その3)(旧東独中心に過熱する極右・ネオナチの暴力、ドイツ憲法の番人が危うくするEUの一体性 EUの司法判断を無視する動きが広がるおそれ、ドイツが「消費税率3%下げ」に踏み切る意味 歳出削減を徹底 単なる景気対策ではない) 「旧東独中心に過熱する極右・ネオナチの暴力」 旧東ドイツでの右派ポピュリズムの高まり 多くの旧東ドイツ人がAfDに票を投じるのは、戦後ドイツのタブーを破る政党を支持することによって、現体制への不満を表現するためだ。つまり有権者にとって、AfDが抗議政党であることが重要なのであり、指導者が東の出身であるかどうかは二の次 極右の暴力が東を中心にエスカレート これまでネオナチの暴力は、主にトルコ人やシリア人などイスラム教徒に対して向けられていた。その矛先がユダヤ人に向けられ始めたことは、極右の暴力の質が大きく変化したことを意味する。第2次世界大戦から74年たって、ユダヤ人が身の安全を心配しなくてはならない時代が再びやってきた AfDは2015年の難民危機以降、ソーシャルメディアを通じて、排外的なメッセージを流し続けた。この言葉の暴力が、実際の暴力を助長している 新たな壁を崩せ 多くの西ドイツ人たちは天文学的な額の資金を注ぎ込んで、生活水準さえ引き上げれば東西間のアイデンティティーも平準化されると考えた。しかしその考えは、甘かった。人はパンのみにて生くるものにあらず。西側は、旧東ドイツ人たちがいかに急激な変化を体験し、困難な適応を強いられ、心の傷を負ったかについて十分に配慮しなかった。効率を最優先し、感情への配慮を二の次にするのは、ドイツ人の国民性の1つでもある。つまり金についてばかり語り、心の統一をおろそかにしたことが、今日のアイデンティティーの亀裂につながった ドイツ経済・独り勝ちの時代の終わり? 「ドイツ憲法の番人が危うくするEUの一体性 EUの司法判断を無視する動きが広がるおそれ」 ドイツの憲法裁判所がECB(欧州中央銀行)の国債購入策を違憲とする判決 EUとドイツの司法が正面衝突 欧州委員会のフォンデアライエン委員長 ドイツに対するEU法の侵害手続きを開始することも含め、法的手段を検討していることを示唆 反EU的な東欧の国々を勢いづかせる EUは難しい立場に追い込まれた 「ドイツが「消費税率3%下げ」に踏み切る意味 歳出削減を徹底、単なる景気対策ではない」 消費減税は、標準税率を19%から16%に引き下げ、軽減税率を7%から5%に引き下げる。減税規模は200億ユーロ(約2.5兆円) 健全財政路線を捨てたわけではない 財政収支均衡原則を盛り込む基本法(憲法)の改正 失業給付抑制や年金支給開始年齢を引き上げ 財政収支の黒字のうち約7割を政府債務残高の削減に充ててきた 債務残高削減は将来の増税回避につながる
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