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ソニーの経営問題(その7)(ソニーが自動車業界から人を続々引き抜く理由 10年後を見据える「仕込み作業」の実態、ソニーがコロナ禍でも強さを見せる理由 元副会長に聞く「創業精神への回帰」 盛田・井深を間近に見てきた元副会長が語る、ソニーが金融事業を完全子会社化 真の狙いは「脱エレキ」の加速) [企業経営]

ソニーの経営問題については、2016年6月16日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その7)(ソニーが自動車業界から人を続々引き抜く理由 10年後を見据える「仕込み作業」の実態、ソニーがコロナ禍でも強さを見せる理由 元副会長に聞く「創業精神への回帰」 盛田・井深を間近に見てきた元副会長が語る、ソニーが金融事業を完全子会社化 真の狙いは「脱エレキ」の加速)である。

先ずは、昨年7月1日付け東洋経済オンライン「ソニーが自動車業界から人を続々引き抜く理由 10年後を見据える「仕込み作業」の実態」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/289791
・『ソニーが今、完成車メーカーやティア1(自動車部品の1次下請け)など、自動車業界からの人材採用に力を入れている。「たとえばホンダのような大手自動車メーカーであったら、大人数のプロジェクトで歯車の1つであっても、ソニーに行けば自分が牽引できる立場になり、研究開発環境もよい。そこで普通の半導体メーカーには行かない完成車メーカーの人材も、ソニーならと転職を決めている」(ソニー関係者)。 彼らを引き寄せているのが、半導体子会社のソニーセミコンダクターソリューションズだ。 「これから事業参入しようという新しい部署なので、何事にも意欲的に、自分で考えて行動できるようなポジティブな方を歓迎します」――。 こんな触れ込みで、ソニーのホームページの中途採用の欄には半導体関連の求人が複数掲載されている。募集している職種は、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転車向けセンサーのソフトウェアエンジニア、自動車の安全規格に準拠した開発体制を構築するための品質担当エンジニアなど。なぜ自動車業界の人材が必要なのか』、「自動車業界」の「自動運転」分野の技術者には、「ソニー」は確かに有力な転職先だろう。
・『次の成長軸の一つが車載半導体  7月1日発売の『週刊東洋経済』は、「ソニーに学べ!」を特集した。2008~2014年度の7年間で6度の最終赤字に陥り、一度は「もう終わった会社」の烙印を押されたソニーだが、今や高収益企業に変貌している。足元はゲーム事業の収益拡大などで好調ながら、中長期での成長軸が見えないという指摘もある。そこで2018年に社長に就任した吉田憲一郎社長は、2018~20年度までの中期経営計画の期間を「仕込み期間」と位置づけ、高い業績目標は設けずに次の成長軸作りを優先している。 その1つが、この車載半導体である。ソニーは、光を電子信号に変える撮像素子、CMOSイメージセンサーの世界シェア5割を握る。現在は売上高の8割が、アメリカのアップルや中国ファーウェイなどに向けたスマートフォンのカメラ用だが、市場は「2022年頃には頭打ちになると見られる」(IHSマークイットの李根秀主席アナリスト)。 そこで、この技術を用いて、自動運転車の「目」として周辺環境の認知に用いる車載センシングの事業化を進めている。2020年代半ばには市場が本格的に立ち上がるといわれる自動運転市場にあわせ、「人の命に関わることはやらない」という創業以来の不文律を破り、これまでほぼ手がけたことがなかった車載市場を狙う。そもそも半導体事業自体、車載向けに限らないものの、2020年度入社の技術系新卒の4割をここに振り分けるという力の入れようだ。) 2015年から専門部署が発足したという新しい事業であるため、ソニーの車載センサーのシェアは5%ほどとまだ低いが、品質面では夜間や逆光下などでも高画質の映像を撮影できる点で評価は高い。5割超のシェアを占めるアメリカのオン・セミコンダクターから「当社の最大のライバルはソニー」(同社副社長のデビッド・ソモ氏)と恐れられる存在だ。ソニーはすでにトヨタの高級車レクサス「LS」や、普及価格帯のクラウン、カローラ向けなどをデンソーに出荷しているほか、独ボッシュなどとも取引が始まっている。 ただ、ティア1以上のセンサーの技術を持つソニーも、自動車業界特有の、すりあわせ型開発や、温度や振動への耐性など、厳しい品質水準への対応は十分ではない。だからこそノウハウを吸収すべく、自動車業界出身の人材の獲得が必要なのだ』、「「人の命に関わることはやらない」という創業以来の不文律を破り」、初めて知ったが、分野を選んで慎重に進出するのであればやむを得ないだろう。
・『ルネサスの車載半導体トップが電撃移籍  昨年9月には、ルネサスエレクトロニクス(注)で車載半導体部門トップだった大村隆司氏が同社退社直後にソニーに移籍するという電撃人事もあった。ソニーでの役職は、半導体事業トップの清水照士に次ぐナンバー2、常務補佐(現半導体子会社副社長)だ。この移籍は、「大村氏がルネサスを辞めることがわかって数日での出来事。しかも、この引き抜きを知っていたのは、吉田社長、清水氏、(JPモルガン出身で半導体事業の財務企画を務める)染宮秀樹氏くらい。ソニーが車載向けにかける本気度が伝わってくる」(人材業界関係者)。 大村氏に引っ張られる形で、ルネサスで車載事業のCTO(最高技術責任者)室技師長を務め、大村氏の信頼が厚い板垣克彦氏もソニーへ移籍。彼らが持つ自動車業界の人脈を使って、マネジメント層の移籍も増えている。 半導体事業部門には、7月1日に「システムソリューション事業部」という新部署もできた。半導体事業において実質的に経営戦略のトップを務める、前出の染宮氏が事業部長に就き、これまでスマホ向け、車載向けなどに分散していたソリューション領域の企画開発を統合、センサーにAIを実装することで、収集したデータを活用するなど、一部品の販売に留まらない展開を目論んでいる。 同部署では「車の『目』だけでなく、現在、アメリカのエヌビディアなどが手がける自動運転車において、人間の「脳」のような推論機能を担う部分へ入るための準備も着々と進めている」(ソニー関係者)という。大規模な事業買収こそない半導体事業だが、中途採用で新しい血を入れることで、着実に新領域への進出を進めているのだ。 人材獲得に力を入れるのは、中途採用だけではない。今年ソニーは、新入社員の給与体系を改定し、AI開発ができるエンジニアなど一部の優秀な人材を中心に、1年目の年収を最高で730万円と、従来から3割程度引き上げることにした。従来は、入社2年目の7月までは人事評価で一律に「等級なし」をつけていたところを、1年目の7月段階で、主任、上級担当者に与えられる全5等級のうち、上から2番目の「4」の等級をつけることが可能になる。 採用コンサルタントの谷出正直氏はソニーのこの動きについて「現在、AIなどのデータサイエンス領域は国際的に見て圧倒的な売り手市場。日本国内でも高度な専門性やスキルを身につけた一部の学生は、大学卒業後、アメリカのグーグルなど海外IT企業にそのまま就職することも増えている。こうした層に振り向いてもらいたいというのがソニーの狙いだろう。もっとも、いきなり年収2000万円台も夢ではない米国IT企業に比べると給与格差はまだ大きい」と分析する。 グローバル採用も強化する。コンピュータサイエンスのトップ校である、アメリカのカーネギーメロン大学やインド工科大学、中国の北京大学、清華大学などに狙いを定め「今後ソニーが技術的な競争力を維持するうえで、GAFAなども含めた国際的な人材獲得競争に対して危機感をもって対応していきたい」(ソニー)』、「ルネサス」から車載半導体トップを含め多数が「移籍」、「AI開発ができるエンジニアなど一部の優秀な人材を中心に、1年目の年収を最高で730万円と、従来から3割程度引き上げる」、などソニーのてこ入れは本物だ。
(注)ルネサスエレクトロニクス:三菱電機、日立製作所の半導体部門が統合、その後、NECエレクトロニクスが合流してできた大手半導体メーカー。
・『採用した人材は研究開発にも振り向け  将来に向けた「仕込み」を重視するという現在の経営姿勢を明確に反映しているのは、事業に必ずしも直結しないR&D(研究開発)領域での新卒採用を強化していること。2020年度入社の新卒採用では、R&D人材の数を前年度と比べて2割増やす予定だとしている。 2018年7月に立ち上げ、中長期的な技術開発を担うR&Dセンターでは、エンジニアが自由に実機まで開発できる環境も整えた。「こうした『雇用特区』的な取り組みは最近ほかの大手家電メーカーなども始めている。5~10年後における事業の柱を作っていくためには、多くの企業が導入すべき取り組みだ」と、リクルートキャリアHR統括編集長の藤井薫氏は指摘する。ソニーで人事部門を担当する安部和志執行役常務は2月に行われた採用戦略説明会の場で、「自分の専門分野に限らず、さまざまなことに好奇心を持つやんちゃなエンジニアが欲しい」と語った。 競争力のある領域で優秀な人材をどれほど獲得できるか。10年後のソニーが成長し続けられるかどうかは、ここにかかっている』、「さまざまなことに好奇心を持つやんちゃなエンジニア」がどれだけ育つか注目したい。

次に、本年5月25日付けダイヤモンド・オンライン「ソニーがコロナ禍でも強さを見せる理由、元副会長に聞く「創業精神への回帰」 盛田・井深を間近に見てきた元副会長が語る」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/238002
・『コロナ禍であらゆる日本企業が難局を迎える中、ソニーの動きが力強い。金融子会社の株式公開買い付け(TOB)、AI搭載半導体の発表、新型ゲーム機・プレイステーション5の開発……。その相次ぐ布石の根底にあるのは、創業精神への回帰だ。吉田憲一郎社長は19日の経営方針説明会の冒頭で、「ファウンダーである盛田昭夫からの学びに、長期視点に基づく経営がある。新型コロナウイルスが世界を変えたいま、改めてその重要性を感じている」と語った。ソニーの精神とは何なのか?創業者を間近に見てきたソニー元副会長の森尾稔氏に聞いた』、「吉田憲一郎社長」はCFO出身の実務家なので、求心力を得る狙いもあって、「創業精神への回帰」を打ち出したのだろう。
・『「企業経営はマラソンだ」 盛田昭夫氏はそう言った  しばらく前、高木一郎君(ソニー専務、エレクトロニクス事業を担当)とお酒を飲みました。「テレビってずっと赤字だっただろう。最近やっと、利益が出るようになってよかったね」って僕が言ったら、高木君は「森尾さん、8年や9年の赤字ぐらいで諦めてどうするんですか」と返してくるんです。さらには、「サントリーのビール事業は46年間も赤字でした。それでもサントリーが諦めなかったから、今ここにプレミアムモルツがあるのですよ」と。ソニーの人からビールの話を聞かされるとは思わなかったけれどね(笑)(Qは聞き手の質問、A」は森尾氏の回答)。 Q:今の企業経営には短期的な成果が求められがちです。創業から5年で上場し、時価総額はユニコーン(約1000億円)で……といった具合に。株主が求めるし、社会も求めてしまう。でも実はもっと長い目線で経営すべき? A:(略歴はリンク先参照)僕はそうだと思います。そういうふうに僕らは育った、と言ったほうがいいかな。盛田さん(共同創業者の盛田昭夫氏)は常々、「企業経営はマラソンだ」と言っていました。隣の選手を気にして走っているようではいかん、自分のペースで走ればいい、と。だから四半期ごとの決算開示なんて、本当はやめたほうがいい。僕個人はそう思っています。株主には情報が必要ではありますから、もっと簡略な開示内容にすればよいと思っています。 Q:マラソン経営をするなら、経営者にはこらえ性が必要になりそうです。 A:そうそう。偉い人ほど短気な人が多いものですからね。 ただ、僕は、井深さん(共同創業者の井深大氏)や盛田さんの怒った顔を見たことがありません。井深さんの面白い話を1つしましょう。僕はずっと、開発部門にいたでしょう。部門では次に何を開発するかという事業計画をつくる会議が毎年あるのですが、その会議をしていると、井深さんがふらっと入って来る。そしてじっと20分ぐらい話を聞いて、ふらっと出ていくのです。その時に言い残していくのですよ。「君らがみんなで相談してあれかこれか、なんて言ったところで、イノベーションは起こせないよ」って』、「井深」氏の言葉は含蓄がある。
・『「全員の意見が一致するものはやってもしょうがない」  Q:みんなで相談するのがだめなら、どうしたらいいのでしょうか。 A:井深さんは「みんなが一致するようなテーマをやってもしょうがない」と言っているんです。井深さん自身、この考えに徹していました。 その最たるものが、撮像素子半導体だと思います。岩間さん(岩間和夫氏、1976年~82年の社長)がCCD(電荷結合素子)撮像素子を手掛けたのが元々ですが、実は井深さん自身は、CCDをやることに反対だった。しかし岩間さんは「社長の道楽としてやらせてもらいます」と貫いて、それを井深さんも盛田さんも許した。普通だったら、創業者が反対したらなかなかできませんよね。これがソニーのいいところだったと思います。 その岩間さん自身ですら、CCDの開発に苦戦していた1970年代には、「20世紀中には元を取れない(投資回収できない)と思う」と言っていました。それでも長期的にやっていくために、社長の道楽という言葉を使ったんですね。しかし結果として、今世紀中どころか80年代のうちに、ビデオカメラに搭載されて稼ぐようになりました。 Q:そして21世紀の今、CCDの流れを組んだCMOS(相補型金属酸化膜半導体)がソニーの稼ぎ頭となっています。 A:これはソニーの撮像素子技術の「S字カーブ」がまだ成立しているということだと思います。S字カーブってご存じですか? 縦軸が性能や価値、横軸が時間と考えてください。どんな技術も開発当初はなかなか性能が上がらなくて、ある時点からドーッと進歩するものです。それがS字の急カーブの局面です。ところがある時点で進歩は飽和状態を迎え、そこから後は開発当初と同様、目覚ましい進歩というのが難しくなる。技術による差別化が難しくなって、生産規模やコストの低さの競争に突入します。 たとえば液晶パネルだと、日本はコストが高いから、中国のような低コストかつ大規模生産ができる国にはなかなかかなわない。こういう局面になる前に、今の技術から下りて、次世代技術のS字に乗り移らないといけない。でも、次の技術が本当に可能性があるのかどうか分からないし、今ある技術のほうが性能が出るもんだから、乗り移るのはなかなか判断できないものです』、「井深さん自身は、CCDをやることに反対だった」、「しかし岩間さんは「社長の道楽としてやらせてもらいます」と貫いて、それを井深さんも盛田さんも許した」、初めて知った。「CCDの流れを組んだCMOS(相補型金属酸化膜半導体)がソニーの稼ぎ頭」、とは本当に分からないものだが、「井深さんも盛田さんも許した」というのはソニーの懐の深さなのだろう。
・『やる意味があるかどうか経営理念で決まる  ソニーの撮像素子については、いまだに技術の差別化ができているのだと思います。S字がものすごく長いのです。 ソニーしか作れないわけではなくて、最近だと韓国サムスン電子が1億画素を超える撮像素子を作ったそうです。原理で言うと、画素数が増えると解像度が上がる代わりに、感度が下がるというトレードオフの関係があります。 ところがソニーのCMOSは裏面照射のような技術で、競合企業と同じ画素数でもソニーの方が感度がいい、という他社にない特徴を出せている。これがソニーであれどこであれ、みんな同じトレードオフのルールに縛られるのなら、後は規模やコストの競争だけ。それではソニーがやる意味はありません。 Q:やる意味があるかどうか、というのは、ソニーの経営ではよく議論されたことですか。 A:ソニーがやって特徴を出せるのかどうか、ということですが、やる意味があるのかどうかの判断は最終的には、企業理念に基づくものです。そして理念は、すべての企業の経営において、非常に重要なものです。 ソニーで言うと井深さんが設立趣意書で、「技術者の技能を発揮する自由闊達な理想工場の建設」だとか「最先端の技術で文化の向上に資すること」を企業理念としました。 この設立趣意書は創業当時(46年制定)のもので、古くなるとみんな読まなくなるので、盛田さんが80年代に「ソニー・スピリッツ」としてまとめ直した。新しい技術を使って、これまでにないものを創って世の中に貢献するといった内容です。そして今の経営陣は、パーパス(存在意義、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」としている)とバリュー(価値観、夢と好奇心・多様性・高潔さと誠実さ・持続可能性の4つを定めている)という言葉で経営理念を定めています。 Q:経営理念こそが重要だと指摘する経営者は他にもいます。たとえばコマツの坂根正弘元会長(現在は顧問)は、自身がもっとも会社に貢献したこととして、コマツウェイを明文化したことを挙げていました。利益を出す、株価を上げるといった数値目標に比べ、どこかきれいごとに聞こえなくもありませんが、実はとても重要? A:重要ですよ。なぜか分かりますか? 例えばソニーの場合、事業本部長のような立場になるとかなりの権限を与えられます。上に相談はしますが、経営トップはいちいち細かいことは判断しない。だから自分で考えなきゃいけない。自分で考えるとき基本になるのが、経営理念です。 近年はいろんな会社が、コーポレートガバナンス・コード(2015年6月に上場企業に適用)には経営理念を作るべきだと書いてあるから作ろう、と言って作るようになりました。でも作った後は実際には神棚に飾っておいたまま、みたいな状況も少なくありません。それじゃだめで、経営陣から社員まで、上から下まで一気通貫で共有している価値観にならないといけません。 その意味ではソニーでは、世の中に対する技術による貢献と、従業員に対して働きがいのある職場を提供するという2点が、時代を越えて経営の大きな目標と位置づけられ続けています』、「ソニーでは、世の中に対する技術による貢献と、従業員に対して働きがいのある職場を提供するという2点が、時代を越えて経営の大きな目標と位置づけられ続けています」、さすが「ソニー」だ。
・『そんなのできっこない! 絵に描いた餅プロジェクト  Q:昨年、旭化成フェローの吉野彰氏がリチウムイオン電池の技術でノーベル化学賞を受賞しました。受賞直後の編集部によるインタビューの中で、電池技術の開発が進んだ要因の一つとして「ソニーに森尾さんがいたから」と言及していました。 A:吉野さんは確か89年ぐらいに、ソニーに「共同開発をしましょう」と言ってこられた。うちはリチウムイオン電池については、西美緒さんという技術者が中心になって取り組んでいたから、共同開発はお断りしたんです。でも「性能の評価だけでもしてもらえませんか」とおっしゃるので、それはお受けしました。ユーザーの視点で、いろんな条件で性能を試しましたね。 89年は、パスポートサイズのハンディカムが大ヒットした年です。私はこの事業の開発技術部長だったのですが、ヒット後の最大の課題が「次のヒット商品をどう作るか」でした。通常の商品設計は1年ごとにするものですが、1年サイクルでは思い切ったものは生まれません。 Q:当時のソニーの勢いなら、目先を少し変えたぐらいでも製品は売れたでしょうね。 A:売れたと思いますよ。でも他社も同じことをやるから、圧倒するものはできない。だから新しい技術を盛り込んだ、画期的な製品を3年ぐらいかけてやろうと考えました。EMプロジェクトというのを立ち上げて、軽くて強力なリチウムイオン電池や非球面レンズといった技術を搭載しようと。電池は重要だったんです。 Q:EMってどういう意味ですか。 A:本当は何かの略で、エクストリームなんとか……。ところが現場の連中が「そんなこと実現できっこない、絵に描いた餅だ」と言ったものだから、「絵に描いた餅プロジェクト」って呼ばれました。 Q:なぜ飛び抜けたものをやろうと考えたのですか。会社がそう求めたのですか。 A:いやいや。ある部下が僕にそう進言したの。星飛雄馬(『巨人の星』の主人公)はいざというとき、隠し球で相手の三振を取ると言って、「森尾さん、僕らも絶対に隠し球がなきゃいけませんよ。毎年みんなと同じような競争をしていちゃだめだ」と言う。そして僕もそのとおりだと思った。 なぜなら、ターゲット設定こそが重要だからです。ターゲットを設定してしまうと、それ以上のものはできません。上司が低いターゲットを与えると、本来ならもっと能力を発揮できる部下も、ターゲットを上回るものをやらなくなる。それはもったいないし、部下という人材に対しても失礼。やる気の芽を摘んでしまいます。だからできるだけ背伸びをしたターゲットが必要なんです』、「EMプロジェクト」には微笑んでしまった。「ターゲットを設定してしまうと、それ以上のものはできません・・・できるだけ背伸びをしたターゲットが必要なんです」、さすが超優良企業だ。
・『台数や利益よりも若いファンを作ることが大事  Q:森尾さんがソニーの経営に関わっていた時代に比べ、今のソニーは厳しい企業間競争にさらされ、技術の差別化も難しくなっています。 A:僕らの時代より、今の経営者は難しいと思います。その点でひとつ言えるのは、僕らの世代の「最大の貢献」が何だったか、ということです。 ソニー最大のヒット商品としてウォークマンを指して、何億台も売れて利益を生み出した、と言う人があります。しかし本当に大事なのは、ウォークマンによって若い世代のソニーファンが生まれたことです。中学生なんかが競って、ウォークマンを買いたいと思ってくれたでしょう? その人たちは大きくなってからも、ファンで居続けてくれました。 今のソニーは、かつてとはビジネス構成が大きく変わっています。ゲームソフトだったり、映画だったり音楽だったり。こういった事業で今の経営陣が力を入れているのは、リカーリング・ビジネス。つまり、製品を売っておしまいではなく、お客さんとずっと続くつながりを大切にしています。僕は、これはすごくいいことだと思います。 ソニーというブランドには、若いファンを引きつけられるビジネスが常に必要です。ゲームのような若い世代が関心を持つ事業は、絶対に続けないといけない。現役の後輩たちと会うと、よくそういう話をしています』、「ゲーム」については馬鹿にしていたが、「若い世代が関心を持つ事業は、絶対に続けないといけない」、納得させられた。

第三に、5月28日付けダイヤモンド・オンライン「ソニーが金融事業を完全子会社化、真の狙いは「脱エレキ」の加速」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/238607
・『コロナショックをものともせず、ソニーが攻め続けている。来春63年ぶりに商号を変更し、ソニーグループとなる。また金融持ち株会社を完全子会社化する。業績堅調なソニーは電機業界で勝ち続けられるのか』、「商号」や組織変更の狙いは何なのだろう。
・『新生ソニーへ3つの組織変更 すでに現れていた予兆  「ファウンダーの盛田からの学びの一つに、『長期視点に基づく経営』があります。新型コロナウイルスが世界を変えた今、私は改めてその重要性を感じています」 5月19日に開かれた、ソニーの吉田憲一郎社長兼CEO(最高経営責任者)による経営方針説明会。冒頭に創業者の一人、盛田昭夫氏を持ち出す辺りが、吉田社長の生真面目さ、あるいは強かさの表れなのだろう。 吉田社長が長期視点に基づく経営感覚から導いたという、この日のビッグニュースは3点あった。 1点目に、グループ本社機能とエレクトロニクス(家電)事業の間接機能が混在していた「ソニー」を再定義。ソニーの社名を2021年4月から「ソニーグループ」に変更し、ソニーグループは本社機能に特化した組織にする。1946年創業の東京通信工業を58年にソニーと改称して以来、実に63年ぶりの社名変更となる。 2点目に、ソニーの商号は祖業のエレキ事業が継承する。吉田社長は「創業以来、ソニーというブランドを築き上げてきた主役」「ソニーの商号を受け継ぎ、価値向上を目指す」とエレキ事業を持ち上げて説明した。 3点目として金融持ち株会社の「ソニーフィナンシャルホールディングス(HD)」(持ち株比率65%)を完全子会社化する。吉田社長はコロナ危機で地政学リスクが高まる中、日本に安定した事業基盤を持つ会社の取り込みは、「経営の安定につながる」と説明。少数株主に帰属する利益として流出していた配当を取り込み、さらに税務上のメリットもあり、連結で年400~500億円の純利益増が見込めるという。 すでに組織変更の予兆はあった。 今春、エレキ事業を束ねる中間持ち株会社「ソニーエレクトロニクス」を設立。表向きの理由は「事業間の一体運営をさらに推進する」などと発表されたが、これまでも事業内連携は強めており、敢えて新組織を作ることに説得力がなかった。だが、今回ソニーを継承する受け皿としての位置付けが示され、外部から見ればようやく合点がいった。 他にも、ソニー関係者によると、ゲーム子会社の「ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)」に出向中だったソニー社員たちが今春、SIEへ転籍したという。この関係者は意図を測りかねていたが、「ソニー本体の先行整理」という意味合いがあったとすれば納得がいく。 ソニーの歴史と照らし合わせると、おもしろいのはやはり、エレキ事業がソニーの商号を継承することだ。 これまでの流れはむしろ逆で、ソニーからエレキ事業を外出ししていた。テレビ部門など次々と分社化を進め、各部門の経営責任を明確にした。パソコン(バイオ)、バッテリーなどは部門ごと売却した。 そんな厳しさはあっても、前社長兼CEOの平井一夫時代は、「エレキ復活」を掲げていた。ウォークマンなど輝かしいエレキ全盛時代の復興を望む、ソニーOBやソニーファンからの根強い声もあったからだろう。 吉田社長に代わってからは、たとえ看板倒れであったとしてもエレキ偏重の発言は少なく、今回の組織改編に当たっても、「多様性は経営の安定性」などと、グループ経営の重要性が強調された。 エレキ事業にソニーの“のれん”は譲って、祖業のプライドは傷つけない。されど本社からは切り分けて、グループの一事業としてこれまで以上に冷徹にコントロールする。今回の組織改編からはそんなソニーの意思が垣間見える。 奇しくもコロナショックにより事業別で最大のダメージを受けそうなのはエレキ事業だ。ソニーは21年3月期の営業利益で、20年3月期比50%以上減という悲惨な予想を立てている。吉田社長は経営方針説明会で「環境変化に応じた体質の強化にも取り組んで参ります」と意味深な説明をしており、リストラの四文字がちらつく』、「エレキ事業にソニーの“のれん”は譲って、祖業のプライドは傷つけない。されど本社からは切り分けて、グループの一事業としてこれまで以上に冷徹にコントロールする。今回の組織改編からはそんなソニーの意思が垣間見える。 奇しくもコロナショックにより事業別で最大のダメージを受けそうなのはエレキ事業だ・・・リストラの四文字がちらつく」、なるほど高度な戦略だ。
・『金融の完全子会社化の是非 米GEはリーマンで大痛手  前述のように、ソニーは金融持ち株会社のソニーフィナンシャルHD(傘下にソニー生命、ソニー損保、ソニー銀行)を完全子会社化する方針を示した。ゲーム事業、半導体事業、エレキ事業と肩を並べ、バランスよく利益貢献させるイメージだ。 吉田社長は、「コア事業であるからこそ、ここ数年で複数回にわたり持ち分比率を引き上げた」と説明した。だが、2代前のCEO、ハワード・ストリンガー時代は非コア事業と位置付けられ、だからこそ07年に上場子会社となった経緯がある。ソニーフィナンシャルHDにしてみれば一連の扱いはソニーの“ご都合主義”以外の何物でもないだろう。 それはさておき、金融事業への注力で思い起こされるのは米GE(ゼネラル・エレクトリック)の失敗だ。 周知の通り、GEは08年のリーマンショックで、当時収益の柱になっていた金融事業が大ダメージを受け、その後、「メーカー回帰」に向かった。 ソニーフィナンシャルHDの主力事業は個人向けの生命保険(ソニー生命)であり、中小企業向け融資やクレジットカードが主力だったGEの金融事業とはかなり異なるのは確かだ。金融事業とソニーが持つテクノロジーとのシナジーなど、吉田社長の説明にも一定の説得力はある。 ただし、GEは金融事業の大ダメージから大構造改革を進め、数年後には創業以来続いた家電事業を売却した。 「多様性による経営の安定性」を強調する吉田社長によもやそのようなことはないだろうが、メーカーが金融事業に深入りすると足下をすくわれることを、歴史は教えている』、「金融事業」といっても、「ソニーフィナンシャルHDの主力事業は個人向けの生命保険(ソニー生命)」であれば、リスクは小さく、「GE」の二の舞は避けられるのではなかろうか。
タグ:自動車業界からの人材採用に力を入れている 「ソニーが金融事業を完全子会社化、真の狙いは「脱エレキ」の加速」 (その7)(ソニーが自動車業界から人を続々引き抜く理由 10年後を見据える「仕込み作業」の実態、ソニーがコロナ禍でも強さを見せる理由 元副会長に聞く「創業精神への回帰」 盛田・井深を間近に見てきた元副会長が語る、ソニーが金融事業を完全子会社化 真の狙いは「脱エレキ」の加速) ソニーの商号は祖業のエレキ事業が継承 ソニーの経営問題 ソニーでは、世の中に対する技術による貢献と、従業員に対して働きがいのある職場を提供するという2点が、時代を越えて経営の大きな目標と位置づけられ続けています 「企業経営はマラソンだ」 盛田昭夫氏はそう言った 「全員の意見が一致するものはやってもしょうがない」 「GE」の二の舞は避けられるのではなかろうか しかし岩間さんは「社長の道楽としてやらせてもらいます」と貫いて、それを井深さんも盛田さんも許した 新生ソニーへ3つの組織変更 すでに現れていた予兆 「人の命に関わることはやらない」という創業以来の不文律を破り 台数や利益よりも若いファンを作ることが大事 ダイヤモンド・オンライン ソニーフィナンシャルHDの主力事業は個人向けの生命保険(ソニー生命) さまざまなことに好奇心を持つやんちゃなエンジニア ターゲット設定こそが重要だからです。ターゲットを設定してしまうと、それ以上のものはできません 金融の完全子会社化の是非 米GEはリーマンで大痛手 そんなのできっこない! 絵に描いた餅プロジェクト 「君らがみんなで相談してあれかこれか、なんて言ったところで、イノベーションは起こせないよ」 リストラの四文字がちらつく 創業精神への回帰 やる意味があるかどうか経営理念で決まる CCDの流れを組んだCMOS(相補型金属酸化膜半導体)がソニーの稼ぎ頭 採用した人材は研究開発にも振り向け 「ソニーがコロナ禍でも強さを見せる理由、元副会長に聞く「創業精神への回帰」 盛田・井深を間近に見てきた元副会長が語る」 できるだけ背伸びをしたターゲットが必要なんです エレキ事業にソニーの“のれん”は譲って、祖業のプライドは傷つけない。されど本社からは切り分けて、グループの一事業としてこれまで以上に冷徹にコントロールする。今回の組織改編からはそんなソニーの意思が垣間見える。 奇しくもコロナショックにより事業別で最大のダメージを受けそうなのはエレキ事業 金融持ち株会社の「ソニーフィナンシャルホールディングス(HD)」(持ち株比率65%)を完全子会社化 「ソニーが自動車業界から人を続々引き抜く理由 10年後を見据える「仕込み作業」の実態」 AI開発ができるエンジニアなど一部の優秀な人材を中心に、1年目の年収を最高で730万円と、従来から3割程度引き上げる 東洋経済オンライン 井深さん ソニーの社名を2021年4月から「ソニーグループ」に変更し、ソニーグループは本社機能に特化した組織にする ルネサスの車載半導体トップが電撃移籍 井深さん自身は、CCDをやることに反対だった ソニーというブランドには、若いファンを引きつけられるビジネスが常に必要です。ゲームのような若い世代が関心を持つ事業は、絶対に続けないといけない 次の成長軸の一つが車載半導体
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