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パンデミック(医学的視点)(その16)(コロナで露呈した米国「ファックス依存」の実態 実はデジタル後進国だった?、はびこる「PCR検査拡大は不合理」説を公衆衛生の第一人者が論破!【偽陽性の問題はほぼ100%ない】 PCR検査の徹底的拡大こそ「経済を回す」、アビガンがコロナに劇的に効く薬ではない現実 あれだけ注目されたその後はどうなっているか) [国内政治]

パンデミック(医学的視点)については、7月17日に取上げた。今日は、(その16)(コロナで露呈した米国「ファックス依存」の実態 実はデジタル後進国だった?、はびこる「PCR検査拡大は不合理」説を公衆衛生の第一人者が論破!【偽陽性の問題はほぼ100%ない】 PCR検査の徹底的拡大こそ「経済を回す」、アビガンがコロナに劇的に効く薬ではない現実 あれだけ注目されたその後はどうなっているか)である。

先ずは、7月23日付け東洋経済オンラインがThe New York Timesを転載した「コロナで露呈した米国「ファックス依存」の実態 実はデジタル後進国だった?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/364474
・『新型コロナウイルスの感染が深刻化しているテキサス州ヒューストン。感染者が他人にウイルスをばらまく前に追跡して隔離しようと公衆衛生当局は対応に大わらわとなっている。ところが彼らには、それ以前に何とかしなければならない問題がある。ファクスだ。 先日、ヒューストンのハリス郡公衆衛生局にあるファクス機が悲鳴を上げた。ある検査ラボから大量の検査結果が送られ、床全体に何百枚という紙が散乱したのだ。 「何百枚というファクスが届き、機械から紙が吐き出され続ける様子を想像してみてもらいたい」と、同衛生局のウメア・シャー局長は語る。ハリス郡では、これまでに4万人を超す感染者が記録されている。 シャー氏個人のファクス番号に検査結果を送ってくる医師もいる。それらは「マル秘」と記された封筒に入れられ、感染症部門に手渡される』、「ファクス」を使っていたのは日本だけでなく、IT先進国の「アメリカ」も似た状況とは驚いた。
・『郵便もいまだ現役  アメリカは感染の拡大を抑え込もうと必死だが、細切れの保健システム、新旧テクノロジーの混在、疫学者のニーズを満たさないデータ基準などから、次々と問題にぶつかっている。公衆衛生当局や民間の検査機関は、1日の検査実施件数をなんとか50万人超まで拡大したが、雪崩のように押し寄せる大量の検査結果をスムーズに処理する仕組みがない。 各衛生当局が感染経路を追跡するのに使っている方法は、いかにもアメリカ的なごたまぜだ。一部の検査結果はデジタル化されスムーズに集積されるが、電話、電子メール、郵便、ファクスで送られてくる検査結果も多い。 ファクスがいまだに使われているのは、保健情報のデジタルプライバシー基準に配慮した結果だ。物理的に送られる報告書は往々にして重複し、管轄とは違う保健所に届き、感染者の電話番号や住所といった肝心の情報も抜けている。 こうしたデジタル化の遅れのせいで、感染拡大の抑制に欠かせない症例報告と接触者の追跡に支障が出ている。さらに公衆衛生分野の経験に乏しい機関が多数、症例報告と接触者追跡に加わったことで、混乱はいっそう深まった。 「現場は、とてつもなく困難な状況に直面している。データの把握が感染速度に追いつかないのだから」と、シャー氏は述べた。 紙のデータがあふれかえるようになったことを受けて、少なくとも1つの衛生局がデータ処理部隊の増員を要請する事態となっている。ワシントン州は先日、州兵を25人投入し、検査結果の手入力に当たらせた。 「検査件数にこだわりすぎて、『検査結果をどう使うのか』という肝心の目的が見えなくなっている」と、アメリカ疾病対策センター(CDC)の元所長、トーマス・フリーデン氏は指摘する。「どの州も、この点に頭を悩ませている」。 テキサス州の州都オースティンとトラビス郡で臨時の衛生局長を務めるマーク・エスコット氏は、重複した検査結果も含めると毎日1000件のファクスが事務所に届いていると話した。管轄外のものもあれば、症例の調査に必要な重要情報が抜けているものも目立つ。オースティンではそうしたファクスの大半がコンピューターに送信されるようになっているが、それでも印刷してデータベースに手作業で情報を入力する必要があるという。 この衛生局では、必要な情報が出そろうまでに検査実施から平均して11日もかかっている。こんなに時間がかかるようでは、接触者追跡を行う意味がない。そのためエスコット氏は、管轄域内でコロナの症状が出ている人は陽性と考えるよう忠告してきた。検査結果を待っていたら手遅れになるからだ。 「症状が出てから14日後に検査結果が届いても(感染防止には)まったく役立たない」(エスコット氏)』、「州兵を25人投入し、検査結果の手入力に当たらせた」、「オースティン」では「必要な情報が出そろうまでに検査実施から平均して11日もかかっている」、驚きのドタバタのようだ。
・『紙データが氾濫した理由  CDCによると、今回のパンデミックが発生するまで、公衆衛生当局が追跡する疾患の検査結果は90%近くがデジタルで送信されていた。 しかしウイルス検査を大規模に行う必要性が出てきたため、普段は経営者向けの検査のみを実施する業者や、インフルエンザやレンサ球菌咽頭炎といった病気の検査を行う小規模なクリニックなどが多数、コロナ検査に参入することになった。当局に従来とは違った形態で検査結果が報告される割合が高まったのは、このためだ。 「基準はあるが、コロナの感染が急拡大し、検査件数が劇的に増えたことで対応が追いつかなくなった」と、CDCで検査報告作業部会の責任者を務めるジェイソン・ホール氏は語る。 州・準州疫学者評議会のジャネット・ハミルトン代表によると、アメリカ全体として見た場合、コロナ検査結果の約80%では人口動態情報が抜けており、半数には住所の記載もない。 「データに抜け漏れがあると、空白を埋める作業が必要になる。検査実施機関に問い合わせたり、別のデータベースと照合したりしているが、これには時間がかかる」とハミルトン氏は話す』、「今回のパンデミックが発生するまで、公衆衛生当局が追跡する疾患の検査結果は90%近くがデジタルで送信されていた。 しかしウイルス検査を大規模に行う必要性が出てきたため、普段は経営者向けの検査のみを実施する業者や、インフルエンザやレンサ球菌咽頭炎といった病気の検査を行う小規模なクリニックなどが多数、コロナ検査に参入することになった。当局に従来とは違った形態で検査結果が報告される割合が高まったのは、このためだ」、なるほど苦しい事情が理解できた。
・『ファクスはミスの温床  トランプ政権は6月上旬、あるガイドラインを発表している。公衆衛生当局が人口動態面からコロナの感染状況を細かく把握できるよう、検査機関に感染者の年齢、人種、民族的なバックグラウンドの報告を要求したのだ。 ただ、この規則は8月まで効力を持つことはなく、感染者の住所と電話番号については情報提供が「望ましい」と述べるにとどまり、義務づけには至っていない。 この種のデータは一般に、病院や診療所から検査ラボ、公衆衛生当局の間を行き来し、その過程で行方不明になることが多い。 情報の伝達手順も一様ではなく、さらに各段階の技術的な不具合によっても重要情報の伝達が遅れたり、混乱したりするおそれがある。病院や診療所は必ずしも検査ラボと電子的なシステムでつながれているわけではない。 検査ラボのソフトウェアが、公衆衛生当局でのちのち必要になるデータを除外することもままある。そして、ファクスや表計算ソフトのスプレッドシートで情報を送れば、コンピューターに手作業で情報を再入力する必要が生じ、入力ミスの危険性まで高めることになる』、「アメリカ」でもこんな付け焼刃的なやり方で混乱を招いているとは、改めて驚かされた。

次に、7月6日付け文春オンラインが掲載したWHO事務局長上級顧問、英国キングス・カレッジ・ロンドン教授の渋谷 健司氏による「はびこる「PCR検査拡大は不合理」説を公衆衛生の第一人者が論破!【偽陽性の問題はほぼ100%ない】 PCR検査の徹底的拡大こそ「経済を回す」」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/39414
・『東京都のみならず、全国で感染者数が増加し、大都市では既に指数関数的増加の初期の様相を呈している。 前回の記事においても述べたが、緊急事態宣言解除後に感染がぶり返すのは、予想されたことである。 しかし、政府は一向に有効な手を打てないでいる。壊滅的な影響を受けている観光業を支援し経済を回そうとする「Go To トラベル」は迷走を続け、大規模イベントの解禁にも赤信号が点灯している。これは一重に、有効な感染コントロールができていないからだ。感染のリスクがあれば、国民は安心して旅行をしたり、経済活動を行うことはできない。 緊急事態宣言解除後は、行動力が高い若い世代の間で感染が広がり、軽症や無症状の感染者数が増加するのも予想されたことである。現在の感染者数の増加をどう見るかについては様々な議論があるが、過度に悲観や楽観をせずに冷静に現状分析を進めることが重要だ。 今のクラスター対策は、軽症の感染者や無症状の濃厚接触者へも検査適応を拡大させている。そのために、確かに軽症や無症状例が増えているのは事実であり、感染者数に一喜一憂したり、過度に悲観してパニックになるようなことは得策ではない』、「過度に悲観や楽観をせずに冷静に現状分析を進めることが重要だ」、同感である。
・『「検査数が増えたから感染者数が増えた」は不正確  その一方で、過度の楽観も厳に慎むべきだ。若者の重症者も出始めており、高齢者、病院や介護施設での感染が既に広がってきている。さらに、感染経路が追えない感染者も増えている。重症者数が増加していないことをもって「心配ない」との意見もあるが、無症状の方も含め、感染自体が広がれば、当然、次のタイミングで重症者や死者も増えていく。 欧米で起こったように、感染のコントロールを誤れば、感染者は加速度的に増加し、重症者や死者の増加へとつながってしまう。 第一波の段階で日本で死者数を抑制できたのは、現場の関係者の尽力、国民の協力等に加えて、ギリギリのタイミングで自粛が行われたためと考えられるが、もう少し遅れていれば、欧米のような結果になっていた可能性が高い。 感染爆発を起こした他国では、もう少し早く対策を開始しておけば、もう少し早くロックダウンしていれば、と必ず同じことを言っている。 また、「検査数が増えたから感染者数が増えただけなので心配ない」という指摘も正確ではない。感染が拡大トレンドになければ、陽性の結果が出る割合(検査陽性率)は、基本的に大きく変動しないはずだ。しかし検査陽性率はここ最近軒並み上昇しており、東京では過去1週間で倍増している。大阪ではすでに13%だ。 これは、感染者の増加に検査が追いついていないことを示している』、「検査陽性率はここ最近軒並み上昇・・・これは、感染者の増加に検査が追いついていないことを示している」、ということであれば、「検査数が増えたから感染者数が増えただけなので心配ない」は確かに間違いだ。
・『無症状感染者対策が感染コントロールの鍵  このような状況の中、無症状感染者の対策が、我が国の今後の感染コントロールのカギとなることは間違いない。 初動が遅れ、感染爆発を起こしてしまった英国のボリス・ジョンソン首相は、BBCのインタビューで「最初の数週間や数カ月間、(ウイルスを)十分に理解していなかった」「当初おそらく何より気づいていなかったのは、いかに無症状の人から人へと感染が広がっていたか」だと述懐している。 第一波の初期に一定の役割を果たしたクラスター対策も、たまたま症状のある感染者の周りに無症状の感染者が見つかれば良いが、そうでない無症状感染者は感染を知らぬうちに拡大させている。特に、無症状感染者の多い今回の再燃では、クラスター対策をさらに困難にさせている。 クラスター対策が有効に機能しないのであれば、緊急事態宣言、休業や自粛の要請等が議論の俎上にあがるが、こうした手法は現在でも回復が進んでいない経済への打撃が極めて大きく、多くの事業者で倒産が続出するため、もう自粛は勘弁してほしいという国民の声ももっともだ。 こうした未曽有の事態に直面し、経済再生と感染予防の両立のために最適な施策をデザインしていくことは容易でなく、政府や自治体の対応も試行錯誤しながら進めていかざるを得ないのは当然だと思うが、国全体としてのコロナ対策の基本戦略がそろそろ確立されるべき時期にきている』、同感である。
・『休業・自粛の繰り返しでは経済は落ち込むだけ  筆者が繰り返し主張してきた通り、経済再生と感染予防の両立のための基本戦略の柱は「徹底したPCR検査の実施」だ。特に、無症状感染者への対策がカギとなる今後の感染流行では、この戦略の重要性がさらに高まっている。 PCR検査の拡大で、クラスター対策では追いきれない無症状者も含めた感染者を、他の方々が感染する前に見つけ出して、ホテル等の収容施設で療養してもらうことが何よりも重要だ。しかし残念ながら、こうした「検査と隔離」の戦略が十分に進められている状況とはいえない。 第一波の死亡者数を抑制できたある種の「成功体験」の影響なのか、政府の感染予防策は、3密回避、「ウィズ・コロナ」の新しい生活様式、事業者向けのガイドラインなど、一律の行動変容や個人の努力に頼る施策に終始しており、今後のコロナとの戦いの基本戦略が明確に示されていないように見える。 もちろん3密回避等は重要な事だが、これだけに頼っていては経済や社会が十分に回らない。誰が感染しているか分からず、また、職業上、接触減が難しい方も多い。病院や介護施設、サービス産業で働く人々は、接触5割減と言っていたら仕事の効率性への打撃が極めて大きい。 全く感染リスクがない方と感染リスクの高い方を一緒にして画一的なリスク管理を行うことは極めて効率が悪い。しかも、個人の行動変容がいかに難しいか、そしてそれを長期間にわたり持続させていくことがいかに難しいかという点は、公衆衛生の分野では常識とされている。 こうしたアプローチだけでは、自粛疲れの中、第一波のときのような効果が得られるとは限らない。結果として、大規模な休業・自粛要請等に追い込まれ、感染予防も経済再生も共に遠のくという最悪の結果も招きかねない。 第一波の感染収束から経済活動再開に向かう6月の1カ月間は、PCR検査能力を急拡大させ、感染実態のモニタリング、特に無症状感染者の早期発見と隔離を進め、社会経済活動を回し自粛を防ぐために準備するべき最も重要な時期であったが、その貴重な時間が有効に活用されなかった。 PCR検査の積極的推進に不可欠な、無症状者や軽症者のための療養施設の確保についても、東京都の杜撰な対応が報じられている。 国全体の基本戦略が明確になっていないことを背景に、「Go To トラベル」キャンぺーンについては、国と都との間の不協和音が伝わってくる。 今こそ、PCR検査の徹底的な拡大が、感染予防と経済再生を両立させるための国の貴重な「社会インフラ」であることを認識すべきである』、「今こそ、PCR検査の徹底的な拡大が、感染予防と経済再生を両立させるための国の貴重な「社会インフラ」であることを認識すべき」、その通りだ。これに抵抗している厚労省技官グループの頑迷ぶりには呆れ果てる。
・『感染制御・社会経済活動を維持するための検査へ  他国がやっている事が全て正しいと考えるべきではないが、検査拡大に本格的に舵を切らない我が国の対応は、世界の専門家の方々からも不思議がられているのが現状である。「PCR検査の徹底的な拡大」の必要性については、マスコミ・識者の間でも理解が深まりかなり定着してきたと考えられるが、残念ながら、依然として反対の声がある。 当初は、スタッフ、試薬の不足、収容施設の不足等「検査を拡大したくてもできないハードルがある」との指摘が多かったが、こうした課題が順次解消されていく中で「検査は(拡大できたとしても)拡大すべきではない」という指摘も少なくない。 こうした議論については、当然のことであるが、事実に基づき、科学的な議論により方向性を定めていくことが重要だ。こうした観点から、最近、日本医師会COVID-19有識者会議の一環としてとりまとめられた、「COVID-19感染対策におけるPCR検査実態調査と利用推進タスクフォース 中間報告書解説版」の内容は注目に値する。 本レポートには筆者も参加したが、医師会や医学会、検査関係者、臨床医、公衆衛生関係者らが多面的かつ科学的な検討を繰り返したうえでの成果であり、新型コロナに関わる関係者全てが読むべき内容と考えられる。今までの検査する・しないという世論を真っ二つにするような議論に対して、事実に基づき、非常に明快な指針を与えている。 特に、検査は、その目的と意義を理解したうえで、適切に利用することが重要であると指摘している。以下、ポイントを抜粋しよう。 「PCR検査の利用目的と意義は以下の4通りがある。 1. 患者の診断(個々の患者の治療方針等を決めるための病状の把握) 2. 公衆衛生上の感染制御(他の方にうつす前に隔離するための感染者の発見) 3. ヘルスケアによる社会経済活動の維持 4. 政策立案のための基礎情報」 このうち、筆者が検査の拡大が必要と考えるのは、1の目的よりも、主に2と3の感染制御および社会経済活動の維持を目的とするものである。 さらに、PCR検査の利用は、対象とする者やグループについては、事前確率(どの程度感染が広まっていると推測されるか)、集団リスク(感染が急速に拡がるリスク、感染拡大が公共機能等に与える影響のリスク)、経済的影響(感染拡大が経済に与える影響)の3つの観点から考えることが必要だ。 レポートでは3つの場合分けがなされ、 「1. 事前確率が比較的高い場合:クラスター対策などの積極的疫学調査や個別感染症診療 、2. 事前確率は低いが(または不明だが)、集団リスク(公共的影響)や経済的影響が大きい場合:空港検疫、院内感染対策、高齢者・福祉施設の施設内感染対策、3. 無症状患者で、事前確率は低いが社会・経済的な影響が大きい場合:海外交流、音楽・スポーツイベント、観光、特定のハイリスク職業のヘルスケア。1、2は、行政検査のPCR検査の実施、3は企業・自己負担で実施が望ましい」 といずれにおいても、検査の重要性を指摘している。 さらに、「これらの目的と意義を考えると、継続的な精度の確保と維持のもとに、事前確率(感染がどのくらい広がっているかどうか)によらずにPCRの利用を拡大することが必要である」と結論づけている』、「渋谷氏」も参加して作成された「日本医師会COVID-19有識者会議」の「中間報告書解説版」は、説得力があるが、これに対して厚労省はどう応えるのだろう。
・『感度・特異度の議論はもうやめよう  検査拡大へ反対する立場から、厚生労働省や医療関係者の間で指摘されているのが、「PCR検査を拡大すると偽陽性が多くなる」、つまり、感染していないのに感染していると診断される人が多数出ることに対する懸念だ。 特に、検査の特異度(陰性の人を陰性と判定できる確率)が100%でないために、感染確率が低い時には、検査で陽性の結果が出ても、実際に感染者である確率(陽性予測値)が低くなる。 ゆえに、「数少ない陽性者を見つけ出すために、それに見合わない多くの方々に必要のない隔離生活を強いるのは不合理である」「感染の確率が低い場合には(つまり症状のない場合には)検査はやるべきではない」「症状があり、感染の確率が高い人へ検査をすれば十分」という理由で、検査を症状のある症例に絞ったクラスター対策が続けられてきている。 しかし、現在のクラスター対策では、無症状感染者を中心とする感染拡大を止めるのは難しい。それでは、休業・自粛要請という手法に安易に頼らざるをえなくなってしまう。 上記の反対論の方々の指摘には2点大きな問題があると考えられる。まず、PCR検査の特異度については、様々な精度管理により、特異度はほぼ100%だ。PCRはウイルスの遺伝子そのものを見ているために、実際の特異度は99.99%以上と報告されているが、検査拡大に反対する厚労省や医療機関の関係者の方々はなぜか99%ジャストの値を用いて議論されている。 “わずか1%の差”と思われるかもしれないが、このわずかな差により、2つ目の論点である感染確率が低い場合には、「数少ない陽性者を見つけ出すために、それに見合わない多くの方々に必要のない隔離生活を強いるのは不合理である」というロジックが成立しなくなるからだ。 日本医師会COVID-19有識者会議の中間報告書解説版では、「PCR検査の特異度を99.99%に向上させた場合は、有病率が必ずしも高くない(0.5-10%)疫学的調査においても、偽陽性が増えて陽性的中率が大きく低下することはない」と示されており、精度管理を徹底すれば、偽陽性の問題はほぼ存在しないのだ』、厚労省などの反対論にも見事に論駁しているのは、さすがだ。
・『唾液やのどの粘膜にウイルスがいるかどうかが重要  また、感度(陽性の人を陽性と判定できる確率)に関しても、臨床診断上は70%程度であり、残りの30%の間違って陰性と判定された感染者の方が動きまわってしまい、感染を広げるのではないかという懸念を持つ人が多い。 しかし、いま戦略的にPCR検査を拡大しようとするのは、感染者が他の人に感染させることができる「感染力」があるかどうかを確認し、感染者を隔離することが目的だ。しかも主な対象は無症状感染者であり、咳やくしゃみなどの症状がなくても、唾液やのどの粘膜にウイルスがいたら、会話をしたり歌ったりしたときに他の人に移してしまう。 感染防止を目的とした場合には、唾液やのどの粘膜にウイルスがいるかどうかが重要で、コロナに感染しているのにウイルスが見つからず、臨床診断的に「偽陰性」になったとしても、実は大きな問題ではない。PCR検査を行えば唾液やのどの粘液の「感染性」を直接みることができるので、感染制御を前提とした場合には「偽陰性」という概念は消え去る。 つまり、感染制御や社会経済活動の維持のためのPCR検査には、感度や特異度に基づく議論は基本的にはあてはまらないし、そもそも、PCR検査は他の多くの検査に比べても優れた検査であることを忘れて議論されてしまっている。 また検査精度については、外部制度管理の実施や検査機関の評価・認定基盤の充実とともに、検査を繰り返すことにより実質上の精度を大幅に引き上げることも可能であり、いかに多くの人が、簡単に検査を活用できるかどうかに、新型コロナの感染コントロールはかかっている。 最近では、非常に価格が安く、短時間で検査結果の出るPCR検査も開発されはじめている。いずれ、リトマス試験紙のような検査キットで、毎日検査をしてから出勤するようになるかもしれない。 検査数が相当な水準まで増加し、その時々の検査対象の絞り方等に影響を受けにくい「定点観測的データ」が検査を受けた方々の様々な属性情報とともに公表される枠組みができてくれば、どのようなエリアでどのような方々に感染が拡大しているのかを正確に把握することが可能となる。 こうした大規模な検査インフラができあがれば、国民が感染者数の動向をどう解釈するかに翻弄されることなく、また、万が一休業・自粛要請が必要な局面となっても、最低限のセクター、エリア、期間等に限定して、経済への打撃を最小化した「スマート」な自粛要請等も可能となる。 臨床診断目的の論理を感染制御や社会経済活動の維持という目的に当てはめて、検査を抑制する日本独自の考えはもう脱却し、検査と隔離を本格的に基本戦略に据えるべき時だ。そうでなければ、この秋以降の世界的第二波に対応できない』、「検査を抑制する日本独自の考えはもう脱却し、検査と隔離を本格的に基本戦略に据えるべき時だ。そうでなければ、この秋以降の世界的第二波に対応できない」、説得力溢れた主張で、大賛成である。
・『検査と隔離の拡大で、自粛を防ぎ経済を活性化できる  コロナ対策の基本戦略が確立していないことの影響が如実に現れたのが、「Go To トラベル」キャンペーンを巡る混乱ではないか。地方経済の再生のために、旅行の促進をする意図は理解できるが、当然のことながら感染予防の観点からはリスクが増加する。 多くの旅行者は感染者ではないが、感染状況が分からないために、行動を制限され、受け入れる旅行業者やホテルなどにも感染予防のために多くのコストがかかる。こうした不透明な状況では、やるべき、やめるべきとの二元論の議論に陥りやすい。 仮に、PCR検査の徹底的な拡大による検査インフラが整備されていれば状況はかなり違ったのではないか。例えば、旅行開始の一定期間前にPCR検査を受けて陰性が確認されていることをキャンペーン参加の要件とし、さらには検査費用も支援対象に含める方法も選択肢となったのではないか。 イベントに関しても同様のアプローチが可能だ。つまりPCR検査で陰性が確認された方に経済を動かしてもらうという発想だ。 こうしたアプローチは、PCR検査数のさらなる拡大を通じて、感染者の隔離をさらに進める効果をもたらす、というある種の好循環にもつながってくる。 当然のことながら、こうしたアプローチの大前提は、相当な数まで検査数を増加させることだ。他国の対応状況をみても、PCR検査体制を徹底的に拡大させたうえで、感染の状況に応じてその枠組みをスマートに活用することによって、感染制御と経済再生の両立に大きな効果があげられている。 市場でのクラスターが発生した北京市では、新規感染者が30人強の段階で、エリアを限定して封鎖し、最大1日100万件以上の検査を行い、再燃を封じ込めた。ベトナムの観光都市ダナンでは、数名の陽性者が見つかった段階で、観光客を待避させ、検査を拡大し、封じ込めを行なっている。 英国では、第一波での失敗の反省から、検査体制を12月までに1日50万件まで増やし、地域ごとにロックダウンができるような権限を与え、この秋からの本格的な第二波に備えている。 米国NIH(国立衛生研究所)は、検査拡大を出口戦略の柱にしており、秋までには週に100万件、12月までに1日600万件の検査を目指す計画を発表した』、「 米国NIH・・・は、検査拡大を出口戦略の柱にしており、秋までには週に100万件、12月までに1日600万件の検査を目指す計画を発表」、遅ればせながらも、極めて大規模な「検査」のようだ。
・『検査体制の確立には程遠い予算規模  日本では、感染状況を的確に把握するための検査体制の拡大が進んでいないこともあり、こうした機動的な対応が進められていない。 安倍総理自らPCR検査を増やすように言っているが、実際の政府予算を見れば、日本が検査への投資に極めて消極的であることが分かる。 例えば第一次補正予算では、検査体制の強化と感染の早期発見と言う名目で94億円だが、その約半分は行政検査の国負担分であり、純粋な検査法確立の予算はわずか4600万円である。アベノマスクは260億円だ。第二次補正でも検査のための予算は620億円程度である。これでは、検査体制の確立には程遠い。 仮に新宿エリアの感染が広まっていると的確に把握できれば、東京都全体での自粛というような経済的な打撃が大きく効率性も低い手法はとらずに、新宿エリアに限定して休業要請を行ったうえで、住民や従業員等に検査受診の費用補助や受診要請等を行うことにより、感染者の隔離を集中的に進めることも可能となる。 ジョンソン首相は、「自分たちの初期の対応について、学ばなくてはならないことがあると言っていいと思う。当時のことから教訓を学ぶ機会は今後、たくさんあるはずだ」と述べている。コロナに関する知見は日々変わっていく。それに合わせて戦略を変えていくことは全く誤りではなく、むしろそうすべきだ』、日本の官庁に根強い無謬性の神話にこだわって硬直的なやり方を続ければ、第二次大戦の失敗を繰り返す結果になりかねない。
・『今から実行すべき「6つの施策」  繰り返しになるが、今からでも遅くない。我が国も検査体制の徹底的拡大、検査と隔離の推進を基本戦略として明確に位置付け、感染制御と経済再生の両立に向けて、例えば以下のようなことを即座に実行すべきであろう。 1. 行政検査(保健所等の調査としての位置づけ)による調査の枠を外し、医師の判断のみで保険適用の検査(自己負担なし)を実施できるようにする。 2. 医療機関、介護施設等については、全てのスタッフが例えば2週間に1度PCR検査を受ける等の具体的なガイドラインを設け、費用負担等の点で支援をする。 3. 経団連等の経済団体に、感染状況の的確なモニタリングにも資することを踏まえ、企業の社員について定期的にPCR検査を実施することを要請する。 4. 医療機関がPCR検査機器などを購入する際には100%補助する。 5. 国産のPCRなどの検査試薬と自動機器の開発製造基盤構築に対して、国が積極的な投資を行う。 6. 検査データの品質評価機関の設立と早期稼働により、信頼出来る検査データを公表し、世界の専門家が分析や政策提言等をできる枠組みを整備する。 「日本は特別だから、大丈夫」という甘い幻想をウイルスは簡単に打ち破る。今の感染増加は「日本モデル」で抑え込んだはずで「自粛は不要だった」とさえ言われていた第一波の再燃である。検査と隔離の体制を拡充させることが、自粛を回避し経済と感染コントロールの両方を達成するために最も重要である。日本の技術でもNIHの目指す検査レベルは実現できるはずだ。今こそ検査イノベーションに投資して、自粛を回避し経済を回すべきだ』、「「日本は特別だから、大丈夫」という甘い幻想をウイルスは簡単に打ち破る」、「今こそ検査イノベーションに投資して、自粛を回避し経済を回すべきだ」、全く同感である。

第三に、9月16日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの村上 和巳氏による「アビガンがコロナに劇的に効く薬ではない現実 あれだけ注目されたその後はどうなっているか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/375562
・『新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下新型コロナ)患者は今も毎日報告され、収束の兆しは見えないが、これに関連して表舞台からこつぜんと消えてしまった話題がある。「新型コロナの治療薬になるかも?」と注目された新型インフルエンザ治療薬・アビガン(一般名:ファビピラビル)である。 いまからさかのぼること4カ月余り前の5月4日、新型インフルエンザ等特措法に基づく緊急事態宣言延長時の記者会見で、安倍晋三首相(当時)は「すでに3000例近い投与が行われ、臨床試験が着実に進んでいます。こうしたデータも踏まえながら、有効性が確認されれば、医師の処方の下、使えるよう薬事承認をしていきたい。今月(5月)中の承認を目指したいと考えています」と発言した。 首相自ら特定の薬剤名に言及したことで、一般人の間で「アビガンは新型コロナの『特効薬』」という無意識な刷り込みが広がった可能性は否定できない。 そしてそのアビガンを名指しした安倍首相は健康問題を理由に辞任を表明。その後のアビガンについてはほぼ音沙汰なしだ。今、アビガンはどうなっているのか?』、興味深そうだ。
・『アビガンとは何か?  そもそもアビガンは、富山大学医学部教授の白木公康氏と富山化学工業(現・富士フイルムホールディングス傘下の富士フイルム富山化学)が、季節性インフルエンザの治療薬を目指して開発した薬だ。 インフルエンザウイルスはヒトの体内に入ると、ヒトの細胞に潜り込んでウイルスの持つ遺伝情報(RNA)を放出(①)。放出されたウイルスの遺伝情報がヒトの細胞を乗っ取って新たなウイルスを作り出し(②)、この新たにできたウイルスはその細胞から飛び出して(③)、別の細胞に感染するという経過をヒトの免疫に制圧されるまで繰り返す。 現在、日本国内で厚生労働省の承認を受けたインフルエンザ治療薬はアビガンを含め7種類あるが、これらは①~③のいずれかの段階でウイルスの働きを阻止する。具体的には、①が1種類、②が2種類、③が4種類ある。アビガンは②に該当する。 ただ、2011年3月にアビガンが季節性インフルエンザ治療薬として厚生労働省に製造承認を申請した当時、インフルエンザ治療薬として認可されていたものは③のタイプのタミフル(一般名:オセルタミビル)、リレンザ(一般名:ザナミビル)、ラピアクタ(一般名:ペラミビル)の3種類のみ。タミフルが経口薬、リレンザが吸入薬、ラピアクタが点滴静注薬という点を除けば、いずれも効き方(作業機序)はまったく同じで、効き目もほぼ同じと言っていい。 一般的にウイルス感染症では、重症化した場合や遺伝子変異が起こりやすいウイルスに対処する場合には、効き方の違う薬を2種類以上併用する。いわば複数経路を封じて一気にたたきのめすという戦略である。その意味ではアビガンの製造承認申請が行われた当時、これが承認されれば、場合によって併用療法が可能になるというメリットが考えられた。 一方、インフルエンザの流行に関しては、アビガン申請前の2003~2011年にアジア、中東を中心に感染者578人、死者340人が発生した高病原性トリインフルエンザ(H5N1)、2009年4~11月までに全世界で62万人超の感染者と約8000人の死者を出したブタ由来新型インフルエンザのパンデミックが発生していた。 遺伝子変異が頻繁に起こりやすいインフルエンザウイルスでは、このような通常の季節性インフルエンザを超える病原性の高いものが出現する危険性はつねに存在する。こうした事態に備える意味でも新しいタイプのインフルエンザ治療薬の選択肢は必要だった。しかも、アビガンに関しては動物実験段階で高病原性トリインフルエンザへの効果があることが示されていた。 いずれにせよインフルエンザ治療薬としては当初かなり期待されたのがアビガンだった』、なるほど。
・『懸念された重大な副作用  しかし、審査の段階で「物言い」がついてしまう。問題となったのは承認申請時に提出された動物実験の結果だ。アビガンを投与されたラットでは初期の受精卵(初期胚)が死滅してしまうほか、サル、マウス、ラット、ウサギの4種類の動物すべてで、胎児の奇形が生じる「催奇形性」が認められていたからである。 動物実験と同じ結果がそのままヒトで起こるとは断言できないが、ヒトで奇形が発生するかどうかの実験は倫理的に実施不可能だ。ただ、霊長類も含む4種類もの動物で催奇形性が確認されている以上、ヒトでも起こりうると考えるのは常道である。 こうした催奇形性を有する薬については、すでに世界的に苦い歴史を経験している。1950年代後半に睡眠薬、胃腸薬として発売されたサリドマイドである。妊娠時のつわりの薬として使用されていたことなどもあり、胎児の耳や手足の奇形が起こり、日本での300人超を含め、全世界で約5000人の被害者を出した。 ちなみにこの件をきっかけに一度は市場から消えたサリドマイドは、後に治療薬が少ない血液がんの一種・多発性骨髄腫に有効なことがわかり、日本国内では2008年にその治療薬として再承認を受けた。ただ、使用に当たっては厳格な流通管理が行われ、妊婦や妊娠の可能性のある女性への投与の回避のほか、投与中および投与後7日間の避妊措置の徹底が求められている。 催奇形性問題で揺れたアビガンの承認可否を検討する厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会での本格審議が始まったのは、富山化学工業の製造承認申請から2年10カ月も経た2014年1月末。 その結果、同部会での承認了承に際して適応は季節性インフルエンザではなく、「新型または再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし、ほかの抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分なものに限る)」とされ、パンデミック発生時に国が出荷の可否を決め、承認条件としてさらなる追加臨床試験の実施を求められた。 しかも、追加試験のデータ承認までは試験用以外の製造は禁止。さらに流通に際してはサリドマイド同様の厳格管理を課されることになった。 実際、今回の新型コロナ対策として患者を受け入れた医療機関の一部にはアビガンが納入されたものの、それ以前は国の新型インフルエンザ対策での備蓄用以外では製造は行われておらず、どこの医療機関にも在庫すらなかったのが実際だ。 ある関係者は「国内患者数が1万4000人程度の多発性骨髄腫へのサリドマイド処方と違い、インフルエンザ治療薬はひとたびパンデミックが起これば、数百万人単位で処方される可能性がある。たとえ厳格な流通管理制度を設けたとしても、対象患者が多いほど制度を運悪くすり抜け、被害者が出る危険性も想定しなければならず、医療機関に常時在庫がある状態にはとてもできなかった」と当時の状況を振り返る』、「催奇形性」「副作用」とは深刻だ。「承認条件としてさらなる追加臨床試験の実施を求められた」のは当然だろう。
・『あえてアビガンを承認したワケ  もっとも「そこまでして承認する必要はなかったのでは?」という見方もあるだろう。実際、海外などでは承認申請後の審査でもめた際に製薬企業側が自主的に承認申請を取り下げることもある。 この背景には当時最も使われていたインフルエンザ治療薬のタミフルをめぐる事情も影響していた。まず、タミフルは頻用されている結果として、全体のおおよそ1~2%とはいえ薬剤耐性ウイルスが確認されていた。 これに加え、タミフルの製造原料は中国南部からベトナム北東部にかけた地域を原産とする植物トウシキミ。その実は中華料理などの香辛料で使われる八角として知られている。つまり原料調達時は香辛料需要と競合し、なおかつ自然物のため、パンデミック発生時に生産急増が必要になっても原料の大量調達が容易ではないという問題も抱えていた。 これに加え、前述した新型インフルエンザ対応を見越したアビガンの利点もあり、過去にない制限を付けても承認する必要があったとみなされたといわれている。 そんなインフルエンザの治療薬として開発されたアビガンが、なぜ新型コロナの治療薬として一躍注目を浴びるようになったのか? アビガンは、RNAウイルスであるインフルエンザウイルスのRNA複製を通じたウイルス増殖をブロックする。このため、同じRNAウイルスである新型コロナウイルスでも有効かもしれないという発想が根本にある。 現在、新型コロナに対して日本で承認された唯一の治療薬であるベクルリー(一般名:レムデシビル)も、もともとはアフリカで散発的に発生し、感染者の高い致死率で恐れられているRNAウイルスのエボラウイルスに対する治療薬として開発中だったものが転用されている』、「新型コロナに対して日本で承認された唯一の治療薬であるベクルリー(一般名:レムデシビル)」は、「新型コロナ」にどの程度有効なのだろう。
・『エボラに関しては“有望視”の範囲  ちなみにアビガンも西アフリカのシエラレオネを中心とする2014年のエボラ・パンデミックで臨床試験が行われている。その結果、エボラウイルス感染者の中でも血液中のウイルス量が少ない場合は死亡率の減少傾向が認められたが、一般的な新薬の臨床試験のような厳格な比較試験ではなかったため、このデータは治療薬の正式な承認申請には使えず、“有望視”との範囲にとどまっている。 このように既存薬を新型コロナの治療薬に転用しようとするのは、イチから新型コロナの治療薬を開発すると、膨大な時間がかかるからである。 一般論として新薬になりそうな化合物が、動物実験、ヒトでの臨床試験を経て市場に出るまでには約20年、総コストとして約200億円はかかる。しかも、新薬候補が有効性・安全性が確認されて、無事市販にこぎつけられる確率は実に1万2888分の1という超低確率(日本製薬工業協会のデータ)。現在進行形のパンデミック収束のため、イチから「博打」を打つ時間的余裕はないのである。 こうした中で、中国科学院武漢ウイルス研究所の研究グループが試験管内で新型コロナウイルスに対する7種類の薬剤の抗ウイルス効果を検討した研究が2月上旬に発表され、そこで有望とされたものの1つがアビガンだった。 この報告などを受けて、日本でも2月下旬くらいから新型コロナの患者を診療する医療機関の一部にアビガンが提供され、試験的に投与されていた。ただ、新薬の承認となると、臨床試験そのものが倫理的・科学的に妥当なデザインであることが求められる。 通常、日本国内の法規制上定められた新薬の承認申請のための臨床試験は、まず製薬企業が新薬候補を健康な成人に処方して安全性(副作用)を確認する試験(第Ⅰ相試験)を実施し、それで問題がなければ投与量を決めるために患者に投与する試験(第Ⅱ相試験)へと進む。 これで一定の有効性と安全性が担保されれば、最終段階として患者を2グループに分け、一方のグループには新薬候補、もう一方のグループにはプラセボ(偽薬)や従来の標準的な治療薬を投与し、有効性や安全性を統計学的な検討で厳格に比較評価する(第Ⅲ相試験)。 これらのデータを製薬企業が厚生労働省に提出すると、同省の薬事食品衛生審議会で審査が行われ、有効性・安全性が担保されていると認められれば製造販売の承認が下される。 そして、冒頭に紹介した安倍首相の発言を受けたのか、5月12日に厚生労働省医薬・生活衛生局が出した通知では、新型コロナに対する治療薬に関しては、製薬企業自身の管理による従来の厳格な臨床試験を行わなくとも、医師が主導する公的な研究事業などの成果で一定の有効性・安全性が確認されれば、そのデータを製薬企業が承認申請用に代用できる旨を明言した』、「安倍首相」の前のめりな姿勢には違和感を抱いた。
・『安倍前首相が「5月中の承認を目指したい」と語った背景  すでにこの通知時点では新型コロナに対するアビガンの効果を検討するため、愛知県の藤田医科大学で医師主導の臨床試験が実施中だった。当時の安倍首相が「今月(5月)中の承認を目指したい」とまで語った背景には、この試験が念頭にあったと思われる。 同試験は無症状・軽症の新型コロナ患者にアビガンを投与し、ウイルスが消失した人の割合を検討した研究で、すでに3月2日からスタートしていた。 具体的には患者を試験開始から10日間連続でアビガンを服用するグループと、試験開始から6~15日目までの10日間連続でアビガンを服用するグループに分け、それぞれの試験開始日から6日目のウイルス消失率を比較した。ちなみに最終的な解析に用いられたのは前者のグループが36人、後者のグループが33人である。 ややわかりにくい試験の方法だが、2つのグループを試験開始日から5日間だけで見ると、前者はアビガンを服用するグループ、後者はアビガンを服用しないグループとなり、両グループの6日目のウイルス消失率を測定すれば、アビガンを服用した場合としない場合の効果を比較できるという仕組みだ。 一部の患者で死の危険もある新型コロナの場合、一方のグループで完全なプラセボ服用、すなわちまったく治療しないという形だと、感染者から臨床試験参加に必要な文書同意を得ることが難しかったためだと思われる。 そして7月10日に藤田医科大学が発表した結果では、6日目のウイルス消失率は前者のグループは66.7%、後者のグループは56.1%となった。つまりアビガンを服用したグループのほうがウイルスの消失率は高いという結果だった。 この結果は、一見するとアビガンを服用したほうがいいと思えるが、通常、薬の効果判定では2つのグループの差がたまたま偶然で生じたのか、それとも偶然ではない、つまりこの場合で言えばアビガン服用の有無によって生じたのかを統計学による計算で判定する。ちなみに統計学を用いた計算で2つの群で生じた差が単なる偶然ではないと判定された場合は「統計学的に有意差が認められた」と表現される。 結論を言うと、この結果は統計学的な有意差は認められない、つまり偶然起きた可能性が十分ありうるもので、両グループのウイルス消失率に差はないというものだった。極端に言えば新型コロナにアビガンは「効かない」という結果になったのである』、「死の危険もある新型コロナの場合、一方のグループで完全なプラセボ服用、すなわちまったく治療しないという形だと、感染者から臨床試験参加に必要な文書同意を得ることが難しかった」ので、日にちをズラした試験という異例の形をとったようだが、「新型コロナにアビガンは「効かない」という結果になった」、気をもたせただけだったようだ。
・『効いたとしてもそれはほんのちょっとの効果?  もっとも「効かない」は、わかりやすくするためにあえて強い表現を選んだもので、さまざまな事情を考慮すれば、そう単純ではない。 というのも新型コロナでは、約8割といわれる無症候・軽症患者は特別な治療を行わなくても発症から7~10日目までくらいに回復することがわかっている。藤田医科大学の臨床試験は、まさにこうした患者が対象であるため、そもそもウイルス消失が自然経過なのか、アビガンの効果なのかをもともと判別しにくい点で、アビガンの評価には不利な条件である。 また、この統計学的な有意差は臨床試験の参加者が多いほど証明しやすいという傾向がある。実際、この試験を率いた藤田医科大学微生物学・感染症科の土井洋平教授は、結果を発表したオンライン会見で臨床試験参加者が200人規模だったならば、統計学的に有意な差が得られた、すなわちウイルス消失率から見てアビガンが効いたと言える水準になった可能性があると指摘している。 ただ、感染症はいつどこで患者が発生するかわからず、日本の場合はほかの先進国と比べて新型コロナの感染者も少ないこともあり、臨床試験の参加に同意する患者を数多く確保することは、ほかの病気に比べても難しかった現実もある。 しかし、前述のような臨床試験の参加患者数が多ければ多いほど、統計学的に有意な差が検出されやすい、つまり効いたと証明しやすいということは、裏を返せば参加患者が多ければ多いほど、ごく小さな差を統計学的に有意な差として検出してしまう可能性があることも示している。 このため藤田医科大学側が言う臨床試験の参加者数を多くして得られたかもしれない差(効果)は、患者も医師も実感が得られない程度の小さな差だった可能性も否定できないのである。 では、実際、現場で診療にあたっている医師の実感はどうなのだろうか?首都圏の病院に勤務する感染症専門医が次のように語る。 「アビガン服用後に症状が改善したように見える患者もいますが、ほとんどが自然経過で回復していたとしても不思議ではないケースで、個人的にはこの薬で劇的な効果を感じた患者はいないのが正直なところ。もう1つ感じているのは、重症の肺炎に至った患者に投与して効果があったとは思えないということ 一方で、従来から催奇形性の問題は指摘されていますし、多くの人で一時的に尿酸値が高くなる副作用があって、この場合もともと尿酸値が高めの高齢者ほど使いにくい。実際、現在ではほとんど使いません。強いて言うなら、メディアの影響で『アビガンを使ってください』とどうしても食い下がる患者さんに慎重に投与するという感じでしょうか」 藤田医科大学による臨床試験は好調な結果を収められなかったが、現時点で富士フイルムが主導する新型コロナに対するアビガンの臨床試験は継続中である。その点では今後治療薬として承認される可能性がないわけではない。 ちなみに富士フイルムが行う臨床試験は新型コロナに感染し、重症ではない肺炎に至った患者が対象。参加患者を2つのグループに分けて、両グループともに標準的な肺炎治療を行ったうえで、一方のグループにはアビガン、もう一方のグループにはプラセボをそれぞれ最長14日間上乗せ投与する。そのうえで、PCR検査で陰性になるまでの期間を両グループで比較する』、「富士フイルムが行う臨床試験」の結果はどうなるのだろう。
・『結局のところ特効薬ではない  3月から始まった臨床試験だが、一時期感染者が減少したことで進行が停滞。7月以降の感染者増加により参加患者数が増加し、最終的な参加患者は約100人で今月中旬には終了する予定だ。この結果が良好、すなわち統計学的に有意な差が認められれば、現下の新型コロナの治療薬がほとんどない状態では、厚生労働省が迅速承認に踏み切る可能性は高いだろう。 ただ、もし富士フイルムが主導する臨床試験で統計学的に有意な差が示されたとしても、この試験のデザインを考えれば「通常の肺炎治療に追加した場合、治るまでの期間が数日間は短くなる」という程度のもの。もっともこの点は医療機関にとっては、一部の重症でない新型コロナ肺炎患者の入院期間短縮につながり、ベッド不足による「医療崩壊」への歯止めにはなる。 これら今のところわかっている情報を総合すれば、アビガンは単独で死の危機に瀕するほど重症の新型コロナ患者を救い出すほどの「特効薬」ではないということであり、この薬が仮に今後承認されたとしても、多くの人にとって感染予防が何よりも重要であるという現実は何も変わらないということである』、「臨床試験」の結果はどう出るのだろう。ただ、いずれにしろ「特効薬ではない」のであれば、過度な期待は禁物なようだ。
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