環境問題(その8)(政府が「2030年ガソリン車禁止」を打ち出した訳 方針急転換でメーカーの戦略修正は必須に、「2030年ガソリン車禁止」政府が探る落とし所 政府基本案のたたき台から読めた日本の方針、「水素」「EV」で急速に国策が動き出したワケ 橘川教授が語る「日本版脱炭素化の見取り図」) [世界情勢]
環境問題については、10月20日に取上げた。今日は、(その8)(政府が「2030年ガソリン車禁止」を打ち出した訳 方針急転換でメーカーの戦略修正は必須に、「2030年ガソリン車禁止」政府が探る落とし所 政府基本案のたたき台から読めた日本の方針、「水素」「EV」で急速に国策が動き出したワケ 橘川教授が語る「日本版脱炭素化の見取り図」)である。
先ずは、12月8日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの桃田 健史氏による「政府が「2030年ガソリン車禁止」を打ち出した訳 方針急転換でメーカーの戦略修正は必須に」を紹介しよう。
・『-2030年前半、ガソリン車販売禁止- 日本人にとって衝撃的なニュースが、2020年12月3日に流れた。これは、政府が進める「2050年カーボンニュートラル」の一環だ。 しかし、これは政府が正式に発表したものではなく、先に開催された第5回成長戦略会議を受けて、経済産業省を中心とした自動車産業変革の施策の一部がメディアに漏れたというのが事実のようだ。 2030年前半ではなく「半ば」をめどとするとの情報もあり、それについて小泉進次郎環境大臣が閣議後の会見で「2035年と明記するべき」という持論を述べている。 どちらにしても、日本が世界の潮流に乗って、自動車の電動化に関する規制強化を加速させていくことに間違いはないだろう。 海外での電動車関連の規定では、1990年施行のアメリカ・カリフォルニア州ZEV法(ゼロ・エミッション・ヴィークル規制法)における「2035年までにICE(内燃機関車)新車販売禁止」を筆頭に、中国のNEV(新エネルギー車)政策、そしてCO2規制を念頭としたヨーロッパ各国でも電動車シフト政策がある』、「2030年前半、ガソリン車販売禁止」のニュースには、いきなりだったこともあって驚かされた。
・『「達成目標」から「義務」へ 日本の電動車を含む次世代車の普及目標については、経済産業省が2018年に産学官の有識者による自動車新時代戦略会議として取りまとめている。 それによると、2030年は従来車(ガソリン車、ディーゼル車)が市場全体の30~50%。残りの50~70%が次世代車となっている。 次世代車の内訳は、市場全体の30~40%がHV(ハイブリッド車)、20~30%がEV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)が3%程度、そしてクリーンディーゼル車が5~10%とみる。 ただし、未達の場合でも自動車メーカーにペナルティを課すような規制ではなく、あくまでも達成目標にすぎない。 これに対して、今回進める2035年までのガソリン車廃止を規制として義務化すれば、従来車が完全になくなるため、次世代車の普及台数は一気に倍増する計算だ。 一連の報道では「ガソリン車禁止」という表現が多いが、これはディーセル車を含む内燃機関車を指す可能性が高い。2020年9月にカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事の発言での「インターナルコンバッションエンジン(ICE:内燃機関)」を多くのメディアが日本語で「ガソリン車」と訳したからだ。 では、2018年の達成目標設定を、なぜ今になって規制化する必要があるのか。背景にあるのは、世界的なESG(環境、社会性、ガバナンス)投資の急激な拡大だ。 従来、多くの自動車開発者が描いてきたクルマの電動化の将来像は、ガソリン車やディーゼル車からHV、PHEV、EV……と、搭載する駆動用バッテリーの大きさが徐々に増えていき、最終的には長距離移動向けの究極の次世代車として、FCVに到達するというイメージを描いてきた』、「世界的なESG・・・投資の急激な拡大」は事実としても、いきなり「義務化」とは何か理由があったのだろう。
・『日本政府が電動化対応をしてこなかった訳 その中で、EVの普及を前倒ししたのが、日産だ。2010年市場導入の「リーフ」は、自動車産業史において大手メーカーによる初めての大量生産型EVとなった。 また、フォルクスワーゲングループは、2016年に発表した中期経営計画「トゥギャザー・ストラテジー2025」で、大々的なEVシフトを掲げた。前年に発覚したディーゼル車制御装置の違法によって失墜したブランドイメージを、V字回復させるための事業戦略である。 このほか、世界各国の富裕層に対して、テスラがプレミアムEV市場を拡大していった。こうした各社の電動化戦略に対して、一喜一憂するような対応を日本政府はこれまでとってこなかった。 なぜならば、前述の自動車新時代戦略会議での議論でも、電動化の基盤となるHVの普及比率は、2017年時点で日本が31.6%と、アメリカの4.0%、ドイツの3.0%、フランスの4.8%、タイの2.7%、インドの0.03%と比べて圧倒的に高かったからだ。 ところが、この2年間ほどの間に、ESG投資という文脈で電動化に関する潮流が一気に変わり、そこに各国政府の施策として規制強化につながった。急激な市場変化について警戒する声もある。 スズキの鈴木俊宏社長は新型「ソリオ」のオンライン会見で、筆者からの電動化戦略の現状と今後の方針に関する質問に対して「(ソリオに搭載の)マイルドハイブリッド、プラグインハイブリッド、そしてEVへとステップを踏むべきだが、昨今のEV化(の潮流)については、スピードが加速気味かと思う」と答えている。 そのうえで、将来的にはEV化は当然であり、現行車と比べてのコスト上昇、充電インフラ整備や電池の再利用など、社会全体として考えるべき課題として、スズキ社内で冷静な姿勢で協議を進めるべきだとの考えを示した。 さらには、コストメリットを考えて「トヨタから電動化部品の供給を受けて、スズキ独自の電動車開発をする可能性もある」という発言もあった。 また、マツダの丸本明社長にもオンライン会見で、筆者が電動化戦略の今後を聞いたが「国や地域によってエネルギー供給体制など社会背景は大きく違う。それぞれの社会環境にあったソリューションを提供していく」として、マツダが進める各種SKYACTIVユニットの仕向け地別の最適化を強調した』、「HVの普及比率は、2017年時点で日本が31.6%と、アメリカの4.0%、ドイツの3.0%、フランスの4.8%、タイの2.7%、インドの0.03%と比べて圧倒的に高かった」、これにあぐらをかいていたのは事実だ。
・『トヨタの舵取りはいかに? 前出の“従来車”の実情を考えると、スズキのほか、スバルとマツダの電動車比率が低い。これら各社はトヨタとの各領域で協業をすでに行っており、今後はトヨタと電動化における関係が一気に深まりそうだ。 そのトヨタも、2017年12月に「電動車普及のマイルストーン」としてグラフ化しているが、その後に「計画(2017年12月)を上回るペースで電動化が加速」として、計画を前倒ししている。今回の政府による「2030年代での規制強化」に合わせて、同計画のさらなる大幅な前倒しは必須だ。周知の通り、日本の自動車産業界におけるトヨタの発言力と実行力が他メーカーを大きく凌ぐというのが実情である。 トヨタが今期末の決算発表あたりに、大胆な電動車シフト戦略を公表する可能性は十分にあり、それにより日本自動車産業界が全体として大きく電動化シフトに舵を取ることになるのではないだろうか』、さてガリバー「トヨタ」はどう出るのだろうか。
次に、同じ桃田 健史氏による12月12日付け東洋経済オンライン「「2030年ガソリン車禁止」政府が探る落とし所 政府基本案のたたき台から読めた日本の方針」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/395473
・『日本での「クルマの電動化シフト」が今、大きな局面を迎えている。 2020年12月2日、「2030年代半ばメドにガソリン車禁止で政府が最終調整」というニュースが流れ、また12月8日には東京都の小池百合子知事が都議会での代表質問を受けて「2030年に“純ガソリン車”100%禁止」を打ち出した。 このタイミングで、政府による“クルマの電動化シフト”の動きが活発化している背景については、「政府が『2030年ガソリン車禁止』を打ち出した訳」に詳しい。 同記事が公開された2日後の2020年12月10日。経済産業省は、「第3回 モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会」を開催した』、なるほど。
・『「2050年に目指すべき姿」を議論 この中で同省が提示した事務局参考資料では、政府方式が“ほぼ固まった”状態で記載されており、検討会に参加した有識者による“ダメ出し”を踏まえて、年内には正式な政府方針として公表される予定だ。 この参考資料、および事務局資料(議論用)では、議論の目的を「2050年に目指すべき姿」としている。これは、2020年12月1日開催の「第5回成長戦略会議」を受けて公表された2050年カーボンニュートラルを目指した「グリーン成長戦略の実行計画の早期策定」に直結する。 今回、公表された参考資料でも「電動化推進のための取組について」との題目の冒頭、グリーン成長戦略の実行計画について、以下のように下線を引いた記載がある。 カーボンニュートラルを目指す上で不可欠な、水素、自動車・蓄電池、カーボンリサイクル、洋上風力、半導体・情報通信などの分野について、①年限を明確化した目標、②研究開発・実証、③規制改革・標準化などの制度整備、④国際協調などを盛り込んだグリーン成長戦略の実行計画を早期に策定し、関係省庁が一体となって、全政府的に取組を拡大する(本文ママ) ①の年限については、12月初旬の一部報道で「2030年代前半」といわれ、本稿執筆時点(12月11日)では「2030年代半ば」という報道が主流だが、小池都知事の「2030年発言」を受けて、最終的に2030年、または2035年とするのかが自動車産業界にとって、また一般ユーザーにとっても極めて重要なポイントだ。 ③の規制改革等の制度整備については、ゼロベースで新規法案とするのではなく、まずは省エネ法・グリーン購入法・温対法など既存の法律の一部改正によって対応する可能性を示唆している。早期の実効性という意味ではベターチョイスに思える。 市場拡大に向けた補助金制度についても、既存のCEV補助金制度などの改定によって、早期の実効性を担保できるはずだ。そして、④の国際協調という名の世界における“日本の立ち位置”または“東京の立ち位置”をどのように“落とし込むのか”が、大きなポイントとなりそうだ。 資料の中でイギリス、フランス、中国、ドイツ、アメリカ、そして日本それぞれについて「内燃機関の扱い」「電動車義務化」「燃費規制」「乗り入り規制」「BEV/PHEV/FCEV導入目標」という5つの項目で比較一覧としている。 ここで重要なのは「電動車義務化」で、ここには「義務付ける」「規制はなし」という表記があり、中国(NEV規制)とアメリカ・カリフォルニア州(ZEV規制)で「販売を義務化」と分類している点だ』、アメリカ大統領がバイデンに代わることで、アメリカの規制も強化される方向だ。
・『各国政策を踏まえての“落としどころ” こうした一覧表を改めて眺めていると、年内という短いスパンで日本政府(経済産業省)が方針を取りまとめることを考えると、今回の発表では日本版のZEV規制法やNEV規制法ではなく、イギリス、フランス、ドイツに近い形で、内燃機関の扱いを“2030年、または2035年”とする政策になる可能性が高いと思われる。 イギリスでは、ガソリン車を2030年販売禁止とすると同時にハイブリッド車も2035年販売禁止としているが、日本は直近でハイブリッド車の販売比率が約3割と欧米と比べて高いこともあり、ハイブリッド車以外を考慮した“備考”という“落としどころ”を探ることも考えられる。 また、化石燃料や電気の原材料の採取、製造、使用、廃棄に至るLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の観点についても同資料では強調しており、ここに日本のグリーン成長戦略の特長を持たせることも重要だ。 そのほか、東京都の立ち位置については、同資料の一覧表にある「乗り入れ規制」という項目の判断を応用する形で、政府目標を前提としながら東京都がロンドン、パリ、ベルリンなどと“よきバランス”を取ることが想定される。 こうして今、世間で大きな話題となっている政府による電動化シフト政策だが、現実的な目的はグローバルにおける日本の産業力強化にある。つまり、運輸・電機・エネルギー・ITなどの企業目線での議論が主体だ。 一方で、社会全体を考えた、これからのクルマや交通のあり方を同時に考えていく必要がある。というより、社会全体の動きを優先し、その一部でクルマの電動化を“活用する”ことが、これからの日本を考えるうえでの議論のあるべき姿だと思う』、その通りだ。
・『変わるべきはクルマだけではない 今回の検討会・参考資料では、最初に「移動制約ゼロのための取組について」として、地域交通の現状と今後について紹介している。その次が「電動化」の記載である。 また、検討会の事務局資料(議論用)で、「『世界中の誰もが、便利で快適に、カーボンフリーのモビリティサービスを享受できる社会』を目指すには、以下の2つの変化が重要」として、「社会の変化」と「自動車の変化」を挙げている。 自動車というハードウェア・ソフトウェアについては、技術革新や規制対応などの目標が定まれば、日本がこれまで培ってきた知見や人材をフル活用することが可能であろう。他方、社会の変化については、地域社会の担い手不足や、継続な事業として成立させることの難しさなどあり、政府が目標と定めたからといって順調に社会課題が解決できるとは限らない。 実際、筆者は福井県永平寺町の政策の協議に関わる永平寺町エボリューション大使という立場で、経済産業省の施策「スマートモビリティチャレンジ」や同省および国土交通省による「ラストマイル自動走行」の社会実証や社会実装を主として、国、県、周辺自治体、地元の企業や各種団体、そして住民の皆さんと社会変化について議論を進めているが、社会変化の現状と、これから町として進むべき道に関する情報共有をすることは、とても難しいと実感している。 今、日本で大きく動きだした、クルマの電動化シフト。社会全体の中での電動化のあるべき姿を、国民ひとりひとりが他人事ではなく、“わたくし事”として捉えることが大切だと強く思う』、「国民ひとりひとりが他人事ではなく、“わたくし事”として捉えることが大切だ」、理念的にはその通りだが、判断材料となるデータも示さずに、要求するのは筋違いだ。
第三に、12月11日付け東洋経済オンライン「「水素」「EV」で急速に国策が動き出したワケ 橘川教授が語る「日本版脱炭素化の見取り図」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/395122
・『政府が打ち出した2030年代半ばの純ガソリン車の新車販売禁止方針、水素を燃料とした新エネルギー戦略――。政官財が連動した脱炭素化のニュースが連日のように飛び出している。 脱炭素化や水素戦略が急速に国策化した裏には何があるのか。欧州に遅ればせながら、ようやく日本でも起こりそうなグリーン革命の見取り図はどうなっているのか。関連業界や投資家にとって不可欠な情報を、エネルギー政策に詳しい国際大学大学院の橘川武郎教授に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは橘川氏の回答)』、興味深そうだ。
・『Q:菅義偉首相は10月26日の所信表明演説で、2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロとする「カーボンニュートラル宣言」を行いました。それ以降、脱炭素化に向けて政官財が一気に動き出した感があります。 A:日本がカーボンニュートラル宣言を出したのはギリギリのタイミングだった。すでに中国は2060年までのカーボンニュートラル宣言を出していたし、グリーンニューディール政策を掲げるアメリカ・バイデン政権の誕生が確実になった11月以降に日本が宣言を行っていたら、「世界の後追いだ」と言われて評価されなかっただろう』、「日本がカーボンニュートラル宣言を出したのはギリギリのタイミングだった」、なるほど納得できた。
・『急に動き出した最大の要因は「アンモニア火力発電」 しかもこれが最も重要な部分だが、菅政権は苦しまぎれでカーボンニュートラル宣言を出したのではない。2050年までの実質排出ゼロは単なる絵空事ではない。菅首相の演説の直前、10月13日に火力発電最大手のJERA(東京電力と中部電力の火力発電事業統合会社)がアンモニアを活用して火力発電でも二酸化炭素(CO2)を実質排出させないロードマップを打ち出している。この動きこそが、菅首相のカーボンニュートラル宣言に現実味を持たせ、状況を察知した産業界の多くがどっと動き出す要因になった。 Q:確かに、蓄電池などの技術開発は漸進的でこの間にブレークスルーがあったわけではありません。今回のゲームチェンジャーは、火力発電のカーボンニュートラル化なのですね。 A:そうだ。JERAはすでにNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)からの受託事業として、アンモニア混焼の火力発電のフィージビリティスタディを行っている。2030年代前半にアンモニアの混焼率を20%程度とし、その後混焼率を拡大させて、2040年代にはアンモニア100%の専焼化に移行、それによってCO2排出をゼロにするというロードマップを打ち出している(アンモニアはNH3のため、燃やしてもCO2を発生しない)。 JERAと同様、水素とCO2を合成してメタンガス(天然ガスの主成分)を作る技術などを活用したカーボンニュートラル構想は昨年11月に東京ガスが発表していた。内閣府が所管する国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)でアンモニア直接燃焼の研究が進められてきたという経緯もある。もともとこの技術はトヨタ自動車発だといわれている。 Q:火力発電がCO2フリー化すると、電力全体の構造はどう変わりますか。 電力の脱炭素化の基盤となるのは、もちろん再生可能エネルギーで、こちらも今後間違いなく拡大する。ただ、再エネの発電は天候や時間帯に左右される。それをバックアップし、安定した電力を供給する調整用電源が必要になる。蓄電池はその候補だが、容量拡大やコストなど技術的課題を突破できる時期は見通せない。火力発電はこれまでも調整用電源を担っていたが、CO2を排出するため、バツが付いていた。しかし、アンモニアの活用により、火力発電はCO2フリーの調整用電源としての裏付けができた。 一部には、菅政権のカーボンニュートラル宣言は原子力発電の復活を狙っているとの声があるが、それは違う。菅政権は依然としてリプレース(建て替え)は行わないなど原発に対しては踏み込んでおらず、逆に火力発電の脱炭素化が実現するなら、CO2を出さない電源としての原発の必要性は薄れる。菅政権は安倍晋三政権時代と同様に原発をそっとしておくつもりだと思う』、「10月13日に火力発電最大手のJERA(東京電力と中部電力の火力発電事業統合会社)がアンモニアを活用して火力発電でも二酸化炭素(CO2)を実質排出させないロードマップを打ち出している。この動きこそが、菅首相のカーボンニュートラル宣言に現実味を持たせ、状況を察知した産業界の多くがどっと動き出す要因になった」、「アンモニアの活用により、火力発電はCO2フリーの調整用電源としての裏付けができた」、これらが技術的根拠になったようだ。
・『CO2の回収・貯留が最大の課題 Q:ただ、脱炭素化で先頭を走る欧州は、再生可能エネルギーで水を電気分解した水素・アンモニアを「グリーン」、天然ガスなど化石燃料から取り出した水素・アンモニアを「ブルー」と呼んで、後者の脱炭素化への効果に懐疑的な声を上げています。天然ガスから水素・アンモニアを作る過程で生じるCO2はどうするのでしょうか。 A:最終的な方向としてはもちろん、日本も再エネ由来の水素・アンモニアになるのだろう。しかし、再エネ価格が大幅に低下し、コストメリットで再エネ導入が進む欧州と、まだまだ再エネのコストメリットが見いだしにくい日本では事情が違う。現在の政府や民間のロードマップを見ても、日本はまず移行期として天然ガス由来の水素・アンモニアを想定している。 この部分は、非常に大きな課題だ。というのも、天然ガスから水素・アンモニアを作るときに発生するCO2を分離回収・貯留するCCS(二酸化炭素回収・貯留)の技術や装置で日本のメーカーは競争力を持つものの、CO2の貯留場所をいかに確保していくかについてはいまだ不確実なところがあるからだ。 天然ガス由来の水素やアンモニアを日本にどう持ちこむかについては、①資源国の設備において天然ガスから水素・アンモニアを作って、それを日本へ輸入するやり方と、②資源国からLNG(液化天然ガス)の形で輸入して、日本国内で水素・アンモニアを取り出すやり方の2つが想定されている。その際、資源国や日本国内でCO2を安全に貯留できる場所を確保する必要がある。 Q:CCSは容易ではない? A:世界を見ても、CCSを商用稼働しているのはアメリカ、オーストラリア、ノルウェイだけだ。海外では、枯渇してきた油田にCO2を押し込んで、その圧力で石油を取り出す形で利用されることが多い。石油生産の経済性を増すため、CO2は「商品」となっている。だが原油価格が一定以下に下落すると、不採算になるため、将来的な持続可能性は不明だ。 スウェーデンとノルウェイのエネルギー会社が主導するオランダの水素火力発電は2025年の稼働を予定し、既存の天然ガス火力発電から水素へ転換するものだ。天然ガスから水素を作るときに発生するCO2は、船舶でノルウェイへ送り、同国でCCSを行う方法が計画されている。ちなみにこの水素火力発電のタービンは三菱パワー製だ。日本勢はこうしたプロジェクトも参考にして、日本向けの構想を練っている』、「水素火力発電のタービンは三菱パワー製だ」、しかし全体としてのシステム構築は遅れているようだ。
・『水素社会は水素とアンモニアのすみ分けに Q:政府の発表や報道では、「水素」という言葉が使われており、一般の人たちはアンモニアと水素の違いなどで頭が混乱しやすいと思います。全体を整理すると、どうなりますか。 A:水素と空気中の窒素を合成すればアンモニアができるし、アンモニアを水素化することもできる。水素とアンモニアが近い関係にあることは事実だ。 ただし、経済産業省の中にも、燃料電池自動車(FCV)などを念頭に水素を中心に考えるグループと、電力を念頭にアンモニアを中心に考えるグループに分かれているようだ。水素とアンモニアをまとめて「水素社会」と呼んでごまかしているところはある。だが、当面はそれでもあまりまずいことにはならないだろう。 おおざっぱに言うと、日本の電力業界はみんなアンモニアによる火力発電へ突き進んでいる。アンモニアは毒性(強い刺激性)があり、コンシューマ用途には向かないが、工業や肥料用などで長年使用されてきたため、発電所や工場などではハンドリングしやすい。 一方、水素にはFCVに代表される自動車分野や家庭用のエネファームなどの用途があるが、貯蔵・運搬面で技術的課題がある。運搬方法では大きく2つの候補があり、1つはマイナス253℃まで水素を冷却して液化する方法、もう1つは水素にトルエンを混ぜてメチルシクロヘキサン(MCH)にして輸送・貯蔵する方法だ。MCHなら普通のコンテナで運ぶことができ、低コストだが、最後に水素を分離する際に約400℃の熱を加える必要がある。液体水素、MCHともに冷却や加熱によるコストの課題などを抱える。 Q:なるほど。発電はアンモニア、自動車など輸送機器は水素というすみ分けですね。しかし、発電所自体がアンモニア活用でCO2フリーになるなら、自動車業界が長年力説してきた「Well to Wheel」(油井から車輪まで)で見ても、全部EVでいいということになりますね』、なるほど。
・『自家用車はEV、大型など商用車はFCV EVは電池容量の関係で航続距離が短いこと、充電に30分以上かかることがネックとしてあるが、一般的な自家用車の利用としては問題ない。一方、トラックやバスなど大型車やフォークリフトといった商用分野では、航続距離や充時間(水素なら約3分)という要素が重要であり、水素が活用されるだろう。つまり、自家用車はEV、商用車はFCVというすみ分けだ。 インテグラル(すり合わせ)型に強い日本車メーカーは、モジュラー型(組み合わせ型)のEVに消極的だといわれてきた。しかし、実際にはトヨタなどは火力発電のCO2フリーというゲームチェンジャー登場を受けて、EVとFCVにがぜん力を入れ始めていると思う。 歴史を見るまでもなく、エネルギー政策は、安全保障と不可分一体です。日本が水素社会の方向へ舵を切るとすれば、外交にも影響は及びそうですね。 日本の外交戦略である「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)は、日米とインド、オーストラリアがカギを握るといわれている。こうした中で、水素戦略によって日本で大幅な需要拡大が予想される水素・アンモニアの調達先としては、オーストラリアが注目されている。米中対立の余波を受けて、中国がオーストラリアからの輸入を減らす方向だが、代わりに日本がオーストラリアからの天然ガスないし水素・アンモニアの輸入を増やすことはFOIPにとってもプラスという考え方だ。 日本はLNG(液化天然ガス)などの貿易や物流のノウハウで強みを持っている。その強みを発揮して、アジア地域での水素社会化やエネルギー輸送などで主導権を発揮することが期待される。また、CO2フリーの火力発電建設の輸出も期待できる。一方、中国も水素関連技術に強い関心を持っており、対中政策でも交渉カードの1つになるかもしれない』、「中国がオーストラリアからの輸入を減らす方向だが、代わりに日本がオーストラリアからの天然ガスないし水素・アンモニアの輸入を増やすことはFOIPにとってもプラスという考え方だ」、「日本」、「オーストラリア」両国にとってWinWinのいいアイデアだ。さらに「対中政策でも交渉カードの1つになるかもしれない」、とのおまけまでついてくるとは、対中政策でも交渉カードの1つになるかもしれない申し分なさそうだ。
先ずは、12月8日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの桃田 健史氏による「政府が「2030年ガソリン車禁止」を打ち出した訳 方針急転換でメーカーの戦略修正は必須に」を紹介しよう。
・『-2030年前半、ガソリン車販売禁止- 日本人にとって衝撃的なニュースが、2020年12月3日に流れた。これは、政府が進める「2050年カーボンニュートラル」の一環だ。 しかし、これは政府が正式に発表したものではなく、先に開催された第5回成長戦略会議を受けて、経済産業省を中心とした自動車産業変革の施策の一部がメディアに漏れたというのが事実のようだ。 2030年前半ではなく「半ば」をめどとするとの情報もあり、それについて小泉進次郎環境大臣が閣議後の会見で「2035年と明記するべき」という持論を述べている。 どちらにしても、日本が世界の潮流に乗って、自動車の電動化に関する規制強化を加速させていくことに間違いはないだろう。 海外での電動車関連の規定では、1990年施行のアメリカ・カリフォルニア州ZEV法(ゼロ・エミッション・ヴィークル規制法)における「2035年までにICE(内燃機関車)新車販売禁止」を筆頭に、中国のNEV(新エネルギー車)政策、そしてCO2規制を念頭としたヨーロッパ各国でも電動車シフト政策がある』、「2030年前半、ガソリン車販売禁止」のニュースには、いきなりだったこともあって驚かされた。
・『「達成目標」から「義務」へ 日本の電動車を含む次世代車の普及目標については、経済産業省が2018年に産学官の有識者による自動車新時代戦略会議として取りまとめている。 それによると、2030年は従来車(ガソリン車、ディーゼル車)が市場全体の30~50%。残りの50~70%が次世代車となっている。 次世代車の内訳は、市場全体の30~40%がHV(ハイブリッド車)、20~30%がEV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)が3%程度、そしてクリーンディーゼル車が5~10%とみる。 ただし、未達の場合でも自動車メーカーにペナルティを課すような規制ではなく、あくまでも達成目標にすぎない。 これに対して、今回進める2035年までのガソリン車廃止を規制として義務化すれば、従来車が完全になくなるため、次世代車の普及台数は一気に倍増する計算だ。 一連の報道では「ガソリン車禁止」という表現が多いが、これはディーセル車を含む内燃機関車を指す可能性が高い。2020年9月にカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事の発言での「インターナルコンバッションエンジン(ICE:内燃機関)」を多くのメディアが日本語で「ガソリン車」と訳したからだ。 では、2018年の達成目標設定を、なぜ今になって規制化する必要があるのか。背景にあるのは、世界的なESG(環境、社会性、ガバナンス)投資の急激な拡大だ。 従来、多くの自動車開発者が描いてきたクルマの電動化の将来像は、ガソリン車やディーゼル車からHV、PHEV、EV……と、搭載する駆動用バッテリーの大きさが徐々に増えていき、最終的には長距離移動向けの究極の次世代車として、FCVに到達するというイメージを描いてきた』、「世界的なESG・・・投資の急激な拡大」は事実としても、いきなり「義務化」とは何か理由があったのだろう。
・『日本政府が電動化対応をしてこなかった訳 その中で、EVの普及を前倒ししたのが、日産だ。2010年市場導入の「リーフ」は、自動車産業史において大手メーカーによる初めての大量生産型EVとなった。 また、フォルクスワーゲングループは、2016年に発表した中期経営計画「トゥギャザー・ストラテジー2025」で、大々的なEVシフトを掲げた。前年に発覚したディーゼル車制御装置の違法によって失墜したブランドイメージを、V字回復させるための事業戦略である。 このほか、世界各国の富裕層に対して、テスラがプレミアムEV市場を拡大していった。こうした各社の電動化戦略に対して、一喜一憂するような対応を日本政府はこれまでとってこなかった。 なぜならば、前述の自動車新時代戦略会議での議論でも、電動化の基盤となるHVの普及比率は、2017年時点で日本が31.6%と、アメリカの4.0%、ドイツの3.0%、フランスの4.8%、タイの2.7%、インドの0.03%と比べて圧倒的に高かったからだ。 ところが、この2年間ほどの間に、ESG投資という文脈で電動化に関する潮流が一気に変わり、そこに各国政府の施策として規制強化につながった。急激な市場変化について警戒する声もある。 スズキの鈴木俊宏社長は新型「ソリオ」のオンライン会見で、筆者からの電動化戦略の現状と今後の方針に関する質問に対して「(ソリオに搭載の)マイルドハイブリッド、プラグインハイブリッド、そしてEVへとステップを踏むべきだが、昨今のEV化(の潮流)については、スピードが加速気味かと思う」と答えている。 そのうえで、将来的にはEV化は当然であり、現行車と比べてのコスト上昇、充電インフラ整備や電池の再利用など、社会全体として考えるべき課題として、スズキ社内で冷静な姿勢で協議を進めるべきだとの考えを示した。 さらには、コストメリットを考えて「トヨタから電動化部品の供給を受けて、スズキ独自の電動車開発をする可能性もある」という発言もあった。 また、マツダの丸本明社長にもオンライン会見で、筆者が電動化戦略の今後を聞いたが「国や地域によってエネルギー供給体制など社会背景は大きく違う。それぞれの社会環境にあったソリューションを提供していく」として、マツダが進める各種SKYACTIVユニットの仕向け地別の最適化を強調した』、「HVの普及比率は、2017年時点で日本が31.6%と、アメリカの4.0%、ドイツの3.0%、フランスの4.8%、タイの2.7%、インドの0.03%と比べて圧倒的に高かった」、これにあぐらをかいていたのは事実だ。
・『トヨタの舵取りはいかに? 前出の“従来車”の実情を考えると、スズキのほか、スバルとマツダの電動車比率が低い。これら各社はトヨタとの各領域で協業をすでに行っており、今後はトヨタと電動化における関係が一気に深まりそうだ。 そのトヨタも、2017年12月に「電動車普及のマイルストーン」としてグラフ化しているが、その後に「計画(2017年12月)を上回るペースで電動化が加速」として、計画を前倒ししている。今回の政府による「2030年代での規制強化」に合わせて、同計画のさらなる大幅な前倒しは必須だ。周知の通り、日本の自動車産業界におけるトヨタの発言力と実行力が他メーカーを大きく凌ぐというのが実情である。 トヨタが今期末の決算発表あたりに、大胆な電動車シフト戦略を公表する可能性は十分にあり、それにより日本自動車産業界が全体として大きく電動化シフトに舵を取ることになるのではないだろうか』、さてガリバー「トヨタ」はどう出るのだろうか。
次に、同じ桃田 健史氏による12月12日付け東洋経済オンライン「「2030年ガソリン車禁止」政府が探る落とし所 政府基本案のたたき台から読めた日本の方針」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/395473
・『日本での「クルマの電動化シフト」が今、大きな局面を迎えている。 2020年12月2日、「2030年代半ばメドにガソリン車禁止で政府が最終調整」というニュースが流れ、また12月8日には東京都の小池百合子知事が都議会での代表質問を受けて「2030年に“純ガソリン車”100%禁止」を打ち出した。 このタイミングで、政府による“クルマの電動化シフト”の動きが活発化している背景については、「政府が『2030年ガソリン車禁止』を打ち出した訳」に詳しい。 同記事が公開された2日後の2020年12月10日。経済産業省は、「第3回 モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会」を開催した』、なるほど。
・『「2050年に目指すべき姿」を議論 この中で同省が提示した事務局参考資料では、政府方式が“ほぼ固まった”状態で記載されており、検討会に参加した有識者による“ダメ出し”を踏まえて、年内には正式な政府方針として公表される予定だ。 この参考資料、および事務局資料(議論用)では、議論の目的を「2050年に目指すべき姿」としている。これは、2020年12月1日開催の「第5回成長戦略会議」を受けて公表された2050年カーボンニュートラルを目指した「グリーン成長戦略の実行計画の早期策定」に直結する。 今回、公表された参考資料でも「電動化推進のための取組について」との題目の冒頭、グリーン成長戦略の実行計画について、以下のように下線を引いた記載がある。 カーボンニュートラルを目指す上で不可欠な、水素、自動車・蓄電池、カーボンリサイクル、洋上風力、半導体・情報通信などの分野について、①年限を明確化した目標、②研究開発・実証、③規制改革・標準化などの制度整備、④国際協調などを盛り込んだグリーン成長戦略の実行計画を早期に策定し、関係省庁が一体となって、全政府的に取組を拡大する(本文ママ) ①の年限については、12月初旬の一部報道で「2030年代前半」といわれ、本稿執筆時点(12月11日)では「2030年代半ば」という報道が主流だが、小池都知事の「2030年発言」を受けて、最終的に2030年、または2035年とするのかが自動車産業界にとって、また一般ユーザーにとっても極めて重要なポイントだ。 ③の規制改革等の制度整備については、ゼロベースで新規法案とするのではなく、まずは省エネ法・グリーン購入法・温対法など既存の法律の一部改正によって対応する可能性を示唆している。早期の実効性という意味ではベターチョイスに思える。 市場拡大に向けた補助金制度についても、既存のCEV補助金制度などの改定によって、早期の実効性を担保できるはずだ。そして、④の国際協調という名の世界における“日本の立ち位置”または“東京の立ち位置”をどのように“落とし込むのか”が、大きなポイントとなりそうだ。 資料の中でイギリス、フランス、中国、ドイツ、アメリカ、そして日本それぞれについて「内燃機関の扱い」「電動車義務化」「燃費規制」「乗り入り規制」「BEV/PHEV/FCEV導入目標」という5つの項目で比較一覧としている。 ここで重要なのは「電動車義務化」で、ここには「義務付ける」「規制はなし」という表記があり、中国(NEV規制)とアメリカ・カリフォルニア州(ZEV規制)で「販売を義務化」と分類している点だ』、アメリカ大統領がバイデンに代わることで、アメリカの規制も強化される方向だ。
・『各国政策を踏まえての“落としどころ” こうした一覧表を改めて眺めていると、年内という短いスパンで日本政府(経済産業省)が方針を取りまとめることを考えると、今回の発表では日本版のZEV規制法やNEV規制法ではなく、イギリス、フランス、ドイツに近い形で、内燃機関の扱いを“2030年、または2035年”とする政策になる可能性が高いと思われる。 イギリスでは、ガソリン車を2030年販売禁止とすると同時にハイブリッド車も2035年販売禁止としているが、日本は直近でハイブリッド車の販売比率が約3割と欧米と比べて高いこともあり、ハイブリッド車以外を考慮した“備考”という“落としどころ”を探ることも考えられる。 また、化石燃料や電気の原材料の採取、製造、使用、廃棄に至るLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の観点についても同資料では強調しており、ここに日本のグリーン成長戦略の特長を持たせることも重要だ。 そのほか、東京都の立ち位置については、同資料の一覧表にある「乗り入れ規制」という項目の判断を応用する形で、政府目標を前提としながら東京都がロンドン、パリ、ベルリンなどと“よきバランス”を取ることが想定される。 こうして今、世間で大きな話題となっている政府による電動化シフト政策だが、現実的な目的はグローバルにおける日本の産業力強化にある。つまり、運輸・電機・エネルギー・ITなどの企業目線での議論が主体だ。 一方で、社会全体を考えた、これからのクルマや交通のあり方を同時に考えていく必要がある。というより、社会全体の動きを優先し、その一部でクルマの電動化を“活用する”ことが、これからの日本を考えるうえでの議論のあるべき姿だと思う』、その通りだ。
・『変わるべきはクルマだけではない 今回の検討会・参考資料では、最初に「移動制約ゼロのための取組について」として、地域交通の現状と今後について紹介している。その次が「電動化」の記載である。 また、検討会の事務局資料(議論用)で、「『世界中の誰もが、便利で快適に、カーボンフリーのモビリティサービスを享受できる社会』を目指すには、以下の2つの変化が重要」として、「社会の変化」と「自動車の変化」を挙げている。 自動車というハードウェア・ソフトウェアについては、技術革新や規制対応などの目標が定まれば、日本がこれまで培ってきた知見や人材をフル活用することが可能であろう。他方、社会の変化については、地域社会の担い手不足や、継続な事業として成立させることの難しさなどあり、政府が目標と定めたからといって順調に社会課題が解決できるとは限らない。 実際、筆者は福井県永平寺町の政策の協議に関わる永平寺町エボリューション大使という立場で、経済産業省の施策「スマートモビリティチャレンジ」や同省および国土交通省による「ラストマイル自動走行」の社会実証や社会実装を主として、国、県、周辺自治体、地元の企業や各種団体、そして住民の皆さんと社会変化について議論を進めているが、社会変化の現状と、これから町として進むべき道に関する情報共有をすることは、とても難しいと実感している。 今、日本で大きく動きだした、クルマの電動化シフト。社会全体の中での電動化のあるべき姿を、国民ひとりひとりが他人事ではなく、“わたくし事”として捉えることが大切だと強く思う』、「国民ひとりひとりが他人事ではなく、“わたくし事”として捉えることが大切だ」、理念的にはその通りだが、判断材料となるデータも示さずに、要求するのは筋違いだ。
第三に、12月11日付け東洋経済オンライン「「水素」「EV」で急速に国策が動き出したワケ 橘川教授が語る「日本版脱炭素化の見取り図」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/395122
・『政府が打ち出した2030年代半ばの純ガソリン車の新車販売禁止方針、水素を燃料とした新エネルギー戦略――。政官財が連動した脱炭素化のニュースが連日のように飛び出している。 脱炭素化や水素戦略が急速に国策化した裏には何があるのか。欧州に遅ればせながら、ようやく日本でも起こりそうなグリーン革命の見取り図はどうなっているのか。関連業界や投資家にとって不可欠な情報を、エネルギー政策に詳しい国際大学大学院の橘川武郎教授に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは橘川氏の回答)』、興味深そうだ。
・『Q:菅義偉首相は10月26日の所信表明演説で、2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロとする「カーボンニュートラル宣言」を行いました。それ以降、脱炭素化に向けて政官財が一気に動き出した感があります。 A:日本がカーボンニュートラル宣言を出したのはギリギリのタイミングだった。すでに中国は2060年までのカーボンニュートラル宣言を出していたし、グリーンニューディール政策を掲げるアメリカ・バイデン政権の誕生が確実になった11月以降に日本が宣言を行っていたら、「世界の後追いだ」と言われて評価されなかっただろう』、「日本がカーボンニュートラル宣言を出したのはギリギリのタイミングだった」、なるほど納得できた。
・『急に動き出した最大の要因は「アンモニア火力発電」 しかもこれが最も重要な部分だが、菅政権は苦しまぎれでカーボンニュートラル宣言を出したのではない。2050年までの実質排出ゼロは単なる絵空事ではない。菅首相の演説の直前、10月13日に火力発電最大手のJERA(東京電力と中部電力の火力発電事業統合会社)がアンモニアを活用して火力発電でも二酸化炭素(CO2)を実質排出させないロードマップを打ち出している。この動きこそが、菅首相のカーボンニュートラル宣言に現実味を持たせ、状況を察知した産業界の多くがどっと動き出す要因になった。 Q:確かに、蓄電池などの技術開発は漸進的でこの間にブレークスルーがあったわけではありません。今回のゲームチェンジャーは、火力発電のカーボンニュートラル化なのですね。 A:そうだ。JERAはすでにNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)からの受託事業として、アンモニア混焼の火力発電のフィージビリティスタディを行っている。2030年代前半にアンモニアの混焼率を20%程度とし、その後混焼率を拡大させて、2040年代にはアンモニア100%の専焼化に移行、それによってCO2排出をゼロにするというロードマップを打ち出している(アンモニアはNH3のため、燃やしてもCO2を発生しない)。 JERAと同様、水素とCO2を合成してメタンガス(天然ガスの主成分)を作る技術などを活用したカーボンニュートラル構想は昨年11月に東京ガスが発表していた。内閣府が所管する国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)でアンモニア直接燃焼の研究が進められてきたという経緯もある。もともとこの技術はトヨタ自動車発だといわれている。 Q:火力発電がCO2フリー化すると、電力全体の構造はどう変わりますか。 電力の脱炭素化の基盤となるのは、もちろん再生可能エネルギーで、こちらも今後間違いなく拡大する。ただ、再エネの発電は天候や時間帯に左右される。それをバックアップし、安定した電力を供給する調整用電源が必要になる。蓄電池はその候補だが、容量拡大やコストなど技術的課題を突破できる時期は見通せない。火力発電はこれまでも調整用電源を担っていたが、CO2を排出するため、バツが付いていた。しかし、アンモニアの活用により、火力発電はCO2フリーの調整用電源としての裏付けができた。 一部には、菅政権のカーボンニュートラル宣言は原子力発電の復活を狙っているとの声があるが、それは違う。菅政権は依然としてリプレース(建て替え)は行わないなど原発に対しては踏み込んでおらず、逆に火力発電の脱炭素化が実現するなら、CO2を出さない電源としての原発の必要性は薄れる。菅政権は安倍晋三政権時代と同様に原発をそっとしておくつもりだと思う』、「10月13日に火力発電最大手のJERA(東京電力と中部電力の火力発電事業統合会社)がアンモニアを活用して火力発電でも二酸化炭素(CO2)を実質排出させないロードマップを打ち出している。この動きこそが、菅首相のカーボンニュートラル宣言に現実味を持たせ、状況を察知した産業界の多くがどっと動き出す要因になった」、「アンモニアの活用により、火力発電はCO2フリーの調整用電源としての裏付けができた」、これらが技術的根拠になったようだ。
・『CO2の回収・貯留が最大の課題 Q:ただ、脱炭素化で先頭を走る欧州は、再生可能エネルギーで水を電気分解した水素・アンモニアを「グリーン」、天然ガスなど化石燃料から取り出した水素・アンモニアを「ブルー」と呼んで、後者の脱炭素化への効果に懐疑的な声を上げています。天然ガスから水素・アンモニアを作る過程で生じるCO2はどうするのでしょうか。 A:最終的な方向としてはもちろん、日本も再エネ由来の水素・アンモニアになるのだろう。しかし、再エネ価格が大幅に低下し、コストメリットで再エネ導入が進む欧州と、まだまだ再エネのコストメリットが見いだしにくい日本では事情が違う。現在の政府や民間のロードマップを見ても、日本はまず移行期として天然ガス由来の水素・アンモニアを想定している。 この部分は、非常に大きな課題だ。というのも、天然ガスから水素・アンモニアを作るときに発生するCO2を分離回収・貯留するCCS(二酸化炭素回収・貯留)の技術や装置で日本のメーカーは競争力を持つものの、CO2の貯留場所をいかに確保していくかについてはいまだ不確実なところがあるからだ。 天然ガス由来の水素やアンモニアを日本にどう持ちこむかについては、①資源国の設備において天然ガスから水素・アンモニアを作って、それを日本へ輸入するやり方と、②資源国からLNG(液化天然ガス)の形で輸入して、日本国内で水素・アンモニアを取り出すやり方の2つが想定されている。その際、資源国や日本国内でCO2を安全に貯留できる場所を確保する必要がある。 Q:CCSは容易ではない? A:世界を見ても、CCSを商用稼働しているのはアメリカ、オーストラリア、ノルウェイだけだ。海外では、枯渇してきた油田にCO2を押し込んで、その圧力で石油を取り出す形で利用されることが多い。石油生産の経済性を増すため、CO2は「商品」となっている。だが原油価格が一定以下に下落すると、不採算になるため、将来的な持続可能性は不明だ。 スウェーデンとノルウェイのエネルギー会社が主導するオランダの水素火力発電は2025年の稼働を予定し、既存の天然ガス火力発電から水素へ転換するものだ。天然ガスから水素を作るときに発生するCO2は、船舶でノルウェイへ送り、同国でCCSを行う方法が計画されている。ちなみにこの水素火力発電のタービンは三菱パワー製だ。日本勢はこうしたプロジェクトも参考にして、日本向けの構想を練っている』、「水素火力発電のタービンは三菱パワー製だ」、しかし全体としてのシステム構築は遅れているようだ。
・『水素社会は水素とアンモニアのすみ分けに Q:政府の発表や報道では、「水素」という言葉が使われており、一般の人たちはアンモニアと水素の違いなどで頭が混乱しやすいと思います。全体を整理すると、どうなりますか。 A:水素と空気中の窒素を合成すればアンモニアができるし、アンモニアを水素化することもできる。水素とアンモニアが近い関係にあることは事実だ。 ただし、経済産業省の中にも、燃料電池自動車(FCV)などを念頭に水素を中心に考えるグループと、電力を念頭にアンモニアを中心に考えるグループに分かれているようだ。水素とアンモニアをまとめて「水素社会」と呼んでごまかしているところはある。だが、当面はそれでもあまりまずいことにはならないだろう。 おおざっぱに言うと、日本の電力業界はみんなアンモニアによる火力発電へ突き進んでいる。アンモニアは毒性(強い刺激性)があり、コンシューマ用途には向かないが、工業や肥料用などで長年使用されてきたため、発電所や工場などではハンドリングしやすい。 一方、水素にはFCVに代表される自動車分野や家庭用のエネファームなどの用途があるが、貯蔵・運搬面で技術的課題がある。運搬方法では大きく2つの候補があり、1つはマイナス253℃まで水素を冷却して液化する方法、もう1つは水素にトルエンを混ぜてメチルシクロヘキサン(MCH)にして輸送・貯蔵する方法だ。MCHなら普通のコンテナで運ぶことができ、低コストだが、最後に水素を分離する際に約400℃の熱を加える必要がある。液体水素、MCHともに冷却や加熱によるコストの課題などを抱える。 Q:なるほど。発電はアンモニア、自動車など輸送機器は水素というすみ分けですね。しかし、発電所自体がアンモニア活用でCO2フリーになるなら、自動車業界が長年力説してきた「Well to Wheel」(油井から車輪まで)で見ても、全部EVでいいということになりますね』、なるほど。
・『自家用車はEV、大型など商用車はFCV EVは電池容量の関係で航続距離が短いこと、充電に30分以上かかることがネックとしてあるが、一般的な自家用車の利用としては問題ない。一方、トラックやバスなど大型車やフォークリフトといった商用分野では、航続距離や充時間(水素なら約3分)という要素が重要であり、水素が活用されるだろう。つまり、自家用車はEV、商用車はFCVというすみ分けだ。 インテグラル(すり合わせ)型に強い日本車メーカーは、モジュラー型(組み合わせ型)のEVに消極的だといわれてきた。しかし、実際にはトヨタなどは火力発電のCO2フリーというゲームチェンジャー登場を受けて、EVとFCVにがぜん力を入れ始めていると思う。 歴史を見るまでもなく、エネルギー政策は、安全保障と不可分一体です。日本が水素社会の方向へ舵を切るとすれば、外交にも影響は及びそうですね。 日本の外交戦略である「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)は、日米とインド、オーストラリアがカギを握るといわれている。こうした中で、水素戦略によって日本で大幅な需要拡大が予想される水素・アンモニアの調達先としては、オーストラリアが注目されている。米中対立の余波を受けて、中国がオーストラリアからの輸入を減らす方向だが、代わりに日本がオーストラリアからの天然ガスないし水素・アンモニアの輸入を増やすことはFOIPにとってもプラスという考え方だ。 日本はLNG(液化天然ガス)などの貿易や物流のノウハウで強みを持っている。その強みを発揮して、アジア地域での水素社会化やエネルギー輸送などで主導権を発揮することが期待される。また、CO2フリーの火力発電建設の輸出も期待できる。一方、中国も水素関連技術に強い関心を持っており、対中政策でも交渉カードの1つになるかもしれない』、「中国がオーストラリアからの輸入を減らす方向だが、代わりに日本がオーストラリアからの天然ガスないし水素・アンモニアの輸入を増やすことはFOIPにとってもプラスという考え方だ」、「日本」、「オーストラリア」両国にとってWinWinのいいアイデアだ。さらに「対中政策でも交渉カードの1つになるかもしれない」、とのおまけまでついてくるとは、対中政策でも交渉カードの1つになるかもしれない申し分なさそうだ。
タグ:しかし全体としてのシステム構築は遅れている 投資の急激な拡大」は事実としても、いきなり「義務化」とは何か理由があったのだろう 「日本がカーボンニュートラル宣言を出したのはギリギリのタイミングだった」、なるほど納得できた 「「水素」「EV」で急速に国策が動き出したワケ 橘川教授が語る「日本版脱炭素化の見取り図」」 水素火力発電のタービンは三菱パワー製だ 橘川武郎 「国民ひとりひとりが他人事ではなく、“わたくし事”として捉えることが大切だ」、理念的にはその通りだが、判断材料となるデータも示さずに、要求するのは筋違いだ アメリカ大統領がバイデンに代わることで、アメリカの規制も強化される方向だ 「2050年に目指すべき姿」を議論 変わるべきはクルマだけではない トヨタの舵取りはいかに? 「「2030年ガソリン車禁止」政府が探る落とし所 政府基本案のたたき台から読めた日本の方針」 HVの普及比率は、2017年時点で日本が31.6%と、アメリカの4.0%、ドイツの3.0%、フランスの4.8%、タイの2.7%、インドの0.03%と比べて圧倒的に高かった」、これにあぐらをかいていた 各国政策を踏まえての“落としどころ (その8)(政府が「2030年ガソリン車禁止」を打ち出した訳 方針急転換でメーカーの戦略修正は必須に、「2030年ガソリン車禁止」政府が探る落とし所 政府基本案のたたき台から読めた日本の方針、「水素」「EV」で急速に国策が動き出したワケ 橘川教授が語る「日本版脱炭素化の見取り図」) アンモニアの活用により、火力発電はCO2フリーの調整用電源としての裏付けができた 日本政府が電動化対応をしてこなかった訳 世界的なESG 「2030年前半、ガソリン車販売禁止」のニュース さらに「対中政策でも交渉カードの1つになるかもしれない」、とのおまけまでついてくるとは、対中政策でも交渉カードの1つになるかもしれない申し分なさそうだ 環境問題 桃田 健史 東洋経済オンライン 「達成目標」から「義務」へ CO2の回収・貯留が最大の課題 急に動き出した最大の要因は「アンモニア火力発電」 10月13日に火力発電最大手のJERA(東京電力と中部電力の火力発電事業統合会社)がアンモニアを活用して火力発電でも二酸化炭素(CO2)を実質排出させないロードマップを打ち出している。この動きこそが、菅首相のカーボンニュートラル宣言に現実味を持たせ、状況を察知した産業界の多くがどっと動き出す要因になった 水素社会は水素とアンモニアのすみ分けに 「中国がオーストラリアからの輸入を減らす方向だが、代わりに日本がオーストラリアからの天然ガスないし水素・アンモニアの輸入を増やすことはFOIPにとってもプラスという考え方だ」、「日本」、「オーストラリア」両国にとってWinWinのいいアイデアだ 自家用車はEV、大型など商用車はFCV 「政府が「2030年ガソリン車禁止」を打ち出した訳 方針急転換でメーカーの戦略修正は必須に」
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