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ESG(その1)(ESG投資がなぜ騒がれているか知っていますか 脱炭素の流れが大規模な資本の再配分を起こす、ESG投資のプロが語る「脱炭素マネー」の潮流 気候変動が生み出すリスクとビジネス機会、誤ったESGの議論は格差を拡大し成長を損なう 日本企業に株主主権の強化を求めたのは間違い) [企業経営]

今日は、ESG(その1)(ESG投資がなぜ騒がれているか知っていますか 脱炭素の流れが大規模な資本の再配分を起こす、ESG投資のプロが語る「脱炭素マネー」の潮流 気候変動が生み出すリスクとビジネス機会、誤ったESGの議論は格差を拡大し成長を損なう 日本企業に株主主権の強化を求めたのは間違い)を取上げよう。

先ずは、2月1日付け東洋経済オンライン「ESG投資がなぜ騒がれているか知っていますか 脱炭素の流れが大規模な資本の再配分を起こす」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/408511
・『「世界的な流れを力に、民間企業に眠る240兆円の現預金、さらには3000兆円ともいわれる海外の環境投資を呼び込む」 1月18日の施政方針演説で菅義偉首相はそう述べ、国内外の巨額マネーを誘導しグリーン成長戦略を実現する考えを表明した』、なるほど。
・『世界のESG投資残高は4000兆円規模に  「環境投資3000兆円」というのは、国際的なESG(環境・社会・企業統治)投資の調査機関であるGSIA(世界持続可能投資連合)の報告書を基にしている。それによると、2017年度末の世界のESG投資残高は30.7兆ドル(約3200兆円)で2年前から34%増えた。ESG投資の定義がかなり幅広く、E(環境)に限った投資ではないが、2020年には40兆ドルに近づいたとみられる。 『週刊東洋経済』2月1日発売号は「脱炭素サバイバル水素、EVめぐり大乱戦」を特集。世界各国が将来のグリーン戦略を示すなか、菅首相も「2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロに」と表明。日本でも脱炭素への大変革が始まった。特集では、日本の脱炭素戦略のポイント解説、日本モデルの問題点、グリーンマネーのうねり、アメリカ、欧州、中国の動向、日本の強み・ハイブリッド車のジレンマ、トヨタ自動車の燃料電池車の成否、アップルも参入するEV覇権争いの行方、鉄鋼・商社・重工業といった各産業の課題、EV・水素・再生可能エネルギーの注目70銘柄など、脱炭素で変わる世界と日本企業の実情に迫った。 直近のESG投資の勢いを実証するのが、ESG関連ETF(上場投資信託)への資金流入の急増だ。昨夏以降、世界全体の純流入額は急増。コロナ禍の中、再生可能エネルギーへの投資など気候変動対策を経済再生につなげる「グリーンリカバリー」が欧州を中心に世界的潮流となったことと軌を一にする。 日本国内でもESG投資熱は顕著だ。象徴的事例が、大手資産運用会社アセットマネジメントOneが2020年7月に運用を開始した追加型投信「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)」の絶大な人気だ。当初設定額で国内歴代2位の3830億円を集め、直近の純資産総額は9200億円まで膨らんだ。 個人投資家の参入も顕著だが、グリーンマネーの主役は何といってもグローバルな大手機関投資家だ。単に株や社債に投資するだけではない。企業に対してさまざまな形で脱炭素を迫る彼らの圧力は日に日に強まっている。 世界の500以上の機関投資家が加盟する投資家団体「クライメート・アクション100プラス」は、温室効果ガス排出量の多い世界167の企業とのエンゲージメント(対話)を通じ、2050年までの排出ゼロへ向けた目標設定と対策を求めている。 その団体にも加盟する世界最大の資産運用会社であるアメリカのブラックロック。同社のラリー・フィンクCEO(最高経営責任者)は気候変動リスクを先取りした形で「大規模な資本の再配分が起きる」との認識を示し、投資先企業に対して気候変動リスクの情報開示や対策の要求圧力を強める。同社は昨年、そうした対応が不十分だとして53社の株主総会で取締役選任案に反対票を投じるなどした。 HSBCグローバル・アセット・マネジメントの機関投資家ビジネス部門でESGリーダーを務めるサンドラ・カーライル氏は、「気候変動による現実のリスクが増大し、再エネなどのビジネス機会も増える中でESGが資本の流れを変えた」と話す。そして、環境政策を柱とするバイデン政権の誕生で、「カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)などの進歩的な投資家に限らず、(世界最大規模の)アメリカマネーの脱炭素シフトが本格化する」とみる』、確かに「バイデン政権の誕生」は大きな追い風のようだ。
・『日本の機関投資家も脱酸(正しくは「炭」)素を軸に選別  日本の機関投資家の間でも脱炭素を軸とした企業選別が進む。野村アセットマネジメントはカーボンプライシング(炭素の価格づけ)の仕組みを活用して企業の二酸化炭素(CO2)排出量をコストに換算し、財務情報に組み込んで投資判断に活用する。CO2はESG評価会社の推計値も使ってサプライチェーン全体の分も評価する。「今年1月から大手300社ほどを対象に始め、順次対象を広げる方針」(同社総合企画部)だ。 日本生命保険は今年4月から投融資全体にESG評価を導入する。国債や国内融資、不動産にもカバー範囲を広げ、気候変動をテーマとする企業対話も強化する。国内運用会社として最も早くESG評価を開始したニッセイアセットマネジメントのノウハウを活用した独自評価を行う。 SOMPOホールディングスは2020年9月、国内の石炭火力発電所の新規建設について保険引き受け・投融資は原則として行わないと発表。取引先の立地条件などから例外規定を残すものの、脱炭素への重要な一歩となる。「自然災害が増えていけば保険料が高騰し、損害保険という金融インフラの機能を果たせなくなる危惧がある。金融機能を使って影響力を行使し、気候変動問題の改善に貢献したい」と堀幸夫CSR室課長は話す。) 取締役選任への反対投票や株主提案を増やすなど、大手機関投資家は、今や「環境アクティビスト(物言う株主)」へ変容しつつあるといっても過言ではない。そうした流れに便乗するヘッジファンドなどの新興投資家や環境団体も増え、企業への圧力は増すばかりだ。 アメリカでは世界最大の石油・ガス開発会社のエクソン・モービルに対し、気候変動リスクへの対応の遅れで10兆円以上の株主価値が失われたとしてヘッジファンドが改革を要求している。エクソンに対しては、ブラックロックなども2020年の株主総会で会社側の取締役選任議案に反対票を投じた。 日本国内では昨年、環境NPOの気候ネットワークがみずほフィナンシャルグループに対し、脱炭素の行動計画を年次報告書で開示するよう定款変更を求める株主提案を行った。6月の株主総会で否決されたものの、海外の大手議決権行使助言会社が賛成を推奨し、野村アセットや農林中央金庫系運用会社を含む国内外株主の34.5%の支持を得た。 気候ネットワークの平田仁子理事はこう語る。「巨額の投融資を行う金融機関が資金の振り向け先をどうするかは決定的に重要だ。みずほの件で株主提案にはものすごい波及効果があるとわかった。今後も脱炭素に向けた金融の“うねり”の中で何ができるか考えたい」。ほかの環境団体と連携し、石炭火力発電を続ける企業の主要株主にダイベストメント(投資撤退)を求める要請書も送付している。 今後はEU(欧州連合)が導入を予定する「EUタクソノミー」の影響も注目される。何がグリーンな経済活動かを分類する基準となるもので、EUに拠点を置く機関投資家はその基準に従って運用状況を開示するよう求められる。彼らの投資先の日本企業や、彼らの資金を預かる国内運用会社への影響は避けられず、投資家による企業選別が加速する可能性は高い』、「大手機関投資家は、今や「環境アクティビスト(物言う株主)」へ変容しつつあるといっても過言ではない」、そこまできたかといささか驚かされた。「石炭火力発電」は日本だけが推進してきたが、ESGの観点から見直しも進みつつある。
・『日本企業の対応は待ったなし  日本企業の対応は待ったなしだ。大和総研でESG投資動向を分析する田中大介研究員は、「グリーン投資の拡大に伴い、環境対策や情報開示が従来と同じままでは企業の資金調達は難しくなる」と語る。そのうえで、化石燃料関連など脱炭素が短期的に難しい企業に対して資金を誘導する「トランジション(移行)ファイナンスの重要性も高まる」と指摘する。そうした企業の改善がない限り、社会全体の脱炭素達成は不可能だからだ。 政府がグリーン成長戦略の旗を明確に振り、企業が能動的に変革を進め、投資家が企業の成長への確信を強めてマネーを投じれば、脱炭素へ向けた歯車の回転は加速する。日本でその流れが本格化していくか。官民の本気度が問われることになる』、「日本で」「脱炭素へ向けた」「流れが本格化して」もらいたいものだ。

次に、2月6日付け東洋経済オンライン「ESG投資のプロが語る「脱炭素マネー」の潮流 気候変動が生み出すリスクとビジネス機会」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/409463
・『世界的な気候変動リスクへの関心の高まりと各国政府の脱炭素宣言もあって、環境・社会・企業統治を考慮したESG投資は全世界で急速に拡大している。中心的な担い手は、世界展開する欧米の大手機関投資家だ。 その1社であるHSBCグローバル・アセット・マネジメントで機関投資家ビジネス部門のESGリーダーを務めるサンドラ・カーライル氏は、ESGに関する資産運用業界のスポークスパーソン的存在であり、責任投資原則(PRI)のボードメンバーを務めた経験も持つ。同氏に、世界のESG投資の動向や日本企業のESG活動の評価などについて聞いた(Qは聞き手の質問、Aはカーライル氏の回答)』、「ESGに関する資産運用業界のスポークスパーソン的存在」の見解とは興味深そうだ。
・『ESGは資本の流れを変えた  Q:主要各国が2050年までのカーボン・ニュートラル達成方針を宣言したことを受け、世界のESG投資にはどんな変化が見られますか。 A:ESGは資本の流れに大きな変化を与えた。ESGは今や投資分析の重要な要素となった。気候変動はますます現実のリスクを生み出すと同時にビジネス機会をもたらしている。投資家は世界をESGの「レンズ」を通して見るようになり、それがビジネスへの資本の流れを変えている。 例えば、日本は1980年代以来、太陽光発電の技術でリーダーだった。ただ、1990年代に入っても太陽光技術の価値はあまり高く評価されなかった。でも今は、そうした技術を持つ企業が高く評価されるようになっている。 投資家はクリーンエネルギーやヘルスケアのようなESGの解決策に資金を投じるようになった。特定のESG関連指数に投資する投資家もいるし、ポートフォリオをゼロカーボンに近づけようとする投資家もいる。HSBCが取り組んでいるようなナチュラル・キャピタル(水資源や森林などの自然資本)のファンドに資金を投じる投資家もいる。 Q:気候変動対策に積極的なバイデン政権に転換したことで、アメリカの投資家の姿勢はどう変わるでしょうか。 A:アメリカの投資家の中でもカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)など一部の機関投資家はESGに関して非常に進歩的な考え方をしている。日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)と同様だ。一方で、ほかの多くの投資家ははるかに遅れており、ESGをまったく配慮しない投資家もいる。 バイデン大統領は気候変動対策と環境正義(Environmental Justice)を政策の柱としている。そのため、アメリカの投資家全体の間でESGへの関心が高まり、資金の流れに本格的な変化が起こるだろう。 アメリカの投資家は欧州やアジアの投資家に比べて投資のスタンダードや枠組みをより重視しており、アメリカのSASB(サステイナビリティ会計基準審議会)のルールをESG投資の際の参照基準としている』、「投資家は世界をESGの「レンズ」を通して見るようになり、それがビジネスへの資本の流れを変えている」、「投資家はクリーンエネルギーやヘルスケアのようなESGの解決策に資金を投じるようになった」、「バイデン大統領は気候変動対策と環境正義・・・を政策の柱としている。そのため、アメリカの投資家全体の間でESGへの関心が高まり、資金の流れに本格的な変化が起こるだろう」、なるほど。
・『ESG投資はリターンに結びつくのか  Q:ESG投資は必ずしも市場平均以上の投資リターンには結びつかないと言われてきました。 A:ESGを組み込んだ投資や財務分析は必ずしも投資パフォーマンスにつながるとはいえない。ESGはパフォーマンスを生み出す1つの要素にすぎないからだ。しかし、中長期的なリスク調整後リターンで言えば、環境や従業員・株主への対応などのESGをうまく管理する企業は、中長期的によりよいパフォーマンスを上げるとわれわれは考えている。 Q:グリーンな経済活動を分類するEU(欧州連合)のタクソノミー規則が市場に導入された場合の影響をどう考えますか。 A:2021年3月に欧州のアセットマネジメント(資産運用)会社に対するディスクロージャー(情報開示)規則が施行される。欧州以外の誰もがその規則がどう機能し、何が開示されるかに注目している。 ほかの国々は必ずしもEUと同じタクソノミーを導入しないだろう。EUタクソノミーはかなり制限的であるためで、部分的に自国に合うものを取り入れることになろう。重要なのは、ローカル市場を反映した規則であることだ。スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードと同様に、他の地域とまったく同じものである必要はない。 日本は2022年にかけてEUタクソノミーの導入状況と欧州の投資家の反応を見たうえで将来、日本国内の投資家のための規則をつくることになるかもしれない。ただ、何がサステイナブル(持続可能)な事業活動かを投資家により多く情報開示することは、EU方式かEU以外の方式かにかかわらず、非常に重要な原則だ』、「中長期的なリスク調整後リターンで言えば、環境や従業員・株主への対応などのESGをうまく管理する企業は、中長期的によりよいパフォーマンスを上げる」、「日本は2022年にかけてEUタクソノミーの導入状況と欧州の投資家の反応を見たうえで将来、日本国内の投資家のための規則をつくることになるかもしれない」、なるほど。
・『日本企業のESG活動の強みは  Q:HSBCが本社を置くイギリスはEUから離脱しましたが、HSBCはEUタクソノミーにどう対応していますか。 A:HSBCの顧客はグローバルであり、EU域内のフランスやドイツなどでも大きなビジネスを行っている。われわれは規則に従ってEUタクソノミーを適用することになるし、グローバルな顧客のために何がいいかを考えている。顧客は5年ぐらい前からESG情報を求めるようになっており、われわれは世界各地域で非常に多くの情報開示を行っている。 Q:日本企業のESG活動における長所と短所についてどう見ていますか。 A:日本企業の長所として感じるのは、ESGに関する情報開示と説明の必要性を強く認識していることだ。日本でスチュワードシップ・コードが導入されたことが大きな契機となった。日本企業のSDGs(持続可能な開発目標)に関する行動方針をまとめたステートメントは非常に実践的なもので、それは日本に行って企業と対話するたびに感じる。 また、日本企業はSDGsを国際的に考え、それが日本企業にとって何を意味するかをよく考えている。ジェンダー・ダイバーシティ(女性の活躍推進)など社会問題に焦点を当てた取り組みも大きな強みだ。 一方、日本企業の課題と思われるのは、国際的な投資家として期待するレベルの対話を行うことが英米の企業に比べて依然難しいことだ。そのため、投資家として情報を得ることが比較的難しい。一部の日本企業の対応は極めていいが、閉鎖的な企業もまだ多い。文化的な行動様式の違いもあろうが、国際的に見れば変化はまだスローといえるかもしれない。 もちろん、過去10年間の変化は常にポジティブなものだった。投資家との対話や議論が増え、ESGに焦点を当てた取り組みが増えたのは確かだ。 Q:文化的な違いというのは言語を含めてですか。 A:言語は常に障壁になっている。これは日本に限ったことではない。言語の違いも含め、投資家との議論や対話を行う文化が英米企業に比べると進んでいるとはいえない。ただ、そうした文化は変化してきており、ESG重視によって大きな前進が見られる』、「一部の日本企業の対応は極めていいが、閉鎖的な企業もまだ多い。文化的な行動様式の違いもあろうが、国際的に見れば変化はまだスローといえるかもしれない」、「投資家との議論や対話を行う文化が英米企業に比べると進んでいるとはいえない」、やはり課題も多そうだ。
・『重要なのは脱炭素化の「証拠」  Q:石油・ガス業界など化石燃料関連の企業にはどう対応していますか。 A:われわれは気候変動リスクの観点からあらゆる産業の企業を分析する。投資先企業については、CO2排出原単位(carbon intensity)を見るために、ビジネスモデルのカーボン・フットプリント(商品・サービスのライフサイクル全体で排出された温室効果ガスをCO2排出量に換算して「見える化」する仕組み)を調べる。 もちろん化石燃料関連の企業はCO2排出原単位が高いので、より厳密に分析する。そうした企業に対して脱炭素化のプランを尋ねる。ネットゼロ達成に向けて、期間はどれくらいを想定しているのか。目標達成に向けてどのような課題があり、どのような技術を用いるのか。 さらに、非常に実務的な質問として、経営陣の報酬を脱炭素化の取り組みに連動させているかといったことも聞く。そうした分析を通じて脱炭素へ向けた勝者と敗者を判断し、ポートフォリオの低カーボン化を進めている。重要なのは、脱炭素化へのトランジション(移行)を確信できる証拠があるかどうかだ。 Q:ダイベストメント(投資撤退)の対象となる企業とは。 A:投資家の一部はすでに石炭や石油・ガスの関連企業の株式を売ったり、投資対象から外したりしている。だが、われわれは異なるアプローチをしている。企業との話し合いやエンゲージメント(建設的対話)を重視する。2021年の現在、どの業界のどの企業が将来的にトランジションに成功するか失敗するかを正確に見通すことはできないからだ。 そのため、原則としてわれわれはダイベストメントを行わない。投資を続け、エンゲージメントを行う。もしくは、リスク調整後リターンで見てリスクが非常に高い場合には新たな投資は行わない。 Q:ESG投資についてはすでに「バブル」との見方も一部にあります。 A:市場でブーム&バスト(バブルとその崩壊)が起こるのは、あるタイプの投資やESGストーリーに投資家が一斉に群がり、市場価格が上昇して過剰評価の状態になるためだ。これに対し、ESGを財務分析の1つの要素と考え、ROEやレバレッジ、資産価格なども踏まえて投資を行えば、ブーム&バストにはつながりにくい』、「ESGを財務分析の1つの要素と考え、ROEやレバレッジ、資産価格なども踏まえて投資を行えば、ブーム&バストにはつながりにくい」、確かにその通りなのかも知れない。
・『コロナ禍がグリーンスワンかもしれない  Q:BIS(国際決済銀行)が報告書で警告した気候変動発の金融危機「グリーンスワン」についてはどう考えますか。 A:気候変動には未知のことが多い。2020年は地球の平均気温が過去最高の気温を記録した年となり、地球温暖化が進んでいるのは事実だ。昨年は(台風などの)熱帯性暴風雨も過去最多となったが、こうした気候変動がこの先、われわれにどう影響するかは見通せない。グリーンスワンのようなことが発生する可能性は否定できないだろう。 人類が自然への侵害、開発を増やしていけばグローバル・パンデミックを引き起こすという科学的証拠も指摘されている。もしかしたら今(のコロナ禍)がまさにその状況であり、グリーンスワン的な出来事と言えるかもしれない。 グリーンスワンを防ぐには、気候変動リスクを考え、それに対応していくことだ。グリーンスワンを待つことはやめよう。課題を理解し、対応策を考えていけば、リスクに対処できるだろう。われわれはポートフォリオの見直しを通じて、リスクに対応していく。 Q:HSBCグローバル・アセット・マネジメントは合弁で「自然資本」に投資する会社を設立しました。 A:自然資本としては例えば農地や農業、林業・山林管理、海洋保全、マングローブ林やサンゴ礁の保全などが対象となる。太陽光発電や風力発電事業などは対象とならない。今のところリスクの少ない先進国が対象だ。 投資家は自然保護の必要性を理解しており、われわれが創設した自然資本ファンドへの関心は非常に強い。現在のファンドの規模は小さいため、機関投資家のためのより大規模なファンドを設定する予定だ』、「自然資本ファンド」のリターンは、農産物や材木、海産物などなのだろうが、誰が管理・栽培するのかにより大きな違いが出てくるので、果たして「ファンド」ビジネスが成り立つのだろうか。

第三に、4月5日付け東洋経済オンラインが掲載した日銀出身で前早稲田大学教授、現在、(社)自律分散社会フォーラム代表理事の岩村 充氏による「誤ったESGの議論は格差を拡大し成長を損なう 日本企業に株主主権の強化を求めたのは間違い」を紹介しよう。これはかなり理論的だが、経済システムの問題もをキレイに解き明かしている好論文だ。
https://toyokeizai.net/articles/-/420597
・『ESG経営あるいはESG投資といった議論が盛んになってきた。Eは環境、Sは社会、そしてGは企業統治だが資本主義下では株主ガバナンスといってよい。これらの観点を経営管理あるいは投資の軸に据えることで、企業は発展し、環境や社会全体、ほかのステークホルダー(顧客、従業員、取引先など)などにもよい影響を与えるはずとする議論である。 しかし、この議論、そもそも筋がおかしくないだろうか。EとSは多くの人が賛同する「目標」だが、Gは目標達成のための「手段」にすぎない。そのGをEやSと同格の目標であるかのように扱うのは、議論のすり替えでありただの政治的アジテーションではないか。浅い考えでGの強化を叫ぶことは、EやSをよくするどころか、かえって損なう要因になりかねない』、冒頭から岩村氏らしい理論的なパンチだ。
・『株主ガバナンス強化論はなぜ間違いなのか  そのことを、今や経済学の基本定理といえる「コースの定理」の考え方を用いて整理しよう。図にするとわかりやすいので次ページに掲載した(「図」はリンク先参照)。 横軸に企業の新しい可能性に対するチャレンジ度をとり、縦軸に企業のステークホルダーである株主と従業員に生じる変化に対する限界的な(単位当たりの)利益と損失をとることにする。 企業経営のチャレンジ度が上がることで株主に生じる限界的な利益を図示すると、それは一般的には右下がりの軌跡となる。なぜなら、企業が新たな機会に挑戦して得られる追加的なリターンは最初のうちこそ大きいが、その程度を上げていくうちに、持てる経営資源の限界に制約され徐々に低下するはずだからだ。 一方、チャレンジ度の増加が従業員にもたらす単位当たりの損失は右上がりの直線である。企業が新しいことに挑戦すると、従業員たちが蓄えていた業務に関する知識や経験は、新しい状況に応じて改めて作り直されなければならない。また、企業がチャレンジ度を上げるにしたがって倒産可能性も増加する。株主は分散投資によって倒産による損失をコントロールできるのに対し、従業員にはそれができないからだ。 この図を見ていくと、2014年に経済産業省の研究会の成果として公表された『伊藤レポート』に代表される、株主ガバナンス強化論の大きな問題点が明らかになる。 企業活動水準について見ると、企業がまったくリスクに挑戦しないXは確かに過小だが、株主利益が最大化されるYは従業員に生じる負担という点で明らかに過大である。では最適点はどこなのだろうか。それは、株主利益を示す右上がり直線と従業員損失を示す右下がり直線の交点Zである。 この図では、企業のステークホルダーたちに生じた利益や損失の大きさが、面積として表現されている。それをAからDまでの4つの三角形に分けて確認しておこう。まずAの部分、これは株主に生じた金銭的利益から、従業員に生じた社会的損失を差し引いたネットベースでの社会的サープラス(余剰)である。この部分を黄色に塗っておくことにする。 次はBとCだが、ここはマクロでみればゼロサムの部分だ。株主に生じた利益と従業員に生じた損失とが打ち消し合って、経済価値の移転、従業員から株主への移転だけが生じているだけの部分だからだ。 問題はDの部分だ。ここは、株主利益が存在しないのに社会的損失だけが生じていることを示す部分である。これを放置する国家や経済は衰え、やがては消滅の日を迎えるかもしれない。この部分、わかりやすくするために青で塗っておくことにしよう。 こう説明すれば、日本経済全体にとって中間点Zの合理性は明らかだろう。企業が水準Zを選択してくれれば、CとDの部分は関係者に意識はされても現実には存在しなくなるから、企業活動はネットベースではAの大きさに相当する富を作り出してくれることになる。では、どういう方法で企業決定をZに導いたらよいだろうか』、この「コースの定理」に基づいた「図」は、難しいが、かなり高度なことが盛り込まれているようだ。
・『社会とって最適なZで合意することは可能だ  そこで想起するのが「コースの定理」である。コースの考えによれば、この図でZと表記した最適な企業活動水準は、当事者同士が交渉して合意し、その合意を遵守すれば実現可能である。最適水準Zが選ばれるかどうかは、企業経営の主導権を株主が握っているのか、従業員が持っているのかには関係なく、両者の交渉と合意により実現できるはずだというのである。どうしてそうなるのか。 まず、企業がどの活動水準を選ぶか、それを決める権限を株主あるいは株主の代理人である経営陣が持っているとしよう。そのとき経営陣は活動水準として当然のようにYを選ぶだろうか。彼らが賢く、かつ従業員から誠実さにおいて信頼されているとすれば、もっとよい方法がある。Yよりも自重した水準であるZを選び、Yを選んでほしくないと考える従業員たちに相応の見返りを求めるという戦略が存在するのだ。 ちなみに、ここで従業員に求める見返りの大きさはCの面積よりは大きく、CとDを合わせた面積よりも小さなものでなければならない。Cの面積よりは大きくないと株主に利益がないし、CとDの合計より大きくなると従業員の賛成を得られないからだ。 やや具体的なイメージで言えば、彼ら経営陣としては、従業員に対して、「企業活動レベルを水準Zまで自制自重するから、その代わり、会社に忠誠心を持って参加してくれ、賃金は少なめでも頑張ってくれ、自分の会社での役割を意識して切磋琢磨してくれ」などと説くわけだ。何の合意もなく株主ガバナンス論を振りかざして水準Yを選ぶのではなく、従業員との合意の上でZを選んだほうが、株主にとっても従業員にとっても好ましい状態になる。 これに気づけば、単純な株主ガバナンス強化論が見落としていることは明らかだろう。問答無用型の株主ガバナンスは、従業員たちと経営陣との交渉あるいは合意形成への努力を無意味化することにより、日本全体に大きな外部不経済をもたらしかねないのだ。 ところで、この水準Zは、企業の意思決定を従業員が完全に握っていて、株主は企業の株式を持つか売るかの自由しかないときでも、同様に実現しうる。 この場合は、株主から従業員にBよりは大きくAとBの合計よりは小さい価値移転が生じる。結果として株主に残るのはAの面積の一部でしかないものの、企業がまったく新しいことに挑戦しないで何も得られない状態よりは、株主にとって好ましい状況を作り出せる。従業員たちも何のチャレンジもせずに水準Xにとどまっているより大きな報酬が得られるはずだ』、「何の合意もなく株主ガバナンス論を振りかざして水準Yを選ぶのではなく、従業員との合意の上でZを選んだほうが、株主にとっても従業員にとっても好ましい状態になる」、「問答無用型の株主ガバナンスは、従業員たちと経営陣との交渉あるいは合意形成への努力を無意味化することにより、日本全体に大きな外部不経済をもたらしかねない」、「株主ガバナンス論」を完膚なきまで叩きのめしたのはさすがだ。
・『同じZでも株主支配か従業員支配かで分配は変わる  しかし、ここで注意したいことがある。それは、企業活動水準として社会的最適点であるZを選ぶことに変わりはないのに、株主に支配されている場合と従業員に支配されている場合とでは、企業活動の成果の「分配」は大きく変わっているということである。 株主が企業を支配している場合には、株主に本来の帰属利益であるA+Bに加えてCとDの一部を合わせた大きさの従業員からの移転利益が生じる。従業員には本来の帰属損失Bに加えてCとDの一部を合わせた大きさの株主への移転損失が生じる。これに対し、従業員が企業を支配している場合には、従業員にAの一部の大きさの利益が生じて、株主にはAの残余部分に相当する利益しか生じないであろう。 つまり、企業経営が社会全体にとって最適な選択をするかどうかには関係なく、企業支配における株主の立場を強化することは、富める者をより富ませ、貧しいものをより貧しさせる効果があるわけだ。 そして、これはGの強化により日本経済全体の高い成長を実現できるなどと口にする政治家たちの思考不足をあざ笑うものでもある。なぜなら、一般に富裕層の消費性向は低く貧困層の消費性向は高い。だから、貧富の格差拡大は公正あるいは社会正義の問題だけでなく、いわゆる総需要の伸び悩みをも通じて国民経済成長の足を引っ張るのである。株主ガバナンス論は、長期的には日本を貧しくしかねないのである。 そこまで考えれば、第2次大戦後の公職追放の結果として従業員出身取締役に支配されていたとされる日本企業についても見方が変わってくるだろう。アングロサクソン型経営が世界標準となる中で、従業員に軸足を置きすぎと批判されるようになった日本的経営こそが、あの「高度経済成長」の理由の一つだったかもしれないという気がしてくるからである。そして似たような話がありそうなのは日本だけではない。重要な意思決定には従業員代表の同意が必要だとする「共同決定法」という法律の下にあった旧西ドイツがそれだ。 日本の企業経営に活力が失われた理由も、冷戦終了後のドイツの企業から輝きが消えていった理由も、国際的資本移動自由化の下で株主優遇を競い合うというという意味での「底辺への競争」に呑み込まれ、結果として株主以外のステークホルダー、とりわけ従業員たちとの合意を重視しなくなったことに関係があるだろうと筆者は考えている』、「貧富の格差拡大は公正あるいは社会正義の問題だけでなく、いわゆる総需要の伸び悩みをも通じて国民経済成長の足を引っ張るのである。株主ガバナンス論は、長期的には日本を貧しくしかねないのである」、「従業員に軸足を置きすぎと批判されるようになった日本的経営こそが、あの「高度経済成長」の理由の一つだったかもしれないという気がしてくるからである。そして似たような話がありそうなのは日本だけではない。重要な意思決定には従業員代表の同意が必要だとする「共同決定法」という法律の下にあった旧西ドイツがそれだ」、こうした経済システムの問題まで「コースの定理」に基づいた図で解き明かすとは、さすがだ。
・『環境や社会への影響を専門に見る取締役が必要  そうしたなか、もう2年近く前になる2019年8月に、筆者が衝撃を受けたニュースがあった。アメリカのトップ企業経営者たちが作るフォーラムであるビジネスラウンドテーブルが、これからの企業経営について、株主だけを重視するのではなく、従業員や地域住民などの広範なステークホルダーたちとの対話と合意を尊重すべきと提言したのである。 提言に関する日本メディアの伝え方には、これは大企業が格差拡大による批判を怖れたからだ、そこまでアメリカにおける分配の不平等は深刻なのだ、というニュアンスのものが多かった。しかし、コースの定理に沿って考えれば、この提言は株主利益のかさ上げにも使えることは明らかである。強力な株主主権の下で株主代表である経営陣が従業員その他のステークホルダーたちと交渉すれば、前掲の図のDの大部分は株主に帰属し、貧富の格差はさらに拡大する可能性だってありうるのだ。そのことを突いた論説が展開されることがなかったのは、わが国の知的貧困であると思う。 本当はどうすればよいのか。企業ガバナンスを改革して格差是正につなげる、本当にSを実現するためにGを変える。それにはどうすればよいのだろうか。旧西ドイツ流の「共同決定法」はもはや答えにならないと思う。いわゆる資本移動の自由化によって生まれた国家間での資本誘致競争、いわゆる底辺への競争のもとでは、一国だけがそんな法律を作っても無意味だからだ。 筆者が状況を改善するアイデアになりうると思っているのは、株式会社の経営陣ラインアップに、株主利益への奉仕ではなく、自由にEやSのために、社会の持続可能性のためだけに奉仕する役割を付託された取締役を設置する運動を始めることなのだ。それについては場を改めて語りたい』、この提案はまだいささか唐突だ。「場を改めて語りたい」、待ちどおしい。
タグ:「ESG投資がなぜ騒がれているか知っていますか 脱炭素の流れが大規模な資本の再配分を起こす」 東洋経済オンライン (その1)(ESG投資がなぜ騒がれているか知っていますか 脱炭素の流れが大規模な資本の再配分を起こす、ESG投資のプロが語る「脱炭素マネー」の潮流 気候変動が生み出すリスクとビジネス機会、誤ったESGの議論は格差を拡大し成長を損なう 日本企業に株主主権の強化を求めたのは間違い) ESG 確かに「バイデン政権の誕生」は大きな追い風のようだ。 世界のESG投資残高は4000兆円規模に 「大手機関投資家は、今や「環境アクティビスト(物言う株主)」へ変容しつつあるといっても過言ではない」、そこまできたかといささか驚かされた。「石炭火力発電」は日本だけが推進してきたが、ESGの観点から見直しも進みつつある。 「日本で」「脱炭素へ向けた」「流れが本格化して」もらいたいものだ 「ESG投資のプロが語る「脱炭素マネー」の潮流 気候変動が生み出すリスクとビジネス機会」 「ESGに関する資産運用業界のスポークスパーソン的存在」の見解とは興味深そうだ 「投資家は世界をESGの「レンズ」を通して見るようになり、それがビジネスへの資本の流れを変えている」、「投資家はクリーンエネルギーやヘルスケアのようなESGの解決策に資金を投じるようになった」 「バイデン大統領は気候変動対策と環境正義 を政策の柱としている。そのため、アメリカの投資家全体の間でESGへの関心が高まり、資金の流れに本格的な変化が起こるだろう」、なるほど。 「中長期的なリスク調整後リターンで言えば、環境や従業員・株主への対応などのESGをうまく管理する企業は、中長期的によりよいパフォーマンスを上げる」 「日本は2022年にかけてEUタクソノミーの導入状況と欧州の投資家の反応を見たうえで将来、日本国内の投資家のための規則をつくることになるかもしれない」、なるほど。 「一部の日本企業の対応は極めていいが、閉鎖的な企業もまだ多い。文化的な行動様式の違いもあろうが、国際的に見れば変化はまだスローといえるかもしれない」、「投資家との議論や対話を行う文化が英米企業に比べると進んでいるとはいえない」、やはり課題も多そうだ。 「ESGを財務分析の1つの要素と考え、ROEやレバレッジ、資産価格なども踏まえて投資を行えば、ブーム&バストにはつながりにくい」、確かにその通りなのかも知れない。 「自然資本ファンド」のリターンは、農産物や材木、海産物などなのだろうが、誰が管理・栽培するのかにより大きな違いが出てくるので、果たして「ファンド」ビジネスが成り立つのだろうか。 岩村 充 「誤ったESGの議論は格差を拡大し成長を損なう 日本企業に株主主権の強化を求めたのは間違い」 EとSは多くの人が賛同する「目標」だが、Gは目標達成のための「手段」にすぎない。そのGをEやSと同格の目標であるかのように扱うのは、議論のすり替えでありただの政治的アジテーションではないか。 冒頭から岩村氏らしい理論的なパンチだ 株主ガバナンス強化論はなぜ間違いなのか この「コースの定理」に基づいた「図」は、難しいが、かなり高度なことが盛り込まれているようだ。 「何の合意もなく株主ガバナンス論を振りかざして水準Yを選ぶのではなく、従業員との合意の上でZを選んだほうが、株主にとっても従業員にとっても好ましい状態になる」、「問答無用型の株主ガバナンスは、従業員たちと経営陣との交渉あるいは合意形成への努力を無意味化することにより、日本全体に大きな外部不経済をもたらしかねない」、「株主ガバナンス論」を完膚なきまで叩きのめしたのはさすがだ。 同じZでも株主支配か従業員支配かで分配は変わる 「貧富の格差拡大は公正あるいは社会正義の問題だけでなく、いわゆる総需要の伸び悩みをも通じて国民経済成長の足を引っ張るのである。株主ガバナンス論は、長期的には日本を貧しくしかねないのである」、 「従業員に軸足を置きすぎと批判されるようになった日本的経営こそが、あの「高度経済成長」の理由の一つだったかもしれないという気がしてくるからである。そして似たような話がありそうなのは日本だけではない。重要な意思決定には従業員代表の同意が必要だとする「共同決定法」という法律の下にあった旧西ドイツがそれだ」、こうした経済システムの問題まで「コースの定理」に基づいた図で解き明かすとは、さすがだ。 この提案はまだいささか唐突だ。「場を改めて語りたい」、待ちどおしい。
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