電機産業(その4)(相次ぐ幹部の慎重論に「新旧社長」が下した決断 パナソニック、逆風の社内で7800億円買収の攻防、現場を見て「腹落ちした」自らのビジョンとの関係 パナ新社長「就任目前」で巨額買収に同意した胸中、日立グループ再編「最後の抵抗勢力」を攻略 新社長の日立ハイテク“操縦術”) [産業動向]
電機産業については、6月26日に取上げた。今日は、(その4)(相次ぐ幹部の慎重論に「新旧社長」が下した決断 パナソニック、逆風の社内で7800億円買収の攻防、現場を見て「腹落ちした」自らのビジョンとの関係 パナ新社長「就任目前」で巨額買収に同意した胸中、日立グループ再編「最後の抵抗勢力」を攻略 新社長の日立ハイテク“操縦術”)である。
先ずは、8月16日付け東洋経済Plus「相次ぐ幹部の慎重論に「新旧社長」が下した決断 パナソニック、逆風の社内で7800億円買収の攻防」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27804
・『アメリカのソフトウェア企業買収を決断。M&Aに失敗し続けた過去から脱し、長年の停滞を抜け出せるか。 2021年にアメリカのソフトウェア企業「ブルーヨンダー」を71億ドル(約7800億円)で買収するパナソニック。しかし、巨額買収で失敗した過去の歴史を記憶している社内の役員らの間では反対する声が大きかった。 2020年秋以降の買収の議論が本格化した期間は、2021年6月の社長交代が決まった時期とも重なる。長引く業績停滞からの脱却を探る、新旧それぞれの社長がブルーヨンダーに懸けた狙いは何か。 パナソニック経営陣が買収を決断するに至った内幕に、前編・後編で迫る』、興味深そうだ。
・『短期間で迫られた決断 6月の定時株主総会を経てパナソニックの社長となった楠見雄規氏は社長就任前の1月、法人向けシステム事業を担う社内カンパニー、コネクティッドソリューションズ(CNS)の現場視察や、幹部らとの意見交換に回っていた。 「おまえが反対するなら俺はやらん」 2020年10月末に社長の内示を受けた後、津賀一宏社長(当時)からそう告げられた楠見氏。判断を委ねられたのは、サプライチェーンマネジメントを手掛けるアメリカのソフトウェア企業・ブルーヨンダーの買収だ。買収金額は71億ドル(約7800億円)に上る。 楠見氏が社長の内示を受けたときの肩書は車載事業のトップ。技術者としてテレビなどAV機器の開発に携わった経験も過去にはあるが、ブルーヨンダーが直接関係する法人向けシステム事業については「他人事」だった。 「たくさんお金を使うんだな」。社内会議でブルーヨンダーの買収をめぐる議論が出ても、当時の楠見氏の認識はその程度だった。 それが次期社長に決まって早々、「反対するかしないか短時間で」(楠見氏)決断を迫られ、買収が会社の成長に資するものか否か、見極めが急務となっていた』、「車載事業のトップ」であれば、「たくさんお金を使うんだな」で済むが、「次期社長」となれば、「「反対するかしないか短時間で」(楠見氏)決断を迫られ」るのはやむを得ない。
・『買収主導の役員の焦り その楠見氏に現場を見るよう勧めた人物がいる。CNS社のトップであり、買収の窓口役でもあった樋口泰行(注)代表取締役専務だ。 樋口氏は「横からバイアスをかけるようなことはせず、プレーンに(先入観なく、ブルーヨンダーとの協業が進む各事業を)見てもらいたかった」と振り返る。 が、樋口氏の内心は焦りに駆られていた。かねてブルーヨンダーの完全買収を狙っていた樋口氏にとって、当時のパナソニックやブルーヨンダーの社内を覆う雰囲気はまさしく逆風だった。 パナソニックは2020年5月、8億ドル(約860億円)でブルーヨンダーの株式を20%取得すると発表。すでにこの時点で、樋口氏は完全子会社化を求めていた。パナソニックに知見が足りないソフトウェア技術を取り込み、得意のハードウェアと組み合わせることでシナジーを出し、ハードウェアに依存するパナソニックの収益構造を転換する一手になると確信していたからだ。 だが、樋口氏の狙いはかなわなかった。パナソニックは1990年代前半、映画会社のMCA(現・NBCユニバーサル)を買収した際にシナジーをうまく生み出せず、4年後に株式の大半を手放した(上図)。こうした過去の失敗が脳裏に浮かぶ社内の幹部らの反発は、あまりに大きかった。 一方、新型コロナウイルスの流行で世界ではサプライチェーンが寸断されるなどの事態が相次ぎ、サプライチェーンに対する企業の関心は高まった。ブルーヨンダーは、人工知能を活用した製品の需要や納期を予測するソフトウェアを開発し、企業の生産や在庫、物流の管理を効率化する支援を行う。同社が手掛けるような、サプライチェーン関連のソフトウェアの需要拡大への期待は高まっていった。 2020年7月に20%の株式取得が完了後も、ブルーヨンダーの既存株主であるファンド2社はIPO(新規株式公開)で高値がつくと強気の姿勢を示し、ブルーヨンダー社内はIPOに向けた議論を本格化させていた。 「上場していたら、(買収金額が)110億~130億ドルまで上がったかもしれない」(樋口氏)。社内はただでさえ巨額買収に尻込みしているのに、さらに金額が上がれば、買収は困難になる。樋口氏に、社内の説得に回る時間的猶予はなくなっていた。 樋口氏はパナソニックの幹部が集まるグループ戦略会議で、ブルーヨンダーの完全買収を再び提案することにした。 「樋口さんのコミットメント(責任)について書かれていないと通りませんから、(資料に)書いておきます」。CNS社の原田秀昭上席副社長は買収に関する会議用の資料を作成する際に、樋口氏に耳打ちした。同意した樋口氏は「自分が全責任をとる」と覚悟を決め、会議に臨んだ』、「樋口氏」は責任感が強いプロ経営者だ。
(注)樋口泰行:パナソニックからハーバード・ビジネス・スクールでMBA、日本ヒューレットパッカード社長、ダイエー社長、マイクロソフト日本のCOOを経て、パナソニックに復帰という異色の経歴(Wikipedia)。
・『焦点となった楠見氏の意向 2020年12月、いよいよブルーヨンダー買収の議論が本格化する中、津賀社長(当時)はCNS社の坂元寛明副社長の説明に耳を傾けていた。津賀氏は、パナソニックの経営陣の中で真っ先に買収への理解を深めた1人だった。 【2021年8月16日9時27分追記】坂元寛明氏の漢字表記を上記の通り修正いたします。 坂元氏が率いるモバイルソリューションズ事業部では、主力製品であるパソコン「レッツノート」などのサプライチェーン管理でブルーヨンダーのソフトウェアを導入していた。 導入により、業務効率がいかに改善したか。坂元氏は役員会議室の壁に、その効果を図表で示したポスター大の紙を貼り付け、津賀氏にブルーヨンダーの重要性を力説した。 多くの幹部が異議を唱える中、津賀氏は早くから買収の必要性を感じていた。 2012年に社長に就任して以降、津賀氏はBtoCが主体だったパナソニックの成長戦略にBtoB強化を据えた。柱の1つが、CNS社が中心に展開するソリューション事業だったが、その成功にはブルーヨンダーが持つようなソフトウェア技術が不可欠と在任期間中に痛感していた。坂元氏の説明を聞いて、パナソニック社内の改革につながることも理解した津賀氏はブルーヨンダー買収への自信を深めた。 しかし、仮にブルーヨンダーの買収が実現したとしても、その時点でパナソニックを率いる社長は楠見氏になる。社内の合意を得るうえで、まず楠見氏が納得するかが焦点となった。津賀氏は坂元氏の話を聞くよう、楠見氏に勧めた』、自分の意見を押し付けない「津賀氏」も大したものだ。
次に、この続き、8月16日付け東洋経済Plus「現場を見て「腹落ちした」自らのビジョンとの関係 パナ新社長「就任目前」で巨額買収に同意した胸中」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27814
・『アメリカのソフトウェア企業買収を決断。M&Aに失敗し続けた過去から脱し、長年の停滞を抜け出せるか。 2021年にアメリカのソフトウェア企業「ブルーヨンダー」を71億ドル(約7800億円)で買収するパナソニック。しかし、巨額買収で失敗した過去の歴史を記憶している社内の役員らの間では反対する声が大きかった。 2020年秋以降の買収の議論が本格化した期間は、2021年6月の社長交代が決まった時期とも重なる。長引く業績停滞からの脱却を探る、新旧それぞれの社長がブルーヨンダーに懸けた狙いは何か。 前編では、買収の主導者として社内の説得に走った樋口泰行代表取締役専務の焦燥や、津賀一宏前社長が買収の必要性を確信した経緯を追った。後編となる今回は、巨額買収に同意した楠見雄規新社長の心中に迫る』、興味深そうだ。
・『新社長が見た2つの現場 2020年10月末に社長の内示を受けた後、前社長の津賀氏に「おまえが反対するなら俺はやらん」と、ブルーヨンダー買収の判断を委ねられた楠見氏。津賀氏や買収の窓口役だった樋口氏の助言を受け、樋口氏がトップを務める社内カンパニー、コネクティッドソリューションズ(CNS)社を2021年1月に視察した。 楠見氏がそこで見たのは、ブルーヨンダーのソフトウェアを実際に導入したモバイルソリューションズ事業部と、製造や物流現場の効率化に向けたソリューションを提供する「現場プロセス」事業だった。 パソコン「レッツノート」の製造などを手がけるモバイルソリューションズ事業部では、製品の在庫や部材調達の状況、受注動向、納期などについて、神戸や台湾といった各工場の状況がリアルタイムでシステム上に表示されていた。 ブルーヨンダー導入前は、在庫や部材調達の動向に関する情報収集に追われて現場の社員が疲弊し、会議も状況を報告するだけの場と化していた。 それがブルーヨンダー導入後は、各工場の情報などを自動で細かく把握できるようになり、廃棄や評価減の対象となる在庫を導入前より1割削減できたほか、業務効率化の効果も表れ始めていた。 一方の現場プロセス事業は、センサーや画像認識技術を用いて製造や物流、小売りの各現場の状況を把握し、顧客企業に最適な業務フローや人員配置などのソリューション提案を行っている。 楠見氏は事業を担当する幹部らから、ブルーヨンダーのソフトウェアを導入したり、組み合わせたりすることにより、事業強化を図ることができるとの説明を受けた。 それぞれの現場を見終えた楠見氏は、ブルーヨンダー買収と自らが考える会社の成長ビジョンがいかに関係するものか、「腹落ちした」(楠見氏)という。』、社内で「ブルーヨンダー」を「導入」したのは格好のテストになり、「楠見氏」が「腹落ちした」のは何より説得力がある。
・『再成長に見いだした2本の柱 社長の内示を受けて以降、楠見氏は業績停滞の長引くパナソニックを再び成長軌道へと乗せるための糸口について思いをめぐらせてきた。着目したのが、現場力の強化と、環境問題への対応だった。 【2021年8月16日12時12分追記】初出時の図表表記に一部誤りがありました。お詫びの上、上記のように修正いたします。 現場の社員1人ひとりが日々、自分の業務について改善を重ねるのが現場力だが、最近のパナソニックの社員について楠見氏は「決められた仕事は真面目にやるが、それをさらに改善させることがおざなりになっていた」と指摘。「思考停止とまでは言わないが、1人ひとりが考えることが薄れてきている」(楠見氏)と危機感をにじませる。 他方で、楠見氏が再成長に欠かせない分野と考えたのが環境問題だ。 かつて創業者の松下幸之助は会社経営の使命として、蛇口をひねれば水道水が出るように、安価で良質なモノを提供する「水道哲学」を掲げた。根底には、「精神的な安定と物資の無尽蔵の供給が相まって初めて、人生の幸福が安定する」という考えがある。 現代では、多くの先進国や新興国はモノにあふれている。しかし楠見氏は「環境破壊や天然資源の枯渇を考えれば、次の世代まで豊かな生活が送れるか大きな不安がある」と考え、環境問題の解決につながる事業こそ「パナソニックの使命」と解釈した。 楠見氏なりに再成長の糸口を見いだし始めた過程で視察した、ブルーヨンダーと関連する事業の現場。それは自らのビジョンを実現するためにも、買収が必要と確信させるものだった。 視察を終えた楠見氏はブルーヨンダーの買収に同意することを決断。2021年4月の買収発表会見に、樋口氏とともに臨んだ。そこに当時社長だった津賀氏の姿はなかった』、後任者へのプレッシャーを減らそうとする「津賀氏」の動きもさすがだ。
・『現場の無駄撲滅で会社を変える パナソニックは工場や倉庫などで作業状況を把握するための機器を開発し、ブルーヨンダーはこうした機器を使って得たデータを活用するソフトウェアを持つ。両社の技術を組み合わせて無駄な作業や在庫を撲滅すれば、パナソニックが失ってきた、現場のオペレーション力を高められる。楠見氏は「パナソニックを変えるための投資だ」と強調する。 「パナソニックをショーケースとして顧客に見せるなど、(ソリューション事業の)営業で使える」と樋口氏が展望するように、社内の改革は、津賀前社長の時代から強化してきたBtoB事業拡大への弾みにもなる。 不要な生産や物流プロセスなどを抑制するノウハウやソリューションを世界の企業に提供できれば、環境問題の解決につながる。ブルーヨンダー買収と楠見氏が見据える成長ビジョンは、ここでも方向性が合致する。 パナソニックがブルーヨンダー買収を通じて最終的に描くのは、「オートノマス(自律的な)サプライチェーン」という壮大な未来だ。サプライチェーンの上流から下流まで、ソフトウェアと現場に設置したデバイスやセンサーを連携させ、自動運転のようなオペレーション体制の構築・提供を目指す』、「ブルーヨンダー買収を通じて最終的に描くのは、「オートノマス・・・サプライチェーン」という壮大な未来だ」、これは夢物語に近い印象も受ける。
・『顧客拡大には障壁も もっともパナソニックとブルーヨンダーが手がけるソリューションを導入する顧客が、どれほどの勢いで増えるかは未知数だ。 IT分野への理解が欧米より遅れている国内で、ブルーヨンダーのソフトウェアを提案することはとくにハードルが高い。パナソニック社内でも「本当に自分の事業に(ブルーヨンダーの)ソフトウェアを導入する必要があるのか」(家電部門幹部)と疑問視する声も一部にあり、今も理解が十分得られているわけではない。 買収を主導した樋口氏自身、「日本(企業での導入)はものすごく障害が大きい」と認め、「先進的な考え方を持つ顧客と成功事例を重ねることが大事」と話す。 すでにブルーヨンダーの顧客基盤がある欧米でも、パナソニックの技術力を組み合わせて他社と差別化できる「キラービジネス」(樋口氏)を開発できるかが、事業拡大の行方を左右する。 パナソニックは過去の買収で組織統合などに失敗した経験も踏まえ、ブルーヨンダーの経営の独立性を重視する方針を打ち出す。ただ買収に巨額を投じる以上、協業での成果をスピード感を持って生み出すことが当然求められる。 ブルーヨンダーの買収は2021年内に完了する予定。社内改革、環境分野での成長と一挙両得を狙う巨額買収で、パナソニックを再成長へと導けるか。楠見新体制は、早くも重責を担いスタートする』、「先進的な考え方を持つ顧客と成功事例を重ねることが大事」、なのは確かだ。「協業」が上手くいき、「パナソニック」び「再成長」につながってほしいものだ。
第三に、9月27日付けダイヤモンド・オンライン「日立グループ再編「最後の抵抗勢力」を攻略、新社長の日立ハイテク“操縦術”」を紹介しよう。
・:『週刊ダイヤモンド』10月2日号の第1特集は「日立財閥 最強グループの真贋」です。東芝、三菱電機、パナソニックなど日系電機メーカーが凋落する中、唯一気を吐いているのが日立製作所だ。デジタル化を軸にした同社の改革は本物だったのか、本当に世界で勝てる実力が付いたのか――。脱製造業のモデル、日立の真贋に迫ります』、興味深そうだ。
・『日立復活の裏に「二番底危機」や“虎の子上場子会社”の抵抗があった 日立製作所は、かつて「総合電機」を名乗っていたパナソニックや東芝に比べて、頭一つ抜けた存在になった。 リーマンショック後の2009年3月期決算では、7873億円という日系製造業史上で過去最大の最終赤字に沈んだが、そこからV字回復を果たし、現在の時価総額は4倍超に達している。 (日立製作所の歴代社長とパナソニック、三菱電機と比べた時価総額の推移はリンク先参照) 日立は収益力を改善しただけではない。事業の買収と売却を繰り返して、旧来の製造業からデジタル技術を使ったソリューション事業へと本業をシフトしてきたのだ。 しかし、日立の改革は外部から見えているほどには順風満帆ではなかった。 東原敏昭会長兼CEO(最高経営責任者)は14年に中西宏明氏から社長を引き継いだ後、社内の実態を知るにつけ、「このままでは日立がもう一回赤字になるという危機感をひしひしと感じていた」とダイヤモンド編集部の取材に対して明かしている。 リーマンショック後、倒産の危機を経験したばかりにもかかわらず、他人に任せておけば何とかなるという弛緩した意識が蔓延。「大企業病が払拭できておらず、いわゆる茹でガエル状態だった」(東原氏)というのだ』、なるほど。
・『カリスマでも崩せなかった牙城 日立ハイテクの支配権握った新社長 順調に見えた日立グループの組織再編でも、グループ企業から強い反発を受けてきた。抵抗勢力の1つが、“虎の子上場子会社”だった日立ハイテクである。 あまり知られていないが、デジタル化とのシナジーが見込めない事業の売却を進めていた中西氏は日立ハイテクの経営陣に、「半導体装置事業は外へ出したほうがいい」と呼び掛けていた。 しかし、日立ハイテクは中西氏の提案には従わなかった。同社は日立グループの中でも独立心が強く、利益も出ていたため、親会社の意向を無視するだけの「力」があったのだ。 中西氏といえば、日立のV字回復の立役者であり、社内での求心力を高めていたところだった。そのカリスマ経営者をもってしても、日立ハイテクの牙城は切り崩せなかったのである。 日立グループにはリーマンショック前、22社もの上場子会社があった。同グループは自立心が強い独立王国の集合体であり、日立本体もそれを良しとしていた。 だが経営危機後、川村隆、中西、東原の歴代3社長は、子会社が低収益事業を温存することを防ぐために経営のグリップを強め、中央集権化」といえどもにかじを切った。 中央集権化の成果の一つが、子会社の統合や売却である。とりわけ上場子会社については、親会社である日立と少数株主との間に利益相反が起きやすい。そのため、売却するか完全子会社化するかの経営判断は急務でもあった。 日立ハイテク(注)は最後に残った上場子会社4社のうちの1社。日立ハイテクの組織再編は、日立にとって、大きな懸案の一つだったのだ。 そして、その「手ごわい子会社」を説得し、ついに完全子会社化を実現したのが、6月に日立社長に就任した小島啓二氏である。 結果的に、日立ハイテクは切り売りされるのではなく、日立本体に取り込まれることになった。それでも、日立ハイテクの社員に平穏な日々が訪れるわけではない。 日立は、完全子会社化によって日立ハイテクの支配権を手にした上で、構造改革を行おうとしているのだ』、「子会社」といえども上場会社であれば、親会社の思うようにはいかないのは当然だ。
(注)日立ハイテク:2001年、エレクトロニクス専門商社である日製産業と日立製作所計測器グループ、同半導体製造装置グループが統合し誕生(同社HP)。
・『社長交代、米IT企業巨額買収で共通するパナソニックと徹底比較 『週刊ダイヤモンド』10月2日号の第1特集は「日立財閥 最強グループの真贋」です。 特集では、日立製作所が完全子会社化した日立ハイテクで行おうとしている構造改革の全貌を解明。 また、日立と同時期に米IT企業の巨額買収と社長交代を行ったパナソニックや、デジタルトランスフォーメーション(DX)事業で先行する独シーメンスといった競合他社との実力差を明らかにします。 日立は、低収益事業やデジタル化と相性の悪い事業を売却し、DX事業で世界に打って出られる事業ポートフォリオを構築しました。そこに到るまでには売却されたグループ会社社員らの痛みや苦しみがありました。 小島新社長が、歴代社長から受けたバトンは極めて重いものがあります。「世界のDX市場でグローバル大手に勝つ」という日立の悲願に向けて走り始めた小島氏が大ゴケすれば、リーマンショック後の日立の努力は水の泡になってしまいます。 それだけではありません。日立の戦略が頓挫すれば、「脱製造業」化に舵を切り、デジタル技術を使ったソリューションを提供するという国内製造業の生き残りシナリオに疑問符が付くことにもなます。 『週刊ダイヤモンド』10月2日号の第1特集は、国内製造業の“最後の砦”、日立の事業構造改革の真贋に総力取材で迫りました』、「「脱製造業」化に舵を切り、デジタル技術を使ったソリューションを提供するという国内製造業の生き残りシナリオ」、「日立」に限らずどこかが成功して「生き残りシナリオ」を示してほしいものだ。
先ずは、8月16日付け東洋経済Plus「相次ぐ幹部の慎重論に「新旧社長」が下した決断 パナソニック、逆風の社内で7800億円買収の攻防」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27804
・『アメリカのソフトウェア企業買収を決断。M&Aに失敗し続けた過去から脱し、長年の停滞を抜け出せるか。 2021年にアメリカのソフトウェア企業「ブルーヨンダー」を71億ドル(約7800億円)で買収するパナソニック。しかし、巨額買収で失敗した過去の歴史を記憶している社内の役員らの間では反対する声が大きかった。 2020年秋以降の買収の議論が本格化した期間は、2021年6月の社長交代が決まった時期とも重なる。長引く業績停滞からの脱却を探る、新旧それぞれの社長がブルーヨンダーに懸けた狙いは何か。 パナソニック経営陣が買収を決断するに至った内幕に、前編・後編で迫る』、興味深そうだ。
・『短期間で迫られた決断 6月の定時株主総会を経てパナソニックの社長となった楠見雄規氏は社長就任前の1月、法人向けシステム事業を担う社内カンパニー、コネクティッドソリューションズ(CNS)の現場視察や、幹部らとの意見交換に回っていた。 「おまえが反対するなら俺はやらん」 2020年10月末に社長の内示を受けた後、津賀一宏社長(当時)からそう告げられた楠見氏。判断を委ねられたのは、サプライチェーンマネジメントを手掛けるアメリカのソフトウェア企業・ブルーヨンダーの買収だ。買収金額は71億ドル(約7800億円)に上る。 楠見氏が社長の内示を受けたときの肩書は車載事業のトップ。技術者としてテレビなどAV機器の開発に携わった経験も過去にはあるが、ブルーヨンダーが直接関係する法人向けシステム事業については「他人事」だった。 「たくさんお金を使うんだな」。社内会議でブルーヨンダーの買収をめぐる議論が出ても、当時の楠見氏の認識はその程度だった。 それが次期社長に決まって早々、「反対するかしないか短時間で」(楠見氏)決断を迫られ、買収が会社の成長に資するものか否か、見極めが急務となっていた』、「車載事業のトップ」であれば、「たくさんお金を使うんだな」で済むが、「次期社長」となれば、「「反対するかしないか短時間で」(楠見氏)決断を迫られ」るのはやむを得ない。
・『買収主導の役員の焦り その楠見氏に現場を見るよう勧めた人物がいる。CNS社のトップであり、買収の窓口役でもあった樋口泰行(注)代表取締役専務だ。 樋口氏は「横からバイアスをかけるようなことはせず、プレーンに(先入観なく、ブルーヨンダーとの協業が進む各事業を)見てもらいたかった」と振り返る。 が、樋口氏の内心は焦りに駆られていた。かねてブルーヨンダーの完全買収を狙っていた樋口氏にとって、当時のパナソニックやブルーヨンダーの社内を覆う雰囲気はまさしく逆風だった。 パナソニックは2020年5月、8億ドル(約860億円)でブルーヨンダーの株式を20%取得すると発表。すでにこの時点で、樋口氏は完全子会社化を求めていた。パナソニックに知見が足りないソフトウェア技術を取り込み、得意のハードウェアと組み合わせることでシナジーを出し、ハードウェアに依存するパナソニックの収益構造を転換する一手になると確信していたからだ。 だが、樋口氏の狙いはかなわなかった。パナソニックは1990年代前半、映画会社のMCA(現・NBCユニバーサル)を買収した際にシナジーをうまく生み出せず、4年後に株式の大半を手放した(上図)。こうした過去の失敗が脳裏に浮かぶ社内の幹部らの反発は、あまりに大きかった。 一方、新型コロナウイルスの流行で世界ではサプライチェーンが寸断されるなどの事態が相次ぎ、サプライチェーンに対する企業の関心は高まった。ブルーヨンダーは、人工知能を活用した製品の需要や納期を予測するソフトウェアを開発し、企業の生産や在庫、物流の管理を効率化する支援を行う。同社が手掛けるような、サプライチェーン関連のソフトウェアの需要拡大への期待は高まっていった。 2020年7月に20%の株式取得が完了後も、ブルーヨンダーの既存株主であるファンド2社はIPO(新規株式公開)で高値がつくと強気の姿勢を示し、ブルーヨンダー社内はIPOに向けた議論を本格化させていた。 「上場していたら、(買収金額が)110億~130億ドルまで上がったかもしれない」(樋口氏)。社内はただでさえ巨額買収に尻込みしているのに、さらに金額が上がれば、買収は困難になる。樋口氏に、社内の説得に回る時間的猶予はなくなっていた。 樋口氏はパナソニックの幹部が集まるグループ戦略会議で、ブルーヨンダーの完全買収を再び提案することにした。 「樋口さんのコミットメント(責任)について書かれていないと通りませんから、(資料に)書いておきます」。CNS社の原田秀昭上席副社長は買収に関する会議用の資料を作成する際に、樋口氏に耳打ちした。同意した樋口氏は「自分が全責任をとる」と覚悟を決め、会議に臨んだ』、「樋口氏」は責任感が強いプロ経営者だ。
(注)樋口泰行:パナソニックからハーバード・ビジネス・スクールでMBA、日本ヒューレットパッカード社長、ダイエー社長、マイクロソフト日本のCOOを経て、パナソニックに復帰という異色の経歴(Wikipedia)。
・『焦点となった楠見氏の意向 2020年12月、いよいよブルーヨンダー買収の議論が本格化する中、津賀社長(当時)はCNS社の坂元寛明副社長の説明に耳を傾けていた。津賀氏は、パナソニックの経営陣の中で真っ先に買収への理解を深めた1人だった。 【2021年8月16日9時27分追記】坂元寛明氏の漢字表記を上記の通り修正いたします。 坂元氏が率いるモバイルソリューションズ事業部では、主力製品であるパソコン「レッツノート」などのサプライチェーン管理でブルーヨンダーのソフトウェアを導入していた。 導入により、業務効率がいかに改善したか。坂元氏は役員会議室の壁に、その効果を図表で示したポスター大の紙を貼り付け、津賀氏にブルーヨンダーの重要性を力説した。 多くの幹部が異議を唱える中、津賀氏は早くから買収の必要性を感じていた。 2012年に社長に就任して以降、津賀氏はBtoCが主体だったパナソニックの成長戦略にBtoB強化を据えた。柱の1つが、CNS社が中心に展開するソリューション事業だったが、その成功にはブルーヨンダーが持つようなソフトウェア技術が不可欠と在任期間中に痛感していた。坂元氏の説明を聞いて、パナソニック社内の改革につながることも理解した津賀氏はブルーヨンダー買収への自信を深めた。 しかし、仮にブルーヨンダーの買収が実現したとしても、その時点でパナソニックを率いる社長は楠見氏になる。社内の合意を得るうえで、まず楠見氏が納得するかが焦点となった。津賀氏は坂元氏の話を聞くよう、楠見氏に勧めた』、自分の意見を押し付けない「津賀氏」も大したものだ。
次に、この続き、8月16日付け東洋経済Plus「現場を見て「腹落ちした」自らのビジョンとの関係 パナ新社長「就任目前」で巨額買収に同意した胸中」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27814
・『アメリカのソフトウェア企業買収を決断。M&Aに失敗し続けた過去から脱し、長年の停滞を抜け出せるか。 2021年にアメリカのソフトウェア企業「ブルーヨンダー」を71億ドル(約7800億円)で買収するパナソニック。しかし、巨額買収で失敗した過去の歴史を記憶している社内の役員らの間では反対する声が大きかった。 2020年秋以降の買収の議論が本格化した期間は、2021年6月の社長交代が決まった時期とも重なる。長引く業績停滞からの脱却を探る、新旧それぞれの社長がブルーヨンダーに懸けた狙いは何か。 前編では、買収の主導者として社内の説得に走った樋口泰行代表取締役専務の焦燥や、津賀一宏前社長が買収の必要性を確信した経緯を追った。後編となる今回は、巨額買収に同意した楠見雄規新社長の心中に迫る』、興味深そうだ。
・『新社長が見た2つの現場 2020年10月末に社長の内示を受けた後、前社長の津賀氏に「おまえが反対するなら俺はやらん」と、ブルーヨンダー買収の判断を委ねられた楠見氏。津賀氏や買収の窓口役だった樋口氏の助言を受け、樋口氏がトップを務める社内カンパニー、コネクティッドソリューションズ(CNS)社を2021年1月に視察した。 楠見氏がそこで見たのは、ブルーヨンダーのソフトウェアを実際に導入したモバイルソリューションズ事業部と、製造や物流現場の効率化に向けたソリューションを提供する「現場プロセス」事業だった。 パソコン「レッツノート」の製造などを手がけるモバイルソリューションズ事業部では、製品の在庫や部材調達の状況、受注動向、納期などについて、神戸や台湾といった各工場の状況がリアルタイムでシステム上に表示されていた。 ブルーヨンダー導入前は、在庫や部材調達の動向に関する情報収集に追われて現場の社員が疲弊し、会議も状況を報告するだけの場と化していた。 それがブルーヨンダー導入後は、各工場の情報などを自動で細かく把握できるようになり、廃棄や評価減の対象となる在庫を導入前より1割削減できたほか、業務効率化の効果も表れ始めていた。 一方の現場プロセス事業は、センサーや画像認識技術を用いて製造や物流、小売りの各現場の状況を把握し、顧客企業に最適な業務フローや人員配置などのソリューション提案を行っている。 楠見氏は事業を担当する幹部らから、ブルーヨンダーのソフトウェアを導入したり、組み合わせたりすることにより、事業強化を図ることができるとの説明を受けた。 それぞれの現場を見終えた楠見氏は、ブルーヨンダー買収と自らが考える会社の成長ビジョンがいかに関係するものか、「腹落ちした」(楠見氏)という。』、社内で「ブルーヨンダー」を「導入」したのは格好のテストになり、「楠見氏」が「腹落ちした」のは何より説得力がある。
・『再成長に見いだした2本の柱 社長の内示を受けて以降、楠見氏は業績停滞の長引くパナソニックを再び成長軌道へと乗せるための糸口について思いをめぐらせてきた。着目したのが、現場力の強化と、環境問題への対応だった。 【2021年8月16日12時12分追記】初出時の図表表記に一部誤りがありました。お詫びの上、上記のように修正いたします。 現場の社員1人ひとりが日々、自分の業務について改善を重ねるのが現場力だが、最近のパナソニックの社員について楠見氏は「決められた仕事は真面目にやるが、それをさらに改善させることがおざなりになっていた」と指摘。「思考停止とまでは言わないが、1人ひとりが考えることが薄れてきている」(楠見氏)と危機感をにじませる。 他方で、楠見氏が再成長に欠かせない分野と考えたのが環境問題だ。 かつて創業者の松下幸之助は会社経営の使命として、蛇口をひねれば水道水が出るように、安価で良質なモノを提供する「水道哲学」を掲げた。根底には、「精神的な安定と物資の無尽蔵の供給が相まって初めて、人生の幸福が安定する」という考えがある。 現代では、多くの先進国や新興国はモノにあふれている。しかし楠見氏は「環境破壊や天然資源の枯渇を考えれば、次の世代まで豊かな生活が送れるか大きな不安がある」と考え、環境問題の解決につながる事業こそ「パナソニックの使命」と解釈した。 楠見氏なりに再成長の糸口を見いだし始めた過程で視察した、ブルーヨンダーと関連する事業の現場。それは自らのビジョンを実現するためにも、買収が必要と確信させるものだった。 視察を終えた楠見氏はブルーヨンダーの買収に同意することを決断。2021年4月の買収発表会見に、樋口氏とともに臨んだ。そこに当時社長だった津賀氏の姿はなかった』、後任者へのプレッシャーを減らそうとする「津賀氏」の動きもさすがだ。
・『現場の無駄撲滅で会社を変える パナソニックは工場や倉庫などで作業状況を把握するための機器を開発し、ブルーヨンダーはこうした機器を使って得たデータを活用するソフトウェアを持つ。両社の技術を組み合わせて無駄な作業や在庫を撲滅すれば、パナソニックが失ってきた、現場のオペレーション力を高められる。楠見氏は「パナソニックを変えるための投資だ」と強調する。 「パナソニックをショーケースとして顧客に見せるなど、(ソリューション事業の)営業で使える」と樋口氏が展望するように、社内の改革は、津賀前社長の時代から強化してきたBtoB事業拡大への弾みにもなる。 不要な生産や物流プロセスなどを抑制するノウハウやソリューションを世界の企業に提供できれば、環境問題の解決につながる。ブルーヨンダー買収と楠見氏が見据える成長ビジョンは、ここでも方向性が合致する。 パナソニックがブルーヨンダー買収を通じて最終的に描くのは、「オートノマス(自律的な)サプライチェーン」という壮大な未来だ。サプライチェーンの上流から下流まで、ソフトウェアと現場に設置したデバイスやセンサーを連携させ、自動運転のようなオペレーション体制の構築・提供を目指す』、「ブルーヨンダー買収を通じて最終的に描くのは、「オートノマス・・・サプライチェーン」という壮大な未来だ」、これは夢物語に近い印象も受ける。
・『顧客拡大には障壁も もっともパナソニックとブルーヨンダーが手がけるソリューションを導入する顧客が、どれほどの勢いで増えるかは未知数だ。 IT分野への理解が欧米より遅れている国内で、ブルーヨンダーのソフトウェアを提案することはとくにハードルが高い。パナソニック社内でも「本当に自分の事業に(ブルーヨンダーの)ソフトウェアを導入する必要があるのか」(家電部門幹部)と疑問視する声も一部にあり、今も理解が十分得られているわけではない。 買収を主導した樋口氏自身、「日本(企業での導入)はものすごく障害が大きい」と認め、「先進的な考え方を持つ顧客と成功事例を重ねることが大事」と話す。 すでにブルーヨンダーの顧客基盤がある欧米でも、パナソニックの技術力を組み合わせて他社と差別化できる「キラービジネス」(樋口氏)を開発できるかが、事業拡大の行方を左右する。 パナソニックは過去の買収で組織統合などに失敗した経験も踏まえ、ブルーヨンダーの経営の独立性を重視する方針を打ち出す。ただ買収に巨額を投じる以上、協業での成果をスピード感を持って生み出すことが当然求められる。 ブルーヨンダーの買収は2021年内に完了する予定。社内改革、環境分野での成長と一挙両得を狙う巨額買収で、パナソニックを再成長へと導けるか。楠見新体制は、早くも重責を担いスタートする』、「先進的な考え方を持つ顧客と成功事例を重ねることが大事」、なのは確かだ。「協業」が上手くいき、「パナソニック」び「再成長」につながってほしいものだ。
第三に、9月27日付けダイヤモンド・オンライン「日立グループ再編「最後の抵抗勢力」を攻略、新社長の日立ハイテク“操縦術”」を紹介しよう。
・:『週刊ダイヤモンド』10月2日号の第1特集は「日立財閥 最強グループの真贋」です。東芝、三菱電機、パナソニックなど日系電機メーカーが凋落する中、唯一気を吐いているのが日立製作所だ。デジタル化を軸にした同社の改革は本物だったのか、本当に世界で勝てる実力が付いたのか――。脱製造業のモデル、日立の真贋に迫ります』、興味深そうだ。
・『日立復活の裏に「二番底危機」や“虎の子上場子会社”の抵抗があった 日立製作所は、かつて「総合電機」を名乗っていたパナソニックや東芝に比べて、頭一つ抜けた存在になった。 リーマンショック後の2009年3月期決算では、7873億円という日系製造業史上で過去最大の最終赤字に沈んだが、そこからV字回復を果たし、現在の時価総額は4倍超に達している。 (日立製作所の歴代社長とパナソニック、三菱電機と比べた時価総額の推移はリンク先参照) 日立は収益力を改善しただけではない。事業の買収と売却を繰り返して、旧来の製造業からデジタル技術を使ったソリューション事業へと本業をシフトしてきたのだ。 しかし、日立の改革は外部から見えているほどには順風満帆ではなかった。 東原敏昭会長兼CEO(最高経営責任者)は14年に中西宏明氏から社長を引き継いだ後、社内の実態を知るにつけ、「このままでは日立がもう一回赤字になるという危機感をひしひしと感じていた」とダイヤモンド編集部の取材に対して明かしている。 リーマンショック後、倒産の危機を経験したばかりにもかかわらず、他人に任せておけば何とかなるという弛緩した意識が蔓延。「大企業病が払拭できておらず、いわゆる茹でガエル状態だった」(東原氏)というのだ』、なるほど。
・『カリスマでも崩せなかった牙城 日立ハイテクの支配権握った新社長 順調に見えた日立グループの組織再編でも、グループ企業から強い反発を受けてきた。抵抗勢力の1つが、“虎の子上場子会社”だった日立ハイテクである。 あまり知られていないが、デジタル化とのシナジーが見込めない事業の売却を進めていた中西氏は日立ハイテクの経営陣に、「半導体装置事業は外へ出したほうがいい」と呼び掛けていた。 しかし、日立ハイテクは中西氏の提案には従わなかった。同社は日立グループの中でも独立心が強く、利益も出ていたため、親会社の意向を無視するだけの「力」があったのだ。 中西氏といえば、日立のV字回復の立役者であり、社内での求心力を高めていたところだった。そのカリスマ経営者をもってしても、日立ハイテクの牙城は切り崩せなかったのである。 日立グループにはリーマンショック前、22社もの上場子会社があった。同グループは自立心が強い独立王国の集合体であり、日立本体もそれを良しとしていた。 だが経営危機後、川村隆、中西、東原の歴代3社長は、子会社が低収益事業を温存することを防ぐために経営のグリップを強め、中央集権化」といえどもにかじを切った。 中央集権化の成果の一つが、子会社の統合や売却である。とりわけ上場子会社については、親会社である日立と少数株主との間に利益相反が起きやすい。そのため、売却するか完全子会社化するかの経営判断は急務でもあった。 日立ハイテク(注)は最後に残った上場子会社4社のうちの1社。日立ハイテクの組織再編は、日立にとって、大きな懸案の一つだったのだ。 そして、その「手ごわい子会社」を説得し、ついに完全子会社化を実現したのが、6月に日立社長に就任した小島啓二氏である。 結果的に、日立ハイテクは切り売りされるのではなく、日立本体に取り込まれることになった。それでも、日立ハイテクの社員に平穏な日々が訪れるわけではない。 日立は、完全子会社化によって日立ハイテクの支配権を手にした上で、構造改革を行おうとしているのだ』、「子会社」といえども上場会社であれば、親会社の思うようにはいかないのは当然だ。
(注)日立ハイテク:2001年、エレクトロニクス専門商社である日製産業と日立製作所計測器グループ、同半導体製造装置グループが統合し誕生(同社HP)。
・『社長交代、米IT企業巨額買収で共通するパナソニックと徹底比較 『週刊ダイヤモンド』10月2日号の第1特集は「日立財閥 最強グループの真贋」です。 特集では、日立製作所が完全子会社化した日立ハイテクで行おうとしている構造改革の全貌を解明。 また、日立と同時期に米IT企業の巨額買収と社長交代を行ったパナソニックや、デジタルトランスフォーメーション(DX)事業で先行する独シーメンスといった競合他社との実力差を明らかにします。 日立は、低収益事業やデジタル化と相性の悪い事業を売却し、DX事業で世界に打って出られる事業ポートフォリオを構築しました。そこに到るまでには売却されたグループ会社社員らの痛みや苦しみがありました。 小島新社長が、歴代社長から受けたバトンは極めて重いものがあります。「世界のDX市場でグローバル大手に勝つ」という日立の悲願に向けて走り始めた小島氏が大ゴケすれば、リーマンショック後の日立の努力は水の泡になってしまいます。 それだけではありません。日立の戦略が頓挫すれば、「脱製造業」化に舵を切り、デジタル技術を使ったソリューションを提供するという国内製造業の生き残りシナリオに疑問符が付くことにもなます。 『週刊ダイヤモンド』10月2日号の第1特集は、国内製造業の“最後の砦”、日立の事業構造改革の真贋に総力取材で迫りました』、「「脱製造業」化に舵を切り、デジタル技術を使ったソリューションを提供するという国内製造業の生き残りシナリオ」、「日立」に限らずどこかが成功して「生き残りシナリオ」を示してほしいものだ。
タグ:電機産業 (その4)(相次ぐ幹部の慎重論に「新旧社長」が下した決断 パナソニック、逆風の社内で7800億円買収の攻防、現場を見て「腹落ちした」自らのビジョンとの関係 パナ新社長「就任目前」で巨額買収に同意した胸中、日立グループ再編「最後の抵抗勢力」を攻略 新社長の日立ハイテク“操縦術”) 東洋経済Plus 「相次ぐ幹部の慎重論に「新旧社長」が下した決断 パナソニック、逆風の社内で7800億円買収の攻防」 「車載事業のトップ」であれば、「たくさんお金を使うんだな」で済むが、「次期社長」となれば、「「反対するかしないか短時間で」(楠見氏)決断を迫られ」るのはやむを得ない。 「樋口氏」は責任感が強いプロ経営者だ。 (注)樋口泰行:パナソニックからハーバード・ビジネス・スクールでMBA、日本ヒューレットパッカード社長、ダイエー社長、マイクロソフト日本のCOOを経て、パナソニックに復帰という異色の経歴(Wikipedia)。 自分の意見を押し付けない「津賀氏」も大したものだ。 「現場を見て「腹落ちした」自らのビジョンとの関係 パナ新社長「就任目前」で巨額買収に同意した胸中」 社内で「ブルーヨンダー」を「導入」したのは格好のテストになり、「楠見氏」が「腹落ちした」のは何より説得力がある。 後任者へのプレッシャーを減らそうとする「津賀氏」の動きもさすがだ。 「ブルーヨンダー買収を通じて最終的に描くのは、「オートノマス・・・サプライチェーン」という壮大な未来だ」、これは夢物語に近い印象も受ける。 「先進的な考え方を持つ顧客と成功事例を重ねることが大事」、なのは確かだ。「協業」が上手くいき、「パナソニック」び「再成長」につながってほしいものだ。 ダイヤモンド・オンライン 「日立グループ再編「最後の抵抗勢力」を攻略、新社長の日立ハイテク“操縦術”」 「子会社」といえども上場会社であれば、親会社の思うようにはいかないのは当然だ。 (注)日立ハイテク:2001年、エレクトロニクス専門商社である日製産業と日立製作所計測器グループ、同半導体製造装置グループが統合し誕生(同社HP)。 「「脱製造業」化に舵を切り、デジタル技術を使ったソリューションを提供するという国内製造業の生き残りシナリオ」、「日立」に限らずどこかが成功して「生き残りシナリオ」を示してほしいものだ。
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