医薬品(製薬業)(その6)(ジェネリック不正製造事件が浮き彫りにした 医薬品製造の「構造的課題」、アステラス製薬 3000億円買収会社に思わぬ試練 期待を寄せる遺伝子治療薬は実を結ぶのか) [産業動向]
医薬品(製薬業)については、3月3日に取上げた。今日は、(その6)(ジェネリック不正製造事件が浮き彫りにした 医薬品製造の「構造的課題」、アステラス製薬 3000億円買収会社に思わぬ試練 期待を寄せる遺伝子治療薬は実を結ぶのか)である。
先ずは、6月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した医療ジャーナリストの木原洋美氏による「ジェネリック不正製造事件が浮き彫りにした、医薬品製造の「構造的課題」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/272822
・『ジェネリック医薬品メーカーの小林化工が、医薬品を不正に製造・販売したとして業務停止命令を受けた。水虫などの治療薬として使用される医薬品に睡眠導入薬が混入されていたのである。問題の背景には、医薬品製造における構造的、制度的な課題が見え隠れする。われわれの生活にも大きく関わる医薬品の安全性の問題と、その対策について専門家に聞いた』、興味深そうだ。
・『決して他人事ではない睡眠導入薬混入事件 食料品の購入時には産地や賞味期限、添加物などを細かく吟味する人でも、処方薬に関しては医師、薬剤師の判断に身を委ね、何ら吟味せずに使用している人は多いのではないだろうか。 それだけ皆、日本の医療を信頼しているということなのだろうが、昨年12月、その信頼を打ち砕く事件が起きた。ジェネリック医薬品メーカーの小林化工(福井県あわら市)が製造販売した水虫やいんきんたむし、カンジダなどの感染症治療薬「イトラコナゾール」に睡眠導入薬が混入されるという前代未聞の事件が発覚したのである。 報道によれば、混入は厚生労働省の承認を得ていない「原薬の継ぎ足し」という工程で、原料を取り違えたのが一因。加えて、2人で行うべき作業を1人で行い、ダブルチェックが働かなかったという理由も挙げられている。同剤を処方されたのは344人、3月8日時点で245人に健康被害が出ている。この中には、車の運転中に意識を失うなどして事故を起こした人が38人おり、服用した80代男性と70代女性の2人が死亡した。 テレビや新聞では、ざっくりと「皮膚病などの治療薬」と報じているので、「自分とは関係ない」と思っている人も多いかもしれないが、水虫は日本人の10人に1人が罹患(りかん)する“国民病”。なかでも爪水虫の患者は1100万人もいると推定されている。しかも足指の間などにできる水虫は市販の塗り薬でも治るので、靴を履く時間が短くなる年代で減少するが、爪水虫は内服薬を使ってしっかり治療しないと治癒しないため、一度罹患するとそのままとなり、高齢になるほど患者が増える。カンジダ症も患者数は多く、女性の5人に1人が発症するとされているし、男性だってかかる。決して他人事ではないのである。) また、小林化工がジェネリック医薬品メーカーであることから、事件を「ジェネリック医薬品だけの問題」として論じる向きもあるが、いかがなものか。 日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会代表理事で日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役の武藤正樹氏は「同様の問題は先発品でも起こり得ます」と断言する。現場の医師であると同時に医療政策の専門家として「全国民が医薬品の恩恵を等しく受けるためにはジェネリック医薬品の普及が欠かせない」との信念のもと、20年以上にわたってジェネリック医薬品の信頼性の向上と普及に尽力してきた武藤氏に話を聞いた』、「水虫やいんきんたむし、カンジダなどの感染症治療薬」、初め塗り薬と思ったが、「車の運転中に意識を失うなどして事故を起こした人が38人おり、服用した80代男性と70代女性の2人が死亡」、などの薬禍からみると、飲み薬なのだろうか。
・『特許切れ処方薬の8割近くはジェネリックに置き換え済み 本題に入る前に、ジェネリック医薬品について説明しよう。 ジェネリック医薬品とは、新薬の特許が切れた後に新薬と同じ有効成分で作られる安価な後発品を指す(従来の新薬は「先発品」と呼ばれる)。国は2015年6月、高止まりする医療費の抑制を目的に、「2017年度に70%以上、2018年度から2020年度末までの間のなるべく早い時期に80%以上」とジェネリック医薬品普及目標を設定した。結果、先発薬と後発薬がある場合、後発薬が全体に占める使用割合は(13年7~9月期)47.3%から78.9%(20年7~9月期)に急増した(日本ジェネリック製薬協会の調べ)。 もはや特許の切れた処方薬の8割近くはジェネリックに置き換わっているのである。 ただ、どんなに置き換わろうとも、大部分の国民が理解しているように「ジェネリックは先発品と“同じ薬”で値段が安い」ということであれば、何ら問題は生じない。しかし、ジェネリックと先発品とでは、原料も工場も、添加物も違うのだ。 「添加物が違えば、薬の効果も随分変わります。ただし、ジェネリックが先発品より劣るということにはなりません。先発品よりも剤形などに工夫を凝らした改良型、付加価値型のジェネリック医薬品も数多く存在するので、単純に比較はできません。たとえば嚥下(えんげ)障害のある患者さんが服用しやすいよう剤形を口の中で溶けやすくしたり、ゼリー剤や小型錠剤にしたりといったこともあります。 だからこそジェネリックの場合、患者さんを使った臨床試験こそしていないものの、20人以上の健康な成人(ボランティア)に製剤を投与し、時間を追って薬物の血中濃度を測定するなどで、先発品と同等であることを証明しています」(武藤氏、以下同)』、「ジェネリックと先発品とでは、原料も工場も、添加物も違う」、「ジェネリックの場合、患者さんを使った臨床試験こそしていないものの、20人以上の健康な成人・・・に製剤を投与し、時間を追って薬物の血中濃度を測定するなどで、先発品と同等であることを証明しています」、なるほど。
・『先発品であっても時がたてばジェネリックと一緒 では今回のような事件は、ジェネリックに限らず「先発品でも起り得る」とはどういうことなのか。 「薬は工業製品なので、承認時の規格と実際に市場に出回っている規格では違うことは結構あります。 先発品であっても、20年前に承認された製剤と現在使われている製剤は違います。製造工程も添加物もどんどん進歩するので、ある意味当然ですよね。こうした違いがあったとしても、先発品として承認された製剤と同等であることを証明する試験は、ジェネリックの承認試験と全く同じです。 つまり先発品ですら、時がたてばジェネリックと変わらないということです」) なるほど。だがそれならば以前から、ジェネリックの効果や安全性に不安を抱き、処方薬のジェネリック化に異を唱えてきた医師や薬剤師は、単なる偏見でモノ申してきたことになるのだろうか。 「いいえ。当初からジェネリックに対して否定的な医療従事者はいましたが、それはジェネリック医薬品が誕生した1960年代の中頃から80年代までは、現在の承認基準とは全然違う、低い基準が使われていたからです。 たとえば人ではなく動物試験でよしとされていましたし、長期・条件下の保存で規格から外れることがないかどうかを観察する安定性試験や、試験液中で製剤から薬物の溶け出す速度や量が同じかどうかを見る溶出試験も義務付けられていませんでした。承認ハードルや品質保証体制が厳しくなったのは80年から90年代にかけてです。 移行期には、97年以前に承認されたジェネリック医薬品4264品目について再評価が行われ、結果、359品目が不適応となり、市場から完全に駆逐されました。 以降、今世紀に入ってジェネリックは、かつての『ゾロ品(先発品の再審査期間、特許期間が過ぎてから市場にゾロゾロと売り出される二流品の意味)』とは全く異なる医薬品に生まれ変わったと言ってもいい。しかし、昔を知る方々にとっては、ゾロ品のイメージはなかなか払拭(ふっしょく)できるものではないのでしょう」 武藤氏は「今回の事件によって70年代、80年代の『ゾロ品』の亡霊がさまよい出てきたようだ」と嘆く。 一方、医師の中には「そもそも問題は『ジェネリックかどうか』とは関係ない。『ずさんな製造体制』が主問題であり、今回の問題をジェネリック薬品に論点を持っていくのは論点のすり替えに近い」とする声もある』、「承認ハードルや品質保証体制が厳しくなったのは80年から90年代にかけてです」、「以降、今世紀に入ってジェネリックは、かつての『ゾロ品(・・・二流品の意味)』とは全く異なる医薬品に生まれ変わったと言ってもいい」、かっては「二流品」のイメージも強かったようだ。
・『ジェネリックメーカーを追い詰めた行政の責任 2016年以降、製薬企業が不正製造で行政処分を受ける事件は毎年のように起きている。昨年12月の小林化工に続き、今年3月にはジェネリック業界最大手の日医工に業務停止命令が下された。同社は、品質試験で「不適合品」となった製品を、製造販売承認書と異なる方法で「適合品」となるように処理して出荷していた上に、品質管理体制にも不備が認められたのだ。こうした不正は10年ほど前から行われており、昨年2月の富山県とPMDA(医薬品医療機器総合機構)による立ち入り調査をきっかけに発覚。同年4月から今年1月中旬にかけて同社は75品目を自主回収した。 このあまりにもずさんな状況の背後には、2015年に政府が掲げた、ジェネリックの普及率を80%とする市場拡大目標の影響が大きかったのではないかという見方がある。 「メーカー間の競争が激化してすさまじい市場圧力が働き、小林化工や日医工はプレッシャーに耐え切れず供給を優先した結果、品質をおろそかにしてしまったのでしょう。とはいっても、他はそんなことはしていないので、言い訳にはなりません。最大の原因は両社の企業モラルの欠如です」というのが武藤氏の分析だ。) 外部の有識者で構成された特別調査委員会も、小林化工について「一連の問題の根幹にあったのはやはり、スケジュールに追われる中での時間的・人員的余裕のなさだったようだ」(日刊薬業)と調査報告書の中で述べており、日医工に対しても「14年から16年にかけて生産数量や品目が急増し、人員・設備が整わず不適切な出荷試験結果処理が増えた」(日刊薬業)と外部の調査報告書に記載されている。 制度的には、2005年の薬事法改正の影響も大きいようだ。 「それ以前の制度では、医薬品販売を行う業者は、製造工場を持つことが義務付けられていたのに対し、改正後は全ての製造工程を外部業者に委託することができ、販売と製造を完全分離することが可能となりました」 つまり、工場と販売が分離され、大幅なコスト削減が可能になったおかげで、ジェネリックメーカーがなんと200社以上も誕生。市場は一気に拡大したが、そのほとんどは工場を持たない販売業者だった。 「この薬事法改正は確かに市場拡大には貢献したものの、市場競争を激化させ、そのしわ寄せが小林化工や日医工のような工場を持っている企業に行ってしまったことは否定できません。 2021年現在、目標80%はほとんど達成されたので、政府は今、次の目標を立てています。しかし『90%を目指そう』なんていう馬鹿なことはやめて80%に据え置き、今後は品質基準の向上に重点を置くべきだと思います」 加えて、メーカーを監督指導する行政の体制にも問題はある。両社には県の薬事監視員が立ち入り調査を行っていたが、不正を見抜くことはできなかった。 「偽資料を作成してごまかしたんですね。一般企業でも監査法人がごまかされることがあるのと一緒です。不正を見抜くのが監査法人の仕事ですが、ジェネリックの場合、県の監査法人の数も少ないし、スキルの向上も必要です」』、「両社には県の薬事監視員が立ち入り調査を行っていたが、不正を見抜くことはできなかった」、「監査法人」には頑張ってもらいたいものだ。
・『監視体制の強化とともに患者も声を上げることが大事 既に、ジェネリック医薬品なしにはわれわれの健康生活は成り立たないところまで来ており、単純に使用を拒否するだけでは、身を守ることはできそうもない。ではどうしたらいいのか。 「不正を防ぐには、監視体制の強化しかないと思います。 第一に、都道府県の監視員による抜き打ち検査を増やす、監視員の技術レベルをアップさせる。 第二に、既に流通しているジェネリック医薬品を集めてきて再試験をする『一斉監視指導』を増やす。現在年間900品目について、都道府県の試験場で承認時と同じ試験で品質の確認をしています。この試験の頻度を増やすことは有効でしょう。試験の結果、不適応であることがわかり、回収につながっている例は少なくありません。 第三として、『患者の声』を届けること。PMDAには患者さんの相談窓口があるので、医薬品による副作用などが疑われる場合には積極的に報告するのがよいでしょう。日本のユーザーは世界一厳しいことで知られているので、世界の医薬品の品質と安全性の向上に貢献できると思います」 本問題に深い関心を寄せる医師の中には、「AG(オーソライズド・ジェネリック)を選べば安心だ」とする声もあるが、武藤氏は首を横に振る。 「AGとは、先発品と同一の有効成分、同一添加剤、そして同一適応を持ち、さらに先発メーカーからお墨付きを得たジェネリック医薬品、要するに、AGは先発品と全く同じ薬です。 ただ、実はAGにも種類があります。 簡単に言うと、パターン1は、先発品メーカーのラインの一部をAG用としているだけで、あとは全く同じ。包装と添付文書だけ変えた薬です。 パターン2は、料理で言うところの材料とレシピは同じだけど、キッチン、つまり工場だけ子会社で作らせる。キッチンもコックさんも変わるわけですから、先発メーカーがお墨付きを与えているというだけで、普通のジェネリックと全く変わらない。こういうAGは多いです。 さらにパターン3では、レシピが同じだけで、原材料も工場も違う。安い原材料を海外から輸入し、製造は子会社。こうなると完全にジェネリックと同じ。 先発品メーカーはこうした情報を開示していません。自社ブランドのイメージが損なわれると思っているのでしょう」 新型コロナウイルスの影響で、昨今は特効薬やワクチンに対する関心がかつてないほど高まっているが、前々からある薬にももっと関心を持つべきだ。問題が起きたり、疑問が生じたりした際には社会と共有する。それが、日本の医療の質と安全性を向上させ、われわれ自身を守ることになる。(監修/日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会代表理事、社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役 武藤正樹))』、「患者も声を上げることが大事」、については理屈上ではその通りだが、情報量が少ない「患者」には自ずから限界がある。
次に、10月4日付け東洋経済オンライン「アステラス製薬、3000億円買収会社に思わぬ試練 期待を寄せる遺伝子治療薬は実を結ぶのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/459514
・『製薬大手のアステラス製薬が思わぬ試練に直面している。 9月14日、アステラスは開発中の遺伝子治療薬「AT132」の臨床試験で、被験者1名が死亡したことを発表した。この被験者の「重篤な有害事象」はすでに報告されていたため、薬の治験そのものはすでに9月1日時点で一時ストップしている。 製薬業界全体を見渡せば、思わぬ副作用が出たり有効性が確認できなかったりで、治験がうまくいかないことは日常茶飯事だ。創薬の成功確率は3万分の1ともいわれる。 だが問題なのはその中身。今回開発を中断したAT132は、アステラスが約3200億円という巨費を投じて2020年に買収したアメリカのベンチャー企業・オーデンテス社が持っていたもの。同社の中でも、AT132は最も開発が進んでいた新薬候補だ。製品化されれば、将来的には最大1000億円の売上高も期待されている』、未完成の新薬候補を抱える「オーデンテス社」を「約3200億円」で買収とは、製薬業界とは一般業界とはやはり相当違うようだ。
・『2度目の治験ストップ 実は治験がストップしたのは今回が初めてではない。2020年8月までに、被験者23名のうち高用量を投与されていた3名の被験者が死亡、治験を監督するアメリカのFDA(食品医薬品局)から差し止め指示を受け、一度治験を中断している。 その後のFDAとの協議によって投与量を減らす治験プログラに変更し、2020年12月から治験を再開。これで問題はクリアしたかに思われたが、再開時に低用量を投与された最初の患者が、9月に死亡した冒頭の被験者だった。 AT132が治験の対象にしているのは「X連鎖性ミオチュブラーミオパチー」という、まれな遺伝性の病気だ。新生児が重度の筋力低下と呼吸障害によって死に至る難病で、生後1年半の生存率は50%といわれている。4万~5万人の男児に1人の割合で発症し、現在、治療法はない。 遺伝性の難病に対し、AT132は「遺伝子治療薬」と呼ばれるもの。これは、本来の遺伝子の欠損や変異によって起こる病気の場合、その遺伝子を補うことで治療を目指す。比較的新しいアプローチの治療法で、これまで治療法がなかった難病などへの応用が期待されている。 1度目の治験中断時、アステラスの業績への影響は小さくなかった。AT132の無形資産として計上していた1023億円のうち、588億円を減損損失として計上。2021年3月期の営業利益は元々見込んでいた2105億円を大きく下回る1360億円で着地し、前期比でも4割以上の減益となった。 アステラスの安川健司社長は、「治験の失敗を最初から見込めるわけではない。減損で騒ぐほうが不思議」と話すが、業績の足を大きく引っ張る要因となったことは確かだ。 【2021年10月4日11時00分追記】初出時のコメントを上記のように修正いたします。 有価証券報告書によれば、オーデンテスの買収額約3200億円のうち2712億円が無形資産として計上され、AT132だけで1023億円を占めていた。つまり買収金額のおよそ3分の1はこの新薬候補に支払った計算だ。減損の計上後も、AT132の無形資産は427億円が残っている』、「AT132が治験の対象にしているのは・・・まれな遺伝性の病気だ。新生児が重度の筋力低下と呼吸障害によって死に至る難病で、生後1年半の生存率は50%・・・4万~5万人の男児に1人の割合で発症・・・「遺伝子治療薬」」、「まれ」ではあっても、市場の存在は統計的に確保されているのだろう。
・『追加の減損はあるか アステラスは「今後FDAと治験の再開などについて協議する。(AT132の治験ストップに伴い)現段階で減損を計上するかどうかは未定」とする。ただ前回の減損は、治験プログラムの変更によって投与量が想定よりも減り、対象患者が少なくなったことが引き金になっている。今回、その低用量でも治験を中断せざるをえなかったことを踏まえれば、追加の減損計上の可能性は否定できない。 ただし、今回の治験中断が発表されても、アステラスの株価が大きく下がることはなかった。「前回の減損時からAT132は少しあやしいという認識だった。今回の中断で急にドタバタすることはないが、第2四半期(2021年9月期)の決算に影響があるのかどうか」(クレディ・スイス証券の酒井文義アナリスト)を株式市場は注視している状況だろう。 アステラスにとって、遺伝子治療薬のような次世代薬を育てることは急務だ。なぜなら、全社の売上高の4割を占める大黒柱、前立腺がん薬「イクスタンジ」の特許切れが2027年に迫っているからだ。イクスタンジは2022年3月期で5572億円の売上高が見込まれている超がつく大型薬。だが特許が切れる2027年以降、同じ薬効でより安価なジェネリック薬が登場し売上高の急降下は避けられない。 もちろん、そうした状況に手をこまねいているわけではない。2021年7月にはアメリカで尿路上皮がん治療薬「パドセブ」の正規承認を取得。開発が佳境を迎えている婦人科領域の「フェゾリネタント」への期待も大きく、それぞれピーク時には4000億円、5000億円の大型薬に成長すると見通している。 だがこの規模まで大型化するには10年以上かかるうえ、新薬は継続的に生み出さなければならない。焦点は、今見えているこれらの薬の「次」だ。 現在の安川社長は、2018年の社長就任以後、従来の研究開発スタイルを大々的にシフトしている。それまでは泌尿器や免疫関連など、開発を狙う薬の領域をあらかじめ定めていた。だが、新しいスタイルでは研究開発の“出口”を決めず、創薬技術をベースに研究開発を進める方針にシフトし、研究の“入り口”を強化した』、新薬やその候補をどれだけ持っているかが勝負のようだ。
・『遺伝子治療の分野に注いだ大金 その戦略の一環で、自社に足りない技術を補うような会社を次々に買収してきた。ターゲットになったのが、遺伝子治療やがん免疫などの4つの分野だった。今回のオーデンテスもその1社だ。数百億円規模にとどまるほかの分野への投資額に比べ、遺伝子治療を担う同社への投資額は突出して大きい。 新たな研究開発スタイルで有望な新薬を生み出すこと、特に多額の資金を注ぎ込んでいる遺伝子治療の分野で結果を出すことは、安川体制の通信簿にも直結する。 アステラスはこの研究開発戦略でこれから生み出す新薬を合わせて、2030年に売上高5000億円という目標を掲げている。また、足元では3.5兆円の時価総額総額を、2025年までに倍の7兆円に高めるという。 安川社長は「アステラスがやろうとしていることがちゃんとできれば世間はこれくらいの評価をくれるはずだというストーリー」と話す。こうした中で、遺伝子治療の位置づけは特に大きいだろう。 AT132の治験中断があっても、治験に入る前の新薬候補を含め、遺伝子治療そのものをやめるという選択肢はないはず。アステラスにとっての正念場は続く』、製薬会社の「研究開発戦略」の大変さを垣間見られたようだ。
先ずは、6月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した医療ジャーナリストの木原洋美氏による「ジェネリック不正製造事件が浮き彫りにした、医薬品製造の「構造的課題」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/272822
・『ジェネリック医薬品メーカーの小林化工が、医薬品を不正に製造・販売したとして業務停止命令を受けた。水虫などの治療薬として使用される医薬品に睡眠導入薬が混入されていたのである。問題の背景には、医薬品製造における構造的、制度的な課題が見え隠れする。われわれの生活にも大きく関わる医薬品の安全性の問題と、その対策について専門家に聞いた』、興味深そうだ。
・『決して他人事ではない睡眠導入薬混入事件 食料品の購入時には産地や賞味期限、添加物などを細かく吟味する人でも、処方薬に関しては医師、薬剤師の判断に身を委ね、何ら吟味せずに使用している人は多いのではないだろうか。 それだけ皆、日本の医療を信頼しているということなのだろうが、昨年12月、その信頼を打ち砕く事件が起きた。ジェネリック医薬品メーカーの小林化工(福井県あわら市)が製造販売した水虫やいんきんたむし、カンジダなどの感染症治療薬「イトラコナゾール」に睡眠導入薬が混入されるという前代未聞の事件が発覚したのである。 報道によれば、混入は厚生労働省の承認を得ていない「原薬の継ぎ足し」という工程で、原料を取り違えたのが一因。加えて、2人で行うべき作業を1人で行い、ダブルチェックが働かなかったという理由も挙げられている。同剤を処方されたのは344人、3月8日時点で245人に健康被害が出ている。この中には、車の運転中に意識を失うなどして事故を起こした人が38人おり、服用した80代男性と70代女性の2人が死亡した。 テレビや新聞では、ざっくりと「皮膚病などの治療薬」と報じているので、「自分とは関係ない」と思っている人も多いかもしれないが、水虫は日本人の10人に1人が罹患(りかん)する“国民病”。なかでも爪水虫の患者は1100万人もいると推定されている。しかも足指の間などにできる水虫は市販の塗り薬でも治るので、靴を履く時間が短くなる年代で減少するが、爪水虫は内服薬を使ってしっかり治療しないと治癒しないため、一度罹患するとそのままとなり、高齢になるほど患者が増える。カンジダ症も患者数は多く、女性の5人に1人が発症するとされているし、男性だってかかる。決して他人事ではないのである。) また、小林化工がジェネリック医薬品メーカーであることから、事件を「ジェネリック医薬品だけの問題」として論じる向きもあるが、いかがなものか。 日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会代表理事で日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役の武藤正樹氏は「同様の問題は先発品でも起こり得ます」と断言する。現場の医師であると同時に医療政策の専門家として「全国民が医薬品の恩恵を等しく受けるためにはジェネリック医薬品の普及が欠かせない」との信念のもと、20年以上にわたってジェネリック医薬品の信頼性の向上と普及に尽力してきた武藤氏に話を聞いた』、「水虫やいんきんたむし、カンジダなどの感染症治療薬」、初め塗り薬と思ったが、「車の運転中に意識を失うなどして事故を起こした人が38人おり、服用した80代男性と70代女性の2人が死亡」、などの薬禍からみると、飲み薬なのだろうか。
・『特許切れ処方薬の8割近くはジェネリックに置き換え済み 本題に入る前に、ジェネリック医薬品について説明しよう。 ジェネリック医薬品とは、新薬の特許が切れた後に新薬と同じ有効成分で作られる安価な後発品を指す(従来の新薬は「先発品」と呼ばれる)。国は2015年6月、高止まりする医療費の抑制を目的に、「2017年度に70%以上、2018年度から2020年度末までの間のなるべく早い時期に80%以上」とジェネリック医薬品普及目標を設定した。結果、先発薬と後発薬がある場合、後発薬が全体に占める使用割合は(13年7~9月期)47.3%から78.9%(20年7~9月期)に急増した(日本ジェネリック製薬協会の調べ)。 もはや特許の切れた処方薬の8割近くはジェネリックに置き換わっているのである。 ただ、どんなに置き換わろうとも、大部分の国民が理解しているように「ジェネリックは先発品と“同じ薬”で値段が安い」ということであれば、何ら問題は生じない。しかし、ジェネリックと先発品とでは、原料も工場も、添加物も違うのだ。 「添加物が違えば、薬の効果も随分変わります。ただし、ジェネリックが先発品より劣るということにはなりません。先発品よりも剤形などに工夫を凝らした改良型、付加価値型のジェネリック医薬品も数多く存在するので、単純に比較はできません。たとえば嚥下(えんげ)障害のある患者さんが服用しやすいよう剤形を口の中で溶けやすくしたり、ゼリー剤や小型錠剤にしたりといったこともあります。 だからこそジェネリックの場合、患者さんを使った臨床試験こそしていないものの、20人以上の健康な成人(ボランティア)に製剤を投与し、時間を追って薬物の血中濃度を測定するなどで、先発品と同等であることを証明しています」(武藤氏、以下同)』、「ジェネリックと先発品とでは、原料も工場も、添加物も違う」、「ジェネリックの場合、患者さんを使った臨床試験こそしていないものの、20人以上の健康な成人・・・に製剤を投与し、時間を追って薬物の血中濃度を測定するなどで、先発品と同等であることを証明しています」、なるほど。
・『先発品であっても時がたてばジェネリックと一緒 では今回のような事件は、ジェネリックに限らず「先発品でも起り得る」とはどういうことなのか。 「薬は工業製品なので、承認時の規格と実際に市場に出回っている規格では違うことは結構あります。 先発品であっても、20年前に承認された製剤と現在使われている製剤は違います。製造工程も添加物もどんどん進歩するので、ある意味当然ですよね。こうした違いがあったとしても、先発品として承認された製剤と同等であることを証明する試験は、ジェネリックの承認試験と全く同じです。 つまり先発品ですら、時がたてばジェネリックと変わらないということです」) なるほど。だがそれならば以前から、ジェネリックの効果や安全性に不安を抱き、処方薬のジェネリック化に異を唱えてきた医師や薬剤師は、単なる偏見でモノ申してきたことになるのだろうか。 「いいえ。当初からジェネリックに対して否定的な医療従事者はいましたが、それはジェネリック医薬品が誕生した1960年代の中頃から80年代までは、現在の承認基準とは全然違う、低い基準が使われていたからです。 たとえば人ではなく動物試験でよしとされていましたし、長期・条件下の保存で規格から外れることがないかどうかを観察する安定性試験や、試験液中で製剤から薬物の溶け出す速度や量が同じかどうかを見る溶出試験も義務付けられていませんでした。承認ハードルや品質保証体制が厳しくなったのは80年から90年代にかけてです。 移行期には、97年以前に承認されたジェネリック医薬品4264品目について再評価が行われ、結果、359品目が不適応となり、市場から完全に駆逐されました。 以降、今世紀に入ってジェネリックは、かつての『ゾロ品(先発品の再審査期間、特許期間が過ぎてから市場にゾロゾロと売り出される二流品の意味)』とは全く異なる医薬品に生まれ変わったと言ってもいい。しかし、昔を知る方々にとっては、ゾロ品のイメージはなかなか払拭(ふっしょく)できるものではないのでしょう」 武藤氏は「今回の事件によって70年代、80年代の『ゾロ品』の亡霊がさまよい出てきたようだ」と嘆く。 一方、医師の中には「そもそも問題は『ジェネリックかどうか』とは関係ない。『ずさんな製造体制』が主問題であり、今回の問題をジェネリック薬品に論点を持っていくのは論点のすり替えに近い」とする声もある』、「承認ハードルや品質保証体制が厳しくなったのは80年から90年代にかけてです」、「以降、今世紀に入ってジェネリックは、かつての『ゾロ品(・・・二流品の意味)』とは全く異なる医薬品に生まれ変わったと言ってもいい」、かっては「二流品」のイメージも強かったようだ。
・『ジェネリックメーカーを追い詰めた行政の責任 2016年以降、製薬企業が不正製造で行政処分を受ける事件は毎年のように起きている。昨年12月の小林化工に続き、今年3月にはジェネリック業界最大手の日医工に業務停止命令が下された。同社は、品質試験で「不適合品」となった製品を、製造販売承認書と異なる方法で「適合品」となるように処理して出荷していた上に、品質管理体制にも不備が認められたのだ。こうした不正は10年ほど前から行われており、昨年2月の富山県とPMDA(医薬品医療機器総合機構)による立ち入り調査をきっかけに発覚。同年4月から今年1月中旬にかけて同社は75品目を自主回収した。 このあまりにもずさんな状況の背後には、2015年に政府が掲げた、ジェネリックの普及率を80%とする市場拡大目標の影響が大きかったのではないかという見方がある。 「メーカー間の競争が激化してすさまじい市場圧力が働き、小林化工や日医工はプレッシャーに耐え切れず供給を優先した結果、品質をおろそかにしてしまったのでしょう。とはいっても、他はそんなことはしていないので、言い訳にはなりません。最大の原因は両社の企業モラルの欠如です」というのが武藤氏の分析だ。) 外部の有識者で構成された特別調査委員会も、小林化工について「一連の問題の根幹にあったのはやはり、スケジュールに追われる中での時間的・人員的余裕のなさだったようだ」(日刊薬業)と調査報告書の中で述べており、日医工に対しても「14年から16年にかけて生産数量や品目が急増し、人員・設備が整わず不適切な出荷試験結果処理が増えた」(日刊薬業)と外部の調査報告書に記載されている。 制度的には、2005年の薬事法改正の影響も大きいようだ。 「それ以前の制度では、医薬品販売を行う業者は、製造工場を持つことが義務付けられていたのに対し、改正後は全ての製造工程を外部業者に委託することができ、販売と製造を完全分離することが可能となりました」 つまり、工場と販売が分離され、大幅なコスト削減が可能になったおかげで、ジェネリックメーカーがなんと200社以上も誕生。市場は一気に拡大したが、そのほとんどは工場を持たない販売業者だった。 「この薬事法改正は確かに市場拡大には貢献したものの、市場競争を激化させ、そのしわ寄せが小林化工や日医工のような工場を持っている企業に行ってしまったことは否定できません。 2021年現在、目標80%はほとんど達成されたので、政府は今、次の目標を立てています。しかし『90%を目指そう』なんていう馬鹿なことはやめて80%に据え置き、今後は品質基準の向上に重点を置くべきだと思います」 加えて、メーカーを監督指導する行政の体制にも問題はある。両社には県の薬事監視員が立ち入り調査を行っていたが、不正を見抜くことはできなかった。 「偽資料を作成してごまかしたんですね。一般企業でも監査法人がごまかされることがあるのと一緒です。不正を見抜くのが監査法人の仕事ですが、ジェネリックの場合、県の監査法人の数も少ないし、スキルの向上も必要です」』、「両社には県の薬事監視員が立ち入り調査を行っていたが、不正を見抜くことはできなかった」、「監査法人」には頑張ってもらいたいものだ。
・『監視体制の強化とともに患者も声を上げることが大事 既に、ジェネリック医薬品なしにはわれわれの健康生活は成り立たないところまで来ており、単純に使用を拒否するだけでは、身を守ることはできそうもない。ではどうしたらいいのか。 「不正を防ぐには、監視体制の強化しかないと思います。 第一に、都道府県の監視員による抜き打ち検査を増やす、監視員の技術レベルをアップさせる。 第二に、既に流通しているジェネリック医薬品を集めてきて再試験をする『一斉監視指導』を増やす。現在年間900品目について、都道府県の試験場で承認時と同じ試験で品質の確認をしています。この試験の頻度を増やすことは有効でしょう。試験の結果、不適応であることがわかり、回収につながっている例は少なくありません。 第三として、『患者の声』を届けること。PMDAには患者さんの相談窓口があるので、医薬品による副作用などが疑われる場合には積極的に報告するのがよいでしょう。日本のユーザーは世界一厳しいことで知られているので、世界の医薬品の品質と安全性の向上に貢献できると思います」 本問題に深い関心を寄せる医師の中には、「AG(オーソライズド・ジェネリック)を選べば安心だ」とする声もあるが、武藤氏は首を横に振る。 「AGとは、先発品と同一の有効成分、同一添加剤、そして同一適応を持ち、さらに先発メーカーからお墨付きを得たジェネリック医薬品、要するに、AGは先発品と全く同じ薬です。 ただ、実はAGにも種類があります。 簡単に言うと、パターン1は、先発品メーカーのラインの一部をAG用としているだけで、あとは全く同じ。包装と添付文書だけ変えた薬です。 パターン2は、料理で言うところの材料とレシピは同じだけど、キッチン、つまり工場だけ子会社で作らせる。キッチンもコックさんも変わるわけですから、先発メーカーがお墨付きを与えているというだけで、普通のジェネリックと全く変わらない。こういうAGは多いです。 さらにパターン3では、レシピが同じだけで、原材料も工場も違う。安い原材料を海外から輸入し、製造は子会社。こうなると完全にジェネリックと同じ。 先発品メーカーはこうした情報を開示していません。自社ブランドのイメージが損なわれると思っているのでしょう」 新型コロナウイルスの影響で、昨今は特効薬やワクチンに対する関心がかつてないほど高まっているが、前々からある薬にももっと関心を持つべきだ。問題が起きたり、疑問が生じたりした際には社会と共有する。それが、日本の医療の質と安全性を向上させ、われわれ自身を守ることになる。(監修/日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会代表理事、社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役 武藤正樹))』、「患者も声を上げることが大事」、については理屈上ではその通りだが、情報量が少ない「患者」には自ずから限界がある。
次に、10月4日付け東洋経済オンライン「アステラス製薬、3000億円買収会社に思わぬ試練 期待を寄せる遺伝子治療薬は実を結ぶのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/459514
・『製薬大手のアステラス製薬が思わぬ試練に直面している。 9月14日、アステラスは開発中の遺伝子治療薬「AT132」の臨床試験で、被験者1名が死亡したことを発表した。この被験者の「重篤な有害事象」はすでに報告されていたため、薬の治験そのものはすでに9月1日時点で一時ストップしている。 製薬業界全体を見渡せば、思わぬ副作用が出たり有効性が確認できなかったりで、治験がうまくいかないことは日常茶飯事だ。創薬の成功確率は3万分の1ともいわれる。 だが問題なのはその中身。今回開発を中断したAT132は、アステラスが約3200億円という巨費を投じて2020年に買収したアメリカのベンチャー企業・オーデンテス社が持っていたもの。同社の中でも、AT132は最も開発が進んでいた新薬候補だ。製品化されれば、将来的には最大1000億円の売上高も期待されている』、未完成の新薬候補を抱える「オーデンテス社」を「約3200億円」で買収とは、製薬業界とは一般業界とはやはり相当違うようだ。
・『2度目の治験ストップ 実は治験がストップしたのは今回が初めてではない。2020年8月までに、被験者23名のうち高用量を投与されていた3名の被験者が死亡、治験を監督するアメリカのFDA(食品医薬品局)から差し止め指示を受け、一度治験を中断している。 その後のFDAとの協議によって投与量を減らす治験プログラに変更し、2020年12月から治験を再開。これで問題はクリアしたかに思われたが、再開時に低用量を投与された最初の患者が、9月に死亡した冒頭の被験者だった。 AT132が治験の対象にしているのは「X連鎖性ミオチュブラーミオパチー」という、まれな遺伝性の病気だ。新生児が重度の筋力低下と呼吸障害によって死に至る難病で、生後1年半の生存率は50%といわれている。4万~5万人の男児に1人の割合で発症し、現在、治療法はない。 遺伝性の難病に対し、AT132は「遺伝子治療薬」と呼ばれるもの。これは、本来の遺伝子の欠損や変異によって起こる病気の場合、その遺伝子を補うことで治療を目指す。比較的新しいアプローチの治療法で、これまで治療法がなかった難病などへの応用が期待されている。 1度目の治験中断時、アステラスの業績への影響は小さくなかった。AT132の無形資産として計上していた1023億円のうち、588億円を減損損失として計上。2021年3月期の営業利益は元々見込んでいた2105億円を大きく下回る1360億円で着地し、前期比でも4割以上の減益となった。 アステラスの安川健司社長は、「治験の失敗を最初から見込めるわけではない。減損で騒ぐほうが不思議」と話すが、業績の足を大きく引っ張る要因となったことは確かだ。 【2021年10月4日11時00分追記】初出時のコメントを上記のように修正いたします。 有価証券報告書によれば、オーデンテスの買収額約3200億円のうち2712億円が無形資産として計上され、AT132だけで1023億円を占めていた。つまり買収金額のおよそ3分の1はこの新薬候補に支払った計算だ。減損の計上後も、AT132の無形資産は427億円が残っている』、「AT132が治験の対象にしているのは・・・まれな遺伝性の病気だ。新生児が重度の筋力低下と呼吸障害によって死に至る難病で、生後1年半の生存率は50%・・・4万~5万人の男児に1人の割合で発症・・・「遺伝子治療薬」」、「まれ」ではあっても、市場の存在は統計的に確保されているのだろう。
・『追加の減損はあるか アステラスは「今後FDAと治験の再開などについて協議する。(AT132の治験ストップに伴い)現段階で減損を計上するかどうかは未定」とする。ただ前回の減損は、治験プログラムの変更によって投与量が想定よりも減り、対象患者が少なくなったことが引き金になっている。今回、その低用量でも治験を中断せざるをえなかったことを踏まえれば、追加の減損計上の可能性は否定できない。 ただし、今回の治験中断が発表されても、アステラスの株価が大きく下がることはなかった。「前回の減損時からAT132は少しあやしいという認識だった。今回の中断で急にドタバタすることはないが、第2四半期(2021年9月期)の決算に影響があるのかどうか」(クレディ・スイス証券の酒井文義アナリスト)を株式市場は注視している状況だろう。 アステラスにとって、遺伝子治療薬のような次世代薬を育てることは急務だ。なぜなら、全社の売上高の4割を占める大黒柱、前立腺がん薬「イクスタンジ」の特許切れが2027年に迫っているからだ。イクスタンジは2022年3月期で5572億円の売上高が見込まれている超がつく大型薬。だが特許が切れる2027年以降、同じ薬効でより安価なジェネリック薬が登場し売上高の急降下は避けられない。 もちろん、そうした状況に手をこまねいているわけではない。2021年7月にはアメリカで尿路上皮がん治療薬「パドセブ」の正規承認を取得。開発が佳境を迎えている婦人科領域の「フェゾリネタント」への期待も大きく、それぞれピーク時には4000億円、5000億円の大型薬に成長すると見通している。 だがこの規模まで大型化するには10年以上かかるうえ、新薬は継続的に生み出さなければならない。焦点は、今見えているこれらの薬の「次」だ。 現在の安川社長は、2018年の社長就任以後、従来の研究開発スタイルを大々的にシフトしている。それまでは泌尿器や免疫関連など、開発を狙う薬の領域をあらかじめ定めていた。だが、新しいスタイルでは研究開発の“出口”を決めず、創薬技術をベースに研究開発を進める方針にシフトし、研究の“入り口”を強化した』、新薬やその候補をどれだけ持っているかが勝負のようだ。
・『遺伝子治療の分野に注いだ大金 その戦略の一環で、自社に足りない技術を補うような会社を次々に買収してきた。ターゲットになったのが、遺伝子治療やがん免疫などの4つの分野だった。今回のオーデンテスもその1社だ。数百億円規模にとどまるほかの分野への投資額に比べ、遺伝子治療を担う同社への投資額は突出して大きい。 新たな研究開発スタイルで有望な新薬を生み出すこと、特に多額の資金を注ぎ込んでいる遺伝子治療の分野で結果を出すことは、安川体制の通信簿にも直結する。 アステラスはこの研究開発戦略でこれから生み出す新薬を合わせて、2030年に売上高5000億円という目標を掲げている。また、足元では3.5兆円の時価総額総額を、2025年までに倍の7兆円に高めるという。 安川社長は「アステラスがやろうとしていることがちゃんとできれば世間はこれくらいの評価をくれるはずだというストーリー」と話す。こうした中で、遺伝子治療の位置づけは特に大きいだろう。 AT132の治験中断があっても、治験に入る前の新薬候補を含め、遺伝子治療そのものをやめるという選択肢はないはず。アステラスにとっての正念場は続く』、製薬会社の「研究開発戦略」の大変さを垣間見られたようだ。
タグ:(製薬業) (その6)(ジェネリック不正製造事件が浮き彫りにした 医薬品製造の「構造的課題」、アステラス製薬 3000億円買収会社に思わぬ試練 期待を寄せる遺伝子治療薬は実を結ぶのか) 医薬品 ダイヤモンド・オンライン 木原洋美 「ジェネリック不正製造事件が浮き彫りにした、医薬品製造の「構造的課題」」 「水虫やいんきんたむし、カンジダなどの感染症治療薬」、初め塗り薬と思ったが、「車の運転中に意識を失うなどして事故を起こした人が38人おり、服用した80代男性と70代女性の2人が死亡」、などの薬禍からみると、飲み薬なのだろうか。 「ジェネリックと先発品とでは、原料も工場も、添加物も違う」、「ジェネリックの場合、患者さんを使った臨床試験こそしていないものの、20人以上の健康な成人・・・に製剤を投与し、時間を追って薬物の血中濃度を測定するなどで、先発品と同等であることを証明しています」、なるほど。 「承認ハードルや品質保証体制が厳しくなったのは80年から90年代にかけてです」、「以降、今世紀に入ってジェネリックは、かつての『ゾロ品(・・・二流品の意味)』とは全く異なる医薬品に生まれ変わったと言ってもいい」、かっては「二流品」のイメージも強かったようだ。 「両社には県の薬事監視員が立ち入り調査を行っていたが、不正を見抜くことはできなかった」、「監査法人」には頑張ってもらいたいものだ。 「患者も声を上げることが大事」、については理屈上ではその通りだが、情報量が少ない「患者」には自ずから限界がある。 東洋経済オンライン 「アステラス製薬、3000億円買収会社に思わぬ試練 期待を寄せる遺伝子治療薬は実を結ぶのか」 未完成の新薬候補を抱える「オーデンテス社」を「約3200億円」で買収とは、製薬業界とは一般業界とはやはり相当違うようだ。 「AT132が治験の対象にしているのは・・・まれな遺伝性の病気だ。新生児が重度の筋力低下と呼吸障害によって死に至る難病で、生後1年半の生存率は50%・・・4万~5万人の男児に1人の割合で発症・・・「遺伝子治療薬」」、「まれ」ではあっても、市場の存在は統計的に確保されているのだろう。 新薬やその候補をどれだけ持っているかが勝負のようだ。 製薬会社の「研究開発戦略」の大変さを垣間見られたようだ。
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