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半導体産業(その6)(台湾TSMCに「負けた」米インテルの大胆な自己変革 日本企業が学ぶべきこと、ソニー・TSMC合弁が 日の丸半導体の再起を促す画期的な決断である理由) [産業動向]

半導体産業については、11月9日に取上げた。今日は、(その6)(台湾TSMCに「負けた」米インテルの大胆な自己変革 日本企業が学ぶべきこと、ソニー・TSMC合弁が 日の丸半導体の再起を促す画期的な決断である理由)である。

先ずは、12月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「台湾TSMCに「負けた」米インテルの大胆な自己変革、日本企業が学ぶべきこと」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/276561
・『今、世界の半導体業界で大規模な地殻変動が起きている。かつて世界トップの半導体メーカーだった米インテルがその地位を失い、今日のトップメーカーである台湾積体電路製造(TSMC)との協業を強化している。その姿勢に、わが国企業が学ぶべき点は多い』、興味深そうだ。
・『インテルは大胆に変革 TSMCとの協業を強化  今、世界の半導体業界で大規模な地殻変動が起きている。かつて世界トップの半導体メーカーだった米インテルがその地位を失い、今日のトップメーカーである台湾積体電路製造(TSMC)との協業を強化している。 インテルは最先端のロジック半導体事業ではTSMCと協業を深め、最新のCPUの供給を加速度的に増やすはずだ。一方で、自社生産面でインテルは、車載半導体の生産体制を強化している。その一例が、子会社モービルアイのIPO(新規株式公開)計画を発表したことだ。 インテルは自前で設計・開発し、微細化(ロジック半導体などの回路線幅を小さくする製造技術)を進めて最新の生産体制を整える、「垂直統合」のビジネスモデルを急ピッチで見直している。その姿勢にわが国企業が学ぶべき点は多い。詳細は後述するが、過去の成功体験を捨て、大胆な事業運営体制の変革に挑んでいるのだ。 中長期的に考えると、最先端の半導体生産は、台湾への集中がより鮮明化するだろう。世界のIT先端企業によるTSMCの生産ライン争奪戦は激化するはずだ。一方、車載など汎用型半導体の競争も激化し、世界の半導体業界の地殻変動が加速する。わが国企業はそうした展開にどう対応するか、方針を決断しなければならない』、「インテルは・・・「垂直統合」のビジネスモデルを急ピッチで見直している」、「その姿勢にわが国企業が学ぶべき点は多い」、その通りだ。
・『過去の成功体験を捨て TSMCとの連携を重視するインテル  インテルにとって、TSMCは競争上のライバルから、「成長を目指すためのパートナー」に変わり始めた。2021年に入り、インテルは最先端の5ナノメートルの製品をTSMCから調達し始めた。さらにインテルが、TSMCが量産を目指す次世代(3ナノ)の生産ラインの「大部分を確保した」という観測も浮上している。両社の協業関係は、一層強化され始めていると見ていい。 インテルの設備投資戦略も変化し始めた。同社はパッケージングなど微細化とは異なる分野で設備投資を進めている。生産能力を強化するといっても、インテルは「TSMCとの棲(す)み分け」を念頭に置いている。 インテルはTSMCとの微細化競争に敗れたことを潔く認め、最先端のロジック半導体に関しては設計と開発に集中しようとしている。その意味は大きい。インテルはCPUなどすべての半導体の設計・開発・生産・販売を自社で完結する体制に、こだわらなくなっている。 つまり、これまでの発想にしがみついていると変化への対応が遅れて、より多くの顧客を失う可能性が高まることを理解し、過去の成功体験を捨てたのだ。 今後、自社で設計開発した最新のロジック半導体の生産のために、インテルはTSMCの最新の生産ラインを他社に先駆けて、より多く確保することを重視するだろう。それによってインテルはアップルやAMD、エヌビディアなどよりも高性能のチップをいち早く世界に供給できる。 それができれば、アップルやマイクロソフトなどがインテルからのチップ調達を再度重視する展開もあり得る。このように考えると今後、世界の半導体業界で競争が激化するのはファウンドリ分野よりも、ファブレスの分野である可能性が高まっている』、「自社で設計開発した最新のロジック半導体の生産のために、インテルはTSMCの最新の生産ラインを他社に先駆けて、より多く確保することを重視するだろう。それによってインテルはアップルやAMD、エヌビディアなどよりも高性能のチップをいち早く世界に供給できる」、「世界の半導体業界で競争が激化するのはファウンドリ分野よりも、ファブレスの分野である可能性が高まっている」、なるほど。
・『自社生産面では車載半導体を強化 モービルアイのIPO計画を発表   TSMCとの協業に加えて、自社生産面でインテルは車載半導体の生産能力を強化しようとしている。同社経営陣がTSMCに言及しつつ、車載半導体事業の強化を強調しているのは、社内に取り組むべき分野を明示するためだろう。 その象徴が、画像処理半導体の開発を行う子会社モービルアイのIPO計画を発表したことだ。最先端の製造技術を必要としない分野で、インテルはより効率的な事業運営体制の確立を急いでいる。 自動車産業では、解消の兆しは出ているものの、車載半導体の不足感が続く。さらに、自動車とネット空間の接続や自動運転技術、シェアリング、電動化を指す「CASE」の取り組みが急加速し、マイコンに加えてパワー半導体の需要が増える。また、車載半導体は28ナノなど、どちらかといえば汎用型の生産ラインを用いて生産される。そのため、最先端の製造技術を持たないルネサスエレクトロニクスなど、日欧の半導体メーカーが存在感を維持できたわけだ。 その点にインテルは勝機を見いだした。TSMCは次世代、次々世代の微細化など常に新しい半導体製造技術を確立して、利幅の厚いチップ生産に集中したい。ファウンドリ第2位のサムスン電子は、車載半導体の製造能力が十分ではない。 インテルは微細化に関してはTSMCとサムスン電子に遅れたが、10ナノレベルの生産能力を持つ。その生産能力を生かすことによって、日欧など既存の車載半導体メーカーよりもより効率的にインテルが車載半導体の生産を行い、ビジネスチャンスを手にすることは可能だ。 その判断に基づいてインテルは、アイルランドのCPU生産施設を車載半導体の製造に転用すると表明した。そのうえでモービルアイのIPOによって、まとまった資金を調達し、インテルはソフトウエア開発力と受託生産を含めた車載半導体の生産体制を強化する意向だ。となると結果的に、TSMCが汎用型の半導体生産に配分する経営資源を抑え、インテルがより多くのTSMCの最新生産ラインを確保する可能性がある』、「インテルはソフトウエア開発力と受託生産を含めた車載半導体の生産体制を強化する意向だ。となると結果的に、TSMCが汎用型の半導体生産に配分する経営資源を抑え、インテルがより多くのTSMCの最新生産ラインを確保する可能性がある」、「TSMC]を巧みに使う「インテル」恐るべしだ。
・『メタバースの実現に向けて 激しさ増す半導体業界の地殻変動  今後、インテルなど世界のIT先端企業は、TSMCとの協業を一段と強化しようとするだろう。その結果、最先端の半導体生産施設が台湾に集中するはずだ。それ以外の国と地域では、汎用型の生産ラインが増え、半導体メーカー間の競争は一段と激化するだろう。 TSMCの最先端の生産ラインをめぐる各国企業の争奪戦は、熾烈(しれつ)化するだろう。TSMCの生産ラインを確保する力が、インテルをはじめ世界のIT先端企業の事業運営に決定的な影響を与えるといっても過言ではない。足元では、メタバース(仮想空間)の実現に向けて、世界のIT企業が取り組みを強化している。例えばアップルは来年にも、ARヘッドセットの発表を目指している。 新しい機能の実現には、新しい半導体が欠かせない。需要の高まりによって、TSMCは生産価格を引き上げる。外注コストの増加を吸収して成長を実現するために、企業は新需要の創出を強化しなければならない。意思決定のスピードはおのずと速まり、国際分業も加速する。他方で、TSMCはこれまで以上に微細化やパッケージング技術の革新に取り組み、それがIT先端企業のさらなるイノベーション発揮を刺激するだろう。 その一方で、インテルのように汎用型の生産ラインを用いて、車載半導体などの生産能力強化に活路を見いだす半導体メーカーは増えるだろう。各社は、競合他社の買収、あるいは資産売却によって、事業運営の効率性を高める必要がある。それが出来ない半導体メーカーは、淘汰(とうた)されるだろう。 そうした環境変化に、わが国企業は対応しなければならない。過去の事業運営の経験を捨てることができなければ、わが国企業が半導体業界の地殻変動に対応することは一段と難しくなるだろう』、「インテルはCPUなどすべての半導体の設計・開発・生産・販売を自社で完結する体制に、こだわらなくなっている。 つまり、これまでの発想にしがみついていると変化への対応が遅れて、より多くの顧客を失う可能性が高まることを理解し、過去の成功体験を捨てたのだ」、日本企業も目を覚まし、現実を直視、自分の得意分野ぶ特化すべきだ。

次に、12月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏による「ソニー・TSMC合弁が、日の丸半導体の再起を促す画期的な決断である理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/291808
・『TMSCとソニーの合弁を日本政府が支援することの意義  半導体不足が深刻化し、電化製品だけでなく自動車など様々な産業の生産に影響が出始め、各国は半導体の確保競争に乗り出している。そうした中で、日本は熊本に世界最大の半導体製造企業TSMCを誘致することに成功し、ソニーグループとの合弁で22~28nmプロセスの工場を建設する。大半はTSMCの出資になる見込みだが、日本政府も6000億円規模の基金をつくり、その多くを新工場の補助に当てるといわれる。 TSMCは昨年にも、米国に5nmプロセスの最新の半導体工場を建設することを発表している。米国に最新プロセスの工場を作るのに対して、日本には10年前の技術、世代でいうと4~5世代古い22~28nmクラスの工場を作るということに対して懐疑的な意見もある。しかし筆者は、12月16日に放送されたNHK『クローズアップ現代+』で、この日本政府の決定は今までにない画期的な決断だと述べた。 TSMCが米国に作る工場の5nmプロセスの半導体と、日本に作る工場の22~28nmプロセスの半導体がどれほどの世代差かといえば、5nmプロセスが今年発表されたアップルのiPhone13に搭載されているA15Bionicチップに使われているのに対し、2013年に発売されたiPhone5sに搭載されたA7チップが28nmプロセスであったといわれる。 こう聞くと「今さら古い工場を作ってどうするのか」と思われるかもしれないが、製品開発はなんでもかんでも新しいものや高性能なものが良いという話ではない。製品は複数の部品やモジュールから成るシステムであるが、全体として製品コンセプトに合致するようにバランスの良い部品が選択され、調整されてひとつの製品になる。街乗りのコンパクトカーにF1のエンジンを積んだり、山手線に新幹線のモーターを積んだりするのがオーバースペックでバランスが悪くなるのと同じだ。 半導体と一口に言っても様々な種類があり、製品によって用途が異なる。半導体の種類については後述するが、22~28nmレベルのプロセスは、現在生産されている自動車や電化製品に多く用いられている半導体であり、今特に不足しているのがこの世代の半導体なのである。報道で報じられているように、自動車の生産が減産に追い込まれたり、家庭の給湯器や電化製品の製品が滞っていたりするというのは、この世代の半導体の不足によるものである。 一方米国では、民間でのAI技術の開発に加えて、軍事用途に多くの最新プロセスが必要とされるため、主に5nmプロセスの半導体を優先的に国内生産している。自動車や電化製品など民需用の半導体を必要としている日本では、22~28nmプロセスの半導体の生産を優先して調達しようとしているのに過ぎない。 そもそも半導体は、メモリと呼ばれる記憶素子とロジックと呼ばれる論理素子に大別できる。メモリはDRAMやフラッシュメモリーのようにデータを記憶するための半導体であり、かつて日本の半導体産業が得意であったのも特にこの領域である。 一方、ロジックICはシステムLSIとも呼ばれ、CPUのように計算に用いられる半導体である。民生用であればPCに用いられるCPUやスマホのチップセット、家電製品などの制御などに使われる半導体として使用される。日本もかつてテレビ、ビデオ、FAXなど当時のハイテク製品が輸出産業の花形であったときには、自社のハイテク製品向けにこうしたシステムLSIの生産を行い、世界規模の半導体生産拠点となっていた。こうした自社向けに開発した半導体を自社で消費する形態をIDM(垂直統合型製造企業)という。 しかし、今日の主流は台湾のTSMCのような半導体製造に特化して、様々な企業の半導体をまとめて作る、ファブレス&ファウンドリという作り方が一般的になり、徐々に日本の半導体の競争力は下がり、今日の半導体の国内自給率は27%ほどに過ぎない』、「米国では、民間でのAI技術の開発に加えて、軍事用途に多くの最新プロセスが必要とされるため、主に5nmプロセスの半導体を優先的に国内生産している」、「今日の主流は台湾のTSMCのような半導体製造に特化して、様々な企業の半導体をまとめて作る、ファブレス&ファウンドリという作り方が一般的になり、徐々に日本の半導体の競争力は下がり、今日の半導体の国内自給率は27%ほどに過ぎない」、日本メーカーは時代の波に取り残されたようだ。
・『今不足して求められているのは収益率が悪い古い半導体  なぜ日本の半導体産業が衰退したのかを論じる前に、なぜ22~28nmプロセスの不足が問題なのかといえば、それは古い半導体製品であるため、利益率が低いという問題があるからだ。 現在の半導体不足によって、PCやタブレット、スマホなどの製品にも一部供給不足が起きているが、これらは最新スペックのCPUやチップセットの不足というより、スマホなどの製品に使われる周辺の部品、たとえば液晶ディスプレイを制御する半導体や、周辺機器との通信を行う半導体など、それほど高性能ではない古い世代のプロセスで作られる半導体部品の不足によるものだ。新しいものだけあっても、製品を作ることができるわけではないということである。 しかし、いくら必要な部品だとしても古い技術の半導体は価格が安く収益性が悪い。しかも、たとえば22~28nmプロセスの工場の投資は主に10年前に行われているので、すでに減価償却が終わっており、仮に低価格で製品を販売しても作れば作るほど利益が出る構造になっている。よって、このプロセスの半導体製品は価格が低く、新規参入のメリットが少ないので、半導体不足にかかわらず増産しようとする企業がなかなか現れなかったのである』、なるほど。
・『10年も前の技術に投資するという大胆な意識の変革  そこで、今回の熊本の新工場である。冒頭で日本政府の支援がなぜ画期的かというと、理由は2つある。 1つは、それが外資との共同プロジェクトであることである。産業再生機構の活動などを含めて日本のこれまでのハイテク産業支援は、主に日の丸半導体、日の丸液晶など、国内企業の弱った企業同士の再編、意地悪な言い方をすれば、弱者連合への支援であった。 しかし今回は、世界最大の半導体製造企業であるTSMCと、世界最大のCMOSセンサー(撮像素子)メーカーのソニーの協業という、国際的なプロジェクトへの支援である。かつて液晶パネル分野で、ソニーが当時の最大手メーカーだったサムスン電子とS-LCDの合弁事業を始めたときに経済産業省から批判を受けたことを考えれば、隔世の感がある。 もう1つ、さらに重要なのは、今回の投資が最新技術への投資ではないことである。常に新しいものを作り、今のビジネスで失敗をしたら常に「次の技術で頑張ります」としか言ってこなかった日本のエレクトロニクス産業と、それを支援する行政が、10年も前の技術に投資をしようというのだから、ここには大きな意識の変革を感じる。 熊本のTSMCとソニーの新工場の建設は8000億円規模といわれ、その大半をTSMCが出資すると言われるが、10年前に生産を開始した同世代の半導体工場がすでに減価償却を終えていることを考えると、それだけでは同レベルの競争力を持つことができるとは思えない。そこで、6000億円規模と言われる日本政府の支援である。 これだけの支援が政府から民間企業に行われれば、すでに減価償却を終えた海外の22~28nmプロセスの工場と同じ価格で競争することも不可能ではない。言い換えれば、10年分の減価償却費を日本政府が肩代わりしたようなものである。 これまでの日本政府の支援は、何を作るか、どのような新しい技術を開発するかに対する支援が中心であり、どのように作り、どのように世界で戦うためかを重視した支援ではなかった。これは政府だけでなく、日本のエレクトロニクス産業全体の問題である。) 日本企業にはとかく、「新しい技術で良いものさえ作ればいつか消費者は分かってくれる」という甘えがあり、新しい技術や製品を作っても作りっぱなしにして、すぐに次の開発プロジェクトに移行していた。そうした中で、韓国、台湾、中国の競合メーカーは、日本が注力しないすでに確立した技術をいかに安定的に大量に安価に生産し、世界との競争で勝ち抜くかを考えて、生産技術を磨いてきた』、「すでに減価償却を終えた海外の22~28nmプロセスの工場と同じ価格で競争」できるようにするため、「10年分の減価償却費を日本政府が肩代わりしたようなもの」、ずいぶん思い切ったことをしたものだ。
・『新しい技術は日本という研究所に任せておけばいい  筆者は15年ほど前、ある台湾の液晶パネルメーカーの役員に、疑問をぶつけたことがある。同社が持つ特許を見ると、当時日本の液晶パネルメーカーが開発していたような最新世代の液晶の生産に乗り出すこともできたはずであったが、その台湾メーカーは常に日本のメーカーのひとつ前の世代の生産設備にしか投資しないのだ。そこで、「なぜ台湾メーカーは最新のパネルの開発や生産をしないのか?そのほうが世界でトップクラスの技術を誇ることができるのではないか?」と尋ねると、笑いながらこう答えてくれた。 最新のプロセスには不確実性が伴い歩留まりも悪く、顧客に対して約束した数量のパネルが供給できないかもしれないですし、なによりも儲かりません。最新の技術は黙っていても日本メーカーがやってくれて、問題点の洗い出しもしてくれます。我々はそれを待って技術が安定したところに、生産技術と設備に大きく投資をして、収益を獲得するのです。新しいことは日本という研究所に任せておけばいいのです」 この言葉はかつて、パナソニックの松下幸之助氏が言っていた「我々には東京にソニーという研究所がある」というものに似ている。日本は常に最新の技術を追いかけ、東アジアの他のメーカーが技術的に遅れていると見下してきた。メディアも「技術流出の恐れがある」と諸外国を下に見てきた。しかし、手のひらで踊らされていたのはむしろ日本の方なのかもしれない。 日本の半導体産業の衰退は、ここに原因がある。新技術に取り組み差別化を図るのは良い。しかし、それだけでは勝てないのが今日のエレクトロニクス産業である。それを考えると、今回の日本政府の半導体支援は、市場のニーズに鑑みた現実的な施策ということが言えよう。 それでは、日本は古い世代の半導体技術のままでいいのか、といわれればそうではない。技術も進化するが、市場も進化する。今後の市場の進化とともに、必要とされる半導体プロセスにも変化が生じるであろう。しかし、それは技術の進化だけではなく、ビジネスの進化も同時に行う必要がある。 イノベーションとは「既存の、もしくは新しい技術、アイデア、仕組み、組織などの新しい組み合わせ」であって、「企業に経済的な収益をもたらすもの」と定義されている。そもそもイノベーションの概念を提示したシュンペーターは、労働と資本以外に企業の売り上げを増やすための要素として、イノベーションという概念を用いたのである。 しかし、日本では古くはイノベーションが技術革新と訳され、今日でも「新結合」のような、よく意味の分からない言葉で語られている感がある。その定義の前半部分「なにかあたらしいものさえ作ればなんとかなる」という概念が、誤解をされているようだ』、「今回の日本政府の半導体支援は、市場のニーズに鑑みた現実的な施策ということが言えよう」、と高く評価しているが、本当だろうか。
・『「価値創造」は得意だが「価値獲得」が苦手な日本  MITのスローンマネジメントスクールでは、このイノベーションの定義の前半を「価値創造(Value Creation)」と呼び、後半を「価値獲得(Value Capture)」と呼んで学生に教えている。大阪大学の延岡健太郎教授は、「日本は高い技術力によって価値創造が得意であるが、戦略を駆使して価値獲得をすることが苦手である」と指摘している。 「価値獲得」を行うために何が必要なのか。20世紀のエレクトロニクス産業は垂直統合的に技術を囲い込み、新たな技術が産み出した機能、性能の差が価値を産み出してきた。しかし、世の中は技術の変化のスピードが飛躍的に速くなり、製品は複雑なものになる一方であり、1つの会社や国の中だけで作ることはできなくなってきている。 むしろ先述の台湾企業のように、立ち止まる(Step back)ことでより多くの価値獲得を行う戦略で成功している企業もあり、ただ闇雲に最新の技術を追いかけるだけでは、価値創造はできても価値獲得ができないままになってしまうであろう。 考えるまでもなく、太陽光パネル、フラッシュメモリー、液晶パネル、プラズマパネル、そしてリチウムイオン電池など、多くの技術が日本発の技術であり、ノーベル賞学者まで輩出した日本の価値創造の成果である。しかし、これらの日本企業がしっかり価値獲得をできていたであろうか。今挙げた製品は全て日本が開発し、他国の企業が大量に安定的に安価に生産をすることで、他国企業の価値獲得に繋がってしまった製品たちである。 だからこそ、今回日本も22~28nmプロセスの半導体という技術にステップバックして、今しっかり日本の自動車産業や電化製品事業を支える価値獲得に貢献することが重要なのである。これは、「失敗したら、何か次の新しい技術課題に取り組めば、いつかはなんとかなるだろう」という、日本の幻想的な負けパターンから目を覚まし、日本の産業・企業が、技術以外の戦略的な能力を高めるためのリハビリのプロセスとも言える。そのために必要な投資であり、今回の日本政府の支援はこれまでになく、日本の産業の育成に貢献するのではないか』、「今挙げた製品は全て日本が開発し、他国の企業が大量に安定的に安価に生産をすることで、他国企業の価値獲得に繋がってしまった製品たちである。 だからこそ、今回日本も22~28nmプロセスの半導体という技術にステップバックして、今しっかり日本の自動車産業や電化製品事業を支える価値獲得に貢献することが重要なのである」、「他国企業の価値獲得に繋がってしまった」、のは悪いようなイメージで主張しているが、それが貿易の役割の筈だ。「価値創造」と「価値獲得」が概念だけなので、分かり難い。簡単な数値例でもあれば、分かり易いのだが・・・。
・『GAFAが持っていない日本が得意とするハードウエア技術  話を今後の技術のアップデートに戻すと、日本の22~28nmプロセスの工場誘致は、今必要な価値獲得のための戦略である。今後、日本がより高度な半導体生産に乗り出さなくてよいかといえば、そうではない。しかし、いきなり5nmで米国と張り合うことも意味はない。もう少し具体的にいえば、日本はGAFAに追い付き、追い越そうとする必要はないのかもしれない。これからは自動運転技術などで、AI技術が重要になる。そのためには、最先端の半導体プロセスが必要になることは明らかである。 しかし、米国には軍事産業という最先端技術に莫大な投資をできる産業があり、潤沢な資金を基に莫大な研究開発と設備投資を行った技術を民間転用して、GAFAのような民需企業が活用することができる。防衛予算が抑制的な日本で、同じビジネスモデルを行うことはできない。 ビジネスは精神論だけでは戦えない。それは第二次世界大戦で日本が負けたのと同じパターンだ。世の中はこれまでのように、各国の企業がクローズドに、垂直統合的に技術を囲い込んで製品を開発する時代ではない。日米のIT産業、エレクトロニクス産業、あるいは自動車産業も、張り合いながらも協調することができるし、そうしたオープンな環境でのイノベーションが不可欠だ。 戦略の基本は、競争相手がいない市場で自身の強みが生かせることである。GAFAを代表とするIT企業が今後、自動車のAIなどの技術で先に進んだとしても、彼らにも持っていないものがある。それはハードウエアだ。 1980年代に最も激しかった日米貿易摩擦を経て、米国はそれまでの主力産業であった自動車、エレクトロニクスという製造業から、サービスやソフトウエアに産業の主軸を移している。しかし依然として、サービスやソフトウエアを実装するハードウエアは必要である。アップルが自動車を作りたくても、アップルだけでハードウエアを作ることはできない。そもそも、アップルはPCやスマートフォンですら、ハードウエアは自社で生産しておらず、台湾企業の中国工場で作っている。) AI技術が進めば、IT技術は今まで以上に企業や家庭の中に入り込み、個人情報などの機微情報を取り扱うことになる。そうしたときに、AI技術が米国のように機微情報を安心して任せるに足り得る国の産業や企業で開発されたとしても、それらのサービスやソフトウエアを実装するハードウエアも、信頼に足りる国や企業で生産されるのであろうか。 今日の米国企業のIoT機器の多くは、中国で生産されている。しかし、中国は2017年に施行された国家情報法によって、中国政府の情報工作については企業、市民に協力義務があることを規定している。2021年に施行された個人情報保護法は、個人の機微情報の取り扱いをかなり厳格に取り決めた法律ではあるが、個人情報の域外持ち出しに大きな制限があり、国際的な情報の運用に関しては国家が厳格に管理することができる』、「中国」の「国家情報法」が頼みの綱のようだ。
・『自由主義経済のネットワークで日の丸電機が再び輝けるチャンス  民間企業に他意はないとしても、こうした個人情報に対する国家の管理が厳しい国で、企業や個人の機微情報を扱うハードを作ることに、不安はないのであろうか。むしろ、この状況は日本にとってはチャンスではないだろうか。 いやまスマホだけでなく、ゲーム機、テレビ、家電製品などにもIoTやAIの技術は入り込み、やろうと思えば家庭の中のあらゆる情報を、これらの機器から抜き出すことも技術的には不可能ではない。そうしたときに、米国のパートナーとして、自由経済と民主主義の理念を70年以上共有してきた日本の製造業こそが、IoT機器やAI機器、自動運転自動車などの機微情報を扱う製品を、世界に安心して供給できるのではないだろうか。 ただ闇雲に最新の半導体技術を追いかけるのは、前世紀の技術戦略である。今日求められるのは、企業や家庭に入り込み個人の機微情報を取り扱う、エレクトロニクス製品や自動車を安心して使える信頼あるメーカーがつくることの重要性を、日本の最大のセールスポイントとして、官民が一致して世界に売り込むことである。 その中で、日本、米国、台湾という自由経済と民主主義を堅持する国家や地域とのネットワークの中で、オープンな環境のイノベーションに資する技術を提供し、製品を作っていくことが、日本の価値の最大化に最も貢献するのではないだろうか。そうした視点で、米国や台湾と役割分担をしながら、日本にしかできない、AIを実装するハードウエアに必要な半導体の国内自給率を上げていく戦略を描いていくことが、求められるのではないだろうか』、ドイツなどの欧州企業も中国に食い込んでおり、強力なライバルだ。
タグ:真壁昭夫 ダイヤモンド・オンライン 「台湾TSMCに「負けた」米インテルの大胆な自己変革、日本企業が学ぶべきこと」 「インテルは・・・「垂直統合」のビジネスモデルを急ピッチで見直している」、「その姿勢にわが国企業が学ぶべき点は多い」、その通りだ。 半導体産業 (その6)(台湾TSMCに「負けた」米インテルの大胆な自己変革 日本企業が学ぶべきこと、ソニー・TSMC合弁が 日の丸半導体の再起を促す画期的な決断である理由) 「自社で設計開発した最新のロジック半導体の生産のために、インテルはTSMCの最新の生産ラインを他社に先駆けて、より多く確保することを重視するだろう。それによってインテルはアップルやAMD、エヌビディアなどよりも高性能のチップをいち早く世界に供給できる」、「世界の半導体業界で競争が激化するのはファウンドリ分野よりも、ファブレスの分野である可能性が高まっている」、なるほど。 「インテルはソフトウエア開発力と受託生産を含めた車載半導体の生産体制を強化する意向だ。となると結果的に、TSMCが汎用型の半導体生産に配分する経営資源を抑え、インテルがより多くのTSMCの最新生産ラインを確保する可能性がある」、「TSMC]を巧みに使う「インテル」恐るべしだ。 「インテルはCPUなどすべての半導体の設計・開発・生産・販売を自社で完結する体制に、こだわらなくなっている。 つまり、これまでの発想にしがみついていると変化への対応が遅れて、より多くの顧客を失う可能性が高まることを理解し、過去の成功体験を捨てたのだ」、日本企業も目を覚まし、現実を直視、自分の得意分野ぶ特化すべきだ。 長内 厚 「ソニー・TSMC合弁が、日の丸半導体の再起を促す画期的な決断である理由」 「米国では、民間でのAI技術の開発に加えて、軍事用途に多くの最新プロセスが必要とされるため、主に5nmプロセスの半導体を優先的に国内生産している」、「今日の主流は台湾のTSMCのような半導体製造に特化して、様々な企業の半導体をまとめて作る、ファブレス&ファウンドリという作り方が一般的になり、徐々に日本の半導体の競争力は下がり、今日の半導体の国内自給率は27%ほどに過ぎない」 日本メーカーは時代の波に取り残されたようだ。 「すでに減価償却を終えた海外の22~28nmプロセスの工場と同じ価格で競争」できるようにするため、「10年分の減価償却費を日本政府が肩代わりしたようなもの」、ずいぶん思い切ったことをしたものだ。 「今回の日本政府の半導体支援は、市場のニーズに鑑みた現実的な施策ということが言えよう」、と高く評価しているが、本当だろうか。 「今挙げた製品は全て日本が開発し、他国の企業が大量に安定的に安価に生産をすることで、他国企業の価値獲得に繋がってしまった製品たちである。 だからこそ、今回日本も22~28nmプロセスの半導体という技術にステップバックして、今しっかり日本の自動車産業や電化製品事業を支える価値獲得に貢献することが重要なのである」 、「他国企業の価値獲得に繋がってしまった」、のは悪いようなイメージで主張しているが、それが貿易の役割の筈だ。「価値創造」と「価値獲得」が概念だけなので、分かり難い。簡単な数値例でもあれば、分かり易いのだが・・・。 「中国」の「国家情報法」が頼みの綱のようだ。 ドイツなどの欧州企業も中国に食い込んでおり、強力なライバルだ。
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