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資本主義(その9)(セドラチェクvs斎藤幸平「成長と分配のジレンマ」 「成長至上」と「脱成長」の狭間の資本主義論、大テーマを掲げた割には内容が小粒 「改革」なき「新しい資本主義」、大前研一「"新しい資本主義"が危険である これだけの理由」 賃上げするほど格差は拡大する) [経済]

資本主義については、昨年12月9日に取上げた。今日は、(その9)(セドラチェクvs斎藤幸平「成長と分配のジレンマ」 「成長至上」と「脱成長」の狭間の資本主義論、大テーマを掲げた割には内容が小粒 「改革」なき「新しい資本主義」、大前研一「"新しい資本主義"が危険である これだけの理由」 賃上げするほど格差は拡大する)である。

先ずは、本年1月1日付け東洋経済オンラインが掲載した NHK「欲望の資本主義」プロデューサー/東京藝術大学客員の丸山 俊一 氏による「セドラチェクvs斎藤幸平「成長と分配のジレンマ」 「成長至上」と「脱成長」の狭間の資本主義論」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/477941
・『今、資本主義をめぐる議論が熱い。 「成長至上」のあり方を否定することにおいてはともに一致しつつも、現状を打開する方策、システムのあり方について意見を異にし、対立する2人が出会った。かたや思春期に共産主義を経験、その苦い記憶からそこに帰ることなく資本主義において解決策を探し続けるチェコの奇才アナリストと、アメリカでマルクスに出会い、脱成長の可能性に魅せられた夢見る俊英学者との対論だ。 『欲望の資本主義5:格差拡大 社会の深部に亀裂が走る時』など、書籍化もされている新春恒例の番組「欲望の資本主義」。元日放送の「BS1スペシャル 欲望の資本主義2022 成長と分配のジレンマを超えて」での、トーマス・セドラチェク氏と斎藤幸平氏によるチェコと東京を結ぶ熱い議論は、3時間を超えるものとなった。その冒頭部分をお聞きいただこう』、「番組」は見逃したので、有難い。
・『社会主義を支持する欧米の若者たち  斎藤幸平(以下、斎藤):セドラチェクさんの『善と悪の経済学』を読みましたが、経済成長を時に鈍化させる必要性をあなたは説いていますよね?私も著書『人新世の「資本論」』の中で脱成長について議論し、その議論は今では日本でも多くの人に受け入れられています。 今日は「脱成長は可能なのか」について議論したいのですが、いちばんのポイントは、脱成長は資本主義の中で可能なのか、あるいは資本主義を超えた先の脱成長をめざすべきなのか、だと思います。その点について、じっくり話し合えればと思います。 セドラチェク:私の国は長く共産主義を経験しましたから、その点についても話せますね。それに、この問題を環境問題に結び付けた形で議論することも可能です。なぜなら、あなたのマルクス主義に基づきつつも現実的でエコロジカルな視点に、私はとても興味があるからです。すばらしい議論ができるでしょう。 斎藤:ええ。同意できる点と異なる点と……、議論を楽しみにしています。 セドラチェク:頭脳明晰な友人とのおしゃべりは、最高の夜の過ごし方ですからね。 斎藤:ありがとうございます。ではまず、最初にアメリカのバーニー・サンダースやイギリスのジェレミー・コービンといった「社会主義」を掲げる政治家の人気について話したいと思います。彼らを最も情熱的に支持しているのが若者だというのは、注目すべき点です。「ジェネレーション・レフト」とも呼ばれる、ミレニアル世代やZ世代がますます社会主義的な考え方に興味を持つようになっている。 その背景には、資本主義が、「みんなを豊かにする」という約束を果たせなくなっているという問題があります。つまり、経済を成長させることで、あらゆる人により豊かな生活をもたらすという約束です。 若者たちが直面しているのは、深刻な経済的不平等です。若い世代の多くの人たちは、不安定で低賃金の職にしかありつけていません。学費の高い英米の若者たちは、就職後も学生ローンの返済で苦しんでいますし、ニューヨークやロンドンなどの大都市の家賃は高騰するばかりです。今の資本主義を続けることは、若い世代にとっては経済破綻を意味します。 ソ連が崩壊して30年経ち、再びある種の社会主義的な考え方に若者が共鳴するのには、十分な理由があると私は思っていますが、その点、どんなふうに捉えていらっしゃいますか?』、「今の資本主義を続けることは、若い世代にとっては経済破綻を意味します。 ソ連が崩壊して30年経ち、再びある種の社会主義的な考え方に若者が共鳴するのには、十分な理由があると私は思っています」(斎藤)。
・『食べ物の棚が空っぽの社会主義時代のチェコ  セドラチェク:サンダース現象の盛り上がりについては、私が住む欧州の視点からは、率直なところ理解に苦しみます。なぜなら私たちは資本主義を違う方法でも利用できると知っているからです。実際、過去35年の全人口の富の増加のデータを見ると、欧州に鉄のカーテンがあった時代、つまり昔の社会主義時代と比べると興味深い傾向があります。 欧州の富裕層の富はそれほど増えず、200%増加した程度です。倍になったのは大きいですが、アメリカに比べればそれほどではありません。ましてやロシアとは比べ物になりません。チェコも貧困層や中流階級の人々さえも過去30年間の資本主義の恩恵を受けています。 ですからヨーロッパの若者は、左派に対してそれほどの情熱を持っていないでしょう。とくに社会主義の時代に空っぽの棚を経験している、ここ中欧では。私は子どもの頃、フィンランドに住んでいたこともあり、鉄のカーテン 両側から見ることができました。あるとき、祖母がフィンランドに来たことがありました。彼女が亡くなった後に、遺品を整理していたら食べ物の写真が20枚ほど出てきましたよ。彼女にとっては食べ物でいっぱいの棚がたくさんあるのが珍しかったのでしょうね。 斎藤:欧州の中流階級がそれほど貧しくなっていないという点は注目すべきですね。若者たちも、史上最悪の状況に置かれているというわけではありません。 しかしながら、欧州においてさえ社会主義など、脱資本主義への関心が高まっているのは事実で、先に挙げたコービンだけでなく、ギリシャのヤニス・バルファキスなどの躍進にも表れています。 こうした現状を理解するために、もう1つ重要なポイントは、私たちが「人新世の危機」に直面しているということではないでしょうか?「人新世」とは、人類の経済活動が巨大になり、今後数千年も続くような地球全体の変化をもたらし、地質学的に大きな影響力を与えている時代のことです。つまり、資本主義が地球を壊すほどの環境危機を引き起こしているのです。そのうち最も深刻な危機が気候変動です。 コロナのパンデミックは、「人新世の危機」を象徴していますが、問題は新型コロナの感染爆発は最後の危機ではなく、むしろスタートだという点です。コロナ禍は、気候変動が引き起こす慢性的緊急事態へのリハーサルでしかないのです』、これに対し「セドラチェク」は、「欧州の富裕層の富はそれほど増えず、200%増加した程度です・・・アメリカに比べればそれほどではありません・・・チェコも貧困層や中流階級の人々さえも過去30年間の資本主義の恩恵を受けています。 ですからヨーロッパの若者は、左派に対してそれほどの情熱を持っていないでしょう」と、社会主義から「資本主義」に体制転換したことから、「資本主義」の問題点には余り関心がないようだ。
・『パンデミックは来る気候危機の予告編  セドラチェク:私はデモ版と呼んでいます。予告編ですね。 斎藤:ええ、気候危機の予告編です。摂氏2度上がった世界を想像してください。すぐにその時はやって来ます。台風やハリケーン、山火事、干ばつが増え、海面上昇も起き、人間の手に負えなくなります。そして確実に水不足や食糧危機が起き、多数の難民が生まれます。社会に大きなマイナスの影響も生まれ、排外主義や極左運動等を生み、戦争や紛争につながるのです。 そう考えれば、Z世代の不安や怒りは理解できるでしょう。彼らは近い将来に起きる危機を非常に恐れているのです。 そして若い世代は、気候危機に対する説得力のある、魅力的な解決策を提供できない現在のシステムに失望しています。そしてもし既存のシステムが解決策を提供できないならば、今のシステムの外に求めるべきだと考えています。 だから、社会主義が次なるシステムの候補に上がっているわけです。 セドラチェク:気候危機が、人々が解くべき重要な問いであることには同意します。私たちはその解決策を知りません。この惑星でこんなことが起きたのは初めてですからね。この状況は私たちが1989年に資本主義を導入すべく共産主義から離脱したときの状況と少し似ています。当時教科書がなく、どうすべきかわかりませんでしたから。確かに気候変動の原因は、普通に考えれば、資本主義です。) セドラチェク:しかし私は、資本主義自体の問題ではないと考えるのです。なぜそう思うのかと言えば、解決策を見つける国は、いつも西側の資本主義国だからです。中国の共産主義によって発案された解決策はありません。 実際、現在議論されているCOPでの温室効果ガス削減目標に関しては、皮肉にも中国が最も後ろ向きで自らが出す公害の割合を減らす覚悟ができていないのです。公共の利益を考えるべきは、ほかでもない社会主義あるいは共産主義政党のはずでしょう?ちなみに、私は過去の経験から2カ月ほど前に挑発的な論文を書いたのですが、その内容は「資本主義は共産主義ほど環境を破壊しない」というものでした。 私はこのチェコの地で育ち、革命が起きた時は12歳でした。そして30年……、共産主義による40年間にわたる環境破壊の後始末をするのに、資本主義社会で30年かかったわけです。私にとっては皮肉でした。なぜなら子どもの頃こう思っていたからです。「私欲や利益、利己主義に左右されず、中央計画経済が実行され、民衆の幸福と公共の利益の実現のみを役割とする政治体制なのに、なぜ?」と。 公共の利益の例として私たちが吸う空気に勝るものがあるでしょうか?私たちは同じ空気を吸っています。しかし、共産主義はその空気を守ることができませんでした。利己主義で利益を追求し、無秩序で組織化されておらず、命令でなく報奨金のみによって動くフィンランドの資本主義の人々ほどもね。これは大きな逆説です。フィンランドのビジネスマンは環境を守ろうと意図していたわけではなく、スープやジャガイモなどを売って儲けたかっただけにもかかわらず、旧チェコスロバキアほど環境を悪化させなかったのです』、「私たちは同じ空気を吸っています。しかし、共産主義はその空気を守ることができませんでした」、その通りだ。
・『資本主義システムではない新しいシステム  斎藤:チェコスロバキアなどの東側諸国のほうが、資本主義の西側諸国よりも大気汚染など環境に悪影響を与えていたとおっしゃいましたね。その点は理解します。 しかしながら、東西両陣営、どちらの体制の国々も果てしない経済成長を求めていたこと、そしてどちらも、生態系への影響を無視して近代化を求めていた、という点が最大のポイントです。東西ともに、成長を追求し、環境を破壊したという、その点においては、まったく同じ穴の狢だったわけです。) 斎藤:生産における古い社会主義的管理体制が非効率的で環境を破壊するものだったという点は理解しています。しかし、当時そうだったというだけであって、未来の環境を考えた場合、社会的に生産を管理・規制する必要があり、そのほうが環境にいいという可能性までも否定するものではありません。 なぜなら、市場で無秩序な競争を行い、際限のない資本増殖を追求する資本主義システムのもとでは、環境危機を悪化させるばかりで、危機を解決に導くことなどできないからです。現に気候変動問題は、ソ連崩壊後にますます悪化しています。私たちは環境危機の原因である、資本主義システムではない新しいシステムを作らなくてはなりません。 残念ながら、利潤を求め、経済を成長させるということは、ほぼ例外なく物・資源・エネルギーの消費の増大を伴うのです。成長と環境に悪い消費を短期間で切り離すことは至難の業です。 EUやアメリカは“緑の”資本主義をスローガンに掲げ、技術革新によって、経済成長と環境への悪影響を切り離す、デカップリングを目指していますが、技術的にそれが実現する保障はありません。しかし、気候危機を解決するには「今後30年のうちに解決しなければ、ポイント・オブ・ノーリターンを迎えてしまう」という深刻なタイムリミットもあります。二酸化炭素排出量を、大急ぎで大幅に削減し、ゼロにせねばならないのです。 ですから、実現の保証が定かでない技術革新だけに期待をかけて、経済成長を求めている場合ではないのです。例えば国家権力によって悪質な産業は止めることなども選択肢にせねばなりません。今われわれは、コロナのパンデミックよりも大きな問題に本当は直面しているのです』、「二酸化炭素排出量を、大急ぎで大幅に削減し、ゼロにせねばならない」という「コロナのパンデミックよりも大きな問題に本当は直面している」、その通りだ。
・『パンデミックによる「資本主義の中の社会主義」  斎藤:ただ、パンデミックから私たちが学んだこともあります。つまり、われわれは緊急モードになって、やろうと思えばロックダウンもできるし、マスクやワクチンなど、どうしても必要なモノを作るよう市場に呼びかけることもできるという点です。ロックダウン中はお金を配るよう政府に要求することもできます。 こうしたコロナ対策が証明したのは、どれほど素早くわれわれが自らの行動を変えられるか、そして政府は実際、国民の命を守るために動けるのだということです。これは、われわれの政治や経済に関する想像力が広がった経験だと考えています。 市場の規制を撤廃し民営化を進める新自由主義が国民の命を守り、生活をより豊かにする最も効率的な方法だと言われてきました。しかし、そうした社会がもたらしたパンデミックと気候危機という矛盾に直面し、より社会的規制や共同生産の可能性を模索せねばならなくなったのです。 当然、旧社会主義国の失敗を繰り返してはなりませんけどね。 セドラチェク:パンデミックが想像力を広げたことには同意します。この間、世界中が共産主義になったとも言えますからね。誇張した表現ですが。 斎藤:危機の時代にはみな社会主義者になるというジョークが昔からありますからね。 セドラチェク:そのとおりです。皆いくらかの給付金を受け取ったわけで、もしもパンデミックが続いても、何年かは持ちこたえられるでしょう』、「コロナ対策が証明したのは、どれほど素早くわれわれが自らの行動を変えられるか、そして政府は実際、国民の命を守るために動けるのだということです。こは、われわれの政治や経済に関する想像力が広がった経験だと考えています」、同感である。
・『資本主義国家と共産主義国家の違い  セドラチェク:しかしここで考えねばならないのは、持ちこたえられるのも、今私たちが豊かだからということです。共産主義の末期ではムリでした。1980年代にパンデミックはありませんでしたが、それでも店の棚に食料はありませんでした。飢餓にある人もいたのです。 「BS1スペシャル欲望の資本主義2022成長と分配のジレンマを超えて」は、NHK BS1にて2022年1月1日22:00~放送予定(写真:NHK) フィンランドのような中央計画経済とは無縁の社会が、なぜチェコスロバキアなどの中央計画経済の国々よりも当時繁栄していたのか、私にとってこれは最大の謎でした。西側のほとんどの国々では、なぜか生態系、自然へのダメージが共産主義体制の国々より大幅に少なかったのです。これはちょっと皮肉です。言葉を額面どおり受け取るなら、共産主義のほうがマシなはずですから。リーダーが「明日からCO2の排出量を減らすぞ、煙突にフィルターをつける」と宣言できるはずだからです。 ところが実際は違いました。1988年、革命が本格化する前に、チェコスロバキアの北部の町々で政権に対する抗議運動がありました。あまりの空気の悪さで、息が吸えなかったのです。民衆は共産主義体制を批判し始め、その運動が首都プラハまで波及して知識人による反乱となりました。始まりは環境問題だったのです。 当時リーダーたちを批判することは禁じられていました。これが資本主義国家と共産主義国家の違いだと思います。資本主義国家は批判に対してお金を払い、批判を求め、変化を求めるのです。 新しい制度が必要だという点ではまったく同感です。しかし私は、資本主義の中で模索します。 あくまで資本主義内での問題解決を考えるセドラチェクと、コミュニズムの実現を目指す斎藤の議論は、いよいよ核心へと入っていく……。どこまでわかり合え、どこからが異なるのか? 成長、分配、生産性……、さまざまな言葉が行き交う今、資本主義の曲がり角にあって進むべき道は? このほかにも世界各地のさまざまな経済のフロントランナーたちが登場、資本主義の可能性と限界に迫る、2017年からの新春恒例の企画ならではの、骨太でスリリングな議論が番組では展開される』、「チェコ」など東欧の民主主義「革命」も「始まりは環境問題だった」、忘れていた重要なポイントを思い出させてくれた。

次に、1月13日付け東洋経済Plus「大テーマを掲げた割には内容が小粒 「改革」なき「新しい資本主義」」を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29328
・『岸田文雄首相の掲げる「新しい資本主義」の評判がエコノミストの間で芳しくない。大テーマを掲げた割にはその内容が小粒で、新味に欠けるからだ。 首相が年頭所感で説明する「新しい資本主義」はこうだ。成長については「デジタル化」「気候変動」「経済安全保障」「イノベーション・科学技術」などの社会課題をエンジンとする。分配については、格差に向き合い、「企業による賃上げ」や「人的投資の強化」を行う。これを次の成長につなげ、「成長と分配の好循環」を生むことで、経済の持続可能性を追求する──。 これでは、巷間(こうかん)いわれるようにアベノミクスと変わらない。 成長のエンジンとは産業戦略にすぎない。政府がテーマを並べて税制優遇や補助金で企業の投資を誘導する、従来型の手法だ。これまでも繰り返されてきたが、イノベーションの活性化にはつながらなかった。 本来、イノベーションは企業の側から自発的に生まれる。政府の役割は、それを阻害するような規制・制度を見直し、既得権を持つ者による不当な取引慣行を排除することだ。民間のイノベーションが乏しいことが、日本の問題だ。 分配についても、「企業による賃上げ」を「賃上げ税制」という企業への優遇措置に頼ろうというのでは、アベノミクス下の官製春闘と同様に持続性はないだろう』、「分配についても、「企業による賃上げ」を「賃上げ税制」という企業への優遇措置に頼ろうというのでは、アベノミクス下の官製春闘と同様に持続性はない」、その通りだ。 
・『30年近く沈み続けて  首相は「すべてを市場や競争に任せるのではなく」、「新自由主義から決別すること」が「先進国共通の課題だ」と語る。確かに日本でも株主至上主義を促すコーポレートガバナンス・コードの導入や法人税引き下げなどの新自由主義的政策は導入された。だが、すべてを市場や競争に任せてはいない。 単純化していえば、米国ではイノベーションが活発な反面、起業家やCEO(最高経営責任者)が、突出した報酬に加えて株主利益や減税の恩恵も手にした。一部の勝者への富の集中で格差は拡大した。 日本の場合は、潜在成長率が低下してほぼゼロになる中で、中間層から下層に滑り落ちる人が増え、格差が拡大した。その背景には、新卒一括採用・終身雇用制、正社員の解雇規制がある。企業は景気に応じて調整しやすくコスト負担の少ない非正規雇用を増やした。 企業に補助金や税制優遇を与えて雇用を守ってもらう政策を変えなかったことで、低成長・低採算の産業が温存され、人材もそこに縛られて低賃金から脱却できない。結果的に、守られない非正規雇用も拡大した。これを続けるのか。 潜在成長率を引き上げるには、パッチワーク的修正でなく、経済全体の枠組み変更の必要がある。 中心に据えるべきは労働市場の改革で、ドイツや北欧の例に倣って積極的労働市場政策に転換することだ。企業倒産や解雇を容認することで、企業や事業の新陳代謝を促す。セーフティーネットとしては個人を対象とする失業手当や再就職支援、そのための職業教育などを手厚くすることで、成長分野への労働移動を促す。国内で成長の可能性が見えてくれば、企業も投資を活発化させる。 また、家計が安心して消費を増やすためには、持続可能な社会保障、財政の姿を示すことが必要で、財源の議論は避けて通れない。 ばらまき政策が多いのは、今夏の参院選で過半数を握るためで、それまでは財源など不人気な議論は封印されているのだという解釈がもっぱらだ。だが、長期化した安倍政権も改革への取り組みは希薄だった。首相が「規制改革」や「既得権益の打破」といった言葉を避けていてよいものか』、「潜在成長率が低下してほぼゼロになる中で、中間層から下層に滑り落ちる人が増え、格差が拡大した。その背景には、新卒一括採用・終身雇用制、正社員の解雇規制がある。企業は景気に応じて調整しやすくコスト負担の少ない非正規雇用を増やした。 企業に補助金や税制優遇を与えて雇用を守ってもらう政策を変えなかったことで、低成長・低採算の産業が温存され、人材もそこに縛られて低賃金から脱却できない。結果的に、守られない非正規雇用も拡大した。これを続けるのか。 潜在成長率を引き上げるには、パッチワーク的修正でなく、経済全体の枠組み変更の必要がある」、同感である。「首相が「規制改革」や「既得権益の打破」といった言葉を避け」るべきではない。

第三に、プレジデント 2022年3月4日号が掲載したビジネス・ブレークスルー大学学長の大前 研一氏による「大前研一「"新しい資本主義"が危険である、これだけの理由」 賃上げするほど格差は拡大する」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/54516
・『賃上げするほど格差は拡大する  給料を上げた企業は税金が安くなる「賃上げ促進税制」が2022年4月からスタートする。大企業と中堅企業の場合、前年度比で3%以上給料をアップすれば法人税が15%控除され、4%以上は25%控除される。中小企業の場合は、1.5%以上アップすると15%控除、2.5%以上は30%控除だ。 賃上げ税制は、岸田文雄首相が設置した「新しい資本主義実現会議」が提案した。競争原理を重視した新自由主義では格差が拡大したから、新自由主義にかわる「新しい資本主義」を目指すという。賃上げ税制は、これを実現する具体策の1つというわけだ。 この政策を本気で「資本主義」だと考えているとしたら、岸田政権は危険だと思う。「政府が賃金をコントロールするのは、資本主義ではないのではないか?」と首をかしげたのは、私だけではないだろう。 資本主義の基本は、自由なマーケットだ。マーケットで競争が起こり、強い企業が生き残る。経営者は競争を通して、商品の価格や従業員の人数、給与を決めていく。競争に勝利した企業は、利益を将来の事業に再投資して、さらに強くなる』、「賃上げ税制」「を本気で「資本主義」だと考えているとしたら、岸田政権は危険だと思う。「政府が賃金をコントロールするのは、資本主義ではないのではないか?」と首をかしげた」、確かにその通りだ。
・『介入しないことが資本主義  私が「3C」と提唱したとおり、強い企業は、顧客(Customer)、組織(Company)、競争相手(Competitor)の「3つのC」を考えて、マーケットが好む商品を提供する。現在のボーダーレス社会では、世界で最も安くて良質な材料を仕入れ、人件費が安く良質な労働力がある場所で生産し、高く買ってくれる場所で販売する。“世界最適化”は自由なマーケットを前提に成り立っている。政府はマーケットに自由な選択を与え、介入しないことが資本主義なのだ。 企業に「賃上げしたら税金を安くするよ」というのは、マーケットへの介入だ。資本主義でもなければ自由主義でもない。岸田首相の「新しい資本主義」は、すでに失敗が証明されている全体主義、あるいは計画経済の発想だ。 さらに、腰が抜けるほどびっくりした政策がある。4月以降、賃上げを表明した企業は、公共工事などの政府調達の入札で優遇するというのだ。 政府調達の財源は税金だ。企業努力をせずに賃上げだけをして人件費が増えれば、入札価格は高くなる。入札の原則は「一円でも安く」することなのに、入札価格が高い企業のほうを優遇して税金を多く払うというのは、犯罪的行為だ。 そして、「上に政策あれば下に対策あり」という言葉のとおり、合理的な経営者はきっとこう考えるだろう。 「人件費を高くするくらいなら、賃金が安い海外に、仕事をアウトソーシングしよう。その分、国内の従業員は減らす。社内には特に優秀な人間だけ残して、賃上げする。これで人件費は抑えられ、法人税の負担は減り、公共事業も受注しやすくなる」 このように、賃金と雇用は相反関係だ。賃金を上げて人件費の負担が増えれば、雇用は減る。従って、分配を訴える「新しい資本主義」こそ、実態は国内の雇用減少を促す格差拡大政策なのだ。 やはり岸田首相の「新しい資本主義」は、21世紀の経済原則を理解していない。 1980年に出版された『第三の波』で、アルビン・トフラーが脱工業化社会と情報化社会を予測した。実際にIT革命は起こり、世界中で生産性が高まった。しかし日本では、いまだに生産性が向上せず平均賃金は韓国以下。DXが進まず、仕事を奪われないようにDXに抵抗する人たちもいる。 例は、建築確認申請だ。住宅やビルを建てる際に自治体に提出する建築確認申請はIT化されていない。数十ページの申請書を風呂敷に包んで持っていき、最大35日以内に審査されることになっている。2005年に耐震強度偽装の姉歯事件が起きたあとは、高いビルは第三者機関の審査が必要となり、最大70日まで審査期間は延びた。申請にかかる手間と時間は膨大だ。) しかし、シンガポールではIT化され、CADの設計データなど、デジタルの資料を提出すれば、30分ほどで許可が下りる。生産性の差は歴然だ。 日本でIT化できないのは、第一に役所の抵抗があるからだ。私の知人が、北海道で建築基準法の電算化を試みたことがある。基準がわからない点があるからと道庁で尋ねると、担当者から「そんなことはやめろ。俺たちの仕事がなくなるじゃないか」と言われたそうだ。役所の担当者は裁量権を残したいというのだ。私の友人は役所の役に立つと思って相談したのに「担当者になじられてえらい目に遭った」と話していた。 医療分野でも、日本のDXはずいぶん遅れている。 たとえば米国の医療系IT企業プラクティス・フュージョンは、電子カルテを管理するクラウドサービスを無料で提供している。約16万の開業医と提携し、総合医療の巨大プラットフォームを構築して米国の医療システムを激変させた。患者は自分の診療データや処方箋をスマホで受け取り、薬を買える近所の薬局も表示される。アマゾンに処方箋を転送すれば、早ければその日のうちに配達される。 中国には、平安ピンアン保険グループのオンライン診療アプリ「平安グッドドクター」がある。病院や薬局、検診センターと連携し、ユーザーは24時間いつでもスマホのチャットで診察してもらえる。対面の診察が必要なら、提携する医療機関を紹介してくれる。 日本でも、メドレーなどの医療系ITベンチャーがオンライン診療に取り組んできたが、いまだに認められていない。新型コロナの影響で、かかりつけ医のオンライン診療がようやく許可された段階だ。カルテも米中とは違って、患者のものになっていない。 建築、医療のほかにも、役所の規制や抵抗によって、DXが進まない分野は数多くある。日本政府がなすべきことは、計画経済的な「賃上げ」ではなく、21世紀の経済に合った規制撤廃・緩和なのだ』、「政府はマーケットに自由な選択を与え、介入しないことが資本主義なのだ」、「日本でIT化できないのは、第一に役所の抵抗があるからだ。私の知人が、北海道で建築基準法の電算化を試みたことがある。基準がわからない点があるからと道庁で尋ねると、担当者から「そんなことはやめろ。俺たちの仕事がなくなるじゃないか」と言われたそうだ」、こんなことでは電子政府など単なる掛け声に過ぎないようだ。
・『今の小学生たちはAIに負ける  実は、DXなど既存業務の生産性向上は、IT革命の前半戦にすぎない。遅くとも45年に、AI(人工知能)が人類の知能を超えると予測されている、シンギュラリティ(技術的特異点)だ。 IT革命の後半戦はそこからはじまり、人員削減どころではない恐ろしい変化が起こる。IT化による生産性向上が“IT経済”だとすれば、次にシンギュラリティによって“サイバー経済”が到来する。 サイバー経済が進むと、まず学校の先生たちは大量に失業する。文部科学省の学習指導要領どおりに教え続けるなら、人間の教師は、予備校ナンバーワン講師のように、教えることの達人が各科目に1人ずついればいい。生徒はスマホで達人の授業を聞き、疑問が生まれたらAIに質問すればいいのだ。 教師だけでなく、「師業」「士業」の多くは同じ道をたどる。医師、弁護士、会計士などの高給なプロフェッショナル職種は、専門的な知識を多く知っていることに価値があったが、サイバー社会では知識や判断はAIに勝てない。 米国やカナダの弁護士は、裁判の戦術がすでにAI化している。「このケースでは、ここを攻めて、ここは守れ」といった指示がAIから出されるのだ。若い弁護士とベテラン弁護士の差はほとんどなくなった。AIの活躍は、医師や会計士でも起き始めている』、「サイバー経済が進むと、まず学校の先生たちは大量に失業する」、「「師業」「士業」の多くは同じ道をたどる。医師、弁護士、会計士などの高給なプロフェッショナル職種は、専門的な知識を多く知っていることに価値があったが、サイバー社会では知識や判断はAIに勝てない」、確かに「人員削減どころではない恐ろしい変化が起こる」。
・『見えないものを見る力  シンギュラリティが予測される45年は、いまの小学生たちが30歳前後で働き盛りの頃だ。文科省の指導要領は、シンギュラリティなど想定せず、記憶に偏重したカリキュラムのままだ。スマホで検索すれば数秒でわかることを覚えさせ、試験ではスマホは使用禁止で、自分の記憶が頼りだ。社会に出てから役に立たないことを頭にたたき込んでいる。 サイバー社会で“飯のタネ”になるのは、人間にしかできないことに限られる。コンピュータは記憶(記録)や大量の情報処理は得意だが、「0から1」の発想は苦手だ。従って、見えないものを見る力、構想力が鍵だ。 ただし、AIに勝つのは40人に1人くらいで十分だろう。あとの39人は、AIに勝った天才が納めた税金で生活する。普段の仕事は、介護や看護、ハンディキャップがある人の支援など、エッセンシャルワーカーとして社会的な役割を担う。 シンギュラリティで失業しない仕事はほかにもある。日本人が得意とするスポーツや芸術などの分野は、AIには真似できない。たとえば、海外のオーケストラやバレエ団では、日本人が数多く活躍している。料理人も世界中にいる。世界の上位に日本人がいるのは、観るもの、聴くもの、味わうものなど感性が発揮される分野だろう。 起業や経営にも構想力が求められる。ビジネスの構想力を鍛えるのに最も効果的なのは、起業家の話を聞いて刺激を受けることだ。ヤマハの川上源一さん、YKKの吉田忠雄さんなどの起業家の本を読むのもいい。 サイバー経済の世界は、正解がない。政府は国民の邪魔をしないように、規制を撤廃するのが仕事だ。政府がいう「新しい資本主義」は絶望的に時代錯誤な政策なのだ』、「文科省の指導要領は、シンギュラリティなど想定せず、記憶に偏重したカリキュラムのままだ。スマホで検索すれば数秒でわかることを覚えさせ、試験ではスマホは使用禁止で、自分の記憶が頼りだ。社会に出てから役に立たないことを頭にたたき込んでいる」、こんな時代遅れの教育をさせる「文科省の指導要領」の罪は大きい。「サイバー経済の世界は、正解がない。政府は国民の邪魔をしないように、規制を撤廃するのが仕事だ。政府がいう「新しい資本主義」は絶望的に時代錯誤な政策なのだ」、同感である。
タグ:資本主義 (その9)(セドラチェクvs斎藤幸平「成長と分配のジレンマ」 「成長至上」と「脱成長」の狭間の資本主義論、大テーマを掲げた割には内容が小粒 「改革」なき「新しい資本主義」、大前研一「"新しい資本主義"が危険である これだけの理由」 賃上げするほど格差は拡大する) 東洋経済オンライン 丸山 俊一 氏による「セドラチェクvs斎藤幸平「成長と分配のジレンマ」 「成長至上」と「脱成長」の狭間の資本主義論」 「番組」は見逃したので、有難い。 「今の資本主義を続けることは、若い世代にとっては経済破綻を意味します。 ソ連が崩壊して30年経ち、再びある種の社会主義的な考え方に若者が共鳴するのには、十分な理由があると私は思っています」(斎藤) これに対し「セドラチェク」は、「欧州の富裕層の富はそれほど増えず、200%増加した程度です・・・アメリカに比べればそれほどではありません・・・チェコも貧困層や中流階級の人々さえも過去30年間の資本主義の恩恵を受けています。 ですからヨーロッパの若者は、左派に対してそれほどの情熱を持っていないでしょう」と、社会主義から「資本主義」に体制転換したことから、「資本主義」の問題点には余り関心がないようだ。 「私たちは同じ空気を吸っています。しかし、共産主義はその空気を守ることができませんでした」、その通りだ。 「二酸化炭素排出量を、大急ぎで大幅に削減し、ゼロにせねばならない」という「コロナのパンデミックよりも大きな問題に本当は直面している」、その通りだ。 「コロナ対策が証明したのは、どれほど素早くわれわれが自らの行動を変えられるか、そして政府は実際、国民の命を守るために動けるのだということです。こは、われわれの政治や経済に関する想像力が広がった経験だと考えています」、同感である。 「チェコ」など東欧の民主主義「革命」も「始まりは環境問題だった」、忘れていた重要なポイントを思い出させてくれた。 東洋経済Plus「大テーマを掲げた割には内容が小粒 「改革」なき「新しい資本主義」」 「分配についても、「企業による賃上げ」を「賃上げ税制」という企業への優遇措置に頼ろうというのでは、アベノミクス下の官製春闘と同様に持続性はない」、その通りだ。 「潜在成長率が低下してほぼゼロになる中で、中間層から下層に滑り落ちる人が増え、格差が拡大した。その背景には、新卒一括採用・終身雇用制、正社員の解雇規制がある。企業は景気に応じて調整しやすくコスト負担の少ない非正規雇用を増やした。 企業に補助金や税制優遇を与えて雇用を守ってもらう政策を変えなかったことで、低成長・低採算の産業が温存され、人材もそこに縛られて低賃金から脱却できない。結果的に、守られない非正規雇用も拡大した。これを続けるのか。 潜在成長率を引き上げるには、パッチワーク的修正でなく、経済全体の枠組 プレジデント 2022年3月4日号 大前 研一氏による「大前研一「"新しい資本主義"が危険である、これだけの理由」 賃上げするほど格差は拡大する」 「賃上げ税制」「を本気で「資本主義」だと考えているとしたら、岸田政権は危険だと思う。「政府が賃金をコントロールするのは、資本主義ではないのではないか?」と首をかしげた」、確かにその通りだ。 「日本でIT化できないのは、第一に役所の抵抗があるからだ。私の知人が、北海道で建築基準法の電算化を試みたことがある。基準がわからない点があるからと道庁で尋ねると、担当者から「そんなことはやめろ。俺たちの仕事がなくなるじゃないか」と言われたそうだ」、こんなことでは電子政府など単なる掛け声に過ぎないようだ。 「サイバー経済が進むと、まず学校の先生たちは大量に失業する」、「「師業」「士業」の多くは同じ道をたどる。医師、弁護士、会計士などの高給なプロフェッショナル職種は、専門的な知識を多く知っていることに価値があったが、サイバー社会では知識や判断はAIに勝てない」、確かに「人員削減どころではない恐ろしい変化が起こる」。 「文科省の指導要領は、シンギュラリティなど想定せず、記憶に偏重したカリキュラムのままだ。スマホで検索すれば数秒でわかることを覚えさせ、試験ではスマホは使用禁止で、自分の記憶が頼りだ。社会に出てから役に立たないことを頭にたたき込んでいる」、こんな時代遅れの教育をさせる「文科省の指導要領」の罪は大きい。「サイバー経済の世界は、正解がない。政府は国民の邪魔をしないように、規制を撤廃するのが仕事だ。政府がいう「新しい資本主義」は絶望的に時代錯誤な政策なのだ」、同感である。
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