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新自由主義(その2)(今考える「新自由主義」 第1回 米初期資本主義の‟超”格差社会と ニューディール政策が生んだ「最も平等な社会」、第2回 再び格差広げたフリードマンの思想とパウエル、第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣) [経済政策]

新自由主義については、2021年7月12日に取上げた。久しぶりの今日は、(その2)(今考える「新自由主義」 第1回 米初期資本主義の‟超”格差社会と ニューディール政策が生んだ「最も平等な社会」、第2回 再び格差広げたフリードマンの思想とパウエル、第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣)である。

先ずは、昨年2月6日付け週刊エコノミスト Onlineが掲載した「今考える「新自由主義」 第1回 米初期資本主義の‟超”格差社会と、ニューディール政策が生んだ「最も平等な社会」=中岡望」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220206/se1/00m/020/001000d
・『2022年1月17日、岸田文雄首相は国会で施政方針演説を行った。その中で「経済再生の要は『新しい資本主義』の実現である」と語っている。具体的な問題として指摘したのは、次の通りだ。 ①市場に依存し過ぎたことで、公平な分配が行われず生じた格差や貧困の拡大 ②市場や競争の効率性を重視し過ぎたことによる長期的投資の不足、そして持続的可能性の喪失 ③行き過ぎた集中によって生じた都市と地方の格差 ④自然に負荷をかけ過ぎたことによって深刻化した気候変動問題。分厚い中間層の衰退がもたらした健全な民主主義の危機 ▽岸田首相が掲げた目標の中身は綺麗だが…(これに対し、政策目標として、「さまざまな弊害を是正する仕組みを『成長戦略』と『分配戦略』の両面から資本主義の中に埋め込み、資本主義がもたらす便益を最大化する」ことを掲げた。 また、「成長と分配の好循環による持続可能な経済を実現するのが『分配戦略』であり、その第一は所得の向上につながる『賃上げ』である」「成長の果実を従業員に分配し、未来への投資である賃上げが原動力となって、さらなる成長につなげる好循環を作り出す」と、基本的な考え方を語った。 さらに「最低賃金を全国加重平均で1000円以上になるように最低賃金の見直しに取り組む」と具体的な目標を掲げた。 空洞化する中間層対策として、子育て・若者世代の世帯所得の引き上げのために「全世代型社会保障構築会議において、男女が希望通り働ける社会づくりや、若者世代の負担増の抑制、勤労者皆保険など、社会保障制度を支える人を増やし、能力に応じて皆が支え合う持続的な社会保障制度の構築に向けて議論を行う」と政策目標を語った。 賃金格差是正については、「企業の開示ルールを見直す」「今春、新しい資本主義のグランドデザインと実行計画を取りまとめる」とした。 首相の施政方針演説を受け、内閣では「新しい資本主義構想」を巡って議論が行われ、実行計画が策定されることになる』、「新しい資本主義構想」はすっかり色あせた感じだ。
・『岸田首相が言う「新しい資本主義」とは何か 表層的な見直しではいけない  ただ、岸田首相や彼のブレーンたちが、どのような理解の下で「新しい資本主義」を主張しているのか分からないが、歴史的事実と経済的論理に基づかない主張は「アベノミクス」と同様に、実態のない空論的経済政策に終わる可能性がある。 首相が指摘した「ネオリベラリズム(新自由主義)」がもたらしたさまざまな弊害に関して異論を唱える人は少ないのではないだろうか。 だが、国会で行われた議論は極めて表層的な内容であった。今後、具体的な議論が行われるのだろうが、「新しい資本主義」を構想するためにはネオリベラリズムを思想的、歴史的、経済学的、政治的に検証することが不可欠である。 そうした“知的作業”を十分に行わず、表層的な制度的見直しを行うことで「新しい資本主義」構想を描こうとしても、それは内実のない議論に終わるのは目に見えている。ネオリベラリズムの“根”は極めて深い。 今まで岸田首相の「新しい資本主義」の議論からは、ネオリベラリズムに基づく資本主義が形成された過程に対する洞察を感じることはできない。単なる政治的スローガンに終わらせないためには、ネオリベラリズムが誕生してきた背景を理解する必要がある』、「ネオリベラリズムが誕生してきた背景を理解する必要がある」、その通りだ。
・『小泉改革による日本へのネオリベラリズム導入  1970年代末にネオリベラリズム政策を最初に打ち出したのは英国のサッチャー首相であった。80年代には米国のレーガン大統領が「レーガノミクス」と呼ばれるネオリベラリズムを柱とした政策を打ち出した。 「自由競争」「規制緩和」「福祉政策の削減」「財政均衡」「自己責任」などを柱とするレーガノミクスは、米国の経済と社会を大きく変え、その政策は「レーガン革命」と呼ばれた。 そして、90年代になるとネオリベラリズムの弊害が現れ始めた。その最大の問題は、岸田首相が指摘しているように、「貧富の格差」の拡大である。 ネオリベラリズム政策が日本に導入されたのは「小泉改革」であった。バブル崩壊後、日本経済は長期低迷に直面し、不況脱出に苦慮していた。また終身雇用をベースとする「日本的経営」の限界が語られていた。そんな中で小泉純一論首相は、不況打開の切り札としてネオリベラリズムの政策を導入する。 「規制改革」と「競争促進」で経済を活性化して不況脱出を図ろうとした。小泉改革は「20年遅れのレーガン革命」であった。米国におけるネオリベラリズムの導入には長い歴史と経済学、政治力学の変化が深く関わっていた。 だが、日本ではネオリベラリズムの持つ思想的な意味が十分に検討されることなく、また、既に社会問題となっていた貧富の格差の問題を顧みることなく、表層的な景気政策として導入され、社会に与える影響が真剣に議論されることはなかった。 そして1900年代にネオリベラリズム政策を導入した米国で想像を絶するような貧富の格差が生じたように、日本でも貧富の格差が深刻な社会問題となって現れている』、「日本ではネオリベラリズムの持つ思想的な意味が十分に検討されることなく、また、既に社会問題となっていた貧富の格差の問題を顧みることなく、表層的な景気政策として導入され、社会に与える影響が真剣に議論されることはなかった」、その通りで、残念なことだ。
・『サッチャー元英首相がネオリベラリズムを復活させた 歴史的観点から見た「ネオリベラリズム」とは何か  ネオリベラリズムの弊害を克服するには、その本質を理解する必要がある。米国における資本主義原理の発展を踏まえながら、ネオリベラリズムの本質を明らかにする。 ネオリベラリズム「ネオ(新)」は何を意味するのだろうか。米国の資本主義の変遷は三つの言葉で表現される。「古典的リベラリズム(Classical Liberalism)」、「ニューディール・リベラリズム(New Deal Liberalism)」、そして「ネオリベラリズム(Neoliberalism)」である。 「古典的リベラリズム」は、経済学で言えば、古典派経済学の世界、アダム・スミスの世界での資本主義の原理である。市場における自由競争が最適な資源配分を実現するとする考え方である。 そうした自由競争と価格メカニズムの機能は「見えざる神の手」という言葉で表現される。米国の古典的リベラリズムには、「政府の市場への介入忌避」や「自由放任主義」に「小さな政府」を主張する政治論が加わる。 結論を先に言えば、ネオリベラリズムは古典的リベラリズムが新しい状況の中で姿を変え復活したものである。余談であるが、アダム・スミスの『国富論』の出版とトーマス・ジェファーソンの『独立宣言』は同じ1776年に出された。スミスとジェファーソンはお互いに面識があり、二人の考えた国家論は似ていたのかもしれない』、「米国の古典的リベラリズムには、「政府の市場への介入忌避」や「自由放任主義」に「小さな政府」を主張する政治論が加わる」、その通りだ。
・『悪辣な手段を用いて富を蓄積した「泥棒貴族」  古典的リベラリズムが米国社会を席捲するのは、南北戦争前後に始まる産業革命の時代である。米国経済は1860年から1900年の間に6倍に成長し、世界最大の工業国となった。この高度成長の時代は「ギルディド・エイジ(Gilded Age)」と呼ばれる、米国の初期資本主義の輝ける時代であった。 素晴らしい技術革新もあったが、企業家は悪辣な手段を用いて富を蓄積していった。その強欲ぶりに、彼らは「泥棒貴族」と呼ばれた。膨大な富の格差を生み出した。1890年の時点で、所得上位1%の富裕層が全資産の51%、上位12%の富裕層が全資産の86%を保有していた。 米連邦準備制度理事会(FRB)の調査によると、現在の米国は「第2のギルディド・エイジ」と呼ばれているように、19世紀と同じ現象が繰り返されている。上位1%の最富裕層が34%、上位10%の富裕層が88%の資産を保有している。所得下位50%の家計が保有する資産はわずか1.9%に過ぎない。歴史は繰り返されるのである』、「1890年の時点で、所得上位1%の富裕層が全資産の51%、上位12%の富裕層が全資産の86%を保有」、米FRBの調査によると、現在の米国は「第2のギルディド・エイジ」と呼ばれているように、19世紀と同じ現象が繰り返されている。上位1%の最富裕層が34%、上位10%の富裕層が88%の資産を保有」、「歴史は繰り返されるのである」、こんな形の繰り返しは悲劇だ。
・『レーガン元米大統領の改革「レーガノミクス」が格差の種を撒いた 古今のポピュリズムに共通の「反エリート主義」  初期資本主義の時代の特徴は、市場における自由競争に留まらず、社会的にも「社会的ダーウィン主義」が主張されたことだ。企業のみならず、個人にも生存競争や自然淘汰、優勝劣敗、適者生存といった考えが適用された。 さらにリバタリアン(市場至上主義者)は「格差こそが進歩の原動力になる」と、貧富の格差の正当性を主張した。労働者は劣悪な労働環境のもとで長時間労働を強いられた。女性や子供の労働も例外ではなかった。労働改善を求めて行うストは、暴力的に排除された。労働組合は非合法であった。 当然のことながら、過酷な労働環境の改善や賃上げを求める労働者の運動が始まった。英国では「フェビアン協会」が設立され、漸進的な労働改善運動が行われ、それがやがて社会民主主義へと発展していった。 資本主義そのものを廃止するというマルクス主義も誕生した。米国でも労働組合結成の動きが出てくる。1892年に労働者や農民の利益を代弁する政党「人民党」が結成される。同党の党員や支持者は「ポピュリスト」と呼ばれた。現在のポピュリズムの原型である。 19世紀後半の急激な格差拡大がポピュリズムを生み出したのと同じように、21世紀の格差拡大がポピュリズムを蘇生させ、トランプ主義を生み出した。19世紀のポピュリズムは「左派ポピュリズム」であったが、21世紀のポピュリズムは「右派ポピュリズム」であった。そこに共通するのは、反エリート主義である』、「19世紀のポピュリズムは「左派ポピュリズム」であったが、21世紀のポピュリズムは「右派ポピュリズム」であった。そこに共通するのは、反エリート主義である」、なるほど。
・ルーズベルトとウィルソンによる格差是正  人民党は8時間労働の実現、累進的所得税の導入、金本位制に加え、銀本位制導入によるインフレ政策の実施(農民の債務軽減が目的)、鉄道や通信事業の国有化、移民規制などを政策に掲げた。その主張は国民の支持を得て連邦議会に議員を送り込んだ。1892年の大統領選挙では4州で勝利を収めた。最終的に人民党は民主党に吸収され、南部を地盤とする民主党は労働者や農民を支持層に組み入れた。共和党が企業を支持基盤とし、民主党が労働者を支持基盤とする構造ができあがった。 ポピュリズムに続いて、古典的リベラリズウの弊害を是正する目的で「進歩主義運動」が始まった。1890年から1920年は「進歩主義の時代」と呼ばれる。代表的な進歩主義の政治家はセオドーア・ルーズベルト大統領である。 ルーズベルト大統領は独占企業を「トラスト」と呼び、批判的な政策を取った。「スクエア―・ディール」政策を掲げ、不平等の解消を図った。企業に対する規制強化、消費者保護、自然保全、国民皆保険制導入などを政策として掲げた。もう一人の代表的な進歩主義者ウードロー・ウィルソン大統領は、貧富の格差を是正するために初めて「累進的連邦所得税」を導入した。 1913年に導入された所得税の最高税率は7%であった。さらに法人税も引き上げられた。1909年は1%であったが、1917年に6%にまで引き上げられた』、独禁法は現在でも米国企業を強く規制している。
・『フランクリン・ルーズベルト元米大統領(右)は中間層の拡大に貢献した なぜ「ニューディール・リベラリズム」が登場したのか  古典的リベラリズムに終止符を打ったのは、フランクリン・ルーズベルト大統領の「ニューディール政策」である。その政策は進歩主義の政策を踏襲し、さらに進めるものであった。 ルーズベルト大統領の政策は「ニューディール・リベラリズム」と呼ばれ、古典派経済学の市場至上主義を排して、政府の市場介入と市場規制が実施された。ニューディール政策は、政府と国民の間の関係を根本的に変えた。 古典的リベラリズムは市場機能に委ねれば市場は自ずと均衡し、市場における自由競争こそが最適な資源配分をもたらすと主張し、政府の市場への介入を否定した。だが大恐慌によって古典派リベラリズムへの信頼は根底から打ち砕かれた。「市場の失敗」を前に政府による市場規制の必要性が訴えられた。 大恐慌を引き起こす要因となった金融市場に対して厳しい規制が導入された。「グラス・スティーガル法」によって証券業務と銀行業務の分離が行われた。さらに証券市場を規制するために「証券取引員会(SEC)」が設立され、企業に情報公開を義務付け、インサイダー取引を禁止する措置が取られた。 ウィルソン政権の時に設立された「FRB(連邦準備制度理事会)」も財務省から独立し、権限が強化され、独立した金融政策を行えるようになった。所得税も大幅に引き上げられた。1932年に最高所得税率は25%から63%に引き上げられた。さらに1944年に94%にまで引き上げられた』、「大恐慌を引き起こす要因となった金融市場に対して厳しい規制が導入された。「グラス・スティーガル法」によって証券業務と銀行業務の分離が行われた。さらに証券市場を規制するために「証券取引員会(SEC)」が設立され、企業に情報公開を義務付け、インサイダー取引を禁止する措置が取られた。 ウィルソン政権の時に設立された「FRB・・・」も財務省から独立し、権限が強化され、独立した金融政策を行えるようになった」、現在の金融制度の骨格が出来たようだ。
・『「忘れられた人々」のために  疲弊した社会を再構築するためにルーズベルト大統領は「トップダウンではなく、ボトムアップで米国を再構築する」と主張し、「経済的ピラミッドの底辺に存在する“忘れられた人々のために政府の資源を総動員する」と誓った。 「忘れられた人々」とは労働者や農民を意味した。ルーズベルト大統領を支持するグループによる「ニューディール連合」が結成され、その中核となったのが労働組合や農民で、さらに少数民族やインテリ層も戦列に加わった。 米国の保守派の評論家は、ニューディール政策は古典的リベラリズムに依拠する伝統的な米国の価値観を根底から覆す「無血革命」であったと指摘している。「ニューディール連合」は1970年代まで米国政治を支配する。 ルーズベルト大統領が使った「忘れられた人々」という表現は、トランプ大統領によっても使われた。経済的格差が拡大し、社会が混乱すると必ずとポピュリズムが登場する。19世紀後半のギルディド・エイジに格差が拡大したときに誕生したのがポピュリストの人民党であり、進歩主義の登場である。トランプ大統領も社会的底辺に存在する白人労働者を「忘れられた人々」と呼び、強力な支持層へと変えていった』、「経済的格差が拡大し、社会が混乱すると必ずとポピュリズムが登場する」、「ポピュリストの人民党」、「トランプ大統領も社会的底辺に存在する白人労働者を「忘れられた人々」と呼び、強力な支持層へと変えていった」、なるほど。
・『保守派の政治家と企業による反ニューディール運動の展開  ニューディール政策は大恐慌から脱出するために公共事業による景気浮揚政策であるというのが一般的理解である。だが最近の経済学界では、景気浮揚効果は限定的であったという評価に変わってきている。 重要な政策は「労働政策」と「社会政策」であった。1933年の「全国産業復興法」と1935年の「全国労働関係法(ワーグナー法)」である。同法の成立によって、労働組合の団体交渉権や最低賃金制が導入され、最長労働時間、労働者の団体権、企業による不当解雇や差別が禁止された。 さらに労働争議を調停する「全国労働関係局」が設置され、労働紛争の調停が行われるようになった。年金制度や失業保険制度も導入された。労働組合の団体交渉による賃上げに加え、移民規制で新規の労働流入が止まったことや、戦争経済への移行もあり、労働者の実質賃金は上昇した。米国社会は、古典的リベラリズムに完全に決別し、ニューディール・リベラリズムの世界へ入って行った。 なお社会政策としては、1944年に行った一般教書の中でルーズベルト大統領は、国民は正当な報酬を得られる仕事を持つ権利、十分な食事や衣料、休暇を得る権利、農民が適正な農産物価格を受け取る権利、企業は公平な競争を行い、独占の妨害を受けない権利、家を持つ権利、適切な医療を受け、健康に暮らせる権利、病気や失業など経済的な危機から守られる権利、良い教育を受ける権利を持つと訴えた。 これは「第2の権利章典」と呼ばれ、戦後、福祉国家論の基本となった。競争こそが進歩の原動力だと主張する古典的リベラリズムとはまったく異なった世界観である』、「ニューディール政策は大恐慌から脱出するために公共事業による景気浮揚政策であるというのが一般的理解である。だが最近の経済学界では、景気浮揚効果は限定的・・・重要な政策は「労働政策」と「社会政策」であった」、評価が変わったことは初めて知った。
・『小泉氏の改革が日本に米資本主義を浸透させた 戦後米国における中産階級の登場と経済的繁栄  当然、ニューディール政策に反対する動きが起こった。それは1934年に結成された「リバティ・リーグ(Liberty League)」と呼ばれる組織である。 中心になったのは保守派の政治家と、デュポンやGMなどの大企業の経営者であった。彼らは19世紀的な市場競争を主張し、「政府は富裕層と特権階級を守るために存在する」と主張した。 さらに、ニューディール政策によって財政赤字は拡大し、官僚組織が肥大化し、階級闘争が激化すると主張した。彼らは1936年の大統領選挙で候補者を擁立し、ルーズベルト大統領とニューディール政策を攻撃した。 だが、結果はルーズベルト大統領の圧勝に終わり、ニューディール・リベラリズムが米国社会の指針となった。その後、企業家は長い沈黙を強いられることになった。 ニューディール・リベラリズムは戦後の米国経済の繁栄のベースになる。労働者の実質賃金の上昇に加え、1944年の「復員兵援護法(GI法)」によって多くの若者が奨学金を得て大学に進学した。 彼らはホワイトカラーの中核を形成するようになり、戦後の消費ブームを支えた。所得税率も45年から52年まで90%を越える水準で維持された。60年代半ばまで80%を下回ることはなかった。意欲的な所得再配分政策で、米国は“最も平等な社会”を実現した』、「ニューディール・リベラリズムは戦後の米国経済の繁栄のベースになる。労働者の実質賃金の上昇に加え、1944年の「復員兵援護法(GI法)」によって多くの若者が奨学金を得て大学に進学した。 彼らはホワイトカラーの中核を形成するようになり、戦後の消費ブームを支えた」、なるほど。
・『労働組合の交渉力の強化によって賃金が上昇  ニューディール・リベラリズムの影響下で、企業にも変化が出てきた。戦後、GMの経営分析をした経営学者のピーター・ドラッガーは、労働費は「変動費」ではなく、「固定費」として扱うことを主張した。 それは景気が悪くなったからと言って簡単に労働者を解雇すべきではないことを意味する。さらに労働者を「企業の重要な資産として訓練すること」を提言している。GMは他企業に先立って企業年金制度や医療制度を導入し、伝統的な労使関係が変化し始めた。GMの政策がやがて他の企業へと広がっていった。経営陣の態度の変化に加え、労働組合の交渉力の強化によって賃金が上昇していった。 1970年代まで生産性向上と労働賃金上昇率は、ほぼ同じ水準にあった。すなわち生産性向上の果実の大半は労働賃金の引き上げに向けられていたのである。 だが1970年代以降、生産性向上分は経営者の取り分が大きく増え、労働者の配分は低水準で推移するようになる』、「1970年代まで生産性向上と労働賃金上昇率は、ほぼ同じ水準にあった。すなわち生産性向上の果実の大半は労働賃金の引き上げに向けられていたのである。 だが1970年代以降、生産性向上分は経営者の取り分が大きく増え、労働者の配分は低水準で推移」、なるほど。

次に、2月9日付け週刊エコノミスト Onlineが掲載した「集中連載 今考える「新自由主義」 第2回 再び格差広げたフリードマンの思想とパウエル・メモ 組合を弱体化させた米国の失敗=中岡望」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220209/se1/00m/020/001000d
・『戦後、保守勢力が再びニューディール・リベラリズムを攻撃し始めた。最初の標的となったのは「ワグナー法」であった。1947年に「タフト・ハートリー法」が成立する。改正の狙いは、労働者の組合への参加を阻止することにあった。 具体的には、組合員のみを雇用するクローズド・ショップ制を非合法化する「労働権法」の規定が盛り込まれたことだ。それにより組合の弱体化が進められた。現在、労働権法を可決している州は27州に達している。そうした州での組合活動は大幅に制限されている。企業も労働権法が成立している南部の州へ工場を移転し始めた。こうした州の企業の多くは組合がなく、労働賃金も安かった。 1970年代に企業経営者の意識を変える大きな変化が現れた。ニューディール・リベラリズムの圧倒的な影響の下で経営者は萎縮していた。また冷戦のため経営者は労働組合を無視できなかった』、「組合員のみを雇用するクローズド・ショップ制を非合法化する「労働権法」の規定が盛り込まれたことだ。それにより組合の弱体化が進められた。現在、労働権法を可決している州は27州に達している。そうした州での組合活動は大幅に制限されている」、「クローズド・ショップ制を非合法化」は労組には大打撃だろう。
・『株主と経営者だけがステークホールダー  だが、そうした雰囲気を劇的に変える事態が起こった。1970年9月13日にノーベル経済学賞受賞者で保守派の経済学者ミルトン・フリードマン教授が『ニューヨーク・タイムズ』に長文の記事を寄稿した。 フリードマン教授は寄稿文に「企業の社会的責任は利潤を増やすことである」という題を付け、編集者はそれに「フリードマン・ドクトリン」という見出しを付け足した。フリードマン教授は、経営者の社会的責任とは「社会的な基本ルールに沿って、可能な限り利益を上げたいという株主の願望に沿って経営を行うべきだ」と主張。現代風にいえば、「企業は株主のもの」であり、「株主価値の最大化」こそ、経営者が果たさなければならない“社会的責任”であると説いたのである。 労働組合の要求に応じて賃上げを受け入れ、企業利益を減らすことは、経営者の社会的責任に反することになる。「フリードマン・ドクトリン」が次第に企業経営者に浸透し、米国のコーポレート・ガバナンスが大きく変貌を遂げることになる。それまで労働者は企業のステークホールダー(利害関係者)とみなされていたが、やがて株主と経営者だけがステークホールダーとみなされるようになる』、「フリードマン・ドクトリン」により、「それまで労働者は企業のステークホールダー(利害関係者)とみなされていたが、やがて株主と経営者だけがステークホールダーとみなされるようになる」、なるほど。
・『経済学者フリードマンの思想は米国の経営者に大きな影響を与えた 最高裁の「反労働組合的な判決」リードしたパウエル  さらに経営者の意識を変えたのが秘密文書「パウエル・メモ」である。弁護士のルイス・パウエルが米商業会議所の依頼で1971年8月23日に作成したメモである。「パウエル・メモ」の表題は「企業による民主主義支配の青写真」である。 パウエルは「米国の経済制度が(リベラル派や共産主義者から)広範な攻撃を仕掛けられている」と指摘する。だが米国企業の対応は融和的で断固として経済システムを守ろうとするものではなかった。攻撃に立ち向かうには、政治力の獲得が必要だと説く。 そして「政治力は決意をもって積極的に行使すべきだ」と主張する。ニューディール・リベラリズムを克服するために企業は協力して立ち向かう必要性を訴えた。経営者団体は積極的なロビー活動を通して立法に影響を及ぼし、共和党と手を組んでニューディ―ル連合への攻撃を始めた。 「フリードマン・ドクトリン」が米国企業に対する「経済的マニフェスト」とすれば、「パウエル・メモ」は米国企業に対する「政治的マニフェスト」であった。フリードマン・ドクトリンとパウエル・メモは保守派の共通メッセージとなり、1981年のレーガン政権誕生への布石となる。ちなみにパウエルはニクソン大統領によって最高裁判事に指名された。最高裁は反労働組合的な判決を出すことになるが、そうした判決をリードしたのはパウエルであった』、「弁護士のルイス・パウエルが米商業会議所の依頼で1971年8月23日に作成したメモである。「パウエル・メモ」の表題は「企業による民主主義支配の青写真」、「「フリードマン・ドクトリン」が米国企業に対する「経済的マニフェスト」とすれば、「パウエル・メモ」は米国企業に対する「政治的マニフェスト」であった」、なるほど。
・『コーポレート・ガバナンスの変化が報酬格差を生む  コーポレート・ガバナンスの変化によって経営者は労働者を無視し始める。経営者は賃金を抑制する一方で、株式配当を増やし、経営陣の報酬を引き上げていった。経営者は金銭による報酬以外に巨額のストック・オプションを得て、報酬は急激に増加し始める。 1978年から2020年の間の経営者の報酬は1,322.2%、すなわち13倍以上増えている。この間、労働者の賃金上昇率はわずか18%に過ぎなかった。新型コロナで大量の失業者が出た2019年から2020年の間の不況期にあっても経営者の報酬は18.9%増加している。 経営者と従業員の所得格差は、1965年は20対1であったが、2000年には366対1にまで拡大している(”CEO pay has skyrocketed 1,322% since 1978”, Economic Policy Institute, 2021年8月10日)。ネオリベラリズムは経営者を傲慢にし、古典的リベラリズムの世界を再現させた。 経営者の報酬が急激に上昇するにつれて、貧富の格差も拡大し始めた。1979年から2020年の期間に上位1%の所得は179.3%、上位0.1%は389.1%増えているが、低位90%の層の増加率はわずか28.2%に留まっている。 2020年の所得上位1%の層の年収増加率は7.3%。上位0.1%は9.9%であった。だが低位90%の層の収入の増加率は1.7%に留まっている。低位90%の人々の2020年の平均年収は約4万ドルであったが、上位0.1%の所得は約321万ドル、上位1%の層では約82万ドルであった。低位90%が占める所得比率は最低を記録している(”Wage inequality continued to increase in2020”, Economic Policy Institute, 2021年12月13日)』、「経営者と従業員の所得格差は、1965年は20対1であったが、2000年には366対1にまで拡大している」、「ネオリベラリズムは経営者を傲慢にし、古典的リベラリズムの世界を再現させた」、やれやれ。
・『ネオリベラリズムに基づく「レーガン革命」は未完に終わった  時代は変化していく。ニューディール政策によって力を得た労働組合は絶頂期を迎え、やがて衰退の方向に向かって進み始めた。海外の戦後復興が進むにつれ、米国経済の相対的地位は低下していく。 米国経済は貿易赤字と財政赤字の拡大とインフレという“トリレンマ(三重苦)”に見舞われる。インフレの原因は賃上げに伴う“コスト・プッシュ”にあると、労働組合に対する批判が強まり、ケネディ大統領とニクソン大統領はインフレ抑制のために賃金凍結という非常手段を取らざるを得なくなる。 組合も強引な賃上げとストによって次第に国民から遊離していった。労働組合幹部のスキャンダルも暴露される事態もあり、労働組合は悪者になり、社会的影響力も低下していった。 米国経済は1970年代に戦後最悪の不況に見舞われる。ニューディール政策の経済的支柱であったケインズ経済学も次第に精彩を欠くようになる。さまざまな規制と巨額の財政赤字が経済成長を阻害していると批判された。 こうして規制緩和と自由競争を主張するネオリベラリズムが登場する舞台が整った。1980年の大統領選挙で共和党のロナルド・レーガン候補が現職のカーター大統領を破り、大統領に就任した。 レーガン大統領は、規制緩和、競争促進、大幅減税、福祉政策削減による小さな政府の樹立などを選挙公約として掲げた。そうした主張の根底には古典派経済学の復活があった。それは「供給サイドの経済学」である』、「レーガン大統領は、規制緩和、競争促進、大幅減税、福祉政策削減による小さな政府の樹立などを選挙公約として掲げた。そうした主張の根底には古典派経済学の復活があった。それは「供給サイドの経済学」」なるほど。
・『起きなかった「トリクルダウン」  レーガン減税には経済的側面と政治的側面があった。供給サイドの経済学には、投資こそ経済成長を促進する原動力であるという古典派的考えがあった。そのためには貯蓄を増やす必要がある。 貯蓄を増やすには、富裕層の減税が最も効果的であると考えられた。貯蓄性向の高い富裕層の減税は貯蓄を増やすことになる。貯蓄は株式投資や事業資金に回るはずだと主張された。減税による歳入減少は成長が高まることで将来の税収増に結び付く。経済成長が高まれば、結果的に労働者の賃金も上昇する。 これは“トリクルダウン効果”と呼ばれ、最終的には成長の果実はすべての人に行きわたると説明された。だがトリクルダウン効果は発揮されることはなかった。むしろ貧富の格差を拡大する結果をもたらした。 1981年の「経済復興税法」によって所得税の最高税率は70%から50%に引き下げられた。さらに86年にも税制改革で最高所得税率も28%にまで引き下げられた。フリードマン教授など保守派の経済学者は累進課税に反対し、低率での均一税率(flat tax rate)の適用を主張した。所得税そのものを廃止することを主張する経済学者もいた。レーガノミクスの大幅減税が貧富の格差を生む大きな要因となった』、「貯蓄を増やすには、富裕層の減税が最も効果的であると考えられた。貯蓄性向の高い富裕層の減税は貯蓄を増やすことになる。貯蓄は株式投資や事業資金に回るはずだと主張された。減税による歳入減少は成長が高まることで将来の税収増に結び付く。経済成長が高まれば、結果的に労働者の賃金も上昇する。 これは“トリクルダウン効果”と呼ばれ、最終的には成長の果実はすべての人に行きわたると説明された。だがトリクルダウン効果は発揮されることはなかった。むしろ貧富の格差を拡大する結果をもたらした」、日本でも効果は出なかった。
・『富裕層の税負担は極めて軽い  貧富の格差を拡大させているのは賃金上昇が鈍化しただけではない。富裕層の収入を見ると、労働所得よりも資産所得の方が圧倒的に多いことを反映している。FRBの調査では、2021年第2四半期のデータでは、上位10%の富裕層は83兆ドルの資産を持ち、株式や投資信託の88%を保有している。 富裕層の収入の中で利子配当収入や証券の売買益が大きな比率を占めている。2020年の時点でキャピタル・ゲインなどの金融収入の税率は最高20%であるのに対して、所得税の最高税率は37%である。言い換えれば富裕層の税負担は極めて低い。多額の金融資産を持つ富裕層の資産は自然に増えて行き、金融資産を持たない低所得層との格差は永続的に拡大し続ける構造になっている。 政治的側面でも、保守主義者は「所得税は国家による国民の富の収奪」であると主張し、大幅な減税を主張した。減税によって税収が減れば、保守派が主張する福祉予算削減にもつながり、「小さな政府」が実現できると主張した。 だがレーガン大統領は歳入減にも拘わらず福祉予算などの歳出を削減することができず、レーガノミクスは財政赤字の拡大を招く結果となった。財政赤字をさらに膨れ上がらせたのは、共産主義との対決を主張し、軍事費を大幅に増やした結果でもある。レーガン大統領のネオリベラリズムに基づく政策は、保守派が主張するような成果を上げることができず、「未完の革命」と呼ばれた』、「レーガン大統領のネオリベラリズムに基づく政策は、保守派が主張するような成果を上げることができず、「未完の革命」と呼ばれた」、財政赤字はむしろ拡大した。
・『労働組合の組織率低下が賃金の低迷につながった レーガン政権で始まった“労働組合潰し”  レーガノミクスあるいはネオリベラリズムの狙いは、労働市場の規制緩和にあった。民主党の支持基盤である労働組合を潰すことは共和党にとって政治的な意味があった。同時に労働市場を自由化する狙いもあった。 古典派経済学は自由競争が最適な価格と資源配分を実現することになると主張する。「財市場」と「金融市場」の自由化は着実に進んでいた。だが「労働市場」は、保守派の経済学者に言わせれば、労働組合の“寡占状況”が続いていた。米国の労働組合は産業別組合で、その中央組織AFL・CIO(米労働総同盟・産業別会議)は圧倒的な力を持っていた。ネオリベラリズムに基づく自由な労働市場を作るには、労働組合の影響力を排除する必要があった。 レーガン大統領の就任直後に準公務員の航空管制官のストが起こった。レーガン大統領は一瞬もためらうことなく、ストに参加した管制官全員の首を切った。レーガン大統領の大胆な政策が、労働組合運動の大きな転換点になり、その後、今日に至るまで労働組合参加率は低下を続けている。 83年の労働組合参加率は20.1%であったが、2019年には過去最低の10.3%にまで低下している。2020年は若干増えて、10.8%であった。民間部門だけみると、さらに厳しい状況である。83年に16.8%であったが、2020年には6.3%にまで低下している。経済構造の変化も組合参加率を引き下げる要因となった。 ニューディール・リベラリズムの時代は、大手産別労組が団体交渉で賃上げを勝ち取り、それが他の産業にも波及し、全体的に賃金が引き上げられていった。だがネオリベラリズムの世界では、労働組合は賃金交渉力を失い、賃金引上げよりも、雇用確保を主張するように変わっていった。労働者は分断され、実質賃金の上昇は止まってしまった。ネオリベラリズムの組合攻撃は目的を達成したのである』、「ネオリベラリズムの世界では、労働組合は賃金交渉力を失い、賃金引上げよりも、雇用確保を主張するように変わっていった。労働者は分断され、実質賃金の上昇は止まってしまった」、残念ながらしょうがない。
・『民主党もニューディール政策離れ  ニューディール・リベラリズムを支えてきたのは民主党である。だがレーガン革命以降、民主党も変質し始めた。1993年に誕生したクリントン大統領は“中道右派”政権と言われた。ネオリベラリズムは米国社会に深く浸透していた。 ルーズベルト大統領は民主党支持者によって尊敬され続けたが、民主党の政策は次第にニューディール政策から離れていった。クリントン大統領は積極的に市場の自由化を進めた。特に金融市場の自由化には積極的であった。 ニューディール政策の象徴である金融業務と証券業務の分離を決めた「グラス・スティーガル法」の廃止を決めたのは、クリントン大統領であった。クリントン大統領の最大の支持層は金融界であった。 労働組合は依然として民主党お重要な支持層であったが、その影響力は極めて小さくなっていた。クリントン大統領は労働者に寄り添うよりも、金融界の利益代弁者になっていた。財政赤字削減を訴え、小さな政府を主張するなど、ネオリベラリズムの色に染まっていた。労働組合や環境団体の反対を押し切ってNAFTA(北米自由貿易協定)の批准を勧めたのもクリントン大統領であった』、「クリントン大統領は労働者に寄り添うよりも、金融界の利益代弁者になっていた。財政赤字削減を訴え、小さな政府を主張するなど、ネオリベラリズムの色に染まっていた」、残念だ。
・『「口だけ」だったオバマ大統領  民主党のオバマ大統領が誕生したとき、多くの論者はニューディール政策が蘇るのではないかと期待した。リーマン・ショックで不況に陥った経済を救済するためにオバマ大統領は「米国復興再投資法」を成立させ、不況脱出のため戦後最大の予算を組んだ。 同時に経営危機に陥っていた金融界を潤沢な資金を投入して救済。また労働者の犠牲の上にGMを救済した。巨額の政治献金者の意向に沿う政策を行うなど富裕層に与した。オバマ大統領も在任8年間に積極的にネオリベラリズムのもたらした弊害解決に取り組むことはなかった。 民主党の指導者は口ではルーズベルト大統領を尊敬すると言いながら、ニューディール政策の思想を引き継ぐことはなかった。ルーズベルト大統領が語った「忘れられた人々」という言葉を復活させたのは、トランプ大統領であった。 トランプ大統領は、政治にも見放され、労働組合からも疎外されている貧困層の白人労働者を「忘れられた人々」と呼び、自らの支持基盤に変えていった。トランプ大統領は労働者のために製造業を復活させると公約したものの、最終的には何もしなかった。ネオリベラリズムが生み出した深刻な問題の解決に本気で取り組むことはなかった』、「トランプ大統領は労働者のために製造業を復活させると公約したものの、最終的には何もしなかった」、貧しい白人は騙されたことになる。
・『オバマ大統領は在任中、オリベラリズムの弊害を解決しようとしなかった ビジネス・ラウンド・テーブルの「企業目的声明」  皮肉なことに、ネオリベラリズムが生み出した貧富の格差がもたらす社会的分断に最初に警鐘を鳴らしたのは経済界であった。 2019年8月19日に経営者団体のビジネス・ラウンド・テーブルが「企業目的に関する声明」を発表した。ビジネス・ラウンド・テーブルは、企業目的の再定義を行い、181名の経営者が声明に署名している。 その中で注目されるのは、「従業員に対する投資」という項目である。そこには「従業員に対する投資は従業員に公平な報酬を提供し、重要な(社会保障などの)給付を提供することから始まる。 投資には急速に変化する世界で活用できる新しいスキルを習得するための訓練と教育を通して従業員を支援することも含まれる」と書かれている。声明の発表に際して行われた記者会見で、JPモルガン・チェースのジェミー・ダイモン会長は「企業は労働者とコミュニティに投資している。なぜなら、それが長期的に(企業が)成功する唯一の方法だと知っているからである」と発言している。 これは米国企業がフリードマン・ドクトリンと決別することを意味している。フリードマン教授は、労働者や社会への奉仕は企業の目的ではないと言い切っていた。だがビジネス・ラウンド・テーブルの会員の大企業は。労働者やコミュニティへの投資を経営者の責務であると語っているのである』、「ビジネス・ラウンド・テーブルの会員の大企業は。労働者やコミュニティへの投資を経営者の責務であると語っているのである」、「これは米国企業がフリードマン・ドクトリンと決別することを意味」、日本でも岸田首相がこれに近い提案をしてる。
・『中産階級復興を目指すバイデン大統領の“新ニューディール政策”  バイデン大統領はルーズベルト大統領を尊敬している。大統領執務室には5枚の肖像画が壁に掛かっている。向かって左側にはワシントン初代大統領とハミルトン初代財務長官、右側にはジェファーソン初代国務長官とリンカーン大統領である。その真ん中に一回り大きい額縁でルーズベルト大統領の肖像画が掛かっている。 バイデン大統領はネオリベラリズムで傷ついた米国社会と経済を再興するために「新ニューディール政策」を構想している。その狙いは、大規模な公共投資と労働組合の強化、中産階級の減税である。既に1兆ドル規模の「インフラ投資法」が成立している。 また、ニューディール政策を思い起こさせる社会政策を盛り込んだ大規模な「より良い米国建設法(Build Back Better Act)」を議会に提出し、下院では成立している。だが上院では一部の民主党議員の反対で、まだ成立の見通しは立っていない。 バイデン大統領の政策の主要な柱は、労働組合政策である。ワシントン・ポスト紙は「バイデン大統領はニューディール以来、最も労働組合寄りの大統領である」と書いている(2021年4月30日)。大統領は。米国社会を繁栄させたのは経営者ではなく、労働者であると訴えている。 中産階級を再構築するには労働組合の復興が必要だとも考えている。バイデン大統領は2月4日のツイッターで「バイデン政権の政策は労働組合結成を推し進め、経営者に労働者が自由かつ公平に組合に参加することを認めるさせる」ことだと書いている。 さらに4月24日の議会演説の中で「中産階級が国を作ってきた。組合が中産階級を作ってきた」と、労働組合の重要性を語っている。アマゾンで労組結成の動きがあったとき、バイデン大統領は組合結成を支持するメッセージを送っている』、「大統領は。米国社会を繁栄させたのは経営者ではなく、労働者であると訴えている。 中産階級を再構築するには労働組合の復興が必要だとも考えている」、方向性は正しいが、少数になった下院では力不足だ。
・『資本主義に対する否定的な見方が米国民の間で強まっている 政策を妨げる民主党進歩派と中道派の対立  4月26日に「労働者の組織化と能力向上に関するタスクフォース」を設置する大統領令に署名している。この大統領令には「タスクフォースは労働者が組織し、経営者と団体交渉を行えるように連邦政府の政策、プログラム、経験を総動員する全力を注ぐ」と書かれている。 さらにルーズベルト大統領が設置した「NLRC(全国労働関係委員会)」の強化を打ち出し、法令違反を犯した企業への罰則を強化する方針を明らかにしている。また労働省の労働監督部門の強化も行われる。 ルーズベルト大統領の「ワグナー法」に匹敵する「組織権保護法(Protect the Right to Organize Act:PRO法)」が2021年2月に下院に提案され、3月に可決されている。同法には労働組合の衰退の要因となった「タフト・ハートリー法」の労働権法を見直す条項も含まれている。 だが、多くの経営者は反労働組合の立場を変えていない。米商業会議所のスザンヌ・クラーク理事長は「PRO法は労働者のプライバシーに脅威を与え、従業員に強制的に組合費を支払わせるか、失業させることになる」と反論をしている。同法は、上院で審議されているが、共和党の反対で成立は難しいと見られている。 ルーズベルト大統領は民主党が両院で圧倒的な多数を占めるなかでニューディール政策を実行に移すことができた。だが、現在、議会勢力で民主党と共和党が拮抗している状況で、バイデン大統領が大胆な政策を打ち出すのは難しい。 民主党内でも進歩派と中道派の対立があり、厳しい議会運営を迫られている。現状では、バイデン構想の実現は難しいだろう。ただバイデン大統領の労働組合寄りの政策は国民の支持を得ている』、「民主党内でも進歩派と中道派の対立」は困ったものだ。
・『米国民の労働組合支持率は高まっている  米国は歴史的に反共産主義、反社会主義、反労働組合の国家である。だが新しい状況が出てきている。国民の間、特に若者層の間で資本主義に対する信頼度が低下しているのである。 米ニュースサイト「アクシオス」とコンサルティング会社「モメンティブ」が2021年7月に行った調査(Capitalism and Socialism)で「資本主義が50年前と比べて良くなっているか、悪くなっているか」という設問に対して、「良くなっている」という回答は27%、「悪くなっている」が41%と、圧倒的に資本主義に対する否定的見方が多くなっている。 また最も特徴的なのは、格差社会の最大の犠牲者であえる若者層の間で社会主義を支持する比率が高まってきていることだ。18歳から24歳では、資本主義に否定的な回答は54%に達している。肯定的な回答は42%に留まっている。 国民の労働組合に対する支持率も着実に上昇している。ギャラップの調査(2021年9月2日)では、「労働組合支持」は68%あった。これは1965年に記録された72%以来の高水準である。こうした現象がやがて米国で大きな流れに繋がる可能性はある』、「格差社会の最大の犠牲者であえる若者層の間で社会主義を支持する比率が高まってきていることだ。18歳から24歳では、資本主義に否定的な回答は54%に達している」、「「労働組合支持」は68%あった」、今後の米国の動向を注目したい。

第三に、2月11日付け週刊エコノミスト Onlineが掲載した「集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220209/se1/00m/020/003000d
・『「新しい資本主義」を議論するには、米国のネオリベラリズムの背景にある思想性、理論性、歴史性を理解する必要がある。 同時に日本においてネオリベラリズム政策やネオリベラリズムに基づくコーポレート・ガバナンスがどう導入されたかを明らかにしない限り、意味のある議論はできない』、興味深そうだ。
・『真の狙いは労働市場の自由化  日本にネオリベラリズムの政策を導入したのは小泉政権である。バブル崩壊後の長期低迷を打開する手段として「規制緩和」や「競争促進政策」が導入された。 だがネオリベラリズム政策の最大の狙いは、米国同様、労働市場の規制緩和であった。労働市場の自由化によって非正規労働や派遣労働の規制が大幅に自由化された。それは企業からすれば、大幅な労働コストの削減を意味した。 労働市場の自由化によって非正規雇用は大幅に増加した。1984年には非正規雇用は15.3%であったが、2020年には37.2%にまで増えている。非正規雇用のうち49%がパート、21.5%がアルバイト、13.3%が契約社員である(総務省「労働力調査」)。賃金も正規雇用と非正規雇用では大きな格差がある。 2019年の一般労働者の時給は1976円でであるが、非正規労働者の時給は1307円である。600円以上の差がある。なお短期間労働に従事する非正規労働者の時給は1103円とさらに低い(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。岸田首相は最低賃金1000円(全国加重平均)を実現すると主張しているが、米国ではバイデン大統領は連邦最低賃金15㌦を目標に掲げている。 現在の為替相場で換算すると、約1700円に相当する。日米で時給700円の差がある。かりに最低賃金1000円が実現しても、非正規雇用は社会保険費など企業負担がなく実質手取りは1000円を下回り、とても最低賃金でまともな生活を送れないのが実情である』、「かりに最低賃金1000円が実現しても、非正規雇用は社会保険費など企業負担がなく実質手取りは1000円を下回り、とても最低賃金でまともな生活を送れないのが実情」、その通りだ。
・『労働市場自由化の弊害を軽視した小泉改革  米国型コーポレート・ガバナンスの導入も日本に大きな影響を与えた。戦後の日本経済の成長を支えてきた「日本的経営」はバブル崩壊後、有効性を失ったと主張された。日本型経営では最大のステークホールダーは従業員であり、メインバンクであり、取引先であった。 株主は主要なステークホールダーとはみなされていなかった。だが米国型コーポレート・ガバナンスは株主中心に考えられ、日本でも企業価値、言い換えれば株価を上げることが経営者の責務と考えられるようになった。労働者は「変動費」であり、経営者は従業員の雇用を守るという意識を失っていった。 かつて経営者の責務は従業員の雇用を守ることだと言われていた。米国型コーポレート・ガバナンスは、日本の労使関係を根底から変えてしまった。同時に経営者は米国と同様に巨額の報酬を手にするようになる。 米国や英国では1900年代にはネオリベラリズム政策の弊害が目立ち始めていた。貧富の格差は急速に拡大し、深刻な社会問題を引き起こしつつあった。だが小泉改革では、そうした弊害について真剣に検討することなく、労働市場の自由化が強引に進められていった。 同時に終身雇用は破綻したとして、雇用の流動化が主張された。雇用の流動化は、言葉は魅力的だが、最も大きな恩恵を得るのは企業であって、従業員ではない。企業は高賃金の従業員に早期退職や転職、副業を勧めることで、大幅に労働コストを削減できる。 米国と違って日本では整備された転職市場が存在せず、さらに「同一労働同一賃金」や米国の401(k)のような「ポータブルな企業年金制度」などもなく、転職の負担はすべて従業員に掛かってくる』、「米国と違って日本では整備された転職市場が存在せず、さらに「同一労働同一賃金」や米国の401(k)のような「ポータブルな企業年金制度」などもなく、転職の負担はすべて従業員に掛かってくる」、その通りだ。
・『日本の企業内組合は交渉力を発揮できない  岸田首相がどのような「新しい資本主義」を構想しているのか定かではない。成長すれば、その成果が労働者にも及ぶという供給サイドの経済学が主張する“トリクルダウン効果”論は歴史的にも、理論的にも破綻している。 成長すれば、最終的に恩恵はすべての人に及ぶというのは幻想である。企業は常に賃金上昇を抑えようとする。決して温情で賃上げをするわけではない。過去の企業行動を見れば、日本で行われている「成長」と「分配」を巡る議論は空論そのものであることが分かる。 賃上げをした企業に税の優遇措置を講ずるという報道もなされている。かつて安倍晋三首相は経済団体に賃上げを行うよう要請したことがあるが、企業は応じなかった。経営者は従業員に対する“温情”から賃上げを実施することはないだろう。 従業員と労働者が正当な賃金を得るには、企業と拮抗できる組織と仕組みが必要である。日本の企業は正規社員を減らし、非正規社員を雇用することで労働コストを大幅に削減して利益を上げてきた。米国同様、その利益の多くは株主配当に向けられるか、内部留保として退蔵されてきた。 さらに経営者の報酬も大幅に引き上げられた。本来なら組合は正当な労働報酬を受け取る権利がある。米国の労働組合は産業別組合で企業との交渉力を持っているが、日本の労働組合は企業内組合では、企業に対する交渉力を発揮することは難しい』、「本来なら組合は正当な労働報酬を受け取る権利がある。米国の労働組合は産業別組合で企業との交渉力を持っているが、日本の労働組合は企業内組合では、企業に対する交渉力を発揮することは難しい」、同盟などの労働貴族には殆ど期待できない。
・『日本の時間当たりの付加価値は世界23位  低賃金は生産性向上を妨げる。本来なら企業は賃金上昇によるコストを吸収するために生産性を上げる努力を行う。だが低賃金労働が使える限り、企業は資本コストの高い合理化投資を積極的に行わない。 企業は労働コストが上昇すれば、競争力が低下するために合理化投資を行わざるを得ない。大胆に言えば、日本企業の生産性が低いのは、賃金が安いからである。 先進国の中で日本の生産性は最も低い。2020年の1人当たりの日本の労働生産性はOECD38カ国のうち28位(7万8655㌦)で、24位の韓国(8万3378㌦)よりも低く、ポーランドやエストニアと同水準である(「労働生産性の国際比較2021、日本生産性本部」)。 また。日本の時間当たりの付加価値は49.5㌦で、23位である、1位のアイルランドは121㌦、7位の米国は80㌦である。韓国は32位で43㌦である。なぜここまで低いのか』、「日本企業の生産性」や「日本の時間当たりの付加価値」の低さにはつくづく嫌になる。
・『経営者報酬と配当を増やす経営が日本を弱くした  日本特有の給与体系も影響している。日本では基本給の水準が低いため、残業手当が付かなければ、十分な所得を得られない。その結果、同じアウトプットを生産するために、残業を増やして長時間労働を行うことになる。 それこそが低生産性の最大の要因の一つである。昨今、「働き方改革」で残業を削減する動きがみられるが、残業時間の短縮は残業の減少と所得の減少を意味する。短時間で同じ労働成果を上げることができれば、それは生産性向上を意味し、基本給の引き上げで従業員に還元されるべきものである。 だが、企業は所得が減った従業員に副業を推奨するという奇妙な議論が横行している。「労働の流動化」を口実に賃金引き下げと雇用の安定性が損なわれている。労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた』、「労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた」、その通りである。
・『存在価値を無くした日本の労働組合が低賃金の要因  米国と同様に日本でも労働組合参加率は低下の一途をたどっている。戦後の1949年には労働組合参加率は55%であった。その後、参加率は低下し、1980年代に20%台にまで低下した。 2021年の参加率は16.9%にまで低下している(労働組合基本調査)。米国ほどではないが、労働組合は急激に衰退し、社会的影響力の低下は目を覆うべき状態である。その背景には労働組合幹部が「労働貴族」となって特権を享受しているという“反労働組合キャンペーン”が行われたことが影響している。 労働組合は国民の支持を失い、現在では社会的存在感するなくなっている。日本の労働組合運動の衰退は世界でも際立っている。全くと言っていいほど企業に対する交渉力を失っている』、連合の動きは滑稽でしかない。
・『日本で“スト”はもはや死語  高度経済成長期に賃金上げをリードしてきた「春闘方式」が崩壊し、企業内組合を軸とする労働組合は企業に取り込まれ、十分な交渉力を発揮できなくなった。労働組合運動は連合の結成で再編成されたが、連合はかつてのような影響力を発揮することができない。 目先の政治的な思惑に振り回されている。賃上げに関して十分な“理論武装”をすることもできず、ほぼ賃上げは経営者の言いなりに決定されているのが実情である。 労働組合の弱体化は「労働損失日」の統計に端的に反映されている。2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日であるのに対して、米国は2815日、カナダは1131日、英国は273日、ドイツは571日、韓国が552日である(労働政策研修機構『データブック国際労働比較2019』)。日本と同様に組合参加率が大幅に低下している米国ですら、賃上げや労働環境を巡って労働組合は経営と対立し、要求を実現している。 日本では“スト”はもはや死語となっている。格差是正や賃上げを要求する「主体」が日本には存在しないのである。その役割を政府に期待するのは、最初から無理な話である。それが実現できるとすれば、日本は社会主義国である』、「2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日であるのに対して、米国は2815日、カナダは1131日、英国は273日、ドイツは571日、韓国が552日」、日本がここまで少ないとは初めて知った。
・『税制、最低賃金、非正規問題の構造的な見直し  労働市場で個人が企業と向かい合い、交渉することは不可能である。両者の間には圧倒的な力の差がある。だからこそルーズベルト大統領は労働者の団結権と団体交渉権を認め、全国労働関係委員会に労働争議の調整役を委ねたのである。小手先の制度改革ではネオリベラリズムの弊害を断ち切ることはできない。 バイデン大統領は中産階級の失地回復こそが格差是正の道であり、繁栄に至る道であると主張している。そのためには労働組合が企業に対して十分な交渉力を持つ必要があると説いている。 一人ひとりの働く人が、誠実に働けば、家族を養い、子供を教育し、ささやかな家を購入するに足る所得を得る制度を再構築することが必要である。非正規とパート労働で疲弊した国民は決して幸せになれない。平等な労働条件、公平な賃金、雇用の安定を実現することが「新しい資本主義」でなければならない。 貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き起こす。長期的には経済成長を損なうことになる。そうした事態を回避するには現在の制度の構造的な見直しが必要である。 税制の見直しや最低賃金の引き上げに加え、正規労働者と非正規労働者に二分された労働市場の見直しも不可欠である。労働者や消費者などさまざまな立場の人の意見を反映させるようなコーポレート・ガバナンスを構築する必要がある』、「現在の制度の構造的な見直しが必要である」、同感である。
・『ネオリベラリズムは「既得権構造」に浸透  ネオリベラルの発想から抜け出す時期に来ている。そのためには、労働規制、税制、コーポレート・ガバナンス、労働組合の役割などの見直しは不可欠である。特にコーポレート・ガバナンスに労働者や消費者などの意見が反映できるようにコーポレート・ガバナンスの改革は不可欠である。 米国におけるネオリベラリズムの検討でみたように、その背後には明確な国家観の違いが存在している。そうした大きな枠組みの議論抜きには、新しい展望は出てこないだろう。 ネオリベラリズムは既得権構造に深く組み込まれている。それを崩すには、社会経済構造を根底から変える必要がある。激しい抵抗に会うのは間違いない。これからの議論で岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われることになるだろう。 最後に一言、小泉改革以降のネオリベラリズムの政策で日本経済の成長率は高まっていない。経済成長はGDPの約80%を占める需要によって決まるのである。日本の長期にわたる低成長はネオリベラリズム政策や発想がもたらした必然的結果なのである。(終わり)』、「ネオリベラリズムは既得権構造に深く組み込まれている。それを崩すには、社会経済構造を根底から変える必要がある。激しい抵抗に会うのは間違いない。これからの議論で岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われることになるだろう」、全く同感である。
タグ:「組合員のみを雇用するクローズド・ショップ制を非合法化する「労働権法」の規定が盛り込まれたことだ。それにより組合の弱体化が進められた。現在、労働権法を可決している州は27州に達している。そうした州での組合活動は大幅に制限されている」、「クローズド・ショップ制を非合法化」は労組には大打撃だろう。 週刊エコノミスト Onlineが掲載した「集中連載 今考える「新自由主義」 第2回 再び格差広げたフリードマンの思想とパウエル・メモ 組合を弱体化させた米国の失敗=中岡望」 新自由主義 (その2)(今考える「新自由主義」 第1回 米初期資本主義の‟超”格差社会と ニューディール政策が生んだ「最も平等な社会」、第2回 再び格差広げたフリードマンの思想とパウエル、第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣) 週刊エコノミスト Onlineが掲載した「今考える「新自由主義」 第1回 米初期資本主義の‟超”格差社会と、ニューディール政策が生んだ「最も平等な社会」=中岡望」 「新しい資本主義構想」はすっかり色あせた感じだ。 「ネオリベラリズムが誕生してきた背景を理解する必要がある」、その通りだ。 「日本ではネオリベラリズムの持つ思想的な意味が十分に検討されることなく、また、既に社会問題となっていた貧富の格差の問題を顧みることなく、表層的な景気政策として導入され、社会に与える影響が真剣に議論されることはなかった」、その通りで、残念なことだ。 「米国の古典的リベラリズムには、「政府の市場への介入忌避」や「自由放任主義」に「小さな政府」を主張する政治論が加わる」、その通りだ。 「1890年の時点で、所得上位1%の富裕層が全資産の51%、上位12%の富裕層が全資産の86%を保有」、米FRBの調査によると、現在の米国は「第2のギルディド・エイジ」と呼ばれているように、19世紀と同じ現象が繰り返されている。上位1%の最富裕層が34%、上位10%の富裕層が88%の資産を保有」、「歴史は繰り返されるのである」、こんな形の繰り返しは悲劇だ。 「19世紀のポピュリズムは「左派ポピュリズム」であったが、21世紀のポピュリズムは「右派ポピュリズム」であった。そこに共通するのは、反エリート主義である」、なるほど。 独禁法は現在でも米国企業を強く規制している。 「大恐慌を引き起こす要因となった金融市場に対して厳しい規制が導入された。「グラス・スティーガル法」によって証券業務と銀行業務の分離が行われた。さらに証券市場を規制するために「証券取引員会(SEC)」が設立され、企業に情報公開を義務付け、インサイダー取引を禁止する措置が取られた。 ウィルソン政権の時に設立された「FRB・・・」も財務省から独立し、権限が強化され、独立した金融政策を行えるようになった」、現在の金融制度の骨格が出来たようだ。 「経済的格差が拡大し、社会が混乱すると必ずとポピュリズムが登場する」、「ポピュリストの人民党」、「トランプ大統領も社会的底辺に存在する白人労働者を「忘れられた人々」と呼び、強力な支持層へと変えていった」、なるほど。 「ニューディール政策は大恐慌から脱出するために公共事業による景気浮揚政策であるというのが一般的理解である。だが最近の経済学界では、景気浮揚効果は限定的・・・重要な政策は「労働政策」と「社会政策」であった」、評価が変わったことは初めて知った。 「ニューディール・リベラリズムは戦後の米国経済の繁栄のベースになる。労働者の実質賃金の上昇に加え、1944年の「復員兵援護法(GI法)」によって多くの若者が奨学金を得て大学に進学した。 彼らはホワイトカラーの中核を形成するようになり、戦後の消費ブームを支えた」、なるほど。 「1970年代まで生産性向上と労働賃金上昇率は、ほぼ同じ水準にあった。すなわち生産性向上の果実の大半は労働賃金の引き上げに向けられていたのである。 だが1970年代以降、生産性向上分は経営者の取り分が大きく増え、労働者の配分は低水準で推移」、なるほど。 「フリードマン・ドクトリン」により、「それまで労働者は企業のステークホールダー(利害関係者)とみなされていたが、やがて株主と経営者だけがステークホールダーとみなされるようになる」、なるほど。 「弁護士のルイス・パウエルが米商業会議所の依頼で1971年8月23日に作成したメモである。「パウエル・メモ」の表題は「企業による民主主義支配の青写真」、「「フリードマン・ドクトリン」が米国企業に対する「経済的マニフェスト」とすれば、「パウエル・メモ」は米国企業に対する「政治的マニフェスト」であった」、なるほど。 「経営者と従業員の所得格差は、1965年は20対1であったが、2000年には366対1にまで拡大している」、「ネオリベラリズムは経営者を傲慢にし、古典的リベラリズムの世界を再現させた」、やれやれ。 「レーガン大統領は、規制緩和、競争促進、大幅減税、福祉政策削減による小さな政府の樹立などを選挙公約として掲げた。そうした主張の根底には古典派経済学の復活があった。それは「供給サイドの経済学」」なるほど。 「貯蓄を増やすには、富裕層の減税が最も効果的であると考えられた。貯蓄性向の高い富裕層の減税は貯蓄を増やすことになる。貯蓄は株式投資や事業資金に回るはずだと主張された。減税による歳入減少は成長が高まることで将来の税収増に結び付く。経済成長が高まれば、結果的に労働者の賃金も上昇する。 これは“トリクルダウン効果”と呼ばれ、最終的には成長の果実はすべての人に行きわたると説明された。だがトリクルダウン効果は発揮されることはなかった。むしろ貧富の格差を拡大する結果をもたらした」、日本でも効果は出なかった。 「レーガン大統領のネオリベラリズムに基づく政策は、保守派が主張するような成果を上げることができず、「未完の革命」と呼ばれた」、財政赤字はむしろ拡大した。 「ネオリベラリズムの世界では、労働組合は賃金交渉力を失い、賃金引上げよりも、雇用確保を主張するように変わっていった。労働者は分断され、実質賃金の上昇は止まってしまった」、残念ながらしょうがない。 「クリントン大統領は労働者に寄り添うよりも、金融界の利益代弁者になっていた。財政赤字削減を訴え、小さな政府を主張するなど、ネオリベラリズムの色に染まっていた」、残念だ。 「トランプ大統領は労働者のために製造業を復活させると公約したものの、最終的には何もしなかった」、貧しい白人は騙されたことになる。 「ビジネス・ラウンド・テーブルの会員の大企業は。労働者やコミュニティへの投資を経営者の責務であると語っているのである」、「これは米国企業がフリードマン・ドクトリンと決別することを意味」、日本でも岸田首相がこれに近い提案をしてる。 「大統領は。米国社会を繁栄させたのは経営者ではなく、労働者であると訴えている。 中産階級を再構築するには労働組合の復興が必要だとも考えている」、方向性は正しいが、少数になった下院では力不足だ。 「民主党内でも進歩派と中道派の対立」は困ったものだ。 「格差社会の最大の犠牲者であえる若者層の間で社会主義を支持する比率が高まってきていることだ。18歳から24歳では、資本主義に否定的な回答は54%に達している」、「「労働組合支持」は68%あった」、今後の米国の動向を注目したい。 週刊エコノミスト Onlineが掲載した「集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望」 「かりに最低賃金1000円が実現しても、非正規雇用は社会保険費など企業負担がなく実質手取りは1000円を下回り、とても最低賃金でまともな生活を送れないのが実情」、その通りだ。 「米国と違って日本では整備された転職市場が存在せず、さらに「同一労働同一賃金」や米国の401(k)のような「ポータブルな企業年金制度」などもなく、転職の負担はすべて従業員に掛かってくる」、その通りだ。 「本来なら組合は正当な労働報酬を受け取る権利がある。米国の労働組合は産業別組合で企業との交渉力を持っているが、日本の労働組合は企業内組合では、企業に対する交渉力を発揮することは難しい」、同盟などの労働貴族には殆ど期待できない。 「日本企業の生産性」や「日本の時間当たりの付加価値」の低さにはつくづく嫌になる。 「労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた」、その通りである。 連合の動きは滑稽でしかない。 「2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日であるのに対して、米国は2815日、カナダは1131日、英国は273日、ドイツは571日、韓国が552日」、日本がここまで少ないとは初めて知った。 「現在の制度の構造的な見直しが必要である」、同感である。 「ネオリベラリズムは既得権構造に深く組み込まれている。それを崩すには、社会経済構造を根底から変える必要がある。激しい抵抗に会うのは間違いない。これからの議論で岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われることになるだろう」、全く同感である。
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