日本型経営・組織の問題点(その14)(社員は“マジメで勤勉”なのに 会社はアナログのまま…富士通の「DX請負人」が痛感した日本企業の重大な欠陥 日本企業が時代遅れになった根本原因、なぜ日本の取締役会はリスクテイクを歓迎しないのか、日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」のままで良いのか?) [経済政治動向]
日本型経営・組織の問題点については、昨年4月30日に取上げた。今日は、(その14)(社員は“マジメで勤勉”なのに 会社はアナログのまま…富士通の「DX請負人」が痛感した日本企業の重大な欠陥 日本企業が時代遅れになった根本原因、なぜ日本の取締役会はリスクテイクを歓迎しないのか、日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」のままで良いのか?)である。
先ずは、本年5月19日付けPRESIDENT Onlineが掲載した立教大学ビジネススクール教授・戦略コンサルタントの田中 道昭氏による「社員は“マジメで勤勉”なのに、会社はアナログのまま…富士通の「DX請負人」が痛感した日本企業の重大な欠陥 日本企業が時代遅れになった根本原因」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/69640
・『なぜ日本企業のDXはうまくいかないのか。2020年4月、富士通の最高DX責任者になった福田譲氏は、就任してすぐ富士通でDXが進まない最大の原因に気づく。それは、グループ全体を覆う「会社に対する無関心」だった――。(第2回) ※本稿は、Ridgelinez編、田中道昭監修『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです』、「DXが進まない最大の原因」が「会社に対する無関心」とは衝撃的だ。
・『SAPジャパン元社長をDX担当に招き入れた 富士通株式会社の時田隆仁社長(以下、時田と略す)は全社変革を推進する上で、既存の組織や人間関係にとらわれない外部人材の登用を通じて多様性のあるマネジメントチームを組成していく。その中でも変革の核となる全社デジタルトランスフォーメーション(のちにFujitsu Transformation=〔フジトラ〕としてプロジェクト化する)の推進のために外部から招き入れたのが、富士通の現・執行役員EVP、CDXO(最高DX責任者)、CIO(最高情報技術責任者)である福田譲である。 福田は1997年に大学卒業後、ERP(統合基幹業務システム)の世界最大手であるSAPジャパンに入社した。化学・石油の大手メーカーを担当する法人営業のエキスパートとしてキャリアを磨きながら、新規事業開発の担当役員や営業統括本部長を歴任。 14年にはSAPジャパンの代表取締役となり、20年4月に富士通に転じるまで23年間、SAPに在籍していた』、「SAPジャパンの代表取締役」を「執行役員EVP、CDXO・・・、CIO」として迎え入れるとは思い切ったことをしたものだ。
・『各国グループ会社の状況を把握できていない そのSAPジャパン時代に福田は、時田の前任だった前社長の田中達也の依頼で、米国のシリコンバレーを案内したことがあった。SAPは2000年代初め、マイクロソフトに買収されるかという事態に直面したことがあり、世界企業へと脱皮すべく、シリコンバレーに研究所を移して組織変革に弾みをつけたという歴史を持つ企業でもある。 その経緯を説明しながら、富士通の当時の社長である田中にSAPの経営ダッシュボードなどを含めた事業経営の有り様を直接説明した福田は、富士通のグローバル経営の実態を聞き、驚きを禁じ得なかった。 世界的に通用するブランドとポジションを築いていながら、経営者がグローバルの数字を経営の意思決定に繋がる形でタイムリーに把握することができておらず、グループ会社のガバナンスもほとんど利いていないという印象を持ったという』、「SAPジャパン時代に福田」氏は、「富士通の当時の社長」が「経営者がグローバルの数字を経営の意思決定に繋がる形でタイムリーに把握することができておらず、グループ会社のガバナンスもほとんど利いていないという印象を持ったという」、あり得る話だ。
・『「富士通でこれなら日本の他の企業は…」 田中の再びの依頼によって、福田は翌年に富士通の取締役全員のシリコンバレー視察を受け入れ、SAPのデータ駆動型経営について改めて説明した。それをきっかけにして富士通が変わることを期待していたからだ。 しかしながら、メディアなどを通じて富士通の変革が進んだという話を聞くことはなかった。 「富士通でこのようなレベルなら、多くの日本企業は相当に危ないのではないか」。 そう思った福田だが、一方で富士通は世界的に競争力のある技術や優良な顧客資産、そして良い人材も持っているとも感じていた。企業としてのカルチャーも、時代錯誤になっている部分はあるが良いものを持っている。社員一人ひとりが「きちっと」している。真面目で勤勉というのは世界的に見ると大変価値があるし、資本主義に傾倒して多くの欧米企業が失ってしまったもの、GAFAM(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック〔現・メタ〕、アップル、マイクロソフト)にないものがあると考えていた。 福田は富士通を変えられたら多くの日本企業のリファレンスになると考え、時田の招聘しょうへいを受け入れて富士通に転じ、富士通のトランスフォーメーションの指揮を執ることになる』、「田中の再びの依頼によって、福田は翌年に富士通の取締役全員のシリコンバレー視察を受け入れ、SAPのデータ駆動型経営について改めて説明した」、「福田は富士通を変えられたら多くの日本企業のリファレンスになると考え、時田の招聘しょうへいを受け入れて富士通に転じ、富士通のトランスフォーメーションの指揮を執ることになる」、「田中」氏は「SAPのデータ駆動型経営」や「福田」氏をよほど気に入ったようだ。
・『会社に対する無関心レベルが度を越えていた 福田が富士通に入社して最大の問題だとすぐに気づいたのは、グループ全体を覆う「会社に対する無関心」だった。 「会社を変革することに対して、実は抵抗勢力らしき存在がいませんでした。みんなが変革には賛成する一方で、会社に対するエンゲージメントが非常に低く、何のために富士通にいるのか、何のために仕事をしているのかを考えているように見える社員が少なかったのです」と福田は懐述する。 「上司に言われて仕事をしている」「残業代がつかなくなるので、幹部社員になりたくない」という従業員のリアルな声もあった。数万人が参加しているはずの社内SNSで社長の時田がコメントをつけても、「いいね!」などの反応が100に満たない。グループ12万人が閲覧できるはずの社内ポータルにトップメッセージをアップしても、閲覧数が2万~3万しかいかない――。その一方で、社員アンケートを取ると「他の部署が何をやっているのかが見えない」という不満も出てきていた』、「福田が富士通に入社して最大の問題だとすぐに気づいたのは、グループ全体を覆う「会社に対する無関心」だった。 「会社を変革することに対して、実は抵抗勢力らしき存在がいませんでした。みんなが変革には賛成する一方で、会社に対するエンゲージメントが非常に低く、何のために富士通にいるのか、何のために仕事をしているのかを考えているように見える社員が少なかったのです」、「数万人が参加しているはずの社内SNSで社長の時田がコメントをつけても、「いいね!」などの反応が100に満たない。グループ12万人が閲覧できるはずの社内ポータルにトップメッセージをアップしても、閲覧数が2万~3万しかいかない」、「グループ全体を覆う「会社に対する無関心」」とは驚いた。
・『経営に関心が向かないような仕組みがあった 社員が会社の成長や未来について、なぜこれほどまでに無関心なのか。 「無関心レベルが想像を超えていた」と福田は当時の状況を振り返るが、徐々に「富士通という組織の中に、会社の経営に関心を向かわせないような仕組みや構造があっただけに過ぎない」と思うようになる。会社が進んでいる方向性について、社員に疑問を抱かせないような環境を会社自身がつくっている、ということに気がついたのだ。 福田のこの気づきは、その後の改革に大いに活かされている。富士通は2020年5月にグループのパーパスを「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」ことと制定し、全社変革の軸として掲げた。 (【図表1】富士通グループのパーパス出所=『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』はリンク先参照) しかしながら、全社変革はトップダウンだけでは実現できない。欠かせないのは、今は無関心な多くの従業員の、多様な個の力による変革をボトムアップで進める意識と意欲だ』、「会社が進んでいる方向性について、社員に疑問を抱かせないような環境を会社自身がつくっている、ということに気がついたのだ。 福田のこの気づきは、その後の改革に大いに活かされている」、なるほど。
・『まずは社員個人が生きることの意義を見つめ直す 彼らの心を動かし、行動を起こす原動力は何なのか? その第一歩として、社員個々を理解し、その原動力をドライブする取り組みとして「パーパスカービング」を経営陣主導で開始した。 「パーパスカービング」とは個人が働くことや生きることの意義を改めて見つめ直した上で、企業のパーパスと自己のパーパスを掛け合わせ、そこで生まれる多様な力を変革の原動力にするという取り組みである。パーパスカービングは全社にわたって実施され、何よりもこの後、変革の先鋒に立つべきリーダー層に変化をもたらした。 「変わらない富士通」に諦めの気持ちを持っていたものが、トップファースト(=経営陣から順に)で行われたパーパスカービングの実施によって、時田をはじめとした経営陣の全社変革への本気度を感じることができた。全社を横断して変革を実践するリーダーシップへ、少しずつ意識の変容が見られてきたのである』、「社員個々を理解し、その原動力をドライブする取り組みとして「パーパスカービング」を経営陣主導で開始した。 「パーパスカービング」とは個人が働くことや生きることの意義を改めて見つめ直した上で、企業のパーパスと自己のパーパスを掛け合わせ、そこで生まれる多様な力を変革の原動力にするという取り組みである。パーパスカービングは全社にわたって実施され、何よりもこの後、変革の先鋒に立つべきリーダー層に変化をもたらした。 「変わらない富士通」に諦めの気持ちを持っていたものが、トップファースト・・・で行われたパーパスカービングの実施によって、時田をはじめとした経営陣の全社変革への本気度を感じることができた」、「トップファースト」で「経営陣の全社変革への本気度」を示す必要があったのだろう。
・『変革の対象は「聖域」なく選ぶ 富士通は先のパーパスを基に2030年のあるべき姿を設定し、富士通グループ全体で変革を推進するプロジェクトとして「FUJITRA(以下、フジトラ)」を20年10月から開始。プロジェクト名のフジトラとは「Fujitsu+Transformation」を略したもので、社長である時田がCDXO(当時)として、またCIOの福田がその補佐として、パーパスを基点に富士通グループ全体をデジタルの力で変革していくプロジェクトである。そして、経路“相互”依存性を打破するために同時多発的に変革を実践していく。 変革テーマの対象は“聖域”なく選び、事業部門から管理部門まで部門を問わない。上がってきたテーマを分類・分析し、優先順位をつけて同時並行で推進。現在では150ほどのテーマがグループ全体において同時並行で取り組まれている。 「現場が主役・全員参加」というスローガンを掲げ、主要組織、主要グループ会社、リージョンごとにDX責任者(DXO)を配置し、DXO同士が推進するテーマの課題や悩みを相互に共有し、DXOたちによるコミュニティが解決し合うプロジェクト推進の基盤も構築できている。 (【図表2】フジトラのプロジェクト体制(2023年3月時点)出所=『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』 はリンク先参照)』、「2030年のあるべき姿を設定し、富士通グループ全体で変革を推進するプロジェクトとして「FUJITRA・・・」を20年10月から開始」、「変革テーマの対象は“聖域”なく選び、事業部門から管理部門まで部門を問わない。上がってきたテーマを分類・分析し、優先順位をつけて同時並行で推進。現在では150ほどのテーマがグループ全体において同時並行で取り組まれている」、なるほど。
・『ファーストペンギンとしての出島組織をつくる フジトラの本当の目的はデジタル化を進めることではなく、顧客の悩みや社会課題に対して自らが課題を設定し、解決し、新しい変革を起こしていくための意欲と能力を醸成していくことだ。 これは、これまで富士通がやりたくてもできなかったことでもあり、富士通という企業そのものの変革を体現してみせることでもある。 「果たして全社DXプロジェクトだけでそのような姿になれるのか?」「もっと加速させる手段はないのか?」――。その解の1つとして生まれたのが、社外から変革を加速させるDXコンサルティングファームとしてのリッジラインズである。 富士通の抱える変革に向けた課題は、多くの日本企業にも共通しており、富士通でそれらを解決できれば、同じような境遇に置かれている日本企業にとって貴重なリファレンスモデルとなり得る。 しかし同時に、大企業である富士通では新しい施策や実証実験などに向けた意思決定や、必要なタレント・チームの組成がスピード感を持った形で実施できない場合が多い。そのためのファーストペンギン役として出島組織(この場合は資本関係で繋がってはいるが、経営の自主性を高く持てる組織の意)であり、プロフェッショナルファームとしてのリッジラインズの存在が生きてくる。)』、「社外から変革を加速させるDXコンサルティングファームとしてのリッジラインズである」、「大企業である富士通では新しい施策や実証実験などに向けた意思決定や、必要なタレント・チームの組成がスピード感を持った形で実施できない場合が多い。そのためのファーストペンギン役として出島組織・・・であり、プロフェッショナルファームとしてのリッジラインズの存在が生きてくる」、なるほど。
・『人を起点にした変革5つのステップ 取り組みの例としては、ジョブ型人事制度を前提にした360度評価や、組織間での人材の移動を柔軟にするプラクティス制、経費精算などの社内のバックオフィス業務をデジタルツールをフル活用して完全自動化する取り組み、新たな知見の創出活動としての「Human & Values Lab」などがある。いずれもリッジラインズで始まり、富士通本体でも活用・検討されている取り組みだ。 ここまでの富士通の変革の現場を振り返ると、人を起点とした企業の変革に取り組む際のファーストステップとして捉えることができる』、「いずれもリッジラインズで始まり、富士通本体でも活用・検討されている取り組みだ」、「人を起点とした企業の変革に取り組む際のファーストステップとして捉えることができる」、なるほど。
・『人起点変革のファーストステップ ステップ① 変革に取り組む明白な理由を示す ステップ② 企業としての新しい目的を設定する ステップ③ 対話を通じて企業の目的と従業員の原動力を共鳴させる ステップ④ 新しい目的や変革に熱意ある現場が行動変容できる環境をつくる ステップ⑤ ファーストペンギンを設定し、変革を加速する まず前提としてあるのは、いかに素晴らしい戦略が描けたとしても、トップから現場に至るまでそこにいる人々の行動変容が起きなければ、外から見ていても会社は変わっていないと思われるし、実際、変わっていないということである。そのため、変革に取り組む理由や自社の目的を従業員一人ひとりが理解し、行動に繋げられるための環境づくりがDXの初期ステップでは肝要となる』、「変革に取り組む理由や自社の目的を従業員一人ひとりが理解し、行動に繋げられるための環境づくりがDXの初期ステップでは肝要となる」、その通りなのだろう。
・『「考えたこと」を「実践」に移せる環境を整える 富士通では経営方針説明会においてDX企業への転身を宣言し、全社員に対する強い意識付けを実施した(ステップ①)。続けてパーパスを制定し(ステップ②)、自社が向かう方向性を明確にした上で、対話を通じてパーパスを浸透させていった。それが12万人に向けたメッセージや、パーパスカービングである(ステップ③)。 (【図表3】人起点の変革のファーストステップ出所=『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』はリンク先参照) ここまでくると、ただのスローガンや一過性の取り組みではないということに従業員が気づき始める。本気で取り組みたいという熱意ある現場もちらほら出てくるが、そのときにポイントになるのが、彼らが考え出した新たな施策をすぐに実践できる環境をつくるということだ。 フジトラは全社の変革活動としてそれらを見える化し、活動やその成果がすぐに共有できるような環境を提供した。こうなると、後続が変革に向けて動きやすい状況がつくられ、自発的に挑戦しようとする動きも加速してくる(ステップ④)』、「「実践」に移せる環境を整える」のは確かに重要なようだ。
・『出島会社でうまくいったものを本丸に取り込む その頃には抜本的に変化を起こす必要があるテーマや、これまでの常識にとらわれては決して解決できないテーマも明らかになってくる。そこでファーストペンギンを設定し、既存の組織やプロセスの影響を受けにくい状況で試行錯誤をさせ、うまくいったものを「本丸」に取り込んで一気に変革を進めていく。富士通にとっては、リッジラインズがまさしくファーストペンギンであり、出島として新会社を設立したのもそれが狙いの1つであった(ステップ⑤)。 富士通の場合は、これらのステップを経ることによって、変革を推進する人が自ら考え、行動を起こし、成果を生み出していくことが可能になる状態を創り出していった。 繰り返しになるが、変革を起こすのはまぎれもなく人である。リーダー自らが行動を起こし、周囲の行動を変容させていくためのアプローチとして、これらのステップを活用できる』、「出島会社でうまくいったものを本丸に取り込む」、巧みなやり方だ。
・『「ただデジタル化すればいい」のではない 日本企業の変革・DXで特に重要となるのはステップ①~③である。アナログ・物理データをデジタルデータ化したり、個別の業務をデジタル化したりするだけでは、トランスフォーメーションとはいえない。 組織を横断した全体の業務・製造プロセスのデジタル化・見える化を行い、事業運営やビジネスモデルを変革してこそDXが達成されるといっていいだろう。そのためには、繰り返しになるが自社の(変革の)目的を戦略的に設定し、一人ひとりに理解を促し、浸透させていくことが必要になる。この①~③のステップをおろそかにして、個別の業務におけるツール導入を検討しても、大きなインパクトを出すのは難しい。 そしてこれらのステップは、変革を起こすための序盤に必要なものに過ぎない。活動を更に活性化させていくことで、ムーブメントを起こし全社に広げていくことが重要となる。一過性の取り組みに終わらせることなく、上層部から現場まで巻き込んで変革の理由をそれぞれのレイヤーが「自分事化」し、時に新たな目的を設定し更なる行動に繋げていくこと、このサイクルを継続していくことによって大きな変革を遂げていくことができるようになる』、「日本企業の変革・DXで特に重要となるのはステップ①~③である。アナログ・物理データをデジタルデータ化したり、個別の業務をデジタル化したりするだけでは、トランスフォーメーションとはいえない。 組織を横断した全体の業務・製造プロセスのデジタル化・見える化を行い、事業運営やビジネスモデルを変革してこそDXが達成されるといっていいだろう。そのためには、繰り返しになるが自社の(変革の)目的を戦略的に設定し、一人ひとりに理解を促し、浸透させていくことが必要になる」、なるほど。
次に、6月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニコンやMUFGのCFOをした徳成旨亮氏による「なぜ日本の取締役会はリスクテイクを歓迎しないのか」を紹介しよう。
・『三菱UFJおよびニコンのCFOとして、毎年平均100名近い海外機関投資家と面談してきた徳成旨亮氏によると、海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた、という。 海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている。結果、日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず、水準を切り上げ続けている欧米株と比べて魅力がないと言われても仕方がない状況だ。 この現状を打破するにはどうしたらいいか? 徳成氏は、「CFO思考」が「鍵」になるという。 朝倉祐介氏(アニマルスピリッツ代表パートナー)や堀内勉氏(元森ビルCFO)が絶賛する6/7発売の新刊『CFO思考』では、日本経済・日本企業・日本人が「血気と活力」を取り戻し、着実に成長への道に回帰する秘策が述べられている。本書から、一部を特別に公開する』、『アニマルスピリッツ』を取り戻すには、「「CFO思考」が「鍵」になるという」のは興味深そうだ。
・「企業の永続性」を「成長」より優先する日本の取締役会 コーポレートガバナンス・コードは、取締役会がCEO以下経営陣の健全なアニマルスピリッツに基づくリスクテイクの提案を歓迎し、その果断な意思決定を支援することを求めています。 しかしながら、2023年時点で、日本企業の取締役会において、CEOをはじめとする経営陣に「もっと積極的にリスクを取れ」と背中を押すような行動を取っているケースはほとんどないものと思われます。 日本の社外取締役は、株主価値向上につながる企業価値向上を最優先に考えるというよりも、企業価値向上につながる行動はCEO以下執行サイドの役割であり、みずからの役割は監査など執行に対するチェック機能にあると認識しているものと考えられます。 ここで、取締役会の構成を見てみると、CEOなどの執行サイドの役員に加え、弁護士や会計士、官僚出身者や企業経営者から構成されているケースが多いことが分かります。 コーポレートガバナンス・コードの補充原則4─11①では、「独立社外取締役には、他社での経営経験を有するものを含めるべき[*1]」だとされており、各社はこぞって他社の社長経験者を社外取締役に迎えています。 その結果、他社の社長、会長経験者で、現在は「相談役」「特別顧問」などに就いておられる方々が、取締役会で中心的役割を担っている、というのが、日本の上場企業の平均的な姿になっています。 CFO仲間の懇談会などでよく聞く話を総合すると、平均的に70歳前後のこうした方々は、長年、企業を率い、後輩に社長のバトンを無事に渡された成功体験から、企業の永続性を優先するお考えをお持ちの方が多いようです。また、中には、「ROEや株主価値を重視すべき」という昨今の風潮に心のどこかで抵抗を感じている方もいらっしゃる、という話も聞きます。 誤解を恐れずに言えば、多くの社外取締役は、会社の継続性を優先し、企業がリスクアペタイトに乏しい状況を容認する、つまりリスクテイクよりは企業の安定性を重視する傾向があると言えます。 このため、ISSやグラス・ルイスなどの議決権行使助言会社が「独立社外取締役を増やせ」といった外形標準的な要求をいくら企業側に突き付け、そのとおりになったとしても、コーポレートガバナンス・コードが期待しているような「社外取締役が中心となってCEOのアニマルスピリッツに火をつけ、リスクテイクの背中を押す」といったシナリオは期待しにくいと言えます。 念のため、私のスタンスをお話しすれば、会社の永続性を重視する、という結論は多くの日本企業にとって妥当なものだと考えています。 同時に、海外投資家と面談してきた経験から、取締役会でもっとリスクテイクによる企業価値の向上策や株価対策が議題として採り上げられても良いとも感じています。 取締役会メンバーに「投資家的目線を持った人材」が複数いて、従業員や地域社会などさまざまなステークホルダーの利害を含む多角的な議論が行われ、その結果として経営方針を導き出すことが──たとえそれが従来と同じ結論だったとしても──重要ではないか、というのが私の考えです』、「多くの社外取締役は、会社の継続性を優先し、企業がリスクアペタイトに乏しい状況を容認する、つまりリスクテイクよりは企業の安定性を重視する傾向がある」、「ISSやグラス・ルイスなどの議決権行使助言会社が「独立社外取締役を増やせ」といった外形標準的な要求をいくら企業側に突き付け、そのとおりになったとしても、コーポレートガバナンス・コードが期待しているような「社外取締役が中心となってCEOのアニマルスピリッツに火をつけ、リスクテイクの背中を押す」といったシナリオは期待しにくいと言えます」、なるほど。
・『取締役会に投資家を招く「ボード3.0」という考え方 こうした問題意識は広く認識されつつあり、経済産業省や一部有識者のあいだでは、「ボード3.0」を日本流に応用することがその解決に資するのではないか、と注目されています。 「ボード3.0」とは、2019年にコロンビア・ロースクールのロナルド・ジルソン教授とジェフリー・ゴードン教授が提唱した新しい取締役会のモデルです[*2]。 1960年代までに米国で確立した取締役会のモデルは「アドバイザリーボード」と呼ばれ、取締役会は、経営者本人と企業の顧問法律事務所や取引銀行や投資銀行の担当役員、経営者の知人の他社経営者など「お友達」とも言える人々で構成されていました。 このような取締役会では、リスクアペタイトが旺盛な経営者の欲望を抑制できず、不正や経営破綻につながったことから、このモデルは限界を迎えました。 次に登場したのが、独立社外取締役で構成される監査委員会を活用する「ボード2.0」です。「モニタリングボード」とも呼ばれるこの仕組みは、1970年代から2000年代にかけて徐々に一般的になってきました。日本のコーポレートガバナンス・コードも独立社外取締役が過半数を占め、監査委員会、報酬委員会、指名委員会などを持つ米国の「ボード2.0」をひな型としています。 「ボード2.0」に対しては、米国では課題が指摘されています。CEOほかの執行サイドとの情報格差や管理・監督のためのリソース、またモチベーションの点で社外取締役には限界があり、複雑化する企業経営を十分に監督できないのではないか、という指摘です。 日本企業とは異なり、米国では経営者のアニマルスピリッツやリスクアペタイトは旺盛だけれども、CEOなどの経営陣と社外取締役の情報の非対称性が大きく、経営者の意図を十分咀嚼し議論していく体制が不十分、というわけです。 米国では、アクティビストが株主となり、相当額の投資を背景に大株主としてCEOやCFOとの面談や財務分析を集中して行うことで、経営に深く関与する事例が増えています。 こうなると、その会社のビジネス領域に十分な知見のない社外取締役よりも、洗練されたアクティビストの方が事業をよく理解し戦略の評価能力を有している、という状況になってきます。 こうしたアクティビストから事業売却などの提案を受けた場合、これまでの「独立性」にこだわり過ぎた社外取締役だけでは、賛否を十分に議論できないのではないか、というのがゴードン氏らの指摘です。 「ボード3.0」でゴードン氏らが提唱しているアイデアは、企業価値を持続的に成長させるために、取締役会に、企業が成長することと利害が一致しインセンティブを持つ投資家(プライベートエクイティ・ファンドなど)を迎え、取締役会の情報収集力やアクティビストとの交渉力などを高める、というものです。 実は、米国ではこの「ボード3.0」に対しては批判が多く、2023年の春の時点では、本国での賛同は広がっていません。 むしろ、「ボード3.0」をめぐる議論は、米国本国よりも日本で活発です。 それは、ゴードン氏らが提起した「独立社外取締役の存在だけでは、企業価値の向上につながらない」という論点が、企業業績や株価が低迷している日本でより深刻だからだと考えられます。 しかし、取締役会に投資家を迎え入れるという「ボード3.0」のアイデアが、日本で受け入れられる可能性は米国以上にほとんどありません。 (本書では、日本企業で取締役会がより健全なリスクテイクを行えるようにするための方策を、上記の文章に続いて、この後に提言しています』、「1960年代までに米国で確立した取締役会のモデルは「アドバイザリーボード」と呼ばれ、取締役会は、経営者本人と企業の顧問法律事務所や取引銀行や投資銀行の担当役員、経営者の知人の他社経営者など「お友達」とも言える人々で構成されていました。 このような取締役会では、リスクアペタイトが旺盛な経営者の欲望を抑制できず、不正や経営破綻につながったことから、このモデルは限界を迎えました」、「独立社外取締役で構成される監査委員会を活用する「ボード2.0」です・・・1970年代から2000年代にかけて徐々に一般的になってきました。日本のコーポレートガバナンス・コードも独立社外取締役が過半数を占め、監査委員会、報酬委員会、指名委員会などを持つ米国の「ボード2.0」をひな型としています。 「ボード2.0」に対しては、米国では課題が指摘されています。CEOほかの執行サイドとの情報格差や管理・監督のためのリソース、またモチベーションの点で社外取締役には限界があり、複雑化する企業経営を十分に監督できないのではないか、という指摘」、「「ボード3.0」でゴードン氏らが提唱しているアイデアは、企業価値を持続的に成長させるために、取締役会に、企業が成長することと利害が一致しインセンティブを持つ投資家(プライベートエクイティ・ファンドなど)を迎え、取締役会の情報収集力やアクティビストとの交渉力などを高める、というものです。 実は、米国ではこの「ボード3.0」に対しては批判が多く、2023年の春の時点では、本国での賛同は広がっていません。 むしろ、「ボード3.0」をめぐる議論は、米国本国よりも日本で活発です」、なるほど。
・『徳成旨亮(とくなり・むねあき) ニコン取締役専務執行役員CFO 慶應義塾大学卒業。ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン・スクール)Advanced Management Program for Overseas Bankers修了。 三菱UFJフィナンシャル・グループCFO(最高財務責任者)、米国ユニオンバンク取締役を経て現職。日本IR協議会元理事。米国『インスティテューショナル・インベスター』誌の投資家投票でベストCFO(日本の銀行部門)に2019年まで4年連続選出される。本業の傍ら執筆活動を行い、ペンネーム「北村慶」名義での著書は累計発行部数約17万部。朝日新聞コラム「経済気象台」および日本経済新聞コラム「十字路」への定期寄稿など、金融・経済リテラシーの啓発活動にも取り組んでいる。本書は本名での初の著作。 【著者からのメッセージ】 私は国内外あわせて毎年平均100名前後の機関投資家の方々と、直接もしくはネット経由で面談し、自社の株式への投資をお願いしてきました。これら多くのグローバル投資家から、私が繰り返し言われてきた言葉があります。それは、 「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」というフレーズです。 経済学者のジョン・メイナード・ケインズによれば、アニマルスピリッツとは、「実現したいことに対する非合理的なまでの期待と熱意」を意味します。海外の投資家たちは、日本の社会全体や企業経営から血気と活力が衰えている、つまり「アニマルスピリッツ」が日本経済から失われていると見ているのです。 この現状を覆すにはどうすればよいか? それが本書のテーマです。その答えは「CFO思考」にあると私は考えています。 「CFO(Chief Financial Officer、最高財務責任者)」と聞くと、数字のプロであり経理や資金調達に責任を負っている「経理・財務担当役員」が思い浮かぶ方も多いと思います。 しかし、欧米で「CFO」といえば、CEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)とともに3名で経営の意思決定を行う「Cスイート」の一角を占める重要職です。CFOは、投資家をはじめとする社外の多くのステークホルダー(利害関係者)に対しては、会社を代表してエンゲージメント(深いつながりを持った対話)を行い、社内に対しては、ROE(自己資本利益率)に代表される投資家の期待・資本の論理や、ESG投資家や地域社会など、異なるステークホルダーの要望を社員にもわかるように翻訳して伝え、その期待を踏まえた経営戦略を立て、それを実践するよう組織に影響を与え行動を促す、という役割を担っています。 そして、「アニマルスピリッツ」をCEOなどほかの経営陣と共有し、「数値をベースにした冷静な判断力」を持って考え、企業としての夢の実現に向け行動する、いわば企業成長のエンジンの役割を果たしています。 本書では、従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」と呼びます。「『CFO思考』こそが、企業のパーパス(存在意義・目的)を実現させる」。これが本書の結論です。 本書でお話する内容には、企業経営に関するテーマが多く含まれています。同時に、現在、各企業において、経理、予算、財務、税務、IR、サステナビリティ・ESG、DX・ITといった分野で働くビジネスパーソン、もしくはそのような分野に興味がある方々も意識して書き下ろしました。皆さんが担当しておられるこれらの業務において、どのように「CFO思考」を発揮すればよいのかをご紹介しています。 こうした実務に携わっておられる皆さんには、グローバルで活躍できる人材として、将来日本企業と日本経済の成長のエンジンになっていただきたいと考えています。 CFOという仕事の魅力と楽しさが、一人でも多くの読者の皆さんに伝われば、それに勝る喜びはありません』、「本書では、従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」と呼びます。「『CFO思考』こそが、企業のパーパス(存在意義・目的)を実現させる」。これが本書の結論です」、「金庫番思考」ではなく、「CFO思考」を持てとの主張には説得力がある。
第三に、6月18日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニコンやMUFGのCFOをした徳成旨亮氏による「日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」のままで良いのか?」を紹介しよう。
・(冒頭は第二の記事と同じなので省略) ほとんどの日本企業はリスクを取らなすぎ 会社の健全性の維持に関してCFOは全責任を負います。CFOが企業の財務健全性の最後の砦であることに疑いの余地はありません。 財務の健全性を損ねることは、従業員、債権者、取引先など多くのステークホルダーにとって好ましいことではないこともまた明白です。 日本においては、企業経営者は会社を潰さないことを最優先に経営判断をしてきました。経理・財務担当役員は、ケチとか倹約家などと陰口を叩かれようとも「金庫番」としての役割を立派に果たし、ぶ厚い内部留保を積み上げてきました。 結果、日本企業は倒産が少なく、人々は安心して生活ができ、そのことが日本の社会の安定と犯罪の少ない安全をもたらしてきた側面があります。 つまり、会社は社会の「公器」であり、永続することは従業員や取引先や地域社会にとって大きな意味を持つ、という自覚が大企業の経営者にはあったのだと思います。 しかし、取締役会がCEOら経営者のアニマルスピリッツを刺激せず、「金庫番思考」を持つCFOがブレーキに常に足を掛けていては、日本企業は「潰れもしないが、成長もしない」状態に至ることは確実です。 事実、世界的にみて日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」なのです。内閣府の白書「日本経済2020─2021」によれば、我が国の倒産件数は減少傾向が続いており、資本金1億円以上の大・中堅企業の倒産は、2015年以降100件未満に止まっています[*1]。 米国企業の取締役会がお友達中心の「ボード1.0」から、独立社外取締役中心のモニタリングモデル「ボード2.0」に移行した主な要因は、経営者によるリスクの取り過ぎ、すなわち「過食」にありましたが、日本企業に一般的に見られる課題は、「小食」です。 すなわち、ほとんどの上場企業がリスクアペタイトを余らせている状態、資本やキャッシュを過大に保有している状態にあるのです。 岸田内閣以前から政治の世界でも、日本企業の内部留保の大きさが話題になってきましたが、これも同じ文脈で理解することができます。 また、8年余りのCFO生活のなかで、私が世界中の複数の投資家から、それも日本を知り日本人を愛する有名ファンドマネージャーから、「君たち日本人にはアニマルスピリッツはないのか?」と何度も言われた背景もここにあります』、「取締役会がCEOら経営者のアニマルスピリッツを刺激せず、「金庫番思考」を持つCFOがブレーキに常に足を掛けていては、日本企業は「潰れもしないが、成長もしない」状態に至ることは確実です。 事実、世界的にみて日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」なのです」、「米国企業の取締役会がお友達中心の「ボード1.0」から、独立社外取締役中心のモニタリングモデル「ボード2.0」に移行した主な要因は、経営者によるリスクの取り過ぎ、すなわち「過食」にありましたが、日本企業に一般的に見られる課題は、「小食」です。 すなわち、ほとんどの上場企業がリスクアペタイトを余らせている状態、資本やキャッシュを過大に保有している状態にあるのです」、「8年余りのCFO生活のなかで、私が世界中の複数の投資家から、それも日本を知り日本人を愛する有名ファンドマネージャーから、「君たち日本人にはアニマルスピリッツはないのか?」と何度も言われた背景もここにあります」、「日本企業に一般的に見られる課題は、「小食」です」、とは言い得て妙だ。
・『業態転換よりも市場からの退出を求める海外投資家 会社を潰さず、雇用を守るために、日本企業の経営者が取ってきた企業戦略が、多角化であり事業ポートフォリオ戦略です。すなわち、異なるリスクプロファイルと収益構造を持つ複数の事業を持つことで、会社全体を安定させようとしてきました。 また、主力事業が苦しくなると、その事業が持つ基礎技術や顧客基盤を用いて、会社と終身雇用を守りながら、業態転換を図ってきました。経営論的に言えば、いったん会社を清算して新たに起業することが合理的な場合も含めて、日本の企業経営者は何とか会社全体を存続させようとしてきました。そのベースには、「会社は、社会の『公器』であり、存続していること自体に意味がある」という考え方がありました。こうした考え方を仮に「日本型資本主義」と呼ぶことにしましょう。 これに対して、欧米の企業経営者や投資家は異論を唱えます。 複数の事業を持つのは好ましくない。企業のなかでポートフォリオを組んでもらう必要はない。それは、私たちファンドマネージャーの仕事だ。君たちは、事業構成をなるべくシンプルにして、1つか2つの事業に集中して、成長を目指してもらいたい。寿命が尽きたビジネスは諦めて、それが主力事業ならいったん会社をたたむべきだ。会社を永続させながら、業態転換するなんていう難しいことをやる必要はない。 彼らが念頭に置いている「株式会社」や「資本主義」のあり方は、日本の経営者の平均的な考えと大きく異なるのです。 私がそれを痛感した投資家との対話があります。それは、富士フイルムを巡るやり取りでした。 写真フイルムで高収益を上げていた米国のイーストマン・コダック(以下コダック)が、デジタルカメラという革新的な技術に敗れ去り、かたや富士フイルムは市場がほぼ消滅するという危機を乗り越え、複写機などのOA機器や医療用画像機器、医薬品、化粧品、健康食品や高機能化学品などに主力商品を転換させることで、高収益企業として見事に生き残ったという有名な事例があります。 コダックは世界で初めてカラーフイルムを発売したメーカーで、1963年頃にはすでに4000億円を売り上げ、270億円ほどの富士フイルムとは10倍以上の開きがありました。コダックは写真フイルムの製造に必要な銀とゼラチンを確保するために、銀山や牧場を自前で保有していたという話もあります。 しかしそのコダックは、2012年、経営破綻したのです。一方の富士フイルムは売上2兆8590億円、当期純利益2194億円(2023年3月期)の優良企業として生き残っています。 私が面談した米国の有名投資家は、「富士フイルムが成し遂げたことは素晴らしい」と前置きしたうえで、「しかしコダックの経営者も間違ってはいなかった」と語ったのです。 倒産させておいて何を? という私の疑問の表情に気づいたかのように、そのファンドマネージャーは続けました。「コダックの経営者は、最後まで配当と自社株取得で、過去に蓄積した利益を投資家に返し続けた。ひとつのビジネスが廃れるとき、累積資本は自社株取得などで投資家になるべく早く還元すべきだ。その資金で投資家が次世代のビジネスを作る別のベンチャー企業に投資する。投資家が投資先を選ぶのであって、企業が成功するかもわからない新規事業に乗り出してコングロマリット化することは非効率だ」 業態転換に成功した富士フイルムは例外であって、多くの場合、主力事業が衰退する企業は早く見切りをつけて、経済資本(現預金)や人的資本(技術者や従業員)を市場に解放したほうがよい。資本や有能な人材を欲しているベンチャー企業が米国にはたくさんあるのだから、というわけです。 これが欧米流の企業のあり方であり、彼らが考える「普通の資本主義」です。キーワード的に言えば、企業の優勝劣敗は必然であり、新陳代謝は経済に効率性をもたらす、そして、新たな成長は市場と投資家が主導する、という理屈です。 当然、社会や従業員には一定程度の混乱が生じますが、それも長い目で見れば、経済の成長と新産業の勃興で吸収できる、という将来に対する楽観的見方がベースにあります。 *1 「日本経済2020−2021」内閣府ウェブサイト、2021年3月 https://www5.cao.go.jp/keizai3/2020/0331nk/index.html ※この記事は、書籍『CFO思考』の一部を抜粋・編集して公開しています。』、「会社を潰さず、雇用を守るために、日本企業の経営者が取ってきた企業戦略が、多角化であり事業ポートフォリオ戦略です。すなわち、異なるリスクプロファイルと収益構造を持つ複数の事業を持つことで、会社全体を安定させようとしてきました。 また、主力事業が苦しくなると、その事業が持つ基礎技術や顧客基盤を用いて、会社と終身雇用を守りながら、業態転換を図ってきました・・・そのベースには、「会社は、社会の『公器』であり、存続していること自体に意味がある」という考え方がありました。こうした考え方を仮に「日本型資本主義」と呼ぶことにしましょう」、「これに対して、欧米の企業経営者や投資家は異論を唱えます。 複数の事業を持つのは好ましくない。企業のなかでポートフォリオを組んでもらう必要はない。それは、私たちファンドマネージャーの仕事だ。君たちは、事業構成をなるべくシンプルにして、1つか2つの事業に集中して、成長を目指してもらいたい。寿命が尽きたビジネスは諦めて、それが主力事業ならいったん会社をたたむべきだ。会社を永続させながら、業態転換するなんていう難しいことをやる必要はない。 彼らが念頭に置いている「株式会社」や「資本主義」のあり方は、日本の経営者の平均的な考えと大きく異なる。 これ以降は、第二の記事と同じなので、紹介を省略』、私も「欧米の企業経営者や投資家」の考え方を支持する。「日本型資本主義」でリスクを取れずに現金を積み上げている経営者は、無能という他ない。
先ずは、本年5月19日付けPRESIDENT Onlineが掲載した立教大学ビジネススクール教授・戦略コンサルタントの田中 道昭氏による「社員は“マジメで勤勉”なのに、会社はアナログのまま…富士通の「DX請負人」が痛感した日本企業の重大な欠陥 日本企業が時代遅れになった根本原因」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/69640
・『なぜ日本企業のDXはうまくいかないのか。2020年4月、富士通の最高DX責任者になった福田譲氏は、就任してすぐ富士通でDXが進まない最大の原因に気づく。それは、グループ全体を覆う「会社に対する無関心」だった――。(第2回) ※本稿は、Ridgelinez編、田中道昭監修『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです』、「DXが進まない最大の原因」が「会社に対する無関心」とは衝撃的だ。
・『SAPジャパン元社長をDX担当に招き入れた 富士通株式会社の時田隆仁社長(以下、時田と略す)は全社変革を推進する上で、既存の組織や人間関係にとらわれない外部人材の登用を通じて多様性のあるマネジメントチームを組成していく。その中でも変革の核となる全社デジタルトランスフォーメーション(のちにFujitsu Transformation=〔フジトラ〕としてプロジェクト化する)の推進のために外部から招き入れたのが、富士通の現・執行役員EVP、CDXO(最高DX責任者)、CIO(最高情報技術責任者)である福田譲である。 福田は1997年に大学卒業後、ERP(統合基幹業務システム)の世界最大手であるSAPジャパンに入社した。化学・石油の大手メーカーを担当する法人営業のエキスパートとしてキャリアを磨きながら、新規事業開発の担当役員や営業統括本部長を歴任。 14年にはSAPジャパンの代表取締役となり、20年4月に富士通に転じるまで23年間、SAPに在籍していた』、「SAPジャパンの代表取締役」を「執行役員EVP、CDXO・・・、CIO」として迎え入れるとは思い切ったことをしたものだ。
・『各国グループ会社の状況を把握できていない そのSAPジャパン時代に福田は、時田の前任だった前社長の田中達也の依頼で、米国のシリコンバレーを案内したことがあった。SAPは2000年代初め、マイクロソフトに買収されるかという事態に直面したことがあり、世界企業へと脱皮すべく、シリコンバレーに研究所を移して組織変革に弾みをつけたという歴史を持つ企業でもある。 その経緯を説明しながら、富士通の当時の社長である田中にSAPの経営ダッシュボードなどを含めた事業経営の有り様を直接説明した福田は、富士通のグローバル経営の実態を聞き、驚きを禁じ得なかった。 世界的に通用するブランドとポジションを築いていながら、経営者がグローバルの数字を経営の意思決定に繋がる形でタイムリーに把握することができておらず、グループ会社のガバナンスもほとんど利いていないという印象を持ったという』、「SAPジャパン時代に福田」氏は、「富士通の当時の社長」が「経営者がグローバルの数字を経営の意思決定に繋がる形でタイムリーに把握することができておらず、グループ会社のガバナンスもほとんど利いていないという印象を持ったという」、あり得る話だ。
・『「富士通でこれなら日本の他の企業は…」 田中の再びの依頼によって、福田は翌年に富士通の取締役全員のシリコンバレー視察を受け入れ、SAPのデータ駆動型経営について改めて説明した。それをきっかけにして富士通が変わることを期待していたからだ。 しかしながら、メディアなどを通じて富士通の変革が進んだという話を聞くことはなかった。 「富士通でこのようなレベルなら、多くの日本企業は相当に危ないのではないか」。 そう思った福田だが、一方で富士通は世界的に競争力のある技術や優良な顧客資産、そして良い人材も持っているとも感じていた。企業としてのカルチャーも、時代錯誤になっている部分はあるが良いものを持っている。社員一人ひとりが「きちっと」している。真面目で勤勉というのは世界的に見ると大変価値があるし、資本主義に傾倒して多くの欧米企業が失ってしまったもの、GAFAM(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック〔現・メタ〕、アップル、マイクロソフト)にないものがあると考えていた。 福田は富士通を変えられたら多くの日本企業のリファレンスになると考え、時田の招聘しょうへいを受け入れて富士通に転じ、富士通のトランスフォーメーションの指揮を執ることになる』、「田中の再びの依頼によって、福田は翌年に富士通の取締役全員のシリコンバレー視察を受け入れ、SAPのデータ駆動型経営について改めて説明した」、「福田は富士通を変えられたら多くの日本企業のリファレンスになると考え、時田の招聘しょうへいを受け入れて富士通に転じ、富士通のトランスフォーメーションの指揮を執ることになる」、「田中」氏は「SAPのデータ駆動型経営」や「福田」氏をよほど気に入ったようだ。
・『会社に対する無関心レベルが度を越えていた 福田が富士通に入社して最大の問題だとすぐに気づいたのは、グループ全体を覆う「会社に対する無関心」だった。 「会社を変革することに対して、実は抵抗勢力らしき存在がいませんでした。みんなが変革には賛成する一方で、会社に対するエンゲージメントが非常に低く、何のために富士通にいるのか、何のために仕事をしているのかを考えているように見える社員が少なかったのです」と福田は懐述する。 「上司に言われて仕事をしている」「残業代がつかなくなるので、幹部社員になりたくない」という従業員のリアルな声もあった。数万人が参加しているはずの社内SNSで社長の時田がコメントをつけても、「いいね!」などの反応が100に満たない。グループ12万人が閲覧できるはずの社内ポータルにトップメッセージをアップしても、閲覧数が2万~3万しかいかない――。その一方で、社員アンケートを取ると「他の部署が何をやっているのかが見えない」という不満も出てきていた』、「福田が富士通に入社して最大の問題だとすぐに気づいたのは、グループ全体を覆う「会社に対する無関心」だった。 「会社を変革することに対して、実は抵抗勢力らしき存在がいませんでした。みんなが変革には賛成する一方で、会社に対するエンゲージメントが非常に低く、何のために富士通にいるのか、何のために仕事をしているのかを考えているように見える社員が少なかったのです」、「数万人が参加しているはずの社内SNSで社長の時田がコメントをつけても、「いいね!」などの反応が100に満たない。グループ12万人が閲覧できるはずの社内ポータルにトップメッセージをアップしても、閲覧数が2万~3万しかいかない」、「グループ全体を覆う「会社に対する無関心」」とは驚いた。
・『経営に関心が向かないような仕組みがあった 社員が会社の成長や未来について、なぜこれほどまでに無関心なのか。 「無関心レベルが想像を超えていた」と福田は当時の状況を振り返るが、徐々に「富士通という組織の中に、会社の経営に関心を向かわせないような仕組みや構造があっただけに過ぎない」と思うようになる。会社が進んでいる方向性について、社員に疑問を抱かせないような環境を会社自身がつくっている、ということに気がついたのだ。 福田のこの気づきは、その後の改革に大いに活かされている。富士通は2020年5月にグループのパーパスを「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」ことと制定し、全社変革の軸として掲げた。 (【図表1】富士通グループのパーパス出所=『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』はリンク先参照) しかしながら、全社変革はトップダウンだけでは実現できない。欠かせないのは、今は無関心な多くの従業員の、多様な個の力による変革をボトムアップで進める意識と意欲だ』、「会社が進んでいる方向性について、社員に疑問を抱かせないような環境を会社自身がつくっている、ということに気がついたのだ。 福田のこの気づきは、その後の改革に大いに活かされている」、なるほど。
・『まずは社員個人が生きることの意義を見つめ直す 彼らの心を動かし、行動を起こす原動力は何なのか? その第一歩として、社員個々を理解し、その原動力をドライブする取り組みとして「パーパスカービング」を経営陣主導で開始した。 「パーパスカービング」とは個人が働くことや生きることの意義を改めて見つめ直した上で、企業のパーパスと自己のパーパスを掛け合わせ、そこで生まれる多様な力を変革の原動力にするという取り組みである。パーパスカービングは全社にわたって実施され、何よりもこの後、変革の先鋒に立つべきリーダー層に変化をもたらした。 「変わらない富士通」に諦めの気持ちを持っていたものが、トップファースト(=経営陣から順に)で行われたパーパスカービングの実施によって、時田をはじめとした経営陣の全社変革への本気度を感じることができた。全社を横断して変革を実践するリーダーシップへ、少しずつ意識の変容が見られてきたのである』、「社員個々を理解し、その原動力をドライブする取り組みとして「パーパスカービング」を経営陣主導で開始した。 「パーパスカービング」とは個人が働くことや生きることの意義を改めて見つめ直した上で、企業のパーパスと自己のパーパスを掛け合わせ、そこで生まれる多様な力を変革の原動力にするという取り組みである。パーパスカービングは全社にわたって実施され、何よりもこの後、変革の先鋒に立つべきリーダー層に変化をもたらした。 「変わらない富士通」に諦めの気持ちを持っていたものが、トップファースト・・・で行われたパーパスカービングの実施によって、時田をはじめとした経営陣の全社変革への本気度を感じることができた」、「トップファースト」で「経営陣の全社変革への本気度」を示す必要があったのだろう。
・『変革の対象は「聖域」なく選ぶ 富士通は先のパーパスを基に2030年のあるべき姿を設定し、富士通グループ全体で変革を推進するプロジェクトとして「FUJITRA(以下、フジトラ)」を20年10月から開始。プロジェクト名のフジトラとは「Fujitsu+Transformation」を略したもので、社長である時田がCDXO(当時)として、またCIOの福田がその補佐として、パーパスを基点に富士通グループ全体をデジタルの力で変革していくプロジェクトである。そして、経路“相互”依存性を打破するために同時多発的に変革を実践していく。 変革テーマの対象は“聖域”なく選び、事業部門から管理部門まで部門を問わない。上がってきたテーマを分類・分析し、優先順位をつけて同時並行で推進。現在では150ほどのテーマがグループ全体において同時並行で取り組まれている。 「現場が主役・全員参加」というスローガンを掲げ、主要組織、主要グループ会社、リージョンごとにDX責任者(DXO)を配置し、DXO同士が推進するテーマの課題や悩みを相互に共有し、DXOたちによるコミュニティが解決し合うプロジェクト推進の基盤も構築できている。 (【図表2】フジトラのプロジェクト体制(2023年3月時点)出所=『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』 はリンク先参照)』、「2030年のあるべき姿を設定し、富士通グループ全体で変革を推進するプロジェクトとして「FUJITRA・・・」を20年10月から開始」、「変革テーマの対象は“聖域”なく選び、事業部門から管理部門まで部門を問わない。上がってきたテーマを分類・分析し、優先順位をつけて同時並行で推進。現在では150ほどのテーマがグループ全体において同時並行で取り組まれている」、なるほど。
・『ファーストペンギンとしての出島組織をつくる フジトラの本当の目的はデジタル化を進めることではなく、顧客の悩みや社会課題に対して自らが課題を設定し、解決し、新しい変革を起こしていくための意欲と能力を醸成していくことだ。 これは、これまで富士通がやりたくてもできなかったことでもあり、富士通という企業そのものの変革を体現してみせることでもある。 「果たして全社DXプロジェクトだけでそのような姿になれるのか?」「もっと加速させる手段はないのか?」――。その解の1つとして生まれたのが、社外から変革を加速させるDXコンサルティングファームとしてのリッジラインズである。 富士通の抱える変革に向けた課題は、多くの日本企業にも共通しており、富士通でそれらを解決できれば、同じような境遇に置かれている日本企業にとって貴重なリファレンスモデルとなり得る。 しかし同時に、大企業である富士通では新しい施策や実証実験などに向けた意思決定や、必要なタレント・チームの組成がスピード感を持った形で実施できない場合が多い。そのためのファーストペンギン役として出島組織(この場合は資本関係で繋がってはいるが、経営の自主性を高く持てる組織の意)であり、プロフェッショナルファームとしてのリッジラインズの存在が生きてくる。)』、「社外から変革を加速させるDXコンサルティングファームとしてのリッジラインズである」、「大企業である富士通では新しい施策や実証実験などに向けた意思決定や、必要なタレント・チームの組成がスピード感を持った形で実施できない場合が多い。そのためのファーストペンギン役として出島組織・・・であり、プロフェッショナルファームとしてのリッジラインズの存在が生きてくる」、なるほど。
・『人を起点にした変革5つのステップ 取り組みの例としては、ジョブ型人事制度を前提にした360度評価や、組織間での人材の移動を柔軟にするプラクティス制、経費精算などの社内のバックオフィス業務をデジタルツールをフル活用して完全自動化する取り組み、新たな知見の創出活動としての「Human & Values Lab」などがある。いずれもリッジラインズで始まり、富士通本体でも活用・検討されている取り組みだ。 ここまでの富士通の変革の現場を振り返ると、人を起点とした企業の変革に取り組む際のファーストステップとして捉えることができる』、「いずれもリッジラインズで始まり、富士通本体でも活用・検討されている取り組みだ」、「人を起点とした企業の変革に取り組む際のファーストステップとして捉えることができる」、なるほど。
・『人起点変革のファーストステップ ステップ① 変革に取り組む明白な理由を示す ステップ② 企業としての新しい目的を設定する ステップ③ 対話を通じて企業の目的と従業員の原動力を共鳴させる ステップ④ 新しい目的や変革に熱意ある現場が行動変容できる環境をつくる ステップ⑤ ファーストペンギンを設定し、変革を加速する まず前提としてあるのは、いかに素晴らしい戦略が描けたとしても、トップから現場に至るまでそこにいる人々の行動変容が起きなければ、外から見ていても会社は変わっていないと思われるし、実際、変わっていないということである。そのため、変革に取り組む理由や自社の目的を従業員一人ひとりが理解し、行動に繋げられるための環境づくりがDXの初期ステップでは肝要となる』、「変革に取り組む理由や自社の目的を従業員一人ひとりが理解し、行動に繋げられるための環境づくりがDXの初期ステップでは肝要となる」、その通りなのだろう。
・『「考えたこと」を「実践」に移せる環境を整える 富士通では経営方針説明会においてDX企業への転身を宣言し、全社員に対する強い意識付けを実施した(ステップ①)。続けてパーパスを制定し(ステップ②)、自社が向かう方向性を明確にした上で、対話を通じてパーパスを浸透させていった。それが12万人に向けたメッセージや、パーパスカービングである(ステップ③)。 (【図表3】人起点の変革のファーストステップ出所=『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』はリンク先参照) ここまでくると、ただのスローガンや一過性の取り組みではないということに従業員が気づき始める。本気で取り組みたいという熱意ある現場もちらほら出てくるが、そのときにポイントになるのが、彼らが考え出した新たな施策をすぐに実践できる環境をつくるということだ。 フジトラは全社の変革活動としてそれらを見える化し、活動やその成果がすぐに共有できるような環境を提供した。こうなると、後続が変革に向けて動きやすい状況がつくられ、自発的に挑戦しようとする動きも加速してくる(ステップ④)』、「「実践」に移せる環境を整える」のは確かに重要なようだ。
・『出島会社でうまくいったものを本丸に取り込む その頃には抜本的に変化を起こす必要があるテーマや、これまでの常識にとらわれては決して解決できないテーマも明らかになってくる。そこでファーストペンギンを設定し、既存の組織やプロセスの影響を受けにくい状況で試行錯誤をさせ、うまくいったものを「本丸」に取り込んで一気に変革を進めていく。富士通にとっては、リッジラインズがまさしくファーストペンギンであり、出島として新会社を設立したのもそれが狙いの1つであった(ステップ⑤)。 富士通の場合は、これらのステップを経ることによって、変革を推進する人が自ら考え、行動を起こし、成果を生み出していくことが可能になる状態を創り出していった。 繰り返しになるが、変革を起こすのはまぎれもなく人である。リーダー自らが行動を起こし、周囲の行動を変容させていくためのアプローチとして、これらのステップを活用できる』、「出島会社でうまくいったものを本丸に取り込む」、巧みなやり方だ。
・『「ただデジタル化すればいい」のではない 日本企業の変革・DXで特に重要となるのはステップ①~③である。アナログ・物理データをデジタルデータ化したり、個別の業務をデジタル化したりするだけでは、トランスフォーメーションとはいえない。 組織を横断した全体の業務・製造プロセスのデジタル化・見える化を行い、事業運営やビジネスモデルを変革してこそDXが達成されるといっていいだろう。そのためには、繰り返しになるが自社の(変革の)目的を戦略的に設定し、一人ひとりに理解を促し、浸透させていくことが必要になる。この①~③のステップをおろそかにして、個別の業務におけるツール導入を検討しても、大きなインパクトを出すのは難しい。 そしてこれらのステップは、変革を起こすための序盤に必要なものに過ぎない。活動を更に活性化させていくことで、ムーブメントを起こし全社に広げていくことが重要となる。一過性の取り組みに終わらせることなく、上層部から現場まで巻き込んで変革の理由をそれぞれのレイヤーが「自分事化」し、時に新たな目的を設定し更なる行動に繋げていくこと、このサイクルを継続していくことによって大きな変革を遂げていくことができるようになる』、「日本企業の変革・DXで特に重要となるのはステップ①~③である。アナログ・物理データをデジタルデータ化したり、個別の業務をデジタル化したりするだけでは、トランスフォーメーションとはいえない。 組織を横断した全体の業務・製造プロセスのデジタル化・見える化を行い、事業運営やビジネスモデルを変革してこそDXが達成されるといっていいだろう。そのためには、繰り返しになるが自社の(変革の)目的を戦略的に設定し、一人ひとりに理解を促し、浸透させていくことが必要になる」、なるほど。
次に、6月16日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニコンやMUFGのCFOをした徳成旨亮氏による「なぜ日本の取締役会はリスクテイクを歓迎しないのか」を紹介しよう。
・『三菱UFJおよびニコンのCFOとして、毎年平均100名近い海外機関投資家と面談してきた徳成旨亮氏によると、海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた、という。 海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている。結果、日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず、水準を切り上げ続けている欧米株と比べて魅力がないと言われても仕方がない状況だ。 この現状を打破するにはどうしたらいいか? 徳成氏は、「CFO思考」が「鍵」になるという。 朝倉祐介氏(アニマルスピリッツ代表パートナー)や堀内勉氏(元森ビルCFO)が絶賛する6/7発売の新刊『CFO思考』では、日本経済・日本企業・日本人が「血気と活力」を取り戻し、着実に成長への道に回帰する秘策が述べられている。本書から、一部を特別に公開する』、『アニマルスピリッツ』を取り戻すには、「「CFO思考」が「鍵」になるという」のは興味深そうだ。
・「企業の永続性」を「成長」より優先する日本の取締役会 コーポレートガバナンス・コードは、取締役会がCEO以下経営陣の健全なアニマルスピリッツに基づくリスクテイクの提案を歓迎し、その果断な意思決定を支援することを求めています。 しかしながら、2023年時点で、日本企業の取締役会において、CEOをはじめとする経営陣に「もっと積極的にリスクを取れ」と背中を押すような行動を取っているケースはほとんどないものと思われます。 日本の社外取締役は、株主価値向上につながる企業価値向上を最優先に考えるというよりも、企業価値向上につながる行動はCEO以下執行サイドの役割であり、みずからの役割は監査など執行に対するチェック機能にあると認識しているものと考えられます。 ここで、取締役会の構成を見てみると、CEOなどの執行サイドの役員に加え、弁護士や会計士、官僚出身者や企業経営者から構成されているケースが多いことが分かります。 コーポレートガバナンス・コードの補充原則4─11①では、「独立社外取締役には、他社での経営経験を有するものを含めるべき[*1]」だとされており、各社はこぞって他社の社長経験者を社外取締役に迎えています。 その結果、他社の社長、会長経験者で、現在は「相談役」「特別顧問」などに就いておられる方々が、取締役会で中心的役割を担っている、というのが、日本の上場企業の平均的な姿になっています。 CFO仲間の懇談会などでよく聞く話を総合すると、平均的に70歳前後のこうした方々は、長年、企業を率い、後輩に社長のバトンを無事に渡された成功体験から、企業の永続性を優先するお考えをお持ちの方が多いようです。また、中には、「ROEや株主価値を重視すべき」という昨今の風潮に心のどこかで抵抗を感じている方もいらっしゃる、という話も聞きます。 誤解を恐れずに言えば、多くの社外取締役は、会社の継続性を優先し、企業がリスクアペタイトに乏しい状況を容認する、つまりリスクテイクよりは企業の安定性を重視する傾向があると言えます。 このため、ISSやグラス・ルイスなどの議決権行使助言会社が「独立社外取締役を増やせ」といった外形標準的な要求をいくら企業側に突き付け、そのとおりになったとしても、コーポレートガバナンス・コードが期待しているような「社外取締役が中心となってCEOのアニマルスピリッツに火をつけ、リスクテイクの背中を押す」といったシナリオは期待しにくいと言えます。 念のため、私のスタンスをお話しすれば、会社の永続性を重視する、という結論は多くの日本企業にとって妥当なものだと考えています。 同時に、海外投資家と面談してきた経験から、取締役会でもっとリスクテイクによる企業価値の向上策や株価対策が議題として採り上げられても良いとも感じています。 取締役会メンバーに「投資家的目線を持った人材」が複数いて、従業員や地域社会などさまざまなステークホルダーの利害を含む多角的な議論が行われ、その結果として経営方針を導き出すことが──たとえそれが従来と同じ結論だったとしても──重要ではないか、というのが私の考えです』、「多くの社外取締役は、会社の継続性を優先し、企業がリスクアペタイトに乏しい状況を容認する、つまりリスクテイクよりは企業の安定性を重視する傾向がある」、「ISSやグラス・ルイスなどの議決権行使助言会社が「独立社外取締役を増やせ」といった外形標準的な要求をいくら企業側に突き付け、そのとおりになったとしても、コーポレートガバナンス・コードが期待しているような「社外取締役が中心となってCEOのアニマルスピリッツに火をつけ、リスクテイクの背中を押す」といったシナリオは期待しにくいと言えます」、なるほど。
・『取締役会に投資家を招く「ボード3.0」という考え方 こうした問題意識は広く認識されつつあり、経済産業省や一部有識者のあいだでは、「ボード3.0」を日本流に応用することがその解決に資するのではないか、と注目されています。 「ボード3.0」とは、2019年にコロンビア・ロースクールのロナルド・ジルソン教授とジェフリー・ゴードン教授が提唱した新しい取締役会のモデルです[*2]。 1960年代までに米国で確立した取締役会のモデルは「アドバイザリーボード」と呼ばれ、取締役会は、経営者本人と企業の顧問法律事務所や取引銀行や投資銀行の担当役員、経営者の知人の他社経営者など「お友達」とも言える人々で構成されていました。 このような取締役会では、リスクアペタイトが旺盛な経営者の欲望を抑制できず、不正や経営破綻につながったことから、このモデルは限界を迎えました。 次に登場したのが、独立社外取締役で構成される監査委員会を活用する「ボード2.0」です。「モニタリングボード」とも呼ばれるこの仕組みは、1970年代から2000年代にかけて徐々に一般的になってきました。日本のコーポレートガバナンス・コードも独立社外取締役が過半数を占め、監査委員会、報酬委員会、指名委員会などを持つ米国の「ボード2.0」をひな型としています。 「ボード2.0」に対しては、米国では課題が指摘されています。CEOほかの執行サイドとの情報格差や管理・監督のためのリソース、またモチベーションの点で社外取締役には限界があり、複雑化する企業経営を十分に監督できないのではないか、という指摘です。 日本企業とは異なり、米国では経営者のアニマルスピリッツやリスクアペタイトは旺盛だけれども、CEOなどの経営陣と社外取締役の情報の非対称性が大きく、経営者の意図を十分咀嚼し議論していく体制が不十分、というわけです。 米国では、アクティビストが株主となり、相当額の投資を背景に大株主としてCEOやCFOとの面談や財務分析を集中して行うことで、経営に深く関与する事例が増えています。 こうなると、その会社のビジネス領域に十分な知見のない社外取締役よりも、洗練されたアクティビストの方が事業をよく理解し戦略の評価能力を有している、という状況になってきます。 こうしたアクティビストから事業売却などの提案を受けた場合、これまでの「独立性」にこだわり過ぎた社外取締役だけでは、賛否を十分に議論できないのではないか、というのがゴードン氏らの指摘です。 「ボード3.0」でゴードン氏らが提唱しているアイデアは、企業価値を持続的に成長させるために、取締役会に、企業が成長することと利害が一致しインセンティブを持つ投資家(プライベートエクイティ・ファンドなど)を迎え、取締役会の情報収集力やアクティビストとの交渉力などを高める、というものです。 実は、米国ではこの「ボード3.0」に対しては批判が多く、2023年の春の時点では、本国での賛同は広がっていません。 むしろ、「ボード3.0」をめぐる議論は、米国本国よりも日本で活発です。 それは、ゴードン氏らが提起した「独立社外取締役の存在だけでは、企業価値の向上につながらない」という論点が、企業業績や株価が低迷している日本でより深刻だからだと考えられます。 しかし、取締役会に投資家を迎え入れるという「ボード3.0」のアイデアが、日本で受け入れられる可能性は米国以上にほとんどありません。 (本書では、日本企業で取締役会がより健全なリスクテイクを行えるようにするための方策を、上記の文章に続いて、この後に提言しています』、「1960年代までに米国で確立した取締役会のモデルは「アドバイザリーボード」と呼ばれ、取締役会は、経営者本人と企業の顧問法律事務所や取引銀行や投資銀行の担当役員、経営者の知人の他社経営者など「お友達」とも言える人々で構成されていました。 このような取締役会では、リスクアペタイトが旺盛な経営者の欲望を抑制できず、不正や経営破綻につながったことから、このモデルは限界を迎えました」、「独立社外取締役で構成される監査委員会を活用する「ボード2.0」です・・・1970年代から2000年代にかけて徐々に一般的になってきました。日本のコーポレートガバナンス・コードも独立社外取締役が過半数を占め、監査委員会、報酬委員会、指名委員会などを持つ米国の「ボード2.0」をひな型としています。 「ボード2.0」に対しては、米国では課題が指摘されています。CEOほかの執行サイドとの情報格差や管理・監督のためのリソース、またモチベーションの点で社外取締役には限界があり、複雑化する企業経営を十分に監督できないのではないか、という指摘」、「「ボード3.0」でゴードン氏らが提唱しているアイデアは、企業価値を持続的に成長させるために、取締役会に、企業が成長することと利害が一致しインセンティブを持つ投資家(プライベートエクイティ・ファンドなど)を迎え、取締役会の情報収集力やアクティビストとの交渉力などを高める、というものです。 実は、米国ではこの「ボード3.0」に対しては批判が多く、2023年の春の時点では、本国での賛同は広がっていません。 むしろ、「ボード3.0」をめぐる議論は、米国本国よりも日本で活発です」、なるほど。
・『徳成旨亮(とくなり・むねあき) ニコン取締役専務執行役員CFO 慶應義塾大学卒業。ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン・スクール)Advanced Management Program for Overseas Bankers修了。 三菱UFJフィナンシャル・グループCFO(最高財務責任者)、米国ユニオンバンク取締役を経て現職。日本IR協議会元理事。米国『インスティテューショナル・インベスター』誌の投資家投票でベストCFO(日本の銀行部門)に2019年まで4年連続選出される。本業の傍ら執筆活動を行い、ペンネーム「北村慶」名義での著書は累計発行部数約17万部。朝日新聞コラム「経済気象台」および日本経済新聞コラム「十字路」への定期寄稿など、金融・経済リテラシーの啓発活動にも取り組んでいる。本書は本名での初の著作。 【著者からのメッセージ】 私は国内外あわせて毎年平均100名前後の機関投資家の方々と、直接もしくはネット経由で面談し、自社の株式への投資をお願いしてきました。これら多くのグローバル投資家から、私が繰り返し言われてきた言葉があります。それは、 「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」というフレーズです。 経済学者のジョン・メイナード・ケインズによれば、アニマルスピリッツとは、「実現したいことに対する非合理的なまでの期待と熱意」を意味します。海外の投資家たちは、日本の社会全体や企業経営から血気と活力が衰えている、つまり「アニマルスピリッツ」が日本経済から失われていると見ているのです。 この現状を覆すにはどうすればよいか? それが本書のテーマです。その答えは「CFO思考」にあると私は考えています。 「CFO(Chief Financial Officer、最高財務責任者)」と聞くと、数字のプロであり経理や資金調達に責任を負っている「経理・財務担当役員」が思い浮かぶ方も多いと思います。 しかし、欧米で「CFO」といえば、CEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)とともに3名で経営の意思決定を行う「Cスイート」の一角を占める重要職です。CFOは、投資家をはじめとする社外の多くのステークホルダー(利害関係者)に対しては、会社を代表してエンゲージメント(深いつながりを持った対話)を行い、社内に対しては、ROE(自己資本利益率)に代表される投資家の期待・資本の論理や、ESG投資家や地域社会など、異なるステークホルダーの要望を社員にもわかるように翻訳して伝え、その期待を踏まえた経営戦略を立て、それを実践するよう組織に影響を与え行動を促す、という役割を担っています。 そして、「アニマルスピリッツ」をCEOなどほかの経営陣と共有し、「数値をベースにした冷静な判断力」を持って考え、企業としての夢の実現に向け行動する、いわば企業成長のエンジンの役割を果たしています。 本書では、従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」と呼びます。「『CFO思考』こそが、企業のパーパス(存在意義・目的)を実現させる」。これが本書の結論です。 本書でお話する内容には、企業経営に関するテーマが多く含まれています。同時に、現在、各企業において、経理、予算、財務、税務、IR、サステナビリティ・ESG、DX・ITといった分野で働くビジネスパーソン、もしくはそのような分野に興味がある方々も意識して書き下ろしました。皆さんが担当しておられるこれらの業務において、どのように「CFO思考」を発揮すればよいのかをご紹介しています。 こうした実務に携わっておられる皆さんには、グローバルで活躍できる人材として、将来日本企業と日本経済の成長のエンジンになっていただきたいと考えています。 CFOという仕事の魅力と楽しさが、一人でも多くの読者の皆さんに伝われば、それに勝る喜びはありません』、「本書では、従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」と呼びます。「『CFO思考』こそが、企業のパーパス(存在意義・目的)を実現させる」。これが本書の結論です」、「金庫番思考」ではなく、「CFO思考」を持てとの主張には説得力がある。
第三に、6月18日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニコンやMUFGのCFOをした徳成旨亮氏による「日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」のままで良いのか?」を紹介しよう。
・(冒頭は第二の記事と同じなので省略) ほとんどの日本企業はリスクを取らなすぎ 会社の健全性の維持に関してCFOは全責任を負います。CFOが企業の財務健全性の最後の砦であることに疑いの余地はありません。 財務の健全性を損ねることは、従業員、債権者、取引先など多くのステークホルダーにとって好ましいことではないこともまた明白です。 日本においては、企業経営者は会社を潰さないことを最優先に経営判断をしてきました。経理・財務担当役員は、ケチとか倹約家などと陰口を叩かれようとも「金庫番」としての役割を立派に果たし、ぶ厚い内部留保を積み上げてきました。 結果、日本企業は倒産が少なく、人々は安心して生活ができ、そのことが日本の社会の安定と犯罪の少ない安全をもたらしてきた側面があります。 つまり、会社は社会の「公器」であり、永続することは従業員や取引先や地域社会にとって大きな意味を持つ、という自覚が大企業の経営者にはあったのだと思います。 しかし、取締役会がCEOら経営者のアニマルスピリッツを刺激せず、「金庫番思考」を持つCFOがブレーキに常に足を掛けていては、日本企業は「潰れもしないが、成長もしない」状態に至ることは確実です。 事実、世界的にみて日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」なのです。内閣府の白書「日本経済2020─2021」によれば、我が国の倒産件数は減少傾向が続いており、資本金1億円以上の大・中堅企業の倒産は、2015年以降100件未満に止まっています[*1]。 米国企業の取締役会がお友達中心の「ボード1.0」から、独立社外取締役中心のモニタリングモデル「ボード2.0」に移行した主な要因は、経営者によるリスクの取り過ぎ、すなわち「過食」にありましたが、日本企業に一般的に見られる課題は、「小食」です。 すなわち、ほとんどの上場企業がリスクアペタイトを余らせている状態、資本やキャッシュを過大に保有している状態にあるのです。 岸田内閣以前から政治の世界でも、日本企業の内部留保の大きさが話題になってきましたが、これも同じ文脈で理解することができます。 また、8年余りのCFO生活のなかで、私が世界中の複数の投資家から、それも日本を知り日本人を愛する有名ファンドマネージャーから、「君たち日本人にはアニマルスピリッツはないのか?」と何度も言われた背景もここにあります』、「取締役会がCEOら経営者のアニマルスピリッツを刺激せず、「金庫番思考」を持つCFOがブレーキに常に足を掛けていては、日本企業は「潰れもしないが、成長もしない」状態に至ることは確実です。 事実、世界的にみて日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」なのです」、「米国企業の取締役会がお友達中心の「ボード1.0」から、独立社外取締役中心のモニタリングモデル「ボード2.0」に移行した主な要因は、経営者によるリスクの取り過ぎ、すなわち「過食」にありましたが、日本企業に一般的に見られる課題は、「小食」です。 すなわち、ほとんどの上場企業がリスクアペタイトを余らせている状態、資本やキャッシュを過大に保有している状態にあるのです」、「8年余りのCFO生活のなかで、私が世界中の複数の投資家から、それも日本を知り日本人を愛する有名ファンドマネージャーから、「君たち日本人にはアニマルスピリッツはないのか?」と何度も言われた背景もここにあります」、「日本企業に一般的に見られる課題は、「小食」です」、とは言い得て妙だ。
・『業態転換よりも市場からの退出を求める海外投資家 会社を潰さず、雇用を守るために、日本企業の経営者が取ってきた企業戦略が、多角化であり事業ポートフォリオ戦略です。すなわち、異なるリスクプロファイルと収益構造を持つ複数の事業を持つことで、会社全体を安定させようとしてきました。 また、主力事業が苦しくなると、その事業が持つ基礎技術や顧客基盤を用いて、会社と終身雇用を守りながら、業態転換を図ってきました。経営論的に言えば、いったん会社を清算して新たに起業することが合理的な場合も含めて、日本の企業経営者は何とか会社全体を存続させようとしてきました。そのベースには、「会社は、社会の『公器』であり、存続していること自体に意味がある」という考え方がありました。こうした考え方を仮に「日本型資本主義」と呼ぶことにしましょう。 これに対して、欧米の企業経営者や投資家は異論を唱えます。 複数の事業を持つのは好ましくない。企業のなかでポートフォリオを組んでもらう必要はない。それは、私たちファンドマネージャーの仕事だ。君たちは、事業構成をなるべくシンプルにして、1つか2つの事業に集中して、成長を目指してもらいたい。寿命が尽きたビジネスは諦めて、それが主力事業ならいったん会社をたたむべきだ。会社を永続させながら、業態転換するなんていう難しいことをやる必要はない。 彼らが念頭に置いている「株式会社」や「資本主義」のあり方は、日本の経営者の平均的な考えと大きく異なるのです。 私がそれを痛感した投資家との対話があります。それは、富士フイルムを巡るやり取りでした。 写真フイルムで高収益を上げていた米国のイーストマン・コダック(以下コダック)が、デジタルカメラという革新的な技術に敗れ去り、かたや富士フイルムは市場がほぼ消滅するという危機を乗り越え、複写機などのOA機器や医療用画像機器、医薬品、化粧品、健康食品や高機能化学品などに主力商品を転換させることで、高収益企業として見事に生き残ったという有名な事例があります。 コダックは世界で初めてカラーフイルムを発売したメーカーで、1963年頃にはすでに4000億円を売り上げ、270億円ほどの富士フイルムとは10倍以上の開きがありました。コダックは写真フイルムの製造に必要な銀とゼラチンを確保するために、銀山や牧場を自前で保有していたという話もあります。 しかしそのコダックは、2012年、経営破綻したのです。一方の富士フイルムは売上2兆8590億円、当期純利益2194億円(2023年3月期)の優良企業として生き残っています。 私が面談した米国の有名投資家は、「富士フイルムが成し遂げたことは素晴らしい」と前置きしたうえで、「しかしコダックの経営者も間違ってはいなかった」と語ったのです。 倒産させておいて何を? という私の疑問の表情に気づいたかのように、そのファンドマネージャーは続けました。「コダックの経営者は、最後まで配当と自社株取得で、過去に蓄積した利益を投資家に返し続けた。ひとつのビジネスが廃れるとき、累積資本は自社株取得などで投資家になるべく早く還元すべきだ。その資金で投資家が次世代のビジネスを作る別のベンチャー企業に投資する。投資家が投資先を選ぶのであって、企業が成功するかもわからない新規事業に乗り出してコングロマリット化することは非効率だ」 業態転換に成功した富士フイルムは例外であって、多くの場合、主力事業が衰退する企業は早く見切りをつけて、経済資本(現預金)や人的資本(技術者や従業員)を市場に解放したほうがよい。資本や有能な人材を欲しているベンチャー企業が米国にはたくさんあるのだから、というわけです。 これが欧米流の企業のあり方であり、彼らが考える「普通の資本主義」です。キーワード的に言えば、企業の優勝劣敗は必然であり、新陳代謝は経済に効率性をもたらす、そして、新たな成長は市場と投資家が主導する、という理屈です。 当然、社会や従業員には一定程度の混乱が生じますが、それも長い目で見れば、経済の成長と新産業の勃興で吸収できる、という将来に対する楽観的見方がベースにあります。 *1 「日本経済2020−2021」内閣府ウェブサイト、2021年3月 https://www5.cao.go.jp/keizai3/2020/0331nk/index.html ※この記事は、書籍『CFO思考』の一部を抜粋・編集して公開しています。』、「会社を潰さず、雇用を守るために、日本企業の経営者が取ってきた企業戦略が、多角化であり事業ポートフォリオ戦略です。すなわち、異なるリスクプロファイルと収益構造を持つ複数の事業を持つことで、会社全体を安定させようとしてきました。 また、主力事業が苦しくなると、その事業が持つ基礎技術や顧客基盤を用いて、会社と終身雇用を守りながら、業態転換を図ってきました・・・そのベースには、「会社は、社会の『公器』であり、存続していること自体に意味がある」という考え方がありました。こうした考え方を仮に「日本型資本主義」と呼ぶことにしましょう」、「これに対して、欧米の企業経営者や投資家は異論を唱えます。 複数の事業を持つのは好ましくない。企業のなかでポートフォリオを組んでもらう必要はない。それは、私たちファンドマネージャーの仕事だ。君たちは、事業構成をなるべくシンプルにして、1つか2つの事業に集中して、成長を目指してもらいたい。寿命が尽きたビジネスは諦めて、それが主力事業ならいったん会社をたたむべきだ。会社を永続させながら、業態転換するなんていう難しいことをやる必要はない。 彼らが念頭に置いている「株式会社」や「資本主義」のあり方は、日本の経営者の平均的な考えと大きく異なる。 これ以降は、第二の記事と同じなので、紹介を省略』、私も「欧米の企業経営者や投資家」の考え方を支持する。「日本型資本主義」でリスクを取れずに現金を積み上げている経営者は、無能という他ない。
タグ:日本型経営・組織の問題点 (その14)(社員は“マジメで勤勉”なのに 会社はアナログのまま…富士通の「DX請負人」が痛感した日本企業の重大な欠陥 日本企業が時代遅れになった根本原因、なぜ日本の取締役会はリスクテイクを歓迎しないのか、日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」のままで良いのか?) PRESIDENT ONLINE 田中 道昭氏による「社員は“マジメで勤勉”なのに、会社はアナログのまま…富士通の「DX請負人」が痛感した日本企業の重大な欠陥 日本企業が時代遅れになった根本原因」 Ridgelinez編、田中道昭監修『HUMAN ∞ TRANSFORMATION』(日本経済新聞出版) 「DXが進まない最大の原因」が「会社に対する無関心」とは衝撃的だ。 「SAPジャパンの代表取締役」を「執行役員EVP、CDXO・・・、CIO」として迎え入れるとは思い切ったことをしたものだ。 「SAPジャパン時代に福田」氏は、「富士通の当時の社長」が「経営者がグローバルの数字を経営の意思決定に繋がる形でタイムリーに把握することができておらず、グループ会社のガバナンスもほとんど利いていないという印象を持ったという」、あり得る話だ。 「田中の再びの依頼によって、福田は翌年に富士通の取締役全員のシリコンバレー視察を受け入れ、SAPのデータ駆動型経営について改めて説明した」、「福田は富士通を変えられたら多くの日本企業のリファレンスになると考え、時田の招聘しょうへいを受け入れて富士通に転じ、富士通のトランスフォーメーションの指揮を執ることになる」、「田中」氏は「SAPのデータ駆動型経営」や「福田」氏をよほど気に入ったようだ。 「福田が富士通に入社して最大の問題だとすぐに気づいたのは、グループ全体を覆う「会社に対する無関心」だった。 「会社を変革することに対して、実は抵抗勢力らしき存在がいませんでした。みんなが変革には賛成する一方で、会社に対するエンゲージメントが非常に低く、何のために富士通にいるのか、何のために仕事をしているのかを考えているように見える社員が少なかったのです」、 「数万人が参加しているはずの社内SNSで社長の時田がコメントをつけても、「いいね!」などの反応が100に満たない。グループ12万人が閲覧できるはずの社内ポータルにトップメッセージをアップしても、閲覧数が2万~3万しかいかない」、「グループ全体を覆う「会社に対する無関心」」とは驚いた。 「会社が進んでいる方向性について、社員に疑問を抱かせないような環境を会社自身がつくっている、ということに気がついたのだ。 福田のこの気づきは、その後の改革に大いに活かされている」、なるほど。 「社員個々を理解し、その原動力をドライブする取り組みとして「パーパスカービング」を経営陣主導で開始した。 「パーパスカービング」とは個人が働くことや生きることの意義を改めて見つめ直した上で、企業のパーパスと自己のパーパスを掛け合わせ、そこで生まれる多様な力を変革の原動力にするという取り組みである。パーパスカービングは全社にわたって実施され、何よりもこの後、変革の先鋒に立つべきリーダー層に変化をもたらした。 「変わらない富士通」に諦めの気持ちを持っていたものが、トップファースト・・・で行われたパーパスカービングの実施によって、時田をはじめとした経営陣の全社変革への本気度を感じることができた」、「トップファースト」で「経営陣の全社変革への本気度」を示す必要があったのだろう。 「2030年のあるべき姿を設定し、富士通グループ全体で変革を推進するプロジェクトとして「FUJITRA・・・」を20年10月から開始」、「変革テーマの対象は“聖域”なく選び、事業部門から管理部門まで部門を問わない。上がってきたテーマを分類・分析し、優先順位をつけて同時並行で推進。現在では150ほどのテーマがグループ全体において同時並行で取り組まれている」、なるほど。 「社外から変革を加速させるDXコンサルティングファームとしてのリッジラインズである」、「大企業である富士通では新しい施策や実証実験などに向けた意思決定や、必要なタレント・チームの組成がスピード感を持った形で実施できない場合が多い。そのためのファーストペンギン役として出島組織・・・であり、プロフェッショナルファームとしてのリッジラインズの存在が生きてくる」、なるほど。 「いずれもリッジラインズで始まり、富士通本体でも活用・検討されている取り組みだ」、「人を起点とした企業の変革に取り組む際のファーストステップとして捉えることができる」、なるほど。 「変革に取り組む理由や自社の目的を従業員一人ひとりが理解し、行動に繋げられるための環境づくりがDXの初期ステップでは肝要となる」、その通りなのだろう。 「「実践」に移せる環境を整える」のは確かに重要なようだ。 「出島会社でうまくいったものを本丸に取り込む」、巧みなやり方だ。 「日本企業の変革・DXで特に重要となるのはステップ①~③である。アナログ・物理データをデジタルデータ化したり、個別の業務をデジタル化したりするだけでは、トランスフォーメーションとはいえない。 組織を横断した全体の業務・製造プロセスのデジタル化・見える化を行い、事業運営やビジネスモデルを変革してこそDXが達成されるといっていいだろう。そのためには、繰り返しになるが自社の(変革の)目的を戦略的に設定し、一人ひとりに理解を促し、浸透させていくことが必要になる」、なるほど。 ダイヤモンド・オンライン 徳成旨亮氏による「なぜ日本の取締役会はリスクテイクを歓迎しないのか」 『アニマルスピリッツ』を取り戻すには、「「CFO思考」が「鍵」になるという」のは興味深そうだ。 「多くの社外取締役は、会社の継続性を優先し、企業がリスクアペタイトに乏しい状況を容認する、つまりリスクテイクよりは企業の安定性を重視する傾向がある」、「ISSやグラス・ルイスなどの議決権行使助言会社が「独立社外取締役を増やせ」といった外形標準的な要求をいくら企業側に突き付け、そのとおりになったとしても、コーポレートガバナンス・コードが期待しているような「社外取締役が中心となってCEOのアニマルスピリッツに火をつけ、リスクテイクの背中を押す」といったシナリオは期待しにくいと言えます」、なるほど。 「1960年代までに米国で確立した取締役会のモデルは「アドバイザリーボード」と呼ばれ、取締役会は、経営者本人と企業の顧問法律事務所や取引銀行や投資銀行の担当役員、経営者の知人の他社経営者など「お友達」とも言える人々で構成されていました。 このような取締役会では、リスクアペタイトが旺盛な経営者の欲望を抑制できず、不正や経営破綻につながったことから、このモデルは限界を迎えました」、 「独立社外取締役で構成される監査委員会を活用する「ボード2.0」です・・・1970年代から2000年代にかけて徐々に一般的になってきました。日本のコーポレートガバナンス・コードも独立社外取締役が過半数を占め、監査委員会、報酬委員会、指名委員会などを持つ米国の「ボード2.0」をひな型としています。 「ボード2.0」に対しては、米国では課題が指摘されています。CEOほかの執行サイドとの情報格差や管理・監督のためのリソース、またモチベーションの点で社外取締役には限界があり、複雑化する企業経営を十分に監督できないのではないか、という指摘」、 「「ボード3.0」でゴードン氏らが提唱しているアイデアは、企業価値を持続的に成長させるために、取締役会に、企業が成長することと利害が一致しインセンティブを持つ投資家(プライベートエクイティ・ファンドなど)を迎え、取締役会の情報収集力やアクティビストとの交渉力などを高める、というものです。 実は、米国ではこの「ボード3.0」に対しては批判が多く、2023年の春の時点では、本国での賛同は広がっていません。 むしろ、「ボード3.0」をめぐる議論は、米国本国よりも日本で活発です」、なるほど。 「本書では、従来の日本の経理・財務担当役員に多く見られる「CFOは企業価値保全を第一義にすべきだ」という考え方を「金庫番思考」、「CFOは冷徹な計算と非合理的なまでの熱意を併せ持ち、企業成長のエンジンとなるべき」という考え方を「CFO思考」と呼びます。「『CFO思考』こそが、企業のパーパス(存在意義・目的)を実現させる」。これが本書の結論です」、「金庫番思考」ではなく、「CFO思考」を持てとの主張には説得力がある。 徳成旨亮氏による「日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」のままで良いのか?」 「取締役会がCEOら経営者のアニマルスピリッツを刺激せず、「金庫番思考」を持つCFOがブレーキに常に足を掛けていては、日本企業は「潰れもしないが、成長もしない」状態に至ることは確実です。 事実、世界的にみて日本は「企業が最も経営破綻しない先進国」なのです」、「米国企業の取締役会がお友達中心の「ボード1.0」から、独立社外取締役中心のモニタリングモデル「ボード2.0」に移行した主な要因は、経営者によるリスクの取り過ぎ、すなわち「過食」にありましたが、日本企業に一般的に見られる課題は、「小食」です。 すなわち、ほとんどの上場企業がリスクアペタイトを余らせている状態、資本やキャッシュを過大に保有している状態にあるのです」、 「8年余りのCFO生活のなかで、私が世界中の複数の投資家から、それも日本を知り日本人を愛する有名ファンドマネージャーから、「君たち日本人にはアニマルスピリッツはないのか?」と何度も言われた背景もここにあります」、「日本企業に一般的に見られる課題は、「小食」です」、とは言い得て妙だ。 「会社を潰さず、雇用を守るために、日本企業の経営者が取ってきた企業戦略が、多角化であり事業ポートフォリオ戦略です。すなわち、異なるリスクプロファイルと収益構造を持つ複数の事業を持つことで、会社全体を安定させようとしてきました。 また、主力事業が苦しくなると、その事業が持つ基礎技術や顧客基盤を用いて、会社と終身雇用を守りながら、業態転換を図ってきました・・・そのベースには、「会社は、社会の『公器』であり、存続していること自体に意味がある」という考え方がありました。 こうした考え方を仮に「日本型資本主義」と呼ぶことにしましょう」、「これに対して、欧米の企業経営者や投資家は異論を唱えます。 複数の事業を持つのは好ましくない。企業のなかでポートフォリオを組んでもらう必要はない。それは、私たちファンドマネージャーの仕事だ。君たちは、事業構成をなるべくシンプルにして、1つか2つの事業に集中して、成長を目指してもらいたい。寿命が尽きたビジネスは諦めて、それが主力事業ならいったん会社をたたむべきだ。会社を永続させながら、業態転換するなんていう難しいことをやる必要はない。 彼らが念頭に置いている「株式会社」や「資本主義」のあり方は、日本の経営者の平均的な考えと大きく異なる。 これ以降は、第二の記事と同じなので、紹介を省略』、私も「欧米の企業経営者や投資家」の考え方を支持する。「日本型資本主義」でリスクを取れずに現金を積み上げている経営者は、無能という他ない。
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