イノベーション(その5)(米倉誠一郎、孫正義シリーズ3題:孫正義は本当に「偉大な経営者」なのか?ビル・ゲイツ 柳井正との決定的な違い イノベーション研究の権威・米倉誠一郎が分析「型破りすぎる破壊と創造」(前編)、孫正義は本当に「偉大な経営者」なのか?なぜ凡人ほど「孫正義」を叩くのか?時代の寵児に向けられたバッシングの正体 イノベーション研究の権威・米倉誠一郎が分析「型破りすぎる破壊と創造」(中編)、ジョブズにあって孫正義にないもの 「歴史に名を残す経営者」の条件とは?(後編)) [イノベーション]
イノベーションについては、昨年7月27日に取上げた。今日は、(その5)(米倉誠一郎、孫正義シリーズ3題:孫正義は本当に「偉大な経営者」なのか?ビル・ゲイツ 柳井正との決定的な違い イノベーション研究の権威・米倉誠一郎が分析「型破りすぎる破壊と創造」(前編)、孫正義は本当に「偉大な経営者」なのか?なぜ凡人ほど「孫正義」を叩くのか?時代の寵児に向けられたバッシングの正体 イノベーション研究の権威・米倉誠一郎が分析「型破りすぎる破壊と創造」(中編)、ジョブズにあって孫正義にないもの 「歴史に名を残す経営者」の条件とは?(後編))である。
先ずは、4月19日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授・デジタルハリウッド大学院特命教授の米倉誠一郎氏と作家の井上篤夫氏による「孫正義は本当に「偉大な経営者」なのか?ビル・ゲイツ、柳井正との決定的な違い イノベーション研究の権威・米倉誠一郎が分析「型破りすぎる破壊と創造」(前編)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342405
・『想像を絶するスピードとスケールで10兆円企業をつくりあげた経営者から学ぶべきことは多い。孫正義ソフトバンクグループ代表の評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談し、ビジネスパーソンに学びをお届けする連載「ビジネス教養としての孫正義」の第4回。対談相手はイノベーション研究の権威で一橋大学名誉教授の米倉誠一郎氏だ。経営者としての孫正義氏をどう評価するかと尋ねると意外な答えが返ってきた。同じ創業経営者でも、稲盛和夫やスティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツとはまったくタイプが異なるという。「なぜ孫正義は特別なのか」について、名だたる経営者と比較しながら語ってもらった』、興味深そうだ。
・『既存の経営学では評価ができない 井上 米倉教授に最初に伺いたいのが、「孫正義」という人物の評価についてです。孫社長は、自身が人類の歴史に名前を残すという熱い思いを持っています。経営学の観点では、どのように評価されているのでしょうか? 米倉 孫さんの評価は難しいですね。今も昔も、まるで海のものか山のものか、はっきりしない。もちろん、彼は起業家として、いくつもの事業で次々と成功を収めてきました。その点において、僕は彼を本当に魅力的な偉人だと思います。ただ問題は、一つの形容詞で表現しにくいことなのです。ホンダの本田宗一郎、ソニーの井深大、アップルのスティーブ・ジョブズやマイクロソフトのビル・ゲイツのように、「ソフトバンクの孫正義」さんでいいのかということなんです。ソフトバンクはものを創っていませんし。 特に最近では、孫さん自身が起業家や事業家ではなく、ベンチャー企業に資金を提供する「資本家(キャピタリスト)」として見られていることも実像を不明確にしています。日本ではそうでもありませんが、アメリカのビジネススクールなどでは、最も人気のある職業がベンチャーキャピタリストだと言われています。ビジネスを立ち上げることも素晴らしいことですが、資金調達を支援し、その成長を支える喜びもまた重要です。 1996年、僕も日本のスタートアップ企業を支援する活動を始めました。それ以前は、アメリカの東海岸にあるハーバード大学で日本企業の研究をしていたため、正直「西海岸って何?」という感じでした。 一般的に、アメリカの企業では、社長と新入社員の給与に1000倍近い差があり、経営と現場が離れすぎていると言われていました。一方、日本では最大12倍程度の給与差で、経営も現場も一致団結して働くことが重視されていました。だから、当時は「そんな経営と現場が乖離したアメリカ企業に日本企業が負ける訳がない」と信じていました。 しかし、当時の法政大学の清成忠男教授から、「東海岸にいるだけでは何も分からないよ」と指摘され、実際に西海岸のシリコンバレーに行ってみると、まるでバットで後頭部を殴られたような衝撃を受けました。そこでは全く別のゲームが進行していたからです。) この経験から、早く日本にこの変化を持ち込まなければ大変なことになるぞと直感しました。そこで僕は、「ベンチャーおじさん」と称して、ベンチャー企業を支援する活動を始めたという訳です。その当時、ひときわ輝いていたのが孫さんでした。当時、彼は驚くべき先見の明でソフトウエア・コンピューターの流通にいち早く取り組み、インターネットが到来するやその世界に飛び込んでいました。 その点は素晴らしいのですが、孫さんがかつて言っていたように、それは「タイムマシン経営」で、アメリカで起こったことをいち早く日本に持ち帰っただけで、「孫さんはいったい何を生み出したのか?」と考えてしまうのです。 イギリスのボーダフォンの日本法人やアメリカのスプリント・コーポレーション(2020年にTモバイルと合併)を買収した。アーム社の買収や上場なども確かにすごいのですが、それらは孫さんで独自に生み出したものではありません。最近のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)という10兆円ファンドで明らかになったことは、やはり孫さんの真髄はキャピタリストにあったということではないでしょうか。 SVFにより、孫さんはキャピタリストとして“究極”の地点にたどり着いたと思います。アメリカにも多くの巨大ベンチャーキャピタルがあり、その手元には毎日何十件、何百件のビジネスプランやプロポーザルがあがってきます。そこには今後の技術やビジネスモデルの動向をはじめとして世界の大きな動向が見えてきます。その意味で、SVFのような巨大ファンドを治める孫さんの元にはものすごい情報が集まって来るでしょう。同じように、世界観を共有する人々も集まるようになるでしょう。 この情報と同志が集まれば、世界の大きな動向の中で孫さんは次に何をすべきかが決まって行くのでしょう。これが“究極”という意味です』、「SVFのような巨大ファンドを治める孫さんの元にはものすごい情報が集まって来るでしょう。同じように、世界観を共有する人々も集まるようになるでしょう。 この情報と同志が集まれば、世界の大きな動向の中で孫さんは次に何をすべきかが決まって行くのでしょう」、なるほど。
・『孫正義とバフェット 投資家としての決定的な違い 井上 米倉さんは経営学者ですが、孫さんは経営学の研究対象になり得ますか? 米倉 もちろんなり得ますが、問題はどの分野、どの専攻領域の対象かということです。孫さんは何か物を作ったわけではありません。M&Aを通じた企業成長の分野かもしれないし、ウォーレン・バフェット氏のような投資の分野かもしれません。 しかし、それも少し違うかなとも思います。バフェット氏は純粋な投資家ですので、「今は日本の商社が買いだ」と株価の上下だけで投資先を判断しますが、孫さんが商社に投資することはないでしょう。 孫さんは、技術の中に自らを置く発明家でもあり、パーソナル・エレクトロニクスやインターネットを基点とした情報産業を重視しています。そこにおけるVCの神様なのですかね。) 井上 確かに、孫さんは情報産業で資本家として企業をサポートする立場になると言っていますから、その点は一貫しています。 米倉 バフェット氏のような投資の巨匠は、後世に「投資の神様」として名を残すでしょう。ですから、歴史に名を刻むには、何か特別な要素が必要ですね。その点、孫さんにもビジネスやお金の流れは見えていますが、投資の神様という訳ではありません。実際には、海外での活動が多く、スプリント(2020年にTモバイルと合併)を再建したといっても企業名が残るだけでしょう。 例えば、アメリカのアンドリュー・カーネギー氏は、後年投資家ではありましたが、製鋼所を経営して「鉄鋼王」という異名を残しています。孫さんにも、そういう一つの業界でのキーワードみたいなものが必要でしょうね。その点では、前述したように日本なら本田技研工業の創業者・本田宗一郎さん、ソニーの創業者の一人である井深大さん、アメリカならスティーブ・ジョブズさんやイーロン・マスク氏のような具体的なプロダクトがあって、開発の歴史がある人は研究しやすいですし、孫さんのような無形の仕組みを作り上げた人は研究しづらいです。 ただし、孫さんはテクノロジーに基づいて行動し、先見の明があり、一人ですべて作り上げるのではなく企業買収で時間を短縮するという点では、次世代の経営学の対象としては興味深いと思います。 井上 同じ通信事業に携わった経営者という観点で、京セラ創業者の稲盛和夫さんはどうですか? 米倉 稲盛さんの精神性は、多くの人に好まれていますね。しかし、僕は孫さんや三木谷さんのようにギトギトしている感じの人が好きです(笑)。ユニクロの柳井正さんもすごいですよね。彼はヒートテックなどの新素材を武器にして、ファーストリテイリングを売上高3兆円(2024年8月期予想)まで成長させましたから。この3人に共通するのは、常に一番になるという「絶えざる目的意識」です』、「米倉 稲盛さんの精神性は、多くの人に好まれていますね。しかし、僕は孫さんや三木谷さんのようにギトギトしている感じの人が好きです(笑)。ユニクロの柳井正さんもすごいですよね。彼はヒートテックなどの新素材を武器にして、ファーストリテイリングを売上高3兆円(2024年8月期予想)まで成長させましたから。この3人に共通するのは、常に一番になるという「絶えざる目的意識」です」、なるほど。
次に、4月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授・デジタルハリウッド大学特命教授の米倉誠一郎氏と作家の井上篤夫氏による「孫正義は本当に「偉大な経営者」なのか?なぜ凡人ほど「孫正義」を叩くのか?時代の寵児に向けられたバッシングの正体 イノベーション研究の権威・米倉誠一郎が分析「型破りすぎる破壊と創造」(中編)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342405
・『一代で10兆円企業をつくりあげた経営者から私たちが学ぶべきことは何だろう。イノベーション研究の権威で一橋大学名誉教授の米倉誠一郎氏は、「時代」「努力」「報徳」の3つを挙げた。評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談する連載「ビジネス教養としての孫正義」。第5回では、イーロン・マスクと比較する形で、「孫正義はイノベーターなのか?」を米倉氏に問うた。イノベーション研究の権威は何と回答したのか? その前に本稿は、孫正義氏への度重なる“バッシング”について振り返るところから始まる。 一代で10兆円企業をつくりあげた経営者から私たちが学ぶべきことは何だろう。イノベーション研究の権威で一橋大学名誉教授の米倉誠一郎氏は、「時代」「努力」「報徳」の3つを挙げた。評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談する連載「ビジネス教養としての孫正義」。第5回では、イーロン・マスクと比較する形で、「孫正義はイノベーターなのか?」を米倉氏に問うた。イノベーション研究の権威は何と回答したのか? その前に本稿は、孫正義氏への度重なる“バッシング”について振り返るところから始まる。 一代で10兆円企業をつくりあげた経営者から私たちが学ぶべきことは何だろう。イノベーション研究の権威で一橋大学名誉教授の米倉誠一郎氏は、「時代」「努力」「報徳」の3つを挙げた。評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談する連載「ビジネス教養としての孫正義」。第5回では、イーロン・マスクと比較する形で、「孫正義はイノベーターなのか?」を米倉氏に問うた。イノベーション研究の権威は何と回答したのか? その前に本稿は、孫正義氏への度重なる“バッシング”について振り返るところから始まる』、興味深そうだ。
・『メディアによる孫正義バッシング 井上 孫さんは、若い頃は神童と称賛される一方で、行動する度にバッシングされていました。その様子を、米倉さんはどう見ていましたか? 米倉 新聞や週刊誌の記事には、孫さんに対する悪意が溢れていましたね(笑)。言っていることがあまりに大きいので“ホラ吹き”と揶揄されていました。インターネットの時代が来ると予測し、ヤフーなどに誰よりも早く出資しました。その先見性が認められ、時代の寵児として一躍メディアに持ち上げられると、マスコミの中に「あいつは怪しい」と批判する人がどうしても出てきます。 今でも、その風潮は少なからずあると思います。例えば、楽天モバイルに関しても同じで、実はかなり努力をしていますが、ダイヤモンド社をはじめとするメディアは「もう危ない」「これで命運尽きた」という記事を書きがちです。しかし、内情をよくよく聞いてみると、ちょっと借金額は大きいとはいえ想定内のようです。 ただ、そういうバッシングがあるからこそ、起業家が反骨精神で成功する側面もあるでしょう。その中でも、孫さんはベンチャー企業の代表的存在としてバッシングに立ち向かってきました。その姿に触発されて僕も同じように体を張って「ベンチャーという新しい潮流が大事だ!」と訴え続けようと決意したのです。 井上 あとは、未来を見通してきた孫さんに対して、マスコミや他の企業の人も含めて「この人は一体何なんだ?」という、一種の“恐れ”を抱いていたのではないかと思います』、「新聞や週刊誌の記事には、孫さんに対する悪意が溢れていましたね(笑)。言っていることがあまりに大きいので“ホラ吹き”と揶揄されていました。インターネットの時代が来ると予測し、ヤフーなどに誰よりも早く出資しました。その先見性が認められ、時代の寵児として一躍メディアに持ち上げられると、マスコミの中に「あいつは怪しい」と批判する人がどうしても出てきます・・・そういうバッシングがあるからこそ、起業家が反骨精神で成功する側面もあるでしょう。その中でも、孫さんはベンチャー企業の代表的存在としてバッシングに立ち向かってきました。その姿に触発されて僕も同じように体を張って「ベンチャーという新しい潮流が大事だ!」と訴え続けようと決意したのです』、なるほど。
・『メディアによる孫正義バッシング 井上 孫さんは、若い頃は神童と称賛される一方で、行動する度にバッシングされていました。その様子を、米倉さんはどう見ていましたか? 米倉 新聞や週刊誌の記事には、孫さんに対する悪意が溢れていましたね(笑)。言っていることがあまりに大きいので“ホラ吹き”と揶揄されていました。インターネットの時代が来ると予測し、ヤフーなどに誰よりも早く出資しました。その先見性が認められ、時代の寵児として一躍メディアに持ち上げられると、マスコミの中に「あいつは怪しい」と批判する人がどうしても出てきます。 今でも、その風潮は少なからずあると思います。例えば、楽天モバイルに関しても同じで、実はかなり努力をしていますが、ダイヤモンド社をはじめとするメディアは「もう危ない」「これで命運尽きた」という記事を書きがちです。しかし、内情をよくよく聞いてみると、ちょっと借金額は大きいとはいえ想定内のようです。 ただ、そういうバッシングがあるからこそ、起業家が反骨精神で成功する側面もあるでしょう。その中でも、孫さんはベンチャー企業の代表的存在としてバッシングに立ち向かってきました。その姿に触発されて僕も同じように体を張って「ベンチャーという新しい潮流が大事だ!」と訴え続けようと決意したのです。 井上 あとは、未来を見通してきた孫さんに対して、マスコミや他の企業の人も含めて「この人は一体何なんだ?」という、一種の“恐れ”を抱いていたのではないかと思います。 米倉 そうですね。ただ、やはり見たことのないものに対する恐怖心は、まだ世間に残っていると思います。 僕は『クール・ランニング』(1993年)という映画が好きです。ジャマイカの短距離選手たちが、夏季オリンピックの代表選考会で落選して出場機会を失い、ひょんなことからボブスレー選手となり、冬季オリンピックを席巻するというストーリーです。その映画でも、主人公たちが「夏のスポーツのやつらが何にも分かっていないのに」といったバッシングを受ける訳です。 そのとき、主人公チームの1人がバッシングに対して「人間は自分と違う人間を怖がっているからだ」といったセリフを言っていました。要するに、バッシングは違うものに対する恐怖心もあるし、それ以上に自分を守るための術なのかなと思っています』、「そういうバッシングがあるからこそ、起業家が反骨精神で成功する側面もあるでしょう。その中でも、孫さんはベンチャー企業の代表的存在としてバッシングに立ち向かってきました。その姿に触発されて僕も同じように体を張って「ベンチャーという新しい潮流が大事だ!」と訴え続けようと決意したのです」、なるほど。
・『孫正義から学ぶべき3つのキーワード 「時代」「努力」「報徳」 井上 たしかに、孫さんは他人とは違う人間であることを誇りに思っている部分もありますから。1兆円、2兆円を動かす真似をするのは難しいとしても、経営学という観点で孫さんから何か学ぶべきことはありますか?) 米倉 それは3つあります。1つ目は、時代の大きな動きを理解することです。例えば、私が学生によく話すのは、川を下るように進むのと、川を上るように進むのでは、同じ努力をしても結果が全然違うということです。 川を上る場合、他の人の3倍の努力しても、目的地まで半分の地点にもたどり着けない。一方、川を下るようにすれば、他の人の半分の努力で目的地に到達できる可能性があります。つまり、時代の流れを理解して、それに合わせて行動することが大切なのです。 2つ目は、その流れの中で短期的な目標を決めると、それに向けて徹底的な努力をするところです。孫さんを完璧に真似するのは難しいかもしれませんが、例えば「3年後に公認会計士になる!」などとしっかり目標を立てて行動すれば、実現する可能性は十分あります。目標達成に向けて自らの資源を管理して集中させることで、着実にステップアップしていくところは真似してほしいです。 3つ目は、やはり人の集め方・使い方、そして人の力を引き出すのが上手いのではないでしょうか。また、相当な人たらしでもあるのではないでしょうか(笑)。孫さんの周りには、井上さんのような人はもちろん、様々な人が彼を応援しようと集まっています。しかも、そうした恩人に深く感謝し報いようとしていると聞きます。 ただし、孫さんをあまり知らない人には、近寄りがたい印象があるかもしれません。彼の行動は突飛だし、他人のことを全く気にしないところがありますから。まあ変人、今の言葉で言えば相当なニューロダイバージェントな人ですよ』、「経営学という観点で孫さんから何か学ぶべきことはありますか?) 米倉 それは3つあります。1つ目は、時代の大きな動きを理解することです・・・2つ目は、その流れの中で短期的な目標を決めると、それに向けて徹底的な努力をするところです・・・3つ目は、やはり人の集め方・使い方、そして人の力を引き出すのが上手いのではないでしょうか。また、相当な人たらしでもあるのではないでしょうか」、「相当な人たらし」であることは確かだ。
・『孫正義はイノベーターなのか? 米倉 僕は以前、孫さんとゴルフをしたことがあります。ゴルフは一応紳士のスポーツだから、マナーには厳しいわけです。しかし、孫さんは自分のパターに集中すると、グリーン上で他人のラインを踏むわ、勝手に歩き回るわでマナー違反が目立つ。 「集中してしまうとそのことしか考えられない人なんだな」と思いました。要するに、すごい集中力の持ち主ということですが、万人とくにすべての普通の人に好かれるわけではないということです。 それを「型破り」だと捉えて「この人は面白い!」と感じる人もいるのでしょう。彼は、自分と志が同じで共感してくれる人を徹底的に信じ、そういう人たちが自分を助けてくれる関係をうまく築いているように思います。このような同志だけを集めてしまう強烈な「自己の確立」というアプローチは、事を成し遂げたいビジネスパーソンの参考になるでしょう。 井上 テスラのイーロン・マスク氏のように、何かモノを作って世界を変革する人を「イノベーター」だと定義した場合、孫さんはイノベーターと言えるのでしょうか) 米倉 もちろん、孫さんはイノベーターだと思います。僕は1997年、仲間と共に一橋大学に「イノベーション研究センター」を立ち上げ、99年からセンター長を務めましたが、その前身は「産業経営研究所」という名前でした。 当時はイノベーションという言葉があまり知られておらず、センター設立趣意書を出しに文部省を訪れたときも、当時の担当者から「カタカナは避けてください。技術革新研究所にしましょう」と言われました。当時もイノベーションとは技術革新と訳されていて、技術者やモノを作る人の代名詞みたいに思われていたのです。 イノベーションは単に技術革新に限りません。異なる要素を新しく組み合わせることでもあり、流通の仕組みを変えることもイノベーションです。毀誉褒貶はありますが、総合スーパーのダイエーを創業した中内㓛さんも、宅急便を日本に持ち込んだ小倉昌男さんもその意味では明らかにイノベーターと言えます。 孫さんはモノを作っておらず、ソフトウエアのプログラミングもしていないですが、ソフトバンク・グループというイノベーティブな企業集団を創り上げました。日本人の価値観や研究視点から考えると、典型的なイノベーターとしては描きにくいかもしれません。 しかし、日本にPC文化やインターネットを根付かせ、世界でもM&Aを通じて新たな価値を創造してきたという点で、確かにイノベーションを起こした人物だと思います』、「孫さんはモノを作っておらず、ソフトウエアのプログラミングもしていないですが、ソフトバンク・グループというイノベーティブな企業集団を創り上げました。日本人の価値観や研究視点から考えると、典型的なイノベーターとしては描きにくいかもしれません。 しかし、日本にPC文化やインターネットを根付かせ、世界でもM&Aを通じて新たな価値を創造してきたという点で、確かにイノベーションを起こした人物だと思います」、やはり「典型的なイノベーターとしては描きにくいかもしれません」、ようだ。
第三に、4月25日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授・デジタルハリウッド大学院特命教授の米倉誠一郎氏と作家の井上篤夫氏による「ジョブズにあって孫正義にないもの、「歴史に名を残す経営者」の条件とは?(後編)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342781
・『想像を絶するスピードとスケールで10兆円企業をつくりあげた経営者から学ぶべきことは多い。孫正義ソフトバンクグループ代表の評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談し、ビジネスパーソンに学びをお届けする連載「ビジネス教養としての孫正義」の第6回。前回に引き続き、対談相手はイノベーション研究の権威で一橋大学名誉教授の米倉誠一郎氏。日本史におけるイノベーターを研究してきた米倉氏が「孫さんに近いと思う歴史上の偉人」として“幕末の志士”と“三井の大番頭”の2人を挙げてくれた。さらに、語り継がれる経営者としてスティーブ・ジョブズを引き合いに出し、孫正義氏に“足りないもの”を指摘した』、興味深そうだ。
・『“幕末の孫正義” 三野村利左衛門とは? 井上 米倉先生の著書『イノベーターたちの日本史』(東洋経済新報社)をとても興味深く拝読しました。その中で、岩崎弥太郎や渋沢栄一など、日本の経営者がイノベーターとして紹介されていましたが、孫さんは誰に一番近いと思いますか? 米倉 明治という時代を演出し、薩長を融合したという点で考えると、この本には出てきませんがやはり坂本龍馬が思い浮かびますね。 龍馬はもともと、単なる土佐藩の下級武士でしたが、そのような人物が幕末の歴史を大きく転換させた。彼はその間一貫して政治よりも貿易というビジネスに興味があった。まさに、「世界を見ちょった」。その生き様が、日本に戻って創業したソフトバンクの小さな事務所で、しかもアルバイト2人の前に立って「1兆円企業になる」と高らかに宣言し、やがて日本のインターネットや携帯市場のゲームチェンジャーとして業界地図を塗り替えた孫さんと重なります。 次に、幕末維新期に「三井の大番頭」として活躍した三野村利左衛門を思い浮かべます。維新後の三井財閥の基礎を作った人です。 1673(延宝元)年に三井高利が創業した越後屋から始まり、呉服屋として大成功を収めた三井家ですが、200年もたって家督を維持する「守りの経営」になっていた。ところが、幕末の大変革に直面した際、保守的になってしまった三井家だけではこの難局は乗り切れないと判断し、新興商人の三野村に全権を委任して「攻めの経営」に転じました。 幕末・維新という動乱の中で、三野村は祖業越後屋を守りつつ、三井物産や三井銀行など新しい事業を始め、三井家をさらに発展させた。彼は素晴らしい起業家であり、イノベーターであると言えます。しかし、彼は仕組みとそれを遂行できる若い人材(渋沢栄一、井上馨、益田孝、中上川彦次郎など)を登用した。孫さんも、そういう人物に匹敵する存在だと思います。 井上 孫さんが歴史に名を残すような人物になるためには、どんな要素が必要でしょうか?) 米倉 坂本龍馬が「幕末の志士」と称されるように、その人物を簡潔に表すワンフレーズが必要ですね。“孫正義”の三文字でも世界に通じますが、教科書にも載るような経営者となるためには「情報革命の志士」のような彼を象徴するフレーズが必要でしょう。 井上 確かに、孫さんは情報革命で人々の幸せを追求すると公言していますので、情報革命というのは重要なキーワードです。彼の取り組み方は志士であり、イノベーターだと思います』、「孫さんは情報革命で人々の幸せを追求すると公言していますので、情報革命というのは重要なキーワードです。彼の取り組み方は志士であり、イノベーターだと思います」、なるほど。
・『「ローリスク・ハイリターン」がイノベーションの土台となる 米倉 ただし、同世代の中で考えると、スティーブ・ジョブズ氏にはアップルのiPhoneやMac、ビル・ゲイツ氏ならマイクロソフトのWindowsなど、革新的なモノがあって分かりやすい。一方で孫さんも、彼らと同じぐらいの影響力はあるかもしれませんが、彼自身が生み出した具体的な製品があるともっといいなと思います。 井上 その観点から見ると、孫さんはモノが何もない無形の分野で新しい何かを生み出してきたと言えるのではないでしょうか? 米倉 シリコンバレーの範疇にないものを生み出してきたという点では、孫さんの取り組みは一種の「Disruption(ディスラプション)」、つまり既存のものを破壊してきたと言えるかもしれません。 井上 破壊とは、新しいものを再構築するという意味もありますよね。実は、私の著書『志高く 孫正義正伝』の英語版のタイトルが『Aiming High: Masayoshi Son, SoftBank, and Disrupting Silicon Valley』(Hodder& Stoughton,Ltd)で「シリコンバレーの破壊者」というサブタイトルなんですよ。これはイギリスの出版社が付けたものですが、そもそも米倉さんは、シリコンバレーに対してどんな評価をされていますか? 米倉 僕が理解したのは、シリコンバレーは単なる地理的な場所ではなく、21世紀のビジネスのあり方やエコシステムの総称だということでした。) 米倉 次はどんなビジネスがヒットするか分からないから、とにかく若い人たちに(心持ちを含めて)数を打ってもらって確率を上げるしかないという前提のエコシステムだということです。 まず、数を打つ起業家には低いマーケット・エントリー・リスク、つまり参入障壁を下げる豊富なベンチャーキャピタル資金(返済義務のある銀行融資はリスクが高い)を用意し、成功した起業家と投資家にはその努力と投資に対する大きなリターンを実現する上場市場(ナスダック)やさまざまなイグジットが整備されています。 例えば、宝くじを買う人も多いでしょうが、大当たりする確率はかなり低い。しかし、みんなが買う理由は、1本300円という少額の出費(ローエントリー・リスク)で、当たれば1億円というハイ・リターンが得られるからです。もし宝くじが1本30万円と高額なら、誰も買わないでしょう。 シリコンバレーの素晴らしい点は、ベンチャーキャピタリストがこのような才能を見出す場が豊富にあるところです。銀行の融資と異なり、ベンチャーキャピタルは起業家と共にリスクを共有し、もし事業が失敗しても担保を取ることはありません。一緒に責任を負い、失敗してもすぐに次の挑戦を共にする関係です。 日本では、倒産した後の再起は難しいですが、シリコンバレーでは失敗は学びの機会であり、財産になるという発想で、仮に倒産してもどんどんチャンスが与えられます。 この考え方に基づいて、シリコンバレーではハイリターンが実現できる透明性と流通量の多い「ナスダック」という上場市場が整備され、ハイテク株やIT関連企業向けの上場が促進されました。これがとんでもない価値を付けました。上場しやすいマーケットの誕生により、積極的にチャレンジする優秀な人々がシリコンバレーに集結し、勝率がどんどん上がっていったのです。 シリコンバレーの本質は、いわゆる金融的なリスクを取らずに高いリターンを得られる環境で、優秀な人材が集まることです。日本でも新興市場は作られましたが、ナスダックほどの規模やリターン、流通規模は見られませんでした。こういうシステムがアメリカで先に確立されてしまったため、日本は太刀打ちできないなと感じました』、「シリコンバレーではハイリターンが実現できる透明性と流通量の多い「ナスダック」という上場市場が整備され、ハイテク株やIT関連企業向けの上場が促進されました。これがとんでもない価値を付けました。上場しやすいマーケットの誕生により、積極的にチャレンジする優秀な人々がシリコンバレーに集結し、勝率がどんどん上がっていったのです。 シリコンバレーの本質は、いわゆる金融的なリスクを取らずに高いリターンを得られる環境で、優秀な人材が集まることです。日本でも新興市場は作られましたが、ナスダックほどの規模やリターン、流通規模は見られませんでした。こういうシステムがアメリカで先に確立されてしまったため、日本は太刀打ちできないなと感じました」、なるほど。
・『ジョブズにあって孫正義にないもの 井上 最後になりますが、孫さんはいつも「自分はこのままでいいのか?」と自問自答しています。もし米倉さんから孫さんに何か言葉をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか?) 米倉 孫さんは、時代の流れを読み、努力をする能力が本当にすごい。これからも色々な人を巻き込みながら、同志的結合を広げていくでしょう。ただ、私が古い考え方からなのかもしれませんが、何か有形の成果が欲しいと感じます。 スティーブ・ジョブズ氏は永遠に名を残すでしょう。iPhoneやMacを生み出し、その上にiTunesのようなプラットフォームまで構築したのですから。彼はエンジニアというよりも、ある種の“アーキテクト(設計者)”として優れていると思います。 一方、孫さんは様々な改革を進めていますが、ある意味でパイオニアの部分が足りないのかもしれません。彼が先駆的に切り拓いた新たな分野はあるのかと考えても、ぱっと思い浮かばないですから。 もしかしたら、「ペッパーくん」がその最初の成果物だったのかもしれません。単なるコミュニケーションツールではなく、ルンバのような自動掃除機能などを搭載し、世界中の家庭でペッパーくんが置かれるようになる。そうして日本発のサービスロボットという概念を世界に広められれば、孫さんは「サービスロボットの生みの親」として歴史に名を残していたかもしれません。 井上 孫さんは、人類の未来をデザインするアーキテクトになりたいと考えていて、無形のサービスを通じて、新たな価値を設計しようとしています。 米倉 なるほど、「無形のアーキテクト」として歴史に残せたらすごいですね。まあ、有形であれ、無形であれ、孫正義という名前の前に具体的かつ代表的なワンフレーズが欲しいですね』、「孫さんは様々な改革を進めていますが、ある意味でパイオニアの部分が足りないのかもしれません。彼が先駆的に切り拓いた新たな分野はあるのかと考えても、ぱっと思い浮かばないですから。 もしかしたら、「ペッパーくん」がその最初の成果物だったのかもしれません。単なるコミュニケーションツールではなく、ルンバのような自動掃除機能などを搭載し、世界中の家庭でペッパーくんが置かれるようになる。そうして日本発のサービスロボットという概念を世界に広められれば、孫さんは「サービスロボットの生みの親」として歴史に名を残していたかもしれません」、それにしてもせいぜい「ペッパーくん」では、寂しい印象だ。今後、の展開を期待するしかないのかも知れない。
先ずは、4月19日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授・デジタルハリウッド大学院特命教授の米倉誠一郎氏と作家の井上篤夫氏による「孫正義は本当に「偉大な経営者」なのか?ビル・ゲイツ、柳井正との決定的な違い イノベーション研究の権威・米倉誠一郎が分析「型破りすぎる破壊と創造」(前編)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342405
・『想像を絶するスピードとスケールで10兆円企業をつくりあげた経営者から学ぶべきことは多い。孫正義ソフトバンクグループ代表の評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談し、ビジネスパーソンに学びをお届けする連載「ビジネス教養としての孫正義」の第4回。対談相手はイノベーション研究の権威で一橋大学名誉教授の米倉誠一郎氏だ。経営者としての孫正義氏をどう評価するかと尋ねると意外な答えが返ってきた。同じ創業経営者でも、稲盛和夫やスティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツとはまったくタイプが異なるという。「なぜ孫正義は特別なのか」について、名だたる経営者と比較しながら語ってもらった』、興味深そうだ。
・『既存の経営学では評価ができない 井上 米倉教授に最初に伺いたいのが、「孫正義」という人物の評価についてです。孫社長は、自身が人類の歴史に名前を残すという熱い思いを持っています。経営学の観点では、どのように評価されているのでしょうか? 米倉 孫さんの評価は難しいですね。今も昔も、まるで海のものか山のものか、はっきりしない。もちろん、彼は起業家として、いくつもの事業で次々と成功を収めてきました。その点において、僕は彼を本当に魅力的な偉人だと思います。ただ問題は、一つの形容詞で表現しにくいことなのです。ホンダの本田宗一郎、ソニーの井深大、アップルのスティーブ・ジョブズやマイクロソフトのビル・ゲイツのように、「ソフトバンクの孫正義」さんでいいのかということなんです。ソフトバンクはものを創っていませんし。 特に最近では、孫さん自身が起業家や事業家ではなく、ベンチャー企業に資金を提供する「資本家(キャピタリスト)」として見られていることも実像を不明確にしています。日本ではそうでもありませんが、アメリカのビジネススクールなどでは、最も人気のある職業がベンチャーキャピタリストだと言われています。ビジネスを立ち上げることも素晴らしいことですが、資金調達を支援し、その成長を支える喜びもまた重要です。 1996年、僕も日本のスタートアップ企業を支援する活動を始めました。それ以前は、アメリカの東海岸にあるハーバード大学で日本企業の研究をしていたため、正直「西海岸って何?」という感じでした。 一般的に、アメリカの企業では、社長と新入社員の給与に1000倍近い差があり、経営と現場が離れすぎていると言われていました。一方、日本では最大12倍程度の給与差で、経営も現場も一致団結して働くことが重視されていました。だから、当時は「そんな経営と現場が乖離したアメリカ企業に日本企業が負ける訳がない」と信じていました。 しかし、当時の法政大学の清成忠男教授から、「東海岸にいるだけでは何も分からないよ」と指摘され、実際に西海岸のシリコンバレーに行ってみると、まるでバットで後頭部を殴られたような衝撃を受けました。そこでは全く別のゲームが進行していたからです。) この経験から、早く日本にこの変化を持ち込まなければ大変なことになるぞと直感しました。そこで僕は、「ベンチャーおじさん」と称して、ベンチャー企業を支援する活動を始めたという訳です。その当時、ひときわ輝いていたのが孫さんでした。当時、彼は驚くべき先見の明でソフトウエア・コンピューターの流通にいち早く取り組み、インターネットが到来するやその世界に飛び込んでいました。 その点は素晴らしいのですが、孫さんがかつて言っていたように、それは「タイムマシン経営」で、アメリカで起こったことをいち早く日本に持ち帰っただけで、「孫さんはいったい何を生み出したのか?」と考えてしまうのです。 イギリスのボーダフォンの日本法人やアメリカのスプリント・コーポレーション(2020年にTモバイルと合併)を買収した。アーム社の買収や上場なども確かにすごいのですが、それらは孫さんで独自に生み出したものではありません。最近のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)という10兆円ファンドで明らかになったことは、やはり孫さんの真髄はキャピタリストにあったということではないでしょうか。 SVFにより、孫さんはキャピタリストとして“究極”の地点にたどり着いたと思います。アメリカにも多くの巨大ベンチャーキャピタルがあり、その手元には毎日何十件、何百件のビジネスプランやプロポーザルがあがってきます。そこには今後の技術やビジネスモデルの動向をはじめとして世界の大きな動向が見えてきます。その意味で、SVFのような巨大ファンドを治める孫さんの元にはものすごい情報が集まって来るでしょう。同じように、世界観を共有する人々も集まるようになるでしょう。 この情報と同志が集まれば、世界の大きな動向の中で孫さんは次に何をすべきかが決まって行くのでしょう。これが“究極”という意味です』、「SVFのような巨大ファンドを治める孫さんの元にはものすごい情報が集まって来るでしょう。同じように、世界観を共有する人々も集まるようになるでしょう。 この情報と同志が集まれば、世界の大きな動向の中で孫さんは次に何をすべきかが決まって行くのでしょう」、なるほど。
・『孫正義とバフェット 投資家としての決定的な違い 井上 米倉さんは経営学者ですが、孫さんは経営学の研究対象になり得ますか? 米倉 もちろんなり得ますが、問題はどの分野、どの専攻領域の対象かということです。孫さんは何か物を作ったわけではありません。M&Aを通じた企業成長の分野かもしれないし、ウォーレン・バフェット氏のような投資の分野かもしれません。 しかし、それも少し違うかなとも思います。バフェット氏は純粋な投資家ですので、「今は日本の商社が買いだ」と株価の上下だけで投資先を判断しますが、孫さんが商社に投資することはないでしょう。 孫さんは、技術の中に自らを置く発明家でもあり、パーソナル・エレクトロニクスやインターネットを基点とした情報産業を重視しています。そこにおけるVCの神様なのですかね。) 井上 確かに、孫さんは情報産業で資本家として企業をサポートする立場になると言っていますから、その点は一貫しています。 米倉 バフェット氏のような投資の巨匠は、後世に「投資の神様」として名を残すでしょう。ですから、歴史に名を刻むには、何か特別な要素が必要ですね。その点、孫さんにもビジネスやお金の流れは見えていますが、投資の神様という訳ではありません。実際には、海外での活動が多く、スプリント(2020年にTモバイルと合併)を再建したといっても企業名が残るだけでしょう。 例えば、アメリカのアンドリュー・カーネギー氏は、後年投資家ではありましたが、製鋼所を経営して「鉄鋼王」という異名を残しています。孫さんにも、そういう一つの業界でのキーワードみたいなものが必要でしょうね。その点では、前述したように日本なら本田技研工業の創業者・本田宗一郎さん、ソニーの創業者の一人である井深大さん、アメリカならスティーブ・ジョブズさんやイーロン・マスク氏のような具体的なプロダクトがあって、開発の歴史がある人は研究しやすいですし、孫さんのような無形の仕組みを作り上げた人は研究しづらいです。 ただし、孫さんはテクノロジーに基づいて行動し、先見の明があり、一人ですべて作り上げるのではなく企業買収で時間を短縮するという点では、次世代の経営学の対象としては興味深いと思います。 井上 同じ通信事業に携わった経営者という観点で、京セラ創業者の稲盛和夫さんはどうですか? 米倉 稲盛さんの精神性は、多くの人に好まれていますね。しかし、僕は孫さんや三木谷さんのようにギトギトしている感じの人が好きです(笑)。ユニクロの柳井正さんもすごいですよね。彼はヒートテックなどの新素材を武器にして、ファーストリテイリングを売上高3兆円(2024年8月期予想)まで成長させましたから。この3人に共通するのは、常に一番になるという「絶えざる目的意識」です』、「米倉 稲盛さんの精神性は、多くの人に好まれていますね。しかし、僕は孫さんや三木谷さんのようにギトギトしている感じの人が好きです(笑)。ユニクロの柳井正さんもすごいですよね。彼はヒートテックなどの新素材を武器にして、ファーストリテイリングを売上高3兆円(2024年8月期予想)まで成長させましたから。この3人に共通するのは、常に一番になるという「絶えざる目的意識」です」、なるほど。
次に、4月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授・デジタルハリウッド大学特命教授の米倉誠一郎氏と作家の井上篤夫氏による「孫正義は本当に「偉大な経営者」なのか?なぜ凡人ほど「孫正義」を叩くのか?時代の寵児に向けられたバッシングの正体 イノベーション研究の権威・米倉誠一郎が分析「型破りすぎる破壊と創造」(中編)」を紹介しよう。
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・『一代で10兆円企業をつくりあげた経営者から私たちが学ぶべきことは何だろう。イノベーション研究の権威で一橋大学名誉教授の米倉誠一郎氏は、「時代」「努力」「報徳」の3つを挙げた。評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談する連載「ビジネス教養としての孫正義」。第5回では、イーロン・マスクと比較する形で、「孫正義はイノベーターなのか?」を米倉氏に問うた。イノベーション研究の権威は何と回答したのか? その前に本稿は、孫正義氏への度重なる“バッシング”について振り返るところから始まる。 一代で10兆円企業をつくりあげた経営者から私たちが学ぶべきことは何だろう。イノベーション研究の権威で一橋大学名誉教授の米倉誠一郎氏は、「時代」「努力」「報徳」の3つを挙げた。評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談する連載「ビジネス教養としての孫正義」。第5回では、イーロン・マスクと比較する形で、「孫正義はイノベーターなのか?」を米倉氏に問うた。イノベーション研究の権威は何と回答したのか? その前に本稿は、孫正義氏への度重なる“バッシング”について振り返るところから始まる。 一代で10兆円企業をつくりあげた経営者から私たちが学ぶべきことは何だろう。イノベーション研究の権威で一橋大学名誉教授の米倉誠一郎氏は、「時代」「努力」「報徳」の3つを挙げた。評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談する連載「ビジネス教養としての孫正義」。第5回では、イーロン・マスクと比較する形で、「孫正義はイノベーターなのか?」を米倉氏に問うた。イノベーション研究の権威は何と回答したのか? その前に本稿は、孫正義氏への度重なる“バッシング”について振り返るところから始まる』、興味深そうだ。
・『メディアによる孫正義バッシング 井上 孫さんは、若い頃は神童と称賛される一方で、行動する度にバッシングされていました。その様子を、米倉さんはどう見ていましたか? 米倉 新聞や週刊誌の記事には、孫さんに対する悪意が溢れていましたね(笑)。言っていることがあまりに大きいので“ホラ吹き”と揶揄されていました。インターネットの時代が来ると予測し、ヤフーなどに誰よりも早く出資しました。その先見性が認められ、時代の寵児として一躍メディアに持ち上げられると、マスコミの中に「あいつは怪しい」と批判する人がどうしても出てきます。 今でも、その風潮は少なからずあると思います。例えば、楽天モバイルに関しても同じで、実はかなり努力をしていますが、ダイヤモンド社をはじめとするメディアは「もう危ない」「これで命運尽きた」という記事を書きがちです。しかし、内情をよくよく聞いてみると、ちょっと借金額は大きいとはいえ想定内のようです。 ただ、そういうバッシングがあるからこそ、起業家が反骨精神で成功する側面もあるでしょう。その中でも、孫さんはベンチャー企業の代表的存在としてバッシングに立ち向かってきました。その姿に触発されて僕も同じように体を張って「ベンチャーという新しい潮流が大事だ!」と訴え続けようと決意したのです。 井上 あとは、未来を見通してきた孫さんに対して、マスコミや他の企業の人も含めて「この人は一体何なんだ?」という、一種の“恐れ”を抱いていたのではないかと思います』、「新聞や週刊誌の記事には、孫さんに対する悪意が溢れていましたね(笑)。言っていることがあまりに大きいので“ホラ吹き”と揶揄されていました。インターネットの時代が来ると予測し、ヤフーなどに誰よりも早く出資しました。その先見性が認められ、時代の寵児として一躍メディアに持ち上げられると、マスコミの中に「あいつは怪しい」と批判する人がどうしても出てきます・・・そういうバッシングがあるからこそ、起業家が反骨精神で成功する側面もあるでしょう。その中でも、孫さんはベンチャー企業の代表的存在としてバッシングに立ち向かってきました。その姿に触発されて僕も同じように体を張って「ベンチャーという新しい潮流が大事だ!」と訴え続けようと決意したのです』、なるほど。
・『メディアによる孫正義バッシング 井上 孫さんは、若い頃は神童と称賛される一方で、行動する度にバッシングされていました。その様子を、米倉さんはどう見ていましたか? 米倉 新聞や週刊誌の記事には、孫さんに対する悪意が溢れていましたね(笑)。言っていることがあまりに大きいので“ホラ吹き”と揶揄されていました。インターネットの時代が来ると予測し、ヤフーなどに誰よりも早く出資しました。その先見性が認められ、時代の寵児として一躍メディアに持ち上げられると、マスコミの中に「あいつは怪しい」と批判する人がどうしても出てきます。 今でも、その風潮は少なからずあると思います。例えば、楽天モバイルに関しても同じで、実はかなり努力をしていますが、ダイヤモンド社をはじめとするメディアは「もう危ない」「これで命運尽きた」という記事を書きがちです。しかし、内情をよくよく聞いてみると、ちょっと借金額は大きいとはいえ想定内のようです。 ただ、そういうバッシングがあるからこそ、起業家が反骨精神で成功する側面もあるでしょう。その中でも、孫さんはベンチャー企業の代表的存在としてバッシングに立ち向かってきました。その姿に触発されて僕も同じように体を張って「ベンチャーという新しい潮流が大事だ!」と訴え続けようと決意したのです。 井上 あとは、未来を見通してきた孫さんに対して、マスコミや他の企業の人も含めて「この人は一体何なんだ?」という、一種の“恐れ”を抱いていたのではないかと思います。 米倉 そうですね。ただ、やはり見たことのないものに対する恐怖心は、まだ世間に残っていると思います。 僕は『クール・ランニング』(1993年)という映画が好きです。ジャマイカの短距離選手たちが、夏季オリンピックの代表選考会で落選して出場機会を失い、ひょんなことからボブスレー選手となり、冬季オリンピックを席巻するというストーリーです。その映画でも、主人公たちが「夏のスポーツのやつらが何にも分かっていないのに」といったバッシングを受ける訳です。 そのとき、主人公チームの1人がバッシングに対して「人間は自分と違う人間を怖がっているからだ」といったセリフを言っていました。要するに、バッシングは違うものに対する恐怖心もあるし、それ以上に自分を守るための術なのかなと思っています』、「そういうバッシングがあるからこそ、起業家が反骨精神で成功する側面もあるでしょう。その中でも、孫さんはベンチャー企業の代表的存在としてバッシングに立ち向かってきました。その姿に触発されて僕も同じように体を張って「ベンチャーという新しい潮流が大事だ!」と訴え続けようと決意したのです」、なるほど。
・『孫正義から学ぶべき3つのキーワード 「時代」「努力」「報徳」 井上 たしかに、孫さんは他人とは違う人間であることを誇りに思っている部分もありますから。1兆円、2兆円を動かす真似をするのは難しいとしても、経営学という観点で孫さんから何か学ぶべきことはありますか?) 米倉 それは3つあります。1つ目は、時代の大きな動きを理解することです。例えば、私が学生によく話すのは、川を下るように進むのと、川を上るように進むのでは、同じ努力をしても結果が全然違うということです。 川を上る場合、他の人の3倍の努力しても、目的地まで半分の地点にもたどり着けない。一方、川を下るようにすれば、他の人の半分の努力で目的地に到達できる可能性があります。つまり、時代の流れを理解して、それに合わせて行動することが大切なのです。 2つ目は、その流れの中で短期的な目標を決めると、それに向けて徹底的な努力をするところです。孫さんを完璧に真似するのは難しいかもしれませんが、例えば「3年後に公認会計士になる!」などとしっかり目標を立てて行動すれば、実現する可能性は十分あります。目標達成に向けて自らの資源を管理して集中させることで、着実にステップアップしていくところは真似してほしいです。 3つ目は、やはり人の集め方・使い方、そして人の力を引き出すのが上手いのではないでしょうか。また、相当な人たらしでもあるのではないでしょうか(笑)。孫さんの周りには、井上さんのような人はもちろん、様々な人が彼を応援しようと集まっています。しかも、そうした恩人に深く感謝し報いようとしていると聞きます。 ただし、孫さんをあまり知らない人には、近寄りがたい印象があるかもしれません。彼の行動は突飛だし、他人のことを全く気にしないところがありますから。まあ変人、今の言葉で言えば相当なニューロダイバージェントな人ですよ』、「経営学という観点で孫さんから何か学ぶべきことはありますか?) 米倉 それは3つあります。1つ目は、時代の大きな動きを理解することです・・・2つ目は、その流れの中で短期的な目標を決めると、それに向けて徹底的な努力をするところです・・・3つ目は、やはり人の集め方・使い方、そして人の力を引き出すのが上手いのではないでしょうか。また、相当な人たらしでもあるのではないでしょうか」、「相当な人たらし」であることは確かだ。
・『孫正義はイノベーターなのか? 米倉 僕は以前、孫さんとゴルフをしたことがあります。ゴルフは一応紳士のスポーツだから、マナーには厳しいわけです。しかし、孫さんは自分のパターに集中すると、グリーン上で他人のラインを踏むわ、勝手に歩き回るわでマナー違反が目立つ。 「集中してしまうとそのことしか考えられない人なんだな」と思いました。要するに、すごい集中力の持ち主ということですが、万人とくにすべての普通の人に好かれるわけではないということです。 それを「型破り」だと捉えて「この人は面白い!」と感じる人もいるのでしょう。彼は、自分と志が同じで共感してくれる人を徹底的に信じ、そういう人たちが自分を助けてくれる関係をうまく築いているように思います。このような同志だけを集めてしまう強烈な「自己の確立」というアプローチは、事を成し遂げたいビジネスパーソンの参考になるでしょう。 井上 テスラのイーロン・マスク氏のように、何かモノを作って世界を変革する人を「イノベーター」だと定義した場合、孫さんはイノベーターと言えるのでしょうか) 米倉 もちろん、孫さんはイノベーターだと思います。僕は1997年、仲間と共に一橋大学に「イノベーション研究センター」を立ち上げ、99年からセンター長を務めましたが、その前身は「産業経営研究所」という名前でした。 当時はイノベーションという言葉があまり知られておらず、センター設立趣意書を出しに文部省を訪れたときも、当時の担当者から「カタカナは避けてください。技術革新研究所にしましょう」と言われました。当時もイノベーションとは技術革新と訳されていて、技術者やモノを作る人の代名詞みたいに思われていたのです。 イノベーションは単に技術革新に限りません。異なる要素を新しく組み合わせることでもあり、流通の仕組みを変えることもイノベーションです。毀誉褒貶はありますが、総合スーパーのダイエーを創業した中内㓛さんも、宅急便を日本に持ち込んだ小倉昌男さんもその意味では明らかにイノベーターと言えます。 孫さんはモノを作っておらず、ソフトウエアのプログラミングもしていないですが、ソフトバンク・グループというイノベーティブな企業集団を創り上げました。日本人の価値観や研究視点から考えると、典型的なイノベーターとしては描きにくいかもしれません。 しかし、日本にPC文化やインターネットを根付かせ、世界でもM&Aを通じて新たな価値を創造してきたという点で、確かにイノベーションを起こした人物だと思います』、「孫さんはモノを作っておらず、ソフトウエアのプログラミングもしていないですが、ソフトバンク・グループというイノベーティブな企業集団を創り上げました。日本人の価値観や研究視点から考えると、典型的なイノベーターとしては描きにくいかもしれません。 しかし、日本にPC文化やインターネットを根付かせ、世界でもM&Aを通じて新たな価値を創造してきたという点で、確かにイノベーションを起こした人物だと思います」、やはり「典型的なイノベーターとしては描きにくいかもしれません」、ようだ。
第三に、4月25日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授・デジタルハリウッド大学院特命教授の米倉誠一郎氏と作家の井上篤夫氏による「ジョブズにあって孫正義にないもの、「歴史に名を残す経営者」の条件とは?(後編)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342781
・『想像を絶するスピードとスケールで10兆円企業をつくりあげた経営者から学ぶべきことは多い。孫正義ソフトバンクグループ代表の評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談し、ビジネスパーソンに学びをお届けする連載「ビジネス教養としての孫正義」の第6回。前回に引き続き、対談相手はイノベーション研究の権威で一橋大学名誉教授の米倉誠一郎氏。日本史におけるイノベーターを研究してきた米倉氏が「孫さんに近いと思う歴史上の偉人」として“幕末の志士”と“三井の大番頭”の2人を挙げてくれた。さらに、語り継がれる経営者としてスティーブ・ジョブズを引き合いに出し、孫正義氏に“足りないもの”を指摘した』、興味深そうだ。
・『“幕末の孫正義” 三野村利左衛門とは? 井上 米倉先生の著書『イノベーターたちの日本史』(東洋経済新報社)をとても興味深く拝読しました。その中で、岩崎弥太郎や渋沢栄一など、日本の経営者がイノベーターとして紹介されていましたが、孫さんは誰に一番近いと思いますか? 米倉 明治という時代を演出し、薩長を融合したという点で考えると、この本には出てきませんがやはり坂本龍馬が思い浮かびますね。 龍馬はもともと、単なる土佐藩の下級武士でしたが、そのような人物が幕末の歴史を大きく転換させた。彼はその間一貫して政治よりも貿易というビジネスに興味があった。まさに、「世界を見ちょった」。その生き様が、日本に戻って創業したソフトバンクの小さな事務所で、しかもアルバイト2人の前に立って「1兆円企業になる」と高らかに宣言し、やがて日本のインターネットや携帯市場のゲームチェンジャーとして業界地図を塗り替えた孫さんと重なります。 次に、幕末維新期に「三井の大番頭」として活躍した三野村利左衛門を思い浮かべます。維新後の三井財閥の基礎を作った人です。 1673(延宝元)年に三井高利が創業した越後屋から始まり、呉服屋として大成功を収めた三井家ですが、200年もたって家督を維持する「守りの経営」になっていた。ところが、幕末の大変革に直面した際、保守的になってしまった三井家だけではこの難局は乗り切れないと判断し、新興商人の三野村に全権を委任して「攻めの経営」に転じました。 幕末・維新という動乱の中で、三野村は祖業越後屋を守りつつ、三井物産や三井銀行など新しい事業を始め、三井家をさらに発展させた。彼は素晴らしい起業家であり、イノベーターであると言えます。しかし、彼は仕組みとそれを遂行できる若い人材(渋沢栄一、井上馨、益田孝、中上川彦次郎など)を登用した。孫さんも、そういう人物に匹敵する存在だと思います。 井上 孫さんが歴史に名を残すような人物になるためには、どんな要素が必要でしょうか?) 米倉 坂本龍馬が「幕末の志士」と称されるように、その人物を簡潔に表すワンフレーズが必要ですね。“孫正義”の三文字でも世界に通じますが、教科書にも載るような経営者となるためには「情報革命の志士」のような彼を象徴するフレーズが必要でしょう。 井上 確かに、孫さんは情報革命で人々の幸せを追求すると公言していますので、情報革命というのは重要なキーワードです。彼の取り組み方は志士であり、イノベーターだと思います』、「孫さんは情報革命で人々の幸せを追求すると公言していますので、情報革命というのは重要なキーワードです。彼の取り組み方は志士であり、イノベーターだと思います」、なるほど。
・『「ローリスク・ハイリターン」がイノベーションの土台となる 米倉 ただし、同世代の中で考えると、スティーブ・ジョブズ氏にはアップルのiPhoneやMac、ビル・ゲイツ氏ならマイクロソフトのWindowsなど、革新的なモノがあって分かりやすい。一方で孫さんも、彼らと同じぐらいの影響力はあるかもしれませんが、彼自身が生み出した具体的な製品があるともっといいなと思います。 井上 その観点から見ると、孫さんはモノが何もない無形の分野で新しい何かを生み出してきたと言えるのではないでしょうか? 米倉 シリコンバレーの範疇にないものを生み出してきたという点では、孫さんの取り組みは一種の「Disruption(ディスラプション)」、つまり既存のものを破壊してきたと言えるかもしれません。 井上 破壊とは、新しいものを再構築するという意味もありますよね。実は、私の著書『志高く 孫正義正伝』の英語版のタイトルが『Aiming High: Masayoshi Son, SoftBank, and Disrupting Silicon Valley』(Hodder& Stoughton,Ltd)で「シリコンバレーの破壊者」というサブタイトルなんですよ。これはイギリスの出版社が付けたものですが、そもそも米倉さんは、シリコンバレーに対してどんな評価をされていますか? 米倉 僕が理解したのは、シリコンバレーは単なる地理的な場所ではなく、21世紀のビジネスのあり方やエコシステムの総称だということでした。) 米倉 次はどんなビジネスがヒットするか分からないから、とにかく若い人たちに(心持ちを含めて)数を打ってもらって確率を上げるしかないという前提のエコシステムだということです。 まず、数を打つ起業家には低いマーケット・エントリー・リスク、つまり参入障壁を下げる豊富なベンチャーキャピタル資金(返済義務のある銀行融資はリスクが高い)を用意し、成功した起業家と投資家にはその努力と投資に対する大きなリターンを実現する上場市場(ナスダック)やさまざまなイグジットが整備されています。 例えば、宝くじを買う人も多いでしょうが、大当たりする確率はかなり低い。しかし、みんなが買う理由は、1本300円という少額の出費(ローエントリー・リスク)で、当たれば1億円というハイ・リターンが得られるからです。もし宝くじが1本30万円と高額なら、誰も買わないでしょう。 シリコンバレーの素晴らしい点は、ベンチャーキャピタリストがこのような才能を見出す場が豊富にあるところです。銀行の融資と異なり、ベンチャーキャピタルは起業家と共にリスクを共有し、もし事業が失敗しても担保を取ることはありません。一緒に責任を負い、失敗してもすぐに次の挑戦を共にする関係です。 日本では、倒産した後の再起は難しいですが、シリコンバレーでは失敗は学びの機会であり、財産になるという発想で、仮に倒産してもどんどんチャンスが与えられます。 この考え方に基づいて、シリコンバレーではハイリターンが実現できる透明性と流通量の多い「ナスダック」という上場市場が整備され、ハイテク株やIT関連企業向けの上場が促進されました。これがとんでもない価値を付けました。上場しやすいマーケットの誕生により、積極的にチャレンジする優秀な人々がシリコンバレーに集結し、勝率がどんどん上がっていったのです。 シリコンバレーの本質は、いわゆる金融的なリスクを取らずに高いリターンを得られる環境で、優秀な人材が集まることです。日本でも新興市場は作られましたが、ナスダックほどの規模やリターン、流通規模は見られませんでした。こういうシステムがアメリカで先に確立されてしまったため、日本は太刀打ちできないなと感じました』、「シリコンバレーではハイリターンが実現できる透明性と流通量の多い「ナスダック」という上場市場が整備され、ハイテク株やIT関連企業向けの上場が促進されました。これがとんでもない価値を付けました。上場しやすいマーケットの誕生により、積極的にチャレンジする優秀な人々がシリコンバレーに集結し、勝率がどんどん上がっていったのです。 シリコンバレーの本質は、いわゆる金融的なリスクを取らずに高いリターンを得られる環境で、優秀な人材が集まることです。日本でも新興市場は作られましたが、ナスダックほどの規模やリターン、流通規模は見られませんでした。こういうシステムがアメリカで先に確立されてしまったため、日本は太刀打ちできないなと感じました」、なるほど。
・『ジョブズにあって孫正義にないもの 井上 最後になりますが、孫さんはいつも「自分はこのままでいいのか?」と自問自答しています。もし米倉さんから孫さんに何か言葉をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか?) 米倉 孫さんは、時代の流れを読み、努力をする能力が本当にすごい。これからも色々な人を巻き込みながら、同志的結合を広げていくでしょう。ただ、私が古い考え方からなのかもしれませんが、何か有形の成果が欲しいと感じます。 スティーブ・ジョブズ氏は永遠に名を残すでしょう。iPhoneやMacを生み出し、その上にiTunesのようなプラットフォームまで構築したのですから。彼はエンジニアというよりも、ある種の“アーキテクト(設計者)”として優れていると思います。 一方、孫さんは様々な改革を進めていますが、ある意味でパイオニアの部分が足りないのかもしれません。彼が先駆的に切り拓いた新たな分野はあるのかと考えても、ぱっと思い浮かばないですから。 もしかしたら、「ペッパーくん」がその最初の成果物だったのかもしれません。単なるコミュニケーションツールではなく、ルンバのような自動掃除機能などを搭載し、世界中の家庭でペッパーくんが置かれるようになる。そうして日本発のサービスロボットという概念を世界に広められれば、孫さんは「サービスロボットの生みの親」として歴史に名を残していたかもしれません。 井上 孫さんは、人類の未来をデザインするアーキテクトになりたいと考えていて、無形のサービスを通じて、新たな価値を設計しようとしています。 米倉 なるほど、「無形のアーキテクト」として歴史に残せたらすごいですね。まあ、有形であれ、無形であれ、孫正義という名前の前に具体的かつ代表的なワンフレーズが欲しいですね』、「孫さんは様々な改革を進めていますが、ある意味でパイオニアの部分が足りないのかもしれません。彼が先駆的に切り拓いた新たな分野はあるのかと考えても、ぱっと思い浮かばないですから。 もしかしたら、「ペッパーくん」がその最初の成果物だったのかもしれません。単なるコミュニケーションツールではなく、ルンバのような自動掃除機能などを搭載し、世界中の家庭でペッパーくんが置かれるようになる。そうして日本発のサービスロボットという概念を世界に広められれば、孫さんは「サービスロボットの生みの親」として歴史に名を残していたかもしれません」、それにしてもせいぜい「ペッパーくん」では、寂しい印象だ。今後、の展開を期待するしかないのかも知れない。
タグ:米倉誠一郎氏 ダイヤモンド・オンライン イノベーション (その5)(米倉誠一郎、孫正義シリーズ3題:孫正義は本当に「偉大な経営者」なのか?ビル・ゲイツ 柳井正との決定的な違い イノベーション研究の権威・米倉誠一郎が分析「型破りすぎる破壊と創造」(前編)、孫正義は本当に「偉大な経営者」なのか?なぜ凡人ほど「孫正義」を叩くのか?時代の寵児に向けられたバッシングの正体 イノベーション研究の権威・米倉誠一郎が分析「型破りすぎる破壊と創造」(中編)、ジョブズにあって孫正義にないもの 「歴史に名を残す経営者」の条件とは?(後編)) 井上篤夫氏 「孫正義は本当に「偉大な経営者」なのか?ビル・ゲイツ、柳井正との決定的な違い イノベーション研究の権威・米倉誠一郎が分析「型破りすぎる破壊と創造」(前編)」 『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫) 「SVFのような巨大ファンドを治める孫さんの元にはものすごい情報が集まって来るでしょう。同じように、世界観を共有する人々も集まるようになるでしょう。 この情報と同志が集まれば、世界の大きな動向の中で孫さんは次に何をすべきかが決まって行くのでしょう」、なるほど。 「米倉 稲盛さんの精神性は、多くの人に好まれていますね。しかし、僕は孫さんや三木谷さんのようにギトギトしている感じの人が好きです(笑)。ユニクロの柳井正さんもすごいですよね。彼はヒートテックなどの新素材を武器にして、ファーストリテイリングを売上高3兆円(2024年8月期予想)まで成長させましたから。この3人に共通するのは、常に一番になるという「絶えざる目的意識」です」、なるほど。 「孫正義は本当に「偉大な経営者」なのか?なぜ凡人ほど「孫正義」を叩くのか?時代の寵児に向けられたバッシングの正体 イノベーション研究の権威・米倉誠一郎が分析「型破りすぎる破壊と創造」(中編)」 「新聞や週刊誌の記事には、孫さんに対する悪意が溢れていましたね(笑)。言っていることがあまりに大きいので“ホラ吹き”と揶揄されていました。インターネットの時代が来ると予測し、ヤフーなどに誰よりも早く出資しました。その先見性が認められ、時代の寵児として一躍メディアに持ち上げられると、マスコミの中に「あいつは怪しい」と批判する人がどうしても出てきます・・・そういうバッシングがあるからこそ、起業家が反骨精神で成功する側面もあるでしょう。 その中でも、孫さんはベンチャー企業の代表的存在としてバッシングに立ち向かってきました。その姿に触発されて僕も同じように体を張って「ベンチャーという新しい潮流が大事だ!」と訴え続けようと決意したのです』、なるほど。 「そういうバッシングがあるからこそ、起業家が反骨精神で成功する側面もあるでしょう。その中でも、孫さんはベンチャー企業の代表的存在としてバッシングに立ち向かってきました。その姿に触発されて僕も同じように体を張って「ベンチャーという新しい潮流が大事だ!」と訴え続けようと決意したのです」、なるほど。 「経営学という観点で孫さんから何か学ぶべきことはありますか?) 米倉 それは3つあります。1つ目は、時代の大きな動きを理解することです・・・2つ目は、その流れの中で短期的な目標を決めると、それに向けて徹底的な努力をするところです・・・3つ目は、やはり人の集め方・使い方、そして人の力を引き出すのが上手いのではないでしょうか。また、相当な人たらしでもあるのではないでしょうか」、「相当な人たらし」であることは確かだ。 「孫さんはモノを作っておらず、ソフトウエアのプログラミングもしていないですが、ソフトバンク・グループというイノベーティブな企業集団を創り上げました。日本人の価値観や研究視点から考えると、典型的なイノベーターとしては描きにくいかもしれません。 しかし、日本にPC文化やインターネットを根付かせ、世界でもM&Aを通じて新たな価値を創造してきたという点で、確かにイノベーションを起こした人物だと思います」、やはり「典型的なイノベーターとしては描きにくいかもしれません」、ようだ。 「ジョブズにあって孫正義にないもの、「歴史に名を残す経営者」の条件とは?(後編)」 「孫さんは情報革命で人々の幸せを追求すると公言していますので、情報革命というのは重要なキーワードです。彼の取り組み方は志士であり、イノベーターだと思います」、なるほど。 「シリコンバレーではハイリターンが実現できる透明性と流通量の多い「ナスダック」という上場市場が整備され、ハイテク株やIT関連企業向けの上場が促進されました。これがとんでもない価値を付けました。上場しやすいマーケットの誕生により、積極的にチャレンジする優秀な人々がシリコンバレーに集結し、勝率がどんどん上がっていったのです。 シリコンバレーの本質は、いわゆる金融的なリスクを取らずに高いリターンを得られる環境で、優秀な人材が集まることです。 日本でも新興市場は作られましたが、ナスダックほどの規模やリターン、流通規模は見られませんでした。こういうシステムがアメリカで先に確立されてしまったため、日本は太刀打ちできないなと感じました」、なるほど。 「孫さんは様々な改革を進めていますが、ある意味でパイオニアの部分が足りないのかもしれません。彼が先駆的に切り拓いた新たな分野はあるのかと考えても、ぱっと思い浮かばないですから。 もしかしたら、「ペッパーくん」がその最初の成果物だったのかもしれません。単なるコミュニケーションツールではなく、ルンバのような自動掃除機能などを搭載し、世界中の家庭でペッパーくんが置かれるようになる。 そうして日本発のサービスロボットという概念を世界に広められれば、孫さんは「サービスロボットの生みの親」として歴史に名を残していたかもしれません」、それにしてもせいぜい「ペッパーくん」では、寂しい印象だ。今後、の展開を期待するしかないのかも知れない。
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