資本市場(その11)(SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択、SBI証券「IPO初値操作」の処分が残した2つの宿題 「顧客の取引に影響はない」では済まされない、録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか) [金融]
資本市場については、昨年8月17日に取上げた。今日は、(その11)(SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択、SBI証券「IPO初値操作」の処分が残した2つの宿題 「顧客の取引に影響はない」では済まされない、録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか)である。
先ずは、昨年9月4日付け東洋経済オンライン「SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/699113
・『「いよいよ来たか」。あるネット証券関係者は業界大手2社の発表を聞きつぶやいた。それはネット証券の地殻変動の号砲となるものだった。 最大手のSBI証券は8月31日、オンラインでの国内株式売買の手数料を9月30日発注分から無料にすると発表した。取引報告書などの各種交付書面を電子交付にすることが条件だが、ほとんどの利用者が手数料ゼロで日本株取引をできるようになる。 対抗するように同日、2位の楽天証券も10月2日約定分から国内株式の取引手数料無料コースを新設すると発表した。ネット証券の上位2社がそろって手数料無料化に踏み込んだことで、顧客の囲い込み競争は一層熱をおびることは間違いない』、「SBI証券」に続いて、「楽天証券」も「手数料無料化に踏み込んだ」とは競争が一段と激化することになる。
・『楽天証券の追随には驚き SBI証券の親会社であるSBIホールディングス(HD)の北尾吉孝会長兼社長は、2022年11月の決算説明会で「来年度(2023年度)の上半期にはオンラインの国内株式取引の売買手数料無料化を図る」と、発言していた。それ以来、予定通りの無料化は可能なのか、関係者は固唾をのんで見守っていた。結局、公約通りの時期に無料化を実施することになった。 1年前の段階で、無料化方針を打ち出したにもかかわらず、具体的なプランの発表は実施1カ月前にずれ込んだ。その理由を広報担当は、「大量の顧客増が見込まれ、システム対応などを万全にするよう準備した結果」と説明する。 衝撃を与えたのは、ライバルである楽天証券も同じタイミングで無料化に踏み込んだことだ。楽天グループの傘下にあり、楽天証券や楽天投信投資顧問などを抱える楽天証券HDは7月に東証へ上場申請をしている。 「この時期に無料化という大きな方針転換はできないのではないか」(大手証券幹部)という見方もあった。楠雄治社長は直前まで「検討はしているが、決まったことは何もない」と説明していたが、内部では着々と準備に動いていた。 個人の株取引において、2社の存在感は圧倒的だ。東証における個人の売買代金のうち、2022年度でSBI証券が占める割合は43.7%、楽天証券も33.5%ある(ETFやREIT含む)。この売買にかかる手数料が無料になれば日本市場の活性化にもつながる可能性がある。 折しも岸田政権が「資産運用立国」を掲げ、2024年1月からは新NISA(少額投資非課税制度)が始まるなど、個人の株式投資活発化に対する期待は高い。 SBI証券は8月31日のリリースで「『ゼロ革命』(国内株式売買手数料無料化)の意義は、『証券投資の大衆化』にあります」と説明。「『貯蓄から投資へ』の流れを加速し、広く国民一般の証券市場への積極的な参加を促進できるものと期待」すると謳った』、「SBI証券は8月31日のリリースで「『ゼロ革命』・・・の意義は、『証券投資の大衆化』にあります」と説明。「『貯蓄から投資へ』の流れを加速し、広く国民一般の証券市場への積極的な参加を促進できるものと期待」すると謳った」、いかにも「SBI証券」らしい。
・『路線修正を迫られた松井証券 こうした動きに対し、ほかのネット証券各社もすぐさま反応した。ある関係者は「黙って指をくわえて見ているわけにはいかない」と話す。 SBI証券、楽天証券に次ぐ規模を誇る松井証券は来年始まる新NISAでの日本株、米国株、投資信託の売買手数料を無料化すると発表した。 和里田聰社長はかねて「無料化には追随しない」と宣言。独自の情報提供やサポート体制を充実することで顧客をつなぎ止めることに注力してきた。しかし、路線の修正を迫られた。 松井証券は営業収益に占める株式委託手数料の割合が46%(2023年4~6月期)と高い。すべての手数料を無料にはできないものの、SBIの動きを看過できないという姿勢をにじませた。 マネックス証券もNISA対象の国内株売買手数料の無料化など現在行っている施策を今後も継続することや、米国株取引のサービス強化などをアピールするリリースを発表。現時点で手数料無料化に追随するとはしなかったものの、今後の検討課題になっている。 手数料無料化が経営に与える影響は重大だ。株取引の委託手数料は証券会社の収益にとって最も重要な柱のひとつでもある。) SBI証券の場合、2023年4~6月期の国内株式取引委託手数料は64億円だった。1年間同じ成績だったとすると250億円程度の収益だ。この分の収益がなくなる一方、システム維持コストなどは引き続きかかるため、減収分がそのまま利益の押し下げ圧力になる。 こうした衝撃を和らげるため、投資信託や外国株、FXなど収益源の多様化を進めてきた。さらには親会社であるSBIHDが銀行や資産運用など多くの事業を抱えている。 こうしたことから、本来ならば痛手となる「無料化」に踏み切れた。実際、SBIHDの年間利益予想は非開示だが、無料化を前提にしても少なくとも2024年3月期は前期並みの税前利益(IFRS)を確保できる見通しだ』、「SBI証券の場合」、「国内株式取引委託手数料、「年間」、「250億円程度」「がなくなる一方、システム維持コストなどは引き続きかかるため、減収分がそのまま利益の押し下げ圧力になる。 こうした衝撃を和らげるため、投資信託や外国株、FXなど収益源の多様化を進めてきた。さらには親会社であるSBIHDが銀行や資産運用など多くの事業を抱えている」、なるほど。
・『楽天証券HDの公開価格に影響懸念 一方の楽天証券。同様に収益源の多様化を進めており、2023年1~6月期の収益に占める国内株式委託手数料は17.4%。 具体的な金額は非開示だが、この間の営業収益が540億円なので約94億円程度、年間の手数料収入は190億円程度になる計算だ。プラン選択により、一部手数料収入が残るが、その多くが無料化でゼロになる。 (SBI証券の委託手数料収入の比率はリンク先参照) (楽天証券の委託手数料収入の比率はリンク先参照) さらに楽天証券は悩ましい固有の事情を抱えている。先述したように、楽天証券HDが東証への上場手続きの真っ最中である点だ。「楽天証券として大きな減収が避けられない中、思うような株価で上場できないのではないか」。ある業界関係者はそう分析する。 親会社の楽天グループは、上場にあたって 放出する楽天証券HD株に一定水準の株価がつくことを期待している。楽天証券の手数料無料化による業績影響を織り込んで、株価が期待より低くなれば、楽天グループが手にする資金はその分だけ減る。 「モバイル事業に是が非でも資金を手にしたい楽天グループにとっては痛手になるはずだ」。前出の関係者はそう語る。 また、楽天証券にはみずほ証券が2022年11月、800億円で約20%出資している。楽天証券の収益が大きく下がれば、みずほ証券の出資分の価値が損なわれることになる。 それらの懸念を払拭するためには、楽天証券が単独かつ短期で収益を上向かせる「秘策」を練り上げなくてはならない。ただでさえ、ポイント制度の改正などの影響で新規口座数の伸びが鈍化している。2023年1~6月の新規口座数は60.9万口座。前年同期比で33.6%マイナスの状況だ。 手数料無料化で最も追い込まれたのは楽天証券かもしれない』、「楽天証券HDが東証への上場手続きの真っ最中」、「楽天証券の手数料無料化による業績影響を織り込んで、株価が期待より低くなれば、楽天グループが手にする資金はその分だけ減る。 「モバイル事業に是が非でも資金を手にしたい楽天グループにとっては痛手になるはずだ」、
「手数料無料化で最も追い込まれたのは楽天証券かもしれない」、なるほど。
次に、本年1月17日付け東洋経済オンライン「SBI証券「IPO初値操作」の処分が残した2つの宿題 「顧客の取引に影響はない」では済まされない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/727978
・『IPO(新規株式公開)をめぐる歪みと大きな課題が明らかになった。 金融庁は1月12日、ネット証券最大手のSBI証券に対し、金融商品取引法に基づく業務停止処分を行った。IPO銘柄に関し、勧誘を伴う上場日の売買受託業務を1月18日まで禁止する。さらに、経営陣を含む責任の明確化を図ったうえで業務改善計画を作り、2月13日までに提出することを求めた。 SBI証券は1月12日、「今後、より一層の内部管理体制の強化・充実を図り、再発の防止ならびに皆さまの信頼回復に向けて努める」とコメントを発表した』、「SBI証券」のコメントは型通りだ。
・『初値の公募価格割れを防ぐため 今回の行政処分は、昨年12月15日に証券取引等監視委員会が公表した勧告に基づく。監視委の検査結果によると、SBI証券は2020年12月から2021年9月にかけてIPO主幹事を務めた3銘柄の上場初日の株価が公募価格を下回らないように作為的な相場形成を行っていた。 具体的には、引き受け業務を担当する常務取締役と営業を担当する役員が、上場日に予想される売り注文に見合う数量の買い注文を設定。海外の機関投資家9社とIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を通じて勧誘した一般投資家174名に公募価格指し値での注文を行わせた。これによって上場日の初値が公募価格割れするのを防いだ。 1週間の業務停止処分となったが、SBI証券の業績への影響はほとんどないのが現実だ。対象となるのはIPO銘柄の上場日における売買受託業務で、通常の株取引は対象外。そもそもこの期間に新規上場する銘柄はない。) SBI証券は「業務停止命令の結果、お客さまのお取引に直接の影響が及ぶことはございません」とした。IPO引き受け業務に関しても、公開価格を決定するために行うヒアリングなどの業務は売買の受託業務ではないため、制限を受けない。 金融庁は「(業務停止期間に)たしかにIPOはないかもしれないが、準備なり作業なりはある。しっかり業務を停止して考えてほしい」とする。またこのタイミングでの処分になったことについては、監視委の勧告からおおむね1カ月以内に行政処分を下す必要があるとした。1週間という業務停止期間も過去の事例と比べて「長くも短くもない期間」だという。 SMBC日興証券による株価操縦事件の際に出た業務停止3カ月と比べると、期間はかなり短く見える。ただ、SMBC日興のように証券会社が直接注文を入れたものではなく、今回は金融商品取引業者が顧客の注文を受けた行為を処分しており、1週間という期間は妥当との判断だ』、「引き受け業務を担当する常務取締役と営業を担当する役員が、上場日に予想される売り注文に見合う数量の買い注文を設定。海外の機関投資家9社とIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を通じて勧誘した一般投資家174名に公募価格指し値での注文を行わせた。これによって上場日の初値が公募価格割れするのを防いだ」、なるほど。
・『主幹事証券が担う役割とは 今回の処分は、証券業界が抱えるいくつかの課題を浮き彫りにした。 ひとつは、IPOをめぐる問題だ。新規公開の銘柄は初値が公募価格を上回ることへの期待が大きく、個人投資家からの人気が高い。そのため購入が抽選になることも多い。 一方で、中小型の銘柄を中心に、過大評価された株価がついてしまい、上場後に株価が低迷してしまうケースもある。そもそも事業として上場すべき段階まで成長していないのにIPOへと突き進むことも多いとの批判は根強い。ベンチャーキャピタルなどによるほかの資金調達手段が日本ではまだ発展途上であることが背景にある。 そうした上場予定の企業に対して、上場時期を遅らせたり、適切な公募価格を設定したりすることも主幹事証券会社の役割のひとつだ。ところが、「SBI証券はシェア獲得を急ぐばかりに、ルールを逸脱した行為に走ってしまったのだろう」。ある証券会社幹部はそう指摘する。 SBI証券は口座数が1100万を超え、ネット証券では最大手の地位を盤石なものにしている。ただ、個人の株取引以外の分野では追いかける立場だ。 市場情報を提供するLSEGによると、SBI証券は2023年の国内IPO引受金額のランキングで7位。首位のSMBC日興証券や2位の野村証券と比べると2倍以上の開きがある。 (2023年のIPO引受金額ランキングはリンク先参照) だが件数では、SMBC日興や野村と同じ19件。その分小型のIPOを数多く引き受けたことになる。) 主幹事を担ったIPO銘柄の初値が公募価格割れになると、評判を落とすことになる。追いかける立場であるSBI証券はこれを避けたかったという思惑が今回の不祥事を招いたとも言えそうだ。 証券業界内からは、「初値が公募価格を上回らなければ損をする人が出る。しかもその大半は個人投資家。SBI証券としては何とか支えただけ。そうまでしないとIPO市場は盛り上がらない」という“本音”も聞こえる。 ただ、IPOに対する投資家の信頼を損ねることになれば、日本の資本市場のあり方から問われる事態となる。日本証券業協会も巻き込んだ制度見直しも進んでいるさなか、今回の処分からどのような教訓を引き出すのかが重要だ』、「初値が公募価格を上回らなければ損をする人が出る。しかもその大半は個人投資家。SBI証券としては何とか支えただけ。そうまでしないとIPO市場は盛り上がらない」という“本音”も聞こえる。 ただ、IPOに対する投資家の信頼を損ねることになれば、日本の資本市場のあり方から問われる事態となる。日本証券業協会も巻き込んだ制度見直しも進んでいるさなか、今回の処分からどのような教訓を引き出すのかが重要だ」、その通りだ
・『IFAに独立性はあったのか 別の課題もある。SBI証券からの依頼を受けて一般投資家にこれらの銘柄を買うように勧誘したIFAの問題だ。 IFAのIはIndependent(独立)の頭文字であるとおり、特定の証券会社に所属せずに独立・中立の立場で顧客に資産運用の提案を行う。実際の取引は証券会社を通じて行うため、IFAは証券会社と契約し顧客の取引内容を伝達。それに応じた報酬を手にする。 IFAは営業ノルマや証券会社の方針に縛られず、顧客が本当に必要とする資産運用を提案できることが強みのはずだった。ところが今回の件は、顧客に損失をもたらす可能性のある取引を勧誘しており、顧客本位の業務運営とは言えない。 IFAはSBI証券の依頼に唯々諾々と応じたのかが焦点となる。この点は、金融庁の処分や監視委の説明では明らかにされなかった。関わったIFAは3社だが、その具体名は公表しなかった。 2024年から新NISA(少額投資非課税制度)が始まるなど、個人の証券取引が活発化する機運は高まっている。岸田政権の掲げる「資産運用立国」でも、顧客本位の業務運営の確保は最重要課題のひとつだ。IFAも今回の件から改善すべき点がないか検討する必要がある。 2月にSBI証券が提出する予定の業務改善計画がどのようなものになるか。実効性が確保されるようにするために、二人三脚で取り組む金融庁にも重い宿題を残した結果になった』、「IFAは営業ノルマや証券会社の方針に縛られず、顧客が本当に必要とする資産運用を提案できることが強みのはずだった。ところが今回の件は、顧客に損失をもたらす可能性のある取引を勧誘しており、顧客本位の業務運営とは言えない。 IFAはSBI証券の依頼に唯々諾々と応じたのかが焦点となる・・・関わったIFAは3社だ・・・岸田政権の掲げる「資産運用立国」でも、顧客本位の業務運営の確保は最重要課題のひとつだ。IFAも今回の件から改善すべき点がないか検討する必要がある」、その通りだ。
第三に、7月5日付け東洋経済オンライン「録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか」を紹介しよう。
・『昨年3月に全額が毀損したクレディ・スイスのAT1債をめぐり、債券を販売した三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対して、新たに14人の投資家が13億6588億円の損害賠償を求めて東京地裁に集団訴訟を起こした。 6月28日に提訴した今回の訴訟は、2023年8月と12月に続く第3弾となる。これで三菱UFJモルガンを訴えた原告の数は106人に上り、賠償請求金額は82億9974万円に拡大した。代理人弁護士の山崎大樹氏は「日本でこれほど多くの投資家が、この規模の損害賠償額を求めて証券会社を提訴するのは過去に例がないのでは」と話す』、「原告の数は106人に上り、賠償請求金額は82億9974万円に」、確かに大規模な訴訟のようだ。
・『CET1のことしか「聞いてないです」 クレディ・スイスのAT1債は国内で約1400億円が販売され、そのうち三菱UFJモルガンが7割弱に相当する約950億円を販売していた。5月13日には、全額毀損後に録音された三菱UFJモルガンの営業担当者と顧客による複数の会話のやり取りが、原告側から新たな証拠として提出されている。 そのやり取りを見ると、三菱UFJモルガンの営業担当者が商品性を正しく理解することなくクレディ・スイスのAT1債を販売していた疑いが浮かび上がる』、金融取引でリスクの移転が認められるには、売り手がリスクを正しく説明したことが、前提となるので、売り手の説明責任が重視される。
・『顧客「CET1のことしか聞いてないでしょう」 営業「聞いてないです」(顧客「(特殊性のあるAT1債だというのを)営業さんの方に当然伝わってないでしょ、そういう話」 営業「そこまでは伝わってないです」 顧客「営業としてはそれを知らずに『大丈夫だろう』としてお勧めしてたと。でなきゃモルガンさんだけであれだけの金額売らないでしょう」 営業「売らないですね」) 会話の中で顧客が言う「CET1」とは、「普通株式等Tier1」と呼ばれる銀行の中核的な自己資本のことだ。AT1債は、銀行が破綻する前の段階で投資家が損失を負う仕組みで、少なくともCET1比率が5.125%を下回ったら、元本の毀損か、株式に転換される商品性であることが求められる。クレディ・スイスのAT1債は「CET1比率が7%を下回った場合」に元本が全額毀損する仕組みになっていた。 ただし、クレディ・スイスのAT1債は、破綻前に元本が毀損するトリガーはこれだけではなく、「企業存続事由」も定められていた。具体的には、規制当局が発行者の破綻を防ぐために公的部門の特別支援が不可欠だと判断し、その支援を発行者が受け入れた際も元本が全額毀損する。 クレディ・スイスのAT1債は、この企業存続事由のトリガーがヒットして元本が全額毀損した訳だが、会話のやり取りからは、営業担当者がCET1比率のことしか認識していなかったことが読み取れる。 代理人の山崎弁護士によれば「企業存続事由について三菱UFJモルガンの営業から説明を受けたと話す原告は1人もいない」と言う』、「代理人の山崎弁護士によれば「企業存続事由について三菱UFJモルガンの営業から説明を受けたと話す原告は1人もいない」と言う」、これは酷い。
・『公的支援アナウンス後も販売を継続 それどころか、必要があればクレディ・スイスに「流動性を供給する」という、スイス当局からトリガー事由となるアナウンスがあった2023年3月15日以降も、三菱UFJモルガンはクレディ・スイスのAT1債を販売し続けた。AT1債が全額毀損したのは、そのわずか4日後。この間にAT1債を購入した顧客も原告に含まれている。三菱UFJモルガンが組織として企業存続事由を把握できていたのかさえも問われそうだ。 ほかにも、この期間にアドバイスを求めた顧客に対して、「今回は資本注入ではなく、流動性供給ですので今のところ問題ございません」とメールで回答している。また、録音データには、トリガー事由となる公的支援のアナウンスを、営業担当者がポジティブ材料として受け取っていた会話のやり取りもある。) 山崎弁護士は「三菱UFJモルガン側が商品性を正しく認識できていなかったことは明らか。商品の複雑性やリスクの高さを誤って認識していたのだから、説明義務違反などに加えて適合性の判断も正しく行われていなかった」と主張する。 一方、三菱UFJモルガンの広報担当者は「第3次提訴の訴状を確認していないのでコメントは差し控える」とし、「当社の主張については裁判の中で明らかにしていく」と話す。 最終的に和解に至る可能性もあるが、早期に和解すると提訴する人が次々に出てきてしまう。元本削減を知った時点から3年で時効となるため、和解の場合であっても時効ギリギリまで裁判が長引くとみられる』、「スイス当局からトリガー事由となるアナウンスがあった2023年3月15日以降も、三菱UFJモルガンはクレディ・スイスのAT1債を販売し続けた。AT1債が全額毀損したのは、そのわずか4日後。この間にAT1債を購入した顧客も原告に含まれている。三菱UFJモルガンが組織として企業存続事由を把握できていたのかさえも問われそうだ」、信じられないようなお粗末さだ。
・『日本で蔓延するモラルハザード クレディ・スイスのようにリスクが極めて高いAT1債がある一方で、日本の金融機関が発行するAT1債はトリガーが引かれるリスクは小さいと考えられている。クレディ・スイスの問題以降も日本のメガバンクが立て続けにAT1債を発行し、投資家から絶大な支持を集めているのは、このリスクの小ささ故だ。地銀の群馬銀行までもが今年1月に2.244%の低コストでAT1債を発行している。 そして最も懸念されるのは、日本のこうした実態が、投資家と金融機関の双方に「モラルハザード」をもたらすことだ。 日本のAT1債にも2つのトリガーがある。1つは、CET1比率が5.125%を下回ったら、その資本度合いに応じて元本が削減される「損失吸収事由」。もう1つは、預金保険法に基づき「預金等の全額保護」や「一時国有化」などが行われる第2号措置、第3号措置、特定第2号措置が発動された場合の「実質破綻事由」だ。 クレディ・スイスのAT1債を全額毀損させた企業存続事由のトリガーを日本の破綻処理枠組みに当てはめると、かつてりそな銀行を救済した際に使われた第1号措置または特定第1号措置が該当すると考えられる。だが、これらが発動されても日本のAT1債はトリガー事由にならない。つまり、事実上破綻を回避する目的で公的資金による資本増強や流動性の供給といった公的支援を受けても、日本ではAT1債の元本が毀損しない商品性になっている。 さらに、日本には預保法の救済スキーム以外にも、金融機能強化法による公的資金注入の枠組みがあり、AT1債のトリガーを回避できる万全な公的支援が整備されている。) かりにCET1比率が5.125%を下回ってAT1債の元本が一部毀損するような状況になっても、5.125%を上回ることが見込まれる計画書を金融庁に提出し、金融庁の承認を得られる場合には、損失吸収事由は発生しなかったものとみなす契約にもなっている。 要は、金融庁に裁量があり、ある当局関係者は「AT1債の元本が毀損すると市場の不安を招いてしまう。いざとなったら公的資金の注入によって資本を回復させて、元本を毀損させない手段を取る可能性が高いだろう」と見通す』、「金融庁に裁量があり、ある当局関係者は「AT1債の元本が毀損すると市場の不安を招いてしまう。いざとなったら公的資金の注入によって資本を回復させて、元本を毀損させない手段を取る可能性が高いだろう」と見通す」、これでは「AT1債」の意味がなくなってしまう。
・『リーマンショックの教訓はどこへ そもそもAT1債などが導入された自己資本比率規制の「バーゼル3」で、銀行の自己資本の質を大幅に強化したのはリーマンショックの教訓によるものだ。 リーマンショックでは、欧米の金融機関に対して公的資金の注入が行われたが、既存の投資家が損失を負うことなく、公的資金を通じて国民に負担を求めた。金融機関が破綻する前に投資家に損失吸収を求めるAT1債の仕組みは、最後は公的資金で救済してもらえると考える金融機関と投資家のモラルハザードを抑制することが狙いだ。 日本がAT1債のトリガーを引きたくないという理由で公的資金を注入するようなことがあれば、バーゼル3の精神からは外れたものと言え、損失吸収力の弱さから資本性にも疑念が生じかねない。 また、AT1債は発行から5年目以降に繰り上げ償還(コール)が可能になっており、「投資家はコールを前提に買っている」(債券アナリスト)とされる。コールしなければ市場の信任を失うため、金融機関も何とかしてコールしようとする。今後の金利上昇後にコールして再び高い金利でAT1債を借り換えることになれば、社外流出が大きくなる分だけ自己資本の弱体化につながる。こうしたAT1債がTier1資本として本当に妥当なのか。いま一度検証する必要がある』、「日本がAT1債のトリガーを引きたくないという理由で公的資金を注入するようなことがあれば、バーゼル3の精神からは外れたものと言え、損失吸収力の弱さから資本性にも疑念が生じかねない・・・AT1債は発行から5年目以降に繰り上げ償還(コール)が可能になっており、「投資家はコールを前提に買っている」(債券アナリスト)とされる。コールしなければ市場の信任を失うため、金融機関も何とかしてコールしようとする。今後の金利上昇後にコールして再び高い金利でAT1債を借り換えることになれば、社外流出が大きくなる分だけ自己資本の弱体化につながる。こうしたAT1債がTier1資本として本当に妥当なのか。いま一度検証する必要がある」、その通りだ。
先ずは、昨年9月4日付け東洋経済オンライン「SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/699113
・『「いよいよ来たか」。あるネット証券関係者は業界大手2社の発表を聞きつぶやいた。それはネット証券の地殻変動の号砲となるものだった。 最大手のSBI証券は8月31日、オンラインでの国内株式売買の手数料を9月30日発注分から無料にすると発表した。取引報告書などの各種交付書面を電子交付にすることが条件だが、ほとんどの利用者が手数料ゼロで日本株取引をできるようになる。 対抗するように同日、2位の楽天証券も10月2日約定分から国内株式の取引手数料無料コースを新設すると発表した。ネット証券の上位2社がそろって手数料無料化に踏み込んだことで、顧客の囲い込み競争は一層熱をおびることは間違いない』、「SBI証券」に続いて、「楽天証券」も「手数料無料化に踏み込んだ」とは競争が一段と激化することになる。
・『楽天証券の追随には驚き SBI証券の親会社であるSBIホールディングス(HD)の北尾吉孝会長兼社長は、2022年11月の決算説明会で「来年度(2023年度)の上半期にはオンラインの国内株式取引の売買手数料無料化を図る」と、発言していた。それ以来、予定通りの無料化は可能なのか、関係者は固唾をのんで見守っていた。結局、公約通りの時期に無料化を実施することになった。 1年前の段階で、無料化方針を打ち出したにもかかわらず、具体的なプランの発表は実施1カ月前にずれ込んだ。その理由を広報担当は、「大量の顧客増が見込まれ、システム対応などを万全にするよう準備した結果」と説明する。 衝撃を与えたのは、ライバルである楽天証券も同じタイミングで無料化に踏み込んだことだ。楽天グループの傘下にあり、楽天証券や楽天投信投資顧問などを抱える楽天証券HDは7月に東証へ上場申請をしている。 「この時期に無料化という大きな方針転換はできないのではないか」(大手証券幹部)という見方もあった。楠雄治社長は直前まで「検討はしているが、決まったことは何もない」と説明していたが、内部では着々と準備に動いていた。 個人の株取引において、2社の存在感は圧倒的だ。東証における個人の売買代金のうち、2022年度でSBI証券が占める割合は43.7%、楽天証券も33.5%ある(ETFやREIT含む)。この売買にかかる手数料が無料になれば日本市場の活性化にもつながる可能性がある。 折しも岸田政権が「資産運用立国」を掲げ、2024年1月からは新NISA(少額投資非課税制度)が始まるなど、個人の株式投資活発化に対する期待は高い。 SBI証券は8月31日のリリースで「『ゼロ革命』(国内株式売買手数料無料化)の意義は、『証券投資の大衆化』にあります」と説明。「『貯蓄から投資へ』の流れを加速し、広く国民一般の証券市場への積極的な参加を促進できるものと期待」すると謳った』、「SBI証券は8月31日のリリースで「『ゼロ革命』・・・の意義は、『証券投資の大衆化』にあります」と説明。「『貯蓄から投資へ』の流れを加速し、広く国民一般の証券市場への積極的な参加を促進できるものと期待」すると謳った」、いかにも「SBI証券」らしい。
・『路線修正を迫られた松井証券 こうした動きに対し、ほかのネット証券各社もすぐさま反応した。ある関係者は「黙って指をくわえて見ているわけにはいかない」と話す。 SBI証券、楽天証券に次ぐ規模を誇る松井証券は来年始まる新NISAでの日本株、米国株、投資信託の売買手数料を無料化すると発表した。 和里田聰社長はかねて「無料化には追随しない」と宣言。独自の情報提供やサポート体制を充実することで顧客をつなぎ止めることに注力してきた。しかし、路線の修正を迫られた。 松井証券は営業収益に占める株式委託手数料の割合が46%(2023年4~6月期)と高い。すべての手数料を無料にはできないものの、SBIの動きを看過できないという姿勢をにじませた。 マネックス証券もNISA対象の国内株売買手数料の無料化など現在行っている施策を今後も継続することや、米国株取引のサービス強化などをアピールするリリースを発表。現時点で手数料無料化に追随するとはしなかったものの、今後の検討課題になっている。 手数料無料化が経営に与える影響は重大だ。株取引の委託手数料は証券会社の収益にとって最も重要な柱のひとつでもある。) SBI証券の場合、2023年4~6月期の国内株式取引委託手数料は64億円だった。1年間同じ成績だったとすると250億円程度の収益だ。この分の収益がなくなる一方、システム維持コストなどは引き続きかかるため、減収分がそのまま利益の押し下げ圧力になる。 こうした衝撃を和らげるため、投資信託や外国株、FXなど収益源の多様化を進めてきた。さらには親会社であるSBIHDが銀行や資産運用など多くの事業を抱えている。 こうしたことから、本来ならば痛手となる「無料化」に踏み切れた。実際、SBIHDの年間利益予想は非開示だが、無料化を前提にしても少なくとも2024年3月期は前期並みの税前利益(IFRS)を確保できる見通しだ』、「SBI証券の場合」、「国内株式取引委託手数料、「年間」、「250億円程度」「がなくなる一方、システム維持コストなどは引き続きかかるため、減収分がそのまま利益の押し下げ圧力になる。 こうした衝撃を和らげるため、投資信託や外国株、FXなど収益源の多様化を進めてきた。さらには親会社であるSBIHDが銀行や資産運用など多くの事業を抱えている」、なるほど。
・『楽天証券HDの公開価格に影響懸念 一方の楽天証券。同様に収益源の多様化を進めており、2023年1~6月期の収益に占める国内株式委託手数料は17.4%。 具体的な金額は非開示だが、この間の営業収益が540億円なので約94億円程度、年間の手数料収入は190億円程度になる計算だ。プラン選択により、一部手数料収入が残るが、その多くが無料化でゼロになる。 (SBI証券の委託手数料収入の比率はリンク先参照) (楽天証券の委託手数料収入の比率はリンク先参照) さらに楽天証券は悩ましい固有の事情を抱えている。先述したように、楽天証券HDが東証への上場手続きの真っ最中である点だ。「楽天証券として大きな減収が避けられない中、思うような株価で上場できないのではないか」。ある業界関係者はそう分析する。 親会社の楽天グループは、上場にあたって 放出する楽天証券HD株に一定水準の株価がつくことを期待している。楽天証券の手数料無料化による業績影響を織り込んで、株価が期待より低くなれば、楽天グループが手にする資金はその分だけ減る。 「モバイル事業に是が非でも資金を手にしたい楽天グループにとっては痛手になるはずだ」。前出の関係者はそう語る。 また、楽天証券にはみずほ証券が2022年11月、800億円で約20%出資している。楽天証券の収益が大きく下がれば、みずほ証券の出資分の価値が損なわれることになる。 それらの懸念を払拭するためには、楽天証券が単独かつ短期で収益を上向かせる「秘策」を練り上げなくてはならない。ただでさえ、ポイント制度の改正などの影響で新規口座数の伸びが鈍化している。2023年1~6月の新規口座数は60.9万口座。前年同期比で33.6%マイナスの状況だ。 手数料無料化で最も追い込まれたのは楽天証券かもしれない』、「楽天証券HDが東証への上場手続きの真っ最中」、「楽天証券の手数料無料化による業績影響を織り込んで、株価が期待より低くなれば、楽天グループが手にする資金はその分だけ減る。 「モバイル事業に是が非でも資金を手にしたい楽天グループにとっては痛手になるはずだ」、
「手数料無料化で最も追い込まれたのは楽天証券かもしれない」、なるほど。
次に、本年1月17日付け東洋経済オンライン「SBI証券「IPO初値操作」の処分が残した2つの宿題 「顧客の取引に影響はない」では済まされない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/727978
・『IPO(新規株式公開)をめぐる歪みと大きな課題が明らかになった。 金融庁は1月12日、ネット証券最大手のSBI証券に対し、金融商品取引法に基づく業務停止処分を行った。IPO銘柄に関し、勧誘を伴う上場日の売買受託業務を1月18日まで禁止する。さらに、経営陣を含む責任の明確化を図ったうえで業務改善計画を作り、2月13日までに提出することを求めた。 SBI証券は1月12日、「今後、より一層の内部管理体制の強化・充実を図り、再発の防止ならびに皆さまの信頼回復に向けて努める」とコメントを発表した』、「SBI証券」のコメントは型通りだ。
・『初値の公募価格割れを防ぐため 今回の行政処分は、昨年12月15日に証券取引等監視委員会が公表した勧告に基づく。監視委の検査結果によると、SBI証券は2020年12月から2021年9月にかけてIPO主幹事を務めた3銘柄の上場初日の株価が公募価格を下回らないように作為的な相場形成を行っていた。 具体的には、引き受け業務を担当する常務取締役と営業を担当する役員が、上場日に予想される売り注文に見合う数量の買い注文を設定。海外の機関投資家9社とIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を通じて勧誘した一般投資家174名に公募価格指し値での注文を行わせた。これによって上場日の初値が公募価格割れするのを防いだ。 1週間の業務停止処分となったが、SBI証券の業績への影響はほとんどないのが現実だ。対象となるのはIPO銘柄の上場日における売買受託業務で、通常の株取引は対象外。そもそもこの期間に新規上場する銘柄はない。) SBI証券は「業務停止命令の結果、お客さまのお取引に直接の影響が及ぶことはございません」とした。IPO引き受け業務に関しても、公開価格を決定するために行うヒアリングなどの業務は売買の受託業務ではないため、制限を受けない。 金融庁は「(業務停止期間に)たしかにIPOはないかもしれないが、準備なり作業なりはある。しっかり業務を停止して考えてほしい」とする。またこのタイミングでの処分になったことについては、監視委の勧告からおおむね1カ月以内に行政処分を下す必要があるとした。1週間という業務停止期間も過去の事例と比べて「長くも短くもない期間」だという。 SMBC日興証券による株価操縦事件の際に出た業務停止3カ月と比べると、期間はかなり短く見える。ただ、SMBC日興のように証券会社が直接注文を入れたものではなく、今回は金融商品取引業者が顧客の注文を受けた行為を処分しており、1週間という期間は妥当との判断だ』、「引き受け業務を担当する常務取締役と営業を担当する役員が、上場日に予想される売り注文に見合う数量の買い注文を設定。海外の機関投資家9社とIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を通じて勧誘した一般投資家174名に公募価格指し値での注文を行わせた。これによって上場日の初値が公募価格割れするのを防いだ」、なるほど。
・『主幹事証券が担う役割とは 今回の処分は、証券業界が抱えるいくつかの課題を浮き彫りにした。 ひとつは、IPOをめぐる問題だ。新規公開の銘柄は初値が公募価格を上回ることへの期待が大きく、個人投資家からの人気が高い。そのため購入が抽選になることも多い。 一方で、中小型の銘柄を中心に、過大評価された株価がついてしまい、上場後に株価が低迷してしまうケースもある。そもそも事業として上場すべき段階まで成長していないのにIPOへと突き進むことも多いとの批判は根強い。ベンチャーキャピタルなどによるほかの資金調達手段が日本ではまだ発展途上であることが背景にある。 そうした上場予定の企業に対して、上場時期を遅らせたり、適切な公募価格を設定したりすることも主幹事証券会社の役割のひとつだ。ところが、「SBI証券はシェア獲得を急ぐばかりに、ルールを逸脱した行為に走ってしまったのだろう」。ある証券会社幹部はそう指摘する。 SBI証券は口座数が1100万を超え、ネット証券では最大手の地位を盤石なものにしている。ただ、個人の株取引以外の分野では追いかける立場だ。 市場情報を提供するLSEGによると、SBI証券は2023年の国内IPO引受金額のランキングで7位。首位のSMBC日興証券や2位の野村証券と比べると2倍以上の開きがある。 (2023年のIPO引受金額ランキングはリンク先参照) だが件数では、SMBC日興や野村と同じ19件。その分小型のIPOを数多く引き受けたことになる。) 主幹事を担ったIPO銘柄の初値が公募価格割れになると、評判を落とすことになる。追いかける立場であるSBI証券はこれを避けたかったという思惑が今回の不祥事を招いたとも言えそうだ。 証券業界内からは、「初値が公募価格を上回らなければ損をする人が出る。しかもその大半は個人投資家。SBI証券としては何とか支えただけ。そうまでしないとIPO市場は盛り上がらない」という“本音”も聞こえる。 ただ、IPOに対する投資家の信頼を損ねることになれば、日本の資本市場のあり方から問われる事態となる。日本証券業協会も巻き込んだ制度見直しも進んでいるさなか、今回の処分からどのような教訓を引き出すのかが重要だ』、「初値が公募価格を上回らなければ損をする人が出る。しかもその大半は個人投資家。SBI証券としては何とか支えただけ。そうまでしないとIPO市場は盛り上がらない」という“本音”も聞こえる。 ただ、IPOに対する投資家の信頼を損ねることになれば、日本の資本市場のあり方から問われる事態となる。日本証券業協会も巻き込んだ制度見直しも進んでいるさなか、今回の処分からどのような教訓を引き出すのかが重要だ」、その通りだ
・『IFAに独立性はあったのか 別の課題もある。SBI証券からの依頼を受けて一般投資家にこれらの銘柄を買うように勧誘したIFAの問題だ。 IFAのIはIndependent(独立)の頭文字であるとおり、特定の証券会社に所属せずに独立・中立の立場で顧客に資産運用の提案を行う。実際の取引は証券会社を通じて行うため、IFAは証券会社と契約し顧客の取引内容を伝達。それに応じた報酬を手にする。 IFAは営業ノルマや証券会社の方針に縛られず、顧客が本当に必要とする資産運用を提案できることが強みのはずだった。ところが今回の件は、顧客に損失をもたらす可能性のある取引を勧誘しており、顧客本位の業務運営とは言えない。 IFAはSBI証券の依頼に唯々諾々と応じたのかが焦点となる。この点は、金融庁の処分や監視委の説明では明らかにされなかった。関わったIFAは3社だが、その具体名は公表しなかった。 2024年から新NISA(少額投資非課税制度)が始まるなど、個人の証券取引が活発化する機運は高まっている。岸田政権の掲げる「資産運用立国」でも、顧客本位の業務運営の確保は最重要課題のひとつだ。IFAも今回の件から改善すべき点がないか検討する必要がある。 2月にSBI証券が提出する予定の業務改善計画がどのようなものになるか。実効性が確保されるようにするために、二人三脚で取り組む金融庁にも重い宿題を残した結果になった』、「IFAは営業ノルマや証券会社の方針に縛られず、顧客が本当に必要とする資産運用を提案できることが強みのはずだった。ところが今回の件は、顧客に損失をもたらす可能性のある取引を勧誘しており、顧客本位の業務運営とは言えない。 IFAはSBI証券の依頼に唯々諾々と応じたのかが焦点となる・・・関わったIFAは3社だ・・・岸田政権の掲げる「資産運用立国」でも、顧客本位の業務運営の確保は最重要課題のひとつだ。IFAも今回の件から改善すべき点がないか検討する必要がある」、その通りだ。
第三に、7月5日付け東洋経済オンライン「録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか」を紹介しよう。
・『昨年3月に全額が毀損したクレディ・スイスのAT1債をめぐり、債券を販売した三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対して、新たに14人の投資家が13億6588億円の損害賠償を求めて東京地裁に集団訴訟を起こした。 6月28日に提訴した今回の訴訟は、2023年8月と12月に続く第3弾となる。これで三菱UFJモルガンを訴えた原告の数は106人に上り、賠償請求金額は82億9974万円に拡大した。代理人弁護士の山崎大樹氏は「日本でこれほど多くの投資家が、この規模の損害賠償額を求めて証券会社を提訴するのは過去に例がないのでは」と話す』、「原告の数は106人に上り、賠償請求金額は82億9974万円に」、確かに大規模な訴訟のようだ。
・『CET1のことしか「聞いてないです」 クレディ・スイスのAT1債は国内で約1400億円が販売され、そのうち三菱UFJモルガンが7割弱に相当する約950億円を販売していた。5月13日には、全額毀損後に録音された三菱UFJモルガンの営業担当者と顧客による複数の会話のやり取りが、原告側から新たな証拠として提出されている。 そのやり取りを見ると、三菱UFJモルガンの営業担当者が商品性を正しく理解することなくクレディ・スイスのAT1債を販売していた疑いが浮かび上がる』、金融取引でリスクの移転が認められるには、売り手がリスクを正しく説明したことが、前提となるので、売り手の説明責任が重視される。
・『顧客「CET1のことしか聞いてないでしょう」 営業「聞いてないです」(顧客「(特殊性のあるAT1債だというのを)営業さんの方に当然伝わってないでしょ、そういう話」 営業「そこまでは伝わってないです」 顧客「営業としてはそれを知らずに『大丈夫だろう』としてお勧めしてたと。でなきゃモルガンさんだけであれだけの金額売らないでしょう」 営業「売らないですね」) 会話の中で顧客が言う「CET1」とは、「普通株式等Tier1」と呼ばれる銀行の中核的な自己資本のことだ。AT1債は、銀行が破綻する前の段階で投資家が損失を負う仕組みで、少なくともCET1比率が5.125%を下回ったら、元本の毀損か、株式に転換される商品性であることが求められる。クレディ・スイスのAT1債は「CET1比率が7%を下回った場合」に元本が全額毀損する仕組みになっていた。 ただし、クレディ・スイスのAT1債は、破綻前に元本が毀損するトリガーはこれだけではなく、「企業存続事由」も定められていた。具体的には、規制当局が発行者の破綻を防ぐために公的部門の特別支援が不可欠だと判断し、その支援を発行者が受け入れた際も元本が全額毀損する。 クレディ・スイスのAT1債は、この企業存続事由のトリガーがヒットして元本が全額毀損した訳だが、会話のやり取りからは、営業担当者がCET1比率のことしか認識していなかったことが読み取れる。 代理人の山崎弁護士によれば「企業存続事由について三菱UFJモルガンの営業から説明を受けたと話す原告は1人もいない」と言う』、「代理人の山崎弁護士によれば「企業存続事由について三菱UFJモルガンの営業から説明を受けたと話す原告は1人もいない」と言う」、これは酷い。
・『公的支援アナウンス後も販売を継続 それどころか、必要があればクレディ・スイスに「流動性を供給する」という、スイス当局からトリガー事由となるアナウンスがあった2023年3月15日以降も、三菱UFJモルガンはクレディ・スイスのAT1債を販売し続けた。AT1債が全額毀損したのは、そのわずか4日後。この間にAT1債を購入した顧客も原告に含まれている。三菱UFJモルガンが組織として企業存続事由を把握できていたのかさえも問われそうだ。 ほかにも、この期間にアドバイスを求めた顧客に対して、「今回は資本注入ではなく、流動性供給ですので今のところ問題ございません」とメールで回答している。また、録音データには、トリガー事由となる公的支援のアナウンスを、営業担当者がポジティブ材料として受け取っていた会話のやり取りもある。) 山崎弁護士は「三菱UFJモルガン側が商品性を正しく認識できていなかったことは明らか。商品の複雑性やリスクの高さを誤って認識していたのだから、説明義務違反などに加えて適合性の判断も正しく行われていなかった」と主張する。 一方、三菱UFJモルガンの広報担当者は「第3次提訴の訴状を確認していないのでコメントは差し控える」とし、「当社の主張については裁判の中で明らかにしていく」と話す。 最終的に和解に至る可能性もあるが、早期に和解すると提訴する人が次々に出てきてしまう。元本削減を知った時点から3年で時効となるため、和解の場合であっても時効ギリギリまで裁判が長引くとみられる』、「スイス当局からトリガー事由となるアナウンスがあった2023年3月15日以降も、三菱UFJモルガンはクレディ・スイスのAT1債を販売し続けた。AT1債が全額毀損したのは、そのわずか4日後。この間にAT1債を購入した顧客も原告に含まれている。三菱UFJモルガンが組織として企業存続事由を把握できていたのかさえも問われそうだ」、信じられないようなお粗末さだ。
・『日本で蔓延するモラルハザード クレディ・スイスのようにリスクが極めて高いAT1債がある一方で、日本の金融機関が発行するAT1債はトリガーが引かれるリスクは小さいと考えられている。クレディ・スイスの問題以降も日本のメガバンクが立て続けにAT1債を発行し、投資家から絶大な支持を集めているのは、このリスクの小ささ故だ。地銀の群馬銀行までもが今年1月に2.244%の低コストでAT1債を発行している。 そして最も懸念されるのは、日本のこうした実態が、投資家と金融機関の双方に「モラルハザード」をもたらすことだ。 日本のAT1債にも2つのトリガーがある。1つは、CET1比率が5.125%を下回ったら、その資本度合いに応じて元本が削減される「損失吸収事由」。もう1つは、預金保険法に基づき「預金等の全額保護」や「一時国有化」などが行われる第2号措置、第3号措置、特定第2号措置が発動された場合の「実質破綻事由」だ。 クレディ・スイスのAT1債を全額毀損させた企業存続事由のトリガーを日本の破綻処理枠組みに当てはめると、かつてりそな銀行を救済した際に使われた第1号措置または特定第1号措置が該当すると考えられる。だが、これらが発動されても日本のAT1債はトリガー事由にならない。つまり、事実上破綻を回避する目的で公的資金による資本増強や流動性の供給といった公的支援を受けても、日本ではAT1債の元本が毀損しない商品性になっている。 さらに、日本には預保法の救済スキーム以外にも、金融機能強化法による公的資金注入の枠組みがあり、AT1債のトリガーを回避できる万全な公的支援が整備されている。) かりにCET1比率が5.125%を下回ってAT1債の元本が一部毀損するような状況になっても、5.125%を上回ることが見込まれる計画書を金融庁に提出し、金融庁の承認を得られる場合には、損失吸収事由は発生しなかったものとみなす契約にもなっている。 要は、金融庁に裁量があり、ある当局関係者は「AT1債の元本が毀損すると市場の不安を招いてしまう。いざとなったら公的資金の注入によって資本を回復させて、元本を毀損させない手段を取る可能性が高いだろう」と見通す』、「金融庁に裁量があり、ある当局関係者は「AT1債の元本が毀損すると市場の不安を招いてしまう。いざとなったら公的資金の注入によって資本を回復させて、元本を毀損させない手段を取る可能性が高いだろう」と見通す」、これでは「AT1債」の意味がなくなってしまう。
・『リーマンショックの教訓はどこへ そもそもAT1債などが導入された自己資本比率規制の「バーゼル3」で、銀行の自己資本の質を大幅に強化したのはリーマンショックの教訓によるものだ。 リーマンショックでは、欧米の金融機関に対して公的資金の注入が行われたが、既存の投資家が損失を負うことなく、公的資金を通じて国民に負担を求めた。金融機関が破綻する前に投資家に損失吸収を求めるAT1債の仕組みは、最後は公的資金で救済してもらえると考える金融機関と投資家のモラルハザードを抑制することが狙いだ。 日本がAT1債のトリガーを引きたくないという理由で公的資金を注入するようなことがあれば、バーゼル3の精神からは外れたものと言え、損失吸収力の弱さから資本性にも疑念が生じかねない。 また、AT1債は発行から5年目以降に繰り上げ償還(コール)が可能になっており、「投資家はコールを前提に買っている」(債券アナリスト)とされる。コールしなければ市場の信任を失うため、金融機関も何とかしてコールしようとする。今後の金利上昇後にコールして再び高い金利でAT1債を借り換えることになれば、社外流出が大きくなる分だけ自己資本の弱体化につながる。こうしたAT1債がTier1資本として本当に妥当なのか。いま一度検証する必要がある』、「日本がAT1債のトリガーを引きたくないという理由で公的資金を注入するようなことがあれば、バーゼル3の精神からは外れたものと言え、損失吸収力の弱さから資本性にも疑念が生じかねない・・・AT1債は発行から5年目以降に繰り上げ償還(コール)が可能になっており、「投資家はコールを前提に買っている」(債券アナリスト)とされる。コールしなければ市場の信任を失うため、金融機関も何とかしてコールしようとする。今後の金利上昇後にコールして再び高い金利でAT1債を借り換えることになれば、社外流出が大きくなる分だけ自己資本の弱体化につながる。こうしたAT1債がTier1資本として本当に妥当なのか。いま一度検証する必要がある」、その通りだ。
タグ:資本市場 (その11)(SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択、SBI証券「IPO初値操作」の処分が残した2つの宿題 「顧客の取引に影響はない」では済まされない、録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか) 東洋経済オンライン「SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択」 「SBI証券」に続いて、「楽天証券」も「手数料無料化に踏み込んだ」とは競争が一段と激化することになる。 「SBI証券は8月31日のリリースで「『ゼロ革命』・・・の意義は、『証券投資の大衆化』にあります」と説明。「『貯蓄から投資へ』の流れを加速し、広く国民一般の証券市場への積極的な参加を促進できるものと期待」すると謳った」、いかにも「SBI証券」らしい。 「SBI証券の場合」、「国内株式取引委託手数料、「年間」、「250億円程度」「がなくなる一方、システム維持コストなどは引き続きかかるため、減収分がそのまま利益の押し下げ圧力になる。 こうした衝撃を和らげるため、投資信託や外国株、FXなど収益源の多様化を進めてきた。さらには親会社であるSBIHDが銀行や資産運用など多くの事業を抱えている」、なるほど。 「楽天証券HDが東証への上場手続きの真っ最中」、「楽天証券の手数料無料化による業績影響を織り込んで、株価が期待より低くなれば、楽天グループが手にする資金はその分だけ減る。 「モバイル事業に是が非でも資金を手にしたい楽天グループにとっては痛手になるはずだ」、 「手数料無料化で最も追い込まれたのは楽天証券かもしれない」、なるほど。 東洋経済オンライン「SBI証券「IPO初値操作」の処分が残した2つの宿題 「顧客の取引に影響はない」では済まされない」 「SBI証券」のコメントは型通りだ。 「引き受け業務を担当する常務取締役と営業を担当する役員が、上場日に予想される売り注文に見合う数量の買い注文を設定。海外の機関投資家9社とIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を通じて勧誘した一般投資家174名に公募価格指し値での注文を行わせた。これによって上場日の初値が公募価格割れするのを防いだ」、なるほど。 「初値が公募価格を上回らなければ損をする人が出る。しかもその大半は個人投資家。SBI証券としては何とか支えただけ。そうまでしないとIPO市場は盛り上がらない」という“本音”も聞こえる。 ただ、IPOに対する投資家の信頼を損ねることになれば、日本の資本市場のあり方から問われる事態となる。日本証券業協会も巻き込んだ制度見直しも進んでいるさなか、今回の処分からどのような教訓を引き出すのかが重要だ」、その通りだ 「IFAは営業ノルマや証券会社の方針に縛られず、顧客が本当に必要とする資産運用を提案できることが強みのはずだった。ところが今回の件は、顧客に損失をもたらす可能性のある取引を勧誘しており、顧客本位の業務運営とは言えない。 IFAはSBI証券の依頼に唯々諾々と応じたのかが焦点となる・・・関わったIFAは3社だ・・・岸田政権の掲げる「資産運用立国」でも、顧客本位の業務運営の確保は最重要課題のひとつだ。IFAも今回の件から改善すべき点がないか検討する必要がある」、その通りだ。 東洋経済オンライン「録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか」 「原告の数は106人に上り、賠償請求金額は82億9974万円に」、確かに大規模な訴訟のようだ。 金融取引でリスクの移転が認められるには、売り手がリスクを正しく説明したことが、前提となるので、売り手の説明責任が重視される。 「代理人の山崎弁護士によれば「企業存続事由について三菱UFJモルガンの営業から説明を受けたと話す原告は1人もいない」と言う」、これは酷い。 「スイス当局からトリガー事由となるアナウンスがあった2023年3月15日以降も、三菱UFJモルガンはクレディ・スイスのAT1債を販売し続けた。AT1債が全額毀損したのは、そのわずか4日後。この間にAT1債を購入した顧客も原告に含まれている。三菱UFJモルガンが組織として企業存続事由を把握できていたのかさえも問われそうだ」、信じられないようなお粗末さだ。 「金融庁に裁量があり、ある当局関係者は「AT1債の元本が毀損すると市場の不安を招いてしまう。いざとなったら公的資金の注入によって資本を回復させて、元本を毀損させない手段を取る可能性が高いだろう」と見通す」、これでは「AT1債」の意味がなくなってしまう。 「日本がAT1債のトリガーを引きたくないという理由で公的資金を注入するようなことがあれば、バーゼル3の精神からは外れたものと言え、損失吸収力の弱さから資本性にも疑念が生じかねない・・・AT1債は発行から5年目以降に繰り上げ償還(コール)が可能になっており、「投資家はコールを前提に買っている」(債券アナリスト)とされる。 コールしなければ市場の信任を失うため、金融機関も何とかしてコールしようとする。今後の金利上昇後にコールして再び高い金利でAT1債を借り換えることになれば、社外流出が大きくなる分だけ自己資本の弱体化につながる。こうしたAT1債がTier1資本として本当に妥当なのか。いま一度検証する必要がある」、その通りだ。
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