金融政策(その49)(山本 謙三氏4題:日銀がついに撤退戦を始めた!植田日銀は 爆買いしてきた長期国債590兆円を波乱なく減らすことが本当にできるのか?、いまの日銀は 「中央銀行としてやってはならないこと」をやりまくっている…「日本が置かれた深刻な状況」の実態、「黒田日銀」は国民に幸福をバラ撒きすぎた…これからやってくるとてつもない「しっぺ返し」、私たちはこれからどんなツケを払うことになるのか…なんと11年に及んだ「異次元緩和」がもたらしたもの) [経済政策]
金融政策については、本年9月16日に取上げた。本日は、(その49)(山本 謙三氏4題:日銀がついに撤退戦を始めた!植田日銀は 爆買いしてきた長期国債590兆円を波乱なく減らすことが本当にできるのか?、いまの日銀は 「中央銀行としてやってはならないこと」をやりまくっている…「日本が置かれた深刻な状況」の実態、「黒田日銀」は国民に幸福をバラ撒きすぎた…これからやってくるとてつもない「しっぺ返し」、私たちはこれからどんなツケを払うことになるのか…なんと11年に及んだ「異次元緩和」がもたらしたもの)である。
先ずは、本年9月27日付け現代ビジネスが掲載した元日銀理事の山本 謙三氏による「日銀がついに撤退戦を始めた!植田日銀は、爆買いしてきた長期国債590兆円を波乱なく減らすことが本当にできるのか?」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/137864
・『パリバリの金融実務家であった私が、わからないことがあれば一番頼りにし、最初に意見を求めたのが山本謙三・元日銀理事です。安倍元総理が、もし彼がブレインに選んでいたら、今の日本経済はバラ色だったに違いない」 元モルガン銀行・日本代表兼東京支店長で伝説のトレーダーと呼ばれる藤巻健史氏が心酔するのが元日銀理事の山本謙三氏。同氏は、「異次元緩和」は激烈な副作用がある金融政策で、その「出口」には途方もない困難と痛みが待ち受けていると警鐘を鳴らす。 黒田日銀は、長期金利をゼロ%程度に抑え込むために、多額の国債買い入れを行った。その結果、日銀の国債保有残高は約590兆円に達し、日銀当座預金残高も、国債買い入れに見合う形で約561兆円に積み上がった(24年3月末時点)。引き継いだ植田日銀は、11年に及んだ異次元緩和を終了し、2024年7月には月間の国債買い入れ額をそれまでの6兆円程度から2026年1〜3月期に3兆円程度に減らす方針も決めた。しかし、計画通りに2年間減額を進めても、日銀がなお500兆円以上を抱えている姿に変わりはなく、市場機能の完全な回復には程遠い。 財政赤字を丸呑みしてきた日銀が市場から徐々に遠ざかれば、長期金利は想定外の上下動を起こすリスクを孕む。はたして、植田日銀は滞りなく、出口戦略を進めることができるのか? ※本記事は山本謙三『異次元緩和の罪と罰』から抜粋・編集したものです』、「黒田日銀は、長期金利をゼロ%程度に抑え込むために、多額の国債買い入れを行った。その結果、日銀の国債保有残高は約590兆円に達し、日銀当座預金残高も、国債買い入れに見合う形で約561兆円に積み上がった(24年3月末時点)。引き継いだ植田日銀は、11年に及んだ異次元緩和を終了し、2024年7月には月間の国債買い入れ額をそれまでの6兆円程度から2026年1〜3月期に3兆円程度に減らす方針も決めた。しかし、計画通りに2年間減額を進めても、日銀がなお500兆円以上を抱えている姿に変わりはなく、市場機能の完全な回復には程遠い。 財政赤字を丸呑みしてきた日銀が市場から徐々に遠ざかれば、長期金利は想定外の上下動を起こすリスクを孕む。はたして、植田日銀は滞りなく、出口戦略を進めることができるのか?』、計画通りに2年間減額を進めても、日銀がなお500兆円以上を抱えている姿に変わりはなく、市場機能の完全な回復には程遠い。 財政赤字を丸呑みしてきた日銀が市場から徐々に遠ざかれば、長期金利は想定外の上下動を起こすリスクを孕む。はたして、植田日銀は滞りなく、出口戦略を進めることができるのか?」、なるほど。
・『資本主義システムをめぐるコルナイの主張 計画経済体制を分析し、その構造的欠陥を解明したハンガリーの経済学者コルナイ・ヤーノシュは、著書の中で、資本主義システムと社会主義システムを比較し、次のように述べている(コルナイ・ヤーノシュ『資本主義の本質について──イノベーションと余剰経済』講談社学術文庫)。 「急速な革新(イノベーション)やダイナミズムは、起こるかもしれないし起こらないかもしれないといったランダムな現象ではなく、資本主義というシステム特有の性質に深く根ざしたものである(中略)その反対に、社会主義システムについても同様のことが言える。偉大な革新的な新製品を作りだせないということやその他の局面での技術進歩が後れることは、政策に誤りがあるからではなく、社会主義というシステム特有の性質に深く根ざしたものである」 第3章で紹介したように、シカゴ大学のラジャン教授は「中央銀行による介入は少ない方が、おそらく良好な結果をもたらすだろう」と述べている。これは、政府や中央銀行といった公的当局の市場介入を極力減らし、民間の新陳代謝を通じて経済の活性化を図る資本主義システムに内在する固有の利点を信じてのことだろう。 日本が計画経済のもとにあるわけではないが、ただでさえ一般政府の債務残高対GDP比率が先進国で断トツに高い国だ。中央銀行のバランスシート規模の拡大は、コルナイの主張する資本主義システムのもつダイナミズムを脅かしているように見えてならない。 日銀のバランスシートを見ると、総資産(=負債・純資産計)は、2013年3月末の約165兆円から2024年3月末には約756兆円まで拡大した。じつに4.6倍である。 他の主要な中央銀行との比較でも、その巨大さが際立つ(図表5-1)。中央銀行の総資産の対GDP比率は、米国FRBの35%、欧州ECBの48%に対し、日銀は127%に達する。異次元緩和が始まる前の同比率は30%台だったので、この間の規模拡大がいかに劇的なものだったかが分かる』、「ハンガリーの経済学者コルナイ・ヤーノシュは、・・・「急速な革新(イノベーション)やダイナミズムは、起こるかもしれないし起こらないかもしれないといったランダムな現象ではなく、資本主義というシステム特有の性質に深く根ざしたものである・・・シカゴ大学のラジャン教授は「中央銀行による介入は少ない方が、おそらく良好な結果をもたらすだろう」と述べている。これは、政府や中央銀行といった公的当局の市場介入を極力減らし、民間の新陳代謝を通じて経済の活性化を図る資本主義システムに内在する固有の利点を信じてのことだろう」、ラジャンの主張では中央銀行は不要というシカゴ学派の極論だ。「一般政府の債務残高対GDP比率が先進国で断トツに高い国だ。中央銀行のバランスシート規模の拡大は、コルナイの主張する資本主義システムのもつダイナミズムを脅かしているように見えてならない。 日銀のバランスシートを見ると、総資産(=負債・純資産計)は、2013年3月末の約165兆円から2024年3月末には約756兆円まで拡大した。じつに4.6倍である。 他の主要な中央銀行との比較でも、その巨大さが際立つ(図表5-1)。中央銀行の総資産の対GDP比率は、米国FRBの35%、欧州ECBの48%に対し、日銀は127%に達する。異次元緩和が始まる前の同比率は30%台だったので、この間の規模拡大がいかに劇的なものだったかが分かる」、なるほど。
・『長短市場金利の抑え込みが市場機能を低下させた 日銀のバランスシートの膨張は、主として大量の国債買い入れの結果である。当初は巨額の資金供給そのものを狙いとして、2016年以降は長期金利をゼロ%程度に抑え込むことを狙いとして、日銀は国債の大量買い入れを続けた。 もし日銀が市場への関与を控え、金利を市場の自由な形成に任せていれば、長期金利はもっと高い水準で推移していたはずだ。これを力ずくで抑え込むために、大量の国債買い入れが必要だった。 前章で述べたように、FRBは、イールド・カーブ・コントロールのアイデアを棄却した。中央銀行としての独立性が脅かされるリスクを警戒してのことだったが、同時に、中央銀行が自らのモデルや理屈に頼って長期金利の水準を固定すると、「結果的に不適切な金利の上限や目標を設定しかねない」ことも危惧していた。逆に、日銀はデフレ脱却の名のもとに、適正水準からの乖離をみずから積極的につくり出しにいった形である。 では、本来、長期金利はどの程度の水準が適正だったと考えられるだろうか。経済学では、長期金利の水準は、長い目で見ると、物価上昇率の将来見通しと実質自然利子率の和に落ち着くと考えられている。 実質自然利子率とは、「引き締め的にも緩和的にも作用しない中立的な実質金利の水準」と定義される。厄介なのは、実質自然利子率が奈辺の水準にあるかは推計に頼るしかないことだ。予想物価上昇率も、人々の見方を外部から測定するのは容易でない。計算式に当てはめるには、不確実な要素が多い。 そこで、ここでは過去の実績値を計算式に当てはめ、長期金利ゼロ%程度という誘導水準が、どれほど適正水準から乖離したものだったかを探ってみたい。実質自然利子率は一定の仮定の下では潜在成長率に等しいとされることを念頭におき、ここでは、実質自然利子率に代えて実質GDP成長率の実績を、また予想物価上昇率に代えて物価上昇率(GDPデフレーターの上昇率)の実績を代入し、長期金利の水準にあたりをつけてみたい。いうまでもなく、実質GDP成長率とGDPデフレーターの上昇率の和は名目GDP成長率にほぼ等しいので、ここでの議論は、十分に長い期間をとれば、長期金利は名目GDP成長率の水準に収れんするとの見方に立脚していることになる。 異次元緩和が始まった2013年度から2022年度までの10年間の名目GDP成長率は、年率プラス1.31%だった。実質GDP成長率が年率プラス0.67%、GDPデフレーター(GDP統計の作成に利用する物価)の上昇率が年率プラス0.64%である。この式に従えば、2013年時点での10年物国債の長期金利は1%台半ば近くに適正値があったと推定される。この10年は、好景気も、新型コロナの感染拡大に伴う景気停滞期も含むため、その後の期間も、長期金利の適正値は1%台半ば周辺から大きくかけ離れることはなかっただろう。にもかかわらず、日銀は現実の長期金利をゼロ%程度に抑え込み続けた。それだけ強烈な金融緩和であったといえるし、それだけ市場機能を低下させたともいえる。 こうした国債金利の極端な抑え込みは、他の金融市場にも波及した。超低水準の国債金利を眺め、投資家は少しでも高い金利を得ようと社債市場に殺到し、社債金利も大幅に低下した。貸出市場でも、貸出金利が低下した。 社債金利や貸出金利に織り込まれている信用スプレッド(国と企業の信用力の差を表すもの)も、日銀による国債金利抑え込みを眺めた投資の殺到で大幅に縮小した。 こうした影響は金融市場にとどまらず、実体経済に波及し、国や企業、家計の経済活動にも影響した。日銀にすれば需要の拡大を狙った金融緩和の効果浸透であり、市場から見れば、歯止めを失った国債発行や生産性の低い企業の生き残りに象徴される市場機能のゆがみの伝播である』、「十分に長い期間をとれば、長期金利は名目GDP成長率の水準に収れんするとの見方に立脚していることになる。 異次元緩和が始まった2013年度から2022年度までの10年間の名目GDP成長率は、年率プラス1.31%だった。実質GDP成長率が年率プラス0.67%、GDPデフレーター・・・の上昇率が年率プラス0.64%である。この式に従えば、2013年時点での10年物国債の長期金利は1%台半ば近くに適正値があったと推定される。この10年は、好景気も、新型コロナの感染拡大に伴う景気停滞期も含むため、その後の期間も、長期金利の適正値は1%台半ば周辺から大きくかけ離れることはなかっただろう。にもかかわらず、日銀は現実の長期金利をゼロ%程度に抑え込み続けた。それだけ強烈な金融緩和であったといえるし、それだけ市場機能を低下させたともいえる」、なるほど。
・YCCの修正が意味したもの ひとつ留意しておきたいのは、日銀が、2024年の異次元緩和解除までの間、イールド・カーブ・コントロール(YCC)における長期金利の変動幅を数次にわたり変更していることである。とくに2022年12月の変動幅拡大は、市場に大きな変動をもたらしたので、そのロジックにも触れておきたい。 日銀が長期金利の変動幅を±0.25%から±0.5%に拡大する直前の年限別イールド・カーブ(利回り曲線)を描くと、10年物金利だけが突出して低水準だったことが分かる(図表5-2の2022年12月19日のカーブ)。日銀が10年物金利に狙いを定めて長期金利のコントロールを続けていた結果である。 一方、それ以外の年限の国債金利は、世界的な物価の上昇を受けたグローバルな金利の上昇にひきずられるかたちで、じわじわと上がっていた。その結果、イールド・カーブに極端なゆがみが生まれた。 このゆがみは、社債市場にも波及し、低金利の社債に買い手がつかなくなり、多くの社債発行が難しくなった。2022年12月に日銀が変動幅拡大に踏み切ったのは、イールド・カーブのゆがみを是正し、社債発行の環境を整えようとするものだった。 ただし、10年物金利が突出して低かったにせよ、イールド・カーブ・コントロールのために行ってきた大量の国債購入は、多かれ少なかれ、すべての年限、すなわちイールド・カーブ全体にゆがみをもたらしていた。22年12月の10年物金利の上限を小幅に引き上げるだけではイールド・カーブのゆがみは解消されなかった。日銀に残された選択肢は、すべての年限を抑え込んで政策の一貫性を保つか、市場の自由な形成にゆだねるかしかなかった。 実際、22年12月の日銀は、10年物金利の変動幅を拡大する一方で、他の年限の金利の上昇を牽制する手段を講じ、市場に介入する姿勢をむしろ強めた。一方、23年4月に発足した植田日銀は、7月、10月と、長期金利の変動幅を2度拡大したあと、24年3月にイールド・カーブ・コントロールを撤廃した。要は、市場機能のゆがみをこれ以上放置できなくなったということである。 それでも、現状は市場機能を完全に回復するに至ったわけではない。長期金利の完全な機能回復とは、日銀が金利の決定を市場に委ね、長期金利の形成に原則として介入しない状態に移るときである。24年7月、日銀は当面2年間の国債買い入れの減額を決めたが、2年後も、事実上中途売却できない長期国債を500兆円以上抱えている姿に変わりはなく、市場機能の完全な回復には程遠い。一方で、長く、強烈な金利抑え込みを続けてきた以上、日銀が市場から完全に遠ざかれば、金利は思わぬ上下動を示しかねない。日銀は慎重なステップを踏まざるをえず、長期金利の完全な機能回復には時間を要する。 *本記事の抜粋元・山本謙三『異次元緩和の罪と罰』(講談社現代新書)では、異次元緩和の成果を分析するとともに、歴史に残る野心的な経済実験の功罪を検証しています。2%の物価目標にこだわるあまり、本来、2年の期間限定だった副作用の強い金融政策を11年も続け、事実上の財政ファイナンスが行われた結果、日本の財政規律は失われ、日本銀行の財務はきわめて脆弱なものになりました。これから植田日銀は途方もない困難と痛みを伴う「出口」に歩みを進めることになります。異次元緩和という長きにわたる「宴」が終わったいま、私たちはどのようなツケを払うことになるのでしょうか』、「24年7月、日銀は当面2年間の国債買い入れの減額を決めたが、2年後も、事実上中途売却できない長期国債を500兆円以上抱えている姿に変わりはなく、市場機能の完全な回復には程遠い。一方で、長く、強烈な金利抑え込みを続けてきた以上、日銀が市場から完全に遠ざかれば、金利は思わぬ上下動を示しかねない。日銀は慎重なステップを踏まざるをえず、長期金利の完全な機能回復には時間を要する・・・事実上の財政ファイナンスが行われた結果、日本の財政規律は失われ、日本銀行の財務はきわめて脆弱なものになりました。これから植田日銀は途方もない困難と痛みを伴う「出口」に歩みを進めることになります。異次元緩和という長きにわたる「宴」が終わったいま、私たちはどのようなツケを払うことになるのでしょうか」、なるほど。
次に、10月7日付け現代ビジネスが掲載した元日銀理事の山本 謙三氏と元モルガン銀行・日本代表兼東京支店長の藤巻 健史氏の対談「いまの日銀は、「中央銀行としてやってはならないこと」をやりまくっている…「日本が置かれた深刻な状況」の実態」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/138655
・『「バリバリの金融実務家であった私が、わからないことがあれば一番頼りにし、最初に意見を求めたのが山本謙三・元日銀理事です。安倍元総理が、もし彼がブレインに選んでいたら、今の日本経済はバラ色だったに違いない」 元モルガン銀行・日本代表兼東京支店長で伝説のトレーダーと呼ばれる藤巻健史氏が心酔するのが元日銀理事の山本謙三氏だ。同氏は、「異次元緩和」は激烈な副作用がある金融政策で、その「出口」には途方もない困難と痛みが待ち受けていると警鐘を鳴らす。 2024年9月17日講談社現代新書より山本氏初の本格的著作となる『異次元緩和の罪と罰』が刊行された。これを記念して、著者である山本氏と藤巻氏が、異次元緩和の功罪を検証する対談を行った。 現代ビジネスでは、その対談の内容を3本の動画に分割して公開する。第2回目は、「異次元緩和がもたらした財政規律の緩み」について議論する。 以下、対談の要旨を掲載する(Qは聞き手である藤巻氏の質問)』、興味深そうだ。
・『守るべきルールをことごとく破った Q:異次元緩和は、伝統的な金融論で守るべきルールをことごとく破ったといわれます。なかでも、膨大な長期国債を大量に市場から買い入れる政策は、世界最悪レベルの借金大国の日本にとって都合の良い政策でした。日銀が国債を爆買いすることによって、財政規律が弛緩したと言われますが、山本さんはどのように分析されますか? (山本謙三氏の略歴はリンク先参照) 山本:世界の多くの国、ほとんどの国と言ってもいいと思いますが、中央銀行が国債を引き受ける財政ファイナンスを禁止しています。それは財政規律を維持するための「人類の知恵」で、そのようなことをしたら、通貨の信認を失い、将来的には非常に高いインフレが必ず起きるからです。 日本でも財政法で国債の日銀引受が禁止されています。その一方で、黒田日銀は、物価目標を実現するための政策として資金の大量供給を決めました。「物価目標2%を何が何でも実現する」という異次元緩和の政策枠組みの中で、日銀は、市場にサプライズを与えるほどの巨額の国債を市場から買い入れました。政府が発行した国債を直接引き受けたわけではありませんでしたが、市中に出回る国債をほとんど買い入れてきたというのが実態です。 左の棒グラフをご覧ください。異次元緩和が始まる直前の2013年3月末の日銀の保有国債残高は、約125兆円でしたが、これが10年後の2023年3月末には、約5倍の約582兆円になっています。この間、日銀の保有国債は一挙に456兆円も増えています。実はこの額は、この期間の新規国債の発行額480兆円に匹敵します。いうなれば、日銀が、財政赤字のほとんどの資金繰りの面倒をみたという状態ですので、政府にしてみれば、金利ゼロで国債がいくらでも発行できる状況になりました。このような状態では、国にも財政赤字を減らそうというインセンティブが働きません。もちろん、財政規律は国に一義的な責任があるわけですが、日銀が財政規律の働きにくい環境を作ったということは間違いありません』、「世界の多くの国、ほとんどの国と言ってもいいと思いますが、中央銀行が国債を引き受ける財政ファイナンスを禁止しています。それは財政規律を維持するための「人類の知恵」で、そのようなことをしたら、通貨の信認を失い、将来的には非常に高いインフレが必ず起きるからです。 日本でも財政法で国債の日銀引受が禁止されています。その一方で、黒田日銀は、物価目標を実現するための政策として資金の大量供給を決めました。「物価目標2%を何が何でも実現する」という異次元緩和の政策枠組みの中で、日銀は、市場にサプライズを与えるほどの巨額の国債を市場から買い入れました。政府が発行した国債を直接引き受けたわけではありませんでしたが、市中に出回る国債をほとんど買い入れてきたというのが実態です。 左の棒グラフをご覧ください。異次元緩和が始まる直前の2013年3月末の日銀の保有国債残高は、約125兆円でしたが、これが10年後の2023年3月末には、約5倍の約582兆円になっています。この間、日銀の保有国債は一挙に456兆円も増えています。実はこの額は、この期間の新規国債の発行額480兆円に匹敵します。いうなれば、日銀が、財政赤字のほとんどの資金繰りの面倒をみたという状態ですので、政府にしてみれば、金利ゼロで国債がいくらでも発行できる状況になりました」、なるほど。
・『財政ファイナンスそのもの 藤巻:『異次元緩和の罪と罰』のなかで、山本さんは「財政ファイナンスに酷似した」と書かれましたが、私は、まさに財政ファイナンスそのものだと思うんですよね。 (藤巻健史氏の略歴はリンク先参照) 私は国会質問で、当時の黒田日銀総裁や麻生財務相に「これは財政ファイナンスじゃないですか?」とお聞きすると、彼らは「いや、これはデフレ脱却のために行っていることだから財政ファイナンスではありません」と答弁されるわけです。これに対して、私は、「中央銀行である日銀が、日本政府の資金繰りを賄っている以上、これはもう財政ファイナンスそのものです。火事は、火が出れば火事になるのであって、失火であろうと放火であろうと、火事であることには変わらない。これと同じように、異次元緩和の目的がデフレ脱却であろうとなかろうと、政府の資金繰りを中央銀行が賄っていれば、それは財政ファイナンスです」とお二人に申し上げましたが、議論は深まりませんでした。 この本にも書いてありましたが、いまの日銀は、中央銀行としてやってはならないことをやりまくってるわけですよ。いったん買い入れると市中での売却が難しい長期国債や、株や土地のように価格が大きく変動するリスク性資産を買いまくっている。正統派金融論の常識では、通貨の信認を守るため、中央銀行が固く禁じられてきたことを、黒田日銀は10年以上も続けてきた。これは由々しきことです。 山本:法律上は、財政法で日銀が直接引き受けることを財政ファイナンスと定義しています。したがって、日銀による市場からの国債買い入れは、法律的には財政ファイナンスには相当しないということになるのでしょうが、経済機能的に言えば財政ファイナンスとほぼ同じですね。 伝統的に多くの中央銀行は、そのような財政ファイナンスが行えないようにする、いくつかの仕掛けを用意してきました。日銀にも、「日銀が保有する長期国債の残高は、銀行券発行残高を上限とする」という銀行券ルールという内部規律が存在しました。しかし異次元緩和では、このルールは一時的に適用停止(注.現在も停止中)されてしまい、国債の大量購入に歯止めをかける仕掛けが骨抜きにされてしまいました。 藤巻:普通の中央銀行はこんなことしないですよ。私は、やはり財政破綻を免れるために日銀は政府を手助けしているように思っています』、「藤巻:・・・私は国会質問で、当時の黒田日銀総裁や麻生財務相に「これは財政ファイナンスじゃないですか?」とお聞きすると、彼らは「いや、これはデフレ脱却のために行っていることだから財政ファイナンスではありません」と答弁されるわけです。これに対して、私は、「中央銀行である日銀が、日本政府の資金繰りを賄っている以上、これはもう財政ファイナンスそのものです・・・異次元緩和の目的がデフレ脱却であろうとなかろうと、政府の資金繰りを中央銀行が賄っていれば、それは財政ファイナンスです」とお二人に申し上げましたが、議論は深まりませんでした」、なるほど。
・『「統合政府論」という考え Q:11年に及ぶ、空前の金融緩和で日銀のバランスシートは異様なまでに拡大しています。一方で、リフレ派の経済学者やMMT論者たちは、日本には潤沢な資産があるので、まだまだ国債を買い入れる余地がある、と主張しています。彼らは、国が支払う利払い費は、国債を買い入れた日銀に支払われるので、たとえ、今後、利払い費が増えても、子会社である日銀から親会社の政府に還流されるので全く問題は生じないといいます。それどころか、市場に流通する国債を日銀がすべて買い入れてしまえば、財政再建が完了するという識者もいます。 藤巻:これは「統合政府論」という考えですね。日銀は政府の事実上の子会社であるから、日銀が、政府発行の国債を保有していることは、子会社が親会社の債務を負っているに過ぎないことになります。そこで政府と日銀を統合したバランスシート(図参照)を作ると、国の負債である国債と日銀の資産である国債が相殺されて、バランスシートから国債が消えてしまいます(実際には、日銀は国が発行した国債の約50%しか所有しておらず、残り50%の国債は相殺されません)。統合政府論者は、政府が国債の金利を支払っても子会社である日銀がその金利を受け取り、利益の一部として政府に戻すのだから問題はない。したがって日本の財政はおよそ危機的ではなく、まだまだ財政余力があり、引き続き大量の国債を発行できると主張します。 しかし、だからと言って、統合政府の債務が消えるわけではありません。上の図でいえば、青色の国債だけは相殺されるけれども、統合後は国債の替わりにオレンジ色の「日銀当座預金」という債務が残るのです。「そっちのことを気にしなくてもいいんですか」という話なんです。 藤巻家を例にして考えてみましょう。歳をとって借金する能力がなくなった私の代わりに息子が銀行から借金をして私に貸し、そのお金で私が家を建てたとしましょう。確かに藤巻家でみると、親子間の貸借は相殺でなくなるかもしれませんが、息子には借りた住宅ローンが残ります。息子は銀行に利子を払いながら住宅ローンの返済を続けていかねばなりません。 英語では財政ファイナンスのことをマネタイゼーションと言います。国債(長期負債)を通貨に変える(超短期負債化)からです。現在のような超低金利時代には問題は顕在化しませんが、ひとたび金利が上昇すると、一気に利払い費が増えて、国全体として大変危険な状態になります。「統合政府で考えれば財政は健全」という考えは、財政ファイナンスは正しいと主張するに等しいわけですから、どう考えてもトンデモ理論です。 山本:藤巻さんおっしゃる通りで、政府の子会社である中央銀行が国債を買えば、国債が相殺されて消えるので財政再建が完了するというのは、これは100%間違っています、 藤巻さんが作成された図を見ていただくとわかるように、国債という政府の債務が日銀当座預金という日銀の債務に置き換わったに過ぎません。日銀当座預金は、日銀の金融機関に対する債務、すなわち借金です。統合政府で見ても、膨大な債務が残る以上、全く財政再建が完了したわけではない。 要するに、政府の信認が低下すれば、論理的に日銀の信認も低下し、日銀が発行する通貨の円の信認も低下することになります。政府の財政状態を示す「一般政府の債務残高対GDP比率(2022年実績見込み)」は257%と、世界約190ヵ国・地域中第2位の高さにあります。日本より財政状態が悪いのは、中東紛争でイスラエルと交戦状態にあるレバノンだけで、日本の財政状態は、内戦状態にあった第3位のスーダンよりもかなり悪い。国と通貨に対する信認は先人たちの努力の積み重ねによって築き上げられてきたものですが、このような財政状態を続けていて、いつまで信認を保ち続けることができるのか不安になります。 藤巻:数字だけでみれば、債務残高対GDP比率257%は、太平洋戦争直後よりも悪いですからね。結局、そのときは、日本は悪性インフレを抑えきれず、1946年(昭和21年)に預金封鎖と新円切り替えを強行し、インフレと国民の負担によって財政赤字を帳消しにしました。いまはまだ問題が顕在化していませんが、国民の皆さんも現在の財政状態は戦時や戦争直後よりも悪いという認識をしてほしいですよね、) Q:日本には、換金可能な潤沢な金融資産と有形固定資産があるので、財政危機など杞憂にすぎないという意見もあります。 山本:国は741兆円もの資産を保有しているので心配はないという方がいらっしゃるのですが、そんな楽観視ができるような状態ではありません。 図(国の賃借対照表)をご覧ください。実は国の資産は、この負債サイドとの見合いになっています。例えば有価証券126兆円のほとんどが外貨証券です。これは外貨準備の運用として持っている有価証券ですが、仮に売れるとしてもその代金は右側にある政府短期証券の償還に充てられなければいけないというルールがあります。 有形固定資産も195兆円ありますが、これは橋や道路などのインフラなので、これも簡単に売れるようなものではありません、実際のところ、国の資産741兆円には、自由に売却できるようなものはなく、新しい財源になるようなものはほとんど存在しません。 一方、バランスシートの右側の負債サイドを見ると、「負債および資産・負債差額合計」の702兆円があります。日本は、資産以上に負債を抱えており、国債の発行額が保有する資産の評価額を702兆円も超えていることを意味します。言い方を変えれば、国は702兆円の債務超過の状態にあります。 ただし、債務超過になったからといって、直ちに国が破綻するというわけではありません。なぜなら、国には、国民から税金を集める徴税権が認められているからです。将来、国民に課される税金でこの差額は埋められるという仮定で成り立っている、そういうバランスシートになっているわけです。 ただし、日本は、民主主義社会ですから、国に徴税する権利があるからといって、増税はそんなに簡単ではありません。税率5%で始まった消費税を10%に引き上げることに30年間もかかったことを思えば、増税が簡単ではないことがわかります。 702兆円に及ぶ資産負債差額がさらに増えるようになれば、マーケットにおいて国への信頼が揺らぐ危険があります。すでに日本の財政は持続可能性を疑われる状態にありますから、将来を楽観視するのではなく市場が不安を持つ前に早く財政再建に着手する必要があるというふうに思っています。 藤巻:山本さんのおっしゃったことはまさにその通りで、楽観視できる状態ではありません。 基本的にGDPと税収は、大雑把に言えば比例関係が成り立ちます。GDPが2倍になれば、個人の収入も2倍になり、国の税収や歳出も2倍になるということです。 財政の健全度を表す「債務残高対GDP比率」は、税収と借金の比率を示す指標です。いうなれば、税収で借金を返す難易度ランキングです。これが世界最悪レベルにあるということは、財政を再建することが世界で最も難しいことを意味します。我が国が置かれている状況はかくも深刻であることを、国民も認識すべきだと、私は思います。 第3回記事<「黒田日銀」は国民に幸福をバラ撒きすぎた…これからやってくるとてつもない「しっぺ返し」>では、「異次元緩和には出口はあるのか」について議論する。 *本対談のきっかけとなった山本謙三『異次元緩和の罪と罰』(講談社現代新書)では、異次元緩和の成果を分析するとともに、歴史に残る野心的な経済実験の功罪を検証しています。2%の物価目標にこだわるあまり、本来、2年の期間限定だった副作用の強い金融政策を11年も続け、事実上の財政ファイナンスが行われた結果、日本の財政規律は失われ、日銀の財務はきわめて脆弱なものになりました。これから植田日銀は途方もない困難と痛みを伴う「出口」に歩みを進めることになります。異次元緩和という長きにわたる「宴」が終わったいま、私たちはどのようなツケを払うことになるのでしょうか』、「統合政府論者は、政府が国債の金利を支払っても子会社である日銀がその金利を受け取り、利益の一部として政府に戻すのだから問題はない。したがって日本の財政はおよそ危機的ではなく、まだまだ財政余力があり、引き続き大量の国債を発行できると主張します。 しかし、だからと言って、統合政府の債務が消えるわけではありません。上の図でいえば、青色の国債だけは相殺されるけれども、統合後は国債の替わりにオレンジ色の「日銀当座預金」という債務が残るのです・・・英語では財政ファイナンスのことをマネタイゼーションと言います。国債(長期負債)を通貨に変える(超短期負債化)からです。現在のような超低金利時代には問題は顕在化しませんが、ひとたび金利が上昇すると、一気に利払い費が増えて、国全体として大変危険な状態になります。「統合政府で考えれば財政は健全」という考えは、財政ファイナンスは正しいと主張するに等しいわけですから、どう考えてもトンデモ理論です・・・政府の子会社である中央銀行が国債を買えば、国債が相殺されて消えるので財政再建が完了するというのは、これは100%間違っています、 藤巻さんが作成された図を見ていただくとわかるように、国債という政府の債務が日銀当座預金という日銀の債務に置き換わったに過ぎません。日銀当座預金は、日銀の金融機関に対する債務、すなわち借金です。統合政府で見ても、膨大な債務が残る以上、全く財政再建が完了したわけではない。 要するに、政府の信認が低下すれば、論理的に日銀の信認も低下し、日銀が発行する通貨の円の信認も低下することになります。政府の財政状態を示す「一般政府の債務残高対GDP比率(2022年実績見込み)」は257%と、世界約190ヵ国・地域中第2位の高さにあります。日本より財政状態が悪いのは、中東紛争でイスラエルと交戦状態にあるレバノンだけで、日本の財政状態は、内戦状態にあった第3位のスーダンよりもかなり悪い。国と通貨に対する信認は先人たちの努力の積み重ねによって築き上げられてきたものですが、このような財政状態を続けていて、いつまで信認を保ち続けることができるのか不安になります・・・財政の健全度を表す「債務残高対GDP比率」は、税収と借金の比率を示す指標です。いうなれば、税収で借金を返す難易度ランキングです。これが世界最悪レベルにあるということは、財政を再建することが世界で最も難しいことを意味します。我が国が置かれている状況はかくも深刻であることを、国民も認識すべきだと、私は思います」、なるほど。
第三に、10月7日付け現代ビジネスが掲載した元日銀理事の山本 謙三氏と元モルガン銀行・日本代表兼東京支店長の藤巻 健史氏の対談「「黒田日銀」は国民に幸福をバラ撒きすぎた…これからやってくるとてつもない「しっぺ返し」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/138657
・・・・異次元緩和の歪みや副作用 Q:11年にわたって続いてきた異次元緩和の歪みや副作用がさまざまなところに現れているように思います。 山本:日銀が、市場からこれだけ大量に国債やETF(上場投資信託)を買い入れれば、債券市場や株式市場が歪むのはある意味当然のことです。いまや日銀は、株式市場において国内最大の投資家です。 藤巻:中央銀行は、価格の変動が激しいリスク性資産は極力持たないという不文律がありますが、日銀のように大量の株式を買い入れている中央銀行はほかにはないですよね。) 山本:金融政策として、株式を買い入れている中央銀行は、ほとんどありません。 歪みが生じているのは株式市場だけではありません。国債市場では、日銀は国内最大の購入者であり、保有者です。日銀の国債保有残高は約590兆円に及んでいます。 日銀は、大量の国債買い入れを継続して実施することで長期金利を0%台に抑えてきました。もし、日銀が市場に介入せず、長期金利の変動を市場に任せていれば、実際の名目GDPの成長率から見て、少なくとも1%前後になっていたはずです。 長期にわたって市場の実勢より1%近く金利を抑圧してきたのですから、さまざまな副作用が生じていることは間違いありません。 第一は急激な円安です。図は、1970年代から現在にいたる実質実効為替レートの推移を示すグラフです。実質実効為替レートは、通常の為替レートではなく、相対的な通貨の実力を測るための計算上のレートです。 2024年春の円相場の実質実効為替レートは、1ドル=360円時代をさらに下回る円安水準まで下落しました。つまり、1971年8月のニクソンショック直前の、1ドル360円並みの水準まで、円安が進んでいます。ここまで円安が進むと、海外から見れば、明らかに日本のものは何でも安く見えます。それゆえ、インバウンドの観光客が増えていますし、外国人の投資家が都心の土地やマンションを購入するようになっています。一見すると、景気のよい話のように見えますが、日本国内から見ると、国内の資源や労働力を安売りしていることに他なりません。これでは、私たち日本人の生活はいっこうに豊かになりません。 第二の副作用は、市場の機能が低下したために、成長性の低い企業が選別、淘汰されることなく生き残ったことです。その結果、日本経済の新陳代謝が進まなくなり、経済のダイナミズムが失われました。これは自由主義市場経済にとっては非常に痛手だったように思います。 第三の副作用は、金融機関へのしわ寄せです。金融機関は、市場金利が低下したことによって収益が圧迫されたため、それを補うために外債などのハイリスクの投資を増やしました。その結果、いくつかの金融機関は、金利上昇局面になってから、購入した外債の損失が膨らみ、増資に迫られるようになっています。もちろん、個別金融機関のリスク管理の甘さが原因ですが、異次元緩和が金融機関をハイリスクの投資に追い込んでいったという事実は残ります。 (山本謙三氏の略歴はリンク先参照)』、「藤巻:中央銀行は、価格の変動が激しいリスク性資産は極力持たないという不文律がありますが、日銀のように大量の株式を買い入れている中央銀行はほかにはないですよね。) 山本:金融政策として、株式を買い入れている中央銀行は、ほとんどありません。 歪みが生じているのは株式市場だけではありません。国債市場では、日銀は国内最大の購入者であり、保有者です。日銀の国債保有残高は約590兆円に及んでいます。 日銀は、大量の国債買い入れを継続して実施することで長期金利を0%台に抑えてきました。もし、日銀が市場に介入せず、長期金利の変動を市場に任せていれば、実際の名目GDPの成長率から見て、少なくとも1%前後になっていたはずです。 長期にわたって市場の実勢より1%近く金利を抑圧してきたのですから、さまざまな副作用が生じていることは間違いありません。 第一は急激な円安です。図は、1970年代から現在にいたる実質実効為替レートの推移を示すグラフです。実質実効為替レートは、通常の為替レートではなく、相対的な通貨の実力を測るための計算上のレートです。 2024年春の円相場の実質実効為替レートは、1ドル=360円時代をさらに下回る円安水準まで下落しました。つまり、1971年8月のニクソンショック直前の、1ドル360円並みの水準まで、円安が進んでいます。ここまで円安が進むと、海外から見れば、明らかに日本のものは何でも安く見えます。それゆえ、インバウンドの観光客が増えていますし、外国人の投資家が都心の土地やマンションを購入するようになっています。一見すると、景気のよい話のように見えますが、日本国内から見ると、国内の資源や労働力を安売りしていることに他なりません。これでは、私たち日本人の生活はいっこうに豊かになりません。 第二の副作用は、市場の機能が低下したために、成長性の低い企業が選別、淘汰されることなく生き残ったことです。その結果、日本経済の新陳代謝が進まなくなり、経済のダイナミズムが失われました。これは自由主義市場経済にとっては非常に痛手だったように思います。 第三の副作用は、金融機関へのしわ寄せです。金融機関は、市場金利が低下したことによって収益が圧迫されたため、それを補うために外債などのハイリスクの投資を増やしました。その結果、いくつかの金融機関は、金利上昇局面になってから、購入した外債の損失が膨らみ、増資に迫られるようになっています。もちろん、個別金融機関のリスク管理の甘さが原因ですが、異次元緩和が金融機関をハイリスクの投資に追い込んでいったという事実は残ります」、なるほど。
・『国民に幸福をバラ撒きすぎた 藤巻:感覚的な言い方になりますが、黒田日銀は、国民に幸福をバラ撒きすぎました。日銀が国債を爆買いして長期金利を低く抑えたことによって、住宅ローンの金利も0%近くになりました。金利負担が下がったうえに地価やマンション価格は高騰しましたから、住宅ローンを組んで不動産を購入した人は非常にハッピーなわけですよ。日銀によるETF購入で株式相場も上昇しましたから、株を持っている人もハッピーでした。なにより超ハッピーだったのは日本政府で、新規国債の金利負担がないから予算が好き勝手に作れて、バラ撒きもできた。こうした政策は、選挙民からの受けもいいので次の選挙にも当選できるので、バラ撒きはさらに加速していく。このように、日銀は異次元緩和を11年間も続けることで、日本国民に幸福のバラ撒きを続けてきたわけです。 問題は、この幸福は、日本人が実力で勝ち取ったものではなく、日銀によって作り出された、かりそめの幸福です。私は、日本人は、何か後で、とてつもない「しっぺ返し」を受けることになるのではないかと心配しています』、「黒田日銀は、国民に幸福をバラ撒きすぎました。日銀が国債を爆買いして長期金利を低く抑えたことによって、住宅ローンの金利も0%近くになりました。金利負担が下がったうえに地価やマンション価格は高騰しましたから、住宅ローンを組んで不動産を購入した人は非常にハッピーなわけですよ。日銀によるETF購入で株式相場も上昇しましたから、株を持っている人もハッピーでした。なにより超ハッピーだったのは日本政府で、新規国債の金利負担がないから予算が好き勝手に作れて、バラ撒きもできた。こうした政策は、選挙民からの受けもいいので次の選挙にも当選できるので、バラ撒きはさらに加速していく。このように、日銀は異次元緩和を11年間も続けることで、日本国民に幸福のバラ撒きを続けてきたわけです。 問題は、この幸福は、日本人が実力で勝ち取ったものではなく、日銀によって作り出された、かりそめの幸福です。私は、日本人は、何か後で、とてつもない「しっぺ返し」を受けることになるのではないかと心配しています」、なるほど。
・『黒田総裁の前任の白川方明日銀総裁は、自らもやむを得ず行った非伝統的な金融政策である質的緩和の危険性を自覚され、憂慮されていた。印象的だったのは、2013年3️月19日の退任記者会見での発言でした。「わが国を含め欧米諸国が現在展開している非伝統的な政策の評価も、いわゆる『出口』から円滑に脱出できて初めて、全プロセスを通じた金融政策の評価が可能となる、そうした性格のものだと思っています」 しかし、白川総裁を引き継いだ黒田日銀は、白川日銀の質的緩和を中途半端と批判して、伝統的金融論からすると、あり得ない規模の超金融緩和を11年も続けてきました。巨大なクジラのような日銀が大量の株と国債を買い進めて、市場機能を殺してしまった以上、もはや日銀には異次元緩和から抜け出る「出口」はありません。 私は、異次元緩和は「出口」から無事に出られて初めて評価できる金融政策だと思っています。「出口」から出られなかったら、最悪の政策だと結論づけるしかない。 黒田前総裁は、メディアから日銀の出口戦略を何度も質問されましたが、「時期尚早」を繰り返して、その道筋を最後まで語ることはありませんでした。引き継いだ植田和男総裁は異次元緩和の終了を宣言しましたが、出口戦略をどのように進めるのか具体的なシミュレーションを出していません。 山本さんが書かれた『異次元緩和の罪と罰』には、金融正常化を進めるには、最短でも10年かかるとあります。この一事をとっても、やはり出口から抜け出るのは相当難しいと言わざるを得ないですね』、「黒田総裁の前任の白川方明日銀総裁は、自らもやむを得ず行った非伝統的な金融政策である質的緩和の危険性を自覚され、憂慮されていた。印象的だったのは、2013年3️月19日の退任記者会見での発言でした。「わが国を含め欧米諸国が現在展開している非伝統的な政策の評価も、いわゆる『出口』から円滑に脱出できて初めて、全プロセスを通じた金融政策の評価が可能となる、そうした性格のものだと思っています」 しかし、白川総裁を引き継いだ黒田日銀は、白川日銀の質的緩和を中途半端と批判して、伝統的金融論からすると、あり得ない規模の超金融緩和を11年も続けてきました。巨大なクジラのような日銀が大量の株と国債を買い進めて、市場機能を殺してしまった以上、もはや日銀には異次元緩和から抜け出る「出口」はありません。 私は、異次元緩和は「出口」から無事に出られて初めて評価できる金融政策だと思っています。「出口」から出られなかったら、最悪の政策だと結論づけるしかない。 黒田前総裁は、メディアから日銀の出口戦略を何度も質問されましたが、「時期尚早」を繰り返して、その道筋を最後まで語ることはありませんでした。引き継いだ植田和男総裁は異次元緩和の終了を宣言しましたが、出口戦略をどのように進めるのか具体的なシミュレーションを出していません。 山本さんが書かれた『異次元緩和の罪と罰』には、金融正常化を進めるには、最短でも10年かかるとあります。この一事をとっても、やはり出口から抜け出るのは相当難しいと言わざるを得ないですね」、なるほど。
・『金融の正常化には非常に長い時間がかかる 山本:藤巻さんがおっしゃられたように金融の正常化には非常に長い時間がかかります。 私の試算では、約561兆円ある日銀当座預金残高を「平時」の約30兆円に戻すには10年以上かかるという結果になりました。しかも、これは、正常化完了までの間、いっさい新規の国債買い入れを止めるという仮定のもとでの試算です。 植田日銀は、2024年7月に日銀の国債買い入れ額の減額計画を公表し、それに着手しています。ただし、この計画に沿って日銀が国債買い入れ額を減らすとしても、いまから2年後の2026年3月末時点では依然、約550兆円の保有残高が日銀に残ります。 当面に限って言うと、国債の減額は大きな支障なく進められるだろうと思っています。なぜならば、最初の2年は日銀の国債買い入れの減額は月間3兆円程度ですから、国内の金融機関がこれを補うことは難しくありません。異次元緩和によって収益を圧迫された金融機関のなかには、リスクのある外債投資に追い込まれたところも多いので、為替リスクのない日本国債を購入するところも多いはずです。 ただし、当面は、国債減額は支障なく進められるでしょうが、いずれ金利の上昇が避けられないと考えています。なぜかというと、国は、借換債以外にも毎年約30兆円台の新規国債を発行しているからです。借換債に相当する国債は日本の金融機関が購入できるとしても、新たに発行される国債を購入できる原資があるのかという問題に突き当たります。仮に国内の金融機関だけでは消化が難しいとなれば、海外の投資家に頼らざるを得ません。ただし、彼らにとって、日本国債は金利変動リスクや為替リスクがありますから、相応の金利をつけなければ、彼らも買わないでしょう。 ただ、金利が上昇するのは、ある意味、自然なことです。もともと異次元緩和で隠されていた本来あるべき金利が、表面に出てくるという話なので、金利急騰といったような非常事態を除けば、国や日銀もこれは受け入れる必要があります。 いったん金利が上がり始めると、いろんなところからプレッシャーがかかってくるでしょうが、日銀としては正常化のプロセスを着実に進めていく必要があります。藤巻さんがおっしゃったことに近いのですが、金融正常化のプロセスを途中でやめてしまうことになれば、「なんだ異次元緩和は結局、財政ファイナンスだったのか」と市場から評価されてしまいます。中央銀行が財政ファイナンスを事実上認めるようなことをしたら、円という通貨の信認は揺らいでしまいます』、「私の試算では、約561兆円ある日銀当座預金残高を「平時」の約30兆円に戻すには10年以上かかるという結果になりました。しかも、これは、正常化完了までの間、いっさい新規の国債買い入れを止めるという仮定のもとでの試算です。 植田日銀は、2024年7月に日銀の国債買い入れ額の減額計画を公表し、それに着手しています。ただし、この計画に沿って日銀が国債買い入れ額を減らすとしても、いまから2年後の2026年3月末時点では依然、約550兆円の保有残高が日銀に残ります。 当面に限って言うと、国債の減額は大きな支障なく進められるだろうと思っています。なぜならば、最初の2年は日銀の国債買い入れの減額は月間3兆円程度ですから、国内の金融機関がこれを補うことは難しくありません。異次元緩和によって収益を圧迫された金融機関のなかには、リスクのある外債投資に追い込まれたところも多いので、為替リスクのない日本国債を購入するところも多いはずです。 ただし、当面は、国債減額は支障なく進められるでしょうが、いずれ金利の上昇が避けられないと考えています。なぜかというと、国は、借換債以外にも毎年約30兆円台の新規国債を発行しているからです。借換債に相当する国債は日本の金融機関が購入できるとしても、新たに発行される国債を購入できる原資があるのかという問題に突き当たります。仮に国内の金融機関だけでは消化が難しいとなれば、海外の投資家に頼らざるを得ません。ただし、彼らにとって、日本国債は金利変動リスクや為替リスクがありますから、相応の金利をつけなければ、彼らも買わないでしょう。 ただ、金利が上昇するのは、ある意味、自然なことです。もともと異次元緩和で隠されていた本来あるべき金利が、表面に出てくるという話なので、金利急騰といったような非常事態を除けば、国や日銀もこれは受け入れる必要があります。 いったん金利が上がり始めると、いろんなところからプレッシャーがかかってくるでしょうが、日銀としては正常化のプロセスを着実に進めていく必要があります。藤巻さんがおっしゃったことに近いのですが、金融正常化のプロセスを途中でやめてしまうことになれば、「なんだ異次元緩和は結局、財政ファイナンスだったのか」と市場から評価されてしまいます。中央銀行が財政ファイナンスを事実上認めるようなことをしたら、円という通貨の信認は揺らいでしまいます」、なるほど。
・『長期金利が上昇すれば、国債の評価損がどんどん膨らむ 藤巻:山本さんは、今後、日本の長期金利は一段と上がっていくとおっしゃいましたが、私が参院予算委員会で日銀に質問したところ、2023年9月末時点で日銀の保有国債の評価損はすでに約10兆円(当時、10年物金利は0.76%だった)もあり、金利がパラレルシフトすると、1%の金利上昇で評価損は29兆円程度増加するとの話でした。今後、長期金利が一段と上昇するようになれば、日銀が抱える国債の評価損がどんどん膨らんでいきます。 目下のところ、本来なら中央銀行が保有すべきでない株の評価益があるからいいものの、今後、日銀が国債やETFの買い入れ額を減らして過剰流動性を吸収する局面になれば、株価が下がり、評価益が激減するリスクもあります。私は、日銀が本格的に出口戦略を進めれば、ものすごい債務超過になると予測していますが、それでも大丈夫でしょうか?) 山本:あくまでも2023年度末時点ですが、日銀が買い進めてきたETF等の含み益が約38兆円もあるので、国債の評価損が出ても、なんとかそれでカバーできてしまうという状態です。 ただし、これはあくまでも株価次第ですから、株価が急落したり、金利が大幅に急騰したりする局面では、日銀が債務超過になる可能性があることは否定できません。ただし、中央銀行の場合、債務超過になったからといって、ただちに資金繰りに困るということはありません。 藤巻:日銀は、自分で日銀券を発行できるので、資金繰りに窮することはないですからね。 山本:債務超過になったからといって、ただちに危機が発生することはありませんが、かといって楽観視できる状態ではありません。要は、マーケットがどう見るかというその一点に尽きると思います。日銀が市場からの信頼を失えば、資金繰りではなく、まず為替が急落するところからスタートして、混乱が起きかねません。 藤巻:要するに中央銀行が危機的状況になるということは、その発行する通貨が信用を失うことを意味します。円の価値が失墜することになれば、円は紙くず化し、1ドル=1兆円になるようなハイパーインフレが起きるでしょう。 山本:藤巻さんのおっしゃることは過激で、少しついていけない部分もあるのですが(笑)、最終的にハイパーインフレにならないまでも、非常に高いインフレ率になることはあり得る話です。通貨に対する信認は、心理的な要素によるところが大きく、ある閾値(しきい値)」を超えた時点で突如崩壊するものです。それがいつどこで起きるかは、マーケットの心理によるので、それを予測するのは難しい。とはいえ、日銀も政府もそのような事態になるまでに、何らかの手を打つとは思いますが……。 藤巻:私に言わせると、日銀も政府も手を打ちすぎです。むしろ、過剰な介入で市場機能を殺してきたことに、日本経済の長期停滞の原因があるのではないでしょうか。常々感じていることですが、日本は資本主義の国というよりは計画経済の社会主義国のようです。 山本:私も、藤巻さんがおっしゃっているように、日本はどんどん市場経済から離れつつあるように感じます。戦後はずっと「市場競争を大事にする」という考えが主流でしたが、1990年代から、こうした考えが明らかに後退しています。政治的にも、選挙対策で、社会保障を充実させる政策や不況に苦しむ企業を救済する景気対策が広く行われるようになりました。その結果、生まれたのが、財政規律の著しい後退です。競争に負けた企業まで救済するような政策が広く行われた結果、経済の新陳代謝が進まず、生産性が低下していくという悪い流れになりつつあります。その流れを断ち切ることが一番大事なことだと考えています』、「2023年9月末時点で日銀の保有国債の評価損はすでに約10兆円(当時、10年物金利は0.76%だった)もあり、金利がパラレルシフトすると、1%の金利上昇で評価損は29兆円程度増加するとの話でした。今後、長期金利が一段と上昇するようになれば、日銀が抱える国債の評価損がどんどん膨らんでいきます。 目下のところ、本来なら中央銀行が保有すべきでない株の評価益があるからいいものの、今後、日銀が国債やETFの買い入れ額を減らして過剰流動性を吸収する局面になれば、株価が下がり、評価益が激減するリスクもあります。私は、日銀が本格的に出口戦略を進めれば、ものすごい債務超過になると予測していますが、それでも大丈夫でしょうか?) 山本:あくまでも2023年度末時点ですが、日銀が買い進めてきたETF等の含み益が約38兆円もあるので、国債の評価損が出ても、なんとかそれでカバーできてしまうという状態です。 ただし、これはあくまでも株価次第ですから、株価が急落したり、金利が大幅に急騰したりする局面では、日銀が債務超過になる可能性があることは否定できません。ただし、中央銀行の場合、債務超過になったからといって、ただちに資金繰りに困るということはありません・・・藤巻:私に言わせると、日銀も政府も手を打ちすぎです。むしろ、過剰な介入で市場機能を殺してきたことに、日本経済の長期停滞の原因があるのではないでしょうか。常々感じていることですが、日本は資本主義の国というよりは計画経済の社会主義国のようです。 山本:私も、藤巻さんがおっしゃっているように、日本はどんどん市場経済から離れつつあるように感じます。戦後はずっと「市場競争を大事にする」という考えが主流でしたが、1990年代から、こうした考えが明らかに後退しています。政治的にも、選挙対策で、社会保障を充実させる政策や不況に苦しむ企業を救済する景気対策が広く行われるようになりました。その結果、生まれたのが、財政規律の著しい後退です。競争に負けた企業まで救済するような政策が広く行われた結果、経済の新陳代謝が進まず、生産性が低下していくという悪い流れになりつつあります。その流れを断ち切ることが一番大事なことだと考えています」、なるほど。
・『中央銀行の目的は「物価の安定」だけではない Q:山本さんは日銀理事を務めた日銀OBとして、現在の日本銀行の姿はどのように映りますか。また、植田日銀は、今後どのような金融政策を進めていくべきだとお考えですか? 山本:世間に誤解があることなのですが、中央銀行の目的は「物価の安定」だけではありません。日銀が目指すべきものは「物価の安定」というよりも、より高次で広い概念である「通貨の信認確保」です。その意味するところは、「物価の安定」のほかに、金融システムの健全性維持、銀行券の円滑な発行・流通、日銀ネットと呼ばれる大規模な資金決済ネットワークの維持など広範な目的を含みます。これらをひっくるめたものが「通貨の信認確保」だと理解しています。 日銀がやれることは、突き詰めると、1つだけで、資金をマーケットに供給ないし吸収することしかありません。しかしこの資金の供給・吸収が経済に非常に大きな影響力を持っているわけです。それは物価にも影響を与えるし、金融システムにも影響を与えるし、決済にも影響を与えます。中央銀行は、これらをバランスよく達成することが使命であって、物価目標2%を絶対視するような硬直的な政策運営はすべきではありません。 こうした観点に立てば、異次元緩和がもたらす金融システムや市場機能への悪影響を意識するのは、中央銀行として当然の責務になります。 植田日銀は、黒田日銀が始めた11年続いた「異次元緩和」の幕引きをするという難題を背負わされたわけですが、その過程で、これまでの総括を行い、今後どのような道筋で正常化を進めていくのかを、国民にきちんと説明したうえで支持を得なければなりません。 こうした取り組みをないがしろにすると、また、いずれ政治サイドから「国債をもっと買い入れてほしい。なぜ異次元緩和でやれたことが、いまできないのか」と迫られることになってしまいます。) 藤巻:説明をうかがって改めて、今日もまた「さすが山本さんだな」と感服しました。私の過激な説明よりも、ジェントルマンとして冷静に丁寧に説明していただくと、多くの方が納得するんじゃないかと改めて思いました。『異次元緩和の罪と罰』は本当に素晴らしい作品ですので、ぜひ皆さんも読みください。 山本:藤巻さんとの対談は刺激的で私も楽しかったです、本当にありがとうございました。 *本対談のきっかけとなった山本謙三『異次元緩和の罪と罰』(講談社現代新書)では、異次元緩和の成果を分析するとともに、歴史に残る野心的な経済実験の功罪を検証しています。2%の物価目標にこだわるあまり、本来、2年の期間限定だった副作用の強い金融政策を11年も続け、事実上の財政ファイナンスが行われた結果、日本の財政規律は失われ、日銀の財務はきわめて脆弱なものになりました。これから植田日銀は途方もない困難と痛みを伴う「出口」に歩みを進めることになります。異次元緩和という長きにわたる「宴」が終わったいま、私たちはどのようなツケを払うことになるのでしょうか』、「日銀が目指すべきものは「物価の安定」というよりも、より高次で広い概念である「通貨の信認確保」です。その意味するところは、「物価の安定」のほかに、金融システムの健全性維持、銀行券の円滑な発行・流通、日銀ネットと呼ばれる大規模な資金決済ネットワークの維持など広範な目的を含みます。これらをひっくるめたものが「通貨の信認確保」だと理解しています。 日銀がやれることは、突き詰めると、1つだけで、資金をマーケットに供給ないし吸収することしかありません。しかしこの資金の供給・吸収が経済に非常に大きな影響力を持っているわけです。それは物価にも影響を与えるし、金融システムにも影響を与えるし、決済にも影響を与えます。中央銀行は、これらをバランスよく達成することが使命であって、物価目標2%を絶対視するような硬直的な政策運営はすべきではありません・・・2%の物価目標にこだわるあまり、本来、2年の期間限定だった副作用の強い金融政策を11年も続け、事実上の財政ファイナンスが行われた結果、日本の財政規律は失われ、日銀の財務はきわめて脆弱なものになりました。これから植田日銀は途方もない困難と痛みを伴う「出口」に歩みを進めることになります。異次元緩和という長きにわたる「宴」が終わったいま、私たちはどのようなツケを払うことになるのでしょうか」、黒田異次元緩和のツケはとても高いものとして跳ね返ってくるようだ。
なお、昨日の金融政策決定会合での「維持」決定については、特にコメントの必要なしとして、取上げなかった。
先ずは、本年9月27日付け現代ビジネスが掲載した元日銀理事の山本 謙三氏による「日銀がついに撤退戦を始めた!植田日銀は、爆買いしてきた長期国債590兆円を波乱なく減らすことが本当にできるのか?」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/137864
・『パリバリの金融実務家であった私が、わからないことがあれば一番頼りにし、最初に意見を求めたのが山本謙三・元日銀理事です。安倍元総理が、もし彼がブレインに選んでいたら、今の日本経済はバラ色だったに違いない」 元モルガン銀行・日本代表兼東京支店長で伝説のトレーダーと呼ばれる藤巻健史氏が心酔するのが元日銀理事の山本謙三氏。同氏は、「異次元緩和」は激烈な副作用がある金融政策で、その「出口」には途方もない困難と痛みが待ち受けていると警鐘を鳴らす。 黒田日銀は、長期金利をゼロ%程度に抑え込むために、多額の国債買い入れを行った。その結果、日銀の国債保有残高は約590兆円に達し、日銀当座預金残高も、国債買い入れに見合う形で約561兆円に積み上がった(24年3月末時点)。引き継いだ植田日銀は、11年に及んだ異次元緩和を終了し、2024年7月には月間の国債買い入れ額をそれまでの6兆円程度から2026年1〜3月期に3兆円程度に減らす方針も決めた。しかし、計画通りに2年間減額を進めても、日銀がなお500兆円以上を抱えている姿に変わりはなく、市場機能の完全な回復には程遠い。 財政赤字を丸呑みしてきた日銀が市場から徐々に遠ざかれば、長期金利は想定外の上下動を起こすリスクを孕む。はたして、植田日銀は滞りなく、出口戦略を進めることができるのか? ※本記事は山本謙三『異次元緩和の罪と罰』から抜粋・編集したものです』、「黒田日銀は、長期金利をゼロ%程度に抑え込むために、多額の国債買い入れを行った。その結果、日銀の国債保有残高は約590兆円に達し、日銀当座預金残高も、国債買い入れに見合う形で約561兆円に積み上がった(24年3月末時点)。引き継いだ植田日銀は、11年に及んだ異次元緩和を終了し、2024年7月には月間の国債買い入れ額をそれまでの6兆円程度から2026年1〜3月期に3兆円程度に減らす方針も決めた。しかし、計画通りに2年間減額を進めても、日銀がなお500兆円以上を抱えている姿に変わりはなく、市場機能の完全な回復には程遠い。 財政赤字を丸呑みしてきた日銀が市場から徐々に遠ざかれば、長期金利は想定外の上下動を起こすリスクを孕む。はたして、植田日銀は滞りなく、出口戦略を進めることができるのか?』、計画通りに2年間減額を進めても、日銀がなお500兆円以上を抱えている姿に変わりはなく、市場機能の完全な回復には程遠い。 財政赤字を丸呑みしてきた日銀が市場から徐々に遠ざかれば、長期金利は想定外の上下動を起こすリスクを孕む。はたして、植田日銀は滞りなく、出口戦略を進めることができるのか?」、なるほど。
・『資本主義システムをめぐるコルナイの主張 計画経済体制を分析し、その構造的欠陥を解明したハンガリーの経済学者コルナイ・ヤーノシュは、著書の中で、資本主義システムと社会主義システムを比較し、次のように述べている(コルナイ・ヤーノシュ『資本主義の本質について──イノベーションと余剰経済』講談社学術文庫)。 「急速な革新(イノベーション)やダイナミズムは、起こるかもしれないし起こらないかもしれないといったランダムな現象ではなく、資本主義というシステム特有の性質に深く根ざしたものである(中略)その反対に、社会主義システムについても同様のことが言える。偉大な革新的な新製品を作りだせないということやその他の局面での技術進歩が後れることは、政策に誤りがあるからではなく、社会主義というシステム特有の性質に深く根ざしたものである」 第3章で紹介したように、シカゴ大学のラジャン教授は「中央銀行による介入は少ない方が、おそらく良好な結果をもたらすだろう」と述べている。これは、政府や中央銀行といった公的当局の市場介入を極力減らし、民間の新陳代謝を通じて経済の活性化を図る資本主義システムに内在する固有の利点を信じてのことだろう。 日本が計画経済のもとにあるわけではないが、ただでさえ一般政府の債務残高対GDP比率が先進国で断トツに高い国だ。中央銀行のバランスシート規模の拡大は、コルナイの主張する資本主義システムのもつダイナミズムを脅かしているように見えてならない。 日銀のバランスシートを見ると、総資産(=負債・純資産計)は、2013年3月末の約165兆円から2024年3月末には約756兆円まで拡大した。じつに4.6倍である。 他の主要な中央銀行との比較でも、その巨大さが際立つ(図表5-1)。中央銀行の総資産の対GDP比率は、米国FRBの35%、欧州ECBの48%に対し、日銀は127%に達する。異次元緩和が始まる前の同比率は30%台だったので、この間の規模拡大がいかに劇的なものだったかが分かる』、「ハンガリーの経済学者コルナイ・ヤーノシュは、・・・「急速な革新(イノベーション)やダイナミズムは、起こるかもしれないし起こらないかもしれないといったランダムな現象ではなく、資本主義というシステム特有の性質に深く根ざしたものである・・・シカゴ大学のラジャン教授は「中央銀行による介入は少ない方が、おそらく良好な結果をもたらすだろう」と述べている。これは、政府や中央銀行といった公的当局の市場介入を極力減らし、民間の新陳代謝を通じて経済の活性化を図る資本主義システムに内在する固有の利点を信じてのことだろう」、ラジャンの主張では中央銀行は不要というシカゴ学派の極論だ。「一般政府の債務残高対GDP比率が先進国で断トツに高い国だ。中央銀行のバランスシート規模の拡大は、コルナイの主張する資本主義システムのもつダイナミズムを脅かしているように見えてならない。 日銀のバランスシートを見ると、総資産(=負債・純資産計)は、2013年3月末の約165兆円から2024年3月末には約756兆円まで拡大した。じつに4.6倍である。 他の主要な中央銀行との比較でも、その巨大さが際立つ(図表5-1)。中央銀行の総資産の対GDP比率は、米国FRBの35%、欧州ECBの48%に対し、日銀は127%に達する。異次元緩和が始まる前の同比率は30%台だったので、この間の規模拡大がいかに劇的なものだったかが分かる」、なるほど。
・『長短市場金利の抑え込みが市場機能を低下させた 日銀のバランスシートの膨張は、主として大量の国債買い入れの結果である。当初は巨額の資金供給そのものを狙いとして、2016年以降は長期金利をゼロ%程度に抑え込むことを狙いとして、日銀は国債の大量買い入れを続けた。 もし日銀が市場への関与を控え、金利を市場の自由な形成に任せていれば、長期金利はもっと高い水準で推移していたはずだ。これを力ずくで抑え込むために、大量の国債買い入れが必要だった。 前章で述べたように、FRBは、イールド・カーブ・コントロールのアイデアを棄却した。中央銀行としての独立性が脅かされるリスクを警戒してのことだったが、同時に、中央銀行が自らのモデルや理屈に頼って長期金利の水準を固定すると、「結果的に不適切な金利の上限や目標を設定しかねない」ことも危惧していた。逆に、日銀はデフレ脱却の名のもとに、適正水準からの乖離をみずから積極的につくり出しにいった形である。 では、本来、長期金利はどの程度の水準が適正だったと考えられるだろうか。経済学では、長期金利の水準は、長い目で見ると、物価上昇率の将来見通しと実質自然利子率の和に落ち着くと考えられている。 実質自然利子率とは、「引き締め的にも緩和的にも作用しない中立的な実質金利の水準」と定義される。厄介なのは、実質自然利子率が奈辺の水準にあるかは推計に頼るしかないことだ。予想物価上昇率も、人々の見方を外部から測定するのは容易でない。計算式に当てはめるには、不確実な要素が多い。 そこで、ここでは過去の実績値を計算式に当てはめ、長期金利ゼロ%程度という誘導水準が、どれほど適正水準から乖離したものだったかを探ってみたい。実質自然利子率は一定の仮定の下では潜在成長率に等しいとされることを念頭におき、ここでは、実質自然利子率に代えて実質GDP成長率の実績を、また予想物価上昇率に代えて物価上昇率(GDPデフレーターの上昇率)の実績を代入し、長期金利の水準にあたりをつけてみたい。いうまでもなく、実質GDP成長率とGDPデフレーターの上昇率の和は名目GDP成長率にほぼ等しいので、ここでの議論は、十分に長い期間をとれば、長期金利は名目GDP成長率の水準に収れんするとの見方に立脚していることになる。 異次元緩和が始まった2013年度から2022年度までの10年間の名目GDP成長率は、年率プラス1.31%だった。実質GDP成長率が年率プラス0.67%、GDPデフレーター(GDP統計の作成に利用する物価)の上昇率が年率プラス0.64%である。この式に従えば、2013年時点での10年物国債の長期金利は1%台半ば近くに適正値があったと推定される。この10年は、好景気も、新型コロナの感染拡大に伴う景気停滞期も含むため、その後の期間も、長期金利の適正値は1%台半ば周辺から大きくかけ離れることはなかっただろう。にもかかわらず、日銀は現実の長期金利をゼロ%程度に抑え込み続けた。それだけ強烈な金融緩和であったといえるし、それだけ市場機能を低下させたともいえる。 こうした国債金利の極端な抑え込みは、他の金融市場にも波及した。超低水準の国債金利を眺め、投資家は少しでも高い金利を得ようと社債市場に殺到し、社債金利も大幅に低下した。貸出市場でも、貸出金利が低下した。 社債金利や貸出金利に織り込まれている信用スプレッド(国と企業の信用力の差を表すもの)も、日銀による国債金利抑え込みを眺めた投資の殺到で大幅に縮小した。 こうした影響は金融市場にとどまらず、実体経済に波及し、国や企業、家計の経済活動にも影響した。日銀にすれば需要の拡大を狙った金融緩和の効果浸透であり、市場から見れば、歯止めを失った国債発行や生産性の低い企業の生き残りに象徴される市場機能のゆがみの伝播である』、「十分に長い期間をとれば、長期金利は名目GDP成長率の水準に収れんするとの見方に立脚していることになる。 異次元緩和が始まった2013年度から2022年度までの10年間の名目GDP成長率は、年率プラス1.31%だった。実質GDP成長率が年率プラス0.67%、GDPデフレーター・・・の上昇率が年率プラス0.64%である。この式に従えば、2013年時点での10年物国債の長期金利は1%台半ば近くに適正値があったと推定される。この10年は、好景気も、新型コロナの感染拡大に伴う景気停滞期も含むため、その後の期間も、長期金利の適正値は1%台半ば周辺から大きくかけ離れることはなかっただろう。にもかかわらず、日銀は現実の長期金利をゼロ%程度に抑え込み続けた。それだけ強烈な金融緩和であったといえるし、それだけ市場機能を低下させたともいえる」、なるほど。
・YCCの修正が意味したもの ひとつ留意しておきたいのは、日銀が、2024年の異次元緩和解除までの間、イールド・カーブ・コントロール(YCC)における長期金利の変動幅を数次にわたり変更していることである。とくに2022年12月の変動幅拡大は、市場に大きな変動をもたらしたので、そのロジックにも触れておきたい。 日銀が長期金利の変動幅を±0.25%から±0.5%に拡大する直前の年限別イールド・カーブ(利回り曲線)を描くと、10年物金利だけが突出して低水準だったことが分かる(図表5-2の2022年12月19日のカーブ)。日銀が10年物金利に狙いを定めて長期金利のコントロールを続けていた結果である。 一方、それ以外の年限の国債金利は、世界的な物価の上昇を受けたグローバルな金利の上昇にひきずられるかたちで、じわじわと上がっていた。その結果、イールド・カーブに極端なゆがみが生まれた。 このゆがみは、社債市場にも波及し、低金利の社債に買い手がつかなくなり、多くの社債発行が難しくなった。2022年12月に日銀が変動幅拡大に踏み切ったのは、イールド・カーブのゆがみを是正し、社債発行の環境を整えようとするものだった。 ただし、10年物金利が突出して低かったにせよ、イールド・カーブ・コントロールのために行ってきた大量の国債購入は、多かれ少なかれ、すべての年限、すなわちイールド・カーブ全体にゆがみをもたらしていた。22年12月の10年物金利の上限を小幅に引き上げるだけではイールド・カーブのゆがみは解消されなかった。日銀に残された選択肢は、すべての年限を抑え込んで政策の一貫性を保つか、市場の自由な形成にゆだねるかしかなかった。 実際、22年12月の日銀は、10年物金利の変動幅を拡大する一方で、他の年限の金利の上昇を牽制する手段を講じ、市場に介入する姿勢をむしろ強めた。一方、23年4月に発足した植田日銀は、7月、10月と、長期金利の変動幅を2度拡大したあと、24年3月にイールド・カーブ・コントロールを撤廃した。要は、市場機能のゆがみをこれ以上放置できなくなったということである。 それでも、現状は市場機能を完全に回復するに至ったわけではない。長期金利の完全な機能回復とは、日銀が金利の決定を市場に委ね、長期金利の形成に原則として介入しない状態に移るときである。24年7月、日銀は当面2年間の国債買い入れの減額を決めたが、2年後も、事実上中途売却できない長期国債を500兆円以上抱えている姿に変わりはなく、市場機能の完全な回復には程遠い。一方で、長く、強烈な金利抑え込みを続けてきた以上、日銀が市場から完全に遠ざかれば、金利は思わぬ上下動を示しかねない。日銀は慎重なステップを踏まざるをえず、長期金利の完全な機能回復には時間を要する。 *本記事の抜粋元・山本謙三『異次元緩和の罪と罰』(講談社現代新書)では、異次元緩和の成果を分析するとともに、歴史に残る野心的な経済実験の功罪を検証しています。2%の物価目標にこだわるあまり、本来、2年の期間限定だった副作用の強い金融政策を11年も続け、事実上の財政ファイナンスが行われた結果、日本の財政規律は失われ、日本銀行の財務はきわめて脆弱なものになりました。これから植田日銀は途方もない困難と痛みを伴う「出口」に歩みを進めることになります。異次元緩和という長きにわたる「宴」が終わったいま、私たちはどのようなツケを払うことになるのでしょうか』、「24年7月、日銀は当面2年間の国債買い入れの減額を決めたが、2年後も、事実上中途売却できない長期国債を500兆円以上抱えている姿に変わりはなく、市場機能の完全な回復には程遠い。一方で、長く、強烈な金利抑え込みを続けてきた以上、日銀が市場から完全に遠ざかれば、金利は思わぬ上下動を示しかねない。日銀は慎重なステップを踏まざるをえず、長期金利の完全な機能回復には時間を要する・・・事実上の財政ファイナンスが行われた結果、日本の財政規律は失われ、日本銀行の財務はきわめて脆弱なものになりました。これから植田日銀は途方もない困難と痛みを伴う「出口」に歩みを進めることになります。異次元緩和という長きにわたる「宴」が終わったいま、私たちはどのようなツケを払うことになるのでしょうか」、なるほど。
次に、10月7日付け現代ビジネスが掲載した元日銀理事の山本 謙三氏と元モルガン銀行・日本代表兼東京支店長の藤巻 健史氏の対談「いまの日銀は、「中央銀行としてやってはならないこと」をやりまくっている…「日本が置かれた深刻な状況」の実態」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/138655
・『「バリバリの金融実務家であった私が、わからないことがあれば一番頼りにし、最初に意見を求めたのが山本謙三・元日銀理事です。安倍元総理が、もし彼がブレインに選んでいたら、今の日本経済はバラ色だったに違いない」 元モルガン銀行・日本代表兼東京支店長で伝説のトレーダーと呼ばれる藤巻健史氏が心酔するのが元日銀理事の山本謙三氏だ。同氏は、「異次元緩和」は激烈な副作用がある金融政策で、その「出口」には途方もない困難と痛みが待ち受けていると警鐘を鳴らす。 2024年9月17日講談社現代新書より山本氏初の本格的著作となる『異次元緩和の罪と罰』が刊行された。これを記念して、著者である山本氏と藤巻氏が、異次元緩和の功罪を検証する対談を行った。 現代ビジネスでは、その対談の内容を3本の動画に分割して公開する。第2回目は、「異次元緩和がもたらした財政規律の緩み」について議論する。 以下、対談の要旨を掲載する(Qは聞き手である藤巻氏の質問)』、興味深そうだ。
・『守るべきルールをことごとく破った Q:異次元緩和は、伝統的な金融論で守るべきルールをことごとく破ったといわれます。なかでも、膨大な長期国債を大量に市場から買い入れる政策は、世界最悪レベルの借金大国の日本にとって都合の良い政策でした。日銀が国債を爆買いすることによって、財政規律が弛緩したと言われますが、山本さんはどのように分析されますか? (山本謙三氏の略歴はリンク先参照) 山本:世界の多くの国、ほとんどの国と言ってもいいと思いますが、中央銀行が国債を引き受ける財政ファイナンスを禁止しています。それは財政規律を維持するための「人類の知恵」で、そのようなことをしたら、通貨の信認を失い、将来的には非常に高いインフレが必ず起きるからです。 日本でも財政法で国債の日銀引受が禁止されています。その一方で、黒田日銀は、物価目標を実現するための政策として資金の大量供給を決めました。「物価目標2%を何が何でも実現する」という異次元緩和の政策枠組みの中で、日銀は、市場にサプライズを与えるほどの巨額の国債を市場から買い入れました。政府が発行した国債を直接引き受けたわけではありませんでしたが、市中に出回る国債をほとんど買い入れてきたというのが実態です。 左の棒グラフをご覧ください。異次元緩和が始まる直前の2013年3月末の日銀の保有国債残高は、約125兆円でしたが、これが10年後の2023年3月末には、約5倍の約582兆円になっています。この間、日銀の保有国債は一挙に456兆円も増えています。実はこの額は、この期間の新規国債の発行額480兆円に匹敵します。いうなれば、日銀が、財政赤字のほとんどの資金繰りの面倒をみたという状態ですので、政府にしてみれば、金利ゼロで国債がいくらでも発行できる状況になりました。このような状態では、国にも財政赤字を減らそうというインセンティブが働きません。もちろん、財政規律は国に一義的な責任があるわけですが、日銀が財政規律の働きにくい環境を作ったということは間違いありません』、「世界の多くの国、ほとんどの国と言ってもいいと思いますが、中央銀行が国債を引き受ける財政ファイナンスを禁止しています。それは財政規律を維持するための「人類の知恵」で、そのようなことをしたら、通貨の信認を失い、将来的には非常に高いインフレが必ず起きるからです。 日本でも財政法で国債の日銀引受が禁止されています。その一方で、黒田日銀は、物価目標を実現するための政策として資金の大量供給を決めました。「物価目標2%を何が何でも実現する」という異次元緩和の政策枠組みの中で、日銀は、市場にサプライズを与えるほどの巨額の国債を市場から買い入れました。政府が発行した国債を直接引き受けたわけではありませんでしたが、市中に出回る国債をほとんど買い入れてきたというのが実態です。 左の棒グラフをご覧ください。異次元緩和が始まる直前の2013年3月末の日銀の保有国債残高は、約125兆円でしたが、これが10年後の2023年3月末には、約5倍の約582兆円になっています。この間、日銀の保有国債は一挙に456兆円も増えています。実はこの額は、この期間の新規国債の発行額480兆円に匹敵します。いうなれば、日銀が、財政赤字のほとんどの資金繰りの面倒をみたという状態ですので、政府にしてみれば、金利ゼロで国債がいくらでも発行できる状況になりました」、なるほど。
・『財政ファイナンスそのもの 藤巻:『異次元緩和の罪と罰』のなかで、山本さんは「財政ファイナンスに酷似した」と書かれましたが、私は、まさに財政ファイナンスそのものだと思うんですよね。 (藤巻健史氏の略歴はリンク先参照) 私は国会質問で、当時の黒田日銀総裁や麻生財務相に「これは財政ファイナンスじゃないですか?」とお聞きすると、彼らは「いや、これはデフレ脱却のために行っていることだから財政ファイナンスではありません」と答弁されるわけです。これに対して、私は、「中央銀行である日銀が、日本政府の資金繰りを賄っている以上、これはもう財政ファイナンスそのものです。火事は、火が出れば火事になるのであって、失火であろうと放火であろうと、火事であることには変わらない。これと同じように、異次元緩和の目的がデフレ脱却であろうとなかろうと、政府の資金繰りを中央銀行が賄っていれば、それは財政ファイナンスです」とお二人に申し上げましたが、議論は深まりませんでした。 この本にも書いてありましたが、いまの日銀は、中央銀行としてやってはならないことをやりまくってるわけですよ。いったん買い入れると市中での売却が難しい長期国債や、株や土地のように価格が大きく変動するリスク性資産を買いまくっている。正統派金融論の常識では、通貨の信認を守るため、中央銀行が固く禁じられてきたことを、黒田日銀は10年以上も続けてきた。これは由々しきことです。 山本:法律上は、財政法で日銀が直接引き受けることを財政ファイナンスと定義しています。したがって、日銀による市場からの国債買い入れは、法律的には財政ファイナンスには相当しないということになるのでしょうが、経済機能的に言えば財政ファイナンスとほぼ同じですね。 伝統的に多くの中央銀行は、そのような財政ファイナンスが行えないようにする、いくつかの仕掛けを用意してきました。日銀にも、「日銀が保有する長期国債の残高は、銀行券発行残高を上限とする」という銀行券ルールという内部規律が存在しました。しかし異次元緩和では、このルールは一時的に適用停止(注.現在も停止中)されてしまい、国債の大量購入に歯止めをかける仕掛けが骨抜きにされてしまいました。 藤巻:普通の中央銀行はこんなことしないですよ。私は、やはり財政破綻を免れるために日銀は政府を手助けしているように思っています』、「藤巻:・・・私は国会質問で、当時の黒田日銀総裁や麻生財務相に「これは財政ファイナンスじゃないですか?」とお聞きすると、彼らは「いや、これはデフレ脱却のために行っていることだから財政ファイナンスではありません」と答弁されるわけです。これに対して、私は、「中央銀行である日銀が、日本政府の資金繰りを賄っている以上、これはもう財政ファイナンスそのものです・・・異次元緩和の目的がデフレ脱却であろうとなかろうと、政府の資金繰りを中央銀行が賄っていれば、それは財政ファイナンスです」とお二人に申し上げましたが、議論は深まりませんでした」、なるほど。
・『「統合政府論」という考え Q:11年に及ぶ、空前の金融緩和で日銀のバランスシートは異様なまでに拡大しています。一方で、リフレ派の経済学者やMMT論者たちは、日本には潤沢な資産があるので、まだまだ国債を買い入れる余地がある、と主張しています。彼らは、国が支払う利払い費は、国債を買い入れた日銀に支払われるので、たとえ、今後、利払い費が増えても、子会社である日銀から親会社の政府に還流されるので全く問題は生じないといいます。それどころか、市場に流通する国債を日銀がすべて買い入れてしまえば、財政再建が完了するという識者もいます。 藤巻:これは「統合政府論」という考えですね。日銀は政府の事実上の子会社であるから、日銀が、政府発行の国債を保有していることは、子会社が親会社の債務を負っているに過ぎないことになります。そこで政府と日銀を統合したバランスシート(図参照)を作ると、国の負債である国債と日銀の資産である国債が相殺されて、バランスシートから国債が消えてしまいます(実際には、日銀は国が発行した国債の約50%しか所有しておらず、残り50%の国債は相殺されません)。統合政府論者は、政府が国債の金利を支払っても子会社である日銀がその金利を受け取り、利益の一部として政府に戻すのだから問題はない。したがって日本の財政はおよそ危機的ではなく、まだまだ財政余力があり、引き続き大量の国債を発行できると主張します。 しかし、だからと言って、統合政府の債務が消えるわけではありません。上の図でいえば、青色の国債だけは相殺されるけれども、統合後は国債の替わりにオレンジ色の「日銀当座預金」という債務が残るのです。「そっちのことを気にしなくてもいいんですか」という話なんです。 藤巻家を例にして考えてみましょう。歳をとって借金する能力がなくなった私の代わりに息子が銀行から借金をして私に貸し、そのお金で私が家を建てたとしましょう。確かに藤巻家でみると、親子間の貸借は相殺でなくなるかもしれませんが、息子には借りた住宅ローンが残ります。息子は銀行に利子を払いながら住宅ローンの返済を続けていかねばなりません。 英語では財政ファイナンスのことをマネタイゼーションと言います。国債(長期負債)を通貨に変える(超短期負債化)からです。現在のような超低金利時代には問題は顕在化しませんが、ひとたび金利が上昇すると、一気に利払い費が増えて、国全体として大変危険な状態になります。「統合政府で考えれば財政は健全」という考えは、財政ファイナンスは正しいと主張するに等しいわけですから、どう考えてもトンデモ理論です。 山本:藤巻さんおっしゃる通りで、政府の子会社である中央銀行が国債を買えば、国債が相殺されて消えるので財政再建が完了するというのは、これは100%間違っています、 藤巻さんが作成された図を見ていただくとわかるように、国債という政府の債務が日銀当座預金という日銀の債務に置き換わったに過ぎません。日銀当座預金は、日銀の金融機関に対する債務、すなわち借金です。統合政府で見ても、膨大な債務が残る以上、全く財政再建が完了したわけではない。 要するに、政府の信認が低下すれば、論理的に日銀の信認も低下し、日銀が発行する通貨の円の信認も低下することになります。政府の財政状態を示す「一般政府の債務残高対GDP比率(2022年実績見込み)」は257%と、世界約190ヵ国・地域中第2位の高さにあります。日本より財政状態が悪いのは、中東紛争でイスラエルと交戦状態にあるレバノンだけで、日本の財政状態は、内戦状態にあった第3位のスーダンよりもかなり悪い。国と通貨に対する信認は先人たちの努力の積み重ねによって築き上げられてきたものですが、このような財政状態を続けていて、いつまで信認を保ち続けることができるのか不安になります。 藤巻:数字だけでみれば、債務残高対GDP比率257%は、太平洋戦争直後よりも悪いですからね。結局、そのときは、日本は悪性インフレを抑えきれず、1946年(昭和21年)に預金封鎖と新円切り替えを強行し、インフレと国民の負担によって財政赤字を帳消しにしました。いまはまだ問題が顕在化していませんが、国民の皆さんも現在の財政状態は戦時や戦争直後よりも悪いという認識をしてほしいですよね、) Q:日本には、換金可能な潤沢な金融資産と有形固定資産があるので、財政危機など杞憂にすぎないという意見もあります。 山本:国は741兆円もの資産を保有しているので心配はないという方がいらっしゃるのですが、そんな楽観視ができるような状態ではありません。 図(国の賃借対照表)をご覧ください。実は国の資産は、この負債サイドとの見合いになっています。例えば有価証券126兆円のほとんどが外貨証券です。これは外貨準備の運用として持っている有価証券ですが、仮に売れるとしてもその代金は右側にある政府短期証券の償還に充てられなければいけないというルールがあります。 有形固定資産も195兆円ありますが、これは橋や道路などのインフラなので、これも簡単に売れるようなものではありません、実際のところ、国の資産741兆円には、自由に売却できるようなものはなく、新しい財源になるようなものはほとんど存在しません。 一方、バランスシートの右側の負債サイドを見ると、「負債および資産・負債差額合計」の702兆円があります。日本は、資産以上に負債を抱えており、国債の発行額が保有する資産の評価額を702兆円も超えていることを意味します。言い方を変えれば、国は702兆円の債務超過の状態にあります。 ただし、債務超過になったからといって、直ちに国が破綻するというわけではありません。なぜなら、国には、国民から税金を集める徴税権が認められているからです。将来、国民に課される税金でこの差額は埋められるという仮定で成り立っている、そういうバランスシートになっているわけです。 ただし、日本は、民主主義社会ですから、国に徴税する権利があるからといって、増税はそんなに簡単ではありません。税率5%で始まった消費税を10%に引き上げることに30年間もかかったことを思えば、増税が簡単ではないことがわかります。 702兆円に及ぶ資産負債差額がさらに増えるようになれば、マーケットにおいて国への信頼が揺らぐ危険があります。すでに日本の財政は持続可能性を疑われる状態にありますから、将来を楽観視するのではなく市場が不安を持つ前に早く財政再建に着手する必要があるというふうに思っています。 藤巻:山本さんのおっしゃったことはまさにその通りで、楽観視できる状態ではありません。 基本的にGDPと税収は、大雑把に言えば比例関係が成り立ちます。GDPが2倍になれば、個人の収入も2倍になり、国の税収や歳出も2倍になるということです。 財政の健全度を表す「債務残高対GDP比率」は、税収と借金の比率を示す指標です。いうなれば、税収で借金を返す難易度ランキングです。これが世界最悪レベルにあるということは、財政を再建することが世界で最も難しいことを意味します。我が国が置かれている状況はかくも深刻であることを、国民も認識すべきだと、私は思います。 第3回記事<「黒田日銀」は国民に幸福をバラ撒きすぎた…これからやってくるとてつもない「しっぺ返し」>では、「異次元緩和には出口はあるのか」について議論する。 *本対談のきっかけとなった山本謙三『異次元緩和の罪と罰』(講談社現代新書)では、異次元緩和の成果を分析するとともに、歴史に残る野心的な経済実験の功罪を検証しています。2%の物価目標にこだわるあまり、本来、2年の期間限定だった副作用の強い金融政策を11年も続け、事実上の財政ファイナンスが行われた結果、日本の財政規律は失われ、日銀の財務はきわめて脆弱なものになりました。これから植田日銀は途方もない困難と痛みを伴う「出口」に歩みを進めることになります。異次元緩和という長きにわたる「宴」が終わったいま、私たちはどのようなツケを払うことになるのでしょうか』、「統合政府論者は、政府が国債の金利を支払っても子会社である日銀がその金利を受け取り、利益の一部として政府に戻すのだから問題はない。したがって日本の財政はおよそ危機的ではなく、まだまだ財政余力があり、引き続き大量の国債を発行できると主張します。 しかし、だからと言って、統合政府の債務が消えるわけではありません。上の図でいえば、青色の国債だけは相殺されるけれども、統合後は国債の替わりにオレンジ色の「日銀当座預金」という債務が残るのです・・・英語では財政ファイナンスのことをマネタイゼーションと言います。国債(長期負債)を通貨に変える(超短期負債化)からです。現在のような超低金利時代には問題は顕在化しませんが、ひとたび金利が上昇すると、一気に利払い費が増えて、国全体として大変危険な状態になります。「統合政府で考えれば財政は健全」という考えは、財政ファイナンスは正しいと主張するに等しいわけですから、どう考えてもトンデモ理論です・・・政府の子会社である中央銀行が国債を買えば、国債が相殺されて消えるので財政再建が完了するというのは、これは100%間違っています、 藤巻さんが作成された図を見ていただくとわかるように、国債という政府の債務が日銀当座預金という日銀の債務に置き換わったに過ぎません。日銀当座預金は、日銀の金融機関に対する債務、すなわち借金です。統合政府で見ても、膨大な債務が残る以上、全く財政再建が完了したわけではない。 要するに、政府の信認が低下すれば、論理的に日銀の信認も低下し、日銀が発行する通貨の円の信認も低下することになります。政府の財政状態を示す「一般政府の債務残高対GDP比率(2022年実績見込み)」は257%と、世界約190ヵ国・地域中第2位の高さにあります。日本より財政状態が悪いのは、中東紛争でイスラエルと交戦状態にあるレバノンだけで、日本の財政状態は、内戦状態にあった第3位のスーダンよりもかなり悪い。国と通貨に対する信認は先人たちの努力の積み重ねによって築き上げられてきたものですが、このような財政状態を続けていて、いつまで信認を保ち続けることができるのか不安になります・・・財政の健全度を表す「債務残高対GDP比率」は、税収と借金の比率を示す指標です。いうなれば、税収で借金を返す難易度ランキングです。これが世界最悪レベルにあるということは、財政を再建することが世界で最も難しいことを意味します。我が国が置かれている状況はかくも深刻であることを、国民も認識すべきだと、私は思います」、なるほど。
第三に、10月7日付け現代ビジネスが掲載した元日銀理事の山本 謙三氏と元モルガン銀行・日本代表兼東京支店長の藤巻 健史氏の対談「「黒田日銀」は国民に幸福をバラ撒きすぎた…これからやってくるとてつもない「しっぺ返し」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/138657
・・・・異次元緩和の歪みや副作用 Q:11年にわたって続いてきた異次元緩和の歪みや副作用がさまざまなところに現れているように思います。 山本:日銀が、市場からこれだけ大量に国債やETF(上場投資信託)を買い入れれば、債券市場や株式市場が歪むのはある意味当然のことです。いまや日銀は、株式市場において国内最大の投資家です。 藤巻:中央銀行は、価格の変動が激しいリスク性資産は極力持たないという不文律がありますが、日銀のように大量の株式を買い入れている中央銀行はほかにはないですよね。) 山本:金融政策として、株式を買い入れている中央銀行は、ほとんどありません。 歪みが生じているのは株式市場だけではありません。国債市場では、日銀は国内最大の購入者であり、保有者です。日銀の国債保有残高は約590兆円に及んでいます。 日銀は、大量の国債買い入れを継続して実施することで長期金利を0%台に抑えてきました。もし、日銀が市場に介入せず、長期金利の変動を市場に任せていれば、実際の名目GDPの成長率から見て、少なくとも1%前後になっていたはずです。 長期にわたって市場の実勢より1%近く金利を抑圧してきたのですから、さまざまな副作用が生じていることは間違いありません。 第一は急激な円安です。図は、1970年代から現在にいたる実質実効為替レートの推移を示すグラフです。実質実効為替レートは、通常の為替レートではなく、相対的な通貨の実力を測るための計算上のレートです。 2024年春の円相場の実質実効為替レートは、1ドル=360円時代をさらに下回る円安水準まで下落しました。つまり、1971年8月のニクソンショック直前の、1ドル360円並みの水準まで、円安が進んでいます。ここまで円安が進むと、海外から見れば、明らかに日本のものは何でも安く見えます。それゆえ、インバウンドの観光客が増えていますし、外国人の投資家が都心の土地やマンションを購入するようになっています。一見すると、景気のよい話のように見えますが、日本国内から見ると、国内の資源や労働力を安売りしていることに他なりません。これでは、私たち日本人の生活はいっこうに豊かになりません。 第二の副作用は、市場の機能が低下したために、成長性の低い企業が選別、淘汰されることなく生き残ったことです。その結果、日本経済の新陳代謝が進まなくなり、経済のダイナミズムが失われました。これは自由主義市場経済にとっては非常に痛手だったように思います。 第三の副作用は、金融機関へのしわ寄せです。金融機関は、市場金利が低下したことによって収益が圧迫されたため、それを補うために外債などのハイリスクの投資を増やしました。その結果、いくつかの金融機関は、金利上昇局面になってから、購入した外債の損失が膨らみ、増資に迫られるようになっています。もちろん、個別金融機関のリスク管理の甘さが原因ですが、異次元緩和が金融機関をハイリスクの投資に追い込んでいったという事実は残ります。 (山本謙三氏の略歴はリンク先参照)』、「藤巻:中央銀行は、価格の変動が激しいリスク性資産は極力持たないという不文律がありますが、日銀のように大量の株式を買い入れている中央銀行はほかにはないですよね。) 山本:金融政策として、株式を買い入れている中央銀行は、ほとんどありません。 歪みが生じているのは株式市場だけではありません。国債市場では、日銀は国内最大の購入者であり、保有者です。日銀の国債保有残高は約590兆円に及んでいます。 日銀は、大量の国債買い入れを継続して実施することで長期金利を0%台に抑えてきました。もし、日銀が市場に介入せず、長期金利の変動を市場に任せていれば、実際の名目GDPの成長率から見て、少なくとも1%前後になっていたはずです。 長期にわたって市場の実勢より1%近く金利を抑圧してきたのですから、さまざまな副作用が生じていることは間違いありません。 第一は急激な円安です。図は、1970年代から現在にいたる実質実効為替レートの推移を示すグラフです。実質実効為替レートは、通常の為替レートではなく、相対的な通貨の実力を測るための計算上のレートです。 2024年春の円相場の実質実効為替レートは、1ドル=360円時代をさらに下回る円安水準まで下落しました。つまり、1971年8月のニクソンショック直前の、1ドル360円並みの水準まで、円安が進んでいます。ここまで円安が進むと、海外から見れば、明らかに日本のものは何でも安く見えます。それゆえ、インバウンドの観光客が増えていますし、外国人の投資家が都心の土地やマンションを購入するようになっています。一見すると、景気のよい話のように見えますが、日本国内から見ると、国内の資源や労働力を安売りしていることに他なりません。これでは、私たち日本人の生活はいっこうに豊かになりません。 第二の副作用は、市場の機能が低下したために、成長性の低い企業が選別、淘汰されることなく生き残ったことです。その結果、日本経済の新陳代謝が進まなくなり、経済のダイナミズムが失われました。これは自由主義市場経済にとっては非常に痛手だったように思います。 第三の副作用は、金融機関へのしわ寄せです。金融機関は、市場金利が低下したことによって収益が圧迫されたため、それを補うために外債などのハイリスクの投資を増やしました。その結果、いくつかの金融機関は、金利上昇局面になってから、購入した外債の損失が膨らみ、増資に迫られるようになっています。もちろん、個別金融機関のリスク管理の甘さが原因ですが、異次元緩和が金融機関をハイリスクの投資に追い込んでいったという事実は残ります」、なるほど。
・『国民に幸福をバラ撒きすぎた 藤巻:感覚的な言い方になりますが、黒田日銀は、国民に幸福をバラ撒きすぎました。日銀が国債を爆買いして長期金利を低く抑えたことによって、住宅ローンの金利も0%近くになりました。金利負担が下がったうえに地価やマンション価格は高騰しましたから、住宅ローンを組んで不動産を購入した人は非常にハッピーなわけですよ。日銀によるETF購入で株式相場も上昇しましたから、株を持っている人もハッピーでした。なにより超ハッピーだったのは日本政府で、新規国債の金利負担がないから予算が好き勝手に作れて、バラ撒きもできた。こうした政策は、選挙民からの受けもいいので次の選挙にも当選できるので、バラ撒きはさらに加速していく。このように、日銀は異次元緩和を11年間も続けることで、日本国民に幸福のバラ撒きを続けてきたわけです。 問題は、この幸福は、日本人が実力で勝ち取ったものではなく、日銀によって作り出された、かりそめの幸福です。私は、日本人は、何か後で、とてつもない「しっぺ返し」を受けることになるのではないかと心配しています』、「黒田日銀は、国民に幸福をバラ撒きすぎました。日銀が国債を爆買いして長期金利を低く抑えたことによって、住宅ローンの金利も0%近くになりました。金利負担が下がったうえに地価やマンション価格は高騰しましたから、住宅ローンを組んで不動産を購入した人は非常にハッピーなわけですよ。日銀によるETF購入で株式相場も上昇しましたから、株を持っている人もハッピーでした。なにより超ハッピーだったのは日本政府で、新規国債の金利負担がないから予算が好き勝手に作れて、バラ撒きもできた。こうした政策は、選挙民からの受けもいいので次の選挙にも当選できるので、バラ撒きはさらに加速していく。このように、日銀は異次元緩和を11年間も続けることで、日本国民に幸福のバラ撒きを続けてきたわけです。 問題は、この幸福は、日本人が実力で勝ち取ったものではなく、日銀によって作り出された、かりそめの幸福です。私は、日本人は、何か後で、とてつもない「しっぺ返し」を受けることになるのではないかと心配しています」、なるほど。
・『黒田総裁の前任の白川方明日銀総裁は、自らもやむを得ず行った非伝統的な金融政策である質的緩和の危険性を自覚され、憂慮されていた。印象的だったのは、2013年3️月19日の退任記者会見での発言でした。「わが国を含め欧米諸国が現在展開している非伝統的な政策の評価も、いわゆる『出口』から円滑に脱出できて初めて、全プロセスを通じた金融政策の評価が可能となる、そうした性格のものだと思っています」 しかし、白川総裁を引き継いだ黒田日銀は、白川日銀の質的緩和を中途半端と批判して、伝統的金融論からすると、あり得ない規模の超金融緩和を11年も続けてきました。巨大なクジラのような日銀が大量の株と国債を買い進めて、市場機能を殺してしまった以上、もはや日銀には異次元緩和から抜け出る「出口」はありません。 私は、異次元緩和は「出口」から無事に出られて初めて評価できる金融政策だと思っています。「出口」から出られなかったら、最悪の政策だと結論づけるしかない。 黒田前総裁は、メディアから日銀の出口戦略を何度も質問されましたが、「時期尚早」を繰り返して、その道筋を最後まで語ることはありませんでした。引き継いだ植田和男総裁は異次元緩和の終了を宣言しましたが、出口戦略をどのように進めるのか具体的なシミュレーションを出していません。 山本さんが書かれた『異次元緩和の罪と罰』には、金融正常化を進めるには、最短でも10年かかるとあります。この一事をとっても、やはり出口から抜け出るのは相当難しいと言わざるを得ないですね』、「黒田総裁の前任の白川方明日銀総裁は、自らもやむを得ず行った非伝統的な金融政策である質的緩和の危険性を自覚され、憂慮されていた。印象的だったのは、2013年3️月19日の退任記者会見での発言でした。「わが国を含め欧米諸国が現在展開している非伝統的な政策の評価も、いわゆる『出口』から円滑に脱出できて初めて、全プロセスを通じた金融政策の評価が可能となる、そうした性格のものだと思っています」 しかし、白川総裁を引き継いだ黒田日銀は、白川日銀の質的緩和を中途半端と批判して、伝統的金融論からすると、あり得ない規模の超金融緩和を11年も続けてきました。巨大なクジラのような日銀が大量の株と国債を買い進めて、市場機能を殺してしまった以上、もはや日銀には異次元緩和から抜け出る「出口」はありません。 私は、異次元緩和は「出口」から無事に出られて初めて評価できる金融政策だと思っています。「出口」から出られなかったら、最悪の政策だと結論づけるしかない。 黒田前総裁は、メディアから日銀の出口戦略を何度も質問されましたが、「時期尚早」を繰り返して、その道筋を最後まで語ることはありませんでした。引き継いだ植田和男総裁は異次元緩和の終了を宣言しましたが、出口戦略をどのように進めるのか具体的なシミュレーションを出していません。 山本さんが書かれた『異次元緩和の罪と罰』には、金融正常化を進めるには、最短でも10年かかるとあります。この一事をとっても、やはり出口から抜け出るのは相当難しいと言わざるを得ないですね」、なるほど。
・『金融の正常化には非常に長い時間がかかる 山本:藤巻さんがおっしゃられたように金融の正常化には非常に長い時間がかかります。 私の試算では、約561兆円ある日銀当座預金残高を「平時」の約30兆円に戻すには10年以上かかるという結果になりました。しかも、これは、正常化完了までの間、いっさい新規の国債買い入れを止めるという仮定のもとでの試算です。 植田日銀は、2024年7月に日銀の国債買い入れ額の減額計画を公表し、それに着手しています。ただし、この計画に沿って日銀が国債買い入れ額を減らすとしても、いまから2年後の2026年3月末時点では依然、約550兆円の保有残高が日銀に残ります。 当面に限って言うと、国債の減額は大きな支障なく進められるだろうと思っています。なぜならば、最初の2年は日銀の国債買い入れの減額は月間3兆円程度ですから、国内の金融機関がこれを補うことは難しくありません。異次元緩和によって収益を圧迫された金融機関のなかには、リスクのある外債投資に追い込まれたところも多いので、為替リスクのない日本国債を購入するところも多いはずです。 ただし、当面は、国債減額は支障なく進められるでしょうが、いずれ金利の上昇が避けられないと考えています。なぜかというと、国は、借換債以外にも毎年約30兆円台の新規国債を発行しているからです。借換債に相当する国債は日本の金融機関が購入できるとしても、新たに発行される国債を購入できる原資があるのかという問題に突き当たります。仮に国内の金融機関だけでは消化が難しいとなれば、海外の投資家に頼らざるを得ません。ただし、彼らにとって、日本国債は金利変動リスクや為替リスクがありますから、相応の金利をつけなければ、彼らも買わないでしょう。 ただ、金利が上昇するのは、ある意味、自然なことです。もともと異次元緩和で隠されていた本来あるべき金利が、表面に出てくるという話なので、金利急騰といったような非常事態を除けば、国や日銀もこれは受け入れる必要があります。 いったん金利が上がり始めると、いろんなところからプレッシャーがかかってくるでしょうが、日銀としては正常化のプロセスを着実に進めていく必要があります。藤巻さんがおっしゃったことに近いのですが、金融正常化のプロセスを途中でやめてしまうことになれば、「なんだ異次元緩和は結局、財政ファイナンスだったのか」と市場から評価されてしまいます。中央銀行が財政ファイナンスを事実上認めるようなことをしたら、円という通貨の信認は揺らいでしまいます』、「私の試算では、約561兆円ある日銀当座預金残高を「平時」の約30兆円に戻すには10年以上かかるという結果になりました。しかも、これは、正常化完了までの間、いっさい新規の国債買い入れを止めるという仮定のもとでの試算です。 植田日銀は、2024年7月に日銀の国債買い入れ額の減額計画を公表し、それに着手しています。ただし、この計画に沿って日銀が国債買い入れ額を減らすとしても、いまから2年後の2026年3月末時点では依然、約550兆円の保有残高が日銀に残ります。 当面に限って言うと、国債の減額は大きな支障なく進められるだろうと思っています。なぜならば、最初の2年は日銀の国債買い入れの減額は月間3兆円程度ですから、国内の金融機関がこれを補うことは難しくありません。異次元緩和によって収益を圧迫された金融機関のなかには、リスクのある外債投資に追い込まれたところも多いので、為替リスクのない日本国債を購入するところも多いはずです。 ただし、当面は、国債減額は支障なく進められるでしょうが、いずれ金利の上昇が避けられないと考えています。なぜかというと、国は、借換債以外にも毎年約30兆円台の新規国債を発行しているからです。借換債に相当する国債は日本の金融機関が購入できるとしても、新たに発行される国債を購入できる原資があるのかという問題に突き当たります。仮に国内の金融機関だけでは消化が難しいとなれば、海外の投資家に頼らざるを得ません。ただし、彼らにとって、日本国債は金利変動リスクや為替リスクがありますから、相応の金利をつけなければ、彼らも買わないでしょう。 ただ、金利が上昇するのは、ある意味、自然なことです。もともと異次元緩和で隠されていた本来あるべき金利が、表面に出てくるという話なので、金利急騰といったような非常事態を除けば、国や日銀もこれは受け入れる必要があります。 いったん金利が上がり始めると、いろんなところからプレッシャーがかかってくるでしょうが、日銀としては正常化のプロセスを着実に進めていく必要があります。藤巻さんがおっしゃったことに近いのですが、金融正常化のプロセスを途中でやめてしまうことになれば、「なんだ異次元緩和は結局、財政ファイナンスだったのか」と市場から評価されてしまいます。中央銀行が財政ファイナンスを事実上認めるようなことをしたら、円という通貨の信認は揺らいでしまいます」、なるほど。
・『長期金利が上昇すれば、国債の評価損がどんどん膨らむ 藤巻:山本さんは、今後、日本の長期金利は一段と上がっていくとおっしゃいましたが、私が参院予算委員会で日銀に質問したところ、2023年9月末時点で日銀の保有国債の評価損はすでに約10兆円(当時、10年物金利は0.76%だった)もあり、金利がパラレルシフトすると、1%の金利上昇で評価損は29兆円程度増加するとの話でした。今後、長期金利が一段と上昇するようになれば、日銀が抱える国債の評価損がどんどん膨らんでいきます。 目下のところ、本来なら中央銀行が保有すべきでない株の評価益があるからいいものの、今後、日銀が国債やETFの買い入れ額を減らして過剰流動性を吸収する局面になれば、株価が下がり、評価益が激減するリスクもあります。私は、日銀が本格的に出口戦略を進めれば、ものすごい債務超過になると予測していますが、それでも大丈夫でしょうか?) 山本:あくまでも2023年度末時点ですが、日銀が買い進めてきたETF等の含み益が約38兆円もあるので、国債の評価損が出ても、なんとかそれでカバーできてしまうという状態です。 ただし、これはあくまでも株価次第ですから、株価が急落したり、金利が大幅に急騰したりする局面では、日銀が債務超過になる可能性があることは否定できません。ただし、中央銀行の場合、債務超過になったからといって、ただちに資金繰りに困るということはありません。 藤巻:日銀は、自分で日銀券を発行できるので、資金繰りに窮することはないですからね。 山本:債務超過になったからといって、ただちに危機が発生することはありませんが、かといって楽観視できる状態ではありません。要は、マーケットがどう見るかというその一点に尽きると思います。日銀が市場からの信頼を失えば、資金繰りではなく、まず為替が急落するところからスタートして、混乱が起きかねません。 藤巻:要するに中央銀行が危機的状況になるということは、その発行する通貨が信用を失うことを意味します。円の価値が失墜することになれば、円は紙くず化し、1ドル=1兆円になるようなハイパーインフレが起きるでしょう。 山本:藤巻さんのおっしゃることは過激で、少しついていけない部分もあるのですが(笑)、最終的にハイパーインフレにならないまでも、非常に高いインフレ率になることはあり得る話です。通貨に対する信認は、心理的な要素によるところが大きく、ある閾値(しきい値)」を超えた時点で突如崩壊するものです。それがいつどこで起きるかは、マーケットの心理によるので、それを予測するのは難しい。とはいえ、日銀も政府もそのような事態になるまでに、何らかの手を打つとは思いますが……。 藤巻:私に言わせると、日銀も政府も手を打ちすぎです。むしろ、過剰な介入で市場機能を殺してきたことに、日本経済の長期停滞の原因があるのではないでしょうか。常々感じていることですが、日本は資本主義の国というよりは計画経済の社会主義国のようです。 山本:私も、藤巻さんがおっしゃっているように、日本はどんどん市場経済から離れつつあるように感じます。戦後はずっと「市場競争を大事にする」という考えが主流でしたが、1990年代から、こうした考えが明らかに後退しています。政治的にも、選挙対策で、社会保障を充実させる政策や不況に苦しむ企業を救済する景気対策が広く行われるようになりました。その結果、生まれたのが、財政規律の著しい後退です。競争に負けた企業まで救済するような政策が広く行われた結果、経済の新陳代謝が進まず、生産性が低下していくという悪い流れになりつつあります。その流れを断ち切ることが一番大事なことだと考えています』、「2023年9月末時点で日銀の保有国債の評価損はすでに約10兆円(当時、10年物金利は0.76%だった)もあり、金利がパラレルシフトすると、1%の金利上昇で評価損は29兆円程度増加するとの話でした。今後、長期金利が一段と上昇するようになれば、日銀が抱える国債の評価損がどんどん膨らんでいきます。 目下のところ、本来なら中央銀行が保有すべきでない株の評価益があるからいいものの、今後、日銀が国債やETFの買い入れ額を減らして過剰流動性を吸収する局面になれば、株価が下がり、評価益が激減するリスクもあります。私は、日銀が本格的に出口戦略を進めれば、ものすごい債務超過になると予測していますが、それでも大丈夫でしょうか?) 山本:あくまでも2023年度末時点ですが、日銀が買い進めてきたETF等の含み益が約38兆円もあるので、国債の評価損が出ても、なんとかそれでカバーできてしまうという状態です。 ただし、これはあくまでも株価次第ですから、株価が急落したり、金利が大幅に急騰したりする局面では、日銀が債務超過になる可能性があることは否定できません。ただし、中央銀行の場合、債務超過になったからといって、ただちに資金繰りに困るということはありません・・・藤巻:私に言わせると、日銀も政府も手を打ちすぎです。むしろ、過剰な介入で市場機能を殺してきたことに、日本経済の長期停滞の原因があるのではないでしょうか。常々感じていることですが、日本は資本主義の国というよりは計画経済の社会主義国のようです。 山本:私も、藤巻さんがおっしゃっているように、日本はどんどん市場経済から離れつつあるように感じます。戦後はずっと「市場競争を大事にする」という考えが主流でしたが、1990年代から、こうした考えが明らかに後退しています。政治的にも、選挙対策で、社会保障を充実させる政策や不況に苦しむ企業を救済する景気対策が広く行われるようになりました。その結果、生まれたのが、財政規律の著しい後退です。競争に負けた企業まで救済するような政策が広く行われた結果、経済の新陳代謝が進まず、生産性が低下していくという悪い流れになりつつあります。その流れを断ち切ることが一番大事なことだと考えています」、なるほど。
・『中央銀行の目的は「物価の安定」だけではない Q:山本さんは日銀理事を務めた日銀OBとして、現在の日本銀行の姿はどのように映りますか。また、植田日銀は、今後どのような金融政策を進めていくべきだとお考えですか? 山本:世間に誤解があることなのですが、中央銀行の目的は「物価の安定」だけではありません。日銀が目指すべきものは「物価の安定」というよりも、より高次で広い概念である「通貨の信認確保」です。その意味するところは、「物価の安定」のほかに、金融システムの健全性維持、銀行券の円滑な発行・流通、日銀ネットと呼ばれる大規模な資金決済ネットワークの維持など広範な目的を含みます。これらをひっくるめたものが「通貨の信認確保」だと理解しています。 日銀がやれることは、突き詰めると、1つだけで、資金をマーケットに供給ないし吸収することしかありません。しかしこの資金の供給・吸収が経済に非常に大きな影響力を持っているわけです。それは物価にも影響を与えるし、金融システムにも影響を与えるし、決済にも影響を与えます。中央銀行は、これらをバランスよく達成することが使命であって、物価目標2%を絶対視するような硬直的な政策運営はすべきではありません。 こうした観点に立てば、異次元緩和がもたらす金融システムや市場機能への悪影響を意識するのは、中央銀行として当然の責務になります。 植田日銀は、黒田日銀が始めた11年続いた「異次元緩和」の幕引きをするという難題を背負わされたわけですが、その過程で、これまでの総括を行い、今後どのような道筋で正常化を進めていくのかを、国民にきちんと説明したうえで支持を得なければなりません。 こうした取り組みをないがしろにすると、また、いずれ政治サイドから「国債をもっと買い入れてほしい。なぜ異次元緩和でやれたことが、いまできないのか」と迫られることになってしまいます。) 藤巻:説明をうかがって改めて、今日もまた「さすが山本さんだな」と感服しました。私の過激な説明よりも、ジェントルマンとして冷静に丁寧に説明していただくと、多くの方が納得するんじゃないかと改めて思いました。『異次元緩和の罪と罰』は本当に素晴らしい作品ですので、ぜひ皆さんも読みください。 山本:藤巻さんとの対談は刺激的で私も楽しかったです、本当にありがとうございました。 *本対談のきっかけとなった山本謙三『異次元緩和の罪と罰』(講談社現代新書)では、異次元緩和の成果を分析するとともに、歴史に残る野心的な経済実験の功罪を検証しています。2%の物価目標にこだわるあまり、本来、2年の期間限定だった副作用の強い金融政策を11年も続け、事実上の財政ファイナンスが行われた結果、日本の財政規律は失われ、日銀の財務はきわめて脆弱なものになりました。これから植田日銀は途方もない困難と痛みを伴う「出口」に歩みを進めることになります。異次元緩和という長きにわたる「宴」が終わったいま、私たちはどのようなツケを払うことになるのでしょうか』、「日銀が目指すべきものは「物価の安定」というよりも、より高次で広い概念である「通貨の信認確保」です。その意味するところは、「物価の安定」のほかに、金融システムの健全性維持、銀行券の円滑な発行・流通、日銀ネットと呼ばれる大規模な資金決済ネットワークの維持など広範な目的を含みます。これらをひっくるめたものが「通貨の信認確保」だと理解しています。 日銀がやれることは、突き詰めると、1つだけで、資金をマーケットに供給ないし吸収することしかありません。しかしこの資金の供給・吸収が経済に非常に大きな影響力を持っているわけです。それは物価にも影響を与えるし、金融システムにも影響を与えるし、決済にも影響を与えます。中央銀行は、これらをバランスよく達成することが使命であって、物価目標2%を絶対視するような硬直的な政策運営はすべきではありません・・・2%の物価目標にこだわるあまり、本来、2年の期間限定だった副作用の強い金融政策を11年も続け、事実上の財政ファイナンスが行われた結果、日本の財政規律は失われ、日銀の財務はきわめて脆弱なものになりました。これから植田日銀は途方もない困難と痛みを伴う「出口」に歩みを進めることになります。異次元緩和という長きにわたる「宴」が終わったいま、私たちはどのようなツケを払うことになるのでしょうか」、黒田異次元緩和のツケはとても高いものとして跳ね返ってくるようだ。
なお、昨日の金融政策決定会合での「維持」決定については、特にコメントの必要なしとして、取上げなかった。
タグ:金融政策 (その49)(山本 謙三氏4題:日銀がついに撤退戦を始めた!植田日銀は 爆買いしてきた長期国債590兆円を波乱なく減らすことが本当にできるのか?、いまの日銀は 「中央銀行としてやってはならないこと」をやりまくっている…「日本が置かれた深刻な状況」の実態、「黒田日銀」は国民に幸福をバラ撒きすぎた…これからやってくるとてつもない「しっぺ返し」、私たちはこれからどんなツケを払うことになるのか…なんと11年に及んだ「異次元緩和」がもたらしたもの) 現代ビジネス 山本 謙三氏による「日銀がついに撤退戦を始めた!植田日銀は、爆買いしてきた長期国債590兆円を波乱なく減らすことが本当にできるのか?」 山本謙三『異次元緩和の罪と罰』 計画通りに2年間減額を進めても、日銀がなお500兆円以上を抱えている姿に変わりはなく、市場機能の完全な回復には程遠い。 財政赤字を丸呑みしてきた日銀が市場から徐々に遠ざかれば、長期金利は想定外の上下動を起こすリスクを孕む。はたして、植田日銀は滞りなく、出口戦略を進めることができるのか?」、なるほど。 「ハンガリーの経済学者コルナイ・ヤーノシュは、・・・「急速な革新(イノベーション)やダイナミズムは、起こるかもしれないし起こらないかもしれないといったランダムな現象ではなく、資本主義というシステム特有の性質に深く根ざしたものである・・・シカゴ大学のラジャン教授は「中央銀行による介入は少ない方が、おそらく良好な結果をもたらすだろう」と述べている。これは、政府や中央銀行といった公的当局の市場介入を極力減らし、民間の新陳代謝を通じて経済の活性化を図る資本主義システムに内在する固有の利点を信じてのことだろう」、ラ ジャンの主張では中央銀行は不要というシカゴ学派の極論だ。「一般政府の債務残高対GDP比率が先進国で断トツに高い国だ。中央銀行のバランスシート規模の拡大は、コルナイの主張する資本主義システムのもつダイナミズムを脅かしているように見えてならない。 日銀のバランスシートを見ると、総資産(=負債・純資産計)は、2013年3月末の約165兆円から2024年3月末には約756兆円まで拡大した。じつに4.6倍である。 他の主要な中央銀行との比較でも、その巨大さが際立つ(図表5-1)。中央銀行の総資産の対GDP比率は、米 国FRBの35%、欧州ECBの48%に対し、日銀は127%に達する。異次元緩和が始まる前の同比率は30%台だったので、この間の規模拡大がいかに劇的なものだったかが分かる」、なるほど。 「十分に長い期間をとれば、長期金利は名目GDP成長率の水準に収れんするとの見方に立脚していることになる。 異次元緩和が始まった2013年度から2022年度までの10年間の名目GDP成長率は、年率プラス1.31%だった。実質GDP成長率が年率プラス0.67%、GDPデフレーター・・・の上昇率が年率プラス0.64%である。この式に従えば、2013年時点での10年物国債の長期金利は1%台半ば近くに適正値があったと推定される。この10年は、好景気も、新型コロナの感染拡大に伴う景気停滞期も含むため、その後の期間も、 長期金利の適正値は1%台半ば周辺から大きくかけ離れることはなかっただろう。にもかかわらず、日銀は現実の長期金利をゼロ%程度に抑え込み続けた。それだけ強烈な金融緩和であったといえるし、それだけ市場機能を低下させたともいえる」、なるほど。 「24年7月、日銀は当面2年間の国債買い入れの減額を決めたが、2年後も、事実上中途売却できない長期国債を500兆円以上抱えている姿に変わりはなく、市場機能の完全な回復には程遠い。一方で、長く、強烈な金利抑え込みを続けてきた以上、日銀が市場から完全に遠ざかれば、金利は思わぬ上下動を示しかねない。日銀は慎重なステップを踏まざるをえず、長期金利の完全な機能回復には時間を要する・・・ 事実上の財政ファイナンスが行われた結果、日本の財政規律は失われ、日本銀行の財務はきわめて脆弱なものになりました。これから植田日銀は途方もない困難と痛みを伴う「出口」に歩みを進めることになります。異次元緩和という長きにわたる「宴」が終わったいま、私たちはどのようなツケを払うことになるのでしょうか」、なるほど。 山本 謙三氏 藤巻 健史氏の対談「いまの日銀は、「中央銀行としてやってはならないこと」をやりまくっている…「日本が置かれた深刻な状況」の実態」 『異次元緩和の罪と罰』 山本:世界の多くの国、ほとんどの国と言ってもいいと思いますが、中央銀行が国債を引き受ける財政ファイナンスを禁止しています。それは財政規律を維持するための「人類の知恵」で、そのようなことをしたら、通貨の信認を失い、将来的には非常に高いインフレが必ず起きるからです。 日本でも財政法で国債の日銀引受が禁止されています。その一方で、黒田日銀は、物価目標を実現するための政策として資金の大量供給を決めました。「物価目標2%を何が何でも実現する」という異次元緩和の政策枠組みの中で、日銀は、市場にサプライズを与えるほどの 巨額の国債を市場から買い入れました。政府が発行した国債を直接引き受けたわけではありませんでしたが、市中に出回る国債をほとんど買い入れてきたというのが実態です。 左の棒グラフをご覧ください。異次元緩和が始まる直前の2013年3月末の日銀の保有国債残高は、約125兆円でしたが、これが10年後の2023年3月末には、約5倍の約582兆円になっています。この間、日銀の保有国債は一挙に456兆円も増えています。実はこの額は、この期間の新規国債の発行額480兆円に匹敵します。 「世界の多くの国、ほとんどの国と言ってもいいと思いますが、中央銀行が国債を引き受ける財政ファイナンスを禁止しています。それは財政規律を維持するための「人類の知恵」で、そのようなことをしたら、通貨の信認を失い、将来的には非常に高いインフレが必ず起きるからです。 日本でも財政法で国債の日銀引受が禁止されています。その一方で、黒田日銀は、物価目標を実現するための政策として資金の大量供給を決めました。「物価目標2%を何が何でも実現する」という異次元緩和の政策枠組みの中で、日銀は、市場にサプライズを与えるほどの巨額 の国債を市場から買い入れました。政府が発行した国債を直接引き受けたわけではありませんでしたが、市中に出回る国債をほとんど買い入れてきたというのが実態です。 左の棒グラフをご覧ください。異次元緩和が始まる直前の2013年3月末の日銀の保有国債残高は、約125兆円でしたが、これが10年後の2023年3月末には、約5倍の約582兆円になっています。この間、日銀の保有国債は一挙に456兆円も増えています。実はこの額は、この期間の新規国債の発行額480兆円に匹敵します。いうなれば、日銀が、財政赤字のほとんどの資金繰 りの面倒をみたという状態ですので、政府にしてみれば、金利ゼロで国債がいくらでも発行できる状況になりました」、なるほど。 「藤巻:・・・私は国会質問で、当時の黒田日銀総裁や麻生財務相に「これは財政ファイナンスじゃないですか?」とお聞きすると、彼らは「いや、これはデフレ脱却のために行っていることだから財政ファイナンスではありません」と答弁されるわけです。これに対して、私は、「中央銀行である日銀が、日本政府の資金繰りを賄っている以上、これはもう財政ファイナンスそのものです・・・異次元緩和の目的がデフレ脱却であろうとなかろうと、政府の資金繰りを中央銀行が賄っていれば、それは財政ファイナンスです」とお二人に申し上げましたが、議論は深 まりませんでした」、なるほど。 「統合政府論者は、政府が国債の金利を支払っても子会社である日銀がその金利を受け取り、利益の一部として政府に戻すのだから問題はない。したがって日本の財政はおよそ危機的ではなく、まだまだ財政余力があり、引き続き大量の国債を発行できると主張します。 しかし、だからと言って、統合政府の債務が消えるわけではありません。上の図でいえば、青色の国債だけは相殺されるけれども、統合後は国債の替わりにオレンジ色の「日銀当座預金」という債務が残るのです・・・ 英語では財政ファイナンスのことをマネタイゼーションと言います。国債(長期負債)を通貨に変える(超短期負債化)からです。現在のような超低金利時代には問題は顕在化しませんが、ひとたび金利が上昇すると、一気に利払い費が増えて、国全体として大変危険な状態になります。「統合政府で考えれば財政は健全」という考えは、財政ファイナンスは正しいと主張するに等しいわけですから、どう考えてもトンデモ理論です・・・ 政府の子会社である中央銀行が国債を買えば、国債が相殺されて消えるので財政再建が完了するというのは、これは100%間違っています、 藤巻さんが作成された図を見ていただくとわかるように、国債という政府の債務が日銀当座預金という日銀の債務に置き換わったに過ぎません。日銀当座預金は、日銀の金融機関に対する債務、すなわち借金です。統合政府で見ても、膨大な債務が残る以上、全く財政再建が完了したわけではない。 要するに、政府の信認が低下すれば、論理的に日銀の信認も低下し、日銀が発行する通貨の円の信認も低下することになり ます。政府の財政状態を示す「一般政府の債務残高対GDP比率(2022年実績見込み)」は257%と、世界約190ヵ国・地域中第2位の高さにあります。日本より財政状態が悪いのは、中東紛争でイスラエルと交戦状態にあるレバノンだけで、日本の財政状態は、内戦状態にあった第3位のスーダンよりもかなり悪い。国と通貨に対する信認は先人たちの努力の積み重ねによって築き上げられてきたものですが、このような財政状態を続けていて、いつまで信認を保ち続けることができるのか不安になります・・・財政の健全度を表す「債務残高対GDP比率 」は、税収と借金の比率を示す指標です。いうなれば、税収で借金を返す難易度ランキングです。これが世界最悪レベルにあるということは、財政を再建することが世界で最も難しいことを意味します。我が国が置かれている状況はかくも深刻であることを、国民も認識すべきだと、私は思います」、なるほど。 藤巻 健史氏の対談「「黒田日銀」は国民に幸福をバラ撒きすぎた…これからやってくるとてつもない「しっぺ返し」」 「藤巻:中央銀行は、価格の変動が激しいリスク性資産は極力持たないという不文律がありますが、日銀のように大量の株式を買い入れている中央銀行はほかにはないですよね。) 山本:金融政策として、株式を買い入れている中央銀行は、ほとんどありません。 歪みが生じているのは株式市場だけではありません。国債市場では、日銀は国内最大の購入者であり、保有者です。日銀の国債保有残高は約590兆円に及んでいます。 日銀は、大量の国債買い入れを継続して実施することで長期金利を0%台に抑えてきました。 もし、日銀が市場に介入せず、長期金利の変動を市場に任せていれば、実際の名目GDPの成長率から見て、少なくとも1%前後になっていたはずです。 長期にわたって市場の実勢より1%近く金利を抑圧してきたのですから、さまざまな副作用が生じていることは間違いありません。 第一は急激な円安です。図は、1970年代から現在にいたる実質実効為替レートの推移を示すグラフです。実質実効為替レートは、通常の為替レートではなく、相対的な通貨の実力を測るための計算上のレートです。 2024年春の円相場の実質実効為替レートは、1ドル= =360円時代をさらに下回る円安水準まで下落しました。つまり、1971年8月のニクソンショック直前の、1ドル360円並みの水準まで、円安が進んでいます。ここまで円安が進むと、海外から見れば、明らかに日本のものは何でも安く見えます。それゆえ、インバウンドの観光客が増えていますし、外国人の投資家が都心の土地やマンションを購入するようになっています。一見すると、景気のよい話のように見えますが、日本国内から見ると、国内の資源や労働力を安売りしていることに他なりません。これでは、私たち日本人の生活はいっこうに豊かに なりません。 第二の副作用は、市場の機能が低下したために、成長性の低い企業が選別、淘汰されることなく生き残ったことです。その結果、日本経済の新陳代謝が進まなくなり、経済のダイナミズムが失われました。これは自由主義市場経済にとっては非常に痛手だったように思います。 第三の副作用は、金融機関へのしわ寄せです。金融機関は、市場金利が低下したことによって収益が圧迫されたため、それを補うために外債などのハイリスクの投資を増やしました。その結果、いくつかの金融機関は、金利上昇局面になってから、購入した外債の損失が膨ら み、増資に迫られるようになっています。もちろん、個別金融機関のリスク管理の甘さが原因ですが、異次元緩和が金融機関をハイリスクの投資に追い込んでいったという事実は残ります」、なるほど。 「黒田日銀は、国民に幸福をバラ撒きすぎました。日銀が国債を爆買いして長期金利を低く抑えたことによって、住宅ローンの金利も0%近くになりました。金利負担が下がったうえに地価やマンション価格は高騰しましたから、住宅ローンを組んで不動産を購入した人は非常にハッピーなわけですよ。日銀によるETF購入で株式相場も上昇しましたから、株を持っている人もハッピーでした。なにより超ハッピーだったのは日本政府で、新規国債の金利負担がないから予算が好き勝手に作れて、バラ撒きもできた。こうした政策は、選挙民からの受けもいいので次 の選挙にも当選できるので、バラ撒きはさらに加速していく。このように、日銀は異次元緩和を11年間も続けることで、日本国民に幸福のバラ撒きを続けてきたわけです。 問題は、この幸福は、日本人が実力で勝ち取ったものではなく、日銀によって作り出された、かりそめの幸福です。私は、日本人は、何か後で、とてつもない「しっぺ返し」を受けることになるのではないかと心配しています」、なるほど。 「黒田総裁の前任の白川方明日銀総裁は、自らもやむを得ず行った非伝統的な金融政策である質的緩和の危険性を自覚され、憂慮されていた。印象的だったのは、2013年3️月19日の退任記者会見での発言でした。「わが国を含め欧米諸国が現在展開している非伝統的な政策の評価も、いわゆる『出口』から円滑に脱出できて初めて、全プロセスを通じた金融政策の評価が可能となる、そうした性格のものだと思っています」 しかし、白川総裁を引き継いだ黒田日銀は、白川日銀の質的緩和を中途半端と批判して、伝統的金融論からすると、あり得ない規模の超金融緩和を11年も続けてきました。巨大なクジラのような日銀が大量の株と国債を買い進めて、市場機能を殺してしまった以上、もはや日銀には異次元緩和から抜け出る「出口」はありません。 私は、異次元緩和は「出口」から無事に出られて初めて評価できる金融政策だと思っています。 「出口」から出られなかったら、最悪の政策だと結論づけるしかない。 黒田前総裁は、メディアから日銀の出口戦略を何度も質問されましたが、「時期尚早」を繰り返して、その道筋を最後まで語ることはありませんでした。引き継いだ植田和男総裁は異次元緩和の終了を宣言しましたが、出口戦略をどのように進めるのか具体的なシミュレーションを出していません。 山本さんが書かれた『異次元緩和の罪と罰』には、金融正常化を進めるには、最短でも10年かかるとあります。この一事をとっても、やはり出口から抜け出るのは相当難しいと言わざるを得な いですね」、なるほど。 「私の試算では、約561兆円ある日銀当座預金残高を「平時」の約30兆円に戻すには10年以上かかるという結果になりました。しかも、これは、正常化完了までの間、いっさい新規の国債買い入れを止めるという仮定のもとでの試算です。 植田日銀は、2024年7月に日銀の国債買い入れ額の減額計画を公表し、それに着手しています。ただし、この計画に沿って日銀が国債買い入れ額を減らすとしても、いまから2年後の2026年3月末時点では依然、約550兆円の保有残高が日銀に残ります。 当面に限って言うと、国債の減額は大きな支障なく進められるだろうと思っています。なぜならば、最初の2年は日銀の国債買い入れの減額は月間3兆円程度ですから、国内の金融機関がこれを補うことは難しくありません。異次元緩和によって収益を圧迫された金融機関のなかには、リスクのある外債投資に追い込まれたところも多いので、為替リスクのない日本国債を購入するところも多いはずです。 ただし、当面は、国債減額は支障なく進められるでしょうが、いずれ金利の上昇が避けられないと考えています。 なぜかというと、国は、借換債以外にも毎年約30兆円台の新規国債を発行しているからです。借換債に相当する国債は日本の金融機関が購入できるとしても、新たに発行される国債を購入できる原資があるのかという問題に突き当たります。仮に国内の金融機関だけでは消化が難しいとなれば、海外の投資家に頼らざるを得ません。ただし、彼らにとって、日本国債は金利変動リスクや為替リスクがありますから、相応の金利をつけなければ、彼らも買わないでしょう。 ただ、金利が上昇するのは、ある意味、自然なことです。 もともと異次元緩和で隠されていた本来あるべき金利が、表面に出てくるという話なので、金利急騰といったような非常事態を除けば、国や日銀もこれは受け入れる必要があります。 いったん金利が上がり始めると、いろんなところからプレッシャーがかかってくるでしょうが、日銀としては正常化のプロセスを着実に進めていく必要があります。藤巻さんがおっしゃったことに近いのですが、金融正常化のプロセスを途中でやめてしまうことになれば、「なんだ異次元緩和は結局、財政ファイナンスだったのか」と市場から評価されてしまいます。中央銀行が財政 ファイナンスを事実上認めるようなことをしたら、円という通貨の信認は揺らいでしまいます」、なるほど。 「2023年9月末時点で日銀の保有国債の評価損はすでに約10兆円(当時、10年物金利は0.76%だった)もあり、金利がパラレルシフトすると、1%の金利上昇で評価損は29兆円程度増加するとの話でした。今後、長期金利が一段と上昇するようになれば、日銀が抱える国債の評価損がどんどん膨らんでいきます。 目下のところ、本来なら中央銀行が保有すべきでない株の評価益があるからいいものの、今後、日銀が国債やETFの買い入れ額を減らして過剰流動性を吸収する局面になれば、株価が下がり、評価益が激減するリスクもあります。 私は、日銀が本格的に出口戦略を進めれば、ものすごい債務超過になると予測していますが、それでも大丈夫でしょうか?) 山本:あくまでも2023年度末時点ですが、日銀が買い進めてきたETF等の含み益が約38兆円もあるので、国債の評価損が出ても、なんとかそれでカバーできてしまうという状態です。 ただし、これはあくまでも株価次第ですから、株価が急落したり、金利が大幅に急騰したりする局面では、日銀が債務超過になる可能性があることは否定できません。ただし、中央銀行の場合、債務超過になったからといって、ただちに資金繰りに 困るということはありません・・・藤巻:私に言わせると、日銀も政府も手を打ちすぎです。むしろ、過剰な介入で市場機能を殺してきたことに、日本経済の長期停滞の原因があるのではないでしょうか。常々感じていることですが、日本は資本主義の国というよりは計画経済の社会主義国のようです。 山本:私も、藤巻さんがおっしゃっているように、日本はどんどん市場経済から離れつつあるように感じます。戦後はずっと「市場競争を大事にする」という考えが主流でしたが、1990年代から、こうした考えが明らかに後退しています。 政治的にも、選挙対策で、社会保障を充実させる政策や不況に苦しむ企業を救済する景気対策が広く行われるようになりました。その結果、生まれたのが、財政規律の著しい後退です。競争に負けた企業まで救済するような政策が広く行われた結果、経済の新陳代謝が進まず、生産性が低下していくという悪い流れになりつつあります。その流れを断ち切ることが一番大事なことだと考えています」、なるほど。 「日銀が目指すべきものは「物価の安定」というよりも、より高次で広い概念である「通貨の信認確保」です。その意味するところは、「物価の安定」のほかに、金融システムの健全性維持、銀行券の円滑な発行・流通、日銀ネットと呼ばれる大規模な資金決済ネットワークの維持など広範な目的を含みます。これらをひっくるめたものが「通貨の信認確保」だと理解しています。 日銀がやれることは、突き詰めると、1つだけで、資金をマーケットに供給ないし吸収することしかありません。 しかしこの資金の供給・吸収が経済に非常に大きな影響力を持っているわけです。それは物価にも影響を与えるし、金融システムにも影響を与えるし、決済にも影響を与えます。中央銀行は、これらをバランスよく達成することが使命であって、物価目標2%を絶対視するような硬直的な政策運営はすべきではありません・・・2%の物価目標にこだわるあまり、本来、2年の期間限定だった副作用の強い金融政策を11年も続け、事実上の財政ファイナンスが行われた結果、日本の財政規律は失われ、日銀の財務はきわめて脆弱なものになりました。これから植田日 銀は途方もない困難と痛みを伴う「出口」に歩みを進めることになります。異次元緩和という長きにわたる「宴」が終わったいま、私たちはどのようなツケを払うことになるのでしょうか」、黒田異次元緩和のツケはとても高いものとして跳ね返ってくるようだ。
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