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電気自動車(EV)(その2)(トヨタとホンダが「EVシフト」に乗らず全方位体制を貫く理由、EVシフトで明暗分かれる 自動車部品メーカーの末路、トヨタ連合がEVで反撃 基盤技術を標準化 未来の勢力図見えず、EVを軽視する日本の自動車産業は「ゆでガエル死」する) [科学技術]

電気自動車(EV)については、9月20日に取上げたが、今日は、(その2)(トヨタとホンダが「EVシフト」に乗らず全方位体制を貫く理由、EVシフトで明暗分かれる 自動車部品メーカーの末路、トヨタ連合がEVで反撃 基盤技術を標準化 未来の勢力図見えず、EVを軽視する日本の自動車産業は「ゆでガエル死」する) である。

先ずは、10月31日付けダイヤモンド・オンライン「トヨタとホンダが「EVシフト」に乗らず全方位体制を貫く理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・11月5日まで東京・有明の東京ビッグサイトで開かれている東京モーターショーでは、各社が電気自動車(EV)シフトを打ち出している。その一方で、ハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)などを含めた全方位体制を貫く姿勢を示したメーカーもある。トヨタ自動車とホンダだ。
・流線形で漆黒のボディは、まるで黒豹のようだ。その姿をカメラに収めようと、周りを何重にも囲む来場客がシャッターを切る。スポットライトとカメラのフラッシュを浴び、その車は恍惚としているようにさえ見えた。 東京モーターショーの一般公開で初の日曜日を迎えた10月29日。トヨタが世界初公開したコンセプトカー「GR HV SPORTS concept」の周囲には多くの人だかりがあった。GRとは、トヨタが世界ラリー選手権などに参戦するモータースポーツ活動「GAZOO(ガズー)レーシング」の頭文字から名付けられたスポーツカーブランドだ。
・電気自動車(EV)シフトが加速するこの時代、他の自動車メーカーならEVタイプのスポーツカーを展示しそうなものだが、GR HV SPORTS conceptは「スポーツカーと環境技術を融合した新たなクルマの楽しさを提案する」狙いの下に開発されたハイブリッド車(HV)だ。
・その隣に展示されているのは、これまた漆黒のボディの新型「センチュリー」だ。センチュリーといえば、皇室や政治家、財界トップ御用達として知られるトヨタの最高級車。2018年半ばの発売を前に、20年ぶりにフルモデルチェンジされた3代目となる。このセンチュリーもまたHVだ。
・トヨタが「究極のエコカー」と位置付け、莫大な開発資金を注ぐ燃料電池車(FCV)のバスも展示されている。この燃料電池バスは、燃料となる水素を車載の高圧タンクから燃料電池に供給し、そこで空気中の酸素と化学反応させて作った電気でモーターを駆動させ走行する。世界初の量産FCV「MIRAI」向けに開発したものと同じシステムで、外部への電力供給能力を備えているため、災害などの停電時に避難所や家電の電源としての利用も可能だ。
・すでに今年、トヨタは東京都交通局へ2台の燃料電池バスを納車しており、今年3月から東京駅丸の内南口~東京ビッグサイト間を運行。さらに2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、100台以上導入予定といい、トヨタの開発担当者は「東京都だけでなく、多くの自治体から引き合いがある」と話す。
・一方、トヨタは今回、EVコンセプトカーも出展している。それが「TOYOTA Concept-愛i」だ。今年1月に米国ラスベガスで初公開した4輪モデルに加え、今回のモーターショーで小型モビリティ「Concept-愛i RIDE」と、セグウェイ風の3輪電動スクーター「Concept-愛i WALK」を新たに追加した。
・実は、このシリーズの開発を進めているのは、EV開発部隊として昨年12月にトヨタが発足させたEV事業企画室だ。だが、開発の主眼を置いているのはEV技術そのものというよりも、人工知能(AI)技術にある。 車がドライバーの表情や動作、疲労度や覚醒状態などを分析し、感情や好みを理解する。状況次第で自動運転モードに切り替わったり、話し掛けたりする。コンセプトは「人を理解し、共に成長するパートナー」を目指すことにある。
・こうしたトヨタの出展車両から見える戦略は、決してEVに傾斜することはなく、HVやFCVなどにウイングを広げ、市場がどう振れても対応できる全方位体制を築き上げることだ。EVの領域はあくまで近距離コミューターなどで、HVとプラグインハイブリッド車(PHV)が乗用車、FCVは路線バスや宅配トラックに棲み分ける。その方針にブレがないことを、東京モーターショーで改めて示した形だ。
・こうした全方位戦略を貫く自動車メーカーは何もトヨタだけではない。 ホンダも今回、EVコンセプトカー「Honda Urban EV Concept」を日本初披露し、このモデルをベースとしたEVの市販化を2019年に欧州で、2020年には日本で開始する方針を明らかにした。ホンダは2030年までに販売総数の3分の2を電動化することをすでに発表しており、EVの発売はその戦略の一貫だ。
・だが、ホンダもHVを90年代から市販化し、累計販売台数は200万台を超える。八郷隆弘社長が「電動化の中心はあくまでHVとPHV」と明言している通り、EVが収益の主力になるとは考えていない。事実、モーターショーでは「CR-V」や「ステップワゴン」などHVのラインナップ拡充のPRも怠っていない。
・トヨタとホンダに共通するのは、他社の追随を許さないHVの高い技術を持つがゆえに、その先行者利益を長く享受したい思惑だ。ゆえにEVへの本気度は相対的に低くなる。 今、自動車産業は100年に一度の大変革の時代を迎える。欧州や中国は一気にEVへシフトし、HV技術で先行するトヨタやホンダの追撃にかかる。全方位戦略はその攻勢に耐えられるのか。勝負の趨勢はそう遠くない未来に見えてくる。
http://diamond.jp/articles/-/147800

次に、11月2日付けダイヤモンド・オンライン「EVシフトで明暗分かれる、自動車部品メーカーの末路」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・電動化、自動運転、コネクテッド。11月5日まで東京・有明の東京ビッグサイトで開かれている東京モーターショーの見どころの一つは、この3分野への各社の対応だ。これらに強みを持つ自動車部品メーカーの存在感は今、急速に高まりつつある。モーターショーでも、業界の垣根を超えてしのぎを削る開発競争の一端が垣間見える。
・「得意とする電子・電動化技術を生かし、これから大きな成長分野となる電動化や自動運転の波に対応する事業を力強く推進していく」 日立オートモーティブシステムズの関秀明社長は東京モーターショーでそう話し、電動化システムの3大基幹部品であるモーター、インバーター、リチウムイオンバッテリーなどの事業拡大に注力する方針を示した。 日立オートモーティブシステムズは、総合電機メーカーである日立製作所の100%子会社で、車の中身を支えるメカトロニクス技術やソフト制御技術に強みを持つ。今年7月にはホンダと電動車両用モーターの開発、製造、販売を行う合弁会社を設立し、電動化シフトへの足場固めを進めている。
・車の自動運転に欠かせない基幹部品の開発にも注力する。今回の東京モーターショーでは、車が走行中に障害物をリアルタイムで検知する、世界最小クラスの遠距離レーダーを展示。これまで困難だった遠距離のミリ波を効率よく送受信できるようにし、車の前方200メートル、左右18度の検知性能を確保したという。2020年の製品化を目指す。
・三菱電機も電動化や自動運転、コネクテッドなどの事業強化を鮮明にする。これら三菱電機の最新技術を搭載したコンセプトカーが「EMIRAI4」だ。1999年の「OMNI1」から数えて14台目のコンセプトモデルとなるEMIRAI4は、ヘッドアップディスプレイ(HUD)上に車が進むべき道路や車線をAR(拡張現実)で表示する機能や、ドライバーの顔の向きや視線から脇見・居眠りを検知し自動運転から手動への切り替えを支援する機能などが盛り込まれ、まさに未来のモビリティを体現する。
・今回の東京モーターショーに出展する各メーカーのトップが口をそろえるのは「自動車産業がこれまでにない大きな変革期にある」という認識だ。従来型のエンジン車がEVに置き換われば、約4割の部品が不要になるとされる。特にエンジン周りに関わる部品メーカーには「生き残りをかけた戦いがこれから始まる」との危機感が強い。
・一方で電動化技術や半導体、人工知能(AI)などの強みを持つメーカーにとっては商圏を拡大するチャンスだ。国内外の電機メーカーやIT企業などは一気呵成に攻勢を強める。 日本の製造品出荷額は2000年代以降、電機機械が韓国や台湾の台頭で衰退したこともあり自動車部品産業への依存度が大幅に増加した。素材を含めた就業人口は130万人に上り、日本の製造業は自動車部品産業の“一本足打法”というのが現状だ。その大黒柱が倒壊するような事態となれば、日本経済への打撃は計り知れない。
・100年に一度の大変革期に自動車産業は果敢に立ち向かうことができるのか。生き残りをかけた新時代の覇権争いが始まろうとしている。
http://diamond.jp/articles/-/147929

第三に、11月9日付けロイター「トヨタ連合がEVで反撃、基盤技術を標準化 未来の勢力図見えず」を紹介しよう(▽は小見出し、社名のあとの証券コードは省略)。
・電気自動車(EV)で出遅れるトヨタ自動車を中心とした企業連合が、ようやく「反撃」の動きに出始めた。EV基盤技術の標準化だ。部品のモジュール化が一段と進むEVは、日本のものづくり技術の優位性が失われるリスクも高まる「両刃の剣」でもある。相次ぐベンチャーなどの参入も自動車業界の勢力図を変える可能性を秘める。世界的なEVへのうねりの先にどのような未来像があるのか。各社の手探りが続きそうだ。
▽グループで開発・コスト削減
・「未来の車を決してコモディティ(汎用品)にしたくない」――。トヨタの豊田章男社長が抱いた思いはマツダとの提携、そして10月にデンソーも加わりEVの基盤技術開発会社設立へとまず結実した。 複数企業が、軽自動車からトラックまで幅広く展開できる同じプラットフォーム(車台)、駆動モーター、電池などを開発・共有すればコストを下げられる。その上で、個性を出しにくいEVで「いかにブランドの味を出すかが挑戦だ」と豊田社長は話す。
・永田理・トヨタ副社長は7日の決算会見で、この新会社で「みなで力を合わせ、コストダウンを図りながら、よりよい電動化戦略を進めたい。いろいろな会社の参画を期待したい」と呼びかけた。傘下の日野自動車やダイハツ工業はもとより、今のところ出資先のスバル、提携協議中のスズキが参画に前向きだ。
・「チーム・ジャパン」としてやれることを考えないと欧米・中国勢などと対抗するのは難しいと、スズキの鈴木俊宏社長も2日の決算会見で指摘。好業績をけん引したインドでEV化が「一気に進めば、足元をすくわれるのではと非常に心配」と危惧する。
・独フォルクスワーゲンは、すでに欧米で投入しているEV「e―ゴルフ」の受注を10月から始めた。同社の日本でのEV販売は初めて。2020年に専用車台「MEB」ベースのEVを発売予定で、25年にはグループで新車の4分の1に相当する300万台のEV販売を目指し、同年までにEV50車種を投入する計画だ。
・EVで先行してきた日産自動車、仏ルノー、三菱自動車の連合も20年までにEV専用車台を開発し、モーターと電池も共有。22年までに3社で計12車種のEVを投入する方針。
▽技術の優位性維持「楽観できない」
・日産の新型EV「リーフ」開発責任者の磯部博樹氏は、ガソリン車よりも静かなEVでは「人は細かい振動、モーターや風の音などがもっと気になり出す」と話す。ガソリン車以上に求められるEVの静粛性や振動抑制などに、日本車大手が長年磨いてきたすり合わせの技術こそ「今後も生きる」と強調する。 米テスラ(TSLA.O)、掃除機で知られる英ダイソンが20年までに開発を目指すなど、EVではベンチャーや異業種からの参入も相次ぐ。
・トヨタ系部品会社の幹部は「車は人の命を運ぶ。ベンチャーなどがいきなり安全な車を作るのは難しい」と冷ややかだ。しかし、何年か経って経験を積めば、新規参入組に技術も追いつかれる恐れがあり、自社のものづくりの力が優位であり続けるかは「楽観できない」という。 EVは一般的な自家用車から富裕層向け、移動弱者用など各社用途が異なり、必ずしも同じ土俵で直接戦うわけではない。
・だが、車の保有から利用への動きが強まるなど消費者の価値観は多様化している。日本車が売りにする高品質だけでは勝てなくなるかもしれず、シェアリングサービスが拡充すれば、保有需要を侵食する可能性がある。
▽ベンチャーは水平分業
・政策の後押しでEVの普及が進むインドや中国の市場をにらみ、ベンチャーは動き始めている。  慶応義塾大学の清水浩名誉教授は、インドで100万円以下で買えるEVの普及を目指し、同国で多く利用されるタクシーを開発中だ。清水氏は早くからEV開発に従事し、04年にEV「エリーカ」を開発したことで知られる。
・同氏は、インドのタクシーは軽自動車ベースのマルチ・スズキ「800」が多く、年間20万台の市場規模があるが、まだ足りないとみている。 開発中の車は床を低く、車内や荷室を広くし、航続距離は350キロ超と1日の平均走行距離(約150キロ)に十分な性能にする。
・NPO法人インドセンターのヴィバウ・カント・ウパデアーエ代表は「マルチ・スズキもそうだったが、普及させるには政治の力」が必要として、清水氏の活動を全面支援する。3年後には現地で生産を始め、タクシーから自家用車への展開も見込む。「来年にはEV会社がインドで5社ほど生まれるだろう」といい、車台や部品を他社に提供することも検討している。
・ベンチャーのGLM(京都市)も「水平分業型ビジネスモデルによる新しいものづくり」(小間裕康社長)を進める。 トヨタ出身の技術者らを採用し、EVのスポーツ車を15年から量産。19年には4000万円の高級EVを日本や欧州、中国、中東などで売り、販売1000台を目指す。7月には香港の投資会社傘下入りを発表し、資金力もつけた。
・部品最大手の独ボッシュなど多くの企業が、すでにGLMと組む。同社は中国企業などにEVの車台やモーター、電池をセット販売することも事業の柱にする。GLMと清水氏の会社は米アップルなどと同様で自社工場を持たない。
・トヨタなどの日本車大手がEVでも勝つためには何をすべきか――。 世界の車大手に計測機器などを提供する堀場製作所の堀場厚会長は、ガソリン車などで長年培った技術、「付加価値の高いノウハウ」を磨き続けることだと指摘。デジタル家電で日本勢の衰退を招いた敗因の1つは、技術者の「敵陣流出」だったことにも触れ、すぐには収益にならない研究開発でも技術者を逃がさず「長く育てる」ことだと強調する。
・欧米の車メーカーや新規参入企業などはこれまでの「車を作って売る」だけでなく、車台や部品、サービスの提供など新たな収益源も得ようとしている。 コンサルティング会社ローランド・ベルガーの貝瀬斉パートナーは、日本車大手は戦場の広がりを念頭に置いて「どこでどういう価値を提供し、利益を上げるのか」をしっかり考えることが重要、と話している。
https://jp.reuters.com/article/toyota-ev-idJPKBN1D80EI

第四に、ITジャーナリスト・ライターの中尾真二氏が11月27日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「EVを軽視する日本の自動車産業は「ゆでガエル死」する」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・このところ自動車業界が騒がしい。タカタ、神戸製鋼、三菱自動車、日産、スバルのスキャンダルを見るに、自動車業界の劣化が止まらない、と言われても反論できない状態だ。自動車業界を中心とする製造業は、日本の産業の根幹を支える。この状況に暗澹たる気持ちになる。 別に憂国の士を気取るつもりはないが、このままでは本当に日本の産業はダメになりかねないと思っている。
・これにはメディアの責任が大きい。テレビなどでは「日本人すごい!」という切り口で、日本の文化や産業の良さをことさらに強調している。日本人の自己満足を満たすように作るメディアの「自己満足バイアス」は、衰退の裏返しではないのか。
▽EVよりハイブリッドがいい、と安心しきっている場合か
・どのような点で危機感不足を感じるのか。国内自動車産業に根付くマスコミやジャーナリストの危機感不足である。筆者も足元はこのメディア業界に属しているため、その空気感は肌で感じる。 記事などで目立つ論調は、ざっくり言えば「EVは普及しないのでハイブリッドで十分」という意見だ。 正直なところ、界隈で取材を重ねる筆者も近い考えを持った時期もあった。
・しかし、日本や欧州においてEV(EVはFCV含むZero Emission Vehicle)の普及には時間がかかるものの、この流れは止められないことは誰もが認めるはずだ。グローバルでは中国のNEV法が施行される2019年がひとつのターニングポイントになるだろう。結果、筆者の意見としては「慌てる必要はないが、静観している場合ではない」というものだ。
・この現状で自動車業界の関係者やアナリストには、日本の自動車業界を良くも悪くも信頼しきっている論調が強い。 曰く、「EVはトータルでエコではない(Well to Wheel:油田から車輪まで。ちなみにWell to WheelでCO2排出量はEVの方が内燃機関よりも低いと言われている)」「製造から廃棄までの排出CO2を考慮せよ」「モーター、バッテリー技術はコモディティ化しているので日本メーカーが本気を出せばすぐに追いつける」「走行距離、充電時間、コストなどからEVは市場のメインストリームにはならない」といった声だ。
・このような論調にあえて警鐘を鳴らしたい。そこには理由がある。 というのは、この状況が出版や家電といった衰退産業における、かつての論調に通じるものを感じるからだ。
▽自動車も、出版や家電と同じ道を歩むのか
・状況変化に対して楽観視した結果、「ゆでガエル」になった日本の産業をいくつか知っている。念のため、ゆでガエルとは、水から火にかけられたカエルは徐々に温められるため茹でられていることを知らず、気がつくころには茹で上がっているという状態だ。
・出版業界がわかりやすい。筆者はエンジニアを経て紙の時代から出版業界に入り、技術系の書籍や雑誌に20年以上携わってきた。出版業界もいまや構造不況業種といってよい。あちこちで制度疲労を起こしている。出版業界は、独占禁止法の例外規定による価格維持制度と、取次という特殊なサプライチェーンの成功事例から脱却しきれず、デジタル対応を始めとする事業転換のタイミングを逃した。従来型の流通を軸とした既得権の範囲にとどまるビジネスが多く、投資機会も逸している。結果として衰退は現在進行系である。
・取材先としてウォッチしてきた家電や電子機器業界も然り。独自技術と品質へのこだわり(自体は悪くはないのだが)が、結果的に変革を阻害し、後発国に出し抜かれた。往年の日本ブランドがいくつも中国資本となり、残っている企業はほぼ国内市場でしかプレゼンスを発揮できていないのは周知である。 どちらの業界も既存ビジネスの成功体験から抜け出せず、環境変化を否定的かつ楽観的にとらえ、「まだいける」という判断ミスと、機会損失を生んだ。これらの蓄積が構造不況につながり、産業衰退を引き起こしたと言っては言い過ぎだろうか。
・筆者には、前述のような自動車業界におけるメディアの楽観的かつ現状肯定的な論調が、かつての出版業界や家電・電子機器業界の声と、どうしてもかぶって聞こえてしまう。
▽業界が思っているほど参入障壁は高くない
・ならば、ゆでられたカエル側の視点で、なにか教訓はあぶりだせないだろうか。 クルマづくりは無数の部品と多数のコンポーネントの組み合わせだ。単に組み立てるだけでなく完成品としてのバランスと協調は、モーターやバッテリーを調達できる程度では、難しいという意見がある。つまり、大手自動車メーカーにだけクルマ作りの素地があるという見解だ。
・これに対しての反論はテスラの例がいちばんわかりやすい。テスラは生産体制や品質にトラブルは見られるものの、着実に課題に対応している。 自動車業界が思っているほど、すでに自動車という製品は特殊なものではないのかもしれない。日本ではGLM、クロアチアのリマック・アウトモビリといったEVメーカーの例もある。スーパーカーばかりではない。小型モビリティのEVメーカーは国内外に無数に存在する。その中には大手メーカーをスピンオフしたエンジニアがかかわっていることもある。
・確かにメルセデスやトヨタのようなクルマは作れないかもしれないが、大手完成車メーカーもすべて独自技術で成立しているわけではない。関連する無数のサプライヤーやパートナーの分散したノウハウは無視できないものだ。 したがって現在、世界の主要メーカー以外はクルマが作れない、というのは驕り以外のなにものでもない。
・日本の家電メーカーは、この驕りによって韓国や中国のメーカーに負けた。いまでも日本製品のブランドは残っているが、グローバルのコンシューマ向け市場はサムスン、LGに押さえられ、通信機器やPCでは、HUAWEI、レノボ、ASUSに勝てないでいる。日本市場だけ見ていると実感がわかないかもしれないが、海外では「日本製品は品質が高い」という神話だけが生き残っており、市場では日本製品はほとんど見かけない。品質だけでは勝てないグローバル市場の現実だ。
▽EVは当面普及しないという楽観はガラパゴス携帯の失敗と同じ
・EVは当面実用化されない、という論調は最近は収まりつつあるが、充電スポットの整備や充電時間を考えて、EVの普及は相当な時間がかかるため、じっくり腰を据えてかかればいいという意見は根強い。これは総論としては間違っていない。たとえば、明日から世界中の内燃機関自動車の製造をストップしたとして、街中のクルマがEVに置き換わるには十年単位の年月が必要だ。
・しかし、現実にZEV規制(新車生産のゼロエミッションビークル比率)が始まれば、状況は変わってくるだろう。もちろんそれでも市場や産業界が追従せず、普及しない可能性もある。現在の基準で判断するのは危険だ。
・これと本質的に似た状況で、結果失敗をしたのが通信事業者と携帯電話メーカー。いわゆるガラパゴスと言われた現象だ。 ガラパゴスについて改めて説明するまでもないと思う。 グローバルで進む通信事業の分社化、オープン化を否定し、独自の機能品質にこだわったガラケーエコシステムとその崩壊に至る一連である。NTTなど通信キャリアの解体(分社化)ができないため、メーカーは端末ビジネスを放棄せざるを得ず、キャリアはARPUビジネス(ユーザー当たりの利益)から抜け出すことができず、直営店舗でさえあやしげな抱き合わせ契約と、高価な端末の分割払いでユーザーの囲い込みに腐心している。しかも売れている端末は海外製品ばかりだ。
・思えばかつて、通信事業者や端末メーカーも「スマートフォンは時期尚早」「端末と回線を切り離すと品質が維持できない」「iPhoneや中国製品に脅威となる新技術はない」などと豪語していた。どれも当時の市場環境からすると間違いではなかった。しかし気がつけばこの有様だ。日本は、世界有数の通信インフラと関連要素技術を持ちながら、国際競争力を発揮できないどころか、国内でも凡庸な商用環境しか提供できていない。
▽スマホやITではなく日本経済はクルマが売れてナンボ
・自動車業界に話を戻す。 内燃機関を捨ててすべてをEVにしろとまでは言わない(独自路線を行くなら、それもひとつの戦略ではある)。 「事が動いてからで間に合う」といった認識が最も危険なのだ。 「焦らないでいい」と「なにもしないほうがいい」ということは決してイコールではない。 結果としてなにもしなかったり、既存のビジネスにもたれたままだと、国内自動車産業は、ここまで述べたようないくつかの「ゆでガエル」産業と似たような末路を辿ってしまうかもしれない。
・バッテリーやモーターについて、先端を行く技術を持っているにもかかわらず、後ろ向きにも見えるガソリン車にこだわるのはなぜだろうか。FCVを800万円で市販できるなら、なぜもっと現実的なEVの市場投入に躊躇するのか(大手メーカーが考えていないわけはないだろうが)。世界で戦う自動車メーカーを複数擁する日本の自動車業界であればこそ、もっと強く先進性を押し出すべきだろう。ガソリンもEVも両方やればいい。現にダイムラーもBMWもGMもそうしている。
・すでに通信機器、PC、スマートフォン、ソフトウェア、Webサービスといった領域で、日本企業はグローバル市場で総崩れ状態である。自動車産業もそうなってしまったらと考えると、いたたまれない。 スマートフォンが売れても喜ぶのは海外メーカーばかりかもしれない。政府や自治体の公募でNECや富士通が巨大プロジェクトを落札しても購入されるPCはすべて中国資本になろうとしている。
・日本のソフトウェア産業は、特殊なSIゼネコン構造により海外でのプレゼンスはほぼゼロだ。ソフトウェアサービスやインターネットビジネスにおいては、Google、Amazon、Facebookといったプラットフォームに依存せざるをえない。
・あえて極論すれば、国内で新興IT業界がいくら儲かっても日本全体の景気は良くならない。せいぜい、イロモノIT社長が六本木ヒルズで女子アナ合コンを開くくらいの経済効果しか期待できない。シャンパングラスタワー効果は、リアルにシャンパングラスタワーをやれということではない。
・日本の基幹産業である自動車および製造業は、日本経済そのものに与えるインパクトが大きい。10万円のスマホが10台売れるより、クルマ1台売れたほうが多くの国内産業を救えるかもしれない。クルマの所有が進まないのであれば、クルマの利用が世界トップレベルの市場づくりを目指すなど、強い打ち出しがあってもいい。EVや自動運転、次世代モビリティによって、業界の再編やプレーヤーの交代といった痛みも伴うだろう。が、それを避けるようでは、成長はない。
http://diamond.jp/articles/-/150451

第一の記事で、 『トヨタとホンダに共通するのは、他社の追随を許さないHVの高い技術を持つがゆえに、その先行者利益を長く享受したい思惑だ。ゆえにEVへの本気度は相対的に低くなる。 今、自動車産業は100年に一度の大変革の時代を迎える。欧州や中国は一気にEVへシフトし、HV技術で先行するトヨタやホンダの追撃にかかる。全方位戦略はその攻勢に耐えられるのか。勝負の趨勢はそう遠くない未来に見えてくる』、というのはトヨタとホンダにかなり遠慮した表現だが、本音では疑問符を投げかけているようにも思える。
第二の記事では、 『EVシフトで明暗分かれる』、としながら、機械部品など「暗」の業界が何を考えているのかの説明がないのは、やや物足りない印象だ。
第三の記事で、 『車の保有から利用への動きが強まるなど消費者の価値観は多様化している。日本車が売りにする高品質だけでは勝てなくなるかもしれず、シェアリングサービスが拡充すれば、保有需要を侵食する可能性がある』、というのは、確かにその通りだろう。 『堀場厚会長は、ガソリン車などで長年培った技術、「付加価値の高いノウハウ」を磨き続けることだと指摘。デジタル家電で日本勢の衰退を招いた敗因の1つは、技術者の「敵陣流出」だったことにも触れ、すぐには収益にならない研究開発でも技術者を逃がさず「長く育てる」ことだと強調する』、というのはややキレイ事過ぎる印象を受けた。
第四の記事で、『これにはメディアの責任が大きい。テレビなどでは「日本人すごい!」という切り口で、日本の文化や産業の良さをことさらに強調している。日本人の自己満足を満たすように作るメディアの「自己満足バイアス」は、衰退の裏返しではないのか』、『自動車業界におけるメディアの楽観的かつ現状肯定的な論調が、かつての出版業界や家電・電子機器業界の声と、どうしてもかぶって聞こえてしまう』、『業界が思っているほど参入障壁は高くない』、『EVは当面普及しないという楽観はガラパゴス携帯の失敗と同じ』、などの指摘は同感だ。筆者の経験の裏付けられた強い危機感が伝わってきて、参考になる記事だ。
タグ:電気自動車 (EV) (その2)(トヨタとホンダが「EVシフト」に乗らず全方位体制を貫く理由、EVシフトで明暗分かれる 自動車部品メーカーの末路、トヨタ連合がEVで反撃 基盤技術を標準化 未来の勢力図見えず、EVを軽視する日本の自動車産業は「ゆでガエル死」する) ダイヤモンド・オンライン 「トヨタとホンダが「EVシフト」に乗らず全方位体制を貫く理由」 ハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)などを含めた全方位体制を貫く姿勢を示したメーカーもある。トヨタ自動車とホンダ EVコンセプトカーも出展 「TOYOTA Concept-愛i」 EV事業企画室 開発の主眼を置いているのはEV技術そのものというよりも、人工知能(AI)技術にある 決してEVに傾斜することはなく、HVやFCVなどにウイングを広げ、市場がどう振れても対応できる全方位体制を築き上げることだ トヨタとホンダに共通するのは、他社の追随を許さないHVの高い技術を持つがゆえに、その先行者利益を長く享受したい思惑だ。ゆえにEVへの本気度は相対的に低くなる 「EVシフトで明暗分かれる、自動車部品メーカーの末路」 日立オートモーティブシステムズ 三菱電機 従来型のエンジン車がEVに置き換われば、約4割の部品が不要になるとされる 日本の製造業は自動車部品産業の“一本足打法”というのが現状だ。その大黒柱が倒壊するような事態となれば、日本経済への打撃は計り知れない ロイター 「トヨタ連合がEVで反撃、基盤技術を標準化 未来の勢力図見えず」 部品のモジュール化が一段と進むEVは、日本のものづくり技術の優位性が失われるリスクも高まる「両刃の剣」でもある グループで開発・コスト削減 トヨタ 日産自動車、仏ルノー、三菱自動車の連合も20年までにEV専用車台を開発し、モーターと電池も共有。22年までに3社で計12車種のEVを投入する方針 技術の優位性維持「楽観できない」 何年か経って経験を積めば、新規参入組に技術も追いつかれる恐れがあり、自社のものづくりの力が優位であり続けるかは「楽観できない」という 車の保有から利用への動きが強まるなど消費者の価値観は多様化している。日本車が売りにする高品質だけでは勝てなくなるかもしれず、シェアリングサービスが拡充すれば、保有需要を侵食する可能性がある ベンチャーは水平分業 中尾真二 「EVを軽視する日本の自動車産業は「ゆでガエル死」する」 これにはメディアの責任が大きい。テレビなどでは「日本人すごい!」という切り口で、日本の文化や産業の良さをことさらに強調している。日本人の自己満足を満たすように作るメディアの「自己満足バイアス」は、衰退の裏返しではないのか この現状で自動車業界の関係者やアナリストには、日本の自動車業界を良くも悪くも信頼しきっている論調が強い この状況が出版や家電といった衰退産業における、かつての論調に通じるものを感じるからだ 状況変化に対して楽観視した結果、「ゆでガエル」になった日本の産業をいくつか知っている 出版業界 家電や電子機器業界も然り 独自技術と品質へのこだわり(自体は悪くはないのだが)が、結果的に変革を阻害し、後発国に出し抜かれた どちらの業界も既存ビジネスの成功体験から抜け出せず、環境変化を否定的かつ楽観的にとらえ、「まだいける」という判断ミスと、機会損失を生んだ。これらの蓄積が構造不況につながり、産業衰退を引き起こしたと言っては言い過ぎだろうか 業界が思っているほど参入障壁は高くない テスラの例 海外では「日本製品は品質が高い」という神話だけが生き残っており、市場では日本製品はほとんど見かけない。品質だけでは勝てないグローバル市場の現実だ EVは当面普及しないという楽観はガラパゴス携帯の失敗と同じ
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