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企業不祥事(神戸製鋼などの部材不正)(その3)(内部証言 神戸製鋼と日産で何が起きていたのか、神鋼だけ?鉄鋼業界に求められる「一斉点検」 9年前に「業界ぐるみ」の改ざんが起きていた、「東レよ、お前もか」財界総理出身企業も落ちたデータ改ざんの闇、世耕経産大臣は 日本の製造業の”破壊者”か) [企業経営]

企業不祥事(神戸製鋼などの部材不正)については、10月22日に取上げた。発生企業が広がりを見せる今日は、タイトルを微修正して、(その3)(内部証言 神戸製鋼と日産で何が起きていたのか、神鋼だけ?鉄鋼業界に求められる「一斉点検」 9年前に「業界ぐるみ」の改ざんが起きていた、「東レよ、お前もか」財界総理出身企業も落ちたデータ改ざんの闇、世耕経産大臣は 日本の製造業の”破壊者”か) である。

先ずは、NHKクローズアップ現代+が、11月9日に放送した「内部証言で迫る“不正の深層”~神戸製鋼・日産で何が~」を元に11月21日付けで制作した「内部証言 神戸製鋼と日産で何が起きていたのか」を紹介:日本のモノづくりの信頼を揺るがしかねない事態である。神戸製鋼所では検査データの改ざんが発覚。航空機、自動車メーカーや鉄道会社など500社以上の取引先の中には、他社に切り替える動きも出始めている。日産自動車では完成した車の検査を、資格のない従業員が行っていたことが発覚した。日本を代表するメーカーで相次ぐ不祥事。いったい現場で何か起きているのか。当事者たちが重い口を開いた。
▽「何が問題なのか」 蔓延していた甘い意識
・およそ10年前に実際にデータ改ざんを行ったという神戸製鋼の元社員が取材に応じた。顧客と事前に契約した品質基準を満たしていないにも関わらず、基準をクリアしているかのように見せかける過程で、ある隠語が使われていたと明かした。 「検査をして不合格だと、機械から赤い紙が出てくる。その場合、品質保証室長に相談し、あらたに改ざんした数値を入力する。これをメイキングという」(元社員) この社員によれば、“メイキング”、すなわち改ざんは40年以上前から行われてきた。神戸製鋼では、出荷の直前に「品質保証室」で品質検査を行い、検査証明書を発行している。その証明書に記載する数値を“メイキング”するのだ。製品の仕上がりにはわずかなばらつきがあり、一定の割合で顧客の契約を満たさないものが出る。しかし、作り直すには時間とコストがかかる。そこでデータを改ざんする。その根底には、少しぐらい契約の基準を満たしていなくても安全性は問題ない”という考えがあるという。
・「例えば規格は8%だが、それに対して7.9%だったとする。これを合格として出しても問題ないという判断に当然なっていく。わずか0.1の差。担当者は、安全性は間違いないという判断をして、出荷している」(元社員) なぜ「少しぐらいなら」という意識が蔓延してしまったのか。背景には、製造業の現場にもともとある「トクサイ(特別採用)」という商慣行がある。製品が契約基準に満たない場合、顧客の了承を得たうえで販売する、いわば、アウトレットのようなものだ。顧客との合意があれば問題はなく、他の企業でも広く行われている。ところが神戸製鋼では、「このくらいの差なら顧客も受け入れてくれる」という経験が積み重なるうちに、基準にたいする意識が甘くなり、改ざんが行われるようになってしまったとみられる。取材の中では、不正が明るみになってなお、「何が問題か分からない」と言う元役員までいた。会社側は、経営陣による指示はなかったとしているが、品質保証室や工場長を経験した複数の元役員が不正を認識していたことが取材で明らかになっている。
▽「間に合わないとは言えない」強まっていたプレッシャー
・不正が広がった背景には、苦しい経営状況があることも見えてきた。神戸製鋼は、この10年で5度の最終赤字に陥っている。「生産効率を上げろ」という現場への圧力が強まっていったという。 「コストダウンの一環でいろいろやって、できれば製品にしたい。出荷しないといけない。費用の面、それから納期管理の面。どうするかというは、すごいプレッシャーがあった」(数年前まで働いていた元社員)
・中でも期待されたのが、車の軽量化などで需要が高まっているアルミ部門だ。取材班が入手した、最近のアルミ工場内の写真には、至るところに金属の削りかすが散乱している様子が写っていた。 この写真を撮影した関係者によると、現場はメンテナンスに手が回らなくなるほどの忙しさだという。現在も神戸製鋼の工場で働く社員はこう話す。 「(「間に合いません」とは)言えない、それは。お客さんが離れるから『もうできません』といったら終わり」 データ改ざんに気づいている社員もいたが、「指摘する立場じゃない。組織が全然違うし。いい悪いという問題意識もなかった」と話す。
・製造業に詳しい経営コンサルタントの遠藤功さんは、神戸製鋼が陥った状況をこう分析する。「軽いのに強度が強い製品など、神戸製鋼にしか作れない製品が数多くあります。しかし、一方で付加価値が高いということは、製造の難易度も高い。決して簡単には作れない。さらに、アルミや鉄鋼の業界は今、とても競争が厳しい状況です。設備投資などに巨額の資金が必要で、その負担が大きいため再編が進んでいます。その中で神戸製鋼が独立経営の維持を貫いている。それはそれで1つの経営判断ですが、結果的には現場は相当無理をせざるを得ないような状況になってしまったとも考えられます」
▽「一生懸命やってしまった」人手不足の中で
・現場へのプレッシャーは、日産自動車で発覚した不正の背景にも伺える。日産では、本来、資格をもつ検査員が行うことになっている完成車の出荷前検査を、資格のない従業員が行うことが常態化していた。20年以上検査業務を担当していた社員は、人手不足の中で生産の向上を要求され、不正に歯止めが効かなくなってしまったと話す。この社員によると、2000年代以降、検査員の数はおよそ6割に減少。一方で、毎年5%の生産性向上を要求されていた。そこで資格をもつ検査員のはんこを使いまわし、検査が適正に行われたように見せかけていた。会社は、資格のない新入社員や非正規の従業員にも検査をさせ、誰がどの検査員のはんこを使用したか一覧表にまでしていた。
・「“現場なりの創意工夫”をしてしまった。それが、本来であれば、完成検査という、国の委託された業務であるにもかかわらず、その辺を置き去りにした。会社経営側の要請に応えるために一生懸命やってしまった」
▽「利益なき繁忙」の落とし穴
・今、多くの日本の企業は、ガバナンス強化に取り組んでいる。しかし、そのありかたに経営コンサルタントの遠藤さんは警鐘を鳴らす。 「本来は、法令順守やコンプライアンスという意味だが、最近では“攻めのガバナンス”という言葉で、利益追求、稼ぐ力を高める色あいが濃くなっている。品質の要求水準は高まり、利益を上げることへのプレッシャーも大きくなっている。ところが、品質を担保する製造現場はぎりぎりの人数で回しているうえに、世代交代などもあって、現場の力が弱くなっている。「利益なき繁忙」という状況です。神戸製鋼と日産自動車に限らず、すべての製造業に品質問題が起きやすい状況だと言えます」
・日本の製造業が信頼を取り戻すために、何が必要なのか。遠藤さんが重視するのは、中長期的な成長を目指す経営陣の視点だ。 「「品質を作り込む」という言葉があるが、品質は現場でしか担保できません。短期的な利益追求ではなくて、中長期的なサステナブルな成長を目指してほしい。その一方で、もう一度、品質とは何かを問いかけて、必要な投資を現場に対して行う。例えば、改ざんができないようなシステムに投資するとか、新たな仕組みが求められていると思います」
・遠藤さんがもうひとつ指摘するのが「人作り」への回帰だ。かつてどの現場にもいた品質の番人、“品質の鬼”をもう一度育てていけるか。高い信頼があってこその日本のモノ作りが、いま、正念場を迎えている。
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiji/058/

次に、11月11日付け東洋経済オンライン「神鋼だけ?鉄鋼業界に求められる「一斉点検」 9年前に「業界ぐるみ」の改ざんが起きていた」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・日本の製造業の信頼性をも揺るがす事態となった神戸製鋼所の品質データ改ざん・捏造問題。実は今から9年前の2008年、鉄鋼業界で「業界ぐるみ」といっても過言ではない不祥事があったことはあまり知られていない。 時計の針を9年前に戻そう。発端は、2008年5月22日の一部報道を機に明らかになったJFEスチール(JFEホールディングス傘下の中核企業)による強度試験データの捏造だった。米国石油協会の規格に基づいて製造した石油パイプライン用などの鋼管2400本強について、同規格に基づいて実施すべき水圧試験を行っていなかった。
▽次々と発覚したJIS規格違反
・その1週間後には、新日本製鉄(現在の新日鉄住金)の子会社であるニッタイ(現・日鉄住金ステンレス鋼管)の野田工場が、それまで5年間にわたって製造した配管用のステンレス鋼管12万本あまりについて、日本工業規格(JIS)で定められた水圧試験を行わず、試験データを捏造し、「新日鉄ブランド」で出荷していたことが発覚。工場長が試験の省略を指示していたことも明らかになり、JIS認証を取り消された。 こうした事態を受け、経済産業省は業界団体である日本鉄鋼連盟を通じ、加盟企業に品質に関する法令・規格の順守状況について総点検を行い、その結果を早急に報告するよう要請した。
・すると規格違反が次々と発覚する。日新製鋼がステンレス鋼管55万本強についてJISが義務づける耐圧検査などを実施せずに出荷していたと公表、当該製品の出荷停止に追い込まれた。やはり同社でも、製造所長自身が検査データ捏造を認識していた。 さらには神鋼子会社の日本高周波鋼業でJISなどが定める鋼材の強度試験を実施していないことが発覚。また、日本冶金工業の子会社であるナストーアの茅ヶ崎製造所でも、ステンレス鋼管約97万本についてJISが規定する水圧試験または非破壊検査を実施していないことが社内調査で判明。いずれもJIS認証を取り消されている。
・そのほかにもおよそ1カ月の間に、日本金属工業(現・日新製鋼)、不二越、大同特殊鋼、淀川製鋼所、三菱製鋼の子会社で検査データの改ざん・捏造やJIS規格違反が発覚した。 これら企業の多くはデータ捏造を行った原因について、「時間のかかる試験や検査を行うことによって生産性が落ちることを懸念した」「現場が生産性を優先した」などと説明していた。
▽行き過ぎた「生産性重視」
・一連の事態が発覚したのはリーマンショック直前のタイミング。それまでの数年間は中国など新興国の台頭で世界的に鋼材需要が急増していた時期だった。そうした環境下で、日本の鉄鋼メーカーは「生産性重視」で販売拡大を競い合った。その結果、歪みとして表面化したのが一連の不正事案だった。
・鉄鋼連盟は当時の会長である宗岡正二・新日鉄社長(現・新日鉄住金会長)が中心となり、2008年7月28日に再発防止に向け「品質保証体制強化に向けたガイドライン」を策定した。 ガイドラインではまず、教育冊子などを活用した法令順守(コンプライアンス)・品質保証に関する意識改革を求めた。また、品質保証部門や検査証明書発行部門を製造部門から独立させることや、ISO9001やJISなど第三者認証の取得、社内第三者による品質監査の強化などを盛り込んだ。
・その後、同ガイドラインは2010年2月に意識「改革」から「徹底」に表現を変え、業界内の発生事案の情報共有化を盛り込むなど一部改訂して現在に至っている。 それにもかかわらず昨年6月に発覚したのが、神鋼の関連会社におけるステンレス製品の強度データ改ざんとJIS規格違反だった。そして、今年10月8日には神鋼本体のアルミ・銅事業部門で検査データ改ざん(顧客との仕様契約違反)の事実が公表された。その後、現在までに同社の鉄鋼や機械部門などの一部製品でも改ざんが発覚し、銅管子会社ではJIS認証の取り消しに発展している。改ざんが発覚した事業所の中には、2008年に不正が起きた日本高周波鋼業も含まれている。
・神鋼の改ざん問題を受けて、鉄鋼業界の中では自主的に社内の総点検を行う動きも出ている。 建機や自動車向けに特殊鋼やばねを生産する三菱製鋼は昨年、社長の指示で監査室の聞き取りによる国内の法令順守状況を調査。今年10月以降は、顧客との契約順守状況も含めて社内監査を実施している。今のところ問題事例は発見されていないという。
・一方、新日鉄住金やその子会社の日新製鋼は従来から鉄鋼連盟のガイドラインに則った品質管理体制を敷いており、今回特別に一斉点検する予定はないとしている。また、JFEスチールはガイドラインに則って対応しているが、神鋼の問題を受けて本社・品質保証部による年1回の定期的点検をやや前倒しで実施している最中という。 鉄鋼連盟の進藤孝生会長(新日鉄住金社長)は10月30日の会見で、神鋼の原因究明作業の結果を待って「ガイドライン強化を検討していく」方針を表明している。
▽経産省「総点検を要請する予定はない」
・2008年に鉄鋼業界に総点検を要請した経産省は今回、鉄鋼業界やアルミ・銅などの非鉄業界に対して総点検を要請しないのか。東洋経済の取材に対して同省製造産業局金属課の小見山康二課長は、「検討しているかどうかは別として、今のところ要請を行う予定はない」と答える。 その理由については、神鋼が11月10日に発表した原因分析の社内調査報告書を見る限り、品質責任を各事業部へ丸投げするような経営管理体制や閉鎖的な組織風土など「神鋼特有の問題という色彩が強いため」と言う。鉄鋼大手の関係者は「今回の神鋼の改ざんは、その多くが鉄連のガイドラインの対象外であるアルミ・銅部門で起きている」と指摘する。
・確かに神鋼固有の問題があることは間違いない。しかし、今回の神鋼の報告書には、「収益評価に偏った経営」や「生産性や納期を優先する風土」など、2008年の改ざん事案で指摘されたものと似た構造的要因が含まれている。アルミ・銅部門だけでなく、鉄鋼部門を含めて組織横断的に発生していることも事実だ。企業の法令順守問題に詳しい郷原信郎弁護士は、「神鋼の問題には同社だけに限らない構造的背景がある。この際、潜在化した同様の問題を一斉に調査して表に出すべきだ」と指摘する。
・ガイドライン制定から10年近く経った今、その実効性を確認する意味においても、経産省の要請いかんにかかわらず、各社が自らの組織に同種の問題が潜在していないか改めて総点検することが重要ではないだろうか。
http://toyokeizai.net/articles/-/197883

第三に、11月29日付けダイヤモンド・オンライン「「東レよ、お前もか」財界総理出身企業も落ちたデータ改ざんの闇」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ほんの一瞬だった。 11月28日、子会社における製品検査データの改ざんに関する緊急記者会見に臨んだ東レの日覺昭廣社長のマイクを持つ右手の動きがぶれ、左右の目をしばたたかせた。 記者団から「いつ、日本経団連の榊原定征会長に具体的な報告をしたのか」と問われた時だった。榊原会長は、東レの社長・会長・最高顧問を歴任した“かつての顔”であり、2014年からは財界総理である経団連の会長を務めている(現在は東レの相談役でもある)。
・「昨日(27日)です」 常日頃から、歯に衣着せぬストレートな発言で知られる日覺社長が、さもばつが悪そうに答えたのには理由がある。 実は、前日の27日の日本経団連の記者会見で、神戸製鋼所や三菱マテリアルなどで不祥事が相次いでいることについて問われた榊原会長は、「日本の製造業全体の信頼が揺らぎかねない」という趣旨の強い懸念を示したばかりだったのだ。榊原会長は、記者会見の終了後に初めて東レの幹部から具体的な内容を聞かされたのだという。 だが、データ改ざんは榊原氏の社長在任中に始まっており、全く無関係とは言い切れない。
▽「文春砲」が公表を後押し
・今回の不祥事では、タイヤの補強材などを製造している子会社の東レハイブリッドコード(愛知県)で08年4月から16年7月までの約8年間にわたり、計149件の不正行為が行われていた。その内容は、最終的に顧客に渡す「納入製品の検査成績書」に記載する元データの数値を都合よく書き換えていたというもので、国内外の13社に出荷していたという。
・発覚したきっかけは、11月3日にインターネット上の掲示板に「東レの子会社でデータの書き換えがあったようだ」という趣旨の書き込みがなされたことだった。 しかしながら、この子会社では、16年7月の段階で不正を把握しておきながら、1年以上問題を公表しなかった。この点について、東レの日覺社長は「噂のような形で広まってしまう前に、正確な情報を把握してから世間に公表すべきだと考えた」という釈明した。
・さらに日覺社長は、世間を騒がせている神戸製鋼所や三菱マテリアルのデータ改ざんの問題がなければ、「公表することは考えなかった」との認識を明かしたが、これには首を傾げざるを得ない。 それが本音だったのだとすれば、やはり、一連の不祥事のどさくさに紛れて公表を決めたのではないかという疑念は拭えない。
・公表を急がなければならない別の事情もあった。近々発売される「週刊文春」誌上で、大々的にスキャンダルとして取り上げられているのである。発売前に自ら世間に公表して火種をもみ消そうとの魂胆が見え見えだ。 「東レよ、お前もか」。財界総理を輩出した超優良企業ですら落ちた不正の闇は、いったいどこまで広がっているのか。今後、産業界を巻き込んだ大騒動に発展する可能性がある。
http://diamond.jp/articles/-/151216

第四に、東京地検特捜部検事出身で弁護士の郷原信郎氏が12月1日付け同氏のブログに掲載した「世耕経産大臣は、日本の製造業の”破壊者”か」を紹介しよう。
・10月8日の、神戸製鋼所の記者会見での公表以降、日本を代表するメーカーで次々と明らかになっている「データ改ざん問題」は、殆どが、安全性や実質的な品質には影響のない「形式上の不正」であり、納入先の顧客に説明し、安全性等が確認されれば、本来、公表する必要がない事柄である。
・それらの多くは、顧客との契約で、製品の品質・安全上必要な水準を上回って設定されている規格・仕様について、メーカーの製造過程で、その余裕を持たせた規格・仕様から若干下回る「不適合品」が発生した場合に、データを書き替えて「適合品」であるように表示して出荷納品したという問題だと考えられる。
・このような「データ改ざん」は、日本の素材メーカー、部品メーカーの多くに潜在化している「カビ型不正」の問題であり、それらの殆どは、実質的な品質の問題や安全性とは無関係の「形式上の不正」に過ぎず、顧客に対して「データ書き替え」の事実と、真実のデータについて十分な情報を提供し、書き替えに至った理由や経過を正しく説明して品質への影響や安全性の確認を行うことができれば、もともと大きな問題にはなり得ない。
・そのことを、私は【日産、神戸製鋼…大企業の不祥事を読み解く(前編)】【日産、神戸製鋼…大企業の不祥事を読み解く(後編)】などで指摘したほか、メディアの取材等でも繰り返し強調してきた。
・ところが、神戸製鋼所がこの問題を3連休の中日に記者会見で公表し、「品質不正で信頼失墜」などと大きく報道されて以降、三菱マテリアル、東レなど日本を代表するメーカーが社長記者会見を開いて子会社の「データ改ざん」の問題を公表し、その都度大々的に報道され、「日本の製造業の品質が危ない」などと騒がれる事態になっている。
・もちろん、製品の納入先の顧客の了解を得ることなく、真実のデータが書き替えられた事実があったことは間違いないのであり、その中に、真実のデータを前提にすると品質上・安全上問題があるという事例が全く存在しないと断言することはできない。しかし、問題の大部分は、上記のような背景・原因で発生した「形式上の不正」に過ぎないと考えられることからすると、現在起きている騒ぎは明らかに異常である。
・なぜ、このような馬鹿げた状況に至ってしまったのか。その原因が、世耕弘成大臣をトップとする経済産業省側の対応にあったことが次第に明らかになりつつある。 日経新聞の「迫真」に連載されている「神鋼 地に堕ちた信頼 1」(11月28日朝刊)では、神戸製鋼所が改ざん問題の公表に至った経過について以下のように書かれている。 現場からの不正問題の報告を受けて、神鋼は9月中旬から顧客への説明を始めた。「これから気をつけてください」梅原に集まってくる顧客の反応は悪くなかった。アルミ・銅事業の売上高のうち不正の対象は約4%(年約120億円)。業績への影響もほとんどないように思えた。
・だが、顧客を通じて監督官庁の経済産業省など霞が関に情報があがり始めると状況は一変する。あくまでも民間同士の契約であり、この時点で法令違反は未確認。「国に関与されることはない」と高をくくっていた。 ところが「味方」と思っていた経産省はつれなかった。日産の不正検査問題もあり、問題を早期に解決しないと「日本の製造業の信頼が揺らぐ」との思いがあった。「できるだけ早い段階で会見で公表すべきだ」。9月28日に問題を把握すると神鋼に終始圧力をかけ続けた。10月に入ると顧客を通じて不正の事実が取引先に広がった。追い込まれた神鋼はついに発表を決断する。
・つまり、神戸製鋼側が、8月末にアルミ・銅製品についてデータ改ざんがあったことを把握し、顧客への説明を行っている最中に、顧客側からその情報を得た経産省が、「できるだけ早く会見で公表すべき」と神戸製鋼に圧力をかけ続けた結果、同社が記者会見で公表するに至ったという経過だったようだ。この公表の時点で、神戸製鋼は、まだ顧客への説明の途中だった。3連休の中日である日曜日の午後に、突如記者会見を開いたことは、マスコミ側に、“ただちに対応が必要な緊急事態”との認識を与えるもので、公表のタイミングとしては最悪だった。しかも、その場で自動車や新幹線、旅客機など、日常生活になじみのある製品の多くに使用されていることを明らかにし、その安全性については明言できなかったために、社会的関心が一気に高まり、マスコミの取り上げ方も大きくなった。それによって、神戸製鋼という企業の信頼は大きく傷つき、製品の安全性が確認されても、事態を収束させることが困難な状況になっていった。
・その後、データ改ざん問題が、三菱マテリアル、東レと、他のメーカーに波及するに至った後、世耕氏は、大臣会見で、以下のような発言を行っている。 産業界においては、自らの会社でこういった類似の事案がないかどうかを確認する動きがあると承知していますが、これはもう当然のことだと思います。そして、そういう中で、万一類似の事案が確認をされた場合には、顧客対応などとは別に速やかに社会に対して公表をして、社会からの信頼回復に全力を注ぐことを期待したいと思います。
・「顧客対応などとは別に速やかに社会に対して公表」を求めるという発言からは、「データ改ざん」の基本的構図も、問題の性格も、全く理解していないとしか思えない。経産大臣がこのような発言を行うことで、この問題をめぐる混乱を助長し、日本の製造業に対する国際的信頼を失墜させかねないことには気づいていないようだ。
・重要なことは、今回の「データ改ざん」問題は、「BtoB」(企業対企業の取引)の製造事業の中で発生した問題であり、「BtoC」(企業対消費者)の事業の問題ではないということだ。「BtoC」の事業であれば、消費者に販売した製品の表示や説明に誤りがあった場合には、ただちにその事実を公表し、必要に応じて製品の回収等を行うこともあり得る。それは、製造・販売者側の情報に基づいて商品を選択する消費者に対して、商品に関する正しい情報の提供が求められるからだ。
・しかし、「BtoB」の事業の場合は、それとは異なる。納入した製品の第一次的な利害関係者は顧客企業だ。納入された製品が自社内だけで消費・使用されている場合には、「データの改ざん」が自社の消費や使用上特に影響がなく、当該顧客企業が特に問題にしないのであれば、当該企業の「私的領域」の問題であり、データ改ざんの事実を公表する必要はない。
・当該製品を、「BtoC」の顧客企業が、消費者向けの製品の素材・部品として使用する場合には、当該消費者向け商品の品質・安全性を消費者に対して保証するのは当該顧客企業であり、素材・部品のメーカーではない。素材・部品のデータが改ざんされていたのであれば、該当素材・部品を使用し、加工して製造した自社製品の品質・安全性に影響があるか否かを顧客企業が検討し、その結果、問題が生じる可能性がある場合には、データ改ざんを行った企業に公表を求め、当該顧客企業としても消費者に対して十分な説明を行う必要が生じる。データ改ざんが品質・安全性に全く影響しないと判断した場合には、その公表を求めるか否かは、当該顧客企業が判断することである。BtoC企業が「自社製品の品質・安全性に誤解を生じる可能性があるので公表しないでほしい」と希望するのであれば、BtoB企業の側で、勝手に公表すべきではないし、もし、一方的に公表すれば、顧客企業から契約上の守秘義務違反による損害賠償責任を問われることもあり得る。
・つまり、BtoBの事業において顧客企業に納入した製品の品質・安全性に関する問題を把握した場合の対応は、兎にも角にも当該顧客企業に情報提供・説明したうえで対応について判断してもらい、その判断を最優先することに尽きるのであり、世耕氏が発言しているように、「顧客対応などとは別に速やかに公表する」などということはあり得ないのである。
・このことは、東レが社長記者会見で公表した、子会社のタイヤ補強材「タイヤコード」についてのデータ改ざんの例で考えてみれば明らかであろう。同社がデータ改ざんを把握した時点で、顧客のタイヤメーカーに情報提供・説明することとは「別に」、顧客に了解を得ることなく、一方的に「当社がタイヤメーカーに納入した素材についてデータ改ざんがあった。」と公表したとしたら、どういう事態が発生していたであろうか。当然、公表された「データ改ざん」の内容や影響について、マスコミから説明を求められることになる。当該素材の納入先が国内外のタイヤメーカー十数社と答えざるを得ない。しかし、「安全性に問題がないのか」と聞かれても、「顧客の側で判断されること。当社からは、何もお答えできない」とコメントせざるを得ない。このような公表は、タイヤを使用した製品である自動車のユーザーを無用の不安と混乱に陥れることになる。後日、タイヤメーカーに説明した結果、「ごく僅かな数値の違いなので安全性に影響はない」との判断だったということが公表されても、それまでの間に社会に与えた甚大な影響は、取返しのつかないことになっているであろう。
・このように考えれば、アルミ・銅事業でのデータ改ざんを把握した後、顧客への説明と情報提供を行っていた期間、公表を考えていなかった神戸製鋼、タイヤコードでの同様の問題を把握した後、顧客への説明を優先させ公表を行わなかった東レ子会社の対応も、特に問題があったとは思えない。
・ところが、世耕経産大臣は、データ改ざんなどの「不正」は、「顧客対応などとは別に速やかに公表すべき」と言うのである。社会に不安と混乱を生じさせ、日本の製造業に対する信頼を「破壊」する言動以外の何物でもない。
・経団連の榊原定征会長は、11月29日、日本企業の国際的信用を毀損することを防ぐため、会員企業約1350社に対して、品質問題の実態調査を要請する考えを表明した。調査の結果、不正が発覚した場合は、必要に応じて顧客や政府へ連絡するとともに、再発防止を徹底するよう求めるという。しかし、その際、世耕大臣が言うように「顧客対応とは別に速やかに公表すべき」だとされ、それに従わざるを得ないとすると、上記のように社会に無用の不安と混乱を招くことになる。そうなると、企業は、不正を把握したこと自体を「隠ぺい」することを選択せざるを得なくなる可能性がある。理由は若干異なるが、山口利昭氏も、【品質検査データ偽装に気づいた企業は素直に公表できるだろうか】という記事の中で、調査の結果不正を把握した企業が隠ぺいする可能性を指摘している。
・今回、素材・部品メーカーのデータ改ざん問題が、ここまで重大な問題に発展したことには、経産省の対応、とりわけ、世耕大臣の対応が大きく影響しているように思える。経産省が行うべきことは、「速やかな公表」ばかり迫って、世の中の不安を煽ることではない。むしろ、既に問題を公表している各社から、「データ改ざん」の内容について詳細な報告を受けて事実関係を把握し、品質・安全性に影響を与え得るものなのかどうかを検討し、他のメーカーでも潜在化していると思える同種のデータ改ざんを、どのようにして把握するのか、データ改ざん問題に対して今後どのように対応すべきなのか、コンプライアンス、ガバナンスの専門家、製品の品質問題やメーカーの品質管理の専門家を集めた会議を開いて検討することであろう。「顧客対応などとは別に速やかに公表すべき」などという的外れの発言を速やかに撤回すべきであることは言うまでもない。
・このような問題については、専門家などの知見を十分に活用することが重要である。大臣が、素人考えの思い付きで対応してしまうと、すでに混乱の極致に達してしまった一連のデータ改ざん問題を一層深刻化させることになりかねない。
https://nobuogohara.com/2017/12/01/%E4%B8%96%E8%80%95%E7%B5%8C%E7%94%A3%E5%A4%A7%E8%87%A3%E3%81%AF%E3%80%81%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E8%A3%BD%E9%80%A0%E6%A5%AD%E3%81%AE%E7%A0%B4%E5%A3%8A%E8%80%85%E3%81%8B/

神戸製鋼は安倍首相も若い頃、勤務し名門企業である。第一の記事で、 『製造業の現場にもともとある「トクサイ(特別採用)」という商慣行がある・・・顧客との合意があれば問題はなく、他の企業でも広く行われている。ところが神戸製鋼では、「このくらいの差なら顧客も受け入れてくれる」という経験が積み重なるうちに、基準にたいする意識が甘くなり、改ざんが行われるようになってしまったとみられる』、というのであれば、当初の契約に誤差許容範囲を入れておけばいい話だ。 『品質を担保する製造現場はぎりぎりの人数で回しているうえに、世代交代などもあって、現場の力が弱くなっている。「利益なき繁忙」という状況です。神戸製鋼と日産自動車に限らず、すべての製造業に品質問題が起きやすい状況だと言えます』、との遠藤氏の警告は重く受け止める必要がありそうだ。
第二の記事で、 『9年前に「業界ぐるみ」の改ざんが起きていた』、その背景に 『行き過ぎた「生産性重視」』、があったというのは驚かされた。『「品質保証体制強化に向けたガイドライン」』はまたしても「絵の描いた餅」だったのだろうか。
第三の記事で、 『「東レよ、お前もか」財界総理出身企業も落ちたデータ改ざんの闇』というのは、生産現場の実態と、営業や経営の建前との乖離が大きく広がっていることを意味している。第一のコメントで指摘した契約への誤差許容範囲を入れること、なども検討すべきであろう。
第四の記事で、 『「データ改ざん」は、日本の素材メーカー、部品メーカーの多くに潜在化している「カビ型不正」の問題であり、それらの殆どは、実質的な品質の問題や安全性とは無関係の「形式上の不正」に過ぎず、顧客に対して「データ書き替え」の事実と、真実のデータについて十分な情報を提供し、書き替えに至った理由や経過を正しく説明して品質への影響や安全性の確認を行うことができれば、もともと大きな問題にはなり得ない・・・現在起きている騒ぎは明らかに異常である』、『このような馬鹿げた状況に至ってしまったのか。その原因が、世耕弘成大臣をトップとする経済産業省側の対応にあったことが次第に明らかになりつつある』、『BtoBの事業において顧客企業に納入した製品の品質・安全性に関する問題を把握した場合の対応は、兎にも角にも当該顧客企業に情報提供・説明したうえで対応について判断してもらい、その判断を最優先することに尽きるのであり、世耕氏が発言しているように、「顧客対応などとは別に速やかに公表する」などということはあり得ないのである』、などの指摘は、さすが郷原氏だけあって冷静かつ的確である。マスコミもよく勉強してもらいたいものだ。
タグ:既に問題を公表している各社から、「データ改ざん」の内容について詳細な報告を受けて事実関係を把握し、品質・安全性に影響を与え得るものなのかどうかを検討し、他のメーカーでも潜在化していると思える同種のデータ改ざんを、どのようにして把握するのか、データ改ざん問題に対して今後どのように対応すべきなのか、コンプライアンス、ガバナンスの専門家、製品の品質問題やメーカーの品質管理の専門家を集めた会議を開いて検討することであろう BtoBの事業において顧客企業に納入した製品の品質・安全性に関する問題を把握した場合の対応は、兎にも角にも当該顧客企業に情報提供・説明したうえで対応について判断してもらい、その判断を最優先することに尽きるのであり、世耕氏が発言しているように、「顧客対応などとは別に速やかに公表する」などということはあり得ないのである 「BtoB」の事業の場合は、それとは異なる。納入した製品の第一次的な利害関係者は顧客企業だ。納入された製品が自社内だけで消費・使用されている場合には、「データの改ざん」が自社の消費や使用上特に影響がなく、当該顧客企業が特に問題にしないのであれば、当該企業の「私的領域」の問題であり、データ改ざんの事実を公表する必要はない この問題をめぐる混乱を助長し、日本の製造業に対する国際的信頼を失墜させかねないことには気づいていないようだ 「顧客対応などとは別に速やかに社会に対して公表」を求めるという発言 三菱マテリアル、東レと、他のメーカーに波及するに至った後 神戸製鋼という企業の信頼は大きく傷つき、製品の安全性が確認されても、事態を収束させることが困難な状況になっていった マスコミ側に、“ただちに対応が必要な緊急事態”との認識を与えるもので、公表のタイミングとしては最悪 神戸製鋼側が、8月末にアルミ・銅製品についてデータ改ざんがあったことを把握し、顧客への説明を行っている最中に、顧客側からその情報を得た経産省が、「できるだけ早く会見で公表すべき」と神戸製鋼に圧力をかけ続けた結果、同社が記者会見で公表するに至ったという経過 その原因が、世耕弘成大臣をトップとする経済産業省側の対応にあったことが次第に明らかになりつつある 問題の大部分は、上記のような背景・原因で発生した「形式上の不正」に過ぎないと考えられることからすると、現在起きている騒ぎは明らかに異常である 日本の製造業の品質が危ない」などと騒がれる事態になっている このような「データ改ざん」は、日本の素材メーカー、部品メーカーの多くに潜在化している「カビ型不正」の問題であり、それらの殆どは、実質的な品質の問題や安全性とは無関係の「形式上の不正」に過ぎず、顧客に対して「データ書き替え」の事実と、真実のデータについて十分な情報を提供し、書き替えに至った理由や経過を正しく説明して品質への影響や安全性の確認を行うことができれば、もともと大きな問題にはなり得ない 「世耕経産大臣は、日本の製造業の”破壊者”か」 郷原信郎 製品検査データの改ざん 東レ 「「東レよ、お前もか」財界総理出身企業も落ちたデータ改ざんの闇」 ダイヤモンド・オンライン 「品質保証体制強化に向けたガイドライン」 鉄鋼連盟 行き過ぎた「生産性重視」 日新製鋼 ニッタイ 新日本製鉄 強度試験データの捏造 JFEスチール 9年前の2008年、鉄鋼業界で「業界ぐるみ」といっても過言ではない不祥事があった 神鋼だけ?鉄鋼業界に求められる「一斉点検」 9年前に「業界ぐるみ」の改ざんが起きていた」 東洋経済オンライン 短期的な利益追求ではなくて、中長期的なサステナブルな成長を目指してほしい。その一方で、もう一度、品質とは何かを問いかけて、必要な投資を現場に対して行う 戸製鋼と日産自動車に限らず、すべての製造業に品質問題が起きやすい状況だと言えます 本来は、法令順守やコンプライアンスという意味だが、最近では“攻めのガバナンス”という言葉で、利益追求、稼ぐ力を高める色あいが濃くなっている。品質の要求水準は高まり、利益を上げることへのプレッシャーも大きくなっている。ところが、品質を担保する製造現場はぎりぎりの人数で回しているうえに、世代交代などもあって、現場の力が弱くなっている。「利益なき繁忙」という状況です 「間に合わないとは言えない」強まっていたプレッシャー 神戸製鋼では、「このくらいの差なら顧客も受け入れてくれる」という経験が積み重なるうちに、基準にたいする意識が甘くなり、改ざんが行われるようになってしまったとみられる トクサイ(特別採用) 出荷の直前に「品質保証室」で品質検査を行い、検査証明書を発行している。その証明書に記載する数値を“メイキング”するのだ “メイキング”、すなわち改ざんは40年以上前から行われてきた 「内部証言 神戸製鋼と日産で何が起きていたのか」 NHKクローズアップ現代+ (その3)(内部証言 神戸製鋼と日産で何が起きていたのか、神鋼だけ?鉄鋼業界に求められる「一斉点検」 9年前に「業界ぐるみ」の改ざんが起きていた、「東レよ、お前もか」財界総理出身企業も落ちたデータ改ざんの闇、世耕経産大臣は 日本の製造業の”破壊者”か) (神戸製鋼などの部材不正) 企業不祥事
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