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鉄道(小田急線火災、「踏切非常ボタン」に潜むワナ、「豪華観光列車」料金があまりにも高額なワケ、鉄道「高速化競争」から欧州が離脱した理由) [科学技術]

今日は、鉄道(小田急線火災、「踏切非常ボタン」に潜むワナ、「豪華観光列車」料金があまりにも高額なワケ、鉄道「高速化競争」から欧州が離脱した理由)を取上げよう。

先ずは、作家の冷泉 彰彦氏が昨年9月13日付け東洋経済オンラインに寄稿した「小田急線火災、「踏切非常ボタン」に潜むワナ 検証が必要なのは鉄道側の対応だけではない」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・小田急小田原線の代々木八幡ー参宮橋間で9月10日、線路脇の建物で火災が起きているにも関わらず、現場の横に電車が8分間も停車した結果、車両に延焼し屋根が炎上したという事故が問題になっている。車両の一部が炎に晒されている状態で、約300名の乗客が線路に降りて避難するという事態になった。
▽消火活動には問題なかったか
・初期の報道は二転三転したが、だいぶ落ち着いてきたので整理してみよう。まず、なぜ延焼するような場所に停車したのかという最大の問題についてだ。小田急が把握している情報によれば、消防の依頼で警察が踏切の緊急警報ボタンを押し、電車が停止したという。
・消防が緊急停止を要請したのは、当初は電車が火災現場に接近するのを止めるための機転という見方もあったものの、後に出てきた現場証言に基づく報道によれば「線路方面から消火活動をしたいので、電車を止める必要があった」という理由だったようだ。 また、一旦動き始めた電車が火災現場の前に一部の車両が残っている時点で再度停止した問題については、消防がその場で停止して乗客を避難させるよう指示したということが、その指示の音声と共に報じられている。
・消防による消火活動は、一刻を争う中で瞬時の判断が必要な仕事だ。消防士自身が危険と隣り合わせというケースもある。それだけに、何から何まで規則に縛られるのではなく、消防士が臨機応変に判断し、場合によってはリスクを取ってでも消火、もしくは人命救助を行う必要がある職務である。
・それゆえ、消防の一挙手一投足を規則で縛ってしまい、人命救助のために必要な柔軟な判断が萎縮するようではいけない。だが、今回のケースは違うと思う。今回の事例を踏まえて、今後の事例に活かしていただきたい。
・今回の事故では小田急電鉄の対応にもっぱら注目が集まっているが、消防と警察の判断についても問題点の検証が必要だ。想定外といえるさまざまな原因が重なって起きた事故だが、いくつか問題がある。 まず、消防の依頼で警察が押したという踏切の緊急警報ボタンは、あくまで踏切内の危険を知らせるためのものである。たとえ警察や消防であっても「電車を止めるため」という目的以外での使用はやめるべきだ。
・なぜなら、現在のATS(自動列車停止装置)やATC(自動列車制御装置)、運転司令所による中央からの運行管理の体制は、「緊急警報ボタン」が押されると「押された踏切に障害があり、その手前で列車を停止されるべき」であるとして強制力を持つようになっているケースが多いからである。小田急によると、同社の場合はボタンが押された踏切に接近している上下線の電車が自動で停まるという。その結果、火災現場の横で電車が緊急停止するという事態が発生したわけだ。
▽消火のネックは「架線」
・また、本来は電車が停止したからといって即座に線路近くでの消火作業を行えるわけではない。線路のすぐ近くで消火活動を行うには、架線からの漏電や感電の事故を防止するための措置が行われるべきだからだ。 消火活動を行う前に小田急側に何らかの連絡があったかは、同社によると今のところ情報が入っていない。
・架線には、今回の区間であれば直流1500V、交流電化区間なら在来線でも2万Vという高圧電流が送電されている。万が一、通電した架線などの近くで消火活動をすることがあれば大変危険だ。もしも今回、送電の停止などについて鉄道側との連絡や確認を取る前に、電車を止めて線路付近で消火活動が始まっていたのであれば、危険な行為と言わざるを得ないだろう。
・さらに、一旦電車が動き出してから再度電車を停車させ、乗客を線路に下ろして避難させた経緯についても検証が必要だ。今回は運転士・車掌が車両への延焼に気づいておらず、消防隊の指摘を受けてから避難させている。 乗客を線路に下ろして避難させるというのは、鉄道事業者の判断事項である。もし架線が切れて垂れ下がっているようなことがあれば感電の危険があることはもちろん、乗客が線路を避難する区間について、反対方向の電車が走っていないかなどの安全確認が必要だからだ。
・小田急は、線路に乗客を降ろす場合は反対方向の電車が停まっていることなどの安全性を確認するため、司令と車掌などが連絡を取り合ってから行うという。乗客が線路に下りる際の安全が確保されていたかどうか、重ねての検証を求めたい。
・消防の消火活動、人命救助活動を規則で縛ることには、メリットとデメリットがあり、基本的には瞬時の柔軟な判断を尊重したい。だが今回の非常ボタンによる電車の停止から避難に至るまでの経緯については、鉄道の安全を維持するための大原則に照らして問題がある部分がなかったか、鉄道側だけでなく警察・消防側の行動についても検証が必要だと思う。
▽沿線火災対応の原則見直しを
・小田急電鉄の対応にも注文をつけたい。今回の事故では、運転士や車掌が車両への延焼を認識していなかった。たとえばカメラ映像などで周辺の状況を運転士が確認できる仕組みなどがあればすぐに状況把握ができたかもしれない。火災の状況がわかっていれば、現場の横で緊急停止した後も速やかに発車し、延焼を防げた可能性もある。司令所との交信体制が適切だったかといった点も含め、危機管理の面で鉄道側にも改善の必要な点は多数ある。 
・また、車両についても検証が必要だろう。今回の事故で燃えたのは、屋根に電気的な絶縁のために塗られているウレタン樹脂で、難燃剤を含む素材で燃えにくくなっているというが、不燃ではない。屋根の難燃性に関しては総合的な検討が必要だ。
・今回の事故は幸いにも大事には至らなかったが、これを教訓に、鉄道が絡んだ火災における消防の行動原理について原則の見直しをしてもらいたいと思う。同じ日にはJR中央緩行線の大久保駅付近でも線路際での火災が発生している。できるだけ速やかにガイドラインを整備するなどし、周知徹底を図っていただきたいと思う。
http://toyokeizai.net/articles/-/188384

次に、江戸川大学 社会学部現代社会学科 准教授の崎本 武志氏が昨年11月24日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「豪華観光列車」料金があまりにも高額なワケ クルーズトレイン料金は「運賃」ではなかった」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・鉄道は主要交通機関の1つとして、旅客・貨物両面の輸送を担う大動脈としてのインフラ機能を有しているが、観光面でも重要な位置づけを担っている。特に近年は鉄道が注目されていることもあり、鉄道に乗車する行為そのものが目的化する、いわば「鉄道乗車そのものを観光行為とする」という利用が一般的にも認知されるようになっている。
・このように、鉄道に乗車する行為を目的とする「本源需要」としての鉄道利用のあり方は、これまでは鉄道ファンなど一部の層のみが味わう楽しみ方であったが、現在はれっきとした観光目的として確立されつつある。また、こうした観光客を目的とした列車である「観光列車」「観光車両」が各地で数多く登場し、人気を博している。
▽最近は「クルーズトレイン」が大人気
・もちろん、これらの観光列車や観光車両には近年登場したものばかりでなく、長い間活躍しているものも多く存在する。新型車両やリニューアルされた車両、レストラン列車やイベント列車、自然を楽しむトロッコ列車やかつて活躍した車両を復活させたSLなどのレトロ列車は各地で運転され、休日を中心に行楽客の人気の的となっている。
・中でも現在注目を集めているのが、「クルーズトレイン」と呼ばれる豪華列車である。クルーズトレインとは観光に目的を特化させた周遊型の豪華列車の総称だ。船舶でも数多くの寄港地での観光を楽しみながら船内での豪華な設備を誇るクルーズ船が高付加価値の観光旅行のジャンルとして確立され、日本でも定着している。海外ではヨーロッパで運行されている「オリエント急行」など数多くのクルーズトレインが存在するが、日本では2013年にJR九州で「ななつ星in九州」が運行されたのが最初だ。今年はJR東日本で「トランスイート四季島」、JR西日本で「トワイライトエクスプレス瑞風」が運行を開始し、国内外から申し込みが相次いでいる。
・ななつ星、四季島、瑞風は、どれも鉄道車両内において豪奢(ごうしゃ)なひとときを味わうことを目的としており、沿線観光地や有名ホテル・旅館にも立ち寄り、宿泊や食事を楽しむことができる「周遊型ツアー」として確立されている。しかし、その額は最も安価なものでも1泊2日で25万円と、かなり高額なものとなっている。
・ななつ星と四季島の3泊4日コースは、それぞれ1泊は沿線地域の豪華旅館の宿泊が加わっているのも大きな特徴だ。ななつ星では由布院温泉の「玉の湯」「亀の井別荘」、「四季島」では、登別温泉「滝乃家」といった、当代一流の旅館である(現在ななつ星は台風18号の影響で久大本線の一部区間不通のため、コース・宿泊地など内容が変更となっている)。瑞風では外部での宿泊はないものの、「菊乃井」村田吉弘氏の日本料理や「ハジメ」米田肇氏の西洋料理を堪能することができる。
・ここで、単純な疑問がある。クルーズトレインは、なぜこれだけ高価なのだろうか。本来の運賃・料金であれば、特別車両であったとしても、ここまでの値段設定は考えられない。
▽クルーズトレインは「募集型企画旅行」だった
・その理由は、豪華さはもちろんだが、クルーズトレインは、従来JRにおいて設定されている特急列車などの運賃・料金体系とはまったく別種類のものだからだ。つまりこの列車に乗車するための条件が「乗車券」「特急券」「寝台券」を購入することではなく、これらの運行そのものが不特定多数の旅行者の募集を行う旅行商品であり、乗車を希望する場合はこの旅行商品に申し込みを行う形をとる、ということなのだ。
・申込先としてそれぞれツアーデスクが開設されているが、ななつ星は「JR九州企画」、四季島は「びゅうトラベルサービス」、瑞風は「日本旅行」といったグループ内の旅行会社がツアーデスクを運営しているのだ。旅行業法では、このように、旅行会社があらかじめ旅行の行程・計画を作成し、パンフレットや広告などで参加者を募集して実施する旅行のことを「募集型企画旅行」と規定している。いわゆる、「パッケージツアー」と称されているものだ。
・旅行業には第1種・第2種・第3種の3つの種別があり、第1種旅行業は海外・国内の、第2種旅行業は国内の募集型企画旅行を企画・実施を行うことが可能であり(第3種は旅行業者が所属する市町村の近隣を対象とする募集型企画旅行の企画・実施のみ可能)、日本のクルーズトレインの場合は鉄道会社に第1種・第2種の旅行業登録があれば列車による旅行商品の企画・実施が可能となる。
・これらクルーズトレイン乗車の申込時は、旅行業約款である旅行条件書が交わされ、旅行業法に基づき募集型企画旅行に参加した、という形がとられる。行程の中で提供される各食事、各観光案内、各宿泊についても、すべて料金に含まれている。
▽単なる移動ではなく、旅程に従う
・このように、クルーズトレインは高付加価値旅行商品として販売されている。目的の有無にかかわらず列車に単純に乗車するのではなく、旅程に従って旅行商品としての企画に参加することが必要となる。 しかし、クルーズトレインが登場する前にも鉄道を使った旅行商品は存在した。新幹線や、かつてのブルートレインなどの寝台列車、各地の観光列車を活用した旅行商品が多数、造成・販売されてきた。
・こうしたクルーズトレインが日本に誕生するまでは、「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」や「氷河特急」など海外のクルーズトレインに乗車するパッケージツアーに参加するしかなかった。しかし、日本にもスイスに勝るとも劣らない車窓風景がある。
・これらを生かしたクルーズトレインは貴重な観光資源としての無限の可能性がある。世界各国から鉄道乗車を目的とした観光客を迎え入れることは重要だが、単に人数だけを追求するのではなく、文化的な価値の高いインバウンド振興を果たすべきだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/196908

第三に、 欧州鉄道フォトライター の橋爪 智之氏が昨年12月22日付け東洋経済オンラインに寄稿した「鉄道「高速化競争」から欧州が離脱した理由 「世界最速」の中国とは異なる事情がある」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・10月にイタリアのミラノで開催されたExpo Ferroviaria 2017(鉄道見本市)。2年に1回、ドイツのベルリンで開催される「イノトランス」と比較すればそれほど規模が大きいわけではないが、会場に隣接する車庫スペースを使って、ささやかながら実物の車両展示も行われるなど、主にイタリアの業界関係者へ向けた商談、および宣伝活動の場となっていた。
・今回、その見本市での車両展示で開催前から最も注目を集めていたのは、イタリアの民間高速列車会社NTV社の新型車両ETR675形、通称「イタロEVO」だ。もちろん、同社の看板列車である「イタロ」用の最新型で、初代車両ETR575形と同じフランスのアルストム社製だ。
▽初代よりも遅い新型車両
・しかし、この初代車両と2代目車両、同じ製造会社ながら車体構造が全く異なる。ETR575形は小田急ロマンスカー50000形VSEなどと同様、中間車は1つの台車で両側の車体を支える連接構造を採用しているのに対し、最新型のETR675形は、2つの台車で1つの車体を支える、通常のボギー構造を採用している。 そして、外見上よりさらに大きな違いは、最高速度が異なることだ。初代のETR575形は最高速度が時速300kmなのに対し、ETR675形は250km。なんと50kmも遅いのだ。そういえば、ドイツの最新型高速列車ICE4も、1世代前のICE3が最高速度320kmだったのに対して250kmへと抑えられている。
・鉄道先進国の最新型高速車両が、旧型より速度の面で劣っているとは、一体どういうことなのだろうか。  日本に新幹線が誕生してからすでに50年以上。この間に、世界各国では鉄道の最高速度向上のための研究が絶えず行われ、その技術は日進月歩で進化していった。特に、1990年にフランスの高速新線、LGV大西洋線が完成すると最高速度は時速300kmの時代へ突入し、欧州大陸を中心に高速新線の建設ラッシュとなった。
・21世紀に入ると、中国が高速鉄道建設を本格的にスタート。欧州や日本のメーカーから車両を輸入し、それを基にして多種多様な高速列車を次々と生み出してきた。事故が発生したことで一時は勢いを失っていたが、その後も建設の手を緩めることなく次々と路線を延長し、2017年現在で世界一となる、2万2000kmの高速新線網を有する高速列車大国へと成長した。現在は、世界最速の時速350km運転を実現している。
▽「技術力」の問題ではない
・一方、鉄道先進国であるはずの欧州や日本は2017年現在、最高速度は時速320km止まりで、あとから追いかけてきた中国の後塵を拝している。だが、これは技術的に欧州や日本が中国に追い越された、という意味と必ずしもイコールではない、という点に注意しなければならない。
・日本ではJR東海の新幹線955形試験車両が1996年に時速443kmを達成しており、技術的に新幹線のさらなる高速化ができない理由はないが、現在はリニア開発へ注力しているため、これ以上の速度向上は行わないと考えられる。欧州では、フランスのTGV試験車両V150が2007年に時速574.8kmという前人未到の世界記録を達成しており、現在もこの記録は破られていない。
・これらの速度試験は、日本では記録目的ではなく、高速運転時における安定性や耐久性など、総合的な性能向上を目的として行われている。一方のフランスは、表向きは速度記録への挑戦というスタンスだが、広義的にはその高速走行試験から得られる技術的データを営業列車へフィードバックすることを目的としている。
・だが、営業運転における恒常的なスピードアップとは、試験車両で記録を達成したらすぐに可能という単純な話ではなく、信号システムの変更や軌道強化といった地上設備の更新や騒音対策など、インフラの整備も行わなければならない。 そのためには多額の費用が必要となるが、仮に最高速度を300kmから350kmへ引き上げたとしても、350kmで走行できる区間が短ければ時間短縮効果はわずかとなり、費用対効果で考えれば無理に設備投資をしてスピードアップをする必要はないという結論に至る。
・JR東日本は2012年に発表した中長期経営計画の中で、東北新幹線における将来的な時速360km運転の実現を掲げていたが、すぐには実現へ向けて進まず、まずはE5系新幹線による320km運転からスタート。2017年7月になって、北海道新幹線が全線開業する2030年度までに車両開発や設備改良を進め、360kmでの運転を実現するとしている。
・日本と同様に比較的国土が狭く起伏のある欧州でも、時速300km以上の高速運転には意外と消極的だ。現在、欧州で最速の列車は、フランスの高速新線LGV東ヨーロッパ線で、東北新幹線と同じ最高時速320kmで運行されている。それ以上の速度に関して具体的な計画として挙がっているのは、イタリアの高速列車フレッチャロッサの360km運転があるだけで、欧州における高速列車のパイオニアであるフランスやドイツなどでは、その具体的な計画すらない。
▽「高速化より定時性が重要」
・その唯一の計画を掲げるイタリアは、最新型車両フレッチャロッサ・ミッレ(ETR400形)で速度向上試験を重ね、2016年2月にはイタリア国内最高速度記録の時速393.8kmを記録した。営業認可の取得には、試験走行で営業最高速度+10%の安定した走行が求められるため、営業速度360㎞を実現するためには、少なくとも396㎞を達成することが条件となる。しかし、393.8㎞を記録したところで走行試験は終了した。
・その後、イタリア鉄道(FS)のCEOマツォンチーニ氏は地元紙に対し、時速360km運転については最優先事項ではなく、当面は保留すると述べている。その理由は、利用客が求めるものは、最高速度向上によるわずかな時間短縮より、ダイヤ通りに走る定時性であるため、との見解を示している。
・イタリア国内は、トリノ―ミラノ―ボローニャ―フィレンツェ―ローマ―ナポリと、主要都市を南北に結ぶルートに高速新線が建設されているが、このうち時速360km運転を考慮して線路間隔や曲線が設計されている区間はトリノ―ミラノ間のみで、ほかの区間は線路の改良が必要となる。比較的新しいミラノ―ボローニャ間も、規格としては走行可能だが、土地収用問題があったモデナ付近に制限速度240㎞の急なカーブが存在し、現在もすべての列車がここでの減速を余儀なくされている。
・つまり、現状の設備では全区間で時速360km運転が可能なのはトリノ―ミラノ間だけということになる。同区間の距離はわずか142kmで、所要時間は現時点でも1時間を切っており、例え360km運転を実現したとしてもその短縮効果は数分程度。この区間だけでは費用対効果は薄いというわけだ。
▽なぜ「イタロ」新型は遅くなったか
・さて、かなり前置きが長くなったが、最初の話に戻ろう。フランスのアルストム社は、中~高速向け車両として、タイプの異なる3車種を用意している。有名なTGV、その派生形のAGV、そして「ペンドリーノ」だ。TGVは今さら説明するまでもなく、フランスの高速列車として、今も改良を重ねながら増備が進められている。
・AGVは、両端に機関車を配置した動力集中方式のTGVに対し、日本の電車と同じような動力分散方式を採用した車両で、最高時速300km以上の列車に使用するために開発された。これがイタロの初代車両、ETR575形のベースとなっている車両だ。「ペンドリーノ」は主に250㎞までの中速列車に使用するための車両で、元をたどればイタリアのフィアット社が開発した振り子式特急車両。同社がアルストム社に吸収されてからは、同社の製品ラインナップに加えられた。
・NTV社が今回発注した「イタロEVO」と呼ばれるETR675形はペンドリーノをベースにした車両だが、最高速度は時速250kmで振り子装置もない。「廉価バージョン」というとやや語弊があるが、つまり振り子装置が必要なほどの曲線区間もなく、最高速度で初代車両に多少劣っても、トータルの所要時間にさほど影響がないとNTV社が判断した、ということだ。
・契約価格については、初代のETR575形は25編成で6億5000万ユーロ、1編成当たり2600万ユーロであるのに対し、2代目のETR675形は8編成で4億3000万ユーロ、1編成当たりでは5750万ユーロ。一見すると新型は契約価格が倍以上にハネ上がっているが、これは20年間のメンテナンス費用を含んだ契約となっているためだ。ETR575形の契約にはメンテナンス費用が含まれていない。
・この数字だけではどちらがより経済的かは算出できないが、高速運転を続けていれば、各パーツの摩耗や耐久性の低下はより早く訪れる。ETR575形のメンテナンス費用がその都度発生すると仮定すると、十数年使い続けていけば莫大な金額としてのしかかってくる。
▽「高速化」から適切な速さへ
・NTV社とアルストム社の共通認識として、現在のイタリア都市間路線網においては、最高速度を50km程度落としたところで、所要時間の差は10分以内で収まるという試算がある。実際、イタロが運行されている区間のうち、フィレンツェ―ベネチア間やミラノ―ベネチア間はほとんどが最高速度200km程度の在来線を走るし、高速新線の開業年が古いフィレンツェ―ローマ間など、もともとの路線設計が最高速度250kmの区間もある。
・これらの区間を走る場合、ETR575形ではスペックを持て余すのは間違いない。新型車両を在来線が混在する区間などへ集中的に投入することで、所要時間を大幅にロスさせることなく、かつランニングコストも抑制することが可能となる。今回のイタロEVOの投入には、そんな意図が見え隠れしており、実際に同社は早くも11編成の追加発注を決定している。
・高速列車に夜行列車があるほど、圧倒的に国土が広大な中国は高速鉄道を建設するのに最適な環境が整っており、それが世界最速の時速350km運転へと繋がっている。他方で、高速列車のパイオニアである日本や欧州各国は、国土そのものが中国よりだいぶ狭く、決して環境が整っているとはいえない。現在の欧州各国鉄道の潮流は、さらなる高速化ではなく、より適切な速度による運行へと変化していっているのだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/200848

第一の記事で、 『小田急線火災』、については、 『今回の事故では小田急電鉄の対応にもっぱら注目が集まっているが、消防と警察の判断についても問題点の検証が必要』、というのは確かにその通りだ。そのためには、これらを全て包摂するような第三者委員会を設置すべきだが、そうした報道はまだない。国土交通省が音戸を取るべきだろう。
第二の記事で、 『クルーズトレインは「募集型企画旅行」だった』 というので、料金があまりにも高額なのは、 料金は「運賃」ではなく、参加代金、というので納得できた。それにしても、これだけ高額なのに、かなり先まで予約が詰まっているというのは、バブルというより、新たな旅行スタイルが受け入れられつつあるということなのだろう。
第三の記事で、 『鉄道先進国であるはずの欧州や日本は2017年現在、最高速度は時速320km止まりで、あとから追いかけてきた中国の後塵を拝している』、『 営業運転における恒常的なスピードアップとは、試験車両で記録を達成したらすぐに可能という単純な話ではなく、信号システムの変更や軌道強化といった地上設備の更新や騒音対策など、インフラの整備も行わなければならない。 そのためには多額の費用が必要となるが、仮に最高速度を300kmから350kmへ引き上げたとしても、350kmで走行できる区間が短ければ時間短縮効果はわずかとなり、費用対効果で考えれば無理に設備投資をしてスピードアップをする必要はないという結論に至る』、という欧州の判断は極めて合理的だ。記事を離れるが、東海道・山陽新幹線で博多発東京行きののぞみ34号の台車があと3センチで破断の恐れがあったのに、名古屋駅まで運行を続けたという初の重大インシデントは、重大事故と紙一重だっただけに、JR西日本などの気の緩みが深刻な段階にあることを物語っている。これも、本来は第三者委員会で徹底的な原因究明に当たってもらいたいものだ。
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