SSブログ

日銀の異次元緩和政策(その28)(ノーベル賞の行動経済学で考える「インフレ目標」そのものへの疑問、日銀 金融政策 次の一手、日銀は「出口戦略」をコッソリと始めている) [経済政策]

日銀の異次元緩和政策については、昨年11月30日に取上げた。今日は、(その28)(ノーベル賞の行動経済学で考える「インフレ目標」そのものへの疑問、日銀 金融政策 次の一手、日銀は「出口戦略」をコッソリと始めている)である。

先ずは、東短リサーチ代表取締役社長の加藤 出氏が昨年12月21日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「ノーベル賞の行動経済学で考える「インフレ目標」そのものへの疑問」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・先日、スウェーデンのストックホルムでノーベル博物館を見学したが、入り口付近に今年ノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授の展示があった。 彼が、受賞理由である行動経済学の研究に情熱を注いできた背景には、「人間は合理的に判断する」という従来の経済学の仮定に対する強い違和感があった。
・『かくて行動経済学は生まれり』(マイケル・ルイス著)によると、若き日のセイラー氏は「経済学は人間の本質を研究するはずのものなのに、人間の本質に目を向けていない」と感じていた。大学院での評価も低く、悶々としていたとき、彼はダニエル・カーネマン氏とエイモス・トヴェルスキー氏というイスラエル人心理学者たちの共同研究を読み、衝撃を受ける。
・「心理学が詰まったトラックが、経済学の内部の聖域に突っ込んで爆発するかもしれない」と直感したセイラー氏は、心理学と経済学の統合に没入していく。
・経済学が人間をあまりに単純化して考えてしまう例は、近年も時折見られる。「中央銀行がインフレ目標を掲げると、国民のインフレ予想がそこに収斂していく」という見解は、まさにそれだ。 わが国では、2013年1月に政府と日本銀行の間で2%のインフレ目標が合意された。それから間もなく5年が経過するが、インフレ目標の達成は全く見えてこない。現段階では、日銀は19年度にインフレ率が2%近辺になると言っているが、来年には7回目の目標達成の先送りが決定するだろう。
・以前にこのコラムでも紹介したが、オークランド工科大学のSaten Kumar博士らの論文によると、インフレ目標導入の先駆例として紹介されることが多いニュージーランドでさえ、2%のインフレ目標を知っている企業経営者は12%しかいないという。インフレ目標が人々のインフレ予想を固定しているわけではないと、同論文は結論付けている。
・米連邦準備制度理事会(FRB)も2%のインフレ目標を掲げているが、この5年間のインフレ率(コア個人消費支出物価指数前年比)の平均は1.55%。大半の月で2%を下回っている。 そのため、2%未満の長期化を許容しない方がいいのではないか、との懸念がFRBの内外から出始めており、ベン・バーナンキ元FRB議長は「一時的な物価水準目標」を提唱し始めた。11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でも、それが話題になっている。
・現在のインフレ目標は物価が毎年2%ずつ上昇することを目指している。だが、目標未達が何年も続くと、2%ペースで上昇していた場合と実際の物価水準の開きが徐々に大きくなる。そんなときには、例えば一時的にインフレ率が3~4%になることを許容して、物価水準が2%ペースに戻るまで金融引き締めを行わなければよい、との考え方だ。
・しかし、この手法は実際にはうまく機能しないだろう。前述のように、FRBは近年インフレ率を制御できていない。それなのに、必要が生じたら一時的にインフレ率を高めに誘導し、必要がなくなればまた2%に戻すという器用な芸当は到底こなせないだろう。 株式などの資産市場が乱高下する恐れもある。
・「人間の本質に目を向けるべき」というセイラー氏の主張に、中央銀行はもっと耳を傾けるべきだろう。ちなみに、彼はノーベル賞の賞金をできるだけ非合理的に使ってみせるとジョークを言っている。
http://diamond.jp/articles/-/153812

次に、財務省出身で慶応義塾大学准教授の小幡績氏が1月23日付け同氏のブログに掲載した「日銀 金融政策 次の一手」を紹介しよう。
・いよいよ出口戦略開始だ。 黒田総裁は会見で出口の議論は時期尚早と従来からの説明を繰り返したが、市場やメディアが出口議論を催促するとは世の中とは意外と正しく変化するものだ。 間違っているのは政治だけで、日銀内部ももちろん出口へ向かう議論をしているはずだ。 総裁人事で黒田再任となり、国会承認も得られ、4月に次の任期が始まれば、いよいよ出口開始だ。
・まず、何からやるか。 普通に考えれば、次々追加の手段を繰り出したのだから、逆に最後に追加したものから一つずつ外していくのが自然。となると、まず長期金利コントロール、正式にはイールドカーブコントロール、これをまず外し、次にマイナス金利を外し、その後、ETFを6兆円から3兆円、80兆を目途という長期国債を60兆へ、戻していく、ということになる。
・しかし、米国FEDの手順を見ても、金利がゼロになってから量的緩和(正式にはバランスシートポリシー)となったのだから、これをまずやめ(いわゆるテイパリング)、追加買い入れを停止し、その後、バランスを縮小し、最後に金利をゼロから上げていくことになるはずだが、実際には逆で、金利を先にあげた。
・これは市場に与える影響が小さいものからゆっくりやっていく、あるいは市場にとって必要なものからやっていく、ということで、金利のゼロが低すぎるのでまず解消ということだった。 日本はどうか。
・日本の難しいところは、世界でもっともイノベイティブな中央銀行であり、その創造的な手段は異次元だ。  長短金利操作というのは、一旦はじめたらやめにくい、不可逆的な政策手段の変更だった。 つまり、今日、黒田総裁も答弁していたのだが(実はここが今日の記者会見でもっとも重要なところだった)、もはや目標は量ではなく長短金利(イールドカーブ)なのだから、国債買い入れ額が年間で80兆を下回る60兆でも何の問題もない、80兆というのも厳密な目標ではなく目途に過ぎないからね、と答えた。
・すなわち、量の目標は捨てたので、そして量を目標にする、というのは異常なことなので、むしろ長期金利を目標にするのは世界中央銀行史上初とはいえ、理論的には、金利こそが実体経済に影響を与え、国債の買い入れ量はバーナンキも発言したように、なぜ金融政策として効果があるのか理論的にはわからないのだ。
・実際、私の個人的予想としては、長期金利目標を外すと市場は大混乱し、乱高下となるだろう。そうであれば、長期の目標金利をゼロ程度から0.1%とか0.2%などへ上げ、量に関しては目途であるから80兆はそのままにあいまいにしておくほうが金融市場のかく乱は小さく、もっと重要なことに、失(正しくは「実」)態経済への影響も小さいだろう。
・私が現実的に望ましいと思う順番は、
 1 今年前半に、マイナス金利解除でゼロ金利に戻し、長期金利は0.1%程度とする。
  2 今年後半あるいは年末にETFの買い入れを6兆円から3兆円に徐々に減らすスケジュールを提示する。
 3 来年前半に80兆円という数字はなくし、長期金利0.1%という数字一本にする。
 4 来年後半にETFを3兆円から0に減らしていくスケジュールを提示する。
 5 再来年前半に長期金利ターゲットを0.2%または0.25%に引き上げる。
 6 再来年年末にかけて長期金利ターゲットを外し、短期金利ゼロという伝統的な手段の枠組みに戻し、その中での最大限の金融緩和を継続する。
 7 その後は景気判断にあわせて、短期金利を上げていく(あるいは上げない)  以上。
http://blog.livedoor.jp/sobata2005/archives/2018-01.html

第三に、前日銀審議委員で野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミストの木内 登英氏が2月16日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日銀は「出口戦略」をコッソリと始めている 木内登英・前日銀審議委員が分析」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米国FRB(連邦準備制度理事会)は利上げ局面に入り、欧州中央銀行も金融緩和の縮小へ向かっている。一方、日銀の黒田東彦総裁は、現状は「2%の物価安定目標にはほど遠い」として、まだ金融緩和の出口を検討する段階にはないと強調する。
・しかし、実は出口戦略は、すでにコッソリ始められているという。 どういうことか、『金融政策の全論点』で大規模金融緩和の副作用を論じ、黒田日銀の政策に厳しい評価を下した木内登英・前日銀審議委員が分析する。
▽2017年に政策変更がなかったわけ
・2017年の1年間、日本銀行は政策変更をまったく実施しなかった。これは2013年4月に量的・質的金融緩和が導入されて以降、初めてのことだ。 物価上昇率が高まらないなかでも、以前のように追加緩和が実施されなかったのは、政策の基本姿勢がすでに変わっていたからだろう。
・そのきっかけとなったのは、実は2016年1月のマイナス金利政策の導入だ。 マイナス金利は、物価上昇率2%に向けて勢いをつけるための、いわば起死回生策だった。しかしこの政策は日銀の予想を裏切って、円高、株安といった悪い反応を引き起こした。
・マイナス金利という不意打ちを食らった金融機関からは、日銀を強く批判する声が上がった。一般国民にも「どうしてそこまでやるのか?日本経済はそれほど深刻なのか?」と、日銀にとって予想外の不信感を抱かせてしまうことになった。
・マイナス金利政策の導入後に湧き起こった各方面からの強い批判を、日銀は史上空前の逆風と感じたと思う。 そうした状況を受けて実施されたのが、2016年9月に発表された「総括的な検証」と、短期金利に加えて長期金利も操作する「イールドカーブ・コントロール」の導入だった。
・これは、①金融機関の収益見通しを悪化させる長期・超長期金利の過度の低下を抑え、金融機関との関係修復をめざす、②国債買い入れ策の持続性を高める、という2点を意図した枠組みだったと考えられる。 その政策をひとことで表してみよう。それ以前の政策を、多様な手段で金融緩和を推し進める「攻めの政策」と呼ぶなら、ここからは「守りの政策」だ。
・守りの政策のもとでは、よほど経済環境が悪化しないかぎり、追加緩和措置は見送られる。2017年に政策変更がなかったことには、そうした背景がある。 2016年9月、こうしたレジームチェンジが行われたのだが、そこにはもうひとつ、重要なポイントが含まれていた。
・それはイールドカーブ・コントロールの導入時、国債買い入れの増加ペースが政策の操作目標から外されたことである。それにより国債買い入れの決定権は、政策委員会から現場のオペレーションに移った。 このことは現場主導で事実上の金融政策正常化(出口戦略)を進めることができる環境が整えられた、ということを意味している。
・実際、買い入れのペースは以前よりも抑制され、日銀が保有する国債残高の増加額は縮小している。2016年9月には増加額のめどとして「年間80兆円程度」という数字が示されたが、現実の増加額は、2017年12月には、1年前との比較で58兆円となっている。 直近では、保有残高の増加額は「年間80兆円程度」というめどに対して、年率換算で年間50兆円前後のペースになっているだろう。
・もしも日銀による国債買い入れが限界に達し、国債の流動性が極度に低下したら、金融市場はパニックになる。国債の買い入れペースの抑制により、そのリスクはひそかに軽減されているといえる。
▽金利目標は10年から5年に短期化へ
・2018年にはこうした措置の延長線上で、現場主導での事実上の正常化策がさらに進められると見ておきたい。 筆者が望ましいと考え、また2018年に実現可能性が相応にあると見られるのが、金利目標を10年から5年にする短期化措置である。目標の短期化によって長期金利のコントロール力が高まり、国債買い入れ増加ペースをより着実に縮小させ、買い入れの限界を回避することができる。
・ただし、金利目標を短期化してもその水準を0%で変えなければ、「政策変更ではなく技術的な調整である」と日銀は説明することができるだろう。そのため、このやり方は2%の物価目標との整合性が問われないという利点もある。それでもこれは、紛れもなく事実上の正常化策なのである。
・またこの措置によって、5年以上の金利を上昇させ、イールドカーブをスティープ化(長短金利の差が大きくなり、イールドカーブが右肩上がりになること)させることを通じて、金融機関の収益を改善させることもできる。
・日銀は2016年9月の「総括的な検証」のなかで、長期・超長期金利の低下が経済に悪影響を与えることを初めて認めた。それは生保・年金の資産運用を悪化させ、銀行の利ザヤを縮小させて金融仲介機能を低下させてしまうためである。 しかし10年金利を政策の目標としている限り、長期・超長期金利の上昇余地は限られ、金融機関の収益改善は実現できない。その意味でも金利目標の短期化は必要なのだ。
・他方、金利目標を10年から5年へと短期化する措置は、金融市場において、事実上の金融政策正常化ではないかとの見方が浮上すれば、為替市場では円高が進むだろう。 債券市場はすでに2016年9月以降、事実上の正常化が進んでいるとの認識を持っているため、この措置に過剰に反応することはないとみられる。しかし為替市場は債券市場よりも海外プレーヤーの比率が高い。彼らはこれまで日銀の政策意図を十分にとらえてこなかったため、金利目標の短期化は大きなサプライズとなるだろう。
・もし日銀が円高を恐れて事実上の正常化をためらえば、日本経済は円高どころではない多くのリスクを中長期的に抱えてしまう。異例の金融緩和が長期化した結果、もはや無傷での正常化を望むことはできない。ある程度の円高リスクは甘受すべきではないか。
▽政策正常化と引き換えとなる銀行リストラ
・最後にもうひとつ、今後の金融政策と絡んだ注目点を挙げておきたい。 日銀は2017年10月、半期に一度の金融システムレポートで、銀行の低い収益性に焦点を当て、そのビジネスモデルに根ざした問題点についても指摘した。これは通常と比べてかなり踏み込んだ内容だといえる。
・このレポートはもちろん、日銀は銀行の収益力に配慮して、金融政策のさらなる正常化を進める考えを持たないという意味ではない。 日銀の真の意図は、すでに大手銀行では始まっている構造改革が、地域銀行も含めて広範囲かつ持続的に進められるのであれば、金融政策も銀行の収益性に配慮して運営するという、一種の交換(トレード)を示唆することではないか、と筆者は受け止めている。
・金融政策正常化の過程で金利が回復すれば、金融機関の収益は改善する。日銀は、こうしたことは銀行自らが身を切る構造改革とのセットでなされるべきだと考えているのではないか。 今後、政策の正常化は安易な銀行救済につながりかねないという見方も出てくるかもしれない。そのときには日銀だけではなく、世論からも銀行の構造改革に対する圧力が高まってくるだろう。
http://toyokeizai.net/articles/-/207538

第一の記事で、 『経済学が人間をあまりに単純化して考えてしまう例は、近年も時折見られる。「中央銀行がインフレ目標を掲げると、国民のインフレ予想がそこに収斂していく」という見解は、まさにそれだ・・・政府と日本銀行の間で2%のインフレ目標が合意された。それから間もなく5年が経過するが、インフレ目標の達成は全く見えてこない』、 『「人間の本質に目を向けるべき」というセイラー氏の主張に、中央銀行はもっと耳を傾けるべきだろう』、などというのはインフレ目標導入論に対する手厳しい批判で、その通りだ。
第二の記事で、 出口政策について、『私が現実的に望ましいと思う順番』、で列挙されている順番は、よく練られていると思う。
第三の記事で、 『2016年9月に発表された「総括的な検証」と、短期金利に加えて長期金利も操作する「イールドカーブ・コントロール」の導入・・。それ以前の政策を、多様な手段で金融緩和を推し進める「攻めの政策」と呼ぶなら、ここからは「守りの政策」だ。 守りの政策のもとでは、よほど経済環境が悪化しないかぎり、追加緩和措置は見送られる。2017年に政策変更がなかったことには、そうした背景がある』、との指摘は、さすが審議委員をしていただけあって、説得力がある。 『イールドカーブ・コントロールの導入時、国債買い入れの増加ペースが政策の操作目標から外されたことである。それにより国債買い入れの決定権は、政策委員会から現場のオペレーションに移った。 このことは現場主導で事実上の金融政策正常化(出口戦略)を進めることができる環境が整えられた、ということを意味している』、 『筆者が望ましいと考え、また2018年に実現可能性が相応にあると見られるのが、金利目標を10年から5年にする短期化措置である。目標の短期化によって長期金利のコントロール力が高まり、国債買い入れ増加ペースをより着実に縮小させ、買い入れの限界を回避することができる』、などの指摘は、その通りだ。それにしても、読む前にはタイトルの 『日銀は「出口戦略」をコッソリと始めている』、には驚かされたが、読んで後はすっかり納得させられた。さすが木内だ。
タグ:導入時、国債買い入れの増加ペースが政策の操作目標から外されたことである。それにより国債買い入れの決定権は、政策委員会から現場のオペレーションに移った。 このことは現場主導で事実上の金融政策正常化(出口戦略)を進めることができる環境が整えられた、ということを意味している 「イールドカーブ・コントロール」の導入 「日銀は「出口戦略」をコッソリと始めている 木内登英・前日銀審議委員が分析」 東洋経済オンライン 木内 登英 私が現実的に望ましいと思う順番 長短金利操作というのは、一旦はじめたらやめにくい、不可逆的な政策手段の変更だった 「日銀 金融政策 次の一手」 同氏のブログ 小幡績 中央銀行がインフレ目標を掲げると、国民のインフレ予想がそこに収斂していく」という見解は、まさにそれだ ・経済学が人間をあまりに単純化して考えてしまう例は、近年も時折見られる 背景には、「人間は合理的に判断する」という従来の経済学の仮定に対する強い違和感があった。 行動経済学 「ノーベル賞の行動経済学で考える「インフレ目標」そのものへの疑問」 ダイヤモンド・オンライン 加藤 出 (その28)(ノーベル賞の行動経済学で考える「インフレ目標」そのものへの疑問、日銀 金融政策 次の一手、日銀は「出口戦略」をコッソリと始めている) 異次元緩和政策 日銀
nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感