SSブログ

働き方改革(その13)(国会紛糾で分かった日本企業の生産性が低いワケ 二言目には「生産性を上げろ」という人の「働かせ改悪」、裁量労働制「ずさんデータ」を生んだのも官僚の“忖度”か) [経済政策]

働き方改革については、2月25日に取上げたが、今日は、(その13)(国会紛糾で分かった日本企業の生産性が低いワケ 二言目には「生産性を上げろ」という人の「働かせ改悪」、裁量労働制「ずさんデータ」を生んだのも官僚の“忖度”か)である。

先ずは、健康社会学者の河合 薫氏が2月27日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「国会紛糾で分かった日本企業の生産性が低いワケ 二言目には「生産性を上げろ」という人の「働かせ改悪」」を紹介しよう。
・今回のテーマは「生産性」──。 先にテーマを書いたのには理由があるのだが(あとで説明します)、妙な方向に議論が進んでいる「裁量労働制拡大」と対で使われる「生産性」である。
・1月23日付で「年収制限のない“定額働かせ放題”ってマジ?」で書いた通り、高度プロフェッショナル制度の陰でスポットを浴びてこなかった問題アリアリ法案が、安倍首相の答弁により注目を浴びることになったのは実に喜ばしい事件である。ひょうたんから駒? 自爆? 天のいたずら? はたまた「不正は必ずボロが出る」ということなのか。
・ところが残念なことに、国会では「誰それの責任」だの、「安倍首相がホニャララと言ったとか言わないとか」本質的な議論とは程遠いやり取りが繰り返されている。挙げ句の果てには一年延期だのなんだのと、“違う名前で出ています”トリックが使われそうな空気が漂ってきた。
・たとえ野党が求めるとおり今回での法案成立を政府が諦めたとしても、もっと狡猾な手段で、10年がかりの宿願であった「ホワイトカラーエグゼンプション」を意地でも通す。おそらく。多分。9割以上の確率で。それくらいどうしたって成立させたい法案なのだ。
・無論、不適切なデータを用いたこと自体問題なので、この件に関する私なりの見解をコメントしておきます。 ご存知のとおり、比較データは平成27年(2015年)3月の厚生労働部門会議で、民主党(当時)の山井和則議員に対して提示されたもので、その後も塩崎恭久前厚生労働相や今年1月の安倍首相の国会答弁で使われてきた。
・厚労省は「異なる条件で比較し不適切なデータを作成していた」と公表しているけど、
 +「1カ月で最も長く働いた日の残業時間」(一般労働者) +「1日の平均的な労働時間」(裁量制の労働者) という、(ぶっちゃけ)全く異なる質問のデータである。 普通に考えれば、よほどの“おバカちゃん”でない限り、このような「混同」はしない。
・裁量労働制で働く人の1日の労働時間が「2時間以下になっている」ケースなど、厚労省は不適切データが117件あるとしてきた。さらに2月26日の衆院予算委員会で加藤勝信厚労相は、新たに233件の不適切データを確認したことを明らかにした。これって、基本中の基本であるデータのクリーニングさえ行なわないまま使ったということになる。「入力ミス」との報道もあるが、入力したデータを分析をする前に“普通”はやるものだ。
・要するに、 「どうする? なんかデータ出せってさ。なんかない?」 「オッ。これどうだ?」 「でも、質問違うし……」 「いいよ、これで。だいたい裁量制なんだから、労働時間とか関係ないだろ」 「だね。飲み放題で飲むのと、普通で飲むのとどっちが酒の量が多いか?って聞いてるみたいなもんだしね」  「ん? ま、いいよ。平均、平均。平均でGO!!」 と、その場しのぎの“ノリ”で作ったしか思えないほど稚拙なのだ。
・そもそも「長時間労働になるんじゃないのか?」という質問の答えを「平均値」で示すなどもっての外。 例えば10人の一般労働者と10人の裁量労働制の人を比較する場合、 +超「長」時間労働者がひとりでもいれば平均値は上がる。 +超「短」時間労働者がひとりでもいれば平均値は下がる。 対象者の職種は? 男か女か? 年代別には? いつ(繁忙期か閑散期か)の労働時間?によっても数値は大きく変わる。そんなことくらい、“労働問題”を少しでもかじっていれば、当然分かるお話である。
・それに先のコラムのデータソースは、厚労省の要請で労働政策研究・研修機構(JILPT)が実施した調査結果だ。つまり、「もう一度、実態調査をやれ!」「いや、やらない!」とか意味不明。厚労省が要請したのに、知らない、わけがないのである。
・ご覧の通り、1カ月の実労働時間が「200時間以上の割合」は、一般の労働者が32.6%に対し、企画業務型裁量制は44.9%と長い(先のコラムより再掲)。 で、2月22日になって、なぜかやっと、ホントにやっと、安倍首相はこの調査結果を用いた答弁をした。 「裁量労働制で働く人のおよそ3分の2は満足していると回答したが、それ以外の方々もいて、不満の理由の多くは労働時間が長いことを挙げている。労働時間が長くなった場合には健康確保措置を取っていく。みなし労働時間と実労働時間にかい離がある場合に適切な指導を行うことも新しい法案に入れ込んでおり、そうした対応を取ることで柔軟な働き方を可能としたい」と。
・ふむ。これは私がコラムで指摘した一部に、極めて近い答弁である。だが、これはあくまでも枝葉末節でしかない。 不満な点(複数回答のワースト5)  安倍首相の答弁に使った「不満」の元データは上記の通りで、どの不満も「裁量制の根幹に関わる不満」である。
・さらに、先の調査では……、
 +「一律の出退勤時刻がある」49.0% +「出勤の時刻は自由だが出勤の必要はある」34.9%
 +遅刻した場合、 +「上司に注意される」43.3%  +「勤務評定に反映される」22.7%
          +「賃金カット」10.8% +「場合によっては懲戒処分」6.5% という結果も示されているのだ。
・いったい、これのどこか「裁量制」なのか。 これだけのデータが揃っていて、「裁量労働制の拡大」という一般の人たちも興味ある問題がクローズアップされているのだから、国会では、
 +いったい何のための裁量制拡大なのか?
 +現行の制度(フレックスタイム、テレワーク)で対応は不可能なのか?
 +働き方改革の一丁目一番地は「過労死・過労自殺」をなくすということではないのか?
・といった本質的な議論をしてもらいたかった。 残念……。本当に残念で仕方がない。  
・ここからが本題である。 今回のデータ問題が明らかになった時、テレビやラジオのコメンテーターやいわゆる識者の人たちがSNSなどで、連発したのが“生産性”というマジックワードである。 コラム冒頭で「先にテーマを書いた」のは、「生産性」という言葉を伝家の宝刀のごとく使う人たちは、不適切データへの興味が一切ない。いや、興味がないばかりか不適切データに言及する人を見下しているように見える(あくまでも個人的意見です)。
・「本来議論するのは“生産性”についてでしょ?」と。 「裁量制を拡大するのは悪いことじゃないでしょ? それで“生産性”が上がるんだから」 「そうだよ。時間でしばるより、好きな時間に自由にできる裁量制を持たせた方が“生産性”は向上する」 「いつまで時間で評価するんだよ。だから長時間労働が無くならないだよ」 「生産性で比較しないとな」 「自分のライフスタイルに合わせられるんだから、生産性は上がる」etc etc……。
・生産性を上げる──。 働き方改革という言葉が市民権を得るかなり前から、働く人たちは耳にタコができるくらい「生産性を上げろ!」と、“上”からプレッシャーをかけられてきた。 働き方改革という言葉ができてからは「生産性の向上」という言葉がありとあらゆる問題の魔法の杖のごとく使われている。
・でもね、ここで思うわけです。 生産性を上げるっていったい何? と。 生産性で評価するって言うけど、何をもって「生産性を向上させる」と濫用する人たちは考えているのだろう? まさか「生産性を上げる=コストを削減する」と勘違いしている? そんなことを未だに考えているとはさすがに思いたくないけど、今回の裁量制拡大法案でいえば、企業にとって「コスト削減」になることは明白である。
・安倍首相が答弁しているとおり、
 +過労死基準を超えるくらいの長時間労働になっても、「健康確保措置を取っていく」だけなわけだし
 +みなし残業時間と実労働時間が乖離していても「適切な指導を行なう」だけなわけだし、 罰則規定への言及は一切なし。
・実労働時間の把握は義務化されるのか? それをしていなかったときの罰則はあるのか? といったことへの議論も行われていない。 要するにこの法案で可能になるのは、「柔軟な働き方」じゃなく、「柔軟な働かせ方」。企業側に極めて有利な内容なのだ。
・こういった懸念には必ずといっていいほど、「このご時世、下手なことしたらブラック企業呼ばわりされるから、変なことはしないでしょ?」との意見が出る。 なるほど。だったらなおさらのこと、罰則規定を盛り込めばいい。 会社が潰れても仕方がないくらいの罰則を科す。「労働者を使い捨てにするようなことはしない」のなら、何ら問題はないはずだ。
・でも、そういった企業の“コスト負担”になる罰則は絶対につけない。罰則の“ば”の字も出ない。「残業上限100時間未満」という過労死を合法化するような罰則基準で「画期的!」と賞賛しているのだから、端っからコスト負担など頭にないのである。
・日本企業はこれまでもコストを削減することで、生産性を上げてきた。サラリーマンの代名詞となった“残業”も、1970年代に「メイド・イン・ジャパン」が世界で評価され需要が急激に拡大し、追いつかない供給を労働時間を増やしてカバーしようという発想に基づいている。
・その結果、心臓や脳が悲鳴をあげ、過労死する人が量産された。その後、デフレで供給過多になり、生産設備とともに人も減らしたのに、「残業文化」だけは残った。 「人を雇い入れるより便利だ! 頑張って働いてもらうよ!」──。 経営者が安易にそう判断したのだ。悲しいことだけど。
・残業文化の変遷は、一日の残業時間の変化を見れば分かる。 平日1日当たりの労働時間(フルタイム勤務の男性)は、1976年「8.01時間」、1991年「8.70時間」、2001年「8.79時間」、2011年「9.21時間」と、確実に増加。週休二日制が一般的になった2000年代以降も増えているのだ。 1日10時間労働している労働者の割合も、1976年には17.1%だったが、1991年35.3%、2011年には4割強の43.7%とこの35年間で増え続けている(「日本人の働き方と労働時間に関する現状」内閣府規制改革会議 雇用ワーキンググループ資料より)。
・つまり、「生産性を上げる=コストを削減する」ではないのに、「生産性を上げなきゃ!そのためにはコスト削減だ!」という誤った認識が共有されているといっても過言ではないのである。 では、生産性を向上させるのに必要なモノとは何か?
・実にシンプル。人を「資本」と考え「投資」することだ。 社員の賃金を上げるのも投資だし、十分な休養や余暇を与えることも投資だし、福利厚生を充実させることも投資だし、スキルや知識を習得するための研修を強化することも投資だ。 とりわけ、“オーケストラの指揮者”でもある管理職のマネジメント能力を高める、徹底的な研修への投資は不可欠である。
・まさしく「人」。働いているのは人。 その当たり前を忘れ、「人」の持つ可能性を信じず、数字しか見ない(見えない)経営者が、「コスト削減=生産性向上」などと勘違いするのだ。 もちろんコスト削減は必要である。  だが、リーマンショック以降、日本企業は「これ以上削るところはない」というくらいコスト削減に務めてきたはずだ。人を減らし、賃金を押さえ、ボールペン一本まで削ってきた。
・一方、投資はどうか?
 +内閣府が発表した2017年12月の景気動向指数は、それまで最高だったバブル経済期の1990年10月(120.6)を上回り、1985年以降で最高を記録したのに、「実質賃金指数が前年を0.2%下回り、2年ぶりに低下」(参考:「働かなくてもカネがもらえる」から働くんです)
 +企業が毎月支出する「従業員1人当たりの教育訓練費」は1112円(2016年)で、ピークの1991年(1670円)と比較すると500円も少ない。また、従業員の雇用で生じる現金給与以外の費用(労働費用)に占める割合は1.4%と、最低だった2011年と同水準だった(参考:人材を「人財」と豪語するドヤ顔トップの嘘)
・悲しすぎる。“投資”の陰すら見当たらないのだ。 人に投資すれば人は成長する。そういった職場は、人生の質を高め、人生に意味を与える。人にしかできない想像力を駆使し、「買いたい!お金を払いたい!」と人々が思う商品を生み出す。いわば、付加価値の向上。
・「労働者の健康と満足感と、職場の生産性や業績には相互作用があり、互いに強化できる」とした米労働安全衛生研究所(NIOSH)の「健康職場(healthy work organization)」が実現するのだ。 1980年代後半に、健康職場モデルが提唱されるに至った背景には、「生産性を上げるには労働者を酷使するしかない」という考えが主流で、多くの労働者がメンタルヘルスを損なっていた社会状況があった。
・「会社が生き残るには、従業員はがむしゃらに仕事してもらわないとね」と宣う経営者の考えを改めてもらうために、NIOSHが提唱したのが健康職場モデルだったのである。 「健康職場」とは、逆説的に言えば、職場に過度のストレッサーがなく、あるいは本質的に安全化が図られているために、ストレス解消に熱心に取り組んだり、細心の注意を払ったりする必要のない職場のこと。つまり「長時間労働になるのでは?」などと懸念が生まれる時点で、その前提から外れていることになる。
・同時に、生産性を上げるために人員削減(リストラ)を断行することも、健康職場の理念とは異なる。 米国で1980年代に人員を3%以上カットした大企業311社(平均は10%カット)について調査を行った結果、経営指標の改善した企業は皆無。逆に経営が悪化している企業が多かった(NIOSH調べ)。米経営者協会が行った調査でも、1989~94年の6年間にリストラを実施した企業のうち、3分の2は実施期間中に生産性の向上は見られなかった。 リストラをすると人件費が下がるため、数字の上では生産性が向上したように見える。だが、実際の生産性はアップするどころかダウンする。
・一方、人的投資を継続的に行っている企業では生産性が上がる調査結果は国内外でいくつも存在する。人が成長するということは生産性をあげること。実にシンプルな法則が明らかになっているのだ。 人的資源への投資を行なっている企業のトップに聞いてほしい。 「裁量労働制の拡大は必要ですか?」と。 「現行の制度(フレックスタイム、テレワーク)で対応できませんか?」と。 そして、おそらく裁量を持ち、自らの「生産性は高い」と信じてやまない人たちが、法案さえ通れば「生産性は上がる」と信じているのかもしれない。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/022600147/?P=1

次に、3月2日付けダイヤモンド・オンライン「裁量労働制「ずさんデータ」を生んだのも官僚の“忖度”か」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・役人の大チョンボか、またまた官邸の意向をおもんぱかった「忖度」か――。安倍政権が目玉に据える「働き方改革関連法案」を巡り、厚労省が調査した労働時間のデータのずさんな実態が次々に発覚した。裁量労働制の労働時間が一般労働より短いというデータが、実態を調べたものではない「加工データ」だったことなどがわかった。
・安倍首相は答弁撤回に追い込まれたが、その後もつじつまの合わない「異常値」が大量に見つかるは、加藤厚労相が「ない」と言っていた資料が厚労省の地下倉庫から出てくるはのドタバタが止まらない。当初、強気だった安倍政権は、一転、裁量労働制の対象拡大を法案から削除する事態に追い込まれた。 「第二の年金記録紛失事件」の様相にも強気を崩さない安倍政権だが、笑い話ではすまない事態が進行中なのもしれない。
▽「裁量労働の方が働く時間短い」 政権に都合のいい“加工データ”
・28日深夜。2018年度予算がようやく衆院本会議で可決した頃、首相官邸に、二階俊弘自民党幹事長、井上義久公明党幹事長ら与党首脳と、菅官房長官らが急きょ、集まった。 しばらくして「裁量労働制の適用拡大、法案に盛り込まない意向」の情報が速報などで流れた。 日付が変わった1日未明、官邸のロビーに現れた首相は、少しやつれた表情で口を開いた。 「裁量労働制にかかるデータについて、国民の皆様が疑念を抱く。そういう結果になっております。裁量労働制については全面削除するように指示をいたしました」
・第二次安倍政権発足から5年超。強気一辺倒だった政権が、目玉法案で大幅な「撤退」を強いられた瞬間だった。 政権が追い込まれることになったデータ問題とは何だったのか。
・疑惑のポイントは、大きく2つに分かれる。 一つは、安倍首相の国会答弁の根拠となった労働時間のデータを厚労省が「不適切」に作っていたことだ。 二つ目は法案作成の過程で厚労省が報告した労働時間の調査に、これまでだけで400件を超える「異常値」が含まれていたことだ。
・中でも「働き方改革」関連法案の今国会での成立を目指す政権に、都合のいい数字だったのが、裁量労働制の労働時間と一般労働の労働時間についてのデータだった。 「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、一般労働よりも短いというデータもある」 1月29日の衆議院予算委員会。立憲民主党の長妻昭・代表代行の質問に対する、この安倍首相の答弁がすべての始まりだった。
・この2日後の予算委では、加藤勝信厚労相がこのデータの具体的な数値に言及。 「平均的な一般労働者の1日の実労働時間ですが、9時間37分に対して、企画業務型裁量労働制は9時間16分、とこういう数字もある」 こう答弁した。 裁量労働制で働く人の労働時間が、一般労働者より「21分も短い」という主張だ。
・野党側は「裁量労働制を拡大すれば、労働時間が長くなり、過労死が増える」と主張して、裁量拡大を盛り込んだ「働き方改革関連法案」に一貫して反対してきた。 首相や加藤厚労相の答弁は、「裁量労働制は長時間労働になる」という野党の反論を突き崩そうという狙いが明確だった。
・野党側は、このデータに対して徹底的な追及を始める。同じタイミングで、ネット上でも、労働組合関係者や労働法学者らから、このデータについての疑問点が次々と指摘され始めた。 厚労省は2月19日、この数字が「不適切だった」と認めて謝罪。安倍首相は2月14日に、答弁を撤回した。 何が「不適切」だったのか。
・最大の問題は、一般労働者の1日の実労働時間として示された「9時間37分」が実は、残業時間の数値である「1時間37分」に、法定労働時間の「8時間」を単純に足し合わせて作った「加工データ」だったことだ。 厚労省はそうした説明もなしに、加工データを一般労働者の「実労働時間」としていた。 一方の裁量労働制の人の実労働時間は、調査に基づいた実際の数値だった。
・算出の仕方が全く違う2つの数値を同列に比べて、「裁量は一般より労働時間が短い」という国会答弁の主張の根拠に、政権が使っていたのだ。 詳細は後述するが、一般労働者の残業時間は長めに出やすい調査手法だったことも明らかになっている。
▽一般労働の労働時間が長めに出る調査のやり方
・問題は、「なぜ、こんなデータを厚労省が作ったのか」だ。 経緯を時系列で振り返ってみる。 このデータは、2013年に厚労省が行った「労働時間等総合実態調査」(実態調査)の数値が元になっている。 全国の1万1575事業所に、各地の労働基準監督官が出向いて、一般労働者の残業時間や裁量労働制で働く人の労働時間を聞き取って集計した調査だ。
・12年12月の第二次安倍政権発足の直後から、首相は「世界で一番企業が活躍しやすい国」というスローガンをぶち上げ、経済界が要望する労働規制の緩和に乗り出した。 その柱の一つとなったのが、実際の労働時間と関係なく、労使であらかじめ定めた時間を働いたことにする裁量労働制の対象拡大だ。 業務の性質上、実労働時間を算定するのが難しい職種などに適用し、労働時間規制にしばられない柔軟な働き方ができるようにするのが狙いとされ、13年6月に閣議決定した「日本再興戦略」(成長戦略)にも盛り込まれた。
・厚労省では、労使の代表が参加して労働法制を審議する「労働政策審議会(労政審)」で、裁量拡大などの議論をスタートさせたが、実態調査はその議論の土台となる基本的なデータとして、厚労省が労政審に示したものだった。 労政審では、労働側から「長時間労働を助長する」と猛反発が出たものの、厚労省は法案提出を既定路線とする政権の方針をなぞるように、法案作成で押し切った。
・政権は15年4月に裁量拡大を盛り込んだ労働基準法改正案を閣議決定して、国会に提出している。 連合を支持母体とする民主党(当時)は当然のように猛反対し、党の厚生労働部会に、厚労省の担当者を呼んで法案の内容を追及していた。 部会では、裁量労働制で働く人と一般労働者の実労働時間を比較するデータが必要ではないか、という議論が盛り上がっていた。 そこで厚労省は15年3月26日の民主党厚労部会に、比較データを記載した資料を提出した。これが今回、問題となった「不適切」なデータだ。
・この比較データについて、厚労省は2月19日、記者会見し、データを作成した担当課を統括する土屋喜久審議官がこう説明している。 調査は、各事業所で働く人のうち、一般労働者の「平均的な者」を1人選んで、残業時間を聞く方式だった。ただ、その残業時間は「1日の時間外労働(残業)の最長時間」を聞いている。  「時間外労働」とは、法定労働時間である「8時間」を超えた分の時間のことだ。一方、裁量労働制についても「平均的な者」を1人選んで、1日の労働時間を聞いたという。
・つまり、厚労省は一般労働者については、1日の実労働時間を調べていない上、1日の「残業時間」も、「平均」ではなく「最長」を調べていた。その数値を集計した数値が「1時間37分」だった。 一般労働者の実労働時間についてのデータを持っていなかったことから、“苦肉の策”として「残業時間+『8時間』」という足し算をして「9時間37分」をはじき出したというわけだ。 しかし、足し算の元となっている「残業時間」は、「最長」の時間のため長めに出やすい。さらに、1日の労働時間が8時間以下の一般労働者も相当数いる。
・こうしたことを考慮せずに単純に足した「9時間37分」を「実労働時間」として示し、実数値である裁量労働の「1日の労働時間」と同列に比べるのは明らかに「不適切」だ。厚労省は、そう認めて謝罪した。 足し算をしたのは、当時の厚労省の担当者だったといい、「手元にあるデータの中で比較しようとした。担当者は比較可能なデータだったと思っていた」と、厚労省幹部は釈明する。 このデータは、当時の担当課長と担当局長の決裁も通っている。
▽「不適切」データを3年間、使い続ける
・民主党の部会にこのデータが示された約1週間後の15年4月3日に、政府は法案を提出した。 民主党の部会に示されただけなら、問題はここまで大きくはならなかったかもしれない。 しかし、政府は、このデータをその後、国会答弁で使い始めた。 法案提出から約3ヵ月後の15年7月31日、衆院厚生労働委員会で、民主党(当時)の山井和則議員の質問に、当時の塩崎恭久厚労相は、こう答弁した。 「平均時間でいきますと(中略)裁量労働制だと9時間16分、一般労働者でいきますと9時間37分ということで、むしろ一般労働者の方が平均でいくと長い」 安倍首相が1月29日に答弁した内容と全く同じ答弁を、3年前に厚労相が国会でしているのである。
・「裁量労働は長時間労働を助長する」という野党の指摘に反論するためのデータとして使っている文脈も全く同じだ。 17年2月の衆院予算委でも、塩崎厚労相は、同じデータを再度使って「裁量労働制で働く方の労働時間は、一般労働者よりも短いというデータもございます」と答弁している。
・15年に国会に提出されたこの労働基準法改正案は、裁量労働制と同時に盛り込まれた「高度プロフェッショナル制度」とともに、「残業代ゼロ法案」と野党から批判され、国会審議に入れないたなざらしが続いた。 昨夏、安倍首相が衆院を解散したことで、この労基法改正案はいったん廃案となったが、今国会に、まったくと言っていいほど同じ内容が「働き方改革関連法案」に盛り込まれ、提出が予定されていた。
・安倍首相は、これまでと同じように、野党側の「(裁量制拡大は)過労死を助長する」との批判を封じ、「裁量制の労働時間の方が一般労働者より短い」と反論するための「根拠」として、このデータを使ったのだ
▽「担当者の識別ミス」と厚労省 「官邸への忖度」と野党は疑う
・安倍首相も加藤厚労相も、厚労省に都合のいいデータを作らせたことは否定し続けている。厚労省側も「データを作った担当者の認識ミス」という趣旨の説明を続けている。 しかし、こうした経緯を踏まえてこの問題を見た時、厚労省の官僚が政権に「忖度」しなかった、と本当に言い切れるのだろうか。 「産業競争力会議」「規制改革会議」「働き方改革実現会議」といった官邸主導の会議を次々と立ち上げて、方針を先に固めてしまうのが安倍政権のやり方だ。
・実際の法案づくりを担う厚労省の官僚は、先に決められた「政権の方針」と野党の反対論との間に、なんとか折り合いをつけて法案成立に持って行くことが最も重要な仕事になっている。 「森友・加計問題」で、官僚の「忖度」が浮き彫りになった中で、官邸と厚労省がいくら「担当者のミス」と説明しても、「忖度」の疑惑は容易には消えないだろう。
▽つじつまの合わない「異常値」 相次いで見つかる
・ほかにも、労働時間の実態調査でつじつまの合わない「異常値」が相次いで見つかったことが、疑惑をさらに深めることになっている。 2月19日に不適切データについて、厚労省が記者会見で公表した、調査した1万1575事業所の残業時間を打ち込んだ「元データ」を、野党議員の秘書らが分析したところ、一般労働者の残業時間に、異常値が次々と見つかったのだ。
・調査では、残業時間を事業所ごとに、1日、1週間、1ヵ月の単位で聞いている。残業時間は、1日が最も短く、1週間、1ヵ月と長くなるのが普通だ。 ところが、ある事業所では、1日の残業時間が「45時間」なのに、1ヵ月はそれより短い「28時間」となっていた。別の事業所では、1日の残業時間が「5時間15分」、1週間が「4時間30分」、1ヵ月が「4時間」と、調査期間が長くなるごとに短くなっていた。
・1日が「2時間30分」で、1週間と1ヵ月がともに「0分」というケースもあった。 立憲民主党の長妻昭・代表代行は「素人が見ても相当おかしい」と、厚労省に精査を要求。その結果、見つかった異常値は、87事業所で計117件にのぼった。 厚労省の担当課は「誤記か入力ミスと考えられる」と釈明。これに対し野党は厚労省に、1万1575事業所全てのデータの確認を求めた。
・安倍首相は22日の衆院予算委で「(調査の)原票と打ち込んだデータを突合(とつごう)し、精査しなければならない」と答弁せざるを得なかった。 26日にも、1日の残業時間が「0分」なのに1週間や1ヵ月の残業時間は計上されている異常値が新たに233件見つかり、28日にも57件が見つかった。
▽地下倉庫から「ない」はずの資料が32箱
・「調査の原票」を巡っても、ひと悶着が起きた。 「原票」とは、調査を担当した労働基準監督官が数値を実際に書き込んだ調査票のことを指す。厚労省がこれまで公表しているのは、原票に記された残業時間や労働時間などの数値を打ち込んだ「元データ」だけ。野党側は不適切な比較データが発覚した時点で、「原票」を全て公表するように厚労省に求めていた。
・しかし、加藤厚労相は答弁で「(原票は)なくなっている」と述べていた。それが、2月21日になって厚労省が「省の地下倉庫でみつかった」と明らかにしたのだ。 それも、最初は「5箱」という情報が「30箱以上」に変わるなど、混乱した。
・野党の求めに応じ、厚労省は原票のうち3事業所分のみをまず提供したが、1事業所あたり12ページ中「ほぼ全ページが黒塗り」という代物だった。 憤慨した野党の一部議員が、厚労省に「原票を見せろ」と乗り込み、厚労省の担当者との押し問答の末、1万以上の原票が入った32個の段ボールを16階の会議室に運ばせ、報道陣に公開させた。
・山積みの段ボールを前に、野党議員の1人は「この量を見れば、(厚労省が最初説明していた)ロッカーを探したけどなかったという話自体がウソだったことは明らかだ」。 「これ(32個の段ボール)、ロッカーに入る?入らないよ!」と、声を荒げた。
▽法案提出は先送りに 野党は労政審のやり直しを求める
・政府は関連法案の国会提出を3月中旬以降に遅らせることを表明し、沈静化を図る構えだったが、収まらないと判断し、裁量労働制拡大の切り離しに踏み切った。 だが、野党側は、法案の前提となるデータに誤りが次々と見つかっている以上、調査をやり直し、その調査を元に審議した労政審もやり直せ、と求めている。
・政府はすでに裁量労働制の対象拡大の実施時期を、これまでの方針より1年延ばして再来年にすることを表明しているが、今後の事態の展開次第では、さらなる後退を迫られることにもなりそうだ。 「データ問題は本質ではない。重箱の隅をつくような野党の方にこそ国民はあきれている」と、政権内からは愚痴とも八つ当たりともつかない声もある。
・しかし、今回のデータ問題で浮かび上がったのは、官僚の忖度が、あり得ない不適切なデータを生み出してしまいかねないという安倍政権の危うい姿だ。 この懸念が払拭されない限り、国民もオチのない「ドタバタ劇」を延々見せられることにもなる。
http://diamond.jp/articles/-/161861

第一の記事で、 『+遅刻した場合、 +「上司に注意される」43.3%  +「勤務評定に反映される」22.7%
 +「賃金カット」10.8% +「場合によっては懲戒処分」6.5% という結果も示されているのだ。 いったい、これのどこか「裁量制」なのか・・・国会では、 +いったい何のための裁量制拡大なのか?  +現行の制度(フレックスタイム、テレワーク)で対応は不可能なのか?  +働き方改革の一丁目一番地は「過労死・過労自殺」をなくすということではないのか? といった本質的な議論をしてもらいたかった。 残念……。本当に残念で仕方がない』、 『その後、デフレで供給過多になり、生産設備とともに人も減らしたのに、「残業文化」だけは残った。 「人を雇い入れるより便利だ! 頑張って働いてもらうよ!」──。 経営者が安易にそう判断したのだ。悲しいことだけど』、 『「生産性を上げる=コストを削減する」ではないのに、「生産性を上げなきゃ!そのためにはコスト削減だ!」という誤った認識が共有されているといっても過言ではないのである。 では、生産性を向上させるのに必要なモノとは何か? 実にシンプル。人を「資本」と考え「投資」することだ』、 『米経営者協会が行った調査でも、1989~94年の6年間にリストラを実施した企業のうち、3分の2は実施期間中に生産性の向上は見られなかった。 リストラをすると人件費が下がるため、数字の上では生産性が向上したように見える。だが、実際の生産性はアップするどころかダウンする』、などの指摘は説得力がある。さすが河合氏だ。
第二の記事で、 『「労働政策審議会(労政審)」で、裁量拡大などの議論をスタートさせたが、実態調査はその議論の土台となる基本的なデータとして、厚労省が労政審に示したものだった。 労政審では、労働側から「長時間労働を助長する」と猛反発が出たものの、厚労省は法案提出を既定路線とする政権の方針をなぞるように、法案作成で押し切った』、 『民主党(当時)は・・・党の厚生労働部会に、厚労省の担当者を呼んで法案の内容を追及していた・・・厚労省は15年3月26日の民主党厚労部会に、比較データを記載した資料を提出した。これが今回、問題となった「不適切」なデータだ』、 『「不適切」データを3年間、使い続ける』、などからみると、この問題は、どうやら3年前からくすぶっていたようだ。労政審に出席していた連合や、民主党厚労部会のメンバーの目は節穴だったのだろうか。安部政権により悪用されるのが見え見えの問題を、提示された時点で論破出来なかった罪は深い。また、それを報道しなかったマスコミも、安部政権への忖度があったにせよ、罪が深い。さらに、こんな子ども騙しの手を使ったことで、官僚への信頼を完全に失墜させた厚労省の罪が最も深いのは、言うまでもない。
nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感