SSブログ

トランプ大統領(その29)(冷泉彰彦氏:銃規制論はどうして敗北し続けるのか?、迷走続くトランプ政権、その底流は?) [世界情勢]

トランプ大統領については、2月4日に取上げた。今日は、ティラーソン国務長官解任のニュースが流れてきたが、これは後日取上げるとして、(その29)(冷泉彰彦氏:銃規制論はどうして敗北し続けるのか?、迷走続くトランプ政権、その底流は?)である。

先ずは、在米作家の冷泉彰彦氏が2月17日付けメールマガジンJMMに寄稿した「[JMM989Sa]「銃規制論はどうして敗北し続けるのか?」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・2月14日はバレンタインデーで、アメリカでは盛大に祝います。まず、未婚、既婚を問わずパートナー同士としては「愛情を確かめる日」であり、特に異性間カップルの場合は、男性が女性に贈り物をするのが普通です。加えて、「バレンタイン・ディナー」のためにレストランが予約で一杯になるとか、女性に贈る「真紅の薔薇一ダースの花束」が、この日だけプレミアム価格になったりもします。
・子供たちにはどうするのかというと、幼稚園から小学校低学年などでは、宗教タブーの「ゆるい」、従って聖者バレンタインゆかりのこの日を祝うことに抵抗のない土地柄ですと、「愛情」という概念を教える機会とされています。ですから、そうした地域では小さな子供が「親への愛」とか「友人への愛」ということをカードを交換させたりして理解させるのです。
・そのような華やかな日付が、今年、2018年の場合には凄惨な事件のために闇に包まれることとなりました。 フロリダ州の南東部、フォート・ラーディエール近郊と言ってもいいパークランドという町で、公立高校に武装した男が押し入り、殺傷力の強い「AR15タイプ」の「アサルトライフル」を連射し、17名が死亡という事件が発生したのです。
・事件の舞台となったのは、フェミニスト運動家であるマージョリー・ストーンマン・ダグラス氏の名前を冠した学校です。というのは、この学校の位置は、彼女が自然の保護を強く訴えた半島内部の湿地帯の東端に近いからです。そうした命名の経緯が示すように、リベラルな風土の土地柄にあり、学校自体のレベルもかなり高い学校のようです。
・報道によれば乱射犯は、ボストンバックに銃器を隠し車で平然と学校に乗り付けると、まず学校の火災報知器を作動させて生徒たちを戸外に誘き出したそうです。そこから乱射を始めて殺害をしながら生徒たちを今度は校舎内に追い詰めたのでした。校舎内では、施錠して教室に籠城していた生徒たちに対して、ドアの小窓から銃弾を浴びせて殺害するなど、行動は凶悪そのものであり、あくまで無差別な殺害が目的だったようです。
・その上で、自分も高校生の一人になりすまして、一緒に手をつないで避難する格好で脱出し、そのまま逃走しようとしたのです。報道によれば、誰にも気づかれずに「まんまと」逃げ果せて、一旦はサンドイッチ店で冷たい飲み物で一息つき、その後はハンバーガー店で40分休んでいました。その後は、自宅の方へ歩いているところで身元が露見すると抵抗することなく身柄を拘束されています。 
・この身柄確保の経緯に関しては、「生徒を偽装して避難の列に紛れた」以降は武装を解いていたことがあり、そして恐らくは犯人の身元を確定しつつ、犯行時の衣服などを手掛かりに、追い詰めていった捜査員の「お手柄」ということもあったようです。 身柄確保にあたっては銃撃戦や乱闘などは発生せず、「ノー・インシデント」で拘束されています。この種の大規模な乱射事件としては、これは非常に稀なケースです。
・裁判などを通じて、本人への徹底的な追及がされ、事件の詳細が解明されることが望まれますし、可能となるかもしれません。 ちなみに、犯人の素顔ですが、19歳の白人男性で、以前に父親を亡くしており、また昨年の11月に母親もインフルエンザが重症化して死去、天涯孤独になった中で友人一家の家で暮らしていたそうです。その一方で、銃への執着が強く、試射している光景を隣人に見られたり、動物を殺害しているというクレームから警察の訪問を受けたこともあったということです。事件のあった高校に通学していましたが、重大な違反行為があったことから放校処分になっていました。
・このような乱射事件としては、昨年2017年の10月1日にラスベガス市で58名が殺害された事件が記憶に新しいところです。このラスベガスでの事件では、そもそも西部という土地柄から銃保有のカルチャーが根強いこと、被害にあったのが「カントリー音楽の音楽祭会場」だったことから保守カルチャーが強く被害者や遺族などの多くが銃保有派であったことなどから、悲惨な事件であったにも関わらず、銃規制の論議は不発に終わりました。
・一方で、今度の事件は少々事情が異なります。まず、事件の起きた地域はフロリダの中でもリベラルなカルチャーを持っていました。ですから、直後から「銃規制を訴える」動きが強い形で起きています。例えば、娘を殺された母親がマイクを握って「トランプ大統領!今すぐ行動の時です」と銃規制を訴えるビデオは各局が繰り返して流しています。また、追悼行事などでも銃規制を訴える動きは非常に強いのです。 
・同級生を殺された高校生たちは、最初はSNSで、そしてTVの取材にも応じる形で次々に銃規制を訴えるメッセージを発信しています。これを受けて、CNNなどのリベラルなメディアは、かなり強い調子で「今度こそ銃規制を」という主張を繰り返しています。
・その報道に関して言えば、14日の当日は試行錯誤的な姿勢が見られました。例えば、冒頭申し上げたように、この日はバレンタインデーであったわけですが「バレンタインの惨劇」というようなセンセーショナルな表現は控えられていましたし、平昌五輪優先の報道体制を敷いていたNBCなどは、事件自体を大きく扱わなかったのです。
・ですが、一夜明けた15日から16日にかけては、そんなことは言っていられなくなりました。NBCも定時のニュースでは、五輪色を取り外して事件のことを大きく扱うようになり、そして3大ネットワークでは銃規制論がかなり展開されていたのでした。 これに対して、政権の側はかなり異なったニュアンスで臨んでいます。例えば、15日(木)にTV演説を行なったトランプ大統領は、丁重に「悔やみの言葉」は述べたものの、事件については「あくまで精神疾患の問題」だという表現に終始しており、「銃(ガン)」という言葉自体を避けているようでした。
・また同じく共和党のライアン下院議長は「悲劇の直後に政治利用する形での論議には応じない」という「いつもの」論理を、いつも以上に強硬に述べており、銃規制論議に対する警戒感を露わにしていました。「今度という今度は、銃規制論議が避けられない」という機運が、動き出すのを何としても抑えたいというニュアンスがそこにはありました。
・では、今回こそ銃規制論議は前進するのでしょうか? そう簡単ではないと思われます。2つ議論したいと思います。 1つは、根底にあるものとして、銃規制派の世界観と銃保有派の世界観が「完全に分裂している」という問題です。規制派の世界観は単純です。銃が野放しになっていて、例えば今回の19歳の男は、精神科に通院していたり、警察からの監視を受けていたりしたのに、全く自由に銃が購入できたことなどを批判して、例えばクリントン政権時代の1994年に制定された「アサルト・ウェポン規制法」などの実施を要求するという考え方です。
・また銃の普及の背景には、銃火器と弾薬の製造メーカーからできた産業の利潤追求の動きがあり、その利己的な動機を受けてNRA(全米ライフル協会)という強力な組織経由で、保守政治家の多くは政治資金の提供を受けている・・・そうしたかなり単純化された一種の陰謀説が当たり前のように信じられているわけです。
・その一方で、保有派の世界観は全く違います。彼らの根底にあるのは「恐怖」と「反権力」です。この人々はどうして銃を持ちたがるのでしょうか? それは自分たちが強い人間で、銃を持つに値すると思っているからではありません。また銃を持つことで強くなれるという誇大妄想にかられているのでもありません。
・そうではなくて、怖くてたまらないのです。大規模な入植地などで、隣家まで車で10分以上かかるように点在して住んでいると、悪漢に襲撃された場合に警察を呼んでいる時間はありません。ですから、中西部の農業地帯や山岳地帯では、警察力への期待はなく、その代わりにトラブルの仲裁と処理のプロとして保安官がいる以外は、基本的に自家武装して治安を守り、犯罪を抑止したり犯罪者を制圧するというカルチャーがあるわけです。
・これは世界的に見て、特殊な開拓の歴史と特に大規模農場が成立することで、コミュニティが拡散しているという地理的事情が生んだものです。問題は、「そのような地理的、歴史的条件がない」、つまり都市やその近郊に住んでいるにも関わらず、開拓時代のカルチャーに染まっていて、自分で武装していないと「怖い」という心理状態に置かれている人々があるということです。
・つまり「恐怖」がこの問題の全てなのです。例えば、銃の携行の権利という問題があります。要するに、買い物や通勤など「出歩く際」に銃を携行するなどというのは、規制派の住む海沿いでは狂気の沙汰であるわけですが、この「恐怖心」に染まった人びとにとっては、当たり前の感覚なのです。銃を持たないで、外出するなど怖くてできないというわけです。
・更に、銃携行の誇示権という問題もあります。自分は銃を持っていることを「見せびらかしたい」わけで、その権利を保証せよという話ですが、これこそ規制派の州の人間からしたら、トンデモない話です。護身用に持っていたいのなら、せめて隠し持っていて欲しいのであって、民間人に「携行を誇示」などされたら、今度はこっちが怖くてたまらないというわけです。
・ところが携行誇示派の論理は違います。俺は銃を持っていると「誇示していれば悪漢に襲われることはないだろう」という感覚がまずあり、その奥には「銃を誇示していないと襲われるかもしれないから怖い」という感覚になっているのです。この感覚は、規制州の人々にはまず絶対に分からないでしょう。カフェを世界展開しているスターバックスは、この「携行誇示」と戦っているわけで、そのこと自体は信念があって良いと思いますが、そのスタバに対して怒っている人は、「俺はスタバで銃を誇示して人々を怖がらせたい」から誇示したいのではなくて、「誇示していないと撃たれるかもしれない」という不安感からそう言っているだけなのです。
・精神病歴のある人への販売禁止問題も同様です。今回の狙撃犯に対して、どうして何も問題なく合法的に銃の販売がされたのか、多くの規制州の人々は疑問を持ち、怒りを抱いているわけです。ですが、保有派の論理からすると、「うつ病やアルコール問題などで引っ掛かった人に銃を買わせるな」というのは、「うつ病やアルコール問題のある人には、暴漢の襲撃を受けたら死ねというのか?」ということになる、そうした感覚を持っているわけです。
・この問題に関しては、このフロリダのように規制の緩い州がある一方で、もう一つ「ループホール(抜け道)」として、ガンショー(銃の即売見本市)などや、ネットでの個人間の直取引などは「犯歴や精神病歴のチェックを省略」できるという状況があるわけです。規制派は、すぐにでもこの「抜け道を塞げ」と主張しているわけですが、保有派からすると「せめて即売会などでは誰でも買えるようにしておかないと、一部の人たちには死ねと言っているようなものだ」という「反対の論理」を持っているのです。
・基本的に全国レベルで見ると、規制派が優勢です。特に人工密集地である太平洋岸と、大西洋岸の北東部では圧倒的に規制派が強く、大手のメディアの多くは銃規制論に賛成です。ですが、保有派の人々は、そうした「都市部に住んで偽善的な思想に染まっている」勢力が、メディアや政界を牛耳っていることには激しい反発を抱いているのです。
・つまり、彼からすると、武装というのは「生命財産の防衛」という権利であると同時に、中央政府に対する「精神的自立=反骨精神」の象徴という面もあるわけです。 「反骨」などというとカッコいい内容を考えますが、正確に言えば連邦政府を軽視する一種のアナキズムであり、政治や治安という問題に関して常識的な発想法を持つ人からしたら、虚無的な思想にも見えるかもしれません。ですが、そのような「中央政府に抗して武装する権利」が憲法で許されているということを、自分の国家観、価値観の源泉にしている人はかなりの数いるわけです。
・2点目としては、こうした「絶望的なまでの価値観の違い」の一方で、政治が極めてちぐはぐな対応しか取れていなかったという問題です。この点に関しては、オバマ政権の8年というのは事態が一気に悪化した期間であったということが言えます。オバマという人は、勿論自身としては銃規制を進めたいという発想法を持った人でした。
・ですが、2008年から09年にかけて経済が非常な落ち込みを見せる中で、オバマは「銃規制には曖昧な立場」を取り続けたのです。オバマの思考回路としては、恐らくは「銃は規制したい」と思いながらも「仮に黒人大統領である自分が強引に銃規制を進めて、反発した白人がヘイトクライム的な格好で銃を使った暴力を拡大させたら」事態は「収拾がつかなくなるばかりか、人種分断が激化してしまう」ということを恐れたのだと思います。
・私はそのような思考回路というのは理解できるのですが、問題はその態度が悪い結果を産んだということです。オバマの側からすれば「規制を我慢しているのだから、せめて普及の加速するのはやめて欲しい」そう心の底から願っていたのでしょう。ですが、銃保有派の側からすると「オバマというのは、リベラルで黒人だから必ず銃規制をするだろう」という恐怖に駆られていたわけです。
・また規制が厳しくなれば弾薬の調達、特に「多弾マガジン」の購入は難しくなります。そこで、多くの人が「銃と弾薬のまとめ買い」に走ったのでした。結果的に、2009年の就任以降、オバマ時代になったことで銃の販売は爆発的に伸びているのです。
・そんな中で、2012年の12月にはコネチカット州のサンディ・フック小学校乱射事件が発生しました。オバマは涙を流して銃に関する議論の開始を訴えました。ですが、恐怖に駆られたのは銃保有派も同じだったのです。彼らは「こんな事件が起きてしまって、しかも大統領がオバマだから」ということで「今度という今度は銃規制、特にアサルトライフル規制が始まる」と思って、駆け込み需要のようなことが発生したのです。
・結果的に、オバマが曖昧な態度を取り続ける中で、銃、特に連射能力と強い貫通力を持った「AR15」とか「AK47」と言った軍用自動小銃(と言ってもいいでしょう)が、この8年間に爆発的に普及してしまったのです。但し、普及というのはやや語弊があり、銃の保有世帯の比率は長期低下傾向にある中で、保有家庭が買い増ししているというのが実態のようです。
・ちなみに、ここ数週間、レミントン社やコルト社と言った銃製造の老舗企業が経営破綻していますが、これはオバマ時代の全くの正反対の効果、つまり「大統領がトランプだから、銃も弾薬も規制はないだろう。だったらいま買う必要はない」という買い控えによって、一気に銃不況が起きたからでした。
・それはともかく、問題は、銃は油を刺して手入れをしていれば「腐らない」ということです。ですからオバマの8年間に販売された膨大な数の自動小銃的な火器と、多弾マガジンを含む弾薬は、社会に出回ったままなのです。
・規制派は、銃が社会にあふれていると、保有派は仲間がいて心強いだろうと思うかもしれませんが、これは違います。銃保有派にとっては、社会に銃が溢れているという事実は脅威なのです。「こんなに社会に銃が溢れている」のであれば「悪漢が襲ってくる際に強力な重火器で襲ってくる可能性は大きい」、であるならば「家族を守るため」には「自分たちも高性能な火器で武装し、十分な弾薬を用意しておかないと」不安でならない、そう思っているのです。
・ということは、本当に銃社会を克服しようと思ったら、販売規制を行うだけでなく、強権での「銃器狩り」をやらなくてはならないのです。既存の膨大な数をそのまま放置しておいて、新規販売だけを止めても問題の解決にはなりません。
・この点で興味深いのは、ニュージャージー州やペンシルベニア州が実施している「バイバック」キャンペーンです。例えばニュージャージーの場合は、一年に数回、期間を決めて「銃を政府に供出するとキャッシュが貰える」というキャンペーンをやっています。短銃は一律100ドル、アサルトライフルなどの重火器は200ドルということで、「身分証明も、合法保有の許可証も不要」ということで、とにかく「その地域に出回る銃を減らす」という試みです。
・全国的に一定期間はそのような措置を行い、その後に「強制的に銃を放棄させる」という「銃期狩り」をやらなくては、銃保有派の「恐怖心」の低減は難しいということになります。そこで大事になるのは信頼関係であり、仮に「悪いヤツは保有し続ける」のであって、「正直に供出して放棄している自分はバカ正直」なので「政府に騙されるな!」的な反骨感情に火をつけてしまっては、失敗するでしょう。
・いずれにしても、「銃保有の背後にある不安感情」の問題、「禁止を匂わせると反対に普及してしまう」という政府への信頼の欠如、そして「難しくても社会に出回る銃器狩りをしないと、保有派の不安感は拭えない」一方で「保有派に銃を放棄させることが可能なのか?」という問題など、議論の内容は多岐に渡り、しかも大変に複雑なものだと思います。
・そこまで思考が届かないままで、「即時に販売規制をすれば」保有派は黙り、犯罪は減るというのは余りにも短絡過ぎると言いますか、ほとんど誤りであると言っても過言ではないでしょう。これまで銃規制論議が進まなかったのは、ここに原因があると言えます。
・こうした重苦しい現実を直視し、保有派と反対派が「仲良く議論する」のは難しいにしても、相互の中にある感情的な動機について、相互理解を進めるということがなければ、銃規制論議というのは進まないのだと思います。

次に、 同氏による3月3日付け「[JMM991Sa]「迷走続くトランプ政権、その底流は?」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・発足から13ヶ月強、迷走ということでは最初からずっと迷走が続いていたように思われるトランプ政権ですが、少し安定した感じが出ていたこともあります。一つは、昨年、2017年の晩秋の時期で、11月にアジア歴訪を行なった際には曲りなりにも「米日韓中」の4カ国について、北朝鮮情勢への姿勢に「大きな齟齬はない」ことを確認する外交に成功しています。
・その勢いを駆ってというわけではありませんが、更に12月には大幅な法人減税と個人所得税の簡素化を含む「トランプ税制」について、議会との駆け引きを通じて最終的に可決成立させるという「政治的実績」を実現しているわけです。
・その後、年初には「ハイチやアフリカからの移民はイヤだ」というような暴言ツイートを流して再び迷走状態になったものの、1月下旬の「年頭一般教書演説」では、まるで2016年11月の「選挙勝利宣言演説」で見せたのと同じような「和解と協調」を訴える「失言なし」の「クリーン演説」で支持率を上昇させています。  この調子でずっと春から夏を乗り切れば、11月の中間選挙での勝利も見えてくると思われたのですが、2月に入ると迷走は再び激しくなっており、遂には頼みの綱であった株価まで激しく動揺を始める中で、現在は、政権発足以来最大の迷走状態にあると言っても過言ではないでしょう。
・一つ象徴的なエピソードとしては、ホワイトハウスの広報部長(コミュニケーション・ディレクター)であるホープ・ヒックスの辞任表明という事件を挙げることができます。この広報部長というのは、一種「呪われたポジション」のようで、この13ヶ月間の間に色々なドラマがあったことも想起されます。
・まず政権の発足時には、ジェイソン・ミラーという共和党系の広報のプロが広報部長に就任するはずでした。ですが、ミラーは、「選対の同僚女性と交際して女性が妊娠」という問題と「それとは別に選挙運動中に男性の同僚たちとストリップクラブに出入りしていた」というスッパ抜きを受けて就任辞退に追い込まれています。
・そこで報道官に内定していたショーン・スパイサーが広報部長も兼任することになりました。ですが、3月にはスパイサーが報道官に降格になる形でマイク・ダブキという共和党系のPR専門家が広報部長に就任します。しかしながら、そのダブキは5月末に辞任し、スパイサーが広報部長兼務に復帰しました。ダブキに関しては、ホワイトハウス内の政争に嫌気が差しての辞任と言われています。
・そのスパイサーは、7月21日に自分の上司としてアンソニー・スカルムッチという金融マンが広報部長になるという話を受けて、ホワイトハウスを去りました。そのスカルムッチは、就任して10日後にトランプ大統領から解雇されています。その時点で、もう「なり手がいない」という状況の中、当初は代行という形で(後には正式に)広報部長に就任したのがヒックスでした。
・ヒックスと言う人は、まだ29歳。10代の時からモデルとしての活動を初めて、一時はラルフ・ローレンのモデルもしていたそうです。やがてPR会社の社員として活動する中で、大統領の長女であるイヴァンカ・クシュナーとの取引があったことからトランプ家にコネクションを得て、トランプ・オーガニゼーションの広報担当秘書から、選対の広報担当へと横滑りしてきたのでした。ですから、歳は若いのですがトランプ政権にとっては「創業以来の忠臣」と言われていたのです。
・そのヒックスの辞任ですが、表面的には異性関係の問題があると言われています。直接的には、ロブ・ポーターという男性との問題です。前述したように、1月の「年頭一般教書演説」は好評だったわけですが、その演説原稿を起草したメンバーの一人がポーターでした。演説は好評で、直後には大統領の支持率も上昇したので、政権周辺でのポーターの評価は高まりました。ポーターは40歳と比較的若いことから、次世代のホープという言われ方もしたのです。
・ところが、演説から一週間後の2月7日に、ポーターのスキャンダルが暴露されました。彼は、前妻とその前の妻の2人からDV問題を告発されて辞任したのです。ポーターの辞任の4日後には、ホワイトハウス内でスピーチライター補佐を務めていた男性も、同様にDV問題で辞任しました。
・このDV問題というのが、まず今回の政権動揺の発端でした。ポーターに関しては、比較的早い時期からDV加害者という容疑があることをFBIは把握しており、そのために「国家機密へのアプローチ」について「クリアランスを出さない」という問題が出ていたのです。ということは、ホワイトハウス中枢も、ポーターのDV問題を知っていたはずで、その時点とDV発覚による辞任との間にタイムラグがあったということが問題視されました。
・そこで各メディアは、ホワイトハウスのキーパーソンであるジョン・ケリー首席補佐官をターゲットにして批判を始めたのでした。ケリー補佐官は一時は「自分は軍(海兵隊)のカルチャーで育ってきたので、この種の(DVなど)問題には認識が甘かった」という言い訳にもならないコメントをしたり、かなり追い詰められたことがある、辞任説が出回る騒ぎにもなっています。
・この「ケリー首席補佐官がポーターを『かばった』」という問題については、別の報道もあり、そこではポーターがヒックスと「ロマンチックな関係」があったので、ケリー補佐官は大統領の側近中の側近であるヒックスに遠慮してポーターのDV問題を隠していたという「説」も流されました。この「ロマンチックな関係」という話題ですが、ヒックスに関しては、この問題だけでなく2016年8月までトランプ選対の委員長であったコーリー・ルワンダスキーとも「男女の関係」があったこと(ルワンダスキーは既婚)という暴露まで出る始末でした。
・こうした問題に加えて、ヒックスは「ロシアゲート」に関わる下院の諜報委員会に証人として招致された際に、トランプ大統領に関する広報活動を通じて「自分は『ホワイト・ライ(罪のない嘘)』をついたことがある」と「告白」してしまい、その責任を取ったというストーリーもあります。
・まあ、ニュース・メディアの表現では、そんなところなのですが、今回のヒックス辞任というのは、もしかすると一つの流れ、つまり「ケリー首席補佐官への更なる権限集中」となって行く、そんなターニングポイントになるのかもしれない、そうした仮説を立てることができるようにも思うのです。
・今回の騒動に続いて、一部にはジャレッド・クシュナーとイヴァンカの夫妻を、ホワイトハウスの公職から外す動きがあるとも報じられているのですが、これもこうした仮説に重なってきます。
・というのは、今回の騒動の順番から想起すると、(1)ケリー首席補佐官がホワイトハウス内での「機密事項へのクリアランス」の見直しをFBIと進めた、(2)そこでポーターなどのDV事案が判明したがケリー補佐官は当面握りつぶした、(3)大統領は一般教書演説で支持率回復、(4)だが今度はFBIルートと思われるリークがあって、ポーターは失脚、ポーターをかばったことでケリーも追い詰められる、(5)ケリーが反撃して改めてホワイトハウスを掌握、(6)ヒックス更迭、(7)前後してクシュナーへの「機密クリアランスがクリアーにならない」という報道、という流れになっているからです。
・仮にそうした流れができているのであれば、ケリー首席補佐官は今度こそホワイトハウスを全面的に掌握して行こうという覚悟なのかもしれません。では、仮にそうだとして、政策面での「路線」はどうなるのでしょうか? この間、トランプ大統領は「鉄鋼とアルミへの輸入関税」などをブチ上げたり、「学校の先生に銃を持たせよ」などという過激な論を言ったかと思うと、銃規制に傾斜したり表面的には迷走が激しくなっているのですが、これはどう見たらいいのでしょうか。
・ケリー中心の体制が強くなっているとして、それは大統領の迷走に「より親密に付き合う」方向性なのか、あるいは「大統領の異常な個性を抑えて、普通の共和党政権へ向かわせようとしている」のか、一体どちらなのかが仲々見えないわけです。その一方で、2016年の11月に選挙結果を受けて、いや「意外とまとも」な勝利宣言演説を受けて始まった「トランプ株高」はそのエネルギーが尽きつつあるような気配もあるわけです。今週も、「鉄鋼アルミ関税」を嫌って株は下げましたし、市場は不安定になっています。
・政権としては正念場に来ているわけで、この時点での方向性がどうなって行くのかは非常にクリティカルな局面とも言えるでしょう。以下、その「政権の方向性」についての一つの仮説として述べてみたいと思います。 一つは軍事的に強硬になるのか、穏健になるのかという点です。この点に関して見ておきたいのは、現在囁かれている、ホワイトハウスのマクマスター安全保障補佐官が辞任するという噂です。理由としては、北朝鮮に対する硬軟取り混ぜた圧力行使を緻密にやっているホワイトハウスと軍から見ると、「万が一の時には強硬論」ということを言いすぎるマクマスターが浮き上がってしまう、つまり彼だけ強硬に過ぎるという解説があります。仮にそうであるのなら、ケリー路線(マティス国防長官も含めて)は穏健という見方ができます。
・二つ目は、ここへ来てのロシアとの軍事外交の関係という問題です。ロシアは中東における、特にシリア情勢に関する攻勢に出ています。ロシアの支援を受けたアサド政権は、国土の相当部分を制圧しているばかりか、トルコとの確執を続けるクルド勢力の取り込みに成功しています。これはアメリカがクルド支援を放棄したという言い方もできる動きです。では、米ロは連携しているのかというと、米国の「核弾頭更新」に反発してロシアは「ミサイル防衛システムをすり抜ける多弾頭ミサイル」という新世代兵器を導入するなど、まるで冷戦期のような確執も見られます。
・こうした動きだけを見ていると、長年支援して来たクルド勢力をロシアに渡す一方で、核兵器は相互に更新をエスカレートさせるということで、支離滅裂な感じを与えます。ですが、これが「ロシアとの新しい距離感を創造する」という新しい動きだと考えると、一つのシナリオが見えてくるのです。それは「コンディ・ライス路線」の復活です。
・ライスという人は、ジョージ・W・ブッシュ政権の外交におけるキーパーソンであったわけですが、専門分野はロシア外交です。では、彼女は当時何をやったのかというと、アフガン戦争とイラク戦争の遂行にあたって、ロシアの支持を取り付けるということと、アメリカのエネルギー産業とロシアの共通の利益としての原油価格の「高止まり」を演出したということです。では、米ロは蜜月であったのかというと、必ずしもそうではなく、イランの問題や、日本との国境問題などでは毅然とした立場を取っていました。
・では、この「ライス路線」に対抗するものは何かというと、それは「ブレジンスキー路線」とでも言うものです。ズビグネフ・ブレジンスキーといえば、カーター政権当時の外交を主導したことで有名ですが、言うまでもなくその当時は、アフガンでの激しい対決がありました。その後も、コーカサス地方の「解放」を主張して一時はチェチェン独立を支援したこともあり、ジョージア(グルジア)やウクライナの親西側勢力を強く支援する立場でもあります。オバマ、マケイン、ヒラリーといった顔ぶれは、ある意味でこの「ブレジンスキー路線」の影響を受けていたと言う指摘ができます。
・そのブレジンスキーは、昨年2017年の5月に死去しています。これに対して、コンディ・ライスの方は、ここへ来てメディアへの露出も増えて来ており、もしかするとジョン・ケリー主席補佐官は、この「ライス路線」を軸に対ロシア外交、あるいはユーラシアの安全保障構想を描いているのかもしれません。つまり「ロシアとの程よい協調」と「原油高の演出」というシナリオです。あくまで仮説ですが、そうした見方をすると辻褄の合う部分があるということです。
・三点目として、ここへ来て「銃規制に賛成」してみたり、一方で「鉄鋼アルミ関税」などという前世紀の遺物のような政策を口にしたりという「迷走」はどう説明したら良いのでしょうか。これは、もしかしたらトランプ政権の「コア支持層」というのが「ガチガチの保守」ではなくて、20世紀には「民主党系の組合員」だったようなつまり「クラシックな左派センチメント」を抱えた層だという認識から行動しているのかもしれません。
・四点目として、どうして「忠臣」も「身内」も切って行くのかというと、これは昨年2017年の7月から8月にかけてのホワイトハウス内の人事混乱第一幕でも出て来た問題ですが、政権の抱えている「公私混同」「情報漏れ」「大統領自身のランダムなツイート」という3つの問題点を何とか克服しようという努力と見ることができます。特に、今回辞任に追い込まれたヒックス広報部長は「長年にわたってトランプのツイートを添削して来た」と言われているわけで、本当に彼女を大統領から遠ざけることができて大統領の「ランダムなツイート」が減れば、ケリー首席補佐官の仕事は随分と楽になるでしょう。
・以上は、あくまで推測ですが、仮にケリー首席補佐官への権力集中が起きているとして、その方向性としては、政権の浮沈をかけた11月の中間選挙には「何としても勝利したい」という執念がある、そう見ることができます。それが、今回のホワイトハウスの人事混乱劇の底流にあるのではないか、そうした観点を持って当面の事態を見て行きたいと思います。
・では仮にそうだとして、この路線はうまく行くのかという点で、どうしても不安が残る分野があるのも事実です。それは経済です。トランプ株高のエネルギーが消えたのは、景気のサイクルに一服感が出て来たということがあると思います。景気はまだ良いですし、雇用も消費も良いのですが、更に高みを目指す勢いには欠けるのです。
・そんな中で、市場は利上げを警戒し、それゆえに「良すぎる統計」に敏感になっています。 そうした状況下で、景気をソフトランディングさせて行くのは、大変な能力を必要とします。そして、大統領自身はもとより、ケリー首席補佐官もこうしたテーマに関しては全くの素人であるわけです。そう考えると、今から11月というのは気の遠くなるような先の話であり、そこまで景気や株価を持たせるのには、まだ一段と深い深謀遠慮が必要になると思います。残る手段としては「インフラ投資」がありますが、市場は既に「これ以上の財政規律の緩み」を強く嫌う動きをしている中では、手段は限られると思います。
・では、政権としては先行き不安が満載かというと、その不安感を打ち消す要素として、「新世代のリーダーシップ」を見せることのできない民主党の「敵失」があり、マイナスとマイナスで拮抗しているという状況も一方にはあります。いずれにしても、現在のトランプ政権の方向性については、そのような文脈で見て行こうと思っています。

第一の記事で、 『保有派の世界観は全く違います。彼らの根底にあるのは「恐怖」と「反権力」です。この人々はどうして銃を持ちたがるのでしょうか? それは自分たちが強い人間で、銃を持つに値すると思っているからではありません。また銃を持つことで強くなれるという誇大妄想にかられているのでもありません。
・そうではなくて、怖くてたまらないのです。大規模な入植地などで、隣家まで車で10分以上かかるように点在して住んでいると、悪漢に襲撃された場合に警察を呼んでいる時間はありません。ですから、中西部の農業地帯や山岳地帯では、警察力への期待はなく、その代わりにトラブルの仲裁と処理のプロとして保安官がいる以外は、基本的に自家武装して治安を守り、犯罪を抑止したり犯罪者を制圧するというカルチャーがあるわけです・・・つまり都市やその近郊に住んでいるにも関わらず、開拓時代のカルチャーに染まっていて、自分で武装していないと「怖い」という心理状態に置かれている人々があるということです。 つまり「恐怖」がこの問題の全てなのです・・・武装というのは「生命財産の防衛」という権利であると同時に、中央政府に対する「精神的自立=反骨精神」の象徴という面もあるわけです』、 『こうした「絶望的なまでの価値観の違い」の一方で、政治が極めてちぐはぐな対応しか取れていなかったという問題です』、 『恐怖に駆られたのは銃保有派も同じだったのです。彼らは「こんな事件が起きてしまって、しかも大統領がオバマだから」ということで「今度という今度は銃規制、特にアサルトライフル規制が始まる」と思って、駆け込み需要のようなことが発生したのです・・・ここ数週間、レミントン社やコルト社と言った銃製造の老舗企業が経営破綻していますが、これはオバマ時代の全くの正反対の効果、つまり「大統領がトランプだから、銃も弾薬も規制はないだろう。だったらいま買う必要はない」という買い控えによって、一気に銃不況が起きたからでした』、などの指摘は新鮮で、これだけ国内が二分されているなかでは、解決は容易ではなさそうだ。
第二の記事で、 『この広報部長というのは、一種「呪われたポジション」のようで、この13ヶ月間の間に色々なドラマがあったことも想起されます』、の後に示された交代劇は、本当に驚くべきドタバタだ。 『今回辞任に追い込まれたヒックス広報部長は「長年にわたってトランプのツイートを添削して来た」と言われているわけで、本当に彼女を大統領から遠ざけることができて大統領の「ランダムなツイート」が減れば、ケリー首席補佐官の仕事は随分と楽になるでしょう』、とトランプは勝手にやっていると思っていたが、ツイートが添削されていたというのも意外だった。ヒックスがいなくなることで、今度こそトランプが勝手にやり出せば、ケリー首席補佐官は楽になるどころか、尻拭いで忙しくなる可能性もあるのではなかろうか。  『不安が残る分野があるのも事実です。それは経済です。トランプ株高のエネルギーが消えたのは、景気のサイクルに一服感が出て来たということがあると思います。景気はまだ良いですし、雇用も消費も良いのですが、更に高みを目指す勢いには欠けるのです』、さらに、鉄鋼・アルミへの輸入制限が実施されれば、中国との関係悪化もあって、アメリカ経済へは悪影響が出てくるのは不可避となろう。これを懸念して株価が下落している面もある。このままでは、 『民主党の「敵失」』、があるとはいえ、中間選挙どころではなくなるのではなかろうか。
タグ:トランプ大統領 (その29)(冷泉彰彦氏:銃規制論はどうして敗北し続けるのか?、迷走続くトランプ政権、その底流は?) 冷泉彰彦 「[JMM989Sa]「銃規制論はどうして敗北し続けるのか?」from911/USAレポート」 パークランドという町で、公立高校に武装した男が押し入り、殺傷力の強い「AR15タイプ」の「アサルトライフル」を連射し、17名が死亡 根底にあるものとして、銃規制派の世界観と銃保有派の世界観が「完全に分裂している」という問題です 保有派の世界観は全く違います。彼らの根底にあるのは「恐怖」と「反権力」です。この人々はどうして銃を持ちたがるのでしょうか? それは自分たちが強い人間で、銃を持つに値すると思っているからではありません。また銃を持つことで強くなれるという誇大妄想にかられているのでもありません。 彼からすると、武装というのは「生命財産の防衛」という権利であると同時に、中央政府に対する「精神的自立=反骨精神」の象徴という面もあるわけです こうした「絶望的なまでの価値観の違い」の一方で、政治が極めてちぐはぐな対応しか取れていなかったという問題です 「[JMM991Sa]「迷走続くトランプ政権、その底流は?」from911/USAレポート」 この広報部長というのは、一種「呪われたポジション」のようで、この13ヶ月間の間に色々なドラマがあったことも想起されます ケリー首席補佐官は今度こそホワイトハウスを全面的に掌握して行こうという覚悟なのかもしれません 民主党の「敵失」
nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感