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決済システム(その1)(みずほの電子マネー普及を阻む3つの関門と「100万円の壁」、中国アリペイに征服されそうな日本が出遅れを逆転する方法) [金融]

今日は、決済システム(その1)(みずほの電子マネー普及を阻む3つの関門と「100万円の壁」、中国アリペイに征服されそうな日本が出遅れを逆転する方法)を取上げよう。

先ずは、昨年12月11日付けダイヤモンド・オンライン「みずほの電子マネー普及を阻む3つの関門と「100万円の壁」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「中途半端なものになるなら事業化はノーだ」──。すでに経営陣の頭の中に“撤退”の2文字がチラつくほどの正念場を迎えているのが、みずほフィナンシャルグループ(FG)が掲げる「Jコイン構想」だ。 Jコイン構想とは、みずほFGが2020年までに全国に普及させると意気込んでいる電子マネー事業のこと。価格は1コイン=1円で固定され、円への払い戻しも可能で、全国の小売店での支払いに加えて、既存の電子マネーの多くが未対応な割り勘などの個人間送金のニーズにも応える予定だ。
・将来的には、キャッシュレス化によるATM維持費の削減など、日本全体で10兆円の経済効果も見込んでいる。 構想の鍵を握るのは、他のメガバンクや地方銀行が参加するかどうかだ。Jコインがたくさんの人に使われてインフラとなるには、多くの銀行の参画が必須だからだ。 だが、他行の動きは芳しくない。とりわけ「地銀が動向を気にしている」(みずほFG関係者)という他の2メガバンクが、いまだ参加の意思を示していない。
・そこには、参加するメリットを提示できていない、みずほFGの弱さがある。他のメガ幹部は「便利だと分かれば参加しますよ」と様子見を決め込んでいる始末だ。 それだけではない。他にも、小売業者への勧誘とJコイン事業そのものの黒字化という二つの関門が待ち構えている。 「送金手数料はクレジットカードの半分程度」(前出の関係者)のため、小売業者にとってうまみがある半面、金融機関にとっては薄利のビジネスでしかない。そのため、決済情報の解析と提供というデータビジネスを行う考えだが、この分野でもうかるかどうかは未知数といえる。この点も、他行が参加をためらう理由といえるだろう。
▽阻む「100万円の壁」
・もっとも、これら三つの関門を乗り越えたとしても、懸念がなくなるわけではない。もう1点、「100万円の壁」と呼ばれる“法律の壁”が存在するからだ。 というのも、設立が予定されているJコインの運営会社は「払い戻し可能な電子マネーを扱う事業会社」となり、不正資金の隠蔽(マネーロンダリング)対策が不可欠。となれば、送金できる上限額が法律で100万円に制限されるのだ。これでは高額支払いや企業間送金に使えず、Jコインの利用シーンを狭めることになると、みずほFG側もやきもきしているという。
・解決策として、上限が適用されない「銀行」を立ち上げる手も検討しているが、金融庁への登録手続きなどでサービスの開始時期が遅れざるを得ない。どちらを選ぶかも、他行が参画を決める上でポイントとなるだろう。 問題山積──。このままでは、Jコインは“絵に描いた餅”で終わってしまうことになりかねない。
http://diamond.jp/articles/-/152437

次に、大蔵省出身で早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏が3月8日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「中国アリペイに征服されそうな日本が、出遅れを逆転する方法」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・中国の電子マネーが爆発的に成長している。 このままだと、日本の送金決済システムを、中国に支配されてしまう危険がある。 これは、外国製品に市場を奪われるという従来型の貿易摩擦の問題とは異なる。経済社会の基本インフラを他国に握られる危険だ。この問題の深刻さについて、日本人は危機意識が薄いように思う。
・こうした事態にならぬよう、日本は中国より優れたキャッシュレス社会を構築する必要がある。 それに成功すれば、日本は、経済再生の切り札を手にすることになるだろう。
▽キャッシュレス決済比率は19% 世界に大きく立ち遅れ
・3メガバンクが、スマートフォンを通じた決済のためのQRコードの規格統一化で連携するとの報道があった。 この動きはぜひ進めるべきだ。なぜなら、日本はキャッシュレス化で著しく立ち遅れているからだ。 中国では、アリペイやウィーチャットペイという電子マネーの利用者が10億人を超えたとされる(「日本の金融が中国フィンテックに制覇される日」参照)。街角に立つ物乞いも、首からスマートフォンを下げているという。
・スウェーデンでは、スウィッシュ(Swish)という電子マネーが普及し、現金使用率はわずか2%だという。パンを買うのも現金では難しいとされる。 これに対して、日本では、普及率が低い。 「キャッシュレスの推進とポイントサービスの動向」(2016年12月、経済産業省)によれば、2015年時点で日本のキャッシュレス決済比率は19%だ。 これは、中国55%、韓国54%、アメリカ41%に比べて大幅に低い。
・政府が17年6月に閣議決定した「未来投資戦略2017」では、キャッシュレス決済の比率を27年までに40%まで引き上げる方針だが、この通りになっても、中国はおろか、現在のアメリカにも及ばない。 15年の日本における現金流通残高の対名目GDP比率は19.4%と、他国より突出して高く、スウェーデン(1.7%)の約11倍にも達している(日本銀行決済機構局「BIS決済統計からみた日本のリテール・大口資金決済システムの特徴」参照)。
・日本は、世界の潮流から大きく取り残されてしまっているのだ。 電子マネーの仕組みも問題だ。 日本の電子マネーは、Suicaにしても、Edyやnanacoにしても、非接触ICカードを用いている。これだと、支払いを受ける店舗側で特別の装置が必要だ。また、直接に対面していなければ支払いができない。このため、コンビニなど、特定の店舗でしか使えない。
・アリペイのように、QRコードで送れるようなものにすべきだ。そうすれば送金できる範囲は一挙に広がる。  日本で発明されたQRコードが中国で普及しているのは、皮肉なことだ。 また、日本ではコストが高い。Suicaの場合、決済の加盟店手数料は3%前後(高い場合には4%程度)だ。 それに対して、アリペイの送金コストはゼロに近い。それどころか、報酬がある場合もある。したがって店舗としては、導入する強いインセンティブを持つ。
▽中国電子マネーに席巻される恐れ 東京五輪が本格進出の契機に
・このように、さまざまな点で、アリペイやウィーチャットペイのほうが、日本の電子マネーより優れている。  日本におけるアリペイ加盟店舗数は、2018年1月に4万店を突破した(ペイメントニュース参照)。 Suicaの利用可能店舗数は、17年3月末で約39万店だから、これに比べればまだ少ない(JR東日本 2017年3月期 決算説明会資料参照)。
・しかし、17年の日本でのアリペイの決済件数は、16年の20倍という著しい増加率だ。 20年の東京オリンピックに向けて、中国旅行者のためにアリペイなどを受け入れる店舗が、日本でさらに大幅に増えるだろう。 そうなると、アリペイが日本に本格的に進出する条件が作られてしまうことになる。 なぜなら、受け入れ店舗が増えると、店の側から日本人にもアリペイを使えるようにすることへの要請が強まるからだ(アリペイは、銀行口座に預金することで使う。現在は中国の銀行しか認められていないので、一般の日本人は使えない。しかし、日本の銀行も認められれば、日本人も使える)。
・すると、日本の決済システムがアリペイなどに席巻されてしまう危険がある。 日本の銀行は、預金を預かるという収益性の低い業務だけを担わされることになる。預金を用いて送金・決済関連のさまざまな新しい事業を展開する可能性を失うわけだ。
・それだけではない。 アリペイは顔認証を導入している(「中国の最先端AIが作り出す戦慄の未来社会」参照)。 またアリペイを運営するアリババの関連会社は、信用度評価のシステムを導入しており、ここで高い評価を得ると、さまざまな特典がある。 日本でも、アリペイなどが導入されれば、これらのシステムに進んで個人情報を提供する人が出てくるだろう。そうすると、日本人の個人情報も中国に握られてしまうことになる。
・すでに日本人はグーグルやフェイスブックに個人情報を与えてしまっているという見方があるかもしれない。しかし、グーグルやフェイスブックはそれを悪用することはないだろう。 しかし、中国の場合には、アメリカの企業とは状況がかなり違う。前回のコラムで書いたように、中国では国が関与している。アリペイは、ある意味では中国の国家的戦略手段なのである。
・すでにアリペイは、東南アジアに進出している。 日本の金融の中核を中国に支配されることを防げるかどうか。そのための環境を作ることは、ここ1、2年の差し迫った課題だ。
▽キャッシュレス化は、経済活性化の切り札になる
・送金や決済は、経済の基本的なインフラストラクチャー(社会的な基盤)だ。したがって、その効率性は、経済全体の生産性に大きな影響を与える。 キャッシュレス化によって、紙と人手のシステムを電子化し、自動化できれば、流通業や金融業の生産性向上に大きな意味がある。
・日本の仕組みは、IT革命以前のATMと現金のシステムに固定されてしまっているので、送金・決済という経済の基本的な活動に関して、自動化を進められない。 日本では、今後、人手不足の深刻化が予想される。送金決済システムの効率化は、緊急の課題だ。 また、金融機関のコスト削減の観点からも、ATMに頼る現在の仕組みを改善する必要がある。
・上で述べたことを逆に見れば、もし強力な新決済手段を導入できれば、新しい事業が可能になり、経済活性化の切り札になるということだ。 eコマースの進展にとっても重要な意味がある。 送金手段が進歩すれば、ウェブを用いてさまざまな新しい経済活動が可能になる。例えば、個人がウェブで物を売ったり情報を売ったりできる。
・いまの状態では、料金を徴収することができないため、大手のウェブサイトに依存せざるを得ない。 そして、かなりの手数料を取られる。仮想通貨や電子マネーは、この状態を大きく変える(もともと、アリペイは、ウェブでの売買の手段として作られたものだ)。 
・こうしてフリーランシングの可能性が広がる。これは、働き方の改革にとっても大変重要な意味を持つ。 さらに、関連したサービスを提供するスタートアップ企業が生まれるだろう。中国では、顔認証技術を開発するスタートアップ企業などが続々と登場している。 
▽ビットコインが送金手段として機能しなくなった
・この数年間、ビットコインが、未来型の送金・決済手段として広がるのではないかという期待があった。 しかし、ビットコインの価格が投機によって上昇してしまったために、送金コストが高くなり、ビットコインは送金・決済の手段としては魅力のないものになってしまった。 投機によってビットコインが半死状態にされてしまったわけで、誠に残念なことだ。
・この状況は、ブロックチェーンの外で少額取引を効率的に処理するライトニングネットワークなど新しい技術で解決可能ではあるが、いますぐ利用できるものではない。 もしビットコインの利用が進めば、アリペイに対してさほど危機感を持つ必要はなかったろう。しかし、送金のコストの点で、いまや、明らかにアリペイのほうがビットコインより優れている。 したがって、対応策を考える必要が生じたのだ。
▽銀行の仮想通貨は、アリペイを超える
・1つの可能性は、銀行が電子マネーまたは仮想通貨を発行することだ。 この観点から、冒頭で述べたQRコード統一化を評価することができる。 なお、銀行発行の仮想通貨や電子マネーは固定価格制なので、投機の対象にはならない。
・ただし、銀行がQRコードを用いてどのような通貨を作るのか、ブロックチェーンを用いる仮想通貨なのか、それとも電子マネーなのかは、はっきりしない。 この2つを比べると、つぎのような違いがある。 第1に、電子マネーは、転々流通しない。これでは、通貨としては不十分だ。 第2は、インターネットを通じて送れるかどうかだ。 これが可能となれば、対面でなくとも支払えるので、利用価値は大きく高まる。例えばウェブサイトに表示されているQRコードをスマートフォンで読み取って送金できる。
・この際、仮想通貨なら通信が暗号で保護されるので、問題がない。 しかし、電子マネーの場合には、インターネットでの送付には、セキュリティの問題があり、途中で盗まれる危険がある。これは大きな問題だ。  上のように、仮想通貨は電子マネーより優れている。したがって、銀行発行の仮想通貨が使えるようになれば、日本人は、アリペイやウィーチャットペイより優れた送金手段を手に入れることになる。
・現在の状態を逆転させ、世界のトップに立つだろう。 メガバンクによる仮想通貨は、2018年には一般の利用に供されると報道されていたのだが、その後、開発が遅れているようだ。進展を望みたい。
・なお、もう1つの選択肢として、中央銀行による仮想通貨の発行がある。 これは法貨になるので、誰にでも送金することができ、送金決済の効率は著しく向上する。しかし他方において、銀行の消滅、プライバシーの侵害などの問題がある。このため、その導入が望ましいかどうかを、慎重に検討する必要がある。 2月に発表された日本銀行決済機構局の「決済システムレポート・フィンテック特集号」は、中央銀行による仮想通貨について、どちらかと言えば否定的な見解を示している。
・これを踏まえれば、メガバンクが発行する仮想通貨が主要な役割を担わざるを得ないことが分かる。
http://diamond.jp/articles/-/162581

第一の記事では、みずほFGの「Jコイン構想」が取上げられているが、三菱UFJFGも「MUFGコイン構想」を打ち出している。仮想通貨の形を取って、ブロックチェーンを利用するが、価値は1コイン=1円と固定されている。 『普及を阻む3つの関門と「100万円の壁」』、は「Jコイン構想」だけでなく、「MUFGコイン構想」も同様だ。ただ、MUFGコインでは、「100万円の壁」を乗り越えるため、コイン=1円と固定せず、仮想通貨のように価値が変動する方式も検討しているとの説もある。
第二の記事で、 『日本の電子マネーは、Suicaにしても、Edyやnanacoにしても、非接触ICカードを用いている。これだと、支払いを受ける店舗側で特別の装置が必要だ。アリペイのように、QRコードで送れるようなものにすべきだ』、というのは確かにその通りだ。 (アリペイの) 『受け入れ店舗が増えると、店の側から日本人にもアリペイを使えるようにすることへの要請が強まるからだ・・・アリペイは、銀行口座に預金することで使う。現在は中国の銀行しか認められていないので、一般の日本人は使えない。しかし、日本の銀行も認められれば、日本人も使える)。 すると、日本の決済システムがアリペイなどに席巻されてしまう危険がある』、というのは、恐ろしい話だ。日本の銀行もアリペイ決済を認めないとは思うが、どこまで抵抗できるかは疑問だ。 QRコードは日本発の技術なのに、日本では在庫管理や出荷伝票などで、使われるだけで、決済分野での活用が立ち遅れたのは残念だ。 『グーグルやフェイスブックはそれ(個人情報)を悪用することはないだろう』、という楽観的見方は、フェイスブックでの個人情報流出事件で裏切られた。 『銀行発行の仮想通貨が使えるようになれば、日本人は、アリペイやウィーチャットペイより優れた送金手段を手に入れることになる』、とJコインやMUFGコインに大きな期待をかけている。 『その後、開発が遅れているようだ。進展を望みたい』、というのは同感だ。
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