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働き方改革(その15)(失礼な「働き方改革」法案、今度は「過労死隠し」 厚労省が働き方改革の腰を折る反則技連発、米国のいいなり 自国の働く人捨てる日本の愚行 何のための働き方改革か) [経済政策]

働き方改革については、4月2日に取上げた。今日は、(その15)(失礼な「働き方改革」法案、今度は「過労死隠し」 厚労省が働き方改革の腰を折る反則技連発、米国のいいなり 自国の働く人捨てる日本の愚行 何のための働き方改革か)である。

先ずは、中国人でソフトブレーン創業者の宋 文洲氏が4月20日付け宋メールに掲載した「失礼な「働き方改革」法案」を紹介しよう。
・昨日、証明書類が必要になって北京にいる妹にお願いしました。 すると1時間半後に「取ってきた」と言うのです。「今日は土曜日じゃないの?」と言うと「役所は土日もやっているのよ。兄さん知らなかったのね。」と言われました。 そう言えば、中国では銀行も土日営業しています。「日本の銀行は3時まで」と言うと中国人は目が点になります。夫婦が共に働く中国では、行政サービスや金融サービスは仕事時間外に受けるのが当たり前です。
・日本の国会で大騒ぎしている働き方改革法案。この話を聞くたびに不快になるのはなぜ個人の働き方を法律で決めてもらわないといけないのかと思うからです。与党と経営者団体がやるべきことは社員が働き方を決める権利を尊重することです。自由な労働市場に基づきより良いサービスを規制緩和と経営改革を通じて実現することです。働き方は生き方の重要な部分であるため、法律で働き方を決めることは生き方を法律化するようなものです。
・夕方や土日にも住民サービスを受けることは、公務員や民間人の総労働時間を増やさずに実現することが可能です。しかし、社員がいくら働き方を変えてもしょせん、規制と経営の下で行われた「戦闘行為」です。兵隊がいくら勇敢に犠牲を払っても大本営と司令達が改革を拒否すれば無駄死にが増えるだけです。
・実は働く社員の一人一人は必死です。自分の家族を守るために少しでも収入を改善しようと時計の針を見ながら残業代を計算する父親の姿が目に浮かびます。しかし、彼らは兼業できない、転職しにくいから、一つの会社に媚びを売って忖度し、他に通用しない社畜に成り下がるしかないのです。だから安い残業代を狙って、少しでも収入が良くなるように頑張っています。
・本当のことを言えば、彼らが好きなだけ兼業できるならば、何も同じ会社でわずかな残業代を稼ぐ必要はないのです。正々堂々と他のところで気分転換しながら勉強しながら稼げばいいのです。しかし、政権のために働き方改革を宣伝する大手マスコミのサラリーマンに聞いてみれば分かるように、兼業を許す大手マスコミがどこにありますか。規定上できても運用上不可能にしている大手も出てきましたが、正規と非正規労働の格差がこれだけ大きくなれば、非正規に成り下がらないように、必死に忖度しないサラリーマンはいないのです。
・結局、働き方改革は社員を楽にする法案ではなく、経営者を楽にする法案なのです。 そして当局や経営者側に立つ既得権益者たちがその法案に「働き方改革」という失礼なタイトルをつけて国会で通そうとするのです。先日、データ不正との理由でこの法案の通過を放棄された時に、経営団体の代表たちはこぞって残念を表明したことが象徴的でした。働き手のためのものであれば、労働者たちが反対するはずです。この法案は羊の頭を掲げて犬の肉を売る法案なのです。
・私は左翼と思われるかもしれませんが、間違いなく保守なのです。現役の時から自由経済と経営改革を信じて止まない経営者でした。私は日本で最初に残業を制限した経営者だったかもしれません。サービス残業を最も早く厳しく批判した経営者だったと思います。
・本当の進歩は社員の労働強度を減らしながら、収入を維持することです。あるいは同じ労働強度を維持しながら、社員の収入を上げることです。「週休7日が幸せか」と過労死遺族に問い詰める飲食産業の経営者議員。これは「働き方改革」の本質を象徴する一幕です。週休7日を求める日本の社員を見たことはありませんが、構造改革と経営改革が遅れているくせに毎日社員に勤勉と頑張りを求める経営者を私はたくさん知っています。
・同じ飲食産業でも先日深センで社員が楽になって顧客が満足する風景を見ました。着席するとウェーターがやってきてテーブルに置いてある二次元バーコードを指して「ご注文はこちらからどうぞ。」と言った後、20分間の砂時計をひっくり返して「上の砂がなくなるまで食事が揃わない場合、食事が無料になります。」と言って去りました。二次元バーコードを携帯でスキャンして写真付きのメニューから食事を注文し、食事後にそのまま携帯で支払うのです。注文取りなし、レジなしです。社員がやることはクレーム処理や老人や子供の手伝いです。
・この現場から分かるように、規制緩和を通じて金融改革をした上、経営者が技術投資と経営改革を敢行しない限り、上述のようなサービスは出現しません。「週休7日が幸せか」という誰も望んでいない仮説を立てる暇と、「働き方改革」を法制化する暇があるなら、自分たちの改革に早く着手したほうが自他ともに良くなりますよ。

次に、5月16日付けダイヤモンド・オンライン「今度は「過労死隠し」、厚労省が働き方改革の腰を折る反則技連発」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・安倍首相が今国会の目玉と位置付ける「働き方改革」の関連法案の審議が4月27日からようやく始まったが、早くも暗雲がかかる。社員を際限なく働かせることが可能になると批判が強い「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)が盛り込まれているうえに、紛糾の“火ダネ”がまた生まれた。
・労働時間の規制を緩和しても、社員を働かせ過ぎることがないよう取り締まりはきちんと行われている例として、加藤勝信厚労相が国会答弁などであげていた野村不動産への特別指導は、社員の過労自殺が起きてから動き出したのが「真相」だったことが発覚したからだ。
・厚労省は、裁量労働制の適用拡大では、裁量労働制の労働時間が短いことを示そうとして、根拠の曖昧な「不適切データ」を国会に出すという“反則技”で、一部の法案の撤回に追い込まれたばかり。性懲りもなく、目玉法案を通すためならルールも無視するかのような反則技が止まらない。
▽特別指導の発端は社員の過労自殺だった
・「過労死隠し」の疑惑の発端は、3月4日付の朝日新聞が報じた「野村不動産 社員が過労自殺」の記事だった。 記事やその後の厚労省などの説明で、明らかになった経緯はこうだ。50歳代の男性社員が2016年9月に過労自殺。遺族は、翌17年春に労働基準監督署に労災を申請し、厚労省東京労働局はこの労災申請を端緒として野村不動産に調査に入り、その結果、裁量労働制の乱用が見つかった。
・そして昨年12月25日には東京労働局の勝田智明東京労働局長が野村不動産の宮嶋誠一社長を呼んで、同社に対し「特別指導」という極めて異例の行政指導が行われた。 この一連の経緯のなかで異例のことが相次いだ。 通常は公表されない特別指導の実施を、指導の翌26日に厚労省は、東京労働局長の定例記者会見で明らかにしたのだ。
・毎月、開かれるこの定例会見は、ふだんは雇用状況の説明などが主な内容で、メディアの関心はさして高くない。だがこの日は違った。 高級マンション「プラウド」を全国展開する不動産大手の野村が、本社や各地の支社で裁量労働制を違法に適用、長時間労働をさせていた労働基準法違反の事実がいきなり発表されたから、新聞各紙は大きな扱いで一斉に報じた。
・裁量労働制は、実際に働いた時間でなく、あらかじめ労使で合意した労働時間(みなし労働時間)に基づいて残業代込みの賃金を払う制度。社員がいくら長時間働いても追加の残業代を支払わなくてもよいため、連合などから「長時間労働を助長する」と強く批判されてきた制度だ。
・このため、労働基準法は適用要件を厳しく定め、労働時間を自らコントロールする必要がある社員にしか適用できないルールになっている。 ところが、野村不動産はこのルールを破り、モデルルームで接客する社員や中古物件の仲介業務を行う社員らに違法に適用していた。裁量労働制が適用されたのは全社員のほぼ3分の1にあたる約600人で、違法適用は2005年から続いていた。 まさに「乱用」だった。
▽異例ずくめの公表の陰で伏せられた「不都合な事実」
・裁量労働制が乱用されやすいことはかねて指摘されていたが、大手企業で乱用の実態が明らかになるのは初めてと言っていい。 新聞各紙が大きな扱いで報じることになったが、そもそも「特別指導」が、指導対象になった企業名も含めて公表されたのは異例のことだ。
・全国の労働基準監督署は、労働法令に違反した企業に対して年間ほぼ10万件もの是正勧告をしているが、原則として個別の是正勧告をしたかどうかは明らかにせず、当然、企業名も公表しない。 厚労省が例外的に公表すると定めているのは、原則として以下の2つのケースだけだ (1)法令違反した企業を刑事事件として立件した場合 (2)2017年1月に出した「企業名公表」のルールに当てはまる場合
・野村不動産による裁量労働制の乱用は悪質だが、現時点では立件されていないので(1)には当てはまらない。(2)は「社員が過労死・過労自殺」したことい加えて、「月100時間以上の違法残業を社員10人以上にさせた」といった悪質なケースが一年以内に見つかった場合に企業名を公表するもので、「2アウトルール」と呼ばれるが、野村不動産はこの基準にも当てはまらない。
・過去に特別指導が行われたのは、2016年の電通事件の時だけで、この時も記者会見では公表していない。特別指導した個別の企業名を記者会見で公表するのは、野村不動産のケースが初めて。 極めて異例の対応で、しかも肝心の社員の過労自殺の事実は伏せられたままの公表だった。
・26日の会見では、特別指導の根拠法令などを問う質問も出たが、鈴木伸宏・労働基準部長は「何か法令に基づいてやっているものではない」と回答。東京労働局長の独断で行われた指導だったことを明らかにした。
・特別指導の際に、労働局内でも厚労省内でも決裁文書が作られていなかったことも、後に明らかになっている。労働局の一局長が、民間企業に対して、その権限を恣意的に行使していた可能性が非常に高いのだ。
▽加藤厚労相は真逆の国会答弁 批判を抑える「好事例」を準備?
・何を狙って野村不動産への特別指導が公表されたのか。 それは、その後、国会答弁で加藤厚労相が、裁量労働制の乱用を取り締まった事例として野村不動産に対する特別指導のことを何度かあげていることがヒントになる。
・例えば、2月20日の衆院予算委員会での質疑で、共産党の高橋千鶴子議員との間で、加藤厚労相はこんなやり取りをしている。
・高橋議員 「裁量労働制を隠れみのに、ただ働きや長時間労働をさせることがあり得る。(適用対象を)拡大すれば、もっと起こり得る」
・加藤厚労相 「野村不動産をはじめとして、適切に運用していない事業所等もありますから、そういうものに対してしっかり監督指導を行っている」
・もともと政府が今国会に提出した「働き方改革」の関連法案には当初、裁量労働制の適用対象を営業職の一部に拡大することが含まれていた。これに対して野党は、「過労死が増える」と猛反対していた。そうした中での加藤氏の、この答弁である。「裁量労働制の乱用があったとしても、労働基準監督署がしっかりと取り締まるから、心配いりません。だから、適用対象を拡大しても、過労死は起きません」。翻訳すれば、だいたいこんな意味になる。
・これまでの流れを見てみると、野村不動産への特別指導が、まるで、国会答弁で使うために周到に準備されていたかのようだ。 安倍首相が、今国会を「働き方改革国会」と命名したのは、特別指導の公表から9日後の1月4日に行われた年頭の記者会見の場だった。 森友・加計問題で野党の追及や国民の批判が強まるばかりの安倍政権にとって、長時間労働の規制や非正社員の待遇改善策などを盛り込んだ働き方改革関連法案は、イメージアップにはうってつけの法案だ。
・最大の問題は、高プロ制度と裁量労働制の対象拡大に対して、「過労死が増える」という野党の批判を国会審議でどう抑え込むかだった。 こうした状況で、裁量労働制を乱用していた野村不動産を取り締まったという「実績」は、野党の批判をかわすのに絶好の事例だったといえる。
・しかし現実は、「しっかり監督指導を行っている」と、過労死は未然に防げることを強調するかのような加藤厚労相の答弁とは逆で、社員が過労死しなければ、労働基準監督署は調査にすら入ることができなかった「真相」が浮かび上がることになった。
・本来は公表事案ではないのに「特別指導」を公表する一方で、過労自殺の事実を隠したのは、野党の批判をかわして目玉法案の審議を有利に進めるためだったのではないかーと野党は猛反発している。  野党側はこれまで連日のように国会内で合同ヒアリングを開催し、厚労省の幹部を呼んで問いただしてきた。
・最大の焦点は、野村不動産への特別指導の時点で、加藤厚労相が過労自殺の事実を知っていたのかどうか、だ。 知っていたのであれば、「過労死隠し」に厚労省のトップが関与した疑いが強まる。さらに、過労自殺があったことを知りながら、国会で「しっかり監督している」と答弁したのなら、「政治的な責任は逃れられない」(立憲民主党の長妻昭氏)との意見も強い。
・しかし野党側の追及に、厚労省幹部は「ゼロ回答」を連発している。
・野党議員 「過労自殺について、加藤厚労相には報告したのか」
・厚労省幹部 「労災認定は、その有無も含めて個人情報につながるので、個人情報保護の観点からコメントを控える」
・野党議員 「特別指導の公表について、いつ加藤厚労相に報告したのか」
・厚労省幹部 「監督指導の個別事案の詳細は回答を控える」
・厚労省幹部はその後、昨年11~12月に、特別指導について加藤厚労相に事前報告を3回行っていたことだけはようやく明らかにした。 しかし、報告の際に使った資料は、大半を黒塗りにして開示。労災認定した事実も4月に入ってようやく公式に認めたが、特別指導の端緒や過労自殺について報告したか、といった肝心なことは全く明かさなかった。
▽飛び出した「恫喝」発言 疑惑追及にいら立ち
・疑惑追及に対する厚労省側の焦りを象徴するように、勝田東京労働局長のメディアに対する「恫喝」発言が飛び出したのはこの後だ。 3月30日の勝田局長の定例会見。記者の質問は特別指導の経緯に集中したが、局長は「ノーコメント」「お答えできません」を連発した。
・それでも食い下がる記者に対し、勝田局長は、こう言い放った。「なんなら、みなさんのとこに行って是正勧告してあげてもいいんだけど」 発言の真意を問われた勝田局長は「いろんな会社が是正勧告を受けているということを言いたかっただけ」と、釈明したが、発言は撤回せず、むしろ、「みなさんの会社も、決して真っ白じゃないでしょう」「(テレビ局に対して)長時間労働という問題で指導をやってきています」と、火に油を注ぐような発言を繰り出した。
・その日の夜、東京労働局から会見に出席した記者に、発言を撤回し謝罪する、旨のメールが送られてきたが、後の祭りだった。 勝田局長はその後、衆議院と参議院の厚生労働委員会に参考人として呼ばれ、与野党双方の議員から批判を浴びた後、東京労働局長を更迭された。
・だが結局、厚労省が過労自殺を隠したまま、野村不動産の特別指導だけを公表するという異例の対応をした理由や経緯はいまだ明らかにされないままだ。
▽法案成立を焦って?「おきて破り」“目玉改革”に暗雲
・働き方改革関連法案の審議入りは遅れに遅れてきた。原因は厚労省の相次ぐ「反則技」だ。 最初は、裁量労働制の労働時間についての「不適切データ」だった。 データ自体の元々の調査もずさんだったが、比較できないデータ同士を比較し、「裁量労働制で働く人の労働時間は、一般の人より短い」という政府に都合のいいデータを作り、安倍首相が国会答弁で紹介した。
・このことがばれて、安倍首相は裁量労働制の適用拡大の撤回に追い込まれた。だがその反省もないまま、次に飛び出したのが、野村不動産への特別指導と「過労死隠し」の疑惑だ。 過労死をなくすことを目標に掲げる厚労省が、法案審議を有利に進める目的で、過労死を隠し恣意的に権力を行使したというのが事実なら、悪質な反則技と言える。
・そしてその疑惑へのきちんとした説明もないまま、政府与党は4月27日、公文書改ざん問題などでの麻生財務相の引責を求める野党議員が欠席するなかで、衆院本会議で働き方改革関連法案の趣旨説明を行い、審議入りを強行した。
・もともと関連法案の内容をめぐる政府与党と野党、経済界と連合との間の対立は根深いものがある。 年収1075万円超の専門職を労働時間規制から外す「高プロ」にしても、第一次安倍政権が導入をもくろんだものの、野党や労働団体の反対で頓挫した「ホワイトカラーエグゼンプション」を衣替えしたものだ。
・バブル崩壊後の長い経済停滞や、人件費の安い新興国とのグローバル競争の激化のもとで、経済界は効率よく労働力を使える制度を求め、政府もこうした声にこたえ、非正規化などを加速させる規制緩和を打ち出してきた。 労働時間の規制緩和をめぐる政府与党と野党、連合との対立も、こうした働き方をめぐる20年近くの綱引きの中で続いてきたものだ。
・野党はその後、審議に戻ったが、「反則技」や野党がいなければそれに乗じてでも、“20年戦争”に終止符を打ち悲願成就をという魂胆なのだろうか。 関連法案の中には、正規・非正規社員の不合理な待遇格差をなくす「同一労働同一賃金」の実現を目指すものもある。 だが「おきて破り」を繰り返すやり方ではせっかくの“改革”への支持はおぼつかないだろう。
https://diamond.jp/articles/-/170055

第三に、健康社会学者の河合 薫氏が5月22日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「米国のいいなり 自国の働く人捨てる日本の愚行 何のための働き方改革か」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・また。そうまた、大切な命が会社に奪われた。それでも国はのたまう。「生産性向上には裁量労働制拡大が必要だ」と。 いったい何のための仕事なんだ? いったい会社は誰のものなんだ? 人生を奪うような働き方をさせてまで、“アメリカさん”のいいなりになりたいのだろうか。
・しょっぱなから少々鼻息が荒くなってしまった。今回は「裁量労働制拡大と知られざる文書」について、アレコレ考えてみる。 先週、東京のIT企業で裁量労働制で働いていた男性会社員(当時28歳)が、くも膜下出血で過労死していたことがわかった。 亡くなる直前の2カ月間の残業時間は、月平均87時間45分。裁量労働制が適用される前には最長で月184時間の残業があった。
・男性は不動産会社向けのシステム開発担当で、チームリーダーに昇格した際に専門業務型の裁量労働制が適用された。長時間労働は適用前から常態化しており、適用後は徹夜を含む連続36時間の勤務もあった(みなし労働時間は1日8時間)。
・男性はTwitterに、
 +やっと家ついたー。この安心感よ。今月も華麗に300時間やー。ねむすぎ。
 +ねむい。13時から翌日の18時までってなんなん。
 +仕事終わるまであと22時間 +うおー!やっとしごとおわったぁー!!社会人になってから36時間ぶっ通しで働いたの初めてやがな。 などと投稿。
・家族に頭が痛いと訴えた翌月、自宅アパートで亡くなっているのが見つかったという。 代理人の弁護士は、「男性の過重労働は裁量労働制の適用前からだが、適用直後には徹夜勤務があるなど、裁量労働制が過労死に悪影響を及ぼした可能性は高い」 と指摘している。
・また、テレビ朝日でドラマを担当していた男性プロデューサー(当時54歳)が、2015年に心不全で過労死していたこともわかった。男性は裁量労働制を適用する制作部門に所属し、直近3カ月の残業時間は、月70~130時間。
・テレ朝は「極めて重く受け止めている。社員の命と健康を守るための対策をより一層進めてまいります」とコメント。さらに、テレ朝は5月16日、報道局で映像取材のデスクを務めていた子会社の男性社員(49)も4月21日に急死したことを明らかにした。が、勤務実態などについては「遺族に対応中であり、プライバシーに関わる」として回答を控えた。
▽“たかが仕事”で、人生を奪われる異常な事態
・ ……。 いったいいつになったら、過労死や過労自殺が死語になるのだろう。 それ以上に気になるのが、過労死や過労自殺という言葉への“温度”の低さだ。実にサラリ、というかなんというか。 “たかが仕事”で、人生を奪われる異常な事態に鈍感になっている、そう思えてならないのである。
・これだけ裁量労働制が問題になっているにもかかわらず、政府は高度プロフェッショナル制度の成立を目指すというのだから、わけがわからない。 厚労省のずさんなデータも「結果には問題ない」って?? でもって、今年1月に行った調査で1000以上の事業所で裁量労働制の運用に問題があることがわかったから、事業所に対して立ち入り調査を行い、違反が見つかった場合には、行政指導を行う方針を固めたって??(こちらを参照)
・全国の事業所は400万カ所超で、監督が実施されるのは毎年全体の3%程度にとどまる。原因は慢性的な人員不足だ。(こちらを参照)
・ここまでして「裁量労働制拡大」を、なぜ、しなければならないのか? 日本の財界の要請?  いや、それだけではない。「残業代がバカにならないから、労働時間規制を見直してね!」って、“アメリカさん”に要請されたからだ。
・Recommendations  The American Chamber of Commerce in Japan (ACCJ) urges the Ministry of Health, Labor and Welfare (MHLW) to modernize the current work-hour regulations to better reflect the changing social and economic environment, including Japan’s evolution into a services-oriented, knowledge-based economy and the diversification of the Japanese workforce. (邦訳)提言 在日米国商工会議所(ACCJ)は厚生労働省に対し、現行 の労働時間法制を見直し、サービス業の台頭、知識集約型 経済への移行および就業形態の多様化等社会経済環境 の変化に対応した制度の創設を要請する。
・このような文言で始まるのは、 Modernize Work Hours Regulation and Establish a White-Collar Exemption System(労働時間法制の見直しおよび自律的な 労働時間制度の創設を)と題された意見書で、2006年12月6日、在日米国商工会議所(ACCJ)が、安倍政権(第一次)に提出した。
・ACCJとはどんな団体か ACCJは1948年に設立され、日本で活動する米国企業1400社の代表が加入し、約3000人のメンバーが名を連ねる。そのミッションは、「日米の経済関係のさらなる進展、会員企業および会員活動の支援、そして日本における国際的なビジネス環境の強化等」だ。
・メンバーによって、メンバーのために運営される完全に独立した商工会議所として、日本で最も影響力のある外国経済団体の1つで、日米のビジネスの進展を図るコミュニティーとして高い評価を受ける一方、実情は「政策を日本政府に命令している」団体とされている。
・先の意見書が出された当時、日経産業新聞では、以下のように報道(要約)。(前略)ACCJは「同制度は優秀なホワイトカラーにやる気と自信を与え、日本の国際競争力も向上する」と主張している。 同制度では、働く人が忙しいときは深夜まで働ける一方、暇なときは早退することも可能だ。仕事の成果や組織への貢献度で給与を決めるので、残業しても給与は増えない。 米国では年収2万3660ドル(約270万円)以上のホワイトカラーが対象だが、日本では年収800万円以上を対象とすべきだと提言している。 厚生労働省は2007年の通常国会で同制度の法制化を目指し、日本経団連は導入に賛成している。 2006年12月7日付日経産業新聞から)
・一方、しんぶん赤旗ではこう報じている(要約)。(前略)これは際限ない長時間労働を合法化する制度です。 ACCJは「管理監督者」の範囲拡大や、年収800万円以上はすべて対象にすることを主張。 また、事務職、専門職、コンピューター関連のサービス労働者、外回りの営業職にも適用を求め、深夜労働の割増賃金は「労働コストの上昇を招くだけ」と廃止を要求している。 労働時間規制を撤廃し、日本に投資した米国企業が米国流で労働者を使えることをめざしています。 前者は「労働者のやる気」を、後者は「投資家が米国流で労働者を使えること」にスポットをあてているが、提言書全体を読めば「投資で儲かる人のための労働制度改革」であることは明白である(以下、要約・抜粋 提言書のWebでの公開期間は終了)。
 +効率性・能力・生産性に優れた労働者が、能力の劣る者より高い報酬を得られる仕組みは、海外投資家にとって競争力のある魅力的な市場となる
 +労働時間規制の適用除外労働者に対する深夜業の割増賃金の廃止を要請する
 +深夜業の割増賃金制度は、現代のホワイトカラー労働者の働き方に適さず、労働コストの上昇を招くだけ
・さらに、過労死についても言及しているのだが、ここは結構なポイントなので、原文のまま掲載する。 ホワイトカラー・エグゼンプション制度を批判する者は、過労死を助長しかねないと主張している。しかしながら、ACCJはむしろ、日本の現行制度に基づき労働時間規制の対象となっているホワイトカラー労働者から、より効果的に、より生産的に働く意欲を引き出すことができるのではないかと考えている。労働者の健康と安全については別に規制が行われており、日本の各企業の健康・労働安全保護のための制度に従って使用者による運用に委ねられるべきである。
▽ホワイトカラーエグゼンプション=労働時間短縮?
・………書いているだけで吐きそうになった。 つまり、大雑把にまとめると、「残業代とか払うのバカらしいから、さっさと辞めてよ。そしたらもっと海外投資家が投資するよん! 過労死は別の問題。こっちはちゃんと企業が規制すればいいでしょ? 僕たちの要望とは関係ないよ~」ってことだ。
・この意見書は、2005年からホワイトカラーエグゼンプションを議論していた政府の追い風になったと、私は推測している。 なんせ、与党内から慎重論が出ていたにもかかわらず、意見書が出された翌月の2007年1月5日。柳沢厚生労働相(当時)は、「次期通常国会に法案を提出する方針を変えるつもりはない」と改めて強調。
・さらに、安倍首相も次のようにコメントした。「日本人は少し働き過ぎじゃないかという感じを持っている方も多いのではないか。(労働時間短縮の結果で増えることになる)家で過ごす時間は、例えば少子化にとっても必要。ワーク・ライフ・バランスを見直していくべきだ」(2007年1月5日付朝日新聞より)
・つまり、このとき政府は、ホワイトカラーエグゼンプション=労働時間短縮と思い込んだ。 一方、経団連にとっては、渡りに舟。 1995年の「新時代の『日本的経営』」で、3種類の労働者グループに分類し、「低コスト」化を進めてきたわけだが、その中の「長期蓄積能力活用型グループ」のコスト削減に好都合となった。 つまり、企業の人件費削減と海外投資家からカネを引き出すには、何がなんでも「新ホワイトカラーエグゼンプション」が必要不可欠。
・悲しい話ではあるけど、過労死とか過労自殺とか関係なし。「え? 労働時間を管理しろって? そんなの労働時間規制からはずす働き方なんだから、そんなの企業には関係ない。労働者が自分の健康くらい管理できなくてどうする? 誰も死ぬまで働けなんて言っていない」と労働者を突き放し、「アメリカ投資家の奴隷になれ! そうすれば日本企業は魅力的になる」と暗に言っている。 ……私にはそうとしか思えないのである。
・これまでにも何度も書いてきたとおり、裁量労働制そのものに反対する気はない。 だが、日本には時期尚早。裁量権を与えることもなければ、過剰労働にならないための義務を果たすつもりもない日本には、1075万円という年収制限を付けようとも、「新ホワイトカラーエグゼンプション」を取り入れる資格などない。
・もし、「自分はもっと自由にやりたい!」という人は、「高度専門能力活用型」として、有期雇用契約すればいい。強者には「自由」を手に入れるだけの力があるはずだ。 KAROSHIは決して、他人事ではないはずなのに。大切な家族を亡くした人たちの悲痛な叫びに、なぜ、もっと真摯に耳を傾けることができないのか? 私には到底理解できないのである。
▽過労死撲滅に真摯に向き合わない日本 いったい何のために私たちは働いているのか?
・「働く」という行為は、人生を豊かにするための大切な手段であり、行為だ。 なのに、働くことで大切な命が奪われている。しかも過労死。 私のようなフリーランスなら「自己責任」だが、会社が請け負った仕事を、なぜ、会社に雇用されている人たちが、自分の命を削りながら果たさなきゃいけないのか。
・「働く」という行為には、「潜在的影響(latent consequences)」と呼ばれる、経済的利点以外のものが存在し、それらこそが人を元気にし、人のやる気を喚起し、生きる力を与えるリソースが存在する。本来、私たちの人生を豊かにするための「働く」行為が、ただの「カネ」にすり替わっている。
・いったいいつまで「人生の邪魔をする働かせ方」を、偉い人たちは許すのか。 人間は仕事、家庭、健康という3つの幸せのボールを持っていて、どのボールが地面に落ちても幸せになれない。 「仕事」「家庭」「健康」のボールをジャグリングのように回し続けられる、「人生の邪魔をしない職場」を目指すことが必要なのに……。
・過労死につながるから高プロがダメなのではない。過労死撲滅に真摯に向き合わない日本に、高プロを適用する資格などないのだ。「問題だけ突っつくだけかよ!」という人は、これまで散々、何本もの本コラムで具体策を提案しているのでお読みいただければ幸いである。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/052100160/?P=1

第一の記事で、 『働き方改革法案。この話を聞くたびに不快になるのはなぜ個人の働き方を法律で決めてもらわないといけないのかと思うからです。与党と経営者団体がやるべきことは社員が働き方を決める権利を尊重することです。自由な労働市場に基づきより良いサービスを規制緩和と経営改革を通じて実現することです。働き方は生き方の重要な部分であるため、法律で働き方を決めることは生き方を法律化するようなものです』、というのは、言われてみれば確かにその通りだ。 『働き方改革は社員を楽にする法案ではなく、経営者を楽にする法案なのです。そして当局や経営者側に立つ既得権益者たちがその法案に「働き方改革」という失礼なタイトルをつけて国会で通そうとするのです』、『構造改革と経営改革が遅れているくせに毎日社員に勤勉と頑張りを求める経営者を私はたくさん知っています』、などの指摘には説得力がある。
第二の記事で、『労働局の一局長が、民間企業に対して、その権限を恣意的に行使していた可能性が非常に高いのだ』、としているが、『国会答弁で加藤厚労相が、裁量労働制の乱用を取り締まった事例として野村不動産に対する特別指導のことを何度かあげている・・・野村不動産への特別指導が、まるで、国会答弁で使うために周到に準備されていたかのようだ』、ということであれば、単に労働局の一局長の判断ではなく、本省からの指示があったとみる方が自然なように思える。『過労死をなくすことを目標に掲げる厚労省が、法案審議を有利に進める目的で、過労死を隠し恣意的に権力を行使したというのが事実なら、悪質な反則技と言える』、「ここまでやるか」というほど強引な手法は、安倍政権の焦りを示しているのだろう。
第三の記事で、『在日米国商工会議所(ACCJ)の意見書が・・・安倍政権(第一次)に提出』、というのは初めて知ったが、安倍政権が成立に異常なまでにこだわる理由がなるほどと理解できた。ただ、『政府は、ホワイトカラーエグゼンプション=労働時間短縮と思い込んだ』、というのは、「フリ」をしただけではないのか、という気がする。 『裁量労働制そのものに反対する気はない。 だが、日本には時期尚早。裁量権を与えることもなければ、過剰労働にならないための義務を果たすつもりもない日本には、1075万円という年収制限を付けようとも、「新ホワイトカラーエグゼンプション」を取り入れる資格などない・・・過労死撲滅に真摯に向き合わない日本に、高プロを適用する資格などないのだ』、というのはさすが河合氏だけあって説得力がある。
タグ:労働時間法制の見直しおよび自律的な 労働時間制度の創設を)と題された意見書 働き方改革 (その15)(失礼な「働き方改革」法案、今度は「過労死隠し」 厚労省が働き方改革の腰を折る反則技連発、米国のいいなり 自国の働く人捨てる日本の愚行 何のための働き方改革か) 宋 文洲 宋メール 「失礼な「働き方改革」法案」 働き方改革法案。この話を聞くたびに不快になるのはなぜ個人の働き方を法律で決めてもらわないといけないのかと思うからです 与党と経営者団体がやるべきことは社員が働き方を決める権利を尊重することです。自由な労働市場に基づきより良いサービスを規制緩和と経営改革を通じて実現することです。働き方は生き方の重要な部分であるため、法律で働き方を決めることは生き方を法律化するようなものです 働き方改革は社員を楽にする法案ではなく、経営者を楽にする法案なのです 構造改革と経営改革が遅れているくせに毎日社員に勤勉と頑張りを求める経営者を私はたくさん知っています ダイヤモンド・オンライン 「今度は「過労死隠し」、厚労省が働き方改革の腰を折る反則技連発」 目玉法案を通すためならルールも無視するかのような反則技が止まらない 労働局の一局長が、民間企業に対して、その権限を恣意的に行使していた可能性が非常に高いのだ 加藤厚労相が、裁量労働制の乱用を取り締まった事例として野村不動産に対する特別指導のことを何度かあげている 野村不動産への特別指導が、まるで、国会答弁で使うために周到に準備されていたかのようだ 飛び出した「恫喝」発言 疑惑追及にいら立ち 過労死をなくすことを目標に掲げる厚労省が、法案審議を有利に進める目的で、過労死を隠し恣意的に権力を行使したというのが事実なら、悪質な反則技と言える 河合 薫 日経ビジネスオンライン 「米国のいいなり 自国の働く人捨てる日本の愚行 何のための働き方改革か」 IT企業で裁量労働制で働いていた男性会社員(当時28歳)が、くも膜下出血で過労死 テレビ朝日でドラマを担当していた男性プロデューサー(当時54歳)が、2015年に心不全で過労死 “たかが仕事”で、人生を奪われる異常な事態 在日米国商工会議所(ACCJ) このとき政府は、ホワイトカラーエグゼンプション=労働時間短縮と思い込んだ 裁量労働制そのものに反対する気はない。 だが、日本には時期尚早。裁量権を与えることもなければ、過剰労働にならないための義務を果たすつもりもない日本には、1075万円という年収制限を付けようとも、「新ホワイトカラーエグゼンプション」を取り入れる資格などない 過労死撲滅に真摯に向き合わない日本に、高プロを適用する資格などないのだ
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