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北朝鮮問題(その19)(「米朝の駆け引き、背後にある2つの構造」、トランプが米朝会談中止の大バクチを平気で打てた理由) [世界情勢]

北朝鮮問題については、5月8日に取上げたが、今日は、(その19)(「米朝の駆け引き、背後にある2つの構造」、トランプが米朝会談中止の大バクチを平気で打てた理由)である。

先ずは、在米作家の冷泉彰彦氏が5月26日付けメールマガジンJMMに掲載した「[JMM1003Sa]「米朝の駆け引き、背後にある2つの構造」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・6月12日にシンガポールでの開催が決まっていた米朝首脳会談について、5月24日にトランプ大統領は会見して米国の側から「キャンセル」すると発表、併せて北朝鮮の金正恩委員長に対する「会談中止」を通告する書簡を公表しました。
・アメリカのニュース並びに世論は、大きくは反応しませんでした。この日から、翌日の25日にかけてのTVニュースでは何と言っても映画プロデューサーで「#METOO」運動の契機となったハーベイ・ワインスタインがNY市警に出頭して、その場で起訴されたというニュースが大きな扱いでした。他には俳優モーガン・フリーマンのセクハラ問題、そして政治ニュースとしては、相変わらずトランプの「ロシア疑惑」が大きく取り上げられていました。株式市場の方は、国際情勢の流動化を嫌って、会談中止の発表直後は下げましたが、その後は戻しています。
・このニュースですが、アメリカ世論の受け止め方が冷静であったのには、いくつかの直接的な理由があります。まず、何よりも「ボルトン補佐官、ペンス副大統領による北朝鮮との罵倒の応酬」があったこと、次いでトランプ大統領本人による「会談の可否について発表する」という「いつもの思わせぶりな予告」があったこと、これに加えて(既に崩落して使い物にならなくなっていたようですが)北朝鮮がトンチャンリの核実験場を爆破したというニュースが、アメリカ社会に一定の安心感を与えていたということもあるでしょう。
・ところで、会談のキャンセルの理由に関しては、トランプ流の「ディール戦術」であるとか、トランプにしても金正恩にしても「予測不可能性」を抱えたキャラだからであるとか、いろいろな解説がされているようです。あるいは、ボルトン補佐官が安易な妥協を嫌っているとか、中国が背後で動いているとか、細かな観察から大きな観察まで色々なものが出ています。
・ですが、もう少し俯瞰的に見てみますと、大きく2つの構造的な問題があるように思われます。1つ目は、全体の落とし所が見えてきたのではないか、という点です。どういうことかと言うと、3月26日に中朝首脳会談の1回目が北京で行われ、またこの間にポンペオCIA長官(当時)の極秘訪朝もあり、中国と米国との根回しがされた上で「4月27日の南北首脳会談」が行われ、これが成功したと言うイメージで発表がされ、世界もそう受け止めたわけです。
・ところが、この時点では肝心の部分、つまり一連の北朝鮮をめぐる交渉の「落とし所」は見えていませんでした。漠然と朝鮮半島の非核化ということは言われていましたが、最も重要な「北朝鮮はどの程度、国を開くのか?」という問題は明らかにされる兆候すらなかったのです。
・その後も様々な動きがあり、国務長官に就任したポンペオ氏が再訪朝して、北朝鮮が人質として確保していた米国籍の3人が釈放されるとか、6月12日のシンガポール会談が発表されたりしたわけです。問題は5月8日に大連で行われた「再度の中朝首脳会談」です。ここから何かが動き始めたように思われます。
・仮説を立てるのであれば、この時点で中朝の間では、北朝鮮を「どこまで開くのか?」という問題について、具体的な応酬があった可能性があります。中国の立場は明確です。「北朝鮮はできるだけ改革開放を進めて経済的な自立と発展へ向かって欲しい」ということが一つあります。「核開発や国際的なヤミ市場での活動」というのは、中国には迷惑千万だからです。その一方で、「国境の開放を急ぎ過ぎて、南による吸収合併のような再統一が起きるのは困る」という立場でもあります。
・中国が、どうして「南による北の吸収合併」を嫌うのかというと、そこには切迫した理由があります。まず米国陣営と鴨緑江を挟んで軍事的に相対するのは、コスト的に困るということがあります。また統一朝鮮ができた場合に、鴨緑江の「こちら側」である朝鮮人自治区の中に統一に参加したいという動きが出てしまうと、国家体制を揺るがす大問題になるという懸念からです。
・つまり、中国としては「経済は自立して欲しい」が「国を開きすぎて統一になるのは困る」という立場と考えられます。一方でこれは北朝鮮の現体制の希望する方向性でもあります。北朝鮮は「好きでアングラ経済に手を染めているわけではなく、経済的に発展できるのであれば、それが一番」と考えているはずです。その一方で、「現在の政治体制が崩壊する」ということは何をしてでも避けたいでしょう。
・ということは、中朝の利害は一致するわけです。ですが、その方法というのが難しいのです。北朝鮮がグローバル経済に直接参加していくようになれば、情報や人の往来が一気に加速します。そうなると、強権で引っ張ってきた現政権が不安定になるのは目に見えています。
・そこで可能性としてあるのは、「中国を相手とした交易の拡大と、中国による経済協力」あるいはこれにロシアを加えた格好での経済協力で、北朝鮮の経済を回すという考え方です。つまり、韓国や日米などの西側自由陣営との直接的な「ヒト・モノ・カネ」の流通は非常に限定的にした上で、中ロが通商の窓口となっての経済成長をさせるという策です。
・ということは簡単に言えば、現状維持ということになります。朝鮮半島における冷戦的な秩序は維持したままで行く、南北の全面的な経済協力、日米による北朝鮮との国交正常化などは考えないという考え方です。そうなると、別に無理をして、ICBM破棄だとか、短距離ミサイル破棄などはしなくていい、最低限の核廃棄、つまり実験場の爆破による当面の実験停止、プラス、ある種の交渉の余地は残すけれども、「管理された冷戦的対立」はこのまま「未解決の問題」として引っ張って行くという方向性です。
・勿論、こうした見立ては相対的なものです。仮に北朝鮮が完全に国を開いて統一も覚悟で改革開放をやるというのが10点満点で、米朝戦争前夜というような軍事的危機が0点だとしますと、シンガポール会談の行方が楽観視されていた時点が7点ならそれが4点ぐらいに減ったというだけの話であり、絶対的なものではないと思います。
・ですが、他に現実的な落とし所が見えない以上、2度目の中朝会談以降は、こうした方向での「揺り戻し」が動き出した、その「落とし所」は管理された冷戦、つまりは現状維持だという見方ができます。
・仮にそうだとして、2番目の問題はトランプ政権が「最低限の核放棄+現状維持」という、10点満点で4点ぐらいの成果を受け入れることができるのか、という点です。 4月一杯の情勢としては、トランプ政権は「相当のリスクを取ってもいい」から「朝鮮半島における歴史的転換」という「華麗なる成果」を挙げたいという状況にありました。というのは、まず「ロシア疑惑」に続いて「ポルノ女優との不倫疑惑」が炎上しており、そんな中で11月の中間選挙で敗北すれば弾劾罷免もあるかもしれないという危険な状態にあったからです。
・その11月の中間選挙ですが、3月13日にペンシルベニア州18区(ピッツバーグ近郊)で行われた連邦下院の補欠選挙を僅差で落として以来、下院の共和党には不振という傾向が色濃くなっていました。上院も危ない一方で、現在は絶対過半数を持っている下院ですら、民主党による逆転があるかもしれないという「空気」が濃くなっていたのです。
・ところが5月の後半になって、政治的な空気が少し変わって来ました。「イラン核合意離脱、エルサレムへの米大使館移転といった中東における極端な保守政策が、トランプのコア支持者だけでなく、ブッシュを支持した草の根保守や福音派にも支持された。その一方で、民主党はこれを批判するも外交問題は選挙戦の争点にはしにくい様子であり、国内的にはこうした極端な政策が結果的にトランプの得点になっている」「ロシア疑惑の追及が続く中、コーエン顧問弁護士への捜査などは進展するも大統領本人を訴追できるような材料は出てこない」「FBIや司法省幹部などは、強引に政権への捜査を進めて弾劾罷免の流れを作り出すよりも、2020年の大統領選挙で後腐れなく負けてもらう方向を考えている気配。
・その兆候として、あれだけ抵抗していた女婿のジャレット・クシュナーに国家最高機密へのクリアランスを再度与えている」「不倫疑惑は結果的に『口止め料は最終的に大統領本人が払った』というジュリアーニ弁護士の居直り戦術が効いて尻すぼみ気味。一方で民主党側は、クリントンの方が悪質だという批判を恐れて、この問題は追求できず」「民主党では人材難が続いている。サンダース、ウォーレンなどは飽きられる一方で、新しいリーダーが出てこない。
・NY州ではヒラリー派の現職知事クオモを左から追い落とそうと、女優のシンシア・ニクソンが予備選参戦しているが届きそうにない」「その民主党は、マイク・ポンペオ(国務長官)、ジーナ・ハスペル(CIA長官)の2名の新任閣僚候補について、必死になって承認否決へ持って行こうとしたが、あっけなく失敗」「中国に貿易戦争を仕掛け、日独の輸入車に関税25%課税の案など経済政策はメチャクチャだが、市場がその時は下げても戻ってしまうので、結果的に経済界が黙認した格好になっている。その株式市場にはまだ下落の兆候はない」「アフリカ系ミュージシャンのカニエ・ウェストの支持を改めて獲得するとか、サッカーのワールドカップ大会のアメリカ開催に興味を示すなど、白人至上主義だけでなく、有色人種のポピュリズム的なカルチャーにも支持を広げて来た。その一方で、フットボールのNFLにおける国歌への抗議行動を禁止に追い込むなど、文化面での争いにおいて少しずつ得点が見られる」
・支持率を調査すると40%強、不支持が55%前後という「低支持率」は変わりません。ですが、全体的な社会の雰囲気としては、トランプ政権に少し勢いが出て来ているのは事実ですし、11月の中間選挙も改めて与野党拮抗という状況になって来ています。
・ということは、トランプとしては「ノーベル賞級の功績」を狙って、「ギャンブルをする」必要性は薄くなっているのです。ここからは私の推測ですが、仮に習近平と金正恩が「高度な現状維持策」へと後退しつつあるとして、トランプとしては、その流れに「乗る」ことは可能になってきていると考えられます。
・トランプの対北朝鮮外交ですが、ここまでは「中国を動かす」とか「得意のディールで問題を解決に向かわせる」というような選挙戦の際に「公約」してきたストーリーに乗って進めて来ていますし、その上で「少なくとも核実験場は破壊した」し「人質の3名の米国人は一ドルも払わずに奪還した」ということで、「国内向けの政治ショー」としては、「うまくやっている」格好になっています。
・その上で、ここで「一方的に会談中止を宣告」しつつ、相手への儀礼は示すことで、先方からの懇願があれば会談を再設定することには「やぶさかでない」などという高等戦術を見せているのですから、全体的にはかなり得点は稼いでいるわけです。
・ですから、敢えて「大きなリスクとなる在韓米軍撤退」とか「半島再統一」などというのは、中国が先送るのであれば、それに乗っても全く構わないということになるではないでしょうか? 仮にそうであれば、米中の間には大きな立場の違いはないということになります。
・ただし、北朝鮮の立場からすると、まだ2つの点について「諦めてはいない」という可能性があると考えます。それは、「米国あるいはこれに日本などを加えた形で、西側からも巨額の資金援助を引き出したい(但し、政権崩壊につながる改革開放はやらない)」「米国を相手にして対等に渡り合い、朝鮮戦争の終結を実現したという政治的功績を挙げたい」という2点です。
・こうした点については、中国は冷淡、韓国は大歓迎、トランプとしては「相手がその2点に固執するなら逆にカードとして条件交渉に使おう」というアプローチになるのではないかと思われます。シンガポール会談が実施されるのか、されないのかという点について言えば、こうした条件面での駆け引きの結果で決まるのでしょうが、それぞれの国の世論に対して「見栄えの良い」形に持っていければ実施するでしょうし、そうでなければ敢えて実施する必要性はないということになるかもしれません。

次に、立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏が5月28日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トランプが米朝会談中止の大バクチを平気で打てた理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ドナルド・トランプ米大統領は5月24日、シンガポールで6月12日に予定されていた、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との「米朝首脳会談」を中止する意向を明らかにした。北朝鮮が、豊渓里(プンゲリ)の核実験場を爆破し、「朝鮮半島の非核化」を目指す姿勢を示した直後の発表であった。
・これに慌てた北朝鮮が、金委員長が韓国の文在寅大統領と急遽、板門店で首脳会談を行い、米朝首脳会談開催への「確固たる意志」を表明し、決裂回避に動き始めた。トランプ大統領はツイッターで、自身で表明した首脳会談の中止から一転して、今度は開催に前向きな姿勢を示した。
・結局、米朝首脳会談は当初の予定通り、シンガポールで6月12日に開催されることになる見込みだ。筆者は、突如首脳会談中止を表明し、相手が慌てたところで「やっぱりやろう」と揺さぶったトランプ大統領に、「ディールの達人」の恐ろしさを見た。そして、金委員長は、完全に逃げ場を失い、「袋小路」に追い込まれた。
▽「アメリカファースト」のトランプ大統領は既に「ディール(取引)」を終えている
・トランプ大統領にとって、「朝鮮半島の完全な非核化」や「北東アジアの紛争回避」など、実はどうでもいいことなのではないだろうか。そもそも、トランプ政権が「北朝鮮の核・ミサイル開発問題」に介入し始めたのは、北朝鮮が米国を直接核攻撃できる大陸間弾道弾(ICBM)を持つ可能性が出たからだった(本連載第155回)。
・トランプ大統領は、口を開けば「朝鮮半島の完全な非核化」、拉致問題を解決する」などといろいろ言ってはいるが、実は自国の安全保障のことしか考えていない。北朝鮮が核実験場を爆破して、核弾頭を搭載したICBMを開発できないということを確認した、まさにその日に首脳会談中止を表明したのは、そのことを象徴的に示している。
・首脳会談を流すという、既存の政治家には絶対にできない「挑発」は、いかにもトランプ大統領らしい。だが、1つ言えることは、大統領にとって、「完全な非核化」など、所詮「オマケ」に過ぎないということだ。やはり、大統領の行動は、あくまで「アメリカファースト」なのだと、あらためて示したといえる(第170回)。
▽トランプにとって「完全な非核化」以外に会談実施の意味はない
・トランプ大統領にとって、米朝首脳会談とはどういう意味を持つのか、もう少し考えてみる必要がある。まず、金委員長が「ICBMの実験中止」を表明し、「核実験場」を爆破したことの持つ意味である。 端的にいえば、北朝鮮が「米国を直接攻撃できる」懸念が消えたことを意味するだろう。つまり、米朝首脳会談の開催前にして、トランプ大統領が本当に欲しいものは、既に手に入ってしまったことになる。
・その上、北朝鮮に拘束されていた米国人3人も取り戻し、米国世論にアピールできるオマケも得た。「朝鮮半島の非核化の実現」とは、それができれば「ノーベル平和賞」級の偉大な成果となり、そういう意味での関心はあるだろう。だが、「アメリカファースト」の大統領の本音としては、実現してもしなくても、どちらでもいいこととなる。
・一方、この連載で指摘したように、「朝鮮半島の完全な非核化」の実現が「在韓米軍の撤退」を意味することは想定される。だが、これは米国の長期的方針としては既に決定していることであり、その実行のタイミングだけの問題である(第180回・p5)。そういう意味では、トランプ大統領が是が非でも米朝首脳会談をやりたいという動機付けにはなるものではない。
・あえていえば、トランプ大統領にとって米朝首脳会談は、デメリットの方が大きいものかもしれない。大統領は「ディールの達人」として名をはせているが、そのイメージが崩れるかもしれないからだ。 例えば、米朝首脳会談の席上で、「ICBMの実験中止」「核施設爆破」を金委員長に宣言させるならば、その他が「段階的核廃絶」など曖昧な決着になったとしても、トランプ大統領が「ビッグディール」を成功させたということになるだろう。だが、金委員長は、既にそれを宣言し、実行してしまったのだ。そうなると、首脳会談で話し合うことは「朝鮮半島の完全な非核化」のみとなってしまう。
・言い換えれば、トランプ大統領にとって、首脳会談での「ディール」の成功を示すものは、「朝鮮半島の完全な非核化の実現」だけになってしまった。だが、それは北朝鮮にとって簡単に飲めることではなく、実現は難しい。そうかといって、北朝鮮が望む「段階的非核化」を大統領が認めたら、それは単なる妥協ということになる。大統領のタフなイメージが壊れるだけである。
・それでは、首脳会談の席上でガチンコで「完全な非核化」で揉めて決裂したら、どうなるか。あまりにその衝撃は大きすぎる。「ディールの達人」というトランプ大統領の評価が完全崩壊するだけでなく、北朝鮮がブチ切れて「最悪の事態」を招くリスクもある。
・要するに、金委員長が「ICBMの実験中止」「核施設爆破」というカードを先に切ってしまったことで、トランプ大統領にとって、米朝首脳会談で「ディール」を成功させるハードルが一挙に「完全非核化」に上がってしまったのだ。しかし、大統領は既に得るものを得てしまっているので、米朝首脳会談をやる意味が希薄になっていた。
・それにもかかわらず、金委員長はいささか調子に乗ったのか、首脳会談での「ディール」の「落としどころ」は「段階的核廃絶」だと、楽観的に考えていたのだろう。部下に米国を「挑発」するような、軽はずみな言動を繰り返させてしまった。 また、金委員長と米国の「仲介役」を務めてきた韓国の文大統領や、金委員長の「後ろ盾」である中国の習近平国家主席も、同じように楽観的に構えているようであった。
・トランプ大統領からすれば、それは許せないということになったのだろう。そこで、「完全非核化を北朝鮮が飲まないのであれば、別に米朝首脳会談など無理にやる必要などないのだ。それで北朝鮮が逆ギレするなら、軍隊を出して簡単に叩き潰すぞ」という脅しをかけた。 トランプ大統領は、金委員長や、韓国、中国に「俺は圧倒的に強い立場にあるのだぞ。それを忘れるなよ」ということを、強く知らしめたかったのではないだろうか。
▽金正恩も事実上の「核保有国」となるために会談を回避したほうがいいと考えるか?
・一方、金委員長の立場から見れば、事前に大統領に対してカードを切りすぎたことは大失敗だったように見える。米朝首脳会談を通じて、トランプ大統領から「体制維持の確約」を得て、「段階的核廃絶」を約束することで事実上の「核保有国」になれればよかったのに、トランプ大統領の「アメリカファースト」を読み間違えて、自ら首脳会談のハードルを「完全な非核化」に上げてしまったからだ。
・金委員長は慌ててトランプ大統領の機嫌を取って、予定通り首脳会談を実施する方向に一応向かってはいる。だが、金委員長は本当にこのまま、首脳会談を行ったほうがいいのだろうか。 そもそも論だが、北朝鮮が目指してきたのは「核保有国」になることだ。それが「体制崩壊」を防ぐ唯一の道だというのは、金委員長の父・金正日氏の「遺訓」であった。金委員長が融和の姿勢を示し、韓国の文大統領との南北首脳会談で「核なき朝鮮半島の実現」を約束したが、それは本気ではないはずだ。
・本音は「段階的非核化」という曖昧な着地点を勝ち得て、実質的に「核保有国」になることが目標だったはずだ。だが、既に欲しいものを手に入れてしまい、あわよくば「ノーベル平和賞」でも取れれば儲けものくらいに考えて、思い切り「ディール」のハードルを上げてきたトランプ大統領と、どう渡り合ったらいいのだろう。金委員長は、これから非常に頭を痛めるはずだ。
・それならば、むしろ米朝首脳会談を流したほうがいいという判断はあり得るだろう。そうすれば、「朝鮮半島の完全な非核化」は議論する場がなくなり、中距離核ミサイルは日本に向けてズラリと並んだままとなり、北朝鮮は実質的に「核保有国」となることができる。そして、中国、ロシア、韓国も、本音では北朝鮮が核保有国となることは悪いことではないと思っている(第166回)。
・米国は、「アメリカファースト」なので、ICBMさえ持たなければ、北朝鮮を攻撃することに関心は持たないだろう(第155回)。もちろん、米国はいまや「世界の暴力団」なので、トランプ大統領を怒らせたら何をされるかわからない(第181回)。ただ、たとえ首脳会談が流れても、北朝鮮は自ら「段階的核廃絶を行っていく」と宣言したりして、慎重にトランプ大統領の機嫌を取っていけばいい。
・要するに、トランプ大統領が既に「ディール」で「実」を得たことで強硬姿勢に出たように、今度は金委員長があえて首脳会談を流して、事実上の「核保有国」となる「実」を得ようと、動く可能性があるかもしれない。
▽「ディールの達人」トランプは、金正恩を完全に「袋小路」に追い込んだ
・だが、金委員長が米朝首脳会談を流して核保有国になるという「実」を得ることは、相当に難しいかもしれない。それは、トランプ大統領は強硬姿勢を示すことで、韓国の文大統領の首根っこもガッチリと掴んでしまったように思うからだ。
・韓国の文大統領は、米朝首脳会談で北朝鮮が「体制維持の保証」と「段階的核廃絶」をトランプ大統領から勝ち取れば、一挙に南北首脳会談で金委員長が求めてきた経済協力を進めるつもりだった。だが、トランプ大統領が米朝首脳会談の「ディール」を、北朝鮮が簡単に飲めない「朝鮮半島の完全な非核化実現」に引き上げたことで、簡単に「ディール」が成立することはなくなり、南北の経済協力を進める思惑は棚上げせざるを得なくなるだろう。
・米朝首脳会談が流れれば、北朝鮮は事実上の「核保有国」になれるが、国連の経済制裁は解除されないことになる。金委員長にとって、南北間の経済協力が非常に重要になるが、トランプ大統領を無視して、文大統領が経済協力を進めることは、難しいのではないだろうか。
・北朝鮮に対する国連の経済制裁は、非常に効いているとされている。北朝鮮は米朝首脳会談を流して「核保有国」となれても、経済制裁が解除されなければ、早晩行き詰まることになる。かといって、米朝首脳会談を行えば、トランプ大統領から「完全な非核化」を強く要求されることになる。
・金委員長は、結局経験不足だったのだろうか。軽率にも首脳会談の前に、トランプ大統領の欲しいものを渡してしまった。結果、米朝首脳会談は「退くも地獄、進むも地獄」となってしまった。「ディールの達人」トランプ大統領は、完全に金委員長を袋小路に追い込んだように見える。
https://diamond.jp/articles/-/171058

第一の記事は、再び会談をやると決定する前の段階で、米国内の政治情勢を中心にみたものだ。 『もう少し俯瞰的に見てみますと、大きく2つの構造的な問題があるように思われます。1つ目は、全体の落とし所が見えてきたのではないか、という点です・・・「再度の中朝首脳会談」です。ここから何かが動き始めたように思われます・・・韓国や日米などの西側自由陣営との直接的な「ヒト・モノ・カネ」の流通は非常に限定的にした上で、中ロが通商の窓口となっての経済成長をさせるという策です。 ということは簡単に言えば、現状維持ということになります』、『2番目の問題はトランプ政権が「最低限の核放棄+現状維持」という、10点満点で4点ぐらいの成果を受け入れることができるのか、・・・トランプとしては「ノーベル賞級の功績」を狙って、「ギャンブルをする」必要性は薄くなっているのです。ここからは私の推測ですが、仮に習近平と金正恩が「高度な現状維持策」へと後退しつつあるとして、トランプとしては、その流れに「乗る」ことは可能になってきていると考えられます』、などの指摘はさすがに深く鋭い。なるほどと納得させられる。
第二の記事で、『トランプ大統領は、口を開けば「朝鮮半島の完全な非核化」、拉致問題を解決する」などといろいろ言ってはいるが、実は自国の安全保障のことしか考えていない。北朝鮮が核実験場を爆破して、核弾頭を搭載したICBMを開発できないということを確認した、まさにその日に首脳会談中止を表明したのは、そのことを象徴的に示している』、『金委員長が「ICBMの実験中止」を表明し、「核実験場」を爆破したことの持つ意味・・・米朝首脳会談の開催前にして、トランプ大統領が本当に欲しいものは、既に手に入ってしまったことになる・・・「朝鮮半島の非核化の実現」とは、それができれば「ノーベル平和賞」級の偉大な成果となり、そういう意味での関心はあるだろう。だが、「アメリカファースト」の大統領の本音としては、実現してもしなくても、どちらでもいいこととなる』、『金委員長は、・・・軽率にも首脳会談の前に、トランプ大統領の欲しいものを渡してしまった。結果、米朝首脳会談は「退くも地獄、進むも地獄」となってしまった。「ディールの達人」トランプ大統領は、完全に金委員長を袋小路に追い込んだように見える』、などの指摘は、本番の米朝首脳会談をみてゆく上でも大いに参考になる。
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