SSブログ

非正規雇用問題(その1)(「日本郵政の手当廃止」が示す"正社員"の未来 「同一労働同一賃金」で既得権にメスが入った、“同一労働同一賃金” 最高裁が初判断 定年後再雇用の賃金引き下げは社会の不利益 最高裁判決から考える)  [経済政策]

今日は、非正規雇用問題(その1)(「日本郵政の手当廃止」が示す"正社員"の未来 「同一労働同一賃金」で既得権にメスが入った、“同一労働同一賃金” 最高裁が初判断 定年後再雇用の賃金引き下げは社会の不利益 最高裁判決から考える) を取上げよう。

先ずは、安西法律事務所 弁護士の倉重 公太朗氏が4月17日付け東洋経済オンラインに寄稿した「 「日本郵政の手当廃止」が示す"正社員"の未来 「同一労働同一賃金」で既得権にメスが入った」を紹介しよう(▽は小見出し)・
・安倍晋三政権が働き方改革の一環として推し進めてきた「同一労働同一賃金」政策。これは、正社員と非正規社員の処遇について、業務内容などを勘案して不合理なものは是正すべきとする考え方です。同一労働同一賃金の狙いは、処遇の低い非正規社員について改善を行うことにより、国内消費を増大させ、景気循環させるという点にありました。
▽正社員の処遇を下げ格差を是正する方針を打ち出した
・このテーマに関連して、先週、大きな反響を呼んだニュースがありました。 それは、日本郵政が正社員の住宅手当などを廃止し、非正規社員との待遇格差を是正する方針を打ち出したというものです。日本郵政が、このような方針を打ち出したことには理由があります。東京地裁と大阪地裁、二つの裁判所で、契約社員の処遇(一部手当)について正社員との差が違法である。という判断が下されていたのです。そこで、違法状態を解消するべく、早急な待遇差の是正に動いていました。
・待遇差の解消方法としては、政策の狙いどおり、①「非正規雇用の処遇を上げる」という方策が思いつくところですが、今回は②「正社員の処遇を下げる」という方策を採ったことで、大きな話題となりました。しかし、このニュースは単に「処遇を低い方に合わせるなんてけしからん。法の趣旨に反する」という単純な話ではありません。労働法的側面から、もう少し深く考察してみると、違った視点が浮かび上がってきます。
・そもそも日本において非正規が多い理由はなんでしょうか?主な理由としては、判例法理を受け継いだ労働契約法によって、正社員の解雇が厳しく規制されているという点が挙げられます。これは正社員の身分を強力に保障する一方で、景気変動に応じた人件費の調整を行う必要が出た際には、非正規雇用を行うことで対応せざるをえないという状況を生み出します。」
・契約社員については、2018年5月から、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、有期契約労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換するという制度が始まっています。しかし、実態としては正社員ほどの保護があるわけではありませんので、根本は変わりません。
・同一労働同一賃金の元祖であるヨーロッパでは、解雇の金銭解決が可能であり日本よりは正社員の雇用保障は弱いと言えるでしょう。しかし、日本においては解雇規制の検討はなされないまま、同一労働同一賃金政策という一部の制度のみを輸入しているので、全体に歪みが生じています。結局のところ、「人件費調整のバッファー」となるのは誰か、という話であり、現在はこれを非正規社員が一手に引き受けているのです。まるで企業がその気になれば、賃金を無限に払えるような感覚を抱いている人も少なくないように見受けられますが、「同一賃金」という言葉にそのような魔法はありません。
▽「世代間の不公平」という現実も浮かび上がる
・さらに、日本郵政の方針を分析すると、正社員と非正規社員という問題を超えて、「世代間の不公平」という現実も浮かび上がります。今回の制度変更は組合との合意によって、「10年」という非常に長期の経過措置を設けている、という点は注目に値します。つまり、現在50代の日本郵政の正社員の方は従来どおりの手当があるまま、定年を迎えることになるのです。その一方で、これから正社員として入社する人は「手当」の恩恵を享受できないことになります。
・では、「手当」を支払い続ければいいのでしょうか。そう単純な話ではありません。日本を取り巻く経済環境がめまぐるしく変わっていくグローバル経済の中、日本は少子化により人口が減少し続けています。国内市場は減少の一途を辿ることは確定した未来です。その中で日本企業としては、新規事業や新規設備投資、あるいはグローバル展開など、何らかの形で成長を模索しなければ現在の売り上げは維持できません。
・今回日本郵政が廃止することにした正社員の住居手当は、最大で1月あたり2万7000円の支給だそうです。日本郵政の場合、非正規社員数は19万7000人と言われますので、単純計算で19万7000人×2万7000円=53億1900万円という莫大な金額を「毎月」支払わなければなりません。ボーナスなどではないので、「利益が上がったら」ということもできません。「毎月」約53億円、年間636億円なのです。
▽処遇を改善せよ、と言うのは簡単だが…
・非正規雇用の処遇を改善せよ、と言うのは簡単です。しかし、その分何かを諦めなければならないということも忘れてはなりません。つまり、将来への投資や、グローバル展開のための費用や、今後の成長の柱を探すための新規事業への投資、これらを諦めて「手当」を支払うことは是か非か、という話なのです。新規事業が育たなければ、割りを食うのは結局「これから」働く人。つまり若い世代です。若い世代にとって本当にいいのはどちらでしょうか。
・こういう話をすると、「企業は内部留保を溜め込んでいるからそれで払えばいいではないか」という意見をよく目にします。しかし、年間600億円の投資ができれば今後の成長の柱となる新規事業を育てられるかもしれませんが、内部留保を取り崩してしまえば、先に述べた将来の投資ができません。また、取り崩して余裕があるのは一時的な話です。この手当改善は10年間で6000億円もの投資が必要な案件と同価値ということにあります。正社員に手当を出すことで、それほどの効果があるのなら良いのですが現実はどうでしょうか。
・当然ですが、法律に従わなくていいとか判決を無視していいとか言うつもりは毛頭ありません。しかし、「法律の趣旨がこうだから」、「判決がこうだから」、処遇を改善しなさいと言うだけなら簡単です。突然、企業の「財布」が増えるわけではありません。日本郵政の最大労組(組合員24万人)が手当削減提案に同意したというのは、会社の将来を見据えた深い洞察があってのことでしょう。単に「会社のいいなりになってけしからん」という話ではないはずです。
・もちろん、非正規の処遇改善は行うべきです。しかし、正社員をはじめとする全体の制度設計を考えない小手先の対応では、結局どこかに「しわ寄せ」が行くだけなのです。自分の会社の下請けや子会社に「しわ寄せ」が行く場合もあるでしょう。たとえ正社員だからといって、自分さえ逃げ切れれば良いという話ではないはずです。非正規社員と正社員の格差の「根源」である、身分保障や労働条件変更の考え方を含めたこれからの雇用社会のグランドデザインを再検討して、初めて本当の意味での格差是正が議論できると筆者は考えています。
https://toyokeizai.net/articles/-/216870

次に、6月1日付けNHK時論公論で竹田 忠 解説委員 と 清永 聡 解説委員が解説する「“同一労働同一賃金” 最高裁が初判断」を紹介しよう(▽は小見出し、+は解説内の段落)。
・日本のサラリーマン社会に大きな影響を及ぼす判決が出ました。契約社員や定年後の再雇用で、仕事が同じ場合正社員との待遇の差は許されるのか。
・最高裁の初めての判断は、契約社員の手当を幅広く認めた一方、定年後の再雇用の賃金は、原告に厳しい内容になりました。
・判決が雇用契約のあり方や政府の働き方改革の議論に与える影響を、経済・雇用担当の竹田委員と共にお伝えします。
▽定年後再雇用の賃金格差とは
・清永:まず、今回の判断、竹田さんはどう受け止めましたか。
・竹田:一言でいうと、非正規で働く人や、高齢になっても働く人が増えているのに、現場の処遇や実態が、それに対応できていない。 その矛盾や問題点に、最高裁が一定の判断基準を示した、ということだと思います。
・清永:裁判の内容を見ていきましょう。2つあるのですが、まずは定年後の再雇用のケースからです。 この裁判は、トラックの運転手をしていた男性らが起こしました。男性は、60歳の定年後も嘱託社員として、正社員とほぼ同じ仕事を続けました。ところが再雇用された男性の賃金は、2割ほど下がりました。
+ポイントは労働契約法20条の条文です。正社員かどうかで「労働条件の差が不合理であってはならない」などと書かれています。では、再雇用で賃金が下がったのは不合理かどうか。 1審は「仕事は正社員と同じなのに差があるのは違法だ」と男性らの訴えを認め、2審は逆に「定年後の引き下げは妥当だ」と逆転敗訴を言い渡していました。
▽最高裁判決
・清永:最高裁は、このケースで賃金に差が出ることを容認しています。 判決が重視した要素の1つは、定年後、再雇用された人の事情です。定年まで正社員として働き、退職金も受け取り、今後は年金を受ける予定です。こうした事情などを踏まえると、一部の手当に一定の格差があっても、不合理ではないと判断したのです。
▽賃金カーブの仕組み
・竹田:定年後の再雇用の賃下げというのは、実態としては多くの企業で行われていること。それが、最高裁の判断の背景になっているとみられます。 そもそも賃金の仕組みがどうなっているかというと、日本の多くの企業は、いわゆる年功序列型賃金、在職年数に応じて賃金が徐々に上がるという、こういうカーブを描いて賃金が上がる仕組みになっています。若い頃の給料は低く抑えられていて、それを年をとってから、取り戻すという感じです。
+ところが、社会の高齢化が進んだことで、国は5年前に法律で、希望者全員を65歳まで雇用することを義務づけました。そうすると、企業は、この高いところのまま、雇い続けることは負担が大きいので、多くの場合、賃金を平均で2~3割下げて再雇用するケースが多い。こうしたことが背景になっているわけですね。
・清永:ただし、再雇用された人にとっては、どうでしょうか。独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が平成26年に行ったアンケートでは、定年後も継続雇用された人で60歳から64歳の人のうち、賃金が下がった人の47、9%は、「雇用が確保されるから賃金の低下はやむを得ない」としている一方で、34、7%は「仕事がほとんど変わらないのに、賃金が下がるのはおかしい」と考えていて、意見が分かれています。
+ただ、格差が大きくなりすぎると、定年後の労働意欲が失われることにもなりかねません。また、今回の最高裁判決はあくまで個別のケースです。企業が自分に都合のいいように解釈し、際限なく賃金を下げてしまわないよう、注意が必要です。
・竹田:そこは大変重要なところです。実際、判決後の会見で、原告のドライバーの人たちがどうしても納得できない、と繰り返していたのが、仕事は同じなんだということです。たとえば大企業などでは、定年後は仕事の内容が変わったり、軽くなったり、ということがよくあるわけですが、原告の男性たちは「自分たちはドライバーで、全く仕事の内容が同じだ」と言っていました。“寸分たがわず”という表現もされていましたが、全く同じ仕事をしていて、賃金だけが下がるのはどうしても納得できない、という発言です。
+今、政府は、人口減少と、高齢化が進む中で、生涯現役社会を作ろうとしています。つまり、できるだけみんな意欲をもって長く働いてくださいと。 そういう中では、やはり、もう再雇用で賃金水準をどうするか、ではなくて、もう定年そのものをもっと延ばすとか、仕事の内容が同じかどうかで、もっと報酬体系のありかたを見直すとか、そういう大きな議論も必要になってくると思います。
▽契約社員の手当の格差とは
・清永:もう1つの裁判もドライバーで同じ仕事をしているケースです。ただしこちらは正社員と契約社員の手当の違いが争われました。 これが今回争われた手当の一部です。(リンク先の表参照)「通勤手当」は当時、契約社員は正社員よりも少ない額しかもらえませんでした。残りは正社員にしか支給されていない手当です。「無事故手当」は1か月無事故の場合に支給されます。「給食手当」は食事代の補助。ほかに「皆勤手当」「住宅手当」などもあります。
+1審が同じ金額を支給するよう命じたのは、通勤手当だけ。2審はこれに加えて、無事故手当、給食手当も契約社員に支給するよう命じました。 一方、最高裁は、これらに加えて皆勤手当まで、仕事の内容が同じである以上、契約社員に支給しないのは「不合理」だと判断しました。住宅手当が除外されたのは、正社員には転勤があり、住宅費が多くかかることが考慮されたためです。
・竹田さん、こちらは契約社員の主張を大幅に認めました。
▽非正規の現状と同一賃金ガイドライン案
・竹田:日本の雇用の大きな問題点の一つは、正規・非正規の賃金格差が大きいことです。 これはフルタイムで働いている人の賃金を100とした場合に、パートで働いている人がどれだけもらっているかというグラフです。(リンク先参照)フランスはほぼ9割。ほとんど変わりません。ドイツ8割、イギリス7割。日本は6割にも満たない。この大きな賃金格差を何とかしようということで、政府が取り組んでいるのが同一労働・同一賃金なんです。
+で、その裏付けとなる働き方改革法案が、今、まさに国会で審議中でして、さらに、今回、最高裁で、不合理な手当ての格差は認められない、という明確な判断が出たことで、これまで様子を見ていた企業も、もう待ったなしの対応を迫られることになると思います。
▽格差を減らす取り組みを
・清永:正規、非正規の待遇格差をめぐる訴訟が、全国で相次いでいます。今回の最高裁判決は、こうした訴訟や、企業の人事・労務に与える影響が極めて大きいと思います。定年後再雇用の人たちも、契約社員も、今や、全国のあらゆる働く現場で、なくてはならない存在です。 判決を通じて、トラブルを未然に防ぐことはもちろん、企業側は、働く人たちの意欲を奪うことがないよう、できる限り個別に事情を考慮し、格差の解消に取り組んでほしいと思います。
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/298808.html

第三に、昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現在ビジネス研究所長の八代尚宏氏が6月5日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「定年後再雇用の賃金引き下げは社会の不利益、最高裁判決から考える」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽最高裁が判決を示した2賃金格差に関する2つの事件
・政府の働き方改革法案の柱の1つとして同一労働同一賃金がある。しかし、同一業務における正規と非正規社員との賃金格差については、すでに現労働契約法第20条でも禁じている。この具体的な事例として、非正規社員が不当な賃金格差を訴えた2つの事件についての最高裁判所の判決が6月1日に示された。ここでは国会ではほとんど審議されなかった、同一労働同一賃金の具体的な問題点が顕著に示されている。
・1つ目の事件は、「ハマキョウレックス」(浜松市の物流会社)に対し、有期雇用契約で勤務する契約社員が、同じ業務の正規社員の基本給や諸手当との差額の支給を求めたものだ。これに対して最高裁は通勤手当等、一定の範囲の諸手当の支払いを認めたものの、基本給や賞与等については、転勤等のキャリア形成の差を反映したものとして「不合理ではない」と格差を容認した。
・もう1つの「長澤運輸」(横浜市の運送会社)事件では、定年退職後に有期雇用で雇用された運転手が、定年前と全く同じ業務にもかかわらず賃金総額で2割強減額されたことを不当として訴えた。1審では東京地裁により、予想に反して原告の訴えが全面的に容認されたことで大きな話題となった。もっとも、2審の東京高裁では、定年退職後の再雇用時の賃金引き下げは一般的に行われており、「2割程度の賃金減額は社会的に許容」と否認した。これを受けた最高裁では、諸手当に関する格差は個別に判断するとしながらも、基本給や賞与についての非正規格差は容認するという基本方針を確立した。
・しかし、労働経済学の視点では、トラック運転手という全く同一の職種で働く正規と非正規社員との基本給や賞与の格差は、市場の均衡に反する制度的なゆがみ以外の何ものでもない。「日本型」ではない、真の同一労働同一賃金の実現のためには、どのような政策が必要とされるのだろうか。
▽長澤運輸事件から考える再雇用賃金引き下げの合理性
・本稿ではとりわけ、定年退職後の再雇用時の賃金引き下げの問題について考えよう。 最高裁は、60歳を超えた高年齢者の雇用確保の義務付けの下で、継続雇用者の賃金コストの無制限な増大を回避するための賃金引き下げは不合理ではないとした。確かに、同一労働同一賃金の原則の下でも、再雇用後の賃金引き下げが正当化できる場合もある。これは年功賃金体系の下では、同一職種の再雇用賃金と比較する対象として、定年直前の賃金水準では高過ぎるためである。
・もっとも長澤運輸のトラック運転手の賃金の年齢や勤続給の水準は低く、40年間勤務でも年間13万円弱に過ぎないフラットな職務給であり、無制限な賃金コスト増加にはほど遠い状況であった。 ここで再雇用された運転手の賃金総額が2割減になったことの主因は、基本給の5ヵ月分の賞与がなくなったことにある。これについて判決理由では、定年退職者には退職金が支給されたことや、厚生年金の支給を受けることが指摘されている。
・しかし、退職金とは労働者を企業内に囲いこむための「後払い賃金」の清算であり、再雇用されない場合にも同様に支払われる。また、厚生年金は65歳まで持続的に引き上げられる「逃げ水」である。本来、賃金は毎年の労働の対価であり、老後の生活保障の手段である退職金や厚生年金と相殺されるべきものではないだろう。
・もっとも会社側にも言い分はあろう。定年退職制はいわば公に認められた解雇の仕組みであり、その際の金銭補償が退職金である。退職後に新たな雇用契約を結ぶ以上、その際の賃金は市場水準であり、その提示額に労働者が不満であれば他の会社で働けばいい。一般のホワイトカラーとは異なり、専門的な技術を要するトラック運転手の市場は流動的であり、新人運転手より低い再雇用賃金を提示する企業と比べて、良い労働条件の申し出は少なくないはずである。
▽画一的な雇用義務を課す中途半端な高年齢者雇用安定法
・2004年改正の「高年齢者雇用安定法」では、企業に対して65歳までの雇用義務を課している。これが労働者にとって、労働条件の良い職場への移動を躊躇させる「機会費用」となっている可能性がある。他方、企業にとっては、安定法の再改正(2013年施行)で、再雇用者の範囲を労使協定で限定できる仕組みが廃止され、希望者全員の再雇用を義務付けられた。仕事能力のばらつきの大きな高年齢者の再雇用を、企業に画一的に義務付けることが、賃金の均等待遇を妨げる1つの要因となっているのではないだろうか。
・欧米諸国のように、年齢に関わりなく同一賃金で働き続けられる労働市場を実現するためには、企業にとって雇用維持が困難な労働者の解雇の金銭解決ルールが、やはり年齢に関わりなく必要とされる。同一労働同一賃金の原則は、あくまでも仕事能力に応じた実質的な公平性に基づくことが前提である。
・安定法での高齢者の65歳までの雇用継続義務付けは、厚生年金の支給開始年齢が2025年に65歳に引き上げられることに対応している。しかし、他の先進国の年金支給開始年齢は、すでに67~68歳になっている中で、世界で最も長寿国の日本では70歳支給を目指す必要がある。その際に政府は、再び70歳までの雇用義務を企業に課すのだろうか。今後の労働力不足社会では、企業が自ら仕事能力を持つ高年齢者を雇用し続ける環境の整備が必要である。
・長澤運輸事件の原告であるトラック運転手は、定年後も通常の運転手と同じ業務を遂行する十分な能力を有していた。そうした貴重な労働者を、なぜ企業はあえて解雇しなければならなかったのだろうか。本来、この裁判では再雇用後の賃金水準の妥当性よりも、60歳に達したことだけで解雇される定年退職制度の社会的妥当性を問うべきであった。これは多くの先進国では、仕事能力に差のない労働者を、一定の年齢に達しただけで解雇する定年退職制を、人種や性別による解雇と同様な「年齢による差別」として原則禁止しているためである。
▽年齢による差別に他ならない定年退職制の非合理性
・日本では、誰しもが平等に迎える定年退職制は、むしろ公平な仕組みとされている。これは職務を限定しない働き方の下で、個々の仕事能力に関わらない定年時までの雇用保障や、年齢とともに高まる賃金制度と一体的になっていたためである。
・しかし実際には、高齢者の仕事能力のばらつきは、他の年齢層よりも大きい。高齢者であっても、有能であれば会社内で責任あるポストに就かせるのが妥当であろう。にもかかわらず、画一的な1年契約の非正規社員としての再雇用では、それができない。つまり、急速な高齢化を迎える今後の日本で、高齢労働者の有効活用を妨げる最大の要因が、多くの企業が採用している60歳定年制といえる。また、こうした定年退職後の高齢者の増加が、非正規社員比率の持続的な上昇の大きな要因ともなっている。
・定年退職制は、単に法律で禁止すればいいというわけにはいかない。むしろ、企業が定年制を必要としない働き方のルールを、労使が自発的に形成する必要がある。具体的にいえば、一般的な企業の場合、少なくとも新卒採用時から40歳台までは多様な職務経験を蓄積し、それ以降では、特定の職務に限定した働き方とそれに見合う職務給を原則とすることである。そうすれば60歳といったように特定の年齢で解雇される必要性はなくなり、生涯現役の働き方が可能となる。こうした職務限定正社員の働き方の整備こそが政府の役割である。
・トラック運転手は、元々こうした働き方である。とくに長澤運輸事件のように、特殊なトラックを運転する専門的技術を持つ高年齢者を継続雇用することは、企業にとっても利益となるはずだ。それにもかかわらず、定年退職後再雇用の機会に、わずかの賞与分の人件費を節約しようとする機会主義的な意図が企業側にあったとすれば、残念なことである。
・同じ仕事をする労働者には同じ賃金を支払う──。これは諸手当だけでなく、基本給や賞与でも同様である。それができない特別な理由があるなら、その内容を具体的に説明する責任が企業側にある。この先進国の常識が日本では成り立たないのなら、それを明確に企業に義務付けることが政府の責任だ。日本の働き方の改革は、まだ始まったばかりである。
https://diamond.jp/articles/-/171608

第一の記事で、『今回日本郵政が廃止することにした正社員の住居手当は、最大で1月あたり2万7000円の支給だそうです。日本郵政の場合、非正規社員数は19万7000人と言われますので、単純計算で19万7000人×2万7000円=53億1900万円という莫大な金額を「毎月」支払わなければなりません。ボーナスなどではないので、「利益が上がったら」ということもできません。「毎月」約53億円、年間636億円なのです』、というのでは、『正社員の処遇を下げ格差を是正する方針』、『日本郵政の最大労組(組合員24万人)が手当削減提案に同意したというのは、会社の将来を見据えた深い洞察があってのことでしょう』、というのも無理からぬところなのかも知れない。
第二の記事で、『原告の男性たちは「自分たちはドライバーで、全く仕事の内容が同じだ」と言っていました。“寸分たがわず”という表現もされていましたが、全く同じ仕事をしていて、賃金だけが下がるのはどうしても納得できない』、というのは確かに理解できる。ただ、第三の記事によれば、『長澤運輸のトラック運転手の賃金の年齢や勤続給の水準は低く、40年間勤務でも年間13万円弱に過ぎないフラットな職務給であり、無制限な賃金コスト増加にはほど遠い状況であった。ここで再雇用された運転手の賃金総額が2割減になったことの主因は、基本給の5ヵ月分の賞与がなくなったことにある』、というように、賞与をケチったためのようだ。 一般的には運輸業界では、ドライバー不足に悩まされている筈なので、ドライバーになるべく再雇用を受け入れてもらえる条件で提示するのが筋だろう。
第三の記事の筆者の八代氏は、新自由主義経済学の信奉者の1人なので、私としては余り取上げないが、今回は比較的まともな主張なので、紹介した次第である。 『労働経済学の視点では、トラック運転手という全く同一の職種で働く正規と非正規社員との基本給や賞与の格差は、市場の均衡に反する制度的なゆがみ以外の何ものでもない』、『本来、賃金は毎年の労働の対価であり、老後の生活保障の手段である退職金や厚生年金と相殺されるべきものではないだろう』、『本来、この裁判では再雇用後の賃金水準の妥当性よりも、60歳に達したことだけで解雇される定年退職制度の社会的妥当性を問うべきであった。これは多くの先進国では、仕事能力に差のない労働者を、一定の年齢に達しただけで解雇する定年退職制を、人種や性別による解雇と同様な「年齢による差別」として原則禁止しているためである』、 『定年退職制は、単に法律で禁止すればいいというわけにはいかない。むしろ、企業が定年制を必要としない働き方のルールを、労使が自発的に形成する必要がある。具体的にいえば、一般的な企業の場合、少なくとも新卒採用時から40歳台までは多様な職務経験を蓄積し、それ以降では、特定の職務に限定した働き方とそれに見合う職務給を原則とすることである。そうすれば60歳といったように特定の年齢で解雇される必要性はなくなり、生涯現役の働き方が可能となる』、『長澤運輸事件のように、特殊なトラックを運転する専門的技術を持つ高年齢者を継続雇用することは、企業にとっても利益となるはずだ。それにもかかわらず、定年退職後再雇用の機会に、わずかの賞与分の人件費を節約しようとする機会主義的な意図が企業側にあったとすれば、残念なことである』、などの指摘は説得的で異論はない。
タグ:最高裁は、これらに加えて皆勤手当まで、仕事の内容が同じである以上、契約社員に支給しないのは「不合理」だと判断しました 今回日本郵政が廃止することにした正社員の住居手当は、最大で1月あたり2万7000円の支給だそうです。日本郵政の場合、非正規社員数は19万7000人と言われますので、単純計算で19万7000人×2万7000円=53億1900万円という莫大な金額を「毎月」支払わなければなりません。ボーナスなどではないので、「利益が上がったら」ということもできません。「毎月」約53億円、年間636億円なのです 「“同一労働同一賃金” 最高裁が初判断」 労働経済学の視点では、トラック運転手という全く同一の職種で働く正規と非正規社員との基本給や賞与の格差は、市場の均衡に反する制度的なゆがみ以外の何ものでもない もう1つの裁判もドライバーで同じ仕事をしているケースです。ただしこちらは正社員と契約社員の手当の違いが争われました 原告の男性たちは「自分たちはドライバーで、全く仕事の内容が同じだ」と言っていました。“寸分たがわず”という表現もされていましたが、全く同じ仕事をしていて、賃金だけが下がるのはどうしても納得できない、という発言 八代尚宏 賃金を平均で2~3割下げて再雇用するケースが多い 65歳まで雇用することを義務づけ 現在50代の日本郵政の正社員の方は従来どおりの手当があるまま、定年を迎えることになるのです。その一方で、これから正社員として入社する人は「手当」の恩恵を享受できないことになります 「世代間の不公平」という現実も浮かび上がる 最高裁は、このケースで賃金に差が出ることを容認 再雇用された男性の賃金は、2割ほど下がりました 東京地裁と大阪地裁、二つの裁判所で、契約社員の処遇(一部手当)について正社員との差が違法である。という判断が下されていたのです 正社員の住宅手当などを廃止し、非正規社員との待遇格差を是正する方針を打ち出した 日本郵政 年齢による差別に他ならない定年退職制の非合理性 「 「日本郵政の手当廃止」が示す"正社員"の未来 「同一労働同一賃金」で既得権にメスが入った」 東洋経済オンライン 倉重 公太朗 (その1)(「日本郵政の手当廃止」が示す"正社員"の未来 「同一労働同一賃金」で既得権にメスが入った、“同一労働同一賃金” 最高裁が初判断 定年後再雇用の賃金引き下げは社会の不利益 最高裁判決から考える) 定年退職後再雇用の機会に、わずかの賞与分の人件費を節約しようとする機会主義的な意図が企業側にあったとすれば、残念なことである 非正規雇用問題 「定年後再雇用の賃金引き下げは社会の不利益、最高裁判決から考える」 ダイヤモンド・オンライン 定年後の再雇用のケース NHK時論公論 本来、賃金は毎年の労働の対価であり、老後の生活保障の手段である退職金や厚生年金と相殺されるべきものではないだろう 長澤運輸のトラック運転手の賃金の年齢や勤続給の水準は低く、40年間勤務でも年間13万円弱に過ぎないフラットな職務給であり、無制限な賃金コスト増加にはほど遠い状況であった。 ここで再雇用された運転手の賃金総額が2割減になったことの主因は、基本給の5ヵ月分の賞与がなくなったことにある
nice!(1)  コメント(0)