SSブログ

イノベーション(その2)(欧州「ソサイエタル・イノベーション」とは 世界のイノベーション事情(1)欧州のイノベーション、「おっぱいポロリ」動画がYouTube誕生のきっかけ、日本人の「技術信仰」が生産性向上を妨げる 技術革新は「人口減少の特効薬」ではない) [イノベーション]

イノベーションについては、昨年4月24日に取上げた。今日は、(その2)(欧州「ソサイエタル・イノベーション」とは 世界のイノベーション事情(1)欧州のイノベーション、「おっぱいポロリ」動画がYouTube誕生のきっかけ、日本人の「技術信仰」が生産性向上を妨げる 技術革新は「人口減少の特効薬」ではない)である。なお、今回からタイトルから技術革新は外した。

先ずは、Japan Innovation Network 代表理事  多摩大学大学院 教授の紺野 登氏が昨年12月7日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「欧州「ソサイエタル・イノベーション」とは 世界のイノベーション事情(1)欧州のイノベーション」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「世界のイノベーション事情」といえば、米シリコンバレーを思い浮かべる読者も少なくないと思うが、これから2回は、欧州を取り上げる。
・理由は3つある。(1)ここでいう欧州とは主に欧州連合(EU)のメンバー国家を指すが、地域を挙げてイノベーション政策を推進している。(2)彼らのイノベーション政策や制度は米国とも日本とも違うが、社会や市民のためのイノベーションを目的としている。どちらかといえば社会的課題を多く抱え、それがイノベーションの起点ともなり得る点で日本の状況に近い。そして(3)今、シリコンバレーに限らず、イノベーションは世界の諸地域に広がった経済・経営活動であり、その重要な一極が欧州だからである。
▽地域「イノベーション・エコシステム」の台頭
・デンマークの首都コペンハーゲンからスウェーデンに伸びる全長16kmのオーレスン大橋を渡って約1時間。スウェーデン南部スコーネ地域の中核都市、ルンド市。今、この地域に世界的関心が集まっている。2019年完成予定で、中性子利用研究のための欧州最大のESS(欧州核破砕中性子源)の工事が進んでいるからだ。ルンド市では、世界最強と言われる陽子線形加速器、世界各国の研究所とスパコン間のデータ管理などの施設が集約され、クリーンエネルギー、食品、医薬、医療、ITなど各分野での基礎研究及び応用研究が進んでいる。
・同施設群にはルンド市庁舎、ルンド大学などが近接し、一大「イノベーション・エコシステム」(地域生態系)が形成されつつある。しかし、ここでの主眼は科学技術でなく、地域全体の「ソサイエタル(社会構造的)・イノベーション」にある。同市は「イノベーティブなルンド」をスローガンに、若者が未来のために活躍できる、グローバルな知識経済の中心のひとつとなることを目指している。人里離れた場所でなく、都市、すなわち人々や社会のまっただ中で最先端の研究開発が行われるのである。
・こういった思考で、社会と経済の発展のためと、イノベーションを位置づけ、企業(ルンドには、かつてソニー・エリクソンが本社を置き、今でもソニーモバイルコミュニケーションズのオフィスがある)、大学、自治体、市民を巻き込んだ活動を展開しようというのが欧州先進地域でのイノベーションの基本形であり、ルンド市及び周辺地域はその代表的存在といえる。
・ここから東北東へ約1000kmに位置する、フィンランドの首都ヘルシンキの隣町エスポー市。ここでも地域のイノベーション・エコシステム「EIG(エスポー・イノベーション・ガーデン)」が展開されている。
・主体はエスポー市、アールト大学、ノキアなどのグローバル企業、中小企業やスタートアップ企業などである。エスポー市はノキアの本拠地として知られてきたが、ノキアが携帯電話事業から撤退した後は行く末が危ぶまれていた。しかし、同地域が蓄積してきた知識資産、大学などをハブとするネットワークによって発展し続け、北欧のイノベーション拠点として人や資本を集めている。
・アールト大学の学生発で始まったスタートアップ・イベント「SLUSH(スラッシュ)」(www.slush.org)は、2016年には1万7000人を集めた(スタートアップカルチャーについては次回で触れる)。一時は表舞台から消えたノキアだが、現在は通信インフラ事業者として戦略を転換、フランスの通信機器大手、アルカテル・ルーセントを買収・統合し、再び成長を始めている。
▽世界でもっとも豊かな地域
・こういった地域のイノベーション・エコシステムが生まれる背景はなんだろうか。 欧州は国別に見れば、いずれも日本より経済的にも小さい。しかしEU全体として見ればGDP(国内総生産)では中国を上回り(2015年)、購買平価ベースでは世界最大の経済地域だ(英国の離脱という問題を抱えているが…)。日本と同様に製造業、輸出が強く、圧倒的に中小企業の構成比が高い。したがって、ドイツの「インダストリー4.0」のような生産技術革新が国家的な課題となり、それに伴う革新的ビジネスモデルへの期待が高まっている。
・中小企業が多いこともあって、EUをはじめ、その実務組織である欧州委員会(EC)、欧州地域委員会といった地域政府の役割が大きい。EUは毎年国別のイノベーション・ランキングを発表し、イノベーション政策のイニシアティブを取ろうとしている。
・基盤となっているのはデジタル社会への移行である。EUの「ホライゾン2020」はEUにおける科学技術・イノベーション政策(ICT関連の研究・イノベーションプロジェクトを含む総計770億ユーロのファンディング。2014年発効)であり、(1)卓越した科学、(2)産業界のリーダーシップ、(3)社会的課題への取り組みを目的とする。
・各国のコンセンサスとして、欧州におけるイノベーションの要請は第一次及び第二次世界大戦の痛々しい記憶から生まれている。地域の平和を維持するには社会的・経済的なイノベーションを持続的に興していくことが不可欠という認識である。これは、軍事分野での研究開発投入が大きい米国とは異なる点であり、平和国家日本としても学ぶことのできるモデルではないだろうか。
・しかし、現実的には課題も大きい。EU各国はそれぞれ産業形態や経済状態、政治状況も異なり、足並みが揃っているとは言えない面も多い。 たとえばドイツでは、より民間企業の力の方が強い。そうした中で、欧州地域のイノベーションを推進していこうというのが、スウェーデンやフィンランドのような“優等生”である。彼らのひとつの特徴は政府、企業、労働者の協調でイノベーション政策が展開されている点である。
・イノベーションは一国の閉じられた環境、枠組みの中、一企業の内部だけで実現するのは不可能である。欧州委員会が標榜するのは「オープンイノベーション2.0」である。それは、(1)政府・公共、(2)大学・教育機関、(3)企業・産業、(4)市民・ユーザーが相互に関わりつつ、市民やユーザーが主体となって、社会や地域にインパクトを生み出すというモデルである。
・いわゆるオープン・イノベーション(1.0)は、自社の技術を他社に開示する(インサイドアウト)、あるいは外部の知を自社に導入する(アウトサイドイン)、オープンな研究開発を意味するが、結局は企業間の知財のやりとり、研究開発効率や知財を活用した一企業の利益に帰する。これに対して「オープンイノベーション2.0」は社会的目的の達成のための多様な相互関係性(四重奏的なイノベーション)が狙いである。
▽欧州のシリコンバレー
・欧州イノベーション指標(2016年)のベスト5は、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、オランダ、英国であった。これらの国々を地図上で見れば、北海及びバルト海沿岸諸国に集中している。ちょうどカリフォルニア州が重なる規模だ。いわばシリコンバレーを凌ぐ可能性を秘めた欧州のイノベーション地域だと言える。
・これらの国々は社会的なコストが高く、その削減といった点でもイノベーションが必須なのである。たとえばキャッシュレス社会への挑戦である。スウェーデンの労働コストは同じEU圏内でもブルガリアの10倍を超える。そこでのキャッシュレス化の効果は大きい。日本はキャッシュレス化の移行が遅く、GDPの2割が未だに現金で流動している。一方のスウェーデンは既に2%以下となっており、キャッシュレス化が進んでいる。
・今後、この地域が社会的イノベーションの震源地となる可能性は高い。たとえば「フューチャーセンター」や「リビングラボ」などの“場”の広がりもそのひとつだ。フューチャーセンターは欧州の政府に始まった社会的イノベーションのための横断的な対話、政策形成のための空間や機能である。リビングラボはそうしたプログラムを元に、都市や地域共同体、公共空間の中で、市民や顧客とともに社会実験、共創を進める手法である。現在、欧州地域には400近くのリビングラボが立ち上がってきており、この波は日本にも広がっている。
▽イノベーション経営を目指す企業
・欧州企業はこうしたイノベーション社会・経済においてどのような経営を行っていくべきだと考えているのだろうか。それは「イノベーション経営」である。 イノベーション経営とは、組織的プロセス、組織文化に染み渡ったイノベーションのための実践知であり、企業のイノベーションを具体化する手法、方法論である。
・例えばフィンランドの森林産業、製紙産業においては、デジタル化によるビジネスモデル破壊を契機として、いち早く産業界としてのイノベーション経営政策が重視されてきた。前述の「ホライゾン2020」のレポートでは、特に中小企業における「イノベーション経営に関する能力の欠如が経済的影響を生み出すための重要な障壁」だと指摘する。スウェーデン、フィンランドでは「イノベーション経営」の修士号を授与する大学も少なくない。CIO(最高イノベーション責任者)を設置する企業も増えつつある。
・フランスでは、CIOを組織化する「パリCIOクラブ」があり、活発な活動を行っている。ちなみにイノベーション政策担当大臣やCIOには女性の参画が多い。こういった傾向は欧州だけではないが、イノベーション経営という面で一歩進んでいると考えられよう。
・EUがイノベーション経営のイニシアティブを取るもうひとつの背景には、実は保守的な文化や社会がある。日本人は新しもの好きと言われるが、確かにあまりこだわらずに新製品やサービスを受け入れる。しかし欧州は違う。重い伝統と先端をどのようにブレンドするのか。そこで社会的なイノベーションがエンジンとなる。
・一方、日本企業は、日本人が新たな物事に柔軟性があるのに、イノベーション経営に踏み切れずに躊躇している感がある。変化を望まず不確実性を回避しようという日本企業の傾向が指摘されている。これでは本来成長すべき新たな事業を育てる余地がなくなる。社会や文化のポテンシャルを日本企業は活かしていないと言える。オープンイノベーション2.0、ダイバーシティ、女性の活用など、欧州から学べる点は多い。 次回は、「スタートアップカルチャー」を切り口に、欧州とその周辺を見ていくことにしたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/040400128/120600018/

次に、ファウンダーズ・スペース社代表、シリコンバレー業界団体組合議長のスティーブン・S・ホフマン氏が4月7日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「おっぱいポロリ」動画がYouTube誕生のきっかけ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・シリコンバレーに拠点を置くアップル、グーグル、フェイスブック、エアビーアンドビー、ウーバー……といった企業は、どうやって次々と大きなイノベーションを起こしているのか? 新刊『シリコンバレー式 最高のイノベーション』では、22ヵ国でスタートアップを支援するインキュベーター&アクセラレーター会社のCEOである著者が、シリコンバレーで起きているイノベーション成功の秘密を初公開! 小さなアイデアが大きな変革をもたらし、世の中を一変させるプロセスを、多くの実例を紹介しながら解き明かす。起業家、企業のオーナー、ビジネスパーソンを問わず、あらゆるビジネスに応用できるイノベーションのヒント。本連載では、その基本中の基本である「小さく、少なく始める」コツについて10回にわたって紹介していきたい。
▽大きく考えてはいけない
・ イノベーションを起こすには、大きなことを考えなければならないと思っている人は多い。  あなたが大企業の経営者なら、組織全体にまたがるような、大規模なイノベーションプロジェクトを実行する必要があると思っているだろう。 全員が力を合わせなければならない。 おカネに糸目はつけていられない。 これが会社の未来そのものであり、次の大きな収益の柱は、イノベーションによってもたらされる。
・だが、これは真実からはほど遠い。 本物のイノベーションを起こすには、大きく考えてはいけない。 小さく考えなければいけない。 大規模なイノベーションのプロジェクトはたいてい失敗に終わる。多額の予算、大人数のチーム、大きな結果が求められるからこそ、失敗するのだ。
・ことイノベーションに関しては、たいてい一番小さなアイデアが産業を変える力を持つ。〈ポストイット〉も面ファスナーの〈ベルクロ〉も、使い捨てカミソリもそうだ。 これまで産業に革命をもたらしたのは、いずれもシンプルなアイデアだった。
・今となっては、付箋なんて当たり前で、誰でも思いつきそうに見える。 だが、それまで誰も思いつかなかった。 しかもそれは、失敗のおかげでひらめいたアイデアだった。 3Mで科学者として働いていたスペンサー・シルバーは、超強力な粘着剤を開発しようとしていた。 それなのに偶然、「粘着力の弱い」付けたり外したりできるような糊が生まれた。 5年もの間、シルバー博士はこの発明を製品化しようと試みた。でも、誰も見向きもしなかった。
・しかし、あるとき同僚が賛美歌のしおりにこの新しい糊を使おうと思いついた。 一連のちょっとしたひらめきがポストイットにつながったのだ。 偉大なイノベーションが起きたプロセスを振り返ると、同じような経過をたどっているケースが多い。
・優れたアイデアは壮大なビジョンからではなく、ちょっとした実験と偶然の発見から生まれている。 壮大なビジョンは後付けだ。 発見秘話はマスコミによって書き換えられ、人々の心の中で違うストーリーができあがる。
▽〈YouTube〉に壮大なビジョンはなかった
・テクノロジーのスタートアップにも同じことが言える。 僕たちにもお馴染みの例を挙げよう。〈ユーチューブ〉の始まりは、壮大なビジョンがきっかけではなかった。 世界中の動画とクリエイターと視聴者をつなぐためのグローバルなプラットフォームを目指していたわけではない。 始まりは全く違うものだった。
・最初は、出会い系サイトの〈ホット・オア・ノット〉をパクって動画を加えた〈チューン・イン・フックアップ〉というサービスだった。 でも、そこに人が集まらなかったので、創業者たちは他のアイデアを考え始めた。
・ひらめきが生まれたのは、2つのちょっとした不満からだった。 1つ目は、創業者のジョード・カリムがジャネット・ジャクソンの「おっぱいポロリ」動画をオンラインで見つけられず、イライラしていたこと。 2つ目は、共同創業者のチャド・ハーリーとスティーブ・チェンが、ディナーパーティーの動画をメールで送ろうとして、容量不足で送れなかったことだ。
・そこで、動画共有の簡単なしくみを作ったところ、反響がすごかった。 あっという間にいくつかの動画が拡散され、ユーチューブの情報量は爆発的に伸び、動画コンテンツはすべてここに集まるようになった。
・ユーチューブが世界最大のオンライン動画サイトになったのは、壮大なビジョンがあったからでも、計画があったからでもない。 小さなイノベーションが強烈な効果をもたらした結果だ。 もし最初からグローバルな放送局を目指していたら、ユーチューブは生まれていなかった。
・例えば、かつて〈デジタル・エンタテインメント・ネットワーク〉というスタートアップがあった。 ドットコムバブルの時期にテレビ番組をインターネットで流そうとしていた。 壮大なビジョンはあったが失敗だった。 コンテンツにカネがかかりすぎ、広告も取れなかった。
▽小さく考える環境と構造を創る
・多くのスタートアップが同じような失敗をしている。 例えば、僕のところにやって来たある台湾企業は、すべてのスマート機器を解錠できるような単一のアプリを作ろうとしていた。 スマート自転車の鍵から自動車、自宅、引き出しなど、すべてを解錠できるアプリだ。 課金モデルは無理だと諦め、アプリを無料にして、アプリ内でソーシャル・ネットワークを築こうとした。
・自動車メーカーからIoT機器メーカーまで、あらゆる企業とパートナーを組むことを狙っていた。さらに複雑なことに、このアプリで解錠するには、スマート機器に特殊な仕様が必要だった。 そんなやり方で、これほど大規模で複雑なものを軌道に乗せるのは、はなから不可能だった。
・僕は単刀直入に、こう言った。「小さく考えたほうがいい。君たちのアプリを高く評価してくれる顧客を1社選んで、そこに力を注ぐべきだ」と。 安全に価値を置く企業を狙って、セキュリティのソリューションを売り込むことを勧めた。
・社内のドア、机、ファイル棚、倉庫といった重要なアクセスポイントを、単一のスマホアプリで制御できるようにするのがいい。 スマートロックの数に従って課金できるし、付加価値のあるサービスを提供することもできる。
・元の計画よりそのほうがはるかにシンプルで、狙う顧客も1種類に限られ、はっきりとした収益モデルもできる。 このピボット(方向転換)が成功するかどうかはまだわからないが、僕は期待している。
・3人のスタートアップでも、3万人の多国籍企業でも、イノベーションのプロセスはほぼ同じだ。 チームが小さく考えられるような環境と構造を創り出さなければならない。
https://diamond.jp/articles/-/164519

第三に、元投資銀行のアナリストで小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏が6月23日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本人の「技術信仰」が生産性向上を妨げる 技術革新は「人口減少の特効薬」ではない」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・日本でもようやく、「生産性」の大切さが認識され始めてきた。「生産性向上」についてさまざまな議論が展開されているが、『新・観光立国論』(山本七平賞)で日本の観光政策に多大な影響を与えたデービッド・アトキンソン氏は、その多くが根本的に間違っているという。 34年間の集大成として「日本経済改革の本丸=生産性」に切り込んだ新刊『新・生産性立国論』を上梓したアトキンソン氏に、真の生産性革命に必要な改革を解説してもらう。
▽生産性に対する根強い誤解
・先日あるところで、東証一部上場の某大企業の社長と同席しました。その時、その社長からこんな質問をされて、びっくりさせられました。「利益が出ていないというだけで、日本企業の生産性は低いと言い切っていいものでしょうか」。
・確かに、この連載の過去記事にも「生産性は分子が利益だから」というコメントが何度も寄せられています。 このようなコメントを見るにつけ、まだまだ生産性と収益性や、「コスト削減をすれば生産性が上がる」など、生産性と効率性を混同している人が少なくないのを痛感させられます。 混同している人が一般の方だけではなく、一部上場企業の経営者にもいるという事実を思い知らされ、正直、絶望しました。
・しかし絶望してばかりはいられません。気を取り直して、今回の記事では「イノベーション」について考えていきたいと思います。 一般的に、生産性向上の秘訣はイノベーションにあると言われています。 既存の商品の値段をただ単に上げるだけでは、消費者の納得が得られず、持続的に生産性を向上することはできません。一方で、より付加価値の高い、新しい商品を開発することができれば、より高い価格で販売することが可能になります。
・掃除機のダイソンがいい例です。市場が飽和し、コモディティ化が進んで、低価格品が主流になっていた掃除機の市場で、ダイソンは従来品よりも何万円も高い商品を導入し、定着させることに成功しました。正直に言うと、掃除機としての本質的な機能がそこまですごいかは微妙ではないかと思います。しかし、私もダイソンを使っています。購入した理由は、ストーリーとデザインに魅了されたからです。
・このように、基本性能だけではなく、デザイン性を向上させることでも、生産性を上げることは十分に可能です。たとえば自動車です。最高級車と軽自動車は、人を運ぶという自動車の基本性能には、それほど大きな違いはありません。しかし、最高級車と軽自動車では価格に何百万円から、場合によっては1000万円以上の差があります。なぜそこまで価格に違いがあるのでしょうか。それは、デザインであったり、ストーリーや夢、いわゆるブランド力に違いがあるからでしょう。
▽イノベーションに効くのは「Entrepreneurism」
・私は、最近の政府の委員会の議論や、マスコミの報道を見るにつれ、ある危惧を抱いています。それは、日本の技術力を持ってすればAIやロボットなどの分野を伸ばし、これからの人口減少下でも十分に戦っていけるという論調が多いことです。
・日本ではイノベーションという英語が「技術革新」と訳されることが多いためか、イノベーションと技術力は切っても切り離せないものだと考えられています。 事実、政府予算も技術革新ならば「何でもOK」というスタンスで、最先端技術と言えば何でも通るような風潮があるように感じます。
・しかし、「何が生産性の向上をもたらすのか」を学問的に分析した結果によると、日本で思われているのとは違う要因が重要だということが明らかにされています。英国も、相対的に生産性が低い国です。そこで、政府を上げて、対米・対独の生産性ギャップを縮小させ、国民所得を高めようとしている最中です。政府は大学と協力し、徹底的に生産性を調査・分析して、ポイントを探っています。
・この分析では生産性向上に決定的に重要だと思われる5つの要素を識別して、相関関係と因果関係を分析しています。まさにエビデンスに基づく政策(Evidence Based Policy Making)で対応しようとしているのです。
・その英国政府の分析によると、技術革新はイノベーションを起こし、生産性向上をもたらす最重要の要素ではありません。いちばん重要なのは、実は、Entrepreneurismです。「Entrepreneur」は、一般的に起業家と訳します。しかし経済学では、より広い意味合いが含まれています。「イノベーションの担い手として創造性と決断力を持って事業を創始し運営する個人事業家」という説明を見たことがありますが、これも英語のニュアンスと微妙に違います。
・国連の定義では、Entrepreneurとは、「市場に変化と成長を起こす人として、新しい発想の創出、普及、適用を促す人、チャンスを積極的に探って、それに向かって冒険的にリスクを取る人」。このようにEntrepreneurであることは、何も新しい企業だけではなく、既存企業の中でも可能です。
・英国政府の分析によると、このEntrepreneurismと生産性の間の相関係数は0.91。極めて強い関係があることが明らかになっています。 つまり、新しい発想を持って、既存の経営資源(人材、技術)を組み直したり、新しい企業体系を作ったり、技術と組織、その他の資源の新しい組み合わせを構築することが、生産性向上にはいちばん効果的だというのが結論なのです。
・このような組織変更が生産性向上にとって極めて重要だということは、1990年代のアメリカと日本の企業行動の違いを考えると合点がいきます。 アメリカの生産性は1990年代に飛躍的に向上しました。一方、日本の生産性は、まったくと言っていいほど上がりませんでした。
・なぜこの違いが生まれたのでしょうか。それは、アメリカでは多くの企業が技術革新の効果を最大限に引き出すために、組織を大幅に刷新し、仕事のやり方を大胆に変えたのに対し、日本では技術導入はしたものの、組織や仕事の仕方に手を付ける企業が少なかったからです。そのため、日本は生産性を上げることができなかったのです。
・組織や仕事のやり方を刷新できるか否かは、企業の「機敏性」がモノを言います。統計的な分析に長けている「IMD World Digital Competitiveness Ranking 2017」によると、日本企業の機敏性は世界63カ国中57位で、先進国最下位です。
・既存の経営資源の組み直しが生産性の向上に最も貢献するというのは、当たり前といえば当たり前です。新しい技術を生み出すより、既存の技術の使い方を変えるほうが簡単なのは自明でしょう。
▽2番目、3番目も「技術革新」ではない
・Entrepreneurismに次いで生産性の向上に寄与する要素は「設備投資を含めた労働者一人当たりの物的資本増強」です。物的資本とは土地、公的なインフラ、機械などを含みます。その投資行動自体もGDP成長に貢献するので、当然、生産性向上に貢献する傾向も確認されています。 物的資本の増強と生産性向上との相関係数は0.77。こちらもかなり高い数字です。実際、戦後のGDPの成長のうち、約半分は設備投資によるという分析結果も出ています。
・3番目に生産性の向上と高い相関があるのが「社員教育によるスキルアップ」で、相関係数は0.66です。イノベーションを起こし成長を推進するには、社員自身もレベルアップしていかなければならず、そのための再教育が必要なのは言うまでもありません。新しいスキルの獲得、新しい技術を活用できるスキルなどが必要になります。
・日本では職責が上がれば上がるほど、教育、研修を受ける機会が少なくなるのが一般的です。そのため、日本では経営者教育が十分ではなく、国際的には日本の経営者の能力は極めて低く評価されています。「IMD World Talent Ranking 2017」によると、日本の経営者ランキングは、機敏性が63カ国中57位、分析能力が59位、有能な経営者が58位、経営教育を受けたことがある割合が53位、海外経験が63位でした。 冒頭で紹介したように、利益と生産性の関係が理解できていない大企業の社長もいらっしゃいますので、低い評価なのもうなずけます。
・1990年代に入ってIT化が進み、経営者の勘や経験の重要性が低下する一方、調査分析能力の重要性が増していると言われています。しかし、日本の経営者の分析能力は、先のIMDの評価では63カ国中59位で、先進国中最下位です。
・日本では国民の平均年齢が高くなるにつれ、経営者も高齢化する傾向があります。つまり、学校を卒業してからより長い年月が経ち、古いやり方に慣れている経営者が、他国と比べて幅を利かせているのです。そのような高齢経営者の場合、新しいやり方の存在自体も知らないことが少なくありません。
・実際、日本は先進国なのに「いまだにファックスが多く使われている」と揶揄する声も聞こえてきます。日本では頭の古い経営者の再教育が不可欠なのですが、それに気づいている人は少なく、もちろん実行もできていないのが現実です。
▽技術革新と研究開発だけでは生産性が上がらない
・では、日本人が大好きな「技術革新」はどうなのでしょうか。実は生産性向上と「技術革新」の相関係数は意外に低く、0.56です。先に紹介した3つの要素と比べると決して高くはありません。このことは、技術革新だけでは生産性を上げるのには不十分であることを示唆しています。
・英国政府はこの問題にかなり力を入れています。英国は大学の評価が高く、さまざまな分野で革新的な技術を生み出していますが、経済全体の生産性向上に対する貢献度合いは思ったほど高くないからです。英国政府は、その原因を普及率が低いからだと分析しています。これは、2番目のEntrepreneurismと深い関係があります。要するに、研究開発のための研究開発に終始してしまい、実際に導入までこぎ着ける力が足りないのです。
・これは日本にも大いに当てはまると思います。技術大国と言いながら案外アナログの部分が多い。特に零細企業は、あたかも昭和がまだ終わっていないようなところが非常に多いです。事実、日本は特許の数が非常に多いのに、特許が活用されない比率が極めて高いとも言われています。
・また、日本では効率化と生産性向上が混同されていることも、技術開発と生産性の相関が弱い要因になっています。どういうことか、日本の農家の例で考えてみましょう。
・それまで1日かけてやっていた仕事を、機械を導入することによって半日でできるようになったとします。1日かかっていたものが半日でできるようになったということは、効率性が倍になったことを意味します。しかし、それだけでは生産性が上がったことにはなりません。 たとえば、1日の仕事が半日になっても、余った半日はテレビを見て過ごしていたら、効率はよくなりますが、生産性はむしろ下がります。理由は、機械のコストがかかるからです。
・生産性の向上とは、同じ人間の数でより多く売り上げるか、同じ売り上げをより少ない人数で上げるかのいずれかです。 機械を使い効率が倍になったのであれば、それまでの倍の農地を耕し、売り上げを倍にしなくては、生産性を上げたことにはならないのです。要するに、仕事を楽にするのではなく、その効果を最大限に生かすために産業の構造を大きく変えないといけないのです。日本ではそれが行われないので、技術革新の効果が出ないのです。
・確かに、生産性の高い人は仕事の効率もよい傾向がありますが、仕事の効率が良いからといって生産性が高いとは限りません。誤解をしている人が多いのですが、これはとても重要なポイントです。 確かに、商品をより早く作ることができれば、効率が良いことにはなります。しかしいくら効率よく作っていても、その商品が必要とされていない、いわば「ちょんまげ商品」であれば、生産性はゼロなのです。
▽日本はすでに「過剰競争」に陥っている
・先の英国政府の分析では、5つの要素の中で「競争」がもっとも生産性向上との相関が低いことが明らかになりました。分析の結果では、相関係数はたった0.05%でした。 一定の競争は必要ですが、競争が過度になると、今度は価格破壊が起こり、余裕が消えて、研究開発が犠牲となります。その結果、生産性を下げてしまうことにつながるのです。特許という制度は、このように過度な競争をいたずらに助長しないために設けられた制度だと言えるでしょう。
・ちなみにWEFによると、日本の企業間競争の厳しさは世界一です。「大胆提言!日本企業は今の半分に減るべきだ」でも紹介したように、日本では人口が減少し需要者が減っているにもかかわらず、企業の数は十分に減っていません。そもそも日本の企業の数は、経済規模に比較して多すぎです。
・これが、企業間の過当競争を招く要因になっています。特に大手企業は下請けの中小企業を競争させ、自分たちにより有利な取引条件を引き出そうとします。このことが、まわりまわって国民全体の所得を下げているという事実があるのにもかかわらずです。
・私が社長を務めている小西美術工藝社も、悩まされている1社です。自分たちの利益のために、多すぎる中小企業による過当競争を強いるのは、建設業界はじめ日本のさまざまな業界で見られる悪習でしかありません。
・私が「企業を統合させるべし」という話をすると、「企業数が減れば雇用が減って、失業者が増える」というバカげた指摘をしてくる人がいますが、そんなことはありえません。人手不足の下、労働者は生産性の高い企業に移ればいいだけです。
・これからの日本では、人口が減って財政的な余裕がますますなくなります。社会保障制度を守るためには、諸外国以上にイノベーションを徹底的に進め、生産性を上げる必要があります。 日本では今まで、技術ありきで、高い技術力に酔いしれて、それさえ開発すれば何でも解決できると信じ込んでいた長い歴史があります。
・その理由はよくわかります。日本経済の高度成長は主に急激な人口の増加によってもたらされたにもかかわらず、いまだに多くの人が、あたかも日本は高い技術力と国民の勤勉性だけで世界第2位の先進国になったと信じているからです。しかし、そんなものは神話でしかありません。
・『新・生産性立国論』やこの連載でも繰り返し述べているように、日本がこれからの時代を生き抜いていくためには、生産性の向上が絶対に不可欠です。それには今までの常識を捨てて、それこそ教育を徹底し、分析能力を高め、現実を直視できるよう経営者を鍛え直すべきなのです。
https://toyokeizai.net/articles/-/225904

第一の記事で、ルンド市には、『一大「イノベーション・エコシステム」(地域生態系)が形成されつつある。しかし、ここでの主眼は科学技術でなく、地域全体の「ソサイエタル(社会構造的)・イノベーション」にある』、 『各国のコンセンサスとして、欧州におけるイノベーションの要請は・・・地域の平和を維持するには社会的・経済的なイノベーションを持続的に興していくことが不可欠という認識である。これは、軍事分野での研究開発投入が大きい米国とは異なる点であり、平和国家日本としても学ぶことのできるモデルではないだろうか』、『「オープンイノベーション2.0」は社会的目的の達成のための多様な相互関係性(四重奏的なイノベーション)が狙いである』、『この地域が社会的イノベーションの震源地となる可能性は高い。たとえば「フューチャーセンター」や「リビングラボ」などの“場”の広がりもそのひとつだ。フューチャーセンターは欧州の政府に始まった社会的イノベーションのための横断的な対話、政策形成のための空間や機能である。リビングラボはそうしたプログラムを元に、都市や地域共同体、公共空間の中で、市民や顧客とともに社会実験、共創を進める手法である。現在、欧州地域には400近くのリビングラボが立ち上がってきており』、などは興味深い。日本のマスコミももっと欧州の動向も取上げてほしいものだ。
第二の記事で、 『本物のイノベーションを起こすには、大きく考えてはいけない。 小さく考えなければいけない。 大規模なイノベーションのプロジェクトはたいてい失敗に終わる。多額の予算、大人数のチーム、大きな結果が求められるからこそ、失敗するのだ』、『〈YouTube〉に壮大なビジョンはなかった』、などというのは初耳だが、その通りなのかも知れない。 なかでもYouTubeの話は面白かった。
第三の記事で、 『英国・・・政府は大学と協力し、徹底的に生産性を調査・分析して、ポイントを探っています。この分析では生産性向上に決定的に重要だと思われる5つの要素を識別して、相関関係と因果関係を分析しています。まさにエビデンスに基づく政策(Evidence Based Policy Making)で対応しようとしているのです』、という姿勢には大いに学ぶべきだ。日本のように、御用学者を集めた審議会で、いいかげんに決めているのとは大違いだ。 『英国政府の分析によると、このEntrepreneurismと生産性の間の相関係数は0.91。極めて強い関係があることが明らかになっています。 つまり、新しい発想を持って、既存の経営資源(人材、技術)を組み直したり、新しい企業体系を作ったり、技術と組織、その他の資源の新しい組み合わせを構築することが、生産性向上にはいちばん効果的だというのが結論なのです・・・2番目、3番目も「技術革新」ではない』、なるほど。 (英国では)『要するに、研究開発のための研究開発に終始してしまい、実際に導入までこぎ着ける力が足りないのです。 これは日本にも大いに当てはまると思います。技術大国と言いながら案外アナログの部分が多い。特に零細企業は、あたかも昭和がまだ終わっていないようなところが非常に多いです・・・また、日本では効率化と生産性向上が混同されていることも、技術開発と生産性の相関が弱い要因になっています』、『日本人が大好きな「技術革新」はどうなのでしょうか。実は生産性向上と「技術革新」の相関係数は意外に低く、0.56です。先に紹介した3つの要素と比べると決して高くはありません。このことは、技術革新だけでは生産性を上げるのには不十分であることを示唆しています』、『日本はすでに「過剰競争」に陥っている』、などの指摘は新鮮で説得力がある。日本政府も同氏を、インバウンド関連の審議会などで活用するだけでなく、経済財政諮問会議のような本丸でも活用すべきだろう。
タグ:イノベーション (その2)(欧州「ソサイエタル・イノベーション」とは 世界のイノベーション事情(1)欧州のイノベーション、「おっぱいポロリ」動画がYouTube誕生のきっかけ、日本人の「技術信仰」が生産性向上を妨げる 技術革新は「人口減少の特効薬」ではない) 紺野 登 日経ビジネスオンライン 「欧州「ソサイエタル・イノベーション」とは 世界のイノベーション事情(1)欧州のイノベーション」 一大「イノベーション・エコシステム」(地域生態系)が形成されつつある。しかし、ここでの主眼は科学技術でなく、地域全体の「ソサイエタル(社会構造的)・イノベーション」にある 各国のコンセンサスとして、欧州におけるイノベーションの要請は第一次及び第二次世界大戦の痛々しい記憶から生まれている。地域の平和を維持するには社会的・経済的なイノベーションを持続的に興していくことが不可欠という認識である。これは、軍事分野での研究開発投入が大きい米国とは異なる点であり、平和国家日本としても学ぶことのできるモデルではないだろうか スティーブン・S・ホフマン ダイヤモンド・オンライン 「「おっぱいポロリ」動画がYouTube誕生のきっかけ」 本物のイノベーションを起こすには、大きく考えてはいけない。 小さく考えなければいけない。 大規模なイノベーションのプロジェクトはたいてい失敗に終わる。多額の予算、大人数のチーム、大きな結果が求められるからこそ、失敗するのだ 〈YouTube〉に壮大なビジョンはなかった ・ユーチューブが世界最大のオンライン動画サイトになったのは、壮大なビジョンがあったからでも、計画があったからでもない。 小さなイノベーションが強烈な効果をもたらした結果だ 小さく考える環境と構造を創る デービッド・アトキンソン 東洋経済オンライン 「日本人の「技術信仰」が生産性向上を妨げる 技術革新は「人口減少の特効薬」ではない」 新・観光立国論 新・生産性立国論 この分析では生産性向上に決定的に重要だと思われる5つの要素を識別して、相関関係と因果関係を分析しています。まさにエビデンスに基づく政策(Evidence Based Policy Making)で対応しようとしているのです 英国政府の分析によると、このEntrepreneurismと生産性の間の相関係数は0.91。極めて強い関係があることが明らかになっています。 つまり、新しい発想を持って、既存の経営資源(人材、技術)を組み直したり、新しい企業体系を作ったり、技術と組織、その他の資源の新しい組み合わせを構築することが、生産性向上にはいちばん効果的だというのが結論なのです 日本企業の機敏性は世界63カ国中57位で、先進国最下位 2番目、3番目も「技術革新」ではない 日本の経営者の分析能力は、先のIMDの評価では63カ国中59位で、先進国中最下位です 日本人が大好きな「技術革新」はどうなのでしょうか。実は生産性向上と「技術革新」の相関係数は意外に低く、0.56です。先に紹介した3つの要素と比べると決して高くはありません。このことは、技術革新だけでは生産性を上げるのには不十分であることを示唆しています 日本では効率化と生産性向上が混同されていることも、技術開発と生産性の相関が弱い要因になっています 日本はすでに「過剰競争」に陥っている
nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感