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日銀の異次元緩和政策(その29)(黒田日銀はこれから窮地に陥る可能性がある 実質は「利上げ」「株買い入れ縮小」政策?、日銀の金融緩和に見る行動経済学の「偽薬効果」と「埋没費用の呪縛」、日銀が金利抑制をやめたら長期金利は暴騰しかねない) [経済政策]

日銀の異次元緩和政策については、2月19日に取上げた。7月末に日銀は「緩和の枠組み強化」なる微調整を行ったのを受けた今日は、(その29)(黒田日銀はこれから窮地に陥る可能性がある 実質は「利上げ」「株買い入れ縮小」政策?、日銀の金融緩和に見る行動経済学の「偽薬効果」と「埋没費用の呪縛」、日銀が金利抑制をやめたら長期金利は暴騰しかねない)である。

先ずは、財務省出身で慶應義塾大学准教授の小幡 績氏が8月2日付け東洋経済オンラインに寄稿した「黒田日銀はこれから窮地に陥る可能性がある 実質は「利上げ」「株買い入れ縮小」政策?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/232068
・『メディアも市場参加者も日銀の大きな政策変更を認識せず、現状維持に近い政策と受け止めた。なかには「緩和の枠組み強化」という日銀の使った文言を真に受けて、緩和強化と受け止めた投資家もいて、株価はいったん上昇、長期金利は大幅低下、円安も進んだ。 市場の受け止め方はまったくの誤りである。 海外の投資家が、今回の日銀の政策をハト派、すなわち、緩和に傾いた政策となったと判断したのは、事前の緩和終了予測が強すぎた反動だ。 これはある意味まともな予測だった。アメリカは着実なペースで利上げを進め、欧州ですら、量的緩和の終了を宣言し、出口にはっきりと向かい始めた。日本は欧州以上に景気は順調だから、緩和を続ける理由はなく、また量的緩和の規模がまさに異次元で、欧州とは比べ物にならないほど中央銀行のバランスシートが膨らんでいる。 したがって、欧州よりも量的緩和を終了する必要性は強く、欧州よりも早いタイミングで、また急速に量的緩和を縮小するのが、景気調節を目的とした普通の金融政策の観点からは当然だったにもかかわらず、これまで大規模緩和を続けてきた。 このような状況の下、7月に日銀が物価の見通しについて見直しを行うと表明していたことから、政策を見直し、緩和をはっきりと縮小し、長期金利ターゲットの引き上げもありうると、大多数の海外トレーダーは予測していた。しかし、利上げどころか、金利に関するフォワードガイダンスの導入で利上げは少なくとも2019年10月の消費税引き上げの影響が落ち着くまでない、ということで2020年以降になるという見通しとなり、マーケットはいったん円安、株高、金利低下となったのである』、なるほど。
・『しかし、日銀の政策決定文や黒田東彦総裁の記者会見の話をよく聞いてみると、まったく別の事実が明らかになる。 イールドカーブコントロール、要は長期金利ターゲットだが、この10年物国債金利の上限が0.1%から0.2%に切り上げられた。変動幅の拡大と説明しているが、要は0.1%の利上げである。国債の買い入れ額は、80兆円をメド、という言葉を使いながら0.1%を上限として、できるかぎり買い入れ額を縮小しようとしてきたのが、これまでの政策である。それが0.2%になるのだから、利上げ以外の何物でもない。 実際、ヘッジファンドの一部はこれを理解し、翌日には10年物国債先物に仕掛けてきて、金利は8月1日には0.115%まで上昇。翌2日はさらに上昇している』、筆者は僅か0.1%ではあっても利上げと捉えるべきと主張している。
・『最も重要なのは、「資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買い入れ額は上下に変動しうるものとする」という文言である。つまり、柔軟化ということであるが、国債の80兆円の柔軟化とは、要は額を減らすことであったから、ETFとREITも柔軟化とは、額をできるかぎり減らすことであり、すなわち、株式買い入れ額の事実上の縮小である。  これらの措置の市場へのインパクトを限定的にするために、金利のフォワードガイダンスという保険をかけて、市場を鎮めたわけだが、逆に言えば、鎮める必要があるぐらい、はっきりとした緩和縮小政策の実弾を打っているということである・・・市場は、間抜けにも(あるいは確信犯かもしれないが)、今後、長期金利の0.2%への上昇、およびETF買い入れ額の減少という2つの事実に気づき、(わざと)騒いで、「日銀のだまし討ち」と非難するだろう。そして、市場は混乱し、日銀はそのときに窮地に立たされる可能性がある。 まずは、ヘッジファンドは長期金利0.2%を試してくるから、ここの戦いが始まる。その次は株式市場となる。 実は、次回(9月18~19日)以降の政策決定会合が本当の日銀の正念場なのである』、市場の混乱はまだ本格化してはいないようだが、今後、答えが出てくるだろう。

次に、野村證券出身で経済コラムニストの大江英樹氏が8月7日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「日銀の金融緩和に見る行動経済学の「偽薬効果」と「埋没費用の呪縛」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/176645
・『2013年以降続いた大胆な金融緩和政策と、最近の政策の傾向を見ていると、心理学や行動経済学の面から非常に興味深いものが見えてくる。一つは「プラシーボ効果」、そしてもう一つが・・・「サンクコスト」だ。 そこで今回は、日銀の金融政策を行動経済学の視点から考えてみよう・・・プラシーボ効果というのは「偽薬効果」ともいわれる。病気の患者に本当の薬ではない、ただの栄養剤とか、極端な場合は小麦粉を与えても、心理的な効果で病気がよくなるというものだ。 なぜそうなるかのメカニズムは完全に解明されていないが、確かな効果があることは多くの実験で実証されている。久留米大学の塚崎公義教授は、以前から度々、日銀の政策によって株価が上がったのはこの「偽薬効果」だと指摘してきた。 筆者も塚崎教授の意見に同意する。金融緩和策の狙いをごく簡単に言うと、大胆な金融緩和を行えば世の中にお金が出回るはずだ、そうすれば景気がよくなり物価も株価も上がるというものである』、「プラシーボ効果」とはまさにピッタリのネーミングだ。
・『ところが、実際には世の中にお金は回らず、物価も上がらず、株価だけは上がった。 なぜ、そうなったのか。普通に考えれば、世の中にお金が出回ることでその資金が株に向かうと考えるべきだが、実際にはそれほど世の中にお金は回らなかった。にもかかわらず株が上がったこと、それこそがプラシーボ効果なのだ。 株価というものは、市場に参加する投資家の“期待値”によって形成されるものだ。したがって、金融緩和によって景気がよくなるから株価も上がると信じる人が多く出てくると株価は上昇する。なぜなら、多くの人は景気がよくなると株が上がると考えているからだ。 ところが、実際は逆のことも多い。つまり景気がよくなるから株が上がるのではなく、株が上がるから景気がよくなるということである。「資産効果」は、その典型といっていいだろう。  もちろん、投資家の期待感だけで株価が上がっても、それが維持されるとは限らない。アベノミクスの初期においては、プラシーボ効果によって株価上昇が起きたことは事実だと思うが、それだけで株価上昇が続くほど市場は甘くない。確かな企業業績の向上という裏づけがあるからこそ、株価上昇は続いたのだといえよう。 では、なぜ金融緩和を実施しているにもかかわらず、世の中にお金が回らなくなったか。それは日銀が銀行から国債を買って銀行にお金を供給したにもかかわらず、そのお金が市中に出回ることなく、また日銀の当座預金勘定に戻るということが起きたからだ。 そこで銀行に対して、これ以上日銀への預け入れを増やさず、市中に資金供給を促すという目的で、2016年2月から実施されたのが「マイナス金利政策」である。しかしながら、銀行の貸し出しが増えないのは銀行だけに理由があるわけではなく、多くの企業が手元に資金を多く保有しているからだ。 マイナス金利政策は実効性のある政策だろうが、これには副作用も伴う。日銀も当然そのことは十分理解しており、実際に今回の金融政策決定会合においては、金融機関の収益低下や、国債市場の取引の減少といった副作用も配慮された内容になっていることがうかがえる』、「マイナス金利政策は実効性のある政策だろうが」というのには違和感がある。「多くの企業が手元に資金を多く保有」している状況下では、無意味な政策だと思う。それを効果があると思い込まされている筆者も「プラシーボ効果」に囚われているようだ。
・『そういった副作用の懸念はあるものの、大胆な政策転換も拙速には事を運べないという空気が今回の会合には見て取れると考える。そうした政策転換については常に「サンクコストの呪縛」がつきまとうからだ・・・サンクコストとは「埋没費用」ともいって、既に払ってしまったので、取り戻すことができない費用のことをいう・・・これは・・・政策においても、企業や組織においても頻繁にみられる現象である。 例えば、泥沼化した日中戦争で、もし早い時期に撤退していたとしたら太平洋戦争は避けられたかもしれない。あるいは企業でも、コンサルタントを入れて始めたプロジェクトは、多額のコンサル料を支払ってしまっているがゆえに、効果がなさそうだと分かってもそのまま続けてしまっているというのはありがちな話だ。 筆者は、何となく日銀がこの「サンクコストの呪縛」に陥りはしないかということも懸念している。「ここまで緩和策を続けてきたのに、ここで止めてしまったら、今までの意味がなくなってしまう」という心理だ・・・国の重要な政策といえども人間が実行しているわけだから、案外こうした心理的な罠に陥ることはあり得る。特に組織で意思決定する時には、「同調圧力」だって起こりがちだ。そういうことが正しい意思決定を損なう例を、われわれはいくつも見てきた。 しかしながら、過ぎ去った過去を取り戻すことはできないのだから、サンクコストにとらわれることなく、状況の変化に応じて柔軟に政策は変更した方がいいと考えるべきだろう・・・もちろん金融政策の変更という重大な事項はアナウンスメント効果が大きいので、不用意に政策方針の変更を発表すれば大きな混乱を招く恐れがある。そういう意味で今回の会合では、サンクコストの呪縛に陥らないよう方針変更を前面に出さず、上手に軌道修正していこうという空気が見て取れるように思える・・・景気には必ず大きな波があり、数年以内には大きな景気の減速は起こり得る懸念もある。 緩和策、超低金利策を続けていくと、仮にそのような大きな景気後退の動きが出てきた時に、金融政策では何も手を打てなくなってしまい、結果として次の不況は相当長引く可能性があり得るということも多くの識者が指摘していることである。 願わくば、政策におけるサンクコストの呪縛にとらわれることなく、必要とあれば適切な軌道修正をやってほしいものである』、金融政策に求められる柔軟性と一貫性には矛盾する面がある。サンクコストに囚われるべきでないとして柔軟に政策変更をし過ぎれば、市場や国民の信認を失うことになりかねない。これは、なかなか難しい問題である。
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