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中東情勢(その13)(トルコ問題1)(トルコ・ショック 真の懸念は「欧州難民危機」再来、トルコ危機 世界金融秩序の凋落を露呈、米国とトルコ 強権大統領の経済音痴が招く危機 トランプvs.エルドアン 米国の経済学者はいずこへ) [世界情勢]

昨日に続いて、中東情勢(その13)(トルコ問題1)(トルコ・ショック 真の懸念は「欧州難民危機」再来、トルコ危機 世界金融秩序の凋落を露呈、米国とトルコ 強権大統領の経済音痴が招く危機 トランプvs.エルドアン 米国の経済学者はいずこへ)を取上げよう。

先ずは、みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏が8月14日付けロイターに寄稿した「コラム:トルコ・ショック、真の懸念は「欧州難民危機」再来=唐鎌大輔氏」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/column-forexforum-daisuke-karakama-idJPKBN1KZ05W
・『トルコリラ急落を受けた混乱が新興国のみならず先進国の市場にも影響を及ぼしている・・・米連邦準備理事会(FRB)が引き締めを継続している以上、遅かれ早かれ「新興国市場からの資本流出」自体は起こるべくして起こることであり、見通しを作る上では自然な想定であると述べてきた。 つまり、「あとはきっかけ待ち」という状況にあったところ、今回のトルコリラ・ショックが起きたというのが筆者の理解だ。これを機に新興国市場からの資金流出が続く展開に構えたい』、想定通りで意外性はないようだ。
・『もともとトルコリラ安の底流には中央銀行への政策介入も辞さないエルドアン大統領の経済政策という内政要因があったが、対米関係の悪化という外交要因もあった。とりわけクーデター容疑でトルコ当局に拘束されている米国人牧師を巡って問題がこじれた結果、「鉄鋼・アルミニウムに係る追加関税率を倍に引き上げる」という米政府の決定につながり、トルコリラ急落のトリガーを引くに至っている』、なるほど。
・『トルコが現状を打開するために必要な選択肢は、1)緊急利上げに踏み切る、2)米国人牧師を解放する、3)資本規制の強化、4)国際金融(IMF)支援の要請である。 もっとも、「利下げをすればインフレ状況も落ち着く」という奇異な主張の持ち主であるエルドアン大統領は8月12日の演説で、1番目の選択肢については「自分が生きている限り、金利のわなには落ちない」と一蹴しており、その上で2番目にも応じない姿勢を明確にしている。また、4番目の選択肢についても「政治的主権を放棄しろというのか」と述べ、これも退けた。 今のところトルコは、3番目の選択肢を取っている。8月13日早朝、トルコ銀行調整監視機構は・・・投機的なリラ売りの抑制に踏み出している。 しかし、投機のリラ売りを抑制しても同国が経常赤字国であるという事実は変わらないので実需のリラ売りは残る。資本規制を強化するほど、トルコへの投資は敬遠されるはずであり、経常赤字のファイナンスは難しくなる。新興国が危機に陥る際の典型的な構図が見て取れる』、資本規制強化は対策というより、事態をますます悪化させるようだ。
・『トルコ・ショックはどれほどの震度を持つと考えるべきなのか。今回、トルコ・ショックが先進国市場にまで影響を及ぼし始めたのは、欧州系銀行がトルコに対して大きな債権を持っているのではないかという懸念を8月10日付の英紙フィナンシャル・タイムズが報じてからだった。 同報道では「欧州中銀(ECB)がスペイン、フランス、イタリアの国内銀行が抱えるトルコ向け債権の大きさを懸念している」といった趣旨の関係者のコメントが紹介されており、記事の中で各国大手銀行の名前が具体的に挙げられていたことから同日の対象銘柄株価は大きく値を下げ、これが世界的な株安につながった格好である。 しかし、国際決済銀行(BIS)の統計を見る限り、そこまで懸念すべき事態なのかは判断がつかない。確かに、トルコの国内銀行が外国銀行に対して持つ対外債務の約6割がスペイン・フランス・イタリアによって占められていることから、市場が「トルコ発、スペイン・フランス・イタリア経由、ユーロ圏行き」といった危機の波及経路を心配することも一理ある。このところのトルコリラ急落を踏まえれば、外貨で借り入れている債務の為替ヘッジが進んでおらず債務不履行に陥る部分が出てくる可能性は確かにある。 とはいえ、トルコにとって欧州が重要な債権者であるからと言って、欧州にとってトルコが同じくらい重要な債務者であるとは限らない。例えば、国際与信残高(国外向けの与信残高)を見ると、スペインは約1.8兆ドル、フランスは約3.8兆ドル、イタリアは0.9兆ドルである。ちなみに、ドイツは約2兆ドルだ。 ここで、それらユーロ圏4大国の国際与信残高合計に占めるトルコ向け与信残高の割合を計算してみると、2%にも満たないことが分かる。国別に見てもスペインの4.5%が最大であり、トルコ・ショックがそのまま欧州金融システムを揺るがすような話になるとは考えにくい』、欧州金融システムに関しては一安心のようだ。
・『だが、問題がないわけではない。というのも、欧州連合(EU)はトルコに対して大きな借りがある。2015年に勃発し「債務危機を超える危機」とも言われる欧州難民危機は今も根本的な解決には至っておらず、正確には解決のめどすら立っていない。だが、その一方で大きな混乱も招いていない。 これはなぜなのか。ひとえにEUとの合意に従ってトルコが難民をせき止めているからである。EUに流入する難民の多くは内戦激化により祖国を飛び出したシリア人であり、トルコ経由でギリシャにこぎ着けてEUに入るというバルカン半島を経るルートを利用していた。ゆえに、EUとしては何とか経由地であるトルコの協力を得て流入をせき止める必要があった。 2016年3月18日、ドイツが主導する格好でトルコとの間で成立した「EU・トルコ合意」は非常にラフに言えば、「カネをやるから難民を引き取ってくれ」という趣旨の危うい合意だが、効果はてきめんだった。少なくとも、その合意がEU(とりわけドイツ)に余裕を与えているのは紛れもない事実である』、トルコがとりあえず引き取っている難民問題は、確かに大問題だ。
・『これは裏を返せば、難民危機はトルコひいてはエルドアン政権次第ということである。ここに至るまでの大統領の言動を見る限り、今後、意図的に難民管理をずさんなものにするリスクはないとは言えまい・・・トルコの政治・経済自体が混乱を極めれば難民を管理しきれないという過失も考えられる。どちらにせよトルコがいつまでも欧州のために難民をせき止めてくれる保証はない。 率直に言って、EU域内に難民流入が再開するのは非常にまずい。そうなった場合、難民流入に不平不満を抱えるイタリアのポピュリスト政権が勢いづくだろう。ただでさえ、それを切り札として欧州委員会と交渉する雰囲気があるのだから、事態はより複雑になるはずだ。 また、10月にバイエルン州選挙を控えるメルケル独政権も難渋するだろう。難民受け入れのあり方を巡って長年の姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)がメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)と仲たがいを起こしたことが6月に話題になったばかりだ。ここで状況が悪化したら余計に両者の溝が埋め難くなろう。 さらに2019年5月には欧州議会選挙もある。EU懐疑的な会派をこれ以上躍進させないためにも難民を巡る状況はやはり悪化させるわけにはいかない。 金融市場ではトルコの国内金融システム混乱がユーロ圏に波及する経路が不安視されているが、現実的にはエルドアン政権が欧州難民危機ひいてはEU政治安定の生殺与奪を握っている事実の方がより大きな脅威であるように思われる』、確かにトルコ問題からは目を離せないようだ。

次に、8月15日ロイターが掲載したコラムニストのEdward Hadas氏による「コラム:トルコ危機、世界金融秩序の凋落を露呈」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/column-turkey-crisis-idJPKBN1L00MT
・『トルコの通貨危機は予想しやすかった。それよりも驚くべきは、世界の反応の弱さだ。従来の世界金融秩序が非常に惜しまれる事態だ。 大規模な経常赤字を補うため短期融資に頼り続けてきた国に、大混乱が起きることはほぼ必然といえる。それだけではない。多額の外貨建て借入金と高インフレが、混乱を拡大した。トルコ政府が、経済維持の一助となった国際金融機関の助言をはねつけたことも、混乱に拍車をかけた。 トルコのエルドアン大統領が、これまで深刻な問題を回避できたのは幸運だった。しかし現在、彼は危機に直面している。自国通貨リラは5月初め以降、対ドルで42%下落。国内で金融危機が起きるのを防ぐには、奇跡か国際支援が必要だろう』、なるほど。
・『2009年、エルドアン氏が当時首相として率いていたトルコ政府が、国際通貨基金(IMF)からの助言をもはや必要としないと発表してから、トルコは大きく様変わりした。「つえなしで前に進む」ことを選んだのだ。 トルコは長年、IMFの支援に大きく依存していた。1970年から2009年に至る大半の期間で、IMFから「スタンドバイ取り決め(SBA)」を受けてきた。トルコ政府が経済改革に取り組み続ける限り、IMFは支援を約束した。 だが今回、IMFはいまだにトルコからの電話を待っている。IMFにはリラを安定させるのに必要な知識と、恐らくそのための資金もあるが、エルドアン大統領はIMFをトルコ国民の「敵役」に選んだ。 IMFに対する反感は大統領の国家主義的で独裁主義的な意図に沿うものだが、同時に痛ましいパターンにも一致する。伝統的な権力者は、世界的な金融問題に見舞われると、身動きが取れなくなる。 自由貿易や自由な資本移動、自由市場の原則にやみくもに忠実だと広くみられていることで、IMFの名声は傷つけられた・・・専務理事を務めるクリスティーヌ・ラガルド氏の下でIMFのアプローチは軟化したものの、トルコの頑なさは、かつては存在したモラル的権威がIMFに欠けていることを示唆している』、エルドアンにしてみれば、IMFに指図されるのはもうこりごりということなのだろうが、トルコ経済はまだまだ支援を必要としている筈だ。
・『そして米国はかつて、反抗的な政府や債権者、交渉者に圧力をかける際には信頼できる圧力源だった。世界金融システムの管理人として、軍事的覇権を握る国として、また世界最大の経済国として、米国は強力なアメとムチを持っていた。 だがそれはもう過去の話だ。 トランプ米大統領は、米国市民のアンドリュー・ブランソン牧師がトルコで自宅軟禁されていることの報復として、トルコに追加関税をかけることでこの危機を悪化させた。トランプ政権は、北大西洋条約機構(NATO)同盟国であるトルコの経済的運命に、あるいは敵対的で弱体化したトルコが中東での米国の権益に与える影響に、無関心のように見える。かつては世界秩序の保証人だった米国は、ならず者になった。 一方、経済力のある欧州連合(EU)は2017年のトルコ輸出の47%を受け入れている。欧州の銀行は、トルコの財政リスクにもっともさらされており、同国の混乱を収束するのを支援する動機がある。 さらに言えば、トルコには推定350万人のシリア難民がいる。トルコが受け入れなければ、一部は欧州に向かっているかもしれない。 とはいえ、EUがトルコに支援を働きかけようとしているようには見えない。エルドアン大統領は楽な交渉相手ではないが、ブリュッセル、あるいは他のEU加盟国から支援の公的な申し出を受けていない。 従来の世界金融秩序が古くさく、大きな欠陥があることはほぼ間違いない。IMFは長いこと硬化したままだし、米国は必ずしも誠実な仲介者ではなかった。欧州の結束が十分であったことは一度もない。この3つは、世界金融システムの無謀な傾向を抑制するのにほとんど何もしなかった。それでも、失速し、エンジンが止まりかけて煙を出しているオンボロ車のように、歩くよりは好ましいものとされている。 では、次に何が起きるのか。 トルコ政府は計画があると明らかにしているが、国際債権団から相当な支援がなければ、政治能力が試される深刻なリセッション(景気後退)はほぼ不可避だろう。隣国ギリシャでは、2008年に海外からの資金調達が突然止まったことにより、6年間で国内総生産(GDP)が27%落ち込んだ。ギリシャの経常赤字は現在のトルコのそれより大きいが、トルコはインフレと資本逃避という問題も抱えており、さらにたちが悪い』、トルコ政府の計画とは一体、どんなものなのだろう。
・『トルコの問題にとって最善の解決策は、新たな指導者と刷新された機関による、より広範な世界金融秩序を確立することだろう。パキスタンや南アフリカといった、海外金融機関の善意に頼りすぎている国々にとっても、これは良いニュースとなる。 残念なことに、そうした新秩序はまだ見えてこない。中国には必要とされる富と経験、世界からの尊敬に欠けている。その上、自国の銀行セクターの制御に苦労している。 危機は、時に皆の頭脳を結集させることがある。従来の大国は恐らく、古いオンボロ車を集めて、トルコのために中途半端でそこそこの対策を見いだすことになるだろう。 たとえそうなったとしても、リラの急落は強力な警告を発している。つまり、通貨危機が今後も起きる可能性が非常に高いということだ。世界経済を導く指導者がいなければ、それは現実のものとなる』、大統領選挙が行われたばかりのトルコにとって、「新たな指導者」などは吞める筈がない。先行きが全く読めない状態が続きそうだ。

第三に、元日経新聞論説主幹の岡部 直明氏が8月22日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「米国とトルコ、強権大統領の経済音痴が招く危機 トランプvs.エルドアン、米国の経済学者はいずこへ」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/071400054/082100075/?P=1
・『強権大統領の経済音痴が危機を増幅している。トルコショックがおさまらないのは、「金利は搾取の道具」と考えるエルドアン大統領が中央銀行を支配して利上げを認めないからである。利上げという通貨防衛の鉄則を無視するのは、経済常識の欠如を示している。 トルコショックは対外債務を抱える新興国に連鎖する。そのトルコに対して、制裁関税を課したトランプ米大統領もまた無知をさらけ出している。二国間の貿易赤字を「損失」と勘違いし、赤字解消を要求するのは、グローバル経済の相互依存を知らぬ大きな過ちである。こうした強権大統領の経済音痴は、民主主義と資本主義に複合危機をもたらし、世界経済を大きく揺さぶっている』、経済音痴の2人の大統領に振り回されるとは、いい加減にしてもらいたいところだ。
・『2016年のクーデター未遂事件以来、強権化を極めたトルコのエルドアン大統領である。強権によって、いっさいの批判を許さず締め付けを強めており、欧州連合(EU)も警戒感を高めてきた。問題は、エルドアン経済政策が独善に陥っていることだ。米欧が金融緩和からの出口戦略に動いているのに、内需刺激をやめなかった。 なにより、エルドアン大統領は金利引き上げを認めなかった。「金利は搾取の道具」と考える強権大統領がいるかぎり、市場は安心して通貨リラを売り込める。トルコショックのきっかけは、米国との対立だった。トランプ米大統領は、トルコが拘束する米国人牧師の解放を求めて、鉄鋼・アルミニウムの関税を倍増する制裁関税発動を打ち出した。 しかし、トルコショックの基本的な要因は、強権大統領の経済音痴にあることは間違いない。中央銀行は大統領の完全支配下にある。心配したメルケル独首相が「中央銀行の独立性を確保せよ」と忠告したほどだ。中央銀行は、エルドアン大統領の「金利は搾取」論を忖度して、政策金利は上げられず、なんとか市場金利の利上げ誘導でしのごうとしているが、限界は明らかだ。 巨額の対外債務を抱え負担が膨らむ民間企業の団体などは、通貨防衛のための利上げを求めるが、封じ込まれている。インフレの進行が経済を危機に陥れ国民生活を圧迫するなかで、トルコ国債は格下げされた』、いくら「強権政治」といっても、国民がいつまで耐えられるのだろうか。
・『通常、通貨危機に陥った国は、国際通貨基金(IMF)の支援を仰ぐが、ここでもエルドアン大統領は「政治主権の放棄になる」と自説に固執し、IMF依存を避けている・・・IMF依存を避ける代わりに、サウジアラビアとの断交で孤立しているカタールと直接投資などで関係を深め、通貨スワップ協定を結んだ。いかにも付け焼刃だ。独仏などEUからの支援も期待しているが、限界はあるだろう。 トルコショックが収まるには、エルドアン大統領自身が強権政治を改め、中央銀行の独立を認め、利上げなど経済常識を取り戻すしかない。しかし、それはいまのところ望み薄というしかない』、出口は全く見えないようだ。
・『トルコショックは、対外債務を抱える新興国に連鎖する。トルコリラと並んでアルゼンチンペソは昨年末比で4割の下落を記録した。ロシアルーブルやブラジルレアルも1割を上回る下落である・・・ドル建て債務の多い国ほど、通貨安に見舞われる。アルゼンチンは年40%の政策金利を45%にする緊急利上げに追い込まれた。下落幅が相対的に小さいインドネシアまでが利上げを余儀なくされている。 欧州にも不安が広がる。トルコ向け債権はスペイン、フランス、イタリアの銀行に多く、トルコが受け入れる直接投資残高の75%は欧州からの投資である。ユーロ危機からの回復途上でまだぜい弱な南欧経済が揺さぶられることにもなりかねない。 何よりトルコの混迷がEUの難民危機を再燃させることが懸念される。シリアからの難民がトルコ経由で、再びEUに流入する可能性が高まるからだ。難民問題の解決に政権維持をかけるメルケル独首相が、トルコショックの打開に手をさしのべようとするのはそのためだ。 トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国であり、トルコの混迷は、ただでさえきしんでいる米欧同盟に新たな波乱要因を持ち込む。トルコは中東の地域パワーであるとともに、EUに接し長く加盟交渉を続けてきた。この複雑な地域の要衝が混乱すれば、米欧だけでなく、ロシアや中国を含めてパワーバランスを崩す恐れもある』、確かにトルコは地政学的にも極めて重要な地位を占めている。EU加盟は、現在の強権的政治を続ける限り、遠のく一方だろう。
・『トルコショックの引き金を引いたのは、トランプ米大統領である。中間選挙をにらんで選挙地盤の福音派牧師の解放を最優先させているためだが、トランプ氏の経済音痴こそ世界経済を混乱させる最大の要因である。環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し、中国、EU、日本など主要国・地域を相手した関税引き上げによる貿易戦争は、2国間の貿易赤字を「損失」と考える大誤解からきている。貿易に損はない。貿易は「ゼロサム」の世界ではない。貿易の拡大は「プラスサム」「ウィンウィン」そのものである。 たしかに、米国にはこれまでにも2国間の貿易赤字を解消しようとする貿易摩擦はあった。日米間では、繊維、カラーテレビ、鉄鋼、自動車、半導体など個別摩擦の火種が絶えなかった。しかし、苦労してまとめあげたはずの通商合意は結局、何の意味ももたなかった。それが日米の苦い教訓である。その一方でグローバル経済が進展するなかで、貿易だけでなく投資や技術協力による相互依存が深まり、2国間の貿易摩擦は「過去の遺物」になっていた。 トランプ流保護主義はこの「過去の遺物」をあえて掘り返し、時計の針を数十年逆戻りさせるものである。世界がもの作りとIT(情報技術)を融合させる「第4次産業革命」のさなかにあるなかで、時代遅れの発想法である。重厚長大産業の保護を「安全保障」のための言い張るのは無理がある。 もちろん、中国に対して「知的財産権」の保護を求めるのは意味があるが、米中2国間の貿易赤字の解消のため関税引き上げをエスカレートさせるのは、誤った選択である。中国に知的財産権の保護を求めるにあたっては、世界貿易機関(WTO)のルールのもとで日米欧の主要先進国が連携することこそ重要である』、トランプは本当に罪作りな大統領だ。
・『トランプ大統領の経済音痴ぶりに、米国の経済学者がなぜ立ち上がらないのか不思議である。トランプ流保護主義の暴走には、経済団体は、自動車業界も含め反対を表明した。グローバル経済時代の先頭を行く米国にとって、保護主義は自殺行為になることが目に見えているからだ。 トランプ政権には、まともな経済学者は参加していない。有力大学のビジネススクールを出たのに、トランプ大統領は経済学者嫌いである。反知性主義のあらわれだろう。経済学者不在は、戦後の米国の歴代政権でも初めてのことである。よく共通項を指摘されるレーガン政権の「レーガノミクス」のように、「トランプノミクス」などと呼ばれることもない。 経済学者の側が政権に参加してしまえば、その後の「レピュテーション・リスク」(名声の危険)が高まると読んでいる面はある。しかし、トランプ大統領の経済音痴のために世界経済が危機に巻き込まれようとしているときに、米国の経済学者の「沈黙」は無責任である。ここで虚無主義に身を任すのは罪でさえある。 何のためにノーベル経済学賞の栄誉に浴する多くの経済学者を輩出したか、米国の経済学者たちは連帯して、トランプ大統領に、粘り強く過ちを説くべきである。歴代政権に影響力のあったサミュエルソン教授やフリードマン教授がいたら、学派を超えて間違いなく連帯していただろう』、「米国の経済学者の「沈黙」は無責任」には全く同感だ。日本の危機時には、いろいろ無責任なアドバイスをしておきながら、肝心の米国本国では沈黙したままというのは、どういう神経なのだろう。
・『強権政治が危険なのは、戦後世界の土台になってきた民主主義と資本主義の複合危機を招きかねないところにある。 強権政治に共通しているのは、批判を許さず言論の自由を葬り去ろうとしている点にある。トランプ大統領が米国の主要メディアを「国民の敵」と呼び、批判的な報道を「フェイク(偽)ニュース」と決めつけるのは、言論の自由を最優先してきた米国の建国の精神を真っ向から否定するものだ。 こうしたトランプ氏の反メディア姿勢に対して、ニューヨーク・タイムズやボストン・グローブなど全米300以上の新聞社が一斉に反対の社説を掲げた。これは米国に言論の自由が生きている証拠である。米国の民主主義の健全性を示している。その一方で、トランプ大統領のあからさまな反メディア姿勢が米国の有権者の間で一定の支持を得ているのも事実である。米国の民主主義の衰退を直視するしかない。 問題は、こうした民主主義の衰退が資本主義の危機に結びつきかねないことだ。強権政治による中央銀行への介入は危険な兆候だ。エルドアン大統領がトルコ中銀を支配下に置くだけでなく、トランプ大統領も「低金利が好きだ」と公言し、パウエル米連邦制度準備理事会(FRB)議長の利上げ路線を「気に入らない」とあからさまにけん制している。誤った経済観にもとづく中央銀行への介入は、世界経済を危機にさらすことなる。 「大統領よ、あなたは間違っている」。こう正面切って言える勇気ある人々が続々登場するのを期待したい。強権に対抗できるのは、自由な言論しかない』、全く同感である。
タグ:中東情勢 (その13)(トルコ問題1)(トルコ・ショック 真の懸念は「欧州難民危機」再来、トルコ危機 世界金融秩序の凋落を露呈、米国とトルコ 強権大統領の経済音痴が招く危機 トランプvs.エルドアン 米国の経済学者はいずこへ) 唐鎌大輔 ロイター 「コラム:トルコ・ショック、真の懸念は「欧州難民危機」再来=唐鎌大輔氏」 トルコリラ急落 新興国市場からの資本流出 中央銀行への政策介入も辞さないエルドアン大統領の経済政策という内政要因 対米関係の悪化という外交要因もあった クーデター容疑でトルコ当局に拘束されている米国人牧師を巡って問題がこじれた結果 「鉄鋼・アルミニウムに係る追加関税率を倍に引き上げる」という米政府の決定につながり、トルコリラ急落のトリガーを引くに至っている 必要な選択肢 緊急利上げ 米国人牧師を解放 資本規制の強化 国際金融(IMF)支援の要請 投機的なリラ売りの抑制 スペイン、フランス、イタリアの国内銀行が抱えるトルコ向け債権の大きさを懸念 トルコの国内銀行が外国銀行に対して持つ対外債務の約6割がスペイン・フランス・イタリアによって占められている ユーロ圏4大国の国際与信残高合計に占めるトルコ向け与信残高の割合を計算してみると、2%にも満たない EUとの合意に従ってトルコが難民をせき止めているからである EU・トルコ合意 効果はてきめんだった 難民危機はトルコひいてはエルドアン政権次第 トルコがいつまでも欧州のために難民をせき止めてくれる保証はない EU域内に難民流入が再開するのは非常にまずい 難民流入に不平不満を抱えるイタリアのポピュリスト政権が勢いづくだろう エルドアン政権が欧州難民危機ひいてはEU政治安定の生殺与奪を握っている事実の方がより大きな脅威であるように思われる Edward Hadas氏 「コラム:トルコ危機、世界金融秩序の凋落を露呈」 自国通貨リラは5月初め以降、対ドルで42%下落 2009年、エルドアン氏が当時首相として率いていたトルコ政府が、国際通貨基金(IMF)からの助言をもはや必要としないと発表してから、トルコは大きく様変わりした 「つえなしで前に進む」 トルコは長年、IMFの支援に大きく依存 IMFに対する反感は大統領の国家主義的で独裁主義的な意図に沿うものだが、同時に痛ましいパターンにも一致する。伝統的な権力者は、世界的な金融問題に見舞われると、身動きが取れなくなる 米国はかつて、反抗的な政府や債権者、交渉者に圧力をかける際には信頼できる圧力源だった 世界最大の経済国として、米国は強力なアメとムチを持っていた もう過去の話 トランプ米大統領 米国市民のアンドリュー・ブランソン牧師がトルコで自宅軟禁されていることの報復 トルコに追加関税をかけることでこの危機を悪化させた 欧州の銀行は、トルコの財政リスクにもっともさらされており、同国の混乱を収束するのを支援する動機がある トルコには推定350万人のシリア難民 国際債権団から相当な支援がなければ、政治能力が試される深刻なリセッション(景気後退)はほぼ不可避だろう リラの急落は強力な警告を発している。つまり、通貨危機が今後も起きる可能性が非常に高いということだ。世界経済を導く指導者がいなければ、それは現実のものとなる 岡部 直明 日経ビジネスオンライン 「米国とトルコ、強権大統領の経済音痴が招く危機 トランプvs.エルドアン、米国の経済学者はいずこへ」 強権大統領の経済音痴が危機を増幅 「金利は搾取の道具」 エルドアン大統領が中央銀行を支配して利上げを認めないから 制裁関税を課したトランプ米大統領もまた無知をさらけ出している。二国間の貿易赤字を「損失」と勘違いし、赤字解消を要求するのは、グローバル経済の相互依存を知らぬ大きな過ちである 経済音痴 民主主義と資本主義に複合危機をもたらし、世界経済を大きく揺さぶっている エルドアン経済政策が独善に陥っていることだ トルコショックの基本的な要因は、強権大統領の経済音痴にあることは間違いない エルドアン大統領は「政治主権の放棄になる」と自説に固執し、IMF依存を避けている トルコショックは、対外債務を抱える新興国に連鎖 北大西洋条約機構(NATO)加盟国 米欧同盟に新たな波乱要因を持ち込む この複雑な地域の要衝が混乱すれば、米欧だけでなく、ロシアや中国を含めてパワーバランスを崩す恐れもある トルコショックの引き金を引いたのは、トランプ米大統領である 貿易に損はない。貿易は「ゼロサム」の世界ではない 貿易だけでなく投資や技術協力による相互依存が深まり、2国間の貿易摩擦は「過去の遺物」になっていた 「過去の遺物」をあえて掘り返し、時計の針を数十年逆戻りさせるもの トランプ大統領の経済音痴ぶりに、米国の経済学者がなぜ立ち上がらないのか不思議 トランプ大統領の経済音痴のために世界経済が危機に巻き込まれようとしているときに、米国の経済学者の「沈黙」は無責任 強権政治が危険なのは、戦後世界の土台になってきた民主主義と資本主義の複合危機を招きかねないところにある 権政治に共通しているのは、批判を許さず言論の自由を葬り去ろうとしている
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