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通商問題(その4)(米中は「貿易戦争」から「経済冷戦」へ 主導権はトランプ大統領から議会へ、米中貿易戦争 全面対決なら中国が圧倒的に不利な理由、米国は中国をいたぶり続ける 覇権争いに「おとしどころ」などない) [世界情勢]

通商問題については、7月14日に取上げた。今日は、(その4)(米中は「貿易戦争」から「経済冷戦」へ 主導権はトランプ大統領から議会へ、米中貿易戦争 全面対決なら中国が圧倒的に不利な理由、米国は中国をいたぶり続ける 覇権争いに「おとしどころ」などない)である。

先ずは、元・経済産業省米州課長で中部大学特任教授の細川 昌彦氏が8月28日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「米中は「貿易戦争」から「経済冷戦」へ 主導権はトランプ大統領から議会へ」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/062500226/082700005/?P=1
・『激しさを増している貿易戦争が、トランプ大統領の強硬姿勢と中国の手詰まり感から早期の解決も見通せないでいる。だが、注意すべきは事態がトランプ大統領主導の「貿易戦争」から議会主導の「経済冷戦」へと深刻化している点だ。 米中の関税の応酬による貿易戦争は第2幕を迎えた。8月23日に双方が160億ドル相当の輸入品に25%の追加関税を発動した。9月にはさらに米国は2000億ドル相当、中国は600億ドル相当の輸入品に追加関税を課す構えだ。 貿易戦争は激しさを増しており、トランプ大統領の強硬姿勢と中国の手詰まり感から早期の解決も見通せないでいる』、想像以上に事態は深刻なようだ。
・『8月22日、ワシントンで行われた事務レベル協議も何ら進展がないまま終わった。これは協議前から当然予想されていた結果だ。元々、この協議は中国商務次官が米国の財務次官と協議を行うという変則の形となった。中国側の発表では「米国の要請で訪米する」とのことだったが、これは中国特有のメンツを守るための発表で、実情は違う。米中双方の思惑はこうだ。 <米国側>トランプ大統領としては中間選挙まではこの対中強硬姿勢を続けている方が国内的に支持される。今、何ら譲歩に動く必要がない。しかも、米国は戦後最長の景気拡大で、余裕綽々で強気に出られる。 <中国側>習近平政権としては、対米強硬路線が招いた今日の結果に国内から批判の声も出始めており、それが政権基盤の揺らぎにつながることは避けたい。対米交渉の努力を続けている姿勢は国内の批判を抑えるためにも必要だろう。 また、貿易戦争による米国経済へのマイナス影響で米国国内から批判が出て来るのを待ちたいものの、時間がかかりそうだ。しかも、中国経済の減速は明確で、人民元安、株安が懸念される。金融緩和、インフラ投資での景気てこ入れも必要になっている。米中貿易摩擦の経済への悪影響はできれば避けたい。 このように、事態打開へ動く動機は米国にはなく、中国にある。 ただし、そこに中国のメンツという要素を考えると、取りあえず次官級で落としどころに向けての探りを入れるというのが今回の目的だ。 トランプ政権としては、この時点で本気で協議を進展させるつもりは毛頭ない。本来の交渉者である米通商代表部(USTR)はメキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)協議のヤマ場でそれどころではない。所管外でも対中強硬論者の財務次官に、人民元問題も持ち出すことを口実に、協議の相手をさせた、というのが実態だ。 「11月、APEC(アジア太平洋経済協力)、G20(20カ国・地域)の際、米中首脳会談か」といった米紙報道も、そうした一環の中国側の観測気球だろう。 中国としては落としどころへの瀬踏みをしていき、ある程度見通しが立った段階で、切り札の王岐山副主席が事態収拾に乗り出す、とのシナリオを描きたいのが本音だろう』、なるほど。
・『米議会主導の「国防権限法2019」に透ける対中警戒の高まり ただし、こうした米中双方の追加関税の応酬という貿易戦争にばかり目を奪われていてはいけない。米国議会が主導する、対中警戒を反映した動きにも注目すべきだ。 8月13日にトランプ大統領が署名した「国防権限法2019」がそれだ。 かつて私は、「米国」という主語をトランプ氏とワシントンの政策コミュニティを分けて考えるべきで、後者が“経済冷戦”へと突き進んでいることを指摘した・・・これは米国議会の超党派によるコンセンサスで、現在のワシントンの深刻な対中警戒感の高まりを反映したものだ。トランプ大統領は短期で「ディール(取引)」をするために、その手段として追加関税という「こん棒」を振りかざすが、それとは持つ意味が違う。 中国の構造的懸念を念頭に、貿易以外の分野も広く規制する。昨年12月に発表された「国家安全保障戦略」で明らかになった、現在の米国の対中観を政策に落とし込んだものだ。 議会の原案に対してトランプ政権はむしろ緩和のための調整を行って、大統領署名に至った。 メディアで特に報道されているのは、そのうちの対米投資規制の部分で、中国を念頭に置いて、対米外国投資委員会(CFIUS)による外資の対米投資を厳格化する。先端技術が海外、とりわけ中国に流出することを防ぐためだ。 このCFIUSによる対米投資の審査は、既に2年前から権限強化を議会の諮問機関から提言されている。実態的にもトランプ政権になってからこれまでに11件の対米投資が認められなかったが、そのうち9件が中国企業によるものであった。これをきちっと制度化するものだ。 そのほかこの法案には、中国の通信大手ZTEとファーウェイのサービス・機器を米国の行政機関とその取引企業が使用することを禁止する内容も入っている。 また国防分野では、国防予算の総額を過去9年間で最大規模の79兆円にする、環太平洋合同演習(リムパック)への中国の参加を認めない、台湾への武器供与の増加などの方針が示された。 ここまでは日本のメディアでも報道されているが、今後日本企業にも直接的に影響する大事な問題を見逃している。それが対中輸出管理の強化だ』、「ワシントンの政策コミュニティが“経済冷戦”へと突き進んでいる」というのはやっかいなことだ。
・『メディアが見落とす「対中輸出管理の強化」  輸出管理については、これまで国際的には多国間のレジーム(枠組み・取り決め)があった。これに参加する先進諸国は、大量破壊兵器や通常兵器に使われる可能性のあるハイテク製品の輸出については規制品目を決めて各国が審査する仕組みだ。こうしたこれまでの仕組みが中国の懸念に十分対応できていないというのだ。 キーワードが「エマージング・テクノロジー」である。「事業化されていない技術」という意味であろう。例えば、AI(人工知能)や量子コンピューターなどの技術がそうだ。こうした技術は未だ製品として事業化されていないので、現状では規制対象にはなっていない。しかし、そういう段階から規制しなければ、将来、中国に押さえられて、軍事力の高度化につながるとの警戒感から、規制対象にしようというものだ。今後、具体的にどういう技術を規制すべきか、商務省、国防省などで特定化されることになっている。 問題はこの規制が米国だけにとどまらないということだ。 当初、米国は独自にこの規制を実施する。しかし米国だけでは効果がない。そこで、本来ならば国際レジームで提案して合意すべきではあるが、それは困難で時間がかかる。そこで当面、有志国と連携して実施すべきだとしている。その有志国には当然、日本も入るのだ。 今後、日米欧の政府間で水面下での調整がなされるだろうが、日本企業にも当然影響することを頭に置いておく必要がある。 またこの法案とは別に、商務省は中国の人民解放軍系の国有企業の系列会社44社をリストアップして、ハイテク技術の輸出管理を厳しく運用しようとしている。中国の巨大企業のトップ10には、この人民解放軍系の国有企業である「11大軍工集団」が占めており、民間ビジネスを広範に展開している。米国の目が厳しくなっていることも念頭に、日本企業も軍事用途に使われることのないよう、取引には慎重に対応したい。 かつて東西冷戦の時代には「対共産圏輸出統制委員会」による輸出管理(ココム規制)があった。一部に「対中ココム」と称する人もいるが、そこまで言うのは明らかに言い過ぎであることは指摘したとおりだ・・・ただ一歩ずつそうした「冷戦」の色合いが濃くなっているのは確かである。「冷戦」とは長期にわたる持久戦の世界である。目先の動きだけを追い求めていてはいけない』、「エマージング・テクノロジー」まで対象にしようとは恐れ入った。ハイテク技術の輸出管理厳格化に日本も付き合えと強要してくるとすれば、大変だ。
・『日本が向き合うべき本質がそこにある  こうした対中警戒感は、ワシントンの政策コミュニティの間ではトランプ政権以前からあった根深い懸念であった。しかし、習近平政権が打ち出した「中国製造2025」が「軍民融合」を公然とうたって、軍事力の高度化に直結する懸念がより高まったのだ。従って、こうした動きは、追加関税のような中国と「取引」をするような短期的なものではなく、構造的なものだと言える。 トランプ大統領による関税合戦よりも、もっと根深い本質がある、米国議会主導の動きにこそ目を向けるべきだろう。日本がそれにどう向き合うかも問われている』、中国も「中国製造2025」などで浮かれ過ぎていたのは事実だ。トランプの関税合戦よりも、ワシントンの政策コミュニティの動きに注目すべきというのは、目からウロコだ。
・『個別事件に引き続き要注意  最後に、前出の7月11日のコラムにおいて、「今後、個別事件に要注意」と指摘したところ、その後、FBI(米連邦捜査局)による摘発が相次いでいる。7月中旬には元アップルの中国人エンジニアが自動運転に関する企業機密を中国に持ち出そうとした事件、8月初旬には元ゼネラル・エレクトリック(GE)の中国国籍のエンジニアが発電タービンに関する企業秘密を窃取した事件などだ。 悪い予想が的中して複雑な気持ちではあるが、ハイテクの世界では、ある意味、日常的に起こっていてもおかしくない。それを捜査当局が摘発するモードになってきていることは今後も要注意だ。 トランプ氏の言動にばかり目を奪われていてはいけない。米国議会、情報機関、捜査機関など、「オール・アメリカ」の動きが重要になってくる。それが米国だ』、さらに注目すべき対象が「オール・アメリカ」に広がった。これはやはり大変だ。

次に、みずほ総合研究所 専務執行役員調査本部長/チーフエコノミストの高田 創氏が9月5日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「米中貿易戦争、全面対決なら中国が圧倒的に不利な理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/178981
・『米中貿易戦争のインパクト 中国の受ける“打撃”は米国の3~4倍  下記の図表1は、米中間の貿易が20%減少した場合の各国GDPへの影響を示すみずほ総研の試算である。それによると、米中が輸入制限をした際にGDPが最も大きな影響を受けるのは中国だ。そのマイナスの影響幅は米国が受けるGDPへの影響の3倍から4倍近い。 米中貿易戦争の構造はチキンゲームの様相を呈するが、より深刻な影響は中国に及ぶ。このため今後の対決シナリオを考えると、中国側が現実的な対応を先んじて行いやすい。 こうした試算を中国、米国双方が水面下で行いながら、両国は「次の一手」を検討する状況にあると考えられる』、中国もいまのところ、強気に出ているが、「中国の受ける“打撃”は米国の3~4倍」というのでは、確かに「現実的な対応」に転じざるを得ないのかも知れない。
・『米中間の「貿易ギャップ」中国は同額の報復はできない構造に  図表2は米中間の貿易の現状だ。これを見ると、中国から米国への輸出は米国から中国への輸出の4倍近い水準にある。図表1の試算で、米中間の貿易縮小によるGDPへのマイナスの影響が、中国は米国の3~4倍近いとした背景にあるのは、ここに示された米中間の貿易ギャップの存在だ。 米国は6月に中国製品に500億ドルの制裁措置を公表し、その後、追加制裁の対象を2000億ドルへ拡大する方針を示している。 それに対して、中国は7月6日に報復関税を発動している。ただし図表2で明らかなのは、米国の制裁に対し、中国は同じ金額で報復することが不可能なことだ。 米国から中国への輸出は1300億ドルしかないので、中国はそもそも2000億ドルの報復に同額で対応することはできないのだ』、なるほど。
・『中国の残る選択肢は輸入拡大と市場開放  中国は今年7月の対抗措置で米国の主力輸出品である農水産物に焦点を当てた報復をしているが、米中間の貿易ギャップのことを考えれば、対応策は、むしろ、米国の製品をいかに輸入するかの観点が重要になる。つまり米国の対中輸出の水準をもっと上げ、中国側が米製品に高関税賦課などの措置をとれば米国経済に影響がより大きく出るような構造にして、米国がむちゃな制裁措置がとれないようにするのだ。 中国国内でも、7月6日の対抗措置については見直しの議論が出ているとされる。 過去、中国と同様に深刻な対米貿易不均衡を抱えて、通商摩擦を経験した日本がとった対応策は、米国への直接投資で現地生産を拡大し、輸出を減少させる輸出代替だった。中国にも日本と同様の対応をする選択肢もある。しかし、今日、米国政府が中国企業の米国でのM&Aを含めた投資を抑制する立場をとっている以上、中国にとって日本がとったような直接投資での輸出代替策は現実的でない。 次の図表3は米中投資の推移だが、米国から中国への投資額は、中国から米国への投資額と2倍以上の乖離がある。米中貿易戦争をエスカレートさせず、また今後の米中通商関係を展望すれば、いかに米国の対中投資環境を拡大させるかが重要になるだろう』、ただ、これらの中国側の対応策は、中長期的なものであって、当面には役立たない。
・『米中間でとり得る3つのシナリオ、当面、中国は現実的な歩み寄りか  世界経済は引き続き拡大基調にあるが、最大のリスクは、米国を中心とした保護主義に伴う先行きの不透明感の強まりだ。その中でも最も影響が大きいのは米中貿易戦争の行方ということははっきりしている。 下記の図表4は、米中間の貿易関係の今後の展望を示したものだ。
(1)早期解決シナリオ(・中国が米国の要求を受け入れる  中国経済への影響を懸念し米国製品の輸入を拡大米国の対中直接投資も受け入れを拡大 ・米国は対中制裁を解除し、対立解消)
(2)貿易摩擦激化シナリオ(・米国は輸入制限を拡大、投資制限も 追加関税の対象を対中輸入全体に拡大、中国の対米直接投資の制限も発動 ・中国は抵抗措置を発動し、こう着状態に 米国製品600億ドルと制裁の追加対象に)
(3)全面対決シナリオ(・中国は追加関税に加え、質的対抗措置 米企業の対中投資・M&Aを制限、輸入検査の厳格化などの非関税障壁、米国製品の不買運動 人民元安誘導、米国債売却などで対抗 ・米国は制裁強化を実施、対立が長期化)
 両国の選択次第では、摩擦が激化したり、全面対決に発展したりする可能性もある。 ただし、中国側はより深刻な影響を受けるため、現実的な対応を模索しそうだ。 また、トランプ政権も11月の中間選挙前に、中国側の譲歩を引き出して「利食い」のように通商面での成果を得ようとするインセンティブもあるだろう。 筆者なりに展望すれば、上記の(1)早期解決シナリオのような、単純な早期解決にはなりにくいだろう。 ただし、中国が、水面下で、輸入拡大や対中投資受け入れなど、米国に対して歩み寄りを示唆するメッセージを送る可能性があるのではないか。米中間選挙をにらみながらの米中の動きに注目したい』、その通りなのだろう。
・『米中の通商摩擦は2020年代まで続く構造  ただし、長期的に見れば、3つのシナリオの中では、対決シナリオの構造が基本的には続くと考えられる。 中国国内では習近平主席が、2期目の任期である2022年を超えて、2020年代後半まで影響力を持つと見込まれる。また同主席が掲げる「中国製造2025」は、ハイテク分野までの覇権を中国が確保しようという戦略的なものだ。 それだけに、お互いが強力な軍事力や経済力を持っていたアテネとスパルタが長く覇権争いを続けた「トゥキディデスの罠」のように、米中の貿易戦争は、超大国の頂上決戦、覇権争いの様相になり、長期化しそうだ』、これは第一の記事とも平仄が合う。やはり、長い目でみていくべきなのだろう。

第三に、9月10日付け日経ビジネスオンラインが掲載した日経ビジネスの副編集長司会による、元日経新聞記者の鈴置 高史氏と元東京銀行員で愛知淑徳大学の真田幸光教授との座談「米国は中国をいたぶり続ける 覇権争いに「おとしどころ」などない」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226331/090700192/
・『やくざの因縁と同じ  司会:米中貿易摩擦の展開をどう読みますか。「おとしどころ」は?
真田:米国は中国をいたぶり続けます。「おとしどころ」などありません。台頭する中国を抑えつけるのが目的ですから。これは貿易摩擦ではなく、覇権争いなのです。「終わり」のない戦いです。
鈴置:米国は中国に対し具体的な要求を掲げていません。中国が何をどう譲歩したら25%に引き上げた関税を元に戻すのか、明らかにしていない。やくざが因縁を付けるのと似ています。
真田:まさに仰る通りです。理屈をこねて相手を脅しているのです。もちろん、トランプ(Donald Trump)大統領は「知的財産権の問題――中国が米国の技術を盗んでいるから関税を上げた」と言っています。実際、中国の盗みはひどい。米国や日本、欧州の先端技術を平気で無断借用する。さらにそれを軍事力強化にも使う。そして無断借用どころか、堂々と自分の特許として出願する。知財の問題で米国が怒り心頭に発し、中国の技術窃盗をやめさせようとしているのは事実です。でも、中国がどう行動したら「盗むのをやめた」と認定されるのか。米国が「まだ、中国は盗みをやめない」と言えば、関税を戻さなくていいわけです。「中国をいたぶり続ける」ことに真の目的があるのです』、何たることだろう。
・『基軸通貨にはさせない トランプ政権は習近平政権を倒すまでいたぶる? 
真田:そこまでやる必要はありません。中国の国力を削いで行けばいいのです。もちろん、政権が変わることで中国の国家運営のやり方が変わるというのなら別ですが、それは期待できない。
鈴置:人民元は6月半ばから売られ、8月15日には1人民元=7・0を割るかというところまで安くなりました。人民元を暴落させるつもりでしょうか。
真田:米国がやろうと決意すればできます。基軸通貨ドルに、力のない人民元が挑んでも叩き返されます。ただ米国は人民元を暴落させる必要はありません。「少しの脅しで人民元は揺れた。そんなボラティリティの高い通貨が使えるのか。基軸通貨と言えるのか」とマーケットに思わせれば十分なのです。米国とすれば、人民元が基軸通貨に育たないよう、貶め続ければいいのです。
鈴置:暴落させなくとも、中国は外貨準備の減少に悩むことになります。人民元売りに対抗するために、外準のドルを恒常的に吐かせられるからです。2018年の上半期、中国の経常収支は赤字に陥りました。海外旅行ブームでサービス収支の赤字が急増したためです。そのうえ、米中摩擦で貿易黒字も減って来るでしょうから、この面からも外準は目減りします』、人民元安は中国側の操作との見方があったが、米国が仕掛けたとはあり得る話だ。
・『上海株は落とす 株式市場は?
真田:為替と異なり、米国は中国の株式市場には甘くないでしょう。中国企業はここで資金調達して急成長してきた。だから、上海株はさらに落としたいはずです。もちろん、米系金融機関は政府の意向を組んで早くからポジション調整していた。それを見て他の国の金融機関なども追従――売りに出た構図です。金融の戦いなのですね。
真田:中国は「一帯一路」計画とAIIB(アジアインフラ投資銀行)のセット商品化を通じ、世界の基軸通貨となるよう人民元を育ててきました。軍事力を除き、最も強力な武器は通貨です。米国は中国に通貨の覇権を握らせるつもりはありません。だから人民元を叩くのです。貿易を名分に金融戦争を仕掛け、人民元はヘナチョコ通貨だと知らしめる。するとマーケットは「中国危し」と見て、株も落ちる。こうして実体経済も悪化する。その結果、中国は米国に歯むかう軍事力を持てなくなる、というシナリオです』、「米系金融機関は政府の意向を組んで早くからポジション調整していた。それを見て他の国の金融機関なども追従」というのも、大いにありそうだ。
・『工場を取り返す  鈴置:「トランプは安全保障を理解していない」と批判する人が多い。TPP・・・は中国への投資に歯止めをかけ、軍事力拡大を抑止するのが目的。というのに、参加を取りやめたからです。 しかしトランプ大統領にすれば「TPPなんてまどろっこしい方法をとらなくても、人民元を揺さぶればもっと簡単に目的を達成できるじゃないか」と反論したいでしょうね。真田先生の指摘した「中国へのいたぶり」。トランプ大統領の参謀であるナヴァロ(Peter Navarro)国家通商会議議長の書いた『Crouching Tiger』(2015年)が予言しています。邦訳は『米中もし戦わば』です。この本のテーマは中国の台頭を抑え、米国の覇権を維持するには何をなすべきか――・・・「 取るべき方策は明らかに、中国製品への依存度を減らすことだと思われる。この方策によって中国との貿易の「リバランス」を図れば、中国経済とひいてはその軍拡は減速するだろう。 アメリカとその同盟諸国が強力な経済成長と製造基盤を取り戻し、総合国力を向上させることもできる」。一言で言えば「どんな手を使ってでも、中国に取られた工場を米国と同盟国は取り返そう。それだけが中国に覇権を奪われない道なのだ」との主張です。トランプ政権が発動した一部の中国製品に対する25%の高関税に対しては「中国製品の輸入が止まって米国の消費者や工場が困るだけ」と冷笑する向きがあります。しかし、真田先生が予想したように、この高率関税が長期化すると世界の企業が判断すれば当然、それに対応します。企業はバカではないのです』、ナヴァロ国家通商会議議長による覇権維持のための提言が下敷きになっていたとは・・・。
・『「中国生産」から足抜け対応策は?  鈴置:別段、難しい話ではありません。米国向けの製品は中国で作るのをやめ、代わりに中国以外で生産すればいいのです。中国以外で生産能力が不足するというなら、能力を増強すればいい。ロットの少ない製品は中国での生産と米国での販売をやめてしまう手もあります。中国の根本的な弱点は「中国でしか作れないもの」がないことです。日経新聞は8月末から相次ぎ、企業のそうした対応を報じています。電子版の見出しは以下です。「日本企業、高関税回避へ動く 中国生産見直し 米中摩擦への対応苦慮」(8月28日) 「米フォード、中国製小型車の輸入撤回 25%関税で」(9月1日) 「信越化学、シリコーン5割増産 米中摩擦受け分散投資」(9月3日) 米中経済戦争が長期化すると判断した企業が出始めたのです。そもそも中国の人件費の高騰で、組み立て産業の工場は中国離れが起きていました。中国での生産回避は大きな流れになる可能性があります』、確かに組み立て産業の工場は中国離れが起きていたところに、関税戦争が追い打ちをかけたのだろう。
・『「いたぶり」は米国の総意  真田:予言書というより、大統領の教科書でしょうね。ただ、「中国へのいたぶり」は、トランプ政権の特殊性というよりは米国の総意であることを見逃してはなりません。民主党議員からも本件に関しては反対の声は出ません。議会も「中国へのいたぶり」を支持しています。中国から政治献金を貰い、魂を奪われてきた議員も多いというのに。中国で稼いできたウォール街――金融界も文句を言いません。マーケットとしての中国は大事ですが、自分たちの飯のタネであるドルの優位を人民元に脅かされるとなれば話は別なのです。人民元が基軸通貨になれば中国の銀行にやられてしまいます。
鈴置:最近、米国で「中国スパイの暗躍」が話題になっています。5年前に自身の補佐官が中国のエージェントだったとFBIから指摘され、辞任させた上院議員の話が7月下旬に突然、明らかになりました』、「いたぶり」は米国の総意というのは上記記事での指摘と同じだ。
・『お前はスパイか  8月24日には米議会の米中経済安全保障問題検討委員会が有力シンクタンクや大学に中国が資金を提供し、影響力の行使を図っているとの報告書を発表しました。『China’s Overseas United Front Work』です。産経新聞の「『中国共産党が米シンクタンクに資金提供』 米議会委が報告書発表」(8月26日)が内容を報じています。中国は1949年の建国当時から100年かけて米国を打倒し世界を支配する計画を立てていた、と警告する本が2015年に米国で出版されました・・・『China 2049』というタイトルで邦訳も出ています。CIAの職員だった同氏は親中派から転向。この本では、米国の中国研究者の多くが中国共産党の思いのままに動かされていると暴露しました。日本のある安保専門家は今や、トランプの中国叩きを批判すれば「お前は中国のスパイか」と非難されかねず、米国の親中派は動きが取れなくなっていると指摘しています』、米国の親中派の苦境が手に取るようだ。
・『今、抑え込むべき敵  米国の通貨攻撃を中国がやめさせる手はあるのでしょうか。
真田:2つあります。まず、世界に向け「米国が世界の通商を破壊する」と訴えることです。G20などでもう、やっています。でも、トランプ大統領はそんな非難にへこたれる人ではありません。
鈴置:むしろ「中国が弱音を吐いている」とほくそ笑むでしょうね。それに世界には中国の横暴に反感を持ち、中国が叩かれるのを待つ空気があります。中国の意見を支持する人はあまりいないでしょうし、下手に賛同すれば「中国のスパイか」と疑われてしまいます。
真田:もう1つの手は、イラン問題で米国と協力することにより、中国への圧迫を緩めて貰う手です。トランプ政権は「中国いたぶり」以上に「イラン潰し」を重視しています。実はロシアもその手を使っています。7月16日にヘルシンキで開いた米ロ首脳会談の後、トランプ大統領がロシアに極めて甘い姿勢を打ち出し、共和党からも非難されました。私の聞いたところでは、プーチン大統領から「イランで協力することはやぶさかではない」と耳打ちされたからのようです。中国も「イランで協力する」と持ちかける手があります。トランプ大統領は中国へのいたぶりを緩める一方で、国民には「対中貿易赤字が減った」とか「雇用が戻った」などと説明するでしょう。ただ、それで「中国へのいたぶり」を本気でやめるわけではない。時により強弱はあっても、米国は圧迫を続けると思います。中国は「今ここで、抑え込んでおくべき国」なのです。日本に対してもそうでした。対日貿易赤字が増えると、「日本は米国製品を不公正な手で締め出している」「日本人は働き過ぎ。アンフェアだ」など、ありとあらゆる難癖を付けて日本の台頭を抑え込もうとしたではありませんか。米国は可能なら、中国も日本同様に「生かさず殺さず」の状態に持って行き、おいしい部分だけ吸い上げる仕組みを作っていくでしょう』、確かに米国にはこうした長期戦略があるのかも知れない。恐ろしいことだ。
・『「宇宙での戦い」が始まった  「中国へのいたぶり」が今年夏になって始まったのはなぜですか? 
鈴置:中国の金融は今、いくつもの不安を抱えています。ドルが利上げに向かい、途上国に入りこんでいた外貨が抜け出しやすくなっている。中国企業が世界同時不況の際――2008年に発行したドル建ての債券が発行後10年たって償還期を迎えている。少子高齢化で生産年齢人口の比率が減少に転じ、バブルが崩壊しやすくなっている。
真田:ご指摘通り、金融面で「攻めやすい」状況になっています。ただ私は、米国が今「中国いたぶり」に乗り出した最大の理由は「制宙権問題」だと思います。中国が宇宙の軍事利用に拍車をかけています。これに対しトランプ政権は宇宙軍の創設を掲げ全面的に対抗する構えです。中国の「宇宙軍」を抑え込むのにはやはり、中国経済を揺らすことが必須です。現在、米ロが中軸となって国際宇宙ステーションを運営しています。これにクサビを打ち込む形で中国が独自の宇宙ステーションを運営しようとしています・・・米国とすれば、軍事的な優位を一気に覆されかねない「中国の宇宙軍」は何が何でも潰す必要があるのです。マーケットはそうした米政府の意図を見抜いて中国売りに励んでいるわけです』、なるほど。
・『覇権に挑戦する国は「宙づり」に  それにしても、米中の戦いに「おとしどころ」がないとは、目からうろこのお話でした。
鈴置:我々は――日本人は対立した人同士は話し合って妥協点を見いだすもの、あるいは見いだすべきだと思い込んでいる。だから新聞記事は、何らかの解決策があるとの前提で書かれがちです。でも、話し合うフリはしても妥協など一切せず、相手を苦しい状況に宙づりにして弱らせていく、という手も世の中にはあるのですよね。
真田:覇権争いとはそういうものです。中国を野放しにしておけば、米国がやられてしまう。米国が生き残るには、中国を貶めるしかないのです』、「『覇権に挑戦する国は「宙づり」に」とは恐ろしい話だが、国際政治の冷徹な現実なのだろう。
・いずれにしても、この問題は短期的部分だけでなく、中長期的部分にも目を向ける必要がありそうだ。
タグ:ワシントンで行われた事務レベル協議も何ら進展がないまま終わった 事態がトランプ大統領主導の「貿易戦争」から議会主導の「経済冷戦」へと深刻化 「米中は「貿易戦争」から「経済冷戦」へ 主導権はトランプ大統領から議会へ」 日経ビジネスオンライン 細川 昌彦 (その4)(米中は「貿易戦争」から「経済冷戦」へ 主導権はトランプ大統領から議会へ、米中貿易戦争 全面対決なら中国が圧倒的に不利な理由、米国は中国をいたぶり続ける 覇権争いに「おとしどころ」などない) 通商問題 トランプ大統領としては中間選挙まではこの対中強硬姿勢を続けている方が国内的に支持される。今、何ら譲歩に動く必要がない。しかも、米国は戦後最長の景気拡大で、余裕綽々で強気に出られる 習近平政権としては、対米強硬路線が招いた今日の結果に国内から批判の声も出始めており、それが政権基盤の揺らぎにつながることは避けたい。対米交渉の努力を続けている姿勢は国内の批判を抑えるためにも必要だろう 米議会主導の「国防権限法2019」に透ける対中警戒の高まり ワシントンの政策コミュニティ 現在のワシントンの深刻な対中警戒感の高まり 中国の構造的懸念を念頭に、貿易以外の分野も広く規制 先端技術が海外、とりわけ中国に流出することを防ぐためだ 通信大手ZTEとファーウェイのサービス・機器を米国の行政機関とその取引企業が使用することを禁止 対中輸出管理の強化 エマージング・テクノロジー そういう段階から規制しなければ、将来、中国に押さえられて、軍事力の高度化につながるとの警戒感から、規制対象にしようというもの 中国の巨大企業のトップ10 人民解放軍系の国有企業である「11大軍工集団」 「冷戦」とは長期にわたる持久戦の世界 中国製造2025 軍民融合 米国議会、情報機関、捜査機関など、「オール・アメリカ」の動きが重要に 高田 創 ダイヤモンド・オンライン 「米中貿易戦争、全面対決なら中国が圧倒的に不利な理由」 米中貿易戦争のインパクト 中国の受ける“打撃”は米国の3~4倍 米中間の「貿易ギャップ」中国は同額の報復はできない構造に 中国の残る選択肢は輸入拡大と市場開放 米中間でとり得る3つのシナリオ 早期解決シナリオ 貿易摩擦激化シナリオ 全面対決シナリオ 米中の通商摩擦は2020年代まで続く構造 鈴置 高史 真田幸光 「米国は中国をいたぶり続ける 覇権争いに「おとしどころ」などない」 米国は中国をいたぶり続けます。「おとしどころ」などありません これは貿易摩擦ではなく、覇権争いなのです。「終わり」のない戦いです 知的財産権の問題 中国の盗みはひどい 基軸通貨にはさせない トランプ政権は習近平政権を倒すまでいたぶる 米国とすれば、人民元が基軸通貨に育たないよう、貶め続ければいいのです 中国は外貨準備の減少に悩む 上海株は落とす 人民元はヘナチョコ通貨だと知らしめる。するとマーケットは「中国危し」と見て、株も落ちる。こうして実体経済も悪化する。その結果、中国は米国に歯むかう軍事力を持てなくなる、というシナリオです 工場を取り返す ナヴァロ国家通商会議議長による覇権維持のための提言 米国向けの製品は中国で作るのをやめ、代わりに中国以外で生産すればいいのです 「いたぶり」は米国の総意 米国で「中国スパイの暗躍」が話題に お前はスパイか トランプの中国叩きを批判すれば「お前は中国のスパイか」と非難されかねず、米国の親中派は動きが取れなくなっている イラン問題で米国と協力することにより、中国への圧迫を緩めて貰う手 中国は「今ここで、抑え込んでおくべき国」なのです。日本に対してもそうでした 2008年に発行したドル建ての債券が発行後10年たって償還期を迎えている 金融面で「攻めやすい」状況に 最大の理由は「制宙権問題」 米ロが中軸となって国際宇宙ステーションを運営 これにクサビを打ち込む形で中国が独自の宇宙ステーションを運営しようとしています 覇権に挑戦する国は「宙づり」に
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