小売業(百貨店)(その2)(そごう・西武PBから撤退でデパート衣料品販売に大きな挫折、三越伊勢丹 「前言撤回→3店閉鎖」の深刻背景 社長は「閉店は当面ない」と言っていたが…、「そごう・西武の売却説」が急浮上、百貨店は“オワコン”なのか) [産業動向]
小売業(百貨店)については、昨年5月16日に取上げた。今日は、(その2)(そごう・西武PBから撤退でデパート衣料品販売に大きな挫折、三越伊勢丹 「前言撤回→3店閉鎖」の深刻背景 社長は「閉店は当面ない」と言っていたが…、「そごう・西武の売却説」が急浮上、百貨店は“オワコン”なのか)である。
先ずは、2月28日付けダイヤモンド・オンライン「そごう・西武PBから撤退でデパート衣料品販売に大きな挫折」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/161194
・『百貨店の将来あるべき姿は、やはり見いだせないままである。 セブン&アイ・ホールディングス(HD)傘下の百貨店であるそごう・西武は、衣料品を中心としたプライベートブランド(PB)「リミテッド エディション」の販売を2月末で取りやめることを決めた。 同ブランドは2009年にスタート。高田賢三氏ら著名なデザイナーを招いて商品企画をし、縫製や素材にこだわりながら、価格はナショナルブランド(NB)の商品より抑えたのが特徴だった。年間売上高はピーク時100億円ほどだったが、現在は60億円程度まで落ちている。 百貨店のPBはNBより粗利を大きくできるため各社が開発に取り組んできた。とりわけ三越伊勢丹HDでは、大西洋前社長の下で進められたが、現体制下では異例の超低価格で在庫処分するなど、大幅な見直しが行われている。 そごう・西武は、三越伊勢丹HDのそれよりもさらに手頃な価格帯で、デザイン性の高い商品を投入し、それなりの認知度を維持してきた。「リミテッド エディションさえ成功していれば、そごう・西武は復活していたはずだ」(百貨店業界関係者)との声さえある』、一頃はPBがもてはやされたが、三越伊勢丹ですら大幅見直し中とは、なかなか難しいものだ。
・『セブンの意向も影響? 同社によると、PBはNBと異なり自社の社員が販売を担うが、販売が伸び悩んだことで、その人件費が粗利を圧迫していた。また、アパレル業界から衣類のデザインやパターンを担う人材を引き抜いてPBの開発チームに加えていたが、ノウハウの蓄積や伝達に限界があったという。 さらに同社に詳しい関係者は「親会社のセブン&アイ・HDの意向も影響したのではないか」と話す。セブン&アイ・HDは機会ロスを防ぐため欠品を極力出さない物量作戦を是とする。コンビニエンスストアではそれが奏功したが、イトーヨーカ堂の衣料品部門などグループ全体で成功しているとは言い難い。「リミテッド エディションでも欠品を恐れるあまり、在庫を抱え過ぎたのではないか」(前出の関係者)との指摘がある。 ともあれ、三越伊勢丹HDと並ぶ業界の先進事例として期待されていただけに、撤退の意味は重い。 現在、都心の百貨店は、インバウンド客と国内富裕層の高額品需要で空前の好業績に沸いている。郊外店が多いそごう・西武はなお苦戦しているが、売り上げの多くを占める婦人服の販売不振という課題は共通している。その解決策としてPB強化が進められてきたわけだが、結果を出すことができず撤退することとなった。 一方で各社が現在力を入れているのが、不動産開発やフロア貸しによる賃料収入の拡大だ。百貨店各社はこのまま独自性を失い、ショッピングセンター化の道をひた走るしかないのだろうか』、ショッピングセンターも実際には乱立気味なようで、「出口」は見いだせないのは、日銀だけではないようだ。
次に、9月29日付け東洋経済オンライン「三越伊勢丹、「前言撤回→3店閉鎖」の深刻背景 社長は「閉店は当面ない」と言っていたが…」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/240155
・『三越伊勢丹ホールディングスは9月26日、不振店舗の伊勢丹相模原店(神奈川県相模原市)、伊勢丹府中店(東京都府中市)、新潟三越(新潟県新潟市)の3店舗を閉店すると発表した。相模原店と府中店は2019年9月に、新潟三越は2020年3月に閉鎖する。 百貨店の都心店舗は訪日外国人や富裕層の需要に支えられ、売り上げが堅調に推移している。一方で、地方・郊外店は地元消費がさえないことに加え、ほかの商業施設との競争にさらされ、苦戦が続いている。今回の決断は、地方・郊外に構える百貨店の苦境を浮き彫りにしたといえそうだ』、なるほど。
・『売り上げピークは20年以上前 今回の3店舗閉鎖は、三越伊勢丹ホールディングスの社員には”寝耳に水”だったようだ。26日の発表から2週間ほど前には部長級以上の幹部には知らされていたが、外部に漏れないように「箝口令が敷かれていた」(業界関係者)という。実際、府中店のある販売員は「事前には何も知らされていなかった。発表当日に聞いて大変驚いた」と語る。 ただ、地元客は店舗閉鎖を冷静に受け止めているようだ。府中市在住の20歳代女性は「府中店は普段から客があまり入っていなかった。『いつ閉店するのか』と、数年前から地元では話題だった」と話す。新潟三越についても、「館前のタクシー乗り場がいつも閑散としていたので、新潟三越の閉店は時間の問題だと思っていた」(新潟市在住の50歳代男性)。 3店舗とも売り上げのピークは20年以上前の1996年度で、それ以降は低迷状態が続いていた。 相模原店は1990年に開店後、1993年に売り場を増床。その後も店舗運営の効率化を進めたが、赤字脱却には至らなかった。府中店は1996年に開店。初年度をピークに売り上げが右肩下がりで、赤字が恒常化していた。新潟三越は1936年に小林百貨店として開業後、1980年に新潟三越へと社名変更して営業。組織のスリム化などを図ったが、黒字化はかなわなかった。 3店舗閉鎖が象徴するように、三越伊勢丹ホールディングスはここ数年、不採算店の整理に力を注いできた。多角化路線と地方・郊外店の構造改革を突き進んだ大西洋・前社長時代には、2017年3月に三越千葉店と同多摩センター店を閉店。大西前社長が電撃辞任した後に2017年4月に就任した杉江俊彦社長も、今年3月に伊勢丹松戸店を店じまいした。 杉江社長は時を同じくして、経営全般の構造改革も断行。赤字を垂れ流していた高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」運営会社の株式66%を今年3月に売却したほか、アパレル子会社も同月に事業を終了した。さらに早期退職制度を拡充し、3年間で社員800~1200人の退職を想定するリストラも実施している』、確かに地方・郊外店は役割を終えたのかも知れない。
・『地方・郊外店は想定を超えた苦戦 矢継ぎ早のリストラがが功を奏し、三越伊勢丹ホールディングスは今2018年度の業績について、売上高1兆1950億円(前期比5.8%減)、営業利益290億円(同18.8%増)と、大幅増益を見込む。 経営体質の改善が順調なことから、杉江社長は決算説明会など公の場で「店舗閉鎖は当面ない」、「構造改革の主なものは2017年度の段階で終えた」と、改革が一段落したことを強調していた。 にもかかわらず、なぜ今回3店舗の閉鎖を決断したのか。その理由としては、同社の想定以上に、地方・郊外店の販売状況が悪化していることが考えられる。 三越伊勢丹ホールディングスは今年度、相模原店については増収計画を描いていた。が、天候不順などが逆風となり、4~8月までの累計で前年同期比3.3%減と低迷。府中店も同6.1%減と、回復の兆しをつかめていない。 新潟市の中心市街地である古町に唯一残る百貨店だった新潟三越も、売り上げ回復のメドが立たなかったようだ。新潟市では篠田昭市長の任期満了に伴う市長選が10月28日に行われる。篠田市長は市の中心部にBRT(バス高速輸送システム)を敷くなど地域活性化に熱心で、2017年には中央区役所が新潟三越の近隣に移転してきた。そうした追い風を生かすことができなかった。 26日に行われた会見の席上、三越伊勢丹ホールディングスの白井俊徳取締役は3店閉鎖の背景として、次のように述べた。「GMS(総合スーパー)やショッピングセンターといったほかの商業施設と差別化ができている伊勢丹新宿本店や三越銀座店などは、今後も百貨店として独立した経営ができる。だが、差別化できていないところほど売り上げの低下傾向が激しい」。 そのうえで、白井取締役は「(閉鎖する3店舗は)特に赤字の幅が大きく、今後投資をしても回収を見込めない」と説明した。投資に対する見返りがあるのか”経済合理性”を見極めたうえで、店舗閉鎖を結論づけたというわけだ』、新潟市は中心部を活性化させようとBRTまで導入したのに、核となるべき新潟三越が撤退では、さぞかし悔しい思いをしているだろう。
・『旗艦店のテコ入れに注力 「自らの力では再生できないことを率直に認めたうえで、追加リストラに踏み切った。経営判断としては正しい」と、別の業界関係者は評価する。リストラ徹底の姿勢を見せた三越伊勢丹ホールディングスだが、今後はどのように成長戦略を描くのか。 ライバルのJ.フロント リテイリングや高島屋がテナントからの賃料収益を軸にした不動産事業を推進する一方で、三越伊勢丹ホールディングスは百貨店事業を再強化する構え。特に、百貨店が商品企画や品ぞろえを決める「自主編集売り場」を拡充していく方針だ。 段階的に改装を進めてきた日本橋三越本店では、第1期改装部分を10月24日にオープンする。化粧品・雑貨などの売り場を拡充するだけでなく、接客の専門家であるコンシェルジュを各階に設置。接客サービスに磨きをかけ、百貨店事業の売上拡大を目指すという方針だ。伊勢丹新宿本店も今年度から来年度にかけて、売り場改装を予定する。 200億円以上の投資をしてEC(ネット通販)事業を拡大する計画も打ち出すが、詳細は現時点では明らかにされていない。リストラによるコスト抑制だけではなく、再成長に向けた具体策の提示が求められる』、百貨店事業再強化のお手並み拝見といきたい。
第三に、流通ジャーナリストの森山真二氏が10月10日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「そごう・西武の売却説」が急浮上、百貨店は“オワコン”なのか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/181715
・『三越伊勢丹ホールディングスの新潟三越や伊勢丹相模原店などの店舗閉鎖発表に続いて、今度はセブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武の売却説が浮上している。相次ぐ閉鎖や売却説が飛び出す百貨店はその役割を終えたのか。はたまたビジネスモデルの転換で復活があり得るのか』、面白そうだ。
・『“次”の閉鎖候補店舗探しで「そごう・西武の売却説」が急浮上の理由 三越伊勢丹の店舗閉鎖発表後、業界では早くも“次”の閉鎖候補店舗探しが始まっているが、この店舗閉鎖の発表とほぼ同時に浮上してきたのが、一部で報じられた「そごう・西武の売却説」だ。 ある流通関係者はこんな自説を披露する。「そごう・西武は鈴木さん(セブン&アイ前会長、現名誉顧問)が強力に進めてきた話。その鈴木さんが退任しているのだから、現経営陣にとって何の未練もないはず。売却もありうるだろう」 セブン&アイの鈴木名誉顧問は経営者だった当時に相当、百貨店という業態に固執してきた。 日本のコンビニエンスストアを生み育てた合理主義の鈴木名誉顧問がなぜ、百貨店というチェーンストアとは相いれない業態に、それほどまでに固執してきたのだろうか。 「百貨店というステータスへの憧憬ではなかったか」(大手百貨店幹部) 思い起こせばスーパーを定着させた、流通の第1世代もそんな思いが強かった。 ダイエー創業者の故中内功氏は高島屋に目をつけた。医療法人十全会を通じ、高島屋株約10%を取得。高島屋に業務提携を迫ったことがあった。 しかし、ダイエーによる乗っ取りを恐れた高島屋側が業務提携を撤回、中内氏が描いた高島屋取り込みは不発に終わるというエピソードもあった。 当時、スーパーやコンビニの経営者が持っていない、百貨店というブランド力は垂涎の的だったのだろう。事実、セブン&アイの鈴木名誉顧問がまだイトーヨーカ堂首脳だった時、そごう・西武を傘下に入れる以前に伊勢丹株の取得にも動いたことがある。 鈴木名誉顧問の知り合いの中小の不動産会社社長を通じて、不動産会社・秀和が保有していた伊勢丹株22.3%の取得に意欲を示したのだ。 結局、伊勢丹のメインバンクの三菱銀行(現三菱UFJ銀行)の堅い守りで取得はかなわなかった。 だが、伊勢丹といい、そごう・西武といい、セブン-イレブンと同業のコンビニの買収には全く興味を示さなかったあの鈴木名誉顧問が、百貨店の取得には信じられないほど前向きだったのである。 そごう・西武を傘下に入れて以降の動きから、百貨店の商品作りや商品政策の手法をスーパーのイトーヨーカ堂に取り入れていくのが狙いだったとみられる』、あの合理主義の鈴木名誉顧問でも、「百貨店というステータスへの憧憬」を抱いていたというのは、日本人のステータス意識の根深さに、改めて驚かされた。
・『そごう・西武はリストラを繰り返してきた しかし、そんな鈴木氏も今ではセブン&アイへの影響力はない。現経営陣にとって、そごう・西武の立て直しは悩みの種であることは間違いないし、売却という選択肢が真剣に検討されているとしても、まったく不思議ではないのだ。 そごう・西武はこれまで店舗閉鎖や店舗譲渡を繰り返しているが、業績は依然低調なままだ。 そごう・西武の歴史は、セブン&アイ傘下入り前から「リストラの歴史」である。 西武のこの10年間の閉店を振り返っても、2010年には東京・有楽町の有楽町マリオンにあった「有楽町店」、16年には埼玉県春日部市の「春日部店」、北海道の「旭川店」、大阪府八尾市の西武「八尾店」、16年には西武の「筑波店」(茨城県つくば市)と来て、17年にも閉鎖は続く。 17年にはエイチ・ツー・オーリテイリングに高槻市の「高槻店」が譲渡されている。これに、そごうの閉鎖店舗を加えると相当な閉店が積み重ねられてきたことになり、まさにそごう・西武は閉店の歴史を刻んできたといっていい。 残っている店舗も建物自体も中途半端に古いものが多く、老朽化している。 かねてそごう・西武について「西武百貨店は池袋店1店あればよく、他の店は売却か、業態転換した方がいい」と証券アナリストから指摘されていた』、厳しい指摘だが、そごうの横浜店や千葉店はどうするのだろう。
・『業績も低迷状態が続きインバウンド消費の取り込みにも難 業績も低迷状態が続いている。18年2月の営業収益は前期比9.8%減の6858億円、営業利益は同17.1%増の50億円である。 不採算店舗の閉鎖を進めているだけに、売上高を大きく落としているが、営業利益も店舗閉鎖、人件費の削減などリストラ効果でようやく利益を出している格好で、売上高営業利益率は実に1%以下という状況である。 インバウンド(訪日外国人)消費の業績への取り込みも少ない。 セブン&アイにとっても、そごう・西武、イトーヨーカ堂という2つの立て直しが必要な事業のうち、ヨーカ堂は祖業だから何とかテコ入れしたいと考えているのは確かで、創業家への配慮もあるだろう。 だが、そごう・西武については、鈴木氏が名誉顧問となった今、是が非でも保有し続けなければならない理由はない。 むしろ、そごう・西武を切り離した方が、セブン&アイの株式を大量保有し、「物言う株主」でもあるサード・ポイント(本社ニューヨーク)が要求してきたヨーカ堂の切り離しへの牽制にもなる。 しかし、店舗閉鎖を進める三越伊勢丹にしても、そごう・西武にしても、百貨店をどう再生するかという解答を出さずに、閉鎖して縮小均衡を進めているだけである。 「そんなことを言ったって、百貨店の軸とする鉄道駅周辺の商業はすでに、郊外型のショッピングセンターやネット通販に顧客を奪われているのだから、閉めるしかないでしょ」というご指摘もあるかもしれない。 確かに地方の鉄道駅近くにある百貨店は駐車場の台数が少なく、しかも駅周辺は日曜日ともなると渋滞が激しく、決して利便性がよくない。 しかし、地方の駅前百貨店は例えばアウトレットモールに変身するとか、高島屋やJ・フロントリテイリングが実施したように、自営面積を相対的に減らしたり、テナントを多用するなどして都市型ショッピングセンターに作り替えるなどの手法はとれないのだろうか。 あるいは、もっと別の生かし方があるかもしれないが、閉鎖ばかりでは地域にとっても打撃だし顧客も維持できない。 新潟三越の閉鎖が発表されて以降、地元の商店街は百貨店という核を失うことになり、一段と落ち込むのではないかと心配されている。 大手百貨店各社も、このまま地方の百貨店を放置し続ければ、そごう・西武のように、閉鎖の歴史を刻み、売却説が流れることになりかねない』、地方の中核都市の空洞化を避けるためにも、大手百貨店には頑張ってもらいたいところだ。なお、オワコンとは、ユーザーに飽きられてしまい、一時は栄えていたが現在では見捨てられてしまったコンテンツを意味するインターネットスラング(Wikipedia)
先ずは、2月28日付けダイヤモンド・オンライン「そごう・西武PBから撤退でデパート衣料品販売に大きな挫折」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/161194
・『百貨店の将来あるべき姿は、やはり見いだせないままである。 セブン&アイ・ホールディングス(HD)傘下の百貨店であるそごう・西武は、衣料品を中心としたプライベートブランド(PB)「リミテッド エディション」の販売を2月末で取りやめることを決めた。 同ブランドは2009年にスタート。高田賢三氏ら著名なデザイナーを招いて商品企画をし、縫製や素材にこだわりながら、価格はナショナルブランド(NB)の商品より抑えたのが特徴だった。年間売上高はピーク時100億円ほどだったが、現在は60億円程度まで落ちている。 百貨店のPBはNBより粗利を大きくできるため各社が開発に取り組んできた。とりわけ三越伊勢丹HDでは、大西洋前社長の下で進められたが、現体制下では異例の超低価格で在庫処分するなど、大幅な見直しが行われている。 そごう・西武は、三越伊勢丹HDのそれよりもさらに手頃な価格帯で、デザイン性の高い商品を投入し、それなりの認知度を維持してきた。「リミテッド エディションさえ成功していれば、そごう・西武は復活していたはずだ」(百貨店業界関係者)との声さえある』、一頃はPBがもてはやされたが、三越伊勢丹ですら大幅見直し中とは、なかなか難しいものだ。
・『セブンの意向も影響? 同社によると、PBはNBと異なり自社の社員が販売を担うが、販売が伸び悩んだことで、その人件費が粗利を圧迫していた。また、アパレル業界から衣類のデザインやパターンを担う人材を引き抜いてPBの開発チームに加えていたが、ノウハウの蓄積や伝達に限界があったという。 さらに同社に詳しい関係者は「親会社のセブン&アイ・HDの意向も影響したのではないか」と話す。セブン&アイ・HDは機会ロスを防ぐため欠品を極力出さない物量作戦を是とする。コンビニエンスストアではそれが奏功したが、イトーヨーカ堂の衣料品部門などグループ全体で成功しているとは言い難い。「リミテッド エディションでも欠品を恐れるあまり、在庫を抱え過ぎたのではないか」(前出の関係者)との指摘がある。 ともあれ、三越伊勢丹HDと並ぶ業界の先進事例として期待されていただけに、撤退の意味は重い。 現在、都心の百貨店は、インバウンド客と国内富裕層の高額品需要で空前の好業績に沸いている。郊外店が多いそごう・西武はなお苦戦しているが、売り上げの多くを占める婦人服の販売不振という課題は共通している。その解決策としてPB強化が進められてきたわけだが、結果を出すことができず撤退することとなった。 一方で各社が現在力を入れているのが、不動産開発やフロア貸しによる賃料収入の拡大だ。百貨店各社はこのまま独自性を失い、ショッピングセンター化の道をひた走るしかないのだろうか』、ショッピングセンターも実際には乱立気味なようで、「出口」は見いだせないのは、日銀だけではないようだ。
次に、9月29日付け東洋経済オンライン「三越伊勢丹、「前言撤回→3店閉鎖」の深刻背景 社長は「閉店は当面ない」と言っていたが…」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/240155
・『三越伊勢丹ホールディングスは9月26日、不振店舗の伊勢丹相模原店(神奈川県相模原市)、伊勢丹府中店(東京都府中市)、新潟三越(新潟県新潟市)の3店舗を閉店すると発表した。相模原店と府中店は2019年9月に、新潟三越は2020年3月に閉鎖する。 百貨店の都心店舗は訪日外国人や富裕層の需要に支えられ、売り上げが堅調に推移している。一方で、地方・郊外店は地元消費がさえないことに加え、ほかの商業施設との競争にさらされ、苦戦が続いている。今回の決断は、地方・郊外に構える百貨店の苦境を浮き彫りにしたといえそうだ』、なるほど。
・『売り上げピークは20年以上前 今回の3店舗閉鎖は、三越伊勢丹ホールディングスの社員には”寝耳に水”だったようだ。26日の発表から2週間ほど前には部長級以上の幹部には知らされていたが、外部に漏れないように「箝口令が敷かれていた」(業界関係者)という。実際、府中店のある販売員は「事前には何も知らされていなかった。発表当日に聞いて大変驚いた」と語る。 ただ、地元客は店舗閉鎖を冷静に受け止めているようだ。府中市在住の20歳代女性は「府中店は普段から客があまり入っていなかった。『いつ閉店するのか』と、数年前から地元では話題だった」と話す。新潟三越についても、「館前のタクシー乗り場がいつも閑散としていたので、新潟三越の閉店は時間の問題だと思っていた」(新潟市在住の50歳代男性)。 3店舗とも売り上げのピークは20年以上前の1996年度で、それ以降は低迷状態が続いていた。 相模原店は1990年に開店後、1993年に売り場を増床。その後も店舗運営の効率化を進めたが、赤字脱却には至らなかった。府中店は1996年に開店。初年度をピークに売り上げが右肩下がりで、赤字が恒常化していた。新潟三越は1936年に小林百貨店として開業後、1980年に新潟三越へと社名変更して営業。組織のスリム化などを図ったが、黒字化はかなわなかった。 3店舗閉鎖が象徴するように、三越伊勢丹ホールディングスはここ数年、不採算店の整理に力を注いできた。多角化路線と地方・郊外店の構造改革を突き進んだ大西洋・前社長時代には、2017年3月に三越千葉店と同多摩センター店を閉店。大西前社長が電撃辞任した後に2017年4月に就任した杉江俊彦社長も、今年3月に伊勢丹松戸店を店じまいした。 杉江社長は時を同じくして、経営全般の構造改革も断行。赤字を垂れ流していた高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」運営会社の株式66%を今年3月に売却したほか、アパレル子会社も同月に事業を終了した。さらに早期退職制度を拡充し、3年間で社員800~1200人の退職を想定するリストラも実施している』、確かに地方・郊外店は役割を終えたのかも知れない。
・『地方・郊外店は想定を超えた苦戦 矢継ぎ早のリストラがが功を奏し、三越伊勢丹ホールディングスは今2018年度の業績について、売上高1兆1950億円(前期比5.8%減)、営業利益290億円(同18.8%増)と、大幅増益を見込む。 経営体質の改善が順調なことから、杉江社長は決算説明会など公の場で「店舗閉鎖は当面ない」、「構造改革の主なものは2017年度の段階で終えた」と、改革が一段落したことを強調していた。 にもかかわらず、なぜ今回3店舗の閉鎖を決断したのか。その理由としては、同社の想定以上に、地方・郊外店の販売状況が悪化していることが考えられる。 三越伊勢丹ホールディングスは今年度、相模原店については増収計画を描いていた。が、天候不順などが逆風となり、4~8月までの累計で前年同期比3.3%減と低迷。府中店も同6.1%減と、回復の兆しをつかめていない。 新潟市の中心市街地である古町に唯一残る百貨店だった新潟三越も、売り上げ回復のメドが立たなかったようだ。新潟市では篠田昭市長の任期満了に伴う市長選が10月28日に行われる。篠田市長は市の中心部にBRT(バス高速輸送システム)を敷くなど地域活性化に熱心で、2017年には中央区役所が新潟三越の近隣に移転してきた。そうした追い風を生かすことができなかった。 26日に行われた会見の席上、三越伊勢丹ホールディングスの白井俊徳取締役は3店閉鎖の背景として、次のように述べた。「GMS(総合スーパー)やショッピングセンターといったほかの商業施設と差別化ができている伊勢丹新宿本店や三越銀座店などは、今後も百貨店として独立した経営ができる。だが、差別化できていないところほど売り上げの低下傾向が激しい」。 そのうえで、白井取締役は「(閉鎖する3店舗は)特に赤字の幅が大きく、今後投資をしても回収を見込めない」と説明した。投資に対する見返りがあるのか”経済合理性”を見極めたうえで、店舗閉鎖を結論づけたというわけだ』、新潟市は中心部を活性化させようとBRTまで導入したのに、核となるべき新潟三越が撤退では、さぞかし悔しい思いをしているだろう。
・『旗艦店のテコ入れに注力 「自らの力では再生できないことを率直に認めたうえで、追加リストラに踏み切った。経営判断としては正しい」と、別の業界関係者は評価する。リストラ徹底の姿勢を見せた三越伊勢丹ホールディングスだが、今後はどのように成長戦略を描くのか。 ライバルのJ.フロント リテイリングや高島屋がテナントからの賃料収益を軸にした不動産事業を推進する一方で、三越伊勢丹ホールディングスは百貨店事業を再強化する構え。特に、百貨店が商品企画や品ぞろえを決める「自主編集売り場」を拡充していく方針だ。 段階的に改装を進めてきた日本橋三越本店では、第1期改装部分を10月24日にオープンする。化粧品・雑貨などの売り場を拡充するだけでなく、接客の専門家であるコンシェルジュを各階に設置。接客サービスに磨きをかけ、百貨店事業の売上拡大を目指すという方針だ。伊勢丹新宿本店も今年度から来年度にかけて、売り場改装を予定する。 200億円以上の投資をしてEC(ネット通販)事業を拡大する計画も打ち出すが、詳細は現時点では明らかにされていない。リストラによるコスト抑制だけではなく、再成長に向けた具体策の提示が求められる』、百貨店事業再強化のお手並み拝見といきたい。
第三に、流通ジャーナリストの森山真二氏が10月10日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「そごう・西武の売却説」が急浮上、百貨店は“オワコン”なのか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/181715
・『三越伊勢丹ホールディングスの新潟三越や伊勢丹相模原店などの店舗閉鎖発表に続いて、今度はセブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武の売却説が浮上している。相次ぐ閉鎖や売却説が飛び出す百貨店はその役割を終えたのか。はたまたビジネスモデルの転換で復活があり得るのか』、面白そうだ。
・『“次”の閉鎖候補店舗探しで「そごう・西武の売却説」が急浮上の理由 三越伊勢丹の店舗閉鎖発表後、業界では早くも“次”の閉鎖候補店舗探しが始まっているが、この店舗閉鎖の発表とほぼ同時に浮上してきたのが、一部で報じられた「そごう・西武の売却説」だ。 ある流通関係者はこんな自説を披露する。「そごう・西武は鈴木さん(セブン&アイ前会長、現名誉顧問)が強力に進めてきた話。その鈴木さんが退任しているのだから、現経営陣にとって何の未練もないはず。売却もありうるだろう」 セブン&アイの鈴木名誉顧問は経営者だった当時に相当、百貨店という業態に固執してきた。 日本のコンビニエンスストアを生み育てた合理主義の鈴木名誉顧問がなぜ、百貨店というチェーンストアとは相いれない業態に、それほどまでに固執してきたのだろうか。 「百貨店というステータスへの憧憬ではなかったか」(大手百貨店幹部) 思い起こせばスーパーを定着させた、流通の第1世代もそんな思いが強かった。 ダイエー創業者の故中内功氏は高島屋に目をつけた。医療法人十全会を通じ、高島屋株約10%を取得。高島屋に業務提携を迫ったことがあった。 しかし、ダイエーによる乗っ取りを恐れた高島屋側が業務提携を撤回、中内氏が描いた高島屋取り込みは不発に終わるというエピソードもあった。 当時、スーパーやコンビニの経営者が持っていない、百貨店というブランド力は垂涎の的だったのだろう。事実、セブン&アイの鈴木名誉顧問がまだイトーヨーカ堂首脳だった時、そごう・西武を傘下に入れる以前に伊勢丹株の取得にも動いたことがある。 鈴木名誉顧問の知り合いの中小の不動産会社社長を通じて、不動産会社・秀和が保有していた伊勢丹株22.3%の取得に意欲を示したのだ。 結局、伊勢丹のメインバンクの三菱銀行(現三菱UFJ銀行)の堅い守りで取得はかなわなかった。 だが、伊勢丹といい、そごう・西武といい、セブン-イレブンと同業のコンビニの買収には全く興味を示さなかったあの鈴木名誉顧問が、百貨店の取得には信じられないほど前向きだったのである。 そごう・西武を傘下に入れて以降の動きから、百貨店の商品作りや商品政策の手法をスーパーのイトーヨーカ堂に取り入れていくのが狙いだったとみられる』、あの合理主義の鈴木名誉顧問でも、「百貨店というステータスへの憧憬」を抱いていたというのは、日本人のステータス意識の根深さに、改めて驚かされた。
・『そごう・西武はリストラを繰り返してきた しかし、そんな鈴木氏も今ではセブン&アイへの影響力はない。現経営陣にとって、そごう・西武の立て直しは悩みの種であることは間違いないし、売却という選択肢が真剣に検討されているとしても、まったく不思議ではないのだ。 そごう・西武はこれまで店舗閉鎖や店舗譲渡を繰り返しているが、業績は依然低調なままだ。 そごう・西武の歴史は、セブン&アイ傘下入り前から「リストラの歴史」である。 西武のこの10年間の閉店を振り返っても、2010年には東京・有楽町の有楽町マリオンにあった「有楽町店」、16年には埼玉県春日部市の「春日部店」、北海道の「旭川店」、大阪府八尾市の西武「八尾店」、16年には西武の「筑波店」(茨城県つくば市)と来て、17年にも閉鎖は続く。 17年にはエイチ・ツー・オーリテイリングに高槻市の「高槻店」が譲渡されている。これに、そごうの閉鎖店舗を加えると相当な閉店が積み重ねられてきたことになり、まさにそごう・西武は閉店の歴史を刻んできたといっていい。 残っている店舗も建物自体も中途半端に古いものが多く、老朽化している。 かねてそごう・西武について「西武百貨店は池袋店1店あればよく、他の店は売却か、業態転換した方がいい」と証券アナリストから指摘されていた』、厳しい指摘だが、そごうの横浜店や千葉店はどうするのだろう。
・『業績も低迷状態が続きインバウンド消費の取り込みにも難 業績も低迷状態が続いている。18年2月の営業収益は前期比9.8%減の6858億円、営業利益は同17.1%増の50億円である。 不採算店舗の閉鎖を進めているだけに、売上高を大きく落としているが、営業利益も店舗閉鎖、人件費の削減などリストラ効果でようやく利益を出している格好で、売上高営業利益率は実に1%以下という状況である。 インバウンド(訪日外国人)消費の業績への取り込みも少ない。 セブン&アイにとっても、そごう・西武、イトーヨーカ堂という2つの立て直しが必要な事業のうち、ヨーカ堂は祖業だから何とかテコ入れしたいと考えているのは確かで、創業家への配慮もあるだろう。 だが、そごう・西武については、鈴木氏が名誉顧問となった今、是が非でも保有し続けなければならない理由はない。 むしろ、そごう・西武を切り離した方が、セブン&アイの株式を大量保有し、「物言う株主」でもあるサード・ポイント(本社ニューヨーク)が要求してきたヨーカ堂の切り離しへの牽制にもなる。 しかし、店舗閉鎖を進める三越伊勢丹にしても、そごう・西武にしても、百貨店をどう再生するかという解答を出さずに、閉鎖して縮小均衡を進めているだけである。 「そんなことを言ったって、百貨店の軸とする鉄道駅周辺の商業はすでに、郊外型のショッピングセンターやネット通販に顧客を奪われているのだから、閉めるしかないでしょ」というご指摘もあるかもしれない。 確かに地方の鉄道駅近くにある百貨店は駐車場の台数が少なく、しかも駅周辺は日曜日ともなると渋滞が激しく、決して利便性がよくない。 しかし、地方の駅前百貨店は例えばアウトレットモールに変身するとか、高島屋やJ・フロントリテイリングが実施したように、自営面積を相対的に減らしたり、テナントを多用するなどして都市型ショッピングセンターに作り替えるなどの手法はとれないのだろうか。 あるいは、もっと別の生かし方があるかもしれないが、閉鎖ばかりでは地域にとっても打撃だし顧客も維持できない。 新潟三越の閉鎖が発表されて以降、地元の商店街は百貨店という核を失うことになり、一段と落ち込むのではないかと心配されている。 大手百貨店各社も、このまま地方の百貨店を放置し続ければ、そごう・西武のように、閉鎖の歴史を刻み、売却説が流れることになりかねない』、地方の中核都市の空洞化を避けるためにも、大手百貨店には頑張ってもらいたいところだ。なお、オワコンとは、ユーザーに飽きられてしまい、一時は栄えていたが現在では見捨てられてしまったコンテンツを意味するインターネットスラング(Wikipedia)
タグ:郊外店が多いそごう・西武はなお苦戦 都心の百貨店は、インバウンド客と国内富裕層の高額品需要で空前の好業績に沸いている 親会社のセブン&アイ・HDの意向も影響 三越伊勢丹HDでは、大西洋前社長の下で進められたが、現体制下では異例の超低価格で在庫処分するなど、大幅な見直しが行われている 地方・郊外店は想定を超えた苦戦 地域活性化 中心部にBRT 地元客は店舗閉鎖を冷静に受け止めているようだ 3店舗を閉店 年間売上高はピーク時100億円ほどだったが、現在は60億円程度まで落ちている 新潟三越 新潟市 そごう・西武は、衣料品を中心としたプライベートブランド(PB)「リミテッド エディション」の販売を2月末で取りやめることを決めた 「三越伊勢丹、「前言撤回→3店閉鎖」の深刻背景 社長は「閉店は当面ない」と言っていたが…」 伊勢丹府中店 相模原店 売り上げピークは20年以上前 東洋経済オンライン 在力を入れているのが、不動産開発やフロア貸しによる賃料収入の拡大 GMS(総合スーパー)やショッピングセンターといったほかの商業施設と差別化ができている伊勢丹新宿本店や三越銀座店などは、今後も百貨店として独立した経営ができる 小売業(百貨店) J.フロント リテイリングや高島屋がテナントからの賃料収益を軸にした不動産事業を推進 コンシェルジュを各階に設置 自主編集売り場 旗艦店のテコ入れに注力 差別化できていないところほど売り上げの低下傾向が激しい 三越伊勢丹ホールディングスは百貨店事業を再強化する構え (その2)(そごう・西武PBから撤退でデパート衣料品販売に大きな挫折、三越伊勢丹 「前言撤回→3店閉鎖」の深刻背景 社長は「閉店は当面ない」と言っていたが…、「そごう・西武の売却説」が急浮上、百貨店は“オワコン”なのか) ダイヤモンド・オンライン 「そごう・西武PBから撤退でデパート衣料品販売に大きな挫折」 森山真二 「「そごう・西武の売却説」が急浮上、百貨店は“オワコン”なのか」 そごう・西武の売却説が浮上 そごう・西武は鈴木さん(セブン&アイ前会長、現名誉顧問)が強力に進めてきた話。その鈴木さんが退任しているのだから、現経営陣にとって何の未練もないはず。売却もありうるだろう 合理主義の鈴木名誉顧問がなぜ、百貨店というチェーンストアとは相いれない業態に、それほどまでに固執してきたのだろうか 百貨店というステータスへの憧憬 ダイエー創業者の故中内功氏は高島屋に目をつけた 医療法人十全会を通じ、高島屋株約10%を取得。高島屋に業務提携を迫ったことがあった ダイエーによる乗っ取りを恐れた高島屋側が業務提携を撤回、中内氏が描いた高島屋取り込みは不発 鈴木名誉顧問 伊勢丹株の取得にも動いたことがある 秀和が保有していた伊勢丹株22.3%の取得に意欲を示した 三菱銀行(現三菱UFJ銀行)の堅い守りで取得はかなわなかった そごう・西武はリストラを繰り返してきた 残っている店舗も建物自体も中途半端に古いものが多く、老朽化している 「西武百貨店は池袋店1店あればよく、他の店は売却か、業態転換した方がいい」と証券アナリストから指摘 業績も低迷状態が続きインバウンド消費の取り込みにも難 三越伊勢丹にしても、そごう・西武にしても、百貨店をどう再生するかという解答を出さずに、閉鎖して縮小均衡を進めているだけ 地元の商店街は百貨店という核を失うことになり、一段と落ち込むのではないかと心配されている
健康(その5)(楽天OBが始めた「突然死予防ビジネス」の全貌、「私は健康」3割だけ 寿命を縮める残念な職場 ストレスが心と体を蝕む、熱中症対策の水分補給 お茶やスポーツ飲料がおすすめできない理由) [社会]
健康については、6月12日に取上げた。今日は、(その5)(楽天OBが始めた「突然死予防ビジネス」の全貌、「私は健康」3割だけ 寿命を縮める残念な職場 ストレスが心と体を蝕む、熱中症対策の水分補給 お茶やスポーツ飲料がおすすめできない理由)である。
先ずは、フリージャーナリストの大西 康之氏が4月7日付け東洋経済オンラインに寄稿した「楽天OBが始めた「突然死予防ビジネス」の全貌 お手軽価格の「銀座で脳ドック」を受けてみた」を紹介しよう。
・『53歳の筆者には心配事がある。 つい先日のことである。駅から徒歩で家路につき玄関までたどり着いたところで、その日は駅まで自転車で行ったことを思い出した。調べ物をしようとしてグーグルを立ち上げ、検索窓の下のニュースに気を取られていたら、何を調べるんだったか忘れてしまった。すばらしい原稿の構成を思い付いて独りでニヤついていたのに、翌日にはきれいさっぱり忘れていた。「ひょっとして」と思うことが続いているのだ』、大西氏は日経ビジネス記者時代には、東芝など企業へのものの突撃取材で鳴らしたものだが、やはり寄る年波には勝てないのだろうか。
・『脳ドックってそんなに安いのか そんな折、フェイスブックで友人のIT評論家、尾原和啓氏の投稿を見た。「脳動脈瘤が見つかりました」 衝撃的な書き出しで始まる投稿をドキドキしながら読み進むと、結論は「3年以内の破裂リスクは0.5%の超初期段階」とのことでまずは一安心。それにしても、今どきの脳ドックはそんなことまでわかるのか。おまけに尾原氏が受けた脳ドック・クリニック「メディカルチェックスタジオ」は銀座一丁目にあり「所要時間30分、検査費用1万7500円(税込1万8900円)」と書いてある。 脳ドックってそんなに安いのか。グーグルで「脳ドック」を検索すると、人間ドックの検索サイトに「費用の相場」という記述には「脳ドックのみ3万円~5万円」「人間ドック+脳ドックのみ10万円前後」と書いてある。1万7500円は相場のほぼ半額。価格破壊ではあるが、本当に大丈夫なのか』、このような分野にまで価格破壊が進んでいるとは、驚きだ。
・『「メディカルチェックスタジオ」のサイトを読むと、2017年12月にクリニックを開業した知久正明医師は国立循環器病センターなどを経て敬愛病院付属クリニックの院長をしていた血管のスペシャリストである。インチキではなさそうだ。 尾原氏の投稿をさらに詳しく読むと、メディカルチェックスタジオのバックヤードやシステムサポートの担当として、楽天グループのマーケティング会社、リンクシェア・ジャパンの社長だった濱野斗百礼(智章)氏と楽天トラベルの社長室長だった神山一彦氏が事務局をしているという。 濱野氏、神山氏とは楽天時代に面識がある。こうなったら取材しない手はない。しかしただ話を聞くだけではもったいない。最近の自分のモヤモヤを解決すべく、メディカルチェックスタジオが推奨する「スマート脳ドック」なるものを受診してみることにした。 予約はすべてスマホ、パソコンで完了する。 まずは日時を選ぶ。予約可能な日時がカレンダーで示され、そこから選んでいく。驚くべきことに予約は15分単位。つまり検査そのものは15分で終了するということだ。次に会員登録。IDとパスワードを打ち込むだけだが、フェイスブック、グーグル、ヤフー、楽天のIDでも登録できるので、どれかを持っていればなお簡単だ。最後に問診が始まる。症状、既往症などいくつかの質問に答えて予約完了である。私の場合、15分程度で予約が完了した。 予約当日、3月27日の15時15分の5分前、銀座一丁目のクリニックに到着すると、事務局の神山氏が出迎えてくれた。「ようこそ、お越しくださいました。ではどうぞ」』、会員登録がフェイスブック、グーグルなどのIDでも可能とは、さすが合理的だ。
・『スマホで問診を済ませてあるから、すぐに検査に いきなり検査室に案内される。スマホで問診を済ませてあるから、いきなり検査なのだ。 「えっと、着替えとかは」「あ、上着を脱いでもらえば、そのままで大丈夫です。金属がダメなので時計とベルトは外してくださいね」と、そのまま検査室に直行。ビジネスマンならネクタイを外す必要もない。あくまでコンビニエントなのである。 検査室に備え付けられた巨大なMRI(磁気共鳴画像)装置を見て「あっ」と反応してしまった。トンネル状の検査装置上部に「TOSHIBA」の文字。拙著『東芝 原子力敗戦』では原発事業に大失敗で債務超過に陥った東芝が、破綻寸前で虎の子のメディカル事業をキヤノンに売却した経緯にも触れている。 「と、東芝ですね」と私が不安そうに聞くと、神山氏は「後でご説明します」と笑顔で答えた。 とにかく検査である。ベッドに横たわり、頭を軽く固定する。「そのまま、頭は動かさずに10分我慢してください。少しうるさいですが、眠ってもらうのがいちばんいいです」 そうか眠ってもいいのか。 MRI装置が「ゴウン、ゴウン」と不気味な音を立てる。時折「ガガーッ」という別のノイズも聞こえ、ベッドが少々振動する。最初は少し緊張するが、単調なノイズの繰り返しは確かに眠気を誘う。前日、明け方まで原稿を書いていた私は、10分の間に何度か寝落ちした。 「はい終わりました」という神山氏の声で目覚める。上着を着て、腕時計を取り出すと所要時間はきっかり10分。 「検査結果は1週間後にメールでお送りします。問題なければこれでおしまい。何かあれば、後日、精密検査。そこで異常が見つかれば日本大学病院、順天堂大学病院、聖路加国際病院などの提携先の病院で治療を受けていただく流れになっています」 こうして私の脳ドック初体験は、拍子抜けするほど簡単に終わった』、なるほど。
・『相場の半額で脳ドックが受けられる理由 検査終了後、濱野、神山の両氏に取材した。 なぜ、相場の半額で脳ドックが受けられるのか。 「効率を徹底的に高めているからです。スタジオにはMRIが2台あり、15分刻みで1時間に8件の検査が可能になります。普通の病院では脳以外にもさまざまな部位を検査するのでセッティングに時間がかかりますが、脳に特化することで稼働率が上がるわけです。われわれは『脳ドックのLCC(ロー・コスト・チェックアップ)』と呼んでいます」(神山氏) 東芝のMRIを使っていることもローコストの一因なのか。 「ちょうど、キヤノンさんが東芝メディカルを買うタイミングだったので、キヤノンさんも実績作りの狙いがあって、いい値段を出してくださいました。それでも機材を全部そろえるのに5億円以上かかりましたが」(濱野氏) この辺りは、さすが楽天出身の2人である。なかなかに抜け目がない。東芝の原発事業はダメだったが、現社長の綱川智氏が手塩にかけて育てた東芝メディカルシステムズは、キヤノンが6655億円もの値をつけた優良会社である。その最新鋭機種だから、ハードウエアの面は信頼していいだろう。問題はソフトウエアである。いくら知久先生に実績があると言っても、1人でそんなに大量の検査をさばけるものだろうか』、『脳ドックのLCC』とは上手い比喩だ。
・『「脳ドックの要はMRIなどで集めたデータの解析です。画像の場合『読影』という特殊な技能が求められます。実はその読影のスペシャリストが広島に2人いて遠隔で画像をチェックしています。知久先生とのダブルチェック体制です。さらに東大発ベンチャーの『エルピクセル』という会社とAI(人工知能)を使った画像解析の共同研究もしています。確実に、早く、安く検査できる体制を作ることが、予防医療の普及のカギだと考えています」(神山氏) メディカルチェックスタジオは大手長距離バス会社やIT企業と法人一括契約を結んでいる。特に多くの人命を預かっている長距離バスの運転手は、職務中に脳梗塞などを起こすと大惨事になるため、受診を義務付けている会社もある。 何を隠そう、神山氏が楽天トラベル社長室長時代にドライバーの脳の病気による大規模なバスの事故への対応を経験したことが、本事業を立ち上げるきっかけになっている。「職場での従業員の突然死を防ぐために、あなたの会社も契約しませんか?」という営業トークが多くの企業に受け入れられているようだ』、神山氏がドライバーの脳の病気による大規模なバスの事故への対応を経験したことが、本事業を立ち上げるきっかけになっている、というのは地に足がついた創業だ。
・『30分1万7500円で手に入る安心感 4月2日月曜日、「診断結果のお知らせ」というメールが届いた。 恐る恐る、パスワードを打ち込んで結果を見る。 脳萎縮なし 脳梗塞なし 脳腫瘍なし 動脈瘤なし 血管閉塞なし 総合判定異常所見は認めませんでした よかったぁ~。 あれもこれもそれも、忘れまくるのは「正常な老化」ということですね。この安心が30分1万7500円で手に入るなら「安いもの」というのが今回の所感である。しかし尾原氏のケースにもあるように動脈瘤などはある日突然できるものではなく、自覚症状のまったくないところから少しずつ大きくなっていくらしい。 定期的にチェックしておけば、大事になる前に処置できる。30分1万7500円を高いと思うか安いと思うかは人ぞれぞれだろう。しかし血管のスペシャリストである知久先生はこう言っている。「とにかく医療の現場にいると、直しても直しても患者さんが来るんです。本当にキリがない」 高齢者が要介護になる大きな原因の1つが脳の病気である。発病すれば一命を取り留めても、後には長い闘病が待っており、医療コストを肥大化させる原因にもなっている。しかし、現代のテクノロジーを使って定期的に検査をすれば、脳の病気のかなりの部分は大事になる前に治療できる。それが、知久先生が予防医療に転じた理由だという。 3万~5万円で半日以上かかる従来の脳ドックは確かにハードルが高かった。「人間ドックのついでに」といっても10万円コースである。それが銀座のど真ん中で「30分1万7500円」。脳ドックのコンビニ化は日本の予防医療に新たな風を吹き込みそうだ』、確かに上手い仕組みでコンビニ化したものだ。私も受けてみようかな。
次に、健康社会学者の河合 薫氏が7月24日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「私は健康」3割だけ 寿命を縮める残念な職場 ストレスが心と体を蝕む」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/072300173/?P=1
・『なぜか最近、新聞やテレビを見ながら「なんでやねん」と、“一人ツッコミ”を入れることが増えた。 これまでも「へ~」だの、「アハハ」だのと、“一人驚き” や “一人笑い” をし、「何?」「どうした?」と周りに聞かれ、「あ、いや、ごめん」とお茶を濁していた。が、最近の一人ツッコミは、報じられている問題に「もっとその先まで踏み込んで!」という、いわば消化不良によるものだ。 先週、木曜日(7月19日付)の日本経済新聞の記事も、まさにその類だった。「なぜか少ない『私は健康』」――との見出しで紹介された「OECD保健統計2018」に関する内容である。記事は韓国・毎日経済新聞によるものなので韓国が主語。だが、日本のことも書かれていた。なんでも、保健福祉省が「OECD保健統計2018」の結果を発表し、韓国人は肥満の割合が低く、平均寿命も長いが、「自分は健康だ」と考えている国民の割合がOECDで最低水準であることがわかったそうだ。その割合は韓国32.5%で、日本も35.5%と最低レベル。ニュージーランド、アメリカ、カナダなどの比率は80~90%で、OECD平均は約70%なので、いかに低いかがわかる。 また、患者一人当たりの平均入院日数は18.1日で、 日本(28.5日)の次に多い反面、韓日両国をのぞくすべてのOECD加盟国は「10日未満」だったという。 ……ふむ。 これは韓国語で書かれたものを、日本語に訳したものなのか? それとも韓国・毎日経済新聞に書かれていた記事を日本で紹介するために、記者さんが「日本」の情報を追加したものなのだろうか? いずれにせよ、「自分は健康だ」とする人が3割程度しかない→「なぜ」という方程式が真っ先に浮かぶのは結構、幸せなことだと思う』、私もツッコミ不足の記事に対し不満を持つことが多い。
・『日本と韓国に共通しているのは労働環境の過酷さである。 言わずもがな、どちらも世界有数の「長時間労働大国」で、有給休暇の取得率、女性活躍、最低賃金……などの世界ランキングで、日本と韓国は最下位常連国だ。 ストレス。そうストレス。ストレスの多い日々を送っているビジネスマンが、「私の健康状態は良好です!」と、胸を張るのは難しい。少なくとも私は「私は健康です!」とキッパリ言い切る自信はない。 はい、そうです。私の脳内ツッコミ隊は「なぜか少ない」という、まるで他人事の言葉に敏感に反応し、おそらくストレスを一切感じていない幸せな記者さんに、「なぜか? って、なんでやねん! もうちょっと考えてみ!!」と、大暴れした、というわけ。 そこで今回は「私は健康か?」について、アレコレ考えてみようと思う』、なるほど。
・『WHOの定義から派生 まず最初に、主観的健康について、少々専門的になるけどとっても大切なことなので説明します。 「自分は健康だ」という主観的健康は、1946年にWHO(世界保健機関)定義が健康を以下のように定義したことから派生した指標である・・・健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること。 精神的・社会的とは具体的には…… 孤立や対立がない 居場所がある サポートが得られる 役割がある ことで、これらに満足している状態を「健康」とした。 この定義が発表された当初、あまりに理想的すぎるという批判もあったが、「健康は個人の問題じゃなく、社会の問題。人権であり、個人を尊重すること。それを追求する義務がアナタたちにあるんですよ」と戦争でたくさんの人たちの命が失われた反省を世界各国に持ってもらいたいと、WHOは「精神的・社会的」という文言を加えたのだ。 そこで「ならば医学的視点だけではなく、社会学的視点からも、心理学的視点からも健康を捉えなくては!」と気運が高まったものの、「病気ではない、弱っていないのに、肉体的に~とか、精神的に~とか、社会的に~とか、どうやって測ればいいんだ?」との議論を呼んだ。 この疑問に答えようと、世界中の研究者たちがあれやこれやと考え、たどり着いたのが Well-being や QOL(quality of life)などの概念で、それを測定する尺度も開発された。 一方、「もっとシンプルに考えていいんじゃね?」という流れの中で生まれたのが、「私は健康である」と主観的に捉える主観的健康である。米国では1972年以降の、National Health Interview Surveyに、日本でも86年の国民生活基礎調査から導入されている』、定義を広くするか、シンプルにするかは、利用目的にもよるのだろう。
・『さて、主観的健康という言葉は日本では広く使われているが、欧米ではsubjective health、perceived health、self-rated health、self-assessed healthなど呼称は統一されていない。 また、尺度もいくつか存在し、複数項目で加算し得点化するものもあれば、単項目もある。 ここ数年は単項目で測定するものが国内外を含め多数を占める。 私がこれまで行った調査でも、よほどの理由がない単項目を使っている。 具体的には「私は健康である」に対して、「全くその通りだ」~「全く違う」の4~5段階で回答したり、「あなたは健康ですか?」との問いに、「とても健康」~「健康でない」と4~5段階で答えるのが一般的だ。 単項目が多用される理由は「感度の良さ」にあるといっても過言ではない。「測りたいものが測れる」感度の良さと(信頼性と妥当性)、「その他の要因との関連」を分析する際の感度の良さが単項目のウリ。 例えば単項目を使った調査で、国内外の多くの先行研究から「主観的健康度が高い人ほど疾患の有無にかかわらず生存率が高い」ことや、「病気の予後や平均余命にも強く影響を与える」ことがわかっている。私が関わった調査研究でも、主観的健康度の高い人は術後の経過が良く、リハビリの効果も出やすいことに加え、人生満足度や職業満足度が高かった。 医療技術は日進月歩で、多くの病が「死の病」から「共に生きる病」となった。現代社会では、「いかに自分の健康状態を認識するか」が重要となる。 つまり、「うん。私は大丈夫だ!」という前向きな気持ちに加え、「生きてるっていいね!」と思える社会作りも大切なのだ』、その通りだろう。
・『それだけではない。ここからが働く人にとって、極めて重要な知見である。 なんと「主観的健康」が、心疾患やがんといったストレスとの関連の高い病気の単独の予測因子にもなることが追跡研究でわかってきているのだ。 それは「主観的健康」が、ストレス状態に強く影響を受けていることを意味する。 ただし、ストレスといっても、「仕事で失敗をする」とか、「上司から怒鳴られた」というような一時的なものではなく、 長時間労働が常態化し、家庭で過ごす時間が取れない 常に仕事の納期に追われている 常に要求の高い仕事を求められる 裁量権を与えられていない 上司や同僚から支援を得られない 雇用形態が不安定 といった慢性的なストレスである。 今年1月。国立がん研究センターが、全国の40~69歳の男女約10万人を20年近く追跡し、長期間ストレスを感じている人は発がんのリスクが高くなることがわかったという調査結果を公表した。 この調査は90年(または93年)の調査開始時に「あなたは普段の生活で、どの程度ストレスを感じていますか?(自覚的ストレス)」との問いに、「少しだけ」「平均的(人並み)」「たくさん」の三択に答えてもらい、その後のがんの罹患率との関連を分析した(追跡調査中に約1万7200人ががんに罹患)』、「長期間ストレスを感じている人は発がんのリスクが高くなることがわかった」というのは、感覚的にも理解できる。
・『自覚的ストレスと主観的健康 最初の分析では、「調査開始時の自覚的ストレス」とがんの罹患率との関連を調べた。その結果、統計的に有意な関連は認められなかった。 そこで、「調査開始時の自覚的ストレス」と「5年後調査時の自覚的ストレス」の両方を用いて分析したところ、「両方でストレスの高かったグループ」は、「両方とも低かったグループ」に比べ、全てのがんに罹患するリスクが11%上昇していたのだ。 開始と5年後の両方とも「ストレスが高い」と感じていることは、慢性的なストレスにさらされていることを意味する。 しかも、この傾向は特に男性で顕著で、臓器別では、肝がん、前立腺がんでリスクが高まることもわかった。 もちろん「ストレスへの自己認識」と「主観的健康」は、100%イコールではない。 だが、主観的健康に関する数多くの調査結果でストレスとがんや心疾患との関連を報告されている限り、「私は健康です!」と胸を張って言える社会や職場を作ることがWHOの「健康の定義」の真意だと思うわけです。 慢性的なストレス地獄で働いてる人たちは、ストレスの雨に鈍感になりがちである。 だが、そのシトシトと降り続く雨が確実に心身を蝕んでいる』、「シトシトと降り続く雨が・・・」は心にグサリと刺さる表現だ。
・『たかが「働き方改革」。されど「働き方改革」。 少なくとも1日の三分の一を職場で過ごすビジネスパーソンにとって、職場環境は「その人の寿命までをも左右する極めて大きな役割を担っている」といっても過言ではない。 ただ、残念なのは職場環境をよくしようとどんなに現場が頑張ったところで限界があるってことだ。「鶴の一声」。そうなのだ。トップがいかに真剣に職場環境の改善に努めるかどうかで、そこで働く人の寿命や病気にかかるリスクまで変わってきてしまうということを、もっともっと経営者には認識していただきたいのです』、その通りだろう。
・『実は、韓国と日本の主観的健康の圧倒的な低さは、2016年のOECDの報告書でも指摘されていて、それについて韓国の保健福祉省は次のような見解を示した。「『社会文化的要素に起因すると見られる』と評価。つまり韓国人は自分の健康状態について、実際より過度に否定的に感じる傾向、いわゆる『健康心配症』が多い」と。 なるほど。健康心配症ね。 日本でも同じことが言える? 確かに、本屋には健康本が山積みされ、テレビや雑誌でも健康情報が溢れている日本人の健康への意識は相当に高い。 だが、他の国では9割近くの人が「私は健康だ!」としているのに対し、たったの3割しかいない状態を「心配症」だけで説明するのは相当に無理があるように思う。 それに「寿命は長いのだから、主観的健康の低さは説明がつかない」という意見もあるけど、そもそも寿命って何なのだろう? 健康って何なのだろう? ただ長生きするだけが健康じゃないし、がんや心疾患を発症して延命治療で長く生きながらえることだけが健康でもないと思うのだ。 1つだけ確かなのは「私は健康です!」と胸をはれる毎日が過ごせればいいな、ってこと。慢性的なストレスを減らし、「私は健康です!」と言える人が増えれば、それがまた「健康な社会作り」を加速させる。 ……「なんかみんな怒ってて怖っ……」なんてことを最近思う機会が増えていたので、余計に考えてしまったのです』、「働き方改革」のような抽象的なキャッチフレーズを振り回すのではなく、地道に慢性的なストレスを減らし、「健康な社会作り」をしていきたいものだ。
第三に、7月24日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した「男の健康:熱中症対策の水分補給、お茶やスポーツ飲料がおすすめできない理由――赤坂パークビル脳神経外科・福永篤志医師に聞く」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/175461
・『連日の猛暑で危惧される「熱中症」。消防庁の発表では、7月9日~15日までの全国の熱中症による救急搬送者は9956人。最高気温が40度を上回る地域も登場し、今後さらなる患者の増加が見込まれる。「熱中症の恐ろしさを十分に認識していない人が多いのではないか」と指摘する赤坂パークビル脳神経外科の福永篤志医師(脳神経外科医・気象予報士)に恐ろしい熱中症の症状や適切な予防策について話を聞いた』、だいぶ涼しくなってきたが、来年に備えておこう。
・『夏のめまい、頭痛、筋肉痛は熱中症を疑え 深部体温が42度超なら生命の危機に ・・・熱中症とは、「暑熱(夏の暑さ)」による身体の障害の総称です。人間は外気温に関係なくほぼ一定の体温を維持できる恒温動物で、いかに高温あるいは低温の環境であっても、身体から熱を逃す働き(放熱)と熱を産生する働き(産熱)のバランスで、体内を36~37度に維持します。ところが暑熱を受け続けると、産熱が放熱を上回って体温が著しく上昇し、熱中症の症状が現れます。 体温が上昇すると、体内酵素の働きが低下し、たんぱく質を分解できなくなって不具合が生じます。細胞レベルでは、深部体温(体の内部の温度)が41.5度を超えた時点で身体のミトコンドリアに機能障害が起こり、身体の様々なエネルギーを作り出せなくなります。さらに42度を超えれば不可逆的な障害が起こり、生命の危機状態に陥ります』、小中学校時代に朝礼などでよく倒れる生徒がいて、保健室などで休めばケロリと治っていたので、軽く考えていたが、「42度を超えれば不可逆的な障害が起こり」とは本当に恐ろしいことだ。
・『熱中症は重症度に応じて3段階に分類されます。軽度である「I度」はかつての分類である熱失神、日射病、熱けいれんに相当し、症状としては、めまい、頭痛、筋肉痛、ふくらはぎなどのけいれん、あくびなどがあります。 中等度の「II度」は熱疲労に相当し、疲労感、倦怠感、手足に力が入らない、不快感、I度よりひどい頭痛、吐き気・嘔吐、判断力や集中力の低下、意識がもうろうとする、などの症状があります。 熱射病に相当する「III度」は重症度では最も重く、意識障害やフラフラして歩けない、けいれん発作などの症状を呈します。また、血液検査をすると、肝臓や腎臓に障害が起こっていたり、血液凝固異常といって血栓(血の塊)ができやすい状態が認められたりします』、III度が前期の不可逆的な障害なのだろうか。
・『――応急処置として、どのような対策が有効でしょうか? めまい、頭痛、筋肉痛、ふくらはぎなどのけいれん、ごく軽度の疲労感や倦怠感などが診られれば、すぐに涼しい場所へ移し、衣服をゆるめて両側の首筋、わきの下、足の付け根を冷やします。氷や保冷剤があればそれで、なければ冷たいペットボトルなどでも構いません。タオルやうちわなどで仰ぎ、風を送って身体を冷やしてください。 水を十分に摂取することも忘れてはいけません。塩分と水分が適度に配合された経口補水液であれば、より理想的です。ただし、嘔吐していたり意識がなかったりした時は、水分が気道に入る可能性があるため、無理に飲ませるのはやめてください。 これらの処置をしても回復が見られない場合、あるいは最初から意識障害を起こしている場合は、すぐに医療機関を受診してください。命にかかわる可能性があります・・・軽度の熱中症で生じるめまい、頭痛、筋肉痛などは、様々な病気で見られる症状です。「いつもの」だと思い、放置しているとだんだん悪化してきた……というケースも珍しくありません。この暑い季節、特に屋外で活動していたり水分補給が十分でなかったりした時にめまいや頭痛などが生じたら、熱中症を疑い、前項で紹介した対策を講じるべきです。』、なるほど。
・『お酒やコーヒー、緑茶での水分補給はNG 「牛乳」が熱中症予防に良いという説も ――熱中症の正しい予防策を教えてください。 基本は、水分補給です。水分というとアルコールや、カフェインを含むコーヒー、緑茶などを水代わりに飲んでしまう人が多いですが、利尿効果によりかえって脱水症状を引き起こし、熱中症のリスクを高めるおそれがあります。だから私は必ず「“水を”飲んでください」と伝えるようにしています。ただし、心臓病や腎臓病を患っている方は水分摂取量に制限が設けられているため、主治医に相談してください』、コーヒー、緑茶は「利尿効果によりかえって脱水症状を引き起こし、熱中症のリスクを高めるおそれがあります」というのは知らなかった。きちんとした知識を得て良かった。
・『「スポーツ飲料の方がいいのでは?」という質問もよく受けます。確かに体内への吸収率はいいものの、糖分が比較的多く含まれているのが問題。スポーツ飲料の飲み過ぎで糖尿病を発症した事例もあります。日常生活では水で十分。喉の渇きを自覚する前に、こまめに水を飲んでください。 一方、スポーツをしたり、汗をかいたりしたような時は、経口補水液を取るようにしましょう。最近の論文では、「スポーツ後には牛乳がいい」という説も発表されています。ミネラルのほかタンパク質の補給にもなり、熱中症になりにくい体を作るからです。 「クーラーが体によくない」という意見を高齢者を中心によく耳にしますが、近年の気温上昇を見ると、特に都心ではクーラーなしで夏を乗り切るのは難しいように感じます。健康のために、熱中症予防のために、28度くらいを目安に、適度にクーラーを用いて、暑熱を和らげるようにしてください』、スポーツ飲料は糖尿病のリスクがあるというのは、確かにその通りだろう。
・『――熱中症を起こしやすい季節、天気、時間帯はありますか? 熱中症は気温25度、湿度40%を超えた辺りから増え始めます。患者数は原則的に気温の上昇に比例して増加するため、ピークは7~8月。ただし、人間の身体は暑熱に慣れていくので、高温が続くと患者数は減ってきます。むしろ暑さに慣れていない梅雨明けでは、真夏よりも低い気温で熱中症が発生しやすくなります。 実のところ熱中症は、気温より湿度の影響の方が遥かに大きく、カラッと晴れた日よりも、晴れて蒸し蒸しした天気の方が熱中症のリスクが高くなります。時間帯では、13時ころがピークで、16~20時もそれなりに多い一方で、21時から翌8時までは比較的少なくなります(平成27年東京都消防庁データ参照)。 環境省の熱中症予防情報サイトでは、熱中症を予防することを目的に作られた「暑さ指数(WBGT)」 の予測値と現在の推計値を掲載しています。外出する際などはこちらも参考にして、指数に応じて外出や運動を控えるなど生活活動の目安にしてみてください』、「熱中症は、気温より湿度の影響の方が遥かに大きく、カラッと晴れた日よりも、晴れて蒸し蒸しした天気の方が熱中症のリスクが高くなります」というのは初めて知った。
・『高齢者や子どもはより危険だが、若くても元気満々でも発症のリスクあり ――体力がある人であれば、熱中症にかかりにくいのでしょうか? 皆さんに声を大にして申し上げたいのは、熱中症のリスクはだれにでもあるということです。暑熱を受け続け、水分補給を怠れば、体力があっても、年齢が若くても、そして前日まで元気満々であっても、熱中症を発症する恐れがあります。十分に予防策を講じるべきです。 ただし、「熱中症になりやすい人」がいることは確か。まずは高齢者です。そもそも体内の水分含有量が低い上に、身体に備わる放熱の機能が低下しています。「人間の身体は暑熱に慣れていく」と述べましたが、高齢者の場合は例外で、高温が続くと比例して高齢患者の割合が増えていきます。 次に、子どもです。体温調節機能や発汗機能が成人よりも未成熟であり、身体が小さいために暑熱の影響を受けやすい。熱中症の症状を口に出して訴えられないケースもあるため、保護者がしっかり注意して見ていることが必要です。 そのほかでは、仕事やスポーツなどで屋外での活動時間が長い人。昨今のジョギングブームで、真夏の日中でもジョギングをしている人を見かけますが、できれば避けていただきたい行為です。 熱中症は、死に至ることもある怖い病気。予防が最大の治療です。「自分は大丈夫」だと根拠なき自信を持たず、これまでに挙げた予防策を実行してください』、確かに「根拠なき自信』には大いに気をつけたい。
先ずは、フリージャーナリストの大西 康之氏が4月7日付け東洋経済オンラインに寄稿した「楽天OBが始めた「突然死予防ビジネス」の全貌 お手軽価格の「銀座で脳ドック」を受けてみた」を紹介しよう。
・『53歳の筆者には心配事がある。 つい先日のことである。駅から徒歩で家路につき玄関までたどり着いたところで、その日は駅まで自転車で行ったことを思い出した。調べ物をしようとしてグーグルを立ち上げ、検索窓の下のニュースに気を取られていたら、何を調べるんだったか忘れてしまった。すばらしい原稿の構成を思い付いて独りでニヤついていたのに、翌日にはきれいさっぱり忘れていた。「ひょっとして」と思うことが続いているのだ』、大西氏は日経ビジネス記者時代には、東芝など企業へのものの突撃取材で鳴らしたものだが、やはり寄る年波には勝てないのだろうか。
・『脳ドックってそんなに安いのか そんな折、フェイスブックで友人のIT評論家、尾原和啓氏の投稿を見た。「脳動脈瘤が見つかりました」 衝撃的な書き出しで始まる投稿をドキドキしながら読み進むと、結論は「3年以内の破裂リスクは0.5%の超初期段階」とのことでまずは一安心。それにしても、今どきの脳ドックはそんなことまでわかるのか。おまけに尾原氏が受けた脳ドック・クリニック「メディカルチェックスタジオ」は銀座一丁目にあり「所要時間30分、検査費用1万7500円(税込1万8900円)」と書いてある。 脳ドックってそんなに安いのか。グーグルで「脳ドック」を検索すると、人間ドックの検索サイトに「費用の相場」という記述には「脳ドックのみ3万円~5万円」「人間ドック+脳ドックのみ10万円前後」と書いてある。1万7500円は相場のほぼ半額。価格破壊ではあるが、本当に大丈夫なのか』、このような分野にまで価格破壊が進んでいるとは、驚きだ。
・『「メディカルチェックスタジオ」のサイトを読むと、2017年12月にクリニックを開業した知久正明医師は国立循環器病センターなどを経て敬愛病院付属クリニックの院長をしていた血管のスペシャリストである。インチキではなさそうだ。 尾原氏の投稿をさらに詳しく読むと、メディカルチェックスタジオのバックヤードやシステムサポートの担当として、楽天グループのマーケティング会社、リンクシェア・ジャパンの社長だった濱野斗百礼(智章)氏と楽天トラベルの社長室長だった神山一彦氏が事務局をしているという。 濱野氏、神山氏とは楽天時代に面識がある。こうなったら取材しない手はない。しかしただ話を聞くだけではもったいない。最近の自分のモヤモヤを解決すべく、メディカルチェックスタジオが推奨する「スマート脳ドック」なるものを受診してみることにした。 予約はすべてスマホ、パソコンで完了する。 まずは日時を選ぶ。予約可能な日時がカレンダーで示され、そこから選んでいく。驚くべきことに予約は15分単位。つまり検査そのものは15分で終了するということだ。次に会員登録。IDとパスワードを打ち込むだけだが、フェイスブック、グーグル、ヤフー、楽天のIDでも登録できるので、どれかを持っていればなお簡単だ。最後に問診が始まる。症状、既往症などいくつかの質問に答えて予約完了である。私の場合、15分程度で予約が完了した。 予約当日、3月27日の15時15分の5分前、銀座一丁目のクリニックに到着すると、事務局の神山氏が出迎えてくれた。「ようこそ、お越しくださいました。ではどうぞ」』、会員登録がフェイスブック、グーグルなどのIDでも可能とは、さすが合理的だ。
・『スマホで問診を済ませてあるから、すぐに検査に いきなり検査室に案内される。スマホで問診を済ませてあるから、いきなり検査なのだ。 「えっと、着替えとかは」「あ、上着を脱いでもらえば、そのままで大丈夫です。金属がダメなので時計とベルトは外してくださいね」と、そのまま検査室に直行。ビジネスマンならネクタイを外す必要もない。あくまでコンビニエントなのである。 検査室に備え付けられた巨大なMRI(磁気共鳴画像)装置を見て「あっ」と反応してしまった。トンネル状の検査装置上部に「TOSHIBA」の文字。拙著『東芝 原子力敗戦』では原発事業に大失敗で債務超過に陥った東芝が、破綻寸前で虎の子のメディカル事業をキヤノンに売却した経緯にも触れている。 「と、東芝ですね」と私が不安そうに聞くと、神山氏は「後でご説明します」と笑顔で答えた。 とにかく検査である。ベッドに横たわり、頭を軽く固定する。「そのまま、頭は動かさずに10分我慢してください。少しうるさいですが、眠ってもらうのがいちばんいいです」 そうか眠ってもいいのか。 MRI装置が「ゴウン、ゴウン」と不気味な音を立てる。時折「ガガーッ」という別のノイズも聞こえ、ベッドが少々振動する。最初は少し緊張するが、単調なノイズの繰り返しは確かに眠気を誘う。前日、明け方まで原稿を書いていた私は、10分の間に何度か寝落ちした。 「はい終わりました」という神山氏の声で目覚める。上着を着て、腕時計を取り出すと所要時間はきっかり10分。 「検査結果は1週間後にメールでお送りします。問題なければこれでおしまい。何かあれば、後日、精密検査。そこで異常が見つかれば日本大学病院、順天堂大学病院、聖路加国際病院などの提携先の病院で治療を受けていただく流れになっています」 こうして私の脳ドック初体験は、拍子抜けするほど簡単に終わった』、なるほど。
・『相場の半額で脳ドックが受けられる理由 検査終了後、濱野、神山の両氏に取材した。 なぜ、相場の半額で脳ドックが受けられるのか。 「効率を徹底的に高めているからです。スタジオにはMRIが2台あり、15分刻みで1時間に8件の検査が可能になります。普通の病院では脳以外にもさまざまな部位を検査するのでセッティングに時間がかかりますが、脳に特化することで稼働率が上がるわけです。われわれは『脳ドックのLCC(ロー・コスト・チェックアップ)』と呼んでいます」(神山氏) 東芝のMRIを使っていることもローコストの一因なのか。 「ちょうど、キヤノンさんが東芝メディカルを買うタイミングだったので、キヤノンさんも実績作りの狙いがあって、いい値段を出してくださいました。それでも機材を全部そろえるのに5億円以上かかりましたが」(濱野氏) この辺りは、さすが楽天出身の2人である。なかなかに抜け目がない。東芝の原発事業はダメだったが、現社長の綱川智氏が手塩にかけて育てた東芝メディカルシステムズは、キヤノンが6655億円もの値をつけた優良会社である。その最新鋭機種だから、ハードウエアの面は信頼していいだろう。問題はソフトウエアである。いくら知久先生に実績があると言っても、1人でそんなに大量の検査をさばけるものだろうか』、『脳ドックのLCC』とは上手い比喩だ。
・『「脳ドックの要はMRIなどで集めたデータの解析です。画像の場合『読影』という特殊な技能が求められます。実はその読影のスペシャリストが広島に2人いて遠隔で画像をチェックしています。知久先生とのダブルチェック体制です。さらに東大発ベンチャーの『エルピクセル』という会社とAI(人工知能)を使った画像解析の共同研究もしています。確実に、早く、安く検査できる体制を作ることが、予防医療の普及のカギだと考えています」(神山氏) メディカルチェックスタジオは大手長距離バス会社やIT企業と法人一括契約を結んでいる。特に多くの人命を預かっている長距離バスの運転手は、職務中に脳梗塞などを起こすと大惨事になるため、受診を義務付けている会社もある。 何を隠そう、神山氏が楽天トラベル社長室長時代にドライバーの脳の病気による大規模なバスの事故への対応を経験したことが、本事業を立ち上げるきっかけになっている。「職場での従業員の突然死を防ぐために、あなたの会社も契約しませんか?」という営業トークが多くの企業に受け入れられているようだ』、神山氏がドライバーの脳の病気による大規模なバスの事故への対応を経験したことが、本事業を立ち上げるきっかけになっている、というのは地に足がついた創業だ。
・『30分1万7500円で手に入る安心感 4月2日月曜日、「診断結果のお知らせ」というメールが届いた。 恐る恐る、パスワードを打ち込んで結果を見る。 脳萎縮なし 脳梗塞なし 脳腫瘍なし 動脈瘤なし 血管閉塞なし 総合判定異常所見は認めませんでした よかったぁ~。 あれもこれもそれも、忘れまくるのは「正常な老化」ということですね。この安心が30分1万7500円で手に入るなら「安いもの」というのが今回の所感である。しかし尾原氏のケースにもあるように動脈瘤などはある日突然できるものではなく、自覚症状のまったくないところから少しずつ大きくなっていくらしい。 定期的にチェックしておけば、大事になる前に処置できる。30分1万7500円を高いと思うか安いと思うかは人ぞれぞれだろう。しかし血管のスペシャリストである知久先生はこう言っている。「とにかく医療の現場にいると、直しても直しても患者さんが来るんです。本当にキリがない」 高齢者が要介護になる大きな原因の1つが脳の病気である。発病すれば一命を取り留めても、後には長い闘病が待っており、医療コストを肥大化させる原因にもなっている。しかし、現代のテクノロジーを使って定期的に検査をすれば、脳の病気のかなりの部分は大事になる前に治療できる。それが、知久先生が予防医療に転じた理由だという。 3万~5万円で半日以上かかる従来の脳ドックは確かにハードルが高かった。「人間ドックのついでに」といっても10万円コースである。それが銀座のど真ん中で「30分1万7500円」。脳ドックのコンビニ化は日本の予防医療に新たな風を吹き込みそうだ』、確かに上手い仕組みでコンビニ化したものだ。私も受けてみようかな。
次に、健康社会学者の河合 薫氏が7月24日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「私は健康」3割だけ 寿命を縮める残念な職場 ストレスが心と体を蝕む」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/072300173/?P=1
・『なぜか最近、新聞やテレビを見ながら「なんでやねん」と、“一人ツッコミ”を入れることが増えた。 これまでも「へ~」だの、「アハハ」だのと、“一人驚き” や “一人笑い” をし、「何?」「どうした?」と周りに聞かれ、「あ、いや、ごめん」とお茶を濁していた。が、最近の一人ツッコミは、報じられている問題に「もっとその先まで踏み込んで!」という、いわば消化不良によるものだ。 先週、木曜日(7月19日付)の日本経済新聞の記事も、まさにその類だった。「なぜか少ない『私は健康』」――との見出しで紹介された「OECD保健統計2018」に関する内容である。記事は韓国・毎日経済新聞によるものなので韓国が主語。だが、日本のことも書かれていた。なんでも、保健福祉省が「OECD保健統計2018」の結果を発表し、韓国人は肥満の割合が低く、平均寿命も長いが、「自分は健康だ」と考えている国民の割合がOECDで最低水準であることがわかったそうだ。その割合は韓国32.5%で、日本も35.5%と最低レベル。ニュージーランド、アメリカ、カナダなどの比率は80~90%で、OECD平均は約70%なので、いかに低いかがわかる。 また、患者一人当たりの平均入院日数は18.1日で、 日本(28.5日)の次に多い反面、韓日両国をのぞくすべてのOECD加盟国は「10日未満」だったという。 ……ふむ。 これは韓国語で書かれたものを、日本語に訳したものなのか? それとも韓国・毎日経済新聞に書かれていた記事を日本で紹介するために、記者さんが「日本」の情報を追加したものなのだろうか? いずれにせよ、「自分は健康だ」とする人が3割程度しかない→「なぜ」という方程式が真っ先に浮かぶのは結構、幸せなことだと思う』、私もツッコミ不足の記事に対し不満を持つことが多い。
・『日本と韓国に共通しているのは労働環境の過酷さである。 言わずもがな、どちらも世界有数の「長時間労働大国」で、有給休暇の取得率、女性活躍、最低賃金……などの世界ランキングで、日本と韓国は最下位常連国だ。 ストレス。そうストレス。ストレスの多い日々を送っているビジネスマンが、「私の健康状態は良好です!」と、胸を張るのは難しい。少なくとも私は「私は健康です!」とキッパリ言い切る自信はない。 はい、そうです。私の脳内ツッコミ隊は「なぜか少ない」という、まるで他人事の言葉に敏感に反応し、おそらくストレスを一切感じていない幸せな記者さんに、「なぜか? って、なんでやねん! もうちょっと考えてみ!!」と、大暴れした、というわけ。 そこで今回は「私は健康か?」について、アレコレ考えてみようと思う』、なるほど。
・『WHOの定義から派生 まず最初に、主観的健康について、少々専門的になるけどとっても大切なことなので説明します。 「自分は健康だ」という主観的健康は、1946年にWHO(世界保健機関)定義が健康を以下のように定義したことから派生した指標である・・・健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること。 精神的・社会的とは具体的には…… 孤立や対立がない 居場所がある サポートが得られる 役割がある ことで、これらに満足している状態を「健康」とした。 この定義が発表された当初、あまりに理想的すぎるという批判もあったが、「健康は個人の問題じゃなく、社会の問題。人権であり、個人を尊重すること。それを追求する義務がアナタたちにあるんですよ」と戦争でたくさんの人たちの命が失われた反省を世界各国に持ってもらいたいと、WHOは「精神的・社会的」という文言を加えたのだ。 そこで「ならば医学的視点だけではなく、社会学的視点からも、心理学的視点からも健康を捉えなくては!」と気運が高まったものの、「病気ではない、弱っていないのに、肉体的に~とか、精神的に~とか、社会的に~とか、どうやって測ればいいんだ?」との議論を呼んだ。 この疑問に答えようと、世界中の研究者たちがあれやこれやと考え、たどり着いたのが Well-being や QOL(quality of life)などの概念で、それを測定する尺度も開発された。 一方、「もっとシンプルに考えていいんじゃね?」という流れの中で生まれたのが、「私は健康である」と主観的に捉える主観的健康である。米国では1972年以降の、National Health Interview Surveyに、日本でも86年の国民生活基礎調査から導入されている』、定義を広くするか、シンプルにするかは、利用目的にもよるのだろう。
・『さて、主観的健康という言葉は日本では広く使われているが、欧米ではsubjective health、perceived health、self-rated health、self-assessed healthなど呼称は統一されていない。 また、尺度もいくつか存在し、複数項目で加算し得点化するものもあれば、単項目もある。 ここ数年は単項目で測定するものが国内外を含め多数を占める。 私がこれまで行った調査でも、よほどの理由がない単項目を使っている。 具体的には「私は健康である」に対して、「全くその通りだ」~「全く違う」の4~5段階で回答したり、「あなたは健康ですか?」との問いに、「とても健康」~「健康でない」と4~5段階で答えるのが一般的だ。 単項目が多用される理由は「感度の良さ」にあるといっても過言ではない。「測りたいものが測れる」感度の良さと(信頼性と妥当性)、「その他の要因との関連」を分析する際の感度の良さが単項目のウリ。 例えば単項目を使った調査で、国内外の多くの先行研究から「主観的健康度が高い人ほど疾患の有無にかかわらず生存率が高い」ことや、「病気の予後や平均余命にも強く影響を与える」ことがわかっている。私が関わった調査研究でも、主観的健康度の高い人は術後の経過が良く、リハビリの効果も出やすいことに加え、人生満足度や職業満足度が高かった。 医療技術は日進月歩で、多くの病が「死の病」から「共に生きる病」となった。現代社会では、「いかに自分の健康状態を認識するか」が重要となる。 つまり、「うん。私は大丈夫だ!」という前向きな気持ちに加え、「生きてるっていいね!」と思える社会作りも大切なのだ』、その通りだろう。
・『それだけではない。ここからが働く人にとって、極めて重要な知見である。 なんと「主観的健康」が、心疾患やがんといったストレスとの関連の高い病気の単独の予測因子にもなることが追跡研究でわかってきているのだ。 それは「主観的健康」が、ストレス状態に強く影響を受けていることを意味する。 ただし、ストレスといっても、「仕事で失敗をする」とか、「上司から怒鳴られた」というような一時的なものではなく、 長時間労働が常態化し、家庭で過ごす時間が取れない 常に仕事の納期に追われている 常に要求の高い仕事を求められる 裁量権を与えられていない 上司や同僚から支援を得られない 雇用形態が不安定 といった慢性的なストレスである。 今年1月。国立がん研究センターが、全国の40~69歳の男女約10万人を20年近く追跡し、長期間ストレスを感じている人は発がんのリスクが高くなることがわかったという調査結果を公表した。 この調査は90年(または93年)の調査開始時に「あなたは普段の生活で、どの程度ストレスを感じていますか?(自覚的ストレス)」との問いに、「少しだけ」「平均的(人並み)」「たくさん」の三択に答えてもらい、その後のがんの罹患率との関連を分析した(追跡調査中に約1万7200人ががんに罹患)』、「長期間ストレスを感じている人は発がんのリスクが高くなることがわかった」というのは、感覚的にも理解できる。
・『自覚的ストレスと主観的健康 最初の分析では、「調査開始時の自覚的ストレス」とがんの罹患率との関連を調べた。その結果、統計的に有意な関連は認められなかった。 そこで、「調査開始時の自覚的ストレス」と「5年後調査時の自覚的ストレス」の両方を用いて分析したところ、「両方でストレスの高かったグループ」は、「両方とも低かったグループ」に比べ、全てのがんに罹患するリスクが11%上昇していたのだ。 開始と5年後の両方とも「ストレスが高い」と感じていることは、慢性的なストレスにさらされていることを意味する。 しかも、この傾向は特に男性で顕著で、臓器別では、肝がん、前立腺がんでリスクが高まることもわかった。 もちろん「ストレスへの自己認識」と「主観的健康」は、100%イコールではない。 だが、主観的健康に関する数多くの調査結果でストレスとがんや心疾患との関連を報告されている限り、「私は健康です!」と胸を張って言える社会や職場を作ることがWHOの「健康の定義」の真意だと思うわけです。 慢性的なストレス地獄で働いてる人たちは、ストレスの雨に鈍感になりがちである。 だが、そのシトシトと降り続く雨が確実に心身を蝕んでいる』、「シトシトと降り続く雨が・・・」は心にグサリと刺さる表現だ。
・『たかが「働き方改革」。されど「働き方改革」。 少なくとも1日の三分の一を職場で過ごすビジネスパーソンにとって、職場環境は「その人の寿命までをも左右する極めて大きな役割を担っている」といっても過言ではない。 ただ、残念なのは職場環境をよくしようとどんなに現場が頑張ったところで限界があるってことだ。「鶴の一声」。そうなのだ。トップがいかに真剣に職場環境の改善に努めるかどうかで、そこで働く人の寿命や病気にかかるリスクまで変わってきてしまうということを、もっともっと経営者には認識していただきたいのです』、その通りだろう。
・『実は、韓国と日本の主観的健康の圧倒的な低さは、2016年のOECDの報告書でも指摘されていて、それについて韓国の保健福祉省は次のような見解を示した。「『社会文化的要素に起因すると見られる』と評価。つまり韓国人は自分の健康状態について、実際より過度に否定的に感じる傾向、いわゆる『健康心配症』が多い」と。 なるほど。健康心配症ね。 日本でも同じことが言える? 確かに、本屋には健康本が山積みされ、テレビや雑誌でも健康情報が溢れている日本人の健康への意識は相当に高い。 だが、他の国では9割近くの人が「私は健康だ!」としているのに対し、たったの3割しかいない状態を「心配症」だけで説明するのは相当に無理があるように思う。 それに「寿命は長いのだから、主観的健康の低さは説明がつかない」という意見もあるけど、そもそも寿命って何なのだろう? 健康って何なのだろう? ただ長生きするだけが健康じゃないし、がんや心疾患を発症して延命治療で長く生きながらえることだけが健康でもないと思うのだ。 1つだけ確かなのは「私は健康です!」と胸をはれる毎日が過ごせればいいな、ってこと。慢性的なストレスを減らし、「私は健康です!」と言える人が増えれば、それがまた「健康な社会作り」を加速させる。 ……「なんかみんな怒ってて怖っ……」なんてことを最近思う機会が増えていたので、余計に考えてしまったのです』、「働き方改革」のような抽象的なキャッチフレーズを振り回すのではなく、地道に慢性的なストレスを減らし、「健康な社会作り」をしていきたいものだ。
第三に、7月24日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した「男の健康:熱中症対策の水分補給、お茶やスポーツ飲料がおすすめできない理由――赤坂パークビル脳神経外科・福永篤志医師に聞く」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/175461
・『連日の猛暑で危惧される「熱中症」。消防庁の発表では、7月9日~15日までの全国の熱中症による救急搬送者は9956人。最高気温が40度を上回る地域も登場し、今後さらなる患者の増加が見込まれる。「熱中症の恐ろしさを十分に認識していない人が多いのではないか」と指摘する赤坂パークビル脳神経外科の福永篤志医師(脳神経外科医・気象予報士)に恐ろしい熱中症の症状や適切な予防策について話を聞いた』、だいぶ涼しくなってきたが、来年に備えておこう。
・『夏のめまい、頭痛、筋肉痛は熱中症を疑え 深部体温が42度超なら生命の危機に ・・・熱中症とは、「暑熱(夏の暑さ)」による身体の障害の総称です。人間は外気温に関係なくほぼ一定の体温を維持できる恒温動物で、いかに高温あるいは低温の環境であっても、身体から熱を逃す働き(放熱)と熱を産生する働き(産熱)のバランスで、体内を36~37度に維持します。ところが暑熱を受け続けると、産熱が放熱を上回って体温が著しく上昇し、熱中症の症状が現れます。 体温が上昇すると、体内酵素の働きが低下し、たんぱく質を分解できなくなって不具合が生じます。細胞レベルでは、深部体温(体の内部の温度)が41.5度を超えた時点で身体のミトコンドリアに機能障害が起こり、身体の様々なエネルギーを作り出せなくなります。さらに42度を超えれば不可逆的な障害が起こり、生命の危機状態に陥ります』、小中学校時代に朝礼などでよく倒れる生徒がいて、保健室などで休めばケロリと治っていたので、軽く考えていたが、「42度を超えれば不可逆的な障害が起こり」とは本当に恐ろしいことだ。
・『熱中症は重症度に応じて3段階に分類されます。軽度である「I度」はかつての分類である熱失神、日射病、熱けいれんに相当し、症状としては、めまい、頭痛、筋肉痛、ふくらはぎなどのけいれん、あくびなどがあります。 中等度の「II度」は熱疲労に相当し、疲労感、倦怠感、手足に力が入らない、不快感、I度よりひどい頭痛、吐き気・嘔吐、判断力や集中力の低下、意識がもうろうとする、などの症状があります。 熱射病に相当する「III度」は重症度では最も重く、意識障害やフラフラして歩けない、けいれん発作などの症状を呈します。また、血液検査をすると、肝臓や腎臓に障害が起こっていたり、血液凝固異常といって血栓(血の塊)ができやすい状態が認められたりします』、III度が前期の不可逆的な障害なのだろうか。
・『――応急処置として、どのような対策が有効でしょうか? めまい、頭痛、筋肉痛、ふくらはぎなどのけいれん、ごく軽度の疲労感や倦怠感などが診られれば、すぐに涼しい場所へ移し、衣服をゆるめて両側の首筋、わきの下、足の付け根を冷やします。氷や保冷剤があればそれで、なければ冷たいペットボトルなどでも構いません。タオルやうちわなどで仰ぎ、風を送って身体を冷やしてください。 水を十分に摂取することも忘れてはいけません。塩分と水分が適度に配合された経口補水液であれば、より理想的です。ただし、嘔吐していたり意識がなかったりした時は、水分が気道に入る可能性があるため、無理に飲ませるのはやめてください。 これらの処置をしても回復が見られない場合、あるいは最初から意識障害を起こしている場合は、すぐに医療機関を受診してください。命にかかわる可能性があります・・・軽度の熱中症で生じるめまい、頭痛、筋肉痛などは、様々な病気で見られる症状です。「いつもの」だと思い、放置しているとだんだん悪化してきた……というケースも珍しくありません。この暑い季節、特に屋外で活動していたり水分補給が十分でなかったりした時にめまいや頭痛などが生じたら、熱中症を疑い、前項で紹介した対策を講じるべきです。』、なるほど。
・『お酒やコーヒー、緑茶での水分補給はNG 「牛乳」が熱中症予防に良いという説も ――熱中症の正しい予防策を教えてください。 基本は、水分補給です。水分というとアルコールや、カフェインを含むコーヒー、緑茶などを水代わりに飲んでしまう人が多いですが、利尿効果によりかえって脱水症状を引き起こし、熱中症のリスクを高めるおそれがあります。だから私は必ず「“水を”飲んでください」と伝えるようにしています。ただし、心臓病や腎臓病を患っている方は水分摂取量に制限が設けられているため、主治医に相談してください』、コーヒー、緑茶は「利尿効果によりかえって脱水症状を引き起こし、熱中症のリスクを高めるおそれがあります」というのは知らなかった。きちんとした知識を得て良かった。
・『「スポーツ飲料の方がいいのでは?」という質問もよく受けます。確かに体内への吸収率はいいものの、糖分が比較的多く含まれているのが問題。スポーツ飲料の飲み過ぎで糖尿病を発症した事例もあります。日常生活では水で十分。喉の渇きを自覚する前に、こまめに水を飲んでください。 一方、スポーツをしたり、汗をかいたりしたような時は、経口補水液を取るようにしましょう。最近の論文では、「スポーツ後には牛乳がいい」という説も発表されています。ミネラルのほかタンパク質の補給にもなり、熱中症になりにくい体を作るからです。 「クーラーが体によくない」という意見を高齢者を中心によく耳にしますが、近年の気温上昇を見ると、特に都心ではクーラーなしで夏を乗り切るのは難しいように感じます。健康のために、熱中症予防のために、28度くらいを目安に、適度にクーラーを用いて、暑熱を和らげるようにしてください』、スポーツ飲料は糖尿病のリスクがあるというのは、確かにその通りだろう。
・『――熱中症を起こしやすい季節、天気、時間帯はありますか? 熱中症は気温25度、湿度40%を超えた辺りから増え始めます。患者数は原則的に気温の上昇に比例して増加するため、ピークは7~8月。ただし、人間の身体は暑熱に慣れていくので、高温が続くと患者数は減ってきます。むしろ暑さに慣れていない梅雨明けでは、真夏よりも低い気温で熱中症が発生しやすくなります。 実のところ熱中症は、気温より湿度の影響の方が遥かに大きく、カラッと晴れた日よりも、晴れて蒸し蒸しした天気の方が熱中症のリスクが高くなります。時間帯では、13時ころがピークで、16~20時もそれなりに多い一方で、21時から翌8時までは比較的少なくなります(平成27年東京都消防庁データ参照)。 環境省の熱中症予防情報サイトでは、熱中症を予防することを目的に作られた「暑さ指数(WBGT)」 の予測値と現在の推計値を掲載しています。外出する際などはこちらも参考にして、指数に応じて外出や運動を控えるなど生活活動の目安にしてみてください』、「熱中症は、気温より湿度の影響の方が遥かに大きく、カラッと晴れた日よりも、晴れて蒸し蒸しした天気の方が熱中症のリスクが高くなります」というのは初めて知った。
・『高齢者や子どもはより危険だが、若くても元気満々でも発症のリスクあり ――体力がある人であれば、熱中症にかかりにくいのでしょうか? 皆さんに声を大にして申し上げたいのは、熱中症のリスクはだれにでもあるということです。暑熱を受け続け、水分補給を怠れば、体力があっても、年齢が若くても、そして前日まで元気満々であっても、熱中症を発症する恐れがあります。十分に予防策を講じるべきです。 ただし、「熱中症になりやすい人」がいることは確か。まずは高齢者です。そもそも体内の水分含有量が低い上に、身体に備わる放熱の機能が低下しています。「人間の身体は暑熱に慣れていく」と述べましたが、高齢者の場合は例外で、高温が続くと比例して高齢患者の割合が増えていきます。 次に、子どもです。体温調節機能や発汗機能が成人よりも未成熟であり、身体が小さいために暑熱の影響を受けやすい。熱中症の症状を口に出して訴えられないケースもあるため、保護者がしっかり注意して見ていることが必要です。 そのほかでは、仕事やスポーツなどで屋外での活動時間が長い人。昨今のジョギングブームで、真夏の日中でもジョギングをしている人を見かけますが、できれば避けていただきたい行為です。 熱中症は、死に至ることもある怖い病気。予防が最大の治療です。「自分は大丈夫」だと根拠なき自信を持たず、これまでに挙げた予防策を実行してください』、確かに「根拠なき自信』には大いに気をつけたい。
タグ:熱中症は、気温より湿度の影響の方が遥かに大きく、カラッと晴れた日よりも、晴れて蒸し蒸しした天気の方が熱中症のリスクが高くなります 脳に特化することで稼働率が上がる 東大発ベンチャーの『エルピクセル』という会社とAI(人工知能)を使った画像解析の共同研究もしています 知久先生とのダブルチェック体制 検査結果は1週間後にメールでお送りします スポーツ飲料の飲み過ぎで糖尿病を発症した事例も 「私は健康である」と主観的に捉える主観的健康 「男の健康:熱中症対策の水分補給、お茶やスポーツ飲料がおすすめできない理由――赤坂パークビル脳神経外科・福永篤志医師に聞く」 トップがいかに真剣に職場環境の改善に努めるかどうかで、そこで働く人の寿命や病気にかかるリスクまで変わってきてしまうということを、もっともっと経営者には認識していただきたいのです 他の国では9割近くの人が「私は健康だ!」としているのに対し、たったの3割しかいない状態を「心配症」だけで説明するのは相当に無理がある 軽度である「I度」はかつての分類である熱失神、日射病、熱けいれんに相当 細胞レベルでは、深部体温(体の内部の温度)が41.5度を超えた時点で身体のミトコンドリアに機能障害が起こり、身体の様々なエネルギーを作り出せなくなります。さらに42度を超えれば不可逆的な障害が起こり、生命の危機状態に陥ります 体温が上昇すると、体内酵素の働きが低下し、たんぱく質を分解できなくなって不具合が生じます ところが暑熱を受け続けると、産熱が放熱を上回って体温が著しく上昇し、熱中症の症状が現れます 身体から熱を逃す働き(放熱)と熱を産生する働き(産熱)のバランスで、体内を36~37度に維持します 読影のスペシャリストが広島に2人いて遠隔で画像をチェック 慢性的なストレス地獄で働いてる人たちは、ストレスの雨に鈍感になりがちである。 だが、そのシトシトと降り続く雨が確実に心身を蝕んでいる 脳ドックのコンビニ化 大手長距離バス会社やIT企業と法人一括契約 ダイヤモンド・オンライン 神山氏が楽天トラベル社長室長時代にドライバーの脳の病気による大規模なバスの事故への対応を経験したことが、本事業を立ち上げるきっかけになっている 開始と5年後の両方とも「ストレスが高い」と感じていることは、慢性的なストレスにさらされていることを意味 お酒やコーヒー、緑茶での水分補給はNG 30分1万7500円で手に入る安心感 高齢者や子どもはより危険だが、若くても元気満々でも発症のリスクあり フェイスブック、グーグル、ヤフー、楽天のIDでも登録できる 所要時間はきっかり10分 長期間ストレスを感じている人は発がんのリスクが高くなることがわかった 心疾患やがんといったストレスとの関連の高い病気の単独の予測因子にもなる 「うん。私は大丈夫だ!」という前向きな気持ちに加え、「生きてるっていいね!」と思える社会作りも大切なのだ 韓国の保健福祉省 『健康心配症』が多い 脳ドック・クリニック「メディカルチェックスタジオ」 「スマート脳ドック」 予約はすべてスマホ、パソコンで完了 1万7500円は相場のほぼ半額 会員登録 検査そのものは15分で終了 何かあれば、後日、精密検査。そこで異常が見つかれば日本大学病院、順天堂大学病院、聖路加国際病院などの提携先の病院で治療を受けていただく流れに 熱射病に相当する「III度」は重症度では最も重く、意識障害やフラフラして歩けない、けいれん発作などの症状を呈します すぐに涼しい場所へ移し、衣服をゆるめて両側の首筋、わきの下、足の付け根を冷やします。氷や保冷剤があればそれで、なければ冷たいペットボトルなどでも構いません 中等度の「II度」は熱疲労に相当し、疲労感、倦怠感、手足に力が入らない、不快感 「OECD保健統計2018」 患者一人当たりの平均入院日数は18.1日で、 日本(28.5日)の次に多い反面、韓日両国をのぞくすべてのOECD加盟国は「10日未満」だったという 日本と韓国に共通しているのは労働環境の過酷さ どちらも世界有数の「長時間労働大国」で、有給休暇の取得率、女性活躍、最低賃金……などの世界ランキングで、日本と韓国は最下位常連国だ WHO(世界保健機関)定義が健康を以下のように定義したことから派生した指標 「「私は健康」3割だけ 寿命を縮める残念な職場 ストレスが心と体を蝕む」 韓国人は肥満の割合が低く、平均寿命も長いが、「自分は健康だ」と考えている国民の割合がOECDで最低水準であることがわかったそうだ。その割合は韓国32.5%で、日本も35.5%と最低レベル 日経ビジネスオンライン 河合 薫 WHOは「精神的・社会的」という文言を加えた ストレスの多い日々を送っているビジネスマンが、「私の健康状態は良好です!」と、胸を張るのは難しい 主観的健康度の高い人は術後の経過が良く、リハビリの効果も出やすいことに加え、人生満足度や職業満足度が高かった 主観的健康 健康 大西 康之 (その5)(楽天OBが始めた「突然死予防ビジネス」の全貌、「私は健康」3割だけ 寿命を縮める残念な職場 ストレスが心と体を蝕む、熱中症対策の水分補給 お茶やスポーツ飲料がおすすめできない理由) 脳ドック 「楽天OBが始めた「突然死予防ビジネス」の全貌 お手軽価格の「銀座で脳ドック」を受けてみた」 東洋経済オンライン
宗教(その1)(「脱宗教時代と左右対立」、「信教の自由」を盾に開き直る宗教界への疑問 収支はひた隠し、労務管理もずさんそのもの、新宗教の信者数は30年間で4割減、創価学会をも襲う「構造不況」、創価学会・立正佼成会・真如苑、3大新宗教の「寿命」を大胆予想) [社会]
今日は、宗教(その1)(「脱宗教時代と左右対立」、「信教の自由」を盾に開き直る宗教界への疑問 収支はひた隠し、労務管理もずさんそのもの、新宗教の信者数は30年間で4割減、創価学会をも襲う「構造不況」、創価学会・立正佼成会・真如苑、3大新宗教の「寿命」を大胆予想)を取上げよう。
先ずは、在米作家の冷泉彰彦氏が7月7日付けメールマガジンJMMに寄稿した「[JMM1009Sa]「脱宗教時代と左右対立」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・『オウム真理教の幹部7名に対する死刑が執行されました。この事件は、宗教的な狂信というだけでなく、パワハラ、セクハラの事例として日本の近代史上最悪の事件であるとも言えます。また、精神的な「弱さ」を抱えた人間が「力」を欲したときに、人間性を全面否定するような権力が生まれてしまうという普遍的な問題の典型例でもありました。 彼らをどんなに追及したところで、宗教の教理に関する客観化は難しいと思います。 ですが、こうした「弱さの権力化」つまり感情や情念の部分が非人間的な権力形成に寄与した事例としては、徹底的な解明が必要であったと思います。それはやろうと思えばできただろうし、この問題は正に今日的なテーマであることもあり、解明ができなかったということは、非常に悔やまれる部分であると思います。 ところで、オウム真理教が生まれてしまった背景に関しては、当時から色々な説がありました。バブルに狂奔する中で、口達者な金融業的なカルチャーばかりが称揚されて、寡黙な学究肌の人材が不当な評価を受け、そうした人々が反抗へと暴発したという説明、あるいは拝金主義の反動というような解説が多かったように思います』、年号が変わる前にとの政治的な思惑で死刑が執行され、真相解明が出来ないまま終わってしまったのは、誠に残念だ。
・『ですが、もう少し宗教そのものとして見てみると、形式化し組織化した大乗仏教が人の心に対する説得力を失っていった中で、小乗仏教にヒンドゥー教などをミックスしたオウムが一定程度の説得力を持ってしまった・・・そんな解説も流布されていました。 この点に関して一つの考え方としては、明治期に強引に神仏分離をやってしまった影響もあるように思います。自然崇拝と祖先神崇拝がミックスした直感的な神道と、欲望を否定し来世を思う思索的な仏教が混ざり合った、つまり8世紀から19世紀まで一千年にわたって日本人の信仰の核にあった「神仏習合」という考え方が持っていたバランスが、明治期以降崩れていったということです。 明治の新政権が志向したのは、国家神道ですが、これは戦争に直結したからダメだという以前に、支配の構造に組み込まれた中で本来的な宗教性は希薄になって行ったのかもしれません。それは檀家制度が、住民を支配するシステムに組み込まれることで、江戸期に仏教が活力を喪失したのと似ています。 その国家神道は戦後は全否定されたわけですが、そこで静かに江戸期以前の神仏習合に戻る動きとなったのかというと、そうではありませんでした。公的な権威を失った神道と、江戸から明治と衰退の一方であった大乗仏教が依然としてバラバラである中で、日本の宗教風土というのが不安定になっていた、そこにもオウム的なものが入り込む隙があったのかもしれません』、なるほど鋭い考察だ。
・『そのオウムの事件が起きたのは80年代末から90年代でしたが、その後、ほぼ30年近い期間、日本経済の衰退は止まらず、社会における不安感情は拡大する一方です。ですが、21世紀に入った現在の日本には「脱宗教」という気風が極めて濃厚です。 安易な宗教によって、人々の自尊感情に添え木をしようと思えばできる、またそうなっても不自然ではない時代でありながら、脱宗教でずっと来ているというのは、見事といえば見事だと思います。そこには、日本社会がオウムを反面教師として受け取ったという影響を見ることができますが、オウムの事件というのはそれほどのインパクトを持ったということは間違いないでしょう』、その通りなのだろう。
・『アメリカの場合も、90年代のちょうど同じ頃、新宗教団体による国家との対決という事件がありました。1993年に発生したブランチ・ダビディアン事件です。このブランチ・ダビディアンというのは「ダビデの末裔」を自称する終末論的なグループで、新約聖書の中でも「ヨハネの黙示録」にのめり込み「もうすぐ世界の終わりが来る」という信仰を掲げて籠城。発足したばかりのクリントン政権は対応に苦慮したのでした。 連邦政府(最初はATF、つまりアルコール・タバコ・火器取締局)が強制捜査を行なったのが93年の2月28日で、オウムの「サティアン」にも似た教団施設を舞台に、そこから51日間、緊迫した睨み合いが続いたのでした。最終的にはジャネット・リノ司法長官が決断して、FBIが突入したのですが、教主のコレシュは投降せず、反対に教団施設に火をつけて集団自殺をしてしまい、多くの子供を含む80名が道連れになっています。(ちょうど、オウムがサリン製造を開始したのが全く同時期です) 事件の舞台は、テキサス州のウェーコですが、この事件はその後、「連邦政府の暴虐に対して、信仰の自由を守った」的な、いかにもこの地域らしい保守思想の影響で、一種の「神聖化」がされています。もっとも信仰そのものが拡大しているのではなく、あくまで「武装の権利」と「連邦政府への反感」という保守思想からの同情というところです』、ブランチ・ダビディアン事件は確かに衝撃的な事件だったが、「オウムがサリン製造を開始したのが全く同時期」なのであれば、一定の影響をオウムに与えた可能性があるのかも知れない。
・『先ほど、日本社会について「脱宗教化」が進んでいるということをお話ししましたが、全体的な傾向としてはアメリカも同様だと思います。では、日本と同じようにアメリカの場合も、様々な不安を抱える中で、新宗教の行き過ぎた破壊や破滅の例を見ることで、脱宗教の世界に踏みとどまっているのかというと、少し事情が違います。 アメリカというのは、基本的には宗教的な国です。ですが、その流れは大きく2つに分かれています。1つの流れは、17世紀から19世紀にかけてのヨーロッパで宗教的な迫害を受けて逃れて来た人々の末裔という意識です。偏狭で古い価値観の世界では、許されなかった信仰を守るために新大陸にやって来たという原点を持つ彼らは、その新大陸で思い切り信教の自由を謳歌して、自分の宗教を中心に極端な価値観を振り回したのではありませんでした。 ペンシルベニア州がその植民地としての成り立ちの中で、信教の自由を掲げたように、この宗教的亡命者の末裔は、そこに新大陸ならではの理想主義、つまり異なる価値観、異なる宗派との共存という考え方を大切な価値として掲げるようになったのでした。そこに、19世紀になるとキリスト教の宗派間の争いだけでなく、ヨーロッパからは迫害を受けたユダヤ教徒が多数逃れて来たのです。 そのような「宗教的亡命者」という意識、そして「だからこその他宗教への寛容」という態度は、20世紀の終わりにあたっては、穏健なユダヤ教徒、同じく穏健なカトリックなどが主導する中で、より宗教性を薄め、より他人種・他宗教への寛容さを高める方向になって行きました。更に、そこにはポスト冷戦の時代特有の「自由と民主主義」イデオロギーの絶対性への信仰があり、また90年代には金融とコンピュータによるグローバル経済における一人勝ち現象などが重なって行ったのでした』、ここまでは健全な流れだ。
・『ですが、アメリカの宗教風土にはもう一つの流れがあります。それは開拓の最前線(フロンティア)における福音主義でした。北アメリカ大陸の開拓は、原住民との戦いもありますが、まず何よりも大自然との戦いであり、そこで苦労を重ねた入植者たちは、否が応でも「人間は神に選ばれた存在」だという聖書の考え方を拠り所にして行ったのです。 その信仰には、核家族への神聖視、白人至上主義、コミュニティの団結と「よそ者」への警戒、相互扶助、自警活動といった独特のカルチャーが加わっていました。やがて、その独自性は、寛容主義とは相容れないものとなる中で、キリスト教原理主義とでも言うべき運動になって行きます。 90年代が「グローバリズム」と寛容主義の時代であったならば、911のテロ事件を契機として出て来た「宗教保守派の時代」は後者、つまり福音派の時代でした。 そこでは、いわゆる軍事タカ派の運動と、開拓者のカルチャー、そして福音派が渾然一体となっていわゆる「草の根保守」を形成していたのです』、キリスト教原理主義の流れも多少は理解できた。
・『この「草の根保守」の運動は、2005年に上陸したハリケーン「カトリーナ」被災に当たってブッシュ政権の対応が稚拙であったこと、そしてイラク戦争の戦況が悪化したことなどを契機に、勢いを失って行きました。そして2008年のリーマンショックによって、全国レベルでの共和党への信任が崩れる中で、決定的に力を失ったのです。 その後、政治的な保守運動は2010年以降の「ティーパーティ」が担って行きました。このティーパーティは、その奥には排外的なセンチメント、孤立主義的な行動パターンを内包してはいましたが、基本的に「小さな政府論」という共和党の党是をエスカレートさせたものであり、それ以上でも以下でもありませんでした。福音派はティーパーティを支持したかというと、この時点ではそれは候補の持っている宗教色によって異なっていました。 つまり2012年から14年ぐらいの情勢では、福音派はやはり福音派であり、例えばリック・サントラムとかマイク・ハッカビー(現在のセラ・サンダース報道官の父親)などといった福音派としての大統領候補を担いでいたのです』、なるほど。
・『そこへ殴り込みをかけて来たのが、ドナルド・トランプでした。80年代の民主党が憑依したようなナンセンスな超保護貿易主義に加えて、同盟国防衛義務の否定、世界の警察官としての役割放棄、特に紛争への不介入主義を謳うトランプに対して、当初福音派は距離を置いていました。 福音派としては、自分たちの保守主義との距離感という問題もありましたが、何よりもトランプという人物の持っている享楽主義、放縦に見える異性関係などを見て、敬虔なキリスト教至上主義とは相容れない存在だと見ていた時期があったのです。 ですが、ここへ来て、特に2018年の4月以降、トランプは共和党の広範な支持層をまとめつつあり、福音派を中心とした宗教保守派も、相当に取り込みつつあるようです。一体、共和党に、あるいは宗教保守派に何が起きているのでしょうか? 1点目は、政局のカレンダーという問題です。今年、2018年の11月には中間選挙があります。これは中央政界の二大政党にとっては、勝つか負けるかの厳しい戦いであり、その投票日が迫る中で、まずは与党内の予備選で「トランプ派」が勢いを持って来たということがあり、更にこの後は本選へ向けて党の団結が生まれていくものと思われます。 そうしたカレンダーの持っている力学の中で、トランプと福音派の共闘が成立しつつあるようです。その背景には、与党内で政権批判を繰り返してきた共和党の重鎮議員が影響力を失っているという問題もあります。ポール・ライアン下院議長は政界引退に追い込まれましたし、ジョン・マケイン上院議員は重病で登院ができません。その他にも、中道派のベテラン議員の多くが11月の選挙へ向けて不出馬に追い込まれる中で、予備選でのトランプ派の勝利などを通じて、大統領は党内を掌握しつつあるのです』、福音派がトランプの女性問題を不問にして支持というのは、解せないが、福音派にとっても何らかのメリットがあるのだろう。
・『2点目は、大統領の過激な「政敵たたき」が保守層の求心力になっているという問題です。「国境の壁」や「イスラム教徒入国禁止」といった激しい政策には、共和党内からも批判がありました。特に「親子分断」という問題には、核家族というイデオロギーを至上のものとする福音派からは抵抗感を感じるという声もあったのです。ですが、ブレずに主張を続け、民主党を偽善者だと罵倒する大統領の姿勢が世論を分断する中で、ここへ来て共和党における大統領の求心力は高まっています。移民に対する「親子分断」という非人道的な政策に対して、共和党内で80%の支持があるという調査結果がこれを象徴しているのです。 貿易戦争の問題も同じです。共和党は元来が経済界の利害に近いし、そもそもが自由貿易の党に他なりません。ブッシュの時代は、その党是から外れることはなく、財界とは遠い存在の庶民層には「起業家精神を」つまり「オーナーシップ社会」というメッセージを出していたわけです。これに対して、経済ナショナリズムという極端な保護主義を掲げるトランプ大統領は、本来のアメリカの保守主義からみれば極端なまでの異端です』、共和党もどうしてトランプ支持になった背景は、次で説明される。
・『ですが、G7首脳や中国とも徹底対決する「劇場スタイル」で有権者の支持を得ているのは間違いないわけです。その結果、共和党の議員団も自分の選挙を考えると「ここはトランプに乗ろう」と腹を括ってしまう中で、党是の正反対ともいうべき無謀な経済政策が求心力となっているわけです。特に、クリントン夫妻やオバマといった「グローバル経済にフレンドリーな中道左派」が憎悪の対象となる中では、敵味方の論理が党是に優先するということなのでしょう。 つまり、大統領はホワイトハウスを掌握し、ホワイトハウスは共和党議員団を掌握しつつあるわけです。その結果として、ティーパーティや福音派といった、本来はトランプとは水と油の存在も、大統領が取りまとめつつあるという見方ができます。中間選挙という「勝つか負けるか」の勝負が白熱することで、このモメンタムは、この夏から秋にかけて益々ハッキリした動きとなって行くことでしょう』、トランプ支持が底堅くなった力学が若干は理解できた。
・『仮にそうであれば、ここで「福音主義とは無縁の俗物」であるトランプを担ぐということは、アメリカの福音派にも一種の「脱宗教」的な傾向が出て来たのかもしれません。ですが、トランプの側もそれを見越した格好で、今回はケネディ判事の引退に伴う最高裁判事の新規指名を行う中で、「妊娠中絶の合憲判断(ロー&ウェイド判決)」をひっくり返すと息巻いています。この最高裁判事候補の指名は来週に予定されており、注目していかねばなりません。 ちなみに、その最高裁がどうなるかですが、4年もしくは8年で終わる大統領の任期とは違って、最高裁判事の任期は終身です。特に最高裁長官ともなれば、その業績はそのまま合衆国の歴史に刻まれて行くこととなります。現在のジョン・ロバーツ長官はまだ63歳で、恐らく今後15年以上その職に留まる可能性があるわけです。 ですから、長期的な歴史の審判ということを意識するのであれば、その判断は慎重になると思われます。具体的に言えば、仮に今回「中道保守のケネディ判事」に代わって、「保守強硬派」が就任したとしても、「保守4+リベラル4+長官」という勢力は変わらないわけで、ロバーツ長官は自身の責任で「ロー&ウェイド」を潰すことは考えにくいのではないかと思います。また、その時に備えて、この間「入国禁止令」などに合憲判断を与えて、バランスを取っているのではないでしょうか』、最高裁判事候補の指名は僅差で承認されたようだ。
・『いずれにしても、現在のアメリカの政治風土は、左右に極端な分裂があり、他でもない大統領がその分裂を煽る中で、共和党全体にしても、福音派にしても「グローバリズム憎し」と「グローバル・エリート憎し」という憎悪の感情に火をつけられて、正常な判断力を奪われていると言っていいでしょう。個々の政治家は冷静でも、有権者の間にある異常なセンチメントは無視できない中で、トランプ流の粗っぽい言動に乗せられてしまっているのです。 では、こうした「トランプと福音派の連携」を中心とした政治的モメンタムは、11月の中間選挙投票日まで「持つ」のでしょうか? 問題は、株価と景気だと思います。貿易戦争については乱高下しつつ織り込みつつあるNY市場ですが、市場には一寸先は闇という雰囲気も出てきています。 とりあえず、6月の雇用統計は「無難」な結果ということで市場は受け止めていますが、この先、軍事外交上の破綻や、あるいは無理な利上げなどを契機に大きく市場が動揺するようになれば、政権の基盤は揺らぐ可能性があります。 非常に冷静に見てみれば、トランプ現象というのは、本来は無政府主義者や終末論的な新宗教などが持っている破壊衝動を集めて権力化しているようなところがあります。西側の自由陣営の価値観と結束を破壊し、貿易戦争によって国際分業の最適化を破壊しようというのは、従来の左右のイデオロギーとは別のものです。 その破壊衝動が単なる衝動に終わらずに、本当にアメリカ経済や世界経済を壊してしまう可能性もあるわけです。そうなれば、共和党全体で「憑き物」が落ちて「トランプという悪夢から覚める」中で、福音派は元の福音派に戻って行くのかもしれません。 そうした破綻が起きないのであれば、少なくとも、11月の中間選挙については、現在の流れの延長で「トランプがモメンタムを維持する」シナリオも十分にあると考えなくてはなりません』、中間選挙では下院は民主党が多数との世論調査が出ているようだが、それでもモメンタムは維持できるのだろうか。
次に、8月27日付け東洋経済オンライン「「信教の自由」を盾に開き直る宗教界への疑問 収支はひた隠し、労務管理もずさんそのもの」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/235105
・『日本の宗教界が、曲がり角に立っている。 文化庁の『宗教年鑑』によれば、国内宗教法人の信者数(公称)の総数は過去10年で12%減。信者数の絶対値は減り続けている。それでも、宗教法人は侮れない力を依然として持つ。税制優遇という強力な”特権”が付与されているほか、財務諸表などの情報開示が求められないこともある。富の蓄積を容易にするその力をテコに、巨大施設の建設や美術品の購入、政治活動を行ってきた』、なるほど。
・『さまざまな税制優遇を享受しているのに… 現在、ほとんどの宗教法人は毎年の収入すら開示していない。宗教法人は税法上、「公益法人等」という立場で、さまざまな税制優遇を享受している。お布施や寄付など宗教活動で得たおカネは原則非課税で、不動産賃貸など収益事業に関しても通常より税率が低い。宗教法人は高い倫理観から不正経理など行わないという性善説に立っているためだ。 だが現実には修正申告は少なくなく、悪質な所得隠しを行っているケースもある。税逃れ狙いによる宗教法人売買では反社会的勢力も暗躍している。オウム真理教による無差別テロ事件をきっかけに、1995年に宗教法人法の改正が行われた。改正法では、収益事業を行っているか、年間収入が8000万円を超えている場合、毎年収支報告書を作成し、所轄庁に提出することが義務化された。 宗教法人が所轄庁に届け出た財務諸表の写しは行政文書となる。そこで『週刊東洋経済』編集部は今年6月、文化庁あてに複数の宗教法人から提出された財務諸表の開示を求める請求を行った。翌月、文化庁から届いた決定通知書は請求文書の存否も含めてすべて不開示とするというものだった。現在、文化庁長官に不開示決定への不服審査請求を行っている。 不服審査請求を受けた省庁は、総務省の情報公開・個人情報保護審査会に諮問する。審査会は第三者的立場から公正かつ中立的に調査審議し答申を行う。実はこれまでも『週刊東洋経済』編集部と同様の審査請求が文化庁宛てに複数回行われており、審査会ではそのたびに「存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は取り消すべき」との答申を出している。 審査会が対象文書の提示を要求(インカメラ審理)しても免れようとする文化庁の対応に、「法の理解に重大な問題がある」「今後は法の趣旨に則って適切な対応をすることが強く望まれる」などと異例の「付言」がなされたこともあった。ところが「付言」がなされたケースで文化庁は、新たな不開示の理由を示すことなく、再度不開示と、答申と異なる決定をしている。文化庁宗務課長は宗教法人審議会で「信教の自由を妨げることのないように慎重に取り扱う必要がある」ためと説明している。 答申に法的拘束力はないが、「答申と異なる決定を諮問庁がすることは極めて例外的」(総務省)だ。実際、2015年度に審査会に諮問し決定等を行った922件のうち、審査会の答申と異なる決定をしたのはたった1件だった』、文化庁が不開示とするのであれば、東洋経済は行政不服訴訟に訴えるべきだろう。
・『行政介入を避けるべきというなら情報公開を徹底すべし 制度に詳しい特定NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は、「存否応答拒否が許されるのは、警察の捜査情報や自衛隊の防衛機密などに限られる。宗教法人の財務諸表が同等とは思えない」と話す。信教の自由の尊重から行政の宗教介入は避けるべきというなら、「より情報公開を徹底し社会的監視に委ねる道を探るべきだ」と指摘する。 情報が閉ざされた結果、次のようなことも起こっている。関係者によれば、都内のある寺院は10年間まったく同じ数字の財務諸表を提出しているが、何の指摘も受けていないという。行政は宗教介入に当たるからと基本的なチェックも行わないのである。宗教法人の決算業務にかかわった別の税理士法人関係者は、「非課税の宗教行為と課税対象の収益事業の財布も分けておらず、まさにどんぶり勘定。これで通用するとは信じられなかった」と振り返る。 僧侶で税理士の上田二郎氏は、「この実態が明らかになれば財務諸表の公表を求める声はより強まるだろう。優遇税制も疑問視されかねない。宗教法人の大学などで経営・税務を教育するなど早急な対応が必要だ」と語る。 一般社会の常識が通用してこなかったのは、「働き方」「働かせ方」においても同じだ。 「給与明細を見て、あれだけ働いたのに残業代がないのはなぜだろうと思ったのがきっかけだった」。真宗大谷派(本山・東本願寺、京都市)で僧侶として働いていた水田悟志さん(39歳、仮名)は振り返る。 水田さんは2013年4月から本山境内にある研修宿泊施設で門信徒の世話役である「補導」として働き始めた。朝のお勤め前の6時半すぎには出勤し、夜は22時過ぎになることもザラだったという。とりわけ繁忙を極めたのが、子供や学生の奉仕団がやってくる夏休み期間中だ。「残業時間は最大で130時間を超えていた」(水田さん)。 水田さんは仏門に入る前、民間企業で5年、本山の補導となる前は、宗派教務所で事務職として働いていた。「企業ではもちろん、教務所でも残業代は支払われた。本山でも事務職には残業代が支払われるのに、勤務時間が長い補導には支給されないのは納得できなかった」(水田さん)。 水田さんは同僚と地域労働組合に加盟し、2015年秋から団体交渉を行った。真宗大谷派側は残業代不払いのみならず、労働時間を把握してないことや、補導については残業代を支払わないという違法な覚書を40年以上前に職員組合と締結して更新し続けてきたことを認めた。 ただ団交の席上、直属の上司は水田さんにこう言い放ったという。「宗教心があればこんな訴えは起こさない」「同じ環境で働いてきた人が多くいるのに、おかしな訴えを起こすのはあなたが初めてだ」。こうした言葉が象徴するように、僧侶は出家して仏門に入れば俗世とは離れるので、その活動は「修行」であり「労働」ではないという考えが仏教界に根強く残る。ほかの宗教でも同様だ。「宗教法人には労務管理という意識がなく、労働法の知識が乏しいのが実情だった」(僧侶で宗教法人法務に詳しい本間久雄弁護士)』、仏教界の考え方にも一理はあるが、ブラック企業並みの扱いでは、僧侶志望者が少なくなっていくだけだろう。
・『相応の給料を受け取っていれば労働者 僧侶をはじめとする聖職者の労働者性について厚生労働省は「宗教関連事業の特殊性を十分配慮すること」との通達を出している。具体的な判断基準によれば、寺院の指揮命令によって業務を行い、相応の給与を受け取っていれば労働者として扱われる。
世界遺産・高野山(和歌山県高野町)の寺院に勤める40代の男性僧侶が、連続勤務でうつ病を発症したとして、昨年10月に労災認定されている。また宗教上の地位の剥奪である「破門」についても、不当な「解雇」との争いについて、裁判所は昨年、破門に正当な理由はないとする仮処分決定を出している。 こうした労働問題と並んで宗教界を揺さぶる世俗からの波が、厚生年金の未加入問題だ。2015年ごろから日本年金機構は寺院に厚生年金の加入を迫るようになった。法人税法上、住職が宗教法人から受け取る金銭は、現物を含めて役員報酬に該当するため、社会保険の加入対象となると判断されたためだ。「宗教界は生涯現役を理由に反発するが、中小・零細企業の社長の多くは社会保険に加入している。宗教界だけが特別との主張は通らないだろう」と、前出の僧侶で税理士の上田氏は話す。 個々の是非はともかく、法令順守という世俗のルールが宗教界にも序々に浸透しているのは間違いない。情報開示への消極姿勢も、やがて変革を迫られるだろう。信教の自由を守ることは、宗教法人の既得権益を守ることと同義ではない。公益性と性善説について国民的合意を得るためにも、世俗のルールとの調和を目指した自己改革が望まれる』、厚生年金には当然、加入させるべきだろう。
第三に、10月9日付けダイヤモンド・オンライン「新宗教の信者数は30年間で4割減、創価学会をも襲う「構造不況」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/181605
・『『週刊ダイヤモンド』10月13日号の第1特集は「新宗教の寿命」です。今特集では、現代の新宗教界を象徴する3教団、創価学会と立正佼成会、そして真如苑に加え、存亡の危機にある主要教団のビジネス(布教)戦略を明らかにし、そのカネと権力、政治のタブーに迫ります。その特集から、宗教界全体が直面する“構造不況”とも呼べる状況を解説した記事を、ダイヤモンド・オンラインで特別公開します。 創価学会の実権は、原田稔会長や谷川佳樹主任副会長ら「四人組」と呼ばれる執行部が握っている。執行部は例年、池田大作名誉会長の誕生日の1月2日に、池田氏が療養中とされる東京・信濃町の学会施設に“池田詣で”を行うのが慣例だ。 ところが今年、かつてない異変が起きた。「執行部の面会が初めて池田家側から拒否された」(池田家に近い関係者)というのだ。 目下、その解釈をめぐって、二つの見方が信者たちに流れている。 一つは、2010年5月の本部幹部会出席を最後に表舞台から姿を消した池田氏が、執行部と面会できないほど体調が悪化した、という見方である。 そして、もう一つが、池田家と執行部の間に“亀裂”が生じ始めた、というものだ。執行部は近年、創価大学派閥など池田家に近いと目されていた側近などを次々と“粛清”する一方、学会の憲法に相当する「創価学会会憲」を昨年制定し、組織運営から教義に至る全権を原田会長に集中させるなど、“池田外し”ともいえる動きを加速させている。それを不快に感じている当の池田氏側が面会を拒否したというのである。 「今の執行部は池田先生をあまりにないがしろにしている」──。 そう悔し涙をにじませるのは、池田氏直属の親衛隊「転輪会(てんりんかい)」所属の古参信者だ』、創価学会でそんな内紛が生じていたとは初めて知った。
・『衆院選に続き沖縄県知事選も大敗北の公明党 こうした池田外しの背景にあるのは、卒寿(90歳)を迎えた希代の“カリスマ”池田氏の喪失に向けた組織固めだ。9月8日、機関紙「聖教新聞」で四半世紀にわたり連載された池田氏の小説『新・人間革命』が完結を迎えたことは、「時代の終わりが近い」ことを信者たちにあらためて実感させた。 新宗教最大の教勢を誇る学会の足元では今、高度経済成長期に入会した会員のボリューム層が高齢化し、その自然減や世代間における信仰の断絶といった、構造的問題が顕在化している。 その最たる例が、学会を母体とする公明党の苦境に表れている。昨年10月の衆議院議員選挙では比例得票数で700万票を割り込み、6議席を失う惨敗となった。さらに、およそ5000人といわれる学会活動家を本土から送り込むという、党を挙げての“総力戦”となった9月30日の沖縄県知事選挙でも敗北を喫した。 衆院選敗北から1年。学会では目下、来夏の参議院議員選挙を視野に信者の引き締めを図るべく、執行部に異を唱える一般信者にまで“首切り”の嵐が吹き始めている。執行部を批判した会員を除名するだけではなく、地区幹部の役職解任や「査問」という名の“脅し”をかけられる一般信者が全国で急増しているというのだ。これらは身内に寛容とされる学会において、前代未聞の変化だ』、さしもの学会も「貧すれば鈍する」になったのだろうか。
・『平成30年間で4割も減った主要教団の信者数 7月、オウム真理教元代表の麻原彰晃(本名・松本智津夫)らへの極刑が執行されたが、平成の終わりとともに、かつて世間を騒がせた新宗教が終焉に近づいていることを暗示する出来事だった。学会に迫る“Xデー”に象徴されるように、新宗教界全体を見渡しても、苦境に陥っている教団は多い。 下図を見てほしい。1989(平成元)年以降の日本の宗教法人の総数と、各教団の自己申告ベースの“公称”信者数、そして、そのうち、主要新宗教教団の公称信者数を抜き出したグラフだ。 「宗教年鑑」(文化庁)で毎年の公称信者数を捕捉できる上位37教団の信者数は、2637万人から1591万人へと4割減った。この落ち込みは、伝統宗教を含めた宗教界全体のそれをはるかに上回る。 その理由は、先述した学会と共通する構造問題である。すなわち、少子高齢化(少産多死による人口減少)や核家族化、そして世代間の価値観の断絶といった要因であり、それは日本社会全体の環境変化に起因するものだ。学会の末端信者にまで及ぶ苛烈な引き締めは、この構造不況を生き残るための戦略転換の表れといえる。 本特集では、最大手の学会に加え、アンチ学会の中心的存在で、実質的に新宗教界ナンバー2の立正佼成会、そして、新宗教界でひときわ注目を浴びる真如苑という三つの巨大教団に着目し、その現状や課題、そして今後の事業(布教)戦略を明らかにする』、主要新宗教教団の信者数が平成30年間で4割も減ったとはさもありなんだが、その要因として記事で挙げられているのは、余りに表面的な気がする。真因は何なのだろうか。
第四に、10月9日付けダイヤモンド・オンライン「創価学会・立正佼成会・真如苑、3大新宗教の「寿命」を大胆予想」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/181606
・『新宗教に縁がないという読者も多いだろう。各教団の詳細に入る前に、新宗教界の全体像を押さえておきたい。 新宗教と一口に言っても、実はその明確な定義はない。図(1)で分かるように、新宗教と呼ばれる教団の多くは日蓮正宗や真言宗など伝統仏教や神道、キリスト教から枝分かれしたり、影響を受けたりしているからだ。本誌では、宗教学の第一人者、井上順孝氏などが編集した『新宗教 教団・人物事典』に基づき、18世紀初頭以降に一派を興した教団を新宗教とした。 このうち、文化庁発行の「宗教年鑑」最新版ほかによる、各教団の公称信者数が多い10教団を信者数でランキング化したのが図(2)だ。 本誌で示したように、宗教年鑑に記載されたものを含めて、各教団の公称信者数ほど信ぴょう性に欠けるデータも珍しい。全宗教法人の合計信者数は、日本の人口をはるかに上回る。信者をどうカウントするかは各教団の基準次第で、退会者や死亡者まで含めている教団さえある。誇大申告が常態化しているのだ』、「誇大申告が常態化」には笑いを禁じ得なかった。
・『だが、それでも公称信者数からは、その教団の勢いや新宗教界を取り巻く世相を読み解くことはできる。図(3)は信者数の推移のうち、特徴的なパターンを持つ教団を抽出した。例えば、創価学会は2005年に827万世帯と公称して以降は更新されず横ばい。片や、立正佼成会は右肩下がり、真如苑は逆に右肩上がりだ。絶対数は当てにならずとも、その教団の信者のカウント基準を押さえれば、一定の比較も可能となる。 続いて、機関紙の主張や選挙活動などから把握できる政治的な立ち位置からも、教団の特徴や互いの関係を読み解ける(図(4))。鍵を握る教団は、やはり公明党の母体である創価学会。1999年の自公連立により、リベラルな立ち位置にブレが生じ、右傾化した。 このブレは自民党とそれまでじっこんだった反創価学会の旗手、立正佼成会の立ち位置も変え、「敵の敵は味方」とばかりにリベラルに傾斜していった。この政治的転換は、両教団共に信者の離反を少なからず招いた。逆に、あえて政治に距離を置くのが真如苑。地元にゆかりのある政治家を主に応援するのが、日本唯一の宗教都市を有する天理教といった具合だ。 一方、全体的な信者数減少の影響をもろに受けているのが、教団の“財布”。宗教事業の根幹であるお布施や寄付金の額に直結するからだ。図(5)は大規模宗教法人の収支の変化。01年と比べると16年は会費収入と投資支出が激減。カネもうけ手法を事業収入にシフトさせていることが見て取れる』、公明党が右傾化したら、ライバルの立正佼成会はリベラルに傾斜していったとは面白い。大規模宗教法人の会費収入は2001年の1/3にまで落ち込んでおり、これでは苦しいだろう。新宗教の苦境の真因は、依然、謎のままだ。今後、じっくり考えてみたい。
先ずは、在米作家の冷泉彰彦氏が7月7日付けメールマガジンJMMに寄稿した「[JMM1009Sa]「脱宗教時代と左右対立」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・『オウム真理教の幹部7名に対する死刑が執行されました。この事件は、宗教的な狂信というだけでなく、パワハラ、セクハラの事例として日本の近代史上最悪の事件であるとも言えます。また、精神的な「弱さ」を抱えた人間が「力」を欲したときに、人間性を全面否定するような権力が生まれてしまうという普遍的な問題の典型例でもありました。 彼らをどんなに追及したところで、宗教の教理に関する客観化は難しいと思います。 ですが、こうした「弱さの権力化」つまり感情や情念の部分が非人間的な権力形成に寄与した事例としては、徹底的な解明が必要であったと思います。それはやろうと思えばできただろうし、この問題は正に今日的なテーマであることもあり、解明ができなかったということは、非常に悔やまれる部分であると思います。 ところで、オウム真理教が生まれてしまった背景に関しては、当時から色々な説がありました。バブルに狂奔する中で、口達者な金融業的なカルチャーばかりが称揚されて、寡黙な学究肌の人材が不当な評価を受け、そうした人々が反抗へと暴発したという説明、あるいは拝金主義の反動というような解説が多かったように思います』、年号が変わる前にとの政治的な思惑で死刑が執行され、真相解明が出来ないまま終わってしまったのは、誠に残念だ。
・『ですが、もう少し宗教そのものとして見てみると、形式化し組織化した大乗仏教が人の心に対する説得力を失っていった中で、小乗仏教にヒンドゥー教などをミックスしたオウムが一定程度の説得力を持ってしまった・・・そんな解説も流布されていました。 この点に関して一つの考え方としては、明治期に強引に神仏分離をやってしまった影響もあるように思います。自然崇拝と祖先神崇拝がミックスした直感的な神道と、欲望を否定し来世を思う思索的な仏教が混ざり合った、つまり8世紀から19世紀まで一千年にわたって日本人の信仰の核にあった「神仏習合」という考え方が持っていたバランスが、明治期以降崩れていったということです。 明治の新政権が志向したのは、国家神道ですが、これは戦争に直結したからダメだという以前に、支配の構造に組み込まれた中で本来的な宗教性は希薄になって行ったのかもしれません。それは檀家制度が、住民を支配するシステムに組み込まれることで、江戸期に仏教が活力を喪失したのと似ています。 その国家神道は戦後は全否定されたわけですが、そこで静かに江戸期以前の神仏習合に戻る動きとなったのかというと、そうではありませんでした。公的な権威を失った神道と、江戸から明治と衰退の一方であった大乗仏教が依然としてバラバラである中で、日本の宗教風土というのが不安定になっていた、そこにもオウム的なものが入り込む隙があったのかもしれません』、なるほど鋭い考察だ。
・『そのオウムの事件が起きたのは80年代末から90年代でしたが、その後、ほぼ30年近い期間、日本経済の衰退は止まらず、社会における不安感情は拡大する一方です。ですが、21世紀に入った現在の日本には「脱宗教」という気風が極めて濃厚です。 安易な宗教によって、人々の自尊感情に添え木をしようと思えばできる、またそうなっても不自然ではない時代でありながら、脱宗教でずっと来ているというのは、見事といえば見事だと思います。そこには、日本社会がオウムを反面教師として受け取ったという影響を見ることができますが、オウムの事件というのはそれほどのインパクトを持ったということは間違いないでしょう』、その通りなのだろう。
・『アメリカの場合も、90年代のちょうど同じ頃、新宗教団体による国家との対決という事件がありました。1993年に発生したブランチ・ダビディアン事件です。このブランチ・ダビディアンというのは「ダビデの末裔」を自称する終末論的なグループで、新約聖書の中でも「ヨハネの黙示録」にのめり込み「もうすぐ世界の終わりが来る」という信仰を掲げて籠城。発足したばかりのクリントン政権は対応に苦慮したのでした。 連邦政府(最初はATF、つまりアルコール・タバコ・火器取締局)が強制捜査を行なったのが93年の2月28日で、オウムの「サティアン」にも似た教団施設を舞台に、そこから51日間、緊迫した睨み合いが続いたのでした。最終的にはジャネット・リノ司法長官が決断して、FBIが突入したのですが、教主のコレシュは投降せず、反対に教団施設に火をつけて集団自殺をしてしまい、多くの子供を含む80名が道連れになっています。(ちょうど、オウムがサリン製造を開始したのが全く同時期です) 事件の舞台は、テキサス州のウェーコですが、この事件はその後、「連邦政府の暴虐に対して、信仰の自由を守った」的な、いかにもこの地域らしい保守思想の影響で、一種の「神聖化」がされています。もっとも信仰そのものが拡大しているのではなく、あくまで「武装の権利」と「連邦政府への反感」という保守思想からの同情というところです』、ブランチ・ダビディアン事件は確かに衝撃的な事件だったが、「オウムがサリン製造を開始したのが全く同時期」なのであれば、一定の影響をオウムに与えた可能性があるのかも知れない。
・『先ほど、日本社会について「脱宗教化」が進んでいるということをお話ししましたが、全体的な傾向としてはアメリカも同様だと思います。では、日本と同じようにアメリカの場合も、様々な不安を抱える中で、新宗教の行き過ぎた破壊や破滅の例を見ることで、脱宗教の世界に踏みとどまっているのかというと、少し事情が違います。 アメリカというのは、基本的には宗教的な国です。ですが、その流れは大きく2つに分かれています。1つの流れは、17世紀から19世紀にかけてのヨーロッパで宗教的な迫害を受けて逃れて来た人々の末裔という意識です。偏狭で古い価値観の世界では、許されなかった信仰を守るために新大陸にやって来たという原点を持つ彼らは、その新大陸で思い切り信教の自由を謳歌して、自分の宗教を中心に極端な価値観を振り回したのではありませんでした。 ペンシルベニア州がその植民地としての成り立ちの中で、信教の自由を掲げたように、この宗教的亡命者の末裔は、そこに新大陸ならではの理想主義、つまり異なる価値観、異なる宗派との共存という考え方を大切な価値として掲げるようになったのでした。そこに、19世紀になるとキリスト教の宗派間の争いだけでなく、ヨーロッパからは迫害を受けたユダヤ教徒が多数逃れて来たのです。 そのような「宗教的亡命者」という意識、そして「だからこその他宗教への寛容」という態度は、20世紀の終わりにあたっては、穏健なユダヤ教徒、同じく穏健なカトリックなどが主導する中で、より宗教性を薄め、より他人種・他宗教への寛容さを高める方向になって行きました。更に、そこにはポスト冷戦の時代特有の「自由と民主主義」イデオロギーの絶対性への信仰があり、また90年代には金融とコンピュータによるグローバル経済における一人勝ち現象などが重なって行ったのでした』、ここまでは健全な流れだ。
・『ですが、アメリカの宗教風土にはもう一つの流れがあります。それは開拓の最前線(フロンティア)における福音主義でした。北アメリカ大陸の開拓は、原住民との戦いもありますが、まず何よりも大自然との戦いであり、そこで苦労を重ねた入植者たちは、否が応でも「人間は神に選ばれた存在」だという聖書の考え方を拠り所にして行ったのです。 その信仰には、核家族への神聖視、白人至上主義、コミュニティの団結と「よそ者」への警戒、相互扶助、自警活動といった独特のカルチャーが加わっていました。やがて、その独自性は、寛容主義とは相容れないものとなる中で、キリスト教原理主義とでも言うべき運動になって行きます。 90年代が「グローバリズム」と寛容主義の時代であったならば、911のテロ事件を契機として出て来た「宗教保守派の時代」は後者、つまり福音派の時代でした。 そこでは、いわゆる軍事タカ派の運動と、開拓者のカルチャー、そして福音派が渾然一体となっていわゆる「草の根保守」を形成していたのです』、キリスト教原理主義の流れも多少は理解できた。
・『この「草の根保守」の運動は、2005年に上陸したハリケーン「カトリーナ」被災に当たってブッシュ政権の対応が稚拙であったこと、そしてイラク戦争の戦況が悪化したことなどを契機に、勢いを失って行きました。そして2008年のリーマンショックによって、全国レベルでの共和党への信任が崩れる中で、決定的に力を失ったのです。 その後、政治的な保守運動は2010年以降の「ティーパーティ」が担って行きました。このティーパーティは、その奥には排外的なセンチメント、孤立主義的な行動パターンを内包してはいましたが、基本的に「小さな政府論」という共和党の党是をエスカレートさせたものであり、それ以上でも以下でもありませんでした。福音派はティーパーティを支持したかというと、この時点ではそれは候補の持っている宗教色によって異なっていました。 つまり2012年から14年ぐらいの情勢では、福音派はやはり福音派であり、例えばリック・サントラムとかマイク・ハッカビー(現在のセラ・サンダース報道官の父親)などといった福音派としての大統領候補を担いでいたのです』、なるほど。
・『そこへ殴り込みをかけて来たのが、ドナルド・トランプでした。80年代の民主党が憑依したようなナンセンスな超保護貿易主義に加えて、同盟国防衛義務の否定、世界の警察官としての役割放棄、特に紛争への不介入主義を謳うトランプに対して、当初福音派は距離を置いていました。 福音派としては、自分たちの保守主義との距離感という問題もありましたが、何よりもトランプという人物の持っている享楽主義、放縦に見える異性関係などを見て、敬虔なキリスト教至上主義とは相容れない存在だと見ていた時期があったのです。 ですが、ここへ来て、特に2018年の4月以降、トランプは共和党の広範な支持層をまとめつつあり、福音派を中心とした宗教保守派も、相当に取り込みつつあるようです。一体、共和党に、あるいは宗教保守派に何が起きているのでしょうか? 1点目は、政局のカレンダーという問題です。今年、2018年の11月には中間選挙があります。これは中央政界の二大政党にとっては、勝つか負けるかの厳しい戦いであり、その投票日が迫る中で、まずは与党内の予備選で「トランプ派」が勢いを持って来たということがあり、更にこの後は本選へ向けて党の団結が生まれていくものと思われます。 そうしたカレンダーの持っている力学の中で、トランプと福音派の共闘が成立しつつあるようです。その背景には、与党内で政権批判を繰り返してきた共和党の重鎮議員が影響力を失っているという問題もあります。ポール・ライアン下院議長は政界引退に追い込まれましたし、ジョン・マケイン上院議員は重病で登院ができません。その他にも、中道派のベテラン議員の多くが11月の選挙へ向けて不出馬に追い込まれる中で、予備選でのトランプ派の勝利などを通じて、大統領は党内を掌握しつつあるのです』、福音派がトランプの女性問題を不問にして支持というのは、解せないが、福音派にとっても何らかのメリットがあるのだろう。
・『2点目は、大統領の過激な「政敵たたき」が保守層の求心力になっているという問題です。「国境の壁」や「イスラム教徒入国禁止」といった激しい政策には、共和党内からも批判がありました。特に「親子分断」という問題には、核家族というイデオロギーを至上のものとする福音派からは抵抗感を感じるという声もあったのです。ですが、ブレずに主張を続け、民主党を偽善者だと罵倒する大統領の姿勢が世論を分断する中で、ここへ来て共和党における大統領の求心力は高まっています。移民に対する「親子分断」という非人道的な政策に対して、共和党内で80%の支持があるという調査結果がこれを象徴しているのです。 貿易戦争の問題も同じです。共和党は元来が経済界の利害に近いし、そもそもが自由貿易の党に他なりません。ブッシュの時代は、その党是から外れることはなく、財界とは遠い存在の庶民層には「起業家精神を」つまり「オーナーシップ社会」というメッセージを出していたわけです。これに対して、経済ナショナリズムという極端な保護主義を掲げるトランプ大統領は、本来のアメリカの保守主義からみれば極端なまでの異端です』、共和党もどうしてトランプ支持になった背景は、次で説明される。
・『ですが、G7首脳や中国とも徹底対決する「劇場スタイル」で有権者の支持を得ているのは間違いないわけです。その結果、共和党の議員団も自分の選挙を考えると「ここはトランプに乗ろう」と腹を括ってしまう中で、党是の正反対ともいうべき無謀な経済政策が求心力となっているわけです。特に、クリントン夫妻やオバマといった「グローバル経済にフレンドリーな中道左派」が憎悪の対象となる中では、敵味方の論理が党是に優先するということなのでしょう。 つまり、大統領はホワイトハウスを掌握し、ホワイトハウスは共和党議員団を掌握しつつあるわけです。その結果として、ティーパーティや福音派といった、本来はトランプとは水と油の存在も、大統領が取りまとめつつあるという見方ができます。中間選挙という「勝つか負けるか」の勝負が白熱することで、このモメンタムは、この夏から秋にかけて益々ハッキリした動きとなって行くことでしょう』、トランプ支持が底堅くなった力学が若干は理解できた。
・『仮にそうであれば、ここで「福音主義とは無縁の俗物」であるトランプを担ぐということは、アメリカの福音派にも一種の「脱宗教」的な傾向が出て来たのかもしれません。ですが、トランプの側もそれを見越した格好で、今回はケネディ判事の引退に伴う最高裁判事の新規指名を行う中で、「妊娠中絶の合憲判断(ロー&ウェイド判決)」をひっくり返すと息巻いています。この最高裁判事候補の指名は来週に予定されており、注目していかねばなりません。 ちなみに、その最高裁がどうなるかですが、4年もしくは8年で終わる大統領の任期とは違って、最高裁判事の任期は終身です。特に最高裁長官ともなれば、その業績はそのまま合衆国の歴史に刻まれて行くこととなります。現在のジョン・ロバーツ長官はまだ63歳で、恐らく今後15年以上その職に留まる可能性があるわけです。 ですから、長期的な歴史の審判ということを意識するのであれば、その判断は慎重になると思われます。具体的に言えば、仮に今回「中道保守のケネディ判事」に代わって、「保守強硬派」が就任したとしても、「保守4+リベラル4+長官」という勢力は変わらないわけで、ロバーツ長官は自身の責任で「ロー&ウェイド」を潰すことは考えにくいのではないかと思います。また、その時に備えて、この間「入国禁止令」などに合憲判断を与えて、バランスを取っているのではないでしょうか』、最高裁判事候補の指名は僅差で承認されたようだ。
・『いずれにしても、現在のアメリカの政治風土は、左右に極端な分裂があり、他でもない大統領がその分裂を煽る中で、共和党全体にしても、福音派にしても「グローバリズム憎し」と「グローバル・エリート憎し」という憎悪の感情に火をつけられて、正常な判断力を奪われていると言っていいでしょう。個々の政治家は冷静でも、有権者の間にある異常なセンチメントは無視できない中で、トランプ流の粗っぽい言動に乗せられてしまっているのです。 では、こうした「トランプと福音派の連携」を中心とした政治的モメンタムは、11月の中間選挙投票日まで「持つ」のでしょうか? 問題は、株価と景気だと思います。貿易戦争については乱高下しつつ織り込みつつあるNY市場ですが、市場には一寸先は闇という雰囲気も出てきています。 とりあえず、6月の雇用統計は「無難」な結果ということで市場は受け止めていますが、この先、軍事外交上の破綻や、あるいは無理な利上げなどを契機に大きく市場が動揺するようになれば、政権の基盤は揺らぐ可能性があります。 非常に冷静に見てみれば、トランプ現象というのは、本来は無政府主義者や終末論的な新宗教などが持っている破壊衝動を集めて権力化しているようなところがあります。西側の自由陣営の価値観と結束を破壊し、貿易戦争によって国際分業の最適化を破壊しようというのは、従来の左右のイデオロギーとは別のものです。 その破壊衝動が単なる衝動に終わらずに、本当にアメリカ経済や世界経済を壊してしまう可能性もあるわけです。そうなれば、共和党全体で「憑き物」が落ちて「トランプという悪夢から覚める」中で、福音派は元の福音派に戻って行くのかもしれません。 そうした破綻が起きないのであれば、少なくとも、11月の中間選挙については、現在の流れの延長で「トランプがモメンタムを維持する」シナリオも十分にあると考えなくてはなりません』、中間選挙では下院は民主党が多数との世論調査が出ているようだが、それでもモメンタムは維持できるのだろうか。
次に、8月27日付け東洋経済オンライン「「信教の自由」を盾に開き直る宗教界への疑問 収支はひた隠し、労務管理もずさんそのもの」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/235105
・『日本の宗教界が、曲がり角に立っている。 文化庁の『宗教年鑑』によれば、国内宗教法人の信者数(公称)の総数は過去10年で12%減。信者数の絶対値は減り続けている。それでも、宗教法人は侮れない力を依然として持つ。税制優遇という強力な”特権”が付与されているほか、財務諸表などの情報開示が求められないこともある。富の蓄積を容易にするその力をテコに、巨大施設の建設や美術品の購入、政治活動を行ってきた』、なるほど。
・『さまざまな税制優遇を享受しているのに… 現在、ほとんどの宗教法人は毎年の収入すら開示していない。宗教法人は税法上、「公益法人等」という立場で、さまざまな税制優遇を享受している。お布施や寄付など宗教活動で得たおカネは原則非課税で、不動産賃貸など収益事業に関しても通常より税率が低い。宗教法人は高い倫理観から不正経理など行わないという性善説に立っているためだ。 だが現実には修正申告は少なくなく、悪質な所得隠しを行っているケースもある。税逃れ狙いによる宗教法人売買では反社会的勢力も暗躍している。オウム真理教による無差別テロ事件をきっかけに、1995年に宗教法人法の改正が行われた。改正法では、収益事業を行っているか、年間収入が8000万円を超えている場合、毎年収支報告書を作成し、所轄庁に提出することが義務化された。 宗教法人が所轄庁に届け出た財務諸表の写しは行政文書となる。そこで『週刊東洋経済』編集部は今年6月、文化庁あてに複数の宗教法人から提出された財務諸表の開示を求める請求を行った。翌月、文化庁から届いた決定通知書は請求文書の存否も含めてすべて不開示とするというものだった。現在、文化庁長官に不開示決定への不服審査請求を行っている。 不服審査請求を受けた省庁は、総務省の情報公開・個人情報保護審査会に諮問する。審査会は第三者的立場から公正かつ中立的に調査審議し答申を行う。実はこれまでも『週刊東洋経済』編集部と同様の審査請求が文化庁宛てに複数回行われており、審査会ではそのたびに「存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は取り消すべき」との答申を出している。 審査会が対象文書の提示を要求(インカメラ審理)しても免れようとする文化庁の対応に、「法の理解に重大な問題がある」「今後は法の趣旨に則って適切な対応をすることが強く望まれる」などと異例の「付言」がなされたこともあった。ところが「付言」がなされたケースで文化庁は、新たな不開示の理由を示すことなく、再度不開示と、答申と異なる決定をしている。文化庁宗務課長は宗教法人審議会で「信教の自由を妨げることのないように慎重に取り扱う必要がある」ためと説明している。 答申に法的拘束力はないが、「答申と異なる決定を諮問庁がすることは極めて例外的」(総務省)だ。実際、2015年度に審査会に諮問し決定等を行った922件のうち、審査会の答申と異なる決定をしたのはたった1件だった』、文化庁が不開示とするのであれば、東洋経済は行政不服訴訟に訴えるべきだろう。
・『行政介入を避けるべきというなら情報公開を徹底すべし 制度に詳しい特定NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は、「存否応答拒否が許されるのは、警察の捜査情報や自衛隊の防衛機密などに限られる。宗教法人の財務諸表が同等とは思えない」と話す。信教の自由の尊重から行政の宗教介入は避けるべきというなら、「より情報公開を徹底し社会的監視に委ねる道を探るべきだ」と指摘する。 情報が閉ざされた結果、次のようなことも起こっている。関係者によれば、都内のある寺院は10年間まったく同じ数字の財務諸表を提出しているが、何の指摘も受けていないという。行政は宗教介入に当たるからと基本的なチェックも行わないのである。宗教法人の決算業務にかかわった別の税理士法人関係者は、「非課税の宗教行為と課税対象の収益事業の財布も分けておらず、まさにどんぶり勘定。これで通用するとは信じられなかった」と振り返る。 僧侶で税理士の上田二郎氏は、「この実態が明らかになれば財務諸表の公表を求める声はより強まるだろう。優遇税制も疑問視されかねない。宗教法人の大学などで経営・税務を教育するなど早急な対応が必要だ」と語る。 一般社会の常識が通用してこなかったのは、「働き方」「働かせ方」においても同じだ。 「給与明細を見て、あれだけ働いたのに残業代がないのはなぜだろうと思ったのがきっかけだった」。真宗大谷派(本山・東本願寺、京都市)で僧侶として働いていた水田悟志さん(39歳、仮名)は振り返る。 水田さんは2013年4月から本山境内にある研修宿泊施設で門信徒の世話役である「補導」として働き始めた。朝のお勤め前の6時半すぎには出勤し、夜は22時過ぎになることもザラだったという。とりわけ繁忙を極めたのが、子供や学生の奉仕団がやってくる夏休み期間中だ。「残業時間は最大で130時間を超えていた」(水田さん)。 水田さんは仏門に入る前、民間企業で5年、本山の補導となる前は、宗派教務所で事務職として働いていた。「企業ではもちろん、教務所でも残業代は支払われた。本山でも事務職には残業代が支払われるのに、勤務時間が長い補導には支給されないのは納得できなかった」(水田さん)。 水田さんは同僚と地域労働組合に加盟し、2015年秋から団体交渉を行った。真宗大谷派側は残業代不払いのみならず、労働時間を把握してないことや、補導については残業代を支払わないという違法な覚書を40年以上前に職員組合と締結して更新し続けてきたことを認めた。 ただ団交の席上、直属の上司は水田さんにこう言い放ったという。「宗教心があればこんな訴えは起こさない」「同じ環境で働いてきた人が多くいるのに、おかしな訴えを起こすのはあなたが初めてだ」。こうした言葉が象徴するように、僧侶は出家して仏門に入れば俗世とは離れるので、その活動は「修行」であり「労働」ではないという考えが仏教界に根強く残る。ほかの宗教でも同様だ。「宗教法人には労務管理という意識がなく、労働法の知識が乏しいのが実情だった」(僧侶で宗教法人法務に詳しい本間久雄弁護士)』、仏教界の考え方にも一理はあるが、ブラック企業並みの扱いでは、僧侶志望者が少なくなっていくだけだろう。
・『相応の給料を受け取っていれば労働者 僧侶をはじめとする聖職者の労働者性について厚生労働省は「宗教関連事業の特殊性を十分配慮すること」との通達を出している。具体的な判断基準によれば、寺院の指揮命令によって業務を行い、相応の給与を受け取っていれば労働者として扱われる。
世界遺産・高野山(和歌山県高野町)の寺院に勤める40代の男性僧侶が、連続勤務でうつ病を発症したとして、昨年10月に労災認定されている。また宗教上の地位の剥奪である「破門」についても、不当な「解雇」との争いについて、裁判所は昨年、破門に正当な理由はないとする仮処分決定を出している。 こうした労働問題と並んで宗教界を揺さぶる世俗からの波が、厚生年金の未加入問題だ。2015年ごろから日本年金機構は寺院に厚生年金の加入を迫るようになった。法人税法上、住職が宗教法人から受け取る金銭は、現物を含めて役員報酬に該当するため、社会保険の加入対象となると判断されたためだ。「宗教界は生涯現役を理由に反発するが、中小・零細企業の社長の多くは社会保険に加入している。宗教界だけが特別との主張は通らないだろう」と、前出の僧侶で税理士の上田氏は話す。 個々の是非はともかく、法令順守という世俗のルールが宗教界にも序々に浸透しているのは間違いない。情報開示への消極姿勢も、やがて変革を迫られるだろう。信教の自由を守ることは、宗教法人の既得権益を守ることと同義ではない。公益性と性善説について国民的合意を得るためにも、世俗のルールとの調和を目指した自己改革が望まれる』、厚生年金には当然、加入させるべきだろう。
第三に、10月9日付けダイヤモンド・オンライン「新宗教の信者数は30年間で4割減、創価学会をも襲う「構造不況」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/181605
・『『週刊ダイヤモンド』10月13日号の第1特集は「新宗教の寿命」です。今特集では、現代の新宗教界を象徴する3教団、創価学会と立正佼成会、そして真如苑に加え、存亡の危機にある主要教団のビジネス(布教)戦略を明らかにし、そのカネと権力、政治のタブーに迫ります。その特集から、宗教界全体が直面する“構造不況”とも呼べる状況を解説した記事を、ダイヤモンド・オンラインで特別公開します。 創価学会の実権は、原田稔会長や谷川佳樹主任副会長ら「四人組」と呼ばれる執行部が握っている。執行部は例年、池田大作名誉会長の誕生日の1月2日に、池田氏が療養中とされる東京・信濃町の学会施設に“池田詣で”を行うのが慣例だ。 ところが今年、かつてない異変が起きた。「執行部の面会が初めて池田家側から拒否された」(池田家に近い関係者)というのだ。 目下、その解釈をめぐって、二つの見方が信者たちに流れている。 一つは、2010年5月の本部幹部会出席を最後に表舞台から姿を消した池田氏が、執行部と面会できないほど体調が悪化した、という見方である。 そして、もう一つが、池田家と執行部の間に“亀裂”が生じ始めた、というものだ。執行部は近年、創価大学派閥など池田家に近いと目されていた側近などを次々と“粛清”する一方、学会の憲法に相当する「創価学会会憲」を昨年制定し、組織運営から教義に至る全権を原田会長に集中させるなど、“池田外し”ともいえる動きを加速させている。それを不快に感じている当の池田氏側が面会を拒否したというのである。 「今の執行部は池田先生をあまりにないがしろにしている」──。 そう悔し涙をにじませるのは、池田氏直属の親衛隊「転輪会(てんりんかい)」所属の古参信者だ』、創価学会でそんな内紛が生じていたとは初めて知った。
・『衆院選に続き沖縄県知事選も大敗北の公明党 こうした池田外しの背景にあるのは、卒寿(90歳)を迎えた希代の“カリスマ”池田氏の喪失に向けた組織固めだ。9月8日、機関紙「聖教新聞」で四半世紀にわたり連載された池田氏の小説『新・人間革命』が完結を迎えたことは、「時代の終わりが近い」ことを信者たちにあらためて実感させた。 新宗教最大の教勢を誇る学会の足元では今、高度経済成長期に入会した会員のボリューム層が高齢化し、その自然減や世代間における信仰の断絶といった、構造的問題が顕在化している。 その最たる例が、学会を母体とする公明党の苦境に表れている。昨年10月の衆議院議員選挙では比例得票数で700万票を割り込み、6議席を失う惨敗となった。さらに、およそ5000人といわれる学会活動家を本土から送り込むという、党を挙げての“総力戦”となった9月30日の沖縄県知事選挙でも敗北を喫した。 衆院選敗北から1年。学会では目下、来夏の参議院議員選挙を視野に信者の引き締めを図るべく、執行部に異を唱える一般信者にまで“首切り”の嵐が吹き始めている。執行部を批判した会員を除名するだけではなく、地区幹部の役職解任や「査問」という名の“脅し”をかけられる一般信者が全国で急増しているというのだ。これらは身内に寛容とされる学会において、前代未聞の変化だ』、さしもの学会も「貧すれば鈍する」になったのだろうか。
・『平成30年間で4割も減った主要教団の信者数 7月、オウム真理教元代表の麻原彰晃(本名・松本智津夫)らへの極刑が執行されたが、平成の終わりとともに、かつて世間を騒がせた新宗教が終焉に近づいていることを暗示する出来事だった。学会に迫る“Xデー”に象徴されるように、新宗教界全体を見渡しても、苦境に陥っている教団は多い。 下図を見てほしい。1989(平成元)年以降の日本の宗教法人の総数と、各教団の自己申告ベースの“公称”信者数、そして、そのうち、主要新宗教教団の公称信者数を抜き出したグラフだ。 「宗教年鑑」(文化庁)で毎年の公称信者数を捕捉できる上位37教団の信者数は、2637万人から1591万人へと4割減った。この落ち込みは、伝統宗教を含めた宗教界全体のそれをはるかに上回る。 その理由は、先述した学会と共通する構造問題である。すなわち、少子高齢化(少産多死による人口減少)や核家族化、そして世代間の価値観の断絶といった要因であり、それは日本社会全体の環境変化に起因するものだ。学会の末端信者にまで及ぶ苛烈な引き締めは、この構造不況を生き残るための戦略転換の表れといえる。 本特集では、最大手の学会に加え、アンチ学会の中心的存在で、実質的に新宗教界ナンバー2の立正佼成会、そして、新宗教界でひときわ注目を浴びる真如苑という三つの巨大教団に着目し、その現状や課題、そして今後の事業(布教)戦略を明らかにする』、主要新宗教教団の信者数が平成30年間で4割も減ったとはさもありなんだが、その要因として記事で挙げられているのは、余りに表面的な気がする。真因は何なのだろうか。
第四に、10月9日付けダイヤモンド・オンライン「創価学会・立正佼成会・真如苑、3大新宗教の「寿命」を大胆予想」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/181606
・『新宗教に縁がないという読者も多いだろう。各教団の詳細に入る前に、新宗教界の全体像を押さえておきたい。 新宗教と一口に言っても、実はその明確な定義はない。図(1)で分かるように、新宗教と呼ばれる教団の多くは日蓮正宗や真言宗など伝統仏教や神道、キリスト教から枝分かれしたり、影響を受けたりしているからだ。本誌では、宗教学の第一人者、井上順孝氏などが編集した『新宗教 教団・人物事典』に基づき、18世紀初頭以降に一派を興した教団を新宗教とした。 このうち、文化庁発行の「宗教年鑑」最新版ほかによる、各教団の公称信者数が多い10教団を信者数でランキング化したのが図(2)だ。 本誌で示したように、宗教年鑑に記載されたものを含めて、各教団の公称信者数ほど信ぴょう性に欠けるデータも珍しい。全宗教法人の合計信者数は、日本の人口をはるかに上回る。信者をどうカウントするかは各教団の基準次第で、退会者や死亡者まで含めている教団さえある。誇大申告が常態化しているのだ』、「誇大申告が常態化」には笑いを禁じ得なかった。
・『だが、それでも公称信者数からは、その教団の勢いや新宗教界を取り巻く世相を読み解くことはできる。図(3)は信者数の推移のうち、特徴的なパターンを持つ教団を抽出した。例えば、創価学会は2005年に827万世帯と公称して以降は更新されず横ばい。片や、立正佼成会は右肩下がり、真如苑は逆に右肩上がりだ。絶対数は当てにならずとも、その教団の信者のカウント基準を押さえれば、一定の比較も可能となる。 続いて、機関紙の主張や選挙活動などから把握できる政治的な立ち位置からも、教団の特徴や互いの関係を読み解ける(図(4))。鍵を握る教団は、やはり公明党の母体である創価学会。1999年の自公連立により、リベラルな立ち位置にブレが生じ、右傾化した。 このブレは自民党とそれまでじっこんだった反創価学会の旗手、立正佼成会の立ち位置も変え、「敵の敵は味方」とばかりにリベラルに傾斜していった。この政治的転換は、両教団共に信者の離反を少なからず招いた。逆に、あえて政治に距離を置くのが真如苑。地元にゆかりのある政治家を主に応援するのが、日本唯一の宗教都市を有する天理教といった具合だ。 一方、全体的な信者数減少の影響をもろに受けているのが、教団の“財布”。宗教事業の根幹であるお布施や寄付金の額に直結するからだ。図(5)は大規模宗教法人の収支の変化。01年と比べると16年は会費収入と投資支出が激減。カネもうけ手法を事業収入にシフトさせていることが見て取れる』、公明党が右傾化したら、ライバルの立正佼成会はリベラルに傾斜していったとは面白い。大規模宗教法人の会費収入は2001年の1/3にまで落ち込んでおり、これでは苦しいだろう。新宗教の苦境の真因は、依然、謎のままだ。今後、じっくり考えてみたい。
タグ:宗教 (その1)(「脱宗教時代と左右対立」、「信教の自由」を盾に開き直る宗教界への疑問 収支はひた隠し、労務管理もずさんそのもの、新宗教の信者数は30年間で4割減、創価学会をも襲う「構造不況」、創価学会・立正佼成会・真如苑、3大新宗教の「寿命」を大胆予想) 冷泉彰彦 メールマガジンJMM 「[JMM1009Sa]「脱宗教時代と左右対立」from911/USAレポート」 オウム真理教 幹部7名に対する死刑が執行 明治期に強引に神仏分離をやってしまった影響も 公的な権威を失った神道と、江戸から明治と衰退の一方であった大乗仏教が依然としてバラバラである中で、日本の宗教風土というのが不安定になっていた 現在の日本には「脱宗教」という気風が極めて濃厚 アメリカ 1993年に発生したブランチ・ダビディアン事件 集団自殺 「武装の権利」と「連邦政府への反感」という保守思想からの同情 アメリカというのは、基本的には宗教的な国 1つの流れは、17世紀から19世紀にかけてのヨーロッパで宗教的な迫害を受けて逃れて来た人々の末裔という意識 宗教的亡命者の末裔は、そこに新大陸ならではの理想主義、つまり異なる価値観、異なる宗派との共存という考え方を大切な価値として掲げるようになった 「だからこその他宗教への寛容」 アメリカの宗教風土にはもう一つの流れがあります。それは開拓の最前線(フロンティア)における福音主義でした 苦労を重ねた入植者たちは、否が応でも「人間は神に選ばれた存在」だという聖書の考え方を拠り所にして行ったのです。 その信仰には、核家族への神聖視、白人至上主義、コミュニティの団結と「よそ者」への警戒、相互扶助、自警活動といった独特のカルチャーが加わっていました。やがて、その独自性は、寛容主義とは相容れないものとなる中で、キリスト教原理主義とでも言うべき運動になって行きます 「草の根保守」の運動 2010年以降の「ティーパーティ」 トランプ 当初福音派は距離を置いていました トランプは共和党の広範な支持層をまとめつつあり、福音派を中心とした宗教保守派も、相当に取り込みつつあるようです 2点目は、大統領の過激な「政敵たたき」が保守層の求心力になっているという問題 「劇場スタイル」で有権者の支持を得ているのは間違いない 「グローバル経済にフレンドリーな中道左派」が憎悪の対象となる ティーパーティや福音派といった、本来はトランプとは水と油の存在も、大統領が取りまとめつつある 中間選挙という「勝つか負けるか」の勝負が白熱することで、このモメンタムは、この夏から秋にかけて益々ハッキリした動きとなって行くことでしょう 最高裁判事候補の指名 共和党全体にしても、福音派にしても「グローバリズム憎し」と「グローバル・エリート憎し」という憎悪の感情に火をつけられて、正常な判断力を奪われている トランプ現象というのは、本来は無政府主義者や終末論的な新宗教などが持っている破壊衝動を集めて権力化しているようなところがあります 本当にアメリカ経済や世界経済を壊してしまう可能性もある 共和党全体で「憑き物」が落ちて「トランプという悪夢から覚める」中で、福音派は元の福音派に戻って行くのかもしれません 破綻が起きないのであれば 中間選挙については、現在の流れの延長で「トランプがモメンタムを維持する」シナリオも十分にある 東洋経済オンライン 「「信教の自由」を盾に開き直る宗教界への疑問 収支はひた隠し、労務管理もずさんそのもの」 国内宗教法人の信者数(公称)の総数は過去10年で12%減 さまざまな税制優遇を享受しているのに… 現在、ほとんどの宗教法人は毎年の収入すら開示していない 悪質な所得隠しを行っているケースもある 宗教法人法の改正 文化庁 財務諸表の開示を求める請求 決定通知書は請求文書の存否も含めてすべて不開示とする 審査会ではそのたびに「存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は取り消すべき」との答申 「付言」がなされたケースで文化庁は、新たな不開示の理由を示すことなく、再度不開示と、答申と異なる決定をしている 行政介入を避けるべきというなら情報公開を徹底すべし 僧侶 残業時間は最大で130時間を超えていた 僧侶は出家して仏門に入れば俗世とは離れるので、その活動は「修行」であり「労働」ではないという考えが仏教界に根強く残る 相応の給料を受け取っていれば労働者 連続勤務でうつ病を発症したとして、昨年10月に労災認定 厚生年金の未加入問題 ダイヤモンド・オンライン 「新宗教の信者数は30年間で4割減、創価学会をも襲う「構造不況」」 池田大作名誉会長 池田家と執行部の間に“亀裂”が生じ始めた 衆院選に続き沖縄県知事選も大敗北の公明党 平成30年間で4割も減った主要教団の信者数 少子高齢化(少産多死による人口減少)や核家族化、そして世代間の価値観の断絶といった要因 日本社会全体の環境変化に起因 創価学会・立正佼成会・真如苑、3大新宗教の「寿命」を大胆予想」 教年鑑に記載されたものを含めて、各教団の公称信者数ほど信ぴょう性に欠けるデータも珍しい。全宗教法人の合計信者数は、日本の人口をはるかに上回る 誇大申告が常態化 創価学会。1999年の自公連立により、リベラルな立ち位置にブレが生じ、右傾化 反創価学会の旗手、立正佼成会の立ち位置も変え、「敵の敵は味方」とばかりにリベラルに傾斜 01年と比べると16年は会費収入と投資支出が激減
相次ぐ警察の重大ミス(その5)(警察庁長官狙撃事件「真の容疑者」中村泰からの獄中メッセージ、警察官の「拳銃」をめぐる事件頻発 緊張感はどこへ行った、富田林脱走 容疑者逃走1カ月半 留置業務と危機管理を検証せよ、お遍路に扮した樋田容疑者は瀬戸内でグルメ三昧 大阪府警本部長は進退問題に発展か) [社会]
相次ぐ警察の重大ミスについては、9月4日に取上げた。今日は、(その5)(警察庁長官狙撃事件「真の容疑者」中村泰からの獄中メッセージ、警察官の「拳銃」をめぐる事件頻発 緊張感はどこへ行った、富田林脱走 容疑者逃走1カ月半 留置業務と危機管理を検証せよ、お遍路に扮した樋田容疑者は瀬戸内でグルメ三昧 大阪府警本部長は進退問題に発展か)である。
先ずは、警視庁捜査第一課元刑事の原 雄一氏が9月8日付け現代ビジネスに寄稿した「警察庁長官狙撃事件「真の容疑者」中村泰からの獄中メッセージ 「オウムの犯行であるという大嘘」」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57307
・『平成7(1995)年3月30日に発生した、國松孝次警察庁長官狙撃事件。オウム真理教による犯行の可能性が高いとされながら、未解決のこの事件には、警視庁捜査第一課元刑事・原雄一氏の執念の捜査で浮かび上がった「真犯人」中村泰受刑者がいた。 原氏は今年3月、事件の真実を綴った『宿命 警視庁捜査第一課刑事の23年』を刊行。本書を読んだ中村受刑者の「協力者」から原氏宛てに手紙が届き、事件は新たな展開を見せている・・・また、今夜9月8日(土)21時からのNHKスペシャル「未解決事件シリーズ」では、原氏と中村受刑者の長い闘いが実録ドラマとして放映される。 このたび公開するのは、獄中の中村泰受刑者自身がつづった『宿命』の「書評」である。中村受刑者は「現代ビジネス」での発表を前提にこの一文をまとめ、著者である原氏に託した(表記は原文のママ)』、私もNHKスペシャルを観たが、中村泰受刑者が「真犯人」であるかどうかは、よく分からなかった。
・『表の欺瞞、裏の真実 「物事には表と裏がある」というよく使われる表現は、警察庁長官狙撃事件捜査の推移にも当てはまる。 もっとも、公安部長の指揮下に発足した特捜本部の態勢に、初めからそういう二面性があったわけではない。捜査の矛先は、当時の情勢から最も疑わしいと見られたオウム真理教に向けられていた。 そう仕向けることこそが狙撃者側の真の狙いだったのだが、そうとは気付かぬ捜査陣はその線で捜査を進めるうちに、軟禁状態に置いて取り調べていたオウム信者のK巡査長から「自分が長官を撃った」という供述を引き出した。 この似非(えせ)自白こそ、後日、多くの警察幹部を巻き込んで警察庁と警視庁に大混乱を惹き起こす「K騒動」の引き金となったのである。この奇襲劇の脚本を書き、自らも出演した筆者にとっては、何か現実のほうが勝手に動き始めて作者の手に負えなくなってきたという感慨を抱いていた記憶がある。 しかし、ともかくもここまでの推移では、捜査の二面性はまだ顕在化していない。それには世紀が改まって2003年(平成15年)になるのを待たなければならなかった。 事件発生から8年以上も経って、偶然の成り行きから長官狙撃事件の関連証拠を入手した刑事部は、意気揚々とそれを捜査本部に報告したが、意外にも相手はオウムに無関係なものは無価値だというような態度でそれを一蹴した。 それで憤慨した刑事部捜査官たちは、それなら自分たちだけで事件を解決してみせようと独自の捜査活動を始めた。こうしてオモテの犯人であるオウム信者を追う捜査本部とウラの犯人と目されるN容疑者(編集部注・中村受刑者自身のこと)を追う刑事部員という二重構造が形成されたのである。 この刑事部員から成る捜査集団は、その後曲折を経て、刑事・公安両部から選抜された部員から成る「N専従捜査班」として、捜査本部に所属することになったので、形の上での二重性は解消した。 しかし、本来、捜査対象が異なっているのだから、それぞれの条件も違っている。たとえば、時効にしてもオウム信者を対象にしている捜査本部のそれが事件発生後15年経過の2010年(平成22年)3月30日であるのに対して、専従班の対象であるNは海外滞在期間の関係で一年近く延びることになるが、その間の行動予定も判然としていなかった。 それにしても、本部長からの指令が「立件はしないが、捜査は尽くせ」という矛盾に満ちた不可解なものであったのはどうしたことであろうか。何があろうとオウムの犯行という結論は変わらないことを覚悟しておけという警告であったのだろうか。 とにかく本書の著者である原捜査官が指揮するN専従班が地道な捜査努力を続ける中で、表向きの時効完成日である2010年(平成22年)3月30日が到来した。延べ48万人の労力を注ぎ込み、15年の歳月を費やした大捜査活動の締め括りとして「捜査概要」なるものを公表したが、その内容は(実在の)オウム信者数名にそれぞれの役割を被せて創作した物語といえるようなもので、これは後日、オウムの後継団体から名誉毀損の訴訟を起こされて手もなく敗訴し、恥の上塗りとなった。 さらに、直接の被害者である國松孝次(たかじ)元長官からも、本件の捜査は失敗であったと評された警視庁公安部の内部では、うっ積した憤懣がいずれ爆発するのではないかと予想していたところ、果たしていかにも公安部員らしい手口による造反工作が発生した。外事課に保管されていた極秘の捜査資料が大量にネット上に流出したのである。 それによって惹き起こされた衝撃の大きさは責任者である公安部長を更迭にまで追い込むのに十分であった。これも、時効完成の日に記者会見を開いて長官狙撃事件はオウムの犯行であるという大嘘を百も承知のうえで国民に告げた悪行の報いとでもいえようか。 この当時『警察庁長官を撃った男』(新潮文庫)なるノンフィクションが発行されて狙撃事件の詳細な真相が暴かれたが、今回世に出た『宿命』は、直接その捜査に専従した捜査官が意を決して公刊したものであるだけに歴史的な証言としての価値も高い。さらに、被疑者との虚々実々の駈け引きも描写されているので、物語としての面白さも十分にある。 ただし、それでもなお、なぜ警察首脳部は、この重大な狙撃事件の真相を隠蔽してしまったのかという根本的な謎は未解決のままである』、なんとも複雑怪奇だ。公安部長の更迭も、捜査失敗の責任というより、捜査資料のネット流出というのも釈然としない。しかも、被害者たる國松孝次元長官からも、本件の捜査は失敗であったと評されるような警視庁公安部とは、まるで魔界のようだ。
次に、事件ジャーナリストの戸田一法氏が9月20日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「警察官の「拳銃」をめぐる事件頻発、緊張感はどこへ行った」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/180021
・『和歌山県警機動隊の20代男性巡査が14日、拳銃を一時紛失していたことが発覚した。約1時間20分後に住民が「落とし物」として届けて事なきを得たが、もし悪用されていたらどうなっていたか…。拳銃を巡っては6月、富山市の交番で警察官が刺殺されて拳銃を奪われた上、民間人が射殺された事件があったばかり。4月には滋賀県彦根市の交番で巡査が上司を射殺する事件が発生。各地で拳銃の紛失も相次いでおり、警察OBからは「富山の事件は対応が困難だったが、警察官の拳銃に対する心構えが軽く緊張感も欠如している」と危惧する声が上がっている』、信じられないようなお粗末さだ。
・『紛失は実戦用の自動式 和歌山県警の発表によると、巡査は自民党総裁選の遊説で訪問していた安倍晋三首相らの車列を私服で警護中、和歌山市中心部の路上で警察車両助手席の窓から身を乗り出し、マイクで一般車両に停止を呼び掛けていた。拳銃を紛失したのは14日午後7時50分頃。左脇ホルスターの留め金が車両の窓枠に引っ掛かって外れ、路上に落下したという。 このため巡査の乗った車両は車列を離れ、同乗していた同僚らと付近を捜索。その後、県警本部からも約50人が駆け付けて捜したが見つからなかった。結局、散歩中の住民が落とした直後の午後8時頃に拾って自宅に持ち帰り、午後9時過ぎに周辺で捜索していた警察官に手渡していたという顛末(てんまつ)だった。 巡査は警護の訓練に参加したことはあったが、要人警護に就いたのは初めてだった。県警は拳銃携行の方法に不適切な点はなかったとしているが、拳銃とホルスターをつなぐ吊り紐は装着されていなかった。事実関係を公表したのは翌15日午前2時半。約6時間半にわたり伏せていたわけだが、県警は「住民に不安を与えたくなかった」と説明している。 付近住民の男性によると、警察官が「落とし物を捜している。何か拾っていないか」と各家庭を訪問。「何か」が何とは説明していなかったが、男性は「まさか、拳銃だったなんて。いや、びっくりしたよ」と驚いていた。 新聞記事などで「おや?」と思った方もいるかもしれないが、今回、巡査が紛失したのは「自動式(オートマチック)」とされる。日本では警察官が所持していたのは長らく「回転式(リボルバー)」のニューナンブだった。最近は自動式も配備されるようになり、回転式も順次、米国のスミス・アンド・ウェッソン社(S&W)製に切り替えている。 自動式は要人警護などを担当するSP(セキュリティポリス)、事件発生直後に現場へ急行する機動捜査隊、拳銃の取り締まりを担当する銃器対策、暴力団などを担当する組織犯罪対策の私服警官のほか、各都道府県警刑事部の立てこもり事件突入班(捜査1課のSITなど)ではむしろ主流となっている。 この2つはどこが違うのか。 回転式は頑丈で耐久性があり操作が簡単、部品が少なく保守・管理が容易、暴発の危険性が低く価格も安いのが利点。対して自動式は装填(そうてん)できる弾数が多く連射が可能で、弾倉交換も簡単な一方、構造が複雑で整備不良や不慣れだと弾詰まりや暴発事故の危険性がある。 簡単に言えば、回転式は交番勤務のお巡りさんが万が一に備え威嚇用として所持するのが主な用途であるのに対し、自動式は実戦向けとイメージしてもらえればいいだろう。つまり巡査が紛失したのは脅しのためではなく、“プロ”が相手の殺傷を目的として発射する拳銃だったということだ』、「拳銃とホルスターをつなぐ吊り紐は装着されていなかった」というのは、要人警護では吊り紐が邪魔になるためなのかも知れないが、「ホルスターの留め金が車両の窓枠に引っ掛かって外れ、路上に落下」というのはまるで漫画だ。
・『警察官が上司射殺の異常性 実は最近、警察官の拳銃の置き忘れが多く報告されている。警察署内はまだ救われるが、駅や空港、コンビニエンスストア、一般店舗など、とにかく「トイレ」に置き忘れるケースは枚挙にいとまがない。 いずれも清掃員や警備員、ほかの客などが気付いて無事に届けられているが、不心得者が持ち帰って悪用でもしたら、不祥事では済まない。 警視庁で長く刑事を勤めた元男性警部補は「昔は拳銃の取り扱いについてしつこいほど、本当にしつこいほどきつく指導された。今はぬるいのではないか」と懸念する。「昔を振り返るのは年寄りの悪い癖かもしれないが、最近は多過ぎる。昔は拳銃を紛失したら辞表モンだった」とため息をついた。 元警部補が懸念するのは「とにかく、警察官(に拳銃の置き忘れ・紛失)が多い」という点だ。というのは、実は拳銃の所持が認められているのは警察官だけではない。自衛官、海上保安官、麻薬取締官、税関職員、入国警備官・審査官、刑務官などさまざまな職種に許可されているが、確かに警察官以外に拳銃の置き忘れ・紛失がニュースになったケースは聞いたことがない。 所持している警察官の人数がほかと比べて桁違いに多いから、不注意で発生する可能性が高いのは仕方ないという見方もできるが、元警部補は「昔に比べて緊張感が薄いのではないか」と危惧する』、税関職員、入国警備官・審査官、刑務官なども拳銃の所持が認められているとは初めて知った。確かに警察官による拳銃の置き忘れ・紛失が目立つというのは、きちんとした再発防止策をとってもらいたいものだ。
・『さらにこの元警部補が今年、ショックを受けた事件が2件あったという。滋賀県彦根市で4月、巡査が上司を射殺した事件、富山市で6月、警察官が交番で刺殺されて拳銃が奪われ近くで警備員が射殺された事件だ。 彦根市では4月11日午後7時45分頃、彦根署河瀬駅前交番で男性巡査部長(当時41、警部に昇進)が、部下の巡査の男(当時19)に背後から射殺された。元巡査は「怒鳴られたからやった」「書類を何度も書き直させられストレスがあった」などと供述したとされるが、目立ったトラブルは見当たらず、動機に不明な点は多い。 元警部補は「これまでもパワハラ上司が冗談半分で銃口を部下に向けたという話はニュースで耳にしたことはあったが、本当に引き金を引いてしまうなんて…」と首を振った。事実、現職の警察官が同僚を射殺したのは日本の警察史上、初めてだった。 事件当時、元巡査は未成年だったが、大津地検は殺人と銃刀法違反の罪で起訴した。今後、大津地裁で公開の裁判員裁判が開かれる予定だ(日程は未定)』、「現職の警察官が同僚を射殺したのは日本の警察史上、初めて」というのには、逆に驚かされた。もっとあっても不思議ではないと思っていたためだ。
・『富山市では6月26日午後2時頃、富山中央署奥田交番で元自衛官の男(当時21)が男性警部補(当時46、警視に昇進)の腹部30ヵ所以上を刃物でメッタ刺しにし、拳銃を奪って逃走。さらに小学校付近で工事の警備員をしていた男性(当時68)に向けて至近距離から発砲し、2人はいずれも死亡した。 過去の新聞記事を調べる限り、警察官が拳銃を奪われ、民間人が射殺されたのは1984年9月以来だ。京都市で男性巡査が刺殺されて拳銃を奪われ、大阪市で消費者金融の男性店員が射殺された事件で、犯人は元警察官。郵便局強盗の前科もあったことから、1997年に最高裁で死刑が確定している』、犯人が元警察官というのではやれやれだ。
・『富山市の事件は元自衛官が斧(おの)やダガーナイフなどで武装した上、不意を突かれたため防ぎようはなかったとされる。一方で元警部補は相次ぐ紛失などを念頭に「稲葉事件のように、何か拳銃に対する心構えが信じられないほど軽くなっている」と顔を曇らせた。 稲葉事件とは、北海道警生活安全特別捜査隊班長の稲葉圭昭元警部が暴力団関係者などと癒着し、覚醒剤の取引を見逃す代わりに拳銃を用意させ、匿名の電話で「ヤクザから足を洗うため拳銃を処理したい。どこそこのコインロッカーに入れている」と通報させる手口などで「首無し」(注・所持者不詳)の押収件数を次々と計上。稲葉元警部はストレスなどから覚醒剤を使用し、さらに拳銃購入のため覚醒剤の密売にまで手を染めていたという前代未聞の事件だ。 稲葉事件が発覚したのは2002年だが、1995年には国松孝次警察庁長官が狙撃される事件が発生。そうした経緯もあって、警察庁は全国の警察本部に向けて銃器取り締まりの徹底を要請していた。稲葉元警部は覚醒剤の密売で稼いだ金で暴力団関係者らから拳銃を購入し、次から次へと“押収”する自作自演で数々の表彰を手にして「道警銃器対策のエース」と全国に名前を轟(とどろ)かせていた。 稲葉元警部自ら「恥さらし 北海道警悪徳刑事の告白」のタイトルで出版し、綾野剛さん主演の映画「日本で一番悪い奴ら」にもなったから、御記憶の方も多いだろう。この事件では、稲葉元警部が手柄のために覚醒剤や拳銃の密売というヤクザ顔負けで暗躍していたほか、道警幹部も背後関係を認識しながらノルマ達成のため放置、むしろ推進していたというオマケまでついていた』、道警幹部が気づかない筈はないと思っていたが、「ノルマ達成のため放置、むしろ推進していた」とは開いた口が塞がらない。
・『こうした現状を元警部補は憂いている。20代に機動隊員として学生運動に向き合った以外、警視庁本部で汚職事件を長く担当していたため、拳銃を携行して現場に臨場したのは「数えるほどしかない」。しかし「若い頃、教官に『抜く時は命を懸ける時。抜かなければやられる時だけだ。抜く時は警察官のクビも懸けろ』と指導された。触る時は本当に怖かった」と述懐する。 稲葉事件では拳銃が単純な「数字」にすぎず、和歌山県警などの紛失は殺人可能な武器との認識が欠落していると言わざるを得ない。一方、彦根市の事件では19歳の若者が迷いもなく引き金を引き妻子ある同僚を死に至らしめ、富山市の事件は民間人が訳も分からないまま絶命した。 元警部補は「警察庁キャリアのお坊ちゃんお嬢ちゃんがケツを叩くばかりではなく、もう少し現場のことを“お勉強”してもらって理解してくれないとね」と手厳しく吐き捨てた。さらに「現場のたたき上げも少し真面目に啓蒙・啓発に努めないと、監察(注・警察内部の監督部門)が『指導・教養に努めたい』(注・警察が不祥事で発する決まり文句)を連発することになっちまう気がするな」と警鐘を鳴らしていた』、その通りだ。
・『※筆者が最終原稿を編集作業中の19日、宮城県警の清野裕彰巡査長(33、警部補に昇進)が東仙台交番で大学生の相沢悠太容疑者(21、死亡)に刃物で襲われ、拳銃を“抜く”間もなく刺殺されるという事件が起きた。地元紙によると、清野巡査長は元高校球児で、仲間思いの優しい性格だったという。心から追悼いたします』、この東仙台交番事件も、同僚の警官が、隣室に1人、2階には2人もいたようだ。少なくとも隣室の警官は、物音で早く気づいて然るべきだろう。こうした疑問に答える記事はまだないのも残念だ。いずれにしろ、拳銃を巡る不祥事がこんなに頻発するようであれば、警察組織の在り方、さらには拳銃携行の是非も検討すべきだろう。
第三に、9月28日付け産経WEST「富田林脱走 容疑者逃走1カ月半、留置業務と危機管理を検証せよ」を紹介しよう。
https://www.sankei.com/west/news/180928/wst1809280057-n1.html
・『最近では「映画で見たような話」と、驚きをもって語られることさえある。大阪府警富田林署から逃走した樋田(ひだ)淳也容疑者(30)のことだ。連続女性暴行や強盗傷害といった重大な嫌疑をかけられ、勾留中だったが、弁護士との接見後に面会室のアクリル板を蹴破り、逃走。現在にいたるまで見つかっていない。 映画は刑務所からの脱獄を描いた「ショーシャンクの空に」(1994年)。計画性や執念に、似た部分がないとはいえない。「事件と名画を一緒にするな」とお叱りを受けるかもしれないが、この映画に言及する人は多い。 前代未聞の逃走劇に大阪府警幹部らは、当初、大失態ではあるが、すぐに捕まえられる、と思っていたようだ。しかし、この希望は、はかなく消える。後になって、樋田容疑者が留置担当者の勤務シフトまで調べ上げていたことが分かったとき、少なくない捜査関係者が青ざめたことだろう。 府警の擁する職員は約2万3千人。民間企業でいえば日産自動車にも匹敵する巨大組織の屋台骨はたった1人の容疑者にいいように揺さぶられている』、「留置担当者の勤務シフトまで調べ上げていた」とは、その計画性の徹底に本当に驚かされた。
・『遅れた安全情報周知 発生当初は広報のあり方に非難が集中した。富田林署が樋田容疑者の逃走に気づいたのは8月12日午後9時43分。最初のマスコミ発表は翌13日午前0時55分だった。実に3時間以上もかかっている。住民への周知はさらにずれ込んだ。府警が運用している防犯メール「安(あん)まちメール」で事件について知らせたのは、認知から9時間近くたった同6時28分だった。 樋田容疑者は20代女性のマンション敷地内に侵入し、暴行した強制性交の罪で起訴されている。 夏場はベランダや窓を開け放して寝る人が多く、侵入のリスクが比較的高い。この時期の性犯罪に注意を呼びかけていたのは他ならぬ府警だ。仮に深夜にメールを送っても、どれだけの実効性があったのかという指摘はある。しかしメール配信がないより、あった方がいいのは事実。配信するための手間などたかがしれている』、これだけの凶悪な犯人を全くの警察側の重大ミスの重なりで、脱走させたのは論外だが、事後対応もお粗末極まりない。
・『広報が「不安助長」? 住民への広報が問題になったのは今回が初めてではない。他の県警だが、埼玉県熊谷市で平成27(2015)年9月に発生した男女6人殺害事件もそうだった。逮捕されたペルー人の男は事件を起こす前、住宅街で「カネがない」「警察を呼べ」と騒ぎ、県警熊谷署にいったん任意同行されたが、パスポートや財布などを署に残したまま立ち去ってしまった。この時点では、ペルー人に何ら犯罪の嫌疑はなかったが、直後から外国人による住居侵入事案の通報が相次いでいた。 県警は第一の殺人事件の認知後に記者会見を行ったが、「地域社会の不安感をいたずらにあおる懸念がある」と考え、ペルー人が関与した疑いや連続発生の可能性には言及しなかった。このため周辺住民に戸締まりを促すような積極的な情報提供がなされず、注意喚起のあり方に課題を残した。 富田林署のケースは、もともとが重大事件で勾留されていた容疑者であり、さらに署から逃げ出したことで加重逃走の新たな犯罪事実も加わっていた。留置管理の不手際を除けば住民に知らせるのに消極的になる理由がない。同署は「確実ではない情報を流すと不安を助長する」と説明したが、説得力はない。周知の遅れは、事件後、繰り返し批判を浴びている。 あえて言うなら、メールで一報さえしていれば、避けられた批判だ。府警の広報に危機管理の意識がなかったなら、その欠如こそが問題の本質だ』、その通りだ。
・『失地回復へ道程遠く 事件発生から3日後の8月15日、留置管理部門のトップの安井正英総務部長が「富田林署の逃走事案に関し、府民に多大なご迷惑をおかけし、おわび申し上げます」と謝罪した。府警で総務部長といえば、いわゆるノンキャリア採用の警察官の筆頭ポストだ。報道へのレクチャーは担当課が行うのが通常で、総務部長が出席するのは極めて異例。府警内部も事態を重く見た対応とはいえる。 しかしこの時点でも、全部門を束ねる府警本部長は書面でのコメントを発表しただけで、広田耕一本部長が初めて記者団の質問に応じたのは、発生から1週間が経過した後だった。 本部長が個別事件に言及すること自体、異例中の異例だが、仮に1週間以内に樋田容疑者を確保できた場合、本部長がカメラの前で謝罪する場面はあっただろうか、と考えてしまう。 大阪府警を取材してきて、今回ほど府民の反発を招いた事件は記憶にない。それは安全を守るべき警察当局が凶悪犯を逃し、安全に関わる情報を迅速に伝えなかったことへの怒りであり、留置業務を担う警察行政への不信だ。この点こそ最優先で検証し、府民に釈明すべきではなかったか。 発生から1カ月半。樋田容疑者の行方はいまだ知れず、留置管理に関する総括もまた、外部に向けては何もなされていない。これでは信頼回復は望むべくもない』、大阪府警に対しは、警察庁から監察を行い、徹底的な原因究明と再発防止策策定に乗り出すべきだ。警察庁では「仲間内」意識が働くようであれば、第三者委員会による調査も検討すべきだろう。
第四に、10月4日付けAERA.dot「お遍路に扮した樋田容疑者は瀬戸内でグルメ三昧 大阪府警本部長は進退問題に発展か」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/dot/2018100400014.html?page=1
・『8月12日に大阪府警富田林署から逃走し、360キロメートル離れた山口県周南市の道の駅で万引きして逮捕された樋田淳也容疑者(30)の逃亡生活が徐々に明らかになってきた。 樋田容疑者は8月12日の逃走直後から1週間もたたずして、四国に「上陸」していた疑いが濃くなった。 8月30日には高知県田野町の道の駅「田野駅屋」で樋田容疑者らしき人物の姿が目撃されたという。 白いスポーツタイプの自転車に乗った樋田容疑者とおぼしき人物は、四国霊場88カ所巡り「お遍路さん」に使われる笠をかぶっていたという。 「樋田容疑者はそこで出会った人に『和歌山からきて、全国を一周している旅の途中だ』と自らを説明して『笠をかぶっていると、寺が無料で泊めてくれる』と話していたそうだ」(捜査関係者) 樋田容疑者は「お遍路さん」に扮することで、身を隠し、滞在先も確保していたとみられるのだ』、初めから計画があった訳ではなく、自転車を盗んでから徐々に上手い変装を考えたのだろうが、環境への適応という点では、素晴らしい才能を持っているようだ。なお、10月4日の夕刊によれば、「8月末に高知県須崎市内の道の駅で、県警の警察官から職務質問を受け、大阪府羽曳野市で盗まれた自転車に乗っていたが、警察官らは防犯登録照会をせず、樋田容疑者と気付かなかった」と、ここれも警察はミスを犯したようだ。
・『さらには逃亡生活の道中、「グルメ三昧」だったこともわかってきた。 樋田容疑者が道の駅「サザンセトとうわ」(山口県周防大島)に立ち寄ったのは9月18日とみられる。 その前日、17日に道の駅「ふれあいどころ437」(山口県柳井市)で宿泊を断られ、たどりついたようだった。 「サザンセトとうわ」の関係者はこう話す。 「山口県岩国市のIという店に立ち寄ってうちの道の駅のことを聞きやってきたと話していた」 そこで、Iについて調べると川魚や地元の牛肉などの豪快な料理で知られる料理店だった。 樋田容疑者は、Iで食事して「サザンセトとうわ」にやってきたというのだ。 この時「日本縦断中」というポップを自転車に掲げていたという。 樋田容疑者は「サザンセトとうわ」が気にいったのか、毎晩、野宿するようになった。 その時点では現金があったのか、「どこかおいしいとこがありますか」と尋ねたという。 地元のラーメン屋Tを紹介され、樋田容疑者は後に「とても、おいしかった」と感想を話していたという。 TはSNSなどでも「昭和を感じさせる」などと紹介される名店だ。 8月22日、樋田容疑者は「サザンセトとうわ」で野宿でお世話になったとお礼に草むしりなどをした。 そして、お礼として店から「かつとじ定食」をごちそうになった。樋田容疑者はここで「櫻井潤弥」という偽名を使っていたという。 「樋田容疑者は、サザンセトとうわを拠点に頻繁に海に出ていたそうだ。そこでカキやワカメ、魚などをとったり、釣ったりして調理して食べていたようです。その時、すでに自炊のためか鍋やコンロなどを自転車に搭載していた。 サザンセトとうわはサイクリスト誘致に力を注いでいて、写真コーナーを作ろうとしていたので樋田容疑者に記念撮影を依頼すると『第1号が僕でいいですか』などと喜んで応じてくれた。うれしくて仕方ない様子で『いっぱい写真を貼ってください』と言っていたそうだ。自転車に積まれていた調理用品や調味料は『お金をできるだけ使わないようにと買い揃えていたら増えてきた』と説明していたようだ。樋田容疑者はサイクリストには人気のブランドの服を着ていたそうで、すべて盗んだものだとみられる」(捜査関係者) 9月29日夜に逮捕された樋田容疑者。その前に立ち寄った道の駅「上関海峡」で盗んだ弁当は地元名物のタコを使った「タコの炊き込みご飯弁当」だった。 「樋田容疑者は、カキをとって生で食べたり、釣った魚をさばいて夕飯にするなどグルメな旅だったようだ。樋田容疑者の自転車からは包丁など調理器具も見つかっている。愛媛県では『お助け下さい』と自転車に貼った紙を見て地元の人が卵焼きやごはんなど、手料理をふるまったようだ。また、樋田容疑者が四国に渡ったしまなみ海道に面する無人島、愛媛県今治市の見近島には、キャンプ場がありそこでは海に潜って、貝や魚を捕獲して焼いて食べたりしていた。 お遍路さんに扮し、地元のやさしさと山海のグルメが樋田容疑者の逃走を支えていたようです。タコの炊き込みご飯も、うまいグルメに慣れたゆえそれに手が出たのかもしれない」(捜査関係者)』、逃走犯がここまで優雅な暮らしを満喫したというのも史上初だろう。
・『一方、完全黙秘の樋田容疑者に対し、足取り捜査が続く大阪府警。広田耕一・本部長が謝罪したが、府民の怒りは収まりそうにない。 「毎日、かなりの抗議の電話がかかってきて、広田本部長の周辺はピリピリしている。樋田容疑者の捜査が落ち着けば、広田本部長の進退問題になるでしょう。 なんせ、大阪で盗んだ自転車で山口県まで逃げられていたのです。おまけに写真撮影まで応じていた。いかに大阪府警の捜査がテキトーだったのかが、ばれてしまった。 毎日、3千人も動員して、樋田容疑者の等身大パネルまでつくり大量の税金を投じた。それをあざ笑うように樋田容疑者はサイクリストとしてグルメ旅です。 広田本部長はじめ、幹部は責任を取らざるを得ないでしょう」(前出の捜査関係者) 樋田容疑者の逃走劇は府警にとって高くついたようだ』、単に本部長の辞任だけで済ませてはならない。前述のような徹底的な原因究明と再発防止策策定が必要だろう。
先ずは、警視庁捜査第一課元刑事の原 雄一氏が9月8日付け現代ビジネスに寄稿した「警察庁長官狙撃事件「真の容疑者」中村泰からの獄中メッセージ 「オウムの犯行であるという大嘘」」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57307
・『平成7(1995)年3月30日に発生した、國松孝次警察庁長官狙撃事件。オウム真理教による犯行の可能性が高いとされながら、未解決のこの事件には、警視庁捜査第一課元刑事・原雄一氏の執念の捜査で浮かび上がった「真犯人」中村泰受刑者がいた。 原氏は今年3月、事件の真実を綴った『宿命 警視庁捜査第一課刑事の23年』を刊行。本書を読んだ中村受刑者の「協力者」から原氏宛てに手紙が届き、事件は新たな展開を見せている・・・また、今夜9月8日(土)21時からのNHKスペシャル「未解決事件シリーズ」では、原氏と中村受刑者の長い闘いが実録ドラマとして放映される。 このたび公開するのは、獄中の中村泰受刑者自身がつづった『宿命』の「書評」である。中村受刑者は「現代ビジネス」での発表を前提にこの一文をまとめ、著者である原氏に託した(表記は原文のママ)』、私もNHKスペシャルを観たが、中村泰受刑者が「真犯人」であるかどうかは、よく分からなかった。
・『表の欺瞞、裏の真実 「物事には表と裏がある」というよく使われる表現は、警察庁長官狙撃事件捜査の推移にも当てはまる。 もっとも、公安部長の指揮下に発足した特捜本部の態勢に、初めからそういう二面性があったわけではない。捜査の矛先は、当時の情勢から最も疑わしいと見られたオウム真理教に向けられていた。 そう仕向けることこそが狙撃者側の真の狙いだったのだが、そうとは気付かぬ捜査陣はその線で捜査を進めるうちに、軟禁状態に置いて取り調べていたオウム信者のK巡査長から「自分が長官を撃った」という供述を引き出した。 この似非(えせ)自白こそ、後日、多くの警察幹部を巻き込んで警察庁と警視庁に大混乱を惹き起こす「K騒動」の引き金となったのである。この奇襲劇の脚本を書き、自らも出演した筆者にとっては、何か現実のほうが勝手に動き始めて作者の手に負えなくなってきたという感慨を抱いていた記憶がある。 しかし、ともかくもここまでの推移では、捜査の二面性はまだ顕在化していない。それには世紀が改まって2003年(平成15年)になるのを待たなければならなかった。 事件発生から8年以上も経って、偶然の成り行きから長官狙撃事件の関連証拠を入手した刑事部は、意気揚々とそれを捜査本部に報告したが、意外にも相手はオウムに無関係なものは無価値だというような態度でそれを一蹴した。 それで憤慨した刑事部捜査官たちは、それなら自分たちだけで事件を解決してみせようと独自の捜査活動を始めた。こうしてオモテの犯人であるオウム信者を追う捜査本部とウラの犯人と目されるN容疑者(編集部注・中村受刑者自身のこと)を追う刑事部員という二重構造が形成されたのである。 この刑事部員から成る捜査集団は、その後曲折を経て、刑事・公安両部から選抜された部員から成る「N専従捜査班」として、捜査本部に所属することになったので、形の上での二重性は解消した。 しかし、本来、捜査対象が異なっているのだから、それぞれの条件も違っている。たとえば、時効にしてもオウム信者を対象にしている捜査本部のそれが事件発生後15年経過の2010年(平成22年)3月30日であるのに対して、専従班の対象であるNは海外滞在期間の関係で一年近く延びることになるが、その間の行動予定も判然としていなかった。 それにしても、本部長からの指令が「立件はしないが、捜査は尽くせ」という矛盾に満ちた不可解なものであったのはどうしたことであろうか。何があろうとオウムの犯行という結論は変わらないことを覚悟しておけという警告であったのだろうか。 とにかく本書の著者である原捜査官が指揮するN専従班が地道な捜査努力を続ける中で、表向きの時効完成日である2010年(平成22年)3月30日が到来した。延べ48万人の労力を注ぎ込み、15年の歳月を費やした大捜査活動の締め括りとして「捜査概要」なるものを公表したが、その内容は(実在の)オウム信者数名にそれぞれの役割を被せて創作した物語といえるようなもので、これは後日、オウムの後継団体から名誉毀損の訴訟を起こされて手もなく敗訴し、恥の上塗りとなった。 さらに、直接の被害者である國松孝次(たかじ)元長官からも、本件の捜査は失敗であったと評された警視庁公安部の内部では、うっ積した憤懣がいずれ爆発するのではないかと予想していたところ、果たしていかにも公安部員らしい手口による造反工作が発生した。外事課に保管されていた極秘の捜査資料が大量にネット上に流出したのである。 それによって惹き起こされた衝撃の大きさは責任者である公安部長を更迭にまで追い込むのに十分であった。これも、時効完成の日に記者会見を開いて長官狙撃事件はオウムの犯行であるという大嘘を百も承知のうえで国民に告げた悪行の報いとでもいえようか。 この当時『警察庁長官を撃った男』(新潮文庫)なるノンフィクションが発行されて狙撃事件の詳細な真相が暴かれたが、今回世に出た『宿命』は、直接その捜査に専従した捜査官が意を決して公刊したものであるだけに歴史的な証言としての価値も高い。さらに、被疑者との虚々実々の駈け引きも描写されているので、物語としての面白さも十分にある。 ただし、それでもなお、なぜ警察首脳部は、この重大な狙撃事件の真相を隠蔽してしまったのかという根本的な謎は未解決のままである』、なんとも複雑怪奇だ。公安部長の更迭も、捜査失敗の責任というより、捜査資料のネット流出というのも釈然としない。しかも、被害者たる國松孝次元長官からも、本件の捜査は失敗であったと評されるような警視庁公安部とは、まるで魔界のようだ。
次に、事件ジャーナリストの戸田一法氏が9月20日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「警察官の「拳銃」をめぐる事件頻発、緊張感はどこへ行った」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/180021
・『和歌山県警機動隊の20代男性巡査が14日、拳銃を一時紛失していたことが発覚した。約1時間20分後に住民が「落とし物」として届けて事なきを得たが、もし悪用されていたらどうなっていたか…。拳銃を巡っては6月、富山市の交番で警察官が刺殺されて拳銃を奪われた上、民間人が射殺された事件があったばかり。4月には滋賀県彦根市の交番で巡査が上司を射殺する事件が発生。各地で拳銃の紛失も相次いでおり、警察OBからは「富山の事件は対応が困難だったが、警察官の拳銃に対する心構えが軽く緊張感も欠如している」と危惧する声が上がっている』、信じられないようなお粗末さだ。
・『紛失は実戦用の自動式 和歌山県警の発表によると、巡査は自民党総裁選の遊説で訪問していた安倍晋三首相らの車列を私服で警護中、和歌山市中心部の路上で警察車両助手席の窓から身を乗り出し、マイクで一般車両に停止を呼び掛けていた。拳銃を紛失したのは14日午後7時50分頃。左脇ホルスターの留め金が車両の窓枠に引っ掛かって外れ、路上に落下したという。 このため巡査の乗った車両は車列を離れ、同乗していた同僚らと付近を捜索。その後、県警本部からも約50人が駆け付けて捜したが見つからなかった。結局、散歩中の住民が落とした直後の午後8時頃に拾って自宅に持ち帰り、午後9時過ぎに周辺で捜索していた警察官に手渡していたという顛末(てんまつ)だった。 巡査は警護の訓練に参加したことはあったが、要人警護に就いたのは初めてだった。県警は拳銃携行の方法に不適切な点はなかったとしているが、拳銃とホルスターをつなぐ吊り紐は装着されていなかった。事実関係を公表したのは翌15日午前2時半。約6時間半にわたり伏せていたわけだが、県警は「住民に不安を与えたくなかった」と説明している。 付近住民の男性によると、警察官が「落とし物を捜している。何か拾っていないか」と各家庭を訪問。「何か」が何とは説明していなかったが、男性は「まさか、拳銃だったなんて。いや、びっくりしたよ」と驚いていた。 新聞記事などで「おや?」と思った方もいるかもしれないが、今回、巡査が紛失したのは「自動式(オートマチック)」とされる。日本では警察官が所持していたのは長らく「回転式(リボルバー)」のニューナンブだった。最近は自動式も配備されるようになり、回転式も順次、米国のスミス・アンド・ウェッソン社(S&W)製に切り替えている。 自動式は要人警護などを担当するSP(セキュリティポリス)、事件発生直後に現場へ急行する機動捜査隊、拳銃の取り締まりを担当する銃器対策、暴力団などを担当する組織犯罪対策の私服警官のほか、各都道府県警刑事部の立てこもり事件突入班(捜査1課のSITなど)ではむしろ主流となっている。 この2つはどこが違うのか。 回転式は頑丈で耐久性があり操作が簡単、部品が少なく保守・管理が容易、暴発の危険性が低く価格も安いのが利点。対して自動式は装填(そうてん)できる弾数が多く連射が可能で、弾倉交換も簡単な一方、構造が複雑で整備不良や不慣れだと弾詰まりや暴発事故の危険性がある。 簡単に言えば、回転式は交番勤務のお巡りさんが万が一に備え威嚇用として所持するのが主な用途であるのに対し、自動式は実戦向けとイメージしてもらえればいいだろう。つまり巡査が紛失したのは脅しのためではなく、“プロ”が相手の殺傷を目的として発射する拳銃だったということだ』、「拳銃とホルスターをつなぐ吊り紐は装着されていなかった」というのは、要人警護では吊り紐が邪魔になるためなのかも知れないが、「ホルスターの留め金が車両の窓枠に引っ掛かって外れ、路上に落下」というのはまるで漫画だ。
・『警察官が上司射殺の異常性 実は最近、警察官の拳銃の置き忘れが多く報告されている。警察署内はまだ救われるが、駅や空港、コンビニエンスストア、一般店舗など、とにかく「トイレ」に置き忘れるケースは枚挙にいとまがない。 いずれも清掃員や警備員、ほかの客などが気付いて無事に届けられているが、不心得者が持ち帰って悪用でもしたら、不祥事では済まない。 警視庁で長く刑事を勤めた元男性警部補は「昔は拳銃の取り扱いについてしつこいほど、本当にしつこいほどきつく指導された。今はぬるいのではないか」と懸念する。「昔を振り返るのは年寄りの悪い癖かもしれないが、最近は多過ぎる。昔は拳銃を紛失したら辞表モンだった」とため息をついた。 元警部補が懸念するのは「とにかく、警察官(に拳銃の置き忘れ・紛失)が多い」という点だ。というのは、実は拳銃の所持が認められているのは警察官だけではない。自衛官、海上保安官、麻薬取締官、税関職員、入国警備官・審査官、刑務官などさまざまな職種に許可されているが、確かに警察官以外に拳銃の置き忘れ・紛失がニュースになったケースは聞いたことがない。 所持している警察官の人数がほかと比べて桁違いに多いから、不注意で発生する可能性が高いのは仕方ないという見方もできるが、元警部補は「昔に比べて緊張感が薄いのではないか」と危惧する』、税関職員、入国警備官・審査官、刑務官なども拳銃の所持が認められているとは初めて知った。確かに警察官による拳銃の置き忘れ・紛失が目立つというのは、きちんとした再発防止策をとってもらいたいものだ。
・『さらにこの元警部補が今年、ショックを受けた事件が2件あったという。滋賀県彦根市で4月、巡査が上司を射殺した事件、富山市で6月、警察官が交番で刺殺されて拳銃が奪われ近くで警備員が射殺された事件だ。 彦根市では4月11日午後7時45分頃、彦根署河瀬駅前交番で男性巡査部長(当時41、警部に昇進)が、部下の巡査の男(当時19)に背後から射殺された。元巡査は「怒鳴られたからやった」「書類を何度も書き直させられストレスがあった」などと供述したとされるが、目立ったトラブルは見当たらず、動機に不明な点は多い。 元警部補は「これまでもパワハラ上司が冗談半分で銃口を部下に向けたという話はニュースで耳にしたことはあったが、本当に引き金を引いてしまうなんて…」と首を振った。事実、現職の警察官が同僚を射殺したのは日本の警察史上、初めてだった。 事件当時、元巡査は未成年だったが、大津地検は殺人と銃刀法違反の罪で起訴した。今後、大津地裁で公開の裁判員裁判が開かれる予定だ(日程は未定)』、「現職の警察官が同僚を射殺したのは日本の警察史上、初めて」というのには、逆に驚かされた。もっとあっても不思議ではないと思っていたためだ。
・『富山市では6月26日午後2時頃、富山中央署奥田交番で元自衛官の男(当時21)が男性警部補(当時46、警視に昇進)の腹部30ヵ所以上を刃物でメッタ刺しにし、拳銃を奪って逃走。さらに小学校付近で工事の警備員をしていた男性(当時68)に向けて至近距離から発砲し、2人はいずれも死亡した。 過去の新聞記事を調べる限り、警察官が拳銃を奪われ、民間人が射殺されたのは1984年9月以来だ。京都市で男性巡査が刺殺されて拳銃を奪われ、大阪市で消費者金融の男性店員が射殺された事件で、犯人は元警察官。郵便局強盗の前科もあったことから、1997年に最高裁で死刑が確定している』、犯人が元警察官というのではやれやれだ。
・『富山市の事件は元自衛官が斧(おの)やダガーナイフなどで武装した上、不意を突かれたため防ぎようはなかったとされる。一方で元警部補は相次ぐ紛失などを念頭に「稲葉事件のように、何か拳銃に対する心構えが信じられないほど軽くなっている」と顔を曇らせた。 稲葉事件とは、北海道警生活安全特別捜査隊班長の稲葉圭昭元警部が暴力団関係者などと癒着し、覚醒剤の取引を見逃す代わりに拳銃を用意させ、匿名の電話で「ヤクザから足を洗うため拳銃を処理したい。どこそこのコインロッカーに入れている」と通報させる手口などで「首無し」(注・所持者不詳)の押収件数を次々と計上。稲葉元警部はストレスなどから覚醒剤を使用し、さらに拳銃購入のため覚醒剤の密売にまで手を染めていたという前代未聞の事件だ。 稲葉事件が発覚したのは2002年だが、1995年には国松孝次警察庁長官が狙撃される事件が発生。そうした経緯もあって、警察庁は全国の警察本部に向けて銃器取り締まりの徹底を要請していた。稲葉元警部は覚醒剤の密売で稼いだ金で暴力団関係者らから拳銃を購入し、次から次へと“押収”する自作自演で数々の表彰を手にして「道警銃器対策のエース」と全国に名前を轟(とどろ)かせていた。 稲葉元警部自ら「恥さらし 北海道警悪徳刑事の告白」のタイトルで出版し、綾野剛さん主演の映画「日本で一番悪い奴ら」にもなったから、御記憶の方も多いだろう。この事件では、稲葉元警部が手柄のために覚醒剤や拳銃の密売というヤクザ顔負けで暗躍していたほか、道警幹部も背後関係を認識しながらノルマ達成のため放置、むしろ推進していたというオマケまでついていた』、道警幹部が気づかない筈はないと思っていたが、「ノルマ達成のため放置、むしろ推進していた」とは開いた口が塞がらない。
・『こうした現状を元警部補は憂いている。20代に機動隊員として学生運動に向き合った以外、警視庁本部で汚職事件を長く担当していたため、拳銃を携行して現場に臨場したのは「数えるほどしかない」。しかし「若い頃、教官に『抜く時は命を懸ける時。抜かなければやられる時だけだ。抜く時は警察官のクビも懸けろ』と指導された。触る時は本当に怖かった」と述懐する。 稲葉事件では拳銃が単純な「数字」にすぎず、和歌山県警などの紛失は殺人可能な武器との認識が欠落していると言わざるを得ない。一方、彦根市の事件では19歳の若者が迷いもなく引き金を引き妻子ある同僚を死に至らしめ、富山市の事件は民間人が訳も分からないまま絶命した。 元警部補は「警察庁キャリアのお坊ちゃんお嬢ちゃんがケツを叩くばかりではなく、もう少し現場のことを“お勉強”してもらって理解してくれないとね」と手厳しく吐き捨てた。さらに「現場のたたき上げも少し真面目に啓蒙・啓発に努めないと、監察(注・警察内部の監督部門)が『指導・教養に努めたい』(注・警察が不祥事で発する決まり文句)を連発することになっちまう気がするな」と警鐘を鳴らしていた』、その通りだ。
・『※筆者が最終原稿を編集作業中の19日、宮城県警の清野裕彰巡査長(33、警部補に昇進)が東仙台交番で大学生の相沢悠太容疑者(21、死亡)に刃物で襲われ、拳銃を“抜く”間もなく刺殺されるという事件が起きた。地元紙によると、清野巡査長は元高校球児で、仲間思いの優しい性格だったという。心から追悼いたします』、この東仙台交番事件も、同僚の警官が、隣室に1人、2階には2人もいたようだ。少なくとも隣室の警官は、物音で早く気づいて然るべきだろう。こうした疑問に答える記事はまだないのも残念だ。いずれにしろ、拳銃を巡る不祥事がこんなに頻発するようであれば、警察組織の在り方、さらには拳銃携行の是非も検討すべきだろう。
第三に、9月28日付け産経WEST「富田林脱走 容疑者逃走1カ月半、留置業務と危機管理を検証せよ」を紹介しよう。
https://www.sankei.com/west/news/180928/wst1809280057-n1.html
・『最近では「映画で見たような話」と、驚きをもって語られることさえある。大阪府警富田林署から逃走した樋田(ひだ)淳也容疑者(30)のことだ。連続女性暴行や強盗傷害といった重大な嫌疑をかけられ、勾留中だったが、弁護士との接見後に面会室のアクリル板を蹴破り、逃走。現在にいたるまで見つかっていない。 映画は刑務所からの脱獄を描いた「ショーシャンクの空に」(1994年)。計画性や執念に、似た部分がないとはいえない。「事件と名画を一緒にするな」とお叱りを受けるかもしれないが、この映画に言及する人は多い。 前代未聞の逃走劇に大阪府警幹部らは、当初、大失態ではあるが、すぐに捕まえられる、と思っていたようだ。しかし、この希望は、はかなく消える。後になって、樋田容疑者が留置担当者の勤務シフトまで調べ上げていたことが分かったとき、少なくない捜査関係者が青ざめたことだろう。 府警の擁する職員は約2万3千人。民間企業でいえば日産自動車にも匹敵する巨大組織の屋台骨はたった1人の容疑者にいいように揺さぶられている』、「留置担当者の勤務シフトまで調べ上げていた」とは、その計画性の徹底に本当に驚かされた。
・『遅れた安全情報周知 発生当初は広報のあり方に非難が集中した。富田林署が樋田容疑者の逃走に気づいたのは8月12日午後9時43分。最初のマスコミ発表は翌13日午前0時55分だった。実に3時間以上もかかっている。住民への周知はさらにずれ込んだ。府警が運用している防犯メール「安(あん)まちメール」で事件について知らせたのは、認知から9時間近くたった同6時28分だった。 樋田容疑者は20代女性のマンション敷地内に侵入し、暴行した強制性交の罪で起訴されている。 夏場はベランダや窓を開け放して寝る人が多く、侵入のリスクが比較的高い。この時期の性犯罪に注意を呼びかけていたのは他ならぬ府警だ。仮に深夜にメールを送っても、どれだけの実効性があったのかという指摘はある。しかしメール配信がないより、あった方がいいのは事実。配信するための手間などたかがしれている』、これだけの凶悪な犯人を全くの警察側の重大ミスの重なりで、脱走させたのは論外だが、事後対応もお粗末極まりない。
・『広報が「不安助長」? 住民への広報が問題になったのは今回が初めてではない。他の県警だが、埼玉県熊谷市で平成27(2015)年9月に発生した男女6人殺害事件もそうだった。逮捕されたペルー人の男は事件を起こす前、住宅街で「カネがない」「警察を呼べ」と騒ぎ、県警熊谷署にいったん任意同行されたが、パスポートや財布などを署に残したまま立ち去ってしまった。この時点では、ペルー人に何ら犯罪の嫌疑はなかったが、直後から外国人による住居侵入事案の通報が相次いでいた。 県警は第一の殺人事件の認知後に記者会見を行ったが、「地域社会の不安感をいたずらにあおる懸念がある」と考え、ペルー人が関与した疑いや連続発生の可能性には言及しなかった。このため周辺住民に戸締まりを促すような積極的な情報提供がなされず、注意喚起のあり方に課題を残した。 富田林署のケースは、もともとが重大事件で勾留されていた容疑者であり、さらに署から逃げ出したことで加重逃走の新たな犯罪事実も加わっていた。留置管理の不手際を除けば住民に知らせるのに消極的になる理由がない。同署は「確実ではない情報を流すと不安を助長する」と説明したが、説得力はない。周知の遅れは、事件後、繰り返し批判を浴びている。 あえて言うなら、メールで一報さえしていれば、避けられた批判だ。府警の広報に危機管理の意識がなかったなら、その欠如こそが問題の本質だ』、その通りだ。
・『失地回復へ道程遠く 事件発生から3日後の8月15日、留置管理部門のトップの安井正英総務部長が「富田林署の逃走事案に関し、府民に多大なご迷惑をおかけし、おわび申し上げます」と謝罪した。府警で総務部長といえば、いわゆるノンキャリア採用の警察官の筆頭ポストだ。報道へのレクチャーは担当課が行うのが通常で、総務部長が出席するのは極めて異例。府警内部も事態を重く見た対応とはいえる。 しかしこの時点でも、全部門を束ねる府警本部長は書面でのコメントを発表しただけで、広田耕一本部長が初めて記者団の質問に応じたのは、発生から1週間が経過した後だった。 本部長が個別事件に言及すること自体、異例中の異例だが、仮に1週間以内に樋田容疑者を確保できた場合、本部長がカメラの前で謝罪する場面はあっただろうか、と考えてしまう。 大阪府警を取材してきて、今回ほど府民の反発を招いた事件は記憶にない。それは安全を守るべき警察当局が凶悪犯を逃し、安全に関わる情報を迅速に伝えなかったことへの怒りであり、留置業務を担う警察行政への不信だ。この点こそ最優先で検証し、府民に釈明すべきではなかったか。 発生から1カ月半。樋田容疑者の行方はいまだ知れず、留置管理に関する総括もまた、外部に向けては何もなされていない。これでは信頼回復は望むべくもない』、大阪府警に対しは、警察庁から監察を行い、徹底的な原因究明と再発防止策策定に乗り出すべきだ。警察庁では「仲間内」意識が働くようであれば、第三者委員会による調査も検討すべきだろう。
第四に、10月4日付けAERA.dot「お遍路に扮した樋田容疑者は瀬戸内でグルメ三昧 大阪府警本部長は進退問題に発展か」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/dot/2018100400014.html?page=1
・『8月12日に大阪府警富田林署から逃走し、360キロメートル離れた山口県周南市の道の駅で万引きして逮捕された樋田淳也容疑者(30)の逃亡生活が徐々に明らかになってきた。 樋田容疑者は8月12日の逃走直後から1週間もたたずして、四国に「上陸」していた疑いが濃くなった。 8月30日には高知県田野町の道の駅「田野駅屋」で樋田容疑者らしき人物の姿が目撃されたという。 白いスポーツタイプの自転車に乗った樋田容疑者とおぼしき人物は、四国霊場88カ所巡り「お遍路さん」に使われる笠をかぶっていたという。 「樋田容疑者はそこで出会った人に『和歌山からきて、全国を一周している旅の途中だ』と自らを説明して『笠をかぶっていると、寺が無料で泊めてくれる』と話していたそうだ」(捜査関係者) 樋田容疑者は「お遍路さん」に扮することで、身を隠し、滞在先も確保していたとみられるのだ』、初めから計画があった訳ではなく、自転車を盗んでから徐々に上手い変装を考えたのだろうが、環境への適応という点では、素晴らしい才能を持っているようだ。なお、10月4日の夕刊によれば、「8月末に高知県須崎市内の道の駅で、県警の警察官から職務質問を受け、大阪府羽曳野市で盗まれた自転車に乗っていたが、警察官らは防犯登録照会をせず、樋田容疑者と気付かなかった」と、ここれも警察はミスを犯したようだ。
・『さらには逃亡生活の道中、「グルメ三昧」だったこともわかってきた。 樋田容疑者が道の駅「サザンセトとうわ」(山口県周防大島)に立ち寄ったのは9月18日とみられる。 その前日、17日に道の駅「ふれあいどころ437」(山口県柳井市)で宿泊を断られ、たどりついたようだった。 「サザンセトとうわ」の関係者はこう話す。 「山口県岩国市のIという店に立ち寄ってうちの道の駅のことを聞きやってきたと話していた」 そこで、Iについて調べると川魚や地元の牛肉などの豪快な料理で知られる料理店だった。 樋田容疑者は、Iで食事して「サザンセトとうわ」にやってきたというのだ。 この時「日本縦断中」というポップを自転車に掲げていたという。 樋田容疑者は「サザンセトとうわ」が気にいったのか、毎晩、野宿するようになった。 その時点では現金があったのか、「どこかおいしいとこがありますか」と尋ねたという。 地元のラーメン屋Tを紹介され、樋田容疑者は後に「とても、おいしかった」と感想を話していたという。 TはSNSなどでも「昭和を感じさせる」などと紹介される名店だ。 8月22日、樋田容疑者は「サザンセトとうわ」で野宿でお世話になったとお礼に草むしりなどをした。 そして、お礼として店から「かつとじ定食」をごちそうになった。樋田容疑者はここで「櫻井潤弥」という偽名を使っていたという。 「樋田容疑者は、サザンセトとうわを拠点に頻繁に海に出ていたそうだ。そこでカキやワカメ、魚などをとったり、釣ったりして調理して食べていたようです。その時、すでに自炊のためか鍋やコンロなどを自転車に搭載していた。 サザンセトとうわはサイクリスト誘致に力を注いでいて、写真コーナーを作ろうとしていたので樋田容疑者に記念撮影を依頼すると『第1号が僕でいいですか』などと喜んで応じてくれた。うれしくて仕方ない様子で『いっぱい写真を貼ってください』と言っていたそうだ。自転車に積まれていた調理用品や調味料は『お金をできるだけ使わないようにと買い揃えていたら増えてきた』と説明していたようだ。樋田容疑者はサイクリストには人気のブランドの服を着ていたそうで、すべて盗んだものだとみられる」(捜査関係者) 9月29日夜に逮捕された樋田容疑者。その前に立ち寄った道の駅「上関海峡」で盗んだ弁当は地元名物のタコを使った「タコの炊き込みご飯弁当」だった。 「樋田容疑者は、カキをとって生で食べたり、釣った魚をさばいて夕飯にするなどグルメな旅だったようだ。樋田容疑者の自転車からは包丁など調理器具も見つかっている。愛媛県では『お助け下さい』と自転車に貼った紙を見て地元の人が卵焼きやごはんなど、手料理をふるまったようだ。また、樋田容疑者が四国に渡ったしまなみ海道に面する無人島、愛媛県今治市の見近島には、キャンプ場がありそこでは海に潜って、貝や魚を捕獲して焼いて食べたりしていた。 お遍路さんに扮し、地元のやさしさと山海のグルメが樋田容疑者の逃走を支えていたようです。タコの炊き込みご飯も、うまいグルメに慣れたゆえそれに手が出たのかもしれない」(捜査関係者)』、逃走犯がここまで優雅な暮らしを満喫したというのも史上初だろう。
・『一方、完全黙秘の樋田容疑者に対し、足取り捜査が続く大阪府警。広田耕一・本部長が謝罪したが、府民の怒りは収まりそうにない。 「毎日、かなりの抗議の電話がかかってきて、広田本部長の周辺はピリピリしている。樋田容疑者の捜査が落ち着けば、広田本部長の進退問題になるでしょう。 なんせ、大阪で盗んだ自転車で山口県まで逃げられていたのです。おまけに写真撮影まで応じていた。いかに大阪府警の捜査がテキトーだったのかが、ばれてしまった。 毎日、3千人も動員して、樋田容疑者の等身大パネルまでつくり大量の税金を投じた。それをあざ笑うように樋田容疑者はサイクリストとしてグルメ旅です。 広田本部長はじめ、幹部は責任を取らざるを得ないでしょう」(前出の捜査関係者) 樋田容疑者の逃走劇は府警にとって高くついたようだ』、単に本部長の辞任だけで済ませてはならない。前述のような徹底的な原因究明と再発防止策策定が必要だろう。
タグ:相次ぐ警察の重大ミス (その5)(警察庁長官狙撃事件「真の容疑者」中村泰からの獄中メッセージ、警察官の「拳銃」をめぐる事件頻発 緊張感はどこへ行った、富田林脱走 容疑者逃走1カ月半 留置業務と危機管理を検証せよ、お遍路に扮した樋田容疑者は瀬戸内でグルメ三昧 大阪府警本部長は進退問題に発展か) 原 雄一 現代ビジネス 「警察庁長官狙撃事件「真の容疑者」中村泰からの獄中メッセージ 「オウムの犯行であるという大嘘」」 國松孝次警察庁長官狙撃事件 警視庁捜査第一課元刑事・原雄一氏 浮かび上がった「真犯人」中村泰受刑者 『宿命 警視庁捜査第一課刑事の23年』 公安部長の指揮下に発足した特捜本部 捜査の矛先は、当時の情勢から最も疑わしいと見られたオウム真理教に向けられていた オウム信者のK巡査長から「自分が長官を撃った」という供述を引き出した 事件発生から8年以上も経って、偶然の成り行きから長官狙撃事件の関連証拠を入手した刑事部は、意気揚々とそれを捜査本部に報告したが、意外にも相手はオウムに無関係なものは無価値だというような態度でそれを一蹴 本部長からの指令が「立件はしないが、捜査は尽くせ」という矛盾に満ちた不可解なもの 「捜査概要」 オウム信者数名にそれぞれの役割を被せて創作した物語といえるようなもの 名誉毀損の訴訟を起こされて手もなく敗訴し、恥の上塗りとなった 國松孝次(たかじ)元長官からも、本件の捜査は失敗であったと評された 極秘の捜査資料が大量にネット上に流出 戸田一法 ダイヤモンド・オンライン 「警察官の「拳銃」をめぐる事件頻発、緊張感はどこへ行った」 左脇ホルスターの留め金が車両の窓枠に引っ掛かって外れ、路上に落下 県警本部からも約50人が駆け付けて捜したが見つからなかった。結局、散歩中の住民が落とした直後の午後8時頃に拾って自宅に持ち帰り、午後9時過ぎに周辺で捜索していた警察官に手渡していたという顛末(てんまつ)だった 約6時間半にわたり伏せていた 拳銃の所持が認められているのは警察官だけではない。自衛官、海上保安官、麻薬取締官、税関職員、入国警備官・審査官、刑務官などさまざまな職種に許可されている 警察官以外に拳銃の置き忘れ・紛失がニュースになったケースは聞いたことがない 滋賀県彦根市で4月、巡査が上司を射殺した事件 富山市で6月、警察官が交番で刺殺されて拳銃が奪われ近くで警備員が射殺された事件 富山中央署奥田交番で元自衛官の男(当時21)が男性警部補(当時46、警視に昇進)の腹部30ヵ所以上を刃物でメッタ刺しにし、拳銃を奪って逃走。さらに小学校付近で工事の警備員をしていた男性(当時68)に向けて至近距離から発砲し、2人はいずれも死亡 稲葉事件 北海道警生活安全特別捜査隊班長の稲葉圭昭元警部が暴力団関係者などと癒着し、覚醒剤の取引を見逃す代わりに拳銃を用意させ、匿名の電話で「ヤクザから足を洗うため拳銃を処理したい。どこそこのコインロッカーに入れている」と通報させる手口などで「首無し」(注・所持者不詳)の押収件数を次々と計上。稲葉元警部はストレスなどから覚醒剤を使用し、さらに拳銃購入のため覚醒剤の密売にまで手を染めていたという前代未聞の事件だ 道警幹部も背後関係を認識しながらノルマ達成のため放置、むしろ推進していたというオマケまでついていた 東仙台交番 刃物で襲われ、拳銃を“抜く”間もなく刺殺 産経west 「富田林脱走 容疑者逃走1カ月半、留置業務と危機管理を検証せよ」 大阪府警富田林署 樋田(ひだ)淳也容疑者 樋田容疑者が留置担当者の勤務シフトまで調べ上げていた 最初のマスコミ発表 3時間以上もかかっている 住民への周知はさらにずれ込んだ 認知から9時間近くたった同6時28分 広報が「不安助長」? 埼玉県熊谷市 失地回復へ道程遠く 安全を守るべき警察当局が凶悪犯を逃し、安全に関わる情報を迅速に伝えなかったことへの怒りであり 留置業務を担う警察行政への不信だ AERA.dot 「お遍路に扮した樋田容疑者は瀬戸内でグルメ三昧 大阪府警本部長は進退問題に発展か」 8月30日には高知県田野町の道の駅「田野駅屋」で樋田容疑者らしき人物の姿が目撃 「お遍路さん」に使われる笠をかぶっていた 「お遍路さん」に扮することで、身を隠し、滞在先も確保 高知県須崎市内の道の駅 県警の警察官から職務質問を受け、大阪府羽曳野市で盗まれた自転車に乗っていたが、警察官らは防犯登録照会をせず、樋田容疑者と気付かなかった 逃亡生活の道中、「グルメ三昧」 カキやワカメ、魚などをとったり、釣ったりして調理して食べていたようです 府民の怒りは収まりそうにない 大阪府警の捜査がテキトーだったのかが、ばれてしまった
沖縄問題(その8)(玉城デニーを勝たせた「翁長の幽霊」 呼び覚まされた沖縄の怒り、沖縄が台湾人の「日帰り観光」を喜べない現状 買い物に近いから人気? 遠いハワイの背中) [国内政治]
沖縄問題については、3月3日に取上げた。知事選挙も終わった今日は、(その8)(玉城デニーを勝たせた「翁長の幽霊」 呼び覚まされた沖縄の怒り、沖縄が台湾人の「日帰り観光」を喜べない現状 買い物に近いから人気? 遠いハワイの背中)である。
先ずは、記者・ノンフィクションライターの石戸 諭氏が10月1日付け現代ビジネスに寄稿した「玉城デニーを勝たせた「翁長の幽霊」、呼び覚まされた沖縄の怒り そして、キーマンが明かした今後の課題」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57768
・『翁長雄志・前沖縄県知事の急逝を受けて行われた沖縄県知事選は、翁長氏の後継・玉城デニー氏の圧勝で幕を閉じた。この勝利に翁長氏の死が大きく影響していたことは間違いない。 しかしそれは、単純な「弔い選挙」で片付けられる話ではない。翁長氏の死によって、これまで眠っていた沖縄県民の怒り――「沖縄をなめてはいけない」――が呼び覚まされ、今回の大勝に結びついたと考えられるからだ。翁長氏の死は、一つのきっかけだった。 一方で、さっそく玉城陣営=「オール沖縄」の課題も見え始めている。翁長氏の遺志のもとに集った人々は、本当に結束を続けられるか――玉城陣営で尽力した沖縄財界のキーマン、呉屋守将・金秀グループ会長の言葉からはそんな心配が透けて見えた。 対する玉城陣営はどうかといえば、那覇市の外れ、道路に面した場所すら事務所として確保できず、路地を一本入ったところにひっそりと事務所を構えていた。ボランティアが狭いスペースを分け合い、ある人は電話をかけ、あるグループはビラを整理する。 単純な人手の数ときれいに役割分担された事務所内外での活動を組織力と呼ぶならば、その差は歴然としていた。 普通であれば、ポスターを張り替えるのは労力も手間もかかる。限られた人数であればなおのこと、不満の声が出るのが道理だ。 ところが、玉城陣営に集った人々はむしろ喜んだ。「これを待っていた」「翁長さんの遺志を継ぐってもっと言ってほしいんだ」。 陣営幹部は取材に一段と声を張り上げて、こう語るのだ。《選挙戦の期間中に、これしかないと思って切り替えた。9月22日にあった総決起集会。そこで(翁長の妻)樹子(みきこ)さんが壇上に立って訴えたんです。 誰一人、席を立とうとしなかったのを見て、戦略を切り替える時だと思った。翁長知事がずっと言ってきた「辺野古に新しい基地を作らせない」「ウチナンチュのことはウチナンチュが決める」「イデオロギーよりアイデンティティ」……。 翁長さんの遺志を継ぐ。これが方針になり、きょうで結果も出た。》 「玉城デニー」という候補以上に、「翁長」が前面に出てくる。選挙戦の主役は名実ともに急逝した「翁長」、より正確にいえば翁長という死者の遺志=「幽霊」になっていた』、「「弔い選挙」で片付けられる話ではない。翁長氏の死によって、これまで眠っていた沖縄県民の怒り――「沖縄をなめてはいけない」――が呼び覚まされた」、というのはなるほどである。
・『崩壊寸前、のところから 翁長がまとめ上げたオール沖縄は、あと一歩で崩壊寸前のところまで追い込まれていた。 少しばかり歴史を振り返ってみよう。自民党沖縄県連の雄だった翁長が普天間飛行場の辺野古移転を巡って反対を打ち出したのが2014年の県知事選だった。 自民党の支持基盤だった経済界の一部、そして革新陣営を巻き込む形で知事選を圧倒的な票差で勝利した。 沖縄で続いた保守・革新の対立に終止符を打ち「オール沖縄」で戦う。これが翁長らを支えたストーリーだった。ところが、この選挙をピークに翁長を支えたオール沖縄はジリ貧の戦いを強いられることになる。 勢いには徐々に陰りがでて、辺野古移設が「唯一の解決策」「粛々と進める」という安倍政権の交渉術を前に手詰まり感が出てきた。政府はさらに沖縄振興予算の減額という揺さぶりをかける。 2018年に入ってからも、絶対に落とせないと言われた名護市長選で、自民・公明が推す候補に敗れた。内部からも「我慢の限界」とばかりに飛び出す人たちもでてきた。 前回知事選と同じ枠組みで戦うことすらできず、もはや打つ手なし。オール沖縄の二期目は厳しいという見方が強まっていた。取材を重ねていた地元紙記者の分析を聞いてみよう。《争点となった辺野古移設問題で革新系の候補ならいざしらず、バリバリの自民党出身で沖縄の政治を知り尽くしている翁長さんが知事に就任したことが政府は相当、嫌だったのでしょう。なんとしても、二期目は防ぎたい。オール沖縄も亀裂が入りかかっていましたから、これは自民・公明・維新のブロックで勝てると思っていたでしょう。成功体験となった名護市長選と同じように戦えばいけると踏んでいた。》 大きな誤算が生じたのが、すい臓がんで闘病を続けていた翁長が迎えた突然の死、そして後継について語っていた音声データの存在だった。《翁長さんの死は……。こういうと語弊があるかもしれませんが、あまりに劇的でした。多くの県民の心を打った。基地問題で国と最後まで対峙して、沖縄のために働き闘病していた。このことは思想信条を超えて誰もが批判できないことです。》 彼は左手の人差し指を突き立て、振り子に見立てながら左右に指を傾ける。 《8月8日で県民の意識は変わった。もうオール沖縄路線ではダメかもと、政府側に振りかけた振り子がもう一度、翁長さんのほうに振れてきた。》 語りながら指はゆっくりと右側へ軌道を描き、急なスピードで左に動いていた。 ひとつの事実として、対立候補で自民・公明が擁立した佐喜真淳氏も、翁長氏の名前をあげての批判は慎重に避けていたことを記しておく。掲げたキャッチフレーズ「対立から対話へ」も、誰が対立していたのかは明確には口にしない。せいぜい「この4年で(辺野古移設問題を巡る国との)法廷闘争に明け暮れていた」と言ったくらいである。 内部分裂の火種になりかねない後継争いも翁長自身が終止符を打った。音声データの中で名前が上がったとされる一人が玉城デニーだったことには多くのメディア関係者も驚き、そして政治的に納得する一手だったと唸ることになる。長く沖縄政界を取材してきた地元紙幹部の証言――。《玉城さんの名前を聞いた時には驚きました。あっ、その手があったんだと。正直、僕はまったく想定しないなかった。候補とも考えていなかったですね。 確かに、考えてみれば戦後の沖縄の歴史を体現するような人なのです。米軍兵士の父と沖縄の母の間に生まれ、沖縄で生きてきた。しかも明るい性格で、国政選挙もしっかり勝ち抜いてきている。革新色も薄く、この人ならと保守層も納得もできる。さすが政治家・翁長雄志だと思ったものです。》 この戦略が嫌だったのは自民・公明だろう。彼らは結局、玉城ではなく翁長と戦うことになってしまったからだ。 佐喜真サイドは戦略的に辺野古移設への賛否を最後まで示さなかった。示せずに論点を「対立か対話か」に持っていこうとしたが、それも不発に終わった。 対話ができるかどうかは相手次第であり、力関係のなかでの対話とは一方的に許諾を迫るための儀式にすぎないことを翁長の死が示していたからだ。 玉城陣営は選挙戦の最後まで「翁長」に全面的に頼ることになった。彼のキャッチフレーズであった「イデオロギーよりアイデンティティ」をより強調し、「翁長の遺志」を継ぐことを訴える戦略である』、確かに追い詰められていた翁長前知事の死去が、ここまで沖縄の政治状況を変えたのは、予想を超えるものがあった。
・『半信半疑 玉城陣営が事務所近くの施設に構えた開票会場――。9月30日19時を過ぎる頃にはメディアの数は膨れ上がり、身動きすらとりにくい状況になっていた。 各社の出口調査は概ね出揃い、かつ同じ傾向を示していた。玉城優勢。それも圧倒的優位と数字は語っていた。通常の選挙ならすぐにでも打てるはずの開票即当確を打ったのがテレビ朝日系列、そして朝日新聞だけだったことにも理由はある。 結果的に見れば、数字は嘘をついていなかった。ほぼ出口調査通りの傾向を示したのだ。しかし、《出口調査で玉城が圧倒的リードとなったことで、かえって不安になるんだ》と漏らす記者もいた。 原因は前回のルポでも書いた名護ショックである。オール沖縄が推した辺野古移設反対派が世論調査でリードしていた名護市長選で、勝敗だけでなくデータ的にも世論調査と真逆の結果が示されたことで、沖縄のメディアは過度に慎重になっていた。 それは陣営も同じで、朝日グループが当確を打っただけでは彼らも動かない。開票が始まる20時直前に会場に入った玉城デニー本人も表情を崩すことはほとんどなかった。 最前列に座り、4つ並んだテレビをじっと見つめる。腕を組み、時折天井を見上げる。緊張をほぐすように腕組みをほどき、腕を回す。突発的に起こるデニーコールに両手を振って応えては、まだ当選が決まっていないから「抑えて、抑えて」とジェスチャーをしていた。 開票から1時間もしないうちに別の一社が当確を打ち、NHKが優勢を伝えるニュースを流すと、さすがに多少の余裕を持ったのか笑顔も見られるようになった。 午後9時半過ぎ、NHKが当確を打つと陣営からは歓声が沸き起こった。玉城は自ら先頭に立ってカチャーシーを踊り、それを支援者が取り囲む。彼らは一緒に踊り、喜びを表現した。 玉城は興奮気味に言葉を重ねる。《示された民意に翁長知事がほっとしていると思います。翁長知事が築いた礎を継承したい。発展を翁長知事に約束したい。》《政府と対峙することは難しくない。我々の民意に沿って政府が判断すれば良い。》《辺野古の新基地建設は絶対に認めない。いま止めることが私たち責任世代の行動です。翁長知事の遺志をしっかり継いで、体を張って主張する。》《普天間飛行場は閉鎖・返還こそが道理。代わりに新しい場所を作れというなら、どうぞ日本が全体的に考えてどこに持っていくか考えてください。》《多くの国民がいらないというなら、米軍の財産はアメリカに引き取っていただく。それでいいのだと思います。》 一つ一つの言葉に拍手が沸き起こる。つい数ヵ月前まであった深刻な課題はどこかに消えていったように見えた。 だが、本当にオール沖縄に課題はないのだろうか。当選直後に表情を崩さないまま「嬉しさ半分、厳しさ半分」と語った人物がいた。 沖縄経済界の大物、金秀グループ会長の呉屋守将である。 翁長知事誕生を後押しし、翁長自身が後継候補の一人にあげた政財界のキーパーソンだ。彼は名護市長選の後、敗北の責任を取るとして、翁長の支持組織「オール沖縄会議」の共同代表を辞任している。 ところが今回の選挙では再びマイクを握り、玉城当選を支えた。呉屋は選挙期間中に私たちの単独インタビューに応じた。 そこで語られた内容はオール沖縄、そして玉城県政が今後直面するであろう課題を指摘したものだった。彼は選挙戦の最初から最後まで「熱狂」と距離を置き、経営者らしい冷徹さをもって情勢を分析していた』、冷徹さを失わずに分析するとはさすが経営者だ。
・『財界のキーマンの独白 金秀グループの誕生は1946年に遡る。 沖縄戦で多くの県民が犠牲になり、終戦後もその傷が生々しく残っていた。そんな時期に、西原村(当時)我謝の集落で、農機具を作っていた鍛冶屋がいた。 グループの創業者で、呉屋会長の父・秀信だ。太陽が空に昇る前から金属を叩き、西原村の農民たちのために農機具を販売した。これが原点である。秀信は19歳にして社長に就任し、米軍関係の工事も受注しながら企業は成長を続けていった。 彼らもまた過酷な沖縄戦後の歴史を生きぬいてきた。その後を継いだのが息子の呉屋だった。グループの事業は好調で、来年2019夏にはフランチャイズ契約を結んだセブンイレブンの沖縄初出店が控えている。 呉屋は辺野古移設への反対を明確にし、市民集会などでも発言することから革新だと言われる。だが、本当にそうなのだろうか。 沖縄経済界には1998年の県知事選以降、経済界の集票を担当する六社会というグループがあった。金秀もメンバーだった。 沖縄の経済界は自民党の支援も受けながら、政治に深く関わってきた歴史がある。基地反対派の大田昌秀県政から1998年に県政を奪還した稲嶺恵一は、沖縄の石油企業「りゅうせき」の創業者一族であり、その後を継いだ仲井真弘多は沖縄電力の会長(当時)だった。 いずれも六社会が誕生をバックアップしている。 ところが前回の知事選では六社会を離脱してまで翁長を推した。仲井真陣営からは公然と「翁長が知事になれば不況になる。革新不況がやってくる」と言われた中での支援表明だった。《基本的に基地は経済発展の妨げなんですよ。沖縄に最低限、どのくらいの基地が必要かは議論がわかれるので、これは議論をしたいと思っています。でも、沖縄は基地依存経済だなんていう人は、那覇新都心を見てほしい。小禄の再開発をその目で見てほしい。そこにあった米軍基地と比べて、どっちが雇用を生んでいるか。どっちが経済効果があるのか。こちらには論より証拠がある。 私たちが作りたいのは、日本のどこにもない沖縄県なんですよ。観光業が好調なのも平和だからできること。私はそこを企業経営でバックアップしたいんですよ。政治家は支えても、自分が政治家になるつもりは毛頭ないんです。》 呉屋は時に舌鋒鋭く、間違っているものは間違っていると指摘する。今回の県知事選こそ勝ったが、名護市をはじめ首長選で敗れたオール沖縄についても同様だ。 一人称は「私」から「僕」へと変化する。《地方の首長選でも「辺野古移設反対」を掲げて勝とうなんて大きな間違い。県民の意思は4年前の選挙でも示されている。それを踏まえて、今回の候補者は何をやるのかを語らないといけない。僕が「オール沖縄会議」の共同代表をやめたのは、名護市長選の呆れた選挙戦術、選挙対応がきっかけ。これで本当に名護市民に対して申し訳ないという気持ちはないのかと聞いても、誰一人として反省の弁がない。こんな低落は僕の企業人としてのプライドが許さないよ。でも、翁長さんがこんなことになると知っていたら、共同代表をやめるわけにはいかない。どんなことがあっても僕はやめずに留まったと思う。僕の辞任が死期を早めたとしたら、申し訳ないなと今でも思っています。》』、なるほど。
・『「熨斗つけて、基地はお返しします」 あぁそういえば、と呉屋はこんなエピソードを披露してくれた。全国から建設業界の集まりで、ある自治体の代表とのやり取りである。 《「呉屋さん、沖縄でいろいろ騒いでいるみたいだけど、沖縄は基地経済でしょ」。で、僕は言うわけ。 「はぁそうですか。では熨斗つけて基地をお返しするので、お引き取りください。こちらは喜んでお渡ししますよ」 現実にできるかどうかは別の問題として、そこまで言うならどうぞ基地と予算を一緒に持っていてください、というのが僕の気持ちですよ。 僕も翁長さんも、沖縄の米軍基地即時全面撤去なんて一言も言ってない。最低限の防衛力、防衛機能はあってもいいと思っていますよ。でも、それがなんなのかを本当に検証したということは聞いていない。 その結果、沖縄の応分の負担がこれだからと言われたら負担は必要でしょ。それを示した上で、議論したいのになんでもかんでも沖縄に押し付けようとする。ここはゴミ捨て場じゃないんだと言いたいですね。》 ここまで聞いて、翁長と呉屋がタッグを組んだ理由がようやく見えてきた。彼らは基地問題を観念的な「平和」問題として考えていない。プライドの問題として考えている。 これだけの理不尽を押し付けられて、それを断ろうとすればお金を削るとちらつかされる。ある人たちは「問題を解決するためにやせ我慢をしよう」と言い、ある人たちは「今日、明日の食事が大切だから受け入れよう」と言う。 この構造にプライドを傷つけられている。誇りを取り戻そうじゃないか、食べていく方法は他にもあるではないか。もう絵空事ではない。好調な観光業、それに付随するサービス業、返還されたほうが大きい経済効果――。彼は経済人として、経済のリアリズムから動き始めた現実にこそ目を向けよと言ってきたのだ。 厳しさ半分、と呉屋が言ったのは「翁長の遺志」で覆い隠されたが、国と対峙することは難しいと知っているからだろう。 その時にこそ、大事なのは「遺志」を超えたビジョンなのだと思うのだが、オール沖縄にそれは見えてこない』、確かに経済が好調であれば、基地依存から脱するチャンスなのかも知れない。
・『「隠れ玉城支持者」の存在 日付が変わった10月1日午前2時前に開票を確認した。玉城が獲得した最終票数は39万6632票、得票率は55%に達していた。沖縄県政史上に残る圧勝である。 玉城票の特徴は事前の予想よりもはるかに「取れすぎたこと」だ。言い換えれば、彼は勝ちすぎた。なぜこんなことが起きたのか。 沖縄を取材するメディアが最後まで読み違えたのは、出口調査で浮上した「隠れ玉城支持者」の存在だった。自民党支持者の2割以上、公明党の支持者の25%前後が流れていた。 政権与党・公明党の支持母体にして、佐喜真陣営支持に回った創価学会は特にこの選挙に力を入れていると言われていた。 ところが蓋を開けてみると、かなりの数を固めきれずに取りこぼしていた。玉城の遊説会場には創価学会のシンボルである三色旗がいたるところに見られた。 創価学会員の中には玉城陣営の選挙運動の中核として関わった人もいた。《公明党は「平和の党」だって言ってるのに、なんで辺野古に新基地を作るかどうか明言もできない人を支援するって言えるの。そんなの筋が通ってないじゃないか。そう思いませんか?》まくしたてるように思いの丈をぶつける彼の声を聞きながら、彼らが本当に支持していたのは、玉城ですらなかったと言えるのかもしれないと思った。 《単なる弔い、単なる玉城支持ではこの票は説明できない》と語ったのは地元紙の記者だ。彼は言う。《人の懐に手を突っ込んで、基地との取引材料にしようとする政府や与党の姿勢そのものに違うと言いたい怒りがあるんだ。そうとしか言いようがない。》』、公明党は確かに手痛い打撃を受けたようだ。
・『プライド 2017年12月に争点となった普天間飛行場に所属する大型輸送ヘリが、宜野湾市内の小学校の運動場に窓を落下させた事故が起きた。そこで取られた「対策」は運動場内に児童が避難するための避難所を作ることだった。 なぜ小学校の上をヘリが飛ぶことはやめてほしい、とこれだけが叶わないのか。 普天間飛行場を返してもらったとして、なぜ辺野古に代替施設を作るのが「唯一の解決策」なのか。国防が大事なことはわかっている。だから沖縄は基地を受け入れているのに、なぜ代替施設が他県ではいけないのか。 辺野古移設を受け入れる県政だと国から「有史以来の予算」が付き、反対する県政だと減額されるのか。 「なぜ」と理不尽の積み重ねに耐えきれなくなった人々がいる。 彼らは抱く思いは、翁長や呉屋が強く訴えた「ウチナーンチュ、ウシェーティナイビランドー(沖縄の人をなめてはいけない)」という言葉に象徴される感情、プライドを傷つけられたという思いそのものである。 結局、この選挙の勝者は残存するオール沖縄勢力でも、玉城でもなかった。勝ったのは急逝した翁長雄志の「幽霊」であり、「幽霊」が呼び覚ました「怒り」だ。 勝ちすぎた理由はそれが大きい。だからこそ課題もすぐにやってくる。 「幽霊」は対立する問題に対して、ある時は正解を知っているものとして立ち現れる。「課題はあるが、彼はこう言っていたのだから頑張っていこう」と、人々は「幽霊」の遺志のもと、結束することもできる。 だが「幽霊」は遺志の解釈を巡る争いを諌めることもできなければ、和解を仲介してくれることもない。つまり、内部にある課題は残ったままなのだ。 いみじくも呉屋はこうも言っていた。《選挙だけが問題なのではない。これからが本当の問題なのだ》、と。』、これから移転問題にどう取り組んでゆくかは難問だろう。
次に、9月29日付け東洋経済オンライン「沖縄が台湾人の「日帰り観光」を喜べない現状 買い物に近いから人気? 遠いハワイの背中」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/239907
・『9月中旬の平日、沖縄県那覇市。市内を走るモノレールから降りた30代の台湾から来た夫婦が、小走りで繁華街の国際通りに向かっていた。「急いで何かあったのか?」と聞くと、「今からドラッグストアとドン・キホーテに行く」と回答があった。 そのまま記者が「観光の取材をしているので話を聞かせてくれ」と、ついて行くと、この台湾人の夫婦はメモを片手に大手チェーンのドラッグストアを訪れた。「すでに入国審査時の混雑で予定より30分以上遅れている」と手慣れた様子で商品をかごに入れていく。 台湾人の夫婦は、この日の朝7時(現地時間)に台湾を出て、那覇空港に午前9時半ごろに到着。このドラッグストアでの買物の後、午後1時ごろにレンタカーを借りて、沖縄本島の南部にあるアウトレットモールと中部にあるショッピングモールに行き、午後7時に那覇空港に戻り、午後9時過ぎの飛行機で台湾に帰る計画だという。文字通り「日帰り海外旅行」の強行軍だ。 奥さんは「沖縄に買い物で来るのは3回目。ただ、格安航空会社(LCC)を使った日帰りは初めて」と話す。 夫婦は共働き。これまでは週末に1泊2日で沖縄を訪れていたというが、週末は航空券もホテルも高いことから平日に1日だけ休みを取って、旅費を抑えたという。「飛行機代はいつもの3分の2くらい。宿泊費も浮いて、その分買い物に余裕もできる」(奥さん)と満足げだ』、確かに台湾からであれば、日帰り旅行も可能だろうが、沖縄にとっては余り有難くない話だ。
・『急増するクルーズと日帰り訪日客 沖縄の観光産業が急成長を続けている。観光客数は2012年の592万人から2017年には958万人とほぼ倍増。同年にハワイを訪れた観光客数(938万人)を超えたほか、観光収入も同期間で3997億円から6979億円へ伸びた。 9月30日に投開票される沖縄県知事選の各候補者も、経済振興の中で「観光客1500万人受け入れ体制整備と観光収入倍増」(佐喜真淳氏)や「沖縄観光に新たな付加価値をつけ、1200万人超えを」(玉城デニー氏)とそれぞれ観光を重視した数字目標を掲げる。 観光客数の増加を牽引するのが外国人観光客(インバウンド)だ。2017年の日本国内からの観光客数は約7割を占めるが、伸び率は数パーセント増にとどまった。一方、インバウンドは前年比26.4%増と急激な増加が続く。このうち、6割以上を台湾や中国からの観光客が占めている。 特に増加が顕著なのがクルーズ船だ。沖縄県への寄港回数は2012年の125回から、2018年は662回を予定し急増中。2017年度には外国人観光客の36%はクルーズ船などの海路を利用。伸び率も空路が約19%増に対し、海路は約42%増だ。 空路では那覇空港が増設中の2本目の滑走路が2020年に使用開始予定だが、発着枠は現在より10~30%増にとどまる見込みだ。一方、クルーズ船の停泊場所としては沖縄本島だけでも那覇港、中城(なかぐすく)湾港、本部港など複数ある。さらなる旅客ターミナル整備などが着実に進み、受け入れ体制が強化されている。 クルーズ船を利用する乗客にもメリットがある。飛行機と違い、手荷物の重量制限がない点だ。クルーズ船からは空のスーツケースを携えた旅行者もいて、ショッピングを楽しんでスーツケースに購入した物をいっぱいにして船に戻る人も少なくない。 さらに最近増えつつあるのが、冒頭で紹介した台湾から「日帰り」で沖縄を訪れるインバウンドだ。台北から那覇までは飛行機で約1時間15分。航空便も朝夕にそれぞれ複数あるため、日帰りは容易なのだ。 沖縄でインバウンド事業を手掛ける沖縄大栄の馮楚揚(ひょうそよう)執行副社長は「台湾から沖縄本島に来る旅行者の10人のうち1~2人は日帰りになりつつある」と話す』、クルーズ船だと手荷物の重量制限がないというのは、旅行者にとっては魅力だろう。
・『沖縄観光ではなく、"日本”でショッピング ただ、こうした台湾や中国からのインバウンドが沖縄で楽しみとしているのは、観光ではなく「ショッピング」だ。しかも、目当ては沖縄の特産物ではなく薬局で売られている医薬品や、ショッピングモールで売られている価格が安いアウトレットのブランド品などだ。 現地の観光関係者は国際通り周辺にある薬局の店舗数が、この数年で4倍近くに増えたと指摘。北海道を中心に「サツドラ」ブランドのドラッグストアを展開するサッポロドラッグストアーは、2016年以降、沖縄県内で4店舗を展開。進出当時、国内では北海道内にしか店舗がなかったが、沖縄のインバウンド消費を取り込むためにいきなり最南端に進出したのだ。 サツドラの国際通り店で購入していた台湾人旅行者は、「親戚や友人ら数十人からサロンパスやアリナミンなどを買ってきてほしいと頼まれた。みんな日本で買ったものをいちばん信頼しているからいちばん近い沖縄に買いに来た」と話す。 「アウトレットモールあしびなー」や「イオンモール沖縄ライカム」などのショッピングセンターにも、団体の外国人客を乗せたバスやレンタカーがつねに出入りして活況を呈す。 沖縄県内の旅行会社の幹部は「観光客が増えるのはうれしいが、沖縄は『日本ショッピングセンター』と化している」と複雑な思いを語る。 実際、沖縄とハワイを比べてみると、観光客数でこそ上回ったものの、平均滞在日数と平均消費額ではハワイに及ばない。平均滞在日数は沖縄が3.68日に対してハワイが8.95日、1人当たりの平均消費額は沖縄が7万2853円に対してハワイが1787ドル(約20万円)とそれぞれ沖縄はハワイの半分以下だ。 沖縄県は第5次沖縄県観光振興基本計画で2021年に観光客数1200万人、1人当たり県内消費額9万3000円、平均滞在日数4.5日の目標を掲げる。しかし、順調な観光客数増加に対し、平均滞在日数や平均消費額は横ばい傾向が続く。 特に増加傾向にあるクルーズ船は平均消費額が低い。2017年度の一人あたりの平均消費額は空路で来る訪日客が10万0265円に対し、海路の訪日客は2万9861円と空路のおよそ4分の1。県の観光政策担当者は「短時間の滞在で約3万円消費してくれるのは効率的でいい」と話すが、増加するクルーズ客が平均消費額と平均滞在日数を押し下げていることは事実だ。 そのため、「クルーズ船ばかり増えては宿泊業者にお金が回ってこない」(那覇市内のホテル経営者)、「夕食時になるとみんな船に戻って立ち寄ってくれない」(同飲食店)と不満が募る。 官民一体で観光推進を行う沖縄観光コンベンションビューローの担当者は「課題である平均消費額や平均滞在日数を上げるためにも、ショッピング以外の観光地消費として沖縄でしか体験できないものを広めたい」と、インバウンド向けの「沖縄ブランド」確立を急ぐ。 琉球舞踊を披露する劇場や高級リゾートの展開を通して、台湾や中国などでの沖縄のリブランドを図る計画だ。 また、「遠方からの観光客の方が長期滞在してもらいやすい」(沖縄観光コンベンションビューロー担当者)ため、増え始めた東南アジアや来訪者数が少ない欧米からの定期便就航やチャーター便を誘致し、平均滞在日数の底上げを目指し、平均消費額の伸びを狙う』、ハワイとの平均滞在日数と平均消費額の差は簡単には縮まらないだろう。クルーズ船は平均消費額が空路の1/4というのでは、地元への貢献は殆ど期待できない。沖縄周辺の離島でもクルーズ船が寄港できるよう工事を検討しているところもあるようだが、せっかくの自然環境を破壊するだけの愚策だ。。
・『現状は人手もインフラも不十分 しかし、沖縄がこれ以上の観光客を受け入れるための体制は万全ではない。インフラや人材が不足しているからだ。 沖縄本島の主な公共交通はバスやタクシーで、全島を網羅する大量輸送交通がない。そこで多くの観光客はレンタカーを使用するが、日本の交通事情に慣れないインバウンドの事故や交通マナーが問題となっている。 さらに交通量が増加するため、沖縄本島を南北に結ぶ幹線道路は朝夕に慢性的な渋滞が発生し、県民も観光客も相互に不満が生じている状態だ。 人材不足も深刻だ。東京や大阪のように外国人留学生が多いわけではないため、中国語や韓国語など観光業者が求める言語を話せる人材が少ない。ショッピングセンターなどでは店舗の割引制度を説明できずに支払いでトラブルになるケースや、返品や保証サービスをめぐる説明が進まずに、結局購入を断念しているケースが取材中にも散見された。 ホテルではベッドメイキングなどの清掃スタッフが足りず、部屋が整えられないので販売できないという事態も一部では起きている。「給与を本土並みに上げて、本土から人が来てもらえるよう試みている」と複数のホテルや旅行事業者は明かす。 これらのインフラや人材不足などの構造的問題が、さらなる消費や滞在を伸ばすことを難しくしている側面がある。沖縄観光コンベンションビューローのような県内の観光組織や旅行業者からは「渋滞、公共交通機関とホテルの不足や言語の問題など、インフラや人材面に起因する問題で旅行者から不満の声が出ている」と話す。 現状では平均消費額や平均滞在日数は大きく伸びそうにない。あと3年で、滞在日数や消費額で県が掲げる目標を達成できるのか。「ハワイ超え」の沖縄の観光産業は正念場にさしかかっている』、前述の離島でのクルーズ船用工事の例にもあるように、インフラ建設に当たっては環境との調和が重要だ。目標数字達成のための環境破壊などという本末転倒が起きないことを祈っている。
先ずは、記者・ノンフィクションライターの石戸 諭氏が10月1日付け現代ビジネスに寄稿した「玉城デニーを勝たせた「翁長の幽霊」、呼び覚まされた沖縄の怒り そして、キーマンが明かした今後の課題」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57768
・『翁長雄志・前沖縄県知事の急逝を受けて行われた沖縄県知事選は、翁長氏の後継・玉城デニー氏の圧勝で幕を閉じた。この勝利に翁長氏の死が大きく影響していたことは間違いない。 しかしそれは、単純な「弔い選挙」で片付けられる話ではない。翁長氏の死によって、これまで眠っていた沖縄県民の怒り――「沖縄をなめてはいけない」――が呼び覚まされ、今回の大勝に結びついたと考えられるからだ。翁長氏の死は、一つのきっかけだった。 一方で、さっそく玉城陣営=「オール沖縄」の課題も見え始めている。翁長氏の遺志のもとに集った人々は、本当に結束を続けられるか――玉城陣営で尽力した沖縄財界のキーマン、呉屋守将・金秀グループ会長の言葉からはそんな心配が透けて見えた。 対する玉城陣営はどうかといえば、那覇市の外れ、道路に面した場所すら事務所として確保できず、路地を一本入ったところにひっそりと事務所を構えていた。ボランティアが狭いスペースを分け合い、ある人は電話をかけ、あるグループはビラを整理する。 単純な人手の数ときれいに役割分担された事務所内外での活動を組織力と呼ぶならば、その差は歴然としていた。 普通であれば、ポスターを張り替えるのは労力も手間もかかる。限られた人数であればなおのこと、不満の声が出るのが道理だ。 ところが、玉城陣営に集った人々はむしろ喜んだ。「これを待っていた」「翁長さんの遺志を継ぐってもっと言ってほしいんだ」。 陣営幹部は取材に一段と声を張り上げて、こう語るのだ。《選挙戦の期間中に、これしかないと思って切り替えた。9月22日にあった総決起集会。そこで(翁長の妻)樹子(みきこ)さんが壇上に立って訴えたんです。 誰一人、席を立とうとしなかったのを見て、戦略を切り替える時だと思った。翁長知事がずっと言ってきた「辺野古に新しい基地を作らせない」「ウチナンチュのことはウチナンチュが決める」「イデオロギーよりアイデンティティ」……。 翁長さんの遺志を継ぐ。これが方針になり、きょうで結果も出た。》 「玉城デニー」という候補以上に、「翁長」が前面に出てくる。選挙戦の主役は名実ともに急逝した「翁長」、より正確にいえば翁長という死者の遺志=「幽霊」になっていた』、「「弔い選挙」で片付けられる話ではない。翁長氏の死によって、これまで眠っていた沖縄県民の怒り――「沖縄をなめてはいけない」――が呼び覚まされた」、というのはなるほどである。
・『崩壊寸前、のところから 翁長がまとめ上げたオール沖縄は、あと一歩で崩壊寸前のところまで追い込まれていた。 少しばかり歴史を振り返ってみよう。自民党沖縄県連の雄だった翁長が普天間飛行場の辺野古移転を巡って反対を打ち出したのが2014年の県知事選だった。 自民党の支持基盤だった経済界の一部、そして革新陣営を巻き込む形で知事選を圧倒的な票差で勝利した。 沖縄で続いた保守・革新の対立に終止符を打ち「オール沖縄」で戦う。これが翁長らを支えたストーリーだった。ところが、この選挙をピークに翁長を支えたオール沖縄はジリ貧の戦いを強いられることになる。 勢いには徐々に陰りがでて、辺野古移設が「唯一の解決策」「粛々と進める」という安倍政権の交渉術を前に手詰まり感が出てきた。政府はさらに沖縄振興予算の減額という揺さぶりをかける。 2018年に入ってからも、絶対に落とせないと言われた名護市長選で、自民・公明が推す候補に敗れた。内部からも「我慢の限界」とばかりに飛び出す人たちもでてきた。 前回知事選と同じ枠組みで戦うことすらできず、もはや打つ手なし。オール沖縄の二期目は厳しいという見方が強まっていた。取材を重ねていた地元紙記者の分析を聞いてみよう。《争点となった辺野古移設問題で革新系の候補ならいざしらず、バリバリの自民党出身で沖縄の政治を知り尽くしている翁長さんが知事に就任したことが政府は相当、嫌だったのでしょう。なんとしても、二期目は防ぎたい。オール沖縄も亀裂が入りかかっていましたから、これは自民・公明・維新のブロックで勝てると思っていたでしょう。成功体験となった名護市長選と同じように戦えばいけると踏んでいた。》 大きな誤算が生じたのが、すい臓がんで闘病を続けていた翁長が迎えた突然の死、そして後継について語っていた音声データの存在だった。《翁長さんの死は……。こういうと語弊があるかもしれませんが、あまりに劇的でした。多くの県民の心を打った。基地問題で国と最後まで対峙して、沖縄のために働き闘病していた。このことは思想信条を超えて誰もが批判できないことです。》 彼は左手の人差し指を突き立て、振り子に見立てながら左右に指を傾ける。 《8月8日で県民の意識は変わった。もうオール沖縄路線ではダメかもと、政府側に振りかけた振り子がもう一度、翁長さんのほうに振れてきた。》 語りながら指はゆっくりと右側へ軌道を描き、急なスピードで左に動いていた。 ひとつの事実として、対立候補で自民・公明が擁立した佐喜真淳氏も、翁長氏の名前をあげての批判は慎重に避けていたことを記しておく。掲げたキャッチフレーズ「対立から対話へ」も、誰が対立していたのかは明確には口にしない。せいぜい「この4年で(辺野古移設問題を巡る国との)法廷闘争に明け暮れていた」と言ったくらいである。 内部分裂の火種になりかねない後継争いも翁長自身が終止符を打った。音声データの中で名前が上がったとされる一人が玉城デニーだったことには多くのメディア関係者も驚き、そして政治的に納得する一手だったと唸ることになる。長く沖縄政界を取材してきた地元紙幹部の証言――。《玉城さんの名前を聞いた時には驚きました。あっ、その手があったんだと。正直、僕はまったく想定しないなかった。候補とも考えていなかったですね。 確かに、考えてみれば戦後の沖縄の歴史を体現するような人なのです。米軍兵士の父と沖縄の母の間に生まれ、沖縄で生きてきた。しかも明るい性格で、国政選挙もしっかり勝ち抜いてきている。革新色も薄く、この人ならと保守層も納得もできる。さすが政治家・翁長雄志だと思ったものです。》 この戦略が嫌だったのは自民・公明だろう。彼らは結局、玉城ではなく翁長と戦うことになってしまったからだ。 佐喜真サイドは戦略的に辺野古移設への賛否を最後まで示さなかった。示せずに論点を「対立か対話か」に持っていこうとしたが、それも不発に終わった。 対話ができるかどうかは相手次第であり、力関係のなかでの対話とは一方的に許諾を迫るための儀式にすぎないことを翁長の死が示していたからだ。 玉城陣営は選挙戦の最後まで「翁長」に全面的に頼ることになった。彼のキャッチフレーズであった「イデオロギーよりアイデンティティ」をより強調し、「翁長の遺志」を継ぐことを訴える戦略である』、確かに追い詰められていた翁長前知事の死去が、ここまで沖縄の政治状況を変えたのは、予想を超えるものがあった。
・『半信半疑 玉城陣営が事務所近くの施設に構えた開票会場――。9月30日19時を過ぎる頃にはメディアの数は膨れ上がり、身動きすらとりにくい状況になっていた。 各社の出口調査は概ね出揃い、かつ同じ傾向を示していた。玉城優勢。それも圧倒的優位と数字は語っていた。通常の選挙ならすぐにでも打てるはずの開票即当確を打ったのがテレビ朝日系列、そして朝日新聞だけだったことにも理由はある。 結果的に見れば、数字は嘘をついていなかった。ほぼ出口調査通りの傾向を示したのだ。しかし、《出口調査で玉城が圧倒的リードとなったことで、かえって不安になるんだ》と漏らす記者もいた。 原因は前回のルポでも書いた名護ショックである。オール沖縄が推した辺野古移設反対派が世論調査でリードしていた名護市長選で、勝敗だけでなくデータ的にも世論調査と真逆の結果が示されたことで、沖縄のメディアは過度に慎重になっていた。 それは陣営も同じで、朝日グループが当確を打っただけでは彼らも動かない。開票が始まる20時直前に会場に入った玉城デニー本人も表情を崩すことはほとんどなかった。 最前列に座り、4つ並んだテレビをじっと見つめる。腕を組み、時折天井を見上げる。緊張をほぐすように腕組みをほどき、腕を回す。突発的に起こるデニーコールに両手を振って応えては、まだ当選が決まっていないから「抑えて、抑えて」とジェスチャーをしていた。 開票から1時間もしないうちに別の一社が当確を打ち、NHKが優勢を伝えるニュースを流すと、さすがに多少の余裕を持ったのか笑顔も見られるようになった。 午後9時半過ぎ、NHKが当確を打つと陣営からは歓声が沸き起こった。玉城は自ら先頭に立ってカチャーシーを踊り、それを支援者が取り囲む。彼らは一緒に踊り、喜びを表現した。 玉城は興奮気味に言葉を重ねる。《示された民意に翁長知事がほっとしていると思います。翁長知事が築いた礎を継承したい。発展を翁長知事に約束したい。》《政府と対峙することは難しくない。我々の民意に沿って政府が判断すれば良い。》《辺野古の新基地建設は絶対に認めない。いま止めることが私たち責任世代の行動です。翁長知事の遺志をしっかり継いで、体を張って主張する。》《普天間飛行場は閉鎖・返還こそが道理。代わりに新しい場所を作れというなら、どうぞ日本が全体的に考えてどこに持っていくか考えてください。》《多くの国民がいらないというなら、米軍の財産はアメリカに引き取っていただく。それでいいのだと思います。》 一つ一つの言葉に拍手が沸き起こる。つい数ヵ月前まであった深刻な課題はどこかに消えていったように見えた。 だが、本当にオール沖縄に課題はないのだろうか。当選直後に表情を崩さないまま「嬉しさ半分、厳しさ半分」と語った人物がいた。 沖縄経済界の大物、金秀グループ会長の呉屋守将である。 翁長知事誕生を後押しし、翁長自身が後継候補の一人にあげた政財界のキーパーソンだ。彼は名護市長選の後、敗北の責任を取るとして、翁長の支持組織「オール沖縄会議」の共同代表を辞任している。 ところが今回の選挙では再びマイクを握り、玉城当選を支えた。呉屋は選挙期間中に私たちの単独インタビューに応じた。 そこで語られた内容はオール沖縄、そして玉城県政が今後直面するであろう課題を指摘したものだった。彼は選挙戦の最初から最後まで「熱狂」と距離を置き、経営者らしい冷徹さをもって情勢を分析していた』、冷徹さを失わずに分析するとはさすが経営者だ。
・『財界のキーマンの独白 金秀グループの誕生は1946年に遡る。 沖縄戦で多くの県民が犠牲になり、終戦後もその傷が生々しく残っていた。そんな時期に、西原村(当時)我謝の集落で、農機具を作っていた鍛冶屋がいた。 グループの創業者で、呉屋会長の父・秀信だ。太陽が空に昇る前から金属を叩き、西原村の農民たちのために農機具を販売した。これが原点である。秀信は19歳にして社長に就任し、米軍関係の工事も受注しながら企業は成長を続けていった。 彼らもまた過酷な沖縄戦後の歴史を生きぬいてきた。その後を継いだのが息子の呉屋だった。グループの事業は好調で、来年2019夏にはフランチャイズ契約を結んだセブンイレブンの沖縄初出店が控えている。 呉屋は辺野古移設への反対を明確にし、市民集会などでも発言することから革新だと言われる。だが、本当にそうなのだろうか。 沖縄経済界には1998年の県知事選以降、経済界の集票を担当する六社会というグループがあった。金秀もメンバーだった。 沖縄の経済界は自民党の支援も受けながら、政治に深く関わってきた歴史がある。基地反対派の大田昌秀県政から1998年に県政を奪還した稲嶺恵一は、沖縄の石油企業「りゅうせき」の創業者一族であり、その後を継いだ仲井真弘多は沖縄電力の会長(当時)だった。 いずれも六社会が誕生をバックアップしている。 ところが前回の知事選では六社会を離脱してまで翁長を推した。仲井真陣営からは公然と「翁長が知事になれば不況になる。革新不況がやってくる」と言われた中での支援表明だった。《基本的に基地は経済発展の妨げなんですよ。沖縄に最低限、どのくらいの基地が必要かは議論がわかれるので、これは議論をしたいと思っています。でも、沖縄は基地依存経済だなんていう人は、那覇新都心を見てほしい。小禄の再開発をその目で見てほしい。そこにあった米軍基地と比べて、どっちが雇用を生んでいるか。どっちが経済効果があるのか。こちらには論より証拠がある。 私たちが作りたいのは、日本のどこにもない沖縄県なんですよ。観光業が好調なのも平和だからできること。私はそこを企業経営でバックアップしたいんですよ。政治家は支えても、自分が政治家になるつもりは毛頭ないんです。》 呉屋は時に舌鋒鋭く、間違っているものは間違っていると指摘する。今回の県知事選こそ勝ったが、名護市をはじめ首長選で敗れたオール沖縄についても同様だ。 一人称は「私」から「僕」へと変化する。《地方の首長選でも「辺野古移設反対」を掲げて勝とうなんて大きな間違い。県民の意思は4年前の選挙でも示されている。それを踏まえて、今回の候補者は何をやるのかを語らないといけない。僕が「オール沖縄会議」の共同代表をやめたのは、名護市長選の呆れた選挙戦術、選挙対応がきっかけ。これで本当に名護市民に対して申し訳ないという気持ちはないのかと聞いても、誰一人として反省の弁がない。こんな低落は僕の企業人としてのプライドが許さないよ。でも、翁長さんがこんなことになると知っていたら、共同代表をやめるわけにはいかない。どんなことがあっても僕はやめずに留まったと思う。僕の辞任が死期を早めたとしたら、申し訳ないなと今でも思っています。》』、なるほど。
・『「熨斗つけて、基地はお返しします」 あぁそういえば、と呉屋はこんなエピソードを披露してくれた。全国から建設業界の集まりで、ある自治体の代表とのやり取りである。 《「呉屋さん、沖縄でいろいろ騒いでいるみたいだけど、沖縄は基地経済でしょ」。で、僕は言うわけ。 「はぁそうですか。では熨斗つけて基地をお返しするので、お引き取りください。こちらは喜んでお渡ししますよ」 現実にできるかどうかは別の問題として、そこまで言うならどうぞ基地と予算を一緒に持っていてください、というのが僕の気持ちですよ。 僕も翁長さんも、沖縄の米軍基地即時全面撤去なんて一言も言ってない。最低限の防衛力、防衛機能はあってもいいと思っていますよ。でも、それがなんなのかを本当に検証したということは聞いていない。 その結果、沖縄の応分の負担がこれだからと言われたら負担は必要でしょ。それを示した上で、議論したいのになんでもかんでも沖縄に押し付けようとする。ここはゴミ捨て場じゃないんだと言いたいですね。》 ここまで聞いて、翁長と呉屋がタッグを組んだ理由がようやく見えてきた。彼らは基地問題を観念的な「平和」問題として考えていない。プライドの問題として考えている。 これだけの理不尽を押し付けられて、それを断ろうとすればお金を削るとちらつかされる。ある人たちは「問題を解決するためにやせ我慢をしよう」と言い、ある人たちは「今日、明日の食事が大切だから受け入れよう」と言う。 この構造にプライドを傷つけられている。誇りを取り戻そうじゃないか、食べていく方法は他にもあるではないか。もう絵空事ではない。好調な観光業、それに付随するサービス業、返還されたほうが大きい経済効果――。彼は経済人として、経済のリアリズムから動き始めた現実にこそ目を向けよと言ってきたのだ。 厳しさ半分、と呉屋が言ったのは「翁長の遺志」で覆い隠されたが、国と対峙することは難しいと知っているからだろう。 その時にこそ、大事なのは「遺志」を超えたビジョンなのだと思うのだが、オール沖縄にそれは見えてこない』、確かに経済が好調であれば、基地依存から脱するチャンスなのかも知れない。
・『「隠れ玉城支持者」の存在 日付が変わった10月1日午前2時前に開票を確認した。玉城が獲得した最終票数は39万6632票、得票率は55%に達していた。沖縄県政史上に残る圧勝である。 玉城票の特徴は事前の予想よりもはるかに「取れすぎたこと」だ。言い換えれば、彼は勝ちすぎた。なぜこんなことが起きたのか。 沖縄を取材するメディアが最後まで読み違えたのは、出口調査で浮上した「隠れ玉城支持者」の存在だった。自民党支持者の2割以上、公明党の支持者の25%前後が流れていた。 政権与党・公明党の支持母体にして、佐喜真陣営支持に回った創価学会は特にこの選挙に力を入れていると言われていた。 ところが蓋を開けてみると、かなりの数を固めきれずに取りこぼしていた。玉城の遊説会場には創価学会のシンボルである三色旗がいたるところに見られた。 創価学会員の中には玉城陣営の選挙運動の中核として関わった人もいた。《公明党は「平和の党」だって言ってるのに、なんで辺野古に新基地を作るかどうか明言もできない人を支援するって言えるの。そんなの筋が通ってないじゃないか。そう思いませんか?》まくしたてるように思いの丈をぶつける彼の声を聞きながら、彼らが本当に支持していたのは、玉城ですらなかったと言えるのかもしれないと思った。 《単なる弔い、単なる玉城支持ではこの票は説明できない》と語ったのは地元紙の記者だ。彼は言う。《人の懐に手を突っ込んで、基地との取引材料にしようとする政府や与党の姿勢そのものに違うと言いたい怒りがあるんだ。そうとしか言いようがない。》』、公明党は確かに手痛い打撃を受けたようだ。
・『プライド 2017年12月に争点となった普天間飛行場に所属する大型輸送ヘリが、宜野湾市内の小学校の運動場に窓を落下させた事故が起きた。そこで取られた「対策」は運動場内に児童が避難するための避難所を作ることだった。 なぜ小学校の上をヘリが飛ぶことはやめてほしい、とこれだけが叶わないのか。 普天間飛行場を返してもらったとして、なぜ辺野古に代替施設を作るのが「唯一の解決策」なのか。国防が大事なことはわかっている。だから沖縄は基地を受け入れているのに、なぜ代替施設が他県ではいけないのか。 辺野古移設を受け入れる県政だと国から「有史以来の予算」が付き、反対する県政だと減額されるのか。 「なぜ」と理不尽の積み重ねに耐えきれなくなった人々がいる。 彼らは抱く思いは、翁長や呉屋が強く訴えた「ウチナーンチュ、ウシェーティナイビランドー(沖縄の人をなめてはいけない)」という言葉に象徴される感情、プライドを傷つけられたという思いそのものである。 結局、この選挙の勝者は残存するオール沖縄勢力でも、玉城でもなかった。勝ったのは急逝した翁長雄志の「幽霊」であり、「幽霊」が呼び覚ました「怒り」だ。 勝ちすぎた理由はそれが大きい。だからこそ課題もすぐにやってくる。 「幽霊」は対立する問題に対して、ある時は正解を知っているものとして立ち現れる。「課題はあるが、彼はこう言っていたのだから頑張っていこう」と、人々は「幽霊」の遺志のもと、結束することもできる。 だが「幽霊」は遺志の解釈を巡る争いを諌めることもできなければ、和解を仲介してくれることもない。つまり、内部にある課題は残ったままなのだ。 いみじくも呉屋はこうも言っていた。《選挙だけが問題なのではない。これからが本当の問題なのだ》、と。』、これから移転問題にどう取り組んでゆくかは難問だろう。
次に、9月29日付け東洋経済オンライン「沖縄が台湾人の「日帰り観光」を喜べない現状 買い物に近いから人気? 遠いハワイの背中」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/239907
・『9月中旬の平日、沖縄県那覇市。市内を走るモノレールから降りた30代の台湾から来た夫婦が、小走りで繁華街の国際通りに向かっていた。「急いで何かあったのか?」と聞くと、「今からドラッグストアとドン・キホーテに行く」と回答があった。 そのまま記者が「観光の取材をしているので話を聞かせてくれ」と、ついて行くと、この台湾人の夫婦はメモを片手に大手チェーンのドラッグストアを訪れた。「すでに入国審査時の混雑で予定より30分以上遅れている」と手慣れた様子で商品をかごに入れていく。 台湾人の夫婦は、この日の朝7時(現地時間)に台湾を出て、那覇空港に午前9時半ごろに到着。このドラッグストアでの買物の後、午後1時ごろにレンタカーを借りて、沖縄本島の南部にあるアウトレットモールと中部にあるショッピングモールに行き、午後7時に那覇空港に戻り、午後9時過ぎの飛行機で台湾に帰る計画だという。文字通り「日帰り海外旅行」の強行軍だ。 奥さんは「沖縄に買い物で来るのは3回目。ただ、格安航空会社(LCC)を使った日帰りは初めて」と話す。 夫婦は共働き。これまでは週末に1泊2日で沖縄を訪れていたというが、週末は航空券もホテルも高いことから平日に1日だけ休みを取って、旅費を抑えたという。「飛行機代はいつもの3分の2くらい。宿泊費も浮いて、その分買い物に余裕もできる」(奥さん)と満足げだ』、確かに台湾からであれば、日帰り旅行も可能だろうが、沖縄にとっては余り有難くない話だ。
・『急増するクルーズと日帰り訪日客 沖縄の観光産業が急成長を続けている。観光客数は2012年の592万人から2017年には958万人とほぼ倍増。同年にハワイを訪れた観光客数(938万人)を超えたほか、観光収入も同期間で3997億円から6979億円へ伸びた。 9月30日に投開票される沖縄県知事選の各候補者も、経済振興の中で「観光客1500万人受け入れ体制整備と観光収入倍増」(佐喜真淳氏)や「沖縄観光に新たな付加価値をつけ、1200万人超えを」(玉城デニー氏)とそれぞれ観光を重視した数字目標を掲げる。 観光客数の増加を牽引するのが外国人観光客(インバウンド)だ。2017年の日本国内からの観光客数は約7割を占めるが、伸び率は数パーセント増にとどまった。一方、インバウンドは前年比26.4%増と急激な増加が続く。このうち、6割以上を台湾や中国からの観光客が占めている。 特に増加が顕著なのがクルーズ船だ。沖縄県への寄港回数は2012年の125回から、2018年は662回を予定し急増中。2017年度には外国人観光客の36%はクルーズ船などの海路を利用。伸び率も空路が約19%増に対し、海路は約42%増だ。 空路では那覇空港が増設中の2本目の滑走路が2020年に使用開始予定だが、発着枠は現在より10~30%増にとどまる見込みだ。一方、クルーズ船の停泊場所としては沖縄本島だけでも那覇港、中城(なかぐすく)湾港、本部港など複数ある。さらなる旅客ターミナル整備などが着実に進み、受け入れ体制が強化されている。 クルーズ船を利用する乗客にもメリットがある。飛行機と違い、手荷物の重量制限がない点だ。クルーズ船からは空のスーツケースを携えた旅行者もいて、ショッピングを楽しんでスーツケースに購入した物をいっぱいにして船に戻る人も少なくない。 さらに最近増えつつあるのが、冒頭で紹介した台湾から「日帰り」で沖縄を訪れるインバウンドだ。台北から那覇までは飛行機で約1時間15分。航空便も朝夕にそれぞれ複数あるため、日帰りは容易なのだ。 沖縄でインバウンド事業を手掛ける沖縄大栄の馮楚揚(ひょうそよう)執行副社長は「台湾から沖縄本島に来る旅行者の10人のうち1~2人は日帰りになりつつある」と話す』、クルーズ船だと手荷物の重量制限がないというのは、旅行者にとっては魅力だろう。
・『沖縄観光ではなく、"日本”でショッピング ただ、こうした台湾や中国からのインバウンドが沖縄で楽しみとしているのは、観光ではなく「ショッピング」だ。しかも、目当ては沖縄の特産物ではなく薬局で売られている医薬品や、ショッピングモールで売られている価格が安いアウトレットのブランド品などだ。 現地の観光関係者は国際通り周辺にある薬局の店舗数が、この数年で4倍近くに増えたと指摘。北海道を中心に「サツドラ」ブランドのドラッグストアを展開するサッポロドラッグストアーは、2016年以降、沖縄県内で4店舗を展開。進出当時、国内では北海道内にしか店舗がなかったが、沖縄のインバウンド消費を取り込むためにいきなり最南端に進出したのだ。 サツドラの国際通り店で購入していた台湾人旅行者は、「親戚や友人ら数十人からサロンパスやアリナミンなどを買ってきてほしいと頼まれた。みんな日本で買ったものをいちばん信頼しているからいちばん近い沖縄に買いに来た」と話す。 「アウトレットモールあしびなー」や「イオンモール沖縄ライカム」などのショッピングセンターにも、団体の外国人客を乗せたバスやレンタカーがつねに出入りして活況を呈す。 沖縄県内の旅行会社の幹部は「観光客が増えるのはうれしいが、沖縄は『日本ショッピングセンター』と化している」と複雑な思いを語る。 実際、沖縄とハワイを比べてみると、観光客数でこそ上回ったものの、平均滞在日数と平均消費額ではハワイに及ばない。平均滞在日数は沖縄が3.68日に対してハワイが8.95日、1人当たりの平均消費額は沖縄が7万2853円に対してハワイが1787ドル(約20万円)とそれぞれ沖縄はハワイの半分以下だ。 沖縄県は第5次沖縄県観光振興基本計画で2021年に観光客数1200万人、1人当たり県内消費額9万3000円、平均滞在日数4.5日の目標を掲げる。しかし、順調な観光客数増加に対し、平均滞在日数や平均消費額は横ばい傾向が続く。 特に増加傾向にあるクルーズ船は平均消費額が低い。2017年度の一人あたりの平均消費額は空路で来る訪日客が10万0265円に対し、海路の訪日客は2万9861円と空路のおよそ4分の1。県の観光政策担当者は「短時間の滞在で約3万円消費してくれるのは効率的でいい」と話すが、増加するクルーズ客が平均消費額と平均滞在日数を押し下げていることは事実だ。 そのため、「クルーズ船ばかり増えては宿泊業者にお金が回ってこない」(那覇市内のホテル経営者)、「夕食時になるとみんな船に戻って立ち寄ってくれない」(同飲食店)と不満が募る。 官民一体で観光推進を行う沖縄観光コンベンションビューローの担当者は「課題である平均消費額や平均滞在日数を上げるためにも、ショッピング以外の観光地消費として沖縄でしか体験できないものを広めたい」と、インバウンド向けの「沖縄ブランド」確立を急ぐ。 琉球舞踊を披露する劇場や高級リゾートの展開を通して、台湾や中国などでの沖縄のリブランドを図る計画だ。 また、「遠方からの観光客の方が長期滞在してもらいやすい」(沖縄観光コンベンションビューロー担当者)ため、増え始めた東南アジアや来訪者数が少ない欧米からの定期便就航やチャーター便を誘致し、平均滞在日数の底上げを目指し、平均消費額の伸びを狙う』、ハワイとの平均滞在日数と平均消費額の差は簡単には縮まらないだろう。クルーズ船は平均消費額が空路の1/4というのでは、地元への貢献は殆ど期待できない。沖縄周辺の離島でもクルーズ船が寄港できるよう工事を検討しているところもあるようだが、せっかくの自然環境を破壊するだけの愚策だ。。
・『現状は人手もインフラも不十分 しかし、沖縄がこれ以上の観光客を受け入れるための体制は万全ではない。インフラや人材が不足しているからだ。 沖縄本島の主な公共交通はバスやタクシーで、全島を網羅する大量輸送交通がない。そこで多くの観光客はレンタカーを使用するが、日本の交通事情に慣れないインバウンドの事故や交通マナーが問題となっている。 さらに交通量が増加するため、沖縄本島を南北に結ぶ幹線道路は朝夕に慢性的な渋滞が発生し、県民も観光客も相互に不満が生じている状態だ。 人材不足も深刻だ。東京や大阪のように外国人留学生が多いわけではないため、中国語や韓国語など観光業者が求める言語を話せる人材が少ない。ショッピングセンターなどでは店舗の割引制度を説明できずに支払いでトラブルになるケースや、返品や保証サービスをめぐる説明が進まずに、結局購入を断念しているケースが取材中にも散見された。 ホテルではベッドメイキングなどの清掃スタッフが足りず、部屋が整えられないので販売できないという事態も一部では起きている。「給与を本土並みに上げて、本土から人が来てもらえるよう試みている」と複数のホテルや旅行事業者は明かす。 これらのインフラや人材不足などの構造的問題が、さらなる消費や滞在を伸ばすことを難しくしている側面がある。沖縄観光コンベンションビューローのような県内の観光組織や旅行業者からは「渋滞、公共交通機関とホテルの不足や言語の問題など、インフラや人材面に起因する問題で旅行者から不満の声が出ている」と話す。 現状では平均消費額や平均滞在日数は大きく伸びそうにない。あと3年で、滞在日数や消費額で県が掲げる目標を達成できるのか。「ハワイ超え」の沖縄の観光産業は正念場にさしかかっている』、前述の離島でのクルーズ船用工事の例にもあるように、インフラ建設に当たっては環境との調和が重要だ。目標数字達成のための環境破壊などという本末転倒が起きないことを祈っている。
タグ:月8日で県民の意識は変わった。もうオール沖縄路線ではダメかもと、政府側に振りかけた振り子がもう一度、翁長さんのほうに振れてきた 翁長氏の死によって、これまで眠っていた沖縄県民の怒り――「沖縄をなめてはいけない」――が呼び覚まされ、今回の大勝に結びついた 翁長がまとめ上げたオール沖縄は、あと一歩で崩壊寸前のところまで追い込まれていた 「玉城デニーを勝たせた「翁長の幽霊」、呼び覚まされた沖縄の怒り そして、キーマンが明かした今後の課題」 翁長雄志・前沖縄県知事の急逝 (その8)(玉城デニーを勝たせた「翁長の幽霊」 呼び覚まされた沖縄の怒り、沖縄が台湾人の「日帰り観光」を喜べない現状 買い物に近いから人気? 遠いハワイの背中) 石戸 諭 現代ビジネス 翁長さんの死は……。こういうと語弊があるかもしれませんが、あまりに劇的でした。多くの県民の心を打った 単純な「弔い選挙」で片付けられる話ではない 後継・玉城デニー氏の圧勝 成功体験となった名護市長選と同じように戦えばいけると踏んでいた 沖縄問題 彼のキャッチフレーズであった「イデオロギーよりアイデンティティ」をより強調し、「翁長の遺志」を継ぐことを訴える戦略 名護ショック 名護市長選で、勝敗だけでなくデータ的にも世論調査と真逆の結果が示された 沖縄のメディアは過度に慎重に 金秀グループ会長の呉屋守将 前回の知事選では六社会を離脱してまで翁長を推した 基本的に基地は経済発展の妨げなんですよ 沖縄は基地依存経済だなんていう人は、那覇新都心を見てほしい。小禄の再開発をその目で見てほしい 熨斗つけて、基地はお返しします 僕も翁長さんも、沖縄の米軍基地即時全面撤去なんて一言も言ってない。最低限の防衛力、防衛機能はあってもいいと思っていますよ。でも、それがなんなのかを本当に検証したということは聞いていない。 その結果、沖縄の応分の負担がこれだからと言われたら負担は必要でしょ。それを示した上で、議論したいのになんでもかんでも沖縄に押し付けようとする。ここはゴミ捨て場じゃないんだと言いたいですね 「隠れ玉城支持者」の存在 大型輸送ヘリが、宜野湾市内の小学校の運動場に窓を落下させた事故 「対策」は運動場内に児童が避難するための避難所を作ることだった。 なぜ小学校の上をヘリが飛ぶことはやめてほしい、とこれだけが叶わないのか 選挙だけが問題なのではない。これからが本当の問題なのだ 東洋経済オンライン 「沖縄が台湾人の「日帰り観光」を喜べない現状 買い物に近いから人気? 遠いハワイの背中」 台湾 「日帰り海外旅行」 観光客数は2012年の592万人から2017年には958万人とほぼ倍増。同年にハワイを訪れた観光客数(938万人)を超えた 増加が顕著なのがクルーズ船だ。沖縄県への寄港回数は2012年の125回から、2018年は662回を予定し急増中。2017年度には外国人観光客の36%はクルーズ船などの海路を利用。伸び率も空路が約19%増に対し、海路は約42%増だ ルーズ船を利用する乗客にもメリットがある。飛行機と違い、手荷物の重量制限がない 沖縄観光ではなく、"日本”でショッピング 目当ては沖縄の特産物ではなく薬局で売られている医薬品や、ショッピングモールで売られている価格が安いアウトレットのブランド品などだ 沖縄は『日本ショッピングセンター』と化している」 平均滞在日数は沖縄が3.68日に対してハワイが8.95日、1人当たりの平均消費額は沖縄が7万2853円に対してハワイが1787ドル(約20万円)とそれぞれ沖縄はハワイの半分以下だ クルーズ船は平均消費額が低い。2017年度の一人あたりの平均消費額は空路で来る訪日客が10万0265円に対し、海路の訪日客は2万9861円と空路のおよそ4分の1 現状は人手もインフラも不十分 渋滞、公共交通機関とホテルの不足や言語の問題など、インフラや人材面に起因する問題で旅行者から不満の声 環境との調和
日韓慰安婦問題(その3)(小田嶋 隆:それは大阪市長がやるべき仕事なのか) [外交]
日韓慰安婦問題については、2016年8月2日に取上げたままだった。今日は、(その3)(小田嶋 隆:それは大阪市長がやるべき仕事なのか)である。なお、これまでのタイトルは「日韓慰安婦問題合意(?)」だったが、変更した。
コラムニストの小田嶋 隆氏が10月5日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「それは大阪市長がやるべき仕事なのか」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/100400161/?P=1
・『大阪市が、サンフランシスコ市との間で取り結んでいた姉妹都市の提携を解消するのだそうだ。 伝えられているところでは、吉村洋文大阪市長は、10月2日付けで姉妹都市の解消を決断し、その旨を公開書簡として、サンフランシスコ市長宛てに送付したのだそうだ・・・この情報を、私は、吉村市長ご自身のツイッターへの書き込みを通じて知った・・・なるほど。 姉妹都市を解消するというのは、具体的にどういう意味を持った措置なのだろうか。「お姉妹ってことじゃないか?」ちがうと思う。 姉妹が縁を切っても、いきなりおしまいにはならない。 そんな簡単な話ではない。 タイムラインに流れてきた市長のツイートを読んだ当初、正直な話、私は、市長の意図するところが理解できなかった。 この3年ほど、慰安婦像の設置をめぐって、大阪市とサンフランシスコ市の間でやりとりが続いていたことは承知していた。 ただ、私はこの交渉を重視していなかった。 というよりも「どうせパフォーマンスだろ」と思って、タカをくくっていた。 ありていに言えば、吉村市長がサンフランシスコ市議会や市長宛てに説明を求める書簡を送っているのは、コアな支持層に向けて演じてみせている軽歌劇みたいなものなのだろうと考えていた次第だ。 それが、ここへ来て、書簡への返事が来ないことを理由に、いきなり姉妹都市の提携を解消する決断に踏み切る事態に発展している。 この展開には少なからず驚かされた。 引っ込みがつかなくなって暴走したということなのだろうか。 それとも、「ほんまにお姉妹やで」という洒落のつもりだろうか。 起こっていることの全体像をなんとか把握できるようになったのは、各方面のサイトや情報源を当たって、そこに書いてある様々な記事を読み進めた後の話なのだが、正直なところ、いまだに疑問点だらけだ。自分の中でうまく整理できていない』、いかにも維新の若い市長らしいパフォーマンスだ。
・『本来なら、こんな状態で原稿を書きはじめるべきではないのだろう。 ただ、読者の多くも、混乱だらけの情報源に翻弄されている点では、私とたいして違わないはずだ。 とすれば、この先、この問題についての議論が野放図に拡散するのか急展開するのか、それとも二極化して泥沼化するのかはともかく、手探りの状態でのとりあえずの感想を書き留めておくことは、無意味ではないはずだ。そう思って、現時点で私の目に見えている景色を記録しておくことにする。 最初にお断りしておくが、サンフランシスコの市有地に慰安婦像を建てることの是非について、この原稿の中で明確な結論を提示しようとは思っていない。 私自身、慰安婦像がどんなふうに扱われるべきであるのかについて個人的な見解を持っていないわけではないのだが、それを表明することは控えようと思っている。 理由は、ごく簡単かつ実務的な次元の話で、つまり、めんどうくさいからだ。 もう少し丁寧な言い方をすれば、ある事柄について相容れない見解を抱いているふたつの陣営が、その賛否の対象を「絶対に譲れない一線」として決着を争うことは、少なくとも短期的には、双方を消耗させるだけだと思っているということだ。決着を争うよりは、その対立点をしばらくの間棚上げにしておくほうが賢明だ、と、少なくとも現時点では、私はそう考えている。 だから、これ以上この話はしない』、賢明な選択だ。
・『吉村市長は、しかし、結論を急いでいる。 彼は、サンフランシスコ市に何度も手紙を書いては、その都度慰安婦像の問題へのはっきりとした回答を求め続けてきた。 ご自身も、慰安婦像について明確な見解を明らかにしている。つまり、市長は、この問題に決着をつけたいと考えており、その考えに沿って行動している。その結果が、この度の姉妹都市解消の決断だったわけだ。 この問題が勃発した当初から一貫して私が疑問に思っていたのは、日韓両国の間で長年にわたって争われ、いまだに決着を見ていないこのどうにもやっかいな慰安婦をめぐる問題について、一地方都市の首長であるに過ぎない吉村氏が、かくも性急な解決を求めているその理由だ。 大阪市にとって、太平洋をはさんだ向こう側の都市の一角の慰安婦像が引き起こした問題を解決することが、どんなメリットをもたらすというのだろうか。 普通に考えれば誰でもわかることだが、慰安婦像の扱いに明らかな結論を出すことは、大阪市政の改善に寄与する事柄でもなければサンフランシスコ市民にとっての喫緊の課題でもない。当然のことながら、姉妹都市として半世紀にわたって交流してきた両市民の歴史を崩壊させてまで解決を急がねばならない問題でもない。 とすればいったいどうして吉村市長は、この問題の解決に血道をあげているのだろうか。不思議でならない』、市長の真の動機は確かに何なのだろう。
・『サンフランシスコで暮らす日系米人や、当地に駐在する日本人のビジネスマンやその家族にとって、市有地に建立された慰安婦像がもたらしているあれこれの波紋は、われわれが考えているよりは、ずっと深刻なはずだ。 ただ、現地の日本人社会の受け止め方は、日本で暮らしているわれわれの見方とイコールではない。 実際、当たり前だがサンフランシスコであれ、ほかの米国内の都市であれ、日系人と韓国系の米国人は、表立って対立しているわけではない。 私自身が幾人かの在米の知人から直接に話を聞いた範囲では、当地での東アジア系の住民は、むしろ「肩を寄せ合って」「互いに親近感を抱いて」暮らしている。 たとえばの話、地元で暮らしている限りにおいて、なにかにつけて張り合ったり排除し合ったりしがちな青森県と岩手県の県民が、東京で暮らすことになってみると、互いに同じ東北人として親近感を抱くようになるといったタイプのお話は、おそらくそんなに珍しい事例ではないはずで、まったく同じではないのだろうが、日韓両国民についても似たような事情はあるはずだ。異国で暮らす2つの隣国の国民は、おそらく、自分たちの国にいる時よりは近しい気持ちを抱いている。いくつかの証言が、それを裏付けている。 もちろん例外はあるはずだ。特定の事象や問題については、対立する局面もあるのだろうとは思う。 とはいえ、アメリカの中にいる日本人と韓国人は、互いの差異や食い違いよりも、双方の間にある相似に気付かされる場面が多い。それゆえ、お互いを「なんとなく気持ちが通じ合う」相手として意識している。 であるから、私は、当地の日本人社会が、なんとしても慰安婦像の撤去を求めているのかどうかを、われわれ日本にいる人間が決めてかかってはいけないのだと思っている。 案外、彼らは、「コトを荒立てたくない」と思っているかもしれない。というよりも、「めんどうな争いごとはたくさんだ」と考えている可能性が高いのではなかろうか。 実際、サンフランシスコで、慰安婦像に対して対抗的な広告を出したり、反対運動を主導しているのは、日本から当地に向かった人たちだ。 この点をひとつとっても、この問題が、サンフランシスコの現地住民で争われている事件ではなくて、日韓両国の愛国者の間で争われている代理戦争である可能性は否定できない。 要するに、争うことで利益を得るのは、当地の人間ではなくて、遠く離れた土地にいて、その争いごとを利用できる立場の人間だということだ』、最後の部分はその通りなのかも知れない。
・『サンフランシスコ市議会や市長にとっても、韓国系の市民団体が建てた慰安婦像に、大阪市から問い合わせの手紙が寄せられる事態は、単に想定外の対処しにくい出来事なのではあるまいか。 彼らにしてみれば、韓国系であれ日系であれ、同じ市民であり税金を払っているアメリカ人だ。 そのアメリカ人でありサンフランシスコ市民である韓国系の市民が、自分たちの資金で銅像を建てることについて、それを禁じたり撤去を求めることは、市議会にとっても市長にとっても簡単な話ではない。 銅像がアピールしている政治的主張が、一方で国際的な問題を惹起していたり、特定の市民や民族の間に不穏な争いの種をまく危険性を持っているのだとしても、市がいきなり上から排除できるものではない。民主主義を標榜する国家であればあるだけ、市民の政治アピールを抑圧することはむずかしい注文になる。 てなわけで、市としては、せいぜい「像の建立も、撤去も、それらについてのアピールや反対運動も、市民それぞれの立場でやってください」と呼びかけるのが精一杯であるはずだ。 勘違いしないでほしいのだが、私は、韓国系の市民が慰安婦の像を建てる決断を支持しているのではない。彼らの行動を称賛しているわけでもない。 ただ、私は、慰安婦像の建立に反対するのであれ、像の撤去を求めるのであれ、それは、外国の一地方都市の市長が、姉妹都市の提携案件を交渉材料に当地の市長に解決を求めるべき案件なのだろうか、ということを申し上げている』、大筋ではその通りだが、慰安婦像が建てられたのは市有地なので、事前に市は許可を出している筈で、その意味では市にも責任がある。
・『つまり、大阪市のやりかたは、はじめから最後まで、あまりにも筋違いだというのが、ここまでのところで私が書いていることの主旨だ。 仮に、慰安婦像を撤去してほしいというその主張に一定の正当性があるのだとしても、市と市の友好関係と国家間の関係をそのまま対応させるという議論の持って行き方は、道理から外れ過ぎているし、クレームそのものが荒唐無稽に過ぎる。論外だと思う。 吉村市長が「この問題を解決したい」と心から祈念しているのであれば、いますぐ市長を辞職して、国政選挙に打って出るのがものの順序だと思う。でもって、国会議員なり大臣なりに就任して、そのうえで外務省なり官邸なりに圧力をかけるのが正しい筋道だ。あるいは、一市民として、外務省に陳情しても良いかもしれない。 どっちにしても、この問題で市長としての権力を振り回すのは筋違いでもあれば、愚かな振る舞いでもある。外交は、地方政治マターではないし、市長が手を出すべき案件でもない。あたりまえの話だ。 まして、姉妹都市の歴史をチャラにする挙をもって内外にアピールすべき政治的課題でもない。 その程度のことがわからないとはさすがに思えない』、コアな支持層への受けのために筋違いな行動で、両市の長年の友好関係を破壊するとは、本当にとんでもない市長だ。大阪市民もこんな市長を選んだことを恥じるべきだろう。
・『では、市長の狙いはなんだろうか。 中央政界へのメッセージだろうか。あるいは、自分たちのコアな支持層へのサービスのつもりなのだろうか。 いずれにせよ、対立を煽り、分断を促し、その対立・分断の一方の側に立ってみせる振る舞い方が、集票パフォーマンスとして有効だと考えての決断なのであろう、とお見受けする。 別の見方をすれば、地方政党としては与党でも、全国政党としてはニッチな政治的立場を獲得しに行かざるを得ない弱小政党の立場からすれば、あえて国政マターに関与して炎上を求めることは、党の存続に寄与せんとする捨て身の選択であるのかもしれない。 してみると、吉村市長があえて慰安婦問題に手を出したのは、来年の春に迫った参院選で、もしかしたら消滅してしまうかもしれない日本維新の会への援護射撃でもあれば、将来自分自身が中央政界に打って出る時のための伏線でもあるということだ。 だとしたら、なんともバカな話だ。あるいは吉村市長ご自身は、愛国心をアピールしているつもりなのかもしれない。 が、私の目には、彼がせせっこましい縄張り根性を誇っているようにしか見えない。つまり、吉村市長が自ら「愛国心」であるというふうに自覚し、内外にアピールしている心情は、第三者の立ち位置から観察すれば、ムラ社会由来の排外主義以上のものではないということだ。 万国博覧会を招致しようとしている自治体のリーダーがこの方なのかと思うと、アタマがクラクラする。 そもそも、万博は、人種や民族や国籍や国家にまつわる行き違いや対立を超克するべく企画された国際交流のための試みだ。 とすれば、せめて開催期間中だけでも、歴史的な行きがかりや食い違いについては目をつぶらないといけないはずだ。まして、万博の主催都市として手を挙げているリーダーであるならば。 ところが、吉村市長は、一方で万博と統合型リゾート施設の誘致によるインバウンド需要の喚起を訴えていながら、もう一方では、国際対立を煽り、民族間の反感に火をつけ、人々の間にある排外感情の高まりに棹さすことで自分たちの政治的な立場を強固ならしめようと画策しているように見える。 でもまあ、市長が頑張ってあれこれ動いた結果、万博招致とカジノ誘致がおじゃんになるのであれば、それは大阪市民にとってそんなに悪い結末ではない。 シスコのシスターの カジノの火事は 半鐘がおじゃんで お姉妹だ 半端な都々逸でしたね。おそまつ』、「万国博覧会を招致しようとしている自治体のリーダーがこの方なのかと思うと、アタマがクラクラする」というのはその通りだ。吉村市長のツイッター(リンクは下記)への投稿に面白い批判があったので、紹介しよう。10月2日で大阪政治ナイト(悪魔の化身認定)氏が記載したのは、『粘り強く働きかけをすべき。姉妹都市を利用しなければ。 ルートを断ち切っても、それは邪魔者居なくなり、現地の中韓ロビーがより跋扈し喜ぶだけ。 抵抗してた現地の日本ロビーを見殺しにする愚策にすぎない。 維新の短絡的な人気取りに外交を利用するなよ』、さらに、『そもそも、釜山、上海とも姉妹都市等にあるが、その慰安婦像にはだんまり。 なんとも茶番な話だ。 人気取りのペラペラなパフォーマンスに利用してるだけで、覚悟も骨もない。 こんなので「さすが!」とか言ってる保守気取りにも呆れる』、釜山、上海との姉妹都市関係には触れずに、サンフランススコだけを取上げたというのは、どうみても不自然だ。
https://twitter.com/hiroyoshimura/status/1047058213441589250
コラムニストの小田嶋 隆氏が10月5日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「それは大阪市長がやるべき仕事なのか」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/100400161/?P=1
・『大阪市が、サンフランシスコ市との間で取り結んでいた姉妹都市の提携を解消するのだそうだ。 伝えられているところでは、吉村洋文大阪市長は、10月2日付けで姉妹都市の解消を決断し、その旨を公開書簡として、サンフランシスコ市長宛てに送付したのだそうだ・・・この情報を、私は、吉村市長ご自身のツイッターへの書き込みを通じて知った・・・なるほど。 姉妹都市を解消するというのは、具体的にどういう意味を持った措置なのだろうか。「お姉妹ってことじゃないか?」ちがうと思う。 姉妹が縁を切っても、いきなりおしまいにはならない。 そんな簡単な話ではない。 タイムラインに流れてきた市長のツイートを読んだ当初、正直な話、私は、市長の意図するところが理解できなかった。 この3年ほど、慰安婦像の設置をめぐって、大阪市とサンフランシスコ市の間でやりとりが続いていたことは承知していた。 ただ、私はこの交渉を重視していなかった。 というよりも「どうせパフォーマンスだろ」と思って、タカをくくっていた。 ありていに言えば、吉村市長がサンフランシスコ市議会や市長宛てに説明を求める書簡を送っているのは、コアな支持層に向けて演じてみせている軽歌劇みたいなものなのだろうと考えていた次第だ。 それが、ここへ来て、書簡への返事が来ないことを理由に、いきなり姉妹都市の提携を解消する決断に踏み切る事態に発展している。 この展開には少なからず驚かされた。 引っ込みがつかなくなって暴走したということなのだろうか。 それとも、「ほんまにお姉妹やで」という洒落のつもりだろうか。 起こっていることの全体像をなんとか把握できるようになったのは、各方面のサイトや情報源を当たって、そこに書いてある様々な記事を読み進めた後の話なのだが、正直なところ、いまだに疑問点だらけだ。自分の中でうまく整理できていない』、いかにも維新の若い市長らしいパフォーマンスだ。
・『本来なら、こんな状態で原稿を書きはじめるべきではないのだろう。 ただ、読者の多くも、混乱だらけの情報源に翻弄されている点では、私とたいして違わないはずだ。 とすれば、この先、この問題についての議論が野放図に拡散するのか急展開するのか、それとも二極化して泥沼化するのかはともかく、手探りの状態でのとりあえずの感想を書き留めておくことは、無意味ではないはずだ。そう思って、現時点で私の目に見えている景色を記録しておくことにする。 最初にお断りしておくが、サンフランシスコの市有地に慰安婦像を建てることの是非について、この原稿の中で明確な結論を提示しようとは思っていない。 私自身、慰安婦像がどんなふうに扱われるべきであるのかについて個人的な見解を持っていないわけではないのだが、それを表明することは控えようと思っている。 理由は、ごく簡単かつ実務的な次元の話で、つまり、めんどうくさいからだ。 もう少し丁寧な言い方をすれば、ある事柄について相容れない見解を抱いているふたつの陣営が、その賛否の対象を「絶対に譲れない一線」として決着を争うことは、少なくとも短期的には、双方を消耗させるだけだと思っているということだ。決着を争うよりは、その対立点をしばらくの間棚上げにしておくほうが賢明だ、と、少なくとも現時点では、私はそう考えている。 だから、これ以上この話はしない』、賢明な選択だ。
・『吉村市長は、しかし、結論を急いでいる。 彼は、サンフランシスコ市に何度も手紙を書いては、その都度慰安婦像の問題へのはっきりとした回答を求め続けてきた。 ご自身も、慰安婦像について明確な見解を明らかにしている。つまり、市長は、この問題に決着をつけたいと考えており、その考えに沿って行動している。その結果が、この度の姉妹都市解消の決断だったわけだ。 この問題が勃発した当初から一貫して私が疑問に思っていたのは、日韓両国の間で長年にわたって争われ、いまだに決着を見ていないこのどうにもやっかいな慰安婦をめぐる問題について、一地方都市の首長であるに過ぎない吉村氏が、かくも性急な解決を求めているその理由だ。 大阪市にとって、太平洋をはさんだ向こう側の都市の一角の慰安婦像が引き起こした問題を解決することが、どんなメリットをもたらすというのだろうか。 普通に考えれば誰でもわかることだが、慰安婦像の扱いに明らかな結論を出すことは、大阪市政の改善に寄与する事柄でもなければサンフランシスコ市民にとっての喫緊の課題でもない。当然のことながら、姉妹都市として半世紀にわたって交流してきた両市民の歴史を崩壊させてまで解決を急がねばならない問題でもない。 とすればいったいどうして吉村市長は、この問題の解決に血道をあげているのだろうか。不思議でならない』、市長の真の動機は確かに何なのだろう。
・『サンフランシスコで暮らす日系米人や、当地に駐在する日本人のビジネスマンやその家族にとって、市有地に建立された慰安婦像がもたらしているあれこれの波紋は、われわれが考えているよりは、ずっと深刻なはずだ。 ただ、現地の日本人社会の受け止め方は、日本で暮らしているわれわれの見方とイコールではない。 実際、当たり前だがサンフランシスコであれ、ほかの米国内の都市であれ、日系人と韓国系の米国人は、表立って対立しているわけではない。 私自身が幾人かの在米の知人から直接に話を聞いた範囲では、当地での東アジア系の住民は、むしろ「肩を寄せ合って」「互いに親近感を抱いて」暮らしている。 たとえばの話、地元で暮らしている限りにおいて、なにかにつけて張り合ったり排除し合ったりしがちな青森県と岩手県の県民が、東京で暮らすことになってみると、互いに同じ東北人として親近感を抱くようになるといったタイプのお話は、おそらくそんなに珍しい事例ではないはずで、まったく同じではないのだろうが、日韓両国民についても似たような事情はあるはずだ。異国で暮らす2つの隣国の国民は、おそらく、自分たちの国にいる時よりは近しい気持ちを抱いている。いくつかの証言が、それを裏付けている。 もちろん例外はあるはずだ。特定の事象や問題については、対立する局面もあるのだろうとは思う。 とはいえ、アメリカの中にいる日本人と韓国人は、互いの差異や食い違いよりも、双方の間にある相似に気付かされる場面が多い。それゆえ、お互いを「なんとなく気持ちが通じ合う」相手として意識している。 であるから、私は、当地の日本人社会が、なんとしても慰安婦像の撤去を求めているのかどうかを、われわれ日本にいる人間が決めてかかってはいけないのだと思っている。 案外、彼らは、「コトを荒立てたくない」と思っているかもしれない。というよりも、「めんどうな争いごとはたくさんだ」と考えている可能性が高いのではなかろうか。 実際、サンフランシスコで、慰安婦像に対して対抗的な広告を出したり、反対運動を主導しているのは、日本から当地に向かった人たちだ。 この点をひとつとっても、この問題が、サンフランシスコの現地住民で争われている事件ではなくて、日韓両国の愛国者の間で争われている代理戦争である可能性は否定できない。 要するに、争うことで利益を得るのは、当地の人間ではなくて、遠く離れた土地にいて、その争いごとを利用できる立場の人間だということだ』、最後の部分はその通りなのかも知れない。
・『サンフランシスコ市議会や市長にとっても、韓国系の市民団体が建てた慰安婦像に、大阪市から問い合わせの手紙が寄せられる事態は、単に想定外の対処しにくい出来事なのではあるまいか。 彼らにしてみれば、韓国系であれ日系であれ、同じ市民であり税金を払っているアメリカ人だ。 そのアメリカ人でありサンフランシスコ市民である韓国系の市民が、自分たちの資金で銅像を建てることについて、それを禁じたり撤去を求めることは、市議会にとっても市長にとっても簡単な話ではない。 銅像がアピールしている政治的主張が、一方で国際的な問題を惹起していたり、特定の市民や民族の間に不穏な争いの種をまく危険性を持っているのだとしても、市がいきなり上から排除できるものではない。民主主義を標榜する国家であればあるだけ、市民の政治アピールを抑圧することはむずかしい注文になる。 てなわけで、市としては、せいぜい「像の建立も、撤去も、それらについてのアピールや反対運動も、市民それぞれの立場でやってください」と呼びかけるのが精一杯であるはずだ。 勘違いしないでほしいのだが、私は、韓国系の市民が慰安婦の像を建てる決断を支持しているのではない。彼らの行動を称賛しているわけでもない。 ただ、私は、慰安婦像の建立に反対するのであれ、像の撤去を求めるのであれ、それは、外国の一地方都市の市長が、姉妹都市の提携案件を交渉材料に当地の市長に解決を求めるべき案件なのだろうか、ということを申し上げている』、大筋ではその通りだが、慰安婦像が建てられたのは市有地なので、事前に市は許可を出している筈で、その意味では市にも責任がある。
・『つまり、大阪市のやりかたは、はじめから最後まで、あまりにも筋違いだというのが、ここまでのところで私が書いていることの主旨だ。 仮に、慰安婦像を撤去してほしいというその主張に一定の正当性があるのだとしても、市と市の友好関係と国家間の関係をそのまま対応させるという議論の持って行き方は、道理から外れ過ぎているし、クレームそのものが荒唐無稽に過ぎる。論外だと思う。 吉村市長が「この問題を解決したい」と心から祈念しているのであれば、いますぐ市長を辞職して、国政選挙に打って出るのがものの順序だと思う。でもって、国会議員なり大臣なりに就任して、そのうえで外務省なり官邸なりに圧力をかけるのが正しい筋道だ。あるいは、一市民として、外務省に陳情しても良いかもしれない。 どっちにしても、この問題で市長としての権力を振り回すのは筋違いでもあれば、愚かな振る舞いでもある。外交は、地方政治マターではないし、市長が手を出すべき案件でもない。あたりまえの話だ。 まして、姉妹都市の歴史をチャラにする挙をもって内外にアピールすべき政治的課題でもない。 その程度のことがわからないとはさすがに思えない』、コアな支持層への受けのために筋違いな行動で、両市の長年の友好関係を破壊するとは、本当にとんでもない市長だ。大阪市民もこんな市長を選んだことを恥じるべきだろう。
・『では、市長の狙いはなんだろうか。 中央政界へのメッセージだろうか。あるいは、自分たちのコアな支持層へのサービスのつもりなのだろうか。 いずれにせよ、対立を煽り、分断を促し、その対立・分断の一方の側に立ってみせる振る舞い方が、集票パフォーマンスとして有効だと考えての決断なのであろう、とお見受けする。 別の見方をすれば、地方政党としては与党でも、全国政党としてはニッチな政治的立場を獲得しに行かざるを得ない弱小政党の立場からすれば、あえて国政マターに関与して炎上を求めることは、党の存続に寄与せんとする捨て身の選択であるのかもしれない。 してみると、吉村市長があえて慰安婦問題に手を出したのは、来年の春に迫った参院選で、もしかしたら消滅してしまうかもしれない日本維新の会への援護射撃でもあれば、将来自分自身が中央政界に打って出る時のための伏線でもあるということだ。 だとしたら、なんともバカな話だ。あるいは吉村市長ご自身は、愛国心をアピールしているつもりなのかもしれない。 が、私の目には、彼がせせっこましい縄張り根性を誇っているようにしか見えない。つまり、吉村市長が自ら「愛国心」であるというふうに自覚し、内外にアピールしている心情は、第三者の立ち位置から観察すれば、ムラ社会由来の排外主義以上のものではないということだ。 万国博覧会を招致しようとしている自治体のリーダーがこの方なのかと思うと、アタマがクラクラする。 そもそも、万博は、人種や民族や国籍や国家にまつわる行き違いや対立を超克するべく企画された国際交流のための試みだ。 とすれば、せめて開催期間中だけでも、歴史的な行きがかりや食い違いについては目をつぶらないといけないはずだ。まして、万博の主催都市として手を挙げているリーダーであるならば。 ところが、吉村市長は、一方で万博と統合型リゾート施設の誘致によるインバウンド需要の喚起を訴えていながら、もう一方では、国際対立を煽り、民族間の反感に火をつけ、人々の間にある排外感情の高まりに棹さすことで自分たちの政治的な立場を強固ならしめようと画策しているように見える。 でもまあ、市長が頑張ってあれこれ動いた結果、万博招致とカジノ誘致がおじゃんになるのであれば、それは大阪市民にとってそんなに悪い結末ではない。 シスコのシスターの カジノの火事は 半鐘がおじゃんで お姉妹だ 半端な都々逸でしたね。おそまつ』、「万国博覧会を招致しようとしている自治体のリーダーがこの方なのかと思うと、アタマがクラクラする」というのはその通りだ。吉村市長のツイッター(リンクは下記)への投稿に面白い批判があったので、紹介しよう。10月2日で大阪政治ナイト(悪魔の化身認定)氏が記載したのは、『粘り強く働きかけをすべき。姉妹都市を利用しなければ。 ルートを断ち切っても、それは邪魔者居なくなり、現地の中韓ロビーがより跋扈し喜ぶだけ。 抵抗してた現地の日本ロビーを見殺しにする愚策にすぎない。 維新の短絡的な人気取りに外交を利用するなよ』、さらに、『そもそも、釜山、上海とも姉妹都市等にあるが、その慰安婦像にはだんまり。 なんとも茶番な話だ。 人気取りのペラペラなパフォーマンスに利用してるだけで、覚悟も骨もない。 こんなので「さすが!」とか言ってる保守気取りにも呆れる』、釜山、上海との姉妹都市関係には触れずに、サンフランススコだけを取上げたというのは、どうみても不自然だ。
https://twitter.com/hiroyoshimura/status/1047058213441589250
タグ:公開書簡として、サンフランシスコ市長宛てに送付 吉村洋文大阪市長 この3年ほど、慰安婦像の設置をめぐって、大阪市とサンフランシスコ市の間でやりとりが続いていた 市長の狙い もそも、釜山、上海とも姉妹都市等にあるが、その慰安婦像にはだんまり。 なんとも茶番な話だ 万国博覧会を招致しようとしている自治体のリーダーがこの方なのかと思うと、アタマがクラクラする 日韓両国の愛国者の間で争われている代理戦争 大阪市のやりかたは、はじめから最後まで、あまりにも筋違い 大阪政治ナイト(悪魔の化身認定) 外交は、地方政治マターではないし、市長が手を出すべき案件でもない 「コトを荒立てたくない」と思っているかもしれない 吉村市長のツイッター サンフランシスコで、慰安婦像に対して対抗的な広告を出したり、反対運動を主導しているのは、日本から当地に向かった人たちだ 当地の日本人社会 当地での東アジア系の住民は、むしろ「肩を寄せ合って」「互いに親近感を抱いて」暮らしている 対立を煽り、分断を促し、その対立・分断の一方の側に立ってみせる振る舞い方が、集票パフォーマンスとして有効だと考えての決断なのであろう 決着を争うよりは、その対立点をしばらくの間棚上げにしておくほうが賢明だ、と、少なくとも現時点では、私はそう考えている 私が疑問に思っていたのは、日韓両国の間で長年にわたって争われ、いまだに決着を見ていないこのどうにもやっかいな慰安婦をめぐる問題について、一地方都市の首長であるに過ぎない吉村氏が、かくも性急な解決を求めているその理由 日系人と韓国系の米国人は、表立って対立しているわけではない 慰安婦像の扱いに明らかな結論を出すことは、大阪市政の改善に寄与する事柄でもなければサンフランシスコ市民にとっての喫緊の課題でもない 半世紀にわたって交流してきた両市民の歴史を崩壊させてまで解決を急がねばならない問題でもない 大阪市が、サンフランシスコ市との間で取り結んでいた姉妹都市の提携を解消する (その3)(小田嶋 隆:それは大阪市長がやるべき仕事なのか) 小田嶋 隆 日経ビジネスオンライン 「それは大阪市長がやるべき仕事なのか」 コアな支持層に向けて演じてみせている軽歌劇みたいなものなのだろう 市有地に慰安婦像を建てる ここへ来て、書簡への返事が来ないことを理由に、いきなり姉妹都市の提携を解消する決断に踏み切る事態に発展 日韓慰安婦問題
トランプ大統領(その34)(トランプがぶち壊す「戦いの品格」 崩れ去る「美しい伝統的な米国的価値観」、各国首脳はトランプ大統領とどう向き合うか 国連総会演説でわかるそれぞれの苦悩、最高裁判事候補のスキャンダルと、政治のタイミング) [世界情勢]
トランプ大統領については、9月15日に取上げた。今日は、(その34)(トランプがぶち壊す「戦いの品格」 崩れ去る「美しい伝統的な米国的価値観」、各国首脳はトランプ大統領とどう向き合うか 国連総会演説でわかるそれぞれの苦悩、最高裁判事候補のスキャンダルと、政治のタイミング)である。
先ずは、ボストン コンサルティング グループ シニア・アドバイザーの御立 尚資氏が9月27日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「トランプがぶち壊す「戦いの品格」 崩れ去る「美しい伝統的な米国的価値観」」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/213747/092000079/?P=1
・『米国在住の友人の勧めで、2018年9月1日に行われたジョン・マケイン上院議員の葬儀でのいくつかの弔辞をビデオで視聴、そして、その全文を読む機会を得た。長期にわたり、闘病生活を送っていた共和党の重鎮マケイン氏は、今年春に、バラク・オバマ、ジョージ・W・ブッシュの両元大統領に、自分の葬儀で弔辞を読むことを頼んでいたという。 ちなみに、オバマ氏は2008年の大統領選で、ブッシュ氏は2000年の共和党大統領候補予備選で、それぞれマケイン氏を破った人たちなので、もっとも強力な政敵二人に弔辞を頼んだということになる。特に、オバマ氏とは所属政党も思想信条もまったく異なるわけで、オバマ前大統領自身、依頼されたときは驚いたと述べている。 このオバマ氏の弔辞が、実に素晴らしい。非常に人間的であると同時に、マケイン氏、そしてオバマ氏自身が体現する「米国の良い部分とそのリーダーに求められる品格」を、しみじみと感じさせるものだ』、日本でも「終活」ブームだが、弔辞を読む人を指名するとはさすがだ。
・『オバマ氏とブッシュ氏に弔辞を頼んだマケイン氏 たとえば、まず自分とブッシュ元大統領に弔辞を頼むこと自体が、マケイン氏のユーモアのセンス、ちょっといたずら好きの性格、さらには過去の違いを乗り越えて共通の土俵を探し求める、という価値観を示していると述べる。そのあとで、米国の価値観とは何か、が格調高い英語で続く。(英語版は省略するのでリンク先参照) [私訳:ジョンと私は、あらゆる種類の外交問題で意見を異にしていたが、米国の果たすべき役割についての考え方は一致していた。米国は、世界になくてはならない国であり、大きな力と恵まれた地位にあることには、必ず大きな責任が伴うことを(二人とも)信じていたからだ。 米国の安全が保障されること、米国が世界に影響力を持つことは、単に我々が強大な軍事力をもつから、あるいは、豊かな富をもつからではない。他者を我々の意思に添うようにさせる能力があるからだけではない。我々が、法の支配、人権の尊重といった一群の普遍的な価値観に従い続けることで、他者を鼓舞する力を持つからこそだ。人類の一人ひとりが、神から与えられた尊厳を有するということに、我々がこだわりつづけるからこそだ。] ここでオバマ氏によって表現されているのは、米国の伝統的な価値観への揺るぎない信頼であり、また政敵同士でも、共通の価値観の上にたつことについては、相互に信頼しあっているということだ。全米にライブ中継される葬儀での弔辞であるからには、これは米国国民の多くに通じる共通感覚であるというのが大前提なのだろう』、さすが格調が高く、トランプへのあてつけもある弔辞だ。
・『一方、この葬儀に故人の遺志で招待されなかったと伝えられるトランプ大統領、そしてその支持者たちは、どう考えてもこういった価値観を共有しているとは思えない。 また、トランプ氏の言動からは、政敵と相互信頼関係に立つことが良いことだという思考は、彼の信条とまったく相いれないように見受けられる。 彼の支持者たちにとっては、「美しい伝統的な米国的価値観」は限られたエリートたちのもので、くそくらえ。自分たちの不満や苦しみを和らげてくれる可能性があるならば、そんなエスタブリッシュメントの価値観をぶちこわす言動を繰り返す、トランプ氏こそが希望の星だ、ということになる。 この極端な違いをどう受け止めるべきなのだろうか。よく言われるように、トランプのアメリカとそれ以外のアメリカ、2つの別の国が、米国の中にあるとしか思えない。 もちろん、米国の「価値観」の中には、無意識のうちに、他の文化体系や価値観を見下すような部分が含まれている。また、従来から米国の国益のためには「タテマエ」ではなく「本音」に従い、随分身勝手な行動をしてきた例も多々ある。中東で反米政権に対抗する反政府勢力に援助をつづけてきたことは、その一例だ(ちなみに、その一部は、後に反米テロリスト組織へと変貌した)。 ただ、この建前としての価値観は、欧州や日本を含め、多くの国や地域でそれなりの普遍性をもって受け止められ、民主主義と自由貿易というグローバルルールの根幹となってきた。これは米国の軍事力とも組み合わさって、世界のガバナンスシステムも形作ってきた。 最近、『武士の日本史』(高橋昌明著、岩波新書)という大変面白い本を読んだのだが、その中に、中世の典型的な合戦の様子が出てくる』、米国の「本音」に従った身勝手な行動にも触れるとは、さすがだ。
・『かえりみられなくなったいくさ始めの作法 両軍は、自軍の前に楯を並べ立て、約55メートルから109メートルの距離を隔てて対峙する。鬨の声を三度あげてから、いくさ始めの作法として音を発する鏑矢をそれぞれの陣営の騎馬武者が射て、弓矢による戦闘が始まる、のだそうだ。 これは、ある形式化されたルールの下で戦闘行為を行うという共通理解があってこそ成り立つことだろう。時を経て、戦国時代になり、銃や槍が兵器の中心になってからは、当然このような「約束事」は時代遅れなものとして、かえりみられなくなったようだ。 オバマ氏やマケイン氏、あるいはここでは触れなかったがブッシュ氏にも共通する「価値観」と政治論争上の「約束事」。これが、中世の戦の「作法」と同様、時代遅れなものとなっていくのかどうか。今はその重要な分岐点にあるのだと思う。 内向きの米国政治、あるいは世界のあちこちに広がる「アンチ既存システム」だけを訴えるポピュリズムの流れの中で、この価値観が時代遅れなものとなり、世界のガバナンスシステムが崩壊していくのを見過ごすわけにはいかない。 単に、米国的価値観の崩壊を外部から見るだけでなく、そのどの部分はどう残し、新たな価値観として何を加えるのか。特に、個人の尊厳と機会の平等という建前の裏側で、大きな経済的不平等が拡がり、中流階級が崩れ去っていったここ数十年の現実。これをデジタル産業革命の中で、どう組み立て直していくのか。これらの問いは、われわれ日本人にも突き付けられた大きな宿題ではないだろうか』、さすがに日本人にも深い問題を提起してくれた。
・『さて、マケイン上院議員が事前に弔辞を頼んだ相手が、もう一人いる。彼の娘であるメーガン・マケインさんだ。彼女の弔辞は、韻の使い方や語句の繰り返しなど、質の高い美しい英語の見本のような文章であり、またそれが故人の娘としてのあふれる思いと相まって、実に心を動かす素晴らしいものだった。 ご興味がある方は、ネット上で容易に探せるので、ぜひご覧になることをお勧めしたい(特に、最初から12分強を経過したあたりから)。少しだけ、引用してみよう。 「ジョン・マケインのアメリカはずっと偉大である」(英語版は省略するのでリンク先参照)[私訳:ジョン・マケインのアメリカは、(周囲に対して)寛大であり、友好的であり、そしてまた大胆に挑戦もする存在です。臨機応変で、自信に満ち、どっしりと構えています。自らの責任を果たし、その強さゆえに、静かに語ります。アメリカは自慢げに語ったりはしません。そんなことをする必要がないゆえに。ジョン・マケインのアメリカは、「もう一度偉大になる」必要などありません。なぜなら、アメリカはずっと偉大であるから] 最後の部分は、言うまでもなく、トランプ大統領を名指しにはしないものの、彼に対する強烈な皮肉になっている。この部分では、弔辞であるにもかかわらず、聴衆から拍手がわき、それが長く続いた』、「トランプ大統領」に対する強烈な皮肉が聴衆に受けたというのは、分断を象徴している。
・『ライバル2人に加えて、最愛の娘に自分の弔辞を頼み「私はどうすればいいの」と聞いた娘に対し、「おまえが、いかに勇気があるかを聴衆に見せてやればよいんだ」と答えたというマケイン氏。ごくごく個人的には、自分の娘にこのような弔辞を読んでもらえるということが、本当に素晴らしいと思うし、ちょっぴり羨ましい』、これは世の中のオヤジに共通する羨望だろう。
次に、東洋大学教授の薬師寺 克行氏が10月3日付け東洋経済オンラインに寄稿した「各国首脳はトランプ大統領とどう向き合うか 国連総会演説でわかるそれぞれの苦悩」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/240653
・『毎年9月下旬に開かれる国連総会で各国首脳らが行う「一般討論演説」は実に面白い。それぞれ制限時間は15分だが、しゃべることで身を立ててきた人物がそろっているため、なかなか時間どおりにはすまない。過去最長記録は約8時間だという。 多くの首脳は内政や外交で自らが成し遂げた成果を誇示するが、同時に国際情勢などについてそれぞれの問題意識を披歴する。メディアが報じるのは北朝鮮問題など注目されているテーマに触れたごく一部の首脳の発言だけだ。しかし、多くの首脳は結構、真剣に準備し、本気で自らの政治理念や哲学、思想などを語っている。その共通項を探ると、今、世界が直面している問題が意外なほど、くっきりと浮かんでくる。 そして言うまでもないことだが今年、多くの首脳が触れたのは、アメリカのドナルド・トランプ大統領の登場によって自由貿易や民主主義、国際協調などというこれまで当たり前とされてきた世界秩序が揺らぎつつあることへの不安や懸念だった』、制限時間15分のところを約8時間も演説したとは、大した心臓だ。
・『失笑の中、自国中心主義を披歴したトランプ大統領 まず、トランプ大統領の演説を紹介しよう。 冒頭、トランプ大統領はいきなり、各国の外交官らから失笑を買った。開口一番、「大統領に就任して2年もたっていないが、われわれの国の歴史の中で過去のどの政権より多くのことを成し遂げた」と発言した。続けて「アメリカは…」と言いかけたところで、会場に笑い声があふれた。それにあわてたのかトランプ氏は「本当だ。しかし、こんな反応は予期していなかった。まあいい」と取り繕った。そこで再び笑いと拍手が飛び出した。総会会場内は明らかにトランプ氏の発言を嘲笑している空気だった。 トランプ氏はそんな空気などお構いなしに、自分のペースに戻った。核開発問題で対立するイランへの批判、米国大使館をイスラエルの首都・エルサレムに移したことの正当化、WTO(世界貿易機関)や国連人権理事会や国際刑事裁判所などの国際機関を批判するなど言いたい放題だ。 そして、「アメリカは常に自国の利益のために行動する」「アメリカはアメリカによって統治されている。我々はグローバリズムというイデオロギーを拒否する。そして愛国主義を信奉する」と、世界に背を向けるような持論を滔々(とうとう)と述べた。国際協調を象徴する国連という場で、その根本の精神を正面から否定したのである。国連にとっては悪夢のような演説である』、トランプの心臓は本当に強そうだ。しかし、国連でまで自国中心主義を唱えるようでは、ついてくる国はなく、孤立を強めるだけだろう。外交というより、国内の支持者向けなのだろう。
・『こうしたトランプ大統領の主張を真っ向から批判したのがフランスのエマニュエル・マクロン大統領だった。 現在の国際情勢が危機的であるという認識を示したうえでマクロン氏は、これから先いくつかの道があるがその1つが「適者生存」の道だと指摘した。「みんながそれぞれの法律に従おうとする単独行動主義の道だ。これは論争や摩擦を広げ、全員が損をする」「適者生存という道はフラストレーションを増やし、暴力を増やすだけだ」と述べた。「適者生存」とは、環境に適した生物だけが生き残るという考えであり、マクロン氏はそれがトランプ大統領の考え方に通じるものがあるとして、間接的ではあるが批判しているのだ。 そしてマクロン氏は世界がとるべき道として、多国間主義の重要性を強調した。「平和実現のためには多国間のシステムを再構築し、現実的な手法で紛争を解決していくべきだ」「ナショナリズムの騒音がいつも破局を招くことを忘れてはならない」と、歴史観あふれる世界観を展開した。トランプ大統領という言葉は一度も登場しないが、繰り返し単独行動主義や大国主義を批判している。 だからと言ってトランプ大統領とマクロン大統領が犬猿の仲というわけではない。言うべき時には米国に対してもストレートに物を言う。歴史的にアメリカとの距離感を重視してきたフランスらしい巧妙な演説だ』、間接的にトランプ主義を批判するとはさすがマクロンだ。
・『メイ首相「メディアの独立は民主主義の基盤」 アメリカとは特別の関係と言われる英国のテリーザ・メイ首相も黙ってはいなかった。 「英国民はEU(欧州連合)を出るという投票をしたが、それは多国間主義や国際協調を否定したのではない」「こういう時のリーダーシップははっきりしている。価値を共有して、同盟国や仲間と国際的に協力していくことだ」などと述べて、やはりトランプ大統領の身勝手な自己中心的外交を間接的に批判している。 メイ首相は英国的なジョークも忘れなかった。 現在、メイ首相はEU離脱をめぐる交渉が難航し国内メディアから連日のように批判されている。そんなことを念頭に、「各国首脳の皆さん同様、私は英国のメディアが自分について書いていることを読むのは楽しくない。しかし、メディアがそういうことをする権利を私は守る。メディアの独立というのは英国の偉大な業績の一つだ。そしてそれは民主主義の基盤でもある」と述べた。 これは自らを批判するメディアをフェイクニュースと揶揄し、「メディアは国民の敵だ」と言い切ったトランプ氏への痛烈な批判以外の何物でもない。聞く側が思わずニヤリとしてしまうような表現はさすがというべきか』、素晴らしい。
・『マクロン大統領やメイ首相のトランプ大統領に対する批判はともにストレート・パンチではなく、それぞれの味がある。単純な批判ではなく、どこか物分かりの悪い頑固者に対し、人類の歴史や世界のあり方を踏まえつつ諭すようなトーンでもある。同時に国際社会の主要な担い手という自覚や責任感と、現状への強い危機感を感じさせる。 同じ米国批判でも、中国の場合は少々趣が違った。 登場したのは王毅外相で、膨大な貿易赤字を理由に制裁関税をかけるアメリカの対応を「保護主義だ」などと時間をかけて批判したのは当然だろう。 王外相は英仏の首脳同様、多国間主義の重要性についても触れた。「われわれは現在の多国間主義を維持するのか、単独行動主義に好きにさせるのか。今の国際秩序を維持すべきか、腐敗にむしばまれることを許すのか。これは人類の運命にとって極めて重要な問題だ」などと滔々と論じた。一般論としてはその通りだ。 しかし、その先に中国の手前味噌な主張が並ぶ。「中国は一度も多国間主義に対する信念が揺らいだことはない」「中国は多国間主義への関与を維持し、そのチャンピオンであり続ける」というのだ。さらに、ウィンウィンの協力関係、規則や秩序にのっとって行動する、他国の主権や独立を尊重するなどの原則が重要だと述べている。 こうなるとアメリカ同様の自国中心主義が透けて見えてくる。また、南シナ海や尖閣諸島などでの行動をみても、中国の言っていることとやっていることの乖離が大きすぎて、とても信用できるものではない。中国の場合は国連総会という場を、自己正当化のキャンペーンに利用していると見たほうがよさそうだ』、確かに中国の主張はしらじらしいが、現在の米国との関係を踏まえれば多少は理解できる。
・『昨年と様変わり、本音が透けて見えた北朝鮮 そんな中、非核化をめぐってアメリカとの駆け引きがヤマ場を迎えている北朝鮮の演説は、本音が透けて見えて面白い。 登壇者は李容浩(リ・ヨンホ)外相だった。李外相は昨年の国連総会でも演説した。この時は初登場のトランプ大統領が北朝鮮について、「ならず者の体制だ」「ロケットマンが自殺行為の任務を進めている」などと徹底的に批判した。 その直後だったこともあって李外相は冒頭からトランプ大統領を敬称なしで徹底的に批判した。「トランプは精神的に錯乱し、誇大妄想と自己満足にあふれた人物だ」「就任から8カ月でホワイトハウスを、お金を計算する音があふれる場所にし、国連をお金が尊敬され、血を流すことが議事日程となっているギャング団の巣にしようとしている」と、北朝鮮らしい激しい言葉を並べた。 ところが今年は大きくトーンが変わった。 一連の南北首脳会談と先の米朝首脳会談の成果を詳しく紹介したうえで、米朝関係が膠着状態にある最大の理由が、相互に信頼関係がないためだと主張した。しかし、批判の矛先をトランプ大統領には向けなかった。「アメリカの国内政治の問題だ。政治的野党は北朝鮮を信用できないと言うのが仕事だ。そして政府に非合理な単独行動的な要求を北朝鮮にさせようとしている。その結果、円滑な対話や交渉ができない」と述べて、慎重に言葉を選びながら、トランプ大統領批判を巧みに避けつつ、米国の対応を批判している。 細部に神経を使った演説の構成は、北朝鮮が何としても米朝交渉を進展させたいと考えていることが伝わってくる面白さがある』、この記事では安倍首相の演説は紹介されてないが、新聞報道では「北朝鮮の変化に最大の関心」と対話路線を打ち出したようだ。
・『トランプ大統領に、あの手この手で対抗 各国首脳の演説に共通していたのは「多国間主義」の支持であり、トランプが推し進める「単独行動主義」「自国中心主義」への危機感だった。痩せても枯れてもアメリカはまだ世界を動かす大国であり、トランプ大統領の一挙手一投足が、各国の政治、経済、安全保障に大きな影響を与える。 そしてトランプ大統領をストレートに批判しても逆に反発を買うだけで、状況は何も変わらない。かといって黙って見ているわけにはいかない。ではどうすればいいのか。あの手この手で何とか状況を変えたいと苦悩している各国首脳たちの姿が、今回の演説から浮かび上がってきた』、各国首脳たちにとっては、中間選挙などでトランプの力が弱まるのを、待つしかないのかも知れない。
第三に、在米作家の冷泉彰彦氏が9月29日付けメールマガジンJMMに掲載した「[JMM1021Sa]「最高裁判事候補のスキャンダルと、政治のタイミング」」を紹介しよう。
・『アメリカにおける連邦最高裁の判事指名というのは、指名し承認されることで、最高裁判事の構成が変わるわけですから、下手をすれば憲法判断に変化が起きることにもなりかねません。ですから、誰が指名されるかというのは、政治的に大きな問題になります。 そのインパクトゆえに、この最高裁判事指名というのは様々なドラマを生み出して来ました。例えば、1991年にブッシュ(父)が、クラレンス・トーマス判事を指名した際には、「アニタ・ヒル事件」というのが起きました。 このアニタ・ヒルというのは、現在は法律学者として活躍している女性ですが、弁護士資格を持ってトーマス判事の補佐役をしていた際に「セクシャル・ハラスメント」の被害を受けたとして、同判事に対する告発を行ったのです。 結果的に、議会の公聴会が行われましたが、セクハラに関する認識が現在とは違って貧困な中、ヒル氏の主張には十分な配慮は与えられず、最終的にトーマス判事は承認されて最高裁判事に就任し、現在に至っています』、米国の最高裁判事は終身なので、議会の承認手続きは一応慎重なようだ。
・『今回は、トランプ大統領が指名した候補のブレット・カバナー判事について、性的暴行の疑惑が明るみに出て、上院司法委員会の公聴会が行われました。この27日(木)終日かけて行われた公聴会は、「アニタ・ヒル事件」以来久々に全米の注目を浴びることになったのです。何しろ、ほぼ9時間にわたる公聴会を、ケーブル・ニュース各局は勿論、日本の地上波に当たる3大ネットワークも特番を組んで終日放映したぐらいです。 まず、今回のカバナー判事指名に至った経緯ですが、中間派とみなされていたケネディ判事が引退を表明したことから、新たな判事の指名が必要になる中で、保守派という評価のあるカバナー判事候補の指名が行われたのは、2つの大きな要因があります。 1つは、このカバナー指名というのが、元来は相性の悪い「トランプと宗教保守派」の距離を埋める存在ということです。つまり、11月6日の中間選挙の投票日に向けて、トランプと宗教保守派に強い「同盟関係」を形成する、そんな意味合いが指摘できます。 2つ目は、単に「宗教保守派を満足させる」というだけでなく、共和党の結束を固めるという意味でも、この時期に連邦最高裁判事候補として、保守派を指名するということは、政治的な効果が計算されていたのです。 そのカバナー判事に、性的暴力事件に関与していたという複数の疑惑が浮上しました。1つは、カバナー判事が俗にプレップスクールと言われる名門私立高校に在学中、当時15歳であった女性を押し倒してワイセツな行為をしようとしたというものです。 被害を訴えているのは、心理学者でパロアルト大学の教授であるクリスティン・フォードという女性です。 もう1つは、イエール大学時代のカバナー判事が、酒に酔って下半身を露出し、女性に嫌がらせをしたという生々しい内容です。雑誌『ニューヨーカー』がスクープしたもので、この他にも現時点では更に2つの疑惑が公表されています。 こうした中で、民主党の側は、このスキャンダルを最大限に政治利用する構えを取りました。まず、フォード氏の告発ですが、27日の公聴会で明らかになったのは、次のような経緯です。 まず、事件が起きたのは1982年ごろで、その後は被害経験について口外することはなかったそうです。ただ、カバナー判事とその親友の二人が、押し倒した自分に対して見せた恐ろしい笑顔は終生トラウマになっているとしていました。その後、2012年に自宅を改築する際に事件の記憶が蘇り、どうしても玄関に二重に扉を付けたくなったのだと言います。そこで夫に告白すると同時に、セラピストに事情を話して支援を求めた事実があるそうです』、30年経っても事件の記憶が蘇るとは、トラウマはやはり恐ろしいものだ。
・『その上で、今年、2018年の7月になって、カバナー判事が連邦最高裁判事の候補の一人として「ショートリスト」に載ったという報道に接し「あの人物が司法の最高権力者になるのは何としても止めなくてはならない」という思いから、自分の住むカリフォルニア州選出のダイアン・ファインスタイン上院議員の事務所に告発を行ったとしています。 告発の主旨は、候補になるのを止めるためであり、自分の匿名性は守られる約束だったが、何故か「問題の発覚は正式に候補指名がされた後になった」し、また「ワシントン・ポスト」紙にリークがされたことで匿名性は守られなかったことになります。 しかし、フォード氏は、自分は市民の義務として、この問題を告発することにしたとしています。 ということで、問題はフォード氏の当初の意志とは異なる形で、「カバナー判事が連邦最高裁判事の候補に正式に決まってから」告発がリークされて行ったというタイミングにあるわけです。 老獪なファインスタイン議員は認めていませんが、民主党としてはフォード氏が求めたように「候補のショートリスト」から外しても政治的には効果は少ないわけです。 ですから、「正式な候補となってからスキャンダルが炸裂する」ように仕組んだ、そう判断するのが妥当でしょう。 これに加えて、11月6日の中間選挙の投票日も意識されています。民主党としては、正にこの9月中旬に問題が表面化し、10月一杯引きずって、あわよくば「更に新しい材料」が出るなり、徹底的に攻勢を強めて選挙に臨むという筋書きがあると思われます』、民主党は告発者の意志を踏みにじってでも、政治的に利用したとは、これが政治の世界とはいえ、汚い手を使うものだ。
・『一方の共和党としては、「火のないところに煙は立たず」ということは多少は理解しているものの、とにかく党の結束と、宗教保守派の抱き込みということを考えると、ここはカバナー擁護で突き進むしかないということなのでしょう。 さて、そんな中、27日の金曜日には前日の「双方の証人喚問」を受けて、上院司法委員会はカバナー候補を「上院本会議へ送る」かどうかの評決を行いました。前日から、「共和党中間派から3名が造反する」とか「反対に保守州選出の民主党議員1名が造反するかもしれない」など様々な情報が飛び交う中での評決となりました。 結果的には、共和党も民主党も造反は全く出ず、「11対10」でカバナー判事の承認を可決して、上院本会議へ案件送致ということになっています。但し、これには付帯条件があり、このフォード氏の告発について、FBIが追加での捜査を行うということになっています。評決を受けて、トランプ大統領は「FBIに対して捜査を正式に命令」したそうです。 これが本稿の時点での状況です。かなり細かな話になりますが、では、この現状が持つ意味というのはどんなことなのかという評価について、個別のエピソードも含めて整理しておこうと思います。(1)声を震わせながら告発を行ったフォード氏に対して、カバナー判事の証言は終始「怒り」に満ちていました。家庭が破壊される、自分の積み上げてきたキャリアも名声も破壊される、これは理不尽だという激しい怒りの表現でした。一部には「トランプ時代を乗り切るには喧嘩に持ち込むに限る、その点でカバナーは見事にそれをやった」などという論評もありました。(2)カバナー判事自身も、共和党の議員たちも「フォード氏の証言は虚偽だ」という反論は避けていました。つまり「この女性が恐ろしい体験をしたのは事実なのだろうが、相手がカバナー判事というのは思い違いだろう」というスタンスで一貫しており、この作戦は現時点では、まんまと当たった感じです。 (3)もっとも、カバナー証言の中で「10歳の娘がですね。その女の人のために祈りましょうと言ったんですよ。10歳なりに色々考えているんですね・・・ウウウウウ」と嗚咽したというシーンは、いくら何でも「やり過ぎ」という声もあります。(4)今回の公聴会で一番のハイライトは、共和党のリンゼー・グラハム議員が「これは私が政治家人生の中で経験した最悪の茶番だ」として民主党の党利党略を激しく批判したシーンでした。故マケイン議員の盟友として「あわよくばトランプ失脚」を画策しているという見方もされるグラハム議員ですが、この絶叫で「共和党を結束させた」という評価もあります。(5)公聴会の進め方ですが、共和党の議員たちは自分たちの「1人5分」の持ち時間を、「性犯罪の捜査の大ベテラン」だという女性検事を雇って、彼女に委任するという奇手を使いました。つまり「保守的な政治家が、かわいそうな犯罪被害者を寄ってたかって攻撃する」というイメージを回避するためです。「アニタ・ヒル事件」の際の教訓に学んだためのようですが、その検事はフォード氏の「虚偽を暴く」ようなことは一切せず、瑣末な質疑で時間を潰すという高等戦術を展開していたのでした。(6)注目されたのは、アリゾナ州選出のジェフ・フレイク議員です。彼は、共和党内での最も厳しい「アンチ・トランプ」で、そのために予備選突破の見込みが薄くなった中で今回の中間選挙には出馬断念をしている政治家です。つまり中間派ということで、カバナー承認への「造反」が期待されていました。ですが、彼は「賛成」に回る一方で「FBI捜査を要求」という付帯条件を引き出すことに成功しています。そんな中で、「賛成に回る」ことを表明した直後に、議場へ向かうエレベーター内で「レイプ被害者2名」から厳しい追及を受けつつも、それを誠実に聞くというパフォーマンスを行なっていました。この一連の立ち回りで、「2020年の大統領予備選でトランプにチャレンジ」という線が十分に残ったという評価もあります。(7)一部には、カバナー氏という人物は、男尊女卑のエリート・カルチャーに染まり過ぎで、しかも酒グセが悪いので有名であり、調べればどんどんホコリが出てくるという説もあります。仮にそうだとすると、民主党としては選挙直前の10月に「カバナー引きずり下ろしのドラマ」が実現するかもしれないという期待を高めているということになります。(8)一方で、共和党側としては、とりあえず結束して選挙戦を戦う一方で、今回の「カバナー劇場」の影の主役というべき、グラハム、フレイクといった政治家たちは、心の奥底では「トランプ失脚」が国益と考えているわけで、その点では「カバナー承認失敗」となっても構わない、だからこそ「FBI捜査」という「民主党の長引かせ戦術」にも同意したのだと思います。トランプがこれに飛びついたのは、ケリー補佐官などが「罠」にハマることを恐れて、リスクを低減するように進言したからでしょう。 (9)ちなみにカバナー判事は敬虔なカトリックだそうですが、カトリックの重要組織であるイエズス会は、カバナー判事に対して「指名の辞退」を提言しているそうです。その辺に、一つの「出口」も用意されているというわけです。 いずれにしても、この「劇場」の全体は、中間選挙の投票日である11月6日を強く意識しながらの、カレンダーをにらんだ騙し合いになって来ました。バカバカしい政治ドラマといえば、それまでですが、もしかしたらこの事件を契機に歴史が転換するかもしれない以上、注視していくしかなさそうです』、今日の新聞によれば、FBI調査の結果は「疑惑事実なかった」 と共和党幹部が伝えたと報道されている。「忖度」が働いたのかも知れないが、民主党側は恐らく黙っていないだろう。今後の展開が見物だ。
先ずは、ボストン コンサルティング グループ シニア・アドバイザーの御立 尚資氏が9月27日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「トランプがぶち壊す「戦いの品格」 崩れ去る「美しい伝統的な米国的価値観」」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/213747/092000079/?P=1
・『米国在住の友人の勧めで、2018年9月1日に行われたジョン・マケイン上院議員の葬儀でのいくつかの弔辞をビデオで視聴、そして、その全文を読む機会を得た。長期にわたり、闘病生活を送っていた共和党の重鎮マケイン氏は、今年春に、バラク・オバマ、ジョージ・W・ブッシュの両元大統領に、自分の葬儀で弔辞を読むことを頼んでいたという。 ちなみに、オバマ氏は2008年の大統領選で、ブッシュ氏は2000年の共和党大統領候補予備選で、それぞれマケイン氏を破った人たちなので、もっとも強力な政敵二人に弔辞を頼んだということになる。特に、オバマ氏とは所属政党も思想信条もまったく異なるわけで、オバマ前大統領自身、依頼されたときは驚いたと述べている。 このオバマ氏の弔辞が、実に素晴らしい。非常に人間的であると同時に、マケイン氏、そしてオバマ氏自身が体現する「米国の良い部分とそのリーダーに求められる品格」を、しみじみと感じさせるものだ』、日本でも「終活」ブームだが、弔辞を読む人を指名するとはさすがだ。
・『オバマ氏とブッシュ氏に弔辞を頼んだマケイン氏 たとえば、まず自分とブッシュ元大統領に弔辞を頼むこと自体が、マケイン氏のユーモアのセンス、ちょっといたずら好きの性格、さらには過去の違いを乗り越えて共通の土俵を探し求める、という価値観を示していると述べる。そのあとで、米国の価値観とは何か、が格調高い英語で続く。(英語版は省略するのでリンク先参照) [私訳:ジョンと私は、あらゆる種類の外交問題で意見を異にしていたが、米国の果たすべき役割についての考え方は一致していた。米国は、世界になくてはならない国であり、大きな力と恵まれた地位にあることには、必ず大きな責任が伴うことを(二人とも)信じていたからだ。 米国の安全が保障されること、米国が世界に影響力を持つことは、単に我々が強大な軍事力をもつから、あるいは、豊かな富をもつからではない。他者を我々の意思に添うようにさせる能力があるからだけではない。我々が、法の支配、人権の尊重といった一群の普遍的な価値観に従い続けることで、他者を鼓舞する力を持つからこそだ。人類の一人ひとりが、神から与えられた尊厳を有するということに、我々がこだわりつづけるからこそだ。] ここでオバマ氏によって表現されているのは、米国の伝統的な価値観への揺るぎない信頼であり、また政敵同士でも、共通の価値観の上にたつことについては、相互に信頼しあっているということだ。全米にライブ中継される葬儀での弔辞であるからには、これは米国国民の多くに通じる共通感覚であるというのが大前提なのだろう』、さすが格調が高く、トランプへのあてつけもある弔辞だ。
・『一方、この葬儀に故人の遺志で招待されなかったと伝えられるトランプ大統領、そしてその支持者たちは、どう考えてもこういった価値観を共有しているとは思えない。 また、トランプ氏の言動からは、政敵と相互信頼関係に立つことが良いことだという思考は、彼の信条とまったく相いれないように見受けられる。 彼の支持者たちにとっては、「美しい伝統的な米国的価値観」は限られたエリートたちのもので、くそくらえ。自分たちの不満や苦しみを和らげてくれる可能性があるならば、そんなエスタブリッシュメントの価値観をぶちこわす言動を繰り返す、トランプ氏こそが希望の星だ、ということになる。 この極端な違いをどう受け止めるべきなのだろうか。よく言われるように、トランプのアメリカとそれ以外のアメリカ、2つの別の国が、米国の中にあるとしか思えない。 もちろん、米国の「価値観」の中には、無意識のうちに、他の文化体系や価値観を見下すような部分が含まれている。また、従来から米国の国益のためには「タテマエ」ではなく「本音」に従い、随分身勝手な行動をしてきた例も多々ある。中東で反米政権に対抗する反政府勢力に援助をつづけてきたことは、その一例だ(ちなみに、その一部は、後に反米テロリスト組織へと変貌した)。 ただ、この建前としての価値観は、欧州や日本を含め、多くの国や地域でそれなりの普遍性をもって受け止められ、民主主義と自由貿易というグローバルルールの根幹となってきた。これは米国の軍事力とも組み合わさって、世界のガバナンスシステムも形作ってきた。 最近、『武士の日本史』(高橋昌明著、岩波新書)という大変面白い本を読んだのだが、その中に、中世の典型的な合戦の様子が出てくる』、米国の「本音」に従った身勝手な行動にも触れるとは、さすがだ。
・『かえりみられなくなったいくさ始めの作法 両軍は、自軍の前に楯を並べ立て、約55メートルから109メートルの距離を隔てて対峙する。鬨の声を三度あげてから、いくさ始めの作法として音を発する鏑矢をそれぞれの陣営の騎馬武者が射て、弓矢による戦闘が始まる、のだそうだ。 これは、ある形式化されたルールの下で戦闘行為を行うという共通理解があってこそ成り立つことだろう。時を経て、戦国時代になり、銃や槍が兵器の中心になってからは、当然このような「約束事」は時代遅れなものとして、かえりみられなくなったようだ。 オバマ氏やマケイン氏、あるいはここでは触れなかったがブッシュ氏にも共通する「価値観」と政治論争上の「約束事」。これが、中世の戦の「作法」と同様、時代遅れなものとなっていくのかどうか。今はその重要な分岐点にあるのだと思う。 内向きの米国政治、あるいは世界のあちこちに広がる「アンチ既存システム」だけを訴えるポピュリズムの流れの中で、この価値観が時代遅れなものとなり、世界のガバナンスシステムが崩壊していくのを見過ごすわけにはいかない。 単に、米国的価値観の崩壊を外部から見るだけでなく、そのどの部分はどう残し、新たな価値観として何を加えるのか。特に、個人の尊厳と機会の平等という建前の裏側で、大きな経済的不平等が拡がり、中流階級が崩れ去っていったここ数十年の現実。これをデジタル産業革命の中で、どう組み立て直していくのか。これらの問いは、われわれ日本人にも突き付けられた大きな宿題ではないだろうか』、さすがに日本人にも深い問題を提起してくれた。
・『さて、マケイン上院議員が事前に弔辞を頼んだ相手が、もう一人いる。彼の娘であるメーガン・マケインさんだ。彼女の弔辞は、韻の使い方や語句の繰り返しなど、質の高い美しい英語の見本のような文章であり、またそれが故人の娘としてのあふれる思いと相まって、実に心を動かす素晴らしいものだった。 ご興味がある方は、ネット上で容易に探せるので、ぜひご覧になることをお勧めしたい(特に、最初から12分強を経過したあたりから)。少しだけ、引用してみよう。 「ジョン・マケインのアメリカはずっと偉大である」(英語版は省略するのでリンク先参照)[私訳:ジョン・マケインのアメリカは、(周囲に対して)寛大であり、友好的であり、そしてまた大胆に挑戦もする存在です。臨機応変で、自信に満ち、どっしりと構えています。自らの責任を果たし、その強さゆえに、静かに語ります。アメリカは自慢げに語ったりはしません。そんなことをする必要がないゆえに。ジョン・マケインのアメリカは、「もう一度偉大になる」必要などありません。なぜなら、アメリカはずっと偉大であるから] 最後の部分は、言うまでもなく、トランプ大統領を名指しにはしないものの、彼に対する強烈な皮肉になっている。この部分では、弔辞であるにもかかわらず、聴衆から拍手がわき、それが長く続いた』、「トランプ大統領」に対する強烈な皮肉が聴衆に受けたというのは、分断を象徴している。
・『ライバル2人に加えて、最愛の娘に自分の弔辞を頼み「私はどうすればいいの」と聞いた娘に対し、「おまえが、いかに勇気があるかを聴衆に見せてやればよいんだ」と答えたというマケイン氏。ごくごく個人的には、自分の娘にこのような弔辞を読んでもらえるということが、本当に素晴らしいと思うし、ちょっぴり羨ましい』、これは世の中のオヤジに共通する羨望だろう。
次に、東洋大学教授の薬師寺 克行氏が10月3日付け東洋経済オンラインに寄稿した「各国首脳はトランプ大統領とどう向き合うか 国連総会演説でわかるそれぞれの苦悩」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/240653
・『毎年9月下旬に開かれる国連総会で各国首脳らが行う「一般討論演説」は実に面白い。それぞれ制限時間は15分だが、しゃべることで身を立ててきた人物がそろっているため、なかなか時間どおりにはすまない。過去最長記録は約8時間だという。 多くの首脳は内政や外交で自らが成し遂げた成果を誇示するが、同時に国際情勢などについてそれぞれの問題意識を披歴する。メディアが報じるのは北朝鮮問題など注目されているテーマに触れたごく一部の首脳の発言だけだ。しかし、多くの首脳は結構、真剣に準備し、本気で自らの政治理念や哲学、思想などを語っている。その共通項を探ると、今、世界が直面している問題が意外なほど、くっきりと浮かんでくる。 そして言うまでもないことだが今年、多くの首脳が触れたのは、アメリカのドナルド・トランプ大統領の登場によって自由貿易や民主主義、国際協調などというこれまで当たり前とされてきた世界秩序が揺らぎつつあることへの不安や懸念だった』、制限時間15分のところを約8時間も演説したとは、大した心臓だ。
・『失笑の中、自国中心主義を披歴したトランプ大統領 まず、トランプ大統領の演説を紹介しよう。 冒頭、トランプ大統領はいきなり、各国の外交官らから失笑を買った。開口一番、「大統領に就任して2年もたっていないが、われわれの国の歴史の中で過去のどの政権より多くのことを成し遂げた」と発言した。続けて「アメリカは…」と言いかけたところで、会場に笑い声があふれた。それにあわてたのかトランプ氏は「本当だ。しかし、こんな反応は予期していなかった。まあいい」と取り繕った。そこで再び笑いと拍手が飛び出した。総会会場内は明らかにトランプ氏の発言を嘲笑している空気だった。 トランプ氏はそんな空気などお構いなしに、自分のペースに戻った。核開発問題で対立するイランへの批判、米国大使館をイスラエルの首都・エルサレムに移したことの正当化、WTO(世界貿易機関)や国連人権理事会や国際刑事裁判所などの国際機関を批判するなど言いたい放題だ。 そして、「アメリカは常に自国の利益のために行動する」「アメリカはアメリカによって統治されている。我々はグローバリズムというイデオロギーを拒否する。そして愛国主義を信奉する」と、世界に背を向けるような持論を滔々(とうとう)と述べた。国際協調を象徴する国連という場で、その根本の精神を正面から否定したのである。国連にとっては悪夢のような演説である』、トランプの心臓は本当に強そうだ。しかし、国連でまで自国中心主義を唱えるようでは、ついてくる国はなく、孤立を強めるだけだろう。外交というより、国内の支持者向けなのだろう。
・『こうしたトランプ大統領の主張を真っ向から批判したのがフランスのエマニュエル・マクロン大統領だった。 現在の国際情勢が危機的であるという認識を示したうえでマクロン氏は、これから先いくつかの道があるがその1つが「適者生存」の道だと指摘した。「みんながそれぞれの法律に従おうとする単独行動主義の道だ。これは論争や摩擦を広げ、全員が損をする」「適者生存という道はフラストレーションを増やし、暴力を増やすだけだ」と述べた。「適者生存」とは、環境に適した生物だけが生き残るという考えであり、マクロン氏はそれがトランプ大統領の考え方に通じるものがあるとして、間接的ではあるが批判しているのだ。 そしてマクロン氏は世界がとるべき道として、多国間主義の重要性を強調した。「平和実現のためには多国間のシステムを再構築し、現実的な手法で紛争を解決していくべきだ」「ナショナリズムの騒音がいつも破局を招くことを忘れてはならない」と、歴史観あふれる世界観を展開した。トランプ大統領という言葉は一度も登場しないが、繰り返し単独行動主義や大国主義を批判している。 だからと言ってトランプ大統領とマクロン大統領が犬猿の仲というわけではない。言うべき時には米国に対してもストレートに物を言う。歴史的にアメリカとの距離感を重視してきたフランスらしい巧妙な演説だ』、間接的にトランプ主義を批判するとはさすがマクロンだ。
・『メイ首相「メディアの独立は民主主義の基盤」 アメリカとは特別の関係と言われる英国のテリーザ・メイ首相も黙ってはいなかった。 「英国民はEU(欧州連合)を出るという投票をしたが、それは多国間主義や国際協調を否定したのではない」「こういう時のリーダーシップははっきりしている。価値を共有して、同盟国や仲間と国際的に協力していくことだ」などと述べて、やはりトランプ大統領の身勝手な自己中心的外交を間接的に批判している。 メイ首相は英国的なジョークも忘れなかった。 現在、メイ首相はEU離脱をめぐる交渉が難航し国内メディアから連日のように批判されている。そんなことを念頭に、「各国首脳の皆さん同様、私は英国のメディアが自分について書いていることを読むのは楽しくない。しかし、メディアがそういうことをする権利を私は守る。メディアの独立というのは英国の偉大な業績の一つだ。そしてそれは民主主義の基盤でもある」と述べた。 これは自らを批判するメディアをフェイクニュースと揶揄し、「メディアは国民の敵だ」と言い切ったトランプ氏への痛烈な批判以外の何物でもない。聞く側が思わずニヤリとしてしまうような表現はさすがというべきか』、素晴らしい。
・『マクロン大統領やメイ首相のトランプ大統領に対する批判はともにストレート・パンチではなく、それぞれの味がある。単純な批判ではなく、どこか物分かりの悪い頑固者に対し、人類の歴史や世界のあり方を踏まえつつ諭すようなトーンでもある。同時に国際社会の主要な担い手という自覚や責任感と、現状への強い危機感を感じさせる。 同じ米国批判でも、中国の場合は少々趣が違った。 登場したのは王毅外相で、膨大な貿易赤字を理由に制裁関税をかけるアメリカの対応を「保護主義だ」などと時間をかけて批判したのは当然だろう。 王外相は英仏の首脳同様、多国間主義の重要性についても触れた。「われわれは現在の多国間主義を維持するのか、単独行動主義に好きにさせるのか。今の国際秩序を維持すべきか、腐敗にむしばまれることを許すのか。これは人類の運命にとって極めて重要な問題だ」などと滔々と論じた。一般論としてはその通りだ。 しかし、その先に中国の手前味噌な主張が並ぶ。「中国は一度も多国間主義に対する信念が揺らいだことはない」「中国は多国間主義への関与を維持し、そのチャンピオンであり続ける」というのだ。さらに、ウィンウィンの協力関係、規則や秩序にのっとって行動する、他国の主権や独立を尊重するなどの原則が重要だと述べている。 こうなるとアメリカ同様の自国中心主義が透けて見えてくる。また、南シナ海や尖閣諸島などでの行動をみても、中国の言っていることとやっていることの乖離が大きすぎて、とても信用できるものではない。中国の場合は国連総会という場を、自己正当化のキャンペーンに利用していると見たほうがよさそうだ』、確かに中国の主張はしらじらしいが、現在の米国との関係を踏まえれば多少は理解できる。
・『昨年と様変わり、本音が透けて見えた北朝鮮 そんな中、非核化をめぐってアメリカとの駆け引きがヤマ場を迎えている北朝鮮の演説は、本音が透けて見えて面白い。 登壇者は李容浩(リ・ヨンホ)外相だった。李外相は昨年の国連総会でも演説した。この時は初登場のトランプ大統領が北朝鮮について、「ならず者の体制だ」「ロケットマンが自殺行為の任務を進めている」などと徹底的に批判した。 その直後だったこともあって李外相は冒頭からトランプ大統領を敬称なしで徹底的に批判した。「トランプは精神的に錯乱し、誇大妄想と自己満足にあふれた人物だ」「就任から8カ月でホワイトハウスを、お金を計算する音があふれる場所にし、国連をお金が尊敬され、血を流すことが議事日程となっているギャング団の巣にしようとしている」と、北朝鮮らしい激しい言葉を並べた。 ところが今年は大きくトーンが変わった。 一連の南北首脳会談と先の米朝首脳会談の成果を詳しく紹介したうえで、米朝関係が膠着状態にある最大の理由が、相互に信頼関係がないためだと主張した。しかし、批判の矛先をトランプ大統領には向けなかった。「アメリカの国内政治の問題だ。政治的野党は北朝鮮を信用できないと言うのが仕事だ。そして政府に非合理な単独行動的な要求を北朝鮮にさせようとしている。その結果、円滑な対話や交渉ができない」と述べて、慎重に言葉を選びながら、トランプ大統領批判を巧みに避けつつ、米国の対応を批判している。 細部に神経を使った演説の構成は、北朝鮮が何としても米朝交渉を進展させたいと考えていることが伝わってくる面白さがある』、この記事では安倍首相の演説は紹介されてないが、新聞報道では「北朝鮮の変化に最大の関心」と対話路線を打ち出したようだ。
・『トランプ大統領に、あの手この手で対抗 各国首脳の演説に共通していたのは「多国間主義」の支持であり、トランプが推し進める「単独行動主義」「自国中心主義」への危機感だった。痩せても枯れてもアメリカはまだ世界を動かす大国であり、トランプ大統領の一挙手一投足が、各国の政治、経済、安全保障に大きな影響を与える。 そしてトランプ大統領をストレートに批判しても逆に反発を買うだけで、状況は何も変わらない。かといって黙って見ているわけにはいかない。ではどうすればいいのか。あの手この手で何とか状況を変えたいと苦悩している各国首脳たちの姿が、今回の演説から浮かび上がってきた』、各国首脳たちにとっては、中間選挙などでトランプの力が弱まるのを、待つしかないのかも知れない。
第三に、在米作家の冷泉彰彦氏が9月29日付けメールマガジンJMMに掲載した「[JMM1021Sa]「最高裁判事候補のスキャンダルと、政治のタイミング」」を紹介しよう。
・『アメリカにおける連邦最高裁の判事指名というのは、指名し承認されることで、最高裁判事の構成が変わるわけですから、下手をすれば憲法判断に変化が起きることにもなりかねません。ですから、誰が指名されるかというのは、政治的に大きな問題になります。 そのインパクトゆえに、この最高裁判事指名というのは様々なドラマを生み出して来ました。例えば、1991年にブッシュ(父)が、クラレンス・トーマス判事を指名した際には、「アニタ・ヒル事件」というのが起きました。 このアニタ・ヒルというのは、現在は法律学者として活躍している女性ですが、弁護士資格を持ってトーマス判事の補佐役をしていた際に「セクシャル・ハラスメント」の被害を受けたとして、同判事に対する告発を行ったのです。 結果的に、議会の公聴会が行われましたが、セクハラに関する認識が現在とは違って貧困な中、ヒル氏の主張には十分な配慮は与えられず、最終的にトーマス判事は承認されて最高裁判事に就任し、現在に至っています』、米国の最高裁判事は終身なので、議会の承認手続きは一応慎重なようだ。
・『今回は、トランプ大統領が指名した候補のブレット・カバナー判事について、性的暴行の疑惑が明るみに出て、上院司法委員会の公聴会が行われました。この27日(木)終日かけて行われた公聴会は、「アニタ・ヒル事件」以来久々に全米の注目を浴びることになったのです。何しろ、ほぼ9時間にわたる公聴会を、ケーブル・ニュース各局は勿論、日本の地上波に当たる3大ネットワークも特番を組んで終日放映したぐらいです。 まず、今回のカバナー判事指名に至った経緯ですが、中間派とみなされていたケネディ判事が引退を表明したことから、新たな判事の指名が必要になる中で、保守派という評価のあるカバナー判事候補の指名が行われたのは、2つの大きな要因があります。 1つは、このカバナー指名というのが、元来は相性の悪い「トランプと宗教保守派」の距離を埋める存在ということです。つまり、11月6日の中間選挙の投票日に向けて、トランプと宗教保守派に強い「同盟関係」を形成する、そんな意味合いが指摘できます。 2つ目は、単に「宗教保守派を満足させる」というだけでなく、共和党の結束を固めるという意味でも、この時期に連邦最高裁判事候補として、保守派を指名するということは、政治的な効果が計算されていたのです。 そのカバナー判事に、性的暴力事件に関与していたという複数の疑惑が浮上しました。1つは、カバナー判事が俗にプレップスクールと言われる名門私立高校に在学中、当時15歳であった女性を押し倒してワイセツな行為をしようとしたというものです。 被害を訴えているのは、心理学者でパロアルト大学の教授であるクリスティン・フォードという女性です。 もう1つは、イエール大学時代のカバナー判事が、酒に酔って下半身を露出し、女性に嫌がらせをしたという生々しい内容です。雑誌『ニューヨーカー』がスクープしたもので、この他にも現時点では更に2つの疑惑が公表されています。 こうした中で、民主党の側は、このスキャンダルを最大限に政治利用する構えを取りました。まず、フォード氏の告発ですが、27日の公聴会で明らかになったのは、次のような経緯です。 まず、事件が起きたのは1982年ごろで、その後は被害経験について口外することはなかったそうです。ただ、カバナー判事とその親友の二人が、押し倒した自分に対して見せた恐ろしい笑顔は終生トラウマになっているとしていました。その後、2012年に自宅を改築する際に事件の記憶が蘇り、どうしても玄関に二重に扉を付けたくなったのだと言います。そこで夫に告白すると同時に、セラピストに事情を話して支援を求めた事実があるそうです』、30年経っても事件の記憶が蘇るとは、トラウマはやはり恐ろしいものだ。
・『その上で、今年、2018年の7月になって、カバナー判事が連邦最高裁判事の候補の一人として「ショートリスト」に載ったという報道に接し「あの人物が司法の最高権力者になるのは何としても止めなくてはならない」という思いから、自分の住むカリフォルニア州選出のダイアン・ファインスタイン上院議員の事務所に告発を行ったとしています。 告発の主旨は、候補になるのを止めるためであり、自分の匿名性は守られる約束だったが、何故か「問題の発覚は正式に候補指名がされた後になった」し、また「ワシントン・ポスト」紙にリークがされたことで匿名性は守られなかったことになります。 しかし、フォード氏は、自分は市民の義務として、この問題を告発することにしたとしています。 ということで、問題はフォード氏の当初の意志とは異なる形で、「カバナー判事が連邦最高裁判事の候補に正式に決まってから」告発がリークされて行ったというタイミングにあるわけです。 老獪なファインスタイン議員は認めていませんが、民主党としてはフォード氏が求めたように「候補のショートリスト」から外しても政治的には効果は少ないわけです。 ですから、「正式な候補となってからスキャンダルが炸裂する」ように仕組んだ、そう判断するのが妥当でしょう。 これに加えて、11月6日の中間選挙の投票日も意識されています。民主党としては、正にこの9月中旬に問題が表面化し、10月一杯引きずって、あわよくば「更に新しい材料」が出るなり、徹底的に攻勢を強めて選挙に臨むという筋書きがあると思われます』、民主党は告発者の意志を踏みにじってでも、政治的に利用したとは、これが政治の世界とはいえ、汚い手を使うものだ。
・『一方の共和党としては、「火のないところに煙は立たず」ということは多少は理解しているものの、とにかく党の結束と、宗教保守派の抱き込みということを考えると、ここはカバナー擁護で突き進むしかないということなのでしょう。 さて、そんな中、27日の金曜日には前日の「双方の証人喚問」を受けて、上院司法委員会はカバナー候補を「上院本会議へ送る」かどうかの評決を行いました。前日から、「共和党中間派から3名が造反する」とか「反対に保守州選出の民主党議員1名が造反するかもしれない」など様々な情報が飛び交う中での評決となりました。 結果的には、共和党も民主党も造反は全く出ず、「11対10」でカバナー判事の承認を可決して、上院本会議へ案件送致ということになっています。但し、これには付帯条件があり、このフォード氏の告発について、FBIが追加での捜査を行うということになっています。評決を受けて、トランプ大統領は「FBIに対して捜査を正式に命令」したそうです。 これが本稿の時点での状況です。かなり細かな話になりますが、では、この現状が持つ意味というのはどんなことなのかという評価について、個別のエピソードも含めて整理しておこうと思います。(1)声を震わせながら告発を行ったフォード氏に対して、カバナー判事の証言は終始「怒り」に満ちていました。家庭が破壊される、自分の積み上げてきたキャリアも名声も破壊される、これは理不尽だという激しい怒りの表現でした。一部には「トランプ時代を乗り切るには喧嘩に持ち込むに限る、その点でカバナーは見事にそれをやった」などという論評もありました。(2)カバナー判事自身も、共和党の議員たちも「フォード氏の証言は虚偽だ」という反論は避けていました。つまり「この女性が恐ろしい体験をしたのは事実なのだろうが、相手がカバナー判事というのは思い違いだろう」というスタンスで一貫しており、この作戦は現時点では、まんまと当たった感じです。 (3)もっとも、カバナー証言の中で「10歳の娘がですね。その女の人のために祈りましょうと言ったんですよ。10歳なりに色々考えているんですね・・・ウウウウウ」と嗚咽したというシーンは、いくら何でも「やり過ぎ」という声もあります。(4)今回の公聴会で一番のハイライトは、共和党のリンゼー・グラハム議員が「これは私が政治家人生の中で経験した最悪の茶番だ」として民主党の党利党略を激しく批判したシーンでした。故マケイン議員の盟友として「あわよくばトランプ失脚」を画策しているという見方もされるグラハム議員ですが、この絶叫で「共和党を結束させた」という評価もあります。(5)公聴会の進め方ですが、共和党の議員たちは自分たちの「1人5分」の持ち時間を、「性犯罪の捜査の大ベテラン」だという女性検事を雇って、彼女に委任するという奇手を使いました。つまり「保守的な政治家が、かわいそうな犯罪被害者を寄ってたかって攻撃する」というイメージを回避するためです。「アニタ・ヒル事件」の際の教訓に学んだためのようですが、その検事はフォード氏の「虚偽を暴く」ようなことは一切せず、瑣末な質疑で時間を潰すという高等戦術を展開していたのでした。(6)注目されたのは、アリゾナ州選出のジェフ・フレイク議員です。彼は、共和党内での最も厳しい「アンチ・トランプ」で、そのために予備選突破の見込みが薄くなった中で今回の中間選挙には出馬断念をしている政治家です。つまり中間派ということで、カバナー承認への「造反」が期待されていました。ですが、彼は「賛成」に回る一方で「FBI捜査を要求」という付帯条件を引き出すことに成功しています。そんな中で、「賛成に回る」ことを表明した直後に、議場へ向かうエレベーター内で「レイプ被害者2名」から厳しい追及を受けつつも、それを誠実に聞くというパフォーマンスを行なっていました。この一連の立ち回りで、「2020年の大統領予備選でトランプにチャレンジ」という線が十分に残ったという評価もあります。(7)一部には、カバナー氏という人物は、男尊女卑のエリート・カルチャーに染まり過ぎで、しかも酒グセが悪いので有名であり、調べればどんどんホコリが出てくるという説もあります。仮にそうだとすると、民主党としては選挙直前の10月に「カバナー引きずり下ろしのドラマ」が実現するかもしれないという期待を高めているということになります。(8)一方で、共和党側としては、とりあえず結束して選挙戦を戦う一方で、今回の「カバナー劇場」の影の主役というべき、グラハム、フレイクといった政治家たちは、心の奥底では「トランプ失脚」が国益と考えているわけで、その点では「カバナー承認失敗」となっても構わない、だからこそ「FBI捜査」という「民主党の長引かせ戦術」にも同意したのだと思います。トランプがこれに飛びついたのは、ケリー補佐官などが「罠」にハマることを恐れて、リスクを低減するように進言したからでしょう。 (9)ちなみにカバナー判事は敬虔なカトリックだそうですが、カトリックの重要組織であるイエズス会は、カバナー判事に対して「指名の辞退」を提言しているそうです。その辺に、一つの「出口」も用意されているというわけです。 いずれにしても、この「劇場」の全体は、中間選挙の投票日である11月6日を強く意識しながらの、カレンダーをにらんだ騙し合いになって来ました。バカバカしい政治ドラマといえば、それまでですが、もしかしたらこの事件を契機に歴史が転換するかもしれない以上、注視していくしかなさそうです』、今日の新聞によれば、FBI調査の結果は「疑惑事実なかった」 と共和党幹部が伝えたと報道されている。「忖度」が働いたのかも知れないが、民主党側は恐らく黙っていないだろう。今後の展開が見物だ。
タグ:トランプが推し進める「単独行動主義」「自国中心主義」への危機感 「トランプがぶち壊す「戦いの品格」 崩れ去る「美しい伝統的な米国的価値観」」 トランプ大統領、そしてその支持者 各国首脳の演説に共通 昨年と様変わり、本音が透けて見えた北朝鮮 南シナ海や尖閣諸島などでの行動をみても、中国の言っていることとやっていることの乖離が大きすぎて、とても信用できるものではない 元来は相性の悪い「トランプと宗教保守派」の距離を埋める存在 9時間にわたる公聴会 多国間主義の重要性 セクハラに関する認識が現在とは違って貧困な中、ヒル氏の主張には十分な配慮は与えられず、最終的にトーマス判事は承認されて最高裁判事に就任 「アニタ・ヒル事件」 性的暴行の疑惑 ブレット・カバナー判事 クラレンス・トーマス判事を指名 1991年 膨大な貿易赤字を理由に制裁関税をかけるアメリカの対応を「保護主義だ」などと時間をかけて批判したのは当然だろう 同じ米国批判でも、中国の場合は少々趣が違った メイ首相「メディアの独立は民主主義の基盤」 多国間主義の重要性を強調 みんながそれぞれの法律に従おうとする単独行動主義の道だ。これは論争や摩擦を広げ、全員が損をする」「適者生存という道はフラストレーションを増やし、暴力を増やすだけだ トランプ大統領の主張を真っ向から批判したのがフランスのエマニュエル・マクロン大統領 連邦最高裁の判事指名 失笑の中、自国中心主義を披歴したトランプ大統領 過去最長記録は約8時間 制限時間は15分 「[JMM1021Sa]「最高裁判事候補のスキャンダルと、政治のタイミング」」 一般討論演説 国連総会 「各国首脳はトランプ大統領とどう向き合うか 国連総会演説でわかるそれぞれの苦悩」 民主党としてはフォード氏が求めたように「候補のショートリスト」から外しても政治的には効果は少ないわけです。 ですから、「正式な候補となってからスキャンダルが炸裂する」ように仕組んだ、そう判断するのが妥当 問題はフォード氏の当初の意志とは異なる形で、「カバナー判事が連邦最高裁判事の候補に正式に決まってから」告発がリークされて行ったというタイミングにある 東洋経済オンライン 薬師寺 克行 カバナー判事が連邦最高裁判事の候補の一人として「ショートリスト」に載ったという報道に接し「あの人物が司法の最高権力者になるのは何としても止めなくてはならない」という思いから、自分の住むカリフォルニア州選出のダイアン・ファインスタイン上院議員の事務所に告発を行った 2012年に自宅を改築する際に事件の記憶が蘇り、どうしても玄関に二重に扉を付けたくなったのだと言います 1982年ごろで、その後は被害経験について口外することはなかったそうです。ただ、カバナー判事とその親友の二人が、押し倒した自分に対して見せた恐ろしい笑顔は終生トラウマになっているとしていました 米国の「価値観」の中には、無意識のうちに、他の文化体系や価値観を見下すような部分が含まれている。また、従来から米国の国益のためには「タテマエ」ではなく「本音」に従い、随分身勝手な行動をしてきた例も多々ある 更に2つの疑惑が公表 JMM 冷泉彰彦 FBIが追加での捜査を行う クリスティン・フォード FBI調査の結果は「疑惑事実なかった」 と共和党幹部が伝えたと報道されている 今年春に、バラク・オバマ、ジョージ・W・ブッシュの両元大統領に、自分の葬儀で弔辞を読むことを頼んでいた 結果的には、共和党も民主党も造反は全く出ず、「11対10」でカバナー判事の承認を可決して、上院本会議へ案件送致 御立 尚資 トランプ大統領 (その34)(トランプがぶち壊す「戦いの品格」 崩れ去る「美しい伝統的な米国的価値観」、各国首脳はトランプ大統領とどう向き合うか 国連総会演説でわかるそれぞれの苦悩、最高裁判事候補のスキャンダルと、政治のタイミング) 弔辞を頼んだ相手が、もう一人いる。彼の娘であるメーガン・マケインさん ジョン・マケイン上院議員の葬儀 彼の支持者たちにとっては、「美しい伝統的な米国的価値観」は限られたエリートたちのもので、くそくらえ。自分たちの不満や苦しみを和らげてくれる可能性があるならば、そんなエスタブリッシュメントの価値観をぶちこわす言動を繰り返す、トランプ氏こそが希望の星だ、ということになる オバマ氏の弔辞が、実に素晴らしい。非常に人間的であると同時に、マケイン氏、そしてオバマ氏自身が体現する「米国の良い部分とそのリーダーに求められる品格」を、しみじみと感じさせるものだ 日経ビジネスオンライン この建前としての価値観は、欧州や日本を含め、多くの国や地域でそれなりの普遍性をもって受け止められ、民主主義と自由貿易というグローバルルールの根幹となってきた。これは米国の軍事力とも組み合わさって、世界のガバナンスシステムも形作ってきた
ソーシャルメディア(その3)(ツイッターCEOが語る “つぶやき”の光と影、「中国人優遇」の偽ニュースはなぜ生まれたか 関空の中国人避難問題 一連の事実を検証、お騒がせリーダーがツイッターにハマる事情 「炎上」がマーケティングに使われている) [メディア]
ソーシャルメディアについては、7月6日に取上げた。今日は、(その3)(ツイッターCEOが語る “つぶやき”の光と影、「中国人優遇」の偽ニュースはなぜ生まれたか 関空の中国人避難問題 一連の事実を検証、お騒がせリーダーがツイッターにハマる事情 「炎上」がマーケティングに使われている)である。なお、タイトルから「フェイクニュースによる世論操作」はカットした。
先ずは、昨年11月21日付けNHK:クローズアップ現代+「ツイッターCEOが語る “つぶやき”の光と影」を紹介しよう。
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4067/index.html
・『「『死ね』『出て行け』『いなくなれ』。つらいです、苦しいです。ツイッター社の皆さん、どうか助けてください。」 ツイッター上にあふれる、在日外国人などへの差別、ヘイトツイート。ツイッター社に対して、今、削除を求める声が相次いでいます。 神奈川県座間市のアパートから9人の遺体が見つかった事件。ツイッターで若い女性を誘い出した容疑者は、海外で「ツイッターキラー」と報じられています。 影響力が拡大する一方、課題も浮かび上がるツイッター。その生みの親でもあるCEOが来日。テレビカメラの前で、初めてインタビューに応じました。 ツイッター創業者 ジャック・ドーシーCEO 「ツイッターが問題を引き起こすことも確かにあります。それでもツイッターを改善し、それによって、世界を良い方向に向かわせることができると信じています。」 次々と新たなコミュニケーションツールが登場し、人間関係が変化するSNSの時代。人々の無数のつぶやきの中の、光と影を見つめます』、具体的な問題にどんな言い訳をするのだろう。
・『座間“9人遺体”事件 悪用されたツイッター 9人の遺体が遺棄された、座間市の事件。白石隆浩容疑者は、ツイッターの特性を利用して、女性に近づいていました。 ツイッターには、無数のつぶやきの中から自分の関心に沿ったものを探す、検索機能があります。キーワードを入力すると、その言葉が入ったツイートが選び出されます。これに返信することで、つぶやいた本人と匿名でやり取りすることもできます。ツイッターの利用者数は、およそ4,500万人。 ほかのSNSと比べ、匿名で利用する人が多いのが特徴です。知人には話せないようなことも、知らない人であれば、気軽にやり取りできます。こうした空間で、容疑者は匿名アカウントを使い、被害者に近づいたと見られます』、匿名であれば犯罪にも使われ易いだろう。ただ、こんなアカウントを放置するのも無責任だ。
・『“ヘイトツイート”急増 追いこまれる人びと 匿名性によって助長される問題はそれだけではありません。急増する、ヘイトツイートです。在日外国人などに対する差別や、危害を加えるという書き込みが後を絶ちません。ツイッタージャパンの前に集まったのは、およそ100人。 ヘイトツイートを紙に印刷し、あえて目に見えるようにして、削除するよう訴えました。「見るもおぞましいものだと思いますけれども、これが現実なので、ぜひご覧になっていってください。」 1人の在日コリアン3世の女性がマイクを手にしました。 在日コリアン3世の女性 「私にとってのツイッターは、花芽が出たら、うれしくて、つぼみが膨らんだら、うれしくて、花が咲いたら、うれしくて、大切な人たちに知らせたくて、夜空に月が見えたら、それがうれしくて、それをツイートする。その心豊かな、大切なコミュニケーションツールでした。それが今は『死ね』『出て行け』『殺せ』『ゴキブリ』『いなくなれ』。毎日ツイッターの通知が来ると怖いです。つらいです。苦しいです。ツイッター社の皆さん、どうか助けてください。」 4年前にツイッターを始めた女性。今は利用するのも怖くなり、使うことはできずにいます。女性のツイートに対して、差別的な書き込みが行われ、拡散していったといいます。 在日コリアン3世の女性 「ツイッターはツイッターの特性で、来たものが、書かれたものが拡散していきますから、止めることができませんから。バスや電車で端末を操作している人がいると、『この人があれを書いた人かもしれない』というふうに怖くなったりしました。」』、確かにヘイトツイートを連日書きなぐられたら、アカウントを閉鎖せざるを得ないだろう。
・『こうした現状に、ツイッタージャパンでは危機感を強めています。笹本裕社長です。会社の前で行われた抗議活動を、インターネット中継を通じて見ていました。 ツイッタージャパン 笹本裕社長 「僕自身も海外に生活を幼少期していて、自分自身も向こうで、また帰国して、差別的なことを言われたりとか、実態があるので、ある意味、当事者として、あのデモを拝見していました。」 しかし、ヘイトツイートを一律に削除することは、一企業の対応では限界があると感じています。 ツイッタージャパン 笹本裕社長 「ヘイト自体は残念ながら、僕らの社会の一つの側面だと思う。それ自体がないものだとしてしまっても、実際にはあるわけですから、それ自体を認識しなくて社会が変わらなくなるよりは、それはそれで、ひとつあるということを認識して、社会全体が変えていくことになればと思います。」』、一般論で逃げられたのは残念だが、次のCEOインタビューに期待したい。
・『ツイッターCEOが語る 座間“9人遺体”事件 ゲスト ジャック・ドーシーさん(ツイッター社CEO) ツイッターの創業者、ジャック・ドーシーCEOに、初めてカメラの前で話を聞くことができました。直面する課題に対応するため、日本を訪れていました。ツイッターを悪用した座間市の事件について聞きました。 ── 事件についてご存じですか?どうお感じになっていますか? ドーシーさん:その話を聞いて、とても残念で悲しいです。ツイッターが健全に使われるように、責任を持って見守らなければなりません。今回のケースでは、ツイッターが「公共の場」であり、誰でも見られる事実を知ることが大事です。困っている人を早く支援者につなげて、助けてもらえるようにすべきです。ユーザーが「自殺したい」といった言葉をつぶやいた場合、他の人の働きかけで思いとどまるようにしてほしいのです。すべての事件・事故を防ぐことはできません。どんな技術を持っても、それは不可能です。それでも何か改善できることがないか、さまざまな観点から検討しています』、検討が「空手形」にならないよう見守りたい。
・『── ほかのSNSとの違いとして、ツイッターは匿名で投稿できる。そのことはユーザーの使い方に、どう影響している? ドーシーさん:私はツイッターはSNSだとは思っていません。SNSは友達・家族・クラスメート・同僚を探すツールですが、ツイッターは全く違います。ツイッターでは「関心」によって、誰かとつながるのです。関心を持ってツイッターを使うことで、面白い人たちと出会うことができます。彼らと会話することもあれば、ただフォローする場合もあります。これがツイッターとSNSの大きな違いで、この点でツイッターはユニークなのです。SNSと違い、知り合いを探すツールではない。本名は重要ではないのです。 その上でドーシー氏は、ツイッターの匿名性にも大切な意味があると語ります。 ドーシーさん:ツイッターは匿名なので、自由に話せますし、自分の正体がばれるのが怖くて発言できなかったり、その発言のせいで、政府から処分を受ける人も使うことができます。これまで「アラブの春」などでは、人々が、その正体を知られることなく、匿名で政府やリーダーに対して疑問を投げたり、デモを行いました。匿名性はツイッターのユーザーにとっては、とても重要なことです。「ツイッターはこういう風にしか使えません」と制限したくありません。どんな意見に対しても開かれた場であり、どう使うかはユユーザーに任せたい』、匿名性の意義は理解できたが、そうであればなおのこと犯罪への悪用に対する歯止めが必要になる筈だ。
・『ツイッターに規制? 事件再発をどう防ぐ ツイッターを悪用した、座間市の事件。今、国は再発防止のため、ツイッターに対する規制なども検討しています。 菅官房長官 「ツイッターの規制等でありますが、各省庁の取り組みをしっかり検討した上で、再発防止策を1か月めどに取りまとめたい。」 こうした中、ツイッター社は、安全に利用してもらうため、ルールの変更を進めています。今月(11月)、自殺や自傷行為の助長を禁止することを明記しました。必要とするユーザーに、相談先の情報を伝えることもあるとしています。また、ヘイトへの対策として、攻撃的、差別的なアカウント名の利用を禁止することに。ドーシー氏は、国に規制されるのではなく自助努力で対処していきたいとしています。 ドーシーさん:すべての人がツイッターを通して言いたいことを言えて、考えていることを発信できるようにしたい。それは私たちの仕事です。確かに、嫌がらせや悪用、人を傷つけるような使い方が増えている。取り組みを進めていますが、必ずしも、うまくいくとは限りません。私たちも時には間違えることもあれば、問題が生じることもある。ただ、同じ間違いは繰り返しません。大事なのは、世の中に対して、私たちのロードマップを広げ、考え方や問題に対する取り組み方、その優先順位などをわかってもらうことだと思っています』、「国に規制されるのではなく自助努力で対処していきたい」というのは結構なことだが、具体策のロードマップはいつ頃公開されるのだろう。
・『“ヘイトツイート” “表現”と“規制”のはざまで インターネットやSNS上にあふれる差別的な書き込みに対してはどうすればいいのか。 去年(2016年)国は、ヘイトスピーチをなくすための新たな法律を施行しました。しかし、インターネット上のヘイトについては、対策が打たれていないのが現状です。言論や表現の自由と、規制との両立は容易ではないからです。 こうした中、独自の条例を作って踏み込んだ対応を始めたのが、大阪市です。インターネット上の書き込みを、大学教授や弁護士らが審査し、ヘイトだと認められれば、運営側に削除を要請するというものです。しかし、これまでに行われた20回の審査で削除されたケースは、わずか5件。条例の適用は大阪市内に限られ、場所が特定できないものは削除できないからです。市の担当者も、ひぼう中傷の対象になる恐れがあるとして、匿名でインタビューに応じました。 大阪市担当者 「ネット空間に流れているものは、大阪市に関係あるかどうかというと、非常に判断というのが難しいところもある。国全体として、何らかの対応をお願いしないと、自治体としては、これ以上は無理だと考えております。」 一方、法務省は、ネット上のヘイトの規制は考えておらず、啓発活動を続けるとしています。 ネットやSNSに詳しい、ジャーナリストの津田大介さんです。 規制に向けたEUの動きを、日本も参考にするべきだと考えています。 ジャーナリスト 津田大介さん「(EUでは)ネットに書き込まれたヘイトスピーチを見つけた場合、(事業者に対し)24時間以内に削除しなさいと。その時にヨーロッパの場合は、削除にあたって、反差別で活動している、人権活動をしている団体があるので、そういう団体と連携してくださいと。実際に取り組みも始まっていて、一定の成果を上げている。一線を越えた差別表現というものは、言論(の自由の対象)ではない。これが多くの人の目に触れることで社会がどうなるのか。これに対して、明確にノーを突きつけていかないかぎり、次の段階、実際に影響された人が犯罪に走ることにつながっていくと思う。この段階で、きちんとこの問題に対処できるのかが、我々の社会がどうなるのかという分水嶺(れい)、岐路に立っていると思う」』、自主規制だけでは心もとないので、ヨーロッパ流の規制も検討すべきだろう。
・『トランプ大統領も次々に… 政治と“つぶやき”の関係 ツイッターは今、政治にも大きな影響を与えています。半世紀以上前、政治の在り方を変えたのは、テレビの出現でした。ケネディ大統領を誕生させたのは、初のテレビ討論だったと言われています。以来、政治家にとって、テレビは有権者と向き合う重要なツールとなってきましたが、トランプ大統領は、既存メディアと距離を置き、4,000万人を超えるフォロワーに、一方的にツイートしています。 トランプ大統領のツイート“壁”の代金を支払わないなら、メキシコとの首脳会談は中止だ。 トランプ大統領のツイート(性的少数者の)トランスジェンダーの人たちは、軍で働くことを認めない。 政治家が自分の考えを、いつでも好きなときに、直接国民に届けられる現代。大統領のつぶやきがそのままニュースとなり、世界を揺るがしている現状を、ツイッターの生みの親はどう感じているのでしょうか。 ── ドーシーさんは、トランプ大統領の政策を支持していますか? ドーシーさん:一般的には「ノー」です。移民政策に関しては、特にそうです。アメリカの移民を減らそう、または排除しようという考えには反対です。しかしリーダーの本音を直接聞くことは、内容がどんなことでも、とても大事だと思います。一人一人考え方も、伝え方も違いますから。私たちツイッターは、その内容がなんであれ、そうしたリーダーたちの声を、世の中に届けるマイクでありたい。 ── トランプ大統領がツイッターを強力なツールとして、どちらかというと国民を分断する、あるいは世界を分断する方向に進めていると感じる人が多いと思うが? ドーシーさん:人々を分断する考え方や、誰かがのけ者になる政策には強く反対します。いま地球上の人間は、環境問題のような共通の課題に直面しているわけですから、国の隔たりを越えて、みんなで協力すべきです。こういった場面でこそ、ツイッターは役に立つのです。ツイッターは私たちが一つの惑星に共存していることを再確認させてくれるツール。みんなが同じ状況下にあるわけですから、団結して同じ問題に立ち向かっていく必要があるのです』、なるほど。
・『ツイッターCEOが語る “つぶやき”の未来 インタビューの最後、ドーシー氏は、ツイッターが持つ新たな可能性について語りました。 ドーシーさん:私は楽観主義者です。人類の未来はとても明るいと考えていますし、未来に直面するであろう問題は、人々の手で解決できると考えています。そしてツイッターには、そのためのコミュニケーションの場となってほしい。人類が進化するためには、私たちが抱える課題について議論し、その問題が重要なのかそうではないのか、理解する必要があります。そうすれば、正しい方向にエネルギーを向けられます。私は、ツイッターは世界がよくなるための不可欠なツールだと思っているし、同時にそれが唯一のツールではないということもわかっています。私たちはベストを尽くしますし、ユーザーが世界をよくするために、ツイッターを利用して団結したいと考えているならば、その手助けをしたいし、支援していきたい。 ── ツイッターは、どんな意見にも開かれた場であるべきだ。そう語るドーシーさんは、自らの理想と現実のはざまで苦悩しているようにも見えました。社会の映し鏡となっている無数のつぶやき。それとどう向き合い、未来につなげていくのか。考え続けていきたいと思います』、ツイッターの今後の動きを注視していきたい。
次に、9月22日付け東洋経済オンライン「「中国人優遇」の偽ニュースはなぜ生まれたか 関空の中国人避難問題、一連の事実を検証」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/238795
・『9月19日に「東洋経済オンライン」に掲載した筆者の記事「大阪駐在の台湾外交官はなぜ死を選んだのか」では、台風21号によって一時閉鎖された関西国際空港での対応を巡り台湾で議論が巻き起こり、大阪に駐在していた台湾の外交官の自殺にまで至ってしまったことを伝えた。 この発端となったのが、「中国の領事館が関空にバスを派遣して中国人を救出し、優先的に中国人を避難させた」というSNSでの発信や大手台湾メディアでの報道だった。それが台湾で「なぜ駐日代表処(大使館に相当)は動かないのか」との議論に発展した。記事中ではこの発端となった情報をフェイクニュースとして扱った。 実際、記事を配信した19日には、東京にある台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表(大使に相当)が記者会見を開き、フェイクニュースを見極めるように呼びかけている。一方で、同日に中国の駐大阪総領事館は中国人旅行者の避難に協力したとして、バス会社など協力した会社や団体を表彰した。 いったい真相はどうだったのか。経緯を振り返りながら、改めて検証してみたい。なお、一連の事実は関西エアポートやバス会社などへの取材に基づくもの。中国総領事館は「新華社通信」の報道が公式見解であるとして、取材には直接回答しなかった。新華社通信は「領事館が救出活動に協力した」と報じているが、その詳細に触れた記事は確認できなかった』、これに関しては、このブログでも9/12で「関空、露見した「国際空港」としての巨大欠点・・・」として、事実であるかのように取上げたので、ここにお詫びしたい。それにしても、大阪駐在の台湾外交官の自殺とはフェイクニュースの恐ろしさを、改めて印象づけた。
・『約700名の中国人旅行者が残された 9月4日、関空では台風21号の影響で大規模浸水被害が発生し、数千人の旅行者が空港内に取り残された。取り残された旅行者には中国人や台湾人など外国人旅行者も含まれていた。関空を運営する関西エアポートは約700名の中国人旅行者がいたとしている。 そこで中国領事館は関西エアポートに対して、関空にバスを派遣して中国人を救出したいと要請した。関西エアポートによると、自国民の救出を申し出たのは中国だけではなかったようだ。ただし、破損した連絡橋の通行を制限していることやさらなる混乱を招く恐れがあるとして、同社はこれらの申し出を辞退した。 とはいえ、外国人旅行者のなかで中国人の人数は最多。団体客も多く、言語疎通に問題が生じたケースもあり、中国領事館のサポート提案の受け入れを検討した。そして、関西エアポートと航空各社、中国領事館の3者間で旅客を避難させる際は中国人旅行者をまとめて島外に出すよう調整が行われた。 この調整を受け、中国領事館は関空の対岸にある泉佐野市内のショッピングモールに空港から避難した中国人旅行者を迎えるバスを派遣した。関西エアポートも旅行者を空港から避難させる際は中国人だけを別に振り分けて、領事館が手配したバスが待つショッピングモールにバスで輸送することにした。 5日、中国人旅行者を含めて取り残されたすべての旅行者の避難が開始された。この時に、一部の旅行者の間で誤解が生じ始めた。中国人旅行者を振り分けるために、中国人はパスポートの確認を受けてからバスに搭乗。この対応を受けて、中国人旅行者や周囲の旅行者のなかには「中国人だから優遇を受けている」「領事館が尽力したから優先的に避難できる」といった誤解が生じ、SNS上で流布され始めたのだ。 また、関空から避難する際に搭乗したバスがほかの旅行者が搭乗したバスと行き先が異なることや(ほかの旅行者は南海電鉄の泉佐野駅に送られた)、事前にSNSなどを通じ中国領事館の努力を知っていたことから、「中国人が乗ったバスは領事館が手配したもの」という誤解も発生した。 しかし実際に関空からショッピングモールまで中国人を乗せたバスは、関西エアポートが手配したバスだった。関西エアポートは「避難に用いられたバスは自社が手配したもので、バスの手配も関空による決定。中国領事館が手配したバスは乗り入れていない」と話す。19日に中国領事館に表彰された南海バスの広報担当者も、「要請は関西エアポートからのもので、中国領事館からではない」と認める』、関西エアポートが無差別の原則での対応したのは当然だが、誤解が生じないよう放送などで周知徹底させるべきだったろう。もっとも、そんな余裕はなかったのかも知れないが・・・。
・『動画が誤解を「補強」 なぜどちらが手配したバスか、詳細に書いたのには理由がある。今回、空港から中国人旅行者だけが優先的に避難できたかのような複数の動画がSNS上に出回ったからだ。 動画は避難が開始された早い段階でバスに搭乗できた中国人旅行者が撮影したようだ。中には、中国領事館の職員とされる人物がバス車内で避難活動に参画している映像もあった。 しかし、繰り返しになるが、空港からのバスは関空が手配したもの。空港へのアクセスが規制される中で、中国が手配したバスだけが特別に通行を許可されたわけではなかった。 また動画が撮影された時点で、すでに中国人旅行客以外の旅行客も別のバスで避難を開始していたと見られる。実際、関西エアポートの広報担当者は「中国人旅行者が優先的に早く出た事実はない」とする。同社は「すべての旅行者の輸送は5日の23時をもって完了した」とのリリースを出しているが、広報は「中国人以外の旅行者の避難が完全に終了したのは5日の23時30分で、中国人旅行者は6日の0時近くだった」と話す。 一部の旅行者に生じた誤解が動画によってさらに誤解が強調され、台湾メディアもそれを見て事実確認を行わず報道、広く流布されたと考えられる。 以上、結論を言えば、中国領事館が同胞である中国人旅行者を救出するために尽力したのは事実だ。他方で、中国領事館が手配したバスは関空まで乗り入れておらず、中国人旅行者が優先的に避難した事実もない。結局、台湾メディアは事実を確認せずに、中国人旅行者が「優先的に避難した」と伝えてしまった』、あのような大混乱のなかでは、正確な情報提供が如何に重要かを物語っている。
・『ファクトチェック組織も「誤り」と指摘 これらの誤解に基づくネット上の偽情報は関西エアポートなどの当事者に問い合わせ、事実確認を行えばフェイクニュースとして流れなかったはずである。しかし、多くの台湾メディアはそれを怠ってしまった可能性がある。台湾大手新聞社の記者は「人員も十分でなく、スピードで他社と競争する以上、ネット情報を事実確認せず流すしかない時は多々ある」と事実確認の取材が甘い現状を語る。 9月15日には誤った情報が広がるのを防ぐためにファクトチェックを行う「台湾ファクトチェックセンター」が、「中国領事館が関西空港にバスを派遣し、優先的に中国人旅客を救った」ことは「誤り」だと指摘した(https://tfc-taiwan.org.tw/articles/150)。 台湾ファクトチェックセンターには日本でファクトチェックの普及を目指すファクトチェックイニシアティブジャパン(FIJ)も協力。FIJで理事長を務める早稲田大学政治経済学術院の瀬川至朗教授は「旅行者の誤解や思い込みが積み重なって、ネット上で広がった真偽不明の情報をしっかり事実確認せずに報道してしまった台湾の報道機関の責任は重い」と話す。 関西エアポートへの取材や台湾ファクトチェックセンターの発表を基に、19日に配信した筆者の記事では一連の情報を「フェイクニュース」と断言した。ただ、中国領事館が中国人の救出に尽力したことは事実であり、その点で表現に曖昧さが出てしまったことも否めない。 メディアがいかにネット上の真偽不明の情報に向き合うか、改めて問われる一件だった』、その通りだ。
第三に、コミュニケーション・ストラテジストの岡本 純子氏が10月2日付け東洋経済オンラインに寄稿した「お騒がせリーダーがツイッターにハマる事情 「炎上」がマーケティングに使われている」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/240064
・『新潮社の月刊誌「新潮45」をめぐる問題は休刊という形でいったんの幕引きが図られた。この騒動そのものの経緯や是非については、ほかの多くの論評にお任せするとして、今回は、企業の炎上商法とその落とし前のつけ方について少し考えてみたい。 これまで可視化されることのなかった多様な意見がネット上に表出し、クラスター(群集)化するようになり、どのような事象にも、共感する人、嫌悪感を示す人に分かれて対立軸を作るケースが目立つようになった。 自分の考え方に合った聞こえのよい情報のみを摂取していく「エコーチェンバー」(自分と同じ意見に満ちた閉じたコミュニティで、コミュニケーションを繰り返すことによって、自分の意見が増幅・強化されること)に身を置く人が増え、世論の分断化、二極化は世界中で広がっている』、「エコーチェンバー」とはピッタリの表現だ。
・『「無視されるより批判されるほうがまし」 星の数ほどの情報が氾濫する中で、耳目を集めるために、あえて、物議を醸す言動をする企業やセレブの、いわゆる「炎上商法」も珍しくなくなった。想定せずに炎上するケースもあるが、確信犯的に、摩擦を起こし、話題をさらうやり方は、「無視されるより批判されるほうがまし」と割り切れば、功を奏す場合も多くある。 その最たる例はアメリカのドナルド・トランプ大統領だ。これまでのどの大統領も許されなかったろう、暴言、品性のなさ、幼稚な言葉遣い、そして無謀な手法の数々。しかし、マスメディアからどんなにコテンパンにたたかれても、びくともせず、今でも40%を超える支持率を維持している。 慣れというのは恐ろしいもので、どんなにばかげた発言も、度重なれば見る者の既視感を増し、感覚がマヒしてしまうところもあるらしい。日本の政治家にも、たびたびの失言が「ああ、彼だから」と許されてしまう御仁もいる』、確かに慣れというのは恐ろしいものだ。
・『企業経営者の中にも、炎上やメディアからの攻撃をものともしないタイプが増えている。代表格はテスラのイーロン・マスク氏だろう。 マスク氏は、7月にタイの洞窟で遭難した少年たちを救ったダイバーを「小児性愛者だ」と侮辱したかと思うと、8月には「テスラ株を1株420ドルで非公開化することを検討中。資金は確保した」などと発言し、株式市場を大攪乱させながら、17日後には悪びれもせずに撤回した。 さらに同月のニューヨーク・タイムズのインタビューでは、ほとんど眠ることができていないことを涙ながらに語り、精神的に追い詰められていることをさらけ出したかと思えば、9月にはポッドキャスト(ネット上の音声番組)のインタビューで、大麻をくゆらせた。 そんな彼は批判的な報道が増えていることにいら立ち、5月に「メディアの信頼性を格付けするサイト『プラウダ』を立ち上げる」とぶち上げている。プラウダとは、ご存じのとおり、ソ連時代の共産党の機関紙の名前だ。このように、マスメディアとの徹底抗戦を恐れない手法はトランプと同様だ』、マスク氏は非公開化を巡る発言で米証券取引委員会(SEC)から会長職の退任と罰金を命じられたが、この程度では懲りないのではなかろうか。
・『「お騒がせリーダー」の武器 常人には理解できない謎の行動の数々は破天荒そのものだが、そんな彼と相似形の型破りさを発揮するのが、ZOZOTOWN(ゾゾタウン)の前澤友作社長だろう。芸能人との交際や高額な買い物も包み隠さず自慢し、多くの人のねたみを買いながらも、意に介することなく、その注目をPRの機会へと昇華する。 極め付きがイーロン・マスク率いるスペースX社が2023年以降に始める民間月旅行の初の搭乗者として名乗りを上げたことだ。あの発表の後の海外メディアの注目ぶりは驚異的で、日本人としては史上最大級の報道量を獲得し、あっという間に「世界のYusaku」へと名をとどろかせることになった。 ちなみに、同氏のツイッターのユーザー名@yousuck2020のYou suckとは「あんたってだめよね」という意味。自虐ネタも含めて360度さらけだすことをいとわないスタイルということだろう。用意周到な準備のうえで、マスクとの発表会で堂々とした英語プレゼンを披露するなど、耳目を集めることに長けた「パフォーマー型」のトップといえる。 こうした「お騒がせリーダー」の武器がソーシャルメディアだ。トランプ氏、マスク氏、前澤氏のTwitterのフォロワー数はそれぞれ、5470万、2270万、41万。こうした独自のチャンネルを通じて、大量に情報を発信すれば、メディアのフィルターなしに直接届けられるばかりでなく、マスメディアもその話題性についつい乗せられて、「プロパガンダ」の片棒をかついでしまう。いったん、巨大な「エコーチェンバー」を作り上げてしまえば、メディアがどうたたこうが、「無双状態」だ。 これだけ、世論の分断が進めば万人受けするコンテンツなど作れない。そう割り切って、あえて、論議を呼びそうな「炎上戦略」を選択する企業も出始めた。人種差別への抗議のため、試合前の国歌斉唱で起立せず、大バッシングを浴びたNFLの選手を広告に起用し、大バッシングを浴びたのがナイキだ。 アメリカの保守層は大激怒し、ナイキのスニーカーを燃やしてその動画をソーシャルに上げるなどボイコット運動にまで発展した。しかし、株価は一瞬下落したものの、持ち直し、売り上げも伸びているという。話題づくりは大いに成功したと言われている。 日本企業は不祥事を極度に恐れるが、実際、企業不祥事は、長期的に見れば企業価値を落とさないという研究もある。1993~2011年までにアメリカで発生したわいろ、詐欺、CEOのスキャンダルなど80件の企業不祥事を調べたところ、発生から1カ月以内に、6.5~9.5%株価が下落したものの、その後は競合などよりもいい業績を残す結果になったというのだ。不祥事から挽回しようとする過程で、改善策を施行し、「膿」を出すことができるというのが理由らしい』、アメリカでは不祥事を起こした企業の方が、競合などよりもいい業績を残す結果になった、というのは驚かされた。不祥事から挽回しようとの企業努力が奏功というのは、企業経営のダイナミックさを物語っているようだ。
・『最近、話題になった不祥事としては、顧客に無断で口座を開くなどの不正営業が問題視されたアメリカの銀行ウェルズ・ファーゴ、排ガス不正で「最悪の不祥事」といわれたドイツのフォルクスワーゲン、乗客の引きずり降ろし騒動で批判を浴びたアメリカのユナイテッド航空などがある。これらの企業は、どれも、今は何事もなかったかのように、“通常営業”を続けている。 もちろん、東芝などのような致命的な経営判断のミスや法に触れる事案につける薬はないが、多くの企業不祥事は想定されたほどのブランドイメージの毀損もなく、「のど元過ぎれば」というのも事実のようだ。 強固なブランドイメージと独自の「ファンコミュニティ」を形成しておけば、多少の批判は受けたとしても、大きなダメージはない。ナイキもそう踏んだ可能性もある。 そういった企業の動きに目を光らせるメディアと、取材を受ける側の企業との関係性にも変化が表れつつある』、なるほど。
・『「ノーコメント、ビジネス取材の死」 今年7月6日、アメリカの名門紙ワシントン・ポストのある記事がPR業界で話題になった。コラムニストのスティーブン・パールスタイン氏の記事で題名は「ノーコメント、ビジネス取材の死」。アメリカの多くの企業が、記者からの取材を受けたがらないケースが増えており、ウォール・ストリート・ジャーナルや『フォーチュン』、ニューヨーク・タイムズ紙など名だたるメディアのビジネス記者たちも「多くの企業が極めて、取材に非協力的だ」「敵意さえ感じる」と口をそろえる。 過去6カ月のさまざまな企業のコメントをチェックしてみたところ、TOYOTAを含む多くの会社が「コメントしない」、もしくはまったく返答をしなかったといい、企業とメディアの関係性の悪化を危惧する。 こうした企業の冷淡さの背景にあるのは、自分たちのサイトやソーシャルメディアを通じたコミュニケーションを重視し、いわゆるマスメディアを通じたPRの重要性が相対的に低下していることだ、とパールスタイン氏は分析する。 事実、アメリカ企業のPRにおけるメディアリレーションズの比重は下がり、ステークホルダーと直接、関係性を構築できるソーシャルメディアやブログ、自社サイトなどに大きくシフトしている』、かつてはマスメディアを通じたPRの重要性が低下したとは、驚かされた。
・『メディアへの信頼性が低下 トランプ大統領が多くのメディアを「フェイクニュース」と呼び、貶める中で、メディアへの信頼性も低下しており、企業や政治家などの命運に「マスメディア」が大きな影響力を握っていた時代とは流れが変わってきているといえるだろう。 こうしたグローバルの現状と比較すれば、日本の経済メディアは、企業との「もたれあい」のような関係性があり、日本企業のマスメディアへの信頼性、メディアリレーションズ重視の姿勢は顕著だ。 しかし、ことあるごとに「マスゴミ」「偏向報道」などと揶揄する声は大きくなっており、メディアの取材手法や報道内容に対するネガティブ論調が盛り上がりやすくなっている。情報チャンネルや価値観の多様化とともに、デファクトスタンダードとして見られていた「マスメディアの正義」に疑義を唱える層が拡大している こうした文脈の中で、今回の新潮社の対応を考えると、最終的には「炎上商法」の過ちを認め、「休刊」という形をとったのは、「良心に背く出版は、殺されてもせぬ事」という「マスメディア的な正義」を貫く矜持を見せたということなのだろう。とはいえ、ことの経緯などについての十分な説明のないままに、手下を「切腹」させるような手法には違和感しか残らない。 世論の二極化・多極化が進むポスト真実時代に、自らを声高に「正義」と吹聴し、ハレーションを起こすやからが、跋扈(ばっこ)する。その主張をマスメディアがたたけばたたくほど、さらに注目を集めるという循環が繰り返される。「炎上上等」。そう割り切る者に対して、対抗するすべはなかなかないということなのだ』、本当に難しい時代になったものだ。
先ずは、昨年11月21日付けNHK:クローズアップ現代+「ツイッターCEOが語る “つぶやき”の光と影」を紹介しよう。
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4067/index.html
・『「『死ね』『出て行け』『いなくなれ』。つらいです、苦しいです。ツイッター社の皆さん、どうか助けてください。」 ツイッター上にあふれる、在日外国人などへの差別、ヘイトツイート。ツイッター社に対して、今、削除を求める声が相次いでいます。 神奈川県座間市のアパートから9人の遺体が見つかった事件。ツイッターで若い女性を誘い出した容疑者は、海外で「ツイッターキラー」と報じられています。 影響力が拡大する一方、課題も浮かび上がるツイッター。その生みの親でもあるCEOが来日。テレビカメラの前で、初めてインタビューに応じました。 ツイッター創業者 ジャック・ドーシーCEO 「ツイッターが問題を引き起こすことも確かにあります。それでもツイッターを改善し、それによって、世界を良い方向に向かわせることができると信じています。」 次々と新たなコミュニケーションツールが登場し、人間関係が変化するSNSの時代。人々の無数のつぶやきの中の、光と影を見つめます』、具体的な問題にどんな言い訳をするのだろう。
・『座間“9人遺体”事件 悪用されたツイッター 9人の遺体が遺棄された、座間市の事件。白石隆浩容疑者は、ツイッターの特性を利用して、女性に近づいていました。 ツイッターには、無数のつぶやきの中から自分の関心に沿ったものを探す、検索機能があります。キーワードを入力すると、その言葉が入ったツイートが選び出されます。これに返信することで、つぶやいた本人と匿名でやり取りすることもできます。ツイッターの利用者数は、およそ4,500万人。 ほかのSNSと比べ、匿名で利用する人が多いのが特徴です。知人には話せないようなことも、知らない人であれば、気軽にやり取りできます。こうした空間で、容疑者は匿名アカウントを使い、被害者に近づいたと見られます』、匿名であれば犯罪にも使われ易いだろう。ただ、こんなアカウントを放置するのも無責任だ。
・『“ヘイトツイート”急増 追いこまれる人びと 匿名性によって助長される問題はそれだけではありません。急増する、ヘイトツイートです。在日外国人などに対する差別や、危害を加えるという書き込みが後を絶ちません。ツイッタージャパンの前に集まったのは、およそ100人。 ヘイトツイートを紙に印刷し、あえて目に見えるようにして、削除するよう訴えました。「見るもおぞましいものだと思いますけれども、これが現実なので、ぜひご覧になっていってください。」 1人の在日コリアン3世の女性がマイクを手にしました。 在日コリアン3世の女性 「私にとってのツイッターは、花芽が出たら、うれしくて、つぼみが膨らんだら、うれしくて、花が咲いたら、うれしくて、大切な人たちに知らせたくて、夜空に月が見えたら、それがうれしくて、それをツイートする。その心豊かな、大切なコミュニケーションツールでした。それが今は『死ね』『出て行け』『殺せ』『ゴキブリ』『いなくなれ』。毎日ツイッターの通知が来ると怖いです。つらいです。苦しいです。ツイッター社の皆さん、どうか助けてください。」 4年前にツイッターを始めた女性。今は利用するのも怖くなり、使うことはできずにいます。女性のツイートに対して、差別的な書き込みが行われ、拡散していったといいます。 在日コリアン3世の女性 「ツイッターはツイッターの特性で、来たものが、書かれたものが拡散していきますから、止めることができませんから。バスや電車で端末を操作している人がいると、『この人があれを書いた人かもしれない』というふうに怖くなったりしました。」』、確かにヘイトツイートを連日書きなぐられたら、アカウントを閉鎖せざるを得ないだろう。
・『こうした現状に、ツイッタージャパンでは危機感を強めています。笹本裕社長です。会社の前で行われた抗議活動を、インターネット中継を通じて見ていました。 ツイッタージャパン 笹本裕社長 「僕自身も海外に生活を幼少期していて、自分自身も向こうで、また帰国して、差別的なことを言われたりとか、実態があるので、ある意味、当事者として、あのデモを拝見していました。」 しかし、ヘイトツイートを一律に削除することは、一企業の対応では限界があると感じています。 ツイッタージャパン 笹本裕社長 「ヘイト自体は残念ながら、僕らの社会の一つの側面だと思う。それ自体がないものだとしてしまっても、実際にはあるわけですから、それ自体を認識しなくて社会が変わらなくなるよりは、それはそれで、ひとつあるということを認識して、社会全体が変えていくことになればと思います。」』、一般論で逃げられたのは残念だが、次のCEOインタビューに期待したい。
・『ツイッターCEOが語る 座間“9人遺体”事件 ゲスト ジャック・ドーシーさん(ツイッター社CEO) ツイッターの創業者、ジャック・ドーシーCEOに、初めてカメラの前で話を聞くことができました。直面する課題に対応するため、日本を訪れていました。ツイッターを悪用した座間市の事件について聞きました。 ── 事件についてご存じですか?どうお感じになっていますか? ドーシーさん:その話を聞いて、とても残念で悲しいです。ツイッターが健全に使われるように、責任を持って見守らなければなりません。今回のケースでは、ツイッターが「公共の場」であり、誰でも見られる事実を知ることが大事です。困っている人を早く支援者につなげて、助けてもらえるようにすべきです。ユーザーが「自殺したい」といった言葉をつぶやいた場合、他の人の働きかけで思いとどまるようにしてほしいのです。すべての事件・事故を防ぐことはできません。どんな技術を持っても、それは不可能です。それでも何か改善できることがないか、さまざまな観点から検討しています』、検討が「空手形」にならないよう見守りたい。
・『── ほかのSNSとの違いとして、ツイッターは匿名で投稿できる。そのことはユーザーの使い方に、どう影響している? ドーシーさん:私はツイッターはSNSだとは思っていません。SNSは友達・家族・クラスメート・同僚を探すツールですが、ツイッターは全く違います。ツイッターでは「関心」によって、誰かとつながるのです。関心を持ってツイッターを使うことで、面白い人たちと出会うことができます。彼らと会話することもあれば、ただフォローする場合もあります。これがツイッターとSNSの大きな違いで、この点でツイッターはユニークなのです。SNSと違い、知り合いを探すツールではない。本名は重要ではないのです。 その上でドーシー氏は、ツイッターの匿名性にも大切な意味があると語ります。 ドーシーさん:ツイッターは匿名なので、自由に話せますし、自分の正体がばれるのが怖くて発言できなかったり、その発言のせいで、政府から処分を受ける人も使うことができます。これまで「アラブの春」などでは、人々が、その正体を知られることなく、匿名で政府やリーダーに対して疑問を投げたり、デモを行いました。匿名性はツイッターのユーザーにとっては、とても重要なことです。「ツイッターはこういう風にしか使えません」と制限したくありません。どんな意見に対しても開かれた場であり、どう使うかはユユーザーに任せたい』、匿名性の意義は理解できたが、そうであればなおのこと犯罪への悪用に対する歯止めが必要になる筈だ。
・『ツイッターに規制? 事件再発をどう防ぐ ツイッターを悪用した、座間市の事件。今、国は再発防止のため、ツイッターに対する規制なども検討しています。 菅官房長官 「ツイッターの規制等でありますが、各省庁の取り組みをしっかり検討した上で、再発防止策を1か月めどに取りまとめたい。」 こうした中、ツイッター社は、安全に利用してもらうため、ルールの変更を進めています。今月(11月)、自殺や自傷行為の助長を禁止することを明記しました。必要とするユーザーに、相談先の情報を伝えることもあるとしています。また、ヘイトへの対策として、攻撃的、差別的なアカウント名の利用を禁止することに。ドーシー氏は、国に規制されるのではなく自助努力で対処していきたいとしています。 ドーシーさん:すべての人がツイッターを通して言いたいことを言えて、考えていることを発信できるようにしたい。それは私たちの仕事です。確かに、嫌がらせや悪用、人を傷つけるような使い方が増えている。取り組みを進めていますが、必ずしも、うまくいくとは限りません。私たちも時には間違えることもあれば、問題が生じることもある。ただ、同じ間違いは繰り返しません。大事なのは、世の中に対して、私たちのロードマップを広げ、考え方や問題に対する取り組み方、その優先順位などをわかってもらうことだと思っています』、「国に規制されるのではなく自助努力で対処していきたい」というのは結構なことだが、具体策のロードマップはいつ頃公開されるのだろう。
・『“ヘイトツイート” “表現”と“規制”のはざまで インターネットやSNS上にあふれる差別的な書き込みに対してはどうすればいいのか。 去年(2016年)国は、ヘイトスピーチをなくすための新たな法律を施行しました。しかし、インターネット上のヘイトについては、対策が打たれていないのが現状です。言論や表現の自由と、規制との両立は容易ではないからです。 こうした中、独自の条例を作って踏み込んだ対応を始めたのが、大阪市です。インターネット上の書き込みを、大学教授や弁護士らが審査し、ヘイトだと認められれば、運営側に削除を要請するというものです。しかし、これまでに行われた20回の審査で削除されたケースは、わずか5件。条例の適用は大阪市内に限られ、場所が特定できないものは削除できないからです。市の担当者も、ひぼう中傷の対象になる恐れがあるとして、匿名でインタビューに応じました。 大阪市担当者 「ネット空間に流れているものは、大阪市に関係あるかどうかというと、非常に判断というのが難しいところもある。国全体として、何らかの対応をお願いしないと、自治体としては、これ以上は無理だと考えております。」 一方、法務省は、ネット上のヘイトの規制は考えておらず、啓発活動を続けるとしています。 ネットやSNSに詳しい、ジャーナリストの津田大介さんです。 規制に向けたEUの動きを、日本も参考にするべきだと考えています。 ジャーナリスト 津田大介さん「(EUでは)ネットに書き込まれたヘイトスピーチを見つけた場合、(事業者に対し)24時間以内に削除しなさいと。その時にヨーロッパの場合は、削除にあたって、反差別で活動している、人権活動をしている団体があるので、そういう団体と連携してくださいと。実際に取り組みも始まっていて、一定の成果を上げている。一線を越えた差別表現というものは、言論(の自由の対象)ではない。これが多くの人の目に触れることで社会がどうなるのか。これに対して、明確にノーを突きつけていかないかぎり、次の段階、実際に影響された人が犯罪に走ることにつながっていくと思う。この段階で、きちんとこの問題に対処できるのかが、我々の社会がどうなるのかという分水嶺(れい)、岐路に立っていると思う」』、自主規制だけでは心もとないので、ヨーロッパ流の規制も検討すべきだろう。
・『トランプ大統領も次々に… 政治と“つぶやき”の関係 ツイッターは今、政治にも大きな影響を与えています。半世紀以上前、政治の在り方を変えたのは、テレビの出現でした。ケネディ大統領を誕生させたのは、初のテレビ討論だったと言われています。以来、政治家にとって、テレビは有権者と向き合う重要なツールとなってきましたが、トランプ大統領は、既存メディアと距離を置き、4,000万人を超えるフォロワーに、一方的にツイートしています。 トランプ大統領のツイート“壁”の代金を支払わないなら、メキシコとの首脳会談は中止だ。 トランプ大統領のツイート(性的少数者の)トランスジェンダーの人たちは、軍で働くことを認めない。 政治家が自分の考えを、いつでも好きなときに、直接国民に届けられる現代。大統領のつぶやきがそのままニュースとなり、世界を揺るがしている現状を、ツイッターの生みの親はどう感じているのでしょうか。 ── ドーシーさんは、トランプ大統領の政策を支持していますか? ドーシーさん:一般的には「ノー」です。移民政策に関しては、特にそうです。アメリカの移民を減らそう、または排除しようという考えには反対です。しかしリーダーの本音を直接聞くことは、内容がどんなことでも、とても大事だと思います。一人一人考え方も、伝え方も違いますから。私たちツイッターは、その内容がなんであれ、そうしたリーダーたちの声を、世の中に届けるマイクでありたい。 ── トランプ大統領がツイッターを強力なツールとして、どちらかというと国民を分断する、あるいは世界を分断する方向に進めていると感じる人が多いと思うが? ドーシーさん:人々を分断する考え方や、誰かがのけ者になる政策には強く反対します。いま地球上の人間は、環境問題のような共通の課題に直面しているわけですから、国の隔たりを越えて、みんなで協力すべきです。こういった場面でこそ、ツイッターは役に立つのです。ツイッターは私たちが一つの惑星に共存していることを再確認させてくれるツール。みんなが同じ状況下にあるわけですから、団結して同じ問題に立ち向かっていく必要があるのです』、なるほど。
・『ツイッターCEOが語る “つぶやき”の未来 インタビューの最後、ドーシー氏は、ツイッターが持つ新たな可能性について語りました。 ドーシーさん:私は楽観主義者です。人類の未来はとても明るいと考えていますし、未来に直面するであろう問題は、人々の手で解決できると考えています。そしてツイッターには、そのためのコミュニケーションの場となってほしい。人類が進化するためには、私たちが抱える課題について議論し、その問題が重要なのかそうではないのか、理解する必要があります。そうすれば、正しい方向にエネルギーを向けられます。私は、ツイッターは世界がよくなるための不可欠なツールだと思っているし、同時にそれが唯一のツールではないということもわかっています。私たちはベストを尽くしますし、ユーザーが世界をよくするために、ツイッターを利用して団結したいと考えているならば、その手助けをしたいし、支援していきたい。 ── ツイッターは、どんな意見にも開かれた場であるべきだ。そう語るドーシーさんは、自らの理想と現実のはざまで苦悩しているようにも見えました。社会の映し鏡となっている無数のつぶやき。それとどう向き合い、未来につなげていくのか。考え続けていきたいと思います』、ツイッターの今後の動きを注視していきたい。
次に、9月22日付け東洋経済オンライン「「中国人優遇」の偽ニュースはなぜ生まれたか 関空の中国人避難問題、一連の事実を検証」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/238795
・『9月19日に「東洋経済オンライン」に掲載した筆者の記事「大阪駐在の台湾外交官はなぜ死を選んだのか」では、台風21号によって一時閉鎖された関西国際空港での対応を巡り台湾で議論が巻き起こり、大阪に駐在していた台湾の外交官の自殺にまで至ってしまったことを伝えた。 この発端となったのが、「中国の領事館が関空にバスを派遣して中国人を救出し、優先的に中国人を避難させた」というSNSでの発信や大手台湾メディアでの報道だった。それが台湾で「なぜ駐日代表処(大使館に相当)は動かないのか」との議論に発展した。記事中ではこの発端となった情報をフェイクニュースとして扱った。 実際、記事を配信した19日には、東京にある台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表(大使に相当)が記者会見を開き、フェイクニュースを見極めるように呼びかけている。一方で、同日に中国の駐大阪総領事館は中国人旅行者の避難に協力したとして、バス会社など協力した会社や団体を表彰した。 いったい真相はどうだったのか。経緯を振り返りながら、改めて検証してみたい。なお、一連の事実は関西エアポートやバス会社などへの取材に基づくもの。中国総領事館は「新華社通信」の報道が公式見解であるとして、取材には直接回答しなかった。新華社通信は「領事館が救出活動に協力した」と報じているが、その詳細に触れた記事は確認できなかった』、これに関しては、このブログでも9/12で「関空、露見した「国際空港」としての巨大欠点・・・」として、事実であるかのように取上げたので、ここにお詫びしたい。それにしても、大阪駐在の台湾外交官の自殺とはフェイクニュースの恐ろしさを、改めて印象づけた。
・『約700名の中国人旅行者が残された 9月4日、関空では台風21号の影響で大規模浸水被害が発生し、数千人の旅行者が空港内に取り残された。取り残された旅行者には中国人や台湾人など外国人旅行者も含まれていた。関空を運営する関西エアポートは約700名の中国人旅行者がいたとしている。 そこで中国領事館は関西エアポートに対して、関空にバスを派遣して中国人を救出したいと要請した。関西エアポートによると、自国民の救出を申し出たのは中国だけではなかったようだ。ただし、破損した連絡橋の通行を制限していることやさらなる混乱を招く恐れがあるとして、同社はこれらの申し出を辞退した。 とはいえ、外国人旅行者のなかで中国人の人数は最多。団体客も多く、言語疎通に問題が生じたケースもあり、中国領事館のサポート提案の受け入れを検討した。そして、関西エアポートと航空各社、中国領事館の3者間で旅客を避難させる際は中国人旅行者をまとめて島外に出すよう調整が行われた。 この調整を受け、中国領事館は関空の対岸にある泉佐野市内のショッピングモールに空港から避難した中国人旅行者を迎えるバスを派遣した。関西エアポートも旅行者を空港から避難させる際は中国人だけを別に振り分けて、領事館が手配したバスが待つショッピングモールにバスで輸送することにした。 5日、中国人旅行者を含めて取り残されたすべての旅行者の避難が開始された。この時に、一部の旅行者の間で誤解が生じ始めた。中国人旅行者を振り分けるために、中国人はパスポートの確認を受けてからバスに搭乗。この対応を受けて、中国人旅行者や周囲の旅行者のなかには「中国人だから優遇を受けている」「領事館が尽力したから優先的に避難できる」といった誤解が生じ、SNS上で流布され始めたのだ。 また、関空から避難する際に搭乗したバスがほかの旅行者が搭乗したバスと行き先が異なることや(ほかの旅行者は南海電鉄の泉佐野駅に送られた)、事前にSNSなどを通じ中国領事館の努力を知っていたことから、「中国人が乗ったバスは領事館が手配したもの」という誤解も発生した。 しかし実際に関空からショッピングモールまで中国人を乗せたバスは、関西エアポートが手配したバスだった。関西エアポートは「避難に用いられたバスは自社が手配したもので、バスの手配も関空による決定。中国領事館が手配したバスは乗り入れていない」と話す。19日に中国領事館に表彰された南海バスの広報担当者も、「要請は関西エアポートからのもので、中国領事館からではない」と認める』、関西エアポートが無差別の原則での対応したのは当然だが、誤解が生じないよう放送などで周知徹底させるべきだったろう。もっとも、そんな余裕はなかったのかも知れないが・・・。
・『動画が誤解を「補強」 なぜどちらが手配したバスか、詳細に書いたのには理由がある。今回、空港から中国人旅行者だけが優先的に避難できたかのような複数の動画がSNS上に出回ったからだ。 動画は避難が開始された早い段階でバスに搭乗できた中国人旅行者が撮影したようだ。中には、中国領事館の職員とされる人物がバス車内で避難活動に参画している映像もあった。 しかし、繰り返しになるが、空港からのバスは関空が手配したもの。空港へのアクセスが規制される中で、中国が手配したバスだけが特別に通行を許可されたわけではなかった。 また動画が撮影された時点で、すでに中国人旅行客以外の旅行客も別のバスで避難を開始していたと見られる。実際、関西エアポートの広報担当者は「中国人旅行者が優先的に早く出た事実はない」とする。同社は「すべての旅行者の輸送は5日の23時をもって完了した」とのリリースを出しているが、広報は「中国人以外の旅行者の避難が完全に終了したのは5日の23時30分で、中国人旅行者は6日の0時近くだった」と話す。 一部の旅行者に生じた誤解が動画によってさらに誤解が強調され、台湾メディアもそれを見て事実確認を行わず報道、広く流布されたと考えられる。 以上、結論を言えば、中国領事館が同胞である中国人旅行者を救出するために尽力したのは事実だ。他方で、中国領事館が手配したバスは関空まで乗り入れておらず、中国人旅行者が優先的に避難した事実もない。結局、台湾メディアは事実を確認せずに、中国人旅行者が「優先的に避難した」と伝えてしまった』、あのような大混乱のなかでは、正確な情報提供が如何に重要かを物語っている。
・『ファクトチェック組織も「誤り」と指摘 これらの誤解に基づくネット上の偽情報は関西エアポートなどの当事者に問い合わせ、事実確認を行えばフェイクニュースとして流れなかったはずである。しかし、多くの台湾メディアはそれを怠ってしまった可能性がある。台湾大手新聞社の記者は「人員も十分でなく、スピードで他社と競争する以上、ネット情報を事実確認せず流すしかない時は多々ある」と事実確認の取材が甘い現状を語る。 9月15日には誤った情報が広がるのを防ぐためにファクトチェックを行う「台湾ファクトチェックセンター」が、「中国領事館が関西空港にバスを派遣し、優先的に中国人旅客を救った」ことは「誤り」だと指摘した(https://tfc-taiwan.org.tw/articles/150)。 台湾ファクトチェックセンターには日本でファクトチェックの普及を目指すファクトチェックイニシアティブジャパン(FIJ)も協力。FIJで理事長を務める早稲田大学政治経済学術院の瀬川至朗教授は「旅行者の誤解や思い込みが積み重なって、ネット上で広がった真偽不明の情報をしっかり事実確認せずに報道してしまった台湾の報道機関の責任は重い」と話す。 関西エアポートへの取材や台湾ファクトチェックセンターの発表を基に、19日に配信した筆者の記事では一連の情報を「フェイクニュース」と断言した。ただ、中国領事館が中国人の救出に尽力したことは事実であり、その点で表現に曖昧さが出てしまったことも否めない。 メディアがいかにネット上の真偽不明の情報に向き合うか、改めて問われる一件だった』、その通りだ。
第三に、コミュニケーション・ストラテジストの岡本 純子氏が10月2日付け東洋経済オンラインに寄稿した「お騒がせリーダーがツイッターにハマる事情 「炎上」がマーケティングに使われている」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/240064
・『新潮社の月刊誌「新潮45」をめぐる問題は休刊という形でいったんの幕引きが図られた。この騒動そのものの経緯や是非については、ほかの多くの論評にお任せするとして、今回は、企業の炎上商法とその落とし前のつけ方について少し考えてみたい。 これまで可視化されることのなかった多様な意見がネット上に表出し、クラスター(群集)化するようになり、どのような事象にも、共感する人、嫌悪感を示す人に分かれて対立軸を作るケースが目立つようになった。 自分の考え方に合った聞こえのよい情報のみを摂取していく「エコーチェンバー」(自分と同じ意見に満ちた閉じたコミュニティで、コミュニケーションを繰り返すことによって、自分の意見が増幅・強化されること)に身を置く人が増え、世論の分断化、二極化は世界中で広がっている』、「エコーチェンバー」とはピッタリの表現だ。
・『「無視されるより批判されるほうがまし」 星の数ほどの情報が氾濫する中で、耳目を集めるために、あえて、物議を醸す言動をする企業やセレブの、いわゆる「炎上商法」も珍しくなくなった。想定せずに炎上するケースもあるが、確信犯的に、摩擦を起こし、話題をさらうやり方は、「無視されるより批判されるほうがまし」と割り切れば、功を奏す場合も多くある。 その最たる例はアメリカのドナルド・トランプ大統領だ。これまでのどの大統領も許されなかったろう、暴言、品性のなさ、幼稚な言葉遣い、そして無謀な手法の数々。しかし、マスメディアからどんなにコテンパンにたたかれても、びくともせず、今でも40%を超える支持率を維持している。 慣れというのは恐ろしいもので、どんなにばかげた発言も、度重なれば見る者の既視感を増し、感覚がマヒしてしまうところもあるらしい。日本の政治家にも、たびたびの失言が「ああ、彼だから」と許されてしまう御仁もいる』、確かに慣れというのは恐ろしいものだ。
・『企業経営者の中にも、炎上やメディアからの攻撃をものともしないタイプが増えている。代表格はテスラのイーロン・マスク氏だろう。 マスク氏は、7月にタイの洞窟で遭難した少年たちを救ったダイバーを「小児性愛者だ」と侮辱したかと思うと、8月には「テスラ株を1株420ドルで非公開化することを検討中。資金は確保した」などと発言し、株式市場を大攪乱させながら、17日後には悪びれもせずに撤回した。 さらに同月のニューヨーク・タイムズのインタビューでは、ほとんど眠ることができていないことを涙ながらに語り、精神的に追い詰められていることをさらけ出したかと思えば、9月にはポッドキャスト(ネット上の音声番組)のインタビューで、大麻をくゆらせた。 そんな彼は批判的な報道が増えていることにいら立ち、5月に「メディアの信頼性を格付けするサイト『プラウダ』を立ち上げる」とぶち上げている。プラウダとは、ご存じのとおり、ソ連時代の共産党の機関紙の名前だ。このように、マスメディアとの徹底抗戦を恐れない手法はトランプと同様だ』、マスク氏は非公開化を巡る発言で米証券取引委員会(SEC)から会長職の退任と罰金を命じられたが、この程度では懲りないのではなかろうか。
・『「お騒がせリーダー」の武器 常人には理解できない謎の行動の数々は破天荒そのものだが、そんな彼と相似形の型破りさを発揮するのが、ZOZOTOWN(ゾゾタウン)の前澤友作社長だろう。芸能人との交際や高額な買い物も包み隠さず自慢し、多くの人のねたみを買いながらも、意に介することなく、その注目をPRの機会へと昇華する。 極め付きがイーロン・マスク率いるスペースX社が2023年以降に始める民間月旅行の初の搭乗者として名乗りを上げたことだ。あの発表の後の海外メディアの注目ぶりは驚異的で、日本人としては史上最大級の報道量を獲得し、あっという間に「世界のYusaku」へと名をとどろかせることになった。 ちなみに、同氏のツイッターのユーザー名@yousuck2020のYou suckとは「あんたってだめよね」という意味。自虐ネタも含めて360度さらけだすことをいとわないスタイルということだろう。用意周到な準備のうえで、マスクとの発表会で堂々とした英語プレゼンを披露するなど、耳目を集めることに長けた「パフォーマー型」のトップといえる。 こうした「お騒がせリーダー」の武器がソーシャルメディアだ。トランプ氏、マスク氏、前澤氏のTwitterのフォロワー数はそれぞれ、5470万、2270万、41万。こうした独自のチャンネルを通じて、大量に情報を発信すれば、メディアのフィルターなしに直接届けられるばかりでなく、マスメディアもその話題性についつい乗せられて、「プロパガンダ」の片棒をかついでしまう。いったん、巨大な「エコーチェンバー」を作り上げてしまえば、メディアがどうたたこうが、「無双状態」だ。 これだけ、世論の分断が進めば万人受けするコンテンツなど作れない。そう割り切って、あえて、論議を呼びそうな「炎上戦略」を選択する企業も出始めた。人種差別への抗議のため、試合前の国歌斉唱で起立せず、大バッシングを浴びたNFLの選手を広告に起用し、大バッシングを浴びたのがナイキだ。 アメリカの保守層は大激怒し、ナイキのスニーカーを燃やしてその動画をソーシャルに上げるなどボイコット運動にまで発展した。しかし、株価は一瞬下落したものの、持ち直し、売り上げも伸びているという。話題づくりは大いに成功したと言われている。 日本企業は不祥事を極度に恐れるが、実際、企業不祥事は、長期的に見れば企業価値を落とさないという研究もある。1993~2011年までにアメリカで発生したわいろ、詐欺、CEOのスキャンダルなど80件の企業不祥事を調べたところ、発生から1カ月以内に、6.5~9.5%株価が下落したものの、その後は競合などよりもいい業績を残す結果になったというのだ。不祥事から挽回しようとする過程で、改善策を施行し、「膿」を出すことができるというのが理由らしい』、アメリカでは不祥事を起こした企業の方が、競合などよりもいい業績を残す結果になった、というのは驚かされた。不祥事から挽回しようとの企業努力が奏功というのは、企業経営のダイナミックさを物語っているようだ。
・『最近、話題になった不祥事としては、顧客に無断で口座を開くなどの不正営業が問題視されたアメリカの銀行ウェルズ・ファーゴ、排ガス不正で「最悪の不祥事」といわれたドイツのフォルクスワーゲン、乗客の引きずり降ろし騒動で批判を浴びたアメリカのユナイテッド航空などがある。これらの企業は、どれも、今は何事もなかったかのように、“通常営業”を続けている。 もちろん、東芝などのような致命的な経営判断のミスや法に触れる事案につける薬はないが、多くの企業不祥事は想定されたほどのブランドイメージの毀損もなく、「のど元過ぎれば」というのも事実のようだ。 強固なブランドイメージと独自の「ファンコミュニティ」を形成しておけば、多少の批判は受けたとしても、大きなダメージはない。ナイキもそう踏んだ可能性もある。 そういった企業の動きに目を光らせるメディアと、取材を受ける側の企業との関係性にも変化が表れつつある』、なるほど。
・『「ノーコメント、ビジネス取材の死」 今年7月6日、アメリカの名門紙ワシントン・ポストのある記事がPR業界で話題になった。コラムニストのスティーブン・パールスタイン氏の記事で題名は「ノーコメント、ビジネス取材の死」。アメリカの多くの企業が、記者からの取材を受けたがらないケースが増えており、ウォール・ストリート・ジャーナルや『フォーチュン』、ニューヨーク・タイムズ紙など名だたるメディアのビジネス記者たちも「多くの企業が極めて、取材に非協力的だ」「敵意さえ感じる」と口をそろえる。 過去6カ月のさまざまな企業のコメントをチェックしてみたところ、TOYOTAを含む多くの会社が「コメントしない」、もしくはまったく返答をしなかったといい、企業とメディアの関係性の悪化を危惧する。 こうした企業の冷淡さの背景にあるのは、自分たちのサイトやソーシャルメディアを通じたコミュニケーションを重視し、いわゆるマスメディアを通じたPRの重要性が相対的に低下していることだ、とパールスタイン氏は分析する。 事実、アメリカ企業のPRにおけるメディアリレーションズの比重は下がり、ステークホルダーと直接、関係性を構築できるソーシャルメディアやブログ、自社サイトなどに大きくシフトしている』、かつてはマスメディアを通じたPRの重要性が低下したとは、驚かされた。
・『メディアへの信頼性が低下 トランプ大統領が多くのメディアを「フェイクニュース」と呼び、貶める中で、メディアへの信頼性も低下しており、企業や政治家などの命運に「マスメディア」が大きな影響力を握っていた時代とは流れが変わってきているといえるだろう。 こうしたグローバルの現状と比較すれば、日本の経済メディアは、企業との「もたれあい」のような関係性があり、日本企業のマスメディアへの信頼性、メディアリレーションズ重視の姿勢は顕著だ。 しかし、ことあるごとに「マスゴミ」「偏向報道」などと揶揄する声は大きくなっており、メディアの取材手法や報道内容に対するネガティブ論調が盛り上がりやすくなっている。情報チャンネルや価値観の多様化とともに、デファクトスタンダードとして見られていた「マスメディアの正義」に疑義を唱える層が拡大している こうした文脈の中で、今回の新潮社の対応を考えると、最終的には「炎上商法」の過ちを認め、「休刊」という形をとったのは、「良心に背く出版は、殺されてもせぬ事」という「マスメディア的な正義」を貫く矜持を見せたということなのだろう。とはいえ、ことの経緯などについての十分な説明のないままに、手下を「切腹」させるような手法には違和感しか残らない。 世論の二極化・多極化が進むポスト真実時代に、自らを声高に「正義」と吹聴し、ハレーションを起こすやからが、跋扈(ばっこ)する。その主張をマスメディアがたたけばたたくほど、さらに注目を集めるという循環が繰り返される。「炎上上等」。そう割り切る者に対して、対抗するすべはなかなかないということなのだ』、本当に難しい時代になったものだ。
タグ:座間市のアパートから9人の遺体が見つかった事件 “ヘイトツイート”急増 追いこまれる人びと ツイッター創業者 ジャック・ドーシーCEO 「無視されるより批判されるほうがまし」 ヘイトツイート (その3)(ツイッターCEOが語る “つぶやき”の光と影、「中国人優遇」の偽ニュースはなぜ生まれたか 関空の中国人避難問題 一連の事実を検証、お騒がせリーダーがツイッターにハマる事情 「炎上」がマーケティングに使われている) 座間“9人遺体”事件 悪用されたツイッター (自分と同じ意見に満ちた閉じたコミュニティで、コミュニケーションを繰り返すことによって、自分の意見が増幅・強化されること) 「お騒がせリーダー」の武器 大阪に駐在していた台湾の外交官の自殺 「ツイッターCEOが語る “つぶやき”の光と影」 NHK:クローズアップ現代+ ソーシャルメディア メディアの信頼性を格付けするサイト『プラウダ』を立ち上げる 関西国際空港 世論の二極化・多極化が進むポスト真実時代に、自らを声高に「正義」と吹聴し、ハレーションを起こすやからが、跋扈(ばっこ)する ステークホルダーと直接、関係性を構築できるソーシャルメディアやブログ、自社サイトなどに大きくシフト 今は何事もなかったかのように、“通常営業”を続けている 政治と“つぶやき”の関係 「「中国人優遇」の偽ニュースはなぜ生まれたか 関空の中国人避難問題、一連の事実を検証」 ウェルズ・ファーゴ 業不祥事は、長期的に見れば企業価値を落とさないという研究もある。 ナイキ あえて、論議を呼びそうな「炎上戦略」を選択する企業も出始めた 独自のチャンネルを通じて、大量に情報を発信すれば、メディアのフィルターなしに直接届けられるばかりでなく、マスメディアもその話題性についつい乗せられて、「プロパガンダ」の片棒をかついでしまう 耳目を集めることに長けた「パフォーマー型」のトップ ZOZOTOWN(ゾゾタウン)の前澤友作社長 テスラ株を1株420ドルで非公開化することを検討中。資金は確保した テスラのイーロン・マスク氏 慣れというのは恐ろしいもので、どんなにばかげた発言も、度重なれば見る者の既視感を増し、感覚がマヒしてしまうところもあるらしい トランプ大統領 「エコーチェンバー」 「お騒がせリーダーがツイッターにハマる事情 「炎上」がマーケティングに使われている」 関西エアポートも旅行者を空港から避難させる際は中国人だけを別に振り分けて、領事館が手配したバスが待つショッピングモールにバスで輸送することにした 約700名の中国人旅行者が残された 岡本 純子 フェイクニュースを見極めるように呼びかけている (EUでは)ネットに書き込まれたヘイトスピーチを見つけた場合、(事業者に対し)24時間以内に削除しなさいと 動画が誤解を「補強」 インターネット上の書き込みを、大学教授や弁護士らが審査し、ヘイトだと認められれば、運営側に削除を要請 インターネット上のヘイトについては、対策が打たれていないのが現状 ヘイトスピーチをなくすための新たな法律を施行 ドーシー氏は、国に規制されるのではなく自助努力で対処していきたいとしています 自殺や自傷行為の助長を禁止することを明記 東洋経済オンライン 大阪市 関西エアポートは「避難に用いられたバスは自社が手配したもので、バスの手配も関空による決定。中国領事館が手配したバスは乗り入れていない」と話す “つぶやき”の未来 ツイッターに規制? 事件再発をどう防ぐ SNSと違い、知り合いを探すツールではない。本名は重要ではないのです これがツイッターとSNSの大きな違い ツイッターでは「関心」によって、誰かとつながるのです。関心を持ってツイッターを使うことで、面白い人たちと出会うことができます メディアへの信頼性が低下 その主張をマスメディアがたたけばたたくほど、さらに注目を集めるという循環が繰り返される マスメディアを通じたPRの重要性が相対的に低下 ユナイテッド航空 台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表 いったん、巨大な「エコーチェンバー」を作り上げてしまえば、メディアがどうたたこうが、「無双状態」だ ノーコメント、ビジネス取材の死 フォルクスワーゲン
大学(その4)(リベラルアーツは「社会人としての教養」ではない、全国の大学で「農学部」が次々新設されるワケ、完全飽和の私大600校を襲う大淘汰の幕開け、私大への助成金で歪められる日本の教育現場) [社会]
大学については、昨年10月9日に取上げた。今日は、(その4)(リベラルアーツは「社会人としての教養」ではない、全国の大学で「農学部」が次々新設されるワケ、完全飽和の私大600校を襲う大淘汰の幕開け、私大への助成金で歪められる日本の教育現場)である。
先ずは、組織開発・人材育成コンサルタントの山口 周氏が1月9日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「リベラルアーツは「社会人としての教養」、ではない」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/150352
・『昨今ブームとなっている教養の学び直し。だが、教養=リベラルアーツではない。リベラルアーツとは「自由の技術」のこと。常識として通用している前提や枠組みを「問う」「疑う」ための技術がリベラルアーツの真髄だ。MBAを取らずに独学で外資系コンサルタントになった山口周氏が、知識を手足のように使いこなすための最強の独学システムを1冊に体系化した『知的戦闘力を高める 独学の技法』から、内容の一部を特別公開する』、「独学で外資系コンサルタントになった」とは大したものだ。
・『リベラルアーツは、イノベーションを起こす武器となる まず読者の皆さんに一つ質問をしてみましょう。その質問とは「金利はなぜプラスなのか?」というものです。 恐らく、多くの読者はこの質問に対する明確な答えを持っていないでしょう。しかし、それはなにも皆さんに限ったことではありません。私を含め、現代に生きる我々のほとんどは無条件に「金利はプラスだ」と信じて疑っていません。 ところが、これは現代の、それも実質的な西欧社会に生きている我々だけのあいだに通用する常識であって、歴史を振り返れば、あるいは地域を変えてみれば、それが一時的かつ局所的な常識であることがすぐにわかります。 たとえば、中世ヨーロッパや古代エジプトではマイナス金利の経済システムが採用されていました。マイナス金利ということはつまり、銀行にお金を預けるとどんどん価値が目減りしてしまうことを意味しています。 したがって、こういう社会では現金を持ち続けていることは損になります。当然のことながら、現金は入ってくると同時になるべく他のものと交換しようという誘因が働くことになります。 では、どのようなものと変えるのがいいでしょうか。食べ物?いや、食べ物は難しい。一度に食べられる量には限りがありますから、保存が必要になります。しかし当時は冷蔵庫もない時代で、保存できる量にはおのずと限りがあります。 では、モノにするべきでしょうか?モノなら何がいいでしょうか?こうやって考えていくと、やがて誰もが同じ結論に至ることになります。そう、長いこと富を生み出す施設やインフラにお金を使おうという結論です。 このような考え方に則って進められたのがピラミッドの建築に代表されるナイル川の灌漑事業であり、中世ヨーロッパでの大聖堂の建築でした。この投資が、前者は肥沃なナイル川一帯の耕作につながってエジプト文明の発展を支え、後者は世界中からの巡礼者を集めて欧州全体の経済活性化や道路インフラの整備につながっていったのです。 リベラルアーツを、社会人として身につけるべき教養、といった薄っぺらいニュアンスで捉えている人がいますが、これはとてももったいない。リベラルアーツのリベラルとは自由という意味です。アートとは技術のことです。つまり「リベラルアーツ」というのは、「自由の技術」ということです。 では、ここでいう「自由」とは何なのか?元々の語源は新約聖書のヨハネ福音書の第8章31節にあるイエスの言葉、「真理はあなたを自由にする」から来ています。「真理」とは読んで字の通りで「真の理(=ことわり)」のことです。 時間を経ても、場所が変わっても変わらない、普遍的で永続的な理(=ことわり)が「真理」であり、それを知ることによって人々は、その時その場所だけで支配的な物事を見る枠組みから自由になれる、といっているわけです。 その時その場所だけで支配的な物事を見る枠組み、それはたとえば「金利はプラスである」という思い込みのようなものです。 つまり、目の前の世界において常識として通用して誰もが疑問を感じることなく信じ切っている前提や枠組みを、一度引いた立場で相対化してみる、つまり「問う」「疑う」ための技術がリベラルアーツの真髄だということになるわけです。 そして、あらゆる知的生産は、「問う」「疑う」ことから始まります。この点については『知的戦闘力を高める 独学の技法』で繰り返し指摘していますが、質の良い「問い」「疑い」のないところには、質の良い「インプット」は生まれません。つまりリベラルアーツというのは、知的戦闘力の基礎体力を高める役割を担うわけです』、「「問う」「疑う」ための技術がリベラルアーツの真髄」とは本質を突いた指摘だ。
・『この「問う」「疑う」という行為は、ビジネスの世界においても強力な武器となります。たとえば、イノベーションというのは「常識を疑う」ことで初めて駆動されます。過去のイノベーションを並べてみると、そこに何らかのかたちで、それまでに当たり前だと思っていた前提や枠組みが取り払われて成り立っていることに気づくと思います。
+パソコンの販売では店頭シェアがカギだ、という前提が支配する中で、その前提にこだわって破綻したコンパックと、その前提から離れてダイレクト販売というモデルを確立して業界を支配したデル +モノを一番早く運ぶのは最短経路だ、という前提が支配する中で、その前提にこだわって消えていった多くの零細運送事業者と、ハブ&スポークという物流システムを確立して成長したFedEx
+パソコンには入力機器と記録媒体が必要だ、という前提にこだわって価格競争の泥沼で苦しんでいる多くのPCメーカーと、その前提から離れてiPadを開発したアップル
イノベーションというのは常に「それまでは当たり前だと思っていたことが、ある瞬間から当たり前でなくなる」という側面を含んでいます。つまりイノベーターには「当たり前」を疑うスキルが必要だということです』、言われてみればその通りなのかも知れない。
・『リベラルアーツは、領域横断の武器となる リベラルアーツはまた、専門領域の分断化が進む現代社会の中で、それらの領域をつないで全体性を回復させるための武器ともなります。現在の社会はテクノロジーの進化に引きずられるようにして変化を余儀なくされていますが、テクノロジーの進化は必然的に専門分野の細分化を要請します。 このとき、特定領域における科学知識の深化とリベラルアーツを二項対立するものとして置けば、リベラルアーツに出る幕はありません。 しかし一方で、どんどん専門分化する科学知識をつないでいくものとしてリベラルアーツを捉えればどうか。本書の冒頭で指摘した通り、いま足りないのは領域の専門家ではなく、そこを越境していけるクロスオーバー人材です。そして、この要請はますます強まっています。 なぜなら、専門化が進めば進むほどに、個別専門の領域を超えて動くことのできる「自由な人」が求められるからです。そしてこの「自由さ」を与えてくれる唯一のものが、リベラルアーツだということです』、専門家を育てるのは難しくはないが、リベラルアーツを駆使できる人材の育成は日本では難しそうだ。
・『領域を超えるというのは、リーダーにとって必須の要件と言えますよね。なぜなら領域の専門家でい続ければリーダーになることはできないからです。リーダーとしての器を大きくしていくということは、そのまま「非専門家」になっていくということでもあります。 企業の管理職の中で、もっとも「専門外の領域」について責任を取らなければならないポジションにあるのが「社長」だということを考えてみてください。出世するということは、ある意味ではどんどん「非専門家」になっていくということでもあるわけです。 リーダーの仕事は、異なる専門領域のあいだを行き来し、その領域の中でヤドカリのように閉じこもっている領域専門家を共通の目的のために駆動させることです。 仕事の場において、「自分はその道の専門家ではない」という引け目から、「なにか変だな」と思っているにもかかわらず領域専門家に口出しすることを躊躇してしまうことは誰にでもあるでしょう。 しかし、専門領域について口出ししないという、このごく当たり前の遠慮が、世界全体の進歩を大きく阻害していることを我々は決して忘れてはなりません。 東海道新幹線を開発する際、「時速200キロで走る鉄道を造ることは原理的に不可能である」と主張し、頑なに新幹線の可能性を否定したのは、国鉄の古参エンジニアでした。 そして、その古参の鉄道エンジニアが長いこと解決できなかった車台振動の問題を解決したのは、その道のシロウトであった航空機のエンジニアだったのです。このとき「自分は専門家ではないから」と遠慮して、解決策のアイデアを提案していなかったらどうなっていたでしょうか。 世界の進歩の多くが、領域外のシロウトによるアイデアによってなされています。米国の科学史家でパラダイムシフトという言葉の生みの親になったトーマス・クーンはその著書『科学革命の構造』の中で、パラダイムシフトは多くの場合「その領域に入って日が浅いか、あるいはとても若いか」のどちらかであると指摘しています。 領域を横断して、必ずしも該博な知識がない問題についても、全体性の観点に立って考えるべきことを考え、言うべきことを言うための武器として、リベラルアーツは必須のものと言えます』、新幹線開発でそんなエピソードがあったのは初めて知った。領域外のシロウトによるアイデアには確かに価値がありそうだ。
次に、農業ジャーナリストの山田 優氏が9月29日付け東洋経済オンラインに寄稿した「全国の大学で「農学部」が次々新設されるワケ キャンパスに「ノケジョ」が闊歩する」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/239658
・『今、大学で農学系の学部新設が相次いでいる。若い人、特に女性の間で食や農、環境に対する関心が高まり、農学部キャンパスではノケジョ(農学系女子)が大手を振って闊歩する。景気に左右されにくい食品産業への就職に、農学部卒が有利なことも人気を支える。 農学部に対する「偏見」が薄れてきた 「若い人たちの間では農業に対する偏見がなくなってきた。大学に限らず、農業高校でも農家出身以外の子どもたちが、意欲を持って入学するようになっている」と説明するのは、福島大学で農学部開設を進める生源寺眞一教授だ。かつて「農業をするのは農家の長男」「農学部での勉強は時代遅れ」というイメージがつきまとった。だが、今や農学は身近な課題やグローバルな問題に立ち向かう斬新な学問と受け止められるようになった。 農学部の新設ラッシュは、ここ10年ぐらい続いている。国立の山梨、徳島、福島、私立の吉備国際、龍谷、立命館などの大学で設置されるなど全国に広がる。今年4月には私立の新潟食料農業大学が新たに設立された。 大阪府の私立摂南大学は、2020年4月の農学部開設に向け準備を進めている。「高齢化や自給率低下が進む半面、企業参入やロボット・ICT活用などの変化もある。直面する課題に取り組める人材育成を目指す」と新学部開設担当課の国分房之輔課長は話す。 このほか、構想段階で農学部新設を進める大学が、複数あると言われている。 学部新設にまでは至らなくても、農学部以外の学部に農業を学ぶ学科を設ける大学が少なくない。文科省の調査によると農学系学科に所属する学生数は増加傾向にある。大学界で農学はブームなのだ。 新設農学部はいずれも地域社会や食品産業との連携を掲げている。山梨大学は地場産業であるワイン研究を掲げ、福島大学は、東京電力福島第一原発事故からの再生・復興への貢献を打ち出している。新潟食料農業大学は、食料産業ビジネスとの密接な関係を目指す。 従来の農学教育や研究は、伝統的に小規模農業と農家経営に軸足を置いていた。しかし、新設農学部では農業専門から領域を大きく広げたのが特徴だ』、農学がブームになってきたというのは初耳だが、喜ばしいことだ。
・『文科省の要請を受け、大学学士課程の基準を検討した日本学術会議は2015年、農学を「実践的な価値追求の学問と、幅広い生命科学全般の総合科学の学問」と定義し公表した。従来のコアな農業教育研究に加えて「現代的課題に対応するため、それぞれ発展するだけではなく、連携、融合することで新たな発展を遂げ、新しい領域も生まれている」とした。 食料生産を学ぶ農学の歴史は古いが、近年は加工・流通、安全性の確保、生命にかかわる基礎科学、地球環境への対処に欠かせない幅広い学問であると同会議は位置づけた』、さすが上手い定義だ。
・『背景に若者の意識変化 都市生活に満足できず田園回帰の動きが出るなど、農村へのあこがれが、若者たちを農学に引き寄せているように見える。内閣府の調査(2014年)では、20歳代男性で農村定住の意欲が高いことが明らかになっている。地方移住をテーマにしたセミナーや相談会への参加者も増加傾向だ。「大都市に住んで普通の会社に勤めるのが当たり前」という価値観が薄れ、地域に自ら出向き、グローバル課題に挑戦できる農学に関心が集まるようになった。 もう1つ学生人気の背景にあるのが食品産業の伸長だ。食品産業の国内生産額は平成に入った1989年に79兆円だったが、2016年には99兆円まで拡大した。特筆できるのはその安定ぶりだ。10年前のリーマンショック後の2009年、国内産業全体の生産額は景気後退で前年に比べて11%減少したが、食品産業に限れば横ばいで持ちこたえた(農林水産省「農業・食料関連産業の経済計算」)。「産業は業種によって浮沈が伴う。しかし、食べ物に関した産業は浮き沈みが小さい。将来のキャリアを考える若者たちにとって、食品産業の魅力が高まっている。農学部に学生が集まるのは、就職に有利という現実的な理由もあるだろう」と生源寺教授は解説する。 農学部の変化で注目すべきなのは、女子学生ノケジョの増加だ。文科省の調査では2017年の女子学生比率は45%と半数近い。筆者は40年以上前に農学部に在籍した。当時はクラスに一握りしか女子学生はいなかった。8年前から首都圏にある大学の農学部で兼任講師として教えているが、確かにキャンパスの光景は様変わりだ。 この間の変化は学生数だけではない。教室で前の席に座るのは女子学生。手を挙げるのも女子学生。成績が上位なのも女子学生のような気がする。とにかく元気なノケジョが目立つ。時折「頑張れ男子学生」と叫びたくなるほどだ。 龍谷大学農学部教務課の糸井照彦さんは「国家資格の管理栄養士を目指す食品栄養学科の場合、女子学生の比率は7割以上。農学部というと第1次産業というイメージがあったが、食ビジネスにまで対象が広がり、女子学生にも魅力的になった。これは全国のトレンドではないか」と話す。獣医師系の学科でも女子学生比率は高い。農学部が男の世界という時代は、完全に過ぎ去ったと言えるだろう』、「元気なノケジョ」とは頼もしい限りだ。
・『広がる新しい挑戦 相次ぐ新参勢力の台頭に刺激を受け、既存の農学部でも変革の動きが広がっている。9月18日、奈良市の近畿大学農学部で、農業知的財産に関する新講座の第1回講義が開かれた。 農水省と連携し、農林水産分野の知財に詳しい人材を育てるのが目的。農水省の杉中淳予算課長(前知財課長)が、2年生を前に制度の解説や国際的な動きを講義した。正規の授業として15回行われる予定だ。「日本の大学としては初めての試みだ」と近畿大学農学部の伊藤博樹事務長は言う。 同大学は養殖マグロなど独創的な研究で注目されているが、「農業を取り巻く幅広い分野で、多角的に学べる強みを発揮したい」(伊藤事務長)と力説する。 日本全国の農学部で、新しい挑戦が始まっているようだ』、確かに中国で日本の農業知的財産を盗用するケースが相次いでいるなかでは、こうした取り組みも理解できる。
第三に、2月6日付け東洋経済オンライン「完全飽和の私大600校を襲う大淘汰の幕開け 18歳人口の減少が2018年から再び加速」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/207441
・『全国に600校余りある私立大学に、「2018年問題」という大波が押し寄せようとしている。 大学の「主要顧客」である18歳人口は、ピーク時の1992年に200万人を超えていたが、その後減少に転じ、2017年のそれは120万人へ4割減少した。2000年代後半に減少ペースはいったん鈍ったが、2031年には100万人を切る。「2018年問題」とは、18歳人口の減少スピードが2018年に再び加速することにより、私立大学の経営を大きく直撃するという問題を指す・・・子どもの数は減り続けているのに、大学数は右肩上がり。1980年に446校だった大学は2016年には約1.7倍の777校へ増加、学部の新増設は毎年のように続く。大学と学生の需給バランスがこれほど悪化しているのに、経営破綻した大学数は意外と少ないといえるが、「予備軍」は着々と増えている』、少子化はかなり以前から分かっていたのに、学部の新増設が続くというのは、理解に苦しむ現象だ。「2018年問題」というのは、一旦、緩んでいた18歳人口の減少スピードが元のトレンドよりやや緩やかなものに戻るだけで、大騒ぎするほどでもないと思える。
・『「レッドゾーンは21法人、イエローゾーンは91法人」 2017年末、こんな衝撃的な見出しが新聞紙上に踊った。私立大学の経営を指導している日本私立学校振興・共済事業団が、私立の大学・短期大学を経営する全国660の学校法人の2016年度までのデータを調べたところ、自力再生が極めて困難な「レッドゾーン」、経営困難状態である「イエローゾーン」の法人合計で全体の2割弱に上ることがわかった。 同事業団の野田文克・私学情報室長は「過大な設備投資をした年は運用資産が減るため、経営状態が一気に悪化する。(上記のシミュレーションは)あくまで大ざっぱなもので、赤字だから即破綻ということではない」と指摘する。 ただ、私立大の本業である教育研究活動のキャッシュフローでみると、過去2期赤字の私立大は週刊東洋経済2月5日号で編集部が試算した限りでも約50法人に及ぶ。企業と異なって巨額の有利子負債を抱える法人は少ないが、教育研究活動の収入に対するキャッシュフロー赤字の割合が数十%に上る法人もいくつか存在する・・・私立大学の典型的な収支構造は、半分強の学生等納付金、1割程度の補助金、残り大半が事業収入という収入構成に対し、人件費が5割、教育研究経費が3割強、管理経費は1割を占めている。 収入のうち、財政難の国からの補助金は、これ以上の増額が見込めない。収入の柱である学納金を増やすには、学生数が減るなら単価である授業料を値上げするしかない。ただ、「米国の大学と比べて日本の私大の学費は安いが、デフレ下の日本で学費値上げを本当に打ち出せるのか」(大手私大幹部)と、難色を示す私大が多い。一方、費用の5割を占める教職員人件費を削るのは企業のリストラほど簡単にはいかない。「入」も「出」も、にっちもさっちもいかない状態にあるのが今の私立大学の財務状況だ。 文部科学省の私大担当者の頭をよぎるのは、数年前の苦い記憶だ。群馬県高崎市で創造学園大を経営していた堀越学園が、理事長のワンマン経営による拡大路線の末に経営破綻。2013年に文部科学省が異例の解散命令を出す事態に至った。在学中の学生そっちのけの混乱が繰り広げられ、私立大の経営破綻時の処理が真剣に検討される、1つのきっかけとなった。 文科省は2016年から2017年にかけて、有識者を集めて「私立大学等の振興に関する検討会議」を開催。経営困難に陥る私立大が続出することを想定し、大学間の相互扶助や学生の転学支援を検討する必要がある、と提言した。その後、中央教育審議会の将来構想部会において、国公私立大の枠を超えた、さまざまな大学間連携・統合のあり方も議論されている』、大学収入の1割が補助金であれば、文科省がもっと経営内容をチェックすれば、堀越学園破綻のような事態は避けられた筈だ。それをわざわざ中央教育審議会で審議するとは、責任逃れなのではなかろうか。
・『大学の淘汰時代の幕開け 「早慶GMARCH」のように、在学する学生数が8000人を超える大規模私立大(58校)と、4000人以下の小規模私立大(456校)との経営、体力格差はますます広がっている(学校数は私学事業団、2016年度)。 「『東京大学が滑り止め』という優秀な(日本人の)高校生が登場し、アジアで欧米大学との獲得競争も起きている」(法政大の田中優子総長)とし、大学経営の視点をグローバルに広げようとしている上位私大と、国内でいかに生き残りを図るか、四苦八苦している下位私大を同じ枠組みで議論するのはなかなか難しい。 私大の再編や譲渡で企業と異なる点は、学生という特殊なステークホルダーの存在だ。私大同士の合併も、カリキュラムや学生の質が異なることが多く簡単ではない。 経営の苦しくなった地方の私大を自治体が引き取って公立大学化する動きも出ている。長野県の諏訪東京理科大学のほか、新潟県柏崎市の新潟産業大学が公立大学法人化を検討している。私大より授業料が安いため、公立化した大学は学生の人気を集めているが、赤字を税金で付け替えているともいえ、一時しのぎにすぎない。 定員割れ大学が私大全体の4割を占めるようになって久しい。完全に飽和した状態で教育無償化に関する詳細な制度設計の議論がスタートする中、この2018年はもう避けられない大淘汰時代の幕開けとなる』、個人的には大学教育の無償化には反対だ。「経営の苦しくなった地方の私大を自治体が引き取って公立大学化する動き」も、自治体にとっては大学がなくなってしまうよりは、引き取ってしまおうと判断なのだろうが、余りに安易すぎる。財政負担が増すだけだ。
第四に、経済ジャーナリストの岩崎 博充氏が6月28日付け東洋経済オンラインに寄稿した「私大への助成金で歪められる日本の教育現場 18歳人口の大幅な減少に耐えられるのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/226083
・『日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックル問題でクローズアップされた話題の1つに、政府から交付される学校法人への補助金がある。私立大学助成金、いわゆる「私学助成金」だ。 「私学助成金」とは 私学助成金は、私立の大学や短期大学、高等専門学校に各学校の教職員数や学生の数などによって毎年交付される。その総額は2017年度で3168億円にも達する。いわば学校を運営する際に必要な経費に対して補助されるもので、学部の新設とか新たに大学を立ち上げる、といった時の補助金とはまた異なる。 私学助成金などの教育機関に対する補助金はどんな仕組みになっているのか。また、その交付基準とはなにか。 現在、日本にはざっと780校(2017年度)の大学がある。そのうち私立大学は604校。その大半は政府から私学助成金=「私立大学等経常費補助金」を交付されている。この経常費補助金は、施設整備費補助、研究設備整備費等補助、教育研究活性化設備整備費補助といった名目だが、大きく分けて「一般補助」と「特別補助」の2種類になる。 2017年度の交付学校数は、短期大学や高等専門学校なども合わせると873校(出所:日本私立学校振興・共済事業団、以下同)で、一般補助=2688億円、特別補助=479億円。1校あたりの平均は大学で5億1371万円、短期大学は7426万円、高等専門学校1億4220万円となる。 これを1人当たりの平均に換算すると大学が15万5000円、短期大学18万3000円、高等専門学校19万6000円となる。私立大学に通っている人は、毎年平均で15万円程度の補助金を受けて学生生活を送っている・・・私学助成金そのものは、このところ継続して一定の伸び率にとどまっており、今では大学の経費に対する補助割合は全体で10%程度に留まっている。かつては3割近かったのだが、いまや大学の収入の1割が補助金という状態になっている』、なるほど。
・『経営のトップが出てこない背景には… 一連の日大アメフト部の問題において、当該選手だけでなく監督やコーチ、学長までが会見を開いたが、最後まで会見に姿を見せていないのは日大の田中英壽理事長だ。学校をビジネスと考えれば、経営のトップ=理事長が出てこないのは、やはり違和感がある。 その背景には巨額の助成金=補助金があるように思えてならない。確かに、日大の危機管理のなさは目立ったが、その一方で90億円を超える私学助成金を受け取っている日大としては、そうそう軽々しく自分の非を認めるわけにはいかない事情がありそうだ。 たとえば、私学助成金を受け取るには一定の条件がある。「法令違反等」や「財政状況」によっては補助金甲府が打ち切りになる、あるいは減額されるケースがあるからだ。こうした背景をメディアがきちんと伝えたかどうかはやや疑問が残る。 たとえば、学校法人の財産の不正使用や財産目録、貸借対照表、収支計算書、事業報告書といった公文書への虚偽記載などが対象になるのだが、次のようなケースでも補助金の打ち切りや減額があるとされている。
+学校経営にかかわる刑事事件により役員または教職員が逮捕及び起訴された場合
+役員もしくは教職員などに訴訟や紛争があり、教育研究その他の学校運営が著しく阻害されて、その機能の全部若しくは一部が休止している状態の場合
+理事会または評議会が長期間開催されず、教育研究や学校運営が正常に行われていない場合
日大アメフト部の事件では、悪質反則は内田正人前監督と前コーチの指示だったとされているが、内田前監督は日本大学全体の理事=役員だったために、仮に今回の事件が刑事事件に発達した場合、補助金の減額、打ち切りになる可能性が出てくる。 ここに、日大が自校の役員の不祥事をあっさりと認められない事情がある。私立学校振興助成法にも役員の責任などは明記されている』、日大としては、その政治力を駆使して刑事事件にならないよう手を尽くしているのだろう。
・『私立大学に押し寄せる「2018年問題」 全国に600校余りある私立大学には、「2018年問題」という大波が押し寄せようとしている。 大学の「主要顧客」である18歳人口は、ピーク時の1992年に200万人を超えていたが、その後減少に転じ、2017年のそれは120万人へ4割減少した。2000年代後半に減少ペースはいったん鈍ったが、2031年には100万人を切る。「2018年問題」とは、18歳人口の減少スピードが2018年に再び加速することにより、私立大学の経営を大きく直撃するという問題を指す。 実際に大学や大学院の将来像を議論する中央教育審議会、いわゆる「中教審」もこの秋を目処に、国立大学法人が複数の大学を経営できる仕組みなど、少子化の進展に対応するための将来構想を文部大臣に答申すると言われる。 その中には経営悪化の私立大学に対して、早期の撤退を促す目的で学部や学科単位の「譲渡」を可能にする、あるいは他の大学や企業、自治体と密接な連携ができる体制を作るなど、大学や大学院の在り方について議論が交わされている。 そんな議論に関連して、最近になってクローズアップされているのが、大学の定員割れの問題だ。 補助金を受けている私立大学の40%は、5年連続で定員割れに陥っていると言われている。2018年度からは、定員割れしている私立大学に対して補助金を減額する方向に動いており、場合によっては補助金の打ち切りも検討するとされている。大学ビジネスも、いよいよ人口減少の影響をまともに受けつつある、ということだ。 実際に、大学教員の平均年齢は学校教員統計調査によると、2016年度現在で平均年齢49.1歳。過去最高でこの数字は年々上昇している。若手の教員が育っていないことを物語っているのだが、教員不足から定年延長した大学が多く、そのぶん教員の賃金の低迷につながっているとも言われる。 ちなみに2017年秋に、東京23区の大学の定員を抑制する文部科学省告示が交付されたが、地方大学の定員割れを防ぐために、人が集まりやすい東京の大学の定員数を制限するのは、あまりに安直な政策と言わざるをえない。定員割れの大学の活性化に繋がるとは到底思えない』、「若手の教員が育っていない」というのには違和感がある。むしろ定年延長に伴うポスト不足の反映なのではないだろうか。
・『大学を減らす仕組みを作るほうが建設的だ 人気のない大学を減らす仕組みを作ることのほうが、今後の人口減少社会を考えたとき、はるかに建設的と言える。 そもそも、私立大学という私的な組織に多額の税金が使われていることには、以前から憲法89条の「税金を私的企業や団体に交付することを禁止する規定」に違反しているのではないかという指摘があった。教育機関だから特別扱いすることで、これまでスルーされてきたのだが、国際的に低いランクに甘んじている日本の大学の現状を考えると、助成金制度が功を奏しているとも思えない』、「大学を減らす仕組みを作るほうが建設的」というのは大いに同意したいが、教育無償化はこれに逆行する愚策なのではなかろうか。
先ずは、組織開発・人材育成コンサルタントの山口 周氏が1月9日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「リベラルアーツは「社会人としての教養」、ではない」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/150352
・『昨今ブームとなっている教養の学び直し。だが、教養=リベラルアーツではない。リベラルアーツとは「自由の技術」のこと。常識として通用している前提や枠組みを「問う」「疑う」ための技術がリベラルアーツの真髄だ。MBAを取らずに独学で外資系コンサルタントになった山口周氏が、知識を手足のように使いこなすための最強の独学システムを1冊に体系化した『知的戦闘力を高める 独学の技法』から、内容の一部を特別公開する』、「独学で外資系コンサルタントになった」とは大したものだ。
・『リベラルアーツは、イノベーションを起こす武器となる まず読者の皆さんに一つ質問をしてみましょう。その質問とは「金利はなぜプラスなのか?」というものです。 恐らく、多くの読者はこの質問に対する明確な答えを持っていないでしょう。しかし、それはなにも皆さんに限ったことではありません。私を含め、現代に生きる我々のほとんどは無条件に「金利はプラスだ」と信じて疑っていません。 ところが、これは現代の、それも実質的な西欧社会に生きている我々だけのあいだに通用する常識であって、歴史を振り返れば、あるいは地域を変えてみれば、それが一時的かつ局所的な常識であることがすぐにわかります。 たとえば、中世ヨーロッパや古代エジプトではマイナス金利の経済システムが採用されていました。マイナス金利ということはつまり、銀行にお金を預けるとどんどん価値が目減りしてしまうことを意味しています。 したがって、こういう社会では現金を持ち続けていることは損になります。当然のことながら、現金は入ってくると同時になるべく他のものと交換しようという誘因が働くことになります。 では、どのようなものと変えるのがいいでしょうか。食べ物?いや、食べ物は難しい。一度に食べられる量には限りがありますから、保存が必要になります。しかし当時は冷蔵庫もない時代で、保存できる量にはおのずと限りがあります。 では、モノにするべきでしょうか?モノなら何がいいでしょうか?こうやって考えていくと、やがて誰もが同じ結論に至ることになります。そう、長いこと富を生み出す施設やインフラにお金を使おうという結論です。 このような考え方に則って進められたのがピラミッドの建築に代表されるナイル川の灌漑事業であり、中世ヨーロッパでの大聖堂の建築でした。この投資が、前者は肥沃なナイル川一帯の耕作につながってエジプト文明の発展を支え、後者は世界中からの巡礼者を集めて欧州全体の経済活性化や道路インフラの整備につながっていったのです。 リベラルアーツを、社会人として身につけるべき教養、といった薄っぺらいニュアンスで捉えている人がいますが、これはとてももったいない。リベラルアーツのリベラルとは自由という意味です。アートとは技術のことです。つまり「リベラルアーツ」というのは、「自由の技術」ということです。 では、ここでいう「自由」とは何なのか?元々の語源は新約聖書のヨハネ福音書の第8章31節にあるイエスの言葉、「真理はあなたを自由にする」から来ています。「真理」とは読んで字の通りで「真の理(=ことわり)」のことです。 時間を経ても、場所が変わっても変わらない、普遍的で永続的な理(=ことわり)が「真理」であり、それを知ることによって人々は、その時その場所だけで支配的な物事を見る枠組みから自由になれる、といっているわけです。 その時その場所だけで支配的な物事を見る枠組み、それはたとえば「金利はプラスである」という思い込みのようなものです。 つまり、目の前の世界において常識として通用して誰もが疑問を感じることなく信じ切っている前提や枠組みを、一度引いた立場で相対化してみる、つまり「問う」「疑う」ための技術がリベラルアーツの真髄だということになるわけです。 そして、あらゆる知的生産は、「問う」「疑う」ことから始まります。この点については『知的戦闘力を高める 独学の技法』で繰り返し指摘していますが、質の良い「問い」「疑い」のないところには、質の良い「インプット」は生まれません。つまりリベラルアーツというのは、知的戦闘力の基礎体力を高める役割を担うわけです』、「「問う」「疑う」ための技術がリベラルアーツの真髄」とは本質を突いた指摘だ。
・『この「問う」「疑う」という行為は、ビジネスの世界においても強力な武器となります。たとえば、イノベーションというのは「常識を疑う」ことで初めて駆動されます。過去のイノベーションを並べてみると、そこに何らかのかたちで、それまでに当たり前だと思っていた前提や枠組みが取り払われて成り立っていることに気づくと思います。
+パソコンの販売では店頭シェアがカギだ、という前提が支配する中で、その前提にこだわって破綻したコンパックと、その前提から離れてダイレクト販売というモデルを確立して業界を支配したデル +モノを一番早く運ぶのは最短経路だ、という前提が支配する中で、その前提にこだわって消えていった多くの零細運送事業者と、ハブ&スポークという物流システムを確立して成長したFedEx
+パソコンには入力機器と記録媒体が必要だ、という前提にこだわって価格競争の泥沼で苦しんでいる多くのPCメーカーと、その前提から離れてiPadを開発したアップル
イノベーションというのは常に「それまでは当たり前だと思っていたことが、ある瞬間から当たり前でなくなる」という側面を含んでいます。つまりイノベーターには「当たり前」を疑うスキルが必要だということです』、言われてみればその通りなのかも知れない。
・『リベラルアーツは、領域横断の武器となる リベラルアーツはまた、専門領域の分断化が進む現代社会の中で、それらの領域をつないで全体性を回復させるための武器ともなります。現在の社会はテクノロジーの進化に引きずられるようにして変化を余儀なくされていますが、テクノロジーの進化は必然的に専門分野の細分化を要請します。 このとき、特定領域における科学知識の深化とリベラルアーツを二項対立するものとして置けば、リベラルアーツに出る幕はありません。 しかし一方で、どんどん専門分化する科学知識をつないでいくものとしてリベラルアーツを捉えればどうか。本書の冒頭で指摘した通り、いま足りないのは領域の専門家ではなく、そこを越境していけるクロスオーバー人材です。そして、この要請はますます強まっています。 なぜなら、専門化が進めば進むほどに、個別専門の領域を超えて動くことのできる「自由な人」が求められるからです。そしてこの「自由さ」を与えてくれる唯一のものが、リベラルアーツだということです』、専門家を育てるのは難しくはないが、リベラルアーツを駆使できる人材の育成は日本では難しそうだ。
・『領域を超えるというのは、リーダーにとって必須の要件と言えますよね。なぜなら領域の専門家でい続ければリーダーになることはできないからです。リーダーとしての器を大きくしていくということは、そのまま「非専門家」になっていくということでもあります。 企業の管理職の中で、もっとも「専門外の領域」について責任を取らなければならないポジションにあるのが「社長」だということを考えてみてください。出世するということは、ある意味ではどんどん「非専門家」になっていくということでもあるわけです。 リーダーの仕事は、異なる専門領域のあいだを行き来し、その領域の中でヤドカリのように閉じこもっている領域専門家を共通の目的のために駆動させることです。 仕事の場において、「自分はその道の専門家ではない」という引け目から、「なにか変だな」と思っているにもかかわらず領域専門家に口出しすることを躊躇してしまうことは誰にでもあるでしょう。 しかし、専門領域について口出ししないという、このごく当たり前の遠慮が、世界全体の進歩を大きく阻害していることを我々は決して忘れてはなりません。 東海道新幹線を開発する際、「時速200キロで走る鉄道を造ることは原理的に不可能である」と主張し、頑なに新幹線の可能性を否定したのは、国鉄の古参エンジニアでした。 そして、その古参の鉄道エンジニアが長いこと解決できなかった車台振動の問題を解決したのは、その道のシロウトであった航空機のエンジニアだったのです。このとき「自分は専門家ではないから」と遠慮して、解決策のアイデアを提案していなかったらどうなっていたでしょうか。 世界の進歩の多くが、領域外のシロウトによるアイデアによってなされています。米国の科学史家でパラダイムシフトという言葉の生みの親になったトーマス・クーンはその著書『科学革命の構造』の中で、パラダイムシフトは多くの場合「その領域に入って日が浅いか、あるいはとても若いか」のどちらかであると指摘しています。 領域を横断して、必ずしも該博な知識がない問題についても、全体性の観点に立って考えるべきことを考え、言うべきことを言うための武器として、リベラルアーツは必須のものと言えます』、新幹線開発でそんなエピソードがあったのは初めて知った。領域外のシロウトによるアイデアには確かに価値がありそうだ。
次に、農業ジャーナリストの山田 優氏が9月29日付け東洋経済オンラインに寄稿した「全国の大学で「農学部」が次々新設されるワケ キャンパスに「ノケジョ」が闊歩する」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/239658
・『今、大学で農学系の学部新設が相次いでいる。若い人、特に女性の間で食や農、環境に対する関心が高まり、農学部キャンパスではノケジョ(農学系女子)が大手を振って闊歩する。景気に左右されにくい食品産業への就職に、農学部卒が有利なことも人気を支える。 農学部に対する「偏見」が薄れてきた 「若い人たちの間では農業に対する偏見がなくなってきた。大学に限らず、農業高校でも農家出身以外の子どもたちが、意欲を持って入学するようになっている」と説明するのは、福島大学で農学部開設を進める生源寺眞一教授だ。かつて「農業をするのは農家の長男」「農学部での勉強は時代遅れ」というイメージがつきまとった。だが、今や農学は身近な課題やグローバルな問題に立ち向かう斬新な学問と受け止められるようになった。 農学部の新設ラッシュは、ここ10年ぐらい続いている。国立の山梨、徳島、福島、私立の吉備国際、龍谷、立命館などの大学で設置されるなど全国に広がる。今年4月には私立の新潟食料農業大学が新たに設立された。 大阪府の私立摂南大学は、2020年4月の農学部開設に向け準備を進めている。「高齢化や自給率低下が進む半面、企業参入やロボット・ICT活用などの変化もある。直面する課題に取り組める人材育成を目指す」と新学部開設担当課の国分房之輔課長は話す。 このほか、構想段階で農学部新設を進める大学が、複数あると言われている。 学部新設にまでは至らなくても、農学部以外の学部に農業を学ぶ学科を設ける大学が少なくない。文科省の調査によると農学系学科に所属する学生数は増加傾向にある。大学界で農学はブームなのだ。 新設農学部はいずれも地域社会や食品産業との連携を掲げている。山梨大学は地場産業であるワイン研究を掲げ、福島大学は、東京電力福島第一原発事故からの再生・復興への貢献を打ち出している。新潟食料農業大学は、食料産業ビジネスとの密接な関係を目指す。 従来の農学教育や研究は、伝統的に小規模農業と農家経営に軸足を置いていた。しかし、新設農学部では農業専門から領域を大きく広げたのが特徴だ』、農学がブームになってきたというのは初耳だが、喜ばしいことだ。
・『文科省の要請を受け、大学学士課程の基準を検討した日本学術会議は2015年、農学を「実践的な価値追求の学問と、幅広い生命科学全般の総合科学の学問」と定義し公表した。従来のコアな農業教育研究に加えて「現代的課題に対応するため、それぞれ発展するだけではなく、連携、融合することで新たな発展を遂げ、新しい領域も生まれている」とした。 食料生産を学ぶ農学の歴史は古いが、近年は加工・流通、安全性の確保、生命にかかわる基礎科学、地球環境への対処に欠かせない幅広い学問であると同会議は位置づけた』、さすが上手い定義だ。
・『背景に若者の意識変化 都市生活に満足できず田園回帰の動きが出るなど、農村へのあこがれが、若者たちを農学に引き寄せているように見える。内閣府の調査(2014年)では、20歳代男性で農村定住の意欲が高いことが明らかになっている。地方移住をテーマにしたセミナーや相談会への参加者も増加傾向だ。「大都市に住んで普通の会社に勤めるのが当たり前」という価値観が薄れ、地域に自ら出向き、グローバル課題に挑戦できる農学に関心が集まるようになった。 もう1つ学生人気の背景にあるのが食品産業の伸長だ。食品産業の国内生産額は平成に入った1989年に79兆円だったが、2016年には99兆円まで拡大した。特筆できるのはその安定ぶりだ。10年前のリーマンショック後の2009年、国内産業全体の生産額は景気後退で前年に比べて11%減少したが、食品産業に限れば横ばいで持ちこたえた(農林水産省「農業・食料関連産業の経済計算」)。「産業は業種によって浮沈が伴う。しかし、食べ物に関した産業は浮き沈みが小さい。将来のキャリアを考える若者たちにとって、食品産業の魅力が高まっている。農学部に学生が集まるのは、就職に有利という現実的な理由もあるだろう」と生源寺教授は解説する。 農学部の変化で注目すべきなのは、女子学生ノケジョの増加だ。文科省の調査では2017年の女子学生比率は45%と半数近い。筆者は40年以上前に農学部に在籍した。当時はクラスに一握りしか女子学生はいなかった。8年前から首都圏にある大学の農学部で兼任講師として教えているが、確かにキャンパスの光景は様変わりだ。 この間の変化は学生数だけではない。教室で前の席に座るのは女子学生。手を挙げるのも女子学生。成績が上位なのも女子学生のような気がする。とにかく元気なノケジョが目立つ。時折「頑張れ男子学生」と叫びたくなるほどだ。 龍谷大学農学部教務課の糸井照彦さんは「国家資格の管理栄養士を目指す食品栄養学科の場合、女子学生の比率は7割以上。農学部というと第1次産業というイメージがあったが、食ビジネスにまで対象が広がり、女子学生にも魅力的になった。これは全国のトレンドではないか」と話す。獣医師系の学科でも女子学生比率は高い。農学部が男の世界という時代は、完全に過ぎ去ったと言えるだろう』、「元気なノケジョ」とは頼もしい限りだ。
・『広がる新しい挑戦 相次ぐ新参勢力の台頭に刺激を受け、既存の農学部でも変革の動きが広がっている。9月18日、奈良市の近畿大学農学部で、農業知的財産に関する新講座の第1回講義が開かれた。 農水省と連携し、農林水産分野の知財に詳しい人材を育てるのが目的。農水省の杉中淳予算課長(前知財課長)が、2年生を前に制度の解説や国際的な動きを講義した。正規の授業として15回行われる予定だ。「日本の大学としては初めての試みだ」と近畿大学農学部の伊藤博樹事務長は言う。 同大学は養殖マグロなど独創的な研究で注目されているが、「農業を取り巻く幅広い分野で、多角的に学べる強みを発揮したい」(伊藤事務長)と力説する。 日本全国の農学部で、新しい挑戦が始まっているようだ』、確かに中国で日本の農業知的財産を盗用するケースが相次いでいるなかでは、こうした取り組みも理解できる。
第三に、2月6日付け東洋経済オンライン「完全飽和の私大600校を襲う大淘汰の幕開け 18歳人口の減少が2018年から再び加速」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/207441
・『全国に600校余りある私立大学に、「2018年問題」という大波が押し寄せようとしている。 大学の「主要顧客」である18歳人口は、ピーク時の1992年に200万人を超えていたが、その後減少に転じ、2017年のそれは120万人へ4割減少した。2000年代後半に減少ペースはいったん鈍ったが、2031年には100万人を切る。「2018年問題」とは、18歳人口の減少スピードが2018年に再び加速することにより、私立大学の経営を大きく直撃するという問題を指す・・・子どもの数は減り続けているのに、大学数は右肩上がり。1980年に446校だった大学は2016年には約1.7倍の777校へ増加、学部の新増設は毎年のように続く。大学と学生の需給バランスがこれほど悪化しているのに、経営破綻した大学数は意外と少ないといえるが、「予備軍」は着々と増えている』、少子化はかなり以前から分かっていたのに、学部の新増設が続くというのは、理解に苦しむ現象だ。「2018年問題」というのは、一旦、緩んでいた18歳人口の減少スピードが元のトレンドよりやや緩やかなものに戻るだけで、大騒ぎするほどでもないと思える。
・『「レッドゾーンは21法人、イエローゾーンは91法人」 2017年末、こんな衝撃的な見出しが新聞紙上に踊った。私立大学の経営を指導している日本私立学校振興・共済事業団が、私立の大学・短期大学を経営する全国660の学校法人の2016年度までのデータを調べたところ、自力再生が極めて困難な「レッドゾーン」、経営困難状態である「イエローゾーン」の法人合計で全体の2割弱に上ることがわかった。 同事業団の野田文克・私学情報室長は「過大な設備投資をした年は運用資産が減るため、経営状態が一気に悪化する。(上記のシミュレーションは)あくまで大ざっぱなもので、赤字だから即破綻ということではない」と指摘する。 ただ、私立大の本業である教育研究活動のキャッシュフローでみると、過去2期赤字の私立大は週刊東洋経済2月5日号で編集部が試算した限りでも約50法人に及ぶ。企業と異なって巨額の有利子負債を抱える法人は少ないが、教育研究活動の収入に対するキャッシュフロー赤字の割合が数十%に上る法人もいくつか存在する・・・私立大学の典型的な収支構造は、半分強の学生等納付金、1割程度の補助金、残り大半が事業収入という収入構成に対し、人件費が5割、教育研究経費が3割強、管理経費は1割を占めている。 収入のうち、財政難の国からの補助金は、これ以上の増額が見込めない。収入の柱である学納金を増やすには、学生数が減るなら単価である授業料を値上げするしかない。ただ、「米国の大学と比べて日本の私大の学費は安いが、デフレ下の日本で学費値上げを本当に打ち出せるのか」(大手私大幹部)と、難色を示す私大が多い。一方、費用の5割を占める教職員人件費を削るのは企業のリストラほど簡単にはいかない。「入」も「出」も、にっちもさっちもいかない状態にあるのが今の私立大学の財務状況だ。 文部科学省の私大担当者の頭をよぎるのは、数年前の苦い記憶だ。群馬県高崎市で創造学園大を経営していた堀越学園が、理事長のワンマン経営による拡大路線の末に経営破綻。2013年に文部科学省が異例の解散命令を出す事態に至った。在学中の学生そっちのけの混乱が繰り広げられ、私立大の経営破綻時の処理が真剣に検討される、1つのきっかけとなった。 文科省は2016年から2017年にかけて、有識者を集めて「私立大学等の振興に関する検討会議」を開催。経営困難に陥る私立大が続出することを想定し、大学間の相互扶助や学生の転学支援を検討する必要がある、と提言した。その後、中央教育審議会の将来構想部会において、国公私立大の枠を超えた、さまざまな大学間連携・統合のあり方も議論されている』、大学収入の1割が補助金であれば、文科省がもっと経営内容をチェックすれば、堀越学園破綻のような事態は避けられた筈だ。それをわざわざ中央教育審議会で審議するとは、責任逃れなのではなかろうか。
・『大学の淘汰時代の幕開け 「早慶GMARCH」のように、在学する学生数が8000人を超える大規模私立大(58校)と、4000人以下の小規模私立大(456校)との経営、体力格差はますます広がっている(学校数は私学事業団、2016年度)。 「『東京大学が滑り止め』という優秀な(日本人の)高校生が登場し、アジアで欧米大学との獲得競争も起きている」(法政大の田中優子総長)とし、大学経営の視点をグローバルに広げようとしている上位私大と、国内でいかに生き残りを図るか、四苦八苦している下位私大を同じ枠組みで議論するのはなかなか難しい。 私大の再編や譲渡で企業と異なる点は、学生という特殊なステークホルダーの存在だ。私大同士の合併も、カリキュラムや学生の質が異なることが多く簡単ではない。 経営の苦しくなった地方の私大を自治体が引き取って公立大学化する動きも出ている。長野県の諏訪東京理科大学のほか、新潟県柏崎市の新潟産業大学が公立大学法人化を検討している。私大より授業料が安いため、公立化した大学は学生の人気を集めているが、赤字を税金で付け替えているともいえ、一時しのぎにすぎない。 定員割れ大学が私大全体の4割を占めるようになって久しい。完全に飽和した状態で教育無償化に関する詳細な制度設計の議論がスタートする中、この2018年はもう避けられない大淘汰時代の幕開けとなる』、個人的には大学教育の無償化には反対だ。「経営の苦しくなった地方の私大を自治体が引き取って公立大学化する動き」も、自治体にとっては大学がなくなってしまうよりは、引き取ってしまおうと判断なのだろうが、余りに安易すぎる。財政負担が増すだけだ。
第四に、経済ジャーナリストの岩崎 博充氏が6月28日付け東洋経済オンラインに寄稿した「私大への助成金で歪められる日本の教育現場 18歳人口の大幅な減少に耐えられるのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/226083
・『日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックル問題でクローズアップされた話題の1つに、政府から交付される学校法人への補助金がある。私立大学助成金、いわゆる「私学助成金」だ。 「私学助成金」とは 私学助成金は、私立の大学や短期大学、高等専門学校に各学校の教職員数や学生の数などによって毎年交付される。その総額は2017年度で3168億円にも達する。いわば学校を運営する際に必要な経費に対して補助されるもので、学部の新設とか新たに大学を立ち上げる、といった時の補助金とはまた異なる。 私学助成金などの教育機関に対する補助金はどんな仕組みになっているのか。また、その交付基準とはなにか。 現在、日本にはざっと780校(2017年度)の大学がある。そのうち私立大学は604校。その大半は政府から私学助成金=「私立大学等経常費補助金」を交付されている。この経常費補助金は、施設整備費補助、研究設備整備費等補助、教育研究活性化設備整備費補助といった名目だが、大きく分けて「一般補助」と「特別補助」の2種類になる。 2017年度の交付学校数は、短期大学や高等専門学校なども合わせると873校(出所:日本私立学校振興・共済事業団、以下同)で、一般補助=2688億円、特別補助=479億円。1校あたりの平均は大学で5億1371万円、短期大学は7426万円、高等専門学校1億4220万円となる。 これを1人当たりの平均に換算すると大学が15万5000円、短期大学18万3000円、高等専門学校19万6000円となる。私立大学に通っている人は、毎年平均で15万円程度の補助金を受けて学生生活を送っている・・・私学助成金そのものは、このところ継続して一定の伸び率にとどまっており、今では大学の経費に対する補助割合は全体で10%程度に留まっている。かつては3割近かったのだが、いまや大学の収入の1割が補助金という状態になっている』、なるほど。
・『経営のトップが出てこない背景には… 一連の日大アメフト部の問題において、当該選手だけでなく監督やコーチ、学長までが会見を開いたが、最後まで会見に姿を見せていないのは日大の田中英壽理事長だ。学校をビジネスと考えれば、経営のトップ=理事長が出てこないのは、やはり違和感がある。 その背景には巨額の助成金=補助金があるように思えてならない。確かに、日大の危機管理のなさは目立ったが、その一方で90億円を超える私学助成金を受け取っている日大としては、そうそう軽々しく自分の非を認めるわけにはいかない事情がありそうだ。 たとえば、私学助成金を受け取るには一定の条件がある。「法令違反等」や「財政状況」によっては補助金甲府が打ち切りになる、あるいは減額されるケースがあるからだ。こうした背景をメディアがきちんと伝えたかどうかはやや疑問が残る。 たとえば、学校法人の財産の不正使用や財産目録、貸借対照表、収支計算書、事業報告書といった公文書への虚偽記載などが対象になるのだが、次のようなケースでも補助金の打ち切りや減額があるとされている。
+学校経営にかかわる刑事事件により役員または教職員が逮捕及び起訴された場合
+役員もしくは教職員などに訴訟や紛争があり、教育研究その他の学校運営が著しく阻害されて、その機能の全部若しくは一部が休止している状態の場合
+理事会または評議会が長期間開催されず、教育研究や学校運営が正常に行われていない場合
日大アメフト部の事件では、悪質反則は内田正人前監督と前コーチの指示だったとされているが、内田前監督は日本大学全体の理事=役員だったために、仮に今回の事件が刑事事件に発達した場合、補助金の減額、打ち切りになる可能性が出てくる。 ここに、日大が自校の役員の不祥事をあっさりと認められない事情がある。私立学校振興助成法にも役員の責任などは明記されている』、日大としては、その政治力を駆使して刑事事件にならないよう手を尽くしているのだろう。
・『私立大学に押し寄せる「2018年問題」 全国に600校余りある私立大学には、「2018年問題」という大波が押し寄せようとしている。 大学の「主要顧客」である18歳人口は、ピーク時の1992年に200万人を超えていたが、その後減少に転じ、2017年のそれは120万人へ4割減少した。2000年代後半に減少ペースはいったん鈍ったが、2031年には100万人を切る。「2018年問題」とは、18歳人口の減少スピードが2018年に再び加速することにより、私立大学の経営を大きく直撃するという問題を指す。 実際に大学や大学院の将来像を議論する中央教育審議会、いわゆる「中教審」もこの秋を目処に、国立大学法人が複数の大学を経営できる仕組みなど、少子化の進展に対応するための将来構想を文部大臣に答申すると言われる。 その中には経営悪化の私立大学に対して、早期の撤退を促す目的で学部や学科単位の「譲渡」を可能にする、あるいは他の大学や企業、自治体と密接な連携ができる体制を作るなど、大学や大学院の在り方について議論が交わされている。 そんな議論に関連して、最近になってクローズアップされているのが、大学の定員割れの問題だ。 補助金を受けている私立大学の40%は、5年連続で定員割れに陥っていると言われている。2018年度からは、定員割れしている私立大学に対して補助金を減額する方向に動いており、場合によっては補助金の打ち切りも検討するとされている。大学ビジネスも、いよいよ人口減少の影響をまともに受けつつある、ということだ。 実際に、大学教員の平均年齢は学校教員統計調査によると、2016年度現在で平均年齢49.1歳。過去最高でこの数字は年々上昇している。若手の教員が育っていないことを物語っているのだが、教員不足から定年延長した大学が多く、そのぶん教員の賃金の低迷につながっているとも言われる。 ちなみに2017年秋に、東京23区の大学の定員を抑制する文部科学省告示が交付されたが、地方大学の定員割れを防ぐために、人が集まりやすい東京の大学の定員数を制限するのは、あまりに安直な政策と言わざるをえない。定員割れの大学の活性化に繋がるとは到底思えない』、「若手の教員が育っていない」というのには違和感がある。むしろ定年延長に伴うポスト不足の反映なのではないだろうか。
・『大学を減らす仕組みを作るほうが建設的だ 人気のない大学を減らす仕組みを作ることのほうが、今後の人口減少社会を考えたとき、はるかに建設的と言える。 そもそも、私立大学という私的な組織に多額の税金が使われていることには、以前から憲法89条の「税金を私的企業や団体に交付することを禁止する規定」に違反しているのではないかという指摘があった。教育機関だから特別扱いすることで、これまでスルーされてきたのだが、国際的に低いランクに甘んじている日本の大学の現状を考えると、助成金制度が功を奏しているとも思えない』、「大学を減らす仕組みを作るほうが建設的」というのは大いに同意したいが、教育無償化はこれに逆行する愚策なのではなかろうか。
タグ:「完全飽和の私大600校を襲う大淘汰の幕開け 18歳人口の減少が2018年から再び加速」 「2018年問題」 今や農学は身近な課題やグローバルな問題に立ち向かう斬新な学問と受け止められるようになった 「全国の大学で「農学部」が次々新設されるワケ キャンパスに「ノケジョ」が闊歩する」 大学で農学系の学部新設が相次いでいる リベラルアーツは、イノベーションを起こす武器となる 背景に若者の意識変化 山田 優 リベラルアーツは、領域横断の武器となる 東洋経済オンライン 広がる新しい挑戦 農学を「実践的な価値追求の学問と、幅広い生命科学全般の総合科学の学問」と定義 日本学術会議 「リベラルアーツは「社会人としての教養」、ではない」 大学 (その4)(リベラルアーツは「社会人としての教養」ではない、全国の大学で「農学部」が次々新設されるワケ、完全飽和の私大600校を襲う大淘汰の幕開け、私大への助成金で歪められる日本の教育現場) 山口 周 常識として通用している前提や枠組みを「問う」「疑う」ための技術がリベラルアーツの真髄だ 「問う」「疑う」ための技術がリベラルアーツの真髄 大学を減らす仕組みを作るほうが建設的だ 「法令違反等」や「財政状況」によっては補助金甲府が打ち切りになる、あるいは減額されるケースがある 90億円を超える私学助成金を受け取っている日大としては、そうそう軽々しく自分の非を認めるわけにはいかない事情がありそうだ 最後まで会見に姿を見せていないのは日大の田中英壽理事長 日大アメフト部の問題 私立大学に通っている人は、毎年平均で15万円程度の補助金を受けて学生生活を送っている 2017年度で3168億円 私学助成金 「私大への助成金で歪められる日本の教育現場 18歳人口の大幅な減少に耐えられるのか」 岩崎 博充 大学の淘汰時代の幕開け 理事長のワンマン経営による拡大路線の末に経営破綻 堀越学園 創造学園大 自力再生が極めて困難な「レッドゾーン」、経営困難状態である「イエローゾーン」の法人合計で全体の2割弱に上る リベラルアーツとは「自由の技術」のこと ダイヤモンド・オンライン ビジネスの世界においても強力な武器
決済システム(その2)(銀行が「LINEペイ」に到底勝てない根本理由 7500万人がもたらすエリート銀行員の悪夢、日本人の「現金払い信仰」は、なぜ根強いのか キャッシュレス社会の実現に立ちはだかる壁、キャッシュレス決済に金融以外の異業種が続々参入する理由、「キャッシュレスは普及する?しない?」業界関係者の覆面座談会) [金融]
決済システムについては、3月28日に取上げた。今日は、(その2)(銀行が「LINEペイ」に到底勝てない根本理由 7500万人がもたらすエリート銀行員の悪夢、日本人の「現金払い信仰」は、なぜ根強いのか キャッシュレス社会の実現に立ちはだかる壁、キャッシュレス決済に金融以外の異業種が続々参入する理由、「キャッシュレスは普及する?しない?」業界関係者の覆面座談会)である。
先ずは、前日銀審議委員で野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミストの木内 登英氏が8月24日付け東洋経済オンラインに寄稿した「銀行が「LINEペイ」に到底勝てない根本理由 7500万人がもたらすエリート銀行員の悪夢」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/233362
・『技術力とアイデアにモノをいわせたフィンテック企業が、決済、貸出など銀行の牙城とされてきた業務に進出している。顧客のビッグデータもフィンテック企業に集まっていく。危機感を抱いた銀行は自らデジタル通貨を発行し、スマホ決済に乗り出そうとしているが、その動きはいかにも遅い。 『決定版銀行デジタル革命』でキャッシュレス化への流れと銀行の苦境を描いた著者が、動き始めたLINEペイの衝撃度を解説する』、面白そうだ。
・『「決済革命を起こす」――LINE社長の決意 無料対話アプリを運営するLINEが、「決済革命を起こす」との決意で、スマホ(スマートフォン)を使った決済サービス、LINEペイの利用拡大に一気に動きだした。 LINEペイでは店舗側のスマホに専用アプリを入れ、それをQRコード決済の端末として利用する。お客はそこに表示されるQRコードを自分のスマホで読み取って決済する。 LINEは、電子メールよりも簡単に無料で対話できるサービスが急速に利用者を拡大したという成功体験を、決済の分野でも再現しようとしているのだ。 LINEはまず、採算度外視でも利用者を拡大させることが第1と考えた。利用者が増えることでそのサービスの価値が高まるという、ネットワーク効果を狙っているのだ。LINEの出澤剛社長は、利用者が一定数を超えれば生活が変わるとも語っている。これは、LINEが新たな社会インフラを担っていくという野心を示しているのだろう。 日本でのLINE利用者は現在7500万人と、人口の実に6割近くに達している。銀行最大手の三菱UFJ銀行でも、預金口座数はおよそ4000万口座だ。LINE利用者の間で急速にLINEペイの利用が広まっていけば、その衝撃は大きい』、LINE利用者が人口の実に6割近く、とは確かにモンスターのような存在だ。
・『日本人のキャッシュレス決済の比率は現在約2割と、主要国の中で最低水準にとどまっているが、政府はこれを2025年までに4割まで高めることを目標に掲げている。もしかしたら、LINEペイはその実現を大きく助けるかもしれない。 LINEペイの利用を急拡大させるには、まずはそれを使える場所を格段に増やす必要がある。LINEはLINEペイが使える場所を、現在の9万4000カ所から、年度内に100万カ所まで一気に増やすという意欲的な目標を掲げている。 その達成に向けてこの8月から始めたのが、LINEペイの手数料無料化という戦略だ。LINEはスマホにインストールするだけで決済端末となる専用アプリを店舗に無料配信しているが、このアプリを使って決済した場合には、店舗(中小業者)側の手数料を3年間無料とする。 販売額に応じて課される決済手数料は現在、日本では3~4%が主流だ。アメリカでは2.5%、中国では0.5~0.6%がスタンダードとされている。 LINEの場合、とりあえずは3年間という限定ではあるものの、無料というのはかなり衝撃的だ。ヤフーのスマホ決済サービスも10月から手数料を無料にする予定で、今後は手数料無料化がスマホ決済の業界標準となっていく可能性もあるだろう』、手数料無料化とは衝撃的だ。
・『さらにLINEは、利用者(消費者)には決済金額の3~5%をポイント還元して、店舗側と利用者側の双方からLINEペイの利用を促す戦略をとっている。 これ以外にも、LINEペイの利用を促すために、店舗側と利用者側の双方がさまざまな決済方式を選択できるような工夫もしている。 たとえばLINEはJCBと組んで2018年中に、読み取り端末にスマホをかざせば決済できるようにする方針だ。LINEペイの口座にチャージしておけば、アプリを立ち上げなくてもJCBの非接触型「クイックペイ」で決済できる。JCBの「クイックペイ」の加盟店は現在72万カ所あるが、そこでは追加の設備投資なしでLINEペイを導入できるようになることから、LINEペイの利用拡大には有効だ』、なるほどLINEペイは極めて強力な競争力をもちそうだ。
・『お客と「友だち」になれたらお金をもらう LINEやそのライバル会社が決済サービスを無料で提供しても、ビジネスとして成り立つというのは不思議である。そのわけは、それらがもともと決済サービスで儲けるというビジネスモデルではないからだ。 この点が、手数料収入で成り立っている銀行の決済サービスとは根本的に異なるのであり、それゆえにスマホ決済などをめぐる戦いでは、銀行が非常に不利になるのだ。 LINEペイの場合には、無料アプリを使って顧客の決済を行うと、店舗の公式アカウントがその顧客とLINE上で「友だち」になれるという特徴がある。店舗側はその後、キャンペーンやクーポン発行などのメッセージを顧客に届けられるようになるが、その際に広告収入がLINEに入る仕組みだ。 このように、決済サービスを無料で提供しても、その利用が拡大していけば儲けることができるビジネスモデルとなっている。 中国のアリババグループ傘下のアリペイも、決済サービスをほぼ無料で利用者に提供している。アリペイはそこから得られる取引履歴、つまり誰がいつどこで何を買ったか、などといった情報を蓄積し、それを自社のネットショッピングでのターゲット広告などに利用、または他社に販売することで稼ぐというビジネスモデルになっている。つまり、決済サービスは本業ではなく、そこで儲ける必要がないため、無料で提供できるのである。 一方、銀行にとって決済サービスは本業中の本業、業務の中核であり、そのビジネスは手数料収入で成り立っている。銀行にはそれ以外のビジネスモデルの経験がない。 銀行がスマホ決済サービスに本格的に乗り出せば、顧客の取引履歴を入手することはできるが、ネット企業のようにそれを本業に活用することはほとんどできないだろう。またそれを外部に販売して儲けるというビジネスについてもまったく不慣れだ。 したがって、銀行が手数料収入にこだわるならば、スマホ決済サービスの分野で競争していくのはかなり難しい。また先行するLINEペイなどによって、スマホ決済の手数料無料化が一気に業界標準となってしまえば、銀行はこの分野に参入することさえ断念せざるをえなくなるかもしれないNAFTA』、これでは銀行は勝負になりそうもないようだ。
・『2017年、大手銀行はMUFGコイン、Jコインといった仮想通貨を使ったスマホ決済に乗り出す考えを明らかにしたが、その実現には依然手間取っているように見える。 一時はこうしたスマホ決済のシステムを統一することで、利用者の利便性を高め、利用の拡大を狙っていたが、その試みも頓挫しつつある。三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの3メガバンクは、買い物をするときにスマホで読み取るQRコードの規格を統一することでこの5月にようやく合意したものの、その実現を目指すのは2019年度だ。LINEペイなどネット企業とのスピード感の違いは歴然だろう。 ネット企業などによるスマホ決済が広がると、クレジットカードでの決済や銀行預金による決済が減っていくことになる。これはクレジットカードを系列に持つ大手銀行にとっては、大きな収益減となってしまう。それを食い止めようとして、銀行も自らスマホ決済サービスに乗り出そうとしているのだ。しかしそれも手数料無料化の流れの中では、既存の決済手数料収入を減らしてしまうことには変わりない。 銀行は、決済インフラの構築に巨額の資金を注ぎ込んできた。安定した決済システム、いつでも引き出し可能なATM、1万3000カ所に上る店舗など、銀行全体が抱える決済インフラは、合計で10兆円規模にも上るという。銀行預金の決済取引が減れば、その分、固定費の重みは増してしまう。 このように、銀行にとってスマホ決済サービスへの進出は自らの収益基盤を切り崩すことにもなるという、大きな自己矛盾を抱えている。それゆえに、この分野に多くのリソースを投入していくのは難しいのではないか』、銀行の決済のうち大口取引は余り影響を受けないだろうが、小口取引では影響を受けざるを得ないだろう。
・『「金融のリデザイン(再設計)」で、銀行が沈む LINEは、今の金融サービス全体をより利便性の高いものへと劇的に変えていく「金融のリデザイン(再設計)」構想を描いている。決済革命を起こすという豪語も、実は入口でしかない。将来的には融資、資産運用、保険など、さらなる金融ビジネスへの進出を視野に入れているのだ。 また、ブロックチェーン技術を使って独自の「経済圏」を作る構想も示している。LINEの利用者が、各種のサービスにコメントを書き込む、写真を投稿するなどコンテンツの拡充に貢献した際には、独自の仮想通貨を付与するという仕組みだという。利用者は獲得した通貨で各種サービスや商品の代金を支払うことができる。 このように、LINEが既存の金融サービスを次々と切り崩していけば、金融業界とりわけ銀行は顧客情報をLINEに奪われて“中抜き”され、収益機会がどんどん縮小してしまうだろう。 LINEの金融サービスが広まっても、銀行預金や銀行の決済機能がなくなるわけではない。だが、利用者はLINEのサービスを日々利用する中で、どこかでまだ銀行の預金や決済のサービスを受けていることなど、ほとんど意識しなくなるだろう。 LINEの金融サービスが普及する過程では、銀行自体の社会的なプレゼンスも大きく低下していくだろう。決済サービスを奪われることよりも、それこそがエリート銀行員たちにとっての悪夢なのではないか』、大変な時代になったものだ。
次に、FP、マネーステップオフィス代表取締役の加藤 梨里氏が9月20日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本人の「現金払い信仰」は、なぜ根強いのか キャッシュレス社会の実現に立ちはだかる壁」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/237265
・『今年6月にLINEが手掛けるスマートフォン決済サービス「LINE Pay」が、3年間の加盟店手数料無料化を発表して以来、スマホ決済を中心にキャッシュレス化の動きが加速しています。しかし6日に発生した北海道地震では、キャッシュレス生活のために手元に現金がなく、停電中のコンビニで日用品を買えないとの声が上がるなど、災害時にはほとんど機能しないキャッシュレス決済の弱点も指摘されています。 今夏から秋にかけて全国で地震や豪雨などの自然災害が相次ぎ、生活インフラの異常事態を各地で経験したことは、もともと現金信仰が強かった日本人の意識をより現金へ回帰させるきっかけになるかもしれません。国を挙げたキャッシュレス化に水を差す格好になりますが、筆者はそれ以外にも、家計管理の面で日本のキャッシュレス化を阻む要因があると思います』、言われてみれば、その通りで、こうした面も考慮する必要がありそうだ。
・『キャッシュレス社会を望まない人が半数以上 日本のキャッシュレス決済比率は2015年時点で18%と、韓国(89%)や中国(60%)などと比べて低く、政府は2027年までに4割程度に上げる目標を掲げています。8月にはQRコードを使った決済基盤を提供する事業者への補助金、決済サービスを導入する中小の小売店への税制優遇を検討すると発表。神奈川県は上下水道料金の支払い方法にLINE Payを導入しました。 しかし、官民一体となってキャッシュレス決済のインフラ整備に全力を挙げるのとは対照的に、国内の消費者はまだ及び腰な印象を受けます。博報堂生活総合研究所の調査によれば、キャッシュレス社会に「ならない方がよい」という人は51%と、わずかながら過半数を超えています。 キャッシュレス化のカギを握るとみられているのがスマートフォンを使った決済サービスです。なかでもQRコードを読み取るタイプの決済サービスはLINEのほか楽天、ソフトバンクとヤフー、アマゾンなど大手企業が参入しており、手数料無料など各社が加盟店の負担軽減策にしのぎを削っています。これが奏功すれば街中の小売店に決済端末が整備され、普及を加速させると期待されています。 ところが三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、QRコード決済を知っている人は43%、利用したことがある人は8%にすぎません。しかも「利用したことはないし、今後も利用したいとは思わない」人が55%を占めているのです。これは冒頭のLINE Payが手数料無料を発表する直前に行われた調査結果ですので、現在の認知度や利用意向は上がった可能性もあります。ただ、デジタルネーティブである20代、30代でも半数以上が利用に消極的であるとの結果は、普及への遠い道のりをうかがわせます。 これだけキャッシュレスへのモチベーションが低い要因には、現金払いで不便がない環境が影響しているようです。 上述の調査では、現金払いしかできずに困った経験がある人は全体の47%という結果も得ています。つまり半数以上の人は現金払いのみの店舗でも不自由なく買い物をしているわけです。20~30代では現金払いのみで困った人のほうが多く、世代間で差がありますが、現金主義でもさほど生活に困らなければ、あえて行動習慣を変えてまでキャッシュレスにするモチベーションは湧かないのでしょう』、確かに、サービス提供側の動きだけでなく、利用者が本当のところ何を求めているかを探る意味は大いにありそうだ。
・『そこでQRコード決済サービスの多くは、決済した消費者にポイントを付与しています。楽天ペイでは初めて使う人はもれなく1000ポイント、買い物時には決済金額に応じて0.5~1%(一部キャンペーン時にはそれ以上)のポイントがもらえます。LINE Payも決済金額に応じたポイントを付与しており、条件を満たしたユーザーには期間限定で3%を上乗せしています。こうしたインセンティブは高還元率をうたうクレジットカードにも見劣りしないレベルです』、なるほど。
・『消極的な人は、浪費しそうで怖い それでもキャッシュレス決済に二の足を踏む人には、「お金の管理が難しくなる」という不安があるようです。さきの調査結果を見ると、QRコード決済を使いたくない人は、使いたい人よりも「仕組みは知っているが、利便性を見いだせない、必要性を感じない」や「使いすぎてしまうおそれがある」という傾向が強いのです。 マネーフォワードなどの家計簿アプリでは、データ連携をすることで、QRコード決済アプリでの支出を家計簿上に表示できます。ですから決済アプリを使うと家計管理ができないわけではありません。また、データ連携をさせる操作は銀行の口座引き落としやクレジットカード払いのデータを連携させるのとほぼ同じですから、データ連携の煩雑さゆえに家計管理がしにくくなるわけでもなさそうです。そもそも家計簿アプリに連携しなくても、ほとんどの決済アプリ内では利用履歴を閲覧できます』、消極的な人は、家計簿アプリや利用履歴閲覧などしないのではなかろうか。
・『お金の出口が増えることによる錯覚が怖い むしろ問題は、家計管理にかかわるプラットフォームが従来よりも増えることではないでしょうか。現時点で、コード決済よりもクレジットカードや電子マネーに対応した小売店が多ければ、今まで使っていたカード払いをすべてコード決済に切り替えることはできないでしょう。すると、お金の出口が増えることになります。出口が増えただけで使える予算が増えるわけではありませんが、使った金額を錯覚するおそれはあります。 たとえばこれまでクレジットカードで月10万円使っていたものが、コード決済で3万円使うようになったとき、クレジットカードでの支出が7万円なら支出総額は変わりませんが、クレジットカードの明細だけを見れば支出が減ったように見えます。すると、「まだそんなに使っていないから」と油断して使ってしまうかもしれません。 そんな錯覚を防ぐために、一部の家計簿アプリでは銀行口座やクレジットカード、コード決済などの情報を一元的に表示、集計できます。ただ、連携登録できる口座数に制限があると、手持ちのお金の出口をすべてカバーしきれません。現金主義なら銀行口座とお財布の現金の出入りだけをみれば家計収支がわかるところが、さまざまなキャッシュレス決済を使うことで連携すべき情報が増え、お金の流れを追うハードルが上がってしまうのです。 家計の収支を正しく把握するのは意外と難しいものです。「わが家にはいくら収入が入ってきて、いくら出ていっているのか?」。たったそれだけのことでも、実はできている人はごくわずかです。キャッシュレス決済などのテクノロジーは、それを効率化する有効なツールのはずですが、あまたのサービスが乱立する現状では、逆にお金の動線を複雑にし、消費者の不安を募らせる要因にもなりかねません。 キャッシュレス社会が、根強い現金信仰を上回る信頼を得るには、お金を使う入口である「決済」だけでなく、お金を使った後の管理の簡便さも十分に配慮することが大切だと思います』、「あまたのサービスが乱立する現状では、逆にお金の動線を複雑にし、消費者の不安を募らせる要因にもなりかねません」というのは的確な指摘だ。キャッシュレス決済の比率が実際に上っていくには、時間がかかりそうだ。
第三に、サービス提供側の動きを、9月26日付けダイヤモンド・オンライン「キャッシュレス決済に金融以外の異業種が続々参入する理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/180539
・『東京・銀座6丁目のラグジュアリーな複合商業施設、GINZA SIX。9月上旬、この建物内にある話題のワークスペース「WeWork」にオフィスを構えるペイペイでは、今年秋のサービス開始に向けて急ピッチでシステム開発が行われていた。日本だけでなくインドなどさまざまな国籍のメンバーが一緒に働く社内には、英語が飛び交っている。 ペイペイは、ソフトバンクとヤフーが共同出資して立ち上げたスマートフォン決済サービスを手掛ける企業だ。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資したインドのスマホ決済サービス最大手のPaytmが技術ノウハウを提供しており、まさにソフトバンクグループの総力が結集されている。 ペイペイの中山一郎社長は、「中国やインドの動きを見れば、キャッシュレス化は世界のムーブメントだ」と言い切る。 そんな世界の潮流に乗り遅れまいと、ここ数年でキャッシュレス決済(QRコードやバーコードを使ったスマホ決済)への新規参入が相次いでいる(下表参照)。従来、キャッシュレス決済の主役はクレジットカードや電子マネーだが、新規参入する企業が狙うのはスマホ決済の分野。それは、参入障壁が低いからだ。米ITジャイアントのアマゾンも満を持して8月に参入し、この分野は大活況を呈している。 今年4月、経済産業省が「キャッシュレス・ビジョン」を策定し、2025年の開催を目指す大阪・関西万博に向けて日本のキャッシュレス決済比率を40%まで引き上げる目標を掲げた。政府がキャッシュレス化を積極的に後押しすると表明したのだ。それが各社の動きを加速させている』、なるほど。
・『インバウンド急増と人手不足が迫るキャッシュレス化 なぜいまキャッシュレス決済が注目されているのか。大きく二つの要因がある。 一つ目は外的要因だ。上図で示したように、日本のキャッシュレス化は他の国と比べて遅れている。キャッシュレス比率が最も高い韓国は89.1%に達しており、中国も60%に上る。それに比べて日本はわずか18.4%しかない。 背景には、日本の治安の良さや現金決済インフラの充実がある。日本は治安がいいので現金を持ち歩いても安全であり、偽札もほぼない。かつ至る所にATMがあり、いつでも現金を引き出すことができる。それ故に他国と比べて現金決済の比率が高いのである。 このような状況の中で近年、日本ではインバウンドが右肩上がりで増えている(下図参照)。日本を訪れる外国人にとっては、現金しか使えない場所が多く不便に感じることも多いだろう。 20年の東京五輪、25年の万博に向けて、さらにインバウンドが増えることが予想される。このままキャッシュレス化で後れを取れば、インバウンド向けのビジネスで、大きな機会損失が発生する可能性もある。だからこそ、いまからキャッシュレス化の推進を急ぐ必要があるのだ。 二つ目は内的要因だ。下図で示したように、少子高齢化の進展で日本の生産年齢人口はすでに減少に転じている。一方で有効求人倍率は年々上昇しており、人手不足が深刻化している。そんな中、「生産性を向上させるために、人手のかからないキャッシュレス化が求められている」(大栗竜治・野村総合研究所主任コンサルタント)のである。 また、現金の取り扱いには年間約1.5兆円もの莫大な社会コストが掛かっている。これも政府や企業がキャッシュレス化を進める大きな動機となっている』、確かに、インバウンドと人手不足は、企業がキャッシュレス化を進める大きな動機だろう。
・『JR九州が中国ネット企業とタッグを組む理由 キャッシュレス化が遅れる日本で、いち早くインバウンドの急増に目を付けた企業がある。中国ネット企業大手のアリババグループとテンセントだ。訪日外国人旅行消費額の約4割(17年実績)を占める中国人客向けに、両社は日本企業に先駆けて数年前からスマホ決済のサービスを積極的に展開している。 そんな両社とタッグを組んでスマホ決済の導入を促進しているのがJR九州だ。 上海から飛行機で1時間余りの距離にある九州は、年間23万人(クルーズ船以外の訪日客)もの中国人客が訪れる。JR九州の子会社であるJR博多シティでは、同社が運営するJR博多駅直結の駅ビル、アミュプラザ博多などでアリババグループのスマホ決済サービス「アリペイ」とテンセントの「ウィーチャットペイ」を今年2月から導入した。現在では約400店舗、9割のテナントで利用可能となっている。 アミュプラザ博多の5階にある眼鏡ショップのジンズもそうしたテナントの一つだ。「3割は海外からのお客さまで、そのほぼ全てが中国の方なので、アリペイやウィーチャットペイの導入はチャンス。実際に導入して決済は楽になった」と宮地瑛子店長は語る。 同ビル地下にあるドラッグストアのドラッグイレブンでも、「中国のお客さまの客単価は日本人の10倍。売り上げは顕著に伸びている」と同社店舗営業部の眞ヶ田雅仁係長は顔をほころばせる』、中国観光客の需要を捉えるには「アリペイ」や「ウィーチャットペイ」は、確かに必須だろう。
・『富士山エリアをキャッシュレス化する富士急行の狙い 年間3600万人もの観光客が訪れる富士山エリア──。この一大観光地を拠点とする富士急行では、17年11月からウィーチャットペイを導入した。富士急ハイランドやタクシー、バス、鉄道、ロープウエーなど富士急グループの35施設(8月14日時点)で利用可能となっている。「世界で10億人以上のアクティブユーザーがいるウィーチャットと組めば、もっと認知度を高めることができる」。斉藤隆憲執行役員はウィーチャットペイ導入の狙いを語る。 富士急ハイランドでのキャッシュレス(1)富士急ハイランドはテンセントから旗艦遊園地に指定されている。(2)4月から中国人客向けにオンラインチケット購入サービスを開始。富士 山エリアでは、(3)タクシーや(4)土産物店、(5)富士急ハイランド内のレストランなど、至る所でウィーチャットペイが使える 今年4月からはウィーチャット上で富士急ハイランドのオンラインチケット販売を開始。中国人客は訪日時に並んでチケットを購入しなくて済むようになった。「富士山エリアをキャッシュレスリゾートにしていきたい」。斉藤執行役員の夢は膨らむ。 インバウンドはここ2~3年、急速に地方へと広がっている。しかし日本では、地方に行けば行くほどキャッシュレス決済が使えない場所が多い。そこに目を付けたのが決済プラットフォームを提供するベンチャー、コイニーだ。地方の銀行や信用組合と組んで、それら金融機関の取引先企業にスマホやタブレットを使ったキャッシュレス決済を導入している。 「決済手段の選択肢が多いことは客の満足度向上につながる。手数料が掛かってもプラスになる」(井尾慎之介・コイニー取締役)。同社のサービスはウィーチャットペイにも対応しており、今後引き合いが増えそうだ』、キャッシュレス決済が遅れている地方での動きも注目点だ。
第四に、9月26日付けダイヤモンド・オンライン「「キャッシュレスは普及する?しない?」業界関係者の覆面座談会」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/180540
・『スマホによるキャッシュレス決済は普及する?関係者による覆面座談会 ──キャッシュレス化推進に向けて、業界構造が大きく揺れ動いている現状をどう見ていますか。 A氏(クレジットカード会社関係者) 主役は、決済スピードが最速の電子マネーというのが見立てです。クレジットカードは少額で大量の決済にはそぐわない。ただ、富裕層が百貨店で高い買い物をする際に、電子マネーやQRコードで支払う姿を想像できますか? 財布の小銭入れは電子マネー、札入れはクレジットカードというすみ分けで置き換わっていき、共に成長していくでしょう』、確かにすみ分けが進む可能性はあるが、手前味噌的な印象も受ける。
・『B氏(メガバンク関係社) 「銀行の3大業務」といわれるのが、預金と融資、為替(決済)ですが、昔はどれももうかった。ところが、低金利の環境が続き(預金と融資の金利差である利ざやがつぶれて)、預金・融資の業務はもうからなくなりました。そこへさらに、為替にも(IT企業などの)新規参入が相次いで収益を圧迫される。三重苦です。銀行としては固定的な経費に切り込まざるを得ない状況なので、現金の取扱量を減らすことでコストを下げたい。これは地方銀行とも利害が一致します。もし現金の量が2割減れば、5台あるATMを1台減らせることになる。すると、数百万円という1台分の維持コストが浮きます。三菱UFJ銀行がATM台数の2割削減を検討中なんてニュースが出ていましたけど、メガバンクのATM設置台数は何千台とあるので、その2割に維持コスト数百万円を掛けると、何十億円というレベルでコストカットができる。これは大きいです。今それだけ稼ぐのは大変ですから。(編集部注:ATMの設置台数は、三菱UFJ銀行が8000台強、三井住友銀行とみずほ銀行が各6000台弱。また、みずほフィナンシャルグループの試算によると、金融業界全体の現金管理とATM網運営のコストは約2兆円)』、ATMの一部削減では効果は限定的でしかない。
・『C氏(決済サービス事業者) われわれはお店がさまざまな決済方式に対応できるようにお手伝いをする立場ですが、今まではクレジットカードの手数料の高さから、決済手段を複数持つことはコストとしか思っていないお店が多かったという印象です。ところが最近は、決済手段の多さがお客さんのためになるとか、それによってお店の売り上げが伸びる、機会損失を防げる、という話をする事業者が増えてきたように思います』、インバウンドの影響の広がりを改めて知った。
・『──今回の取材を通して感じるのは、キャッシュレス決済の市場が広がるという「総論」には業界関係者全員が賛成だが、損得勘定がもろに働く決済方式や規格、ルールなどの「各論」のところで足並みがそろわないというものです。それぞれの立場で、何か物申したいことはありますか。 B氏 以前から声を上げていますが、競争条件をそろえてほしい。楽天は銀行を持てるのに、銀行はEC(電子商取引)サイトを運営できない。これは不公平です。楽天というのは一例ですが、金融とは別の収益源を持つIT企業などが、それを原資にした採算度外視の戦略を決済分野で打ち出してきたら脅威だと、以前から感じていました。そうしたら案の定、LINEなどが手数料引き下げやポイント付与といった戦略を打ち出してきた。決済において彼らIT企業が間に挟まると、決済情報が銀行に落ちなくなります。そして、私たちは何の付加価値もない、最後の最後の決済処理だけをインフラとして淡々とこなすしかなくなる。銀行が“土管化”してしまいかねないと危惧しています。(編集部注:通信業界において、端末やサービスの提供という高付加価値ビジネスを米アップルや米グーグルなどに握られ、通信回線の提供だけに追いやられる状況を「土管化」と呼ぶ)』、「銀行の“土管化”」とは言い得て妙だ。銀行のECサイト参入のためには、他業禁止規定がある銀行法の見直しが必要になるが、主要国でも事情は同じなので、見直すとしても時間がかかりそうだ。
・『C氏 新しいキャッシュレス決済サービスが次々と登場していますが、その裏側のお金のチャージや支払いではクレジットカードとひも付いている場合が多いです。そして、そのクレジットカード決済に絡む“登場人物”が多過ぎます。それはつまり、それだけ間で手数料を抜く人が多いということ。これではいつまでも決済手数料は安くならないって思います。その要因の一つが、国際ブランド(ビザやマスターカード、ジェーシービーなどの決済機能提供会社)が設定するIRF(Interchange Reimbursement Fee)という手数料です。海外ではそのレートが公開されていて、EU(欧州連合)では上限規制までかかったのに、日本ではそれが非公表という不透明な状況です。 A氏 国際ブランドにIRFを安くしてほしいというのは、クレジットカード会社にとっても永遠のテーマですよ。海外や他の加盟店でうちのカードが決済できるのは彼らのおかげだから、それなりの対価を払わなくてはいけないとは思っていますが……。あとは、(決済情報処理センターネットワークである)CAFIS(Credit And Finance Information Switching system、キャフィス)やJCN(Japan Card Network)の通信料も安くしてくれという話です。クレジットカード会社は、国際ブランドや提携カードの提携先へのロイヤリティー、銀行への口座振替手数料などを払って、決済ネットワークの通信コストやシステムの開発・維持コストも掛かる。そうやっていろいろお金を払っていくので、実入りは多くないです。さらに、最近相次いで打ち出されたIT企業たちの加盟店獲得戦略では、「手数料ゼロ」をウリにしている会社が多い。となれば、クレジットカード業界にも手数料の下方圧力がかかるでしょう。厳しいところですね。決済手数料が1%とかになってしまったら、赤字になりかねない。りそなホールディングスがクレジットカード会社のアクワイアリング業務(加盟店契約・管理)に乗り出すという話も出てきましたが、ここでも利益を奪われる。ただ、銀行にどこまで加盟店の開拓ができるかは見ものです。銀行の多くはクレジットカード子会社を持っていて、これまでもアクワイアリング業務をやってきましたが、それほど加盟店を広げられていません。なぜなら、銀行系のカード会社は、銀行本体で“上がった”人が社長で、その下には銀行から飛ばされた出向者みたいな、モチベーションが低い組織であることが多いからです。銀行本体が手掛けることで何か変化があるのか、注目しています』、りそなのアクワイアリング業務進出のお手並み拝見だ。
・『──QRコード決済がキャッシュレス化推進の切り札というような流れですが、どうお考えですか。 B氏 中堅・中小の事業者や、地方に裾野を広げる上で、非常に魅力的じゃないかと思います。中国でQRコード決済が広がったのも、インフラがなかったが故なので。7月に発足した産官学による「キャッシュレス推進協議会」でもQRコードの規格統一化が重要テーマの一つです。 C氏 その規格統一化ですが、まとまる気がしません。協議会でそれについて議論をする分科会には100社以上も参加していて、自社に有利な展開に誘導しようと“綱引き合戦”です。それでもQRコード決済を手掛けるIT企業などは、規格が統一化されないとキャッシュレス化が成功しないという思いから、議論の落としどころを探っているように見えます。ただ、クレジットカード会社などはQRコードの普及に抵抗するために分科会へ参加しているのではないか、と邪推したくなる場面もあります。 A氏 そんなことはないと思いますが、経済産業省がどんなルールを作るか、という視点も大事じゃないですか。クレジットカードは経産省が消費者保護のためにルールを作り、市場を育ててきました。QRコード決済は自由放任ということにはならないでしょう。消費者保護やセキュリティーの観点からどんなルールができるのか注目しています』、QRコード規格統一化も内ゲバがあっては、容易ではなさそうだが、当面の注目点の1つではある。
先ずは、前日銀審議委員で野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミストの木内 登英氏が8月24日付け東洋経済オンラインに寄稿した「銀行が「LINEペイ」に到底勝てない根本理由 7500万人がもたらすエリート銀行員の悪夢」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/233362
・『技術力とアイデアにモノをいわせたフィンテック企業が、決済、貸出など銀行の牙城とされてきた業務に進出している。顧客のビッグデータもフィンテック企業に集まっていく。危機感を抱いた銀行は自らデジタル通貨を発行し、スマホ決済に乗り出そうとしているが、その動きはいかにも遅い。 『決定版銀行デジタル革命』でキャッシュレス化への流れと銀行の苦境を描いた著者が、動き始めたLINEペイの衝撃度を解説する』、面白そうだ。
・『「決済革命を起こす」――LINE社長の決意 無料対話アプリを運営するLINEが、「決済革命を起こす」との決意で、スマホ(スマートフォン)を使った決済サービス、LINEペイの利用拡大に一気に動きだした。 LINEペイでは店舗側のスマホに専用アプリを入れ、それをQRコード決済の端末として利用する。お客はそこに表示されるQRコードを自分のスマホで読み取って決済する。 LINEは、電子メールよりも簡単に無料で対話できるサービスが急速に利用者を拡大したという成功体験を、決済の分野でも再現しようとしているのだ。 LINEはまず、採算度外視でも利用者を拡大させることが第1と考えた。利用者が増えることでそのサービスの価値が高まるという、ネットワーク効果を狙っているのだ。LINEの出澤剛社長は、利用者が一定数を超えれば生活が変わるとも語っている。これは、LINEが新たな社会インフラを担っていくという野心を示しているのだろう。 日本でのLINE利用者は現在7500万人と、人口の実に6割近くに達している。銀行最大手の三菱UFJ銀行でも、預金口座数はおよそ4000万口座だ。LINE利用者の間で急速にLINEペイの利用が広まっていけば、その衝撃は大きい』、LINE利用者が人口の実に6割近く、とは確かにモンスターのような存在だ。
・『日本人のキャッシュレス決済の比率は現在約2割と、主要国の中で最低水準にとどまっているが、政府はこれを2025年までに4割まで高めることを目標に掲げている。もしかしたら、LINEペイはその実現を大きく助けるかもしれない。 LINEペイの利用を急拡大させるには、まずはそれを使える場所を格段に増やす必要がある。LINEはLINEペイが使える場所を、現在の9万4000カ所から、年度内に100万カ所まで一気に増やすという意欲的な目標を掲げている。 その達成に向けてこの8月から始めたのが、LINEペイの手数料無料化という戦略だ。LINEはスマホにインストールするだけで決済端末となる専用アプリを店舗に無料配信しているが、このアプリを使って決済した場合には、店舗(中小業者)側の手数料を3年間無料とする。 販売額に応じて課される決済手数料は現在、日本では3~4%が主流だ。アメリカでは2.5%、中国では0.5~0.6%がスタンダードとされている。 LINEの場合、とりあえずは3年間という限定ではあるものの、無料というのはかなり衝撃的だ。ヤフーのスマホ決済サービスも10月から手数料を無料にする予定で、今後は手数料無料化がスマホ決済の業界標準となっていく可能性もあるだろう』、手数料無料化とは衝撃的だ。
・『さらにLINEは、利用者(消費者)には決済金額の3~5%をポイント還元して、店舗側と利用者側の双方からLINEペイの利用を促す戦略をとっている。 これ以外にも、LINEペイの利用を促すために、店舗側と利用者側の双方がさまざまな決済方式を選択できるような工夫もしている。 たとえばLINEはJCBと組んで2018年中に、読み取り端末にスマホをかざせば決済できるようにする方針だ。LINEペイの口座にチャージしておけば、アプリを立ち上げなくてもJCBの非接触型「クイックペイ」で決済できる。JCBの「クイックペイ」の加盟店は現在72万カ所あるが、そこでは追加の設備投資なしでLINEペイを導入できるようになることから、LINEペイの利用拡大には有効だ』、なるほどLINEペイは極めて強力な競争力をもちそうだ。
・『お客と「友だち」になれたらお金をもらう LINEやそのライバル会社が決済サービスを無料で提供しても、ビジネスとして成り立つというのは不思議である。そのわけは、それらがもともと決済サービスで儲けるというビジネスモデルではないからだ。 この点が、手数料収入で成り立っている銀行の決済サービスとは根本的に異なるのであり、それゆえにスマホ決済などをめぐる戦いでは、銀行が非常に不利になるのだ。 LINEペイの場合には、無料アプリを使って顧客の決済を行うと、店舗の公式アカウントがその顧客とLINE上で「友だち」になれるという特徴がある。店舗側はその後、キャンペーンやクーポン発行などのメッセージを顧客に届けられるようになるが、その際に広告収入がLINEに入る仕組みだ。 このように、決済サービスを無料で提供しても、その利用が拡大していけば儲けることができるビジネスモデルとなっている。 中国のアリババグループ傘下のアリペイも、決済サービスをほぼ無料で利用者に提供している。アリペイはそこから得られる取引履歴、つまり誰がいつどこで何を買ったか、などといった情報を蓄積し、それを自社のネットショッピングでのターゲット広告などに利用、または他社に販売することで稼ぐというビジネスモデルになっている。つまり、決済サービスは本業ではなく、そこで儲ける必要がないため、無料で提供できるのである。 一方、銀行にとって決済サービスは本業中の本業、業務の中核であり、そのビジネスは手数料収入で成り立っている。銀行にはそれ以外のビジネスモデルの経験がない。 銀行がスマホ決済サービスに本格的に乗り出せば、顧客の取引履歴を入手することはできるが、ネット企業のようにそれを本業に活用することはほとんどできないだろう。またそれを外部に販売して儲けるというビジネスについてもまったく不慣れだ。 したがって、銀行が手数料収入にこだわるならば、スマホ決済サービスの分野で競争していくのはかなり難しい。また先行するLINEペイなどによって、スマホ決済の手数料無料化が一気に業界標準となってしまえば、銀行はこの分野に参入することさえ断念せざるをえなくなるかもしれないNAFTA』、これでは銀行は勝負になりそうもないようだ。
・『2017年、大手銀行はMUFGコイン、Jコインといった仮想通貨を使ったスマホ決済に乗り出す考えを明らかにしたが、その実現には依然手間取っているように見える。 一時はこうしたスマホ決済のシステムを統一することで、利用者の利便性を高め、利用の拡大を狙っていたが、その試みも頓挫しつつある。三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの3メガバンクは、買い物をするときにスマホで読み取るQRコードの規格を統一することでこの5月にようやく合意したものの、その実現を目指すのは2019年度だ。LINEペイなどネット企業とのスピード感の違いは歴然だろう。 ネット企業などによるスマホ決済が広がると、クレジットカードでの決済や銀行預金による決済が減っていくことになる。これはクレジットカードを系列に持つ大手銀行にとっては、大きな収益減となってしまう。それを食い止めようとして、銀行も自らスマホ決済サービスに乗り出そうとしているのだ。しかしそれも手数料無料化の流れの中では、既存の決済手数料収入を減らしてしまうことには変わりない。 銀行は、決済インフラの構築に巨額の資金を注ぎ込んできた。安定した決済システム、いつでも引き出し可能なATM、1万3000カ所に上る店舗など、銀行全体が抱える決済インフラは、合計で10兆円規模にも上るという。銀行預金の決済取引が減れば、その分、固定費の重みは増してしまう。 このように、銀行にとってスマホ決済サービスへの進出は自らの収益基盤を切り崩すことにもなるという、大きな自己矛盾を抱えている。それゆえに、この分野に多くのリソースを投入していくのは難しいのではないか』、銀行の決済のうち大口取引は余り影響を受けないだろうが、小口取引では影響を受けざるを得ないだろう。
・『「金融のリデザイン(再設計)」で、銀行が沈む LINEは、今の金融サービス全体をより利便性の高いものへと劇的に変えていく「金融のリデザイン(再設計)」構想を描いている。決済革命を起こすという豪語も、実は入口でしかない。将来的には融資、資産運用、保険など、さらなる金融ビジネスへの進出を視野に入れているのだ。 また、ブロックチェーン技術を使って独自の「経済圏」を作る構想も示している。LINEの利用者が、各種のサービスにコメントを書き込む、写真を投稿するなどコンテンツの拡充に貢献した際には、独自の仮想通貨を付与するという仕組みだという。利用者は獲得した通貨で各種サービスや商品の代金を支払うことができる。 このように、LINEが既存の金融サービスを次々と切り崩していけば、金融業界とりわけ銀行は顧客情報をLINEに奪われて“中抜き”され、収益機会がどんどん縮小してしまうだろう。 LINEの金融サービスが広まっても、銀行預金や銀行の決済機能がなくなるわけではない。だが、利用者はLINEのサービスを日々利用する中で、どこかでまだ銀行の預金や決済のサービスを受けていることなど、ほとんど意識しなくなるだろう。 LINEの金融サービスが普及する過程では、銀行自体の社会的なプレゼンスも大きく低下していくだろう。決済サービスを奪われることよりも、それこそがエリート銀行員たちにとっての悪夢なのではないか』、大変な時代になったものだ。
次に、FP、マネーステップオフィス代表取締役の加藤 梨里氏が9月20日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本人の「現金払い信仰」は、なぜ根強いのか キャッシュレス社会の実現に立ちはだかる壁」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/237265
・『今年6月にLINEが手掛けるスマートフォン決済サービス「LINE Pay」が、3年間の加盟店手数料無料化を発表して以来、スマホ決済を中心にキャッシュレス化の動きが加速しています。しかし6日に発生した北海道地震では、キャッシュレス生活のために手元に現金がなく、停電中のコンビニで日用品を買えないとの声が上がるなど、災害時にはほとんど機能しないキャッシュレス決済の弱点も指摘されています。 今夏から秋にかけて全国で地震や豪雨などの自然災害が相次ぎ、生活インフラの異常事態を各地で経験したことは、もともと現金信仰が強かった日本人の意識をより現金へ回帰させるきっかけになるかもしれません。国を挙げたキャッシュレス化に水を差す格好になりますが、筆者はそれ以外にも、家計管理の面で日本のキャッシュレス化を阻む要因があると思います』、言われてみれば、その通りで、こうした面も考慮する必要がありそうだ。
・『キャッシュレス社会を望まない人が半数以上 日本のキャッシュレス決済比率は2015年時点で18%と、韓国(89%)や中国(60%)などと比べて低く、政府は2027年までに4割程度に上げる目標を掲げています。8月にはQRコードを使った決済基盤を提供する事業者への補助金、決済サービスを導入する中小の小売店への税制優遇を検討すると発表。神奈川県は上下水道料金の支払い方法にLINE Payを導入しました。 しかし、官民一体となってキャッシュレス決済のインフラ整備に全力を挙げるのとは対照的に、国内の消費者はまだ及び腰な印象を受けます。博報堂生活総合研究所の調査によれば、キャッシュレス社会に「ならない方がよい」という人は51%と、わずかながら過半数を超えています。 キャッシュレス化のカギを握るとみられているのがスマートフォンを使った決済サービスです。なかでもQRコードを読み取るタイプの決済サービスはLINEのほか楽天、ソフトバンクとヤフー、アマゾンなど大手企業が参入しており、手数料無料など各社が加盟店の負担軽減策にしのぎを削っています。これが奏功すれば街中の小売店に決済端末が整備され、普及を加速させると期待されています。 ところが三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、QRコード決済を知っている人は43%、利用したことがある人は8%にすぎません。しかも「利用したことはないし、今後も利用したいとは思わない」人が55%を占めているのです。これは冒頭のLINE Payが手数料無料を発表する直前に行われた調査結果ですので、現在の認知度や利用意向は上がった可能性もあります。ただ、デジタルネーティブである20代、30代でも半数以上が利用に消極的であるとの結果は、普及への遠い道のりをうかがわせます。 これだけキャッシュレスへのモチベーションが低い要因には、現金払いで不便がない環境が影響しているようです。 上述の調査では、現金払いしかできずに困った経験がある人は全体の47%という結果も得ています。つまり半数以上の人は現金払いのみの店舗でも不自由なく買い物をしているわけです。20~30代では現金払いのみで困った人のほうが多く、世代間で差がありますが、現金主義でもさほど生活に困らなければ、あえて行動習慣を変えてまでキャッシュレスにするモチベーションは湧かないのでしょう』、確かに、サービス提供側の動きだけでなく、利用者が本当のところ何を求めているかを探る意味は大いにありそうだ。
・『そこでQRコード決済サービスの多くは、決済した消費者にポイントを付与しています。楽天ペイでは初めて使う人はもれなく1000ポイント、買い物時には決済金額に応じて0.5~1%(一部キャンペーン時にはそれ以上)のポイントがもらえます。LINE Payも決済金額に応じたポイントを付与しており、条件を満たしたユーザーには期間限定で3%を上乗せしています。こうしたインセンティブは高還元率をうたうクレジットカードにも見劣りしないレベルです』、なるほど。
・『消極的な人は、浪費しそうで怖い それでもキャッシュレス決済に二の足を踏む人には、「お金の管理が難しくなる」という不安があるようです。さきの調査結果を見ると、QRコード決済を使いたくない人は、使いたい人よりも「仕組みは知っているが、利便性を見いだせない、必要性を感じない」や「使いすぎてしまうおそれがある」という傾向が強いのです。 マネーフォワードなどの家計簿アプリでは、データ連携をすることで、QRコード決済アプリでの支出を家計簿上に表示できます。ですから決済アプリを使うと家計管理ができないわけではありません。また、データ連携をさせる操作は銀行の口座引き落としやクレジットカード払いのデータを連携させるのとほぼ同じですから、データ連携の煩雑さゆえに家計管理がしにくくなるわけでもなさそうです。そもそも家計簿アプリに連携しなくても、ほとんどの決済アプリ内では利用履歴を閲覧できます』、消極的な人は、家計簿アプリや利用履歴閲覧などしないのではなかろうか。
・『お金の出口が増えることによる錯覚が怖い むしろ問題は、家計管理にかかわるプラットフォームが従来よりも増えることではないでしょうか。現時点で、コード決済よりもクレジットカードや電子マネーに対応した小売店が多ければ、今まで使っていたカード払いをすべてコード決済に切り替えることはできないでしょう。すると、お金の出口が増えることになります。出口が増えただけで使える予算が増えるわけではありませんが、使った金額を錯覚するおそれはあります。 たとえばこれまでクレジットカードで月10万円使っていたものが、コード決済で3万円使うようになったとき、クレジットカードでの支出が7万円なら支出総額は変わりませんが、クレジットカードの明細だけを見れば支出が減ったように見えます。すると、「まだそんなに使っていないから」と油断して使ってしまうかもしれません。 そんな錯覚を防ぐために、一部の家計簿アプリでは銀行口座やクレジットカード、コード決済などの情報を一元的に表示、集計できます。ただ、連携登録できる口座数に制限があると、手持ちのお金の出口をすべてカバーしきれません。現金主義なら銀行口座とお財布の現金の出入りだけをみれば家計収支がわかるところが、さまざまなキャッシュレス決済を使うことで連携すべき情報が増え、お金の流れを追うハードルが上がってしまうのです。 家計の収支を正しく把握するのは意外と難しいものです。「わが家にはいくら収入が入ってきて、いくら出ていっているのか?」。たったそれだけのことでも、実はできている人はごくわずかです。キャッシュレス決済などのテクノロジーは、それを効率化する有効なツールのはずですが、あまたのサービスが乱立する現状では、逆にお金の動線を複雑にし、消費者の不安を募らせる要因にもなりかねません。 キャッシュレス社会が、根強い現金信仰を上回る信頼を得るには、お金を使う入口である「決済」だけでなく、お金を使った後の管理の簡便さも十分に配慮することが大切だと思います』、「あまたのサービスが乱立する現状では、逆にお金の動線を複雑にし、消費者の不安を募らせる要因にもなりかねません」というのは的確な指摘だ。キャッシュレス決済の比率が実際に上っていくには、時間がかかりそうだ。
第三に、サービス提供側の動きを、9月26日付けダイヤモンド・オンライン「キャッシュレス決済に金融以外の異業種が続々参入する理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/180539
・『東京・銀座6丁目のラグジュアリーな複合商業施設、GINZA SIX。9月上旬、この建物内にある話題のワークスペース「WeWork」にオフィスを構えるペイペイでは、今年秋のサービス開始に向けて急ピッチでシステム開発が行われていた。日本だけでなくインドなどさまざまな国籍のメンバーが一緒に働く社内には、英語が飛び交っている。 ペイペイは、ソフトバンクとヤフーが共同出資して立ち上げたスマートフォン決済サービスを手掛ける企業だ。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資したインドのスマホ決済サービス最大手のPaytmが技術ノウハウを提供しており、まさにソフトバンクグループの総力が結集されている。 ペイペイの中山一郎社長は、「中国やインドの動きを見れば、キャッシュレス化は世界のムーブメントだ」と言い切る。 そんな世界の潮流に乗り遅れまいと、ここ数年でキャッシュレス決済(QRコードやバーコードを使ったスマホ決済)への新規参入が相次いでいる(下表参照)。従来、キャッシュレス決済の主役はクレジットカードや電子マネーだが、新規参入する企業が狙うのはスマホ決済の分野。それは、参入障壁が低いからだ。米ITジャイアントのアマゾンも満を持して8月に参入し、この分野は大活況を呈している。 今年4月、経済産業省が「キャッシュレス・ビジョン」を策定し、2025年の開催を目指す大阪・関西万博に向けて日本のキャッシュレス決済比率を40%まで引き上げる目標を掲げた。政府がキャッシュレス化を積極的に後押しすると表明したのだ。それが各社の動きを加速させている』、なるほど。
・『インバウンド急増と人手不足が迫るキャッシュレス化 なぜいまキャッシュレス決済が注目されているのか。大きく二つの要因がある。 一つ目は外的要因だ。上図で示したように、日本のキャッシュレス化は他の国と比べて遅れている。キャッシュレス比率が最も高い韓国は89.1%に達しており、中国も60%に上る。それに比べて日本はわずか18.4%しかない。 背景には、日本の治安の良さや現金決済インフラの充実がある。日本は治安がいいので現金を持ち歩いても安全であり、偽札もほぼない。かつ至る所にATMがあり、いつでも現金を引き出すことができる。それ故に他国と比べて現金決済の比率が高いのである。 このような状況の中で近年、日本ではインバウンドが右肩上がりで増えている(下図参照)。日本を訪れる外国人にとっては、現金しか使えない場所が多く不便に感じることも多いだろう。 20年の東京五輪、25年の万博に向けて、さらにインバウンドが増えることが予想される。このままキャッシュレス化で後れを取れば、インバウンド向けのビジネスで、大きな機会損失が発生する可能性もある。だからこそ、いまからキャッシュレス化の推進を急ぐ必要があるのだ。 二つ目は内的要因だ。下図で示したように、少子高齢化の進展で日本の生産年齢人口はすでに減少に転じている。一方で有効求人倍率は年々上昇しており、人手不足が深刻化している。そんな中、「生産性を向上させるために、人手のかからないキャッシュレス化が求められている」(大栗竜治・野村総合研究所主任コンサルタント)のである。 また、現金の取り扱いには年間約1.5兆円もの莫大な社会コストが掛かっている。これも政府や企業がキャッシュレス化を進める大きな動機となっている』、確かに、インバウンドと人手不足は、企業がキャッシュレス化を進める大きな動機だろう。
・『JR九州が中国ネット企業とタッグを組む理由 キャッシュレス化が遅れる日本で、いち早くインバウンドの急増に目を付けた企業がある。中国ネット企業大手のアリババグループとテンセントだ。訪日外国人旅行消費額の約4割(17年実績)を占める中国人客向けに、両社は日本企業に先駆けて数年前からスマホ決済のサービスを積極的に展開している。 そんな両社とタッグを組んでスマホ決済の導入を促進しているのがJR九州だ。 上海から飛行機で1時間余りの距離にある九州は、年間23万人(クルーズ船以外の訪日客)もの中国人客が訪れる。JR九州の子会社であるJR博多シティでは、同社が運営するJR博多駅直結の駅ビル、アミュプラザ博多などでアリババグループのスマホ決済サービス「アリペイ」とテンセントの「ウィーチャットペイ」を今年2月から導入した。現在では約400店舗、9割のテナントで利用可能となっている。 アミュプラザ博多の5階にある眼鏡ショップのジンズもそうしたテナントの一つだ。「3割は海外からのお客さまで、そのほぼ全てが中国の方なので、アリペイやウィーチャットペイの導入はチャンス。実際に導入して決済は楽になった」と宮地瑛子店長は語る。 同ビル地下にあるドラッグストアのドラッグイレブンでも、「中国のお客さまの客単価は日本人の10倍。売り上げは顕著に伸びている」と同社店舗営業部の眞ヶ田雅仁係長は顔をほころばせる』、中国観光客の需要を捉えるには「アリペイ」や「ウィーチャットペイ」は、確かに必須だろう。
・『富士山エリアをキャッシュレス化する富士急行の狙い 年間3600万人もの観光客が訪れる富士山エリア──。この一大観光地を拠点とする富士急行では、17年11月からウィーチャットペイを導入した。富士急ハイランドやタクシー、バス、鉄道、ロープウエーなど富士急グループの35施設(8月14日時点)で利用可能となっている。「世界で10億人以上のアクティブユーザーがいるウィーチャットと組めば、もっと認知度を高めることができる」。斉藤隆憲執行役員はウィーチャットペイ導入の狙いを語る。 富士急ハイランドでのキャッシュレス(1)富士急ハイランドはテンセントから旗艦遊園地に指定されている。(2)4月から中国人客向けにオンラインチケット購入サービスを開始。富士 山エリアでは、(3)タクシーや(4)土産物店、(5)富士急ハイランド内のレストランなど、至る所でウィーチャットペイが使える 今年4月からはウィーチャット上で富士急ハイランドのオンラインチケット販売を開始。中国人客は訪日時に並んでチケットを購入しなくて済むようになった。「富士山エリアをキャッシュレスリゾートにしていきたい」。斉藤執行役員の夢は膨らむ。 インバウンドはここ2~3年、急速に地方へと広がっている。しかし日本では、地方に行けば行くほどキャッシュレス決済が使えない場所が多い。そこに目を付けたのが決済プラットフォームを提供するベンチャー、コイニーだ。地方の銀行や信用組合と組んで、それら金融機関の取引先企業にスマホやタブレットを使ったキャッシュレス決済を導入している。 「決済手段の選択肢が多いことは客の満足度向上につながる。手数料が掛かってもプラスになる」(井尾慎之介・コイニー取締役)。同社のサービスはウィーチャットペイにも対応しており、今後引き合いが増えそうだ』、キャッシュレス決済が遅れている地方での動きも注目点だ。
第四に、9月26日付けダイヤモンド・オンライン「「キャッシュレスは普及する?しない?」業界関係者の覆面座談会」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/180540
・『スマホによるキャッシュレス決済は普及する?関係者による覆面座談会 ──キャッシュレス化推進に向けて、業界構造が大きく揺れ動いている現状をどう見ていますか。 A氏(クレジットカード会社関係者) 主役は、決済スピードが最速の電子マネーというのが見立てです。クレジットカードは少額で大量の決済にはそぐわない。ただ、富裕層が百貨店で高い買い物をする際に、電子マネーやQRコードで支払う姿を想像できますか? 財布の小銭入れは電子マネー、札入れはクレジットカードというすみ分けで置き換わっていき、共に成長していくでしょう』、確かにすみ分けが進む可能性はあるが、手前味噌的な印象も受ける。
・『B氏(メガバンク関係社) 「銀行の3大業務」といわれるのが、預金と融資、為替(決済)ですが、昔はどれももうかった。ところが、低金利の環境が続き(預金と融資の金利差である利ざやがつぶれて)、預金・融資の業務はもうからなくなりました。そこへさらに、為替にも(IT企業などの)新規参入が相次いで収益を圧迫される。三重苦です。銀行としては固定的な経費に切り込まざるを得ない状況なので、現金の取扱量を減らすことでコストを下げたい。これは地方銀行とも利害が一致します。もし現金の量が2割減れば、5台あるATMを1台減らせることになる。すると、数百万円という1台分の維持コストが浮きます。三菱UFJ銀行がATM台数の2割削減を検討中なんてニュースが出ていましたけど、メガバンクのATM設置台数は何千台とあるので、その2割に維持コスト数百万円を掛けると、何十億円というレベルでコストカットができる。これは大きいです。今それだけ稼ぐのは大変ですから。(編集部注:ATMの設置台数は、三菱UFJ銀行が8000台強、三井住友銀行とみずほ銀行が各6000台弱。また、みずほフィナンシャルグループの試算によると、金融業界全体の現金管理とATM網運営のコストは約2兆円)』、ATMの一部削減では効果は限定的でしかない。
・『C氏(決済サービス事業者) われわれはお店がさまざまな決済方式に対応できるようにお手伝いをする立場ですが、今まではクレジットカードの手数料の高さから、決済手段を複数持つことはコストとしか思っていないお店が多かったという印象です。ところが最近は、決済手段の多さがお客さんのためになるとか、それによってお店の売り上げが伸びる、機会損失を防げる、という話をする事業者が増えてきたように思います』、インバウンドの影響の広がりを改めて知った。
・『──今回の取材を通して感じるのは、キャッシュレス決済の市場が広がるという「総論」には業界関係者全員が賛成だが、損得勘定がもろに働く決済方式や規格、ルールなどの「各論」のところで足並みがそろわないというものです。それぞれの立場で、何か物申したいことはありますか。 B氏 以前から声を上げていますが、競争条件をそろえてほしい。楽天は銀行を持てるのに、銀行はEC(電子商取引)サイトを運営できない。これは不公平です。楽天というのは一例ですが、金融とは別の収益源を持つIT企業などが、それを原資にした採算度外視の戦略を決済分野で打ち出してきたら脅威だと、以前から感じていました。そうしたら案の定、LINEなどが手数料引き下げやポイント付与といった戦略を打ち出してきた。決済において彼らIT企業が間に挟まると、決済情報が銀行に落ちなくなります。そして、私たちは何の付加価値もない、最後の最後の決済処理だけをインフラとして淡々とこなすしかなくなる。銀行が“土管化”してしまいかねないと危惧しています。(編集部注:通信業界において、端末やサービスの提供という高付加価値ビジネスを米アップルや米グーグルなどに握られ、通信回線の提供だけに追いやられる状況を「土管化」と呼ぶ)』、「銀行の“土管化”」とは言い得て妙だ。銀行のECサイト参入のためには、他業禁止規定がある銀行法の見直しが必要になるが、主要国でも事情は同じなので、見直すとしても時間がかかりそうだ。
・『C氏 新しいキャッシュレス決済サービスが次々と登場していますが、その裏側のお金のチャージや支払いではクレジットカードとひも付いている場合が多いです。そして、そのクレジットカード決済に絡む“登場人物”が多過ぎます。それはつまり、それだけ間で手数料を抜く人が多いということ。これではいつまでも決済手数料は安くならないって思います。その要因の一つが、国際ブランド(ビザやマスターカード、ジェーシービーなどの決済機能提供会社)が設定するIRF(Interchange Reimbursement Fee)という手数料です。海外ではそのレートが公開されていて、EU(欧州連合)では上限規制までかかったのに、日本ではそれが非公表という不透明な状況です。 A氏 国際ブランドにIRFを安くしてほしいというのは、クレジットカード会社にとっても永遠のテーマですよ。海外や他の加盟店でうちのカードが決済できるのは彼らのおかげだから、それなりの対価を払わなくてはいけないとは思っていますが……。あとは、(決済情報処理センターネットワークである)CAFIS(Credit And Finance Information Switching system、キャフィス)やJCN(Japan Card Network)の通信料も安くしてくれという話です。クレジットカード会社は、国際ブランドや提携カードの提携先へのロイヤリティー、銀行への口座振替手数料などを払って、決済ネットワークの通信コストやシステムの開発・維持コストも掛かる。そうやっていろいろお金を払っていくので、実入りは多くないです。さらに、最近相次いで打ち出されたIT企業たちの加盟店獲得戦略では、「手数料ゼロ」をウリにしている会社が多い。となれば、クレジットカード業界にも手数料の下方圧力がかかるでしょう。厳しいところですね。決済手数料が1%とかになってしまったら、赤字になりかねない。りそなホールディングスがクレジットカード会社のアクワイアリング業務(加盟店契約・管理)に乗り出すという話も出てきましたが、ここでも利益を奪われる。ただ、銀行にどこまで加盟店の開拓ができるかは見ものです。銀行の多くはクレジットカード子会社を持っていて、これまでもアクワイアリング業務をやってきましたが、それほど加盟店を広げられていません。なぜなら、銀行系のカード会社は、銀行本体で“上がった”人が社長で、その下には銀行から飛ばされた出向者みたいな、モチベーションが低い組織であることが多いからです。銀行本体が手掛けることで何か変化があるのか、注目しています』、りそなのアクワイアリング業務進出のお手並み拝見だ。
・『──QRコード決済がキャッシュレス化推進の切り札というような流れですが、どうお考えですか。 B氏 中堅・中小の事業者や、地方に裾野を広げる上で、非常に魅力的じゃないかと思います。中国でQRコード決済が広がったのも、インフラがなかったが故なので。7月に発足した産官学による「キャッシュレス推進協議会」でもQRコードの規格統一化が重要テーマの一つです。 C氏 その規格統一化ですが、まとまる気がしません。協議会でそれについて議論をする分科会には100社以上も参加していて、自社に有利な展開に誘導しようと“綱引き合戦”です。それでもQRコード決済を手掛けるIT企業などは、規格が統一化されないとキャッシュレス化が成功しないという思いから、議論の落としどころを探っているように見えます。ただ、クレジットカード会社などはQRコードの普及に抵抗するために分科会へ参加しているのではないか、と邪推したくなる場面もあります。 A氏 そんなことはないと思いますが、経済産業省がどんなルールを作るか、という視点も大事じゃないですか。クレジットカードは経産省が消費者保護のためにルールを作り、市場を育ててきました。QRコード決済は自由放任ということにはならないでしょう。消費者保護やセキュリティーの観点からどんなルールができるのか注目しています』、QRコード規格統一化も内ゲバがあっては、容易ではなさそうだが、当面の注目点の1つではある。
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