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医療問題(その17)(医学部が悩む「医者に適さない学生」の選別法、「予防医療で医療費を削減できる」は間違いだ 人生100年時代に向けた社会保障改革とは?、大学病院のブラック職場化を加速した「総合診療方式」研修の罠) [社会]

医療問題については、8月31日に取上げた。今日は、(その17)(医学部が悩む「医者に適さない学生」の選別法、「予防医療で医療費を削減できる」は間違いだ 人生100年時代に向けた社会保障改革とは?、大学病院のブラック職場化を加速した「総合診療方式」研修の罠)である。

先ずは、9月3日付け東洋経済オンライン「医学部が悩む「医者に適さない学生」の選別法 キップを手に入れる最大難関の負荷が重い」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/235953
・『「医者にしておけば一生安泰。どの大学でもいいから何が何でも子どもを医学部に」「息子、娘を医者にして跡を継がせたい」 医学部への進学熱は相変わらずすさまじい。 裏口入学の発覚により、文部科学省の前科学技術・学術政策局長が受託収賄の疑いで逮捕されたのは夏休み前の7月4日のこと。その後は、女子受験生や多浪人生の得点を不当に低く加工していたことが発覚した。 これを受けて医学部人気に影響が出るかとも思われたが、その後に各大学で開かれた医学部進学セミナーやオープンキャンパスは高校生や保護者の熱気であふれ、東京医科大事件などどこ吹く風と言わんばかりだった・・・医学部を持つ大学は国公私立合わせて全国に82校ある。医学部ブームを背景に難易度が上がっており、最低でも偏差値は60近く必要だ。ただでさえ難関の医学部入試を突破しようと、医師にする(なる)レースはすでに中学段階から始まっている。 私立大の医学部をめぐっては、高額の寄付と引き替えの「裏口入学」が噂された過去がある。しかし、今はそういう不正な入学は考えにくい。というのも、仮に不正な手段で学力を伴わない学生を入学させても、その後の医師国家試験や6年間の厳しい勉強を突破できないからだ。 それだけに、今回の東京医科大事件は「考えられないことが起きた」という点で受験界や医学部関係者に衝撃を与えた』、医学部関係者のなかには既に十分に知っている者も多いと思われるので、「衝撃を与えた」は筆の滑り過ぎだろう。
・『中には医師に向いていない医学生も  東京医科大事件を待つまでもなく、医学部関係者は入試に頭を悩ませている。というのも、学力は高いが、医師になるモチベーションの低い子、勉強に熱意のない子、さらには患者とコミュニケーションがうまくとれない子が時々入学してくるからだ。 関西地方のある私立大の学長は「ただ医学部に入りたい、親に言われて何となくという子を入試でどう確認するか。(東京医科大のような)『差別』はしていないが、(受験者の適性や熱意をみる)『評価』はしている」と話す。 ストレート卒業率という指標がある。6年間の修業年限でどれだけの学生が卒業したか、という割合だ。上位は100%近く、下位は60%を切る。2017年度のワーストは帝京大学の57.9%だ・・・この数値が低い大学は、留年や退学、転部した学生が多いことを示している。 一見、留年や退学が多い大学は問題があるように思える。とくに、国家試験合格率を上げるために、学力の低い学生を卒業させず、国家試験を受けさせない操作が行われている、とされるだけに尚更だ。 だが、「全員を卒業させればいいものでもない。その分学生は勉強しなくなる」(前出の学長)。ストレート卒業率の低い大学は、医師になるべきではなく、医師にならないほうが良い学生を6年間の教育の過程で、適切にフィルタリングしていると見ることもできる。 ストレート卒業率100%はもちろん望ましいが、確率的にドロップアウトする学生が一定数出るのは仕方ないだろう。「進級のハードルをあげれば留年者が増え、緩めれば後で国家試験に響く」(中堅私大幹部)。ストレート卒業率をとるか、国家試験合格率をとるか。そのさじ加減が難しい』、確かに難しいジレンマのようだ。
・『医学部は「潰し」のきかない学部  医学部はいわば、医師になるという一本道しかない「職業訓練校」だ。医学部に合格しても、医師国家試験に合格しなければ「ただの人」。他の学部と違い、いったん入学すれば、医師を目指して突っ走るしかない、「潰し」の効かない学部だと言える。 何十倍もの志願倍率の医学部入試をくぐり抜けた後も、医学部の6年間は勉強漬けの毎日だ。卒業試験と国家試験の難関をクリアしたかと思うと、卒業後には研修が待ちかまえ、医師としてのスタートラインに立つのは早くて30歳近くになってから。 医師1人を養成するのには1億円かかると言われ、高額な学費だけではその費用をまかなえず、税金が投入されている。臨床実習も「大学病院のベッド数だけでは足りず、忙しい医療現場を抱える地域の基幹病院に協力いただいて、何とか回している。地域が総力あげて医学生を育てていると言っても過言ではない」(地方の国立大学教授)。 だから、医学部入学定員も国家試験の合格者数も、まるで社会主義国家のように国が管理することも正当化される。もし医師としての適性や意欲がない受験秀才がこの厳しい道に迷い込んだのなら、早いうちに方向転換したほうが、本人にとっても、社会にとっても幸せなことだろう』、その通りだ。
・『不幸なミスマッチを少しでも減らすために  国語を課して論理性をみたり、東京大のように面接を復活させたり。限界があると知りつつ、各大学が入試方法の試行錯誤を続けているのも、こうした不幸なミスマッチの確率を選考段階で少しでも減らすためだ。 東京医科大事件は、医学部入試のあり方に改めて世間の関心を向けさせた。もちろん、女性受験者の点数を加工するような差別は論外だが、長い医師キャリアを、医学部入試というただ一点だけで評価するのはいかにもバランスが悪い。医学部入試の合格率20~30%に対し、医学部国家試験の合格率は90%近い。入るのは難しいが、いったん入ればほぼ確実に医師のライセンスを受け取れる。そして、医道審議会の医師処分の甘さが指摘されるように、いったん医師になれば、よほどのことがない限り、医師免許を取り消されることはない。 医学部入試にかかる負荷の重さが、東京医科大事件の遠因となったように思える』、東京医科大事件に触れるのであれば、女性医師の問題を抜きにしては語れない筈だ。

次に、慶應義塾大学商学部教授の権丈 善一氏が9月14日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「予防医療で医療費を削減できる」は間違いだ 人生100年時代に向けた社会保障改革とは?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/237147
・『クイズをひとつ。 75歳の健康な高齢者と病弱な高齢者、いずれがこれから多くの医療費がかかると思いますか? こう問えば、少し考えて、健康な高齢者と答える人は結構いる。ところが、世の中のほとんどの人達は、予防医療で医療費を抑制できると信じているようでもある。この論が間違いであることは、少し考えれば分かるはずなのに、かなりの知識人もそう思いこんでしまうようなのである。これは私にとって、社会保障七不思議の一つである。 ところで、冒頭のクイズで「75歳の高齢者」という言い方をしたのは、昨2017年1月に、日本老年学会・日本老年医学会が合同で、高齢者は75歳からにするべしと提言したからである。両学会は2013年から合同WGを立ち上げて、高齢者の定義についていろいろな角度から議論を重ねてきたようである。 その結果、特に65から74歳は、以前よりは5歳から10歳は若返っていて、心身の健康が保たれており活発な社会活動が可能な人が大多数を占めていることが観察され、両学会は、高齢者という言葉は75歳から使うべきであると主張している。 一昨年末には、リンダ・グラットン達の『LIFE SHIFT―100年時代の人生戦略』が出され、大反響であった。彼女らは、最新の医学研究を踏まえて、人々は健康に長く生きる時代になったことを述べていた』、私も「予防医療で医療費を抑制できると信じている」口であったので、間違っている理由を知りたいものだ。
・『医学会が言う若返り現象と年金  医学的にみて多くの人が若返り、人生100年になったのであれば、社会制度はこの動きと整合性を持つようにするのは自然である。社会保障、特に年金の世界で有名なロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのニコラス・バー教授が言うように、「問題は、人々が長生きしていることではなく、あまりに早く引退していること」なのであり、元世界医師会会長のマイケル・マーモットの「老年期の貧困から抜け出す道の一つは、より長く働くことだ」も真理そのものであろう。 こうした問題意識に立ち、政界・官界は、日本での引退時期を遅らせようと努力している。このことは、人が若返ったという誠に寿ぐ出来事に即した誠に望ましい動きである。 さて、社会保障の中で最も大きな規模を持つ年金保険に関しては、そうした動きはそれでいい。つまり、ある人が生涯で受給できる年金給付総額を不変のまま、なるべく遅くから受給し始めてもらえるように繰下げ受給を勧め、できれば保険料拠出期間の延長ができるように雇用制度の改革を図る。こうして、年金を受給し始めた後の月額の給付水準を引上げる。 同時に人生100年時代においては、「より長く社会参加し続けよう!」という優先順位が極めて高い理念に照らし合わせて矛盾するようなメッセージ、つまり引退を促すメッセージを持つ在職老齢年金などは見直していく。これらは、この国の持続可能性を高めるために成し遂げなければならないことである・・・では、社会保障では年金保険に次ぐ給付規模を持つ医療に対してはどうであろうか。人々が若返り、人生100年と謳われるように、若返って健康で元気になったから人生が長くなったのは医学的な事実である。となれば、医療費は減るのであろうか?実はそうではないというのが、この方面の専門家が共通して持つ知見である。ところがそうした専門家の知見が世の中にはおもしろいほどに伝わっておらず、そこで時々、私は冒頭の質問をせざるを得なくなるのである。 なお、若返ったら医療費が減ると考えるロジックと、予防で未病期間が長くなれば医療費を減らすことができると信じるロジックは共通するところが多い。ゆえに以下では、主に予防で医療費抑制をという話について論じていこう』、ようやく知りたい部分になったようだ。
・『なぜ予防で医療費は減らないか?  このあたりは、一まとまりの論が必要となるので、2017年1月に『日本経済新聞』のやさしい経済学「予防医療で医療費を減らせるか」・・・に連載されていた論文を要約するかたちで、紹介しておこう。なお、次のような事実認識の下に、この国では今、限られた資源を有効に使うために医療提供体制の改革が進められていることは押さえておいてもらいたい・・・
 +予防医療は、国民に健康長寿という何ものにも代えがたい便益をもたらします。ですから、国・地方自治体や医療従事者は今後も引続き、予防医療を積極的に推進すべきだと考えています。しかし、それにはお金がかかることも事実です。
 +これまでの医療経済学の多くの研究によって、予防医療による医療費削減効果には限界があることが明らかにされています。それどころか、大半の予防医療は、長期的にはむしろ医療費や介護費を増大させる可能性があります。そのことは医療経済学の専門家の間では共通の認識です。
 +厚生労働省は疾病予防対策によって死亡前の「不健康な期間」の短縮、つまり「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」を実現できれば、医療介護費を削減できるとしています。このロジックはもっともらしいのですが、実現できるとは限りません。健康寿命が増加しても、その後の「不健康な期間」が短縮できるという医学的な根拠はないのです。
 +メタボ健診によって高額の医療費や介護費がかかるタイミングが先送りされるのであって、一生涯の総額で見れば医療費・介護費の抑制につながるわけではありません。
 +わが国は今後も高齢化が進み、医療費や介護費は増大し続けるでしょう。それを予防医療によって抑制することはほぼ不可能と考えられます。医療費の抑制はその他の方法を講じる必要があります。医療サービスの無駄や過剰な供給があれば、それを見つけて抑制することが必要です。同等の効果であれば、より費用の低い医療サービスが提供されるべきです。
 +それらを実践しても、なお残る医療・介護費の自然増加分は、その負担を国民全体で分け合う必要があるでしょう』、なるほど一応は分かる気がするが、釈然としない点も残る。
・『ここに、「先送り」というキーワードがあるが、年金の場合は、受給開始の「先送り」によって、公的年金保険が持つ長生きリスクへの対応力を高めることができる。では医療の場合はどうか。禁煙について考えると分かりやすいのかもしれない。多くの医療経済学・公衆衛生研究では、禁煙は短期的には医療費を下げるが、長期的には余命延長により生涯の医療費を増加させることが確認されているのである。 人は死すべきモータルな運命にある。このことがどうしても医療、医療費を語る上では忘れられがちとなる。予防によって、もし政策の意図どおりに医療給付が先送りされることがあるのならば、税の投入割合の高い高齢者医療費は増加し、増税の必要性は高まると考えるのが普通である。つまり、歯科と介護はその限りではない側面を持つが、予防によって医療費の抑制、ひいては負担の抑制とはいかないのである』、予防が「医療給付の先送り」というのは、疑問も残る。健康寿命を全うして「ピンコロ往生」という理想形で死ねれば、医療給付は殆どないままなのではないか。
・『歴史的文脈から見た健康寿命、生活習慣病  若返りや予防と医療費の関係を見えにくくしているのは、「健康寿命」という言葉なのかもしれない。健康寿命の指標は、『国民生活基礎調査』の中で「あなたの現在の健康状態はいかがですか」と問い、「よい、まあよい、ふつう、あまりよくない、よくない」を答えてもらい、それに年齢補整を施して作られている。疾患の有無、医療機関の利用状況とは関係のないものである。 どうして、こうした極めてラフな指標でありながらも政策の重要な指針として表舞台に出てくるようになってきたのか。その事情を理解するためには、予防医療、健康寿命をめぐる歴史的な文脈を知っておく必要がある。 2006年の医療保険の大改革の頃、公的な医療給付費を強く抑制しようとする動きがあり、彼らは医療給付費の伸びをGDPの伸びと連動させる伸び率管理制を提案してきた。この動きを受けた厚生労働省は、生活習慣病対策で2025年には医療費を2兆円抑制できるとする将来の見通しを公開して反論をすることにより、2006年当時、どうにかGDP連動の伸び率管理を回避することができた。 もちろん当時から、予防で医療費を抑制するという話にはエビデンスがないとの批判はあった。しかし厚労省は、その後、機械的な医療費抑制策を避けるために、その方向に進んでいかざるを得なかった。 生活習慣病対策(特定健診・特定保健指導)は、現在ではその医療費抑制効果額は、目標受診率などが達成されていることを想定した粗い試算に基づけば医療費で200億円ほど(国費はその約4分の1)になるとされている。一方、特定健診・保健指導実施のための予算額は毎年度国費で226億円程度が計上されている。つまり大目に見積もられた可能性が高い効果額でさえ、2025年目標値2兆円の1%にすぎず、そのための予算は医療費抑制効果額を上回っているのである(国費に限れば226億円をかけて50億円ほどの抑制効果)。 日本福祉大学前学長の二木立名誉教授は、「『健康寿命』という概念には、認知症や重度の障害・疾病を持っており『健康』ではない人の生存権を侵害する危険がある」と指摘してきた・・・この危険は、「生活習慣病」という言葉にもある。 かつての「成人病」という用語が「生活習慣病」に変えられたのは、1996年に公衆衛生審議会がとりまとめた「生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について(意見具申)」に基づいてのことである。この意見具申には、「但し、疾病の発症には、『生活習慣要因』のみならず『遺伝要因』、『外部環境要因』など個人の責任に帰することのできない複数の要因が関与していることから、『病気になったのは個人の責任』と言った疾患や患者に対する差別や偏見がうまれるおそれがあるという点に配慮する必要がある」との極めて重要な注意喚起がなされていた。 ところが、この国ではそうした配慮はほとんどなされてこなかった。したがって今では、生活習慣病に分類されている疾病にかかる人には、後ろめたさ、スティグマが意識されると共に、外からはそうした病気にかかったのは「自己責任」であるとの考え方に基づいた発言や、提言が目立ち始めている』、確かに、安易な自己責任論に陥らないように気を付ける必要はありそうだ。
・『世論の末端と小学生の遠足  さらには国を挙げての健康増進、健康長寿というムードは、残念ながら少なからぬ人の中では優生思想とも容易に結びつくようでもある。このあたりの懸念については、私は次の文章を書いているので、紹介しておこう。 「国策として健康増進」というような旗振りを政府がやろうとすると、世論の末端のところでは,良からぬ大きなうねりが起こるんですね。こうした世論のうねりのことを、僕は、小学生の遠足とか小学生の行進と呼んできたのですけど、先頭に少しのズレが生じると、最後尾の末端では,子どもたちは走らないと追いつけないほどの大きなうねりが生じるものなんです。 戦前に生まれ、過去にそうした時代を生きた人たちが、最近の、たとえば先ほど紹介した『平成26年版厚生労働白書』の総タイトル「健康長寿社会の実現に向けて」を見て、思い出したくない幼い日を記した文章を寄せたくなるのも分かります・・・最後に――研究者の世界では今、疾病の発症が、生活習慣要因の他に遺伝要因、外部環境要因など個人の責任に帰することができない複数の要因が関与していることを捨象した「生活習慣病」という用語の見直しを行うべしとする動きもある・・・そして多くの人達には・・・この国の医療政策では、2013年の社会保障制度改革国民会議以降進められている提供体制の改革を軸に据える医療介護の一体改革こそが優先課題であることを、わかっておいてもらえればと思う』、「「生活習慣病」という用語の見直し」には賛成だが、「医療介護の一体改革」について説明もないのに優先課題、と決めつけるのはどうかと思う。

第三に、ライターの奥田由意氏が9月25日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「大学病院のブラック職場化を加速した「総合診療方式」研修の罠」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/180357
・『東京医科大学の女子受験生への一律減点が明らかになった件について、女性差別の背景には、大学病院の勤務医の過酷な長時間労働の実態があることや、大学病院の人事権を司る医局が一般企業とは違う原理で動いている現状を前回・・・レポートした。9月3日に開かれた厚生労働省の第9回「医師の働き方改革」有識者検討会ではようやく残業時間規制のあり方について議論が始まったが、今回はそもそも医局が人員不足に陥った背景や、女性医師に特有の状況、今後の展望などについて続報をレポートする』、なるほど。
・『東京医科大学の女子受験生への一律減点を行っていた件を受け、文部科学省は全国の医科大学や大学医学部に対し、入試の実態について、緊急調査を行った。ほかの学部に比べ男子優位の傾向が明らかになったが、現時点では東京医科大学以外の全ての大学が「得点操作」については否定しているという。 文科省の調査はさらに続いているなか、実際に前回の記事で挙げたアンケートからもうかがい知れるように、女性を合格させたがらないという姿勢は多くの医学部で見受けられるようだ。その要因となっている大学病院に勤務する医師の過酷な長時間労働の実態については、前回の記事・・・で言及した』、その後、得点操作を認めた大学はいくつか出たようだ。
・『新たな研修「スーパーローテート」必修で大学病院の医局から人材が流出  大学病院で、なぜ「長時間労働に耐えられる」医師が必要になるのか、前回挙げた点以外にもさまざまな理由があるようだ。 ひとつの契機は2004年に遡る。それ以前は、国家試験に合格した医師の多くが、自分が卒業した大学の医局に属し、それぞれの専門の科に配属されて、研修医として研鑽を積むのが一般的だった。内科のなかで、例えば循環器を選択した医師が、同じ内科の医局内の消化器について研修をする機会はあっても、外科や精神科の臨床研修を受けることは基本的にはなかった。 それが2004年から始まった新医師臨床研修制度では、初期研修として2年間、主要な科を全て順番に経験する総合診療方式(スーパーローテート)の研修が必修となった。内科系、救急、地域保健に加え、外科、麻酔科、小児科、産婦人科、精神科からも2科目選択し、幅広い診療能力を養うものだ。同時に、2004年からは、自分の出身大学以外の希望する病院での研修を志望することも可能になった。 この制度によって、地方大学の医学部や医科大学を卒業した医師が、母校の医局ではなく、都市へ流出したり、都市部の大学の医局でも、別の病院にとられてしまったりという事態を招いた。また近年では、必ずしも医局に属さない医師も増えつつある。 医局での人員確保が従来よりも困難になり、その分人数が減ることは、医局の弱体化を意味する。さらに、人員不足から勤務医の長時間労働を前提としなければ、ますます業務がまわらなくなる。 かたや医局には有給のポストが少ない。収入は市中病院やクリニックなどのアルバイトで補填し、常勤と同じ勤務をこなしながら、手当が支給されない無給医もまた、その長時間労働のシフトを担う。この2004年のスーパーローテートの初期研修制度により、長時間労働の常態化がますます進み、「離職可能性の高い」女子よりも男子を合格させ、医局に採りたがる風潮が強まったと見ることもできる』、「医局の弱体化」といっても、無給医などという非常識な制度に支えられたものであれば、本来は、解体的見直しが必要な筈だ。
・『医局の弱体化を受け、「新専門医制度」で医局の復権へ  ところで、こうした医局の弱体化が進むなか、2018年4月から、新専門医制度という医師のキャリアの積み方に影響を与える新制度が始まった。 従来、国家試験の合格者は2年間スーパーローテート方式の初期研修を受けたあと、次の3年ないし5年で、自分で選んだ科の専門医となるべく、研修を受け、資格審査や試験を経て専門医の認定を受けていた。専門医の認定は、学会ごとに行われていた。 これを新専門医制度では、中立的な第三者機関である「日本専門医機構」が認定することになる。そのための研修プログラムは大学病院や都市部の規模の大きい病院でのみ実施され、その数は絞られている。なお、都市部に医師が偏りすぎないように、都市部の病院での受け入れ数を制限するなど、調整も行われる。 これまで初期研修を行っていた病院は約1100あるが、新専門医制度の研修が行える病院は大学病院を含め300から400しかない。このことから、新専門医制度の実施は、大学病院の医局の復権をもくろんだものという見方もある。 以上が医局の事情であり、長時間労働を招くひとつの背景である』、発言力が強い大学病院の医局が「新専門医制度」で復権を目論んだとは、けしからん話だ。
・『なぜ女性医師は二極化するのか  さて、ここで、女性医師に特有の状況についても触れておきたい。女性医師の働き方では、二極化が進んでいる。長時間労働が前提となる勤務医を諦めて非常勤バイトに徹するなどしてキャリアから離れてしまうか、あるいは「男性並み」に働くかという二極化だ。 結婚して子どもがいても、外科や循環器などの「ハード」な科で働き続ける女性医師もいるが、結婚せずにハードな科の業務に邁進するか、あるいは結婚して出産や子育てを前提に、眼科や皮膚科のような急変が少なく比較的ハードではない科を選択するという二極化もある。 医師向け人材紹介会社エムステージが運営する、女性医師対象のウェブマガジンjoy.net編集長の岡部聡子さんは、これまで同サイトの取材で120名、医師担当のキャリアプランナーとして100名、計220名にのぼる女性医師と向き合ってきたなかで、女性医師の働き方が二極化しがちな要因をいくつか挙げてくれた。 まず、ロールモデルが少ないことだ。2014年の日本医師会の調査によると、学会役員の女性比率は2.7%。大学医学部教授以上は2.5%といずれも低い。ちなみに、経済産業省の調査では、2017年の上場企業の女性役員は3.7%である。もちろん数合わせをすればいいという話ではないが、まず学会役員になっている女性医師の絶対的な数が少ないという事実がある』、なるほど。
・『女性医師の結婚相手は7割が医師  医師同士の結婚は離婚しやすい?  二点目は、女性医師が結婚する場合、相手は約7割が医師である(ちなみに男性医師の結婚相手が医師である割合は約2割)ことだ・・・医師になると、忙しさから出会いの機会が少ない。そうした理由もあり、大学の同級生や、初期研修などの研修医時代に知り合って結婚する例が多いが、joy.netの行ったアンケートに「研修が始まると非常に忙しくなると先輩医師からのアドバイスがあり、学生のうちに入籍、披露宴をすませた。正解でした」(30代後半・内分泌科)という声が寄せられているように、既婚女性医師には早婚傾向もあるそうだ。 また、代々医師という医師家庭も多く、女性医師の両親は娘の結婚相手に医師以外を認めないという例も少なくないという。 そして、医師同士の家庭に子どもが生まれると、一般企業以上に、夫と妻の双方が仕事を調整することが難しい。多くの場合、女性が仕事を調整するか、離職せざるを得なくなる。そうなると、女性が「キャリアを諦めなくてはならなかった」と思い、順調にキャリアを積んで出世する夫に嫉妬や怨嗟を募らせることも一因で、離婚することもあるそうだ。 医師の母親世代は、専業主婦である場合が多く、夫や子どもや家事を優先している姿を見ていて、男性医師が結婚した女性医師の妻にも同じ「献身」を求めて離婚に至るケースもある。 岡部さんはさらに、女性医師で出産後も子育てと常勤医としてのキャリアを両立させている人は結婚相手が医師以外の職業であるケースが多いと言う。 「当直中、授乳時間になったら夫に子どもを連れてきてもらうように頼むなど、大変な思いをして育児期間を乗り切るなど、相手が長時間勤務の医師ではなかったから、協力して育児ができたという医師もいる」と話す。 もちろん代々医師の家庭、医師同士の家庭であっても、それぞれに事情も考え方も違うだろう。医師同士の家庭でうまくいっている例もある。 ただ、少なくとも、一般企業よりは女性が多様な働き方を選びにくい現場であることは確かだ。そして、もちろんそれは男性医師にとっても同じである。 現在厚生労働省のもとで、2017年8月から、有識者による、医師の働き方改革に関する検討会が10回にわたって行われており、2019年3月末をめどに最終報告がまとまる予定だ。ここでは聖域となっていた、残業時間の上限がどのように設定されるのかがカギになるだろう。2018年3月末に行われた中間報告では、医師の業務の特殊性を考え、いわゆる過労死ライン(労災認定基準)の1ヵ月100時間・2~6ヵ月の各月平均で80時間を上限にすることについては、慎重に考えるべきという意見が出ている。 ここで言われている医師の業務の特殊性とは、前回の記事でも指摘した応召義務に基づく「医師は24時間365日医師であるべき」といった医師・患者双方の意識のあり方や、医師自身の生命を預かっているという職業倫理、研修医の期間が労働でもあり、研修や研鑽でもあり、研究でもあるということなどを指す。 しかし、医師の業務の特殊性といっている限り、患者になる可能性のあるわれわれも含めた双方の意識改革は進まない。長時間労働は正当化され続けてしまうのではないか』、「医師の業務の特殊性」を振りかざす人々は、恐らく、長時間労働や無給労働を求める病院の経営サイドなのだろうが、彼らの発言力が圧倒的に強いのではと推察される。
・『新制度をつくるなど、 多様な働き方の萌芽も  とはいえ、希望もある。 前述したとおり、医局に属し、専門医になることだけが医師としてのキャリアではないと考える若手医師も増えているようだ。 ある産業医によると、かつては現役を引退した医師が担うものと思われていたり、片手間のアルバイトと思われがちだったりした産業医に、健康経営に参画したいという新しいやりがいを求めて、志願する医師も出てきているという。 岡部さんも「例えば、子育て、介護などの理由により、それまでと同様の勤務内容では勤務継続が困難で無給医となってしまっていた医師のために、短縮勤務制度の有給ポジションとして、准修練医制度を定めた東邦大学の例もあります」と、変わりつつある現場があることを指摘する。 前述した「医師の働き方改革」に関する検討会の中間発表を受けて、厚生労働省は2月に、医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組みを各医療機関でできる範囲で行うことを求めた。その内容とは、労働時間の管理、36協定の自己点検、長時間労働をしている医師への面談など産業保健のしくみの活用、一部の医師の業務を医師以外の職種で分担するタスクシフティング、女性医師への支援、そのほか当直明け勤務負担の緩和など各医療機関の状況に応じた取り組みである。 そして、5月28日から6月11日にかけて、取り組みがどのくらい行われているかという調査もなされた。調査に回答した全国の1193病院中、何らかの取り組みをしているのは63%という結果となった。実際にどのくらい進んでいるのかは各病院によっても濃淡があるだろう。 また、アンケートに答えるだけでは、実効性が薄いという指摘もあるかもしれない。しかし、少なくとも、このような調査が行われ、数字を出さなければならない状況になることで、変わらなければならないといういい意味での圧力にはなるだろう。 男性医師であれ、女性医師であれ、結婚していてもいなくても、子どもがいてもいなくても、健康に働けることこそが、医師にとっても患者にとっても必要なはずだ』、産業医については到底やりがいがあるとは思えないので、若い医師が希望したとすれば、何か特殊要因があるのだろう。厚労省がいくら取り組んでも、抵抗勢力に押し戻されそうだが、若干なりとも前進することを期待しよう。 
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