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大阪万博(その1)(240億円ばらまく大阪万博 経費は1兆2000億円まで膨張か、小田嶋氏:「空気」は万博開催では変わらない) [国内政治]

今日は、大阪万博(その1)(240億円ばらまく大阪万博 経費は1兆2000億円まで膨張か、小田嶋氏:「空気」は万博開催では変わらない)を取上げよう。

先ずは、11月28日付け日刊ゲンダイ「240億円ばらまく大阪万博 経費は1兆2000億円まで膨張か」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/242500
・『大阪開催が決定した万国博覧会。松井一郎府知事や世耕弘成経産相が中腰で大喜びする姿は、2013年に東京が五輪開催都市に決定した際の、安倍首相や森喜朗大会組織委会長の姿にソックリだった。経費の高騰が問題視される東京五輪だが、大阪万博でもバカ高くなるのか。 大阪万博の事業費について、府の博覧会推進室の担当者はこう説明する。「昨年9月に愛知万博(05年)を参考にして作成した履行申請書では、会場やパビリオンなどの会場建設費用が1250億円、事業運営費、会場管理などの事業運営費が820億円。人工島の夢洲(大阪市)に建設する地下鉄駅の整備費用などの関連費用が730億円で、おおよそ2800億円になる予定です。これより高騰する可能性もあるので、経費をなるべく抑えるよう注意しています」 この金額に開催候補選挙で世耕経産相が約束した「100カ国に計240億円」のばらまきが入るから、現時点で少なくとも3040億円以上の経費は必要となる計算だ』、参加国に240億円もバラ撒くのであれば、大阪に決定したのは当然だ。総額3040億円以上とは、安倍政権としては維新の会を取り込むには安いと考えているのだろう。
・『「夢洲」にも不安が残る。東京の豊洲と同じ軟弱地盤だからだ。豊洲への市場移転では、基盤整備費などで40ヘクタールの土地に計約4000億円の経費がかかった。「夢洲」の面積は10倍の約400ヘクタール。さらに地下鉄中央線の駅を新設するというから、とても3040億円で足りるとは思えない。東京五輪でも、招致時点で7340億円と見積もられていた経費が、会計監査院の試算では20年までに4倍の3兆円に膨れ上がった。大阪万博も4倍の1兆2000億円となるのか。 経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう言う。「パリが立候補を辞退して、米国が国としての不参加を表明するなど、世界では万博を敬遠する流れです。日本だけが70年大阪万博の夢を追って、採算が取れる見通しもないまま計画を進めています。予算も4倍にまで膨れ上がる可能性もあるでしょう。今からでもやめたほうがいいです」 まったく冗談じゃない』、軟弱地盤に地下鉄の駅を新設するというのも狂気の沙汰だ。本来、手綱を締めるべき財務省 も、消費税引上げを控えているためか、鳴りを潜めているのはだらしない。

次に、コラムニストの小田嶋 隆氏が11月30日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「空気」は万博開催では変わらない」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/112900168/?P=1
・2025年の国際博覧会(万博)が、大阪で開催されることが決定した。このニュースが伝えられた11月24日の午前、私は、ツイッター上に《NHKは局をあげて万博大歓迎体制なのだな。まあ、公共放送とてメディア企業である以上、この種の巨大イベントから直接的な収益を期待するのは当然なわけで、彼らはモロな利害関係者というのか、立ち位置的には祭りにおける露天商(←言葉の使い方に配慮しています)と同じなのだね。》(こちら) 《万博を起爆剤にとか言ってる人たちは、もしかして本気で大阪を爆破するつもりでいるわけなのか?》(こちら) 《招致の賛否を問う段階では反対派の意見も応分に紹介されていた。それが、招致が決定すると反対派の声は「なかったこと」にされる。一夜にして「もう決まったことなのだから一丸となって協力しよう」という空気ができあがる。東京五輪の時も同じだった。たぶん先の大戦でも同様の空気だったはず。》(こちら) 《NHKの番組の司会者は万博招致決定を「うれしいニュースがはいってきました」という第一声とともに紹介した。「ああ、こういう伝え方になるのか」と思った。 賛否のあった事柄でも決まってしまえば、全国民的な「うれしいニュース」になる。われわれはまるで成長していない。》(こちら)という書き込みを連投した』、NHKを「祭りにおける露天商」とは言い得て妙だ。確かに、決定してからマスコミが歓迎一色になっているのは薄気味悪い。
・『以来、私のタイムラインは、共感や反発のリアクションで騒然としている次第なのだが、今回は、万博をめぐる議論の行方について考えてみるつもりでいる。 さきほど、執筆に先立って作成したメモをあらためて読み返してみたのだが、なんというのか、論点が多すぎてうまくまとめられる感じがしない。あまりにもとっ散らかっている。 こういう場合は、切り口をひとつか二つに絞ったうえでシンプルに書き始めるのが正しい。あれもこれもと多方面のネタを拾い集めに行くと、必ずや支離滅裂な原稿ができあがってくる。このことは、私が経験から学び得た数少ない教訓のひとつだと言って良い。 が、今回はあえてとっ散らかった原稿を書くつもりでいる。理由は、とりあえず自分のアタマの中にあるノイズを吐き出した後でないと、先に進むことができない気がしているからだ。 文章を書くことの効用のひとつは、自分が何を考えているのかを知るところにある。特に今回のテーマのような錯綜した話題は、普通に自分のアタマの中で考えているだけでは、いつまでも行ったり来たりするばかりで焦点を結ばない。 その、自分のアタマの中に浮かんだり消えたりしている未整理な断片を、順次根気よく書き起こして行けば、自分の考えていることの全体像をある程度把握できる。このことは、逆に言えば、文章として整形して吐き出す以前のナマの思考は、実は自分にとっても意味不明であるケースが多いということでもある。 そんなわけなので、私自身は、普段から、まずなによりも自分が何を考えているのかを知りたくて文章を書き始めている。今回もそうするつもりだ』、普通の人間は、書く前に、書きたいことを整理してから書くものだが、小田島氏が「自分が何を考えているのかを知りたくて文章を書き始めている」というのには驚かされた。さすが文章の達人だ。
・『炎上誘発気味のツイートを書き並べてから2日後、さるネットTV局のスタッフから出演依頼のメールが寄せられた。 いくつか疑問点があったので、折り返し電話をして真意を尋ねた。 確認したところでは、オファーの内容は以下のようなものだった。 1.出演日 2.生放送で討論をしてもらう 3.出演時間は45分。討論のコーナーは実質30分前後 4.討論の内容は万博の是非について 5.他の出演者はキャスター、進行役、アシスタント、万博賛成派の論客、レギュラー出演の文化人など 6.スタジオ入り&打ち合わせは、番組開始前30分から なるほど。 説明を受けて、私の方からは 1.万博反対の意見をテレビ画面を通じて表明することで、自分にメリットがあるように思えない 2.単純に賛成派と反対派に分かれて議論をすると、たぶん視聴者の目には反対派が重箱の隅をつついているように見えるはず 3.自分が反対する論拠をテレビの生放送のサイズのコメントとして適切に説明しきれる自信がない という感じの懸念を伝えた。 現実問題として、テレビ局はどこであれ万博に対して全社的に前のめりだったりする。 とすれば、そのテレビ局があえて反対意見を表明している人間に対して発した出演オファーを、無邪気に受け止めて良いものなのかどうかは、大いに疑問だ。テレビの世界で仕事をしている芸能人や文化人の中にも万博招致の当事者(大手の芸能事務所に所属する芸人が万博誘致委員会のアンバサダーに就任している)に名を連ねている人間が少なくない。そんな状況下で、万博への賛否を問う討論にノコノコ顔出しで出演する仕事は、普通に考えてリスクが大きすぎる。ヘタをするとスケープゴートの役割を演じることになる。 スタッフ氏は、私の疑念に即答することはしなかったが、2時間ほど後、連絡用に一時的にフォローしたツイッターに「今回は別の企画で番組を進行することになりました。そんなわけですので、申し訳ありませんが、ご出演のオファーはまた別の機会にご検討ください」という主旨のダイレクトメールを届けてくれた。かくして、企画は流れることになった。 結果的には、これで良かったのだと思っている』、TV局からの出演オファーに対して、舞い上がらずに慎重に対応した小田島氏はさすがだ。
・『口達者な出演者に囲まれて一斉にまくし立てられたら、私はつい余計なことを言ったかもしれない。 私が万博の招致に賛成できずにいる理由の半分以上は、言ってみれば自分ながらうまく説明できずにいる不定形の不安に過ぎないからだ。こんな曖昧模糊とした感情を訴えたところで、視聴者に理解できるとは思えない。 おそらく、多くの番組視聴者は「このおっさん、さっきから何をグダグダネガティブなことばっかり並べてるんだ?」「おまえが不幸なのはわかったからオレを巻き込まないでくれという感じしかしない」「この人はつまり他人がうれしそうにしてることが不愉快だと言ってるわけか?」という感じの感想を抱くことになったはずだ。 そんな役回りはごめんだ。 私が万博の開催に良い感情を持っていない理由を、すべて並べ立てればそれなりのボリュームになる。 資金計画の不明瞭さや、カジノとの関連や、国の予算が不当に支出されるかもしれないことに対する疑念は、すでに幾人かの論者が指摘しているところだし、そのあたりの論点については、11月25日の朝日新聞の社説がわかりやすくまとめている(こちら)。 ただ、私自身が万博の開催を支持しない主たる理由は、もうすこし漠然としたものだ。 たとえば、私が最も強烈に反発を感じているのは、万博の招致が決定して以来テレビの画面から流れてくる「空気」だったりする。 こういうことを言うと「空気を理由に反対してるわけか(笑)」「さすがエア論客だな(笑)」てな調子で私の論拠の曖昧さを指摘する声が湧き上がるはずだ。 ご指摘の通り、私は、万博の招致や開催そのものよりも、それがもたらすであろう「空気」を懸念している。しかも、その懸念は、エビデンスやファクトとはかけ離れたものだ』、「「空気」を懸念している」とは小田島氏らしい。
・『ただ、思い出してほしいのは、万博を歓迎している人たちが期待しているのも、また「空気」であるはずだということだ。 万博が語られる時に必ずと言って良いほど使われる「起爆剤」という言葉がこのあたりの事情を端的に物語っている。 万博に期待する人たちは、万博それ自体の動員や収入よりも、万博の開催を通じてもたらされる「波及効果」や「人心の一新」や「夢」といった副次的な「空気」をあてにしている。ということは、結局のところ、彼らは、本当の狙いである「爆発」は、「起爆剤」としての万博が開催された後にやってくると考えているのである。 それゆえ、私の憂慮の念も、その万博がもたらすであろう「空気」に向けられている。 万博招致決定のニュースがもたらした「空気」の変化は、まず最初に「招致反対言論の一掃」という形で顕在化しはじめている。 招致に反対する人々が消滅したのではない。 招致が決定した瞬間に、反対意見を表明してはいけない空気が醸成されたということだ。 私がテレビ出演をためらったことも、その流れのひとつのあらわれと申し上げて良い。 要するに、「いまさら反対意見を言っても何の得にもならない」と、万博の開催に反対している人間の多くが、そう考えざるを得ない方向に、世間の「空気」が変わってしまったわけだ。 ちなみに申せばこの空気は、同時に「全国民が一丸となること」「国と自治体が一致協力してひとつの目標に取り組むこと」「企業や市民も心をひとつにして万博の成功に尽力すること」といった挙国一致しぐさの浸透を促す空気でもある』、「万博を歓迎している人たちが期待しているのも、また「空気」」というのは、言われてみればその通りだ。「挙国一致しぐさ」とは上手い表現だ。
・『私自身は、万博推進派と万博反対派の間を分かつ最も本質的な違いは、この「全員一丸」への態度の違いなのだと考えている。 もちろん、資金調達への疑念や開催の正当性に対する疑問などなど、賛成派と反対派の間には、様々な見解の相違が介在している。 ただ、両者が決して相容れない最も致命的な対立点は、カネやカジノの問題より、この「挙国一致」への反応の違いなのであって、採算性や正当性をめぐる議論は、実のところ、「国民一丸」への賛否をより具体的な次元での争いとして処理するための代理戦争に過ぎないのである。 この争いは、わたくしども個々の日本人の個人的な歴史の中で、ずっと底流していた葛藤でもある。 たとえば、通っていた学校で、「大切なのは全校生徒が一丸となって協力することだ。全員が一致団結して行動する時の昂揚感と共通意識の大切さを学べるのであれば、ベルマーク集めでも校舎裏の草取りでも、対象はなんであってもかまわない。とにかく成長過程にある君たちにとって大切なのは、仲間たちと心を一つにする経験なのだ」といった感じの演説を聞かされた経験はないだろうか。 私にはある。 で、その種の演説を聞かされる度に「うへえ、薄気味悪い」と思っていた。 そう思わなかった生徒もいたはずだ。たぶん、彼らの方が多数派なのだろう。で、その彼らは、万博を歓迎しているはずだ』、私などは生徒時代には先生の言うことに何の疑問も抱かなかったが、小田島氏は随分、ませた生徒だったようだ。
・『かりに、万博がケチくさいイベントに終始して、資金の流れが最終的にどんぶり勘定のどがちゃがに帰するのだとしても、大勢の人間が一致してひとつの国家的イベントを盛り上げようとした営為そのものは、かけがえのない尊い経験だと、そんなふうに考えるはずだからだ。 教頭先生の演説について、いまの私は、薄気味悪いとばかりは思わない。一定の評価はする。思春期の子供たちがチームスピリッツを学ぶ機会は重要だ。 学校や市町村あたりの単位で、一体感を持つことの至福を味わう経験も、それはそれで有意義なのかもしれない。 ただ、国家レベルで醸成される一体感については、いまなお私は薄気味の悪さを感じる。 これは、性分なので、どうしようもない。 万博招致決定のニュースに対してネガティブな書き込みをした私のもとには、強い調子の罵倒のリプライが多数寄せられている。 彼らが私に伝えようとしているのは、万博への意見そのものではなくて、「みんなが楽しもうとしていることに自分勝手なイチャモンつけてんじゃねえよ」という義憤のようなものだったのだと思う。 というよりも、「どうしてあなたはみんなと足並みを揃えることができないのですか」という素朴な疑問をぶつけてきているのかもしれない。 それは、私が尋ねたい質問でもある。どうして私はみんなと足並みを揃えることができないのだろう』、日本の強い同調圧力は、全体主義につながりかねないリスクを孕んでいる。
・『万博を起爆剤に経済を活性化させるというお話があちこちから聞こえてくる。 無理だと思う。 1970年の大阪万博の夢を再召喚することは、あらゆる意味で不可能だからだ。  前回のケースにしても、万博が高度成長をもたらしたわけではない。順序が逆だ。実態としては、高度成長の果実として万博がもたらされたに過ぎない。  大きな靴を履けば背が伸びるわけではないのと同じことだ。 現実を見ないといけない。  背の高い人は多くの場合足も大きいので大きいサイズの靴を履く。それだけの話だ。 原因と結果を取り違えてはいけない。 ファーストクラスに乗ったり高級外車を買ったところで富裕層になれるわけではない。富裕層がその可処分所得の高さゆえに高級外車に乗りがちだという事実の表面しか見ていないから、そういう考え方にハマってしまう。 いましめなければならない』、説得力がある主張だ。
・『もっとも、万博に波及効果がまるでないのかというと、そんなこともない。  現に私は、1970年の万博の会場を散々歩き回ったおかげで、行列が大嫌いな大人に成長することができたと思っている。この点は感謝しなければならない。 そういえば、万博見物から帰京してしばらくの間、「アホか」というのが、私の口癖になっていたことを思い出した。 いまだに、口をついて外に出ることがある。  2025年には、全国的に広まっているかもしれない』、なんとも秀逸なオチだ。
タグ:1970年の万博の会場を散々歩き回ったおかげで、行列が大嫌いな大人に成長することができた 原因と結果を取り違えてはいけない 順序が逆だ。実態としては、高度成長の果実として万博がもたらされたに過ぎない 万博を起爆剤に経済を活性化させるというお話があちこちから聞こえてくる。 無理だと思う 国家レベルで醸成される一体感については、いまなお私は薄気味の悪さを感じる 学校や市町村あたりの単位で、一体感を持つことの至福を味わう経験も、それはそれで有意義なのかもしれない 万博推進派と万博反対派の間を分かつ最も本質的な違いは、この「全員一丸」への態度の違いなのだと考えている 「全国民が一丸となること」「国と自治体が一致協力してひとつの目標に取り組むこと」「企業や市民も心をひとつにして万博の成功に尽力すること」といった挙国一致しぐさの浸透を促す空気でもある 万博招致決定のニュースがもたらした「空気」の変化は、まず最初に「招致反対言論の一掃」という形で顕在化 万博に期待する人たちは、万博それ自体の動員や収入よりも、万博の開催を通じてもたらされる「波及効果」や「人心の一新」や「夢」といった副次的な「空気」をあてにしている 「起爆剤」 万博を歓迎している人たちが期待しているのも、また「空気」であるはず 私が最も強烈に反発を感じているのは、万博の招致が決定して以来テレビの画面から流れてくる「空気」だったりする 企画は流れることになった ヘタをするとスケープゴートの役割を演じることになる ネットTV局のスタッフから出演依頼のメール 私自身は、普段から、まずなによりも自分が何を考えているのかを知りたくて文章を書き始めている NHKの番組の司会者は万博招致決定を「うれしいニュースがはいってきました」という第一声とともに紹介 招致の賛否を問う段階では反対派の意見も応分に紹介されていた。それが、招致が決定すると反対派の声は「なかったこと」にされる。一夜にして「もう決まったことなのだから一丸となって協力しよう」という空気ができあがる 祭りにおける露天商 NHKは局をあげて万博大歓迎体制 「「空気」は万博開催では変わらない」 日経ビジネスオンライン 小田嶋 隆 大阪万博も4倍の1兆2000億円となるのか 東京五輪でも、招致時点で7340億円と見積もられていた経費が、会計監査院の試算では20年までに4倍の3兆円に膨れ上がった 地下鉄中央線の駅を新設 軟弱地盤 少なくとも3040億円以上の経費は必要 「100カ国に計240億円」のばらまき おおよそ2800億円になる予定 夢洲(大阪市)に建設する地下鉄駅の整備費用などの関連費用が730億円 事業運営費、会場管理などの事業運営費が820億円 会場やパビリオンなどの会場建設費用が1250億円 「240億円ばらまく大阪万博 経費は1兆2000億円まで膨張か」 日刊ゲンダイ (その1)(240億円ばらまく大阪万博 経費は1兆2000億円まで膨張か、小田嶋氏:「空気」は万博開催では変わらない) 大阪万博
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日産ゴーン不正問題(その2)(「カルロス・ゴーン氏は無実だ」ある会計人の重大指摘、ゴーン不正の実態を会計から読み解く…金商法違反 脱税 特別背任 八田進二・青山学院大学名誉教授に聞く、検察は本当にゴーン氏を起訴できるのか 「土俵際」に立たされた検察と朝日) [企業経営]

日産ゴーン不正問題については、11月23日に取上げた。流れが微妙に変わってきた今日は、(その2)(「カルロス・ゴーン氏は無実だ」ある会計人の重大指摘、ゴーン不正の実態を会計から読み解く…金商法違反 脱税 特別背任 八田進二・青山学院大学名誉教授に聞く、検察は本当にゴーン氏を起訴できるのか 「土俵際」に立たされた検察と朝日)である。

先ずは、元公認会計士の細野 祐二氏が11月25日付け現代ビジネスに寄稿した「「カルロス・ゴーン氏は無実だ」ある会計人の重大指摘 そもそもの罪が…」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58626
・『「有価証編報告書虚偽記載罪で逮捕されたゴーン氏だが、そもそも会計人の眼から見れば、これは罪の要件を満たしていない」。『公認会計士vs特捜検察』などの著書のある会計人・細野祐二氏の特別レポート――』、細野氏はキャッツ有価証券報告書虚偽記載事件で有罪となり、公認会計士の登録を抹消された。
・『本件の罪、成立せず  2018年11月19日午後、仏ルノー・日産自動車・三菱自動車の会長を兼務していたカルロス・ゴーン氏は、自家用ジェット機で羽田空港に入国するや直ちに空港内で東京地検特捜部に任意同行を求められ、同日夕刻、そのまま逮捕された。 逮捕容疑は有価証券報告書虚偽記載罪である。日産の代表取締役であったグレッグ・ケリー氏も同日同容疑で逮捕されている。 新聞報道によれば、日産自動車の2011年3月期から2015年3月期までの5事業年度において、カルロス・ゴーン前会長の役員報酬が実際には99億9800万円であったところ、これを49億8700万円として虚偽の有価証券報告書を5回にわたり関東財務局に提出したのが金融商品取引法違反(有価証券報告書虚偽記載罪)に問われているとのことである。対象期間の日産自動車の有価証券報告書には、代表者の役職氏名として、「取締役社長 カルロス ゴーン」と記載されている。 ここで、虚偽記載容疑として盛んに報道されているのが、ゴーン前会長が海外子会社に自宅として海外の高級住宅を購入させていたというものである。 日産自動車は、2010年ごろ、オランダに資本金60億円で子会社を設立。この海外子会社の資金を使って、リオデジャネイロの5億円超のマンションとベイルートの高級住宅が相次いで購入され、いずれもゴーン前会長に無償で提供された。購入費に加え、維持費や改装費も日産自動車が負担し、その総額は20億円超になるという。 一方、パリやアムステルダムでは日産の別の子会社などが、ゴーン前会長の自宅用物件として、高級マンションを購入したり借りたりしたが、ゴーン会長が負担すべき家賃について一部が支払われていなかった疑いがあると報道されている。 このほか、ゴーン前会長が家族旅行の費用など数千万円を日産自動車に負担させていた疑いもあるという。 さらにまた、
+日産自動車は、2003年6月の株主総会で、役員報酬としてストック・アプリシエーション権(SAR)と呼ばれる株価連動型インセンティブ受領権の導入を決定し、ゴーン前会長は2011年3月期以降、合計40億円分のSARを得ながら、その報酬額が有価証券報告書に記載されていないこと
+ゴーン前会長はオランダの子会社から2017年まで年間1億円から1億5千万円程度の報酬を受け取っていたが、これが有価証券報告書に記載されていないこと なども大きく報道されている。 なるほど、ゴーン前会長は巨額の経済的便益を日産自動車から受けていたのであろう。しかし、巨額の経済的便益を受けていたことと有価証券報告書虚偽記載罪は何の関係もない。 これらの経済的便益が「有価証券報告書虚偽記載罪」の犯罪構成要件を満たすためには、①問題となる経済的便益が、会計基準上有価証券報告書に記載すべき事項(=犯罪事実)であり、かつ、②ゴーン前会長自身が、本件経済的便益は会計基準上有価証券報告書に記載すべきものと知りながら、敢えて不記載としたという認識(=故意)がなければならない。 「有価証券報告書虚偽記載」は故意犯なので、ゴーン会長に故意が認定できなければ、本件の有価証券報告書虚偽記載罪は成立しない』、確かに故意の立証は難航しそうだ。
・『世界のどこにも存在しない  そこで、有価証券報告書における開示額の算定基準が問題とされるところ、2009年12月17日に言い渡された日債銀事件の最高栽判決における補足意見には、「有価証券報告書の一部をなす決算書類に虚偽記載があるかどうかは決算書類に用いたとする会計基準によって判断されるべき」と記載されている。 「総額1億円以上の役員ごとの連結役員報酬等の総額」は「有価証券報告書の一部をなす決算書類」そのものではないが、求められる開示額は「連結役員報酬等の総額」とされているのだから、その算定基準が会計基準にあることは自明であり、その会計基準とは連結財務諸表等規則並びに「企業内容等の開示に関する内閣府令」に他ならない。 ここで問題とされている海外の高額マンションの購入は、日産自動車が資産を買って、それをゴーン氏が専属的に使用していた、というだけのことだ。そこには損失が発生しておらず、したがってこれは会計基準上の役員報酬とはならない。 次に、オランダの海外子会社の報酬が漏れていたというような報道もあるが、日産の連結対象となるオランダの子会社は「ニッサン・インターナショナルホールディングスBV社」。その資本金は19億ユーロなので、ゴーン前会長が報酬を得ていたとされるオランダ法人なるものは、連結対象会社ではない。非連結子会社から得た役員報酬は内閣府令が定める連結役員報酬に該当しない』、検察に恨みを抱いている筈の細野氏の主張には、バイアスがあるのではと当初は懸念していたが、指摘はもっともで、さすが会計の専門家だけある。
・『次に、40億円のSRSについて検討すると、SRSはストック・オプションとは異なり、基準株価からの上昇分相当額が現金として支払われる。ならば、本件SRSは、複式簿記原理に従い、必ず費用処理されていたに違いなく、それが損益計算書に計上されていたこともまた疑いの余地がない。 問題は費用処理の勘定科目が役員報酬となっていたかどうかで、この時代のSRSは税務上損金算入が認められていなかったので、役員報酬ではなく「交際費」と処理された可能性が高く、そうであれば、交際費でも役員報酬として開示しなければならないというヤヤコシイ会計基準を、ゴーン社長が認識していたかどうかにある(ゴーン前会長が日本の連結財務諸表規則や開示内閣府令などを知っているはずがない)。 家族旅行の費用を日産に付けていたという報道は、論じることさえ馬鹿馬鹿しい。 大手企業では役員に対して様々な待遇が設けられ、家族でも使えるものもある。だからといってこれが役員報酬だと言い張る会計人は世界のどこにも存在しない。 以上、ゴーン前会長にかけられた全ての疑惑について、ゴーン氏の無実は明白にして動かない。 ゴーン前会長逮捕後のマスコミ報道により、①本件捜査が日産側の内部通報に基づくものであったこと、②ゴーン前会長の逮捕に際しては日産側執行役員らに司法取引が適用されたこと、③日産側にはルノーとの日仏連合に関する内紛があったこと、が分かっている』、会計基準をゴーン社長が認識していたという前提には、確かに無理がある。
・『これがグローバル・スタンダードと理解すれば…  結局、これは東京地検特捜部による日産自動車の内紛に対する民事介入ではないか。 特捜検察は、2010年秋の厚生労働省村木厚子元局長の無罪判決とその後の大阪地検特捜部の証拠改竄事件により国民の信頼を失って久しい。 特捜検察は、その後雌伏8年間にわたり威信回復を狙っていたところ、今回日産の内部通報と熱烈な協力により、ゴーン前会長逮捕という起死回生の一撃を食らわせることができた。 マスコミ報道は、「地に堕ちたカリスマ経営者」、「独善」、「許せない」、「私腹を肥やす」など、ゴーン会長の人格攻撃一色となっている。特捜検察による逮捕とそれを支持するマスコミ世論の背景には、ゴーン前会長が得ていた報酬の絶対額に対する下卑た妬みがある。 そもそも日産自動車は、1999年、2兆円の有利子負債を抱えて倒産寸前だったではないか。日産自動車が現在あるのは、ルノーが6430億円の救済資金を資本投下するとともに、ゴーン前会長を日産再建のために送ったからである。 現在の日産の株式時価総額は4兆2千億円であり、ゴーン前会長がいなければ、日産自動車は現在その存在そのものがない。 普通、M&Aの成功報酬は買収額の3~5%が相場となっている。ゴーン会長は日産自動車から2100億円(=4兆2千億円×5%)の報酬を貰って良いし、日本人はこれがグローバル・スタンダードであることを理解しなければならない。 それをたかが50億円とか100億円の役員報酬で大騒ぎして、挙句の果てにはゴーン前会長の逮捕までしてしまった。いつから日本人はこんな恩知らずになったのか。 今からでも遅くはない。東京地方裁判所は直ちにゴーン前会長の勾留命令を取消さなければならない』、「ゴーン会長は日産自動車から2100億円の報酬を貰って良い」という部分は乱暴な議論との印象もあるが、「東京地検特捜部による日産自動車の内紛に対する民事介入ではないか」との指摘は、頷ける部分が多い。

次に、同じく会計の立場から、11月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した「ゴーン不正の実態を会計から読み解く…金商法違反、脱税、特別背任 八田進二・青山学院大学名誉教授に聞く」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/186764
・『有価証券報告書への報酬未記載や、住宅などさまざまな個人的利益を日産から受けていたといった報道が連日出ているゴーン容疑者。これらは果たして、どの程度の罪になるのか。また、ゴーン容疑者以外の日産経営陣の責任はどう考えるべきなのか。会計の専門家で、青山学院大学名誉教授の八田進二氏に聞いた』、同氏は細野氏とは違って、オーソドックスな会計の専門家だ。
・『<論点1>「退任後の報酬」は記載すべきか?  ――ゴーン容疑者の逮捕容疑は金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)。2010年から5年間にわたって毎年、役員報酬の約10億円、合計50億円を記載しなかったというもので、その後の3年間(30億円)分も合わせて80億円になるとの見方もあります。 高額な報酬という批判を避けるために、毎年の役員報酬20億円のうち、半分の10億円を「退任後に受け取る」という契約にし、その年の有価証券報告書には記載しなかった、ということのようですが、原則としては、これはアウトです。「退任後なら、役員退職慰労金扱いであり、今は記載する必要はないのでは」との見方もあるようですが、役員退職慰労金とは在任年数などを勘案して、退職時に決めるものです。「2010年は10億円、2011年も10億円」といった具合に毎年、金額を決めて契約していたのなら、それぞれ当該年に会計処理すべきです。 ただ、この約束が単に「それくらい払うよ」という、一種の希望的観測じみた効力しかないようなものならば記載の必要はない、という解釈もなくはない。その辺りは、会社がどういった処理をしているかを、詳しく見ていかなければ分からないでしょう。 ――さらに、株価に連動した報酬を受け取れる「SAR(ストックアプリシエーション権)」も約40億円分、開示しなかったとされています。 次々に明らかになっていることを一言でいうと、ゴーン容疑者は会社の財産をほしいままにしてきた、ということです。検察は最終的には特別背任を狙っているのではないかと思います。 ただし、特別背任は検察側が越えるべきハードルが高いのも事実。どういう意思決定プロセスを経ていたのか、本当にほかの取締役は一切知らなくてゴーン容疑者の独断なのか、などといったことをきっちり詰めて行かなければいけませんから、相当時間がかかるだろうと思います』、慎重な言い回しながら、有罪を示唆しているようだ。 
・『<論点2>「住宅の無償供与」は脱税行為にもなる  ――さらに、今回の逮捕容疑には入っていませんが、オランダの子会社を通じてレバノンやブラジルに高級住宅を購入させたり、挙げ句の果てには家族旅行の費用や、娘の大学への寄附金などを日産に出させる、姉との不正なアドバイザリー契約を結んで年10万ドルを支払うなど、明らかに私的な出費も日産に負担させていたようです。会計的には、これらはどのような問題だと捉えられるでしょうか? 会社名義で従業員が私的利用するもの、たとえば社宅などを買って提供するというのは、いわゆるフリンジベネフィット(福利厚生費など、会社規定による付加的な報酬の総称)です。しかし、ゴーン容疑者が独占的に使い、かつ家賃などを一切払っていないのなら問題です。家賃相当額は給与と見なすべきなのです。当然課税対象になりますから、ゴーン容疑者はここで脱税をしていたということになります。 家族旅行費用や姉への報酬、娘の学校の寄附金といった類いも、実質的な給与と考えるべきです。いずれも事業目的とは無縁なので、経費に認められるわけがありません。これは不当な支出であり、背任とも言える、違法性の高い話でもあります』、確かに脱税については、細野氏は言及してなかったが、ひっかかる可能性はあるのかも知れない。
・『<論点3>会社側はどの程度悪いのか?  ――独裁者として君臨するゴーン容疑者を駆逐するため、日産の役員たちが立ち上がったクーデターである、との世論醸成がされている印象もありますが、やりたい放題の独裁者をこれまで支えてきた日産経営陣にも大きな責任があるのではないかと感じます。 両罰規定が適用されるだろうと思いますが、日産の取締役会、さらに監査役会にも大きな問題があります。日産ほどの規模の会社であれば当然、経理・財務はチームで働いています。司法取引に応じた執行役員らがいたわけですが、そのほかの取締役たち、監査役たちは本当に一切、何も知らなかったのか?大いに疑問ですね。歴年にわたって随所で行われてきた不正ですから。断片的であっても、いろいろ耳に入っていたと考えるのが自然じゃないでしょうか。これは取締役会、そして監査役会の機能が果たせていないということです。 また、たとえば今年6月に提出された有価証券報告書には、西川廣人社長名で「当社の第119期(自 平成29年4月1日 至 平成30年3月31日)の有価証券報告書の記載内容が金融商品取引法令に基づき適正に記載されていることを確認しました」と記載されていますが、西川社長が今回の不正を知ったのは、今年3月だったと報道されています。これが事実なら、なぜ「適正に記載されていることを確認」できたのでしょう? さらに、ゴーン容疑者解任を決議した取締役会では、ルノー出身の2人の取締役がフランスからテレビ会議で参加したという点も、私に言わせれば大問題です。監視・監督は現場・現物の検査が重要です。でないと、会社業務の健全性の監査を適切に行うことなどできない。普段から、グローバル企業の名の下で、こんなやり方がまかり通っていたから、会長解任という一大事に際しても、テレビ会議での出席で済ませてもいいや、という感覚なのでしょう。これは、監査役会の問題です。取締役会の執行がきちんと行われているかどうか、見極めるのは彼らの役割ですから。 もちろん、最大の権限を持つトップ自らが不正を働いた、というのは、非常に食い止めるのが難しい話ではある。日産の不幸だったと言えます。しかし、ガバナンスが緩かったからこそ、ゴーン容疑者は独裁者としてやりたい放題できたのでしょう。私は、取締役たち全員が、ゴーン容疑者とほぼ同罪であると言いたいですね。今年6月に就任した取締役2人は、さすがに責任がなかったかもしれませんが、その他の役員は全員責任がある。特に、西川社長と軽部博CFOの責任は重いのです』、確かに責任はあるにしても、司法取引で免責になるのではなかろうか。
・『<論点4>監査法人の責任は?  ――日産の監査法人はEY新日本。あの東芝やオリンパスも担当した大手監査法人です。売上高11兆円の大企業ですから、数億円の住宅やゴーン容疑者の姉への年10万ドルのアドバイザリー契約などという少額の不正は、なかなか見抜けなかったのでしょうか? もちろん、売上高の9割に貢献している事業を重点的に見る、という重要性の基準はあります。ただし、たとえ小さな規模のものであっても、定性的に見て、コンプライアンス違反が潜んでいるんじゃないかと疑わしい、つまり信用できないものがあれば、規模の大小に関わらず、きちんとチェックすべきだというルールになっています。 ―― 一部報道によれば、ゴーン容疑者の住宅購入に使われたオランダの子会社「ジーア」は資本金60億円の小さな会社ですが、監査法人は「会社の実態が不透明だ」と指摘したものの、日産側からかわされたようです。 企業の連結ベースでの不正はたいてい、子会社や関連会社、外国事業拠点を通じて行われるものです。そして、この手の不正は、監査法人が疑念を感じたのにもう一歩、きっちり踏み込めていないというケースが多い。新日本は指摘するだけでは役割を果たしたとは言えないのです。2011年に起こったオリンパスの不正事件を受けて、金融庁は2013年に監査基準の改正を行い、疑問を持った際には職業的懐疑心を発揮して徹底的に深掘りすべしという旨を盛り込みました。 今回のケースであれば、疑問を投げかけるだけでなく、実際にオランダに行って調査をすべきです。 確かに手間ひまがかかる話ではありますが、EY(アーンスト・アンド・ヤング)のネットワークを活用したっていいわけで、とにかく疑念がある場合にはしっかり調査すべき。会社側のお茶を濁すような釈明に言いくるめられるようではダメなのです』、細野氏によれば、オランダ子会社が非連結なので、訪問調査するほどでもないと判断したとしても、無理からぬところだ。
・『<論点5>金額は決して大きくないけれど…  ――東芝の不正会計事件は、経営危機に陥るほどのインパクトがありました。日産の一件は、驚くような話ではあるものの、業績に大打撃を与えるような規模の金額ではありません。 会計監査の世界では、「ある情報が間違っていた場合、正しい情報を知っていたとしたら、情報の利用者(投資家など)は違う意思決定をしただろうか?」という点が重要視されます。その意味から言うと、確かに数字的インパクトは小さい。しかし、投資家は数字のみならず、ガバナンスの状況など非財務情報も重要視しているはずです。 ゴーン容疑者がこだわったであろう役員報酬の開示も、投資家は関心を持っています。だから、株主総会では「前期より利益が下がっているのに、なぜ役員報酬は上がっているのか」といった質問が出たりするわけです。つまり、報酬が納得の行く金額であって、かつ正しく開示されているかどうか、ということは、投資家からすればその企業や経営者を信頼できるかどうかという大切なポイントなのです。 2001年に破綻した米エンロンは、巨額の簿外債務があるなどの不正が起きていた一方、経営者は高額な報酬をもらっていました。米国ではエンロン事件後、監査強化やディスクロージャー強化などを盛り込んだSOX法が制定され、経営者の不正は厳罰化。虚偽記載は罰金も強化された上に、経営者は最長20年の懲役が科され、二度と上場企業の役員にはなれません。 日本では2007年に金融商品取引法ができたときに経営者の責任が重くされましたが、それでも最大で懲役10年。これは「軽すぎる」という議論もあります。 過去には長銀や日債銀の経営者がさんざん争った挙げ句に無罪となった事例もあり、東芝の歴代社長の立件に検察が及び腰になった原因だと言われています。検察は日産で失地回復を狙っているのではないでしょうか。しかし、ゴーン容疑者のケースでも、脱税や横領はまだしも、特別背任まで視野に入れるとすると、簡単な戦いではないはずです』、その通りだろう。

第三に、元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原 信郎氏が11月29日付けJBPressに寄稿した「検察は本当にゴーン氏を起訴できるのか 「土俵際」に立たされた検察と朝日」を紹介しよう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54804
・『日本ばかりか世界中に衝撃を与えた「カルロス・ゴーン会長の逮捕」。報道で先行していた朝日新聞は、ゴーン氏の”疑惑”について続報を流すことに余念がないが、報じられる事実を見ていくと、ゴーン氏の起訴は容易ではなさそうだ。「企業のカネで私腹を肥やした強欲経営者」を排除したとして喝采を浴びたかに見える東京地検と朝日新聞だが、実はいま、ジリジリと土俵際まで追い詰められだした。元検事の郷原信郎弁護士が事件を分析する』、郷原氏は私が信頼する論者の1人なので、大いに注目される。
・『何が逮捕の容疑事実なのか  11月19日夕刻、東京地検特捜部は、日産自動車のカルロス・ゴーン会長とグレッグ・ケリー代表取締役を金融商品取引法違反の容疑で逮捕した。東京地検の発表によると、容疑事実は、「2015年3月期までの5年間で、実際にはゴーン会長の報酬が計約99億9800万円だったのに、有価証券報告書には合計約49億8700万円だったとの虚偽の記載をして提出した、役員報酬額の虚偽記載」ということだったが、一般的には虚偽記載罪は粉飾決算に適用されることが多く、役員報酬の虚偽記載というのは、これまで聞いたこともなかった。 検察当局が「ゴーン会長に対する報酬額を実際の額よりも少なく有価証券報告書に記載した」ということ以外、「役員報酬」の具体的な中身を全く明らかにしなかったため、肝心の、逮捕の容疑事実が判然としないまま、ゴーン氏の様々な「悪事」が暴き立てられ、ゴーン氏逮捕は「司法取引」を活用した検察の大戦果であったような「大本営発表的報道」が行われてきた』、「大本営発表的報道」とは言い得て妙だ。
・『逮捕の容疑事実については、断片的な情報や憶測が錯綜し、報道は迷走を続けてきたが、11月24日の朝日新聞と読売新聞の朝刊一面で、「虚偽記載」とされたのは、ゴーン氏が日産から「実際に受領した報酬」ではなく、「退任後にコンサルタント料等の別の名目で支払うことを約束した金額」だったことが報じられ、その後、ケリー氏側が、容疑事実について、「将来の報酬として確定していなかった」と主張して否認していることも報じられたことで、容疑事実が、退任後に支払予定の役員報酬だったことは、ほぼ間違いないと思える状況になっている』、なるほど。
・『退任後の「支払の約束」について記載義務はあるのか  実際に支払われていない、退任後に「支払の約束」をした金額について、有価証券報告書の「役員報酬」の欄に記載する義務があるかどうかについては、重大な疑問がある。 過去に現実に受領した役員報酬は、その手続きに重大な瑕疵があったということでもない限り、返還ということは考えられない。一方、退任後の「支払の約束」の方は、退任後に顧問料などの「別の名目」で支払うためには、日産側での改めて社内手続を経ることが必要となる。不透明な支払は、内部監査、会計監査等で問題を指摘される可能性もある。 仮に、今後、日産の経営が悪化し、大幅な赤字になってゴーン氏が引責辞任することになった場合、過去に支払う契約をしていたからといって、引責辞任した後の経営トップに「報酬」を支払うことは、株主に対して説明がつかない。結局、「支払の約束」の契約をしていても、事実上履行が困難になる可能性もある。 そういう意味では、退任後の「支払の約束」は、無事に日産トップの職を終えた場合に、支払いを受ける「期待権」に過ぎないと見るべきであろう。多くの日本企業で行われている「役員退職慰労金」と類似している。むしろ、慰労金こそ、社内規程で役員退職慰労金の算定式などが具体的に定められ、在職時点で退職後の役員退職慰労金の受領権が確定している典型的な例だが、実際に、有価証券報告書に慰労金の予定額を役員報酬額として記載した例は見たことがない。退職慰労金についてすら、役員報酬として記載されていないのが実情だ。 有価証券報告書の虚偽記載罪というのは、有価証券報告書の「重要な事項」に虚偽の記載をした場合に成立する犯罪だ。役員退職慰労金ですら、実際に記載されていない実情なのに、退任後に支払う約束をしただけの役員報酬が「重要な事項」に該当し、それを記載しないことで犯罪が成立するなどと言えないことは明らかだ』、説得力のある指摘だ。
・『「退任後の報酬」についての対応が分かれた読売・朝日  ゴーン氏の逮捕事実が「支払の約束」の虚偽記載に過ぎないとの11月24日の朝日新聞と読売新聞の報道を受け、翌25日に、私は【ゴーン氏事件についての“衝撃の事実” ~“隠蔽役員報酬”は支払われていなかった】と題する記事(ヤフーニュース)などで、上記の指摘を行った。それに対する11月27日朝刊での朝日と読売の報道は全く対照的なものだった。 読売は、1面トップで、【退任後報酬認めたゴーン容疑者「違法ではない」】という見出しで、ゴーン氏が、報酬の一部を役員退任後に受け取ることにしたことを認めた上で、「退任後の支払いが確定していたわけではなく、報告書への記載義務はなかった」と逮捕容疑を否認していると報じている。 その上で、3面で、【退任後報酬に焦点 報告書記載義務で対立】との見出しで、ゴーン氏の「退任後報酬」について、ある検察幹部は、「未払い額を確認した覚書」を作り、報酬の開示義務がなくなる退任後に受け取ることにした時点で、過少記載を立証できる」と強調する。との検察側の主張を紹介した上、「実際、後払い分は日産社内で積み立てられておらず、ゴーン容疑者の退任後、日産に蓄積された利益の中から支払われる予定だった。支払方法も顧問料への上乗せなどが検討されたが、決まっていなかった」などとして、記載義務があるとの主張を否定する方向の事実を指摘している。 それに加え、専門家見解として、金商法に詳しい石田眞得・関西学院大教授の「将来に改めて会社の意思決定が必要となるなど、受け取りの確実性に曖昧さが残る場合、罪に問えるかどうかは議論の余地がある」とのコメントを紹介し、「虚偽記載を立証できたとしてもハードルは残る。今回は、役員報酬の過少記載が同法違反に問われた初のケースだ。罪に問うほど悪質だと言うには、特捜部は、役員報酬の虚偽記載が投資家の判断を左右する“重要な事項”であることも立証しなければならない」との指摘も行っている。 この記事で読売新聞の論調は、私の上記記事とほとんど同趣旨であり、「退任後報酬」の有価証券報告書虚偽記載について疑問視し、検察を見放しつつあるように思えるが、朝日は、それとは全く対照的だった』、読売がスタンスを切り替えたのは大したものだ。
・『11月26日の朝刊の1面トップで、【私的損失 日産に転嫁か ゴーン前会長、17億円】と大きな見出しで、ゴーン前会長は日産社長だった06年ごろ、自分の資産管理会社と銀行の間で、通貨のデリバティブ(金融派生商品)取引を契約した。ところが08年秋のリーマン・ショックによる急激な円高で多額の損失が発生。担保として銀行に入れていた債券の時価も下落し、担保不足となったという。 銀行側はゴーン前会長に担保を追加するよう求めたが、ゴーン前会長は担保を追加しない代わりに、損失を含む全ての権利を日産に移すことを提案。銀行側が了承し、約17億円の損失を事実上、日産に肩代わりさせた。という事実を報じ、監視委は同年に実施した銀行への定期検査でこの取引を把握。ゴーン前会長の行為が、自分の利益を図るために会社に損害を与えた特別背任などにあたる可能性があり、銀行も加担した状況になる恐れがあると、銀行に指摘したという。特捜部は、ゴーン前会長による会社の「私物化」を示す悪質な行為とみている模様だ。などと、あたかも、特捜部が、この17億円の損失の「付け替え」の事実をゴーン氏の余罪として立件することを検討しているかのような書き方をしている。 朝日は、特捜部がゴーン氏が専用ジェット機で羽田空港に帰国するのを待ち構えて逮捕した時点から、「同行取材」し、直後に「ゴーン会長逮捕へ」と速報するなど、今回の事件の報道では「独走状態」だった。ゴーン氏の逮捕容疑が、「退任後の報酬」であることが明らかになり、果たして記載義務があるのか、それを有価証券報告書に記載しなかったことで犯罪が成立するのかについて重大な疑問が生じても、それを無視し、なおも、ゴーン氏を突然逮捕し、世の中に衝撃を与えた特捜部の捜査を正当化しようとする「従軍記者的報道」を続けているようだ』、「従軍記者的報道」とは朝日に対する痛烈な批判だ。羽田に「同行取材」するようでは、癒着も極まれりだ
・『今後の捜査・処分のポイント  そこで、今回のゴーン氏の事件に関して、今後ポイントとなるのは次の2点だ。 第1に、50億円の有価証券報告書の虚偽記載の容疑事実とされた「退任後の報酬」について、有価証券報告書への記載義務があるのか、仮にあるとしても、それを記載しないことが「重要な事項」の虚偽記載に当たるのかという点である。 この点については、読売新聞が、「後払い分は日産社内で積み立てられておらず、ゴーン容疑者の退任後、日産に蓄積された利益の中から支払われる予定だった」と報じていることに加え、日経新聞も、退任後の役員報酬についての引当金が計上されていないと見られることを指摘している。少なくとも、ゴーン氏の退任後に自動的に支払ができるものではなく、日産社内での手続や監査法人の対応等を経た上でなければ支払うことができないものであり、「支払が確定していた」と言えないことは明らかなので、この虚偽記載の事実での起訴が極めて困難であることは、もはや否定できない状況となっている』、検察はさぞかし焦っていることだろう。
・『そこで第2の問題は、逮捕容疑となっていることがほぼ確実な「退任後の役員報酬」についての有価証券報告書虚偽記載でゴーン氏の刑事責任を問えないとすると、ゴーン氏の刑事責任を問えるような事実が、他にあるのか、という点である。 逮捕直後の記者会見で西川社長が、「内部通報を受けての社内調査の結果、逮捕容疑の役員報酬額の虚偽記載のほか、『私的な目的での投資資金の支出』、『私的な目的で経費の支出』が確認されたので、検察に情報を提供し全面協力した」と説明したので、これらが、特別背任罪として立件されるのではないかとの観測もあった。 しかし、背任罪(特別背任罪も同じ)は、「自己又は第三者の利益を図る目的、本人に損害を与える目的」で、「任務に違反し」、「本人に財産上の損害を与えること」によって成立する。投資資金で海外の不動産購入を購入し、それをゴーン氏が自宅として使用していたとしても、自宅に使う目的で投資資金を用いて不動産を購入する行為は、「自己の利益を図る目的」で行われたと言う余地はあっても、果たして、「損害の発生」の事実があると言えるのか。不動産は会社の所有になっているのだから、購入価格が特に不利なものでなければ、「財産上の損害」は考えにくい。 「私的な目的で経費の支出」も含め、海外で行われた事実だとすると、それについて、海外で捜査を行うことができない(その国に「捜査共助」を求めるしかない)日本の検察当局が、そのような事実について刑事事件としての証拠を得ることは極めて困難だ。だからこそ、日産の社内調査で判明した事実の中から、ゴーン氏の逮捕事実として選定したのが、役員報酬についての有価証券報告書の虚偽記載だったということだろう』、「海外で行われた事実」には捜査の壁が高いという指摘は、さすが元検事だ。
・『17億円の損失の「付け替え」の報道  そして、前記の朝日の1面トップ記事で「退任後の役員報酬」だったことが明らかになった後に、ゴーン氏の個人的取引での17億円の損失の日産への「付け替え」が特別背任罪等に該当する可能性があるのではないか、という話が出てきた。しかし、この事実も、刑事事件としての立件がほとんど考えられないことは常識で考えれば明らかだ。 朝日の報道によると、銀行側がゴーン氏に担保を追加するよう求め、ゴーン氏は担保を追加しない代わりに損失を含む全ての権利を日産に移すことを提案し、銀行側が了承したというのであり、もし、この事実が特別背任罪に当たるとすると、銀行に対しても「特別背任の共犯」としての刑事責任を問わざるを得ない。 一方で、ケリー氏が関わった話は全く出ておらず、結局、この事実を刑事事件で立件しようとしても、現在逮捕されているゴーン氏、ケリー氏の「余罪」ではなく、当事者が全く異なる事件となる。 もし、この事実を刑事事件として立件するとすれば、検察は、「銀行側」の関与者の刑事責任をどう処理するのか、という点が重大な問題になる。 しかも、担保不足になった権利を日産に移した後、デリバティブ取引の最終的な損益がどうなったのかは、何も書かれていない。2008年から2010年までは、急激に円高が進み、100円前後から一時1ドル80円を割ったこともあり、上記の日産への権利移転はその時期に行われたと思われるが、2010年からドルは反転し、2011年には100円を突破している。結局、日産に移転されたデリバティブは、最終的に殆ど損失を生じなかった可能性が高い。「結果的に損失が発生しなかっただけ」と理屈を述べたところで、やはり、会社に損害を与えたことが背任罪の処罰の根拠となるのは当然であり、結果的に本人に与えた損害が大きくないのに、特別背任罪で立件されることは考えられない。 また、損失の「付け替え」が行われたのは2008年で、10年前のことであり、仮に犯罪が成立するとしても既に公訴時効が完成している(犯人が海外にいる期間は時効が停止するので、ゴーン氏が、その後10年間で3年以上海外にいた場合には、公訴時効が完成していないことも全くないとは言えないが、その可能性がどれだけあるのか)。このように考えると、朝日が大々的に報じ、他のメディアも追従した17億円の「損失付け替え」も刑事事件化される可能性は限りなくゼロに近いと言わざるを得ない』、「日産に移転されたデリバティブは、最終的に殆ど損失を生じなかった可能性が高い」、「公訴時効が完成している」などの指摘も鮮やかだ。
・『日本社会のみならず、国際社会にも衝撃を与えたゴーン氏逮捕は、西川社長ら日産経営陣が、本来、日産社内のガバナンスで解決すべき問題を、検察に情報提供し、検察官の権限という「武器」を恃んでクーデターを起こした事件であることは、当初から明らかだった。ゴーン氏の逮捕が正当なものであれば、そのような「武器」を用いたことも、社会的に是認される余地もあっただろう。しかし、これまでに明らかになった事実からすると、日産経営陣と検察の「暴走」であった可能性が高くなっていると言わざるを得ない。 今回の日産とカルロス・ゴーン氏をめぐる事件は、日本の経済界にとっても、検察の歴史にとっても「前代未聞」の事件であることは間違いない。それが今後どのように展開していくのか、日本社会も、マスコミも、事態を客観的に冷静に見守っていく必要がある』、「日産経営陣と検察の「暴走」」だったとすれば、国際的な「大恥」だ。どういう形で収束させるのだろう。

・ロイターが夕方発表したところによれば、「ルノー、日産、三菱自動車の3社は引き続きアライアンスについて完全にコミットするとの共同メッセージを発表。今後はゴーン容疑者が務めている開発や調達など共通の戦略を策定する統括会社「ルノー・日産BV」のトップ人選が、まず話し合いのテーマになるとみられている」、とのことである。実は、この発表を待って、このブログでは明日取上げようかとも思ったのだが、どうせ今日のところは形式的な話し合いだろうとして、今日取上げた次第である。いずれにしろ、ルノー・日産の綱引きがどうなるかも注目点だ。
https://jp.reuters.com/article/renault-nissan-mitsubishi-idJPKCN1NY117
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労働(その2)(ゆとり世代の転職が絶えない「本当の理由」 「自分らしいキャリア」を社会が煽っている、JR東労組「3万人脱退」で問われる労組の意義 JR労組の脱退問題続報 「無所属」が大量発生、関連会社渡り歩いた「リストラ請負人」の末路 「自分は大丈夫」とのその自信 根拠ない自己暗示の賜物では?) [経済]

労働については、昨年2月22日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その2)(ゆとり世代の転職が絶えない「本当の理由」 「自分らしいキャリア」を社会が煽っている、JR東労組「3万人脱退」で問われる労組の意義 JR労組の脱退問題続報 「無所属」が大量発生、関連会社渡り歩いた「リストラ請負人」の末路 「自分は大丈夫」とのその自信 根拠ない自己暗示の賜物では?)である。

先ずは、教育社会学者の福島 創太氏が昨年11月10日付け東洋経済オンラインに寄稿した「ゆとり世代の転職が絶えない「本当の理由」 「自分らしいキャリア」を社会が煽っている」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/196235
・『日本で1年間に何人が転職を経験しているかご存じだろうか。総務省統計局の「労働力調査」によると、2016年の転職者は306万人。2008年のリーマンショック以降、転職者数は減少傾向にあったが、7年ぶりに300万人を超えた』、2017年は311万人と増加したが、2007,2008年には340万人いたのに比べるとそれほど多くはない。
・『転職市場の主役はアラサー世代  年齢別に見ると、25~34歳が77万人と最も多く、転職者全体の4分の1を占める。 昨今は35歳以上の転職者が増加していると言われるが、35~44歳の就業者全体に占める転職者の割合はここ5年間で大きな変化はなく、25~34歳は約7%、35~44歳は約4%だ。 転職市場における30代前後、いわゆるゆとり世代の存在感が依然として大きいことが統計から読み取れる。さらに別の調査からは、ここ20年でアラサーの転職がより一般化している実態が見えてくる。 1997年に労働省(現・厚生労働省)が実施した「若年者就業実態調査(対象は30歳未満の労働者)」では、「初めて勤務した会社で現在勤務していない」と回答したのが28.2%だったのに対し、2013年の厚労省による「若年者雇用実態調査(対象は15~34歳の労働者)」では、対象者の約半数(47.3%)が、勤務していないと答えている。2つの調査の回答を25~29歳に限定しても、1997年調査では同34%であったのに対し、2013年調査では同45%となっている。 若年層の転職が増えている背景に、非正規雇用者の増加があるのはよく知られたことだろう。「一般的に不安定で離職や転職が多くなる非正規雇用者の増加が、見かけ上の労働市場の流動化を促している面がある」と教育社会学者の中澤渉は指摘している。ただ、非正規雇用の増加だけがその理由ではない。リクルートワークス研究所が実施している「ワーキングパーソン調査」によれば、正規雇用の若者に関しても転職者は増加している』、「非正規雇用者の増加が、見かけ上の労働市場の流動化を促している面がある」というのは、その通りだが、その他要因の寄与の度合いはどの程度なのだろう。
・『若者は我慢が苦手だから転職するのか?  転職者へのインタビューで彼らに転職理由を聞くと、彼らはよく「自分らしいキャリア」という言葉で説明する。「自分がやりたい仕事」「自分の個性が発揮できる仕事」「自分ならではの仕事」を重視する姿勢が見て取れる。そうした若者に対し年配社員たちは、「下積みの時期やトレーニングがあってこそ、大きな実績や成果を出せる」という考えの下、転職していく部下を「わがまま」で「自分勝手」と思うケースが少なくない。 今の若者が昔より転職するようになったのは、本当に「我慢が苦手だから」「移り気だから」「やりたいこと探しが好きだから」なのだろうか。より広い視野で「若者の転職」をとらえると、違う理由も見えてくる。それは「転職しようという意思が芽生えやすい社会構造に変化したから」という理由だ。 転職市場に影響を与えた社会構造の変化とは、「少子高齢化社会の到来」と「企業間競争のグローバル化」である。この2つの変化がなぜ若年転職者の増加につながるのか、説明していこう。 まず少子高齢化はそのまま、労働年齢人口の減少を意味する。国が経済成長を掲げる中で、それを担う人材が減少しているのは致命傷といえる。少ない人数でも成長を維持できるよう、1人ひとりの人材ができるだけ早い段階から戦力として育つことを社会が求めることは非常に理にかなっている。 次に、企業間競争のグローバル化は企業の経営環境を厳しくし、人材への投資余力を奪っている。これにより企業が人材を長期に雇用すること、さらには就職したあとちゃんと一人前になるまでの育成の機会を提供することが難しくなった。 そして、こうした社会構造の変化により、できるだけ早く自立し、入社した会社の支援を受けることなく、自らキャリアを作り上げていける人材が求められることとなった。 自立したキャリアを実現するべく、彼らが受けるキャリア教育や就職活動も変化していった。「自分探しを前提とした“就職活動”」と「やりたいことを聞かれ続ける“キャリア教育”」の誕生だ。 就職活動で学生が企業に提出するエントリーシート(ES)は平均で25枚前後、多い人は100枚近くに上る。ESでは「志望動機」と「自己PR」の欄が設けられているため、自分がやりたいことや強みを各社の理念や事業内容に合わせて表現する必要がある。こうした「自己分析」というプロセスは、就職活動ではもはや当たり前となっているが、自己分析が行われだしたのはここ20年くらいのことだ。 それ以前はどのように就職活動がなされていたかというと、学歴、大学歴、あるいは研究室、さらにいえば家族などの縁故を基準とした採用と選考である。企業への就職を目指す学生すべてに、求人企業すべての情報が届くわけではなく、クローズドな状況でやりとりが行われてきた。インターネットの発達などにより今では就職の門戸が開かれた代わりに、自己分析など学生への要求も高度化しているのかもしれない』、「自分探しを前提とした“就職活動”」が今や流行だが、就活時点で自分のことをどれだけ分かっているのか、さらに自分自体も変わてゆくのを考えると、いささか疑問に感じる。
・『就活に合わせキャリア教育にも変化  そして、こうした就職活動の変化と呼応する形で発展してきたのがキャリア教育である。昨今、小学校に至るまでキャリア教育の弱年齢化が著しい。端緒は1998年の中学校学習指導要領の改訂で、職場見学や職場体験が学校行事として導入され始めた。1999年の中央教育審議会の答申には文部省(当時)関連の政策文書に初めて「キャリア教育」という用語が使用された。 そして、ゆとり教育において「総合的な学習の時間」が導入されたのに伴い、キャリア教育はどんどん広がっていった。さらに2011年の文部科学省の中央教育審議会の答申で、キャリア教育を通して身に付けさせるべき能力として「キャリアプランニング力」(自分のキャリアを自ら形成する力)が掲げられた。 20~30代前半のビジネスマンは程度の差こそあれこうしたキャリア教育と就職活動を乗り越えてきた。彼らにとってキャリアとは「やりたいこと」や「自分らしさ」を土台にして描くものなのだ。そして、彼らが社会によって誘導された「自分らしいキャリア」を求めた結果、転職者が増えているのが実情なのだ』、転職者が増えることはやむを得ないとしても、いつまでも「自分探し」に追われ、腰を落ち着けられない若者が増えることは問題もあるようだ。

次に、5月8日付け東洋経済オンライン「JR東労組「3万人脱退」で問われる労組の意義 JR労組の脱退問題続報、「無所属」が大量発生」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/219323
・『JR東日本(東日本旅客鉄道)の最大労働組合「東日本旅客鉄道労働組合」(以下、東労組)からの組合員の大量脱退が止まらない。4月末では3万人を超えたようだ。 会社側によれば、4月1日までの脱退者数は約2万8700人だった。その後の1カ月間で脱退の動きは落ち着きつつあるものの、2月1日時点で組合員が約4万6800人もいたことを考えると、依然として異常事態が続いている。同時に、約3万人の組合脱退者は今後、どういう選択をするのか、あらためて労組のあり方が問われている』、約4万6800人もいた組合員が、約3万人も脱退するとは、東労組は一体、どうなっているのだろう。
・『春闘の戦術行使に「お詫びと反省」  大量脱退のきっかけとなったのは、今年2月19日の東労組によるスト権行使の予告だった。その後、ストは回避され、春闘も妥結したが、脱退者は増え続けた。突然のスト権行使予告に対し、政府が「東労組には革マル派(日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派)が浸透している」との答弁書を出したことも大きく影響した。 東労組は4月6日に臨時中央執行委員会を開催し、中央執行委員長らの執行権停止などを決議、新体制へ向けて動きだした。12ある地方本部のうち東京、八王子、水戸の3つの地方本部から反発の動きがあったが、12日には「職場の声を尊重し(中略)新たなJR東労組を創りあげよう」をスローガンに第35回臨時大会を開催した。 前回、4月10日に東洋経済オンラインが報じたのはここまでの経緯だ(JR東労組、組合員2.8万人「大量脱退」の衝撃)。そして12日に開かれた臨時大会では、3月6日に東京・八王子・水戸の3地方本部が各労働委員会に申し立てていた会社側の不当労働行為(組合脱退強要)の告発を゛いったん”取り下げること、春闘で大量脱退を招いた闘争本部(執行部)の14名を対象に「制裁審査委員会」を設置することなどが決められた。大会後、東労組のホームページには春闘の戦術行使についてのお詫びと反省が載せられ、同時に「脱退を余儀なくされた皆さん、JR東労組への再結集を強く呼び掛けます」とした。 東労組の新体制は、6月に予定されている定期大会で確立される見通しだが、東労組関係者によれば「もともと予定していた会場での開催は難しい状況だ。組合員の大量脱退が影響し、開催費用などを見直し、会場も変更して実施することになりそうだ」という』、政府にここぞとばかりに東労組叩きをさせるスキを与えた執行部の責任は重大だ。東労組が執行部を入れ替え、お詫びと反省をしても、脱退者は戻るのだろうか。
・『一方、会社側は、4月末に期限が迫っていた36協定(労働基準法36条に基づく、時間外・休日労働に関する協定)の締結に追われた。 会社は従業員を法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働させる場合や、休日出勤をさせる場合には、あらかじめ労組と36協定を結び、労働基準監督署に届け出なければならない。JR東日本では36協定の失効が4月末に迫っていた。つまり、新たな協定を結ばなければ、多くの従業員の休日出勤などが不可能になり、鉄道運行に支障を来す可能性があった。 JR東日本には、従業員数名から数百名まで大小約650もの事業所があるが、36協定は各事業所ごとにその代表者と締結する。これまでは、ほとんどの事業所で過半数を占めていた東労組が代表者となっていた。だが、組合員の大量脱退で過半数に満たない事業所が大半を占めることになった』、36協定は確かに悩ましい問題だろう。
・『「社友会」を通じて36協定締結  過半数の労組がない事業所では、投票によって代表者を決めなければいけない。東労組関係者によると、会社側は脱退者の受け皿として「社友会」という親睦団体を設立、脱退者が多い事業所では社友会が過半数の代表者になり締結を進めてきたという。ただ、会社側は「社友会は本社・支社など事業所ごとに自然発生的にできたもの」と関与は否定している。 結果的に4月25日、すべての事業所で36協定は締結された。会社側にしてみれば滑り込みセーフ、逆に副産物もあった。東労組が圧倒的多数だったここ数年は、36協定を3カ月ごと、あるいは半年ごとに締結してきた。東労組からすれば、それが会社側との話し合いの契機でもあった。しかし「今回はすべて期間は1年になった」(会社側)。東労組による「36闘争」で現場が振り回されるようなことはなくなったわけだ。 今後の焦点は、東労組を脱退した3万人の動きだ。脱退者の間では「これで高い組合費を払わなくて済む」「勉強会やデモなどに振り回されなくなったので、よかった」という声が大勢を占める。が、一方で「今後は何か問題が起こったら誰が守ってくれるのか、今のままでいいのか」と心配する声もある。 社友会はあくまで親睦団体で労組ではない。しかも、脱退者のうち社友会に参加した社員は半分にも満たない。「ほんの一握り」(会社側)という。つまり1万5000人を上回る社員は、いわば「無所属」の状態だ。 今後、社友会が新しい労組を設立するのではないか、という憶測も流れているが、その動きはなさそうだ。 組合員が減ったとはいえ依然JR東日本の最大労組である東労組は再結集を呼びかけ、新体制の下で巻き返しを図る動きだ。新体制では「労使共同宣言」を再締結する方向ともいわれる。 また、JR東海とJR西日本の最大労組が所属するJR連合系のジェイアール・イーストユニオン、東日本ユニオン、国労東日本など、ほかの労組(JR東日本には大小合わせると8労組ある)も組合員獲得を狙っている』、「JR東日本には大小合わせると8労組ある」というのには驚かされた。
・『「無所属」が心地良い?  しかし、東労組を脱退した約3万人の従業員は、当面現状のまま、どの労組にも属さないという選択をする可能性が大きい。 厚生労働省の労働組合基礎調査によれば、労組の組織率は年々下がり続け、2017年調査では17.1%(推定組織率)と2割もないというのが現状(1949年は55.8%)。 「労組がないほうが施策を進めるにもスムーズ」という労組不要論も含め、労組に対する考え方が時代とともに変わってきたことは否めない。 だが、大企業になればなるほど、現場で起こっているさまざまな問題を、会社側がすべて把握することは難しくなる。労組から指摘され改善されることも多い。さらに、就労条件・環境の改悪が行われた場合、会社側と団体交渉できるのは労組だけだ。 来年の春闘も各労組と会社側は個別交渉するが、現状のままなら、従業員の過半がどの労組にも属さない中で、労組の影響力低下は必至。そこで、従業員の主張や要求がどこまで認められるのか、注目されるところだ。 今後、東労組を脱退した約3万人は、どういう選択をしていくのか。労組のあり方があらためて問われるきっかけとなりそうだ』、東労組のみならず労働組合全般が抱える課題のようだ。さしあたり、東労組の今後が注目される。

第三に、健康社会学者の河合 薫氏が11月20日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「関連会社渡り歩いた「リストラ請負人」の末路 「自分は大丈夫」とのその自信、根拠ない自己暗示の賜物では?」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/111600191/?P=1
・『空前の人手不足といわれるなか、50代以上のバブル世代に「リストラの嵐」が吹き荒れている。 東芝はグループで7000人削減、富士通はグループで5000人を配置転換、NECは3000人削減、三菱UFJフィナンシャル・グループは9500人分、三井住友フィナンシャルグループは4000人分、みずほフィナンシャルグループは1万9000人分の「業務量」削減……etc、etc. それぞれ「完遂」までの期間は違うし、人員削減、業務量の削減、配置転換と用いる用語も異なる。が、そこには、「50歳以上はいらない。君たちが我が社の成長の足枷になっているんだ!」というメッセージが色濃く漂う。リストラの柱が早期退職や配置転換である以上、そのターゲットがバブル世代であることは容易に想像できる』、年功賃金のカーブは緩やかになったとはいえ、依然存在しているなかでは、あり得る話だ。
・『「彼らは自分の立場をわかっていない」  ところが、メディアの扱いは実に冷ややか。数年前なら大ニュースだった大企業のリストラ劇が、ストレートニュースレベルで扱われ、不安にあえぐベテラン社員たちを憂う報道も激減した。 番組を作っているのが30代の若い社員であることが原因なのか? はたまた、50代の多くが、「自分は別」と高を括っているのか? 「50代以上は仕事へのモチベーションが低い。若い社員に嫉妬して足を引っ張ったり、定時になると残りの仕事をまわりに押し付け、さっさと帰る人もいます。安心だけを求める人は、もう、いらないんです。そのことを理解できない人が多すぎます。何やかんや言っても、『このまま乗り切れる』と思ってるんでしょう」 こう話すのは、某大企業の人事部の男性である。彼は何度も、「彼らは自分の立場をわかっていない」と繰り返した。 ……ふむ、なんとも。グサッと刺さる言葉だ。 これまで何度も書いてきたとおり、私は「50歳を過ぎた社員をどうやって『会社の戦力』にするかで、会社の寿命が決まる」と考えている。「使えるものを使わないことには、会社がつぶれちゃいますよ!」と本気で思っているし、その確信は以前にも増して強まっている。 2年後には大人(20歳以上)の「10人に8人」が40代以上、50代以上に絞っても「10人に6人」で、どこの職場も見渡す限りオッさんとオバさんだらけになる。おじさん、おばさんがこんなにいるのに、人手不足ってどういうこと? と脳内の猿たちはかなり混乱しているのである』、確かに着実に進む高齢化を逆手に取るかがカギというのは、その通りだ。
・『「不安を全く感じていない」50代社員の不思議  実際、私が知る限り、成長している企業では「50歳以上=お荷物」じゃない。 特にこの1年間で、50歳以上を「貴重な戦力」と捉え、彼らのモチベーションを高める知恵を絞る企業は確実に増えた。「役職定年になったら終わり」ではなく、本人のやる気さえあれば、新たな部署に異動させている会社もあった。 そういった企業では例外なく非正規が少ない。非正規と正社員の賃金格差、待遇格差も小さい。女性のパートさんが多い企業もあったが、「モチベーション向上のために、働きに応じて賃金がちゃんと上がる制度になっています」「長く働いてもらいたいので昇進制度を作りました」といった具合に、そこで働く人たちのモチベーションを沈滞させないよう工夫する。 それだけに昨今のリストラの嵐は、実に残念。ホントに残念である。大規模なリストラを発表した企業のトップたちは、「構造改革」「人員の適正化」という言葉を多用するけど、これってベテラン社員を生かす術を試みた末のリストラなのだろうか。 「何言ってんだよ! どんだけ50歳以上の給料が高いかわかって言ってるのか!?」とお叱りを受けそうだが、つまり、「鶏と卵」じゃないか、と。 結局のところ、「50歳になったらお払い箱」を前提にした経営をしてきた結果なのでは? という疑念が尽きないのである。申し訳ないけど。 が、その一方で、「自分の立場をわかっていない」というグサッとくる言葉を、完全には否定できない自分もいる。 つまり、鶏だか卵なのかわからないけど、あるときから学ぶことをやめ、新しいことにチャレンジするのをあきらめ、思考を停止させ、「会社員」という身分に安住している人たちが、確実に存在することを、最近やたらと痛感させられているのである。 前々回の記事(「増える月曜朝の中高年の縊死と就職氷河期の果て」 )で、50歳以上の会社員を「漠然とした不安を抱いている人たち」と書いた。 彼らは「自分の立場をわかっている」からこそ、「このままでいいのか? いいわけない。どうにかしなきゃ」と苦悩し、それでもまるで金縛りにでもあったように身動きができず、不安に押しつぶされる。 しかしながら、同じ50代会社員の中には「不安を全く感じていない人たち」もいる。彼らをうまく表現するのは非常に難しいのだが……、「ぬるい」、とでも言いますか。今は毎月お金をもらえているかもしれないけど、ある日突然「一円も稼げない自分」に直面し、苦労するのではないか、と。 仕事柄いろいろな方と接する機会があるが、「時代も変わっちゃったし、人生も長く延びちゃってるのに、ホントに今のままで大丈夫ですか?」と問いたくなるような人たちが、決して少なくないのである。 というわけで前置きが長くなった。今回は「変わる勇気」について、あれこれ考えてみよう思う』、興味深そうだ。
・『「自分は切る側の人間なんだ」という、変な優越感  もう10年ほど前になるが、50人の部下をリストラし、最後に人事部から渡された「リストラリスト」に自分の名前が載っていたという、いたたまれない話をしてくれた男性がいた。しかも、その方の結末は実にシュール。退職後、自分をまるで鉄砲玉のように使った会社に一言文句でも言ってやろうと株主総会へ乗り込んだところ、「当時の人事部長が警備保障会社の制服姿で立っていた」というものだった。 このときの男性以来、「リストラする側」だったことを告白してくれた人はいなかった。ところが先日、件の男性に匹敵、いや、もしかしたらそれ以上にひどい経験をした方から話を聞くことができた。そこで、まずは某大企業の部長さんだったその男性の話から紹介する。 「私はずっとどこかで『自分だけは大丈夫』と、過信していました。肩たたきされた同期を、蔑んでいたんです。安心や安定を求め、現状に満足してるから、ダメなんだよって。 でも、自分を救ってくれた人に出会えてやっと気づきました。現状に満足していたのは、自分でした。 実は……、私、55歳のときに関連会社に行かされることになったんです。一応、役員待遇です。前任者は最後はそこの社長になっていたので、自分もそうなると、勝手に信じ込んでいました」 ところが、現実は予想もしないものだった。 「私に与えられた仕事は、リストラです。コスト削減のために、何人もの社員をリストラさせられたんです。 それだけではありません。 予定していた人数のリストラが終わると、また、別の関連会社に行かされて、そこでも同じようにリストラをさせられました。人事部が差し出す名簿にしたがって、一緒に働いたこともない社員を切っていくんです。そして、それが終わると、また次の会社に行かされて。結局、3つの会社でリストラをしました。 部下の肩たたきは元の会社でもやっていましたが、さすがに自分のやっていることが嫌になってきましてね。みんな自分と年齢が変わらない人たちで、会社に定年までいることを前提に生きてきた人たちです。やっぱりね、気持ちのいいものではないですよ。 嫌がらせの電話が自宅にかかってきたこともありましたし、駅のホームでは線路側は歩かないようにしていました。精神的にものすごく疲弊しました。 でも、そんな気持ちとは裏腹に『自分は切る側の人間なんだ』という、変な優越感みたいなものがあった。散々手を尽くした末の人員削減なんだと。リストラは会社の問題ではなく、切られる側に問題があるという考えをずっと持っていましたから、余計そう思うようになったのでしょう。 それに……自分は経営側の人間なんだと思うと、自尊心が満たされるんです」』、「3つの会社でリストラをしました」とはご苦労なことだ。少なくとも2番目や3番目の会社では、それまでの悪評がいき渡っているので、白い目でみられ、居心地はさぞか悪かったろう。
・『「普通に考えれば、最後は私が切られますよね」  彼はこう続けた。「そんなある日、若い時にお世話になった会社の社長さんから、突然電話がかかってきましてね。『アンタ、何やってるんだ。そんなことやってないで、ウチに来い!』って言われて。最初は何を言われてるのかさっぱりわからなかった。そしたら、『アンタの会社ほど給料は出せないけど、さっさとやめて来い』と、また言われて。それでやっと目が覚めた。 普通に考えれば、最後は私が切られますよね。そんなこともわからなくなっていたんです。自分が見えてなかったんですよ。結局、1つの組織に長年いると、過去を生きるようになっていくんです。 私たちの世代は組織に残るのが当たり前でしたから、私は、その当たり前を手に入れた、選ばれた人材なんだと勘違いしていたんです。 でも、今思うと、私は必死でそう思い込もうと自己暗示をかけていただけなのかもしれません」 60歳を過ぎたこの男性は、現在も「恩人の社長さん」の会社の一社員として働いている。給料は以前の半額以下。「全く不満がないと言えば嘘になる、でも、ここには未来がある」と。 つまり、彼は“自己暗示”から開放され、「変わる勇気を持つ」ことに成功したのである。 しかし前職時代の彼は、間違った「つじつま合わせ」により「不安」を消した。会社に命じられたことをきっちりやれば、また道が開ける。そう妄信していたのだ。 肩たたきされる同僚と、されない自分。関連会社の社長で会社員生活を終える前任者と、それに続く自分。人は「これだ!」といったん確信を持つと、その確信を支持する情報だけを探し、受け入れ、確信に反する情報を無意識に排除する生き物だが、男性はまさにそれだった。 不安を感じていない人、いや、不安を消す自己暗示に長けた人たちは、独特の万能感を醸し出す。 いったい、この人たちの万能感はどこからくるのだろう? と不思議なくらい、自己肯定感が強く、彼らは決まって「自己責任」という言葉を多用する。彼らは自分が「影響力を持つ」ことに固執し、変化する現実に目を向けないから、なかなか適応できない。組織内の競争に勝ち、収入や役職、裁量の権限や人事権などの「自分と彼ら」を区別する“外的な力”を手に入れたことで、いつしか外的な力だけを偏重するようになり、適応力の礎となる“内的な力”を高めることがおろそかになってしまうのだ。 内的な力とは、誠実さや勇気、謙虚さや忍耐といった人格の土台だ。 謙虚さがあれば、自分を知ることができる。だからこそ、不安になり、「変わらなきゃ」「どうにかしなきゃ」と抗い、苦悩する。 とどのつまり、人から「不安」という感情が消えたとき、「変わる」必然性を認知できず劣化する。やがて「価値なき人材」と評され、挙げ句の果て「自分の立場をわかっていない」と揶揄されてしまうのだ』、心理学的な分析はさすがだ。
・『では、変わるにはどうすればいいのか  個人的な話で申し訳ないが、組織の外でフリーとして生きていると、「安心」というものは一生手に入れることができない尊いものであると痛感する。 常に不安と背中合わせの状況では、「今」を生きるしかない。どんなに仕事が増えても、どんなに稼ぐことができても、明日突然「仕事がなくなる」リスクは、いくつになっても、どれだけキャリアを重ねてもつきまとう。 組織外の人間に、指定席はない。それが用意されているのは、一部の天才だけ。普通の能力しかない自分は、今日、絶好調でたくさん稼げても、翌日、突然稼ぎがなくなるという痛い目に、何度も遭った。 そんな失敗を繰り返しているうちに、お金という有形の資産(外的な力)を得るには、その金を得るだけの無形の資産(内的な力)への投資が必要になることを必然的に学ぶ。つまり、今の仕事を続けるには、常に「今の自分」をアップデートすることが必要不可欠であり、ちょっと立ち止まる、ぶつかる、変わることを恐れないことが、不安への最良の対処だと学んでいくのだ。 時代が変わり、会社という組織のあり方も変わった今、「現在の地位」の賞味期限はすぐに切れる。なのに、人生は長くなる一方だ。 良く言えば安定、悪く言えば変化に乏しい会社という組織にいるだけでは、自分はなかなか見えづらい。地域を含めた社会の中で、様々な人と接する中で自分を知ることが、変わることへの第一歩だと思う。 不安の反対は安心ではない。動くこと。 その動く勇気を「会社員」の方たちにも持ってほしいと心から願います。なんだか上から目線のようで申し訳ないけど、こうやって書くことで、自分を戒めているのです……』、「良く言えば安定、悪く言えば変化に乏しい会社という組織にいるだけでは、自分はなかなか見えづらい。地域を含めた社会の中で、様々な人と接する中で自分を知ることが、変わることへの第一歩だと思う」というのは、説得力があって、その通りなのだろう。心したいことだ。
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ロボット(その1)(東日本大震災で なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか、欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由、ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須、AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日) [科学技術]

今日は、ロボット(その1)(東日本大震災で なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか、欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由、ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須、AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日)を取上げよう。

先ずは、日本ロボット学会理事、和歌山大学システム工学部システム工学科教授の中嶋秀朗氏が2月13日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「東日本大震災で、なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/159405
・『ルンバやドローン、そしてpepper、再発売されたaibo。これらはすべてロボットです。AIの発達とともに、現在、注目されているロボティクス。工業分野だけでなく、サービスや介護、エンターテインメント、そして家庭でも、AIを搭載したロボットが登場しており、これらを使いこなし、そして新しいビジネスに結び付けることが期待されています。今回は、ロボティクスの専門家である著者が、わかりやすく書いた新刊『ロボットーそれは人類の敵か、味方か』の中から、エッセンスを抜粋して紹介します』、確かにロボットの応用は急速に広がっている。
・『東日本大震災で注目されたロボット  私が「ロボットを作っている」という話をすると、ヒューマノイドを作っていると勘違いされるケースが多々あります。私の専門は「移動ロボット」で、現在は階段を含めたあらゆる段差に対応するロボットを開発、研究しています。 それは、脚で歩くような機能も持つ車輪型ロボット、人が乗れるロボット車両なのですが、この一人乗り車両(PMV:Personal Mobility Vehicle)は、簡単に言えば「ロボット車椅子」であり、「人の移動手段」という一つの目的に絞った「単機能ロボット」です。 現在は、このような「単機能」という方向にもロボットの開発目的が広がっており、さらに、もう一つ大きな特徴をあげるとすると、それは「タフ」であること。 これらは特に2011年3月に起きた東日本大震災の反省から生まれたキーワードです。 複雑すぎて使えない、環境に依存する、すぐに動かなくなるといった、今までのロボットの弱点を克服するために、目的を明確化した「単機能」で、「タフ」なロボットが注目を浴びるようになってきたのです』、ロボットに求められるようになった「タフ」さを、みていこう。。
・『大震災で活躍したのはあの「ルンバ」の会社だった  2011年3月、東日本大震災が発生しました。当時私は千葉工業大学に勤務しており、仙台の実家へ連絡をしようとしましたがなかなか電話がつながらず、不安な気持ちでいたところに、福島第一原発の一報が入りました。 そして、その解決のために、ロボットに白羽の矢が立ったのです。しかし、そこで最初に原発に投入されたのは、残念ながら日本製のものではなく、アメリカ製のロボットでした。 最初に投入されたのは、上空からの目視調査のためのロボットである「T―Hawk」(Honeywell社)と、内部の状況確認、放射線測定を目的とした「Packbot」(iRobot社)です。その2ヵ月後には障害物除去のために「Warrior」(iRobot社)が用いられました。 iRobot社というと聞いたことがある人も多いかもしれません。そう、「ルンバ」の会社です。 iRobot社は、今は家電ロボットが中心事業ですが、実は軍事用ロボットも開発していたのです。 「Packbot」は、実際に戦地で使われていたもので、非常に頑強にできています。例えば誰か潜んでいそうな家や洞窟などに、外側から兵士が「Packbot」を思い切り投げ込みます。 それから、遠隔操作でその中を偵察させるのです。高いところから落ちても、水に濡れても、投げても壊れない。過酷な状況で使うことを前提に作られたロボットですから、原発にすぐに投入することができました。 実は、日本ではそもそも、大学などが軍事用のロボットを研究することができません。日本の各大学は、「日本学術会議」から出される方針に従っており、そこでは、ロボットの軍事研究をしないことが方針としてうたわれているからです。そのため、。戦場で使うという想定がありません。ですから、実戦を見据えた「タフさ」が、日本のロボットにはなかったのです』、原発事故の当初には日本製が使い物にならなかった理由が、ようやく理解できた。
・『無線LANが使えない場所ではロボットが使えなかった  原発事故の時に話題となったのが、無線LANが使えない、ということでした。日本のようにネットワーク環境がいいところで動かしているロボットは、無線LANなどのネットワーク環境を使うことが前提となっており、広範囲にわたる場所で有線のケーブルをつけたままからまずに使用できるようにすることが考えられていなかったのです。 原発事故の時には、無線LAN環境が失われる、原子炉の中まで電波が届かない、放射能が邪魔をするなど、日本のロボットを動かす環境は完全に失われていました。 そして地震発生から約3ヵ月後の2011年6月に、千葉工業大学のロボット「Quince」が投入されました。投入までの約3ヵ月間は、放射能がある中で壊れないようにする、あるいは、巻き取り器を持った長い有線ケーブルの追加など、対環境性能を向上させることに使われていたのです。ただ、この「Quince」が、他のロボットが上れなかった2階にも上ることができたのは、一つの成果でした。 このような経験から、現在のロボットが目指す方向性の一つが、確実に動く「タフさ」になったのです。現在、災害時にも使えるロボットを開発するために「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」で行われているプロジェクトが「タフ・ロボティクス・チャレンジ」です。2014年から5年間、35億円相当の予算を取って、東北大学の田所諭教授が中心となって行っています。 また、ヒューマノイド活用の可能性も再び議論されることとなりました。原発に限らず、あらゆる施設は人間が働くことを前提に作られています。そういった意味で、ヒューマノイドであれば人間と同じように働けるのではないかと考えられるからです』、原発事故現場で投入されているロボットは、ニュースなどで見る限り現在でも苦戦しているようだ。

次に、早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏が6月1日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/171391
・『働き方改革の「生産性向上」で注目浴びるロボット産業のいま  働き方改革法が衆院で可決した。安倍政権は働き方改革の柱として、生産性向上を重要な政策として位置づけている。AIやロボットへの設備投資により、これまで人的作業だったものを自動化することで、労働時間の削減や高齢化による人材不足を解決するのが狙いだ。 自動化における鍵となるのが、製造業における産業ロボットの導入だ。世界的な人手不足を背景に産業用ロボットの需要は拡大の一途をたどっており、富士経済は協働型ロボットの世界市場が2025年には2016年の8.7倍、2700億円になると予測している。 スイスの重工大手ABBと有力紙『エコノミスト』が今年4月に発表した「Automation Readiness Index」(自動化準備指数:筆者訳)によると、AIやロボット導入による自動化で最も準備が整っている国は、1位が韓国で2位がドイツ、3位がシンガポール、日本は4位に留まっている。 今後、ますます増えるであろうロボットとの協働・自動化の波で、日本は対応を強いられることになる。 産業用ロボットは、すでに様々な生産現場に溢れている。かつては人手によって溶接加工されていた自動車の生産などは、ほとんどのメーカーの工場で溶接ロボットに置き換わっている』、「自動化で最も準備が整っている国」のランキングで日本がやや低目に評価されたのは何故だろう、気になる。
・『では、エンタテインメントロボットはどうか。AIBOは最近出荷台数が1万台を超えたそうだ。ソフトバンクのPepperは、小売店の店頭やショールームなどでよく見かけるようになった。ロボットが接客するホテルも話題になった。 だが、こうしたエンタテインメントロボットはまだまだ身近になったとは言えない。特にグローバルな視点で見ると、こうしたエンタテインメントロボットがもてはやされるのはほとんど日本だけのようである』、なるほど。
・『「AIBO」や「Pepper」が海外で評価されないのは「ドラえもん型」だから?  産業用ロボットでは日本の安川電機が市場シェア1位、次いでスイスのABB社が2位と日欧のメーカーがトップを走っているが、ソニーのAIBOやホンダのASIMO、ソフトバンクのPepperのようなエンタテインメントロボットは、先に述べたように日本市場が中心であり、供給企業もほとんどが日本企業だ。なぜ、エンタテイメントロボットブームは日本以外では起こらないのだろうか。 どうやらロボットを愛らしいもの、可愛がる対象として見るということ自体が、欧米の人にとってはやや異質のようである。 ハーバードビジネススクールのビジネスケース教材に過去のソニーのAIBOの事例があるのだが、そこでAIBOは失敗事例として描かれ、なぜロボットを愛玩動物に見立てるのかと疑問を呈している。いまだに古いAIBOの修理ビジネスが成り立っていたり、壊れたAIBOのお葬式まで出してしまったりする日本の状況とは、大きく異なる。 この違いは、日本と欧米とのロボットに対する感覚の違いによるものかもしれない。日本では古くから『鉄腕アトム』や『ドラえもん』に代表されるように、ロボットは独立した個性であり、ある種人間と対等な存在として、人間の相棒や友達になっている。 一方欧米では、『ロボコップ』や『アイ,ロボット』などの映画で描かれているように、ロボットは人間に服従させるべき対象であり、時に人間に反抗する危険性をはらみ、人間とは対等ではない、というロボット観が一般的である。そもそもロボットに、相棒や友達としての役割を求めていないのだ。 SF作家のアイザック・アシモフが映画『アイ,ロボット』の原作でもある小説の中で示したロボット三原則も、人間の安全確保と人間の命令への服従が規定されている。ドラえもんやアトムの世界観とは相容れない、日本的でないロボットの在り方である。 むしろ産業用ロボットでは、アシモフ的なロボットと人間の関係を具現化していると言えよう。生産の現場において、産業用ロボットは人間の安全性が何よりも優先され、人間の命令に絶対服従をしていて予想外の反応をすることはない。同じロボットという名前がついていても、エンタテインメントロボットとは大きく異なるポイントだ。 エンタテインメントロボットに人間が驚いたり感動したりするのは、ロボットが自律的に判断し、人間の予想外の反応をしてくれるときである』、ロボットと人間の関係は、欧米と日本では確かに大きく異なっているようだ。
・『産業用ロボットも今や単なる「ロボコップ型」ではダメ  しかし最新の産業用ロボットは、従来のように、ただ命令に服従するだけのロボットではなくなってきたようだ。スイスに本社を置くABBは、発電所設備や産業用ロボット、最近では、電気自動車の充電設備などの開発製造を手がける大手産業用機器メーカーである。ABBは、世界初の商業用ロボットを発売した産業用ロボットの草分け的企業であるが、同社は協働型双腕ロボットという新しい産業用ロボットを開発している。 人間と同じ2本の腕を持つこのロボットは、人間の手作業との協働を前提に設計されている。単純な反復作業であればロボットだけで行えばいいが、臨機応変な対応、人間の認知能力や洞察力が求められる場合には、人間の手を借り、協働するというものだ。 双腕協働型ロボットが人間に似ているのは、2本の腕だけではない。作業現場の状況を自ら臨機応変に判断する高度なAIが搭載されている。機械だけが存在する現場では、単に正確に素早く作業をこなすだけでいいが、同じ現場に人間の手が入るということは、その人間の身体の安全を確保しなければならないということである。 人間の手の動きは必ずしも規則的ではないから、ロボットの方が人間の動きに合わせて、危険がないように動く必要がある。協働型ロボットにAI技術が求められる所以だ。 産業用ロボットもただ命令に従うのではなく、自律して臨機応変に判断をする能力を持つということは、ロボットを人間の相棒、仲間として認識するというロボット観の大きな転機になるのかもしれない。その意味で、産業用ロボットも欧米的ロボット観から、日本的ロボット観にシフトしてきていると言えるかもしれない。 先述のABBは、同じ協働型ロボットを推進している川崎重工業と昨秋、協働型ロボット分野における協業を発表しているが、これも欧米的ロボット観と日本的ロボット観の新たな出合いなのかもしれない』、「新たな出合い」でどんなものが生み出されるのか、楽しみだ。

第三に、6月25日付け東洋経済オンライン「ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/226498
・『ロボットアームが空揚げや梅干しといった具材を器用につまみ上げ、弁当のトレーに正確に盛り付けていく――。6月中旬に東京ビッグサイトで開催された食品機械展示会で注目を集めたのが、このロボットによる盛り付けデモだ。 今、弁当や総菜などの食品製造業で人手不足が深刻だ。主戦力であるパート職員が足りず、厚生労働省によれば、業界の欠員率は製造業全体の倍以上。加えて食品工場の7割は中小企業が占める。展示会のブースでロボットの営業にあたっていたソフトウエア会社関係者は、「地方の中小企業からの引き合いが非常に強い。各社とも東京では想像がつかないほど、人手不足が深刻な様子」と語る。 こうした中小企業の大半は小規模ラインで日々さまざまな品目を生産するため、既存の「寿司マシン」のような専用機だけでは心もとない。そこで人手に代わる存在として期待されるのが、多様な動作を柔軟に設定できる産業用ロボットだ』、中小食品業のような多品種少量生産に応用できれば、確かに画期的だろう。
・『食品工場でロボット導入が進まない  幅広い業界で自動化需要が高まり、ロボットの国内出荷台数は近年右肩上がりだ。2017年は約4万9000台となり、この10年で最多を記録。だが食品業界向けは全体のわずか1.6%で、ここ数年は伸び悩む。人手不足の解消は喫緊の課題なのに、なぜ導入が進まないのか。 要因の一つには、そもそも食品製造がロボットより人間の得意な領域ということがある。中小食品工場となると生産品目は多岐にわたり、入れ替わりも激しい。人間なら「まずは漬物の梱包、次に弁当の盛り付け。明日からはケーキを作る」と指示すればよい。 これをロボットに任せようとすると、短期間であらゆる品目に合わせてプログラミングや生産ラインの設計変更などを繰り返さなければならない。さらに、物体を認識したりモノをつかんだりする技術は、形状がバラバラで、滑りやすかったり軟らかかったりする食品を扱うには不十分だ。 北海道で中小総菜工場を営むコスモジャパンでは、焼き鳥の具材である鶏肉やネギを串刺しにする手前で整列させる工程にロボットを導入した。しかし、試行段階では具材の形状にばらつきがあり、画像認識が難しかった。そこで、前工程で具材を均一な形状にそろえるよう心がけた結果、ようやく導入に至ったという。 しかし、このようにうまくいくケースばかりではなく、思うように活用できず「生産性が導入前を下回ることもある」(経済産業省ロボット政策室の小林寛係長)。実際、展示会で従来つかみにくいとされてきた肉片をピッキングするロボットを見つけ、記者がカメラのシャッターを切ろうとすると、ロボットハンドから肉片の模型が床に滑り落ちてしまうこともあった。 さらに、食品工場側のノウハウ不足も要因だ。安川電機・髙宮浩一営業本部長は、「(産業用ロボットを使いこなす)自動車会社は購入したロボットを工場のシステムに組み込む技術部隊を持つ」と話す。一方、中小食品工場にはそうした要員がおらず、自力のプログラミングは至難の業。先述したコスモジャパンの小林惣代表は「大企業ならロボットを容易に設置できても、中小には難しい」と嘆く』、確かに弁当のように、狭いな狭いスペースに様々な食材を芸術的に入れていく作業をロボットにさせるのは、素人が考えても難しそうだ。
・『ロボット導入の“指南役”育成が急務  そんな食品業界の突破口として関係者の多くが挙げるのが、「ロボットシステムインテグレーター(SIer)」と呼ばれる企業の存在だ。SIerは“ロボット初心者”の代わりに、工場のラインに最適な自動化機器を選別・統合する役割を担う。 だが現状はロボットSIerが足りず、食品工場の特殊性を理解する事業者はさらに少ない。食品製造業の自動化を手掛けるあるSIerによると「知識のない食品工場の多くは、ロボット導入というと工程の全自動化(無人化)をイメージしてしまう」という。しかし、現状の技術では自動化できない工程が存在する。見かねた経産省は、SIerの業界団体設立に向け動きだした。食品などの未開拓領域に関する情報共有のほか、関連業種からの新規参入も促したい考えだ。 さまざまなロボットを備えるSIer育成施設も増えつつある。栃木県で「スマラボ」という施設を運営するFAプロダクツの天野眞也会長は、「メーカー側からも需要があり、いずれは全国展開したい」と話す。 最も強い危機感を抱くのは、食品業界とかかわりの深い農林水産省だ。食品製造課の横島直彦課長は、「日本全体が一層の人口減少を控え、移民政策の急進展は期待できない。現時点で多少生産性が落ちるからと自動化をためらえば、近い将来にそもそも何も作れなくなる」と言う。横島氏は、戦後初となる経産省からの出向課長。農水・経産両省のロボット関連の取り組みをつなげ、脱縦割りで政策の加速を狙う。 ロボットメーカー側は新規分野として食品業界に注目してきたが、売れ行きは鈍かった。食品工場は生き残れるか。SIer育成の本気度が問われている』、役所が旗を振っても、食品工場の特殊性を理解するSIerの育成が簡単には進まないのは、やはりロボットに任せるには、コスト的、技術的な難問があるからなのかも知れない。

第四に、ジャーナリストで浄土宗僧侶の鵜飼 秀徳氏が11月26日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/061100222/110900014/?P=1
・『それは今まで見たことのない、奇妙なペット葬だった。100匹以上の動かなくなった「犬」が本堂に設けられた祭壇にずらりと祀られている。住職の読経が始まると、喪服を着た参列者が神妙な表情で焼香をしていく。 千葉県いすみ市の日蓮宗光福寺で執り行われたのは、「AIBO(アイボ)」の葬式だ。AIBOとはソニーが生んだ犬型のロボットである。AIBOの葬式は2015年から始まり、私が訪れた2018年4月26日で6回目を数えた。ペット葬もここに極まれり、という印象である。 2年前、初めての葬式の時に弔われたAIBOは17台だけだった。だが、回数を重ねる度に供養されるAIBOの数は増えていった。2017年6月の5回目の葬式では100台を超え、今回は114台に「引導」が渡された。袈裟を着た2体のAIBOが「南無妙法蓮華経」と、お題目を唱えるパフォーマンスも行われた。 しかし、生命体ではないロボットにたいして、葬式をあげるとはどういうことか。話は初代AIBOが誕生した20年ほど前に遡る。 AIBOが国内で初めて販売されたのは1999年6月のことだ。定価25万円と高額であったが、発売わずか20分で国内受注分3000台が売り切れる盛況ぶりであった。AIBOは「ウォークマン」以来の、実にソニーらしい独創性あふれる商品として話題になった。 AIBOは頭部にカメラを内蔵した未来的なデザインが特徴で、あえてメカニカルな感じを出したところに斬新さがあった。見た目は「犬版ターミネーター」のよう。実際の犬に比べ、動きはぎこちないし、俊敏さもない。しかし、尻尾を振り、愛くるしくつきまとう姿は、瞬く間に「飼い主」の心を掴んだ。 AIBOはプログラミングによって「学習」して「成長」する。飼い主は本物の子犬を育てているような感覚にさえなった。 一般消費者向けのロボットが人間のパートナーになる時代————。ロボット史上、極めて大きなエポックとも言えるのがこのAIBOの登場なのである。 AIBOは5つのシリーズを出し、累計15万台を販売したヒット作となった。だが、ソニーの業績悪化によって2006年、製造・販売が中止となる。7年後の2014年3月には、ソニーの修理対応も打ち切られてしまった』、AIBOの製造・販売中止は、ソニーがそこまで追い込まれたのかと、私も再認識させられた。
・『ロボット犬に突きつけられた「死」の宣告  寿命がないはずのロボット犬に「死」の宣告が突きつけられたのである。AIBOを治療する「病院」がなくなってしまったのだから。故障あるいは充電池の消耗によって、AIBOはいずれ動かなくなる運命にあった。 「亡くなった親が“飼っていた”AIBOが動かなくなった。何とか修理してほしい」 折しも、飼い主の悲痛な願いが、ソニーの元技術者たちで立ち上げた電化製品の修理工房「ア・ファン」(千葉県習志野市)に寄せられた。ア・ファンは2015年からAIBOの修理を手がけ始める。しかし、修理のための新しい部品はすでに生産中止になっていた。 そこで用いた手法が、「献体」と「臓器移植」である。ア・ファンではドナーとなるAIBOを寄贈などで手に入れる。そして必要な部品を取り出し、依頼者のAIBOに移し替えるのだ。 ドナーとなるAIBOは「死んで」しまう。そこで葬式の概念が生まれた、というわけだ。 葬式の導師を務める光福寺住職の大井文彦さんとは、ア・ファンの技術者がひょんなことで知り合いになったのがきっかけだという。住職も、古いラジオなどの愛好家であり、メカが大好きであった。ア・ファンの試みにたいし、「それは面白い」と賛同してくれた。そして、世界でもおそらく初めてとなる「ペットロボット葬」が行われたのである。 社長の乗松伸幸さんは言う。「1体1体のAIBOには、これまで一緒に暮らしてこられたオーナーさんの心が入っている。そこで宗教的儀式が必要になってくるのです。葬式を通じてAIBOに入っていた『魂』を抜かせていただくことで、AIBOは純然たる部品としての存在になる。葬式を終えて初めてバラさせていただくことができるという考え方です」』、宗教心のない私には、半ば呆れる他ない。
・『AIBOに宿る魂とは  メカとはいえ、きちんと弔いをした上で部品を取り出す。乗松さんによればAIBOに宿る魂とは、「メカそのものの霊魂」ではなく、AIBOに乗り移った「飼い主の気持ちや念」だという。 AIBO発売当初は、ロボットと人間との関係性が、ここまで親密になるとは誰も想像がつかないことだったという。しかし、発売からかれこれ20年が経過し、日本におけるAIBOはすでに「家族そのもの」であり、「うちの子」になっている。 AIBOが家族になり得たのは、与えられた仕事を完璧にこなす産業用ロボットと違い、“不完全に”作られているからだと、乗松さんは言う。 「まず、主人の言うことを聞かない。『お手』と言っても、無視される。『可愛いね』と言っても反応してくれない。そうしたわがままな仕草を主人はむしろ、AIBOに心があるかごとく感じてしまうのです。今の核家族社会にあってAIBOは完全にオーナーの心の隙間を埋める存在になっています」』、「AIBOが家族になり得たのは・・・“不完全に”作られているからだ」というのはなかなか興味深い指摘だ。
・『乗松さんは、工業技術の発達とともに人間とロボットとの間に、新しい関係性が生まれつつあると指摘する。 たとえば、掃除ロボットの「ルンバ」に愛情を抱き、愛玩する人もいる。ルンバは円盤型のボディにセンサーとコンピューターが内蔵されて、自律的に部屋の清掃を行ってくれる。健気に部屋を掃除して動き回る姿は、どこか有機的である。 「今後はルンバなどの葬式も十分考えられるでしょう。ユーザーの心が入る余地があるものはすべて供養の対象になると思います。人間とロボットとの関係性は、時代の流行などに影響を受けながら、常に変化しているのです」 例えば2016年には、シャープからモバイル型ロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」が発売された。ロボホンは二足歩行の人間型ロボットである。クリクリとした目が実に可愛い。 箱を開封し、ロボホンを床に置くと自分で立ち上がり、「あ、君が僕を箱から出してくれたんだね。はじめまして、僕、ロボホン。ポケットやカバンに入れて一緒に連れていってね」 などと話かけてくるのである。若い女性のみならず、ユーザーになった者は瞬時にロボホンに心を奪われることだろう』、AIBOはまだ理解できるとしても、ルンバやロボホンになると、えーと唸ってしまう。
・『「うちの子」になったロボット  そんな時勢を追いかけるように、AIBOも2018年、「aibo」とアルファベット小文字に名称を変えて復活した。初代AIBO同様、1月11日の発売開始直後に完売する人気ぶりであった。 外見は初代AIBOとはかなり異なり、メカニカルな感じはほとんどなくなった。実際の子犬にかなり似ている。最新のAIを搭載し、目に映った飼い主の表情を読み取る。 「こうすればご主人が喜んでくれる」「これをやったら怒られる」などと学習しながら、成長していく。つまり、ロボットに「自我」の芽生えが起きている。そうなると、家庭内に入ったロボットは「うちの子」になってしまうのだ。 現在60代後半から70歳までの団塊世代がペットロボットを愛玩するケースは少なくない。彼らは集団就職で東京に出てきて、核家族を形成した。彼らは子供がすでに独立し、夫婦2人、あるいは独居世帯になっている。 体力的にも精神的にも衰えが増していく中、本当の犬を飼い始めるのはリスクが大きい。そこで、ペットロボットを飼うという選択肢が生まれているのだ。 高齢者施設などでもペットロボットの導入が進む。それは「セラピーロボット」とも呼ばれている。 高齢者施設では感染症やアレルギーなどの衛生上の問題もあり、本物のペットを飼うことができない。そこで、施設はぬいぐるみに似たペットロボットを導入し、入居者を癒しているのだ。 先ほどのRoBoHoNにしても、最新型aiboにしても、セラピーロボットも、ただの「可愛い存在」ではなく、「役割」が与えられている。人間社会の中での役割を果たすことで、双方の心のつながりはより強固なものになっていく。彼らがいずれ、葬式や供養の対象になっていくのは必然である。 そう考えれば、現代社会において生物と無生物との境界はないように思える。 住職の大井さんは、このように話してくれた。「生物か無生物かはその人の心持ち次第ではないでしょうか。自分の心次第で、ロボットも血の通ったペットになるし、ただの物体と思えばただの物体でしかない。生物と無生物の間は、実は断絶しておらず、繋がっているのです。断絶しているように見えるのは、人間の観察力が浅いからでしょうね。ロボットの葬式は『万物とのつながり』に気づかせてくれる意味があります」』、セラピーロボットはよくTV番組でも紹介されるが、確かに重要な役割を果たしているようだ。ただ、「断絶しているように見えるのは、人間の観察力が浅いからでしょうね」は、グサリとくる一撃だった。
・『あいまいになる人間とロボットとの境界  AIBOの葬式には、海外から複数の文化人類学者が調査に訪れていた。国立ベルリン自由大学歴史・文化学部東アジア研究所のダニエル・ホワイト上級研究員は興味深げにAIBOの葬式を観察していたひとりだ。ホワイトさんは米国出身で、日本にも10年間住んでいたことがある。感想をこう述べた。 「とても興味深い儀式でした。私はアメリカ出身でドイツに住んでおりますが、両国ともこうしたロボットの葬式はない。日本人が心からロボットを愛し、完全に家庭内で受け入れているのとは違い欧米人はどこか、ペットロボットにたいして一線を引いているところがあるように思います。一見可愛くても、そこはやはりモノ。モノがあたかも人間と同じように振舞うことへの不気味さ、という漠然としたイメージを心の奥底に持っている。そこが日本人のモノについての意識とは大きく異なるところです。日本人はモノについて、感覚的な美学としてとらえますね。何に利用できるか、といった実用面は二の次といった印象です。こうした感性は欧米人にはあまりありません。私は日本に住んでいたから今日のAIBOの葬式を『とても日本的だな』と思いますが、初めて見る欧米人なら顔をしかめるかもしれません」 しかし、日本のようにペットロボットに気持ちが乗り移る時代も遠からずやってくるかもしれない、とホワイトさんは指摘する。 例えば、それは欧米で大流行している人工知能を搭載したスマートスピーカーの存在だという。欧米の多くの家庭の中に入り込み、「コミュニケーション」を取り始めた。スマートスピーカーとはユーザーの呼びかけにたいして、天気やニュースを読み上げてくれるなどの反応を示してくれるものだ。AmazonのEchoなど今、爆発的に増えている。見た目の形状がスピーカーなので、心理的に「怖い」と感じることもないようだ。 人間とロボットとの境界が世界的にも、あいまいになりつつあるのだ。ホワイトさんは言う。「日本人は“気づく能力”が高い。見えないものにたいする気づき。我々も学ばなければならないね」』、「AIBOの葬式には、海外から複数の文化人類学者が調査に訪れていた」というのには驚いた。「人間とロボットとの境界が世界的にも、あいまいになりつつある」、なるほど、改めて考え直してみたい。
タグ:中嶋秀朗 AIBOを治療する「病院」がなくなってしまった セラピーロボット ロボット導入の“指南役”育成が急務 最初に原発に投入されたのは、残念ながら日本製のものではなく、アメリカ製のロボット 無線LANが使えない場所ではロボットが使えなかった AIBOは5つのシリーズを出し、累計15万台を販売したヒット作 エンタテインメントロボット ロボットを愛らしいもの、可愛がる対象として見るということ自体が、欧米の人にとってはやや異質のようである 欧米では、『ロボコップ』や『アイ,ロボット』などの映画で描かれているように、ロボットは人間に服従させるべき対象であり、時に人間に反抗する危険性をはらみ、人間とは対等ではない、というロボット観が一般的である 産業用ロボットも今や単なる「ロボコップ型」ではダメ 産業用ロボットも欧米的ロボット観から、日本的ロボット観にシフトしてきていると言えるかもしれない 食品工場でロボット導入が進まない 食品業界向けは全体のわずか1.6%で、ここ数年は伸び悩む 一般消費者向けのロボットが人間のパートナーになる時代 「ロボットシステムインテグレーター(SIer)」 AIBOはプログラミングによって「学習」して「成長」する。飼い主は本物の子犬を育てているような感覚にさえなった 2006年、製造・販売が中止 ロボット犬に突きつけられた「死」の宣告 ドナーとなるAIBOは「死んで」しまう。そこで葬式の概念が生まれた ペットロボット葬 AIBOに宿る魂とは、「メカそのものの霊魂」ではなく、AIBOに乗り移った「飼い主の気持ちや念」だという AIBOが家族になり得たのは、与えられた仕事を完璧にこなす産業用ロボットと違い、“不完全に”作られているからだ ロボホン ルンバ 長内 厚 「Automation Readiness Index」(自動化準備指数:筆者訳) 「欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由」 製造業における産業ロボットの導入 食品工場となると生産品目は多岐にわたり、入れ替わりも激しい そもそも食品製造がロボットより人間の得意な領域 ロボットに任せようとすると、短期間であらゆる品目に合わせてプログラミングや生産ラインの設計変更などを繰り返さなければならない。さらに、物体を認識したりモノをつかんだりする技術は、形状がバラバラで、滑りやすかったり軟らかかったりする食品を扱うには不十分だ 中小食品工場にはそうした要員がおらず、自力のプログラミングは至難の業 AIやロボット導入による自動化で最も準備が整っている国は、1位が韓国で2位がドイツ、3位がシンガポール、日本は4位に留まっている ロボット三原則 アイザック・アシモフ ロボット 日本の各大学は、「日本学術会議」から出される方針に従っており、そこでは、ロボットの軍事研究をしないことが方針としてうたわれている 「単機能」という方向にもロボットの開発目的が広がっており 「タフ」であること 産業用ロボットでは、アシモフ的なロボットと人間の関係を具現化している 「Packbot」は、実際に戦地で使われていたもので、非常に頑強にできています ロボットーそれは人類の敵か、味方か 日本では古くから『鉄腕アトム』や『ドラえもん』に代表されるように、ロボットは独立した個性であり、ある種人間と対等な存在として、人間の相棒や友達になっている 臨機応変な対応、人間の認知能力や洞察力が求められる場合には、人間の手を借り、協働するというもの エンタテインメントロボットがもてはやされるのはほとんど日本だけのようである iRobot社は、今は家電ロボットが中心事業ですが、実は軍事用ロボットも開発 東日本大震災で注目されたロボット バードビジネススクールのビジネスケース教材に過去のソニーのAIBOの事例があるのだが、そこでAIBOは失敗事例として描かれ、なぜロボットを愛玩動物に見立てるのかと疑問を呈している 産業用ロボットもただ命令に従うのではなく、自律して臨機応変に判断をする能力を持つということは、ロボットを人間の相棒、仲間として認識するというロボット観の大きな転機になるのかもしれない 「ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須」 RoBoHoNにしても、最新型aiboにしても、セラピーロボットも、ただの「可愛い存在」ではなく、「役割」が与えられている 「AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日」 日経ビジネスオンライン 東洋経済オンライン 「東日本大震災で、なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか」 ダイヤモンド・オンライン 2017年6月の5回目の葬式では100台を超え、今回は114台に「引導」が渡された 千葉県いすみ市の日蓮宗光福寺 「AIBO(アイボ)」の葬式 ドナーとなるAIBOを寄贈などで手に入れる。そして必要な部品を取り出し、依頼者のAIBOに移し替えるのだ 1体1体のAIBOには、これまで一緒に暮らしてこられたオーナーさんの心が入っている。そこで宗教的儀式が必要になってくる (その1)(東日本大震災で なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか、欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由、ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須、AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日) 生物と無生物の間は、実は断絶しておらず、繋がっているのです。断絶しているように見えるのは、人間の観察力が浅いからでしょうね 鵜飼 秀徳 ソニーの元技術者たちで立ち上げた電化製品の修理工房「ア・ファン」(千葉県習志野市)に寄せられた。ア・ファンは2015年からAIBOの修理を手がけ始める 人間とロボットとの間に、新しい関係性が生まれつつある 「うちの子」になったロボット
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アメリカ(除くトランプ)(その4)(国連人権調査官が怒る米国「格差拡大」の現実 「子供達の3人のうち1人が貧困状態にある」、凶悪犯罪続発!アメリカを蝕む「非モテの過激化」という大問題 テロにも発展 その名は「インセル」、米国のレバローンが150兆円まで膨 にわかに高まる損失リスク) [世界情勢]

アメリカ(除くトランプ)については、4月1日に取上げた。今日は、(その4)(国連人権調査官が怒る米国「格差拡大」の現実 「子供達の3人のうち1人が貧困状態にある」、凶悪犯罪続発!アメリカを蝕む「非モテの過激化」という大問題 テロにも発展 その名は「インセル」、米国のレバローンが150兆円まで膨 にわかに高まる損失リスク)である。

先ずは、6月4日付け東洋経済オンラインがロイター記事を転載した「国連人権調査官が怒る米国「格差拡大」の現実 「子供達の3人のうち1人が貧困状態にある」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/223542
・『米国内での貧困は、富裕層を手厚く保護しつつ、何百万もの貧しい人々からセーフティネットを奪おうとしているドナルド・トランプ政権下において広がり、より深刻なものとなっている、と国連人権調査官のフィリップ・アルストンは結論づけた。 極度の貧困と人権について調査したアルストンは、米当局に対して、貧しい人々を罰して入獄させるのではなく、確固たる社会保障を提供し、根本的な解決方法を検討するように呼びかけた』、トランプをますます国連嫌いにするだけだろう。
・『トランプ大統領の税制改革を批判  報告書の中でアルストンは、福祉と健康保険が削られる一方、トランプ大統領の税制改革は大富豪と大企業にとっての「財政上の追い風」となり、格差を拡大させていると述べている。 とはいえ、米国内での極度の貧困は目新しいものではない。1960年代にリンドン・ジョンソン大統領が掲げた「貧困との戦い」以来、米国の政策は「せいぜいよく言って怠慢だ」とアルストンは述べている。 「しかしながら、ここ数年の政策は、最貧困層から基礎的保護を取り上げ、失業している者たちを罰し、基本的な健康ケアさえも、市民としての当然の権利ではなくなってしまっている。基本的な健康ケアを自己責任で手に入れなければならない権利にするため、意図的に計画されたように感じられる」とアルストンは述べている。 ホワイトハウスは、アルストンからの呼びかけとコメントに直ちに反応することはしていない。 ジュネーヴ駐在の米国職員は、ロイターからのコメント要請に「トランプ政権は、すべてのアメリカ国民に、経済的機会を与える事を最重要課題としてきた」と答えた。 4100万人、すなわち12%の国民が貧困状態で暮らしており、そのうち1850万人は極度の貧困状態にあり、子供達の3人のうち1人が貧困状態なのだ、とアルストンは述べた。合衆国は先進工業国の中で若年層の貧困率が最も高い、とアルストンは付け加えている。 しかし、彼が引用している米国勢調査局のデータは2016年までの期間しかカバーしていない。また、トランプが2017年1月に大統領に就任する以前と以降の数字を比較しているわけではない。 国連で権利に関する専門家を長年務め、ニューヨーク大学で法律を教える教授でもあるアルストンは、5月後半に国連人権委員会で、自らが作成した報告書をプレゼンすることになっている』、なるほど。
・『米国が先進国で最も不平等な社会であり続ける?  報告書の基礎となっているのは12月にオーストラリア人によって行われた米国内いくつかの州への派遣調査で、調査対象となった場所にはアラバマの農園地帯、カリフォルニア州ロサンゼルスのダウンタウンに存在するスラム街、プエルトリコの米国海外領土などが含まれている。 アルストンによれば、共和党優勢の議会で12月に承認された税制改革案により米国が先進国で最も不平等な社会であり続けることが確実となるだろうとのことだ。 一方のトランプは、減税によって労働者の手取りが増えたと言い、幾人かの労働者たちが雇用主から受け取ったボーナスを、法律がうまく機能している証拠として喧伝してきた。また、この税法には、地方自治体主導による失業と貧困に対する戦いを援助するという法令も含まれている』、トランプによる喧伝は事実なのか、フェイクなのかについての、実証的検証がないのは残念だ。

次に、駿河台大学経済経営学部准教授でハッカーの八田 真行氏が7月1日付け現代ビジネスに寄稿した「凶悪犯罪続発!アメリカを蝕む「非モテの過激化」という大問題 テロにも発展。その名は「インセル」」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56258
・『アメリカで、「インセル」と呼ばれる一部の「非モテ」が過激化し、テロ事件を起こして社会問題となっている。興味深いのは、そんな彼らのなかにはトランプ支持者が多いということ。彼らのコンプレックスに満ちたメンタルや、「インセル 」という集団の由来を注意深く探っていくと、トランプを生んだアメリカという国の一側面が浮かび上がってくる』、「インセル 」とは初耳だ。
・『続発する非モテたちの犯罪  今年の4月、カナダ・トロントの路上で、レンタカーが通行人に突っ込み、10名を殺害して多くに重軽傷を負わせるという事件が起こった。死者の多くは女性だった。 この種の攻撃からは、どうしてもイスラム過激派によるテロを想起してしまうわけだが、犯人は25歳のアレック・ミナッシアンという白人男性で、イスラム教との接点はおろか前科すらない人間だった。 しかし驚くべきことに、彼はある種の過激思想によって突き動かされた、まごうことなきテロリストだったのである。問題は、その思想の中身だ。 事件後、ミナッシアンが書いたフェイスブックへの投稿が発見されたが、そこで彼は、以下のようなことを書いていた。「インセル革命はすでに始まっている!我々はチャドやステイシーどもを全滅させる!最高紳士エリオット・ロジャー万歳!」 なんじゃこりゃ、というのが常識的な反応だと思うが、しかし実のところこの一文は、ミナッシアンやその同類が奉じている世界観をよく表現している。 まず、インセル(Incel)というのはInvoluntary celibateの略で、「非自発的禁欲」とでも訳せようか。ようするに、付き合う相手がいないので、不本意ながら性的に禁欲を強いられている、ということだ。そしてミナッシアンは、自分たちはインセルだ、と自己規定しているわけである。ちなみに、インセルの多くは若い白人男性の異性愛者だという。 インセルである彼らの敵が「チャドやステイシー」だ。これはインセルのコミュニティにおける隠語で、付き合う相手に不自由しない、モテるイケメンや美女を意味する。ただ外見が良いというだけではなくて、学歴や経済力、社会的地位の高さも加味された概念だ。 なお、チャドやステイシーほど性的に放縦ではないが、ちゃんとパートナーがいる「普通の」人々のことをインセルはノーマルならぬノーミーと呼び、やはり敵視している』、従来であれば、インセルたちは自らを恥じて、群れるようなことはなかった筈だが、SNSを通じたコミュニティが出来ており、中にはテロに走る人間も出てきたというのは、本当に困ったことだ。日本にまで波及しないことを願う。
・『エリオット・ロジャーという男  そして、エリオット・ロジャーとは何者か。実は、インセルを標榜してテロを起こしたのはミナッシアンが最初ではなく、すでに北米では何件も同様の事件が発生している。これらの源流と目されるのが、2014年5月にカリフォルニア州で起こった大量殺人で、その犯人が22歳のエリオット・ロジャーという若者だった。 彼は6名を殺害し、多数を負傷させたあげく自殺したのだが、137ページにも及ぶ声明文とYouTubeの動画を遺した。その中で、ロジャーは自らをインセルと規定し、女性たちへの復讐を声高に謳っている(しかし、女性と付き合った経験は無かったようだ)。 ちなみに、「最高紳士(the supreme gentleman)」というのは元々はロジャーの自称で、今ではインセルお気に入りの自称ともなった。 ロジャーはRedditや4chanといった掲示板サイトにあったインセルのネット・コミュニティで活発に活動していたため、彼の事件はインセルという語を広めると共に、いわばインセルのシンボルとなった。「Going ER」(ER、すなわちエリオット・ロジャーをする)というのが、インセルを動機とする暴力を示す隠語になったくらいである』、2014頃からこうした事件が続発していたとは、根深そうだ。
・『強烈な女性嫌悪  2015年10月にはオレゴン州の短大で、26歳の学生が9人を殺害したあげく自殺したが、この犯人も現場に遺した犯行声明でロジャーの事件に言及し、ガールフレンドがいないことを犯行動機の一つとして挙げていた。 2017年12月にはニューメキシコ州の高校で2人が殺され、犯人も自殺したが、この男は「エリオット・ロジャー」を名乗って掲示板に書き込みをし、ロジャーへのシンパシーを表明していた。今年2月にもフロリダ州の高校で乱射事件があり、17人が殺され多数が負傷したが、この犯人も「エリオット・ロジャーは不滅だ」などとネットに書き込んでいたという。 モテるとかモテないというとなんだかくだらないことのように聞こえると思うが、すでにインセルの影響で何十人も死んでいる。インセルはまごうことなき「危険思想」なのである。 ところで、なぜインセルはチャドやステイシー、ノーミーを敵視するのだろうか。特定の相手に、実際にこっぴどく振られたとか相手にされなかったとかで敵意を持つというのならまだ分かるのだが、インセルの憤怒は多くの場合、自分と必ずしも関係の無い女性全般、あるいは社会全般に向けられている。 筆者もしばらく理解できなかったのだが、ようするにこういうことではないかと思う。 世の中の女性は軽薄で愚かなので、金や権力のあるイケメンに惹かれるばかりで、自分のような風采の上がらない、社会的地位もない男は相手にされない(に違いない)。自分に魅力がないのは遺伝子の問題で、自分に責任はない。 そしてセックスは基本的人権であって、それを阻む女性や、女性の権利を声高に主張するフェミニズムの横行はインセルにとって深刻な人権侵害だ。そもそもこの社会は、チャドやステイシーに有利なようにルールがねじ曲げられていて、インセルに勝ち目はない。インセルを抑圧する社会を打破するために、インセル革命が必要なのだ、と……。 後述する通り、インセルにはドナルド・トランプの支持者が多いらしいのだが、それもこのような反フェミニズムという文脈で理解することができよう』、インセルの考え方の身勝手さにはあきれる他ない。反フェミニズムでトランプ支持とは、ありそうな話だ。
・『インセルの意外な源流  Incelという語自体は(皮肉なことに女性によって)1993年に開設された掲示板サイトに由来するそうだが、インセルというコミュニティの由来は、やや意外なところに求めることができるらしい。 人種差別やヘイトクライムに対抗する非営利団体、南部貧困法律センター(Southern Porverty Law Center)によれば、「インセルはピックアップ・アーティスト運動から派生した」という。 ピックアップ・アーティストというのは、ようするに「ナンパ師」のことだ。女性を口説いてセックスに持ち込むことをピックアップ(お持ち帰り)と言い、そのための心理的テクニックを学んで駆使するのがピックアップ・アーティストである。 現在のピックアップ・アーティスト運動の源流とされているのが、ロス・ジェフリーズという人だ。1999年の映画『マグノリア』でトム・クルーズが演じた役のモデルがこの人で、80年代末に神経言語プログラミング(NLP)等の心理学的小道具をちりばめたを編みだしたと称し、「生徒」を集めて伝授していた。 2005年にはジャーナリストがピックアップ・アーティストのコミュニティに潜入取材したノンフィクション「The Game」がベストセラーとなり、その名も「The Pickup Artist」という、参加者にピックアップ・アーティストがナンパ術を指南するというリアリティ番組も制作されて人気を博した。 最近有名なのはルーシュ・V(本名ダルーシュ・ヴァリザデー)という人で、熱心なトランプ支持者として知られている。ちなみに筆者が探したところ、トランプが大統領選に打って出る遙か前の2013年の時点で、「ピックアップ・アーティストが見習うべきはジェームス・ボンドではない、ドナルド・トランプだ」などという書き込みがあった』、日本でもナンパ術を指南するセミナーがあったkg.お記憶している。
・『非モテもナンパ師も、根っこは一緒  ナンパ師というと、自信過剰なイケメンというイメージがある。それは先の話で言うチャドであり、インセルとはむしろ敵対関係にあるような気もするわけだが、ピックアップ・アーティストとピックアップ・アーティスト運動は別物であることに留意しなければならない。 ピックアップ・アーティスト運動は結局のところ自己啓発の一種で、参加者の大多数は自分に自信がなく、他人との付き合いが苦手な人たちだ。だから、それほどインセルと距離が遠いわけではないのである。 加えて、インセルとピックアップ・アーティストは、強烈な女性嫌悪(ミソジニー)という共通点がある。 インセルはともかくピックアップ・アーティストは女好きなのではないかと思う向きもあるだろうが、筆者がピックアップ・アーティストに関する文章や掲示板などの書き込みを読んで思うのは、そもそもピックアップ・アーティストの多くにとって、女性と楽しくお付き合いすることが目的ではないということだ。 口説きを「ゲーム」と称していることからも分かるように、心理テクニックやら何やらを駆使し、相手を意のままに操って見下す、それによって自信を回復する、というところに主眼があり、女性にはスタンプカードに押されたスタンプ程度の意味しかない。 先の言い草をまねて言えば、世の中の女性は軽薄で愚かなので、自分程度の男でも、ピックアップ・アートに操られて引っかかるのだ、という根深い蔑視が潜んでいる。自分程度の、というのがポイントで、「自分を入れるようなクラブには入りたくない」という有名な警句があるが、ピックアップ・アーティストもインセル同様、自己嫌悪から自由ではないのである』、ピックアップ・アーティストは自信満々で自己肯定感が強いと思っていたら、「自分程度の男でも」という考え方が根底にあり、自己嫌悪があったという逆の結論になったようだ。
・『「相対的剥奪」というキーワード  筆者はここ数年、いわゆる「トランプ現象」に興味があって調べているのだが、実はドナルド・トランプという個人にはあまり興味がない。トランプはいわばロウソクの芯のようなもので、確かにテレビ芸人としての彼の才能が無ければここまで話が大きくなるということはなかったと思うが、その一方、芯だけでは火は付かない。火が付くには、ロウが必要なのだ。 このロウ、すなわちトランプを押し上げた支持層に関しては、トランプの当選以降、政治学や社会学、経済学といった社会科学の領域で、様々な研究が行われている。 従来は、グローバリズムに痛めつけられた田舎の白人貧困層、という一面的な理解が多かったが、最近では、トランプ支持層は案外多様性のある集団で、所得水準も社会階層も問題意識もバラバラということが分かってきている。 インセルやピックアップ・アーティストは筆者がこうしたトランプ支持(というか反フェミニズム)層を研究する過程で出会った集団で、他のグループと合わせてマノスフィア(manosphere、男性世界とでも訳すべきか)と呼ばれる文化圏のようなものを形成している。マノスフィアを巡っては他にも面白い話はあるのだが、他日を期したい。 さて、トランプ支持層はバラバラと言ったが、彼らに全く共通項がないのかと言えばそうでもない。一つの切り口は、「相対的剥奪」(relative deprivation)ではないかと思う。最近のカリフォルニア大学の研究者による研究で、トランプ支持者の特徴の一つとして挙げられていた。 相対的剥奪は、元々はこんな話だ。ある部署では、ある時期になると50%が昇進する。別の部署は25%しか昇進しない。常識的に考えれば、昇進する割合や人数が多い部署のほうが不満は少なさそうなものだが、こうした場合、先の部署のほうが不満が高まるのだという。4分の1しか昇進しないのであれば、仕方が無いと諦めもつくが、半分も昇進するのに自分は漏れたとなると、収まらない人が増えるのである。 ようするに、昇進の有無そのものや絶対的な格差よりも、主観的には「当然」昇進すべきだったのに、実際にはなぜか昇進できなかった、というような相対的な不遇のほうが、深い不満をもたらすのである。 この「当然」には、本来自分が得られるはずだったものを(多くの場合自分よりも劣っているとみなす相手に)不当に奪われた、という感覚も含まれる。 「当然」握るはずだったアメリカという国の主導権を黒人やヒスパニックに奪われる白人、中国やメキシコに仕事を奪われて「当然」得られるはずだった経済的果実を得られなくなった中流層、移民対策や社会保障のせいで「当然」得られるはずだった金を税金として持って行かれる富裕層。 そして「当然」得られるはずだった女性に相手にされないインセル、「当然」女性を意のままにできるはずだったのにフェミニズムやらポリティカル・コレクトネスのせいでそうもいかなくなったピックアップ・アーティスト、といった具合で、トランプ支持層に横串として相対的剥奪を通してみると、いろいろつじつまが合うのだ。 そもそも、すでに大統領選で勝利してから500日以上経っているのに相変わらず敗者のヒラリー・クリントンを叩いていたり、オバマと同じノーベル平和賞が取れそうだというので前のめりに北朝鮮との首脳対談に臨んだトランプ自身、「当然」得られるべき敬意が得られない、という相対的剥奪感に苦しんでいるのかもしれない。 そういう意味でも、確かにトランプは現在のアメリカの象徴と言えそうである』、これはこれまで接したことのないような秀逸のトランプ論である。トランプ支持層に横串になっている「相対的剥奪」とはなかなか面白い概念だ。

第三に、一転して米国経済の話である。11月19日付けダイヤモンド・オンライン「米国のレバローンが150兆円まで膨張、にわかに高まる損失リスク」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/185884
・『「急増する米国の『レバレッジド・ローン』が抱えるリスクに、あまり注意が払われていないように映る」。UBS証券ウェルス・マネジメント本部のCIO(最高投資責任者)、青木大樹氏は警戒感を示す。 日本株の動向にも多大な影響を与える米株式市場において、このところは米中貿易戦争や大手ハイテク株の動きなどが耳目を集めてきた。だが、ともすればそうした陰に隠れた潜在的なリスクとして、冒頭の実態を認識しておくべきではないか、というわけだ。 レバレッジド・ローンは信用度の低い企業への融資。変動金利であることや、財務状況が一定基準より悪化した場合に、債務の返済を求めることができる財務制限条項が付いている点などがハイイールド(低格付け)債と異なる。 実は同ローンについては、BIS(国際決済銀行)が9月公表の直近の四半期報告書の中で「危険な復活?」と題して分析を展開。好調を保つ米景気が後退期に入れば、ローンの借り手である企業のデフォルト(債務不履行)増加などで「投資家は損失を被ることになるだろう」と指摘した』、確かに危険な兆候だ。こんなリスクを抱えていたとは初めて知った。
・『米著名投資家も警鐘  レバレッジド・ローンの貸出残高はリーマンショック後、右肩上がりで拡大を続けてきた。直近では日本円にして150兆円規模にまで膨らみ、この数年ほぼ横ばいだったハイイールド債の市場規模を上回ったとの推計もある。 同ローンの肥大化を促す原動力となってきたのは、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融危機後に行ってきた超低金利政策に他ならない。利回り追求の動きが広がる中、投資マネーは国債より投資妙味のある資産に群がってきた。 そんなFRBも2015年末に利上げを決めて以降は量的金融緩和の出口に向かい、米長期金利も上昇傾向をたどってきた。直近では米金利について、トランプ米大統領が打ち出した減税策を受けた財政悪化による「悪い金利上昇」の兆候が見られるとの指摘もある。 こうした中、レバレッジド・ローンは変動金利であるため、金利上昇を見越した投資家のマネーがさらに流入する構図となっている。また、最近は財務制限条項が緩和された「コベナント・ライト」と呼ばれる融資の拡大に伴うローンの「質の低下」も危惧されている。一段の金利上昇や景気悪化で借り手の返済が滞った際の潜在的な損失発生リスクは増しているのだ。 著名投資家も警鐘を鳴らす。米投資会社オークツリー・キャピタルのハワード・マークス会長は11月上旬、来日時のメディア向けイベントでレバレッジド・ローン拡大は「楽観主義の表れ」と述べた。 株式市場は米中貿易戦争や米金利の行方などをめぐって神経質な動きを続けているが、その傍らでマグマが膨らんできたレバレッジド・ローンのリスクも注視しておくべきだろう』、「財務制限条項が緩和された」ものまで出現したとは、恐ろしい話だ。この記事が、我々の見過ごしがちなリスクを指摘してくれた意味は大きい。
タグ:6名を殺害し、多数を負傷させたあげく自殺 自分に魅力がないのは遺伝子の問題で、自分に責任はない 137ページにも及ぶ声明文とYouTubeの動画を遺した 非モテもナンパ師も、根っこは一緒 一段の金利上昇や景気悪化で借り手の返済が滞った際の潜在的な損失発生リスクは増しているのだ 財務制限条項が緩和された「コベナント・ライト」と呼ばれる融資の拡大に伴うローンの「質の低下」も危惧 150兆円規模にまで膨らみ、この数年ほぼ横ばいだったハイイールド債の市場規模を上回ったとの推計もある 米著名投資家も警鐘 マグマが膨らんできたレバレッジド・ローンのリスクも注視しておくべき トランプ支持者が多い ダイヤモンド・オンライン 好調を保つ米景気が後退期に入れば、ローンの借り手である企業のデフォルト(債務不履行)増加などで「投資家は損失を被ることになるだろう」と指摘した 強烈な女性嫌悪 インセル(Incel) BIS(国際決済銀行)が9月公表の直近の四半期報告書の中で「危険な復活?」と題して分析を展開 「ナンパ師」 トランプ支持層に横串として相対的剥奪を通してみると、いろいろつじつまが合うのだ 続発する非モテたちの犯罪 テロ事件を起こして社会問題となっている 2014年5月にカリフォルニア州で起こった大量殺人 カリフォルニア大学の研究者による研究で、トランプ支持者の特徴の一つとして挙げられていた。 相対的剥奪 「インセル」と呼ばれる一部の「非モテ」が過激化 ロイター インセルの意外な源流 「相対的剥奪」というキーワード インセルはピックアップ・アーティスト運動から派生した (除くトランプ) 「凶悪犯罪続発!アメリカを蝕む「非モテの過激化」という大問題 テロにも発展。その名は「インセル」」 現代ビジネス 八田 真行 自分程度の男でも、ピックアップ・アートに操られて引っかかるのだ、という根深い蔑視が潜んでいる 付き合う相手がいないので、不本意ながら性的に禁欲を強いられている 米国が先進国で最も不平等な社会であり続ける? そしてセックスは基本的人権であって、それを阻む女性や、女性の権利を声高に主張するフェミニズムの横行はインセルにとって深刻な人権侵害だ。そもそもこの社会は、チャドやステイシーに有利なようにルールがねじ曲げられていて、インセルに勝ち目はない。インセルを抑圧する社会を打破するために、インセル革命が必要なのだ アメリカ (その4)(国連人権調査官が怒る米国「格差拡大」の現実 「子供達の3人のうち1人が貧困状態にある」、凶悪犯罪続発!アメリカを蝕む「非モテの過激化」という大問題 テロにも発展 その名は「インセル」、米国のレバローンが150兆円まで膨 にわかに高まる損失リスク) 彼らの敵が「チャドやステイシー」だ。これはインセルのコミュニティにおける隠語で、付き合う相手に不自由しない、モテるイケメンや美女を意味 Involuntary celibateの略で、「非自発的禁欲」 ある種の過激思想によって突き動かされた、まごうことなきテロリストだった カナダ・トロント 東洋経済オンライン ちゃんとパートナーがいる「普通の」人々のことをインセルはノーマルならぬノーミーと呼び、やはり敵視している 「米国のレバローンが150兆円まで膨張、にわかに高まる損失リスク」 白人男性で、イスラム教との接点はおろか前科すらない人間 レバレッジド・ローンは信用度の低い企業への融資 「国連人権調査官が怒る米国「格差拡大」の現実 「子供達の3人のうち1人が貧困状態にある」」 10名を殺害して多くに重軽傷を負わせるという事件 世の中の女性は軽薄で愚かなので、金や権力のあるイケメンに惹かれるばかりで、自分のような風采の上がらない、社会的地位もない男は相手にされない(に違いない) 米国内での貧困は、富裕層を手厚く保護しつつ、何百万もの貧しい人々からセーフティネットを奪おうとしているドナルド・トランプ政権下において広がり、より深刻なものとなっている 国連人権調査官のフィリップ・アルストンは結論づけた トランプ大統領の税制改革を批判
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金融業界(その4)(高齢化で銀行のビジネスモデルは「大転換」を迫られている、関根正裕×江上剛 総会屋事件対応した2人が語る今の銀行界) [金融]

金融業界については、8月2日に取上げた。今日は、(その4)(高齢化で銀行のビジネスモデルは「大転換」を迫られている、関根正裕×江上剛 総会屋事件対応した2人が語る今の銀行界)である。

先ずは、みずほ総合研究所 専務執行役員調査本部長/チーフエコノミストの高田 創氏が10月31日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「高齢化で銀行のビジネスモデルは「大転換」を迫られている」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/183824
・『高齢化はさまざまな形で経済社会を大きく変えようとしているが、金融システムや銀行もその例外ではない。戦後一貫して当たり前のものとして前提にしてきた金融仲介の在り方は大転換を迫られている。 本論は、戦後、「人生60年時代」の局面で作り上げられた今の金融のインフラが、その後、高齢化に伴い「人生100年時代」を迎えるなか、実態に合わなくなっているとの問題提起である。 それは、今日の銀行の在り方そのものを問うものとなる』、ずいぶん大きく構えたものだが、見てゆこう。
・『高齢化がもたらすマネーフローの転換  高齢化は2つの面で、金融システムや銀行のビジネスモデルの転換を迫っている。 第1が、現役世代を対象にした金融・ビジネスから高齢者に向けたサービスへのシフト。 第2は、老後、多様化するライフスタイルに対する対応だ。 図表は、今日の高齢化に伴うライフステージや金融ニーズの変化を示す概念図である。 横軸で、高齢者に向けたサービスのシフトを、縦軸で多様化するライフスタイルに対する金融サービスの変化を示し、2次元にわたる大きな転換を指摘したい。(◆図表1:高齢化に伴うライフステージや金融ニーズ はリンク先参照)』、なるほど。
・『「波平さんモデル」から平均寿命は20年延びた  ここに示した高齢化に伴う環境変化を筆者は「波平さんモデル」の転換として議論してきた。それは、つまり「人生60年時代」の転換を示す。 戦後の国民的アニメの「サザエさん」に登場する波平さんの年齢は、54歳という設定だとされる。このアニメの原作の漫画が始まった1950年代当時、サラリーマンの定年の多くは50歳代半ば、男性の平均寿命は60歳程度だった。 今、我々の生活を取り巻く制度設計の前提の多くは「サザエさん」が誕生したころに生まれ、年金などの社会保障制度の設計もその頃の状況がベースになっている「波平さんモデル」である。 同様に、金融機関のビジネスモデルも当時の状況を想定したものといっていい。 だが現在、男性の平均寿命は81歳と、過去60年の間に20歳程度も延びた。当時の波平さんをベースに設計された「波平さんモデル」は、今の実情と全くかけはなれている。 かつての「波平さんモデル」なら、ほとんどの人の人生は現役の時代だけで完結し、老後に必要な経済的保障である年金のニーズも生まれなかった。また、健康面では老人医療の必要もなく、介護のニーズも生じない。 すなわち、「老後」の存在がほとんどない、「現役世代完結型」のモデルだった』、「波平さんモデル」とは上手いネーミングだ。
・『「現役世代完結型」から「世代間資金仲介型」に  ここで金融の仲介機能に目を向けよう。 「波平さんモデル」、「現役世代完結型の金融」での資金の仲介は、社会の現役世代における資金過不足の金融仲介が中心になる。 すなわち、戦後長らく、旺盛な資金需要を伴う企業セクターが存在し、家計でも現役世代に住宅投資を中心に資金ニーズがあった。銀行の機能は、企業や現役世代への資金仲介を行うことにあった。 その資金需要額は貯蓄額を超える投資過剰の状況のなか、商業銀行が、貯蓄を集める効率的なインフラの中核として存在した。 その環境のもとで銀行のビジネスモデルは、画一化したライフスタイルの現役世代を中心に、さまざまなライフステージ(就職-結婚-子育て-住宅購入-定年)に対応した金融ニーズを提供することだった。 銀行はそうしたライフステージの入り口の就職段階から顧客を捉えれば、その後も安定した営業基盤が構築でき、預金を集めれば自動的に収益につながった。こうしたことが暗黙裡に前提とされていた商業銀行モデルの成功体験が長く続いた。 次に、老後の生活が20年以上ある「人生100年時代」への転換を考えよう。 この時代での資金の仲介は、顧客の現役の時から老後まで、社会全体の現役世代から老後への世代をつなぐ金融、「世代間資金仲介」だ。それは年金をはじめとする資産運用に他ならない。 人々は公的年金制度などで不十分と考えれば、現役の時の支出を減らしても老後に備えることになる。さらに、「人生100年時代」の掛け声のなか、さらに老後が長くなるとの不安は、節約志向を強め、資産運用のニーズを増やす。 同時に、企業の旺盛な資金需要も減退するなか、商業銀行のビジネスモデルは大幅な転換を余儀なくされる。 とりわけ現在のように日銀による「マイナス金利」政策が続き、金利収入が激減している状況では、戦後一貫して続いた預金と貸し出しをベースとした商業銀行のビジネスモデルは再考を迫られる。 同時に、新たに資産運用ビジネスの重要性が高まることになる』、「資産運用ビジネスの重要性」は既に強く認識されていて、競争も苛烈だ。
・『企業の資金余剰時代 エクイティ市場が中心に  図表2で貯蓄投資バランスの変化を見てみよう。(◆図表2:日本の貯蓄投資(IS)バランス推移 はリンク先参照) 戦後一貫して続いた非金融法人の資金不足は、90年代以降は資金余剰に転換した。 商業銀行などの金融機関にとっての「波平さんモデル」は、企業が資金不足であることが前提だった。だが、資金余剰になったなか、高齢化における資金仲介は現役世代から高齢者への資金仲介、資産運用が中心になる。 さらに、ライフスタイルが多様化するなかでは、多様なライフスタイルのニーズに即した金融サービスが重要になり、そこでは商業銀行が担うビジネスに加え信託業務の重要性も高まりやすい』、信託銀行では、政府の後押しもあって、既に暦年贈与信託、相続型信託、教育資金贈与信託などを提供している。
・『さらに、従来の企業金融は銀行中心の貸出市場から資本市場が中心になる。 今や上場企業の6割近くが実質無借金だ。金余り時代では、必要な資金はデットよりもエクイティ性資金で調達することが主になる。 資金仲介機能もデット市場からエクイティ市場が中心となる。金融庁など金融当局が金融機関の経営状況を判断する際の事業性評価も、今後は、デット性の貸し出しにとどまらず、エクイティ性の出資機能も重要になるのではないか。 高齢化が金融仲介システムに大きな転換をもたらしていることを、改めて認識する必要がある』、正論であるが、現在のところ銀行の株式保有には、自己資本を上限にするとの制限がある。この緩和を暗に求めているのだろうか。

次に、11月19日付け日刊ゲンダイが掲載した商工中金の関根正裕社長と作家の江上剛氏の対談「関根正裕×江上剛 総会屋事件対応した2人が語る今の銀行界」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/241751/1
・『江上氏 近ごろ経営のかじ取りがおかしい  1997年に発覚した第一勧業銀行(現みずほ銀行)の総会屋利益供与事件。このとき広報担当者として活躍したひとりは作家となり、その部下だった金融マンは今年3月、西武ホールディングス(HD)傘下のプリンスホテル常務から、不正融資問題に揺れていた商工組合中央金庫(商工中金)の社長に転じた。第一勧銀時代、二人三脚で不祥事対応にあたった作家・江上剛氏と商工中金社長・関根正裕氏の2人が今の銀行界を語る』、興味深そうだ。
・『・・・江上 ・・・それにしても、僕が小説を書き、関根さんが商工中金の社長になって、こんなふうに対談するとは、人生って不思議だよね。 関根 ビックリですよ。そもそも商工中金に来るのが想定外でした。 江上 初めて商工中金の話があったとき、どう思った? 関根 正直、「私ですか?」と思いました。ただ、商工中金の調査報告書などを読んで、職員のメンタリティーは理解できたし、これであれば自分の経験が生かせる、役に立てるかもしれないと感じました。 江上 このニュースを知ったとき、よく引き受けたなと(笑い)。家族は何と言っていた? 関根 プリンスホテルの仕事は充実していたし、家内は他に行くとは思っていなかったでしょう。家内に「やりたいの?」と聞かれて、「やりたい」と答えたら、ビックリしていましたけど、「だったらいいんじゃない」と賛成してくれました。 江上 西武グループには何年いたの? 関根 13年です。そのうち5年がプリンスホテルでした。みずほ銀行から西武HDに移った目的は、後藤高志さん(西武HD社長、元みずほコーポレート銀行副頭取)を男にしたいというのと、西武再建を果たすの2つでした。それは達成したし、私が西武HDにいなくても大丈夫だと思ったこともあります。 江上 商工中金へ移るときの新聞報道などを見ると、関根さんは再建の専門家と書かれていました。西武に移るときの気持ちと、今回は違いますか? 関根 まず西武での経験が生きるのではないかと思いました。商工中金の職員はまじめに一生懸命やっています。ただ、時代の流れとか、経営のあり方の間違いで、不正融資問題が起こってしまった。だから、経営者が方向性を示し、体制をきちんと整えれば再生できると信じています。 江上 近ごろはKYBや神戸製鋼所、タカタなどモノづくりの現場でも不祥事が続いています。業績至上主義というか、経営のかじ取りがおかしくなっていると感じます。 関根 それは間違いないでしょうね。商工中金も業績に対するプレッシャーは相当強かったと思います。もっと言えば、職員は業績を上げることが人事評価につながるとの思いが強かった。そのせいで成果を上げようと無理をしてしまう。風通しの悪さもあったでしょう。現場で起こっていることが経営まで上がってこない。これは組織的な欠陥にほかなりません』、かつては政府系金融機関の商工中金は、「親方日の丸」で優雅な職場であったが、民営化の既定方針を覆すため、無理にでも融資を増やして存在感をアピールしようとしたことが、致命的な不祥事につながってしまった。
・『江上 リーマン・ショック後などは、他の金融機関が貸し渋りをするなか、商工中金は積極的な融資を実行したと聞いています。申し込みも殺到したとか。 関根 リーマン・ショックや東日本大震災では、多くの金融機関の融資残高は大きく減少しましたが、商工中金は融資残高を増やしています。危機のときに企業の役に立った。その感謝の声は今も続いています。それが顧客の信頼につながっているのは間違いありません。 江上 銀行は「雨の日に傘を取り上げ、晴れの日に傘を差し出す」と言われることもあります。商工中金のメンタリティーは違うんですね』、それはそうだが、商工中金は融資拡大のため、審査資料の改竄までやり、問題化したことには、触れられてない。現社長でも過去の恥部には触れたくないのだろう。
・『関根氏 個人にノルマは課さない  関根 そもそも商工中金は中小企業の金融の円滑化という趣旨でつくられています。職員の矜持というか、DNAに組み込まれていると思います。中小企業の経営者には、あのとき助けてもらったから今があるという人がたくさんいます。一時は廃業を考えてたけど、商工中金が危機対応融資などで支援するといってくれたおかげで復活できたと言ってくれています。 江上 ただ、その危機対応融資が平時にも続いたことが不祥事を招いたともいえますね。私は小説を書くために多くの経営者に取材しますが、業績を上げ続けなくてはいけないプレッシャーにはまり込む人が大勢いるように思えます。関根さんは、10月に策定した中期経営計画で、職員に目標を割り振るのをやめたとか? 関根 各支店で個人のノルマを課すのは厳禁だと宣言しました。 江上 そうすると、われわれの若いときみたいに喫茶店でサボる人も出てくるのでは(笑い)。 関根 ハハハ、会社ですから成果を上げることは変わりません。ただ、ひとりずつに数字を割り当てるのをやめ、結果ではなくプロセスや取り組みを評価しようということです。 江上 最近の企業は四半期ごとに決算があって、結果ばかりを求められます。だから結果から経営を考えるみたいになっている。でも本当は利益は後からついてくるものです。 関根 銀行は、銀行の都合でセールスするのではなく、顧客のニーズに基づいて営業することが大切です。顧客のことをきちんと知れば、先方が気付いていない課題やニーズも分かってきます。そういう営業をすべきでしょう。 江上 まさにホテルマンの経験が生きていますね。 関根 ホテルの現場の人は、純粋に客に喜んでもらうことを考えています。収益など頭にありません。そんなホテルの経験を生かしてこそ、私が商工中金の経営をやる意味があると思っています。 江上 先ほども少し触れましたが、中期経営計画には店舗の統廃合や職員数の減少も含まれています。職員の反応はどうですか? 関根 合理化の話は一部分だけなのですが、そこばかり取り上げられて……。トータルの人員は自然減などで減少しますが、営業やサービスのソリューションの部分は増員します。一方で、店頭に来る人は減り、業務のロボット化、自動化も進んでいます。実際、業務量は減っていくので、その分の人員は減少します。現在、職員は約4000人ですが、560人分の業務量を減らします。自然減は400人ほどで、160人はサービス強化にエネルギーを注いでもらいます。とはいえ、自分の仕事がデジタル化や本部集中によってなくなってしまう職員もいます。そんな人には新たな挑戦のチャンス、成長する糧にしてほしいとのメッセージを送っています』、それでも民間の銀行に比べれば、リストラの度合いは手緩いのではなかろうか。
・『江上 中小企業は後継者も大きな課題だといわれます。 関根 中小企業は日本全国にざっと380万社あります。今後、10年で社長が70歳以上になるのは240万社といわれ、そのうちの半分にあたる120万社は後継者が決まっていません。 江上 かつて日本興業銀行は“人材派遣銀行”といわれていたけど、商工中金も人材派遣したらどう? 関根 要請はたくさんありますね。ただ、応えられていないのが現状です。 江上 米国の成長企業には、2000年以降にスタートアップしたところが目立ちます。近ごろはクラウドファンディングなど支援の方法はさまざまですが、米国に比べ日本は体制があまり整っていないと感じます。 関根 過去の経験や実績に基づいて審査する方法は限界があります。このやり方を変える必要はあるでしょう。たとえば、開発力があって製造は得意だけれども、営業力や財務の弱い会社があるとしたら、われわれは弱いところをサポートする体制を整えてあげる。 江上 一般的に目利き力というのがあるでしょう。私も銀行の支店長時代に、融資先の社長の顔を見ながら、「夜逃げしないよね」と聞いていました。「しません!」とハッキリ言う社長もいたね。 関根 経営者が情熱を持っているかどうか、誠実かどうかが基本でしょう・・・』、その程度の経営者への確認では到底済まないのが現実なのに、無理にキレイ事でまとめるとは、残念だ。
タグ:今後は、デット性の貸し出しにとどまらず、エクイティ性の出資機能も重要になるのではないか 「関根正裕×江上剛 総会屋事件対応した2人が語る今の銀行界」 第1が、現役世代を対象にした金融・ビジネスから高齢者に向けたサービスへのシフト 銀行のビジネスモデルは、画一化したライフスタイルの現役世代を中心に、さまざまなライフステージ(就職-結婚-子育て-住宅購入-定年)に対応した金融ニーズを提供することだった 近ごろはKYBや神戸製鋼所、タカタなどモノづくりの現場でも不祥事が続いています。業績至上主義というか、経営のかじ取りがおかしくなっていると感じます 「現役世代完結型」から「世代間資金仲介型」に 「波平さんモデル」から平均寿命は20年延びた 第2は、老後、多様化するライフスタイルに対する対応 この時代での資金の仲介は、顧客の現役の時から老後まで、社会全体の現役世代から老後への世代をつなぐ金融、「世代間資金仲介」だ 関根氏 個人にノルマは課さない 高齢化がもたらすマネーフローの転換 企業の資金余剰時代 エクイティ市場が中心に 資金仲介機能もデット市場からエクイティ市場が中心 関根正裕 信託業務の重要性も高まりやすい 商工中金 江上剛 「老後」の存在がほとんどない、「現役世代完結型」のモデルだった 職員は業績を上げることが人事評価につながるとの思いが強かった かつての「波平さんモデル」 リーマン・ショック後などは、他の金融機関が貸し渋りをするなか、商工中金は積極的な融資を実行したと聞いています 日刊ゲンダイ 対談 (その4)(高齢化で銀行のビジネスモデルは「大転換」を迫られている、関根正裕×江上剛 総会屋事件対応した2人が語る今の銀行界) 金融業界 「高齢化で銀行のビジネスモデルは「大転換」を迫られている」 「人生60年時代」の局面で作り上げられた今の金融のインフラ 高田 創 「人生100年時代」を迎えるなか、実態に合わなくなっている ダイヤモンド・オンライン
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東芝問題(その37)(東芝の病は不治か いまだ続く「忖度」「チャレンジ」、東芝は日立のようにV字回復を果たすことができるか、東芝“新中計”は踏み込み不足 構造改革を遅らせる「内輪の論理」) [企業経営]

東芝問題については、1月8日に取上げたままだった。久ぶりの今日は、(その37)(東芝の病は不治か いまだ続く「忖度」「チャレンジ」、東芝は日立のようにV字回復を果たすことができるか、東芝“新中計”は踏み込み不足 構造改革を遅らせる「内輪の論理」)である。なお、タイトルから「不正会計」をカットした。

先ずは、11月5日付けダイヤモンド・オンライン「東芝の病は不治か、いまだ続く「忖度」「チャレンジ」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/184255
・『赤い半導体が狙う東芝技術者の闇  東芝の“企業城下町”といってもいい神奈川県川崎市――。「小向東芝町」という町名が存在するほど、歴史的に東芝と密接な関係を持っている街だ。 JR川崎駅を出てまず目に飛び込んでくるのが、東芝の工場を再開発した複合施設、ラゾーナ川崎プラザだ。野外コンサートやビアガーデンといった催しが行われる広場があり、多くの人で賑わう。 その広場を見下ろすように、東芝が入居するオフィスビルがそびえる。これは筆者の色眼鏡かもしれないが、イベントで盛り上がる広場を横目に帰宅する東芝社員の顔色は冴えない。そのコントラストが印象に残っている。 その場所からJR線路を挟んで反対側に東芝関係者が警戒する会社がある。 社名は「JYMテクノロジー」。中国の半導体メーカー、清華紫光集団傘下でNAND型フラッシュメモリを製造するYMTCの子会社だ。同社は東芝などからの技術者を引き抜く拠点となっている。 JYMテクノロジー幹部は「メモリの製造プロセス改善には日本人の地道なやり方が向いている。給料は業界で一番。韓国サムスン電子より高いよ」と話す。 JYMテクノロジーが狙うのは、フラッシュメモリ世界2位の「東芝メモリ(6月に米投資ファンド、米ベインキャピタルなどに売却済み)」の技術者だが、技術者の能力によっては東芝に残るフラッシュメモリ以外の半導体子会社、「東芝デバイス&ストレージ」からも採用する。実際、東芝デバイス&ストレージの元技術者が中国オフィスで働いているという。 JYMテクノロジーには128席分のスペースがあるが、筆者が訪れた8月時点では空席が目立った。同社幹部は「昨年末にオフィスを開設したばかり。これから採用していきますよ」と意欲を見せた。 同社の親会社、YMTCは今年、総額3兆円を投じたメモリ工場を中国湖北省で稼働させる予定で、製造を安定させることが急務となっている。日本人技術者の採用は同社の最優先事項なのだ』、そんなに近い場所に、中国系のライバル企業があり、東芝技術者を狙っているとは、東芝もさぞかしやり難いだろう。
・『「できません」が言えない風土健在、進んで隠れ残業  片や、東芝デバイス&ストレージには全く別の問題がある。 筆者は9月上旬から約1カ月間、現地で徹底取材を試みたが、同社では残業が常態化しているようで、通用門から出た社員が近所の中華料理屋などで食事をし、またオフィスに戻るのを何度も目撃した。 筆者がなぜ同社をマークしたかというと、「隠れ残業が横行している」との情報を得たからだ。 同社はパソコンの稼働状況で社員の勤務状況を管理するシステムを導入しているが、その機能をオフにして終電や深夜バスの時間まで働く技術者が多いという。 帰宅する社員への取材を続けると、実態が分かってきた。 ある管理職の技術者は「午後10時までに帰宅することが奨励されている。それ以降は、そういうこと(残業時間を申告しない、隠れ残業)はある」と認めた。 勤怠管理システムを無効にする方法も教えてくれた。パソコンのOS(基本ソフト)を米マイクロソフトの「ウィンドウズ」から「リナックス」に切り替えるのだという。なんとも技術者らしい規制のすり抜け方だ。 別の管理職社員は、「“チャレンジ文化”と言われればそうかもしれない。上司からの指示がなくても皆やっている」と明かした。 なお、隠れ残業をしていると証言したのはいずれも年俸制の管理職で、残業代の不払いとは関係がない。過重労働の有無を確認するための残業時間の申請に虚偽の可能性があるということだ。 同社は2年前に残業の実態調査を行っているが、その後、定期的な調査はしていないという。 同社幹部は、「隠れ残業など簡単にしていいとは思わないし。聞いていない」と話すが、見て見ぬふりをしていたのではないかと勘繰りたくなる』、OSを入れ替えるとは、さすが技術者集団だ。
・『制度作って魂入れずが東芝の「文化」なのか  筆者は、残業自体を否定しているわけではない。東芝デバイス&ストレージは近年、低収益に沈み、社員は減り、個人の負担が増しているのも事実だ。 問題なのは、残業を管理するために導入した勤怠管理システムや、「午後10時までに退社する」というルールが有名無実化していることだ。東芝の半導体部門は不正会計が行われていた主要職場の一つであり、とりわけルール違反をしてはいけない部門のはずだ。 15年以降の東芝の危機の原因は、指名委員会の設置や社外取締役の登用といったガバナンス改革を骨抜きにしたり、非現実的な目標を実現するため不正会計を行ったりしたことだ。そうしたが不正の温床となる風土が残っているとすれば早急に改めるべきだろう』、正論だが、それでは仕事をこなせない実態をどうするかが問題だ。
・『時代に翻弄された東芝 一体何が起きていたのか?  筆者の幼少期は東芝に囲まれていました。といっても、東芝の製品が身の回りにあふれていたというわけではありません。家の裏手に東芝の社員が多く入居する住宅地があり、そこの子供たちと遊んでいたのです。草野球仲間の過半は東芝社員の息子でした。 あるとき一つ年上の友人が「東芝の野球大会でお父さんがホームランを打った!」と自慢してきました。子供ながらに、野球大会があるとは大きな会社だな、それを家族で応援しにいくとは仲のいい会社だな、と羨ましく思ったことが記憶に残っています。 「東芝那須工場」が筆者の地元の栃木県で稼働したのは1979年のこと。筆者はその翌年に生まれました。 ご近所の東芝社員にはエリート(後に工場長に昇進)もいれば、現場の社員もいましたが、子供らは親の役職に関係なく仲良くやっていました。 いま思えば、“一億総中流”を絵に描いたような近所付き合いでした。子供だった私は遊びほうけていただけですからいい時代だったのは当然ですが、東芝那須工場にとっても右肩上がりの時代だったのです。 東芝那須工場は病院で使う検査機器を製造していました。東芝は海外メーカーが支配していたCT市場に参入し、蘭フィリップスなどを追い抜き、世界3強の一角を占めるまでになりました。 ですが、筆者から順風満帆に見えていたのは東芝の医療機器事業だけで、東芝全体では事情が違っていました。 大きな柱だった発電機器などのインフラ投資が一巡し、家電消費も頭打ちになり始めていたのです。東芝は時代に翻弄されつつありました。 時は流れ、現在、かつての東芝那須工場にはキヤノンの看板がかかっています。15年に東芝で発覚した粉飾決算後の経営危機の影響で、東芝から売却されたのです。 医療機器事業を育て上げ、当時、同事業部門トップを務めていた綱川智氏(現東芝社長)は事業売却について「娘が嫁いだ父親の気分。新たな嫁ぎ先で成長すると信じている」と悔しさをにじませました。 同時期に、東芝は家電部門も中国企業に売却し、発電危機から家電まで幅広く取り扱う“総合電機”の看板を降ろしました。 なぜ、東芝は凋落したのでしょう。リーマンショック後に、時価総額でライバルの日立製作所に差をつけられていますが、何があったのでしょうか。 本特集では、東芝と日立の関係者の証言を基に、両社の命運が分かれたターニングポイントを探究していきます』、次に紹介する記事がそれに当たるようだ。

次に、ジャーナリストの滋賀利雅氏が11月5日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「東芝は日立のようにV字回復を果たすことができるか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/184260
・『不正会計問題を経て経営再建中の東芝が、11月にも中期経営計画を発表する。果たして東芝は復活することができるのか。やはり電機メーカーで、経営危機から見事V時回復を果たした日立と比較することで、その将来を考えてみたい』、経営危機といっても、東芝と日立ではその度合いには雲泥の差があるが、それはともかくまあ読んでみよう。
・『車谷会長の下で練った中期経営計画を間もなく公表  2008年の金融危機以降、3代の社長が関与したとされる「不正会計問題」に、いまだあえぐ東芝。17年に6000億円の増資を敢行、18年2月に招聘した車谷暢昭代表執行役会長CEOの下で練りに練った中期経営計画を11月にも公表するとしている。 2015年7月に発表された第三者委員会報告によれば、不正総額は約1552億円。どん底まで失墜した信用と業績をどのように回復させるのか、その中身が注目されているが、再建策については同じ電機メーカーでコングロマリットを形成している日立が1つのサンプルとなる。 そこで、日立の再建と比較することにより、東芝の再建を占ってみることにする。 日立は2009年3月期、当期純利益が7873億円の赤字まで落ち込んだものの、その後、(1)コーポレートガバナンスの強化、(2)積極的な子会社の再編による事業改革、そして(3)意欲的な中期経営計画を進めた結果、3年後には3471億円の黒字にまで大きく回復した。この年は、タイで大洪水があっただけに、驚異的ともいえる』、なるほど。
・『社内登用は3人だけ 3人以外は全て入れ替えた日立  まずは、両社のガバナンス面から比較していくことにしよう。 2009年3月時点で、日立の取締役は12人中7人が社内取締役が占め、社外取締役のうち3人が現役の事業会社の社長・会長(当時)、外国人取締役はゼロだった。 子会社から呼び戻される形で社長に就任した川村隆氏(現東京電力ホールディングス取締役会長)は、いくつもの改革を進めると同時にガバナンス体制の再構築にも着手、取締役の構成を大胆に変更した。 それは、業績が回復した2012年3月時点と比べれば明らかだ。 (リンク先に日立の取締役の変遷の表) 川村氏は3年の間に、取締役の総数を12人から10人に減らしたのに加え、社内からの登用をわずか3人とした。しかも、3年前からの留任組は、川村氏と太田芳枝・元石川県副知事、大橋光夫・昭和電工社長の3人のみで、ほかは全て入れ替えたのだ。 これに対し東芝は、不正会計が発覚した2015年3月時点で、取締役10人中4人が社内取締役である一方、過半数を達する6人が社外取締役となっており、一定の体裁は保っていた。しかし、日立同様、海外の売り上げが大きな部分を占めていたにもかかわらず、外国人取締役はゼロだった』、確かに東芝のガバナンス改革は手緩いようだ。
・『問題顕在化後も全員留任だった東芝 車谷会長就任でも目新しさに欠ける  しかしその後、米ウェスティングハウス問題が顕在化したにもかかわらず、2017年3月時点での取締役は、原子力部門を統括し会長を務めていた志賀重範氏が退任して1人減っただけ。その他は全員留任し、外国人取締役もゼロと、何も変わらなかったのである。 そして、今年2月に三井住友フィナンシャルグループ副社長を経て、シーヴィーシー・アジア・パシフィック・ジャパンの会長を務めていた車谷暢昭氏が社長に就任してからの取締役構成も、社内昇格組2人を始めとする4人が新たに加わっただけで、目新しさに欠けている。 日立の改革を率いた川村氏は、会長を退任した2014年、日本ベル投資研究所のインタビューに対し、「会社の経営に関しては社内の人間が一番把握していると信じていたが、経営改革を実行してみると、それはかつて機関投資家に言われたことばかりであった」と明かしている。その上で、「機関投資家のマクロ観は意外に正しいので、それを尊重すべきだ」としている』、「機関投資家のマクロ観」というのは、証券会社や運用会社のアナリストの見解のことだろう。その妥当性については、賛否両論があるが、川村氏は高く評価したようだ。
・『川村氏がガバナンス面で重視した機関投資家のマクロ観  川村氏が尊重した「機関投資家のマクロ観」は、着実に人事に反映されている。 社外から、元ソニーフィナンシャルホールディングス会長の井原勝美氏を始め、米軽金属大手アルキャン社のCEOを経て、アングロ・アメリカン社のCEOを務めていたシンシア・キャロル氏、ゼネラル・エレクトリック社や3Mなどを経て、ダウ・ケミカル社のバイスチェアマン兼CCOを務めていたジョー・ハーラン氏、そしてモルガンスタンレー証券東京支店マネージングディレクター兼副会長や、UBS証券会社マネージングディレクター兼副会長などを歴任した山本高稔氏など、海外企業で豊富な経験を積んだ人材や、金融のプロをそろえている点に1つの業績改善のカギがあるともいえる。 東芝株を保有するある海外ファンドの幹部は、「グローバルで戦う企業なら、グローバルな知見を有し、海外ビジネスに精通する外国人を取締役会メンバーに招聘すべきだ」と語る。現在の東芝には、グローバルに活躍する人材はゼロだ。さらに、現在の東芝の取締役には社長の車谷氏が金融出身者である以外、金融のプロも見当たらない。 日立の川村氏は、海外から社外取締役を招聘した理由について、「日本は島国だから、つい日本における評価でもって安心してしまうのが問題だ」と語っている。 日本取締役協会が8月に公表した最新の「上場企業のコーポレートガバナンス調査」によれば、外国人株主比率が30%以上の企業は2013年に10%を超え、2018年には15.6%まで上昇している。さらに、3人以上の社外取締役を選任している企業は、東証1部上場企業の半分に近づいてきたと評価している。 だが、いわゆる“仏作って魂入れず”のような、形式論に陥ってはいないだろうか。 コーポレートガバナンス改革が進むにつれ、今後の課題として、「形式から実質への深化が重要」が挙げられている。「進む」ではなく「深み」を追求すべきだとの流れに変わってきている。 そうした時代に社外取締役を増やすだけでは意味がない。経験と知見を持った外国人や各分野のプロを引っ張ってこなければ意味がないのだ』、その通りだろう。
・『選択と集中を徹底させた日立 弥縫策に終始する東芝  東芝と日立の違いは、ガバナンス改革だけではない。その1つが、膨大な数を抱えている子会社や関連会社の整理だ。 日立は、社会インフラ関連企業を本体に取り込む、あるいはかなり近い位置に置く一方で、それ以外の企業は逆に遠ざけたり、売却したりする“選択と集中”戦略で業績を大きく回復させた。 例えば、日立プラントテクノロジー、日立情報システムズ、日立ソフトウェアエンシジニアリング、日立システムアンドサービスといった企業は完全子会社化。一方で、日立国際や日立工機などは売却している。 こうした子会社や関連会社の再編は、業績を回復させた今でも続いている。足元では、昨年、無線・半導体製造装置メーカーの日立国際電機を売却したほか、テレビの国内販売からも撤退、車載オーディオのクラリオンについても全株をフランスの自動車部品メーカーに売却する方針を明らかにしている。 これに対し東芝は、稼ぎ頭だった東芝メモリの売却で大きな議論を呼んだが、その他にも産業用コンピュータの東芝プラットフォームソリューションや、医療機器リースなどの東芝医用ファイナンス、東芝メディカルなどを売却した。 確かに、こうした企業の売却によって、まとまった規模の売却益は得ている。また、2018年3月期の有価証券報告書によれば、東芝の子会社数は389社で、1年前の446社から考えると一定の整理感はある。 また、足元では原発子会社の清算や、液化天然ガス(LNG)事業の売却なども取り沙汰されている。だが、これらはあくまで窮地をしのぐための“弥縫策”の意味合いが強く、日立が進めたような戦略的な選択と集中戦略とは似て非なるものだといえる』、確かに東芝の場合は、「選択と集中戦略」によるのではなく、益出しのためのやむを得ない売却が中心だ。
・『明確なビジョンと数値目標を掲げ冷徹と批判されても実行した日立  川村氏が主導したV字回復が一段落した2013年5月、日立は中期経営計画を打ち出した。それには、具体的なビジョンと数値目標が明示されていた。 まずビジョンについては、「イノベーション」「グローバル」と「トランスフォーメーション」の3つのキーワードを掲げた。川村氏は、これまでのしがらみや、こだわり、あるいは不要なプライドを捨て、世界スタンダードに近づき、いかに健全な財務体質を築き直すかに重点を置いたわけだ。 その結果の数値目標として、売上高10兆円、営業利益率7%超、株主に帰属する純利益(株主帰属利益)3500億円という明確な目標を掲げた。 この計画に基づいて川村氏が中西宏明社長と二人三脚で進めた改革は、メーカーとしてのこだわりを捨て、「社会インフラに徹する」との強い信念から、たとえ黒字事業でも売却するなど事業統廃合と整理を徹底させた。合理的な選択を最優先する姿勢には、社内外から冷徹と批判されることもあったが、結果が全てを物語っているといえる。 一時は、売上高で2兆円を突破していた名門企業の東芝。2014年以降は、5000億程度でおおむね横ばいで推移していたものの、2018年3月期には4000億円を割り込んだ。子会社や関連会社などの売却益によって、株主帰属利益こそ800億円に回復したものの、営業利益率は1.6%と前期から悪化している。 今年2月に開かれた決算会見で平田政善代表執行役専務CFOは、構造改革に加えて、テレビ・パソコン事業の改善などで来年度には1000億円程度の営業黒字になるとの見通しを示したが、「1000億程度では株主が納得するような投資リターンにはならない」との厳しい認識を示している。 このように見ていくと、東芝が本格的な復活を果たすまでにはまだ長い道のりが待っていると言わざるを得ない。まずは外国人や金融知識の豊富な人材活用などを中心としたガバナンスを深化させるとともに、実効性が期待できる中期経営計画が求められている』、確かに日立の事業再構築は、まさにお手本のような素晴らしいものだ。東芝の中計については、次の記事で見ていこう。

第三に、11月19日付けダイヤモンド・オンライン「東芝“新中計”は踏み込み不足、構造改革を遅らせる「内輪の論理」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/185875
・『銀行出身の新CEOの下で再建を目指す東芝が、幹部自身が「地味」と認める新中期経営計画を発表した。構造改革が踏み込み不足の上、成長分野に位置付けたIoTなどでも出遅れ感が否めず、収益力アップはおぼつかない。 4月に三井住友銀行元副頭取の車谷暢昭氏を会長兼CEO(最高経営責任者)に迎えた東芝が8日、新中計「東芝Nextプラン」を発表した。本誌が11月10日号「変われぬ東芝 変わる日立」特集で報じた通り、“地味”な内容で、事業構造を転換する最大のチャンスを逃したといえる。 車谷氏は当初、事業ポートフォリオの見直しを今後取り組む3本柱の一つに挙げ「全然違う会社に変えていくつもりでプランを作る」と意気込んでいた。 だが、ふたを開けてみれば22個あるビジネスユニット(BU)は全て存続することになった。撤退するのはBU内の一部製品のみ(赤字が続く半導体「システムLSI」の中でも、自動車向けを除く一部など)にとどまった』、「22個あるビジネスユニット(BU)は全て存続」というのには驚いた。これでは、「事業構造を転換する最大のチャンスを逃したといえる」と評されるのも当然だ。
・『しかし、東芝は抜本的な改革を避けて通れるほど余裕のある状況ではない。2018年度上期の営業利益率は0.4%と低迷(前年同期は1.9%)。5セグメントのうち二つが赤字で、今後の中核となる「インフラシステム」ですら営業利益率0.3%と超低空飛行だ。 事業別の業界シェア(下図参照)でも、4位以下が38個のうち11個もある(この図の事業区分はBUを国内外などに細分化したもの)。これらを全て存続させる価値があったのか疑問が残る。 東芝は低収益の4事業をモニタリング対象に指定し定期的に改革の進捗を評価する。 車谷氏は、「20年度までに赤字事業を撲滅し、基本的には営業利益率5%以上で(事業ポートフォリオを)構成したい」と述べたが、収益改善の期限やできなかった場合の対策については具体的に語らなかった』、東芝メモリ売却で疲れてしまったのだろうか。危機感が全く伺えない。
・『事業部が握った改革の主導権  構造改革が踏み込み不足になったのは、車谷氏が事業部の収益改善計画を真に受けてしまったからのようだ。 もちろん車谷氏は事業部が出した計画に駄目出しして、より高い水準を求めた。「できるか」と問われた事業部側は撤退・縮小を避けたいので当然「やれる」と答える。“有望技術”でもうけ話をひねり出すのはお手のものだ。ある幹部は「銀行出身の車谷氏に、技術の価値判断まで期待するのは酷だろう」と話す。 東芝では、昨年12月の増資で急増したモノ言う株主への対応が難題として浮上している。社内では、モノ言う株主対応は金融出身の車谷氏、事業改革は生え抜き役員という「餅は餅屋の役割分担」(同幹部)が確立してしまったという。 かくして、BUの枠内でもうかる分野に人材をシフトするなどして、21年度に営業利益率6%以上を目指すという「既存の枠組みありきの事業部主導の再生計画」が出来上がったわけだ。 あらゆるモノがネットにつながるIoTで先行する独シーメンスがデジタル化時代を見据え15年間で半分の事業を入れ替えたのに比べ、ダイナミックさに欠けると言わざるを得ない』、本格的な事業再構築では、改革の主導権を事業部が握るようでは覚束ない筈だ。もっと、トップダウンの姿勢が必要だった。
・『幻に終わった半導体強者連合  事業部主導では内部の論理が優先され、組織の改編まで踏み込みにくい。それを象徴するのが東芝の半導体事業だ。 同事業は、全社の利益の9割を稼いでいたNAND型フラッシュメモリ事業を売却したこともあり低収益に沈んでいるが、これまでに2度再編のチャンスがあった。 1度目は、03年以降に日立製作所や三菱電機、NECが半導体事業を統合してできたルネサスエレクトロニクスへの合流だ。 東芝は2000年代、日系電機メーカーが依然、高シェアを持っていた薄型テレビ向けの半導体に強く、それで生き残れると判断して合流を見送った。合流すればリストラは不可避だったので当然、事業部は反対した。だが、その後、「日系メーカーはテレビで韓国企業に大敗北を喫して読みは大きく外れた」(東芝関係者)。 2度目はあまり知られていないが、セイコーインスツルとの事業統合だ。 両社の競争力が高い分野(アナログ半導体やパワー半導体)を合わせて「強いメーカー」を誕生させるべく、15~17年に水面下で詰めの交渉を行った。だが、東芝側が最終決断できなかった。「強い分野を出せば、残るのは抜け殻みたいな製品。それでは本体が持たない」(同)というのが理由だった。 社外出身者の車谷氏には組織のしがらみにとらわれない大胆な改革が期待されている。しかし、8日の会見で「選択と集中は完了した」と話すなど、さらなる構造改革には慎重な姿勢を示した。 なお、新中計には全従業員の5%に当たる7000人の削減が盛り込まれた。定年退職者の自然減が中心で、早期退職を実施するのは1000人ほどになる見込みだ。 新中計の構造改革は踏み込み不足といえそうだが、成長戦略の方はどうだろうか。 東芝は5年後の23年度に売上高を11%増の4兆円、営業利益率8~10%を目指すが、注力分野は競争が激しく、ハードルは高い。 平田政善CFO(最高財務責任者)は新中計について「地味かもしれないが、手が届くレベルの計画値を設定した」と話した。 東芝は目標の実現の可能性が高い根拠として、「フラッシュメモリ(17年6月に売却)に偏り、他分野に十分に行き届いていなかった投資資金を増やし、しっかり分配すれば利益が出る」との見解を示す。今後5年間で8100億円の設備投資を計画し、うち8割を成長分野に使う(先程の図参照)。 しかし、単純比較にはなるが年平均1620億円の設備投資は競合する日立や三菱電機より少なく、売上高に対する設備投資比率は4.4%と、日立4.0%、三菱電機4.1%を若干上回る程度だ。 東芝の注力分野である自動車向けのバッテリーで競合するパナソニックは中国などの車載電池工場に巨額投資を続けており、18年度も車載・産業分野だけで東芝全体の額を上回る2410億円の設備投資を行う。 東芝が注力するバッテリーなどは決して「過剰なリスクを取らない安定した事業」ではなく、激しいシェア争奪戦が展開されているシビアな領域なのだ。 中期的な成長エンジンとして期待するIoTも競争が激しい。 シーメンスから10月に東芝に移った島田太郎コーポレートデジタル事業責任者は会見で「(東芝はIoTで)少し後発の状態にはある」と認め、IoTで稼ぐには社員の意識改革が重要になることを強調した』、これでは、先行きが思いやられるようだ。
・『鍵はチャレンジ文化の払拭  東芝にはデジタル化の前に改めるべき社内文化がある。不正会計や米国での原発建設事業の巨額損失の要因となった「できないことをできない」といえない“チャレンジ”文化や、事業部が経営計画を本気で実行しない“面従腹背”の文化だ。 車谷氏は新中計について「事業部長と何をやればどこまでできるか何度も膝を突き合わせて話して積み上げた(目標)数字だ」として、事業部がコミットしていることを強調しているが、“チャレンジ”が含まれている可能性は否定できない。 悪弊を絶ち、目標を実現する文化を取り戻せるか──、これこそが東芝再建の鍵を握る』、”チャレンジ”は東芝の悪弊のように言われるが、どこの企業でも目標を高めに設定するのが普通だ。ただ、おおざっぱに言えば、それを実現するための具体策を掘り下げるか、或は、単に”気合”で実現しようとするか、で分かれると思う。東芝の場合は後者の色彩が濃かったということだろう。それのバランスを切り替えていくのは、それほど容易ではなさそうだ。
タグ:日立の川村氏は、海外から社外取締役を招聘した理由について、「日本は島国だから、つい日本における評価でもって安心してしまうのが問題だ」 事業改革は生え抜き役員 パソコンのOS(基本ソフト)を米マイクロソフトの「ウィンドウズ」から「リナックス」に切り替える 問題顕在化後も全員留任だった東芝 選択と集中を徹底させた日立 弥縫策に終始する東芝 東芝などからの技術者を引き抜く拠点 ルネサスエレクトロニクスへの合流 その機能をオフにして終電や深夜バスの時間まで働く技術者が多いという 東芝は、不正会計が発覚した2015年3月時点で、取締役10人中4人が社内取締役である一方、過半数を達する6人が社外取締役となっており、一定の体裁は保っていた。しかし、日立同様、海外の売り上げが大きな部分を占めていたにもかかわらず、外国人取締役はゼロだった モノ言う株主対応は金融出身の車谷氏 既存の枠組みありきの事業部主導の再生計画 「東芝Nextプラン」 「東芝の病は不治か、いまだ続く「忖度」「チャレンジ」」 給料は業界で一番。韓国サムスン電子より高いよ セイコーインスツルとの事業統合 東芝問題 明確なビジョンと数値目標を掲げ冷徹と批判されても実行した日立 生き残れると判断して合流を見送った (その37)(東芝の病は不治か いまだ続く「忖度」「チャレンジ」、東芝は日立のようにV字回復を果たすことができるか、東芝“新中計”は踏み込み不足 構造改革を遅らせる「内輪の論理」) 事業部が握った改革の主導権 幻に終わった半導体強者連合 “地味”な内容で、事業構造を転換する最大のチャンスを逃した 時価総額でライバルの日立製作所に差 鍵はチャレンジ文化の払拭 川村氏がガバナンス面で重視した機関投資家のマクロ観 滋賀利雅 東芝は抜本的な改革を避けて通れるほど余裕のある状況ではない 赤い半導体が狙う東芝技術者の闇 「JYMテクノロジー」。中国の半導体メーカー、清華紫光集団傘下でNAND型フラッシュメモリを製造するYMTCの子会社だ ダイヤモンド・オンライン 隠れ残業をしていると証言したのはいずれも年俸制の管理職 餅は餅屋の役割分担 「東芝は日立のようにV字回復を果たすことができるか」 「東芝“新中計”は踏み込み不足、構造改革を遅らせる「内輪の論理」」 機関投資家のマクロ観は意外に正しいので、それを尊重すべきだ 制度作って魂入れずが東芝の「文化」なのか JR川崎駅 パソコンの稼働状況で社員の勤務状況を管理するシステムを導入 社内登用は3人だけ 3人以外は全て入れ替えた日立 日立の再建と比較することにより、東芝の再建を占ってみる 東芝側が最終決断できなかった。「強い分野を出せば、残るのは抜け殻みたいな製品。それでは本体が持たない」(同)というのが理由 22個あるビジネスユニット(BU)は全て存続 JR線路を挟んで反対側に東芝関係者が警戒する会社 “総合電機”の看板を降ろしました 取締役の総数を12人から10人に減らしたのに加え、社内からの登用をわずか3人とした
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日産ゴーン不正問題(その1)(ルノー・日産・三菱連合は崩壊に向かう公算大 検察を巻き込んだクーデターで日産が狙うルノー離れ、ゴーン追放も納得!謀略とリークの「日産クーデター史」、仏ルノー取締役会 日産にゴーン会長解任先送り要請、ゴーンを“追放”した西川社長の誤算 日産立件で総退陣浮上) [企業経営]

今日は、日産ゴーン不正問題(その1)(ルノー・日産・三菱連合は崩壊に向かう公算大 検察を巻き込んだクーデターで日産が狙うルノー離れ、ゴーン追放も納得!謀略とリークの「日産クーデター史」、仏ルノー取締役会 日産にゴーン会長解任先送り要請、ゴーンを“追放”した西川社長の誤算 日産立件で総退陣浮上)を取上げよう。まだ事実関係も明確でない点も多いので、もう少し待とうかと思ったが、このブログにも日産で検索する人も多いようなので、現時点で参考になるものをまとめた。なお、このブログで関連したものは、4月27日「日産・ルノーVS仏政府」である。

先ずは、ジャーナリストの須田 慎一郎氏が11月22日付けJBPressに寄稿した「ルノー・日産・三菱連合は崩壊に向かう公算大 検察を巻き込んだクーデターで日産が狙うルノー離れ」を紹介しよう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54749
・『11月19日の月曜日。日産のカルロス・ゴーン会長と、グレッグ・ケリー代表取締役が東京地検特捜部によって逮捕された。速報を見た瞬間、「まさか、何かの間違いでは」と思ったほど、寝耳に水の逮捕劇だった。 ただ、逮捕日直前の週末くらいから、東京地検に妙な動きがあるという情報はキャッチしていた。地方から続々と応援部隊が集結しているというのだ。こういうときにはただでさえ口の堅い検察関係者も一層堅く口を閉じ、内部から情報が漏れてくることはまずない。「近々、何か大きな案件に取り掛かろうとしているのか」と推測はしていたが、その矛先がまさか日産に向いていたとは想像していなかった』、確かに検察の情報管理はとりわけ厳格だったのだろう。
・『針の穴に糸を通すような立件手法  カルロス・ゴーンとグレッグ・ケリー。百戦錬磨の経営者と弁護士出身のビジネスエリートである2人に、一切の動きを悟られないように、東京地検特捜部は相当慎重な捜査と内部調査を重ねてきたのだろう。 逮捕のタイミングもそのことをよく表している。海外に出ていた2人が、月曜日にプライベートジェットで帰国したところを見計らって地検が接触し、事情を聞くという段取りを踏んでいる。ゴーン、ケリー両氏に悟られないようにすることを何よりも最優先させた捜査だったと言えるだろう。 ただし、立件の仕方を見ていると、針の穴に糸を通すような、かなり難しいやり方をしている。 今回、ゴーン氏らの行為で問題視されているのは所得の過少申告だ。過少申告なら本来は所得税法違反、つまり「脱税」で立件するのが一番オーソドックスなやり方だ。だが、最初の段階でそれはできなかった。というのも今回の件については、国税が先に動いて検察が受けたという案件ではない。入り口から逮捕まで特捜部主導でやっている。日産社内からの内部告発を受けて、日産サイドの全面協力を得て情報を提供してもらって特捜部が立件したわけだ。 その過程の中で司法取引が行われ、実際に「所得隠し」の実務を担当した日産社内の社員・役員に関しては、刑事的責任を問わないということを前提に情報を出してもらってきた。 その捜査の中で、最も確実に立件でき、事件の入り口として最も適当だと判断されたのが、有価証券報告書虚偽記載という「金融商品取引法違反」だったのだろう』、「金融商品取引法違反」という形式犯罪でやった意味が理解できた。
・『もちろんこれは全くの“別件逮捕”というわけではないが、あくまでも形式的な犯罪だ。 つまり、もしも「意図的に所得を隠していた」ということであれば「脱税」による所得税法違反だし、「本来受け取るべきでない報酬であるにも関わらず受け取った」ということであれば、会社に損害を与えたということで「特別背任」による商法違反も成り立つ。場合によっては「横領」という形にもなる。 いずれにしても本来なら、脱税や特別背任、横領などを問うべき案件なのだが、今回東京地検は、「まずはやり易い金商法違反でとりあえず身柄を確保し、取り調べをしかりやって解明していこう」という方針を立てて、形式犯のところから入ったのだ。 全容解明のためには、今後の捜査で「本人たちがどの程度の意識をもってやったのか」というところをどこまで詰められるかが焦点になる』、どこまで本格的な罪状で問えるか、大いに見物だ。
・『ゴーン氏の刑事責任を追及せざるを得なかった事情  逮捕容疑の中身をもう少し詳しく見てみよう。 ゴーン氏の報酬として総計でおよそ50憶円、有価証券報告書で過少に記載されていた、ということであるのだが、報道を見て、もしかしたら一般の新聞読者やテレビの視聴者の中には、キャッシュ、あるいはキャッシュに近い株券や債券がゴーン氏の懐に入ったと思っている人もいるかもしれない。 そうではない。日産が、オランダに設立した子会社に投資資金として回ってきたお金を使って、事実上、ゴーン氏専用の邸宅を、レバノン、ブラジル、オランダ、フランスの4か所で購入していて、それをもっぱらゴーン会長及びそのファミリーが利用していた。日産の金でゴーン会長の邸宅を買ったわけだから、事実上、ゴーン会長に対する形を変えた報酬ということになる。 報道ベースではまだ判然としていないが、これらの物件の所有者が誰になっているのかも一つの焦点になる。日産の金で購入した邸宅をゴーン氏にあげたということになれば、その購入額が丸ごと報酬になる。あるいは物件の所有名義が日産になっていれば、利用した期間に応じ、本来払うべきだった賃料の合計が報酬となる。 いずれにしても、購入資金なのか賃料なのか、その合計がマックスで50億円ほどになるということだ。その額が有価証券報告書に記載されていなかったということであり、ゴーン氏の懐や銀行口座に50憶円ほどのキャッシュが転がり込んだ、というわけではない。 そういった意味では、日産側の「被害額」はまだ正確には確定していないと言える。脱税は金額の確定がないと立件できない。特別背任も、会社が被った損害額が確定しないと立件できない。横領も同様だ。つまりいずれにしてもそうした犯罪を立件するためには金額の確定が必要となってくる。それゆえに入り口の段階では、その種の犯罪を逮捕容疑にするのは難しかったのだろう。 ところが有価証券報告書の虚偽記載は、記載された内容に間違いがあったら立件できる。だから特捜部はここを入り口に定めたのだ。 先ほど、「針の穴に糸を通すような立件の仕方だ」と書いたのはそのためだ。ゴーン氏が会社を私物化したことはまず間違いないので「無理筋な事件だ」とは言わないが、少々危うい罪の問い方をしているのは間違いない。 そうまでしてゴーン会長の刑事責任を追及しなければならなかった理由が日産、あるいは東京地検にはあるはずだ』、なるほど「針の穴に糸を通すような立件の仕方だ」の意味が理解できた。
・『ルノー・日産・三菱連合は崩壊へ!?  恐らく日産の経営陣の多くは、ルノーによる日産統合を画策している上、会社の私物化・専横が目に余るようになったゴーン氏を何とか排除したいと考えていた。しかし、取締役会で解任動議を提案するという「クーデター」を起こしても、仮に万一それが成功しても、何らかの逆襲を食らう恐れもあった。そこで、ウルトラCを狙って、捜査当局の協力を仰いでゴーン排除に動いたというのが今回の一件の本質ではないかと筆者は睨んでいる。言うなれば、特捜部を巻き込んだクーデター劇だ。 もちろんゴーン氏側に何も問題がなければ検察が動くこともなかったろうが、「会社私物化」の明確な証拠がそこにあった。検察としても、日産側に協力する大義名分が立つという判断が下されたのだろう。 今後の捜査についても触れておこう。入り口としては金融商品取引法違反から行くにしても、いずれは脱税、あるいは特別背任、横領というところでの立件を目指していくはずだ。 これまでのセオリーを踏まえて予測するならば、金融商品取引法違反で捜査をし、次に特別背任あるいは横領について捜査し、そこで不正に得た報酬の金額が確定できれば、「それは報酬に当たるのだから本来は納税しなければならなかった。あなたは脱税しています」ということで、最後は脱税事件として立件することになるだろう。 本来の目的ではない形で子会社が使われた、会社のお金が半ば私物化された、その状況を隠蔽しようとしてグレッグ・ケリーが日産社員に強い指示を与えていた、ということがこれまで報道されている。これらが事実認定されれば、恐らく裁判官の心証は真っ黒になる。ゴーン、ケリーの両氏が刑事罰を免れることは、現時点では極めて難しいと言わざるを得ない』、なるほど。
・『残された最大の問題は、ルノーと日産の関係がどうなって行くか、だ。ルノー、日産、三菱自動車のような企業連合の場合、普通だったら持ち株会社を設立し、その下に3社がぶら下がるという形をとることが多い。持ち株会社が、傘下企業間のアライアンスや経営資源の適正配分、事業再編のハンドリングをするほうが効率的だからだ。 ところがルノー・日産・三菱自動車の3社連合では、そういった組織的な司令塔がない。人的な司令塔としてゴーン氏が3社の会長を兼ねるという形で束ねていた。「ルノー・日産・三菱アライアンス」というパートナーシップもあるが、これとて代表はゴーン氏だ。つまり3社連合はゴーン氏が一人でまとめ上げていた連合体なのだ。 その人物が逮捕され、経営の表舞台から消えてしまった。新たに3社の会長を兼務するような人物が出てくるだろうか。その可能性は極めて低いと言わざるを得ない。 ルノーは日産の大株主であるから、「ルノーから新しい会長を派遣します」という申し出があるかもしれないが、経営規模ではルノーを上回る日産が、唯々諾々とルノーの要求に応えるとも思えない。3社連合は瓦解の方向に向かう可能性高いと思う。 果たして日産の西川廣人社長はルノーとどう渡り合うのか。クーデター劇の第二幕はもう始まっている』、第二幕の展開を注目したい。

次に、ノンフィクションライターの窪田順生氏が11月22日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「ゴーン追放も納得!謀略とリークの「日産クーデター史」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/186136
『瞬く間に世界を駆け巡った「ゴーン逮捕」の一報。記者会見で西川廣人社長はクーデターを否定したが、日産の過去の歴史をひもとけば、相次ぐクーデターはもちろん、会社から金をむしりとって豪遊し、世間を騒がせた労組会長など、ゴーン氏を彷彿とさせる人物も登場する。これが日産のカルチャーなのである』、「日産クーデター史」とはどんなものだったのだろう。
・『クーデター説から元妻刺客説まで ゴーン逮捕で情報飛び交う  こりゃどう見てもクーデターだろ、と感じている方も多いのではないか。 日本のみならず、世界的にも大きな注目を集める「ゴーン逮捕」。連日のように、逮捕前にゴーン氏がルノーとの経営統合を検討していたとか、日産幹部が捜査当局と司法取引をしていたとか報じられるなど、組織ぐるみの「ゴーン追放」を補強する材料が続々と飛び出している。 自動車業界で綿密な取材をすることで知られるジャーナリストの井上久男氏をはじめ、日産社内に多くの情報ソースを有する人々からも同様の見立てが相次いでいる。そこに加えて、ここにきて元検事の方などからは、「別れた元妻」が刺したのではという憶測も出てきている。 権力者のスキャンダルや不正行為の多くは、敵対する勢力より、「身内」からリークされる。離婚の訴訟費用が日産から出ていたという話もあるので、「ゴーン憎し」の元妻と、「ゴーン追放」を目論む幹部の利害が一致して「共闘」をしたのでは、というわけだ。 一方で、これらのストーリー自体が、ゴーンやルノー側の「スピンコントロール」(情報操作)である可能性も全くのゼロではない。 ご存じのように、不正やインチキが発覚した経営者が潔白を訴える場合、「私を貶めるためのデマだ」などと主張するのがお約束である』、多面的に検証していくスタイルは私の好みにマッチしている。
・『筆者も記者時代、そのように解任された元・経営者の方たちから、「ハメられた」「裏切られた」というような訴えをよく聞かされて辟易した思い出がある。いつの時代も「クーデター説」は権力闘争時に飛び交う定番コンテンツなのだ。 今後、もしゴーン氏が潔白を主張する場合も、日産をルノーから守るための「国策捜査」だとか、日本人経営陣らにハメられたというストーリーがもっとも適しているのは言うまでもない。つまり、「クーデター」の既成事実化は、図らずもゴーン氏へのナイスアシストとなってしまうのだ』、なるほど、深い読みだ。
・『ゴーン体制誕生のきっかけも「クーデター」だった  事実、たった1人で1時間半の会見を乗り切って男を上げたといわれる、西川廣人・日産社長も「不正が内部通報で見つかり、そこを除去するのがポイント。クーデターではない」と断言するなど、あくまでゴーン氏は不正によってパージされたというスタンスを崩さない。 だが、日産という組織のカルチャーに鑑みると、こういうことを声高に主張されてもあまり説得力がない。自動車業界の方なら周知の事実だが、この会社の歴史は、クーデターの歴史といっても過言ではないからだ。 まず、記憶に新しいところから振り返ると、昨年発覚した「完成車検査不正問題」がある。 先ほどの井上氏も指摘しているが、これはゴーン氏ら経営陣が品質検査部門をリストラしたことに対する意趣返しとして、社内の不満分子が国土交通省に通報したことが発端だといわれている。不正自体は以前から行われていたのに、西川氏の社長就任から程なくというタイミングでリークされたということは、「西川おろし」を掲げたクーデター未遂事件といってもいい』、「完成車検査不正問題」の背景が初めて理解できた。
・『今でこそ「権力の集中」と叩かれるゴーン体制だが、そもそもたどっていくと、これを生み出したのもクーデターだった。 1999年、経営難に陥った日産を立て直そうとダイムラークライスラーやフォードも巻き込んだ外資交渉を進め、最終的にはゴーン氏をはじめ、ルノーから3人の幹部を役員として迎え入れたのは当時の社長、塙義一氏なのだが、実はこのルノー傘下入りは、相談役である歴代社長らに事前の相談もなく決められた。そのため、「ある種のクーデターといってもいい」(日経産業新聞1999年6月28日)と評されたのだ』、「歴代社長らに事前の相談もなく決められた」というのは、経営難に責任がある人間に相談する必要はないとも考えられるので、これをクーデターとするのには違和感を感じる。
・『また、経営危機を招いた要因のひとつが、戦後からこじれにこじれた労使関係だといわれているが、ここでも社会主義国家を彷彿とさせるような劇的なクーデターが起きている。 日産中興の祖として知られ、1957年から16年という長期間、トップに君臨した川又克二氏の「労使協調路線」によって絶大な権力を握ったのが、日産グループ労組である「自動車労連」の塩路一郎会長である。 ゴーン氏とソックリ!強権×銭ゲバだった労組会長  塩路氏は、川又社長との蜜月関係を武器にして、人事、新車開発、国際戦略という経営にも介入し、塩路氏が首を縦に振らない限り何も進められないというほどの権力を手中に収め、社内で「塩路天皇」などと恐れられるほどになっていたのだ。 だが、そんな「労組のドン」が強烈な“紙爆弾”に見舞われる。 1984年1月に発売された写真週刊誌『フォーカス』(新潮社)の「日産労組『塩路天皇』の道楽―英国進出を脅かす『ヨットの女』」というタイトルで、その豪勢な暮らしぶりと、若い美女とヨット遊びに興じる写真が掲載されたのだ。 当時の写真週刊誌の影響力は絶大で、今とは比べ物にならないほどパンチがあった。後に高杉良氏の小説「労働貴族」でも描かれた強権と豪遊ぶりは、世間からボコボコに叩かれた。 そして1986年2月22日、塩路会長は日産労組によって退陣要求決議を突きつけられ、「労働界から引退する」と表明するように追い込まれたのである。 この事件は「2・22クーデター」(日本経済新聞1986年3月17日)と呼ばれたのだが、実はこれを背後で仕掛けたのが、川又氏の後に社長に就任し、英国進出などグローバル経営へ舵を切ったことで、塩路会長と激しく対立していた石原俊社長だといわれている。 もちろん、日産はオフィシャルには、このような黒歴史を一切認めていないが、組織内で誰もが顔色をうかがうほどの強権を握り、常軌を逸したレベルで富をむさぼった挙句、内部リークによって引退に追い込まれる、という点では、ゴーン氏の追放劇と丸かぶりなのだ』、塩路会長が失脚した経緯は忘れていたので、記憶を呼び醒まされた。
・『さらに、もっと過去へと遡っていけば、「労働貴族」を追放した石原社長も、かつてはクーデターの憂き目にあっている。 石原氏がまだ常務だった1969年、「日産エコー事故」というのが世間を騒がせた。高速道路で、エコーというマイクロバスの横転事故が立て続けに発生。それがシャフトの「欠陥」によるものだということが明らかになって、東京地検も捜査に動いたが、最終的には不起訴とされた。 組織に染み付いた「体質」は簡単には変わらない その騒動の最中、「朝日新聞」にこんなスクープが掲載された。『「日産エコー事故」社内から(秘)通報 対策決め九ヶ月放置 東京地検に“警笛”1号 上層部も追求へ』・・・実は、事故の9ヵ月前、「配布先」として石原氏ら上層部の名前が記された、エコーの欠陥の原因と対策を決定した社内資料が存在していた。それが、「日産関係者」から東京地検特捜部検事の元へ持ち込まれたというのだ。 当時はまだ、マスコミと検察がズブズブでも何の問題もない時代だったので、検事に持ち込まれたはずの内部資料は新聞の一面にドーンと大きく掲載された。誰が見ても、上層部の一掃を狙ったクーデターであることは明らかだった』、「マスコミと検察がズブズブ」というのは昔だけでなく、現在も多少残っているような気がする。
・『表沙汰になっているだけでも、これだけのクーデターや、クーデター未遂がある。誰かが権力を握ると、誰かが背中を刺し、誰かに権力が集中すると、その人間の悪い話を捜査機関やメディアに持ち込むということが、この40年間、延々と繰り返されているのだ。 確かに、不祥事が起きたらそれをネタに経営陣を引きずりおろすとか、暴君をみんなで協力して追放するなどということは、どこの会社でも起きることだが、日産がかなりレアなのは、会社の進むべき道が大きく変わるような重要なタイミングで、必ずといっていいほど「クーデター」が起きているということだ。 先ほど述べた、日産の歴史はクーデターの歴史というのが決して大袈裟な話ではないことが、わかっていただけたのではないだろうか。 そう聞いても、「過去にクーデターが多いからといって、今回のゴーンもそうとは限らないだろ」という反論もあるかもしれないが、長く不祥事企業のアドバイスをしてきた立場から言わせていただくと、組織内で一度染み付いた「クーデター体質」というものは、なかなか変えることができない。 同じような隠蔽を繰り返した三菱自動車、データ改ざんが何十年も現場で脈々と受け継がれていた神戸製鋼を例に出すまでもなく、「組織カルチャー」というものは、ちょっとやそっとでは変わらない』、その通りだと思う。
・『容疑段階で「ゴーン批判」全開 西川社長会見の異常さ  パワハラ上司に鍛えられた新人が、上司になると自然と部下にパワハラをしてしまうように、大企業という巨大コミュニティ内のカルチャーや価値観というのは、世代を超えて受け継がれるものなのだ。 例えば今から10年くらい前、ちょっとした不祥事に見舞われた、ある企業から相談を受けたことがある。その時、社員の皆さんが社長に言いたいことを言えない、どこか恐れているような印象を受けた。実際、不祥事というのも、社内の風通しの悪さが招いたものだった。 その会社を最近、久しぶりに訪れた。社長も代替わりしていて、すごくフランクな人になっていたにもかかわらず、その社長さんは「うちの社員は大人しくて、なかなか意見を言わない」などと愚痴っていた。 社会の荒波に揉まれている大人の皆さんならば身に染みていると思うが、人間の性格というのはなかなか変わらない。頑固な人はどこまで行っても頑固だし、いい加減な人は「心を改めました」と宣言しても、やっぱりいい加減だったりする。 そんな人間の集合体である「法人」の性格というのも、なかなか変わらないのである。 過去にこれだけ血みどろのクーデターを繰り広げて、ここまで成長した日産という法人が、外国人経営者が入ったくらいで、ガラリと性格が変わる、と考える方がおかしいのだ。 今回の会見で、まだ容疑段階であるにもかかわらず、激しい「ゴーン批判」を繰り広げた西川社長を、ネットでは「男らしい」ともてはやしている。確かに、もの言いがはっきりしているのは悪いことではないが、企業の危機管理的にはかなり型破りだ。いや、「異常」といっていい。 「逮捕=有罪」ではない。いくら不正をしていた証拠を掴んだにしても、司法の判断はこれからなのに、企業が元経営者をここまで激しく批判するのはかなり珍しい。 東京地検特捜部は極めて国策色の強い捜査機関である、ということを踏まえれば、グローバル企業である日産からすれば、もっと慎重なもの言いもできたはずだ。しかも、攻撃相手は一役員ではなく、かつてこの企業の全権を握っていた人物で、西川氏は長く側近として仕えた。自分たちにも延焼しかねない話であるにも関わらず、自信たっぷりに悪者をゴーンだけに限定できるのは、よほど何か大きな「保険」があるとしか思えない』、特捜部との司法取引以外でも「保険」があるのだろうか。
・『西川社長の上司はクーデターを生き抜いた人物  では、そんなダイナミックな危機管理をした西川社長とはどんな人物か。 日産のホームページにある略歴は、1977年に入社の次は、1998年に欧州日産会社となっている。入社後21年間、40代前半までのキャリアの詳細はわからない。ビジネス誌のインタビューでは長く購買畑を歩んできたと記されているが、実は秘書の経験もあることはあまり知られていない。 1992年に社長に就任した辻義文氏の社長・会長時代に秘書を務めたとして、「日本経済新聞」(2007年3月9日)で、在りし日の辻氏の思い出を語っていらっしゃる。 辻氏といえば、「労働貴族」へのクーデターを仕掛けた石原氏の拡大路線を引き継いだ久米豊社長からバトンを受け継ぎ、日本の製造業の縮小均衡の先鞭をつけたといわれる「座間工場閉鎖」を断行したことでも知られている。 また、辻氏が4年の社長在任を経て後を託した塙社長は、先ほども触れたように、ルノー傘下入りというクーデターを仕掛けている。 秘書として、クーデターを生き抜いてきた日産経営陣を間近に見てきた西川氏が、社長になって程なくして、「ゴーン追放」という新たなクーデターで渦中の人となる、というのも何かの巡り合わせのような気がしてならない。 「まわる、まわるよ、時代はまわる」という歌があったが、これまで見てきたように、日産のクーデターもぐるぐると因果がまわっている。 過去に学べば、ゴーン追放は次なるクーデターの号砲になる可能性は高い。日産の内部には、こうしている今も、「次に刺されるのは俺かも」と震えている人がいるのではないか』、クーデター体質でまとめたこの記事は、なかなか面白かった。

第三に、11月23日付けロイター「仏ルノー取締役会、日産にゴーン会長解任先送り要請=関係筋」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/nissan-ghosn-renault-idJPKCN1NR27K?feedType=RSS&feedName=topNews&utm_source=Sailthru&utm_medium=email&utm_campaign=Weekday%20Newsletter%20%282018%29%202018-11-23&utm_term=NEW:%20JP%20Daily%20Mail
・『日産自動車、ルノー、三菱自動車3社の会長を兼務してきたカルロス・ゴーン容疑者が22日の日産の臨時取締役会で、同社の会長職と取締役の代表権を解かれた。ルノーは解任決議の延期を求めていたとされ、早くも日産とルノーの間に溝が生じている。 かじ取り役を失った3社の連合(アライアンス)のあり方がどのように変化するのか。その前途には不透明な霧が立ち込めている』、ルノーが解任決議の延期を求めていたとは初耳だが、それを押し切ったとは日産の決意には並々ならぬものがあったのだろう。
・『ルノーの解任決議の延期要請を無視  金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕されたゴーン容疑者の会長と取締役の代表権はく奪が提案された臨時取締役会は、横浜市の日産本社で22日午後4時半から始まった。この日の議論は、午後8時半まで約4時間に及んだ。 関係者によると、臨時取締役会前にルノーは、日産に解任決議の延期を強く求めていた。しかし、日産は全会一致による解任に持ち込んだ。4時間のうち、「相当な時間を割き、(ゴーン容疑者逮捕に至った)内部調査の結果が丁寧に説明された」(別の関係者)といい、ルノー出身の2人も賛成せざるを得なかったもようだ。 後任の会長は今回決めず、暫定的な会長も置かなかった。選出の透明性や独立性を保つため、社外取締役3人からなる委員会(委員長:豊田正和氏)が新たに設けられ、現取締役の中から候補を提案することにした。  投資資金や経費の私的流用も発覚し、会社を私物化していた実態が明らかになったゴーン容疑者。日産幹部の1人は「日産のステークホルダー全員に対する裏切り行為。絶対に許されない。解任は妥当」と話す。ただ、これまでの3社連合は、ゴーン容疑者の「鶴の一声」で意思決定されてきただけに、今後は意見がまとまらず、「時間がかかるのでは」と懸念する。  三菱自関係者は「ゴーン氏は経営者としては非常に優れているし、日産と三菱自が対立した時も、三菱自の意見を尊重してくれた」と、その存在感の大きさに言及している』、「ルノー出身の2人も賛成せざるを得なかったもようだ」というのでは、2人はルノー本社からさぞや油を搾られることだろう。
・『日産とルノー、深まる溝  日産の親会社であるルノーは、20日の臨時取締役会で、ティエリー・ボロレ最高執行責任者(COO)を暫定トップとし、ゴーン容疑者の会長兼最高経営責任者(CEO)の解任は見送った。「解任するのに十分な情報や証拠がない」。ルノーの筆頭株主で15%を出資するフランス政府のこうした意向をくみ、疑惑の詳細が判明するまで先送りした。  フランス政府はもともと、ルノーの日産に対する影響力を強めたい意向があり、近年はゴーン会長の退任後を見据え、連合が解体しないよう不可逆的な関係構築を目指していた。一方、日産は対等な関係や経営の独立性維持を求め続けており、真っ向から異なる。 ゴーン容疑者の処遇も、ルノーは「見送り」。一方、同社が決議延期を求めたにもかかわらず、日産はこれを受け入れず「解任」。日産とルノー、フランス政府の溝はさらに深まる恐れがある』、今日のNHKニュースでは、万博の開催地を決める会合に出席するためにパリを訪れている世耕経産相は、フランスのルメール経済相と会談し、ルノー・日産提携関係を強力に支援することを再確認したようだ。
・『「より対等な関係」を模索したい日産  検討を続けてきた日産とルノーの資本関係見直しも、さらに混迷を極めそうだ。現在の資本構成は、ルノーが日産に43.4%、日産はルノーに15%を出資する。ただ、ルノーは日産に対し議決権を持つが、日産はルノーに対して議決権を行使できないといういびつなものだ。  両社の資本関係は、1999年に経営危機に陥った日産をルノーが救済したことに始まるが、現在は立場が逆転し、ルノーを日産が支えている。ルノーの2017年度の純利益の約半分は、日産の業績が寄与する持分法投資利益からきている。  約20年もトップに君臨しながら、ゴーン容疑者は長年続いていた一連の完成検査不正で批判の矢面に立たず、役員報酬も自ら決めていた。3社間のあらゆる機能の共通化でも、ゴーン容疑者の息のかかったルノー出身者が責任者を務めるなど「役員選出も彼の思い通りだった」と三菱自関係者は振り返る。  別の日産幹部は「それぞれがより独立した形で、ウィン・ウィンの関係という原点に戻るべきでは」と指摘。ルノーが日産に対する出資比率を下げるなど「より対等な関係」を模索していくことを示唆した。  日産は15年、経営の独立性を担保する合意をルノーからとりつけているが、日産が15%から25%までルノーへの出資比率を高めれば、日本の会社法によりルノーが持つ日産株の議決権は消える』、「より対等な関係」は望ましいとしても、支配力を強めたいフランスはおいそれと同意しないだろう。
・『切っても切れない関係  日産とルノーの両社はこれまで車種ごとの設計・部品の共通化、14年4月からは研究・開発、生産・物流、購買、人事の4機能の統合を進めてきた。100年に1度といわれる変革期を乗り越えるため、電気自動車や自動運転などの次世代技術でも共通化を進めており、3社は今や切っても切れない関係にある。  日産は22日、ルノーとのパートナーシップは不変であることも確認したと表明した。自動車調査会社カノラマの宮尾健アナリストは、日産が単独で生きていくのは厳しいとしつつ、連合の運営や資本関係の見直しなどで「相当もめるのでは」とみている。また、フランス政府の思惑から日産が離れていく場合、フランス政府が「何かしら手を打ってくるのでは」と予測する。 ゴーン容疑者は自らの晩節を汚しただけでなく、3社連合の未来にも大きな影を落とした。同業他社の幹部は、3社連合に漂う緊張関係を他山の石とし、こう指摘している。「資本を出し合うことが連合ではない。気持ちが一致していなければ何をやってもダメだ」――』、その通りだろう。

第四に、11月23日付け日刊ゲンダイ「ゴーンを“追放”した西川社長の誤算 日産立件で総退陣浮上」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/242205/1
・『「ゴーン・ショック」は当分、収束しそうにない。日産自動車のカルロス・ゴーン容疑者が逮捕された19日の会見で、「執行部体制に影響はない」と断言した西川広人社長。今後、第三者委員会を立ち上げ、日産の新体制を発足させると口にしていたが、新たな問題が浮上。東京地検特捜部が法人としての日産を立件するというのだ。 ゴーンは、金融商品取引法違反(有価証券報告書への虚偽記載)容疑でパクられた。当初、「司法取引」が行われ、日産本体は「お咎めなし」とみられたが、特捜部は、虚偽記載が長年にわたって行われてきた背景として、法人の責任を重視。法人も罰する「両罰規定」を適用する方針だ。元特捜部検事の若狭勝弁護士がこう言う。「金融商品取引法の両罰規定によって、法人は7億円以下の罰金が科されます。社員が不正を犯した場合、法人も処罰されるのは自然なことなので、別に驚く話ではありません。ただ、日産側は、特捜部の捜査に協力してきたため、罰金額はある程度、減額されると考えられます」 日産本体が立件されれば、当然、現執行部も無傷では済まない。ゴーンの“独裁”を許してきた西川社長の進退が問われるのは間違いない』、今回は日産側が司法取引を条件に持ち込んだ事件だ。「両罰規定」があるからといっても、「法人も処罰される」、「現執行部も無傷では済まない」というのは本当だろうか。いささか違和感がある。
・『西川社長は会見で、「1人に権限が集中しすぎた」「長年における(ゴーンの)統治の負の側面と言わざるを得ない」などと、全責任をゴーンにおっかぶせるような発言を連発。社長としての責任については「私がどういう立ち位置で何ができたか考えないといけない」とお茶を濁した。 「西川社長は、会見でゴーン氏の逮捕について『クーデターではない』と言っていましたが、果たしてどうでしょうか。特捜部は社内の状況や資金について、西川社長から任意で聴取していたといいます。西川社長は、法人として捜査に全面的に協力していた。恐らく本人は、独裁者のゴーンを追放し、自分たちは『司法取引』によって『お咎めなし』になると計算していたはず。それが、法人も立件となりそうで、慌てているはずです」(経済担当記者) ルノー本社があるフランスでは、西川社長らによる“クーデター説”がもっぱらだ。実際、仏ルモンド紙(電子版)は、<ルノー経営陣から日本側の「クーデター」だという声が出ている>と解説。地元経済紙「レゼコー」は、西川社長が<目をかけてくれたゴーン氏を公共の場で引きずり降ろした>として、古代ローマのカエサルを殺害した「ブルータス」になぞらえて報じた。 西川社長からすれば、法人が立件されるのは大誤算だろう。 「証券取引等監視委員会は数年前から、ゴーン氏の不正な投資について、日産側に是正するよう伝えていた。日産はゴーン氏に何度も是正を促したが突っぱねられたといいます。いずれにしろ、日産が不正の事実を前々から知っていたということには変わりありません。ある意味、長年にわたってゴーン氏の不正を“見過ごし”てきたことになるわけです。それに加え、法人も立件されるとなると、西川社長ら現執行部は責任を取らざるを得なくなるでしょう」(経済ジャーナリストの松崎隆司氏) 日産は、ゴーンらを取締役から外すため、来年6月の株主総会を前倒しし、臨時招集することを検討しているという。今度は、西川社長が“カエサル”になるかもしれない』、この記事は違和感を感じたが、こうした見方もあることをあえて紹介したものである。
タグ:「金融商品取引法違反」 「ゴーン追放も納得!謀略とリークの「日産クーデター史」」 司法取引 これらのストーリー自体が、ゴーンやルノー側の「スピンコントロール」(情報操作)である可能性も全くのゼロではない 少々危うい罪の問い方をしているのは間違いない 須田 慎一郎 日産サイドの全面協力を得て情報を提供してもらって特捜部が立件 容疑段階で「ゴーン批判」全開 西川社長会見の異常さ 切っても切れない関係 日刊ゲンダイ 「より対等な関係」を模索したい日産 世耕経産相はパリでフランスのルメール経済相と会談し、ルノー・日産提携関係を強力に支援することを再確認 ルノー出身の2人も賛成せざるを得なかったもようだ 日産とルノー、深まる溝 ルノーの解任決議の延期要請を無視 「仏ルノー取締役会、日産にゴーン会長解任先送り要請=関係筋」 西川社長の上司はクーデターを生き抜いた人物 よほど何か大きな「保険」があるとしか思えない 組織内で一度染み付いた「クーデター体質」というものは、なかなか変えることができない ロイター 日産の歴史はクーデターの歴史 マスコミと検察がズブズブ 日産エコー事故 塩路会長は日産労組によって退陣要求決議を突きつけられ、「労働界から引退する」と表明 塩路氏は、川又社長との蜜月関係を武器にして、人事、新車開発、国際戦略という経営にも介入し、塩路氏が首を縦に振らない限り何も進められないというほどの権力を手中に収め、社内で「塩路天皇」などと恐れられるほどになっていた 川又克二氏の「労使協調路線」によって絶大な権力を握ったのが、日産グループ労組である「自動車労連」の塩路一郎会長 ルノー傘下入りは、相談役である歴代社長らに事前の相談もなく決められた 塙義一 「クーデター」の既成事実化は、図らずもゴーン氏へのナイスアシストとなってしまうのだ 「完成車検査不正問題」 ゴーン氏ら経営陣が品質検査部門をリストラしたことに対する意趣返しとして、社内の不満分子が国土交通省に通報 ゴーン体制誕生のきっかけも「クーデター」だった いつの時代も「クーデター説」は権力闘争時に飛び交う定番コンテンツ 組織ぐるみの「ゴーン追放」を補強する材料 日産幹部が捜査当局と司法取引をしていた 逮捕前にゴーン氏がルノーとの経営統合を検討 ダイヤモンド・オンライン 窪田順生 JBPRESS 経営規模ではルノーを上回る日産が、唯々諾々とルノーの要求に応えるとも思えない 組織的な司令塔がない。人的な司令塔としてゴーン氏が3社の会長を兼ねるという形で束ねていた 残された最大の問題は、ルノーと日産の関係がどうなって行くか 捜査当局の協力を仰いでゴーン排除に動いたというのが今回の一件の本質ではないか ルノー・日産・三菱連合は崩壊へ!? 購入資金なのか賃料なのか、その合計がマックスで50億円ほどになる ゴーン氏の報酬として総計でおよそ50憶円、有価証券報告書で過少に記載 「横領」 「特別背任」による商法違反 「脱税」による所得税法違反 最も確実に立件でき、事件の入り口として最も適当だと判断 日産ゴーン不正問題 針の穴に糸を通すような立件手法 東京地検特捜部 「ルノー・日産・三菱連合は崩壊に向かう公算大 検察を巻き込んだクーデターで日産が狙うルノー離れ」 カルロス・ゴーン グレッグ・ケリー 日産・ルノーVS仏政府 (その1)(ルノー・日産・三菱連合は崩壊に向かう公算大 検察を巻き込んだクーデターで日産が狙うルノー離れ、ゴーン追放も納得!謀略とリークの「日産クーデター史」、仏ルノー取締役会 日産にゴーン会長解任先送り要請、ゴーンを“追放”した西川社長の誤算 日産立件で総退陣浮上) 「ゴーンを“追放”した西川社長の誤算 日産立件で総退陣浮上」
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終末期医療(その1)(がんで逝ったある新聞記者の「納得いく最期」 幸せに旅立つために必要な4つのこと、高須院長が「全身がん」でも全く恐れないワケ 西原理恵子さんも「ああ そうなの」) [社会]

今日は、終末期医療(その1)(がんで逝ったある新聞記者の「納得いく最期」 幸せに旅立つために必要な4つのこと、高須院長が「全身がん」でも全く恐れないワケ 西原理恵子さんも「ああ そうなの」)を取上げよう。

先ずは、ルポライターの荒川 龍氏が6月29日付け東洋経済オンラインに寄稿した「がんで逝ったある新聞記者の「納得いく最期」 幸せに旅立つために必要な4つのこと」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/225741
・『人はいつか老いて病んで死ぬ。その当たり前のことを私たちは家庭の日常から追い出し、病院に押し込め、死を「冷たくて怖いもの」にしてしまった。家族の死をどう受け止めていいかわからず、喪失感に長く苦しむ人が多いのは、そのことと無関係ではないだろう。 一方で、悲しいけれど「温かい死」を迎える家族もいる。それを支えるのが「看取り士」という人たちだ。 この連載では、それぞれの家族が選んだ「温かい死」の経緯を、看取り士の考え方と作法を軸にたどる。今回は、旅立つ5日前に「幸せだ」と連呼した男性の、準備をきちんと整えた人生の締めくくり方を紹介する』、私もそろそろ向き合った方がいいのではと思い、紹介する次第。
・『明るい夫婦の、へこたれないがん闘病  2017年4月、東京新聞編集委員の吉岡逸夫(当時65歳)は、人間ドックで糖尿病と診断された。だが、それはただの始まりにすぎなかった。 「その後、新聞社内の診療所の看護師さんから、『糖尿病なのに、体重がどんどん減っていくのはおかしい』と指摘されて、千葉の自宅近くにある総合病院で、精密検査を受けてみたんです」 妻の詠美子(49歳)が振り返る。 約3cm大のすい臓がんと診断されたのが翌5月。標準治療は手術・抗がん剤・放射線の3つだが、手術と放射線はもはや手遅れという診断だった。 「抗がん剤は体力をいたずらに奪われるだけだからと、夫婦で拒否しました。すると、適切な治療方法を自力で探すしかありませんでした」 次に取り組んだのが高濃度ビタミンC点滴。がん細胞がエサである糖質と勘違いして、エサにならないビタミンCを食べることで、結果的にがん細胞を兵糧攻めにする治療法だ。 「保険適用外なので、点滴1回で2、3万円。毎日打つと月に約100万円が消えました。でも、航空会社のクレジットカード払いにすると、マイルがどんどん貯まるんです。だから、『よし、マイルを貯めて沖縄旅行だ!』って2人で盛り上がって、意外と明るい闘病生活でしたよ」 詠美子は快活な口調で話す。彼女自身、約3年前に子宮がんが深刻化する寸前で見つかって摘出に成功。だが、一時はエンディングノートを記入するほど追いつめられていた。意外と明るい闘病生活は彼女の楽観主義と、一連の経験にも支えられていた。 ビタミンC点滴をお盆休み期間も継続したい、と探した都内の総合病院で再検査をしてもらうと新たな事実がわかった。千葉の病院では無理だと言われた放射線治療がまだ可能だった。 「千葉と都内で、総合病院の診断レベルに格差があることを痛感させられました。でも、落ち込むよりも、3つの標準治療のうち2つができるなら、放射線と抗がん剤に取り組もうと治療方針を転換したんです」(詠美子) 2017年10月中旬から都内の総合病院で2本立ての標準治療を開始する。 治療直前、吉岡はかつて取材した、日本看取り士会の柴田久美子会長(65歳)と再会した。保険外治療で貯めたマイルを使っての沖縄旅行からの帰路途中の東京駅だった。それが、吉岡の闘病と終末期を変えることになる』、やはりセカンド・オピニオンも取っておいた方がよさそうだ。
・『体が冷たくなったと感じて心が納得する  その約5年前、2013年9月13日の中日新聞夕刊に、吉岡は柴田の記事を書いている。 記事では、柴田が小学6年のとき、自宅で実父から最期に「ありがとう」と告げられた看取りの原体験や、病院も葬儀社もない島根の離島で約14年間学んだ、看取りの作法や文化などについて語られている。 「今は死というものが身の回りにないから、どうしていいか分からない。分からないから看護師や葬儀社に任せる。自分たちは一切手を出さない。そうすると心にぽっかりと穴があく。(中略)私はぬくもりがある間は気持ちは伝わると考えているので、一緒にそばにいましょうと勧めます。(中略)体が冷たくなったら冷たいのを確かに感じてもらう。そうでないと心が納得しない」(冒頭記事より抜粋引用) 離島の内外で約200人を看取ってきた柴田には死生観がある。「人は良い心と魂、体を親からもらって生まれてくる。死によって体は失われても、良い心と魂は家族に引き継がれる。だから死は怖くない」 家族から依頼を受けた看取り士は、肉親を抱きしめて看取り、良い心と魂を引き継ぐことを勧める。それを「いのちのバトンを受け取る」と呼ぶ。前回記事でも紹介した、幸せに看取るための4つの作法の1つだ』、新聞記者だけあって、人的ネットワークはさすがに広い。
・『吉岡は柴田の考え方と実践に感銘を受けたが、まさか約3年半後、自身の看取りを柴田に依頼することになるとは想像もしていなかったはずだ。 吉岡が柴田に依頼したのは、自身が暮らす千葉県内で利用できる在宅治療を行う医師(以降、在宅医)の紹介。依頼者が求める情報提供も、看取り士の仕事のひとつだと柴田会長は説明する。 「吉岡さんの場合は、日本尊厳死協会に電話をして、千葉県内の在宅医を紹介したり、全国の在宅医が網羅された雑誌を送ったりしました」 看取り士はその他、関係者への聞き取りや訪問を通して、信頼できる在宅支援の診療所や訪問看護、介護事業所などの提案も行う。 「柴田さん、昨夜は40分間痛みが消えなかった。(在宅医に)早く死なせてくれと叫んでしまったよ。でも、今は痛みがまったくなくて幸せだね」 翌2018年2月8日、柴田らを千葉の自宅に出迎えた吉岡は、リビングに置かれたベッドの上でほほ笑みながら話した。 66回目の誕生日だった1月下旬。吉岡は肝臓へのがんの転移が見つかったと柴田にメールで連絡。抗がん剤治療は試みるが、すぐに緩和治療に入りたいので、会って相談させてほしいという話だった。 8日当日、吉岡は上機嫌だった。家族への形見分けだという30冊近い自身の著作物を柴田らに見せながら、個々の取材話を雄弁に語っていた。在宅医や訪問看護師はすでに決まり、看取り士の派遣依頼をこの日済ませたことで、吉岡を自宅で看取る体制は整ったことになる』、「看取り士」といった人がいるとは初めて知った。
・『「たくさんの方々が周りに集まってきてくれて、世話を焼いてくれるなんて、僕はなんて幸せ者だろう。僕は全部すべきことはした。今は死ぬのにちょうどいい。柴田さん、看取り士はもう一人の家族だね」 依頼者の口から「幸せ」と「死」がセットで、朗々と語られるのは珍しい。多くの人は自分の死を簡単には受け入れられないからだと柴田は言う。 「柴田さんが26年かけてやりたかったことを、僕は今やっとわかった。人生の最期を病院任せにせず、自分の意思でちゃんと決めて、幸せに旅立っていくべきだということだね。これからも頑張ってね。僕は自分がやりたいことを妻に全部受け入れてもらえて、とても幸せに締めくくれるよ」 そう話しながら吉岡が見せた笑顔が最高だったと、柴田は話す。いのちの終わりを受け入れた人だけが見せる、悟りの境地を感じさせた。吉岡の瞳は透明感をいっそう増していく。夫妻の愛犬チワワの「風太(ふうた)」も同じベッドの上でちぎれんばかりに尻尾を振っていた。 その部屋にいる全員が、吉岡の「幸せ」オーラに包まれて笑顔になるほどでしたからと、柴田は振り返る。 このときの柴田は、吉岡の「もう一人の家族」という言葉を、自分をふくめた看取り士への親近感の表現として、笑顔で受け止めた。だが、そこに秘められた、もう1つの意図に気づくのは少し後になる』、私も可能であれば在宅死を選択し、「悟りの境地」になってみたいものだ。
・『人間の尊厳を保ち、自分の意思で旅立つ幸せ  「吉岡が在宅死を選択した理由は、柴田さんとの出会いが大きかったと思います。自分の意思とは無関係に延命治療のチューブまみれにされて、わけがわからなくなるのは絶対に嫌だったんです」 妻の詠美子は、誤診から病院を転々とさせられて、病院自体を嫌がっていたせいもあると補足した。病院だと検温だ、検診だと自分のペースで過ごせない。吉岡は最期まで自由でいたかったんでしょうね、と。 かつて柴田が働いた老人施設では、住み慣れた施設で逝きたいと望んだ高齢者たちが、終末期になると病院に次々と送られて、延命治療のチューブにつながれた。人間としての尊厳など考慮される余地もなかった。 結局、柴田らの訪問後に看取り士会側から吉岡宛に契約申込書が送られたが、間に合わなかった。本来、看取り士は実際の看取りから納棺まで携わるのだが、形式の有無は問題ではないと柴田は言う。 「私と出会ったことで、吉岡さんは自分の意思で、どこで、誰と、どんな最期を迎えるのかという大切な自由を、ご自身で選び取られたからです」 柴田の訪問から4日後、吉岡はもう話せなかった。その夜は詠美子が吉岡のシングルベッドの右隣に添い寝をした。一人娘はベッドの左側に布団を敷いた。看取り士は抱きしめて看取ることを勧めているが、詠美子もそうしようと決めていた。 「あの夜は眠りが浅くて、約2時間おきに目を覚ましていました。翌朝6時半頃に目を覚ますと、あっ、息をしてないと気づいて、あわてて娘を起こしたんです」 在宅医が来るまで1時間以上かかった。手持ち無沙汰な時間を、詠美子は安堵と悔恨の間で揺れつづけた。 「体の痛みにかなり苦しんで、最後の数日は『早く肉体から解放されたい』って話していて、2日ほど前に勝利宣言をしたんですよ。『俺は肉体から解放されそうだ』って。家族3人でピースサインをして写真も撮りました。 だから『パパ、お疲れ様』という気持ちと、『(最期は)起こしてくれたらよかったのに……』という気持ちが、交互に寄せては返すようでした」 手を触るともう冷たくなり始めていて、母娘で吉岡の両手や両脚をさすりながら、他愛もないおしゃべりを続けた。 「やっと(肉体と痛みから)解放されたね」「今頃、勝利宣言してるよ」「(臨死体験で)上から見てるんじゃない?」 故人の体に触れながら本人にまつわる話を交わす時間を、看取り士は「仲良しタイム」と呼ぶ。残された家族が死を受け入れるための大切な時間だ』、「仲良しタイム」はよさそうな過ごし方だ。
・『体は病んでも心は健やかな人の締めくくり方  4月下旬、筆者は柴田と吉岡宅を訪問。詠美子は家族葬で流したCD-ROMを聴かせてくれた。「肉声」とは言い得て妙で、淡々とした口調でありながら、本人のいないリビングで吉岡の存在を強く感じさせた。 「……われながら幸福な死を迎えられたと思います。①子どもが自立していること。②借金がないこと。③思い残すことがないこと。④やさしい配偶者に介護してもらえたこと。⑤人間の尊厳が保たれたことなどの理由があるからです。 告別式に当たって、(中略)何を言っているのかわからないお経を唱えられる代わりに、私が生前に好きだった音楽を流させていただきます。私が好きだった曲を聴きながらあんな時代があったなぁ、逸夫はこんな曲を聴いて頑張っていたのかと思い出していただければ、うれしいです」 ハーモニカの前奏から吉田拓郎の『今日までそして明日から』が始まり、井上陽水の『少年時代』や中島みゆきの『ファイト』へ。全28曲は、亡くなる約3カ月前から詠美子がレンタル店に通って編集したもの。 「家族葬の後、霊柩車が火葬場にたどり着く頃にニニ・ロッソの『夜空のトランペット』を流したいって、すっごく細かいところまで本人は考えていたんですが、そこまでは無理でした。そもそも、火葬場で音楽を流すこと自体がダメだったんですけどね」詠美子が苦笑しながら明かす。 吉岡は享年66歳だから、30代から40代の父親世代に当たる。あなたの親はどんな死生観を持ち、どういう最期を思い描けているだろうか。 あなた自身はどうだろうか。もし明日、体が病気に冒されても、心の健やかさは保ちつづけ、「幸せだ」と連呼して旅立てるだろうか。 「死の準備という土台がある上で、やりたいことをしている人には迷いがありません。吉岡さんはその土台が見事に整った人でした」柴田はそう語る。その「土台を整える要素」とは何か。 1)どこのベッドで逝くのか(病院・施設・自宅) 2)誰に介護してもらうのか(配偶者・家族・友人) 3)医師や看護師は、誰にお願いするのか(病院・施設・在宅医) 4)1)から3)までをふくめて、最期の暮らしをどれだけ具体的に思い描けるのか 柴田は上記4つを挙げる。だが、実際には自分や家族の死をタブー視するあまり、死が目前に迫ると慌てふためき、貴重な時間をムダに過ごしてしまう人のほうが多いとも指摘する。 吉岡は違った。すい臓がんのビタミンC治療に取り組んでいた、死の約半年前にエンディング産業展へ夫婦で出かけた。 吉岡は遺骨を粉砕したものを練り込む小ぶりな表札大の、名前入りの墓石の購入と、一周忌での海洋散骨を決めた。家族の墓参りの手間をはぶくためだ。彼の死後、詠美子が手元供養用に母娘2人分の墓石と、夫の故郷である愛媛県に面する瀬戸内海への散骨サービスの契約を結んだ。 がんの治療中に墓石の準備なんて縁起でもないと思う人が多いはずだ。しかし、吉岡も詠美子も「死は人生の大切な締めくくり」だと考えていた。 「穏やかで幸せな最期を迎えるためにこそ、死をいたずらに遠ざけず、むしろ夫婦や家族できちんと話し合い、準備する必要がある」吉岡は闘病中に何度かそう話していたと、詠美子は話す』、ここまで準備して死ねたというのは、羨ましい限りだ。
・『亡き夫からの「最後のラブレター」  「今は私の最期が必要だなって、思っています」詠美子がそう言うと、「私がお世話します」と柴田が返した。 「えっ、近々沖縄に引っ越すんですけど……」 「沖縄にも看取り士会の研修所がもうすぐできますから、大丈夫ですよ」 実は、仏前で手を合わせたときにピンときたんです、と柴田が続けた。 「吉岡さんが先日言われた『看取り士はもう一人の家族』という言葉は、看取り士への親近感だけでなく、『だから妻のことも頼む』という意味が込められていたんだって。先に逝った人は残された家族への愛が深いんです」 「よろしくお願いします」と詠美子は柴田に頭を下げてから、「嫌だぁ、亡くなった日からずっと泣かないできたのに……」と声を上げると、明朗な彼女はとっさに顔をそむけた。 吉岡は妻の誕生日にプレゼントをあまり贈らなかった。そういう愛情表現は苦手だった人らしい最後のラブレターだった』、なかなか味わいのある締めだ。

次に、11月14日付け東洋経済オンラインがAERA dot.記事を転載した「高須院長が「全身がん」でも全く恐れないワケ 西原理恵子さんも「ああ、そうなの」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/249092
・『「がんは病気のうちでも、すぐに死んじゃう病気ではありません。むしろ肺炎や心筋梗塞(こうそく)の方が怖いです。即死するがんはない。ゆっくり準備をする暇もありますし、僕は高齢者ですから、がんは全然怖くないです」美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長(73)は、明るい声で取材にこう答えた』、「即死するがんはない」というのは言い得て妙だ。たしかに、テレビでのがん保険などのCMに踊らされているのかも知れない。
・『がん細胞は誰にでもある  高須院長はがんであることを、9月28日にツイッターで告白した。<僕は何カ所も癌があります。樹木希林さんと似たようなものです> これには心配する声が相次いだが、本人はいたって冷静だ。がんが発覚したのは4年前。自分で血尿に気づき、検査機関で確認してもらったところ、がん細胞が見つかった。尿管がんは、すでにほかにも転移していたという。 「樹木希林さんが『全身がん』と、いい表現をしていましたよね。彼女のいう通りがんは全身病です。体中に火の粉が散らばっているようなものですから」 がん細胞は誰にでもある。免疫によって広がらないようにしながら、みんなそれを抱えたまま生きているという。 「ぼくが医学生の時、献体(医学の教育・研究のために提供された遺体)して下さった方々を解剖してみると、みんながんを抱えていたんです。その方々が何で亡くなられたかというと、老衰や肺炎、脳出血で亡くなっていて、がんで亡くなられた人はいなかった。がんになるまで長生きをできたハッピーな人たち。がんとは共存して長生きできるんです」』、この献体解剖の話は、極めて説得力がある。
・『医師としての専門知識がある高須院長は自らのがんに対しても、「老衰がちょっと早めに来たぐらいの感じ」という。 家族やクリニックの関係者らには、以前から伝えていたという。パートナーの漫画家・西原理恵子さん(53)にも、もちろん報告した。 「がんが見つかったよっていったら、『ああ、そうなの』と。彼女の前のご主人は腎臓がんだったので、『がんの人は珍しくない』と言っていましたよ」』、随分、さばけた夫婦のようだ。
・『毒を薬として使うのが医学  今年のノーベル医学生理学賞は、京都大の本庶佑(ほんじょたすく)特別教授らに贈られた。免疫をがんの治療に生かす手がかりを見つけ、「オプジーボ」など新しい治療薬の開発につながった。高須院長も喜ぶ。「僕はがんの薬物療法を受け入れています。薬は命を縮める毒だと言われることもありました。ノーベル賞をもらってくれたおかげで、私の立場も良くなりました。毒を薬として使うのが医学なのです。効かない薬は副作用がないんですけれど、効く薬は必ずプラスの部分もあれば、マイナスの部分もある。都合の悪いところを副作用と言っているだけのことです」 オプジーボは現在は価格は下がったが、当初は年間3500万円もの薬剤費がかかることが話題になった。一部には効果が出にくい患者もいて万能ではないが、オプジーボを使う治療も選択肢に入っていると高須院長は明かす。 これまで多額の寄付や、過激な発言などで話題を集めてきた高須院長。クリニックのCMにも自ら出演し、ファンも多い。がんになっても前向きな姿勢は変わらず、「YES!」と言い続けてくれるはずだ』、「効く薬は必ずプラスの部分もあれば、マイナスの部分もある。都合の悪いところを副作用と言っているだけのことです」との見方は、大いに参考になった。
タグ:終末期医療 (その1)(がんで逝ったある新聞記者の「納得いく最期」 幸せに旅立つために必要な4つのこと、高須院長が「全身がん」でも全く恐れないワケ 西原理恵子さんも「ああ そうなの」) 荒川 龍 東洋経済オンライン 「がんで逝ったある新聞記者の「納得いく最期」 幸せに旅立つために必要な4つのこと」 人はいつか老いて病んで死ぬ 家庭の日常から追い出し、病院に押し込め、死を「冷たくて怖いもの」にしてしまった 悲しいけれど「温かい死」を迎える家族もいる 「看取り士」 東京新聞編集委員の吉岡逸夫 糖尿病と診断 すい臓がんと診断 手術と放射線はもはや手遅れ 高濃度ビタミンC点滴 都内の総合病院で再検査 放射線と抗がん剤に取り組もうと治療方針を転換 日本看取り士会の柴田久美子会長 私はぬくもりがある間は気持ちは伝わると考えているので、一緒にそばにいましょうと勧めます。(中略)体が冷たくなったら冷たいのを確かに感じてもらう。そうでないと心が納得しない 死によって体は失われても、良い心と魂は家族に引き継がれる。だから死は怖くない いのちのバトンを受け取る 日本尊厳死協会 信頼できる在宅支援の診療所や訪問看護、介護事業所などの提案 人生の最期を病院任せにせず、自分の意思でちゃんと決めて、幸せに旅立っていくべきだ いのちの終わりを受け入れた人だけが見せる、悟りの境地を 人間の尊厳を保ち、自分の意思で旅立つ幸せ 在宅死 自分の意思とは無関係に延命治療のチューブまみれにされて、わけがわからなくなるのは絶対に嫌だったんです 故人の体に触れながら本人にまつわる話を交わす時間を、看取り士は「仲良しタイム」と呼ぶ。残された家族が死を受け入れるための大切な時間だ 体は病んでも心は健やかな人の締めくくり方 死の準備という土台 1)どこのベッドで逝くのか 2)誰に介護してもらうのか 3)医師や看護師は、誰にお願いするのか 4)1)から3)までをふくめて、最期の暮らしをどれだけ具体的に思い描けるのか 死をいたずらに遠ざけず、むしろ夫婦や家族できちんと話し合い、準備する必要がある AERA dot. 「高須院長が「全身がん」でも全く恐れないワケ 西原理恵子さんも「ああ、そうなの」」 即死するがんはない。ゆっくり準備をする暇もありますし、僕は高齢者ですから、がんは全然怖くないです 高須克弥院長 僕は何カ所も癌があります 樹木希林さんと似たようなものです がん細胞は誰にでもある。免疫によって広がらないようにしながら、みんなそれを抱えたまま生きているという 献体 して下さった方々を解剖してみると、みんながんを抱えていた 老衰や肺炎、脳出血で亡くなっていて、がんで亡くなられた人はいなかった がんになるまで長生きをできたハッピーな人たち。がんとは共存して長生きできるんです 毒を薬として使うのが医学 効かない薬は副作用がないんですけれど、効く薬は必ずプラスの部分もあれば、マイナスの部分もある。都合の悪いところを副作用と言っているだけのことです
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ソフトバンクの経営(その8)(10兆円ファンドで孫会長が抱えたサウジリスク サウジ記者殺害事件がソフトバンクグループの経営に暗雲、ソフトバンクに降りかかる火の粉 他社の料金値下げ、ソフトバンク 携帯子会社IPOは高望み) [企業経営]

ソフトバンクの経営については、6月19日に取上げた。今日は、(その8)(10兆円ファンドで孫会長が抱えたサウジリスク サウジ記者殺害事件がソフトバンクグループの経営に暗雲、ソフトバンクに降りかかる火の粉 他社の料金値下げ、ソフトバンク 携帯子会社IPOは高望み)である。

先ずは、10月23日付け日経ビジネスオンライン「10兆円ファンドで孫会長が抱えたサウジリスク サウジ記者殺害事件がソフトバンクグループの経営に暗雲」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/102200885/?P=1
・『ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が、10月23日からサウジアラビアの首都リヤドで開催される未来投資イニシアチブ(FII)に出席するか否かに関心が集まっている。FIIはサウジで強大な権力を持つムハンマド・ビン・サルマン皇太子が世界の投資家などに呼びかける会議で、今回で2回目となる。 トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館内で著名記者ジャマル・カショギ氏が殺害された事件を巡り、ムハンマド皇太子が関与した疑惑が浮上したことで、既に多くの政府関係者や経営者がFIIへの参加を見送っている。 米JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEO(最高経営責任者)や米ブラックストーン・グループのスティーブン・シュワルツマン会長、ドイツ銀行幹部、スイス・ABB幹部が欠席を決めたほか、米ゴールドマン・サックスも幹部の派遣を取りやめた。国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事やムニューシン米財務長官も出席を見送る。三菱UFJ銀行は三毛兼承頭取が欠席するが、吉川英一副頭取が代わりに出席する。一方、英メディアによると英防衛・軍需企業のBAEシステムズはFIIに参加する見通しだという。記事を執筆した22日18時時点では、孫会長が出席するか否かをソフトバンクグループは明らかにしていない』、10月27日付け日経新聞によれば、「孫氏、王室との関係配慮 サウジ投資会議欠席も首都訪問」となったようだ。
・『孫会長はムハンマド皇太子を口説き、17年にサウジの資金力を基盤とした10兆円規模のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を立ち上げた。1号ファンドはサウジ系の公共投資ファンド(PIF)から450億ドル(約5兆円)の出資を受け、破竹の勢いで米ウーバーテクノロジーズや米ウィーワークなどに巨額投資をしている。 孫会長はムハンマド皇太子と「運命共同体」と呼べるほど密接な関係を築いている。孫会長は諮問委員会の委員を務めるなどFIIについては主催者に近い。ムハンマド皇太子に近いPIF取締役のヤシル・アルルマヤン氏はソフトバンクグループの取締役を務めるなど深い関係を築いており、孫会長は難しい判断を迫られている。 既に孫会長は、SVFの「2号ファンド」の設立に言及している。呼応するようにムハンマド皇太子はSVFに追加出資することを表明している。だが、ムハンマド皇太子が殺害に関与したと認められれば、SVFの2号ファンドの設立が難しくなるとの見方がもっぱらだ。 SVFのCEOはソフトバンクグループ副社長のラジーブ・ミスラ氏で、拠点はロンドンにある。資金の出元はサウジであっても投資先は主に欧米企業であり、投資スキームは欧米で構築している。欧米のステークホルダーの監視下では、ムハンマド皇太子が新たな出資をすることも難しくなるかもしれない』、ムハンマド皇太子との密接な関係は、当初こそ有利に働くとみられたが、暗殺事件で一転して暗雲になったようだ。
・『グーグルの地図から消えたSVFオフィス  記者は10月19日、ロンドンのSVFオフィス周辺を訪れてみた。今夏までは米グーグルの地図アプリにオフィスの場所が表示されていたが、当日は表示されなくなっていた。オフィスの入り口にはSoftBankの文字が小さく記されているが、人の出入りが少なく、ひっそりとしていた。 今回は世界屈指のリスクテーカーである孫会長の腕の見せ所との分析もある。ある金融関係者は「欧米のビジネス界の腰が引けている時にFIIに出席し、しっかりとサウジに関与できれば、ムハンマド皇太子の信頼は絶大なものとなる。世間の声は移ろいやすい」と指摘する。カショギ氏の殺害については、サウジの権力闘争の一環との見方もある。 だが事件の真実と同時に大事なのは、サウジやムハンマド皇太子に対して世界の多くの人々がどのような印象を持つかだ。今回の事件は「サウジ記者殺害事件が米英政治の波乱要因に」で触れているように、欧米メディアが連日トップニュース扱いで報じている。 世間の目は厳しい。ロンドンでは今月11日に、自然史博物館がサウジのためのレセプションを開催しようとして、多くの抗議が寄せられた。英メディアのガーディアンは、「自然史博物館は血塗られたマネーを受け取った」と激しく批判した。 一方、サウジ政府系の英字メディアは、レセプションは開催され、サウジ大使がホストを務め、外交官や学生などが集まり成功裏に終わったと報じている。 18日には国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチなどの非政府組織(NGO)が国連本部で記者会見を開催。殺害事件の真相を解明するために、独自調査に乗り出すよう国連に求めた。 こうした世論の声を政治やビジネスは敏感に感じ取っている。昨今の個人情報の流出やセクハラなどで社会的な批判にさらされているシリコンバレーの企業は素早く反応した。PIFとSVFから手厚い出資を受けているにもかかわらず早々と欠席を決めた米ウーバーのダラ・コスロシャヒCEOはその典型例である。これ以上、経営における「サウジリスク」を高めたくないのだろう』、これだけ世界から注目される事件であれば、当然の反応だろう。
・『サウジ国内ではツイッターなどで事件の詳細が伝わる  欧州でもサウジを敬遠する空気が広がる。今年3月にはムハンマド皇太子と並んで写真に収まり、親密な関係を隠さなかった英ヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソン氏。同氏は事件を受けてこう述べた。「報道が事実ならば欧米企業がサウジ政府と協力できる能力は明確に変わってくる」。調査結果次第では、同氏はサウジと共同で進める2つの観光事業の取締役を辞め、ヴァージンはサウジと共同で進めてきた宇宙事業について協議を中止することを明らかにした。 独シーメンスのジョー・ケーザー社長は21日時点で、会議への出席について態度を明確にしていない。だが、ドイツ紙の報道によると、ドイツ社会民主党(SPD)のアンドレア・ナーレス党首が「ジョー・ケーザーには考え直してほしい」と発言するなど、圧力が高まっている』、リチャード・ブランソン氏もさすが変わり身が早い。
・『今後のムハンマド皇太子の権力基盤を疑問視する声も上がっている。現地の住民によると、今回の事件はサウジ国内でもツイッターなどの交流サイト(SNS)を通じて情報が伝播しているという。サウジの説明が二転三転していることは、国民に伝わり始めている。今回の事件は報道量が多いので、サウジ政府も規制しきれないのかもしれない。 政権に批判的な情報が流れることは、統制に綻びをもたらす。これを機に不遇をかこっていた王族が巻き返しに動けば、ムハンマド皇太子の権力基盤が揺らぐ可能性もある。 別の視点で見ると、これまではファンドの運用成績が良いとの理由から、孫会長との蜜月は続いてきたとも言える。仮に運用成績が悪くなった場合、ムハンマド皇太子は孫会長をどのように処遇するのか。 サウジは部族社会で裏切り者には厳しい仕打ちを辞さない。孫会長はFIIに出席すればサウジとの関係は強固なものになる一方、人権を軽視するとの印象を世界に与えかねない。それは長期的に見れば、事業展開の大きな足かせになるはずだ。もちろん、FIIに出席するかどうかだけが問題なのではない。今後、孫会長がサウジやムハンマド皇太子とどのように付き合っていくかが焦点である。 発明者を尊敬してやまない孫会長が、「発明」したと胸を張ってはばからないのは「群戦略」という構想だ。ソフトバンクグループや投資ファンドが各業界で強みを持ち、成長が期待できる企業に出資し、それぞれの相乗効果を出すことを狙う。特にAIに関係する半導体設計やデータ、ライドシェアなどの企業に積極投資し、群れを形成することでAI時代の覇権を握ろうとしている。既にSVFの事業利益は大きく、18年4~6月期決算では、ソフトバンクグループの営業利益の約3割に達した。 ただ、この群戦略もサウジという巨大な資金源があるからこそ成立する。ソフトバンクグループの10月22日の株価は、事件前日(10月1日)の終値に比べて約18%下落した。サウジの記者殺害事件は、1つの巨大なファンドだけでなく、ソフトバンクの経営そのものにも大きく関わる問題となっている』、本日の終値でみれば、22%の下落である。なお、 CIAは「皇太子が記者殺害命令」としたが、今日の報道では、トランプ大統領は皇太子擁護を鮮明にしたが、米議会は反発しているようだ。

次に、11月5日付けダイヤモンド・オンラインが米紙WSJの記事を転載した「ソフトバンクに降りかかる火の粉、他社の料金値下げ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/184317
・『ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏は、未来について語るのを好む。孫氏が語る未来とは、人工スーパー知能(ASI)やブレーンコンピューター、自動運転車など、人間よりも機械に関することだ。だがその孫氏は今、人間が引き起こした厄介な問題に対応するよう迫られている』、この書き出しは、なんとも皮肉たっぷりだ。
・『ソフトバンクの株価は1日の東京市場で8.2%急落して終えた。携帯国内最大手のNTTドコモが、来年4月から携帯電話料金を最大40%値下げすると発表したことが売り材料だ。NTTドコモが値下げに踏み切る背景には、競争の欠如が携帯電話料金の高止まりを招いているとして政府幹部が最近、不満を表明したことがある。日本の携帯業界は事実上、ドコモとソフトバンク、KDDIの大手3社による寡占状態にある。 政府が携帯会社の料金設定を指示することはできない。だが日本政府はドコモ親会社の株式35%を保有しており、ある程度の影響力を持つ。KDDIとソフトバンクは値下げ計画を発表していないが、市場の圧力により、NTTドコモと同じ道をたどることになる可能性が高い。1日の取引では、携帯大手3社の時価総額が計310億ドル(約3兆5000億円)吹き飛んだ。 携帯料金値下げは、携帯電話子会社の新規株式公開(IPO)を計画しているソフトバンクにとっては、とりわけ大きな痛手となる。ソフトバンクはIPOの調達資金をリスクの高いハイテク投資や、巨額債務の圧縮に充てることを目指している。携帯子会社の4-6月期営業利益は、ソフトバンク全体のおよそ3分の1を占めており、同社にとって携帯子会社は、安定収益をもたらすドル箱だ』、安倍政権の人気取り政策が直撃した形だ。
・『だが最大のライバルが政治的圧力に屈する中、IPOでのソフトバンク携帯子会社の評価額は下がる公算が大きい。そのため、調達資金が減るか、株式の売却数を増やすかのいずれかを余儀なくされるだろう。ソフトバンクはこれまで、2014年のIPOで250億ドルを調達した中国のアリババグループを上回る資金を確保したいと銀行関係者に伝えていた。こうした高い期待はもはや、打ち砕かれたもようだ』、親子上場の典型として一部で問題視する向きもあるIPOは12月の予定だが、こんな悪材料が出るとは、ツキも落ちてしまったようだ。
・『ソフトバンクが負債圧縮に向けて進めているもう一つの取引――85%を所有する米携帯大手スプリントと競合TモバイルUSの合併計画――も、当局の承認待ちの状況だ。 ソフトバンクは目下、サウジアラビア人の反体制派記者ジャマル・カショギ氏の殺害事件で揺れており、これらすべての問題は同社に追い打ちをかけることになる。サウジは、ソフトバンクが主導する約1000億ドル規模の「ビジョン・ファンド」の最大の後ろ盾だ。カショギ氏の事件が発端となり、諸国の企業の間ではサウジとの関係を断つ動きが出ており、孫氏もサウジが先月開催した投資会議(通称「砂漠のダボス会議」)への出席を見送った。ソフトバンク株価は1日に急落する前も、カショギ氏がイスタンブールにあるサウジ総領事館に入ったきり行方が分からなくなった先月初旬以降、20%近く下げていた。 ソフトバンク株価は、世界的なハイテク株急伸の追い風を受け、4月以降50%近く値上がりしていたが、足元の売りでほぼすべての上昇分を失った。さらに、ハイテク株などの成長株は、市場のお気に入りではなくなりつつあり、投資家にとっては、ソフトバンクから当面、距離を置くべき理由がまた一つ増えた格好だ』、これだけ悪材料が立て続けに出てくるとは、同情申し上げる。

第三に、11月14日付けダイヤモンド・オンラインが米紙WSJの記事を転載した「ソフトバンク、携帯子会社IPOは高望み」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/185436
・『ソフトバンクグループは海外資産の買収に大枚をはたくことで知られている。だが国内の携帯子会社について投資家に同じように太っ腹になってもらおうとしても、説得するのは難しそうだ。 ソフトバンクは12日、携帯子会社「ソフトバンク」新規株式公開(IPO)について、東京証券取引所の承認を得たと発表した。同社はソフトバンク株の37%近くを売却し、最大230億ドル(約2兆6000億円)の調達を目指す。調達資金は1000億ドル規模を誇る傘下のテクノロジーファンド「ビジョン・ファンド」を通じ、さらに多くのハイテク業界ユニコーン(評価額が10億ドル以上の新興企業)に投じられる可能性がある。 だが、携帯子会社の評価額は630億ドル近くに達することになり、あまりに高額だ。NTTドコモやKDDIは、企業価値(EV)がEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)の平均5.2倍となっている。ソフトバンクにこの倍率をあてはめれば、同社の企業価値は520億ドル。純負債を差し引けば、時価総額は250億ドルに低下する』、確かに、調達額の見込みは過大過ぎるようだ。
・『ソフトバンクは、投資利回りを渇望する日本の投資家を引き付けることで、より高いバリュエーションを達成したいと考えている。純利益の85%を配当に回す計画で、その比率は同業他社の40〜50%を大きく上回る。その結果、ソフトバンク株の配当利回りは5%超となり、ドコモやKDDIの4%強を上回る。 ソフトバンクにとっては、そうした水準の配当を維持できるかどうかが課題となる。携帯電話サービス料金を巡る政府の圧力を受け、ドコモは2週間前、サービス料金を最大40%値下げする計画を発表。それ以降、日本では通信銘柄に売りが広がっている。ソフトバンクは他社の値下げに追随するとは発表していないが、孫正義氏は先週、通信事業の人員を4割削減することで値下げできると示唆した。言うまでもなく、それほど大規模なレイオフは一筋縄ではいかない。そうなれば、高額の配当計画を維持するのが難しくなるかもしれない。 安定したインカムゲインを求める投資家は、ソフトバンクのIPOに飛びつくのを考え直した方がよさそうだ』、確かに、高額の配当計画を維持しながら、大規模なレイオフをするというのは、資本の論理を剥き出しにしており、日本的な常識からは受け入れ難い「手前勝手な主張」だ。さらに、通信事業に余剰人員が4割もいるというのも、俄かには信じ難い。孫氏は相次ぐ悪材料に追い込まれて、正常心を失ってしまったのだろうか。 
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