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人工知能(AI)(その6)(圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり 人類は2階層に分断する、「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた、契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか) [科学技術]

人工知能(AI)については、10月25日に取上げた。今日は、(その6)(圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり 人類は2階層に分断する、「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた、契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか)である。

先ずは、11月26日付け東洋経済オンライン「圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり、人類は2階層に分断する・・・世界中の知識人から賞賛を浴び、全世界で800万部を突破したベストセラー『サピエンス全史』」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/251207
・『世界中の知識人から賞賛を浴び、全世界で800万部を突破したベストセラー『サピエンス全史』。7万年の軌跡というこれまでにない壮大なスケールで人類史を描いたのが、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏だ。 現代を代表する知性が次に選んだテーマは、人類の未来像。近著『ホモ・デウス』で描いたのは、人類が「ホモ・サピエンス」から、遺伝子工学やAI(人工知能)というテクノロジーを武器に「神のヒト」としての「ホモ・デウス」(「デウス」はラテン語で「神」という意味)になるという物語だ。 ホモ・デウスの世界では「ごく一部のエリートと、AIによって無用になった『無用者階級』に分断し、かつてない格差社会が到来する」と警告するハラリ氏を直撃した。 本記事ではハラリ氏へのインタビューの一部を抜粋・・・』、『無用者階級』が出現する「かつてない格差社会が到来する」とは穏やかではない。
・『生命をつかさどる最も根源な法則を変えようとしている  この本を書いたのは、人類史上、最も重大な決断が今まさになされようとしていると考えたからだ。遺伝子工学やAIによって、私たちは今、創造主のような力を手にしつつある。人類は今まさに、生命を司る最も根源的な法則を変えようとしている。 40億年もの間、生命は自然淘汰の法則に支配されてきた。それが病原体であろうと、恐竜であろうと、40億年もの長きにわたって生命は自然淘汰の法則に従って進化してきた。しかし、このような自然淘汰の法則は近く、テクノロジーに道を明け渡す可能性が出てきている。 40億年に及ぶ自然淘汰と有機的進化の時代は終わりを告げ、人類が科学によって非有機的な生命体を創り出す時代が幕を開けようとしているのだ。 このような未来を可能にする科学者やエンジニアは、遺伝子やコンピュータについては知悉している。だが、自らの発明が世の中にどのような影響をもたらすかという倫理上の問題を理解できているとは限らない。 人類が賢い決断ができるように手助けするのが、歴史家や哲学者の責務だろう』、ずいぶん大きく振りかぶったものだ。
・『歴史を見ればわかるように、人類は新しいテクノロジーを生み出すことで力を獲得してきたが、その力を賢く使う術を知らない、ということが往々にしてあった。 たとえば、農業の発明によって人類は巨大な力を手に入れた。しかし、その力は一握りのエリートや貴族、聖職者らに独占され、農民の圧倒的大多数は狩猟採集を行って生きてきた祖先よりも劣悪な生活を強いられる羽目になった。 人類は力を手に入れる能力には長けていても、その力を使って幸福を生み出す能力には長けていない。なぜかといえば、複雑な心の動きは、物理や生命の法則ほど簡単には理解できないからだ。 石器時代に比べて人類が手にした力は何千倍にもなったのに私たちがそこまで幸福でないのには、こうした理由がある。 農業革命によって一握りのエリートは豊かになったが、人類の大部分は奴隷化された。遺伝子工学やAIの進化がこのような結果を招かないように、私たちはよくよく注意しなければならない』、その通りだろう。
・『「無用者階級」が生まれるかもしれない  ホモ・サピエンス(人類)はかつて、動物の一種に過ぎなかった。人類が大人数で協力できるようになったのは、私たちに架空の物語を創り出す能力が備わっていたからだ。人類は大人数が協力することで、この世界の支配者となった。 そして今、人類はみずからを神のような存在に作り替えようとしている。(遺伝子工学やAIといったテクノロジーによって)創造主のような神聖なる力を、今まさに獲得しつつあるということだ。 人類はラテン語で「賢いヒト」を意味する「ホモ・サピエンス」から、「神のヒト」としての「ホモ・デウス」にみずからをアップグレードしつつある。 最悪のシナリオとしては、人類が生物学的に2つのカーストに分断されてしまう展開が考えられる。AIが人間の能力を上回る分野が増えるにつれ、何十億人もの人々が失業者となる恐れがある。こうした人々が経済的に無価値で政治的にも無力な「無用者階級」となる。 一方で、ごく一部のエリートがロボットやコンピュータを支配し、遺伝子工学を使って自らを「超人類」へとアップグレードさせていく可能性すら出てきている。 もちろん、これは絶対的な予言ではなく、あくまで可能性にすぎない。が、私たちはこのような危険性に気づき、これを阻止していく必要がある。 私が『ホモ・デウス』で論じた不平等とは、人類がこれまでに経験したものとは比べものにならない圧倒的な不平等だ』、「人類はみずからを神のような存在に作り替えようとしている」というのは、確かに恐ろしいことだ。「無用者階級」と「超人類」への二極分化も憂鬱な未来だが、我々はこれを阻止できるのだろうか。

次に、エール大経済学部准教授の伊神 満氏が11月8日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102200249/110100004/
・『AI(人工知能)が仕事を奪う、世の中は大変なことになる――。AI技術の急速な発展が報じられる中で、世間では「ふわっとした」議論が繰り返され、「機械との競争」への漠然とした不安ばかりが煽られている。だが、本当にそうなのか。本コラムでは、世界最先端の経済学研究を手がかりに、名門・米エール大学経済学部で教鞭を執る伊神満准教授が「都市伝説」を理性的に検証する』、これは無責任な「煽り記事」ではないので、参考になりそうだ。
・『まずはじめに:連載コラム(全4回)の趣旨  人工知能(AI)については色々な人が色々なことを言っている。だが、よく分からない未来を語るにつけて、楽観論も悲観論も、ただ各人が「個人的に言いたいこと」を言っているだけのように見える。 となると、「AI技術は是か非か」「AI失業は起こるのか」「もはや人類の滅亡は時間の問題か」についての「結論」自体には、ほとんど何の意味もない。これだけ沢山の予想があれば、そのどれかは当たるだろうし、大半は外れるに決まっているからだ。 そんなことよりも、冷静な人たちが交わしている「それなりの確かさをもって言えそうなこと」に耳を傾け、吟味しよう。そしてあなた自身の身の振りかたについては、あくまで自分の頭で考えよう。でなければ、あなたという人間の「知能」と人生に、いったい何の意味があるだろうか。 このコラムは、経済学者である筆者が、9月中旬にカナダのトロント市で開催された第2回全米経済研究所(NBER)「人工知能の経済学」学会で行った研究発表と、そこで見聞きした世界を代表する経済学者たちによる最新の研究について、一般向けにまとめたものである』、信頼性が高そうだ。
・『「あなたの仕事が危ない」?  まずは、AIが「人間の経済活動にもたらす」影響を考えてみよう。連載コラムの前半にあたる第1回と第2回では、AIの「外側」の経済学の話をする。 AIやロボットは、これまで人力を必要としていた生産活動の「自動化」ととらえるのが一般的だ。そこで、AIの「外側」の経済学では、自動化技術の中身はさておき、それがもたらす経済活動へのインパクトを考察する(連載後半にあたる第3回と第4回では、AIの「内側」の経済学に触れる。この分類は、論点を整理するために筆者が独自に使っているものだ)。 今日紹介するのは、誰もが気になる「自分の仕事はなくなってしまうのか」という問いについての、興味深い実証プロジェクトだ』、このブログで今回紹介するのは、第1回と第2回だ。
・『仕事を1つひとつのタスクに分解してみよう  ミクロ実証的な1つのアプローチとしては、個々の職業を、その構成要素である各種「作業」レベルに分解して考えてみることができる。たとえば、大学教授という「職業」の人は、大きく分けて、(A)研究 (B)教育  (C)雑用 という3種類の活動に時間を使う。そこでたとえば(B)の教育活動を、さらに (B1)授業内容の立案と作成 (B2)授業そのものの実施 (B3)宿題やテストによる学生の評価 (B4)大学院生の研究へのアドバイス……のように分解し、さらに細かく具体的な「作業」をリストアップすることができる。そして、各「作業」(タスク)について、今後10年間でどのくらい自動化できそうか、その筋の専門家に点数をつけてもらおう。こういう点数を並べれば、「大学教授という職業が何パーセント自動化できそうか」を測る目安くらいにはなりそうだ。 感覚をつかんでもらうために、もう1つの例として「米国で大手監査法人に勤める会計士(専門分野は税務)」についても、業務内容をざっくりタスク分けしてみよう。(W)税務申告書の作成 (X)税務申告書の確認  (Y)チームのマネジメント (Z)クライアントの獲得および関係構築 たとえば末端の仕事である (W)を詳しく見ていくと、(W1)試算表の勘定科目(の管理コード)を整理して、ソフトに入力 
(W2)税務上と会計上では費用・収益の認識が異なるので、違いを計算してソフトに入力 (W3)税控除や繰越欠損金が利用できるか否かを判断する といったタスクによって構成されている。もともとこの分野はコンピューターによる処理との相性が良い。だから(W1)や(W2)などはソフトの活用を前提としたタスク設計になっている。とはいえ、たとえば「交際費はその内容によって控除の可否が変化する」といった例外処理も多いため、完全自動化は難しいのだという。 この記事の読者も、ためしに自分の仕事のタスク構成を洗い出してみたらどうだろう。AIによる自動化が云々という話以外にも、何か新しい発見があるかもしれない。 こうした「自動化のしやすさ」を、世の中の多くの職業について数値化したのが、「機械学習と職業の変化」という論文である・・・といっても、今まさに進行中の研究だから、完成版が読めるのはまだ先になりそうだ。 この研究を発表したのは、米マサチューセッツ工科大学(МIT)のエリック・ブリニョルフソン教授だ。IT(情報技術)業界研究のベテランで、最近では『プラットフォームの経済学』(日経BP社)なども邦訳されている。彼自身も発表中に認めているように、数値結果そのものは、分析プロセスを少し変更しただけでも、ガラッと変わる。 たとえば、大学教授の仕事(B)教育について、具体的なタスクをいかに定義するのか、どこまで適切に細分化できるのか、本当にうまく自動化できるのか、大学教授であるはずの筆者にもよく分からない。 また、(B)教育を自動化した結果、大学教授というポストそのものが消滅してしまうのであれば、筆者は専業コラムニストに転職せざるを得ない。しかし逆に、これまで(B)に割いていた時間と体力を(A)研究に注げるようになるのであれば、願ったり叶ったりだ。 だから、たとえ「学者が科学的にたどりついた発見や数字」であっても、結論そのものには飛びつかない方がいい。当然、(自称)コンサルタントや(自称)天才プログラマーが適当にぶち上げている「未来予想」については、言うまでもない』、確かに、世の中にはいい加減な「未来予想」が溢れているようだ。
・『自動化しやすいタスクの8条件  ……というわけで、ブリニョルフソン教授らによる論文自体は未完成なのだが、理論的考察の大枠については、『サイエンス』誌上で「機械学習で何ができるのか? 労働需要への影響について」という短い記事を読むことができる。 その要点をまとめると、タスクを自動化するためには、8つの条件が必要だという(表1)。ちなみにこれは、スタンダードな「教師あり機械学習」、つまり回帰分析のようなデータ処理を主眼としたリストである。 表1:「自動化しやすいタスク」の8条件(1.「インプット」と「アウトプット」が、どちらも明確になっている。  2.インプットとアウトプットを正しく対応させたデジタルデータが、大量に存在する。  3.明確なゴールがあり、その達成度について明確なフィードバックがある。  4.長々とした論理展開や、いろいろな背景知識・一般常識にもとづく思考が、必要ない。  5.下した判断について、その理由や過程を詳しく説明する必要がない。  6.多少の誤差・間違いが許され、「正解」を理論的に証明する必要もない。 7.現象自体や「インプットとアウトプットの対応関係」が、時間の経過によってあまり変化しない。 8.物理的な作業における器用さや特殊技能が、必要ない。  このように機械学習の射程範囲をハッキリさせていくと、何でもかんでもうまく自動化できるとは限らないことが、浮き彫りになる。もちろん、機械が苦手とする「論理」や「証明」や「特殊技能」を、それではフツーの人間がどれくらい身につけているかというと、それは別問題だが……』、非常に納得的なアプローチだ。
・『自動化の普及を左右する6つの「経済学的ファクター」  また、仮にあるタスクの「機械化が可能」になったとしても、それが現実世界で普及したり、人力による労働力への需要・賃金にインパクトを及ぼす過程は、実はけっこう複雑である。同『サイエンス』記事が指摘するとおり、技術的な問題の他に「経済学的なファクター」にも影響されるはずだ(表2)。 表2:関連する6つの経済学的なファクター(1.タスクの自動化のしやすさ(技術的な代替可能性)。  2.そのタスクの成果物への需要が、最終価格にどのくらい左右されるか(価格弾力性)。  3.複数タスク間の補完性。 4.そのタスクの成果物への需要が、消費者の所得にどのくらい左右されるか(所得弾力性)。  5.人間の働く意欲が、どのくらい賃金に左右されるか(労働供給の弾力性)。 6.ビジネス全体の構造が、どう変化するか(生産関数の変化)。)  網羅的に列挙しようとするあまり、この表はやや抽象的にすぎる感もあるが、「総論」的な記事なので仕方あるまい・・・』、ずいぶん大変な作業のようだ。
・『結論は全部スルーし、根拠とロジック「だけ」を吟味  さて、タスク分けの最新研究に話を戻すと、正直、経済学者の仕事としてはかなりベタな分析だし、「職業」や「作業」をどう整理するかによって「自動化のしやすさ」の数値は大きく変わってくる。また、そもそも「今後10年間における、個別タスクの自動化のしやすさ」についての技術的見解も、専門家の間ではかなり議論が分かれるだろう。 だから筆者から読者へのアドバイスとしては、「あなたの仕事が危ない!」風の議論や数字を見るときには、とにかく結論そのものはスルー(無視)しよう。こういう話題についての「結論」は、当たるか外れるか分からない株価の予想みたいなもので、つまらない。 そうではなくて、「何をどうやったら、そういう数字とメッセージが出てくるのか」という、前提条件や考え方のプロセスに(のみ)注目するのが、正しい大人の読み方だ。 ベタなミクロ実証研究から言えることは、このあたりが限界だ。次回は、思いっきりマクロな視点から俯瞰してみよう』、「筆者から読者へのアドバイス」は、考え方を整理する上で、大いに参考になった。

第三に、上記の続き、12月1日付け「契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102200249/111900007/
・『「AI(人工知能)の内側の経済学」に踏み込んだ前回は、ビジネスにおける価格設定や広告戦略(いわゆるマーケティング関連のプロセス)をAIに丸投げする話をした。つづいて今回は、「AIを搭載した新製品」の中身について考えてみよう。AI開発、それはとても面白い「人間の営み」なのである』、面白そうだ。
・『プロダクト(製品)イノベーションのためのAI技術  仕事の流れの一部を自動化すること、それは一種のプロセス・イノベーション(生産・販売活動のコストを下げること)であった。こんどは、プロダクト・イノベーションについて考えてみよう。プロセス・イノベーションが製造・販売の工程(プロセス)を改善するものであったのに対して、こちらは新たな製品(プロダクト)を開発・投入する話である。 たとえば、「AI技術でお米がおいしく炊ける」炊飯器。そういうキャッチコピーの家電製品は昔からあったが、一体どのあたりに「知性」が感じられるのか、よく分からなかった。しかし、ユーザーのその日の体調をセンサーで感知するのみならず、電子メールやSNSへの投稿内容までも細かくデータ分析してくれる炊飯器が登場したならば、どうだろうか。 メールの文章がどれくらい整っているか、乱れているか。友人の投稿内容に「いいね」するのか、しないのか。あなたの一挙手一投足をつぶさに観察することで、この炊飯器は「その日その時のあなたにとって最適な炊き加減」に自動調整してくれる。すなわち、あなたの「幸福を最大化」してくれる機械の登場である。これほどすごい機能が付けば、「AI搭載」の名に恥じない画期的な製品と言えよう(※フィクションです)』、いくらフィクションとはいっても、私であれば、ここまで利用者を丸裸にしてしまうような炊飯器はご免被りたい。
・『囲碁・将棋AIや自動運転プログラムの「目的関数」  さて、こういう新製品をどうやって開発したらいいのだろう? 私たち人間は、AIもしくはロボットに何かしらの「目標」を与え、それを達成するような動作を期待する。こういう目標のことを経済学や工学では「目的関数」と呼び、「最適化問題」という数学的な問題設定に落とし込む。たとえば、上記の「炊飯器」ならば、ユーザーからの「おいしい」という評価を高めることが、明確な目的関数になるだろう。 目的関数 = 「やるべきこと」に応じたボーナス点 → 「これを最大化せよ」と命令  あるいは近年めざましい活躍をみせた囲碁や将棋をプレイするAIは、「ゲームに勝てる確率」を目的関数として、先を読みながら「次の一手」を探し出すように設計されている。その開発過程(数理モデルを構築し、関数形を調整し、シミュレーションとデータ分析を活用する)は、経済学的な実証研究のプロセスにかなり近い。 逆に、「やってはいけないこと」の違反度に応じて「罰点」を設定することもある。たとえば、無人運転車に搭載されるソフトには、「信号を無視したらマイナス100点」、「ネコをひいたらマイナス200点」、「通行人をひいたらマイナス5億点」みたいなペナルティーを設定しておくわけだ。 目的関数 = 「やってはいけないこと」に応じたペナルティー → 「これを最小化せよ」と命令  ところがロボットは、私たちが期待するような振る舞いを、実際にしてくれるとは限らない』、どうしてなのだろう。
・『ドジっ子ロボットには、お仕置きが必要だ  たとえばお掃除ロボット。部屋の床掃除を勝手にやってくれる掃除機は、すでにかなり普及している。筆者も1台持っている。ただしこのロボット、あまり融通が利かない。同じところをグルグル回ったり、段差にハマったり、電源コードを巻き込んでしまったりする。 また、「電池が切れるまでの間に掃除する床面積」を最大化するようプログラムされたロボットは、最短距離で移動しようとするときに、その動線上にあった家具を壊してしまうかもしれない。こういう問題が発生するのは、(人間が暗黙のうちに期待している)さまざまな「目的関数」や「制約条件」の全てを、(明示的に)インプットできるとは限らないからだ。与えられたタスクそのもの以外のファクター、つまり作業をとりまく環境や文脈というものが、お掃除ロボットにはのみ込めていない。 これが人間の「お掃除担当メイドさん」であれば、家具を壊したりしたら、ご主人様から叱られるかクビ。最悪の場合、損害賠償請求の訴訟を起こされてしまうかもしれない。そしてそれが分かっているからこそ、家具の扱い(などの、直接命じられてはいない事柄)にも注意を向けてくれる。 何か、うまい方法はないものだろうか?。 ご主人様 VS 代理人 (プリンシパル・エージェント問題) カナダ・トロント大学のギリアン・ハットフィールド氏が発表した「不完備契約とAIアラインメント」・・・という研究は、「ドジっ子ロボット」のような問題を、いちど抽象的なレベルで理論化してみよう、と提案している。 ミクロ経済学には、人間同士の利害の対立を整理するための知見がたくさんある。とりわけ契約理論と呼ばれる分野では、「ご主人様と代理人という異なる2者のあいだで利害をすり合わせて、望ましい結果を導くための契約方法を考える」という課題が研究されてきた。こういう場合の「主人」のことを英語でプリンシパル、「代理人」をエージェントと言うので、この課題は「プリンシパル・エージェント問題」と呼ばれている。 ハットフィールド氏いわく、「ユーザーとAI」の関係は、ちょうど契約理論における「ご主人様と代理人」の関係にあたるので、理論的でエレガントな解決策があるはずだ。ただし、この発表の討論者であるスタンフォード大学のポール・ミルグロム氏(発表者の元指導教授で、オークション関連の実務でも有名)からは、これら2つの問題には共通点もあるが相違点もある、という指摘がなされた。いわく、プリンシパル・エージェント問題の場合は、通常、代理人の側が「余計なこと」を気にしてしまうのが、問題の根っこにある』、「プリンシパル・エージェント問題」まで出てくるとは、さすが学者の分析らしい。
・『お掃除ロボットは、雇われ社長の夢を見ない  たとえば、株主(=ご主人様)に雇われたはずの社長(=代理人)のケース。株主が望むのは、企業価値の最大化である。しかし、社長という人間の個人的な利害は、これと必ずしも一致しない。「全国制覇したい」とか、「大型M&Aで注目を集めたい」とか、「休日は家族とゆっくり過ごしたい」とか、「社員に嫌われたくない」といった個人的な野望や心理に、どうしても引きずられてしまう。 契約理論は、こうした状況に対する処方箋をあみ出してきた。たとえば、社長のサラリーの何割くらいを成果報酬式にすればいいのか、といった計算ができるようになった。 これに対して、「ドジっ子お掃除ロボット」の失敗例は、べつにロボット(=代理人)側に個人的な野心があるわけではない。単に、開発者あるいはユーザー(=ご主人様)の側が「部屋をキレイにせよ」という目的しかインプットしなかったのが問題である。もしも開発者またはユーザーが、「部屋をキレイにせよ」「ただし家具を壊してはならない」という追加条件をインプットすることができさえすれば、それで一件落着かもしれない。 企業の雇われ社長もお掃除ロボットも、おなじ「代理人」ではある。しかし契約理論は、代理人が人間であるがゆえに発生する問題を扱ってきたのに対し、AI・ロボットは「個人的な願望」を秘めていたりはしない。そういう点では、問題の本質が微妙に異なっている可能性がある。より緻密な研究が必要になりそうだ』、確かに、人間とAI・ロボットには相違がありそうだ。
・『AIが達成した「成果」ではなく、「開発プロセス」に注目しよう!  さて、トロントで9月に開催された「人工知能の経済学」学会について一般向けにお伝えしてきた本連載だが、今回で最終回である。いかがだっただろうか? 正直、「えっ、そんな事しか分かっていないの?」と拍子抜けされた方も、多いのではないだろうか。 しかし、研究の最前線というのは大体そんなものだ。不明なものや未解決な問題があるからこそ、そこに取り組む余地が残されている。そして、「世界最高の経済学者たち」(あるいは勝手にそのように自負している人たち)が集まった学会ですら、この程度のことしか判明していない。 むしろ、その事実にこそ着目してほしい。 経済学をキチンと理解している人は少ないし、AI関連技術をキチンと理解している人も少ない。ましてや、その両方をよく分かっている人というのは、本当にレアだ。それにもかかわらず(あるいは、そうであるがゆえに)、「AI」について得意げに解説し、個人的な願望にすぎないテキトーな「未来予想と解決策」を、あたかも「理の当然」かのように語るコメンテーターがあふれている。そのクオリティーは推して知るべし、である。「無知の知」から始めよう』、「「無知の知」から始めよう」というのは我々を一安心させてくれる。
・『本連載の第1回には、「目新しい結論や、ショッキングな数字などは全部スルーして、何をどうやったらその主張にたどり着くのか、根拠とロジック(にのみ)注目するのが、正しい大人の姿勢だ」という話をした。それに呼応する形で、結びにあたって今回オススメしたいのは、
 +「AIが達成したとされる成果」については完全にスルーして、むしろ
 +「どういうアルゴリズム(計算手順)を使って」、そして、
 +「その開発者たちが、どのような試行錯誤のプロセスを経て」
 現在のパフォーマンスに到達したのか……に注目することだ。 そういうニュースの読み方をしていけば、おのずと関連技術の原理的な部分にも詳しくなれるはずだし、背後にある基礎研究にも興味が湧いてくるだろう。いつまでもAIをブラックボックス扱いしていないで、開発者と開発プロセスに踏み込んでほしい。これはまた、ニュースの「書き手」や編集者にぜひお願いしたいことでもある。 ちまたでは「機械」として恐れられたり敬われたりしているものが、じつは研究者が四苦八苦して作った「人為」の産物であることも、改めてよく分かるだろう。AI開発ほど興味深い「人の営み」は、なかなかない。経済学の研究対象は、まだまだ尽きないようである』、ここに列挙された「ニュースの読み方」は素人には到底無理だ。11月27日付け日経新聞は、「AIの判断、企業に説明責任 政府が7原則 混乱回避へ法整備」と伝えた。いよいよ、AIをブラックボックス扱い出来なくなってくるようだ。ただ、果たして、それがどこまで可能なのかは制約もありそうだ。
タグ:AIの判断、企業に説明責任 政府が7原則 混乱回避へ法整備 「無知の知」から始めよう AIが達成した「成果」ではなく、「開発プロセス」に注目しよう お掃除ロボットは、雇われ社長の夢を見ない プリンシパル・エージェント問題 ドジっ子ロボットには、お仕置きが必要だ 囲碁・将棋AIや自動運転プログラムの「目的関数」 プロダクト(製品)イノベーションのためのAI技術 「契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか」 前提条件や考え方のプロセスに(のみ)注目するのが、正しい大人の読み方だ 、「あなたの仕事が危ない!」風の議論や数字を見るときには、とにかく結論そのものはスルー(無視)しよう。こういう話題についての「結論」は、当たるか外れるか分からない株価の予想みたいなもので、つまらない 結論は全部スルーし、根拠とロジック「だけ」を吟味 自動化の普及を左右する6つの「経済学的ファクター」 自動化しやすいタスクの8条件 仕事を1つひとつのタスクに分解してみよう 人工知能の経済学」学会 冷静な人たちが交わしている「それなりの確かさをもって言えそうなこと」に耳を傾け、吟味しよう。そしてあなた自身の身の振りかたについては、あくまで自分の頭で考えよう 、「AI技術は是か非か」「AI失業は起こるのか」「もはや人類の滅亡は時間の問題か」についての「結論」自体には、ほとんど何の意味もない 「都市伝説」を理性的に検証 「「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた」 日経ビジネスオンライン 伊神 満 。「無用者階級」と「超人類」への二極分化 人類は新しいテクノロジーを生み出すことで力を獲得してきたが、その力を賢く使う術を知らない 生命をつかさどる最も根源な法則を変えようとしている 「ごく一部のエリートと、AIによって無用になった『無用者階級』に分断し、かつてない格差社会が到来する」と警告 『ホモ・デウス』で描いたのは、人類が「ホモ・サピエンス」から、遺伝子工学やAI(人工知能)というテクノロジーを武器に「神のヒト」としての「ホモ・デウス」(「デウス」はラテン語で「神」という意味)になるという物語 ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』 「圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり、人類は2階層に分断する・・・世界中の知識人から賞賛を浴び、全世界で800万部を突破したベストセラー『サピエンス全史』」 東洋経済オンライン (その6)(圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり 人類は2階層に分断する、「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた、契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか) (AI) 人工知能
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バブル崩壊(長銀問題)(長銀「最後の頭取」が語る 20年前の破綻に至った本当の理由、今だから話せる 破綻カウントダウンの日々) [金融]

昨日に続いて、バブル崩壊(長銀問題)(長銀「最後の頭取」が語る 20年前の破綻に至った本当の理由、今だから話せる 破綻カウントダウンの日々)を取上げよう。

先ずは、11月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済ジャーナリストの宮内健氏によるインタビュー記事「長銀「最後の頭取」が語る、20年前の破綻に至った本当の理由 長銀元頭取・鈴木恒男氏インタビュー(上)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/185387
・『1998年秋、日本長期信用銀行(以下、長銀)は経営破綻し国有化された。メディアは「ずさんな経営」や「不良債権隠し」がその原因と批判し、翌年には大野木克信元頭取など旧経営陣の3名が逮捕された。起訴容疑は粉飾決算と違法配当であった。 ところが経営破綻から10年後の2008年、最高裁は無罪判決を言い渡した。ならば、長銀の経営が追い込まれたのはなぜだろうか。破綻時の頭取だった鈴木恒男氏は当時の記者会見で「急激な環境の変化」と語った。もちろん経営責任を否定しているのではなく、それも含め、短期間にさまざまな要因が重層的に絡み合って生じた事態、という意味である。 だが当時は「悪者たたき」に終始する感情的な議論が多く、冷静に総括されることはあまりなかった。国有化から20年が経過したいま、長銀「最後の頭取」である鈴木恒男氏に長銀破綻の経緯について振り返ってもらった』、悲劇を繰り返さないためにも、貴重な記事だ。
・『「営業重視・審査軽視」へと変化していったバブル期  バブル景気が始まる少し前、私は資金調達本部に属していました。その時期、長銀の各本部が集まって長期経営計画について相談する機会があったのですが、借り入れ需要が非常に少なくなっており、融資を伸ばさなければいけないのに伸びない、したがって利益もあがらない状況に陥っていました。 その後、大阪の営業に転勤になり現場に出てみると、本当に借り入れ需要がないことに驚きました。もう東京では不動産価格が上昇していましたが、大阪ではまだフィーバーしてはいなかったのです。私のいた部署は業務目標をまったく達成できず、非常に肩身の狭い思いをしたのを覚えています。 1986年に本社へ戻り、私は経営企画部企画室長になりました。もっともこれは対外的な肩書で、業務はMOF担(大蔵省との折衝担当者)と、銀行内の各セクションの利害が反するような問題を調整する内部調整的な仕事です。 この頃、長銀ではマッキンゼーのコンサルティングを受け、融資部門に権限委譲し、もっと自主性を持たせ、クイックレスポンスできる体制をつくるべきだとのアドバイスに基づき、組織改革を行って総本部制を導入。貸し出しの売り込みと審査を同じ総本部内で完結させることにしました。それは一種の当時の流行で、住友銀行(現・三井住友銀行)もマッキンゼーのコンサルティングを受けて同様の体制を構築していました。 要はもっと現場にハッパをかけて、貸し出しを増やす仕組みをつくろうとしたわけです。しかし業績を伸ばすために営業優先で審査を軽視しがちになるなど、営業の裁量の幅を広げすぎてしまったと後に反省が出て、89年2月に権限移譲をしましたが、結局は91年2月に元の組織に戻すことになりました。私もこの組織改革に関わりましたが、営業優位にはバブル期の特徴が出ていたのでしょう。その自覚が我々スタッフには足りませんでした』、マッキンゼーのコンサルティングに従ったため、住友銀行も膨大な不良債権の山を築いた。また、他の大手都市銀行も住友銀行を見習って同様の組織変更をした結果、膨大な不良債権に苦しめられることとなった。無論、組織変更をした個々の銀行の責任ではあるが、現在でも大きな顔でのさばっているマッキンゼーの罪も深い。
・『業績にプレッシャーをかけた「長信銀制度」の行き詰まり  このような組織改革に踏み出したのは「業績をもっと伸ばさなければいけない」というプレッシャーがあり、それは長信銀制度が曲がり角にきていたことが背景にありました。 預金で資金を集める普通銀行と異なり、長期信用銀行は期間5年の金融債(銀行が出す社債)を発行して資金を集め、設備投資などの長期資金を貸し出す金融機関です。日本興業銀行と日本債券信用銀行、そして長銀の3行がありました。 金融制度上は長短分離という思想があり、短期貸し出しは普通銀行が行い、長期貸し出しは長信銀や信託銀行が担うことになっていましたが、当時は長短分離が事実上崩れ、都市銀行も長期貸し出しを行うようになっていました。 本来は、債券や期間の長い定期預金で資金調達をしないで長期貸し出しをすると途中で調達金利が上がるリスクがあるのですが、預金金利がそれほど乱高下しない時代になり、都市銀行は利ザヤをたくさん取れる長期貸し出しに乗り出してきたのです。 一方の取引先は、長期より金利の低い短期を選好しますから、我々に「短期で貸してくれ」と言ってきます。ところが我々は普通預金などの流動性預金の比率がとても低いので、低コスト資金がありません。仕方なく短期貸し出しをすると逆ザヤになってしまいます。このように貸し出しは増えるが収益はなかなか伸びないという状況が出現し、収益を増やすためにより長期貸し出しの量を増やさなければいけないというプレッシャーがかかっていました。 そういう面を見ると、すでに当時、長信銀制度はもはや使命を終えつつあったのでしょう。今から考えればいち早く方向転換し、他の銀行との合併も真剣に考えなければならない状況でしたが、そちらの方には気持ちが向かず、自力でなんとかしようとしていました。まだ自己資本も厚く、保有している株式に兆円単位の含み益があったので、まだまだ自力でやっていけると考えていたのです』、膨大な株式含み益が経営の目を曇らせたのは、長信銀だけでなく、都市銀行でも同様だった。
・『なぜ不動産バブル崩壊を見抜けなかったのか  1989年末の大納会で日経平均株価が史上最高値(3万8915円)をつけました。その次の営業日である翌90年1月4日、私は業務審査部長へ異動になりました。その後バブル崩壊が本格化すると同時に後ろ向きの仕事についた感じで、以後の仕事はすべて不良債権理に関するものです。 もっとも、バブル景気がおかしくなったと認識したのはもう少し先の90年秋、国内外でリゾート開発やホテル事業を行っていた不動産開発投資会社EIEインターナショナルの資金繰りが回らなくなったときです。その年の6月に一度、不足資金を貸し付けていたのですが、そのときは一時的な資金不足だろうとそれほど重くは見ていませんでした。しかし秋にもう一度、EIEから「また資金が足りなくなったので貸してくれ」との要請が来ます。 要は、日常の営業では資金が不足するようになり、資金繰りのための借り入れをEIEは必要としていたのです。資金不足が続くのは事業に異変が生じている証拠です。そこで同社を調べてみると、やはり構造的な資金不足に陥っていました。EIEはゴルフ会員権の販売とリゾート施設の転売で繰り回していたバブル型の企業だったので、株価の下落とともにゴルフ会員権などの販売に陰りが出て資金繰りが悪化しました。こういう会社が構造的な資金不足に陥るのは、まさにバブルがはじけたことを示していました。 その他の取引先でも、金利を支払えない企業がぽつぽつ出始めていました。ただ、現実のように急速な地価の下落で日本経済が急激に悪化するとまでは考えておらず、どこかで小康状態になると見ていました。オイルショック時も不動産価格は下落しましたが、比較的軽症で済んでいます。調整局面は当然あるでしょうが、不動産価格も1~2割くらい下がれば均衡状態に入るのではないかと、希望も含めそんな見方をしていたのです。 銀行が不動産融資を増やす過程で、世間では「東京を国際金融センターに」との声も強く、当時の国土庁(現・国土交通省)は「東京のオフィスは超高層ビルにして250棟分必要になる」との予測を発表していました。これだけ外貨準備高があり、それにともなって日本の存在感も増すのだから、東京もロンドンのシティーのような機能を担えるのではないか、と。東京の狭い土地を再開発して有効活用し、オフィスとしてグレードアップしていけば、付加価値が高まっていくとの希望的な観測が支配的で、我々も同様の観測をしていたということです』、東京国際金融センター構想は、金融界に地価への希望的観測をもたらした罪作りなものだった。最近、また小池東京都知事が旗を振っているようだが、当時と比べると熱気はあと1つのようだ。
・『経営破綻を招いたのはEIEではない 他行より重かった関連ノンバンク処理  一般取引先で生じた不良債権の最大のものがEIEグループ向けの貸し出しで、長銀の被った損失は1000億円を大きく超え、そのグループ会社を含めると損失はさらに数百億円増加します。 ただし、EIE問題は長銀破綻の原因ではありません。それ以上に重荷になったのが関連ノンバンク向けの融資でした。長銀の関連会社として融資業務を行っていたノンバンクが7社ほどあって、それぞれ相当な資金量を持ち、バブル期に不動産融資を増やしていました。たとえば最大の日本リースの総資産は3兆円を超え、本業のリースに加え貸し出し業務も兆円レベル。ベンチャーキャピタルのNEDや不動産の日本ランディックも数千億円の融資をしていました。 長信銀というビジネスモデルではなかなか食べていけなくなる状況で、グループのノンバンクで隣接する異分野に参入することは、長銀にとって機能補完的な意味がありました。人や店舗が少なく、縦割りの金融制度の壁があり、自由に業務展開できない長銀本体では限界があるので、関連会社でリース業やベンチャーキャピタルに進出したのです。ライフという信販会社を救済し、グループに引き込んだのもその流れです。ノンバンクは他の都市銀行も手がけていましたが、長銀は他社より熱が入っていた感があります。 バブルが崩壊した直後の1991年時点で、関連ノンバンクなどに対する長銀の貸し出し残高は1兆円を超えていました。さらに問題はこれらの会社の営業貸付金で、そのほとんどすべてが不動産担保融資であり、グループ企業全体では5兆円近い営業貸付金が、不動産の価格変動リスクを抱えていました。 これほど営業貸付金が増えたのは、バブルが崩壊するまでグループ会社の経営管理が甘かったからです。長銀はグループ会社の貸し出しをすべて掌握し、リスクが過大になっていないか厳重にチェックしながら進めるべきだったのですが、脇が甘くて気付いたときにはものすごい量になっていました。 それに加え、原因としては、関連会社のトップが本体の役員を務めあげた大先輩たちで、スタッフが苦言を呈することがはばかられる風土がありました。また、各社の本業の収益で事態を改善できるという期待もありました。たとえば日本リースはオリックスに次ぐ規模のリース会社で、いずれ上場しようかという勢いもあったので、ある程度経営の自主性を認めざるを得なかったのです。 我々としては、関連ノンバンクが苦しくなったら会社更生法や民事再生法の対象にして、一般の債権者にも負担していただく可能性も理論的にはありました。しかし、現実には許されなかった。関連ノンバンクに融資している金融機関からすれば「日本リースの信用力ではなく長銀の信用力で貸しているんだ」と。つまり、関連ノンバンクの信用ではなく親銀行=母体行の信用で貸しているのだから、関連ノンバンクの経営についての責任は母体行にあるというものです。 母体行主義が一般化したのは住専(住宅金融専門会社)問題の処理からです。住専とはもともと個人向けの住宅ローンを取り扱うノンバンクでしたが、都市銀行などの住宅ローン分野への進出で圧迫され、不動産業への融資を増やすようになりました。住専の拡大を支えたのは母体金融機関と生保、農林系統金融機関(農協とその上部金融機関)などからの長期借り入れです。長銀が野村證券との折半出資で設立した第一住宅金融も例外ではありませんでした。 大幅な地価下落に伴い住専各社は巨額の損失を出し、最終的に大蔵省主導で破綻処理されましたが、この過程で関連ノンバンクの損失処理は母体行が責任をもって処理することが原則のようになりました。農林系統金融機関が「貸し倒れ損はあくまで母体行の責任で、母体行の信用で貸したのだから我々が一部でも負担することはあり得ない」と主張し、これが大勢になったのです。 こうして関連ノンバンクの損失処理は、長銀そのものの問題となりました。本体の不良債権だけなら他行と比べ過重な負担だったとは思いませんが、長銀の場合、関連ノンバンクの負担が他行より重かったのです』、EIEは社長の豪遊ぶりなどが話題になったが、確かにこれだけであれば、長銀は苦もなく乗り切れたろう。関連ノンバンクの借入調達では、親銀行には大口融資規制の制限があるため、他行から借入ざるを得ない。他行はまた自らの関連ノンバンクの借入調達でさらの別の銀行に頼るという形で、関連ノンバンク向け貸出は、株式の相互持合に似た膨大なネットワークが形成されていた。そこには、当初から母体行責任論が暗黙の了解となっていた。住専問題でこれが顕在化した形になった。日債銀(日本債券信用銀行)の関連ノンバンク処理では、日債銀に母体行責任を果たす体力がないとの理由で、当局は貸手責任を強引に押し付けた。
・『不良債権処理とは どのような仕事だったか  バブル景気で地価が高騰を続ける中、大蔵省は1990年3月に不動産融資総量規制を実施しました。内容は不動産業に対する貸し出しの伸び率を総貸し出しの伸び率以下に抑え、同時にノンバンク向けの貸し出しも定期的に報告を求める比較的穏やかなものでした。 しかし「平成の鬼平」と世の喝采を浴びた三重野康総裁率いる日銀は、その前年から相次いで利上げし、90年8月に公定歩合は6%に達し、地価の本格的な下落を招きました。さらに地価税の創設など政府の各省、各局はそれぞれに地価対策を打ち出し、総合調整機能を欠いた個々の政策の集積は、各省庁の想定を超える激震を地価にもたらしました。 地価下落により年々膨らむ一途の不良債権は、長銀をはじめ銀行の経営を圧迫していきました。そんな状況のなか、私は92年に取締役事業推進部長に就任しました。事業推進部長というと前向きに聞こえますが、内容は不良債権を専門に担当する部です。取締役に昇格してうれしくなかったかといえば嘘になりますが、それ以上に大変な時期に大変な仕事に就いたというプレッシャーがありました。 長銀がメインバンクとして推進した不動産開発プロジェクトでは、工事の途中で開発会社の資金が尽きてしまうものがありました。途中で放り出されると銀行は貸し出しを取りっぱぐれる上に撤去費用もかかり、大変な損失です。そこで7~8割できていた物件については受け皿会社をつくって簿価で引き取り、ゼネコンの力を借りたりしながら工事を継続し、完工させて売却していくのが重要な仕事でした。 EIEにはプロジェクトの途中で止まってしまった海外の案件がたくさんありました。たとえばニューヨークの五番街に建設中のホテル。こんな物件を立ち枯れさせてしまったら、日本という国自体が変な目で見られてしまいます。こうした案件も含め、世界中にあったホテルを全部1ヵ所にまとめて仕上げることになり、グループ会社の案件も一部引き取りました。 これらの行為がのちに「不良債権の隠ぺい」とか「不良債権処理の先送り」との疑念疑惑を招きましたが、隠ぺいなどではありません。ずっと抱え込んで隠すのではなく、あくまで不良債権処理の一環で完工させたら転売するものでしたから。不動産価格が値下がりしていたため貸出金額の元本までは回収できませんでしたが、それでも野ざらしで鉄骨のまま売却するよりはずっとよかったのです』、不動産融資総量規制では、何故か農林系の住専だけが対象外になったため、貸出が急増し、住専処理コストを膨らませる結果となった。大蔵省、農林省の罪は深い。内外の立ち枯れ案件を受け皿会社に引き取らせて、完成させた上売却するというのは、市場価値があるものであれば、当然で、非難される言われはないだろう。

次に、上記の続きを、11月21日付け「長銀「最後の頭取」が今だから話せる、破綻カウントダウンの日々」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/186139
・『1998年秋、日本長期信用銀行(以下、長銀)は経営破綻し国有化された。破綻時の頭取だった鈴木恒男氏は当時の記者会見で、その原因を「急激な環境の変化」と語った。長銀は長期資金の貸し付けを主に行う長期信用銀行としての役割が行き詰まり、新たな貸付先を拡大する中で、不動産バブル崩壊へと巻き込まれていった。さらに金融行政の変化、金融危機の発生という外部的な要因も、長銀を破綻へと導く大きな要因になっていた。 こうした急激な環境変化が起こる中で、長銀「最後の頭取」は、破綻を前にどのような状況に追い込まれ、対応していたのか。20年がたった今だからこそ話せる、長銀破綻までのカウントダウンの日々を鈴木恒男氏に聞いた』、最後がどうだったのかは、特に興味深い。
・『金融行政は「護送船団方式」から「自己責任原則」へと移行  さまざまな経済対策で1996年には景気回復の動きが広がり、金融機関の不良債権問題は解決へ進むかに見えました。しかし当時の橋本龍太郎首相が主導する財政緊縮政策が打ち出され、政府が97年4月からの消費税2%引き上げを閣議決定すると、景気は冷水を浴びせかけられたように委縮し始めました。 97年に入ると、それまで経験のない信用収縮が生じつつありました。地価をはじめとする資産価格の低下が実体経済の足を引っ張るデフレスパイラルにより銀行は追加の不良債権償却・引当に迫られ、自己資本比率規制をクリアしようと一段と激しく貸出金の回収に走りました。これで流通業界やゼネコン業界などで多くの企業が資金繰りに窮し、事態は不動産バブルの崩壊から、非製造業を主とする過剰債務企業を市場が追い詰める新段階へ移行しました。 一方、95年12月に「今後の金融検査・監督等のあり方と具体的改善策の取りまとめにあたって」という大蔵大臣談話が発表されました。「金融行政の転換について」という副題がつけられたこの談話で、金融機関の自己責任の徹底と市場規律が十分に発揮される透明性の高いシステムを構築することが宣言されました。 金融行政の根本を、それまでの大蔵省が行政指導する護送船団方式から自己責任原則に変えることは、邦銀の格付けにも大きく影響しました。さらに96年11月、政府は唐突に「金融ビッグバン」を打ち出しました。ただ、総論だけで具体論が見えず、金融業界の人間もメディアもそれが何を意味するのかよくわからない状態でした』、消費増税だけでなく、社会保険料引上げなども含め、国民負担は9兆円も増加したのが景気を一気に冷え込ませ、経済政策の致命的なミスである。しかも、金融機関は不良債権問題で頭を痛めているなかで、「金融ビッグバン」を打ち出したことも重大なミスだ。
・『このような経営環境の激変の中で、97年5月頃から長銀はスイスバンクコーポレーション(SBC)との業務提携に活路を見いだそうとしました。株式を持ち合い、合弁で証券会社や投資顧問会社を作る。自己資本を増強し、海外に後れを取っていたといわれる新金融技術の習得などが見込め、日本の銀行としてはかなり先を行くような提携をしたつもりでした。 しかし、後でこの提携が裏目に出ることになります。 長銀株の下落でSBCとの提携が破綻 1997年11月、ついに日本で金融危機が発生しました。三洋証券が会社更生法を申請して倒産した翌日、同社が無担保コール市場から取り入れた10億円がデフォルト(支払い不能)になったのです。 無担保コール市場は当局から認可を受けた金融機関が相互信頼に基づき、資金の貸し借りを行う場です。つまり護送船団方式を前提にした仲間内の資金融通システムで、そこで起こった戦後初のデフォルトによって、金融機関同士が疑心暗鬼に陥り「融通した資金が返ってこないかもしれない」と金融システム不安が一気に加速しました。株式、為替、債券はトリプル安となり、都銀の一角であった北海道拓殖銀行が経営破綻し、続いて山一証券の自主廃業が決定しました。 この危機に際して金融機関の資本増強のために公的資金の注入が検討され、翌年3月に長銀を含む21行に公的資金投入が行われましたが、金融システムの安定には不十分な規模で終わりました。その遠因には世間における銀行のイメージの悪さがありました。 この時期、長銀には別の難問が持ち上がっていました。ビッグバンの先兵になろうと業務提携したSBCから「ディストレスワラント条項」を付け加えることを要求されたのです。これは長銀の株価が3日間にわたって50円を下回るか、20日以上にわたって100円を切った場合は、合弁で設立する証券会社などの長銀保有株をSBCに譲渡するというものです。 突然この条項の承認が提案された常務会において反対したのは1人だけで、私を含めたその他の出席メンバーはただやり取りを聞いているだけでした。自分の部門の仕事はきちんとやるけれど、他の部門には口出ししないという官僚的な縦割り組織の弊害です。そんな縦割りの思考に私自身、どっぷり浸かっていました。 その後、後述の株価下落によりディストレスワラント条項の発効は現実のものとなりますが、長銀が力を入れてきた分野を手放すことになって、マーケットの評価を大きく落としてしまいました』、「ディストレスワラント条項」追加を審議する「常務会において反対したのは1人だけ」というのには驚かされた。投資銀行を目指すとはしたものの、その中身が全く理解してなかったようだ。
・『SBCとの合弁証券会社から大量の長銀株売り 株主総会中に「株価が50円を切った」のメモ  1998年6月に入ると思いがけない事態が生じ、長銀の経営は急速に悪化しました。5日、月刊『現代』7月号の広告に「長銀破綻」の見出しが躍ったのです。記事は新味のある内容ではありませんでしたが市場は敏感に反応し、株価は前日18円安の181円で引けました。 しかも6月9日、SBCとの合弁会社である長銀ウォーバーグ証券のロンドンオフィスは長銀株の大量の売り注文を受け、それをそのまま東京の証券取引所につなぎました。普通、日本の金融機関であれば親密な会社の信用を落とす行為なので、他の証券会社に持ち込むよう顧客を誘導します。しかし欧米のディーラーは自分の実績と報酬に直結しますから、そんなことはお構いなしに売るのです。このようなビジネス慣行の違いには思い至りませんでした。 長銀ウォーバーグ証券による長銀株の大量の売りは、「SBCは長銀を見限った」と市場に受け取られました。海外も含めて相当な投資家が空売りのチャンスだと考えたのでしょう。そうでなければ説明のつかない株価の下落が起こり、6月22日には前営業日の112円から62円へ一挙に50円も急落し、その後、長銀の株価は二度と100円台を回復しませんでした。 ちょうどこのときは、新たに設置される金融監督庁に、大蔵省から金融の企画機能を切り離して一緒にするかどうかで同省と政治家の間で綱引きが行われていた時期でした。監督機関が引き継ぎで空白の時を狙い、ヘッジファンド等が長銀を空売りのターゲットにしたのでしょう。 マーケットの巨大な力は平時には見えませんが、こうしたときに大変な猛威を発揮する。それは非常に怖いもので、株主総会の最中に「長銀株が50円まで値下がりしている」とのメモが入ったときは衝撃的でした。我々はマーケットの底知れない力に対する思慮を欠いていたというか、まさかそこまでのものだとは思っていなかったのです』、子会社の長銀ウォーバーグ証券の仕打ちにはさぞかし腹が立っただろうが、これが冷徹な投資銀行ビジネスだ。月刊『現代』7月号へのリークも「空売り」を狙った動きだったのだろう。
・『あらかじめクビが決められた頭取就任 信用低下で資金繰り困難に  根拠に乏しいメディアの報道やうわさ話が飛び交い、株式市場で長銀株がもみくちゃにされ窮地に追い込まれる中、長銀は他行との合併を模索し、住友信託銀行との合併に最後の望みを託すことになりました。 合併するためには政府から公的資金を8000億円から9000億円注入してもらい、不良債権処理を行って身ぎれいにする必要がありました。大蔵省と相談しながら作成した公的資金を入れるための再建計画では、前提条件の1つに代表取締役の辞任がありました。経営責任の明確化のためです。 一方、長銀は1998年4月に執行役員制を導入し、それまで28人いた取締役を6人に減らしていました。すると会長を除き代表権を持っていない取締役は末席にいる私を含めて2人だけ。もう1人は国際畑で役所との折衝経験があまりなく、消去法的に私が頭取に就任せざるを得なくなりました』、公的資金を入れる話があったとは初耳だ。
・『頭取といっても住友信託と合併できた暁には当然クビになる立場で、いわばワンポイントリリーフです。私自身、ずっと不良債権処理に関わってきた立場で、決してよい人選とは思えませんでしたが、誰かが引き受けなければ前には進めず長銀の幕引きもできない。腹をくくってやるしかありません。8月21日に頭取代行に就任し、翌9月29日に正式に頭取になりました。 我々が再建計画を提出し公的資金を申請したその頃、政治も混乱していました。7月の参院選で自民党が惨敗し、責任を取って辞任した橋本首相の後を受けて小渕内閣が成立。8月25日から金融再生関連法案の審議がスタートしていました。いわゆる金融国会です。焦点は長銀が破綻しているかどうかであり、破綻しているかどうかの基準は債務超過であるかどうかでした。 債務超過で破綻していれば金融安定化法による公的資金投入は健全行を対象としているため、公的資金は使えなくなり、破綻処理に移行せざるを得なくなります。しかし不良債権の認定の仕方によって、債務超過であるかどうかは大きく変わり得ます。つまり、債務超過であるかどうかについても、そう単純に決まる話ではないのです。 政府・与党は破綻状態ではない長銀に公的資金を投入する方針でしたが、野党は強く反対し破綻金融機関に対する法的な処理を行う制度を設けるべきだと主張しました。 合併後の銀行の業績が浮上すれば優先株などで投入された公的資金が返済され、国民負担にはなりません。しかし当時はより少ないコストで金融危機を収束させるという視点はほとんどありませんでした。 金融国会は9月中旬まで議論が右へ行ったり左へ行ったり膠着しました。そして長銀の信用がかかった国会審議で1ヵ月ほど衆目を集めるところとなった結果、その間に多くの風説やフェイクニュースが流布し、長銀の信用は日を追って低下し資金繰りが困難になりました。株価もどんどん下落し、住友信託では共倒れを懸念して合併に対し慎重な意見が強まりました。 結局、本格的な金融危機を防ぎ金融システムを安定化するプルーデンス政策が用意されておらず、審議が膠着している間に長銀の信用が最終的に毀損される結果となったのです。結局、金融国会では野党案の丸のみが了承されて長銀の国有化による破綻処理が動かないものとなり、経営破綻が確定。我々の合併への努力は水泡と帰しました』、銀行に破綻の噂が出たら直ちに手を打たなければならないのに、数か月放置されている間に、優良企業は逃げ出し、残ったのは不振企業ばかりとなり、企業価値は大きく棄損された。
・『長銀は1952年に施行された「長期信用銀行法」に基づく銀行で、その法律が当時の池田勇人蔵相の指揮下に成立したことから自民党の宏池会と親しい関係にありました。一方、監督官庁である大蔵省は自らが与党自民党への根回しや説明を行うとして、個別の銀行が個々の政治家に依存することを極度に嫌っていたこともあって、長銀が直接宏池会に依存することはありませんでした。というよりは、大蔵省ルートを妨害しないように、直接的な動きを避けていました。 自民党全体が宮沢喜一大臣をいただく大蔵省の原案に沿って動いてくれると思っていたのですが、自民党の「派閥政治」が曲がり角に来ており、折しも野党の若手議員と自民党の一部議員が同調して政府案に反発するという事態にさしかかっていました。「政策新人類」といわれた議員たちです。 長銀は、最終段階で宮沢大臣や当時の池田政調会長など宏池会の力を頼んだのですが、すでに政界は様子が変わっていました。頼みの大蔵省自身がイメージダウンする中、動き続ける政治の世界に一金融機関が効果的に働きかけることがいかに難しいか、肌身で感じました』、「政策新人類」は、旧民主党の枝野幸男、自民党の塩崎恭久、石原伸晃らが、金融実務を無視して原理主義的考えを振りかざしたが、マスコミは大いにもて囃した。彼らが暴れたおかげで、長銀の救済が間に合わなくなったのは、誠に不幸であった。
・『「我々が世界恐慌を引き起こすのでは…」 綱渡りの資金繰りに奔走  長銀の経営破綻が現実のものとなっても、まだまだやるべき仕事がありました。資金繰りです。国有化されるまでには時間があり、それが10月下旬であることは見当がつきました。その間、長銀が国有化されるといっても、一般のお客さまは金融債を解約し現金化しなければ不安で仕方がありません。 一方、銀行同士が取引を行うインターバンク市場では、長銀に無担保で融資してくれていた金融機関は簡単に貸してくれなくなります。金融債の解約が相次ぎ、他方でお金を貸してくれなくなれば資金ショートが起こります。これは大変危険な事態で、「あの銀行が払えないとなればこっちの銀行も危ない」と危機が伝播してしまいます。その危険が実際に起こったのが昭和金融恐慌でした。 しかもデリバティブやスワップといった金融派生商品ではかなり大きな規模の契約を国際的にしていますから、長銀がデフォルトになると国際的な騒ぎになる可能性がありました。折しもロシアで金融危機が表面化しており、金融不安は世界に広がっていました。当時の日銀理事でのちに国有化長銀の頭取やセブン銀行初代社長などを歴任する安斎隆氏にも時折呼び出され、「絶対に穴をあけるなよ」と。安斎さんは万が一の場合には、日銀特融を行わざるを得ないと考えていたようですが……。 資金不足は「10日後に8000億円から1兆円になる」といった巨額な水準でした。しかし、我々が資金ショートすると世界恐慌を引き起こすかもしれない。そんな恐怖感を持ちながら、私も含め全役職員が必死の思いで資金繰りに駆けずり回りました。 幸いにも長銀はデフォルトを起こさず98年11月4日、国有化長銀の役員が着任し、私は解任されました。頭取代行に就任してから2ヵ月半の期間でした』、アメリカの金融危機でリーマンは破綻させながら、保険会社のAIGを公的資金で救済したのは、CDSというデリバティブの最大の市場参加者だったからだ。マーケット主導型の破綻劇は、進行が速いだけに要注意だ。
・『「異論を出す力」が失われていた  長銀の経営破綻が現在の行政や金融機関にもたらした影響や教訓はたくさんあると思います。その1つは遅きに失した感もありますがプルーデンス政策、つまり、金融機関の破綻を防いだり、金融システムの安全性を維持したり、あるいは金融危機が発生した際に迅速に対応できる体制が国民的な理解を得てできたことでしょう。 アメリカではリーマンショックの際、非常に素早く対応しました。それができたのは日本も反面教師になっていると思いますが、やはりプルーデンス政策が用意されていたからです。これがあれば金融危機が生じても素早く公的資金を注入したり緊急融資を出したりして、金融機関の資金繰り危機に対応できます』、アメリカではリーマンショックが起きた9月の翌月になって、4000憶ドル(32兆円)規模の不良資産買取プログラム(TARP)が出来たので、やはり後手だった。
・『もう1つは大きな制度変更をいかに行うか、という問題です。1990年代前半まで日本の金融機関は縦割りの専門金融機関制度と行政指導に縛られていました。それが一時期は日本経済に貢献していたのですが、90年代半ばにいきなり銀行は市場原理のもとに、自己責任で経営せよ、行政は事後監視だけを行うと急激な方向転換が行われました。 この方向転換は米国のまねをしたというか、そうさせられた面が大きいのですが、長年の金融システムや慣行を変えるに際しては、自国の状況に合わせて時間をかけて行わなければ、さまざまな混乱が発生し、危機的な状況を招きかねないというのも長銀破綻の教訓だと思います。 また、危機的な状況があったとしても、当然ながら企業経営者は企業の生き残りのためにあらゆる可能性を想定して議論を尽くさなければいけないわけですが、前にも述べたように長銀は縦割り組織の弊害で、私を含め他のセクションの問題にもきちんと意見を言うべきとの自覚が乏しく、そうした風土に浸かってしまっていました。 こまごましたところにとらわれず全体を観察し「異論を出す力」を企業の中に蓄えないと、企業の弾力性が失われてしまいます。しかし異論を言う人を異端者として排除する傾向があったのは否めません。これは本当に大きな反省点で、経営者は自戒して日頃からそうした風土づくりを心掛ける必要があると思います』、正論ではあるが、同調圧力が殊の外強い日本型組織でそうした風土づくりといっても、ないものねだりのような気もする。
・『重層的な金融危機の要因を総括し、 今後に活かす取り組みを  銀行経営の側面でいえば、長銀はグローバルマーケットの一流プレーヤーになることを目標にしていた時期があり、そのために背伸びしたことも確かです。しかし日本の物差しは通用しませんでした。長銀は試行錯誤の末に反面教師としての事例を示してしまいました。 一例を挙げれば、長銀は海外の営業体制を拡充し、アメリカなどでは日本企業だけでなく現地のローカル企業にも融資先を広げましたが、現地通貨での低コストの資金調達力が伴っていないため、薄利多売の難しい仕事でした。 また、海外の大手金融機関との提携にしても、ディストレスワラント条項のようなものが普通に取り交わされているのが世界の金融界ですが、そうした危機対応まで考えて業務提携をした日本の金融機関は少なかったでしょう。長銀の事例が他の金融機関に警鐘を鳴らしたことは確かです。 現在の銀行は低金利とカネ余りで利ザヤが取れない中、どうやってもうけていくのか本当に大変だと思います。自助努力でなんとかしなさいと言われても、違う海へ漁に出て失敗し、リスクを負うことになりかねません。今回問題を起こしたスルガ銀行はその象徴のようです。 長銀が経営破綻したのは、最終的に経営陣、マネジメントの責任です。それを前提にして言うのですが、我々は長信銀制度からの転換ができなかった。ここまで述べたように破綻に至るまでには複合的、重層的な要因がありますが、究極的には長信銀が歴史的使命を終えて消滅したということなのだと思います。長銀の破綻に続き日債銀も破綻し、やはり厳しい状況にあった興銀も他の金融機関とのあまり実態のない提携で、将来の展望が開けているかのように形づくりをせざるを得ませんでした。98、99年は長期信用銀行という制度が事実上消滅した年として金融史に記録されるのでしょう。 あれから20年が経過して、経営破綻の瞬間だけにフォーカスするのではなく、かつて日本経済の中に長信銀が存在し、どのような役回りを担っていたかも含めて長銀を語ってもよいのではないか。最近はそう考えるようになりました。 アメリカではリーマンショック後、下院議会で総括作業を行いましたが、日本では金融危機対応についてそうした総括的な取り組みが行われていません。長銀国有化後に内部調査委員会が設けられ、経営陣の責任追及に絞った調査は行われましたが、複合的な要因を究明する動きは出てこなかった。 さかのぼればアメリカでは1929年のウォール街大暴落の後、1932年にペコラ委員会を上院に設置して調査を行い、グラス・スティーガル法の制定などにつながりました。アメリカはこうした取り組みをしっかりやっている。日本がそれをしないのは、非常にもったいないことなのではないでしょうか』、説得力溢れた主張で、全面的に賛成したい。
タグ:バブル崩壊 日本長期信用銀行 ダイヤモンド・オンライン 、「SBCは長銀を見限った」と市場に受け取られました 欧米のディーラーは自分の実績と報酬に直結しますから、そんなことはお構いなしに売るのです 経営破綻を招いたのはEIEではない 他行より重かった関連ノンバンク処理 この条項の承認が提案された常務会において反対したのは1人だけ 不動産融資総量規制 政治も混乱 東京を国際金融センターに マーケットの巨大な力は平時には見えませんが、こうしたときに大変な猛威を発揮する 長銀がデフォルトになると国際的な騒ぎになる可能性 長銀ウォーバーグ証券 マッキンゼーのコンサルティング 金融行政は「護送船団方式」から「自己責任原則」へと移行 貸し出しの売り込みと審査を同じ総本部内で完結 地価の本格的な下落 三重野康総裁率いる日銀 我々が世界恐慌を引き起こすのでは…」 綱渡りの資金繰りに奔走 98年11月4日、国有化長銀の役員が着任し、私は解任されました 資金不足は「10日後に8000億円から1兆円になる」といった巨額な水準 日本の金融機関であれば親密な会社の信用を落とす行為なので、他の証券会社に持ち込むよう顧客を誘導 スイスバンクコーポレーション(SBC)との業務提携 「長銀「最後の頭取」が語る、20年前の破綻に至った本当の理由 長銀元頭取・鈴木恒男氏インタビュー(上)」 国会審議で1ヵ月ほど衆目を集めるところとなった結果、その間に多くの風説やフェイクニュースが流布し、長銀の信用は日を追って低下し資金繰りが困難になりました あらかじめクビが決められた頭取就任 信用低下で資金繰り困難に 金融国会 住友銀行 宮内健 不良債権処理とは どのような仕事だったか 長銀株の下落でSBCとの提携が破綻 大蔵省と相談しながら作成した公的資金を入れるための再建計画 政府・与党は破綻状態ではない長銀に公的資金を投入する方針でしたが、野党は強く反対し破綻金融機関に対する法的な処理を行う制度を設けるべきだと主張 平成の鬼平 審議が膠着している間に長銀の信用が最終的に毀損される結果となったのです 政策新人類 重層的な金融危機の要因を総括し、 今後に活かす取り組みを 「営業重視・審査軽視」へと変化していったバブル期 なぜ不動産バブル崩壊を見抜けなかったのか SBCから「ディストレスワラント条項」を付け加えることを要求された SBCとの合弁証券会社から大量の長銀株売り 株主総会中に「株価が50円を切った」のメモ (長銀「最後の頭取」が語る 20年前の破綻に至った本当の理由、今だから話せる 破綻カウントダウンの日々) デリバティブやスワップといった金融派生商品ではかなり大きな規模の契約を国際的にしていますから 異論を出す力」が失われていた 監督機関が引き継ぎで空白の時を狙い、ヘッジファンド等が長銀を空売りのターゲットにしたのでしょう 「長銀「最後の頭取」が今だから話せる、破綻カウントダウンの日々」 EIEインターナショナル 長銀問題 業績にプレッシャーをかけた「長信銀制度」の行き詰まり 長銀「最後の頭取」である鈴木恒男氏
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バブル崩壊(山一證券問題)(山一證券の「消滅」から20年、山一證券の極秘報告書を入手!実名で暴かれた「本当の悪」 自主廃業から20年目のスクープ) [金融]

今日は、バブル崩壊(山一證券問題)(山一證券の「消滅」から20年、山一證券の極秘報告書を入手!実名で暴かれた「本当の悪」 自主廃業から20年目のスクープ)を取上げよう。

先ずは、昨年11月16日付け闇株新聞「山一證券の「消滅」から20年」を紹介しよう。なお、闇株新聞は本年7月7日から休刊になっている。
http://yamikabu.blog136.fc2.com/blog-entry-2123.html
・『まだ少し時間がありますが、山一證券が「消滅」した1997年11月24日からちょうど20年となります。そこで今もあまり明らかになっていない山一證券「消滅」の裏側について書いておきます。破綻とか倒産ではなく「消滅」としている理由も出てきます。 日経平均は最近の上昇でバブル崩壊後の高値を更新しましたが、その高値とは1996年6月16日の22666円(終値)だったため、その1年半後には山一證券が「消滅」したことになります。そしてその前段が三洋証券と北海道拓殖銀行の破綻でした。 バブル期に巨大なトレーディングルームを江東区塩浜に建設するなど積極経営を続けていた中堅の三洋証券は、バブルが弾けるとたちまち経営不振に陥っていました。とりわけノンバンク子会社の「三洋ファイナンス」への債務保証が大きくのしかかり、1992年3月期から1997年3月期まで6期連続の赤字決算となっていました。 1994年に大蔵省主導で大株主の野村證券が200億円の第三者割当増資を引き受け、生保各社も200億円の劣後ローンを提供したものの、三洋証券はその劣後ローンの期間延長でやっと自己資本比率200%を維持する状態が続きました。劣後ローンは返済期限が近づくと自己資本に算入できなくなるからです。 しかしその劣後ローンも1997年10月末をもって延長されず、三洋証券は同年11月3日に会社更生法の適用を申請し、翌4日に資産保全命令が出ます。ところがそこで三洋証券が群馬中央信用金庫から調達していた10億円の無担保コールがデフォルトしてしまいました。金融機関同士の信用で成り立っているインターバンク市場における最初のデフォルトとなりました』、命綱の劣後ローンが延長されないのが当局は分かっていた筈で、僅か10億円の無担保コールをデフォルトさせ、システミック・リスクの引き金を引いた当局の罪は重い。
・『その余波はたちまちコールなどインターバンク市場を直撃し、綱渡りで運転資金をやりくりしていた都市銀行の北海道拓殖銀行が11月15日に破綻し、11月24日には巨額簿外損失を抱えていた山一證券が「消滅」し、さらに翌1998年には巨額の不良債権を抱える日本長期信用銀行と日本債券信用銀行が破綻する本格的な金融危機となりました。 このコール市場の「たった」10億円のデフォルトが、すべてのきっかけだったとは言いませんが、そこから山一證券の「消滅」に至る背景には、もっと恐ろしい旧大蔵省の「思惑」が働いていたようです。 当時の首相は橋本龍太郎で、その最大の政策は行政改革でした。しかしそこで掲げる「財政と金融の分離」は、当時の旧大蔵省にとって絶対に潰したいものだったはずです。 1997年11月14日の夕方、大蔵省の長野証券局長を訪ねた山一證券の野沢社長に対し、長野局長はハッキリと「山一證券は三洋証券とは規模が違う」と支援を約束していました。この時点では山一證券の抱える巨額簿外損失も長野局長に詳しく説明してあったはずです。 ところが同じ1997年11月14日に橋本首相が小村大蔵省次官に「財政と金融の分離」を最終通告したため、そこで旧大蔵省の態度が一変しました。 つまり山一證券が破綻して(今から考えると北海道拓殖銀行の破綻も同じ理由だったはずですが)財政出動となるなら、金融政策も一体として旧大蔵省が主導権を取らなければならないという理屈です。 また旧大蔵省は橋本首相が主導した金融ビックバンも、金融危機が発生する懸念を無視した軽率なものであり、それが三洋証券を破綻させてコール市場のデフォルトを引き起こしたと批判したかったようです。 つまり三洋証券破綻・コールのデフォルト・北海道拓殖銀行破綻・山一證券「消滅」は、すべて橋本行政改革とくに「財政と金融の分離」を潰すための旧大蔵省のクーデターだったことになります。橋本首相の秘書官だった江田憲司氏もそうおっしゃっています』、3社破綻は「旧大蔵省のクーデター」だったとは、頷ける話だ。
・『そして運命の1997年11月22日、行政改革に向けた集中審議の最終日であり審議が翌23日未明までずれ込み、橋本首相が記者会見を行っていた午前3時20分に日経新聞が「山一證券、自主廃業へ」との第一報を打ちます。その段階で行政改革も「財政と金融の分離」も消し飛んでしまいました。 日経新聞の報道はもちろん旧大蔵省のリークで、一番驚いたのは当の山一證券の野沢社長だったはずです。つまりこの時点の山一證券は債務超過にはなっておらず、したがって巨額簿外損失の相談なども受けたことがなく、ただ山一證券が自主的に廃業したとして見事に梯子を外してしまいました。 山一證券はあくまでも「自主廃業」となったあとに巨額簿外損失が見つかり破産に追い込まれたことになっています。山一證券はそのままでもすぐに破綻していたはずですが、そうなる前に旧大蔵省の責任逃れと橋本行政改革とりわけ「財政と金融の分離」を潰すために「消滅」させられたことになります』、「山一證券、自主廃業へ」が旧大蔵省のリークだったとは、悪辣なやり方だ。
・『しかしここまでして潰した「財政と金融の分離」は、たった数か月後の1998年3月に検察庁が過剰接待で旧大蔵省のキャリア官僚を逮捕したため、結局旧大蔵省は財務省と金融庁に分離されて現在に至ります。官邸の圧力をはねのけた旧大蔵省は、同じ官僚組織(検察庁)に足元を掬われた(すくわれた)ことになります。 20年も前の山一證券「消滅」など、もう世間の関心を引くこともないと思うので、このタイミングで記事にしました』、当時の雰囲気を思い出すことが出来た。

次に、元読売新聞記者でノンフィクション作家の清武 英利氏が昨年12月11日付け現代ビジネスに寄稿した「山一證券の極秘報告書を入手!実名で暴かれた「本当の悪」 自主廃業から20年目のスクープ」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/53653
・『野澤正平社長(当時)が涙の記者会見をしてから20年。だが、最後まで山一證券に自浄作用が働くことはなかった。それを示す「極秘報告書」について、『しんがり』『空あかり』の著者が真相を明かす。 不正は「公然の秘密」  もし、その報告書が公表されていれば、日本の企業社会に痛烈な教訓を残していただろう。20年前に経営破綻した山一證券の法的責任判定委員会が作成し、封印された2つの報告書のことである。 東芝の不正会計や日産の検査不正、神戸製鋼所の検査データ改竄など、組織ぐるみの不正が横行する大企業にあって、その「不正の協業」に対する責任追及はいかに行われるべきなのか、報告書は大きな道標になった――はずだった。 2つの文書は、日本企業に共通した組織的不正の構造をえぐり出しただけではない。 日本企業では、出世と引き換えに、〝背信の階段〟を登る多くの社員が生まれるということ、そして、彼らの協業が不正を長く隠蔽させ、遂には会社を窮地へと導くことを、多数の関与者の実名を挙げて告発していた』、極秘報告書が封印されたのは、かえすがえすも残念だ。
・『山一破綻から20年を迎えたのを機に、私は元山一社員の再起の物語を改めて取材して歩いたが、いまなお怒りを秘めた人のなんと多かったことだろう。 山一を見限った元課長は「社内各所に含み損が隠蔽されていることは公然の秘密だった」と語る。 自ら組織不正に加わっていたと証言する者、「内部告発を生かす企業社会に」と主張する元社員……私が出会った元社員の声と、〝幻の報告書〟を支えに、日本企業の病理を改めて検証してみよう。  四大証券の一つだった山一證券は、1997年11月24日、金融不況のさなかに約2600億円の債務隠しが発覚して、自主廃業に追い込まれた。簿外債務の事実を知らされず、失職した役員や社員は激怒し、新旧経営陣の追及を始める。 だが、その不正は法人部門で「公然の秘密だった」と、「レコフ」(東京・麹町)社長の稲田洋一は語る。 いま、東芝や日産、神戸製鋼所で繰り返される日本企業の「不正協業」の構図である。稲田は山一破綻の3年前、山一事業法人第一部課長の職を投げ打ち、日本のM&Aビジネスの草分けであるレコフに飛び込んでいる。 「山一本社では、法人営業のエリートと言われる営業マンたちが飛ぶ鳥を落とす勢いでした。会社の容認、黙認のもとで、(不正な)利回り保証をしてファンドを集めてくる。そんな専門家が綺羅、星のごとくいて、その人たちが『特A』評価を受けていた。それが損失を生んでいるのに、誰も何も責任を取らないし処罰もされない」 証券会社では嫌なことも感覚をマヒさせることも起きる。だとしても、それはあまりに不条理で許せない、と稲田は思っていた。彼は'93年夏、米国留学から帰ってきた。 「そのころ、飛ばしの末に、とてつもない含み損が各所に存在していて、それが隠蔽されていました」と稲田は言う。 彼はその金額が1兆円を超えていて、処理不能だろうと考える。それ以上に深刻だったのは、経営陣の対応だった。 「分かっていて、目をつぶり問題を拡大し、完璧に隠蔽した。まさか(辞めて)3年でつぶれるとは思いませんでしたが、いずれこの会社はだめになるということには、ほぼ100%の確信がありました」』、米国留学から帰ってきたばかりの稲田氏にとっては、大きなショックだったに違いない。
・『野澤社長が「封印」した理由  山一の元女性社員によると、債券部には怪しげな伝票が回ってきていた。それは、当日の取引が終了した後のことで、課長が「これ、頼むよ」とさらりと伝票を出してくる。 書き込まれた金額は50億円や100億円という単位で、とても説明がつかなかった。担当者は言われた通りにそれに判子を押していたが、内心では疑っていた。 ――あれは不良債務を海外へ飛ばすカラクリの一端だったのではないか。 総務部長だった永井清一は、破綻の半年前から毎朝、ポストに新聞を取りに行くのが怖かったという。 17年間、大手企業の増資や社債発行を担当する引受業務に従事し、法人顧客への損失補填や「飛ばし」の実態を認識していたからである。いつか、破綻の日が来るのではないか、と恐怖心に揺れていたのだった。 永井の不安や元女性社員の疑問、そして稲田の指摘――それらを裏付ける2つの報告書がある。 冒頭でも述べたが、その1つが1998年6月に記された「法的責任判定の第一次報告書――国内の簿外債務発生の責任について」(13ページ、通称「第一次報告書」)、2つ目が同10月にまとめられた「法的責任判定の最終報告書」(130ページ、通称「最終報告書」)である。 いずれも最後の経営陣から依頼された3人の弁護士と公認会計士の計4人による「山一證券法的責任判定委員会」(委員長・渡邊顯弁護士)が作成したものだ。 社長だった野澤正平らに報告されたが、公表されず、特に最終報告書は「まとめられたことさえ明らかにできない」という姿勢を、野澤らは貫いた。 これらが封印されたのは、要するに委員会の渡邊や國廣正らの指摘が精緻、峻烈で、野澤らを役員に抜擢した旧経営陣にとってあまりに都合の悪い内容だったからだ。彼らは株主などからの訴訟を控えていた』、いくら訴訟を控えていたとはいえ、わざわざ作成させた報告書を封印した野澤社長の罪は重い。これでは、彼の「涙」の価値も消し飛んでしまう。
・『「最終報告書」は、①山一には、簿外処理による粉飾決算という無法地帯が広がり、②山一エンタープライズなど、関連企業というアンタッチャブルな伏魔殿も存在していた――と指摘したうえで、不正関与者は「皆偉くなった」と次のように述べる。〈(不正は)山一證券の役員の誰かが単独に出来る筈はなく、特金口座の維持管理、貸債の流れに応じた事務処理、法的形態に応じた資金の授受及び現先の実行とその事務処理まで、幅広く複数の部門とその部門の責任者による有機的なチームワークが必要であった。それこそ山一證券の社風である一糸乱れぬ見事な協業体制があった。 関与部門の各責任者は、何故この取引がなされなければならないかを当然に知っており、しかも口外出来ない性格のものであることを承知で粛々と事務処理を担当していた』、不正行為がこれだけ組織的に粛々と行われていたのは、山一證券の社風の「素晴らしさ」を物語っている。通常であれば、組織の効率を高めるが、組織が誤った方向に向かうと暴走するリスクを孕んでいるようだ。
・『「秘密サークル」が出世する  そして、不正の主な関与部門として、財務本部、債券本部、法人営業本部を挙げる。山一の簿外債務事件で刑事責任を追及されたのは、元会長の行平次雄と元社長の三木淳夫の2人だけだが、実際の債務隠しには14人の取締役や監査役が関与したとして、その実名を記した。 さらに、彼らが秘密を共有するにつれて昇進し、何十、何百人という部下を巻き込んでいった経緯と、年度順に追った〝出世一覧表〟(関与取締役一覧)を掲載して、次のように結論付ける。〈このいわば会社の恥部を知った、秘密サークルに属している部門の責任者が会社の重要なポストを占める様になっていた〉 正富芳信は、その秘密サークルの端にいた。事業法人部で破綻までの6年間、財テク企業として名を馳せた鉄鋼商社「阪和興業」を担当し、「飛ばし」を続けている。法人営業本部や事業法人本部の関与者がいまだに取材拒否を貫くなかで、彼は堂々と今回の取材に応じた。 拙著『空あかり 山一證券〝しんがり〟百人の言葉』の中で、破綻後に同期の仲間から「A級戦犯」と呼ばれた苦しい日々を振り返っている。 「紙に書いた(裏の)契約書があったんです。役員の名前が書いてあって、向こうの社長の名前、いくら預かったか、落とし(利益)はいくらか、期間はいつかと、そういう確定利回り何%で金額はこうなりますという内容です。 ニギリをした会社は、阪和興業ばかりではなく、そういう紙がすべてにあったんですよ。念書みたいに必ず一筆書いています。監査が入って見つかるとヤバいので、みんな自宅に持ち帰っていました」 山一の内情を調べあげた最終報告書は、こうも指摘している。〈関与部門の役員レベルのみではなく、それ以下の相当の職位の部下も携わっていた。極端な場合には、取引の伝票に関する起票者から承認まで全関係者が事実関係を部分的ではあるにせよ知っていたと考えられる〉 飛ばしの末に山一が破綻すると、事業法人部門の社員は次々と再就職を決め、会社に来なくなった。だが、正富は'98年3月に全員解雇されるまで残り、担当した会社を回って頭を下げた。求人情報を聞き取っては、山一社内の「再就職掲示板」に求人票を掲示していったという。 「A級戦犯の自分としては、自分だけさっさと再就職するわけにいかなかった。そこまでしないと同期社員に対して顔が立たなかった」と彼は言う。 大企業の同調圧力は、こうして若い社員まで不正に染め上げ、苦しめる。山一の元海外事務部長だった福原恒夫は「日本の企業は隠蔽体質を簡単には変えられないのだ。自浄作用もほとんどない」と指摘する。 「だから、早い段階での内部告発も必要だ。それは、内部で不正一掃を言い出せない時、膿を早く出し、結果的に企業や社員を救うための良策ではないか」 哀しいことに、社長の野澤ら最後の経営陣は、破綻後もなお、旧経営陣とその取り巻きを厳しく指弾できなかった』、「日本の企業は隠蔽体質を簡単には変えられないのだ。自浄作用もほとんどない」との指摘は、いまだに日本型組織の通弊のようだ。
・『実は、破綻後の山一には、これら2つの報告書とは別に、業務監理本部長だった嘉本隆正率いる有志によってまとめられた「社内調査報告書」(106ページ)があった。 ▽「会社のため」は認めない(これは、第一次報告書の2ヵ月前に、一部役員の反対を押し切って公表されていた。 常務の嘉本らは破棄される寸前の内部資料を探し出し、100人を超す元幹部からヒアリングを実施したりして、簿外債務の実態と社内の債務隠しチームの存在を突き止めている。 企業の社内調査の前例になる画期的な内容だったが、嘉本も役員の席に連なっていたことから、その後の責任追及は弁護士ら外部識者に委ねざるを得なかった。 そのころには社内調査の有志たちも会社を離れており、社員の怒りの力を結集できなかったことも、2つの報告書の封印を許す一因となった。 別項は「第一次報告書」の概要である。その冒頭に、〈判定委員会は、従来の我が国企業の「常識」から見て許されてきた行為であっても、法の観点から問題ありと認められれば有責と判定することに躊躇しない。「会社のため」という抗弁を認めない〉と宣言し、〈こうした抗弁は「証券四社からの脱落のおそれ」や「経営責任を問われることへの恐怖」を、「会社がつぶれる」という言葉にすり替えているものと思われる〉と断じた。それらの指摘も新旧経営陣の畏怖と抵抗を招いた。 真実の公表は、山一社員や株主、顧客に対する責務だったはずだが、不正の泥沼の中から生まれた経営陣は、結局最後の仕事を果たさなかった。 『空あかり』に登場した元社員の間には、「会社のために生きてはいけない」「ゴマすり人間にだけはなってはいけない」という声が強い。それは会社に――いや、役員や一部のエリートたちに裏切られた一般社員の痛切な企業批判であるように思える』、報告書が封印されたことで、残念ながら、同じ過ちに陥る企業がまた出てくることになるだろう。
・『第一次報告書の概要 〈結論〉 山一證券は「国内の簿外債務の発生」に関し、10名(役職名は'91年12月当時)に対して損害賠償請求の法的手続きをとるべきである。 横田良男(代表取締役会長)、行平次雄(代表取締役社長)、延命隆(代表取締役副社長=故人)、石原仁(代表取締役副社長)、三木淳夫(代表取締役副社長)、高木眞行(顧問・元専務取締役)、小西正純(常務取締役)、白井隆二(常務取締役)、礒守男(取締役)、木下公明(企画室付部長)=このうち木下を除く9人に訴訟が起こされた。 〈損害賠償請求の原因となる経緯〉 山一證券事業法人本部では1987年頃から、顧客企業に対し一任勘定で利回り保証を約した勧誘(ニギリ)で資金導入を図るケースが増加した。  「ニギリ」は、'88年頃から組織的に行われ、損失が生じるものも増加し、損失を先送りする「飛ばし」も行われるようになった。'90年6月頃からファンドの処理に関しては、①客とトラブらない②粛々と引っ張れ③営業担当者の責任にはしない、という方向で、損失補填や「飛ばし」が続けられた。 しかし、'91年夏、証券不祥事が発覚、損失補填が強い社会的非難を浴び、顧客企業からファンド解消の要求が相次ぐようになり、「飛ばし」による先送り方針も維持できない状況に追い込まれていった。 〈行為1〉行平、延命、石原、三木、高木、小西、白井、礒、木下は'91年11月頃から'92年1月頃にかけて、共謀の上、顧客企業との間で引き取りにつき争いになっていた含み損のある有価証券を引き取ることを決定した。この決定に基づき、7社が保有していた含み損のある有価証券を、ペーパー会社に帰属させるというスキームを用いて引き取った。これにより、約1207億円('92年3月末、国内分のみ)の被害を被った。 〈行為2〉会長の横田はこれらの行為を知りうべき立場にあり、取締役としてこれを阻止すべき法的義務(監視業務)を怠った』、旧役員への損害賠償請求は結局されなかったらしいが、理由は不明である。いずれにしろ、裁判を通じた有用な教訓が、監査法人を除いては残らなかったのは残念である。
タグ:秘密サークル」が出世する 不正関与者は「皆偉くなった」 山一エンタープライズなど、関連企業というアンタッチャブルな伏魔殿も存在していた 山一には、簿外処理による粉飾決算という無法地帯が広がり 最終報告書 第一次報告書 野澤社長が「封印」した理由 山一本社では、法人営業のエリートと言われる営業マンたちが飛ぶ鳥を落とす勢いでした。会社の容認、黙認のもとで、(不正な)利回り保証をしてファンドを集めてくる。そんな専門家が綺羅、星のごとくいて、その人たちが『特A』評価を受けていた。それが損失を生んでいるのに、誰も何も責任を取らないし処罰もされない 山一證券の法的責任判定委員会が作成し、封印された2つの報告書 「極秘報告書」 「山一證券の極秘報告書を入手!実名で暴かれた「本当の悪」 自主廃業から20年目のスクープ」 現代ビジネス 清武 英利 検察庁が過剰接待で旧大蔵省のキャリア官僚を逮捕したため、結局旧大蔵省は財務省と金融庁に分離されて現在に至ります 旧大蔵省の責任逃れと橋本行政改革とりわけ「財政と金融の分離」を潰すために「消滅」させられたことになります 旧大蔵省のリーク 日経新聞が「山一證券、自主廃業へ」 「財政と金融の分離」を潰すための旧大蔵省のクーデターだった コールなどインターバンク市場を直撃し、綱渡りで運転資金をやりくりしていた都市銀行の北海道拓殖銀行が11月15日に破綻し、11月24日には巨額簿外損失を抱えていた山一證券が「消滅」し、さらに翌1998年には巨額の不良債権を抱える日本長期信用銀行と日本債券信用銀行が破綻する本格的な金融危機 三洋証券が群馬中央信用金庫から調達していた10億円の無担保コールがデフォルト しかしその劣後ローンも1997年10月末をもって延長されず、三洋証券は同年11月3日に会社更生法の適用を申請し、翌4日に資産保全命令が出ます 「三洋ファイナンス」への債務保証が大きくのしかかり、1992年3月期から1997年3月期まで6期連続の赤字決算となっていました 三洋証券 「山一證券の「消滅」から20年」 闇株新聞 )(山一證券の「消滅」から20年、山一證券の極秘報告書を入手!実名で暴かれた「本当の悪」 自主廃業から20年目のスクープ) 山一證券問題 バブル崩壊
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いじめ問題(その7)(“いじめ自殺” 遠い真相解明 ~検証 第三者委員会~、鹿児島男子高校生「いじめ」自殺 県と県教委で判断が分かれた理由、日本の学校から「いじめ自殺」がなくならない根本理由 先生がいじめた末 生徒は飛び降りた…) [社会]

いじめ問題については、11月15日に取上げた。今日は、(その7)(“いじめ自殺” 遠い真相解明 ~検証 第三者委員会~、鹿児島男子高校生「いじめ」自殺 県と県教委で判断が分かれた理由、日本の学校から「いじめ自殺」がなくならない根本理由 先生がいじめた末 生徒は飛び降りた…)である。

先ずは、7月30日付けNHKクローズアップ現代+「“いじめ自殺” 遠い真相解明 ~検証 第三者委員会~」を紹介しよう。
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4166/index.html
・『“いじめ”を受けた子どもの自殺が相次ぐ中、その背景や真相を究明する調査が様々な壁にぶつかっている。先月、神戸市で、いじめに関わる一次資料を市の教育委員会担当者が隠蔽していたことが発覚。一方、調査を担当する全国の「第三者委員会」では、遺族との信頼関係を築けず報告書を完成させられないなど、“機能不全”ともいえる事態が起きていることも分かってきた。当事者の生の声を取材し、どうすれば、いじめの真相を明らかにし、再発防止につなげられるのか考える』、いつまでも続く“いじめ”の第三者委員会を掘り下げた意味は大きい。
・『いじめ 親に立ちはだかるカベ “今さら出せない…” 隠蔽の実態  いじめを受け、みずから命を絶った14歳の少女。その母親と教育委員会のやり取りです。 少女の母親 「のけものにされたり悪口言われたり、毎日のように孤立させられて、心身の苦痛を感じないはずがないですよね。」「娘はいじめを受けていた」と訴える母親。しかし…。 教育委員会 担当者 「学校としていじめがあったと報告を上げるときは、必ず指導をしたということが必要。(いじめたとされる生徒)は何も指導されていない。問題行動(いじめ)としてあげられない。」 少女の母親 「だから(いじめに)含まれていない。」 教育委員会 担当者 「そういうことかな。指導して初めて、加害・被害があって問題(いじめ)となる。」 担当者は、学校が指導していない以上、いじめは認められないと繰り返しました』、こんな形式論を振りかざす担当者がいるとは、信じ難い。
・『しかし…。「誠に申し訳ございませんでした。」その教育委員会が、いじめはあったと認め、先月(6月)、実態が記されたメモの隠蔽を謝罪しました。  NHKが独自に入手したメモです。亡くなった少女の友人が、いじめの状況を教師に報告していました。少女は仲間はずれに遭い、学年の中心的なグループから嫌がらせを受けていたと克明に記されています。 少女の母親 「娘の自画像です。小さいころから暇さえあれば絵を描いていて。」 神戸市の中学校に通っていた少女は、おととし(2016年)、自宅近くの川でみずから命を絶ちました。亡くなる前、学校を休みがちになっていた娘に、母親は何度もその理由を尋ねてきたといいます。 少女の母親 「分からなかった。何回も聞いたし、何か悩みがあるんだったら本当に教えてほしかったんですけど、『何もない』『大丈夫』『友達はいる』としか答えてくれなかった。」 母親は娘が亡くなったあと、いじめを受けていたと確信するようになりました。それはなぜか。母親はみずから、同級生や教師、のべ50人に聞き取りを行ってきました。 “顔面凶器と言われていた。” “消しゴムのカスを投げられていた。” 母親は証言をもとに、繰り返し教育委員会や学校にただしてきました。 少女の母親 「みんなが『いじめがあった』と教えてくれた。そういった生徒が10人以上いるのに、なんであがってこないのでしょう。」 しかし担当者は、明確に答えようとはしませんでした。 教育委員会 担当者 「よく分からないですよね、実態は。周りの子も『大きな話ではなかった』という感覚だったのかなと。」 聞き取りを始めて4か月後、母親は隠蔽されたメモの存在を知ります。教育委員会に提示するよう求めましたが、回答は「記録として残していない」というものでした。 少女の母親「生徒たちが事件直後に必死の思いで語ってくれた貴重な証言であるはずなのに、なかったことにされようとしている。すごく不安を覚えました。」 隠蔽されていたメモは、学校に保管され続けていました。教育委員会が存在を否定していることを知った教師が、新しく着任した校長に「メモはある」と伝えます。校長は、教育委員会の部長や課長に報告。しかし、具体的な対応はありませんでした。 さらにその7か月後、母親の再三の訴えを受けて、校長は改めて教育委員会の別の幹部に「メモはある」と報告。教育委員会はようやく確認に動き、メモの隠蔽を認めたのです。少女が亡くなってから、1年半余りがたっていました。 神戸市教育委員会 長田淳教育長 「組織としての体をなしていない。きわめて不適正で、決して許されるものではなく、誠に申し訳なく思っております。」 隠蔽の裏で何があったのか。「メモはない」と伝えた教育委員会の担当者は…。“今さら出すことはできない。” “メモを今開示すれば事務処理が煩雑になる。” “先生、腹くくってください。” 母親は、メモが最初から示されていれば、これほど苦しまず、原因究明ももっと早くできたのではないかと考えています。 少女の母親 「最初に隠されてしまったことで、知る機会を、みんなの記憶も曖昧になってきて、大事な最初の機会を失ってしまった。逃してしまった。とても許しがたい。」』、教育委員会には独立性が重要であるとはいっても、こんな不誠実な委員たちを処分することすら出来ないとしたら、制度の見直しが必要だろう。
・『“いじめ自殺”なくならない隠蔽 なぜ?遠い真相解明  武田:なぜ、わが子の命が失われたのか。少しでもその手がかりを知りたいという保護者の切実な願いを踏みにじるような、教育委員会の対応。過去にもたびたび繰り返されてきたことが、まだなくならないことに強い憤りを感じます。 鎌倉:今、子どもたちは夏休み中ですが、1年の中でも夏休みが明ける前後に、子どもたちの自殺が集中しています。 武田:1人もいじめで命を絶つ子どもが出ないために、どうしたらいいのか。越えるべき課題はまだ残されています。 鎌倉:それが、いじめの真相解明と、再発防止のために調査を行う組織、「第三者委員会」の在り方です。全国でいじめを巡る問題が相次いだことをきっかけに、5年前、法律が制定され、各地で組織されるようになりました。大学教授や弁護士、医師などの専門家が、第三者の視点で詳細な調査を行うことになっています。 ところが、この第三者委員会が機能不全に陥っているケースがあることが、NHKの取材で明らかになりました。これまでに設置された、いわゆる第三者委員会は少なくとも69件で、そのうち13件で遺族から調査のやり直しや委員の交代を求められ、真相解明に長い時間がかかっているというのです・・・一体何が起きているのでしょうか』、第三者委員会は企業の場合でも経営者の保身のためではとの批判も多いが、教育の場でも問題山積のようだ。
・『募る親の不信感 なぜ課題が?第三者委員会  おととし8月、みずから命を絶った葛西りまさん。当時13歳。手踊りが大好きな中学2年生でした。りまさんは、スマートフォンに遺書を残していました。 “突然でごめんなさい。ストレスでもう生きていけそうにないです。” “もう、二度といじめたりしないでください。” “本当に13年間ありがとうございました。いつか、来世ででもりまが幸せな生活をおくれる人になれるまで、さようなら。また、会おうね。” 父親の剛さんです。なぜ、娘は亡くならなければならなかったのか。その真相を知りたいと思い続けてきました。 りまさんの父親 葛西剛さん「本当にいつでも帰ってきていいように、毎日ごはんも準備していますし、新しい服なども買っていますし。ただ、周りでは卒業式だったり入学式だったり、記念するべき日が来るたびに、なぜ、りまはいないんだという現実を突きつけられて、もうこんな季節なのかと。」 りまさんが亡くなってまもなく、大学教授や医師などからなる第三者委員会が立ち上がりました。第三者委員会はまず、全校生徒にアンケートを実施。さらに遺族から、りまさんのSNSの記録などを提供してもらい、生徒や保護者など、のべ100人に聞き取りを行いました。そして7か月後、報告書の原案を遺族に提示しました。しかし、父親の剛さんは、そこにあった初めて見る言葉にがく然としたといいます。りまさんが、「思春期のうつ」であったと推測されると書かれていたのです。 りまさんの父親 葛西剛さん「今まで私たちが聞いたことがない言葉。“思春期のうつ”だと。いじめという単純なものではないと書かれていて。」 不信感を募らせた剛さんは、第三者委員会に、思春期のうつと判断した根拠を求めました。しかし、納得できる説明はされませんでした。 りまさんの父親 葛西剛さん「(娘と)会ったこともない、診断したこともない方に、勝手にうつにされているのです。許せるはずがありません。私たちとしては二度殺された思いです。」 第三者委員会の会長として調査にあたった、社会学が専門の大学教授・櫛引素夫さんです。委員の多くは、初めての経験で、何をどこまで行えばいいのか手探りだったといいます。 前『第三者委員会』会長 櫛引素夫さん「実際には、本当に手探りで全て私たちは進めておりました。」 いじめの調査に関する文部科学省のガイドラインには「遺族に寄り添うこと」、そして「丁寧に説明すること」などが書かれています。しかし、具体的なことは現場の判断に任され、遺族が求める説明を尽くせなかったといいます。 前『第三者委員会』会長 櫛引素夫さん「結果的にご遺族の悲しみ・苦しみを強めたなら、寄り添っていない。いじめを防ぐための視点、志と、詳細調査を進める志。もう1つ、傷ついているご遺族に寄り添って一緒に悼み、一緒に泣く。その3つの心が必要だということを、僕は実感しました。でも3つの心を、1つの体、1つの心で持ち合わせることは、極めて難しかった。」 りまさんが亡くなって、もうすぐ2年。第三者委員会はメンバーを入れ替え、今も調査が続いています。 りまさんの父親 葛西剛さん「待っている時間ですら、相当苦痛を強いられる状況。私たちのような家族は二度と出てほしくないと、それは強く望んでいます。」』精神科医でもない委員たちが「思春期のうつ」を示唆したのは、学校側の責任を回避するためなのだろうが、最もやってはならないことをした大失態だ。
・『遠い真相解明 いま現場で何が?  ゲスト尾木直樹さん(教育評論家) ゲスト横山巌さん(日本弁護士連合会子どもの権利委員会・文部科学省いじめ防止対策協議会委員) ・・・尾木さん:基本的に、委員会の役割というのは事実をどう解明していくのかということですから。ご遺族にもあたって、「こういう点はどうだったんですか」というふうに聞き取り調査をするのは当然ですから、そういうことをやっていけば、お焼香するだけではなくて、いろんな中身について踏み込んでいくということをやっていくほうが、逆にご遺族の信頼は勝ち取ることができると思います。 武田:もうひと方、弁護士で文部科学省の委員としていじめ問題に取り組む横山さん。第三者委員会がわれわれの取材で、各地で壁にぶつかっているという現実も見えてきたわけですけれども、なぜこんなことになっているのでしょうか? 横山さん:まず、ご遺族との信頼関係が構築できていないというケースが多いのではないかというふうに思っています。ポイントとしては、僕は2つ考えたのですが、まず事実の徹底的な解明というのが十分なされたかどうか。ご遺族の立場からすると、何があったのかということを知りたいというのが、第一だと思うんですね。その点がどうだったかというのがまず1つ。2つ目は、文科省の指針でも出ていますが、「寄り添い」がしっかりできていたのかというところがあると思います。その寄り添うというのは、僕は3つ考えられると思うんですけれども、1つは委員会のほうで収集した情報を、どれだけ開示がしっかりできているか。ご遺族のほうのご意見、あるいはご意向をどれだけ聞くことができるか、何度も何度もそこは繰り返すことが必要だと。あと最後は、亡くなった子どもの視点から、その事案をしっかりと見ていってくれているのかどうかというところが、すごく大きいと思います。検証的に大人があとから見て「これはこうだった」ということではなく、そのときの子どもの立ち位置、例えば高校生、中学生であれば学校生活がすべてですよね。その中で追い込まれていった、その子どもの視点で問題を捉えていくことができているかどうかという点が、すごく大きなところではないかなと思っています。 鎌倉:番組では、全国の第三者委員会の経験者を対象にアンケートを実施し、98人から回答を得ました。 ”遺族の信頼を得て、これを維持し続けながら調査をするのは容易ではない。” “調査手段が限られている。強制力がなく、任意の協力に頼るしかないが、非協力的な相手が多い。” “第三者委員会としては、公平・中立な立場で調査・検討するつもりだったが、その表現が、ご遺族にとっては、不信感や配慮不足と受け取られたと思われる。”  鎌倉:中には、第三者委員会が真相に迫れなくなっていると訴えるケースもあります』、第三者委員会がスポンサーである教育委員会の方を重視していたら、真相に迫れないのも当然だ。
・『いじめ調査 当事者の告白 “遺族が気の毒すぎる”  今回のアンケートに、「中立的な立場で調査できなかった」と書いた第三者委員会の経験者がいます。ある中学生の自殺の背景や、いじめの有無について調査した男性です。 『第三者委員会』経験者 「真実を突き止めることができなくなるのではという不安はあります。」 難しかったのは、遺族にどこまで踏み込んで聞いたらいいのかという点でした。ある委員が、「自殺の背景を知るために遺族にも聞き取るべきだ」と意見したときのことです。 委員 「どうして子どもは亡くなったのか、事実確認をするためにも、亡くなった子どものことや家庭での様子を保護者にも聞いたほうがいい。」 すると、別の委員が…。委員 「それでは、遺族が気の毒すぎる。」 結局、聞き取りは実施されなかったというのです。  男性は、何があったのか知るためにも、いじめたとされる生徒だけでなく、亡くなった子の遺族にも等しく聞き取るべきだったと振り返っています。 『第三者委員会』経験者 「人の悲しみに土足で入るようなことはしない方がいい。でも圧倒的に悲痛な思いに対して寄り添って、心情に流される。それで足並みがそろわないのは、非常に不幸なことだと思います。」』、「それでは、遺族が気の毒すぎる。」との発言に反論しなかった委員たちも、真相究明から逃げており同罪だ。
・『遠い真相解明 文部科学省は…  第三者委員会が問題に直面していることについて、文部科学省に問いました。 文部科学省 初等中等教育局 児童生徒課 生徒指導室長 松林高樹さん「第三者委員会で保護者の方々との信頼関係の構築に、大変苦労されているという例が多いことは承知しております。今後、引き続き教育現場におけるいじめ防止対策の改善すべき点がないか、よく注視しまして、結論を出していくことをしてまいりたいと思っております。」』、典型的な役人答弁に、深堀せずに流したところはNHKらしい。
・『遠い真相解明 いま何が必要か?  武田:事実を明らかにしていくためには、被害者のほうにも踏み込んで調査をしなければならない。こういった場面もあるんですね。 尾木さん:それはありますよね。特に学校の子どもたちの聞き取りをして、遺族のお話を聞いてみると、こういうわけだったのかとか、もうちょっと膨らんでくるんです。それは大津のときも重要だったなと僕は思います。 武田:結論として、被害者側の方の思いと違う結論になることもありえますよね? 横山さん:それはありえると思います。しかしながら、委員との間でしっかりと信頼関係ができていて、ちゃんと話を聞いたうえでの結論ということになれば、納得していただけるケースも多いのではないかと思います。 武田:やはり大事なのは信頼関係ということですね。 横山さん:そう思います。 鎌倉:では、どうすれば第三者委員会の調査結果を、さらにその先の再発防止につなげることができるのか。具体的な取り組みにつなげているのが、ゲストのお2人が調査に関わった、大津市のケースです。  第三者委員会の調査では、「いじめの早期発見に力を入れること」「職員が問題を1人で抱え込まないようにすること」などの対策が提言されました。それを受けて、いじめの早期発見のために、担任を持たない専門の教師を市内すべての小中学校に配置。さらに、いじめの芽があれば、教師が集まって情報共有の場を持つようになっています。 武田:二度と命が失われないために、いじめを巡るこうした調査と再発防止策は、どうあるべきなのでしょうか? 横山さん:やはり具体的な事案を通して、そこから具体的な再発防止などの提言を出すということが大事だと思います。第三者委員会は責任追及の場ではないんだということを徹底するということ。あとは、いじめの予防ということも非常に大事ではないのかなと。いじめはどこでも、誰でも、いつでも起きることなんだということ。それから子どもたちに対して、いじめは人権侵害なんだということ、そこを徹底的に伝えていくということが大事ではないでしょうか。 武田:その材料として、やはりこうした調査は重要だということですね? 横山さん:具体的な調査を通じて、大事なことだと思います』、「具体的な再発防止などの提言」はこれまで多く出されているのに、いじめがなくならないことへと、問題を掘り下げるべきだ。
・『夏休み明けに不安な子ども そして大人たちへ…  武田:番組にはいじめに悩む子どもや保護者に向けて、さまざまなご意見が寄せられています。 40代 女性 長崎“学校だけでも100%味方でいてもらいたいでいてもらいたい。それだけでも心が救われる。” 19歳以下 男性 岡山“学校に行かないことも選択肢。『逃げてもいいんだよ』と伝えたい。” 武田:尾木さん、夏休み明けに向けて不安を抱える子どもや保護者もいらっしゃると思いますけれども、最後にメッセージをお願いします。 尾木さん:先ほどもありましたけれども、学校に行かないのも選択肢の1つ、自分の命を守るということは、うんと大事にしてほしいということです。それからもう1つ大事なことは、保護者の皆さんは、しっかり「あなたの味方だよ」というのを、言葉と態度で示してほしい。そして、必ずこれは解決していくと、学校とも協力しながらね、そういう展望をきちんと出してほしいと思います。そして子どもたちが、「あっ、味方がたくさんいるんだ」と、つらくても学校に行かなくて済むように、守ってほしいなと思います。 武田:二度と悲劇を繰り返さないために、いじめに苦しんできた子どもたちの思いに、今度こそ私たちは応えていかなくてはならないと思います』、この番組を紹介したのは、第三者委員会の不誠実な対応を示すのが主目的だった。最後の対応は当たり前で、余り参考にはならないのが残念だ。

次に、事件ジャーナリストの戸田一法氏が12月1日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「鹿児島男子高校生「いじめ」自殺、県と県教委で判断が分かれた理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/187101
・『4年前に起きた鹿児島県立高校1年生の男子生徒(当時15)の自殺を巡り、原因を調査している県の第三者委員会は11月18日、背景にいじめがあったと認定した。19日朝刊に地元の南日本新聞(鹿児島市)だけではなく、全国紙にも掲載されたので記事をご覧になった方も多いと思う。実は、これに先立って行われた県教育委員会の第三者委員会は「(いじめを)裏付けることはできなかった」と結論付けていた。同じ県の役所なのに、なぜ県と県教委で結論が異なったのだろうか』、学校側との距離の近さの差だろう。
・『事実を知りたい母親の願い  男子生徒は鹿児島市の田中拓海さん(ご遺族が氏名公表をご希望のため、実名で表記します)で、2014年8月、自宅で首を吊っているのが見つかった。遺書や理由を示す文書はなかったとされる。 母親は「拓海は自殺するような子じゃなかった。親として、何があったか知りたい」として学校に調査を要請。これを受けて同学年の生徒を対象にアンケートを実施したところ、いじめがあったことをうかがわせる記述があったという。 母親が2015年6月、いじめ防止対策推進法に基づき、県教委に第三者委員会の設置を求めた。同法については後述するが、学校や教育委員会は自殺や不登校などの重大事態が発生した際、いじめがあったか不明確でも保護者や生徒・児童本人の申し立てがあれば調査しなければならない。 県教委は要請を受けて第三者委員会を設置。同12月に初会合が開催された。 会合は非公開で協議されたが2017年3月、第三者委員会は「(学校の)事後の調査が不十分。遺族への対応にも配慮を欠いた」とし、いじめが疑われる複数の情報を確認したとしながら、「自殺の要因となるいじめの存在を特定できない」と結論付け、いじめがあったと断定せず、自殺との因果関係についても言及しなかった。 母親は納得せず同12月、「調査は不十分」とする意見書を提出。県はこれを受けていったんは県教委に再調査を要請し、県教委も応じる構えだった。しかし、母親が県教委の再調査を望まず、県が知事部局主導での第三者委員会を設置していた。 県の第三者委員会は今年6月、初会合を開き、県教委の第三者委員会と同様、会合は非公開で行われた。 そして11月18日、田中さんがクラス内でバッグに賞味期限切れの納豆巻きを入れられたり、履物を隠されたりするいじめを受けていたと認定。このほかにも、からかいなど嫌がらせを受け、心理的苦痛を受けていたと認め「(いじめかどうかは)本人が心身の苦痛を受けていたかどうかを指標とした」と説明した。 県の第三者委員会はいじめと自殺の因果関係についても引き続き調査を継続する方針だという』、面白い展開だ。
・『背景にお互いの保身  実は、県の第三者委員会がいじめと認定した根拠の内容は、県教委の第三者委員会も聞き取り調査で認識していた。 ではなぜ、結論が正反対になったのか。それはそれぞれの「立場」に起因している。 教育委員会は戦後の1948年、教育基本法に基づいて成立した機関で、都道府県教育委員会と市区町村委員会がある。当初は自治体の首長や教育行政官の意思ではなく地域から選ばれた住民が管理運営していた。しかし1956年、首長が議会の同意を得て任命する制度に変わる。任命制ではあるが、建前上は独立した機関であり、委員長はほとんどが教職員出身者だ。 つまり、教育委員会の委員長や管理職は学校の教職員と上司と部下の関係にあり、いわば身内である。教職員出身者の教育委員会に教育現場の教職員をかばう雰囲気が生まれるのは当然の成り行きなのだ。 また、第三者委員会は一般的に「利害関係のない公正・中立な立場」の弁護士などの有識者らで構成されるというが、もちろん無報酬のボランティアではない。 依頼を受けて報酬が発生する雇用主と被雇用主の関係になる。世間一般の常識として、雇われた側が雇い主の不利になるような結論を出すことはまずない。 「疑いはあるが裏付けられなかった」という判断は、はっきり言えば「あったけれども、なかったことにします」と言っているのと同じ意味なのだ。田中さんの母親が納得できないのも当たり前だ。 一方、県の第三者委員会はどうか。 実は「知事部局」主導というのがポイントだ。いうまでもなく、県知事は選挙によって選ばれる。この事件・・・に関しては、記者会見で母親の肉声を聞いたマスコミが同情的な報道を続け、世論は完全に母親支持に傾く。 ここで「県教委はけしからん結論を出した。県はみなさまが納得できる結論を出しましたよ」と“大岡裁き”を見せる。県知事は有権者の心をぐっとつかむことができたに違いない。県教委が再調査の意向を示したにもかかわらず、1ヵ月もたたず県知事部局が名乗り出た理由がここにあるだろう』、県知事の政治的パフォーマンスだったとはいえ、結果、オーライだ。
・『いじめは「犯罪」と認識すべき  前述した「いじめ防止対策推進法」は2013年、大津市で中学2年の男子生徒がいじめにより自殺した事件が発端となり成立した。事件を巡る学校と市教育委員会の悪質な隠ぺい体質が報道によって発覚、市教委は強烈な批判を浴びた。 事件は大津市内の中学校で発生した出来事で、被害生徒は「トイレで殴られた」「廊下でおなかを蹴られた」「鉢巻きで首を絞められた」「体育大会で集団リンチのようなものに遭っていた」などの暴力を受けていたほか、「金銭要求」「万引きをさせられた」ことがアンケートで判明。 「暴言・嫌がらせ」は日常的に受け、「おまえの家族全員死ね」と言われたり、蜂の死骸を食べさせられそうになったり、顔に落書きされたりもしていたという。 しかも加害生徒らは、被害生徒から自殺をほのめかすメールを送られていたにもかかわらず相手にせず、自殺後も被害生徒の顔写真に落書きや、穴をあけるなどしていた。さらにアンケートに「死んでくれてうれしい」「死んだって聞いて笑った」などと回答していた。 しかし学校はいじめの報告を受けていたにもかかわらず「ケンカと認識」とごまかし、市教委も「自殺は家庭環境が問題」と責任逃れに終始していた。 この事件の際、市教委は隠ぺいに奔走したが、市長の設置した第三者委員会によって事実関係が次々に明らかにされた。そして「教育委員会の隠ぺい体質」がクローズアップされ、国会が法の制定に乗り出したという経緯がある。 この事件では、被害生徒の父親が暴行や恐喝、強要、窃盗、脅迫、器物損壊の罪で加害生徒を刑事告訴し、民事訴訟も起こしている。 各地で同様の事件が発生するたび、各教育委員会は「いじめ」と総称し、学校内で起きた軽いいざこざのような説明をするが、実はすべて“犯罪”行為だ。 被害生徒の父親が告訴したのは「やりすぎ」などではなく、実に正当な訴えなのだ。 殴ったり蹴ったりすれば「暴行罪」、金銭を脅し取れば「恐喝罪」、万引きをさせれば「強要罪」、物を隠したりすれば「窃盗罪」、周囲に仲間外れを強要したり死ねと脅せば「脅迫罪」、物に落書きすれば「器物損壊罪」、父親の告訴内容にはないが、けがをさせれば「傷害罪」が該当する。 学校内で毎日のように、当たり前に“犯罪”が行われていると考えると恐ろしいことなのだが、少年事件を多く手掛けてきた警察関係者によると、こうした児童・生徒は成人した後、やはり警察のご厄介になる傾向は強いらしい。加害者は“犯罪者”予備軍なのだ。 だからこそ、教育・指導のプロ集団である学校・教育委員会は保身のための隠ぺい工作などをせず、積極的にいじめをあぶりだし、既に“犯罪”行為に手を染めている児童・生徒らの更生に手を差し伸べるべきだろう』、いじめを少年・少女時代の「通過儀礼」などと軽く考えるのではなく、やはり犯罪と考えるべきだ。「加害者は“犯罪者”予備軍」とは初めて知ったが、この問題の重大性を示唆している。

第三に、明治大学准教授(いじめ問題研究)の内藤 朝雄氏が5月18日付け現代ビジネスに寄稿した「日本の学校から「いじめ自殺」がなくならない根本理由 先生がいじめた末、生徒は飛び降りた…」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/55701
・『教師がいじめ、生徒は自殺した  2017年3月、福井県の中学校で、教員に痛めつけられていた少年が飛び降り自殺をした。 新聞は次のように報じている。 福井県池田町教委は15日、町立池田中学校で2年の男子生徒(当時14)が今年3月に自殺したと発表した。担任と副担任から厳しい指導や叱責(しっせき)を繰り返され、精神的なストレスが高まったことが大きな要因だと結論づけた。(『朝日新聞』2017年10月15日) 学校や軍隊で、生徒や兵士が教員や上官からいためつけられて自殺するケースは、それほどめずらしくない。距離を自由に調節できず逃げられない閉鎖空間で、誰かが誰かの運命をどうにでもできる場合、追い詰められた人はしばしば自殺する。 これについては、「人格を壊して遊ぶ…日本で『いじめ自殺』がなくならない根深い構造」などで繰りかえし述べた。今回は、加害者が生徒ではなく、2名の教員(担任と副担任)であった。 地元『福井新聞』は、遺族の言葉を次のように報じている。 「報告書に、厳しい指導叱責、弁解を許さない理詰めの叱責、執拗な指導などを繰りかえし受けた、と記載が何度もありました。教員と生徒の間の為、叱責という言葉で表現されてはいるものの、私達遺族は、叱責ではなく『教員による陰湿なイジメであった』と理解しています」(『福井新聞』2017年10月18日)』、担任と副担任がいじめの主役とは飛んでもない話だ。
・『教員による迫害・いやがらせを、「指導」「叱責」という教育の言葉(思考の枠組み)に包み込むと、他人を自殺にまで追い込む残酷さが中和されてしまう。 筆者はここで「中和」という言葉を使った。 この中和は、現実をつくりかえて、都合のよい「あたりまえ」をつくりあげる技術であり、巧妙なしかけでもある。 犯罪社会学者のサイクスとマッツァは、非行少年たちのいいわけを研究した。 そして「中和の技術(Techniques of Neutralization)」という論文で、非行少年が自分たちの行為を正当化し、納得がいくものにつくり変える下記5つの技術について明らかにした。 1. 責任の否定 2. 加害の否定 3. 被害者への拒否 4. 非難者への非難 5. より高い価値への忠誠心への訴え ・・・この論理は、教育関係者やそのとりまきにもあてはまる。 実際にあてはめてみよう(以下は、これまで繰り返されてきたいいわけから筆者が抽出した一般的なパターンである。個別のできごとは、これらの組み合わせになっている)。 1. 責任の否定: 通常の指導をしていただけで、障害や死亡との関係はない。 2. 加害の否定: 教育的な指導をしただけで、加害行為をしていない。 3. 被害者への拒否: 先生の言うことをきかない生徒が悪い。あいつは学校の「みんな」や先生をこまらせるやっかい者だ(あいつの方が真の加害者だ)。 4. 非難者への非難: 教育のことを何もわかっていないよそ者が勝手に非難している。おまえは学校が嫌いなだけだろう。おまえこそ口をつつしめ。 5. より高い忠誠心への訴え: 学校業界固有の聖なる価値〈教育〉が、現代市民社会の根本価値とされる人間の尊厳より高い価値があるかのようなムードをつくる。そして、次のように、加害者を教育価値への忠誠者であると訴える。 これは「教育熱心のあまりのいきすぎ」であり、将来あるセンセイを寛大に扱うべきだ。(露骨に言葉にすると差し障りがあるので、みんなのムードを感じ取ってほしいが)われわれの本当の実感としては、わたしたちが共に生きる、うつくしい教育の形は、死んだり障害を負ったりした「不適応」生徒の命よりも尊い。 このような空気を醸成するためにも、人間の尊厳を踏みにじるできごとを、正義や人権の問題にせず、教育論議にすりかえると都合がよい。 「これは正義や人権の問題ではなく教育の問題である」と誤認させるのだ。 そうすると、より高い価値、教育への忠誠を強調して、学校の残酷と理不尽をうやむやにすることができる』、「中和の技術」がいじめ問題でも見事に当てはまるようだ。我々も気を付ける必要がありそうだ。
・『残酷さや理不尽さを可視化するには  「学校」「教育」という特殊な世界の中だけで通用するものの見方が、「あたりまえ」になると、残酷さや理不尽さが見えなくなる。目の前にあっても見えない(これについては、「日本の学校から『いじめ』が絶対なくならないシンプルな理由」でも述べた)。 このことをはっきりさせるために、今回の事件に関する調査委員会の報告書と、地元紙『福井新聞』の内容を、「学校」「教育」の言葉ではなく、まっとうな市民社会の言葉を用いて叙述しなおしてみよう。 あなたの頭の中で、ものの見え方がどのように変わるだろうか。 税金によって雇われて学習支援サービスに従事する2名の職員がいた。 サービスを提供する側の職員は、住民(自殺した被害者の親を含む)が税金で雇っている公僕である。 この2名は、サービスを受けに来ていた若い市民に対し、さまざまな思いどおりにならないことに言い掛かりをつけ、大声で罵倒する等の迫害を執拗に繰りかえした。 この「思いどおりにならないこと」の内実は、どのようなものか。 学習支援サービスの仕事をする職務では、講習サービス後、「自宅でくりかえしをすると学習効果があがりますよ。いかがでしょうか」とサービスの受け手にアドバイスすることがある。 もちろん、若い市民はサービスの受け手であって、奴隷ではない。アドバイスどおりにしなくてはならないということはない。 日本の悪名高いカルト宗教「教育教」信徒たちのあいだでは、この学習支援の場所は「学校」と呼ばれ、「ご自宅でくりかえしてみてはいかがでしょうか」というアドバイスの内容は「宿題」と呼ばれている。 そして税金で雇われた公僕である学習支援サービス職員は、「センセイ」と呼ばれている。また学習支援要員である公僕からサービスを受ける若い市民は「生徒」と呼ばれている。 ここで、学習支援サービスに従事するはずの「センセイ」は、「生徒」が「宿題」をしてこないことに我慢できず、サービスの受け手に執拗な攻撃を加えた。そして、サービスの受け手である若い市民は、学習支援サービス職員に土下座をしようとした。 土下座をしようとするまで、痛めつけられ、追いつめられ、精神に変調をきたしていたと考えられる。 また、学習支援サービスの場所では、受け手のためのさまざまなレクレーションを提供することもある。「教育教」信徒たちは、このレクレーション・サービスを「学校行事」と呼んでいる。 もちろん、サービスを受ける若い市民は奴隷ではない。レクレーションの仕方が気にくわないと、サービス員から嫌がらせを受けるいわれはない。 ところが、福井県池田町の学習支援サービス員は、このレクレーションの運営に参加した若い市民が挨拶の準備に遅れたことに腹を立て、周囲の人が恐怖で身震いするようなしかたで、怒鳴りちらしていた。 また、この学習支援サービス員は、レクレーションの運営に関して、若い市民に不満をいだき、さまざまなハラスメントを繰りかえした。 若い市民は、これらの積み重なる迫害をうけて、過呼吸症を起こすほどになった。そして、最後に若い市民は、学習支援サービスのために設置した建物から飛び降りて自殺した』、なるほど、市民社会の言葉では確かに酷さがストレートに伝わるようだ。
・『自殺後、別の人をいじめ続けた  驚くべきことに、若い市民を執拗に迫害し自殺にまで追い詰めた(日常語を用いて表現すれば「いじめ殺した」)職員は2名とも、懲戒免職にならず、同じ仕事を続けている。 そして、なんとこの2名のうち1名(副担任)は、その後、自殺させた被害者にしたのと同じ、大声で怒鳴りちらす等のハラスメントを、別の若い市民に対して行った。 新しい被害者は、この迫害ストレスにより、学習支援サービスの場所に断続的に来られない状態(これを「教育教」では「不登校」と呼んでいる)になった。 大声で怒鳴りちらす等のハラスメントを繰りかえしたことにより、精神に変調をきたさしめ、自殺にまで追いつめた場合、暴行罪や傷害罪が成立する可能性がある。また、被害者を自殺させた後、別の人に同じハラスメントを繰りかえした場合、加害者はきわめて悪質であると判断できる。 ここで、自治体の責任が問われるはずである。本来ならば、即座に懲戒免職とし、暴行あるいは傷害の疑いで司直の手に委ねなければならない加害者2名(担任と副担任)を放置し、他の利用者にも同じ被害がおよびかねない学習支援業務(「センセイ」)をさせていたのである。 また、学習支援サービス員を教育ハラスメントの怪物に変えてしまいがちな、「教育教」というカルト宗教に侵された公共事業(学校制度)を見直す必要がある』、2名は免職にはならなかったとしても、何らかの懲戒処分は受けたのだろうか。うち1人は性懲りもなくいじめを繰り返しているとは驚きだ。
・『日本の学校が染まる「全体主義」  ここまで読み進めた読者は、言葉の使い方(認識枠組)が別のタイプに切り替わるだけで、同じ出来事がまったく違って見えることを感じとられたことと思う。 「学校」「教育」の言葉を用いるだけで、残酷や理不尽が見えなくなる。まっとうな市民社会の言葉を用いると、残酷や理不尽がくっきりと見えてくる。 学校は「教育」、「学校らしさ」、「生徒らしさ」という膜に包まれた小さな世界になっている。そのなかでは、外の世界では別の意味をもつことが、すべて「教育」という色に染め上げられてしまう。そして、外の世界のまっとうなルールが働かなくなる。 こういったことは学校以外の集団でも生じる。内容が異なるさまざまな現象から共通のかたちを切り出し、別の現象にあてはめてみると、ことの核心について理解を深めることができる。 以下、図を見ながら読み進めていただきたい(図は、拙稿「学校の全体主義──比較社会学の方法から」木村草太編『子どもの人権をまもるために』(晶文社、241ページ)から抜粋)。 たとえば、オウム真理教(地下鉄サリン事件を起こした)では、教団にとって都合の悪い人物を殺害することは、魂を高い次元にひきあげてあげる援助(「ポア」)である。 連合赤軍(暴力革命を目指して強盗や殺人を繰り返し、あさま山荘で人質をとって銃撃戦を行った)では、グループ内の権力政治で目をつけられた人たちが、銭湯に行った、指輪をしていた、女性らしいしぐさをしていたといったことで、「革命戦士らしくない」、「ブルジョワ的」などといいがかりをつけられた。 そして人間の「共産主義化」、「総括」を援助するという名目でリンチを加えられ、次々と殺害された(「革命戦士らしさ」を「生徒らしさ」、「総括しろ」を「反省しろ」に代えれば、中学校の生活指導に酷似している)。 学校でも、教育というコスモロジーに包み込んで固有の世界を立ち上げることによって、外部の社会ではとうてい許されない残酷や不正が「あたりまえに」まかり通る。 学校、オウム教団、連合赤軍はそれぞれ、「教育」、「宗教」、「共産主義」という膜で包み込んで、内側しか見えない閉じた世界をつくっている・・・オウム脱会者や元赤軍メンバーは、外の市民社会に戻ってから、「自分はなんという恐ろしい世界にいたのだろう」と身震いする。 それと同様、わたしたちは、「教育」の外から学校をながめることで、これまであたりまえと思っていた学校が、なんと残酷で正気を失った世界なのだろうと驚く。 調査報告書と『福井新聞』の報道を、市民社会の言葉で翻訳した先の文章は、学校と市民社会の現実感覚がどれほど乖離しているかを示す見本例である。 学校は、次の点でオウム真理教や連合赤軍と異なる。オウム真理教や連合赤軍のいいわけは社会からまったく受け入れられない。 しかし、学校や教育に関しては、それを「あたりまえ」と受け入れてしまう習慣が社会に行き渡っている。 学校は、社会のさまざまな領域を、学校の色に染め上げる。その意味で、学校はオウム真理教や連合赤軍よりも、わたしたちの社会に有害な作用をおよぼす・・・』、「学校は、社会のさまざまな領域を、学校の色に染め上げる」というのは上手い表現だ。
・『調査報告書に書かれた、校長の不適切な言動  さて、今回の教員によるいじめ自殺事件を扱った、池田町学校事故等調査委員会による調査報告書は、一貫して誠実なものであった。 一例を紹介しよう。 本調査委員会が第三者機関としての自立性を担保し、何が起きたのかを遺族に説明するためには、学校や教育委員会からの独立性を確保することが必要であるが、遺族との連絡、学校の生徒や教員及び保護者への連絡については、教育委員会を介さざるを得ない場合があるのが現状である。本調査委員会は独立性に留意し、池田町教育委員会は本調査委員会の独自性を保証すべく最大限の配慮を行ってきた。しかし、当該者との連絡調整は、教育委員会が行ったことは如何ともしがたい事実であり、中立性への疑義を招きかねないことも確かである。 今後、このような調査委員会の設置、組織、運営等に関しては、文部科学省や都道府県教育委員会等を含めたルール作りが必要だと思われる・・・筆者はかねてから、利害当事者である教委が、調査委員会の設置、組織、運営にかかわる現行制度のもとでは、構造的に、調査委は教委と癒着しがちであり、いわばヤクザに十手を持たせるような結果になりかねないと警鐘を鳴らしてきた。 今回は、なんと、調査委の報告書のなかで、この制度欠陥に対する異議申し立てがなされている。あっぱれとしか言いようがない。 さらに、調査委は聞き取りをする場所として、学校ではなく生涯学習センターを選んだ。学校という場所にいるだけで、「いま・ここ」を生きる感覚が集団生活の「しがらみ」モードになり、口を閉ざしてしまうかもしれない。話を聞くなら、学校ではなく、市民的な場所の方がのぞましい。 報告書には、校長の不適切な言動がことこまかく記されていた。知っているはずのことを知らないと言った、「遺族に遺書らしきノートを渡す際にカバンの上でバンバンと叩くよう」な(威圧的・敵対的な)しぐさをした、といったことだ。 その後、校長はどうなったか。退職を余儀なくされてしまった。つまり(事実上)クビになってしまったのだ』、欲を言えば、池田町学校事故等調査委員会が他の第三者委員会と違って、中立性を維持できた理由が知りたいところだ。
・『いじめ自殺と「発達障害」  この、一貫して誠実、まじめ、良心的な調査報告書(全57ページ)のなかに「発達障害」という語が19ヵ所みられる。 医師が診断していないので断定できないとことわりつつも、断定に近いと言っていいほど強く「発達障害」を疑っていることを、文面から読み取ることができる。 本調査委員会では、本生徒の発達障害の可能性を指摘すべきかどうか躊躇した。それは、本生徒が専門機関による診断や検査を受けていないこと、また発達障害という言葉によって誤解を招く恐れがあり、それによってご遺族が傷つけられることを危惧したからである。 しかし、学校の中には発達障害を疑われる子どもたちが多々おり、本生徒のようにその特性が理解されず、多くの子が苦しんでいることを考えると、本生徒の死を無駄にしてはならないと判断し、用語の使用を決意した。もとより発達障害の用語の使用により、学校が責任を免れるものではない。むしろ、生徒の発達特性に応じた生徒指導の欠如が自死を誘発した。学校では、教師同士が子どもを見合い話し合うことで、子どもの発達特性に応じた指導を心掛けなければならない・・・現在、精神医学では「発達障害」という枠組(認識と実践の体系)が流行し、診断数が急増している。 現在の「発達障害」枠組を主導する層(医学生や医師を指導し、著作や学会などで方針を導き啓蒙する熱意あるリーダー層)の基本方針(理念的たてまえ)は(末端の現場で多くの医師たちが学校がらみで実際にやっていることはともかく)、学校に合わない異常者をあぶりだし、学校の細胞の一部になるよう治療する(学校制度によって独善的に決められた一方方向に成長を促す)という従来の考え方ではない。 一人ひとりの多様な発達特性に応じ、固有の「こまり感」に着目し、環境調整を行い複線的な発達を支援するというストーリーになっている。 そして、周囲からの「しつけ」と称する虐待などの、環境ストレスによる被害(いわゆる二次障害)を防止することを、重要課題の一つとしている。 「発達障害」に関しても、調査報告書は、現時点での児童青年精神医学の理念に一致する模範的なものになっている。 ただ筆者自身は、次のように考えている。 次回以降で論じるように、DSM-5(APA『精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版』)の「神経発達障害」という概念の組み立て方には問題がある。 仮にDSM-5を受け入れたとして、DSM-5の診断基準は、複数の生活領域で一定程度以上「こまり」があることを条件としているので、学校の集団生活だけで「こまる」被害者を「発達障害」とするのは、過剰診断にあたらないか。 さらに言えば、日本の学校は、自由、人権、個の尊厳、人格権といった先進諸国――あるいはそれにのっとった日本国憲法――の基本価値セットの基準からは大きくはずれた、極端な集団主義・全体主義を採用している。 このような学校の集団生活が求める「こうでなければならない・ああでなければならない」を単一の基準点として、誰かを「発達障害」と診断するのは、何かおかしなことではないだろうか。 それは、連合赤軍が「ブルジョワ的」障害と言い、オウム真理教が「地獄に落ちる」障害と言うのと、どこが違うのだろうか。むしろ障害が認められるのは、学校制度の方ではないだろうか』、なかなか面白い見方で、その通りだろう。
タグ:戸田一法 NHKクローズアップ現代+ 現代ビジネス 思春期のうつ」であったと推測されると書かれていた 1. 責任の否定 2. 加害の否定 3. 被害者への拒否 4. 非難者への非難 5. より高い価値への忠誠心への訴え 内藤 朝雄 『“いじめ自殺”なくならない隠蔽 なぜ?遠い真相解明 福井県池田町教委 2. 加害の否定: 教育的な指導をしただけで、加害行為をしていない 日本の学校は、自由、人権、個の尊厳、人格権といった先進諸国――あるいはそれにのっとった日本国憲法――の基本価値セットの基準からは大きくはずれた、極端な集団主義・全体主義を採用している 5. より高い忠誠心への訴え: 学校業界固有の聖なる価値〈教育〉が、現代市民社会の根本価値とされる人間の尊厳より高い価値があるかのようなムードをつくる 葛西りまさん 担当者は、学校が指導していない以上、いじめは認められないと繰り返しました 1. 責任の否定: 通常の指導をしていただけで、障害や死亡との関係はない いじめは「犯罪」と認識すべき 教師がいじめ、生徒は自殺した 遠い真相解明 いま何が必要か? いじめ調査 当事者の告白 “遺族が気の毒すぎる” 中和の技術 募る親の不信感 なぜ課題が?第三者委員会 いじめ 親に立ちはだかるカベ “今さら出せない…” 隠蔽の実態 神戸市で、いじめに関わる一次資料を市の教育委員会担当者が隠蔽 「“いじめ自殺” 遠い真相解明 ~検証 第三者委員会~」 背景にお互いの保身 県教育委員会の第三者委員会は「(いじめを)裏付けることはできなかった」と結論付けていた 「日本の学校から「いじめ自殺」がなくならない根本理由 先生がいじめた末、生徒は飛び降りた…」 3. 被害者への拒否: 先生の言うことをきかない生徒が悪い。あいつは学校の「みんな」や先生をこまらせるやっかい者だ 「鹿児島男子高校生「いじめ」自殺、県と県教委で判断が分かれた理由」 いじめ自殺と「発達障害」 調査報告書に書かれた、校長の不適切な言動 日本の学校が染まる「全体主義」 自殺後、別の人をいじめ続けた (その7)(“いじめ自殺” 遠い真相解明 ~検証 第三者委員会~、鹿児島男子高校生「いじめ」自殺 県と県教委で判断が分かれた理由、日本の学校から「いじめ自殺」がなくならない根本理由 先生がいじめた末 生徒は飛び降りた…) 犯罪社会学者のサイクスとマッツァ 調査を担当する全国の「第三者委員会」では、遺族との信頼関係を築けず報告書を完成させられないなど、“機能不全”ともいえる事態が起きている 町立池田中学校で2年の男子生徒(当時14)が今年3月に自殺 残酷さや理不尽さを可視化するには これは正義や人権の問題ではなく教育の問題である」と誤認させるのだ 4. 非難者への非難: 教育のことを何もわかっていないよそ者が勝手に非難している。おまえは学校が嫌いなだけだろう。おまえこそ口をつつしめ 県の第三者委員会は11月18日、背景にいじめがあったと認定 ダイヤモンド・オンライン 遠い真相解明 いま現場で何が? 事実を知りたい母親の願い 「遺族に寄り添うこと」、そして「丁寧に説明すること」 教員による迫害・いやがらせを、「指導」「叱責」という教育の言葉(思考の枠組み)に包み込むと、他人を自殺にまで追い込む残酷さが中和されてしまう 加害者が生徒ではなく、2名の教員(担任と副担任) 文部科学省のガイドライン いじめ問題
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米中対立(通商問題等)(その5)(米中貿易戦争 第1ラウンドは中国の勝ち?トランプ政権の関税も何のその 敵としての中国を侮る愚、米中首脳会談の勝利者はどっち?表面的にはトランプの一方的勝利だが……、G20に見る 米中の駆け引きの真相とは 中国を巡る問題への対応は着実に進んでいる) [世界情勢]

今日は、米中対立(通商問題等)(その5)(米中貿易戦争 第1ラウンドは中国の勝ち?トランプ政権の関税も何のその 敵としての中国を侮る愚、米中首脳会談の勝利者はどっち?表面的にはトランプの一方的勝利だが……、G20に見る 米中の駆け引きの真相とは 中国を巡る問題への対応は着実に進んでいる)を取上げよう。なお、9月21日までは通商問題としていたが、その枠を超えより広がったため、タイトルを変更した。

先ずは、11月19日付けJBPressが転載した英紙ファイナンシャル・タイムズの米国支局長Gillian Tett氏の記事「米中貿易戦争、第1ラウンドは中国の勝ち? トランプ政権の関税も何のその、敵としての中国を侮る愚」を紹介しよう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54698 (リンクで無料なのは1頁目のみ)
・『統計というものは、予想通りには動かないことが時折ある。米中貿易とドナルド・トランプ氏の困難な問題を例に取ってみよう。 トランプ大統領は今年に入ってから、米国の対中貿易の赤字額が大きいことに激怒し、中国からの輸入品2500億ドル相当に段階的な追加関税を課した。 そうすれば米国企業は中国ではなく本国での生産を増やすか、コスト高になる輸入品を回避する方策を見つけるだろう、従って対中赤字は縮小するだろう、というのがホワイトハウスの目論見だった。 しかし、思惑通りには――まだ――進んでいない。 目下の現実はその正反対で、米国政府が今月発表したデータによれば、中国に対するモノの貿易赤字は9月に4.3%拡大し、季節調整済みでは8.8%増の374億ドルと過去最大に達している。 中国からの輸入が8%も増えた一方で、中国への輸出がほぼ横ばいだったためだ。 月次のデータが当てにならないことはよく知られているが、トレンドは明白だ。第3四半期全体で見ると、米国の対中貿易赤字は1060億ドルで、前年同期の929億ドルより拡大している。 これもまた、輸入が驚くほど増えたためだ。今年1月から9月までの対中貿易赤字は3054億ドルに達しており、前年同期の2766億ドルを上回っている』、輸入増加要因は以下で解説があるが、いずれにしろトランプ大統領の経済学知識の欠如を物語っているのかも知れない。
・『多国間で貿易が行われ、サービスの貿易がモノの貿易と同じくらい(ことによると、それ以上に)重要な世界では、2国間の貿易赤字にこだわることはばかげている。 ホワイトハウスは鉄鋼の出荷ではなく、知的財産権の侵害など正当な不満がある分野に注力した方がよい、ということになる。 しかし、この経済学の理屈が直ちにトランプ氏を揺さぶることはなさそうだ。とりわけ、ホワイトハウスが中国の習近平国家主席との会談を準備している今の段階ではないだろう。 そのため、2国間の統計が狙いとは正反対の方向に振れている理由を問うことには価値がある。 まず考えられるのは、皮肉な話だが、米国が好景気だからだという説明だ。経済成長率が高いときには輸入が増えるのが普通だからだ。 裏を返せば、トランプ氏自身のアドバイザーの一部が半ば冗談で言っていたように(あまりウケなかったが)、貿易赤字を解消する最も簡単な方法は景気を後退させることなのだ。 2つ目の要因は、タイムラグの問題かもしれない。米国企業は貿易の混乱から身を守ろうと、輸入品の備蓄に走ったからだ。 例えば、貿易統計の内訳を見ていくと、すでに追加関税が課せられていた品目(鉄鋼製品など)では今年の早い時期に輸入が目に見えて増加し、今では落ち着いている。 しかし、世界貿易の複雑な事情をフォローしている人々の間では、次のような説もささやかれている。貿易戦争の序盤では中国の方が外見的には優勢なのではないか、というのだ。「米国の対中貿易赤字の拡大は・・・(9月の時点で)貿易戦争で米国が劣勢だったしるしだ」 通商データの集計サービスを手がける調査会社パンジバは先日、そんな見解を示した。 また、海運大手A・P・モラー・マースクのソレン・スコウ最高経営責任者(CEO)は11月13日、決算説明の電話会議で、「皮肉な展開だが、トランプ氏が批判のボリュームを上げた後、米国は中国からの輸入をさらに増やす一方となっており」、大豆をはじめとする米国からの輸出が激減する中でもそうなっている、と述べている。 スコウ氏によれば、輸入増の一部は備蓄目的だ。 しかしショッキングなことに、サプライチェーンにおける中国企業の位置づけを考えると、中国が米国製品の代替品を探すことは、米国が中国からの輸入の代替品を探すことよりも容易であるとスコウ氏は指摘している。 3つめの重要なポイントは、トランプ氏には「中国から輸入するなとナイキやウォルマート、ホーム・デポなどに命令できない」ことにある、とスコウ氏は言う。 従って米国企業は「(中国からの)輸入を続けるだろうし、打開策に取り組んでいく」と予想している。 利益率への打撃をそのまま吸収する、というわけだ(もちろん、利益率への打撃は今いずれにせよ、人民元安によって一部相殺されている)』、こんなことは経済スタッフには初めから分かっていた筈だが、きっとトランプは聞く耳を持たないのだろう。
・『そもそも、米国経済よりも中国経済の方が貿易戦争に対しては脆弱だろうし、備蓄がもし終われば(あるいは、終わるときには)状況が変わる可能性もある。 だが少なくとも、スコウ氏が用いた表現を拝借するなら、これらの厄介な貿易統計に見られる「皮肉なねじれ」は、貿易戦争の行方を正確に見通すことがいかに難しいかを示している。 そして、もしかしたら、敵としての中国を――特に、統制され、揺るがぬ決意を持ち、かつ民主主義に煩わされない場合の中国を――過小評価することの愚かしさも示唆しているのかもしれない。 対照的に中国政府は、貿易の相手を変えるよう国有企業に命じることができ、おそらく、すでにそうしているだろう。 中国政府は(混乱しているホワイトハウスとは違って)交渉の立ち位置と基本方針を中央で調整しているからだ。 では、これは中国が交渉で譲歩しないということだろうか。そうとは限らない。 そもそも、米国経済よりも中国経済の方が貿易戦争に対しては脆弱だろうし、備蓄がもし終われば(あるいは、終わるときには)状況が変わる可能性もある。 だが少なくとも、スコウ氏が用いた表現を拝借するなら、これらの厄介な貿易統計に見られる「皮肉なねじれ」は、貿易戦争の行方を正確に見通すことがいかに難しいかを示している。 そして、もしかしたら、敵としての中国を――特に、統制され、揺るがぬ決意を持ち、かつ民主主義に煩わされない場合の中国を――過小評価することの愚かしさも示唆しているのかもしれない』、いかにもファイナンシャル・タイムズらしいクールな見方だ。

次に、元産経新聞北京特派員でジャーナリストの福島 香織氏が12月5日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「米中首脳会談の勝利者はどっち? 表面的にはトランプの一方的勝利だが……」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/120400189/?P=1
・『アルゼンチンのブエノスアイレスで行われたG20サミットの席で現地時間12月1日夜、米大統領トランプと中国国家主席習近平が会談した。両首脳は、米国側が2019年1月1日から予定していた2000億ドル分の中国製品に対する輸入関税25%への引き上げを90日間延期するという妥協案で合意。米中貿易戦争は一時休戦、と海外メディアは報じている。 とりあえず中国側はかなりほっとしたことだろう。だが米中貿易戦争がこれで決着したわけでもないようだ。今後の展開について考えてみたい。 まず中国公式メディア、人民日報3日付けはこの首脳会談をどのように報道しているか、みてみよう。両国首脳は誠実で友好的なムードの中、中米関係及び共同の国際問題で深く意見交換し、重要な共通認識に至った・・・トランプは習近平の両国関係の評価に賛同を示し次のように語った。“米中関係は十分に特殊で重要であり、我々両国はともに世界に重要な影響を与える国家だ。双方が良好な協力関係を維持することは両国と世界にとって利する。米国は中国側に話し合いを通じて両国の協力度を増していくことを願うとともに、双方に存在する問題を積極的に討論し双方に有利な解決法を探っていこうと願う。” 両国元首は継続して様々な方法で密接な交流を維持し、ともに中米関係を発展に導くことで同意。適時、双方が再び往来するとした。双方は各領域で対話と協力の強化に同意。教育、人文交流を増進していくとした。トランプは“米国は中国学生の留学を歓迎する”と語り、ともに積極的な執法強化行動を取り、フェンタニル類管理を含む薬物禁輸などで協力すると同意。…… 経済貿易問題については、習近平は次のように強調した』、中国側報道ではまずまずの成果を謳っているが・・・。
・『ニュアンスが違う米中の公式アナウンス  “中米は世界最大の二つの経済体として、経済貿易交流は十分に密接で、相互に依存している。双方の経済貿易領域には多少の立場の違いが存在することは全く正常なことであり、重要なのは相互に尊重し、平等な相互利益の精神で妥当にコントロールしていくことであり、同時に双方が受け入れ可能な解決方法を探し当てることである。” 両国首脳は中米経済貿易で積極的かつ成果の豊富な討論を行った結果、あらたな追加関税を停止するとともに、両国の経済チームにより緊密に協議を行って、すべての追加関税を取り消す方向でウィンウィンの具体的な協議を達成するように指示することで合意した。 中国側は“中国の新たな改革開放のプロセスをもって、国内市場及び人民の需要に従って市場を開放し、輸入を拡大し、中米経済貿易領域の問題を緩和させるように願っている。双方はお互いの利益とウィンウィンの具体的協議が中国側の米国に対する関連の積極的行動の基礎と前提であるとの合意に至った。双方は共同の努力でもって、双方の経済貿易関係を早急に正常な軌道に戻し、ウィンウィンの協力を実現すべきである”とした。 習近平は台湾問題における中国政府の原則的立場を述べ、米国は政府として一中政策を継続すると述べた。さらに両国元首は朝鮮半島など重大な国際的地域の問題について意見を交換。中国側は米朝首脳の再度の会談を支持し、米朝双方がお互いに合理的関心を顧みながら、半島の完全非核化と平和メカニズムの確立を推進することを望むとした。米国は中国が積極的影響力を発揮していることを称賛し、中国とこの問題についてコミュニケーションと協調を維持したいとした。 新華社もほぼ同じ内容であるので、これが中国の人民に対する公式のアナウンスである。この通りなら、米国は関税を停止し、貿易戦争は休戦、停戦に向かっての話し合いが前向きに進む、という印象である。 だが米国側のアナウンスは、これとかなりニュアンスが違う。ロイター通信によれば、ホワイトハウスが広報し各メディアが報じたのに、中国外交部がアナウンスせず、中国国内の公式メディア(SNSをのぞく)でも報じられていない内容は以下の通りだ。 ①中国の抵抗で7月に破談になったクアルコムによるNXP(オランダ)の買収について習近平は承認する態度を示した。②習近平はすぐさま中国の構造改革についての協議にとりかかることに同意。それには技術移転の強要、知財権保護、非関税障壁、ネット侵入、ハッキングによる情報窃取、サービス業及び農業分野がテーマとして含まれている。 ③来年早々に実施する予定だった2000億ドル分の追加関税は90日間猶予を与えるが、米国サイドが指摘した技術移転強要などの問題を解決しなければ10%の関税を25%に引き上げる。 ④中国側は米国から農産品、エネルギー資源、工業及びその他の産品を大量購入する。とりわけ農産品の購入は即刻開始する』、それにしてもニュアンスは大きく違う。中国に不都合な部分は報道しなかったようだ。
・『首脳会談で勝利したのは  この双方の公表内容の違いをみれば、この首脳会談が中国側の主張する友好なムードのもとで行われたとは思えないし、中国が何度も繰り返すウィンウィンという感じでもない。米国から言うことを聞かねば追加関税を実行すると脅され、ねじ伏せられた印象だ。だから中国国内では、こうした内容は伏せられたのだ。トランプはこの首脳会談について帰国のエアフォースワン内で「信じられないような素晴らしいディール」と語ったらしい。 トランプ側も必ずしも100点の成果を得た、というわけではなかろう。まず、米国にとって切実な安全保障上の問題であった南シナ海問題などについて言及できなかった。また、中国の要求に従って、台湾問題について「一中政策」継続を確認した。また、トランプ政権が技術窃取の尖兵として警戒している中国学生の米国留学問題については、むしろ「歓迎する」と発言した。また、トランプは当初、中国のインターネット開放を求めていたが、それには触れなかった。 つまり安全保障にかかわる問題については、双方とも議論になることを避けたのだ。米国が圧倒的に強気で有利な立ち位置であれば、南シナ海問題でなにがしかの譲歩を求めただろうし、中国人留学生の技術窃取問題に言及したし、人権や中国の閉じられたネットの問題も突いてきただろう。だが、トランプはそこまで強気になれなかったわけだ。おそらくは、中国側の米国産大豆や豚肉の実質上の禁輸措置は米国にとってかなりのダメージであったし、中間選挙の下院敗北も多少は影響したのかもしれない。 中国としても農産物購入や薬物禁輸の部分なら妥協の用意はあったし、また外圧による構造改革推進は共産党としても歓迎する部分はある。問題は技術移転強要や知財権保護、ネット侵入の問題で中国側がトランプ政権が納得いくような善処を3カ月でできるか、だ。だが、たとえそれができなくても、習近平としてはかまわないのだ。彼は年末か年初に開かねばならない四中全会を切り抜け、3カ月後の全人代を無事迎えられれば、それでよいのだ。 なので、この首脳会談、米中どちらが勝利したか、という観点でみれば、表面的にはトランプの一方的勝利、といえるが、習近平にとってみれば、わずか90日間でも猶予を得たことは大勝利といえるかもしれない。この米中首脳会談でのディールが失敗すれば、習近平は失脚しかねない、といわれるまでに追いつめられていたからだ。 四中全会が未だ開かれていないが、一説に、開いてしまうと習近平の対米政策および経済政策の失敗についての責任追及が始まってしまい、総書記の座を維持することすら危ないからだとささやかれている。ただ、ここにきて少しだけ習近平に追い風が吹いてきたのは、台湾の統一地方選挙における与党・民進党の惨敗と日本が習近平の肝入り戦略“一帯一路”に参与するなど習近平政権に協力的な姿勢を示したことだ。さらに米中貿易戦争が一時的にしろ休戦したので、習近平のメンツはかろうじて維持できる公算がつよまり、四中全会はずいぶん遅れたが、無事に開かれるだろう』、トランプも攻撃をかなり緩めたようだ。かろうじてメンツを維持できた習近平が、そこまで崖っ淵に立たされていたとは初めて知った。
・『米中貿易戦争、再燃の可能性  これは米国や日本らの中国に国家安全を脅かされる国々にとってはむしろ残念なことかもしれない。なぜなら中国の改革開放路線(経済の資本主義化、自由主義化)の最大の障害となっているのは習近平自身なのだ。習近平は未だアンチ鄧小平路線であり、鄧小平路線が継続すればいずれ共産党体制は崩壊すると考え、共産党がより市場や民営企業を含めた経済コントロールを強化する国家資本主義路線に転向することが体制維持に絶対必要と考えている。習近平が想定するのは、資本主義や民主主義とは異なる中国発の新たな経済の枠組みや国際秩序でもって人類運命共同体を構築する世界観だ。米国や国際社会の望みがこれを阻止し、従来の米国的経済秩序、国際スタンダードに従う方向での中国の発展であるなら、習近平からより鄧小平路線に忠実な指導者に代わることを期待する以外ない。 なので、米中新冷戦構造は非常に長い今後の国際社会の基本構造となるだろうが、その第一フェーズである米中貿易戦争の決着点は習近平の実質上の引退ではないか、といううっすらとした期待を個人的にもっていたが、追加関税の90日間猶予はこの可能性をさらに低くしたことになる。 さて今後の見通しだが、3カ月後に米中貿易戦争はおそらく再燃する。なぜなら中国が米国と違う新たな国際秩序を打ち建てるという野望を放棄しないからだ。そのためには、半導体その他の米国が保有する核心的技術の国内移転を諦めることはないし、米国に対する産業スパイもサイバーを通じた情報窃取も一層励むことになる。なによりタイミング的に全人代直前であり、習近平としては一寸の妥協も示せない。トランプ側が譲歩しない限り、貿易戦争は再開し、より激しく、長期化することになるだろう。その決着が2020年の米国大統領選直前まで持ち越されるとしたら、それはトランプ政権が維持されるか、あるいは習近平政権が維持されるか、という結果で判定されるかもしれない』、猶予明け後については、ずいぶん悲観的な観測だが、これは福島氏の反習近平の姿勢が影響しているのかも知れない。

第三に、元・経済産業省米州課長で中部大学特任教授の細川 昌彦氏が12月5日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「G20に見る、米中の駆け引きの真相とは 中国を巡る問題への対応は着実に進んでいる」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/062500226/120400010/?P=1
・『12月1日、主要20カ国・地域(G20)首脳会議が閉幕した。日本の大方のメディアの報道ぶりは次のようなものだ。 “米中が激しく対立して首脳宣言を出せないという最悪事態は免れたが、米国の反対で「保護主義と闘う」との文言を首脳宣言から削除され、G20の機能不全、劣化は深刻だ” 果たしてそうだろうか。 海外紙と比較すると、日本のメディアのパターン化した見方、「木を見て森を見ず」に危うさを感じる。 米国の「保護主義と闘う」の削除の主張だけを見るのではなく、中国の対応も含めた、米中の駆け引き全体を見なければいけない』、第二の記事での中国メディアだけでなく、日本のメディアまで偏った報道をしていたとは・・・。
・『真相は中国の危機感にある!  真相はこうだ。 昨年のハンブルグでのG20首脳宣言では「不公正な貿易慣行を含む保護主義と闘う」との文言で合意した。今回も米国も含めて多くの国がこの文言で受け入れたが、中国が反対した。「不公正な貿易慣行」という表現が、中国の国有企業への巨額の補助金や知的財産権の問題を攻める“口実”を与えるとの危惧からだ。しかし、この文言を削除して、単に「保護主義と闘う」との記述だけでは、米国は受け入れない。 これは直前のアジア太平洋協力会議(APEC)において、中国が孤立して決裂して首脳宣言が出せなかった構図と同じだ・・・もう一つ中国がどうしても受け入れない文言があった。「市場歪曲の措置の除去」だ。これも昨年のG20 では既に盛り込まれている。今回、中国が削除を強硬に主張する背景は「不公正な貿易慣行」と同じだ。 むしろ中国が警戒を強めて、こうした文言の削除に転じたことに注目すべきだ。 中国の国家主導の政策への批判が高まり、孤立の結果、軌道修正させられることは何が何でも避けたい、というのが本音だろう。その危機感からか、これまで合意してきた文言も“地雷”に見えるようだ。 中国が徐々に軌道修正していくプロセスとして、この一局面を時間軸を持って冷静に見ていくことが必要だ。 米国の強硬な反対で「保護主義と闘う」が盛り込まれなかった、との一点にしか目が行かない報道には注意したい』、その通りだろう。
・『WTO改革など3点セットの中国対策  むしろ今回のG20首脳宣言をよく読めば、重要な成果を見て取れる。そしてそれがいずれも日本が議長国となる来年のG20を見据えた布石であることに注目すべきだ。 まず最も大事なのは、「世界貿易機関(WTO)の改革を支持する」との文言だ。首脳宣言としては初めて合意されたことに意味がある。現在のWTOのあり様に対しては米国も強い不満を持っており、トランプ大統領もWTO脱退をちらつかせている。米国をWTOに繋ぎ止めておくためにもWTO改革は不可欠だ。 それに対して警戒的なのは中国だ。2001年にWTOに加盟した中国は途上国扱いで優遇されてきた。その甘い扱いに対する反省が米国のWTO批判の背景にある。従って今回の文言を合意しても、「改革」の中身は同床異夢で、これから綱引きが始まる。 次回会合で進捗をレビューすることも合意されたが、その時、WTO改革が頓挫するようでは、トランプ大統領のWTO脱退論も現実化する恐れもある。まさに今後の国際秩序の方向を決める重要な局面だ。 第2に、鉄鋼の過剰生産問題での進展だ。 2年前の杭州でのG20首脳会議からこの問題の仕掛けがスタートした。世界の鉄鋼生産の約半分を生産する中国の過剰生産が問題の根源だ。したがってこの問題はその中国がいかに協力するかにかかっている。 杭州でのG20首脳会議で設立された鉄鋼グローバルフォーラムという場には中国も参加している。ここで情報共有など進めようとしているが、中国の動きは鈍い。来年6月までに実質的な報告をすることを盛り込んで、徐々に中国が協力せざるを得ない状況を作っている。 これは鉄鋼問題にとどまらない。中国による過剰生産問題は様々な分野でグローバルな問題を引き起こしている。深刻なのは半導体産業でも起ころうとしている。 そうした問題の最初のテストケースが鉄鋼なのだ。産業全般の深刻な問題に有効に取り組めるかがこの取り組みの成否にかかっている。 第3に、質の高いインフラ支援だ。中国の一帯一路に対しては、「借金漬け外交」との批判が高まっている。受け入れ国の財政の健全性、債務の持続可能性をも踏まえた対応に軌道修正させるために、原則を国際的に合意していく戦略だ。この国際的な仕掛けも2年前のG20から始まっている。先般のAPECで新たな原則が合意され、G20首脳宣言にも盛り込まれた。そして来年に進捗させることも記述された。 このように、WTO改革、過剰生産問題、インフラ支援と中国を巡る問題を一つひとつブロックを積み上げていくように時間をかけて着実に進展させていき、中国を徐々に軌道修正させていく。いわば「ビルディング・ブロック・アプローチ」こそが中国と向き合う戦略だ。 そういう視点で見ると、今回のG20もそのプロセスの一つとして重要な意味を持つことが理解できよう。そしてその成果が問われるのが、日本が議長国である来年のG20だ。 前稿でAPECに関して指摘したが、これらの国際会議の一つひとつを切り取って評価しても本質を見失う。時間軸をもって大きな流れをつかむことが重要だ』、どうも来年のG20議長国である日本の責任は重大なようだ。大丈夫なのだろうか。
・『米中首脳会談は単なる「小休止」  むしろ併せて行われた米中首脳会談に耳目が集まった。しかしこれも米中関係の本質を左右するものではない。 大方の予想通り、トランプ大統領は習近平主席との取引をしたがったようだ。ただし、当然のことながら米国の対中強硬路線の根っこにある本質的な問題は手付かずで、90日の協議で中国側が対応することなど期待できない。制度改正など政策変更を必要とするもので、中国国内の統治、威信にも関わる。 今回の小休止はクリスマス商戦を控えて、さらなる関税引き上げを避けたぐらいのものだ。トランプ大統領は脅しを背景にした、戦利品をツイッターで誇らしげに語っているが、これらは何ら本質的な問題ではない。 例えば、中国の自動車関税の引き下げを勝ち取ったと言うが、米国から中国への自動車輸出はたかだか28万台に過ぎず、今やほとんどは中国で現地生産されている。しかも28万台の内6割以上がドイツ車の米国生産されるSUVなどで、ビッグスリーはわずかだ。実態的にはこの関税引き下げはあまり意味がない。要するにトランプ大統領がツイッターで誇れればいいだけなのだ。 知的財産権の保護についても中国側が対応しようとしているのは、単なる罰則の強化ぐらいだ。米国が要求する知的財産権の問題(強制的な技術移転、ライセンス契約の内外差別)には答えず、すれ違いの対応で知的財産権の保護を強化すると言っているに過ぎない。 こうした中国側の小出し、本質はずしの対応は今後も予想され、中国の国内経済の状況にも左右されるが、関税合戦の駆け引きはしばらく続くだろう。今回の首脳会談後の米中両国の発表もそれぞれの言い分を発表しているだけで、どこまで米中間で合意があったか定かではない。 トランプ大統領の関心は大統領の再選戦略に向かっており、来年も対中国でひと山、ふた山あると見た方がよいだろう』、「来年も対中国でひと山、ふた山ある」だけでなく、日本への風当たりが強まることも覚悟した方がよさそうだ。

今日夕方のニュースで中国の通信機器最大手のファーウェイの副会長が、米政府の要請を受けたカナダ当局により逮捕されたようだ。本件については、後日、取上げる予定。
タグ:JBPRESS 技術窃取の尖兵として警戒している中国学生の米国留学問題については、むしろ「歓迎する」と発言 タイムラグの問題 通商問題等 米中首脳会談でのディールが失敗すれば、習近平は失脚しかねない、といわれるまでに追いつめられていた 「G20に見る、米中の駆け引きの真相とは 中国を巡る問題への対応は着実に進んでいる」 細川 昌彦 米中貿易戦争、再燃の可能性 習近平に追い風 中国側の米国産大豆や豚肉の実質上の禁輸措置は米国にとってかなりのダメージであったし、中間選挙の下院敗北も多少は影響したのかもしれない 南シナ海問題などについて言及できなかった 輸入関税25%への引き上げを90日間延期するという妥協案で合意 米国から言うことを聞かねば追加関税を実行すると脅され、ねじ伏せられた印象だ 双方の公表内容の違いをみれば、この首脳会談が中国側の主張する友好なムードのもとで行われたとは思えないし、中国が何度も繰り返すウィンウィンという感じでもない ニュアンスが違う米中の公式アナウンス 「米中首脳会談の勝利者はどっち? 表面的にはトランプの一方的勝利だが……」 福島 香織 敵としての中国を――特に、統制され、揺るがぬ決意を持ち、かつ民主主義に煩わされない場合の中国を――過小評価することの愚かしさも示唆 トランプ側も必ずしも100点の成果を得た、というわけではなかろう 輸入増の一部は備蓄目的 第3四半期全体で見ると、米国の対中貿易赤字は1060億ドルで、前年同期の929億ドルより拡大 Gillian Tett ファイナンシャル・タイムズ (その5)(米中貿易戦争 第1ラウンドは中国の勝ち?トランプ政権の関税も何のその 敵としての中国を侮る愚、米中首脳会談の勝利者はどっち?表面的にはトランプの一方的勝利だが……、G20に見る 米中の駆け引きの真相とは 中国を巡る問題への対応は着実に進んでいる) 習近平としてはかまわないのだ。彼は年末か年初に開かねばならない四中全会を切り抜け、3カ月後の全人代を無事迎えられれば、それでよいのだ 当初、中国のインターネット開放を求めていたが、それには触れなかった 台湾の統一地方選挙における与党・民進党の惨敗 米国が好景気だからだという説明 日経ビジネスオンライン 米中対立 トランプ大統領の関心は大統領の再選戦略に向かっており、来年も対中国でひと山、ふた山あると見た方がよいだろう 米中首脳会談は単なる「小休止」 トランプ氏には「中国から輸入するなとナイキやウォルマート、ホーム・デポなどに命令できない」 成果が問われるのが、日本が議長国である来年のG20 「ビルディング・ブロック・アプローチ」こそが中国と向き合う戦略 WTO改革など3点セットの中国対策 中国が徐々に軌道修正していくプロセスとして、この一局面を時間軸を持って冷静に見ていくことが必要だ 真相は中国の危機感にある! 日本が習近平の肝入り戦略“一帯一路”に参与するなど習近平政権に協力的な姿勢を示したこと 米国の「保護主義と闘う」の削除の主張だけを見るのではなく、中国の対応も含めた、米中の駆け引き全体を見なければいけない その決着が2020年の米国大統領選直前まで持ち越されるとしたら、それはトランプ政権が維持されるか、あるいは習近平政権が維持されるか、という結果で判定されるかもしれない 台湾問題について「一中政策」継続を確認 「米中貿易戦争、第1ラウンドは中国の勝ち? トランプ政権の関税も何のその、敵としての中国を侮る愚」 トランプ側が譲歩しない限り、貿易戦争は再開し、より激しく、長期化することになるだろう
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外国人労働者問題(その9)(「時給400円」で働かされていた外国人の悲惨 そもそも技能実習制度の役割はいったい何か、外国人労働者拡大で技能実習制度の劣悪な実態が直視されない危うさ、移民利権で私腹を肥やす 天下り法人「JITCO」の“商売方法”、外国人労働者受け入れが日本人労働者にとってデメリットしかない理由) [経済政策]

今日は更新を休む予定だったが、外国人労働者問題(その9)(「時給400円」で働かされていた外国人の悲惨 そもそも技能実習制度の役割はいったい何か、外国人労働者拡大で技能実習制度の劣悪な実態が直視されない危うさ、移民利権で私腹を肥やす 天下り法人「JITCO」の“商売方法”、外国人労働者受け入れが日本人労働者にとってデメリットしかない理由)を取上げよう。4本を紹介するので、やや長目だが、ご了解頂きたい。なお、このテーマでは、11月11日に取上げている。

先ずは、社会保険労務士、CFPの榊 裕葵氏が11月15日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「時給400円」で働かされていた外国人の悲惨 そもそも技能実習制度の役割はいったい何か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/249252
・『技能実習生が実習先の茨城県の農家に対して未払いの残業代の支払いなどを求めた裁判で、水戸地裁は農家に約200万円の支払いを命ずる判決を下しました。この200万円の中には、未払いの残業代そのものだけでなく、懲罰的賠償金である「付加金」も含まれているということに注目が必要です。 付加金は、労働基準法第114条に定められている制度で、残業代などの未払い賃金がある場合、労働者は未払額に加え、これと同額の付加金の上乗せ支払いを求めることができます。裁判所は、未払いに至った諸般の事情を勘案し、使用者の未払いに悪質性が認められる場合、付加金の支払いも認める判決を下します。 未払い残業代の支払いを求める訴訟を提起する際、原告の代理人弁護士は付加金の請求も合わせて行うことが実務上は一般的です。しかし、統計があるわけではありませんが、付加金の支払いまでを認める判決が出ることはあまりありません。仮に付加金の支払いが容認された場合でも、付加金の額は未払い残業代の3割程度にとどまることもあります。未払い残業代と同額の付加金の支払いを命ずる判決が下る場合は、裁判所は極めて悪質性が高いと判断した場合に限られます』、こんな悪質なケースが農家だったとは・・・。
・『農家も労働基準法は適用される  今回の案件において、水戸地裁は技能実習先の農家に、未払い残業代とほぼ同額の付加金の支払いを命じました。すなわち、本件は極めて悪質性が高い事件であると判断されたわけです。 なぜ極めて悪質性が高いと判断されたのか、その根拠は3点あると考えられますので、順番に説明をしていきます。第1は、農家が労働基準法についてあまりにも無知・無関心であったということです。 前提条件としてですが、農家にも原則として労働基準法は適用されます。確かに、自然を相手にする仕事ですし、繁忙期と閑散期に片寄りがあるなどの事情を勘案し、1日8時間・週40時間の法定労働時間の規制が適用除外になるなど、労働基準法の適用が緩和されている部分は一部あります。しかし、労働時間に応じて賃金を支払うことや、残業が発生した場合は残業代として割増賃金を支払わなければならないことは、農業を営む事業主にも適用されます。 加えて、もう1つ前提条件として押さえておきたいのは、技能実習生も日本人労働者と同等に労働基準法の適用対象になるということです。技能実習生を、最低賃金を下回る賃金で働かせたり、サービス残業を行わせたりすることは当然違法となります。 このように、技能実習生を受け入れる事業主には、業種にかかわらず労働基準法の順守が求められるわけですが、今回の事件においては、法廷での下記のような質疑応答を踏まえても、被告農家には順法意識がほとんどなかったようです。 被告の農家は法廷で、原告側代理人の「賃金台帳を作っていたか」という質問に、「賃金台帳とはどういう感じのものか」と聞き返す場面があった。実習生の受け入れ窓口で、実習が適切に行われているか監査する監理団体に台帳の作成を頼んだかどうかも「わからない」と証言していた(『朝日新聞デジタル』2018年11月10日)。 このやり取りの中に含まれる「賃金台帳」とは、事業主がどのような計算根拠に基づき、いつ、いくらの金額を労働者に支払ったのかを記録する帳簿で、労働基準法上は「労働者名簿」「出勤簿」と合わせて「法定3帳簿」と呼ばれる最も重要な帳簿の1つです』、監理団体はこの農家にどういう指導をしていたのだろう。
・『農家側の主張はかなり無理がある  これほど重要な帳簿である「賃金台帳」について、「賃金台帳とは何か?」と聞き返す農家に対し、水戸地裁は事業主としての順法意識の低さを問題視して、付加金を課す根拠の1つにしたのではないかと考えられます。 第2は、正規の就業時間外の業務について、「技能実習生と請負契約を結んでいた」という農家側の弁明に明らかに無理があるということです。 この点、さらに細かく見ていくと2つの問題点があります。問題点の1つ目は、農家が出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)を理解していなかったということです。技能実習生のビザは、入管法に基づいて「技能実習」というカテゴリーで発行されます。技能実習ビザで入国が認められた外国人に就労が認められるのは、実習計画に基づいた範囲で、雇用契約に基づいた就労に限られます。 ですから、雇用契約であれ、請負契約であれ副業を行ってはならないことはもちろんのこと、たとえ技能実習受入先の事業主であったとしても、雇用契約とは別に請負契約を結んで別段の業務をさせることは入管法違反です。 問題点の2つ目は、入管法違反の問題を横に置いておくとしても、働かせ方の実態が請負契約ではなく雇用契約であったということです。 請負契約は、対等な事業主同士の立場で、諾否や条件交渉の自由があってはじめて成り立つものです。今回の事件においては、下記の報道のように、農家側が優越的立場をもって技能実習生に作業をさせていたと水戸地裁は認定し、実態は雇用契約である偽装請負だと判断したわけです。 判決は、①大量の大葉を出荷する必要がある②実習生が作業をするのは午後5時以降で、作業には数時間かかる③すべての大葉を巻く作業を実習生がしており、実習生が自分たちで作業するものだと考えていても不自然ではない――などとして、「諾否の自由は事実上制限されていた」と認定。労働契約による作業であるとした(『朝日新聞デジタル』2018年11月10日)。 このように、入管法違反かつ、偽装請負であったということにも、水戸地裁は悪質性を認めたのでしょう。 第3は、技能実習制度を形骸化させ、実習生を単なる労働力としてしか扱っていなかったということです。厚生労働省のホームページでは、技能実習制度について次のように説明されています。 外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的としております。 すなわち、技能実習制度とは、国際協力や発展途上国への支援を目的とした制度であるということです。我が国は、受け入れた技能実習生に、技能や技術を伝え、自国に戻った時に活用してもらえるよう育成をする責務があります』、外国人技能実習制度の形骸化には、厚労省の責任も重大だ。
・『日立は技能実習生99人を解雇  しかしながら、大葉を巻く作業を所定労働時間が終わった後に延々と深夜まで行わせていたということですから、作業内容という面においても、労働時間という面においても問題があったのではないかと考えられます。そして、賃金は時給換算して400円にすぎなかったということです。 国際協力や発展途上国への支援という本旨にそぐわず、低賃金で長時間の単純作業を課していたということにも水戸地裁は悪質性が高いと判断したのだと考えられます。 さて、本件について3つの問題点から掘り下げてみましたが、技能実習生の受入れに関するトラブルは、本件に限った個別的、局所的な問題というとらえ方をしてはなりません。日本全国で類似の問題が発生しているのです。 たとえば、直近に発生した出来事として、日立製作所(日立)では、技能実習を継続できなくなったとして、フィリピン人の技能実習生99人を解雇しています。日立が、受け入れた技能実習生に対し、技能を学べる作業を行わせていなかったことが発覚し、以後の技能実習計画が認可されないない状況に陥ってしまったためです。 技能実習生側には何の落ち度がないにもかかわらず、日立が正規の実習計画に基づいた作業に従事させなかったため、日本での実習継続が困難となってしまったのです。ただ、日立は、中止になった技能実習期間の賃金を補償することを表明しているので、問題がある中でも、この点においては誠意ある対応をしていると言えるでしょう。 問題なのは、このような技能実習の内容面だけではありません。有給休暇の取得を希望した技能実習生を強制帰国させたり、パワハラで技能実習生をうつ病に追い込んだりと、待遇や労務管理面における問題も見過ごすことができません。このような問題がたびたび発生する原因は、現在の技能実習制度自体に問題があるからではないかと考えられます。 技能実習ビザは、特定の企業で技能実習を行うことを前提に発行されます。そのため、当該企業との雇用契約関係が終了すると、ほかで実習を継続することができる場所が見つからないかぎり、帰国しなければなりません。 技能実習で来日するための費用に充てるため、母国で借金をすることも珍しくありませんから、どんなに劣悪な就労環境に置かれても、技能実習生は金銭的な理由から、我慢して働き続けなければならないという状態に陥ってしまいがちなのです。労働基準法の規制の網目をすり抜け、「寮費」などの名目で多額の天引きを行う形で、実質的に低賃金で技能実習生を働かせるという行為も後を絶ちません』、日立までが「技能実習生に対し、技能を学べる作業を行わせていなかったことが発覚し、以後の技能実習計画が認可されないない状況に陥ってしまった」とは情けない事態だ。賃金は補償するとはいえ、経団連会長会社がやることとは思えない。
・『失踪者は年々増え1万人に迫る  このような実態の中、外国人技能実習生の失踪が後を絶たないことが社会問題化しています。技能実習先企業とのトラブル、低賃金、過酷な労働に耐えられなくなったなどの理由で失踪した技能実習生は、法務省の統計によると、2017年は7089人にも達し、過去最高を更新したということです。技能実習生の母数の増加に伴い、失踪者数も増加の一途をたどっているという傾向が見られます。 政府は現在、入管法を改正し、新たな在留資格として、人手不足の深刻な業種について、「特定技能1号」と「特定技能2号」を創設し、介護、農業、建設など14分野において、新たな枠組みによる外国人労働者の受け入れ拡大を図ろうとしています。 技能実習制度については、現在の枠組みのまま温存される見通しです。その上で、3年間の技能実習経験者は、新制度の特定技能ビザによる在留資格に移行できるように制度間の接続を図ることが予定されています。 確かに、わが国においては少子高齢化が進み、外国人労働者を含めた労働力の確保が急務です。しかしながら、外国人労働者受け入れの拡大や、新制度の導入を図る前に、まずは、現に発生している技能実習生が直面している諸問題に目を向け、技能実習制度を真に外国人労働者が安心して働くことができる制度にしていくことが必要なはずです。 国際協力や技能・技術の伝承という、技能実習制度の本来の目的に立ち戻り、日本が国際社会の中で責任を果たしていくためにも、技能実習制度の再構築が求められるのではないでしょうか』、まずは、技能実習制度の実態の詳細な調査が必要だろう。

次に、弁護士の大坂恭子氏が12月4日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「外国人労働者拡大で技能実習制度の劣悪な実態が直視されない危うさ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/187337
・『人手不足対策として、外国人労働者の受け入れ拡大のため、新たな在留資格を創設、途上国からの技能実習生も、実習修了後、その枠組みに入れることが打ち出された。そのための出入国管理法の改正案が国会で審議中だ。 だが昨年だけでも、低賃金や劣悪な境遇から逃れて「失踪」せざるを得なかった技能実習生は約7000人もいる。 いまの技能実習制度を前提にしたような新制度で、日本人労働者と外国人労働者とが日本で共生しながら幸福に暮らせるのか、疑問だ』、詳しくみてみよう。
・『「安い労働力」が目当て技能実習生のひどい境遇  もともと技能実習制度は、国際貢献の一環として、途上国から技術や技能を学びたい人を研修生・技能実習生として受け入れ、日本の技術や技能、知識を移転する狙いで93年に創設された。 この制度は、「技能実習」などの在留資格で、最長5年間、企業等で働きながら技能などを習得してもらうものだった。 だが、最低賃金を大幅に下回る賃金しか支払われなかったり、長時間労働を行わせたりして、「安い労働力」としてしか扱われない事例が多発している。 一例を挙げると、岐阜の縫製会社に勤務していたカンボジア人技能実習生の場合はこうだ。 (1)毎日午前8時から午後11時頃まで縫製作業 (2)休日が月1回程度で、土日を含めて連続勤務 (3)賃金は、月額1万5000円から2万7000円 (4)賃金から天引きされていた健康保険料は、納付されておらず無保険 こうした状態で、約8ヵ月働き、過酷な労働に耐えられなくなり、「失踪」した。 その技能実習生らは、支援者や弁護士に相談して別の実習実施機関に移籍できることにはなったが、入国後、約8ヵ月間の賃金については、訴訟で請求が認められたにもかかわらず、1円も支払われなかった。 訴訟が終わる間際になって、受け入れ企業が倒産することになってしまったからだ。 会社が倒産した場合、国が未払い賃金の8割を立て替えて支払う制度があるが、この実習生らのように倒産から6ヵ月以上前に退職していたケースでは、この制度は使えなかった。 こうして日本に技能実習に来て、長時間労働、連続勤務を強いられ、結局、最低賃金すら支払われないまま、本国へ帰国せざるを得ない技能実習生の事例が毎年、後を絶たないのだ。 特に縫製業界では、最低賃金を大幅に下回る賃金しか支払われず、常軌を逸した長時間労働を行わせている悪質な事例が毎年、報告されている。 時給300円や500円しか支払われていない場合、それは受け入れ企業側が、最初から法令を守らずまともに賃金を払うつもりもない確信犯だ。 そうした事業者が、技能実習生を多数受け入れてしまっている現状がある』、国が未払い賃金の8割を立て替えて支払う制度が、「倒産から6ヵ月以上前に退職していた」との理由で使えなかったというのは、余りに杓子定規過ぎる。
・『最低賃金も受け取れず働けないと「強制帰国」  技能実習生の中には、入国後一度も最低賃金法に従った賃金を受け取ったことがない人もいる。 そして、後から弁護士に相談し、最低賃金法に沿って計算し直した未払賃金を請求すると、受け入れ企業が倒産する事例もたくさんある。 つまり、経営不振に陥り倒産直前になって賃金が支払われなくなったのではなく、入国当初から最低賃金法に従った賃金を支払う意思も能力もない事業者が、技能実習生を受け入れているわけだ。 入国管理局は、技能実習生の入国前の審査で、受け入れ企業について、適正かどうかを審査しているはずだが、実質的には経営状況に対する審査が機能していないと言っていいだろう。 労働関係法令を遵守する比較的大きな企業でも問題は起きている。 例えば、都合の悪い技能実習生を強制的に帰らせる「強制帰国」の問題だ。 通常、技能実習を受け入れるのは、人手不足に悩む企業であり、監理団体に毎月数万円という管理費を支払って、技能実習生を受け入れる。 だが労災で長期治療が必要となった人や、滞在中に結婚や妊娠に至った人など、労働者として使えなくなった技能実習生は管理費ばかりがかかって都合が悪い。 そのため、都合の悪い技能実習生を強制的に空港へ連れて行き、航空券を渡して帰らせるのだ。 いったん、帰国すると、技能実習生の場合は、専門職や日系人の労働者と違って、もう一度、技能実習のために来日することはできない。 「強制帰国」という不正は、技能実習生の権利を無理やり奪い、また日本社会が、外国人実習生をただの安い労働力としてしか扱わず、一人の人間として、生活者として受け入れていないことの象徴だろう。 筆者はこの10年余り、全国の約140人の弁護士らが参加する外国人技能実習生問題弁護士連絡会の活動をしながら、技能実習生受け入れの実態を見てきた。 この制度を残したまま技能実習の修了生を外国人労働者として活用するという政府の方針には、強い懸念を持つ』、入国管理局による受け入れ企業への審査は、全くのザルだ。審査をするのであれば、厚労省の方がまだましな筈だ。「強制帰国」も受け入れ企業の判断だけでできるのであれば、大問題だ。
・『問題の多い新在留資格 人手不足対策で受け入れ拡大ありき  現在、国会で審議されている入管法改正案は、「特定技能1号」(「相当程度の知識又は経験を要する技能を要する業務」に従事、家族帯同不可、滞在年数の上限あり)と、「特定技能2号」(「熟練した技能を要する業務」に従事、家族帯同可、滞在年数の上限なし)の在留資格を創設しようというものだ。 そして、技能実習生は修了後、「特定技能1号」に移行できるとされ、政府が国会に示した新たな在留資格による外国人受け入れの人数の積算根拠では、特定技能1号の半数以上が技能実習の修了者であると見込まれている。 だが今回の新在留資格は、人手不足が顕著な業界からの要請に応えて、まずもって外国人労働者の受け入れ拡大ありきで、創設された感が否めない。 新在留資格を得られる条件の「相当程度」の知識又は経験とか、「熟練した」技能というものが何を指すのかは、十分、検討されたのではなく、後手後手に整えられていると言わざるを得ない。 当初、法務省は、技能実習制度と、人手不足に対応するための新制度は全く別ものと位置づけていた。 だが、「特定技能1号」の半数以上が技能実習の修了者と見込むなど、従前から技能実習制度が、人手不足を賄うための労働者受け入れ制度として活用されていた実態を追認したようなものだ。 今国会でも、新制度のもとでの労働者の受け入れ人数を議論する中で、技能実習を終えても、そのまま特定技能1号の在留資格で日本で働くのであれば、本国で技術を生かせない。 「途上国への技術移転」という名目を放棄したと言わざるを得ない。 多くの問題を抱える技能実習制度をこのまま維持して、その上乗せになるような新制度を作ってしまうのか、ということが最大の問題点なのだ』、その通りだ。
・『法務省に制度を任せる危険 ずさんな「失踪」調査報告  だが、政府は、こうしたことを十分に認識しているとは思えない。 このことは、法務省が外国人技能実習生の失踪問題でずさんな調査結果を国会に報告したこと一つをとっても、明らかだ。 法務省が昨年12月までに受け入れ先から「失踪」し、その後、出入国管理・難民認定法違反などの容疑で摘発された実習生に対して行った聞き取り調査では、計2870人の聴取票に、失踪の動機として、低賃金、暴力、強制的に帰国などの問題が多数含まれていた。 それにもかかわらず、法務省は実習生の「多数」は「より高い賃金を求めて」失踪したと、国会に報告したのである。 例えば、受け入れ先で最低賃金も受け取れず、一方で日本で技能実習を受ける費用を工面するためにした借金の返済ができないから、やむを得ず、他の仕事先で不法就労を始めた技能実習生は、利益を追求して自発的に離職したのではない。 これを「より高い賃金を求めて」失踪したと表現するのは、あまりにも事実を歪曲している。 調査結果では、実に2552人の技能実習生が本国で、送り出し機関に費用を支払うため、「借り入れ」をしてから来日しているという事実も明らかになった。 この調査結果を真摯に受け止め、「失踪」した技能実習生以外に対しても調査を進め、違法な保証金がまかり通っていないのかなども調査する必要がある。 法務省が、単に「より高い賃金を求めて失踪するものが多数」、「人権侵害行為等、受け入れ側の不適正な取り扱いによるものが少数存在」との報告にとどめていたのは、新制度の議論に際し、問題を大きくしないためであったと推察される』、人権擁護も重要な使命の筈の法務省が、調査結果を「事実を歪曲して」国会に報告とはふざけた話だ。
・『技能実習制度は廃止を 労働者受け入れの中身の議論急務  これまで書いてきた通り、技能実習制度は深刻な問題を抱えており、これは、技能実習制度の構造的な問題点と密接に結びついている。 技能実習生は、技能実習という建前のゆえに特定の使用者に縛られ、使用者側に問題があっても、自発的な職場移転が認められない。そのことにより技能実習の場が過酷な労働や人権侵害の温床となっている 外国人を労働者として受け入れる以上、労働者としての権利は保障しなければならない。 労働者として当然の職場移転の自由が保障できない技能実習制度は速やかに廃止すべきなのだ。 だが日本には、すでに約26万人の技能実習生を含む約128万人(平成29年10月末現在)の外国人労働者が働いており、外国人労働者無しには、自動車産業も農漁業もサービス業も成り立たない状況になっている。 今回の入管法改正案を「廃案」にするだけでは何も解決しない。ただ技能実習制度を廃止したのでは、これまで技能実習生が事実上、担ってきた労働力もさらに不足する事態を迎えざるを得ない。 外国人労働者、日本人労働者双方にとってどのような制度があるべきなのか、本気で議論を始めなければならない』、技能実習制度は、有効な改善策が出てこないのであれば、多少の犠牲はあってでも、やはり廃止すべきだろう。
・『「生活者」として受け入れ 家族帯同の条件、短期に  新制度の中身を詰めなくてはならない第1は、受け入れるのは「人」なのだから、生活者として受け入れる用意が必要不可欠だ。 「特定技能1号」の在留資格は、家族帯同不可、滞在可能上限5年とされているが、これでは、技能実習修了者は、最長で技能実習で5年、特定技能で5年間、滞在することになる。 本国や家族から10年もの長期間にわたり引き離されることになる。これは生活者を受け入れる制度とは言えない。より短い期間で家族と一緒に暮らせるよう制度の見直しが必要だ。 「特定技能2号」は、家族帯同可、上限なしというが、いかなる要件を満たせば特定技能2号に移行できるのかが不明だ。これでは、外国人労働者は、先の見通しも立てられない状態で、単身で来日しなければならない。 人権保障の観点からも問題だし、外国人労働者から見ても日本で働く魅力が薄く、産業界が人手不足で労働者を欲しているにもかかわらず、現実には日本は外国人から選ばれない国になる懸念もある。 第2に、悪質なブローカー対策を講じなければならない。 技能実習制度でも、技能実習生の大半が団体管理型という受け入れシステムを利用している。 本国に送り出し機関(派遣機関)があり、日本に事業協同組合などの監理団体があって、この二つの民間団体を介在させることで多くの問題が生じてきた。送り出し機関が高額な保証金を徴収したり、高額な手数料を徴収したりする例だ。 現在、日本国内では、職業紹介事業に関する規制があるが、送り出し国にその規制を及ぼすことはできず、使用者と労働者を結びつけるブローカーに対し、実効的な規制ができていない。 この点、韓国は、外国人労働者受け入れのために現在の雇用許可制度を作る際に、一切のブローカーを排除することを強く意識した。 その結果、送り出し国と政府間で取り決めを行い、労働者の募集、選抜、転職の過程をすべて政府が担い、民間のブローカーが介在する機会をなくした。 日本でもこうしたブローカーに対する具体的な対応策が議論されなければならない』、一切のブローカーを排除し、政府が前面に出る韓国の制度は、参考になる。
・『支援は政府が前面に 野党も対案を示せ  第3に、外国人労働者の在留の支援が不十分なことがある。 新制度では、「入国在留管理庁」が創設され、同庁に登録された「登録支援機関」という民間団体が外国人労働者に対する生活ガイダンス、日本語習得支援や相談・苦情などを受ける窓口になるなどの「支援」をするという。 しかし、技能実習制度では、本来、受け入れ企業を指導して技能実習生を保護すべき監理団体が、「強制帰国」などの人権侵害に加担する事例が多数、起きてきた。 監理団体は、傘下の受け入れ企業から管理費を徴収して成り立っているから、もとより受け入れ企業の利益に反することをできるかは期待しにくい。 新制度の「登録支援機関」も財政的な基盤が、傘下の受け入れ企業から明確に切り離されないのであれば、十分な支援ができるかは疑問だ。 他にも新制度については、受け入れ労働者数の決定方法、審査基準等が不透明で法務省の裁量があまりに広くなる等の問題点があり、修正すべき点が多くある。 今後は、技能実習制度廃止後のあるべき受け入れ制度について、野党も具体的な対案を示し、労働者不足への対応のため、あるべき外国人労働者受け入れ制度の創設に向けて、充実した議論がされることを期待したい』、いずれにせよ、外国人労働者に事実上門戸を開く新法案はじっくり議論すべきだ。今国会成立ありきで参院でまで強行採決の噂まで出ているが、こんなに問題が多い法案を強行採決するようでは、安倍暴政も極まれりだ。

第三に、11月17日付け日刊ゲンダイ「移民利権で私腹を肥やす 天下り法人「JITCO」の“商売方法”」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/241826
・『外国人労働者の受け入れ拡大に向けた入管法改正案を巡って、安倍政権は今国会での成立に前のめりだ。過酷な労働環境に置かれた外国人“奴隷”の増員を、歓迎するのは大企業ばかりかと思いきや、実は霞が関の役人たちも巨大な「移民」利権に舌なめずりしている。 外国人労働者の受け入れ拡大で、恩恵にあずかろうとしているのは、法務、外務、労働(当時)など5省の共同所管で1991年に設立された公益財団法人「国際研修協力機構(JITCO)」だ。 15日の野党ヒアリングで、法務省からの再就職者が2015年度からの3年間で計11人に上ることが判明。かつては検事総長を務めた筧栄一氏が理事長に就任していた時期もある。 日刊ゲンダイの調べでは、計15人の役員のうち9人が省庁OBで、法務省の他に厚労省、外務省、経産省から再就職者がいることが分かった。典型的な天下り法人である』、こんな利権団体の存在を初めて知った。政府が法案成立に血道を上げる筈だ。
・『会費収入うなぎ上り  永田町関係者がJITCOの“商売方法”についてこう解説する。 「ある調査によると、現行の外国人技能実習生の受け入れ先企業は、実習生を受け入れると、JITCOに7万5000円程度の年会費を支払うことになるといいます。事実上の移民拡大で、JITCOの“実入り”が膨張するのは確実です」 JITCOの今年度の収支予算書を見ると、「受取会費」として17億3300万円の収入を得ている。全収益の約8割を占めるから、運営のほとんどを会費に依存している格好だ。 JITCOに問い合わせると、「年会費は企業等の資本金等の規模に応じて1口当たりの金額が算出される」と返答。複数の同業企業でつくる「監理団体」から1口10万円、団体傘下の複数企業から1口5万~15万円を徴収し、それとは別に個別の企業からも1口10万~30万円を受け取っていると説明した。 外国人実習生は現在、約26万人。監理団体の数は全国に約2300ある。現行の制度で、農業や漁業、建設関係など6業種だった受け入れ対象業種は、今回の法改正で介護や外食、自動車整備などが加わり、14業種にまで拡充され、19年度からの5年間で最大約35万人を受け入れる見込みだ。JITCOの監理団体や会員企業も対象業種の拡充に比例して、倍以上に増えると考えるのが自然で、会費収入も同じく倍以上に膨れ上がるのは間違いないだろう。 一方で、外国人技能実習生の労働実態は悲惨を極めている。これまでの野党ヒアリングでは、多くの実習生が「病気になっても薬をもらえるだけで病院へは行かせてくれない」「足を骨折したが休業補償を払ってもらえない」と涙ながらに訴えていた。この問題を追及する国民民主党の原口一博衆院議員はこう言う。「このまま法案が通れば、より多くの外国人労働者が過酷な状況に追い込まれる可能性が高い。その一方で、官僚の天下り団体ばかりが潤うとは、到底看過できません。現在は、世界的に労働者不足で各国で奪い合っている状況です。現状のままでは、日本は世界中の労働者から信頼を失う恐れがある。もっと審議に時間をかけるべきです」 “奴隷拡大”で官僚貴族が私腹を肥やすとは、とても現代社会とは思えない』、「“奴隷拡大”で官僚貴族が私腹を肥やす」とは言い得て妙だ。

第四に、久留米大学商学部教授の塚崎公義氏が11月16日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「外国人労働者受け入れが日本人労働者にとってデメリットしかない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/185575
・『政府は、出入国管理法を改正して、外国人労働者の受け入れ範囲を一部単純労働者にまで拡大するとともに、一定の条件を満たせば家族の帯同も認める方針だ。だがこれは、日本人労働者にとって大問題となりそうだ』、どういうことだろう。
・『労働力不足は労働者にとって素晴らしいこと  「労働力不足だから外国人労働力を受け入れる」という政府の説明は、「労働力不足は悪いことだ」という前提に立つものだ。確かに語感は悪いので、素直に納得してしまう人も多いようだが、労働力不足が困るのは経営者であって、労働者にとっては大変素晴らしいことといえる。 まず、労働力不足だと、失業する心配がない。仮に今の仕事を失ったとしても、容易に他の仕事を見つけられるからだ。若手男性だけではなく、高齢者や子育て中の女性などでも探せば仕事が見つかる。働きたい人が仕事を見つけられるというのは喜ぶべきことだ。 また、労働力不足だと、企業が労働力を確保しようと競争するため非正規労働者の時給が上がる。正社員については目立った上昇は見られていないが、非正規労働者の時給は既に上昇しており、今後も上昇を続けると期待されている。 ブラック企業が“ホワイト化”していくことも期待できる。ブラック企業の社員が容易に転職先を見つけられるようになると退職者が相次ぐため、ブラック企業がホワイト化しない限り存続できなくなるからだ』、確かにその通りだ。
・『外国人労働者の受け入れは日本人労働者に不都合  ところが、外国人労働者が大量に流入してくると、労働力不足が解消されてしまうため、労働者は失業のリスクにさらされ、非正規労働者の時給も上がらなくなり、消滅しかかっていたブラック企業も復活してしまうかもしれない。 ちなみに読者の中には、外国人労働者が日本人労働者より安い賃金で働くと考えている人もいるだろうが、本稿では日本人と同じ賃金で働くことを前提として考えている。それでもなお、外国人受け入れは日本人労働者を貧しくする。 例えば、労働者を募集している企業が100社あり、働きたい日本人労働者が50人いるとすると、100社が50人を争うから、時給は上昇していく。しかし、そこに50人の外国人労働者が加わると、労働力不足が解消してしまうので、労働者の賃金は今まで通りとなり、上がるはずだった賃金が上がらなくなってしまう。 企業経営者としては、「外国人労働者を受け入れないと、労働力不足が深刻化するので、日本人労働者の賃金を引き上げなければならない。それは嫌だから外国人労働者を受け入れてほしい」と政府に要請しているのだが、それは日本人労働者には受け入れられない話だろう。 労働者も労働組合も、労働者の味方を標榜している政党も、なぜ大声をあげて反対しないのであろうか。不思議でならない』、たしかに野党は正面から反対というよりは、問題点指摘に留まっているようだ。
・『労働力不足は生産性も高まり日本経済にもいい影響  労働力不足になると、企業は「省力化投資」を始める。例えば、アルバイトに皿洗いをさせていた飲食店が自動食器洗い機を購入するようになるので、飲食店の生産性が向上するのだ。もちろん、他の業界でも同様だ。 こうして日本経済の労働生産性が高まれば、労働力不足でも経済の成長が可能となる。 また、財政にとってもいい影響を及ぼす。失業対策の公共投資は不要だし、失業手当や生活保護の申請も減るだろう。それ以上に重要なのは、増税が容易になることだ。 日本政府がなかなか増税できないのは、政治家の人気取りもさることながら、「増税して景気が悪化したら失業者が増えてしまう」という恐怖心があるからだ。今後は少子高齢化による労働力不足で、「景気がいいと超労働力不足、景気が悪くても少し労働力不足」という時代がくるので、“気楽”に増税できるようになるはずだ。 それなのに、外国人の単純労働者を大量に受け入れてしまったら、失業のリスクが増すため増税が難しくなってしまう。 さらに問題なのは、一定の要件を満たせば、外国人の単純労働者の日本での永住も可能で、家族の帯同も認められることだ。 労働力不足だから外国人を受け入れるのに、彼らが日本で医療や介護を受けることになり、それに対して日本人の労働力を使うなど、悪い冗談としか言いようがない。 家族を連れてきていいとなると、日本語の分からない家族に日本語を教える必要もあるだろう。小中学校に複数の外国語が分かる先生を配置し、保護者用の説明も複数言語で用意しなければならなくなる。 そうしたコストは、当然だが行政が負担することになる。企業が外国人の単純労働者を受け入れることで雇って利益を得る一方で、一般市民の支払った税金が使われることになるのだ。これは、「外部不経済」といえる。 企業が、「家族の教育のコストも負担するから外国人労働者を雇いたい」というなら認めるにやぶさかではない。しかし、「家族の教育コストを負担するなら雇わないが、負担しないなら雇いたい」というなら、雇わせるべきではない。雇うべきでない人を雇っているとことになるからだ。 したがって、外国人の単純労働者を雇った企業には、高額の税を課すべきである。それでも雇いたいと言われれば、妥協案として認めてもいいだろう。 上記した日本人労働者の失業問題があるので、本来はそれさえも認めたくないが、そこまでして雇う企業は少数だろうから、日本人の失業を心配するほどの影響はないと考えておこう』、「企業が外国人の単純労働者を受け入れることで雇って利益を得る一方で、一般市民の支払った税金が使われることになる」というのは、虫のいい話だ。「外国人の単純労働者を雇った企業には、高額の税を課すべきである。それでも雇いたいと言われれば、妥協案として認めてもいいだろう」というのは、説得力のある主張だ。
・『デメリットに比べれば経常黒字減少は軽微な話  「介護労働者が不足しているから、外国人の単純労働者を受け入れる」というのは、百歩譲って認めるとしても、農業や造船などの労働者は受け入れるべきではない。商品を輸入すればいいからだ。 特に農産物は、農家の保護という名目で、これまで消費者は高い国産農産物を買わされていた。これを機に外国産の安い農産物を輸入すれば、労働力不足も解決し、消費者も安い農産物を食べられて皆がハッピーになる。 国内の、特に高齢の農家に関しては、「割増退職金」的な支援を行い、農業から引退してもらえばいい。そして若者に、引退した高齢者の土地を集約して大規模かつ効率的な農業を営んでもらうための補助金であれば、喜んで支払おう。 食料安全保障の問題は軽微だ。世界の食料輸出国は友好国が多く、海上輸送路にも大きな問題はなさそう。一方で、原油の輸入が止まればトラクターを始めとする農作機械が動かず、食料安全保障上、深刻な問題となり得るが、その際には外国人の単純労働者を受け入れても意味がない。 「ちなみに、経常収支は黒字が望ましいのか否かについては、さまざまな意見があるが、仮に“黒字有用論”を採用したとしても、日本は経常収支が大幅に黒字なのだから、農産物などを輸入したくらいで赤字に転落することはあり得ない。 外国人の単純労働者を受け入れることのデメリットと比べたら、黒字が若干減ることくらい大したことではない。したがって、経常収支黒字有用論者からの農産物などの輸入反対は説得力に欠けるだろう。 「日本のGDPが減ってしまわないように、外国人労働者を受け入れる必要がある」という人もいるが、そういう人には100年単位で物を考えてもらいたい。100年後には日本人の人口が3分の1に減るとも言われている。したがって、日本のGDPを守るために日本の人口を保つとしたら、日本列島に住む人の過半は外国人になってしまう。 本当に、そんな日本の将来が望ましいのだろうか。守るべきなのは、GDPではなく、日本国民の豊かさ、つまり1人当たりGDPなのではなかろうか』、多面的によく練られた説得力ある主張で、全面的に賛成だ。
タグ:外国人労働者の受け入れは日本人労働者に不都合 外国人受け入れは日本人労働者を貧しくする 労働力不足は労働者にとって素晴らしいこと 支援は政府が前面に 野党も対案を示せ 法務省に制度を任せる危険 ずさんな「失踪」調査報告 農家も労働基準法は適用される 失踪者は年々増え1万人に迫る 悪質なブローカー対策を講じなければならない (その9)(「時給400円」で働かされていた外国人の悲惨 そもそも技能実習制度の役割はいったい何か、外国人労働者拡大で技能実習制度の劣悪な実態が直視されない危うさ、移民利権で私腹を肥やす 天下り法人「JITCO」の“商売方法”、外国人労働者受け入れが日本人労働者にとってデメリットしかない理由) 技能実習を継続できなくなったとして、フィリピン人の技能実習生99人を解雇 「安い労働力」が目当て技能実習生のひどい境遇 「外国人労働者拡大で技能実習制度の劣悪な実態が直視されない危うさ」 「外国人労働者受け入れが日本人労働者にとってデメリットしかない理由」 入国当初から最低賃金法に従った賃金を支払う意思も能力もない事業者が、技能実習生を受け入れているわけだ 塚崎公義 岐阜の縫製会社に勤務していたカンボジア人技能実習生 日立は技能実習生99人を解雇 そうしたコストは、当然だが行政が負担することになる。企業が外国人の単純労働者を受け入れることで雇って利益を得る一方で、一般市民の支払った税金が使われることになるのだ 東洋経済オンライン 労働基準法の規制の網目をすり抜け、「寮費」などの名目で多額の天引きを行う形で、実質的に低賃金で技能実習生を働かせるという行為も後を絶ちません 小中学校に複数の外国語が分かる先生を配置し、保護者用の説明も複数言語で用意しなければならなくなる 日本語の分からない家族に日本語を教える必要 守るべきなのは、GDPではなく、日本国民の豊かさ、つまり1人当たりGDP 家族 未払い残業代と同額の付加金の支払いを命ずる判決が下る場合は、裁判所は極めて悪質性が高いと判断した場合に限られます 省力化投資 労働力不足は生産性も高まり日本経済にもいい影響 茨城県の農家に対して未払いの残業代の支払いなどを求めた裁判で、水戸地裁は農家に約200万円の支払いを命ずる判決 縫製業界では、最低賃金を大幅に下回る賃金しか支払われず、常軌を逸した長時間労働を行わせている悪質な事例が毎年、報告 中止になった技能実習期間の賃金を補償 監理団体」から1口10万円、団体傘下の複数企業から1口5万~15万円を徴収し、それとは別に個別の企業からも1口10万~30万円を受け取っている “奴隷拡大”で官僚貴族が私腹を肥やす 技能実習生 懲罰的賠償金である「付加金」も含まれている デメリットに比べれば経常黒字減少は軽微な話 企業が、「家族の教育のコストも負担するから外国人労働者を雇いたい」というなら認めるにやぶさかではない 法務、外務、労働(当時)など5省の共同所管で1991年に設立された公益財団法人「国際研修協力機構(JITCO)」 技能実習制度は廃止を 労働者受け入れの中身の議論急務 「移民利権で私腹を肥やす 天下り法人「JITCO」の“商売方法”」 「生活者」として受け入れ 家族帯同の条件、短期に 我が国は、受け入れた技能実習生に、技能や技術を伝え、自国に戻った時に活用してもらえるよう育成をする責務があります 日立が、受け入れた技能実習生に対し、技能を学べる作業を行わせていなかったことが発覚し、以後の技能実習計画が認可されないない状況に陥ってしまった 「「時給400円」で働かされていた外国人の悲惨 そもそも技能実習制度の役割はいったい何か」 最低賃金も受け取れず働けないと「強制帰国」 農業や造船などの労働者は受け入れるべきではない。商品を輸入すればいいからだ 問題の多い新在留資格 農家側の主張はかなり無理がある 外国人労働者問題 ダイヤモンド・オンライン 大坂恭子 日刊ゲンダイ 榊 裕葵 労働者として使えなくなった技能実習生は管理費ばかりがかかって都合が悪い。 そのため、都合の悪い技能実習生を強制的に空港へ連れて行き、航空券を渡して帰らせるのだ 監理団体に毎月数万円という管理費を支払って、技能実習生を受け入れる 計15人の役員のうち9人が省庁OB JITCOの今年度の収支予算書を見ると、「受取会費」として17億3300万円の収入 会社が倒産した場合、国が未払い賃金の8割を立て替えて支払う制度があるが、この実習生らのように倒産から6ヵ月以上前に退職していたケースでは、この制度は使えなかった
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日本・ロシア関係(その4)北方領土2(「60年待って2島返還にとどまれば外交大失敗」 歯舞・色丹の「主権」を取り戻すキーワードとは?、安倍首相は「年金資産」を北方領土とバーターする気だった、北方領土交渉 安倍首相の危うい選択 「歯舞・色丹」返還の「56年宣言」軸でもゼロ回答か) [外交]

日本・ロシア関係については、2016年12月21日に取上げたままだった。2年近く経った今日は、(その4)北方領土2(「60年待って2島返還にとどまれば外交大失敗」 歯舞・色丹の「主権」を取り戻すキーワードとは?、安倍首相は「年金資産」を北方領土とバーターする気だった、北方領土交渉 安倍首相の危うい選択 「歯舞・色丹」返還の「56年宣言」軸でもゼロ回答か)である。

先ずは、11月19日付け日経ビジネスオンライン「「60年待って2島返還にとどまれば外交大失敗」 歯舞・色丹の「主権」を取り戻すキーワードとは?」を紹介しよう(――は聞き手の質問)。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/230078/111600175/?P=1
・『安倍首相とプーチン大統領が11月14日に会談し、1956年の日ソ共同宣言を基礎に、日ロ平和条約交渉を加速させることで合意した。時事通信・元モスクワ特派員の名越健郎氏(拓殖大学海外事情研究所教授)は、安倍首相の父・晋太郎氏が日ソ平和条約にかけた思いに注目する。
――安倍晋三首相が11月14日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談したのち、「1956年の日ソ共同宣言を基礎に、日ロ平和条約交渉を加速させることで合意した」と明らかにしました。名越さんは、プーチン大統領が9月12日に「前提条件をつけることなく日ロ平和条約を年内に締結しよう」と提案した際、次のような見通しを持っていました。「国後と択捉に関しては、プーチン政権の下での返還はもうあり得ません」。「4島返還(国後、択捉、歯舞、色丹)の旗を降ろして、日ソ共同宣言に書かれているレベルもしくはそれ以下の条件で妥協し、プーチン大統領と話をつけるか。4島返還の旗を立て続け、プーチン大統領の次の政権に期待するか。日本はどちらの道を選択するのか」・・・これを踏まえて、今回の安倍首相の決定をどう評価しますか。(日ソ共同宣言(ソヴィエト社会主義共和国連邦は,日本国の要請にこたえかつ日本国の利益を考慮して,歯舞諸島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし,これらの諸島は,日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする。))
名越:安倍首相は今回、前者を選択。4島返還の旗を事実上降ろしたと評価しています。交渉加速は日本側が要請しました。つまり、安倍首相は56年宣言のレベルに自ら降り、ロシアが望む交渉の土俵に乗る決断をしたのです。安倍首相は北方領土をめぐる日本の方針を大転換したといえるでしょう。菅義偉官房長官は「政府としては、北方四島の帰属問題を解決して平和条約を締結するという基本方針のもとに、引き続き粘り強く取り組んでいくという立場に変わりはない」と発言しています。安倍首相も11月16日、「従来の方針となんら矛盾しない」と語りました。いずれも詭弁に聞こえますね』、安倍の方針大転換を表向き否定するとは、苦しい言い逃れだ。
・『レガシー作りと“安倍家の家訓”が背中を押した  ――安倍首相はなぜこの決断をしたのでしょう。 名越:安倍首相の私的な思いも強くあるように思います。一つは、首相として後世に残る実績、レガシーを作りたいのです。これは歴代の首相のいずれにも共通するものですね。安倍首相は日ロ平和条約の締結を公約として掲げてきました。しかし、国後・択捉の返還を求めるこれまでの姿勢で成果を上げることはできません。プーチン大統領は、平和条約の交渉は56年宣言をベースにするとずっと発言してきました。そこで、平和条約の交渉を動かすため、今回の決断をしたのだと思います。もう一つは“安倍家の家訓”です。安倍首相の父である晋太郎氏は長く外務大臣を務め、日ソ平和条約の締結に力を注いでいました。安倍首相は秘書としてその姿を近くで見ていた。晋太郎氏は56年宣言に基づく交渉開始を是としていました。私が調べたところ、これに関する最初の発言は1986年のことです。同氏は国会答弁で「56年宣言を元に交渉を行う」と述べました。当時の新聞は「2島返還に方針転換か」と疑問を呈しています。官房長官がこれを否定するコメントを発しています。晋太郎氏は90年にも自民党の代表団を率いて訪ソし、「56年宣言を元に交渉を開始しよう」とミハイル・ゴルバチョフ氏に提案しています。私は当時、時事通信のモスクワ特派員として現地に駐在していたので、関係者から聞いて覚えています。晋太郎氏はその年の夏にも訪ソしようとしましたが、病気のためかないませんでした。この時、ゴルバチョフ氏が晋太郎氏に「56年宣言を元に交渉し、平和条約を5年以内に締結しよう」とのメッセージを送りました。晋太郎氏はこれを安倍派の会合で披露し、「平和条約締結への道が開かれた」と発言しています。こうした経緯から、「56年宣言に基づく交渉開始」に転換することのハードルが安倍首相の中では低いのでしょう。いわば、父・晋太郎氏が残した家訓に則る行為なわけですから。実は、安倍首相の祖父である岸信介氏も、日ソ平和条約の交渉に大きな影響を与えました。60年の日米安保条約改定にソ連が反発。歯舞・色丹の引き渡し条件に「在日米軍の撤退」を新たに加えたのです。「領土問題は解決済み」と主張し、領土交渉自体を拒否する方針に転換しました』、「父・晋太郎氏が残した家訓に則る行為」とは恐れ入った。
・『――安倍首相はなぜこのタイミングで方針転換を決断したのでしょう。 名越:やはり、焦りがあったのではないでしょうか。9月のプーチン発言――無条件で年末までに平和条約締結――が影響したと思います。プーチン発言の意味するところは「今のまま続けていても仕方ないだろう」ということだった。これが安倍首相にとってプレッシャーとなった。プーチン大統領が外交的に勝利したのだと思います。2年前に同大統領が訪日した時に決まった4島での共同経済活動も協議が難航しており、それも焦りにつながった。安倍首相の任期が残り3年を切ったことも背景にあるでしょう。安倍首相が「戦後外交の総決算」として掲げる2枚看板のうち、北朝鮮拉致問題の解決は進展していません。残る日ロ平和条約を成果にするためには、ここで決断しないと時間がありません。来年6月にプーチン大統領が来日するときに仮調印というクライマックスを持ってきたい計算もあるでしょう』、安倍が焦って、9月のプーチン発言に乗ったのであれば、確かに「プーチン大統領が外交的に勝利」したことになる。やはり、プーチンはしたたかなようだ
・『「領土問題の継続審議」――ロシアは56年にも拒否   ――国後・択捉について言及のない56年宣言を基礎とすることで、両島の扱いが一層不透明になります。今後、どうなるのでしょう。 名越:今のところ、政府に展望があるとは思えません。「2島(歯舞・色丹)先行」なのか、「2島で決着」なのか。官邸は「国後・択捉は放棄する」とは決して言えないと思います。つまり「2島先行」を掲げる。一方で、ロシアは2島で打ち止めにしたい。「2島で決着」、「平和条約によって国境は画定した」としたいでしょう。日本はロシアの意向を拒否することができるのか。首脳同士のサシの会談でこのあたりも話し合っていると思いますが、安倍首相は大きな2島が戻ってこないことも覚悟しているのだと思います』、もともと「2島で決着」しかけたのを、アメリカが日ソ間にくさびを打ち込むために、「4島返還」論に変えさせた経緯も考えると、私は「2島で決着」でもよいと考えている。しかし、世論をこれで納得させるのは、いくら安倍といえども至難の技だろう。
・『――56年宣言を締結する交渉の過程で、日本は「領土問題の継続審議」の文言を挿入するよう求めましたが、ソ連が拒否した経緯があります。 名越:おっしゃるとおりです。プーチン政権は国後、択捉の帰属協議を一貫して拒否しており、今回も同様の文言を入れるのは難しいでしょう。 ――「2島先行」とも、「2島で決着」とも解釈できる玉虫色の表現をするのでしょうか。 名越:その表現を作り出すには芸術的なセンスが必要ですね。加えて、あいまいな表現ではロシアが署名を拒否する可能性もあるでしょう』、日本向けとロシア向けを書き分けるという乱暴な手を用いるかも知れない。
・『色丹島にロシア人が押し寄せる?  ――次に、歯舞・色丹の取り扱いについて伺います。プーチン大統領は安倍首相との首脳会談の後、「日ソ共同宣言には平和条約の締結のあとに2つの島を引き渡すと書かれている。ただし、引き渡す根拠やどちらの主権のもとに島が残るのかは書かれていない。これは本格的な検討を必要とする」と発言。同大統領は2016年に訪日した時の記者会見でも、同様の主張をしました。これに対して菅官房長官が「歯舞諸島、および色丹島が返還されることになれば、当然それらに対する日本の主権、これも確認されることになる」と反論しています。 名越:主権については日本に利があります。第二次大戦末期に米英ソ3首脳が臨んだヤルタ会談で、千島列島と南樺太を得ることを条件に、ソ連は対日参戦しました。この時の文書を読むと、千島列島をソ連に「ピリダーチャ」(英語では「hand over」)する、と書かれています。ソ連はこの文書を元に、主権を含めて千島列島をすべて獲得しました。そして、56年宣言でも、歯舞・色丹について「引き渡し」を意味する「ピリダーチ」という動詞が使われているのです。日本はこの点を突くべきです。ヤルタ合意に従えば、歯舞・色丹は主権とともに日本に引き渡されることになります。プーチン発言は詭弁であり、駆け引きです。したがって、主権については最終的には折れてくると思います。しかし、それでも日本は歯舞・色丹について条件闘争を強いられるでしょう。排他的経済水域について日本の権利を抑制すること、色丹島に住むロシア住民に補償措置を取ること、在日米軍の基地を置かないこと、などが考えられます。「取れるものは取る」というのがロシア人の考え方です』、「外交の安倍」のキャッチフレーズとは裏腹に、外交力では焦っている安倍首相が足元を見られて負ける公算が大きいだろう。
・『色丹島には3000人近いロシア人が住んでいます。彼らは、日本への引き渡しを嫌って色丹島を離れるグループと、島に残留するグループに分かれるでしょう。日本を離れるグループには補償金を支払うことになるかもしれません。一方、残留するグループは日本国籍を求める可能性があります。そうすると二重国籍問題が発生する。新たに色丹島を目指してくる人々も出てきます。一部は補償金を目当てにくる人々。別の一部は、反プーチンのロシア人。また返還利権を狙うロシア人が、日本人になるべく色丹島に移住してくる事態もあり得ます。米軍基地については、安倍首相がプーチン大統領に「置かない」と伝えたことが報道されています。そもそも、不便な離島に米軍が駐在する必要はありません。色丹島は丘陵の地形で、空港を作る場所がありません。ロシアも作っていないのが現状です。ヘリポートはありますが……。米軍にとっては三沢にある空軍基地で十分だと思います。それでも、日本が米国にこの話をもちかければ、米国は不快に感じるでしょうね。日米地位協定も修正する必要があります。 ――米国は、「日本のどこにでも基地を置くことを求められる」と解しているそうですね 。一方、日本は「歯舞・色丹に米軍基地を置かない」ことをロシアと確認することは同協定上、問題ないと解釈している。 名越:加えて、歯舞・色丹と尖閣諸島とで異なる対応を米国に求めるのもおかしな話です』、補償金や返還利権を狙って「新たに色丹島を目指してくる」ロシア人も出てくるというのは、困ったことだ。「歯舞・色丹と尖閣諸島とで異なる対応を米国に求めるのもおかしな話」というのはその通りだ。
・『歯舞・色丹の「割譲」はフルシチョフの責任   ――今回の安倍首相の発言を、ロシア国内はどう評価しているのですか。 名越:まだ、あまり論評は出ていません。とはいえ、ロシア国営放送が合意直後、4島の大きさや過去の経緯を含め、かなりの時間を割いて伝えました。プーチン大統領が歯舞・色丹2島の割譲も想定して、環境整備を始めたとの印象を受けました。 ――ロシアにとっては「割譲」になるわけですね。 名越:そうです。先ほどのヤルタ会談などを根拠に、歯舞と色丹は第二次世界大戦時に正当に獲得した、と主張しています。これを割譲するのは、「フルシチョフが日本と56年宣言を結んだから」。プーチン大統領の責任ではないと主張する構えです。ロシア国内では北方領土の割譲に9割の人が反対しており、引き渡しには世論を説得する必要が生じます。プーチン大統領は4年前のクリミア併合でも、1954年にフルシチョフがクリミアをロシアからウクライナ共和国に移管したことを「憲法違反」と非難しました。フルシチョフの誤った方針の尻拭いをさせられていると演出するかもしれません。 ――ヤルタ会談を根拠にするのはまだ理解できます。しかし、当時は日本領だった千島列島にソ連が攻撃を開始したのは8月18日でした。ソ連は9月2日に日本が降伏文書に署名するまで戦争は継続していたととらえているので、このタイミングについても正当と考えているわけですね。 名越:ええ。しかし、歯舞を占拠したのは9月3日から5日にかけてでした。これは署名後のことなので、明らかに不法です。 ――ロシアはこの点をどう説明しているのですか。 名越:口をつぐんで何も言っていません』、歯舞占拠は降伏文書署名後だったというのは、初めて知った。確かに不法占拠ではある。
・『平和条約締結をテコに衆参ダブル選も  ――平和条約を結ぶにあたって、北方領土の帰属以外に話し合うべき事項はありませんか。請求権などについては、56年宣言でお互いに放棄しています。 名越:基本的には北方領土の帰属だけです。外務省の担当者が以前、「国境が確定すればすぐに締結できる」と話していました。国境部分を除いて、日本側の案文はほぼできているとも語っていました。ただし、北方領土についてどのように記すのか。日本は国後・択捉の返還にも可能性を残す表現をしたい。ロシアは「これで終わり。ピリオド」と書き残したいわけです。芸術的な才能を要す仕事になります。 ――不法占拠については、どのような書きぶりなることが考えられるでしょう。 名越:触れないでしょう。日本は譲歩させられることになると思います。平和条約によって戦後処理が最終的に完了するわけで、関連してシベリア抑留なども合法になるかもしれません。 ――そうなった時に日本国内はまとまるでしょうか。 名越:「やむなし」という形で進むのではないでしょうか。4島一括返還の旗を降ろすことも含めて、保守の安倍首相だからできるのだと思います。かつての民主、民進党政権が同じことをしたら袋叩きにあったにちがいありません。世代交代も進み、以前とは環境が変わってきてもいます。北方領土に対する関心が低下し、中国と韓国に移っています。これも“安倍効果”かもしれません。右翼も今はおとなしいですし。 ――国会の批准も問題なく進む。 名越:今の国会の状況ならば問題ないと思います。安倍首相は来年6月にプーチン大統領が訪日した時に仮調印。「日ロ平和条約を締結する」ことをテコに7月、衆参ダブル選挙に臨む展開を思い描いているかもしれません』、「日ロ平和条約締結をテコに7月、衆参ダブル選挙に臨む展開」というのはありそうな話だが、多くの国民が「2島で決着」を支持することが前提となるだろう。
・『56年にはシベリア抑留者の帰国など切実な問題があった  ――これまで、うかがってきたシナリオで進む場合、「引き分け」といえるのでしょうか。プーチン氏は2012年に「引き分け」による解決に言及しました。 名越:2015年秋にトルコで会談した際、安倍首相が「平和条約後の2島返還」に触れると、プーチン大統領は「それでは日本の1本勝ちじゃないか」と指摘したという情報があります。ロシアとしては、交渉対象を2島にした上での引き分け、つまり「1島返還」を狙ってくるかもしれません。 ――冒頭の質問に戻ってしまいますが……。それでも、なぜこの時期に平和条約の交渉を始める必要があるのでしょう。 名越:プーチン大統領は近隣諸国との領土問題を、係争地を面積折半にする超法規的な対応で柔軟に処理してきました。北方領土問題は第二次大戦の結果に絡むので適用できないという立場ですが、経済や安全保障を優先する場合は領土割譲も惜しまないところがあります。ロシアの国際的孤立や経済失速などもあり、日本はもう少し粘っても良かった気がします。ただ、1991年にソ連が崩壊した直後に訪れた最大のチャンスに日本外務省は動かず、千載一遇の機会をみすみす逃してしまった。その時の外交失敗が今日の事態につながったと思います。当時、大型援助を武器に外交攻勢に出ていれば、国後を含め少なくとも3島は獲得できたでしょう』、「1島返還」には抵抗してほしいところだ。ソ連崩壊直後に交渉していれば、確かにはるかに有利だったろう。外務省の完全な手落ちだ。
・『――56年宣言を締結した時に、4島一括ではなく、歯舞・色丹の引き渡しだけに譲歩したのは理解できます。シベリアには多くの日本人が抑留されていて、彼らの帰国が最優先課題でした。国連に加盟するにも、常任理事国であるソ連の承認が必要だった。 名越:今は、そのような切実な理由はありません。レガシーを残したいという安倍首相の個人的野望や“安倍家の家訓”のために、大きな譲歩をしていいのでしょうか。歯舞・色丹の2島だけなら56年の時点で決着していたわけで、この60年間はいったい何だったのか。「待って、待って、後退」したのでは、日本外交の大失敗と評価されることになります』、それでも、私は「2島で決着」でいいと思っている。

次に、11月20日付け日刊ゲンダイ「安倍首相は「年金資産」を北方領土とバーターする気だった」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/241980
・『安倍政権がロシアとの北方領土交渉で、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用する国民の虎の子の「年金資産」を“バーター材料”として差し出そうしていた――。ロイター通信がこう報じ、外交関係者が驚愕している。 記事は今月9日にロイターが英文で配信した「スクープ:海外投資家がロスネフチ株取得をためらったため、ロシア中央銀行が売却取引に極秘融資」というもの。2016年12月にロシアの国営石油会社「ロスネフチ」の株式19.5%が、カタールの投資ファンドなどに売却された経緯と水面下の動きについて詳報しているのだが、そこにナント日本政府が登場するのである。 当時ロシアは、原油価格暴落と経済制裁により国家予算が逼迫、ロスネフチ株の一部売却で赤字補填する計画だった。ところが売却先に難航する。記事にはこうある。<セーチン(ロスネフチ社長)が証人となった株売却とは無関係の裁判に提出された会話の録音によると、次にセーチンは目を東にやり、日本の政府関係者と交渉を始めた。交渉は主に日本の経済産業省の世耕弘成大臣を相手に複数回行われた> <取引が成功していたら、ロスネフチ株の取得者は1.4兆ドルもの資産を持つGPIFのような日本の公的投資基金か国営の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)になっていた、という> <裁判で再生されたセーチンの会話によると、日本が取引を第2次世界大戦終結時からのロシアとの領土問題の進展にリンクさせようとしたため、取引は行き詰まり、結局、流れてしまった> セーチン社長はプーチンの長年の側近とされる。日本政府との株売却交渉が行われたのは16年秋のことであり、同年12月、プーチンがわざわざ安倍の地元である山口を訪問する計画になっていた。 官邸事情通が言う。「2016年秋当時、何度も来日したセーチン氏と、当時の世耕経産相が官邸などで会っていました。それが、ロスネフチ救済のための交渉で、プーチン大統領の訪日時に北方領土交渉を前進させる見返りにしようとしていたとは……」 レガシーづくりという個人的な“手柄”のため、今「2島先行返還」に前のめりになっている安倍首相だが、既に2年前に、国民の年金資産まで利用しようとしていたわけだ。私物化が甚だしい』、驚きのニュースだ。出所がロイターであれば、信頼性もありそうだ。幸い実現しなかったとはいえ、安倍にとっては、GPIFも都合のいい財布と考えているのであれば、大問題だ。

第三に、日経新聞編集委員の池田 元博氏が11月30日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「北方領土交渉、安倍首相の危うい選択 「歯舞・色丹」返還の「56年宣言」軸でもゼロ回答か」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/040400028/112600066/?P=1
・『日ロ首脳は11月14日にシンガポールで開いた会談で、1956年の日ソ共同宣言を基礎に、平和条約締結交渉を加速することで合意した。自らの任期中に北方領土問題を決着させたいという安倍晋三首相の意欲の表れだろうが、果たして交渉は前進するのだろうか。 「領土問題を解決して、平和条約を締結する。この戦後70年以上残されてきた課題を、次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つという、その強い意思を大統領と完全に共有いたしました」――。シンガポールでの日ロ首脳会談後、安倍首相は記者会見を開いて自ら概要を説明した。「終止符」を打つ具体的な方策として、1956年宣言を基礎に交渉を加速させると言明。年明けに自身がロシアを訪問する意向も表明した』、年明けにロシア訪問とは相当入れ込んでいるようだ。
・『1956年宣言は平和条約締結後に、北方領土の歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すと規定している。日本とソ連の両議会が批准した法的拘束力のある唯一の文書で、プーチン大統領もその有効性を認めていた。 ただし日本政府内ではこれまで、同宣言を交渉の軸に据えれば、北方4島のうち国後、択捉両島の帰属問題が棚上げされかねないとして慎重論が根強かった。安倍政権が今回、路線を大胆に軌道修正した理由はなにか。 安倍、プーチン両首脳による会談は通算で23回目だが、今回の会談はかつてなく冷めたものになるのではないかとの観測が事前に流れていた。 9月にロシア極東ウラジオストクでの東方経済フォーラムの全体会合で突然、プーチン大統領が「一切の前提条件を付けずに、年末までに平和条約を締結しよう」と提案。北方領土の帰属問題を解決して平和条約を締結するという日本政府の立場と相いれず、交渉が袋小路に陥る懸念が指摘されていたからだ。 実際、プーチン大統領は10月にソチで開かれた内外有識者会合「バルダイ・クラブ」で、「我々はすでに日本と70年間も(領土)問題で論争してきているのに全く合意できない」と言明。善隣友好協力条約の調印後に国境を画定した中ロ関係を引き合いに、まずは平和条約を締結して信頼を醸成してから領土問題に取り組むのはどうか、というのが9月の提案の趣旨だったと表明した。 同会合ではさらに、東方経済フォーラムで自身の案を披露した直後、現地で安倍首相と柔道大会を共に視察した際に、首相が「現時点で日本はそのような方策(大統領提案)を受け入れられない」と返答していたことも明かした。 大統領は「それならそれで構わないが、70年も足踏みしたままで終点はみえないままだ」と指摘。2016年末の山口での首脳会談合意に基づき、平和条約締結に向けた柱として協議を進めている北方領土での日ロ共同経済活動についても、「発想は良いが、実現への歩みは非常に遅々としている。それが問題だ」と苦言を呈していた。 ちなみに「バルダイ・クラブ」の会合では、大統領は日本の研究者の質問に答える形で日ロの平和条約問題に触れた。回答内容もさることながら、平和条約問題に対するプーチン大統領の心情をより端的に表していたのは、日本の研究者の質問に移る際の司会者とのやりとりだった。 司会者:「次は日本の同僚です。大統領、彼はどんな質問をするでしょうか」 プーチン大統領:「分からないね」 司会者:「私も分かりません」 プーチン大統領:「もしかして領土の話ではないだろうね。つまらないなあ」 領土が絡む日ロの平和条約問題はもう飽き飽きしたという印象だ』、これは、プーチンのポーズなのか、或は本音なのだろうか。
・『風前の灯の日ロ領土交渉の再活性化を図るが……  平和条約締結交渉の中核と位置づけてきた北方領土での共同経済活動もなかなか展望が見えないなか、「一切の前提条件を付けずに年末までに平和条約を締結しよう」とした大統領提案を日本側が単純に退けるだけでは、プーチン大統領の対日交渉への意欲はますます減退しかねず、実質的に協議がストップする恐れさえあったわけだ。 そこで安倍政権はプーチン提案を「早期の条約締結を望む熱意の表れ」と曲解し、かつ、大統領がかねて主張してきた1956年宣言を交渉の基礎に据える路線に従うことで、風前の灯(ともしび)だった日ロの領土交渉の再活性化を図ろうとしたのだろう。 日ロ首脳は11月末からアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議で会談したうえで、安倍首相が来年1月下旬にも訪ロ。さらに来年6月には、大阪で開くG20首脳会議に合わせてプーチン大統領が来日する予定だ。安倍首相としては首脳対話を今後も重ね、2021年9月までの自民党総裁の任期中に何としても懸案の北方領土問題にケリを付け、歴史の教科書に名を残したいのかもしれない』、安倍の積極姿勢の背景については、第一の記事の方が詳しいようだ。
・『ただし、交渉の行方は極めて険しい。プーチン大統領はシンガポールでの日ロ首脳会談の翌日、ロシア人記者団との会見でこの問題に触れ、1956年宣言を基礎に交渉を再開するのは「日本のパートナーが要請してきたからだ」と表明。自らの提案ではなく、あくまでも安倍首相の頼みに応じただけだとの姿勢を強調した。 さらに、同宣言は平和条約締結後、ソ連が歯舞、色丹両島を日本に引き渡す用意があると述べているが、「どのような根拠に基づいて引き渡すのか、それらの島々がどちらの主権下に置かれるのかは明記されていない」と言明。しかも、「日本が宣言の履行を拒否した」歴史的経緯もあり、今後、十分に検討していく必要があると指摘した。要は1956年宣言を基礎にしても、歯舞、色丹両島を最終的に引き渡すかどうかは今後の交渉次第というわけだ。 確かにプーチン大統領は2000年の就任直後から一貫して、1956年宣言の有効性を認めてきた。2001年3月、イルクーツクで開いた森喜朗首相(当時)との首脳会談では、「両国間の外交関係回復後の平和条約締結に関する交渉プロセスの出発点を設定した基本的な法的文書」だと共同声明で確認している』、今回は安倍側のイニシアティブだとすると、ロシア側の姿勢が引けたものになるのは当然だ。
・『日ソ、日ロの主な北方領土交渉(▽日露通好条約(1855年2月7日)日露の境(国境)は択捉島とウルップ島の間と規定。日本政府が北方領土を日本の「固有の領土」とする根拠に。 ▽1956年日ソ共同宣言(1956年10月19日)平和条約締結後に歯舞・色丹の2島を日本側に引き渡す。両国議会が批准。▽東京宣言(1993年10月13日)択捉、国後、歯舞、色丹の4島の帰属問題を歴史的・法的事実に立脚し、法と正義の原則を基礎として解決し、早期の平和条約締結をめざす。▽川奈提案(1998年4月18日)択捉島とウルップ島の間に国境線を画定。4島の日本の主権を確認する一方で、ロシアの施政権を当面の間認める。▽イルクーツク声明(2001年3月25日) 東京宣言を含む諸文書に基づき平和条約締結交渉を継続。1956年の日ソ共同宣言は交渉プロセスの出発点を設定した基本的な法的文書。 ▽山口での首脳会談(2016年12月15日) 北方4島で「特別な制度」の下での共同経済活動実現へ協議。▽シンガポールでの首脳会談(2018年11月14日) 1956年の日ソ共同宣言を基礎に、平和条約交渉を加速。)』
・『大統領はイルクーツク会談直前のNHKとのインタビューで「1956年宣言はソ連最高会議が批准した。すなわち我々にとっては(履行)義務がある」と言明。この発言は「歴代のロシアの首脳として初めての困難な言及だった」と続く首脳会談で明かした経緯もある。 半面、プーチン大統領は当時のNHKインタビューの中でも「宣言にはどのような条件で島々を引き渡すかが書かれていない。すべては(今後の)交渉の対象となる」と述べていた。つまり、当初から1956年宣言の有効性は認めつつも、歯舞、色丹両島を実際に引き渡すかどうかは交渉次第との姿勢を貫いてきたわけだ。 それでも日本側が当時から1956年宣言を軸に交渉を進めていれば、大統領も最低限、歯舞、色丹両島の日本への引き渡しには応じたかもしれない。 ところが森政権は短命に終わり、続く小泉純一郎首相(当時)が「4島の帰属問題の解決」を重視し、プーチン提案をほとんど評価しなかったこともあって、ロシア側もどんどんと態度を硬化させていった。近年は主権の問題を絡ませたり、返還後に米軍基地が建設される恐れを強調したりして、交渉のハードルを高めている。「日ロ間に領土問題は存在しない」との主張もめだつ。 現在、歯舞群島には国境警備隊を除いて一般市民は居住していないが、色丹島には約3000人のロシア人が暮らしている。プーチン政権下でインフラ整備が進められ、昨年にはロシア政府が経済特区も設置している』、色丹島に経済特区設置というのは、日本に対するポーズなのだろうか。
・『危うい安倍首相の選択  実質4期目に入ったプーチン大統領は任期の終盤を迎えているうえ、年金制度改革問題などで支持率を大きく落としている。いくら1956年宣言を基礎に交渉を進めるといっても、ロシア国民の反発が強い領土の割譲に安易に応じるとは考えにくい。むしろ交渉では日米安全保障条約と絡ませるなど、日本側が受け入れ難い困難な条件を次々と掲げ、自らの任期が終わるまで「ゼロ回答」のまま交渉を引き延ばす恐れが大きい。 一方、安倍政権は「4島の帰属問題を解決し、平和条約を締結する立場に変更はない」というが、1956年宣言は国後、択捉両島には全く触れていない。仮に「2島先行返還」あるいは「2島+α」を想定しているのなら、その認識は余りにも楽観的すぎる。ロシアは国後、択捉両島を軍事的な要衝とみなしており、プーチン大統領も「4島の帰属問題の解決」という表現を極力認めなくなっている。国後、択捉両島の返還はもってのほか、というのがロシアの立場だろう。 結局、日ロがぎりぎりで接点を見いだせるとすれば、歯舞、色丹の2島返還だけで、国後、択捉両島はロシアの主権下のまま日ロが共同経済活動を展開するという決着がせいぜいだろう。プーチン政権の対応ぶりをみれば、それすら限りなく非現実的ではあるが、仮にそういった決着になった場合、安倍政権は「4島は日本固有の領土」と主張してきた政府見解との整合性をどう日本国民に説明するのか。安倍首相の選択は極めて危うい』、安倍首相も世論を気にしている筈だが、まずはお手並み拝見といきたい。

明日の2日から5日まで更新を休むので、6日にご期待を! 
タグ:歯舞・色丹の「割譲」はフルシチョフの責任 56年宣言を締結した時に、4島一括ではなく、歯舞・色丹の引き渡しだけに譲歩したのは理解できます。シベリアには多くの日本人が抑留されていて、彼らの帰国が最優先課題 「やむなし」という形で進むのではないでしょうか。4島一括返還の旗を降ろすことも含めて、保守の安倍首相だからできるのだと思います 今は、そのような切実な理由はありません。レガシーを残したいという安倍首相の個人的野望や“安倍家の家訓”のために、大きな譲歩をしていいのでしょうか 平和条約締結をテコに衆参ダブル選も 9月のプーチン発言 父・晋太郎氏が残した家訓に則る行為 焦りがあった 領土問題の継続審議 安倍首相の任期が残り3年を切ったことも背景 芸術的なセンスが必要 2島先行」とも、「2島で決着」とも解釈できる玉虫色の表現 ロシアは2島で打ち止めにしたい。「2島で決着」、「平和条約によって国境は画定した」としたいでしょう ヤルタ合意に従えば、歯舞・色丹は主権とともに日本に引き渡されることになります 日本を離れるグループには補償金 取れるものは取る」というのがロシア人の考え方 色丹島には3000人近いロシア人が住んでいます それでも日本は歯舞・色丹について条件闘争を強いられるでしょう 日本への引き渡しを嫌って色丹島を離れるグループと、島に残留するグループに分かれるでしょう 歯舞を占拠したのは9月3日から5日にかけてでした。これは署名後のことなので、明らかに不法です それでも、日本が米国にこの話をもちかければ、米国は不快に感じるでしょうね そもそも、不便な離島に米軍が駐在する必要はありません 歯舞・色丹と尖閣諸島とで異なる対応を米国に求めるのもおかしな話です 新たに色丹島を目指してくる人々も出てきます。一部は補償金を目当てにくる人々。別の一部は、反プーチンのロシア人。また返還利権を狙うロシア人が、日本人になるべく色丹島に移住してくる事態もあり得ます 残留するグループは日本国籍を求める可能性があります。そうすると二重国籍問題が発生 「安倍首相は「年金資産」を北方領土とバーターする気だった」 ロイター 日刊ゲンダイ セーチンは目を東にやり、日本の政府関係者と交渉を始めた。交渉は主に日本の経済産業省の世耕弘成大臣を相手に複数回行われた 売却先に難航 当時ロシアは、原油価格暴落と経済制裁により国家予算が逼迫、ロスネフチ株の一部売却で赤字補填する計画 「スクープ:海外投資家がロスネフチ株取得をためらったため、ロシア中央銀行が売却取引に極秘融資」 取引が成功していたら、ロスネフチ株の取得者は1.4兆ドルもの資産を持つGPIFのような日本の公的投資基金か国営の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)になっていた 「バルダイ・クラブ」 「北方領土交渉、安倍首相の危うい選択 「歯舞・色丹」返還の「56年宣言」軸でもゼロ回答か」 プーチンがわざわざ安倍の地元である山口を訪問する計画 「もしかして領土の話ではないだろうね。つまらないなあ」 今回の会談はかつてなく冷めたものになるのではないかとの観測が事前に流れていた 日本が取引を第2次世界大戦終結時からのロシアとの領土問題の進展にリンクさせようとしたため、取引は行き詰まり、結局、流れてしまった 池田 元博 1956年宣言を基礎に交渉を再開するのは「日本のパートナーが要請してきたからだ」と表明。自らの提案ではなく、あくまでも安倍首相の頼みに応じただけだとの姿勢を強調 宣言にはどのような条件で島々を引き渡すかが書かれていない。すべては(今後の)交渉の対象となる 交渉の行方は極めて険しい 歴史の教科書に名を残したいのかもしれない 安倍政権はプーチン提案を「早期の条約締結を望む熱意の表れ」と曲解し、かつ、大統領がかねて主張してきた1956年宣言を交渉の基礎に据える路線に従うことで、風前の灯(ともしび)だった日ロの領土交渉の再活性化を図ろうとしたのだろう 1956年宣言の有効性は認めつつも、歯舞、色丹両島を実際に引き渡すかどうかは交渉次第との姿勢を貫いてきたわけだ 色丹島には約3000人のロシア人が暮らしている。プーチン政権下でインフラ整備が進められ、昨年にはロシア政府が経済特区も設置 危うい安倍首相の選択 国後、択捉両島の返還はもってのほか、というのがロシアの立場 。「2島(歯舞・色丹)先行」なのか、「2島で決着」なのか 自民党の代表団を率いて訪ソし、「56年宣言を元に交渉を開始しよう」とミハイル・ゴルバチョフ氏に提案 ゴルバチョフ氏が晋太郎氏に「56年宣言を元に交渉し、平和条約を5年以内に締結しよう」とのメッセージを送りました 晋太郎氏はその年の夏にも訪ソしようとしましたが、病気のためかないませんでした。 晋太郎氏は56年宣言に基づく交渉開始を是としていました 日本・ロシア関係 安倍首相も11月16日、「従来の方針となんら矛盾しない」と語りました 北方領土をめぐる日本の方針を大転換 詭弁 安倍首相は日ロ平和条約の締結を公約 レガシー作りと“安倍家の家訓”が背中を押した (その4)北方領土2(「60年待って2島返還にとどまれば外交大失敗」 歯舞・色丹の「主権」を取り戻すキーワードとは?、安倍首相は「年金資産」を北方領土とバーターする気だった、北方領土交渉 安倍首相の危うい選択 「歯舞・色丹」返還の「56年宣言」軸でもゼロ回答か) 「「60年待って2島返還にとどまれば外交大失敗」 歯舞・色丹の「主権」を取り戻すキーワードとは?」 日経ビジネスオンライン 父である晋太郎氏は長く外務大臣を務め、日ソ平和条約の締結に力 国会答弁で「56年宣言を元に交渉を行う」と述べました。当時の新聞は「2島返還に方針転換か」と疑問を呈しています。官房長官がこれを否定するコメントを発しています 安倍首相は今回、前者を選択。4島返還の旗を事実上降ろしたと評価しています。交渉加速は日本側が要請しました。つまり、安倍首相は56年宣言のレベルに自ら降り、ロシアが望む交渉の土俵に乗る決断をしたのです 名越健郎 日ソ共同宣言 風前の灯の日ロ領土交渉の再活性化を図るが
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