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欧州難民問題(その7)(なぜ彼らはヨーロッパへ向かったのか? 難民ビジネスの実態と語られない不都合な真実、日本人が知らない欧米のきわどい「移民問題」 各国で移民や難民に対する寛容性に差、欧州「移民受け入れ」で国が壊れた4ステップ これから日本にも「同じこと」が起きる) [世界情勢]

欧州難民問題については、昨年3月1日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その7)(なぜ彼らはヨーロッパへ向かったのか? 難民ビジネスの実態と語られない不都合な真実、日本人が知らない欧米のきわどい「移民問題」 各国で移民や難民に対する寛容性に差、欧州「移民受け入れ」で国が壊れた4ステップ これから日本にも「同じこと」が起きる)である。

先ずは、作家の橘玲氏が2017年5月19日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「なぜ彼らはヨーロッパへ向かったのか? 難民ビジネスの実態と語られない不都合な真実[橘玲の世界投資見聞録]」を紹介しよう。
http://diamond.jp/articles/-/128711
・『ハーシム・スーキは37歳の公務員で、地元の水道局に勤めていた。仕事はコンピュータ部門の責任者として住民に請求書を発行することだ。 2012年、ハーシムは突然逮捕され空港に連れていかれた。空軍が管理する国際空港の地下深くには数百人が押し込められた巨大な牢獄があり、毎日4~5人ずつが拷問室に連れ出され、独身男性は性器に電気ショックをかけられ、ハーシムのような既婚者は手首を縛られて12時間も吊るされた。 平凡な男がなぜこんな理不尽な目にあったかというと、ハーシムがダマスカスに住むスンニ派のシリア人だったからだ。 2011~13年にシリアの地下牢で1万1000人以上が拷問死したとされている。この驚くべき事実が明らかになったたのは、関係者によって遺体写真5万5000枚のデータが密かに国外に持ち出されたからだ。多くの遺体には殴られたり、首を絞められたり、電気ショックを受けたりした跡があった。目をくりぬかれた遺体もあった。 イギリスのジャーナリスト、パトリック・キングズレーの『シリア難民』の原題は“The New Odyssey ”だ。古代ギリシアの詩人ホメーロスの『オデュッセイア』では、英雄オデュッセウスの10年におよぶ漂泊が語られた。「現代のオデッセイ」では、ハーシムが故国を捨て、シリア難民となって単身スウェ-デンに渡り、家族を呼び寄せようと苦闘する姿が描かれている』、シリア問題はアサド政権の勝利で決着しそうだが、内乱が激化する前でもこんな酷い事件があったとは、難民の主要発生源になっているのも納得である。
・『「移民」と「難民」の線引き  イギリス『ガーディアン』紙の移民問題担当になったキングズレーは、ヨーロッパに難民が殺到する前から、彼らの状況を綿密に取材していた(その過程でハーシムに出会った)。難民とはどのようなひとたちで、何を目的にどのように海を渡ってヨーロッパを目指すのか。日本人がほとんど知らない移民ビジネスの内情も含めて紹介してみたいが、その前にまず、「移民immigrant」と「難民refugee」の使い分けについてすこし書いておきたい。 キングズレーは、移民とは「理由にかかわらず一つの国から別の国にやってくるひと」のことだという。だが本来は中立的なこの言葉をネガティブな意味で使うメディアが出てきた。移民とは「経済的な理由で故郷を捨てたひと」のことで、彼らは正規の手続きで居住ビザや就労ビザを取得すればいいのであって、特別な保護は必要ない。逆にいえば、こうした手続きをせずに居住・就労するのはすべて「不法移民」だ。 こうした批判に対抗して、リベラルなメディアは、戦争・内戦や圧政から逃れてきたひとたちを「難民」と呼ぶようになった。彼らはやむをえない事情で国を離れなければならなくなったのだから、面倒な手続きなしに人道的な保護の対象になるのだ。 このようにして、「難民」のことを「移民」と呼ぶのは「政治的に正しくない(反PC)」とされるようになった。「シリア移民」という呼称は、「カネが目的でやってきた連中なんだから、厳格な審査をして、基準に満たなければ問答無用で国に返せばいい」という主張を含意するのだ。 だがキングズレーは、こうした事情を認めつつも、「移民」と「難民」を区別することに危惧を表明する。移民問題を専門に取材してきた彼からすれば、「移民」と「難民」のあいだには広大なグレーゾーンがあり両者を見分けることはほとんど不可能だ。「難民には保護を受ける権利があるが移民にはない」という決めつけは、気に入らない人間や集団に「移民」のレッテルを貼り排斥することにつながるだろう。 中近東やアフリカから多くのひとたちがヨーロッパを目指すのは、家族と安心して暮らしたいからでもあり、経済的に生きていけないからでもある。ほとんどの場合、こうした事情は重なりあっているから、両者を無理矢理区別しようとすると、恣意的な線引きが新たな差別を生むことになる。 だが現実には、シリアの凄惨な内戦から逃れてきたハーシムのようなひとたちを「移民」と呼ぶのは違和感があるので、本稿でもキングズレーの指摘に留意しつつ、「移民」と「難民」を使い分けることにしたい』、「移民」と「難民」の違いが改めてよく理解できた。
・『「リビアには2つの海がある」  アフリカからヨーロッパへの密入国を扱う運び屋は、「リビアには2つの海がある」という。ひとつは地中海、もうひとつはサハラという「砂の海」だ。 サハラ砂漠を渡るには、大きく2つのルートがある。 ひとつは西アフリカから(リビアの南の)内陸の国ニジェールのアガデスを経由するルートで、国境を越えてリビアの地中海沿岸の町まで直線距離でおよそ1600キロある。このルートを使うのは、ナイジェリア、中央アフリカ、コンゴ共和国などのひとたちだ。 もうひとつが東アフリカからスーダンの首都ハルツームを経由するルートで、こちらはリビア南東の国境を越えて地中海まで2000キロ近くある。このルートを使うのは主に、紅海沿岸のエリトリアから圧政を逃れてきたひとたちだ。 「砂の海」は、荒れた地中海同様に危険に満ちている。だが砂嵐に埋もれたり、盗賊に襲われて砂漠に置き去りにされても発見されることはほとんどないので、どれくらいの遭難者がいるのかはわからないままだ。 密入国の運び屋は中古の4WDに限界まで乗客を詰め込んでサハラを渡る。キングズレーの調査では、アガデスからリビアまでの相場が1人15万西アフリカフランCFA(約2万7000円)。ただし値段は時期や業者によって大きく異なり、倍の500ユーロ(約5万9000円)払ったというひともいれば、30人グループで1人わずか5万CFA(約9000円)ということもある。 こうした相場から概算すると、アガデスからリビアまでの1回の旅で運び屋は450万CFA(約81万円)、1年で25万ポンド(約3865万円)を売り上げる。アガデスの運び屋ビジネスの「市場規模」は年1600万~1700万ポンド(約24億7000万~26億3000万円) で、そこに警官への賄賂100万ポンド(約1億5500万円)が加わる。彼らが運び屋ビジネスに手を染めるのは需要があるからと、ほかに仕事がないからだ。 運び屋の拠点であるニジェールもまた、アフリカの「失敗国家(脆弱国家)」のひとつだ。政府首席顧問は、キングズレーの取材に次のようにこたえた。「反政府活動のせいで、観光客はアガデスまで来なくなり、手工芸品は売れなくなった。多くの人が転職を余儀なくされた。職人は庭師になった。運び屋になった者もいる」』、ここでの運び屋への支払いはリビア海岸までなので、ヨーロッパに行くにがさらにかかるとなると、大変だ。
・『リビアからヨーロッパを目指した密航船に乗っていたのは西アフリカから来ていた出稼ぎ労働者だった  リビアからイタリアへと地中海を渡る密航の拠点となるのはトリポリの西、チュニジアとの国境ちかくにあるズワラという町だ。モロッコやアルジェリアなど北アフリカの他の国々と同じく、リビアもアラブ系とベルベル系の人種が混在しているが、ズワラはベルベル人の町だ。 この漁村からヨーロッパを目指すのは、サハラ砂漠を渡ってきたひとたちだけではない。アフリカ人を満載した密航船の映像がニュースで頻繁に流されたが、彼らの多くはじつはリビアに出稼ぎに来ていたのだとキングズレーは指摘する。 2011年の革命まで、カダフィ大佐の独裁下にあったリビアは、西アフリカの貧困地域のひとたちにとっては安定した出稼ぎ先だった。だがそのリビアが内戦状態になったことで、彼らは誘拐や恐喝のリスクにさらされることになった。 だったら故国に帰ればいいではないか、と思うだろうが、スーツケースひとつで空港に行って飛行機に乗る、というわけにはいかない。南に向かうにしても、そこにはサハラという「砂の海」が横たわっており、無事に故郷に辿りつけても仕事はない。だとすれば、どっちにしても危険なことには変わりないのだから、地中海を渡ってヨーロッパを目指したほうがマシだと考えるのも無理はない。このようにしてリビアから、大量の出稼ぎアフリカ人たちが密航船に乗り込むことになったのだ』、リビアからの難民には、サハラ砂漠を横断してきた人たちだけでなく、リビアに来ていた出稼ぎアフリカ人たちもいたとは初めて知った。
・『ギングズレーの取材では、2015年の時点で、サハラ以南のアフリカ人の密航料金は最高1000ドルで、彼らより裕福なシリア人は2500ドルだった。料金に応じて、アフリカ人は 船倉に押し込められ、シリア人は甲板に座ることができる。 もっとも多く使われるのは船長17メートルほどの漁船で、乗せられるのは300人が限度だが、業者はそこに700人から800人を詰め込む。「ゾディアック」と呼ばれるゴムボートは短距離用で定員20~30人にもかかわらず、100~150人がすし詰めにされて外洋に向かう。いずれも転覆したら助かる可能性はなく、「浮かぶ棺桶」以外のなにものでもない。 1人1000ドルで1隻のゾディアックに100人を乗せれば、1回の旅で運び屋は10万ドル(約1100万円)を売り上げる。そこから船の調達費(1隻1万1000ディナール=約102万円)とエンジン代、移民たちを待機させる倉庫の費用を差し引くと8万ドル(約900万円)。その利益を港を支配している民兵組織と折半しても、密航業者の手元には4万ドル(約450万円)が残る。漁船ならさらに利益は大きく、1回の航海で18万ポンド(約2782万円)を密航業者と民兵組織で山分けする。 リビアのズワラを出向した船は、250キロほど離れたイタリア最南端の島ランペドゥーサを目指す。とはいえ、不安定な船で長距離を航海するわけではない。密航業者は乗客の一人にGPS発信機と衛星電話を渡し、リビアの領海を越えたらすぐに救難要請の電話をかけるよう指示するのだ。 遭難信号を受信したら、近くの船舶は救助に向かわなくてはならない。とはいえ、一般船舶が難民を救助するのは限界があるので、連絡を受けた救難センターは海軍や沿岸警備隊の船か、国境なき医師団などNGOの救援船に連絡をとることになる。こうして難民たちはシチリアなどの港に集められ、登録手続きを受けるのだ』、密航業者と民兵組織にとっては、濡れ手に粟のおいしいビジネスのようだ。
・『  ランペドゥーサ島は「世界一の絶景」で知られる北アフリカにもっとも近いイタリアの島で、領海警備と遭難船救助のための巨大な無線施設が立つ難民問題の最前線でもある。しかし島の日常は、私たちの想像とはまったくちがう。島民たちが難民に接触することはほとんどなく、すぐ近くで密航船が転覆して何百人も死んでいるのに、彼らの日々の生活はなにひとつ変わることなくつづいていく。 ベルリン映画祭金熊賞(グランプリ)に輝いたジャンフランコ・ロージ監督のドキュメンタリー『海は燃えている』は、ランペドゥーサ島の12歳の男の子を主人公に、生命がけで地中海を渡る難民たちと、島の平和な生活との対比を描いている。この映画が強い印象を与えたのは、逆説的だが、「難民問題の最前線」でなにひとつ事件らしきことが起きないからだ。なぜなら、難民たちはこんな島になんの興味もなく素通りしてしまうのだから。 こうした事情は『シリア難民』でも描かれている。リビアから密航船に乗り込んだハーシムはイタリア沿岸警備隊に救助され、シチリア島東岸のカターニア港で簡単な審査を受けたあと、バスに乗せられ、えんえん18時間かけてイタリア北部のベニスの施設に連れて行かれる。そこで難民たちは、北のヨーロッパへの玄関口であるミラノ駅への行き方を教えられるのだ。 イタリアで難民が大きな社会問題にならないのは、ランペドゥーサ島と同じだ。彼らはただ素通りするだけなのだから、救助したあとは「人道的」にどんどん北の国境近くまで運び、国外に出て行ってもらえばいいのだ。いまや豪華なミラノ駅は、難民があまりに増えたため、天井の高いアトリウムの中二階を難民の待ち合わせや待機のために開放しているという。 EUはシェンゲン協定で人の移動が自由化されているから、いったんイタリアに入国すれば、ビザやパスポートがなくてもスウェーデンに行くのは簡単そうに思える。だが、ハーシムの旅の困難はイタリアを出国しても終わらない。 スイスやオーストリアでは、警察が列車に乗ってきて乗客を調べることがある。そこでビザがないことがわかって拘束されると、これまでの努力が無駄になってしまう。スウェーデンは、他国で難民登録した者を受け入れないのだ。 そのリスクを避けるには、ミラノからスウェーデンのマルメまで1人875ユーロ(約10万円)で運ぶ白タクを利用する方法もある。だが業者は、契約時点で半額を前払いするよう求めるので、ぎりぎりの予算で旅をする難民たちはなかなか決断できず、けっきょく鉄道を使うことになるのだという。 ここで役に立つのが、SNSでの情報交換だ。どのルートで警察の検問があり、どのルートが安全かを難民たちは血眼で調べている。ハーシムもミラノから直接ドイツに入るルートは危険だと判断し、ニースからパリを経由してドイツに行き、そこからスウェーデンを目指した。 スウェーデンが難民たちの「ユートピア」になったのは、難民認定されると短期間で家族を呼び寄せることができるからだ。地中海を渡るのは危険なので、ハーシムも家族を連れた旅を諦め、妻子をエジプトに残して一人での密航を余儀なくされた。エジプトで妻もわずかな貯金をやりくりしてぎりぎりの生活をしているから、なんとしてもスウェーデンにたどり着かなくてはならなかったのだ。 その結果、スウェーデンには難民が殺到することになり、さしもの「人道国家」も音を上げて、現在はデンマークからの鉄道や道路で厳重な検問を行なうことになった。これはシェンゲン協定に抵触するが、難民をほとんど受け入れていない他国はこの措置に文句をいうわけにもいかず黙認している』、イタリアなどの途中の国は通過するだけなので、問題にならないとはその通りなのだろう。難民たちがSNSで情報交換しているとは、現代的だ。
・『家族でヨーロッパに渡ってきた難民は比較的裕福  2015年にヨーロッパで難民が大問題になったのは、シリアからトルコ経由でギリシアに渡るひとたちが押し寄せたからだ。それまではリビアから地中海を渡ってイタリアを目指したのに、なぜ彼らはギリシアルートに切り替えたのか。キングズレーによれば、ここでもSNSが決定的な役割を担っている。 バックパッカーは、旅行ガイドブックとちがう旅のルートを開拓すると、自慢話も兼ねてそれをインターネット上に写真つきで詳細に紹介する。それと同様に、シリアからトルコ経由でギリシアに渡った初期の移民たちが、自分の体験をフェイスブックやワッツアップに投稿した。 ヨーロッパを目指すひとたちにもっとも多く読まれたホームページには、こう書かれていたという。 「君は悩むだろう。自力で行くべきか、それとも密航業者を探すべきか、と。誰もが同じ問いにぶつかる。わかっておかなくてはいけないのは、すべてのルートが確実というわけではないし、密航業者を使っても意図した場所に行けるとは限らないことだ。その理由をよく調べること。それをやったら、あとは神に任せること。……個人的には、自力で行くことをお勧めする」 このルートの魅力は、トルコからエーゲ海を越えてギリシアに渡る費用が1人1000ドルと、地中海ルートの半額以下なことだ。だがもっと大きなちがいは、トルコ側の密航の拠点であるイズミルからギリシアのレスボス島までは50キロほどしなく、それもトルコ沿岸を進んで外洋には出ないので、地中海に比べてはるかに安全なことだ。 こうして、シリア国内に留まっていたひとたちが、このルートなら最初から家族で旅することができると考えて続々と出国を始めた。2015年には500人以上の難民がエーゲ海で溺死し、クルド人の男の子アラン・クルディがトルコの海岸に打ち上げられた写真が世界に配信されて衝撃を与えたが、この悲劇は「子ども連れでも安全」と思ったからこそ起きたのだ。 ギリシアのレスボス島に上陸した難民の扱いは、イタリアのランペドゥーサ島と同じだ。島民たちはただ通り過ぎていくだけの難民にほとんど興味を持たず、徒歩で港を目指す彼らに同情した島民が自分の車で運んでやるくらいだ。 レスボス島に上陸する難民を救ける地元のひとたちの映像がニュースで繰り返し流されたが、キングズレーによれば、救援活動の中心になっているのは島に移住したイギリス人夫婦だという。彼らのことをイギリスのメディアが「エーゲ海の天使」と報じたことで、続々とボランティアが集まってきた。ヨーロッパからの観光客が救援活動に参加することもあるというが、いずれも「地元のひと」ではない。 ギリシアの島に無事上陸すると、難民たちは仮登録のあとギシリア本土に渡り、そこからバスで北の国境まで送られる。国境を越えてマケドニアに入ると、列車でセルビアを北上し、ハンガリーとの国境まで行く。ハンガリーはEU加盟国なので、ここで国境を越えることさえできれば、あとはドイツでも北欧でも好きなところに行くことができる。 こうして数万の難民がハンガリー国境に殺到し、驚いた政府は「洪水を食い止める必要がある」として国境にフェンスをつくった。すると難民たちは西のクロアチアを目指し、スロベニア、オーストリアへと難民危機は広がった。私たちが目にした、乳母車を押しながら歩く疲れ果てた難民の映像はこの時期に撮られたものだ。 こうしたニュース映像から「戦火に追われた貧しく哀れなひとたち」を想像するだろうが、エーゲ海を渡る料金が一人1000ドルなのだから、5人家族で旅をしようとすれば100万円ちかいキャッシュが必要になる。このことからわかるように、彼らは弁護士、医師、エンジニアなどシリアの裕福なひとたちで、パスポートとビザがあればダマスカス空港から飛行機でヨーロッパに来ることができた。その方途が閉ざされたので、仕方なく困難な陸路の旅をしているのだ(これはすなわち、旅をするお金を工面できないひとたちがまだシリアに残されている、ということだ)』、「旅をするお金を工面できないひとたちがまだシリアに残されている」というのは、まだまだ難民の流れが止まる気配はないのかも知れない。
・『ヨーロッパ各国が共同して第三国定住難民の受け入れ枠を最低100万人まで増やす必要がある   『シリア難民』でキングズレーは、難民はヨーロッパだけの問題ではないと述べる。レバノンは人口450万人ほどの小国だが、2015年の時点で、約120万人ものシリア難民を受け入れている(5人に1人がシリア難民)。トルコには200万人、ヨルダンには60万人のシリア難民がおり、エジプトの登録者は14万人だが実際にはその倍が暮らしているとされる。危機前のシリアの人口は1800万人で、そのうち中東諸国に避難した人々は400万人に達する。 ヨーロッパの国でも、難民の受け入れには大きな差がある。スウェーデンはヨーロッパに来た難民80万人のうち7人に1人を受け入れたが、その結果、移民排斥を唱える国民党が大きく支持率を伸ばし、最大野党の保守党がシリア人への永住権付与の廃止を提案したことで、社会民主党を中心とする中道左派政権も移民に厳しい政策をとらざるを得なくなった。 シリアの内戦に終わりが見えないなか、この混乱をいったいどう収拾すればいいのだろう。 キングズレーは、EUやヨーロッパが行なっている難民対策はなんの効果もないという。生きる術がないひとたちは、どんな危険を冒してでも海を渡ろうとする。国民に受けのいい「移民に厳しい政策」は、いたずらに溺死者を増やすだけだ。 難民がヨーロッパを目指すのは、中東諸国ではキャンプに収容されるだけで、働くことも子どもを学校に行かせることもできないからだ。トルコやレバノン、ヨルダンなどが難民の就労を認めないのは、そんなことをすれば国民の職が奪われて社会が不安定化すると恐れているからだ。 そこでキングズレーは、この問題の解決には、ヨーロッパ各国が共同して第三国定住難民の受け入れ枠を最低100万人まで大幅に増やすことが必要だという。ヨーロッパが難民を引き受けるとわかれば、中東の国々は、短期的には難民の就労や就学を認めても大丈夫だと安心するだろう。そのうえで全EU加盟国の難民保護システムを同じ水準にすれば、難民の側もよりよい国を求めて右往左往することはなくなる。 もっともキングズレーが認めるように、こうしたシステムが日の目を見る可能性は非常に小さい。イギリスやフランス、オランダなどで右派ポピュリズムが吹き荒れる様子を目にした以上、いまやどの国の政府も難民を積極的に受け入れることはできないのだ。 生命がけでスウェーデンに渡ったハーシムは、しばしばシリアでの幸福な日々を思い出す。金曜日になるとアンズの木の下で、家族や友だち一家とピクニックをした。 ヨーロッパのゆたかな国はいま、トルコやヨルダン、レバノンに補助金を払い、難民をキャンプに押し込めて溢れ出ないようにしている。だとしたらシリアのアサド、リビアのカダフィ、イラクのフセインなどの独裁者にカネを渡して、国民を国内に監禁しておいてもらった方がずっとマシだっただろう。 もっともEUの政治家や官僚は、ぜったいにこのことを認めないだろうが』、難民キャンプにいるシリア難民が400万人というのでは、確かに「独裁者にカネを渡して、国民を国内に監禁しておいてもらった方がずっとマシだっただろう」というのは、その通りだ。キングズレー氏の解決策なるものは、現実味を欠いているようだ。欧州は、来年も難民問題で悩まされることになりそうだ。

次に、みずほ総合研究所 欧米調査部長の安井 明彦氏が7月19日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本人が知らない欧米のきわどい「移民問題」 各国で移民や難民に対する寛容性に差」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/229966
・『7月中旬に欧州を歴訪したドナルド・トランプ米大統領は、現地でもトランプ節全開だった。NATO(北大西洋条約機構)首脳会議にあわせて訪れたベルギーでは、NATO加盟国に国防費の増額を突きつけたと思えば、ロシアからのエネルギー輸入を進めるドイツを「ロシアの捕虜のようなものだ」と批判するなど、同盟関係のほころびを感じさせる言動を重ねた。 続いて訪問した英国でも、EU離脱(ブレグジット)を巡る閣内不和にメイ首相が苦慮している最中に、「メイ首相が(EUと)結ぼうとしている協定は、(ブレグジットを決めた)国民投票の結果とは異なる」「自分であれば別のやり方をしただろう」と言い放つなど、火に油を注ぐような発言を行った』、ドイツや英国にとって、トランプ米大統領は余計な波風を立てるだけの迷惑極まりない存在のようだ。
・『欧州の難民問題にあえて口を挟んだ  中でも目を引いたのが、欧州の難民問題への口出しである。トランプ大統領は、NATO首脳会議に関する記者会見で、「欧州は移民に乗っ取られようとしている。EUは気をつけなければならない」と述べた。英サン紙とのインタビューでも、「欧州が何百万人もの人(難民)を受け入れているのは悲しいことだ」「(難民によって欧州は)伝統的な文化を失いつつある」と持論を展開している。 欧州の難民問題は、NATO各国の国防費や、将来的な米英のFTA(自由貿易協定)交渉にも影響があるブレグジットと比べ、米国との直接的な利害関係は定かではない。まして、ドイツでメルケル政権が深刻な閣内対立に陥る原因になり、EUでもイタリアなどの難民に厳しい国とドイツなどとの対立が表面化しているなど、政治的には繊細な論点である。 それにもかかわらずトランプ大統領は、欧州の域内・国内問題に、あえて口を挟んだ。そこから浮かび上がるのは、欧米の違いを問わず、移民・難民問題が社会を切り裂く断層になっている現状である。 米欧の違いを問わず、移民・難民への対応については、政治的な立場による意見の乖離が大きい。欧州の一部には、移民に厳しいトランプ大統領の政策に共鳴する雰囲気が感じられる。 欧州各国では、概して右寄りの政党を支持する国民は難民に厳しく、左寄りの政党を支持する国民は難民に寛容だ。2017年に米ピュー・リサーチ・センターが行った世論調査によれば、英国、ドイツ、フランスといった主要国では、「難民の大量流入は重大な脅威である」と答える割合は、3割台に止まっている。しかし、これを支持政党別に集計すると、右寄りの政党を支持する国民は、その半数程度が難民を脅威と感じており、1~2割しか問題視していない左寄りの政党支持者と、大きく乖離している。 一方で、支持政党による差が小さい国は、そもそも国全体として難民の流入を脅威と感じる傾向が強い。イタリア、ハンガリー、ポーランドといった国では、支持政党の違いにかかわらず、5~6割の国民が難民の大量流入を重大な脅威だと認識している。国内での意見の差こそ小さいが、主要国との分断は深い』、欧州のリベラリズムはどうやら風前の灯のようだ。。
・『そもそも欧州は米国より難民寛容度が低い  そこには、移民・難民への懸念を手掛かりに、トランプ大統領と欧州の右派が共鳴し、欧州域内・国内の分断が深まる可能性が指摘できる。実際にトランプ大統領は、大規模な反トランプデモが計画されている英国を訪れるに当たり、「英国民は、わたしのことを大好きなはずだ。彼らは移民問題でわたしに同意しているし、そもそも移民問題こそが、ブレグジットの理由だったはずだ」と述べている。 トランプ大統領の米国第一主義を支えたスティーブ・バノン前首席戦略官は、トランプ大統領の訪英にあわせ、ロンドンで欧州各国の右派政党要人と会談を持ったとも報じられている。 興味深いのは、難民に脅威を感じる傾向が強い国は、相対的に米国に好意的である点だ。同じくピュー・リサーチ・センターの調査では、英国、ドイツ、フランスでは、「米国の力に脅威を感じる」とする回答が3割を超えている。とくにドイツと英国では、中国よりも米国を脅威と感じる回答の方が多かった。その一方で、ハンガリー、イタリア、ポーランドでは、米国を脅威と感じる割合は2割程度に止まっている。 そもそも欧州は、米国と比べて人種の多様性への寛容さに欠ける。2016年にピュー・リサーチ・センターは、人種や国籍の多様性が自国に与える影響に関して、国際的な世論調査を行った。米国の場合には、多様性を肯定的にとらえる回答が約6割となり、否定的な見解は1割に満たなかった。 ところが欧州では、英国、フランス、ドイツといった主要国ですら、多様性を肯定的に評価する回答は2~3割に過ぎず、否定的な回答と拮抗している。ハンガリー、イタリア、ポーランドといった難民への警戒心が高い国になると、4~5割が多様性を否定的にとらえている。 フランスの優勝で幕を閉じたサッカーのワールドカップでは、勝ち進んだ欧州のチームに多様な人種のメンバーが含まれていた点が注目されている。しかし、世論調査の結果を見る限り、サッカーチームの多様性が、そのまま欧州の寛容さを示しているわけではなさそうだ。 意外かもしれないが、米国は欧州よりも移民・難民に寛容なだけではなく、寛容さの度合いが高まる傾向にある。1994年にピュー・リサーチ・センターが行った世論調査では、「移民は米国を強くする」という回答は3割程度であり、「移民は米国の負担になる」という回答が6割強を占めていた。ところが2017年の調査では、「米国を強くする」との回答が6割を上回り、「負担になる」との回答は3割弱に止まっている』、「そもそも欧州は米国より難民寛容度が低い」というのは、米国が元々移民国家であることからすれば、その通りだろう。。
・『米国の問題は支持政党による見解相違の拡大  むしろ米国の問題は、支持政党による見解の相違が拡大している点にある。2017年の調査では、民主党支持者の8割強が「移民は米国を強くする」と回答しているのに対し、共和党支持者では同様の回答が4割強となっている。1994年の調査では、いずれの政党の支持者も3割強が「移民は米国を強くする」と回答しており、支持政党による違いは拡大している。欧州主要国と比べると、総じて移民・難民には好意的だが、支持政党による意見の分断は、欧州より深いのが現実である。 米国では、支持政党による分断の深まりによって、移民問題が政治的な争点になりやすい環境が生み出されている。対立政党との違いが打ち出しやすく、この問題に注目が集まると、有権者の投票意欲が盛り上がりやすいからだ。 2016年の大統領選挙でも、移民に対する厳しい姿勢は、トランプ大統領の勝利を決定づけた重要な要因だった。共和党の予備選挙でトランプ大統領は、あらゆる州で移民問題を重視する有権者から他候補を上回る支持を得た。 ヒラリー・クリントン元国務長官との対決となった本選挙では、移民問題を重視する有権者の6割強が、トランプ大統領を選んでいる。トランプ旋風の背景としては、白人ブルーカラーの経済的な不満が指摘される。しかし実際には、経済問題を重視した有権者の5割強は、クリントン候補を選んでいた。 11月6日に投開票が行われる米国の中間選挙でも、移民問題への注目度は高い。ワシントンポスト紙が行った世論調査によれば、2割程度が移民問題を中間選挙の最大の争点にあげている。これは医療保険と同じ程度の注目度であり、経済・雇用問題に次ぐ注目度の高さである。さらに共和党支持者に限れば、3割弱が移民問題を最重要課題にあげており、経済・雇用問題を上回り、最も関心の高い論点になっている。これとは対照的に、通商問題を中間選挙の最重要課題とする回答は、いずれの政党の支持者でも5%に満たず、圧倒的に注目度は低い。 実際に、移民問題を巡る論戦は熱を帯びてきた。民主党は、トランプ大統領による不法移民の取り締まり強化を猛烈に批判している。現場で不法移民の取り締まりを担当するICE(移民税関捜査局)の廃止など、極端な政策を主張する候補者も少なくない。 一方の共和党陣営は、不法移民の取り締まりは定められた法律を執行しているに過ぎず、ICE廃止等の民主党の主張は、国境警備の放棄につながる暴論だと批判する。「国境がなければ、国は存在しない」というのが、トランプ大統領の決まり文句である』、中間選挙で下院は民主党が勝利したとはいえ、中南米からの大量移民の流れなどもあって、米国でも移民問題は大きな争点になっているようだ。
・『メキシコから来る人より、行く人の方が多い  ところで、米国と欧州が似通っているのは、移民・難民問題による国内の分断だけではない。「米国の移民、欧州の難民」という区別も、実態に即さなくなってきている。 従来の米国では、移民の主な流入先はメキシコであり、経済的に豊かな生活を求める「移民」としての性格が強かった。シリアなどの内戦が続く国から逃れてきた欧州の難民とは、色合いの違いがあった。 ところが最近の米国では、移民の流入先が変わってきている。増えているのは、エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラといった、政情不安を抱える中米の国々からの流入であり、メキシコとの人の行き来は、むしろ米国からの流出超になっているもようである。 「北のトライアングル」といわれる中米の国々からは、国内の治安の悪さなどを逃れようとする人々が、米国を目指している。移民というよりは、難民の性格が強い人たちだ。最近では、やはり治安が悪化しているベネズエラからも、米国を目指す難民が増えつつあるという。 難民の多寡は、流出元となる国の政情の安定に左右される。外交問題にもなり得る論点であり、容易に解決策は見いだせない。難民の受け入れが招く国内・域内の分断のみならず、米欧が向き合わなければならない課題は重い』、「メキシコとの人の行き来は、むしろ米国からの流出超になっている」というのは初めて知った。メキシコ経済が力をつけたからなのだろう。中間選挙時に大きく取り上げられた中南米からの大量移民の流れは、最近は殆ど報道がないが、一体どうなっているのだろう。

第三に、 政治学者で九州大学大学院比較社会文化研究院准教授の施 光恒氏が12月30日付け東洋経済オンラインに寄稿した「欧州「移民受け入れ」で国が壊れた4ステップ これから日本にも「同じこと」が起きる」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/256915
・『出入国管理法改正案が、12月8日、参議院本会議で可決、成立した。これにより、今後5年で外国人単純労働者を最大約34万人受け入れることが見込まれ、2025年には50万人超を受け入れることも視野に入れていると言われている。 本稿では第2次大戦後、直近では「アラブの春」やシリア内戦以降、欧州による大量の移民受け入れによってどのような深刻な問題が生じたかを描いた『西洋の自死移民・アイデンティティ・イスラム』を気鋭の政治学者が解説。実質的な「移民法」で、日本がどのようにして移民国家化へ進むのかを予測する』、これまで移民を強く制限してきた日本も、移民問題がいよいよ「他人事」ではなくなったようだ。
・『「平和ボケ」が「国のかたち」を変えてしまう  改正出入国管理法が国会で可決され、外国人単純労働者の事実上の受け入れが決まった。今後5年間で最大約34万人の受け入れを見込んでいる。2025年までに50万人超を受け入れるという話もある。 事実上、日本の移民国家化に先鞭をつけかねない、つまり「国のかたち」を変えてしまいかねない重要法案であったにもかかわらず、審議は拙速だった。衆参両院の法務委員会での審議は合計38時間にとどまった。たとえば、今年7月のカジノ解禁に関する法案(IR実施法案)の可決に比べても審議は短かった。 周知のとおり、欧州をはじめ、移民は多くの国々で深刻な社会問題となっている。にもかかわらず外国人単純労働者を大量に受け入れようとするのであるから、受け入れ推進派は最低限、欧州のさまざまな社会問題から学び、日本が移民国家化しないことを十分に示さなければならなかった。現代の日本人はやはり「平和ボケ」しており、移民問題に対する現実認識が甘いのではないだろうか』、「平和ボケ」は本来はリベラル左派を批判する際に使われる言葉で、今回のように推進している政権やそれを支える層に向けた言葉としては違和感を感じる。
・『そんななか、欧州諸国の移民問題の惨状を描き、話題を呼んだ1冊の本の邦訳が先頃出版された。イギリスのジャーナリストであるダグラス・マレー氏が著した『西洋の自死――移民・アイデンティティ・イスラム』(中野剛志解説、町田敦夫訳、東洋経済新報社)である。 欧州諸国は戦後、移民を大量に受け入れた。そのため、欧州各国の「国のかたち」が大きく変わり、「私たちの知る欧州という文明が自死の過程にある」と著者のマレー氏は警鐘を鳴らす。 昨年、イギリスで出版された原書は、350ページを超える大著であるにもかかわらず、ベストセラーとなった。その後、欧州諸国を中心に23カ国語に翻訳され、話題を巻き起している。イギリスアマゾンのサイトでみると、現在、レビューが750件以上もついており、平均値は4.8である。イギリス人に大きな支持を受けているのがわかる。 著者は本書の冒頭に次のように記す。「欧州は自死を遂げつつある。少なくとも欧州の指導者たちは、自死することを決意した」。「結果として、現在欧州に住む人々の大半がまだ生きている間に欧州は欧州でなくなり、欧州人は家(ホーム)と呼ぶべき世界で唯一の場所を失っているだろう」。 本書では、「英国をはじめとする欧州諸国がどのように外国人労働者や移民を受け入れ始め、そしてそこから抜け出せなくなったのか」「その結果、欧州の社会や文化がいかに変容しつつあるか」「マスコミや評論家、政治家などのインテリの世界では移民受け入れへの懸念の表明がどのようにして半ばタブー視されるように至ったか」「彼らが、どのような論法で、一般庶民から生じる大規模な移民政策への疑問や懸念を脇に逸らしてきたか」などが詳細に論じられおり、非常に興味深い』、なるほど。
・『入れ替えられる欧州の国民と文化  イギリスをはじめとする欧州各国では、大量移民の影響で民族構成が大きく変わりつつある。本書で挙げられている数値をいくつか紹介したい。各国のもともとの国民(典型的には白人のキリスト教徒)は、少数派に転落していっている。 2011年のイギリスの国勢調査によれば、ロンドンの住人のうち「白人のイギリス人」が占める割合は44.9%である。また、ロンドンの33地区のうち23地区で白人は少数派である〔ちなみに、この数値を発表したイギリスの国家統計局のスポークスマンは、これはロンドンの「ダイバーシティ」(多様性)の表れだと賞賛したそうである!〕。 ロンドンではすでに数年前に白人のイギリス人は少数派になっているのだ。2014年にイギリス国内で生まれた赤ん坊の33%は、少なくとも両親のどちらかは移民である。オックスフォード大学のある研究者の予測では、2060年までにはイギリス全体でも「白人のイギリス人」は少数派になると危惧されている。 スウェーデンでも今後30年以内に主要都市すべてでスウェーデン民族は少数派になると予測されている。国全体としても、スウェーデン民族は現在生きている人々の寿命が尽きる前に少数派になってしまうと推測される。 民族構成が変わるだけでなく、欧州諸国の文化的・宗教的性格も変容する。イギリス国民のキリスト教徒の割合は、過去10年間で72%から59%と大幅に減少し、2050年までには国民の3分の1まで減る見込みだ。 2016年にイギリスに生まれた男児のうち、最も多かった名前は「モハメッド」であった。 同様に、ウィーン人口問題研究所は、今世紀半ばまでに15歳未満のオーストリア人の過半数がイスラム教徒になると予測している。オーストリアは、それ以降、イスラム国家になる可能性が高いといってもいいだろう』、ロンドンは英国内でも最も多民族化が進んでいるが、「2060年までにはイギリス全体でも「白人のイギリス人」は少数派になると危惧」、「今世紀半ばまでに15歳未満のオーストリア人の過半数がイスラム教徒になると予測」、などは確かにショッキングな予測だ。「2016年にイギリスに生まれた男児のうち、最も多かった名前は「モハメッド」であった」というのは、イスラム教徒が子供に付ける名前はそれに集中しがちだが、「白人のイギリス人」の場合は分散しているということで、大騒ぎするのはどうかと思う。
・『欧州社会を統合していたキリスト教の信仰は風前の灯火  著者は、欧州諸国でイスラム教徒の影響力が増大すれば、宗教や文化が大きく変容するだけでなく、政治文化も変わってしまうと懸念する。欧州が伝統的に育んできた言論の自由や寛容さが失われてしまうのではないかというのだ。 従来、欧州の知識人層は、移民出身者であっても、欧州で長年暮らすうちに自由民主主義的価値観になじみ、それを受容するはずだと想定していた。しかし、実際はそうではなかった。言論の自由や寛容さ、ジェンダーの平等などの価値を共有しようとはしない者は決して少なくないと著者は述べる。 たとえば、欧州ではイスラム教徒に対する批判を行うことはすでにかなりハードルが高くなっている。批判者が「人種差別主義者」「排外主義者」などのレッテルを貼られ、社会的地位を失いかねないからである。イスラム教徒の利害を守る圧力団体が欧州各地で数多く組織化されているという。あるいは、シャルリー・エブド事件など、イスラム教に不敬を働いたという理由で襲撃される事件もさほど珍しくない。 伝統的に欧州社会を統合していたのはキリスト教の信仰である。近代以降は、キリスト教的価値観が世俗化されたものとして「人権」などの自由民主主義の原理がそれに取って替わっていると考えられることが多かった。 移民の大規模な流入により、世俗化され、自由民主主義という原理によって結び付けられた欧州という前提が脅かされつつある。キリスト教の伝統、あるいは自由民主主義に支えられた基盤が掘り崩され、いわゆる欧州文明がこの世から消え去ってしまうのではないかと著者は大きな危惧を抱くのである』、欧州のテロが移民の二世、三世によって引き起こされていることから、彼らに自由民主主義の価値観を植え付けるのは難しいのかも知れない。「いわゆる欧州文明がこの世から消え去ってしまう」というのは、寂しいが、もともと文明は不変のものではなく、時代と共に変化していくと考えれば、やむを得ないのだろう。
・『本書の描き出す欧州の現状は、先ごろ改正入管法を国会で可決し、外国人労働者の大量受け入れを決めた日本にとってもひとごとではない。本書を読むと、移民の大規模受け入れに至った欧州の状況は、現在や近い将来の日本によく似ているのではないかと感じざるをえない。 たとえば、欧州諸国の移民大量受け入れを推進した者たちの論拠は次のようなものだった。「移民受け入れは経済成長にプラスである」「少子高齢化社会では受け入れるしかない」「社会の多様性(ダイバーシティ)が増すのでいい」「グローバル化が進む以上、移民は不可避であり、止められない」。 本書の第3章で著者は、これらの論拠について1つひとつ証拠を挙げながら反駁(はんばく)し、どれも説得力のないものだと示す。 だが、欧州の指導者たちは、1つが論駁(ろんばく)されそうになると別の論拠に乗り換え、一般庶民の懸念を巧みに逸らし、移民受け入れを進めてきた』、4つの論拠は改正入管法審議時にも聞いた。
・『同じことが日本でも起こる  この4つの論拠は外国人労働者や移民の受け入れ推進の主張として、日本でもよく耳にするものである。日本でも今後、推進派の政治家や学者、評論家、マスコミは、おそらく、これらの論拠を適当に乗り換えつつ、実質的な移民受け入れを進めていくのではないだろうか。 そのほかの点でも、本書が描き出す欧州の過去の状況をたどっていくと、今後の日本の外国人労働者や移民受け入れの議論がどのように展開するか、大まかな予測が可能ではないだろうか。 次のようなものだ。
 1:学者やマスコミは、「政治的な正しさ」(ポリティカル・コレクトネス)に過敏になり、移民受け入れに肯定的な見解や調査結果は積極的に報道する一方、否定的なものは、「報道しない自由」を行使し、大衆の耳に入りにくくする(たとえば、「移民受け入れは財政的に大きなマイナスだ」という研究結果は報道されない)。
 2:同様に移民の犯罪についても、「人種差別だ」というレッテル貼りを恐れて、警察もマスコミもあまりはっきりと犯人の社会的属性や事件の背景などを発表しなくなる。
 3:「ドイツのための選択肢」(AfD)といったいわゆるポピュリスト政党の躍進など移民受け入れを懸念する動きが一般国民の間に広がった場合、マスコミや政治家は、その第一の原因としての従来の移民受け入れ政策の是非をきちんと吟味することはせず、懸念を表明する人々のほうばかりに目を向け、ことごとく「極右」「排外主義」「人種差別」などと攻撃する。つまり、「問題そのものではなく、問題が引き起こす症状のほうを攻撃する」ようになる。
 4:こうしたことが続く結果、政治家や大手メディア関係者といったエリート層と一般国民の間の意識のズレがますます大きくなり、国民の分断が生じてしまう。
 西欧諸国に比べて、ハンガリーなどの東欧諸国は、近年、移民受け入れに対し断固たる抑制策をとることが多い。著者はこの相違に関して、過去の植民地主義や第2次大戦中のナチズムなどのために西欧諸国は、欧州の文化に対して自信を失い、贖罪意識を持っていると指摘する。自文化への自信の喪失や贖罪意識が、移民受け入れ政策を方向転換することができない理由の1つとなっているというのである。 自文化への自信の喪失や歴史的な贖罪意識という点でも、西欧諸国と日本は似ている。 改正入管法をめぐる日本の国会審議は、欧州の失敗例をほとんど分析せずに終わってしまった。手遅れになる前に、本書『西洋の自死』を多くの日本人が読み、欧州の現状や苦悩を知り、日本の行く末について現実感をもって考えてほしいと思う』、上記の1.~4.は確かに大いに懸念される。この記事は大いに参考になる。『西洋の自死』が出版されたのが、12月14日なのでしょうがない面もあるが、出来れば国会審議前にこの記事が出ていれば、審議を深められたのにと、残念に思う次第だ。
タグ:橘玲 東洋経済オンライン ダイヤモンド・オンライン 安井 明彦 欧州難民問題 トランプ米大統領 (その7)(なぜ彼らはヨーロッパへ向かったのか? 難民ビジネスの実態と語られない不都合な真実、日本人が知らない欧米のきわどい「移民問題」 各国で移民や難民に対する寛容性に差、欧州「移民受け入れ」で国が壊れた4ステップ これから日本にも「同じこと」が起きる) 「なぜ彼らはヨーロッパへ向かったのか? 難民ビジネスの実態と語られない不都合な真実[橘玲の世界投資見聞録]」 「移民」と「難民」の線引き 移民とは「経済的な理由で故郷を捨てたひと」のことで、彼らは正規の手続きで居住ビザや就労ビザを取得すればいいのであって、特別な保護は必要ない。逆にいえば、こうした手続きをせずに居住・就労するのはすべて「不法移民」だ 「難民」のことを「移民」と呼ぶのは「政治的に正しくない(反PC)」とされるようになった 「リビアには2つの海がある」 リビアから、大量の出稼ぎアフリカ人たちが密航船に乗り込むことになったのだ 難民たちの「ユートピア」スウェーデンに向かうひとたちの苦難 家族でヨーロッパに渡ってきた難民は比較的裕福 ヨーロッパ各国が共同して第三国定住難民の受け入れ枠を最低100万人まで増やす必要がある 「日本人が知らない欧米のきわどい「移民問題」 各国で移民や難民に対する寛容性に差」 欧州の難民問題にあえて口を挟んだ そもそも欧州は米国より難民寛容度が低い 米国の問題は支持政党による見解相違の拡大 メキシコから来る人より、行く人の方が多い 施 光恒 「欧州「移民受け入れ」で国が壊れた4ステップ これから日本にも「同じこと」が起きる」 改正出入国管理法 事実上、日本の移民国家化に先鞭をつけかねない、つまり「国のかたち」を変えてしまいかねない重要法案であったにもかかわらず、審議は拙速 ダグラス・マレー氏 『西洋の自死――移民・アイデンティティ・イスラム』(中野剛志解説、町田敦夫訳、東洋経済新報社) 欧州諸国は戦後、移民を大量に受け入れた。そのため、欧州各国の「国のかたち」が大きく変わり、「私たちの知る欧州という文明が自死の過程にある」 欧州は自死を遂げつつある。少なくとも欧州の指導者たちは、自死することを決意した 結果として、現在欧州に住む人々の大半がまだ生きている間に欧州は欧州でなくなり、欧州人は家(ホーム)と呼ぶべき世界で唯一の場所を失っているだろう 英国をはじめとする欧州諸国がどのように外国人労働者や移民を受け入れ始め、そしてそこから抜け出せなくなったのか その結果、欧州の社会や文化がいかに変容しつつあるか マスコミや評論家、政治家などのインテリの世界では移民受け入れへの懸念の表明がどのようにして半ばタブー視されるように至ったか 彼らが、どのような論法で、一般庶民から生じる大規模な移民政策への疑問や懸念を脇に逸らしてきたか 入れ替えられる欧州の国民と文化 各国のもともとの国民(典型的には白人のキリスト教徒)は、少数派に転落していっている ロンドンではすでに数年前に白人のイギリス人は少数派になっている 2060年までにはイギリス全体でも「白人のイギリス人」は少数派になると危惧 スウェーデンでも今後30年以内に主要都市すべてでスウェーデン民族は少数派になると予測 今世紀半ばまでに15歳未満のオーストリア人の過半数がイスラム教徒になると予測 欧州社会を統合していたキリスト教の信仰は風前の灯火 キリスト教の伝統、あるいは自由民主主義に支えられた基盤が掘り崩され、いわゆる欧州文明がこの世から消え去ってしまうのではないか 移民受け入れは経済成長にプラスである」「少子高齢化社会では受け入れるしかない 社会の多様性(ダイバーシティ)が増すのでいい グローバル化が進む以上、移民は不可避であり、止められない ものだ。  1:学者やマスコミは、「政治的な正しさ」(ポリティカル・コレクトネス)に過敏になり、移民受け入れに肯定的な見解や調査結果は積極的に報道する一方、否定的なものは、「報道しない自由」を行使し、大衆の耳に入りにくくする 2:同様に移民の犯罪についても、「人種差別だ」というレッテル貼りを恐れて、警察もマスコミもあまりはっきりと犯人の社会的属性や事件の背景などを発表しなくなる 3:「ドイツのための選択肢」(AfD)といったいわゆるポピュリスト政党の躍進など移民受け入れを懸念する動きが一般国民の間に広がった場合、マスコミや政治家は、その第一の原因としての従来の移民受け入れ政策の是非をきちんと吟味することはせず、懸念を表明する人々のほうばかりに目を向け、ことごとく「極右」「排外主義」「人種差別」などと攻撃する。つまり、「問題そのものではなく、問題が引き起こす症状のほうを攻撃する」ようになる 4:こうしたことが続く結果、政治家や大手メディア関係者といったエリート層と一般国民の間の意識のズレがますます大きくなり、国民の分断が生じてしまう
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