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小田嶋隆氏のいろは歌留多2019

松の内の最後となる今日は、小田嶋隆氏の「いろは歌留多2019」を取上げよう。今回で7回目になる。なお、昨年は1月5日に取上げた。

・コラムニストの小田嶋隆氏が1月1日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「平成版最終・2019年新春吉例いろは歌留多」を紹介しよう。1日付けとなっているが、実際に発表されたのは今日である。今回は先ず全文を紹介してから、簡単にコメントすることにしたい。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/122600172/?P=1
・『新年あけましておめでとうございます。 吉例のいろは歌留多、平成最後の元旦にお送りさせていただきます。
【い】行きがけのDAZN 通勤中にスマホで動画視聴しているヤツはたぶん負け組。
【ろ】老婆は一日にしてならず すべての道は老婆に通じてもいるわけですが。
【は】張り子のトランプ あいつもしかして虚勢張ってるだけじゃね?
【に】人間万事最高が今 将来に備えるより、今を最高に過ごそうじゃありませんか。
【ほ】骨折り損のスタビライザー ほんとの話、組織安定化のための盛り上げ要員ほど報われない役柄はありませんぜ。
【へ】蛇のなまいき ナマ殺しにしたはずの蛇が息を吹き返すときわめて厄介です。
【と】遠くの科研費より近くの非常勤 当今は大学の先生も、アルバイトをしないと食べていけないんだそうですよ。
【ち】近くて遠きは北方領土 まあ、むこう半世紀は返ってこないでしょうね。
【り】龍のヒゲを撫でトランプの髪を引っ張る そういう命知らずの諫言家が現れると良いのですが。
【ぬ】盗人に追証 逆に言えば追加保証金さえ払えば窃盗犯だって大切な顧客だということです。
【る】ルノー憎けりゃゴーンまで憎い ゴーンおまえだったのか……。
【を】同じアナのうなじ 女子アナの背後にポジション取るキャスターは信用しないことにしています。
【わ】我思うゆえに笑わる 考え過ぎるタイプの人は皆の笑い者になりがちです。
【か】カエサルの物はカエサルに返さぬ 返さぬのが加計学園の校風なのだそうです。
【よ】夜目遠目写メの顔 写メって、わりと修正してあったりするからね。
【た】太郎の空似 同じ名前の大臣は同じような口のききかたをするわけでしてね。
【れ】レギンスは繰り返す あれは楽なんでクセになるそうです。
【そ】備えあれば売れないし 備えや蓄えのある賢い人はうっかり衝動買いをしません。
【つ】月とスッピン 月面ライクな地肌のことです。
【ね】寝耳に水商売 急に転職しても無理です。
【な】泣きっ面に8Kテレビ オリンピック景気に便乗してそんなもの売ろうとしても買えないものは買えないよ。
【ら】乱獲でバカが蒲焼き食べている うなぎの明日を食い尽くす今日。
【む】無理が通ればモウリーニョ マンU解任の後はいっそ浦和の監督にどうでしょう。
【う】ウソもホルベイン ホルベインの絵の具で塗りかためたような鮮やかなウソ。
【ゐ】位置を聞いて自由を知る 逆に嫁さんの位置情報を握っておくのが自由への第一歩だぞ。
【の】乗りかかったタイタニック 誰も沈むと思ってない船が沈む時は、仲間がたくさんいて心強いかもしれません。
【お】オレオレに誰誰 オレオレ詐欺も物忘れには勝てぬ。
【く】腐っても体育会 能力的にはアレでも、なにしろ根性があるからなあ。
【や】やめない安倍はない どんなにひどい土砂降りもいずれは終わることを信じて生きていきましょう。
【ま】負け犬のオーボエ わりとソロを取る機会の少ない楽器ですがもちろん音楽は勝ち負けではありません。
【け】ゲスのコンクリ 経済が冷え込んだら冷え込んだで、またぞろ景気浮揚策だとかいってハコモノを建てたがるゲス野郎が出てくるわけだよ。
【ふ】ブスの商法 「ブス」みたいな物騒な言葉をフックにドラマを当てようとか、バカすぎて論評のしようがないっす。
【こ】勾引矢の如し ファーウェイの副会長が逮捕された後の、中国当局によるカナダ人拘束の素早さはマジで恐怖でした。
【え】絵に描いたモテ モテ自慢してるヤツって、ホントのところは嫌われ者だよね。
【て】出る杭は歌われる 目立つ人間に限って四面楚歌に追い込まれるのが、この国の社会の真骨頂なわけでね。
【あ】あきらめたら第二試合だぞ あきらめない人間は次のステージに進めなかったりする。
【さ】三人よればもんじゅの次 なんでも経産省の中には寄ると触るともんじゅ廃炉後の身の置きどころを話し合っている人たちがいるのだそうですよ。
【き】岸に届かぬわが思い 偉大なる祖父の背中を追うあまり 無駄な背伸びが仇となり。
【ゆ】油断ハイテク 先端技術に頼ってばかりで肝心の本業を空洞化させてる会社をよく見かけますね。
【め】目くそミクシィを笑う 他人の転落を笑う者は未来の自分を笑っている。
【み】三日見ぬ間の枕かな 徹夜勤務が続くと自宅の枕が恋しくなりまさあね。
【し】正直者はバカンスを得る 長期休暇における勝利者は空気読まないで真っ先に有休取得したヤツだったりします。
【ゑ】円は異なもの味なもの 円相場が安定してる時はFXにも旨味があったんだけどなあ。
【ひ】人はパンツのみにて生くるにあらず きょうびパンツ一丁は逮捕案件だよ。
【も】森友三年加計八年 まあ、全容解明にはそれくらいかかると覚悟を決めて、ひとつ気長に取り組もうではないですか。
【せ】煽動多くして訴状山と積まれる 弁護士への懲戒請求を煽動した連中は、訴訟を起こされるや、ここを先途と一目散に逃げ出したことでした。
【す】据え膳はミートゥーソースと心得よ うっかり据え膳に手を出すと、ミートゥーのご老公に成敗されるんだそうですよ。
【ん】んんん、当企画は平成で終わりかな 
いやあ苦しかったです。本年もよろしく。

・さすがに7年目ともなると、苦しさが伝わってくるものもある。私が傑作だと思ったのは、【ち】近くて遠きは北方領土、【た】太郎の空似(麻生と河野)、【ゐ】位置を聞いて自由を知る、【け】ゲスのコンクリ、【こ】勾引矢の如し、【さ】三人よればもんじゅの次、【き】岸に届かぬわが思い、【も】森友三年加計八年、である。読者諸氏はどうだろうか。 なお、【う】に出てくるホルベインとは絵具・画材屋のことらしい。 
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公共部門の民間委託(PFI・PPP)(関空冠水で考える…空港民営化は万能薬なのか 公共財の自覚どこへ 関空運営会社の経営陣、水道民営化促進で内閣府に出向した人の正体 7日成立予定の改正水道法に不透明な背景、水道法改正が「民営化」でないばかりかタチが悪い理由) [経済政策]

今日は、公共部門の民間委託(PFI・PPP)(関空冠水で考える…空港民営化は万能薬なのか 公共財の自覚どこへ 関空運営会社の経営陣、水道民営化促進で内閣府に出向した人の正体 7日成立予定の改正水道法に不透明な背景、水道法改正が「民営化」でないばかりかタチが悪い理由)を取上げよう。なお、PFI、PPPについては、第二の記事にあるように、(Private Finance Initiative、民間資金、運営で公共サービスの提供を行う)、PPP(Public Private Partnership、公民の連携で行う)のこと。今日取上げるものは、いずれもPPPである。

先ずは、Aviation Wire編集長の吉川 忠行氏が9月20日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「関空冠水で考える…空港民営化は万能薬なのか 公共財の自覚どこへ 関空運営会社の経営陣」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/246820/091800070/?P=1
・『訪日需要が好調だ。日本政府観光局(JNTO)によると、2018年1月から6月までの訪日客は1590万人と、前年同期比で15.6%増を記録し、4月には過去最速で累計1000万人を突破した。近年は中国からのクルーズ船などもあるが、多くは空の便で日本を訪れている。 旺盛な訪日需要を背景に、航空会社や空港運営会社の業績も改善している。成田国際空港会社(NAA)の18年3月期純利益は前年同期比41.7%増の359億1800万円、関西国際空港と大阪国際空港(伊丹空港)を運営する関西エアポート(KAP)も同67%増の283億円と、大幅な増益となっている。 こうした中、近年相次いでいるのが空港民営化だ。先駆けとなったのは関空と伊丹。いずれも国が出資する空港会社の管轄下にある「会社管理空港」だったが、16年4月1日から純民間企業の関西エアポート(KAP)が運営している。これを皮切りに18年4月には神戸と高松の2空港も民営化を果たした。直後の5月には、19年4月の民営化を目指す福岡空港の運営権について、優先交渉権者が決まった。さらに新千歳空港を核とする北海道7空港の民営化についても、2019年7月をめどに運営会社を選定する。 筆者は当連載で以前、空港民営化の問題点を指摘した(記事はこちら)。当時、関空に就航する航空会社の関係者から聞こえてきたのは、民営化前なら「あうんの呼吸」で進んでいたプロモーションや空港の施設運営が思うように進まなくなっている、という悲痛な声だった。 あれから1年が過ぎた今も、残念ながら状況は好転していない。重ねて言うが、消費者にとってサービス向上につながるとされている「民営化」は、こと空港運営の手法としては、「万能薬」とは言い切れない側面があるのだ。9月4日の台風21号により滑走路の冠水など大きな被害を被った関空では、KAP経営陣が早期の暫定再開案を打ち出せなかった。現在は事実上、国主導での復旧作業が進んでいると言っても過言ではない。運営会社の業務と責任として、災害からの復旧も含まれるにもかかわらずだ。 今年4月、民営化3年めに突入した関空と伊丹の運営実態と、台風21号の被害に対するKAP経営陣の不十分な初動対応から、改めてこのことを問いたい』、確かに関空のトラブルではKAPがなす術なく呆然としていたので、国が直接乗り出したことは記憶に新しい。
・『民営化後に生じた「公共性」への温度差  3空港の民営化は、国や自治体に所有権を残したまま運営権を売却する「コンセッション方式」で実施。KAPはオリックスと仏空港運営会社ヴァンシ・エアポートのコンソーシアムが設立したもので、株式はオリックスとヴァンシが40%ずつ同率で持ち、関西を拠点とする企業・金融機関30社が残り20%を保有している。 2017年度の旅客数が、国際線と国内線合わせて前年度比12%増の2880万2506人と、3年連続で過去最高を更新した関空。このうち国際線は14%増の2190万人と6年連続で前年度を上回り、開港以来の年度合計として、2000万人を初めて突破した。さらに外国人に絞ると、68.5%を占める2190万人。日本人が海外へ向かう空港というよりは、訪日客の玄関口としての存在感が増している。これは同時に、訪日客を増やしていきたい政府にとって、関空が戦略的に重要な位置にあることも意味している。 こうしたデータから見ると関空の民営化は、確かに「成功」の部類に入るかもしれない』、これは筆者が問題点を指摘する前に、一応「お世辞」として記述したに過ぎず、実態はインバウンド・ブームに乗っただけで、到底「成功」といえるものではない。
・『だが筆者が昨年指摘したような関空の問題点が、改善されたとの声は国内や海外いずれの航空会社からも聞こえてこない。 むしろテナント企業などからは、放置しておけば関空のプレゼンス低下につながりかねない話ばかりが耳に入ってくる。例えば以前から航空会社などが懸念していた、空港地下に集中する重要施設の冠水対策は、民営化後も後回しになっている。あるテナント企業に対しては、関空にとどまる必然性が薄れるほどの法外な値上げ提案がなされたという。 後述する伊丹のターミナル改修でも、民営化前に計画されていたプランと比べ、空港が利用者から求められる利便性を重視するよりも、商業施設としてのにぎわい創出に舵が切られた。関空の第1ターミナル改修に至っては、今年3月としていた計画概要の発表すら到達できていない。 航空会社や自治体などからも関空に対する様々な意見を集約していくと一つの問題が見えてくる。それは、営利企業とは対極にある「公共性」という概念の欠如だ。KAPの経営陣からも「公共性」という言葉は出てくるが、どうやら航空会社や自治体の考えるものとはかけ離れているようだ。 昨年末、KAPの山谷佳之社長に「訪日需要が大きく落ち込んだ際、どのように対処するか」と尋ねたことがある。山谷社長は「短期的な落ち込みは怖くないが、長引くと問題だ。コンセッション(運営権の民間への売却)も継続できないだろう。国にお返ししなければならなくなる。国もコンセッションを解除するだろう」と応じた。 こうした言葉から見え隠れするKAPの経営姿勢に、違和感を感じる関係者は少なくない。複数の航空会社の幹部が異口同音にこう指摘する。「何かあったら国に運営権を返すような気構えでは、安心して就航し続けることができない」』、こんな甘い考えで経営している背景には、契約条件のいい加減さがあるのではなかろうか。一旦、契約した以上、債務超過になるギリギリまで頑張らせるべきだろう。
・『クレーン船による橋桁の撤去作業が進む関空連絡橋  別の幹部も「山谷社長は“民間の知恵”と、ことあるごとに言っているが、出てくるのは商業施設の話ばかり。ターミナルも不動産投資のような改修の話にとどまり、将来像が見えてこない」と、飛行機が乗り入れられるショッピングモールのようになりつつある関空と伊丹の現状に危機感を抱く。 新路線の誘致など関空が民営化した後も進むプロジェクトの多くは、国が出資する新関西国際空港会社の時代にスタートしたものだ。そして、現場を支えているのは、民営化前から閑古鳥が鳴く関空不遇の時代を支えてきた社員たちだ。  空港が所在する自治体の幹部から聞いた、この話が印象的だった。「自治体は逃げられないんですよ。空港から航空会社が撤退してしまったら、都市としてのプレゼンスが下がってしまい、一度下がったものを戻すのは非常に難しく、さまざまな問題に飛び火する。だから支え続けなければならない。空港民営化の動きを見ていると、運営会社にその覚悟があるのか」 航空会社も、地震などの天災に見舞われても、運航を維持しなければならないなど、社会から常に高い公共性が求められている。そうした企業や自治体の立場では、「経営難に陥れば将来の運営撤退を視野に入れるような企業と、よいパートナーシップを築くのは難しい」と考えるのは自然なことだろう。 そして今回の台風21号による被害では、KAP経営陣は有効な早期復旧策を打ち出せなかった。運営権を売却したはずの国がしびれを切らし、復旧計画の大枠を裏で描く形になってしまった。国土交通省が職員5人を派遣して以降、「復旧作業が加速し、計画全体を見通せるようになった」(航空会社幹部)という』、自治体や航空会社は「逃げられない」のに、運営会社KAPは逃げ出せるというもおかしな話だ。「国土交通省が職員5人を派遣」して漸く復旧作業が加速というのもみっともない話だ。
・『利便性よりブランディングを優先  大阪万博開幕を控えた1969年に開業し、現在は2020年の全面刷新を目指して改修工事が進む伊丹空港。今年4月18日に、ターミナル中央エリアがリニューアルオープンした。これまで南北に分かれていた到着口を中央1カ所に集約し、商業エリアには世界初となる空港内ワイン醸造所を併設したレストランや、関西の有名店などが出店した。 民営化というと、こうした商業施設のリニューアルや、LCC(低コスト航空会社)の誘致が目玉となる。運営事業者を選定するコンペに提案される書類でも、ターミナル改修は提案事項の上位に据えられることが多い。 しかし、空港の本来の役目は、言うまでもなく発着便の玄関口であることだ。地域の名店を揃えることも大事だが、空港に到着した乗客が迷わずに空港から都心部へ出たり、都心部から空港までスムーズに到着したりできるかどうかも、空港としての重要な資質と言える。  筆者がかねて多用する伊丹で最近、そのことを痛感させられる出来事が増えている。リニューアル前より不便になったと感じるのだ。 例えば空港から梅田行きのリムジンバスに乗ろうとした際、到着口が中央に集約されたことで、左右にある階段のどちらを降りれば梅田行き乗り場に近いのかが、直感的に分かりにくくなった。 確かに、到着口を出てバス乗り場へ向かうまでに案内表示の看板などがないわけではないが、商業施設ばかりが目に付き、相対的に目立たなくなってしまった。ターミナル改修の経緯を知る関係者は、「当初の改修案では、バスなど二次交通について、到着口周辺でわかりやすく案内する計画だった。民営化後、商業施設があふれかえる計画になってしまった」と打ち明ける。 そして、大阪の梅田駅などから空港へ向かうリムジンバスの乗り場についても、利便性に関わる変化があった。関空と伊丹のどちらへ向かうかに関わらず、バスの案内表示などが同じデザインや色調で統一されたのだ。 民営化前、バスの案内表示は行き先によって「水色の関空、黄緑色の伊丹」とはっきり色分けされていた。このため「伊丹に行くには黄緑色」と一目で分かるようになっていた。バス乗り場ではわかりやすく、どちらの空港に行くか迷う外国人旅行者にも、色で説明することもできたのだが。 確かに、各空港を示す文字のデザインや色などを統一することでブランドを高めたい、というKAPの方針も理解できる。しかし、空港という通過点を利用する人にとっては、直感的に分かりやすいことの方がより重要なはずだ。バスの誤乗を色分けによって防ぐといった気配りは、地味ながらも効果が期待できるものだ。 たかがデザイン、されどデザイン。利用者に寄り添うような工夫を積み重ねていかなければ、空港のブランドを地層のように築き上げることは難しいのではないだろうか』、KAPには仏空港運営会社ヴァンシ・エアポートも入っており、運営ノウハウは豊富な筈なのに、このような体たらくとは解せない。
・『ノウハウある割に外部コンサル起用  こうした変化は、働く社員のモチベーションにも影を落としている。今年で3年目に入ったKAPは、夏にボーナスが初めて支給された。これを機に、KAPを離れるという声が社員から漏れ伝わってきており、航空会社や関係企業は「ノウハウを持った人材が流出してしまうのではないか」(航空会社幹部)と危惧する。 KAPの関係者によると、民営化後は毎月2~3人程度は退職しているといい、ボーナス支給を契機にこの気運が高まっているという。これに対し、KAPは外部のコンサルタントを起用し、社員満足度の向上に取り組んでいるというが、前述の航空会社幹部は「空港運営のノウハウがあるという割に、外部コンサルばかり使っているのでは、ノウハウを持っていないのと同じではないか」と、首をかしげる。この幹部によると、外部コンサルを起用しているのは、空港運営という本業にかかわることも含まれるという。  前述の自治体幹部は「空港会社だけでなく、電力会社などインフラ系企業で働く若手を見ていると、自治体に近い公共性に対する覚悟を感じる。それが良い方向に働くことばかりではないかもしれないが、あまりにも民間企業然とした考え方は、受け入れ難いのではないか」と、退職者たちの気持ちをおもんばかる。 かつて取材した国交省の幹部は「役人の発想の限界を打破して欲しい」と、空港民営化に期待を寄せていた。筆者も同様で、民営化そのものを否定する気はなく、仙台空港のように地の利のなさに苦しみながらも、地元と活性化の道筋を模索する動きも見てきた。 ただ、空港民営化に対する問題意識は世界の航空関連業界に広がりつつある。 「われわれの調査では、民営化された各国の空港で、効率性や投資水準が向上していないことがわかった。民営化に、すべての答えがあると仮定するのは間違いだ」。6月上旬、オーストラリア最大の都市、シドニー。世界的な航空業界団体「IATA(国際航空運送協会)」の年次総会で、アレクサンドル・ド・ジュニアック事務局長兼CEO(最高経営責任者)はこう発言した。各国政府が不十分な検討で空港民営化を進めた場合、長期的に空港の社会的な便益が損なわれる可能性があると、警鐘を鳴らしたのだ。 翻って日本。空港を擁する自治体の首長から聞こえてくるのは「我も我も」という民営化の話ばかりだ。ただ、民営化で先行した関空や伊丹の例からは、空港運営において営利追及と公共性確保のバランスを取ることの難しさが浮かび上がってくる。航空会社や自治体など周囲から利益第一主義に見えてしまうKAPの経営姿勢について、十分な検証と関係者による本質的な議論が必要な段階にきているのではないだろうか。 そして、空港の運営権者を選定する際、公共財を扱う経営者の資質を厳しく見る必要がある』、日本は周回遅れで空港民営化に走っているようだ。問題は、経営者の資質ではなく、契約条項にどれだけ公共性を盛り込めるかなのではなかろうか。

次に、ジャーナリストの安積 明子氏が12月7日付け東洋経済オンラインに寄稿した「水道民営化促進で内閣府に出向した人の正体 7日成立予定の改正水道法に不透明な背景」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/253769
・『水道事業を民間委託できる水道法改正案が、12月5日午前の参議院本会議で通った後、同日午後の衆議院厚生労働委員会で可決された。同法案は今年の通常国会で衆議院ですでに可決されて継続審議となっていたため、反対弁論だけ行われた。これに野党は猛然と反発。 「外国人労働者受け入れを拡大する出入国管理法改正といい、漁業権を骨抜きにする漁業法改正といい、なぜ会期が短い臨時国会にこんな重要法案を次々に出し、短い審議時間で成立させようとするのか」と怒りをぶちまけた。 「通常国会での衆議院の採決から(同日午前の)参議院の採決まで、大きな状況の変化があった」 12月5日の衆議院厚生労働委員会で水道法改正案について反対討論に立った立憲民主党の初鹿明博衆議院議員は、新潟県議会で10月12日に「水道民営化を推し進める水道法改正案に反対する意見書」が採択された事例を挙げた。 同意見書は、老朽した水道施設の更新や耐震化推進のために民営化を進めることによって、「水道法の目的である公共の福祉を脅かす事態となりかねない」と警鐘を鳴らしている。その他、同意見書は水道を民営化したフィリピン・マニラ市での料金高騰やボリビア・コチャバンバ市での暴動の発生、フランス・パリ市では料金高騰に不透明な経営状態が発覚した事例まで挙げていた』、安倍政権の拙速な国会運営は民主主義の根幹を揺るがすものだ。パリでは民営化で水道料金は1.7倍になり、最終的に再公営化されたようだ。しかし、こうした海外の失敗例を野党は追求したのだろうか。
・『水道民営化のために任用された大臣補佐官  水道法改正の背景が怪しい――実は今年10月末に、そのような話を耳にした。11月9日に菅義偉官房長官の大臣補佐官を辞任した福田隆之氏をめぐる怪文書がきっかけだ。 福田氏は野村総合研究所で国が初めて実施した国家公務員宿舎建て替えのPFI(Private Finance Initiative、民間資金、運営で公共サービスの提供を行う)案件を担当した。2012年からは新日本有限責任監査法人のインフラPPP(Public Private Partnership、公民の連携で行う)支援室長としてコンセッション関連アドバイザリー業務を統括した。 そのような福田氏が内閣府大臣補佐官に就任したのは2016年1月で、PPP/PFIの活用を盛り込んだ「『日本再興戦略』改定2015」が閣議決定された5カ月後のことだった。 ちょうどその頃、産業競争力会議も「成長戦略進化のための今後の検討方針」を決定。「観光振興や人口減少等の地域的、社会的課題に対する公共施設等運営権方式を含めたPPP/PFI の活用方策を検討するとともに、 積極的な広報活動や地域の産官学金による連携強化等により、広く地方公共団体や民間等の関係者の理解促進や機運醸成を図る」とPPP/PFI導入の本格的取り組みを宣言した。 これを主導したひとりがパソナグループ代表取締役会長を務める竹中平蔵氏で、同氏が主導してPPP/ PFIの活用促進に向けた環境整備について検討した「産業競争力会議フォローアップ分科会」などには福田氏が参加していた。福田氏の補佐官登用も竹中氏の意向があったと言われている。 内閣府は2018年2月9日、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律の一部を改正する法律案」(略称PFI法改正案)を国会に提出した。同法改正案は6月13日に成立し、8月1日から施行。水道法改正を待つばかりだったが、同改正法案は日切れ法案として継続審議に付された。 しかし臨時国会で水道法改正法案が成立することはほぼ確実で、そうなると水道事業の民営化に向けて本格的に始動するはずだったが、ここで思わぬ逆風が吹いた。外国でのひどい失敗例や、高いコストを負担して再公営化を進めなければならかったという事実が示されたのだ』、「外国でのひどい失敗例」が臨時国会で取上げられたようだが、もっと前の通常国会で取上げるべきだった。福田氏もPFI・PPPの利害関係者なのに、補佐官に登用するとは竹中もいい加減だ。
・『水メジャーの社員が内閣府の政策調査員に  そればかりではなく、不透明な問題も持ち上がった。そのひとつが上記の福田氏の突然の辞任であり、もうひとつがヴェオリア社の女性社員が内閣府の「民間資金等活用事業推進室」に政策調査員として2017年4月1日から2019年3月31日までの予定で出向していることだ。ヴェオリア社はフランスの多国籍水処理企業で、世界で上下水道の民営化を扱って成長してきた。この出向者の任期はまさに水道民営化のための審議の期間に重なっている。 これを明らかにしたのは11月29日の参議院厚生労働委員会で社民党の福島瑞穂参議院議員。 「もっともこの法案で利益を得る可能性のあるヴェオリア社、水メジャーですよね。まさにその担当者がPPP推進室にいる。これって受験生が採点者になって、自分の答案をこっそり採点しているようなものではないですか」 また福島氏は12月4日の参議院厚生労働委員会で、PFI法改正案が審議された2018年6月12日参議院内閣委員会で当該女性職員が大臣の補佐をしていたことを暴露したが、内閣府は「単に資料を持参したりメモを取っていた」と女性職員と同法案との深い関与を否定した。 しかしこの女性職員は「GJジャーナル(下水道女子ジャーナル)2016年7号」で、「官民連携により自治体の下水道事業運営をサポートするべく、処理場、管路等の施設運転管理を中心とした提案、業務支援を担当しています」と自己紹介するなど、PFIの専門家を自任している。政府が専門家である職員を雑務だけのためにわざわざ登用するというのは、どう考えてもありえない』、福島瑞穂参議院議員は頑張っているようだが、惜しむらくは事前にGJジャーナルも読んで、女性職員の身元も調べておけば、内閣府もいい加減な答弁は出来なかった筈だ。
・『ヨーロッパ視察も、報告書は提出されず辞任  また11月9日に内閣府大臣補佐官を辞任した福田氏は、パリなどの水道民営化について視察するために2016年、2017年、2018年と3度にわたって渡欧している。3度目は2018年10月で、辞任の直前だ。 福田氏の辞任理由は「業務に一定の区切りがついたため」とされているが、最後の仕事となった10月のヨーロッパ視察の報告書はいまだ公表されていず、中途半端な印象は否めない。 「一区切りというのなら、(PFI法改正法が成立した)6月ではなかったか」 福島氏が指摘する通り、この時期の福田氏の補佐官辞任はまったく矛盾に満ちたものとしか言いようもないが、その真相が究明されることは永遠にないだろう。 12月6日の衆議院本会議で改正水道法が成立。翌7日には外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法や漁民法の改正法も成立するはずだ。そして臨時国会は延長されず、12月10日に当初の予定どおりに閉じられる』、福田氏の突然の辞任の真相は何だったのだろう。利益相反の非難を逃れるためだったのだろうか。ヨーロッパ視察の報告書は提出されなかったとはいい加減だが、「都合のいい」話が出てこなかったためなのだろうか。

第三に、室伏政策研究室代表・政策コンサルタントの室伏謙一氏が12月25日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「水道法改正が「民営化」でないばかりかタチが悪い理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/189383
・『12月16日、水道法の一部を改正する法律案が衆議院本会議で再可決され成立した。「水道民営化」と誤解する人も多いが、これはいわゆる「民営化」ではない。しかし、実態は「民営化」よりもタチが悪いものだ。その問題点などを解説する』、興味深そうだ。
・『水道法改正は「水道民営化」ではない  多くの反対や疑問の声が上がる中、12月6日、先の通常国会から継続審議となっていた水道法の一部を改正する法律案が衆議院本会議で再可決され成立した。 今回の水道法改正の目玉は、水道施設運営権を設定して民間企業による水道施設運営等事業を可能とすること。この点について世間では「水道民営化」とされることが多い、というよりほとんどのようだ。 しかし、これは「地方公共団体が保有する水道インフラを使って、民間企業がある程度自由度を持って事業を行う仕組み」であって、インフラごと民間企業に売り渡すいわゆる「民営化」ではない。 どうも「民営化」という言葉が独り歩きをして、さまざまな誤解が生まれ、そうした誤解に基づいた奇妙奇天烈(きみょうきてれつ)で頓珍漢(とんちんかん)な議論が、さも正しいかのようにまかり通っているようである。 このことについては制度論の観点も含め、拙稿『水道法改正案は「民営化案」ではないが別の大きな問題がある』で解説し、併せて水道法改正の問題点についても分析しているのでそちらを参照いただきたい。 そこで本稿では、水道施設運営権の設定による水道施設運営等事業(以下「水道コンセッション」という)の仕組みとその性格、問題点、なぜ懸念する必要があるのかについて概説するとともに、よくありがちな水道コンセッションを巡る誤解等について、何がどう間違っているのかについて解説してみたい』、マスコミ報道もいい加減なので、ここで整理する意味は大きい。
・『水道コンセッション事業の仕組みと問題点  まず、水道コンセッションの事業の仕組みについて。 上水道事業を行っている地方公共団体が、運営権実施契約(運営権契約、コンセッション契約)により契約の相手方である民間事業者に数十年の期間で運営権を設定、民間事業者側は運営権対価を支払い、水道施設運営等事業を行う、というのが基本的な構造である。 事業の主な収入は当然のことながら水道料金であり、これを自己収入として、自らのリスクを取りながら事業、つまり水の供給・水道施設の維持管理・保守、場合によっては施設更新等を行うことになる。 別の言い方をすれば、水道料金で人件費等のコストを賄い、収益を出す事業。したがって、それに見合った料金設定とするとともに、収益を減らしたり、ましてや赤字が出るといったことがないように、人件費も含めてコストを適正化することが重要となる。 そして、まさにここが水道コンセッションの問題点なのだ。 すなわち、通常の維持管理や保守コストが当初の予想以上にかかってしまった場合、あるいは自然災害が起きて水道管が破損したり、浄水場の機能に不具合が生じたりして想定外の多額の費用が必要となった場合。公的資金を入れないという前提に立てば、削減できるコストを削減するか、一時的なものも含め料金を引き上げることをしなければ、こうした不測の事態によって生じた赤字を解消させたり、収益性を安定させたりすることは極めて困難であろう。 もちろん、不測の事態に備えて、過去の災害発生データも参照しつつ、必要と思われる額の積立金等を用意しておけば、対処できる場合もありうるだろう。しかし、最近の気象状況変化や自然災害の発生状況を踏まえれば、そうした想定が容易に覆される可能性は大いにある。 つまり、杓子定規に考えれば事業者にとってもリスクが高く、軽々に参入できる事業ではないはずであるということである。 しかし、それはあくまでも杓子定規に考えた場合の話である』、いざとなれば公的資金で救済されると安易に考えているとすれば、大問題だ。
・『水道「民営化」よりもタチが悪い  一応、公的資金は入れない建前にはなっているものの、災害による被害が甚大である場合等は、事業者が多大な公的な負担を求めてくることは確実だろうし、こっそりとそれが可能な仕組みにしておく可能性がある。 それどころか、地方公共団体側が住民の不安を払拭すると称して、自ら契約の段階でそのように申し出る可能性さえある。それではまさに「カモネギ」だが、そうなると、民間資金の活用だの何だのと言っていたのに、一体何のための水道コンセッションなのか分からなくなる。 民間企業が「オイシイ」ところだけもっていき、尻拭いは住民の負担や税金。これが水道コンセッション問題の本質というところであろう。 要するに、民営化ではないが、「困ったときの公的資金」とばかりにリスクを極力地方公共団体に寄せることができる分、民営化よりタチが悪いということだろう(むろん、インフラごと民間に売り渡す民営化など論外であるが…)。 加えて、事業者といっても特定企業1社でということはなく、水道事業に強みを持つ企業を中心に金融関係の企業も含めて(コンセッションフィーの支払いもあるため)複数社の出資により特定目的会社(SPC)を設立し、これを表向きの事業主体かつお金の受け皿として、地方公共団体と運営権実施契約を締結する。 実際に維持管理や保守等、料金の徴収等を行うのはSPCから業務の委託を受けたサブコントラクター、いわゆるサブコンであり、そうした企業はSPC参加(出資)企業やその関連会社である。 SPCの資金調達方法は出資(株式)および融資(借入金)である』、「「困ったときの公的資金」とばかりにリスクを極力地方公共団体に寄せることができる」というのはモラルハザードの典型だ。「民間企業が「オイシイ」ところだけもっていき、尻拭いは住民の負担や税金。これが水道コンセッション問題の本質」とは言い得て妙だ。
・『国民の大事なインフラが金融投機の対象に  ここが次の問題点で、出資者に対する配当の支払い、および融資者に対する利払いが発生するので、SPCはそれを加味して料金を設定し、コストの適正化を図る必要がある。出資と融資の割合は対象事業や事業の仕組みによるので一律には言えない。 ただ、基本的に借入金は極力少なくしようとするし、事業の当初に大規模な建設工事等がなければ、巨額の融資を受ける必要性はない。そのためここでは出資を中心に考えると、出資者、つまりSPC参加企業、端的に言えば実際の水道コンセッション事業者たちの収入は配当である。サブコンとしての収入もあるが、こちらはSPCとしての立場で言えば費用だ。 そうした費用も支払いつつ、株主への配当を確保することになるのだが、昨今の株主資本主義の進展、それを進めてコスト削減と配当増を強く求めてきているのはグローバル企業だ。水道コンセッションで日本市場を狙っていると取り沙汰されているのもまた、水メジャーと呼ばれるグローバル企業であることを考えると、配当増とそのためのコスト削減圧力は同様に強くなると容易に想像できる。 ここがさらなる問題点で、こうした事業の構造のため、配当の確保や増額のために、サービスの質の低下や水道料金の値上げが起こる可能性が高いということである。 これは言い方を変えれば、国民の生命に関わる大事なインフラを金融投機の対象にしようという話であり、言ってみれば「インフラの金融化」である。 こんな仕組みを本当に理解して、本気で導入しようとするんですか?と政府のみならず地方公共団体に問うてみたいところだ』、「インフラの金融化」とは、国民にサービスを受けないという選択肢は全くないだけに、料金も言いなりになるしかない。トンデモない話だ。財政難を抱えた地方公共団体にとっては、運営権売却による一時的な収入が入るので、熱を上げるのは当然だ。
・『現状の水道メンテナンス等の民間「委託」とはまったく違う問題  さて、こうした仕組みが分かれば水道コンセッションは何が問題で反対意見が多いのかは理解できると思われるが、残念ながら、それを欠いたまま、誤解に基づくもっともらしい見解がメディア等を通じて飛び交っている。 そうしたものの一つに、「水道の管理や保守は今でも民間事業者に委託しているのだから、既に民営化は行われているので問題などないはずだ」というものがある。 これは「運営権を設定して水道インフラを使って事業をやるということ」と、「業務を委託するということ」の違いが理解できていないことによるものだ。 前者についてはこれまで説明してきたとおりであり、後者、つまり業務の委託とは、特定の業務について、委託料を支払ってその業務を行ってもらうものであり、水道管等も含む水道施設の保守や水道料金の徴収等、さまざまなものがある。 事業者の収入は委託料であり、業務も決められたものを行うので自由度はほとんどない。 こうした業務の委託は国・地方を問わず幅広く行われているが、これは民営化でもなければコンセッションでもない。従って、「業務の委託が行われているからといって、水道コンセッションを導入しても問題がない」という話にはならない』、その通りだが、報じるマスコミの勉強不足も困ったものだ。
・『海外の数多くの失敗事例も理解できていないという「恐ろしさ」  また、水メジャーのヴェオリアの日本法人がいくつかの地方公共団体の水道料金の徴収やメーターの検針等を行っていることをもって、「既に外資は入ってきているから水道コンセッションを導入しても問題はない」といった意見もあるようだ。 これも単なる個別業務の委託であって、水道コンセッションではないし、業務の委託は入札によって委託先の選定が行われるが、入札は基本的には外資にも門戸は開かれており、外資が受託事業者になったとしても不思議な話ではない。分かりやすい例で言えば、国の委託調査など、外資系のコンサル会社が受託している例は多数あることを想起されたい。 この誤解の派生系、「ヴェオリアの日本法人がこうした業務の委託を受けているが水道料金が上がってはいないから大丈夫だ」といったものがある。 この誤解は正直なところ問題外の発想なのだが、一応解説をしておくと、こうした事例ではヴェオリアの日本法人は決められた委託料で個別の業務の委託を受けているだけであり、水道事業を行っているわけではない。水道事業はあくまでも地方公共団体が行っているので、単なる個別委託業者のヴェオリアは水道料金の上下に関与などできない。 これ以外にも、水道コンセッションを巡る摩訶不思議な誤解はいろいろ出回っているようだが、裏を返せば水道コンセッションについて正確に理解している人は極めて少ないということであり、海外の数多くの失敗事例も、何が失敗なのかも理解できていないということであろう。 そんな状況の中で実際に導入されようとしているわけである。なんと恐ろしいことか』、料金設定は水道事業者が勝手に出来るのではなく、地方自治体か、第三者機関による審査が必要なのではないだろうか。「困ったときの公的資金」の余地を塞ぐような契約条項も必須だろう。
タグ:(関空冠水で考える…空港民営化は万能薬なのか 公共財の自覚どこへ 関空運営会社の経営陣、水道民営化促進で内閣府に出向した人の正体 7日成立予定の改正水道法に不透明な背景、水道法改正が「民営化」でないばかりかタチが悪い理由) PFI・PPP 公共部門の民間委託 吉川 忠行 日経ビジネスオンライン 「関空冠水で考える…空港民営化は万能薬なのか 公共財の自覚どこへ 関空運営会社の経営陣」 関空と伊丹 関西エアポート(KAP)が運営 航空会社の関係者から聞こえてきたのは、民営化前なら「あうんの呼吸」で進んでいたプロモーションや空港の施設運営が思うように進まなくなっている、という悲痛な声 台風21号により滑走路の冠水など大きな被害を被った関空では、KAP経営陣が早期の暫定再開案を打ち出せなかった 国主導での復旧作業が進んでいる 民営化後に生じた「公共性」への温度差 国や自治体に所有権を残したまま運営権を売却する「コンセッション方式」 KAPはオリックスと仏空港運営会社ヴァンシ・エアポートのコンソーシアムが設立 株式はオリックスとヴァンシが40%ずつ同率で持ち、関西を拠点とする企業・金融機関30社が残り20%を保有 訪日客の玄関口としての存在感が増している テナント企業などからは、放置しておけば関空のプレゼンス低下につながりかねない話ばかりが耳に入ってくる 空港地下に集中する重要施設の冠水対策は、民営化後も後回しになっている 営利企業とは対極にある「公共性」という概念の欠如 KAPの山谷佳之社長 「短期的な落ち込みは怖くないが、長引くと問題だ。コンセッション(運営権の民間への売却)も継続できないだろう。国にお返ししなければならなくなる。国もコンセッションを解除するだろう」 “民間の知恵”と、ことあるごとに言っているが、出てくるのは商業施設の話ばかり 自治体は逃げられないんですよ 空港民営化の動きを見ていると、運営会社にその覚悟があるのか 経営難に陥れば将来の運営撤退を視野に入れるような企業と、よいパートナーシップを築くのは難しい」と考えるのは自然なことだろう 国土交通省が職員5人を派遣して以降、「復旧作業が加速 利便性よりブランディングを優先 ヴァンシ・エアポート ノウハウある割に外部コンサル起用 「われわれの調査では、民営化された各国の空港で、効率性や投資水準が向上していないことがわかった。民営化に、すべての答えがあると仮定するのは間違いだ 「IATA(国際航空運送協会) 事務局長兼CEO 安積 明子 東洋経済オンライン 「水道民営化促進で内閣府に出向した人の正体 7日成立予定の改正水道法に不透明な背景」 水道事業を民間委託できる水道法改正案 ランス・パリ市では料金高騰に不透明な経営状態が発覚 水道民営化のために任用された大臣補佐官 水道法改正の背景が怪しい 福田隆之 野村総合研究所 新日本有限責任監査法人 産業競争力会議 竹中平蔵 福田氏の補佐官登用も竹中氏の意向 PFI法改正案 外国でのひどい失敗例 水メジャーの社員が内閣府の政策調査員 ヴェオリア社の女性社員 福島瑞穂参議院議員 これって受験生が採点者になって、自分の答案をこっそり採点しているようなものではないですか ヨーロッパ視察も、報告書は提出されず辞任 室伏謙一 ダイヤモンド・オンライン 「水道法改正が「民営化」でないばかりかタチが悪い理由」 水道法改正は「水道民営化」ではない インフラごと民間企業に売り渡すいわゆる「民営化」ではない 水道コンセッション 水道コンセッション事業の仕組みと問題点 民間事業者側は運営権対価を支払い、水道施設運営等事業を行う 災害による被害が甚大である場合等は、事業者が多大な公的な負担を求めてくることは確実 カモネギ 民間企業が「オイシイ」ところだけもっていき、尻拭いは住民の負担や税金。これが水道コンセッション問題の本質 現状の水道メンテナンス等の民間「委託」とはまったく違う問題 海外の数多くの失敗事例も理解できていないという「恐ろしさ」
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働き方改革(その19)(政府の「70歳まで雇用シナリオ」では高齢者も企業も幸せになれない、働き方改革にまた暗雲、裁量労働制をやめた三菱電機の決断の重み、日本人が山ほど残業を強いられる2つの根因 底なし残業なしに成立しない日本人の働き方) [経済政策]

働き方改革については、昨年10月28日に取上げた。今日は、(その19)(政府の「70歳まで雇用シナリオ」では高齢者も企業も幸せになれない、働き方改革にまた暗雲、裁量労働制をやめた三菱電機の決断の重み、日本人が山ほど残業を強いられる2つの根因 底なし残業なしに成立しない日本人の働き方)である。

先ずは、昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現代ビジネス研究所長の八代尚宏氏が10月25日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「政府の「70歳まで雇用シナリオ」では高齢者も企業も幸せになれない」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/183286
・『継続雇用年齢「70歳に引き上げ」は、効率性と公平性を欠いた仕組みの延長  政府は10月22日の未来投資会議で、「70歳までの就業機会確保」のための雇用改革案を打ち出した。働く高齢者を増やすことは人手不足や年金制度の安定化に不可欠だ。しかし、その手段として、企業が自発的に高齢者を雇用できるための規制改革ではなく、逆に雇用の義務付けという「規制強化」を用いている点に大きな問題がある。 第1に、現行の65歳までの継続雇用年齢の70歳への引き上げへの法改正である。これに対しては企業の人件費増が指摘されているが、むしろ正規・非正規社員間や、大企業と中小企業の労働者間の格差拡大という公平性の視点がより重要である。第2に、シニア層の中途・キャリア採用の拡大は、雇用の流動性を高めるという視点では望ましい。しかし、そのための具体的な政策はなく、単に大企業に中途採用比率の情報公開や協議会等で要請する等の「口先介入」で済ませるのでは不十分である。 本来の70歳雇用シナリオとは、なぜ企業が熟練労働者である高齢者を十分に活用できないのかについて分析し、次に、それを妨げている制度的な要因を取り除くことにある。こうした制度・規制の改革こそが、本来のアベノミクスの「第三の矢」であったはずだ。 現行の高年齢者雇用安定法では、定年退職者の65歳までの雇用を義務付けている。しかし、高齢者の仕事能力には大きな差があり、現役以上のスキルを持つ者もいる半面、職場のお荷物となっている場合も少なくない。定年退職直前よりも2~3割減の給料は、前者には低すぎ、後者には高すぎる。何より定年後は1年契約等の非正規社員の扱いのため、有能な人材でも責任のあるポストには就けられないという無駄遣いが生じる。 どの職場でも仕事とのミスマッチの社員を抱えると、それだけ他の社員への仕事のしわ寄せが大きくなる。とくに給与の低い若手社員にとっては、高い給与に見合った仕事をしない中高齢社員の存在が、転職の契機となりやすい。これは同じ職場の非正社員や取引先の中小企業の社員にとっても不公正な仕組みである。こうした効率性と公平性に欠ける仕組みを、さらに70歳まで5年間も引き延ばそうとすることが、今回の政府の目論見である』、「本来の70歳雇用シナリオとは、なぜ企業が熟練労働者である高齢者を十分に活用できないのかについて分析し、次に、それを妨げている制度的な要因を取り除くことにある」、「高齢者の仕事能力には大きな差があり」などはその通りだろう。
・『問題の最大要因は「60歳定年制」同一労働同一賃金、解雇の金銭解決ルールが必要  日本の高齢者の活用を妨げる最大の要因は、大企業を中心とした60歳定年制である。多くの先進国では、同一業務でありながら年齢だけを理由とした解雇は、人種や性別によるものと同様に「年齢による差別」として原則禁止されている。しかし、日本では、年功賃金と定年時までの雇用保障という慣行が、年齢による差別を不可欠にする主因となっている。このため同一労働同一賃金の原則と、画一的な雇用保障の例外として解雇の金銭解決ルールの導入により、企業が安心して定年制を廃止し、貴重な高齢人材を活用できる環境を整備することが、本来の政府の責任となる。 今回の働き方改革法でも、同一労働同一賃金の原則は示されている。しかし、勤続年数が長ければ、それに見合った高い賃金でもいいという抜け穴が残された。また、企業の同一賃金についての説明義務も設けられたが、それは労働者が納得しない場合の措置はない。 やはり欧米企業のように、「同一業務の他の社員と比べて不利に扱われている」という社員からの訴えに対して、企業側に「差別をしていない」という立証責任を、人事資料等を用いて果たすことの義務付けが不可欠となる・・・これは公害対策基本法で、被害者の訴えに対して、工場側が公害を出していないという立証責任を負うことと同じ原則である。 もっとも、日本では企業内の訓練投資を円滑に行うために、ある程度の雇用保障・年功賃金が必要という論理もある。しかし、今後の長期的な低成長時代に、60歳まで頻繁な配置転換を通じた企業内訓練を漫然と続けることは、明らかな過剰投資である。遅くとも入社後20年以内に、それまで経験した業務の内で、もっとも自分に向いた職種を選び、それに見合った賃金を受け取る。そうすれば、企業にとっても60歳という一定の年齢で、画一的に解雇する必要性はなくなる。現行の雇用慣行を全面的に変えるのではなく、欧米の職種別の働き方と組み合わせることが、本来の働き方改革である』、新自由主義者の八代氏らしい主張だが、「60歳まで頻繁な配置転換を通じた企業内訓練を漫然と続ける」というのは事実誤認なのではなかろうか。八代氏にあるまじき間違いだ。
・『シニアの中途採用拡大に欠けている「部局別採用」という視点  今回、新たに登場したものが中途採用市場の拡大という政策目標である。この目標自体はともかく、なぜ企業が、特にシニア層で中途採用に消極的かという要因分析を欠いている。本来、「新卒一括採用か中途採用か」の対立軸よりも、「人事部採用か部局別採用か」の方が、はるかに重要である。未熟練の新卒採用者に比べて、特定分野での専門的能力をもつシニア層の採用は、そのキャリアを評価できる部局の責任者による採用がミスマッチを防ぐ上で必要となる。 しかし、この場合、仮にそのキャリアを生かせる業務がなくなった場合に、雇用関係がどうなるかについて明確なルールはなく、紛争が生じやすい。これを防ぐためには、「職務・地域限定正社員」という新たな働き方のルールが必要だが、これに対して労働界の反対は根強く、法改正は先送りされている。 新卒一括採用者が企業内で配置転換を繰り返し、どの部局でも通用するジェネラリストに育成されるという、過去の高い経済成長期に成立した雇用慣行は限界に近付いている。そうした働き方も少数のコア社員には必要かもしれないが、大多数の社員は特定の職種の専門職で、より良い条件の企業に中途採用されるような流動性の高い労働市場が必要となる。企業に対してキャリア採用を増やせというだけでなく、それを実現できるための法制度を整備することが政府の基本的な責任である』、既に中途採用では部局別採用になりつつあるのではなかろうか。
・『「解雇の金銭補償ルール」の策定で透明かつ公正な労働紛争は解決できる  「日本の解雇規制は厳し過ぎ、その緩和が必要」という誤解がある。現実には、労働基準法に定められている解雇規制は、特殊な場合を除き、30日分の賃金である解雇手当のみで、それさえ支払えば、事実上、解雇自由の世界である。 また、労働契約法には、企業は解雇権を持つものの、それを濫用してはならないという「解雇権濫用法理」が示されている。しかし、この判例法の原則を単にコピーしただけの規定では裁判に訴えなければ解雇権濫用の有無が示されず、裁判の費用を賄えない労働者にとっての有効な救済手段となっていない。 解雇の金銭解決のルール導入に対して、「カネさえ払えば解雇できる」という批判は誤りである。第1に、裁判の代わりとなる労働審判や労働局のあっせんでは、すでに金銭解決が紛争解決手段として用いられており、それがなぜ裁判ではダメなのか。問題は解決金の水準であり、それがとくに中小企業等では低すぎることにある。 第2に、裁判で解雇無効判決が出た場合にも、多くの場合、元の職場への復帰ではなく金銭補償による和解で解決されており、すでに多くの解雇紛争はカネで解決されている。 それでは、なぜ、あえて欧州並みの金銭解決ルールが必要なのか。それは紛争解決の手段の差により、金銭補償額に大きな差があるためだ。厚生労働省「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」の資料では、訴訟の費用がもっとも低い労働局あっせんでの補償額は、平均して35万円に過ぎないが、裁判での和解では400万円と大きな差が生じている。 仮に欧州並みに解雇の金銭補償ルールが策定されれば、労働審判やあっせんの補償金も、それを基準にして定められることも可能となろう。「カネさえ払えば解雇が可能」と批判する論者は、裁判に訴えられない多くの労働者が十分な補償金も受け取れずに解雇されている現状をどう考えているのだろうか。 少なくとも70歳までの雇用機会の拡大は、高齢者の所得面だけでなく、年金財政健全化のためにも必要である・・・しかし、そのための手段として、政府が長年求められている制度や規制の改革を怠り、その代わりに企業に対して高齢者やキャリア採用に関する規制を強化することは、過去の産業政策と同じ手法であり、日本経済の活性化をむしろ損なうものでしかない』、安倍政権の経済政策を牛耳っている経産省らしい発想だ。「解雇の金銭補償ルール」についての八代氏の主張はもっともらしいが、私としてはもう少し慎重に考えたい。

次に、11月7日付けダイヤモンド・オンライン「働き方改革にまた暗雲、裁量労働制をやめた三菱電機の決断の重み」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/184567
・『三菱電機が、社員3万人中1万人に適用していた裁量労働制を今年3月に全廃していたことが明らかになり、波紋が広がっている。 経団連の老舗企業にして現副会長を送り出している三菱電機が、政府の「働き方改革」と連携し裁量労働制の拡大を求めてきた経団連の考え方を真っ向から否定する格好になったからだ。 全廃の背景には、裁量労働制で働いていた社員の過労自殺や長時間労働による労災認定がたて続けに起きたことがあるとみられる。 制度導入時から、残業代をもらえず長時間労働を強いられる制度として、連合などが反対していたが、政府が言う「新しい時代に合った働き方」は「幻想」にすぎなかったと、企業の側も認めざるを得なかったということなのだろうか』、経団連の考え方を副会長会社が真っ向から否定するとは、経団連も軽くなったものだ。
・『裁量労働制社員の相次ぐ過労自殺や労災が発覚  これまでにわかったのは、三菱電機で2014年から17年だけで5件が長時間労働による労災を認定され、うち3件は裁量労働制を適用された社員だったことだ。 三菱電機が関西に持つ拠点の1つ「コミュニケーション・ネットワーク製作所」(兵庫県尼崎市)に勤務していた40代のエンジニアは、通信システムなどの仕事をしていたが、2015年の秋ごろから、「残業」が急増した。 裁量労働制が適用され、仕事のやり方や作業する時間の配分なども、自由に決めてやれるはずだったが、実際は納期などに追われるようになり、結局、「残業」時間が、15年秋以前に比べて約5倍に増え、月80時間前後が続いた。 こうした状況の中で、精神障害を発症し、2016年2月に自ら命を絶った。家族からの労災申請を受けて、尼崎労働基準監督署は17年6月、長時間労働が原因の労災と認定した。 裁量労働制は、労働時間と成果や業績が必ずしも連動しない職種を対象に、仕事の仕方や時間配分を働き手の裁量に任せる制度だ。 労使で1日の労働時間(みなし労働時間)を決めれば、実際の労働時間にかかわらず、一定の賃金が支払われる。多くの場合、この賃金には、毎月一定時間の残業をしたことに相当する「固定残業代」と同程度の手当てが含まれる。 だが実際の労働時間に応じた残業代は出ないので、企業の中では残業代の支払いを抑えられるという思惑から導入するところがあり、労働組合などは、働き手がただ働きの長時間労働を強いられると、反発していた。 三菱電機では、この40代のエンジニアの自殺が起きる前にも、社員が長時間労働で労災認定を受けることが続いていた。 12年8月に、名古屋製作所で技術職の社員(当時28歳)が過労自殺。14年12月に長時間労働が原因の労災と認定された。この社員は裁量労働制ではなかったものの、数年たてば裁量労働制に移行する社員だった。 その後も、13年6月には、車載用機器を手がける三田製作所(兵庫県三田市)でも男性社員が脳梗塞を発症。16年4月には東京・丸の内の本社で働く男性社員がくも膜下出血を発症。いずれも裁量労働制が適用されたエンジニア社員で、長時間労働が原因だったとして労基署に労災と認定された。 16年11月には情報技術総合研究所(神奈川県鎌倉市)の研究職の男性社員(当時31歳)が精神障害を発症し労災認定され、当時の上司と同社が藤沢労基署労働基準法違反で書類送検された。 この時は、労基署が事案を公表したこともあって、当時の柵山正樹社長が「二度とこのような事態が起こらないよう取り組む」と、釈明し労働時間の適切な把握を強化する考えを示した。 だがそれまでに起きた裁量労働制社員らの4件の過労自殺や労災は、先月末、朝日新聞が報じるまでは、伏せられていた。 今年3月には、全社員約3万人のうちほぼ3割にあたる約1万人に適用していた裁量労働制を全廃していた』、三菱電機としては経団連内で自らの恥になるようなことは、到底切り出せなかったのかも知れない。
・『「自由に働ける」と“幻想”が作られてきた  三菱電機は、裁量労働制を全廃した理由を、「従業員の健康管理の徹底と、(社員の)労働時間を厳格に把握するため」と説明している。 裁量労働制の社員と、単純労働制の社員で、労働時間の二つの物差しがあるのは複雑過ぎて、きちんとした労働管理ができないからという。 裁量労働制だった社員には、一定時間分の固定残業代(みなし残業代)を支払い、それを超える残業については、実労働時間に応じて払うやり方に変えたという。 「裁量性のある働き方は維持する」としているが、労基法上は、以前のやり方にに戻したものだ。 一方、労災が相次いだことについては「事案が起きたことは重く受け止めている」としているが、裁量労働制全廃の直接の原因になったことは否定する。 「裁量労働制」と聞くと、専門的な技能を持った人が会社に束縛されずに自分で自分の働き方を決められる「裁量」を与えられる、というポジティブなイメージを持つサラリーマンも少なくはない。 裁量労働制を適用されている人が働く人全体の中で数%しかいないため、「裁量制を適用されるのは一流サラリーマンの証し」と考える人もいる。 だが、実際は、裁量労働制も、そうでない労働時間制(「単純労働制」)も、労働基準法に基づいて労働時間や残業支払いの規定があり、そのもとで企業の労使が選ぶに過ぎない。 それにもかかわらず、そこはかとなく裁量労働制に漂う「VIP感」は、経済界と政府によるこれまでの議論の進め方に要因があると思われる。 戦前の「工場法」の流れをくんで1947年に施行された労働基準法が想定する「労働者」は、工場で働くブルーカラーだった。労働者の労働時間は、工場のシフトに対応し、工場で働く時間かそうでないかによって明確に管理できた。 しかし高度成長期を経て、ホワイトカラーが大量に出現し、その一部は、会社にいる時もいない時も自らの創意工夫次第で収益を生み出す可能性を秘めた存在として認識されていく。 どこからが労働時間で、どこからがプライベートなのか、工場労働者のようには明確に把握できない。それどころか、働く時間が長ければそれに応じて生産物も多くなる工場労働者とは違い、ホワイトカラーの「成果」は労働時間には比例しない。 成果に見合った賃金を支払うためには、工場労働者がモデルの労働時間賃金の制度では対応できなくなった。 そこで1987年の労働基準法改正時に「新しい働き方」に適応した制度として創設されたのが、裁量労働制だった。 90年代に入ると、当時の日経連が裁量労働制の対象拡大を政府に要望。それを受ける形で、政府は対象業務を広げてきた。 こうしてホワイトカラーにとって「自由に働ける」制度というイメージや、企業が働き手の意思を尊重しているような「VIP感」が醸し出されてきた。 しかし、制度の実質は、経営者側にメリットがあることは明白だ。 労働者が何時間働いても、労使であらかじめ決めた労働時間(実務上は7~8時間程度が多いとみられる)を働いた時間とみなす制度だからだ。 多くの場合、このみなし労働時間を超えた一定の「残業時間」分について、「裁量手当」のように実質的な固定残業代が支給されるが、実際の「残業時間」がどれだけ長くなろうと、固定残業代を超える追加の「残業代」は原則支給しなくてよい。 つまり、残業時間を正確に把握し、それに応じた残業代を計算して支払う「単純労働制」に比べ、企業側の労務管理の負担は軽くなる上、労働時間が長くなればなるほど、人件費などのコストが格段に安くなる制度なのだ。 企業側が裁量労働制を「いくら社員をこき使っても、給料は一定でいい」と拡大解釈する危険性があることはこれまで何度も指摘されてきた。一方で、働き手には「給料は一定で、何時間でもこき使われる」という最悪の事態の可能性を否定できない危うい面を持った制度だ。 全国で労災認定された裁量労働制の働き手は、わかっているだけでも、14~17年度の4年間に42人にのぼる。 このうち三菱電機の社員だけで3人を占める。数百万にのぼる企業がある中では、突出した数字だと言わざるを得ない。関係者によると、三菱電機は長時間労働の問題が多発している「ブラック企業」として厚生労働省が社名公表する一方手前だったという。 厚労省との間でどういったやりとりがあったのかはつまびらかではないが、このまま裁量労働制を続けると、社員の過労自殺や労災認定が繰り返され、「ブラック企業」として公表されかねない。そんな懸念を三菱電機の首脳陣が抱いたことは、想像に難くない』、三菱電機が社名公表しない条件として裁量労働制廃止を?んだ可能性もありそうだ。。
・『企業にもデメリット多い? 経団連の足元、揺らぐ  これまで、裁量労働制は企業にとって「社員をいくら働かせても残業代は一定以上支払わなくてよい」ということでメリットがあると思われてきた。 しかし長時間労働を社員に強いていれば、いつか「労災」という形で社員が犠牲になる。そうなれば当局が動き、ブランドイメージも急落しかねない――。三菱電機の制度「全廃」を機に、裁量労働制はメリットよりもデメリットの方が大きい制度だとの認識が企業の間で広がれば、裁量労働制の存在意義そのものが問われることになりそうだ。 安倍政権は「裁量労働制拡大」の路線を一貫して唱え続け、先の通常国会に提出した働き方改革関連法案にも、これまで適用されていなかった営業職の一部に適用範囲を拡大する方針だった。 しかし、恣意的ともとれるような「不適切データ」が入った厚労省の労働時間調査を基に、安倍首相が国会で、「(裁量労働制で働く人の労働時間が)一般労働者より短いというデータもある」と答弁したことから、野党や世論の追及を受け、裁量拡大は法案から撤回を余儀なくされた。 それでも今でも、政権は裁量労働制拡大の旗は下ろしていない。経団連側も働き方改革関連法が成立した6月末、すぐさま、「裁量労働制の拡大については、法案の早期提出を期待する」(中西宏明会長)とのコメントを出した。 政府もそれに応える形で、9月20日、「有識者会議」を開催、事実上の裁量労働制度拡大の議論を再スタートしたばかりだった。 しかし、政府側もこの事態の発覚後には「対象拡大の方針を決めているわけではない」(厚労省の担当課長)とトーンダウンせざるを得なかった。 対象拡大を盛り込んだ法改正案を再来年の国会に提出する青写真を描いてきたが、「適用職種拡大は、少なくとも向こう10年は無理だ」(厚労省関係者)との声も出ている。 また、このことは、「働き方改革」の一環で、来年4月から導入が予定される「高度プロフェッショナル制度」にも影響を与える可能性もある。 裁量労働制よりもさらに労働時間などへの規制が緩く、連合や野党が猛反対してきた。制度の詳細を議論する厚労省の労働政策審議会が始まっているが、対象業務や年収要件を巡り、経営者側と労働側が早くも対立している。 政府と財界のもくろみ通りに制度設計が進むかは、ますます見通せなくなった』、「高度プロフェッショナル制度」についての労働政策審議会での審議を見守りたい。

第三に、立教大学経営学部教授の中原 淳 氏と パーソル総合研究所 が12月22日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本人が山ほど残業を強いられる2つの根因 底なし残業なしに成立しない日本人の働き方」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/256052
・『超高齢化社会を迎え、あらゆる仕組みをアップデートする必要に迫られている日本。女性やシニア、外国人をはじめとした多様な人々の力が鍵となる中、それを拒む最大の障壁が、日本独特の働き方「残業」です。 一体なぜ、日本人は長時間労働をしているのか? 2万人を超える調査データを分析し、あらゆる角度から徹底的に残業の実態を解明したパーソル総合研究所と立教大学・中原淳の共同研究「希望の残業学」プロジェクトを講義形式に書籍化した「残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? 」より、底なし残業の裏にある2つの「無限」について解説します』、興味深そうだ。
・『全体平均の残業は減ったがフルタイム従業員は高止まり  1980年代後半からは、国際的な批判の対象となったこともあり、日本全体の平均労働時間は徐々に減少してきました。1990年代、バブル崩壊後の日本企業では、雇用している従業員に大きな変動が起こります。 この時期、日本企業は長引く不況を背景に、低賃金で育成コストのかからない、アルバイト・パートという雇用形態を拡充していきました。そこに、不況によって夫だけの収入では家計が苦しくなってきた主婦や、新しく生まれてきたカテゴリであるフリーターといった労働者が参入します。 この人たちの多くは時給制賃金で、労働時間の短いシフト制などで働いているので、1人あたりの労働時間は少なくなり、「全体平均」を押し下げていったのです。一方で、「フルタイム」の雇用者の平均残業時間は長期的にほぼ同水準で高止まりし、ほとんど変わっていません。 他の分析(※)でも、日本の労働時間は1980年代後期の「時短」運動を経ても変わっていないことが統計的に示されています。 つまり、1990年代から現在にかけて起きた労働時間の変化は、「働き方の全体的変化」ではなく、「長く働く人(=正社員)」と「短く働く人(=パートタイム労働者)」の「二極化」現象であると解釈できます。 両者の平均をとっているので、表面上は減ったように見えるのです。この間、日本以外のほとんどの先進国は、さまざまな規制や施策によって労働時間を減らしてきました』、正社員の労働時間は高水準横ばいで、パートタイム労働者の労働時間は減った、というのはその通りだろう。
・『それでは、なぜ日本においては労働時間短縮施策の効果もなく、また、オートメーション化やインターネットなどの革新的技術の普及にもかかわらず、残業習慣がこれほど長く続いてきたのでしょうか。背景には、日本の職場特有の「2つの無限」があるように思います。 1つ目は「時間の無限性」です。その原因は「法規制の実効性の乏しさ」にあります。先ほども述べたように、労働基準法において法定労働時間は1日8時間、週に40時間と定められていますが、第36条により、協定を結びさえすれば、法定時間外労働と休日労働は認められます。 しかも、繁忙期などには「特別条項付の36協定届」を届ければ、残業時間の基準を超えて働かせられるため、実質、青天井で残業ができる仕組みとなっています。 つまり、規制はありつつも、その規制をすっかり「骨抜き」にする条項がしっかりとセットになっているのです』、「2つの無限」とは言い得て妙だ。
・『時間を有限とする必要がある  ヨーロッパでは、国によって基準となる時間は異なるものの、「規制の骨抜き」はできません。企業の超過残業は法的ペナルティが科されます。 日本でも、2018年に成立した「働き方改革法」により特別条項での残業時間の上限が定められたので、今後、青天井は許されませんが、月の上限は最大100時間というかなり高い水準で決着したことと、実際には労使協定を結んでいない企業も多く、実効性があるかはまだ不透明な現状があるため、今後の推移を見守る必要があります。 残業を減らすには「時間」を「有限」とする必要があることを、少し頭の片隅に入れておいてください。就業時間がどこまでかという「境界」がなければ、人は働き続けてしまうのです。 2つ目は「仕事の無限性」です。日本の職場は「どこまでが誰の仕事か」という区切りがつけにくいことで知られています。 専門用語では「仕事の相互依存性」と言います。お互いの仕事がオーバーラップ(重なりあうこと)していて、「ここからここまでがAさん」「ここからここまでがBさん」という具合に明瞭に分けられないのです。職場でごちゃっと仕事を抱え、仕事の責任範囲が不明瞭な傾向があります。 一般に日本以外の多くの国では、「ジョブ型」という雇用システムがとられています。これは、雇用契約時に結ぶ「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」という書類によって一人ひとり、明確に仕事の範囲が既定される仕組みです。まず「仕事」が存在し、そこに「人」をつけています。 それに対して日本型の雇用システムは「メンバーシップ型」と呼ばれ、先に「人」を採用してから「仕事」を割り振ります。 その結果、「必要な仕事に人がつく」のではなく、「職場に人がつき、それを皆でこなす」形になるため、「仕事の相互依存度」も高くなります。自分に与えられた仕事が終わっても、「職場のみんなが終わっていなければ終わりにくい」ところがあり、他の人の仕事を手伝う、若手のフォローアップを行う、といったプラスアルファが求められます。 これら2つの無限が重なり合い、負のシナジー(相乗効果)を生み出してしまうのが、日本の職場の特徴です』、「メンバーシップ型」は「付き合い残業」がなくならない理由でもある。
・『なぜ日本の職場で残業が発生するのか  国際的に見ると、アメリカでは労働時間に関して割増賃金の支払い義務はありますが、法による上限規制はなく、日本と同じく「時間の無限性」があります。そのため、アメリカにおいても長時間労働はしばしば問題になってきました。 しかし、アメリカの多くの企業では、職務記述書によって担当する職務が明確化されていること、さらに成果主義の徹底が労使双方に浸透していることで「仕事の無限性」は避けられています。 担当職務が明確でなく、状況と時期によって変わっていく日本では、与えられた仕事をやり遂げるだけでは評価されず、与えられた仕事「以上」を主体的に探して行うことで社内の評価を高める面があります。 まとめれば、「仕事」に対応して人が雇われていないため、見つけようと思えば仕事を「無限」にでき、さらに仕事の「時間」にも制限がない、という世界にもまれな2つの無限を持っているのが日本の職場なのです。 だからこそ、青天井の残業が発生します』、経営陣にとって「ジョブ型」にするには、職務記述書を作成したり、それを時代に合わせて更新する大きな負担がかかるが、「メンバーシップ型」はそうした面倒なしに出来るという便利なものだ。しかし、女性や外国人の活躍上の大きな障害となる。経営陣の甘えがいつまで許されるのだろうか。
タグ:高齢者の仕事能力には大きな差があり 現行の65歳までの継続雇用年齢の70歳への引き上げへの法改正 八代尚宏 正規・非正規社員間や、大企業と中小企業の労働者間の格差拡大という公平性の視点がより重要 (その19)(政府の「70歳まで雇用シナリオ」では高齢者も企業も幸せになれない、働き方改革にまた暗雲、裁量労働制をやめた三菱電機の決断の重み、日本人が山ほど残業を強いられる2つの根因 底なし残業なしに成立しない日本人の働き方) 「政府の「70歳まで雇用シナリオ」では高齢者も企業も幸せになれない」 問題の最大要因は「60歳定年制」同一労働同一賃金、解雇の金銭解決ルールが必要 継続雇用年齢「70歳に引き上げ」は、効率性と公平性を欠いた仕組みの延長 シニアの中途採用拡大に欠けている「部局別採用」という視点 本来の70歳雇用シナリオとは、なぜ企業が熟練労働者である高齢者を十分に活用できないのかについて分析し、次に、それを妨げている制度的な要因を取り除くことにある シニア層の中途・キャリア採用の拡大は、雇用の流動性を高めるという視点では望ましい。しかし、そのための具体的な政策はなく、単に大企業に中途採用比率の情報公開や協議会等で要請する等の「口先介入」で済ませるのでは不十分 働き方改革 ダイヤモンド・オンライン 「解雇の金銭補償ルール」の策定で透明かつ公正な労働紛争は解決できる 「働き方改革にまた暗雲、裁量労働制をやめた三菱電機の決断の重み」 三菱電機が、社員3万人中1万人に適用していた裁量労働制を今年3月に全廃 経団連の老舗企業にして現副会長を送り出している三菱電機 経団連の考え方を真っ向から否定する格好 裁量労働制社員の相次ぐ過労自殺や労災が発覚 「自由に働ける」と“幻想”が作られてきた 1987年の労働基準法改正時に「新しい働き方」に適応した制度として創設されたのが、裁量労働制 政府は対象業務を広げてきた 企業側の労務管理の負担は軽くなる上、労働時間が長くなればなるほど、人件費などのコストが格段に安くなる制度 三菱電機は長時間労働の問題が多発している「ブラック企業」として厚生労働省が社名公表する一方手前だった 企業にもデメリット多い? 経団連の足元、揺らぐ 長時間労働を社員に強いていれば、いつか「労災」という形で社員が犠牲になる。そうなれば当局が動き、ブランドイメージも急落しかねない 高度プロフェッショナル制度 労働政策審議会 中原 淳 パーソル総合研究所 東洋経済オンライン 「日本人が山ほど残業を強いられる2つの根因 底なし残業なしに成立しない日本人の働き方」 残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? 全体平均の残業は減ったがフルタイム従業員は高止まり 日本の職場特有の「2つの無限」 1つ目は「時間の無限性」 「法規制の実効性の乏しさ」 実質、青天井で残業ができる仕組み 時間を有限とする必要がある 日本以外の多くの国では、「ジョブ型」という雇用システム 職務記述書(ジョブ・ディスクリプション) 日本型の雇用システムは「メンバーシップ型」 「仕事の相互依存度」も高くなります 「職場のみんなが終わっていなければ終わりにくい」ところがあり なぜ日本の職場で残業が発生するのか
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インフラ輸出(その8)(鹿島に1000億円請求  アルジェリア高速道めぐるJV内バトルの裏側、JR東日本 英国で鉄道運行「1年間の通信簿」 日本が誇る「鉄道力」はどこまで浸透したのか、幻に終わった「日中鉄道協力」 タイ高速鉄道計画に日本企業がそっぽを向いた理由) [インフラ輸出]

インフラ輸出は安倍政権が成長の柱の1つとして旗を振っている。これについては、昨年11月19日に取上げた。今日は、(その8)(鹿島に1000億円請求  アルジェリア高速道めぐるJV内バトルの裏側、JR東日本 英国で鉄道運行「1年間の通信簿」 日本が誇る「鉄道力」はどこまで浸透したのか、幻に終わった「日中鉄道協力」 タイ高速鉄道計画に日本企業がそっぽを向いた理由)である。

先ずは、12月4日付けダイヤモンド・オンライン「鹿島に1000億円請求、アルジェリア高速道めぐるJV内バトルの裏側」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/187344
・『鹿島を代表とする共同企業体(JV)が2006年に受注した総工費5400億円のアルジェリア高速道路工事は、代金の未払いをめぐって同国政府と対立し、16年に和解、決着したかに見えた。ところがこの11月、JVに参加した大成建設など3社が鹿島に賠償金約1000億円を請求。JV内バトルが始まった。 1000億円に上る“授業料”をめぐる決着はまだついていなかった。ゼネコン大手の大成建設と準大手の西松建設、安藤ハザマは11月、アルジェリア高速道路工事における損害賠償金1062億円相当の支払いを、大手の鹿島に求める仲裁を一般社団法人日本商事仲裁協会(JCAA)に申し立てた。 鹿島と仲裁申立人の3社、伊藤忠商事から成る共同企業体(JV)「COJAAL」は2006年、アフリカでアルジェリア公共事業・交通省高速道路公団(ANA)から大型工事を受注。東西約2000キロメートルを横断する道路のうち、東工区(約400キロメートル)を総工費5400億円で受注した。その規模は日系ゼネコンの受注としては過去最大級の海外案件だった。 工事は06年に着工し、10年2月に完成する予定だったが、治安の悪化や、資材調達の遅滞に加え、トンネル崩落事故も発生。設計変更に伴う追加工事代金の回収もできないまま、約8割まで完成した状態で工事がストップした。 COJAALはANAと交渉を続けたが進展が見られず、14年6月に工事済み部分の代金の支払いを求めてフランスの国際仲裁裁判所に仲裁の申し立てを起こした。その結果、16年7月に和解契約を結び、未払い金の一部を受け取るとともに残り約2割の工事は解約することで合意。受注から10年を経て“大出血”を止めたが、代償に約800億円もの損失を抱えた。 損失分はすでに出資比率に合わせてJVに参加した各社が補填。ゼネコン各社は、17年度までに損失の会計処理を完了した。 鹿島、大成建設の17年度業績は好調な国内需要に引っ張られて最高益を更新。海外で被った損失が埋められて問題は一件落着したかに思われたが、仲裁申し立てにより第2ラウンドのゴングが鳴った。 「アルジェリアの案件はその実、鹿島の現場だった。大成建設など3社は社員を貸し出す立場だった」とゼネコン業界幹部。一般に、スポンサーが出資金額の差配や発注者との契約の交渉を担い、協力会社を選ぶ権利までを持つことが多い。入札時に「準備委員会」、工事進捗の区切りで「JV委員会」が複数回開催されるなど、民主主義的な仕組みはあるが、申し立て側はスポンサーに出資比率以上の損害負担を求めたのである。 第2ラウンドは、JV内の対立だ。JVの代表者である鹿島における「代表者(スポンサー)としての義務違反」が争点である。 対する鹿島の押味至一社長は、「仲裁の申し立てに対応するのみ」と多くを語らないが、鹿島側は「16年の和解はJVの総意」であるとし、出資比率に合わせて各社で損失を補填するのが筋と譲らない。申し立て側の主張が通れば、損失が上乗せされてしまう』、なにやらかつても銀行界での、協調融資が不良債権化した際に、メインバンクとその他銀行での責任の押し付け合いに似ている。現在のような貸手責任が明確化されたシンジケート・ローンと異なり、貸出額に応じて損失を負担するのか、メインバンクなどの負担を大きくするのかで大いにもめたことがある。今回の場合、国際仲裁裁判所で和解し、各社も損失処理を済ませたのに、第2ラウンドは始まったというのには違和感がある。
・『JV内バトルは株主へのポーズとの見立てあり  もっとも、鹿島が損害賠償を要求されたと公表した11月19日の翌日以降の同社株価に大きな影響はなかった。業界関係者の中には「(申し立て側は賠償金を)取れないと分かっているが、自社株主へのポーズとして仲裁を申し立てているのではないか」という“出来レース”の見立てがあるのだ。 大成建設の首脳、西松建設、安藤ハザマは株主対策と賠償金の内訳について「係争中のためコメントは控える」と回答している。仲裁の過程は非公開だが、効力は裁判と同じ。控訴の仕組みはなく、一発勝負となる。1年以内には決着すると想定される。 仮に18年度内に決着し、鹿島が賠償金を一部でも支払うことになれば、鹿島の19年度の株主配当金の原資に影響しよう。長引いて19年度に決着すれば20年度の配当に響く。鹿島側が仲裁によって巨額の損失を被れば、今度は同社の株主が黙っていないだろう。まさに“泥仕合”となる。 幕引きがなお長引くほどに高い“授業料”となった原因の一つに、国内ゼネコンの海外での経験値不足がある。 過去の海外大型案件は、戦後賠償の一環やODA(政府開発援助)が多くを占めてきた。長期的には国内の新築案件の先細りが確実視される中でODAに頼らない独自受注を海外に求める流れが生まれるも、それをこなし切れる経験が足りなかったのである。 海外売上高比率を見ると、大手エンジニアリング会社に比べてゼネコン大手の数字は軒並み低い(下図参照)。エンジ関係者は「海外では分厚い契約書を作り、リスク管理を徹底するのが常識。ゼネコンは失敗のたびに担当者が飛ばされ、経験が引き継がれない」とゼネコンの甘さを指摘する。 損害負担をめぐる争いが出来レースなのか泥仕合なのか以上に重要なのは、高い“授業料”をただの失敗による損失で終わらせないことである』、「JV内バトルは株主へのポーズとの見立てあり」、「ゼネコンは失敗のたびに担当者が飛ばされ、経験が引き継がれない」などというのは、グローバル化の時代にお粗末の一言に尽きる。

次に、12月25日付け東洋経済オンライン「JR東日本、英国で鉄道運行「1年間の通信簿」 日本が誇る「鉄道力」はどこまで浸透したのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/256867
・『EU(欧州連合)離脱問題に揺れる英国だが、ロンドンやバーミンガムのターミナル駅は通勤客、観光客、さらにクリスマスの買い物客でごった返す。構内を見渡すと、「より多くの座席、より多くの運行本数」「“運行会社オブザイヤー”に選ばれましたが、うぬぼれません」「200万ポンド(2.8億円)かけて当駅の券売機を改修しました」といった鉄道会社の広告であふれている。 こういった鉄道広告は日本でも珍しくないが、英国の鉄道システムには日本との大きな違いがある。鉄道会社間の競争が日本とは比べものにならないほど厳しいという点だ。2017年12月、JR東日本(東日本旅客鉄道)は三井物産、オランダ国鉄系の鉄道会社アベリオと共同で英国の鉄道運行事業に参入、競争に自ら身を投じた。 JR東日本はインドネシア・ジャカルタやタイ・バンコクで車両メンテナンスや乗務員教育に関する技術支援を行ってきたが、今回のように現地に人材を投入する形での運行事業への本格参入事例は初めてだ』、鉄道システムの違いは極めて大きいが、共同で参入したオランダ国鉄系の鉄道会社アベリオに当面は教えてもらうしかないだろう。
・『1つの路線で複数の鉄道会社が運行  日本同様、国鉄を分割民営化した英国では、かつて国鉄が運営していた路線の線路や架線などのインフラ管理を「ネットワークレール」という国営会社が一手に引き受けている。旅客列車の運行はエリア別に分割され、入札によって選ばれた運行会社が運行権を獲得する。需要の少ない路線には政府が補助金を出すので、閑散路線にもうま味はある。 入札制にすることで、各社の提案を競わせ、補助金の削減や旅客輸送サービスの改善が図られるという利点がある。需要の多い区間は5~6社が乗り入れることもある。 運行会社は英国、フランスなど欧州の交通事業者の出資により設立されていることが多い。音楽や航空で知られるヴァージングループや香港の鉄道会社・香港鉄路(MTR)も運行会社に出資する主要プレーヤーに名を連ねる。 運行権は期限付きであり、期限が到来すれば改めて入札で運行会社を募る。期限が切れた後は別の鉄道会社にすげ替えられるかもしれないため、緊張感を持った経営が必要となる』、「運行権は期限付き」とはなかなかいい仕組みだが、運行会社にとっては大変だろう。
・『JR東日本、三井物産、アベリオの3社連合が運行権を得たのは、ロンドンと英国第2の都市、バーミンガムを結ぶ「ロンドン・ノースウェスタン路線」と、バーミンガム近郊の路線網「ウェストミッドランズ路線」の2路線。バーミンガム・スノウヒル駅の管理業務なども含まれる。10年間にわたって両路線の運行を担ってきた、英仏大手交通事業者系のゴヴィア社から運行権を引き継ぎ、2026年3月まで運行を行う。 この2つの路線の総延長は約900kmに及び、2016年度に3.38億ポンド(約480億円)の運賃収入をもたらしている。2路線を比較すると長距離利用者の多いノースウェスタン路線のほうが運賃収入は多いが、利用者数ではウェストミッドランズ路線のほうが多いようだ。 実際の運行事業を担うのは3社が共同で設立したウェストミッドランズトレインズ(WM)社。出資比率はアベリオ70%、JR東日本と三井物産が各15%という構成だ。 WMが運行会社に選ばれた理由は非公表だが、アベリオはスコットランドやドイツでも鉄道運行を行っており、親会社のオランダ国鉄も含め、鉄道経験は豊富という事情がまず考えられる。さらに、運行会社に出資する企業の顔ぶれが固定化してマンネリ化をおそれた行政サイドが、競争原理を維持すべく新規企業の参入を歓迎するという事情もあったようだ。JR東日本が参入できる余地は大いにあったわけだ。 実際、WMが運行権を獲得したことを伝えるプレスリリースでも、JR東日本は東京において世界一混雑している駅を運営していると紹介している。その運行ノウハウの活用は現地でも期待されていた』、日本側は2社合わせて30%とは「小手調べ」には丁度よさそうだ。JR東日本も改めて運行ノウハウの活用がどこまで可能なのかを、冷静に見直してみるべきだろう。
・『日本流は導入されたのか  それから1年。JR東日本の参入によって英国の旅客鉄道事業に何らかの変化はあったのだろうか。 現在のところ、公約としている総額7億ポンド(994億円)の新車導入や既存車両の改修は手をつけた段階。これまでのところ、駅や列車に掲示されるロゴが変更された程度だ。運行会社が変わったことで、それまでの運行スタイルがガラリと変わったわけではない。 JR東日本の国際事業を担当する最明仁常務は、「きちんと機能している現地のやり方を、すぐに日本流に変えるつもりはない」と説明する。確かに、運営会社が変わったといっても、経営陣が変わっただけで、2500人を超える従業員はほぼそのままだ。役員を別にすれば、JR東日本は本社部門に1名を送り込んでいるにすぎない。 頭ごなしに日本流を押し付けても反発を買うだけだ。なぜ日本流にすべきなのか、現場で丁寧に説明して、根本思想から理解してもらう必要がある。それが定着するには長い時間を要するだろうが、まずは最初の一歩として、運行管理、車両メンテナンスなどの分野で日本流を導入できるか検討中という。 日本の鉄道輸送システムの安全性と正確性は、世界的にも定評がある。ただ、その安全で正確な運行がどのようにもたらされているかまでは、しっかり認知されているとはいえない。たとえば、日本ではおなじみの信号や標識の状態を声に出し、指で指して確認する「指差喚呼」は、単なる目視による確認と比べ安全性は格段に高まるが、世界の鉄道業界ではほとんど普及していない。最明常務は「指差喚呼をぜひとも英国で浸透させたい」と語る。 混雑の解消も日本の知見が期待されている課題の1つだ。ロンドンからミルトン・ケインズ(ロンドンから約80km離れたベッドタウン)に至る区間は4つの運行会社が競合するが、とりわけWMが運行する列車は夕刻時に混雑率187%に達し、2018年夏に運輸省が作成した混雑率ランキングで第5位にランクされた。 「今後、新車両投入、増発、車内レイアウトの工夫などによる輸送力向上で解決していきたい」と、JR東日本・英国フランチャイズグループリーダーの小島泰威氏は話す。2019年5月のダイヤ改正を皮切りに、2020年、2021年と段階的に輸送量を高めていく構えだ。 英国の通勤列車の座席は日本のように横に長いロングシートではなく、向かい合って座るクロスシートが採用されていることが多い。通路が狭いからかもしれないが、混雑区間に実際に乗車してみると、ドア付近に多くの乗客が固まっていることに気づく。細かく車内アナウンスをして、奥に詰めてもらえれば、多少なりとも車内は快適になる。こういうちょっとしたことでも、今後、JR東日本のノウハウが役立つかもしれない』、「指差喚呼」はプライドが高い英国人からは抵抗を受けるかも知れない。「正確性」は多くの要素から成り立っているので、時間がかかるのではなかろうか。
・『目指すはJR東日本が主導する運行  アベリオ、JR東日本、三井物産の3社は、「サウスイースタン路線」の運行権獲得にも名乗りを上げている。ロンドンとアシュフォードを結ぶ、日立製作所が製造した高速列車が走っていることで日本でも知られている路線だ。利用者数も運賃収入もウェストミッドランズを大きく上回る。 首尾よく運行権獲得に成功し、ここでも実績を重ねれば、JR東日本はもはや新参者ではない。現在は15%出資にとどまるが、将来、別の案件が出てくれば、今度は主導的な立場で英国の鉄道運行に携わる可能性があるかもしれない。 そのためには「日本とは仕組みがまったく違う国で交渉できる力を身に付ける必要がある」と小島氏は話す。運行会社は運輸省、ネットワークレール、車両リース会社、車両保守会社などさまざまな立場の当事者と折衝を行い、ベストの解決策を探っていく。「欧州で豊富な経験を持つアベリオの仕事のやり方は、見ていてたいへん参考になる」(同)。 活躍の場は英国だけとは限らない。外国企業にも運行業務の門戸を開いている国は世界中にある。MTRは英国の運営会社に出資しているほか、スウェーデンの都市間鉄道やメルボルンの都市鉄道の運行も行うなど、世界中で鉄道事業を行っている。規模でMTRを上回るJR東日本が同様に海外展開できないはずはない。 「HITACHI」ブランドで英国を走る高速列車、アメリカ・ニューヨーク市の地下鉄車両でシェア首位の川崎重工業のように、日本の鉄道産業における海外展開例の多くは車両メーカーだった。鉄道会社ではJR東海(東海旅客鉄道)による台湾高速鉄道への技術コンサルティング、東京メトロ(東京地下鉄)によるベトナム・ホーチミンの都市鉄道プロジェクトへの運営支援、JR西日本によるブラジルの都市鉄道事業への出資などがにとどまる。日本の鉄道力を支える鉄道会社が世界における運行事業に乗り出さないのは、あまりにももったいない』、ずいぶん前のめりだが。台湾高速鉄道では、事故原因は未確定ではあるが、何らかの責任を問われる懸念もある。鉄道事業はリスクがある以上、政府のスローガンに惑わされることなく、一歩一歩、着実に前進してもらいたいものだ。

第三に、12月30日付けのYahoo!ニュースがThe Asahi Shimbun Globe記事を転載した「幻に終わった「日中鉄道協力」 タイ高速鉄道計画に日本企業がそっぽを向いた理由、現地で見えた」を紹介しよう。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181230-00010000-globeplus-int&p=1
・『タイと中国が建設へ  タイの新たな高速鉄道計画が動き始めた。大詰めを迎えた国際入札は、地元大手財閥と中国国有企業を中心とした企業連合の落札が濃厚だ。日本政府は中国との外交関係の改善の象徴として、日中両国の企業が協力して参画する案にこだわっていたが、幻に終わった。その背景を、新線の区間とほぼ重なる在来線に揺られながら考えた』、興味深い内容のようだ。
・『高速鉄道始動 一日一往復から乗客激増を期待  この高速鉄道は、バンコク首都圏のスワンナプーム、ドンムアン、ウタパオの3空港をつなぐ。総延長は約220キロ。名古屋―新神戸間とほぼ同じ距離だ。最高時速は250キロを予定し、約1時間で結ぶ。プラユット暫定首相が率いる軍事政権が、経済振興策の目玉とする「東部経済回廊(EEC)開発構想」のひとつで、日本企業が多く進出する地域を走り抜ける。費用は2471億ドル(約8000億円)とされる。 12月21日に明らかにされた国際入札の結果によると、地元の最大財閥チャロン・ポカパン(CP)グループと中国国有の鉄道建設会社である中国鉄建(CRCC)が出資する企業連合が優先交渉権を獲得した。問題がなければ、年明け1月中に正式に決まる。 新線の沿線にエビ養殖の土地などを持つCPは早くから意欲を示してきた。タイの高架鉄道を運営するBTSグループが主導する企業連合も入札には参加したものの、当初からCPが本命視されていた。軍事クーデターで2014年に生まれた現政権は、初めての総選挙を2月に予定している。その直前に確定させるのは、大型の利権を有力財閥に分配すると同時に、経済的な成果として有権者にアピールする狙いもあるはずだ』、なるほど。
・『この路線、どんなところを走るのだろう。新線とほぼ重なる在来線に乗ってみることにした。 地図を見ると、海岸線に沿ってひたすら南下する。ビーチリゾートで有名なパタヤを通る。海の景色が楽しめるかもしれない。終点はバーンプルータールアンという聞き慣れない地名だ。よほどお客が少ないのか、1日1往復しか走っていない。平日はエアコンなしの3等車、土日はエアコンつきの2等車だ。しかも、今春まで週末は運行していなかったそうだ。 師走の日曜日、23日早朝。バンコクの中央駅にあたるフアランポーン駅へと急いだ。ほとんどの路線が乗り入れるタイ鉄道網の中心だ。東京駅と上野駅を足したような存在とも言える。私の列車「997番」も、この駅が始発だ。 クリーム色のドーム形の駅舎は、ドイツのフランクフルト駅をモデルに1916年に造られた。100年余りの歴史がある。プラットホームへの出入り口には、ラーマ5世(チュラロンコーン、1853~1910年)の肖像画がどーんと掲げられている。タイの近代化を進めた名君として誉れ高く、鉄道の父とも言われる存在である。 駅に改札はない。切符を買っていなくてもプラットホームに自由に入れる。駅の気配が恋しくなるとき、列車に乗る予定がなくても足が向く。この日は切符を携えて、久しぶりのタイ列車旅だ。 つややかな青に赤と白のラインが施された車両が、8番ホームで待っていた。3両しかない。6時45分に出発し、終点には9時50分に着く。200キロ弱の道のりを約3時間かけて走る。料金は170バーツ、約600円である。 車体にスプリンターと英語でも書いてある。これだったか。90年代に飛行機に対抗する切り札として投入されたと聞くディーゼル機関車だ。100キロ台の最高時速を考えると、いくらなんでも無理があるが、エース級の位置づけを思わせる物語である。 以前、北部の最大都市チェンマイへ行ったときは2時間以上も発車が遅れた。心配していたが、定刻より1分半、早く出発した。この差を気にしていたのは、私だけかもしれないが…。 1車両72人乗りにもかかわらず、お客は私を含めて6人だけ。なぜか制服姿の職員が数人車両に乗っている。ほどなく茶色の制服の車掌さんが検札にやってきた。食堂車も車内販売もないことが分かった。がっかりしたが、3時間余りなら仕方ない。「コップクンクラップ(タイ語でありがとう)」。にこやかに去っていった』、在来線ではあるが、「1車両72人乗りにもかかわらず、お客は私を含めて6人だ」というのではまるでローカル鉄道だ。目論見通りに、高速化で客が激増するのだろうか。
・『列車よりバス、飛行機のお国柄  グウーン、グウーンとディーゼルエンジンの音が響く。7時15分ごろ、オレンジの太陽がのぼった。しばらくバンコクの市街地を走る。高層ビルとトタン屋根のバラックがごちゃまぜに目に入る。線路に迫る距離で、Tシャツなど衣類を売る屋台が店開きしている。 平日は通勤通学で使うお客がいる区間だ。スワンナプーム空港へ向かうエアポートレールリンクや地下鉄と乗り換えできるマッカサン駅も通る。この駅周辺は、高速鉄道とセットで開発される。鉄道で赤字が出ても、不動産や商業施設から利益を上げられるとして、タイ政府は事業の運営者となる企業連合への財政補助を渋ってきた。 ビュン。対向車両とすれ違った。このあたりは複線だ。 出発して1時間もたたないうち、外の景色は緑になってきた。水を張った田んぼも見える。気がつくと単線になっている。うとうとしているうち、シーラチャ駅に着いた。ビルが見える。この地域は、タイ政府が開発に力を入れる東部経済回廊(EEC)の中核でもある。自動車関連など日本企業も多く工場を構えている。十年前にはタイでは二つめの日本人学校も開校した。 パタヤ駅に着いた。国王の大きな写真を飾っている。海岸線からは離れているらしく、道中、海はまったく見えなかった。残念だ。 9時40分。終点のバーンプルータールアン駅に着いた。予定より10分ほど早い。私の車両は、もっとも多いときで地元のお客さんを中心に30人ぐらい。半分も埋まっていなかった。タイの鉄道で常に目に入る世界中からやって来るバックパッカーが、ほとんどいなかったことには驚いた。 ホームに降りて、見渡すと向かいの草むらに朽ちかけた古い車両が転がっている。トイレやホームは清潔に手入れされていたが、小さな駅には食堂もない。戻りの列車は、15時50分発…。駅でバナナチップスや総菜を売っていた女性が、パタヤまでミニバスで行って、バスでバンコクに戻れると教えてくれた。合計168バーツ。列車の運賃とほぼ同じである。バスは20分おきに往来している。空港へも直行便がある。家や職場などが駅に近いか、よほどの愛好家でないと鉄道は利用しないだろう。バックパッカーの目線でいえば、リゾート地や工場地帯を走る路線は刺激に乏しい。 だから、1日1往復なんだな。 終点の駅の近くにウタパオ空港がある。60年代から75年まで続いたベトナム戦争中は、米軍が東南アジアの重要な基地とした空港である。B52爆撃機が飛び立っていった。終点の駅から近いサタヒップ港にも米艦隊が寄港した。タイは見返りに巨額の援助を受け取った。そもそもパタヤは米軍兵士の休暇のために両国合意のもとに開発された。歓楽街は米兵でにぎわった。この付近は当時、米国の後方基地だったのだ。 ミニバスが、タイ海軍の広い基地を囲む塀のわきを通り過ぎた。ウタパオ空港はその後、中国やアジアから民間機も乗り入れる軍民共用の空港になった。タイ政府はさらなる開発を目指して、高速鉄道を延伸させる構えだ。 タイの鉄道の歴史をさらにひもとくと、開業は1890年代。主に英独の企業が建設に関わった。当初は標準軌(1435ミリ)だったが、その後、基本的に狭軌(メーターゲージ、1000ミリ)で整備された。現在の営業距離は4000キロを上回る。 ただ、バンコクの知人たちは、市街地を走る高架鉄道と地下鉄を除けば、ほとんど列車を使わないと言う。パタヤに行くにもバスやマイカー、もっと離れた場所なら飛行機。近年は格安航空会社が国内もぶんぶん飛んでいる。鉄道は、安いが便数が限られ、遅れもめずらしくない。とりわけ長距離になると、世界のバックパッカーや鉄道ファンから愛されるほどには頼りにされていないようにみえる。 タイ政府は、高速鉄道の開通で乗客の激増を期待する。確かに、1時間といえば通勤圏にもなりうる。とはいえ、高速鉄道は高くつく。公共輸送として運賃の設定は制限される。そもそもバスなどと競争できない値段では、お客にそっぽを向かれる。民間が経営したところで、採算という関門はつきまとう。 着工から5年後の完成が目標とされる。私が見た風景は、どんなふうに変わっていくのだろうか』、不便な鉄道から離れた人々が、高速鉄道の開通で戻ってくるのかは1つの社会実験だ。
・『「政熱経冷」政治と現実の距離  高速鉄道計画のなかでも、現政権がもっとも力を入れる路線の建設を、地元最大の財閥であるCPグループを核とした企業連合がてがける方向で進んでいることは想定通りの展開とも言える。 だが、途中、ひと波乱あった。 日本政府が、日中両国の企業が協力してタイで高速鉄道の建設に取り組む案に熱をあげたのだ。世界各地で受注に火花を散らしてきた日中の協力は、外交関係の改善の象徴になると考えたからだ。中国政府も、のった。米国のトランプ政権との衝突が強まるなかで、隣国日本との関係強化を示すには好都合な案件だった。 タイ政府も最終的には歓迎した。タイのお家芸は、安全保障を含めて競い合う日中を両てんびんにかけて、自国の利益を最大化しながら八方美人的にバランスをとること。地図にもあるバンコクから北へ向かう高速鉄道の場合、東は中国、西は日本へ委ねてバランスをとった。今回の路線も、本音では日中が張りあって良い条件を出してくることを期待していたかもしれない。だが、80年代から浮いては消えてきた大事業だ。日中そろえば、事業の具体化をより裏打ちできると踏んだ。 日本政府は、安倍晋三首相の10月の訪中時にあわせて「第三国での日中協力」の目玉として合意を発表できるように、日本企業の背中をおしていた。6月の時点では伊藤忠商事や日立製作所、フジタなどが入札に参加する条件となる資料を購入した。とりわけ、伊藤忠商事はCPグループ、中国国有の巨大企業集団である中国中信集団(CITIC)と提携関係にあるだけに、この案件にも参加が期待されていた。だが、日本勢は結局、動かなかった。 なぜか。 タイ政府は財政負担を嫌い、土地の収用や既存の鉄道施設の修繕にかかる費用以外は、補助しないと譲らなかった。一等地の駅前開発を抱き合わせるのだから、民間でうまくやってくれ、という理屈だ。巨額の投資が必要となる公共事業にもかかわらず、タイ政府が利益の保証をしないため、日本企業は消極的な姿勢を変えなかった。 「大赤字になりうるリスクを抱える路線に、政治の要請とはいえ、民間企業がのれるわけがない。誰も手をあげないと思う」。日本の大手商社の幹部は早くから断言していた。「新幹線」の輸出に必要なJR各社は当初から関心を示さなかった。インドで受注した高速鉄道の建設で手いっぱいでもある。日立製作所はイタリアの子会社で製造した車両の販売には関心を示しても、事業のリスクを背負う出資者になるつもりはなかった。 あちこちで頓挫している原発輸出と同様に、政治と経済の現実にはしばしば乖離(かいり)が生じるものだ。日本の民間企業は、国家との関係も利益構造も中国の国有企業とは異なる。当然の選択といえよう。 政熱経冷―。日中協力は幻に終わった』、鉄道だけでは採算が取れないので、駅前開発を抱き合わせるというのでは、日本企業が乗れないのは当然だろう。安倍政権も肝心の日本企業がついてこないとは、とんだ恥をさらしたものだ。
・『バンコクでは高速鉄道だけではなく、レッドラインと呼ばれる高架鉄道をはじめ、数々の新線が計画されている。中央駅の役割を担っているフアランポーン駅は老朽化しているうえ、都心にあるため、対応ができないという。そこで、バンスー駅のそばに、新しい巨大な駅舎を建設している。 東南アジア最大の駅舎とうたわれる新駅は、レッドラインの開業にあわせて2020年にもオープンする予定だ。巨大なアーチ状の屋根が特徴で、24のホームが設けられる。 フアランポーン駅は基本的に、旅客の輸送の拠点としての使命を終えるが、駅舎を保存して博物館にする計画が公表されている。ただ、ホテルやショッピングモールなど商業施設も併設する構想が語られており、具体的な内容は固まっていないようだ。 現在の駅にも小さい「鉄道博物館」がある。古い切符やプレート、信号やタイプライターなどを展示している。ただ、お土産品や関係ない置物といっしょくたにして並べてあり、日本人が思い浮かべる「鉄博」には遠い。車両の展示ができるスペースもない。 博物館構想にかかわるタイ国鉄のシリッポン・プルチパンさんは「議論の途中ではあるが、伝統のある建物を保存し、うまく活用したい」と話す。かつてバンコクには、民間の鉄道ファンがつくった鉄道博物館が中心部の公園にあったが、訪れる客が減って12年末に閉館してしまったそうだ。 興味深い話をきいた。駐タイ台北経済文化事務所が6月、台湾で鉄道文化の保存に携わる専門家をバンコクに呼んでセミナーを開くなど、協力する意向を示しているそうだ。日本も、「文化的な側面から、機会があればかかわっていきたい」と国際交流基金バンコク日本文化センター所長の吉岡憲彦さんは話す。 フアランポーン駅は通称で、正式にはクルンテープ駅、あるいはバンコク駅と言う。タイ語で「天使の都」を意味するクルンテープは、まさに「バンコク」のことだ。列車が去ったあと、タイ鉄道の歴史をとどめる博物館が生まれることを願っている』、安倍政権の掲げる「インフラ輸出」は、英国の鉄道を除き難航気味だ。原発輸出も難航しており、経産省が描いたシナリオは馬脚を現しつつある。
タグ:インフラ輸出 (その8)(鹿島に1000億円請求  アルジェリア高速道めぐるJV内バトルの裏側、JR東日本 英国で鉄道運行「1年間の通信簿」 日本が誇る「鉄道力」はどこまで浸透したのか、幻に終わった「日中鉄道協力」 タイ高速鉄道計画に日本企業がそっぽを向いた理由) ダイヤモンド・オンライン 「鹿島に1000億円請求、アルジェリア高速道めぐるJV内バトルの裏側」 鹿島を代表とする共同企業体(JV)が2006年に受注した総工費5400億円のアルジェリア高速道路工事 JVに参加した大成建設など3社が鹿島に賠償金約1000億円を請求。JV内バトルが始まった 代金の未払いをめぐって同国政府と対立し、16年に和解、決着したかに見えた 東工区(約400キロメートル)を総工費5400億円で受注した。その規模は日系ゼネコンの受注としては過去最大級の海外案件 治安の悪化や、資材調達の遅滞に加え、トンネル崩落事故も発生。設計変更に伴う追加工事代金の回収もできないまま、約8割まで完成した状態で工事がストップ フランスの国際仲裁裁判所に仲裁の申し立て 和解契約を結び、未払い金の一部を受け取るとともに残り約2割の工事は解約することで合意 代償に約800億円もの損失 17年度までに損失の会計処理を完了 アルジェリアの案件はその実、鹿島の現場だった。大成建設など3社は社員を貸し出す立場だった 申し立て側はスポンサーに出資比率以上の損害負担を求めた 第2ラウンドは、JV内の対立 JV内バトルは株主へのポーズとの見立てあり 東洋経済オンライン 「JR東日本、英国で鉄道運行「1年間の通信簿」 日本が誇る「鉄道力」はどこまで浸透したのか」 JR東日本(東日本旅客鉄道)は三井物産、オランダ国鉄系の鉄道会社アベリオと共同で英国の鉄道運行事業に参入 1つの路線で複数の鉄道会社が運行 運行権は期限付きであり、期限が到来すれば改めて入札で運行会社を募る 2つの路線の総延長は約900kmに及び、2016年度に3.38億ポンド(約480億円)の運賃収入 出資比率はアベリオ70%、JR東日本と三井物産が各15% 運行ノウハウの活用 日本流は導入されたのか なぜ日本流にすべきなのか、現場で丁寧に説明して、根本思想から理解してもらう必要がある 日本の鉄道輸送システムの安全性と正確性 指差喚呼 目指すはJR東日本が主導する運行 Yahoo!ニュース The Asahi Shimbun Globe 「幻に終わった「日中鉄道協力」 タイ高速鉄道計画に日本企業がそっぽを向いた理由、現地で見えた」 タイの新たな高速鉄道計画 国際入札は、地元大手財閥と中国国有企業を中心とした企業連合の落札が濃厚 日本政府は中国との外交関係の改善の象徴として、日中両国の企業が協力して参画する案にこだわっていたが、幻に終わった 高速鉄道始動 一日一往復から乗客激増を期待 地元の最大財閥チャロン・ポカパン(CP)グループ 中国鉄建(CRCC)が出資する企業連合が優先交渉権を獲得 列車よりバス、飛行機のお国柄 「政熱経冷」政治と現実の距離 日本政府が、日中両国の企業が協力してタイで高速鉄道の建設に取り組む案に熱をあげた 中国政府も、のった 巨額の投資が必要となる公共事業にもかかわらず、タイ政府が利益の保証をしないため、日本企業は消極的な姿勢を変えなかった 一等地の駅前開発を抱き合わせるのだから、民間でうまくやってくれ 安倍政権の掲げる「インフラ輸出」 難航気味
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人生論(その2)(人生の諸問題@NBOファイナル その3:偏差値70の高校野球選手は大学に行くべきか?、その4:“超絶技巧タックル”に学ぶわれらの諸問題) [人生]

1日に続いて、人生論(その2)(人生の諸問題@NBOファイナル その3:偏差値70の高校野球選手は大学に行くべきか?、その4:“超絶技巧タックル”に学ぶわれらの諸問題)を取上げよう。

先ずは、昨年12月27日付け日経ビジネスオンラインが掲載した電通を経て独立した岡 康道氏と、コラムニストの小田嶋 隆氏を基本とした対談を、フリージャーナリストの清野 由美氏が聞き手として取りまとめた「人生の諸問題@NBOファイナル その3:偏差値70の高校野球選手は大学に行くべきか?」を紹介しよう。ーーは聞き手。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/134215/121900018/
・『ーー第2回からの続きです。「日経ビジネスオンライン」連載での最後のシーズンとなったのに、全4回のうちの2回を雑談で使ってしまいました。今回からは気を取り直して、「2018年を振り返る」の本題に入りたいと思います。 小田嶋:年末の話題で言えば、相撲協会と貴乃花(貴乃花 光司氏)ですかね。 岡:そうそう、貴乃花ね。 小田嶋:貴乃花はね、俺、これ、蛮勇を振るって、勇気を振り絞って言い切るけど……あの人、まずいよね。 全員:うーーん。(と、小田嶋さんの蛮勇に感嘆) 小田嶋:この先、彼は誰かが歯止めを掛けないといけない。人気のある人だから、国政選挙に出る線も濃いと思うんだけど、そもそも相撲協会的にすごく扱いに困っていたでしょう。それでも、一定の支持者が付いちゃっているから、それを無視できない。貴乃花で商売しようとしている層が出現しちゃっている。 岡:ある種、何かの星みたいなところに行っているよね。純粋だから、かえって始末に負えない。 小田嶋:純粋という言い方も何だけれども、言葉を言葉通りにしか解釈できないとか、文脈が分からないとか、そういう感じがすごくあって。 岡:そもそも相撲界って、中学を卒業したぐらいから入門するから、社会経験がゼロみたいな人たちだらけなんですよね。 小田嶋:そうそう。 岡:しかも、ほら、先代の貴乃花の息子ということは、要は大金持ちの相撲エリートで中卒だから、社会のことはほぼ1ミリも分かっていないはずです。 小田嶋:いわゆる「電車の切符を買ったことがない」というタイプなのかもしれない。なおかつ相撲協会の仕組みというのは、現役時代をそのまま反映しているということで、社会とか世間とかとは、とんでもない断絶が普通になっている世界。現役時代に番付1枚上が、絶対的に上だというのはいいんですよ。 岡:だから、そこは美しい猿山だよね(前回参照)。みんな、栄養がよくて、肌がつやつやしているし。 小田嶋:その猿山社会が、そのまんま協会の理事長や理事に横滑りするんですよ。大横綱だった人が理事長、大関が理事って具合に、番付そのままにマネジメント機関の地位が決まっていく。あいつは前頭止まりだったから、理事はここまででしょうと、全部連動しているんですよ』、相撲界をめぐる問題は、このブログでは、2月14日、10月17日でも「日本のスポーツ界」として取上げた。昨年は、その他のスポーツ界でも不祥事が頻発したが、やはり冒頭に相撲界が取り上げられるだけの酷さだった。
・『現役トップは競技団体トップに向くか?  岡:現役時代に一番強かった人が、協会で一番偉くなるというのは、これはほかの競技団体ではあまりないですね。 小田嶋:実は競技でトップに立っちゃう人というのは、ある意味、視野の狭い人ですからね。それこそ、余人の追随を許さぬほど、その道に精進したわけだから。 岡:そういう人は、そりゃマネジメントには向いていないですよ。 小田嶋:サッカーやバスケでは、名監督になった名選手は、ほぼいないです。だいたい補欠だったりした人が、後に名監督と呼ばれたりするようになる。 岡:例外が、王貞治さん。王さんみたいな人格者で、周りも見える一流選手で、一流監督というのは、王さん以外はいなかった。 小田嶋:王さんは超例外ですね。だいたい張本さんとか、ああなっちゃう。一番典型的なのは……。 岡:カネやん(笑)。 小田嶋:そう、カネやん。カネやんというのは、いい人で、面白い人だけど、マネジメントができる人じゃない。 岡:カネやんには無理だよ、そりゃ。 小田嶋:だけどカネやんみたいな人がトップに立っちゃうのが、相撲協会の体質なわけだよ。野球はいろいろ悪口を言われているけど、一応外部のコミッショナーを置くとか、あるいは企業のトップの人間との交流があるとか、球団社長がいて、監督がいて、コミッショナーがいて、GMがいてという指揮系統はそれなりに敷いている。 岡:まあ、混乱はしているけど、一応はそういうものがある。 小田嶋:その意味で、まるっきりのピラミッドじゃないわけです。一方で、相撲協会はああなっちゃっていますからね。 岡:すごいよね、あれ。 小田嶋:あれ、ひどいです。その中で貴乃花という人は、一種純粋すぎるというのか何というのか、融通がきかなすぎる。だから彼をめぐる騒動では、貴乃花も相撲協会も、どっちも味方できない感があったじゃないですか。 岡:どっちもどっち感があったね。 小田嶋:貴乃花は、モンゴルから相撲を取り戻せみたいなことを、いろいろなところで漏らしているけれど、あれはちょっと民族偏見が混じっている感が、どうしても漂うのね。言いたいことは分かるんだけど、白鵬だとかあの辺のモンゴルの連中が、日本の相撲を悪くしているという見方は、どちらかというと偏見で、それに乗っかっちゃっているネトウヨが結構いる。 岡:うーん。 --相撲はこのくらいにして、岡さんお得意のプロ野球に行きましょうか。 岡:そう、プロ野球と言えばドラフトだよ。ドラフト会議には、今年も行きましたよ。 --出ましたね、関係者枠』、相撲協会のガバナンスの酷さはスポーツ界でも突出しているが、「その猿山社会が、そのまんま協会の理事長や理事に横滑りするんですよ」であれば当然の結果だ。それなのに、スポーツ庁はどうも「お咎め」なしで済ませようとしているのも酷い話だ。
・『有名高校選手がそろってプロへ  小田嶋:すっかりDeNAの関係者として定着したね。 岡:そうです。横浜DeNAベイスターズのユニフォームのデザインをしている人間として。今年一番びっくりしたのは、甲子園で活躍した有名な高校生選手が、全員プロに行くことを選択したことですね。 小田嶋:ああ、確かに。 岡:去年の清宮幸太郎君以来、大学進学の価値がどんどん下がってきているんだな、と、ちょっとショックを覚えた。 小田嶋:高校生が日本のプロ野球に行くときは、その先にメジャーを見ている様子も増えたね。 岡:それもある。メジャーを見ているから、大学なんか行かないで、早くプロ入りをして力を付けた方がいい。なんといっても、大谷の成功例もあるしね。大阪桐蔭の藤原恭大、根尾昴、ピッチャーの柿木蓮、報徳の小園海斗、金足農業の吉田輝星君と、全員プロに行きましたからね。 小田嶋:さーっと名前が出てくるね。 ーーすごい。プロですね。 小田嶋:ドラフト解説の番組ができる。 岡:その中で驚いたのは、あれほど有名になった金足農業の吉田選手を、1位で指名した球団は、外れ1位の日ハムだけだったということです。だって準優勝投手だよ、彼は。しかもマスクもいい。それなのに、あとの11球団は見送ったというのは、これはなぜだろうという。 小田嶋:スカウトの目とメディアの目は違う、ということかな。 岡:スカウトもおそらくは吉田投手に斎藤佑樹の幻影を見たと思うんですよ。つまり、投げ過ぎの肩を心配したというより、すでに投手人生のピークを過ぎたんじゃないかということですよね。 小田嶋:高校ピークで、伸びしろがいかがなものか、と』、金足農業の吉田選手には、今後も大きく成長してスカウトの目をあかしてほしいものだ。
・『日ハム的には元が取れる  岡:でも、その中で、日ハムだけは別なんですよ。なぜなら斎藤佑樹を自分たちで獲得して、一流の投手にはならなかったけれど、観客動員は十分だし、うちら、ビジネスとして成功したでしょうと。 小田嶋:斎藤佑樹は鎌ケ谷のファイターズスタジアムの二軍のエースで、あそこにすごくお客が来ているから、たぶんは日ハム的には十分、元は取っています。だからあれは失敗じゃないよ、と。日ハムって、異常にくじ運がいいことも含めて、ちょっとそういう球団だよね。 岡:そもそも大谷も採っていれば、中田翔も採っているし、あと、ダルビッシュ有も採っている。すごいよね、このくじ運。 小田嶋:それで選手を上手にブランディングして、ポスティングで外に出して、莫大な金を得る。 岡:吉田投手と投げ合って勝った、大阪桐蔭のエース柿木も、日ハムは4位で指名しているんだよ。だから、甲子園で投げ合った2人という、すごい華やかなドラフトのラインナップになっている。これって、どちらかが育てばいいや、ということでしょう。まあ、これはまったくの僕の予測だけど。 小田嶋:いや、もうプロスカウトの目だよね(笑)』、日ハムはくじ運の良さだけでなく、戦略的にも優れているようだ。
・『岡:僕、ちょっと吉田君が気になったのは、試合前と試合の後に、センターに向かって刀を抜くポーズとか、刀をしまうポーズをやっていたでしょう。仲間と合図し合ってね。かわいいんだけど、子どもか、と。そのメンタルで、プロで投げられるのか、と、スカウトの目としてはそういう懸念はあった。 小田嶋:なるほど。そうすると、根尾オシになるわけか。 岡:そうなのよ。 小田嶋:根尾は、これまた大人ですからね。 岡:両親とお兄さんがお医者さんなので、周囲が恐れたのは、彼が野球は高校までと言って、医学部を受けるんじゃないかということだった。 小田嶋:勉強の方も偏差値が70いくつかで、医学部に行っても全然不思議はないという話だったね。 岡:だから根尾が対戦相手に出てきたら嫌だな、というのはあるよね。まあ、僕たちと対戦するわけはないんだけど(笑)。彼は中学のときはスキーの選手で、全日本で優勝して、日本代表としてイタリアで試合をしているんだよね。 小田嶋:頭のよさにしても、インタビューを聞いていたら別ものだものね。 岡:だから、日大の宮川選手の系譜なんです。根尾はいずれ、どういう形であれ、日本の野球界でマネジメント側に立って、全体を背負うんじゃないかと、18歳にして感じさせる。彼にとってはもう、医者になる以外は、大学に行くことの意味も、たぶんないんじゃないかな。 小田嶋:それは、今の世代ならではの話に思えるね。 岡:ああいう選手は、昔は6大学の早慶でやっていたんだけどね』、根尾がそんな凄い素質に恵まれた選手というのを、初めて知った。
・『素質に恵まれていて、勉強もできるのに  小田嶋:それのもう少し極端な例を言うと、江川の例になるんだろうな。 岡:確かに。 小田嶋:江川は、どういう育ち方をしたのかちょっと微妙なんだけど、ものすごい素質を持っていたことは絶対に確か。しかも、頭がそこそこいい。そこが彼の場合は裏目に出たんだけど、もしかしたら世界一かもしれない肩が自分に付いている。この肩を持った自分なら、慶應に入れるはずだ、と目標設定を間違えてしまった。 岡:早稲田にしておけば、絶対に通ったと思うんだけどね。 小田嶋:慶應は早稲田と違って、スポーツ枠がなかったからね。しかも、江川があまりにも注目され、全共闘が不正入試を許すのかと騒いだもんだから、大学としては江川を採る道がまったくなくなってしまった。 岡:それ、全共闘より、江川を選んでいた方が全然よかったのにね。 小田嶋:江川は作新学院でも、勉強の成績がよくて、野球をやらないで勉強1本に絞れば一般入試でも慶應に行けたかもしれないんだよ。でも、野球で行けるんだからといって野球を頑張ったら、野球じゃ慶應は入れない、ということになって、希望を裏切られたわけです。それで彼は法政に進学したんだけれど、慶應に入れなかったことが生涯のコンプレックスになった。新聞記者が江川の許にやってくると、「君、どこの大学?」というのが第一声だったというからね。 岡:新聞記者なんか問題にならないぐらいすごい肩があるのに、その肩にプライドを持つんじゃなくて、慶應に入れなかったことにコンプレックスを持つというのは、ちょっと気の毒なねじれだよね。 小田嶋:大学を出ておかなきゃ格好がつかないよ、という価値観が、我々の世代のころは、スポーツ選手でもまだまだ根強かった。 岡:阪神の監督なんて、大卒しか認めなかったからね。だから岡田はなったけど、掛布はなれなかったでしょう。 小田嶋:サッカー協会だって、早稲田なりを出てないとだめで、奥寺とか尾崎とか、高卒で一流だった選手は、協会じゃ偉くなれない。そういう時代がずっとありました。 岡:その中で、王さんは例外だった。 小田嶋:王さんは、いろいろな意味で例外』、江川が慶應に入れなかった一因に全共闘が出てきたのには驚いた。「大学を出ておかなきゃ格好がつかないよ、という価値観」はもう消え去ったのだろうか。
・『「ムラさん、あれは……」  岡:まあ、王さんだったら別に、それこそ早実から早稲田大学なんかは普通に行けたから。今、6大学野球がそれほど人気がなくなっちゃったでしょう。昔はプロ野球よりも、6大学野球の方が全然上だったのに。 小田嶋:そうそう、うちのおやじぐらいの世代の人たちは6大学野球を大好きだった人たちで、その流れで早稲田が大好きだった。だって、長嶋がプロに入ったことで、プロの地位がちょっと上がったと言われたぐらいだったからね。で、天覧試合を境に、マーケットが6大学からプロへと、逆転していったんだよね。 岡:1959年の巨人―阪神の天覧試合ね。長嶋が、天皇の退出時間の3分前にホームランを打って、試合を見事に終わらせたんだよね。でも投手の村山実は、死ぬまであれはファウルだと言い続けたんだよね。 小田嶋:その村山の霊前で、ミスターが手向けた言葉が「ムラさん、あれはホームランだったからね」という。そういう、ちょっと笑えるエピソードがいろいろあるところが、ミスターのすごいところなわけだけど。 岡:そうそう。昔はさ……。 --……と、だらだらと話は尽きませんが、紙幅の方はそろそろ尽きてきました。(次回、いよいよ最終回の大団円に続きます)』、「昔はプロ野球よりも、6大学野球の方が全然上だった」というのは初めて知った。確かに昔は6大学野球がマスコミによく取上げられていたようだ。

次に、この続きを12月28日付け日経ビジネスオンライン「人生の諸問題@NBOファイナル その4:“超絶技巧タックル”に学ぶわれらの諸問題」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/134215/122000020/
・『ーーいよいよ「人生の諸問題」の区切りの最終回となりました。前回からの続きです。みんなで2018年を振り返っています。2018年といえば、平昌冬季オリンピック・パラリンピックから幕が開き、そこからサッカーのワールドカップが続きました。前回は相撲と野球の話で終始してしまいましたが、スポーツ好きのお二人には、いろいろ話したいことがいっぱいあった年だったと思います。 岡:平昌冬季五輪って、今年だったんだ。 (ガクッ) 小田嶋:いや、もう、なんか、遠い。この間、流行語大賞で、「そだねー」という言葉が受賞していたけど、俺は5年前の流行だった、みたいな感覚で聞いた。 岡:昔は広告のコピーでも、2~3年はもっていたものだけど、最近は1年前、半年前がすごい昔に感じられるようになって、コピー自体も一瞬で流れていって、全然もたなくなっていますからね』、広告のコピーの寿命まで短くなったのは、時代の流れがそれだけ目まぐるしく、速くなってきたからなのだろうか。
・『--でも小田嶋さんは、平昌五輪のときにコメンテーターとして「報道ステーション」にちゃっかり出演していたじゃないですか。満面の笑みで、「いや、感動した」とか何とか言っていましたよね。 岡:そんな小泉純一郎みたいなことを言っていたのか。 小田嶋:あれね。 ーー出張先でテレビを見ていたら、いきなり小田嶋さんが出てきて、飲んでいたお茶を吹いちゃいましたよ。 小田嶋:うっかりと、何かよくないことを言っちゃわないか、自分的には大変だったのよ、実は。 岡:そうだよね。とりわけ小田嶋の場合は。 --危ない。 小田嶋:だから、我ながら、すごい官僚答弁になって(笑)。普段、切れ味のいい人が官僚答弁になるときは、どうしてああも切れ味が鈍るのかというと、ある種の事情を抱えているからだ、ということがよく分かりましたね。 岡:うーんとか言っていても、だめだしね。 小田嶋:たとえば、ちょっとはしゃいでしまいがちなフィギュアスケートの感想にしても、難しい。うっかりしたことを言えない。 岡:フィギュアだとコアなファンの反応が、結構大変なんだよ。前回、前々回冬季五輪のキム・ヨナね。あれ、僕は、応援したいな、なんて思っていたんだけど、なんか日本でそれを表出するのは、難しい雰囲気だった。とりわけキム・ヨナが出ているときに、家の中で応援するのは、はばかられた。 --家の中、とは? 小田嶋:だから、浅田真央さんじゃなくて、キム・ヨナを応援するって、ある種、何というか、キャバクラ嬢にお熱みたいな、そういうニュアンスが出てしまうから。 岡:もちろん僕はアスリートとして応援しているんだけど、キム・ヨナはバブルのときに、いちばんもてたタイプなんですよ。だから、応援したいけど、応援しちゃいけないって、気持ちにブレーキがかかる』、キム・ヨナを「家の中で応援するのは、はばかられた」、「キム・ヨナを応援するって、ある種、何というか、キャバクラ嬢にお熱みたいな、そういうニュアンスが出てしまうから」というのには、驚くと同時に納得した。
・『小田嶋:韓国の女子プロゴルファーとか、あと、ロシアのフィギュアスケーターにも、その匂いがある。キム・ヨナって顔立ちがきれいだ、というきれいさじゃなくて、動きだとか、振りだとか、表情だとか、彼女がつくり込んだものが大衆にアピールする、というきれいさだったんだよね。 岡:だから、セクシーということはいえる。 小田嶋:「彼女はセクシーである」というのは日本語だと、そのまんま「セクシー」なんだけど、中国語だとセクシーって「性感」って字になるんだよね。だから、そういうスケーターの記事には性感女王とか書いてある。 --それで? 小田嶋:いや、だから、その、中国語ってそういうふうに書いちゃうんだ、というお話です。 --どこで見たの? 小田嶋:いや、その、どこで見たのか思い出せないけど。ただ、ああ、中国では性感なんだ、こういうふうに言うんだ、って。 --違うかもしれないよ。 小田嶋:いや、でも、セクシーということを中国語で表現すると…… --官僚答弁になっていますよ。 岡:まあ、だから、次、行きましょう。 小田嶋:はい、次に。サッカー・ワールドカップですかね(やれやれ)』、WEB検索して確かめたところ、「セクシー」は中国語だと確かに「性感」(他に「妖媚」との訳も)のようだ(Weblio辞書)。
・『ハリルホジッチ解任は禍根になる  岡:ワールドカップも、僕の中ではかなり昔感が出てしまっちゃっているね。 小田嶋:いや、ハリルホジッチを辞めさせたことについては、俺はいまだに納得していないぞ。その点については、俺は昔のこととして、流していない。あれはひどい話だった。きっとこの先、10年、20年にわたって、日本サッカーの禍根になると思います。 岡:ただ、今、森保一監督が結果を出しちゃっているでしょう。 小田嶋:そうなんです。森保さんが結果を出していることも、かえってよくないような気がするんだけど。もちろん、彼はすごく優秀な監督です。ただ、ハリル解任の問題というのは、試合に勝った負けたのことではなくて、日本のサッカー協会の指示系統の問題なんだよ。これまで、あらゆることを全部、外国人監督のせいにして乗り切ってきたという、そのアンフェアなガバナンス体質が、いまだに直ってないで、そのまま進んでいるということが、俺としてはとても引っ掛かるのね。 岡:ハリル解任劇を広告業界的に説明すると、結局、ハリルが本田圭佑選手を切ろうと思っていた、というところに焦点がある。本田を切ることだけはできないよ、というのが、広告業界の総意だったんです』、いくら「広告業界の総意」だったしても、監督にどこまで任せるかを明確にしなかったサッカー協会の罪はやはり重そうだ。
・『オシム監督の強烈なメッセージ  小田嶋:それはあり得る話だよね。もちろん広告業界の後ろには、有名なスポーツメーカーがいて、一番マネーを生んでくれるのは、やっぱり本田選手だったから。そのことはハリル以外の歴代外国人監督にとっても、昔から根深くある問題で。オシムさんが来たとき、最初の代表戦に招集したメンバーは、13人しかいなかった。それが全員スポンサーの付いてない選手で、偶然とはとうてい思えなかった。 岡:それは間違いなく、偶然ではないよ。 小田嶋:オシムが発したメッセージは、俺は企業とひも付きの選手は使わないよ、ということだったと思うんだよ。 岡:強烈なメッセージだよね。 小田嶋:それで、あのときもメンバー選出で揉めに揉めたわけです。これは日本に限らず、どの国でもそうなんだけど、スター選手にはファンがたくさん付いていて、スポンサーもたくさん付く。テレビ局も、一番数字が取れるぞ、という話になる。もちろんそういうスター選手は、そこそこの実力もあるし、ある程度の堅実な結果は得られる。でも、監督がスポンサーの意向を受け入れてしまうと、望ましいチーム改造はできない。 岡:だから西野監督って、最初から苦渋に満ちていたじゃないか。「俺のチームじゃない」と言っていたし、「終わったら辞めるんだ」ということもずっと言っていた。あれほどはっきり「辞めたい」と言いながら、就任する人はいないよ。 小田嶋:事情絡みを俺はのみ込むよ、ということだったんだろうけど。 岡:協会とか関係者とかに十分に言い含められてしぶしぶ表に出た、という感じだったものね。 小田嶋:とにかくハリル解任の責任が、どこに帰するのか、まるで分からなかった。あらゆる意味で日本的なやり方でしたね。 岡:その後、森保監督になって、チームが若返ったら、試合運びは断然速くなったよね。 小田嶋:そもそもハリルホジッチは「デュエル(1対1の競り合い)」ということを掲げて、速いチームを作ろうとしていたんです。今、サッカーは身もフタもなくスピードアップされているから、チームに速さがあるということは、勝ち方としてすごく気持ちがいい。 岡:森保ジャパンでは、スピード感のある、気持ちいい攻め方になっているよ。 小田嶋:森保監督は賢い人だから、ハリルホジッチがやろうとしたことの、いい部分をちゃんと拾っているんです。だから、今は戦術的には穴はないんだけど、あの協会のガバナンスのひどさというのだけは残っていて、これからもいろいろな影響を及ぼすんじゃないかと思います。 岡:僕はサッカーに詳しくないんだけれど、ワールドカップでは日本‐ベルギー戦で日本が2点を先取していたのに、後半、相手のなすがままに3点を取られて負けた試合がありましたよね。試合に際しては、事前にいろいろなシミュレーションをやっていると思うんですよ。1対0、1対1、あるいは逆転されたらどうするか、とかね。でも、あれを見ていた限りでは、「後半に2対0で勝っている状況」は想定されていなかったんだな、という感想を持ちました。 小田嶋:そうかもしれない。格上相手に後半、2対0で先行している、というシミュレーションはね。先行していたのに、後半でひっくり返されるという状況は、サッカーではあまり起きないことではあるんだけどね。 岡:ラグビーでは弱いチームが前半をリードして、後半にぼろぼろになるということはよくあるよね。この間のラグビーのテストマッチでも、イングランド代表を相手に、日本代表が前半15対10でリードしていたのに、後半はぼろぼろに負けた。 小田嶋:ラグビーでは、おなじみの展開だよね。あのパターンはアメフトも同じなのか? 岡:同じですね。実力のあるチームは後半に強い。 小田嶋:そうか。コンタクトの強いスポーツは、強いチームほど後半に強くなるんだね。ただ、サッカーは比較的それが表に出ないんだけどね。 岡:昔を振り返ってみると、「ドーハの悲劇」だって、同じパターンだったよね。最後の最後、よりによってロスタイムで気が抜けた瞬間に、ぼろぼろになったというのは、何だったんだろう、あれ、と、ずっと不思議に思っている。 --ということで、ある意味で岡さんにとって本丸、日大アメフト部事件に行きましょう。 岡:うん、これは話せば長くなる。 小田嶋:岡はアメフトについては一家言がある人だからね』、ワールドカップでの日本がベルギーに大逆転されたことや、「ドーハの悲劇」がサッカーではあまり起きないことなのに、実際には起きた理由を知りたかった。残念。
・『ついに岡康道が日大アメフト部事件を斬る  岡:僕たち、今、早稲田大学で偶然、同じ日に講義を受け持っているから、今年は小田嶋ともよく会ったよね。 小田嶋:講義後、麻雀になだれ込んだときの話題だったね、日大アメフト事件は。 --それ、同じ日に講義というのは、偶然ではないですね。先に麻雀ありきが見え見えです。 岡:いや、そんなことはない。 小田嶋:偶然です。 岡:それで、日大アメフト事件では、まず加害者と被害者がいるという前提で、犯罪シーンと目されるものがテレビやネットで流れたんです。あれは衝撃でした。僕は長い間、アメフトの選手としてプレーもしたし、プレーも見てきた。けれども、あのようなプレーは見たことがなかった。 小田嶋:やっぱりなかったか。 岡:ない。生涯で初めて見た。そのぐらいひどい。 小田嶋:だって明らかに、プレー時間が終わってからタックルしているものね。 岡:ただ、被害者の選手がその後23プレーをこなしたことは、みんな知らないでしょう。 岡:うん。だから、いろいろ騒がれたけど、結局、傷害罪とかそういったものは成立しなかったじゃないですか。 小田嶋:日大の内田さんに対しては、タックル指示が認定できないとして、不起訴処分が決定した。 岡:いったい誰がどういう犯罪を構成できるのか、という話に落着したんです。 小田嶋:でも、あのタックルのシーンは衝撃的だった。被害者の体だって、ありえないほどしなっていた』、「被害者の選手がその後23プレーをこなした」というのは初耳だ。
・『岡さんの深読み、宮川選手の深謀遠慮プレー説  岡:それを逆に言えば、宮川選手は相手がひどいダメージを受けない程度にタックルを加減した、ということなんだよ。ああいう派手なタックルをかければ、ベンチも納得するだろう。だけど、相手に決定的なダメージは負わせない、という超絶技巧のタックルだったわけ。 --本当ですか? 岡:いや、僕の推測ですけどね。 小田嶋:ということは、宮川選手って腕が立つんだね。 岡:これは本当ですが、宮川選手は、学生ではほとんどナンバーワンといっていいほどのタックラーなんですよ。彼は断然うまいのよ、日本一。 小田嶋:そうだったのか。彼は記者会見でも立派だったでしょう。この人、すごいと思いました。 岡:彼は記者会見だから立派だったんじゃなくて、大学に入ったときから立派だったんです。そもそも高校時代から選手としての評判は高かったんです。 小田嶋:ただ、日大フェニックスのあの監督とコーチは、明らかにばかじゃないですか。 岡:そこなんだよ。あくまでも僕の推測という前提で聞いてほしいんだけど、だから、あんなばかなやつらの指示を、宮川君のような優秀な選手が納得して聞くわけはないんです。ということは、彼はそれまで、上からの指示は上手にかわしていたんだと思う。 すると、ばかな監督とコーチは内心、面白くないですよね。それで「相手をつぶせ」とか、異常に感情的な指示を、あのゲームで出すに至ったわけです。「オマエは次の全日本に出るのは禁止だ」とまで言われてしまったら、選手はばかばかしいと思いながらも、形だけやって見せるしかない。これでいいんだろう、というのをやったのがあのプレーだったんです。 小田嶋:なるほど。 --だとしたら、すさまじい「人生の諸問題」の解決法ですが……ーーあくまでも岡さんの推測です、ということを、ここでもう一度お断りしておきます。 小田嶋:その後、日大側は学生がさらし者にされちゃうからうんぬんという、おためごかしの理由で記者会見をすごく止めていたけれど、彼はちゃんと表の場に出てきて、見事に説明したでしょう。あの記者会見を見て、ああ、この選手はただ者じゃないな、とびっくりした。 岡:ただ者じゃないですよ。本当のことを自分の言葉で言っているし、感動したもん。 小田嶋:とても20歳とは思えない。今は大谷翔平にしても、ゴルフの松山英樹、石川遼にしても、今の宮川君にしても、あの年齢で、ああいう立場に立つ選手が、身体的にも反射神経的にも精神的にも、非常にしっかりしていますね。そうじゃないと一流にはなれないんだろうけど。 岡:みんな、自分自身と、自分を取り巻く状況をマネジメントができる頭脳を持っているんですよ』、「ああいう派手なタックルをかければ、ベンチも納得するだろう。だけど、相手に決定的なダメージは負わせない、という超絶技巧のタックルだったわけ」との岡氏の推測は、説得力があり、感心した。ただ、小田嶋氏が「非常にしっかりして」いる選手として挙げたなかに、石川遼が入っていたのは違和感を感じた。肝心のアメリカで鳴かず飛ばずだったこともあり、私は顔も見たくない。
・『大谷選手のインタビューに感動  小田嶋:大谷翔平のインタビューを聞くと、完成度が高くて、ひっくり返るものね。 岡:今年の夏、僕、アナハイムのエンゼル・スタジアムで3試合見てきたんだよ。 小田嶋:おお、バーランダーからホームランを打った場面か? 岡:もう、素晴らしかったですよ。見ていて泣きそうになった(泣)。 小田嶋:バーランダーはアメリカ球界のエースですからね。そのエースからホームランを取ったというのは、とんでもない話で。 岡:次の日に、大谷が報復のデッドボールを受けたでしょう。 小田嶋:そうそう、その報復デッドボールについて記者が質問したときの、大谷の返しも見事だったね。 岡:「私もピッチャーをやるし、もちろんミスピッチもある。気にしていない」と。 小田嶋:相手は報復の話を聞いているんだけど、ピッチング技術にうまくすり替えていてさ。 岡:そのあたりのスマートさはどうだ、と、記者まで絶賛している。あっちでは3塁側がホームなんだけど、ベンチを見ていると、ベンチから身を乗り出しているのは大谷選手だけなんです。だからもう、すでにチームを引っ張っている感じ。 小田嶋:おお。 岡:日本から、かわいい男の子が来たぞ、というレベルではなく、すでに大谷がチームをまとめるリーダー格になっている。4番バッターでバーランダーからホームランを取って、ピッチャーもやって、ベンチから1人だけ身を乗り出すというのは、これはどうよ。これまでの日本人のすごい選手でもできなかったことですよ』、確かに大谷は凄い。来シーズンは手術の影響が残らないことを祈りたい。
・『「日大アメフト立て直し」という美談へのシフト  --もう一度、日大問題に戻しますか? 岡:そうだ。戻そう。それで、日大の監督とコーチはクビになった。それは当然だと僕も思う。次に、だめだめになった日大を立て直すために、京都大学でアメフトチームを甲子園ボウルに連れていった水野弥一監督を、日大が受け入れようとした。それは日大の父兄も了解して、選手も盛り上がったんです。ペナルティで1年のブランクがあっても、次は水野さんの下で甲子園ボウルへ行くぞ、とね。ところがここで、日大の新監督候補者を審査する選考委員会という、不思議な会が立ち上がっちゃって、そこに関学大のOBが送り込まれたんだよ。 小田嶋:どういうこと? 岡:日大は自浄力が機能しない状態だから、外部の目も入れましょう、その際は被害者側にも入ってもらって管理しましょう、という話になった。その選考委員会で、水野さんの日大新監督就任について、高齢であるとか何とか、いろいろな反対が唱えられて、結局、立命館出身の、実績が薄く、僕も知らない人が日大の後任監督になっちゃったわけ。 小田嶋:京大の老監督が乗り出して、日大を復活に導くってことになったら、それはものすごくアングルのいい話だよね。 岡:そうなんだよ。水野さんと、亡くなった日大の篠竹監督というのは、かつて甲子園ボウルで熱闘を繰り広げ、永遠のライバルと称されていた。となると、かつて伝説のライバルだった京大の水野監督が、日大フェニックスを、文字通り不死鳥のようによみがえらせる、という、すごいメディア映えのする話になる。完全に日大サイドのストーリーになっていっちゃうんです。 小田嶋:そうか。そのようないい話として着地されちゃあ、関学としては穏やかではなくなるね。 岡:主人公が、被害者である関学じゃなくて、加害者の日大になってしまう。こんなばかな話があるか、と。 小田嶋:それは、笑って見過ごせないだろうな。 岡:ということで、最大のライバルの立ち直りをつぶしにかかった。これは全部推測ですよ。でも、そうとしか読めないんだ、この話は。事実、日大は強いから、すでにもうフェニックスは、復活劇の主人公になりつつある。 小田嶋:不起訴処分になったことで、内田さんは懲戒解雇は無効だと、日大を訴えているよね。 岡:今度はまた、そういう泥沼に発展している。 小田嶋:こういうことって、メディアでばーっと騒がれて炎上するでしょう。そこで炎上して、半年ぐらいたった後に、ところで、あんなに炎上したあの事件ですけど、結局、不起訴になりました、みたいなことになっても、世間って、「ああ、そう」ぐらいしか反応しない。 岡:現時点では、もうどうでもよくなっている』、関学がそんな「汚い手」を使ったとは初めて知ったが、スポーツマンシップにもとる行為だ。
・『おっさん猿山問題はつづく  小田嶋:事件の消費サイクルが、すさまじく早くなっているんだよ。それで、輪島も死んだしな、とか、関係ないことがくっ付いてくる。輪島と日大アメフト部事件はもちろん全然関係ないんだけど、日大のあの、内田さんの上の田中理事長とツーカーだったという人も、この世からいなくなったんだからということで、いろいろ話が済んでいく。 岡:「そだねー」の消費の早さと同じだね。 小田嶋:そこに戻ったね。テレビが流行語大賞のベースにあった昔は、年末にその1年を振り返るちょうどいいフックになっていたんだけど、今はネットで火がつくようになって、その燃える速度が速くて、消える速度も速いから、前半の6月以前の流行語って5年ぐらい前の話感になって、ちょっと振り返るには距離があり過ぎるみたいになっているね。 岡:流行語大賞というのは、もう年間ベースでは成り立たなくなっている。 小田嶋:ツィッターのトレンドワードなんて、3日ぐらいしかもたないですからね。 岡:流行、じゃないけれど、今年は日大の次に、レスリングもボクシングも体操も相撲も、ってパワハラ問題がずらずらと出ましたね。 小田嶋:スポーツ団体のガバナンス問題表出の年だったね。でも、世間は、スポーツ競技団体って軍隊かよ、ということで驚いてみせていたけれど、あれって別にスポーツ団体だけの話じゃなくて、日本の男の組織全体の問題だと思うわけだよ。よって、要するに、日本のスポーツ競技団体のガバナンスの問題というのは、日本の組織というもののホモソーシャル的パワーバランスの問題と、全部がひとつながりだと思うんだよね、ということを俺は考えていて。 --えっと、何を言っているのですか? 岡:いや、さらに一回りして、第2回のおっさん問題の話に戻ったんだよ(こちら)。 小田嶋:そうそう。日本のおっさんは、みんな猿山に生きているという。 岡:俺たちはサルか、と。 小田嶋:だから俺が入院で身をもって経験した話――女性はどんな人とも、入院患者として打ち解けられるけれど、男は猿山の関係性の中でしか生きられないので、入院生活で孤立するという問題とも、つながっているんだよ。 --根が深いですね。 岡:だから難しいんだよ、あれ。 --どこが難しいですか。 岡:いや、ちょっと言ってみただけだけどさ』、「日本のスポーツ競技団体のガバナンスの問題というのは、日本の組織というもののホモソーシャル的パワーバランスの問題と、全部がひとつながりだと思うんだよね」との小田嶋氏の指摘は、言い得て妙だ。
・『そしていつまでも「諸問題」はつづく  小田嶋:どこかのフェミの人たちが言っていたことで、それはそうだなと賛同できたのは、そういう組織は女性を強制的に入れないとだめだということだった。男って集まっちゃうとゴッドファーザーの世界になるんです、それこそ外国人でも(※そういえば、こんな回もありました→「男だったら、天下国家を語れるべき? 『ゴッドファーザー』と『おじさん』と『おばさん』と」)。 岡:そうね。陸上部と水泳部が比較的そうならないでいるのは、男女一様に練習をするからかもね。それと競技の性質からいって、個人競技が主体であるとか。 小田嶋:ともかく男だけ集めておくのはよくない。 岡:だから、この対談も清野さんがいるおかげで続いている。 小田嶋:そうそう、我々のいうところの上下関係とは違う、まったく別の立ち位置から、いつもナチュラルに説教してきますからね。 岡:うん。 --何ですか、その説教って。 小田嶋:いや、説教しているじゃないですか、いつも。 ヤナセ:いや、また、僕が途中入りしてすみませんが、説教じゃないですよね。オダジマさんの言葉の使い方が間違っています、すみません。 小田嶋:まとめの文面にも、説教感が出ているもんね。 ヤナセ:あ、せっかく僕が消そうとしたのに。 --しょうがない人たちだな、とは思っていますよ、おほほほ。 全員:……そうだね。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院・柳瀬研究室にて ーー「人生の諸問題NBO編」は、ここでいったん幕を閉じますが、諸問題チーム一同、またどこかでお目にかかれますことを楽しみにしています。今まで、ご愛読いただき、どうもありがとうございました』、「そういう組織は女性を強制的に入れないとだめだということだった。男って集まっちゃうとゴッドファーザーの世界になるんです」との指摘も、その通りで、大賛成だ。このシリーズが幕を閉じるのは、残念だ。このシリーズの一覧は下記リンク参照。
https://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20070906/134215/
タグ:人生論 日経ビジネスオンライン (その2)(人生の諸問題@NBOファイナル その3:偏差値70の高校野球選手は大学に行くべきか?、その4:“超絶技巧タックル”に学ぶわれらの諸問題) 小田嶋 隆 岡 康道 対談 清野 由美 「人生の諸問題@NBOファイナル その3:偏差値70の高校野球選手は大学に行くべきか?」 「2018年を振り返る」の本題 相撲協会と貴乃花 そもそも相撲界って、中学を卒業したぐらいから入門するから、社会経験がゼロみたいな人たちだらけなんですよね 相撲協会の仕組みというのは、現役時代をそのまま反映しているということで、社会とか世間とかとは、とんでもない断絶が普通になっている世界 その猿山社会が、そのまんま協会の理事長や理事に横滑りするんですよ。大横綱だった人が理事長、大関が理事って具合に、番付そのままにマネジメント機関の地位が決まっていく 日本のスポーツ界 現役トップは競技団体トップに向くか? 実は競技でトップに立っちゃう人というのは、ある意味、視野の狭い人 サッカーやバスケでは、名監督になった名選手は、ほぼいないです。だいたい補欠だったりした人が、後に名監督と呼ばれたりするようになる 有名高校選手がそろってプロへ 去年の清宮幸太郎君以来、大学進学の価値がどんどん下がってきているんだな、と、ちょっとショック スカウトの目とメディアの目は違う 高校ピークで、伸びしろがいかがなものか、と 日ハム的には元が取れる 根尾は、これまた大人ですからね 勉強の方も偏差値が70いくつかで、医学部に行っても全然不思議はないという話 根尾はいずれ、どういう形であれ、日本の野球界でマネジメント側に立って、全体を背負うんじゃないかと、18歳にして感じさせる 素質に恵まれていて、勉強もできるのに 江川の例 慶應は早稲田と違って、スポーツ枠がなかった 全共闘が不正入試を許すのかと騒いだもんだから、大学としては江川を採る道がまったくなくなってしまった 慶應に入れなかったことにコンプレックスを持つというのは、ちょっと気の毒なねじれだ 大学を出ておかなきゃ格好がつかないよ、という価値観が、我々の世代のころは、スポーツ選手でもまだまだ根強かった 昔はプロ野球よりも、6大学野球の方が全然上だったのに 「人生の諸問題@NBOファイナル その4:“超絶技巧タックル”に学ぶわれらの諸問題」 昔は広告のコピーでも、2~3年はもっていたものだけど、最近は1年前、半年前がすごい昔に感じられるようになって、コピー自体も一瞬で流れていって、全然もたなくなっていますからね キム・ヨナが出ているときに、家の中で応援するのは、はばかられた キム・ヨナを応援するって、ある種、何というか、キャバクラ嬢にお熱みたいな、そういうニュアンスが出てしまうから セクシー 中国語だとセクシーって「性感」 ハリルホジッチ解任は禍根になる ハリル解任の問題というのは、試合に勝った負けたのことではなくて、日本のサッカー協会の指示系統の問題 あらゆることを全部、外国人監督のせいにして乗り切ってきたという、そのアンフェアなガバナンス体質が、いまだに直ってないで、そのまま進んでいる 本田を切ることだけはできないよ、というのが、広告業界の総意だったんです オシム監督の強烈なメッセージ 最初の代表戦に招集したメンバーは、13人しかいなかった。それが全員スポンサーの付いてない選手 監督がスポンサーの意向を受け入れてしまうと、望ましいチーム改造はできない 今、サッカーは身もフタもなくスピードアップされているから、チームに速さがあるということは、勝ち方としてすごく気持ちがいい 日本‐ベルギー戦で日本が2点を先取していたのに、後半、相手のなすがままに3点を取られて負けた試合 先行していたのに、後半でひっくり返されるという状況は、サッカーではあまり起きない ドーハの悲劇 ついに岡康道が日大アメフト部事件を斬る 被害者の選手がその後23プレーをこなした 岡さんの深読み、宮川選手の深謀遠慮プレー説 ああいう派手なタックルをかければ、ベンチも納得するだろう。だけど、相手に決定的なダメージは負わせない、という超絶技巧のタックルだったわけ 彼はちゃんと表の場に出てきて、見事に説明したでしょう。あの記者会見を見て、ああ、この選手はただ者じゃないな、とびっくりした 大谷翔平 松山英樹、石川遼 宮川君 身体的にも反射神経的にも精神的にも、非常にしっかりしていますね 自分自身と、自分を取り巻く状況をマネジメントができる頭脳を持っているんですよ 大谷選手のインタビューに感動 私もピッチャーをやるし、もちろんミスピッチもある。気にしていない」 「日大アメフト立て直し」という美談へのシフト 京都大学でアメフトチームを甲子園ボウルに連れていった水野弥一監督を、日大が受け入れようとした 日大の新監督候補者を審査する選考委員会 そこに関学大のOBが送り込まれた 結局、立命館出身の、実績が薄く、僕も知らない人が日大の後任監督になっちゃった 主人公が、被害者である関学じゃなくて、加害者の日大になってしまう。こんなばかな話があるか、と おっさん猿山問題はつづく 今はネットで火がつくようになって、その燃える速度が速くて、消える速度も速いから、前半の6月以前の流行語って5年ぐらい前の話感になって、ちょっと振り返るには距離があり過ぎるみたいになっているね 世間は、スポーツ競技団体って軍隊かよ、ということで驚いてみせていたけれど、あれって別にスポーツ団体だけの話じゃなくて、日本の男の組織全体の問題だと思うわけだよ 日本のスポーツ競技団体のガバナンスの問題というのは、日本の組織というもののホモソーシャル的パワーバランスの問題と、全部がひとつながりだと思うんだよね そういう組織は女性を強制的に入れないとだめだ 男って集まっちゃうとゴッドファーザーの世界になるんです
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今日は更新を休むので、明日3日にご期待を!

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人生論(その1)(人生の諸問題@NBOファイナル その1:オダジマの鉄則「一言多いやつは出世しない」、その2:50代のあなた、大学教授に転職したいですか?) [人生]

明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
今日は、人生論(その1)(人生の諸問題@NBOファイナル その1:オダジマの鉄則「一言多いやつは出世しない」、その2:50代のあなた、大学教授に転職したいですか?)を取上げよう。

先ずは、昨年12月25日付け日経ビジネスオンラインに掲載された:電通を経て独立した岡 康道氏とコラムニストの小田嶋 隆氏の対談を、フリージャーナリストの清野 由美氏が聞き手としてまとめた「人生の諸問題@NBOファイナル その1:オダジマの鉄則「一言多いやつは出世しない」」を紹介しよう。--は清野氏
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/134215/121700017/?P=1
・『ーーみなさまに呆れられ、時にディスられながらも、長ーく愛されてきた「人生の諸問題」。だらだらと永遠に続くかと思われた連載でしたが、いったん終了の節目を迎えました。 ということで、いつものメンバーが東京工業大学に集まりました。何で東工大?……それは本文中で追々、お伝えしていきましょう。では「人生の諸問題@NBOファイナル」スタート!』
・『干支が一回りしてしまいました  岡:いや、この連載はいったい何年ぐらい続いているのかな。 「日経ビジネスオンライン」のバックナンバーを検索しますと、スタートは2007年ですね。ということは、まるっと足掛け12年。 小田嶋:干支が一回りしたんだ。恐ろしいことに。 岡:12年って、今どき女の子と付き合い続けることだって難しい時間だよね。 小田嶋:だって始めたときは、俺たち、ギリ40代だったような気がする。 ーーそうなんです。「オレたち、もうすぐ50代になっちゃっうよ~」なんて、言い合っていました。 岡:それが今では60代だからね。 小田嶋:で、60歳になったときには、誰もそのことに触れなかったね。 岡:うん、なかったことにしていた。 ーーじゃーん、これが記念すべき第1回です(第1回はこちら)。「『文体模写』『他人日記』『柿』」という一見、意味不明のタイトルで、お二人が登場されています。 小田嶋:ああ、これか。 岡:僕たち、若い! お暇な方は、ぜひバックナンバー踏破に挑戦してみてください・・・岡:これ、当初は、おしゃれな場所で盛り上がってやっていなかった? 小田嶋:そう、まだ編集部に余裕があったころ。 岡:最初はおしゃれだったのに、だんだんだんだん経費削減になってきて。 そこで途中から日経BP社の怪人プロデューサーこと柳瀬博一さんが、カメラマン兼任になりました。じゃーん、ここで、その柳瀬さんも登場です。 ヤナセ:お邪魔しまーす』、12年も続いたというのは異例の長寿企画だったようだ。
・『柳瀬教授の研究室へようこそ  というか、今日は私たちが柳瀬さんの研究室にお邪魔をしています。柳瀬さんは今年の春に日経BP社をお辞めになって、4月に東京工業大学リベラルアーツ研究教育院の教授に就任されたのです。 岡:なんと。 ーーしかも教授なのに、今日も柳瀬さんがカメラ担当だという。 小田嶋:いや、柳瀬さんも腕をずいぶん上げましたよ。 ヤナセ:ありがとうございます。 小田嶋:連載の途中から柳瀬さんがカメラをぶんぶんやるようになったけど、柳瀬さんの持っているカメラが、だんだんよくなっていくプロセスを、俺は目の当たりにしてきましたからね。最初はコンデジだったのが、望遠レンズのついているものになって、一眼になってと、だんだんレベルアップしてきた。 岡:自分への投資? というやつだよね(笑)。 ーーそれで、今は教授さまになっておられる。 小田嶋:自分への投資がムダになっていないのよ。 岡:それにしても、普通は連載といっても、なかなか、ここまで続かないよね。 おかげさまで、みんな、生きてここに。 小田嶋:誰も死なないで、みんな元気でここまで来れたというのはね、これは貴重なことですよ。 岡:誰も死なないというのは重要だけど、あと、みんな、はげなかったというのはね、大きい。 小田嶋:還暦超えのプライドとしてね。だいたい今の俺なんか、「若いやつ」って言うときに、40代を想定しているからね。10代、20代を飛び越えて。 岡:完全にそうだよね。昔だったら、「40代? オッサンじゃん」という立場だったのに。 小田嶋:この間、小石川高校のでかい同窓会があったじゃないか。 岡:100周年ね。 小田嶋:俺は盛大な式典の方には出席しないで、二次会みたいなところから参入したんだけど。 岡:盛大な式典の後に、それぞれの学年が分科会みたいになって二次会をやったんだよね』、ヤナセ氏が日経BP退職後、東工大教授になったとは大したものだ。
・『校長先生が小僧に見えるお年頃  小田嶋:そうしたら、でかい方の式典に出てきたやつが、「校長が小僧に見えた」ということを言っていた。 岡:つまり、我々からしたら、校長先生がグンと若い人になっているんだよ。 小田嶋:それは、俺たちが年寄りになったということもあるし、今時分の学校は校長先生を年功序列じゃなくて、優秀さで選ぶようになったということもある。 ーー最近では千代田区立麹町中学校で、「宿題なし、固定担任制も中間・期末テストも廃止」を標榜する校長先生が話題になりました。 小田嶋:公立の王道みたいな中学で、ビジネスイノベーションみたいなことが語られるようになっている。 岡:渋谷区長だって若いんだよ。博報堂出身の40代。 小田嶋:だいたい、お巡りさんに「ちょっと」と、止められると、相手は全部若いからね。素直に「ごめんなさい」と、言いにくいんだよね。 ーー何をやって止められているんだか……はさておき、小田嶋さんは同じことを10年前からボヤいていました。 小田嶋:だから、ますますそうなっている、ということです。 岡:僕は、その同窓会の分科会以来、ずっと風邪をひいているの。 小田嶋:ああ、あれ、外で行われたから。確かに寒かったよね。 岡:秋の夜に戸外って、あり得ないでしょう。 --文化祭みたいですね。 小田嶋:ほぼ文化祭の打ち上げでしたね。秋の繁忙期によく会場が取れたよね、ラッキー、ということだったんだけど、何とかガーデンという感じの、オープンエアな場所で、それは夏場は気持ちいいでしょうけれども、何でひざ掛けがあるの? という。 岡:めちゃくちゃ寒かった。 小田嶋:そりゃ、幹事が会場を押さえるのは大変だといっても、空いているに決まってるじゃん、って。 岡:ストーブが何機かあったんだけど、それはやっぱり女性陣が独占しますよね。僕は震えながら、我慢するしかなかった。それで次の日から、リンパ腺が腫れてきちゃってさ。 --え、おじいちゃま、大丈夫? 岡:なによ、それ。 小田嶋:今年の風邪は長いというしね』、「校長先生が小僧に見えるお年頃」とは、思わず微笑んでしまった。
・『ボヘミアン・ラプソディに泣く  岡:そうそう、すぐ治ると思ったら、もう全然治らなくて。病院で、ゴルフとかジムとかは行かないでくださいよ、って言われたんだけど、やっぱりゴルフに行ったりしていたの。それで余計にこじれたんですけどね。 小田嶋:せき風邪が結構、はやっているというからねえ。 岡:治らなくてねえ。ほら、お腹のみぞおちのところとか、いろいろ、あちこちが痛くなって。 小田嶋:そうそう、そうやって、やたら内臓に詳しくなっていく。 --私たち、今、老人クラブにいますか? ヤナセ:いや、一応、東工大の柳瀬研究室です。 小田嶋:ともかく、連載を続けられてよかった、ということだよ。 岡:とりわけ小田嶋なんて、ストレスも少なそうだしさ。 小田嶋:いや、意外とありますよ、これが。ちょっとオフレコですが、この間●●が●●になって、とても落ち込んだ。 岡:小田嶋にも、そんなことが起きるんだ。それは確かにきつい。 小田嶋:目の前が暗くなって、この2~3日、ふさぎ込んだよ。これでマージャンの打ち方も、ちょっと変わると思う(笑)。 岡:早い、弱い、明るい、が小田嶋の流儀なんだから、そこはずっと変えてほしくない。 小田嶋:いや、人生の暗転を味わい、そのプロセスの中で「ボヘミアン・ラプソディ」を鑑賞したんだけれどね・・・ 岡:ああ、それで、あのコラムの、あの文面ね。それはもう、染みるわね』、「そうやって、やたら内臓に詳しくなっていく」というの高齢者ならではだ。
・『「新潮45」休刊を振り返る  ーーそういえば、「新潮45」休刊は小田嶋さんに何か影響を与えましたか? 小田嶋:いきなり飛びましたね。……あれね、面倒くさかったです、ずっと。 岡:分かっていて聞くけど、例のLGBTの論文に端を発した休刊騒動のことだよね。 小田嶋:かつては日本の論壇の一端を担っていた、といわれていたんだけどね。2年前に編集長が代わったときに、編集部の体制がずいぶん変わって、俺の連載も政治的にかみ合わないものになってきて、間に立った編集者が苦慮していた。それで、晩年は「地方新聞を見て歩く」というような、絶対に政治的になりようのないテーマになっていたの。 岡:そういうことだったのね。 小田嶋:熊本日日新聞とか、上毛新聞とかに行って、「最近どうですか?」なんて話を聞いていたのは、安倍さんから俺を遠ざけるための工夫で(笑)。 岡:小田嶋が上毛新聞の経営状態とかを尋ねるって、明らかにヘンでしたからね。まあ、背景には、そういうことがあったわけだ。 小田嶋:それにしても、ここ1、2年のメディアの人たちの身の変遷というのは、すごいものがありますよ。NK新聞、A新聞、M新聞といったところから、ちょっと顔を知っている記者がずいぶんスピンアウトして、まるでパ・リーグの球団が減ったときみたいな感じを味わっています。 岡:どんな感じで動いているの? 小田嶋:大看板から、ネットのニュース媒体に移るパターンが多い。旧メディアにとどまって役員の地位を目論むより、新しい分野で何か始めないと、ちょっと後がないぞ的な感じが漂っていますよね。それこそ広告業界は、メディアよりも、よほど早くにそういうことが起こったんじゃないかと思うけど。 --岡さんが電通を辞めてTUGBOATを設立したのが1999年です。まだ20世紀のことでした』、大手新聞社からベテラン記者のかなりがスピンアウトしているとは、彼らを取り巻く環境がますます厳しくなっていることの表れだろう。
・『医者と役員と、あと博士号を持っているやつ  岡:今では、かなり昔の話になってしまったけれど、なぜかというと、広告業界は制作者であっても、わりと早く現場から離される仕組みになっていたからなんです。たとえば大看板の編集長から、新興媒体の編集長に移る、というのは、まだ現場感でつながっているよね。でも広告業界の場合は、「40代になったら床の間を背負えよ」ということが、通念みたいになっていたんだよ。 小田嶋:床の間か。 岡:うん、そうやって現場から離されちゃう。でも、それで役員になる保証は、制作者にはほとんどないわけですよ。あとの15年間は、ただ何となく床の間の前にいる人として終わる。 小田嶋:床の間の置物人生か。 岡:それで、俺、床の間人生って、どうなの? みたいな感じになってしまって、自分の行く末を考えちゃったんだよね。まあ、それでもいいやと思う人も、たくさんいたんだけど、そうでもないだろう、と考えたのが僕だった。 小田嶋:我々も60歳を超えたからあれですが、会社員の人生の末期、という言葉は不穏当かもしれないけれど、フィニッシュの時期に役員になるかならないかというのは、結構大事なことで。 岡:それはそうですよ。 小田嶋:役員になって、会社に残ってあと何年かやる、あるいは子会社の社長とかになって、やっぱりあと何年かやる、という方向と、役員にギリ、なれませんでした、ということの差は結構でかくて。 岡:でかいよ。退職金も違うしさ。 小田嶋:それって本当は紙一重の差なんだけど、その差が紙一重どころじゃなくなる。それで、小石川みたいな半端な進学校のクラス会に、俺らの年代で来るやつは、役員になった方のやつだね。 岡:イヤな話だけどね。 小田嶋:同窓会の準備会みたいな集まりに行ったとき、みんなが偉いもんだから、「ああ、うちの学校って結構、ああ見えて、ちょっとした学校だったんだな」と、思ったんだけど、家へ帰って落ち着いて考えたら、そういうやつしか来ないということだった(笑)。 岡:身もフタもないんだよ。 小田嶋:医者と役員と、あと博士号を持っているやつと、って、そういうやつしか来てないんだよ。 オダジマ先生も、そこに入っていた、と。 小田嶋:俺は別枠。そこは自覚している。 岡:サラリーマンというのは、50代が超つらいんですよ。 ヤナセ:いや、分かります! ーーお、ヤナセ教授が参入です』、高校の同窓会はやはり成功者の集まりになってしまうようだ。
・『出世の真理に気づいたヤツは、バカなことしか言わなくなる  岡:なぜつらいかというと、会社人生の中で、ルールがよく分からないゲームが始まっちゃって、どうすれば勝つのか誰も分からないまま、勝ち負けがついていって、勝ったやつは役員になる。それで、負けたやつは、よく分からない。 小田嶋:これ、語弊があるかもしれないけれど、表現系の業界は、特にその分からなさ感は著しいよ。私が知っているメディア業界で役員をやっている人は、みんな結構……(以下、禁句)。 岡:それは広告だって同じですよ。何か作ったやつ、目立ったやつは、絶対偉くならないですから。 小田嶋:そういう人は、岡みたいにフリーになって独立するしかない。フリーになると、会社の同世代の偉くなったヤツ、偉くならなかったヤツを、外側から観察する立場になる。俺もメディア業界のちょっと外側から、同年代の似たようなやつの動向を眺めてきた。そういう観察を長年にわたって行ってきた結果、出した結論は、「一言多いやつは出世しない」というもので(笑)。 --珠玉の箴言byオダジマ先生。 岡:もう間違いないよ、それは。 --サイン色紙に添える言葉は、これで決定ですね。 小田嶋:たとえば俺の知っている在京キー局の中で、役員になったやつと、そうじゃないやつを比べてみると、俺の評価とはまったく違うわけです。あんなに優秀だった人が何で今、ここにいる?? とか、逆に、あのぼんくらが何で今、あそこにいる?? とか。 ヤナセ:あるある、あり過ぎるほどあります。 岡:それで、紛らわしいのは、「一言多いと偉くなれない」ということを感づいたやつらは、ばかなふりをするようになるじゃないか。 小田嶋:そうなるね。 岡:たとえば会議の席では、絶対に鋭い意見を言わなくなる。ということは、ばかなやつが偉くなっているのか、ばかなふりをしているやつが偉くなっているのか、よく分からない。あそこにいる役員のあいつが、本当のばかか、そうじゃないか、分からない。ルールも真実も、どんどん分からなくなって、これは苦しい。 ヤナセ:本当に苦しいです。僕の同年代である50代のサラリーマンは、みんなあがいていますね。(それがどうなっていくのか。第2回に続く。)』、広告業界は「フリーになって独立する」道があるだけ、うらやましく思える。「一言多いと偉くなれない」とはまさに至言だ。

次に、この続き、12月26日付け日経ビジネスオンライン「人生の諸問題@NBOファイナル その2:50代のあなた、大学教授に転職したいですか?」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/134215/121900019/?P=1
・『小田嶋:安倍さんが、70歳まで働ける世の中うんぬんって言い出しているでしょう。そこにどこかの大学の先生がツィッターで文句を付けていて、なるほどと思ったんだけど。「定年を延ばす」という言い方をすると、会社としては、給料は増やすとはいかなくとも、減らせなくなるわけだよね。 岡:会社からしたら、大変な人件費負担になる。 小田嶋:一方で、「70歳まで働ける社会」という言い方をすれば、60歳で1回クビを切って、再雇用をする段には、「今までの6割の給料でお願いしますよ」みたいな話が可能になる。 岡:いや、6割どころじゃないよ。僕の同期なんかは、週に数日出勤して、年収が3分の1、みたいな話になっている。 小田嶋:経験もあって、実績もある人間を現役時代の3分の1の給料で雇えるというのは、ある意味、会社にとってはおいしい話だし、定年後のやつらにとっても、メリットはあって、一種のウィン・ウィンになる。一方、そこそこ能力のある60歳以上の人間を、安く雇える市場ができた、ということは、若い世代にとっては、とんでもない話になる。 岡:そうだよ。若い人たちの席はどうするんだよ。 小田嶋:今、俺は大学の非常勤講師をしていて実感しているんだけど、我々みたいに、一応ほかの業界で食っていけているやつを、名誉職系で拾ってくると、大学側はすごく安上がりに人を使えるわけですよ。そうすると、若い学究の人たちを雇う必然性が、どんどん低下していく。 ヤナセ:はい、大学の非常勤の給料って、むちゃくちゃ安いですからね。 岡:僕もやっているから分かるけど、驚くほど安い。 小田嶋:30代の人間が非常勤講師をやりながら学問を続けて、いずれはテニュア(終身)の身分を得る道を探ろう、とすると、週に5コマとか6コマを担当しても、ちょっと食えない。 岡:学習院と立教と早稲田を掛け持ちして、その間をタクシーで移動しながら、という日常になる。 ヤナセ:いや、タクシーなんてとんでもない。その距離ならチャリですよ(笑)。 小田嶋:そういうひどい雇用状況なのに、俺自身、非常勤講師の話が来たときに、「光栄だ」と一瞬思ってしまったのは、俺の頭に古い価値観が埋まっていたからなんだよね。 要するに、俺らの親父の世代にとっては、大学で先生をやるということは、それがどんな形であれ、すごいことだった。だから、俺が非常勤の話を何となく引き受けちゃったのは、「親父が喜んだろうな」と、その感傷みたいなものにフラついちゃったからなんだよね。 岡:昭和の感傷だね。僕にもあるよ』、「そこそこ能力のある60歳以上の人間を、安く雇える市場ができた、ということは、若い世代にとっては、とんでもない話になる」というのは確かに深刻だ。
・『大学への転職は“魔が差した”?  ヤナセ:その感覚は、岡さんより一回り下の、僕の世代にもまだ残っています。僕が大学に転職したら、給料が減っちゃったけど、両親は喜んでいました(笑)。 小田嶋:うちの親父はもう亡くなっているから、よく考えると、喜ぶ人はいなかったんだけど(笑)。 岡:小田嶋のおふくろさんは、そういうところで喜ぶ人じゃないからね。 小田嶋:無責任な親戚は喜ぶけど、おふくろは、「何、ばかなことを言ってるの」てなぐらいの人だからね。 岡:健全なんだよ。 --ところで、柳瀬さんはどうして転職を決意したんですか。 ヤナセ:いや、あの、えーと、魔が差した、というか(笑)。 岡:しどろもどろじゃないか。 ヤナセ:いや、魔が差したんだけど、正直に言うと、ファイナル編第1回の岡さんの話と一緒です。要は誰もルールがまったく分からない、50代の会社員サバイバルゲームの中で、どういう風にこのあがきの沼の中から抜け出せるか、と苦しんでいたところに、一番きれいな玉が突然投げられて、それを打ち返したら、こうなった。超ざっくりに言うと、そういうことです。 岡:柳瀬さんは何歳? ヤナセ:54歳です。大学の話をいただいたときは53歳でした。 岡:まあ、いいと思うよ。55歳を超えると、体力がなくなるから、もう動けなくなる。 小田嶋:55歳を超えると、受け入れ側としても、「拾ってやった」みたいな話になっちゃうでしょう。そうなると、パワーバランスの主客が変わってくる。 岡:だって、昔の定年は55歳だったんだよ。それが今は、そこから、また新しく仕事を始めなければならなくなっている。世の中が、いつの間にか、わけの分からないものになっている。 --「100歳社会」という、恐ろしい言葉が流行したおかげですね。 岡:振り返ってみると、昔の会社にも定年後の再雇用はあった。電通にだって昔からあったんだよ。ただ昔は、それに応募するやつは少なかった。というのは、広告業界は寿命が短くて、早死にが多かったというのが一つあって。 小田嶋:激務で。 岡:激務というか、正確に言うと「激飲み」だよね。それに加えて、悪いこと、いい加減なことも含めて、昔は社員に金があった。みんな勤めているときに家を建てて、老後の蓄財にも、ある程度成功していた。 岡:そうすると、定年後に働く理由がない。しかも、定年後は10年も生きないんだから、再雇用の制度には誰も応募してこない。しかし、今はそこに応募が殺到して、倍率が上がってしまっていると聞きました。 小田嶋:マジか。 岡:今は、定年になったほぼ全員が、「はい」って手を挙げちゃう。 小田嶋:ということは、会社としては、年金を払わなくてよくなって、なおかつ低賃金で経験のあるやつを確保できて、と、やっぱりウィン・ウィンみたいな話になっている』、「今は、定年になったほぼ全員が、「はい」って手を挙げちゃう」、というのは、電通でもそうかと再認識した。
・『「経験知」なんて人事には邪魔なんです  岡:ある種、そうなっているかもしれない。でも、小田嶋は「経験のある」と言ったけれど、そこは違うんだよ。というのは、再雇用のときは、営業のやつを総務に、総務のやつをクリエーティブに、という具合に、昔の部署とは違う部署に行くように采配しているの。受け入れる部署にしたら、畑違いの人が来るわけだから、結局、みんなよく分からなくなっている。 --なぜわざわざ専門外にするんでしょうか。 小田嶋:歳を取っていて、ある程度の経験はあるんだけれど、肩書がない、という人がいると、現場では確かにやりにくいからね。 岡:その部署の専門的な技能がない人も困るし、経験があって先輩風を吹かせる年寄りも、そりゃ、やりにくい人ですよ。 小田嶋:俺らが受け入れ部署だったら、煙たいよね。 岡:だから、部署をずらすという人事のワザが編み出されるわけ。でもさ、クリエーティブが経理とかに行っちゃっても、やっぱり、これはこれで何も分からなくてさ(笑)。 小田嶋:この一連の話の根っこには、日本人の地位に対する了見の、あまりにも狭いところが凝縮されていると思うんだよね。この間、日経ビジネスオンラインの連載から本になった『スッキリ中国論 スジの日本、量の中国』(田中信彦・著)を読んで、俺はとても面白いな、と思ったんだけど・・・--日本人と中国人の思考、価値観の違いを「スジを重視する日本人」「量を重視する中国人」という観点から整理されていましたね。 小田嶋:要するに、中国人の基準は「量」だから、「年齢がいくつであれ、仕事があれば金がもらえるでしょ。だったら、働けばいいじゃん」といった考え方を、すっと取る。 岡:言われてみれば、そうなんだけどね。 小田嶋:そういうところは現実的で柔軟なんだよ。でも、日本人はそう考えないから、自分より2期下のやつが自分の上司だということに、心理的に耐えられない。 岡:そういうところの懐は浅い。 小田嶋:銀行なんかだと、一番出世のやつが役員になると、あとの全員が出向になる。下手すると40代半ばで、余生を決められてしまう。 岡:官僚なんかは、その最たるものだよね。同期から事務次官が出たら、あとの人たちは辞めざるを得なくなる。 小田嶋:一番出世以外の二番から下が全部、上に残らなくなるというあれは、一も二もなく、自分より年上のやつに指示できないという、不思議な心理の上に構築されたシステムだよね。これがメーカー系なんかだと、自分より3つ下のやつが有能で、自分の上司だ、なんていうことは結構あり得る話になっていて、受け入れられている。頭脳労働というか、虚業というか、エリートほど、そういう現実が受け入れられない。 岡:電通は受け入れているよ。部長と部下が2~3年ひっくり返っていることは普通になっていて、それはみんな耐えている。でも、60歳を過ぎた人が3分の1の年収で同じ社内にいるというのは、社内的にも本人的にもきつい』、「自分より2期下のやつが自分の上司だということに、心理的に耐えられない」というのは、現在の日本人の特徴だが、これも徐々に変わっていかざるを得ないだろう。
・『そりゃ家にいてもしょうがないけど……  --ただ、高齢化社会が進む中で、これからはその状態が普通になっていくんじゃないですか。 岡:でもさ、それってどうなの? 俺だったら、できないよ。3分の1の年収で経理とかをやれって言われても。 ーー岡さんは数字が苦手ですものね。 岡:いや、技能の話じゃなくて、心理の話をしているの。 ーーでも、定年後のその状況を受け入れている人は、その人の理由があるわけでしょう。収入の話だけじゃなくて、家に帰りたくない、ということもあるかもしれないじゃないですか。 岡:うん。まあ、家にいてもね……。 --しょうがないでしょう。 小田嶋:だから、妙なエリート意識を持ってしまうと、その先が難しくなる。これが再雇用じゃなくて、再就職だとなると、もっとややこしくなるよ。だって、何か面接みたいなものを受けなくちゃいけなくなるから。 岡:そうだよ。「何ができますか?」って聞かれて、「電通の部長ができます」みたいなことを言って、「ああ、何もできないんですね」となってしまう。言う方もイヤだし、言われる方はもっとつらい』、確かに日本の会社人間は、所属している会社でしか通用しないノウハウの塊りで、他の組織では使いものにならないケースも多い。
・『おっさん入院患者ほど迷惑な存在はない  小田嶋:町内会で、そういうオヤジが続出して、元経理部長と元営業部長が戦うという不毛な展開になって、みんなが迷惑しているという話を聞きますね。おっさんって本当につぶしが利かないのよ。 --そうなんですね。 小田嶋:これは入院してみれば、よく分かる。実際、俺が入院中に痛感したのは、おっさんの入院しているやつほど迷惑なやつはいない、ということだった。 岡:やっぱりそうだったか? 小田嶋:おばさんやおばあさんは、患者同士でも看護師さんとでも、すぐ友達になって、お見舞いのお菓子をみんなで分けたりして、なごやかにやっている。でも、おっさんは孤立しているの。 岡:ナースさんの中には、患者にため口で話しがちな人もいるじゃない? 小田嶋:いるいる。おっさんは、それが耐えられない。自分の娘ほどの人に、「〇〇さん、お薬、のんだぁ?」なんて、ため口でいわれると……。 岡:「なんだ、君は(怒)」になる。 小田嶋:俺は本部長だったんだ、って。 岡:ぎりぎりのところで役員になれなかったけど(笑)。 小田嶋:部長とか本部長とかの意識でずっとやって、やられてきた人たちだから、病院なんかで平等に扱われると、格落ちにされた感じになっちゃうんだよね。 --それについてはおじさんたちに同情します。ということは、話を戻すと、再雇用は社会のためにもなっているんじゃないですかね。 岡:おっさんたちを、会社がまとめて引き受けるというのはね、確かにその側面はある。 小田嶋:災害時の避難所でも、孤立するおじさんをよそに、おばさんたちはコミュニティーを自然につくって、食べ物を分け合ったりしていたと聞くからね。だから社交性においてはね……。 岡:もう全然勝てないでしょう。 小田嶋:おっさんというのは、結局、猿山しかつくれないから。 岡:上下関係が決まらないと、人間関係が決まらないんだよ』、「おっさん入院患者ほど迷惑な存在はない」、「上下関係が決まらないと、人間関係が決まらないんだよ」などは言い得て妙だ。
・『リベラルおじさんの世界の狭さ  小田嶋:ニワトリとか、サルとか、ゲラダヒヒとかと一緒なんですよ。女性の場合はボノボとか、もう少し進んだ段階の人たちだから、水平的な関係で社会を回していける。 岡:あれ、男はできないね。 小田嶋:年齢が5歳違うと口がきけないとか、年収で200万円違うと口がきけないとか。 岡:ほとんど同じ出身地で、同じ学歴で、同じ年収で、同じ年齢じゃないと話が合わない。 --狭っ。 小田嶋:そう、この狭さはいったい何よ、という話だよね。 岡:しかも我々は、内心に序列意識を持っているのに、表面上はリベラルな水平関係をつくっている風を装っているじゃない? 小田嶋:確かに俺にしても、戦後の東京育ちで、小石川出身ということで、表面上は一応リベラルだけど、中身は全然そうじゃないということが、だんだんはっきりしてきた。 --それって、入院中のおっさんよりもダメダメじゃないですか。 小田嶋:そうね……。それでいうと、世の中で一番、処置なしなのは、リベサヨみたいなおっさんやじじいで、その人たちが実は一番、世間知らずで威張っているという状況がある。 ヤナセ:分かります! --あ、またヤナセ教授が張り切って参入を。 ヤナセ:作家の鈴木涼美さんが、まさしく書いていました。鈴木さんはインテリのご両親のもとに生まれて、元日経新聞の記者で、慶應SFCの学生時代にAV女優をしていた人で、キャバクラで働いていたときの経験から書いたコラムに、印象的な記述がありましたよ。「リベラルなおじさんは大抵、キャバクラに来ても気前がよくない。おそらくトランプ米大統領の方がよほど気前は良い」(こちら)。つまり「トランプみたいなおっさんは威張っているけれど、金払いはいいし、意外とやさしい。一番だめな客は、『君みたいな仕事が、もっと解放されなきゃいけないんだ』とか言ってくる、自称リベラルおじさんだ」ということを書いているんですね。 --ああ、そういう説教系のリベラルおじさんは、岡さん小田嶋さんの自画像より、ずっと最悪ですね。 ヤナセ:そういうことを言うやつに限って払いは渋いし、エゴだし、エロだし、という話でした。 小田嶋:俺は鈴木涼美さんの本は、ラジオ番組「たまむすび」の中で、何回か推薦図書に挙げたことがあります。『身体を売ったらサヨウナラ』とか、タイトルも内容も「え?」というほど面白い。どういうふうに面白いかというと、文章はすごく面白いんだけど、書いていることは狂っている、という、いわく言い難い面白さなの。 岡:何、それ』、「説教系のリベラルおじさんは・・・ずっと最悪ですね」、確かにその通りなのだろう。
・『「来たよ、敗者復活組」  小田嶋:俺自身、すごく不思議な読書体験をしたんだけど、書いてある内容の三分の一ぐらいは、まったく賛同できない話なのよ。でも、最後まで面白く読めてしまう。あんなに賛同できない話が、こんなに面白いのはすごいや、って。 岡:僕には分からない。 小田嶋:俺だって分からないよ。あんなに頭が切れて、物を知っていて、状況が見えているのに、あの世界にいたということの不思議さ。自分がそういう世界にいたことをあけすけに語りながら、そうじゃない自分を保って、二つの人格を行き来させて書いている。 --小田嶋さんも、ご自身のアル中体験については、同じように書いておられるのでは(『上を向いてアルコール』)。 岡:そうだね。小田嶋なら、すでに二つの人格を行き来して書いているよ(笑)。 小田嶋:あれは道を踏み外したというか。 岡:あれはあれで体を張っているから。美しい言い方をすると、アル中体験も、みごとにネタに昇華したじゃないか。 小田嶋:どうでしょうね。アル中体験は一長一短ですから。お酒問題のおかげで今、ここにある私、というのも一つのルートかもしれないけれど、お酒を飲まなかった側の人生というのも、絶対あったと俺は思っているから。 --そうしたら、どうなっているの? 小田嶋:うーん。そう言われると困るけど。 岡:まあ、なって、俺ぐらいなもんだよ。だって小石川の同窓会に行くと、「来たよ、敗者復活組」とか言われてさ。 ーー岡さんが小田嶋さんと一緒にされているんですか。 岡:仲間にされちゃっている。 --お気の毒にと、一応言っておきましょう。 小田嶋:岡だって、高校時代の投げやりな態度とか、そうそう褒められたものではなかったからね。 岡:そうね。 小田嶋:一方で、30代の後半から40代の頭という、人生で一番働ける時期を働かなかったというのは、俺にとって財産みたいなものかな、という意識もある』、「二つの人格を行き来させて書いている」とはどんなものなのだろうか。暇があれば、読んでみたいものだ。
・『名作、「北大事件」  岡:その時期をほとんど働いていないというのは、すさまじいことですよ。小学校のときはエースだったみたいな人が、中学で肩を壊して、高校、大学と野球をやらないでプロに入った、みたいなもんだから。 --例外的な体験ということで、物書きにとっては大事なネタになりますね。 小田嶋:いや、やっぱり高校時代に、投げやりな価値観を身に付けちゃったから。岡も俺もね。だから、その先にあった必然の成り行きという気もしていますけどね。 岡:同窓会で「敗者復活」とか言われるのは、高校時代に投げやりだったということもあるけど、現役時代に、スキーをするがために北大を受けて落ちたとか、意味不明な行動をしたことが、いまだに根底にある。 --北大事件、ありましたね。(お読みになりたい方はこちら。連載の中でも名作だと思います:担当Y) 岡:それで、浪人した次の年に、僕は京大を第一志望で受けたでしょう。でも、実は高校時代の志望校は東工大でもあったの。 --え。北大に京大に東工大って、なんかめちゃくちゃじゃないですか。 岡:このキャンパスには初めて来たんだけど、「東京工業大学」という名前に対しては、僕は親近感があるんですよね。だって、模試の志望校欄に「東工大」って、何度か書いたから、わりと親しんでいるの。 --……それだけの経験で? 岡:そうそう。 --最終的には受けてもいないのに? 小田嶋:だって岡は、最後の方まで「オレは理系だ」って言っていたものね。たぶん我々のいたころの小石川は、都立で東工大に行く学生が一番多い学校だった。 岡:伝統的に理系に強いからね。 小田嶋:我々の時代の前から、小石川からは東工大に行くんだ、というルートは何となくあったんだよ。 岡:東大の理系に行くほど勉強はしないけど、でも東工大には行っておこう、みたいなね。 --また語弊のある言い方を……。 岡:でもさ、物理とか化学とか、どんどん分からなくなっていくし、じゃあ、微分積分ができるかというと、それも分かりませんになっていく。それで「理系はやめよう」と、心を改めると、「文転」と言われて、周囲からちょっと格下に見られちゃう。そこで東大文系に行くならまだしも、僕、早稲田の文系に行っちゃったから(笑)。 --聞きようによっては、嫌味ですけど。 小田嶋:まあ、すごく理系偏重の学校で、しかも国立志向という雰囲気だったから、早稲田の文系なんかは、そういうふうに見られていましたね。 --ところで今回の「NBOファイナル編」のテーマは「2018年を振り返る」です。そちらを事前に設定して、お二人に伝えていました。 岡:そうね。じゃあ、そろそろ本題に入ろうか。 小田嶋:そろそろ雑談を切り上げないとね。 --って、本題に入るまでに、全4回のうち、すでに2回分を使ってしまいました。 岡:まあ、プロローグということで、いいんじゃないの。 --…(いくない) 小田嶋:華麗なるプロローグ、とか見出しに付けてみたら?(ということで、長いプロローグの後、第3回に続きます』、ここまでがプロローグとは恐れ入った。続きは明日以降に取上げるつもりである。
タグ:華麗なるプロローグ そういう説教系のリベラルおじさんは、岡さん小田嶋さんの自画像より、ずっと最悪ですね リベラルおじさんの世界の狭さ 上下関係が決まらないと、人間関係が決まらないんだよ おっさん入院患者ほど迷惑な存在はない そりゃ家にいてもしょうがないけど…… 日本人はそう考えないから、自分より2期下のやつが自分の上司だということに、心理的に耐えられない 中国人の基準は「量」だから、「年齢がいくつであれ、仕事があれば金がもらえるでしょ。だったら、働けばいいじゃん」といった考え方を、すっと取る その部署の専門的な技能がない人も困るし、経験があって先輩風を吹かせる年寄りも、そりゃ、やりにくい人ですよ 「経験知」なんて人事には邪魔なんです 今は、定年になったほぼ全員が、「はい」って手を挙げちゃう 大学への転職は“魔が差した”? 大学の非常勤の給料って、むちゃくちゃ安い そこそこ能力のある60歳以上の人間を、安く雇える市場ができた、ということは、若い世代にとっては、とんでもない話になる 再雇用をする段には、「今までの6割の給料でお願いしますよ」みたいな話が可能になる 「70歳まで働ける社会」 「人生の諸問題@NBOファイナル その2:50代のあなた、大学教授に転職したいですか?」 「一言多いやつは出世しない」 出世の真理に気づいたヤツは、バカなことしか言わなくなる 医者と役員と、あと博士号を持っているやつと、って、そういうやつしか来てないんだよ 同窓会の準備会 医者と役員と、あと博士号を持っているやつ NK新聞、A新聞、M新聞といったところから、ちょっと顔を知っている記者がずいぶんスピンアウトして、まるでパ・リーグの球団が減ったときみたいな感じを味わっています 校長先生が小僧に見えるお年頃 「新潮45」休刊を振り返る 小石川高校 今の俺なんか、「若いやつ」って言うときに、40代を想定しているからね。10代、20代を飛び越えて 柳瀬さんは今年の春に日経BP社をお辞めになって、4月に東京工業大学リベラルアーツ研究教育院の教授に就任 人生の諸問題 (その1)(人生の諸問題@NBOファイナル その1:オダジマの鉄則「一言多いやつは出世しない」、その2:50代のあなた、大学教授に転職したいですか?) 「人生の諸問題@NBOファイナル その1:オダジマの鉄則「一言多いやつは出世しない」」 清野 由美 対談 小田嶋 隆 岡 康道 そうやって、やたら内臓に詳しくなっていく 人生論
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