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ベンチャー(その4)(バイオベンチャー「そーせい」が迎えた大試練 実験サルにがんが発生 治験中断の誤算、「起業家うつ」増加の実態 メンタルヘルスを損なう6つの事情、「起業家が育たない日本」はまともな社会だ 「ジョブズとトランプの価値観」が実は同じ理由) [技術革新]

昨日に続いて、ベンチャー(その4)(バイオベンチャー「そーせい」が迎えた大試練 実験サルにがんが発生 治験中断の誤算、「起業家うつ」増加の実態 メンタルヘルスを損なう6つの事情、「起業家が育たない日本」はまともな社会だ 「ジョブズとトランプの価値観」が実は同じ理由)を取上げよう。

先ずは、昨年9月26日付け東洋経済オンライン「バイオベンチャー「そーせい」が迎えた大試練 実験サルにがんが発生、治験中断の誤算」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/239264
・『日本を代表するバイオベンチャーが岐路に立たされている。そーせいグループは9月18日、アルツハイマー病(AD)やレビー小体型認知症(DLB)などの治療候補薬で行っていた臨床試験(治験)を自主的に中断すると公表した。 アメリカでは提携先の製薬大手アラガン(本社・アイルランド)が2017年からAD向け適応の治験第1相を開始、日本国内ではグループの中核子会社ヘプタレス・セラピューテックが、DLB向け適応の治験第2相を開始したばかりだった』、こうしたことは、バイオベンチャーではありがちだ。
・『最大3600億円の超大型提携  そーせいにとって、この薬は極めて重要だ。そーせいは2016年4月、ほかの創薬候補を含めて中枢神経系疾患分野でアラガンと大型提携を結んでいる。いずれも同年2月に買収したヘプタレスの技術を活用したものだった。 その内容は、アラガンにグローバルでの開発・販売権を与える代わりに、契約一時金137億円、化合物のタイプ別に開発進捗に応じたマイルストン収入最大730億円、さらに販売目標の達成に応じたマイルストン収入として最大で2743億円(発表時の換算レートでの計算値)が入るというもの。 想定収益合計は最大3600億円に達し、ほかに売上高に応じた最大2ケタの段階的ロイヤルティの受領権もある。日本のバイオベンチャーとしては破格だった。契約一時金はすでに計上済みで、2017年3月期のそーせいの収益を一気に膨らませた。この契約によりバイオベンチャー銘柄としての同社の注目は一気に高まって、株価は一時、6500円を超えた。 今回の創薬候補は、アラガンにライセンスアウトした3つの化合物タイプの1つにすぎないが、日米欧で治験(欧州は現在治験後期第1相を完了)段階に進んでいて、アラガンと提携した開発プロジェクトの先陣を切っていた。 これまでアラガン関連の開発は順調に進捗しているとみられていた。それが突然の自主中断。なぜ中断せざるをえなくなったのか。 その“犯人”はカニクイザルだった。 人に対する治験と並行して、そーせいは重篤な副作用がないかなどの安全性を確認するため、動物を使った長期毒性試験を実施していた。ラットなどの試験では重篤な有害事象が起きなかったが、今回、カニクイザルに毒性所見が見つかり、希少な腫瘍(がんや肉腫)が発生した』、ラットなどでは大丈夫でも、サルでは毒性だ出たというのは、ありそうな話ではある。それにしても、アラガンとの契約で、「段階的ロイヤルティの受領権」とはいかにも製薬業界らしい手法だ。
・『不十分な説明内容  そーせいはただちに原因究明に入るとともに、人向けの治験を中断。リリース発表当日に、緊急でこの事案に関する投資家向けオンライン説明会を実施した。 当然と言えば当然だが、人の安全性の確保を第一優先にしたこと、動揺する市場や投資家への説明を急いだことは評価されるべきだろう。ただ、その説明の内容が極めて不十分だった。 がんが発生した複数のサル向けの毒性試験での投与期間は9カ月。治験での人への投与期間より長い。薬の用量も人に対するものよりも多かった。 会社側は「9カ月という投与期間の終わりに近い時期になって毒性が見つかった」とも説明している。こうした説明からは、投与期間の長さや用量の多さががんを引き起こしたのではないか、という疑問が起きる。 これに対し、そーせいは「原因究明に向けアラガンなどと調査を開始した」と語るのみで、有毒事案の中身など詳細な説明は避けている。いつからどのくらいの期間、どれだけの用量を欧米などの治験で人に投与したのかといった極めて基本的な情報も含めて、「アラガンとの契約上の守秘義務」を理由にそーせいは口をふさぐ。 これまでの治験では人に重篤な有害事象は出ていないと会社は強調しているが、単に薬の投与期間が短いから出ていないだけなのかもしれない。長期に薬を使い続ける必要性がある認知症治療薬の現実を考えれば、現時点では少なくともその懸念は持たざるをえない。 「ほかの薬の開発やプロジェクトへの影響はどうか」。説明会では、今回の事件がほかの開発薬に広がるのではないかという懸念を持つ投資家からの質問が相次いだ。「いつになったらよいニュースが聞けるのか」など、会社へのいらだちを素直に表す意見も飛び出した。 「1つの薬だけでなく、当社にはたくさんのプロジェクト、多くの有望なポートフォリオがある」。ピーター・ベインズ社長CEOは懸命に投資家の懸念払拭に努める』、問題をいち早く公表した姿勢は評価できるが、契約先との守秘義務を口実に十分な説明が出来ないというのは問題だ。必要であれば、契約先と交渉して守秘の一部を解除してもらうことも可能な筈だが、契約先が最大のスポンサーとあっては遠慮したのかも知れない。
・『治験再開には最低6カ月かかる  確かに同社は日本のバイオベンチャーには珍しく豊富な開発候補品を持つ。今回の説明会資料によれば、治験段階の候補品が6つ、その一歩手前の前臨床の薬が6つ、さらにその手前の探索段階の薬が5つという具合。昨年末に海外で約210億円を調達しており、開発資金も当分は十分にある。 ただ、前述のとおり、今回の開発薬がアラガンとの大型提携の中で最先行していただけに、その治験中断の影響は小さくない。ベインズCEOは「6~12カ月以内に治験を再開したい」と語ったが、今後、原因究明を本格化する段階であり、現時点では治験再開のメドは立っていない。最悪の場合、「治験が再開できない可能性もある」(ベインズCEO)。 今回の治験中断が、関連する資産やのれんの減損に自動的につながるわけではないが、治験中止となれば、そーせいの財務に大きな影響を及ぼす可能性もある。 発表を受けて株価は大きく調整した。現在では1200円前後と、ピーク時の2割程度にすぎない。かつてバイオベンチャーの中で断トツだった時価総額は、ペプチドリームやサンバイオに大きく水を空けられており、投資家の目も厳しくなりつつある。 「こういうことはこの業界では日常茶飯事。会社が強靭になるためのよいチャンス」。説明会の最後に創業者の田村真一会長はそう語った。その言葉どおり、雨降って地固まるとなるのか。悲願である世界的バイオ会社に脱皮できるか、大きな正念場にそーせいは差し掛かっている』、なんとか踏ん張って欲しいところだ。

次に、株式会社cotree 代表取締役の櫻本真理氏が1月18日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「起業家うつ」増加の実態、メンタルヘルスを損なう6つの事情」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/191198
・『古くからの友人と、カフェで偶然出会った。2年は連絡をとっていなかったと思う。1年ほど前、彼は長く勤めた大企業を辞めて自分の会社とサービスを立ち上げた。当時はいくつものメディアに取り上げられ、注目を浴びているのをSNSで見かけていた。それがこのところ、SNSでも友人の集まりの場でも、姿を見かけないな、と思っていたところだった。 向かいの席に座った彼は「久しぶりだねー」と笑顔をつくったが、口元がひきつっているのが分かった。カップを握る手も震えていた。もともと明るくて気さくな彼の、落ち着かない様子に違和感を持ち、少し心配になった。 「大丈夫?調子悪そう」と聞くと、ぎこちなく笑いながら「会う人みんなにそう言われる」と答えた。 「最近寝ても寝た気がしなくて、それに頭が全然働かない」と彼は話し始めた。 聞くと、彼の事業はスタート当初こそ注目されたものの、思ったように収益化は進まなかったという。追加の資金調達のめどがつかないまま、資金は底をつきそうになっていた。運転資金を稼ぐために日銭稼ぎのための業務を請け負うが、それが彼の体力と睡眠時間を奪っていた。ミスが増え、顧客からのクレームも増え、仕事を楽しいとは思えない。うつむいて絞り出すように話す様子からも、精神的に限界にきているのだとすぐに分かった。 「いったんゆっくり休んでみるという選択肢はないの?病院にも行ってみたほうが」と言う私に、彼はこう返してきた。 「できることなら休みたいし…もうやめたい、とすら思ってしまう。でも今休んだら会社は立ち行かなくなる。そうしたら失敗者としての烙印を押されてしまって、きっともう夢をかなえることはできなくなる。もう一度立ち上がれる自信がない」 彼はその数ヵ月後、事業をたたみ、実家に帰ったと聞いた。 このエピソードは、個人が特定されないように複数の事例をもとに改変を加えたものである。だが、起業家うつの、典型的な事例のひとつといっていいだろう』、「運転資金を稼ぐために日銭稼ぎのための業務を請け負うが、それが彼の体力と睡眠時間を奪っていた」とは、ありそうな落とし穴だ。
・『増える起業家、知られざる苦悩  起業がブームだ。東京都は、現在5%程度の都内開業率を2024年に10%台にまで引き上げるべく、起業家支援のための予算を割いている。キャッシュリッチな大企業も相次いでアクセラレーション(起業家育成)のプログラムやCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)の組成を通じてベンチャー投資や支援の動きを加速させており、起業家支援のためのエコシステムは広がり続けている。 有望なベンチャーに投資したいという資金はあふれ、投資家同士が獲得競争をしている。そんな中、むしろ投資家が投資したいがために「起業させる」ようなケースもあると聞く。 既存産業の成長の鈍化、イノベーションの必要性、テクノロジーの進歩、働き方の多様化。「起業家を増やす」ことは社会が向かいうる当然の方向性である』、確かに最近のベンチャーブームはバブル的色彩すら帯びてきたようだ。
・『そんな中、このようなデータがある。 「起業家の37%が、気分障害・不安障害の基準を満たしている(一般人の7倍)」「起業家の49%が、生涯に一度はメンタルの問題を抱える」 筆者が運営する会社(株式会社cotree)では、従来からオンラインで臨床心理士等の専門家との相談を行えるオンラインカウンセリングサービスを運営しており、起業家からの相談も多く受けてきた。その中で見えてきたことは、言い古されてきたかもしれない「経営者の孤独」とメンタルヘルスの現実だ。起業家はメンタルヘルスの問題を抱えやすく、その問題を持続させやすい。そこには単純ではない、起業家特有のいくつかの要因が関係している』、起業家のメンタルヘルスの問題はこれまで殆ど取り上げられることがなかったが、確かに重要な問題のようだ。
・『【要因1】経営者という責任と不確実性の大きさ  起業家が抱える外的ストレス要因は大きい。利害関係者が増えれば増えるほど、精神的な重圧は増える。顧客はもちろんのこと、雇用をしていれば従業員、投資を受けていれば投資家に対して、負うべき責任は拡大していく。事業成長の鈍化、資金不足、組織内のいざこざ、製品へのクレーム、想像もしないトラブルなど、あらゆる「ハードシングス」が起こる。 そしてそれだけのハードシングスを乗り越えたとして「成功する確約」はどこにもないことも多い。来月どうなるか分からないという不確実性もまた、精神的負荷を高めることになる』、その通りだろう。
・『【要因2】裏切りからの孤独、他者への不信  経営を続ける中で、信頼していた役員や従業員への期待が裏切られたり、同じ船に乗る仲間だと考えていたメンバーが冷たく立ち去ったりといった場面と出合うことは多い。そうした経験から傷つきを重ね「だんだん他人に期待をしなくなった」と経営者が話すのを聞くことがある。 他人に依存しない姿勢は経営者の「強さ」のようにも見えるが、仲間を巻き込みながらも「本当に信頼できるのは自分だけ」という孤独感と裏腹でもある』、経営が上手くいかなくなると、手の平を返したように去っていくというのも、人間社会の縮図だろう。
・『【要因3】夫婦・家族関係の不和で孤独感が加速  弊社が運営するオンラインカウンセリングサービスにおける経営者からの相談の中で、最も多く見られる相談内容は「夫婦関係、家族関係」であった。経営者、特に立ち上げ初期の起業家にとっては、仕事に割く心身のエネルギーが大きいために、家庭の優先順位が必然的に下がってしまうことは多い。また、経営者によく見られる自由への志向性や合理的思考を前提としたときに、不自由で親密な関係性を維持することが難しくなってしまう場合もある。 夫婦・家族関係が不和であるということは、すなわち「家に帰っても癒される場所がなく、孤独である」ということだ。これが職場における孤独感に拍車をかけることがある』、「「家に帰っても癒される場所がなく」というのは悲惨だ。
・『【要因4】起業家のADHD生涯罹患率は約3割  「起業」というリスクとハードシングスを伴う環境に自ら飛び込もうとする人たちには、それを可能にする「起業家ならではの性格特性」がある。フットワークの軽さや創造性、柔軟性などの性格特性は、環境に適応していれば起業家の強みとして事業の拡大を支える。 だが、それが生かせる環境や他者との関係性がなければ、それはむしろ社会的不適応となり、精神的不安定さや周囲とのあつれきとなる。起業家的な特性とメンタルの疾患は、紙一重のところにあるのだ。 UC Berkeleyの調査によれば、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の生涯罹患率は起業家で29%、一方の対照群で5%。躁状態とうつ状態を繰り返す双極性障害は起業家で11%、対照群で1%。薬物やアルコールなどへの依存は、起業家で12%、対照群で4%。いずれの精神疾患においても、起業家の罹患率は著しく高い(グラフ参照)。 昨今国内外のメディアで目にすることもある「起業家の自殺」は、支援者にとっては最も触れたくないであろう出来事であろう。だが、起業家に多いとされる双極性障害は、精神疾患の中でも最も自殺のリスクが高い。もともとそうした気質を持った起業家が、高いストレスにさらされた結果発症し、薬物・アルコールへの依存や衝動性などと相まって自殺既遂に至ってしまうことは、必然的に想定しうる不幸なのだ』、「起業家的な特性とメンタルの疾患は、紙一重のところにある」、UC Berkeleyの衝撃的な調査結果が如実に物語っているようだ。
・『【要因5】休む、転職という「逃げ道」がない  精神的負荷が高まって「もうだめだ、苦しい」となってしまったとき、一般の従業員であれば「休む」「転職する」という選択肢もある。だが、起業家は安易に「休む」「逃げる」という選択をするには、仕事が人生と結びつき過ぎていることが多い。会社の経営が起業家のカリスマ性や能力に依存している場合にはなおさらである。 だからこそ、限界まで苦しみ、逃げることができずに抱え込んでしまうことになる。経営者自身が不調や心の揺れを抑圧していることもあり、自覚したときにはもう手遅れ(病理の状態)になっているケースもある』、確かにその通りだろう。
・『【要因6】「起業家は強くなくてはならぬ」という社会の目  メンタルヘルスの問題に対する社会の目は、10年前と比べると格段に改善したとはいえ、依然として優しいとはいえない。それが「自己責任でリスクをとっている」と考えられがちな起業家のメンタルヘルスとなるとなおさらである。「メンタルが弱い起業家になんて投資しないから、起業家のメンタルヘルス問題には興味がない」と話すキャピタリストと出会ったこともある。 こうした言説がまかり通る社会で、起業家にとって自身の不安感や揺らぎを堂々と表明できる場所はほとんどない。IPOやバイアウトなどの形でEXIT(事業売却)に成功し大金持ちになる起業家の世界は華々しいが、その光の世界にたどり着く起業家はごく一部だ。その道すがら、弱さをさらけ出すことができずに「姿を見かけなくなる」起業家は多い。「失敗者の烙印」を恐れて社会に戻れなくなる者もいる』、やはり何でも相談出来る親しい友人が必要なようだ。
・『失敗や弱さを許容する社会へ  「経営の神様」と呼ばれる松下幸之助氏の有名な言葉がある。「成功とは、成功するまでやり続けること」 今の社会には、失敗を許容し、成功するまでやり続けられる空気があると言えるだろうか? 起業家にとってメンタルの不調は、自身の不調だけの問題では済まない。事業成長の鈍化や組織への悪影響という形で、さらなる状態の悪化を招くこともある。それが起こる前に早期に自覚して対処することが、負のスパイラルを止めることにつながるはずである。だが、起業家特有の精神的孤立や、「弱さをみせたら成功は遠のく」「失敗したら次はない」という社会の空気感が、起業家の抱える心の問題の発見を遅らせ、再起を難しくしているのである。 メンタルヘルスの問題やリスクに対する適切な理解、対処、支え合える関係性を築いていく上で、まずは支援者、そして社会全体が起業家の失敗やメンタルのリスクを受容する姿勢が必要とされている。 2018年11月に弊社が立ち上げた起業家向けメンタルサポートサービス「escort」では、その運営にVC(ベンチャーキャピタル)をはじめとする起業家支援に関わる20社以上による協賛金が充てられ、起業家は無料でメンタルサポートを利用できるようになった。これは、支援者の立場からもこの問題を真摯に受け止め、解決に向けて取り組んでいくことへの意思表示であるともいえよう。 多様で自由な生き方が許容されるはずの時代において、「起業家としての成功」はごく一部の人たちに許されるスポットライトではなく、広く社会を照らす希望の光になるべきである。最初から成功可能性の高い「安牌」にのみコミットするのではなく、「起業」のあり方が多様化する中で起業家の失敗を受容し、不調な時期を乗り越えられるように支えることこそが、支援者ひいては社会としてのあるべき姿なのではないだろうか』、説得力ある主張で、その通りだ。筆者が立ち上げたメンタルサポートサービスに、VCなど「20社以上による協賛金」とは、世間の見方も変わりつつあることを示唆しているのかも知れない。

第三に、評論家の中野 剛志氏が2月9日付け東洋経済オンラインに寄稿しつぁ「「起業家が育たない日本」はまともな社会だ 「ジョブズとトランプの価値観」が実は同じ理由」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/264149
・『アメリカという国家の価値観がどのように出来上がってきたのか。500年の歴史からひもといた『ファンタジーランド狂気と幻想のアメリカ500年史』がこのほど刊行された。アメリカを支えてきた価値観はどこから来て、どこへ行くのか。『[新版]〈起業〉という幻想アメリカン・ドリームの現実』の共訳者でもある筆者が読み解いていく』、意外性があり面白そうだ。
・『現実と幻想の区別がつかない国民性  そうだろうなと薄々感じていたことなのに、それを明快に論証されると、かえって驚くようなことがある。 『ファンタジーランド』とは、まさにそういう本だ。 本書のテーマは、次のように要約される。 「トランプ政権の『ポスト真実』『もう一つの事実』は、一般的には、不可解で常軌を逸したアメリカの『新たな』現象だと考えられている。だがこれは、アメリカ史全体を通じて(実際にはアメリカ史が始まる前から)受け継がれてきた意識や傾向から当然導き出される結果なのである」(『ファンタジーランド 上』、p17) トランプ政権を生み出したのは、アメリカ人の国民性である。その国民性とは、現実と幻想の区別がつかないということだ。 驚くなかれ、アメリカとは、次のような世論調査の結果が出る国なのだ。 3分の2が、「天使や悪魔がこの世で活躍している」と信じている。 3分の1以上が、地球温暖化は、科学者や政府やマスコミの共謀による作り話だと信じている。 3分の1が「政府は製薬会社と結託し、がんが自然治癒する証拠を隠蔽している」「地球外生物が最近、地球を訪れた」と信じている。4分の1が「ワクチンを接種すると自閉症になる」「魔女は存在する」と信じている。 聖書は主に伝説と寓話であると思っている人は、5人に1人しかいない。 著者のカート・アンダーセンは、この現実と幻想の区別ができないアメリカ人気質を、建国以前のプロテスタントの入植までさかのぼっている』、「現実と幻想の区別ができないアメリカ人気質」は、実にユニークな指摘で、言われてみれば頷ける部分もある。
・『「ポスト真実」の根源は1960~1970年代の若者文化  もっとも、この気質が本格的に花開いたのは、1960年代から1970年代である。 リベラル派(左派)は、この時代の若者文化を理想視し、いまだにその反体制的な価値観を信じている。そして、保守派(右派)のトランプ政権が振りまく「ポスト真実」に怒りの声を上げている。 しかし、1960~1970年代の若者文化の価値観とトランプ政権の「ポスト真実」とは、同根であることをアンダーセンは暴いていく。 (1960年代の平等の拡大によって)一人ひとり誰もが自由に、自分の好きなことを信じ、好きなものになれるようになった。こうした考え方を突き詰めていけば、競合するあらゆる考えを否定することになる。もちろん個人主義は、アメリカが生まれ、幸福の追求や自由が解き放たれたときから存在する。以前から、『夢を信じろ』『権威を疑え』『好きなことをしろ』『自分だけの真実を見つけろ』と言われてきた。だがアメリカでは1960年代以降、法律が一人ひとりを同一に扱うだけでなく、一人ひとりが信じていることはどれも一様に正しいというところまで、平等の意味が拡大された。絶対的な個人の自由を容認するのがわが国の文化の原則となり、国民の心理として内面化された。自分が信じていることは正しいと思っているのであれば、それは正しい。こうして個人主義は、自己中心主義となって蔓延した」(『ファンタジーランド 上』、p314~315) 権威を疑い、体制に逆らい、自由と平等を絶対視した結果、リベラル派は「一人ひとりが信じていることはどれも一様に正しい」という相対主義に行きついた。 しかし、リベラル派の「権威を疑え」「自分だけの真実を見つけろ」という相対主義を徹底すれば、客観と主観、あるいは現実と幻想の区別がなくなっていくのも当然であろう。リベラル派はトランプ政権を批判するが、「ポスト真実」「もう一つの事実」といった相対主義を振りまいてきたのは、本をただせば、リベラル派なのである』、「960~1970年代の若者文化の価値観とトランプ政権の「ポスト真実」とは、同根である」との指摘には、心底驚いた。
・『自由放任主義と「みんな子ども」症候群  さらに、リベラル派の相対主義は、次の2つのアメリカ的な気質にもつながっている。 その1つは、極端な所得格差や巨大企業の市場独占を許容する「自由放任主義(新自由主義)」である。 「自分だけの真実がある」という相対主義は、「自分の好きなことをしていい」という自己中心的な個人主義を正当化する。それは、自己表現にふけったりマリファナを吸ったりする自由だけでなく、資本家が規制や税から逃れたり、従業員の400倍の所得を得る自由も許容する。自由放任主義は、リベラル派の相対主義と個人主義の帰結なのだ。 もう1つは、アンダーセンの言う「『みんな子ども』症候群」である。 相対主義を徹底すると現実と幻想の区別がなくなるが、現実と幻想の区別をしないということは、幼稚化するということでもある。幼児は現実と幻想をごっちゃにするが、大人になるにつれ、その分別ができるようになる。ところが、リベラル派の相対主義は、現実と幻想の未分化を是とする。要するに、いつまでも子どものままでいることを称揚するのだ。 1960~1970年代のリベラル派の価値観が育てた個人主義、自由放任主義そして「みんな子ども」症候群。 このアメリカというファンタジーランドを象徴する現象が、日本人が憧れてやまないシリコンバレーの起業家である。 そもそも、アメリカの起業家のイメージは、多くの「幻想」によって構成されている。日本人、そしてほかならぬアメリカ人自身が信じている起業家の「幻想」は、こんな感じだろう。 シリコンバレーでは、才能にあふれた若者が途方もない夢を抱き、その夢を実現するために、1人あるいは数名で起業する。アメリカでは、そうしたスタートアップ企業が続々と登場し、それがアメリカ経済のダイナミズムを生んでいる。とくに、1990年代のIT革命は、そうした若者が起業して夢を実現するチャンスを大きく拡大した。 このような起業家のイメージを象徴する存在が、例えばスティーブ・ジョブズである。 しかし、アメリカの起業家の「現実」は、こうである(『真説企業論』)。
 + アメリカの開業率は下落し続けており、この30年間で半減している(「日本経済『長期停滞』の本当の原因」図1)。
 + 1990年代は、IT革命にもかかわらず、30歳以下の起業家の比率は低下ないしは停滞しており、特に2010年以降は激減している(「ウォールストリート・ジャーナル」記事)。
 + 一般的に、先進国よりも開発途上国のほうが起業家の比率が高い傾向にある。例えば、生産年齢人口に占める起業家の比率は、ペルー、ウガンダ、エクアドル、ベネズエラはアメリカの2倍以上である。
 + アメリカの典型的なスタートアップ企業は、イノベーティブなハイテク企業ではなく、パフォーマンスも良くない。起業家に多いのは若者よりも、中年男性である(『[新版]〈起業〉という幻想』)。
 +1990年代後半から2000年代前半(IT革命の前後)、シリコンバレーにおけるハイテク産業の開業率は全米平均をやや下回り、シリコンバレーを除いたカリフォルニア州の開業率の3分の2程度である(CESifoサイト)』、リベラル派の相対主義が「自由放任主義と「みんな子ども」症候群」を生んだとの指摘もユニークで参考になる。「アメリカの起業家の「現実」」は、我々日本人のイメージとは大きくかけ離れたものだ。
・『GAFAを生み出した「ファンタジーランド」  こうした「現実」にもかかわらず、なぜ起業家という「幻想」は消えないのか。それは、アメリカ人が、現実と幻想の区別ができないし、したくもないという気質をもつからである。 「シリコンバレーで、有能かつ幸運な一握りの人間がまれに巨万の富を得て、それに刺激を受けたほかの人たちが信じ願い続ける。個人の起業家が大成功を収める可能性はとてつもなく小さい。宝くじと同じだ。それに、テクノロジーで大当たりする可能性も低い。だが、1980年代と90年代に驚異的に大金持ちになった第一世代のデジタル起業家、ゲイツ、ジョブズ、ベゾスは、中年でも比較的若いうちに億万長者になった。今世紀、バブルがはじけて暴落が起きる前夜に成功した若きデジタル起業家は、30歳(グーグルのラリー・ペイジ)、25歳(スナップチャットのエヴァン・シュピーゲル)、23歳(フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ)で億万長者になった。これが夢をさらに大きくした。金銭的に大成功を収めるテクノロジー関係のスタートアップを指す新しい用語は何か?『ユニコーン』だ。子どもだけが信じる想像上の生き物である」(『ファンタジーランド 下』、p337~338) 大企業組織に立ち向かう個人の起業家は、反体制的な個人主義の理想に合致する。 各国の規制や税から逃れる寡占的な巨大IT企業(いわゆるGAFA)は、「自分の好きなことをしていい」という自由放任主義の産物だ。 そのGAFAが提供するのは、現実と幻想の区分をあいまいにするデジタル技術であり、「自分だけの真実」が見つかるSNSである。 成功する起業家の若さが強調されるのは、「みんな子ども」症候群の症例だろう。次の症例も同じである(最近、日本でも、同じような症例を見せる痛々しい企業が増えてきているが) 「現代的でクールなオフィスでは(カリフォルニアでは特に)、管理職も従業員も子どものような服装をしているだけではない。職場に、スリンキーやミスター・ポテトヘッドなどのおもちゃ、テーブルサッカーや『HALO(ヘイロー)』などのゲームが完備されている。1990年代になると、職場でよく『楽しいかい?』と尋ねられるようになった。それが、仕事に満足しているかどうかを尋ねる標準的な言葉となったのである」(『ファンタジーランド 下』、 p29) ここでも、スティーブ・ジョブズは象徴的である。 若き日のジョブズは、1960~70年代の若者文化(ヒッピー文化)の影響を強く受け、薬物を使用してハイになり、幻覚を見ていた。晩年、膵臓がんを患ったジョブズは、すぐに外科手術を受けていれば治癒する可能性があったにもかかわらず、フルーツジュース、鍼、薬草療法、インターネットで見つけた治療法、霊能者に頼っていたという(『ファンタジーランド下』、p136~137)。 このように、起業家のイメージは、徹頭徹尾、アメリカ的=ファンタジーランド的なのである。だから、アメリカ人たちは、起業家という「幻想」から離れられないのである。 そもそも、「アメリカは山師、起業家、あらゆる種類のペテン師によって作られた」(『ファンタジーランド 下』、p373)国なのだ。ジョブズを生んだファンタジーランドで、トランプ大統領が誕生したのは、必然だったのではないか。 「日本では、起業家がなかなか育たない」などと嘆く声が絶えないが、それも当然である。ファンタジーランドの幻想をいくら追いかけたところで、現実にはならないのだ』、「こうした「現実」にもかかわらず、なぜ起業家という「幻想」は消えないのか。それは、アメリカ人が、現実と幻想の区別ができないし、したくもないという気質をもつからである」、「GAFAが提供するのは、現実と幻想の区分をあいまいにするデジタル技術であり、「自分だけの真実」が見つかるSNSである。 成功する起業家の若さが強調されるのは、「みんな子ども」症候群の症例だろう」、「起業家のイメージは、徹頭徹尾、アメリカ的=ファンタジーランド的なのである。だから、アメリカ人たちは、起業家という「幻想」から離れられないのである」、「ジョブズを生んだファンタジーランドで、トランプ大統領が誕生したのは、必然だったのではないか」、などの指摘は、極めてユニークで、大いに考えさせられる。日本がベンチャー育成で、アメリカの真似をしようとするのは、馬鹿げたことなのかも知れない。やはり、日本には日本に合ったやち方があるのだろう。
タグ:ベンチャー 東洋経済オンライン ダイヤモンド・オンライン そーせいグループ 中野 剛志 (その4)(バイオベンチャー「そーせい」が迎えた大試練 実験サルにがんが発生 治験中断の誤算、「起業家うつ」増加の実態 メンタルヘルスを損なう6つの事情、「起業家が育たない日本」はまともな社会だ 「ジョブズとトランプの価値観」が実は同じ理由) 「バイオベンチャー「そーせい」が迎えた大試練 実験サルにがんが発生、治験中断の誤算」 アルツハイマー病(AD)やレビー小体型認知症(DLB)などの治療候補薬で行っていた臨床試験(治験)を自主的に中断すると公表 提携先の製薬大手アラガン 最大3600億円の超大型提携 想定収益合計は最大3600億円 ほかに売上高に応じた最大2ケタの段階的ロイヤルティの受領権もある 株価は一時、6500円を超えた 動物を使った長期毒性試験 ラットなどの試験では重篤な有害事象が起きなかったが、今回、カニクイザルに毒性所見が見つかり、希少な腫瘍(がんや肉腫)が発生 不十分な説明内容 アラガンとの契約上の守秘義務 治験再開には最低6カ月かかる 株価は大きく調整した。現在では1200円前後 櫻本真理 「「起業家うつ」増加の実態、メンタルヘルスを損なう6つの事情」 運転資金を稼ぐために日銭稼ぎのための業務を請け負うが、それが彼の体力と睡眠時間を奪っていた 増える起業家、知られざる苦悩 起業家の37%が、気分障害・不安障害の基準を満たしている(一般人の7倍) 起業家の49%が、生涯に一度はメンタルの問題を抱える 起業家のメンタルヘルスの問題 【要因1】経営者という責任と不確実性の大きさ 【要因2】裏切りからの孤独、他者への不信 【要因3】夫婦・家族関係の不和で孤独感が加速 【要因4】起業家のADHD生涯罹患率は約3割 要因5】休む、転職という「逃げ道」がない 【要因6】「起業家は強くなくてはならぬ」という社会の目 失敗や弱さを許容する社会へ 「「起業家が育たない日本」はまともな社会だ 「ジョブズとトランプの価値観」が実は同じ理由」 『ファンタジーランド狂気と幻想のアメリカ500年史』 『[新版]〈起業〉という幻想アメリカン・ドリームの現実』 現実と幻想の区別がつかない国民性 トランプ政権を生み出したのは、アメリカ人の国民性である。その国民性とは、現実と幻想の区別がつかないということだ 3分の2が、「天使や悪魔がこの世で活躍している」と信じている 3分の1以上が、地球温暖化は、科学者や政府やマスコミの共謀による作り話だと信じている 3分の1が「政府は製薬会社と結託し、がんが自然治癒する証拠を隠蔽している」「地球外生物が最近、地球を訪れた」と信じている 「ポスト真実」の根源は1960~1970年代の若者文化 1960~1970年代の若者文化の価値観とトランプ政権の「ポスト真実」とは、同根である 個人主義は、自己中心主義となって蔓延 リベラル派の「権威を疑え」「自分だけの真実を見つけろ」という相対主義を徹底すれば、客観と主観、あるいは現実と幻想の区別がなくなっていくのも当然 「ポスト真実」「もう一つの事実」といった相対主義を振りまいてきたのは、本をただせば、リベラル派なのである 自由放任主義と「みんな子ども」症候群 1960~1970年代のリベラル派の価値観が育てた個人主義、自由放任主義そして「みんな子ども」症候群 アメリカの起業家の「現実」 アメリカの開業率は下落し続けており、この30年間で半減 1990年代は、IT革命にもかかわらず、30歳以下の起業家の比率は低下ないしは停滞しており、特に2010年以降は激減 アメリカの典型的なスタートアップ企業は、イノベーティブなハイテク企業ではなく、パフォーマンスも良くない。起業家に多いのは若者よりも、中年男性である GAFAを生み出した「ファンタジーランド」 そのGAFAが提供するのは、現実と幻想の区分をあいまいにするデジタル技術であり、「自分だけの真実」が見つかるSNSである 起業家のイメージは、徹頭徹尾、アメリカ的=ファンタジーランド的なのである だから、アメリカ人たちは、起業家という「幻想」から離れられないのである
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