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格差問題(その4)(岩本晃一氏「デジタル経済の嘘とホント」:(1)経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった、(2)非正規雇用140万人が7年後に職を失う 日本の格差拡大はこれからだ、(3)IT投資で7年後になくなる仕事、失業者は外国人と職の奪い合いに、(4)IoTとAIでなくなる仕事と忙しくなる仕事、製造業は二極化が進む) [経済問題]

格差問題については、昨年5月11日に取上げた。久しぶりの今日は、(その4)(岩本晃一氏「デジタル経済の嘘とホント」:(1)経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった、(2)非正規雇用140万人が7年後に職を失う 日本の格差拡大はこれからだ、(3)IT投資で7年後になくなる仕事、失業者は外国人と職の奪い合いに、(4)IoTとAIでなくなる仕事と忙しくなる仕事、製造業は二極化が進む)である。

先ずは、経済産業研究所/日本生産性本部 上席研究員の岩本晃一氏が1月9日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった 「デジタル経済の嘘とホント」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/190362
・『2019年も年初から「米国第一」を掲げるトランプ政策で振り回されることになりそうだ。 1月には日米物品貿易協定(TAG)交渉が始まり、また、米国が25%追加関税実施の期限を3月末に延期して「一時停止」状態にある米中貿易戦争も、中国側の改善努力が足りないと米国が判断すれば、さらなる泥沼に入り込む可能性がある』、確かに日米、米中の動きはこれから本格化する。
・『トランプ大統領はIT化の「真実」語らず  トランプ大統領は、米国人の失業や中流層の賃金低下による所得層の二極化、いわゆる経済格差が拡大した原因は、流入する移民や中国などから輸入される安い製品が米国人の雇用を奪っているからだと主張している。 それで移民の流入を防ぐためにメキシコ国境に「壁」を作り、一方で中国などには貿易不均衡を迫って強硬な姿勢を続けている。 だが、これは政治的な意図を持った宣伝に過ぎず、経済格差の発生原因はそこにはない。 トランプ大統領が誕生したのは、工場の閉鎖や海外移転でさびれた「フローズンベルト」と呼ばれる中西部の、職を失ったり賃金が下がったりした白人労働者らの支持があったからだというのはよく知られたことだ。 こうした白人中流層らの根強い支持は、昨年秋の中間選挙でも同じだった。 こうした地域と対極にあるのが、IT企業が集まるカリフォルニアのシリコンバレーだろう。 また聞きなので、どこまで正確かわからないが、今、シリコンバレーに立地する企業に勤める社員の平均賃金は約1300万円だと、知人の米国人研究者は話していた。 先日、放映されたNHKのフェイスブック社の特集番組のなかでも同社の社員の平均賃金は2300万円と説明していた。 シリコンバレーは、不動産価格や賃料も高騰し、それはかつての日本のバブル期をはるかにしのぐ状態で、大学生の中にはアパートも借りられず、ホームレスになる学生もいると聞く。 ワシントンDC本拠のシンクタンク「Institute for Policy Studies(IPS)」が先日、発表したレポートによれば、米国のお金持ち上位400人である「フォーブス400」にランク入りするための最低資産額は上昇が続いている。 1982年の最低資産額は1億ドルだった。今年の最低資産額は過去最高の20億ドル(約2260億円)に達している。 「この状況が続けば、過去数十年続いている一部の人々に富が集中する流れは、さらに強まっていく」とレポートの共同執筆者のJosh Hoxieは述べている。 IPSの報告によるとフォーブス400に登場する富豪らの合計資産額は、米国の下位64%の人々の合計資産額を上回っている。下位64%の人々の人口は“メキシコやカナダの人口の合計よりも多い”という。(出典;2017/11/10フォーブスジャパン)』、米国での経済格差拡大は確かに顕著だ。
・『政治的プロパガンダで移民や中国を「敵」に  米国における経済格差の推移を見る最も簡単な指標は、ジニ係数である(図表1)。 米国はジニ係数が上昇し続けており、しかもOECD諸国と比べても水準は高く、国内での経済格差が拡大し続けていることがわかる。 しかし一方で、図表2を見れば、アメリカのジニ係数のもう1つの特異さがわかる。 図表の横軸は、所得再分配前のジニ係数であり、縦軸は所得再分配後のジニ係数だ。 所得再分配というのは、例えば、税制や社会保障政策で、所得の高い人から低い人に政策的に所得を再分配することだ。金持ちほど税金が高くなる所得税の累進税率や税収による低所得者への住宅や教育費の補助などが典型だ。 この図表を見ても、米国政府には所得再分配を行う意思がほとんどないように見える。一方、ドイツは、強力な再分配を実施することで、稼いだ人の富を他者に分配している。これを求めて移民・難民がドイツに殺到しているのである。 もしトランプ大統領が米国内の経済格差が問題というのなら、富裕層から貧困層への富の分配をすればよい。この図からもわかるように、米国もドイツのように強力な所得再分配策を実施すれば、国内の経済格差はかなりの程度、緩和される。 それをしないで、移民や対米貿易黒字国の中国や日本などを非難するという、外に「敵」を作って攻撃しているところに、トランプ大統領の政治的意図を見ることができる』、所得再分配策をせずに、「移民や対米貿易黒字国の中国や日本などを非難するという、外に「敵」を作って攻撃」するトランプ大統領の姿勢は、政治的には巧みだ。
・『格差の原因は情報化投資 雇用・所得の二極化を生み出す  では、経済格差が拡大してきた「ホント」の原因は何なのか。それは国内の活発な情報化投資だ。 以下に紹介するのは、デイビッド・オーター(David H. Autor、1967年生まれ)がJournal of Economic Perspectives, Volume 29, Number 3, Summer 2015 に投稿した論文“Why Are There Still So Many Jobs? The History and Future of Workplace Automation”である。 同氏は、ハーバード大で修士号・博士号を得て、現在、MITで教授をしている。労働経済学が専門で、これまで、Econometric Society (2014)、American Academy of Arts and Sciences (2012)、Society of Labor Economists (2009)などで賞を得ている著名な研究者だ。 将来、ノーベル賞を受賞してもおかしくないくらい経済学会での存在感は大きい。 オーターが本論文で解明しようとした課題は、古くは機械の導入やロボット、ITなどと雇用や格差の関係だ。 すなわち、過去2世紀にわたって新しい技術の出現は多くの職業を奪ってしまうと警告され続けてきた。19世紀には、英国で、織機を打ち壊すラッダイト運動も起こった。雑誌TIMEは1961年2月24日号で「オートメーションが職を奪う」とのタイトルで特集記事を組んだ。 だが現実にはそうはなっていない。2世紀経った今でも多くの職業が存在している。それは、「嘘」だったのか。いやそうでもない。 彼は、独自の計算方法で、米国における1つひとつの職(ジョブ)に対して、「スキル度」(例えば、当該職業で働く大卒比率やその他要因などを加味して計算)を算出し、横軸にスキル度0%の職(ジョブ)から順に100%に向けて、左から右に向かって並べた。 例えば、低スキルの職とはトイレの清掃員、中スキルの職とは企業の経理職員、高スキルの職とは企業コンサルタントやアナリストなどである。 そしてそれぞれの職(ジョブ)ごとに、縦軸に雇用比率の変化をプロットした。それが次に示した図だ。 つまり、1979年から1989年、1989年から1999年、1999年から2007年、さらに2007年から2012年まで、それぞれの変化率を4本の折れ線で示した。 恒常的にマイナスになっている部分は、1979年から2012年まで恒常的に雇用者が減少していることを示している。 「スキル度」の計算は、オーター独自のものだが、図自体が示す各職種のスキルによって雇用比率が、米国で1979年から2012年までにどう変わってきたかという傾向は、歴然たる事実である。 この図から次のことが言える。 第1に、中スキルの職業の労働者が、情報化投資によって機械に代替され、過去、継続的にずっと減少を続けている。 オーターは、過去、職を失ってきた労働者は、機械に代替されてきた「ルーティン業務」であるとしている。 「ルーティン業務」は、どんなに難しい仕事であったとしても、また人間が仕事をするために長年の訓練が必要であってとしても、ロジックに基づいているので、簡単にプログラム化できるからである。 一方、オーターは、中スキルであったとしても、プログラム化できない対人関係業務の労働者は増えてきたとしている。 第2に、低スキルの職業の労働者が過去、継続的にずっと上昇を続け、かつ、上昇スピードが加速している。 第3に、高スキルの職業の労働者が過去、継続的にずっと上昇を続けているが、上昇スピードが減速している。 技術が進むほど高スキル者に対する企業の需要はますます強くなるが、それに応えられる人材の市場への供給がますます難しくなるため、労働者の伸びは鈍化し、高スキル者の賃金は上昇してきた。 第4に、雇用が失われる境界が、より高スキルの職の方に移動している。 そして、第5に、職を失った中スキルの労働者が移動する先は、高スキルか、または低スキルのどちらかだが、これまで記したように、技術が進むほど企業が求める高スキルのレベルは高くなり、中スキル者だった人がいくら自己投資しても高スキルに移行していく人はとても少ない。 例えば、そこそこの大学を出て年収300万円くらいで経理業務をしていた人が、いくら自己投資をしても、情報機器を使いこなしてさまざまなビッグデータを分析し、数千万円を稼ぐ企業コンサルタントやアナリストになることは難しい。 そのため、大部分の中スキルだった人は、低スキルに落ちていったことがうかがえる。 低スキルの仕事がほとんど増えないなかで、中スキル者が低スキルに落ちていって低スキルの総労働者数が増えているため、賃金は低いままに据え置かれ、かつ雇用がますます不安定化している。 これが米国で言われている「高学歴ワーキングプア」であり、そこそこの大学を出ても、企業経理のような仕事もなく、低スキル者がするような低賃金の不安定な仕事しかない、という状態である』、「高学歴ワーキングプア」の発生メカニズムがよく理解できた。
・『第6に、情報通信技術の進歩が、いまの米国の経済格差を発生させている大きな要因であることだ。 このことは、次に示したOECDによる日独米が世界に占めるICT投資割合の調査結果を見ればわかる(図表4)。 2000年後半以降、中国におけるICT投資が急増したにもかかわらず、米国の比率が増加している。これは、米国におけるICT投資の絶対金額が急増していることを示している。 これに対して、日米独のICT投資を比較すると、 日本のGDP・人口は、ドイツの約1.5倍なので、GDP原単位当たり・人口1人当たりのICT投資はドイツの約2/3と考えられる。米国には圧倒的に及ばない』、日本のICT投資の立ち遅れは深刻だ。
・『「誤解」「うのみ」は社会をおかしくする  つまり、オーターの分析によればここ40年、米国では、IT化によって、例えば、工場の生産ラインの調整・管理や、オフィスでのデータ管理や会計などの業務がITに置き換わり、かつ海外への外注が進んだ。 そのために、そうした仕事をしていた人が失業したり賃金が下がったりする一方で、GAFAに象徴されるITビジネスの成功者が巨額報酬を得るという経済格差発生のメカニズムが起きたのである。 具体的に経理業務を例に挙げると、電卓が出現し、経理ソフトが出現し、いまはRPAの出現により、経理課の人員はますます少人数化している。 一方で、いま企業が最も欲しがっているデータサイエンテイストはごく少数であるため、巨額の報酬を得ている。 そしてその原因が活発な情報化投資だということがわかる。 このことは、米国の経済学者の間ではほぼ合意されている。移民の流入や中国・日本からの輸入の増加は、経済格差とはほとんど関係ない。 ここにITと経済格差、雇用をめぐる「ホント」がある。 トランプ大統領はそのことを知っているはずである。 もしトランプ政権が国内の経済格差を本当に深刻な問題だと認識するなら、(1)国内の情報化投資を抑え、かつ(2)富の再分配を強力に実行することである。富の強力な再分配はドイツやフランスなどは実行しているのだから、米国政府もやる気になればできるはずだ。 それを全くしないで、関係のない外敵を攻撃しても、図表1からわかるように、これから米国の経済格差はますますものすごい勢いで拡大するだろう。 そうなったら、今のままでは米中の対立は、収まるどころか、もっと激しさを増していく、そして日本も大きな影響を受ける。それが私の予想であり懸念だ』、トランプ大統領のやり方では、経済格差がますます拡大し、外敵への攻撃も激しさを増すというのは、不吉だが、ありそうなシナリオだ。
・『ライフスタイルへの影響が大きいのに社会科学研究の専門家少ない  IoT、AIなどに象徴されるデジタル化は、急速に経済社会を変え始めているが、メディアなどからは、こうした政治的プロパガンダがそのままの形で伝えられ、その情報をうのみにしてしまうという例が少なくない。 それはなぜなのかといえば、日本にはデジタル化について社会科学的なアプロ―チで研究する専門家が少ないことが一因だ。 この分野に、研究時間の1~2割程度を使っている人は、最近、やっと出てきたが、この分野が主専門という人は私の知る限り、日本には他にいない。 社会科学とは、経済学、経営学、商学、社会学、ビジネスマネンジメント、テクノロジーマネンジメント等の分野を指す。 IoT、AIなどデジタル分野では、人間のライフスタイルに与える影響が大きく、単に進んだ技術だけを開発してもだめで、自然科学と社会科学の両分野の専門家同士が、車の両輪のごとく協力しあいながら、開発を進めることがとても重要なのだ。 このことはAIの研究・開発だけでなく、応用がいかに人間の生活を変えるかを考えればわかりやすい。 日本はかなり以前から、「技術で勝って商売で負ける」と言われてきた。 単に、先端的な技術を開発するだけではだめで、それを企業の商品やサービスとして販売し、グローバル競争に勝たなければ意味がない。 最近の事例で言えば、有機ELがそうだ。日本人の偉大なる発明であり、その研究開発費に多額の公費が投じられた。だがそれを商品化して利益をがっぽり得たのは韓国企業だ。 それは、有機ELを商品化して世界で売るための社会科学研究が日本では全くなされてこなかったからだ。 そしてこのことは、企業の競争に限らず、日本社会全体にとって大きなマイナスになっている。 日本には、IoT、AIなどデジタル化の社会科学分野の専門家がほとんどいないため、さまざまな分野で、誤解したり、誤った情報をうのみにしたりという現象がみられる。今回はその一例を書いてみた。 これから、折に触れ、デジタル経済の「定説」と考えられているものが、いかに誤った認識の上に立っているか、書いていきたいと考えている』、「技術で勝って商売で負ける」のは「社会科学研究の専門家少ない」との指摘は新鮮だ。この続編も紹介していくつもりだ。

第二に、上記の続き、2月12日付け「非正規雇用140万人が7年後に職を失う、日本の格差拡大はこれからだ「デジタル経済の嘘とホント」(2)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/193546
・『日本はバブル崩壊以降、新自由主義を導入し、「勝ち組」と「負け組」に分かれ、かつての中間所得層が減少し、経済格差が開いてきたとされている。 全国消費実態調査や国民生活基礎調査によると、税金などを差し引いた世帯の手取り収入(等価可処分所得)が、中央値の半分の水準の世帯の割合(相対的貧困率)は、それぞれ高まっている(図表1)。 このことは、徐々にではあるが「貧困層」が増えていることを示す。 また所得分配の不平等を示すジニ係数で、日本はOECD平均よりも格差が大きいことは、前回の記事「経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった」(2019年1月9日付)で書いた。 だから、日本で経済格差はこれ以上、拡大することはないだろうと思っている人が多いのではないか。 だが、そうではない。むしろこれから一気に拡大する可能性が高いのだ』、ずいぶん思い切った予測だ。
・『情報化投資が遅れてきた日本 RPA導入の加速で変化  日本はこれまでさまざまな理由により情報化投資が遅れてきた。 その結果として日本企業の労働生産性は先進国の中でビリに近い状態がずっと続いているものの、幸いにも米国のような極端な経済格差のある社会にはなっていない。 だが、今、日本では、職場にAIを導入し定型的な仕事であるルーティン(Routine)業務を機械化しようという動きが始まろうとしている。 その典型的な例が、人間が行ってきた事務作業の一部をソフトウェアのロボット技術で自動化するRPA(Robotic Process Automation)である。 その結果、日本は米国の後を追って、これから活発な情報化投資により、経済格差が広がることが予想される。 しかもバブル崩壊以降の日本企業は、大規模なリストラ、労働分配率の低下、非正規の大量採用、人材育成投資の大幅削減という「人への投資の削減」「人を冷遇する」という経営を続けてきた。 そのため、RPAが広がるこれからは、経済格差が米国よりも速いスピードで、一気に、しかも大規模に拡大する、というのが私の予想である』、陰鬱な予測だが、確かにそうの通りなのかも知れない。
・『米国では80年代からルーティン業務の雇用が減少  前回も紹介した米国MITのデイビッド・オーター(David H. Autor、1967年生まれ)教授の論文から、まずは米国でのルーティン業務の推移を見てみよう。 上の図表2からわかることは、知識や経験を必要とする「ルーティン業務」(Routine Cognitive)は、米国では少なくとも1960年代は増えていた。従って、その業務を担う人間の数は増えていたのだ。 だが、1970年代になると増加スピードは減少し、1980年代半ばになると米国内のルーティン業務自体が減少に転じ、その後、減少のスピードはどんどん加速している。 その一方で、人間を機械に代替する情報化投資は、1970年代から増え始め、1980年代半以降、一層加速していった。 では、ルーティン業務を担う労働力として、1960年代には雇用を増やしていた米国が、急に人間を機械に代替するほど情報化投資に積極的になっていった「境界線」はどこにあったのだろうか。 図表3は、IT関連機器投資の価格の1994年以降の傾向を示したものだが、情報化投資は急速にコストが減少する傾向を持つ。 このコスト低減傾向は1980年代以降にも見られた。そのため、米国企業の経営者は、合理的な判断をして、人間を雇用するコストよりも情報化投資のコストの方が安くなった時点で、人間を雇用するのを止め、情報化投資に切り替えていったものと思われる。 これが、米国における人間の機械への代替メカニズムである。 図表4に見るように、コスト低減傾向を持つ情報化投資コストが労働コストを下回る「境界点」を越えると、人間が機械に代替され始める。 米国の労働コストは日本の非正規の労働コストよりも高く、情報化投資コストは日本よりも安いので、日本よりも早く「境界点」に到達する。 だがやがて、日本でも米国に遅れるものの、「境界点」に到達する』、なるほど。
・『機械化しても雇用は維持 生産性や競争力の低下招く  OECDでは、米国、EU、日本の3ヵ国について、2002年から2014年まで、スキル別の職業ごとの労働者比率の変化について計算している(図表5)。 3ヵ国を比較すると、米国が最も変化が大きく、日本が最も変化が小さい。 米国の企業は、2002年以降、中スキルのルーティン業務の労働者を解雇してきただけでなく、中スキルの非ルーティン業務の労働者も解雇してきた。 その一方で、高スキル者を自社内で養成したり、新規雇用を増やしたりするなど、高スキル者の獲得に努めてきた。 米国と比較した日本の特徴は、本来は機械化を進めて解雇できたはずのルーティン業務の雇用者でも、ほとんど解雇していないことだ。 さらに日本と米国との大きな違いは、日本企業は高スキル者の獲得や養成にほとんど無関心だったように見えることだ。 日本では、「ウィンドウズ95」が発売された95年が「インターネット元年」とされるが、これでは、その後日本が米国とのグローバル競争に負けてきたこともうなずける。 日本企業は、雇用の現状維持の傾向が強く、技術進歩に伴って本来であれば機械で代替できる部分で人間を働かせていたり、高スキル人材を養成したりしていない。 順送り人事、過去と同じ業務の繰り返し、働き方の現状維持、の結果といえる。 つまり、技術進歩に応じた雇用状態が合っていないため、生産性低下、企業競争力低下を招いているものと思われる。 技術進歩にもかかわらず、雇用の現状維持を続けることは、企業のイノベーションの足を引っ張り、生産性の低下、競争力低下につながるのだ』、「日本企業は高スキル者の獲得や養成にほとんど無関心だったように見える」というのは驚かされた。日本企業の競争力低下についての指摘には説得力がある。
・『AI導入で機械への代替が一気に進む予兆  前述の図表3でわかるように、日本での情報化投資は米国よりもコストが高い。雇用慣行や人事だけでなく、このことも、日本で情報化投資が遅れてきた背景だ。 だが、情報化投資のコストは下がり続ける。日本でもいつかの時点で、多くの企業で人間を雇用するコストよりも情報化投資の方が安くなる境界点が到来する。 そのとき、機械への代替化が一気に進むと予想される。 実は、日本では現在、情報化投資が労働コストを下回る境界点に差し掛かっているのではないかという予兆が見える。 例えば、専門誌の特集、「実践RPA」(日経コンピュータ、2018年10月28日増刊号)、「まるわかりRPA」(日経コンピュータ、2017年12月30日増刊号)から主要な記事のタイトルを拾っただけでも、次のような動きがある。 「AIとRPAで帳票処理の8割を自動化、みずほ銀行が2019年春にも」「電通社長、メモ見て即決、目を付けたのはPC業務を自動化するRPAだった」「日本生命がRPA導入拡大、仕事を5倍速く、15%少なく」「三井住友海上火災保険、18%効率化を目途にRPAを本格導入へ」「RPA導入を先行した金融機関、作業時間が10分の1に」 また、地方自治体の中で先導的な役割を担っているつくば市では、RPAの実証実験をして結果を以下の通り公開している。 この実験は、2018年(1月~4月)に、市民税課や市民窓口課の電子申告書の印刷や異動届受理の通知など、5業務をソフトウェアのロボットでやることで、作業時間などをどの程度、削減できるかを実証したものだ。 図表6は、つくば市の基幹系6業務で、40の作業があったものの、そのうち32作業がRPAで代替でき、人間がしなくてはならない作業は17作業だったことを示している。 これは、もし基幹系6業務に100人を充てていたとすれば、そのうち32/(32+17)=65%、すなわち65人は不要になったことを示している。 また銀行業界では、RPAにより人員を減らす動きが現れている。 来春卒業の大学生の採用では、メガバンク3社は、一般職を合計900人の採用を減らすという。みずほフィナンシャルグループの場合、一般職は約7割減とのことだ(出典:朝日新聞2018年9月1日)。 またメガバンクは、今後、AI導入を進めることによって3社合計で約3万人規模のリストラをすると発表している。 銀行業界は、RPAの導入を急速に進めており、ルーティン業務の機械への代替は一気に進みそうだ。 RPA業界では、これからの最大市場は、銀行業界と地方自治体だとのうわさがされている。この2業種は、ほとんど大部分が帳票業務などの「ルーティン業務」だからだ』、RPAの「最大市場は、銀行業界と地方自治体だとのうわさ」はその通りなのかも知れない。
・『どれぐらいのスピードで雇用減や格差が広がるか  日本でこれから、AIなどに仕事や雇用がどの程度、代替され、経済格差がどこまで拡大するのだろうか。 +日本で、IoT、AIなどのデジタル技術の導入により、今後、機械への代替や雇用者数の減少はどうなるか。 +その結果、日本では米国の後を追う形で、どのようなスピードで、そしてどの程度の規模で経済格差が発生するか。 この2点に関しては、入手可能な数字等に基づき、ある程度の幅はあるものの、かなりの精度をもって予測することが可能である。 筆者の試算では、例えば、7年後の2025年を予測すれば、ルーティン業務量は今より7%程度減り、そうした業務を担う非正規雇用の約140万人程度が仕事を失うことが見込まれる。 ただし、この数字はかなり控えめに見た予測だ。 このことも含め、次回に詳細を書きたい』、2025年を予測すれば「非正規雇用の約140万人程度が仕事を失う」というのは深刻な予測だ。

第三に、上記の続き、2月28日付け「IT投資で7年後になくなる仕事、失業者は外国人と職の奪い合いに 「デジタル経済の嘘とホント」(3)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/195327
・『情報化投資が遅れてきた日本は、米国などに比べて経済格差はそれほどではなかった。 しかしAIの導入がさまざまな分野で広がり、7年後の2025年には、控えめに見ても、約140万人が職を失うと予想される。 どういう仕事がなくなるのか、を予測すると、それはルーティン業務が中心になる。 そして失業した人の再就職も容易ではない』、なるほど。
・『日本のIT投資は合理化志向 人員削減が一気に進む  米国やドイツの経営者は、IT投資によって、合理化よりも新しいビジネスモデルによる売り上げ増を目指すのに対し、日本の経営者は、IT投資で人員削減、コスト削減といった徹底的な合理化を志向する。 こうした日本の情報化投資の傾向は、さまざまな調査で明確になっている。 代表的な調査結果を2つ挙げてみよう。 2015年5月、国際IT財団は、日本企業のIT投資に関する調査結果をまとめた。調査年次が、若干、古いかもしれないが、同種の調査はこれ以降、存在しないので、この調査結果(アンケートの有効回答数615社、回収率17.4%)を紹介する。 ITを積極的に導入している業務分野を見ると、「コスト削減」「人員削減」をめざしている色合いが濃い(図表1)。 一方で、IT対応がそれほど行われていない業務分野は、市場分析や開発など、「新しいビジネスモデル開発」「売り上げ増」を志向する分野だ。 この傾向は、電子情報技術産業協会(JEITA)が2013年に行った「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」調査の結果(図表2)とも共通する。 この調査は、同協会が日米企業の「非IT部門」を対象にIT投資の意識調査を実施したもので、日本企業216社、米国企業194社が回答した。(ほかにヒアリング調査で日本企業5社、米国企業2社が回答) これを見ても、米国企業が、ITによる製品・サービスの開発など、「攻めのIT投資」と呼ばれる方向を志向しているのに対して、日本企業は、業務効率化・コスト削減などの「守りのIT投資」を志向していることがわかる。 こうした調査が示すのは、日本では、経営者に、情報化投資によって「新しいビジネスモデル」を創出して「売り上げ増」を目指し、付加価値を生み出そうという発想は極めて少ないことだ。 日本企業の経営者のみが、世界の経営者と違った方向を向いているのである。 私はこれを「日本の常識は世界の非常識」と呼んでいる。 とはいえ、技術進歩でAIなどがさまざまな分野で導入され、またグローバル競争も激しくなるばかりだ。企業にとってはIT化への対応は避けられない。 日本の経営者が持つ独特の志向を考えると、情報化投資が加速するなかで、人員削減が一気に進むのではと予想される』、「米国企業が、ITによる製品・サービスの開発など、「攻めのIT投資」と呼ばれる方向を志向しているのに対して、日本企業は、業務効率化・コスト削減などの「守りのIT投資」を志向している」、「日本では、経営者に、情報化投資によって「新しいビジネスモデル」を創出して「売り上げ増」を目指し、付加価値を生み出そうという発想は極めて少ない」というのは困ったことだ。確かに、これでは「人員削減が一気に進むのではと予想される」のも頷ける。
・『情報化投資でなくなるのはルーティン業務  日本でこれから、AIなどに仕事や雇用がどの程度、代替され、経済格差がどこまで拡大するのか。 前回(2019年2月12日付け)の本コラム「非正規雇用140万人が7年後に職を失う、日本の格差拡大はこれからだ」で、その見通しを書いた。 まず、今後、IT化で新たな雇用機会や所得増が期待できる人と、逆に仕事を失う人が出て、格差が拡大していく「スピード」を予測してみよう。 前回、紹介した米国MITのデイビッド・オーター教授の論文にある「米国におけるルーティン業務及び非ルーティン業務の作業の割合」(図表3)によれば、米国では、「ルーティン業務量」は1985年から2000年にかけて、15年間で12%減った。 日本では今後、これまで情報化投資が遅れていた分、米国よりも早いペースでRPA(Robotic process automation 人工知能を備えたソフトウェアのロボット技術を使った自動化・効率化)の導入が進むと考えられる。 政府は、2025年をめどにした外国人労働者の受け入れ目標を掲げているので、まずは、その時点にあわせて、7年後の2025年でどうなるかを考えてみる。 米国では、7年間で、非ルーティン業務は6%減のスピードだった。日本での減り方はもっと大きいと思われるが、それでも少し控えめに見て、「7年後にルーテイン業務量が7%減少」するとしよう。 その場合の実際の雇用者数の減少はどれぐらいになるのか。 仕事を失うのは、正規雇用の一般職と非正規雇用者だと思われるが、正規一般職は、企業が雇用を守ろうとして企業内の配置転換で対応すると思われるため、今回は非正規に絞って予測する。 現在、日本では非正規雇用は2036万人いる(図表4)。「7年後に7%減」であれば、2036万人×7%=約140万人が仕事を失うことが見込まれる。 ただ、一般職についても、実際は新規採用減という形で、職が失われることは考えていたほうがいい』、「攻めのIT投資」であれば、増える職種もあるだろうが、「守りのIT投資」では減るのみといのも困ったことだ。
・『OECD試算では1700万人が失業の可能性が「50-70%」  この数字を、別の角度から検証してみよう。 2016年にOECDは、加盟各国ごとに、10~20年後、労働者が機械に置き換えられる「機械代替リスク」の試算結果を発表した(図表5)。 この試算は、ITに代替される可能性が「70~100%」と、可能性が「50~70%」の2種類のリスクで見たものだ。 その結果を見ると、雇用者数全体で、機械代替リスクが「70~100%」の労働者の割合は、OECD平均で9%。各国別ではオーストリアで12%、米国で9%、ドイツで6%などとなっている。 日本で、10~20年後に仕事が失われる可能性が「70~100%」ある人は、雇用者数全体の約7%、「50~70%」の人は約31%である。 2018年で日本の総雇用者数は5460万人なので、10~20年後に、仕事が失われる可能性が「70~100%」の人は約380万人、失業の可能性が「50~70%」ある人では約1700万人になる。 上記で算出した「7年後に約140万人減」という予測は、かなり控えめであることがわかるが、ここでは控えめな数字を出しておきたい』、確かにOECD試算は、筆者よりもっと厳しい姿を予測しているようだ。
・『どういう仕事がなくなるか 一般事務や人事経理など  ではIT投資によって、具体的にどのような職が失われるか。 「2018年度年次経済財政報告(経済財政白書)」(2018年8月発表)では、「AIと雇用」に関する特集が行われた。 その中で、OECD作成のデータや内閣府が日本企業に対して行ったアンケートも掲載されており、以下は、それらの分析などをもとに明らかになったことだ。 それによると、日本でルーティン型業務が残っている主な職業を見ると、「事務補助員」「単純作業の従事者」が主であることがわかる。(図表6) また内閣府が2018年2月に実施した「企業意識調査」によれば、IoT、AIの導入が進行した場合に、「増える見込みの仕事」、「減る見込みの仕事」は図表7のようになりそうだ。 「技術系専門職」は、回答企業全体の約60%の企業が増えるとしているのに対し、逆に「一般事務・受付・秘書」、「総務・人事・経理等」、「製造・生産工程・管理」「事務系専門職」などが、減る仕事の上位に並んでいる。 また、実際に企業側が、AIに代替を考えている業務は図表8のようになっている。 大企業、中堅企業、中小企業を問わず、「定型的な書類作成」や「労務管理関係」「スケジュールなどの作成」「販売・電話対応などの接客」といった業務は将来、AIに代替されそうだ』、経済財政白書の職種別分析は概ね常識的だ。
・『外国人受け入れ拡大で「IT失業者」と職の奪い合いに  職を失う人のうち、自己投資して、IT関連などの新たなスキルを習得し、アナリスト、データサイエンティスト、コンサルタントなどといった高スキル高収入の職に転身できる人は極めて一握りでしかないだろう。 また、夫が働いていたり、家族が自営業などをしていたりして、自分を養ってもらえる人は、仕事をすること自体を諦めてしまうかもしれない。 だが、単身暮らしで自活しなければならない人や家族を養わなければならない人は、低スキル低賃金で雇用が不安定だったとしても生活のために仕事をすることになるだろう。 こうしたことを考えれば、控えめに見積もった「2025年に仕事を失う約140万人」のうち、約半分の約70万人程度は、生活の必要上、低スキル低賃金の労働市場に参入してくると予想される。 だが、低スキル低賃金の労働市場での競争は厳しいものになるだろう。 政府は、7年後の2025年までに50万人超の外国人労働者の受け入れを目指すと発表した。日本ではすでに2017年時点で128万人の外国人労働者が働いている。 7年後には、すでにかなりの数の外国人労働者が働いている労働市場に新たにIT投資で、仕事を失った日本人が参入するわけだ。 この時の状況について、経済学者の佐和隆光氏は次のように予想している。 「失業者の大半はハローワークで仕事探しをせざるを得まい。一念発起して何らかの職業訓練を受けない限り好景気時には忌嫌されがちだった『きつい』『きたない』『きけん』な仕事に就かざるを得なくなる」 「目下、右記14業種は深刻な人手不足に見舞われているが、10年後には様相が一変し、在留外国人と失業日本人との間で、職を奪い合う熾烈な競争の展開が予想される。」(ダイヤモンド社「経」2019年1月号)。 筆者の見方も同じだ。 外国人労働者を入れるべきではないとは言わないが、少し判断が早すぎたのではないか。 今まさに企業にAIが導入され、今後、IT投資が急拡大しようとしている。その動向をもう少し見て、職を失って低スキル・低賃金の職業に落ちてくる日本人の働き手の規模を確認しながら、外国人労働者の受け入れ人数と時期を判断してもよかったのではないかと思う。 外国人受け入れ拡大のための出入国管理法案が国会で議論されていた時、情報化投資の加速で、今の仕事を失う日本人と外国人労働者の間で、仕事の奪い合いが発生するのではないかという議論は誰もしなかった。 これもまた、IT・デジタル分野で、社会科学研究を担う専門家が日本には少ないために、議論が深まらない象徴的出来事だった。 日本は、米国という先例から学び、その失敗を繰り返してはならない』、「情報化投資の加速で、今の仕事を失う日本人と外国人労働者の間で、仕事の奪い合いが発生」というのは大いにありそうなシナリオだ。国会で誰も指摘しなかったのは、「IT・デジタル分野で、社会科学研究を担う専門家が日本には少ないために、議論が深まらない象徴的出来事だった」というのも困ったことだ。

第四に、上記の続き、3月14日付け「IoTとAIでなくなる仕事と忙しくなる仕事、製造業は二極化が進む 「デジタル経済の嘘とホント」(4)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/196637
・『日本はこれまで製造業の現場の熟練作業員を大切にしてきた歴史があり、日本のモノづくりの競争力の根源は、現場の熟練作業員の高い技能にあるといわれてきた。 新しいデジタル技術を導入した日本企業でも今のところは、雇用を増やした企業の方が多い。 だが人工知能(AI)を活用したIoTが広がれば、現場の熟練作業員の担っている作業の多くが早晩、AIに代替される時代がくる。 一方でデータエンジニアなど高スキルのエンジニアに対する企業の需要は増え、“二極化”が進む。 モノづくりが「独り勝ち」といわれるほど経済力を生み出しているドイツでも、二極化が深刻な社会問題化しつつある』、製造業への影響も興味深いテーマだ。
・『経営者がAIに代替を考える「製造業の現場の作業員」  前回(2019年2月28日)の本コラム「IT投資で7年後になくなる仕事、失業者は外国人との職の奪い合いに」で、主に事務部門で働くオフィスワーカーの失業の問題を下記の「企業意識調査」をもとに分析した。 内閣府が2018年2月、「経済財政白書2018」をまとめるにあたって企業を対象に調査したものだ。 その結果を見ると、企業経営者が、IoT、AIの導入が進行した場合に減る見込みの仕事、企業がAIに代替を考えている業務を見ると、「事務職」の次に「製造業の現場の作業員」を挙げている(図1、2)。 このことは、現場の作業員の労働を代替できる機械が出現すれば、製造現場の作業は機械に代替される可能性が高いことを示している。 実際に1990年代には、日本では省力化投資や機械化投資、省エネ投資と呼ばれる投資が時代の流行となり、現場から多くの作業員が消えていった。 近い将来、再び現場から作業員が大量に消える時代を迎えると思われる』、確かにAIは「現場の作業員の労働を代替」する強力なツールだろう。
・『現状は雇用に影響は出ていない 日本型の雇用慣行も背景に  だが現在のところは、新しいデジタル技術が導入されても、現場の熟練作業員の雇用には、ほとんど影響を与えていない。 今、日本の製造業の現場に導入されている新しいデジタル技術は、「見える化」までであり、表示されたデータを見て、故障原因を探り、対策を考えるところは、依然として熟練作業員が担っているからだ。 また、雇用慣行、雇用制度、雇用政策などは各国により大きく異なっており、新技術導入の雇用への影響が今のところ出ていないのは、長期安定雇用などの日本型の雇用慣行も背景にあると思われる。 しかも、現場に導入されたIoTシステムについては、作業員は少しの教育を受けるだけで習熟するため、雇用問題はほとんど顕在化していない』、「現状は雇用に影響は出ていない」としても、今後はどうなのだろうか。
・『日本企業の導入の動機は「見える化」や現場の負担軽減  日本は、新しいデジタル技術の導入で製造業の現場がどうなっているのか、日本企業はどういう狙いで新技術を導入し、ITと従業員の雇用の問題をどう考えているのか。 筆者は、2016年度初めから、下記の企業の責任者との面談や書面でのインタビューを重ねてきた。 その結果を総括すれば以下の通りだ。 富士通の幹部によると、自社のIoTシステムは、人口減少・少子高齢化により現場の熟練作業員が不足し、高齢化により熟練度が低下していることに対応する狙いだという。 作業員不足の部分を機械が代替する、または多品種少量生産が増え、企業で働く人間への負荷が増しているため、人間を「エンパワー」する、つまり機械に人間を補助させることが目的、と強調した。 三菱電機の幹部は、機械化、自動化、省力化投資が盛んだった1990年代と違って、今は、機械に得意な作業は機械に任せ、人間が優れた作業は人間がやるとの空気があり、「人と機械の調和」と呼ばれていると説明した。 デンソーの幹部は「自社のIoTシステムのコンセプトは、『人が中心』」と強調した。 会社の宝といえる熟練作業員の技能を生かすため、デジタル技術は「見える化」にとどめ、表示内容を見て故障の原因を調べ、対策を考えるのはあくまで人間の役割との考え方である。 日本の代表的なプラットフォームである三菱電機のe-F@ctoryや日立製作所のLumadaのいずれも、同じく「人間中心」という設計思想である。 また新日鉄住金の幹部は「現場から急速に熟練作業員がいなくなっている。投資が回収できるかどうかの問題ではない。背に腹は代えられない」と強調した。 共通するのは、企業の競争力の根源である熟練作業員を大切にしたいという思いだ。 これが今、日本で進行している「日本型デジタル技術の普及方式」といえよう』、「デジタル技術は「見える化」にとどめ、表示内容を見て故障の原因を調べ、対策を考えるのはあくまで人間の役割との考え方である」とのようだが、「故障の原因を調べ、対策を考える」のもAIは得意な筈で、今後そうした方向に進む可能性もあるのではなかろうか。これはもう少し後ろで説明があるようだ。
・『新技術導入で雇用を増やす企業が多い  こうした考え方は、経済産業研究所が、2017年8~10月、日本企業約1万社(1372社が回答、回収率13.6%)に行ったアンケートでも見られる。 この産業界のIoTの動向把握を行うアンケート(平成29年度「我が国の企業のIoTに関する調査」)の調査項目のなかに、「雇用への影響」及び「人材育成」に関する質問項目を含めた。 それによると、新技術導入により雇用者数が「減少した」と回答した企業は、34社であり、「増えた」と回答した企業数は43社である。後者の方が9社多い。 つまり、日本の産業界では、少なくとも現時点では、新しいデジタル技術の導入により、雇用が減少した企業数より、増加した企業数の方が多い。 日本全体ではまず雇用が増えるところからスタートしている。ここには、日本型雇用が深く影響しているものと想像される。 また新しいデジタル技術を導入すると、それを稼働させるための専門技術者、例えば、データエンジニアなどが現場で必要とされる。その傾向は、製造業の現場で顕著である。 アンケートでは、技術者のみならず、彼らを管理する者及び技術者の業務をサポートする事務職についても増加している。 一方、銀行金融業などでの事務部門では、「ルーティン業務の機械化」が継続して進められており、事務職の削減が続いている。 特に最近では、RPA(Robot Process Automation)の導入に熱心である。 それは事務部門のデジタル化よりも製造業の現場のデジタル化の方が、日本企業は熱心に進めているからといえよう』、現在まではその通りなのだろう。
・『いずれはAIに代替される現場の熟練作業員  だが、こうした傾向が今後とも継続するかどうかは、継続的に調査しないとわからない。 製造業の現場でも、AIの活用が今後、本格化するだろう。 「見える化」で表示されたデータを見て、判断をするのは、今は熟練作業員が担っているとしても、過去の前例を「学習」し、表示されたデータを見て、対策を考えるといった前例の延長線上にある作業は、人工知能の最も得意とするところだ。 しかも人工知能は、新しい事例を「学習」して賢くなっていく。 そのため、現在、熟練作業員が担っている作業の多くが、早晩、人工知能に代替されていくと思われる。 実際、ドイツでは、数年後に導入が予想されている人工知能による熟練作業員の代替問題は、労働組合IGメタルの力が強いこともあって、より深刻な課題となっている。 2015年9月、ドイツ・ミュンヘンにあるBCG (Boston Consulting Group in Munchen)は、「Man and Machine in Industry 4.0」を発表した。 それによると、2025年までにドイツ国内で雇用が35万人増加し、2030年までには580万から770万の人員不足数が予想されるという推計だ。 だが、雇用は総数では増えると予想されているものの、その具体的な中身を見ると、二極化している。 +増加する主な職種:データやデザイン関係のエンジニア、研究開発で22万人増 +減少する主な職種:生産や維持管理など現場の作業員で15万人減 ドイツでも、データエンジニアなど高スキルのエンジニアは雇用が増えると予想されているが、現場の作業員は雇用が減ると考えられているのだ。 日本で、ドイツと比べて、問題がより深刻になりそうなのは、人工知能に代替される現場の作業員の行き場が見えないことだ。 日本とドイツの作業員の雇用環境はかなり違う。 日本は企業別労働組合だが、ドイツは、企業の枠を超えて産業別組合のIGメタルにほぼ全員が加入している。 そのため、ある企業で職を失っても、IGメタルのあっせんで他の企業に就職することができる。 また、IGメタルの働きかけもあって、ITのスキルを学んで新たな仕事に就けるよう、全国に整備されている職業訓練学校において新しいカリキュラムが作られつつある。 日本では作業員の訓練は各企業で行われるが、ドイツの職業訓練学校に相当する場所はない。 新しい技術が出現したとき、ドイツではIGメタルも参加して職業訓練学校のカリキュラムを考えるが、日本では作業員の再訓練は、企業の意向次第である』、ドイツのような産業別組合はこうした技術革新には適合しているのかも知れない。企業別労働組合では、残念ながら手も足も出ないようだ。
タグ:格差問題 (その4)(岩本晃一氏「デジタル経済の嘘とホント」:(1)経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった、(2)非正規雇用140万人が7年後に職を失う 日本の格差拡大はこれからだ、(3)IT投資で7年後になくなる仕事、失業者は外国人と職の奪い合いに、(4)IoTとAIでなくなる仕事と忙しくなる仕事、製造業は二極化が進む) 岩本晃一 ダイヤモンド・オンライン 「経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった 「デジタル経済の嘘とホント」」 トランプ大統領はIT化の「真実」語らず 政治的プロパガンダで移民や中国を「敵」に 格差の原因は情報化投資 雇用・所得の二極化を生み出す ルーティン業務 高学歴ワーキングプア 「誤解」「うのみ」は社会をおかしくする ライフスタイルへの影響が大きいのに社会科学研究の専門家少ない 「技術で勝って商売で負ける」 「非正規雇用140万人が7年後に職を失う、日本の格差拡大はこれからだ「デジタル経済の嘘とホント」(2)」 情報化投資が遅れてきた日本 RPA導入の加速で変化 米国では80年代からルーティン業務の雇用が減少 機械化しても雇用は維持 生産性や競争力の低下招く 日本企業は高スキル者の獲得や養成にほとんど無関心だったように見える AI導入で機械への代替が一気に進む予兆 どれぐらいのスピードで雇用減や格差が広がるか 「IT投資で7年後になくなる仕事、失業者は外国人と職の奪い合いに 「デジタル経済の嘘とホント」(3)」 日本のIT投資は合理化志向 人員削減が一気に進む 米国やドイツの経営者は、IT投資によって、合理化よりも新しいビジネスモデルによる売り上げ増を目指す 日本の経営者は、IT投資で人員削減、コスト削減といった徹底的な合理化を志向する 情報化投資でなくなるのはルーティン業務 OECD試算では1700万人が失業の可能性が「50-70%」 どういう仕事がなくなるか 一般事務や人事経理など 外国人受け入れ拡大で「IT失業者」と職の奪い合いに 外国人労働者を入れるべきではないとは言わないが、少し判断が早すぎたのではないか 「IoTとAIでなくなる仕事と忙しくなる仕事、製造業は二極化が進む 「デジタル経済の嘘とホント」(4)」 経営者がAIに代替を考える「製造業の現場の作業員」 現状は雇用に影響は出ていない 日本型の雇用慣行も背景に 日本企業の導入の動機は「見える化」や現場の負担軽減 新技術導入で雇用を増やす企業が多い いずれはAIに代替される現場の熟練作業員
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