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米中経済戦争(その8)(ついに「長征」を宣言した習近平氏 米国との持久戦を覚悟、トランプ氏“ファーウェイ発言”の裏にワシントンの暗闘、米中協議 再開しても変わらぬ対立の基本構図) [世界情勢]

米中経済戦争については、5月18日に取上げた。G20での米中首脳会談も踏まえた今日は、(その8)(ついに「長征」を宣言した習近平氏 米国との持久戦を覚悟、トランプ氏“ファーウェイ発言”の裏にワシントンの暗闘、米中協議 再開しても変わらぬ対立の基本構図)である。

先ずは、6月4日付け日経ビジネスオンライン「ついに「長征」を宣言した習近平氏、米国との持久戦を覚悟」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00019/053100056/?P=1
・『1934年、国民党軍と戦っていた中国共産党軍10万人は拠点としていた江西省瑞金の地を放棄し、壮絶な行軍を始めた。約2年の歳月をかけ1万2500kmを移動して陝西省延安にたどり着いた時、残っていたのはわずか2万人とも3万人とも言われている。この長期にわたる行軍の中で、毛沢東は共産党における指導権を確立した。 中国近現代史におけるハイライトの1つ、「長征」と呼ばれる出来事である。無残な敗退戦だったとの見方もあるが、中国では長征を歴史的偉業と位置づけている。形勢不利の中でも持久戦に切り替えて耐え忍んだことが反転攻勢のきっかけとなったことは間違いなく、この出来事は中国共産党のDNAに深く刻まれた。 5月20日、長征の出発地を訪れた習近平国家主席は「今こそ新たな長征に出なければならない」と国民に呼びかけた。米中貿易交渉は行き詰まり、対立が激化している。米国との争いの短期決着は諦め、持久戦に持ち込むとの宣言とも取れる。 世界経済にとって現時点で考えられる最良のシナリオは、6月末に大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議に伴って行われる米中首脳会談で両国の貿易交渉が着地することだ。だが、もはやそのシナリオは楽観的すぎるとみたほうがよいだろう。 関税引き上げに続いて、トランプ米大統領が打ち出した華為技術(ファーウェイ)への執拗な制裁は「何の証拠も示さずに民間企業を痛めつけることが許されるのか」と、中国では衝撃と反発をもって受け止められた。国営メディアでも連日厳しいトーンでの報道が続いており、安易な妥協はしないという共産党指導部のメッセージと受け止められている。 「大阪で米国との貿易交渉がまとまる可能性は、ほぼなくなった。あるとすれば、トランプ大統領が得意の変わり身で譲歩した場合だ」。かつて政府機関に身を置いたある共産党員は、こう解説する。米中交渉がまとまらなければ、中国経済が大きなダメージを受けることは間違いない。「10年ほどは苦しい状況が続くだろう。だが、その後の中国経済はさらに強くなる」(同)。 米中両国の交渉は典型的な「囚人のジレンマ」に陥っている。両国経済にとってのベストなシナリオは早期に貿易戦争が終わることだ。すなわち米国は追加関税と華為技術(ファーウェイ)制裁を解除、中国は国有企業を保護するため産業補助金の撤廃や技術移転の事実上の強要を禁止する。だが、どちらか一方だけが実行し、もう一方が実行しなかった場合、実行した側が大きな損失を被るため、互いに不信感を募らせている状況では実現しない』、「米中両国の交渉は典型的な「囚人のジレンマ」に陥っている」とは言い得て妙だ。
・『天安門事件後は「豊かさ」で国民の不満を抑え込む  このままの展開が続けば、待ち受けるのは経済や技術のブロック化だ。問題はそれが中長期的に必ずしも米国にとって有利に働くとは限らない点にある。次世代通信技術では中国は世界最先端の地位を確立した。国家規模でのビッグデータやAI(人工知能)活用においても、プライバシーなどの壁をクリアしなければならない民主主義国家に比べて中国が有利だ。弱点である半導体などの技術分野も急ピッチで追い上げている。中国がブロック経済圏を確立してしまえば、技術的にも経済的にも米国の影響力はむしろ失われる。 一方の中国にも弱みはある。今日6月4日は1989年に起きた天安門事件からちょうど30年に当たる。民主化を訴える学生への武力行使は、中国共産党にとっては消し去りたい記憶だ。節目を迎える中で、海外メディアによる天安門事件についての記事が目立つ。肝心の中国国内における民主化運動は下火だが、それも経済的な豊かさがあってこそ。天安門事件以降、中国共産党は経済成長を以前にも増して追求し、国民に豊かさを享受させることで、一党独裁体制の安定を図った。 民主化への動きが下火になっている現状は、そのもくろみが現段階ではうまくいっているということだろう。ただし今後、貿易戦争による経済の混乱が拡大し、長期化すれば、現在の政治体制への不満が噴出しかねない。それは中国政府にとって最も避けたい展開だろう。 激しさを増す米中の貿易戦争。「新長征」を呼びかけた習国家主席はこれを共産党の存続をかけた戦いと位置づけたのかもしれない。だとすれば、両国の争いが容易に収まることは考えづらい。日本経済への影響もさらに大きなものになりそうだ』、「「新長征」を呼びかけた」とはいえ、「天安門事件後は「豊かさ」で国民の不満を抑え込」んできただけに、いまさら耐乏生活に戻ることは無理で、米国に対する交渉上のポーズだろう。ただ、長期化すれば、日本にも深刻な影響が及ぶことは覚悟する必要がありそうだ。

次に、元・経済産業省米州課長で中部大学特任教授の細川昌彦氏が6月30日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「トランプ氏“ファーウェイ発言”の裏にワシントンの暗闘」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00012/?P=1
・『G20大阪サミット(主要20カ国・地域首脳会議)で、特に世界の注目が集まったのが米中首脳会談だ。大方の予想通り、新たな追加関税は発動せず、貿易協議を再開することで合意した。一応の“想定内”で、市場には安堵が広がった。しかし、その安堵もつかの間、トランプ米大統領の記者会見で激震が走った。中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)との取引を容認すると発言したからだ。 早速、各メディアは以下のような見出しを打った。「華為技術(ファーウェイ)との取引容認」「ファーウェイへの制裁解除へ」 だが、トランプ大統領の発言だけで判断するのは早計だ。米中双方の政府からの発表を見極める必要がある。 確かに、トランプ大統領は記者会見で、「(米国企業は)ファーウェイに対して製品を売り続けても構わない」と言った。しかし、同時に「ファーウェイを禁輸措置対象のリストから外すかどうかについては、まだ中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と話していない。我々が抱えている安全保障上の問題が最優先だ。ファーウェイの問題は複雑なので最後まで残すことにした。貿易協議がどうなるかを見ていきたい」とも語っている。そして「安全保障上の問題がないところは装備や設備を売ってもいい」と付け加えているのだ。 もともと、米国の法律上、ファーウェイに対して「事実上の禁輸」になっているのは、ファーウェイが「安全保障上の重大な懸念がある」と米商務省によって認定され、いわゆる“ブラックリスト”に載ったからだ。「事実上」というのは、“ブラックリスト”の企業に輸出するためには、商務省の許可が必要になり、それが「原則不許可」の運用になるからである。現在でも「安全保障上問題がない、例外的なケース」は許可されている。 従ってトランプ発言は、単に現行制度について発言しているにすぎず、何か変更があったとしても、せいぜい、若干の運用を緩和する程度だという見方もできる』、「(米国企業は)ファーウェイに対して製品を売り続けても構わない」とのトランプ発言の含意が漸く理解できた。確かに、「ファーウェイの問題は複雑」なようだ。
・『超党派の議員から「トランプ発言」への批判が噴出  ファーウェイはツイッターで、「トランプ氏はファーウェイに米国のテクノロジーを購入することを再び許可すると示唆した」と発信し、自社の都合のいいように受け止めている。だが、果たしてどうだろうか。 昨年春、米国が中国の大手通信機器メーカー・中興通訊(ZTE)への制裁を解除した時は、ZTEは罰金支払いや経営陣の入れ替えに応じた。ファーウェイに対しても禁輸措置の解除に向けて何らかの条件を付けるべく、今後協議が行われるかのような報道もあるが、これもなかなか難しいだろう。 米ワシントンではこうしたトランプ氏の発言に対して早速、民主党のシューマー上院院内総務や共和党のルビオ上院議員が厳しく批判している。「ファーウェイの問題は安全保障の問題で、貿易交渉で交渉材料にすべきではない」というのが、米国議会の超党派の考えだ。 昨年春、トランプ大統領が習主席からの要求に応じてZTEの制裁を取引で解除したことは、彼らにとって苦々しい経験となっている。大統領選に立候補を表明しているルビオ上院議員にいたっては、大統領が議会の承諾がないまま、勝手に貿易交渉で安全保障の観点での制裁を解除できないようにする法案まで提出している。 仮に今後、ZTEのようなパターンになりそうならば、トランプ大統領は選挙戦において共和党からも民主党からも厳しい批判にさらされることは容易に想像できる。 果たしてファーウェイへの制裁がどういう方向に行くのか、大統領選も絡んでもう少し見極める必要があるようだ』、「ファーウェイの問題は安全保障の問題で、貿易交渉で交渉材料にすべきではない」という「米国議会の超党派の考え」は、トランプにとってはやり難そうだ。
・『トランプvs“オール・ワシントン”の綱引き  私はトランプ政権を見るとき、トランプ大統領とトランプ大統領以外の“オール・ワシントン”を分けて考えるべきだ、と当初より指摘してきた(関連記事:米中の駆け引きの真相は“トランプvsライトハイザー” 、以降、“オール・アメリカ”よりも“オール・ワシントン”の方が適切なので、表現を改める)。“オール・ワシントン”とは議会、政権幹部、シンクタンク、諜報機関、捜査機関などのワシントンの政策コミュニティーである。 トランプ大統領自身は関税合戦によるディール(取引)に執着している。今や2020年の大統領再選への選挙戦略が彼の頭のほとんどを占めていると言っていい。すべてはこの選挙戦にプラスかマイナスかという、いたって分かりやすいモノサシだ。中国に対して強硬に出る方が支持層にアピールできる。民主党の対抗馬からの弱腰批判も避けられると思えば、そうする。追加関税の引き上げが国内景気の足を引っ張り、株価が下がると思えば、思いとどまる。株価こそ選挙戦を大きく左右するとの判断だ。 他方、後者の“オール・ワシントン”の対中警戒感は根深く、トランプ政権以前のオバマ政権末期からの筋金入りだ。ファーウェイに対する安全保障上の懸念も2000年代後半から強まり、この懸念から2010年には議会の報告書も出されている。米国の技術覇権を揺るがし、安全保障にも影響するとの危機感がペンス副大統領による“新冷戦”宣言ともいうべき演説やファーウェイに対する制裁といった動きになっていった。 この2つはある時は共振し、ある時はぶつかり合う。 昨年12月、ブエノスアイレスでの米中首脳会談の最中に、ファーウェイの副社長がカナダで逮捕された件はこれを象徴する。トランプ大統領は事前に知らされなかったことを激怒したが、捜査機関にしてみれば、トランプ大統領に習主席との取引に使われかねないことを警戒しての自然な成り行きだ。 そして5月15日には米国商務省によるファーウェイに対する事実上の輸出禁止の制裁も発動された。これはこの貿易交渉決裂の機会を待っていた“オール・ワシントン”主導によるものだ。 実はファーウェイに対する事実上の輸出禁止の制裁は2月ごろから米国政府内では内々に準備されていた。それまでのファーウェイ製品を「買わない」「使わない」から、ファーウェイに「売らない」「作らせない」とするものだ。ファーウェイもこの動きを察知して、制裁発動された場合に備えて、日本など調達先企業に働きかけるなど、守り固めに奔走していた。しかし次第に貿易交渉が妥結するとの楽観論が広がる中で、発動を見合わせざるを得なかったのだ。そうした中、この切り札を切るタイミングが貿易交渉決裂でやっと到来したのだ』、「ファーウェイの副社長がカナダで逮捕された件」を「トランプ大統領は事前に知らされなかった」のは、「捜査機関にしてみれば、トランプ大統領に習主席との取引に使われかねないことを警戒しての自然な成り行き」だったとは初めて知った。捜査機関もなかなかしたたかなようだ。
・『ファーウェイ問題、第2ペンス演説、そして香港問題   “オール・ワシントン”にとって、ファーウェイは本丸のターゲットだ。前述のZTEはいわばその前哨戦であった。今回も習主席は昨年のZTE同様、ファーウェイへの制裁解除を首脳会談直前の電話会談で申し入れていた。 トランプ大統領がこの本丸まで取引材料にすることを警戒して、“オール・ワシントン”もそれをさせないように、水面下でさまざまな手を打ってトランプ大統領をけん制していたようだ。 ペンス副大統領による中国批判の演説を巡る綱引きもそうだ。 中国との新冷戦を宣言した、有名な昨年10月のペンス演説に続いて、天安門30年の6月4日、中国の人権問題を強烈に批判する「第2ペンス演説」が予定されていた。トランプ大統領はこれに介入して、一旦6月24日に延期され、更に無期限延期となっている。米中首脳会談をしたくてしようがないトランプ大統領が、その妨げになることを恐れ介入したのだ。 これに対し、 “オール・ワシントン”もさらなる対中強硬策を繰り出す。本来、予定されていた第2ペンス演説には、中国の大手監視カメラメーカー・ハイクビジョンなど数社に対する制裁の発動も盛り込まれていた。これが当面、表に出なくなったことから、次に用意していた中国のスーパーコンピューター企業への制裁を急きょ発動したのである。 香港問題についてもポンペオ国務長官は「首脳会談で取り上げる」と香港カードを振りかざしていたが、中国は「内政問題」として首脳会談で取り上げることに強く反発していた。人権問題に全く無関心なトランプ大統領本人は、「中国自身の問題」と至って淡泊で、首脳会談で取り上げられることもなかった。 中国は「敵を分断する」のが常とう手段だ。トランプ大統領と対中強硬派の“オール・ワシントン”を分断して、組み易いトランプ大統領とだけ取引をする。そんな大統領の危なっかしさは今後、大統領選で増幅しかねない。“オール・ワシントン”が警戒する日々が続く』、「中国の人権問題を強烈に批判する「第2ペンス演説」が予定されていた。トランプ大統領はこれに介入して・・・無期限延期となっている」、副大統領とまで対立していたとは初耳だ。「中国は「敵を分断する」のが常とう手段」なので、「“オール・ワシントン”が警戒する日々が続く」というのは面白い。
・『前回の首脳会談より後退した貿易交渉の再開  貿易交渉そのものについては、第4弾の追加関税は発動せず、貿易交渉を再開することで合意した。これはまるで昨年12月のブエノスアイレスでの米中首脳会談の光景を繰り返しているようだ。トランプ大統領の本音が経済状況からさらなる関税引き上げをしたくない時のパターンなのだ。この時、NYダウは乱高下して先行き懸念が持たれていた頃だ。 その際、私はこう指摘した。 「トランプ大統領は習近平主席との取引をしたがったようだ。米国の対中強硬路線の根っこにある本質的な問題は手付かずで、90日の協議で中国側が対応することなど期待できない。制度改正など政策変更を必要とするもので、中国国内の統治、威信にも関わる」「今回の“小休止”はクリスマス商戦を控えて、さらなる関税引き上げを避けたぐらいのものだ。これらは何ら本質的な問題ではない。」(関連記事:G20に見る、米中の駆け引きの真相とは) 今回はこの90日という交渉期限さえ設けられていない。いつまでもズルズルといきかねない』、その通りなのだろう。
・『苦肉の交渉カード集めに奔走した習近平  5月初旬の貿易交渉決裂後、米中の攻防はなかなか見ごたえのあるものだった。常に米中双方の交渉ポジションは流動的で、ダイナミックに変化する。 本来、貿易戦争の地合いは国内経済状況を考えれば、圧倒的に米国有利のはずだった。中国国内の失業率は高く、経済指標は悪化をたどっている。関税引き上げによる食料品の物価は上昇しており、庶民の不満も無視できない。他方、米国経済は陰りの兆しが出てきたといっても、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ予想もあって依然、高株価を維持している。米中の相対的な経済の体力は明らかに米国有利だ。ただし、これはトランプ大統領が焦りさえしなければ、という条件付きだ。 5月10日、閣僚級の貿易交渉が決裂して、米国による2000億ドル分の中国製品に対する追加制裁関税が発動された。前述のように5月15日にはファーウェイに対する事実上の輸出禁止の制裁も発動された。 ここまでは明らかに米国の攻勢に中国は受け身一辺倒で、中国指導部は手詰まりで焦りがあった。中国指導部としては党内の対米強硬派や国内世論の不満をなだめなければならない。そのために対米交渉を“対等”に闘っている姿を見せるための交渉カードを早急にそろえる必要があったのだ。8月には定例の重要な会議である北戴河の会議があって、党内の長老たちから対米交渉について厳しい批判を受ける恐れもある。 交渉カードの1つが、米国が輸入の8割を中国に依存するレアアースの禁輸のカードである。習主席が急きょレアアース関連の磁石工場を視察したり、レアアース規制のための検討委員会を設置したり、揺さぶりの動きを繰り出した。(関連記事:「反ファーウェイvsレアアース」の米中衝突を徹底解説) 更にファーウェイに対する制裁に協力する企業をけん制するために、中国版のブラックリストの策定も検討するという。中国製の先端技術の禁輸をほのめかすという、“空脅し”まで繰り出した。 この段階ではいずれも検討している動きを見せて、米中首脳会談に向けて揺さぶりになればよいのだ。そして米国が繰り出す対中制裁に対して“対等”に対応していることを国内に示せればよい。 香港問題で地合いが悪くなると、電撃的に北朝鮮を訪問して、交渉カードを補強したのもその一環だ。「中国抜きでの北朝鮮問題の解決はない」と、中国の戦略的価値を誇示できればよい。メディアの目を香港問題からそらす効果もある』、「手垢」のついたレアアース問題を持ち出したり、「電撃的に北朝鮮を訪問」などが、「交渉カードを補強」というのはなるほどと納得した。
・『中国に見透かされたトランプの焦り  6月に入ってからのトランプ大統領のツイッターを読めば、中国との首脳会談をやりたい焦りがにじみ出ていた。大統領再選の立候補宣言をして、選挙戦を考えてのことだ。 「会わないのなら、第4弾の3000億ドルの関税引き上げをする」 このように5月13日に第4弾の制裁関税を表明したものの、本音ではやりたくなかったのだろう。これまで累次の制裁関税をやってきて最後に残ったもので、本来やりたくないものだ。消費財が4割も占めて、消費者物価が上がってしまう。議会公聴会でも産業界からは反対の声の大合唱だ。選挙戦で民主党の攻撃材料にもなりかねない。そこで振り上げた拳の降ろしどころを探していた。 中国もそんなことは重々承知で、第4弾は「空脅し」だと見透かして、首脳会談への誘い水にも一切だんまりを決め込み、じっくりトランプ大統領の焦りを誘っていた。 中国にしてみればトランプ大統領の心理状態がツイッターの文面で手に取るようにわかる。 首脳会談をしたいトランプ大統領をじっくりじらして、直前のサシでの電話会談で条件を申し入れて首脳会談の開催を決める。こうして首脳会談は中国のペースで進んでいった』、「首脳会談への誘い水にも一切だんまりを決め込み、じっくりトランプ大統領の焦りを誘っていた。 中国にしてみればトランプ大統領の心理状態がツイッターの文面で手に取るようにわかる」、政治家のツイッター利用は、外交面ではマイナス効果のようだ。「ディールの達人」も形無しだろう。
・『“オール・ワシントン”の動きは収束しない  こうして本来、地合いが悪いにも関わらず、巧みな
駆け引きで中国ペースで終始した今回の米中首脳会談であった。 しかし貿易交渉を再開するといっても、それぞれ国内政治を考えれば、双方ともに譲歩の余地はまるでない。中国も補助金問題や国有企業問題などを中国にとって原理原則の問題と位置付けたからには、国内的に譲歩の余地はない。米国も大統領選では対中強硬がもてはやされる。あとは国内経済次第だ。急激に悪化して軌道修正せざるを得ない状況になるかどうかだ。 いずれにしても、関税合戦が収束しようがしまいが、米中関係の本質ではない。 根深い“オール・ワシントン”による中国に対する警戒感は、中国自身が国家資本主義の経済体制を軌道修正しない限り、延々続くと見てよい。中国がかつて、鄧小平時代の「韜光養晦」(注)に表面的には戻ろうとしても、一旦衣の下の鎧(よろい)が見えたからには、手綱を緩めることはまずない。 例えば、中国に対して量子コンピューターなどの新興技術(エマージング・テクノロジー)の流出を規制するための“新型の対中ココム(かつての対共産圏輸出統制委員会)”の導入の準備も着々と進められている。米国の大学も中国企業との共同研究は受け入れないなど、サプライチェーンだけでなく研究開発分野の分断も進んでいくだろう。 こうした中で、今後、日本政府、日本企業は、安全保障の視点でどう動くべきかという問題を米国側から突き付けられる場面も想定しておくべきだろう。 大統領選にしか関心のないトランプ大統領にばかり目を奪われず、“オール・ワシントン”の動きも見逃してはならない』、習近平が一時、大国意識丸出しで驕り高ぶって、「鎧」をひけらかしていたツケが出たのかも知れない。「トランプ大統領にばかり目を奪われず、“オール・ワシントン”の動きも見逃してはならない」、というのはその通りだろう。
(注)韜光養晦:とうこうようかい。爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術を形容するために用いられてきた(Wikipedia)

第三に、元駐中国大使で宮本アジア研究所代表の宮本 雄二氏が7月2日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「米中協議、再開しても変わらぬ対立の基本構図」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/070100073/?P=1
・『日本がホストした今回の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は、改めてその重要性を世界に再確認させたと言ってよかろう。首脳宣言において「保護主義」という言葉はなかったが、自由貿易の原則は明記し、WTO(世界貿易機関)改革を進めることで合意を見た。日本が提唱する「大阪トラック」(データ流通、電子商取引に関する国際的なルール作り)も、この文脈の中で意味を持つ重要なイニシアチブだ。 成果は不十分、見通しは不明との厳しい評価もある。だが、世界の流れが、ルールよりも力、交渉よりも既成事実の押しつけに向かいかねない状況下で、よく健闘したと評価すべきだ。 定期的な首脳会議を含む国際対話のメカニズムは万難を排して生き残らせるべきだ。首脳会議というものは、休み時間でも待ち時間でも、いつでもできる。もちろん正式に時間をとって会談をしてもよい。首脳同士の意思疎通を図るきわめて重要なメカニズムなのだ』、「G20サミット」全体の評価は、立場上、甘くならざるを得ないのだろう。
・『変わらぬ、対立の基本構図  その中で最も関心を集めたのが米中首脳会談であった。米中交渉の継続が確認され、対中追加関税も先送りされ、米企業が華為技術(ファーウェイ)に部品を販売するのも認められることになった。これで世界は一息ついたということだ。 だが、その先に目をやるといかに厳しい現実が待っているか、すぐに分かる。本年5月、米中が交渉を中断せざるを得なかった基本構図はそのままだからだ。米国があらゆる手段を使って中国の台頭を押さえつけようとし、中国がそれに徹底抗戦――これがその構図だ。 その象徴が技術をめぐる覇権争いであり、当面、ファーウェイ問題に集約される。中国がこの問題の解決なしに米国と合意することはないと見られていたし、ドナルド・トランプ大統領もこの問題での譲歩をほのめかして、中国側の歩み寄りを促そうとしていた。米国は今回、そのトランプ流の交渉術を使って交渉継続の合意に持ち込んだのだろう。中国側は農産品の購入を約束したようだし、北朝鮮問題をめぐっては習近平国家主席が直前に訪朝し、トランプ大統領に土産を準備した。 しかしワシントンに目を向ければ、力で中国を押さえ込もうと考える対中強硬派の勢いは衰えていない。トランプ政権の中にも対中強硬派は多い。今後の米中折衝の中でファーウェイに関し、今回の首脳会談において果たして何が約束され、その具体的な中身は何だったのかについて、米中の間でもめる可能性は甚だ大きい。 トランプ大統領の記者会見での発言を聞いてもよく分からない。ファーウェイに対する米国政府の措置は米国の「国家安全保障」の観点からなされているものであり、大統領の一存で勝手に中身を変えられるものではないだろう。今回の合意の中身といわれるものが、米国内の政治状況に応じて変わっていく可能性さえあるのだ。 「チャブ台返し」外交は、人から「信頼」を奪い、合意の成立を著しく困難なものにしてしまう。米国がこれ以上の制裁を科さないと約束の上、今年5月の時点に戻り交渉を再開することにしたとしても、何が再交渉のベースなのかについて、またもめるだろう』、「「チャブ台返し」外交は、人から「信頼」を奪い、合意の成立を著しく困難なものにしてしまう」、というのはその通りだ。
・『中国の“待ちの作戦”は米国の“耐える力”を過小評価  中国も余裕しゃくしゃくというわけでは全くない。交渉再開の対価は大きい。3000億ドル分の対米輸出に対する新規制裁は回避したものの、2000億ドル分の制裁関税は5月に10%から25%に引き上げられたままだ。しかも交渉再開は農産品の購入と結びつけられている。ファーウェイもどこまで救済されるかはっきりしていない。習近平国家主席が緊張気味の渋い顔を続けるのも分からないわけではない。 しかし、この危機を乗り越えれば時間は中国に有利に作用するという確信めいたものはあるようだ。中国は生き残り、今より強くなるという見通しといってもよい。交渉を継続さえしていれば危機にはならない。今の状況をだらだら続けていけば、そのうち米国で変化が起こるという“待ちの作戦”といってもよい。ファーウェイなどの先端企業を全力で守りながら耐え忍ぶことになる。 この戦略的判断は、1つには、米国は国民の不満を抑えきれないが、中国は可能だという見方に裏打ちされている。経済的打撃がもっと米中の国民に及ぶようになれば中国の方が耐えられるという判断だ。しかしこの見方は、米国民が中国の台頭を真に脅威と見なしたときに示すであろう“耐える力”を過小評価している。ワシントンでは今や、中国がサイバー攻撃などの手段を使って米国の民主主義を壊そうとしているという見方まで出てきている。簡単に中国の方が有利だという結論にはならないのだ。 2つ目として、中国が最近「自力更生」を強調し始め、米国による締め出しに備えようとしている点を挙げることができる。中国が基本的には自力で今日の宇宙産業をつくり出したことは事実だ。だが、これから加速度的に拡大し深化する技術革新の世界を「自力」だけで生き延びることができるとは思えない。権威主義的な社会においても、上からの指示で知識や技術の「応用」を創新することはできる。しかし全く新しい知識や技術そのものの創新(イノベーション)は、全てのことを疑ってかかり、否定することのできる「自由な精神」がなければ不可能だ。少なくとも現在の中国共産党のシステムは、それを許容していない』、「中国の“待ちの作戦”は米国の“耐える力”を過小評価」というのはその通りだろう。。
・『中国における対外強硬派と協調派の争い  米中対立の激化は、中国国内のナショナリズムを刺激し、対外強硬派の勢いを強めている。中国語で米国は「美国」になる。「恐美派」や「崇美派」を批判する論評も増えてきた。その傾向を強めれば強めるほど自国に対する過大評価に陥りやすくなる。対外強硬姿勢は、南シナ海の軍事化を強め、フィリピンの漁船を圧迫し、尖閣諸島周辺への中国公船の連日の出没となる。2012年以来の中国の対外強硬姿勢が中国と周辺諸国との関係を悪化させ、中国の国際的孤立を招いたにもかかわらず、またそうしようとしている。 中国国内においても国際協調を求める声は決して小さくはない。しかし、自国の経済的利益を赤裸々に打ち出すトランプ政権の自国第一主義と対中経済制裁は、中国国民の反発を招き、中国国内の国際協調派の立場を損ねている。だがナショナリズムに煽(あお)られて米国のやり方にならい、中国が外国企業を敵味方に峻別(しゅんべつ)して圧迫するならば、多くの外国企業が中国市場から離れることになるだろう。結局、中国のためにならない。 中国国内も決して一枚岩ではないのだ。だが内政干渉もどきの米国の圧力に屈してぶざまな譲歩もできない。中国のこれからの発展の芽を摘むような米国の抑圧に屈することもできない。中国も狭い範囲でしか動く余地はないのだ。 米中が、どういう交渉をするかはそれぞれの国内事情が一層大きく影響するだろう。お互いに譲歩は難しい。衝突を避けながら国内向けに説明可能なギリギリの落としどころを探りながらの交渉となろう。 米中対立を全面的に解決するために払うべき国内的代価は、あまりに大きくなってしまった。全面的解決のためにはより大きなピクチャー、つまり追求する理念を国民に示して妥協の必要性を説き、国民の支持を得る必要がある。トランプ大統領にその理念はない。中国側も世界と協調するためには経済と軍事安全保障面の両方で方向の転換が不可欠であり、党と国民の支持を取り付ける必要がある。そう主張する中国国内の声はまだ小さい。 それでも、少なくとも交渉は続いているという印象を内外に与え続ける必要はある。米中ともに本当に衝突する気はないのに、不測の事態が本当に衝突を招きかねないからだ。交渉が停滞すれば再度、首脳会談をセットし、それをモメンタムとしながら交渉を続けていくこととなろう。 憂鬱な将来展望だが、それが新しい現実だと割り切るしかなかろう。日本外交は米中衝突を回避する努力を続け、経済界は最適オプションの再調整をする。それしかないだろう』、どうも「憂鬱な将来展望」は避け難いようだ。日本経済も大きなマイナスの影響を受けると覚悟した方がよさそうだ。消費増税どころではないのかも知れない。
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