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日韓関係(その5)(燃え上がる日韓対立 安倍の「圧力外交」は初心者レベル、GSOMIA破棄 日米韓“疑似”同盟を打ち壊す韓国、韓国が仕掛ける「国際世論戦」で現代日本の誇りを守る方法) [外交]

日韓関係については、7月15日に取上げた。今日は、(その5)(燃え上がる日韓対立 安倍の「圧力外交」は初心者レベル、GSOMIA破棄 日米韓“疑似”同盟を打ち壊す韓国、韓国が仕掛ける「国際世論戦」で現代日本の誇りを守る方法)である。

先ずは、東京在住ジャーナリストのウィリアム・スポサト氏が8月8日付けNewsweek日本版に寄稿した「燃え上がる日韓対立、安倍の「圧力外交」は初心者レベル」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/08/post-12729_1.php
・『<米FP特約=戦後、地政学的な「お人好し」と言われてきた経済第一の日本の外交方針を、安倍は貿易を政治の武器にするトランプ流に変えたようだ。ただし、まだまだ未熟なために問題を悪化させている> 激しさを増す日韓の経済対立は、不安定な世界経済にとって厄介な問題というだけでなく、日本が外交のやり方を変えつつあることも示唆している。日本は戦後、地政学的な「お人好し」と見られてきた。論争が起こると、経済とビジネス上の利益を最優先し、政治的には譲歩を促すことで解決を図ってきた。だが安倍晋三首相は、それを変えようとしているようにみえる。ただし、新しい方法にはまだまだ不慣れのようだ。 <参考記事>輸出規制への「期待」に垣間見る日韓関係の「現住所」 今回の日韓対立の発端は、日本政府が下した、少なくとも表向きはテクニカルな2つの判断だった。日本政府は7月4日、3種類の半導体材料について、韓国への輸出審査を厳格化する措置を取った。これらの材料は、サムスン電子やSKハイニックスなど韓国の半導体大手が主に日本から調達してきた。 韓国はこれに対して、電子製品のサプライチェーンに混乱をもたらす恐れがあると抗議。だが日本政府はさらに8月2日、韓国をいわゆる「ホワイト国」のリストから除外することを閣議決定した。ホワイト国とは、大量破壊兵器などに転用されるおそれのある戦略物資について適切な管理を行っていると見なされ、手続き上優遇されている27カ国を指す。 <参考記事>韓国・文在寅大統領は日本との関係には無関心?』、「日本は戦後、地政学的な「お人好し」と見られてきた。論争が起こると、経済とビジネス上の利益を最優先し、政治的には譲歩を促すことで解決を図ってきた。だが安倍晋三首相は、それを変えようとしているようにみえる。ただし、新しい方法にはまだまだ不慣れのようだ」、というのは手厳しい批判だ。
・『韓国はWTOに提訴も  韓国はこれらの戦略物資について、第三国への横流しを防ぐための適切な対策を取っていないと、日本政府は繰り返し主張してきた。複数のメディアが実際に北朝鮮に流れた可能性を報じているが、情報筋は中東に流れた可能性を指摘している。日本政府はまた、この問題について少なくとも数カ月前から韓国側に対話を申し入れてきたものの、そのたびに拒絶されたと怒りを込めて主張した。 韓国政府はこれを否定し、日本政府のやり方を強く非難。この問題を、対北朝鮮制裁の監督を行っている国連に持ち込む計画のほか、WTO(世界貿易機関)の規範にも背いているとして、WTOへの提訴の準備を進めると強調している。市民レベルでも、日本製品の不買運動や日本旅行のキャンセルなどの日本ボイコット運動が広がっている。 <参考記事>日本政府、韓国をホワイト国から除外 文在寅「今後の展開はすべて日本の責任」 一連の問題の背景には、第2次世界大戦中に日本企業が韓国人を強制的に動員して重労働に従事させたといういわゆる徴用工問題で、韓国に圧力をかけたい日本側の思惑がある。事の発端は2018年10月、韓国大法院(最高裁)が、日本企業に元徴用工への損害賠償支払いを命じたこと。日韓が1965年の国交正常化に際して日韓請求権協定を結び、韓国に5億ドルの経済支援を行ったことで、この問題は既に解決済み、というのが日本側の認識だった。 日本政府に近い筋によれば、安倍は徴用工問題に苛立ちを募らせており、韓国に譲歩を迫るための武器を探していた。そして、しばらく前から問題視されていた対韓輸出の問題に目をつけると、経済産業省の管轄だったこの問題を、大きな力を持つ首相官邸が引き継いだ。その結果は、芳しくない。 安倍の行動は、貿易を政治の武器に使うドナルド・トランプ米大統領のやり方と様々な意味で似ていると言われる。7月の一連の政府発表が、声明とその出し直しと戦略変更のミックスである点、まさにトランプ流だ。 こうした類の発表を行う際には、少なくとも自らの主張を裏づける証拠や、メディアや外交関係者への背景説明、それに最も重要なこととして、何が起こっているのかについての明確で一貫性のある説明が必要だ。一貫性を保つため、情報はすべて一つのオフィスを通して発表し、コメントは一人の代表者が行うべきだ。最後に、予想外の展開(その筆頭が日本製品の不買運動だろう)に備える緊急対応策も用意しておく必要がある。 だが今回の日本政府の対応はこの基本を押さえておらず、政府当局者たちは矛盾した声明や曖昧な発言を繰り返した』、その通りだ。日本のマスコミが、安倍政権に「忖度」して、批判を控えているのは残念だ。
・『徴用工判決の報復と認めた安倍  日本政府の基本的な主張は、きわめて実務的なものだ。日本側としては、どの輸出国にも認められている権利として、サプライヤに「今後は個別の出荷ごとに政府の承認が必要になる」と通告しているのだと説明ができる。既に(アメリカと並ぶ)最大の貿易相手国である中国に対しても同じシステムを導入しているが、明らかな悪影響はみられないことも説明できたはずだ。中国も、メモリーチップの生産が盛んな台湾も、日本のホワイト国リストには含まれていない。 かなりの反発を想定して、備えもしておくべきだった。サムスン電子の売上高は、韓国のGDPの約15%を占めている。主要事業に脅威が迫れば、どんな政府だって抵抗するはずだ。だが韓国政府の反応に直面して、日本政府は揺らいだ。世耕弘成経済産業相は、輸出管理は国の安全保障のためだと技術的な側面を強調しているが、政権幹部は彼が否定している徴用工訴訟への報復疑惑を裏付けるような発言をしている。 菅義偉内閣官房長官は、輸出管理は「国の安全保障上の理由」だとしながらも、韓国が「20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)までに、徴用工問題について満足する解決策を示さなかったことで、信頼関係が著しく損なわれた」という考えをちらつかせた。 政府が安全保障上の理由を前面に出し始めた直後に、安倍は再び歴史問題を持ち出した。元徴用工訴訟の最高裁判決への対応で「韓国は国と国との約束を守らないことが明確になった。貿易管理において、守れないと思うのは当然ではないか」と報道番組で語ったのだ。 安倍と菅が、経済に及ぼすダメージの規模を予想していたかどうかは分からない。韓国で180以上の店舗を展開する日本のアパレル大手ユニクロは、韓国市民の不買運動の直撃を受け、デパートなどの売り場で売り上げが30%近く減少した。韓国では外国産ビールのなかで日本産ビールがダントツの人気を誇っていたが、スーパーやコンビニの棚から日本の銘柄が姿を消し、アサヒなど日本のビール大手は痛手を受けている。韓国の旅行会社によると、ここ数週間に日本を訪れる韓国人旅行者は半減したという。昨年日本を訪れた韓国人旅行者は750万人。今やインバウンド客は日本の景気底上げに大きく貢献しているが、なかでも韓国人客は最大のお得意さまだった』、確かに、安倍政権内の説明の不整合さは目に余る。これでは、国際的にも「モノ笑いの種」を提供してしまったようだ。
・『「韓国は大げさに騒ぎすぎ」  日本は昨年、対韓輸出で200億ドル前後の黒字を計上した。これは対米輸出に次いで2番目に大きい貿易黒字だ。だが文大統領は8月2日にテレビで生中継された緊急国務会議で、「2度と日本に負けない」と宣言。日本と経済戦争に突入したとの認識を明確に示した。 一方で、日韓双方とも経済的な打撃は最小限で済むとの見方もある。韓国企業に引き続き購買意欲があればだが、日本政府の措置で輸入できなくなる物品はほとんどないと、米金融大手ゴールドマン・サックスは指摘する。また、貿易が活発なわりに、日本企業の韓国への直接投資は少なく、日本企業の中長期的なリスクは限定的だ。日本銀行の2018会計年度の統計によると、日本企業の韓国向け投資は、グローバルな対外投資の2.3%を占めるにすぎず、対米投資のおよそ10分の1にすぎない。 日本の財界は日韓の摩擦について沈黙しており、潜在的なコストにもかかわらず、安倍政権の取った措置を概ね支持しているようだ。経済同友会の桜田謙悟代表幹事は、経済界は日韓関係の早期の「正常化」を望んでいると、述べている。ある財界人は個人的な見解として、日本が先に強硬姿勢を取ったわけではないと語った。「韓国は大げさに騒ぎ立て、世界経済に与える影響について不正確な発言をしている」 中長期的には、日本企業にとっての懸念材料は、サムスンはじめ韓国企業が調達先を日本からより「信頼できる」ソースに切り替えるかどうか、だ。韓国政府は8月5日、日本への輸入依存を減らすため、研究開発に640億ドルを投じると発表した。だが研究開発には膨大な時間と資金がかかるため、韓国企業は日本の措置により実際にどれだけ輸出が制限されるかを冷静に見極めて、「脱日本」を進めるかどうかを決めるだろうと、専門家はみる。 不買運動や日本離れなど数々のリスクがあるにもかかわらず、安倍は譲歩する構えを見せていない。韓国の南官杓(ナム・グァンピョ)駐日大使を外務省に呼びつけた日本の河野太郎外相は、元徴用工問題で日韓が共同で財団を設立するという解決案を説明する南をさえぎり、日本政府は既にこの案を拒否したのに、「知らないフリをして、改めて提案するのは、極めて無礼だ」と、テレビカメラの前で叱りつけた。 河野の叱責のせいで、強硬に出たのは日本政府だという印象が強まった。南大使は文大統領の側近で、新たに就任した韓国大使として6月に朝日新聞の取材を受け、関係冷え込みを避けるために最善を尽くすのは外交官の務めであり、日韓関係の改善に尽力したいと穏やかに語った人物だ』、穏健な「南大使」にまで「テレビカメラの前で叱りつけた」河野外相も、外相失格だ。今日の朝日新聞によれば、立憲民主党・枝野幸男代表は、「河野外相の対応は韓国を追い込んだ。責任は大きい。これ、外務大臣、代えるしかないですね。この日韓関係を何とかするには。外交ですから、相手の顔も一定程度、立てないとできないのに、あまりにも顔に泥を塗るようなことばかりを河野さんはやり過ぎですね。筋が通っていることの主張は厳しくやるべきですよ。ですが、何も相手のプライドを傷つけるようなやり方でやるのは、明らかに外務大臣の外交の失敗でもあります」と手厳しく批判したようだ。
・『アメリカの仲裁は形だけ  皮肉にも、こじれた関係を立て直す仲介役として期待を託されたのがトランプ政権だ。だが、日韓両国を相次いで訪問したジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は持ち前の強硬姿勢を引っ込め、この問題には口出しを渋った。マイク・ポンペオ米国務長官も、ASEAN地域フォーラム出席のために訪問したタイの首都バンコクで日米韓外相会談を行なったものの、形ばかりの仲介にとどまり、河野と韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相の歩み寄りはかなわなかった。 次の展開として、韓国が日本と2016年に締結した「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」を破棄すれば、日本は北朝鮮がミサイルを発射しても韓国の情報は直接受け取れなくなるだけでなく、日韓の連携を前提としたアメリカのアジア太平洋戦略も深刻な痛手を被るだろう。それでも今のところアメリカは、日韓双方に「反省」を促すにとどまり、踏み込んだ仲裁を避けている。 参院選で控えめな目標ラインを大幅に上回る議席を確保し、ホッとしたばかりの安倍だが、外交では厄介な状況に直面している。北朝鮮の核問題をめぐる交渉では事実上「蚊帳の外」に置かれ、北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)とは、拉致問題の解決など面会の条件をすべて白紙にして会談を目指すも相手にされず、米政府からは、ホルムズ海峡などの航行の安全確保のための「有志連合」参加と、日米貿易交渉の早期妥結に向け、やいのやいのと圧力をかけられている。 おまけに、中国とロシアが狙い澄ましたように手を組み、日米韓同盟に揺さぶりをかけている。中ロは日本海と東シナ海で合同演習を実施。韓国が実効支配し、日本が領有権を主張する竹島の領空をロシア軍機が侵犯した。次は、日本が支配し、中国が領有権を主張している東シナ海の尖閣諸島でも挑発行動を取りかねないと警戒する声もある。強気の外交には危うさがつきものだ。お人好し外交は実は得策であり、ビジネスに政治を持ち込むのは邪道だったと、安倍は後悔することになるかもしれない』、やはりトランプの真似には無理があったようだ。GSOMIAはその後、破棄されたが、これについては、次の記事を参考にされたい。

次に、元自衛艦隊司令官(海将)香田洋二氏が8月26日付け日経ビジネスオンラインのインタビュー応じた「GSOMIA破棄、日米韓“疑似”同盟を打ち壊す韓国」を紹介しよう(Qは聞き手の質問)。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/082300090/?P=1
・『GSOMIAは日韓の軍事関係における唯一の協定だ。海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた香田洋二氏は、韓国がこれを破棄したことで「日米韓の『疑似』3国同盟が大打撃を受ける」と指摘する。朝鮮半島有事における米国の行動を非効率にしかねない。韓国は、8月14日に防衛戦略を改定し、F-35Bを搭載する軽空母を国内建造する意向などを明らかにした。香田氏は「これにも警戒を要す」という。 Q:韓国が8月22日、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決めました。この重要性と今後の影響についてうかがいます。まず、GSOMIAとはどのような協定なのか教えてください。 香田:お互いから得た情報を第三国・第三者に流さない、という取り決めです。細かい部分では、手渡し方法とか保管方法も定めています。例えば二重封筒に入れて保管するとか。これによって日韓両国が安心して情報を共有することができます。締結前よりも機密度の高い軍事情報をやりとりできるようになりました。 Q:日韓が情報を「直接」やりとりできるようになるという説明もありますね。 香田:そういう面もあります。従来は、米国がハブになってサニタイズをして情報を伝達していました。サニタイズとは、米国が韓国から得た情報を、韓国発と分からないようにして、もしくは一般情報として日本に伝えることをいいます。もしくは、サニタイズを経て、日本発の情報を韓国に伝える。 しかし、日本が得たい情報と米国が得たい情報は異なります。GSOMIAがあると、日本が必要とする情報を韓国から直接得られるようになります。 以前に北朝鮮が“人工衛星”を真南に打ち上げたことがありました。日本は当時、発射後しばらく追尾することができませんでした。一方、韓国は発射後しばらくの情報は捕捉していたものの、それ以降の情報は得られなかった。両国間では、それぞれの情報を交換するのかどうかすら決まっていませんでした。GSOMIAの下で、北朝鮮が発射する弾道ミサイルの軌道情報を交換することを決めておけば、両国がこの飛翔体の軌道の全体像を把握することができます。 2016年11月にGSOMIAを締結して以降、日韓で29回の情報交換がなされ、その多くが北朝鮮の弾道ミサイルに関するものでした。ただし、交換する情報の対象は弾道ミサイルに限るものではありません。北朝鮮が弾道ミサイルを発射する頻度を上げたため、これに関する情報交換が多くなりましたが、その時々の環境に応じて、交換・共有する情報の対象は異なります』、確かに、「米国がハブになってサニタイズをして情報を伝達」よりは、直接の情報交換の方が早いし、ニーズに合った情報交換が可能だろう。
・『日本の情報収集能力は自由主義諸国では米国に次ぐ  Q:韓国紙の報道によると、韓国内には「日本が提供する情報の有用性は低い」との見方があるようです。一方で、香田さんは破棄によって韓国が被るダメージの方が大きいとおっしゃっています。 香田:私は韓国が被るダメージの方が大きいと考えています。再び、ミサイル防衛システムを例に話をしましょう。韓国は自前のミサイル防衛システムを持っていません。イージス艦を運用していますが、これは弾道ミサイルを探知するための高性能レーダーは装備しているものの、迎撃用の対空ミサイルは装備していません。 注目されているTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)は在韓米軍が自らを守るためのもので、韓国軍が運用するものではない。 これに対して日本は、海上にはイージス艦を展開、地上にはパトリオットミサイルを配備して自前のシステムを構築しています。これは、米国を除けば、考え得る限りで最高の装備です。 Q:海上自衛隊はイージス艦を2020年度には8隻体制に拡充します。地上配備型のイージスシステムであるイージス・アショアについても、配備することを2017年12月に決定しました 香田:そうですね。つまり、ミサイル防衛システムを自前で行っていない韓国が、自前で運用している日本から、すぐにも使える形の情報を得られるわけです。これは大きいのではないでしょうか。 韓国が日本から得られる情報はミサイル防衛関連にとどまりません。情報収集のための体制は日本がずっと優れています。西側では、米国に次ぐものと言えるでしょう。日本は衛星を7つ運用しているの対し韓国はゼロ。P-1やP-3Cといった洋上哨戒機は日本が73機、韓国が18機。早期警戒管制機(AWACS)は日本が18機、韓国は4機です。日本の方が、「一日の長」ならぬ5日くらいの長があると言うことができる。 一方、北朝鮮に関する情報については、韓国が優れています。両国は地理的に近いですし、同じ民族で同じ言語を話すわけですから。 Q:日韓がGSOMIAを締結した2016年11月以前の状態に戻るだけ、という評価が一部にあります。 香田:私はそうは思いません。北朝鮮の状況が大きく変わっているからです。北朝鮮が弾道ミサイル発射の頻度を上げ、本気で暴れ出したのは2017年からです。 2015年までの弾道ミサイルの発射が15回で約32発なのに対して、2016年は1年間だけで15回で23発。さらに2017年は14回で17発でした。しかもICBM(大陸間弾道ミサイル)級のミサイルが増えています。米軍が北朝鮮を軍事攻撃する可能性が非常に強く懸念されました』、「日本の方が、「一日の長」ならぬ5日くらいの長があると言うことができる。 一方、北朝鮮に関する情報については、韓国が優れています」、というのでは、韓国軍にとっては、ダメージが大きいのではなかろうか。
・『韓国は同盟国として失格  Q:以上のお話しを踏まえて、韓国によるGSOMIA破棄の決定を香田さんはどう評価しますか。 香田:韓国はついにルビコン川を渡った、と理解しています。これは日本との情報の交換・共有を超えた意味を持つからです。 GSOMIAには3つの側面があります。第1は、これまでお話しした機密情報を交換・共有する実利的な側面。第2は、日米韓3国による疑似同盟の象徴としての側面。第3は、同盟関係にない日韓の軍と軍が交流するためのお墨付きとしての側面です。 第1の側面についてはこれまでにお話ししました。第2の側面について、朝鮮半島有事を考えてみましょう。韓国が単独で自国を防衛することはできません。米軍が重要な役割を果たすことになります。そして、米軍が力を発揮するためには、在日米軍基地およびそれを支えるインフラが欠かせません。水道水がそのまま飲める。基地の周囲で購入した糧食をそのまま兵士に提供できる。そんな環境は世界を見渡しても多くはありません。 このようなことは、威勢の良い安保論議では見過ごされがちですが、実際に兵士が命をかけて戦う戦闘を勝ち抜くための死活的要素としてのロジスティクスの意義なのです。つまり、米韓同盟は、日米同盟があってこそ機能する同盟なのです。 日米同盟と米韓同盟には本質的な違いがあります。日米同盟は米軍が世界展開するための基盤を成しており、単独でも存在し得ます。米国から見れば“黒字”の同盟と言えるでしょう。これに対して米韓同盟は北朝鮮に備えるという単目的の同盟で、米国から見れば軍事アセットの持ち出し、即ち“赤字”です。そして、日米同盟がないと機能しない。ここはドナルド・トランプ米大統領にも正確に理解してほしいところですが…… よって、日米韓は疑似的な3国同盟の関係にあるのです。このようなフレームワークの中で日韓関係が悪化し、日本が背を向けたらどうなるでしょうか。米国は米韓同盟によって韓国防衛の責任を負っているので、軍事作戦を展開しなければなりません。しかし、基地やインフラの使用に支障が生じれば、それが非常に非効率でやりづらいものになります。日本の協力が欠かせないのですが、日韓の間に軍事協力をする条約は存在しません。軍事面で唯一存在する協定がGSOMIA。したがって、これは日米韓の疑似同盟を保証する象徴的な存在なのです。 米国を苦境に追いやるような措置を文在寅(ムン・ジェイン)大統領は認めてしまいました。韓国の国益を考えたら、全閣僚が反対しても、GSOMIAを維持すべきでした。それなのに、文大統領は、米韓同盟よりも日韓問題の方に重きを置いたのです。 さらに言えば、米国よりも北朝鮮を選びました。 Q:北朝鮮の宣伝ウェブサイトが、GSOMIAを破棄するよう韓国に求める論評を掲載していました。その一方で、米国は「関係の正常化に向けて日韓が動き出してくれることを期待している」とさんざん求めていました。 香田:そうした中で韓国は、米国ではなく北朝鮮を選択したわけです。米国から見たら、同盟国として「失格」です。これが今後、どのような影響をもたらすのか注視する必要があります。 Q:マイク・ポンペオ米国務長官が「失望した」と述べました。同盟国に対するこうした批判は異例のこと、とされています。 香田:東アジア有事の際に、米国は意に反して非効率な対応を迫られるかもしれないわけです。なので、米国は日韓関係の正常化を日韓のために求めているのではありません。彼らの国益がかかっているのです。 「日本は米国の従属国である」とか「自衛隊は米軍のためにある」とか言われることがあります。なぜ、そのように見えることをしているのか。これは国益を考え、米軍の機能を100%発揮できる状態をつくり、日本の安全を守るためにしていることです。これこそが安全保障上の最大の国益と我が国は考えています。韓国も同じ発想で考えるべきです』、GSOMIAの破棄は、単に軍事情報の交換が出来なくなるだけでなく、「日米韓3国による疑似同盟の象徴としての側面」、「同盟関係にない日韓の軍と軍が交流するためのお墨付きとしての側面」にも大きな影響を与える広がりを持ったもののようだ。
・『日本なしに韓国は守れない  Q:韓国の防衛において、日本が非常に大きな役割を果たしているわけですね。 香田:その通りです。これまでお話ししたように日米韓は疑似的な軍事同盟の下で動いています。しかし、米国を中心とするアジアの安全保障体制は自転車の車輪におけるハブ&スポークに例えられます。米国がハブ。そこから伸びるスポークの先に日本がある。他のスポークの先に韓国やオーストラリア、フィリピンがいるわけです。このスポークに対して、GSOMIAは竹ひごくらいの存在でしかない。それでも存在するのとしないのとでは大違いです。 Q:先ほど、朝鮮半島有事の例をお話しいただきました。朝鮮戦争が勃発した時、ハリー・トルーマン米大統領(当時)は軍事介入を決め、在日米軍の出動を命じました。日本はまだ占領下にあったため、日本にある基地およびインフラを米軍や国連軍は日本人の意向に大きな意を払うことなく利用することができました。 しかし、今、朝鮮半島有事が起きても、同じようにはできません。在日米軍基地を使用するには日米間で事前協議が必要になるなど、日本の協力が不可欠となります。その日韓の軍事協力を保証する唯一の協定が破棄されたことになるわけですね。加えて、日本人の対韓感情が悪化している状況では日本の民間からの協力も得られません。 香田:そういうことです。我が国では、朝鮮戦争といえば戦後の荒廃した経済へのカンフル剤となった特需のことばかりが話題になりますが、朝鮮戦争を休戦にもっていけたのは、日本の基地とインフラ、そして工業力があったからです。 Q:第3の側面、自衛隊と韓国軍の交流についてはいかがですか。 香田:これまで両者の間でさまざまな交流が行われてきましたが、これが細っていくでしょうね。 Q:さっそく、その動きが始まりました。陸軍と自衛隊の幹部候補生が互いの国を訪問する交流の中止を韓国が申し入れたことが8月24日に報道されました。今年は韓国側が日本を訪問する番でした。 香田:そうですね。GSOMIAの破棄は、日韓関係においてUターンできない状況を作ることになったかもしれません。GSOMIAを維持し時間を稼いでいれば、いずれ貿易管理の問題を解決したり、歴史問題で合意をみたりする可能性があります。しかし、韓国はこの“土台”を蹴飛ばしてしまった。交渉の“ドア”を閉めてしまったのです』、「韓国はこの“土台”を蹴飛ばしてしまった。交渉の“ドア”を閉めてしまった」、というのは残念だ。
・『韓国は“冷戦クラブ”の準会員  香田:韓国によるGSOMIAの破棄が与える影響は、日米韓の関係にとどまらず、さらに広く影響を及ぼします。1つには、“冷戦クラブ”における韓国のプレゼンスが下がることでしょう。 Q:冷戦クラブですか。 香田:ええ。日本と米国、西欧諸国は共に冷戦を戦い、目に見えない冷戦クラブのメンバーとして強い仲間意識を持っています。しかし、韓国はこのメンバーに入れていません。軍関係の国際会議に出席すると実感できます。韓国は、国際社会において「冷戦を戦った」とはみなされていないのです。 米韓同盟と日韓GSOMIAがあるので、かろうじて準会員として遇されるようになりました。GSOMIAを破棄したことで、再び元の立場に戻ることになると思います。 Q:日本の自衛隊は冷戦時代、国外で活動することが難しい状況にありました。一方の韓国軍は冷戦下で行われた米ソの代理戦争であるベトナム戦争に参加しています。それなのに、世界は日本の担った役割を重視しているのですね。 香田:冷戦時代、旧ソ連という"大きな熊"の利き腕である右手と右足はNATO(北大西洋条約機構)を押さえていました。そして、左手と左足は日米同盟が押さえていた。この間、韓国はソ連に対峙していたわけではありません。北朝鮮は強い牙を持った猛獣ですが、これとの戦いは戦史において冷戦には入らないのです。韓国はこの点に気づいてないかもしれません』、“冷戦クラブ”とは初耳だが、「韓国はソ連に対峙していたわけではありません」ので、正式のメンバーではないというのも納得した。
・『米ロの核戦略にも影響が及ぶ  Q:日米韓疑似同盟の劣化は、対中国、対ロシア、対北朝鮮でどのような影響が出てくるでしょう。 香田:ロシアは今、極東で戦略核の増強を進めています。超大国
として唯一、米国と張り合えるこの分野で、米国と対等の存在になろうとしている。そのため、カムチャツカ半島東岸のペトロパブロフスク基地に第2撃*用の戦略原子力潜水艦の配備を進めています。これを防護するため、北方領土と千島列島にミサイルの配備を進めているのです。ロシアとしては、“聖域”であるオホーツク海に米国の潜水艦や対潜部隊を入れるわけにはいきません。 *:核兵器を使った戦争において、相手国からの先制攻撃によって第1撃用の核戦力を失った場合、第2撃用の核戦力で報復を図る Q:ロシアは2016年、国後島に地対艦ミサイル「バル」を配備すると決定しています。 香田:そうですね。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が日本との北方領土交渉において強硬な態度を取る理由の1つはここにあります。日本がイネイブラー*になっては困るのです。つまり、日本が北方領土を取り戻すために“善意”でとる行動が、米国を利することになっては困る。 *:「イネイブリング」とは、良かれと思ってやったことが、かえって問題を悪化させること こうした環境において、日本と韓国との関係が悪化し、それによって米国が難渋することになれば、ロシアにとっては願ってもないことです。将棋でいえば、桂馬もしくは銀を取るくらいの価値があるでしょう。飛車や角とまでは言いませんが。 カムチャツカ半島と千島列島を挟んで米ロがにらみ合いになった場合、米国は当然、中国の動向を気に掛けます。本来なら韓国が第1列島線*の中で、黄海における情報を収集し、米国や日本に提供・共有することになります。韓国が背を向けたら、米軍は自らの部隊の一部を割いて情報収集に当たらなければなりません。日韓関係がうまく機能しないと、疑似3国同盟の総合的な監視能力が低下してしまうのです。そうなれば、米軍はその力を100%発揮することができなくなります。 *:中国が考える防衛ラインの1つ。東シナ海から台湾を経て南シナ海にかかる Q:対北朝鮮ではどうでしょう。 香田:北朝鮮にとっては棚からぼた餅といったところでしょう。 北朝鮮は2017年11月以降、弾道ミサイルの発射を控えて“ニュークリアー・ホリデー”(核の休日)の状態にありました。しかし、その間に、朝鮮半島での地上戦を想定した中短距離の通常兵器の開発を着々と進めてきています。 7月以降に発射を続けている兵器は3つのタイプがあると分析しています。いずれも韓国をターゲットにした機動攻撃能力です。第1は、米陸軍が配備する「ATACMS(エイタクムス)」に似たもの。これは韓国の北半分を射程に収めます。第2はロシア製短距離ミサイル「イスカンデル」をコピーしたとみられるもの。これは韓国全土に加えて済州島までカバーできる。第3の多連装ロケットはソウルや、在韓米軍の司令部や駐屯地を面で撃砕する機能を持ちます。いずれも、韓国軍キラー、在韓米軍キラーの役割を担うものです。 北朝鮮がこのように韓国を攻撃する能力を高めているにもかかわらず、米国は韓国に対して不信感を抱かざるを得ない。日韓の絆は弱くなる。韓国の文大統領は北朝鮮に秋波を送り続けている。北朝鮮にとっては願ったりかなったりの状況です。 中国にとっても同様のことが言えます』、日韓の離反で、漁夫の利を得るのが、ロシア、中国、北朝鮮とはやれやれ・・・。
・『日米韓によるミサイル防衛の一体化は期待薄  Q:日本としては、GSOMIAを情報共有の基盤として、韓国と日本のミサイル防衛システムを将来的に連動させる考えがあったのでしょうか。 海上自衛隊は現在建造中の新しいイージス艦に「CEC」を搭載する決定をしました。イージス仕様のレーダーや対空ミサイルをネットワーク化し、相互に情報をやり取りできるようにするソフトです。北朝鮮が発射した弾道ミサイルをイージス艦が自らのレーダーで捉えていなくても、同じくCECを装備する別のレーダーが追尾していれば、その情報を基に迎撃ミサイルを発射できるようになります。 CECの装備と相互接続を進めれば、理屈上は、韓国のイージス艦が搭載するレーダーが得たブースト段階*の情報を基に、日本のイージス艦が迎撃ミサイルを発射できるようになる。迎撃の精度を高められる可能性があります。 *:発射した直後で、速度が遅い段階 香田:それは実行するのは容易ではありません。集団的自衛権の行使に当たる可能性があるからです。米国との間であれば、法的な理由付けがなんとか可能かもしれませんが、韓国は同盟国ではありません。大きな政治判断が必要になります。それに、米国が韓国にCECを提供するかどうかも分かりません』、「日米韓によるミサイル防衛の一体化は期待薄」、当然予想される問題だ。
・『韓国が構想する「空母」を敵に回してはならない  Q:韓国が8月14日に「2020~24年国防中期計画」を発表しました。日本の防衛大綱や中期防衛力整備計画に相当するものです。この中で、F-35B*を搭載する「軽空母」を建造すべく、研究に入る方針を明示しました(関連記事「中国の空母『遼寧』に対抗する意図の艦船は論外」)。3000トン級潜水艦の建造・配備も記述されています。 香田さんが指摘されたように文大統領は北朝鮮に秋波を送り、8月15日に行われた光復節の演説では「2045年までに統一を果たす」考えを示しました。北朝鮮が敵でなくなるのであれば、こうした装備の拡充は何のためなのでしょう。 *:短い滑走で離陸し垂直着陸できる特徴(STOVL)を持つ 香田:空母は、使い道がないのではないでしょうか。韓国軍は地理的に沿岸を主たる活動地域にする内海海軍です。日本のように、海上交通路を確保するための航空優勢を維持する機能はあまり必要ありません。 韓国は防衛戦略がないまま兵力の整備を進める傾向があります。現在運用している迎撃ミサイルを搭載しないイージス艦は何のためにあるのでしょう。潜水艦も20隻程度を整備する計画です。しかし、黄海は浅すぎて潜水艦は使えません。太平洋への口は日本列島にふさがれています。軽空母も潜水艦も、意地悪く見れば、日本以外に使い道がありません。 経済的にある程度の余裕があるので、入手できる装備の中で最も豪華なものを導入しようとしているように見えます。また、海上自衛隊を目標にしている、後れを取りたくない、という心情も見え隠れします。例えば、日本が輸送艦「おおすみ」を建造すると、韓国は「独島(ドクト)」を開発して後追いしました。 韓国がいま本当に取り組むべきは、自前のミサイル防衛システムの構築や、北朝鮮の小型潜水艦の侵入防止策、対機雷掃海部隊の育成などではないでしょうか。 Q:韓国が整備を進める空母や潜水艦が日本の脅威になる可能性はあるでしょうか。GSOMIAの破棄、北朝鮮への秋波などを考えると…… 香田:すべての可能性を考えておく必要があります。日本は外交の力で、韓国を“中間線”よりこちら側に引き留めておかなければなりません。これは政治と外交が果たすべき最大の責任です。貿易管理の問題で正論を振りかざし、強く出るだけではうまくいかないかもしれません。韓国軍はけっこう強いですから、敵に回したら怖いのです』、「軽空母も潜水艦も、意地悪く見れば、日本以外に使い道がありません」、「韓国軍はけっこう強いですから、敵に回したら怖いのです」、などというのは不気味だ。
・『米国が疑う、韓国の情報管理  Q:米国が韓国にF-35Bを売却しない、と判断する可能性があるでしょうか。先ほど話題にしたように、米国は強い不満をあらわにしています。 香田:あり得るかもしれません。米国は時期を見て、韓国の情報保全状況を精査すると思います。北朝鮮が発射した「ATACMS(エイタクムス)」が、漏洩した情報を基に開発されたとしたら、その出どころは韓国である公算が最も高いですから。 日本が韓国に対する輸出管理の厳格化を図ったのも、米国がもたらした基礎情報が元にあったと思われます。米国による精査の“前哨戦”と見ることができるかもしれません。韓国が7月10日に150件を超える不正輸出を公表したのは、米国に察知されたのを知り、先手を打った可能性があります。 Q:米国における対韓感情が悪化し、米韓同盟の劣化につながる可能性を指摘する専門家がいます。 香田:米国が韓国と同盟国の縁を切るというのは考えづらいでしょう。ここでは、米国とトルコの関係が参考になります。ロシアから地対空ミサイル「S400」を導入したトルコに対して米国は怒りをあらわにしました。一時は、米国がトルコをNATOから追い出すのでは、と思えるほどでした。しかし実現には至っていません。ただし、トランプ大統領が7月、「F-35の売却を棚上げする」と発言して対抗措置(制裁)を取っています。 トランプ大統領は、NATOとも同調してアメとムチ両方を使いトルコのS400導入を阻止しようとしましたが、失敗しました。しかし、既にロシアとの関係緊密化を進めるトルコをこれ以上追い詰めてNATOからの離脱、またはNATOからの除名という事態に陥れば、プーチン大統領の最大の狙いであるNATO分断への道を開くことになります。それゆえ、トランプ大統領もNATOも、時間をかけてでもトルコをNATOに残留させる道を探っているのです。 もちろん、トルコと韓国で一対一の比較はできません。しかし、米韓同盟の劣化あるいは解消は、プーチン大統領のみならず、中国の習近平主席や北朝鮮の金正恩委員長が狙うところを、こちらのオウンゴールで実現してあげることになります。彼らは弄することなく目的を達成できる。この観点から、米国、そしてトランプ大統領は自らの思いに蓋をしてでも、韓国をつなぎとめようとする公算が高いと考えます』、トランプにとって、トルコや韓国など、悩みの種は尽きないようだ。

第三に、立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏が8月27日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「韓国が仕掛ける「国際世論戦」で現代日本の誇りを守る方法」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/212900
・『百家争鳴の日韓問題について「国際世論戦」に焦点を当てる  日韓関係の悪化が止まらない。従軍慰安婦問題(本連載第123回)、韓国海軍レーザー照射問題、元徴用工問題、日本にほる対韓半導体部品の輸出管理の「包括管理」から「個別管理」への変更と韓国を「ホワイト国」から除外する決定(第215回)、そしてそれに対する韓国の報復と続き、遂に韓国・文在寅政権は、日韓で防衛秘密を共有する日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決めた。 今後、安倍政権はどう行動すべきか、韓国はさらにどう対抗してくるのか、百家争鳴となっている。その中で本稿は、いわゆる「国際世論戦」と呼ばれるものに焦点を当てたい。 日本は歴史的に「国際世論戦」に弱いとされている。古くは満州国建国を巡って日本は中国に敗れて孤立し、最終的に国際連盟を脱退する事態に至った。今年4月にも、世界貿易機関(WTO)を舞台に韓国と「東日本産水産物の禁輸措置の解除」を巡って争い、日本は敗れている(第215回・P.4)。 今回も、韓国はすでに「国際世論戦」を仕掛けているといわれている。米「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙が「トランプ化する日本外交」と論評するなど、「日本の輸出規制は元徴用工問題に対する経済制裁である」という韓国の主張が国際的に広がりつつある。ただし、筆者は今回に関しては、韓国の国際世論戦の巧みさを、あまり警戒する必要はないと考えている』、日本の「国際世論戦」の弱さは、実に腹立たしい。安倍政権も自分の言いなりになる日本のマスコミ相手には威張っていても、海外メディア相手では形なしのようだ。
・『韓国のロビイングには定評ありだが「日本はWTO違反」の反応は?  今回の日韓の「国際世論戦」の争点は大きく2つに整理される。1つは、「日本の韓国に対する半導体部品の輸出管理の見直しは、WTO違反か否か」である。もう1つは、「従軍慰安婦問題」「元徴用工問題」の、いわゆる「歴史認識」を巡るものである。 1つ目については、韓国は非常に熱心に、「日本はWTO違反」であるという主張の正当性を世界各国に訴えているという。韓国のロビイングのうまさは定評があるところだ。だが、今回に関しては、韓国の動きが成功しているという状況証拠はない。韓国の主張は感情的で、実態に即していないからだ(細川昌彦「誤解だらけの韓国に対する輸出規制発動」日経ビジネスオンライン)。また、韓国のロビーを受けた各国は、「日韓の争いに巻き込まれたくない」「二国間で解決してほしい」というのが本音である。 実際、WTOに提訴しても、決着までに数年間かかるという。一方、日本は既に、国内の素材メーカーから申請が出ていた半導体の基板に塗る感光材の「レジスト」を、厳格な審査の上に「軍事転用のおそれがない」として、輸出を許可し始めている。今後、このような輸出の実績が積み重なっていけば、感情的になっている韓国の世論も沈静化するだろう。「WTO違反ではない」という日本の主張も、次第に各国や世界のメディアに理解されていくようになる』、「韓国のロビイングのうまさは定評がある」とはいっても、これはさして問題なさそうだ。
・『より深刻な2つ目の論点「歴史認識をめぐる国際世論戦」  それより深刻にみえるのは、2つ目の「歴史認識をめぐる国際世論戦」だ。しかし、この連載では、ある英国人の学者のコメントを紹介したことがある。 「日本、中国、韓国はなぜ1回戦争したくらいで、これほど険悪な関係なのか。英国や他の国で催されるレセプションやパーティーで、日中韓の大使が非難合戦を繰り広げているらしいじゃないか。会を主催する国に対して失礼極まりないことだ。英国とフランスは、百年戦争も経験したし、何度も戦った。ドイツ、スペインとも戦った。勝った時もあれば、負けたこともある。欧州の大国も小国もいろんな国同士が戦争をした。それぞれの国が、さまざまな感情を持っているが、それを乗り越えるために努力している。日中韓の振る舞いは、未熟な子どもの喧嘩のようにしか見えない」(第94回) 要するに、どんな国でも歴史をたどれば「スネに傷がある」ものだ。それにこだわっていても仕方がないではないか。ましてや、関係のない他国を舞台に喧嘩をするなど愚の骨頂だというのだ。 英国で7年間生活したことがあり、しかも「人権意識」が高い学者・学生が世界中から集まっていた大学に身を置いた筆者の実感だが、個人的には日本の過去の振る舞いを理由に、現在の日本を批判する人に会ったことがない。 確かに従軍慰安婦問題は、今でも世界のメディアで「性奴隷」と表現されている(例えば、"Shinzo Abe to attend Winter Olympics despite ‘comfort women’ row", The Financial Times, 2018年1月24日付)。ただし、それは、あくまで「過去の戦争における負の歴史」という扱いでもある。戦争が繰り返された欧州であれば、どこの国にでもある「過去」だということだ。「現在の日本」まで特別に責められているわけではない。 言い換えれば、世界が関心を持っているのは「現代の女性の人権」である。従軍慰安婦問題に様々な反論を試みることで現在の日本が疑われているのは、いまだに女性の人権に対する意識が低いのではないかということだ。 例えば、安倍晋三首相がかつてよく言っていた「強制はなかった」「狭義の強制、広義の強制」という主張などは、海外からはよく理解できない。そういう細かな主張をすればするほど、「日本は、いまだに女性の人権に対する意識が低いんだな」という誤解を広げてしまうだけなのだ(第123回)』、確かに、(欧州の)「それぞれの国が、さまざまな感情を持っているが、それを乗り越えるために努力している。日中韓の振る舞いは、未熟な子どもの喧嘩のようにしか見えない」、との「ある英国人の学者のコメント」は大いに考えさせられる。
・『韓国による慰安婦像の設置は過剰に反応しても日本に得るものなし  また、韓国が熱心に行っている世界中での慰安婦像の設置についても、過剰に反応しても日本が得るものはない。なぜなら、慰安婦像を受け入れる国の人は「過去の日本」の振る舞いを責めようとしているのではない。「女性の人権を守るための像」だと理解するから、設置を認めているのだ。 例えば、米サンフランシスコ市が慰安婦像の寄贈受け入れを決めた時、大阪市の吉村洋文市長(当時)は、これに抗議するために、サンフランシスコと大阪市の姉妹都市関係の解消を通知する書簡を送った。これに対して、ロンドン・ブリード・サンフランシスコ市長は、解消決定を「残念」とし、大阪市との人的交流を維持する考えを示した。 その上で、ブリード市長は慰安婦像について「奴隷化や性目的の人身売買に耐えることを強いられてきた、そして現在も強いられている全ての女性が直面する苦闘の象徴」「彼女たち犠牲者は尊敬に値するし、この記念碑はわれわれが絶対に忘れてはいけない出来事と教訓の全てを再認識させる」と声明を出している。 ブリード市長は明らかに、慰安婦像の意義を日本の過去の振る舞いよりも、より一般的な問題である、現在も存在する性奴隷・人身売買など女性の人権侵害を根絶するためのものと理解している。そして、仮に過去に不幸な出来事があったとしても、現在の日本を批判してはいない。今後も日本との交流を続けたいとしているのだ。 おそらく、吉村市長の怒りはブリード市長にはまったく伝わっていなかっただろう。女性の人権を守るのは政治家として当然のことなのに、いったい何を一方的に怒っているのか、さっぱり分からないと思っていたのではないか。ましてや、突然の姉妹都市解消の通知には「60年という姉妹都市の歴史を断ち切るほどの問題なのか?」と、ただあぜんとしていたと思う。 結局、吉村市長は、世界中から「人権意識の低いポピュリスト」だという「誤解」を受けるだけとなってしまった。吉村市長は大阪の待機児童問題を解決するなど高い実行力を示しており、将来的に「東の(小泉)進次郎、西の吉村」と並び称される政治家になると筆者は期待している。それだけに、非常に心配だ(第208回)。 日本は確かにかつて戦争を起こした「ならず者国家」としての負の歴史を背負っている。(第166回・P.4)。一方で、日本は戦後70年間、平和国家として行動し、負の歴史を償おうとしてきた。そのことは世界中に認められている。英公共放送「BBC」の調査で示されたように、「世界にいい影響を与える国」と高評価してくれる人々が、世界中に増えてきているのだ(“Sharp Drop in World Views of US, UK: Global Poll,” BBC World, 2017年7月4日付)。 その意味で、たとえ「ならず者」と呼ぶ人がいても目くじら立てることなく謙虚に受け止め、「いい影響を与える国」と言ってくれる国が1つでも増えるよう、誠意のある行動を続けていけばいいのではないだろうか』、これまでサンフランシスコ市などが慰安婦像を受け入れているのは、韓国系のロビーイングのためと思っていたが、「ブリード市長は明らかに、慰安婦像の意義を日本の過去の振る舞いよりも、より一般的な問題である、現在も存在する性奴隷・人身売買など女性の人権侵害を根絶するためのものと理解している。そして、仮に過去に不幸な出来事があったとしても、現在の日本を批判してはいない」、というので理由がより深く理解できた。「大阪市の吉村洋文市長(当時)は、これに抗議するために、サンフランシスコと大阪市の姉妹都市関係の解消を通知する書簡を送った」、「抗議する」理由を明確に述べずに、結論だけの書簡だったので、理解が得られなかったのは当然で、国際的常識を持ち合わせずに、国内パフォーマンスだけを狙う田舎政治家のやることだ。
・『「安倍平和宣言・人権マニフェスト」を世界に発信してはどうか  それでは具体的に、日本がこれからどう行動すべきかを考える。この連載では、従軍慰安婦問題や元徴用工問題について安倍首相が直接、韓国民に会って話をすることを提言してきた(第215回・P.6)。 安倍首相は、元慰安婦・元徴用工の方々に謝罪する必要はない。日本政府の立場の「細かな説明」も必要ない。しかし、両国の間に「不幸な歴史」があったこと、少なくとも「侵略された」韓国側が、より民族・国家としての誇りを深く傷つけられていることを率直に認めるほうがいいと考える。そして、その不幸な歴史に「心が痛みます」というメッセージを発し、世界中のメディアに発信する。その時に、従軍慰安婦問題・元徴用工問題は確かに終わる。 今回は、これをもっと発展させた提案をしたい。安倍首相は、「安倍平和宣言」とでも呼ぶべきメッセージを全世界に向けて発信するのだ。そして、「日本は戦争をしない。戦時における女性の人権侵害という不幸な歴史を二度と繰り返さない」と宣言する。)続いて、現代の日本は「人権を世界で最も守る国になる」とアピールし、「安倍人権マニフェスト」を発表する。現在、日本は人権問題について世界から批判を受けている状況にある。それらを、安倍首相が「自らの任期中に一挙に解決する」という決意を示すのだ。それは例えば、以下のさまざまな問題の解決である。 (1)数々の企業の上級・中級幹部における女性の割合が、わずか12.5%であること(ちなみに、マレーシア 22.2%、ドイツ 29.0%、フランス 31.7%、シンガポール 33.9%、英国 35.4%、スウェーデン 39.7%、米国 43.4%である。https://data.worldbank.org/indicator/SL.EMP.SMGT.FE.ZS) (2)「下院議員または一院制議会における女性議員の比率、193カ国のランキング」で、日本が165位であることの改善(Women in Politics: 2019) (3)国際連合女子差別撤廃委員会から「差別的な規定」と3度にわたって勧告を受けている夫婦同姓をあらためて、「選択的夫婦別姓」の導入 (4)「女性差別撤廃条約」の徹底的な順守を宣言 (5)国連の自由権規約委員会や子どもの権利委員会から法改正の勧告を繰り返し受けている婚外子の相続分差別の撤廃(第144回) (6)外国人技能実習生の人権侵害問題の解決などによる、多様性のある日本社会の実現(第197回) (7)同性結婚などLGBTの権利を保障する) そして、「安倍平和基金」を設立する。「安倍平和基金」は、アフリカや中東、アジアなど世界中の全ての人権侵害問題を援助の対象とし、元従軍慰安婦や元徴用工への援助は当然これに含まれることになる。金額は、従軍慰安婦問題解決の基金10億円の10倍の規模である「100億円」とする。日本政府および趣旨に賛同する企業が資金を拠出する』、「「安倍平和宣言」とでも呼ぶべきメッセージを全世界に向けて発信」、とは検討に値するアイデアだ。「日本政府の立場の「細かな説明」も必要ない」、日本側はすぐ強制性の有無などテクニカルな説明に走りがちだが、国際的にみれば、それは二義的問題に過ぎず、確かに不要である。
・『慰安婦像に代わる「平和の人間像」を世界中に設置  さらに、「平和の人間像」を日本がつくり、世界中に設置する。 「平和の人間像」のイメージ。顔は「ムクゲ」で花言葉は「信念」「新しい美」。右脚に引きちぎられた「赤に白斑の薔薇」の鎖。花言葉は「戦争」「戦い」。筆者の友人が作成。無断転載禁止 現在の慰安婦像は「女性の人権を守るための像」ではある。しかし、その対象は「過去、戦時に人権侵害を受けた韓国人女性」を事例として限定したものだ。それでは、対象が狭いのではないだろうか。 「平和の人間像」は、世界中の男女・LGBTを問わず全ての人に対する人権侵害問題を完全解決することを宣言する像とする。そして、全ての人々を対象とするのにふさわしい、抽象的な造形とする。 「平和の人間像」の第一体目は、ぜひソウル市の「青瓦台」の前に設置させてもらおう。像の除幕式では、文大統領と安倍首相ががっちりと握手をして、両国が世界の人権侵害の歴史の終焉と、現在の人権問題の完全解決を高らかに宣言する。 文大統領と、それを支持する韓国の左派は嫌がるだろう。だが、嫌がれば韓国は「人権意識の低い国」となり、慰安婦像の設置は「単なる反日のための行動」であったと、世界中から批判を浴びることになる。 要するに、「国際世論戦」において、従軍慰安婦問題や元徴用工問題の細かな事実関係を争っても、あまり意味がない。韓国など一部の国を除けば、海外の人たちは、日本の過去についての事実関係などどうでもよく、関心があるのは、現在の「人権問題」なのだ。 日本が「大日本帝国」の誇りを守ろうとすればするほど、いまだに人権意識の低いと「現在の日本」の評価が下がることになる。本当に守るべきことは、「現代の日本」の誇りだと考えるべきである』、「平和の人間像」では慰安婦像に代り得るとも思えない。慰安婦像を駆逐するためとして、韓国からは猛反発を受けるだろう。筆者は通常は参考になる分析をするが、この粗削り過ぎるアイデアを提案するとは、筆者らしからぬ思い込みで、賛成できない。
タグ:日韓関係 (その5)(燃え上がる日韓対立 安倍の「圧力外交」は初心者レベル、GSOMIA破棄 日米韓“疑似”同盟を打ち壊す韓国、韓国が仕掛ける「国際世論戦」で現代日本の誇りを守る方法) ウィリアム・スポサト Newsweek日本版 「燃え上がる日韓対立、安倍の「圧力外交」は初心者レベル」 日本は戦後、地政学的な「お人好し」と見られてきた。論争が起こると、経済とビジネス上の利益を最優先し、政治的には譲歩を促すことで解決を図ってきた。だが安倍晋三首相は、それを変えようとしているようにみえる。ただし、新しい方法にはまだまだ不慣れのようだ 最も重要なこととして、何が起こっているのかについての明確で一貫性のある説明が必要だ。一貫性を保つため、情報はすべて一つのオフィスを通して発表し、コメントは一人の代表者が行うべきだ 徴用工判決の報復と認めた安倍 アメリカの仲裁は形だけ 香田洋二 日経ビジネスオンライン 「GSOMIA破棄、日米韓“疑似”同盟を打ち壊す韓国」 日本の情報収集能力は自由主義諸国では米国に次ぐ 一日の長」ならぬ5日くらいの長があると言うことができる。 一方、北朝鮮に関する情報については、韓国が優れています 韓国は同盟国として失格 日本なしに韓国は守れない 韓国は“冷戦クラブ”の準会員 米ロの核戦略にも影響が及ぶ 日米韓によるミサイル防衛の一体化は期待薄 韓国が構想する「空母」を敵に回してはならない 米国が疑う、韓国の情報管理 上久保誠人 ダイヤモンド・オンライン 「韓国が仕掛ける「国際世論戦」で現代日本の誇りを守る方法」 1つは、「日本の韓国に対する半導体部品の輸出管理の見直しは、WTO違反か否か」 もう1つは、「従軍慰安婦問題」「元徴用工問題」の、いわゆる「歴史認識」を巡るもの より深刻な2つ目の論点「歴史認識をめぐる国際世論戦」 韓国による慰安婦像の設置は過剰に反応しても日本に得るものなし 「安倍平和宣言・人権マニフェスト」を世界に発信してはどうか 慰安婦像に代わる「平和の人間像」を世界中に設置
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