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医療問題(その21)(相次ぐ高額医薬品 国民皆保険制度は維持できるか、がん検診にデメリットはあるのか? 第49回 がん外科医の本音⑤、健保連が「医療費抑制」に向けた政策提言 花粉症、風邪ですぐ病院へ) [生活]

医療問題については、8月4日に取上げた。今日は、(その21)(相次ぐ高額医薬品 国民皆保険制度は維持できるか、がん検診にデメリットはあるのか? 第49回 がん外科医の本音⑤、健保連が「医療費抑制」に向けた政策提言 花粉症、風邪ですぐ病院へ)である。

先ずは、8月8日付け日経ビジネスオンライン「相次ぐ高額医薬品、国民皆保険制度は維持できるか」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00067/080600007/?P=1
・『発売当初は年間で約3500万円の費用がかかったオプジーボや、2019年5月に承認された1回投与で3349万円のキムリアなど、高額な医薬品の登場が相次いでいる。気になるのは医療保険財政への影響だ。日本が世界に誇る国民皆保険制度は、このまま維持できるのか。 このまま高額医薬品が増え続ければ、医療保険財政は破綻するのではないか――。オプジーボの登場以降、こうした議論が盛んに繰り広げられるようになった。財務省秘書課長の吉野維一郎氏(取材時の肩書は主計局主計官、厚生労働係第一担当)も「こうした高額医薬品が次々と出てくるようになれば、それなりに医療保険財政への影響はある」とみる。 医療保険財政が圧迫されれば、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入し、お互いの医療費を支え合う「国民皆保険制度」も揺らぎかねない。では、どう財政への影響を最小限にするか。現状は医薬品の公定価格(薬価)を下げる「薬価下げ」に頼っているが、これ以外にも財政負担を軽減するための手立てが検討されている。 代表的な例が、医療費の自己負担割合の見直しだ。現状では、病院や薬局で処方される医療用医薬品は原則3割負担で、75歳以上は1割負担となっている。 この負担率を、病気の重さによって変動させようという案がある。例えばドラッグストアなどでも購入できる一般用医薬品(OTC)があるなら、患者の負担額を引き上げるべきだという考え方だ。 湿布薬や鼻炎薬などのOTCには、医療用医薬品と同じ成分のものも多い。ところが、現状ではドラッグストアなどで市販薬を買うよりも、医師に処方してもらった方が患者が負担する金額は数分の1程度まで抑えられる。金銭的なメリットから気軽に病院に通う患者が少なくないが、負担率を上げれば、一定の歯止めをかけることができる。外来の診察料に定額負担を求めることで、割安な薬を求めて病院に足を運ぶ患者を減らす考え方もある。 財務省の吉野氏は「一般用医薬品がある薬は、保険でカバーするかどうかまで踏み込んでもよいのではないか。単価は小さいものの、合計すれば全体の薬剤費は決して小さくない」と話す。法政大学で財政学を専門とする小黒一正教授も、「市場規模が大きく、患者が負担する費用が小さいものから自己負担率を上げるといった見直しをすべきだ」と指摘する』、「ドラッグストアなどで市販薬を買うよりも、医師に処方してもらった方が患者が負担する金額は数分の1程度まで抑えられる。金銭的なメリットから気軽に病院に通う患者が少なくないが、負担率を上げれば、一定の歯止めをかけることができる」、こうした負担率引き上げは必須だろう。
・『一方で、強い口調でこれに反対するのが日本医師会だ。日本医師会は自由民主党の大票田としても知られ、政治的な影響力を持つ。日本医師会常任理事の松本吉郎氏は「“軽い病気の薬は保険から外すべき”という意見もあるが、日本医師会としては絶対に反対」と対抗姿勢を見せる。 同氏の説明によれば、初めは症状が軽くとも徐々に病気は重くなっていくのだから、軽症なときに医療保険でしっかりカバーして重症化を防ぐべきだという。また、そもそも実際に医師の診察を受けるまで本当に軽症かどうかは分からないとも説明し、医師による診察の重要性を訴える。 確かに、命に関わる病気であっても、軽い症状を示す病気はある。例えばがんの自覚症状は少なく、発熱や倦怠(けんたい)感、せきなど一見すると風邪と勘違いしかねない。患者の負担額を引き上げれば、通院を控える人が出て発見が遅れるということだ。 自己負担の在り方を巡っては、高額医薬品について、一定額を超える部分を自己負担にすべきだ、という案もある。所得水準によって、薬を手にできない患者も生まれかねないが、この場合は、民間の保険でカバーするという考え方だ。 製薬企業が取り組むべき課題もある。例えば、薬の値段の決め方。日本では製薬企業が開示する原価データを基に国が公定価格として決めるが、そもそもその原価計算が不透明との指摘がある。単にコスト面だけでなく、薬の価値を認めて欲しい、という意見も製薬業界にはあるが、少なくとも透明性を高める取り組みは欠かせないだろう。 医薬品の費用対効果を評価して、薬価に反映させる考え方もある。すでに2019年4月から同じ病気に使う新薬と既存薬の費用対効果を調べて、効果の割に新薬の価格が高いと判断されれば、薬価を下げる仕組みが導入されたが、これを古くからある薬にも適用すべきだ、という声も出ている。 40兆円を突破し、今後も高齢化を背景に増加するとみられている国民医療費。保険財政の破綻を危惧する声が大きくなる中で、国民一人ひとりがどう負担を分かち合うか。国民を巻き込んだ幅広い議論が欠かせないことだけは確かだ』、「同じ病気に使う新薬と既存薬の費用対効果を調べて、効果の割に新薬の価格が高いと判断されれば、薬価を下げる仕組みが導入されたが、これを古くからある薬にも適用すべきだ、という声も出ている」、当然のことだ。過度な抑制には問題があるとしても、まだまだ、抑制の余地は大きそうだ。

次に、外科医の中山 祐次郎氏が8月22日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「がん検診にデメリットはあるのか? 第49回 がん外科医の本音⑤」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00135/00010/?P=1
・『こんにちは、総合南東北病院外科の中山祐次郎です。 私の住む福島では、猛暑は足早に過ぎ去り、もう涼しくなってきました。考えてみればセミの声もそれほどうるさいと感じることはありませんでしたね。みちのくの夏はやっぱり少し短いのかな、と感じます。昨年は灼熱(しゃくねつ)の京都で過ごしたので、その落差で勘違いしているのかもしれませんが。 さて、今回も前回までに引き続き2019年6月に出した著書「がん外科医の本音」から、日経ビジネス電子版読者の皆様の関心が特に高そうな「がん検診」の項から引用してお届けします。 ここを書くにあたり、私は非常に多くの論文と医療ガイドラインを読み情報をあらためて精査し、市販のがん検診について書かれた本10冊以上に目を通すことで今世に流布している意見を把握しました。さらには、京都大学大学院医学研究科の健康情報学の教授に意見を仰ぎ、ディスカッションをした上で監修をしていただき、医学的な信頼性を担保しました。そこに、がんを専門とするいち医師である私の意見を付記しています。 非常に苦心して書きましたが、これほど情報を俯瞰(ふかん)し、さらに複数の専門家の見解をもとにまとめたものは他にないと自負しています。 それではどうぞ』、確かに「医学的な信頼性を担保」したのはさすがだ。
・『検診はすればするほどよいわけではない  誤解のある人が多いのですが、がん検診にはメリットとデメリットのどちらもあります。「検査をすればするほど、病気がちゃんと見つかっていいのではないか」「若い人全員にもしたほうがいいのではないか」と考えている方もいらっしゃるでしょう。実は、どちらも答えはNOです。 今回、皆さんにお伝えしたい最も大切なこと。それは、検診を受けるべきかどうかを決めるには「メリットとデメリットをてんびんにかけた結果、どちらが上回っているか」を考えなければならない、ということなのです。 そして、このてんびんにかけた結果は、「人によって答えが異なる」という点が極めて重要です。それはつまり、人それぞれの価値観によって結論が真逆になる可能性が十分にあるということを意味します。ですから、ここではまずメリットとデメリットを説明し、最後に私の価値観で考えた結果を本音でお話しすることにいたしましょう』、「メリットとデメリットをてんびんにかけた結果」は、「人によって答えが異なる」とhどういうことなのだろう。
・『ステージⅣで急激に悪くなる  まず、がん検診を受けることのメリットから。メリットは、「そのがんで死亡することを防ぐこと」です。がんというものは、原則的に「早期に見つけて早期に治療を行えば治るもの」。そして、「あるポイントを超えてしまうと、どんな名医がどれほどすごい治療を行ったとしても、どうしても治らないもの」でもあります。 では、あるポイントとはどこにあるのか。これは残念ながら、はっきり「ここ!」と分かるわけではありません。がんにかかってしまった人によっても、がんの種類によっても、そして治療法が年々進化している現代ではかかった時期によっても異なるでしょう。 ただ、だいたいの予測はつけられます。例えば私の専門の大腸がんであれば、ステージⅠの人が標準治療を受けると、5年後に生きている確率は97%を超えます。しかし、ステージⅡになると90%、ステージⅢでは84%と下がっていきます。そして、ステージⅣになると急に下がり、なんと20%ほどになってしまいます。 そうです。ステージⅣになると急激に悪くなるのです。これは大腸がんだけに限ったことではなく、多くのがんで見られます。それもそのはず。ステージは生存率を反映するように作っている面もあるからです。もう少し詳しくお話しすると、ステージⅣはほとんどのがんで「遠隔転移あり」という状況を指します』、「遠隔転移あり」では、「5年後に生きている確率」が「20%ほどになってしまいます」というのも納得だ。
・『2つの武器で「タチの悪さ」を見る  遠隔転移とは、最初にできたがんの臓器と離れた別の臓器にがんが転移してしまっている状態を指します。「なんだかタチが悪そう」と思いますよね。このタチの悪さを測るものは何でしょうか? そんな検査があったらいいのに、と思いますよね。 実は、現代の医学は2つの武器を持っています。1つは、「経過を見る」という方法です。これは、時間による経過を見ることで「がんの勢い」がどれほどかを推測するもの。例えば、もともとの大きさが1cmのがんがあったとして、2年かけて1.2cmになるものより、1カ月で大きさが5cmになり他の臓器に転移するもののほうがはるかにタチが悪そうです。現実的にはがんを放置することはなく、見つけたらすぐに治療をしますが、それでも検査や患者さんの仕事の都合などで1~2カ月ほど治療が遅れ、たまたま増殖スピードが見えてしまうことがあります。はからずもタチの悪さが見えてしまうのです。 もう1つは、「病理診断」という武器です。これは、調べたいがん細胞を取ってきて、その細胞を顕微鏡を通して見ることで、どれくらいタチが悪いかを測定することができます。現在では、乳がんなどでは「病理診断」の結果によって治療法が変わる場合もあるのです。 がん検診では、定期的に検査することで、がんがないかどうかをチェックします。ですから、タチがとても悪いものに対してはあまり効果を発揮することができません。1年間隔で検査しても、発生して半年で手がつけられないほど進行してしまうがんであれば、検診は無力です。 一方で、今の医学では「誰がどれくらいタチの悪いがんにかかるか」は分かりません。ですので、年齢を区切って全員一斉に検査をする。そして中には運良く早めにがんが見つかり、治療を受けて治る人がいる。ここまでが、がん検診のメリットの説明になります』、「1年間隔で検査しても、発生して半年で手がつけられないほど進行してしまうがんであれば、検診は無力です」、運が悪かったとあきらめるしかなさそうだ。
・『知られていないがん検診のデメリット  一方、がん検診のデメリットはどんなものでしょうか。 1つ目は「過剰診断・過剰治療」です。過剰という言葉が入っている通り、本来は不要だったのに検診を受けたことで生じてしまったものです。 具体例を挙げましょう。例えば、乳がん検診で、マンモグラフィー検査という乳房をレントゲンに撮る検査を受け、がんを疑うようなしこりが見つかったとします。すると、今度は「病院で精密検査を受けてください」ということになり、医師の診察を受けます。同時に採血検査、超音波検査、MRI(磁気共鳴画像)検査などを行います。その結果、「まずどう見ても良性なのでここでおしまい」となることもあれば、「悪性の可能性があるため、針生検をしましょう」となることもあります。針生検では、怪しいしこりそのものに針を刺し、しこりの成分を1mmほど取ってきて、顕微鏡でがん細胞やがんの組織がないかをチェックします。 その結果、もしがんの診断だったら手術や抗がん剤治療へ進みますし、がんではなかったら「大丈夫でした。よかったですね」で終わります。 さて、もし検診をしていなかったらどうなったでしょうか。病院で受診することはなく、従っていろいろな検査はしないでしょう。生検という、針を刺して傷をつくる検査もしなくてよかったことになります。 これが、過剰診断です。ここまでならまだよいのですが、「やはり悪性が否定できない」として、手術になることがあります。メスを入れ、手術をした結果「いやあ、良性でした。よかったですね」と言われることもあるのです。これは、人によって受け取り方が大きく変わるところでもあります。「ラッキーだった」と思う人がいる半面、「それならば最初からすべて不要だったのではないか」と思う人もいるでしょう』、医師が手術すべきと診断して手術を受けた結果が、「良性」だったのであれば、「ラッキーだった」と思うべきだろう。
・『検診そのもので起きる合併症もある  2点目は、「検診そのもので起きる合併症」です。合併症とは、「検査や治療によって起きた良くないこと」を指します。確率はさまざまですが、この世のあらゆる治療や検査にはすべて一定の割合で合併症が起こります。2人に1人以上起こるものから、隕石(いんせき)に当たるより確率が低いもの(インフルエンザワクチンの接種で死亡するなど)までさまざまです。 がん検診では、検査を行いますので、残念ながら検査に伴う合併症の危険性があります。胃がん検診を例に挙げましょう。胃がん検診では胃カメラもしくはバリウム検査があります。胃カメラの合併症について、2016年に発表された全国調査報告(08年~12年までの5年間)では、前処置(鎮静剤など)に関連した合併症は約3万6000人に1人(0.0028%)で、死亡数は9件で200万人に1人(0.00005%)でした。そして観察のみ(生検を含む)の胃カメラでは約7000人に1人(0.014%)の割合で合併症が起きています。合併症は出血や胃・食道に穴が空いたというものでした。 これを見ると、胃カメラを受けるだけで死亡する可能性がゼロではなく、合併症も起きていることが分かります。頻度が低いだけで、一定数は確実に起きているのです』、「胃カメラ」でも「死亡する可能性がゼロではなく、合併症も起きている」、というのは確かに留意すべきことのようだ。
・『根拠のない検診を避ける  もう1つ大切なことを述べます。「どんながん検診が採用されているかは、お住まいの市区町村によって異なる。中には科学的根拠がまだはっきりしないものを採用し、検診を受けてくださいと勧めているところもある」という点です。この点は本や雑誌ではあまり触れられていません。 がん検診を受けるかどうかは、3つの段階で決まります。 第1段階は国です。まず国がどんな検診を行うかを決めます。ここにガイドラインを作る集団が意見を言い、検診のためのガイドラインの案が作られます。第2段階は市区町村です。市区町村、つまり自治体ごとに、「どの検診をやり、どれをやらないか」を判断しています。そして最終である第3段階はあなた個人です。あなたがお住まいの市区町村などから届いたはがきを見て、実際に検診を受けるかどうかを決めるのです。 ここで注意すべきは第2段階です。実は、ガイドラインの対策型検診で推奨されていないが、市区町村の判断で行われているがん検診が非常に多いのです。国の資料から引用します。 「指針に定められていないがん種に対するがん検診を実施している市町村は、全体の86.5%(1496/1730)となっている」(平成29年度の市区町村におけるがん検診の実施状況調査集計結果) そのほとんどは前立腺がんの検診(1411自治体)で、続いて子宮体がん(501自治体)、卵巣がん(94自治体)、口腔(こうくう)がん(64自治体)、甲状腺がん(63自治体)……と続きます。 さて、事実はここまでです。ここからは私の個人的な意見になります』、「ガイドラインの対策型検診で推奨されていないが、市区町村の判断で行われているがん検診が非常に多い」、いささか驚かされた。市区町村は地域の医師会から圧力でもかけられているのだろうか。「ガイドラインで推奨されていない」ものについては、国からの補助金を出さず、独自財源とするべきだろう。
・『一人の医者の価値観は?  これは、医師一人の経験に基づく話なので、私の人生観、(偏っている可能性を否定できない)現場経験に基づいています。ですので、最も科学的根拠が低い(あるいはほとんどない)ことを先にお伝えしておきます。悲しいことに、どんな人間も自分の経験と知識の中でしか議論をすることはできません。また私の考えも今後、変わる可能性があります。 補足すると、世に出ている多くのがん検診にまつわる本や雑誌は、書き手の価値観を大きく押し出したものにすぎません。つまり、デメリットを重く感じた人は「がん検診はけしからん」となり、メリットが上回ると感じた人は「受けましょう」となるのです。 では私のチョイスはどうか。下記に要約します。 対策型検診は、すべて前述した日本の「科学的根拠に基づくがん検診」ガイドラインの推奨通りにきっちり受ける 「科学的根拠に基づくがん検診」ガイドラインでの推奨度が低い、あるいは現時点で不明のものは受けない です。そして推奨は変わる可能性があるため、きっちり情報を追いかけていき、推奨度が変更されたらそれに従います。 断っておきますが、私はガイドラインを推奨したところで利益を得る立場にはありません。「いやいや、あんたはがんの外科医なんだから、がん疑いの患者が増えたらうれしいのではないか」と言われるかもしれませんが、患者さんの人数で医師の給料は決まりません。ただでさえ多忙極まる現場ですし、がん患者さんが減ることでのメリットは少なくありません。 さらにここだけの話、私は医者業に経済的依存をしておらず、もの書きとしての収入もあります。「業界からの回し者では?」という陰謀論は、少なくとも私には当てはまりません。 では追加として、任意型、つまり人間ドックなどはどうするか。こちらは対策型検診で求められるレベルで見ると科学的な根拠が必ずしも十分とは言えないので、基本的には受けません。ただ、自分の専門である胃や大腸にがんが進行した状態で見つかったらいろいろカッコがつかないので、胃カメラ・大腸カメラは1~2年に1度やろうと思っています。胃については逆流性食道炎もあるので、悪くなっていないか、がん化していないか定期的にチェックしたいと思います。そして、妻や家族がそれ以外の検査の人間ドックをどうしても受けてくれ、と⾔ったら、まあしぶしぶ受けようかな、と思っています』、「人間ドックなどはどうするか。こちらは対策型検診で求められるレベルで見ると科学的な根拠が必ずしも十分とは言えないので、基本的には受けません」、なるほど。
・『高級人間ドックはどうか  いろいろな病院で、さまざまながん検診が提案され、また人間ドックが提案されています。中には超豪華なものまでありますが、過剰診断・過剰治療のことを考えると今はあまり乗り気になれません。お金ももったいないですし。 では、お金がジャブジャブあったらどうするだろうか、と私は考えてみます。私の知るお金持ちの多くは、1回10万円以上を支払って人間ドックを毎年受けています。しかし、がんについては、今のところメリットがデメリットを大きく上回るものは対策型の検診以外にないでしょう。ですから、私はお金があったらその分をがん予防のほうで、例えば、運動のためのパーソナルレーナーでもつけようかなと思います。お金持ちの皆さんには、過剰診断・過剰治療のデメリットについてご存じであることを心より願います。 そして、それらのデメリット以上に「検診を受け、がんによる死亡を避けたい」という気持ちになっておられるならよいのですが。 私の意見は以上です。お読みのあなたは、ご自身の価値観でがん検診を受けるかどうかを決めてください。あ、その前にまずたばこを吸っている人は、検診がどうのこうの悩むより、まず禁煙することをおすすめします。そして、私の父の話です。父は医療関係ではない仕事をしてきた60歳代後半の男性ですが、「がん検診は受けたくない」と言っています。毎年毎年、私は一生懸命、市区町村のがん検診を受けるよう説得しています。 最後に注意点として、「医学界の重鎮による意見は、偏っている可能性がある」とお伝えしておきます。重鎮とは、教授や〇〇学会の理事などです。別に重鎮が嫌いなわけではありませんが、彼ら、彼女らは業界の大切なポジションになり、ポジショントークが入ります。ポジショントークとは、例えば「本当は〇〇はあんまり勧められないんだけど、理事をやってるナントカ学会はこれを推進しているしな」というようなもの。偉くなれば、製薬会社や検査会社との関係も濃厚になっていくでしょう。もちろんポジショントークを一切排した、科学者としての誠意のみで動く重鎮もいらっしゃいます。しかし、まったく影響がないかと言われたら、言い切れないことはあるだろうと私は想像します。 さらに、重鎮になるとどうしても自身の経験が増えるため、自分の経験に引っ張られた発言になってしまうということです。これは、医者としての経験年数が増えれば増えるほど悪化していきます。これからは、この私も悲しいことに逃れることはできません。がん検診についての本稿は、元臨床医で長年、健康情報学の学者をやっている先生に加え、さらに2人の医師にも読んでもらい意見をいただきました。それほど、私は自身の意見が偏っていることを心配したのです。そういう極めてデリケートなテーマであることを、お伝えしたいと思います』、「父は医療関係ではない仕事をしてきた60歳代後半の男性ですが、「がん検診は受けたくない」と言っています。毎年毎年、私は一生懸命、市区町村のがん検診を受けるよう説得しています」、がん外科医でも検診を嫌がる父親を説得できないというのは、人生の皮肉だ。「医学界の重鎮による意見は、偏っている可能性がある」、というのはその通りなのだろう。

第三に、9月8日付けZAKZAK「【大前研一のニュース時評】健保連が「医療費抑制」に向けた政策提言 花粉症、風邪ですぐ病院へ」を紹介しよう。
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/190907/dom1909070004-n1.html
・『企業の健康保険組合で構成する健康保険組合連合会(健保連)が、急増する医療費の抑制に向けた政策提言をまとめた。柱の1つは、医療機関を受診して処方される花粉症薬のうち、同じような効果の市販薬で代替できる薬を公的医療保険の対象外とすること。実施されれば、薬剤費が年597億円削減できると試算している。 この件について、私が学長を務める「ビジネス・ブレークスルー大学」の大学院生から「アレルギー薬よりも、生活習慣病のような食事や運動で改善する可能性のある疾患こそ対象にするべきだ」という指摘があった。そのとおりだ。 ちなみに健保連では、比較的薬剤費の高い先発品が処方されることの多い生活習慣病の薬について、同じような効果のジェネリック医薬品(後発薬)を優先的に処方すれば薬剤費を年3141億円減らせるとの試算も示している。 日本の場合、花粉症はおろか、風邪をひいたというだけで、病院で薬をもらってくる。なぜそんなことをするのかというと、医療機関でかかる費用の7割以上を公的医療保険でまかなっているからだ。医者もそれに乗っかり、ほかの国では普通に薬局やドラッグストアで売っているOTC医薬品(いわゆる大衆薬と呼ばれる一般用医薬品)も医療用医薬品として処方している。 今回、健保連がこういうことを言い始めたのは、軽症の患者が薬目的で医療機関を受診すると、医療費が膨らんで企業健保の財政を圧迫し、健保組合そのものの存続が危なくなってきたからだ』、「健保連」の「政策提言」は当然の要求で、むしろ遅きに失した感すらある。
・『高齢化を背景に医療費は増え続け、この30年で倍増している。2017年度の医療機関に支払われた医療費の総額は、前年度より1兆円増加の約42兆円。過去最高を更新している。そのうち調剤費は約7兆円。馬に食わせるほど薬をくれる病院もある。 ビタミン剤を処方する医師もいれば、1回の診察で処方できる上限70枚の湿布をもらう患者もいる。どう考えても余ってしまう。 こういったものは、すべて市販品で代用できる。これらを含め、すべて費用対効果を考えないと、健康保険は持たない。だから、これを見直すというのは私も大賛成だ。 これに対し、日本医師会は「冗談ではない」と批判している。以前は医師会が反対するとニッチもサッチも行かなくなることが多かったが、現在ではそれほど強くない。 国民皆保険というのは素晴らしい制度だが、すべての病気を保険の対象にするというところが、ヨソの国とは違う。例えばオーストラリアは、医師が「はい、これは薬局で買ってください。ウチは関係ありません」とはっきりしている。 救急車についても、オーストラリアの場合、「救急車が早く来たおかげで助かった」ということを医師が証明してくれれば、その費用を払わなくて済むが、基本的には患者側が払うことになっている。呼んだ後、タクシー代よりも高い請求書がくる。だから、呼ぶ側も考えてしまう。 日本では軽症なのにタクシー代わりに救急車を呼んで病院に行く人も結構多い。その辺も医療費が下がらない理由。国民皆保険に甘えているところがある。これを見直すのは当然だと思う』、オーストラリアの救急車利用ルールは、極めて広い国土面積という要因もあるにせよ、日本でも参考にするべきだ。投薬ルールも同様だ。
タグ:医療問題 日経ビジネスオンライン ZAKZAK 中山 祐次郎 (その21)(相次ぐ高額医薬品 国民皆保険制度は維持できるか、がん検診にデメリットはあるのか? 第49回 がん外科医の本音⑤、健保連が「医療費抑制」に向けた政策提言 花粉症、風邪ですぐ病院へ) 「相次ぐ高額医薬品、国民皆保険制度は維持できるか」 高額医薬品が次々と出てくるようになれば、それなりに医療保険財政への影響はある ドラッグストアなどで市販薬を買うよりも、医師に処方してもらった方が患者が負担する金額は数分の1程度まで抑えられる。金銭的なメリットから気軽に病院に通う患者が少なくないが、負担率を上げれば、一定の歯止めをかけることができる 日本医師会としては絶対に反対 同じ病気に使う新薬と既存薬の費用対効果を調べて、効果の割に新薬の価格が高いと判断されれば、薬価を下げる仕組みが導入されたが、これを古くからある薬にも適用すべきだ、という声も出ている 「がん検診にデメリットはあるのか? 第49回 がん外科医の本音⑤」 京都大学大学院医学研究科の健康情報学の教授に意見を仰ぎ、ディスカッションをした上で監修をしていただき、医学的な信頼性を担保しました 検診はすればするほどよいわけではない がん検診にはメリットとデメリットのどちらもあります 検診を受けるべきかどうかを決めるには「メリットとデメリットをてんびんにかけた結果、どちらが上回っているか」を考えなければならない てんびんにかけた結果は、「人によって答えが異なる」という点が極めて重要 ステージⅣで急激に悪くなる ステージⅠの人が標準治療を受けると、5年後に生きている確率は97%を超えます。しかし、ステージⅡになると90%、ステージⅢでは84%と下がっていきます。そして、ステージⅣになると急に下がり、なんと20%ほどになってしまいます 「遠隔転移あり」 2つの武器で「タチの悪さ」を見る 1つは、「経過を見る」という方法 もう1つは、「病理診断」という武器 知られていないがん検診のデメリット 過剰診断・過剰治療 検診そのもので起きる合併症もある 根拠のない検診を避ける 市区町村によって異なる。中には科学的根拠がまだはっきりしないものを採用し、検診を受けてくださいと勧めているところもある 一人の医者の価値観は? 高級人間ドックはどうか 私はお金があったらその分をがん予防のほうで、例えば、運動のためのパーソナルレーナーでもつけようかなと思います 医学界の重鎮による意見は、偏っている可能性がある 父は医療関係ではない仕事をしてきた60歳代後半の男性ですが、「がん検診は受けたくない」と言っています。毎年毎年、私は一生懸命、市区町村のがん検診を受けるよう説得しています 「【大前研一のニュース時評】健保連が「医療費抑制」に向けた政策提言 花粉症、風邪ですぐ病院へ」 健康保険組合連合会(健保連) 急増する医療費の抑制に向けた政策提言 花粉症薬のうち、同じような効果の市販薬で代替できる薬を公的医療保険の対象外とすること。実施されれば、薬剤費が年597億円削減できると試算 生活習慣病の薬について、同じような効果のジェネリック医薬品(後発薬)を優先的に処方すれば薬剤費を年3141億円減らせるとの試算 オーストラリアは、医師が「はい、これは薬局で買ってください。ウチは関係ありません」とはっきりしている 救急車についても、オーストラリアの場合、「救急車が早く来たおかげで助かった」ということを医師が証明してくれれば、その費用を払わなくて済むが、基本的には患者側が払うことになっている
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安全保障(その8)(台湾有事 米国は在日米軍基地の確実な使用を求める、「日本を守っていない」在日米軍の駐留経費負担5倍増額は不可能だ、日本はまた「戦争」をする国になってしまうのか その不安と恐怖 そして今 経営者に求められる覚悟) [外交・防衛]

安全保障については、7月22日に取上げた。今日は、(その8)(台湾有事 米国は在日米軍基地の確実な使用を求める、「日本を守っていない」在日米軍の駐留経費負担5倍増額は不可能だ、日本はまた「戦争」をする国になってしまうのか その不安と恐怖 そして今 経営者に求められる覚悟)である。

先ずは、7月18日付け日経ビジネスオンライン「台湾有事、米国は在日米軍基地の確実な使用を求める」を紹介しよう(Qは聞き手の質問)。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/071600079/
・『大阪で6月に開催されたG20首脳会議後の記者会見で、トランプ米大統領が「日米同盟はアンフェア」だと発言した。同大統領は日米同盟の本質を理解しているのか。その不満を解消する手段はあるか。台湾や朝鮮半島有事に日米はいかなる連携をするのか。米ランド研究所のジェフリー・ホーナン研究員に聞いた。 (ホーナン氏のインタビューの前編「ホルムズ海峡で低強度紛争起これば、日本に後方支援求む」はこちら) Q:ドナルド・トランプ大統領の「日米同盟はアンフェア」発言について伺います。 同大統領は日米同盟のありようを理解しているでしょうか。日本は基地を提供。米国は日本とシーレーンの防衛を提供。提供するものは異なるけれども平等な条約というのが日米の共通理解だと思います。 ホーナン:残念ながら理解していないと思います。トランプ大統領の認識は、1980年代の日米関係のまま固定化されているのでしょう』、「トランプ大統領の認識は、1980年代の日米関係のまま固定化されている」というのはとんでもないことだ。米政府関係者は何をしているのだろう。
・『それでも、基地の提供はスタート地点  日本はその後、湾岸戦争に臨んで海部俊樹首相(当時)が自衛隊による貢献に一歩を踏み出したのを皮切りにさまざまな努力をしてきました。国連PKO(平和維持活動)への参加、後方支援に対する地理的限定の削除、イラク戦争やアフガニスタン戦争での貢献--。 これらは米国を直接防衛するものではありません。しかし、日本は確実に貢献してきました。それが、トランプ大統領の目には入っていません。 また、日本の基地がなければ、米国は西太平洋からインド洋にかけて前方展開することができません。日本はその基地の経費も多額を負担しています。トランプ大統領がこうした日本の貢献について語るのを聞いたことがありません。彼は米国と日本の関係は、米国とNATOの関係とは異なるのを理解していないのです。同盟国の役割を、互いを「守るか」「守らないか」という狭い範囲に限定してしか見ていない。 日本の一部には以下の意見があります。日本が提供する基地の価値は非常に大きい。米国が負担する防衛義務とバランスが取れている。これ以上、日本の負担を増やす必要はない。これをどう思いますか。 ホーナン:基地の提供と米軍駐留経費の負担は「ベース」になっています。日本は「平成」の時代に安全保障法制を成立させました。「令和」の時代は、同法の下で何を実行するかが問われると思います』、安倍首相は日本の役割をトランプ大統領に説明すべきだ。
・『米軍駐留経費の増大は日米に不満をもたらしかねない  Q:令和の時代に何をするか。次の4つの案があります*。評価を聞かせてください。第1は、米軍駐留経費の負担を拡大させる、です。 *:防衛大学校の武田康裕教授が、以下の案を実現するプランや装備を具体的に設定し、必要なコストを試算している。概要は「日米同盟へのトランプ氏の不満、解消にかかる金額は?」を参照。 ホーナン:その案は、日米双方が不満を残す結果になる恐れがあります。日本が100%負担すれば米国は満足でしょう。「家賃がただ」なわけですから。 Q:でも、その場合は、日本国内で日米地位協定の改定を求める世論が高まるでしょうね。 ホーナン:おっしゃる通りです。では、現行の水準と100%との間のどこを落としどころとするか。日本は、負担するパーセンテージを増やすたびに「この上昇がいつまで続くのか」という不信感を抱くことになります。一方、米国側も「もっと増やすことができるのでは」と考える』、。
・『ミサイル防衛システムの拡充は「ウィン・ウィン」  Q:第2の案は、ミサイル防衛システムの拡充です。新たにTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)を加える。迎撃ミサイルは現在、イージス艦に搭載するスタンダードミサイル(A)と、地上に配備するパトリオットミサイル(B)で構成しています。これにイージス・アショア(C)を追加することが決まっています。(C)は(A)を地上に配備する仕様のものです。THAADを加えることで、弾道ミサイルの軌道のミッドコース(弾道の頂点)とターミナル段階(大気圏に再突入し着弾に至る過程)のカバーを強化することができます。 ホーナン:これはよいですね。日本、在日米軍、そして米軍のみなに利益をもたらします。この分野はすでに日米の協力が進んでいますが、協力をさらに深められる分野です。 Q:第3の案は、シーレーン防衛のため、空母を導入する案です。F-35Bを48機搭載できるクイーン・エリザベス級の空母を3隻導入し、それぞれを中心に3つの空母打撃群を構成する。1つの打撃群は6隻の護衛艦(うち3隻は艦隊防空を担うイージス艦)、2隻の潜水艦、1隻の補給艦で構成する。 ホーナン:理論的には良い案だと思います。しかし、実現が難しいのではないでしょうか。3つの空母打撃群を運用するには、それ用の訓練を受けた多数の人材が必要です。今の海上自衛隊でそれを賄えるでしょうか。最も適切な質問は、日本に空母が必要かどうか。私はまだ100%確信してはいません』、「第3の案」の「空母を導入する案」は問題があり過ぎる。
・『島しょ防衛は、統合運用の強化を  Q:第4の案は、島しょ防衛の強化です。在沖縄米海兵隊が使用するキャンプバトラーと普天間基地の施設管理を自衛隊が引き継ぐ。加えて、強襲揚陸艦とドック型輸送艦、ドック型揚陸艦の3隻で構成する部隊を3組整える。 ホーナン:これは良い案ですね。この分野の力が十分ではなかったので、陸上自衛隊が水陸機動団を2018年に設置しました。 ただし、私が見るところ、島嶼防衛の問題は装備ではなく、統合運用の練度です。水陸機動団が力を発揮するには、航空自衛隊と海上自衛隊による上空と海上からの支援が欠かせません。仮に尖閣諸島をめぐって中国と争うことになった場合、陸上自衛隊だけで戦うなら日本は負けます。 陸上自衛隊と米陸軍、海上自衛隊と米海軍、航空自衛隊と米空軍のインターオペラビリティー(相互運用性)の向上や情報共有はかなり進みました。しかし、自衛隊の中の陸・海・空の統合運用が不十分だと思います。 例えば、航空自衛隊と海上自衛隊はLink-16と呼ぶ情報通信ネットワークを通じて情報を共有していますが、陸上自衛隊は今のところこのネットワークに入っていません。各自衛隊間の通信は一定程度確保できているものの、使用する機材、システム、周波数が異なるため、まだ改善の余地があると思っています。情報が共有できなければ、陸上自衛隊の水陸機動団の装備をいくら増やしても、それを生かすことはできません。陸上自衛隊が同ネットワークに加わるのはイージス・アショアの導入を待つ必要があります。 陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊が参加する統合訓練を強化する必要があると思います。仮に水陸機動団が尖閣諸島奪還のために上陸を試みる場合、これに対するミサイル攻撃を防ぐべく上空の安全を確保しなければなりません。これを提供するのは航空自衛隊や海上自衛隊です。例えば陸上自衛隊のオスプレイと航空自衛隊のF-16が連携する訓練などをもっと行うべきでしょう。 自衛隊は優秀な装備を所有しています。これの統合度が高まれば、米国にとっても利益になると思います。 Q:トランプ大統領は米国製装備を日本にもっと買ってほしいようですが。 ホーナン:日本が戦闘機をもっと買ったとしても、パイロットや整備士が足りなければ意味がありません。トランプ大統領の視点は近視眼的なのではないでしょうか』、「航空自衛隊や海上自衛隊」と「陸上自衛隊」の「統合度」向上は必須の課題だ。
・『台湾有事には、在日米軍基地の確実な使用を求める  Q:対中国の抑止力を高める施策で、米国が日本に求めるものはありますか。 ホーナン:日本はすでにいろいろ取り組んでいます。例えば、中国のA2AD戦略*に対峙すべく、南西諸島における体制を強化していますね。 *:Anti Access/ Area Denial(接近阻止・領域拒否)の略。中国にとって「聖域」である第2列島線内の海域に空母を中心とする米軍をアクセスさせないようにする戦略。これを実現すべく、弾道ミサイルや巡航ミサイル、潜水艦、爆撃機の能力を向上させている。第1列島線は東シナ海から台湾を経て南シナ海にかかるライン。第2列島線は、伊豆諸島からグアムを経てパプアニューギニアに至るラインを指す。 陸上自衛隊が今年春、宮古島に駐屯地を設置しました。来年以降、地対空ミサイルや地対艦ミサイルの部隊を配備する予定です。奄美大島の奄美駐屯地には03式中距離地対空誘導弾(中SAM)を、瀬戸内分屯地には12式地対艦誘導弾(SSM)を配備しました。石垣島でも駐屯地を置く計画が進んでいます。これらに先立つ2016年には、日本の最西端である与那国島に沿岸監視隊を配備しました。 ホーナン:この取り組みは米国にも利益をもたらします。在沖縄の米軍基地を守る能力が高まります。さらに、宮古海峡を封鎖し、中国海軍が第1列島線を出て西太平洋に展開するのを防ぐ力も充実します。 Q:日米の一部に、中国が台湾に軍事侵攻する可能性が高まっていると見る向きがあります。 ホーナン:仮にそうなったら米国は日本に、在日米軍基地の使用(アクセス)とその防衛を求めるでしょう。特に沖縄の基地は重要です。これは日米安全保障条約の第6条に基づく要請です。基地が使えないとしたら、米国から見て、同条約が存在する意味がありません。 加えて、日本は攻撃されていない限り、日本のEEZ(排他的経済水域)の中で情報 · 監視 · 偵察 (Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)や米軍の艦船の護衛を求めることがあるかもしれません。 日本が攻撃されていない限り、それ以上のことはないと考えます。台湾防衛戦に日本が参加(engage)したら、それは中国と戦うことを意味します。さまざまな政治問題が生じます。日本にとって難しい選択でしょう。そうした議論は、米国の公文書を読んでも全く書かれていません。国防総省内でそのような議論があったかもしれませんが、それは分かりません。 Q:基地使用には、事前協議が必要になります。しかし、ベトナム戦争をはじめ、これまで事前協議が行われたことはありません。日本人はここに不安を感じています。 ホーナン:台湾が対象となる場合、米国は日本と必ず事前協議する必要があります。中国を空爆した米軍の爆撃機が沖縄の基地に直接帰還する可能性があります。台湾から最も近い基地ですから。その場合、日本が中国の攻撃対象になるかもしれません。漁業に携わる人や海上保安庁の要員に犠牲者が出かねません。 Q:朝鮮半島有事の場合は、事前協議はありますか。2017~18年にかけて、米国が北朝鮮を武力攻撃する可能性が高まったのは記憶に新しいところです。 ホーナン:朝鮮半島有事の場合は戦闘の規模によると思います。局地的なものであれば、在韓米軍だけで十分に対処できるでしょう』、台湾有事の場合の「事前協議」は明確化しておくべきだろう。
・『朝鮮半島有事には必ず事前協議する  Q:しかし、朝鮮戦争のような規模に拡大し、在日米軍を派遣する必要が生じた場合には、事前協議が必要と考えます。 米国が戦争するのに日本の基地を使用する場合、基本的には事前協議をするのだと思います。ベトナム戦争の時にしなかったのは、北ベトナムが日本を攻撃する可能性が全くなかったから。一方、相手が中国や北朝鮮である場合、日本に被害が及ぶ可能性がある。よって、これに関わるかどうか、日本は自分で判断したいでしょう。そのため事前協議が必要です。 米国が今後、在韓米軍を撤収させる可能性をどう見ますか。第3回目の米朝首脳会談が6月30日に行われ、トランプ大統領が北朝鮮に足を踏み入れました。これによって、朝鮮戦争の「終戦宣言」を出すハードルが低くなったという見方が浮上しています(関連記事「日韓会談を見送った日本、米朝韓協議を見守るだけ?」)。 ホーナン:現時点で撤収させる可能性は100%ないと考えます。米下院が5年、在韓米軍の規模を現行の2万8500人から減らしてはならないと定める法律を可決していますし。 終戦宣言が出れば、韓国の国民が米軍の撤収を求めることがあるかもしれません。しかし、米国は受け入れないでしょう。在韓米軍は米韓同盟に基づいて駐留しています。終戦宣言を出すことと、米韓同盟の破棄とは連動しません。ただし、韓国の政府が、その国民の声を無視できるかどうかは不透明です。 Q:トランプ大統領は今年2月、「現時点で撤収する計画はない」と明言しましたが、その一方で、「いつかするかもしれない」とも発言しています。 ホーナン:トランプ大統領は軍事的な視点ではなく、コストの視点から発言しています。米国が2017年12月に発表した国家安全保障戦略や2018年1月に発表した国家防衛戦略には在韓米軍が持つ軍事的な重要性が記されています。 Q:在韓米軍は、アジアにおける事実上唯一の米陸軍部隊です。在日米軍の陸軍は規模が非常に小さいので。これを維持する必要があるわけですね。対中国の抑止力として重要視されています。 ホーナン:そうした目的があると思います。米軍は認めないかもしれませんが。 ただし、在韓米軍の活動範囲は原則として朝鮮半島内に限定されます。在日米軍の活動範囲がアジア全体に及ぶのとは性格が異なります。 例えば、イラク戦争の時に、当時のドナルド・ラムズフェルド国防長官が在韓米軍の一部を割いて、イラクに派遣しました。この部隊は、その後、韓国に戻してはいません。戻すと、条約違反になる可能性があったからです。 朝鮮戦争の終戦宣言が出たら、在韓米軍の性格も変わるかもしれないですね。冷戦が終結したのを受けて、NATOはその役割を見直しました。同様のことが起こる可能性があります』、日本としても主体的に日米同盟のあり方を見直してゆくべきだろう。

次に、軍事ジャーナリストの田岡俊次氏が8月22日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「日本を守っていない」在日米軍の駐留経費負担5倍増額は不可能だ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/212434
・『7月31日の朝日新聞夕刊は、同21日に来日した米大統領補佐官(安全保障担当)ジョン・ボルトン氏が米軍の駐留経費について「現在の5倍の支払いを求める可能性があると述べた」と報じた。 米政府の中にそのようなことを言った人がいたのだろうが、あまりに法外な話だ。 「3倍」「5倍」説を流して日本側を驚かせ、イラン包囲網の「有志連合」に参加させたり、2021年3月に期限切れとなる在日米軍経費負担に関する特別協定の再交渉が来年に始まる前にベラボウに高い「言い値」を出し、交渉で値引きすることで増額を狙うトランプ式の駆け引きか、とも思われる』、トランプ流の「ディール外交」には冷静に対応すべきだ。
・『協定改定や貿易交渉にらみ「安保終了」などで駆け引き  この報道について、菅義偉官房長官は31日の記者会見で「ボルトン氏がそのようなことを言った事実はない」と述べた。 だが、トランプ大統領は2016年の大統領選挙中から「日本に駐留する米軍経費は100%日本に支払わせる。条件によっては米軍を撤退させる」と叫んでいた。 最近でも、今年6月26日のFOXビジネスネットワークのインタビューで、「日本が攻撃されれば米国は我々の命と財産をかけて日本人を助けるために戦闘に参加する。だが、もし米国が攻撃されても日本は我々を助ける必要が全くない。米国への攻撃をソニーのテレビで見ておれる」などと日米安保体制の不公平を強調した。 トランプ政権では理性的な閣僚、大統領補佐官など高官が次々に更迭されるか辞任し、ボルトン氏やマイク・ポンぺオ国務長官ら極度の強硬派が牛耳る状態だ。 今後、日本との米軍経費の特別協定や貿易を巡る交渉では理不尽な要求を突き付け、「日米安保条約終了」を切り札に増額受け入れを迫る可能性は高い。 実際、“前例”はある。韓国では昨年の米軍駐留経費負担が9602億ウォンだったのを、今年は1兆389億ウォン(約910億円)と8%余、増額させられた。これは1年限りの仮協定で来年はさらなる増額交渉が行われる予定だ。 在韓米軍は17年7月、主力の第2歩兵師団をソウル北方約30キロの議政府(ウィジョンブ)から、ソウル南方約40キロの平沢(ピョンテク)に移した。さらに昨年6月には、在韓米軍司令部もソウルから平沢に移転した。 北朝鮮軍のロケット砲、長距離砲による損害を避けるとともに、平沢の港や近くの烏山(オサン)空軍基地から世界の他の地域への出動が容易だからだ。 米軍の韓国防衛への関与を減らしているにもかかわらず、駐留経費負担増額を要求するのは強欲だが、米国は「韓国からの全面撤退」をちらつかせ、増額をのませたのだ』、「米軍の韓国防衛への関与を減らしているにもかかわらず、駐留経費負担増額を」のませたというのは、韓国の弱みにつけこんだやり方だ。
・『日本は74.5%を負担 日本防衛には関与せずの米空軍  米国防総省の04年の報告書では、日本は米軍駐留経費の74.5%を負担している。韓国の40%、ドイツの32.6%をはるかに上回っている。 それを3倍、5倍にするのはほぼ不可能だ。実現するには米軍人の給与や、艦艇、航空機などの調達、維持、運用経費を出すしかない。「そうすれば米軍は日本の傭兵になりますな」と防衛省幹部たちも苦笑する。 日本では「駐留米軍が日本を守っている」との観念が刷り込まれているから、米国側の無理な要求に屈しやすい。だが、実は日本防衛に当たっている在日米軍部隊は無きに等しいのだ。 最も顕著なのは空軍(日本に1万2000人余り)だ。 1959年9月2日に航空総隊司令官松前未曾雄空将と、米第5空軍司令官アール・バーンズ中将が結んだ「松前・バーンズ協定」によって、航空自衛隊がレーダーサイトや防空指揮所など管制組織の移管を受け、日本の防空を行うことが決まった。 米空軍は航空自衛隊の指揮下に入らないから、日本の防空には一切関与しないのだ。 以来すでに60年、日本の防空には現在330機の日本の戦闘機と対空ミサイルが当たっている』、「日本では「駐留米軍が日本を守っている」との観念が刷り込まれているから、米国側の無理な要求に屈しやすい。だが、実は日本防衛に当たっている在日米軍部隊は無きに等しいのだ」、一般マスコミもこうした実態をもっとPRし、国民の誤解を解いておくべきだ。日本が「米軍駐留経費の74.5%を負担している。韓国の40%、ドイツの32.6%をはるかに上回っている」、という突出した日本の負担割合には改めて驚かされた。
・『中東などに出動「本国に置くより節約に」  米空軍は沖縄県の嘉手納基地にF15戦闘機27機、青森県の三沢基地にF16戦闘攻撃機22機を常駐させ、ステルス戦闘機F22なども訓練のため嘉手納に飛来している。 72年の沖縄返還後は、沖縄の防空も航空自衛隊(現在那覇にF15約40機)が担い、嘉手納の米軍戦闘機は約半数が交代で烏山に展開し、韓国の防空に当たっていた。 当時、第5空軍は日本と韓国を担当していたから、家族や後方支援部隊は安全な沖縄に置いたのだ。 だが86年に韓国を担当する第7空軍が編成されたため、嘉手納の戦闘機が韓国に行くことはなくなり、91年の湾岸戦争など、中東に出動することが多くなった。 三沢のF16は対空レーダー、対空ミサイルの破壊が専門で、これもしばしば中東で活動してきた。 日本の米空軍基地は米本国の母基地に近い性格となったから、米議会では「日本にいる空軍機は本国に戻し、そこから中東などに派遣する方が合理的ではないか」との質問が何度も出た。 そのたびに米国防当局者は「日本が基地の維持費を出しているから、本国に置くより経費の節約になる」と答弁している』、米軍にとって日本は本来、「ありがたい存在の筈だ。日本政府ももっとこうした実態をPRすべきだ。
・『在日陸軍や海兵隊は情報収集や後方支援が中心  在日米陸軍も、ほとんどが補給、情報部隊だ。 陸上自衛隊は13万8000人余り、戦車670両、ヘリコプター370機を持つのに対し、在日米陸軍の人員は約2600人で、地上戦闘部隊は沖縄のトリイ通信所にいる特殊部隊1個大隊(約400人)だけだ。 これはフィリピンのイスラム反徒の討伐支援などで海外に派遣されていることが多い。 在日米海兵隊約1万9300人の主力は沖縄に駐留する「第3海兵師団」だが、「師団」とは名ばかりで歩兵は第4海兵連隊だけ。それに属する3個大隊(各約900人)は常駐ではなく、6ヵ月交代で本国から派遣される。 実際には1個か2個大隊しか沖縄にいないことが多い。戦車はゼロだ。 沖縄の海兵隊も司令部や補給部隊、病院などの後方支援部隊が多い。地上戦闘部隊は歩兵1個大隊を中心に、オスプレイとヘリコプター計約25機、装甲車約30両などを付けた「第31海兵遠征隊」(約2200人)だ。 この部隊は佐世保を母港としている揚陸艦4隻(常時出動可能3隻)に乗り、第7艦隊の陸戦隊として西太平洋、インド洋を巡航する。 歩兵約900人では本格的戦争ができる規模ではない。海外で戦乱や暴動が起きた際、一時的に飛行場や港を確保し、在留米国人の避難を助けるのが精一杯だ。沖縄の防衛は陸上自衛隊第15旅団(約2600人)の任務だ』、米軍の規模が予想外に小さいのに驚かされた。
・『第7艦隊はインド・太平洋 「シーレーン確保」は海上自衛隊  米海軍は横須賀に第7艦隊旗艦である揚陸戦指揮艦「ブルーリッジ」、原子力空母「ロナルド・レーガン」、ミサイル巡航艦3隻、ミサイル駆逐艦7隻を配備している。 佐世保には空母型の強襲揚陸艦「ワスプ」とドック型揚陸艦3隻、掃海艦4隻を配備してきたが、「ワスプ」はすでに本国に戻り、より大型の「アメリカ」が交代に来る。ドック型揚陸艦も1隻増強の予定だ。 第7艦隊は東経160度以西の太平洋から、東経68度(インドとパキスタンの国境線)以東のインド洋まで、広大な海洋を担当している。横須賀、佐世保を母港とする米軍艦がもっぱら日本の防衛に当たっているわけではもちろんない。 食料の自給率が37%の日本(同じ島国の英国でも70%余り)にとっては、海上の通商路「シーレーン」の確保が海上防衛の最大の課題だ。 だが米国は食料も石油も自給自足が可能だから、商船の防護に対する関心は低い。 米海軍は巡洋艦、駆逐艦、フリゲートを計101隻(うち太平洋・インド洋に46隻)持っているが、これは米海軍の11隻の空母と海兵遠征隊を運ぶ揚陸艦7個群を護衛するのがやっとの数だ。 日本のシーレーンを守るのは、海上自衛隊の護衛艦47隻に頼るしかないのが現状だ』、「第7艦隊はインド・太平洋 「シーレーン確保」は海上自衛隊」、との役割分担は初めて知った。
・『日本への武力攻撃に対する「一義的責任」は日本に  2015年に合意された「日米防衛協力の指針」(ガイドラインズ )では、日本に対する武力攻撃が発生した場合の作戦構想として、防空、日本周辺での艦船の防護、陸上攻撃の阻止撃退などの作戦には自衛隊が「プライマリー・リスポンシビリティー(一義的責任)を負う」と定めている。 これでは「何のために米軍に基地を貸し、巨額の補助金を出しているのか」との疑問が出るから、邦文では自衛隊が「主体的に実施する」とごまかした訳にしている。 自衛隊が日本防衛に一義的責任を負うのは当然だが、当然のことを何度も繰り返して指針に書き込んだのは、いかにも訴訟社会の米国人らしい方策で、なにもしなくても責任を問われないようにしている。 この指針は、すでに自衛隊が日本防衛に主たる責任を負っている実態を追認した形だ。 米国防総省は、在日米海軍の人員を18年9月末で「2万268人」と発表している。2010年には3497人、それ以前も常に3000人台だったが、11年には6833人に急増し、今日では2万人を超えるにいたった。 これは日本を母港としている軍艦の乗員を計算に入れたためだ。第7艦隊は在日米軍司令部の指揮下にないから在日米軍ではない。かつては日本で陸上勤務をしている海軍将兵の人数だけを計算に入れていたが、日本と駐留米軍経費の交渉をする際には在日米軍人の数が多い方が好都合だから、船乗りも計算に入れ約1万7000人の水増しをしたのだろう。 他の諸国、例えばイタリアのナポリ湾には米第6艦隊がいるが、イタリアでは米海軍の人員は4000人と米国防総省は公表しており、艦隊の乗員は計算に入れていないようだ』、「第7艦隊は在日米軍司令部の指揮下にないから在日米軍ではない。かつては日本で陸上勤務をしている海軍将兵の人数だけを計算に入れていたが、日本と駐留米軍経費の交渉をする際には在日米軍人の数が多い方が好都合だから、船乗りも計算に入れ約1万7000人の水増しをしたのだろう」、というのも初耳だが、こんな数字の操作を認めた日本側も情けない。
・『「安保破棄」で困るのは米国 横須賀など使えず制海権困難に  もしトランプ大統領が安保条約を破棄すれば、米海軍は横須賀、佐世保を使えなくなる。軍艦は年に3ヵ月ほどドックに入り点検、修理をするが、グアムのアプラ港にはドックが無い。 ハワイのパールハーバーにはドックがあるが、背後に工業が無いから潜水艦などの簡単な整備程度しかできないようだ。 横須賀、佐世保には巨大なドックがあり、熟練した技師、工員がそろい、部品の調達も容易だから早く安く整備ができる。第7艦隊がそこを使えなくなれば米本土西岸サンディエゴまで後退せざるをえず、西太平洋、インド洋での米国の制海権保持は困難となるだろう。 米国防総省の発表では在日米軍の総人員は5万4200人余りで、最大の受け入れ国だ。第2位のドイツが3万7900人、3位の韓国が2万8500人、4位のイタリアが1万2700人だ。 米国の同盟国は50以上あるが、1万人以上がいるのは4ヵ国だけ。「駐留無き同盟」か、米軍がいてもごく少数、の同盟国が一般的だ。 歴史的には、平時に対等な同盟国に兵力を常駐させた例はまずない。「駐兵権」は清朝末期の中国など半植民地国に列強が認めさせたものだ。 冷戦時代には西ドイツの米軍はソ連軍の侵攻経路の1つとされたフルダ渓谷に展開し、フランクフルトを守っていた。韓国ではソウル北方の議政府付近に布陣し、北朝鮮軍の南侵を迎撃する構えだった。 ところが日本では米軍はソ連に近い北海道ではなく、日本列島の南端で最も安全な沖縄に米軍基地の70%が集中、人員の過半がそこで待機し海外への出動に備えてきた』、在日米軍は、「ソ連」に備えたものではなく、朝鮮やその他地域向けなのが、改めて明確になった。
・『「在日米軍削減」を提案し理不尽な要求に対抗する手も  日本は今年度予算で、「思いやり予算」といわれる米軍基地労働者2万3178人の給与1539億円や光熱水費219億円など駐留経費3888億円のほか、グアム島への海兵隊の一部の移転や辺野古の飛行場建設など米軍再編関係費に1679億円、民有地の地代や周辺対策に1914億円などを防衛省が出す。 このほか、米軍基地のある自治体に総務省が381億円を支払うなど、日本政府は計6204億円を支出する。 米軍に無償で貸している国有地の推定地代は、自治体に貸す場合の安い地代で計算しても1640億円に達し、これも米軍経費負担に入れれば7844億円になる。 日本を直接守っているわけではない米軍に対し、他国と比較にならないほど巨額の補助金を出していること自体が日本政府の弱腰の表れだ。 トランプ政権がさらに執拗に理不尽な増額を迫り、「米軍撤退」や「安保条約終了」で脅しにかかるなら、日本は、トランプ大統領が、「人種差別」を批判した自国の女性議員について言ったように「嫌なら国に帰れ」の姿勢で応じてはどうか。 「在日米軍を削減して貴国の財政赤字縮小の一助とされてはいかが」と、攻守を一転させる論を持ち出すのも対抗手段になるだろう』、「トランプ政権がさらに執拗に理不尽な増額を迫り、「米軍撤退」や「安保条約終了」で脅しにかかるなら、日本は・・・「嫌なら国に帰れ」の姿勢で応じてはどうか」、との主張には、諸手を上げて賛成したい。

第三に、グーグル日本法人元代表でアレックス株式会社代表兼CEOの辻野 晃一郎氏が8月17日付け現代ビジネスに寄稿した「日本はまた「戦争」をする国になってしまうのか、その不安と恐怖 そして今、経営者に求められる覚悟」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66572
・『戦争に近づいていく不安  この原稿を書いているのは2019年8月15日の終戦記念日。「8月ジャーナリズム」という表現もあるそうだが、毎年8月は戦争についての報道を目にする機会が多い。 しかし、毎年ただ儀式のように戦争を思い出し平和の尊さを語っているだけで平和を維持し続けることはできない。 特に最近は、戦争から遠ざかるにつれてまた戦争に近づいていくようなそこはかとない不安を感じることが多くなった。 今、世界に目を向けると、ドナルド・トランプ米大統領が仕掛けた米中の貿易戦争や技術覇権争いは激化の一途をたどる。また、同氏が一方的に核合意を破棄して悪化したイランとの関係はホルムズ海峡における緊張を高めている。冷戦終結の象徴となった米ロの中距離核戦力(INF)全廃条約も失効した。 欧州では、英国のEU離脱を図るBrexitを扇動したボリス・ジョンソン氏が新首相となり、交渉期限の10月末までに合意無き離脱も辞さないと宣言している。 日韓関係も、文在寅大統領の政治スタンスに端を発して史上最悪といわれるほど悪化しつつあり、北朝鮮は再び中短距離ミサイルの発射を繰り返している。 米国内では銃の乱射事件が後を絶たず、香港では「逃亡犯条例」改正案への抗議デモや警察による弾圧が過激さを増す一方で、アジア有数のハブ空港が機能停止に追い込まれた。 国内に目を転じると、京アニ放火事件やあいちトリエンナーレの「表現の不自由展」騒動などが続き、ネットを覗けば、自分の意に沿わない出来事や他人の意見に対して、「ボケ」「クズ」「非国民」などと口汚く罵るような攻撃的なメッセージが溢れている。 今や国内外で、対立、分断、憎悪(ヘイト)、差別、恫喝、威嚇、脅し、暴力の連鎖が異様に目立つようになった。ここ数年の間に、かつてないほど不寛容でネガティブなエネルギーが一気に世間に充満した印象だ』、最後の部分はその通りだ。
・『戦争を知らない大人たち  人間の「怒り」や「憎しみ」といった感情は恐ろしい。一人の小さな怒りや憎しみが最後は殺人やテロ、戦争に繋がっていく。 1970年代初頭、『戦争を知らない子供たち』という歌が流行ったが、当時の戦争を知らない子供たちも、今では皆いい歳だ。 安倍晋三総理をはじめ現政権を担っている人たちや、中西宏明経団連会長など経済界の人たちも皆戦後生まれの「戦争を知らない大人たち」だ。 かつて、田中角栄元首相は「戦争を知らない世代が政治の中枢となった時は危ない」と言っていたそうだ。 北方領土視察で暴言の限りを尽くし、挙句の果てには戦争による領土奪還を口にして物議をかもした国会議員がいたが、戦争を放棄して平和国家になったはずのこの国で、いつの間にかまた戦争を肯定するような言動が目立つようになってきていることには激しい嫌悪感を禁じ得ない。 2015年、多くの憲法学者が違憲立法と指摘する安保法制が強行採決で成立し、武器輸出三原則が防衛装備移転三原則に置き換えられて、長く封じ込められてきた戦争ビジネスが実質解禁された。 防衛省主導のもと、経団連をはじめとした経済界もその動きを歓迎している。政権の暴走にあからさまに異を唱える経済人は一人もいない。 海外の武器展示会で、防衛副大臣が不慣れな手つきで武器を構える映像や、防衛省の課長クラスが「今後防衛産業を国家の成長産業にする」と公然と発言する映像がネットに流れたが、実におぞましい思いがした』、今どきの経営者には珍しくハト派のようだ。
・『安倍総理がやってきたこと  今年の広島、長崎の平和記念式典では、両市の市長が、国連の核兵器禁止条約に加わるよう、来賓の安倍総理にあらためて訴えかけた。だが、安倍総理は型通りのあいさつを繰り返しただけで核兵器禁止条約について触れることはなかった。 かつて、ICANのノーベル平和賞受賞に際しても冷たい対応に終始し、沖縄に対しても、何度も示された沖縄の民意に反して一貫して冷淡かつ強引な態度を取り続けていることは、現政権のスタンスを如実に示している。 本来、米軍基地負担を一身に担う沖縄へ寄り添い続けること、および唯一の被爆国として、核不拡散や核兵器の全面的な廃絶に向けて先頭に立って尽力し続けることは、日本国としての基本的立ち位置である。 それを自ら踏みにじるような数々の行為は、多くの国民にとって決して気持ちのよいものではない。 2年前、安倍総理が、長崎の被爆者代表に「あなたはどこの国の総理ですか?」と面と向かって問われていた光景はまさに鮮烈だった。 昨年2月、トランプ政権が米国の核戦略の指針「核態勢見直し(NPR)」を発表し、爆発力を小さくして機動性を高めた小型核兵器の導入に言及した際には、河野太郎外相が「高く評価する」という談話を発表したことにも驚いた。 米国は、世界で唯一、人類に対して実際に核攻撃を実施した国だ。その標的とされた我が国の責務は、今や同盟国である米国の暴走を煽ることではなく、抑えることであるのを間違えないでもらいたい。 憲法で明確に戦争を放棄した我が国を、強引な手法でなし崩し的にまた戦争が出来る国に仕立て直そうとするやり口は尋常ではない。 改憲はその総仕上げとしての目論見にしかみえない。参院選後も安倍総理は改憲に執心の様子だが、改憲を持ち出す前に、日本国憲法について「押し付けられたみっともない憲法」などと公言して現行憲法を軽視する態度こそをまずは改めていただきたい。 「歴史は繰り返す」というが、それは人間の寿命と関係している。悪しき歴史も悲惨な過去も、それを実際に体験した人たちがこの世からいなくなることによって、貴重な体験が忘れ去られたり薄まったりしてまた同じようなことを繰り返すからだ。 人間とは愚かな存在であることを自覚せねばならない。 戦後生まれの戦争を知らない世代がマジョリティとなって社会の要職を占めるようになると、「戦争は二度と起こしてはならない」という当たり前のことすらだんだんわからなくなっていく。田中角栄氏の予言がまさに現実となりつつあるのは実に恐ろしいことだ』、米国が「小型核兵器の導入に言及した際には、河野太郎外相が「高く評価する」という談話を発表」、には私も驚いた。「「歴史は繰り返す」というが、それは人間の寿命と関係している・・ 人間とは愚かな存在であることを自覚せねばならない」、同感である。
・『戦争と経営者と覚悟  ノンフィクション作家の立石泰則氏が『戦争体験と経営者』(岩波新書)という本を出している。 フィリピン戦線から奇跡的な生還を果たしたダイエーの中内功氏や、インパール作戦に従軍して九死に一生を得たワコールの塚本幸一氏など、生き地獄のような戦場を体験したからこそ、生き延びて復員してからは徹底して平和主義を貫いた戦後の経済人を数名取り上げ、彼らの平和へのこだわりと迫力ある生き様を簡潔に描いている。 この本の前書きに、立石氏が長年にわたってインタビューして来た多くの経済人を振り返ったとき、「経営理念も経営手法もまったく異なる、そして様々な個性で彩られた経営者たちであっても彼らの間には『明確な一線』を引ける何かがある」とあり、それは「戦争体験」の有無だ、としている。 私が世話になった企業であるソニーの起源は、終戦直後の今でいうベンチャー企業だった。 創業者の井深大氏も盛田昭夫氏も戦争体験者だ。一般的に、戦争は最先端の技術開発を促すと共に、市場拡大や需要喚起など、経済を拡大させる手段として位置付けられてきた。 しかし、井深大氏の主張は真逆だった。彼は、軍需をやりたがる経団連に異を唱え、「アメリカのエレクトロニクスは、軍需をやったためにスポイルした」と述べて憚らなかったそうだ』、井深大氏の識見と勇気は大したものだ。
・『また、「財界の鞍馬天狗」の異名を持つ戦後の経済人、中山素平氏は、1990年、湾岸戦争で自衛隊の派兵が論議されていたとき、派兵に反対して「派兵はもちろんのこと、派遣も反対です。憲法改正に至っては論外です。第二次世界大戦であれだけの犠牲を払ったのですから、平和憲法は絶対に厳守すべきだ。そう自らを規定すれば、おのずから日本の役割がはっきりしてくる」と語ったそうだ。 今、井深氏や中山氏のような発言を堂々とする経営者や経済人は見当たらない。 戦争体験者や被爆体験者が高齢化して次々とこの世を去っていく。 今や太平洋戦争のことを知らない若者が普通にいて、戦争を煽るようなことを軽々しく口にする政治家や経営者が少なからず出現し始めている。 冒頭述べた通り、世界的に対立、分断、格差が広がっていく中、日本においても子供や若者、高齢者の貧困が拡大している。 対立や分断、格差や貧困から生まれる怒りや憎しみは、好戦家たちのあおりによって容易に増幅していく。 政治家たちが暴走し、内閣に人事権を握られた官僚や検察や司法が機能不全に陥り、権力を監視する役割を担うはずのマスメディアもその役割を果たせずにいる。 そのような中で、この国が「戦争」との距離を再び縮めるようなことがないよう、問題解決の手段から徹底して「戦争」を排除するコンセンサスを再び創り上げる実行力を持つのはもはや経営者しかいない。 大小問わずビジネスをつかさどるリーダーたちには、その覚悟が求められているような気がする』、「今、井深氏や中山氏のような発言を堂々とする経営者や経済人は見当たらない」の残念なことだ。「辻野氏」にはハト派経営者の輪を広げてほしいものだ。
タグ:日経ビジネスオンライン ダイヤモンド・オンライン 現代ビジネス 田岡俊次 辻野 晃一郎 安全保障(その8)(台湾有事 米国は在日米軍基地の確実な使用を求める、「日本を守っていない」在日米軍の駐留経費負担5倍増額は不可能だ、日本はまた「戦争」をする国になってしまうのか その不安と恐怖 そして今 経営者に求められる覚悟) 「台湾有事、米国は在日米軍基地の確実な使用を求める」 トランプ米大統領が「日米同盟はアンフェア」だと発言 米ランド研究所のジェフリー・ホーナン研究員 トランプ大統領の認識は、1980年代の日米関係のまま固定化されているのでしょう それでも、基地の提供はスタート地点 米軍駐留経費の増大は日米に不満をもたらしかねない ミサイル防衛システムの拡充は「ウィン・ウィン」 島しょ防衛は、統合運用の強化を 台湾有事には、在日米軍基地の確実な使用を求める 「事前協議」は明確化 朝鮮半島有事には必ず事前協議する 「「日本を守っていない」在日米軍の駐留経費負担5倍増額は不可能だ」 ジョン・ボルトン氏が米軍の駐留経費について「現在の5倍の支払いを求める可能性があると述べた」 協定改定や貿易交渉にらみ「安保終了」などで駆け引き 日本は74.5%を負担 日本防衛には関与せずの米空軍 中東などに出動「本国に置くより節約に」 在日陸軍や海兵隊は情報収集や後方支援が中心 第7艦隊はインド・太平洋 「シーレーン確保」は海上自衛隊 日本への武力攻撃に対する「一義的責任」は日本に 「日米防衛協力の指針」(ガイドラインズ ) 防空、日本周辺での艦船の防護、陸上攻撃の阻止撃退などの作戦には自衛隊が「プライマリー・リスポンシビリティー(一義的責任)を負う」 第7艦隊は在日米軍司令部の指揮下にないから在日米軍ではない。かつては日本で陸上勤務をしている海軍将兵の人数だけを計算に入れていたが、日本と駐留米軍経費の交渉をする際には在日米軍人の数が多い方が好都合だから、船乗りも計算に入れ約1万7000人の水増しをしたのだろう 「安保破棄」で困るのは米国 横須賀など使えず制海権困難に 「在日米軍削減」を提案し理不尽な要求に対抗する手も トランプ政権がさらに執拗に理不尽な増額を迫り、「米軍撤退」や「安保条約終了」で脅しにかかるなら、日本は、トランプ大統領が、「人種差別」を批判した自国の女性議員について言ったように「嫌なら国に帰れ」の姿勢で応じてはどうか 「日本はまた「戦争」をする国になってしまうのか、その不安と恐怖 そして今、経営者に求められる覚悟」 戦争に近づいていく不安 戦争を知らない大人たち 田中角栄元首相は「戦争を知らない世代が政治の中枢となった時は危ない」と言っていたそうだ 安倍総理がやってきたこと 「歴史は繰り返す」というが、それは人間の寿命と関係している 悪しき歴史も悲惨な過去も、それを実際に体験した人たちがこの世からいなくなることによって、貴重な体験が忘れ去られたり薄まったりしてまた同じようなことを繰り返すからだ。 人間とは愚かな存在であることを自覚せねばならない 戦争と経営者と覚悟 『戦争体験と経営者』(岩波新書) 中内功氏 塚本幸一氏 生き延びて復員してからは徹底して平和主義を貫いた戦後の経済人 井深大氏 軍需をやりたがる経団連に異を唱え、「アメリカのエレクトロニクスは、軍需をやったためにスポイルした」と述べて憚らなかったそうだ 今、井深氏や中山氏のような発言を堂々とする経営者や経済人は見当たらない
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不動産(その5)(100均の家ついに登場 深刻化する空き家の対処 空き家が増加する日本の見過ごせない課題、2022年 タワマンの「大量廃墟化」が始まることをご存じですか 不動産業界では暗黙の常識、大阪・西成を買い占める謎の中国人) [産業動向]

不動産については、7月17日に取上げた。今日は、(その5)(100均の家ついに登場 深刻化する空き家の対処 空き家が増加する日本の見過ごせない課題、2022年 タワマンの「大量廃墟化」が始まることをご存じですか 不動産業界では暗黙の常識、大阪・西成を買い占める謎の中国人)である。

先ずは、住宅ジャーナリストの山本 久美子氏が8月1日付け東洋経済オンラインに寄稿した「100均の家ついに登場、深刻化する空き家の対処 空き家が増加する日本の見過ごせない課題」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/294273
・『人口・世帯数の減少や家余り社会の到来で、今後ますます空き家が増えると見られている。空き家が管理されないまま放置されると、その地域に防災、防犯、景観上などのさまざまな問題を引き起こす。 国や自治体も手をこまねいているわけではない。法律の整備などを進めているが、決め手に欠けるというのが現実だ。それを埋めるように民間でも、新しい動きが出始めた。 そこで、空き家問題について、次のような観点から見ていくことにしたい。 1. 空き家が問題になる理由は? 2. 空き家対策特措法の効果は? 3. 空き家対策に取り組む地方自治体は増えている 4. 「100均空き家」にどんな意味があるのか』、興味深そうだ。
・『空き家が問題になる理由は?  総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、全国に空き家は846万戸(全国の住宅の7戸に1戸)。この5年間で26万戸増加するなど、その数は増加し続けている。 ただし、この調査でいう「空き家」は、何種類かに分かれる。 ・別荘やセカンドハウスなどのように普段は住んでいない「二次的住宅」 ・賃借人を募集中の「賃貸用」 ・売却を予定している「売却用」 ・上記いずれにも当てはまらない「その他」) 別荘など常時ではないが利用しているものは、管理をしている可能性が高い。賃貸や売却を予定しているものなら、高く売ったり貸したりするために管理をするだろう。その他の中でも、建て替えなどで「取り壊し予定」の空き家であれば、いずれ誰かが利用することが期待できる。つまり問題となるのは、「その他」の中でも、使い道が決まっていない、長期間誰も住んでいない空き家だ。しかも、こうした空き家が増え続けていることが、問題を深刻化させている。 さて、空き家が問題視されるのは、建物は人が住まなくなると急速に老朽化が進み、庭の草木が茂ったり害虫等が発生したりして、トラブルの原因になるからだ。 街の景観が損なわれるのはもちろんのこと、はたから見ても空き家とわかるので、誰かが住み着いたり隠れ場所として使われたりすると、犯罪の温床になる。また、ゴミが投棄されるようになると、衛生上の問題が生じてくる。老朽化した建物の屋根材が隣家や道路に落下したり、伸び切った草木が越境したり、ブロック塀が壊れたりすると、近隣にとって迷惑なだけでなく、災害時に被害を増大させる要因にもなってしまう』、「使い道が決まっていない、長期間誰も住んでいない空き家」は確かに大きな問題だ。
・『空き家対策特措法の効果  このような迷惑な空き家が認識されるようになって、まず動いたのが地方自治体だ。地元住人からの相談やクレームを受けて、条例を設けるなどして、空き家問題に取り組むようになった。遅れて国が動いて制定したのが、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、空き家特措法)で、2015年5月に施行された。 「空き家特措法」の狙いは2つあり、1つがこれまで説明してきた問題のある空き家への対策だ。法律で問題のある空き家を「特定空家等」と定義して、市町村が立入調査を行ったり、指導、勧告、命令、行政代執行(所有者が命令に従わない場合や所有者が不明な場合)の措置を取ったりできるように定めた。 所有者が命令に従わない場合は、罰則も設けている。また、登記があいまいで空き家の所有者がわからないという問題については、固定資産税などの課税のための個人情報を、必要な範囲で利用できるようにも定めている。 空き家特措法のもう1つの狙いは、活用できる空き家の有効活用だ。市町村に、空き家のデータベースを整備し、空き家や空き家の跡地の活用を促進することを求めている。 一方、空き家を助長するとも指摘されている固定資産税の問題もある。空き家を撤去して更地にすると、住宅用の土地ではなくなってしまう。すると固定資産評価額を1/6に引き下げるといった「住宅用地の特例」が受けられなくなるので、空き家の放置につながるというわけだ。 この点に対しても、空き家特措法の規定に基づいて、「特定空家等」の所有者に撤去などの必要な措置を勧告した場合、この住宅用地の特例の対象から除外する税制改正も行った。 空き家特措法で市町村に求めた「空家等対策計画」について、2019年3月末日時点で全市区町村の約6割(60.4%)となる1051団体が策定し、2020年3月末には7割を超える見込みとなっている。 また、周辺の生活環境などに悪影響を及ぼす「特定空家等」について、2019年3月末日までに市区町村長が1万5586件の助言・指導を実施し、うち勧告を行ったものは922件、命令を行ったものは111件、代執行を行ったものは165件となっている。 加えて、空き家特措法では、空き家のデータベースの整備と情報提供を促している。以前から「空き家バンク」などを整備する地方公共団体は多かったが、それぞれで仕様が異なり、一覧性がなく検索しづらいといった課題があった。 そのため不動産情報を扱う事業者に「全国版空き家・空き地バンク」の構築や運営を委託し、全国の空き家情報をワンストップで検索できるサイトを2018年4月から運用している。2019年2月時点で、LIFULLとアットホームが運営する全国版バンクに603自治体が参加し、延べ9000件(一部重複あり)を超える空き家などの情報が掲載され、成約に至った物件数は、累計で1900件を超えたという』、「「空家等対策計画」について、2019年3月末日時点で全市区町村の約6割(60.4%)となる1051団体が策定」、というのはまずまずだが、「「特定空家等」について、2019年3月末日までに市区町村長が1万5586件の助言・指導を実施」、については、助言・指導をすべき母数がどの程度あるかが分からないので、評価不可能である。
・『「100均空き家」にどんな意味があるのか  こうした空き家問題に対する環境整備を行うことと合わせて、地方公共団体と各種専門家団体などとの連携の動きも活発になっている。とはいえ、空き家を活用したり処分できなかったりする理由はさまざまだ。 空き家の所有者の高齢化によって、自宅から介護施設に移ったり、判断機能が低下したりして、自宅の処分が進まないということもある。また、空き家の相続などを繰り返すことで、今の所有者がわからなくなったり、相続人が多数いて合意形成ができないといったことも理由の1つだ。 もう1つの大きな理由が、「市場性の問題」だ。とくに、人口減少地域で老朽化した住宅の場合、売っても諸費用のほうが高くつく、貸すために修繕しても借り手がつかない、修繕した費用を回収するだけの賃料が得られないといった事例が多くなる。そのために、売ることも貸すこともできない空き家が増えるという構図になっている。 こうした市場性の問題に対して、民間企業でも新しい取り組みが出始めている。不動産会社が空き家を買い取って改修したうえで販売したり、空き家を一定期間借り上げて賃貸住宅や宿泊所として活用したりといった事例が増えている。 そして、ついに「100均空き家」を掲げるところも現れた。YADOKARIとあきやカンパニーが連携して開設した「空き家ゲートウェイ」がそれだ。 使い物にならないと諦めている、売りたいが値がつかないので不動産会社が扱わない、といった空き家を日本中から集めて、それを活用したいというユーザーとマッチングするプラットフォームになっている。 具体的に事例を見ていこう。100均物件として掲載されている「宮城県栗原市花山の築40年の平屋」の売却価格は100円だ。建物面積140m2の平屋に73m2の納屋まで付いている。 現オーナーは、地域おこし協力隊を経て花山に移住し、譲り受けたこの空き家を地域づくりに活用したいと考えている。そこで付けたキャッチが「最寄りは湖 U-30 花山代表求ム!」。つまり、地域に貢献したい30歳以下の若者に100円で売りたいというメッセージが込められている。 「空き家ゲートウェイ」プロジェクトマネジャー川口直人さんに、100均物件を集める理由を聞いた。 「新しいライフスタイルを提案するメディアとして、空き家の問題を解決したいと考えていましたが、空き家をカジュアルに、もっと気軽に見てほしいと思いました。それを端的に表現するのが100均です。資産価値がないと思われている物件でも、自然豊かな場所に安くて広い住まいを手に入れて思い通りの暮らしを実現したいという、そこに価値を認める人がどこかにいると思うのです」』、「空き家ゲートウェイ」とは面白い動きだ。ただ、ネットマッチングだけで、現地調査サービスや仲介業務は原則行ってないので、ユーザーニーズに果たして応えられるのかが、課題だろう、
https://akiya-gateway.com/vacant-house/
・『資産価値のない物件が価値をもつ  プラットフォーム上で売りたい人と買いたい人をマッチングするだけで、仲介業務を行うわけではない。もちろん売却価格100円といっても、売却時の諸費用などがかかるし、DIYやリフォームなどの改修も自分で行う必要がある。それでも、そこでの暮らしをイメージできるようにオーナーの思いも伝えることで、そのストーリーに共感する人に引き継ごうというのがコンセプトだ。 空き家が100均物件として「空き家ゲートウェイ」に掲載可能かを判断する、物件査定ページ「カンタンゲートウェイ」が用意されているが、資産価値のある物件の場合だと「残念!掲載できません」と査定される。通常の査定とは真逆だ。ここでは、資産価値のない物件が価値を持つわけだ。2019年7月1日に空き家ゲートウェイ開設後、10日間で70件ほどの掲載問い合わせが寄せられ、順次検討しているところだという。 空き家を100円でも売りたい、オーナーに交渉しながら100円で買いたい、という人が今後どれだけ多く集まってくるか、注目したいポイントだ。 さて、空き家というと負の面ばかりが注目されるが、空き家をポジティブにとらえることができるようになれば、空き家の利活用も進むのではないだろうか。新しい取り組みに大いに期待したい』、同感だ。

次に、8月17日付け現代ビジネス「2022年、タワマンの「大量廃墟化」が始まることをご存じですか 不動産業界では暗黙の常識」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56992
・『リタイア世代から外国人家族まで、さまざまな人が住むタワマン。最大のネックは「修繕費」の問題で、見て見ぬふりをしているうちにタワマンが廃墟になってしまった、という可能性もあるのだ』、「タワマンが廃墟に」というのは穏やかではない。
・『「修繕ラッシュ」が来た  都心の最高級リゾートをあなたの手に――。 東京湾を望む一棟のタワーマンション。歯の浮くようなコピーに夢を抱き、当時は購入希望者が殺到した人気レジデンスだったが、いまは見る影もない。 築15年、400戸近いマンションに、現在の居住者は3割にも満たない。外壁に割れが目立ち、エントランス前は雑草が伸び放題になっている。 ジムやバーなどの共用部は閉鎖されて数年が経つ。次のマンションの頭金にもならないほど資産価値は下がり、引っ越すこともできず、逃げ場を失った人たちがただ住んでいるだけ……。 いま、タワマン人気はピークにある。不動産経済研究所の調査によると、'08年から'17年の10年間で、首都圏には341棟もの高層マンション(20階建て以上)が建てられた。戸数にして、じつに11万1722戸にのぼる。 だが、そのタワマンが巨大な廃墟と化してしまう冒頭のような光景が、日本中に現れる事態を想像する人は少ない。 不動産業界ではかねてから都心部の住宅の過剰供給がささやかれてきた。デベロッパーにとってタワマンはまさに「打ち出の小槌」であり、いまだ根強いタワマン人気に応えるように、フロンティア開拓は進んでいる。 これまでタワマンといえば、豊洲や芝浦といったベイエリアか、武蔵小杉や川口など都心にアクセスしやすい郊外が人気を集めていた。近ごろ、デベロッパーは「第三の道」として、都心の再開発地域に目をつけ、新たな購入層の獲得に躍起だ。 たとえば東京下町の代表格・月島の「もんじゃストリート」には低層建築のもんじゃ屋が軒を連ねるが、肩を並べるように地上32階建てのタワマンが建とうとしている。 また、日本有数の商店街がある武蔵小山の駅前にも41階建ての巨大レジデンスが建ち、東京五輪直後の2021年に入居を控えている。 そんなタワマンブームに火が付いたのは2000年前後のこと。当時建てられた超高層マンションは早くも15~20年選手になろうとしているわけだが、ここにきて重大な問題が表面化してきた。 それは、類を見ないほどの大規模で高額な「修繕」をどうするか、ということだ』、「タワマン」で「築15年、400戸近いマンションに、現在の居住者は3割にも満たない」、とは恐ろしいような現象だが、それが次々に顕在化しつつあるとは、大変なことだ。
・『売り手はリスクを伝えない  基本的にマンションは、12年から15年の周期で大規模修繕を行う。最初は外壁の修理などを行い、次にエレベーターや排水などの内部的な不具合を改修する。 これはタワマンも同様で、目下第一次修繕ラッシュに突入しているが、なにぶん戸数が多いため、一棟の修繕計画は10年以上、2ケタ億円のカネがかかることもザラにある。 高層マンションブームの先駆けとなったのが、川口にある「エルザタワー55」だ。 '98年に竣工した総戸数650、地上55階建て、高さ185mのこの物件は、'15年にはじめての大規模修繕工事を開始し、2年がかりで完了した。総費用は約12億円。単純計算で1戸あたり約185万円の負担だ。 修繕にいたる長い道のりを取材してきた住宅ジャーナリストの山本久美子氏は次のように語る。 「超高層の工事は通常の足場だけではできないうえ、エルザタワーは低層・中層・高層でそれぞれ外観のフォルムが変化するデザインになっていて、工事は難航することが予想されました。 そこで修繕は、マンションを建設した元施工会社に工法の提案を依頼するところからはじまったのです」 管理組合に修繕委員会を設置したのは'07年のこと。施工の妥当性や料金を見積もるコンサルタントを募集したのは'12年になってからだった。 「コンサルタント会社を1社に絞り、業務委託契約を締結したのが'13年。マンション所有者への説明会もきちんと開き、'14年に施工業者の決定にこぎつけました」(山本氏) 途中3.11の影響もあったが、修繕完了までに10年。ただし、これは幸せなケースだ。エルザタワーのように投資目的の所有者が少ない物件は、管理組合もしっかり機能している。 だが新しく建てられたタワマンのなかには投資用に購入されているものも多い。最初の修繕時期にあたる築15年を迎えるころには、すでに所有者が入れ替わっているケースが大半だ。 しかも300戸をゆうに超えるようなタワマンでは、実際の入居者も子育て世代から外国人までさまざま。その全員が管理組合に協力的、ということはさすがに考えにくい。 こうした状況をさらに難しくするのが、デベロッパーの態度だ。タワマンの売れ行きが好調な折、あえて15年後に訪れる修繕の難しさなど、口にするはずがない。 オラガ総研代表の牧野知弘氏はこう指摘する。「これまで、デベロッパーは修繕積立金の費用負担を実際の想定以上に安く設定してマンションを販売してきました。 タワマンは高層用のエレベーターやジムなどの共用設備が多く、修繕コストが膨らみやすい構造にあるにもかかわらず、『戸数が多いから一人あたりの負担が少ない』と販売元は説明するわけです。 ところがいざ修繕となると積立金が足りず、住民のあいだで大モメになる。こうした事態がこれから頻発するでしょう」』、「デベロッパーは修繕積立金の費用負担を実際の想定以上に安く設定してマンションを販売してきました」、「新しく建てられたタワマンのなかには投資用に購入されているものも多い。最初の修繕時期にあたる築15年を迎えるころには、すでに所有者が入れ替わっているケースが大半だ。 しかも300戸をゆうに超えるようなタワマンでは、実際の入居者も子育て世代から外国人までさまざま。その全員が管理組合に協力的、ということはさすがに考えにくい」、入居者の責任だけでなく、デベロッパーにも責任がありそうだ。
・『住民の意見がまとまらない  国土交通省は、ガイドラインで12年周期前後の大規模修繕を行うことを推奨している。 大手デベロッパーが販売するマンションの場合は、長期修繕計画書を売り主か施工業者が作成することが多いが、ここに書かれた数字がデタラメだったというケースもある。 管理組合向けコンサルティング会社・ソーシャルジャジメントシステムの廣田晃崇氏は次のような例を挙げる。 「長期修繕計画書では、何年目の工事にいくらかかるか概算が記されていて、そこから積立金の月額を割り出します。 ところが中央区のあるタワマンでは、基礎的な数値に間違いが散見されました。自動ドアの枚数が実際の半分だったり、消火設備の数も少なかったりして、30年間でかかる修繕費が5億円近くも過少に見積もられていたケースがあったのです」 こうした明らかな見積もりの甘さには、デベロッパーの「売らんかな精神」があることは否定できない。住民側が問題に気づくためには、やはり結束力の強い管理組合が必要になってくるが、ことタワマンではそううまくいかない。 首都圏にある総戸数600超の某タワーマンションでは、30年の修繕累計コストは50億円以上におよぶと見積もられている。ところが、その間に見込まれる修繕積立金は半分にも満たない23億円。 今後どうやってその差額を埋めるのか、そもそも15年目の第一次修繕を終えられるのか。管理組合の議論は今日も続いているという。 このマンションで理事の経験がある60代の住民の一人はこう嘆息する。 「私は早期退職で入ったおカネで家を買い、終の棲家と思って住んでいますが、上層階には若いお金持ちや投資目的の外国人もいる。普段の生活では没交渉ですから、理事会での発議も実現しないことが多いです。 たとえば、あるとき立体駐車場の共用部に重大な不具合が見つかり、1億円近くの費用がかかることがわかった。 そこで理事会で一時金の徴収を提案したのですが、想像以上に反対意見が多く、ロクに話し合いも設けられないまま否決されてしまったことがありました。それぞれ、マンションについての見解があまりにも違うと感じましたね」 実際、「私が住んでいるうちだけ大丈夫なら、あとはどうなってもかまわない」と考えたり、一方で共用部の破損で資産価値が下がることに神経質な人がいたりと、「コミュニケーションなき利害関係」がこじれがちなのがタワマンの現状といえる。 さらにいま大量に建てられている新築のタワマンの管理組合は、これまでのタワマン以上に難しい問題を抱えている。 「東京五輪に向けて上昇しているのは地価だけでなく、人手不足による人件費や資材費も同様。ですが、五輪後に地価の高騰が落ち着いたとしても、人件費や資材費は右肩上がりになる可能性が高い。 五輪後、建物に大きなトラブルが露呈すれば、修繕積立金の値上げを余儀なくされますし、修繕しなければ資産性に大きな問題が生じるかもしれません」(前出・牧野氏) つまり、資産価値はこれから下がっていく一方なのに、修繕費は高騰を続けるのだ』、「総戸数600超の某タワーマンションでは、30年の修繕累計コストは50億円以上におよぶと見積もられている。ところが、その間に見込まれる修繕積立金は半分にも満たない23億円」、さらに「人件費や資材費」の高騰で修繕積立金の不足は膨張する可能性が高いのであれば、事態は深刻だ。
・『壊すこともできない  はたしてタワマンを住居として修繕しつつ、維持し続けることは可能なのだろうか。 「じつは、ほとんどの物件で長期修繕計画は30年分しか組まれておらず、その先はどうなるのか、国などでも問題視されています。 30年以降の修繕となると、給排水管や電気系統、エレベーターなどの設備系の大規模改修も必要になってきて、その費用は1回目の比ではありません。 いざ修繕積立金を値上げするとなると、投資目的でマンションを買い、人に貸している人は利回りが悪くなるので、なかなか首をタテに振らない。そうすると修繕の時期になってもおカネが用意できない事態に陥ります」(経済評論家の平野和之氏) 修繕できないのなら、いっそ壊して新しくするという手もあるだろう。しかし、老朽化したタワマンに住んでいるのは、簡単に引っ越すことができない「取り残された人々」。 そうした住民を立ち退かせたとしても、タワマンを壊すには、これまた膨大な費用がかかる。 「大規模修繕ができていないタワーマンションは次から次へと売りが出る可能性がある。値段をどれだけ下げても、高い修繕積立金を肩代わりしなければいけない物件に買い手はつかないでしょう。 結果、修繕されずに放置され続け、壊すこともできず廃墟と化したタワマンの誕生です。 とくに心配なのは、武蔵小杉など、同じような時期にたくさんのタワマンが建った地域です。売りが売りを呼ぶ負の連鎖が街全体で起こる可能性がある。そう考えると、街が一瞬にしてゴーストタウン化するリスクもあります」(平野氏) 一度建てたら、簡単には修理することも壊すこともできないタワマン。その姿はさながら「住む原発」といえる。 ひとたびの建設ピークを迎えた'08年に建てられたタワマンが、15年目になるのは2022年。まさにこれからタワマンの問題は深刻化する。あなたは、それでもまだタワマンを買いますか?』、「住む原発」とは言い得て妙だが、「廃墟と化したタワマン」が次々に出現するとはまさに「現代の怪談」だ。

第三に、8月8日付け日経ビジネスオンライン「大阪・西成を買い占める謎の中国人」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00069/080600001/?P=1
・『“異次元”とも形容された日銀の金融緩和とインバウンドブームが相まって、一部の都市の不動産価格は上昇の一途をたどっている。外国人観光客の増加に沸く大阪もそんな活況を呈するエリアの1つ。とりわけ労働者の町として知られる西成は外国人観光客の増加で注目を集めている場所だ。 日経ビジネスでは、9月2日号(予定)で過熱する不動産市場を分析した特集記事を掲載する。低い調達金利と、他の金融商品に比べて相対的に高い利回りを背景に、一般のビジネスパーソンから日本の不動産を割安と見る外国人投資家まで様々なマネーが国内の不動産に流れ込む。その中では、西成のようにこれまで過小評価されていたような不動産も動き始めた。 今の状況をバブルと見るか、グローバル水準に適正化していく過程と見るかは意見が分かれるかもしれない。その結論を出す前に、全国各地で起きている現象を見てみよう。 大阪市西成区――。地下鉄御堂筋線・動物園前駅を駆け上がると、キリンや象のオブジェが飾られたアーケード街にたどり着く。通天閣やジャンジャン横丁のある新世界の南隣に位置する動物園前一番街である(正式名称は飛田本通商店街)。 今から100年ほど前、にぎわいを見せる飛田遊郭に隣接したこともあり、自然発生的に商店が集まったといわれている。動物園前駅から旧飛田遊郭大門跡まで、およそ500メートルにわたって50軒以上の商店が軒を連ねる』、西成の釜ヶ崎といえば、東京の山谷と並ぶ有名な「ドヤ街」だったが、「過小評価」が見直されつつあるようだ。不動産の「バブル」も来るところまで来たということなのだろうか。
・『真っ昼間から大音量のカラオケが通りに響く  この歴史ある商店街に“異変”が起きている。カラオケ居酒屋に転換する店舗が急速に増えているのだ。飛田本通商店街振興組合の村井康夫理事長によれば、一番街では既に11店がカラオケ居酒屋だという。 商店街をぶらりとしながらカラオケ居酒屋をのぞけば、店を切り盛りしているのは片言の日本語を話す中国人女性。メニューは基本的に中華料理で、客は1曲100円のカラオケを熱唱している。 もともとは隣接する「あいりん地区(通称・釜ヶ崎)」に集まる日雇い労働者らを主に対象としたビジネスだったが、歌って飲んでも2000円程度という値ごろ感もあり、最近は新世界や天王寺界隈から流れるサラリーマンなどの2次会需要でにぎわっている。 真っ昼間から大音量のカラオケが通りに響く様子は、この商店街ならではの情景と言える』、「一番街では既に11店がカラオケ居酒屋」、「店を切り盛りしているのは片言の日本語を話す中国人女性」、「最近は新世界や天王寺界隈から流れるサラリーマンなどの2次会需要でにぎわっている」、変われば変わったものだ。
・『日経ビジネスは2002年に「不動産大革命」と題した特集記事を掲載した。今でこそ将来的に生み出すであろう利益から逆算する収益還元法で不動産を評価するのは常識だが、当時は収益還元法の考え方が浸透し始めたところで、利便性の割に賃料が低く抑えられているエリアがいくつも存在していた。 そこで、弊誌は不動産データサービスを提供しているアトラクターズ・ラボ(現スタイルアクト)の沖有人社長の協力を得て、首都圏の759駅のマンション利回りを算出、それぞれの将来性を「AAA」から「C」の9段階で格付けした。 「2002年7月22日号 不動産大革命 マンション購入安全度」 この時に最高評価のAAAを得たエリアのひとつに江東区豊洲が挙げられる。今でこそ豊洲は高層マンションや大規模商業施設が立ち並ぶ屈指の人気エリアだが、もともとは石川島播磨重工業の工場が広がる準工業地域。1990年代後半にマンション建設が始まったが、当時はららぽーと豊洲もできておらず、住宅地として人気のあるエリアではなかった』、不動産の評価が「収益還元法」に変わったなかで、「首都圏の759駅のマンション利回りを算出、それぞれの将来性を「AAA」から「C」の9段階で格付けした」、「最高評価のAAAを得たエリアのひとつに江東区豊洲」、手法の先見性は確かだったようだ。
・『利回りの取れる掘り出し物をさがせ  だが、銀座まで地下鉄で10分という圧倒的な利便性とリーズナブルな物件価格、日々進化していく町の魅力が相まって、豊洲はファミリー層が選ぶ屈指の人気エリアに発展した。 過去17年を振り返れば、不動産大革命で「AAA」や「AA」の格付けをしたエリアの中古マンション価格は20%上昇した。一方、最低評価の「C」格エリアは31%の下落である。賃料をベースにした収益還元という考え方が一般化したことで、不動産のアービトラージ(裁定取引)が働き、適正な期待利回りまで価格が適正化したのだ。 日銀による異次元の金融緩和以降、利回りを求める投資マネーの流入で不動産価格は高騰している。東京・都心部の大規模ビルの中には表面利回りで3%を切る物件も出ているほど。情報が広く行きわたったことで、利回りの取れる掘り出し物を見つけることは困難だ。 ただ、目をこらせば過小評価されている場所がないわけではない。本記事で紹介してきた大阪の動物園前一番街・二番街や隣接する釜ヶ崎、飛田新地のある山王地区などはそんな割安と見られる場所だ。現に、相対的に高い利回りを求めて様々なマネーが流入している。 動物園前一番街・二番街でカラオケ居酒屋が増加している理由を端的に語れば、中国人による“爆買い”だ。そして、その背景には一人の男がいる。盛龍不動産の林伝竜氏である。来日後、職を転々としながら動物園前商店街で不動産会社を興した苦労人だ』、中国人の不動産屋が仕掛けていたとは、さすがだ。
・『カラオケ居酒屋をつくり、投資家に貸し出す  林氏がここでやっているのはカラオケ居酒屋をつくり、投資家に貸し出すビジネスだ。商店街の空き店舗を購入後、バーカウンターと調理器具、カラオケ機材を設置し、仲間の中国人に貸し出す。実際に看板ママを雇ってカラオケ居酒屋を営業するのは借りた中国人だ。 最近は民泊業にも進出しており、カラオケ居酒屋の2階部分を民泊として外国人観光客に貸している。なかなかアグレッシブに事業を展開しているようで、取材に訪れた6月下旬に盛龍不動産を訪ねると、大阪市違法民泊撲滅チームの名刺を持つ人物と鉢合わせした。聞けば、未登録の闇民泊の調査をしているのだという。 盛龍不動産を筆頭に、中国系の不動産業者が店舗を積極的に取得するため、動物園前一番街・二番街の物件価格は上昇している。「実際の取引価格は3年前の3倍。それを牽引しているのは盛龍不動産だ」。地元の不動産業者からは驚きともやっかみともつかない声が漏れる。 福建省出身の林氏が釜ヶ崎に来たのは阪神・淡路大震災後の1996年にさかのぼる。被災地の復興需要が立ち上がる中で、雇用の機会を求めて釜ヶ崎に引き寄せられたのだ。ただ、国内景気の落ち込みのため、90年代終わりごろになると日雇いの仕事は急速に減少し始める。生活の糧を失った労働者が路上にあふれる中、日雇い家業に見切りをつけた林氏はラーメン屋に転職した。1999年のことだ。 そんな林氏がカラオケ居酒屋という業態を始めたのはリーマン・ショックの少し前。高齢化が急速に進む西成で、生活保護受給者が楽しめる場所を提供しようと考えた。そして、動物園前二番街に最初のカラオケ居酒屋を開業すると、安く遊べると高齢者の人気に。チャンスと見た林氏は空き店舗を次々に取得、カラオケ居酒屋に業態を変えていった。 現在、林氏がつくったカラオケ居酒屋は一番街と二番街に20店ほどある。その大半は日本に住む中国人に貸している。「カラオケ居酒屋を開発したのはボク。そのあとみんなマネし始めた。ボクは店をつくって貸しているだけ。みんなもうかってるよ」』、「日雇い家業」、「ラーメン屋」、「カラオケ居酒屋」と時代に合わせて職業を変えているのもたくましい。
・『星野リゾートもホテルを開業へ  釜ヶ崎周辺はJR大阪環状線・新今宮駅や動物園前駅から目と鼻の先と利便性は抜群。ただ、「昔は駅前で寝ている人も大勢いた」と手荷物預かりサービスを営むダイコクロッカーの岡西義友代表が語るように、外部の人間には近寄りがたい場所だった。林氏が空き店舗を取得できたのも、イメージの悪さから周辺の不動産価格が低く抑えられていたためだ。 それが、インバウンドの増加に伴って状況は変わりつつある。 星野リゾートは2017年に、新今宮駅の北側(浪速区)に「OMO7(おもせぶん)」という観光特化型のホテルを開業すると公表した。南海電鉄も新今宮駅至近のFP Hotels Grand 難波南を取得した。 「新今宮の周辺は心斎橋に近く、神戸にも京都にも楽に行ける。目の前は広い幹線道路で観光バスの横付けも可能。周囲のイメージも観光客には関係ない」。FP Hotels Grand 難波南を含め、新今宮駅周辺で2軒のホテルを運営するフリープラスの柿内将也氏は語る。 インバウンドの増加はビザ発給要件の緩和や円安、LCC(格安航空会社)の就航などが影響している。ただ、釜ヶ崎の構造変化と地元の簡易宿所(簡宿)事業者の地道な努力も大きい。 1960年代、70年代の高度経済成長期に活況を呈した釜ヶ崎だが、バブル崩壊後は日雇いの仕事が激減、労働者向けの簡宿も大打撃を受けた。「2000年ごろの空室率は70~80%。借金もあってどないすんねんという状況だった」。ホテル中央オアシスやホテルみかどなどの格安ホテルを運営するホテル中央グループ会長で、大阪府簡易宿所生活衛生同業組合の理事長を務める山田純範氏は振り返る。 ただ、捨てる神あれば拾う神もある。2000年にホームページを開設したところ、安価な価格に引きつけられた外国人旅行者からの問い合わせが増え始めた』、インバウンドがこんなところにまで影響しているようだ。
・『簡易宿所はバックパッカーシフトで大成功  釜ヶ崎の簡宿の広告を日本人向けに出しても仕方がない――。そう割り切った山田氏は外国語での情報発信を強化。バックパッカーとして世界中を旅していた息子が会社に参画した2004年以降は海外のバックパッカーが利用しやすいように施設を改修したり、ネット販売を強化したり、外国人シフトをさらに推し進めた。 その戦略は奏功した。 労働者の高齢化によって西成の高齢化率は40%に達しており、簡宿に住んでいた労働者は亡くなるか、サポーティブハウスなどの福祉施設に移動している。一方、2004年に9000人だったホテル中央グループの外国人宿泊者数は2018年に20万人まで拡大した。 「労働者の減少分をインバウンドで補うことができている。ウチのホテルだけでなく、同業者全体で取り組んだ結果だ」と山田氏は語る。 住民の顔ぶれが変わりつつある釜ヶ崎。その土地のポテンシャルに目をつけた人が続々と資金を投下している。 例えば、動物園前一番街の阪神高速松原線をはさんだ反対側、山王地区は木造の長屋が目立つ「ザ・下町」という風情の地域だが、路地をぶらりと歩くと、長屋を改造したこぎれいな民泊物件がそこかしこにある。玄関に貼られている緊急連絡先を見ると、中国人と思われる名前も少なくない。 西成区全体にフォーカスを広げても同様だ。西成区役所のある天下茶屋。ここも下町情緒あふれる地域だが、10分も歩けば、古民家をリノベーションした民泊物件をいくつも見つけることができる。 大阪に来る外国人観光客はLCCで関西国際空港に入る場合が多い。その多くは大阪に泊まり、大阪を拠点に京都や神戸などに足を延ばす。その文脈で見れば、天下茶屋は関空となんばを結ぶ南海電鉄の特急ラピートや空港急行が停車する主要駅であり、同駅に乗り入れている地下鉄堺筋線に乗り換えれば黒門市場のある日本橋にも近い。 このように外国人観光客にとっては抜群の立地だが、なんばや天王寺などの中心部に比べれば不動産価格はまだ割安。それゆえに、天下茶屋は民泊オーナー注目の場所になっているのだ。「天下茶屋は狙い目」。民泊オーナーでサラリーマン投資家に民泊投資を指南している新山彰二氏は語る。かつての弊誌特集「不動産大革命」における豊洲のような裁定取引が起きている』、インバウンドや「関西国際空港」が、「不動産価格はまだ割安」の地域を生み出し、「裁定取引が起きている」とはやはりダイナミックだ。
・『「中華街にして、ここをもっといい商店街にしたい」  盛龍不動産の林氏は現在、あるプロジェクトに取りつかれている。動物園前一番街・二番街の北と南、そして商店街の東西に横浜中華街風の中華門を設置、商店街全体を中華街にするという「大阪中華街プロジェクト」だ。この計画を推進するため、林氏は仲間の中国人経営者とともに華商会という団体を設立した。世界のどこに行っても中華色に染め上げる華僑らしい発想だ。 「中国にこんな(アーケードがある)立派な商店街はない。中華街にして、ここをもっといい商店街にしたい」 もっとも、降って湧いた中華街構想に地元は困惑気味だ。「4月に華商会の人々と初めて協議した。東西南北に中華門を建てて一流の中華料理店を北京から呼ぶという話だが、どこまで実現性があるのか疑問。地元としては賛成できない」と飛田本通商店街振興組合の村井理事長は言う。 中華街構想のパンフレットを見ると、2025年に224億円の売上高が見込めると試算、著名中華レストランの参画もうたっている。だが、過去10年でカラオケ居酒屋が増えているといっても、もともと中国とは何の関係もない。地元が警戒するのは当然だろう。 隣接する飛田新地の飛田新地料理組合は中国人による買収を警戒して空き家だった近隣のビルを取得、防災用の備品を備蓄する防災会館に転換した。「彼らはかなりの高値で物件を買う。ここは統率が取れているが、(高値での買い占めに)周囲の人は恐れているのではないか」。飛田新地料理組合の徳山邦浩組合長は語る。 文字通り動かない不動産は基本的に立地が全て。そして、不動産を金融商品と捉えるのであれば、物件の特性に応じた利回りに収れんしていく。それは、過去20年の歴史が証明している。 急激な開発に対する地元の反発もあり、右肩上がりで不動産価格が上がるかどうかは定かではないが、高齢化が進み、釜ヶ崎が労働者の町からインバウンドの町に変わりつつある以上、西成は10年後には様変わりしているのではないか』、林氏の「中華街構想に地元は困惑気味」、地元にすれば無理からぬところだろう。「西成は10年後には様変わりしているのではないか」、どんなになるのだろう。
タグ:不動産 東洋経済オンライン 日経ビジネスオンライン 現代ビジネス (その5)(100均の家ついに登場 深刻化する空き家の対処 空き家が増加する日本の見過ごせない課題、2022年 タワマンの「大量廃墟化」が始まることをご存じですか 不動産業界では暗黙の常識、大阪・西成を買い占める謎の中国人) 山本 久美子 「100均の家ついに登場、深刻化する空き家の対処 空き家が増加する日本の見過ごせない課題」 空き家が問題になる理由は? 問題となるのは、「その他」の中でも、使い道が決まっていない、長期間誰も住んでいない空き家だ 空き家対策特措法の効果 空き家特措法で市町村に求めた「空家等対策計画」について、2019年3月末日時点で全市区町村の約6割(60.4%)となる1051団体が策定 「特定空家等」について、2019年3月末日までに市区町村長が1万5586件の助言・指導を実施 「全国版空き家・空き地バンク」 「100均空き家」にどんな意味があるのか 「空き家ゲートウェイ」 「100均空き家」 使い物にならないと諦めている、売りたいが値がつかないので不動産会社が扱わない、といった空き家を日本中から集めて、それを活用したいというユーザーとマッチングするプラットフォームになっている 資産価値のない物件が価値をもつ 売却価格100円といっても、売却時の諸費用などがかかるし、DIYやリフォームなどの改修も自分で行う必要 「2022年、タワマンの「大量廃墟化」が始まることをご存じですか 不動産業界では暗黙の常識」 「修繕ラッシュ」が来た 築15年、400戸近いマンションに、現在の居住者は3割にも満たない。外壁に割れが目立ち、エントランス前は雑草が伸び放題になっている タワマン人気はピークにある デベロッパーにとってタワマンはまさに「打ち出の小槌」であり、いまだ根強いタワマン人気に応えるように、フロンティア開拓は進んでいる そんなタワマンブームに火が付いたのは2000年前後のこと。当時建てられた超高層マンションは早くも15~20年選手になろうとしているわけだが、ここにきて重大な問題が表面化してきた 類を見ないほどの大規模で高額な「修繕」をどうするか、ということだ 売り手はリスクを伝えない 住民の意見がまとまらない 総戸数600超の某タワーマンションでは、30年の修繕累計コストは50億円以上におよぶと見積もられている その間に見込まれる修繕積立金は半分にも満たない23億円 大規模修繕ができていないタワーマンションは次から次へと売りが出る可能性 タワマン。その姿はさながら「住む原発」といえる 「大阪・西成を買い占める謎の中国人」 西成は外国人観光客の増加で注目 西成のようにこれまで過小評価されていたような不動産も動き始めた 真っ昼間から大音量のカラオケが通りに響く 既に11店がカラオケ居酒屋 店を切り盛りしているのは片言の日本語を話す中国人女性 最近は新世界や天王寺界隈から流れるサラリーマンなどの2次会需要でにぎわっている 首都圏の759駅のマンション利回りを算出、それぞれの将来性を「AAA」から「C」の9段階で格付け この時に最高評価のAAAを得たエリアのひとつに江東区豊洲 利回りの取れる掘り出し物をさがせ カラオケ居酒屋をつくり、投資家に貸し出す 星野リゾートもホテルを開業へ 簡易宿所はバックパッカーシフトで大成功 「中華街にして、ここをもっといい商店街にしたい」 降って湧いた中華街構想に地元は困惑気味
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日本・ロシア関係(その8)北方領土6(北方領土「日本人が知らない」真実 占領の黒幕・返還交渉の矛盾、北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”、三井物産が出資するロシア巨大LNG その命運を握る「黒い金庫番」の正体) [外交]

日本・ロシア関係については、2月21日に取上げた。今日は、(その8)北方領土6(北方領土「日本人が知らない」真実 占領の黒幕・返還交渉の矛盾、北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”、三井物産が出資するロシア巨大LNG その命運を握る「黒い金庫番」の正体)である。

先ずは、ジャーナリストの粟野仁雄氏が4月26日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「北方領土「日本人が知らない」真実、占領の黒幕・返還交渉の矛盾…」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/201097
・『ロシアにとっては「南方領土」 北方領土と日本の複雑すぎる関係  「今、日本でニュースになっているクリル列島(千島列島)の問題をどう思いますか。日本じゃ北方領土と呼ぶのだけれど……」 1月末、モスクワでの首脳会談に合わせて旧島民たちの取材に訪れた筆者は、北海道根室市のラーメン店で、隣に座った若いロシア人男性に拙いロシア語でこう尋ねた。サハリンから商売に来ていた体格のよい男は、「北方領土ではないよ。あの島は絶対に我国の『南方領土』なんだ。でも日本はいい国だよ。仲良くしたいね」と笑った。 安倍首相とプーチン大統領による日ロ首脳会談の度に取り沙汰される北方領土問題だが、3月15日、ロシアの『コメルサント』紙が「大きく交渉スピードが後退した」とプーチン大統領が発言していたことを報じた。足もとでは、5月上旬の対ロ協議を前に、河野太郎外相が国会答弁においてロシア側を刺激しない配慮を見せるなど、交渉の「難しさ」が伝わってくる。 近づいたとか思うと離れるブーメランのような「北方領土」とは、日本人にとってどんな存在なのか。筆者が若き記者時代から関わったこのテーマについて、まずは地理や歴史などの基本事項を解説したい。 背の低い白い灯台が立つ根室半島先端の納沙布岬。眼下の岩礁にはかつて作家の三島由紀夫を信奉する国粋主義団体「楯の会」がペンキで描いた「千島を返せ」の文字があったが、積年の波で消えている。沖へ視線をやると、水平線上にまっ平で樹木の1本もない不思議な水晶島が見える。貝殻島の「日本時代」からの古い灯台が見える。右には勇留(ゆり)島。いずれもロシアの実効支配下にある歯舞群島の1つだ。 「うわあ、ロシアが見えるなんて」-――。若いカップルが驚いていたが、寒がって車に引っ込んでしまった。夏のシーズンは濃霧で見にくいため寒い時期がいいのだが、この地域の冬の寒さは半端ではない。見えていた数隻の漁船は、あまりの近さに日本の船かと思いたくなるが、潜水でウニを採るロシアの船である。ここから日露の海上の「中間ライン」(固有の領土、領海を主張してきた国は国境とは言えない)はわずか1.7キロだ。 「ロシア人はウニなんて食べないから、みんな日本に売るんです。この寒いのによく潜るよ」とは食堂兼土産物店「請望苑」を経営する竹村秀夫さんだ。訪問者たちの「北方領土って、こんなに近かったんですか」の言葉に地元民は辟易しているが、北海道旅行も根室まで行く人は少ないから、それも仕方がない』、「訪問者たちの「北方領土って、こんなに近かったんですか」の言葉に地元民は辟易している」、というのは地元民の偽らざる実感だろう。
・『北方領土は、北から択捉島、国後島、並列する歯舞諸島と色丹島の「4島」だが、沖縄本島より大きい最大の択捉島と2番目に大きい国後島が、全面積の93%を占める。国後島は根室市からも見えるが、標津町からはより近く、好天なら主峰の爺々岳も見える。 北方領土をめぐる国際的な取り決めの柱は、(1)1855年の日露通交(和親)条約、(2)1875年の千島樺太交換条約、(3)1904年のポーツマス条約、(4)1951年のサンフランシスコ講和条約、そして(5)1956年の日ソ共同宣言だろう。日ロ間における北方領土を巡るターニングポイントについて、おさらいしてみよう』、歴史をなおざりにしがちな我々にとって、おさらいする意味はありそうだ。
・『開国時にロシアだけは友好な態度だった  1855年2月7日、江戸幕府はロシア帝国と「日露通好条約」を結ぶ。「日露和親条約」ともいう。ロシア語では「貿易と国境の条約」だが、日本語では「貿易」も「国境」も消え、和親だとか通好とか、わけのわからぬ言葉になる。 このとき、ニコライ一世の訓令・プチャーチン提督と対峙したのが、幕府の川路聖謨(かわじ・としあきら)という旗本。NHKの元モスクワ支局長の石川一洋解説委員は、2月に鳥取県倉吉市に招かれた講演会で、川路について「優れた人でしたが、ロシアの交渉団が彼の写真を撮ろうとしたら固辞した。『私のような醜男が貴国に紹介されては日本の恥です』と言ったのです」と素朴な人柄を紹介した。川路は戊辰戦争で幕府軍に殉じて自決した。 この時期、米国のペリー提督が軍艦を連ねて開国を迫るなど、欧米列強が「鎖国日本」を力でこじ開けようとしたが、石川氏は「ロシアだけは非常に友好的な態度で日本に接してきたのです」と強調した。確かにその通りだ。 この条約で国境線が得撫(ウルップ)島と択捉島の間とされ、樺太は「日露混住の地」となるが、20年後の1875年、ペテルブルグ(今のサンクトぺテルブルグ)で締結された「千島樺太交換条約」で、樺太は全島がロシア領、千島列島すべてが日本領となる。日本は大政奉還から7年目の明治8年、ロシア側は革命で銃殺されるロマノフ王朝最後の皇帝ニコライ二世の父、アレクサンドル三世の時代だ。 20世紀初頭、日露戦争で日本が勝利し、1905年に「ポーツマス条約」で樺太の南半分が日本領となる。これはロシア人にとって大変な屈辱だった。南樺太のロシア人は北緯50度以北へ追いやられ、代わりに日本の開拓団が多数樺太へ移住し、石炭生産、製紙産業、林業、農業、漁業などを繁栄させた。樺太や千島の日本人は、第二次大戦末期に日本本土の人たちが空襲などに苦しんでいた頃も平和を謳歌した』、丸山穂高衆議院議員の認識とは異なり、戦争以外でも「千島樺太交換条約」で、領土が動いたことがあったようだ。
・『それが破られたのが、ポツダム宣言受諾後の1945年8月。日ソ中立条約を一方的に破ったソ連軍が、満州、樺太、北方領土へ侵攻したのだ。戦闘らしい戦闘もなかった北方領土では、樺太や満州のような悲劇は少ないが、金品を奪うソ連軍との諍いや、本土への脱走時に船が銃撃を受けるなどして、幾人かが命を落とした。 その後、色丹島などでは2年間ほど日露混住の時代もあった。色丹島の混住時代に小学生時代を過ごした得能宏さん(85)は、「先生は怖がっていたけれど、ロシア兵が黒板のほうに来て、生徒の算数の間違いを直してくれた」と振り返る。 最終的に4島から日本人すべてが追われた。根室や羅臼などに裸一貫で引き揚げた彼らの戦後の苦労は想像に難くない』、戦後も「色丹島などでは2年間ほど日露混住の時代もあった」、というのは初めて知った。
・『意外に知られていないサンフランシスコ平和会議での失態  ソ連の対日参戦は1945年2月の米、英、ソのヤルタ会談で密かに決められた。戦争を早期終結させ、米兵の犠牲を減らしたいルーズベルト・米国大統領の求めによるものだが、スターリン・ソ連書記長の談話録には「問題が起きているわけではない日本と戦争することに国民は納得しない」と、代償に領土拡大を求める巧みな会話が残されている。 後にスターリンは、釧路と留萌を結ぶライン以北の北海道の北半分までも要求したが、米国が拒否した。実現していたら北海道は今頃、どうなっていたのだろうか。 1951年、米国との単独講和だったサンフランシスコ平和条約で、日本は「クリルアイランズ(千島列島)」を放棄した。実はこのときに、現在に至るまで禍根を残す失態が生じる。批准国会で野党議員に「放棄した千島に国後や択捉を含むのか」と訊かれた西村熊雄条約局長が、「含む」と答えてしまったのだ。 外務省はこの大失敗に触れられることを今も嫌がるが、和田春樹・東大名誉教授(ロシア史)は「どんなにつらくとも、放棄したことを認めて交渉すべきだ」と話す。外務省は、「サ条約にはソ連が参加していないから、ロシアのものとされたわけではない」としている』、「批准国会で野党議員に「放棄した千島に国後や択捉を含むのか」と訊かれた西村熊雄条約局長が、「含む」と答えてしまったのだ」、初耳だが、そうなのであれば、「和田春樹・東大名誉教授(ロシア史)は「どんなにつらくとも、放棄したことを認めて交渉すべきだ」、というのが筋だ。「「サ条約にはソ連が参加していないから・・・」は苦しい言い逃れに過ぎない。
・『1956年、鳩山一郎首相とソ連のブルガーニン首相との間で「日ソ共同宣言」が締結された。今、盛んにニュースになっている史実だ。「平和条約締結後に、色丹島と歯舞諸島は日本に引き渡すとされた」が、「引き渡す」(ロシア語では「ペレダーチ」)とは、「返す」ではなく、「私の物ですが差し上げます」というニュアンスだった。 結局、平和条約を結べないまま、世界は冷戦時代に突入。日本を自由主義陣営に引き込みたい米国のダレス国務長官が、「歯舞・色丹の返還を目指してソ連と平和条約を結ぶなら、沖縄を永久に占領する」とした有名な「恫喝」が大きな楔だった。 そして、1960年の日米安保条約延長でソ連は態度を硬化し、「領土問題は解決済み」とされる。1973年、田中角栄首相がブレジネフ書記長に「両国間の未解決諸問題」に領土問題が含まれることを認めさせたが、その後進展はなかった。80年代にゴルバチョフ政権が誕生し、91年にソ連が崩壊、続くエリツィン政権ではロシアが一旦態度を軟化させたものの、日本は何度も好機を逃してきた(これについては、後述する)。 日本人の最も身近にある国際問題の1つ、北方領土問題はこうした経緯を辿って来たのである』、「「日ソ共同宣言」では、「平和条約締結後に、色丹島と歯舞諸島は日本に引き渡すとされた」が、結局、平和条約を結べないまま、世界は冷戦時代に突入日本を自由主義陣営に引き込みたい米国のダレス国務長官が、「歯舞・色丹の返還を目指してソ連と平和条約を結ぶなら、沖縄を永久に占領する」とした有名な「恫喝」が大きな楔だった」、ここまでダレス国務長官に「恫喝」されれば、日本側が断念したのも理解できる。ただ、こうした歴史的経緯を無視・単純化して一方的に返還を要求する日本政府の姿勢にも無理がありそうだ
・『忘れられがちな史実 本当の先住民は誰だったのか  2月7日、筆者は大阪は中の島公会堂の「北方領土返還要求大会」に出かけた。入り口で「アイヌ民族抜きで交渉を進めることはおかしい」と抗議の横断幕を掲げる人たちがいた。 北方領土史で忘れられがちなのは、「本当の先住民は誰だったのか」だ。筆者は1980年代、北海道で知り合いのソ連担当の公安関係者から、「ソ連の学者たちが北海道のアイヌ民族の存在を口実に、北方領土が古来、自分たちの領土だったことにしようとしている」と聞いた経験がある。アイヌはロシア側にも居ることをテコに、「日本人より先にロシアのアイヌが千島にいた」として、日本が主張する「固有の領土」を否定しようとし、「AS協会」という組織を立ち上げたと、といった話だった。 詳細は省くが、国境という観念も希薄だったその昔、千島列島ではアリュート、樺太アイヌ、北海道アイヌら、様々な民族が狩猟生活や物々交換などをしていた。政府は、第二次大戦までは一度も外国の手に渡っていない「固有の領土」と強調している』、確かに「アイヌ民族」という先住民にまで遡れば、「国境」を超えて「アリュート、樺太アイヌ、北海道アイヌら、様々な民族が狩猟生活や物々交換などをしていた」、というのは動かし難い事実で、なかなか難しい問題だ。
・『ソ連の北方領土占領に米国が協力 なぜか後追いされない衝撃の事実  2017年12月30日の北海道新聞に「歴史の常識を覆す」報道があった。タイトルは「ソ連の北方四島占領、米が援助、極秘に艦船貸与、訓練も」というものだ。 概要は、1945年8、9月に行われた旧ソ連軍の北方4島占領作戦に、米国が艦船10隻を貸与していたというものだ。大量の艦船の提供だけではなく、ソ連兵の訓練も行ったといい、4島占領の背景に米国の強力な軍事援助があったことを示唆する内容だった。 ヤルタ会談の直後、連合国だった米ソは「プロジェクト・フラ」という極秘作戦を実施した。米国は45年5月から掃海艇55隻、上陸用舟艇30隻、護衛艦28隻など計145隻の艦船をソ連に無償貸与。ソ連兵1万2000人を米アラスカ州の基地に集め、1500人の米軍人が艦船やレーダーの習熟訓練を行った。 8月28日からソ連兵が攻め込んだ択捉、国後、色丹、歯舞の占領作戦には、米国に借りた艦船10隻を含む17隻が参加。ソ連軍は各島で日本兵の武装解除を行い、4島の占領は9月5日までに完了した。 記事には、和田春樹・東京大学教授が次のような談話を寄せている。 「北方4島を含むソ連の対日作戦を米国が軍事援助していたことは、日本ではほとんど知られておらず、発見と言える。ソ連が勝手に行ったのではなく、米国をリーダーとする連合国の作戦だったことを示す」 日本がポツダム宣言を受諾して降伏した後に、ソ連は日ソ中立条約を破棄して千島列島を南下、樺太からのソ連軍は米軍がいないことを確認して、択捉、国後島、歯舞群島、色丹島に侵攻したという「常識」を覆す話だ』、「ソ連の北方領土占領に米国が協力」というのは、全くの初耳だが、驚くべき話だ。日本のマスコミが政府を「忖度」して、この事実を無視しているとすれば、恥ずべきことだ。
・『ソ連が樺太南部と千島列島での作戦に投入した全艦船を調べた、ロシア・サハリン州戦勝記念館のイーゴリ・サマリン科学部長の論文を、同紙根室振興局が入手した。調査を主導した谷内紀夫前副局長は、「ボリス・スラビンスキーの著書『千島占領・一九四五年夏』(1993年)には、この経緯の一端が出ているが、話題にならなかった」と言う。 記事を見た千島歯舞諸島居住者連盟の宮谷内亮一・根室支部長は、「驚いた。ソ連の占領に関わっていたのなら領土問題はアメリカにも責任がある」と話す。旧島民も初耳の人は多い。一方、連盟の脇紀美夫理事長(元羅臼町長)は、「日本が降伏しているのに攻めて占領したソ連に対して、当時、アメリカが強く非難したということは聞かないから、米国のソ連軍支援は十分考えられる」と話す。 日本政府が「米軍の援助」を知らなかったはずはないが、冷戦下、米国とともに反ソ感情を煽るためにも都合の悪い事実だった。納沙布岬にある北方館の小田嶋英男館長も「ソ連は当時、連合国の一員なのでおかしくはない。引き揚げてきた人は国籍不明の船を見たとか、ロシアの船ではないと話していた。でも、ソ連軍の4島の占領にアメリカが関わった歴史を出さない方がいい、ということだったのでしょう」と推測する。 事実は北海道新聞の報道後、釧路新聞と根室新聞が報じたが、全国紙は無視した。中央メディアも外務省などに問い合わせはしたはずだ。米国に追従する安倍政権に「忖度」したのなら、情けない話だ。現代史の中で語られる出来事は、今の政治に直結しているケースが多いため、こうしたことは多い。日露首脳会談のときだけ賑やかになる北方領土問題も、その実、4島をめぐる現代史の根本事実すら国民には知らされていない』、こんなことでは、「北方領土問題」の解決など夢のまた夢だ。
・『一般人が島へ行くことはできるか?「渡航禁止」にも矛盾はらむ外務省  さて、こうした複雑な歴史を持つ北方領土だが、日本人が島を訪れることはできるのか。結論から言えば、行けないことはないものの、一般人が訪れるのはなかなか困難だ。 時代を遡れば、1989年4月、北海道新聞がメディアとして戦後初めて北方領土、国後島の上陸取材を報じた。まだソ連時代でロシア人でも簡単には入れなかった。歴史的快挙だ。 当時、筆者が親しくしていた札幌領事館のイワノフという副領事(日本語が堪能だった)は、「あんなところに大した秘密も何もないんです。日本のような発展した国の人に、あんな遅れた場所を見せたくないんですよ」と話した。 残留日本人や韓国人などの取材でサハリンに通っていた筆者は、自然やロシア人の素朴さには魅かれたが、「何と後れた場所か、1世紀前に戻ったようだ」と感じていた。戦後初めて故郷を再訪した引揚者の女性も、「ロスケ(筆者注:ロシア人。必ずしも蔑称ではない)は何してたのよ。日本時代の方が進んでたわ」と呆れていた。 ソ連社会の中で、極東地方はモスクワから見放された地域。筆者は「サハリン本島でこれなら、北方領土(同じくサハリン州)なんてどんなに原始的か」と感じていたので、イワノフ氏の話は納得できた。 1992年に「ビザなし交流」が始まった。4島交流、墓参り、自由訪問などがあるが、誰でも行けるわけではない。元居住者(子孫を含む)、返還要求運動関係者、報道関係者、学者などの専門家に限定される。日本政府は一般人の渡航を自粛するように求めている。「旅券や査証を取っての上陸はロシアの領土であることを認めてしまう」というのが言い分だ』、日本政府の言い分は苦しい言い訳に過ぎない。
・『ソ連に億単位のカネを払って北方領土の海域で漁をさせてもらう  とはいえ、北方領土や領海をめぐっては、政府とて「建前と本音」の狭間で矛盾だらけ。たとえば、一時期の中断を含めて1960年代から続く夏場の「貝殻島の昆布漁」は、ロシアに億単位の入漁料を払って北方領土の海域で昆布漁が続く。「日本固有の領土、領海」なら金を払うのは明らかにおかしいが、漁民救済の一助として止むを得ないのだ。 旅券、ビザで上陸した北海道新聞の記事をきっかけに、1990年代はピースボートなど様々な団体が旅券を取って、サハリン経由で北方領土へ渡っている。政府とて、こうした行為を日本の法律で取り締まることはできない。 1988年、アイヌ民族の男性が「国後のアイヌと共同事業をする」と言い、北海道水産部の制止を振り切って小舟で国後島へ渡った騒動があった。仲間と「ウタリ合同」というソ連との合弁会社を立ち上げて、色丹島海域で大量のカニを水揚げしてきた。北方領土を外国と認めてしまうことになる。結局、北海道海面漁業調整規則違反に問われ、国内法がソ連の実効支配海域に及ぶか どうかが最高裁まで争われたが、「及ぶ」と認定され、有罪となった。 検疫も税関も無視だから、戻れば検疫法違反や関税法違反などに問われる可能性があった。しかし、そうすると「北方領土を外国と認めてしまう」ことになるためか、その男性の罪は問われなかった。政府としても「痛し痒し」だったのだ。 日本人にとって「近くて遠い」北方領土――。返還を唱えるならば、まずはかの地を取り巻く状況がどうなっているのかを、日本人一人ひとりが深く知ることから始めるべきではないか』、マスコミは不都合な事実を含めて広く関連した情報を公開すべきだろう。

次に、6月11日付け日刊ゲンダイ「北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/255786
・『いつまで“外交の安倍”の幻想を振りまくつもりなのか。自民党は参院選公約のトップに「外交・防衛」を掲げ、「力強い外交・防衛で、国益を守る」とうたっているが、7年に迫ろうとする安倍政治で国益はむしろ失われる一方だ。ロシアとの平和条約締結交渉が暗礁に乗り上げる中、ロシアは北方領土の実効支配を強めている。 ロシアは国後、択捉両島の軍事拠点化を進め、色丹島では経済開発を進めている。色丹と歯舞群島は、1956年の日ソ共同宣言で平和条約締結後の日本への引き渡しが明記されているにもかかわらず、である。色丹島では7月中旬にもロシア資本の水産加工場が稼働するという。延べ床面積約7750平方メートルにのぼり、マイワシやサバ、スケトウダラを冷凍の切り身などに加工。日量900トンの処理能力を持ち、同じ敷地にある既存工場の日量200トンを合わせると、ロシア最大級となるという。 日ロは先月末、日本が3000億円規模で投資する北方領土での共同経済活動の早期具体化を外相会談で合意したばかりだ。河野外相とラブロフ外相による会談は、平和条約締結に向けた交渉責任者として4回目の協議だったが、こちらは成果なし。ロシアの関心が高い共同経済活動の調整を急ぎ、海産物の養殖、温室野菜の栽培、観光ツアー開発、風力発電の導入、ごみ減らし対策――の5項目の実現促進を確認した』、「ロシアは北方領土の実効支配を強めている」、のは確かで、日本は経済協力だけをタダでさせられているとの懸念が拭えない。
・『オイシイ資源はロ中で分配  筑波大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)は言う。 「北方領土は漁業資源の宝庫。色丹島には中国資本の缶詰工場なども展開し、オイシイところはすでにロシアと中国が分け合っています。漁業をめぐって日本側にうまみがあるのは販路が広いコンブやサケ、カニなどですが、中国が権益を握っているため、袖にされてしまった。代わりにウニの養殖が振り分けられたわけですが、これは中国人がほとんどウニを食べないためです。ウニの養殖にしたって、技術提供がメインで加工工場を運営できるわけではない。その上、販売先は日本ですから、日本は支援させられるだけで、カネはロシアに落ちるという青写真なのです」 共同経済活動の具体化に向けた外務省の局長級作業部会が11日、都内で開かれるというが、ロシアの食い物にされるだけなのは目に見えている』、「オイシイ資源はロ中で分配」というのでは日本は「ロシアの食い物にされるだけなのは目に見えている」、これが「外交の安倍」の実態のようだ。

第三に、7月2日付けダイヤモンド・オンライン「三井物産が出資するロシア巨大LNG、その命運を握る「黒い金庫番」の正体」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/207369
・『三井物産がロシアのLNGプロジェクトに出資することを決めた。このプロジェクトに懸ける三井物産の安永竜夫社長の思いと、三井物産の命運を握る男の正体に迫った。 6月6日からロシア・サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラム。ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席といった超大物が顔を揃える中、三井物産の安永竜夫社長の姿があった。 ロシアの民間ガス大手ノバテクが北極圏で計画する液化天然ガス(LNG)プロジェクト「アークティックLNG2(アーク2)」へ出資判断の期限が迫っていた。 同じくアーク2への出資要請を受けていた三菱商事の垣内威彦社長の姿はなかった。アーク2に対する三井物産と三菱商事のスタンスの違いが明確に表れていた。 三井物産と政府出資の独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は6月29日、アーク2に出資することを決めた。出資総額は3000億円超で、その出資割合は三井物産が25%、JOGMECが75%となる』、「三井物産」にすれば、リスクの75%はJOGMECが負うので割が良さそうに思えるが、三菱商事が乗ってこなかった裏には理由があるのだろう。
・『思惑絡み、安倍首相とプーチン大統領の前で署名式  アーク2は2023年から年間約2000万トンのLNGを生産する予定の巨大プロジェクトだ。このプロジェクトは日本、米国、ロシアそれぞれの政府の思惑が絡み、極めて政治色が濃いと業界関係者は見ている。 G20サミット(20ヵ国・地域首脳会議)に合わせた日ロ首脳会談後、安倍晋三首相とプーチン大統領の前で署名式が行われたことがそれを物語っている。 シェール革命の恩恵を受けた米国のトランプ政権は、世界のLNG市場で覇権を握ろうとしている。それに対抗するかのように、豊富な天然ガスの埋蔵量を誇るロシアは、アーク2をはじめとする北極圏のLNGプロジェクトで米国の同盟国に揺さぶりをかけている。 アーク2にはすでにノバテク(注)が6割、仏メジャーのトタールが1割、中国海洋石油集団(CNOOC)が1割、中国石油天然気集団(CNPC)の子会社が1割、それぞれ出資することが決まっていた。ノバテクは三井物産、三菱商事に出資を要請し、回答を待っていた。 日本側にも思惑があった。6年以上の長期政権となり、後世に評価されるレガシーをつくりたい安倍晋三首相は、北方領土返還を含む日ロ平和条約の締結に向け、日本企業のアーク2への出資を交渉カードとして切る準備をしていた。だから三井物産と三菱商事の出資を“援護射撃”するかたちで、JOGMECはアーク2に出資を決めたのである。 三井物産と三菱商事は事業性を見極めるだけでなく、政府の思惑も意識しなければならなかった。悩みに悩む三井物産、三菱商事の足下を見て、ノバテクはG20サミット(20ヵ国・地域首脳会議)が開かれる6月末を出資への回答期限とした。もともと出資に前向きだった三井物産は、それに応えた。三菱商事は引き続き、出資の検討を続ける模様だ。 LNGプロジェクトは、数十年にわたって投資を回収する息の長い事業である。物産は大きなリスクを抱えながら、プロジェクトを完遂させていくことになる。このアーク2には、成否の鍵を握り、リスク要因ともなる、キーマンが存在する』、「ノバテク」とは、ロシアの独立系天然ガス生産・販売会社。天然ガス生産量はガスプロムに次いでロシア国内2位。主要株主はプーチン大統領の旧友でもある石油トレーダーのゲンナジー・チムチェンコ(後述)の所有するルクセンブルクのファンド、ヴォルガ・リソーシーズで、同社株の20.77%を保有する。次いでガスプロムが10%の株式を保有(Wikipedia)。
・“黒い金庫番”は米国の制裁対象  キーマンとなる男の名はゲンナジー・ティムチェンコ。プーチン大統領の“黒い金庫番”と呼ばれ、ロシアのクリミア半島併合をきっかけに始まった米国の経済制裁対象に指定されている。 ティムチェンコ氏は急成長を遂げたノバテクを支えたとされ、ノバテクの株を23%超保有する大株主で、取締役も務めている。米経済誌フォーブスの19年の億万長者リストに名を連ね、保有資産は2.2兆円にも上る。 ティムチェンコ氏とプーチン大統領の関係は、プーチン大統領がサンクトペテルブルク市長を務めていた1990年代から始まったとされる。ティムチェンコ氏はサンクトペテルブルクの柔道クラブを創設し、プーチン大統領はその柔道クラブの名誉総裁を務めている。 ティムチェンコ氏は石油トレーダー業の発展に力を入れ、2000年に石油貿易会社のグンヴォルを設立。ロシア産原油の輸出を手掛け、世界第4位の石油トレーダーに成長した。ロシア国内の製油所やパイプラインの建設も引き受け、巨万の富を築いた。 さらに2007年、ルクセンブルクに投資基金「ヴォルガ」を設立し、ノバテクに出資。ノバテクは北極圏のLNGプロジェクトで急成長を遂げた』、「“黒い金庫番”は米国の制裁対象」、でプーチン大統領とは腐れ縁もありそうな人物のようだ。
・『プーチンが退任すれば、キーマンの地位も危うい?  グンヴォル、ノバテクの急成長の陰には、いずれもプーチン大統領の後押しがあったとされている。アーク2を含むノバテクが手掛ける北極圏のLNGプロジェクトは、ロシア政府の補助金や免税措置によって“げた”を履かされている。 米政府はティムチェンコ氏がプーチン大統領の資金源になっていると断定し、民間人ながら制裁対象に加えたのである。 権力闘争が激しいロシアでティムチェンコ氏の隆盛がいつまでも続くか見通せない上、プーチン大統領が退任すれば、ティムチェンコ氏の地位も危うくなる可能性は小さくない。業界関係者は「プーチンの後はプーチンとも言われるが、永遠には続かないはずだ。プーチンがいなくなれば、ノバテクは厳しい立場に追い込まれるに違いない」と指摘する。 物産がアーク2に出資するのは、米政府による経済制裁、ロシアの政策変更のリスクを負うことを意味するわけだ』、三井物産はずいぶん思い切ってリスクを取ったものだ。
・『前のめりになる三井物産社長の思い  三井物産にすれば、ノバテクもティムチェンコ氏についても、大きなリスクがあるのは重々承知の上での判断だ。なぜ、そこまでしてアーク2に賭けたのか。 「サハリンで苦労した安永さんは、ロシアにはよほどの思い入れがある」と三井物産関係者は明かす。 サハリンとは、ロシアの国営ガス会社であるガスプロムが極東で手掛け、物産も参画したLNGプロジェクト「サハリン2」を指す。安永社長は、このサハリン2の事業立ち上げや最終投資決定に携わっていた。 2007年、パイプライン建設をめぐる環境問題をきっかけに、三井物産は上流権益をガスプロムに譲渡せざるを得なくなった。 だからこそ、安永社長には前のめりになってでも、ロシアのプロジェクトを成功させたい思いがあるという。 三井物産はこれまで世界のLNGビジネスを牽引してきた。アーク2に参画することはそのプレゼンスを示す絶好のチャンスでもあり、需要が縮小する日本以外でLNG市場を開拓する物産の戦略に合致する。 物産関係者によれば、アーク2で生産されたLNGの多くは欧州やアジア市場に向かうとされ、物産が二つの市場にさらに食い込むきっかけになるという。 トップ自らが賭けたプロジェクトは果たして吉と出るか、凶と出るか』、三井物産で思い出されるのは、1973にイランで始めたイラン・ジャパン石油化学(IJPC)プロジェクトである。イラン革命、イラン・イラク戦争などを経て、85%まで工事が完成しながら、1988年に合弁事業を解消。プロジェクト総額6000億円のうち、日本側損失は3000億円超とされた。
https://www.nikkei.com/article/DGKDZO57831850X20C13A7TY8000/
無論、三井物産にはその教訓が生きており、二の舞を踏むことはないだろうが、やはり気になるプロジェクトだ。日本・ロシア関係も安倍政権が考えるほど簡単には行かないのではなかろうか。
タグ:日刊ゲンダイ ダイヤモンド・オンライン 日本・ロシア関係 粟野仁雄 (その8)北方領土6(北方領土「日本人が知らない」真実 占領の黒幕・返還交渉の矛盾、北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”、三井物産が出資するロシア巨大LNG その命運を握る「黒い金庫番」の正体) 「北方領土「日本人が知らない」真実、占領の黒幕・返還交渉の矛盾…」 ロシアにとっては「南方領土」 北方領土は、北から択捉島、国後島、並列する歯舞諸島と色丹島の「4島」 開国時にロシアだけは友好な態度だった 「日露和親条約」 国境線が得撫(ウルップ)島と択捉島の間とされ、樺太は「日露混住の地」となる 「千島樺太交換条約」で、樺太は全島がロシア領、千島列島すべてが日本領となる 日露戦争で日本が勝利し、1905年に「ポーツマス条約」で樺太の南半分が日本領となる。これはロシア人にとって大変な屈辱 ポツダム宣言受諾後 ソ連軍が、満州、樺太、北方領土へ侵攻 その後、色丹島などでは2年間ほど日露混住の時代もあった 最終的に4島から日本人すべてが追われた サンフランシスコ平和会議での失態 批准国会で野党議員に「放棄した千島に国後や択捉を含むのか」と訊かれた西村熊雄条約局長が、「含む」と答えてしまったのだ 外務省は、「サ条約にはソ連が参加していないから、ロシアのものとされたわけではない」としている 「日ソ共同宣言」 平和条約締結後に、色丹島と歯舞諸島は日本に引き渡すとされた」 平和条約を結べないまま、世界は冷戦時代に突入 日本を自由主義陣営に引き込みたい米国のダレス国務長官が、「歯舞・色丹の返還を目指してソ連と平和条約を結ぶなら、沖縄を永久に占領する」とした有名な「恫喝」が大きな楔だった 1960年の日米安保条約延長でソ連は態度を硬化し、「領土問題は解決済み」とされる 日本は何度も好機を逃してきた 忘れられがちな史実 本当の先住民は誰だったのか 国境という観念も希薄だったその昔、千島列島ではアリュート、樺太アイヌ、北海道アイヌら、様々な民族が狩猟生活や物々交換などをしていた ソ連の北方領土占領に米国が協力 なぜか後追いされない衝撃の事実 旧ソ連軍の北方4島占領作戦に、米国が艦船10隻を貸与していたというものだ。大量の艦船の提供だけではなく、ソ連兵の訓練も行ったといい、4島占領の背景に米国の強力な軍事援助があったことを示唆する内容 米ソは「プロジェクト・フラ」という極秘作戦を実施 米国は45年5月から掃海艇55隻、上陸用舟艇30隻、護衛艦28隻など計145隻の艦船をソ連に無償貸与。ソ連兵1万2000人を米アラスカ州の基地に集め、1500人の米軍人が艦船やレーダーの習熟訓練を行った ソ連兵が攻め込んだ択捉、国後、色丹、歯舞の占領作戦には、米国に借りた艦船10隻を含む17隻が参加。ソ連軍は各島で日本兵の武装解除を行い、4島の占領は9月5日までに完了した ソ連が勝手に行ったのではなく、米国をリーダーとする連合国の作戦だったことを示す ロシア・サハリン州戦勝記念館のイーゴリ・サマリン科学部長の論文 『千島占領・一九四五年夏』(1993年) 事実は北海道新聞の報道後、釧路新聞と根室新聞が報じたが、全国紙は無視した 一般人が島へ行くことはできるか?「渡航禁止」にも矛盾はらむ外務省 元居住者(子孫を含む)、返還要求運動関係者、報道関係者、学者などの専門家に限定 日本政府は一般人の渡航を自粛するように求めている。「旅券や査証を取っての上陸はロシアの領土であることを認めてしまう」というのが言い分だ ソ連に億単位のカネを払って北方領土の海域で漁をさせてもらう 「北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”」 ロシアは北方領土の実効支配を強めている ロシアの関心が高い共同経済活動の調整を急ぎ、海産物の養殖、温室野菜の栽培、観光ツアー開発、風力発電の導入、ごみ減らし対策――の5項目の実現促進を確認した オイシイ資源はロ中で分配 ロシアの食い物にされるだけ 「三井物産が出資するロシア巨大LNG、その命運を握る「黒い金庫番」の正体」 アークティックLNG2(アーク2) 出資総額は3000億円超で、その出資割合は三井物産が25%、JOGMECが75%となる 思惑絡み、安倍首相とプーチン大統領の前で署名式 “黒い金庫番”は米国の制裁対象 ゲンナジー・ティムチェンコ プーチンが退任すれば、キーマンの地位も危うい? 前のめりになる三井物産社長の思い 安永社長は、このサハリン2の事業立ち上げや最終投資決定に携わっていた。 2007年、パイプライン建設をめぐる環境問題をきっかけに、三井物産は上流権益をガスプロムに譲渡せざるを得なくなった イラン・ジャパン石油化学(IJPC)
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公務員制度(その3)(財務省は生まれ変われるか?再生プロジェクトの中身を元財務官僚が検証、”市職員の政治的中立性”を蔑ろにする菅今治市長の責任、元駐イラン大使が強制わいせつで刑事告訴 公邸でセクハラ) [国内政治]

公務員制度については、昨年6月4日に取上げたままだった。今日は、(その3)(財務省は生まれ変われるか?再生プロジェクトの中身を元財務官僚が検証、”市職員の政治的中立性”を蔑ろにする菅今治市長の責任、元駐イラン大使が強制わいせつで刑事告訴 公邸でセクハラ)である。

先ずは、元財務官僚で明治大学公共政策大学院教授の田中秀明氏が昨年10月25日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「財務省は生まれ変われるか?再生プロジェクトの中身を元財務官僚が検証」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/183284
・『10月19日、決裁文書の改ざん、事務次官のセクハラ疑惑といった不祥事が続いた財務省が、コンプライアンス(法令順守)や内部統制などについての自己改革案をまとめた中間報告書として、「財務省再生プロジェクト進捗報告」を発表した。上司だけではなく部下からも人事評価する「360度評価」などが盛り込まれている。具体策は今後さらに詰めることになっているが、果たして、これで財務省は立ち直れるだろうか。 報告書を読み解くと、それなりにまとまっていると言えるが、結論を先に言えば問題点の分析が十分とは言えない。報告書で指摘されているように、コンプライアンスや内部統制、あるいは長時間労働・ハラスメントは問題だが、これらは、財務省の使命を達成する上で、最も大きな問題であろうか』、「問題点の分析が十分とは言えない」というのは、こうした報告書の通例だ。
・『360度評価と内部通報制度は改革の柱となるか  最初に、今回の報告書のポイントを整理する。 報告書は冒頭に、一連の不祥事により財務省の信頼が大きく低下していると述べる。そして、改革の目的や方向として、「こうした問題行為を二度と起こさないようにするためには、一連の問題行為の発生を許した財務省の組織風土を抜本的に改革することにより、常に国民の皆様の視点に立って時代にふさわしい仕事のやり方や働き方ができ、高い価値を社会に提供できる組織へと自らを変革し、コンプライアンス・内部統制が実質的に機能する組織風土を創り上げていく必要があると考えています」と記述する。 そこで、職員に対するアンケート調査やヒアリングを行い、財務省が組織として抱える課題を抽出し、改革の推進体制の設計を行った。その上で、若手・女性職員など幅広い職員の参画も得ながら、秋池玲子参与(ボストン・コンサルティング・グループ)と担当職員で今後必要となる改革の具体策について議論し、「財務省再生プロジェクト」として、具体策の方向性とその工程表を整理したのが、今般の報告書である』、通常の報告書とは違って、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)の秋池氏が中心となって「アンケート調査やヒアリング」、「議論」などを行って出した力が入ったもののようだ。
・『アンケート調査及びヒアリングで抽出された問題としては、「継続的な実行や見直しが行われておらず、PDCAが回っていない」「今回の問題は、一部の部局に固有の問題ではなく、財務省全体に共通する問題」「様々な職員の役職・業務に応じた組織的な能力開発があまり行われていない」「360度評価の導入と内部通報制度の強化が必要」「人事評価について、何が評価されるのか、どのような人物像が求められているかがよくわからない」「本省では長時間労働が前提となっており、効率的な働き方をしようという意識が低い」「多様な人材の活躍・登用が必要」といったことが挙げられている。「財務省が人に推薦できる職場かと問われると、どちらとも言えない」という回答もあり、正直に答えた結果と言える。 そして、今後取り組むべき課題を整理し、コンプライアンスの確保と内部統制の構築を目指すためには組織風土の改革が必要とし、具体的には、(1)財務省の組織理念の確認・共有、(2)働き方改革・業務効率化、(3)人材育成、(4)双方向のコミュニケーション、(5)省内コミュニケーションを挙げる。 また、具体的に改革を推進するため、事務次官を本部長とするプロジェクト本部を立ち上げるとともに、(1)コンプライアンス推進、(2)人材育成、(3)働き方改革・業務効率化、(4)コミュニケーション向上の4つのタスクフォースを設置するという。来年夏頃までに、細部を検討し、報告書を出すという。 以上、改革案を概観したが、問題はこれで財務省が変わるかどうかである。書かれている内容の1つひとつに、特に違和感を覚えることはないが、全体として、問題を解決できるのか大いに疑問がある。コンプライアンスや内部統制などの問題は整理されているが、それで十分とは言えないからである。360度評価や内部通報制度は速やかに導入すればよいが、これらが果たして問題解決の最も重要な処方箋なのだろうか。また、内部統制を強化するということに異論はないが、何をどうやって強化するのか、よくわからない』、問題点を深く掘り下げずに、対応策だけ並べた印象だ。
・『コンプライアンスだけでは不十分 専門性の低下こそ問題の根元  今般の改革案は、直接的には、不祥事を繰り返さないために、コンプライアンスを徹底することに主眼が置かれている。職員からのヒアリングやアンケートなども実施され、問題点の洗い出しも行われている。コンプライアンスは当然に取り組むべき課題であるが、それが強化されれば、財務省の組織としてのパフォーマンスは向上するのだろうか。 一連の不祥事は、当事者の個人的な問題という側面もあるが、報告書も指摘するとおり、財務省という組織の風土やカルチャーに根差している。それは、長い間に蓄積されたものであり、組織そのもののあり方に関係する。とすると、それはコンプライアンスだけの問題ではない。報告書は、「常に国民の皆様の視点に立って時代にふさわしい仕事のやり方や働き方ができ、高い価値を社会に提供できる組織へと自らを変革」と記述する。 また、財務省の使命、すなわち「納税者としての国民の視点に立ち、効率的かつ透明性の高い行政を行い、国の財務を総合的に管理運営することにより、健全で活力ある経済及び安心で豊かな社会を実現するとともに、世界経済の安定的発展に貢献すること」も引用したい。本来、これこそが、目指すべき目標である。コンプライアンスや内部統制が充実すれば、組織の使命が達成され、高い価値を社会に提供できるようになるのだろうか』、確かに「財務省の使命」を達成することが、「目指すべき目標である」というのはその通りだ。
・『不祥事の根本的な問題は専門性が疎かになっていること  筆者は、財務省の組織としての最大の問題は、過度に政治化し、専門性が疎かになっていることだと考えている。それは、一連の不祥事の根源的な問題だ。 財務省は霞が関の中でも、予算編成や税制改正などを通じて、政治家とのつながりが強い役所であり、政治家との調整が重要である。人事面においても、政治家と調整できる能力が評価され、専門性に基づく経済や財政の分析は二の次である。これに対しては、本来は政治家が担うべき仕事を役人がやらざるを得ないからだという反論もあるだろうが、他国の財務省とは大きく異なっている。 筆者は、国際会議などで諸外国の財務省の担当者と会う機会があるが、彼らの多くは経済学の博士号を有している。日本の財務省に、経済学の博士号を有するチーフエコノミストはいるだろうか。また、法曹や会計士の資格を有する職員も財務省には必要だが、今の財務省に何人いるだろうか。報告書でも、「経済分析能力の強化をはじめ業務横断的な専門能力を強化する」といった記述はあるが、コンプライアンスなどと比べると、課題としての重要性は低く扱われている。 政治的な調整が不要だと言っているのではない。若手から幹部に至るまで、調整ばかりに駆けずり回っていることが問題である。それでも、財政規律が維持され、効果的な資源配分や公平かつ効率的な税制が達成できているのであれば、調整の仕事は評価すべきであろう。しかし、現実は、そうとは言えない』、確かに海外の財務省と比べると、専門能力の軽視は著しい。公共部門に限らず、民間企業も含め、最近は「「出来ない」とは答えるな、どうやったら「出来るか」を考えよ」といった処世訓がまかり通っているが、専門家が「出来ない・やるべきでない」と答え難くする圧力になることは確かだ。
・『たとえば、消費税の軽減税率や教育の無償化などは、高所得者をより優遇するものであるにもかかわらず、費用対効果の分析も乏しく、導入が決まってしまった。もちろん、民主主義のプロセスから言えば、最終的には、政策は内閣が判断すべきことになるが、財務省が証拠やデータに基づいてどこまで問題を提起し、議論を喚起しただろうか。 年末に発表される政府予算案の資料では、いわゆる埋蔵金(特別会計の積立金)を一般会計の歳入に繰り入れると、一般会計の財政赤字が減り、財政が健全化していると説明する。しかし、そのようなわけがない。諸外国のように、予算案策定時に、一般会計と特別会計を統合した貸借対照表を作れば、積立金の取り崩しにより財政が悪化することがわかるが、財務省はそのような資料は作成しない』、安倍政権を「忖度」して、不都合な事実を隠す体質は大いに問題にすべきだ。
・『人を入省年次別に順番に処遇 多くの管理職が1年で交代する  専門性低下の背景として、事務次官をはじめとする管理職が、ほぼ毎年人事異動することが挙げられる。平成に入ってから財務事務次官は24人いるが、2年以上務めた次官はたった3人である(事務次官の問題については、ダイヤモンド・オンライン2018年5月10日「財務省騒動で考える、省庁の『事務次官』は本当に必要か」を参照)。局長や課長も、秘書課長などごく一部を除いて、1年で異動する。 これは、幹部人事が役所に入った年次による順番となっているからである。たとえば、各局の総務課長は、ほぼ同期が同じ時期に就き、毎年、1年ずつ若返る。さらに、昔と比べて天下りが難しくなったので、同じポストに同期で交代して就くことも多い。こうした年次主義では専門性が身に付かず、キャリアが発展しないため、霞が関でも、最近は若くて優秀な職員ほど早期に辞めて、民間企業などに転職する。 要するに、人事は適材適所というより、人を入省年次別に順番に処遇する面が強いのだ。同期入省の中では、それなりに厳しい競争はあるものの、同期の中で選抜された後は順番である。 後輩が自分の上司になることは、民間企業では当たり前でも役所では例外である。佐川宣寿元理財局長は、森友学園問題で文書改ざんを指示したとされているが、彼は、そもそも理財局で働いた経験がなく、国有財産の仕事を知らなかったはずである。だから文書を改ざんしたとは言えないが、国有財産の仕事を熟知していたら、対応も違ったのではないか。 財務省でも、主計局・主税局・国際局は、その局で課長などを務めずに局長になることはほとんどないが、関税局・理財局・財務総合政策研究所、そして国税庁は違う。課長の経験がない人が落下傘のように、突然局長や国税庁長官となること多いのだ。これも専門性が疎かになっている事例である。 あるポストを1年しか務めないということがわかっていれば、何もリスクをとらず、前例を踏襲することが最も合理的な行動である。リスクを取って挑戦して失敗すれば、出世の道が閉ざされるからだ。サラリーマン社会であればよく見られる現象ではあるが、上司に対しては「忖度」、部下に対しては「パワハラ」という行動も、そうしたことが背景にある。報告書は、「幹部職員のリーダーシップに基づく推進と省を挙げた取組」を行うとしているが、1年で異動する幹部職員がどうやってリーダーシップなど発揮できるのか』、せめて3年程度を標準にすべきだろう。
・『役所にはそもそも「内部統制」の概念がない  報告書でも内部統制の問題が指摘されている。しかしそもそも、近年企業で導入されているような内部統制の考え方は役所にはない。政府の財務会計を規定する会計法には、内部牽制として契約担当者と支払担当者を区別する仕組みなどはあるが、驚くべきことに、内部統制や内部監査という言葉は法律に規定されていない。内部監査は財務大臣通知などの運用で行われているに過ぎない。 内部統制とは、簡単に言えば組織がその目的を効率的・効果的に達成する、あるいは業務の適正を確保するための体制を構築することであり、特に重要な点は、不正などのリスクを事前に分析し、それを減じるために適切な措置をとることである。また、具体的な手段の1つが内部監査である。報告書は中間報告とはいえ、内部統制の基本的な方向やリスク分析については書かれていない。 報告書は、一連の不祥事を受けてコンプライアンスの重要性を強調するが、それにはコストがかかること忘れてはならない。企業でも、粉飾会計の事件が続き、コンプライアンスを含めコーポレート・ガバナンスの強化が求められているが、幹部が不正に関わるとそれを事前に防ぐことは難しく、また防ごうとすると監視するためのコストが膨大になる。 コンプライアンスの強化で想定されるのは、上司が保身のために部下に過剰なコンプライアンスを求め、コストが増大することである。コンプライアンスだからと言って、残業時間が長くなることが良いことか。英国では、財務省が省庁の内部統制についてのガイドラインを出しているが、過剰なコストにならないように警告している。 また、「コンプライアンス」というと、新しい概念のように聞こえるが、従来の言葉で言えば、手続重視である。過去数十年に渡り、日本においても、成果志向の行政に向けた取り組みが行われてきたが、手続重視で懸念されるのは、時計の針が逆戻りすることである。職員は、手続きだけを守り、成果を改善することやリスクをとって新しいことに挑戦することは控えるだろう』、「手続重視」と「成果志向」は矛盾する部分もあるだろうが、基本的には両立を目指すべきだろう。
・『財務省再生のための2つの解決策 管理職は最低3年務めるべき  これまで問題を整理してきたが、これらを解決するためにはどうすればよいか。360度評価や内部通報制度など報告書に書かれていることに異論はないが、それで真の意味での組織改革になるかと問われれば、「否」である。以下では、特に必要な解決策について、人事管理と内部統制の2つの面に焦点を絞って考える。 人事については、第1に、管理職は原則として3年務めるようにするべきである。最初の1年で仕事や課題を勉強し、2年目で改善・改革案を実行し、3年目でその成果を評価するのだ。つまり、上司への忖度ではなく、3年でどのような成果を挙げたかを検証して、次の人事につなげる。もちろん、ポストによる業務の難しさの相違などは、考慮すべきである。 第2に、室長や課長クラスは、一部の省でも導入されているように、省内公募も導入すべきである。公募を導入するためには、まずポストごとに職務を定義し、それを遂行するために必要な能力を定義しなければならない。手を挙げた者を公平に評価することも求められる。そうすれば、上司を忖度したり、おべっかを使って出世したりすることは難しくなる。 また、公募しても任命されない場合は、その理由を説明する必要も出てくる。さらに、積極的に財務省以外からの登用も進めるべきであり、この点では、外部からの採用が増えている金融庁が参考になる。企業に限らず、役所でも「多様性」が人事のカギとなっている。 こうした人事管理にはコストがかかる。従来の人事評価は、比較という意味では、総合職でいえば、20人程度の同期の中でしか行われなかったので、人事コストは低かった、しかし、それでは、年次別の硬直的な人事を変えることはできない。 昨今、民間でも働き方改革の一環として、仕事内容や勤務地などを限定する「ジョブ型雇用」の必要性が指摘されているが、役所も同じである。ジョブ型雇用は、専門性を高めるための仕組みでもある。財務省に限らず、役所では、ゼネラリストを育てることに偏り過ぎている。まずは、プロフェショナルを育成し、その中からゼネラリストとして次官などを選抜するべきだ。公務員がプロフェッショナルとなれば、その専門性が市場で評価され、天下る必要もなくなるだろう』、「ジョブ型雇用」については、官民とも各職務別にジョブを如何に定義していくかは難問だろう。
・『長時間労働を常態化させる霞が関の「残業」の原因とは  内部統制と言うと、「統制」という言葉のイメージから身構えてしまいがちだが、実はそのようなものではない。長時間労働や働き方を見直すためには、まずは現在の業務内容やプロセスを分析し、どこに無駄があるか、どのプロセスを省力化できるか、どこに不正や間違いを犯すリスクがあるかを考える必要がある。電子決済などICTの活用も必要となるが、とかく役所は現在の仕事をそのままにしてICTを導入するので、システムの構築や運営に膨大なお金をかける一方で、仕事は効率化しない。 コンプライアンスというならば、内部通報だけではなく、内部監査委員会を設置し、そこには外部の専門家(社外取締役として)も加える。不正防止の要は、「視られている」という意識である。具体的には、局ごとに組織目的の達成を妨げるリスクの分析も求められる。 そもそも中央省庁には、内部管理や内部監査が法令に規定されていないことが問題である。財務省は、財務・会計の制度官庁として、会計法を改正して、内部統制や内部監査を規定しなければならない。ただし、これらの作業には、労働や時間などのコストがかかるので、他の業務を省力化する必要がある。) 霞が関の残業の元凶と言われるのは、国会対策、法令審査、予算編成の3つである。 最初の2つは財務省だけの問題ではないが、予算編成は財務省自身の問題である。毎年、予算編成は夏から12月まで続くが、半年も来年度の予算要求作業に費やしている国は、先進国ではあまりない。要求作業にエネルギーを使い過ぎているから、事後評価が疎かになり、予算や事業が効率化しないのだ。諸外国では、予算は中期財政フレームで3~4年の大枠を決めているので、毎年細かい査定などは行わない。毎年の予算編成は、政治的に重要な事項など、戦略的な問題に注力している』、決算を軽視しているので、「事後評価が疎かになり、予算や事業が効率化しないのだ」というのはそも通りだ。
・『現状はOBにとって耐え難い思い 財務省は霞が関の先頭を走れるか  筆者は財務省で働いた元公務員である。一連の不祥事は他人事ではなく、後輩たちが苦労しているのを見るのは耐え難い思いである。不祥事続きで、「財務省など解体すればよい」といった乱暴な意見もあるが、それでは問題は解決しない。今回の報告書は中間報告であり、今後その具体化が検討される。それを期待したいが、報告書は使命達成のための組織改革と言いつつ、検討の対象範囲が狭く、問題分析も十分とは言えない。 財務省の組織を守ることが目的ではない。財務省設置法は、「財務省は、健全な財政の確保、適正かつ公平な課税の実現、税関業務の適正な運営、国庫の適正な管理、通貨に対する信頼の維持及び外国為替の安定の確保を図ることを任務とする」と規定する。こうした任務を達成する上で、今の財務省に何が欠けているか、何がいったい一番大きな問題なのかを議論し、それを解決する処方箋が求められている。 財務省の問題に焦点を当てて議論してきたが、問題は大なり小なり霞が関全般に共通する。財務省には、霞が関の先頭に立って自己改革し、そのパフォーマンスを上げることにより、国民からの信頼を取り戻せるかが問われている』、中間報告は極めて不十分なようだが、筆者らの批判も踏まえて、最終報告書では大いにブラッシュ・アップしてほしいものだ。

次に、元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏が2月14日付け同氏のブログに掲載した「”市職員の政治的中立性”を蔑ろにする菅今治市長の責任」を紹介しよう。
https://nobuogohara.com/2019/02/14/%e5%b8%82%e8%81%b7%e5%93%a1%e3%81%ae%e6%94%bf%e6%b2%bb%e7%9a%84%e4%b8%ad%e7%ab%8b%e6%80%a7%e3%82%92%e8%94%91%e3%82%8d%e3%81%ab%e3%81%99%e3%82%8b%e8%8f%85%e4%bb%8a%e6%b2%bb%e5%b8%82/
・『今週木曜日発売の週刊文春(2019年2月21日号)の記事【加計誘致の今治市が大臣就任祝賀会で地方公務員法違反の疑い】 に、「本来公務員は政治的中立性が求められ、職務として祝賀会の事務を担った市職員は、政治的行為を制限した地方公務員法に違反する」「命令に逆らえず政治的活動に従事したとすれば、市長のパワハラにも当たる」との私コメントが掲載されている。 同記事で問題にされている市長は、加計学園問題に関して批判を受けてきた菅良二今治市長だったということで、今治市での加計学園の獣医学部設置問題を厳しく批判してきた私が、その批判の延長上で、今治市長を批判しているように思った人も多いかもしれない。 しかし、この大臣祝賀会を開催した「市長」が「今治市長」であることは、文春記者の取材を受けてコメントした時点では知らされていなかった。私は、事案の内容を聞き、地方公務員法に違反する行為を市役所職員に職務として行わせた市長の責任についてコメントしたものだ』、記者の取材は、ごく一部の事実だけを示して、それに対する「コメント」を求めるケースが多いので、大いにあり得る話だ。
・『「あっせん利得処罰法違反」についての週刊誌コメント  週刊文春からは、これまでにも法律の解釈・適用の問題についてコメントを求められることが多かったが、私としては、不正確なコメントをすると、自分の法律・コンプライアンスの専門家としての信用にも関わるので、慎重に検討し、必要に応じて文献・資料等も調査した上でコメントするようにしている。 私のコメントが大きな意味をもったのは、2016年2月の、甘利明氏(当時、経済財政担当大臣)のURの用地買収問題に関する「口利き・金銭授受疑惑」について週刊文春からコメントを求められ、「あっせん利得処罰法違反に該当する疑いがある」と指摘したことだった。この時は、あっせん利得処罰法の条文解釈のみならず、立法経緯や、甘利氏の政治家としての「影響力」に関わる政治経歴等も調べ、自信をもって「あっせん利得処罰法違反の疑い」を指摘した。この問題については、その後国会でも、衆議院予算委員会公聴会で公述人として、特殊法人のコンプライアンスについて意見を述べたが、その際にも、あっせん利得処罰法の適用に関して法律見解を述べた(【独法URのコンプライアンスの視点から見た甘利問題】)。 しかし、週刊文春に限らず、週刊誌からコメントを求められても、「法律違反の疑いがあるとは言えない」と述べ、コメントが掲載されなかったことも多い。最近では、週刊文春から、片山さつき大臣の問題について、「口利き疑惑があっせん利得処罰法違反に当たるのではないか」とコメントを求められたが、「権限に基づく影響力」に基づいて「口利き」をした事案とは考えられないので「あっせん利得処罰法違反の疑いはない」と答え、私のコメントは掲載されなかった。 今回は、先週土曜日に週刊文春の記者から電話があり、「現職市長が発起人となって国務大臣の就任祝賀パーティーを主催し、会費1万円で飲食を提供するパーティーを開き、その事務局事務を市職員が行った。パーティー収入の中から、10万円が国務大臣に『就任祝い金』として渡された」という事案について、法律に違反するかどうかの見解を求めてきた』、「法律違反の疑いがあるとは言えない」とのコメントであれば、「掲載されなかったことも多い」のはやむを得ないだろう。
・『「政治資金パーティー」への該当性  まず考えたのは、政治資金パーティーに関する政治資金規正法の規定に違反する可能性であった。もし、この祝賀パーティーが政治資金パーティーに該当するとすれば、政治資金規正法22条の9で、「地方自治体の職員が、その地位を利用して、政治資金パーティーに対価を支払つて参加することを求め、若しくは政治資金パーティーの対価の支払を受け、若しくは自己以外の者がするこれらの行為に関与すること」が禁止されており、この「地方自治体の職員」には、特別職・一般職であっても該当するので、市長の地位を利用して市役所職員に開催の事務を行わせたことは違法となる。 しかし、「政治資金パーティー」については、政治資金規正法8条の2で「対価を徴収して行われる催物で、当該催物の対価に係る収入の金額から当該催物に要する経費の金額を差し引いた残額を当該催物を開催した者又はその者以外の者の政治活動に関し支出することとされているもの」と定義されており、この「市長」が主催したパーティーについては、収入のうち10万円が国務大臣に対して「就任祝い金」として渡った事実があっても、収入から経費を差し引いた残額が、「政治活動に関し支出することとされている」と言えるか否かは微妙である。この祝賀会が政治資金パーティーに該当し、市長の行為が地位利用による政治資金パーティーへの参加を求める行為として「政治資金規正法違反の疑い」を指摘することは難しいと判断した。 ただ、政治資金規正法上の「政治資金パーティー」に該当するというためには、パーティーの目的や開催の経緯・会の収支・差額の使途などを、もう少し詳しく調べる必要があり、該当することを前提に政治資金収支報告書への記載義務や罰則適用を議論することはできない、ということであり、大臣就任祝賀として、大臣たる政治家を支持する「政治資金パーティー」に近いものであることに変わりはない』、なるほど。
・『市職員の祝賀会への関与と地方公務員法の「政治的行為の制限」  政治資金パーティーに形式上該当しないとした場合に、次に問題となるのは、国務大臣就任祝賀パーティーを市長が主催し、その事務や会費の募集に市職員が関わることと、地方公務員法の「政治的行為の制限」との関係だ。 「特別職地方公務員」に当たる市長には、政治的行為の制限はないが、「一般職地方公務員」である市職員には政治的中立性が求められる。その市職員が職務として政治家の大臣就任祝賀会の事務を行い、会費の募集に関わり、その会費収入の一部が、大臣たる政治家にわたったということは、常識的に考えても、地方公務員の政治的中立に関するコンプラインス違反だと言える。 市民にとっては、政治的に中立な立場で市の業務に従事しているはずの市職員が、特定の政治家を支持するパーティーの開催のために動員され、会費集めをさせられていること自体が許しがたい行為であることは明らかだ』、「「特別職地方公務員」に当たる市長には、政治的行為の制限はないが、「一般職地方公務員」である市職員には政治的中立性が求められる」、というのはよく理解できた。
・『地方公務員法36条2項は「政治的行為の制限」について  職員は、特定の政党その他の政治的団体又は特定の内閣若しくは地方公共団体の執行機関を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、あるいは公の選挙又は投票において特定の人又は事件を支持し、又はこれに反対する目的をもつて、次に掲げる政治的行為をしてはならない。 と規定しており、この「次に掲げる政治的行為」の「三」が「寄附金その他の金品の募集に関与すること」とされている。 国務大臣の就任祝賀パーティーを行うことは、内閣の一員として任命された国務大臣を支持することを通して、「特定の内閣」を支持する目的と解することができるし、パーティーの会費の募集に関与することは、政治資金パーティー券の募集と同様に、「金品の募集」に当たると考えられる。 週刊文春の記事によれば、パーティーの〈お問合せ先〉は、「今治市総務調整課」、領収書には参加費1万円を領収した事務取扱者として、課長名の判子が押されている。とのことであり、パーティーの事務局を市の総務調整課職員が全面的に担い、会費の徴収まで行ったということになる』、今治市のやり方は、組織的で悪質だ。
・『祝賀会開催に関する市長の市職員への命令は「パワハラ的」  もっとも、特別職たる市長には、この「政治的行為の制限」は適用されないし、市職員が、上記の規定に反した場合も、罰則がなく、懲戒処分の対象になるだけなので、市長が市職員にそれをやらせたとしても、それ自体が、犯罪の共謀になるわけではない。 しかし、逆に言えば、このような「政治的行為の制限」に反する市職員の行為は、罰則の対象とはならないので、違反が認められた場合も、市当局として採り得る措置は、当該市職員に対して懲戒処分を行うことしかない。しかし、その「懲戒権者」は、市のトップである「市長」なのである。市長が主催した政治的活動としてのパーティーに、市長から指示されて事務を行ったり、会費を集めたりした市職員が、市長によって懲戒処分される、というのは全く本末転倒の話である。地方公務員法は、そもそも、「政治的行為の制限」に違反する行為が、首長の指示や命令によって行われることを予定していないのである。 それだけに、この問題は深刻である。市職員は、政治的中立を求められていることは十分に認識しているはずであり、本来、市長から、政治家の就任祝賀会の事務を行うよう命令を受けても、それを拒否するのが当然である。しかし、市職員にとっては、市長は市役所の組織のトップである。その命令に逆らえるはずがない。このような状況に追い込まれ、政治的活動に従事させられた市職員にとって、市長の命令はパワハラと評価することもできる』、なるほど、説得的だ。
・『菅市長の責任の重大性  週刊文春の記事によって、就任祝賀パーティーの発起人となった市長が、「菅良二今治市長」であることを知った(就任を祝賀されたのが国家公安委員会委員長である「山本内閣府特命担当大臣」であることは、コメントの確認をする際に知った。)。 記事によれば、菅市長は、「政治活動ではなく、大臣の祝賀会」と説明し、市側も「祝賀会は政治活動ではなく、儀礼的なもの」と回答しているようだが、大臣就任を祝うということ自体が、「大臣たる政治家への支持」という性格を持つのであり、「祝賀会」であることも、「儀礼的」であることも、政治活動であることを否定する根拠にはならない。 過去の同様の事例として、2013年11月に、自民党の武田良太衆院議員の防衛副大臣就任祝賀会を、田川市郡の全市町村の首長や地元県議らが発起人となって1人5千円の会費制で立食パーティー形式で開くに際して、自治体の首長らが呼びかけ、田川市職員が区長会などに参加を要請していたことが、公務員の政治的中立性が損なわれるなどとして、批判されたケースがある。 この事例では、市職員は、祝賀会への参加を要請しただけで、会費の徴収等の事務局事務を行ったとはされていないが、それでも「政治的中立性」に反することが問題となっている。 前記のとおり、今回の山本大臣の就任祝賀会は、今治市長が発起人となり、市職員が事務局を務め会費の徴収まで行ったのであり、地方公務員法が禁止する「政治的活動」の性格が一層顕著だということだ。 自治体職員の懲戒権者である首長自らが、公務員の政治的中立性に関するコンプライアンス違反を命令し、本来、納税者たる市民のために、政治的に中立的立場で職務を行うべき市職員が、「特定の政治家の政治活動の成果を祝うパーティー」を全面的にサポートすることは、到底許されることではない。 菅市長は違法行為の責任を直接問われるものではないが、政治的責任は極めて重大である』、「菅市長は違法行為の責任を直接問われるものではないが、政治的責任は極めて重大である」、との判断は説得的だ。

第三に、4月13日付け日刊ゲンダイ「元駐イラン大使が強制わいせつで刑事告訴 公邸でセクハラ」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/newsx/251873
・『元駐イラン大使の駒野欽一氏(72)が同大使を務めていた時に、テヘランの大使公邸で部下の女性職員にセクハラ行為を行っていたことが分かった。13日の毎日新聞が報じた。 同紙は、昨年8月に外務省人事課が作成した内部文書を入手。 それによると、駒野氏は、大使離任前日の2012年10月14日、女性にキスをするなどのセクハラ行為をし、その後も女性にメールを送り続けるなどしていた。翌年2月、同省官房長は駒野氏に対し「女性に一切コンタクトしないでほしい」などと注意したという。一方、女性はセクハラ行為で「急性ストレス反応」との診断を受け、一時休職。先月、強制わいせつ容疑で駒野氏を警視庁に刑事告訴した。告訴状で女性は「胸を触られスカートの下から手を入れられ、太ももをなでられた」などと、内部文書に記された行為より、はるかに悪質な被害を主張している』、よく考えてみれば、7年前の事件が今頃になって発覚した理由、セクハラ行為が「離任前日」になった理由、被害女性が「刑事告訴した」のが先月と大幅に遅れた理由、外務省として駒野氏への注意以外に処分はなかったのか、など疑問山積だ。お粗末極まる事件だが、警視庁はどうするのだろう。
タグ:日刊ゲンダイ 公務員制度 郷原信郎 ダイヤモンド・オンライン 田中秀明 同氏のブログ (その3)(財務省は生まれ変われるか?再生プロジェクトの中身を元財務官僚が検証、”市職員の政治的中立性”を蔑ろにする菅今治市長の責任、元駐イラン大使が強制わいせつで刑事告訴 公邸でセクハラ) 「財務省は生まれ変われるか?再生プロジェクトの中身を元財務官僚が検証」 自己改革案をまとめた中間報告書として、「財務省再生プロジェクト進捗報告」を発表 360度評価と内部通報制度は改革の柱となるか アンケート調査及びヒアリングで抽出された問題 コンプライアンスだけでは不十分 専門性の低下こそ問題の根元 不祥事の根本的な問題は専門性が疎かになっていること 人を入省年次別に順番に処遇 多くの管理職が1年で交代する 役所にはそもそも「内部統制」の概念がない 財務省再生のための2つの解決策 管理職は最低3年務めるべき 長時間労働を常態化させる霞が関の「残業」の原因とは 現状はOBにとって耐え難い思い 財務省は霞が関の先頭を走れるか 「”市職員の政治的中立性”を蔑ろにする菅今治市長の責任」 菅良二今治市長 「あっせん利得処罰法違反」についての週刊誌コメント 甘利明氏 URの用地買収問題に関する「口利き・金銭授受疑惑」 「政治資金パーティー」への該当性 市職員の祝賀会への関与と地方公務員法の「政治的行為の制限」 「特別職地方公務員」に当たる市長には、政治的行為の制限はないが、「一般職地方公務員」である市職員には政治的中立性が求められる 地方公務員法36条2項は「政治的行為の制限」について 祝賀会開催に関する市長の市職員への命令は「パワハラ的」 菅市長の責任の重大性 菅市長は違法行為の責任を直接問われるものではないが、政治的責任は極めて重大である 「元駐イラン大使が強制わいせつで刑事告訴 公邸でセクハラ」 元駐イラン大使の駒野欽一氏 大使離任前日の2012年10月14日、女性にキスをするなどのセクハラ行為をし、その後も女性にメールを送り続けるなどしていた 同省官房長は駒野氏に対し「女性に一切コンタクトしないでほしい」などと注意 女性はセクハラ行為で「急性ストレス反応」との診断を受け、一時休職。先月、強制わいせつ容疑で駒野氏を警視庁に刑事告訴 7年前の事件が今頃になって発覚した理由 セクハラ行為が「離任前日」になった理由 被害女性が「刑事告訴した」のが先月と大幅に遅れた理由 外務省として駒野氏への注意以外に処分はなかったのか 疑問山積
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金融関連の詐欺的事件(その9)(HIS澤田会長の巨額詐欺被害で「あの大学」の名前が出てきた事情 別の詐欺事件の裁判中に…?、スルガ銀の救世主になった新生銀が描く「名誉挽回」の思惑、大赤字で社員3割超が早期退職 急成長の投資用アパートTATERUの転落) [金融]

金融関連の詐欺的事件については、4月17日に取上げた。今日は、(その9)(HIS澤田会長の巨額詐欺被害で「あの大学」の名前が出てきた事情 別の詐欺事件の裁判中に…?、スルガ銀の救世主になった新生銀が描く「名誉挽回」の思惑、大赤字で社員3割超が早期退職 急成長の投資用アパートTATERUの転落)である。

先ずは、ジャーナリストの時任 兼作氏が4月9日付け現代ビジネスに寄稿した「HIS澤田会長の巨額詐欺被害で「あの大学」の名前が出てきた事情 別の詐欺事件の裁判中に…?」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63960
・『捜査線上に現れた「日大人脈」  旅行代理店大手のエイチ・アイ・エス(HIS)会長であり、長崎県のテーマパーク・ハウステンボスの社長でもある澤田秀雄氏が、「M資金まがい」の投資詐欺被害に遭ったとみられる、との報道がなされている。 実際はどうなのか――。 「事実だ」と語るのは、長崎県警の捜査関係者だ。 「2月末、東証上場へ向けて準備を進めていることを公表したハウステンボスとしては、詐欺被害の原資が澤田氏の要請でハウステンボスから出されており、その後、澤田氏が所有していたHISの株式を売却して被害による欠損を埋めるなどの会計操作があったため、事をうやむやにはできずに、先頃、長崎県警に被害届を提出した。そのことから、被害者が澤田氏であることが判明した」 同県警はハウステンボスからの被害届を受け、捜査に着手。すでに騙し取られた投資資金の行方をつかんだともいうが、その一方、東京地裁では投資による利益も含めた金額の支払いを求める民事訴訟が進行中である。原告は、ハウステンボスの事業にも関わる澤田氏の関係者。この関係者は同時に、警視庁にも詐欺の容疑で刑事告訴を行っている。 そうしたなか、この問題に絡んで、ひそかに「別の問題」が浮上し、注目を集め始めている。警視庁の捜査関係者がこう明かす。 「告訴を受けて調べてみると、“日大闇人脈”のひとりと言われるAという人物が捜査線上に浮上した。 このAには、日大の幹部とつるんで、日大が発注する工事をエサに詐欺まがいのことを行った過去がある。その幹部は、田中(英寿)理事長の側近。大学の中枢にいるだけに、おざなりにできない」 日大と言えば、昨年5月にアメフト部の「悪質タックル事件」が発生して以降、数々の問題が表面化し物議を醸してはきたが、投資詐欺のような噂は寡聞にして聞かない。 いったいAは、澤田氏の詐欺事件のどこに、どうかかわっているというのだろうか。 澤田氏の事件のきっかけは、昨年2月、ハウステンボスが考案した金本位制に基づく仮想通貨事業で金の調達を一手に引き受け、澤田氏に高く評価された金取引会社社長の石川雄太氏のもとに、こんな話が持ちかけられたことだった。 「リクルート創業者の江副浩正氏が、安定株主対策として預けた株が、財務省に大量に保管されている。財務省とリクルートの承諾があれば、ワンロット50億円といった大口に限り、市価の1割引き程度で供給される」 これを聞いた石川氏は、ワンロットの購入を決め、澤田氏に相談して資金提供を受けた。だが、代金を支払おうとも、株が引き渡されることはなかった。 そこで石川氏は、元金返済と株の転売利益の支払いを求めたものの叶わず、代わりに同額の収益が上がるという新たな投資案件を持ちかけられた。その投資案件の運用・管理をしているとされる人物がAだったのである。 しかしAは、まず11億円余を石川氏の口座に振り込み、いったん信用させたのち、40億円の偽造為替手形を交付して、そのまま連絡を絶ってしまった』、「財務省」に保管中のリクルート株など、まさに現代版M資金だ。戦後のM資金は、大企業の社長などが引っかかったが、当時は企業金融の超逼迫時代で、やむを得ない面もあった。リクルート事件は、リクルート子会社のリクルート・コスモス株を公開前に政財界に広くばら撒いたことが発覚、竹下内閣崩壊につながった事件である。こんな話にうっかり乗った澤田氏も、お粗末だ。
・『「別の詐欺事件」の裁判が進行中  石川氏は2018年11月、58億3000万円の支払いを求めて東京地裁に提訴。同日、警視庁捜査2課に告訴状を提出した。 つまりAは、ありもしないリクルート株を名目とした「M資金まがい」の詐欺事件の後段に登場し、別の投資詐欺を行った結果、現在、民事・刑事の事件当事者となっているわけだ。 さらにAは、この事件と同時期に、別の件でも裁判沙汰になっていたことが判明した。しかも、こちらはまさに日大を舞台にした詐欺事件だ。 前出の警視庁の捜査関係者が語る。 「事件の概要は、日大の仕事を欲しがっている業者を騙して、4000万円近くのカネを引き出したというもの。2017年に東京地裁に提訴され、現在も裁判が続いている」 訴状を見てみると、事の起こりは2013年2月、業者が知人を通じてAを紹介されたことであったという。その部分を引用しておこう。〈被告A(訴状では実名。以下同)は被告UN校友会(UNはNippon Universityの頭文字)の代表取締役と称し、自分は被告日本大学の執行部と常に仕事をしており、被告日本大学に特別な力を有しており、被告日本大学に関する大抵のことなら何でも可能であると自慢げに話し、その直後、原告Bに対して、実際に被告日本大学の常務理事である被告Cを紹介した。 そして、被告A及び被告Cは、真実は、(千代田区神田)駿河台所在の日本大学病院の業務を受託する業者を選定する権限がないのに、被告A及び被告Cの指示に従えば、日本大学病院の業務を行う業者に指定され、確実に仕事を受注できるかのように原告らを欺罔(ぎもう)し(た)〉 これをきっかけに、日大工学部の工事などほかの案件も持ち出し、時には「理事長への工作資金だ」「理事長の直接案件として進行している」などと説得して、2014年3月までの間に3800万円を騙し取ったという。 業者はそれ以後、ひたすら受注の報せを待ったが朗報はなく、「2016年末には」との約束も反故にされ、翌2017年に提訴に踏み切った。そして、2018年、公判が始まり、現在なお進行中ということだ』、日大の利権まで悪用するとは、Aは生来の詐欺師のようだ。
・『なぜ、こんな話に…  要するにAは、別の詐欺事件に関する裁判の最中に、澤田氏を相手に投資詐欺を行っていたわけである。 「日大ブランドの次は、M資金めいたリクルート株という按配だ。マンモス大学・日大のうまみについては言うまでもないが、リクルート株について言えば、かつて子会社のリクルートコスモス社の未公開株が政治家や官僚らに賄賂として譲渡された一大疑獄事件があったせいか、いまだ信用力があるらしい。 財務省が保有しているというのも巧妙なしかけだが、それにしても悪質極まりない。ましてAは、リクルート株などないのを承知で、日大名目の詐欺で裁判中にもかかわらず、さらに別の詐欺を持ちかけているとみられるだけに始末に悪い。今度こそ、何とかしないと」 前出の警視庁の捜査関係者はそう話すものの、リクルート株名目のほかの詐欺事件も注視してきた金融庁関係者は、 「騙す方が悪いに決まっているが、それにしてもHISほどの大企業の経営者ともあろう人まで、こんな話にどうして騙されてしまうのか」 と首をかしげた。このまますんなり終わるとも思えない、後味の悪い事件だ』、澤田氏は被害者とはいえ、なんとも見っともない話だ。ハウステンボスは「2~3年後の上場を目指す」としているが、こんなことでは上場など夢のまた夢だろう。

次に、5月17日付けダイヤモンド・オンライン「スルガ銀の救世主になった新生銀が描く「名誉挽回」の思惑」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/202602
・『5月15日、不動産投資向けローンをめぐる組織的な不正を働いたスルガ銀行は、新生銀行と家電量販大手のノジマの2社と業務提携を結ぶと発表した。ただ、救世主として現れた新生銀にとっても、今回の提携話をうまく活用したい懐事情がある。 窮地からの起死回生――。この言葉が似合うのは、未曾有の不正融資問題により経営危機に直面しているスルガ銀行だけではないかもしれない。 銀行界からりそなホールディングスと新生銀行、家電量販大手のノジマ、ネット証券グループのSBIホールディングス。他業界他業種の名前が飛び出たスルガ銀のパートナー探しは、5月15日に新生銀行とノジマの2社との業務提携という形で一時的な閉幕を迎えた。 ここで「一時的」と記したのは、スルガ銀が今回の提携について、この2社を含む第三者と、業務提携よりも踏み込んだ資本提携を結ぶ「可能性を排除するものではない」とわざわざ公表しているからだ。ある新生銀幹部も、事前に「出資の話までは5月15日に間に合わない」と判断していたこともあり、6月に行われるスルガ銀の株主総会までに、今後も出資に関する協議が進む可能性が残されている』、スルガ銀の株主総会前にとりあえず「パートナー」を決めておこうということだろう。
・『スルガ銀といえば、静岡県沼津市に本店を構えながら、都内を中心とした不動産投資向けローンに軸足を置いてきた地方銀行だ。その収益性が高いビジネスモデルには金融界も一目置いていたが、女性専用シェアハウスの「かぼちゃの馬車」を巡り不正疑惑が浮上。ふたを開けてみれば、組織的に不適切融資やパワハラが横行するという目を覆いたくなるような惨状だった。5月15日公表の調査報告書では、契約書の改ざんなどが疑われる不正融資の案件は、金額にして1兆円超と不動産投資向けローン全体の6割以上を占めることが判明している。 同じく、15日に発表された2019年3月期決算。スルガ銀は純利益で970億円の赤字に陥った。不正まみれの不動産投資向けローンが焦げ付くことを見越して貸倒引当金を積み増し、それが巨額な損失となったためだ。また、スルガ銀の足元における預金残高は3兆1656億円となり、1年間で9240億円もの預金が流出。スルガ銀に対する顧客からの信頼の、低下のほどがうかがえる。 こうした事情があったからこそ、スルガ銀単独での信頼回復は難しいとし、不正発覚直後から提携話が飛び交った。結果としては、新生銀と、すでに5%弱の株式を取得していたノジマが第一陣として手を挙げることとなった』、スルガ銀は確かに単独では破綻寸前だ。
・『スルガ救済により名誉挽回を図る  ただ、今回新生銀が選ばれたことについて、新生銀の内部の人間も「うちは消去法だ」と嘆いている。もとをたどれば、「スポンサー候補として金融庁が期待していた」(金融庁関係者)はずのりそなが早々に離脱。どうしても「銀行」の名を冠するところに支援を託したい金融庁の思惑が絡み、新生銀に白羽の矢が立った形だからだ。 そこに、工藤英之社長が「提携に前向きだった」(新生銀関係者)ことが後押しする。背景にあるのは、大手銀行の中で唯一、公的資金が国から注入されたままの銀行として、名誉挽回したいという思いだ。 そもそも新生銀のルーツは、かつて長期の運転資金を企業に供給し、産業界を支え続けた旧日本長期信用銀行。この長銀が平成バブル崩壊後の不良債権問題で経営破綻し、再生したのが今の新生銀となる。 公的資金の注入で一時国有化されたこの銀行は、リーマンショック直後に2期連続の赤字を出したこともあり、いまだに公的資金を返済できていないという“スネの傷”を抱えている。故に「公的資金を返せないなら、せめて金融当局が困っている課題に積極的に答えるしかない」(別の新生銀関係者)と恩売りを図ったというわけだ』、「恩売りを図った」というのはあり得るシナリオだ。
・『スルガ協業は地銀提携の呼び水か  ただ、スルガ銀との提携話を単なる恩売りで終わらせたくないというのが新生銀の本音だろう。というのも、新生銀の公的資金は普通株に転換されており、株価が上がれば国は保有する新生銀の株を売って公的資金を回収する、という筋道が立てられている。つまり、株価を上げなければ新生銀の悲願である公的資金の完済はなし得ないのだ。 その株価が低迷している中で、今回の提携を底上げのための「起死回生策にしたい」という思惑を働かせないわけはないはずだ。 さらに、新生銀の社外取締役であり同時に大株主にあたるクリストファー・フラワーズ氏が新生銀の株式を売却する意欲を示している。つまり、株主からの圧力を回避するためにも、株価上昇のための早期プランが必要不可欠だといえる。 では、その鍵を握るのは何か。両陣営は今後、無担保ローンや住宅ローンなどの個人向け業務、事業承継などの法人向け業務、そして資産の流動化などに関する連携と大きく3分野での事業提携を進めていく。例えば、三つ目に上げた資産の流動化に関して、すでに債権の証券化などは「多くの地銀からニーズが出てくるだろう」(新生銀幹部)と見込んでいる分野だ。スルガ銀が抱えている住宅ローンを、新生銀が債権化するというビジネスで好事例をつくることができれば、次の地銀提携の“呼び水”にすることができるだろう。 一方で、スルガ銀との提携をめぐっては、新生銀にも懸念事項が残る。その一つが人材派遣。スルガ銀は提携先からの役員派遣を検討している段階だが、仮にトップマネジメント層を派遣することになっても、そうした再生請負人を果たすような「経営人材はうちにはいない」(前出の新生銀幹部)からだ。 スルガ銀に新生銀、そして金融庁。各社の思惑のパズルのピースを、強引にはめ込んだ末に実現したように思える今回の提携話は、スルガ銀が株主提案を実施する6月の株主総会までに、もうひと山迎えることになりそうだ』、「スルガ銀が抱えている住宅ローンを、新生銀が債権化(正しくは証券化)」といっても、統計的な大数の法則が通用する普通の住宅ローンとは、全く性格が異なりリスクも大きいアパートローンとなると、証券化の壁は高そうだ。「経営人材はうちにはいない」のであれば、新生銀には何が出来るのか心もとない。

第三に、8月26日付けダイヤモンド・オンライン「大赤字で社員3割超が早期退職、急成長の投資用アパートTATERUの転落」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/212751
・『今年10月末、グループ全社員約400名中136名が早期退職で会社を去る――。インターネットを活用した投資用アパート販売で一躍成長したTATERU。投資用不動産業界の新星は、なぜここまで急転落したのか』、興味深そうだ。
・『残高改ざんの不正営業で売上高75%減  投資用アパート販売TATERUは、経営再建を目的として今年7月に早期退職優遇制度(募集人員約160名)を実施した。退職者の大半がアパート用地の仕入れや施工に関わっていた社員だ。これにより2.8億円の特別損失を計上するという。 その結果を発表した8月8日、同時に2019年12月期の中間決算も発表された。売上高は前年同期比で約62%減の約142億円、営業損失は約65億円、当期純損失は約89億円の大赤字に転落した。通期予想も振るわず、売上高は前期比75%減の約194億円にとどまり、当期純損失は約106億円を見込む。 過去をさかのぼると、10年12月期に約26億円だったTATERUの売上高は、17年12月期に約670億円(連結)まで急増。純利益も約40億円計上していた。16年12月に、東証一部上場にまで登り詰めるなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。 そんな新星が、なぜここまで急転落したのか。急成長の裏で不正な営業活動が横行したことが明るみになったからだ。 アパート建築契約において、TATERUの営業本部長や部長代理を中心とする31名によるエビデンス改ざんが、成約棟数2269件のうち336件で発覚した。 具体的には、宅地の売買契約において、金融機関から融資を引き出すため預金残高を改ざんしたというもの。これが宅地建物取引業法違反となり、7月12日から1週間、国土交通省から宅建業に関わる全業務を停止するという行政処分を受けた』、こうした「エビデンス改ざん」は、スルガ銀行での「かぼちゃの馬車」でも多発した。
・『今後の資金繰りは大丈夫?  こうしたこともあり、主力事業である投資用アパート販売がほとんどできなくなった。そのため、業績悪化に歯止めがかからなくなってしまった。 もともとTATERUはオーナー希望者からの要望を受けて土地を仕入れるというスタンスだったため、在庫はそれほど抱えていなかった。だが問題発覚以降、融資を受けられなくなったオーナーの土地を引き取り、販売用不動産として在庫を抱えることになってしまった。それを事業資金確保のため、他の不動産会社に一括売却してきたという経緯がある。貸借対照表を見ると、約127億円あった販売用不動産が約73億円まで減り、その損失が約32億円に上ったようだ。 問題は今後の資金繰りだ。まず残った販売用不動産約73億円については、「これまでのような大きな損失を出さず処分できる」(TATERU広報担当者)と見込んでいる。また、手元の現預金は約104億円残っている。純資産も約139億円あり、すぐさま資金不足や債務超過に陥る状況ではなさそうだ。そのため、TATERUの財務諸表には、経営に危険信号がともったことを意味する「継続企業の前提に関する注記」はまだ付されていない。 「今後、アパート販売は縮小するが続けていきたい。また新規事業も拡げていきたい」(TATERU広報担当者)と巻き返しを図る考えだが、そもそも投資用アパートは「かぼちゃの馬車・スルガ銀行問題」以降、融資がかなり厳しくなってしまった。業界環境を考えても、本業だったアパート事業がかつての勢いを取り戻す可能性はほぼないだろう。 またTATERUが言うところの新規事業とは、関連会社でスマートロックやチェックインタブレットといったICTを活用した宿泊施設運用サービス、ホテル運営、賃貸経営オーナー向けのIoT機器の企画・開発などだが、中間決算時点の売り上げは合わせて約6億円。経営への貢献度はまだまだ低い。 TATERUは今期で赤字を一掃し、来期黒字化の意欲を見せている。だが、何より一度失った信頼を取り戻すのは難しい。古木大咲社長自身がまだ、記者会見などの表舞台で今回の事件の反省と将来のビジョンを語ることもしていない。IoT機器は管理会社などにも売り込んでいるが、将来の見通しが立たない会社のサービスがそう簡単に広まるとも思えない。経営再建に向けて事業縮小しているTATERUだが、苦難の道がしばらく続きそうだ』、「まず残った販売用不動産約73億円については、「これまでのような大きな損失を出さず処分できる」」との言い分は、売り易いものから売ったとすれば、残ったものではもっと大きな売却損が出る懸念もある。株価は175円と、2018年の高値2200円程度に比べると、低迷の極致だ。苦境を脱することは可能なのだろうか。
タグ:金融関連 ダイヤモンド・オンライン 澤田秀雄 現代ビジネス 時任 兼作 詐欺的事件 (その9)(HIS澤田会長の巨額詐欺被害で「あの大学」の名前が出てきた事情 別の詐欺事件の裁判中に…?、スルガ銀の救世主になった新生銀が描く「名誉挽回」の思惑、大赤字で社員3割超が早期退職 急成長の投資用アパートTATERUの転落) 「HIS澤田会長の巨額詐欺被害で「あの大学」の名前が出てきた事情 別の詐欺事件の裁判中に…?」 捜査線上に現れた「日大人脈」 「M資金まがい」の投資詐欺被害に遭った このAには、日大の幹部とつるんで、日大が発注する工事をエサに詐欺まがいのことを行った過去がある。その幹部は、田中(英寿)理事長の側近 金取引会社社長の石川雄太氏 「リクルート創業者の江副浩正氏が、安定株主対策として預けた株が、財務省に大量に保管されている。財務省とリクルートの承諾があれば、ワンロット50億円といった大口に限り、市価の1割引き程度で供給される」 同額の収益が上がるという新たな投資案件を持ちかけられた。その投資案件の運用・管理をしているとされる人物がAだった まず11億円余を石川氏の口座に振り込み、いったん信用させたのち、40億円の偽造為替手形を交付して、そのまま連絡を絶ってしまった』 「別の詐欺事件」の裁判が進行中 日大の仕事を欲しがっている業者を騙して、4000万円近くのカネを引き出したというもの。2017年に東京地裁に提訴され、現在も裁判が続いている Aは、別の詐欺事件に関する裁判の最中に、澤田氏を相手に投資詐欺を行っていた ハウステンボスは「2~3年後の上場を目指す」 「スルガ銀の救世主になった新生銀が描く「名誉挽回」の思惑」 スルガ銀行は、新生銀行と家電量販大手のノジマの2社と業務提携を結ぶと発表 女性専用シェアハウスの「かぼちゃの馬車」を巡り不正疑惑 不正融資の案件は、金額にして1兆円超と不動産投資向けローン全体の6割以上を占めることが判明 2019年3月期決算。スルガ銀は純利益で970億円の赤字に陥った。不正まみれの不動産投資向けローンが焦げ付くことを見越して貸倒引当金を積み増し、それが巨額な損失となったためだ 預金残高は3兆1656億円となり、1年間で9240億円もの預金が流出 新生銀と、すでに5%弱の株式を取得していたノジマが第一陣として手を挙げることとなった スルガ救済により名誉挽回を図る 公的資金を返せないなら、せめて金融当局が困っている課題に積極的に答えるしかない 恩売りを図った スルガ協業は地銀提携の呼び水か 「大赤字で社員3割超が早期退職、急成長の投資用アパートTATERUの転落」 グループ全社員約400名中136名が早期退職で会社を去る 残高改ざんの不正営業で売上高75%減 急成長の裏で不正な営業活動が横行したことが明るみになったからだ エビデンス改ざんが、成約棟数2269件のうち336件で発覚 国土交通省から宅建業に関わる全業務を停止するという行政処分 今後の資金繰りは大丈夫? 約127億円あった販売用不動産が約73億円まで減り、その損失が約32億円に上った 残った販売用不動産約73億円については、「これまでのような大きな損失を出さず処分できる」(TATERU広報担当者)と見込んでいる 「継続企業の前提に関する注記」はまだ付されていない
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東京電力問題(その3)(スマートメーターの発火事故が続発する「根深い事情」、東電の小売り事業会社社長が事実上「更迭」された裏事情、東電 再エネ事業分社化の裏に筆頭株主「お上」の意向、東京電力はなぜ 賠償金を「払い渋る」のか 突然の賠償金返還請求 膨大な資料要求も) [国内政治]

東京電力問題については、2017年5月27日に取上げたままだった。2年以上経った今日は、(その3)(スマートメーターの発火事故が続発する「根深い事情」、東電の小売り事業会社社長が事実上「更迭」された裏事情、東電 再エネ事業分社化の裏に筆頭株主「お上」の意向、東京電力はなぜ 賠償金を「払い渋る」のか 突然の賠償金返還請求 膨大な資料要求も)である。

先ずは、ジャーナリストの岡田幹治氏が本年3月12日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「スマートメーターの発火事故が続発する「根深い事情」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/196561
・『全国で切り替えが進められている次世代型の検針器「スマートメーター」の発火事故が続いている。 発火のほか異常音や照明がちらつくなどのトラブルも、東京電力と中部電力の管内で確認されている。 メーターに想定以上の電気が流れて発熱するためだが、原因のほとんどは製品の不良と施工ミスだ』、我が家も「スマートメーター」に切り替わったが、「発火事故」とは穏やかではない。
・『東電管内、27件の発火事故 異常音や照明のちらつきも  昨年11月30日午後2時ごろ、ランチタイムが終わりに近づき、客もまばらになっていた茨城県つくば市の飲食店に、アスファルトの舗装工事のような油っぽいニオイが漂った。 不審に思った店のマネジャーが外に出てみると、外壁に取り付けてあったスマートメーターから青白い炎が出ていた。あわてて備え付けの粉末消火器で消し止めたが、外壁が焼け焦げた。 店の電気が使えず、営業ができなくなったため、客には頭を下げて帰ってもらったという。 事故直後、マネジャーは「本当にびっくりした。気が付くのが遅かったら建物に燃え移っていた」「営業補償をもらいたいぐらい」などと話していたという。 「東京電力パワーグリッド」(東電の会社分割で2016年4月に発足した配送電会社=東電PG)は12月1日、自社のサイトでこの火災を公表し、6日には「原因は施工不良の可能性が高い」と発表している。 今年2月末に店を訪れると、マネジャーは「その件はいっさいコメントできない」と話すだけ。しかし痕跡は残っていた。 スマートメーターは真新しくなり、壁板が50センチ四方ほど取り換えられたことが、はっきりわかった。 発火まではいかないが、近所中に聞こえる異常音が出る事故も報道されている。 2017年元日、東京都江戸川区の住宅で、外壁に取り付けてあったスマートメーターから「ピーー」という、ものすごい音が出て鳴りやまず、大騒ぎになった。 当時、住人は留守だったが、向かいに住む夫婦が気づいて東電に電話で知らせ、1時間ほどで駆けつけた作業員がメーターを取り換え、異常音はおさまった。 取り換えにきた作業員が、このまま放っておけば火事になるところだった、と話したという(『東京新聞』昨年11月21日朝刊)。 東電管内だけでも、スマートメーターの発火事故は2016年5月から昨年末までに24件判明しており、今年も2月までに3件発生している(電磁波問題に取り組む市民団体「電磁波問題市民研究会=電磁波研」調べ)。 また東電PGによれば、異常音は約200件起きている。中部電力管内では、発火・異常音・室内の照明のちらつきといった「トラブル」が50件以上確認されている(注1)。 注1 日本に先駆けて切り替えが行われたアメリカやカナダなどでも、火災が多数発生している。米カリフォルニア州では2012年に、スマートメーターを設置した翌日に火災が発生し、1人が死亡する事故も起きている(加藤やすこ『電磁波による健康被害』)』、「つくば市の飲食店」のケースで、「マネジャーは「その件はいっさいコメントできない」と話すだけ」、というのは補償契約に守秘義務がついているためなのかも知れない。「発火事故は2016年5月から昨年末までに24件判明しており、今年も2月までに3件発生」、「異常音は約200件起きている」、というのは気味悪い話だ。
・『想定以上の電気が流れる原因は「製品不良」と「施工ミス」  スマートメーターは、通信機能を持ったデジタル式の電力量計だ。 従来のメーターがアナログ型で、検針員が毎月検針していたのに対し、電気使用量を30分ごとに(中継点を経由して)電力会社へ送信できる。 政府が閣議決定した「エネルギー基本計画」で「2020年代早期に全所帯・全事業所に導入する」と定めている。 電力会社最大手の東電管内では、すでに約1900万台を交換し、20年度中に全世帯2900万台の交換を終える計画だ。 そのスマートメーターで発火や異常音が起きるのはなぜなのか。 東電PGの説明によれば、メーター内に想定以上の電気が流れて発熱するためで、その原因は2つある。 1つは、東光東芝メーターシステムズ(埼玉県蓮田市)製のメーターの一部、約9万台に欠陥があったことだ。 設置した世帯にはダイレクトメールで連絡し、年末までに正常なメーターに取り換えるという(注2)。 もう1つの原因は、スマートメーターを取り付けた際の施工ミスだ。 スマートメーターでは電線が何本もネジで留められているが、その締め付けが弱かった場合などである。 再発防止対策として東電PGは、設置工事を発注した会社に注意を喚起し、約600人の作業員に研修を実施した。さらに、設置済みメーターから5200台を抽出してネジの締め付け具合をチェックし、全体の状況を把握するという。 だが、施行工事を一時停止し、全数を調べるといった大掛かりな調査をしたわけではなく、発火事故は今後も発生する可能性がある。 スマートメーターが設置された家庭では、できるだけ早く異常に気づけるよう、ニオイや音に常に注意しているくらいしか、対応策はないようだ。 注2 不良製品は、東光東芝メーターシステムズで15年3~12月に製造された型式「S43WS-TA」と16年8~9月に製造された型式「S18WS-TA」。スマートメーターの表面にメーカー名・型式・製造年が表記されているので、自宅のメーターが該当するかどうか確認できる』、「施工ミス」については「発火事故は今後も発生する可能性がある」、というのは困ったことだ。
・『なぜ見過ごされてきたのか 「安全性軽視」や慣れあい?  「不良製品」や「施工ミス」がなぜ見逃されてきたのか。 そこには日本の電力業界に根ざす「構造問題」があるように思われる。 まず「安全性軽視」だ。 東電の場合、2010年度に実証実験を始めたが、福島第一原発の事故で中断し、仕様変更などをして14年4月に切り替えを始めた。20年度末に導入を終えるという10電力会社の中では最短の計画を公表している。 そのために製品の製造と設置作業を急ぎに急いでいる(他社は中部電力の22年度末など、22~24年度)。その過程で安全が二の次にされた疑いがある。 東電管内では16年5月から発火事故が起きていたが、東電PGがそのことを自社のサイト(ホームページ)で発表したのは、最初の発火から2年半後、東京新聞が報道した翌日の昨年11月19日だった。 そのサイトでは、発生したのは「メーター内部の基板部分の発熱による焦げ跡や異音などの不具合」であり、「メーターの各種部品には難燃性の部材を使っているので、建物に被害を与える可能性は極めて低い」と記している。 しかし、つくば市の場合など、真夜中に発生して気づくのが遅れていたら、どうなっていただろうか。 スマートメーターの突然の発火に驚き、水をかけて消火しようとした人もいたが、これは感電の可能性のある危険な行為だ。 「スマートメーターは発火する可能性があること」や「消火には粉末式消化器を使うこと」などを事前に広報しておけば、このような行為は防げたはずだ。 次に指摘できるのは、「ファミリー企業」で仕事を分け合うことによる慣れ合いの体質だ。 東電発注の検針器は、東電幹部が天下りしているメーター製造会社4社が受注してきた 東光東芝メーターシステムズ(東電が35%出資する東光高岳の子会社)・大崎電気工業・三菱電機・GE富士電機メーターの4社だ。 スマートメーターでもこの「慣行」が続けば、コスト高・料金値上げの一因になると、原発事故の後、指摘され、メディアでも「スマートメーター利権」(『週刊ダイヤモンド』12年4月14日号)などと取り上げられた。 このため東電は、予定していた「指名入札」をやめ、「国際入札」にしたが、結果は従来と変わらなかった(網代太郎『スマートメーターの何が問題か』)。 その東光東芝メーターシステムズ製のメーターで、不良製品が9万台も出たのだ。競争もなく身内同士の受発注で、製造工程や品質の管理に甘さがあったと言われても仕方がない』、検針員が不要になるということで、導入を急いだのだろうが、安全性をないがしろにして急いだというのはお粗末だ。
・『情報隠す体質は変わらず 事故の「報告不要」を指示した総務省  安全性の軽視や閉鎖的な体質は、情報の公開が独りよがりで、都合の悪いことは隠す体質につながる。 たとえば、メーターの切り替え工事をする場合、施工業者から各家庭にチラシ1枚の連絡があり、断らない限り実施される。 配布される「取替工事のお知らせ」(チラシ)には、訪問予定日と工事の際の停電の有無が大きく記入されているだけで、何のために、どんなメーターに交換するのか、交換にはどんなリスクがあるのかなどの説明はない。 チラシが配布されたその日のうちに工事が行われ、知らないうちに交換された例や、偽りの説明をして強引に交換した例もあり、事実上の強制とみる人が多い。 ところで、電気製品の発火は、消費者庁などが運営する「事故情報データバンクシステム」に掲載(登録)し、広く消費者に知らせて注意を促すべき事故だ。 消費者安全法は、商品の安全性の問題で消費者が身体に一定程度の被害を受けたり、受ける恐れがあったりする事故の報告を行政機関に義務づけている。 実際、スマートメーターの発火事故は同システムに2017年1月から掲載されてきた。ところが、いつの間にか、東京都内の事故が掲載されなくなった。 原因は、総務省消防庁が18年4月、東京消防庁に「今後、報告しないよう」指示したことだった。 消防庁によれば、スマートメーターは東電PGの所有物であり、消費者が家の中で使う一般的な家電ではない。このような製品の火災は報告しないことに決めており、東京消防庁の運用は間違いだという。 これについて石田真敏総務相は昨年12月7日の会見で「スマートメーターの火災が複数発生している状況を踏まえると、消費者の注意を喚起することも重要だと考えられる。今後、消費者庁とも相談し、スマートメーターも報告対象とすることについて検討していきたい」と述べている。 昨年4月といえば、電磁波研などが、政府の全世帯への設置計画に対して、「スマートメーターの全戸強制をやめさせよう」と、訴え、衆院議員会館で集会を開いた時期だ。 その時期にあえて消防庁が「事故報告不要」の指示を出したことになる』、「事故の「報告不要」を指示した総務省」、というのは余りに政治的で不当な判断だ。国会でも責任を追及すべきだろう。

次に、3月28日付けダイヤモンド・オンライン「東電の小売り事業会社社長が事実上「更迭」された裏事情」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/198153
・『3月7日、買い物客が行き交う東京都葛飾区の大型ショッピングセンターに東京電力ホールディングス(HD)の小売り事業会社、東電エナジーパートナー(EP)の川崎敏寛社長の姿があった。トップ自らが買い物客に声を掛け、電気・ガスを売り込んでいたのである。 危機感の表れであり、自社の営業部隊を鼓舞する狙いもあったのだろう。川崎社長は今年に入ってから退任のうわさが社内外で広がっていたこともあり、最後のパフォーマンスだったのかもしれない。 東電グループの人事が3月13日に発表された。東電EPは川崎社長が退任し、秋本展秀・常務取締役サービスソリューション事業本部長が4月1日付で新社長に就任する。東電関係者によると、事実上の更迭だ。 2017年4月に就任した東電HDの小早川智明社長は、もともと東電EPの社長。いわゆる“東電守旧派”をぶち抜いて初の営業部門出身者がトップになったこともあり、小早川社長の後任として就任した川崎EP社長は当初、「次期HD社長候補の一人」とまでうわさされていた。 小早川HD社長はなぜ、就任から2年で川崎EP社長を更迭するのか』、確かに不自然な「更迭」だ。
・『自由化後に顧客離脱を食い止められず  最も大きな理由は、16年4月に電力小売りが全面自由化され、顧客離脱を食い止められなかったことにある。 東電は電力小売り全面自由化が始まる前の16年3月末時点で、一般家庭向けの「電灯」分野は約2700万件の顧客基盤を有していた。自由化が始まると、最大のライバルである東京ガスをはじめ、新規参入組に次々と顧客を奪われた。顧客基盤は今や2000万件にまで落ち込んでしまった。 それまで地域独占というぬるま湯に浸かっていた東電EPは、営業力が弱点だった。しかも東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故で、ブランドイメージは大幅に悪化していた。 電力自由化の対抗手段として、日本瓦斯やLIXILグループ、ベンチャー新電力であるパネイルなどと提携。ガスや住宅機器、AIなど電力以外の商材を組み合わせ、付加価値のあるサービスを展開して勝負する方針を打ち出しはした。 しかし、東電EPの営業部隊と提携先と設立した合弁会社のサービスでカニバリが起きるなど迷走。東電関係者によれば、特にLIXILやパネイルとの提携は鳴かず飛ばずで、目標未達の公算が大きいという。 では、業績面の責任だけがトップ交代の理由かといえば、そうではないようだ』、「一般家庭向けの「電灯」分野の顧客基盤」の喪失は確かに顕著だ。
・『筆頭株主である政府の影  積極的にアライアンスを推し進める東電EPの“大方針”は、17年5月に策定された新々総合特別事業計画に基づくもの。この計画には、東電の筆頭株主で政府が50%出資する原子力損害賠償・廃炉等支援機構が大きく関与した。 政府、つまり経済産業省の意向が働いている。政府が筆頭株主になって東電を事実上国有化して以降、東電のお目付役として経産官僚を送り込んできた。 今回の更迭は、小早川HD社長というよりは経産省の思惑が絡んでいると、多くの業界関係者が見ている。 秋本EP新社長は、管理部門が長く「当たり障りない人物」(東電関係者)。「経産省は省の言うことを聞くトップを据えたかったのだろう」と業界関係者は読む。 もっとも、地域独占ビジネスだったため、層が厚い別の部門に比べ営業畑の幹部人材は不足している。営業を主導する人物が見当たらなかったというのもあろう。 営業力増強の戦略を伴わないトップ交代であるなら、それで勝ち抜けるほど電力自由化後の競争は甘くはない』、この段階になっても、「経産省」の介入でEP社長をすげ替えたことで、東電社内の意欲は地に落ちてしまうだろう。

第三に、8月19日付けダイヤモンド・オンライン「東電、再エネ事業分社化の裏に筆頭株主「お上」の意向」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/212057
・『筆頭株主である国が求める「再エネの主力電源化」に沿う  夏の風物詩よろしく、東京電力ホールディングス(HD)が“花火”を打ち上げた。 東電HDは、2020年4月に再生可能エネルギー発電事業を分社化する方針を明らかにした。かねて小早川智明社長は「再エネの主力電源化を推し進め、再エネ事業で2030年度までに1000億円の利益創出を目指す」として、国内外で総規模600万~700万キロワットの再エネを開発する意向を打ち出していた。 分社化はこれを実現するためのものとして、同社は「迅速な意思決定のための責任と権限の明確化」などと狙いを説明している。 もっとも、東電HDが再エネに注力すべく分社化を決めた背景には“お上”の意向が働いているとの見方が、業界関係者の間では根強い。再エネの主力電源化は、政府の第5次エネルギー基本計画に沿ったものである。 なぜ“お上”に忠実に従うかといえば、国が筆頭株主であるからだ。 東電HDは、2011年3月の東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故で、巨額の廃炉、賠償、除染などの費用を負った。 その東電HDを救済すべく、政府出資の原子力損害賠償・廃炉等支援機構(機構)が、東電HDの50%超の株式を取得して筆頭株主になり、東電HDは事実上の国有会社になった。機構は経産官僚を東電HDの取締役に送り込んでいる。 ということもあり、東電HDは政府に頭が上がらず、手足を縛られている状態である。特に政府から“ご指名”を受けて、2017年6月から就任した小早川社長は、「何でもいいから新しいことを打ち出せと、政府からハッパを掛けられている」と東電関係者は明かす。 震災以降に策定されている東電HDの再建計画において、今年度は第3次中期経営計画である「新々総合特別事業計画(新々総特)」の最終年度に当たることもあり、東電HDは再エネ事業の分社化にしろ、真新しさを出すのに必死なのである。 先日発表した、小売り事業会社である東電エナジーパートナー(EP)が、海外初としてタイに現地法人を設立し、エネルギーサービスを手掛けるのも、新しい取り組みをアピールする狙いがあるとみられる。 さらに小早川社長は近々、“電化戦略”なるものを発表する方針という。ここでAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を駆使し、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)などの分散型エネルギーを活用した「スマートシティー」で中心的役割を担うなど、将来の電力ビジネスの姿を示したいようだ』、「新しい取り組みをアピール」するのはいいとしても、「タイに現地法人を設立し、エネルギーサービスを手掛ける」というのは、海外でのノウハウがないだけに乱暴な気がする。
・『柏崎刈羽が再稼働できないまま国による中計評価は棚上げ濃厚  今年度は、機構が新々総特の進捗状況を評価する期間でもある。新々総特では、福島第一原発の廃炉に8兆円、被災者への賠償に8兆円、除染・中間貯蔵に6兆円の計22兆円が必要と試算している。 これに向けて、東電HDは、2017年度から10年平均で廃炉・賠償費用を5000億円程度確保した上で、東電グループの主要4社で1600億~2150億円の連結経常利益を上げると目標を定めた。 2018年度決算は、連結経常利益がグループ4社で2765億円で新々総特の目標水準を上回った。一見すると、順調なようにも思える。 しかし、主力である電力小売り事業は、2016年4月に始まった電力小売り全面自由化による競争激化の影響で顧客を奪われ、販売電力量は3年連続で前年割れだ。19年度に入ってからも販売電力量の減少に歯止めがかかっていない。 また新々総特では、新潟県の柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働を19年度から見込んでいたが、再稼働に慎重な姿勢を見せる立地自治体の動向もあり、小早川社長は「残念ながら、今年度の再稼働を見通せる状況ではない」と認めた。1基あたり最大で約900億円のコスト削減につながり、“利益改善装置”ともいえる原発を再稼働できないのは大きな痛手だ。 東電関係者は「要は新々総特の評価はできないということ。だって柏崎刈羽の再稼働ができないんだから」と打ち明ける。 つまり、新々総特の評価は“棚上げ”される可能性が濃厚だ。そんな状態で東電HDは今秋から次の中期経営計画の策定作業に入る見込みで、小早川社長が掲げる電化戦略を次の中期経営計画の目玉として打ち出すとみられる。 東電HDの最大のミッションは、福島第一原発の廃炉、被災者への賠償、福島の復興の完遂である。そのためにお上の顔色うかがいではなく、しっかり稼ぎ続けられる戦略を描かねばならない』、「次の中期経営計画」にも余り期待できないようだ。

第四に、8月26日付け東洋経済オンライン「東京電力はなぜ、賠償金を「払い渋る」のか 突然の賠償金返還請求、膨大な資料要求も」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/299073
・『東京電力が2013年12月策定の新再建計画策定で表明した原発事故の賠償に関する「3つの誓い」の中に、次のようなくだりがある。 「2013年12月に成立した消滅時効特例法の趣旨を踏まえるとともに、最後の一人が新しい生活を迎えることができるまで、被害者の方々に寄り添い賠償を貫徹する」「ご請求手続きが煩雑な事項の運用等を見直し、賠償金の早期お支払いをさらに加速する 」 ところが、その誓いの文言とかけ離れた理不尽な対応が相次いでいる』、どういうことなのだろうか。
・『払い過ぎた賠償金5500万円を返還せよ  福島県内で農業資材販売店を経営する山田敏彦さん(仮名)は、東電の担当者から手渡された通知文の内容に目を疑った。 「今まで支払ってきた賠償額が本来払うべき金額よりも多すぎた。その一部の返還を求める」との趣旨が記されていたのだ。山田さんによれば、”精算金”として東電から返還を求められた金額は5500万円にのぼっていたという。年商の5割近い金額だ。 今年3月、山田さんは利益が落ち込んだ分の賠償を東電に請求した。原発事故によって段ボールや肥料などの売り上げが激減し、一向に回復の見込みが立たないためだ。 「今までの経験に照らすと、そろそろ東電の担当者が合意書案を届けに来るはずだ」。4月下旬、山田さんは何も疑わずに東電の回答を待っていた。 思いもよらぬ事態に発展したのは、それから間もなくのことだった。 5月10日、東電の福島事務所の担当者2人が山田さんの店を訪問し、驚くべき話を切り出した。「(山田さんのような)商工業者については、すでに2年分の賠償が一括して払われている。(それ以降の分については払い過ぎになっていることが判明したため)精算金のお支払いをお願いしたい」「いったん合意して支払われた賠償を返せとは、今さら何を言うのか」。山田さんは思わず声を上げ、書類を突き返した』、「払い過ぎた賠償金5500万円を返還せよ」というのは如何にも乱暴だ。
・『東電はなぜ賠償金の返還を求めたのか  「会社が存続できないかもしれない」。そばで話を聞いていた山田さんの妻は「ショックでめまいがした」と振り返る。 合意に基づいていったん支払った賠償金の返還を、なぜ東電は求めたのか。 8月1日、東京・永田町の参議院議員会館で、東電と政府、山田さんを支援する農業団体「福島県農民連」との間で交渉が持たれた。同席した山田さん夫妻を前に、東電の賠償担当者が理由の一端を明らかにした。 「(山田さんは)農家を相手に農業資材や農作物の種子を販売しているとお聞きしている。従来は農業と同等の風評被害があるとみなしたうえで賠償を支払ってきたが、商工業者については、すでに将来分として2倍相当の一括払い(=2年分)という賠償の方式をご案内している。(山田さんは)小売業をされていることから、(今回は)商工業の枠組みでとらえている」) 避難指示区域外の商工業者の営業損害について、東電は2015年8月に新たな賠償方針を発表している。それによれば、同年8月以降の損害は相当因果関係が認められた年間逸失利益の2倍(2年分)を一括して支払うとした(いわゆる「2倍賠償」)。そして、2倍賠償を支払った後も、引き続き損害が発生していることが確認できた場合には支払いを続ける方針を示している。 今年3月8日の参議院予算委員会で、参考人として出席した東電の小早川智明社長は、岩渕友・参議院議員(共産党)の質問に次のように答えている。 「2倍賠償額をお支払いしたうえで、やむを得ない特段の事情により事故と相当因果関係が認められる損害が一括賠償額を超過した場合については、個別に事情をうかがったうえで適切に対応させていただいております」 小早川氏は被害がある限り、賠償を続ける考えを示した』、説明があと1つ意味不鮮明だが、「山田さん」への賠償の基準が、「農業」から「商工業」に変わったことで、「賠償金」の「払い過ぎ」が発生したということなのだろうか。
・『追加賠償の実績は900件中14件にとどまる  とはいえ、追加賠償の実現は容易なことではない。岩渕議員への東電の回答によれば、商工業者が2倍賠償を受け取った後の追加賠償実績について、約900件の請求に対して合意はわずか14件(7月末時点)にとどまる。 「事業者の皆さんから怒りの声が上がっているんですよ」前出の予算委員会で岩渕議員は、避難指示が解除された地区の生鮮食品店が賠償を打ち切られた事例を挙げて、東電の姿勢を厳しく批判した。 岩渕議員が例に挙げた福島県浪江町では、2017年3月末で避難指示が解除されたものの、住民の居住率は今年3月時点でわずか6%にとどまる。こうした地域では多くの企業が再建の手がかりをつかめずにいる。 「東電からは、避難先での営業再開、ほかの事業に転換するなど、損害を軽減することができることを理由に損害が継続しているとは認められない、こういう回答が2018年12月にあった。(浪江町の事業者の)Aさんは、以前のように商売できるというんだったら、どうやったらできるのか教えてほしいと怒っている」 岩渕議員はこう言って小早川社長に詰め寄った。 地元に密着した農業関連企業でも、売れ行き不振による被害が現在も色濃く残っている。 「当社の場合、売り上げの大半が農業者向け。(賠償の基準がより厳格な)商工業者に割り振られたのは納得できない」(前出の山田さん) 東電の担当者は交渉の中で「決して打ち切りではない」「(個人的には)ゼロ回答は避けたい」と言いつつも、「(山田さんの希望に沿った)100点満点の回答は難しい」などと、苦しげな答弁を繰り返した。担当者が被災者と審査部門の板挟みになって苦悩する実態も浮かび上がる。 「請求通りに賠償が支払われない場合、事業継続が難しくなる。決算月の10月末には見極めを付けないといけないかもしれない」。山田さんの不安は募る一方だ』、確かに5500万円も返還させられれば、倒産せざるを得なくなるだろう。
・『5750枚に及ぶ書類の提出を求められた  「賠償の必要性を確認するため」として、5750枚にも及ぶ書類の提出を求められた農業者もいる。福島県内で花卉の栽培・販売を会社組織で営む渡部雅幸さん(48)だ。 渡部さんが提出を求められたのは、「総勘定元帳」と呼ばれる経理の台帳だ。総勘定元帳の提出要請は、すべての取引の記録を見せろということにほかならない。従来、東電の担当者に決算書と一部の月次書類を渡すだけで事足りていたが、今年4月に異変が生じた。 東電の担当者が自宅にやってきて、「総勘定元帳のコピーがほしい」と言い出し、1日がかりで印刷作業に立ち会った。 「いったい何が目的でそんなたくさんの書類が欲しいのか」。渡部さんは作業量が膨大になるがゆえに、東電の担当者に何度も再考を促したが、担当者は「東京の審査部門から求められている」というだけで、きちんとした理由の説明はなかったという。 それから約3カ月後の7月31日。従来より2カ月以上も遅れて、賠償金が渡部さんの会社の口座にようやく振り込まれた。金額は請求通りだった。 「書類を見て、これはOK、これはダメと判断したのならば理解もできるが、終わってみればすべてOK。いったい何のための作業だったのか」。渡部さんは拍子抜けした。 この間、渡部さんは背筋が寒くなる思いをした。東電の支払いの遅れが理由で地元の銀行や農協からつなぎの運転資金を借りざるをえず、納入業者には支払いの一部を待ってもらった。「資金繰りには本当に苦労した。種や苗を買えなくなりかけた」(渡部さん)』、「総勘定元帳のコピーがほしい」として、「5750枚にも及ぶ書類の提出を求められた」、というのは余りに形式的・官僚的なやり方だ。コピーや人件費のコストは度外視したようだ。
・『つかみにくい原発事故被害の実態  いったいなぜ大量の資料の提出を求められたのか。原発事故で落ち込んだ売り上げを少しでも回復すべく、渡部さんは2018年4月に花卉や観葉植物の小売店舗をオープンした。「そうした営業努力をする姿が普通の農家に見えないということで、徹底した審査の対象にされたのかもしれない」(渡部さん)。 原発事故による被害の実態はつかみにくい。東電は事業者の被害について、消費者による「風評」を理由にすることが多い。風評はそもそも根拠に基づかないため、時間の経過とともに解消に向かうというのが東電の見立てだが、一度離れた顧客は二度と戻らず、被害の多くが固定化しているのが実態だ。 渡部さんは原発事故を機に、全国展開するホームセンターからの注文を失った。「事故以来、8年以上もたつが、取引は再開できていない」という。県内の花卉市場を通じた販売も、事故前の5分の1に激減したままだという。 前出の3つの誓いの中で東電は、「被害者に寄り添い、賠償を貫徹する」との方針を掲げている。しかし、原発事故の賠償問題に詳しい大阪市立大の除本理史教授は、「被害の継続性のとらえ方について、東電の認識には問題がある。被害の実態を踏まえずに賠償を打ち切ることは、誓いそのものに反している」と批判する。 東電広報室は、山田さんなどの事例に関する記者の質問に対して、「個別の請求内容に関わるので、回答を差し控える」としている。そのうえで、「3つの誓いで述べられたことが守られていない」との指摘があることについて、「真摯に受け止め、『3つの誓い』を遵守し、より一層、被害を受けられた方々に寄り添った賠償を進めていく」と答えている。その言葉に偽りはないのだろうか、総点検が必要だ』、「被害の実態を踏まえずに賠償を打ち切ることは、誓いそのものに反している」、というのはその通りだ。東電の誠意ある対応が求められる。
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NHK問題(「NHKから国民を守る党」が 本気でNHKを激変させてしまう可能性 なんだか腹は立つけれど…、森友取材でNHKを追われた記者が「『NHKをぶっ壊す』に賛同しない」理由とは そもそも、NHKをぶっ壊している人物は他にいる、「お笑い化」するNHK受信料 N国のドタバタに笑っている場合ではない) [メディア]

今日は、NHK問題(「NHKから国民を守る党」が 本気でNHKを激変させてしまう可能性 なんだか腹は立つけれど…、森友取材でNHKを追われた記者が「『NHKをぶっ壊す』に賛同しない」理由とは そもそも、NHKをぶっ壊している人物は他にいる、「お笑い化」するNHK受信料 N国のドタバタに笑っている場合ではない)を取上げよう。

先ずは、コピーライター/メディアコンサルタントの境 治氏が8月1日付け現代ビジネスに寄稿した「「NHKから国民を守る党」が、本気でNHKを激変させてしまう可能性 なんだか腹は立つけれど…
」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66196
・『「スクランブル化」の現実味  7月21日に投開票された参議院選挙は争点がよくわからないまま、盛り上がらずに終わった。吉本興業の騒動の方がよほど話題になり、人びとの興味を集めている。いかがなものかと思うが、それが現実だ。私自身も、選挙より吉本騒動の行方をずっと熱心に追っていた。 今回の選挙では「れいわ新選組」が「台風の目」と言われて2議席を獲得した。もうひとつ、私たちが直視しなければならないのは「NHKから国民を守る党(=N国)」が政党要件を満たしたということだ。 同党は「台風の目」とまでは言えないが、真夏にドカドカ降る雹のような、突然の異常気象的な存在だ。彼らが議席を獲得したことは、異常現象が常態化したようなものである。選挙そのものを馬鹿にしたような政党が、国政の場へ正式に参加すると思うと、なんと不気味なことかと感じる。 選挙後、様々なメディアが、彼らの戦略の巧妙さを伝えている。 各選挙区に送り込んだ37名もの候補者は、当選する期待をみじんも抱いていなかったという。多数の候補者を立てて、NHKの電波を堂々と使って「NHKをぶっ壊す!」と言わせ、その映像をYouTubeにアップし拡散させる――それが目的だったのだ。 その「成果」というべきか、断片的にでも、彼らの奇天烈な政見放送を目にした有権者は多かった。そして面白半分なのか本気なのかわからない票を選挙区で3.02%も獲得し、政党交付金を受け取る資格を手にした。 党首の立花孝志氏は、4月の統一地方選で多くの自治体で議席を獲得したのも、それにより得た議員報酬を集め、国政選挙に打って出る資金にするためだと悪びれもせず言っている。その図々しさには呆れるしかない。 その上、「戦争発言」で日本維新の会を除名された丸山穂高衆議院議員を入党させた。さらに渡辺喜美参議院議員にも共闘を呼びかけ新たな会派を設立する動きも報じられている。斜め上をいく戦術を次々に繰り出し、すっかり注目を浴びる存在になってしまった。 そんなN国党の派手な動きに対して、NHKもよせばいいのに応じてしまった。「受信料と公共放送についてご理解いただくために」という文書を公開したのだが、ようするにN国党の主張に対し凄んでいるのだ。売られた喧嘩を買うような文書で、みっともないったらない。自分たちのイメージを悪くするだけなのがわからないのか、と情けなく感じた。 さて、ここで私は政党としての彼らが今後国政に与える影響を書きたいのではない。彼らの議席が自民党の改憲案に寄与しかねないのはおぞましいが、ここではちょっと置いておきたい。 私が気になるのは、彼らの躍進から考える今後のNHKのことだ。彼らの動きが、NHKに対する世論に影響するかもしれない。その可能性を書いてみたい』、「彼ら(N国党)が議席を獲得したことは、異常現象が常態化したようなものである。選挙そのものを馬鹿にしたような政党が、国政の場へ正式に参加すると思うと、なんと不気味なことかと感じる」、NHKによる文書公開も、「売られた喧嘩を買うような文書で、みっともないったらない。自分たちのイメージを悪くするだけなのがわからないのか、と情けなく感じた」、などはその通りだ。
・『「NHKをぶっ潰す!」と過激に叫ぶわりには、彼らの主張の核は「NHKの放送にスクランブルをかけるべきだ」というものだ。現在の「テレビ放送を受信できる機器を持つ世帯は受信料を払う」というルールを、「見たい人だけお金を払ってスクランブルを外す」というものに変えたいというのだ。それがかなえばNHKの存続自体は認めるわけで、実際には「潰す」ことを目指しているわけではない。 だが現行の放送法におけるNHKのあり方からすると、スクランブルをかけるのはありえない。そのことはさっそく、石田真敏総務大臣はじめ政治家たちがアナウンスしている。同大臣は「スクランブル化は民放とNHKの二元体制を損ないかねない」と語ったそうだ。 いまの放送法においては、NHKは公共放送であり、受信可能な国民は公平に受信料を負担すべし、という考え方だ。スクランブル化すればWOWOWのような有料放送と同じになってしまい「公共性」が失われてしまうので、ありえないのだ』、N国党は「現行の放送法」の見直しも求めているのだろう。
・『ネットでも受信料は取れるのか  ところでNHKは、直近の放送法改正によって「常時同時配信」に取り組むことになった。ようするにネットでテレビ放送と同じ内容を視聴できるようにするのだ。2020年3月までにはスタートすると聞く。 どう見ても東京オリンピックを意識しての動きで、半世紀に一度の一大イベントをいつでもどこでも見られるようにしようというものだ。もちろん、オリンピック終了後も継続する。つまり、来年からNHKは放送でも通信でも視聴可能になるのだ。 そのことをNHKは経営計画の中で「公共放送から公共メディアへ」というスローガンで表現している。 ただ、一部の人びとが心配するような「ネットでも受信料を取る」ことは、今回の新しい放送法に則っても不可能だ。 NHKの「本来業務」はあくまで放送であり、同時配信を含めてネットでの番組配信は「補完業務」と位置づけられている。割ける予算も収入全体の2.5%に限定されている。これは総務省主催の「放送をめぐる諸課題に関する検討会」での合意事項だ。民放側から、同時配信を認める代わりにこの制約を約束させられた。今後も守り続けるかどうかは、どうもはっきりしないのだが。 NHKのネット事業は、まだそういう段階だ。一歩足を踏み入れることは決まったものの、「補完業務」の域は出ないし、ましてやそこから受信料を取ることはありえない。 だがどう見ても、NHKは「次の段階」としてネットでも受信料を取ることを考えているはずだ。というのも、NHKはここ数年強烈な危機感を隠していない。若い世代が見てくれないのだ』、なるほど。
・『NHKが直面する「パラドックス」  視聴率ランキングを見ると、NHKからも朝ドラや大河ドラマ、ニュース番組などがランクインしている。だがそれは世帯視聴率の話であり、数が多い高齢世帯が見ている番組が高く出やすい。 NHKでは数年前から59歳以下に絞った「個人視聴率」によるランキングを出し、局内で共有してきたと聞く。そのランキングでは、NHKの番組は100位までに3つしか入っておらず、朝ドラと「あさイチ」そして「おかあさんといっしょ」だけ。NHKの番組はよく見られている印象があるが、現役世代に絞るとほとんど見られていないのだ。 強みのはずの選挙番組も、いつもNHKが視聴率トップだが、これも実は高齢者を除くと1位ではなくなる。「大事な時はNHK」というのも、あくまで高齢者に限った話なのだ。 現在の放送法の「放送の受信機器を持っている人から取る」という考え方だと、NHKの未来は先細りする一方である。テレビを持たない若者が増えているからだ。だからこそNHKは近い将来、ネットでも受信料を取りたいと考えているはずだ。 さてここからこの議論は、大いなる「パラドックス」に入り込むことになる。 NHKは公共放送だから、受信できる機器を持つ人は受信料を払う、というのが現行ルールだ。そして来年から常時同時配信がスタートした際には、テレビ放送の受信料を払っている世帯に限ってネットでも見られるようにする。 具体的には、いまBSでやっているように、画面に「受信料を払ってください」という文字が覆いかぶさり番組を完全には視聴できない状態にするらしい。これも「公共放送であるNHKが、補完業務として同時配信を行う」という考え方に沿ったやり方だ。問題はないだろう。 では次のステップとして、テレビを持たない人からも、ネットで受信料を取ろうとする場合を考えてみよう。 放送と同じように「受信可能な機器を持つ人」から料金を取るのは現実的だろうか。簡単にいうとPCやスマホを持つ人から受信料を取ることになる。 ……冗談じゃない!と大反論が起きるだろう。本当に、暴動が起きかねないと思う。放送と同じように「受信可能な機器を持っているから料金を取る」という理屈は、ネットでは成立しない。 つまり、ネット配信のみの受信料を徴収しようとすると、NHKはスクランブル化するしかなくなるのだ。「ネット受信料」を払った人は、スクランブルを解除する。払わない人はスクランブルがかかって見ることができない。そうするしかないと思う。 ……ということは、少なくともネットでは「NHKから国民を守る党」の主張が通ってしまうのだ』、「「大事な時はNHK」というのも、あくまで高齢者に限った話なのだ」、若者のNHK離れは進んでいるようだ。
・『NHKの主張は「机上の空論」  テレビ受像機はテレビ放送を見るための機器であり、「テレビは見るが、NHKだけは絶対に見ない生活」というのはかなり無理がある。だから「公共放送」というしくみがかろうじて成立した(いや、自分は絶対にNHKを見ない!という人もいるとは思うが)。 だが、スマホやPCには様々な用途がある。NHKがネット経由でも見られるようになったからというだけで、そこから「受信料」を取ろうというのはかなり無理がある。NHKのためにスマホを持ってるんじゃない!と多くの人が言うはずだ。 つまり、「ネットの世界での公共メディア」なんてある意味、机上の空論だと私は思うのだ。 NHKはこのパラドックスに、いずれ直面せざるを得なかった。「N国」が存在感を示したことによって、少し早く浮き彫りになったのだ。彼らの主張が、NHKが抱える矛盾を露呈させてくれた。 この矛盾を解決するには、「機器を持っているかどうか」ではなく「日本国民なら受信料を払う」という仕組みにせざるを得ないだろう。だが、これを制度にするには文字通り国民的な議論が必要になる。「NHKは不要だ」と主張する人びとも巻き込んで話し合うしかない。NHKとは何なのか、はっきりさせるべき時が来るはずだ。 私は、国民として支払う、という制度もありだと思う。実際、海外の公共放送は機器の所持にかかわらず払う方向に進んでいるようだ。 だが同時に、いまのNHKの経営体制のまま国民全員が払うようにするのは反対だ。 現在のNHKの体制は、政治からの圧力を受けやすい。筆者はここ数年、放送と政治の関係を取材してきたが、NHKには明らかに政権与党、とくに官邸からの圧力がかかっている』、NHKへの「官邸からの圧力」については、このブログの「安倍政権のマスコミコントロール」の3月5日、6月6日で取上げた。
・『真の「公共メディア」にするために  私の高校時代の同級生である元NHK記者の相澤冬樹は、森友問題でスクープをものにしたとたん、記者から外され退職した。状況証拠しかないが、彼の人事には官邸からの圧力があったことが推測できる。そうじゃなくてもNHKの職員とディープな話をすると、多くの人が「官邸からの圧力の存在」を口にする。 ただ、何から何までチェックされ、すべて言われるがままというわけでもない。ふだんは内部の自主性が発揮されているが、政権に関わる「あるライン」を超えると強い圧力がやってくるようだ。 政治からの圧力に弱い放送局を「公共メディア」として認めることはできない。ということは、NHKの受信料を国民みんなが負担するためには、NHKのしくみを変える必要があるのだ。 今のように首相が事実上指名した経営委員(一般企業でいう取締役の立場)が物事を決済したり、国会で予算を承認するような、つまり事実上与党にお財布を握られている制度で、受信料を国民全員で負担するなどあり得ないだろう。「国営メディア」ではなく「公共メディア」と名乗るからには、国会や政権と完全に切り離された存在となるべきだ。 政権に対しても十分なチェックが働くようなシステムのもとで、NHK=公共メディアを再構築する必要がある。難しい議論だが、そこを乗り越えないとNHKの未来はないと私は思う。 「N国」が政党として正式に登場したおかげで、こういう議論が進むかもしれない。彼らのやり方は無茶苦茶だし、政治を舐めたような言動は時に腹立たしいが、折しもNHKの同時配信が始まるタイミングで彼らが出てきた意義は大きい。 NHKがこれからどんな存在になるかは、この国の言論のあり方にも深く関わる問題だ。「N国」がもたらした議論を生かし、現実の制度設計に落とし込む必要があるだろう』、その通りだが、安倍政権のもとでやれば、もっと「御用機関化」が進むリスクがあるので、もっとあとでやるべきだ。

次に、8月12日付け文春オンライン「森友取材でNHKを追われた記者が「『NHKをぶっ壊す』に賛同しない」理由とは そもそも、NHKをぶっ壊している人物は他にいる」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/13352
・『「NHKをぶっ壊す」……強力なメッセージだ。NHKには常に批判がつきまとう。権力寄りだという批判、あるいは左翼や反日に偏っているという批判、両側から批判にさらされる。受信料で成り立つ公共放送の宿命でもある』、元NHKの良識派記者の言い分とは興味深い。
・『立花氏の「N国党」は、なぜ支持を集めたのか?  だが、元NHK職員の立花孝志氏が「NHKから国民を守る党」(N国党)の党首として掲げた「NHKをぶっ壊す」というスローガンは、これまでの批判とはまったく異なる意味合いを持つ。具体的な公約としてはNHKの放送のスクランブル化を掲げているが、それは公共放送ではなくなることを意味するので、事実上、公共放送NHKの解体と同じである。 もっとも、立花氏がN国党を立ち上げた6年前は、さほど注目を集める存在ではなかった。東京都知事選で「NHKをぶっ壊す」と連呼したことが関心を呼んだが、政治勢力として注目を集める存在とは言えなかった。 潮目が変わったのは、この4月の統一地方選挙だ。47人が立候補し26人が当選した。これは立派な政治勢力だ。その勢いで7月の参院選にうって出た結果、立花氏が初当選して国会に議席を得ただけではなく、政党要件を満たす得票を集めた。 その後は、「戦争発言」で日本維新の会を除名された丸山穂高衆議院議員を入党させ、渡辺喜美参議院議員と新会派を組むなど、意表を突く手を次々に繰り出し、すっかり注目の的になっている。 一体何が潮目を変えたのだろう? 私は、NHK自体ではないかと思う。私がNHKで森友事件の取材をしていたおととしから去年にかけて、上層部から相次いだ、政権に不都合なニュースに対する圧力。私がNHKを辞めた後も「政権忖度」どころか「政権ヨイショ」とでも言うべきおかしな報道が続いている。 これは視聴者の目にも明らかだから批判は当然強まる。そのことが「NHKをぶっ壊す」と叫ぶ立花氏とN国党への支持を集める格好になったのではないか?』、「N国党を立ち上げた6年前」、「東京都知事選で「NHKをぶっ壊す」と連呼」、というのは記憶にない。泡沫候補が訳の分からぬことをほざいているといった程度の受け止めだったのだろう。ただ、「「政権ヨイショ」とでも言うべきおかしな報道が続いている」のが、「立花氏とN国党への支持を集める格好になったのではないか?」、というのは希望的観測に過ぎるような気がする。
・『NHKをぶっ壊す「な」!  N国党に投票したというある人に聞いたところ、「ぶっ壊す」に賛同するわけではないが、今のNHKのありようはおかしい、制度を変えた方がいい、そういう意味で投票したと話していた。まさか当選するとは思わなかったとも……。同じように「お灸を据える」意味合いでN国党に投票した人は少なくなかろう。 そんな、一躍「時の人」になった立花氏から、私にフェイスブックで友達申請が届いた。去年、私がNHKを辞めて間もない頃だ。森友事件取材のさなかに記者を外されてNHKを辞めた、という経緯から、お仲間だと思われたのだろう。だが、私のスローガンは「NHKをぶっ壊すな」だ。「な」の一字が加わるだけで意味合いは正反対になる。だから申請にはお答えしていない。 もっとも、私の「NHKをぶっ壊すな」は、立花氏やN国党に向けたものではない。私が「ぶっ壊すな」と言っている相手は、今のNHKの上層部である。彼らが今のNHKのおかしな報道を許し、そのことが視聴者の批判を集め、N国党の躍進を招いている。つまり彼らこそNHKをぶっ壊そうとしているのである。自分たちの在職期間さえよければ、後はどうなってもいいと考えているとしか思えない。彼らに比べれば私の方がよっぽどNHKを愛している』、NHK愛が確かに伝わってくる。
・『「ネットで課金」への賛同は得られるのか?  私は常々、既存メディアの中で生き残る可能性が最も高いのはNHKではないかと考えている。それは受信料という強固な経営基盤に支えられているからだ。既存メディアはおしなべてネットメディアに押されている。その点、NHKがネットでの同時配信を始めようとしているのは、将来的にネットで受信料を集めようとしているのだろう。NHKはラジオからテレビ、そしてBSと、時代に即して受信料の性質を変えてきた。その流れに乗ることができれば、今後もNHKの経営は安泰だ。 しかしこれは受信料を負担する視聴者の皆さまの支持があってのことだ。この内容なら受信料を払ってもよい、と思って頂けるかどうかにかかっている。ましてネットで課金となると、余計にハードルは高くなる。ところが今のNHKの報道で、広くあまねく受信料への理解を得ることができるだろうか? NHKは政治に弱い、とよく言われる。それはそうだ。今の放送法の規定では、NHKの最高意思決定機関である経営委員会の委員は、衆参両院の同意を得て内閣総理大臣が任命。予算は毎年、国会の承認が必要だ。人事とカネを握られたら組織は弱い。露骨に報道に介入する政権になったらなおさらだ』、安倍政権の介入は露骨だが、経営委員や予算への国会の関与は昔からのもので、何らかの形で必要なものだ。
・『政治に弱いNHKは、まるで『国営メディア』  私の高校新聞部仲間で、放送業界に詳しいメディアコンサルタントの境治は、N国党とNHKについての「現代ビジネス」の記事「『NHKから国民を守る党』が、本気でNHKを激変させてしまう可能性」で次のように書いている。〈政治からの圧力に弱い放送局を「公共メディア」として認めることはできない。ということは、NHKの受信料を国民みんなが負担するためには、NHKのしくみを変える必要があるのだ〉〈「国営メディア」ではなく「公共メディア」と名乗るからには、国会や政権と完全に切り離された存在となるべきだ〉〈そこを乗り越えないとNHKの未来はないと私は思う〉 まったく同感だ。私は、受信料に支えられた「公共メディア」NHKは日本にとって必要だと考えているし、今後も存続してほしいと願っている。だが今のままでは無理だろう。 放送法を改正し、人事とカネを政府与党から独立させるべきだ。そうすれば、NHKにいる、志と意欲と能力の高い記者やディレクターやその他大勢の職員たちが、いいニュース、いい番組を出し続けてくれるに違いない。それしか道はないと思う。そうしないと本当に「NHKをぶっ壊す」ことになりかねない』、「『NHKから国民を守る党』が、本気でNHKを激変させてしまう可能性」については、第一の記事で紹介した。「人事とカネを政府与党から独立させるべきだ」との主張には、違和感がある。与党からは「独立させるべき」ではあっても、国会による監視の仕組みは何らかの方法で導入すべきと思う。

第三に、元NHKで、経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長の池田 信夫氏が8月23日付けJBPressに寄稿した「「お笑い化」するNHK受信料 N国のドタバタに笑っている場合ではない」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57407
・『参議院選挙で議席を得た「NHKから国民を守る党」(N国)が、いろいろ騒ぎを起こしている。N国の政治的主張は取るに足りないが、こんなお笑い政党が約100万票を取って国政選挙で議席を獲得した状況は深刻だ。その根本には、与野党がNHK受信料制度の矛盾を利用してきた歴史がある』、池田氏はどのような見方なのだろう。
・『N国は選挙制度の盲点をついた「選挙ゴロ」  受信料の不払い運動は昔からあった。左翼では、朝日新聞の記者だった本多勝一氏が1960年代から不払い運動を続けている。その主張は「NHKは自民党べったりの御用放送だ」というものだが、その後は逆に「NHKは左翼偏向だ」として訴訟を起こす人も出てきた。 N国にはそういう政治的主張はない。立花孝志党首は元NHKの経理担当職員で、政治的には何も中身がない。「NHKの受信料制度に反対する」と主張しているだけの「シングル・イシュー」政党だが、その選挙戦術は巧妙である。 今年(2019年)4月の統一地方選挙では、大都市を中心に26人を当選させ、立花氏も東京都葛飾区議会議員選挙で当選した。葛飾区議の定員は40人。有効投票数の2%ぐらい取れば当選できる。 こういう選挙で、候補者の名前を知っている人は少ないが、「NHK」という名前は誰でも知っている。N国は「NHKと書いた票はわが党の票だ」と主張した。 このため地方選挙では、候補者にまったく知名度がなくても、有権者が「NHK」と書くだけで当選できるので、大都市ではほぼ全員当選だった。もちろん地方選挙で受信料制度に反対しても意味はないが、N国にとっては選挙は宣伝の道具だった。 マスコミで名前を売り込むには莫大な宣伝費がかかるが、選挙では供託金だけで名前を売り込める。政見放送で「NHKをぶっ壊す」と連呼するだけで話題になる。こうして地方選挙を宣伝の道具にし、国政選挙で当選するのが立花氏の戦術だった。 自民党の長期政権が続く中で、どの野党に当選しても政権は交代しない。それならYouTubeで騒いでいる変な党に入れてやろうという「愉快犯」が2%いれば、この選挙戦術は成り立つ。立花氏が何をしたいのかわからないが、数字はよく調べており、選挙制度の盲点をつく「選挙ゴロ」としてはプロである』、「地方選挙を宣伝の道具にし、国政選挙で当選するのが立花氏の戦術」、「YouTubeで騒いでいる変な党に入れてやろうという「愉快犯」が2%いれば、この選挙戦術は成り立つ」、「「選挙ゴロ」としてはプロである」、などはその通りだ。
・『政治が受信料制度をおもちゃにしてきた  こういうシングル・イシュー政党が参議院比例区で議席を取ったのは初めてではない。かつてサラリーマン新党やスポーツ平和党が議席を得たこともあるが、候補者にはそれなりの知名度があった。 N国はそれに比べても候補者が無名で、公約がNHK受信料しかないという点で特異だ。こんな党が議席を取れた原因は、誰の目にも明らかな受信料制度の矛盾にある。放送法ではテレビを設置した世帯はNHKを見ていなくても受信契約を結ぶ義務があるが、受信料の支払い義務は明記されていない。 N国はこれを利用して「受信料は払わなくてもいい」と主張しているが、これは誤りだ。政府が答弁したように、受信料を支払う義務はある。これは最高裁判所でも確定した判決であり、立花氏が受信料を払わないのは違法行為である。これは彼も認めている。 この奇妙な規定は戦後の占領下でできた放送法の欠陥だが、これを与野党が利用した。NHKの予算は毎年2月に国会で審議されるが、これは全会一致で可決することが慣例になっているため、自民党だけでなく野党にも根回ししなければならない。自民党は政府の介入しやすい義務化に賛成だが、野党は「国営化だ」と反対し、結果的に宙ぶらりんの経営形態が続いてきた。 この状況を変える方向は、2つある。1つは受信料の支払いを義務化して「国営化」に近づける方向だが、これは有料配信技術の普及したインターネット時代には時代錯誤である。経営形態を見直すなら、WOWOWやスカパーと同じように、見た人だけが払う「視聴料」を取る有料放送にするのが自然だ。 N国の主張する「スクランブル化」はその手段であり、本質的な問題ではない。重要なのは、民営化してNHKの経営が成り立つのかということだ。今のNHKのテレビ6チャンネル、ラジオ3チャンネルを丸ごと民営化したのでは経営合理化にならないので、チャンネルごとに分割することが考えられる。 この場合、総合テレビは有料放送として十分成り立つだろう。むしろ超優良企業になるので、今の民放の脅威になる。これが民放連(日本民間放送連盟)がNHKの民営化に反対する理由である。 衛星放送も独立採算で成り立っているので問題ないが、教育テレビとラジオはわからない。これまでNHKでも「チャンネルの整理」は何度も議論されたが、ラジオ第二放送さえ整理できなかった』、「チャンネルごとに分割」は確かに難しい問題だろう。
・『お笑いポピュリズムで劣化する政治  民営化のもう1つの懸念は、政府の答弁では「スクランブル化すると公共放送としての社会的使命を果たしていくことが困難になる」としている。たとえば災害のとき、放送がスクランブル化されて見えなかったらどうするのか。これは災害放送ではスクランブルを外せばいい。衛星放送では、現にそうしている。 有料放送になったら、NHKの番組が商業主義になって民放のように低俗になるのではないか。これは1987年に衛星放送が独自放送を開始したときも心配されたが、結果的にはよくも悪くも衛星放送は「NHK的」である。 受信料制度がなくなってNHKが政治から自由になったら、左翼偏向するのではないかという懸念もあるが、受信料の支払いが義務化されているBBC(英国放送協会)はNHKより反政府的だ。 どこのマスコミでも報道の現場(社会部)は左翼的で、政権と癒着する政治部がそれとバランスを取っているが、NHKでは受信料制度のために「国会対策」が経営に強い影響を及ぼす。N国のような変則的な形で政治がNHKの経営に介入すると、このバランスは政治部に大きく傾き、NHKの報道は「政治化」するだろう。 根本的な問題は、こういう国会情勢に弱いNHKの経営体質である。インターネットでNHKが受信できる時代に、スマホを含む「受信機」を設置したすべての人から受信料を徴収する制度は見直す必要がある。それにともなう経営形態の議論も避けるべきではない。 政治が「お笑い化」するのは、ポピュリズムの特徴だ。イタリアやウクライナではコメディアンが政権を取った。日本ではまだN国が政権を取る可能性はないが、丸山穂高氏や渡辺喜美氏が合流して、笑ってもいられなくなった。彼らが軌道修正し、NHK問題の議論を建設的な方向に向けてほしい』、「根本的な問題は、こういう国会情勢に弱いNHKの経営体質である」、「政治が「お笑い化」するのは、ポピュリズムの特徴だ」、などというのは困ったことだ。N国が「彼らが軌道修正し、問題の議論を建設的な方向に向けてほしい」というのは無理過ぎる願望だ。いましばらくは、N国の出方を見守りたい。
タグ:JBPRESS 池田 信夫 現代ビジネス NHK問題 文春オンライン N国 (「NHKから国民を守る党」が 本気でNHKを激変させてしまう可能性 なんだか腹は立つけれど…、森友取材でNHKを追われた記者が「『NHKをぶっ壊す』に賛同しない」理由とは そもそも、NHKをぶっ壊している人物は他にいる、「お笑い化」するNHK受信料 N国のドタバタに笑っている場合ではない) 境 治 「「NHKから国民を守る党」が、本気でNHKを激変させてしまう可能性 なんだか腹は立つけれど… 」 「スクランブル化」の現実味 政党要件を満たした 「NHKをぶっ潰す!」 石田真敏総務大臣はじめ政治家たちがアナウンスしている。同大臣は「スクランブル化は民放とNHKの二元体制を損ないかねない」 ネットでも受信料は取れるのか NHKはここ数年強烈な危機感を隠していない。若い世代が見てくれないのだ NHKが直面する「パラドックス」 ネット配信のみの受信料を徴収しようとすると、NHKはスクランブル化するしかなくなるのだ。「ネット受信料」を払った人は、スクランブルを解除する。払わない人はスクランブルがかかって見ることができない。そうするしかないと思う NHKの主張は「机上の空論」 真の「公共メディア」にするために 「森友取材でNHKを追われた記者が「『NHKをぶっ壊す』に賛同しない」理由とは そもそも、NHKをぶっ壊している人物は他にいる」 立花氏の「N国党」は、なぜ支持を集めたのか? 上層部から相次いだ、政権に不都合なニュースに対する圧力。私がNHKを辞めた後も「政権忖度」どころか「政権ヨイショ」とでも言うべきおかしな報道が続いている 視聴者の目にも明らかだから批判は当然強まる。そのことが「NHKをぶっ壊す」と叫ぶ立花氏とN国党への支持を集める格好になったのではないか? NHKをぶっ壊す「な」! 「ネットで課金」への賛同は得られるのか? NHKの最高意思決定機関である経営委員会の委員は、衆参両院の同意を得て内閣総理大臣が任命。予算は毎年、国会の承認が必要だ 政治に弱いNHKは、まるで『国営メディア』 「「お笑い化」するNHK受信料 N国のドタバタに笑っている場合ではない」 N国は選挙制度の盲点をついた「選挙ゴロ」 地方選挙では、候補者にまったく知名度がなくても、有権者が「NHK」と書くだけで当選できるので、大都市ではほぼ全員当選だった 地方選挙を宣伝の道具にし、国政選挙で当選するのが立花氏の戦術 YouTubeで騒いでいる変な党に入れてやろうという「愉快犯」が2%いれば、この選挙戦術は成り立つ 政治が受信料制度をおもちゃにしてきた お笑いポピュリズムで劣化する政治
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教育(その17)(学校で「心を一つにしよう」というスローガンを掲げてはいけない“深い理由” 千代田区立麹町中学校・工藤勇一校長インタビュー、校則がないからこそ 教師と生徒は対等に話し合うことができる――西郷孝彦校長インタビュー、増える10代の自殺 「指導死」はなぜ起こる?) [社会]

教育については、4月6日に取上げた。今日は、(その17)(学校で「心を一つにしよう」というスローガンを掲げてはいけない“深い理由” 千代田区立麹町中学校・工藤勇一校長インタビュー、校則がないからこそ 教師と生徒は対等に話し合うことができる――西郷孝彦校長インタビュー、増える10代の自殺 「指導死」はなぜ起こる?)である。

先ずは、8月10日付けダイヤモンド・オンライン「学校で「心を一つにしよう」というスローガンを掲げてはいけない“深い理由” 千代田区立麹町中学校・工藤勇一校長インタビュー 第2回」を紹介しよう(Qは聞き手の質問)。
https://diamond.jp/articles/-/210026
・『“公立中学校”でこんなことができるのか……。「定期テスト廃止」「宿題廃止」「クラス担任制廃止」など、数々の大胆な改革で全国から注目を集める、千代田区立麹町中学校。生徒、教員、そして保護者までもが主体性を発揮し、生き生きとした教育活動が展開されている。その改革の中心となり、著書『学校の「当たり前」をやめた。』(時事通信社)がベストセラーとなった工藤勇一校長に、「改革の狙いは何か?」「なぜ、改革を実行できるのか?」などをテーマに語っていただいた。その言葉は、組織活性化、組織改革に悩むビジネスパーソンにも多くの示唆を与えるはずだ』、「大胆な改革」が公立中学校、しかもあの「麹町中学校」で行われているとは驚かされた。頼もしいことだ。
・『「自律 尊重 創造」が人材育成の基本  Q:麹町中学校では、「定期テスト廃止」「宿題廃止」「クラス担任制廃止」など、画期的な学校改革を進めていらっしゃいます。前回のインタビューでは、改革を進めるうえで、教員のみなさんと「上位目標」を共有したうえで、権限と責任を委譲することが重要だとおっしゃいました。「上位目標」とは、具体的に何なのでしょうか? 工藤 学校運営の究極的な「教育目標」のことです。どの学校にも標語が定められていますよね? あれです。ただ、多くの学校で教育目標を定めていますが、ただのスローガン、お飾りになっていて、誰もそれを本当の目標だと思っていない現状があります。もっと言えば、達成できなくてもいいと思っているフシもある。 これでは、改革はできません。「教育目標」は、学校経営の根幹です。これを何よりも大切にすることこそが改革の原動力になるのです。逆に、根幹をないがしろにして改革しようとしても、空中分解するだけでしょう。 だから、僕は麹町中学校に校長として赴任してすぐに、70年間ほとんど変わっていなかった教育目標を変えました。はじめ「自律 貢献 創造」としたのですが、今年、「自律 尊重 創造」と再び修正しました。 Q:「貢献」を「尊重」に変えたのですね? 工藤 ええ。「自分で考えて行動できる自律した人間であること」と、「いろんな人間がいる中で他者を理解して違いを受け止め、その他者を尊重することができること」。そして、「他者とともによりよいものを創造すること」。この3つ、つまり自律と尊重と創造が、社会で生きていくうえで根本的に重要な力なのだと考えました。「貢献」も大事だけど、より根本的に大事なのは「尊重」だと思うのです。 私は、教育は「いい世の中をつくる」ためにあると思っていますが、いい世の中は誰かがつくってくれるものではなく、みんなでつくるものです。「みんなでつくる」というプロセスがとても重要です。そこで必要なのが対話の技術であり、対話が成立する基本は「自律 尊重 創造」にあります。そして、私は、これを学べるのが学校だと考えているのです。 Q:なるほど。「自律 尊重 創造」は、単なる知識やスキルとは違う、生きていくうえでの根源的な力でもありますね。 工藤 はい。入試に合格するための知識や、社会で活躍するためのスキルを学ぶだけならば、学校なんか来なくても、自宅でできるかもしれないし、私塾だっていい。今はインターネットでも十分かもしれません。それよりも、もっと大事なことがあると思うのです。 社会には多様な人間がいます。そして、多様な人間がいるということを受け入れるのは、口で言うのは易しいですが、やはり難しいことなのです。「みんな違って、みんないい」という言葉がありますが、意見が対立したり、考え方が違ってまとまらないときなどはとてもそうは思えない。異質な人に対して、人はどうしても感情的になってしまう。大切なのは、そうなってしまう自分を知ることです。 学校ではよく「心を一つに」というスローガンが掲げられますが、僕は子どもたちに「心は一つにならない」と教えます。「心はみんな違っていい。嫌いなものを好きになれと言っても難しいでしょう?」と。考え方が違うのは全然OKなのです。問題は、イライラする自分がいるということと、そのときにどうするかということ。これには訓練がいるんだよ、ということを子どもたちには教えています。そして、その訓練の根幹にあるのが「自律 尊重 創造」の3つなんです』、「学校ではよく「心を一つに」というスローガンが掲げられますが、僕は子どもたちに「心は一つにならない」と教えます。「心はみんな違っていい。嫌いなものを好きになれと言っても難しいでしょう?」と。考え方が違うのは全然OKなのです」、というのはかなり思い切った改革だ。
・『「上位目標」が改革の原点でありエンジンである  Q:「自律 尊重 創造」という教育目標のもと、学校で集団生活を送ることで「生きる力」を育成するわけですね? 工藤 そういうことです。大事なのは、この教育目標(上位目標)が“お飾り”でないこと。本当に達成するべき目標として、常に意識しておくことです。上位目標を実現するためにこそ改革を行うのであり、上位目標を全員が大切にするからこそ、改革を空中分解させないことが可能になるのです。 実際に改革を進めていくと、教員たちの方向がずれたり、教員同士がぶつかったりすることは多々あります。たとえば、定期テストをやめて単元テストをやろうというときにも、いろいろな意見や問題点が出ましまた。それは自然なことであり、決して悪いことではありません。 大切なのは、みんなの意見が食い違う時は、必ず上位目標に立ち戻って、進もうとする方向をそれに照らし合わせ、目標に合致しているかどうかをみんなで徹底的にディスカッションすることです。そして、どこまで合意ができていて、どの点で食い違っているかを対話を通して細かく検証していき、みんなが納得できる結論を出す。このプロセスがとても重要なのです。 Q:みんなが腹の底から納得しなければ、実行力が伴わないですものね? 工藤 そうです。間違えてはならないのは、「みんなが納得できる結論を出す」ことと「折り合いをつける」ことは全く違うということです。お互いの主張の「中間点」で折り合いをつけるのではなく、あくまでも上位目標を達成するためには何が正しいのかを考える。ここは妥協することなく、しっかりと対話を重ねる必要があります。 それが、学校運営や学校改革を進めるうえで最も重要なことですし、教員自身が、この対話のプロセスを体験していなければ、このプロセスを生徒たちに教えることができません。教育の根幹と言ってもいいことなんです。 Q:なるほど。ところで、その対話のプロセスで、校長である工藤先生はどのような役割を果たされていますか? 工藤 あまり何もしないように心がけています。絶対にやってはならないのは、校長である僕が結論を押し付けることです。僕の役割は、教員たちの対話が上位目標からそれていないか、対等な対話がなされているかをチェックすることです。それらから逸脱したときには介入する必要がありますが、結論に至るまでのプロセスは当事者たちに任せるのが基本です。そうでなければ、主体性は育たないですからね。 僕は今、この学校が6年目になりますが、5年前はあきらかにトップダウンの学校でした。でも今は、教員たちが自走しています。職員会議も、15分で終わることもあれば、2時間かかることもある。論点がなければすぐに終わり、必要であれば徹底的に話し合うのです。その判断も教員たちに任せています。 じっくりと議論をするときには、最近はもう、僕は途中で抜けてしまったりすることもあります。上位目標に戻って手段を決めると言うプロセスを教員がみな了解していますから、それで話し合って出した結論であれば、もうOKだから、と』、「お互いの主張の「中間点」で折り合いをつけるのではなく、あくまでも上位目標を達成するためには何が正しいのかを考える。ここは妥協することなく、しっかりと対話を重ねる必要があります」、というのは実際には時間の制約もあって、簡単ではなさそうだ。
・『トップは「失敗が許される範囲」を明示する  Q:職員会議の結論まで任せるわけですね? 工藤 はい。教員の間で、「自律 尊重 創造」をベースに質の高い対話が成り立っていると判断できれば、その結果導き出される結論も信頼できます。ただ、みんなに議論してもらうときには、失敗例を教えるようにはしています。こうなったらダメだよねという失敗例を伝えて、こうならないような方向を考えてくださいと促すわけです。 たとえば、教員のやる気が高まれば高まるほど、多くの仕事をやろうとしてしまうものです。やる気があるのはいいことなのですが、その結果、教員の仕事量が増えすぎて、結果として子どもと向き合う時間がなくなってしまうことがある。これでは本末転倒ですから、そうなってはいけないという話をするわけです。 Q:たしかに、事前に失敗例を把握しておけば、同じ轍を踏む確率は減りますよね。 工藤 ええ。ただし、それでも失敗することがあります。全員で上位目標を共有しながら、それを達成するための手段を徹底的に議論をしても、結果的にその結論がズレていたということはあります。しかし、徹底的に考えたうえでの失敗であれば、それは大きな学びです。失敗からしか学べないことはたくさんあります。ですから、大切なのは、失敗が許される範囲で、トライできる組織にすることです。 そして、「失敗が許される範囲」を明示することは経営者(校長)の役割です。「こういう失敗をしてはいけない」と失敗例を示すことで、「やってはいけない失敗」を防ぐ努力は欠かせません。 また、教員たちには、常日頃から、「第一に子どもにとって、第二に保護者にとって望ましい選択であることを忘れてはならない」と伝える必要があります。「教員にとって望ましい、学校にとって望ましい」は、そのあとに考えることです。ここを間違えなければ、大きくズレたことをするおそれはなくなるはずです。 Q:なるほど。校長が「失敗が許される範囲」を明示して、その範囲内で教員に自由にチャレンジしてもらうわけですね? 工藤 はい。そのうえで、すべてのトラブルの責任を校長が負うことが決定的に重要です。もちろん、「校長が全責任を負う」と口で言うだけではダメで、実際にトラブルを校長が全面的に受け止めて解決しなければなりません。 僕はトラブルには強いんです。だからこそ、教員たちは僕のことを早いタイミングで信頼してくれるようになったのではないかと思っています。僕が麹町中学校に赴任して以来、保護者からのクレームは何回もありましたが、教員が対応できない場合には、必ず僕が先頭に立って対応します。 そして、保護者と徹底的に話し合った結果、学校の大応援団になってくださった方もたくさんいらっしゃいます。そうした姿を見ることが、教員にとってすごい安心感につながったのではないでしょうか。だからこそ、彼らも失敗をおそれずに、前向きなチャレンジができるようになったのだと思います』、「保護者からのクレームは何回もありましたが、教員が対応できない場合には、必ず僕が先頭に立って対応します」、トップが逃げずに、率先して対応することで、「教員にとってすごい安心感につながった」というのはあり得る話だ。
・『人は協力してくれなくて当たり前。そのときどうする?  Q:つまり、教員のみなさんが「自律 尊重 創造」という上位目標をもとに、対話を重ねて試行錯誤をすることで学校改革が進んできたわけですね? 工藤 そうですね。それが改革の最大のエンジンです。まぁ、それ以外にも、いろいろとコツはありますよ。たとえば、言葉の使い方。言葉の使い方を工夫するだけで、簡単にものごとが進むことがあります。相手の意見がおかしいと思っても、ストレートに「おかしい」と言うと対立が生まれて、ものごとが進まなくなってしまいますから、そんなときには、みんながOKと言える言葉を探すんです。 たとえば、こんなことがありました。 「あいさつ運動」というのがありますよね? 毎朝、教員が校門に立って、登校してくる生徒たちに「おはよう!」と声をかける。なんの疑問も抱かずにルーティンになっている学校もあるでしょう。僕はあれはずっとやめるべきだと思っていたんです。 Q:どうしてですか?  もちろん、あいさつの習慣を身につけるのは大事なことなんですが、とは言っても、世の中にそんなシチュエーションないじゃないですか? しかも、教員にとっては勤務時間前から働かなければならないわけで、働き方改革にも逆行します。にもかかわらず、「この学校は元気にあいさつできていていいですね」なんて言われたりするので、誰も「やめたい」と言えない雰囲気になっているんです。 Q:たしかに、校門であいさつする必要はないですよね。校内ですれ違ったときにあいさつすればいい。 そう。だから、僕は、麹町中学校の校長になったときにすぐやめることにしました。ただ、教員の働き方改革のためにやめる、というのでは納得は得にくい。そこで、もともと僕は、あいさつ運動は、不登校気味の生徒にとっては苦痛だったんじゃないかと気になっていたので、「不登校気味の子がみんなに“おはよう”“おはよう”っていわれたら、校門を通りづらくないかな? 僕だったら嫌だと思う。あいさつ運動が終わってから登校しようって思うんじゃないかな?」と言ったら、「たしかに、そうですね」ということになり、あっさりと認められたのです。 もし、「あれは意味がないからやめましょう」と言ったら、あいさつ運動をがんばっていた教員は、「いえ、こんなすばらしい意味があります」と反発するでしょう。ところが、みんなが「なるほど」と思える言葉を探り出せば、そのような反発を避けることができるわけです。こうした知恵も、改革を進めていくうえでは意外と大切だと思いますね。(つづく)』、「「あいさつ運動」」を止める口実に、「不登校気味の生徒」を持ち出して、「反発を避け」られたというのは、なかなか巧妙な知恵だ。こうした改革派の校長の下で、学ぶことが出来る麹町中学校の生徒は幸せだろう。

次に、6月7日付け文春オンライン「校則がないからこそ、教師と生徒は対等に話し合うことができる――西郷孝彦校長インタビュー―世田谷区立桜丘中学校には、チャイムも制服もない」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/12217
・『世田谷区桜丘中学校。私鉄の駅から徒歩10分ほどの住宅街にある。職員室前の廊下には机と椅子がフリースペースとして置かれ、Wi-fiも完備されている。授業時間だったが、インターネットに接続しながら、話をしたり、自分のペースで勉強をする生徒もいた。校長室でも、塾の宿題をしている生徒が校長と談笑する姿が見られた。 この学校はチャイムが鳴らない。そして何より、校則がない。 生徒手帳には「礼儀を大切にする」「出会いを大切にする」「自分を大切にする」が「心得」として掲げられ、また、子どもの権利条約の一部が示されている。なぜ、こうした学校運営が可能なのか。西郷孝彦校長(64)に話を聞いた』、上記の麹町中学校だけでなく、桜丘中学校でも思い切った改革が進められたようだ。
・『「心得」の3つですべてが指導できます  Q:生徒手帳には「桜丘中学校の心得」が3つだけ書かれていますが、以前は校則があったのでしょうか? 西郷 以前の生徒手帳には、校則が20ページほど書かれていました。例えば、「他のクラスの教室に入ってはいけない」とか、「上級生は下級生と話してはいけない」とか。下着の色を決めている学校だってありますよね。以前の勤務校では、こうした細々とした校則がありました。 校則のことを考え始めたのは、この桜丘中学校に赴任してから、ここ4、5年のことですね。当初は、校内がいわゆる「荒れた」状態にありました。見直すことになったときに、本当はいらなかったのですが、何もないと不安に思う人もいる。校則は最終的には校長判断ですが、「3つくらいにしよう」と提案したときに、生活指導主任が原案を作ってくれました。この3つですべてが指導できます。先生方はこれをよりどころに指導します。 この学校では制服も自由です。(身体的な性と、自認する性が違う)トランスジェンダーの生徒もそれで救われると思います。 Q:生徒手帳に子どもの権利条約が記されていますが、珍しいですね。 西郷 日本は法治国家です。この学校に校則はないですが、日本の法律には縛られています。例えば、校内でも他人のものを勝手に自分のものにすれば、窃盗罪ですよね。誰かを傷つければ傷害罪です。よく「学校の中は治外法権だ」とか、「学校だから許される」と言われますが、それはやめようと。社会と同じ規則で学校も回っています。 日本は子どもの権利条約に批准しています。だから、法律と同じ。そう子どもに教えないといけませんし、先生も守る必要があります。権利条約に掲げられた権利を知ることで、大切にされていることがわかり、子どもは自己肯定感が得られます』、校則を3つだけにし、「制服も自由」、とは思い切ったものだ。「権利条約に掲げられた権利を知ることで、大切にされていることがわかり、子どもは自己肯定感が得られます」、というのもその通りなのだろう。
・『大人でもさまざまな考えがある  Q:校則はそのままで、運用面で改善する方法もあったと思いますが、どうして校則をなくす方向になったのでしょうか。 西郷 先生方って、校則があると、話し合いにならないんです。「校則があるからダメ」「守るか、守らないか」になってしまいます。 例えば、「靴下は白」と規定があったから、理由を考えずに「校則にあるから」と、そこで指導は終わってしまいます。一方、生徒に聞かれた時に「汚れたときにわかりやすいから」と説明すれば、そこから話し合いが始まります。結果、合理的な話し合いを重ねることで信頼関係ができてきます。 スカート丈についても、ルールがなければ、「短すぎるんじゃないか?」「寒くないか?」などと先生たちが言ってくれます。いろんな考えがあります。大人でもさまざまな考えがある中で、生徒は自分で選択していきます。 そもそも、校則をがんばってなくそうと思ったのは、不登校の子どもたち、発達障害の子どもたちがいたからです。厳しく指導すると、学校に来なくなります。でも、そうした子だけに「特例」を許すと、他の生徒が「なんで、あの子だけ?」と不満を言います。だったら、校則でしばりつけることはやめようと。 その頃、別の問題が起きました。文字が読めず、板書が取れず、教科書が読めない生徒がいたのです。そのため、タブレットを利用可能にしました。音声読み上げソフトで教科書の内容を聞き、板書は写真で撮りました。試しに、その生徒がいるクラスだけタブレットを持ち込み自由にしました。最初は2、3人が持ってきましたが、重いし、管理が大変なので、必要のない子は持ってこなくなりました。このやり方を全体に広げたのです』、「先生方って、校則があると、話し合いにならないんです。「校則があるからダメ」「守るか、守らないか」になってしまいます・・・理由を考えずに「校則にあるから」と、そこで指導は終わってしまいます。一方、生徒に聞かれた時に「汚れたときにわかりやすいから」と説明すれば、そこから話し合いが始まります。結果、合理的な話し合いを重ねることで信頼関係ができてきます」、確かに過剰な校則にはデメリットが大きそうだ。
・『校則でしばることが染み付いている  Q:先生を育てることになりますね。 西郷 そうです。ただ、校則が厳しい他の学校から転勤してきた先生は慣れるのが難しいんです。うちの学校は私服ですが、そうした先生は、私服の生徒を見て「私、無理です」と、1日中イライラしていました(笑)。何か注意した時に、うちの生徒が「どうしてですか?」と返すことも、先生によっては「生意気だ」と映ってしまいます。 校則でしばることが染み付いていますからね。上から目線での威圧感がある先生には、「生徒とは対等に話し合いましょう」「馬鹿にするような話し方はやめてほしい」と伝えています。校則がないということは、正解がないということです。 採用も、できるだけ新規教員をお願いしています。そして、若い先生にはどんどん外へ行って、失敗してもいいから勉強してもらいたいです。最初の10年で勉強しないと、知識もスキルも落ちていくだけです。僕も含めて、能力主義なんです。3年目で完全に一人前になるように育てています』、「上から目線での威圧感がある先生には、「生徒とは対等に話し合いましょう」「馬鹿にするような話し方はやめてほしい」と伝えています。校則がないということは、正解がないということです」、確かに「校則でしばることが染み付いてい」る先生には、馴れるのが大変だろう。
・『Q:保護者側からは意見があると思うのですが……。 西郷 いっぺんに校則をなくしたわけではありません。例えば、靴下の色、セーターの色を自由にしていき、夏は半ズボンでもよいということにしていきました。そして、生徒会がカジュアルデーを設けました。土曜日は私服と決めたのです。 小学校だって、私服じゃないですか。徐々に慣れていき、「別にかまわない」という感じになっていきました。違和感がなくなったのです。 ですので、私は、逆に制服のある学校へ行くと違和感を抱きます。同じ制服を着させて、どうやって生徒を区別しているのか。わからないじゃん、と(笑)』、「校則」を徐々になくしていったというのは無理のないやり方だ。
・『SNSのトラブルは減りました  Q:携帯電話やスマホ、SNSに関するルールは? 西郷 保護者からは「スマホを禁止して」という声はありません。「スマホを買ってほしいと言われて困る」という声はありますが(笑)。以前は、LINEのグループを作ることは禁止になっていました。それは悪口を書いたり、グループでハブにしたりすることがあったからです。でも、禁止してもみんなやりますからね。LINEの人に「出張授業」にきてもらい、SNSの使い方について話してもらいました。 今でも、許可なく写真をアップしたというくらいのトラブルはあります。しかし、理由はわかりませんが、SNSのトラブルは減りました。これまでは悪いことをすると学校の先生に叱られるという発想でしたが、今は、社会から叱られるということがわかってきました。校内の問題ではすまされない。それで慎重になっているのかもしれません。 Q:生徒会との関係はどうでしょうか。 西郷 普通、生徒総会は何も面白くない。つまらないじゃないですか。そこで何を言っても、最終的に先生が決めるのなら、総会で意見が出るはずもありません。だから、「ここで決まったことは実現するよ」と言ったんです。最低でも、決まったことを先生が実現する努力を見せる。すると、どんどん意見が出て盛り上がります。僕の考えと同じことを言う生徒がいると「シメた!」と思うんですよ(笑)。 最近実現したことは、校庭に芝生を植えたこと。ただ、野球やサッカーもしますし、植えたのは一部にしました。また、定期テストをなくしました』、「LINEの人に「出張授業」にきてもらい、SNSの使い方について話してもらいました・・・SNSのトラブルは減りました。これまでは悪いことをすると学校の先生に叱られるという発想でしたが、今は、社会から叱られるということがわかってきました。校内の問題ではすまされない。それで慎重になっているのかもしれません」、なるほど上手い手だ。
・『うちの学校で学力が落ちたら……  Q:定期テストをなくして、評価はどうやっているのですか? 西郷 9教科100点満点のテスト勉強は、なかなか一度にできません。でも、「10点満点」のテストならば、前の日に家で勉強すればできます。中間や期末テストをまとめてやるのではなく、こまめに小テストをやっていくことにしたのです。生徒の提案に対して、先生たちは反対すると思っていました。ところが、先生方が、定期テストではない方法を調べてきました。僕以上のことを先生方は考えていたんです。 うちの学校で学力が落ちたら、日本にとってのチャレンジは終わります。校則をなくしたら学力は落ちる、という結論になってしまう。だから先生方も、学力向上には力を入れようと思っています。 実際、学力はかなり上がっていますが、成績のいい子は、偏差値の高い進学校よりも、自由な校風の青山高校だったり、やりたい部活動で高校を選んだりすることが多いですね。だから、親御さんはどう思っているのか……(笑)。ただ、そうやって自分で考えることが重要ですし、そういう自由な環境からじゃなければ、日本のスティーブ・ジョブズは生まれてこないと思いますよ』、「成績のいい子は、偏差値の高い進学校よりも、自由な校風の青山高校だったり、やりたい部活動で高校を選んだりすることが多いですね」、これから楽しみだ。
・『今後、改善したいのは授業の質です  Q:部活動のあり方はどうでしょうか? 西郷 水曜日と日曜日の公式練習は禁止しています。そして、週10時間と決めて、平日は2時間、土曜日は3時間にしています。それ以外に自主練はありますが、強制は禁止しています。そうすることで自主的な意識が芽生えます。自主練に教師は立ち合いませんが、コーチか保護者が付いているようにします。 部活の顧問をやりたくて教師になった人もいます。そんな人は、土日も部活をやりたい。しかし、そうでない人からは「ブラック部活」と呼ばれるほどです。いまは教師のなり手がいない時代ですからね。少しでも働きやすい職場にしなければいけません。また、教師にも休養が必要です。飲みに行ったり、趣味に時間を費やすことが一人の人間として必要なのです。 Q:今後の学校運営の課題は? 西郷 改善したいのは授業の質です。一斉に知識を注入する授業は、もういいでしょ? 人間は知識ではAIにかないません。創造性を教えていかないと、学校だけでなく、日本が潰れてしまいます。だから、受験用の授業と、創造性を育てる授業を分けたいです。ただ、国が変わらないとなかなかできません。そのため、受験用の授業も必要悪でやっていますが、チャレンジをしていきたいです。 この学校の校長も今年で10年になりましたが、長期間務めたからこそ、できたという部分もあります。でも、それも今年度で終わりです。その後は、何も考えていません』、後任も出来れば西郷校長の路線を引き継いでもらいたいものだ。

第三に、健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏が8月27日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「増える10代の自殺。「指導死」はなぜ起こる?」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00037/?P=1
・『「指導死」という言葉がある。 生徒指導をきっかけとした子供の自殺(自死)を意味し、「指導死親の会」の代表である大貫隆志さんが2007年にこの言葉を作った。大貫さんは中学2年生だった息子を、自殺で失った経験を持つ。 息子さんは学校でお菓子を食べたという理由で、立ったままで1時間半に及ぶ叱責を教師から受けた。その翌日に命を絶ったため「行き過ぎた指導が息子を追い詰めたのではないか」と考えた。 ところがどんなに情報を集めようにもままならない。原因を突き止めることができず、いちばんの問題は「問題が表面化しないことにある」と考え、言葉を作ったという。 新しい言葉が生まれるのは、その言葉がよく当てはまる問題があっちこっちで起こり、それを象徴する何らかの共通ワードが求められるからにほかならない。そこにある問題を是正し、解決するために必要だからこそ必然的に生まれてくる。 そして、“共通ワード”が生まれれば、その問題をどうにかしようと考え、対策を練ることができる。「助けて!」とSOSを出したいのに、「そこに何もない」かのごとく無視され、「仕方がない」とあきらめたり、泣き寝入りしたりしていた人たちを、共通ワードがあれば救えるようになる。 「指導死」という言葉も、その1つなのだろう。 ただ、現場の先生たちの苦悩を何度も聞いている身からすると、「指導死」という言葉になんとも言い難い重たさを感じてしまうのだ。 うん。とてもとても重い。個人にのしかかる何かを。 それでも「『指導死』親の会 公式ブログ」で「指導死」をきちんと定義していることから察するに、言葉だけが一人歩きして無用に先生が責め立てられるのは避けたい、でも、先生の指導が子供の生きる力を失わせることもある、という事実を世間に知ってもらうことで、一人でも多くの大切な命を救いたいという願いがあるのだと、個人的には解釈している』、「先生の指導が子供の生きる力を失わせることもある、という事実を世間に知ってもらうことで、一人でも多くの大切な命を救いたいという願いがある」、というのは大いに意味があることだ。
・『教師の過剰な「指導」が生徒を追い詰めている  【指導死の定義】(「『指導死』親の会 公式ブログ」より抜粋) 不適切な言動や暴力等を用いた「指導」を、教員から受けたり見聞きすることによって、児童生徒が精神的に追い詰められ死に至ること。 妥当性、教育的配慮を欠く中で、教員から独断的、場当たり的な制裁が加えられ、結果として児童生徒が死に至ること。 長時間の身体の拘束や、反省や謝罪、妥当性を欠いたペナルティー等が強要され、その精神的苦痛により児童生徒が死に至ること。 「暴行罪」や「傷害罪」、児童虐待防止法での「虐待」に相当する教員の行為により、児童生徒が死に至ること。 17年3月、福井県の池田中学校で2年生の男子生徒が転落死した際、調査委員会は「担任らから厳しい指導を受けた精神的ストレスが自殺の要因だった」との報告書を公表した。 報告書によると、16年10月以降、担任や副担任から課題の提出や生徒会活動の準備の遅れなどで厳しい叱責を受けるようになり、校門の前で大声でどなられているのを多くの生徒が目撃。周りの人まで身震いするほどの声だったそうだ。 副担任に宿題の遅れを叱責されたときは、土下座しようとするほど追い詰められた。 「学校に行きたくない」と家族に訴えることもあり、自殺直前にも立て続けに強い叱責を受けていたとされている。 ……この事例は、前述の定義に従えば「指導死」ということになるのだろう』、確かに「指導死」なのかも知れないが、そのなかでも悪質だ。
・では、この場合はどうか。 15年12月、広島県府中町の中学3年の男子生徒(当時15歳)が誤った万引き記録に基づく進路指導の後に自殺した問題である。 学校側は生徒が1年生だった13年、別人の万引き行為をこの生徒の行為として誤って記録。校内の指摘で紙の資料は修正したが、電子データはそのまま残った。 担任がこの誤った記録をもとに生徒に進路指導した際、志望校への推薦はできないと告げ、生徒は翌月の保護者と担任の三者面談を欠席し、その日に自殺した。 町教委が設置した第三者による調査検討委員会は、「誤った進路指導が自死(自殺)の要因の1つであり、きっかけだった」とする報告書を公表。18年12月に遺族は、町に慰謝料など約6700万円の損害賠償を求め、広島地裁に提訴。一方、16年6月に広島市議が業務上過失致死容疑で担任を刑事告発したが、不起訴処分になっている。 今回「指導死」という言葉を取り上げたのは、今一度「子供の自殺」についてみなさんにも考えてほしいと願ったからだ。 「学校が死ぬほどつらい子は図書館へいらっしゃい」という、神奈川県鎌倉市立の図書館の公式ツイッターのつぶやきが話題になって以降、夏休みが終わるこの時期になると様々なメディアが子供の自殺問題を取り上げるようになった』、「広島県府中町の中学3年の男子生徒」のケースは、覚えているが、確かに信じ難いような酷さだ。
・『19歳以下の自殺はむしろ増えている  1972~2013年の42年間の18歳以下の自殺者を日付別にまとめたところ、9月1日が131人で最多で、春休み明けや大型連休明けが100人近い日があるなど長期休暇が終わった直後の自殺が目立っていたことは広く知られている(平成27年版自殺対策白書より)。 しかしながら、子供の自殺は「9月1日」に問題があるわけじゃない。あくまでも、社会の問題として「子供の自殺の多さ」が存在している。 先月、閣議決定された2019年版「自殺対策白書」では、18年の自殺者数は2万840人で、前年から481人減り、37年ぶりに2万1000人を下回ったと報告。自殺死亡率(人口10万にあたりの自殺者数)は、1978年に統計を取り始めて以来、最も低い16.5となったとした。 ところが、年齢別では19歳以下の未成年の自殺死亡率は2.8で統計を取り始めて以来最悪で、自殺者数は599人、前年より32人も増えていたのだ。 また、厚生労働省・警察庁の報告では、小・中・高校生の自殺者数は01年から17年までで、287人から357人に増加している。 欧米では若者の自殺率は1990年以降、減少傾向にあるのに日本は逆。15~19歳の未成年者に加え、20代の死因のトップはすべて「自殺」だ。 「若いんだから病気にはならない。自殺が1位って普通でしょ?」という意見もあるが、以下に示すとおり、欧米の主要国の同年代の若者はいずれも事故死の方が多く、日本だけが事故死の2倍以上もの若者が自殺している状況は異常としか言いようがない』、「指導死」は若者「自殺」の一因に過ぎないとはいえ、「日本だけが事故死の2倍以上もの若者が自殺している状況は異常としか言いようがない」、というのはその通りだ。
・『【「自殺」と「事故」の比率】(日本ー 17.8:6.9 フランス 8.3:12.7 カナダ 11.3:20.4 米国 13.3:35.1  数値は10万人当たりの死亡者、(出典:世界保健機関資料2016年) いったいなぜ、生きるために生まれてきた子供たちが、悲しい選択をしてしまうのか。「指導死」という言葉が生まれる背景には、何があるのか? 以前、30代の数名の先生たちとディスカッションをやったときに、「教師のストレス源は職員室にある」と吐露する先生の多さにショックを受けたことがある。当時は教師の長時間労働が社会問題化していた時期で(今もまだまだ解決には至ってないが)、先生たちはその実態を明かすとともに「職員間のストレス」を訴えた。 「今の先生に求められているのは、間違いを起こさないこと。間違いを起こさない無難な教師がいちばん良い。問題を起こさないように、職員室でも監視されている」「校長が先生で、それ以外の教員は全員生徒。服装のことから子供たちへの接し方まで、すべての行動をチェックされる」「『子供が学校に行きたがらない』と保護者が相談に来たときも、他の先生に生徒の授業中の様子を聞こうと思って他の教科担当の先生に聞いても、自分を巻き込まないでくれという感じで、誰も協力してくれない」「書類が山のようにあるので、職員室ではどの先生もパソコンに向かっていて会話はゼロ。話しかけられる雰囲気ではない」 といった具合だ。 中には、「先生はもうただのサラリーマン。子供たちのための仕事より、管理職のための仕事ばかり。管理職は自分の責任問題になると困るから、やたらと先生への監視を強める」と嘆く先生もいた』、教育委員会が学校に対して求める資料作成が、先生の多忙さの一因になっていることから、それら抜本的見直しも必要だろう。。
・『教育現場で教師にいったい何が起きているのか  先生たちの話を聞く限りそこは学校というより、まさしく企業。 ステークホルダー(利害関係者)たちから厳しい視線を向けられ、責任を取りたくない管理職と、言われたことだけしかやろうとしない部下たちが、子供という“顧客”相手に仕事をしている企業組織そのものだった。 学校という閉鎖空間では、一般の企業以上に人間関係が与える影響は大きい。ましてや、理屈じゃなく本能で動く子供と向き合うのは決して容易ではない。 教師の世界は「子供」という自分たちの職業で最も大切な存在のために、情報の共有が必要不可欠。何か子供に問題が生じたときにも、1人の先生をやり玉にあげるのではなく、みんなの問題として取り組まなきゃ、解決できるわけない。本来であれば強い共同性が保たれるべき集団が、崩壊寸前なのだ。) おまけに晩婚化で子供の親の方が、先生より年上の場合も多く、先生を「下」にみる保護者も少なくない。最近はあまり聞かなくなったが、モンスターペアレンツという言葉がやたらとメディアで取り上げられていた時期があったことは、誰もが記憶しているはずだ。 2006年には東京都の区立小学校の若い新任女性教諭が、保護者との関係に悩んだ末、自殺。「無責任な私をお許し下さい。全て私の無能さが原因です」と書かれた遺書が残されていた。 「子供がもめても注意しない。前の担任なら注意した」「子供のけんかで授業がつぶれているのが心配」「下校時間が守られていない」「結婚や子育てをしていないので経験が乏しいのでは」 などの苦情が連絡帳で寄せられていたが、それを相談したり、サポートしたりする先生もいなかったとされている。 念のためはっきりさせておくが、私は「指導死」という言葉を用いることを批判しているのではない。 だが、もし「指導死」という新しい言葉を作る必要性があるのだとしたら、それは教師だけの問題でもなければ、学校の中だけの問題でもない。「子供のため」という言葉があまりにも美しすぎて、ついつい忘れてしまいがちだが、先生だって人間だということだ。 悩むこともあれば、きついことを言われ凹むことだってある。そんなとき同僚の先生や、保護者とのつながりは極めて重要となる』、その通りだが、孤立して悩む先生を放置している、校長などの管理者の責任も大きい。
・『自殺は社会全体の問題だととらえるべきだ  親も含めた社会全体に問題があるということを、私たち自身がもっと自覚する必要があるのではないか。 「リストカットする子供は誰一人として、最初からそういう子だったわけではありません。会社でストレスがたまった父親は、母親を家庭で怒鳴り散らす。ストレス社会でイライラした大人たちが、それを子にぶつける。 その結果、子供は傷つく。誰からも褒められたことがない。誰からも認められたことがない。そんな子供は、自分を肯定することができません。自分は生きている意味がないと、自ら命を絶とうとするのです」 これは痛ましい事件が起こるたびに、私が思い出す「夜回り先生」こと水谷修氏の言葉だ。数年前に自殺予防のシンポジウムでご一緒させていただいたとき、水谷氏は何度もこう訴えていた。 死にたくて死ぬ子は1人もいない、と。学校の中だけの問題じゃないのだよ、と。社会の問題でもあるんだよ、と。 先の白書では、若年層の自殺を巡る状況について2018年までの10年分を分析している。10代では学業不振や進路の悩みなど学校問題の割合が最も高かったものの、家庭問題の割合が増えていることが分かっている。 小・中・高別では……、 ●小学生 男女いずれも1位が家庭問題。男子のトップは「家族からのしつけ・叱責」(42.8%)女子は「親子関係の不和」(38.1%)、「しつけ・叱責」(33.3%) ●中学生 家庭と学校の問題が入り交じる。男子は「学業不振」(18.7%)、「しつけ・叱責」(18.1%) 女子は「親子関係の不和」(20.1%)、「その他学友との不和」(18.3%) ●高校生 男子では1、2位とも学校関係で、「学業不振」(18.2%)、「進路に関する悩み」(16.4%) 女子は「うつ病」(18.3%)、「その他の精神疾患」(12.1%) うつ病などの健康問題は通常、何らかのストレスが存在した結果としての精神的なダメージなので、「うつ病」を自殺の原因とすることには抵抗があるが、上記の結果からも、学校だけに原因があるわけではないことは確かだ。 いじめ問題、いじめ問題に対する教師たちの対応、そして「指導死」。 ……デリケートな問題なので伝え方が難しいのだが、私は「自殺は個人の問題ではなく、社会の問題」という立場だ。つまり、自殺は「追い詰められた末の死」であり、「避けることのできる死(avoidable death)」。 ゆえに「命を絶つ」という悲しい選択に至る原因は決して1つでもなければ、子供世界だけの問題でもない。いつの時代も子供社会は大人社会の縮図。私たち大人の世界で起きていることが、子供に伝染しているのだ』、説得力溢れた主張で、その通りだ。
タグ:教育 日経ビジネスオンライン ダイヤモンド・オンライン 河合 薫 指導死の定義 千代田区立麹町中学校 文春オンライン (その17)(学校で「心を一つにしよう」というスローガンを掲げてはいけない“深い理由” 千代田区立麹町中学校・工藤勇一校長インタビュー、校則がないからこそ 教師と生徒は対等に話し合うことができる――西郷孝彦校長インタビュー、増える10代の自殺 「指導死」はなぜ起こる?) 「学校で「心を一つにしよう」というスローガンを掲げてはいけない“深い理由” 千代田区立麹町中学校・工藤勇一校長インタビュー 第2回」 「定期テスト廃止」「宿題廃止」「クラス担任制廃止」など、数々の大胆な改革 学校の「当たり前」をやめた。』(時事通信社) 工藤勇一校長 「自律 尊重 創造」が人材育成の基本 学校運営の究極的な「教育目標」 自律と尊重と創造が、社会で生きていくうえで根本的に重要な力なのだと考えました 「上位目標」が改革の原点でありエンジンである みんなの意見が食い違う時は、必ず上位目標に立ち戻って、進もうとする方向をそれに照らし合わせ、目標に合致しているかどうかをみんなで徹底的にディスカッションすることです お互いの主張の「中間点」で折り合いをつけるのではなく、あくまでも上位目標を達成するためには何が正しいのかを考える。ここは妥協することなく、しっかりと対話を重ねる必要があります トップは「失敗が許される範囲」を明示する 人は協力してくれなくて当たり前。そのときどうする? 「校則がないからこそ、教師と生徒は対等に話し合うことができる――西郷孝彦校長インタビュー―世田谷区立桜丘中学校には、チャイムも制服もない」 この学校はチャイムが鳴らない。そして何より、校則がない 世田谷区桜丘中学校 「心得」の3つですべてが指導できます 権利条約に掲げられた権利を知ることで、大切にされていることがわかり、子どもは自己肯定感が得られます 大人でもさまざまな考えがある 先生方って、校則があると、話し合いにならないんです。「校則があるからダメ」「守るか、守らないか」になってしまいます 合理的な話し合いを重ねることで信頼関係ができてきます 校則でしばることが染み付いている SNSのトラブルは減りました LINEの人に「出張授業」にきてもらい、SNSの使い方について話してもらいました これまでは悪いことをすると学校の先生に叱られるという発想でしたが、今は、社会から叱られるということがわかってきました。校内の問題ではすまされない。それで慎重になっているのかもしれません うちの学校で学力が落ちたら、日本にとってのチャレンジは終わります。校則をなくしたら学力は落ちる、という結論になってしまう。だから先生方も、学力向上には力を入れようと思っています。 実際、学力はかなり上がっています 今後、改善したいのは授業の質です 「増える10代の自殺。「指導死」はなぜ起こる?」 教師の過剰な「指導」が生徒を追い詰めている 『指導死』親の会 公式ブログ」 19歳以下の自殺はむしろ増えている 日本だけが事故死の2倍以上もの若者が自殺している状況は異常としか言いようがない 教育現場で教師にいったい何が起きているのか 自殺は社会全体の問題だととらえるべきだ
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トランプ大統領(その42)(アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている、トランプ再選の哀しい切り札 米国を切り裂く人種間分断の深刻、トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米) [世界情勢]

トランプ大統領については、6月13日に取上げた。今日は、(その42)(アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている、トランプ再選の哀しい切り札 米国を切り裂く人種間分断の深刻、トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米)である。

先ずは、元共同通信論説委員長で青山学院大学教授、ジャーナリストの会田 弘継 氏が6月27日付け東洋経済オンラインに寄稿した「アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/288843
・『今度のスローガンは「アメリカをつねに偉大に(Keep America Great)」だという。アメリカのドナルド・トランプ大統領が6月18日再選出馬を宣言した。共和党内の支持率は9割近くに達し、同党の大統領候補選びでは対抗馬はまだ出そうにない。仮に再選で敗れたとしても、共和党内での大きな影響力は続くだろう。だとすれば、この数十年間、共和党の屋台骨をつくってきたアメリカ保守主義はどうなるのか――』、興味深そうだ。
・『「トランピズム」の核心  自由貿易や小さな政府といった、アメリカ保守主義の中核的な理念について、トランプ大統領は重視していない。自由貿易を核として進むグローバリゼーションに対しては敵視さえしている。自由貿易と並んで、冷戦後期以来、アメリカ保守主義外交の中心的テーマであった民主化の拡大、つまりネオコン(新保守主義者)路線にも否定的だ。 自由貿易に代わって保護主義、他国の民主化などより「アメリカ・ファースト」で非介入路線。これが、トランピズム(トランプ主義)の核心だ。 そうなった背景は、トランプが疲弊した白人労働者階級をターゲットにして、彼らの力を借りて綱渡りのように中西部のラストベルト(錆びた工業地帯)の各州を勝ち取り、大統領ポストを手にしたからだ。 逆に、そのように勝利したことで、ラストベルトの白人労働者の不安や不満への対処を共和党の政策から切り離すことはできなくなり、そうした政策を支える理念が必要になった。つまり、新しい時代状況と政策に沿い、それらを主導していくための思想の模索が始まった。保守思想再編への動きである。 本連載の第1回で取り上げたように、そうした再編は保守派メディアの変革という形で表面化している(『日本人が知らない「トランプ派メディア」の本質』)。今回はメディア変革の裏側で起きている思想再編に、さらに焦点を当ててみる。 第1回ではネオコン論壇の旗艦のような雑誌であった『ウィークリー・スタンダード』の廃刊について触れた。それ以前に、ネオコン論壇誌では内政専門誌『パブリック・インタレスト』が2005年には廃刊し、外交専門誌『ナショナル・インタレスト』は現実主義外交系シンクタンクに買い取られた。 残るネオコン系主要誌は『コメンタリー』だけとなった。アフガン・イラク戦争の長期化に加えてリーマン危機にさらされたアメリカ国民の徒労感や挫折感が、論壇状況を変えてきた。トランプはそうした思想環境を背景に出てきたことは第1回で説明したとおりである』、一時は一世を風靡したネオコンもすっかり形無しのようだ。
・『新たに出現したトランプ派メディアなどを舞台に、一部の知識人グループがトランプ登場を歴史的機会と捉え、保守思想を組み替え、新たな思想運動を起こそうとしている。ここに来て、そのが形が徐々に見え始めた。きっかけとなったのは、保守派ケーブルテレビ、FOXニュースの人気政治コメンテーター、タッカー・カールソンのこの1月の発言だ。 カールソンは、6月20日にトランプ大統領がイラン軍事攻撃を直前で中止した際に、大統領に大きな影響を与えた人物と見られている。トランプは個人的にしばしば助言を仰ぎ、カールソンはイランと戦争を始めることには強く反対してきていた』、「イラン軍事攻撃を直前で中止した際に、大統領に大きな影響を与えた人物」、ということでは、今後も要注目だ。
・『労働者層を踏み台にするエリートという構図  そのカールソンは1月初め、市場経済とアメリカの「家族」の問題について、次のようなことを番組の中で長々と「独り言」として述べた。 「アメリカでは今や、結婚は金持ちしかできない。そんなことでいいのか。半世紀前には、結婚や家族生活において階級格差などほとんどなかった。1960年代後半から、貧困層が結婚できなくなった。1980年代には労働者階級のかなりの部分でそうなってきた。18~55歳の貧困層では26%、労働者階級では36%しか結婚していない」 労働者階級の子どもを見ると、半分近く(45%)が14歳までに両親の離婚に直面している。さらに婚外子、家庭崩壊などが激しく増加している。中間層以上の裕福な家庭では56%の成人が結婚しており、離婚率もずっと低い。どうしてか。 市場経済がなすがままにする連邦政府の誤った政策が、労働者階級の「家族生活」の経済的・社会的・文化的基盤を台無しにしている。カールソンはそう批判した。製造業の働き口がなくなり、高卒以下の労働者の賃金が下がり続け、結婚もできず、家庭は崩壊し、薬物・アルコール濫用、犯罪増加につながっている、と指摘した。 富裕層のエリートたちは労働者を踏み台にして、脱工業化経済の中で繁栄を享受しているのに労働者の苦境に見て見ぬふりをしている。「すさまじい怠慢ぶり」だ、とカールソンが激しく批判した。 共和党だけでなく民主党も同罪だと述べ、大きな問題は、アメリカ保守思想の一方の核である「市場」が、もう1つの核である「家族」を破壊しているということだ、と論じた。「家族の価値」を重んじる保守派による資本主義批判という点が注目される』、格差を問題視するのはリベラルに通じる面もあるが、「大きな問題は、アメリカ保守思想の一方の核である「市場」が、もう1つの核である「家族」を破壊しているということだ、と論じた」、「家族」重視という点で保守主義なのだろう。。
・『これに対し、中西部ラストベルトの崩壊貧困家庭からはい上がって、自身の物語を『ヒルビリー・エレジー』という本にまとめ、今は保守派論客となったJ・D・ヴァンスは保守派論壇誌『ナショナル・レビュー』への寄稿で満腔の賛意を表明した。 アメリカのGDPは拡大し、輸入雑貨が安く買えても、子どもの死亡率は下がらず、離婚も減らないし、寿命まで縮んでいる地域がある。これで豊かな国だといえるのか。「政府の介入」が必要だ。「市場が解決する」などありえない。 トランプ政権時代に入り、アメリカの保守派からこうした声が出るのは当たり前のように思えるが、FOXテレビや『ナショナル・レビュー』という保守の中核メディアで保守派論客が堂々と市場経済を否定し、大きな政府(「政府の介入」)を求め、しかも市場経済が家族を破壊しているとまで主張するのは、大きな思想変化が起きたことを意味する。既成の保守派内から猛然と反論が出たのは当然であった』、「保守の中核メディアで保守派論客が堂々と市場経済を否定し、大きな政府(「政府の介入」)を求め、しかも市場経済が家族を破壊しているとまで主張するのは、大きな思想変化」、日本では余り伝えられないが、確かに重要で「大きな思想変化」だ。
・『トランプ以前の保守コンセンサスには戻れない  保守理念を根本から問い直すようなカールソンの独り言が大きな出来事となったのは、それだけで終わらなかったからだ。 今年3月、宗教右派系の中では有力な論壇誌『ファースト・シングス』に「著名な15人の保守派著述家・学者」(ニューヨーク・タイムズ紙)が、「無効なるコンセンサスに抗して」という声明を発表した。 「無効なるコンセンサス」とは、これまでアメリカ保守主義の核となってきた理念のことだという。具体的には、「自由貿易、国境を越えた人の自由な移動、小さな政府、あらゆる問題の解決策としてのテクノロジー」といったドグマを指している。 声明は、こうしたドグマは20世紀における共産主義との戦いでの勝利に重要な役割を果たしたが、いまでは「家族制度の安定、共同体の団結」を破綻させ、「日常生活のポルノ化、死の文化、競争への盲信、悪質な検閲のような多文化主義」を招き入れている、と論じた。 その背景は、実はアメリカの保守主義がその敵であるリベラリズム(進歩主義)と同じ「個の自律(individual autonomy)」の 原理で動いてきたからだ。個の自律を崇めてきた結果、保守主義がもっとも忌み嫌う「専制(tyranny)」が生まれてしまったのは、皮肉ではないか――と、声明は論じた。 トランプ現象はこうした問題に対処する機会を与えている。もはやトランプ以前の保守のコンセンサスに後戻りすることは不可能だ。「レーガン主義の復活を望む者たちとは手を組まない」。自由な貿易や人の移動で利益を得ているのはエリートだけであり、そこから出現する「世界的専制」に対抗する「新たなナショナリズム」を支持するのだ、と声明は宣言した』、「実はアメリカの保守主義がその敵であるリベラリズム(進歩主義)と同じ「個の自律(individual autonomy)」の 原理で動いてきたからだ。個の自律を崇めてきた結果、保守主義がもっとも忌み嫌う「専制(tyranny)」が生まれてしまったのは、皮肉ではないか――と、声明は論じた」、なるほど言われてみればそうなのかも知れない面白い見方だ。
・『この声明が大きな意味を持つのは、既成のアメリカ保守主義とリベラリズム(進歩主義)は同じ穴のムジナだと批判し、この双方を否定したうえでトランプ以降の新たな保守主義の確立を訴えている点である。一種のガラガラポンのようなことを始めようとしている。そのキーワードが新たなナショナリズムだ。 一方、保守系論壇誌『クレアモント・レビュー・オブ・ブックス(CRB)』に「トランピズムとナショナリズムと保守主義」と題する論文が2月下旬に掲載され、これも保守思想界にちょっとしたセンセーションを起こした。連載第1回で紹介したように、CRBは躍進しているトランプ派メディアの1つだ。思想史的には西海岸の(レオ・)シュトラウス派と呼ばれる潮流の中で生まれた論壇誌である』、「新たなナショナリズム」とはどんなものなのだろう。
・『「国民精神の復活」が連鎖的に起きている  論文の著者は、クリストファー・デムート。保守派有力シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)理事長を1980年代から20年以上務め、財政危機にあった同研究所を立て直した。AEIは長くネオコンの牙城と見なされていた。デムートはその理事長を退いたあと、保守系ハドソン研究所の特別研究員となっている。保守シンクタンク界の大立て者といっていい。 そのデムートが、トランプ派CRBへの寄稿論文で「トランピズムのエッセンスはナショナリズム」であると要約し、いま米欧先進各国では「国民精神の復活」が、ちょうど「諸国民の春」と呼ばれた1848年革命の時と同じように連鎖的に起きていると分析した。1848年革命では、欧州各国の市民は蜂起して王侯貴族らが国境を越えてつくるエリート体制を打ち倒そうとした。 デムートはイギリスのジャーナリスト、デビッド・グッドハートの著書を引用し、「どこでもたち(Anywheres)」に対する「どこかたち(Somewheres)」の反乱だと論じた。「どこでもたち」とはグローバルに活動するエリートたち。彼らは世界中の同類がいるところなら、どこに住もうと構わない。エリートのネットワークの中で豊かに生きている。 他方で「どこかたち」は、地域に根付いて暮らす労働者や農民だ。家族、地域社会やさまざまな共同体、そして信仰が大切だ。トランプは、「どこかたち」の反乱の力を借りて登場した。「どこか」が反乱を起こしているのは、「代表政治」が衰退して彼らの声が届かなくなったからだ……とデムート論文は展開し、連邦議会の改革などを提案する。 デムートは、このままトランプが目指す方向でアメリカ政治が動いていけば、「保守主義運動と共和党はこれまでとは違ったものになる。保守の意味がまったく新しいものなる」とし、そこに向かって実際に思想的な再編が進んでおり、再編は「ナショナリズムの復活に形と意味を与えることを目的にすべきだ」と訴えていることだ』、「「どこでもたち(Anywheres)」に対する「どこかたち(Somewheres)」の反乱だ」、というのも確かに当てはまりそうな面白い見方だ。
・『カールソンの「独言」から始まり『ファースト・シングス』の声明に至る一連の動きが示しているのは、保守派陣営内で冷戦期以来の保守思想から脱却して、新たな思想形成の動きが始まっており、その核に「ナショナリズム」が据えられていることだ。 アメリカでは、これまでナショナリズムという言葉は、ナチズムやファシズムと結びつけられて、否定的なニュアンスを込めて使われることが多かった。愛国主義的な意味を表現する場合は「パトリオティズム」が使われてきた。それは左右を問わなかった。そのナショナリズムが今、保守派内で前面に出されて使われるようになったことだけでも、思想風土の変化をうかがわせる』、こうした「ナショナリズム」は、トランプのアメリカ・ファーストだけでなく、欧州での極右の主張にも通じるものがありそうだ。
・『7月には保守派論壇が大集合  デムートは、論文の中で「保守的ナショナリズム」という言葉を使い、これからの方向性を示そうとしている。デムートの考え方に影響を与えたのは、イスラエルのシオニスト思想家ヨラム・ハゾニーの著書『ナショナリズムの徳』(2018年)である。 デムートの論文は書評の形式を取っており、同書も含め主にこの2~3年に著された9冊を取り上げている。タッカー・カールソンの著作も挙げている。保守派の思想再編を考えるうえで極めて重要な著作が含まれる。 興味深いのは、民主党に近い政策も取り込んで保守派を改革しようとし、2016年選挙でマルコ・ルビオ上院議員を推した「リフォーモコン(改革派保守)」の間でも新しいナショナリズムを標榜する動きが出ていることだ(東洋経済プラス拙稿『進化する「リフォーモコン」』参照」)。 これまで挙げてきた、カールソン、デムート、ハゾニーや『ファースト・シングス』に声明を出した知識人グループや、トランプ時代の新たな思想を模索するCRBや『アメリカン・アフェアーズ』など論壇誌の主催者らは、この7月中旬にワシントンに大集合し、「ナショナル・コンサーバティズム(国民保守主義)」の形成について話し合う。 その国民保守主義のベースとなるのは、『ナショナリズムの徳』をはじめデムートが挙げた最近の重要著作のいくつかだ。これらの著作の中心的主張は、『ファースト・シングス』声明にあった「個の自律」批判である。これは、個人の自由と平等を中心に据えたアメリカ建国理念の批判にまで至りかねない。次回はそれらの内容から、アメリカ保守思想再編の中身をさらに探っていく』、「「ナショナル・コンサーバティズム(国民保守主義)」の形成について話し合う」の結果はどうなったのだろうか、筆者の報告が楽しみだ。

次に、みずほ総合研究所調査本部 欧米調査部長の安井明彦氏が7月24日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トランプ再選の哀しい切り札、米国を切り裂く人種間分断の深刻」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/209665
・『2020年の大統領選挙を前に、米国が人種問題に揺れている。トランプ大統領が人種差別とも批判される言動で白人票固めを急ぐ一方で、民主党の各候補は黒人票の獲得を競う。奴隷制から公民権運動へと重い歴史を持つ人種間の分断が、大統領選挙の行方を左右しそうな雲行きだ』、もともと移民により多民族国家として成立した米国で、「人種間の分断」を煽ったことで、銃乱射事件などが多発しているのも、深刻な問題だ。
・『トランプ支持者が「人種差別」的な発言に追随  「彼女を(国に)送り返せ、彼女を(国に)送り返せ」 7月17日、ノースカロライナ州で行われた選挙集会で、支持者から自然発生的に沸き起こったコールが、全米を驚愕させている。「人種差別」とも批判されたトランプ大統領の言動を、支持者が自発的に受け継いだからだ。米国の汚点であるはずの人種差別を示唆する言葉が広く共有された衝撃からか、当日の夕方には、辞書大手のメリアム・ウェブスター社のサイトで、人種差別が検索ワードの1位に躍りでた。 引き金となったのは、トランプ大統領による3日前のツィートである。トランプ大統領は、集会に先立つ7月14日、ソマリア生まれのオマール下院議員や、プエルトルコ系のオカシオコルテス下院議員など、民主党の4人の女性・非白人議員を、もともといた国に「帰ったらどうか」とツィッターで攻撃した。 これに対して、民主党の議員を中心に「大統領にあるまじき人種差別的な発言だ」との反発が広がった。民主党が多数派である米下院では、大統領を非難する決議が採択される騒ぎとなっている。 米メディアは、その言葉が持つ歴史的な重みから、あまり人種差別という表現を使わない。しかし、今回のトランプ大統領のツィートに関しては、「米国の人種差別の歴史に深く根ざした言葉使いだ(ワシントンポスト紙)」と断じる向きがある。 第二次世界大戦当時の日系移民が標的となったように、特定の人種の人々を「(国に)帰れ」と攻撃するのは、米国における人種差別の伝統的な論法だという。なかには、過去にオバマ大統領が米国生まれかどうかを疑問視した経緯などを紐解き、トランプ大統領の人種差別的な傾向を指摘する報道すら見られる。 そうしたなかで迎えた17日の選挙集会は、米国における人種間の分断の深さを浮き彫りにすると同時に、再選を目指すトランプ大統領にとっては、白人の人種差別的な感情に訴えかける戦略の有効性が示された出来事となった。あれだけの論争があったにもかかわらず、トランプ大統領が演説でオマール議員を批判するや否や、人種差別的とされた「(国に)帰れ」を連想させる言葉を、大統領の支持者は熱狂的に唱和した。それは、誰に促されたわけでもなく、自然に生まれた現象だった』、「トランプ支持者が「人種差別」的な発言に追随」、というのは恐ろしいことだ。
・『「忘れられた人々」を動かした非白人・移民への反感  どうやらトランプ大統領は、人種間の分断を切り札に、2016年大統領選挙の再現を狙っているようだ。4人の民主党議員を巡る騒動に限らず、最近のトランプ大統領には、非白人に対して厳しい言動が目立つ。不法移民に関しては、強制送還を視野に入れた一斉摘発の方針が明らかにされている。急増する中米からの難民に関しては、来年の受け入れをほぼゼロにする計画が進んでいると報じられている。 背景にあるのは、2016年の成功体験である。トランプ大統領が予想外の勝利を収めた理由の1つは、それまでの民主党支持から乗り換えた白人の存在にある。2012年にオバマ大統領に投票した有権者を追跡調査すると、2016年の大統領選挙では9%がトランプ大統領に乗り換えている。その8割以上を占めるのが、白人の有権者だった。 立場を変えた白人の象徴的な存在が、中西部の白人ブルーカラー層である。2016年の大統領選挙では、ペンシルバニア州やミシガン州など、共和党が連敗してきた中西部の州における勝利が、トランプ大統領の誕生を支えた。その原動力となった中西部の白人ブルーカラー層は「忘れられた人々」と称され、製造業の停滞による経済的な苦境を理由に、トランプ大統領の米国第一主義に魅了されたと言われてきた。 しかし、「忘れられた人々」がトランプ大統領に引き寄せられたのは、経済的な理由だけではなかった。実際には、経済政策では民主党の主張に近い有権者までもが、人種や移民の問題を理由に、トランプ大統領支持に乗り換えていた。そこで強い吸引力となったのは、メキシコからの移民に対する口汚い批判のように、人種差別的な感情を刺激したトランプ大統領の主張だった。 世論調査によれば、2016年の大統領選挙は、人種や移民に対する考え方の違いが、投票する候補を選ぶ決め手となる度合いが、過去の選挙よりも高かった。特に、中西部でオバマ大統領からトランプ大統領に乗り換えた有権者には、非白人や移民への否定的な感情が強い傾向があったことが明らかになっている』、確かに「忘れられた人々」にアピールするには、人種差別的発言は有効なようだ。
・『たとえば、2016年の大統領選挙では、2012年のオバマ大統領支持からトランプ大統領支持に乗り換えた中西部の有権者のうち、約65%が不法移民の強制送還に賛成していた。一方で、民主党のクリントン候補に投票した有権者では、強制送還に賛同した割合は2割程度に過ぎなかった。 共和党のなかには、減少傾向にある白人に頼った選挙戦略に対して、疑問を呈する声がある。特に2008年、2012年の選挙でオバマ大統領に連敗を喫した直後には、非白人への支持拡大を急務とする意識が強かった。たとえば、いくら共和党が白人に支持されているといっても、少なくともヒスパニックの4割程度から票を得なければ、大統領選挙では勝利できないといわれてきた。 しかし、2016年のトランプ大統領は、ヒスパニックからの得票率が30%を割り込んだにもかかわらず、白人票の掘り起こしによって、見事に勝利を手にした。その勝利の方程式に、トランプ大統領はこだわっている』、トランプは、人種差別発言がヒスパニックの支持をさらに減らすリスクについて、どう考えているのだろう。
・『民主党の候補者たちが黒人票の獲得を競う理由  白人票に頼るトランプ大統領の戦略は、「打倒トランプ」を至上命題とする民主党の思考にも影響を与えている。非白人票への傾斜である。 環境問題と並び人種間の平等は、トランプ政権の2年間で、最も民主党支持者の関心が高まった論点である。2019年1月に発表された世論調査によれば、民主党支持者の約70%が人種間の平等を「非常に重要な課題である」と答えている。2016年の調査と比べると、約10%の大幅増である。 なかでも大統領選挙を目指す候補者が注目するのが、黒人支持者の動向だ。民主党では、2020年の大統領選挙での指名候補を争う予備選挙が本格化している。サンダース上院議員やウォーレン上院議員らの有力候補者たちは、黒人向けの雑誌に寄稿したり、格差や住宅問題で黒人が直面する経済的な課題の解決を提案したりするなど、黒人票の獲得を競っている。 黒人票への関心の高さを示す象徴的な出来事が、6月末に行われた民主党候補者によるテレビ討論会で起こった。予備選挙の支持率でトップを走るバイデン元副大統領が、厳しい攻撃を受けたのだ。討論会に先立ちバイデン元副大統領は、上院議員時代に超党派の協力を進めてきた実績として、人種差別的な主張で知られた共和党議員たちと協力してきたことを誇らしげに語っていた。 討論会の場では、ジャマイカ系とインド系の親をもつハリス上院議員が、この発言を厳しく批判した上で、黒人に対する人種差別撤廃に関するバイデン元副大統領の議員時代の取り組みを糾弾した。 討論会での厳しいやり取りは、メディアの大きな注目を集めた。この論争をきっかけに、ハリス議員の支持率が急上昇する一方で、バイデン元副大統領の支持率が低下する展開となっている』、「バイデン元副大統領」は知名度は高くても、「議員時代の取り組みを糾弾」されるというのは、大きな弱みだ。
・『もう一方の「忘れられた人々」「打倒トランプ」の鍵を握る黒人票  民主党が黒人票に注目する理由は、トランプ大統領への反動だけではない。黒人票の行方は、トランプ大統領の再選を占う重要なカギとなる。オバマ大統領支持からトランプ大統領支持に乗り換えた白人と並び、2016年の大統領選挙で民主党が敗れたもう1つの大きな理由が、黒人の投票率の低さだったからだ。 2016年の大統領選挙では、2012年にオバマ大統領に投票した有権者のうち、7%が投票を行っていない。トランプ大統領に乗り換えた有権者(9%)よりは少ないが、接戦となった大統領選挙では、決して無視できない水準である。 民主党にとって致命的だったのが、黒人票の動向だ。2016年の大統領選挙では、黒人の投票率が60%を割り込み、2012年(67%)を大きく下回った。オバマ大統領への支持から無投票に変わった有権者の約半数は白人だが、それに次いで多かったのは4割弱を占めた黒人だった。 中西部の白人ブルカラー層が、トランプ大統領の勝利を生んだ「忘れれらた人々」だったとすれば、民主党の敗北を決定的にした黒人は、もう1つの「忘れられた人々」だった。伝統的に民主党の候補者は、積極的に黒人票を得ようとしてこなかったからだ。人種問題への意識が高い黒人の有権者は、そう簡単には共和党に投票しない。票を奪われるリスクが低い以上、民主党の選挙運動の重点は、黒人以外の有権者に置かれがちだった。 実際に、2016年にオバマ大統領支持から無投票に変わった有権者のうち、選挙期間中に民主党陣営から何らかの働きかけを受けた割合は、4割強に過ぎなかった。2012年にオバマ大統領に投票し、2016年にも民主党候補に投票した有権者の場合(7割弱)より、かなり低い水準である。 黒人票の重要性は、大統領選挙の2年後に行われた2018年の中間選挙で、早くも証明されている。民主党が躍進したこの選挙では、黒人の投票率が51%を超えた。大統領選挙での投票率よりは低いが、2014年の中間選挙と比較すると10%以上の大幅な上昇である』、「票を奪われるリスクが低い以上、民主党の選挙運動の重点は、黒人以外の有権者に置かれがちだった」、というのは確かに民主党の重大な手落ちだ。しかし、民主党には黒人の投票率を上昇させる切り札が欠けているようだ。
・『二大政党間の分断が人種間の分断との共鳴を強める  2020年の大統領選挙で民主党がトランプ大統領の再選を阻むには、黒人の支持者を着実に投票に向かわせることが大前提となる。すでに述べたように、オバマ大統領支持からトランプ大統領支持に転じた白人ブルーカラー層は、非白人や移民への否定的な感情が強い。支持者の9割弱を白人が占める共和党と違い、非白人の支持者が4割強を占める民主党が、こうした有権者を取り戻すような政策を打ち出すのは難しい。もう1つの「忘れられた人々」である黒人に、まず民主党の関心が集まるのも無理はない。 もっとも、こうした民主党陣営の黒人票への執心は、さらに人種間の分断を深めかねない。トランプ大統領の過激な言動に呼応するように、民主党の主張も先鋭化しているからだ。 たとえば民主党の一部には、奴隷制による経済的な損害を理由に、黒人への補償金の支払いを主張する声がある。全米での支持は3割に届かず、黒人初の大統領であるオバマ大統領ですら否定的だった政策だが、サンダース議員やウォーレン議員、ハリス議員といった候補者たちは、その是非を検討する価値はあると主張している。 トランプ大統領の下で、共和党の支持者も変わってきた。2019年7月に行われた世論調査によれば、共和党支持者の6割弱が「米国は世界中の人々に開かれすぎており、国としてのアイデンティティを失うリスクがある」という指摘に同意している。トランプ政権が誕生した2017年の調査では、同様の回答は5割に満たなかった。 かねてから米国では、二大政党間の分断の深まりが指摘されてきた。2020年の大統領選挙では、そうした2大政党間の分断が、人種間の分断との共鳴を強めている』、「2大政党間の分断が、人種間の分断との共鳴を強めている」、というのは言い得て妙だが、その結果は恐ろしいことになる懸念もありそうだ。

第三に、8月23日付け産経新聞「トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米」を紹介しよう。
https://www.sankei.com/world/news/190823/wor1908230035-n1.html
・『トランプ米大統領が北極圏にある世界最大の島、デンマーク自治領グリーンランドを購入する意向を表明した問題は、同国のフレデリクセン首相が「ばかげている」と一蹴したことで事実上決着した。一方、トランプ政権は、中国やロシアの北極海への進出や気候変動による北極海航路の可能性をにらみ、戦略的重要性を増しているグリーンランドへの関心を強めており、今回の騒動で生じたデンマークとの亀裂を修復し、北極圏をめぐる関係強化を目指していく方針だ。 トランプ氏は21日、ホワイトハウスで記者団に対し、グリーンランド購入は「単なる検討課題だった」と説明した上で、首相の発言は「暴言であり不適切だ」と述べ、「米国を『ばか』呼ばわりするのは許さない」と訴えた。 一方、国務省によるとポンペオ国務長官は同日、デンマークのコフォズ外相と電話で会談し、グリーンランド自治政府を含むデンマークとの北極圏での関係強化について話し合った。 ポンペオ氏は、同じ北大西洋条約機構(NATO)加盟国のデンマークと北極圏で中露に対抗していく姿勢を確認するとともに、トランプ発言の「火消し」を図ったとみられる』、「フレデリクセン首相が「ばかげている」と一蹴した」のに対し、トランプ大統領は「「米国を『ばか』呼ばわりするのは許さない」と訴えた」、非は明らかにトランプにあるのに、強気で反撃したのは、選挙民向けだろう。
・『米政権がグリーンランドに関心を向けるのは、第一には豊富なレアアース(希土類)資源が埋蔵されているためだ。 希土類の生産で世界的優位にある中国が米国への希土類の輸出規制を示唆しているのに危機感を抱く米国は、希土類の安定供給元の確保を模索。グリーンランド自治政府とは最近、希土類採掘への投資に向けた覚書を交わした。 また、気候変動で北極圏の氷が解け、北極海航路という新たな戦略的物流ルートが生まれつつある中、中露が影響力拡大を図っていることも、北極海と北大西洋の間に位置する要衝であるグリーンランドの重要性を高めている。 米国は、グリーンランド北部に空軍基地を置き、弾道ミサイルの早期警戒や人工衛星の追跡に活用。これに対し、中国も2016年、島にある旧米軍基地の跡地の買収を図ったほか、18年には米軍基地に近接する土地での空港建設の入札に参加したが、いずれも米国の意向を受けたデンマークから阻止されている。 ただ、グリーンランドに米軍基地があるにもかかわらず中露が進出しているのは、基地が中露に対する抑止力の役割を果たしていないことを意味する。 このため米国内では、前時代的な外国からの土地購入ではなく、今回の騒動をデンマークとの安全保障協力の強化につなげ、中露に対抗する契機にすべきだとの意見が相次いでいる』、「前時代的な外国からの土地購入ではなく、今回の騒動をデンマークとの安全保障協力の強化につなげ、中露に対抗する契機にすべきだ」、との意見は妥当だろう。それにしても、トランプ大統領がいきなり買収を提案するとは、外交慣行を無視した荒っぽいやり方だ。国務長官に相談もせずにやったのだろうか。
『■米国による外国の土地買収 米国は過去に外国からの土地買収を通じて領土を拡張してきた。ジェファソン大統領は1803年、現在の南部ルイジアナ州から北部モンタナ州にまたがる地域をフランスから購入。アンドリュー・ジョンソン大統領は67年、西部のアラスカをロシアから買い取った。ウィルソン大統領は1917年、現在の米領バージン諸島をデンマークから購入した。グリーンランドをめぐっては、トルーマン大統領が46年に1億ドル相当の金塊と引き換えに買収を図ったが失敗している』、「グリーンランドをめぐっては、トルーマン大統領が46年に1億ドル相当の金塊と引き換えに買収を図ったが失敗」、というのは初耳だが、因縁の島であることは間違いないようだ。
タグ:東洋経済オンライン 産経新聞 ダイヤモンド・オンライン 安井明彦 トランプ大統領 トランプ米大統領 (その42)(アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている、トランプ再選の哀しい切り札 米国を切り裂く人種間分断の深刻、トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米) 会田 弘継 「アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている」 「アメリカをつねに偉大に(Keep America Great)」 「トランピズム」の核心 ネオコン(新保守主義者)路線にも否定的 自由貿易に代わって保護主義、他国の民主化などより「アメリカ・ファースト」で非介入路線 中西部のラストベルト(錆びた工業地帯)の各州を勝ち取り、大統領ポストを手にしたからだ 一部の知識人グループがトランプ登場を歴史的機会と捉え、保守思想を組み替え、新たな思想運動を起こそうとしている タッカー・カールソン イラン軍事攻撃を直前で中止した際に、大統領に大きな影響を与えた人物 労働者層を踏み台にするエリートという構図 市場経済がなすがままにする連邦政府の誤った政策が、労働者階級の「家族生活」の経済的・社会的・文化的基盤を台無しにしている 富裕層のエリートたちは労働者を踏み台にして、脱工業化経済の中で繁栄を享受しているのに労働者の苦境に見て見ぬふりをしている。「すさまじい怠慢ぶり」だ、とカールソンが激しく批判 大きな問題は、アメリカ保守思想の一方の核である「市場」が、もう1つの核である「家族」を破壊しているということだ、と論じた ヒルビリー・エレジー J・D・ヴァンス 満腔の賛意を表明 保守の中核メディアで保守派論客が堂々と市場経済を否定し、大きな政府(「政府の介入」)を求め、しかも市場経済が家族を破壊しているとまで主張するのは、大きな思想変化が起きたことを意味する。既成の保守派内から猛然と反論が出たのは当然であった トランプ以前の保守コンセンサスには戻れない 「著名な15人の保守派著述家・学者」 「無効なるコンセンサスに抗して」という声明 自由貿易、国境を越えた人の自由な移動、小さな政府、あらゆる問題の解決策としてのテクノロジー」といったドグマ いまでは「家族制度の安定、共同体の団結」を破綻させ、「日常生活のポルノ化、死の文化、競争への盲信、悪質な検閲のような多文化主義」を招き入れている 実はアメリカの保守主義がその敵であるリベラリズム(進歩主義)と同じ「個の自律(individual autonomy)」の 原理で動いてきたからだ。個の自律を崇めてきた結果、保守主義がもっとも忌み嫌う「専制(tyranny)」が生まれてしまったのは、皮肉ではないか 既成のアメリカ保守主義とリベラリズム(進歩主義)は同じ穴のムジナだと批判し、この双方を否定したうえでトランプ以降の新たな保守主義の確立を訴えている点である 「国民精神の復活」が連鎖的に起きている イギリスのジャーナリスト、デビッド・グッドハートの著書を引用し、「どこでもたち(Anywheres)」に対する「どこかたち(Somewheres)」の反乱だと論じた 「ナショナリズム」 7月には保守派論壇が大集合 「トランプ再選の哀しい切り札、米国を切り裂く人種間分断の深刻」 トランプ大統領が人種差別とも批判される言動で白人票固めを急ぐ 人種間の分断が、大統領選挙の行方を左右しそうな雲行きだ トランプ支持者が「人種差別」的な発言に追随 民主党の4人の女性・非白人議員を、もともといた国に「帰ったらどうか」とツィッターで攻撃 「忘れられた人々」を動かした非白人・移民への反感 中西部の白人ブルーカラー層は「忘れられた人々」 民主党の候補者たちが黒人票の獲得を競う理由 もう一方の「忘れられた人々」「打倒トランプ」の鍵を握る黒人 黒人の投票率の低さ 人種問題への意識が高い黒人の有権者は、そう簡単には共和党に投票しない。票を奪われるリスクが低い以上、民主党の選挙運動の重点は、黒人以外の有権者に置かれがちだった 二大政党間の分断が人種間の分断との共鳴を強める 「トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米」 デンマーク自治領グリーンランドを購入する意向を表明した問題は、同国のフレデリクセン首相が「ばかげている」と一蹴したことで事実上決着 首相の発言は「暴言であり不適切だ」と述べ、「米国を『ばか』呼ばわりするのは許さない」と訴えた ポンペオ国務長官は同日、デンマークのコフォズ外相と電話で会談し、グリーンランド自治政府を含むデンマークとの北極圏での関係強化について話し合った は豊富なレアアース(希土類)資源が埋蔵 北極海航路という新たな戦略的物流ルートが生まれつつある中、中露が影響力拡大を図っていることも、北極海と北大西洋の間に位置する要衝であるグリーンランドの重要性を高めている 国内では、前時代的な外国からの土地購入ではなく、今回の騒動をデンマークとの安全保障協力の強化につなげ、中露に対抗する契機にすべきだとの意見が相次いでいる
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