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トランプ大統領(その42)(アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている、トランプ再選の哀しい切り札 米国を切り裂く人種間分断の深刻、トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米) [世界情勢]

トランプ大統領については、6月13日に取上げた。今日は、(その42)(アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている、トランプ再選の哀しい切り札 米国を切り裂く人種間分断の深刻、トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米)である。

先ずは、元共同通信論説委員長で青山学院大学教授、ジャーナリストの会田 弘継 氏が6月27日付け東洋経済オンラインに寄稿した「アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/288843
・『今度のスローガンは「アメリカをつねに偉大に(Keep America Great)」だという。アメリカのドナルド・トランプ大統領が6月18日再選出馬を宣言した。共和党内の支持率は9割近くに達し、同党の大統領候補選びでは対抗馬はまだ出そうにない。仮に再選で敗れたとしても、共和党内での大きな影響力は続くだろう。だとすれば、この数十年間、共和党の屋台骨をつくってきたアメリカ保守主義はどうなるのか――』、興味深そうだ。
・『「トランピズム」の核心  自由貿易や小さな政府といった、アメリカ保守主義の中核的な理念について、トランプ大統領は重視していない。自由貿易を核として進むグローバリゼーションに対しては敵視さえしている。自由貿易と並んで、冷戦後期以来、アメリカ保守主義外交の中心的テーマであった民主化の拡大、つまりネオコン(新保守主義者)路線にも否定的だ。 自由貿易に代わって保護主義、他国の民主化などより「アメリカ・ファースト」で非介入路線。これが、トランピズム(トランプ主義)の核心だ。 そうなった背景は、トランプが疲弊した白人労働者階級をターゲットにして、彼らの力を借りて綱渡りのように中西部のラストベルト(錆びた工業地帯)の各州を勝ち取り、大統領ポストを手にしたからだ。 逆に、そのように勝利したことで、ラストベルトの白人労働者の不安や不満への対処を共和党の政策から切り離すことはできなくなり、そうした政策を支える理念が必要になった。つまり、新しい時代状況と政策に沿い、それらを主導していくための思想の模索が始まった。保守思想再編への動きである。 本連載の第1回で取り上げたように、そうした再編は保守派メディアの変革という形で表面化している(『日本人が知らない「トランプ派メディア」の本質』)。今回はメディア変革の裏側で起きている思想再編に、さらに焦点を当ててみる。 第1回ではネオコン論壇の旗艦のような雑誌であった『ウィークリー・スタンダード』の廃刊について触れた。それ以前に、ネオコン論壇誌では内政専門誌『パブリック・インタレスト』が2005年には廃刊し、外交専門誌『ナショナル・インタレスト』は現実主義外交系シンクタンクに買い取られた。 残るネオコン系主要誌は『コメンタリー』だけとなった。アフガン・イラク戦争の長期化に加えてリーマン危機にさらされたアメリカ国民の徒労感や挫折感が、論壇状況を変えてきた。トランプはそうした思想環境を背景に出てきたことは第1回で説明したとおりである』、一時は一世を風靡したネオコンもすっかり形無しのようだ。
・『新たに出現したトランプ派メディアなどを舞台に、一部の知識人グループがトランプ登場を歴史的機会と捉え、保守思想を組み替え、新たな思想運動を起こそうとしている。ここに来て、そのが形が徐々に見え始めた。きっかけとなったのは、保守派ケーブルテレビ、FOXニュースの人気政治コメンテーター、タッカー・カールソンのこの1月の発言だ。 カールソンは、6月20日にトランプ大統領がイラン軍事攻撃を直前で中止した際に、大統領に大きな影響を与えた人物と見られている。トランプは個人的にしばしば助言を仰ぎ、カールソンはイランと戦争を始めることには強く反対してきていた』、「イラン軍事攻撃を直前で中止した際に、大統領に大きな影響を与えた人物」、ということでは、今後も要注目だ。
・『労働者層を踏み台にするエリートという構図  そのカールソンは1月初め、市場経済とアメリカの「家族」の問題について、次のようなことを番組の中で長々と「独り言」として述べた。 「アメリカでは今や、結婚は金持ちしかできない。そんなことでいいのか。半世紀前には、結婚や家族生活において階級格差などほとんどなかった。1960年代後半から、貧困層が結婚できなくなった。1980年代には労働者階級のかなりの部分でそうなってきた。18~55歳の貧困層では26%、労働者階級では36%しか結婚していない」 労働者階級の子どもを見ると、半分近く(45%)が14歳までに両親の離婚に直面している。さらに婚外子、家庭崩壊などが激しく増加している。中間層以上の裕福な家庭では56%の成人が結婚しており、離婚率もずっと低い。どうしてか。 市場経済がなすがままにする連邦政府の誤った政策が、労働者階級の「家族生活」の経済的・社会的・文化的基盤を台無しにしている。カールソンはそう批判した。製造業の働き口がなくなり、高卒以下の労働者の賃金が下がり続け、結婚もできず、家庭は崩壊し、薬物・アルコール濫用、犯罪増加につながっている、と指摘した。 富裕層のエリートたちは労働者を踏み台にして、脱工業化経済の中で繁栄を享受しているのに労働者の苦境に見て見ぬふりをしている。「すさまじい怠慢ぶり」だ、とカールソンが激しく批判した。 共和党だけでなく民主党も同罪だと述べ、大きな問題は、アメリカ保守思想の一方の核である「市場」が、もう1つの核である「家族」を破壊しているということだ、と論じた。「家族の価値」を重んじる保守派による資本主義批判という点が注目される』、格差を問題視するのはリベラルに通じる面もあるが、「大きな問題は、アメリカ保守思想の一方の核である「市場」が、もう1つの核である「家族」を破壊しているということだ、と論じた」、「家族」重視という点で保守主義なのだろう。。
・『これに対し、中西部ラストベルトの崩壊貧困家庭からはい上がって、自身の物語を『ヒルビリー・エレジー』という本にまとめ、今は保守派論客となったJ・D・ヴァンスは保守派論壇誌『ナショナル・レビュー』への寄稿で満腔の賛意を表明した。 アメリカのGDPは拡大し、輸入雑貨が安く買えても、子どもの死亡率は下がらず、離婚も減らないし、寿命まで縮んでいる地域がある。これで豊かな国だといえるのか。「政府の介入」が必要だ。「市場が解決する」などありえない。 トランプ政権時代に入り、アメリカの保守派からこうした声が出るのは当たり前のように思えるが、FOXテレビや『ナショナル・レビュー』という保守の中核メディアで保守派論客が堂々と市場経済を否定し、大きな政府(「政府の介入」)を求め、しかも市場経済が家族を破壊しているとまで主張するのは、大きな思想変化が起きたことを意味する。既成の保守派内から猛然と反論が出たのは当然であった』、「保守の中核メディアで保守派論客が堂々と市場経済を否定し、大きな政府(「政府の介入」)を求め、しかも市場経済が家族を破壊しているとまで主張するのは、大きな思想変化」、日本では余り伝えられないが、確かに重要で「大きな思想変化」だ。
・『トランプ以前の保守コンセンサスには戻れない  保守理念を根本から問い直すようなカールソンの独り言が大きな出来事となったのは、それだけで終わらなかったからだ。 今年3月、宗教右派系の中では有力な論壇誌『ファースト・シングス』に「著名な15人の保守派著述家・学者」(ニューヨーク・タイムズ紙)が、「無効なるコンセンサスに抗して」という声明を発表した。 「無効なるコンセンサス」とは、これまでアメリカ保守主義の核となってきた理念のことだという。具体的には、「自由貿易、国境を越えた人の自由な移動、小さな政府、あらゆる問題の解決策としてのテクノロジー」といったドグマを指している。 声明は、こうしたドグマは20世紀における共産主義との戦いでの勝利に重要な役割を果たしたが、いまでは「家族制度の安定、共同体の団結」を破綻させ、「日常生活のポルノ化、死の文化、競争への盲信、悪質な検閲のような多文化主義」を招き入れている、と論じた。 その背景は、実はアメリカの保守主義がその敵であるリベラリズム(進歩主義)と同じ「個の自律(individual autonomy)」の 原理で動いてきたからだ。個の自律を崇めてきた結果、保守主義がもっとも忌み嫌う「専制(tyranny)」が生まれてしまったのは、皮肉ではないか――と、声明は論じた。 トランプ現象はこうした問題に対処する機会を与えている。もはやトランプ以前の保守のコンセンサスに後戻りすることは不可能だ。「レーガン主義の復活を望む者たちとは手を組まない」。自由な貿易や人の移動で利益を得ているのはエリートだけであり、そこから出現する「世界的専制」に対抗する「新たなナショナリズム」を支持するのだ、と声明は宣言した』、「実はアメリカの保守主義がその敵であるリベラリズム(進歩主義)と同じ「個の自律(individual autonomy)」の 原理で動いてきたからだ。個の自律を崇めてきた結果、保守主義がもっとも忌み嫌う「専制(tyranny)」が生まれてしまったのは、皮肉ではないか――と、声明は論じた」、なるほど言われてみればそうなのかも知れない面白い見方だ。
・『この声明が大きな意味を持つのは、既成のアメリカ保守主義とリベラリズム(進歩主義)は同じ穴のムジナだと批判し、この双方を否定したうえでトランプ以降の新たな保守主義の確立を訴えている点である。一種のガラガラポンのようなことを始めようとしている。そのキーワードが新たなナショナリズムだ。 一方、保守系論壇誌『クレアモント・レビュー・オブ・ブックス(CRB)』に「トランピズムとナショナリズムと保守主義」と題する論文が2月下旬に掲載され、これも保守思想界にちょっとしたセンセーションを起こした。連載第1回で紹介したように、CRBは躍進しているトランプ派メディアの1つだ。思想史的には西海岸の(レオ・)シュトラウス派と呼ばれる潮流の中で生まれた論壇誌である』、「新たなナショナリズム」とはどんなものなのだろう。
・『「国民精神の復活」が連鎖的に起きている  論文の著者は、クリストファー・デムート。保守派有力シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)理事長を1980年代から20年以上務め、財政危機にあった同研究所を立て直した。AEIは長くネオコンの牙城と見なされていた。デムートはその理事長を退いたあと、保守系ハドソン研究所の特別研究員となっている。保守シンクタンク界の大立て者といっていい。 そのデムートが、トランプ派CRBへの寄稿論文で「トランピズムのエッセンスはナショナリズム」であると要約し、いま米欧先進各国では「国民精神の復活」が、ちょうど「諸国民の春」と呼ばれた1848年革命の時と同じように連鎖的に起きていると分析した。1848年革命では、欧州各国の市民は蜂起して王侯貴族らが国境を越えてつくるエリート体制を打ち倒そうとした。 デムートはイギリスのジャーナリスト、デビッド・グッドハートの著書を引用し、「どこでもたち(Anywheres)」に対する「どこかたち(Somewheres)」の反乱だと論じた。「どこでもたち」とはグローバルに活動するエリートたち。彼らは世界中の同類がいるところなら、どこに住もうと構わない。エリートのネットワークの中で豊かに生きている。 他方で「どこかたち」は、地域に根付いて暮らす労働者や農民だ。家族、地域社会やさまざまな共同体、そして信仰が大切だ。トランプは、「どこかたち」の反乱の力を借りて登場した。「どこか」が反乱を起こしているのは、「代表政治」が衰退して彼らの声が届かなくなったからだ……とデムート論文は展開し、連邦議会の改革などを提案する。 デムートは、このままトランプが目指す方向でアメリカ政治が動いていけば、「保守主義運動と共和党はこれまでとは違ったものになる。保守の意味がまったく新しいものなる」とし、そこに向かって実際に思想的な再編が進んでおり、再編は「ナショナリズムの復活に形と意味を与えることを目的にすべきだ」と訴えていることだ』、「「どこでもたち(Anywheres)」に対する「どこかたち(Somewheres)」の反乱だ」、というのも確かに当てはまりそうな面白い見方だ。
・『カールソンの「独言」から始まり『ファースト・シングス』の声明に至る一連の動きが示しているのは、保守派陣営内で冷戦期以来の保守思想から脱却して、新たな思想形成の動きが始まっており、その核に「ナショナリズム」が据えられていることだ。 アメリカでは、これまでナショナリズムという言葉は、ナチズムやファシズムと結びつけられて、否定的なニュアンスを込めて使われることが多かった。愛国主義的な意味を表現する場合は「パトリオティズム」が使われてきた。それは左右を問わなかった。そのナショナリズムが今、保守派内で前面に出されて使われるようになったことだけでも、思想風土の変化をうかがわせる』、こうした「ナショナリズム」は、トランプのアメリカ・ファーストだけでなく、欧州での極右の主張にも通じるものがありそうだ。
・『7月には保守派論壇が大集合  デムートは、論文の中で「保守的ナショナリズム」という言葉を使い、これからの方向性を示そうとしている。デムートの考え方に影響を与えたのは、イスラエルのシオニスト思想家ヨラム・ハゾニーの著書『ナショナリズムの徳』(2018年)である。 デムートの論文は書評の形式を取っており、同書も含め主にこの2~3年に著された9冊を取り上げている。タッカー・カールソンの著作も挙げている。保守派の思想再編を考えるうえで極めて重要な著作が含まれる。 興味深いのは、民主党に近い政策も取り込んで保守派を改革しようとし、2016年選挙でマルコ・ルビオ上院議員を推した「リフォーモコン(改革派保守)」の間でも新しいナショナリズムを標榜する動きが出ていることだ(東洋経済プラス拙稿『進化する「リフォーモコン」』参照」)。 これまで挙げてきた、カールソン、デムート、ハゾニーや『ファースト・シングス』に声明を出した知識人グループや、トランプ時代の新たな思想を模索するCRBや『アメリカン・アフェアーズ』など論壇誌の主催者らは、この7月中旬にワシントンに大集合し、「ナショナル・コンサーバティズム(国民保守主義)」の形成について話し合う。 その国民保守主義のベースとなるのは、『ナショナリズムの徳』をはじめデムートが挙げた最近の重要著作のいくつかだ。これらの著作の中心的主張は、『ファースト・シングス』声明にあった「個の自律」批判である。これは、個人の自由と平等を中心に据えたアメリカ建国理念の批判にまで至りかねない。次回はそれらの内容から、アメリカ保守思想再編の中身をさらに探っていく』、「「ナショナル・コンサーバティズム(国民保守主義)」の形成について話し合う」の結果はどうなったのだろうか、筆者の報告が楽しみだ。

次に、みずほ総合研究所調査本部 欧米調査部長の安井明彦氏が7月24日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トランプ再選の哀しい切り札、米国を切り裂く人種間分断の深刻」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/209665
・『2020年の大統領選挙を前に、米国が人種問題に揺れている。トランプ大統領が人種差別とも批判される言動で白人票固めを急ぐ一方で、民主党の各候補は黒人票の獲得を競う。奴隷制から公民権運動へと重い歴史を持つ人種間の分断が、大統領選挙の行方を左右しそうな雲行きだ』、もともと移民により多民族国家として成立した米国で、「人種間の分断」を煽ったことで、銃乱射事件などが多発しているのも、深刻な問題だ。
・『トランプ支持者が「人種差別」的な発言に追随  「彼女を(国に)送り返せ、彼女を(国に)送り返せ」 7月17日、ノースカロライナ州で行われた選挙集会で、支持者から自然発生的に沸き起こったコールが、全米を驚愕させている。「人種差別」とも批判されたトランプ大統領の言動を、支持者が自発的に受け継いだからだ。米国の汚点であるはずの人種差別を示唆する言葉が広く共有された衝撃からか、当日の夕方には、辞書大手のメリアム・ウェブスター社のサイトで、人種差別が検索ワードの1位に躍りでた。 引き金となったのは、トランプ大統領による3日前のツィートである。トランプ大統領は、集会に先立つ7月14日、ソマリア生まれのオマール下院議員や、プエルトルコ系のオカシオコルテス下院議員など、民主党の4人の女性・非白人議員を、もともといた国に「帰ったらどうか」とツィッターで攻撃した。 これに対して、民主党の議員を中心に「大統領にあるまじき人種差別的な発言だ」との反発が広がった。民主党が多数派である米下院では、大統領を非難する決議が採択される騒ぎとなっている。 米メディアは、その言葉が持つ歴史的な重みから、あまり人種差別という表現を使わない。しかし、今回のトランプ大統領のツィートに関しては、「米国の人種差別の歴史に深く根ざした言葉使いだ(ワシントンポスト紙)」と断じる向きがある。 第二次世界大戦当時の日系移民が標的となったように、特定の人種の人々を「(国に)帰れ」と攻撃するのは、米国における人種差別の伝統的な論法だという。なかには、過去にオバマ大統領が米国生まれかどうかを疑問視した経緯などを紐解き、トランプ大統領の人種差別的な傾向を指摘する報道すら見られる。 そうしたなかで迎えた17日の選挙集会は、米国における人種間の分断の深さを浮き彫りにすると同時に、再選を目指すトランプ大統領にとっては、白人の人種差別的な感情に訴えかける戦略の有効性が示された出来事となった。あれだけの論争があったにもかかわらず、トランプ大統領が演説でオマール議員を批判するや否や、人種差別的とされた「(国に)帰れ」を連想させる言葉を、大統領の支持者は熱狂的に唱和した。それは、誰に促されたわけでもなく、自然に生まれた現象だった』、「トランプ支持者が「人種差別」的な発言に追随」、というのは恐ろしいことだ。
・『「忘れられた人々」を動かした非白人・移民への反感  どうやらトランプ大統領は、人種間の分断を切り札に、2016年大統領選挙の再現を狙っているようだ。4人の民主党議員を巡る騒動に限らず、最近のトランプ大統領には、非白人に対して厳しい言動が目立つ。不法移民に関しては、強制送還を視野に入れた一斉摘発の方針が明らかにされている。急増する中米からの難民に関しては、来年の受け入れをほぼゼロにする計画が進んでいると報じられている。 背景にあるのは、2016年の成功体験である。トランプ大統領が予想外の勝利を収めた理由の1つは、それまでの民主党支持から乗り換えた白人の存在にある。2012年にオバマ大統領に投票した有権者を追跡調査すると、2016年の大統領選挙では9%がトランプ大統領に乗り換えている。その8割以上を占めるのが、白人の有権者だった。 立場を変えた白人の象徴的な存在が、中西部の白人ブルーカラー層である。2016年の大統領選挙では、ペンシルバニア州やミシガン州など、共和党が連敗してきた中西部の州における勝利が、トランプ大統領の誕生を支えた。その原動力となった中西部の白人ブルーカラー層は「忘れられた人々」と称され、製造業の停滞による経済的な苦境を理由に、トランプ大統領の米国第一主義に魅了されたと言われてきた。 しかし、「忘れられた人々」がトランプ大統領に引き寄せられたのは、経済的な理由だけではなかった。実際には、経済政策では民主党の主張に近い有権者までもが、人種や移民の問題を理由に、トランプ大統領支持に乗り換えていた。そこで強い吸引力となったのは、メキシコからの移民に対する口汚い批判のように、人種差別的な感情を刺激したトランプ大統領の主張だった。 世論調査によれば、2016年の大統領選挙は、人種や移民に対する考え方の違いが、投票する候補を選ぶ決め手となる度合いが、過去の選挙よりも高かった。特に、中西部でオバマ大統領からトランプ大統領に乗り換えた有権者には、非白人や移民への否定的な感情が強い傾向があったことが明らかになっている』、確かに「忘れられた人々」にアピールするには、人種差別的発言は有効なようだ。
・『たとえば、2016年の大統領選挙では、2012年のオバマ大統領支持からトランプ大統領支持に乗り換えた中西部の有権者のうち、約65%が不法移民の強制送還に賛成していた。一方で、民主党のクリントン候補に投票した有権者では、強制送還に賛同した割合は2割程度に過ぎなかった。 共和党のなかには、減少傾向にある白人に頼った選挙戦略に対して、疑問を呈する声がある。特に2008年、2012年の選挙でオバマ大統領に連敗を喫した直後には、非白人への支持拡大を急務とする意識が強かった。たとえば、いくら共和党が白人に支持されているといっても、少なくともヒスパニックの4割程度から票を得なければ、大統領選挙では勝利できないといわれてきた。 しかし、2016年のトランプ大統領は、ヒスパニックからの得票率が30%を割り込んだにもかかわらず、白人票の掘り起こしによって、見事に勝利を手にした。その勝利の方程式に、トランプ大統領はこだわっている』、トランプは、人種差別発言がヒスパニックの支持をさらに減らすリスクについて、どう考えているのだろう。
・『民主党の候補者たちが黒人票の獲得を競う理由  白人票に頼るトランプ大統領の戦略は、「打倒トランプ」を至上命題とする民主党の思考にも影響を与えている。非白人票への傾斜である。 環境問題と並び人種間の平等は、トランプ政権の2年間で、最も民主党支持者の関心が高まった論点である。2019年1月に発表された世論調査によれば、民主党支持者の約70%が人種間の平等を「非常に重要な課題である」と答えている。2016年の調査と比べると、約10%の大幅増である。 なかでも大統領選挙を目指す候補者が注目するのが、黒人支持者の動向だ。民主党では、2020年の大統領選挙での指名候補を争う予備選挙が本格化している。サンダース上院議員やウォーレン上院議員らの有力候補者たちは、黒人向けの雑誌に寄稿したり、格差や住宅問題で黒人が直面する経済的な課題の解決を提案したりするなど、黒人票の獲得を競っている。 黒人票への関心の高さを示す象徴的な出来事が、6月末に行われた民主党候補者によるテレビ討論会で起こった。予備選挙の支持率でトップを走るバイデン元副大統領が、厳しい攻撃を受けたのだ。討論会に先立ちバイデン元副大統領は、上院議員時代に超党派の協力を進めてきた実績として、人種差別的な主張で知られた共和党議員たちと協力してきたことを誇らしげに語っていた。 討論会の場では、ジャマイカ系とインド系の親をもつハリス上院議員が、この発言を厳しく批判した上で、黒人に対する人種差別撤廃に関するバイデン元副大統領の議員時代の取り組みを糾弾した。 討論会での厳しいやり取りは、メディアの大きな注目を集めた。この論争をきっかけに、ハリス議員の支持率が急上昇する一方で、バイデン元副大統領の支持率が低下する展開となっている』、「バイデン元副大統領」は知名度は高くても、「議員時代の取り組みを糾弾」されるというのは、大きな弱みだ。
・『もう一方の「忘れられた人々」「打倒トランプ」の鍵を握る黒人票  民主党が黒人票に注目する理由は、トランプ大統領への反動だけではない。黒人票の行方は、トランプ大統領の再選を占う重要なカギとなる。オバマ大統領支持からトランプ大統領支持に乗り換えた白人と並び、2016年の大統領選挙で民主党が敗れたもう1つの大きな理由が、黒人の投票率の低さだったからだ。 2016年の大統領選挙では、2012年にオバマ大統領に投票した有権者のうち、7%が投票を行っていない。トランプ大統領に乗り換えた有権者(9%)よりは少ないが、接戦となった大統領選挙では、決して無視できない水準である。 民主党にとって致命的だったのが、黒人票の動向だ。2016年の大統領選挙では、黒人の投票率が60%を割り込み、2012年(67%)を大きく下回った。オバマ大統領への支持から無投票に変わった有権者の約半数は白人だが、それに次いで多かったのは4割弱を占めた黒人だった。 中西部の白人ブルカラー層が、トランプ大統領の勝利を生んだ「忘れれらた人々」だったとすれば、民主党の敗北を決定的にした黒人は、もう1つの「忘れられた人々」だった。伝統的に民主党の候補者は、積極的に黒人票を得ようとしてこなかったからだ。人種問題への意識が高い黒人の有権者は、そう簡単には共和党に投票しない。票を奪われるリスクが低い以上、民主党の選挙運動の重点は、黒人以外の有権者に置かれがちだった。 実際に、2016年にオバマ大統領支持から無投票に変わった有権者のうち、選挙期間中に民主党陣営から何らかの働きかけを受けた割合は、4割強に過ぎなかった。2012年にオバマ大統領に投票し、2016年にも民主党候補に投票した有権者の場合(7割弱)より、かなり低い水準である。 黒人票の重要性は、大統領選挙の2年後に行われた2018年の中間選挙で、早くも証明されている。民主党が躍進したこの選挙では、黒人の投票率が51%を超えた。大統領選挙での投票率よりは低いが、2014年の中間選挙と比較すると10%以上の大幅な上昇である』、「票を奪われるリスクが低い以上、民主党の選挙運動の重点は、黒人以外の有権者に置かれがちだった」、というのは確かに民主党の重大な手落ちだ。しかし、民主党には黒人の投票率を上昇させる切り札が欠けているようだ。
・『二大政党間の分断が人種間の分断との共鳴を強める  2020年の大統領選挙で民主党がトランプ大統領の再選を阻むには、黒人の支持者を着実に投票に向かわせることが大前提となる。すでに述べたように、オバマ大統領支持からトランプ大統領支持に転じた白人ブルーカラー層は、非白人や移民への否定的な感情が強い。支持者の9割弱を白人が占める共和党と違い、非白人の支持者が4割強を占める民主党が、こうした有権者を取り戻すような政策を打ち出すのは難しい。もう1つの「忘れられた人々」である黒人に、まず民主党の関心が集まるのも無理はない。 もっとも、こうした民主党陣営の黒人票への執心は、さらに人種間の分断を深めかねない。トランプ大統領の過激な言動に呼応するように、民主党の主張も先鋭化しているからだ。 たとえば民主党の一部には、奴隷制による経済的な損害を理由に、黒人への補償金の支払いを主張する声がある。全米での支持は3割に届かず、黒人初の大統領であるオバマ大統領ですら否定的だった政策だが、サンダース議員やウォーレン議員、ハリス議員といった候補者たちは、その是非を検討する価値はあると主張している。 トランプ大統領の下で、共和党の支持者も変わってきた。2019年7月に行われた世論調査によれば、共和党支持者の6割弱が「米国は世界中の人々に開かれすぎており、国としてのアイデンティティを失うリスクがある」という指摘に同意している。トランプ政権が誕生した2017年の調査では、同様の回答は5割に満たなかった。 かねてから米国では、二大政党間の分断の深まりが指摘されてきた。2020年の大統領選挙では、そうした2大政党間の分断が、人種間の分断との共鳴を強めている』、「2大政党間の分断が、人種間の分断との共鳴を強めている」、というのは言い得て妙だが、その結果は恐ろしいことになる懸念もありそうだ。

第三に、8月23日付け産経新聞「トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米」を紹介しよう。
https://www.sankei.com/world/news/190823/wor1908230035-n1.html
・『トランプ米大統領が北極圏にある世界最大の島、デンマーク自治領グリーンランドを購入する意向を表明した問題は、同国のフレデリクセン首相が「ばかげている」と一蹴したことで事実上決着した。一方、トランプ政権は、中国やロシアの北極海への進出や気候変動による北極海航路の可能性をにらみ、戦略的重要性を増しているグリーンランドへの関心を強めており、今回の騒動で生じたデンマークとの亀裂を修復し、北極圏をめぐる関係強化を目指していく方針だ。 トランプ氏は21日、ホワイトハウスで記者団に対し、グリーンランド購入は「単なる検討課題だった」と説明した上で、首相の発言は「暴言であり不適切だ」と述べ、「米国を『ばか』呼ばわりするのは許さない」と訴えた。 一方、国務省によるとポンペオ国務長官は同日、デンマークのコフォズ外相と電話で会談し、グリーンランド自治政府を含むデンマークとの北極圏での関係強化について話し合った。 ポンペオ氏は、同じ北大西洋条約機構(NATO)加盟国のデンマークと北極圏で中露に対抗していく姿勢を確認するとともに、トランプ発言の「火消し」を図ったとみられる』、「フレデリクセン首相が「ばかげている」と一蹴した」のに対し、トランプ大統領は「「米国を『ばか』呼ばわりするのは許さない」と訴えた」、非は明らかにトランプにあるのに、強気で反撃したのは、選挙民向けだろう。
・『米政権がグリーンランドに関心を向けるのは、第一には豊富なレアアース(希土類)資源が埋蔵されているためだ。 希土類の生産で世界的優位にある中国が米国への希土類の輸出規制を示唆しているのに危機感を抱く米国は、希土類の安定供給元の確保を模索。グリーンランド自治政府とは最近、希土類採掘への投資に向けた覚書を交わした。 また、気候変動で北極圏の氷が解け、北極海航路という新たな戦略的物流ルートが生まれつつある中、中露が影響力拡大を図っていることも、北極海と北大西洋の間に位置する要衝であるグリーンランドの重要性を高めている。 米国は、グリーンランド北部に空軍基地を置き、弾道ミサイルの早期警戒や人工衛星の追跡に活用。これに対し、中国も2016年、島にある旧米軍基地の跡地の買収を図ったほか、18年には米軍基地に近接する土地での空港建設の入札に参加したが、いずれも米国の意向を受けたデンマークから阻止されている。 ただ、グリーンランドに米軍基地があるにもかかわらず中露が進出しているのは、基地が中露に対する抑止力の役割を果たしていないことを意味する。 このため米国内では、前時代的な外国からの土地購入ではなく、今回の騒動をデンマークとの安全保障協力の強化につなげ、中露に対抗する契機にすべきだとの意見が相次いでいる』、「前時代的な外国からの土地購入ではなく、今回の騒動をデンマークとの安全保障協力の強化につなげ、中露に対抗する契機にすべきだ」、との意見は妥当だろう。それにしても、トランプ大統領がいきなり買収を提案するとは、外交慣行を無視した荒っぽいやり方だ。国務長官に相談もせずにやったのだろうか。
『■米国による外国の土地買収 米国は過去に外国からの土地買収を通じて領土を拡張してきた。ジェファソン大統領は1803年、現在の南部ルイジアナ州から北部モンタナ州にまたがる地域をフランスから購入。アンドリュー・ジョンソン大統領は67年、西部のアラスカをロシアから買い取った。ウィルソン大統領は1917年、現在の米領バージン諸島をデンマークから購入した。グリーンランドをめぐっては、トルーマン大統領が46年に1億ドル相当の金塊と引き換えに買収を図ったが失敗している』、「グリーンランドをめぐっては、トルーマン大統領が46年に1億ドル相当の金塊と引き換えに買収を図ったが失敗」、というのは初耳だが、因縁の島であることは間違いないようだ。
タグ:「ナショナリズム」 「アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている」 会田 弘継 「トランピズム」の核心 東洋経済オンライン 「アメリカをつねに偉大に(Keep America Great)」 保守の中核メディアで保守派論客が堂々と市場経済を否定し、大きな政府(「政府の介入」)を求め、しかも市場経済が家族を破壊しているとまで主張するのは、大きな思想変化が起きたことを意味する。既成の保守派内から猛然と反論が出たのは当然であった 満腔の賛意を表明 J・D・ヴァンス トランプ以前の保守コンセンサスには戻れない 人種間の分断が、大統領選挙の行方を左右しそうな雲行きだ (その42)(アメリカが心酔する「新ナショナリズム」の中身 保守主義の「ガラガラポン」が起きている、トランプ再選の哀しい切り札 米国を切り裂く人種間分断の深刻、トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米) トランプ大統領 ポンペオ国務長官は同日、デンマークのコフォズ外相と電話で会談し、グリーンランド自治政府を含むデンマークとの北極圏での関係強化について話し合った 北極海航路という新たな戦略的物流ルートが生まれつつある中、中露が影響力拡大を図っていることも、北極海と北大西洋の間に位置する要衝であるグリーンランドの重要性を高めている は豊富なレアアース(希土類)資源が埋蔵 トランプ米大統領 もう一方の「忘れられた人々」「打倒トランプ」の鍵を握る黒人 人種問題への意識が高い黒人の有権者は、そう簡単には共和党に投票しない。票を奪われるリスクが低い以上、民主党の選挙運動の重点は、黒人以外の有権者に置かれがちだった 労働者層を踏み台にするエリートという構図 富裕層のエリートたちは労働者を踏み台にして、脱工業化経済の中で繁栄を享受しているのに労働者の苦境に見て見ぬふりをしている。「すさまじい怠慢ぶり」だ、とカールソンが激しく批判 実はアメリカの保守主義がその敵であるリベラリズム(進歩主義)と同じ「個の自律(individual autonomy)」の 原理で動いてきたからだ。個の自律を崇めてきた結果、保守主義がもっとも忌み嫌う「専制(tyranny)」が生まれてしまったのは、皮肉ではないか イギリスのジャーナリスト、デビッド・グッドハートの著書を引用し、「どこでもたち(Anywheres)」に対する「どこかたち(Somewheres)」の反乱だと論じた 「トランプ再選の哀しい切り札、米国を切り裂く人種間分断の深刻」 安井明彦 ダイヤモンド・オンライン 7月には保守派論壇が大集合 首相の発言は「暴言であり不適切だ」と述べ、「米国を『ばか』呼ばわりするのは許さない」と訴えた 「トランプ氏「グリーンランド購入」発言 火消しの米」 産経新聞 二大政党間の分断が人種間の分断との共鳴を強める 黒人の投票率の低さ 中西部の白人ブルーカラー層は「忘れられた人々」 民主党の候補者たちが黒人票の獲得を競う理由 「忘れられた人々」を動かした非白人・移民への反感 民主党の4人の女性・非白人議員を、もともといた国に「帰ったらどうか」とツィッターで攻撃 トランプ支持者が「人種差別」的な発言に追随 国内では、前時代的な外国からの土地購入ではなく、今回の騒動をデンマークとの安全保障協力の強化につなげ、中露に対抗する契機にすべきだとの意見が相次いでいる トランプ大統領が人種差別とも批判される言動で白人票固めを急ぐ デンマーク自治領グリーンランドを購入する意向を表明した問題は、同国のフレデリクセン首相が「ばかげている」と一蹴したことで事実上決着 「著名な15人の保守派著述家・学者」 「国民精神の復活」が連鎖的に起きている 自由貿易、国境を越えた人の自由な移動、小さな政府、あらゆる問題の解決策としてのテクノロジー」といったドグマ 既成のアメリカ保守主義とリベラリズム(進歩主義)は同じ穴のムジナだと批判し、この双方を否定したうえでトランプ以降の新たな保守主義の確立を訴えている点である いまでは「家族制度の安定、共同体の団結」を破綻させ、「日常生活のポルノ化、死の文化、競争への盲信、悪質な検閲のような多文化主義」を招き入れている 「無効なるコンセンサスに抗して」という声明 ヒルビリー・エレジー 大きな問題は、アメリカ保守思想の一方の核である「市場」が、もう1つの核である「家族」を破壊しているということだ、と論じた 自由貿易に代わって保護主義、他国の民主化などより「アメリカ・ファースト」で非介入路線 イラン軍事攻撃を直前で中止した際に、大統領に大きな影響を与えた人物 市場経済がなすがままにする連邦政府の誤った政策が、労働者階級の「家族生活」の経済的・社会的・文化的基盤を台無しにしている タッカー・カールソン 一部の知識人グループがトランプ登場を歴史的機会と捉え、保守思想を組み替え、新たな思想運動を起こそうとしている 中西部のラストベルト(錆びた工業地帯)の各州を勝ち取り、大統領ポストを手にしたからだ ネオコン(新保守主義者)路線にも否定的
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