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トランプと日米関係(その5)(日米貿易協定 「WTO違反」までして譲歩するのか?!日本側は“守り一辺倒”になってしまった、日米貿易協定で日本がWTOルールの‟抜け穴”つくる?、安倍首相はトランプに「使われて」いないか 日米貿易協定は「ウィンウィン」という幻想) [外交]

トランプと日米関係については、6月5日に取上げた。今日は、(その5)(日米貿易協定 「WTO違反」までして譲歩するのか?!日本側は“守り一辺倒”になってしまった、日米貿易協定で日本がWTOルールの‟抜け穴”つくる?、安倍首相はトランプに「使われて」いないか 日米貿易協定は「ウィンウィン」という幻想)である。

先ずは、元・経済産業省貿易管理部長で中部大学特任教授の細川昌彦氏が9月3日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「日米貿易協定、「WTO違反」までして譲歩するのか?!日本側は“守り一辺倒”になってしまった」を紹介しよう。なお、文中の関連記事は省略した。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00019/?P=1
・『日米交渉はまたもや“守り一辺倒”になってしまったようだ。しかも、世界貿易機関(WTO)のルールに違反する協定を締結させられる可能性が高い。 日米は貿易交渉で基本合意に達し、9月中の署名を目指すことになった。交渉責任者の茂木敏充経済再生担当大臣は「国益を守り、バランスの取れたとりまとめができた」と胸を張る。はたしてそうだろうか。 内容はまだ公表されていないので報道をベースに論じざるを得ない。その報道の目は2点にばかり注がれている。1点目は米国から輸入する農産品に対する関税引き下げを環太平洋経済連携協定(TPP)の範囲内に収められるかどうか。2点目が米国による日本の自動車に対する追加関税を回避できるかどうかだ。 これは日本側がこの2点に交渉の勝敗ラインを設定したからである。しかしこうした2点を交渉の目標設定にしたこと自体、妥当なのだろうか。 まず結論を言おう。 その結果、いずれも米国の思惑通りの交渉を許してしまった。これは日本が交渉戦略よりも国内への見え方、見せ方を優先した結果だとも言える。 そしてさらに深刻な問題がある。それは大本営発表によってこの2点以外に報道の目が向かず、協定の内容がWTO違反になるかもしれないという大問題を報じていないことだ。むしろ、不都合には目を向けさせないようにしているのではないか、とさえ勘ぐってしまう。 これまでの日米通商交渉の歴史を振り返ると、今回の交渉ほど日本にとって地合いのいい、有利な交渉はなかっただろう。それにもかかわらず、なぜ、こうした結論になったのか。 以下ではそれを説きほぐしていこう』、細川昌彦氏は日本の韓国向け輸出規制では、安倍政権を支持したが、自らの専門領域である日米通商問題では、味方は極めて厳しいようだ。
・『先にカードを切ってしまった農産物  米国のTPP離脱によって、米国の農家は相対的に競争相手国と比べて日本市場で不利になっている。米大統領選を前にして、この不満を早急に解消するための成果を得たい米国にとって、競争相手と対等の水準にさえなれば不満はない。交渉前にあえて米農務長官がTPPの水準以上の要求発言をしたのも、単なる交渉戦術だ。 しかし日本はそれをまともに受け取ってしまった。国内の農業関係者の懸念を払拭するために「TPPの水準以上の譲歩はできない」と、交渉のスタート時点である2018年9月の日米首脳会談での共同声明に書き込むことに懸命になった。いわゆる「交渉でこれ以上米国に押し込まれないためのピン止め」だ。そして国内にはそれを成果として誇示した。 しかしこれは逆に、米国に対して「TPPの水準までは譲歩する」と最初からカードを切ったことになる。米国は何の代償も支払わずして、このカードを手に入れることに成功したのだ。 関税交渉は本来ギブ・アンド・テークが原則で、一方的な譲歩はあり得ない。かつてTPP交渉でも関税引き下げについては、日米間では日本の農産物関税の引き下げと米国の自動車関税の引き下げがパッケージで合意されたことを忘れてはならない。これは当時、甘利明担当大臣(当時)が米国との難交渉の結果、妥結した成果である。従って日本の農産物関税の引き下げだけという米国の“いいとこ取り”はあり得ないのだ』、農産物では、「米国に対して「TPPの水準までは譲歩する」と最初からカードを切ったことになる。米国は何の代償も支払わずして、このカードを手に入れることに成功した」、という安倍政権の今回の交渉は、信じられないようなお粗末さだ。
・『自動車の「継続協議」は“気休め”か?  本来、米国も日本に対して相応の対価を差し出さなければならない。ところが今回の合意では一部の自動車部品の関税撤廃のみで、完成車の関税撤廃には応じていない。これでは「相応の対価」とは言えないのは明らかだ。 もともと、米国がTPPから離脱するという自ら招いた不利な状況を早急に解消したいことから交渉ポジションは日本が圧倒的に有利であった。にもかかわらず、交渉は最初から日本がカードを切ったせいで、立場が逆転してしまったのだ。 今回の基本合意においては、米農産物に対する関税をTPP水準の範囲内で引き下げることだけが合意されて、本来パッケージで合意すべき日本の完成車に対する米国の自動車関税の撤廃については「継続協議」になったという。前述した昨年9月の交渉当初における日本の対応から、私が懸念していた通りの結果になってしまったようだ・・・今後継続協議といっても、農産物でカードを切ってしまって交渉のレバレッジを失った後では、残念ながら“気休め”にすぎない。自動車部品の関税撤廃を米国にある程度認めさせることはできても、本丸の完成車は譲らないだろう。これは米国の思惑通りの展開だ』、「農産物でカードを切ってしまって交渉のレバレッジを失った」、これでは交渉とは名ばかりで、米国側に美味しいお土産を献上しただけだ。
・『WTO違反の追加関税は“空脅し”だ  自動車の追加関税の回避についてもそうだ。 米国は通商拡大法232条を活用して自国の安全保障を脅かすとの理由で輸入車に追加関税を課すことを検討しているが、日本側はこれを日本に対して発動しないとの確約を取り付けることを目標にしている。しかし米国は自動車の追加関税を交渉戦術として使っているのだ。追加関税を脅しに、対米輸出の数量規制に追い込むことはメキシコ、カナダとの交渉で味をしめたライトハイザー通商代表の手法だ。 前述の日米首脳会談での共同声明でも日本の農産物に関する“ピン止め”と引き換えに、米国の関心として、「自動車の生産、雇用の拡大」を明記させてきっちり自動車関税への布石を打っている。 しかし忘れてはならないのは、この通商拡大法232条による追加関税のWTO違反の措置である。既に米国は鉄鋼・アルミニウムについて発動しているが、欧州連合(EU)など各国からWTO違反として提訴されている。日本も本来共同歩調を取るべきであるにもかかわらず、トランプ大統領との蜜月を崩すことを恐れてか、提訴はしていない。 鉄鋼問題で実害は限定的だからといって、そうしたけん制球をきっちり投げないでいると、本丸の自動車への追加関税で駆け引きを弱めることになることは、かつて拙稿で指摘した通りである・・・しかもこの脅しは“空脅し”だということも忘れてはならない・・・「日本の中には、トランプ大統領による25%の自動車関税の引き上げを回避することが最重要課題であるので、早期に妥結した方がよいと主張する向きもある。これはとんでもない見当違いだ。自動車関税の引き上げの脅しは『抜けない刀』で“空脅し”だからだ」「仮に自動車関税を引き上げれば、経済への打撃が大きく、株価暴落の引き金を引きかねない。(略)大統領再選に向けてトランプ大統領が重視するのが株価である限り、採れない選択だ」 問題はこうしたWTO違反の空脅しを回避するためにどれだけの代償を支払うのかだ。これは相手の犯罪行為から逃れるためにお金を支払うようなものだ。同様の脅しを受けているEUは日本が毅然とした対応をするのかどうか当然注視している。 日本の自動車業界に聞けば、商売としては当然直面している追加関税のリスク回避を優先したいと言うだろう。そして自動車の追加関税を回避することを交渉の優先目標にした結果、米国の自動車関税の撤廃という日本の本来の要求の優先度が下がって、継続協議になったのだ。 これも米国の思惑通りの展開だろう。 こうして見てくると、日本にとってどうバランスが取れているのか、率直に言って私には理解できない。設定した2点の交渉目標のうち、前者で農業関係者が納得し、後者で自動車業界が納得すればよしとしているようだ。しかし関係業界さえ納得させられれば、日本国民全体にとってバランスの取れたものだと思っているのだろうか』、「通商拡大法232条による追加関税のWTO違反の措置である。既に米国は鉄鋼・アルミニウムについて発動しているが、欧州連合(EU)など各国からWTO違反として提訴されている。 日本も本来共同歩調を取るべきであるにもかかわらず、トランプ大統領との蜜月を崩すことを恐れてか、提訴はしていない」、弱腰外交の極みだ。
・『完成車が含まれない限りWTO違反になる?!  もっと深刻な問題が、食い」「いいとこ取り」ができないことはかねて指摘してきた通りだ・・・特定国への関税引き下げは、「実質的にすべての貿易」について関税引き下げになるものでなければできない。それがWTO協定上のルールだ。米国の農産物に対してだけ関税を引き下げるといった“つまみ食い”は許されないのだ。それは日本が物品貿易協定(TAG)と呼ぼうが関係ない。「実質的にすべての貿易」とは国際的な相場観があって少なくとも9割以上をカバーしているのが通常だ。TPPでは日本は95%、離脱前の米国は100%の関税撤廃率であった。途上国に対しても、例えば東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を見ると、85%以上の関税撤廃を要求している。 日本の対米輸出を見ると、ざっくり言って、自動車の完成車3割、自動車部品2割、その他工業品5割だ。報道によると完成車は先送りで自動車部品の一部とその他の工業品の多くで関税を撤廃するという。それでは関税撤廃率は6〜7割といったところだ。完成車が含まれない限り、明らかにWTO違反となるのだ。 それでもあえて締結するのは大問題だ。 今後日本はアジア諸国をはじめ途上国と自由貿易協定(FTA)を締結するに当たって、およそ高い関税撤廃率を求めることは難しくなる。米国相手のときだけ基準を変える「二重基準だ」との批判も免れない。各国は日本の対応を厳しい目で見ていることを忘れてはならない。 数量規制に比べれば同じWTO違反といっても違反の程度は軽いとでも言いたいのかもしれないが、そういう問題ではない。 貿易の国際秩序が崩壊しかねない危機に直面している現在、ルール重視、WTO重視を主導すべき立場にあるのが日本だ。またこれまでの先人の努力もあって、そういう国際的な評価も得つつある。WTOを軽視している米国が違反するのとはわけが違う。 トランプ政権との蜜月関係を維持することはもちろん大事だ。しかし、短期的な日米関係のために中長期の日本の国際的な立ち位置を見失ってはならない。 報道によると、先日の自民党会合での説明で、この問題を問われると、茂木大臣は事務方に説明させている。メディアも大本営発表に従って、WTO違反かどうかについてはほとんど報道していない。 この問題を役人レベルの技術的な問題だとしているならば大きな間違いだ。「国内の業界が納得すればよい」「国内的な見せ方で乗り切ろう」という国内政治だけでは本質を見失う。日本の通商政策の根幹を揺るがす問題なのだ。 自動車の追加関税の確約が得られるかどうかばかりに目を奪われずに、メディアも国会もしっかりこの点をチェックしてもらいたい。今後内容が公表されてからすぐに協定署名の予定になっているだけに、今こそ、この問題をきっちり議論しておく必要があるだろう。 WTO違反でないことは、交渉のバランスが取れているかどうかを議論する以前の、大前提の必要条件なのだ。日本が大きな財産を失うとともに、将来に大きな禍根を残すことにならないよう願うばかりだ』、「特定国への関税引き下げは、「実質的にすべての貿易」について関税引き下げになるものでなければできない。それがWTO協定上のルールだ。米国の農産物に対してだけ関税を引き下げるといった“つまみ食い”は許されないのだ。それは日本が物品貿易協定(TAG)と呼ぼうが関係ない」、日本自らWTO違反をしたことは、「日本が大きな財産を失うとともに、将来に大きな禍根を残す」、それをマスコミは大本営発表だけで褒めそやしているとは嘆かわしいことだ。

次に、上記の続きを、9月30日付け日経ビジネスオンライン「日米貿易協定で日本がWTOルールの‟抜け穴”つくる?」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00020/?P=1
・『日米貿易交渉の合意内容は本当に双方にメリットがある「ウィン・ウィン」と言えるのだろうか。結果を見ると、米国にとっては思惑通りだろう。 日本が米国産の牛肉や豚肉、小麦にかけている関税率の引き下げは、トランプ米大統領にとって最も実現したかった分野だ。2020年の大統領選で支持基盤となる中西部の農家にアピールできる。大統領選に間に合うよう妥結を急いだ。大枠合意から3週間で署名というのは、これまでの日米交渉にない異例の速さだ。通常、大筋合意から署名に至るプロセスでは、精緻な協定文に落とし込む作業があるために早くても3カ月はかかる』、安倍政権は「ウィン・ウィン」と強弁しているが、明らかに「ウィン・ルーズ」だ。
・『米国の“脅し”から設定された交渉目標  日本が成果として誇るのは、農産物の関税引き下げを環太平洋経済連携協定(TPP)の水準以内にとどめたことと、自動車の制裁関税を回避できたことだ。 これらが日本の交渉目標になったのは、米国が日本に対して、(1)農産物でTPP以上の要求をする、(2)自動車の制裁関税を検討する、という2つの“脅し”が背景にあってのことだ。 こうした“脅し”を振りかざして交渉するのが、米国の常とう手段である。その結果、交渉は日本の守り一辺倒になってしまった。これは米国のゲームプラン通りだろう。 ただし、これらの“脅し”を冷静に見極める必要がある』、「ディール好き」なトランプ政権に見事に乗せられたようだ。
・『“毒まんじゅう”を回避した意義は大きい  米国はTPPから離脱したために、農産物について競争相手のTPP参加国と比べて相対的に不利になってしまっている。こうした事態に対して、トランプ大統領は農家の不満を早急に解消したいはずだ。TPPの水準以上の要求は、単なる交渉術だろう。 自動車の制裁関税も仮に発動すれば、輸入車だけでなく、米国車のコストも大幅に上がることになる。その結果、ディーラーなどすそ野の広い米国自身の自動車関連産業に打撃になり、自分の首を絞めることになる。それは、米国の様々なシンクタンクの試算でも示されている。そうなれば、株価の暴落を招きかねない。 トランプ氏が大統領に再選されるためには株価の維持が不可欠だ。そのため、制裁関税を課すことが再選にとってプラスと判断するかどうか、慎重に見極めるはずだ。そうした意味で、これは実行できない“空脅し”となる可能性が高い。 ただしトランプ氏は予測不可能なので、こうした合理的な判断をするかどうかがわからない。それが大問題なのだ。そうした意味で今回は、「有事」の交渉だったと言える。トランプ氏を怒らせて、万が一でも日本車が25%の制裁関税をかけられるような事態を招きたくないと思うのは、自然な反応だ。 日本にとって、自動車への制裁関税が課されれば深刻な打撃になる。そのため、これを避けることが自動車業界にとっても最優先課題となった。そこで「協定の精神に反する行動を取らない」と共同声明に盛り込んだ。 さらに、「米国・メキシコ・カナダ協定」(USMCA)や米韓自由貿易協定(FTA)では追加関税を回避するため、米国に輸出する自動車や鉄鋼に数量制限が設けられたのに対し、日本は貿易を歪曲(わいきょく)する数量制限を受け入れなかったことは大事なことだ。数量制限は“毒まんじゅう”のようなもので、一旦飲まされると、後で嵩(かさ)にかかって米国の要求がエスカレートするのを覚悟しなければならない。これを回避した意義は大きい』、確かに「数量制限を受け入れなかった」のは数少ない成果のようだ。
・『日本が越えてはならない一線とは  だが、米国が日本から輸入している自動車と自動車部品にかけている関税の撤廃は実現しなかった。日本の自動車業界も25%の制裁関税の回避を優先して、これらの関税撤廃にかかわらなかったようだ。2.5%の関税なので、為替変動と比較すれば業界としてもそれほど実害がないとの判断だ。それは業界としては正しい判断だろう。しかし通商政策としてどうかは別問題だ。 メディアは今回の交渉で、日米間でバランスがとれたかに注目する。日本の大幅譲歩ではないかとの指摘も見られる。しかしこれまでの日米の貿易交渉を振り返ると、残念ながらバランスを目指してもそうならない歴史がある。安全保障を米国に依存している日本の置かれた状況からはやむを得ない。むしろ貿易交渉だけを取り出してバランス、勝敗を議論すること自体、あまり意味がない。 しかし国民感情もあるので、国内政治的には、「ウィン・ウィンだ」「バランスを確保した」と言わざるを得ない。 現実は日米貿易交渉での日本側の譲歩にはやむを得ないものと理解している。ただし、そこには越えてはならない一線もあることを忘れてはならない。今後の日本のあり方を考えた時、日本が守るべきものがあるのだ』、前回の厳しい論調と比べ、安倍政権への理解を幾分示したようだ。
・『日米は明らかに「同床異夢」  自動車・自動車部品は米国への輸出額の多くを占めている。これらを除外すると関税の撤廃率は貿易額の60%台にとどまることになり、世界貿易機関(WTO)のルールで目安とされる90%程度に遠く及ばない。 これまで日本は、米国が離脱したTPPで主導的な役割を果たし、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)も発効にこぎ着けた。国際貿易機関(WTO)ルールの重視をうたい、インドや中国にも高い水準での自由化を呼びかけてきた。だが、米国との協定が「二重基準」とみなされれば、今後は他国に高い水準の関税撤廃率を強く要求できなくなる。 米国の自動車や自動車部品の関税については「更なる交渉による撤廃」が明記された。これは「WTO違反ではない」と説明するために大枠合意後、日本側が書き込む努力をしたものだ。そしてこれらも含めて、今回の合意の関税撤廃率を計算して、米側で92%、日本側で84%と発表して胸を張る。 米国は撤廃時期も書いていないし、米国も交渉を合意しただけで譲歩したわけではないとして、米国議会の承認も必要ないと判断したようだ。米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表も記者会見で、「米国の自動車関税の撤廃はこの協定に含まれていない」とコメントしている。明らかにこれは同床異夢だ。 もちろん日本の交渉者の努力は評価する。だが、この一文の挿入によってWTO違反の“クロ”を多少なりとも“グレー”にしようという知恵だろうが、本質はそこではない。これで良いならばWTOルールにとって「抜け道」となり、他国にも同じやり方がまん延しかねない。その結果、日本がWTOルールを空文化する先鞭(せんべん)をつけることになってしまう。 米国と中国はWTOのルールを無視して、制裁・報復関税の応酬を続けている。その結果、戦後築き上げてきた国際秩序が崩壊の危機にさらされている。そうした状況だからこそ、日本はWTOやルールの重要性を訴え、それを主導する必要がある。そもそも米中のような巨大な国内市場を持たない日本のような国は、ルールを重視しなければ生き延びることはできない。その生命線を自ら崩してはならない』、「米国の自動車や自動車部品の関税については「更なる交渉による撤廃」が明記された。これは「WTO違反ではない」と説明するために大枠合意後、日本側が書き込む努力をしたものだ。そしてこれらも含めて、今回の合意の関税撤廃率を計算して、米側で92%、日本側で84%と発表して胸を張る」、見え透いた小細工だ。「同床異夢」というより、日本側が国内向けに嘘で塗り固めた虚構といえる。
・『今後の展開を読む  日米は2020年1月にも協定を発効させて、来春以降に「第2ラウンドの交渉」に入るとしている。しかしこれも額面通り受け取ってはならない。これは米国議会が「包括的な協定にすべし」としていることから、トランプ政権としては、今は「包括的な協定にするべく、さらに交渉する」と言わざるを得ないからだ。来年になって大統領選が佳境に入って、すぐに大統領選にプラスになるような果実を得られない交渉にトランプ大統領が果たして興味を示すだろうか疑問だ。 仮に第2ラウンドがあったとしても、米側は物品貿易の交渉は終わったとして、薬価制度の見直しやサービス分野の市場開放に焦点を移すだろう。百歩譲って、継続協議となった米国の自動車関税の撤廃を議論できたとしても、日本の農産物の関税引き下げという交渉のレバレッジを失ってしまって、果たして米国から譲歩を得られるだろうか。 残念ながら淡い期待はしない方がよさそうだ』、「日本の農産物の関税引き下げという交渉のレバレッジを失ってしまっ」たとは、本当に馬鹿なことをしたものだ。

第三に、スタンフォード大学講師のダニエル・スナイダー氏が9月27日付け東洋経済オンラインに掲載した「安倍首相はトランプに「使われて」いないか 日米貿易協定は「ウィンウィン」という幻想」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/305106
・『安倍晋三首相はひょっとしてドナルド・トランプ大統領の再選キャンペーンに加わったのだろう? これが、ニューヨークで開かれた安倍首相とトランプ大統領の首脳会談を見て、彼らが発表した貿易協定を読んだ後、筆者の頭に浮かんだ疑問である。 安倍首相は日本の記者団に対し、これは「お互いにメリットがあること」だと強調した。しかし、アメリカの貿易政策の専門家は、これをアメリカ大統領の勝利、より正確には、トランプ大統領の再選キャンペーンを後押しするものだと考えている』、「安倍晋三首相はひょっとしてドナルド・トランプ大統領の再選キャンペーンに加わったのだろう?」、というのは最大限の皮肉だ。
・『自らの成果として大いに喧伝する  「これによって、大統領選挙の年を迎えるトランプ氏に対する政治的圧力がいくらか緩和されるだろう」と、国際戦略研究センターのマット・グッドマン氏は話す。「農業部門以外の経済的利益は限られているが、トランプ氏は、彼にとって最初の、そして唯一の新たな二国間取引である合意を、大きな勝利であり、貿易については厳しく詰め寄る彼のアプローチの正当性が立証されたものとして大いに宣伝するだろう」。 茂木敏充外務相のもとで働いていた日本の交渉担当者は、協議に入るに当たりに非常に厳しい立場をとっていた。日本側は、アメリカがすでに欧州連合(EU)および環太平洋パートナーシップ参加国(TPP-11)に与えているのと同じレベルの農産物市場へのアクセスと、関税引き下げをアメリカにも認めるよう、アメリカ側が求めていることを知っていた。日本側がオバマ政権事も同じ問題を交渉していたことを踏まえると、今回は予想以上に譲歩したと言える。 ただし日本側は、自国の要求を通すために農産物を「交渉材料」として使った。その要求とは、いわゆる米通商拡大法232条に基づいて日本の自動車輸出へ追加関税を発動しない、あるいは数量規制を設けないとする、トランプ大統領による明確で文書化された約束だ。日本のある政府高官は、これが今回の交渉における彼らの「越えてはならない一線」であると打ち明ける。 その代わり、今回の共同声明では、農産物に関しては前もって譲歩を見せ、これにについては臨時国会で承認を得る予定だ。一方、自動車およびその他の主要品目についての合意は先延ばしにされ、はっきりとしたスケジュールがないままこの先も交渉が続く。 日本は、交渉中、および協定が履行されている間は、協定の「精神に反する」行動はとらないという言質をとりつけた。これは2018年9月に出された共同声明に記された文言と同じだが、これは232条に基づく訴えへの歯止めにはならなかった。 前述の政府高官は、日本側はこれを「十分な保証」と考えており、安倍首相との2人だけの会談においてトランプ大統領自身が、これは232条に基づく関税が発動されないことを意味する、と明言したと話す。茂木外相も日本の記者団に対し、協定の履行中はこの約束が尊重されるものと理解していると話した。 ニューヨークに拠点を置くコンサルティング会社テネオの日本専門家、トバイアス・ハリス氏も基本的には同じ見方だ。「交渉が始まった1年前の共同声明と同様に、この合意もまた、安倍首相の時間稼ぎ、そして最も有利とは言えない状況をコントロールする動きの1つなのかもしれない」と書いている』、「「精神に反する」行動はとらないという言質」、はどうとでも解釈できるので、「十分な保証」とはとても言えないだろう。
・『追加関税のリスクは持続する  だが、多くのアメリカ人の通商問題専門家たちはより懐疑的だ。 ブルッキングス研究所のミレーヤ・ソリス氏は、「日本政府がこれをどのようにウィンウィンとして描写するのか想像し難しい」と話す。 「自動車部門は除外されている。また、トランプ大統領は、追加関税という脅威により、日本の農業市場への優先的アクセス条件が脅かされる可能性があると警告されたとは考えていない。これまでの状況から考えると、声明における非常に曖昧な約束に潜在的な問題があることがわかる。自動車関連は今回の協定に含まれないため、トランプ大統領は232条に基づく追加関税を、協定の精神を侵害するものと考えることはないだろう。従って、保証はなく、そのリスクは持続する」 実際、トランプ大統領と政府高官は、この協定について限定的な説明しかしていない。「現時点で、第232条に基づいた措置を、日本の自動車に対して行う意図は、われわれ、つまり大統領にはない」と、アメリカの首席貿易交渉官ロバート・ライトハイザーは発言した。 一方、トランプ大統領は、この誓約や第232条の問題についてはまったく言及しなかった。さらに重要なのは、日本側はトランプ大統領の誠実さを保つために持っていた最も効果的な“武器”をすでに手放してしまっていることである。 日本の政府高官らは、トランプ大統領の“不確実性”をよく心得ている。「トランプ大統領が確実に機嫌よくいられるようにしたい」とニューヨーク在住の日本の高官は話す。「貿易交渉についての報道は、トランプ大統領の予測不可能な感情的反応につながることがないように、合意で得たもの(または避けたもの)を強調しない」。 首脳会談に先駆けて、ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙などは、自動車関税問題に関してアメリカ側が明確に誓約することを拒否したため、この協議が行き詰まったと報じた。 ニューヨーク・タイムズ紙などは、日本側が「サンセット条項」、または、「スナップバック合意」と呼ばれる方法によってこの問題を回避しようと試みたと報道。これにより、アメリカが話を進めて、自動車関税を課した場合、農産物に対する関税免除は一時停止または撤廃される可能性がでることになるだろう』、「トランプ大統領は、この誓約や第232条の問題についてはまったく言及しなかった」、というのは将来の火種となる可能性を示唆している。「サンセット条項」は入ったのだろうか、記事ではどうも入らなかったようだ。
・『トランプ大統領側は成果を強調  今回発表された声明やアメリカ側の資料からは、今後こうした自動車関税について議論される兆し、ましてや合意にたどり着く兆候はまったく感じられない。それなのに日本の政府関係者は、まだ議論を続けようとしている。 「232条が課された場合、われわれは本協定を終了させる」と、日本の交渉担当の1人は語る。だが、日本の貿易政策専門家に言わせると、そのような措置が日本の法律において合法かどうかは微妙だ。本協定が国会を通過した場合、簡単に差し止めたり無効にしたりすることはできるのだろうか。 一方、トランプ大統領がアメリカ国民に伝えたかったことは非常に明確だった。ホワイトハウスとアメリカ通商代表部は、日本から得ようとしていたすべての農業利権についてアメリカの記者団に詳細に伝えていた。 「この第一段階である最初の関税合意により、日本はさらに72億ドル分のアメリカの食料および農産物への関税を撤廃あるいは減税することになるだろう」と、通商代表部は報告書に明記している。「協定が実施されれば、日本が輸入する食料と農産物の90%以上が非関税になるか、特恵関税の権利を受けることになるだろう」と。 今回の貿易交渉が、トランプ大統領の再選に向けたキャンペーンの一環であることは明らかだ。中国との貿易戦争によって重大な打撃を受けている農家からの支持は大きく下がっているうえ、貿易戦争は当面収まりそうにない。 翻って今回の声明は、トランプ大統領を支持するアメリカの農業関連団体の意見が大きく反映されている。文字どおり発表から数分以内に、ウォールストリート・ジャーナル紙や、他紙の記者は、トウモロコシ、小麦、その他製品の業界団体からこの偉大な「勝利」を称賛しているといったいくつものプレスリリースを受け取った』、確かにトランプ大統領にとっては、大きな勝利のようだ。
・『「ご機嫌取りをする日本に心底うんざり」  「これはアメリカの農家、牧場経営者、生産者にとって大きな勝利である」とトランプ大統領は語る。「そして私にとって非常に重要なことだ。また君たちがこのニュースを報道することが重要だ。なぜなら知ってのとおり、農家や牧場経営者や、ほかの多くの人々にとって、これはすばらしいことだからだ」 成果を強調しようと、こうした団体の代表者たちを伴った安倍首相を前に大統領はテレビ番組向けの一芝居をうち、それぞれにとって協定がどれほど得策であるかを証言するよう要求したのだった。「日本は特別な存在になる 」。トランプ大統領はそう結び、「そしてこれが私の特別な友達だ」と言って安倍首相に頷いてみせた。 皮肉なことに、こうしたこれ見よがしの愛情表現、そして安倍首相がトランプ大統領の政治目的に身を投じたのと時を同じくして、トランプ大統領が大々的にやり玉に上がった。民主党の大統領ナンバーワン候補であるジョー・バイデン氏を貶めるスキャンダルを渡すよう、ウクライナに対して圧力をかけようとしたというのだ。安倍首相に伴ってニューヨークに来ている日本人記者団は、安倍首相がトランプ大統領と会談している間にそんな騒ぎとなっている事実にはほとんどどこ吹く風という様子であった。 「ニクソン以来、(そしてトランプ大統領の日々の非道な振る舞いの度合いを考えても)、アメリカの政治・憲法上最大の危機的状況の真っ最中に安倍首相はのこのこやって来て、またしてもトランプ大統領にへつらうのか?」と、知日家のアメリカ人識者は話す。 「二国間自由貿易協定合意はいいことかもしれないが、世論のほうは最悪だ。貿易協定が締結されつつある時に、日本人がトランプ大統領がまたもや一大スキャンダルに直面しようとしていることを知る由もなかったのは事実なのだから。それにしても日本がトランプ大統領にご機嫌とりをする様にはもう心底うんざりする。日本の政策が世界の目から見てどれほど不愉快なものか、日本はまったくわかっていない」』、「「ニクソン以来、・・・・アメリカの政治・憲法上最大の危機的状況の真っ最中に安倍首相はのこのこやって来て、またしてもトランプ大統領にへつらうのか?」と、知日家のアメリカ人識者は話す」、「日本の政策が世界の目から見てどれほど不愉快なものか、日本はまったくわかっていない」、などは厳しいアメリカの見方なのだろう。いずれにしろ、「「ウィンウィン」という幻想」を振りまいた安倍政権、大本営発表を無批判に垂れ流した日本のマスコミの罪は深い。せめて国会での野党の追及に期待したい。
タグ:米国が日本に対して、(1)農産物でTPP以上の要求をする、(2)自動車の制裁関税を検討する、という2つの“脅し”が背景 トランプと日米関係 追加関税のリスクは持続する 米国の“脅し”から設定された交渉目標 交渉中、および協定が履行されている間は、協定の「精神に反する」行動はとらないという言質をとりつけた 細川昌彦 大統領選挙の年を迎えるトランプ氏に対する政治的圧力がいくらか緩和されるだろう 「日米貿易協定で日本がWTOルールの‟抜け穴”つくる?」 自動車関税の引き上げの脅しは『抜けない刀』で“空脅し”だからだ アジア諸国をはじめ途上国と自由貿易協定(FTA)を締結するに当たって、およそ高い関税撤廃率を求めることは難しくなる。米国相手のときだけ基準を変える「二重基準だ」との批判も免れない 日本も本来共同歩調を取るべきであるにもかかわらず、トランプ大統領との蜜月を崩すことを恐れてか、提訴はしていない 自らの成果として大いに喧伝する 関税撤廃率は6〜7割といったところだ。完成車が含まれない限り、明らかにWTO違反となる 通商拡大法232条による追加関税のWTO違反の措置である。既に米国は鉄鋼・アルミニウムについて発動しているが、欧州連合(EU)など各国からWTO違反として提訴されている 追加関税を脅しに、対米輸出の数量規制に追い込むことはメキシコ、カナダとの交渉で味をしめたライトハイザー通商代表の手法 WTO違反の追加関税は“空脅し”だ 安倍晋三首相はひょっとしてドナルド・トランプ大統領の再選キャンペーンに加わったのだろう? 今後継続協議といっても、農産物でカードを切ってしまって交渉のレバレッジを失った後では、残念ながら“気休め”にすぎない 自動車の「継続協議」は“気休め”か? 「安倍首相はトランプに「使われて」いないか 日米貿易協定は「ウィンウィン」という幻想」 東洋経済オンライン ダニエル・スナイダー 米国の農産物に対してだけ関税を引き下げるといった“つまみ食い”は許されない 米国に対して「TPPの水準までは譲歩する」と最初からカードを切ったことになる。米国は何の代償も支払わずして、このカードを手に入れることに成功したのだ 交渉前にあえて米農務長官がTPPの水準以上の要求発言をしたのも、単なる交渉戦術だ。 しかし日本はそれをまともに受け取ってしまった 先にカードを切ってしまった農産物 日本の農産物の関税引き下げという交渉のレバレッジを失ってしまって、果たして米国から譲歩を得られるだろうか 日米交渉はまたもや“守り一辺倒”に 「日米貿易協定、「WTO違反」までして譲歩するのか?!日本側は“守り一辺倒”になってしまった」 特定国への関税引き下げは、「実質的にすべての貿易」について関税引き下げになるものでなければできない。それがWTO協定上のルール 今後の展開を読む 完成車が含まれない限りWTO違反になる?! 自動車の追加関税を回避することを交渉の優先目標にした結果、米国の自動車関税の撤廃という日本の本来の要求の優先度が下がって、継続協議になったのだ。 これも米国の思惑通りの展開だろう ライトハイザー代表も記者会見で、「米国の自動車関税の撤廃はこの協定に含まれていない」とコメント 日経ビジネスオンライン 米国の自動車や自動車部品の関税については「更なる交渉による撤廃」が明記された。これは「WTO違反ではない」と説明するために大枠合意後、日本側が書き込む努力をしたものだ。そしてこれらも含めて、今回の合意の関税撤廃率を計算して、米側で92%、日本側で84%と発表して胸を張る 日本の政策が世界の目から見てどれほど不愉快なものか、日本はまったくわかっていない ニクソン以来、(そしてトランプ大統領の日々の非道な振る舞いの度合いを考えても)、アメリカの政治・憲法上最大の危機的状況の真っ最中に安倍首相はのこのこやって来て、またしてもトランプ大統領にへつらうのか?」と、知日家のアメリカ人識者は話す 「ご機嫌取りをする日本に心底うんざり」 今回の貿易交渉が、トランプ大統領の再選に向けたキャンペーンの一環 トランプ大統領側は成果を強調 日本が越えてはならない一線とは 数量制限は“毒まんじゅう”のようなもので、一旦飲まされると、後で嵩(かさ)にかかって米国の要求がエスカレートするのを覚悟しなければならない。これを回避した意義は大きい 日本側はトランプ大統領の誠実さを保つために持っていた最も効果的な“武器”をすでに手放してしまっていることである “毒まんじゅう”を回避した意義は大きい トランプ大統領は、この誓約や第232条の問題についてはまったく言及しなかった (その5)(日米貿易協定 「WTO違反」までして譲歩するのか?!日本側は“守り一辺倒”になってしまった、日米貿易協定で日本がWTOルールの‟抜け穴”つくる?、安倍首相はトランプに「使われて」いないか 日米貿易協定は「ウィンウィン」という幻想)
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