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欧州(その6)(マイナス金利に苦しむ欧州銀 迫る景気後退の時限爆弾、中央銀行が環境問題に手を出すのは無理筋だ ラガルドECB総裁はやはり政治的すぎるのか、2020年の欧州 EUを攻めるジョンソン氏 EU守るドイツは世代交代) [世界情勢]

欧州については、昨年5月2日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その6)(マイナス金利に苦しむ欧州銀 迫る景気後退の時限爆弾、中央銀行が環境問題に手を出すのは無理筋だ ラガルドECB総裁はやはり政治的すぎるのか、2020年の欧州 EUを攻めるジョンソン氏 EU守るドイツは世代交代)である。

先ずは、マネックス証券 執行役員チーフ・アナリストの大槻奈那氏が8月26日付けロイターに掲載した「コラム:マイナス金利に苦しむ欧州銀、迫る景気後退の時限爆弾=大槻奈那氏」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/column-forexforum-nana-otsuki-idJPKCN1VC0SK
・『 欧州の銀行株が乱高下している。景気後退に陥った場合にドイツには財政出動の準備があるとの報道で若干値を戻したものの、資産価値に比べて株価が割高か割安かをみる株価純資産倍率(PBR)は、ドイツ銀行(DBKGn.DE)とコメルツ銀行(CBKG.DE)で0.2倍前後、フランスのソシエテ・ジェネラル(SOGN.PA)や英国のバークレイズ(BARC.L)、イタリアのウニクレディト(CRDI.MI)でも0.3─0.4倍と、ことごとく1.0倍を大きく割り、ほぼ今年の最安値近辺で推移している』、PBRがここまで低いとは、改めて驚かされた。もっとも、日本のメガバンクも0.45倍から0.5倍なので、五十歩百歩ともいえる。
・『貸出金利の低下、ここに極まれり  何が問題なのか。2014年に欧州中央銀行(ECB)が導入したマイナス金利は、もちろん元凶の一つだ。デンマークでは今月、一定額以上預金者が対象ながら、貸出金利がマイナス0.6%の住宅ローンが登場して話題になった。ユーロ圏でもドイツの一部の銀行は0.5%の住宅ローンを提供している 。欧州では、少なくとも14銘柄の投機的格付企業の債券がマイナス利回りで取り引きされている。 日銀が2016年にマイナス金利政策を始めた当時、「欧州では案外貸出金利が下がっていない」という分析が多く見られたが、今年に入って大きく低下している。2014年以降の貸出金利の低下幅は約60ベーシスポイント(bp)に達する。年平均12bp前後の下落は、日本の銀行を上回るペースだ。 この間、ユーロ圏の銀行貸出残高10兆ユーロ(約1180兆円)に対し、約600億ユーロの収益が失われた計算になる。同様に、債券の利回りも下落しており、トレーディング収益にもひところの勢いはない。このような傾向は、金利低下が続く中、当面続きそうだ』、「住宅ローン」金利までマイナスの国が現れたとは、まだプラスの日本よりもはるかに酷いようだ。
・『枯渇する不良債権バッファー  さらに問題なのは、こうした利回りの低下で、不良債権が発生した時のバッファーが枯渇しつつあることだ。 2010─11年の財政危機後、欧州の不良債権問題は景気回復と債権売却などで徐々に落ち着いてきた。それでも、貸し出しに占める不良債権の比率はギリシャで41%、ポルトガルやイタリアでも8─9%と、日米に比べてまだ高い。欧州連合(EU)全体の不良債権額は 2019年3月時点で77兆円と、日本の10倍以上だ(ちなみにEUの貸出総額は日本の銀行の約4倍)。 さらにこのところ、地政学リスクの拡大などからクレジットリスクへの市場の警戒感は高まりつつある。これまで拡大基調にあった欧州のローン担保証券(CLO)市場は極めて低調だった 。報道によると、米国では今月、約2カ月前から資金を募っていた3社がレバレッジドローンの販売を中止した 。貿易摩擦の高まり、不安定な原油価格、景気後退リスクを懸念する投資家が質へと逃避していることが背景だ。 忍び寄るダウンサイドに備えるべく、今年4月 、欧州委員会は不良債権に対する統一ルールを決めた。例えば、無担保貸出が新たに不良債権になった場合、3年以内に貸出に対して100%の資本を積まなければならない。 ドイツなどは当初、このルールを既存の貸出全体に適用すべきだと主張していたが、不良債権比率が高い他の国に押し切られ、新規に発生した不良債権だけが対象となった。それでも、銀行にとっては負担増となる可能性が高い。銀行の利ざやは薄くなっており、こうした負担増は収益で吸収しにくくなっている。 規制は好況時に強化するのが鉄則だ。今回のルールも、銀行財務の余裕を減らし、貸し渋りを発生させる可能性がある。早めに景気後退期に備えるためのルールが、むしろプロシクリカル(景気サイクルを加速させること)に働いてしまうかもしれない』、「無担保貸出が新たに不良債権になった場合、3年以内に貸出に対して100%の資本を積まなければならない」、日本の場合は、債務者区分が破綻先であれば直ちに100%だが、要注意先であれば20%、と単純な比較はできないようだ。「今回のルール」が「貸し渋りを発生させる可能性」があり、「プロシクリカルに働いてしまうかもしれない」、というのはこうした規制にはつきものの皮肉だ。
・『準備整わぬまま景気後退か  こうしたルールが導入された背景には、欧州危機後に提唱されてきた「銀行同盟」案の一つである「預金保険制度の統一」のめどが立たないことがある。その他の柱である「銀行監督の統一」と「破綻処理の統一」はなんとか仕組みができたが、預金保険については、脆弱(ぜいじゃく)な銀行預金の払い戻しにまで応じることに、保険システムが堅固なドイツなどが反対している。 ドイツの気持ちもわかる。つい先週も、ラトビア第5位のPNB銀行が閉鎖され、預金保険で10万ユーロまで保護されると発表された。 EU域内で預金保険制度が統一されぬまま、次の景気後退に突入してしまえば、保険システムが脆弱(ぜいじゃく)な国の銀行から預金が流出し、金融格差が拡大してしまう可能性が高い。前回の財政危機時は、今ほどネットバンクが発達していなかったため、地元銀行への預金の粘着性は高かった。だが、今後は預金の流出が想定以上に大きくなるかもしれない。 欧州では、足元で製造業を始めとする様々な経済指標が鈍化している。イタリアでは、ポピュリスト政権が空中分解し、政治的にも不確実性が増している。報じられているドイツの財政出動がどこまで景気を浮揚できるのか。 ドイツは2014年以降、「シュバルツェ・ヌル(黒いゼロ)」をスローガンに財政均衡に取り組んできた。「500億ユーロ程度の財政出動が可能」というショルツ財務相の発言もあるが、そんなドイツが他国のためにどこまで身をていするかは未知数だ。 次の景気後退まで残された時間は多くない。欧州の金融システムには試練の時が近づいている』、確かに「欧州の金融システム」も要注意のようだ。

次に、みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏が12月9日付け東洋経済オンラインに掲載した「中央銀行が環境問題に手を出すのは無理筋だ ラガルドECB総裁はやはり政治的すぎるのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/318462
・『11月にECB(欧州中央銀行)総裁に就任したラガルド氏の最初の任務は、「中期的に2%未満であるがその近辺(below, but close to, 2% over the medium term)」とされている「物価安定の定義」を抜本的に見直すことであり、金融政策の戦略を修正することであると想定されている。 ECBが金融政策の戦略を見直すのは2003年以来、実に16年ぶり。新任総裁にとっては大事業である。現行の「物価安定の定義」を正面から解釈すると「2%に到達すれば引き締められる」との誤解を招きやすいため、あくまで2%を境として対称的に物価目標をにらんでいることを明確化したいとの思惑がある。「物価安定の定義」は確かに時代に合わなくなっていると思われるため、この修正は必要な措置であると筆者も考えている』、「ラガルド氏」は弁護士出身で、フランスの財務大臣を経て、IMF(国際通貨基金)専務理事を務めた女傑が、いよいよECB総裁という難しい地位に就いたようだ。
・『新しいEUとしては環境問題に本気  しかし、ここにきて気になる動きが断続的に報じられている。それはラガルド総裁が今回の修正作業の一環として、環境問題、とりわけ気候変動に関する論点を組み入れることに関心を示しており、これを政策運営上の重要テーマとしたいという意向を持っていることだ。 欧州議会の場でもラガルド総裁は「物価安定の二の次だが(secondary to protecting price stability)」と断った上で、「気候問題をECBのマクロ経済モデルに織り込むべきであり、EU(欧州連合)域内の銀行を監督するにあたってもそのリスクを考慮に入れる」と意気込みを見せている。 ちなみに、ラガルド体制と同タイミングで発足した新たな欧州委員会を率いるフォンデアライエン新委員長も、欧州議会における演説で「The European Green Deal(欧州のグリーンディール)」はマストであることを強調しており、やはり環境を新体制で重視する姿勢を示している。 新生EUの顔とも言える2トップがこうしたスタンスを明らかにしている状況は欧州が持つ環境問題への意識が他国・地域よりも強いものであることを象徴していると言える。何かにつけて理想に振れやすい欧州だけにその過剰な動きには懸念も生じるところだ』、EUの委員長が「環境を新体制で重視する」のは理解できるが、ECB総裁まで足並みを揃えるとは驚かされた。
・『環境問題が重要だからといってそれを中央銀行が考慮すべきかどうかはまったく別問題ではないだろうか。率直に言って環境問題を斟酌した金融政策運営は無理筋に思えてならない。 この点について、①政策波及経路が想像できない、②役割区分を取り違えている、という2点から考察したい。評価する際に必要な視点は、気候変動が「重要か、重要ではないか」ではなく、「中央銀行がやる筋合いのものか」ということなのである。 まず①の「政策波及経路が想像できない」という思いは多くの市場参加者が抱くはずだ。そもそも庭先であるはずの物価や賃金ひいては景気の変動を制御することにも難渋しているのに、気候の変動を制御できるというのか。どのような手段や経路、そして確度を想定して政策運営をすれば気候変動に有意な影響を与えることができるのか。また、それをどうやって検証するのか。 気候変動は短くても数百年、長くて十万年といった時間軸で捉えるべき問題であるとの指摘もよく聞く。その変化を経済主体がはっきりと実感する頃には数世代が入れ替わるような時間軸の長いテーマだ。今起きている変動がいつ頃の経済活動に起因しているのか(あるいはしていないのか)を特定するのも難しいのに、どうやって適切な金融政策を割り当てるのか。景気安定化を主な目的として、今月や来月の株価や為替に振り回されている中央銀行が悠久の時を超えて変化が現れる環境問題の変数まで考慮するというのはいささか尊大に思える』、説得力のある主張で、その通りだ。
・『前のめりなビルロワドガロー仏中銀総裁  非常にうがった見方であることを承知で言えば、本当に地球温暖化が人間の営む経済活動の活発化と因果関係があるならば、金融引き締めを行って経済活動の停滞化を図るのが正解、という考え方も間違っていないことになる。むしろ金融政策の波及経路としては最もシンプルで腑に落ちる考え方である。だが、納得が得られないことは言うまでもない。 一方、ビルロワドガロー仏中銀総裁はFT紙の取材に対し以下のように述べている。「エネルギー価格の上昇と経済成長率の低下を通じて、地球温暖化は"スタグフレーションショック"を引き起こす恐れをはらんでおり、(これに対抗策を講じることは)すでに物価安定の責務の一部(already part of our price stability mandate)になっている」。ロジックとしては納得できなくはない。 しかし、「金融政策という手段で気候変動を抑制できるのか」という根本的な疑問を抱くのは筆者だけではあるまい。中央銀行は症状に対する適切な処方箋を持たないと思われる。また、同総裁は地球温暖化をECBの経済予測モデルに織り込むべきだとまで述べているが、四半期ごとに改定され、1年前と方向感が大きく変わることも珍しくないスタッフ見通しに環境問題という論点を入れ込んでECBの「次の一手」が変わるのだろうか。 ちなみに、ビルロワドガロー総裁は、11月末、日本銀行も遂に参加することが報じられた「気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク(NGFS:Network for Greening the Financial System)」の創設メンバーの1人として知られている。今後も同様の発言を繰り返すことが予想される。) なお、11月28日、同じくフランス出身のクーレECB理事は「中銀が気候変動問題の克服で先頭に立つのは無理がある。これは政治の仕事であり、そうあるべき」と述べる一方、「中銀は各行に与えられた責務の範囲内で支援を行うことはできる」と表明している。筆者は基本的に前者の立場だが、後者の「責務の範囲内で支援」をあえて考えれば何が考えられるだろうか。 この点、量的緩和政策(QE)において環境に配慮した事業が発行するグリーンボンド(グリーン債 )を多く購入しようという「グリーンQE」なるアイディアがECB当局者の間で飛び交っている。ただ、環境問題への配慮に支持を表明しているビルロワドガロー総裁をもってしても「相対的に小さいグリーンボンド市場での大量購入は市場を大きく歪める可能性がある」として難色を示す。 しかし、問題は債券市場の大小ではない。今年10月、バイトマン独連銀総裁は「インフレ率が低い間だけ気候変動対策を続けなければならない理由は、ほとんど理解されない」とグリーンQEを批判してみせた。筆者もまったく同感だ。環境対策それ自体が重要なテーマだとしても、QEを通じてそれを支援するということは「金融緩和(≒QE)が不要の局面に入れば支援しなくてもいい」という意味もはらんでしまう。そうした要らぬ政治判断を迫られないために中央銀行には政治からの独立性が保証されているはずだ』、「「グリーンQE」なるアイディア」に対しては、「ビルロワドガロー総裁をもってしても「相対的に小さいグリーンボンド市場での大量購入は市場を大きく歪める可能性がある」として難色を示す」。「バイトマン独連銀総裁は「インフレ率が低い間だけ気候変動対策を続けなければならない理由は、ほとんど理解されない」とグリーンQEを批判」、もっともな批判だ。
・『環境対策は中銀ではなく政府の仕事である  それ以外にも、常設されている流動性供給において、中央銀行が民間銀行から担保を受け入れる際に、グリーンボンドの掛け目を優遇したりする案も取りざたされている。確かにこの程度であれば、「責務の範囲内で支援」できるかもしれない。だが、当該資産がどの程度、環境に優しい(あるいは優しくない)のかを定量的に評価できる尺度を用意しないかぎり、このようなアプローチすら難しい。 一方、環境問題が重要であり、中央銀行として支援できることがあったとしても、「本当にやるべきなのか」という根本的な疑問も残る。②の「役割区分を取り違えている」という論点である。クーレ理事も述べるように、基本的に環境問題で先頭に立つのは「政治の仕事」であり、中立性が要求される中央銀行の仕事ではない。バイトマン総裁も「気候変動問題の対策を打ち出すのは選挙民によって選ばれた政府の仕事で、中銀が環境政策を推進する民主的な正当性はない」と明言している。 上述した担保の取り扱いを環境基準で差別化するというアプローチ1つ取ってみても、中央銀行が環境に優しい(あるいは優しくない)との評価を行い、私企業の資金調達の優劣にまで踏み込むことが適切なのだろうか。その評価が異論の余地のない単純なものであるならば気にはならないかもしれない。しかし、判断に迷う微妙なケースも出てくるはずだ。) もし、環境への影響に関して企業Aが企業Bよりも優遇され、企業Bからクレームが出た場合、どうするのか。中央銀行は環境の専門家ではないので、第三者から意見を聞くことになろう。しかし、その第三者が適切であるかも含めて議論を呼ぶと予想される。そもそも政策運営は物価安定に注力すべきところ、これに関与する主体が枝分かれしながら増えて行ってしまうこと自体、健全ではない。中立の立場から物価安定を追求するという期初の目的に対して、ノイズがどんどん増えてしまう。 ECB以外にも環境問題に関心を寄せている中央銀行はあるが、今のところは静観の構えが目立つ。パウエルFRB(米国連邦準備制度理事会)議長は今年7月の議会証言で、自然災害が金融市場に及ぼす影響を注視するものの「気候リスクは長期的なもので、日々の銀行監督に影響を与えるとは思わない」と述べ、そのリスクが中央銀行の責務に関わる可能性を明示的に認めることは避けた。時間軸が違い過ぎるという問題意識だろう。 また、カーニー総裁率いるイングランド銀行(BOE)は国内大手銀行のストレステスト(健全性審査)に地球温暖化と環境政策を組み込む意向を示しているが、やはり金融政策を気候変動対策に割り当てることについては二の足を踏んでいる。なお、フランス銀行(中銀)も国内の銀行と保険会社に対しやはり気候変動に関するストレステストを来年から実施する意向を明らかにしている。こうして見ると、「まずはストレステストにシナリオの1つとして組み込む」というのが各国当局の採る最初の一手となってきそうだが、二の矢が続くのかは微妙な情勢と言わざるをえない』、確かに「まずはストレステストにシナリオの1つとして組み込む」のが現実的なアプローチだ。
・『亀裂の「修復」ではなく「拡大」も  世界的には「気候変動の重要性は認めつつも、中央銀行の相対する(すべき)問題ではない」という意見がまだ主流である中、ラガルド総裁が仮に環境問題を新たな金融政策戦略の一要素として取り込むのであれば、正否は別にして、それは先進的な動きとは言える。 だが、「総論賛成、各論反対」の当局者が多数と思われる中でこれを敢行すれば、すでに現行の金融政策をめぐって分裂している政策理事会の亀裂をさらに深めることになりかねない。目先の金融政策運営と異なり、一度決めてしまえば簡単には修正できない戦略でもあり、環境問題を盛り込むには議論が熟していない。 東洋経済オンライン記事『ラガルドECB総裁誕生から何を読み解くか』『ECB分裂騒ぎで、ラガルド新総裁は慎重な船出に』でも論じたが、ラガルド総裁にはまず前ドラギ体制で生じた政策理事会内の亀裂を修復するという調整能力に大きな期待がかかっている。にもかかわらず、こうした根の深そうな新しい争点を持ち込んでしまうあたりに、初動としてはやや不安を覚えてしまうものがある。すでにドイツははっきりと気候変動に関与することに反対の立場を表明している。 ラガルド総裁にとっての最初の大事業となる政策戦略の修正作業が、亀裂の「修復」ではなく「拡大」をもたらすような一手にならないことを祈るばかりである。「金融政策における環境問題のあり方」は中央銀行デジタル通貨(CBDC)と並び、2020年に注目すべき大きな金融のテーマとなってきそうである』、今後の論議に注目したい。

第三に、在独ジャーナリストの熊谷 徹氏が1月6日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「2020年の欧州、EUを攻めるジョンソン氏、EU守るドイツは世代交代」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/122300125/?P=1
・『2020年、欧州政局の最大の焦点は、1月31日に英国が欧州連合(EU)から正式に離脱することだろう。EUほど規模が大きく複雑な国際機関から、英国のような大国が離脱するのは、世界でも例がない出来事だ。1952年のECSC(ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体、EUの前身)創設以来、拡大と深化を続けてきた欧州統合に初めてブレーキがかかり、後退を強いられる。英国は、世界に広がる右派ポピュリズム革命の、欧州最初の犠牲者となる』、英国EU離脱については、このブログの12月18日に取上げた。
・『ブレグジットがやって来る  さて2019年12月12日の英国議会下院総選挙でボリス・ジョンソン首相率いる保守党が圧勝した時、他の欧州諸国の政界や経済界では、「合意なきEU離脱が回避された」という安堵の声が強かった。 実際、ジョンソン首相は12月20日、EUとの間で合意した離脱協定案を議会下院の採決で承認させることに成功した。「ブレグジット疲れ」という言葉まで生んだ過去1年間の堂々めぐりがまるで嘘だったかのようだ。 テリーザ・メイ前首相が1年間に3回試みて失敗した議会承認を、ジョンソン氏が首相就任からわずか5カ月で成功させたことについて、他の欧州諸国の首脳たちも感嘆の声を上げた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相が「議会での袋小路のような状態が終わったことは、良いことだ。ジョンソン首相の政局運営には脱帽する」と珍しくほめたほどだ。 奇矯な発言や行動で、メディアから「道化師」と揶揄(やゆ)されたジョンソン氏だが、職業的政治家としての手腕はメイ氏よりも上だった。 メイ前首相にとって致命傷となったのは、2017年に実施した前倒し総選挙だった。同氏は下院で議席の過半数を確保することに失敗した。これは、EUとの合意案を議会で通過させることを極めて難しくした。従ってジョンソン氏はまず総選挙で勝って、議会の安定過半数を確保してから、EUとの合意案をめぐる議会での採決に臨んだ。ジョンソン氏は政権政党が踏むべきオーソドックスな手順に従って、自らの政策目標を貫いたのだ』、「メルケル首相が」「珍しくほめた」というのは、ドイツも英国の不毛な離脱論議に愛想を尽かしていたとはいえ、とんだ判断ミスだ。
・『ジョンソン氏が仕掛けた時限爆弾  ただし欧州諸国の首脳たちが「合意なきEU離脱の回避」を喜ぶのは、早過ぎた。ジョンソン首相は、離脱協定に関連する法案の中にある「時限爆弾」を仕掛けたからだ。 英国は2020年1月31日にEUから離脱する。ただし、両者の新しい関係を規定する細則が決まるのは、これからだ。つまりEUと英国は、ブレグジットという枠組みを協定によって肉付けしなければならない。) 英国とEUは、1月31日にブレグジットを実現した後に、関税や製品の安全基準、環境保護基準、移民管理、安全保障など様々なディテールについて協議を開始し、協定を結ぶ必要がある。これまでは多国間協定で決めていたことを、英国とEUの間の「二国間協定」に移し替えなくてはならない。これは極めて複雑で、労力と時間を必要とする作業だ。 ジョンソン首相が仕掛けた時限爆弾は、「EUとの自由貿易協定などに関する交渉を、2020年末までに終えなくてはならない」という規定だ。つまり英国政府は、EUとの自由貿易協定に関する交渉の期間を、2021年1月1日以降に延期することを自ら禁じた。 だがEUは、わずか11カ月で自由貿易協定などに関する交渉を終わらせるのは、不可能と考えている。2017年にEUとカナダの間で発効した自由貿易協定(CETA)の交渉には、7年もかかった。CETAの協定書は、約1600ページに達する膨大なものだ。EU側では、英国との交渉には最低3年必要だという意見が強い』、「ジョンソン氏が仕掛けた時限爆弾」、なかなか巧みな高等戦術だ。
・『2020年末に合意なきEU離脱の可能性が再び浮上  ジョンソン首相が「交渉を11カ月で終わらせろ」という強気の規定を法案に盛り込んだ背景には、「自由貿易協定において英国が望む条件をEUが受け入れない場合、2020年12月31日に時間切れとなって合意なきEU離脱になだれ込む可能性がある」という圧力を高めるためだ。 彼は首相就任以来、合意なきEU離脱の可能性をちらつかせることにより、EUに英領北アイルランドとアイルランド共和国の間の国境に関する提案をのませることに成功した。EUはそれまで「メイ前首相との間で合意した離脱協定案の変更には応じない」という態度を堅持していた。EUが2019年秋に突然態度を180度変えた背景には、「ジョンソン首相は、本当に合意なしで英国をEUから離脱させるかもしれない」という強い危惧があった。 つまりジョンソン首相は、「EUに譲歩させるためには、合意なきEU離脱の可能性をちらつかせるのが最も効果的だ」ということを学んだ。このため2020年2月から始める自由貿易協定に関する交渉は、英国のペースで進むだろう。EUの交渉団は、英国の交渉担当者が多くの無理難題を押しつけてくることを覚悟しなくてはならない』、EUとしては、離脱には大きなナイナスが伴うことを示したいところだろうが、「合意なきEU離脱の可能性をちらつかせる」戦術を前にしては、いいなりになる可能性が強い。
・『総選挙を前にしたドイツで伝統政党の衰退  さてEU最大の経済パワー、ドイツではメルケル首相の後継者をめぐるレースが2020年に始まる。各党は2021年10月24日の連邦議会選挙(総選挙)へ向けて、首相候補を2020年末までに決めなくてはならない。 かつて欧州で政治的な安定性が最も高いと言われたドイツでは、伝統政党の支持率が急落し、二大政党制が大きく揺らいでいる。 公共放送局ARDが2019年12月5日に発表した政党支持率調査によると、CDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)の支持率は25%。SPD(ドイツ社会民主党)は第4位に転落し、支持率は13%にすぎない。つまりCDU・CSUとSPDは合計38%しか取れず、議会の過半数を確保できない。1970年代にはこれらの3党が約90%の得票率を記録していたことを考えると、ドイツ社会の大きな変遷を感じる。こうした数字を見ると、2021年の総選挙以降、大連立政権が継続される可能性はかなり低いと見るべきだろう。 メルケル氏の後継者として有力視されていたアンネグレート・クランプカレンバウアーCDU党首の人気は低迷している。同氏はザールラントという小さな州の首相しか経験していない。失言が多く、中央政府の閣僚として経験の浅さを感じさせる。(例えばトルコのシリア侵攻を、誤って「併合」と呼んでしまった)) 最近発表された世論調査によると、「メルケル首相の仕事ぶりに満足している」と答えた回答者の比率は47%。これに対して、「クランプカレンバウアー国防大臣の仕事に満足している」と答えた回答者は24%とはるかに低かった。2019年秋に旧東ドイツ3州で実施された州議会選挙で、CDUは右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に多数の票を奪われ、得票率を激減させた。同年11月に行われたCDU党大会で代議員たちはクランプカレンバウアー氏を一応支持した。CDUは同氏を首相候補に擁立するだろうが、同氏の選挙戦は厳しいものになるだろう。 SPDの「病」はもっと深刻だ。同党は2019年12月6日の党大会で、左派に属するサスキア・エスケン議員と、ノルベルト・ワルターボルヤンス氏(前ノルトライン・ウェストファーレン州財務相)を共同党首に選んだ。 エスケン氏とボルヤンス氏は、CDU・CSUとの大連立に批判的な政治家として知られている。どちらも、中央政界では全く無名だった。現在メルケル政権で財務大臣を務めるオラフ・ショルツ氏など有名な政治家は、新執行部から一掃された。 この「クーデター」の背景には、大連立政権の解体を求めてきた、SPD青年部のケビン・キューネルト部長の策略がある。エスケン氏とボルヤンス氏は、SPD左派に属するキューネルト部長の後押しを受けて、共同党首の座に就くことができた。いわばSPD青年部の「傀儡(かいらい)」である。キューネルト氏は、新執行部で副党首の1人となった。 SPDはCDU・CSUとの違いを際立たせるために、富裕税の導入、最低賃金の引き上げや社会保障を拡充するための赤字国債の発行などを要求し、政策を急速に左傾化させつつある。SPDは、こうした政策によって、支持率を現在の2倍にあたる30%に引き上げる目標を打ち出した。だがドイツのメディアは、緑の党が環境政策に力点を置き、世論調査において第2党の位置を占めている今日、左傾化だけでSPDが得票率を回復できるかどうかについて、悲観的な見方を強めている』、EUのアンカー役を果たしてきた「ドイツで伝統政党の衰退」、となれば、欧州情勢は不安定化する可能性がある。
・『欧州で重要性を増す地球温暖化問題  日本ではいまだに、緑の党を、環境保護団体グリーンピースのような過激な政策を掲げる左翼政党と考えている人が多い。しかしそうした見方は、時代遅れだ。ドイツの経済界は、緑の党をパートナーと見始めている。ダイムラーやポルシェが本社を置く旧西ドイツ南西部の物づくりの中心地バーデン・ヴュルテンベルク州では、2011年以来8年間にわたり緑の党の議員が首相を務めている。 2021年に予定される連邦議会選挙の後には、緑の党が連立政権に入るという意見が有力だ。同党の支持率が20%を超えているために、緑の党なしに連立政権を作ることは困難だからである。緑の党出身の首相が初めて誕生する可能性すらある。 ドイツでは地球温暖化問題に対する市民の関心が日本以上に強く、政党はこのテーマを重視しない限り有権者の支持を得られなくなっている。「公共性」に関する尺度が、日本とは大きく異なるのだ。 EU委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン新委員長も、二酸化炭素の排出量を2050年までにゼロにする「欧州グリーン・ディール」を12月12日に発表した。同氏は、グリーン・ディールを「欧州にとって、人類を月面に着陸させた米国のアポロ計画並みの重要性を持つプロジェクト」と呼んだ。この発言は日本ではほとんど注目されていないが、EUが地球温暖化対策を最も重要な政策目標の一つにしていることを浮き彫りにしている。 2020年、日本も多事多難が予想され、国外に目を向けている余裕はないという人が多いかもしれない。しかしこういう時代だからこそ、日本とは異なる価値観に目を向ける複眼的思考が重要なのではないだろうか』、ドイツでは「緑の党出身の首相が初めて誕生する可能性すらある」、そこまできたかと改めて驚かされた。日本も「地球温暖化」問題に真剣に取り組んでゆく必要がありそうだ。
タグ:EUが地球温暖化対策を最も重要な政策目標の一つにしている 緑の党出身の首相が初めて誕生する可能性すらある 連邦議会選挙の後には、緑の党が連立政権に入るという意見が有力だ ドイツの経済界は、緑の党をパートナーと見始めている 欧州で重要性を増す地球温暖化問題 政策を急速に左傾化させつつある SPDの「病」はもっと深刻 「クランプカレンバウアー国防大臣の仕事に満足している」と答えた回答者は24%とはるかに低かった CDU・CSUとSPDは合計38%しか取れず、議会の過半数を確保できない 総選挙を前にしたドイツで伝統政党の衰退 EUの交渉団は、英国の交渉担当者が多くの無理難題を押しつけてくることを覚悟しなくてはならない ジョンソン首相は、「EUに譲歩させるためには、合意なきEU離脱の可能性をちらつかせるのが最も効果的だ」ということを学んだ 自由貿易協定において英国が望む条件をEUが受け入れない場合、2020年12月31日に時間切れとなって合意なきEU離脱になだれ込む可能性がある」という圧力を高める 2020年末に合意なきEU離脱の可能性が再び浮上 「EUとの自由貿易協定などに関する交渉を、2020年末までに終えなくてはならない」という規定だ。つまり英国政府は、EUとの自由貿易協定に関する交渉の期間を、2021年1月1日以降に延期することを自ら禁じた ジョンソン氏が仕掛けた時限爆弾 メルケル首相が「議会での袋小路のような状態が終わったことは、良いことだ。ジョンソン首相の政局運営には脱帽する」と珍しくほめた ブレグジットがやって来る 「2020年の欧州、EUを攻めるジョンソン氏、EU守るドイツは世代交代」 日経ビジネスオンライン 熊谷 徹 亀裂の「修復」ではなく「拡大」も 環境対策は中銀ではなく政府の仕事である 前のめりなビルロワドガロー仏中銀総裁 環境問題が重要だからといってそれを中央銀行が考慮すべきかどうかはまったく別問題ではないだろうか 欧州のグリーンディール フォンデアライエン新委員長 「気候問題をECBのマクロ経済モデルに織り込むべきであり、EU(欧州連合)域内の銀行を監督するにあたってもそのリスクを考慮に入れる ラガルド総裁 新しいEUとしては環境問題に本気 ECBが金融政策の戦略を見直すのは2003年以来、実に16年ぶり。新任総裁にとっては大事業である 「物価安定の定義」を抜本的に見直すこと 「中央銀行が環境問題に手を出すのは無理筋だ ラガルドECB総裁はやはり政治的すぎるのか」 東洋経済オンライン 唐鎌 大輔 欧州の金融システムには試練の時が近づいている 預金の流出が想定以上に大きくなるかもしれない ネットバンク EU域内で預金保険制度が統一されぬまま、次の景気後退に突入してしまえば、保険システムが脆弱(ぜいじゃく)な国の銀行から預金が流出し、金融格差が拡大してしまう可能性が高い 準備整わぬまま景気後退か プロシクリカル 貸し渋りを発生させる可能性 無担保貸出が新たに不良債権になった場合、3年以内に貸出に対して100%の資本を積まなければならない 欧州委員会は不良債権に対する統一ルール 欧州連合(EU)全体の不良債権額は 2019年3月時点で77兆円と、日本の10倍以上だ(ちなみにEUの貸出総額は日本の銀行の約4倍) 枯渇する不良債権バッファー 年平均12bp前後の下落は、日本の銀行を上回るペースだ 2014年以降の貸出金利の低下幅は約60ベーシスポイント 貸出金利の低下、ここに極まれり 株価純資産倍率(PBR)は、ドイツ銀行(DBKGn.DE)とコメルツ銀行(CBKG.DE)で0.2倍前後、フランスのソシエテ・ジェネラル(SOGN.PA)や英国のバークレイズ(BARC.L)、イタリアのウニクレディト(CRDI.MI)でも0.3─0.4倍と、ことごとく1.0倍を大きく割り、ほぼ今年の最安値近辺で推移 「コラム:マイナス金利に苦しむ欧州銀、迫る景気後退の時限爆弾=大槻奈那氏」 ロイター 大槻奈那 欧州 (その6)(マイナス金利に苦しむ欧州銀 迫る景気後退の時限爆弾、中央銀行が環境問題に手を出すのは無理筋だ ラガルドECB総裁はやはり政治的すぎるのか、2020年の欧州 EUを攻めるジョンソン氏 EU守るドイツは世代交代)
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