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メディア(その21)(新型コロナウイルス拡大防止の総理会見を茶番劇にした官邸と官邸記者クラブの愚、牧野洋 日米ジャーナリズムの違い~元NHK立岩陽一郎のLIFE SHIFT㉙<前編>、牧野洋 日経の編集委員から主夫へ【元NHK立岩陽一郎】<後編>) [メディア]

メディアについては、2月29日に取上げた。今日は、(その21)(新型コロナウイルス拡大防止の総理会見を茶番劇にした官邸と官邸記者クラブの愚、牧野洋 日米ジャーナリズムの違い~元NHK立岩陽一郎のLIFE SHIFT㉙<前編>、牧野洋 日経の編集委員から主夫へ【元NHK立岩陽一郎】<後編>)である。

先ずは、元NHK記者で「インファクト」編集長の立岩陽一郎氏が3月1日付けYahooニュースに掲載した「新型コロナウイルス拡大防止の総理会見を茶番劇にした官邸と官邸記者クラブの愚」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/byline/tateiwayoichiro/20200302-00165551/
・『2月29日、新型コロナウイルスの感染防止策について安倍総理が記者会見を行った。それは、日本のメディアと権力との癒着を如実に物語るものだった。 私の手元に、1枚の書面がある。それはこの会見を前に、官邸記者クラブの幹事社が各社に回したものだ。そこには「内閣総理大臣記者会見の幹事社質問」(案)と書かれている。 それが冒頭の写真だ。「朝日新聞」と書かれているのは、これは官邸の新聞社幹事である朝日新聞の質問ということだ。因みに、幹事社とは記者クラブのとりまとめ役で、各社持ち回りで担当することになっている。通常、新聞・通信社の幹事社と後述するようにテレビ局の幹事社がある。その質問には以下の様に書かれている。 臨時休校について伺います。総理は27日に突然発表しましたが、その日のうちに政府から詳しい説明はなく、学校、家庭など広く社会に不安と混乱を招きました。説明が遅れたことをどう考えますか。 この後、ひとり親、共働き家族への対応、授業時間の確保について質している。また、国民生活や経済への影響、感染の抑え込みについて見通しを問うている。更に、クルーズ船への対応に海外から批判が出ていることを挙げて、これまでの政府の対応について「万全だとお考えでしょうか」となっている。加えて、中国の習近平主席の訪日、東京オリンピックを予定通り行うかどうかも「あわせてお聞かせください」となっている。 次にテレビ幹事社のテレビ朝日の質問が書かれている。 総理は先日の対策本部で新しい法律を整備する意向を表明された。与野党から補正予算を求める声もあるが、具体的にどのようなものを想定しているのか。法案は早期に成立させなければならない。そのために野党側に与野党党首会談も含めて協力を呼び掛ける考えはあるか? この書面には、「ご意見の有る方は」と書かれ、幹事社まで連絡するよう求めている。これは質問案に欠けている質問が有れば加えるという趣旨だろう。その時間は記者会見前日の28日午後9時までとなっている。つまり、この時間をもって、質問を事前に官邸側に送ることになる。因みにこの行為を、「投げる」と言う。 これは今回に特別なことではない。これまでもそうだった。日本のリーダーの記者会見とは、このように事前に質問事項がまとめられて記者から官邸側に渡され、それに基づいて総理大臣の答弁が決められて答弁書が作られる。総理大臣は答弁書を読むだけとなる。それを記者と総理大臣が演じる一種の茶番劇となる。 今回の安倍総理の会見は36分ほどだった。その最初の19分は安倍総理がプロンプターに出てくる原稿を読むものだった。そして、残りの17分で記者との質疑が行われ、先ず幹事社の朝日新聞とテレビ朝日が質問しているが、それは私の持つ書面の文面の通りに行われている。少し違うのはテレビ朝日の質問に、「さらに生活面でマスクやトイレットペーパーといった日用品がお店に行っても買えないという現象が起こっている」と付け加えられたくらいだ。これは答弁を変えるほどのものではなく、答える安倍総理も、用意された答弁書と見られる紙を読んで終えている。 続いてNHK、読売新聞、AP通信の記者が質問しているが、これらの答弁も安倍総理は紙を読む形で答えている。 この会見に出ていたフリー・ジャーナリストの江川紹子氏は自身のYahoo!個人ニュースの記事で次の様に書いている。 スピーチの間は、首相の前に立てられた2つのプロンプターは、質疑の時間になると下ろされる。首相は、会見台の上に広げられた書面を見ながら質問に答える。複数の証言によると、首相会見では事前に質問者が指名されており、質問内容も事前に提出している、とのこと。会見開始直前に駆け込んできた男性は、佐伯耕三首相秘書官で、彼が提出された質問への回答を用意し、安倍首相はそれを読んでいる、というわけだ 出典:Yahoo!個人ニュース「新型コロナ対策・首相記者会見で私が聞きたかったこと~政府は国民への説明責任を果たせ」』、「記者との質疑」がここまで事前に提出され、それへのの回答も用意されていたとは、想像以上で、まるで茶番劇だ。
・『質疑について「彼(秘書官)が提出された質問への回答を用意し、安倍総理はそれを読んでいる」は指摘の通りだろう。つまり総理大臣自身が「本当に大変なご苦労を国民の皆さんにはおかけしますが、改めてお一人おひとりのご協力を深く深く、お願いする次第であります」と語り、国民の協力を求めている記者会見の場は、事前にやり取りが決められた茶番劇だったということだ。 当然、そこには権力者と取材者との緊迫したやり取りなど存在しない。あらかじめ用意された紙を読んで質問をしたことにする記者。それに応えて予め用意された答弁を行うことで誠実に対応しているように見せる首相。それが20分弱繰り返されたというわけだ。各社、原稿もある程度は事前に書いている筈だ。 会見が終わる際に、予定の時刻を過ぎたとの説明がなされているが、これも想定通りと見て良い。事前に質問者と質問内容に加えて答弁の分量もわかっており、想定を超えて時間が過ぎたわけではない。そして、予定された質疑が終わったところで会見は打ち切りとなることが既に決まっていた筈だ。 では、こうした「茶番劇」の何が問題なのか?それは、記者会見が事実関係を問いただす場にならないということだ。普通、質問は一発で回答を得ることはできない。その為、記者は関連質問を行う。これを「二の矢、三の矢を放つ」と言う。それによって、初めて回答を得られる。実際、江川氏は、最初の朝日新聞の質問に安倍総理が明確に答えていなかったと指摘している。ところが朝日新聞の記者は二の矢を放っていない。放てないのだ。なぜなら、総理大臣会見では二の矢を放つことは想定されていないからだ。否、別の言い方を敢えてする。二の矢を放つことは許されていないのだ。 仮に、ここで朝日新聞の記者が二の矢を放ったらどうなるか?官邸側と朝日新聞の信頼関係に傷がつくことになる。その結果、朝日新聞は官邸での取材で不利益を被ることが予想される。例えば、官邸幹部へ取材などで朝日新聞だけが外されるという事態は容易に想像できる。 そう書くと、「この新型コロナウイルスという緊急時に際して、そんな些末なことで事実の確認という重要な仕事を放棄することなどあり得ない」と思う人もいるかもしれない。しかし、残念ながらそれが実態だ。なぜか?予め決められた内容をやり取りすることで総理大臣を答えに窮するといった困った立場に置かずにすむからだ。それは官邸側の意向ではあるが、それを認めているのは記者の側だ。 それでも厳しい質問をするのが記者ではないのか?」と思う人はいるかもしれない。ところが、日本の記者、特に政治権力を取材する官邸記者クラブの記者はそうではない。一般的に日本の記者は権力の側から情報をとることが仕事となっており、そのためには権力の側を怒らせることに極めて消極的だが、その最も典型的な例が官邸記者クラブだと言って間違いない。 勿論、「記者会見は国民の知る権利に応えるための場」とは、日本の主要メディアで掲げられる言葉だ。それが嘘だとは言わない。しかし、完全にこの言葉に忠実かというと、そうではない。国民の知る権利に応えようと記者会見で頑張って二の矢、三の矢を放って、総理大臣を立ち往生させるか?官邸を困らせるか?その結果は見えている。取材で不利になる選択肢は当然の様に取らないし、取れない』、「二の矢を放つことは許されていない」、「記者会見が事実関係を問いただす場にならない」、やはり「茶番劇」以外の何物でもない。こうした現状に抵抗して、質問しようとする東京新聞の望月記者が「官邸記者クラブ」からも無視されるのは、嘆かわしいことだ。
・『では、世界中どこでもそうなのか?残念ながらこんなことをしている国は民主主義の国では日本くらいだろう。日本のリーダーの記者会見に特有の現象と言っても良いかもしれない。 記者会見での言動が常に批判を受けるアメリカのトランプ大統領にしても、この様な茶番劇は演じていない。記者会見は日本の首相会見とは大きく異なり、そこは権力者と取材者との真剣勝負の場となっている。だからこそ、トランプ大統領が、「お前は失礼な奴だ」とか、「お前らの会社はフェイクニュースだ」などと記者を罵倒する状況が生まれる。怒りのあまり会見の場で、「この人殺しのテレビ記者ども」と口走った姿を確認したこともある。それは、それが本当の記者会見の場だからだ。核廃棄という専門性の高いテーマだった一回目の米朝首脳会談の後の記者会見でも、「北朝鮮がどこまで核廃棄を進めれば、廃棄したとなるのか?」といった質問に、「専門家に言わせれば、ある段階まで廃棄を進めれば、再開が難しい段階が有る・・・」と自分の言葉で語っている。 日本の総理大臣の記者会見では、トランプ大統領の言うところの「失礼」な質問は出ない。そもそも官邸側と調整した質問しか出ず、「失礼」な質問が投げかけられる余地が無いのだ。 一度、ニューヨークの国連で安倍総理が会見を開いた際、アメリカの記者がこの慣例を破って二の矢を放ったことが有った。その時、安倍総理がそのまま用意された答弁を読んでしまった。当然、二の矢のための答弁は準備されていない。安倍総理が読んだのは、次の記者の為の答弁だったと見られる。当然、質疑は意味不明なものになってしまった。異変に気付いた官邸スタッフが割って入り、記者会見は途中で終わっている。私はその会見に出ていたアメリカ人記者からその話を聞き、返す言葉が無かった。 私はYahoo!個人で、総理と主要メディア記者との会食の問題を取り上げてきた。総理会見の在り方も権力者と取材者との癒着という意味で全く同じ話だ。 Yahoo!個人ニュース「総理大臣と記者との会食が引き起こしている問題の深刻さに気付かないメディア」 またこうも言える。こうした会見と総理大臣と記者との会食は表裏だ。会見で本音が聞けないから、会食で本音を探るということになる。しかしこれはおかしい。極めて不透明且つ不健全な会食などをせず、透明性の高い記者会見を堂々とやれば良いだけのことだ。 NHKは安倍総理の会見を伝える29日のニュースで、「安倍総理が自ら説明」と報じている。これは一種のフェイクニュースだ。用意された文章を読み、質問には準備された回答を読み上げる。それは、「自ら説明」したことにはならない。 更に言えば、これはもう記者会見ではない。これは単なる演説会だ。質問に答えない記者会見を記者会見と呼んではいけない。官邸記者クラブの記者に言いたい。次からは「記者クラブ主催総理演説会」と名称を変えた方が良い。そうでなければ、記者会見を本物の記者会見、つまり権力者と取材者との真剣勝負の場に変えなければいけない。この未曾有の事態に際して人々を茶番劇には付き合わせてはいけない』、「ニューヨークの国連で安倍総理が会見を開いた際」の「安倍総理」のとんちんかんな回答は、国辱ものだ。「次からは「記者クラブ主催総理演説会」と名称を変えた方が良い」、全く同感である。

次に、2月25日付けGOETHE「牧野洋 日米ジャーナリズムの違い~元NHK立岩陽一郎のLIFE SHIFT㉙<前編>」を紹介しよう。
https://goetheweb.jp/person/slug-nc5ca86fd7b0
・『このLIFE SHIFTで人を取材していて、世の中には格好良い生き方というのがあるものだと感じる。その格好良さはどこから来るか? いろいろあるかとは思うが、一つには、安易に勝ち馬に乗らないということかと思う。結果的にうまくいくことは否定しないが、その時、その時の判断の基準には、目先の利益はない。そういう人に私は格好良さを見出し、結果的に、それがLIFE SHIFTの主人公となっている。そう思う。それで言うと、今回の主人公である牧野洋は際立った格好良さと言って良いのではないか。ちょっと真似できないその半生に、これから迫りたい』、「牧野洋は際立った格好良さと言って良い」、どういうことだろう。
・『ピーター・フォンダ似の先輩ジャーナリスト  新年が明けた1月5日、JR広島駅に隣接するグランビアホテルに向かった。今回の主人公に会うためだ。ロビーに入ると、「立岩さん」と声をかけられた。約束より15分早かったが、既にその人はティーラウンジにいた。 「お待たせしました」と私が言うと、「勝手に早めに来ていただけですから」と笑った。 牧野洋(59)。先輩ジャーナリストだが、ここはLIFE SHIFTの流儀に則って敬称略でいかして頂く。元日本経済新聞(以後、日経新聞)編集委員で、今はフリーのジャーナリスト兼翻訳家として活躍する。 「苦み走ったいい男」などという言葉は今は使わないのかもしれないが、その言葉があてはまる。端正な顔立ちに無精ひげ。白髪交じりの髪はのびるままに任せているといった感じか。似ていると思うのは、映画「イージーライダー」の故ピーター・フォンダだ。と、思っていたら、昔の話をしている際に「イージーライダー、好きな映画なんですよ」と言われて驚いた。 「『福岡はすごい』読ませて頂きました。面白かったですね」 「ありがとうございます」 2018年に出た「福岡はすごい」(イースト新書)は、福岡の新たな取り組みを自身が長く過ごしたカリフォルニアとの類似点から、その可能性を探っている。面白いのは、福岡を良い事例として紹介することで、日本全体の問題点を浮かび上がらせている点だ。 なぜ「福岡はすごい」だったのか? それは夫人の仕事の関係で福岡に住んでいたからだ。その時に書いたのが「福岡はすごい」。そして今、私が広島にいるのは、夫人の職場が広島になったからだ。その点が、他人……少なくとも私には真似できない凄さ、格好良さなので、そろそろ本題に入る。 牧野は1960年、東京生まれ。練馬生まれだが主に現在のあきる野市で育った。最寄り駅が福生駅だったので、アメリカ軍横田基地のある福生市とも縁が深い。その影響なのか、老舗出版社の雑誌編集長だった父親の影響なのか、かなり早い段階でアメリカへの憧れやジャーナリストへの憧れを抱いていたという。 大学は慶応大学経済学部へ進んだ。大学ではESSに入る。ESSはディベート、ディスカッション、スピーチ、ドラマといったセクションに別れていて、それぞれを英語でこなす。私も一橋大学でESS(一橋大学ではISと呼んでいたが)に片足を突っ込んでいたので知っているが、どのセクションも「文化系の体育会」と呼ばれるほどハードだ。牧野はそこで4年間、ディスカッションに所属したが、逆に「体育会系のノリが肌に合わずあまり熱心ではなかった」と言う。 「でも、良い仲間ができ、今も当時の仲間とは付き合いが続いています」 「イージーライダー」は大学には真面目に通っていたという。 「大学には真面目に通いましたよ。福生駅から毎日、時間をかけて」 福生から三田……それは大変だ。 「早く社会人になって一人暮らししたい、といつも思っていました。ただ、新聞を読むのにはいい時間になりましたね」。 当時父親が自宅で購読していた日経新聞を電車の中で読んでいたという』、「福生」にはいまだに横文字の看板が残っているなど、「かなり早い段階でアメリカへの憧れ」を抱いたのも頷ける。
・『日経からコロンビア大学ジャーナリズムスクール  就職は新聞と決めていた。経済を主戦場としたい。それ故の慶応大学経済学部だ。それで日経新聞を受験して合格。1983年、日経新聞記者となる。最初の配属は英文日経だった。英語で記事を書く日々だ。 「海外特派員をイメージして英文日経を希望したのですが、実際はちょっと違いました。でも、ニューヨーク・タイムズ紙やウォールストリート・ジャーナル紙を読む毎日は勉強になりました。すぐにアメリカのジャーナリズムへの憧れが芽生えました」 最初は日経本紙の記事を翻訳するのが主な仕事だったが、時々外国人読者向けに独自記事を書くこともあった。そのうち、英文記者としてスタートしたのなら、中途半端には終わりたくないと思うようになった。目標はすぐに決まった。ジャーナリズム教育の世界最高峰とされる米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクール、通称Jスクールへの留学だ。何しろ、当時としては異例だったのだが、小さな英文日経編集部の上司の中にJスクール出身者が3人もいたのだ。職場で日ごろからJスクールの話を聞かされ、牧野はますますアメリカのジャーナリズムへの関心を強めた。 面白いのは、そこからだ。 「そこで、会社に無断で1年以上前から準備し、勝手に受験したんです。TOEFLを受けて、エッセイを書いて。そしたら合格しちゃった。それで会社に行かせてくれと言ったんです」 たまたま当時はバブル絶頂期の1980年代後半で、その追い風を受けて日経は英語での情報発信の強化を目指していた。当時のキーワードである「国際化」だ。これが幸いし、上司に留学の意向を伝え既に合格を得ていることを伝えると、叱られるどころか、とんとん拍子で話が進んだ。そして会社派遣の留学でJスクールへ。これが牧野にとっての最初のLIFE SHIFTだった。 後述するように牧野はその後、日経に反発を覚えて辞める。それでも、「留学を認めてくれた日経には今も感謝している」と話した。 ところが、と言うべきか、やはりと言うべきか、その留学生活は過酷なものだった。英語で書いたり読んだりするのは大学時代だけでなく、新聞記者としても経験済みだ。「Jスクールはスパルタ教育で有名」と聞いていたが、それなりになんとかなると思っていた。だが、その自信は直ぐに崩れる。開校初日のオリエンテーションでいきなり指導教官から課題を与えられたのだ。 「ブルックリンの行商人について取材して明日までに記事を提出せよ」 「ブルックリンってどこだ?」から始まってやっと現地に入って取材するが、プレッツェルやネックレスを売っている行商人は「このネクタイ姿の東洋人は誰?」といった表情を見せるだけで、誰も取材には応じてくれない。それでもプロの新聞記者が「書けない」とは言えない。地元の商工会議所を探して飛び込むが、なしのつぶて。憔悴しきって大学に戻る。それでも、となんとか商工会議所の関係者に電話取材をして記事を出す。で、ボツ。ボツとはつまり、却下だ。 「当事者、つまり行商人の取材がないということで、ボツでした。当事者の取材のないものはダメだ、と。関係者取材というのは、基本的にダメだということです。頭ではわかっていた日米の違いを初日に突き付けられた感じでした」 日本では当事者取材なしで記事を書くのは、良いか悪いかは別にして普通に行われている。失業者に直接取材しないで失業問題を書いたり、納税者に直接取材しないで税金問題を書いたりする。関係者にすぎない官僚やエコノミストに取材するだけで記事を書いてしまう。それはダメだということだ。留学時代は、その日米の違いを突き付けられる繰り返しだったという。 例えば、日本人学校を取材してフィーチャー記事を書く課題だ。学校に行って教師や校長に話を聞いたり、教育の専門家を電話取材したりして記事を書いた。数字も入れた。学校側の狙いを書くのが日本では普通だ。しかし、当然の様にそれはJスクールでは、否、アメリカではボツとなる。 「これではまるで当局発表のプレスリリースみたいだ」 指導教官は厳しい表情でそう言った。 「当局発表のプレスリリース」。まさに、これこそ、日本の新聞記者が日々記事にするものだ。霞が関の役所から全国の市町村の庁舎の掲示板まで、日々、あらゆる記者発表が貼りだされる。それを記事にすることに追われるのが日本の記者の姿だ。指導教官は続けた。 「学校の主役は子供なのだから、子供に取材しない記事は成立しない。校長や教師の話は付け足し程度でいい。学校にもう一度行って、授業の様子を丸一日かけて見てきなさい。そしてできるだけたくさんの子供に話し掛けなさい。その際には子供と目線を同じにすること。それともう一つ。キャンディーを持っていくといいですよ」 最後は笑顔で言ってくれたが……。 「やっぱり、衝撃でした。日米のジャーナリズムの違いをこれでもかというほど突き付けられた日々でした これには後日談がある。日本人学校を取材し直して指導教官から今度はOKしてもらえた。日本に関係した記事だったので、英文日経にも掲載してもらった。ところが、紙面を見てびっくり。丸一日かけて授業の様子を観察した部分がばっさりカットされ、ボツにされた「リリース記事」へ逆戻りしていたのだ。 「アメリカと比べて言うと、日本の新聞は市民目線を忘れがちです。それは日本のマスメディアに特有な記者クラブ制度とも密接に絡んでいると思うんですが、どうしても政府などの『当局』の発表を書くことが主眼になってしまう。そして、市民がどう考えているかという報道にはならない……」 その「当局」とは、コロンビア大学初日の課題で言えば、「商工会議所」や「学校の教師や校長」ということになる。それらは、物事を作る側の人々であり、それによって影響を受ける人たちではない。ジャーナリズムとは、影響を受ける人の側から考えないといけない。牧野は、アメリカのジャーナリズムに本物を感じた。 そういう日々にも終わりは来る。なんとか無事に卒業して帰国した。NHKから留学した私もそうだったが、派遣留学は会社に報告書の提出を求められる。牧野は報告書をまとめ、それは後に、日本のマスメディアの構造的な問題などに切り込んだ「官報複合体」(講談社)として本になっている』、「米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクール、通称Jスクールへの留学・・・会社に無断で1年以上前から準備し、勝手に受験したんです。TOEFLを受けて、エッセイを書いて。そしたら合格しちゃった。それで会社に行かせてくれと言ったんです」、これでは日経もイヤとはいえないだろう。「「これではまるで当局発表のプレスリリースみたいだ」・・・これこそ、日本の新聞記者が日々記事にするものだ」、「ジャーナリズムとは、影響を受ける人の側から考えないといけない。牧野は、アメリカのジャーナリズムに本物を感じた」、貴重な体験だ。「報告書」を受け取った日経も、その過激さに驚いただろう。
・『帰国、そして再び海外へ  牧野は帰国後、英文日経を経て証券部に異動。証券部とは兜町を中心に、マーケットを取材するということだ。コロンビア大学で市民目線でのジャーナリズムを学んだ牧野だが、「郷に入れば郷に従え」となることはやむを得ない。特に日経は経済記事で他社に後れをとることは許されない。となると当局取材を徹底する必要がある。機関投資家や証券会社、上場企業、東京証券取引所の幹部らを取材。そうした中で、他社を慌てさせる一面記事を書かなければならない。 しかし、コロンビア大学で学んだことは骨の髄に染みていた。やがて、取材の対象は株主へと移っていく。あたかも、株主の権利が言われ始めた時期でもある。牧野は1990年代初め、株主代表訴訟についてのニュース記事を初めて日経新聞一面に書いた記者となる。当時は株主代表訴訟という言葉を知っている人間は日経社内にもほとんど存在しなかった。93年には同僚と一緒に共著「株主の反乱」も出版した。株主代表訴を正面から取り上げた本が出たのも初めてのことだった。 1994年9月、牧野のもとに米ノースウェスタン大学ロースクールから冊子と手紙が送られてきた。ノースウエスタン大学とはアイビーリーグと並ぶ名門大学だ。冊子は日米の株主代表訴訟制度をテーマにした学術論文で、その中で「株主の反乱」に触れて「日本の株主代表訴訟を包括的に取り上げた初めての本」と紹介していた。手紙は論文の筆者マーク・ウエストによるもので、そこには「あなたの記事は大変役に立ちました。本書でも引用させていただきました」と書かれていた。 まさに、日経で記者としての人生を謳歌しているという感じだ。 「やりたい放題だったんですね?」そう水を向けると、「そうですね……でも、そんな感じでした」と言って苦笑いした。 そして再び、海外へ出る。それも牧野の希望だ。スイスのチューリヒ支局長になる。93年、ちょうど入社して10年目だ。「そこで当時、日本では知られなかったプライベートバンクについて取材しました。それまでに日経新聞もあまり取材していなかった未開拓分野。知られていないからこそ本になるとにらんだんです」 富裕層向けの銀行業務だ。プライバシー保護が徹底したスイスの銀行には世界の富裕層から資金が集まっていた。それがプライベートバンクだが、当然、裏の顔もある。マネーロンダリングだ。まだ日本ではあまり語られていなかった国際金融の光と闇に入社10年目の牧野は切り込み、日経金融新聞に何度も連載を書いている。 牧野はコメントにあるように、既に、本を書くことを自らの目標に掲げるようになっていた。当然、この連載も本にしたい。「プライベートバンク」、「マネーロンダリング」……いずれも、今後の日本と無縁ではない。しかし出版化は当時の上司の判断で叶わなかった』、「株主代表訴訟についてのニュース記事を初めて日経新聞一面に書いた記者となる」、大したものだ。「プライベートバンク」、「マネーロンダリング」の「出版化は当時の上司の判断で叶わなかった」、さぞかし悔しい思いをしただろう。
・『最強の投資家を取材  それでも、チューリヒ支局での記事は国内銀行界ではよく読まれ、社内でも好評だった。それが次の道につながる。ニューヨーク総局への異動だ。ニューヨークのウォール街担当は牧野自身も在籍した兜クラブのキャップの指定ポストだったが、チューリヒからニューヨークへの異例の横滑りとなった。1996年のことだ。 日経新聞のニューヨーク総局の編集部は当時現地採用も含めて15人前後。そこで牧野はウォール街を担当する取材チームのキャップとなった。ウォール街と言えば世界の金融の中心地だ。それは刺激に満ち溢れた日々だったのだろうと思ったら、牧野は意外なことを言った。 「ウォール街の取材は忙しいし、毎日の様に記事を求められるんですけど、ここを取材しても本にはならないんですよ」「え? 本ですか?」「ええ」 本にするには独自のテーマや切り口が必要だ。日々の動きを追う取材からは、そうした深い内容を取材するのは難しいということだ。牧野にとって、既に新聞記事そのものより本の執筆がメインになっていた。 「プライベートバンクの本が実現しなかったから、なおさら本を書きたいという思いが強くなっていました」 実はこれはアメリカのジャーナリズムの世界では、極めて自然なことだ。私自身、NHKに入って17年ほどしてアメリカに留学し、アメリカのジャーナリストと付き合うようになったが、10年以上の経歴のジャーナリストで著書がないというのはアメリカでは珍しかったと思う。当時の私は著書など1冊もないNHK記者だ。これは日本ではさほど異常なことではないが、アメリカでは珍しい。新聞記者は新聞記事を書く以上に、自著の出版にこだわる。それが自身の記者としての評価にもなる。 そこで、牧野は一計を講じたと言う。 「ウォーレン・バフェットに注目したんですよ。当時日本で彼の知名度は低く、彼についての本も出ていませんでした。だから常時ウォッチしていけば、必ず本になるチャンスがやって来ると考えたんです」 ウォーレン・バフェット。天才的な投資家として知られ、その発言がメディアで取り上げられることも多い人物だ。ただ、そう簡単に接触できるわけではない。牧野の主な仕事はアメリカ市場であり世界のマーケットの動向を取材することだ。その合間のぬっての取材となる。それでも、アンテナを張り巡らせることで、この投資家の行動半径を絞ることは可能だ。 ウォール街の取材の合間に取材したのがバフェットの会社の株主総会だ。ニューヨーク赴任から2年目の1998年のこと。ネブラスカ州オマハにあるバークシャー・アザウェイ社で開かれる総会で、バフェットが個別の取材に応じるという話になった。しかし大物だけに全米の記者が集まっている。日本から来た記者に割り振られる時間はあるのだろうか……と考える間もなく滑り込んだ。そして単独取材に成功。日本のマスコミとの単独インタビューは初めてのことだった。直接取材ができたことで、ニューヨーク総局勤務の3年間で本にできるだけの取材を終えることができた。 そして帰国。ただ、まだ本は書けていない。是非とも本を書きたい。否、書かなければ意味がない。そこで牧野は、帰国後の異動に際して、通常とは異なる希望を出す。ニューヨーク総局のウォール街担当は証券部のポストだから、通常は証券部に戻る。証券部は花形でもあるが、それだけに忙しい。 「証券部に行ったらバフェットを本にできないかもしれない」そう思った牧野は帰国後の異動先に「日経ビジネス」と書く。勿論、理由は本だけではない。 「雑誌はいろんな取材ができて、ジャーナリズム的にもいろいろ自由があると思いました」。 そして、またこれが認められる。 「本当に、やりたい放題ですね?」と言って笑うしかない私。 「ええ……そうですね。とても恵まれていたと思います」と言って苦笑いで返す牧野。 1999年に帰国。そして日経ビジネスに行って、その年に念願の単著を出す。「最強の投資家バフェット」(日経ビジネス文庫)がそれだ。これが評判を呼び、9刷まで重版がかかった。考えてみると、バフェットはなぜか「最強の投資家」と評されることが多いが、ひょっとしたら牧野の本の影響によるものかもしれない。 牧野は、このニューヨーク赴任時に知り合った日本人女性と結婚する。彼女は牧野と同じコロンビアのJスクールで学んだ後に日経のニューヨーク総局で現地採用記者として働いていた。この後、牧野は自身がアメリカで学んだ市民目線のジャーナリズムを実践して日経で孤立していく。その際、この結婚が、牧野の新たな選択を可能にする。否、牧野は言った。 「そういう相手しか結婚相手には考えていませんでした」 「そういう相手」とはどういう相手なのか。そこで牧野はどういうLIFE SHIFTを見せるのか』、「10年以上の経歴のジャーナリストで著書がないというのはアメリカでは珍しかったと思う・・・アメリカでは・・・新聞記者は新聞記事を書く以上に、自著の出版にこだわる。それが自身の記者としての評価にもなる」、初めて知った。「証券部」に行かずに、「日経ビジネスに行ったことで、「最強の投資家バフェット」をまとめた」、日経での社内昇進よりも、自分のジャーナリストとしての夢実現を優先したようだ。

第三に、この続き、3月22日付けGOETHE「牧野洋 日経の編集委員から主夫へ【元NHK立岩陽一郎】<後編>」を紹介しよう。
https://goetheweb.jp/person/slug-n79472a1eff9
・『「0歳児が、夜泣くわけです。そうすると泣き止ませる術は一つ、母乳を与えるしかない。しかし妻が出張でいないときもあるんです。それは男の私にはできない話ですよね。そうすると朝まで抱いてあやすんですが、最後に泣き疲れてくれるまではずっと抱いていなきゃいけない」——ピーター・フォンダ似の敏腕ジャーナリストが赤ちゃんをあやして困っている姿というのは、想像すると失礼ながら笑ってしまう。日経で着々と、というより思う存分にキャリアを積み上げてきた牧野洋。彼はなぜ夜通し赤ちゃんをあやす生活を始めることになったのか』、この大きな断絶は興味深そうだ。
・『日本のジャーナリズムは死んでいる  1999年、ニューヨークでの4年間のウォール街取材を経て牧野は帰国する。希望通りに日経ビジネス誌の担当となり、編集委員となる。 この編集委員とは新聞社特有の制度で、普通の記者ではない。俗に大記者と呼ぶ。普通の記者の様にデスクの指揮下に入って取材をするのではなく、それまでに蓄積された専門性を生かして自由に取材することが許される。因みに、NHKを含めてテレビにはこの大記者制度はない。だから私の場合は、記者が終わるとデスクになる。そしてデスクになると、記者の取材の面倒を見るのが仕事となり、自分で取材をすることはほぼなくなる。豊富な取材経験を備えた編集委員の存在は新聞の取材力を担保していると言って良いだろう。 それはともかく、牧野は先ず前編で触れた様にウォーレン・バフェットについて本を書く。これが「最強の投資家 バフェット」として好評を博したことも前編で触れた。日経ビジネス誌で暫く自由に取材をした後、証券部に戻ることになる。 今度は証券部の編集委員だ。牧野は、自分の取材を始める。それは、「もの言う株主」だった。その1人は、村上ファンド代表の村上世彰だ。この元経産官僚の投資家の言動を、チューリッヒやニューヨークのウォール街で取材してきた牧野は極めて合理的だと考えた。 牧野は言う。「経済ジャーナリストとしての私のポリシーは明確です。自由経済。オープンなマーケット。官僚がぎちぎちにした市場では駄目」 一方で、日本は牧野から見れば、そうではない。 「歴史を見ると、外からの投資を迎え入れたところ、移民に窓を開いたところが発展している。では日本はどうか? 海外からの直接投資が最低でした。その大きな理由は海外からの買収が少ない。このままで良い筈がない」 そういう思いが村上にも通じた。既に時代の寵児となっていた村上だが、牧野の取材には積極的に応じていた。村上は、欧米を知る経済ジャーナリストの牧野に他の記者にはないものを感じていたのかもしれない。 牧野は、村上ら投資家の動きを追う中で、「ハゲタカファンドが日本を救う」という特集記事を書いている。これは、かなり刺激的なタイトルだ。 こうした中、村上は東京地検特捜部に逮捕される。2006年6月、あのインサイダー事件だ。 実は逮捕当日の朝、牧野は村上から電話をもらっている。「きょう、生まれて初めて公の場で嘘をつきます」 牧野は村上にそう言われたという。それが、村上が罪を認めたとされる記者会見だ。自分が罪を認めなければ部下の会社幹部らも逮捕されてしまうと検察から言われたという。そして村上は牧野に言う。「ちゃんと本当のところはわかってくださいね」 この時のやり取りは後述する牧野の著書「官報複合体」(講談社)にその詳細が書かれている。この会見の後に村上は出頭。そのまま逮捕された。既に新聞、テレビでは村上叩きが始まっていた。それは「関係者」を情報源としているものの、全て検察のリークだ。牧野には、それが検察の世論操作であることがわかる。 村上の逮捕後、牧野は村上について記事を書いていない。正確には、書く機会を与えられなかったということだ。村上については勿論、「ものを言う株主」の存在を最もよく知る自分が記事を書けない……牧野の中で、既に芽生えていた日経、否、日本のメディアに対する違和感が大きくなっていく。 「おかしいでしょ。検察のリークをそのまま流す。そういう日本のジャーナリズムの異常さを見せつけられた感じでした」 村上の話が終わった時、牧野が突然、私に問うた。「民主主義を考える時、選ばれる政治家のための政治を行うことが民主主義なんですかね? それとも、選ぶ有権者のための政治を行うことが民主主義なんですか? どっちですかね?」 それは当然、「有権者のための政治」だ。 「ですよね? 企業にあてはめたら、それは経営者のための経営なのか? それとも株主のための経営なのか? となるわけです。日本は圧倒的に経営者のための経営を是とするわけです。それが健全な経済であるわけがないんです」 本人は意識していないかもしれないが、10年以上前の話をする牧野の言葉には怒りがこもっている感じだった。 「それがコーポレートガバナンスですよ」と牧野は言った。つまり、日本のコーポレートガバナンスは見せかだということだ。 牧野の日経への違和感は徐々に不信感となっていく。当時、牧野が取材していた世界の企業の流れがある。「三角合併」だ。三角合併とは、国境をまたいだ形での株式交換を使ったM&A(企業の合併と買収)の手法だ。外国企業が日本企業を買収する際には日本に子会社を設立する必要があり、外国企業、日本子会社、そして買収する日本企業という「三角形」で買収が行われることからこの名で呼ばれる。 「本来の意味は株式交換による企業買収です。それは、世界で国境を越えた形での企業買収では、当然に行われていたことです。現金での買収なんて言っているのは日本くらいだった。ところが、それを、政府、経団連は、『三角合併』と呼んで、極めて異例なことというイメージを流した」 なぜ嫌がったのか? 「時価総額の大きい企業が株式交換で企業が買えるとなると、時価総額の大きな外国の企業が有利になるということでしょう。それを政府も経団連も嫌がっていた」 今でこそ時価総額はニュース用語の一つとなっているが、当時は、そういう意識も希薄だった。その上、日本の企業は日の丸にこだわっている。それでどうやって世界で生き残ることができるのか? 牧野は取材しつつ、疑問に思う日々を過ごす。 そうした記事を書いていく中で、ある人物の逆鱗に触れる。経団連会長(当時)の御手洗冨士夫だ。日経の編集幹部らが経団連に呼ばれて、経団連の方針について説明を受けたという。 「何度も呼ばれていたようです。三角合併を支持するような記事は書かないで欲しいということでした。そして日経のスタンスも決まっていくわけです」 日経は三角合併について「慎重に」と書き始める。 その動きと連動していると見た方が自然だろうが、牧野は証券部から産業部に異動を命じられる。産業部とは、まさに日本の産業界、つまり経団連傘下の企業を取材する部署だ。 編集局長から辞令を受ける際、「経団連も知っておいた方が良い」と言われている。なぜか? ここで、牧野が「できれば書かないでくれ」といったエピソードを敢えて書く。この時、牧野は「将来、君をコラムニストにと考えている」と編集局長に言われている。コラムニストは論説委員より上の、新聞社の顔だ。当時の日経でも、数人しかいない。まさに、日経を代表する記者ということだ。そうなるためには、経団連を知っておいた方が良い……という判断だったと見て良い。 これもまた牧野は否定するが、私には、これは日経のある種の親心だったのかと思う。その際、編集局長から、日本の経営者100人に取材して記事にするというプロジェクトを任される。 しかし牧野にはその気はない。 「なぜ経団連に合わせた記事を書かないといけないのか? 日本は自由経済ではないのか?」 当然、産業部の水は牧野には合わない。合うわけがない。部の雰囲気が、「外資の導入はシャットアウトしろという感じ」(牧野)だった。そんな記事、どう魂を売っても牧野には書けない。いつからか、部内で、「市場原理主義者」とのレッテルまではられている。 しかし牧野は魂を売る気は全くない。このままでは日本企業はいずれ世界から取り残される。外資の脅威論ばかり振りかざしていて日本の企業は世界経済の荒波に立ち向かっていけるのだろうか? その疑問をコラムに書いた。署名記事だ。ゲラもチェックした。ところが、突然、それが下ろされる。掲載見送りだ。夜中になって、掲載されないことが決まったという。前代未聞だ。 担当の編集局幹部は「いずれ復活させるから」と牧野に申し訳なさそうに言った。理解ある上司だったので我慢した。しかし、ボツにしたのがその幹部の判断だと後に知る。 「もう日経では、自分が書きたい記事を書けない」そう牧野は思った。そして、帰宅して妻の恵美に言った。「もう日経を辞めたい」 すると恵美は言った。「いいよ、私が稼ぐから」 そして、「本書きたいんでしょ? 本を書けば良いじゃない」と言った。 前編で書いた通り、牧野はコロンビア大学ジャーナリズムスクール(Jスクール)留学中に、日米のジャーナリズムの違いを知る。その違いは記者、特派員、編集委員を通じて、埋められないほど大きくなり、それが牧野を苦しめている。なぜ苦しむのか? 「日本のジャーナリズムは死んでいる」と、牧野の喉元まで出かかっている。 それを同じくコロンビア大学のJスクールで学んだ恵美は知っている。牧野が世に問いたいことも知っている。では、日経にいて、日本の新聞を批判する本は書けるか? 答えは自明だ。 恵美の言葉が牧野の背中を押す。2007年5月、牧野は日経を辞める。理由は、「妻のキャリアアップのため」とした。会社への不満は当然あったが、それを理由にして辞めたくはなかった。 その時のことを恵美に尋ねた。恵美は淡々と話した。 「私が稼ぐから……とその時に言ったかどうかは覚えていませんが、そういう意識ではいましたから別に驚くこともなく、『じゃあそうしましょう』という感じでした」 勿論、恵美にはそれなりの計算はあった。恵美は既にプロの会議通訳として仕事をしていた。子育ての合間に仕事を受ける感じだったが、仮に牧野が育児、家事をするのであれば、「収入を倍にするくらいは可能だった」と話した。 どういうことか。実は、牧野の日経退職は、再就職を伴うものではなかった。恐らく日経の編集委員なら他の新聞社でも編集委員になる道はあっただろう。しかし牧野の、否、牧野と恵美の選択は違った。 それは、恵美が今後の一家の稼ぎ頭になるということだった。それには恵美がキャリアアップする必要がある。それは恵美も同感だったという。恵美は言った。 「会議通訳は恐らくAIがとってかわる仕事になる。そうなると出来てもあと10年かと思った。だからキャリアアップはしたいと思っていた」 牧野は、「それは妻への投資でした」と振り返ったが、恵美も同じだったのだ。恵美は更に、こうも言った。「子供への投資でもありました。子供に英語での教育を受けさせることも意味があると考えたんです」』、「「おかしいでしょ。検察のリークをそのまま流す。そういう日本のジャーナリズムの異常さを見せつけられた感じでした」、その通りだ。「日本は圧倒的に経営者のための経営を是とするわけです。それが健全な経済であるわけがないんです」、同感だ。「ある人物の逆鱗に触れる。経団連会長(当時)の御手洗冨士夫だ。日経の編集幹部らが経団連に呼ばれて、経団連の方針について説明を受けたという。 何度も呼ばれていたようです。三角合併を支持するような記事は書かないで欲しいということでした。そして日経のスタンスも決まっていくわけです」、当時も経団連と日経は場所的には近かったが、何度も呼びつけるという圧力のかけ方には驚かされた。
・『カリフォルニアで家族との信頼関係を築く  そして牧野一家は渡米する。東京に持っていた家は売却してローンを精算した。そして牧野の退職金を渡米後の費用に充てる。 行先はカリフォルニアだ。恵美は、カリフォルニアにあるクレアモント大学院大学(CGU)のMBAに進む。ドラッカー・スクールだ。あのピーター・ドラッカーが設立したコースだ。実は、牧野はピーター・ドラッカーの「私の履歴書」の執筆を編集委員として手伝っている。その時に、ドラッカーを訪ねてクレアモント大学院大学に行っている。 「その時の印象で、移住するならここが良いというイメージがありました」 既にピーター・ドラッカーは他界していた。しかしドラッカー夫人は家に呼ぶなどしてもてなしてくれた。  「家族で家にしょっちゅう御呼ばれしていました。本当に感謝しています」 しかしアメリカの大学院での研究は生半可ではない。出張しての学会発表などもある。既に牧野家には、子供が3人。長女は6歳、長男は4歳、そして次女が0歳だ。 当然、牧野のカリフォルニアでの生活は、食事、洗濯、掃除、育児に追われるものとなる。 「もう朝は戦争状態でした。妻は研究で忙しいし、出張でいないときもある。自分の無力感を思い知らされた日々です」 今となっては、なのか、しかし牧野は、実に楽しそうに話す。その笑顔が素敵でもある。ただ、本当に大変だったのだろう。牧野が当時書き綴っていたブログがある。2009年7月7日に「毎朝が嵐のよう」と題して次の様に書いている。 「けさの状況を振り返ってみます。妻が7時前に家を出ていなくなり、同時に3人の子供が目覚めます。まずは3人分の朝食をつくらなければならない……」 朝食に加えて昼食も同時に作る。次女に離乳食を中心とした別の食も作る。そして次女のオムツ替え、長女、長男の学校の支度……と、まさに「重労働」だと書いている。 私にも次の様に話した。 「0歳児が、夜泣くわけです。そうすると泣き止ませる術は一つ、母乳を与えるしかない。しかし妻が出張でいないときもあるんです。それは男の私にはできない話ですよね。そうすると朝まで抱いてあやすんですが、最後に泣き疲れてくれるまではずっと抱いていなきゃいけない」 カリフォルニアで始まった牧野の主夫生活。「毎朝の嵐」の後は、車で子供3人を小学校、保育園に送る。そしてやっと一人になれるのが朝の8時、9時だ。その時にはへとへとになっている。それでも子供を送った後にスターバックスに車を停め、そこでコーヒーを買って過ごすひと時が唯一の自分の時間となる。 「その時くらいですからね。自分の時間って。そのひと時は大切に使いました」 そのひと時に、牧野はパソコンを開き、雑誌のコラムを書いた。前編で触れたコロンビア大学時代の体験から始まる日米のジャーナリズムの違いを、講談社の現代ビジネスに連載で書いている。それは後にまとめられ450ページを超える大著、「官報複合体」(講談社)となっている。そのための取材で、0歳児を抱えてカリフォルニアからニューヨークに行ったこともあったという。  これまでいろいろな人のLIFE SHIFTを取材してきたが、これほどの変化を伴ったLIFE SHIFTを私は知らない。社会の矛盾に立ち向かったジャーナリストが、一転、家庭に入り主夫となる。それは実際のところ、どういうものだったのか? 「良かったですよ。本当に良かった。普通のレベルでは考えられないくらい子供たちとコミットできた。子供たちと同じ体験をするんです。子供にとって一番親と接したいときに一緒にいることができた。妻ともそうです。妻も頑張ってくれた。そしてこのカリフォルニアで家族との信頼関係が築けた。それは本当に大きなポイントだった」 無理に言っているわけではないことは、牧野の笑顔でわかる。 カリフォルニアに来て5年目、MBAからPhDに進んだ恵美はPhDも修了。そして九州大学から教職の話が来る。そして家族で帰国。福岡での生活を始め、それが前編の冒頭で触れた著書「福岡はすごい」となる。 そして恵美が広島大学で教職を得たのをきっかけに、家族で広島へ。それで私が2020年早々に広島へ行ったというわけだ。 「今後はどうするんですか?」と問うと、少し考えて、「暫くは広島で過ごしますよ。でも、やっぱりまたカリフォルニアに行きたいですね」 カリフォルニアで育った長女は今や高校生。そして長男が中学生、0歳児だった次女も小学校高学年になる。 「次女はもう英語は忘れてしまっているんで、もう一度、アメリカにみんなで住みたいと思っています」 牧野は、「家族一緒に」と言って笑った。 カリフォルニアでの牧野の「嵐のような」日々について、恵美は次の様に話した。 「彼(牧野)にとって、カリフォルニアでの子育ては初めてだったし大変だったと思うんですが、彼がそういう体験をしたかったということはあります」 そして加えた。「育児、料理と、男女に限らず人間としてのライフステージとして重要な体験だと思うんです。それを夫婦一緒に経験できたということかと思います」 牧野が恵美と同じ考えであることは間違いない。 牧野は次にどのようなLIFE SHIFTを見せるのか? そのLIFE SHIFTは、当然、家族と一緒に迎え、そして一緒に乗り切るものになるのだろう』、「子供を送った後にスターバックスに車を停め、そこでコーヒーを買って過ごすひと時が唯一の自分の時間となる・・・そのひと時に、牧野はパソコンを開き、雑誌のコラムを書いた。前編で触れたコロンビア大学時代の体験から始まる日米のジャーナリズムの違いを、講談社の現代ビジネスに連載で書いている。それは後にまとめられ450ページを超える大著、「官報複合体」(講談社)となっている」、やはり只者ではないようだ。「普通のレベルでは考えられないくらい子供たちとコミットできた。子供たちと同じ体験をするんです。子供にとって一番親と接したいときに一緒にいることができた」、主夫生活もエンジョイしたようだ。今後の牧野洋氏の活躍に期待したい。
タグ:アメリカと比べて言うと、日本の新聞は市民目線を忘れがちです。それは日本のマスメディアに特有な記者クラブ制度とも密接に絡んでいる これこそ、日本の新聞記者が日々記事にするものだ。霞が関の役所から全国の市町村の庁舎の掲示板まで、日々、あらゆる記者発表が貼りだされる。それを記事にすることに追われるのが日本の記者の姿だ これではまるで当局発表のプレスリリースみたいだ 日本では当事者取材なしで記事を書くのは、良いか悪いかは別にして普通に行われている 当事者、つまり行商人の取材がないということで、ボツ なんとか商工会議所の関係者に電話取材をして記事を出す。で、ボツ 「ブルックリンの行商人について取材して明日までに記事を提出せよ」 開校初日のオリエンテーションでいきなり指導教官から課題 会社に無断で1年以上前から準備し、勝手に受験したんです。TOEFLを受けて、エッセイを書いて。そしたら合格しちゃった。それで会社に行かせてくれと言った 日経からコロンビア大学ジャーナリズムスクール アメリカへの憧れ 福生 ピーター・フォンダ似の先輩ジャーナリスト 「牧野洋 日米ジャーナリズムの違い~元NHK立岩陽一郎のLIFE SHIFT㉙<前編>」 GOETHE 次からは「記者クラブ主催総理演説会」と名称を変えた方が良い 安倍総理がそのまま用意された答弁を読んでしまった。当然、二の矢のための答弁は準備されていない。安倍総理が読んだのは、次の記者の為の答弁だったと見られる。当然、質疑は意味不明なものになってしまった アメリカの記者がこの慣例を破って二の矢を放った ニューヨークの国連で安倍総理が会見を開いた際 トランプ大統領にしても、この様な茶番劇は演じていない。記者会見は日本の首相会見とは大きく異なり、そこは権力者と取材者との真剣勝負の場となっている こんなことをしている国は民主主義の国では日本くらいだろう 日本の記者は権力の側から情報をとることが仕事となっており、そのためには権力の側を怒らせることに極めて消極的だが、その最も典型的な例が官邸記者クラブ 「プライベートバンク」、「マネーロンダリング」 二の矢を放つことは許されていない 記者会見が事実関係を問いただす場にならないということだ。普通、質問は一発で回答を得ることはできない。その為、記者は関連質問を行う。これを「二の矢、三の矢を放つ」と言う。それによって、初めて回答を得られる 記者会見の場は、事前にやり取りが決められた茶番劇 首相会見では事前に質問者が指名されており、質問内容も事前に提出している 総理大臣が演じる一種の茶番劇 事前に質問事項がまとめられて記者から官邸側に渡され、それに基づいて総理大臣の答弁が決められて答弁書が作られる。総理大臣は答弁書を読むだけ 次にテレビ幹事社のテレビ朝日の質問 新聞社幹事 「内閣総理大臣記者会見の幹事社質問」(案) 「新型コロナウイルス拡大防止の総理会見を茶番劇にした官邸と官邸記者クラブの愚」 yahooニュース 立岩陽一郎 (その21)(新型コロナウイルス拡大防止の総理会見を茶番劇にした官邸と官邸記者クラブの愚、牧野洋 日米ジャーナリズムの違い~元NHK立岩陽一郎のLIFE SHIFT㉙<前編>、牧野洋 日経の編集委員から主夫へ【元NHK立岩陽一郎】<後編>) メディア 証券部の編集委員 日本は圧倒的に経営者のための経営を是とするわけです。それが健全な経済であるわけがないんです ウォーレン・バフェットに注目 ある人物の逆鱗に触れる。経団連会長(当時)の御手洗冨士夫だ。日経の編集幹部らが経団連に呼ばれて、経団連の方針について説明を受けたという。 「何度も呼ばれていたようです。三角合併を支持するような記事は書かないで欲しいということでした。そして日経のスタンスも決まっていくわけです 0歳児が、夜泣くわけです。そうすると泣き止ませる術は一つ、母乳を与えるしかない。しかし妻が出張でいないときもあるんです。それは男の私にはできない話ですよね。そうすると朝まで抱いてあやすんですが、最後に泣き疲れてくれるまではずっと抱いていなきゃいけない 帰国、そして再び海外へ ジャーナリズムとは、影響を受ける人の側から考えないといけない。牧野は、アメリカのジャーナリズムに本物を感じた 「官報複合体」(講談社) 会社に報告書の提出 カリフォルニアで家族との信頼関係を築く 検察のリークをそのまま流す。そういう日本のジャーナリズムの異常さを見せつけられた感じでした 自分が罪を認めなければ部下の会社幹部らも逮捕されてしまうと検察から言われた 10年以上の経歴のジャーナリストで著書がないというのはアメリカでは珍しかった 最強の投資家を取材 実は逮捕当日の朝、牧野は村上から電話をもらっている。「きょう、生まれて初めて公の場で嘘をつきます」 村上世彰 帰国後の異動先に「日経ビジネス」と書く 「牧野洋 日経の編集委員から主夫へ【元NHK立岩陽一郎】<後編>」 「最強の投資家バフェット」 出版化は当時の上司の判断で叶わなかった 日本のジャーナリズムは死んでいる 日本のマスコミとの単独インタビューは初めて 「もの言う株主」 チューリヒ支局長 普通のレベルでは考えられないくらい子供たちとコミットできた。子供たちと同じ体験をするんです。子供にとって一番親と接したいときに一緒にいることができた 子供を送った後にスターバックスに車を停め、そこでコーヒーを買って過ごすひと時が唯一の自分の時間となる。 「その時くらいですからね。自分の時間って。そのひと時は大切に使いました」 そのひと時に、牧野はパソコンを開き、雑誌のコラムを書いた 株主代表訴訟についてのニュース記事を初めて日経新聞一面に書いた記者となる 朝は戦争状態でした。妻は研究で忙しいし、出張でいないときもある
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森友学園問題(その21)(昭恵夫人お付き秘書は出世 森友「関係官僚15人」のその後、森友重大スクープ「安倍は守って稲田を刺す」…籠池氏がそそのかされた決定的瞬間 昭恵氏に渡そうとした10万円の謎、古賀茂明「元近畿財務局職員の赤木俊夫さんの命がけの告発を無駄にするな」、なぜ「森友スクープ」は若者に読まれるのか?) [国内政治]

森友学園問題については、3月31日に取上げた。今日は、(その21)(昭恵夫人お付き秘書は出世 森友「関係官僚15人」のその後、森友重大スクープ「安倍は守って稲田を刺す」…籠池氏がそそのかされた決定的瞬間 昭恵氏に渡そうとした10万円の謎、古賀茂明「元近畿財務局職員の赤木俊夫さんの命がけの告発を無駄にするな」、なぜ「森友スクープ」は若者に読まれるのか?)である。

先ずは、4月1日付けNEWSポストセブン「昭恵夫人お付き秘書は出世 森友「関係官僚15人」のその後」を紹介しよう。
https://www.news-postseven.com/archives/20200401_1551740.html
・『森友学園をめぐる改竄の全責任を負ってクビになった佐川宣寿氏(元国税庁長官、元財務相理財局長)に、いまや次期財務次官の本命と目される太田充氏(財務省主計局長、元理財局長)。赤木俊夫・元近畿財務局上席国有財産管理官(享年54)は、文書改竄を佐川氏から指示されたことなどを遺書に残し、自殺した。ほかにも、森友問題は数々の官庁、全国の役人たちの人生を大きく変えた。 佐川氏と対照的なのが、理財局長だった彼とともに改竄に手を染めたその部下らだ。 上司である佐川氏の指示を忖度し、改竄作業では、「過剰に修正箇所を決め」(亡くなった赤木氏の手記)ていったとされる小役人根性丸出しの人々だが、中尾睦・理財局次長は現在横浜税関長、中村稔・理財局総務課長は駐英公使、冨安泰一郎・理財局国有財産企画課長は官邸に呼ばれて内閣官房参事官、田村嘉啓・国有財産審理室長は福岡財務支局理財部長とそろって順調に出世している。 本省からの指示を受けた赤木氏の同僚である近畿財務局の3人は出世の明暗を分けた。 本省からの指示に戸惑う部下たちに、「全責任を負う」と言って改竄をやらせた美並義人・近畿財務局長は、「そんなことは言っていない」と逃げて東京国税局長に栄転。不正に手を染めることに悩む赤木氏に対し、当初は「応じるな」と言いながら本省の圧力に負けて「やむを得ない」と応じざるを得なかった楠敏志・管財部長は出世できないまま退職した。 赤木氏の直属の上司である池田靖・統括国有財産管理官は、一切の沈黙を守って管財総括第3課長に出世している』、よくぞここまで、ミエミエの差別的人事を行うものだと、呆れ果てた。
・『注文付けた官僚は退官  国会答弁をしくじった官僚の処遇は容赦ない。森友学園への国有地の売却にあたって、評価額を大幅にダンピングした国土交通省では、国会答弁を迷走させた佐藤善信・航空局長はすぐに退職させられ、現在は“閑職”の運輸総合研究所理事長に天下り。佐藤氏とともに対応にあたった平垣内久隆・航空局次長も出世コースからは外れている。 森友改竄問題渦中にNHKに出演して「部分的に検証できないような状況は問題がある」と注文をつけた河戸光彦・会計検査院長もその後退官、現職は不明だ。 見栄も外聞もかなぐり捨てて安倍首相個人に忠誠を尽くす姿勢を示さない限り、出世も好条件の天下り先も与えられない。 そしていま、“この世の春”を謳歌しているのが2人の女性官僚だろう。経産省から内閣府に出向して昭恵夫人の“秘書役”を務め、森友学園への視察にも同行したのが谷査恵子・課長補佐。国有地売却にからんで夫人にかわって財務省に問い合わせ、その結果を籠池泰典元理事長にFAXするなど夫人の関与を知るキーマンだが、3年間の予定で駐イタリア大使館一等書記官として赴任中だ。国内の喧騒を離れて“悠々自適”の厚遇を与えられた。 一番うまく立ち回ったのは森友事件捜査にあたった山本真千子・大阪地検特捜部長ではないか。 女性初の特捜部長として鳴り物入りで捜査に乗り出したものの、籠池夫妻を逮捕しただけで問題の財務官僚たちを全員不起訴にして捜査を終わらせた。 その“功績”により同期トップで函館地検検事正に出世、現在は大阪地検次席検事で将来は大阪地検検事正から関西検察のトップ、大阪高検検事長への大出世コースに乗ったとみられている。 「捜査をやるぞ」と権力者をビビらせ、最後は手加減して恩を売るのが検察組織ならではの出世の秘訣のようだ。 公僕としての矜持を捨てて「安倍」を守った者は出世し、「安倍夫人」を守れば大出世するが、守りきれなければ左遷。「国家のため」に動けば赤木氏のように追い込まれる。かくして、「正直者はバカを見る」官僚組織となり、国のために働こうという役人がいな(注:「くなる」が抜けている?)』、かつての日本の「官僚組織」は、政治とは一定の距離を置き、中立性を維持しようとしてきた。「政治主導」の美名の下に、ここまで政治に屈服し、「正直者はバカを見る」組織になったのでは、優秀な人材は逃げ出すほかなかろう。幸い、さしもの安部政権も「驕り過ぎ」で、墓穴を掘りつつあるようだが、ここまで歪められた「官僚組織」の再建には相当の時日を要するだろう。

次に、ジャーナリストの豊中 あきら氏が4月2日付けプレジデント Digitalに掲載した「森友重大スクープ「安倍は守って稲田を刺す」…籠池氏がそそのかされた決定的瞬間 昭恵氏に渡そうとした10万円の謎」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/34170
・『森友問題、文春のスクープで再び脚光  森友学園問題が再燃している。契機は2020年3月19日に発売された『週刊文春』(3月26日号)掲載の「森友自殺<財務省>職員遺書全文公開」記事。NHKを退職し、森友学園問題を追うべく大阪日日新聞の記者になった相澤冬樹氏のスクープだ。 森友学園への国有地売却時に作成された財務省の決裁文書。本省からの指示で文書改竄を迫られた近畿財務局の職員・赤木俊夫氏(享年54)が、本人の意に反した改竄を強要され、連日の激務の末にストレスで心身を病み、命を絶つに至った。赤木氏がその改竄の詳細な経緯を書き残していたのだ。 翌週には森友学園との国有地取引の交渉に当たった近畿財務局の池田靖統括国有財産管理官(当時)が、赤木氏の妻に「8億円値引きの根拠は明確ではない」と話していたことも報じられた。 森友問題が噴出した17年当時、筆者が取材した若手財務官僚は、国有地取引に関してこう語っていた。 「国有地は国民の財産だし、私たちは法に基づいて職務に当たることに誇りを持っている。それが法治国家の官僚の本分。だから、法に外れてまで国有地を安く売却することはありえない」 だが決裁文書改竄は、その誇りを大きく失わせるものになった。赤木氏の葛藤を思うと胸が痛む』、「相澤冬樹氏のスクープ」とは、NHKを退職したのも一部は報われたようだ。
・『籠池夫妻と昭恵夫人のスリーショット写真の謎  「森友事件」というとき、その論点は8億円値引きの経緯だけにとどまらない。文書改竄はもちろん、大阪府の小学校設立認可の問題や政官関係、メディアの過熱報道など様々な問題を含む。その森友事件を改めて考えるうえで謎が残ったままになっている3つの日付を上げてみたい。また、3つ目に関しては「これまでに明るみになっていない事実」もここでご紹介しよう。 1つ目は14年4月28日。国有地取引の交渉を行っていた森友学園側と近畿財務局職員との会談で「籠池理事長夫妻と安倍昭恵総理夫人のスリーショット写真」が示された日付だ。朝日新聞などはこの写真提示を機に国有地取引が一気に進んだというストーリーを報じてきた。だが籠池氏は今でこそ「昭恵夫人の写真を示して以降、交渉がスムーズに進んだ。まさに神風だ」と述べているが、当初は「土地からごみが出てきて価格が下がった」ことを「神風」としていた。 そもそも森友案件について近畿財務局から財務省本省に連絡が入るのは、写真提示以前の13年8月15日のこと。近財の交渉記録によれば8月13日に鴻池祥肇議員の秘書から近財に連絡が入り、近財は2日後に本省審理室へ連絡を入れている。 一方、財務省が写真提示当日の交渉記録を公開していないことが「昭恵写真の神通力」を否定しきれない理由であるのも確かで、あえて当日の記録を公開しないとなれば、その意図を探られるのも当然ではある。即刻明らかにすべきだろう』、「財務省が写真提示当日の交渉記録を公開していないことが「昭恵写真の神通力」を否定しきれない理由であるのも確か」、一刻も早く公開すべきだろう。
・『「8億円値引き」なぜ起きたのか  2つ目は15年9月4日。この日、近財庁舎で設計担当のキアラ建築研究機関、施工業者の中道組、近財、大阪航空局が会議を行っている。森友学園を除外したこの席で、大量の地下埋設物は「場内処分にする」ことが話し合われた。ところが中道組・キアラ建設は、場内埋め戻しで了解した事実を森友側に伝えなかった。校舎の施工を担当した藤原工業が敷地内の埋設物に気づいたのは翌年3月11日だった。 森友側は憤慨、開校が遅れるとなれば賠償問題に発展しかねないと危惧した近財は大阪航空局にごみ撤去費用の見積もりを依頼。大阪航空局は第三者を入れず「国交省の知見」で撤去費を8億1974万円と算出し、撤去せずに価格から費用を差し引く形で国有地の売却価格が1億3400万円になった。 先の文春記事で近財の池田統括官が「8億円値引きの根拠は明確ではない」と言っているのは、この算出額のことだ。ただこの算出額はすでに17年11月に公表された会計検査院の報告によっても〈地下埋設物撤去・処分概算額を算定する際に必要とされる慎重な調査検討を欠いていた〉と結論付けられており、指摘そのものに目新しさはない。 問題は、なぜ業者は森友側に情報を伝えなかったのか、だ。中道組やキアラ建築は理由を明らかにしていない。また、慌てた森友学園側が中道組の紹介で急遽依頼し、近財との交渉を一手に引き受けた北浜法律事務所の酒井康生弁護士も騒動の最中に顧問弁護士を降り、ごみ発覚後の近財との交渉経緯について明らかにしていない。「8億円値引き」の核心に迫るためには彼らの証言も必要になってくる』、こんな不明点が残っていたとは初めて知った。
・『「大きな分岐点」の日を思い出せない籠池氏  3つ目は17年3月12日。籠池元理事長が著述家・菅野完氏の取材を受け、当時防衛大臣だった稲田朋美議員がかつて森友学園の顧問弁護士であったことを告発する動画をこの日に収録し、翌日公開したのである。 当時、森友糾弾の急先鋒だった菅野氏と籠池氏当人が組んだことは世間を騒然とさせた。以降、菅野氏の「内閣が2つは吹っ飛ぶ」発言がテレビ中継され、メディアに囲まれた籠池氏が「昭恵氏から100万円もらった」と暴露するなど、「森友劇場」化が加速。籠池夫妻の窓口役を担う菅野氏に、メディア各社は文字通り頭を下げて取材機会を得ることになった。 籠池氏は今年2月13日に『国策不捜査 「森友事件」の全貌』(文藝春秋)を出版。自身の回想にジャーナリストの赤澤竜也氏がファクトや資料を補う形で、国有地取引の経緯や事件勃発後の取材攻勢、拘置所生活などについて詳細につづっており、この日の菅野氏との出会いを〈今から考えると、あの日もまた大きな分岐点だった〉と回顧している。ところが籠池氏はなぜ菅野氏の誘いに応じたのかについては〈なにを話したのかよく覚えていない〉として言及を避けている。 本書の共著者である赤澤氏はこの日の面会に同席しており、他の記述と同様に彼がファクトを補うこともできるはずなのに、していない。赤澤氏は面会時のことを当時ネット記事としてYahoo!個人で公開しているが、こちらも「菅野氏の人たらしっぷりがすごい」などとほのめかすのみだった』、この辺の籠池氏や菅野氏の言い分には釈然としないものが残るようだ。
・『もう後戻りはできない。官僚の忖度が問題  このときに何が起きていたのか。実は当日の交渉の模様は、3時間にわたる映像として記録されている。筆者はこの映像を入手した(提供者は、『国策不捜査』にも「『保守の会』の人」として登場する松山昭彦氏)。映像に記録された事実の一端をご紹介したい。 籠池家の長男・佳茂氏と一緒に籠池邸にやってきた菅野氏は、まず「自分がここに来たことはメディアがみんな知っている」の述べた。もう後戻りはできないことを強調したのか、菅野氏と籠池氏が会ったことをメディアに報じられる前にこちらから打って出ないといけない、というニュアンスか。 そして「娘たち2人の生活を救い、(森友学園の創設者で籠池夫人・諄子氏の父である)森友寛の遺志を継がなければならない。そのため墓参りしてきた」「安倍夫妻は無関係。忖度した役人があまりにもひどい」「籠池夫妻を主語とした記事をなるべく減らしたい」などと籠池氏のウィークポイントを突いていく。 動画を見るに、当時の籠池氏の心境は以下のように推測できる。理事長を降り、学園を娘に託したものの先行きは不安。自宅前にはメディアが四六時中張り込んでいる。心酔する安倍総理を守りたいと思う一方、昔から知り合いで、かつて森友学園の顧問弁護士まで務めたにもかかわらず国会で冷淡な態度をとった稲田議員は許せない――。そうした思いを抱える籠池氏に、菅野氏は時間をかけてこう迫った』、この頃の「籠池氏の心境」は揺れていたようだ。
・『稲田や麻生を刺せば、安倍は守れ、官邸は喜ぶ  ――稲田の首をとりましょう。自宅前のメディアはいなくなる。稲田や麻生を刺せば安倍晋三を守れるのだから、官邸はむしろ喜ぶ。家業も守れる。こちらから撃って出ないと『籠池砲』は意味をなさない。今やるしかない―― 安倍総理子飼いの稲田氏を刺せば当然、安倍総理の責任問題にも発展するはずだが、籠池氏はこれを了承。「稲田は森友の顧問弁護士だった」と明かす動画の撮影に応じたのである。 公開後、家の前のメディアは減るどころか「森友劇場・第二幕」の幕開けの様相を呈したのは先にも指摘した通り。さらに籠池氏は国会証人喚問へと至り、森友学園は民事再生法の適用を受けることになった。籠池氏の当初の思いとは全く逆の事態を招いた格好だ。 ちなみにこのとき、籠池夫人の諄子氏は昭恵夫人との「カネのやり取り」について気になることを述べている。 「昭恵さんに渡そうとしたけど講演料は受け取ってませんからって。交通費として10万円用意していたんですが、『これは瑞穂の国記念小学院に使ってください』って返された。ほんまに渡してない。絶対誓う。昭恵さんにも怒られたよ。何が何だかわからないって」 籠池氏が「昭恵氏から100万円をもらった」と取材陣に暴露するのは4日後のことである。もちろん、昭恵夫人が10万円の受け取りを拒否した後、100万円を渡してきた、とみることもできるが、真偽は謎のままだ。 森友事件はまだ終わっていない』、「菅野氏」は何故このような助言をしたのだろう。それに従って結果的に墓穴を掘った「籠池氏」現在の言い分も聞いてみたいところだ。

第三に、元経産省官僚の古賀茂明氏が4月7日付けAERAdotに掲載した「古賀茂明「元近畿財務局職員の赤木俊夫さんの命がけの告発を無駄にするな」 連載「政官財の罪と罰」」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/wa/2020040600021.html?page=1
・『官僚の不祥事が続く中、またしても驚きのスキャンダルが報じられた。 経済産業省の官僚が公文書改ざんを行ったというのだ。3月16日朝、梶山弘志経産相は3億6千万円相当の原発マネー不正還流問題を起こした関西電力に「業務改善命令」を出した。しかし、この命令を出す前に必要な「電力・ガス取引監視等委員会」への意見聴取という手続きが行われておらず、これに気付いた担当者が、意見聴取が行われていたことにする嘘の決裁文書を作成したという。これは、刑法の虚偽公文書作成罪に当たる可能性が極めて高い。日本を代表する公益企業が不正を働き、その公益企業を監督する天下の経産省が犯罪行為を働く。この国はどこまで腐っているのかと思う。 関電の不祥事は約30年間続いた。内部告発の制度はあったが全く機能しなかった。森友学園事件でも同じことが起きた。安倍晋三総理夫人の安倍昭恵氏らの関与を隠す目的で行われた決裁文書の改ざん。改ざん作業を強要された元近畿財務局職員の赤木俊夫さんが自殺したのは、心を病んでいたからではない。赤木さんは、命がけで、「内部告発」を行ったのだと思う。 日本には、「公益通報者保護制度」がある。この制度を使えば、通報を受けた組織が調査して真相を明らかにし、しかるべき措置が取られる。通報した人の秘密は守られ、通報しても解雇されたりはしないと法律に書いてあるから心配する必要はない。したがって、悪いことを知った人はためらわず告発できる……はずである。 しかし、現実は違う。通報した人の情報が、告発された人や告発者の上司などに伝えられる例が後を絶たない。さらに、告発した人が、様々な人事上の不利益やいじめ、嫌がらせを受けるのもごく普通だ。 鉄の結束を誇る財務省では、そもそも内部告発などほとんど考えられない。さらに森友事件は、組織としての不祥事で、しかも、安倍総理夫人直結なのだから、告発しても返り討ちに遭うのが落ち。検察に期待しても、本格立件どころか、むしろ、検察の狙いは、赤木さん一人に罪をかぶせて一件落着というシナリオだった可能性すらある』、「公益通報者保護制度」が有名無実であることは確かなようだ。「検察の狙いは、赤木さん一人に罪をかぶせて一件落着というシナリオ」だったとしても、生きていれば裁判で真実を明かすことは可能だった筈で、自殺したことで、財務省や安部官邸にほっとさせたのは、誠に残念だった。
・『そんな状況でも、赤木さんは、何とか、自分の罪を償い、正義を実現したいと考えた。そして、究極の手段として選んだのが、手記を遺し、死をもって告発することだったのだ。 そこで、赤木さんの手記を見てもなお再調査を拒む安倍総理と麻生太郎財務相にお願いしたいことがある。今国会に政府が提出した「公益通報者保護法改正案」の修正だ。この改正案には制度に関する改善点もあるが、最も重要な改正が含まれていない。通報者に対する不利益な取り扱いの禁止義務に違反した場合の企業への罰則がないのだ。経団連が強く反対したからだが、企業の不祥事がこれだけ続いているのに、その不祥事を起こした大企業の肩を持つ姿勢は極めて問題だ。 さらに、役所については、これだけ酷い不正行為が続いているのだから、そんな組織に内部告発を取り扱わせること自体に問題がある。ここは思い切って、日本弁護士連合会に公務員専用の公益通報窓口を設置して不正の告発を受ける制度を作ってもらいたい。役所に窓口を作っても、泥棒に泥棒を捕まえさせるのと同じで意味がないからだ。 それくらい思い切った措置を取れば、赤木さんの死も少しは報われるだろう』、「赤木さんの手記を見てもなお再調査を拒む」のであれば、本来は国会が国政調査権を行使して独自の立場で調査すべきだ。しかし、与党側の多数の壁に阻まれるだろうが、野党としては少なくとも強く要求すべきだ。

第四に、4月9日付け文春オンライン「なぜ「森友スクープ」は若者に読まれるのか?」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/37132
・『いわゆる森友問題における「公文書改ざん事件」に関与し、2年前に自ら命を絶った近畿財務局職員・赤木俊夫さん(享年54)が残した「手記」。その中では、当時の財務省、および近畿財務局幹部らの言動が実名で事細かに明かされ、一人の真面目な公務員が公文書改ざん、そして自殺へと追い込まれていく経緯が、痛切なまでに綴られている』、「赤木俊夫さん(享年54)が残した「手記」」とは、確かに強力な「スクープ」だ。
・『20代以下が「森友スクープ」に反応している  同記事を掲載した『週刊文春』3月26日号(発行部数53万部)は、発売からわずか2日で完売となった。『週刊文春』の完売は、実に2年8ヶ月ぶりのことだという(同号は4月9日現在、Amazonでは購入可能)。 しかし、今回の「森友スクープ」に関しては、ある特徴的な現象が見られた。 それは、20代以下と見られる“若い読者”が、「この記事を読むために、初めて週刊誌を買った」といった趣旨の投稿を、SNS上に相次いでアップしたことである。 そもそも週刊誌の購読者層は、40代以上が中心と言われている。新聞や雑誌の発行部数を公査している日本ABC協会によると、2019年1月〜6月期における『週刊文春』は、8割を超える読者が40代以上だった。そうしたなかで、20代以下の若い世代が、次々と「森友スクープ」に反応しているという現象は、注目に値するだろう』、「わずか2日で完売」、「完売は、実に2年8ヶ月ぶり」、「20代以下と見られる“若い読者”が、「この記事を読むために、初めて週刊誌を買った」といった趣旨の投稿を、SNS上に相次いでアップ」、とは驚いた。
・『「まじで、こんなの、ない」  〈文春読んだ。初めて週刊誌読んだ。正直、政策とかよくわかんないけど、人として何が良くないかは有権者の高校生にもわかる。まじめな人が守られる世の中であってほしい。ほんとびっくりしたこんなのないよ、まじで、こんなの、ない〉(Kaoさん、高校生、Twitter) 〈先日、人生で初めて週刊文春を買った。(中略)赤木さんが書いた震える文字には、改ざんの責任を押し付けられ逮捕されるかもしれない恐怖が表れていた。死を選ぶまで追いつめられた絶望は一体どれほどのものだったのだろう〉(ヨリーさん、20代、note) ※名前、肩書きはプロフィールから引用。読みやすさを考慮して改行部分を詰めています。) 一方で、若者の反応に驚く、中年世代と見られる人たちの投稿も目立った。 〈今日バイトの子から、「人生で初めて週刊誌を買いました」と報告を受ける。「週刊文春」を買ったという。「なんで?」と聞いたら、「今、若い人の間で、これだけは読んだ方がいいって話がかなり回ってるんですよ」とのこと〉(語夢万里文庫 チーム〈でがらし〉さん、Twitter) 〈昨日、帰りの電車でも若いサラリーマンが文春を読んでいたな。今見たら完売御礼だとか。この問題に無関心でいられない人が多いことに少し安堵している〉(菊地みつさん、Twitter)』、文字情報から遠ざかっているといわれる「若い人」が、「今、若い人の間で、これだけは読んだ方がいいって話がかなり回ってるんですよ」、文春社の「手前味噌」の部分もあるにしても、事実であれば、喜ばしいことだ。
・『この“現象”を書店員はどう見ているか?  それでは一体なぜ、今回の「森友スクープ」は“若い世代”にまで届いているのか。都内の書店員(30代・男性)はこう語る。 「私の周りにも、今回の『週刊文春』で初めて週刊誌を買った、という若い女性がいます。そもそも『週刊少年ジャンプ』でさえ、最近は中年のサラリーマンが中心で、若い人が買っているのはあまり見ないので、やはり印象的な現象です」 実際に「森友スクープ」を読むために初めて週刊誌を買ったのは、どんな若者なのか。 「初めて『週刊文春』を読んだというその女性に、『伊藤詩織さんって知ってる?』と聞いたんです。そうしたら『知らない』と。それは結構驚きました。日本だけじゃなく、世界でも話題になった方ですし、しかも若い女性だったら知っていてもいいような話じゃないですか。そうした情報さえ、これまでどこからも入らなかったような人が、今回は読もうと言っている。それはすごいな、って思いますね」(同書店員)』、「伊藤詩織さん」の「情報さえ、これまでどこからも入らなかったような人が、今回は読もうと言っている。それはすごいな、って思いますね」、その通りだ。
・『今回の記事はただの「情報」ではない  つまり、これまでニュースへの関心や政治的な意識が決して高くなかった若者が、今回は反応しているのだという。 「若い世代はそもそもモノを持つ、ということに抵抗があります。どうせ捨ててしまうものを持つのは無駄だ、という感覚があるんでしょうね。でも今回の記事は、繰り返し手元に置いて、いつでも読み返せるようにしたい、という思いがあるのではないでしょうか。立ち読みや回し読みではなく、実際に買うという行為に至ったのは、今回の記事はただの情報ではないという、“重み”を感じとったからではないかと、私は理解しています」(同書店員)』、「立ち読みや回し読みではなく、実際に買うという行為に至ったのは、今回の記事はただの情報ではないという、“重み”を感じとったからではないか」、なるほど。
・『Instagramを見て「何かが起きている」と思った  今回の「森友スクープ」を読むために初めて週刊誌を買ったという女性(20代・学生)は、アカウントをフォローしているが、実際には面識のない複数の女性が、Instagramで相次いで「今回の『週刊文春』は読んだほうがいい」と発信しているのを見て、「自分も読んでみなきゃ」と思ったという。 「誰か特定の人の投稿が拡散されていた、というわけではなくて、何人もの人が別々に『週刊文春』の写真をアップしていたんです。30代の女性が多かったと思いますが、そうした投稿が次々と流れてきたので、『これは何かが起きている』と思ったんです」 確かにInstagramで「#週刊文春」と検索すると、赤木さんの手記が掲載された3月26日号の表紙写真がいくつもヒットする。 「私は今までこういうことから目を背けてきたんですが、これは絶対に読まなければいけないと思いました。実際に読んでみたら、あまりに辛くて、信じられないような事実が綴られていて、涙が止まりませんでした。こんな重大なことに無関心だった自分が恥ずかしくなったし、これから日本の政治に対して、ちゃんと関心を持って行動していこうと思いました」(同女子学生)』、「Instagramを見て「何かが起きている」と思った」、若い人らしいきっかけだ。「こんな重大なことに無関心だった自分が恥ずかしくなったし、これから日本の政治に対して、ちゃんと関心を持って行動していこうと思いました」、頼もしい限りだ。
・『再調査に応じようとしない安倍政権  今回の手記の公表後、麻生太郎財務相は「新たな事実が判明したとは考えられない」と、再調査を否定。安倍首相も一連の問題に対して「行政府の長として責任を痛感している」としながらも、やはり再調査には応じない姿勢を示している。 一方、国と佐川氏を相手取り、損害賠償請求訴訟を起こした赤木さんの妻・昌子さんは、3月27日からキャンペーンサイト「Change.org」で再調査への賛同者を募り始めた。すると、5日後の4月1日には賛同者が26万人を突破。これは、同サイトでは過去最多・最速の動きだという』、政府が応じないのであれば、前述の通り、国会が国政調査権による調査をすべきだ。
・『「なんて世の中だ、手がふるえる、恐い」  赤木さんは死の直前、震えるような文字で、そんな一文をノートに走り書きしたという。その最期の声に耳を傾けた若い世代は、無関心だった自らを恥じながら、赤木さんが絶望した「世の中」を変えるため、動き出そうとしている。 本来であれば、赤木さんの思いにもっとも真摯に向き合わなければならないのは、安倍政権と財務省のはずだ。しかし、彼らだけが、この問題から目を背けているように思えてならない。そんな“大人たち”の姿を、「今までこういうことから目を背けてきた」若者たちもまた、注視している』、「赤木さん・・・その最期の声に耳を傾けた若い世代は、無関心だった自らを恥じながら、赤木さんが絶望した「世の中」を変えるため、動き出そうとしている」、「若い世代」がSNSでさらに読後感などを広めて欲しいものだ。
タグ:赤木さんは死の直前、震えるような文字で、そんな一文をノートに走り書き 籠池夫妻と昭恵夫人のスリーショット写真の謎 関西電力に「業務改善命令」を出した。しかし、この命令を出す前に必要な「電力・ガス取引監視等委員会」への意見聴取という手続きが行われておらず、これに気付いた担当者が、意見聴取が行われていたことにする嘘の決裁文書を作成 AERAdot 赤木氏がその改竄の詳細な経緯を書き残していた 本来は国会が国政調査権を行使して独自の立場で調査すべき 完売は、実に2年8ヶ月ぶり 森友問題、文春のスクープで再び脚光 Instagramを見て「何かが起きている」と思った 「今、若い人の間で、これだけは読んだ方がいいって話がかなり回ってるんですよ」 「まじで、こんなの、ない」 今回の記事はただの「情報」ではない 「伊藤詩織さん」の「情報さえ、これまでどこからも入らなかったような人が、今回は読もうと言っている。それはすごいな、って思いますね 検察の狙いは、赤木さん一人に罪をかぶせて一件落着というシナリオだった可能性すらある 「なんて世の中だ、手がふるえる、恐い」 再調査に応じようとしない安倍政権 鉄の結束を誇る財務省では、そもそも内部告発などほとんど考えられない 「公益通報者保護制度」 発売からわずか2日で完売 稲田や麻生を刺せば、安倍は守れ、官邸は喜ぶ もう後戻りはできない。官僚の忖度が問題 「大きな分岐点」の日を思い出せない籠池氏 8億円値引き」の核心に迫るためには彼らの証言も必要になってくる 「8億円値引き」なぜ起きたのか 経済産業省の官僚が公文書改ざん 「森友重大スクープ「安倍は守って稲田を刺す」…籠池氏がそそのかされた決定的瞬間 昭恵氏に渡そうとした10万円の謎」 プレジデント Digital 豊中 あきら 「正直者はバカを見る」官僚組織 籠池夫妻を逮捕しただけで問題の財務官僚たちを全員不起訴にして捜査を終わらせた。 その“功績”により同期トップで函館地検検事正に出世 山本真千子・大阪地検特捜部長 駐イタリア大使館一等書記官 谷査恵子・課長補佐 “この世の春”を謳歌しているのが2人の女性官僚 注文付けた官僚は退官 「昭恵夫人お付き秘書は出世 森友「関係官僚15人」のその後」 相澤冬樹氏のスクープ Newsポストセブン (その21)(昭恵夫人お付き秘書は出世 森友「関係官僚15人」のその後、森友重大スクープ「安倍は守って稲田を刺す」…籠池氏がそそのかされた決定的瞬間 昭恵氏に渡そうとした10万円の謎、古賀茂明「元近畿財務局職員の赤木俊夫さんの命がけの告発を無駄にするな」、なぜ「森友スクープ」は若者に読まれるのか?) 森友学園問題 文春オンライン 20代以下と見られる“若い読者”が、「この記事を読むために、初めて週刊誌を買った」といった趣旨の投稿を、SNS上に相次いでアップ その最期の声に耳を傾けた若い世代は、無関心だった自らを恥じながら、赤木さんが絶望した「世の中」を変えるため、動き出そうとしている この“現象”を書店員はどう見ているか? 立ち読みや回し読みではなく、実際に買うという行為に至ったのは、今回の記事はただの情報ではないという、“重み”を感じとったからではないか 今回の記事は、繰り返し手元に置いて、いつでも読み返せるようにしたい 「古賀茂明「元近畿財務局職員の赤木俊夫さんの命がけの告発を無駄にするな」 連載「政官財の罪と罰」」 赤木さんは、命がけで、「内部告発」 「菅野氏」 「稲田は森友の顧問弁護士だった」と明かす動画の撮影に応じた 『週刊文春』3月26日号 「なぜ「森友スクープ」は若者に読まれるのか?」 20代以下が「森友スクープ」に反応している 赤木俊夫さん(享年54)が残した「手記」 財務省が写真提示当日の交渉記録を公開していないことが「昭恵写真の神通力」を否定しきれない理由であるのも確か こんな重大なことに無関心だった自分が恥ずかしくなったし、これから日本の政治に対して、ちゃんと関心を持って行動していこうと思いました
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パンデミック(新型肺炎感染急拡大)(その9)(「新型コロナ対策一律10万円」にうんざりな理由 なぜ国民は「意味不明な政策」を絶賛するのか、社会的距離を越えてコロナの時代と向き合う 世界の知性が問う今後の「グローバル経済」、小田嶋氏2題:「ひとりひとり」は羊の群れではない、「空気の読めなさ」の原因は) [国内政治]

昨日に続いて、パンデミック(新型肺炎感染急拡大)(その9)(「新型コロナ対策一律10万円」にうんざりな理由 なぜ国民は「意味不明な政策」を絶賛するのか、社会的距離を越えてコロナの時代と向き合う 世界の知性が問う今後の「グローバル経済」、小田嶋氏2題:「ひとりひとり」は羊の群れではない、「空気の読めなさ」の原因は)を取上げよう。

先ずは、元財務官僚で慶應義塾大学大学院准教授の小幡 績氏が4月18日付け東洋経済オンラインに掲載した「「新型コロナ対策一律10万円」にうんざりな理由 なぜ国民は「意味不明な政策」を絶賛するのか」を紹介しよう(4頁目まで)。
https://toyokeizai.net/articles/-/345239
・『もう新型コロナウイルスの議論はうんざりだが、世の中コロナで真っ暗なのに、なぜか株価は元気に上がっている。なので、今回はこの議論でもしようかと思ったのだが、4月16日木曜日の夜、安倍晋三首相は緊急事態宣言を全国に適用することを決定した。同時に、コロナショックで所得が大きく減った世帯に30万円を給付するという政策を撤回し、全国民に1人10万円を配る政策に変更すると発表した。今回はこちらの話をせざるを得ない。ということで結局、今回も残念ながらコロナだ』、小幡 績氏は斬り方がユニークなので、面白そうだ。
・『「理解できない」一律10万円の政策  なぜ、いまさら緊急事態宣言を全国に広げたのか。確認感染者ゼロの岩手県や1人の鳥取県を指定する必要があるのか。一方、感染拡大が続き、小池百合子知事がロックダウンを煽って政府に緊急事態宣言を出させた東京でも、夜間の外出禁止令すら出ない。飲酒も夜7時までならできる。 埼玉にいたっては、緊急事態宣言が出ているにもかかわらず午後7時以降飲酒が可能で、東京から車で(!)飲酒のために訪れる人もいる(17日からは埼玉県でも酒の提供を午後7時までとすることを要請)。茨城県のパチンコ店にも、他県から人が流れ込む(18日からは茨城県でも休業を要請)。 一方、全国民に10万円が配られることになった。所得制限なしである。これを総理に迫った公明党は絶賛され、一律10万円を合唱していたネット民たちは凱歌をあげる。「コロナで仕事が減り、所得が激減した世帯に30万円配る」という法案は突然なくなった。コロナショックで所得を失って生活に困窮した低所得者を救うための政策が、年金生活者で1円も所得が変わっていない人も、子供も、1億円プレーヤーも、そして私にも私の妻にも10万円が配られる。通常の消費がしにくい環境での消費刺激策が行われようとしている。 そしてこれら「意味不明の政策」に対して、国民は大絶賛。渋々政策転換をした政府に対しては「遅すぎる」と非難殺到。国民の望みどおりやっておきながら、非難されるなら、やはり最初からそうやっておけばよかった。安倍総理はそう思っているに違いない。 不思議なことがあるものである。理解できない。しかし、私にはできなくとも、つまらない行動経済学という学問では、少し分析できそうだ。 まずは、まともな部分から行こう。 なぜ緊急事態宣言の網を全国に拡げるのか。これは、対象地域以外に抜け出そうとする人々に、そのインセンティブを与えないようにするためである。 「接触機会8割削減策がズレていると考えるワケ」でも書いたように、彼らは、普通のインセンティブ誘導は効果がない。「リスクがある」といっても、「社会の迷惑だ」といっても、それを無視して移動する(生活のためやむを得ずという場合もあれば、欲望を抑えられないという場合もあるだろう)。 東京都との境を封鎖するのでない以上、彼ら、彼女らを止めることはできないから、移動先でのインセンティブを奪ってしまおうということである。ギャンブルも風俗店も夜の店も、本来可能であれば午後5時以降の飲酒も全国的に禁止するのがベストだが、そこまではできなくても、それに少しでも近い効果を狙って、緊急事態宣言の網を全国にかける。これが目的だ。不要不急の移動を防止するだけでなく、本人の主観的には必要に迫られた移動も禁止するための緊急事態宣言だ』、私は「所得が激減した世帯に30万円配る」当初案には対象の認定という難問があるので、「一律10万円」の方が望ましいと考えている。「緊急事態宣言の網を全国に拡げる」ことは、「移動先でのインセンティブを奪ってしまおう」との狙いだったようだ。 
・『なぜ最初から「全国」にしなかったのか  当初の7都道府県に福岡、千葉、埼玉を入れたのはそういう理由だ。同じ趣旨で、今回、北海道、茨城県、石川県、岐阜県、愛知県および京都府の6道府県が「特定警戒都道府県」に加えられた。 ではなぜ最初から全国にしなかったのか。それは自分の都合や欲望で移動する人々を甘く見ていたためである。7都府県への緊急事態宣言をためらっていて遅れてしまったように見えた理由は、この移動を恐れていたからだった。それは行動経済学というほどでもなく、社会をよく観察すれば予想できていたことだったのだが。分かっていてもできなかったのかもしれない。 それが、当初は全国を対象にしなかったもうひとつの理由だ。全国をいっぺんにやってしまうと日本経済が一気に冷え込んでしまうので、必要なところにとどめたかったのだ。 さて、そう考えるとおかしな点が出てくる。なぜ、埼玉県は居酒屋での夜の飲酒を当初制限しなかったのか。 それはおそらく怖かったからである。有権者の反発が怖かったからである。ほとんどの知事たちが緊急事態宣言を要求したのはなぜか。全部ではないが、一つの理由は、選挙活動である。毎日、記者会見でテレビに出る。コロナと戦っている勇姿を見せられる。有権者のために、有権者の健康を守るために戦っている姿を毎日見せ付けられる。だから、知事がやる必要もない感染者の報告を毎日自ら行い、不要不急の無意味な記者会見を頻繁に行う。 これはきわめて合理的で最高の選挙活動だ。そして、休業補償を国に要求し続けた。有権者のために戦い、カネも配る。そして、その財源は国に出させる。最高だ。しかし、国は、有権者の不評を買っても、そこは譲らなかった。際限がなくなり、実施不可能であるからだ。 「国が折れる」と思い込んでいた知事たちは焦った。そして、諦めた。その結果、緊急事態宣言をしながら、休業要請はしない、というちぐはぐなことが起きた』、「ほとんどの知事たちが緊急事態宣言を要求したのはなぜか。全部ではないが、一つの理由は、選挙活動である」、「知事がやる必要もない感染者の報告を毎日自ら行い、不要不急の無意味な記者会見を頻繁に行う」、やれやれだ。
・『勝負に出た小池都知事、挽回を狙った官邸  ここで、財政の豊かな東京の知事は、勝負に出た。ここぞとばかりカネをばら撒くことにした。他の県がどうなろうと知ったこっちゃない。東京が他県に配るわけではないので損はしない。そして、人気が出た。まわりの知事たちはやむを得ず、お茶を濁す程度の休業に対する何らかのカネを配ることにした。 さて、今度は緊急事態宣言に入らなかった知事たちも(一部の市長も)、自分たちも表舞台に立ちたいと、「緊急事態宣言をしてくれ」の大合唱となった。その結果、官邸側は困った。多くの追加指定をせざるを得なくなったが、7都道府県といったばかりですぐに追加するのも、「政策の失敗」と責められる。どうしよう。困っていたところに、10万円の話が降って湧いた。多少責められるのを承知で、少しでも挽回しようと官邸はこれにかけた。 「1世帯30万円で所得が大幅に減った世帯に絞って行う」という、一見もっとも適切な政策に対して非難が寄せられていた。とりわけ有識者、ネットから批判が大殺到し、それで、官邸も弱りきっていたし、そもそも安倍さんのテイストとしても全員に10万円のほうが好きだった可能性があり、後悔していたところだったかもしれない。) そこへ自民党および公明党から1人10万円の要求。これに乗って、かっこ悪くとも、評判がこれ以上落ちるのを食い止めようと、前代未聞の閣議決定後の変更に踏み切った。そして、これを利用して全国に緊急事態宣言という政策転換を正当化した。本来ならば7都道府県で十分なはずだったが、分かりやすく、そして世論が望んでいるようなら(なぜか東京の人々が他の地域の緊急事態宣言を強く支持し、鳥取など当事者は戸惑うばかりだが)、「やってしまえ」、となった。以上が私の推論である。 行動経済学的な議論の出番はここである。なぜ、人々は「全員に10万円」のほうが、「本当に困っている人たちに手厚く30万円」よりも良いと思うのか。これは財政支出よりも消費税減税が、人気があるのと同じで、有権者の数としては、困っていない人のほうが遥かに多いからである。 困っている人は本当に困っているので、そもそもSNSをやったり、テレビやネットで意見を表明したりする余裕も気力もないのである。だから、みんなにいきわたるものが支持されるし、政治的にも票数は圧倒的に稼げるのである。 そして、もう一つ重要なのは、コロナショックでカネに困っているのは働き手、仕事が減った働き手であり、消費者は言ってみれば何も困っていない。また、年金生活者にしても、収入は減っていないし、働き手は国民の半分、50%に過ぎないのに、半分を無駄に配る必要ない。ましてや金持ちにおいておや。 「制限つけずに全員に配れ」、と言っている人はカネを配るタイミング、スピード感にこだわっているが、カネを配るという景気刺激はどうなのか。いまは消費行動を抑圧されていて消費できなくて困っているのに、カネを配られても仕方がないから、無意味だし、急いで配っても景気対策にはならない』、「人々は「全員に10万円」のほうが・・・よりも良いと思うのか・・・有権者の数としては、困っていない人のほうが遥かに多いからである・・・みんなにいきわたるものが支持されるし、政治的にも票数は圧倒的に稼げるのである」、面白い解釈だ。「「制限つけずに全員に配れ」、と言っている人はカネを配るタイミング、スピード感にこだわっているが・・・いまは消費行動を抑圧されていて消費できなくて困っているのに、カネを配られても仕方がないから、無意味だし、急いで配っても景気対策にはならない」、言われてみればその通りだ。
・『人々の不安と欲望と政治の打算  「本当に困って飢え死にしそうな人に早く」、というが、「それなら10万円ではすぐに飢え死にしてしまうし足りない」といっても、「とにかくスピードが大事だ」という。 この理由は、カネに困っていないが、皆、不安にさいなまれているからである。コロナはこの先どうなるか分からない、不安だ。それを払拭したいのである。都知事も不安を払拭するために8000億円と言っている。 この不安とは「仕事が失われる不安」のような「具体的な不安」ではなく、「今後コロナが、社会がどうなるかわからない」、という「とらえどころのない、いたたまれない不安」である。こういうときに慰めるには、マスク2枚ではない。カネである。不安なときはカネをわたしておけば、何か困ったときにはこれを使いなさい、と渡すのがもっとも効果的である。 だから、政治活動としては、全員にただちに現金を配ることがもっとも効果的なのである。すぐ配ることが重要なのである。しばらくすれば不安は軽くなるだろう。そのときにカネが届いても、悪い気はしないが、感謝はしない。「もらってやるか」、というぐらいなものである。しかし、今、全員不安なときに、その状態でカネをもらえば、ありがたい。くれた人に感謝する。だから、いますぐ、全員に配るのである。 私はコロナよりも政治に、人間の欲望と感情に、うんざりだ・・・』、「不安なときはカネをわたしておけば、何か困ったときにはこれを使いなさい、と渡すのがもっとも効果的である。 だから、政治活動としては、全員にただちに現金を配ることがもっとも効果的」、さすが行動経済学者らしく説得力がある。

次に、NHKエンタープライズ制作本部番組開発エグゼクティブ・プロデューサーの丸山 俊一氏が4月18日付け東洋経済オンラインに掲載した「社会的距離を越えてコロナの時代と向き合う 世界の知性が問う今後の「グローバル経済」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/344417
・『新型コロナウイルスによる社会の変容について、世界の知性たちはどのように捉えているのか。 「BS1スペシャルシリーズコロナ危機「グローバル経済複雑性への挑戦」」(NHKBS1で4月18日土曜夜7時から)では、「欲望の資本主義」「欲望の時代を哲学する」などの「欲望」シリーズに出演してきたジョセフ・スティグリッツ、トーマス・セドラチェク、マルクス・ガブリエル、ニーアル・ファーガソンらにインタビューしている。世界の知性たちが、新型コロナウイルスによるパンデミックが世界の経済、社会にもたらした衝撃の本質を分析し、今後の展望を語る』、「欲望の資本主義」はこれまでから面白く観てきたが、今日も放映があるとのことで録画予約した。
・『ノーベル賞経済学者が語る「未知の領域」  「家の中にいても、人々が緊張しているのは明らかです。聞こえてくるのは、救急車のサイレンの音だけなのですから……」 われわれ取材チームの急な依頼に、ニューヨークの自宅から自らコンピューター画面を動かし調整しながら答えてくれたジョセフ・スティグリッツは、早速現状分析を始めた。 「短期的には、今日、ヨーロッパの経済指標が急落しているのは、社会的距離と呼ばれるものがもたらしています。しかし、中長期的には、さまざまな問題が顕在化してくるでしょう。個人や企業のバランスシートが侵食されそうです。 多くの企業は強い流動性の問題に直面するでしょう。それは、もちろん重要なこととして総需要の問題がありますが、流動性の問題であり、供給側の問題でもあります。この問題から抜け出すためには、ある種の技術と思慮深さが必要になり、未知の領域と呼べるかもしれません」 スティグリッツが「未知の領域」と表現する、世界経済の混乱。経済の問題としても、もはや長期戦になることは避けられない状況だが、今回の場合、そこにはなんとももどかしい、人と人との壁が存在する。「技術」と「思慮深さ」はどのように発揮されるべきか?) ソーシャル・ディスタンス=社会的距離。コロナ危機のさなか、にわかに浮上したキーワードだ。そして、それは、ポスト産業資本主義と呼ばれる、サービス、ソフトなどの第三次産業に関わる人々が多数を占める現代、その日常の働き方にも複雑な影を落とした。 「社会的」な「距離」は、結果、テレワーク、オンライン会議など、ネットを駆使し、距離を置いてつながる新たな行動様式を加速させる。しかし、そうした転換でしのげる人はよいが、もちろん、もっと切実な、ネットでは代替できない仕事を持つ人々のことを考えねばならない。 「優先事項は、最も脆弱な人々を助けることです。それも、その国の社会保障システムの性質にもよりますし、どの程度個人がギリギリの生活をしているかにもよります」』、「優先事項は、最も脆弱な人々を助けること」、正論だが、現実に政策対応していくには、先の「小幡 績氏」の記事にもあるように、難しい課題だ。
・『新実在論の旗手が語る「新自由主義の終焉」  「新型コロナウイルス(COVID-19)は現代の世界秩序の発展を根本から変えます。これまでの「モダニティ=近代性」の中で目の当たりにしてきたどの出来事とも異なります。私の予測では、われわれが現在目の当たりにしているのは、新自由主義の終焉です」 いきなり強い言葉で、大きな転換点であることを宣言したのは、マルクス・ガブリエルだ。彼はドイツの自宅のそばにある森で、現地クルーのカメラに答えてくれた。 「新自由主義は、連帯や国家、制度的組織の構造を、純粋な市場戦略によって支配されるシステムと置き換えることができる基本的経済概念でした。そして、そのシステムはまさにコロナウイルスに直面してひどく機能不全になるのです。 というのも生物学的な構造は経済的構造と完全に異なるモデルに依存するからです。ウイルスの論理は私が生物学的普遍主義と呼ぶところの概念の真実を浮かび上がらせます。生物学的普遍主義とは、ウイルスからすればすべての人や動物は平等であることを意味しています」 ウイルスこそが、現在の経済システムの「機能不全」をもたらすというガブリエルの指摘は、本質的だ。実際、隅々までシステマチックに整序された現代の都市は、テクノロジーの粋を極め、資本主義の原理を極限まで推し進めているかに見える。無駄がなく、隙がない、都市。 そうしたデジタルな人工世界に、原始以来の生命体、ウイルスという「異物」が入り込んだときのもろさを、今私たちは現在進行形で経験している。日々、「社会的距離」など取りようもない満員電車で、「人材」を詰め込むだけ詰め込んで運ぶことで「効率」性を生んできた都市、経済、社会システム。その前提が壊されようとしているのだ』、「われわれが現在目の当たりにしているのは、新自由主義の終焉です」、「デジタルな人工世界に、原始以来の生命体、ウイルスという「異物」が入り込んだときのもろさを、今私たちは現在進行形で経験している」、「新自由主義の終焉」とは喜ばしいことだが、次にはどんな考え方が出てくるのだろう。
・『異端の奇才が語る「人類への連帯テスト」  例によって、いかにも彼らしいと思わずにはいられない表現で、現在の試練を語り出してくれたのは、トーマス・セドラチェクだ。幼少期に社会主義を経験し、自由主義化した後のチェコ共和国で大統領の経済アドバイザーも務めた「異端の奇才」の言葉は、例によって静かだが熱い。 「なぜなら、アイデンティティーや連帯感、グループ感を形成できるものは外敵以外にありません。欧州統合の問題点の1つは、外敵がいないことです。統合するまでは、私たちはいつも争ってきました。ドイツ人対チェコ人、スコットランド人対イギリス人、フランス人対誰か、カタルーニャ人対スペイン人、等々。 しかし、外敵はいませんでした。欧州の紙幣に英雄の肖像がないのは、これが理由です。今では橋や門しか印刷されていません。他国から見て悪者だと思われていない欧州の英雄について、各国の意見が一致することは非常に難しいのです。 だから今、初めて、もしかするとこの地球の歴史上初めて、人類は共通の敵を相手にしています。そしてこれもまた、誰のせいでもありません。裏切り者はいません。ただ起きてしまっただけで、どこでも起こりうることなのです。 しかし、ここで相手にするのは共通の敵であり、私たちを団結させることができるものをやっと手に入れたのです。地球に向かって飛んでくる小惑星やエイリアンの侵略がその役割を果たすかもしれませんね。エイリアンの侵略をきっかけに世界が1つになるという映画はありますよね。今回の危機は、少しソフトな形の侵略かもしれません。 私たちには共通の敵がいます。人種や国境、富、重要性、どれ程賢いかなど関係なく、全人類にとって。これは本当にきちんと対応すれば、チェコ人、スロバキア人、ドイツ人、イタリア人、フランス人……それぞれが集まる小さな集団ではなく、人類が一丸となる1つの大きな集団として強くなれるはずです」 こうしたシナリオでいい方向に進めばよいのだが、もちろんこうした希望的観測ばかりではなくリアル、かつユニークな認識もたっぷり披露してくれた。資本主義がいよいよ曲がり角にあるときに、逆転の発想はどこにあるのか』、「ここで相手にするのは共通の敵であり、私たちを団結させることができるものをやっと手に入れたのです」、とはいうものの、新コロナウィルスとの戦いは1,2年で終了するので、その後は再び前の状態に戻ってしまうのではなかろうか。
・『歴史学者が語る「ネットワーク論」  『マネーの進化史』『スクエア・アンド・タワー』などでも知られる歴史学者、ニーアル・ファーガソン。かねてから著書でも、現代の資本主義を脅かすのはウイルスの拡散であることを指摘してきた彼は、こう切り出した。 「巨大なネットワークというのはいいものも悪いものも伝達する、ということです。私たちはこれまで、自分たちのネットワークはいいものしか伝えないと考える傾向にありました。 ところが残念ながら、皆さんもよくご存じのとおり、ウイルスというものは、デジタルであれ、生物学的であれ、迅速性を重視して作られた巨大なグローバルネットワークを通れば非常に素早く移動ができるのです。今回はそれが起きてしまいました。ですから私は驚いてもいませんし、自分が予言者だとも思っていません。 今回は金融危機ではありません。財政的症状を持つ公衆衛生の危機です。2008年、2009年に効果があった対策、つまり大規模な金融・財政刺激策が今回も効果があると期待するのは、危機の本質を見誤っていることになります。 刺激策は、今回は適切ではありません。自分からシャットダウンした経済を刺激することはできません。今行っているのは、仕事を失った人々や閉鎖を余儀なくされた企業に救済策を提供しているだけです。大多数の人々が状況を見誤っていると思います。この危機の本質を十分に理解していないからです。 投資家や銀行家や金融の専門家の間では、2008-2009年の記憶があまりに鮮やかであるため、2008-2009年の戦略本をまた持ち出して、量的緩和やゼロ金利、そして財政刺激策といったことを話しているだけなのです」 ではどうするのか。歴史学者の読み解く「危機の本質」は、歴史のどのポイントまでさかのぼることで見えてくるのか。そして、今後に向け、どんなマインドで、どんなビジョンを持って立ち上がり歩き始めるべきなのか』、今回は、リーマン・ショックとは異なるというのは確かだが、処方箋はどうあるべきなのだろうか。
・『私たちはどんなビジョンを持つべきか  番組の制作中、2019年の夏に放送された「欲望の貨幣論2019」において、かねてより資本主義のはらむ本源的な不安定性を追究してきた岩井克人さんが口にした言葉が、脳裏をかすめた。 「資本主義ほど単純な原理はないんです。利潤が多ければ多いほどいいんですから。私はこれ以上、単純な原理を知りません。ゆえに必然的にグローバル化するんです」 岩井さんが繰り返し強調された「単純」さ。それに対抗する「複雑」さは、今どこに? このほかにも、ルチル・シャルマ、ペリー・メーリングらの俯瞰した洞察、そしてまた日本では小幡績氏、飯田泰之氏、早川英男氏ら、それぞれの視点から今回の事態を読み解くみなさんへの緊急取材でお送りする。 単純化=グローバル化だからと言って、複雑化=ローカル化と、「単純」には考えず、こちらも番組でご一緒にお考えいただければ幸いだ』、NHKの番組の録画を観てみたいものだ。参考になる点が多いようであれば、改めて紹介したい。

第三に、コラムニストの小田嶋 隆氏が4月10日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「「ひとりひとり」は羊の群れではない」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00065/?P=1
・『東京など7つの都府県に緊急事態宣言が出された。 このたびの緊急事態に関しては、気になることがあまりにも多すぎる。言及しておきたい論点をすべてチェックしにかかると、間違いなく支離滅裂な原稿になる。 なので、当稿では、当面、最も大切に思えるポイントだけを、なるべく簡潔に書くよう心がけたいと思っている。 緊急事態宣言が出されたのは、4月7日の夕刻だった。 それが、翌日の8日には、はやくもほころびはじめている。 「どこが緊急なんだ?」と思わざるを得ない。 共同通信が伝えているところによれば、西村康稔経済再生担当大臣は、4月8日、7都府県知事とのテレビ会談の席で、休業要請を2週間程度見送るよう打診したことになっている。 ん? 休業要請を見送ってほしい、だと? どうしてだ? なぜ、そんな話になるんだ? 大臣はいかなる根拠から2週間の猶予が必要であると判断したのだろうか。 意味がわからない。 そもそも、緊急事態宣言を出したのはお国だ。 休業要請は、その、政府による「緊急事態宣言」のメインの内容というのか、宣言の柱に当たる施策であるはずだ。 それを、どうして一日もたたないうちに、いきなり撤回しにかかっているのだろうか。 思うに、お国が都府県による各業界への休業要請を阻止したがっている理由は、小池百合子都知事をはじめとする複数の知事が、住民に向けて「休業要請と損失補償がセットである」旨をアナウンスしたからだ。 つまり、政府としては、7都府県の住民に対して休業中の損失補償をせねばならなくなる事態を避けたかった。そう考えないと説明がつかない。 とすると、この先少なくとも2週間ほどは「補償を伴わない休業要請」がやんわりと展開されることになる。と、これまでに各自治体が発令してきた「自粛要請」なる摩訶不思議なお願いが、引き続き連呼され続けることになる。ということはつまり、何にも変わらないわけだ』、確かに「休業要請」と「緊急事態宣言」は、付け焼き刃の典型だ。
・『ちなみに解説しておくと、「自粛要請」というこの政策用語は、日本語として明らかに破綻している。その意味で、政治家はもとより、行政にかかわる官僚が国民に対して使って良い言葉ではない。 というのも「自粛」は、そもそも自粛をする当人の判断でおこなわれるべき行動で、本人以外の人間の判断が介在したら、それは「自粛」ではないからだ。であるからして、当然、「自粛」は、他人(もちろん政府であっても)が自分以外の人間(つまり国民)に対して「要請」できるものではない。 「自粛」が「要請」できるのであれば、「自殺」も「要求」できることになる。とすると、「依願退職」すら「命令」可能で、このほか、喜怒哀楽や真善美を含めてすべての感情や判断や評価は、他人のコントロール下に入ることになる。と、料理を提供する側が舌鼓乱打要請を提出したり、演奏家が感動要求を持ち出したり、コラムニストが目からウロコ剥落申請を示唆するみたいなことが頻発する世の中がやってくる。こんな無茶な日本語を政府が使っていること自体、あり得ない不見識なのである。 さて、政府が、「補償とセット」として扱われる「休業要請」を、「自粛要請」という言語詐術の次元に後退させなければならなかった理由は、おそらく「政府」の立場が必ずしも一枚岩ではないからだ。 一言で「政府」と言っても、その内実は、さまざまな立場や部署や役割に分かれている。なるべく広範な「補償」を配布したいと考える部門の人々もいれば、無駄な支出を抑制することが役目であるような人々もいる。であるから、「政府」の総体としては、「休業によって経済的に困窮する国民の生活を補償」しつつ、その一方で「巨額の支出でお国の経済が傾く」ことは極力回避せねばならないわけで、彼らは、常にいくつかの相反する思惑に引き裂かれているわけなのである。 まあ、ここまでのところはわかる。 補償を実現したいのはヤマヤマだが財源を考えると二の足を踏む、と、お役人の発想では、どうしてもそういったあたりを行ったり来たりすることになっている。 だからこそ、政治家の決断で、時には、思い切った緊急の政策を打ち出さなければいけない。それが政治決断と呼ばれているものであるはずだ。 個人的には、赤字国債を発行するとか現金を余計に印刷するとかして財源を確保しつつ、とにかくこの急場をしのぐのが第一の選択なのではなかろうかと思っている。 現金を大量にばら撒けば、当然、それなりの副作用もあるのだろうが、それをしなかった場合の経済の落ち込みを考えれば、広く国民に当座の現金を給付する政策は、景気浮揚策としても好ましい効果を発揮するはずだ。 ところが、西村新型コロナウイルス対策担当大臣は、休業補償をすんなりと約束しようとしない。 「2週間待ってくれ」  と、この期に及んで極めてヌルい緊急事態対応を打ち出している。 なぜなのか』、「「自粛要請」というこの政策用語は、日本語として明らかに破綻している」、言われてみればその通りだ。「補償を実現したいのはヤマヤマだが財源を考えると二の足を踏む、と、お役人の発想では、どうしてもそういったあたりを行ったり来たりすることになっている」、的確な観察だ。
・『こんなことが起こってしまっている原因の一半は、おそらく、西村新型コロナ対策担当大臣が、経済再生担当大臣でもあれば、全世代型社会保障改革担当大臣でもあるという、不可思議な事情に関連している。 ん? これは、いったいどういうことなのだろうか。 片方の手で新型コロナウイルス対策のための思い切った施策を打ち出さなければならない担当大臣が、もう一方の手で、経済再生のことをあれこれ考えて慎重な財源管理を考慮せねばならないのだとしたら、これは、世間でよく言われている「利益相反」ということになるのではないのか? そうでなくても、大臣はダブルバインドの中で、にっちもさっちも行かなくなるはずだ。 たとえばの話、プロ野球の球団で、打撃コーチがボールボーイを兼任していたりしたら、そんなファールゾーンに転がっているボールを拾って歩いているみたいなコーチの助言に、いったい誰が本気で耳を傾けるというのだ? 西村大臣の苦衷は理解できる。 新型コロナ対策担当大臣としては、財源を度外視してでもなんとかして思い切った救済策を打ち出したいはずだ。 一方、経済再生担当大臣としては、目先の対策のために野放図な支出をする計画には絶対に反対せねばならない。 とすると、彼自身、どうして良いのやら判断がつかなくなる。それがマトモな反応というものだ。 責任は、西村大臣にはない。 このバカげた状況の責任は、経済再生担当大臣に新型コロナ対策担当大臣を兼任させるような、たわけた人事を敢行した政権中枢に求めなければならない。 あるいは、経済再生担当大臣として活躍している大臣に、このたびの新型コロナ対策の采配を委ねた時点で、首相は、本気でこの事態に対処する気持ちを持っていなかったということなのかもしれない。 単に手が空いてそうな大臣にケツを持って行ったのか、それとも、あえて全力でウイルス対策に取り組むことのできない立場の大臣を担当に持ってくることで、カネをケチろうと考えたのか、どっちにしてもあまりにも不誠実な判断だったと申し上げなければならない』、「新型コロナ対策担当大臣としては、財源を度外視してでもなんとかして思い切った救済策を打ち出したいはずだ。 一方、経済再生担当大臣としては、目先の対策のために野放図な支出をする計画には絶対に反対せねばならない。 とすると、彼自身、どうして良いのやら判断がつかなくなる。それがマトモな反応というものだ・・・このバカげた状況の責任は、経済再生担当大臣に新型コロナ対策担当大臣を兼任させるような、たわけた人事を敢行した政権中枢に求めなければならない」、鋭い指摘だ。
・『さて、自治体から各業界に向けての休業要請が2週間先延ばしにされたことで、何が起こるのかを考えてみよう。 いや、考えるまでもないことだ。お国や自治体から休業補償を約束されていない状況下で、休業を余儀なくされた人々は必ずや腹を立てる。これは、人間として当然の反応でもあれば、生物としての必然でもある。 で、腹を立てた結果どういう行動に出るのか。 私だったら、自暴自棄になるか、そうでない場合、無気力に陥るだろう。 どっちにしても、ろくなことにはならない。 おとなしいと言われている私以外の平均的な日本人とて、永遠におとなしいわけではない。 休業補償が行き届かない状況下で収入減を強いられた多くの日本人は、おそらく、なんとかして働こうとするはずだ。休業要請を強いられていようが外出自粛を促されていようがおかまいなく、だ。 緊急事態宣言は、追い詰められた人々の耳には届かない。 なんとなれば、今日明日の食い扶持に困る事態に追い込まれた人間にとって、現段階では8割が軽症で済むと言われているウイルス感染なんかより、貯金が底をつくことのほうがずっと恐ろしい身に迫る恐怖だからだ。 私にも経験のあることだが、貧乏は人間のメンタルを削る。このことは何度強調しても足りない。最低限の貯金を持っていない人間は、最低限の良心を持ちこたえることができなくなる。さらに、ある程度以上の借金を抱えた人間は、カネのことしか考えられなくなる。つまり、貧困に陥った人間は、事実上思考力を失う。 もちろん、気力も失うし希望も持たなくなる。 カネがほしいということ以外はほとんどひとつも考えられなくなる。 そういう人間がどういう行動に出るのかは明らかだ。当たり前の話だが、彼らはカネを求めて街をさまよい歩く。 ウイルス? そんなものはまるで問題じゃない。 病気で死ぬことをほのめかされても、まるで恐ろしいとは思えない。オレは現実にいま死ぬことよりもキツい貧乏に苦しんでいる。それに比べればウイルス感染なんてファンタジーでしかない。オレは少しも恐ろしくない。正直なところを述べるに、他人に感染させることもこわいとは思えない。どちらかと言えばざまあみろと考える。ほめられた考え方でないことはわかっている。でも、いまのオレには別の考え方はできない。オレをマトモな人間に戻したいのなら、とにかくカネをつかませてくれ。カネさえあれば、マトモな良心を取り戻せるかもしれない。話はその後だ。 と、政府が給付策を誤れば、こういう人たちが数十万人単位で街に溢れ出ることになる』、人間の本性を踏まえた冷徹な指摘だ。
・『テレビ画面の中に出てくるきれいに着飾ったキャスターのみなさんたちは、先日来、ことあるごとに 「私たちひとりひとりが自覚を持って」といった感じの素敵なご発言を繰り返している。 安倍総理ご自身も、先日のテレビ演説の中で 「自分は感染者かもしれないという意識を持って行動していただきたい」という旨の言葉を発信していた。 私は、それらの言葉を片耳で聞きながら、はるか半世紀ほど昔、中学校の生徒だった時代に 「ひとりひとりが◯◯中学を代表する生徒としての意識を持って……」という担任教諭の説教を 「うるせえばか」と思いながら聞き流していた時の気持ちを、ありありと思い出していた。 「ひとりひとりが◯◯の意識を持って」 というのは、指導的な立場に立つことになった日本人が必ず持ち出しにかかる話型で、これを言っている人間は、多くのケースにおいて、人間の集団を教導している自分の権力の作用に酩酊している。 彼らは、自分の言葉に耳を傾けている有象無象を、羊の群れ程度にしか考えていない。だからこそ 「ひとりひとりが」などという人を人とも思わない調子ぶっこいた忠告を撒き散らすことができるのだ。 さてしかしところがどっこい、演説を聞かされている側の人間たちが、永遠に羊の群れを演じてくれるのかというと必ずしもそうは行かない。何割かは狼に変貌する。実態がどうかはともかく、狼の気持ちで話を聞いている人間が必ず現れる。少なくとも中学時代の私はそういう生徒だった。 何が言いたいのかを具体的に説明しておく。 つまり、休業補償も約束されずに、現金給付には煩雑な条件をつけられている中で、 「ひとりひとりの自覚」だの 「自分が感染者かもしれないという意識」だのという、おためごかしの説教を浴びせられる状況がこの先何カ月も続くのであれば、いかにおとなしい日本人といえども、いずれは暴発するということだ。 政権中枢に座を占めている人間たちは、日本人を、どこまでもおとなしくて品行方正な我慢強い国民であると思っていたいのだろう。 われら日本人が、戦後からこっちの80年ほどの期間を、突然の収入減を耐え忍び、外出禁止要請を受け入れ、貧困にも生活苦にも文句を言わずに、感染したらしたで四方八方に謝罪してまわり、感染しなかったらしなかったで一日中びくびくして左右のソーシャルディスタンスを30秒ごとに測定しているタイプのいとも統治しやすい国民であったのは、われわれが、右肩あがりの社会の中で暮らす希望を持った人々であったからだ。 未来に希望が持てない場所で、貧困を余儀なくされているのであれば、われわれとてそうそういつまでもおとなしくしてはいない。 政府の中の人たちは、現金給付の金額やタイミングを、単に景気対策の一環として考えているのかもしれない。 私はそう思っていない。 新型コロナ対策担当大臣ならびに内閣総理大臣閣下には、現金給付が、現状におけるほとんど唯一の治安対策である旨を、この場を借りてあらためてお伝えしておきたい。 一億人の人間が何カ月もおとなしく家の中に引きこもっていると思ったら大間違いだ』、「「ひとりひとりが◯◯の意識を持って」 というのは、指導的な立場に立つことになった日本人が必ず持ち出しにかかる話型で、これを言っている人間は、多くのケースにおいて、人間の集団を教導している自分の権力の作用に酩酊している」、「未来に希望が持てない場所で、貧困を余儀なくされているのであれば、われわれとてそうそういつまでもおとなしくしてはいない」、「現金給付が、現状におけるほとんど唯一の治安対策である」、不吉な啖呵だが、その通りなのかも知れない。

第四に、同じ小田嶋 隆氏が4月17日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「「空気の読めなさ」の原因は」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00066/?P=1
・『4月8日の緊急事態宣言からこっち、流れてくるニュースのざっと半分は、新型コロナウイルス関連の話題で埋められている。大変な事態だ。 ところで、政府はこのたびの「緊急事態宣言」に際して、「発出」という、耳慣れない動詞を使っている。 思うに「発令」という言葉の醸し出す緊迫感を嫌ったのだろう。 たしかに、「発令」は、語感として、そのまま「戒厳令」を連想させる。お国としては、自分たちが強権を発動している印象を薄めたかったに違いない。 で、選ばれた用語が「発出」だったわけだが、これは、多くの日本人がはじめて聞く言葉で、私自身、最初に耳で聞いた時は 「なんだそりゃ?」「飛翔体かよ」と思った。 でもまあ、初耳の言葉は、先入観に汚れていない意味で、フラットに受け止めてもらえる利点を持っている。 してみると、お国はうまい言葉を見つけてきたのかもしれない。 辞書を引いてみると、日本国語大辞典は、「発出」について 「ある物事や状態が生じて外に現われること。また、現わし出すこと。」と説明している。 ちなみに、「発令」には 「法令、辞令などを発布・公表すること。」(日本国語大辞典)という、より具体的な語義が当てられている。 この二つの言葉の辞書解説を踏まえた上で、うがった見方をすればだが、政府の中の人たちが「発令」(←「発令者」の意思の介在を感じさせる)でなく「発出」(←「発出者」の意思や責任とは関係なく、法令なり布告なりが「おのずから生じて外に現れ」出てきた印象がある)の方を採用した意図は、彼らが「宣言」の「責任」を取りたくなかったからだったと考えるのは、そんなに無理な解釈ではない。 つまり、政府の人間たちは、このたびの「緊急事態宣言」を、政府の責任による布令ではなく、「天から降ってきた災厄」として印象づけたかったからこそ、「発出」などというホコリをかぶった古語を辞書の奥底から引っ張り出してきたわけだ……という、この解釈は、私の邪推と考えてもらってもかまわない。 発令という言葉の大時代な響きにビビった、という、それだけの話なのかもしれない。 ともあれ、宣言は発出され、街は閑散としている。 で、いきなりの蟄居生活を余儀なくされているわたくしども罪なき衆生は、地上波テレビの圧倒的なつまらなさにあらためて驚愕したりなどしつつ、将来のおぼつかなさと、今ここにある手持ち無沙汰に苛まれている。 そこへ持ってきて、首相の「コラボ動画」なるものが舞い込んできた』、「政府の中の人たちが「発令」・・・でなく「発出」・・・の方を採用した意図は、彼らが「宣言」の「責任」を取りたくなかったからだった」、読みの深さには改めて驚かされる。
・『説明する。 ここで言う「コラボ動画」とは、ミュージシャンの星野源さんがインスタグラムに投稿した「素材動画」に反応(コラボ)して、様々な音楽家や舞踏家が、それぞれの演奏や踊りの動画を重ねることで動きはじめている一大運動体としての「コラボ動画群」を指している。 朝日新聞の解説記事は 《―略― 発端となったのは、星野さんが今月3日にインスタグラムに投稿した動画だ。「うちで踊ろう」という楽曲をギターで弾き語りをする動画で、「この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?」とメッセージを添えた。外出自粛が広がる中、ミュージシャンらがこの動画に合わせて歌ったり踊ったりする「コラボ」動画を相次ぎ発信し、話題になった。―略―》と説明している。 つまり、星野源さんは、塗り絵のためのアウトラインの絵柄に相当する、音楽的なスケッチを無償提供したわけだ。 首相による「コラボ」に触れる前に、星野源さんの話をしておく。 最初にこの試みを知った時、私は、星野氏の世間をアジテーションする間合いの良さにほとほと感心した。 このトライアルには、 音楽著作権をめぐる厄介な縄張り根性のおかげで、自由なコラボレーションが困難になっている音楽界に風穴をあけるコロンブスのタマゴである点 多くのミュージシャンが発表の場や作品公開の機会を失って茫然自失している当面の状況を一旦解除するカンフル剤の役割を果たしていること プロ・アマを含めた広い範囲の音楽家に、星野源の作品に乗っかることによる知名度上昇ならびに才能告知の機会を提供している点 ナマの音楽に触れることができなくなっている聴き手に、ふだんとは違うチャンネルを介して制作現場のリアルを伝える音楽を提供していること という、ざっと考えて、以上4点の素晴らしさがある。 続々とアップされてくるコラボ作品の面白さもさることながら、こういう企画をとっさに思いつく発想の柔軟さと、それをまたさらりと実現してしまう機敏さに、あらためて感じ入ってしまう。 で、この星野源さんの動画の横に自撮り(←まあ、官邸のスタッフによる撮影なのでしょうが)の自宅くつろぎ動画を付け加えるカタチで、「コラボ」したのが、首相によるこのたびの「コラボ動画」ということになるわけなのだが、私はこの物件を「コラボ動画」と呼んでしまったメディア(毎日新聞がこの言葉を使って首相の蟄居動画を紹介していました)の紹介の仕方に、そもそもの間違いがあったのではないかと考えている。 なので、《「安倍首相と星野源さんのコラボ動画」という言い方は、星野源さんに失礼なのでやめてあげてほしい。仮にマイセンのソーサーの中に犬が用をたしたのだとして、そのブツを「マイセンと犬のコラボ作品」と呼ぶのはマイセンにとってダメージだとオレは考える。》2020年4月12日午後11時28分) 実際、首相は、一切「コラボ」(「コラボレーション」という言葉に値する協働的な取り組み)らしいことはしていない。 単に星野さんの音楽をBGMとして利用して、彼の人気に「便乗」しただけだ。 とすれば、「便乗動画」「タダ乗り自撮り映像」くらいに呼ぶのが相当で、これをいきなり「コラボ動画」と認定してしまうのは、星野源さんに対してはもちろん、楽器演奏やコーラスや舞踏の映像を重ねることで見事なコラボ映像をアップしてきているほかの動画投稿者の皆さんに対しても、失礼に当たる。 もっとも、私は、今回の首相による便乗動画が 「星野さんの善意を踏みにじった」とか 「音楽の純粋さを政治の醜悪さによって台無しにしている」とまでは思っていない。 単に、ダサい動画で狙いを外しただけの話なのだと評価している。 むしろ心配なのは、この緊張感を欠いた動画が、首相の好感度向上に寄与するであろうと考えた、首相ならびにその側近の、感覚のズレっぷりだ。 で、さきほど引用したツイートに先立って、私は、大阪大学の仲野徹先生が投稿した、首相の例の動画を引用した上で「誰か真意を教えてほしい」という旨のツイートへの回答として、 《「466億円マスク二枚郵送案件」と同じで、 官邸のガバナンスが壊死していてトップに進言できる人間が皆無 首相、官邸官僚、主要閣僚含めて全員が莫迦揃い 総理の愚かさを国民に思い知らせようとしている君側の奸が暗躍している 安倍ちゃんが致命的に嫌われてる のどれかですね。》2020年4月12日午後4時48分 というツイートを発信した。 現時点から見ると、ここに並べた推測も、十分な説明にはなっていない。 思うに、今回のコラボ動画のダメさ加減も、17日以降、続々と全国の各世帯に届くであろう「布マスク2枚」の素っ頓狂さも、あるいは、お肉券やお魚券を引っ込めた経緯や、二転三転したあげくにどうやら実現しそうな雲行きになっている「所得制限なしでの全国民への10万円現金給付」も含めて、すべては「官邸周辺がネット世論に振り回されている」ことの表れであると見なさなければならない。 ネット世論であれ何であれ、世論の動向に敏感であることそのものは、決して悪いことではないはずだと考える人もいるはずだ。 実際、「お肉券」が結局実現しなかったのは、ネット上での圧倒的な不評を政権幹部が重く見たからだと言われていて、もし本当にその通りだったのだとすると、それは、良い変化だったということになる。 私は、結果はともかく、より大切なのは、ここで言う「ネット世論」なるものが、いったい誰の意見で、それを「世論」と認定しているのは、いったいどこの誰なのかということだと思っている。 つまり、このお話は 「ネット世論は、果たして世論なのか」という問題に還元される』、「官邸のガバナンスが壊死していてトップに進言できる人間が皆無 首相、官邸官僚、主要閣僚含めて全員が莫迦揃い 総理の愚かさを国民に思い知らせようとしている君側の奸が暗躍している 安倍ちゃんが致命的に嫌われてる のどれかですね」、最大限の嫌味だ。「「便乗動画」「タダ乗り自撮り映像」くらいに呼ぶのが相当で、これをいきなり「コラボ動画」と認定してしまうのは、星野源さんに対してはもちろん・・・ほかの動画投稿者の皆さんに対しても、失礼に当たる」、同感だ。
・『この問いにどう答えるのかをしっかりと考えないと、次にやってくる 「政権がネット世論に敏感であることをどう評価すべきなのか」という問いに正しい答えを提供することができない。 以下に、私の現時点での暫定的な回答を示しておく。 私は、現政権がネット世論に敏感であること(あるいは敏感であるように見えること)を、必ずしも高く評価していない。 むしろ、彼らがネットに淫していることを強く警戒している。 というのも、「ネット世論」なるものは、それを観察する人間の定義の仕方次第(あるいは、観察対象の置き方次第)で、どうにでも変化してしまう極めて恣意的な幻覚だからだ。 首相のコラボ動画に付記されていた文言を見れば、このことがよくわかる。 首相は、《友達と会えない。飲み会もできない。 ただ、皆さんのこうした行動によって、多くの命が確実に救われています。そして、今この瞬間も、過酷を極める現場で奮闘して下さっている、医療従事者の皆さんの負担の軽減につながります。お一人お一人のご協力に、心より感謝申し上げます。》と書いている。 首相は、どうやら、国民(あるいは「若者」)が、友達と会えないことや、飲み会を開催できないことに苦しんでいると思っている。 いや、奥様は苦しんでいるのかもしれない。 でも、本当に苦しんでいる国民が苦しんでいることは、そんなお気楽な話ではない。 友達だとか飲み会だとかいったお話は、変な言い方になるが「苦しんでいない国民がかかえている悩み事」だ。 そんなものはうっちゃっておけばよろしい。今日食べるパンが無くて死にそうな人々を放置して、どうしてケーキの切り方の話をしているのだろう。 私は首相のツイートに対して脊髄反射で 《「友達と会えない。飲み会もできない」って、サークルの2年生あたりがブログに書いてるクソ甘ったれた日記かと思ったぞ。少なくとも還暦を過ぎた人間の言葉選びではない。舐めるな。じぶんのことをしろ。》2020年4月12日午後7時32分 というツイートを返している。 こんな言い方をしたのは、首相が勘違いをしていると思ったからだ。 そして、その勘違いは、首相(ならびにその周辺)が「ネット世論」経由で獲得したものであるに違いないのだ。 彼らは、新聞が書いている記事に目を通さず、メディアが報じているニュースを信じない。 この傾向は現政権が発足した当初からはっきりと確認できる傾向だったのだが、森友問題以来、ますます顕著になってきている。 支持者も同様だ。彼らの多くは、既存のメディアを「マスゴミ」と呼ぶ。 では、マスメディアを信じない彼らが、何を信奉しているのかというと、ネット上のまとめサイトやSNS上にアップされている書き込みだったりする』、《「友達と会えない。飲み会もできない」って、サークルの2年生あたりがブログに書いてるクソ甘ったれた日記かと思ったぞ。少なくとも還暦を過ぎた人間の言葉選びではない。舐めるな。じぶんのことをしろ。》とのツイートも傑作だ。
・『おそらくこれを読んでいる読者の中にも 「右であれ左であれ、どっちにしても偏向している既存メディアなんかより、ネット上の声の方が国民のナマの意見を反映しているんじゃないのか?」「少なくともネットにはすべての国民の正直な声が溢れているはずだよね?」「っていうか、ネットなんか見てないで新聞読めとか、どこの老害のセリフですかって話だよなwww」と思う人たちが相当数含まれているはずだ。 勘違いしてもらっては困る。 私はネットには程度の低い素人の偽言が溢れているとか、紙の新聞や出版物には訓練を受けた記者や、専門的な勉強をした研究者による賢明で正確な情報が掲載されているとか、そういうお話をしているのではない。紙にもネット媒体にも良い記事はあるし、同じように、紙の媒体にもネットのメディアにもダメな記事は混入している。どちらかが一方的にダメなメディアだというわけではない。そんなことはわかっている。 前提として、既存の(あるいは紙の)メディアが、まがりなりにも、「編集」と「文責」を意識した上で書かれているのに対して、ネット上の情報は、あくまでも読者側の自己責任に任せる書き方で配信されていることが多い。 と、両者の違いは、扱っている情報の質の違いそのものよりは、それを見に行く「読者」の「姿勢」の問題をより強く反映する。 どういうことなのかというと、つまり、紙とネットという二つのメディアの違いは、書かれている情報の質の違いそのものよりも、むしろそれを読む、読者の「読み方」の差を反映するカタチで顕在化するということだ。 紙のメディアを読む読者は、記事制作者が紙面を整えた順序で読み進める。 一方、ネットの読者は、自分が気に入った情報だけを、好きな順序で拾い読みするカタチで情報を摂取する。 この違いは、非常に大きい。 たとえば、レストランに行くと、ディナーのコースは、シェフが考えた順序にしたがって、シェフの指示したレシピ通りのメニューが、順次テーブルに運ばれて来ることになっている。 と、客は、単に食材を摂取するだけでなく、あわせて、シェフの「作品」なり「思想」なり「食の哲学」なりを食べることになる。 一方、ホテルの朝食バイキングでは、客は、自分の好みの料理を自分の好きな順序で好きなだけ食べて良いことになっている。 と、ケーキばかり5つも6つも食べる客もいれば、フォアグラやキャビアみたいな高価なメニューだけを平らげにかかる客も現れるということになる。 どちらが良いとか悪いとかの話をしているのではない。 いずれが美味であるか否かを問うているのでもない。 私が、言いたいのは、バイキングを食べている人間は、どうしても偏向せざるを得ないというその一点に尽きる』、「紙のメディアを読む読者は、記事制作者が紙面を整えた順序で読み進める。 一方、ネットの読者は、自分が気に入った情報だけを、好きな順序で拾い読みするカタチで情報を摂取する。 この違いは、非常に大きい・・・バイキングを食べている人間は、どうしても偏向せざるを得ない」、両者の相違の的確な表現には、改めて感心した。
・『私自身、ネットにはあらゆる声がアップされていると考えている。ネット上にぶちまけられているすべての声をまんべんなく聴くというようなことが、仮に原理的に可能であるとするならば、ネット世論に耳を傾けることは、為政者にとって有効な取り組みになり得るのだろうとも思っている。 でも、それは不可能なのだな。 ネットニュースを見ている人間は、必ず偏向する。 ネット世論から本当の世論をすくい上げようとしている人々も同じだ。 彼らは、いつしか、耳に心地よい意見にしか耳を傾けなくなる。 個人的な見解を述べればだが、私は、たとえば、麻生財務大臣の言動が、この5年ほどの間に少しずつ尊大さの度を加えつつあるのは、彼が、新聞を読み、テレビのニュースをチェックすることよりも、もっぱらネットにまとめられたご意見や、秘書官なり側近なりを経由して寄せられる称賛の声にばかり触れているからなのだろうと考えている。 以前から、身勝手な言葉の目立つ人物ではあったが、10年前はこれほどまでにモノのわからない人ではなかった。 それが、ネット上に蝟集している麻生応援団の大声援の中で、いつの間にやらとんでもない人間に仕上がってしまっている。 ネットという「偏見固定装置」ないしは「自尊感情拡張ツール」を通して世界を見るようになった人間は、必ずや偏向する。 このことは、よろしく肝に銘じておかねばならない。 結論を述べる。 私の見るに、新型コロナウイルスがもたらした危機に際して、現政権が露呈しつつある「空気の読めなさ」は、彼らが、それぞれにネット世論を読みすぎていることに起因している。 自宅に蟄居するのは良いのだとして、首相閣下には、できればwifiを遮断することを進言しておきたい。 wifeに関しては、私から申し上げることはない。 心のおもむくまま、自由にふるまっていただきたいと思っている』、「ネットという「偏見固定装置」ないしは「自尊感情拡張ツール」を通して世界を見るようになった人間は、必ずや偏向する」、鋭く的確な指摘だ。「wifi」に「wife」をかけたシャレも素晴らしい。
タグ:ネットという「偏見固定装置」ないしは「自尊感情拡張ツール」を通して世界を見るようになった人間は、必ずや偏向する バイキングを食べている人間は、どうしても偏向せざるを得ない 紙のメディアを読む読者は、記事制作者が紙面を整えた順序で読み進める。 一方、ネットの読者は、自分が気に入った情報だけを、好きな順序で拾い読みするカタチで情報を摂取する。 この違いは、非常に大きい 官邸のガバナンスが壊死していてトップに進言できる人間が皆無 首相、官邸官僚、主要閣僚含めて全員が莫迦揃い 総理の愚かさを国民に思い知らせようとしている君側の奸が暗躍している 安倍ちゃんが致命的に嫌われてる のどれかですね 「便乗動画」「タダ乗り自撮り映像」くらいに呼ぶのが相当 星野源さんがインスタグラムに投稿した「素材動画」に反応(コラボ)して、様々な音楽家や舞踏家が、それぞれの演奏や踊りの動画を重ねることで動きはじめている一大運動体としての「コラボ動画群」 コラボ動画 「「空気の読めなさ」の原因は」 現金給付が、現状におけるほとんど唯一の治安対策である 未来に希望が持てない場所で、貧困を余儀なくされているのであれば、われわれとてそうそういつまでもおとなしくしてはいない 「ひとりひとりが◯◯の意識を持って」 というのは、指導的な立場に立つことになった日本人が必ず持ち出しにかかる話型で、これを言っている人間は、多くのケースにおいて、人間の集団を教導している自分の権力の作用に酩酊している このバカげた状況の責任は、経済再生担当大臣に新型コロナ対策担当大臣を兼任させるような、たわけた人事を敢行した政権中枢に求めなければならない 新型コロナ対策担当大臣としては、財源を度外視してでもなんとかして思い切った救済策を打ち出したいはずだ。 一方、経済再生担当大臣としては、目先の対策のために野放図な支出をする計画には絶対に反対せねばならない。 とすると、彼自身、どうして良いのやら判断がつかなくなる。それがマトモな反応というものだ 補償を実現したいのはヤマヤマだが財源を考えると二の足を踏む、と、お役人の発想では、どうしてもそういったあたりを行ったり来たりすることになっている 「自粛要請」というこの政策用語は、日本語として明らかに破綻している 緊急事態宣言 休業要請 「「ひとりひとり」は羊の群れではない」 日経ビジネスオンライン 小田嶋 隆 資本主義ほど単純な原理はないんです。利潤が多ければ多いほどいいんですから。私はこれ以上、単純な原理を知りません。ゆえに必然的にグローバル化するんです 岩井克人 私たちはどんなビジョンを持つべきか ニーアル・ファーガソン 歴史学者が語る「ネットワーク論」 ここで相手にするのは共通の敵であり、私たちを団結させることができるものをやっと手に入れたのです トーマス・セドラチェク 異端の奇才が語る「人類への連帯テスト」 デジタルな人工世界に、原始以来の生命体、ウイルスという「異物」が入り込んだときのもろさを、今私たちは現在進行形で経験している マルクス・ガブリエル われわれが現在目の当たりにしているのは、新自由主義の終焉です 新実在論の旗手が語る「新自由主義の終焉」 優先事項は、最も脆弱な人々を助けること ソーシャル・ディスタンス 「未知の領域」 スティグリッツ ノーベル賞経済学者が語る「未知の領域」 「欲望の資本主義」 BS1スペシャルシリーズコロナ危機「グローバル経済複雑性への挑戦」 「社会的距離を越えてコロナの時代と向き合う 世界の知性が問う今後の「グローバル経済」」 丸山 俊一 不安なときはカネをわたしておけば、何か困ったときにはこれを使いなさい、と渡すのがもっとも効果的である。 だから、政治活動としては、全員にただちに現金を配ることがもっとも効果的 人々の不安と欲望と政治の打算 勝負に出た小池都知事、挽回を狙った官邸 知事がやる必要もない感染者の報告を毎日自ら行い、不要不急の無意味な記者会見を頻繁に行う ほとんどの知事たちが緊急事態宣言を要求したのはなぜか。全部ではないが、一つの理由は、選挙活動である なぜ最初から「全国」にしなかったのか 移動先でのインセンティブを奪ってしまおう 緊急事態宣言の網を全国に拡げる 「理解できない」一律10万円の政策 パンデミック 「「新型コロナ対策一律10万円」にうんざりな理由 なぜ国民は「意味不明な政策」を絶賛するのか」 新型肺炎感染急拡大 小幡 績 (その9)(「新型コロナ対策一律10万円」にうんざりな理由 なぜ国民は「意味不明な政策」を絶賛するのか、社会的距離を越えてコロナの時代と向き合う 世界の知性が問う今後の「グローバル経済」、小田嶋氏2題:「ひとりひとり」は羊の群れではない、「空気の読めなさ」の原因は) 東洋経済オンライン
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パンデミック(新型肺炎感染急拡大)(その8)(「東京は手遅れに近い 検査抑制の限界を認めよ」WHO事務局長側近の医師が警鐘、ピント外れ支援策の根底に「昭和の遺物」的思考、古賀茂明「官僚丸投げの安倍総理とメルケル首相の差」、公共図書館の閉鎖) [国内政治]

パンデミック(新型肺炎感染急拡大)については、4月8日に取上げた。今日は、(その8)(「東京は手遅れに近い 検査抑制の限界を認めよ」WHO事務局長側近の医師が警鐘、ピント外れ支援策の根底に「昭和の遺物」的思考、古賀茂明「官僚丸投げの安倍総理とメルケル首相の差」、公共図書館の閉鎖)である。

先ずは、4月9日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した英国キングス・カレッジ・ロンドン教授、WHO事務局長上級顧問の渋谷健司氏へのインタビュー「「東京は手遅れに近い、検査抑制の限界を認めよ」WHO事務局長側近の医師が警鐘」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/234205
・『新型コロナウイルス感染症の急拡大を受けて4月8日、ついに日本政府は東京など7都府県に対する緊急事態宣言発令に踏み切った。遅過ぎるという声が漏れる中で、日本の社会と医療は持ちこたえることができるのか。元の生活を取り戻すことはできるのか。公衆衛生の専門家で、英国キングス・カレッジ・ロンドン教授、WHO(世界保健機関)事務局長上級顧問を務める渋谷健司医師に話を聞いた(Qは聞き手の質問、Aは渋谷氏の回答)』、内外で活躍する本当の専門家の見解とは面白そうだ。
・『緊急事態宣言は効果薄い 対策強化なしでは死者は数十万人にも  Q:7都府県に緊急事態宣言が出されました。日本政府のこの措置によって、新型コロナウイルスの感染拡大の終息は期待できるのでしょうか。 A:東京は宣言すべきタイミングから1週間以上遅れてしまいました。この差は大きいです。そして、この緊急事態宣言に効果があるかどうかは疑問です。それは先日話題になったグーグルの位置情報を基にした人の移動データを見れば明らかで、東京は「自粛」といってもほとんど効果がありませんでした。欧米ほど在宅勤務は増えていないし、飲食店には依然として人が集まっています。 これまで日本政府はパニックを抑えるために「今までと変わりはない」ということを強調していたのでしょうが、それは逆効果だったと思います。 日本の現状は手遅れに近い。日本政府は都市封鎖(ロックダウン)は不要と言っていますが、それで「80%の接触減」は不可能です。死者も増えるでしょう。対策を強化しなければ、日本で数十万人の死者が出る可能性もあります。 英国のボリス・ジョンソン首相は短いテレビ演説で、「とにかく家にいてください」と訴えました。NHS(国営医療制度)を守り、国民の命を守るために、危機感の共有とシンプルで強いメッセージが必要だったのです。 それを意識したかどうかは分かりませんが、8日夜の安倍晋三首相の記者会見は、今までになく素晴らしかったと思います。明確なメッセージを伝えることができたのではないでしょうか。 Q:都市封鎖(ロックダウン)は必要ないという政府の方針は間違っているのでしょうか』、「これまで日本政府はパニックを抑えるために「今までと変わりはない」ということを強調していたのでしょうが、それは逆効果だった」、最近でこそ強い言葉で警告するようになったが、確かに政府の当初の発信が「逆効果だった」、その通りだ。
・『A:どうもロックダウンは、「絶対に外出禁止」というイメージがあるようですが、必ずしもそうではありません。国によってさまざまなロックダウンのやり方がありますが、基本は外出の禁止です。 日本は法的に強制的な外出禁止にはできませんが、ロックダウン中の英国も同様に外出禁止を強制することは困難です。罰則といってもそれほど大したことはなく、騒いでいる人がいたら警官が注意をする、それでもひどかったら30ポンドの罰金です。その程度なんです。それでも人々は外に出てはいけないと認識していて、それを守っている。なぜか。みんな危機感を共有しているからです。 重要なのは「社会的隔離をいかに効果的にやるか」ということです。 ロックダウンは経済・社会に大きな影響を与えるものです。そういうことを考えて、ロックダウン的な手法を取ることが難しかったのだと思います。 欧米の例では、最初は社会的隔離をやったが、結局うまくいかずロックダウンせざるを得ないというケースが多いです』、「ロックダウン中の英国も同様に外出禁止を強制することは困難です。罰則といっても・・・ひどかったら30ポンドの罰金」、日本の法制の製薬はどうも言い訳のようだ。「欧米の例では・・・」、日本が二の舞にならないことを祈るほかなさそうだ。
・『大都市でのクラスター対策は破綻 「3密」のメッセージは妥当性に疑問  Q:政府は2週間後に感染者数をピークアウトさせて、引き続きクラスター対策を強化する方針を掲げています。 A:現在のような「外出の自粛」をベースとした緊急事態宣言によって、2週間で感染者数がピークアウトするとはとても思えません。2週間後でも感染者数が増え続けている可能性さえあります。 既に大都市でのクラスター対策は破綻しています。これまでPCR検査数を抑制し、クラスター対策のみを続けていましたので、市中感染を見逃してしまい、院内感染につながってしまっています。今まさに院内感染から医療崩壊が起き始めています。 国は検査数を増やせば感染者が外来に殺到して医療崩壊が起こると言っていました。しかし、ここまでの流れは全くの逆です。検査をしなかったから、市中感染を見逃して、院内感染を招いているのです。 そもそも、クラスター対策の中で出てきた「3密(密閉・密集・密接)」を避けるべきという指針についても、これだけに固執するのは危険です。3密は一つの仮説です。クラスター対策の限界を認め、方針を転換しない限り、感染拡大は止まりません。 Q:今までの日本政府の対応は失敗なのでしょうか。 A:これまでのクラスター対策については、感染が広がっていない初期段階では非常に有効でした。感染者が少ないときは検査数を多くする必要はないし、北海道などでは感染経路の特定(コンタクトトレース)も比較的容易だったからです。 しかし、東京のような大都市ではそれは非常に困難です。「3密」だけではなくドアノブや荷物など、何が経路となって感染が拡大しているか分からないこともあります。 韓国や台湾、シンガポールでは、検査をどんどん実施し、アプリを使って感染者とその周辺の人々を追跡しています。一方で、日本では検査数は増やさず、保健所からのファクスのやりとりで、コンタクトトレースも前時代的な手法です。疫学の手法が昔ながらのやり方、つまり人海戦術が基本になっています。 世界で「3密」と言っている国はありません。もちろんその条件がそろうと感染のリスクが高いというのは正しいと思います。ただそれ以外にも感染の可能性があることは考える必要があります。 海外では、基本は社会的隔離で全ての感染経路の可能性を含めたメッセージを継続しています。「若者クラスター」「夜のクラスター」「3密」などという事象にばかりフォーカスする日本のメッセージは、その妥当性に懸念が残ります』、「これまでPCR検査数を抑制し、クラスター対策のみを続けていましたので、市中感染を見逃してしまい、院内感染につながってしまっています」、「「若者クラスター」「夜のクラスター」「3密」などという事象にばかりフォーカスする日本のメッセージは、その妥当性に懸念が残ります」、厚労省のやり方に対する手厳しい批判だ。
・『ロックダウンは不可避 医療崩壊は既に始まっている  Q:緊急事態宣言の効果に疑問が残り、ロックダウンもしない日本では、感染拡大を止められないということでしょうか。 A:このままでは止められないでしょう。ロックダウンのような社会的隔離政策を取らなければ、感染拡大は止まりません。その先にあるのは、医療崩壊です。 Q:医療崩壊というのは、具体的にはどういう状態なのでしょうか。) A:定義はいろいろありますが、二つのことがいえます。一つは患者の急増で医療のキャパシティーを超えることです。検査反対派は検査をすることで患者が病院に殺到することを懸念していました。今後は検査をするかどうかを議論する前に、感染者が急激に増えて軽症も含めた患者が殺到し、重症患者を救えなくなるでしょう。 もう一つは、院内感染などで医療提供側が医療を行えなくなることです。院内感染で病院が閉鎖されると、救急も閉鎖され、新型コロナウイルス感染症以外での死亡者数が増えていきます。 実際には、後者の医療崩壊が多発していくでしょう。今、医療の現場からは悲鳴が上がっています。これは検査をしてこなかったことの弊害です。 Q:検査に関しては、おっしゃるように検査数を増やすことに対して疑問の声があります。 A:WHO(世界保健機関)は一貫して「検査と隔離」を徹底するように言い続けています。日本はその原則を徹底しませんでした。もう今からそれをやるしかありません。他にチョイスはない。「検査と隔離」をきちんとやった国であっても第2波、第3波が懸念されています。 結局、社会的隔離やロックダウンを繰り返しながら、「検査と隔離」を徹底して、感染拡大を抑えるしか方法はないのです。ワクチンができるまで、かなりの時間がかかります。もうそれ以外に方法はないのです。 日本では「検査と隔離」を徹底せずに感染が爆発的に増加して、医療と社会が崩壊する危機的な状況です。緊急事態宣言の対象外の地域でも、対岸の火事と考えていてはいけません。交通を遮断しないということは人の移動が可能で、人の移動とともにウイルスは広がります。ロックダウンしないということは、それはもう、どこに行ってもいいというメッセージです。人とウイルスの動きを止めることは非常に難しい。それを想定して対策を立てるべきです。 もちろん、医療と社会の崩壊を目の当たりにして、ロックダウンに踏み切ったら経済はより甚大な被害を被ります。それでも多くの国ではロックダウンをやっています。それは、ロックダウンを後にすればするほど、被害は甚大になることが分かっているからです。だから、早期のタイミングでやると決意したわけです。 Q:米国では死者10万人という試算もあります。 A:米国では何もしないと死者が100万人を超えるという推計が出たために、ロックダウン的施策に至りました。社会的隔離を2カ月続けてようやく10万人規模に抑えられると予想されています。 先ほど言いましたように、日本の緊急事態宣言では、自粛ベースであまり効果はないでしょう。いずれロックダウン的な施策をせざるを得なくなります。その際には休業補償などもしっかりとやらなければなりません。 ロックダウンはやるかやらないかではなく、やるしかないということです。本来であれば4月初めにロックダウンすべきでした。今からやっても遅過ぎますが、やるしかない段階です。 スウェーデンなどの一部の国はロックダウンせずにうまくやっていると評価するメディアがありますが、欧州はもともと在宅勤務がすごく進んでいます。ロックダウンしなくても家にいるわけです。日本はどうでしょうか。あれだけ自粛しろと言われていても、在宅勤務は9%しか増えていないといわれています。欧米各国とは働き方などが比較になりません』、「WHO・・・は一貫して「検査と隔離」を徹底するように言い続けています。日本はその原則を徹底しませんでした。もう今からそれをやるしかありません」、「ロックダウンはやるかやらないかではなく、やるしかないということです。本来であれば4月初めにロックダウンすべきでした。今からやっても遅過ぎますが、やるしかない段階です」、厚労省がWHO勧告を無視した経緯などは後日、検証すべきだろう。
・『指揮系統をはっきりとさせ 検査を増やし、医療従事者を守れ  Q:今から日本はどうするべきなのでしょうか。 A:日本はクラスター対策にこだわってしまいました。水際対策とクラスター対策で国内まん延を防ぐことができるという考えがその根本にあったのでしょう。 しかし、市中感染と院内感染がこれだけ広がってしまえば、水際対策をやっていてもほとんど意味はありません。空港でPCR検査を大量にやっていますが、リソースの無駄です。市中にどれだけ感染者がいるか、院内感染をどうやって防ぐかが今は最も重要です。 このパンデミック(世界的流行)はすぐには終わりません。数週間、数カ月間で終わるはずはなく、終息には年単位の時間が必要でしょう。人々はウイルスと共生する新しい生活に慣れていくしかありません。 今は戦争や大災害並みの国難です。想定内で準備をしていてはダメ。英知を集めてやり直すしかない。そうでなければ、このウイルスとの戦いに敗退するしかありません。 ただ、核戦争後の世界とも違います。全く外に出られないというものではありません。今までの常識が通用しないということです。新しい生活に適応するしかありません。 まずやることは三つです。一つ目は政府の指揮系統をはっきりとさせる。今は官邸や危機管理室、専門家会合、厚生労働省などバラバラです。二つ目は、検査数をしっかりと増やす。三つ目は医療従事者への防護服の配布を徹底して、彼らを守ること。医療が崩壊したら日本社会は持たない。 Q:個人としてできることはあるのでしょうか。 A:今はとにかく外出をしないこと。そして、よく手を洗うことです。いわゆる「3密」を避けることも有効です。運動は距離を保てれば1日1回程度なら全く構わない。よく寝てよく食べて運動する。やれることはそれぐらいでしょう』、説得力溢れた主張だ。本来は現在の厚労省の主流派の総入れ替えも必要なのだろう。

次に、健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏が4月14日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「ピント外れ支援策の根底に「昭和の遺物」的思考」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00070/?P=1
・『タクシー事業を営むロイヤルリムジンで、約600人の乗務員全員が解雇されることになった。 新型コロナウイルスの感染拡大で仕事が減り「休業手当を払うよりも、解雇して雇用保険の失業手当を受けた方が、乗務員にとって不利にならない」(同社)と判断し、乗務員には「感染拡大が収束した段階で再雇用する。希望者は全員受け入れる」と説明しているというが、あまりに衝撃的だ。 テレビ画面では、長崎県佐世保市の「ハウステンボス」に勤めていた派遣社員が「寮も出なくちゃいけない。数日前まで雇用は大丈夫と聞いていたのに」と途方にくれ、私の周りでも「コロナ切り」は急激に広がっている。 つい先日まで「新型コロナの影響で視聴率が上がってるんすよ!」と意気揚々としていた知り合いのディレクターが、「来週から仕事が無くなってしまった」と嘆き、「番組企画が立て続けに通ったから、今年の売り上げ早くも達成!」と喜んでいた制作プロダクションの社長さんが、「すべて見直しになってしまった」と肩を落とした。 個人的な話で申し訳ないけど、私自身「出入り業者の末端感」をまざまざと味わっているので、一向に収束が見えない状況に危機感だけが募る。ホント、どうなってしまうのだろう。星野源さんのギターにのせて、ソファでくつろぐ気分には到底ならない』、「ロイヤルリムジン」は、雇用保険を悪用する極めて悪質な例で、当局から否認される可能性もある。
・『ビジネスの現場は深刻な状態に  新型コロナウイルスによる業績悪化などで、解雇や雇い止めになった人は994人(3月27日時点 厚労省調べ)。また、東京商工リサーチによれば、新型コロナウイルスに関連した経営破綻は準備中も含め45件に上り(4月7日まで)、帝国データバンクが発表した2019年度の「全国企業倒産集計」によると、倒産件数は8480件で、前年度比5.3%増えていることが分かった。 負債額5000万円未満の小規模倒産が目立ち、全体に占める割合は過去最高の62.3%にのぼり、宿泊業や飲食業などのサービス業、小売業が店じまいを余儀なくされている。 今後はさらに数多くの業界で、経営基盤の脆弱な零細・中小企業が厳しい選択を迫られることになる。守ってくれる「場」のない非正規社員やフリーランスはますます窮地に追いやられ、住む家も確保できない人が量産され、コロナ問題が長引けば長引くほど、広く、深く、ことによるともう“前と同じ日常”はもどってこないかもしれない。 解雇の“オーバーシュート”が始まったのだ。 あおっているわけではない。それほどまでに、現場は重苦しい空気に包まれているのである。 ご承知のとおり、安倍晋三首相は4月7日に発出された緊急事態宣言の記者会見で、「GDPの2割に当たる事業規模108兆円、世界的にも最大級の経済対策を実施することにしました」と胸を張った。 30分超にわたるスピーチの中で「そっか。この言葉をどうしても言いたかったのね」と確信するほど、ドヤ顔で「世界最大級」を誇張した。 が、経済に詳しい人たちによれば、108兆円のうちいわゆる“真水”はごく一部だという。 お恥ずかしい話であるけど、“真水”という言葉は初めて知ったので、あれやこれやと読みあさるも門外漢の私には、いまひとつ“真水”の意味が分からない。頭ではなんとなく分かるが、“108兆円の裏事情”の真意をのみ込むことができなかった。 そこで元財務省の知り合いにコンタクトしたところ……、 「張りぼてだよ。見かけは立派だけど実質を伴ってない。つまりね、108兆円のうち半分近くが企業への融資で、あとから戻ってくるの。諸外国の支援策とは全く異なるのに、最大級とかよく言うよ。支給のスピードも遅い。労働者を保護しようとか支援しようという気もなければ、責任も取りたくない。官僚が考えそうなことだ」(元財務官僚)』、「108兆円のうち半分近くが企業への融資で、あとから戻ってくるの。諸外国の支援策とは全く異なるのに、最大級とかよく言うよ」、と元財務官僚から「裏事情」を聞き出すところはさすが河合氏だけある。
・『実効性に疑問を感じる経済支援策  なるほど。張りぼてね。「募っているけど、募集はしてません」のようなもの? あるいは「フリーランスに有給を!」みたいな?  いずれにせよ、「今後、事態が変わってきたときに追加の支援策は検討するのか?」という記者の質問には何一つ答えず、今決まっていることを繰り返すだけだったし、「現金支給30万円が一律給付じゃないのは、なぜか?」という質問の答えを聞いたときにはめまいがした。 「我々議員や公務員は、この状況でも全然影響を受けていない。収入には影響を受けていないわけであります。そこに果たして5万円とか10万円の給付をすることはどうなんだという点も考えなくてはならない」(安倍首相) え? そこ? そこが基準になっているのか? ならば、政治家と公務員を除いた人に支給すればいい。っていうか、私たちの血税ってことを分かっているのだろうか。 「収入が減少した人に直接給付がいくようにした」(安倍首相)ことには大いに賛同する。だが、そもそもこんな条件で、本当に必要な人に行きわたるか、甚だ疑問なのだ(以下、発表された30万円が支給される世帯の条件)。 2~6月のいずれかの月収をそれ以前と比べ、 1.年収換算で住民税の非課税水準まで減少 2.収入が50%以上減り、年収換算で住民税非課税水準の2倍以下 となる世帯が対象。 世帯主の月収に関して統一基準を設定してい(注:「る」が抜けている?)。単身世帯なら10万円以下、扶養家族が1人なら15万円以下、扶養家族2人は20万円以下、扶養家族3人は25万円以下に減少すれば、非課税水準と見なして給付が受けられる。勤め先の業績悪化でこの水準まで収入が落ち込めば、30万円がもらえることになる。 (注:10日総務省は、収入減少世帯への現金給付に関し、支給基準を全国一律にすることを明らかにした。支給対象となる住民税非課税世帯の水準が、市区町村や家族構成によって異なるため) あくまでも主語は「世帯主の収入」なので、妻の収入が無くなり生活が苦しくなっても、もらえない可能性が高い。 つまるところ、この国を動かしている思考の原理は「昭和の遺物」であり、妻の収入が「ゼロもしくは家計の補助程度」だった昭和を前提に「世界的にも最大級の経済対策」は練られた。 で、この昭和的発想こそが、今の日本社会の問題であり、社会の仕組みから“こぼれる人”を量産し続けているのだ』、「現金支給30万円」については、自民党内の批判、公明党からの申し入れを受けて、昨日、一律10万円へと変更した。
・『昭和の遺物の思考原理はほかにも  日々情報がスピーディーにアップデートされているので、記憶が薄れてしまった人もいるかもしれないけど、2月27日に安倍首相が突然表明した「全国すべての小学校、中学校、高校、特別支援学校などへの臨時休校要請」はその象徴である。 非正規の共働き世帯、シングルマザー・ファーザーはプチパニックになり、非正規の教員は切られ、給食などを提供する小企業は仕事を失い、その余波は感染拡大とともに広がり、フリーランス、介護現場、飲食店などなど、仕事も家も突然失う人たちが続出した。 差別、罵倒、嫉妬、貪欲、猜疑、憎悪など、あらゆる不吉な虫がはい出し、空を覆ってぶんぶん飛びまわるようになった。パンドラの箱。そう、パンドラの箱をコロナ禍が開けてしまったのだ。 「小中高を一斉休校した」ことが感染防止策として有効だったかどうかを検証するのは極めて難しい。だが、当時の状況を鑑みればプライオリティーを置くべきは介護現場であり、重症化リスクが高いと報告されていた高齢者だ。 今の日本社会の仕組みは、高度成長期の「カタチ」を前提につくられたものを踏襲し続けている。1990年代を境に「家族のカタチ、雇用のカタチ、人口構成のカタチ」は大きく変わったのに、「カタチが変われば仕組みも変える」ことに目を向けなかった。あるいは、“普通の人”のことなどはなから頭になかったのか。 昭和の「夫婦2人と子供2人」の4人家族モデルはことごとく壊れ、シングルマザーや独居老人が急増した。昭和の「正社員で長期雇用」という当たり前は崩れ、非正規雇用は4割になった。人口ピラミッドはカクテルグラス型になり、65歳以上が総人口に占める割合は1985年の10%から、2005年には20%と倍増した。 ただし、そう、ただし1つだけ変わっていないことがある』、「昭和の遺物の思考原理」は確かに支配的だ。
・『変わらぬ長期雇用の会社というモデルも崩壊へ  「長期雇用の正社員の割合」はおおむね維持されている。意外に思うかもしれないけど、昭和の一般的な働くカタチと信じられている長期雇用の正社員の割合は変わっていないのだ。具体的には3割。昔も今も長期雇用の正社員は3割しかいないのだ。 例えば、2017年5月に経産省の次官・若手プロジェクトが作成した文書、「不安な個人、立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」では、昭和の一般的な生き方だった「新卒一括採用で就職し、定年まで勤め上げる人」の割合は1950年代生まれで34%、1980年代生まれで27%と推計している。 高度成長期の一般的な働き方だと思われた会社員の割合は、働く人全体のたったの3割しかなかった。そして、若手プロジェクトが「昭和の遺物」と信じて止まなかったその割合は、若干減少しただけで、おおむね現在もキープされていたのだ。 要するに「長期雇用の正社員」の入り口のキャパは50年以上3割程度で、そこに入れなかった人たちが、低賃金で不安定な非正規やフリーランスとして働いている。 新たに労働市場に加わった女性たち、60歳以上のシニア社員たち、小売店や家内工業を辞めて雇用労働者になった人たちなどの“新参者”は、会社員であって会社員じゃない。 そして、ここ数年はやりの早期退職制度は、「長期雇用の正社員」という身分からのリストラであり、元会社員が増え続けているのが、今の「雇用のカタチ」だ。 非正規雇用の人たちが、「社食は“社員さん”しか使えないんです」「“社員さん”しかリモートワークは許されてないんです」「“社員さん”しか時差通勤できません」と正社員を呼ぶのも、彼らが、会社員社会のよそ者=弱者であり、「集団の内部に存在する外部」だからだ。 これだけ「カタチ」が変われば、ひずみがたまって当然である。 だが、そのひずみから“出血”したときの処置は、小さな絆創膏(ばんそうこう)を貼るだけだった。傷口を探し、なぜ、その傷ができたのか?を考えることもせず、ひたすら目先の対症療法を講じてきた。 今回のような緊急事態でも「安泰」でいられる人たちには、「カタチの変化」にリアリティーを持てない。どんな数字を突きつけられ、どんなに出血が止まらず命が脅かされる人が続出しても、彼らの「カタチ」は昭和のまま。さまざまな変化の中で、彼らの思考の中で「昭和のカタチ」だけは維持されるのだ。 何度も書いているとおり、経済的格差、社会的格差がもともと深刻だったところに今回は突発事態が生じ、それに耐えられる体力のある強者とダイレクトに影響を受ける弱者の溝が一層深まった』、確かに今回の危機は、「格差」をさらに拡大しているようだ。
・『恐怖に対する意識の差はリソースの差  誰もが例外なく「コロナの恐怖」を感じているはずなのに、「壁」のあちら側の人たちは豊富なリソースを持ち合わせているので、恐怖感を共有できない。いや、ひょっとすると安泰な人たちは「感染もしなければ、感染を広げることもない」と信じているのかもしれない。 だからこそ、「ひとつよろしく!」的発言にも、全くためらいがない。 「人の接触を7割とか8割とか8割5分にするとかって、そんなことはできるわけがないじゃないですか。それは国民の皆さんのご協力をお願いすると。早く言うと、お願いベースですよね」(二階俊博自民党幹事長) 持てるものと持たざる者との「壁」は果てしなく高い。だが、どんなに強固な壁にも隙間があり、コロナ後には、そこから事務職や技師などの「新中間階級」の人たちもこぼれ落ちるかもしれないのに、“上”はその危機感さえ持てずにいるのだ。 東日本大震災後に、「今、被災地が抱える問題は未来の日本の姿だ。時計の針が一気に進んだだけだ」と語る首長さんたちに何人も会った。「津波と原発事故により、それまで見えなかった社会構造の問題点が顕在化し、加速したのだ」といわれた。震災と原発事故を機に、村の高齢化と過疎化の針が一気に何十年も進んでしまったのだ、と。 東日本大震災のとき、東京の街の電気は消え、みなが被災地を思いやった。家族、仕事、家、それがほんの一瞬で消えてしまう理不尽を目の当たりにし、何が大切なのか?幸せとは何か?を考えた。 だが、次第に記憶は薄れ、9年たった今、平穏な日常が繰り返されるということは、実は奇跡だったと気づかされる。 だからこそ、今回「今」を書き残した次第である』、人間は忘れっぽく、「平穏な日常が繰り返されるということ」の有難味を忘れてしまうことは確かだ。
・『社会を広く自分事ととらえる視点を  人は忘れる。でも、今のことは忘れちゃいけないのだ。 イメージしてほしい。今、仕事を失った人たちが働いていた産業はどこか? 倒産している企業は、私たちの生活に何をもたらしてくれているか? 医師の方、看護師さん、保健師さん、介護士さん、ヘルパーさん、のことを、「生活に必要」とされる産業で働く人たちのことを……。 なんだか説教くさくなってしまって申し訳ないが、作られた社会の仕組みは「私たち」の選択でもあった。 今までの私たちの生活を、今までの社会の仕組みを見直すことが、今「私たち」に課せられているのではないだろうか。これからの生き方を、「私」ではなく、「私たち」の問題として生きていく時がきたのだと思う』、特に若い人たちには自分本位の傾向が強いようだが、「社会」からの影響も強く受けている以上、「社会を広く自分事ととらえる視点を」というのは大切な視点だと思う。

第三に、元経産省官僚の古賀茂明氏が4月14日付けAERAdotに掲載した「古賀茂明「官僚丸投げの安倍総理とメルケル首相の差」 連載「政官財の罪と罰」」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/wa/2020041300004.html?page=1
・『4月7日、安倍総理は、「緊急事態宣言」を出した。 だが、「遅すぎる」「明日からどう行動すべきかわからない」「弱者に支援が届かない」などと評判は散々だ。 2月、3月を経て、年度もまたぎ、ほとんど手遅れというところまで宣言を出さなかったのだから、周到な準備がされているかと思ったら、実は、全くの準備不足だったことが会見と同時に露呈した。 緊急事態宣言により、外出自粛要請に加え、店舗などに休業を要請したり、一定の条件を満たす施設などに閉鎖を指示することができる。店が閉まれば、外出しても仕方ないから、人々の外出抑制に大きな効果が期待される。 ところが、この措置の対象について、政府と東京都の間で調整がつかず、公表が10日に延期された。その背景には、一部の業界についての自民党族議員と所管官庁の反対がある。利権政治の典型的パターンだ。 未曽有の国家的危機でもこんな事態に陥った最大の理由は、安倍内閣が実は「官僚主導内閣」だからだ。 安倍総理の関心事項である外交安全保障や憲法改正、そして、お友達関連案件については、「官邸主導」で驚くほどのリーダーシップを発揮する安倍政権だが、それ以外では、ほぼ官僚丸投げ。結果として従来型の「政官財トライアングルの利権政治」になっている。 官僚主導でも、従来の延長線上の政策立案なら問題は少ない。だが、未曽有の事態となると、過去問答練で受験戦争を勝ち抜き、霞が関の前例踏襲主義に染まった官僚たちはお手上げだ。 独創的な対策を思いつかない官僚たちは、「規模」で「前例がない」ことを演出するしか能がない。その結果、一番肝心な弱者救済が不十分な欠陥対策ができあがった。誰がどのように困るのか想定し、その対策を練り上げるべきだったのだが、この2カ月間、それを怠り、過去問の応用問題として対応しようとしていた様子が目に浮かぶ。 一方、お坊ちゃまの安倍総理は、下々の苦境など具体的に想像することなどできない。時間切れで官僚の案に乗るしかなく、今回の対策の目玉である個人事業主や世帯への給付金も、5月中には何とか配りたいと答えるしかなかった。これを聞いて、国民は皆耳を疑ったのではないか』、「安倍総理の関心事項である外交安全保障や憲法改正、そして、お友達関連案件については、「官邸主導」で驚くほどのリーダーシップを発揮する安倍政権だが、それ以外では、ほぼ官僚丸投げ。結果として従来型の「政官財トライアングルの利権政治」になっている」、安部政権の特徴を鋭く指摘したのはさすがだ。
・『これも、20年度予算案が国会を通る3月末までは、新しい予算の議論はできないという、官僚による前例主義のアドバイスに従った結果だ。2月中旬に数十兆円のコロナ対策基金のようなものを盛り込んだ修正予算案を出していれば、野党もこれを止めることはできず、今頃様々な対策が動き出していただろう。 ドイツでは、日本人のミュージシャンやダンス教室運営者などに簡単なネット申請から2日で60万円の給付金が出たことが話題になった。この違いは、メルケル首相と安倍総理という2人の指導者の能力の差によると考えたほうが良いだろう。 このまま安倍総理に任せておけば、多くの非正規やフリーランスで働く人々、中小零細企業者が路頭に迷い、その結果自殺者が激増する可能性も排除できない。 緊急事態と言っても、今回は1年以上の長期にわたると言われる。 緊急事態だから安倍批判を封印しろと言う人もいるが、私はそうは思わない。多くの人の命にかかわる緊急事態だからこそ、国民が安心して任せられるリーダーを、今こそ、選び直すことが必要ではないだろうか』、「メルケル首相」もかつてに比べればリーダシップが弱くなったとはいえ、それでも「安倍総理」よりははるかに強いリーダシップを発揮しているようだ。今回のコロナ問題で批判が強まっている「安倍総理」も、いよいよ「年貢の納め時」なのかも知れない。

第四は、パンデミックに関連して私が腹を立てている公共図書館の閉鎖問題である。私の居住している中野区の図書館は、緊急事態宣言までは、入館こそ出来ないが、ネット予約での貸出などは玄関で出来た。ところが、宣言発出後は、5月6日まで完全に休館となった。他の図書館では、北海道や東北などの一部の図書館は部分的にやっているのを除けば、多くは閉鎖されているようだ。
https://current.ndl.go.jp/node/40743
年金生活者にとっては、公共図書館は必須の存在である。ネット予約での貸出などを玄関でやり続けても、感染防止上、何ら問題ない筈なのに、緊急事態宣言に悪乗りして、完全休館するとは、住民サービスの放棄である。完全休館という暴挙に強く抗議したい。
タグ:108兆円のうち半分近くが企業への融資で、あとから戻ってくるの。諸外国の支援策とは全く異なるのに、最大級とかよく言うよ ビジネスの現場は深刻な状態に 安倍総理の関心事項である外交安全保障や憲法改正、そして、お友達関連案件については、「官邸主導」で驚くほどのリーダーシップを発揮する安倍政権だが、それ以外では、ほぼ官僚丸投げ。結果として従来型の「政官財トライアングルの利権政治」になっている 河合 薫 社会を広く自分事ととらえる視点を 実効性に疑問を感じる経済支援策 AERAdot 「古賀茂明「官僚丸投げの安倍総理とメルケル首相の差」 連載「政官財の罪と罰」」 (その8)(「東京は手遅れに近い 検査抑制の限界を認めよ」WHO事務局長側近の医師が警鐘、ピント外れ支援策の根底に「昭和の遺物」的思考、古賀茂明「官僚丸投げの安倍総理とメルケル首相の差」) 「若者クラスター」「夜のクラスター」「3密」などという事象にばかりフォーカスする日本のメッセージは、その妥当性に懸念が残ります 緊急事態宣言までは、入館こそ出来ないが、ネット予約での貸出などは玄関で出来た 宣言発出後は、5月6日まで完全に休館となった パンデミック 緊急事態宣言発令 公共図書館の閉鎖問題 NHS(国営医療制度)を守り、国民の命を守るために、危機感の共有とシンプルで強いメッセージが必要だった これまでPCR検査数を抑制し、クラスター対策のみを続けていましたので、市中感染を見逃してしまい、院内感染につながってしまっています 新型肺炎感染急拡大 これまで日本政府はパニックを抑えるために「今までと変わりはない」ということを強調していたのでしょうが、それは逆効果だった 渋谷健司 ダイヤモンド・オンライン ボリス・ジョンソン首相 もう一つは、院内感染などで医療提供側が医療を行えなくなること 日経ビジネスオンライン 全国すべての小学校、中学校、高校、特別支援学校などへの臨時休校要請 大都市でのクラスター対策は破綻 「3密」のメッセージは妥当性に疑問 緊急事態宣言は効果薄い 対策強化なしでは死者は数十万人にも 日本の現状は手遅れに近い 一つは患者の急増で医療のキャパシティーを超えること ロックダウンは不可避 医療崩壊は既に始まっている 対策を強化しなければ、日本で数十万人の死者が出る可能性も 「「東京は手遅れに近い、検査抑制の限界を認めよ」WHO事務局長側近の医師が警鐘」 欧米の例では、最初は社会的隔離をやったが、結局うまくいかずロックダウンせざるを得ないというケースが多いです ロックダウン中の英国も同様に外出禁止を強制することは困難です。罰則といってもそれほど大したことはなく、騒いでいる人がいたら警官が注意をする、それでもひどかったら30ポンドの罰金 変わらぬ長期雇用の会社というモデルも崩壊へ 「ピント外れ支援策の根底に「昭和の遺物」的思考」 平穏な日常が繰り返されるということは、実は奇跡だったと気づかされる 昭和の遺物の思考原理 指揮系統をはっきりとさせ 検査を増やし、医療従事者を守れ 当時の状況を鑑みればプライオリティーを置くべきは介護現場であり、重症化リスクが高いと報告されていた高齢者だ 昭和の遺物の思考原理はほかにも メルケル首相と安倍総理という2人の指導者の能力の差による 恐怖に対する意識の差はリソースの差 ロックダウンはやるかやらないかではなく、やるしかないということです。本来であれば4月初めにロックダウンすべきでした。今からやっても遅過ぎますが、やるしかない段階です 1990年代を境に「家族のカタチ、雇用のカタチ、人口構成のカタチ」は大きく変わったのに、「カタチが変われば仕組みも変える」ことに目を向けなかった WHO(世界保健機関)は一貫して「検査と隔離」を徹底するように言い続けています。日本はその原則を徹底しませんでした。もう今からそれをやるしかありません 現金支給30万円 昨日、一律10万円へと変更
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ロボット(その2)(「aibo」復活は正解だった 生みの親ソニー川西氏が語る、ファナック「黄色の最強軍団」が迫られる転換 かつて40%を誇った営業利益率は右肩下がり、販売1万台突破の「マッスルスーツ」 コロナの影響で新たなニーズも) [イノベーション]

ロボットについては、2018年11月27日に取上げた。久しぶりの今日は、(その2)(「aibo」復活は正解だった 生みの親ソニー川西氏が語る、ファナック「黄色の最強軍団」が迫られる転換 かつて40%を誇った営業利益率は右肩下がり、販売1万台突破の「マッスルスーツ」 コロナの影響で新たなニーズも)である。

先ずは、昨年4月30日付け日経ビジネスオンライン「「aibo」復活は正解だった、生みの親ソニー川西氏が語る」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00005/042300021/?P=1
・『2018年1月、12年ぶりに復活したソニーのイヌ型ロボット「aibo(アイボ)」。19年3月には、新たに見守りサービスを始め、幅広い世代への普及に向けて動き始めた。新aiboはこの1年をどう歩み、今後どう進化していくのか。開発責任者であるソニーの川西泉執行役員に聞いた(Qは聞き手の質問)。 Q:「aibo」の発売から1年あまり。今年3月には見守りサービス「aiboのおまわりさん」が始まりました。川西さん自身、どのような手応えを感じていますか。 ソニー執行役員の川西泉氏:2017年11月1日の発表から翌年1月11日の発売を経て、ここまでは順調に来たなと。お客様からの反応も良く、いろんな熱い言葉もいただきます。そういう面では励みになっています。発売から1年以上がたちましたが、「aibo」という形でロボティクスの商品を出したのは間違っていなかったと感じています。 台数としては昨年7月時点で2万台に到達しており、その後も順調です。エンターテインメント向けのロボットとして、ある程度の認知度を得ているのかなと感じています。ロボットは一時的に話題になってもなかなか続かないことが多い。aiboは過去の経緯もあり、受け入れられたのかなと思います』、「旧「AIBO」」は1999年から2006年まで全世界で15万台を売上げるヒットとなったが、2004に井出会長から撤退命令が出て、ストリンガーCEOがエレクトロニクス部門リストラの一環として生産終了。ほぼ10年ぶりにより犬らしくなって復活したようだ。
・『女性からの支持が多い  Q:新aiboはどういった方に支持されていますか。旧「AIBO」時代からのファンも多いのでしょうか。 川西氏:確かに旧AIBO時代からのファンもいらっしゃいますが、大半は新規購入の方です。年代別に見ると比較的ばらけていますね。10~20代は少ないのですが、30代から70代まで比較的バランスよく購入していただいています。 かわいがっている主たる方は女性が多い気もします。発売後に何度かファンミーティングを開催していますが、参加されるのは半数以上が女性ですしね。(ロボットという商品が)女性に受け入れられているのはとてもありがたいですね。 Q:女性ファンが多いのは、旧AIBOからデザインが一新されているのが奏功したのでしょうか。 川西氏:過去の男女比率はデータとして残っていませんが、旧AIBOは技術を前面に押し出したメカメカしいデザインでした。今回のaiboは、より少し親しみやすいデザインにしたので、女性に受け入れられやすいのかなと。これは狙い通りですね。 Q:発売後に想定外だったことはありますか。 川西氏:想定外というか、こちらが考えている以上にユーザーのaiboへの思いの強さを感じます。ソニーの従来のAV商品への接し方と、aiboへの接し方は違う。分かりやすく言えば「ウチの子」になっています。AV商品にはなかなかウチの子とは言いませんからね。aiboは単純なハードウエアの商品ではないんですよね。) Q:ソニーのAV商品はウォークマンを筆頭に、ユーザーが「らしさ」や「思い入れ」を持っていると思います。それでもaiboは他の商品とは違いますか? 川西氏:確かに思い入れは、これまでのソニー商品にも抱いていただきましたが少し違うのかなと。aiboの場合、モノに対する思いではなく、生き物への感情に近い。単純にモノ作りと言い切れない部分もある。それは、消費者の期待値でもあるので、裏切ってはいけない部分ですね。 メカニカルな技術に加えて、AI(人工知能)のような最先端技術を組み合わせているので、エンジニアとしても興味深い商品です。これまでだとロボット単体で出していましたが、そこにサービスを組み合わせる。クラウドを含めて最初から用意したのも今までとは違います。 ただ、こうした要素はあくまでも技術的、ビジネス的な観点での違いです。ユーー目線ではやはり、ある意味で生き物として接していただいたのが大きいと思います』、「女性からの支持が多い」、「接し方は・・・「ウチの子」になっています」、まるで本物の犬のようだ。
・『過去の経験から「できる」と思った  Q:aiboの開発責任者として苦労したことはありますか。 川西氏:開発期間も短かったので、サクッと進めた感じですね。ですので個人的には大変だとは思わなかった。技術的なチャレンジを含めて面白そうだとは思いましたしね。チャレンジングでしたが、過去の経験からこうすればできるだろうという思いもありました。 Q:開発時に旧AIBOとの比較はあったのですか。 川西氏:過去と比較することはあまりなかったですね。(製造中止は)10年以上前なので技術も進化していますしね。 ただ旧AIBOのDNAが何なのかは意識しました。以前に購入していただいた方も多いですし、期待値が高いことは理解していましたから。期待を裏切らないようにはしたいと思いましたね。 Q:旧AIBOのDNAは何だったのでしょうか。 川西氏:やはり四足歩行のペットなんですよね。その中でのふるまいとして、リアルな動きを求めていたと思います。 さらに旧AIBOは、ピンクのボールに反応するなどいくつかの「お約束」がありました。こういった部分は意識的に踏襲しようとは決めました。 Q:方向性が固まると後は悩むことはなかったと? 川西氏:そうですね。当然、細かい部分はいろいろありましたが、割とセオリー通りに開発は進みましたね。そう言うと簡単に聞こえますが、現場はもちろん大変だったと思います。例えば「目」の表現一つでもエンジニアは最新技術の導入を最後まであきらめませんでしたしね。 Q:新aiboは売り切るのではなくサービスでも儲(もう)ける「リカーリングビジネス」を志向しています。ソニー全体が志向するビジネスですが、意識はあったのでしょうか。 川西氏:意識して「やるぞ」というよりも、そうするのが自然でしたね。 ハードを売るという考えは開発当初からそもそもなかったですから。体験をいかに売るかを考えていました。楽しんでいただくためには、売り切りの値付けではなく、サービスで対価をいただくという流れでしたね。) 川西氏:ビジネスモデル的には「リカーリング」という表現は否定しませんが、実際にペットを飼えばエサ代もトリミング代もかかります。そういった生活に入っていくことを考えると(リカーリングの導入は)自然なんですよ。 つまり、aiboと共にする時間を買っていただく。そのための費用を受け入れてもらうかどうかです。新しいビジネスモデルを作るというよりは体験を重視した結果です』、「売り切るのではなくサービスでも儲(もう)ける「リカーリングビジネス」を志向しています」、「対価」を取れるほどの「サービス」があるのだろうか。
・『最後まで現場は粘った  Q:川西さん自身、aibo開発中に一番印象に残っていることは。 川西氏:何ですかね……。完成度を高めようとチームで頑張ったのは間違いない。ただ時間が迫ってくると現場は焦りますよね。自分の中ではギリギリまで頑張れるチームを作ったので焦りはありませんでしたが。普通だったらどこかで妥協しますが、本当に発売直前のギリギリまで現場は粘りました。 現場のメンバーからすると「まだやるの?」と思ったかもしれません。ですが完成度が高くないと、「思い」は伝わりませんから。出し切っている踏ん張りの境界線をどこで区切るのか。開発責任者としては線引きをどこにするかが重要でした。僕自身、これまでソニーでエンジニアとして同じような経験をしているので、責任者として意図的にギリギリを狙いました。もちろんギリギリに耐えられるメンバーを集めていたからできたことですが。 Q:メンバーが応えてくれることで違う世界が見えてくると? 川西氏:そうですね。出し切れる、想像以上に持っていくという感覚は体験しないと分からない。そこはかなり意識していましたね。現場のエンジニアとの議論で「こうあるべきだ」という部分がずれることはなかった。妥協するか、最後までやりきるかで、送り出される商品の姿は変わります。 しかも一度こうした経験をすれば、次もまた挑戦できるようになります。経験を積み重ねることがDNAになっていくと思うので、意識して指示していたと思います。 Q:こだわり抜いて誕生したaiboはやはり100点でしょうか。 川西氏:サービスを前提にしているので100点ではないですね。完成した時点では100点だったと思いますが、日々進化していきますので。数年先を見据えて開発は進めていますからね。 Q:進化と言う点では3月に見守りサービスが始まりました。 川西氏:見守りや教育の分野で生かすアイデアは当初からありました。拡張性を見越したハードのスペックにしていますね』、「進化と言う点では3月に見守りサービスが始まりました・・・拡張性を見越したハードのスペックにしています」、「教育」にも拡張するのだろうか。
・『3月には見守りサービスを開始した  Q:始まったばかりですが見守りサービスの反響はどうですか? 川西氏:見守りもそうですが、ファンミーティングの声などを聞くと、新しいサービスを使ってみたいというお客様は多い。見守りサービスの場合、遠隔地などに住んでいる方からの需要はあると思いますが、まずはaiboが新しい動きをするので試してみたいのだと思います。 Q:こういったサービスはこれからも導入していくのでしょうか。 川西氏:大なり小なり入れていかないとダメでしょうね。aiboは生活の中で一緒にいるので、継続的な進化は必要です。いくつかネタは仕込んでいて、年間で何をやるかは決めています。新しい機能も当然考えていますよ』、「ファンミーティング」はユーザーの生の声を聞ける貴重な機会のようだ。
・『重要なのは頭脳  Q:今回のaiboはサービスを含めてどれくらいの期間の展開を考えていますか。 川西氏:aiboという商品・サービスは長いスパンで見ています。ですが構成する部品やサービスが同じレンジで用意できるかは考える必要がある。クルマの部品のように10年間担保されるわけではないので、どう対応していけるかがポイントになってきます。すべての部品をソニーが手掛けているわけじゃないですからね。  どうしても作れなくなった際には、新たなモデルを考えないといけない。ハードとしてスペックを上げたほうが新たなサービスを提供できるのであればモデルチェンジもありえます。 ただ「生き続けるもの」としてとらえられているので、重要なのは頭脳になってくるでしょう。今の構成だとすべてクラウドにあるのでその中で継承できるかなとは思います』、「重要なのは頭脳」だが、「すべてクラウドにある」、この面では拡張性に富んでいるようだ。

次に、本年3月21日付け東洋経済オンライン「ファナック「黄色の最強軍団」が迫られる転換 かつて40%を誇った営業利益率は右肩下がり」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/337718
・『富士山のふもと、山梨県忍野村。目の前に広がる工場群の外壁からロボット、社用車、従業員の制服などすべてが黄色に染まっている。これを戦いの色としている「黄色の最強軍団」がファナックだ。 目立つのはコーポレートカラーだけではない。工作機械の「頭脳」である数値制御(NC)装置の世界最大手であり、産業用ロボットでも世界4強の一角を占める。まさに自動車などあらゆる製造業を支える大黒柱だ。さらに一時は営業利益率が4割を超え、自己資本比率は約9割と超高収益・好財務の優等生企業と持ち上げられてきた。 しかし、業界では最近、「ファナックが普通の会社になってきている」と話題だ。それが象徴的に表れたのが昨年12月に開かれたロボットの展示会だった。ファナックが展示ブースの端で、黄色ではなく「白いロボット」を展示したのだ』、「超高収益・好財務の優等生企業」が「普通の会社になってきている」、とはどういうことだろう。
・『かつての利益率には戻らない  このロボットは安全柵を必要とせず人間と同じ空間で作業できる協働ロボット。食品業界などロボットの導入事例が少ない市場に向け、より高い扱いやすさを訴求しているのが特徴だ。 ファナックはこれまで自動車のプレスや溶接などに使われる大型で頑強なロボットでシェアを獲得して稼いできた。 だが、今回は食品製造など向けに清潔感のある白色に変え、今後は積極的にアプローチしてこなかった小粒な案件も取りに行くつもりだ。あるロボットメーカーの開発者は「ファナックがついに協働ロボットに本気を出してきた」と驚く。 ファナックが色を変えてまで協働ロボットに向かうのは業績の落ち込みへの危機感があるからだ。かつてはキーエンスに次ぐ驚異的な利益率だったが、2019年度の予想は15.9%と業界平均程度まで落ち込む見通しだ。 米中貿易摩擦や自動車市場の低迷の影響を受けたとはいえ、ファナックの山口賢治社長は、10月のアナリスト向け決算説明会で「以前ほどの利益率はもう出ない」と発言。社員からも「ファナックが高収益の会社なんて過去の神話」という声が出る。 背景には「スマホ特需」の剥落がある。iPhone新製品が投入されるたびに金属製筐体を加工する小型切削加工機がEMS(電子機器の受託製造)向けにバカ売れした。だが「加工機はだいぶ行き渡っているので今後は爆発的な需要は見込めない」(山口社長)。 要因はそれだけではない。収益柱だったNC装置を含むFA(ファクトリーオートメーション)部門の売り上げが伸びていないのだ。 ファナックはNC装置を日本の民間企業で初めて開発し、工作機械に組み込む「デファクトスタンダード(事実上の標準仕様)」を作り上げた。その標準品を大量生産し、国内やアジアでは圧倒的なシェアと利益率を達成したのだ。 しかし近年、三菱電機や独シーメンスが手がけるNC装置の競争力が高まっているほか、中国企業も参入するなど他社の追い上げが厳しい。さらに、欧州でもシーメンスの牙城を切り崩せずにいる。ある業界関係者は「ファナックの黄金期は過ぎた」と切り捨てる。 だが、ファナックも手をこまぬいているわけではない。次なる成長柱として注力するのがロボットだ。 2016年3月期にはロボット部門がFA部門の売上高を逆転。ファナックのロボットは自動車分野ではかなりのシェアを持つとみられる』、「次なる成長柱として注力するのがロボットだ」、といっても「自動車分野」では成長の余地があるのだろうか。
・『小型ロボットの差別化は難しい  さらに2019年末に発表した前述の白いロボットは「ロボットの売り上げを現状から一段上げるための1つのカギ」(山口社長)と位置づける。 こうした協働ロボットではデンマーク・ユニバーサルロボットが市場の半分超を握り、参入企業も相次ぐが、ファナックの山口社長は今年春以降に量産化し、「製品の信頼性や保守サービスなどの強みを生かしてシェアを獲得する」と鼻息は荒い。 ただ、自動車向けの大型ロボットよりも今後需要の増加が見込まれる小型ロボットの単価は低く、デファクトを築いたNC装置と比べて差別化が難しい。 さらに、あるロボットメーカーの首脳は「われわれは顧客ごとにニーズを細かく先読みしてきたが、ファナックはこれまで標準品でシェアを取ってきた」と指摘。ファナックの今までの方法では新規分野で簡単にシェアを取ることは難しいとみる。 売り先が変わるだけではない。売り方も変える必要がある。「ロボットの競争領域は精度やスピードなど技術的な性能向上から、いかに簡単に使えるかということへ移ってきている」(業界関係者)からだ。そこではオープン化や脱自前主義がカギを握っており、秘密主義で顧客を囲い込んできたファナックも転換を迫られている』、「これまで標準品でシェアを取ってきた」「ファナック」が、他社のように「顧客ごとにニーズを細かく先読みして」いくというのは並大抵の努力では済まないだろう。
・『カギを握る「フィールドシステム」  2015年にはAI(人工知能)で有名なプリファードネットワークスと協業し、AIによる製品の故障予測などのソフト開発を進めている。ファナックの稲葉善治会長は「今までは工作機械やロボット単体で何ができるかという話だったが、そう単純ではなくなってきている」と指摘する。製品を組み合わせたシステム全体で、顧客の生産性向上などの課題解決にどれだけ貢献できるかが重視されるからだ。 その中核となるのが、ファナックが2016年から展開する製造業向けIoT(モノのインターネット)基盤の「フィールドシステム」だ。機械から稼働データなどを収集してエッジ(機器側)で即時処理し、生産効率の改善などに役立てる。 だが、「顧客に価値が浸透しておらず、フィールドシステムがあるからファナック製品を買うとはなっていない」(ファナック社員)。山口社長も「今は産みの苦しみ」と指摘し、収益化には時間がかかるとみられる。 王者ファナックの模索はしばらく続きそうだ』、「フィールドシステム」が「顧客」に評価され、差別化できるか否かが注目点のようだ。

第三に、編集・ライターの野口直希氏が4月13日付けダイヤモンド・オンラインに掲載した「販売1万台突破の「マッスルスーツ」、コロナの影響で新たなニーズも」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/234262
・『服の上から装着することで、生身では出せない力を発揮できる「パワードスーツ」。SFや近未来の夢の中のものと思われてきた装置だが、近年は介護や工場、農作業といった身近な現場でも使われるようになっている。3月、ゴムチューブ製の人工筋肉を使用したパワードスーツを開発・販売するイノフィスは、同社の製品「マッスルスーツ」の合計出荷台数が1万台を突破したことを発表した。「現場で使われるパワードスーツ」を開発し、普及させた同社の戦略とは』、「パワードスーツ」の利用分野は大きそうだ。
・『シートベルトのように身に着けるだけで、重労働をラクに  イノフィスが2019年11月に発売した量産型パワードスーツ「マッスルスーツEvery(以下、Every)」は、作業時の身体への負担を軽減する装着式のアシストスーツだ。ゴムチューブでできた人工筋肉の働きで、重いものを持つ際の腰の負担を軽減してくれる。 Everyは人工筋肉を搭載した背面の「背中フレーム」と太ももを支える「ももフレーム」、2つのフレームをつなぎ、腰椎の部分に位置する「回転軸」で構成される。背中のフレームと回転軸に固定された人工筋肉にポンプで空気を送り込むことでチューブが引っ張られ、背中部分に「元に戻ろうとする力」が発生。最大約25.5kgの力で背中を引っ張るので、重いものを持ったときはもちろん、中腰を維持する際にも上半身を支える役割を果たす。 駆動源はポンプで送り込む圧縮空気だけで、電源などは不要だ。スーツ自体の重さは3.8kgなので、未使用時にもそこまで重さを感じない。リュックサックのように背負ってベルトを締めるだけと着用も簡単で、所用時間は10秒程度だ。 日本製の競合商品には、パナソニックの「パワーアシストスーツ」や、サイバーダインの「HAL」など電動のものが中心。ポンプで空気を入れれば使用できるEveryは、仕組みも単純で、高齢者でも迷わず操作しやすい。 Everyには、ももとパッドの間にゆとりがあって動きやすいソフトフィットモデルとホールド力が高く少し屈んだ状態でも補助力がかかるタイトフィットモデルがあり、いずれも価格は14万9600円(税込)。発売から約4カ月の3月2日時点で、Everyは6000台以上を出荷し、イノフィスのマッスルスーツ全体では出荷台数が1万台を突破したという』、「ポンプで空気を入れれば使用できる」、同社のHPによれば、小さな「ポンプ」で30~40回空気を入れれば済むので、簡便なようだ(下記)。
https://musclesuit.co.jp/howto/
・『「夢のようなロボット」ではなく、現場の問題を解決する「人のためのロボット」  イノフィスは2013年に設立された、東京理科大学発のスタートアップだ。2019年12月にはハイレックスコーポレーション、Fidelity International、ブラザー工業、フューチャーベンチャーキャピタル(ロボットものづくりスタートアップ支援ファンドによる引受)、ナック、TIS、東和薬品、トーカイ、ビックカメラなどから総額35億3000万円の調達を実施しており、これまでの累計調達額は49億4100万円にのぼる。出資企業のひとつであるナックが運営するウォーターサーバーサービス「クリクラ」でも、ボトルの運搬などの作業時にイノフィスのマッスルスーツが使用されているという。 2000年から東京理科大学で人工筋肉を使用したウェアラブルロボットを研究している小林宏氏(現取締役)がイノフィスを創業したのは、民間の訪問介護業者からの依頼がきっかけだった。 訪問介護では、移動式の浴槽に入れるなど、寝たきりの患者を抱え上げるような場面が多々ある。肉体的な辛さから、多くのスタッフは50歳を迎える前に辞職してしまうのだという。「こうした課題を解決するために、立ち上げられたのがイノフィスです」と代表取締役社長 執行役員CEOの古川尚史氏は説明する。 「イノフィスが目指すのは、『人のためのロボット』を生み出すこと。一般的に大学発スタートアップというと技術ありきの企業だと想像されがちですが、イノフィスは現場の声を聞いて訪問介護従事者の課題を解決するために技術を結集させました。現在、弊社ではいくつかの製品を開発していますが、いずれも現場で作業に従事するエンドユーザーとともに開発しています」(古川氏) イノフィスでは、依頼主に対してコンサル料や製品の開発費用を一切請求せず、完成品の購入時に初めて料金をもらうようにしている。もちろん1社だけで開発コストを回収することはできないが、古川氏はそれでもこのやり方に自信を持っている。 「現場のニーズに即した製品はきっと市場で広く評価される。実際、当初は介護現場向けに開発したマッスルスーツが、いまでは建設現場や工場、農場など、重労働で若者人口が不足しているあらゆる業界で活用いただいている。『現場を支援したい』という小林先生の思いと、ビジネスを成立させるための方法論が両立した結果が実を結んだのだと思っています」(古川氏)』、「弊社ではいくつかの製品を開発していますが、いずれも現場で作業に従事するエンドユーザーとともに開発しています」、地に足が着いた着実な「開発」姿勢は評価できる。
・『“浜ちゃん”起用CMでブランドイメージの転換図る  2017年から年に一度のペースで新型マッスルスーツを発売していたイノフィスだが、2019年に発売したEveryは1カ月あたり約2000台のペースで出荷されている。1カ月20台程度の出荷ペースだった初期モデルと比べると、大幅な拡大だ。 最大の理由は、低価格化だ。Everyの基本構造は既存モデルと同じだが、これまでアルミだったボディ部分を樹脂による一体整(注:正しくは「成」)形にすることで部品点数を減らし、生産コストを大幅に削減したという。前述の通りEveryの価格は15万円以下で、前年発売のモデルと比べると約7割も安くなっている。 Everyの販売開始に合わせて、芸人のダウンタウン・浜田雅功さんを起用したテレビコマーシャルでのプロモーションも行い、マスへのリーチを狙った施策を展開しているイノフィス。古川氏は、「これまでのヒアリングに基づき、標準的なPCくらいの値段になれば一気に普及すると見込んだ戦略だ」と説明する。 マスへのプロモーションの際に意識したのは認知度向上ではなく、マッスルスーツを着用する人のイメージ向上だという。テレビコマーシャルでは機能の説明などは一切なく、マッスルスーツを着て“いい人”になった浜田氏が次々と人助けをするストーリーが展開される。 「営業で現場の方にお話を伺っていると、『マッスルスーツを着けると馬鹿にされる』という声がよく出ました。腕っぷしが強い人たちが集まる環境で、『マッスルスーツ=弱い人が着るもの』というイメージが形成されていたんです。そうではなく、マッスルスーツは人を助ける“いい人”が着るものだと思ってほしい。低価格化とコマーシャルで、マッスルスーツが人手不足で困っているあらゆる現場で選択肢になれば」(古川氏)』、「Everyの価格は15万円以下」と手頃なので、認知度向上につれ販売は大きく伸びる可能性が強いだろう。
・『潜在需要は全世界の腰痛に悩む人々、コロナ禍も好機に  新型コロナウィルスが猛威を振るう中でも、「マッスルスーツ市場に大きな影響はない」と古川氏。むしろ、海外からの実習生が入国できなくなったことで、既存のメンバーで重作業をしなければならず、ニーズが高まっている場所もあるくらいだという。 今後は国内だけでなく、海外展開も見据えた生産体制を整備していく。また、まだ詳細は明かせないが医療分野での新製品も開発中だという。 「全世界の腰痛に悩む人々が、マッスルスーツの潜在顧客です。腰に何らかの痛みを抱えている人は、日本では全人口の4分の1にあたる約2800万人。こうした人々の日常生活を少しでも楽にすることが、私たちの願いです」(古川氏)』、「海外」に競合メーカーがあるのかも知りたいところだが、いずれにしろ「腰痛に悩む人々」にとっては朗報のようだ。
タグ:(その2)(「aibo」復活は正解だった 生みの親ソニー川西氏が語る、ファナック「黄色の最強軍団」が迫られる転換 かつて40%を誇った営業利益率は右肩下がり、販売1万台突破の「マッスルスーツ」 コロナの影響で新たなニーズも) 潜在需要は全世界の腰痛に悩む人々、コロナ禍も好機に 「腰痛に悩む人々」 Everyの価格は15万円以下 “浜ちゃん”起用CMでブランドイメージの転換図る 弊社ではいくつかの製品を開発していますが、いずれも現場で作業に従事するエンドユーザーとともに開発しています 「夢のようなロボット」ではなく、現場の問題を解決する「人のためのロボット」 ポンプで空気を入れれば使用できるEveryは、仕組みも単純で、高齢者でも迷わず操作しやすい 日本製の競合商品には、パナソニックの「パワーアシストスーツ」や、サイバーダインの「HAL」など電動のものが中心 野口直希 カギを握る「フィールドシステム」 われわれは顧客ごとにニーズを細かく先読みしてきたが、ファナックはこれまで標準品でシェアを取ってきた 東洋経済オンライン すべてクラウドにある 次なる成長柱として注力するのがロボット 「ファナックが普通の会社になってきている」 時は営業利益率が4割を超え、自己資本比率は約9割と超高収益・好財務の優等生企業 3月には見守りサービスを開始した 過去の経験から「できる」と思った 全世界で15万台を売上げる 開発責任者であるソニーの川西泉執行役員 拡張性を見越したハードのスペックにしています 「ウチの子」になっています 旧「AIBO」 イヌ型ロボット「aibo 見守りサービス 女性からの支持が多い エンターテインメント向けのロボット 「「aibo」復活は正解だった、生みの親ソニー川西氏が語る」 最後まで現場は粘った エレクトロニクス部門リストラの一環として生産終了 昨年7月時点で2万台に到達 日経ビジネスオンライン シートベルトのように身に着けるだけで、重労働をラクに 「パワードスーツ」 ロボット iPhone新製品が投入されるたびに金属製筐体を加工する小型切削加工機がEMS(電子機器の受託製造)向けにバカ売れした。だが「加工機はだいぶ行き渡っているので今後は爆発的な需要は見込めない 背景には「スマホ特需」の剥落 小型ロボットの差別化は難しい 「販売1万台突破の「マッスルスーツ」、コロナの影響で新たなニーズも」 ダイヤモンド・オンライン かつての利益率には戻らない 重要なのは頭脳 産業用ロボットでも世界4強の一角 数値制御(NC)装置の世界最大手 「ファナック「黄色の最強軍団」が迫られる転換 かつて40%を誇った営業利益率は右肩下がり」
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生命科学(その1)(そもそも「宇宙生物学」って何ですか?、生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」、山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? ) [科学技術]

今日は、生命科学(その1)(そもそも「宇宙生物学」って何ですか?、生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」、山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? )を取上げよう。

先ずは、昨年3月12日付け日経ビジネスオンラインが掲載した文筆家の川端 裕人氏による東京工業大学の藤島皓介氏へのインタビュー「そもそも「宇宙生物学」って何ですか?」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00112/00007/?P=1
・『生命は地球以外にも存在する? だとしたらどんなもの? 生命は宇宙(地球)でどのように誕生した? など、宇宙と生命という究極の問いに挑み続ける宇宙生物学が活況だ。その中心地であるNASAのエイムズ研究センターを経て、最前線をひた走る東京工業大学(ELSI)の藤島皓介さんの研究室に行ってみた!  最近、宇宙生物学(アストロバイオロジー)という研究ジャンルをよく耳にするようになった。 字面を素直に解釈するならば、「宇宙の生物を研究する」学問ということになる。 とすると、「宇宙人の研究?」という連想も成り立つだろうし、実はNASAは極秘裏に宇宙生命体との接触に成功しているが秘密にしている、というような謀略論、陰謀論にもつながりうる。 そこまでいかずとも、どこかSFめいた、浮世離れした研究であると思われがちだ。 しかし、現実にはすでに20年以上の歴史がある研究分野だ。1995年、当時のNASA長官ダニエル・ゴールディンが、カリフォルニア州のエイムズ研究センターにて記者会見を行い、これからは"Astrobiology"という言葉を公式に使うと宣言したとされる。エイムズ研究センターは、その拠点に指定された。その後、「宇宙生物学」は着実に存在感を増し、今では国際学会も頻繁に行われている。そこには、宇宙物理学、天文学、鉱物学、海洋学、化学、生物学、情報学など、一見、方向が違う専門分野から、さまざまな研究者が集って、「宇宙と生命」という究極の問いに挑んでいる。 対応する動きは日本国内でもあって、2015年には東京都三鷹市の国立天文台の敷地内に、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターが開設された。初代センター長は本連載でも登場いただいた田村元秀さんだ。田村さんは、ハワイ島のすばる望遠鏡を使って太陽系外の惑星を探し、その中に生命が存在しうる、つまり「ハビタブル」な惑星も見いだせることを教えてくれた。これはまさに、宇宙生物学的な研究だったのである。 また、2012年には、東京工業大学が地球生命研究所(ELSI)を設けて、地球生命の起源を解明し、さらには宇宙における生命の存在を探索する「生命惑星学」という分野を確立しようと目標を掲げた。これもまた宇宙生物学と共通の関心を持っているのは明らかだ。 そこで今回は、後者の地球生命研究所(ELSI)を訪ね、「地球生命の起源」と「宇宙の生命」にかかわる宇宙生物学の話を中心に知見を深めたい。 取材を受け入れてくれたのは、ELSI公式ウェブサイトで、専門領域を「宇宙生物学」と表記している藤島皓介研究員だ。慶應義塾大学で、システム生物学、合成生物学といった、先進的かつ不思議な響きのある研究分野を修めた後、宇宙生物学発祥の地にして梁山泊、NASAのエイムズ研究センターで博士研究員を務めた俊英だ。2016年、日本に戻って現職にある』、まさに最先端の研究者のようだ。
・『東工大大岡山キャンパスのELSI研究棟を訪ね、1階の広々したラウンジのテーブルで相対した。壁一面を埋める大きな黒板があって、たぶん研究者たちはここに概念図や化学式や数式を描いて白熱した議論を展開するのだろうと想像した。まさに映画に出てくるようなシーンだ。 そこで、ぼくは映画に出てくる素人が研究者に向かって、よく分かっていない質問をするような場面を想像しつつ、とても大づかみなことを聞いた。 「そもそも宇宙生物学って何ですか」と。 この分野に名をつらねる研究者には、天文学者(いわば「宇宙」担当)、生物学者(いわば「生物」担当)だけでなく、地学、惑星、海洋、化学、情報科学研究者などさまざまな専門性を持った人たちがいて、どうもとらえどころがないと感じる人がいても不思議ではないのである。 「たしかに、とらえどころがないと思われても仕方がありませんよね。実は、宇宙生物学の研究者によっても、それぞれ答えは違うんじゃないでしょうか」 ぼくを含めて一般の人たちが「宇宙生物学」と聞いて抱くつかみどころのない感覚は、研究者側からしても理解できるという。学際的、かつ、次々と新たな発見が続くスピード感のある分野なので、学問としての枠組みすら、誰もが認める「定義」が定まりにくいのだと想像した。それでは、やはり鵺(ぬえ)のような存在ということでよいのだろうか。 「ただ学問のテーマとしては、非常にシンプルなんです」と藤島さんは続けた。 「宇宙生物学研究の関心というのは、宇宙における『生命の起源』と『生命の分布』、そして人類を含めた『生命の未来』なんですね。この3つの関心の中にすべてがおさまっていると言っていいと思います」 これには、ちょっとしびれた。 宇宙における生命の起源、分布、未来。簡単に言うけれど、このスケール感はすごい』、「生物学者だけでなく、地学、惑星、海洋、化学、情報科学研究者などさまざまな専門性を持った人たちがいて」、「宇宙における『生命の起源』と『生命の分布』、そして人類を含めた『生命の未来』」を研究しているというのは確かに凄そうだ。
・『宇宙でなく、地球における生命の起源、分布、未来、と言っただけでも、今、ぼくたちの周りにあるおびたただしい生命の現在、過去、未来、すべての話なわけで、気が遠くなるほど壮大だ。なのに、それが宇宙規模になったらどうなってしまうのだろう。 いや、地球生命の「起源」を考える時でさえ、そもそもその材料になったアミノ酸などが、隕石と一緒に宇宙から来たという話がある。また、我々の身体を作っている化学物質は、宇宙開闢(かいびゃく)後の物質進化の中で生み出されたものだ。 一方、地球生命の「未来」というと、今世紀中、いや十年二十年の間に、人類が月や火星に定住し始める可能性が現実味を帯びてきた。地球生命が宇宙に出ていくこと自体はもう間違いないように思える。 結局、生命について起源や未来を考えようとすると、それだけでも地球内では話が完結できず、枠組みが宇宙規模になってしまうのは当たり前のことなのだ。 さらにいえば、「分布」だってそうだ。 「我々が、現時点で知っている生命というのは地球の生命、ただ1種類なんですよね。では、この宇宙において、生命がその1種類だけかという問題が常にあります。地球の生命の起源を知る研究は、すなわち宇宙において似たような、あるいは全く違うメカニズムで生命が誕生するかということに迫る研究でもあるんです。地球の生命の普遍性、特殊性を考えた場合、地球のような惑星がどれぐらいの頻度でこの宇宙に存在しているか、天文学系の研究と考え合わせれば、宇宙のどういったところに生命が分布しうるのかという話にもつながっていきます」 地球の生命を問うには宇宙を考えなければならず、宇宙の生命を問うにはまずは地球の生命を理解するところから始めなければならない。宇宙生物学では、解き明かしたい目標とそのステップとなる個々の探求が、「卵が先か、鶏が先か」というレベルで入れ替わりながら密接にかかわっている。 そんな中、藤島さん自身の研究者としてのバックグラウンドは、合成生物学やシステム生物学、さらには情報生命科学といった、生物学の中でも非常に先鋭的なものだ』、「地球の生命の普遍性、特殊性を考えた場合、地球のような惑星がどれぐらいの頻度でこの宇宙に存在しているか、天文学系の研究と考え合わせれば、宇宙のどういったところに生命が分布しうるのかという話にもつながっていきます」、確かに研究分野は宇宙的な広がりがあるようだ。
・『大きくて複雑な様相を呈している「宇宙生物学」のイメージをつかむためには、まず藤島さん自身が宇宙生物学に出会って、今に至るまでの話を伺うのがよいと、お話を聞き始めて最初の5分で作戦を立てた。特に、藤島さんが研究の中心に置いている「起源」から始めて、そこから発展して関わるようになった「分布」の問題に進めば、主に生物学方面から見た宇宙生物学の景色もかなりよく見えてくるのではないかと期待できる。 というわけで、藤島さん自身の「宇宙生物学」との出会いをまずは聞きたい。 そのように述べると、藤島さんは大判の「本」を、さっとぼくの前に差し出した。 「宇宙生物学との出会いといいますと、学生時代に取り組んでいたことから始まります。大学時代の長い話をギュッと縮めた学位論文のタイトルを見ていただければと思います」 その「本」、つまり、製本された博士論文の表紙にはこのようにあった。「古細菌(アーキア)におけるセントラルドグマ理解に向けたシステム生物学的アプローチ(“Systems biology approach toward understanding the central dogma in Archaea”)」 「古細菌におけるセントラルドグマ」を理解したい、という。 まず、古細菌というのはどういうものだろう。 「古細菌は、最初は高温、強酸、強アルカリといった地球上のさまざまな極限環境の中で見つかってきた微生物です。現在では地球上のバイオマス(生物量)の20%ぐらいを占めると言われていまして、あまり一般には知られていないけれども、非常に多様性にも富んでいます。この微生物になぜ注目したかというと、すべての生物の共通祖先から、まずはバクテリア(細菌)と古細菌が2つに分かれて、さらにその古細菌の一門から、人間を含めた真核生物が進化したということが予想されています。言ってみれば古細菌は私たち真核生物の大先祖ともいえる興味深い存在です。また、生命の共通祖先の近くにいる生物というのは、好熱菌、つまり熱いところに住んでいたと言われているものが大半なんですけれども、古細菌はその中でも特に多くの種類が見つかっているので、古細菌の研究をしたら生命の起源に少しでも近づけるのかなっていうふうに当時はぼんやりと思っていました」』、「博士論文」のタイトルだけではさっぱり分からなかったが、解説を読んで理解できた。
・『古細菌は、真核生物、細菌とならんで、地球の生物界を3分するグループのうちの一つで、高度好塩菌、メタン菌、好熱菌、高圧菌など、極限環境微生物の研究から見つかった。真核生物の「大先祖様」だから、ひょっとすると生命の共通祖先に近いかもしれないという魅力がある。また、極限環境で生きられることから「別の惑星でも……」といった妄想を抱かせられる存在でもある。 では、セントラルドグマとはなんだろう。 「DNAという遺伝情報を格納する高分子があって、これはいわばタンパク質の設計図を保管している図書館のようなものです。そこからRNAというものに一時的にその設計図がコピーされ、リボソームといういわば工場みたいなところでタンパク質をつくります。設計図を転写して持ってくるのがmRNA(伝令RNA)で、その設計図に応じたアミノ酸を一つ一つ連れてきてつなげるのがtRNA(転移RNA)ですね。こういった一連の遺伝情報を変換する仕組みをセントラルドグマと呼んでいます。生命の共通祖先は38億年ぐらい前に存在していたと言われていますが、38億年前の生命が既にこの仕組みを持っていたという事実が非常におもしろいなというところで、研究をはじめました」 セントラルドグマは地球生命が持つ共通の仕組みであって、博士研究で扱うテーマとしては「大きすぎる」どころか「恐れ多い」とすら感じる人も多いはずなのだが、藤島さんは成し遂げた(日本の大学の博士論文でタイトルに"central dogma"という語が入っているのは、今のところ藤島さんの論文だけだ。国立国会図書館の博士論文検索で確認)。そして、リボソーム、mRNA、tRNAといった生命の起源を問う時に頻出するキーワードもここですでに登場する。 また、藤島さんの博士論文には、システム生物学的なアプローチ“Systems biology approach” という言葉もある。これはどんな意味だろう』、「博士研究で扱うテーマとしては「大きすぎる」どころか「恐れ多い」とすら感じる人も多いはずなのだが、藤島さんは成し遂げた」、大したものだ。
・『「私が大学院時代を過ごした慶應の先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)では、いろんな分野を並列に研究しているのが特徴でした。例えば、ゲノムレベルで解析をする人がいれば、一つ上のRNAのレイヤーで見ている人もいます。さらに、合成されたタンパク質の機能を網羅的に調べている人もいれば、代謝物質を見ている人もいます。結局、いろんな階層で生物が実際にどういうプロセスを生体内で行っているのかというのを見ていく。で、その階層同士のつながりをシステムとして統合してとらえるのがシステムズバイオロジーということです。僕の研究は、古細菌におけるセントラルドグマ、つまりDNAからRNAを経てリボソームでタンパク質が合成される部分に関わる分子の多様性や関係性を階層を超えて見ていたわけです」 この時、藤島さんが師と仰ぐ金井昭夫教授の下で行っていた研究については、設計図に応じたアミノ酸を連れてきてつなげるtRNA(転移RNA)の進化が含まれていたことを付け加えておく。博論にはこれ以上深入りしないけれど、生命の基本システムといえるセントラルドグマの仕組みを研究する中で、藤島さんは自然と「生命の起源」というテーマに引き寄せられていった。 博士研究を無事に終えて研究室の先生と後輩達の前で最終発表を行った後、藤島さんは思いの丈をぶつけた。 「これからはアストロバイオロジーをやりたいって宣言しました。生命の起源の研究をやりたいから、アストロバイオロジーが直に学べる場所でやりたい。でも、正直どこに行っていいか分からないからご助言をお願いしますって。すると、僕の先輩で、今慶應の先端生命研究所にいらっしゃる荒川和晴先生から、NASAのエイムズ研究センターにクマムシの研究をやっている堀川大樹さんという人がいるから相談してみろと言われて、堀川さんとの縁からエイムズにインターンしに行くことになったんです」 前述の通り、エイムズ研究センターは宇宙生物学発祥の地だ。そして、クマムシは極限環境に耐える生物として、当時も今も宇宙生物学的な注目を集めており、この連載にも登場してもらった堀川大樹さんも、キャリアの初期にエイムズ研究センターで研鑽したのだった。 藤島さんもエイムズ研究センターにて、宇宙的な枠組みの中で生命の起源を問う研究へと足を踏み出した。2011年のことだった。 「生命とは何か」から宇宙生命探査まで、藤島さんはわくわくする話をたっぷり語ってくれた。次回以降に乞うご期待! (このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)』、「NASAのエイムズ研究センター・・・は宇宙生物学発祥の地だ」、さすがNASA、単にロケットだけでなく、幅広く研究しているようだ。

次に、上記のあと2つを飛ばして、昨年4月2日付け日経ビジネスオンライン「生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00112/00010/
・『生命は地球以外にも存在する? だとしたらどんなもの? 生命は宇宙(地球)でどのように誕生した? など、宇宙と生命という究極の問いに挑み続ける宇宙生物学が活況だ。その中心地であるNASAのエイムズ研究センターを経て、最前線をひた走る東京工業大学(ELSI)の藤島皓介さんの研究室に行ってみた!その4回目。 前回のペプチド(短いタンパク質)と鉄・硫黄クラスターの話は、主に代謝にかかわる話として理解していたところ、最後は「卵が先か、鶏が先か」のジレンマが出てきた。エネルギー代謝とセントラルドグマ、つまり、代謝系と翻訳系が両輪になっていないといけない、と。 藤島さんの関心は、まさにそういった「両輪」の秘密をめぐる部分へと進む。 キーワードは、「リボソーム」だ。 高校の生物を学んだ人なら、「タンパク質を合成する工場」として記憶しているだろう。DNAから転写されて運ばれてきたタンパク質の設計図を、ここで翻訳してひとつひとつアミノ酸をつないで合成する。こんな精巧な仕組みがどうやって出来上がったのか素人考えでも不思議だし、プロの生物学者たちはもっと不思議に思ってきたらしい。だから、リボソームの起源は、長年の謎とされる。 「僕がおもしろいと思うのは、このリボソームというのは、実はそれ自体、RNAとタンパク質の両方からできている分子だということです。タンパク質をつくるときに、mRNA(伝令RNA)がリボソームに結合して、そこにtRNA(転移RNA)がアミノ酸をつれてきてタンパク質を合成するわけですけど、実はその舞台となるリボソーム自体、RNAとタンパク質の複合体なんですよ」 リボソームは数十種類以上のタンパク質と、数種類のRNA分子(リボソームRNAと呼ばれる)からできている。立体的な構造は代表的なものをネットでいくつも見ることができるのだが、それらは本当に「絡まり合っている」というのがふさわしい。 2種類の「紐」が、解きほぐし難く一つの構造物を作り上げ、そこで、紐1(核酸)の情報から紐2(タンパク質)の合成が行われる。リボソームそのものが、二重の意味で、2つの「紐」が交わるところになっている。 (リボソームの構造と働きを可視化した動画。働きがよくわかる映像は1分25秒前後から。青と紫のいちばん大きなかたまりがリボソームで、黄色い紐がタンパク質を作る情報を記録したmRNA。緑色のブロックがアミノ酸を連れてくるtRNA。その先端の赤い部分が、タンパク質の合成に使われるアミノ酸だ。テープレコーダーのようにリボソームが黄色い紐を取り込んで、その情報(3塩基分ごと)に対応するtRNAが順番にくっつき、赤い紐がどんどん伸びてゆく、つまり、アミノ酸の紐であるタンパク質が合成される様子が巧みに再現されている。 生命の起源の議論では、RNAが先か、タンパク質が先かという議論があって、それぞれ、RNAワールド仮説、プロテインワールド仮説、などと呼ばれている。リボソームは、セントラルドグマの中で重要な役割を果たすものだから地球生命の進化のきわめて早い段階からないと困るのに、いきなり両方が絡まり合って存在しているから謎が深まる』、リンク先の「リボソームの構造と働きを可視化した動画」、なかなかよく出来ていて、精巧な仕組みには改めて驚かされる。
・『「そこで、僕の立場は、RNAが先かタンパク質が先かという話ではなく、恐らく同時に進んできたのではないか、というものです。原始地球の頃からRNAとタンパク質の紐が共存していて、両方の紐が同時にあることがお互いにそれぞれ有利に働くような共進化が働いて、そのおかげで徐々に大きいリボソームのようなものができてきたんじゃないかというふうに考えています」 RNAが先でも、タンパク質が先でも、両方が絡まり合ってできているリボソームの起源は説明しにくいのだとしたら、両方が共存してともに進化しきた可能性があるのではないか、というのが藤島さんの見立てだ。 「RNA、つまり核酸の紐と、ペプチド、つまりアミノ酸の紐、2種類の紐が共存している世界があったと仮定して、2つが同時に存在することがそれぞれの進化にとって有利だったということを証明したいんです。それがもし証明できれば、タンパク質とRNAからなるリボソームができた過程も分かるでしょうし、そもそも、地球の生命が核酸とタンパク質の2つの紐をかくも見事に協調させて使っていることの説明もできるはずです」 具体的には、藤島さんは徹底的、網羅的な手法を取る。あたかもコンピュータの中でシミュレーションのプログラムを走らせるかのように総当たり的な組み合わせを実際に試す。 「今、合成生物学の世界では、ランダムな配列のDNAをデザインして注文することができて、それだと10の13乗ぐらいの異なる配列のDNAが手元に届きます。そこから転写して、10の13乗種類のRNAを作り、さらにそれを翻訳してタンパク質を作るものも市販されているので、試験管の中でまぜまぜしてRNAとタンパク質のカクテルを作ることができます。その時に、できたタンパク質が逃げてしまわずにそのままRNAとくっついているような化学物質を加えておくと、RNAタンパク質複合体ができます。そして、その中から、何か特定の機能を持っているものをスクリーニングしていきます」 藤島さんが考える原始の「RNA・ペプチド共存ワールド」では、RNAとそこから翻訳されたペプチドが一緒にいることで有利になったと想定されるので、それが実際に起きるかを見ていく。 「これまでの過去の実験事例から、RNA自体が折りたたまって、それ自体、触媒活性を持ったり(リボザイム)、特定の分子に結合能があるもの(アプタマー)が見つかっています。つまり、それらは、原始地球でRNAワールドがあったという時に引き合いに出されるものです。でも、RNAだけよりも、タンパク質も一緒にあると、より適応度が高くなるような状態を示したいわけです。これもう、黒板に書いてしまいますね──」 藤島さんはさっと立ち上がって、黒板になにやら図表を描き始めた。 3次元の座標がまずあって、その「底面」から山がいくつも立ち上がる。 「こういうのを適応度地形と言います。縦の軸は『適応度』といって、どれくらい分子が環境に適応しているか、この場合は、RNAの機能の高さを測った尺度だと解釈してください。そして、横軸といいますか底面は、配列空間です。たとえば、RNAの配列に応じて、この底面に点を打てるわけです。そして、それぞれのRNAについて『適応度』を見ていきます。『適応度』の尺度には、ここでは、RNAがエネルギーの共通通貨といわれるATPという物質と結合する能力を考えましょうか。最初のスクリーニングをすると、結合能が高いものが小さな山として立ち上がって見えてくるので、今度はそういった能力が高いものを集めてまたスクリーニングするというサイクルを繰り返します。すると、最終的にある程度高い山がいくつかできていきます。こうやってRNAの機能が高いものの配列がとれます」』、「合成生物学の世界では、ランダムな配列のDNAをデザインして注文することができて、それだと10の13乗ぐらいの異なる配列のDNAが手元に届きます。そこから転写して、10の13乗種類のRNAを作り、さらにそれを翻訳してタンパク質を作るものも市販されている」、世の中にこんなビジネスが登場しているとは初めて知った。
・『ここまではRNA単独での話で、既存の研究がある。RNAワールドでも、たとえばATPとの結合能が高い方が分子の生存に有利であるならば、そういった「適応度」が高いものが選ばれて残っていくことが観察できる。藤島さんが試みるのは、ここに同時にペプチドの紐があったらどうなるか、ということだ。 「結局、環境中を考えると、RNAのような複雑な分子がそれ単独で存在しているなんてことはあり得ないですし、RNAがある世界では、それよりも出来やすいペプチドはもうあったはずなんです。RNA・プロテインワールド、つまり両方の紐が共在していた世界ですね。そういう前提で考えると、RNA単独では見られなかったようなところにも山が立ち上がってくるはずです。そうなると山の裾野同士がオーバーラップする場所がでてくるかもしれない。そうすると一つの機能に対して、より高い山に登りやすくなる、つまり進化が連続的に起きやすいということでもあります。RNA単独、ペプチド単独よりも、両方存在する時により連続的な高分子の進化が成り立ちやすいんだということを示せれば、ながらく謎だったリボソームの起源にも近づけると思っています」 RNAとペプチドの両方があると、山の裾野がオーバーラップして、高い山により登りやすくなるような現象がもし確認できれば、地球の生命が核酸とタンパク質の2つの紐を見事に協調させて使っていることも説明できると藤島さんは考えている。 以上、藤島さんが実験室で、自ら手を動かし、原始地球で起きたかもしれない進化を再現しようとしている一連の実験を紹介した。 合成生物学的な方法で、生命の起源を問う学術領域の熱い雰囲気が伝わればなによりだ。 もう一点だけ、ずっと気になっていたことを確認したい。 これまでの議論は、「紐」ができたり、それらが共進化したりという、生命のシステムに必要なことばかりだけれど、何かが足りない。 いったい何だろうか、と考えていて、ふと気づいた。足りないのは「形」だ。 これは生き物である、生命である、という時には、シロナガスクジラみたいに大きなものにせよ、大腸菌のように小さなものにせよ、すべて「形」がある。形がないと境界がなくなって、「これは生命だ」といえなくなるのではないだろうか』、「RNA単独、ペプチド単独よりも、両方存在する時により連続的な高分子の進化が成り立ちやすい」、確かにその通りなのかも知れない。
・『「それって、たしかにその通りで、例えば膜がないと生命じゃないという立場もあります。それは理にかなっていて、つまり自己と他己を分ける境界線が膜なので、それがないと、大きなスライムみたいなかたまりの中でいろんな分子のやりとりをして……エヴァンゲリオンでいうあれですね、人類補完計画の補完後の状態みたいなものです。でも生命は補完前に戻ろうとするという(笑)。つまり個で自立できた系を生命と名付けたにすぎません」 システムが働いたとしても、形がないものを生命といえるだろうか? この点は本当に奥深く、自己と他者の区別がつかない状態でも生命のシステムが動いている状態というのは想定できるということだ。でも、そんな中から、くっきりとした「個」が登場するというのはどう考えればいいのだろう。 「その議論はある意味おもしろくて、偶然か必然かという話もあります。かりに必然じゃなくて偶然だったとしても、たまたまちぎれた一つの個体が、周囲の環境に適応した場合、そのまま増えていく可能性があります。適者生存のダーウィン的進化に突入していくと。その前はダーウィン的進化ではなくて、水平伝搬の嵐ですね。自己と他者の区別が曖昧な状況でお互いがお互いに必要なものを作って交換していくという。もちろん僕たち今の生命は、ダーウィン的進化の結果できたものです」 ダーウィン的進化というのは、端的に言えばダーウィンが考えた生存競争による「適者生存」によって起きる進化のことだ。これは、生命が「個体」であることを前提にしている。言われてみればそのとおりだ。 「ダーウィン的進化が起きるための必要条件というのは、遺伝情報物質を持っているということと、それが膜に包まれているということですね。つまり自分と他が分かたれているような状態であること。そうじゃないと、ヨーイドンである環境にさらしたときに、適応しているもの、してないものの差がつかない以上、ダーウィン的進化が起こっていきません。逆にそれが観察できるということは、遺伝情報物質を持っていて、他己と自己が分かれている、ちゃんとセパレートしているような系であるということです。そこにあとはエネルギーを自分自身がつくれるような仕組みもあれば、限りなく今の生命に近いものになってくると思います」 今のぼくたちは生命の歴史に思いを馳せて系統樹を描き、古細菌と真核生物はいつ分かれたなどと議論するわけだが、それはこういったダーウィン的進化があってのことだ。藤島さんが今、研究のリソースを集中させている2つの「紐」の共進化の問題と隣接してこんな議論もあって、またスリリングであることをお伝えしておきたい。 つづく (このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)』、「「ダーウィン的進化が起きるための必要条件というのは、遺伝情報物質を持っているということと、それが膜に包まれているということですね。つまり自分と他が分かたれているような状態であること。そうじゃないと、ヨーイドンである環境にさらしたときに、適応しているもの、してないものの差がつかない以上、ダーウィン的進化が起こっていきません」、「ダーウィン的進化」について考えを深めることができた。

第三に、10月5日付け現代ビジネスが掲載した山中 伸弥氏とNHKプロデューサーの浅井 健博氏の対談「山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? 」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67554
・『タモリさんと山中伸弥さんが司会を務めたNHKスペシャル「シリーズ人体Ⅱ遺伝子」は、今年高視聴率を獲得した番組として話題になった。背景にあるのは、現在急速に進む「遺伝子」研究への期待と不安――。技術は日々進化し、テレビで遺伝子検査のCMが流れる時代にあって、ゲノム編集で人体が「改造」されるのもそう遠くないのではないかと考える人もいるだろう。 今回、そんな『シリーズ人体 遺伝子』書籍化のタイミングで、特別対談が企画された。生命科学研究のトップリーダー山中伸弥さんと浅井健博さん(NHKスペシャル「シリーズ人体」制作統括)が、いまなぜ生命倫理が必要か――その最前線の「現実」を語り明かした』、「シリーズ人体」は参考になる点が多かった。その対談とは、興味深そうだ。
・『山中さんの踏み込んだ発言  「人類は滅ぶ可能性がある」――これは収録中、司会の山中伸弥さんがつぶやいた言葉である。 私たち取材班は、番組を通じて、生命科学の最前線の知見をお伝えした。どちらかといえば、その内容は明るく、ポジティブな未来像を描くものだった。 それだけに私(浅井健博)は、山中さんの踏み込んだ発言に驚かされたが、同様の不安を視聴者も感じていたことを後に知った。 Twitterや番組モニターから寄せられたコメントの中に、未来に期待する声に交じって、生命科学研究が際限なく発展することへの漠然とした恐れや、技術が悪用されることへの不安を指摘する意見も含まれていたからだ。 それにしても「人類が滅ぶ可能性」とは、ただごとではない。山中さんは日本を代表する生命科学者であり、iPS細胞の作製という最先端技術を生み出した当事者でもある。だからこそ生命科学が、人類に恩恵をもたらすだけでなく、危険性も孕んでいることを誰よりも深く認識しているのではないか。 そう考えた私は、山中さんの話を聞くため、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の所長室を訪ねた』、山中発言の真意を探る意味は大きい。
・『「こんなことまでできるのか」  浅井 まず今回の番組の感想をお聞かせください。山中さんのご研究と関連して、興味を持たれたところ、面白いと感じられたところはございますか? 山中 番組で扱われた遺伝子やゲノムは、僕たちの研究テーマですから、内容の大半に馴染みがありました。しかし、DNAから、顔の形を予測する技術には、正直、ビックリしました。 浅井 どのあたりに驚かれたのですか? 山中 研究の進展のスピードです。僕の予想以上のスピードで進んでいる。番組の台本をいただく前に、取材先の候補とか、番組の中でDNAから顔を再現するアイデアをあらかじめ教えていただきましたね。その段階では、DNAからの顔の再現は、将来は実現可能だとしても、まだしばらく無理だろうと思っていました。 しかしその後、関連する論文を自分で読んだり、実際に映像を見せていただいたりして考えをあらためました。「こんなことまでできるのか」と。 僕たちも、以前は自分の研究とは少し異なる分野の関連する論文も読んでいましたが、今は数が多くなりすぎて、とてもすべてをフォローできません。番組のもとになった、中国の漢民族の顔の再現の研究についてはまったく知りませんでした。もっと勉強しないとダメだと思いましたね。 浅井 今回の番組をご覧になった視聴者の方が寄せた声から、研究の進展のスピードや精度の向上が大きな驚きを持って受け止められたことがわかりました。 一方で、「悪用も可能ではないか」「遺伝子で運命が決まるのではないか」と不安や恐れを感じられた方もいました。山中さんは、こういった技術に対する脅威あるいは危険性を、どう考えておられますか? 山中 以前はDNAの連なりであるゲノムのうち2%だけが大切だと言われていました。その部分だけがタンパク質に翻訳されるからです。 ところが、タンパク質に翻訳されない98%に秘密が隠されていると、この10年で劇的に認識が変わりました。ジャンク(ゴミ)と言われていた部分にも、生命活動に重要な役割を果たすDNA配列があることが明らかになったのです。 さらにDNA配列だけでは決まらない仕組み、第2部で登場したDNAメチル化酵素のような遺伝子をコントロールする、いわゆるエピゲノムの仕組みの解明も急速に進みました。 iPS細胞も遺伝子を導入して作りますが、そのときエピゲノムに大きな変化が起こって細胞の運命が変わります。ですから、最先端の生命科学研究のひとつひとつを詳しくフォローできないまでも、その研究の持つ意味については、僕もよく理解していたつもりです。 もちろん理解できることは大切ですが、それだけでは十分ではありません。すでにゲノムを変えうるところまで技術が進んでいるからです。 宇宙が生まれて百数十億年、あるいは地球が生まれて46億年、生命が生まれて38億年、その中で僕たち人類の歴史はほんの一瞬にすぎません。しかしそんな僕たちが地球を変え、生命も変えようとしている。 長い時間をかけてできあがったものを僕たち人類は、今までになかった方法で変えつつある。よい方向に進むことを祈っていますが、一歩間違えるととんでもない方向に行ってしまう。そういう恐怖を感じます。番組に参加して、研究がすさまじい速度で進展することのすばらしさと同時に、恐ろしさも再認識しました』、「タンパク質に翻訳されない98%に秘密が隠されていると、この10年で劇的に認識が変わりました。ジャンク(ゴミ)と言われていた部分にも、生命活動に重要な役割を果たすDNA配列があることが明らかになった」、「さらにDNA配列だけでは決まらない仕組み・・・DNAメチル化酵素のような遺伝子をコントロールする、いわゆるエピゲノムの仕組みの解明も急速に進みました」、生命科学の進歩は確かに日進月歩だ。
・『外形も変えられ病気も治せるが……  浅井 番組の中では、どこまで最先端の科学が進んでいるのかをご紹介しました。それは、私たち素人にとってもとても興味深い内容でした。中でも、先ほど山中さんがおっしゃったゲノムを変える技術について、おうかがいしたいと思います。 ゲノムを人為的に変える技術は昔からありましたが、最近になってゲノム編集と呼ばれる新しい技術が登場して、従来よりも格段に簡単にゲノムを改変できるようになりました。この技術に注目が集まると同時に、生命倫理の問題も浮上しています。 山中 ゲノム編集は、力にもなれば、脅威にもなると思います。僕たちの研究所でも、ゲノム編集を取り入れていますが、ゲノムをどこまで変えていいのかという問題に、僕たちも今まさに直面しています。 浅井 ゲノムを辞書にたとえると、自由自在に狙った箇所を、一文字単位で書き換えられるのが、ゲノム編集ですね。 2012年に、アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授とスウェーデンのウメオ大学のエマニュエル・シャルパンティエ教授らの共同研究チームによって開発された「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」と呼ばれる技術が有名です。 山中 今では生命科学研究に欠かせない技術です。 浅井 番組の中で、鼻が高くなる、低くなるといった身体的特徴の違いや、あるいはカフェインを分解しやすい、分解しにくいといった体質の違いなど、いろんな性質を決める仕組みが遺伝子研究によって明らかにされつつある状況を紹介しました。 こういうさまざまな性質は今後、コントロールできるようになるのではないかと考えられています。本当に顔の形や病気のかかりやすさなど、コントロールすることはできるのでしょうか? 山中 たとえば、ミオスタチンと呼ばれる筋肥大を抑制する遺伝子をゲノム編集によって破壊すると、種を超えていろんな動物の筋肉量が増えることが知られています。 遺伝情報に基づいて外見的、生理的に現れた性質を「表現型」と呼びますが、病気を含め、いろいろな表現型をゲノム編集によって実際に変えられることが示されています。 ただしわかっていないこともたくさんあります。どこまで正確に変えられるのか。表現型を変えたとして1~2年はともかく、何十年か後に影響が出ることはないのか。 生殖細胞を改変した場合、つまり次の世代に伝わる変化を起こしたとき、何百年という単位でどういう影響がありえるのか。これらは未解決の問題です。 今の段階では、人類がゲノムを完全に制御できるわけではなく、リスクがある。やはりリスクとベネフィットを評価して、ベネフィットが上回ると考えられる場合に限って、慎重に進めていくべきです。規制も必要でしょう。逆に、規制がないと大変なことになるという漠然とした恐怖感が常にあります。 浅井 恐怖と言えば、世代を超えて恐怖が遺伝するという研究も番組で紹介しましたが、ゲノムを改変すれば恐怖をコントロールすることすら可能かもしれないですね。 山中 知らないうちに記憶を植えつけられるといったモチーフを使ったSFもあります。言い古されていることですが、SFで描かれている内容は現実になることが多い。さらにSFで描かれていない、SF作家ですら想像できないことを科学が実現することもよくあります。 どういう未来が来るのか、本当にわかりません。科学者として、僕も人類を、地球をよくしたいと思っています。しかし科学は諸刃の剣です。 浅井 人類のために良かれと思ってしたことが、災いをもたらす可能性もあります。山中さんがスタジオトークで「人類が滅ぶ可能性もある」とおっしゃったとき、ハッとさせられました。 山中 僕たち人類は、1000年後、1万年後も、この地球に存在する生物の王として君臨していると思いがちですが、自明ではありません。1万年後、私たちとは全然違う生物が、地球を支配していても不思議ではありません。しかも、自然にそうなるのではなく、人間が自らそういう生物を生み出すかもしれません。 うまくいけば人類は地球史上最長の栄華を誇ることができるかもしれないし、一歩間違うと、新たな生物に地球の王座を譲り渡すことになります。 今、人類はその岐路に立っていると思います。ゲノムを変えることだけではありません。大きな電力を作り出すことができる原発ですが、ひとたび事故が起きると甚大な被害が発生します。 暮らしの中のあらゆる場面で活躍するプラスチックですが、海を漂流するゴミとなり生態系に影響を及ぼしています。科学技術の進歩が、人間の生活を豊かにするのと同時に、地球、生命に対して脅威も与えているのです』、「病気を含め、いろいろな表現型をゲノム編集によって実際に変えられる・・・ただしわかっていないこともたくさんあります。どこまで正確に変えられるのか。表現型を変えたとして1~2年はともかく、何十年か後に影響が出ることはないのか。 生殖細胞を改変した場合、つまり次の世代に伝わる変化を起こしたとき、何百年という単位でどういう影響がありえるのか。これらは未解決の問題です・・・リスクとベネフィットを評価して、ベネフィットが上回ると考えられる場合に限って、慎重に進めていくべきです。規制も必要でしょう。逆に、規制がないと大変なことになるという漠然とした恐怖感が常にあります」、山中氏も「規制」が必要と考えているようだ。
・『研究者の倫理観が弱まるとき  浅井 遺伝子には多様性を広げる仕組み、あるいは局所的な変動に適応する仕組みが組み込まれています。遺伝子は、今現在の僕らを支えつつ、将来の変化に対応する柔軟性も備えているわけです。その仕組みに人の手を加えることはどんな結果につながるのでしょうか? 山中 ダーウィンは、進化の中で生き残るのは、いちばん強い者でも、いちばん頭がよい者でもなく、いちばん適応力がある者であると言いました。 適応力は、多様性をどれだけ保てるかにかかっています。ところが今、人間はその多様性を否定しつつあるのではないか。僕たちの判断で、僕たちがいいと思う方向へ生物を作りかえつつあると感じています。 生物が多様性を失い、均一化が進むと、ちょっと環境が変わったとき、たちどころに弱さを露呈してしまいます。日進月歩で技術が進む現代社会は、深刻な危うさを孕んでいると思います。 浅井 しばらくは大丈夫と高をくくっていましたが、あっというまにそんな事態に陥るかもしれません。だからこそわれわれは番組制作を通して、警鐘を鳴らす必要があると考えています。 一方、山中さんは番組の中で「研究者としてどこまでやってしまうのだろうという怖さがある」と発言されています。 多くの研究者の方々はルールに従い、何をしていいのか、してはならないのかを正しく理解していると思いますが、研究に歯止めが利かなくなると感じるのはなぜでしょうか?』、「日進月歩で技術が進む現代社会は、深刻な危うさを孕んでいる」、その通りだろう。
・『人間の残虐性に迫ったアイヒマン実験  山中 人間は、特定の状況に置かれると、感覚が麻痺して、通常では考えられないようなひどい行動におよぶ場合があるからです。そのことを示したのが、アイヒマン実験です。 浅井 有名な心理学実験ですね。アイヒマン(アドルフ・アイヒマン)はナチス将校で、第二次大戦中、強制収容所におけるユダヤ人大量虐殺の責任者でした。 戦後、死刑に処されました。彼は裁判で自分は命令に従ったにすぎないと発言しました。残虐というよりは、内気で、仕事熱心な人物に見えたとも言われています。 山中 そんな人物がどうして残虐になり得るのか。それを検証したのが、イェール大学の心理学者スタンリー・ミルグラムが行ったアイヒマン実験です。 この実験の被験者は教師役と生徒役に分かれ、教師役が生徒役に問題を出します。もし生徒役が問題を間違えると、教師役は実験者から生徒役に電気ショックを与えるように指示されます。 しかも間違えるたびに電圧を上げなければなりません。教師役が電気ショックを与えつづけると生徒役は苦しむ様子を見せます。ところが実際には生徒役はサクラで、電気など通じていない。生徒役の苦しむ姿は嘘ですが、叫び声を上げたり、身をよじったり、最後には失神までする迫真の演技なので、教師役は騙されて、生徒役が本当に苦しんでいると信じていました。 それでも、教師役を務めた被験者の半分以上が、生徒役が失神するまで電気ショックを与えた。教師役の被験者がひとりで電気ショックのボタンを押すのなら、そこまで強いショックを与えられなかったでしょう。 ところが、白衣を着て、いかにも権威のありそうな監督役の実験者から「続行してください」とか「あなたに責任はない」と堂々と言われ、教師役はボタンを押すのをためらいながらも、どんどんエスカレートして、実験を継続したんです。 浅井 ショッキングな実験結果ですね。権威のある人のもとで、人間は際限なく残酷になってしまう』、「アイヒマン実験」は有名だが、「権威のある人のもとで、人間は際限なく残酷になってしまう」、大いに心すべきだろう。
・『チームのほうが誘惑に弱くなる  山中 研究にも似ている側面があるのではないか。ひとりで研究しているだけなら、生命に対する恐れを感じて、慎重に研究する。そういう感覚はどの研究者にもあると思います。 ところがチームになって、責任が分散されると、慎重な姿勢は弱まって、大胆になってしまう。たとえルールがあっても、そのルールを拡大解釈してしまう。気がついたらとんでもないことをしていたというのは、実際、科学の歴史だけでなく、人類の歴史上、何度も起きたし、これからも起こりえます。 科学を正しく使えば、すばらしい結果をもたらします。しかし今、科学の力が強すぎるように思います。現在ではチームを組んで研究するのが一般的です。そのため責任が分散され、倫理観が弱まって、危険な領域へ侵入する誘惑に歯止めが利きにくくなっているのではないかと心配しています。 浅井 山中さんご自身も、そう感じる局面がありますか? 山中 そういう気持ちの大きさは人によって違います。 僕はいまだにiPS細胞からできた心臓の細胞を見ると不思議な気持ちになる。ちょっと前まで、血液や皮膚の細胞だったものが、今では拍動している、と。 ヒトiPS細胞の発表から12年経ちますが、この技術はすごいと感じます。しかし人によっては、毎日使っているうちにその技術に対する驚きも消えて、当たり前になる。 歯止めとして有効なのは、透明性を高めることだと思います。密室で研究しないことです。研究の方向性について適宜公表し、さまざまな人の意見を取り入れながら進めていくことが重要ですし、そうした意見交換をしやすい仕組みを維持することも大切だと思います』、「科学の力が強すぎるように思います。現在ではチームを組んで研究するのが一般的です。そのため責任が分散され、倫理観が弱まって、危険な領域へ侵入する誘惑に歯止めが利きにくくなっているのではないかと心配しています」、「歯止めとして有効なのは、透明性を高めることだと思います。密室で研究しないことです」、マスコミが監視機能を果たしてくれればいいのだが、情報欲しさに監視機能をないがしろにする懸念もある点は要注意だ。
タグ:博士研究で扱うテーマとしては「大きすぎる」どころか「恐れ多い」とすら感じる人も多いはずなのだが、藤島さんは成し遂げた 合成生物学の世界では、ランダムな配列のDNAをデザインして注文することができて、それだと10の13乗ぐらいの異なる配列のDNAが手元に届きます。そこから転写して、10の13乗種類のRNAを作り、さらにそれを翻訳してタンパク質を作るものも市販されている 現代ビジネス NASA 宇宙生物学 川端 裕人 歯止めとして有効なのは、透明性を高めることだと思います。密室で研究しないことです チームのほうが誘惑に弱くなる 権威のある人のもとで、人間は際限なく残酷になってしまう 人間の残虐性に迫ったアイヒマン実験 研究者の倫理観が弱まるとき ただしわかっていないこともたくさんあります。どこまで正確に変えられるのか。表現型を変えたとして1~2年はともかく、何十年か後に影響が出ることはないのか。 生殖細胞を改変した場合、つまり次の世代に伝わる変化を起こしたとき、何百年という単位でどういう影響がありえるのか。これらは未解決の問題です 「人類は滅ぶ可能性がある」 リスクとベネフィットを評価して、ベネフィットが上回ると考えられる場合に限って、慎重に進めていくべきです。規制も必要でしょう。逆に、規制がないと大変なことになるという漠然とした恐怖感が常にあります 病気を含め、いろいろな表現型をゲノム編集によって実際に変えられる 山中さんの踏み込んだ発言 NHKスペシャル「シリーズ人体Ⅱ遺伝子」 「山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? 」 浅井 健博氏 山中 伸弥氏 ダーウィン的進化が起きるための必要条件というのは、遺伝情報物質を持っているということと、それが膜に包まれているということですね。つまり自分と他が分かたれているような状態であること。そうじゃないと、ヨーイドンである環境にさらしたときに、適応しているもの、してないものの差がつかない以上、ダーウィン的進化が起こっていきません リボソームの構造と働きを可視化した動画 博士論文 RNA単独、ペプチド単独よりも、両方存在する時により連続的な高分子の進化が成り立ちやすい 「生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」」 地球の生命の普遍性、特殊性を考えた場合、地球のような惑星がどれぐらいの頻度でこの宇宙に存在しているか、天文学系の研究と考え合わせれば、宇宙のどういったところに生命が分布しうるのかという話にもつながっていきます 外形も変えられ病気も治せるが…… DNA配列だけでは決まらない仕組み、第2部で登場したDNAメチル化酵素のような遺伝子をコントロールする、いわゆるエピゲノムの仕組みの解明も急速に進みました タンパク質に翻訳されない98%に秘密が隠されていると、この10年で劇的に認識が変わりました。ジャンク(ゴミ)と言われていた部分にも、生命活動に重要な役割を果たすDNA配列があることが明らかになった 宇宙における『生命の起源』と『生命の分布』、そして人類を含めた『生命の未来』」を研究している 生物学者(いわば「生物」担当)だけでなく、地学、惑星、海洋、化学、情報科学研究者などさまざまな専門性を持った人たちがいて 東京工業大学が地球生命研究所(ELSI) "Astrobiology"という言葉を公式に使うと宣言 「そもそも「宇宙生物学」って何ですか?」 藤島皓介氏 日経ビジネスオンライン (その1)(そもそも「宇宙生物学」って何ですか?、生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」、山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? ) エイムズ研究センター 生命科学
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”右傾化”(その12)(「謝礼もらっている保守論客いる」百田尚樹氏のツイートが波紋、絶望感しかない日本の若者が「保守化」せざるを得ない理由、「森友事件」の籠池泰典がはじめて明かす 日本会議「草の根の凄み」 戦前・戦中が静かに甦る、新型コロナ問題と東京五輪延期で見えた「保守ブームの終わり」) [国内政治]

”右傾化”については、1月9日に取上げた。今日は、(その12)(「謝礼もらっている保守論客いる」百田尚樹氏のツイートが波紋、絶望感しかない日本の若者が「保守化」せざるを得ない理由、「森友事件」の籠池泰典がはじめて明かす 日本会議「草の根の凄み」 戦前・戦中が静かに甦る、新型コロナ問題と東京五輪延期で見えた「保守ブームの終わり」)である。

先ずは、2月24日付けYahooニュースが転載した女性自身「「謝礼もらっている保守論客いる」百田尚樹氏のツイートが波紋」を紹介しよう。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200224-00010015-jisin-soci
・『《保守論客の中には、官邸から仕事をもらったり、選挙のたびに応援演説に行き少なくない謝礼をもらったりしている人がいる。まあ、それは許そう。しかし、そういう恩義で今回の官邸の対応を擁護しているとしたら、最低だと思う》 作家の百田尚樹氏(64)のツイートが波紋を広げている。過去には安倍晋三首相(65)との対談本を出版したこともあった百田氏。しかし、新型コロナウイルス対策については安倍官邸を厳しく批判してきた。 《私は個人的に安倍総理は好きだ。しかしそれ以上に、日本が好きだ。 日本のためにならない政策に対しては、厳しく批判する!》 そう表明した百田氏は、政権内の楽観論や、政府が早急に中国からの入国制限を行わなかったことを新型コロナウイルスの存在が発覚した直後から厳しく批判してきた。だが、一方で、“応援団”と意見が対立し、議論となることもあった。そして飛び出したのが、冒頭のツイートだ。 さらにこのツイートの直後、《まあ、あれだけ謝礼をもらえたら、官邸の悪口は言えんわな。選挙のたびに金が入るんやから》ともツイートしている。 ちなみに、選挙の応援演説で謝礼を払うことも受け取ることも、公職選挙法違反に問われる可能性がある。実際に、2016年の参議院議員通常選挙では、応援演説の見返りに現金を受け取ったとされるタレントのテレンス・リー氏(55)(注)が逮捕されている。 《はい。 金は腐るほどあるんで、買収されません》という百田氏。謝礼を貰ったという保守論客の名前も、渡した側の政治家の名前も明かしてはいないが、このツイートはまだまだ波紋を呼びそうだ』、「百田氏」も「新型コロナウイルス対策については安倍官邸を厳しく批判」、してきたのはいいとしても、「保守論客」についてのとんだ内幕ばらしだ。
(注)テレンス・リー氏(元傭兵で軍事評論家、本名は加藤 善照。参院選でトクマ候補の応援演説で金を受け取ったとして有罪判決(Wikipedia)

次に、2月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した関東学院大学経営学部教授の中西新太郎氏へのインタビュー「絶望感しかない日本の若者が「保守化」せざるを得ない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/229951
・『右肩上がりの経済成長が望めない日本社会。その社会情勢のなかで、「そこまでお金がなくても最低限の生活ができればいい」と考える保守的な若者が増えているといわれている。いまの若者がなぜ保守化してしまったのか、若者の意識の変化について、関東学院大学経営学部教授で、著書『若者保守化のリアル』(花伝社)がある中西新太郎氏に詳しい話を聞いた』、興味深そうだ。
・『若者を世代で一くくりにできない現代社会  一口に若者といっても、どうくくっていいのか意外と難しい。人によって若者像はそれぞれ異なり、大学生までと考える人から、社会人になっても若者だとイメージする人もいるからだ。 特に現代社会において、世代で分けることは簡単ではないと中西氏は語る。 「国際的に若者の定義は21歳までとしていますが、たとえば日本の行政では、34歳までとなっています。以前は高校や大学を卒業後、社会人となった場合、大人として扱われていましたが、いまでは就職できたとしても、低賃金で生きていくことに精いっぱいなため、一人前とはいえなくなっている。そのような社会背景があることから、より一層、若者と大人の境目がわかりづらくなっているといえます」(中西氏、以下同) 職に就き、親元を離れて独立するのが一般的だった傾向が崩れてきたのは、バブル経済崩壊以降の1990年代後半である。 その時期は就職氷河期といわれ、これまで当たり前であった就職ができない若者たちがあふれ、のちに経済白書で97年はフリーター元年と命名されるほどだった。 「いまの若者は積極性がない」といわれるようになったのも、その時期にあたると、中西氏は指摘する。「簡単に言いますが、戦後最大ともいえるような不景気による社会環境の影響があまりに大きかったのも確か。就職氷河期を経験していない上の世代が、若者たちの気質のせいだと、責任を押し付けるような見方をしていました。フリーターだけでなく、ニートや引きこもりの問題も出てきて、若者が消極的になってきたというイメージが定着し始めたといえます」』、「若者の定義は・・・日本の行政では、34歳までとなっています」、勤労青少年福祉法では「おおむね35歳未満」となっているようだが、実際には法令により様々なようだ。ただ、「職に就き、親元を離れて独立するのが一般的だった傾向が崩れてきた」、のは事実としても、30歳台にもなって「若者」とは違和感がある。
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h22honpenpdf/pdf/sanko_03.pdf
・『自由よりもルールに縛られることを望む若者たち  若者の消極化の文脈でいえば「いまの若者は上昇志向がない、現状に満足している」などといった、若者の保守化も指摘されている。 いまの若者の考え方として、自由に価値を置かなくなってきていることも特徴的だと中西氏は指摘する。 「たとえば、80年代までは、中学や高校の制服はないほうがいいという声が多かったのですが、いまはむしろ毎日違う服装にするのが面倒くさいといった理由で、制服を望む子が大半。大学でも、もちろん学業が本業なので当然なのですが、昔と違って真面目に授業に出席する学生が多い。加えて、親からの仕送りが期待できない学生の場合、アルバイトもしないといけないほど忙しい。となると、なかなか要領良く生活する余裕もないのが現状。なので、そういう意味でも、自由よりもちゃんとルールを設けて守るほうが楽でいいと考える若者が多数派になってきています」 中西氏によると、恋愛面でも若者たちは自分が勝手に決めつけたルールに縛られ、面倒くさいものだと敬遠しているのだという。 「先ほど言ったように、いまの大学生は授業やアルバイトに忙しく、趣味や恋愛に時間を使っている暇がないのが現状。さらに『毎日連絡を取らないといけない』『毎日一緒に帰らないといけない』などといったルールがあるものだと思い込み、わざわざ付き合おうとしない。恋人がいる学生に『クリスマスをどう彼女と過ごせばいいのか、おすすめのコースを教えてください』と聞かれたこともあります。それほど型にハマった思考に縛られた若者が増えているといえます」』、「昔と違って真面目に授業に出席する学生が多い」、「自由よりもちゃんとルールを設けて守るほうが楽でいいと考える若者が多数派になってきています」、高校生の延長のようで、嘆かわしい限りだ。
・『理解不能な事件が起こる絶望の日本社会  アベノミクスで景気が上向いても、賃金水準は上がらないまま。いまの若者世代は、好景気を一度も味わったことがない世代だ。 日本最大の匿名掲示板「2ちゃんねる」の創設者である西村博之氏は著書『このままだと、日本に未来はないよね。』(洋泉社)で、日本経済が右肩下がりになる可能性が高いと指摘した上で、「10年以内に日本の若者が暴動を始める」のではないかと予測している。 中西氏は、デモのようなわかりやすい形というよりも、突発的に起きる事件が増えるのではないかと、推測する。 「2018年11月から12月にかけて、日本財団が18歳~22歳の男女3126人を対象にした調査によれば、『本気で自殺したいと考えたことがある』と答えた割合は全体で30%。男女別だと男性26%、女性が34%となるほど、約3割の若者が人生に絶望しているのです。一方、2008年の秋葉原通り魔事件や、2019年の京都アニメーション放火殺人事件に象徴されるような、はた目からは動機や目的が理解できない日本独特の事件がポツポツと出てきています」 「そう見ていくと、すでに行き場のない若者が行動に移しているともいえる。目に見える暴動よりも、どこで何が起こるのかわからない、というほうが、社会として問題です」 ギリギリの生活を強いられ、希望の持ちようがない日本社会で生きる若者たち。決して満足できる状況ではないにもかかわらず現状維持を望むほど、彼らは疲弊しきっている。一見従順に見えて、内面にはやり場のない怒りを抱えている…。これが日本の若者の「リアル」なのだ』、「決して満足できる状況ではないにもかかわらず現状維持を望むほど、彼らは疲弊しきっている。一見従順に見えて、内面にはやり場のない怒りを抱えている…」、突発的な「事件」につながらないことを祈るばかりだ。

第三に、作家の佐藤 優氏が4月7日付け現代ビジネスに掲載した「「森友事件」の籠池泰典がはじめて明かす、日本会議「草の根の凄み」 戦前・戦中が静かに甦る」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71596
・『保守主義者になった原点  『国策不捜査 「森友事件」の全貌』は政界を揺るがした森友学園の補助金不正受給に関連して詐欺容疑で2017年7月31日に逮捕、起訴され、'20年2月19日に大阪地方裁判所で懲役5年の実刑判決を言い渡された籠池泰典氏の回想録だ。 籠池氏は判決を不服として大阪高等裁判所に控訴した。事件に関する籠池氏の主張が記述の大半を占めるが、評者にとって興味深かったのは別の点だ。それは、地方で自民党を支える「草の根の保守」の内在的論理がわかりやすく示されていることだ。 〈自分が保守主義者になった原点は(中略)、父の「国運の発展、国力の増強のために寄与せよ」という言葉である。 奈良県庁に勤めたことも結果的に大きかったと思う。県庁がある場所は、目の前に興福寺があり、東大寺や春日大社といった由緒正しい神社仏閣も間近に位置し、この国の伝統文化の息吹を日々感じることができた〉 籠池氏の神社仏閣に伝統文化の息吹を感じるという認識が重要だ。籠池氏においては、神仏が融合して神々となっている。このような宗教混淆は神道の特徴だ。 籠池氏は、神道と日本文化を同一視している。保守派、リベラル派の政治的区別にかかわらず、このような認識を共有する日本人は少なからずいると思う。 実はここに「神道は日本人の習俗である」という神社非宗教という言説で、事実上、国家神道を国教にしてきた戦前・戦中の宗教観との連続性がある。神社非宗教という論理に立てば、キリスト教徒でも仏教徒でも、日本人であれば習俗として神社を参拝せよという結論になる。 籠池氏は、さらにこう述べる。 〈「宗教法人 生長の家」の教えもまた、自分の考え方の核になっていると思う。(中略)森友学園では以前から行事ごとでの国旗の掲揚、国歌の斉唱を行っていた。 ボクが先代から引き継いで運営側に回ってからは、祝日にも校門前に国旗を掲揚するようになった。 ところが、とにかくこれが盗まれるのである。思想的に日の丸を嫌う人がやっているのだろうか。 こちらも意地になって新しいものを買っては掲げるのだが、(中略)何度、日の丸を買い直したことか、数え切れないくらいだ〉 「生長の家」から日本会議メンバーを含む右派の活動派が多数生み出されていることが本書を読むとよくわかる』、「神仏が融合して神々となっている。このような宗教混淆は神道の特徴だ。 籠池氏は、神道と日本文化を同一視している。保守派、リベラル派の政治的区別にかかわらず、このような認識を共有する日本人は少なからずいると思う」、「リベラル派」にもそんな「認識を共有する」人がいるとは信じ難い。
・『園児たちに一緒に考えてほしかった  幼稚園教育に教育勅語を取り入れた理由について籠池氏はこう述べる。 〈教育勅語の暗唱を始めたのは'05年10月ころから。幼児期から古典に親しむため、前年より月1回、年長組の園児を対象に論語を教えていた。すると、すぐに覚えてしまうのでビックリした。 教育勅語の暗唱もその一環である。 ただし、復古的な世界を目指すべく、政治的な意図をもって教育勅語を選んだのではない。 それまでも、ボーイスカウトの綱領など、子どもたちにわかりやすく行動原理を伝えられる「言葉」がないかと探していた。 そんな中、ようやく見つけたのが教育勅語だったのだ。 ボクとしては「12の徳目」(「孝行」「謙遜」「義勇」など)の内容について園児たちに一緒に考えてほしかっただけで、何も押しつける気持ちは毛頭なかった。 規律に従う盲目的な人間を育てるため、園児に暗唱させたのではない。 古い日本語のイントネーションを身体に刻みつけ、美しい言葉を話せるようになって欲しいと思っていたのだ。 戦時中など過去の歴史を振り返れば、教育勅語が国の隅々まで軍国主義を行き渡らせるため、一つの重要なツールになった点は認識していた。 だが、「だからといっていい部分はあるんだから、全否定しなくてもいいんじゃないの」くらいに思っていた。 「教育勅語の文言そのものが、現行憲法で謳われる国民主権の考えと並立できない」という批判もあった。それに対しては、ボク自身が絶対天皇主義者であるがゆえ、極めて鈍感だった〉 籠池氏は、教育勅語を子どもたちにわかりやすく行動原理を伝えられる「言葉」と位置付けた上で、〈ボクとしては「12の徳目」(「孝行」「謙遜」「義勇」など)の内容について園児たちに一緒に考えてほしかった〉と強調する。 極端に右翼的な思想を抱く人でなく、保守派の大多数がこのような言説を支持すると思う。この言説の背景にあるのも、天皇による教育勅語で示された道徳指針は、日本人の習俗であるという認識だ。 これも国家神道の価値観だ。自民党の地方組織では、このような思想を持つ草の根からの保守層が無視できない影響力を持っている。 そして、その一部が日本会議に組織されている。籠池氏自身が日本会議の活動家だったので、この運動の特徴を熟知している。 〈日本会議の凄みは他にもある。それは、ものすごく長期的なスパンで小さなことからコツコツと積み上げていくところである。 具体的に何をするのかというと、請願、投書、苦情の電話、抗議活動など、地味なものばかり。 ボクも事務局の人と一緒になってよく地方議員のもとを回ったものだ。 そしてこちらが求める議題について、議会で決議を取ってもらう。そういうものが積み重なって国会での法案に繋げていく。地道な活動を厭わず、極めて真っ当な正攻法で世の中を変えていこうとする団体なのである〉 日本会議は少数精鋭で目的合理的に活動する組織だ。 〈日本会議大阪の事務局次長を務める丸山公紀さんが、ボクにおもしろい話をしてくれたことがある。 「籠池さん、日本会議というタマネギの皮を剥いていくと最後に何が残ると思います? 芯にあるのは神社なんです」(中略) ボクにはこのフレーズだけが不思議と印象に残った〉。 国家神道が静かに甦りある現実が本書を読んでよくわかった』、「園児たちに一緒に考えてほしかっただけで、何も押しつける気持ちは毛頭なかった」、言い訳だろう。暗記させれば、「押しつけ」なくても、自然に徳目に従うようになる筈だ。「日本会議」が「ものすごく長期的なスパンで小さなことからコツコツと積み上げていく」、良し悪しは別として、そのエネルギーは大したものだ。「国家神道が静かに甦りある現実」、には「リベラル派」は大いに気を付けるべきだろう。

第四に、4月13日付けYahooニュースが週プレNEWSを転載した「新型コロナ問題と東京五輪延期で見えた「保守ブームの終わり」」を紹介しよう。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200413-01110950-playboyz-pol&p=1
・『『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが「保守ブームの終わり」について語る。 新型コロナの感染拡大による安倍政権の対応、そして東京五輪の延期決定までの混乱ぶりを見ると、ここ数年の「保守ブーム」が終焉(しゅうえん)を迎えることになるような気がしています。 これまで安倍首相は"強いリーダー"を演出し続けてきましたが、実際にそこにあったのは強い意志ではなく、「なんとなく」さまざまな周囲のステークホルダーや"仲間"の都合を優先しつつ、「なんとなく」理想的な日本像とされるものに向けて共同幻想を形づくり、「なんとなく」進んでいただけだったのではないか。そのように感じられるのです。 本当は東京五輪を成功させたところで、日本が抱える諸課題が解決されることはない(一時的な盛り上がりや関連事業のバブルはあったとしても)。にもかかわらず、五輪成功の先には輝かしい憲法改正があり、それによってジャパン・アズ・ナンバーワンの時代を取り戻せる――安倍政権はそんなムードを醸成しようとしてきました。 トランプ米大統領にとって「MAGA(Make America Great Again)」というフレーズが"万能薬"だったのだとすれば、安倍首相にとってのそれは東京五輪の成功だったのでしょう。 安倍首相はトランプ大統領のように、明らかな差別発言やヘイトスピーチをリツイートしたり、本人が露骨に差別意識をにおわせたりはしません。 「日本人」が緩く連携し合うイメージ、心情的に「愛国」に傾くようなムードづくりをしつつ、平気で差別発言をするような"安倍応援団"的な右派論客らの存在を黙認することで利用してきたというのが実態に近いでしょう。 これが安倍政権がつくり出した「右派のエコシステム」だったのです。本来であれば安倍首相本人なり、自民党の気概ある議員なりが、「こんなことを言う人々は本当の保守とは言えない」「保守にパラサイト(寄生)している人たちの意見が大きくなると日本は衆愚化する」くらいのことを言うべき場面は何度もあったと思いますが、そんなことは一切ありませんでした』、「ここ数年の「保守ブーム」が終焉を迎えることになるような気がしています」、安部人気が剥げつつあるのは事実だが、「「保守ブーム」が終焉」、は気が早すぎるのではなかろうか。「安倍政権がつくり出した「右派のエコシステム」」、とは言い得て妙だ。
・『その一方で、連立相手は数合わせの宗教政党。グローバリズムの規制緩和に乗り、見せかけの景気回復を実現させるも、実質賃金は上がらず格差は開くばかり。課題に対する本質的な議論は先送り......。そうした矛盾を全部解決してくれる"最後のおまじない"が五輪だったのです。 安倍政権周辺の五輪に対する執着が、どれほど新型コロナ問題に影響を与えたかはまだわかりません。ただ、当初から思い切った策を打ち出すことなく、学校休校やイベント自粛要請をいったん2週間程度で緩和するかのような様子をうかがわせたことが、その後の感染拡大に負の影響を与えたとの見方が強くなれば、逆風はますます強まるでしょう。 今思えば、東京五輪組織委員会の森喜朗会長の「私はマスクをしないで最後まで頑張ろうと思っている」というコメントは、日本の保守層の「なんとなくのロマン」を端的に表していたと思います。五輪に限らず、リニア、万博、カジノ......といったものも同じかもしれない。 それを実現することでさまざまな問題が解決するかのような"スピン"が止まったとき、何が起きるのか。コロナ問題がなければ東京五輪後に見るはずだったものを今、われわれは見ているのかもしれません。(モーリー・ロバートソン氏の略歴はリンク先参照)』、「五輪に限らず、リニア、万博、カジノ......といったものも同じかもしれない。 それを実現することでさまざまな問題が解決するかのような"スピン"が止まったとき、何が起きるのか。コロナ問題がなければ東京五輪後に見るはずだったものを今、われわれは見ているのかもしれません」、なかなか面白い捉え方だ。でも、本当のところ「何が起きるのか」、思いつくのは、経済の落ち込み激化、安部下ろしとその後の政治的混乱、程度だ。現実にはどうなるのだろうか。
タグ:五輪に限らず、リニア、万博、カジノ......といったものも同じかもしれない。 それを実現することでさまざまな問題が解決するかのような"スピン"が止まったとき、何が起きるのか。コロナ問題がなければ東京五輪後に見るはずだったものを今、われわれは見ているのかもしれません 矛盾を全部解決してくれる"最後のおまじない"が五輪だった 「右派のエコシステム」 平気で差別発言をするような"安倍応援団"的な右派論客らの存在を黙認することで利用してきたというのが実態に近い 「日本人」が緩く連携し合うイメージ、心情的に「愛国」に傾くようなムードづくりをしつつ 五輪成功の先には輝かしい憲法改正があり、それによってジャパン・アズ・ナンバーワンの時代を取り戻せる――安倍政権はそんなムードを醸成しようとしてきました 東京五輪を成功させたところで、日本が抱える諸課題が解決されることはない 「なんとなく」さまざまな周囲のステークホルダーや"仲間"の都合を優先しつつ、「なんとなく」理想的な日本像とされるものに向けて共同幻想を形づくり、「なんとなく」進んでいただけだったのではないか ここ数年の「保守ブーム」が終焉(しゅうえん)を迎えることになるような気がしています モーリー・ロバートソン 「新型コロナ問題と東京五輪延期で見えた「保守ブームの終わり」」 週プレNEWS 国家神道が静かに甦りある現実 ものすごく長期的なスパンで小さなことからコツコツと積み上げていく 請願、投書、苦情の電話、抗議活動など、地味なものばかり 日本会議 天皇による教育勅語で示された道徳指針は、日本人の習俗であるという認識 保守派の大多数がこのような言説を支持すると思う 何も押しつける気持ちは毛頭なかった。 規律に従う盲目的な人間を育てるため、園児に暗唱させたのではない 12の徳目 園児たちに一緒に考えてほしかった 宗教混淆は神道の特徴だ。 籠池氏は、神道と日本文化を同一視している。保守派、リベラル派の政治的区別にかかわらず、このような認識を共有する日本人は少なからずいると思う 『国策不捜査 「森友事件」の全貌』 保守主義者になった原点 「「森友事件」の籠池泰典がはじめて明かす、日本会議「草の根の凄み」 戦前・戦中が静かに甦る」 現代ビジネス 佐藤 優 一見従順に見えて、内面にはやり場のない怒りを抱えている…。これが日本の若者の「リアル」なのだ でに行き場のない若者が行動に移しているともいえる。目に見える暴動よりも、どこで何が起こるのかわからない、というほうが、社会として問題です 、2008年の秋葉原通り魔事件や、2019年の京都アニメーション放火殺人事件に象徴されるような、はた目からは動機や目的が理解できない日本独特の事件がポツポツと出てきています 「10年以内に日本の若者が暴動を始める」のではないかと予測 『このままだと、日本に未来はないよね。』(洋泉社) 西村博之 理解不能な事件が起こる絶望の日本社会 恋愛面でも若者たちは自分が勝手に決めつけたルールに縛られ、面倒くさいものだと敬遠 真面目に授業に出席する学生が多い 毎日違う服装にするのが面倒くさいといった理由で、制服を望む子が大半 自由よりもルールに縛られることを望む若者たち 勤労青少年福祉法 日本の行政では、34歳まで 若者の定義 就職氷河期 職に就き、親元を離れて独立するのが一般的だった傾向が崩れてきたのは、バブル経済崩壊以降の1990年代後半 若者を世代で一くくりにできない現代社会 著書『若者保守化のリアル』(花伝社) 関東学院大学経営学部教授 「絶望感しかない日本の若者が「保守化」せざるを得ない理由」 中西新太郎 ダイヤモンド・オンライン テレンス・リー 選挙の応援演説で謝礼を払うことも受け取ることも、公職選挙法違反に問われる可能性 政権内の楽観論や、政府が早急に中国からの入国制限を行わなかったことを新型コロナウイルスの存在が発覚した直後から厳しく批判 新型コロナウイルス対策については安倍官邸を厳しく批判 保守論客の中には、官邸から仕事をもらったり、選挙のたびに応援演説に行き少なくない謝礼をもらったりしている人がいる 「「謝礼もらっている保守論客いる」百田尚樹氏のツイートが波紋」 女性自身 yahooニュース (その12)(「謝礼もらっている保守論客いる」百田尚樹氏のツイートが波紋、絶望感しかない日本の若者が「保守化」せざるを得ない理由、「森友事件」の籠池泰典がはじめて明かす 日本会議「草の根の凄み」 戦前・戦中が静かに甦る、新型コロナ問題と東京五輪延期で見えた「保守ブームの終わり」) 右傾化
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働き方改革(その25)(「テレワーク機能しない」旧来型日本企業の盲点 「業務分担」「評価」「教育」でつまずきやすい、橋下徹氏 政府からのテレワーク要求に「まずは国会と霞が関がやってみなさい」、小田嶋氏:1日当たり4100円は「自由への罰」か) [経済政策]

働き方改革については、2月25日に取上げた。今日は、(その25)(「テレワーク機能しない」旧来型日本企業の盲点 「業務分担」「評価」「教育」でつまずきやすい、橋下徹氏 政府からのテレワーク要求に「まずは国会と霞が関がやってみなさい」、小田嶋氏:1日当たり4100円は「自由への罰」か)である。

先ずは、 経営コンサルタントの日沖 健氏が4月7日付け東洋経済オンラインに掲載した「「テレワーク機能しない」旧来型日本企業の盲点 「業務分担」「評価」「教育」でつまずきやすい」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/341286
・『新型コロナウイルスへの対応で、テレワークや在宅勤務を導入する企業が増えています。特に3月25日夜に小池都知事が緊急会見を行い、都民に対し不要不急の外出を控えるだけでなく、平日も仕事はできるだけ自宅で行うように要請したことから、企業は一層の対応を迫られています。 多くの企業にとって、今のところテレワークや在宅勤務は、新型コロナウイルスという危機に対応する緊急避難措置でしょう。ただ近年、世界的にフリーランサーやテレワーク・在宅勤務を利用する会社員が増えており、日本でも場所・時間に縛られない柔軟な働き方が普及する可能性があります。 今回は、テレワーク・在宅勤務といった働き方に企業がどう向き合うべきかを考えてみましょう』、興味深そうだ。
・『テレワークを導入した「T社のケース」  下で紹介するのは、ある素材メーカーT社の商品企画グループのこれまでの職場管理(Before)と、テレワーク・在宅勤務への対応(After)です。 この職場は総勢12名、マネジャー1名、リーダー3名、メンバー8名で構成されています。2年前にテレワーク・在宅勤務を導入し、昨年までは限られた利用でしたが、今年2月下旬からはリーダー・メンバーが半分ずつ交替で出社しています。 ①業務分担 Before:マネジャーが「商品Mの品質改善」といった大まかなテーマと期限をリーダーに与えて、リーダーが細かい業務分担やスケジュールを決定 After:メンバーごとに細かく分担を決めるべきかどうか、検討中 ②指示・報告 Before:チームリーダーに対面で指示。週1度の課内打ち合わせでその週の活動を全体共有。チームリーダーから対面で報告 After:クラウド型の業務管理ツールを導入。メールとテレビ会議を中心に ③勤怠管理 Before:スタンドアローンの勤怠管理システム After:オフィス外の勤務に対応したクラウド型のシステムに変更 ④評価 Before:職能資格制度だが、勤続年数・意欲・姿勢を重視して評価 After:人事部門で検討中 ⑤教育 Before:リーダーによるOJTが中心。導入時・昇格時などに集合研修。 After:OJTはやり方の見直しを検討中。集合研修はオンラインに変更できるか人事部門が検討中 ⑥懇親 Before:人事異動時に歓送迎会。月1度の昼食会。ほかインフォーマルな飲み会が多数 After:歓送迎会は当面見送り。昼食会は廃止。Zoomを使ったオンライン・パーティーを試験的に実施) この中で、②指示・報告、③勤怠管理、⑥懇親については、適切なシステムを導入し、社員がそれに慣れれば、多少の不便はあっても、大きな問題はないでしょう。一方、厄介なのが、①業務分担、④評価、⑤教育です。 まず①業務分担。日本ではT社のように、各社員が担当する業務を明確にせず、「皆で力を合わせて頑張ろう」とチームワークで取り組みます。この曖昧な業務分担は、個人で業務に取り組むテレワーク・在宅勤務とは、相性最悪です。 ④評価とそれに伴う報酬の決定にも困難がつきまといます。日本の大手企業の9割が職能資格制度を導入しており、従業員の能力を評価し、報酬を決定します(能力を評価するのは難しいので、勤続年数とともに能力が高まるという前提で年功序列にしている企業が多い)。 仕事の過程が見えにくいテレワーク・在宅勤務では、従業員の能力を評価するのが難しく、やはり職能給とは相性がよくありません。 ⑤教育も同様です。多くの日本企業の教育は「OJT一本足打法」で、職場で先輩社員が後輩、特に新人に手取り足取り実務を指導します。時間・場所を共有できないテレワーク・在宅勤務でOJTを実行するのは、かなり困難です』、「Before」「After」で整理するとは分かり易い。「厄介なのが、①業務分担、④評価、⑤教育」、常識的な線ではある。
・『アメリカにテレワークが浸透した理由  一方、アメリカ企業では、職務記述書(job description)で「経理課で連結決算係に所属し、グループ企業5社の売上高のデータ確認と仕訳を担当する」などと各社員の職務を詳細に定義し、職務の難易度に応じて賃金を支払います。そもそも中間管理職以下では、「評価」が存在しません。この職務記述書と職務給という組み合わせは、個人単位で仕事をするテレワーク・在宅勤務と相性抜群です。 アメリカ企業の教育は研修・セミナーなどを行う「Off-JT」が主体で、日本のOJTほどではないものの、テレワーク・在宅勤務とは相性がよくありません。ただ、そもそもアメリカではある業務の担当に欠員が生じたら、職務と能力要件を明確にして経験者を補充するという中途採用が主体なので、新人をゼロから育てる日本ほど社内での教育を重視していません。 日本の曖昧な働き方には、「チームワークや帰属意識が高まる」「リスクヘッジが容易」といったメリットがあります。アメリカの明確に役割分担する働き方にもいろいろなデメリットがあります。ですから、一般論としてどちらの働き方がいいとは断定できません。ただ、ことテレワーク・在宅勤務との相性という点では、断然日本が劣り、アメリカが勝っているのです。 つまり、日本企業がテレワーク・在宅勤務を本格的に取り入れようとすると、業務分担、評価・賃金、教育といったマネジメント・人事制度を大幅に見直す必要があるのです。 テレワーク・在宅勤務と関連してもう1つ、イノベーション(革新)をどう生み出すか、という課題があります。イノベーションの創造、例えば新商品開発というと、研究者が部屋にこもって1人じっと考え込む姿を想像するかもしれません。 しかし、これは効果的なやり方ではありません。経済学の巨人シュムペーターによると、イノベーションの本質は「新結合の遂行」、いろいろな知識・情報が混じり合うことです。違った知識・情報を持つ研究者が自由闊達に意見をぶつけ合う場を持つことが、イノベーションの創造には有効だと言われます。これは、近年のITのイノベーションがアメリカのシリコンバレー、インドのベンガルールといった産業集積で生まれていることからも明らかでしょう。 つまり、イノベーションの創造においては、独りぼっちでテレワーク・在宅勤務するよりも、会社に集まるほうが断然有利なわけです。もちろん、テレワーク・在宅勤務でもテレビ会議を使って議論をできるので、会社の中でしかイノベーションが生まれないということではありません。 いずれにせよ、今後、テレワーク・在宅勤務が普及したら、イノベーションをどう創造するかが、より重大な課題になります』、「日本企業がテレワーク・在宅勤務を本格的に取り入れようとすると、業務分担、評価・賃金、教育といったマネジメント・人事制度を大幅に見直す必要がある」、政府が掛け声をかけても簡単にはいかない筈だ。「今後、テレワーク・在宅勤務が普及したら、イノベーションをどう創造するかが、より重大な課題になります」、その通りだろう。
・『テレワークは「一時措置」でいいのか?  企業経営者に以上の話をすると、「テレワーク・在宅勤務はあくまで新型コロナウイルス対応の緊急措置。何でもかんでもアメリカに合わせて変える必要はない」「今は新型コロナウイルス対応に集中するとき。収束したその先を考えるのは不謹慎だ」など、賛同していただけるケースが多い一方、かなり感情的に反論されることもあります。 この問題をどう考えるかは、もちろん人それぞれ。ただ「変える必要はない」という結論を下す前に、以下2点を認識してほしいものです。 1:アメリカではフリーランサーが5670万人おり(全労働者の35%、日本では341万人)、2027年には全労働者の半数に達する。世界的に場所・時間に縛られない働き方が広がる可能性が高い 2:職能資格給やOJTだけでなく、新卒一括採用、内部昇進、定年制、企業内組合など、戦後の日本企業の躍進を支えた人事制度・慣行が時代に合わなくなっている 個人的には、日本企業が今回の悪夢を乗り越えるだけでなく、危機をバネにマネジメント・人事制度の改革を進め、より強い姿に生まれ変わることを期待します』、確かに「新型コロナウイルス対応の緊急措置」を検討するのであれば、中長期を見据えて検討すべきだろう。

次に、4月13日付けYahooニュースが転載したスポニチ記事「 橋下徹氏 政府からのテレワーク要求に「まずは国会と霞が関がやってみなさい」」を紹介しよう。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200412-00000217-spnannex-ent
・『元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏(50)が12日、フジテレビの緊急生討論番組「日曜THEリアル!」(日曜後8・00)にリモートで出演し、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言で、政府が要求したテレワークについて持論を述べた。 安倍首相は7日夜の会見で、仕事のあり方についてテレワークを原則とするとし「どうしても出勤が必要な場合」にはローテーションを組むなどして出勤者の数を最低7割は減らすことなどを求めた。 橋下氏はテレワークについて「どんどんやるべきですが、安倍首相がテレワークと言うのだったら、まずやるべきは国会と霞が関の役所ですよ」とコメント。「7割出勤をやめさせることの難しさを分からずに、民間に出勤やめろって言っている。そんなの当事者意識がないから言えること。自分たちでやってみなさい。何が問題になるか気づきなさい」と指摘した。 続けてMCの宮根誠司(56)に「あとテレビ。なんで宮根さん東京に行ってるんですか。僕と大阪で出演しないと。テレビがテレワークと言っているのだったら、テレビがまずテレワークをやらなきゃ」と呼び掛けた。 宮根アナが「国会でも予算委員会とか議員が後ろにいてもねえ…」と反応すると、橋下氏は「いらないんですよ。あんな国会議員。削減すりゃいいんですよ」とぶった切っていた』、「安倍首相がテレワークと言うのだったら、まずやるべきは国会と霞が関の役所ですよ・・・7割出勤をやめさせることの難しさを分からずに、民間に出勤やめろって言っている。そんなの当事者意識がないから言えること。自分たちでやってみなさい。何が問題になるか気づきなさい」、誠に言い得て妙だ。

第三に、コラムニストの小田嶋 隆氏が3月13日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「1日当たり4100円は「自由への罰」か」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00061/?P=1
・『(新刊著書の紹介は省略)・・・さて、今回は、冒頭で押し付けがましい告知をカマしてしまったので、あんまり難しい文章を書いて、読者に負担をおかけすることがはばかられる。なので、単にこの10日ほどの間にぼんやりと考えていたあれやこれやを、つらつらと書き並べることにしたい。あえてタイトルをつけるなら、「パンデミックと働き方改革」あるいは「日本人の放課後」「フリーランスの見る夢」てな調子の文章になると思う。まあ、どこに着地するのかは、書き終わってみるまでわからないわけだが。 この2~3日の間に、いくつかのソースから、政府がフリーランスの就業者への休業支援を検討しはじめている旨のニュースが流れてきた。 朗報だと思う。というのも、休業支援は、これまで、有給取得者への賃金助成金を中心に話が進められていて、有給休暇の対象外である非正規の労働者や、ましてフリーランスの就業者は、無視されている形だったからだ。 その意味で、政府による当初の取り組みから比べて改善していることは確かだ。 とはいえ、細かいところを見ると、いろいろと失望させられる。 リンク先のNHKのニュースが伝えているところでは、政府は 《―略― 臨時休校に伴って仕事を休んだ保護者への支援として、業務委託を受けて働くフリーランスの人にも1日当たり4100円の定額を支援する方向で最終的な調整を進めています。―略―》 といったあたりの施策を考えているようだ。 この文面を見る限り、政府は、休業に追い込まれたすべてのフリーランスに休業補償をするつもりは持っていない。補償の対象になるのは 「業務委託を受けて働いている」「臨時休校に伴って仕事を休んだ保護者」という二つの条件を満たしているケースに限られる。 思うに、これはフリーランスで働く人間の現実にそぐわない』、政府は「休業補償」対象を絞り込むことに躍起のようだ。
・『というのも、フリーランスの人間は、その名の通り、実にさまざまな形で働いているわけで、必ずしも企業の業務委託を受けているわけではないからだ。当然だ。この条件だと 「ヒモ付きでないフリーランスは保護しない」みたいな、本末転倒の政策が動き出すことになる。 また、「臨時休校に伴って仕事を休んだ保護者」というのも、フリーランスの働き方の現実にフィットしていない。 フリーランスの人間は、会社勤めの人間と比べて、働く場所と時間をわりと自由に選ぶことができる。その意味では、在宅ワークで穴を埋めたり、働く時間を深夜や早朝にシフトしたりすることで子供との共存の時間を稼ぎ出せる可能性は高い。 しかしながら、その一方で、フリーランスの泣き所は「仕事の継続性」が確保できない点だ。 つまり、得意先なり顧客なりの都合で 「あ、悪いけど、来月から来なくていいから」と言われたが最後、その日から収入が途絶するリスクを常に負っているということだ。 その点からすると、今回の新型コロナショックで、収入源の消失に直面しているのは、誰よりも 「企業からの業務委託という比較的安定した収入を得ている個人事業主とは別の人たち」 すなわち「個人的な人脈と、流動的な市場に翻弄される中で仕事を拾って歩いているフリーランス」ということになる。 ところが、お国が支援を検討しているのは、フリーランスの中でも、比較的恵まれた、企業相手の業者だけだったりする。しかも、その休業補償の条件が、子供が通う学校が休校になったことのアオリを食う人たちに限られる。ということはつまり、 「基本的に、9時~5時の定時で働いている勤労者」だけが保護されるみたいな話になる。 これでは、不安定で不定形な働き方をしている零細なフリーランスを救うことはできない。 しかも、当面、日額として想定されている金額である4100円という数字がどこから出てきたのかというと ニュースによると「東京都の最低賃金×4時間」 だという。 この4100円という日額の根拠だが、別のニュースソースでは、 「働き方や報酬は多種多様で、迅速に支援を行う必要がある中で、非正規雇用の方への給付とのバランスを考慮した」という安倍総理の言葉を引いた説明が紹介されている』、「フリーランス」の対象を絞り過ぎて、本当に必要な人々が漏れるのでは本末転倒だ。「4100円」は「東京都の最低賃金×4時間」、初めて知った。
・『ここで言う「バランス」とは、つまるところ、正規、非正規で働く人が休まざるを得なくなった場合に政府が出すことにしている1人当たり日額上限8330円の助成金の、およそ半額ということだ。 どうしてフリーランスへの休業補償は一般の労働者の半額なのか。 これは、じっくり考えてみなければならない問題だ。 私が、この4100円という金額に失望したことは申すまでもないことだが、では、びっくりしたのかというと、実のところそんなこともなかった。 「どうせそんなところだろう」と、あらかじめそう思っていたからだ。 給付のために「企業からの業務委託」と「休校による休業」というおよそ現実味を欠いた二つの条件が課せられていた件についても同様で、私は、失望はしたものの、驚愕はしなかった。理由はこの場合も同様で、 「どうせそんなところだろう」と、予測していたからだ。 さらに、4100円という日額の算定基準が、「最低賃金×4時間」であるとか「正規・非正規労働者への給付金の半額」であるとかいった、まるで具体性のない「はじめに金額ありき」のぞんざいな説明でアナウンスされていることについても、まったく同様で、私は失望しつつしかし驚愕はしなかった。 もうひとつ言えば、当初、私は、政府の冷たさに腹を立てていた。 「いくらなんでもフリーランスをバカにしすぎなんじゃないか?」と、ツイッターにその旨の怒りの書き込みを投稿しようと考えたほどだ。 でも、結果として、私は、この件について、ツイッター上では何も発信していない。 腹立ちがおさまったから? そうではない。 とはいえ、当初と違って、現在、私は必ずしも政府に対して腹を立てているのではない。 落ち着いて考えてみるに、政府は、民意にしたがっただけなのだろうと思っている。 だから、今回に限って、私は政府のやりざまに、がっかりはしていても、腹は立てていない。 むしろ私は、「日本人」という曖昧かつ巨大な集合に対して、無闇矢鱈と腹を立てている。 だからこそ困っている。 というのも「日本人」は、私自身を含んでもいれば、親しい知人友人をすべてひっくるめた、「わたくしたちすべて」だからだ。 その「日本人」に対して、私はどんな言葉をぶつけたらよいのだろう』、確かに「政府」は「日本人」の大勢を見極めて決めているのだろう。
・『政府が、フリーランスの人間の働きぶりに注意を払っていないのは、日本人がフリーランスをまともな日本人の一員として認めていないその認識を反映した結果だ。 政府の担当者が、フリーランスには一般の労働者の半額をあてがっておけばそれで事足りると考えて、4100円という金額をはじき出したのは偶然ではない。 彼らがそう考えたのは、われら「日本人」の総意としてフリーランスを「半人前の人間」として扱っていることの当然の帰結と考えなければならない。 また、蓮舫議員の問いかけに対して、「最低時給×4時間」というおよそバカにした回答を返した人間のその算定基準は、わたくしども「日本人」の多数派が、フリーランスの働きぶりを「遊び半分」と考えている常識をそのまま数式化したもの以外のナニモノでもない。 一般のカタギの日本人は、フリーランスの人間が貧困や将来への不安に苦しむことを 「自由な生き方に対する当然の報い」「気ままな暮らしへの反対給付としての貧困」くらいにとらえている。 そうでなくても、この20年ほど、アメリカから輸入したはずの新自由主義が、「自己責任」という言葉を、「自由への罰」という考え方とともに拡散する形で、日本独自の他罰思想として定着している傾向は否定できない。 私自身、フリーランスの立場で仕事をしながら、いつしかのんべんだらりと還暦を超えるに至った人間であるわけなのだが、いまだに親戚郎党からは一人前の扱いを受けた経験を持っていない。 「うらやましいよね」「気楽でいいよなあ」「タカシ君はほんと子供の時のまんまだなあ」と、法事やら葬式やらで顔を合わせた親戚筋からは、必ずやその種の言葉を頂戴する。 これらの言葉は、お世辞なのか羨望なのかそれとも揶揄なのか軽侮なのか、簡単に決められる性質の感慨ではない。 一面、自由な生き方を称揚しているようでもあれば、不安定な生活を憐れんでいるようにも聞こえる。 はっきりしているのは、彼ら「普通の日本人」が、フリーランスの人間の働きぶりを 「変わっている」「普通じゃない」と、ある種の「ファンタジー」としてとらえている点だ。 そのうえでうらやむのかバカにするのかは、結局、年収次第ということになる。 せちがらい話だ。 誤解してもらっては困るのだが、私は愚痴をこぼしているのではない。 自慢をしているのでもない。 ただ、フリーランスの働き方が、日本的な生き方ではないということをお伝えしようとしている』、「「最低時給×4時間」というおよそバカにした回答を返した人間のその算定基準は、わたくしども「日本人」の多数派が、フリーランスの働きぶりを「遊び半分」と考えている常識をそのまま数式化したもの以外のナニモノでもない」、「一般のカタギの日本人は、フリーランスの人間が貧困や将来への不安に苦しむことを 「自由な生き方に対する当然の報い」「気ままな暮らしへの反対給付としての貧困」くらいにとらえている」、小田嶋氏も「フリーランス」の1人であるだけに、捉え方は殊の外、実感がこもっている。
・『私がさきほどから、くどくどと弁じ立てているのは、フリーランスと勤め人のどちらが偉いとか、どちらがより素晴らしい生き方であるとか、そういう話ではない。 二つの対照的な人間たち同士が、互いを理解することの難しさについて、なんとかうまく書けないものかと、私はずっと苦しんでいる。 私は、このことについて、これまでにも何度か説明を試みてきたのだが、その度に失敗してきた自覚を持っている。 どう書いても誤解されるのだ。 私の文章力が足りないからなのか、読者の読解力が届いてくれていないからなのか、ともかく、私はフリーランスの人間がかかえている不安と自負と持って行き場のない憤りについて、行き届いた文章を書けたためしを持っていないのである。 そんなわけなので、ここでは、説明的な書き方をあきらめて、ポエムを書いてみることにする。 昨年の暮れからこっち、Amazonプライムのラインアップを眺めつつ、退屈しのぎに「男はつらいよ」のシリーズのうちの何本かを見た. その感想を書く。 どの作品でも、ほとんど脅迫的に繰り返される場面のひとつに、寅次郎の妹のさくらが、泣きながら柴又の街路を走るシーンがある。 多くの場合、さくらは唐突に出て行ってしまった寅次郎の後を追って 「おにいちゃん!」と言いながら走っている。 追いつく場合もあるし、あきらめて座り込んでしまうケースもある。 いずれの展開でも、さくらは涙を流し、あるいは涙ぐんでいる。 「おにいちゃん……ホント、バカなんだから」というセリフを言う時もあるし、黙ってうつむいているだけの時もある。 私は、この時のさくらの心情こそが、フリーランスを見つめる日本人の視線なのだと、毎回必ずそういう感想を抱かされた。 バカで不適応で不器用な兄。 集団にうまく適応できないくせに強がってばかりいるお兄ちゃん。 パズルにハマれないジグソーのピースみたいに哀れで頑なな風来坊。 虚勢を張っていることを万人に見破られていることに一人だけ気づいていない寅次郎。 フリーランスは、日本経済にとっても、そういうぎこちない存在だ。 だからこそ、さくらは兄がかわいそうでならない。 おにいちゃんのことを考えると、いつも、われ知らず涙ぐんでしまう。 おそらく、安倍首相にとっても、フリーランスというのは、そういう哀れだが救えない対象なのだと思う。 まとまりのない結末になってしまった。 私は、いま、プイッと旅に出てしまいたい衝動にとらわれている。 寅次郎は大人になれない。 それはとてもつらいことだ』、「私はフリーランスの人間がかかえている不安と自負と持って行き場のない憤りについて、行き届いた文章を書けたためしを持っていないのである。 そんなわけなので、ここでは、説明的な書き方をあきらめて、ポエムを書いてみることにする」、「寅次郎」も「フリーランス」の1人ではあるが、ここで取上げるとは、苦しまぎれの感もある。欲求不満が残ったのは残念だ。
タグ:東洋経済オンライン 日沖 健 (その25)(「テレワーク機能しない」旧来型日本企業の盲点 「業務分担」「評価」「教育」でつまずきやすい、橋下徹氏 政府からのテレワーク要求に「まずは国会と霞が関がやってみなさい」、小田嶋氏:1日当たり4100円は「自由への罰」か) 働き方改革 「「テレワーク機能しない」旧来型日本企業の盲点 「業務分担」「評価」「教育」でつまずきやすい」 テレワーク・在宅勤務 テレワークを導入した「T社のケース」 厄介なのが、①業務分担、④評価、⑤教育です アメリカにテレワークが浸透した理由 テレワーク・在宅勤務との相性という点では、断然日本が劣り、アメリカが勝っている テレワーク・在宅勤務が普及したら、イノベーションをどう創造するかが、より重大な課題になります 日本企業がテレワーク・在宅勤務を本格的に取り入れようとすると、業務分担、評価・賃金、教育といったマネジメント・人事制度を大幅に見直す必要がある テレワークは「一時措置」でいいのか? yahooニュース スポニチ 次に、4月13日付けYahooニュースが転載したスポニチ記事「 橋下徹氏 政府からのテレワーク要求に「まずは国会と霞が関がやってみなさい」」 橋下徹 安倍首相がテレワークと言うのだったら、まずやるべきは国会と霞が関の役所ですよ 「7割出勤をやめさせることの難しさを分からずに、民間に出勤やめろって言っている。そんなの当事者意識がないから言えること。自分たちでやってみなさい。何が問題になるか気づきなさい」 小田嶋 隆 日経ビジネスオンライン 「1日当たり4100円は「自由への罰」か」 4100円 「東京都の最低賃金×4時間」 「最低賃金×4時間」であるとか「正規・非正規労働者への給付金の半額」であるとかいった、まるで具体性のない「はじめに金額ありき」のぞんざいな説明でアナウンスされている 政府が、フリーランスの人間の働きぶりに注意を払っていないのは、日本人がフリーランスをまともな日本人の一員として認めていないその認識を反映した結果 「日本人」の総意としてフリーランスを「半人前の人間」として扱っていることの当然の帰結 「最低時給×4時間」というおよそバカにした回答を返した人間のその算定基準は、わたくしども「日本人」の多数派が、フリーランスの働きぶりを「遊び半分」と考えている常識をそのまま数式化したもの以外のナニモノでもない 一般のカタギの日本人は、フリーランスの人間が貧困や将来への不安に苦しむことを 「自由な生き方に対する当然の報い」「気ままな暮らしへの反対給付としての貧困」くらいにとらえている 新自由主義が、「自己責任」という言葉を、「自由への罰」という考え方とともに拡散する形で、日本独自の他罰思想として定着している傾向は否定できない 私はフリーランスの人間がかかえている不安と自負と持って行き場のない憤りについて、行き届いた文章を書けたためしを持っていないのである。 そんなわけなので、ここでは、説明的な書き方をあきらめて、ポエムを書いてみることにする 「男はつらいよ」 寅次郎
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悪徳商法(その4)(新手のマルチ商法に60万円支払った学生の末路 SNS世代だからこそ陥る「キラキラ投稿の罠」、カジノ投資うたい、166億円集めた「会社」の正体 テレアポで高齢者誘い 暗号資産投資を勧誘、アマゾンやドコモを巻き込んだ悪質キャッシュレス業者の「100億円金銭トラブル」【スクープ】) [社会]

悪徳商法については、昨年9月27日に取上げた。今日は、(その4)(新手のマルチ商法に60万円支払った学生の末路 SNS世代だからこそ陥る「キラキラ投稿の罠」、カジノ投資うたい、166億円集めた「会社」の正体 テレアポで高齢者誘い 暗号資産投資を勧誘、アマゾンやドコモを巻き込んだ悪質キャッシュレス業者の「100億円金銭トラブル」【スクープ】)である。

先ずは、本年2月15日付け東洋経済オンラインが掲載したITジャーナリストの高橋 暁子氏による「 新手のマルチ商法に60万円支払った学生の末路 SNS世代だからこそ陥る「キラキラ投稿の罠」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/329745
・『国民生活センターによると、「モノなしマルチ商法」に関する相談が増加中だ。モノなしマルチ商法とは、従来のような健康食品や化粧品などの商品ではなく、投資や儲け話などに関するマルチ商法を指す。 2018年のマルチ取引の年代別相談件数を見ると、20代、20歳未満の若者の相談が約4割を占め最多。なかでも近年、大学生が被害に遭う例が目立っている。モノなしマルチ商法とは具体的にどのようなもので、なぜ大学生などの若者が狙われるのだろうか』、興味深そうだ。
・『マルチに貯金すべてをつぎ込んだA子さん  「お金を返してもらいたい。おかげで貯金はゼロになってしまった」と被害者である女子大生のA子さんは嘆く。 「Twitterで知り合った年上の男性から、海外の不動産への投資を勧められた」というA子さん。「仮想通貨で配当があるうえ、人を紹介すれば報酬を得られる」と勧誘され、60万円の貯金をはたいた。ところが、セミナーに参加しても儲かる仕組みの話は聞けず、ただ参加者同士がおしゃべりするだけの内容だったという。 不安に思い、解約を申し出たものの、勧誘してきた男性からは「半額しか返せない」と言われたそうだ。A子さんは、男性から領収書や契約書などは受け取っていなかった。「男性とはTwitterやLINEでやり取りをしていたから安心していた。まさか契約書が必要とは思わなかった」。 被害者と加害者は友人関係の場合もあるが、SNSやマッチングアプリで知り合ってだまされることも多い。「仕組みはよくわからないけれど、『これからの時代は海外投資。仮想通貨は値上がりする』と言われて信じてしまった。近々留学を考えていてまとまったお金もほしかった」とA子さんは言う。 モノなしマルチ商法では、仮想通貨や海外事業への投資など、仕組みがわからない儲け話でだまされる例が目立つ。大学生が投資情報が入ったUSBメモリを購入させられる被害もここに含まれる。中には、「絶対に儲かるから」と甘い言葉にだまされて、消費者金融などで借金させられた例も少なくない。 人を紹介すれば自分の収入になると信じて、友達に声をかけたり、SNSの友達を勧誘する学生もいる。その時点で被害者から加害者になってしまうが、払った金額を取り戻したい一心でのめり込む学生もいるようだ。 こうした被害に特徴的なのが、大金を支払っていながら、契約書や領収書などはもらっていないという点。大人世代から見れば信じられない話だが、「SNSでつながっているからいつでも連絡できるし、信じられる」と考えてしまうのがSNS世代の特徴である。 マルチ商法の担い手にとって、だましやすく、お金も取りやすい大学生たちはいいカモだ。20歳を超えていれば、親の同意なくクレジットカード作成や借金なども可能になる。しかも社会経験が乏しいため、マルチ商法に対する警戒心も薄い。そのうえ、親元を離れて一人暮らしをしており、周囲に相談相手がいないことも多い。 このような勧誘は、当初はオープンなTwitterなどのSNSやマッチングアプリなどを使って行われることが多いようである。というのも、こうしたサービスを活用するのは若者が中心かつ、従来のマルチ商法と比べて勧誘するコストや手間も少なく済むからだ。 直接会って勧誘に成功してからは、LINEなどのクローズドなSNSに移っていくパターンが多いようだ。LINEでのグループがサクラで固められていれば、エコーチェンバー現象(価値観が似ている同士で交流・共感し合うことで特定の考えが増幅される現象)が働いて、客観的な意見に触れる機会はさらに減ってしまうだろう』、「「SNSでつながっているからいつでも連絡できるし、信じられる」と考えてしまうのがSNS世代の特徴」、「SNSでつながっている」ことの意味をよく考えずに、「信じて」しまうような大学生がいるとは、驚かされた。ただ、「A子さん」の場合は、半分でも戻ることや、「友達に声をかけたり」していなかったことも、不幸中の幸いだ。
・『キラキラ投稿にだまされる大学生たち  大学生などの若者ばかりが被害に遭う背景には、SNSネイティブならではの心理が悪用されている面もある。 「私を勧誘してきた男性のTwitterは、仲間と一緒で楽しそうな写真ばかり。いつも海外に行っているし、お金持ちそうな投稿ばかりだった。『いいね』もたくさんついていた」とA子さんは言う。 勧誘する側は、実名・顔出しでのキラキラ投稿をしている例が目立つ。SNSでは、顔や名前を出して発信する人は信頼を得やすい傾向にある。 しかも、仲間との楽しそうな写真や海外旅行、ぜいたくな食事などのリア充なキラキラ投稿は、ビジュアルでの説得力を持つ。儲け話に乗れば、自分にも仲間ができたり、お金持ちになれるという期待を覚えてしまうのも無理はない。 YouTuberに誘われてだまされる例もある。やはり顔と名前を出して発信している人を信用してしまう心理を悪用したものだ。SNSネイティブは、過去の投稿が多かったり、チャンネル登録者数や再生数、フォロワーなどが多いことで、相手のことを信用できると錯覚しやすい。しかし、再生数やいいね数、フォロワー数などは安価に購入でき、信用するための根拠にはならないことは知っておくべきだろう』、「再生数やいいね数、フォロワー数などは安価に購入でき、信用するための根拠にはならない」、とは初めて知った。こんなものまで売られているとは、ネットビジネスの闇はやはり深そうだ。
・『嫌われることを恐れず早く相談を  もしもだまされてお金を払ってしまった場合でも、クーリングオフが可能な場合がある。諦めずに消費者ホットライン「188」に電話したり、弁護士会の相談センター、大学の相談窓口などで相談してほしい。 だまされた若者たちのほとんどは、なぜ儲かるのかという実態や仕組みがわからないまま契約しているように見える。実態や仕組みがわからないもの、説明できないものには手を出さないほうが賢明だ。 また、多くの若者はオンラインやオフラインの友人、知人に嫌われることを極端に恐れる傾向にある。嫌われることを恐れて参加してしまう例も多いが、時には誘われても断る勇気を発揮することも大切だ。 若者たちには、心配なことがあったら、保護者や信頼できる年長者などに相談したり、評判を検索サービスなどで調べるなどして、悪質なマルチ商法にだまされないようにしてほしい』、「嫌われることを恐れて参加してしまう例も多い」、とは困ったことだ。もともと同調圧力が強い社会で、自分がやろうとする行為の意味やリスクを考えた上で、踏みとどまる必要があることを、高校までの間に教える必要があるのだろう。

次に、4月3日付け東洋経済オンライン「カジノ投資うたい、166億円集めた「会社」の正体 テレアポで高齢者誘い、暗号資産投資を勧誘」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/341600
・『その「投資会社」は、オンラインカジノや暗号資産開発への出資を誘い、日本国内で166億円という多額の資金を集めた。ところがこの投資会社は必要な登録を行わずに資金を集めていた。しかも、投資先としていたイギリス籍の親会社のオーナーはたった1人の日本人だった――。 証券取引等監視委員会(監視委)は3月13日、投資会社「合同会社GPJベンチャーキャピタル」(東京都中央区、以下GPJ)と代表社員ら2人に対する出資の募集の禁止・停止命令を出すよう東京地方裁判所に申し立てた』、このような「投資会社」が「166億円という多額の資金を集めた」、構図は複雑だが、無登録を放置してきた「監視委」の責任も重大だ。
・『過去最高額の違反行為  監視委によると、GPJは電話で約束を取りつけた後に対面で営業する「テレアポ」で顧客を投資に勧誘。GPJの社員権取得などを通じて、高齢者を中心に最大2042人をオンラインカジノや暗号資産を開発しているという親会社「Ganapati PLC」(以下ガナパティ)などに出資させたが、第二種金融商品取引業の登録をしていなかった。無登録での募集は違法行為に当たる。 166億円という金額は、監視委が裁判所に違法行為の停止・禁止を申立てた事例としては過去最高額となる。 GPJは東京、福岡、札幌に国内拠点を持ち、それぞれの拠点で名簿業者から買い取った顧客リストに電話をかけ、自宅や近くのレストランで勧誘を行った。監視委の説明によって2つの方法で資金を集めていたことが明らかになった。 東京、福岡、札幌に国内拠点を持ち、それぞれの拠点で名簿業者から買い取った顧客リストに電話をかけ、自宅や近くのレストランで勧誘を行っただ。投資家は出資額の0.45%を毎月の分配金として受け取れる契約で、約3億円出資した投資家もいた。配当はこれまでのところ滞ったことがなかったという。 一方、投資家が社員権の払い戻しを希望した場合には、払い戻し時期を会社側の都合で延期するとしたケースや、出資額の3割分を差し引いたうえで払い戻すことがあったようだ。さらに、出資金を後述の「G8C」へ切り替えるようにも促していた。 GPJが社員権で集めた資金は、全額が親会社でイギリス籍のガナパティに貸し付けられることになっていた。ただ、監視委が資金の流れを確認できたのは一部だという』、3「拠点で名簿業者から買い取った顧客リストに電話をかけ、自宅や近くのレストランで勧誘を行った」、かなり大規模にやっていたので、「監視委」も早くから気付いていた筈だ。やり口を解明するまで待ったとすれば、行政の怠慢だ。
・『なぜ金融商品取引業の登録を怠ったか  2つ目の方法は、暗号資産との引換券である「G8C」を取得させるというものだ。ガナパティグループで開発している「オリジナルG8Cトークン」という暗号資産が完成したら、1対1の比率で交換できるとされる。この方法では投資家はGPJを介さず直接ガナパティに出資することになる。 1G8Cは0.1円で取得できた。監視委によれば、完成時には1オリジナルG8Cトークン当たり1.5円で換金できる見込みなので、その差額が投資家の利益になるとGPJは説明していたという。出資額が15倍になって換金できるとうたっていたわけだが、あくまでもこの引換券が価値を持つのは「オリジナルG8Cトークン」が完成した場合だ。 以上が監視委による説明の概要だが、それだけではわからない謎が多い。 まず1つ目は、GPJがなぜ金融商品取引業の登録を怠ったのかということだ。同社のウェブサイトによると、代表社員である松橋知朗氏は、大手証券会社2社で計18年間勤務したのち、生命保険会社で5年間働いた経験がある。同氏は証券外務員や日本証券業協会の内部管理責任者資格も保有している。 GPJは「あらゆるマネージャンルで若くして成功してきたプロフェッショナルチーム」の存在もアピールしている。現在は削除されたが、銀行や信用金庫、保険会社などでの勤務経験を持つメンバーたちがウェブサイトで紹介されていた。長期にわたって金融機関で勤め、ファイナンシャルプランナーなどの資格も持つという彼らは、登録が必要なことを知らなかったのだろうか。 2つ目の謎はGPJの運営実態だ。監視委によると、GPJの国内3拠点における営業員数は69人。GPJのものと思われる過去の求人情報は「平均月収100万円以上」をうたって従業員を募集していた。 求人募集には基本となる月収30万円に加えて、契約金額の3.0~9.6%を支給する契約歩合給や「トップ賞」などの制度が記載されている。なかには経験1年の営業員(36歳)が2018年に年収1528万円を得た例も紹介されている』、「国内3拠点における営業員数は69人」、高給で「従業員を募集していた」、のであれば、「監視委」も気付く筈だ。「プロフェッショナルチーム」の「メンバーたち」は「登録が必要なことを」当然知っていた筈だ。
・『「ガナパティ」の正体とは  また、社員権だけでも毎年の配当は単純計算で約6.8億円にもなる。決算を公告することが求められる株式会社とは異なり、合同会社には決算情報を開示する義務が課されていないため、同社の収益構造はやぶの中だ。 3つ目にして最大の謎は、監視委が「実態不明」としたガナパティがどのような企業なのかという点だ。 イギリスの公的企業登録機関によると、同社は2013年12月に設立された。2015年には上場も果たしているが、上場直後には10億円超の赤字で、その後も赤字幅が広がり続けている。2019年1月期の赤字幅は特に大きく、3350万ポンド(約45億円)にのぼった。 ガナパティの現在の筆頭株主は75%以上を保有する日本の一般社団法人。2020年2月にイギリス領バージン諸島の企業から株式を譲り受けたとみられる。 この社団法人は1人の日本人が唯一の理事として登記されている。つまりガナパティは、実質的に日本人がオーナーだといえる。 GPJやガナパティがウェブサイトや求人情報で積極的に広報している「イギリスのNEX市場上場」も、実質性が問われる状態だ。 ガナパティは2015年にイギリスの新興株式市場「ISDX Growth Market(現NEX Growth Market)」に上場したものの、上場以来2回しか株式が取引されていない。NEX市場はそもそも2020年2月時点で76社しか上場しておらず、そのうち株式が取引された企業は2月の1カ月間で約半分の42社しかない。日本の市場関係者の間でも、ほとんど知られていない市場だ。 東洋経済が、第二種金融商品取引業の登録を行わなかった理由や配当の原資などの事実関係をGPJに問い合わせたところ、同社からは「裁判所に対して当方の意見を述べますので、それまでは回答は控えさせて頂きます」と返答があった』、「ガナパティ」を正式に買収したのは、2020年2月のようだが、それ以前から「イギリスのNEX市場上場」をPR材料にしていたようだ。
・『親会社は「適切だった」とコメント  また、ガナパティに対しては、GPJが無登録で資金を集めていたとの監視委の指摘をどう受け止めているのかを尋ねた。そうすると、GPJがグループ会社であることを認めたうえで、「合同会社GPJベンチャーキャピタルは、外部専門家からのスキーム確認等、適切なプロセスを経て業務を行っていたと認識しております」と日本語で回答があった。 GPJやガナパティが集めた資金は今後どうなるのか。監視委は「(無登録という)違反行為によって集められた資金は当然返金されるべき」という。 ところが、今回監視委が裁判所に申し立てた停止・禁止命令は、あくまで金商法違反となる無登録での投資の募集を停止し、今後行わないように命令するものだ。裁判所によってこの命令が発令されたとしても、今回の措置にはGPJに対して、投資家から集めた資金を払い戻させるための法的拘束力はない。 GPJの親会社であるガナパティは仮にも上場企業だ。子会社であるGPJも社会に対して適切な説明を行う必要があるはずだ』、金融庁(監視委)も、投資資金保全のため、もっと踏み込んだ命令を出すべきだろう。さらに、「ガナパティ」のような海外企業に対する法制面の対応も手当しておくべきだ。

第三に、4月10日付けダイヤモンド・オンライン「アマゾンやドコモを巻き込んだ悪質キャッシュレス業者の「100億円金銭トラブル」【スクープ】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/234312
・『政府がキャッシュレス決済の旗を振る中、決済用タブレット端末の運営業者が金銭トラブルを起こしていることがダイヤモンド編集部の取材で分かった。アマゾンやNTTドコモからカネを集めつつ、加盟店などへの支払いが大幅に遅延している。キャッシュレスバブルの陰で起きた、大企業を巻き込んだ一大トラブルを詳報する』、どういうことだろう。
・『キャッシュレス決済端末めぐりトラブル 被害額は100億円規模か  「販売代理店への支払いが昨年11月から滞っているキャッシュレス業者がある」――。 今年2月、キャッシュレス決済業界に詳しい関係者は、声を潜めてこう漏らした。 支払い遅延を引き起こしているという業者は、NIPPON Platform(以下、NP社)。タブレット端末を活用した小売店向けの決済サービスを展開するベンチャー企業だ。 そしてNP社は2018年8月、米アマゾン・ドット・コムの電子マネー「Amazon Pay」が、国内でQRコード決済サービスに参入した際、最初のパートナーとして選んだ業者であった。 参入を発表した会見では、アマゾンジャパンAmazon Pay事業本部の井野川拓也本部長と並び、NP社(当時社名はNIPPON PAY)の高木純代表取締役も登壇。高木氏は「2020年末までに、50万店舗の加盟店数を目指す」と豪語していた。 ところが今年3月24日、アマゾンはNP社の端末を通じた決済を一時停止した。 「現在、ニッポンプラットフォーム様のタブレットが設置されている店舗におけるAmazon Payによる決済を一時的に停止しております」(アマゾンジャパン広報) いったい何が起こっているのか。取材を進めると、NP社をめぐり昨年末から複数の金銭トラブルが生じていることが分かってきた。被害総額は100億円規模に及ぶ可能性があるとみられる。“キャッシュレスバブル“に乗じた、悪質なやり口だ』、「NP社」はベンチャーとはいえ、「「Amazon Pay」が、国内でQRコード決済サービスに参入した際、最初のパートナーとして選んだ業者」、というからには、技術面ではそれなりにしっかりしていたのだろう。
・『2つの“財布”を使い分け 支払いを先延ばしに  トラブルの“元凶”となったNP社は、決済用タブレットの運営会社。アマゾンのほか、NTTドコモなどの決済サービスを手がける企業とシステム連携を担っている。 一方、決済用タブレットを無料レンタルする事業を手がけるのが、19年11月までNP社の子会社だったNIPPON Tablet(以下、NT社)だ。この2社をめぐる入り組んだ関係が、金銭トラブルを引き起こしている。 今回、トラブルに巻き込まれて被害に遭った当事者は、大きく3パターン。(1)決済用タブレット端末の販売代理店、(2)決済用タブレット端末の「端末オーナー」、(3)決済用タブレット端末の契約店──という3つの立場の人々だ。 いずれの当事者に対しても、現在NP社からの支払いが大幅に遅延している。また、NP社、NT社ともに信用不安を抱えているとみられる。まず、それぞれの当事者ごとのトラブルを説明しよう。 (1)販売代理店 NP社は決済用タブレットを全国各地の店舗に普及させるため、販売代理店を活用。利用する代理店を「パートナー」と呼んだ。NTT マーケティングアクト(NTT西日本グループ)、USEN NETWORKS(USEN-NEXT HOLDINGSグループ)などの名の知れた企業から、零細・個人事業主まで幅広く100社ほどあるようだ。 NP社のタブレットの契約を1台獲得するたびに、1万5000円のリベートがパートナーに支払われる──。この条件で、各代理店はNP社ではなく「NT社」と契約していたという。 ところが19年11月末、リベートの支払いが滞る。そして同12月初旬、NP社代表取締役の高木氏から代理店にメールが届いた。そこには、パートナー企業に不適切な営業活用があり、経営改善のため高木氏はNP社取締役を辞任し、NT社を自ら買い取って代表取締役になることが記されていた。 さらに12月27日、高木氏から、希望者する代理店とは個別に面談するというメールが届く。面談の場で高木氏は“任意組合”への加入を勧め、「任意組合への出資で、組合を通してニッポンプラットフォーム社の株式を保有することと同様の経済的価値を享受できる」と主張したという。 「踏み倒されたリベートの総額は数百万円。カネを払わず、任意組合への加入を勧めたことも納得がいかない。抗議メールを送っても、返信がない」とある代理店は怒り心頭だ。 小規模な代理店でも、3カ月に一度振り込まれるリベート額が100万円を超えることは珍しくないという。「最大手の代理店になると、未払い額は6000万円程度になるのではないか」(関係者)。100社を超すパートナーへの未払い総額は数十億円規模に達する可能性があると、前出の関係者はみる。 (2)端末オーナー NP社は企業の経営者を相手に、「決済用タブレットの“オーナー”にならないか」と17年末ごろから勧誘していた。店舗に貸し出す端末のオーナーになることで、加盟店から得る決済手数料の粗利益のうち、最大45%を獲得できるとアピール。オーナーになれる端末は、限定5万台(後に10万台に拡大)。端末の購入資金が「経理上損金算入できるため、節税になる」といううたい文句だった。 オーナーは自分の法人と「NT社」との間に売買契約及び運用委託契約を結び、購入代金に応じてインセンティブ料率を掛け合わせた「端末賃料」を購入の1年後に受け取るという仕組みだ。当初の5万台には、年15%のインセンティブが保証されていたという。 ところが代理店にメールが送られたのと同じ19年12月27日、高木氏の個人名義で、“私的な”手紙が端末オーナー宛てに送られてきた。 手紙で、高木氏はNP社を退任してNT社の株を買い取って代表取締役に就き、今後NT社を整理する方針を説明。「端末賃料の権利とリスクを引き取らせてください」「今後、端末賃料がお支払いされない状況になる未来を知っている」などとつづられている。 端末オーナーの債権額について、あるオーナーは「(NP社から)全体で28億円程度と聞いた」と語る』、「100社を超すパートナーへの未払い総額は数十億円規模に達する可能性」、「端末オーナーの債権額について、あるオーナーは「(NP社から)全体で28億円程度と聞いた」」、被害者は企業とはいえ、相当な広がりがあるようだ。
・『(3)端末契約した店舗 NP社と契約を結び、客のQR決済に端末を利用していた店舗でも、最近になって金銭トラブルが発生している。 ある加盟店によれば、NP社からの支払いが遅延し始めたのは20年3月になってから。NP社の社長名義で、3月15日の支払期日を同31日に遅延するという内容のメールが届いたという。そこに追い打ちをかけるように、Amazon Payが使用できなくなったというメールや、支払いを4月15日にさらに延期してほしいというメールが届いたという。 「向こうからメールは来ますが、私たちからの質問には返信がありません」と加盟店の経営者は戸惑いを隠さない。 NP社は、決済用タブレット端末の利用は無料だという触れ込みで、19年9月末の時点で全国の小規模事業者向けに9万5000台を配布している。 例えば、最も取引額の多いドコモの「d払い」で、利用客がタブレット端末を使って決済した場合は、まずドコモが利用手数料を差し引いた額をNP社に入金。NP社はさらに手数料を差し引いて、各店舗に料金を支払うことになる。 現在支払いが滞っているのは、NP社から店舗への支払いの部分だ。 飲食店を営むある店舗オーナーは、未払い額を「26万円程度」と話す。1店舗ごとの売り上げは小さいとはいえ、仮に契約店舗の3割で20万円の未払いが起きているとしたら、単純計算で総額は約60億円に上る。 販売代理店や端末オーナーと違い、店舗加盟店は「NP社」と契約している。NT社の時に使った「営業トラブル」を支払い遅延の理由とすることはできない。 加えてドコモは、NP社からの申し出を受け、契約関係をNP社から「ONE BRAND」という会社へと契約関係を変更したばかりだというのだ。 「NP社がONE BRANDに事業地位承継をしたと聞いている。20年2月20日以降(20年1月以降の成果分)の支払いはONE BRANDに支払っている」(ドコモ広報部)という。 また、ドコモは、NP社とNT社の関係や、それぞれの支払い遅延については認識していなかった。 ONE BRANDは19年11月までNT社、19年12月までNP社の取締役を務めた高本誠也氏が代表取締役。ONE BRANDの取締役には19年4月から現在まで、高木純氏も名を連ねている。これでは、高木氏が経営責任を取ってNP社の取締役を辞任していることとつじつまが合わない。 NIPPON PAYという決済サービスをめぐって、社名変更などを繰り返すことで、契約関係をわざわざ複雑化していることが見て取れる。どんな意図があるのか』、「ドコモは、NP社とNT社の関係や、それぞれの支払い遅延については認識していなかった」、「支払い遅延」のクレームは、「ドコモ」にも寄せられていた筈で、「認識していなかった」、は言い訳なのではなかろうか。
・『複雑奇怪な組織図 公告の取り消しまで行う悪質さ  NP社による3方向の“踏み倒し”総額は、単純計算でも推計100億円を超えることになりそうだ。 NP社の決算上の売上高は、18年12月期は約5億円で、翌年には約3倍の15億円。メガバンクからも10億円以上の融資を受けているとみられ、経営不安の兆しはあまり感じられない。 資本提携も積極的だ。「NP社は金に困っているベンチャー企業に投資しているようだ」とNP社の関係者は証言する。19年5月にはアプリ「temite」を提供するCreation City Labに、NP社から3000万円を出資するリリースを発表。この他にも複数の企業に出資しているもようだ。 「高木氏本人は情報商材を販売していた過去や、18年には訴訟で債権を差し押さえされたなどトラブルを抱えているため、企業の上場に関わることは難しいからではないか」(前出の関係者) 一方、肝心の決済用タブレット事業の方は、「NP社の製品は使い勝手が悪く、事業としてうまくいっていなかった」と別の関係者は明かす。 そしてNP社は決済事業の過程で、さまざまなカラクリを使い、合法的に債権を踏み倒す仕掛けを作り続けているように見える。 まず、初めから「NP社」と「NT社」を切り分けて、債務はNT社に集中させた。代理店や端末オーナーに話を持ち掛ける際、高木氏らはNP社の名刺を出していたという。その一方で、「NT社は子会社」と伝え、契約書上はNT社と契約させている。 また、2019年3月に、同年4月1日にNP社とNT社を合併させるという合併公告を出し、代理店や端末オーナーを信用させた。ところが同年3月29日にひっそりと合併公告の“取消公告”を掲載。それどころか、NP社とNT社の資本関係も解消した。 取消公告を見つけるのは一般的には非常に難しく、またNP社のHP上での告知も全くないことから、当事者たちが「NT社がNP社と資本関係にある」と誤認したままだった可能性が高い。 代理店と端末オーナーはNT社と契約しているが、先述の通りドコモなどから実際の利用客のカネが流れるのはNP社であった。NP社からの入金がなければ、NT社は破綻する。資本関係もないNT社が破綻したところで、NP社には痛くもかゆくもない。 他方、店舗にカネが支払われなくなった時期と、決済事業者からの入金がNP社からONE BRANDに変更された時期も一致する。NT社破綻と同様の手口でNP社の経営破綻をもくろんでいる可能性は否めない。 ただし、これが違法行為であるかというと、「法的に問題があるかを問うのは非常に難しい」と消費者問題に詳しい弁護士は話す。 その理由は、契約主体が中小零細企業などの法人であるため、契約書に問題がなければ罪に問えないからだ。消費者保護で守られるのは、法人と消費者間のトラブルで、「裁判所も法人には厳しい。『NP社の運用するサービスなのにNT社と契約してしまう側も悪い』という判断になりかねない」(前述の弁護士)。 「口頭で関係会社だと説明を受けた」という複数の証言があり、代理店や端末オーナーから入手した営業資料などを見ても、NP社とNT社が同一グループであるように見せている。ところが、契約書のどこにもNP社の名前は見当たらない』、「「高木氏本人は情報商材を販売していた過去や、18年には訴訟で債権を差し押さえされたなどトラブルを抱えている」、にも拘わらず、「メガバンクからも10億円以上の融資を受けている」、のはキャッシュレスバブルが「メガバンク」の目を曇らせていた可能性がある。「NP社は決済事業の過程で、さまざまなカラクリを使い、合法的に債権を踏み倒す仕掛けを作り続けているように見える」、アマゾンやドコモまでもが騙されたのは、いくら「キャッシュレスバブル」があったとはいえ、情けない。
・『決済関連のトラブルにもかかわらず、監督官庁はあいまいだ。消費者庁でもなく、金融庁と経済産業省のいずれも、「決済端末サービスを取り扱う企業については、われわれの管轄ではない」と話す。NP社が所属する一般社団法人キャッシュレス推進協議会は官民連携の機関で、監督機能はない。決済端末サービスは、お上の目も届いていないのだ。 NT社は「(債務を)整理する」と経営破綻をにおわせ、昨年12月に「NT残余財産分配」へと社名変更した。ところが、4カ月たった今も債務整理をしている予兆はない。「破産を明言して社名変更するような場合は、債権者に伝えた後速やかに処理するのが一般的なのだが」と帝国データバンク横浜支店の内藤修氏は首をかしげる。 しかも、NT社に加え、今年3月からNP社も支払いが滞っており、こちらも信用不安が高まっている。 取消公告を出したり、社名をコロコロ変えたり、入金先を全く資本関係のない会社に変えるというのは、「うさんくさい会社がやる手口」(内藤氏)と断じる。NT社、NP社は共に計画的に破綻させ、意図的な踏み倒しの可能性も高い。 不可解な契約を繰り返すNP社だが、ドコモやアマゾン、宮崎県都城市など行政とのキャッシュレス推進事業や実証実験、韓国・ハナ銀行との提携など、大手との取引については大々的にアピールしている。 一連の問題の存在を伝えた上で、今後もONE BRANDとの取引を続けるのかをドコモに確認したところ、「契約関係はONE BRANDと行われたもの。契約は継続する」(広報部)と回答があった。 確かにドコモには何の落ち度もない。だが、決済で支払われた金が最終的に店舗に落ちていないことを知りながら取引を続けることは、回り回ってNP社をめぐるトラブルに加担していることになってしまう。 キャッシュレスバブルに踊った人々の宴(うたげ)の後に何が残るのか。早急に国は手綱を引き締めるべきだろう』、「消費者庁」が管轄外というのは当然としても、「金融庁と経済産業省」までもが管轄外というのは無責任過ぎる。さらに、「ドコモ」が「決済で支払われた金が最終的に店舗に落ちていないことを知りながら取引を続ける」、信じられないような無責任さだ。一般のマスコミが報道してないのも、釈然としない。「キャッシュレスバブル」を煽った「経済産業省」の責任は重大で、「早急に国は手綱を引き締めるべきだろう」、その通りだ。
タグ:悪徳商法 (その4)(新手のマルチ商法に60万円支払った学生の末路 SNS世代だからこそ陥る「キラキラ投稿の罠」、カジノ投資うたい、166億円集めた「会社」の正体 テレアポで高齢者誘い 暗号資産投資を勧誘、アマゾンやドコモを巻き込んだ悪質キャッシュレス業者の「100億円金銭トラブル」【スクープ】) 東洋経済オンライン 高橋 暁子 「 新手のマルチ商法に60万円支払った学生の末路 SNS世代だからこそ陥る「キラキラ投稿の罠」」 モノなしマルチ商法 マルチに貯金すべてをつぎ込んだA子さん Twitterで知り合った年上の男性から、海外の不動産への投資を勧められた」というA子さん。「仮想通貨で配当があるうえ、人を紹介すれば報酬を得られる」と勧誘され、60万円の貯金をはたいた 解約を申し出たものの、勧誘してきた男性からは「半額しか返せない」と言われたそうだ まさか契約書が必要とは思わなかった 人を紹介すれば自分の収入になると信じて、友達に声をかけたり、SNSの友達を勧誘する学生もいる 「SNSでつながっているからいつでも連絡できるし、信じられる」と考えてしまうのがSNS世代の特徴 キラキラ投稿にだまされる大学生たち 勧誘する側は、実名・顔出しでのキラキラ投稿をしている例が目立つ。SNSでは、顔や名前を出して発信する人は信頼を得やすい傾向 仲間との楽しそうな写真や海外旅行、ぜいたくな食事などのリア充なキラキラ投稿は、ビジュアルでの説得力を持つ 再生数やいいね数、フォロワー数などは安価に購入でき、信用するための根拠にはならない 嫌われることを恐れず早く相談を 「カジノ投資うたい、166億円集めた「会社」の正体 テレアポで高齢者誘い、暗号資産投資を勧誘」 オンラインカジノや暗号資産開発への出資を誘い、日本国内で166億円という多額の資金を集めた 必要な登録を行わずに 監視委 出資の募集の禁止・停止命令を出すよう東京地方裁判所に申し立てた 過去最高額の違反行為 GPJは電話で約束を取りつけた後に対面で営業する「テレアポ」で顧客を投資に勧誘 GPJの社員権取得などを通じて、高齢者を中心に最大2042人をオンラインカジノや暗号資産を開発しているという親会社「Ganapati PLC」(以下ガナパティ)などに出資させた 第二種金融商品取引業の登録をしていなかった 東京、福岡、札幌に国内拠点を持ち、それぞれの拠点で名簿業者から買い取った顧客リストに電話をかけ、自宅や近くのレストランで勧誘を行った なぜ金融商品取引業の登録を怠ったか 2つ目の方法は、暗号資産との引換券である「G8C」を取得させるというものだ GPJの国内3拠点における営業員数は69人 「平均月収100万円以上」をうたって従業員を募集 プロフェッショナルチーム 「ガナパティ」の正体とは ガナパティの現在の筆頭株主は75%以上を保有する日本の一般社団法人 2020年2月にイギリス領バージン諸島の企業から株式を譲り受けたとみられる イギリスのNEX市場上場 上場以来2回しか株式が取引されていない 親会社は「適切だった」とコメント ダイヤモンド・オンライン 「アマゾンやドコモを巻き込んだ悪質キャッシュレス業者の「100億円金銭トラブル」【スクープ】」 キャッシュレス決済端末めぐりトラブル 被害額は100億円規模か NIPPON Platform(以下、NP社) 「Amazon Pay」が、国内でQRコード決済サービスに参入した際、最初のパートナーとして選んだ業者 今年3月24日、アマゾンはNP社の端末を通じた決済を一時停止 NP社をめぐり昨年末から複数の金銭トラブル 被害総額は100億円規模に及ぶ可能性 キャッシュレスバブル 2つの“財布”を使い分け 支払いを先延ばしに NP社は、決済用タブレットの運営会社 決済用タブレットを無料レンタルする事業を手がけるのが、19年11月までNP社の子会社だったNIPPON Tablet(以下、NT社) 被害に遭った当事者は、大きく3パターン (1)決済用タブレット端末の販売代理店 (2)決済用タブレット端末の「端末オーナー」 3)決済用タブレット端末の契約店 ドコモは、NP社からの申し出を受け、契約関係をNP社から「ONE BRAND」という会社へと契約関係を変更 ドコモは、NP社とNT社の関係や、それぞれの支払い遅延については認識していなかった 複雑奇怪な組織図 メガバンクからも10億円以上の融資を受けている 高木氏本人は情報商材を販売していた過去や、18年には訴訟で債権を差し押さえされたなどトラブルを抱えているため、企業の上場に関わることは難しい NP社の製品は使い勝手が悪く、事業としてうまくいっていなかった NP社とNT社を合併させるという合併公告を出し、代理店や端末オーナーを信用させた ひっそりと合併公告の“取消公告”を掲載。それどころか、NP社とNT社の資本関係も解消 NP社は決済事業の過程で、さまざまなカラクリを使い、合法的に債権を踏み倒す仕掛けを作り続けているように見える 決済関連のトラブルにもかかわらず、監督官庁はあいまいだ 消費者庁でもなく、金融庁と経済産業省のいずれも、「決済端末サービスを取り扱う企業については、われわれの管轄ではない」と話す NT社は「(債務を)整理する」と経営破綻をにおわせ、昨年12月に「NT残余財産分配」へと社名変更 今も債務整理をしている予兆はない ドコモには何の落ち度もない。だが、決済で支払われた金が最終的に店舗に落ちていないことを知りながら取引を続けることは、回り回ってNP社をめぐるトラブルに加担していることになってしまう 早急に国は手綱を引き締めるべきだろう
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「物言う株主」(アクティビスト・ファンド)(その3)(セブン株急騰の秘策 大物アクティビストが初激白 セス・フィッシャー オアシス・マネジメント最高投資責任者(CIO)インタビュー、サン電子の総会前に直言!「物言う株主」の本音 オアシスCEO「我々はエンゲージメント株主」、キリン 「物言う株主」を退けても残る重い宿題 イギリス投資会社の株主提案はすべて否決) [企業経営]

「物言う株主」(アクティビスト・ファンド)については、2018年7月1日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その3)(セブン株急騰の秘策 大物アクティビストが初激白 セス・フィッシャー オアシス・マネジメント最高投資責任者(CIO)インタビュー、サン電子の総会前に直言!「物言う株主」の本音 オアシスCEO「我々はエンゲージメント株主」、キリン 「物言う株主」を退けても残る重い宿題 イギリス投資会社の株主提案はすべて否決)である。

先ずは、昨年11月22日付けダイヤモンド・オンライン「セブン株急騰の秘策、大物アクティビストが初激白 セス・フィッシャー オアシス・マネジメント最高投資責任者(CIO)インタビュー」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/220705
・『香港を拠点とするアクティビストファンド、オアシス・マネジメントの創設者で最高投資責任者(CIO)を務めるセス・フィッシャー氏が10月下旬、都内でダイヤモンド編集部のインタビューに応じた。現在、日本の十数社に対してエンゲージメント活動を行っていると明らかにし、そのうちの一つとされるセブン&アイ・ホールディングスについては「バリュエーション(株価評価)を上げられる」と断言した。特集「アクティビスト日本襲来」(全12回)の#8では、日本企業に対する海外アクティビストの視点を紹介する』、興味深そうだ(Qは聞き手の質問、Aはフィッシャー氏の回答)。
・『2週間に1度のペースで来日「企業の変化を目の当たりにしている」  Q:例年、秋から冬にかけてのこのシーズンに来日し、投資先の企業経営者と面談されるのでしょうか。 A:2週間に1度は日本に来ているよ。昨日は定宿にしているホテルから賞をもらった。100回目の宿泊記念でね(笑)。 決算発表を終えたばかりのこの時期は、企業側と時間をかけて対話ができる良いタイミングだ。今日も投資先企業の取締役メンバーと会合を持ち、われわれが企業をどう見ており、どのような協力ができるかをお伝えしたところだ。 Q:長年日本で投資活動を続けられ、アクティビストに対する日本の経営者の対応の変化を感じますか。 A:非常に感じている。私が今、日本で目の当たりにしているのは、われわれが企業の価値向上に貢献したいという姿勢を、企業側が理解してくれているということだ。われわれはビジネスを改善するために尽力したい。そのための最良の方法は、お互いに協力することだ。そのためにわれわれは膨大な作業をこなし、しっかりと中身のある提案を行っている。 われわれにとって日本は非常に重要な市場で、日本市場のためにかなりの人数を割いてチームを構成している。僕のかばんの中身は見せられないが、1企業当たり約100ページのプレゼンテーションの資料が入っている。 今日の会議でも、真のコーポレートガバナンスの確立や収益改善に向け、どのような独立社外取締役の形が理想なのかについて議論した。また新たなM&A(企業の合併・買収)の機会や財務についても互いに話をした。企業とわれわれが協力して経営課題に取り組む傾向が強まっている。 Q:なぜそのように変化したと思いますか。 A:2000年代の“悪い”時期から非常に時間はかかったが、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップコードが導入され、外国人投資家が増えたことで大きく変わったと思う。われわれは時間をかけて日本を理解しようとし、日本の企業側も、われわれが単なる金もうけではなく、企業の改善のために努力している姿勢を理解してくれているように感じる。 かつてのアクティビストは高リターン狙いだったかもしれないが、今の世代のアクティビストは全てのステークホルダーと協力し、企業価値を高めることに重きを置いている』、「2週間に1度は日本に来ているよ」、「私が今、日本で目の当たりにしているのは、われわれが企業の価値向上に貢献したいという姿勢を、企業側が理解してくれているということだ」、「コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップコードが導入され、外国人投資家が増えたことで大きく変わったと思う」、「今の世代のアクティビストは全てのステークホルダーと協力し、企業価値を高めることに重きを置いている」、企業側の姿勢もずいぶん変わり、隔世の感がある。
・『日本の企業に埋もれた「潜在的な可能性」を引き出す  Q:オアシスにとってはより活動がしやすい環境になったと。 A:そうだね。そしてその動きが加速している。経営陣のエンゲージメントが加速すれば、より協調できる範囲が広がる。 株主が会社の提案に対して「ノー」を突き付けることも珍しくない今、企業は対話を通じて協力する必要があると理解している。株主がより積極的に関与するようになったので、アンダーパフォームな取締役選任を否決する事態も起きている。 Q:オアシスが投資先を選定する際、どのような点を一番重視していますか。 A:非常に多くのことを見ているので特に「一番」というものはない。 例えば個々の事業内容や改善余地、成長性、隠れた資産、バリュエーション(株価評価)。従業員や競合他社の話も聞き、業界全体を俯瞰して評価する。コスト削減やM&Aなどを用い、その企業の業績を大幅に改善する余地はあるのか、というところを見ている。 多くの企業には、まだ発掘されていない潜在的な可能性がかなりある。それを引き出すのがわれわれの役目だ。非常に割安に会社を買い、もし成功すれば株価は上がるので、全てのステークホルダーがハッピーになる。 Q:現在、日本企業の投資先の数は。 A:かなりの数の企業に投資しており、中でもわれわれが非常に時間をかけてエンゲージメント活動に注力している企業数は10~15社程度だ。 そうした企業では長期の事業計画を作成し、将来像を常に考えている。そして今直面する課題についてサポートさせていただいている』、「われわれが非常に時間をかけてエンゲージメント活動に注力している企業数は10~15社程度」、やはり的を絞って活動しているようだ。
・『IT投資、環境対策、事業再編…「セブン&アイができることは多い」  Q:例えばセブン&アイ・ホールディングスは、QRコード決済サービスの失敗やコンビニの24時間営業などの問題を抱え、株価が低迷している。この会社をどのように見ていますか。 A:ご指摘の通りだ。セブン&アイのビジネスは非常に良いと思う。業界のトップリーダーだし、たくさんのビジネス機会があるとみている。 QRに失敗はしたが、IT分野でできることはまだ多い。米国ではアマゾン・ドット・コムの無人店舗「アマゾン・ゴー」が話題だが、セブン&アイも自動化や決済技術にさらに投資すれば、消費者にとって利便性が高まる。 また、環境問題へのさまざまな対策を講じることができる。例えばプラスチック使用量の削減計画を加速できれば、日本の社会にとっても企業にとっても良いことだ。 事業面でもいろいろとできることがある。例えばセブン&アイの事業を見れば、イトーヨーカ堂がなかった場合、利益も改善すると思うし、バリュエーションも上げられるだろう。 Q:セブン&アイの株を買い進め、経営陣に具体的な提案を始めているのでしょうか。 A:それについてはノーコメントだ。 Q:今後の日本市場への投資方針は。 A:日本に特化した「オアシス・ジャパン・ストラテジック・ファンド」を昨年設立し、今後も日本企業への投資を継続していく計画だ。 日本株は割安だ。そこでわれわれがアクティブにエンゲージメント活動を行うことでバリュエーションを上げていきたい。全てのステークホルダーのために事業を改善していくことがわれわれの務めだと思っている。(フィッシャー氏の略歴はリンク先参照)』、「セブン&アイ」では、やはり「イトーヨーカ堂」の切り離しを働きかけているようだが、「セブン&アイ」が簡単に応じるとは思えない。どうなるのか、今後の動向が注目される。

次に、本年4月7日付け東洋経済オンライン「サン電子の総会前に直言!「物言う株主」の本音 オアシスCEO「我々はエンゲージメント株主」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/342597
・『香港の物言う株主(アクティビスト)として知られるオアシス・マネジメントが電子機器製造のサン電子に招集請求した臨時株主総会が4月8日に開催される。オアシスはサン電子の業績不振を理由に山口正則元社長ら取締役の解任と、オアシスが推挙する取締役の選任を求めている。 オアシスは2019年3月26日の大量保有報告書ではじめて登場した大株主。同年6月に開かれたサン電子の定時株主総会では取締役5人の再任に反対表明した。理由は、本業の業績不振に加え、デジタルフォレンジック(電子鑑識)を手がける子会社セレブライト社(本社イスラエル)が実施した優先株による第三者割当増資(2019年6月に払い込み)は既存株主の株式価値を著しく希薄化させたというものだ。 結果的に取締役再任を求めた会社提案に60%近くが賛成したためオアシスの解任案は退けられたが、再任にも40%超が反対していたことが浮き彫りになった。 プロキシーファイト(委任状争奪戦)での成功例が少ないとされるオアシスだが、今回再び臨時株主総会を招集請求し、あらためて取締役の解任と新取締役候補の選任を求めることに「何らかの手応えを得ているのではないか」という観測が出ている。 オアシス設立者で最高投資責任者であるセス・フィッシャー氏が東洋経済の単独インタビューに応じ、真意を語った。(インタビューは3月27日実施。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で香港―日本間の渡航が制限されているため、香港にいるセス氏に電話インタビューを行った)』、「子会社セレブライト社・・・が実施した優先株による第三者割当増資・・・は既存株主の株式価値を著しく希薄化させた」、「サン電子」には「子会社」を抑え込む力もなかったのだろう。
・『赤字が続くのは偶然とは言えない  Q:4月8日開催のサン電子・臨時株主総会では珍しく「オアシス優勢」と見られています。 A:勝てるかどうかまだわからないが、勝ちたいと強く思っている。本当に優勢なのだとしたら、それはわれわれの主張、提案の中身が明快だからだろう。 サン電子は2019年3月期まで2期連続で営業赤字を計上し、純損益は2017年3月期から4期連続の赤字が濃厚だ。さらに2020年3月期の純利益も赤字予想を出している。ここまで赤字が続くのは偶然とは言えず、マネジメントの手腕に問題があると言わざるをえない。 ベター・サン、より素晴らしいサン電子に生まれ変わるタイミングは今だ。だから臨時株主総会の招集請求をし、取締役の刷新を求めた。 Q:オアシスが「上場廃止のリスク」だと主張していることに対して、サン電子の経営陣は「営業CFはプラスであり、総会招集請求の理由は間違っている」と反論しています。 A:営業CFがプラスというのは枝葉の話にすぎない。くり返して言うが、会社の純利益は4期連続で赤字となる見通しだ。これは緊急事態であり明確な「上場廃止のリスク」だ。こうした赤字の終わりが見えない状況下で定時の株主総会開催を座視して待つことはできず、強い危機感を抱く株主として臨時株主総会の開催を求めることは権利の行使ではなく、デューティ(義務)だと考えている』、「強い危機感を抱く株主として臨時株主総会の開催を求めることは権利の行使ではなく、デューティだと考えている」、もっともな主張だ。
・『「ファイナンスのスキルが欠如」  Q:オアシスが推挙している取締役候補者について、サン電子経営陣は「経営経験がない」「ビジネス経験がない」といった理由で反対しています。 A:その指摘は不正確で的外れだ。何度も言おう。会社は4期連続で赤字となる業績予想を出しているのだ。 この事実は、彼ら経営陣にファイナンスの知識が欠如していることを浮き彫りにしている。中核子会社であるセレブライトの業績は非常によい。にもかかわらず2019年の第三者割当増資の際には、市場価格から大幅にディスカウントされた価格で売ってしまった。 既存株主の株式価値を著しく毀損させた「不当な取引」だったとわれわれは考えているが、驚くことに、こんな不当な取引を後押ししたアドバイザーに対し、異常に高いフィー(手数料)を払っていた。こちらの試算では、取引額の約8%をアドバイザーに支払っている。 われわれは取引の中身を分析し、企業の価値を著しく損ねる取引であったことを会社側に数字で説明をした。すると会社は、おかしな取引をしていたことに気づいてもいなかった。われわれが指摘をして初めて彼らは気づいたのだ。彼らのファイナンススキルの欠如は明らかで、それが株式の価値、企業の価値を毀損している。 Q:会社が取締役候補として提案している辻野晃一郎さんはソニーの出身で、グーグル日本法人の社長も経験しています。赤字部門の立て直しの経験もあり、外部の評価も高い。オアシスが反対する理由は? 辻野さんについて私は詳しくは知らない。彼とお会いする機会がなかった。コメントは差し控える。 Q:仮にオアシスがプロキシーファイトに勝利し、取締役候補が実際に取締役に就任したら、サン電子のマネジメントをどのように変えていくつもりなのでしょうか。 A:すでに会社には、具体的かつ精緻な経営計画「100日プラン」を提出している。損失を減らし、純利益を上げるための細かいオペレーションを記している。また、事業を成長させるために必要な人材の新規採用についても予定している。4月8日にわれわれの提案が可決されたら、その瞬間から動き始めるプログラムだ。 Q:現在、サン電子株はどのくらい保有しているのでしょうか。 A:公開しているのは9.21%だ』、「セレブライト」の「第三者割当増資」は問題があったのに、それを認識しない経営陣はやはり失格なようだ。
・『会社をベターに、よりよくしていく  Q:仮に今回のプロキシーファイトで勝ったら日本での成功は何件目か。貴社はプロキシーファイトで勝つことが少なく「何をもって成功と考えているのかわかりにくい」という指摘もあります。 A:成功事例はたくさんある。私たちの活動を単純な「成功か失敗か」のディールと捉えられてしまうことにはやや違和感がある。 われわれはアクティビストではなく「エンゲージメント株主」だ。会社の経営者に会いにいったり事業改善の策を考えて提出したり、場合によってはサン電子のように取締役の交代を求める。オペレーションの改善やマージンの改善などは会社と膝をつき合わせて議論をしている。 ただ、その中で株主としてどうしても我慢ができないときにはプロキシーといった状況にもなりえる。プロキシーの部分が目立ってしまうために「プロキシーファイトばかり仕掛けるアクティビスト」と見られてしまうことが往々にしてあるが、大半はエンゲージメントに力を注いでおり、それらは公開されていない。どこまでも会社をベターに、よりよくしていくことが活動の趣旨だ。そこを理解してほしい』、8日付け日経新聞によれば、「臨時株主総会」では、株主提案で前社長ら取締役解任、オアシスが推薦する5人の取締役(うち2人は会社提案と重複)の選任も可決された。前経営陣が7余りにお粗末だっただけに、当然の結果だろう。

第三に、4月4日付け東洋経済オンライン「キリン、「物言う株主」を退けても残る重い宿題 イギリス投資会社の株主提案はすべて否決」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/342144
・『「穏やかな株主総会だった」――。3月27日に都内で開かれたキリンホールディングス(HD)の定時株主総会。出席した株主の男性は、終わったばかりの総会の様子をそう話した。 新型コロナウイルスの感染拡大が影響したのだろう。総会出席者は例年の約半数ほどとなる475人にとどまった。感染防止を配慮し株主の質問は1人1問と要請をしたことで、質疑の時間も昨年の1時間13分から25分へと大幅に縮んだ。 今年の総会の焦点はキリンHDにとって初となる株主提案の行方だった。だが、提案者であるイギリスの投資会社、インディペンデント・フランチャイズ・パートナーズ(IFP)は、新型コロナの影響で来日を取り止め。IFP不在の中で諮られた同社の提案はいずれも否決された』、「IFP]が「新型コロナの影響で来日を取り止め」たとは残念だ。
・『自己株買いへの賛成率は8.4%  キリンHD株の2%を保有するIFPが提案していた内容は大きく次の3つだった。①医薬や健康事業など非中核事業からの撤退と、と同事業の売却資金を元手とする上限6000億円の自己株買い、②株式報酬の比重を増やすなど取締役の報酬制度の見直し、③IFPが推薦する社外取締役2人の選任だ。 このうち自己株買いの提案は総会での賛成率が8.4%にとどまった。株主からの支持を得られなかった理由は、IFPが自己株買いの原資をファンケルや協和キリンなど「ビール以外の非中核事業」とする傘下企業の売却に求めたことにある。IFPは、人口減少の進む日本国内においても値上げや割引率の引き下げなどによって、ビール事業の成長は可能であるとし多角経営を撤回するよう訴えていた。 しかし、「(ビール事業の)一本足打法だとリスクがある。多角経営しなければ生き残れないのでこれからに期待したい」(先述とは別の男性株主)など、会社側の戦略に賛同する株主のほうが多かった。機関投資家の賛否に影響を与える議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)やグラスルイスもキリンHDの立場に同意し、IFPの自己株買い提案に反対することを推奨していた。 一方、報酬制度見直しと社外取締役選任の提案は一定の賛成票を集めた。 報酬制度見直しの賛成率は21%。ISSは機関投資家に対し、IFPの提案に賛成を推奨する意見を示していた。約2割という賛成率は、株主と取締役との間での価値観の共有をより求める声があることを示している。 社外取締役選任案の賛成率は、製薬会社のグラクソ・スミスクライン日本法人社長を務めた経験を持つ菊池加奈子氏が20%。金融界出身で現在は半導体検査装置のアドバンテストで社外取締役を務めるニコラス・E・ベネシュ氏は35.6%だった。ベネシュ氏の賛成率には、ISSが賛成を推奨したことも影響したとみられる』、「ビール事業」に集中するか、「多角経営」を続けるかは、理論的にも決着がついていない難しい問題だ。「ISSやグラスルイスもキリンHDの立場に同意」、というのでは、IFPは苦しい戦いになったようだ。
・『総会後のキリンとIFPの反応  IFPの提案は否決、会社側提案は承認という総会の結果を受けて、キリンHDの磯崎功典社長は「昨年の時点では株主との対話が不十分だった。3月に行った投資家説明会などで(戦略への)理解を深めてもらい、応援をいただいた結果」とコメントした。 対するIFPは、自らの提案により「社外取締役が過半数を占める取締役会と、より株主の利益に沿った役員報酬制度をキリンHD自身が提案するに至った」との声明を公表した。 波乱もなく株主総会を乗り切ったキリンHD。だがこれで同社の多角化戦略が安泰に進むのかと言えば、そうではないだろう。IFPは引き続き同社株を保有するとしている。IFPの弁護士によると、新型コロナの状況次第ではあるが、4~5月にも来日して長期戦略の見直しをキリンHDに求める考えだという。 不満を抱くのはIFPだけではない。特にヘルスサイエンス事業への投資に対しては、国内の市場関係者からも「投資額が大きい割に成果が今ひとつ」(みずほ証券の佐治広シニアアナリスト)と指摘する声があがっている。 ヘルスサイエンス事業の中核とするため、キリンHDは2019年4月に孫会社だった協和発酵バイオを直接の子会社とした。ところが同年8月に工場における製造手順で違反が発覚。年間80億円の利益を上げるという算段が崩れ、2020年12月期の予想事業利益は20億円の赤字を見込む。 5年後となる2024年12月期には、ヘルスサイエンス事業で150億~180億円の利益貢献を計画するが、その約半分を協和発酵バイオで稼ぐ考え。直接子会社化に伴い約1300億円を費やしているだけに、株主や市場関係者が神経質になるのは当然のことだ』、「約1300億円を費やしている」「協和発酵バイオ」が「製造手順で違反が発覚」、とはお粗末の一言に尽きる。
・『成長への道筋が不明瞭  2019年9月には化粧品メーカーであるファンケルの株式33%を取得した。約1300億円を投じて持分法適用会社としたファンケルとのシナジーは、2024年時点で約55億~70億円の利益を見込む。ただ、キリンHDの現在の事業利益規模からすると3%ほどの貢献にすぎない。 加えて、磯崎社長は「シナジーが出てから保有比率(の引き上げ)について考えたい」と述べているが、「シナジーが出てからではファンケルの株価が上がるため追加の投資額が大きくなる」(みずほ証券の佐治氏)。要は成長への道筋が不明瞭なのだ。 IFPの株主提案が否決されたことからもわかるように、ビール事業だけでは先行きが危ういという認識は、多くの株主の間で共有されている。だが、ヘルスサイエンス事業の戦略に対する懐疑的な見方はIFPの株主提案を機に広く浸透したといえる。 キリンHDが今後も多角化戦略を進めていくには、同事業で株主が満足する結果を出すことが必要だ。その兆しが見えるまでの間は、株主との対話を根気強く求められることになりそうだ』、かつては、シェアがさらに上がれば、独禁法で会社分割されかねないとして恐れていた時代もあったが、もはやビール事業にもそのような面影すら残ってないようだ。「多角化戦略」も目立った成果が上がらない上に、今後とも「IFP」などの「物言う株主」の株主提案圧力も続き、経営陣にとっては頭が痛い状態が持続しそうだ。
タグ:物言う株主 アクティビスト・ファンド (その3)(セブン株急騰の秘策 大物アクティビストが初激白 セス・フィッシャー オアシス・マネジメント最高投資責任者(CIO)インタビュー、サン電子の総会前に直言!「物言う株主」の本音 オアシスCEO「我々はエンゲージメント株主」、キリン 「物言う株主」を退けても残る重い宿題 イギリス投資会社の株主提案はすべて否決) ダイヤモンド・オンライン 「セブン株急騰の秘策、大物アクティビストが初激白 セス・フィッシャー オアシス・マネジメント最高投資責任者(CIO)インタビュー」 オアシス・マネジメント 創設者で最高投資責任者(CIO)を務めるセス・フィッシャー氏 特集「アクティビスト日本襲来」 2週間に1度のペースで来日「企業の変化を目の当たりにしている」 私が今、日本で目の当たりにしているのは、われわれが企業の価値向上に貢献したいという姿勢を、企業側が理解してくれているということだ コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップコードが導入され、外国人投資家が増えたことで大きく変わったと思う 今の世代のアクティビストは全てのステークホルダーと協力し、企業価値を高めることに重きを置いている 日本の企業に埋もれた「潜在的な可能性」を引き出す われわれが非常に時間をかけてエンゲージメント活動に注力している企業数は10~15社程度 IT投資、環境対策、事業再編…「セブン&アイができることは多い」 イトーヨーカ堂がなかった場合、利益も改善すると思うし、バリュエーションも上げられるだろう 東洋経済オンライン 「サン電子の総会前に直言!「物言う株主」の本音 オアシスCEO「我々はエンゲージメント株主」」 サン電子に招集請求した臨時株主総会が4月8日に開催 業績不振を理由に山口正則元社長ら取締役の解任と、オアシスが推挙する取締役の選任を求めている 子会社セレブライト社 優先株による第三者割当増資 は既存株主の株式価値を著しく希薄化させた 赤字が続くのは偶然とは言えない 「ファイナンスのスキルが欠如」 会社をベターに、よりよくしていく 日経新聞 「臨時株主総会」では、株主提案で前社長ら取締役解任、オアシスが推薦する5人の取締役(うち2人は会社提案と重複)の選任も可決 「キリン、「物言う株主」を退けても残る重い宿題 イギリス投資会社の株主提案はすべて否決」 キリンホールディングス(HD)の定時株主総会 提案者であるイギリスの投資会社、インディペンデント・フランチャイズ・パートナーズ(IFP)は、新型コロナの影響で来日を取り止め。IFP不在の中で諮られた同社の提案はいずれも否決された 自己株買いへの賛成率は8.4% ①医薬や健康事業など非中核事業からの撤退と、と同事業の売却資金を元手とする上限6000億円の自己株買い ②株式報酬の比重を増やすなど取締役の報酬制度の見直し ③IFPが推薦する社外取締役2人の選任 自己株買いの提案は総会での賛成率が8.4%にとどまった 株主からの支持を得られなかった理由は、IFPが自己株買いの原資をファンケルや協和キリンなど「ビール以外の非中核事業」とする傘下企業の売却に求めたことにある ISS)やグラスルイスもキリンHDの立場に同意 総会後のキリンとIFPの反応 協和発酵バイオを直接の子会社とした 工場における製造手順で違反が発覚。年間80億円の利益を上げるという算段が崩れ、2020年12月期の予想事業利益は20億円の赤字を見込む 直接子会社化に伴い約1300億円を費やしている 成長への道筋が不明瞭
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