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日銀の異次元緩和政策(その32)(「パンドラの箱」を開けてしまったパウエル議長 緊急利下げ2回で⽶国は「ゼロ⾦利復帰」、元日銀参事・岩村充氏があぶりだす「黒田バズーカ」の本質、新型コロナ金融危機モードの陰で金融正常化を目論む日銀の「深謀遠慮」) [経済政策]

日銀の異次元緩和政策については、昨年11月22日に取上げた。今日は、(その32)(「パンドラの箱」を開けてしまったパウエル議長 緊急利下げ2回で⽶国は「ゼロ⾦利復帰」、元日銀参事・岩村充氏があぶりだす「黒田バズーカ」の本質、新型コロナ金融危機モードの陰で金融正常化を目論む日銀の「深謀遠慮」)である。

先ずは、本年3月17日付け日経ビジネスオンラインが掲載したみずほ証券チーフMエコノミストの上野 泰也氏による「「パンドラの箱」を開けてしまったパウエル議長 緊急利下げ2回で⽶国は「ゼロ⾦利復帰」」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00122/00061/?P=1
・『3月3日に開催された主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁による緊急電話会議では、新型コロナウイルスの感染拡大が市場や経済状況に与える影響を緊密に監視しているとしていた。その上で、「全ての適切な政策手段を用いるとのわれわれのコミットメントを再確認する」「適時かつ効果的な施策について、さらなる協力を行う用意ができている」と表明していた。 だが、中央銀行の政策運営についてこの共同声明では「引き続き自らのマンデートを履行し、もって金融システムの強靱(きょうじん)性を維持しつつ、物価の安定と経済成長を支える」と書かれたのみだった(引用は日本の財務省による仮訳から)。事前に一部で報道されていたような、協調利下げなどの具体的な政策行動が声明に盛り込まれることはなかったため、市場では失望感が広がった。 その直後に突然公表されたのが、0.5ポイント幅の緊急利下げを全員一致で決定したとする、米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文である。G7の議長国である米国が何もアクションをとらないのは許されないという政治的な雰囲気があったのだろうか。ちなみに、これより前、トランプ大統領は米連邦準備理事会(FRB)に対し、迅速な利下げを要求していた。3月17~18日開催予定の定例のFOMCを待たずに、緊急で大幅な利下げに踏み切ったわけである』、「トランプ大統領は」「FRBに対し、迅速な利下げを要求」、中央銀行の「独立性」などはなから無視して、以前から要求しているので、今さら市場も驚かないようだが、慣れとは恐ろしいものだ。
・『緊急利下げは「アナウンス効果」  市場はすでにFRBによる連続的な利下げを織り込んでおり、長期金利は過去最低の水準に下がっていたので、上記の緊急利下げの意味合いはもっぱらアナウンスメント効果にあったということになる。 声明文は、2月28日に利下げの予告のように出されたパウエル議長の緊急声明にもあった、「米国経済のファンダメンタルズは引き続き強い」という文章を改めて冒頭で掲げつつも、経済活動に対するコロナウイルスのリスクが大きくなりつつあるとして、これを緊急利下げの理由とした。 この利下げによって、フェデラルファンド(FF)レートの誘導水準は1.0~1.25%になった。パウエルFRB議長は記者会見で、米国でも新型コロナウイルス感染者が出始めたことを理由に、米国の景気見通しが「大幅に変わった」と述べた。FOMC声明文は「今後も適切に行動する」と明記していたため、市場はさらなる利下げを予期していた。 米国の場合、短期金融市場に厚みがあり、その機能を維持する必要があることから、日欧のようなマイナス金利導入はハードルが非常に高い。したがって、FFレート誘導水準の事実上の下限は0~0.25%である。 この水準までは、1回の利下げを0.25ポイント幅で考えた場合でも、残り4回分という計算であり、日銀や欧州中央銀行(ECB)に続いてFRBについても、「弾切れ」状態がはっきり視野に入った。追加緩和手段の面での金融政策の手詰まりが露呈し、FRBも日銀流の「持久戦」、すなわち低金利を粘り強く続けて物価が目標に向かって上がるのをじっと待つ作戦へとやむなく移行する流れが、従来の想定よりも数年早く、見えるようになったわけである。 緊急利下げ当日の米国株はいったん上昇したものの、結局は大幅に反落して取引を終えた。その後も過去最大の下落幅を3月9日さらには12日に記録するなど、不安定な展開が続いている。 結局のところ、新型コロナウイルス感染拡大に対して、利下げは無力である。各国の保健当局・研究所・製薬会社などが新型コロナウイルス対策の「最前線」に立っているわけであり、金融緩和は市場心理の不安定化や株価急落への手当てにしかならない。むろん、米10年債利回りが1%を下回るなど長期金利が大きく下がっており、住宅市場などへの追加的な刺激効果はあるものの、新型コロナウイルスによる新たなタイプの危機は、個人消費の大幅な減少を各国でもたらしつつあり、次元が全く異なるように思う。 緊急利下げをアナウンスした後の記者会見でパウエル議長は、仮に新型コロナウイルスによる影響が現在考えられているよりも軽いと判明した場合、今回の利下げは撤回され得るのかと問われ、次のように返答した(和訳は筆者)。 「われわれは常に、課されている2つの責務(物価安定と最大雇用)が目指すところに最も資するとわれわれが考える道筋に、その時々の金融政策を設定しようとしている。ただそれだけの簡単なことだ。仮に、われわれが金融政策のスタンスを変更するのに適切なタイミングだと考えるところに立ち至ったならば、そうすることをためらうつもりはない」』、FRBも「「弾切れ」状態がはっきり視野に入った」、にも拘らず、強気の表明をせざるを得ないのだろう。
・『一般論で逃げたパウエル議長  「緊急的に実施した利下げの撤回」という意味を持つ利上げが実行され得るのかどうかについて、パウエル議長は直接の言及はせずに、一般論で逃げた形である。緊急利下げでもっぱら期待しているアナウンスメント効果を利上げへのダイレクトな言及で弱めたくないという配慮のほかに、あるいはそれ以上に、そうした利下げの撤回という形での利上げは現実問題としてきわめて難しいという思いが、パウエル議長の心中にあるのだろう。 マイナス金利を含む日銀の異次元緩和の事例が示す通り、半ば強引に実行した結果、市場(特に外為市場)に一度インプットされてしまった政策行動を元に戻すのは、けっして容易なことではない。FRBが近い将来に利上げに動こうとすれば、ドル高進行(およびトランプ大統領からの執拗なまでのFRB批判)や、株価の大きな動揺を招く可能性が高い。 しかも、FRBの2つの責務のうち物価安定(インフレ目標である2%の持続的な実現)は、達成がさっぱり視野に入ってきていない。米個人消費支出(PCE)デフレーターの総合は15カ月連続、コアは13カ月連続で、前年同月比プラス2%未満にとどまっている。政策金利の下げ余地が仮にもっと大きかったならば、FRBはよりアグレッシブに利下げを実行していたはずである。 2019年7~8月に市場では「米国債ゼロ%論」が目立っていた(当コラム 19年8月20日配信「近づく『米国でさえプラス金利がない世界』」ご参照)。米国の政策金利はゼロ%近くに張り付くようになり、10年債利回りはゼロ%か場合によってはマイナスになるだろうというシナリオである。その実現の可能性がにわかに上昇している。米金利の位置の激変により、市場は「パラダイムシフト」の様相を呈しつつある。 3月6日に米労働省から発表された2月の雇用統計は、予想より上振れの強い内容になった。だが、新型コロナウイルス感染が米国内で大きく問題視されるよりも前の経済実績であり、「コロナ前の数字」であるとみなして金融市場はこれをスルーした。 新型コロナウイルスが米国を含む世界経済全体を揺さぶる前には、FRBは少なくとも年内は様子見、据え置きを続けて利下げ余地を「温存」し、ドルの長短金利はそこそこの水準を保つという大きな枠組みの中で、どのように資金運用を展開するかが、内外機関投資家の主要な関心事になっていた。 ところが、新型コロナウイルスを材料にした株価急落・市場心理の不安定化をFRBは座視し得なくなり、すでに述べた通り、0.5ポイント幅で緊急利下げに動いた。 けれども、これは「対症療法」にすぎず、問題の根源である新型コロナウイルスの感染拡大に対しては、完全に無力である。それでもFRBが動いたことにより、「FRBは何か市場が知らないことを知っているのではないか」といった疑念を抱きつつ、市場はFRBによる今後の連続的な利下げを織り込まざるを得なくなった』、「緊急利下げ」は「「対症療法」にすぎず、問題の根源である新型コロナウイルスの感染拡大に対しては、完全に無力である」、FRBとしては苦しいところだ。
・『楽観論戒めるWHO  FRBの「弾切れ」が早い段階で現実になり得る情勢であれば、「質への逃避」の対象でもある米国債については「金利がまだあるうちに買っておこう」という心理が働きやすい。それが、10年債で0.31%、30年債で0.70%をつけるところまで米長期金利が過去最低水準を一気に更新していった動きの根底にあると、筆者はみている。 米国債の利回り低下は異例のペースで進んだため、新型コロナウイルスに関するポジティブな情報を材料に、たとえば米国株が2日以上続けて大幅上昇するような場合には、米国債を売り戻す動きがそれなりに強まってもおかしくない。 だが、すでに述べた通り、「だからFRBは利上げに動ける」ということには、まずならないだろう。いったん下げた政策金利は、そのまま維持される公算が大きい。 世界屈指の医学部を有するとされる米ジョンズ・ホプキンス大学のウェブサイトによると、新型コロナウイルス感染者数は、世界全体で17万人規模に達した。インドネシアなど高温多湿の国でも、新型コロナウイルスへの感染者がすでに確認されている。これから冬に向かっていく南半球の国々でも、感染者数が徐々に増えてきている(当コラム 3月3日配信「コロナ制圧は『南半球の感染者数』がカギ?」ご参照)。 世界保健機関(WHO)で緊急事態対応を統括するマイク・ライアン氏は3月6日の記者会見で、「夏になればインフルエンザのように消えてなくなるだろうという希望的観測は間違っている。そうなる根拠は今のところない」と述べて、楽観論を戒めた。) 国内の専門家の間からも、新型コロナウイルスの問題が長引く可能性ありというコメントが出てきている。3月9日に首相官邸で開催された新型コロナウイルス対策の専門家会議は、「爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度持ちこたえているのではないか」との認識を示した。ただし、感染者の増加傾向は当面続くと予想され、依然として警戒を緩めることはできないという指摘がなされた。 あまり大きく報道されなかったようだが、同会議のメンバーからは「新型コロナ感染症は、インフルエンザのように暖かくなると消えてしまうウイルスではない。闘いは数カ月から半年、もしかすると年を越えて続くかもしれない」との発言があった。この問題がこの先さらに数カ月続く場合、東京での五輪・パラリンピック開催には、赤に近い黄信号がともることになる。 そうした中で起こった予想外の衝撃的な出来事が、原油の協調減産打ち切りである。 3月6日に開催された「OPECプラス」(石油輸出国機構加盟国およびロシアなど非加盟国で構成)の会合は決裂し、サウジアラビアは原油増産へと方針を転換した。減産強化による原油価格下支えを主張するサウジと、国内石油大手の意向を背景にこれを拒否するロシアの対立は、最後まで解消されなかったわけである』、「原油価格」暴落は、シェールオイル産業にも深刻な打撃を与え、米銀の貸出を不良債権化するリスクもある。
・『ますます視野に入りにくくなる物価安定  英経済紙フィナンシャル・タイムズは、生産コストが相対的に高い米シェール会社たたきのため原油価格下落を容認したいロシアに対して、サウジが懲罰を加えようとして「価格戦争」に踏み切ったと報じた。サウジは原油需給の調整役を放棄し、価格下落を容認しつつ市場シェアを取りにいく方針に切り替えたと言える。米原油先物は時間外取引で一時1バレル=27.34ドルと、記録的な下げとなった。 こうした原油価格の急落は、消費国の景気にはポジティブに作用する一方で、消費者物価や期待インフレ率を大きく押し下げるため、FRBを含む各国中銀の利上げを一層困難にする。「イールドハント」が根強く続いていく見通しの中で、グローバルな金利水準が大きな流れとして、一段と低くなりつつあることは間違いあるまい。 その後、FRBは現地時間3月15日夕刻(日本時間16日朝)、「全部入り」的な金融緩和パッケージをアナウンスした。新型コロナウイルスがもたらしている世界経済への強い下押し圧力が、与信(クレジット)の面でも大きな圧迫要因になりかねないという強い危機感から、定例会合を待たずに、手持ちの手段を総動員することにした。FFレート誘導水準は一気に1.0%ポイント引き下げられて、0~0.25%になった<図1>。これで政策金利は事実上の下限到達である。 ■図1:米フェデラルファンド(FF)レート誘導水準(リンク先参照) ゼロ金利復帰と同時に再開がアナウンスされた量的緩和は、仮に新型コロナウイルス問題がヤマ場を越えてくれば、打ち切りが視野に入るだろう。しかし、ゼロ金利についてはそうはいかない。物価安定(2%の目標達成)が、ますます視野に入りにくくなっているからである。 結局、利下げ余地を一気に使い切ることでFRBは日銀やECBの仲間入りをしたと、筆者はみている。常態としての超低金利が粘り強く続く「日本化」である。 日本だけでなく米国でもいずれ、子供が親に「昔は金利っていうものが預金についていたんだね」と言うような時代がやって来るのではないか。筆者が冗談めかしてそのように説明する機会が増えている』、「利下げ余地を一気に使い切ることでFRBは日銀やECBの仲間入りをした」、今後、経済がさらに悪化した場合にはどうするのだろう。

次に、5月7日付け日刊ゲンダイ「元日銀参事・岩村充氏があぶりだす「黒田バズーカ」の本質」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/272617
・『2013年4月に始まった日銀の異次元金融緩和。丸7年、吹かし続け、27日、国債買い入れ上限撤廃というさらなる追加緩和が決まった。だが、黒田バズーカは、本当に経済成長をもたらしたのか。長期の緩和やゼロ金利によって、誰が得をして誰が損をしたのか――。元日銀マンが本質をあぶりだす(Qは聞き手の質問、Aは岩村氏の回答)。  Q:異次元金融緩和から7年が経過しました。どう評価されますか。 A:「現金を出すぞ」と言ったら、景気は良くなるというシナリオのもとに動いてみたが、まったく結果を出せなかったということでしょう。中央銀行が貨幣量を増やすぐらいでは人の心は変わらなかった。マーケットの方が賢かったということです。「黒田緩和」の問題は、うまくいかなかった時にどう戻るかを考えずに、ひたすら突っ走ったというところに尽きます。もっとも、コロナで当面、戻る必要はなくなり、黒田緩和の是非を問う意味もなくなってしまった感じですが』、ある意味で「黒田総裁」はホッとしているのかも知れない。
・『中央銀行は経済成長のエンジンにはなれない  Q:金融政策の限界を実証した。 A:金融政策とは、金利ゼロの中央銀行券とそこそこ金利がある国債を交換することだと言えます。ですから、どちらもゼロになったら金融政策は効きません。そもそも、経済を成長させるための金融政策という考え方が間違いなのです。経済成長のエンジンは人口増とか技術進歩などの経済の基本条件から生まれてくるもの。金融政策はアクセルやブレーキ役はできても、成長のエンジンそのものではありません。中央銀行が経済を背負っていると考えるのは思い上がりの一種です。 Q:日本だけでなく、米国、欧州の中央銀行もずっと低金利政策や金融緩和を続け、経済成長を導こうとしてきています。 A:19世紀後半から20世紀は世界的にまれに見る経済成長の時代でした。私的所有権が確立され、技術進歩にも画期的なものがあった。その中で国民国家、民主主義、中央銀行、株式会社などの「仕掛け」が世界標準になったのです。今、経済成長が頭打ちになり、そこで機能する新しい仕掛けが見つからないなかで、中央銀行と政府の区別がつかなくなっています。中央銀行と政府の役割分担は、19世紀後半から20世紀の成長の時代に作り上げた「二分法」ですから、成長が止まったら溶けてしまうのは仕方がない気がします。 Q:今後も20世紀のように経済成長が続くわけではないと。 A:続かないでしょう。経済成長が当然だと思うと、皆の期待ほど経済成長していないと、政府は何とか成長を加速しなければと考える。そこで、中央銀行が低金利政策、金融緩和を続けることになるのです。 Q:低金利政策の長期化で何が起こりましたか。 A:株式投資とそれ以外の資金運用の間で大きな格差が生じてしまいました。金利が下がると、企業は借金や社債など資金調達の利払いが抑えられ、株主への配当をどんどん厚くします。経済成長がゼロ、うまくいっても2%の時代に、株主資本に対する当期純利益の割合を示すROE(自己資本利益率)について「8%が国際標準だ」という話が大手を振って通るんですから呆れた話です。企業は必死に株主優遇競争を展開し、それを国家と中央銀行が全力で後押しするというのが今の世界なのです。そのしわ寄せを受けるのが、一般の預金者なのです。 Q:株式投資をできる人と普通の預金者の格差ですね。 A:黒田総裁もパウエルFRB議長も格差を拡大させようと思って、金融政策をやっているわけではないでしょう。しかし、金融政策自体が富の分配でもあることに気をとめないようでは専門家失格です。成長エンジンが失われている状況で、ともかく経済成長しようという金融政策が結果として格差をつくっているからです。無理な金融緩和で格差づくりに関与してしまったという点では、責任は黒田総裁だけでなく、白川方明前総裁やその前任者の福井俊彦元総裁も同じなのですが、白川や福井は、今は低い金利に抑えるけれどもいずれ取り返すよという考えだったと思います。しかし、黒田総裁には、いずれ巻き戻すという考えはないようです。だから、ずっと格差が拡大するし、それを他人事のように言えるのですね』、「無理な金融緩和で格差づくりに関与」、「黒田総裁には・・・格差が拡大・・・を他人事のように言える」、嘆かわしいことだ。
・『消費税の本質は労働課税  Q:グローバル化による格差拡大もありますね。 A:背景にあるのは国家間の企業呼び込み競争です。富裕層や法人を優遇しないと、国外に逃げられて国が空っぽになるという恐怖をどこの国の政府も抱いています。だから、所得税の最高税率や法人税を劇的に下げてきました。その減収分を補うのが消費税ですが、消費税の本質は労働課税なのです。 Q:といいますと。 A:法人税は、売り上げから物的な仕入れと人件費を差し引いた残余に課します。消費税は、売り上げから物的な仕入れを引いた残余が課税対象です。人件費は差し引かれません。ですから、国の税収の軸足を法人税から消費税に移すということは、税負担を株主から従業員に移すことを意味することになります。労働者の犠牲のもとに、法人や株主を優遇しているわけです。このままでは、格差はますます拡大するでしょう。 Q:低金利政策と税制で労働者など中間層は痛めつけられている。中間層が決起してもおかしくない状況です。 A:中間層はバラバラな方向に向かっています。ひとつは、富裕層により多くの負担を求めるという方向です。米国型リベラリズムや社会民主主義にはそういう面があります。米国のサンダースの支持者はそういう意識なのでしょう。 Q:ただ、最近はどこの先進国もリベラル勢力や社会民主主義はパッとしません。 A:そこで受け皿になってしまうのがポピュリズムです。自分が豊かになれない理由を、自分たちでない誰かのせいにしようとするのですね。あれだけおかしなことをやりながらトランプ政権の支持基盤が固い理由や、欧州のネオナチや反イスラムの台頭にも同じ背景があると思います。 Q:コロナ禍は世界をどう変えると思いますか。 A:グローバル化には一定のブレーキがかかるでしょう。コロナの脅威がある間はそうでしょうし、今のコロナウイルスに対するワクチンが作り出せても、別の新種ウイルスが大流行する可能性は消えません。そうした観点からグローバリズムにリスクがあると考える人が増えてくれば、能天気とも言えそうな国家間の企業呼び込み競争やサプライチェーンのグローバル化には慎重にならざるを得なくなるはずです』、「グローバリズムにリスクがあると考える人が増えてくれば、能天気とも言えそうな国家間の企業呼び込み競争やサプライチェーンのグローバル化には慎重にならざるを得なくなるはずです」、望ましい方向のようだ。
・『自由の劣化が進む中、コロナ禍が襲った  Q:新型コロナが終息した後は、どんな国家間競争が起きると予想されますか。 A:今回の経験を経て、国家はより強く、市民や国民を監視してコントロールする方向に向かう可能性があります。欧米型の自由主義体制ではなくて中国型の政治体制への誘惑が強まってしまうのです。医療産業を国家安全保障の文脈で守ろうとする動きなどには、国際緊張を増し、軍拡競争に転化していく危険すらもあります。 Q:自由が制約される強権的な体制を国民は受け入れるのでしょうか。 A:残念ながら受け入れる土壌はできつつあります。責任の一端は、サッチャーやレーガン以来の新自由主義にもあります。19世紀型国民国家の理念になった自由とは、血と涙で守るものでした。明治時代の自由民権運動で「板垣死すとも自由は死なず」というのがありましたが、そこでの自由とは命をかけて守るものなのです。ところが、新自由主義における自由とは要するに規制緩和で、つまり自由は儲けるための道具におとしめられてしまったのですね。自由を守ろうとする気概も勇気も劣化してしまっているのです。コロナウイルス封じ込めのためには何が何でも外出を取り締まるべきだとか、個人行動履歴もどんどん追跡すべきだという議論には怖さを感じます。症状のある人を治療するための検査は重要ですが、疑わしい人を隔離して自分は安全に暮らすための検査拡充論として主張されるとしたら僕は反対です。自由とは、そんなに安っぽいものではありません。コロナ禍で、自由や人権に対する私たちの根性、据わり方が試されているのです。僕だって感染の不安がないわけではないけれど、ここで譲ってしまったらおしまいだろうなという気がするんです。(岩村氏の略歴はリンク先参照)』、「自由を守ろうとする気概も勇気も劣化してしまっているのです。コロナウイルス封じ込めのためには何が何でも外出を取り締まるべきだとか、個人行動履歴もどんどん追跡すべきだという議論には怖さを感じます」、同感である。

第三に、5月13日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部研究主幹の鈴木明彦氏による「新型コロナ金融危機モードの陰で金融正常化を目論む日銀の「深謀遠慮」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/237005
・『日本銀行は、新型コロナウイルス感染問題への対応で大胆な金融緩和に踏み込んだ。 この間までマイナス金利の深掘りにちゅうちょしていた日銀もついに“白旗”を掲げたかのように見え、金融危機を回避するために思い切って緩和を進める腹を固めたようだ。 だが新型コロナウイルス対策を前面に出す一方で、同時にマイナス金利政策を骨抜きにし、さらに国債買入れの物差しを保有残高の前年比増加額から単なる買入れ額に置き換えるなど、「金融政策正常化」に向けた手をうつ深謀遠慮が窺える』、思い切った「深読み」で、興味深そうだ。
・『コロナ対策が前面に出た3月と4月の金融緩和強化  新型コロナウイルスの感染が広がるなか、日銀は相次いで金融緩和を強化している。) 3月16日には日程を前倒しして金融政策決定会合を開き、(1)国債買入れやドルオペを含む一層潤沢な資金供給の実施、(2)新たなオペレーションの導入を含めた企業金融支援のための措置、(3)ETF(上場投資信託)・J-REITの積極的な買入れ、の三つからなる「新型感染症拡大の影響を踏まえた金融緩和の強化」を決めた。 さらに、4月27日の定例の政策決定会合で、(1)CP・社債などの買入れ増額、(2)新型コロナ対応金融支援特別オペの拡充、(3)国債のさらなる積極的な買入れを決めた。 3月と4月の二度の金融緩和強化はワンセットで考えた方がよい。 まず、3月の会合で導入された「新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペ」は、民間企業債務を担保(約8兆円)に必要な資金を日銀がゼロ金利で供給するものだが、4月の会合では、対象担保の範囲が住宅ローンなどの家計債務を含めた民間債務全般に広げられ、対象担保の規模も約23兆円に拡大した。 また、CP・社債などの買入れは、3月の会合で合計2兆円の追加買入れ枠が設けられたが、4月の会合ではさらに13兆円追加され、従来の買入れと合わせて約20兆円の買入れ枠となった。これは、CPと社債の発行残高が計約90兆円であることを考えるとかなりの規模だ。 コロナ禍が世界に広がる中、世界の中央銀行と歩調を合わせた緊急対応だが、最近までマイナス金利の深掘りといった追加の金融緩和圧力を巧みに避けていた日銀も、ついに白旗を掲げたとの見方もできるだろう』、「マイナス金利の深掘り」は避け、量的緩和を強化したので、「白旗を掲げた」ことにはならないようだ。
・『金融不安回避のためなら思い切って緩和できる日銀  しかし一方で、日銀はむしろ積極的に思い切った金融緩和を打ち出しているように見える。それは、今回の金融緩和が中央銀行としてやるべきことと納得しているからではないか。 「脱デフレ」ということで、達成できる見込みのない「2%の物価目標」を掲げさせられ、しかも政府・日銀のアコードによって金融政策の独立性を失った形で、出口の見えない異次元の金融緩和に踏み込んだあげくに、効果が期待できないどころか、副作用が懸念されるマイナス金利政策まで採用してしまった。 日銀が、マイナス金利の深掘りに消極的なのは当然だ。 それに対し新型コロナ対策はまったく違う話だ。新型コロナの感染拡大で世界の経済活動が止まってしまった。売り上げが急減した中小・零細企業や収入がなくなった自営業、非正規、フリーランスなど、倒産や失業、破産の危機に直面する人も出てきた。 社会不安や金融不安を回避するためであれば、中央銀行が潤沢な資金供給や資金繰り支援のための金融緩和にちゅうちょする理由はない。 また、金融緩和の中身も、金融支援特別オペや社債・CPの買い増しなど質的金融緩和を中心とした潤沢な資金供給であり、マイナス金利の深掘りに踏み切る必要もない。 さらに、半永久的に達成できそうもない2%の物価目標と異なり、新型コロナウイルスの感染はいずれ終息する。長期化する可能性は排除できないものの、出口の見えない金融緩和ではない。 デフレとの泥沼の戦いと異なり、新型コロナとの戦いであれば、日銀もちゅうちょなく対応する気構えのようだ』、説得力溢れた指摘だ。
・『デフレ対応は棚上げ、声明文から消えた文言  日銀としては、今回の一連の緩和強化が、デフレ脱却のための金融緩和とは別物だとはっきりさせたい。3月の決定会合で決めた措置を、「新型感染症拡大の影響を踏まえた金融緩和の強化」と銘打ったのもこのためだろう。 金融政策決定会合後に発表される日銀の声明文でも、新型コロナ対策を前面に出す一方で、デフレ脱却の姿勢が後退している。 3月の決定会合では、金融政策のこの先の方向性を示すフォワードガイダンスの文言が、それまでと変わった 「『物価安定の目標』に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、ちゅうちょなく、追加的な金融緩和措置を講じる」という文言が落ちた。 その代わりに「当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、ちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講じる」という表現になった。 さらに、4月の決定会合の声明文では、3月までは「政策金利については、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、またはそれを下回る水準で推移することを想定している」と書かれていたが、『物価安定の目標』に関連付けた期間の記述が消えた』、日経新聞の解説では、そこまで触れてなかったように思う。有力な日銀ウォッチャーである鈴木氏らしい分析だ。
・『危機対応モードの中でマイナス金利政策も後退  新型コロナウイルス問題に対する危機対応モードの中でも、-0.1%の政策金利と10年国債金利のゼロ%程度の誘導目標を軸とするイールドカーブコントロールの枠組みは変わっていない。 しかし、ここにも微妙な変化が生じている。 まず、マイナス金利政策が一段と存在感を薄めている。 新型コロナ対応の金融支援の特別オペは、3月に導入した時から利用残高の2倍の金額を金利ゼロ%のマクロ加算残高に加算することになった。 これによって銀行は、マイナス金利が適用される政策金利残高を減らすことができる。 さらに、4月に金融支援特別オペが拡充されたときに、利用残高に相当する日銀当座預金への+0.1%の付利がなされることになった。-0.1%の政策金利残高は20兆円程度だが、それとほぼ同じ規模で日銀当座預金残高に+0.1%の金利が付く。 この措置について、黒田日銀総裁は4月の決定会合後の記者会見で、「金融機関が資金繰り支援をより行いやすくすることを考えています」と説明している。 これは、オペで拡大した当座預金にマイナス金利が付利されるようでは、貸し出し拡大という金融緩和効果が出てこないと認めたようなものだ。 マイナス金利政策は今後も、それと相反する政策が採られることによって副作用が抑えられ、実質的に骨抜きになっていくのではないか』、「マイナス金利政策は今後も、それと相反する政策が採られることによって副作用が抑えられ、実質的に骨抜きになっていくのではないか」、さすが読みが深い。
・『国債の「無制限買入れ」は「量の縛り」を外す狙い  新型コロナ対応は質的金融緩和が中心だが、同時に潤沢な資金供給の実施も図られている。4月の緩和強化では、国債のさらなる積極的な買入れが決まった。 その中で、長期国債の買入れ方針に、「上限を設けず必要な金額の」という文言が加わる一方で、「買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する」という文言が外れた。 国債の積極的買入れについては、「政府の緊急経済対策により国債発行が増加することの影響も踏まえ」として、上限を設けずに長期国債の買入れを約束するかのようになっていることから、中央銀行が財政赤字を肩代わりする財政ファイナンスにつながるのではないかとの批判もある。 ただ10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように買入れを行うというイールドカーブコントロールの基本原則は崩していない。 たしかに国債増発に伴って日銀の国債買入れ額が増えていくことは考えられるが、10年金利のマイナス幅が拡大するような無茶な買入れは考えていないようだ。 それでは、このタイミングで「80兆円のめど」を外してきた日銀の意図はどこにあるのか。 目標ではなくなったのだから、日銀は80兆円のめど(しかも目途ではなくひらがな)を守る気はもとからなかったと思われる。 ただ、大量の国債買入れを続けてきた結果、償還を迎える国債が増加して保有残高が減少する月も増えてきた。このままだと前年比で残高が減少基調に入ることも想定できる状況になってきた(図表)』、「償還を迎える国債が増加して保有残高が減少する月も増えてきた。このままだと前年比で残高が減少基調に入ることも想定できる状況になってきた」、ので「「80兆円のめど」を外してきた」、なるほど。
・『グロスで見れば積極的な国債買入れ  日銀は80兆円というめどではなく、保有残高の前年比増加額というやっかいな量的緩和の指標そのものを葬り去りたかったのではないか。 日銀が「上限を設けず」と強い言葉を使っているのは長期国債のグロスの買入れ額についてだ。これからは、長期国債のグロスの買入れ額で積極的な金融緩和をアピールするつもりだろう。 つまり、積極的に国債を買入れても償還額が増加しているため、結果として日銀保有の長期国債残高が減少することもあり得る。こうして日銀は「量の縛り」を弱めることができる。 大胆な金融緩和に踏み出した日銀だが、その決断の背後には、これを金融政策の正常化につなげたいという深謀遠慮が潜んでいるように見える』、「これを金融政策の正常化につなげたいという深謀遠慮が潜んでいる」、「深謀遠慮」を鋭く読み解くとは、鈴木氏の面目躍如のようだ。
タグ:これを金融政策の正常化につなげたいという深謀遠慮が潜んでいる グロスで見れば積極的な国債買入れ 「80兆円のめど」を外してきた 償還を迎える国債が増加して保有残高が減少する月も増えてきた。このままだと前年比で残高が減少基調に入ることも想定できる状況になってきた 国債の「無制限買入れ」は「量の縛り」を外す狙い マイナス金利政策は今後も、それと相反する政策が採られることによって副作用が抑えられ、実質的に骨抜きになっていくのではないか 危機対応モードの中でマイナス金利政策も後退 デフレ対応は棚上げ、声明文から消えた文言 新型コロナウイルスの感染はいずれ終息する。長期化する可能性は排除できないものの、出口の見えない金融緩和ではない。 デフレとの泥沼の戦いと異なり、新型コロナとの戦いであれば、日銀もちゅうちょなく対応する気構えのようだ 金融不安回避のためなら思い切って緩和できる日銀 コロナ対策が前面に出た3月と4月の金融緩和強化 「新型コロナ金融危機モードの陰で金融正常化を目論む日銀の「深謀遠慮」」 鈴木明彦 ダイヤモンド・オンライン 自由を守ろうとする気概も勇気も劣化してしまっているのです。コロナウイルス封じ込めのためには何が何でも外出を取り締まるべきだとか、個人行動履歴もどんどん追跡すべきだという議論には怖さを感じます 自由の劣化が進む中、コロナ禍が襲った グローバリズムにリスクがあると考える人が増えてくれば、能天気とも言えそうな国家間の企業呼び込み競争やサプライチェーンのグローバル化には慎重にならざるを得なくなるはずです 消費税の本質は労働課税 を他人事のように言える 格差が拡大 黒田総裁 無理な金融緩和で格差づくりに関与 金融政策はアクセルやブレーキ役はできても、成長のエンジンそのものではありません 中央銀行は経済成長のエンジンにはなれない 「黒田緩和」の問題は、うまくいかなかった時にどう戻るかを考えずに、ひたすら突っ走ったというところに尽きます 中央銀行が貨幣量を増やすぐらいでは人の心は変わらなかった。マーケットの方が賢かったということです 元日銀参事・岩村充氏があぶりだす「黒田バズーカ」の本質 日刊ゲンダイ 利下げ余地を一気に使い切ることでFRBは日銀やECBの仲間入りをした ますます視野に入りにくくなる物価安定 楽観論戒めるWHO 「対症療法」にすぎず、問題の根源である新型コロナウイルスの感染拡大に対しては、完全に無力である 緊急利下げ 利下げの撤回という形での利上げは現実問題としてきわめて難しいという思い 一般論で逃げたパウエル議長 1回の利下げを0.25ポイント幅で考えた場合でも、残り4回分という計算であり、日銀や欧州中央銀行(ECB)に続いてFRBについても、「弾切れ」状態がはっきり視野に入った 緊急利下げは「アナウンス効果」 これより前、トランプ大統領は米連邦準備理事会(FRB)に対し、迅速な利下げを要求 その直後に突然公表されたのが、0.5ポイント幅の緊急利下げを全員一致で決定したとする、米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文 主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁による緊急電話会議 「「パンドラの箱」を開けてしまったパウエル議長 緊急利下げ2回で⽶国は「ゼロ⾦利復帰」」 上野 泰也 日経ビジネスオンライン (その32)(「パンドラの箱」を開けてしまったパウエル議長 緊急利下げ2回で⽶国は「ゼロ⾦利復帰」、元日銀参事・岩村充氏があぶりだす「黒田バズーカ」の本質、新型コロナ金融危機モードの陰で金融正常化を目論む日銀の「深謀遠慮」) 日銀の異次元緩和政策
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