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香港(その4)(「何でもアリ」が合法に 香港版国家安全法は何が衝撃なのか、香港を殺す習近平 アメリカと同盟国はレッドラインを定めよ、香港「国家安全法」めぐるトランプ砲は不発か コロナ禍に焦り制裁を連打するが「弾切れ」に) [世界情勢]

香港については、昨年12月7日に取上げた。今日は、(その4)(「何でもアリ」が合法に 香港版国家安全法は何が衝撃なのか、香港を殺す習近平 アメリカと同盟国はレッドラインを定めよ、香港「国家安全法」めぐるトランプ砲は不発か コロナ禍に焦り制裁を連打するが「弾切れ」に)である。

先ずは、5月27日付け日経ビジネスオンラインが掲載した香港中文大学大学院博士課程の石井 大智氏による「「何でもアリ」が合法に、香港版国家安全法は何が衝撃なのか」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/052600103/?P=1
・『5月24日、香港で再び大規模な抗議活動が起きた。中国本土で全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開催され、香港立法府の頭越しに「香港版国家安全法」を本土側で策定する方針が決まったのが原因だ。この「香港版国家安全法」はどのような歴史的経緯で制定されることになり、なぜ香港の民主派に深刻な懸念を抱かせているのかを、分かりやすく解説する』、基本的事項からの「解説」とは参考になりそうだ。
・『再び動き出した香港の抗議活動  5月24日、香港島の中心部である銅鑼湾(コーズウェイベイ)で新型コロナウイルス流行以降最大規模の抗議活動が発生した。この抗議活動は警察の許可を受けておらず、なおかつ香港政府は新型コロナウイルスの感染防止のために9人以上で集まることを禁止している。そのため、香港におけるリアルな抗議活動は平和的なものも含めて基本的に全て違法なものだ。それにもかかわらず、実際に何人が参加したかは不明なものの、一時は銅鑼湾を東西に貫く大通りである軒尼詩道(ヘネシーロード)には人が溢れた。 この抗議活動は中国による「香港版国家安全法」制定に対して実施されたものだ。国家安全法が単に香港の言論・政治活動の自由をさらに制約するという懸念のみならず、香港の議会(立法会)ではなく中国の全国人民代表大会(全人代)がその法を制定するという点が、これまでにないレベルでの一国二制度の「破壊」であると捉えられ波紋が広がっている』、「一国二制度」がこれほど早く空文化されるとは「中国」のやり方も強引なようだ。
・『かつてデモで阻止された国家安全法  もともと国家安全法は香港の「憲法」に当たる香港基本法23条において、香港特別行政区自身が、香港の法制度の下で「国家安全条例」として定めるものとされていたものだ。23条は国家への反逆、国家の分裂、反乱の扇動、中央政府の転覆、国家機密の不正な取得を禁止し、外国の政治組織が香港で政治活動を行ったり香港の政治団体が外国の政治団体と関係を持ったりすることを禁止するための法制定を求めている。 同じ特別行政区であるマカオ基本法23条にも同様の規定がある。民主派の力が香港ほど強くなかったマカオの場合、2009年に立法会で何厚鏵行政長官の下、国家安全法を成立させた。一方、香港は2003年に董建華行政長官の下、法律制定を進めようとした。03年7月1日に民間人権陣線が実施した抗議活動には、SARS(重症急性呼吸器症候群)への香港政府の対応に批判が高まっていたこともあり主催者発表で約50万人が集まった。財界に支持基盤を持つ自由党が反対に回ったこともあって、2003年9月には国家安全条例の草案は撤回されている。 その後も国家安全条例に関する言及は何度かあったが今回、事態が急転直下で動いたのは、もちろん2019年6月から続く一連の大規模な抗議活動が原因だ。逃亡犯条例の改正反対運動から続く香港での抗議活動に対し、中央政府やその強い影響力の下にあるメディアは度々外国勢力や一部の過激な国家分裂主義者が「中国の内政問題」である香港問題に介入してきたと批判してきた。香港での反政府的な動きが「国家安全」に直接的に関わることとして、全人代が「香港版国家安全法」を制定する動きを見せたのだ』、香港独自の法案は「2003年9月」に「撤回されている」、いわくつきのもののようだ。
・『新たな法律はどう香港の議会を迂回しているのか  香港は「一国二制度」の下、中国本土とは大きく異なり、判例などの積み上げに基づく「コモン・ロー」に基づく法体系を採っている。それは香港基本法において担保されたシステムであるが、今回の「香港版国家安全法」は香港での議会を通した法制定プロセスを採らず、全人代がいわば香港の議会を迂回して直接制定するという形を採ろうとしている。 どのようなロジックで全人代はこれを可能としているのか。香港には中国本土の法律は原則適用されないが、その例外として香港基本法の18条において全人代が定めた法律でありながら香港にも適用可能な「全国性法律」というものが定められている。この18条では、全人代は香港特別行政区基本法委員会と香港特別行政区政府に意見を尋ねた後にこの法律を追加または削除ができると定められている。ただしどんな法律でも香港に適用可能というわけではなく、香港特別行政区に権限がない国防、外交などに限定されるとも定められている。 これらの法律は香港基本法の「附件三」(Annex III)にリストアップされ、その追加と削除については全人代常務委員会の決定という形で発表される。「附件三」でリストアップされた法律は香港の中国への返還直後の1997年7月1日に追加と削除が行われた後、1998年、2005年、2017年に追加が行われている。現在「附件三」には13の法律が含まれており、そのうち建国記念日、国旗、国歌など国家の儀礼的なことを定めた法律が5つ、領海やEEZ(排他的経済水域)に関する法律が3つ、外交特権・領事特権に関する条例が2つである。その他に国籍法、香港特別行政区に人民解放軍を置く法的根拠となる香港特別行政区駐軍法、さらに外国の中央銀行に法的特権を認める法律(いわゆる「外国央行法」)がリストアップされている。 今回の「香港版国家安全法」は「附件三」に追加される形で施行される。ただしそれは2015年に施行された既存の国家安全法を全国性法律として「附件三」に追加する形ではなく、新たに全人代が法律を作り、それを「附件三」に盛り込むことで施行される。そのためにこの香港向けの国家安全法は中国本土の従来の国家安全法との区別を行うために「香港版国家安全法」と呼ばれている。 これまで見てきたように、全国性法律という枠組みが使われるのは、これが初めてというわけではない。だが、香港の言論の自由に対し中央政府の機関が中国本土の法律によって直接的に介入するという点で懸念が集まっている。 なお、この懸念は5月22日に発表された「全国人民代表大会関於建立健全香港特別行政区維護国家安全的法律制度和執行機制的決定」(草案)に、「全人代常務委員会に香港で国家の安全を守るための法律を制定する権限を与える」という文言があったことで明確化した。なお、この決定が示しているのは中央政府が国家安全を守るための法律を制定するということだけではない。中央政府の国家安全に関わる機関が必要に応じて香港にも機関を設置することが定められている。これは中国の公安機関が直接香港で活動を行う可能性があり、その場合は既存の一国二制度の形を相当大きく変えることになる。その他にも香港政府が国家安全を推進するための教育や国家安全を脅かす行為への取り締まりの状況を定期的に中央政府に報告することも定められている』、「中国の公安機関が直接香港で活動を行う可能性があり」、ということであれば、「一国二制度」は事実上崩壊するようだ。
・『2つの国家安全法  なお、香港版国家安全法は香港基本法で香港特別行政区自身が制定すべきだとした国家安全法の完全な代替となるものではない。先述の決定は「香港は香港基本法に基づいた国家安全法を制定すべきだ」と依然として求めているし、中央政府の機関だけではなく香港の行政機関、立法機関、司法機関自身が法に従って国家安全を守るための取り組みを行うように求めている。また2つの法律が言及している国家の安全を損なうとされる行為は若干異なる。 まず、香港基本法が制定を求めている国家安全法と全人代が定める香港版国家安全法は「国家分裂」や「転覆」(顛覆)をもくろむ活動を禁止するという点では一致している。ただしこの転覆は香港基本法においては「中央人民政府を転覆させる行為」と明確に定められているのに対し、全人代の決定は「国家政権を転覆させる行為」とあり香港政府もそこに含まれる可能性がある。もしそうなれば、中央政府とは無関係な香港政府への抗議活動が、全国性法律としての香港版国家安全法で取り締まられる可能性もある。全人代が定める香港版国家安全法のみが組織的テロリズムの取り締まりについて言及しているのも注目すべきポイントだ。これは中央政府がテロリズムに類するものとみている香港の抗議活動を強く想定したものと思われる。 また、「外国勢力」のどのような介入を禁止するのかも異なる。香港基本法は香港特別行政区自身が「外国の政治団体が香港で支持活動をすること」「香港の政治団体が外国の政治団体と関係を持つこと」を禁止する法律を制定することを求めている。一方で全人代の決定は香港の政治問題に対しての外国勢力の介入を禁止するものとしかなく、香港への外国勢力(原文には「境外勢力」ともあり、台湾も想定していると思われる)の幅広い関与が禁止されることが予想される。ここで言う外国勢力が一体何を指すのかは現時点ではよく分からず、香港の抗議活動における様々な反政府勢力や報道関係者が外国勢力と見なされるという懸念もある。 2つの国家安全法が今後どのように施行されるか、そしてそれが実際にどのように運用されるかは現時点でははっきりと分からない。だが、仮に2つの国家安全法が実際に施行されるとかなり幅広い分野の反政府活動が規制される可能性が生じる』、「かなり幅広い分野の反政府活動が規制される可能性が生じる」、言論の自由もなくなりそうだ。
・『「一国二制度」への認識の違い  こうした事態は、中央政府と香港の民主派の間の「一国二制度」の考え方が相当に異なることを示している。このような違いはしばしば、民主派は一国二制度の「二制度」の維持を強調する一方で、中央政府は一国二制度の「一国」の維持を強調している──、というように説明される。香港の民主派は中央政府が一国二制度を破壊しようとしていると批判しているが、中央政府側は一国二制度を守るためにこのような法律が必要だとしている。 実際、中央政府や香港政府は香港基本法の定める範囲内、つまり一国二制度の枠組みを壊すことなく国家安全法を定めようとしていると主張している。例えば5月25日に香港政府の法務当局(律政司)は「国家安全は中央政府の管轄で香港特別行政区の自治の範囲外」と声明を出している。体制側から見ると香港版国家安全法の扱う国家安全は香港の自治の範囲外であり、従って全国性法律として中央政府側が定めることは一国二制度の枠組みに従っており、合法的なものであるということだ。しかしこのようなロジックを使えば、中央政府は香港の議会を通すことなく、様々な法律を容易に香港に適用できてしまう。 さらに、このことは体制側が香港基本法をかなり幅広く解釈できるということを示している。そもそも香港基本法の最終解釈権は香港の司法機構ではなく全人代にある。つまり、その解釈が正しいと全人代が言えばそれが正しいものとされる。香港の自治が扱う範囲とは何か、国家安全とは何かというのは曖昧なものではあるが、それは全て中央政府の解釈で決定され、その解釈の妥当性を中央政府と立場が違う第三者が審査することもない』、「そもそも香港基本法の最終解釈権は香港の司法機構ではなく全人代にある」、もともと「一国二制度」は見かけだけで、大きな穴が開いていたようだ。
・『数々の懸念を生み出す国家安全法  ここまでの議論をまとめると香港の民主派の国家安全法に対する懸念は以下のような3層に分けて説明できる。 1.国家安全法そのものによる言論の自由への制限への懸念 2.香港の議会を通さずに中央政府が直接香港で適用可能な法律を制定できる前例を作ってしまうかもしれないという懸念 3.中央政府がどのようにでも香港基本法を解釈でき、それを「合法」としてしまえることへの懸念  つまり香港版国家安全法は、単に中央政府が香港の言論の自由を制限しようとしている、というだけではなく一国二制度の構造を大きく変え、一国二制度を担保していた香港基本法を形骸化させてしまうという懸念を発生させる。そのような点で逃亡犯条例よりも深刻に受け止めている人も多い。 これらの懸念はあくまで全人代で決議された決定の文言から発生したものであり、実際に法がどのように整備され運用されるのか、これらの懸念がどの程度正しいものなのかは現時点では分からない。ただこの法律がどう運用されるかが香港の未来、さらには中国を取り巻く国際情勢に大きく影響するのは間違いない。■変更履歴(省略)』、コロナ騒動のどさくさに紛れて、このような悪法を企んだ中国政府は非難されるべきだ。

次に、6月1日付けNewsweek日本版「香港を殺す習近平、アメリカと同盟国はレッドラインを定めよ」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/06/post-93563_1.php
・『<全人代が国家安全法を香港に導入へ──。諸外国の警告にも動じない中国政府を前に、自由と民主化運動と「一国二制度」は風前の灯火なのか。できることは限られているが、まだ交渉の時間はある> 一国二制度の約束など、とうの昔に忘れたのだろう。中国政府はいよいよ、反体制運動を抑え込む国家安全法を「特別行政区」であるはずの香港に力ずくでも適用しようとしている。それを許したら終わりだ。香港は中国本土の専制的なシステムに組み込まれ、窒息してしまう。 1997年にイギリスから中国へ返還されて以来、香港の行政府は基本的に中国本土の御用機関だった。それでも当初、北京からの締め付けは緩かった。それで香港市民の間にも、いずれは本土のほうが「香港化」するだろうという淡い期待が膨らんだ。 しかし、甘かった。中国政府は反抗的な市民を拉致し、立法会(香港議会)の選挙制度を改悪し、民主派が立候補できないようにした。 今年1月、国家主席の習近平(シー・チンピン)は中国政府の出先機関である香港連絡弁公室の長に強硬派を送り込んだ。2月には香港・マカオ事務弁公室の主任を降格させてやはり強硬派をトップに据えた。こうなると現地の行政府は北京の言いなりだ。香港市民を中国本土の法律で縛る準備は整った。 地元紙サウスチャイナ・モーニングポストによれば、国家安全法が取り締まるのは「分離独立派や体制転覆の活動、外国からの干渉やテロ行為」だ。当然、民主派の運動の大半が対象になるだろう。現に中国外務省は諸外国の外交官に宛てた文書で、「香港の抵抗派は以前から外部勢力と結託して本土からの分離独立や政権転覆、不正工作、破壊行為などに関わってきた」と非難している。 ちなみに中国政府の言う国家安全保障上の脅威には中国国歌への不敬行為も含まれ、それを香港で禁錮刑の対象としようとしている。さらに国家安全法の下で香港に「国家安全保障機関」を設置し、「国家安全保障に必要な義務を果たさせる」つもりだ。 5月末の時点で、習政権は香港に適用する国家安全法の具体的な条文を明らかにしていない。だからまだ、中国側が手加減してくる可能性は残されている。法制化の脅しだけで抗議運動は抑え込めると考え、それ以上には踏み込まない可能性もある。だが習政権が中国本土の全域で行ってきた容赦ない反対派弾圧の実態を見れば、そんな期待は吹き飛ぶはずだ。 中国政府が香港の反体制派を徹底的にたたきつぶそうとするのは間違いない。彼らが新疆ウイグル自治区でやってきたことを見れば一目瞭然だ。彼らは既に香港での抗議行動を「テロ行為」と呼んでいる。ひとたびテロリストの烙印を押せば、何でもできることになる。 想定外の事態ではない。イギリスは香港の「返還」に合意した時点で、あらゆる影響力を失った。香港の自治を50年間(2047年まで)は維持するとの約束は取り付けたが、約束を守らせる手段は何もなかった。 中国側の本音はすぐ明らかになった。2003年、北京の意向を受けた香港政府は今回と同じくらい露骨な国家安全条例を持ち出し、議会で成立させようとした。あのときは市民の大規模な抗議行動で撤回を強いられた。しかし当時の中国政府は今とは違う。当時の指導者・胡錦濤(フー・チンタオ)は、習ほど強引ではなかった』、「イギリスは香港の「返還」に合意」したが、「約束を守らせる手段は何もなかった」、というのもイギリス外交の伝統かも知れないが、無責任な話だ。「2003年」に「国家安全条例」が流産した際に、「当時の指導者・胡錦濤は、習ほど強引ではなかった」、当時と現在では中国の国際的地位も大きく向上したことも「習」を「強引」にさせたのだろう。
・『コロナの隙に一斉逮捕  2012年に習が実権を握って以来、中国は毛沢東の時代に後戻りしている。習は共産党と政府の権限を拡大する一方、自分自身への権力集中に努めてきた。毛沢東の死後はそれなりに共産党の権威が揺らぎ、統制が緩む時期もあったが、今は違う。10年前に比べてもずっと自由が少なく、統制が強まっている。 そして今、中国政府は香港の現状を放置できないと考えているようだ。昨年には香港在住の容疑者を中国本土に引き渡す逃亡犯条例改正案が、住民の大規模な抗議運動によって葬られてしまった。 もはや現地の行政府や議会には任せられない。習政権はそう判断し、だからこそ本土の国家安全法を香港にも適用すると決めた。年内には香港の立法会選もある。制度上は親中派が絶対に勝てる仕組みになっているが、昨年の香港区議選では親中派が惨敗を喫している。 油断はできない。議会の多数を民主派に握られてからでは遅い。だから習政権は先の全国人民代表大会(日本の国会に相当)で、国家安全法を香港にも適用すると決した。これが施行されたら、香港の民主派も中国本土の法律で裁かれることになる。 民主派の政治家を立法会から排除するのは簡単だ。タイの軍事政権がしたように、新法を過去にさかのぼって適用できることにすれば、今までの言動を理由に民主派の立候補資格を取り消すことができる。そうすれば、立法会での親中派優位は今後も揺るがないことになるだろう。 当然のことながら、中国共産党も自分たちが嫌われていることは承知している。昨年6月末に発表された香港の世論調査でも、自分のことを「中国人」と見なす香港市民は約10人に1人しかおらず、30歳以下の若者の大半は自分を「香港人」と見なしていた。 それでも中国側は、外国の勢力が反感をあおっているせいだと非難する。香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官も、学校教育の偏向を批判している。 その一方、新型コロナウイルスのせいで大規模な街頭行動がしにくくなった状況を、香港警察が見逃さなかった。4月下旬には民主派の有力な指導者15人を逮捕。その中には「香港民主主義の父」と呼ばれる81歳の弁護士・李柱銘(リー・チューミン)や民主派の新聞「蘋果日報」(アップル・デイリー)の発行人・黎智英(リー・チーイン)もいた。 この15人の容疑は、昨年の夏に若者たちの大規模な抗議行動が起きたとき「違法な集会」を組織したというもの。中国外務省も彼らに「香港における問題分子」というレッテルを貼った。彼らは長期にわたり収監される可能性が高い。当然、民主派の市民は大挙して街頭に繰り出して抗議したが、重武装の警官隊に蹴散らされた。 それでも今までなら、これほどの弾圧に対してはもっと大規模な抗議行動が起きたはずだ。習政権としては、ウイルス感染の恐れがあれば抗議行動は盛り上がらないと踏んでいるのかもしれない』、「コロナの隙に一斉逮捕」、とは準備は周到なようだ。
・『制裁で困るのは香港人  なにしろ習にとって、新型コロナウイルスの蔓延は想定外だったようで、初期対応の遅さは一般の国民からも批判された。だからこそ、ここで強い指導者のイメージを打ち出したいという思惑もあるようだ。なりふり構わず、ここで香港を締め付ければ国内の保守派は喜ぶ。批判派に対しても、いかなる抵抗も許さない姿勢を改めて伝えることができる。 香港に約束した高度の自治を守れと諸外国から迫られても、習政権はずっと無視してきた。新華社通信によれば、今回も外務省の趙立堅(チャオ・リーチエン)副報道局長は「(香港問題は)純粋に中国の内政問題」であり「いかなる外国も干渉する権利はない」と述べている。 諸外国にできることは限られている。香港に対する主権は23年前から中国にあるので手を出せないし、中国の領土に軍隊を出すという選択肢もあり得ない。 ドナルド・トランプ米大統領も介入には及び腰だ。国家安全法についても、「実際にそうなったら極めて強い取り組みをする」と述べるにとどめている。 そもそもトランプ政権は、人権問題を敵対国家との駆け引きに使える戦術的なものと位置付けている。そしてロシアやサウジアラビア、トルコ、エジプトなどの強権的な政権の肩を持つ。 その一方、今秋の大統領選で激突するはずの民主党候補ジョー・バイデン前副大統領に対しては「中国に甘い」と攻撃している。大統領だけでなく、政府高官の頭にも選挙のことしかない。諸外国の首脳も、今のトランプ政権は11月の選挙に勝つことしか考えていないと割り切っている。 アメリカ議会が理性的に行動する見込みもない。「弾圧を糾弾する」決議案や、国家安全法の施行に関与する中国側当局者と関連企業への制裁が提案された程度だ。 実効性のある経済制裁も望めない。たとえアメリカが中国に経済戦争を仕掛けても、中国は一歩も引かず、その政治目標に向かって突き進むだろう。ベネズエラでもイランでも北朝鮮でも、トランプ政権による「最大限の圧力」は失敗の連続だ。 一方で経済制裁の強化はアメリカ企業に深刻な影響をもたらす。新型コロナウイルスの感染拡大で止まった経済活動の再開を急がねばならない時期に、それは避けたい。 それに、再選を期すトランプとしては一刻も早く中国との貿易協定をまとめ、自らの貿易戦争が招いた経済的損失を帳消しにしたいところだ。新疆で膨大な数のウイグル人が「再教育」キャンプに送り込まれても中国を非難しなかった政権であり、議会である。同じ中国領の香港での中国政府の横暴を止める姿は想像し難い。 アメリカ側に打てる手があるとすれば、香港に対する貿易上の優遇措置を定めた「香港人権・民主主義法」だ。この特別待遇は、香港に一定の自治が存在することを前提としている。自治がなくなれば、香港も中国本土と同様、高率関税などの対象となる。現にマイク・ポンペオ国務長官は5月27日にこの法律を持ち出して、今の香港で「高度な自治が維持されているとは言えない」と警告している(編集部注:トランプは30日、優遇措置を停止し、中国当局者に制裁を科す方針を発表した)。 しかし優遇措置を取り消した場合に最も困るのは、中国政府ではなく香港の人たちだろう。アメリカ政府は日頃から、そういう現地の事情を無視しがちだ。しかし今回に限って言えば、まず香港市民と香港にいる多国籍企業に及ぼす甚大な影響を熟慮してから動くべきだった。 そもそも中国政府は、ポンペオの警告など軽く受け流すだろう。この20年で中国経済は劇的な急成長を遂げ、香港への経済的な依存を大幅に減らしている。1997年には香港が中国全体のGDPの20%弱を占めていたが、今は約3%だ。もちろん無視できる存在ではないが、中国政府がその政治的な意思を貫徹するためなら、香港の経済力低下もやむなしと判断するだろう。 そうは言っても、国際的な金融センターとしての香港の役割は依然として重要だ。国際NGOのホンコン・ウォッチも、「アジア太平洋地域における傑出した金融サービスの中心地として、香港は今なお中国政府にとっても世界にとっても重要な役割を果たしている」とみる。 また中国企業によるIPO(新規株式公開)の4分の3近くは香港市場で行われているから、香港が「欧米の投資家にとって、中国本土市場へのアクセスを獲得する上で好適なルート」である事情に変わりはない。こうした点を考慮すれば、中国政府が香港の「本土化」にブレーキをかける可能性も残されている。 だからこそ、ポンペオの発言は拙速だったと言える。国家安全法の新たな条文が作成され、正式に施行されるのは夏の終わりだろう。それまでの間、米中両国には交渉の時間がある。香港人権法の発動はアメリカにとって最後の、そして最大の切り札だ』、「1997年には香港が中国全体のGDPの20%弱を占めていたが、今は約3%だ」、中国にとってのGDPで見た香港の重要性がここまで低下していたとは初めて知った。ただ、「中国企業によるIPOの4分の3近くは香港市場で行われているから、香港が「欧米の投資家にとって、中国本土市場へのアクセスを獲得する上で好適なルート」である事情に変わりはない」、金融市場としての重要性は依然大きいようだ。「そもそも中国政府は、ポンペオの警告など軽く受け流すだろう」、アメリカも軽く見られたものだ。
・『レッドラインを定めよ  切り札は有効に使わねばならない。中国側が結論を出すまで、アメリカ政府は手の内を明かしてはならない。まずはヨーロッパやアジアの同盟諸国と歩調を合わせ、共通のレッドライン(越えてはならない一線)を定めるべきだ。その上で、もしも中国がこのまま強硬路線を突き進むなら、世界の主要国は一致団結して、香港に対する経済面の優遇措置を取り下げると警告すればいい。 そうして世界中で中国に対する反発が強まれば、今までは中国の顔色を気にしていた企業や投資家も逃げていくだろう。それこそが中国の恐れる事態であり、そうなれば中国政府も強硬路線を見直す可能性がある。国家安全法の適用という大筋は変えないまでも、深刻な影響を与えそうな条項を削除するなどの」妥協に応じる可能性がある。それでも中国政府がレッドラインを踏み越えたら? その時は国際社会が団結して、強硬な対応を取るほかない。 そうなれば「香港は終わりだ」と言ったのは、民主派の立法会議員・郭栄鏗(デニス・クォック)。その先に見えるのは誰にとっても最悪の展開だ。あえて「一国二制度」の約束を破り、経済面の深刻なリスクを冒してまで香港に本土と同じ強権支配の構造を持ち込むようなら、習の中国は今後、一段と敵対的な反米・反民主主義の道を突き進むことだろう。 あいにく習には争いを避けようという意欲がほとんど見られない。協力が必要なのは言うまでもないが、中国人民との良好な未来を築くためにも、今こそ習近平の暴走を止める必要がある』、日本も「習近平」を国賓で迎える予定だったが、どうするのだろう。安部政権としては、せっかく好転した日中関係を維持したいのかも知れないが、欧米主要国が「中国」に厳しい姿勢で臨むようであれば、日本だけ抜け駆けする訳にもいかないだろう。国内の政局不安定化を口実に再び延期するのが、現実的なのかも知れない。

第三に、6月2日付け東洋経済オンライン「香港「国家安全法」めぐるトランプ砲は不発か コロナ禍に焦り制裁を連打するが「弾切れ」に」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/353841
・『「中国は約束された『1国2制度』を『1国1制度』に変えてしまった。香港を特別に扱う優遇措置を撤廃するプロセスを開始するよう指示した」 5月29日午後2時48分(アメリカ東部時間)、アメリカのトランプ大統領がホワイトハウスのローズガーデンで行った記者会見に世界の投資家が注目した。トランプ氏は中国が香港に国家安全法制を導入する方針が伝わった5月21日の段階で「非常に強力な対応」を用意すると宣言していただけに、この日の発言には株式市場からの注目度も高かったのだ。 同27日にはポンぺオ国務長官が「もはや香港が『高度な自治』を維持しているとは言えない」として、これまでアメリカが香港に認めてきた優遇措置の撤廃を示唆していた。アメリカは1992年に定めた香港政策法で、1国2制度のもと香港に一定の自治があることを前提に関税やビザ発行などで中国本土とは別の扱いを認めてきた。 しかし、昨年夏に香港で「逃亡犯条例」への反対デモが大規模化すると、アメリカでは強権化する香港政庁やその背景にいる中国政府への反感が強まった。アメリカ議会では香港政策法の見直しを求める声が高まり、昨年11月に「香港人権・民主主義法」が新たに成立した。新法では、アメリカの国務長官が最低でも年1回、香港への優遇措置継続の是非を判断することが求められている』、「アメリカ」は「香港」に対する一応の武器は持っているようだ。
・『「荒業」を見送ったトランプ大統領  その答えをすでにポンぺオ氏が表明している以上、優遇措置の撤廃は投資家も織り込み済みである。それ以上の制裁措置、たとえば1月に米中が合意した貿易交渉の第一段階合意を破棄するといった荒業が飛び出すかが焦点だった。 結論からいえば、トランプ氏の発言は想定内のもので投資家は安堵したようだ。香港への優遇措置撤廃の時期も示されなかった。S&P総合500種指数は小幅高の3044.31ポイントで終了し、ダウ平均株価は会見終了後に値を戻し17ドル安の 2万5383.1ドルで引けた。週明けの6月1日の香港株式市場ではハンセン指数が大幅高。日本市場でも終値は184円高の2万2062円となった。 アメリカでの新型コロナウイルスによる死者が10万人を超えたことで11月の再選が危うくなったトランプ氏は、中国批判のボルテージをどんどん上げている。29日の会見でも、最近は控えていた「武漢ウイルス」という呼称を使ったうえ、中国が新型コロナについて情報を隠蔽してきたと非難。その中国に牛耳られているとしてWHO(世界保健機関)への資金拠出をやめると発表した。 ほかにも、中国が長年アメリカの産業機密を狙うスパイ活動をしてきたとして、疑わしいとみなす中国人の入国を禁止。さらにアメリカに上場する中国企業がアメリカ当局の検査を拒んだ場合は上場を廃止するなど、10分間の会見の間にトランプ氏は中国がらみの制裁措置をいくつも列挙すると、記者の質問を受け付けずにその場を去った。 「アメリカはまた、香港の自治を侵食し、香港の自由を絶対的に窒息させることに直接または間接的に関与している中国と香港の当局者を制裁するために必要な措置を講じる。われわれのアクションは強力で、意味のあるものになるだろう」。29日の会見でトランプ氏はそう語った。 では、香港の優遇措置撤廃はどれほどの効果を持つだろうか。中国政府の「本音」の発信を担っているとみられる共産党系メディア「環球時報」が先回りして興味深い記事を載せていた。香港政府の財政・経済政策のトップである陳茂波・財政長官へのインタビューで、取材日は5月29日。同日の23時過ぎに電子版に掲載されており、トランプ氏の会見に数時間先行している』、「10分間の会見の間にトランプ氏は中国がらみの制裁措置をいくつも列挙すると、記者の質問を受け付けずにその場を去った」、「トランプ氏の発言は想定内のもので投資家は安堵したようだ。香港への優遇措置撤廃の時期も示されなかった」、「トランプ氏」はどうも口先だけのようだ。
・『香港政府は対応に自信あり  陳氏は「香港政府は、アメリカが近く香港に対して行う経済制裁措置に十分な対応をする用意がある」と話した。環球時報の記者は、アメリカが採るであろう対応の中から、①大陸から独立した関税区としての香港の地位、②アメリカから香港へのハイテク輸出の認可、③香港ドルと米ドルのペッグ制度の維持可能性、の3分野について質問している。 まず①の、アメリカが香港に対する特別関税待遇を撤廃する可能性について、陳氏は「独立した関税区としての待遇は香港基本法で与えられたもので、アメリカとは関係ない」としたうえで、「香港政府はすでに特別関税待遇が一方的に撤廃される可能性を検討し、対策を策定した」と述べた。香港にとって、この措置の影響は小さいという。「香港の製造業の生産額のうちアメリカへの輸出は2%未満。香港の総輸出量の0.1%未満だ」(陳氏)。 ここで陳氏は語っていないが、アメリカ政府の真の狙いは香港を対中制裁関税の抜け道にする中国企業にある。香港とアメリカの間の貿易が基本的にゼロ関税であることで抜け道が生じているのだ。 だが、アメリカが関税合戦に出ることは考えにくい。昨年のアメリカの対香港輸出額は308億ドルに上り、260億ドルもの貿易黒字を計上している。アメリカの最大の輸出先であり、その関係を壊すのは得策ではない。 ②のハイテク輸出認可の撤回について陳氏は、「機微なハイテクの輸出制限は香港に一定の影響を与える」と認めている。しかし、「すでにアメリカからハイテクを香港に輸入するのは難しくなっている。最先端の技術でないなら、ヨーロッパと日本からも代替品を見つけやすい。アメリカ以外の貿易相手との関係をうまく処理できれば、技術輸入の面では香港に大きな問題は起きない」としている。 ③の香港ドルと米ドルとのペッグ制維持が難しくなるのではないかとの懸念は金融市場にくすぶっている。アメリカが香港政策法で定めた「優遇措置」の中に「米ドルと香港ドルの自由両替」という項目があり、これを見直す可能性が指摘されているためだ。 香港のドルペッグ制度は香港金融管理局(HKMA)が発行する香港ドルと同等の米ドルを発行保証資産として保有し、香港ドルと米ドルのレートを一定のレンジ(現在は1米ドル=7.75~7.85香港ドル)で固定するというものだ。これについて陳氏は「アメリカが1992年に香港政策法を成立させる前の1983年から続いているものだ。アメリカの同意や承認は必要ない」と断言している。 李克強首相のブレーンである著名エコノミストの鐘正生氏は、「香港の金融システムが動揺すると、香港も大陸もアメリカも損をする。海外から大陸への投資、人民元の国際化、中国企業の海外からの資金調達などが影響を受ける」と指摘する。 香港では1300社以上のアメリカ企業と8.5万人のアメリカ人が活動している。香港ドルと米ドルのペッグが外れたら、これらの企業と個人の影響は非常に大きい。 一方、香港はペッグ制維持のために今年4月末時点で4412億米ドルもの外貨準備を持っている。他国のようにバスケット制に移行するためにその一部を放出することになれば、ドル市場の混乱は不可避とみられる。一方で、ペッグ制をやめたとしても金融政策を独自に行うように制度改正すれば、香港経済にとって決定的なダメージにはなるまい』、「昨年のアメリカの対香港輸出額は308億ドルに上り、260億ドルもの貿易黒字を計上している。アメリカの最大の輸出先であり、その関係を壊すのは得策ではない」、「貿易黒字」を異常に重視する「トランプ」にとってはなおさらだろう。「香港では1300社以上のアメリカ企業と8.5万人のアメリカ人が活動している。香港ドルと米ドルのペッグが外れたら、これらの企業と個人の影響は非常に大きい」、どうも「ペッグ制」も武器にはなりそうもないようだ。
・『「雷鳴は大きいが雨は少ない」  鐘氏は「アメリカが香港の関税区としての地位を取り消すことはあるかもしれないが、米ドルと香港ドルの自由両替を中止する可能性はあまりないだろう」として、トランプ氏が打ち出した制裁について “雷鳴は大きいが雨は少ない”と総括した。 中国外交に詳しい東洋学園大学の朱建栄教授は、トランプ政権が制裁を宣言する中で中国政府が国家安全法制の香港への導入を強行した背景には、「中国経済における香港のウエートが低下している現在、制裁の影響は限られるという判断がある」と解説する。また、これ以上に米中対立を激化させれば、1月の第1段階の貿易合意の履行も難しくなり、トランプ氏の再選戦略に影響するとも見ているという。つまりは、「トランプ砲」はもう弾切れだというわけだ。 次のカードとしては両院で可決済みのウイグル人権法案もあるが、中国側はトランプ氏の足元を見ている。香港問題と同様で、「トランプ砲」が中国を実際に動かすことは期待できそうもない』、「雷鳴は大きいが雨は少ない」と馬鹿にされるようでは、アメリカ大統領の権威も地に落ちたものだ。「ウイグル人権法案」も「香港問題と同様で、「トランプ砲」が中国を実際に動かすことは期待できそうもない」、やれやれだ。これでは、民主化を求める香港市民は、英米などに移民するしかなさそうだ。
タグ:全人代が国家安全法を香港に導入へ──。諸外国の警告にも動じない中国政府を前に、自由と民主化運動と「一国二制度」は風前の灯火なのか。できることは限られているが、まだ交渉の時間はある レッドラインを定めよ 日経ビジネスオンライン 2つの国家安全法 制裁で困るのは香港人 新たな法律はどう香港の議会を迂回しているのか コロナの隙に一斉逮捕 「荒業」を見送ったトランプ大統領 香港 石井 大智 (その4)(「何でもアリ」が合法に 香港版国家安全法は何が衝撃なのか、香港を殺す習近平 アメリカと同盟国はレッドラインを定めよ、香港「国家安全法」めぐるトランプ砲は不発か コロナ禍に焦り制裁を連打するが「弾切れ」に) 「「何でもアリ」が合法に、香港版国家安全法は何が衝撃なのか」 再び動き出した香港の抗議活動 かつてデモで阻止された国家安全法 「一国二制度」への認識の違い 数々の懸念を生み出す国家安全法 Newsweek日本版 「香港を殺す習近平、アメリカと同盟国はレッドラインを定めよ」 「香港「国家安全法」めぐるトランプ砲は不発か コロナ禍に焦り制裁を連打するが「弾切れ」に」 東洋経済オンライン 香港政府は対応に自信あり 「雷鳴は大きいが雨は少ない」
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