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中国国内政治(その8)(コロナ危機のウラで 中国・習近平が「ヤバすぎる計画」を進めていた…! いままで以上の警戒が必要だ、中国全人代 異例の「短縮ずくめ」が示す習近平主席の権力増大 李克強首相の見せ場はわずか56分に) [世界情勢]

中国国内政治については、昨年12月1日に取上げた。全人代終了を踏まえた今日は、(その8)(コロナ危機のウラで 中国・習近平が「ヤバすぎる計画」を進めていた…! いままで以上の警戒が必要だ、中国全人代 異例の「短縮ずくめ」が示す習近平主席の権力増大 李克強首相の見せ場はわずか56分に)である。

先ずは、5月8日付け現代ビジネスが掲載した社会学者の橋爪 大三郎氏による「コロナ危機のウラで、中国・習近平が「ヤバすぎる計画」を進めていた…! いままで以上の警戒が必要だ」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71086
・『新型コロナウイルスの感染後遺症が中国経済を直撃している――。中国の2020年1-3月期のGDPは「初のマイナス」に大きく沈みこみ、中国経済の急落下ぶりが明らかになってきたのだ。 そんなコロナ危機の衝撃が走るウラで、いま中国では習近平国家主席がみずからの権力維持のための「ある企て」を進めていることをご存じだろうか。習近平の計画がこのまま進めば、世界にとって新型コロナウイルス以上に警戒を要する事態にすらなりかねない――そう警告する社会学者・橋爪大三郎氏による緊急レポート!』、「ある企て」とはどんなものなのだろう。
・『習近平が「死ぬまで権力の座に」…!?  習近平とプーチン。両大国のリーダーが、このところますます、独裁の傾向を強めている。果たしてこれは、あの忌まわしい全体主義の再来なのだろうか。その権力の正体を、見すえてみよう。 習近平は、二期10年で交替するというこれまでのルールに従わず、後継者を選ばなかった。本来なら、2017年の全国代表大会で、若い世代のリーダーが後継候補に抜擢されるはずだった。トウ小平(とう・しょうへい)の決めたルールである。 それを無視したのは、三期目も、もしかするとそれ以降も続投するつもりではないか。毛沢東のように終生、権力の座にとどまるつもりか。さまざまな憶測をよんでいる。 習近平が長期政権を望んでも、彼ひとりの考えで実現するわけではない。それを支持する、大勢の共産党の幹部がいるということだ』、「習近平が「死ぬまで権力の座に」、前代未聞の事態が起きつつあるようだ。
・『世界でも「初めての出来事」  習近平政権を支える力学は、どのようなものか。それを考えるには、「社会主義市場経済」なるものを、理解しなければならない。 1949年に建国した中華人民共和国は、社会主義計画経済を進めようとした。まず農業。地主から土地を取り上げて小作農らに分配し、そのあとそれをまた取り上げて人民公社に集約した。人民公社は改革開放のすぐあとやめになった。 工業はどうか。当時、工業は立ち遅れていて、いくつかの地域経済の寄せ集めだった。国単位の計画経済どころではない。それでも国の計画にもとづいて、地方政府が製品の価格や数量を管理していた。都市部の土地、家屋や工場がすべて接収されて、国有になったのは言うまでもない。 この計画経済を三○年続けたあと、始まったのが改革開放だ。初めはおっかなびっくりで、価格の一部を自由化し、商品経済です、と言い訳をした。 計画経済の一部が商品経済なのは、まあよいとされていた。市場経済です、と言おうものなら大変なことになった。市場経済とは資本主義経済の同義語、がマルクス主義の常識であるからだ。 1992年に、トウ小平が「社会主義市場経済」と言い出したので、みんなびっくりした。これからは共産党が資本主義経済をやる、という意味になるからだ。 共産党が、資本主義経済をやる。こんなことは、経済学の教科書にも、マルクス主義の教科書にも書いてない。世界史でも初めての出来事だ。いったいどうやるのか』、「社会主義市場経済」の実態はどうなのだろう。
・『「資本家」は中国共産幹部…?  まず、価格統制をやめる。計画もやめ、需要・供給は市場に任せる。 つぎに、国営企業を株式会社にする。就職も、国が分配するのではなく自由契約にする。国中の土地建物も私有にする(建前は国有のままなので、七○年の使用権、などを私有させる)。 こうやって、資本市場、労働市場、土地市場(いずれも資本主義に必須のもの)を成立させたのだ。 私企業(株式会社)が成立して、資本家が出現する。でもどうやって?マルクスは言った、原始蓄積過程だ。なりかけの資本家は労働者をとことん搾取し、資本を貯め込む。それが資本主義の始まりだと。 中国には、工場や生産設備も、労働者も、社会インフラも、もう存在した。国有の工場や生産設備を、私有財産にすればよかった。 政府の指示で、地元の省や市が、工場を民間企業にする。株券を発行して、一部を政府に渡し、一部を労働者に渡し、残りを共産党の幹部で分けてしまう。共産党の幹部が資本家をやります、が社会主義市場経済のなかみである。 改革開放が進むと、企業のオーナーが中国共産党に加入してよいのか、問題になった。 結局、加入できることになった。共産党は、資本主義経済を推進するための政党に、性格が変わったということだ』、情報開示がないなかでは、企業や「共産党の幹部」が、私腹をこやすことが可能な仕組みだ。
・『「おいしい仕組み」だ  冷戦が終わってもなぜ、中国共産党は解体しなかったのか。なぜ、中国では独裁が必要なのか。その謎を解き明かす秘密が、ここにある。 そもそもマルクスは、なぜ資本主義に反対したのか。資本の所有者である資本家が、剰余価値(労働者が賃金以上にうみだした価値)を手にするからだ。こんな不公正があるだろうか。そこで資本家から資本を奪い取って、労働者のものにする。プロレタリア独裁である。 さて、資本家から資本を奪い取っても、資本がなくなるわけではない。誰かが資本を管理しなければならない。それが共産党だ。共産党は労働者を代表して、国全体の資本を管理する。絶大な権力だ。しかしこれは、効率が悪い。国全体にひとりの資本家しかいないのと同じで、資本を適切に配分できないからだ。 そこで中国共産党は、市場経済を採り入れ、共産党の幹部みずから、資本を私的に所有することにした。経済の私物化だ。世にも奇妙な、共産主義と資本主義の二人三脚が始まった。 共産党は、社会を管理し、経済を管理し、国家を指導する権力をもっている。この権力(の一部)をばらばらにし、共産党の幹部に企業の所有権としてばらまいた。 幹部は莫大な利益を手にする。企業のトップにならなかった共産党幹部も、それぞれ権力をもっている。権力があれば、それを経済的利益に変換することができる。いずれにしても、共産党幹部にとっておいしい仕組みが、社会主義市場経済だ』、「共産党幹部にとっておいしい仕組み」、利権は巨大だ。
・『共産党の思惑  共産党の一党支配はなんのためか。 もともとは、資本家をやっつけて共産主義革命を実行するため、つまり人民のためだった。それがいまや、資本家である共産党の幹部の利益を守るため、になった。こんな政党が存在する必要があるだろうか。中国の人民は、だんだん疑問に思い始める。 だから中国共産党は締めつけを、強化する必要がある。まず、共産党の必要性を強調する。共産党がなくなると、政治的混乱が生じますよ。これまでの実績のことも、思い出してください。共産党は人民のために、がんばっているのです。そして、反対の声が上がらないようにする。それには、単位制度が役に立つ。 「単位」というものがあるのが、現代中国だ。新中国では、都市部の職場がすべて単位に再編された。 単位は職住接近の共同体で、労働者とその家族の福利はもちろん、物資の配給やアパートの分配や、身分の証明や旅行の許可や、医療サーヴィスや年金や、個人情報の管理や、すべてを丸がかえにした。そして単位には党委員会があって書記がいて、単位を指導する。どの単位にも党委員会があるので、中国共産党の支配は磐石だ。 単位の縛りは改革開放が進むと、緩くなった。物資やアパートや医療や年金や、多くのことがアウトソーシングされて、市場に任されるようになった。その代わり、単位は企業に生まれ変わり、幹部を中心とする利害のネットワークに組み込まれた』、「単位は企業に生まれ変わり、幹部を中心とする利害のネットワークに組み込まれた」、巧妙な仕組みだ。
・『コロナウイルス以上に「警戒」を要する  こうした利権は、巨大な闇経済をうみだす。GDPの10%以上になるという推計もある。言葉を変えれば、腐敗である。 中国共産党の高級幹部は大半が、子弟が海外に市民権か永住権をもち、巨額の資産を海外に持ち出している。 習近平が、独裁の傾向を強めているのはなぜか。それは、習近平を担ぎ出した共産党の幹部らが、共通の危機を感じているからだ。1)共産党の幹部の利害と人民の利害とは、矛盾している。2)幹部らは政治的権力から、大きな経済的利益をえている。3)以上のことを、正当化することができない。 正当化できないのに現状を維持しようとすれば、強権支配に頼るしかない。そのための監視技術を、大々的に使用している。 こういう政治体制をそなえた国家が、世界をリードしてよいのか。国際社会はますます疑惑を目を向けている。 ロシアのプーチン政権の独裁は、中国の習近平政権とはまた違ったメカニズムにもとづいている。ロシアには共産党がない。単位もない。国家権力を操る旧内務省(秘密警察)系の人脈が、有力な独占企業と結びついて、ロシアを支配している。旧ロシア帝国の時代のやり方と、よく似ている。 中国の習近平政権も、ロシアのプーチン政権も、近代化が不徹底な伝統社会にグローバル経済が浸透した結果うまれた、新しいタイプの独裁体制だ。新型のコロナウイルス以上に、警戒を要する。 心ある人びとは継続的に、監視を続けて行かなければならない』、時たま、余りに酷い「腐敗」が摘発されるが、これらは氷山の一角に過ぎないようだ。中国共産党政権そのものが「腐敗」体質を持っており、「強権支配・・・のための監視技術を、大々的に使用」、やれやれだ。ただ、経済的存在の大きさから、経済交流は深めていく必要があるが、脆さも抱えていることを忘れないようにしたいものだ。

次に、5月26日付け現代ビジネスが掲載した『週刊現代』特別編集委員の近藤 大介氏による「中国全人代、異例の「短縮ずくめ」が示す習近平主席の権力増大 李克強首相の見せ場はわずか56分に」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72856
・『今年の全人代の「隠れた主旋律」  常に前例を踏襲して、「例年通り」執り行うことを良しとする中国共産党政権が、例年より79日も遅らせて、中国の国会にあたる第13期第3回全国人民代表大会(通称「人大」=レンダー)を、北京の人民大会堂で開始した。 会期は、5月22日から28日までの6日間。例年は10日から15日程度行うので、会期も短縮された。 今回の「人大」を日々、見ていて思うのは、何かと「省略形」が多いことだ。表向きは「新型コロナウイルスの影響」ということになっているが、決してそれだけではない気がする。それは、14億中国人のトップに立つ習近平(Xi Jinping)国家主席の身になって考えると、分かりやすい。 習主席とすれば、本心では「人大」など開くのも億劫なのではないだろうか。そもそも中国では、国の重要事はすべて、「中国共産党中央政治局常務委員会」(トップ7)で決めるため、「人大」の形骸化は常々、指摘されているところだ。それでも毎年開いているのは、国会を開かないと、政権の正統性(レジティマシー)が保てないからである。 日本の右派の論客たちは、「中国は独裁国家だ」と非難するが、少なくとも形式的には、いかなることも法に基づき、手続きを踏んで決定している。例えば、次期国家主席など5年も前から内定していたりするのだが、形式的には「人大」の3000人近い代表が一人ひとり壇上に上がって、候補者の名前を書いた紙を投票箱に投票し、決定している。 私が言いたいことは、習近平主席及びその周辺が、新型コロナウイルスにかこつけて、今年の「人大」を、一気呵成に「短縮形」にしてしまったのではないかということだ。短縮形だろうが、手続きを踏んで決定すればよいのである。ちなみに隣国の北朝鮮は、毎年の最高人民会議は、たったの1日だ。 中国も、理由はともかく、前例に逆らって短縮形を可能にしたということは、習近平主席の権力基盤が強まっている証左とも読み取れる。このことが今回の「人大」の「隠れた主旋律」になっている』、「習近平主席の権力基盤が強まっている」のが、「隠れた主旋律」とはやれやれだ。「習主席とすれば、本心では「人大」など開くのも億劫」、比べるのは必ずしも適切ではないが、安部首相も外遊などで国会から逃げまくろうとしているようだ。
・『階級の違いを表す道具  5月22日の開会式に話を戻そう。私は日がな、CCTV(中央電視台)のインターネット生放送に齧りついていた。 北京時間の朝9時ジャストに、習近平主席を筆頭に、ひな壇最前列の最高幹部たちが入場した。 「人大」での習主席は、無表情もしくは厳めしい表情をしているが常だが、この日は作り笑いを浮かべていた。この辺りも権力掌握の順調さを暗示している。 興味深いことに、ひな壇の最前列(中央政治局常務委員+王岐山副主席)と2段目(中央政治局委員)だけは、マスクをしていなかった。その後ろの中央委員クラスは、全員マスク着用である。客席側に座っている全国から集まった人大代表たちも、一人残らずマスクを着用している。中国共産党政権にとって、マスクとは階級(序列)の違いを表す道具でもあることを知った。 開会式の司会進行役は、栗戦書(Li Zhanshu)人大常務委員長(国会議長・共産党序列3位)である。いまから約40年前、河北省の故郷でくすぶっていた際、北京から派遣されてきた習近平青年と知り合ったことが、この男の運命を変えた。 いまの習近平政権の面々を見ると、朴訥従順なタイプと阿諛追従が上手なタイプとが、幹部の「2大潮流」を占めている気がする。栗戦書委員長は、前者の代表格だ。ちなみに後者の代表格は、24日に1時間40分にわたる記者会見を開いた王毅(Wang Yi)国務委員兼外相だ。 そんな栗委員長が、いかにも自信なさげな河北省訛りの声で、開会を宣言した。 「第13期全国人民代表大会の代表は2956人、本日の出席者は2897人、欠席59人。よって第13期第3回全国人民代表大会の開会を宣言する。国歌斉唱!」 ここまでは通常通りだったが、国歌斉唱の後、新型コロナウイルスの犠牲者たちに対する黙祷を、全員で行った。 続いて、この日のメインイベントである李克強(Li Keqiang)首相による「政府活動報告」が行われた』、「中国共産党政権にとって、マスクとは階級(序列)の違いを表す道具でもあることを知った」、思わず微笑んでしまった。「王毅国務委員兼外相」は確かに「阿諛追従が上手なタイプ」のようだ。
・『改革開放以降、最短の政府活動報告  政府活動報告は、毎年「人大」初日の3月5日午前中に首相が行うことになっていて、通常は2章立てか3章立てにした草稿を、2時間近くかけて詳細に述べていく。 内容は、2章立ての場合、第1章が前年の中国経済の回顧で、第2章がその年の中国経済の計画である。3章立ての場合は、第2章に中国の長期的な経済計画や、特にトピックにしたい内容を織り込んだりして、第3章にその年の経済計画を持ってくる。 ところが今年は、なんと8章立てだった。それでは例年よりも長くなったのかと言えば、その逆で、わずか56分で、李克強首相は、そそくさと引き上げてしまったのだ。CCTVの解説者も、「(1978年の)改革開放以降、最短の政府活動報告になりました」とつぶやいていた。 なぜこれほど「短縮形」の演説になったのか? 新型コロナウイルスという未曽有の脅威が起こったのだから、本来ならそのことに言及する分、むしろ長くなって然るべきではないのか。 スピーチを短縮した理由は、中国当局は特に説明していない。代わりに、やはりおしゃべりなCCTVの解説者が、ポツリと漏らした一言が引っかかった。それは、「今回の政府活動報告の草稿は、2回も全面的に書き直しました」というものだ。 この一言を聞いて、私はいまから4年前の3月5日に起こった「政府活動報告事件」を思い起こした。 2016年の政府活動報告は3章立て、時間にして1時間53分だった。だが、後半の第3章に差しかかった時、李克強首相の顔が真っ青になって来て、声は擦れ、脂汗を流し始めた。 李首相は持病を抱えているので、緊張のあまり体調が急変したようだった(今年の演説でも何度も咳き込み、体調の悪さを感じさせた)。そんな中で、重要なワンフレーズを口にした。 「鄧小平同志の一連の重要講話の精神を深く貫徹する」 ところが最終的な草稿では、重要講話の主は「鄧小平同志」ではなく「習近平同志」だったのだ。習近平主席が「建国の父」毛沢東元主席を崇拝しているのに対し、李克強首相が鄧小平元中央軍事委員会主席を敬愛していることは、広く知られている。 李首相が言い間違えた時、すぐ近くに座っていた習主席は、苦虫を噛み潰したような表情に変わった。そして李克強首相が演説を終えると、李首相をねぎらうこともなく、憮然とした表情で、そそくさと壇上から立ち去ってしまったのである。 この日、国営新華社通信は、意味深な記事を配信した。「今年の政府活動報告は李克強首相が自ら起草し、党中央(習近平総書記)に提出したが、4回も改稿した」。つまり、李首相は習主席に4回も「ダメ出し」を喰らったということだ。この記事は瞬く間に削除されてしまったが、李首相は4回もの改稿で、強いストレスを感じていたことが想像できた。 そして、今年も2回もの書き直しなのである。ここからも、ナンバー1(習主席)とナンバー2(李首相)が、決して一枚岩ではないこと、かつ習主席の権力が絶大だということが読み取れる』、「2016年の政府活動報告」で、「李首相」が「習近平同志」を「鄧小平同志」と、「言い間違えた」のは、実は「李首相」の抵抗だったのかも知れない。今回は「4回も「ダメ出し」を喰らった」、とは「李首相」もご苦労なことだ。
・『習近平グループの巻き返し  それでは、どの部分を、どう書き直しさせられたのだろうか? これは中国当局は絶対に発表しないので、想像するしかない。 これは私の単なる仮説だが、もしかしたら李克強首相が当初、作成した草稿には、例年通り、約2時間分のボリュームがあったのではないか。重ねて言うが、新型コロナウイルスの発生によって、「政府がやるべきこと」や「国民に知らせるべきこと」は激増しているのである。 ところが習近平主席は、李首相が上奏した草稿に、大量の赤を入れた(習主席は毛沢東元主席を見習って赤鉛筆で書類を直す習性がある)。その結果、例年の半分以下というスカスカ草稿になってしまった。そして、「新型コロナウイルスのため不確定要素が大きい」とかいう理屈を、後付けで加えた。 1月以来の新型コロナウイルスを巡る中国政府の対応に接していて、中国政府内部では、二つの潮流があることを感じた。 一つは習近平主席とその周辺で、情報の隠蔽とまでは言わないが、なるべく発表を少なくしようとしていた。それは多くを発表すれば、どこかの部分でアメリカにあらぬ火種を提供することにもなりかねないので、リスクを極力減らそうということでもあった。 それに対し、李首相及びその周辺は、なるべく情報を公開しようとしていた。それは中国側に都合の悪い情報も含めてである。 例えば、先月のこのコラムで詳述したが、4月17日に国家統計局が、「今年第1四半期のGDP成長率はマイナス6.8%だった」と発表した。これを日本のメディアは「初のマイナス成長」と大々的に報じた。 だが、私が驚いたのはむしろ、初のマイナス成長をそのまま発表したことだった。そしてそのことから、新型コロナウイルス騒動によって、李克強グループの発言力が、相対的に増してきていることを感じ取ったのである。 ところが、それから1ヵ月余りを経て、今回は習近平グループがだいぶ盛り返しつつあるという印象だ。その一例として、短縮形のスピーチの中でも、習近平主席を称える箇所が12回も登場した。例年その程度は登場しているのだが、分量が半分になったにしては、そこの部分は削られていない』、「新型コロナウイルスを巡る中国政府の対応に接していて、中国政府内部では、二つの潮流がある」、「習近平主席とその周辺で、情報の隠蔽とまでは言わないが、なるべく発表を少なくしようとしていた」、さしずめ、現在、トランプ大統領が中国側の隠蔽を非難しているのは、「習近平主席」派には不都合だろう。
・『GDP目標はなぜ未発表か  もっと象徴的な例がある。今年のGDP成長率の目標を発表しなかったことだ。 例年の政府活動報告の「4大重要データ」と言われるGDP成長率、新規就業者数、失業率、CPI(消費者物価指数)のうち、GDPの目標値は、最も重要な指標である。極言すれば、中国が掲げる社会主義市場経済システムの象徴とも言える数値なのだ。 ところが今回、初めてそれを怠った。「新型コロナウイルスで内外に不確定要素が多いため」というのは、これまで述べてきたように後付けである。おそらくは、習近平主席が目標数値に赤を入れ、削ってしまったのである。 中国政府は、先代の胡錦濤(Hu Jintao)政権の時代に、2010年に較べて2020年のGDPを2倍にするという公約を掲げた。だが、2010年のGDPは40兆1513億元で、2019年のGDPは99兆865億元だから、すでにこの公約は達成している。 それでも、もし2020年のGDP成長率の目標を強気に設定した場合、それが達成されないと、中国共産党内部で習近平主席の責任が問われる可能性がある。逆に弱気の目標を設定した場合、中国内外のマーケットがマイナスに反応して、中国経済の復興に水を差すリスクがある。 習近平主席としては、来年7月1日に迎える中国共産党創建100周年で華々しい成果を発表して、半永久政権につなげたいという野望がある。そのためには、自己に降りかかって来るリスクを極力避けた方がよいという考えなのである。 GDP成長率目標の未発表以外にも、中国共産党内部で、後に政局になりかねない部分や、アメリカに足を引っ張られるかもしれない部分に、どんどん赤を入れていった。というよりバッサリ削っていった。それでスカスカの完成稿となったのではないだろうか。 ということを前提に、以下、各章ごとにトピックを箇条書きにし、合わせて短評を載せる』、「習近平主席としては、来年7月1日に迎える中国共産党創建100周年で華々しい成果を発表して、半永久政権につなげたいという野望がある」ので、リスク要因になる「GDP成長率目標」は削除したというのは、説得力がある。
・『スカスカの政府活動報告概要  <緒語 第1章 2019年と今年に入っての活動の回顧> ・今回の新型コロナウイルスは、新中国成立以来わが国が遭遇した、伝播速度が最も速く、感染範囲が最も広く、防止難度が最も高い公共衛生事件だった。習近平同志を核心とする党中央の堅強な指導のもと、全国上から下までの広大な国民の艱苦卓絶の努力と犠牲によって、ウイルス防止は大きな戦略的成果を得た。 ・昨年GDPは99.1兆元、対前年比6.1%成長だった。都市部の新規就業者は1352万人で、調査失業率は5.3%以下。CPI上昇率は2.9%で、国際収支は基本的に平衡を保った。 ・社会消費品小売総額は40兆元を超え、食糧生産量は1.3兆斤以上を保持した。常住人口の都市化率は初めて60%を超えた。 ・科学技術のイノベーションは大きな成果を得た。新興産業は引き続き大きく伸びており、伝統産業もバージョンアップしている。新規企業は毎日平均で1万社以上増えている。 ・減税は、当初予定の2兆元規模を超えて、2.36兆元に達し、製造業及び中小零細企業の受益が最も多かった。「一帯一路」も新たな成功を見た。 ・「3大攻撃戦」(貧困・大気汚染・金融不安の撲滅)は、カギとなる進展を見た。農村の貧困人口は1109万人減少し、貧困発生率は0.6%まで落ちた。主要な汚染物の排出量は継続して下降し、生態環境は総体的に改善された。金融の運行も総体的に安定している。 ・民生もさらに改善し、平均収入は3万元を超えた。義務教育学生生活補助人数を40%近く増やし、高等職業学校の募集人数も100万人増やした。 ・新型コロナウイルス発生後、習近平総書記が自ら指揮し、自ら手配し、生命安全と身体健康を第一に考え、ウイルスとの人民戦争、総合戦、防撃戦を展開した。14億人の発展途上国である中国は、比較的短期間に有効な防御を行い、国民の基本生活を保障したが、これは容易なことではなく、艱難の末に成就したものだった。 ・「復工復産」(工業と産業の復興)では、8方面に90項目の政策を実施した。企業の雇用を守り、税金を減免し、高速道路を無料にし、できる限りコストを抑えられるようにし、資金の貸し出しを追加した。 【短評】新型コロナウイルスが発生した1月当初は、社会主義のマイナス部分である官僚の不作為や隠蔽が目立った。だが、2月以降は社会主義のプラス部分である強制執行力やスピードが功を奏して、湖北省を除く全国的に収まりを見せた。それで2月の早期から「復工復産」に舵を切り、製造業の復興を優先させることができた』、「新型コロナウイルス・・・2月以降は社会主義のプラス部分である強制執行力やスピードが功を奏して、湖北省を除く全国的に収まりを見せた」、なるほど。
・『<第2章 今年の発展の主要目標と次の段階の活動の総合的な手配> ・都市部の新規雇用目標を900万人以上、都市部の調査失業率を6%程度、都市部の登記失業率を5.5%前後、CPIの伸びを3.5%前後とする。 ・農村の貧困人口をゼロにし、貧困県をなくす。 ・「6穏」(就業・金融・貿易・外資・投資・貯蓄の安定)の今年の活動の中で、「6保」(就業・民生・市場・食糧とエネルギー・インダストリアルチェーンとサプライチェーン・基本的社会インフラの保持)のボトムラインを守り抜く。 ・積極財政を加速させる。財政赤字率を3.6%以上とし、財政赤字規模を昨年より1兆元増やし、同時に1兆元のウイルス対策特別国債を発行する。この2兆元はすべて地方に渡す。 【短評】「6穏」は、アメリカとの貿易戦争が「開戦」した2018年7月、党中央政治局会議で決定し、これまで繰り返し唱えてきたが、今回初めて「6保」が登場した。私は中国の経済回復が遅れれば、中国国内に1億人規模の失業者が出るリスクがあると見ている。すでに5000万人もの「農民工」(出稼ぎ労働者)が職にあふれて帰京したという話も、中国国内で出ている。中国の場合、失業者の増大は暴動発生に直結する。その意味では、やはり「6保」の筆頭に就業を持ってきて、国を挙げて国民の就業を確保しようということなのだ』、「私は中国の経済回復が遅れれば、中国国内に1億人規模の失業者が出るリスクがあると見ている」、「「6保」の筆頭に就業を持ってきて、国を挙げて国民の就業を確保しようということなのだ」、納得した。
・『<第3章 マクロ経済政策の実施を強化し、企業の安定と就業の保持に尽力する> ・今年も増値税率と企業年金保険費率の低下などの制度を継続し、5000億元の新規減税を行う。 ・今年通年で2.5兆元を超える企業減税を計画する。 ・工商業の電力費を5%カットする政策を今年年末まで延長する。ブロードバンド・ケーブルなどの費用も平均15%減らす。 ・大型商業銀行の中小零細企業への融資を40%以上高める。 ・今年大学を卒業する874万人の就業を促進する。 【短評】減税は昨年、2兆元規模で行ったが、さらなる減税に迫られた(それまでの税金が高すぎたとも言える!)。また銀行の貸し渋り問題は、全国的に社会問題化しているが、あまりむやみに貸し出すと銀行倒産にもつながる(実際に地方でそのような案件が起こり始めている)。7月に出現する874万人の大学卒業生は、本当に就職先がなくて困っている。ただでさえ前述のように未曽有の就職難というのに、火に油を注ぐ格好だ』、「7月に出現する874万人の大学卒業生」への「就職先」の確保は確かに重要な課題だろう。
・『<第4章 改革によって市場主体の活力を刺激し、発展の新たなエンジンを増強する> ・国有企業改革3年行動を実施する。 ・民営経済の発展の環境を良化する。 ・製造業のグレードアップと新興産業の発展を推進する。 ・科学技術のイノベーションの支柱となる能力を強化する。 「大衆創業、万衆創新」を深く推進する。 【短評】国有企業改革は、習近平政権が発足した2013年にしっかり進めていれば、現在どれほど中国経済は健全化していたかと思う。2018年以降、米ドナルド・トランプ政権に糾弾されてようやく重い腰を上げたが、もしトランプ大統領が再選されれば、米中貿易交渉第2ラウンドの主要テーマは国有企業改革となる。その他は、李克強首相のいつもの決まり文句を並べ立てただけで新鮮味はない。 <第5章 内需戦略の拡大を実施し、経済発展方式の変転加速を推進する> ・今年の地方政府の専用債権を、昨年より1.6兆元増やして3.75兆元とする。中央政府から6000億元投資する。 ・鉄道建設の資本金を1000億元増加する。 【短評】地方債は、先代の胡錦濤政権までは違法だったが、いまや増える一方で、昨年分も昨年9月までに使い果たしてしまったほどだ。その意味では、コロナが起こったから地方が疲弊したわけでは、決してない。そして地方が疲弊すれば、地方に高速鉄道を作って雇用を増やすというヤブヘビな投資を行ってきた結果、鉄道総公司の負債は5兆元を超えてしまった』、「鉄道総公司の負債は5兆元を超えてしまった」、一体、どうするのだろう。
・『<第6章 脱貧困攻略の目標実現を確保し、農業の豊作と農民の増収を促進する> ・脱貧困攻略と農村振興措置をしっかり行い、重要な農産品の供給を保障し、農民の生活水準を引き上げる。 ・高レベルの水田8000万亩(ムー)を新たに作る。 ・帰郷した「農民工」(出稼ぎ労働者)が臨時の仕事に就き、収入を得られるようにする。 【短評】コロナで都市部で職にあふれた農民工はすでに5000万人を超えたという中国のレポートも読んだ。習近平政権は、農民の土地を国有化する壮大な計画を立てているが、これについては先延ばしした模様だ。 <第7章 対外開放のレベルをさらに上げ、貿易と外資の基盤を安定化させる> ・越境ECなど新たな業態の発展を加速し、国際貨物の運送能力を引き上げる。 ・中国内外の企業を一視同仁に扱い、公平な競争の市場環境を作る。 【短評】習近平政権には「困った時のアリババ頼み」という言葉があるほどだが、これだけ中国経済がドン底になっても、アリババは今年第1四半期の売り上げを22%も増やし、世界企業ランキングで7位につけている(4月現在)。4月7日には、コロナで中小企業を救済する「春雷計画2020」を発表した。今後、日本企業の越境CDでの「アリババ依存度」も高まるかもしれない。一方、外資系企業の一視同仁政策は、日系企業の間では「またいつもの絵空事でしょう」くらいにしか捉えられていない。 <第8章 保障を拡充、民生を改善し、社会事業改革の発展を推進させる> ・生命至上主義を堅持し、疾病予防防止体制を改革し、伝染病の直接報告と警戒システムを改善し、速やかかつ公開透明にウイルスの情報を発布することを堅持する。 ・基本的な医療サービスのレベルを引き上げ、医療保険の一人当たり財政補助レベルを30元増やす。 ・全国の3億人近い人が受け取っている年金を、必ず遅らせずに満額渡すようにする。 【短評】今回のコロナウイルス対応の反省を、サラリと述べたが、今後のWHO(世界保健機関)の特別調査が注目される。年金問題は日本と同様、中国も破綻に向かっており、来年から始まる第14次5ヵ年計画の重要なテーマとなっている』、「年金問題は日本と同様、中国も破綻に向かっており」、今後どうするのか見物だ。
・『<結語> ・習近平強軍思想と新時代の軍事戦略方針を深く貫徹し、政治建軍・改革強軍・科技強軍・人材強軍・法治強軍を堅持する。 ・国防動員システムを完備させ、軍と政、軍と民の団結を終始、盤石のものとさせる。 ・香港特別行政区の国家安全を維持、保護する法律制度と執行機構制度を健全に打ち建て、香港特別行政区政府の憲法制度の責任を根づかせる。 ・広範な台湾同胞と「台湾独立」反対で団結し、統一を促進する。 ・富強・民主・文明・和諧の素晴らしい社会主義現代化強国を建設し、中華民族の偉大なる復興という中国の夢を実現させるため、たゆまず奮闘していく! 【短評】今年の軍事費は別途発表されたが、前年比6.6%増の1兆2680億元。非公表の研究開発費を含めれば、日本の防衛予算の4~5倍に上る。香港に対する国家安全法は今週定める予定だが、国際社会から猛烈な非難を浴びることは必至だ。台湾も、5月20日に2期目を始動させた蔡英文政権は、アメリカをバックに「NO CHINA」政策を貫く方針を崩しておらず、米中対立の最大の火薬庫になって来る予感がする。 香港のデモと台湾の中国離れについては、下記の新著『アジア燃ゆ』で詳述しているので、ご高覧下さい。(本のPRは省略)』、「香港」については、昨日のブログで取上げた。「軍事費は・・・非公表の研究開発費を含めれば、日本の防衛予算の4~5倍に上る」、これだけの格差があるのであれば、なまじの対抗策を考えるより、共存の道を探ってゆくべきだろう。
タグ:緒語 第1章 2019年と今年に入っての活動の回顧 中国共産党政権にとって、マスクとは階級(序列)の違いを表す道具でもあることを知った 2016年の政府活動報告 習近平グループの巻き返し 第8章 保障を拡充、民生を改善し、社会事業改革の発展を推進させる スカスカの政府活動報告概要 (その8)(コロナ危機のウラで 中国・習近平が「ヤバすぎる計画」を進めていた…! いままで以上の警戒が必要だ、中国全人代 異例の「短縮ずくめ」が示す習近平主席の権力増大 李克強首相の見せ場はわずか56分に) 現代ビジネス GDP目標はなぜ未発表か 第2章 今年の発展の主要目標と次の段階の活動の総合的な手配 「中国全人代、異例の「短縮ずくめ」が示す習近平主席の権力増大 李克強首相の見せ場はわずか56分に」 世界でも「初めての出来事」 習近平主席としては、来年7月1日に迎える中国共産党創建100周年で華々しい成果を発表して、半永久政権につなげたいという野望がある 第4章 改革によって市場主体の活力を刺激し、発展の新たなエンジンを増強する 橋爪 大三郎 第6章 脱貧困攻略の目標実現を確保し、農業の豊作と農民の増収を促進する 第5章 内需戦略の拡大を実施し、経済発展方式の変転加速を推進する 「資本家」は中国共産幹部…? 「おいしい仕組み」だ 「李首相」が「習近平同志」を「鄧小平同志」と、「言い間違えた」のは、実は「李首相」の抵抗だったのかも知れない 階級の違いを表す道具 習近平主席の権力基盤が強まっている 社会主義市場経済 共産党の思惑 第3章 マクロ経済政策の実施を強化し、企業の安定と就業の保持に尽力する 近藤 大介 今年の全人代の「隠れた主旋律」 習近平が「死ぬまで権力の座に」 改革開放以降、最短の政府活動報告 「コロナ危機のウラで、中国・習近平が「ヤバすぎる計画」を進めていた…! いままで以上の警戒が必要だ」 中国国内政治 結語 軍事費は 共産党幹部にとっておいしい仕組み 非公表の研究開発費を含めれば、日本の防衛予算の4~5倍に上る
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