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中国情勢(軍事・外交)(その6)(コロナとの戦いで見えた中国の本質的な問題 IT強権国家のルールが世界を支配する日、コロナ“一抜け”の中国について囁かれる「2つの野心」は本当か、中国がドイツに「報復」 経済的攻防がコロナで激化 「企業版社会信用システム」で外国企業の命運握ろうと画策) [世界情勢]

中国情勢(軍事・外交)については、4月4日に取上げた。今日は、(その6)(コロナとの戦いで見えた中国の本質的な問題 IT強権国家のルールが世界を支配する日、コロナ“一抜け”の中国について囁かれる「2つの野心」は本当か、中国がドイツに「報復」 経済的攻防がコロナで激化 「企業版社会信用システム」で外国企業の命運握ろうと画策)である。

先ずは、4月29日付け東洋経済オンラインが掲載した大蔵省出身で早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 の野口 悠紀雄氏による「コロナとの戦いで見えた中国の本質的な問題 IT強権国家のルールが世界を支配する日」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/346510
・『中国が新型コロナウイルスへの対策として、武漢という1000万人都市を即座に封鎖したことは、世界を驚かせた。その強権国家ぶりは、実は、2018年ごろからの米中貿易戦争の背景ともつながっている。ITで国民を監視するという発想は、自由主義社会の基本原理と相容れない。そうしたことが米中摩擦を激化させたのだ。われわれはいま、未来社会の原理を選択する岐路に立っている。 新刊『中国が世界を攪乱する――AI・コロナ・デジタル人民元』の著者・野口悠紀雄氏が、いまグローバルに起きていることの本質を読み解く』、興味深そうだ。
・『中国発コロナで世界が未曽有の危機に  中国がさまざまな意味において、世界を大きく撹乱しています。 『中国が世界を攪乱する――AI・コロナ・デジタル人民元』のKindle版を5月6日(水)まで無料で全文公開中。5月7日(木)~21日(木)まで電子書籍版を先行販売(画像をクリックするとKindleにジャンプします) 2019年12月に中国武漢で発生した新型コロナウイルスが、その後瞬く間に世界各国に広がりました。 各国は、外出規制や外出禁止措置など、いままでなかった対応を取らざるをえなくなり、経済活動が急激に縮小しました。 現在のところ、ワクチンも治療薬も開発されていないため、この状態がいつまで続くのか、どのように収束するのか、まったく見通しがつかない状態です。 世界は、第二次世界大戦以降初めての、大きな危機に直面しています。 コロナウイルスの感染拡大とその後の経緯に関連して、中国という国家の特異性が浮かび上がりました。 感染の初期の段階で、中国当局は、疫病の発生という都合の悪い情報を抑え込もうとしました。勇気ある医師の告発も、デマであるとして処分の対象とされ、葬られてしまったのです。 このようにして、中国は初期段階での感染封じ込めに失敗しました。 こうなったのは、中国の中央政府・共産党の力が強すぎて、武漢市という地方政府が自らの判断で情報を発信したり対処したりすることができなかったからです。 事態を真剣に把握し、早期に移動の禁止等の立場を取っていれば、感染はこれほど拡大しなかったと考えざるをえません。これは、中国の強すぎる中央集権的権力体制の負の側面を示しています。 しかし、その後の対応ぶりには、中国の強い権力体制があったからこそ可能になったと考えられる側面が見られます』、「中国の強すぎる中央集権的権力体制」が、「初期段階での感染封じ込めに失敗」、したが、「その後の対応」では成功したというのは皮肉だ。
・『強権国家ゆえにできたこと  人口1000万人以上の大都市を即座に封鎖したり、わずか10日間で病院を建設したり、人々の移動を強制的に停止したりするなどの措置が取られました。 さらには、AIとビッグデータを用いて、感染状況をスマートフォンで個別に判断できるアプリも開発され、多くの人々に使われました。 このような強権的な対策の結果、3月下旬には中国における感染状態が抑えられたようです。4月上旬には、武漢およびその周辺地域の封鎖が解除され、経済活動が再開されました。 ところが、アメリカやヨーロッパなどの自由主義国では、新型コロナの爆発的な感染拡大が起こり、イタリアやスペインでは医療崩壊の状況に陥っています。 こうした状況を見ていると、「疫病を抑えるためには、中国に見られるように人権を無視した強権的な政策が必要ではないのか?」という考えを否定できなくなってきます。 「自由か、それとも強権による管理か?」という古くからある問題に対して、極めて深刻な新しい事実が突きつけられていることになります。 自由か、強権による管理かという問題は、コロナ以前から、中国において顕在化していたものです。それは、 AIやビッグデータとの関連において、問われてきました。 例えば、電子マネーの使用実績から個人の信用度を測定する信用スコアリングが、数年前から中国で実用化されています。また、顔認証の技術も発達しており、店舗の無人化などが可能になっています。 こうした技術によって、これまではできなかった経済取引ができるようになっていることは事実です。これは、明らかに望ましい動きです。 しかし、公権力がこうした技術を用いることの危険もあります。警察や公安が、顔認証の技術を用いて犯人の検挙を行っていると言われます。また、信用スコアリングが、本来の目的である融資の審査以外にも用いられるようになっています。 これらの技術は、悪用されれば、権力が国民の生活を思うままにコントロールする道具になってしまうのです。中国ではこの数年、こうしたことが進展しつつありました。 『中国が世界を攪乱する――AI・コロナ・デジタル人民元』のもともとの目的は、 AI、 ビッグデータ、顔認証、信用スコアリング、プロファイリングなどといったことについて、自由と権力との関係を考察したいということでした。 本書を準備する途中でコロナウイルスの問題が生じたわけですが、これはまさしく本書が追求していた問題そのものであったのです。 本書は当初は、2018年ごろから始まった米中経済戦争をテーマとしていました。これがトランプ大統領の単なる気まぐれによるものではなく、未来世界における覇権をめぐる、アメリカと中国の基本的思想の衝突であるという理解から、さまざまな分析を行っていました。 特に強調したかったのは、超長期的視点からの歴史の理解です』、「超長期的視点からの歴史の理解」、とは面白そうだ。
・『西欧に屈服した中国が20世紀末に変貌  中国は、人類の歴史の長い期間において、世界の最先端国でした。ところが明の時代からそれが変化し始め、ヨーロッパに後れをとるようになります。そして1840年に始まったアヘン戦争によって、中国は西欧に屈することになります。 ところが、こうした屈辱の歴史が、1990年代の末ごろから大きく変わり始めたのです。鄧小平による改革開放政策が成功し、中国は工業化への道を驀進しました。 その後、eコマース、電子マネーなどの面で目覚ましい発展をとげ、最近では、AIやビッグデータ、顔認証、プロファイリングなどの分野でアメリカを抜いて世界最先端に立つような状態になっているのです。 本書はなぜこのような変化が生じてきたかについて、長期的な歴史のパースペクティブから考察しています。 つい数か月前まで、われわれは、中国という強権管理国家が未来の世界で覇権を取ることはない、と考えていました。なぜなら、覇権国家の必要条件は「寛容」(他民族を認めること)であり、中国はその条件を欠いているからです。 しかし、この信念が、いま大きく揺らいでいることを認めざるをえません。 アルベール・カミュは、その著書『ペスト』において、「ペスト菌は死ぬことも消えることもない」と言っています。 カミュがペスト菌という言葉で表現しようとしたのは、ナチスに代表される管理国家です。「それは、ナチスが消えても、なおかつ世界から消えることはない」というのが、カミュの警告なのです。 カミュのこの予言が現代の世界における最も基本的な問いであることを、われわれはいま、思い知らされています』、「カミュのこの予言が現代の世界における最も基本的な問い」、確かに大いに考えさせられる問題提起だ。

次に、5月20日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したフリーライターの吉田陽介氏による「コロナ“一抜け”の中国について囁かれる「2つの野心」は本当か」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/237745
・『なぜコロナから「一抜け」できたか? 他国には真似できない絶対的権力  5月22日に、2カ月あまり延期されていた一大政治イベント、全人代の開催が決まり、中国は経済社会活動の本格的な回復に向けて大きく動き出した。世界が新型コロナウイルスの感染拡大に喘ぐ中で、中国は「一抜け」の感がある。 4月30日付の『環球時報』は、中国の大規模な政治会議が開かれることは「14億の人口を抱える中国の能力と自信を示している」と述べ、こうした大きな政治イベントが行われることになったのは、中国の感染症との戦いの成果であることを強調した。 日本メディアの報道は、中国は全人代で感染症の拡大を基本的に押さえ込んだことを内外にアピールしているのでは、と分析しているが、ウイルスとの戦いを「人民戦争」と表現していた中国が、国民と政府が一体となって勝利を得たということを文書に盛り込む可能性はあるだろう。 中国はどうしてコロナウイルスとの戦いで「一抜け」できたのだろうか。1つ目の要因は、徹底した「都市封鎖」を行ったことだ。中国政府はコロナウイルスの感染拡大を抑えるために、武漢市・湖北省へのアクセス道路の封鎖や感染が深刻な地域の封鎖を行うだけでなく、徹底した外出制限を行い、政府の感染症対策に協力しなかった者、感染地域に行ったことがあることを隠した者は、社会の秩序を乱したという罪で罰せられた。 2つ目の要因は、“計画経済”的な社会経済運営だ。計画経済は多様化するニーズ、科学技術の発展に対応できないという欠点があるが、限られた資源をある目的に投入できるという利点がある。今回のコロナウイルス騒動で中国政府は、マスクなど必要な防護具や人々の生活に必要なモノの生産を重視した。中国の左翼系の論者も、これが社会主義計画経済の強さだと述べているが、その見方はあながち間違いとは言えない。 3つ目の要因は、段階的に規制措置を緩和したことだ。感染拡大が深刻な時期、中国政府は感染者が多い地域を高リスク地域にして、徹底した規制を行った。感染患者の増加ペースが鈍化し、企業活動が徐々に再開されても、第2波の襲来を警戒して慎重な姿勢を保っていた。) たとえば北京市は警戒レベルが第一級(最高レベル)だったが、感染のピークが過ぎたと見られる時期も、警戒レベルを引き下げることなく、国内の他地域、または海外から帰ってきた人を対象にした厳格な隔離措置、団地に入る際の規制などは継続された。 最近、北京市の警戒レベルが第二級に引き下げられ、国内の低リスク地域から北京に戻ってきた人の隔離措置は免除され、社会経済活動が徐々に戻りつつある。第二波のリスクが完全になくなったとは言い切れないが、中国政府の慎重な規制緩和が「一抜け」の要因になったことは間違いない。 このような要因で、中国は感染拡大を抑え込んだが、中国の経験が他国で通用するかといえばそうではない。ここに挙げたことは、特定の党が“別格の存在”で、強いリーダーシップをとって様々な措置を講じることができる体制でしかできないことだ。その体制の良し悪しはここで論じないが、感染拡大の抑え込みに有効なことは事実だ』、「特定の党が“別格の存在”で、強いリーダーシップをとって様々な措置を講じることができる体制」が、「感染拡大の抑え込みに有効なことは事実だ」、残念ながらその通りだ。
・『国際主義を掲げる中国共産党の積極外交は本物か  今回のコロナウイルス騒動は、中国共産党にとってチャンスにもなった。その1つは党内改革をより進めることだ。感染症との戦いのなかで、一部幹部の職務怠慢が明らかになったことで、党中央は怠慢幹部を更迭、武漢市に調査チームを派遣し、習近平の“側近”を送り込むなどの措置をとった。 習近平自身が幹部の能力不足を認めたように、党中央の考え方が末端レベルにまで浸透していなかったことが露わになった。そのため、今回のコロナウイルス騒動は習指導部がさらに党内改革を進めるきっかけとなった。 今回のコロナウイルス騒動が中国にもたらしたもう1つのチャンスは、国際的影響力をより高めることだ。中国共産党は国際協調の姿勢を強め、感染拡大の時期も活発な外交活動を展開しており、責任ある大国として世界に貢献することを強調している。 習近平は3月26日、新型コロナウイルス肺炎への対応を協議するG20の首脳特別会議に出席して次の4つの提案を行い、それは中国の感染症との戦いの方針になっている。 (1)感染症の防止・抑制に向けた世界規模での戦いを断固として行う (2)各国との感染症防止・抑制を効果的に展開する (3)国際組織が役割を果たすのを積極的に支持する (4)マクロ経済政策の国際協調を強化する  感染が深刻な国にマスクを贈ったり、専門家を派遣して中国の経験を伝えたり、ウイルスの遺伝子情報を各国と共有したりして、活発な外交活動を行っている。さらに、中国は自国の理論・政策を対外発信することも重要視しており、感染症専門の学者が書いた新型コロナウイルス肺炎の予防や感染症のなどに関する著書が翻訳・出版されるなど、専門家レベルでの「中国の経験」を一般の人々にも伝えようとしている。 習近平は2013年に「人類運命共同体」の考え方を打ち出し、外国にはっきりとものを言うだけでなく、「互恵・ウィンウィン」を旨とする「国際主義」的な外交政策を展開してきた。中国の感染症との戦いをめぐる国際協力もこの考えに基づいている』、「互恵・ウィンウィン」とは表向きで、実態は「一帯一路路線」など中国にとってメリット追及だろう。
・『ポストコロナの中国に感じる「2つの疑問」  だが、ここで2つの疑問が湧いてくる。 (1) 中国が国際協調の姿勢を強めたのは、震源地であることの責任追及を逃れるためではないか。 (2) かつての「革命輸出」のように、中国の経験を世界に「輸出」して影響力を強めようとしているのではないか。 まず責任回避についてだが、中国は「感染症は人類共通の敵」という言葉は発しているが、世界に対してもっと明確なメッセージを発する必要があろう。 ウイルスの起源についての中米の意見対立は、中国は責任回避しているのではないかと言う疑念から出てきたものともいえる。ウイルスの起源は中国の一部の見方のようにアメリカ軍の生物兵器か、アメリカが主張するように武漢の研究所を起源とするのかという問題は、それぞれの国家利益も関わっており、すぐには明らかにはならないだろう。問題は起源より、感染症が起こったときの対処にあったのではないかと筆者は考える。 中国政府が、中央に情報がうまく伝わっていなかったことや、下級組織の職務怠慢などで初動の対処が遅れ、感染拡大の一因をつくったことは否定できない。ただ、その後の中国は軌道修正が徐々に進み、感染者の数字もリアルタイムで出すようになった。その数字も隠蔽されていたのではないかという疑問も出てくるが、それが何らかのきっかけで明るみに出たときに中国共産党が被るダメージは大きいので、著しい隠蔽があったとは考えにくい。 ただ、中国はすでに世界の政治・経済に影響を与える大国になっており、自国のすることを国際社会へ明確に発信することが求められる。この全人代では、自国の感染拡大の抑制を自画自賛するだけでなく、世界に向けてどんなメッセージを発するかが重要となってくる』、「一帯一路路線」でイタリアやドイツで多数の中国人が働いていたことの影響は、今後各国当局の調べで明らかにされるだろう。
・『かつての「革命輸出」のような野心はなさそう  次に、中国が「中国式のガバナンスモデル」を「輸出」することを目的としているのかという点だが、前述のように、中国式モデルは共産党の絶対的指導のもとで行われるものであり、他国には馴染まない。中国は国際主義を掲げているが、今のそれとは違い、友好国の革命を支援するためのものだ。 中国共産党は文化大革命の時代に、中国共産党式の「武装闘争革命」モデルを他国に「輸出」しようとしたが、それは当時の中国共産党が世界革命を起こすことを最重要課題としていたからだ。現在は革命によって世界の主導権を奪う時代ではないし、中国も国内に問題を抱えていて、アメリカに代わる超大国にすぐになれると考えるのは現実的ではない。 周知のように、今中国の公式メディアはほぼ毎日アメリカ批判の記事を掲載し、アメリカを批判している。たとえば、中国はアメリカの感染症対策について「人命よりも資本を重視する」ものとして批判している。 中国のこの言い分は、資本主義国は金儲けが第一で、人命を二の次に考えるが、中国のような社会主義国は、人々の生命と生活を第一に考えるというものだ。このように、相手国に批判されたら果敢に反論するのは、独立国として当然の権利だが、共産党式の「お前が誤りで、私が真実」という論争のやり方は、その方法に馴染みの薄い国の人々にとってはなかなか理解できないだろう。 中国のやり方の良し悪しは長期的スパンでしか証明されない。過去にも中国は自国の立場を示した白書を発表してきたが、この問題についての白書も発表されるのではないかと筆者は見ている』、「この問題についての白書」、どうせ手前勝手なものなのだろう。
・『過去の冷戦と「新しいタイプの冷戦」の違い  中米間の意見の対立についていうと、一部の中国人専門家が指摘するように、「新しいタイプの冷戦の始まり」ともいえるが、それは主にイデオロギー面のものだ。中国の専門家は、中米両国には経済貿易、反テロリズムなどの分野で協力の余地があり、過去の冷戦とは違うと分析している。 その分析通りならば、中国は中米関係改善の「ドアをオープンにしている」ことになる。この状況はしばらくそのまま続くだろうが、コロナ収束後に何らかのアクションがあるのではないかと思う。 そのシナリオは中国の堅持する「国際主義」にも合致するものだが、課題もある。当時は鉄道、高速道路、インフラなどに投資したことによりV字回復を達成したが、当時の中国経済は高度成長期にあったので、短期的に経済を回復し、このようなシナリオが可能だった。 しかし、今の中国経済は中高速成長の段階にあり、以前のように投資のアクセルを大きくふかして急速な経済回復を実現するかは疑問だ。この数年間、中国政府は投資主導型から内需主導の経済発展を模索しており、感染症流行期間中に「凍りついた」需要が解き放たれた後の消費の力強さが重要だ』、「消費の力強さ」は確かだろうが、輸入が大幅増加する一方で、輸出の低迷は持続するので、貿易・経常収支は大赤字となり、人民元相場下落を促進するだろう。
・『中国はどこへ進むのか 全人代でのポストコロナ戦略に注目  また、中国は自国のことにしっかりと取り組むと公言しているが、今年は中国共産党の掲げた貧困脱却の取り組みの最終年であり、その目標達成も課題だ。今回のコロナウイルス騒動の前、中国政府は貧困脱却に向けての取り組みの成果を公式メディアでアピールし、この目標が達成されつつあると強調していた。 しかし、コロナウイルス騒動のなかで収入が大幅に減った人、職を失った人も少なくなく、「新たな貧困層」も出てきた。こうした人々への救済がなければ、中国共産党の掲げた目標はただのスローガンに終わる可能性がある。 昨年の全人代は、中米貿易摩擦の影響を受けて失業した人への支援策など、経済の減速の衝撃を緩和することを目的とする政策が打ち出されたが、今回の全人代も、コロナウイルス騒動の影響を緩和するための支援策が打ち出されることは間違いない。中国政府は全人代の「政府活動報告」で、中国経済を回復させて、世界の経済を支えるシナリオを実現するためにどのような政策を打ち出すか、注目したい』、「全人代」では成長率目標の発表はなかったが、李首相は、雇用の維持などを実現できれば通年でプラス成長を実現できるとした。外交では悪化する米中関係について「たしかに新たな問題、試練が生じている。両国首脳の共通認識に基づき、協調と協力、安定を基調とする米中関係を築きたい」と述べたようだ。

第三に、5月21日付けJBPressが掲載した在米作家の譚 璐美氏による「中国がドイツに「報復」、経済的攻防がコロナで激化 「企業版社会信用システム」で外国企業の命運握ろうと画策」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60553
・『4月15日、欧州でコロナ禍が吹き荒れる中、ドイツ最大のタブロイド紙「ビルト」が社説「私たちへの中国の負債」を掲載して激しく中国を批判した。コロナウイルスが世界中に拡大したのは「中国が全世界を欺いた」からであり、ドイツが受けた経済的損失の約1650億ドル(約18兆1500億円)を、中国は支払うべきだとも要求した。 翌日、中国は「劣悪な要求だ」と反論したが、同紙は一歩も引かず、習近平主席を名指しして、「あなたの友好とは・・・微笑で偽装した帝国主義であり、トロイの木馬なのだ」と、激烈な批判を展開し、激しい舌戦はなおも続いている』、「「あなたの友好とは・・・微笑で偽装した帝国主義であり、トロイの木馬なのだ」、極めて激烈だが、本質を突いた批判だ。
・『“経済的パートナー”ドイツからの厳しい言葉  メルケル首相も4月20日、「中国がウイルスの発生源について、より透明性を持てば、各国がよりくわしく学ぶことができる」と、控えめながら中国政府に「透明性」を求めた。 習近平主席にとって、メルケル首相の言葉は予想外のものだったろう。というのも、ほんのひと月前の3月22日、習近平主席はドイツに電報を送り、コロナウイルスの感染が拡大中のドイツに慰問の意を表し、「ドイツと共に努力することで両国の全方位的なパートナー関係を深め、中国とヨーロッパの関係発展を促進していきたい」と強調したばかりだったからだ。 新型コロナウイルスの発生源などをめぐり、各国首脳から中国の対応に疑念の声が相次ぐ中で、唯一、経済的に重要なパートナーだと思いこんでいたドイツの冷めたい反応は、大きな衝撃だったにちがいない。 コロナ禍をきっかけにして、今、ドイツと中国の間で再び経済的攻防が火花を散らしている』、面白い展開だ。
・『蜜月関係にあるドイツの優良企業が中国企業のM&Aの標的に  振り返れば、ドイツと中国の間には歴史的な禍根が少ない。20世紀初頭にドイツ帝国が清国の山東省膠州湾を租借したものの、第一次世界大戦の時期に、中国侵略を企てた日本がドイツの権益を奪って以降、ドイツはヨーロッパ戦線に忙殺されて、どちらかといえば中国と疎遠な関係にあった。そのためドイツ人も中国に対して固定観念を持たず、悪感情を抱いていなかったのである。それが21世紀に入り、中国が経済成長すると、両国は急接近した。 2005年、メルケル首相は首相就任後、景気低迷にあえぐドイツ経済を再興しようと、対中貿易の促進に踏み切り、現在まで合計12回の訪中をしている。日本には、2回のサミットを含めて5回しか訪問していないのとは大違いだ。 中国にとっても「渡りに船」だった。 中国は建国100年目の2049年に世界制覇を目指して、国家的大構想「一帯一路」プロジェクトを立ち上げ、欧州と中国を陸と海で結んで貿易取引を発展させようと考えた。長距離鉄道を敷設して「陸のルート」を開設する一方、「海のルート」を確立するため、航路沿線にあるアジア、中東各国の港湾を強引な手段で次々と獲得していった。 2015年には具体的な戦略「中国製造2025」も打ち出した。2025年までに欧米先進国と日本に追いつき、追い越すために、10の重点分野を発展させる計画だ。重点分野は、省エネルギー産業、新エネルギー自動車、電力設備、バイオ医療、ロボット分野などの最先端技術ばかりだ。だが、中国はこれらを自ら研究開発するのではなく、外国企業を買収して手っ取り早く最先端技術を奪おうと目論んだ。その主要なターゲットとなったのが、「蜜月関係」にあるドイツの先端企業だった。 JETROのレポート『中国からの直接投資とドイツのジレンマ』(2020年1月9日付)が紹介したドイツ連邦銀行の経済統計によれば、中国からドイツへの直接投資が急増したのは2016年。手法は主としてM&Aだった。 2016年6月、中国の大手家電メーカーの美的集団がドイツの産業用ロボットメーカーのクーカを買収したのを皮切りに、中国企業は次々にドイツ企業にM&Aをしかけた。 2016年の中国のドイツへの投資総額は、前年比24倍の125億6000万ドルに達し、2017年には過去最高額の136億8400万ドルを記録した』、「中国は・・・外国企業を買収して手っ取り早く最先端技術を奪おうと目論んだ。その主要なターゲットとなったのが、「蜜月関係」にあるドイツの先端企業」、これでは大人しい「ドイツ」もさすがに黙ってられないだろう。
・『ドイツで急速に高まった対中警戒感  そこまで事態が進むと、さすがにドイツ人は貴重な先端技術が流出するのではないかと不安になり、ドイツ政府は2017年7月、対外経済法施行令を改正して、軍事産業や安全保障、ハイテク、インフラ、エネルギー分野で、EUおよび欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国以外の外国企業がドイツ企業を買収する場合、買収通知の提出と資本参加の審査を義務化するなど、規制を強化した。 だが、中国の勢いは止まらず、2018年2月、吉利汽車がダイムラーへ資本参加して筆頭株主になり、寧波の自動車部品メーカー、継峰汽車零部件もドイツの自動車内装部品メーカー大手のグラマーの株式を取得して、議決権を84%取得した。 危機感を覚えたドイツ政府はついに「拒否権」を発動した。 2018年7月、国家電網(SGCC)による送電大手の50ヘルツ(50Hertz)の株式取得を阻止するため、ドイツ復興金融公庫(KFW)が株式20%を買い取った。同年8月、煙台市台海集団による精密機械メーカーのライフェルト・メタル・スピニングの買収も拒否した。同社は従業員200人の小規模ながら、宇宙船や航空機の部品製造の技術は世界的に評価が高く、原子力発電や核関連分野にも利用されている優良企業だ。 5カ月後の12月、ドイツは万全を期すため、EUおよびEFTA加盟国以外の外国企業が、安全保障上重要なインフラ企業の株式を取得する際の審査基準を、従来の決議権25%以上から10%以上に引き下げ、中国企業による買収に歯止めをかけた。 その結果、2018年のドイツ企業に対する中国企業の直接投資は2割減の106億8100万ドルとなり、2019年上半期には5億500万ドルと激減した。 だが、二度にわたる規制強化にも関わらず、2019年1月、中国のアリババ集団はドイツのデータ分析のスタートアップ企業であるデータ・アルチザンスを9000万ユーロで買収し、なおもM&A攻勢の手を緩めてはいない』、「二度にわたる規制強化にも関わらず」、「中国」企業のM&A熱は高いようだ。
・『一帯一路の“要所”となる地域で集中的にM&A  ところで、中国企業によるM&Aの約60%は、ドイツの特定地域に集中している。バーデン・ヴュルテンベルク州、ノルトライン・ヴェストファーレン州、バイエルン州の3州で、最先端技術をもつ企業がひしめく地域だ。 3州のひとつ、ノルトライン・ヴェストファーレン州はドイツ経済の中心地で、現在、華為技術(ファーウェイ)、中興通訊(ZTE)、徐工集団(XCMG)、三一重工(Sany Heavy Industry)など、中国の有名企業の欧州本部が置かれているほか、1100社の中国企業があり、約1万人の従業員がいる。また、同州のドイツ企業2700社以上が中国に駐在員事務所をもち、ドイツの対中投資額の4分の1を占めている。メルケル首相がかつて推進した経済交流の蜜月時代の所産でもある。 実は、同州はドイツで最初に中国の「一帯一路」プロジェクトに署名した州で、州政府の官員の中には共産主義者も少なくないと指摘されている。 中国が同州に目を付けた最大の利点は、同州にあるデュイスブルク港だ。欧州最大の内陸港として知られ、720キロメートルの内陸航路に120の港湾があり、北海、バルト海、大西洋、地中海、黒海に通じ、欧州の重要なハブになっている。2018年の中国政府の公式ウェブサイトによれば、デュイスブルク港には、中国の重慶を起点として、週に35~40本の長距離鉄道が運行されている。 同州の州都デュッセルドルフ市は、2015年に中国総領事館が設置された後、武漢市と姉妹都市を締結して、毎年「中国祭」を開催するなど密接な関係を保っている。2019年9月には、米国が強く警告する中で、ファーウェイと「スマートシティ」プロジェクトの開発契約を結んだ。 一言でいえば、ノルトライン・ヴェストファーレン州などドイツ3州は、ここ5年間で中国と深く結びつき、ドイツ経済の根幹を中国に握られるほど密着してしまったのである。そして、この経済的な密着こそ、今回のコロナウイルスが感染拡大した最大の要因となったのである。 ドイツでは、コロナウイルスの感染者は17.2万人で、死者は7551人(5月8日現在)にのぼる。その中で被害が最も多いのが、バイエルン州(感染者4万4265人、死者2153人)、ノルトライン・ヴェストファーレン州(同3万4964人、1425人)、バーデン・ヴュルテンベルク州(同3万3287人、1542人)の3州である。 武漢で発生した新型コロナウイルスは、文字通り「一帯一路」プロジェクトの「陸のルート」を通って、武漢から長距離鉄道でドイツに伝わり、「海のルート」の欧州の入り口であるイタリア同様、欧州各国へと感染が拡大していったのである。事ここに至って、冒頭で触れた「ビルト」紙のような、公然とした中国批判が噴出するようになった。 だが、コロナ禍を巡ってドイツ政府やメディアが中国を非難する中で、中国は「報復外交」ともいえる対抗手段で、すでに布石を打っていた。 ドイツの「ドイチェベレ中国語電子版」(2020年1月16日付)は、ドイツ公共放送連盟の経済番組「プラスマイナス」を引用する形で、中国が2020年に導入予定の「企業版社会信用システム」に、数社のドイツ企業を「ブラックリスト」に載せたことが判明したと報じた。 同報道によれば、ドイツのフォルクスワーゲン・フィナンシャル・リーシング社(天津大衆汽車公司)、ドイツ大手建設会社ツプリン社の中国子会社など数社が「ブラックリスト」に掲載されているという。理由はいずれも商取引上の行き違いや、10年も前の税金申告漏れなど、些細な内容ばかりのようだが、はっきりとはわからない。 ボッシュ、BMW、ZFフリードリヒハーフェン社の上海子会社なども、企業データ、金融データ、社会的交流、ネット言論の内容に至るまで、逐一中国政府のデータ庫に保存されているとされる』、「デュイスブルク港には、中国の重慶を起点として、週に35~40本の長距離鉄道が運行されている」、こんなにつながりが深くなっていたとは、初めて知った。「コロナウイルスの・・・被害が最も多いのが、バイエルン州・・・ノルトライン・ヴェストファーレン州・・・バーデン・ヴュルテンベルク州・・・の3州」というのも頷ける。
・『中国の意に沿わない外国企業を窮地に追いやることもできる  中国ですでに導入されている個人対象の「社会信用システム」は、AIを使った厳しい監視体制が国民のプライバシーを過度に侵害するものとして外国でも知られているが、「企業版社会信用システム」が本格的に導入されれば、ドイツ企業ばかりか、中国でビジネスを展開する外国企業にとって、まことに深刻な事態である。すべての外国企業や合弁企業は中国政府に企業データを提供する義務が生じ、中国政府は外国企業の先端技術をたやすく獲得して、政治的に活用することが可能になる。 中国政府の意に沿わない外国企業は信用度が低くなり、融資や商取引の面で数々の不利が生じる。高級管理職の外国人の言動も制限され、企業イメージにも大きな影響を及ぼす。取引相手の信用度とも関連するため、企業同士で互いに疑心暗鬼に陥ることも考えられる。「ブラックリスト」に載せられたら、取り消されるまで数年もかかり、ビジネス展開のうえで致命的なダメージを被る。そしてなにより「企業版社会信用システム」の評価基準があいまいで、中国政府の腹ひとつで信用度が大きく左右されることが、最大の懸念になっている。 ドイツへの直接投資を阻止された中国は、なりふり構わず「報復外交」を展開し、留まるところを知らない。両国の経済的攻防はこれからも続いていくのは必定だろう。 コロナ禍を契機に、今、ドイツを含めたEU諸国が一致協力して、中国の脅威に対抗しようと動き出したことこそ、未来への明るい希望である』、「「企業版社会信用システム・・・すべての外国企業や合弁企業は中国政府に企業データを提供する義務が生じ、中国政府は外国企業の先端技術をたやすく獲得して、政治的に活用することが可能に」、なんと中国に都合がいい制度なのだろう。しかし、中国ビジネスの蜜の味を知ってしまった後では、対応は難しいが、「ドイツを含めたEU諸国が一致協力して、中国の脅威に対抗しようと動き出したことこそ、未来への明るい希望である」、その通りだろう。
タグ:その後の対応ぶりには、中国の強い権力体制があったからこそ可能になったと考えられる側面 中国の強すぎる中央集権的権力体制の負の側面 カミュがペスト菌という言葉で表現しようとしたのは、ナチスに代表される管理国家 デュイスブルク港には、中国の重慶を起点として、週に35~40本の長距離鉄道が運行されている 中国は初期段階での感染封じ込めに失敗しました 譚 璐美 一帯一路の“要所”となる地域で集中的にM&A コロナウイルスの感染拡大とその後の経緯に関連して、中国という国家の特異性が浮かび上がりました 中国発コロナで世界が未曽有の危機に 今の中国経済は中高速成長の段階 『中国が世界を攪乱する――AI・コロナ・デジタル人民元』 「ペスト菌は死ぬことも消えることもない」 過去の冷戦と「新しいタイプの冷戦」の違い 「コロナとの戦いで見えた中国の本質的な問題 IT強権国家のルールが世界を支配する日」 野口 悠紀雄 東洋経済オンライン ポストコロナの中国に感じる「2つの疑問」 ドイツ最大のタブロイド紙「ビルト」が社説「私たちへの中国の負債」を掲載して激しく中国を批判 アルベール・カミュ “経済的パートナー”ドイツからの厳しい言葉 (その6)(コロナとの戦いで見えた中国の本質的な問題 IT強権国家のルールが世界を支配する日、コロナ“一抜け”の中国について囁かれる「2つの野心」は本当か、中国がドイツに「報復」 経済的攻防がコロナで激化 「企業版社会信用システム」で外国企業の命運握ろうと画策) なぜコロナから「一抜け」できたか? 他国には真似できない絶対的権力 ダイヤモンド・オンライン ナチスが消えても、なおかつ世界から消えることはない」というのが、カミュの警告 「コロナ“一抜け”の中国について囁かれる「2つの野心」は本当か」 中国はどこへ進むのか 全人代でのポストコロナ戦略に注目 ドイツで急速に高まった対中警戒感 「互恵・ウィンウィン」を旨とする「国際主義」的な外交政策を展開 習近平 人民元相場下落 かつての「革命輸出」のような野心はなさそう 一帯一路路線 (軍事・外交) 貿易・経常収支は大赤字 中国情勢 中国の意に沿わない外国企業を窮地に追いやることもできる (2) かつての「革命輸出」のように、中国の経験を世界に「輸出」して影響力を強めようとしているのではないか 国際主義を掲げる中国共産党の積極外交は本物か 西欧に屈服した中国が20世紀末に変貌 蜜月関係にあるドイツの優良企業が中国企業のM&Aの標的に 「中国がドイツに「報復」、経済的攻防がコロナで激化 「企業版社会信用システム」で外国企業の命運握ろうと画策」 覇権国家の必要条件は「寛容」(他民族を認めること)であり、中国はその条件を欠いている JBPRESS 1) 中国が国際協調の姿勢を強めたのは、震源地であることの責任追及を逃れるためではないか ドイツを含めたEU諸国が一致協力して、中国の脅威に対抗しようと動き出したことこそ、未来への明るい希望 すべての外国企業や合弁企業は中国政府に企業データを提供する義務が生じ、中国政府は外国企業の先端技術をたやすく獲得して、政治的に活用することが可能になる 強権国家ゆえにできたこと 以前のように投資のアクセルを大きくふかして急速な経済回復を実現するかは疑問 超長期的視点からの歴史の理解 「企業版社会信用システム」 「凍りついた」需要が解き放たれた後の消費の力強さが重要 吉田陽介
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