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小売業(一般)(その4)(勝ち組の「ユニクロと無印良品」が露呈した弱点 悪化の理由は韓国、香港影響だけではない、イオンが成功し ダイエーが失敗した「成功体験」のワナ 池上彰『日本の戦後を知るための12人』、「ドン・キホーテ」は日本的経営に反逆して成長した) [産業動向]

小売業(一般)については、昨年2月23日に取上げた。久しぶりの今日は、(その4)(勝ち組の「ユニクロと無印良品」が露呈した弱点 悪化の理由は韓国、香港影響だけではない、イオンが成功し ダイエーが失敗した「成功体験」のワナ 池上彰『日本の戦後を知るための12人』、「ドン・キホーテ」は日本的経営に反逆して成長した)である。

先ずは、本年1月25日付け東洋経済オンライン「勝ち組の「ユニクロと無印良品」が露呈した弱点 悪化の理由は韓国、香港影響だけではない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/326598
・『「勝ち組」と言われた小売専門店の経営課題が、ここにきて浮き彫りとなっている。 ユニクロを傘下に持つファーストリテイリングが1月9日に発表した2020年8月期の第1四半期(2019年9~11月期)決算は、売上高6234億円(前年同期比3.3%減)、営業利益916億円(同12.4%減)と減収減益で着地した。 このため、当初増収増益を見込んでいた通期決算の見通しも、売上高2兆3400億円(前期比2.2%増)、営業利益2450億円(同4.9%減)の増収減益に下方修正した。4期ぶりの営業減益となる』、コロナが原因であればやむを得ないが、そうでもなさそうだ。
・『韓国、香港の影響を免れず  下方修正の理由としてユニクロが挙げたのは、日系ブランドの不買運動が続く韓国と、デモが長期化する香港での業績悪化だ。 韓国は、ユニクロを190店弱展開し、年間売上高が1000億円を超える重要な市場だ。その韓国と、30店舗を展開する香港での赤字が収益を圧迫。第1四半期決算において、海外ユニクロ事業の営業利益は前年同期比28%減の378億円と低迷した。この落ち込みが、全体の足を引っ張った。ファーストリテイリングの岡﨑健取締役は1月9日の決算説明会の席上、「いつまで続くかわからないが、韓国は非常に厳しい事業環境にある」と語った。 韓国と香港の急激な収益の悪化は、外部環境の変化に起因するもの。これだけが下方修正の要因であれば、現地の情勢次第で業績も回復する可能性は高い。だが今回の決算では、内部要因ともいえる別の課題も露呈した。 第1四半期の決算で目立ったのが、国内ユニクロ事業の停滞だ。同事業の2020年8月期第1四半期の売上高は2330億円(前年同期比5.3%減)、営業利益は385億円(同1.6%増)。在庫の値引き処分がかさんだ前年同期と比べ粗利益率は改善したが、売上高、営業利益とも会社の期初計画を下回った。営業利益は同四半期に500億円程度を稼いでいた5期前と比較しても、悪化傾向にある。 収益が想定を下回った最大の要因は、暖冬の影響だ。一般的にアパレル企業は、商品単価の高い防寒着が売れる秋冬シーズンが稼ぎ時。この秋冬は気温が高く推移しており、ファーストリテイリングもこの逆風を受け、国内ユニクロの既存店売上高は昨年9月以降、前年割れが続いている。 ヒートテックやウルトラライトダウンなどユニクロの主力商品は、防寒や保温といった機能性の高さがウリ。ほかのアパレル企業と比べ、トレンド変化の影響を受けにくい反面、新商品やコラボ企画で大ヒットが出ないかぎり、気温の変化に売り上げが大きく左右されがちだ。今回の決算では、この弱点が改めて露呈した格好だ。 国内ほどのインパクトではないにしろ、ユニクロは中国や北米でも暖冬の影響で売上高が会社の想定を下回った。「昨年も今年も暖冬が続いている。気候が大きく変わっている(温暖化が進んでいる)ことを念頭に置きながら、暖冬にも対応できる商品構成を追求しなければいけない」と、ファーストリテイリングの岡﨑取締役は危機感をあらわにする。 ユニクロは販売動向に応じて機動的に在庫量を調整できるよう、こまめな値下げや短納期生産の推進による在庫の効率化を進めているが、気温の変化に左右されにくい商品の開発や品ぞろえの見直しも今後不可欠となる』、「ユニクロの主力商品は、防寒や保温といった機能性の高さがウリ」、「暖冬にも対応できる商品構成を追求しなければいけない」、駄目もとで言ってみただけとの印象を受ける。
・『良品計画は在庫が膨張  ファーストリテイリングが決算を発表した翌日の1月10日、生活雑貨店「無印良品」を展開する良品計画も2020年2月期の第3四半期(2019年3~11月期)決算を公表した。売上高は3282億円(前年同期比7.9%増)と増えた一方、営業利益は298億円(同14.5%減)の減益になった。これで株価は大幅に下落。決算発表前に2682円だった株価は1月24日の終値で1996円まで下がっている。 第3四半期の結果を受けて、良品計画も通期決算の計画を売上高4437億円(前期比8.3%増)、営業利益378億円(同15.5%減)の増収減益へと下方修正した。昨年10月時点で営業利益は452億円(前期比1.2%増)の計画だったが、今回の下方修正により、人件費がかさんだ前期から2期連続の営業減益となる見通しだ。 無印良品の販売は好調だ。国内の直営既存店売上高は昨年5月から8か月連続で前年を突破。人気商品の戦略的な値下げや、会員向けの割引フェアを頻繁に開催したことも集客効果となった。 ただ、ファーストリテイリングと同じく東アジア事業の不振が足かせとなった。良品計画は韓国で40店舗、香港で21店舗を展開しており、「(東アジア事業の不振の)最大の要因は韓国と香港の赤字転落。昨年末から売上高は回復しつつあるが、力強くはない」(良品計画の松﨑曉社長)。 売り上げが伸びたものの、今回の良品計画の決算では、東アジア事業以外でも、収益柱の国内事業や欧米事業などが軒並み減益に陥った。今期は一部商品の値下げや消費増税後の価格の据え置きがあり、期初時点で粗利益率の低下は見込まれていた。だが、売り上げ拡大でカバーできると考えた会社の想定以上に収益性が悪化。全社的に滞留在庫が増大し、処分のための値引き販売が増えたことが背景にある。 同社の商品在庫の膨張ぶりは、無視できない状況だ。貸借対照表を見ると、2019年11月末時点での在庫(商品+仕掛品+貯蔵品)は1105億円と、前年同期の868億円から3割弱膨らみ、3期前同期の661億円と比べると7割弱増加した。 平均月商に対する在庫の量を見ても、3期前の同期は月商の2.4倍、前期の同期は2.5倍だったのに対し、今期は3.03倍と増加傾向にある。このまま在庫が膨らみ続けると、今後も値引き処分を強いられる懸念があるうえ、在庫を保管するための物流関連費も増大する』、「平均月商に対する在庫の量」が「前期の同期は2.5倍」から、「今期は3.03倍と増加傾向」、とは確かに気になる。
・『在庫の適正化が最優先の課題  在庫が急増している要因の1つは、売上高目標や消費増税の影響を考慮して、事前に商品の仕込みを強化したことにある。結果的に、食品は順調に売れた一方、とくに仕入れ量を増やした衣料品はアイテムによって売れ筋にバラつきが出ており、停滞が続く家具など生活雑貨は会社計画ほど売れなかったとみられる。さらに海外では、「販売計画に合った仕入れが正しくできていなかった」(松﨑社長)という。 海外展開を加速している無印良品は、今期だけでもフィンランドやスイス、オマーンに初出店し、日本以外で30の国と地域に店舗網を広げる。展開エリアや事業規模が拡大する中、どの店舗にどの商品をどれだけ配分するかなどといった商品投入のコントロールがうまく効かなかったようだ。 松﨑社長は「在庫の適正化は、今後も最優先課題として取り組む」と強調する。今年中に、販売計画に沿ったアイテム別の在庫管理が行えるシステムの導入を進める予定だ。今後の収益改善に向けては、システムを活用しながら在庫投入の精度を高められるかがカギとなる。 独自のブランドポジションを確立し、高い価格競争力を持つユニクロと無印良品は、グローバル展開に成功した日系ブランドの代表例とも言われる。今回の業績下方修正は、拡大基調を続ける両社が、足元を見つめ直すきっかけになったかもしれない』、「今年中に、販売計画に沿ったアイテム別の在庫管理が行えるシステムの導入を進める予定」、こんなことすら出来ていなかったとは驚きだ。「足元を見つめ直すきっかけに」してほしいものだ。

次に、2月25日付け現代ビジネスが掲載した元外務省分析官で作家の佐藤 優氏による「イオンが成功し、ダイエーが失敗した「成功体験」のワナ 池上彰『日本の戦後を知るための12人』」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70559
・『結果的にシャッター通りになった  池上彰氏は、著書『日本の戦後を知るための12人』のなかで、戦後の日本において無視できない人物として、田中角栄、江副浩正、小泉純一郎、中内功、渡邉恒雄、堤清二、村上世彰、堀江貴文、石原慎太郎、池田大作、上皇と上皇后をとりあげている。 そのうちダイエー創業者の中内功(1922~2005年)とセゾングループの代表だった堤清二(1927~2013年)に関しては、成功体験にとらわれたことが破滅につながる「失敗の研究」として興味深い。 中内は、関西主婦連をはじめとする消費者団体と連携して「安売り」を武器にして、小売業の革命を成し遂げた。小売店がダイエー商法に危機を覚え、政治に働きかけて大規模小売店舗法を1973年に施行させ、大型スーパーの進出を阻止しようとした。 1975年にダイエー熊本進出を阻止しようとする商店街との間で激しい抗争が展開された。結局、消費者を味方につけたダイエーが勝利した。この成功体験が中内の経営戦略を誤らせることになった。〈熊本で起きた「ダイエー出店反対」のような動きは、ダイエーにかぎらず百貨店や家電量販店などを相手に、その後も各地に広がります。それで店舗面積を狭くしたところもあれば、進出を断念したところもあります。 こうして、スーパーマーケットが来なくなった駅前商店街は、次々に閉店してシャッター通りと化してしまった。反対運動が衰退を招くという皮肉な結果を招いてしまったわけです。 一部の小売店は大型スーパーの近くに店を構え、スーパーの帰りに立ち寄ってくれる客をターゲットにしました。この通称「コバンザメ商法」で共存共栄を図ったところは生き残ったのです。しかし、ほとんどの駅前商店街はシャッターをおろしてしまいました。 それでも、ダイエーは相変わらず駅前に店舗を作ろうとしました。駅前にまさる立地はない、という考えが捨てきれない。つまり、成功体験にしがみつき続けたのです〉』、「反対運動」に目を奪われて、消費が郊外型の「大型スーパー」中心に変化したのを完全に見落としていたのは、致命傷だ。
・『時代を読み間違えた  ダイエーと対極的な経営哲学を持ったのがイオンだ。 〈オカダヤというスーパーチェーンがありました。やがてジャスコ、そてイオンと名前を変えますが、オカダヤの先代の遺訓というのがすごい。 お店をどこに作るのか。「キツネやタヌキが出るところに店を作れ」。 これが明暗を分けたわけです。駅前に出店したダイエーは、その成功体験を後生大事に守り続けたのに対し、オカダヤは郊外に大規模な店舗を作った。 自動車が活躍するモータリゼーション社会になると、みんなクルマで買い物に行きます。休日に大量に買ってきて冷蔵庫に保存する。地方では軽自動車が大量に売れるようになります。(中略) ダイエーの駅前店と違って、オカダヤには広いスペースの駐車場があって、そこに行けば、子どもを遊ばせる広場もあれば映画館もあり、レストランで食事もできる。オカダヤが作ったのは、単に大規模なスーパーというだけでなく、ショッピングセンターであり、レジャーセンターでもある娯楽の殿堂だったのです。 結局、中内さんは時代を読み誤ったと言うしかありません。 安売りは、日本がまだ貧しい時にはそれが最適の道だった。しかし、みんなが豊かになってゆとりが出てくると、買い物自体も楽しくなければいけなくなった。ダイエーが時代に取り残されていくのは、もう目に見えていました〉』、普通は経営企画のような部署で、ライバルの動向も詳しく分析しているので、「ダイエー」でも、店舗戦略の見直しが議論された筈だ。「中内」氏が耳を貸さなかったのだろう。
・『「文化を売るんだ」  成功体験が判断を鈍らせるのは、一般論としてすべての人にあてはまると思う。 堤に関しては、経済人と作家という二足の草鞋を履いていたことがバブル期にはとても役立った。ポスト・モダン思想の影響もあり、文化的「小さな物語」から価値を生み出すことができたからだ。バブル経済の崩壊とともに堤の構築した文化=経済帝国も崩壊した。 〈堤さんの大きな夢は「西武銀座店」を作ることでした。ちょうど朝日新聞社が築地に移転して、その跡地に作ろうとしたのに、銀座に店舗を構える松屋や松坂屋から「そこは有楽町だ。銀座店を名乗ってほしくない」と猛反発を受けたのです。 仕方なく「西武有楽町店」としてオープンしたのですが、ここでまた堤さんの悪いクセが出た。「商品を売るんじゃなく文化を売るんだ」 私も店に入ってみましたが、いかにもデパートらしい売り場が見当たらない。「イベントを売るんだ」とセゾンチケットのプレイガイドが設けられましたが、その発想に部下たちはついていけません。八四年のオープンから二十六年後、堤さんの夢とともに、この店も消えてしまいました。 堤清二さんは、自己否定から生まれた新しい業態が成功すると、西洋環境開発という会社を作ってデベロッパーの仕事にも手をひろげました。でも、この会社で手がけたインターコンチネンタル買収が致命傷になりました。バブルがはじけて、とてつもない負債を抱えてしまったんです。 そのため、ロフトも無印良品も、あるいは西友も、バラ売りをすることで借金を返します。セゾングループの解体です。そして最後には、清二さんが私財を抛って返済に充てたのです〉 堤は、ソ連との関係でも、ソ連共産党中央委員会国際部の日本課長をつとめ、対日謀略工作を担当したイワン・コワレンコと昵懇の関係にあった。政治的に危ういゲームに堤は加わっていた。堤がソ連との関係での闇を語らずに死んでいったことが悔やまれる。 〈救いはというと、セゾングループは消えてしまったけれど、パルコや無印良品、ロフトは今もちゃんと生き残っていることでしょうか〉と池上氏は感想を述べるが、確かに堤がいなければ、無印良品やロフトのような形態のビジネスは生まれなかったであろう』、確かに「無印良品やロフトのような形態のビジネス」を生んだ「堤」氏はやはり偉大だったようだ。

第三に、7月20日付け日刊ゲンダイが掲載した評論家の佐高信氏による「「ドン・キホーテ」は日本的経営に反逆して成長した」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/276212
・『「日本一地価の高い所に店を構えて夕方6時には閉めてしまう。こんなやり方は絶対永続きしない」 東京は銀座の百貨店が並ぶ通りを歩きながら、ドン・キホーテの創業者、安田隆夫は作家の石川好にこう言った。何年か前のこの予言が的中して、百貨店はいま軒並み苦境にあえいでいる。 百貨店はいわばゼイタク感を売っていた。しかし、ドン・キホーテはティッシュ・ペーパーの隣にブランド品を並べている。安田は夜12時まで店を開けて、ナイトマーケットを発見したのである。 「逆張り商法」といわれるこの会社の軌跡を見ていると、城山三郎が『価格破壊』のモデルとしたダイエーの中内功を思い出す。 中内は「生産者主権」ではない「消費者主権」の社会をめざして、松下電器(現・パナソニック)や花王などの大メーカーに挑戦した。それがいつのまにか「ダイエー主権」になってダイエーは消えてしまったと私は見ているが、兵隊にとられて死線をさまよった中内はスーパーを平和産業として捉え、「明治生まれの人間が戦争を計画して、大正生まれのわれわれがそれを一銭五厘の旗の下でやらされた」と反発して、政財界トップの徴兵制容認発言などに対しても噛みついた。 安田はそんな社会的発言はしない。しかし、29歳の時に始めた店に「泥棒市場」と名づけたほどとんがっている。ダイエーやイトーヨーカ堂など大型チェーンストアの全盛期に零細な店が注目されるには「通行人が目を剥くようなネーミングにする」(安田隆夫『安売り王一代』文春新書)しかなかったからである。 一方、バブル時代に一切、財テクや土地転がしをやらなかったという堅実さも持っている。ドン・キホーテでは、上司が部下の仲人になることを禁じている。馴れ合いや情実の生まれることを防ぐためだが、この会社はいわば「日本的経営」に反逆して成長したのである』、「上司が部下の仲人になることを禁じている。馴れ合いや情実の生まれることを防ぐため」、確かに「「日本的経営」に反逆して成長した」ようだ。現在は総合ディスカウントストア事業の他に、長崎屋などスーパーマーケット事業も展開している。私は欲しい商品にすぐには辿り着けない圧縮陳列方式が嫌いなので、殆ど利用しないが、ユニークな企業であることは確かなようだ。
タグ:小売業 ダイエーは相変わらず駅前に店舗を作ろうとしました。駅前にまさる立地はない、という考えが捨てきれない。つまり、成功体験にしがみつき続けたのです 時代を読み間違えた 佐高信 「「ドン・キホーテ」は日本的経営に反逆して成長した」 「逆張り商法」 日刊ゲンダイ 「イオンが成功し、ダイエーが失敗した「成功体験」のワナ 池上彰『日本の戦後を知るための12人』」 現代ビジネス ロフトも無印良品も、あるいは西友も、バラ売りをすることで借金を返します。セゾングループの解体 「文化を売るんだ」 成功体験にとらわれたことが破滅につながる「失敗の研究」として興味深い モータリゼーション社会になると、みんなクルマで買い物に行きます。休日に大量に買ってきて冷蔵庫に保存する。地方では軽自動車が大量に売れるようになります バブル経済の崩壊とともに堤の構築した文化=経済帝国も崩壊 結果的にシャッター通りになった 韓国、香港の影響を免れず 「前期の同期は2.5倍」から、「今期は3.03倍と増加傾向」 「西武有楽町店」 在庫の適正化が最優先の課題 平均月商に対する在庫の量 今年中に、販売計画に沿ったアイテム別の在庫管理が行えるシステムの導入を進める予定 ドン・キホーテでは、上司が部下の仲人になることを禁じている。馴れ合いや情実の生まれることを防ぐためだ 「キツネやタヌキが出るところに店を作れ」 消費者を味方につけたダイエーが勝利 (一般) 西洋環境開発という会社を作ってデベロッパーの仕事にも手をひろげました。でも、この会社で手がけたインターコンチネンタル買収が致命傷になりました 堤に関しては、経済人と作家という二足の草鞋 暖冬にも対応できる商品構成を追求しなければいけない 良品計画は在庫が膨張 ユニクロの主力商品は、防寒や保温といった機能性の高さがウリ バブル期にはとても役立った 「勝ち組の「ユニクロと無印良品」が露呈した弱点 悪化の理由は韓国、香港影響だけではない」 (その4)(勝ち組の「ユニクロと無印良品」が露呈した弱点 悪化の理由は韓国、香港影響だけではない、イオンが成功し ダイエーが失敗した「成功体験」のワナ 池上彰『日本の戦後を知るための12人』、「ドン・キホーテ」は日本的経営に反逆して成長した) 「日本的経営」に反逆して成長した 堤さんの悪いクセが出た。「商品を売るんじゃなく文化を売るんだ」 堤がいなければ、無印良品やロフトのような形態のビジネスは生まれなかったであろう ダイエーと対極的な経営哲学を持ったのがイオン ダイエー熊本進出を阻止しようとする商店街との間で激しい抗争が展開 郊外に大規模な店舗 ダイエー創業者の中内功 「泥棒市場」 佐藤 優 東洋経済オンライン 長崎屋などスーパーマーケット事業も展開 セゾングループの代表だった堤清二
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ハラスメント(その15)(「パワハラ死」の遺族までも追い詰める雲の上の絶対感、「泥沼パワハラ」にフタをする大手監査法人と大手法律事務所の暗い結託 「パワハラ防止法」は施行されたが…、【続報】「泥沼パワハラ」に怒るPwC社員たちから来た内部通報の嵐 「恐怖を感じている者が多数います」) [社会]

ハラスメントについては、1月8日に取上げた。今日は、(その15)(「パワハラ死」の遺族までも追い詰める雲の上の絶対感、「泥沼パワハラ」にフタをする大手監査法人と大手法律事務所の暗い結託 「パワハラ防止法」は施行されたが…、【続報】「泥沼パワハラ」に怒るPwC社員たちから来た内部通報の嵐 「恐怖を感じている者が多数います」)である。

先ずは、3月31日付け日経ビジネスオンラインが掲載した健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏による「「パワハラ死」の遺族までも追い詰める雲の上の絶対感」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00068/?P=1
・『「和牛だけだとバランス悪いから魚介類も!」だのと不満が出たり、「密接して話したり、密集したり、密閉した空間は避けて!」と要請しながら、混み合った閣僚会議の映像やら政治家に接近した記者たちが映し出されたり。“雲の上”の方たちは、自分の言動が与える影響の重さを分かっているのだろうか。 「えっ、俺?俺、何かした?」って? なるほど。理解してないから、どこまでもふてぶてしく振る舞い続けるのだな、きっと。というわけで、今回は「上の言動の重さ」について考えてみようと思う。 といっても、「コロナ問題」についてではない。「パワハラ」である。雲の上の人たちが、無責任な言動を権力という魔物とともに行使すること=パワハラに、私は少々、いや、かなり憤っているのだ』、このブログではこの問題を「森友問題」として扱ってきたが、本稿は「パワハラ」に力点が置かれているので、こちらで紹介した次第である。
・『近畿財務局の男性が書き残したパワハラの構造  「最後は、下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ。手がふるえる。怖い。命、大切な命 終止符」──。 限界ギリギリの中でこう書き残し、2年前の3月7日、ひとりの男性が命を絶った。彼が勤めていたのは、近畿財務局。財務省の指示による文書改ざん問題で、犠牲になった男性職員である。 ご承知の通り、男性の手記とメモは先日公表され、国会でも追及されている。 手記はA4判で7枚にも上り、冒頭には「苦しくてつらい症状の記録」と書かれていた。男性は「ぼくの契約相手は国民」という信条をどうにか貫きたくて、「まさに生き地獄」(男性の言葉)の中で、力の限りを尽くして“事実”を書き残したのだと思う。 そこにはことの顛末(てんまつ)が極めて論理的かつ時系列にまとめられていただけでなく、「これまでのキャリア、大学すべて積み上げたものが消える怖さと、自身の愚かさ」「家内にそのまま気持ちをぶつけて、彼女の心身を壊している自分は最低の生き物、人間失格」といった自分を責める悲鳴もつづられていて、彼の言葉の一つひとつが胸に刺さった。私の心の奥底には、“権力”というものへの怒りと絶望、胸をかきむしられるような感覚が残り続けている。 同時に、私はこれほどまでに、詳細かつ客観的に「パワハラの構造」が描かれたものを見たことがない。ただただ真面目に職務に向き合ってきた人が、上の一言で追い詰められ、恐怖に震え、おびえ、本当は生きたいのに、生きる力が萎えていくプロセスが残酷なまでに描かれていた。 手記を公表した記事には、パワハラで大切な人を失った家族の悲しみと、公表に踏み切るまでの心情の変化と苦しみも書かれていて、読んでいるだけで苦しくなった。まるで“セカンドレイプ“のようなことを、平気でするエゴイストたちの言動が書かれていたのである。 記事を書いたのはNHKで森友事件を取材し、その後記者を外され辞職したジャーナリストだ。彼が財務局職員の男性の手記を初めて目にしたのは、男性が亡くなって半年余りたった18年11月27日のことだったという。詳細は記事をご覧いただきたいが、公表に至るまでの経緯を知っておくことは、手記が公開された意義を理解する上で極めて大切なので短くまとめておく』、「男性は「ぼくの契約相手は国民」という信条をどうにか貫きたくて、「まさに生き地獄」・・・の中で、力の限りを尽くして“事実”を書き残した」、誠に痛ましい事件だ。「記事を書いた・・・ジャーナリスト」は、相沢冬樹氏で現在も現役を続けたいと、大阪日日新聞編集局長・記者として活躍中である。
・『その後の対応が公表へと気持ちを変えた  +元記者に会った日、男性の妻は「手記を元記者に託して夫の後を追おう」と考えていたが元記者の男性があまりに興奮して応じたため、「これは記事にしないでください」と言い残して、手記を持ち帰った。 +それから1年4カ月。「夫の職場だから大切にしたい」という男性の妻の気持ちを踏みにじるような態度を財務省と近畿財務局は繰り返した。 +「麻生大臣が墓参りに来たいと言っているがどうするか?」という財務省職員からの連絡に、「来てほしい」と答えたにもかかわらず、一方的に「マスコミ対応が大変だから断る」と告げられた。 +国会(当時)では麻生大臣が、「遺族が来てほしくないということだったので(墓参りに)伺っていない」と答弁し続けた。 ……その他にも多くの誠意のない言動が「当たり前」のように繰り返され、男性の妻の気持ちも変化。「真相を知りたい」といういちるの望みをかけて手記を公表し、裁判を起こす決意したのだという。 しかしながら、安倍晋三首相らは「調査は行わない」「自分の発言が問題ではない」などと繰り返し発言。亡くなった男性の妻が、以下のメッセージを元記者に送り、こちらも公表されている。 「安倍首相は2017年2月17日の国会の発言で改ざんが始まる原因をつくりました。麻生大臣は墓参に来てほしいと伝えたのに国会で私の言葉をねじ曲げました。この2人は調査される側で、再調査しないと発言する立場ではないと思います」 男性の妻は、至極当たり前のことを言っていると映る。だが、雲の上の人には永遠にそれが分からない。この問題をパワハラの告発文と捉えると、パワハラが後を絶たない理由が実によく分かるのではないだろうか。 ――結局、これらの不正行為などに関わった銀行員は、銀行のためでもなく、顧客や取引先等のためでもなく、自己の刹那的な営業成績のため(逆に成績が上がらない場合に上司から受ける精神的プレッシャーの回避のため)、これらを行ったものと評価される。 決して、違法性があるかどうか分からなかったとか、会社の利益のためになると思ってやったなどというものではない。―― これは2018年に発覚したスルガ銀行の「不適切融資」で、第三者委員会が公表した調査報告書に書かれている一部だが、報告書では経営陣のことを「雲の上から下界を見ているような人たち」と表現した。「雲の上から下界を見ているような人たち」だった経営陣は、「上納金」さえちゃんと納めてくれればその手段を問わなかったとされている。 スルガ銀行も問題の発端となったのは「組織の不正」だった。だが、第三者委員会の報告書に描かれていたのは、エゴイストが権力を持った組織で常態化するパワハラだったのである。 「なぜできないんだ、案件を取れるまで帰ってくるな」と首をつかまれ壁に押し当てられたり、「(数字が達成できないなら)ビルから飛び降りろ」と罵声を浴びせたられたり、昼食にも行かせてもらえず、深夜まで仕事させられることが、退廃した組織の異常な“当たり前”だった』、「スルガ銀行・・・第三者委員会の報告書に描かれていたのは、エゴイストが権力を持った組織で常態化するパワハラだった」、外部から見れば、異常そのものだが、内部では「常態化」するのが組織の実態だ。
・『トップの一言が人生を狂わせる  確かに、スルガ銀行と財務職員の男性がされたパワハラとでは、形は違うかもしれない。だが、自分に利を運ぶ人を善としたエゴイストが雲の上で指揮を執る組織では、倫理観や道徳心が失われていく。トップが、階層組織の上の人たちが、金や権力などの褒美をひとつ、またひとつ、と手に入れるうちに、誠実さや勇気、謙虚さといったエゴを制御する力が崩れ、組織は悲惨な末路をたどることになる。 「それっておかしい」と反抗していた人でさえ上からのプレッシャーに耐えられず、「自分を守る」ために上司の奴隷となる。そして、その中で、そう、そんな周りが腐っていく中で最後まで、自分の正義を通そうとした人が、精神を病み、身も心も破壊される。 真面目で、職務に忠実で、家に帰れば優しい夫(妻)であり、自慢の息子(娘)が、トップ=雲の上の人のたった一言で人生をめちゃくちゃにされてしまうのである。 もちろん“雲の上”の狡猾(こうかつ)なやからだって、最初から悪人だったわけではないだろう。しかしながら、人はしばしば自分でも気がつかないうちに「権力」の影響を受けるものだ。そして、権力で生じる「絶対感」に酔いしれたら最後。「人の命」すら軽んじる、退廃した組織ができあがっていく。 権力による「絶対感」は精神的かつ主観的感覚なので、強弱のいかんは個人的要因に強く左右され、「公益への貢献より私益を追求」する権力志向が強い人は絶対感を抱きやすく、「私益より公益の追求」を重んじる人は絶対感を抱きづらいとされる。 しかしながら、両者は相反する志向ではなく、むしろ共存する欲求であるため、どちらが優勢になるかは、その個人の資質以上に組織風土や組織構造などの環境要因が影響する。 財務省の男性の手記に描かれていたのは、まさにその環境要因=組織構造の影響力の強さだった。 手記によれば、近畿財務局内の職員の誰もが虚偽答弁を承知し、違和感を持ち続けていたという。しかしながら、近畿財務局の幹部をはじめ、誰一人として本省に対して、事実に反するなどと反論(異論)を示すこともしないし、できなかった。本省と地方(現場)である財務局との圧倒的な力関係と、キャリア制度を中心とした組織体制がそうさせたのだ』、「権力で生じる「絶対感」に酔いしれたら最後。「人の命」すら軽んじる、退廃した組織ができあがっていく・・・「公益への貢献より私益を追求」する権力志向が強い人は絶対感を抱きやすく、「私益より公益の追求」を重んじる人は絶対感を抱きづらいとされる・・・どちらが優勢になるかは、その個人の資質以上に組織風土や組織構造などの環境要因が影響」、組織の力学は複雑だ。
・『タテ組織の構造自体がパワハラの土壌  男性は手記の最後に、「事実を知り、抵抗したとはいえ関わった者としての責任をどう取るか、ずっと考えてきたが、事実を、公的な場所でしっかりと説明することが、今の健康状態と体力ではできない。この方法を取るしかなかった」との思いを記している。 権力(power)の働きがシステマチックに埋め込まれた組織、とりわけ大きな組織ほど、意思決定の特権は一部の権力者に占有化され、周りはそれに黙従せざるを得ない。この非対称の人間関係が生まれてしまう“リアル”を、男性は手記に詳細にしたためていた。 かつて人類学者の中根千枝氏は、日本の社会構造を分析し「タテ社会の人間関係」という名フレーズを生み出した。当時、その構造は「官僚にしか当てはまらない」という批判もあったが、その一方で、「日本企業は官僚化している」という表現は企業批判の決まり文句となった。 「親分・子分」「先輩・後輩」「上司・部下」といったタテの強い序列でつながっている組織では、権力の独占が起こりやすい。人間関係は常に接触の長さと濃密度で決まり、“上”と頻繁に接触をし、社内政治に精を出したやからが評価される。 これだけ時代が変わり、働き方が変わったのに、相も変わらず“クラブ活動”や“ゴルフ外交”、“マージャン外交”に精を出す人は健在だし、そういう部下を休日の私的な集まりに呼びよせ「俺の右腕だぜ」と自慢する人も一向に後を絶たない。 つまるところ、タテ型の組織に適応するための最良の手段が「忖度(そんたく)」であり、それが権力者の絶対感を助長する。ひとたび絶対感がもたらす恍惚(こうこつ)を味わった権力者は、次第に権力を組織ではなく自分のために衝動的に行使するようになる。粗暴に振る舞い、倫理にもとる行動をとる。 やがて、パワハラをパワハラと知覚できない「雲の上から下界を見ているような人」による、「雲の上から下界を見ているような人」のための組織が出来上がってしまうのだ』、「タテ組織の構造自体がパワハラの土壌」、同感である。
・『パワハラは組織の問題との認識を  これまで私は何度もパワハラ問題を取り上げてきた。パワハラは加害者と被害者という二者の間で行われるものだが、パワハラは組織の問題とし「組織的パワハラ」という言葉を使ってきた。 しかしながら、残念なことにこれだけパワハラが社会問題になってもパワハラを原因の一つとする「過労自殺」が繰り返され、そのたびに会社はコメントを出すだけで組織の責任者が顔を見せることはない。 どうかいま一度、トップは組織全体を見渡し、無用なタテはヨコに広げ、権力が「自分」に集中しないよう分散してほしい。パワハラで大切な命が失われることのない「組織構造」を作ってほしい。そういった目線で、命を絶った男性の手記をぜひ、読んで欲しいと思う』、「パワハラは組織の問題との認識を」、当然のことなのに、「会社はコメントを出すだけで組織の責任者が顔を見せることはない」、のであれば、「組織の問題」は温存されてしまう。トップの真摯な対応が何よる求められている。

次に、6月29日付けPRESIDENT Onlineが掲載したジャーナリストの山口 義正氏による「「泥沼パワハラ」にフタをする大手監査法人と大手法律事務所の暗い結託 「パワハラ防止法」は施行されたが…」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/36599
・『コンプライアンスの守護神であるはずの大手監査法人  6月1日、パワハラ防止法(労働施策総合推進法)が施行された。だが、企業のコンプライアンス(法律遵守)の守護神であるはずの大手監査法人の足元でパワハラの泥沼トラブルが起き、大手法律事務所とタッグを組んで、当事者の女子社員に対し6月8日に解雇を通知した。灯台下暗し——口と腹が真逆を向いていることがバレてしまっては、この先、彼らはどんな顔をしてクライアントと向き合うのだろうか。 経営幹部の不正を指摘した女性社員との間で泥沼の争いを演じているのは、会計監査や経営コンサルティング大手のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)グループである。PwCが英国を拠点として企業経営や監査といった分野で世界的な会計事務所であることは改めて説明する必要はないだろう。 日本では監査部門ではPwCあらたやPwC京都といった監査法人を傘下に従え、M&Aや法令順守、危機対応などのコンサルティング企業も抱えている。他の監査法人がそうであるように、企業に対してESG(環境・社会・ガバナンスといった社会的責任)投資やSDGs(持続可能な開発目標)、D&I(組織の多様性促進)の助言も行っている』、「PwC」で「パワハラ」とは驚いた。監査法人は、分権的な組織とはいえ、英国本社は何をしているのだろう。
・『米国へ出張した際の旅費精算に、部下が疑いを持った  問題はPwCグループの人事・総務・経理といったバックオフィス部門を統括するPwC Japan合同会社で起きた。PwCコンサルティング合同会社のパートナーである堤裕次郎常務執行役らが2019年1月に米国へ出張した際の旅費精算に、部下が疑いを持ったことだった。 堤氏らは米金融機関が企業や投資家向けにサンフランシスコで開いたミーティングに参加したことになっていたが、このミーティングに参加資格がなく、実際に参加もしていなかったことが発覚。週末バカンスを米国で楽しむための「出張旅行」だった疑いが持ち上がった。 これを指摘した女性社員のAさんに対して、堤氏は「会社が週末の経費を負担するかどうかは、どうでもいいことだ」と怒り、出張報告書の提出さえ拒んだ。PwCでのAさんに対する嫌がらせはここから始まった。人事評価の取りまとめ役として新しくAさんの上司となった永妻恭彦ディレクターは、Aさんが人事部から催促されていた業績目標設定に応じようとせず、昨年3月にAさんはPwCから退職勧奨を受けてしまう』、「堤氏」が「出張報告書の提出さえ拒んだ」にも拘らず、「旅費精算」は行われたのだろうか。「Aさん」が「業績目標設定に応じようとせず」、にはどんな理由があったのだろうか。
・『労働審判ではAさんの訴えが認められ、PwCは“敗訴”  裁判資料によると、PwCが挙げた退職勧奨の理由は、①AさんがPwCの企業文化に合わない、②過去の上司と相性が悪かった、③(インフルエンザで学級閉鎖となったため、やむを得ず)当時小学生だった子どもを社内に連れてきた、④PwCのパートナーでもないのに、イベントに顧客を招待した――といった曖昧だったり、事実と食い違ったりする内容ばかりだった。早い話が、PwC側は合理的な説明ができていない。 事は労働審判に持ち込まれた。その審判の場で、永妻氏が「Aさんが堤氏らの不正な旅費請求を指摘したことで堤氏の反感を買い、堤氏がAさんとの仕事を望まなくなった」と証言したのだ。正直というか、支離滅裂というか、先の退職勧奨理由を事実上、否定したことになる。出張旅費の不正な請求が、Aさんに対する嫌がらせの理由であることがこれではっきりしたと言っていい。 PwCはAさんに対して“兵糧攻め”に出た。永妻氏は、理由を示さないままAさんの業績を5段階の最低レベルと評価。昨年7月にマネジャーとしての最高位から一気に3段階降格という処分を打ち出し、これに伴って年棒も大幅に引き下げた。前後の脈絡から考えて、パワハラととられてもおかしくない処遇である』、「Aさん」が「マネジャーとしての最高位」だったのを、「一気に3段階降格・・・これに伴って年棒も大幅に引き下げた」、不当労働行為そのものだ。
・『英紙FTも「四大監査法人の隠れた不祥事」の一例として報道  労働審判は昨年12月にAさんの訴えが認められ、PwCは“敗訴”した。ところが、PwCは審判結果に不服を申し立て、争いの場は東京地裁での民事裁判に移った。Aさんは原告として今年2月に訴えを起こし、労働審判と同じく地位の確認や本来受け取るはずだった給与や賞与の支払い、私物の返却を求めることにした。 6月1日のパワハラ防止法施行など、PwCはどこ吹く風で、同8日にAさんに対して解雇通知を突きつけ、「排除の論理」を貫こうとしている。この件は昨年11月20日付の英経済紙フィナンシャル・タイムズでも、「四大監査法人の隠れた不祥事」の事例のひとつとして報じられた(タイトルはBetrayed by the big four : whistleblowers speak out)。 PwCの元幹部は筆者の取材に対し、こう言って眉をひそめる。 「近年PwCではグローバル・チェアマンのボブ・モリッツ氏や木村浩一郎 PwC Japan代表執行役のもとでESG、SDGsやD&Iなど、理念としては美しいメッセージをメディアに向けて活発に発信しているが、対外的なメッセージと実態の乖離かいりが大きくなりすぎ、PwC社内では困惑の声が多く聞かれる。これでは監査法人としてガバナンス、内部統制や法令順守などの問題を、クライアントに対してけん制することが難しくなってしまう」』、「PwCの元幹部」の発言はその通りだ。
・『弁護士たちは「中立的な立場で調査している」と説明したが…  苦笑せずにいられないのは、PwCはHP上に「社会と環境に及ぼす影響を配慮し、“Do the right thing”(正しいことをする)の組織文化に基づき、倫理観や誠実さをもってビジネスを遂行します」と高らかにうたい、その行動規範には「(正しくないと感じる状況に遭遇した場合は)声を上げましょう」とも書かれていることだ。社内でやっていることと、顧客に助言している内容とが正反対であろう。 日本で企業統治が機能不全を起こしたままなかなか改善せず、内部統制も形だけのお題目に過ぎないのは、その一因として会計事務所のこうした体たらくが横たわっているからであろう。彼らが企業統治やESG、SDGs、D&Iについて顧客企業に助言したところで、空々しいだけで説得力を持つまい。 さらに問題を根深くしているのは、森・濱田松本法律事務所と高谷知佐子、吉田瑞穂、武田彩香、松本亮孝弁護士らの存在だ。武田・松本の両弁護士は当初、Aさんに対して「PwC Japan合同会社から独立し、中立的な立場で調査している」と説明し、個人情報を引き出しておきながら、Aさんが労働審判を申し立てるとPwCの代理人に転じてAさんを攻撃し始めた。 しかも通報内容についての調査報告書をAさんには開示せず、高谷・吉田両弁護士も労働審判ではPwC側に回って答弁書を提出。不信の念を募らせたAさんは3月に第二東京弁護士会に対して弁護士4人と森・濱田松本について懲戒請求書を提出し、受理された』、特に「武田・松本の両弁護士」の悪質ぶりは、「懲戒」に値しそうだ。
・『5月にはAさんが金融庁に「公益通報」を提出  PwCの木村代表執行役についても日本公認会計士協会が懲戒請求書を受理しており、5月にはAさんが自身に対するPwCの業績評価には問題が多いとして、金融庁に公益通報を提出している。大手会計事務所と大手法律事務所が結託して問題にふたをするという構図にメスが入る可能性が高まってきたのだ。 筆者の取材に対してPwCは「係争中のため、現時点では詳細なコメントは控えますが、本人(筆者注:Aさんを指す)の主張は著しく事実と隔たりがあり、かつ降格や解雇事由とは無関係ですので、弊社としても困惑しております。裁判において事実関係と当方の主張を明らかにしていきます」と説明する。 会計監査に加えて、コンサルタント業務を手掛けるPwCグループにとって、この件は業務の根幹や信頼を揺るがす失点になりかねない。加担する森・濱田の「パワハラ」ビジネスも含めて、今後さらに詳細を暴露していこう。資料は山とある。 経営幹部の不正をただすこともせずに、公益通報者の口を封じ、パワハラまがいの降格や解雇に出たのだから、そうした懸念も当然だろう』、「日本公認会計士協会が懲戒請求書を受理」、「金融庁に公益通報を提出」、賢明なやり方だ。今後の展開を注目したい。

第三に、この続きを、7月17日付けPRESIDENT Online「【続報】「泥沼パワハラ」に怒るPwC社員たちから来た内部通報の嵐 「恐怖を感じている者が多数います」」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/37171
・『PwC関係者から毎日のようにある「情報提供」の切実さ  6月29日に「『泥沼パワハラ』にフタをする大手監査法人と大手法律事務所の暗い結託」をプレジデントオンライン上に掲載した。 世界四大会計事務所の一角であるプライスウォーターハウスクーパース(PwC)の日本法人でパワハラが横行し、一人の女性社員に対して不当な降格や退職勧告、そしてついには解雇が突きつけられた。その過程で大手法律事務所の森・濱田松本の弁護士が中立を装ってこの女性社員から事情を聞き出すと、労働審判ではPwC側の弁護に回って女性を攻撃し始めた――という内容である。 記事掲載を受けてPwCでは、社員に向けて「記事の内容は事実と大きく乖離があり、当グループの名誉を著しく棄損するものです。また、個人名を挙げての誹謗中傷など看過し難い内容も含まれており、大変遺憾です」とのメールを送信。7月7日には木村浩一郎代表も同様のメールを社内に向けて送信した。 さらにAさんの上司で、PwCグループのマーケティング部を統括する森下幸典パートナーは部内の会議で、筆者の記事が事実無根であること、(女性社員にパワハラを加えた)永妻恭彦ディレクターへの名誉棄損であること、Aさんはあらゆる職務規定違反をしたため当然の降格人事であったと発言。今後、自分自身の名前が報道される可能性もあるが、まったく会社的にも個人的にも問題にはしていない。会社が自分や永妻氏を処分する理由はひとつもないし、PwCは正しいことをしているので、安心して業務に励むようにと伝えたそうだ。前回記事ではその名に触れなかった森下氏が自らこうした説明をしたのだから、パワハラ問題の責任が誰にあるのか、語るに落ちるとはこのことだろう。 さらにPwCでは同じくパワハラ問題を報じようとした英国紙に対しても、この問題を記事にしないようプレッシャーをかけたと聞く。 無駄なことだ。 記事がこのサイトにアップロードされた直後から、筆者のSNSやプレジデントオンライン編集部には情報提供を申し出るPwC関係者からのアクセスが毎日のように寄せられており、到底隠しきれるとは思えないからだ』、「PwC」が内部向けに釈明したのは、組織防衛上、当然のことだろう。「筆者のSNSやプレジデントオンライン編集部には情報提供を申し出るPwC関係者からのアクセスが毎日のように寄せられており」、今後も面白いタレコミがある可能性もありそうだ。
・『弁護士費用は経理担当者さえ何の支出か分からない費目に  寄せられた情報によれば、記事で触れた女性社員Aさんの身に何が起きたのか社内で知らされることもなければ、話題にすることもためらわれるタブーになっているとのことだ。PwC内部ではAさんに関連した訴訟で発生した弁護士費用が目立たないように処理され、経理の者さえ何の支出か分からない費目になっていた。弁護士費用として計上してよいとの指示が出たのは、2020年6月期末が迫った頃からだったという。 さらにAさんに対する人事評価でも機微に触れる部分は社内でメールのやり取りはせず、「口頭のみや、短期間で履歴の消える社内チャットツールを使っている」(PwC関係者)と言うから、組織ぐるみでパワハラを行い、これを隠そうとしていると見られても仕方ないだろう。 こうした内部情報の提供は量が増えるとともに多角化しており、点が線になり、線が面になった。面はすでに立体になりつつあると言っていい状況である。今後は告発内容がさらに多角的かつ重層的になるだろう。パワハラが社員の心と体を疲弊させ、通院している社員や、退職を余儀なくされた社員も少なくない。それだけに社内の不満が鬱積しているのだ。しかし社員を退職に追い込んだ幹部が昇格しており、特にマネジャー職以上に問題が多いという』、「パワハラが社員の心と体を疲弊させ、通院している社員や、退職を余儀なくされた社員も少なくない。それだけに社内の不満が鬱積している」、「今後は告発内容がさらに多角的かつ重層的になるだろう」、楽しみだ。
・『まるで「オリンパス事件」を上からなぞるような展開  PwCのパワハラ問題で特徴的なのは、記事を読んで情報提供を申し出た人たちのうち、女性の割合が高いことだ。PwCに女性社員が多いことばかりがその理由ではあるまい。パワハラは古い時代の男社会が抱え続けてきた長患いの病いであり、これに女性が反旗を翻し始めたのではないか。そしてこれは「組織が持続可能性やガバナンスの健全さを保つためには、多様性を重視して取締役に女性を積極的に登用せよ」という社会や投資家の要請にも通じているのだろう。 彼女ら告発者は思い出させてくれる。ちょうど9年前の今頃、筆者がオリンパスの損失隠しをスクープしたときの展開を。オリンパスの社員たちのうち、ある者は「極秘」と印が押された決定的な内部資料を筆者に提供してくれたが、これはほんの序の口だった。別の社員はICレコーダーで録音した社内会議の音声データをUSBメモリに落として匿名で筆者に郵送してくれたし、印刷した痕跡を残さないためにパソコンの画面をこっそりスマートフォンで写し、フリーメールのアドレスを用いて送信してくれた社員もいた。 告発者のデジタル武装化が進んでいる今、漏れては困る秘密を完全にガードするのは不可能と言っていいだろう。現に前回記事で登場した、パワハラの被害者である女性社員のAさん本人さえ入手できない内部資料も手に入った。 情報提供者らはPwCグループ内の複数の合同会社にまたがっており、互いに見ず知らずの間柄だが、「このままではいけない」という意識を共有し、口々にそれを筆者に聞かせてくれた。オリンパス事件を上からなぞるような展開だが、今回の場合、情報提供者がヒートアップするのは、オリンパス事件よりもはるかに早い』、「パワハラの被害者である女性社員のAさん本人さえ入手できない内部資料も手に入った。 情報提供者らは・・・「このままではいけない」という意識を共有し、口々にそれを筆者に聞かせてくれた」、面白い展開になってきたようだ。
・『社員満足度調査は「不満分子をあぶり出すための仕組み」に  ある情報提供者は「これはガバナンスの問題」だという。そうだろう。PwCにはパワハラなどの問題を通報するホットラインもあるが、「実際には機能していないことは、社員のみんなが分かっているから使おうとしない」。 経営上層部に社員の声が届くはずの社員満足度調査という仕組みも設けられているが、「パワハラが横行して、社員の退職が後を絶たないことをここに書き込んだ複数の社員たちに対して、いずれも退職に追い込まれた。ヒアリングさえ行われないままだった」という。社内の不満分子をあぶり出すためのゲシュタポのような仕組みなのだ。 なぜPwCではパワハラがここまで横行するようになったのか。PwCはこの数年、組織が肥大化しており、内部統制がこれに追いついていないのに加え、新型コロナウイルスの感染拡大により、経済の先行きを厳しく見なければならないことが響いているようだ。 PwCは常々「パワハラを許さない」と言い、パワハラ撲滅のためにやってはいけないことや、使ってはいけない言葉などを具体的に列挙したガイドラインを設けている。6月のパワハラ防止法施行のタイミングでも詳細なガイドラインの更新が行われているほどだが、声を上げた社員は退職に追い込まれているのが実態だという。 ある男性の情報提供者は「パワハラ行為を明示することで、違法すれすれのパワハラを逆説的にガイドライン化しているようなもの」と言い、いかにも法律の専門家が指南しそうな悪知恵だ』、「社員満足度調査は「不満分子をあぶり出すための仕組み」に」、恐ろしいようなゲシュタポ組織だ。
・『「報道の力をお借りして、なんとか彼らを糾弾いただきたい」  PwC広報担当者は上記の森下氏の発言内容や弁護士費用の処理方法、内部通報用のホットラインが機能していないことについて全否定し、「記事の内容は事実とかけ離れており、当グループとしては極めて遺憾に思っております。元職員とは裁判手続を通じて係争中のため、事実関係についての詳細な説明は差し控えますが、記事の内容は降格および解雇に至った理由と経緯について、元職員の主張のみに依拠しており、事実とは著しく異なっております」と説明している。 しかし別の情報提供者は筆者にこう訴えた。 「オリンパスのような社会的にもインパクトのある大事件と比べると、ささいなパワハラ問題かもしれません。しかし、社内にはこういった上層部の対応、態度に腹立ち、あきらめ、恐怖を感じている者が多数います。報道の力をお借りして、なんとか彼らを糾弾いただきたいと切に願うばかりです。どうぞよろしくお願いいたします」 痛切でさえある。だが、ドイツのワイヤーカードの不正見逃しで矢面に立つアーンスト・アンド・ヤングという直近の例もある。監査法人の「闇」が暴かれる時は近い』、「監査法人の「闇」」、解明を大いに期待したい。
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パンデミック(経済社会的視点)(その4)(感染者数急増は 小池都知事と西村大臣が引き起こした「人災」だ、山中伸弥教授「コロナ死者10万人も」発言に見る政策立案の機能不全、Go Toキャンペーンがそもそも「筋の悪い」支援策である理由、小田嶋氏:私たちはどこへ行くのか) [国内政治]

パンデミック(経済社会的視点)については、7月10日に取上げた。今日は、(その4)(感染者数急増は 小池都知事と西村大臣が引き起こした「人災」だ、山中伸弥教授「コロナ死者10万人も」発言に見る政策立案の機能不全、Go Toキャンペーンがそもそも「筋の悪い」支援策である理由、小田嶋氏:私たちはどこへ行くのか)である。

先ずは、7月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経産省出身で慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸 博幸氏による「感染者数急増は、小池都知事と西村大臣が引き起こした「人災」だ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/243330
・『7月に入ってから東京都で新型コロナウイルスの感染者数が大きく増え、それが地方にも波及しつつあるように見えます。これをコロナの第2波だと言う人もいますが、それが正しいかはともかく、大事なのはそれが自然発生的に起きたものではなく、むしろ小池百合子東京都知事と西村康稔経済再生担当大臣という、2人のコロナ対策責任者が引き起こした「人災」ではないかということです』、「西村康稔経済再生担当大臣」は。「経産省出身」の「岸氏」の後輩に当たるが、それを正面切って批判するとは思い切ったものだ。
・『小池都知事のひどい無策ぶり  菅義偉官房長官が明言したのに対して小池都知事はムキになって反論していましたが、4日連続で200人を超え、7月16日には286人と過去最多となるなど、東京都での感染者数が圧倒的に多いことを考えると、7月に入ってからの感染者数の増加が「東京問題」であることに疑いの余地はありません。 それではなぜ東京都で感染者数が激増したのかと考えると、結論として、小池都知事が6月以降、大した感染防止策を講じなかった影響が大きいと言わざるを得ないのではないでしょうか。 そもそも、5月25日に国の緊急事態宣言が解除された後は、感染防止のための対策を講ずべき一義的な主体は都道府県知事です。緊急事態宣言のような全国一律の対応が必要な段階が終わった以上、地域ごとに感染状況が異なることを考えれば当然のことです。だからこそ、5月25日に開催された政府対策本部で配布された「基本的対処方針(案)」でも、さらなる対策の主体としては都道府県知事が想定されています。https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/sidai_r020525.pdf(資料3) ところが、東京都は緊急事態宣言が解除されてから最近に至るまで、ほとんど新たな感染対策は講じてきませんでした。「東京アラート」という愚策以外では、6月上旬頃から歌舞伎町のホストクラブやキャバクラなど、いわゆる“夜の街”での感染者数の増加が指摘され出したにもかかわらず、記者会見で「感染要警戒」というパネルを掲げて注意喚起する以外は、“夜の街”で働く人にPCR検査を受けることを推奨したくらいです。 しかし、働く人だけで、客にPCR検査を行わなかったら、感染防止策としてはあまり意味がないのではないでしょうか。“夜の街”の客で感染した人が市中感染を広げる可能性は十分にあるからです。時系列的にも、まず6月上旬から“夜の街”での感染が増え出し、7月になって“夜の街”以外での感染が増えて東京全体の感染者数も激増しているというのは、初動段階で“夜の街”での感染拡大を防げなかったからではないかと思えてしまいます。 そう考えると、“夜の街”で客にまでPCR検査を広げるのが難しかったのなら、クラスターとなったホストクラブやキャバクラを休業させるべきでした。しかし、休業協力金を払う財政的余裕がないからなのか、そうした必要となる対策は何も講じませんでした。 ちなみに、感染対策が手薄になった証左として、東京都の対策本部の開催状況を見ると、緊急事態宣言解除までは週に1度程度のペース開催されていたのが、6月になると2、11、30日と3回しか開催されていません。6月上旬から“夜の街”問題が騒がれ出していたのに、11日から30日まで対策本部は開催されていないのです。 小池都知事は、4月上旬に独自の感染防止策を講じようとしたら政府に介入され、“(知事の)権限は社長かと思ったら、天の声がいろいろ聞こえて中間管理職になった”と発言しています。 その頃はそれくらい感染防止策の策定に前向きだったのが、7月上旬に会見で再度の休業要請について問われると、「国の再度の緊急事態宣言を行われた場合、改めて判断が必要」と、以前と真逆の受け身の姿勢になっていました。こうした状況を見ても、緊急事態宣言の解除後は、最近になって感染者数が激増するまでは新たな感染防止策を主体的に講じる気がなかったことが分かります。 7月上旬に新宿区がPCR検査の受診を促すために「感染者に10万円支給」、豊島区がクラスター対策として「休業要請に応じた店に50万円支給」と、区が独自の感染防止策を打ち出しています。それは逆にいえば、それらの区の“夜の街”で感染者が激増しているのに、東京都が何も感染防止策を講じないので、やむなく区が独自にやらざるを得なかったということだと思います。 小池都知事は今になって、「区の独自の取り組みを都が支援する」といった趣旨の発言をしていますが、本来は東京都が感染防止策を講じる主体なのです。かつ、新型インフルエンザ特措法上は、知事に市町村の対応の総合調整を行う権限があるにもかかわらず、新宿区と豊島区が異なる取り組みをしているのを放置しているというのも、無責任極まります』、「小池都知事」の姿勢は「無責任極まります」、全く同感だ。ただ、最近の「感染者数の増加」は、「東京問題」から大阪府や神奈川県、埼玉県などに広がりを見せているようだ。
・『“規制”より“推進”を優先した西村大臣  ただ、小池都知事だけを責める訳にいかないのも事実です。政府、特にコロナ対策の担当大臣である西村大臣にも大きな責任があるからです。 政府は緊急事態宣言解除以降、「感染拡大の防止と社会経済活動の維持の両立」の実現を目指していますが、5月25日以降の政府の対応や西村大臣の発言などを見聞きすると、感染防止と経済活動のバランスを取るどころか、明らかに感染防止より経済活動の方に力点が置かれていました。6月上旬以降、東京で“夜の街”の問題が顕在化していったにもかかわらずです。それは結果的に、「緊急事態宣言解除後は経済優先」という誤ったメッセージを国民や地方の首長に対して送ってしまったことに他なりません。 実際、例えば政府の対策本部の開催状況を見ると、5月までは頻繁に開催されていたのに、5月25日に緊急事態宣言解除を決める対策本部が開催された後を見ると、6月は表面上3回開催されていますが、そのうち2回は“持ち回り開催”(配布資料をメンバーに配布するだけ)なので、実質的には1回しか開催されていません。 そして最悪なのは、西村大臣が6月下旬に、コロナ対策の専門家会議を廃止して、感染症の専門家のみならず経済学者や自治体首長などを加えるという、ごっちゃの構成の分科会を新たに設置すると表明したことです。 これがいかに最悪な対応であったかは、原発問題を考えていただければ分かるのではないかと思います。 福島第一原発の事故が起きた後、経産省という一つの組織が原発の規制と推進の両方を行っていたことが厳しく批判されました。同じ一つの組織で規制と推進をやっていては、特に電力業界を所管する組織でそれをやると、当然ながら推進の方に力点が置かれ、規制が緩くなるからです。 そこで、今は原発の規制は環境省(原子力規制委員会)、原発の推進は経産省という形で、規制と推進の権限が別の組織に分けられ、両者をバランスよく進められる体制になったのです。 この原発問題との対比でいえば、西村大臣が行なった専門家会議の分科会への衣替えというのは、感染拡大の防止という“規制”の専門家の組織に、経済活動の再開・拡大という“推進”の専門家である経済学者を入れたに等しいといえます。 もし感染防止と経済活動をバランスよく両立させたいなら、本来は、感染症専門家だけで組織された“規制”を検討する専門家会議は維持し、それに加えて、経済学者などが経済活動の“推進”を検討する会議を別に新設し、官邸なり西村大臣が両方の独立した意見を踏まえて、感染防止と経済活動をバランスよく進められる体制にすべきでした。 そうした当たり前のことを無視し、明らかに間違った組織替えをやってしまっては、感染防止という“規制”と経済活動の“推進”をバランスよく進められるはずがありませんし、何より、政府は感染防止よりも経済活動の方に舵を切ったと受け取られて当然です。 なお、この観点からは、経済政策を担当する西村大臣にコロナ対策の担当を兼任させた官邸の判断自体も、1人の大臣、特に本務が経済で経歴も元経産官僚と明らかに“推進”の側に偏った大臣に、“規制”も担当させたという点で間違っていたといえます。 いずれにしても、政府がこのように感染防止よりも経済活動の再開・拡大に偏ってしまっては、世論や政府の風を読むことに長けた小池都知事が、緊急事態宣言解除以降は感染防止に関して無策であったのも止むを得ないのです』、「本来は、感染症専門家だけで組織された“規制”を検討する専門家会議は維持し、それに加えて、経済学者などが経済活動の“推進”を検討する会議を別に新設し、官邸なり西村大臣が両方の独立した意見を踏まえて、感染防止と経済活動をバランスよく進められる体制にすべきでした」、その通りだ。原発規制の反省は全く忘れ去られているようだ。「経済政策を担当する西村大臣にコロナ対策の担当を兼任させた官邸の判断自体も・・・間違っていた」、安部首相の責任だ。
・『いかにこの人災を乗り越えるべきか  以上から明らかなように、7月に入ってからの感染者数の激増は、基本的には小池都知事の無策と西村大臣のバランスを失した対応による人災と言わざるを得ません。 7月16日になって、赤羽国交大臣がGo Toキャペーンから東京発着の旅行を対象外にする考えを表明しました。これはある意味で、特に小池都知事の無策のツケを、東京都民と東京の観光に関連する事業者がもろに負うことになったといえます。もし今後さらに全国レベルで感染者数が増加して、万が一にもまた緊急事態宣言となったら、全ての国民や企業が、この2人の人災のツケを負うことになるのです。 だからこそ、東京の市区町村の首長には、都知事は頼りにならないと思って感染防止のための独自策をどんどん講じてほしいです。また、東京以外の他府県の知事は、東京を反面教師に、これまで以上に知事が率先して感染防止策を講じないといけないと意識するべきでしょう。そして最後に、官邸は今の政府の体制で本当に感染防止と経済活動拡大をバランスよく実現できるのか、よく考えてほしいと思います』、説得力に溢れた主張で、同感である。

次に、7月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏による「山中伸弥教授「コロナ死者10万人も」発言に見る政策立案の機能不全」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/242966
・『山中伸弥・京都大学教授のある発言が物議を醸している。「8割おじさん」こと西浦博・北海道大学教授との新型コロナウイルスに関する対談の中で「対策をしなければ今からでも10万人以上の死者が出る可能性がある」と指摘したのだ。この発言は、日本の政策立案における機能不全を物語っている。その理由を説明したい』、「機能不全」とはどういうことなのだろう。
・『「8割おじさん」西浦博・北大教授と山中伸弥・京大教授が対談  山中伸弥・京都大学教授と西浦博・北海道大学教授の対談がユーチューブで公開された(公開期間は2020年10月31日まで)。その中で山中教授は、日本の新型コロナウイルスの流行状況について「対策をしなければ今からでも10万人以上の死者が出る可能性がある」と指摘した。 山中教授は、日本やアジア諸国で新型コロナウイルスによる感染者や死者が少ない要因を「ファクターX」と呼んできた(本連載第243回)。しかし、西浦教授は対談の中で「日本人の死亡リスクが海外よりも低いということはなさそうだ」「ファクターXがあるかどうかは検証の途中。それまでは万人単位の被害が日本でも十分に想定される」と説明した。 西浦教授は4月15日に、まったく対策をとらない場合、コロナによる国内の重篤患者が約85万人に達し、その49%(単純計算で41万人超)が死亡するという試算を発表していた(第242回・P7)。だが、そのような事態は起こらなかった。西浦教授の試算の根拠はいまだに示されないままだ。 山中教授の「10万人以上の死者」の指摘も、根拠は何も提示されていない。「41万人」でも「10万人」でも、それが科学的根拠を持つなら、われわれは深刻に受け止めて対策を取るべきだ。だが、科学者と称する人物の発言に根拠がないというのでは国民が困惑する。 しかも、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下、専門家会議)の委員ではなかった西浦教授個人の試算ならともかく、山中教授は、ノーベル医学・生理学賞受賞者だ。その上、政府のコロナ対策の効果を検証する有識者会議の委員を務めている。圧倒的な「権威」があり、社会的な影響力が絶大である上に、政府の意思決定にも直接かかわっているのだ。 だが、山中教授は「感染症」の専門家ではなく、自分で新型コロナウイルスの研究をしているわけではない。コロナ対策を判断するのに必要な情報は、すべて他の「専門家」の研究に頼るしかないのだ』、「山中教授は「感染症」の専門家ではなく」、のは事実だが、「専門家」も意見を聞いて、独自もモデル計算の結果を発表することには問題はない筈だ。
・『専門家会議の「廃止」を巡り安倍政権の「唐突な決定」に反発  安倍晋三政権は、コロナ対策における意思決定の体制を転換した。まず、前述の「有識者会議(新型コロナウイルス感染症対策・AIシミュレーション検討会議)」を設置し、東京電力福島第1原子力発電所事故の国会事故調査委員長を務めた黒川清・政策研究大学院大学名誉教授が委員長に就任。山中教授、永井良三・自治医科大学学長、安西祐一郎・日本学術振興会顧問(元慶應義塾大学塾長)らが委員に就任した。 3密回避や外出自粛、休業要請など、これまでのコロナ対策の効果を、人工知能(AI)やスーパーコンピューター「富岳」など、日本が誇る最高クラスの技術や最新の知見を結集し、感染第2波への対策に役立てるという。 また6月24日、西村康稔経済再生相は記者会見で、専門家会議を「廃止」する旨を発表。その代わりに新たな有識者会議「新型コロナウイルス感染症対策分科会」(以下、分科会)を設置すると明らかにした。 ところが、西村経済再生相の記者会見と同じ時間に、専門家会議が別の場所で会見を開いていた。座長の脇田隆字・国立感染症研究所所長らが、専門家会議のあり方について提言を発表している最中に「廃止」の情報が入ったのだ。会見に出席していた委員の尾身茂・地域医療機能推進機構理事長は、「今、大臣がそういう発表をされたんですか?」と驚きを隠さなかった。 その上、専門家会議の「廃止」については自民党・公明党の連立与党に対しても事前説明がなかったため、安倍政権の「唐突な決定」に対する反発が広がった。そのため、6月28日に西村経済再生相は再度会見を開き、「『廃止』という言葉が強すぎた。発展的に移行していく」「専門家会議の皆さんを排除するようにとられたことも反省している」と釈明した。 そして、西村経済再生相は、専門家会議のメンバーの一部が「分科会」に参加するとも説明した。事実上、「廃止」の方針は修正された。実際、専門家会議のメンバー12人中8人が分科会に加わった。しかし、ある政府関係者から筆者が聞いた話では、安倍政権は専門家会議を本当に「廃止」し、新しい分科会には、専門家会議のメンバーを参加させない方針だったのだという。 専門家会議のメンバーは、国立感染症研究所を中心とする「学閥」の推薦で選ばれていた(第242回・P4)。それに対して安倍政権は、分科会の委員に現在の世界最先端の研究に携わっている若手を起用しようとしたという情報を得ている。だが、それは成功しなかったようだ。感染症研究の場合は、国立感染症研究所が絶対的な権力を持つという。その牙城を崩すことはできなかったということか(「日本のサンクチュアリ546 国立感染症研究所」『選択』〈2020年3月号〉)。 少なくとも言えることは、首相官邸・内閣府内部において、コロナ対策を巡り「防疫」か「経済」かの綱引きがあった(第243回・P7)。そして、安倍政権は経済を動かす方にかじを切り、専門家会議との関係が悪化していたということだ』、「専門家会議」の「廃止」を巡る騒動には呆れ果てた。「若手を起用しようとした・・・それは成功しなかった」、「若手」といえども重鎮たちから睨まれるようなことは避けたいのだろう。政府側の一方的な思い込みは失敗に終わったようだ。
・『分科会を新たに設立しても専門家会議の本質的問題は未解決  結局、分科会の会長・副会長には、専門家会議のメンバーだった尾身氏、脇田氏がそれぞれ就任した。一方で、経済界から大竹文雄・大阪大学大学院教授)、小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹、労働界から石田昭浩・連合副事務局長、メディアから南砂・読売新聞東京本社常務取締役、そして地方自治体から平井伸治鳥取県知事が加わった。「世論を敏感に察知し」「地域の現場のニーズに応え」「経済を動かして」「雇用を守る」という安倍政権の新しい方針がはっきりと分かるメンバー構成となった。 だが、この連載が指摘した専門家会議の本質的な問題は何も解決していない。それは、集団を対象として病気の発生原因や流行状態、予防などを理論的に研究する「理論疫学」の世界最先端の研究動向を追うことができる専門家がいないことだ(第242回・P6)。 いくら経済中心の対策にかじを切ったとしても、それはあくまで社会全体のバランスを考慮するという意味であるべきで、感染症対策の核はあくまで「理論疫学」だ。だが、分科会のメンバーで「理論疫学者」は、押谷仁・東北大学大学院医学系研究科微生物学分野教授しかいない。 その押谷教授は、日本のコロナ対策の根幹を担った西浦教授の「クラスター対策」の論文における共同執筆者だった(Nishiura, H. et Al. “Closed environments facilitate secondary transmission of coronavirus disease 2019 (COVID-19)” )。クラスター対策は、果たして本当に効果があったのか、いまだに検証されていない。 クラスター対策は、世界の他の国々が採用していない日本独特のものだ。英医学誌「ランセット」や英科学誌「ネイチャー」などの学術誌がリードする、世界最先端の研究成果で明らかになっていく新型コロナウイルスの特性をフォローしたものとなっていたのかどうかについては疑問がある』、「クラスター対策は、世界の他の国々が採用していない日本独特のものだ」、そうであれば「学術誌がリードする、世界最先端の研究成果で明らかになっていく新型コロナウイルスの特性をフォローしたものとなっていたのかどうかについては疑問がある」、との主張には違和感がある。有効性があるのであれば、世界に積極的に発信してゆくべき、とすべきだろう。
・『首相官邸が非常に悩まされた専門家会議から上がる情報とは  さらに問題なのは、分科会に上がる議題をつくるる事務局を務めることができるのは結局、厚労省・健康局結核感染症課の「医系技官」しかいないということだ(「日本のサンクチュアリ548 厚労省・結核感染症課」『選択』〈2020年5月号〉)。年功序列・終身雇用の日本の官僚組織では、政策課題に合わせて専門家をその都度集めることはできない。結局、既存の組織に頼るしかないのだ。 これがなぜ問題なのかといえば、日本の政策立案過程では、「議題設定」の権限を持つ者が極めて大きな権力を行使できるからだ。自己に有利な争点だけを選別して政策決定プロセスに持ち込むことができるそして、内閣府や各省庁の審議会で議題設定をするのは、事務局を務める官僚なのだ。 これも、ある政府関係者に聞いたことだが、首相官邸がコロナ対策で、非常に悩まされたことの1つが、「厚労省の技官→専門家会議」というルートから官邸に上がってくる情報が、経済無視・疫学重視ともいえるものばかりだったことだという。「国内の重篤患者が約85万人に達し、その49%(単純計算で41万人超)が死亡する」に代表される、「経済の崩壊」「大量の失業者の発生」のリスクを無視してでも「オーバーシュート(感染爆発)を止めなければならない」ということを訴える数字・データばかりだったようだ。 官邸はそれをなすすべがなく受け入れざるを得なかった。その怒りが、専門家会議の「廃止」につながったとみられる。だが、新たに組織した分科会でも「議題設定」は今までと同じ医療技官が務めることになる。 これに対して首相官邸は、分科会に経済界、労働界、メディアなどの代表を加えることで、医療技官・御用学者らを抑える「歯止め」にしようとしたように見受けられる。だが、問題なのは「専門家とみなされている人の科学的な提案を、政治家・経済人が無視して、権力で抑え込んでいる」という構図になっており、それを国民が目撃してしまっていることだ。 専門家とされる人たちが主張することを「おそらく正しいのだろう」と思って、その中身の詳細が分からなくても国民は黙って従ってきた。そのことは、日本のコロナ対策における「核」といっても過言ではなかった。 そんな日本の国民が、専門家を否定し、非科学的な決定をする政治家や経済人に疑問を持たずに従えるだろうか。混乱し、パニックを起こさないとは限らない。 そして、冒頭に取り上げた山中教授と西浦教授の発言は、政治家や経済人が権力で押さえつけようとすることに対する、専門家の反発のようにも思える。とはいえ、科学的根拠のない政治的発言を専門家がし始めたら、今後に大きな禍根を残すように思う』、「官邸に上がってくる情報が、経済無視・疫学重視ともいえるものばかりだった・・・「経済の崩壊」「大量の失業者の発生」のリスクを無視してでも「オーバーシュート(感染爆発)を止めなければならない」ということを訴える数字・データばかりだった」、これは「専門家会議へのないものねだりに過ぎない。経済的リスクを考えた上で、総合判断するのが「政治」(官邸)の役割の筈だ。「上久保氏」までが混同するとは、残念だ。
・『専門性の高い感染症対策のような政策を適切に立案するには  最後に議題としたいのが、日本の政策立案過程において、感染症対策のような専門性の高い政策を取り扱う際、どのような制度の改革が必要だろうかという点だ。「ポストコロナ」の時代を考慮し、現時点の筆者の考えをまとめておきたい。 この連載で既に論じてきたことだが、官僚組織の年功序列・終身雇用制を緩和して、研究者が官僚組織のさまざまなレベルでポストを得られるようにすることが、改革案の一つとして挙げられる(第242回・P4)。 現行の制度において官僚は、多くが東京大学などの学部卒であり、基本的にジェネラリストの行政官だ。修士号や博士号を持つ人は限られ、政策の専門性は行政の経験に基づくもの。従って、官僚が作成する政策案は、理論的というより現行制度をベースにした現実的なものになってしまう傾向にある。 これに対して米国や英国などの官僚組織は、終身雇用・年功序列ではない。研究者が、若手の頃からさまざまなレベルでのポストに応募する機会がある。省庁では、政策の原案を練るところから多数の専門家が入り、先端の研究の知見が反映されることになる。 そして、研究者は大学・研究所・シンクタンク等と省庁の間を何度も行き来しながらキャリアを形成していく。これを「回転ドア(Revolving Door)」と呼び、省庁を退官後に官僚が民間に籍を移す、日本の「天下り」と対比されることがある。 欧米のこの「回転ドア」は、大学と役所の専門家間で多くの「政策ネットワーク」が形成されることにつながる。また、省庁のポストには学会の推薦ではなく個人で応募する。特筆すべきは、外国人研究者がポストに就くことがある。例えば、かつて英国の中央銀行であるイングランド銀行には、日本人も研究員として在籍していた(第20回・P4)。 外国人を雇用すると情報漏洩の問題が生じるという向きがあるかもしれないが、日本国籍保有者しかいない日本の役所でもさまざまな事件が起こってきた。政策立案に重要なのは、国籍にこだわらず、真に優秀な人材を集めることだという考え方だろう。 結果として、多様な学説を持つ専門家がしがらみなく政策立案に参画することになる。学説の間での「競争」が起こって政策案が磨かれ、政府の選択肢も増えることになる。 次の改革案として、学会の重鎮を集める審議会の廃止を挙げたい。専門家を集めて首相官邸に助言する会議体を設置するならば、世界最先端の研究に参画している若手を集めるべきだ。リモートで世界中をつないで会議ができる時代だ。海外の大学で研究に携わっている研究者でも日本の会議に参加できる。むしろ、最先端の情報がリアルに入りやすくなる。また、外国人研究者でもまったく問題はない。 学説の異なる研究者が対立し、提言が1つにまとまらなくてもいい。むしろ、両論併記で提言を政府に提出すれば、政府は政策決定に多様な選択肢を持てる。そして、提言は首相を座長とし、閣僚と経済ブレーンで構成される「経済財政諮問会議」で審議して、最終的に政府の政策となる形とする』、「官僚組織の年功序列・終身雇用制を緩和して、研究者が官僚組織のさまざまなレベルでポストを得られるようにする・・・回転ドア」には賛成だ。国籍の問題では、「英国の中央銀行であるイングランド銀行」のマーク・カーニー総裁はカナダの中央銀行の総裁から転身したカナダ人である。
・『首相の「権限強化」を今あえて提言する理由  さらに、首相の「権限」をあえて強化することを提言したい(第183回)。1990年代以降の政治行政改革で首相の「権力」は圧倒的に強くなった。一方、首相の「権限」はいまだ十分に整備されていない。そのために首相官邸・内閣府に何もかもが集中するし、混乱状態に陥ることが少なくない。コロナ対策の迷走も、この首相官邸の混乱状態で起こっている。 この混乱状態を解決するには、英国の首相が持つような、政策目的の達成のために柔軟に官僚機構を変更することができる「省庁の設置、分割、統廃合の権限」を日本の首相にも付与することだ(第25回)。 例えば、英国では2016年のEU(欧州連合)離脱の国民投票後、テリーザ・メイ氏が首相に就任した直後に、「EU離脱省」という新しい役所を国会審議なく即座に設置した(第135回)。これが可能なのは、英国の首相に前述の「省庁の設置、分割、統廃合の権限」があるからだ。加えて、英国の中央省庁には「年功序列」「終身雇用」がなく、政策課題ごとにそれぞれの政策のスペシャリストを集めることができるのである。 一方、日本の国家行政組織は、「国家行政組織法」と各省庁の「設置法」で規定されている。国家行政組織法は、「行政機関は設置法によって定められる」としており、設置法は「各省庁の任務・所管業務」を細かく決めている。各省庁は、設置法に基づいて業務を行い、それを超えることはできない。 その結果、日本では「政策課題の解決」よりも「行政組織の防衛」が重要視されがちになる。各省庁では、決められた業務の範囲内で政策を考える。それを超える解決策が出てきても、さまざまな論理をひねり出して、それを排除しようとする。 ましてや、他省庁に権限を譲らなければならないような事態は、絶対に避けようとする。政策課題を解決するには何がベストかという発想はそこにはない。ご存じ、「縦割り行政」の弊害である(第128回)。 この問題の解決策が、首相に「省庁の設置、分割、統廃合の権限」を与え、政策課題に的確に対応する役所をつくることなのだ。例えば、感染症対策に関して、厚労省の「組織防衛」の行動が問題となるならば、「感染症対策庁」のような役所を即座につくってしまうのだ。職員も文部科学省や厚労省からの出向でなく、専門家や優秀な人材を外部から中途採用で集める。厚労省を変えようとするよりも、このほうが早く、効果的な体制を作ることができるのだ. もちろん、これはコロナ対策には間に合わない。だが今後を考えれば、より強毒性で致死率が高い感染症に日本が襲われるかもしれない。また、感染症に限らず、「ポストコロナ」の時代には、ITの劇的な進化などによって、より専門性の高い政策課題が増えると予想される。政策立案過程の抜本的な見直しは、極めて重要度が高い課題であると考える。<参考文献>は省略』、「首相の「権限強化」」には賛成できない。「首相官邸・内閣府に何もかもが集中するし、混乱状態に陥ることが少なくない。コロナ対策の迷走も、この首相官邸の混乱状態で起こっている」、というのは「官邸」の前さばきが悪いためで、「首相の「権限強化」」とは無関係の筈だ。厚労省の一技官すらコントロール出来ない現状の指導力欠如、こそが問題なのではなかろうか。

第三に、7月18日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した室伏政策研究室代表・政策コンサルタントの室伏謙一氏による「Go Toキャンペーンがそもそも「筋の悪い」支援策である理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/243562
・『特に東京都の感染者数が連日3桁を記録し、16日には280人を超えたことから、懸念は批判に変わり、推進側のはずである与党内にも22日からの実施を疑問視する声が上がった。結局、赤羽一嘉国土交通相は東京都発着の旅行は対象外にすると表明した。この急な措置のため、新たな混乱を生んでいる状況だ(新型コロナ感染症に対する態度は、地方に行けば過剰なほどに恐怖心に染まってしまっているようで、そうした有権者に本事業を説明しようとしても強い反発を受けるだけのようであり、与党内からも上がる疑問の声はそうした地元選挙区の事情も反映してのことだろう)。 確かにPCR検査の結果、感染者が多く出ている地域に居住する人が、国内各地に、旅行で一時的とはいえ散らばることで、感染する機会が増えることになる可能性は否定できない。 ただし、このキャンペーンは、もともとは新型コロナ感染症の感染の収束後の一定期間において実施するとされていたものである。つまり、実施の条件は「コロナ禍の収束」であり、現段階で「収束した」と言えるのかどうかが問題となるのだが、少なくとも数字上の感染者数は、無症状なのか軽症なのか、重篤化率はどうなのかなどは別にして、増加しているのであるから、「収束した」と言える状況ではないことは確かである』、前述のように新規感染者数の増勢が、東京都だけでなく、大阪府、神奈川県、埼玉県などでも抑えられなくなり、第二波到来の可能性も否定できないのであれば、「キャンペーン」対象から「東京都」を外すといった小手先の対策ではなく、「キャンペーン」全体を本来の「収束後」まで延期し、宿泊施設などに対しては、売上減少に対して、別途、助成金を出すといったオーソドックスな対応が望ましい。
・『Go Toキャンペーンが事業者支援になっていない理由  そもそも実施する条件が成立していないわけであり、その点から現段階で実施すべきではないというのが妥当な反対論のはずである(よって、旅行に行けば感染機会が増えてうんぬんというのは本事業というものを理解していないことになる。「反対のための反対」と言われても仕方あるまい)。 しかし、本事業の「真の問題」は、そこではないと筆者は考える。はっきり言えば、それ以前の問題があるのである。 それ以前の問題とは何か?結論から言えば、本事業は「真に事業者の支援にはなっていない」ということである。 では、なぜ支援につながらないのか?) 考えてみてほしい。事業者にとって必要なのは、新型コロナ感染症の感染拡大によって休業を余儀なくされたり、来客が大幅に、否、激減したことにより、失われた売り上げのうち、「粗利に当たる部分の100%の補償」である。 本来、これは可及的速やかに行われなければならないところだ。ところが、本事業は新型コロナ感染症の「感染が収束した」ことを条件とした「アフターコロナの景気対策」であるので、実施されるまではいつまでたっても売り上げは大幅減かゼロのままである。かつ本事業が実施されたとしてもすべての事業者が同様に同等の売り上げが得られるわけではない。当然、新型コロナ感染症の感染が拡大する以前と同様の数の来客が得られる保証もない。 要は、この非常時における事業者支援策には適さず、そもそも「筋が悪い」ということだ。 理由はそれだけにとどまらない。実際に旅行に出かけることになる一般市民、消費者についても、休業や失業、廃業などで収入が激減するかなくなってしまい、旅行に出かける余裕など全くないというのが実情だという人も少なくない。実際に本事業を使うことができる人は相当限られることが容易に推測され、消費喚起策にす」らならないであろうということだ。 事業者を真に支援する施策にもならず、消費喚起策にもならないのであれば、早々にやめるべきであるという話になるはずだ。しかし、現状では、本事業の賛否を巡る議論・論争は、こうした「基本的な点」に触れたものは、筆者の知る限り見たことがない。 むろん、いつになるかわからない「収束」を前提にした支援策ではなく、失われた粗利の100%補償の早期実現を3月段階から強く求め、精力的に提言・情報発信活動を行ってきた、自民党の安藤裕衆院議員を会長とする議連「日本の未来を考える勉強会」の会員議員たちは、当然理解しているだろう』、「筋が悪い」のを最悪のタイミングで実施しようとするのは、「日本旅行業協会や大手旅行会社」と自民党の金を通じたつながりの深さがありそうだ。前者の会長は何と二階幹事長のようだ(日刊ゲンダイ「安倍自民「GoTo」強行の裏に…受託団体と献金通じた“蜜月”」)。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/276137
・『「コロナ倒産」が急増の懸念 今やるべきことはなにか  もっとも、新型コロナ感染症への過剰ともいえる恐怖心に駆られた一般市民からすれば、「旅行者=感染を運んでくる人」となって、感染を拡大させることにつながる本事業は「やめてくれ」という考えになっても仕方がないところだ。このため、本事業を巡る議論がそれに引っ張られてしまうのも同様に仕方がないことであろう。 しかし、政治家や言論人のレべルとなれば、「ものの本質を見据えた議論」を行ってしかるべきであり、「Go Toキャンペーンではなく、失われた粗利の100%補償の実現を」と問題点を指摘して訴えるべきだ。本事業の賛成派にしても、(実際にはそうはならないのだが)これが少しは事業者支援につながることを具体的に説明するなどして議論すべきであろう。 いわゆる新型コロナウイルス関連倒産は、帝国データバンクの調査によると、7月16日16時現在で346件、法的整理は271件、事業停止は75件となっており、倒産業種のうち観光関連では「ホテル・旅館」が46件となっている。 一部の有識者からは「今後、この新型コロナウイルス関連倒産は急増する」との指摘もあり、予断を許さない状況であるといえる。 そうした中、国は違うが、フランスでは観光業を具体的な支援の対象の一つとした、日本円で5兆円強の第3次補正予算案の審議が国会で行われており、早期の成立が見込まれている。 そもそも本年度第1次補正予算で措置したということが間違いなのであるが、それはそれとして、今実施すべきでないことは明らかなのであるから、「失われた粗利の100%補償」につながる本年度第3次補正予算の早期編成こそ、与党良識派、そして野党も求めるべきなのではないか』、何らかの「補償」は必要であるとしても、「失われた粗利の100%補償」は行き過ぎのような気がする。自粛措置の影響を受けたのは、旅行業界に止まらず、飲食、小売、など幅広い。どこまで「補償」するのかは、財政負担も含め慎重に検討するべきだろう。

第四に、7月17日付け日経ビジネスオンラインが掲載した:コラムニストの小田嶋 隆氏による「私たちはどこへ行くのか」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00079/
・『Go Toについて書いておきたい。 7月16日午後6時の執筆時点では、東京を対象外とする方針が固められたようだ。 とすれば、Go Toトラベルキャンペーンが、国の施策として動きはじめようとしているいまのうちに、その決定の経緯と現時点での反響を記録しておく必要がある。このタイミングを逃すと 「お国が引っ込めた施策について、いつまでもグダグダと言いがかりをつけるのは、あまりにも党派的な思惑にとらわれたやりざまなのではないか」「世論の動向にいち早く反応して、一旦は動き出した政策を素早く見直す決断を下した安倍政権の機敏さを評価しようともせずに、死んだ犬の疱瘡の痕を数えるみたいな調子で撤回済みのプランを蒸し返してあげつらっているパヨク人士の叫び声が必死すぎて草」てな調子で、検証作業そのものが、要らぬ非難を招くことになる。 でなくても、いったいに、現政権は、検証ということをしない。 彼らは、森友案件を踏み消して以来、自分たちの失策や見込み違いを 「過ぎたこと」「終わった話」として下水に流し去る自分たちの処理手法に自信を抱いている。 どんなにひどい不祥事や不品行があっても、とにかく知らん顔をして時間が経過するのを待っていれば、じきに国民は忘れてしまう、と、そうタカをくくっているのだろう。で、実際、われら善良なる国民は、次から次へとやってくる新しい話題に、順次目を奪われ、毎度気をとられながら、順調に古い話を忘れては、今朝もまたまっさらになった新鮮なアタマで、ワイドショーの画面に出てくる眠そうな落語家の顔を眺めている。 いまとなっては、「桜を見る会」の話題すら持ち出しにくい。 「ああ、桜ね。もう古いんだよなあ」と、政治部の記者さんたちにしてからが、ファッション誌のフロントページ企画担当みたいな口調で、古い記事をネグレクトしにかかっている。 「だって、数字獲れないでしょ? 桜じゃ」と。 了解。きみたちの魂胆はよくわかった。せめてページビューを稼げるうちに話題にしておこう、と、そんなわけなので、今回は全力をあげてGo Toをほじくり返しに行く所存だ。 不思議なのは、国交省が素案を持ち出すや、各方面から異論が噴出して止まなかった、このどうにもスジの悪い田舎クーポン作戦を、政権中枢の人々が、これまでどうして延期することができなかったのかだ。 全国の新型コロナウイルス感染者数が再び増加に転じたかに見えるこの二週間ほどの世間の空気を感じていれば、少なくとも実施時期をひと月かそこいら後ろにズラすのは、そんなに素っ頓狂な決断ではない。 というよりも、すんなり延期なり中止なりを発表していれば、ほとんどすべての国民は、政府の英断を歓迎していたはずだ。こんなことは、私のようなド素人が言うまでもなく、さまざまな分野の専門家や有識者の皆さんが、ずっと以前から、口を酸っぱくして繰り返していたお話だ』、「現政権は、検証ということをしない。 彼らは、森友案件を踏み消して以来、自分たちの失策や見込み違いを 「過ぎたこと」「終わった話」として下水に流し去る自分たちの処理手法に自信を抱いている」、これは「政治部の記者さんたちにしてからが、ファッション誌のフロントページ企画担当みたいな口調で、古い記事をネグレクトしにかかっている」、マスコミにも責任の一端がありそうだ。
・『「キャンペーンそのものの当否はともかく、いまやることじゃありませんね」「百歩譲って、旅行業者の窮状を救う必要があるのだとしても、こんなまわりくどい方法を採用する意味がわからない」「ただでさえ給付金業務の事務委託費を電通に丸投げにしている件が炎上しているさなかで、同じように痛くない腹をさぐられかねない膨大な事務費のかかるキャンペーンを強行する意図は那辺にあるのか」「ものには優先順位がある。医療崩壊の危機に瀕している医療・保健行政の現場や、先日来の水害で今日住む場所にさえ困窮している被災地を差し置いて、旅行業者の救済を優先する政府の姿勢には、強い利権の影響を感じる」「そもそも、第二波の到来が強く疑われる状況下で、国民に旅行を促す姿勢自体が不見識だし、感染予防の観点からも到底承服しかねる」「全国旅行業協会(ANTA)の会長の座にある人間が、自民党幹事長の二階俊博氏であることは、誰もが知っている事実だ。とすれば、このGo Toトラベルなる観光支援施策自体が、ためにする利益誘導と思われても仕方がないわけで、李下に冠を正さずという観点からも、いまこの時にこんなスジの悪い政策を強行する必然性は皆無ではないのか」 と、代表的な反対意見を並べてみただけでも、このキャンペーンの悪評ふんぷんぶりは明らかだ。事実、私自身、Go Toトラベルのキャンペーンに積極的に賛成している人間を一人も見たことがない。 賛成意見も 「いまさら中止できない」「どっちみち感染拡大が止められないのなら、せめて経済を回しながら感染拡大と対峙する方が現実的なのではないか」「コロナで亡くなるのはご老人だけで、してみると、若干のタイムラグが出るだけで、この数年をトータルした死亡者数ということなら結局は同じことなのだから、どんどん経済を回す方が良い」といった感じのヤケッパチなご意見に限られている。 なお、最後にご紹介した意見は、「癌患者専門の在宅緩和ケア医」を名乗るアカウントがツイッター上に発信していたものだ。 念のためにより詳しく書かれたバージョンをご紹介すると 《スウェーデン方式だと亡くなりそうな高齢者が予定より数年早く亡くなる。自粛方式だと、亡くなりそうな高齢者を自粛期間の分だけ、延命出来る。キャリーオーバー作戦。数年たてば、総死亡者数はどちらも変わらない。経済損失は雲泥の差になる。高齢者の皆さん、死にそうな人が亡くなるだけですよ。》という文言になる。 特定個人の発言をあげつらうことは、当稿の趣旨にそぐわない。なので投稿主を特定できる形でツイートをまるごと引用することはせずにおく。 とはいえ、医師を名乗るアカウント(←真偽はともかくとして)が、この時期に、こういう見解を拡散していることを、軽視して良いとは思っていない。 「数年たてば、総死亡者数は変わらない」というこの論法は、「医療」という営為を、かなり根本的な次元で否定し去っていると申し上げなければならない。 「数年」を「数十年」に変えれば、「数十年たてば、医者にかかろうがかかるまいが、総死亡者数は変わらない」という話になる。 とすると、医療は、延命のためにかかるコストと、コストに見合う延命効果を両睨みにした、コスト&ベネフィットを勘案すべき事案に還元される。 注目せねばならないのは、このアカウントが「亡くなりそうな高齢者を自粛期間の分だけ延命する」ことの価値を、自粛によって生じる「経済的損失」よりも低く見ている点だ。 つまり、この人物にとって、「価値の低い生命の延命」は、「経済的な利益の最大化」よりも、優先順位として低いわけだ。 でなくても、このお話は、個々の生命に価値の優劣を設定して、その優劣に値札を付けないと、医療現場における「有意義な延命」と「無価値な延命」を区別できない、というお話に発展せざるを得ない。 さらにおそろしいのは、最後に添えられた 「死にそうな人が亡くなるだけですよ」という一見クールに(あるいは専門家っぽく)聞こえる断言が、命の選別を前提としている点だ。 この人は、人間を「死にそうな人」と「死にそうでない人」に分類したうえで、前者の命は救うに値しないということを暗に述べている。 しかも、そういう冷徹な判断ができるオレって素敵(たぶん)と考えている。医者の中二病(注)は、まことに度し難い。 この思想は、優生思想のど真ん中ともいうべき考え方で、この考えの持ち主は、結局のところ人間の生命を「生産に寄与する生命」と「生産に寄与しない生命」に分類して、前者の延命に医療資源の投入を集中することによって、より効率的な社会が実現すると信じていたりする。 私自身、高齢でもあれば基礎疾患を複数かかえている患者でもある。 仮に、私が、自分の生命の価値をこの医師の判定に委ねたのであれば 「10年に満たない余命を、高額な医療費の継続的な投入を前提に延命させるべきであるのかを問われるのであれば、ここは、不要と判断せざるを得ない」てな調子のお墨付きを頂戴することになるはずだ。その自信はある』、「癌患者専門の在宅緩和ケア医」が事実であれば、その道のプロだ。それなのに、「優生思想のど真ん中」の考え方を抱いているとは驚かされた。ただ、「患者」は自分のところに来る前に、主治医から「緩和ケア」しかないと突き放された「患者」ばかりを診ていると、そんな割り切りでもしないと、やっていけないのかお知れない。
(注)中二病:中学2年生(14歳前後)で発症することが多い思春期特有の思想・行動・価値観が過剰に発現した病態(ニコニコ大百科)
・『せっかくなので、5月に発信したツイートを紹介しておく。 《医師を名乗るアカウントの中に、わりと無視できない確率で、明らかなレイシストや、優生思想を留保なく肯定する人間が含まれているのは、しみじみと恐ろしいことだと思っています。2020年5月29日午後11時45分》 「医」という文字でアカウント検索をして、ひととおり見回してもらえば、ご理解いただけると思う。どっちにしても、医師を名乗るアカウントの言葉をうっかり鵜呑みにするのは得策でないケースが多い。私はそう思っている。 安倍首相は、14日、官邸に集まった記者団に向けて 《−略− 現下の感染状況を高い緊張感を持って注視している》点を強調したうえで、あわせて 《単なる観光需要回復対策ではなく、『ウィズコロナ』における安全で安心な新しい旅のスタイルを普及定着させることも重要な目的だ》という旨の言葉を述べている。 私は、この首相の言葉の空疎さ(←「くうそ」は、「くそ」と「うそ」から出来ているのだそうですね)にちょっと驚いた。 なんというのか、成績の良くない学生が持ち出してくる卒論の仮テーマのようでもあれば、広告代理店の新米が市の観光課に持ち込んだ町おこしキャンペーンのラフ案みたいでもある。 現政権発足以来の変わらぬ特徴は、持ち出してくる施策やスローガンのいちいちが、どうにも広告屋のプレゼンくさい点にある。それも、有能な広告マンによる秀逸な広告文案ではなくて、代理店ワナビー(注)の大学生が仲間うちの宴会で得意になって振り回している感じの、恥ずかしくも不思議大好きなバブル臭横溢の安ピカ自足コピー塾だったりする。 「人生再設計」「一億総活躍」「人づくり革命」「働き方改革」「みんなにチャンス!構想」「3年間抱っこし放題」と来て、その先に 「Go Toトラベルキャンペーン」がある。 そう思ってみると、Go Toの行き先はまるで見えない。 誰かが、「広告代理店内閣」ということを言っていた。 私は、その見解に賛同する。 ほかの誰かは「ヤンキー内閣」、「ヤンキー政権」と言っている。そのご意見にも全面的に同意する。 彼らは、仲間うちで威勢の良いことを言い合ってはデカい声で笑ってばかりいるバーベキューのメンバーみたいな人たちに見える。 隊員は焼きはじめた食材を焦げるまで裏返せない。 アベノマスクにしても、引き返すタイミングは、少なくとも3回はあったはずなのに、結局強行してしまった。 で、ごらんの通りの赤っ恥を晒している。 今回のGo Toも同様だ。 たしかに、最初からバカなプランではあった。 でも、途中で見直すなり延期するなり修正してれば、これほどまでにバカなインパール事案にはなっていない。 進軍前に撤退したのであれば、大手柄だったと言ってさしあげても良い。 政府でも企業でも広告代理店でも、ラフ案の段階でダメなプランが出てくることはよくある話だ。私のような原稿書きにしたところで、いきなりの第一稿は読めたものじゃなかったりする』、「持ち出してくる施策やスローガンのいちいちが、どうにも広告屋のプレゼンくさい点にある。それも、有能な広告マンによる秀逸な広告文案ではなくて、代理店ワナビーの大学生が仲間うちの宴会で得意になって振り回している感じの、恥ずかしくも不思議大好きなバブル臭横溢の安ピカ自足コピー塾だったりする」、「途中で見直すなり延期するなり修正してれば、これほどまでにバカなインパール事案にはなっていない。 進軍前に撤退したのであれば、大手柄だったと言ってさしあげても良い」、なんとも手厳しい批判だ。
(注)ワナビー:want to be(…になりたい)を短縮した英語の俗語で、何かに憧れ、それになりたがっている者のこと(Wikipedia)。
・『ただ、仕事は、少しずつ改善しながら進められるものだ。別の言い方をするなら、改善の過程こそが仕事というものの本体なのである。 ラフ案を叩いてマトモなキャッチコピーに仕上げて行く過程は、官僚の仕事でも政治家の仕事でもそんなに変わらない。 間違っていたら直せば良いのだし、的外れだったら撤回すれば良い。  それだけの話だ。 しかし、現政権のメンバーは、なぜなのか、それができない。 走り出したがさいご、止まることができない。なぜか。 以下、私の個人的な見解に過ぎないことをお断りしたうえで、その原因として思い当たるところを申し上げる。 安倍内閣の人たちが、バカな第一案を改めることができず、愚かな施策を途中で撤回できず、みっともない発言を修正できないのは、つまるところ、彼らがマッチョだからだ。さよう。謝ったり引き返したり軌道修正したり白紙撤回したりテヘペロしたりすることは、男としてできないのだね。なぜかって? 男として半端だからだよ。 ちょっと前に、ツイッターのタイムライン上で、 「新自由主義とネポティズム(縁故主義)は、本来は正反対の理念であるはずなのだが、その実、なぜなのかわりと相性が良い。その証拠に維新と現政権は微妙にツルんでいるではないか」 という感じの話の流れで、「ガキ」「任侠」「マッチョ」「ホモソーシャル」「サル山独裁」「反知性主義」あたりの単語が話題にのぼったことがある。 この時、《ガキは基本的に任侠が大好きです。ジャン・ジュネは「泥棒日記」の中で「やくざは要するに子供なのだ」と言っています。飯干晃一も「やくざは男の理念形だ」と喝破しています。つまりヤー公というのは小学4年生段階の仲間とツルんでる時代から成長しない男たちの由なのですね。 2020年7月11日午後5時32分》 《小学生男子の集団は、非力な子供だから無害なだけで集団力学的にはモロなやくざ組織です。もっとも、ほどんどのガキは地域から離れて、いずれ孤独な男として成熟します。例外はジモティー(注)の人間関係から外に出られないヤンキー連中で、彼らは成熟しません。で、やくざか、でなければJCになります。2020年7月11日午後5時42分》 という2つのツイートを発信したところ、早速 「幼少期に壮絶なイジメ体験でもあるの?」「小田嶋っていじめられっこだったんだろうなぁw」というリプライが寄せられた。 ごらんの通り、ネット社会では、伝統的に「いじめ被害体験」が「恥辱」「黒歴史」として、「人に言えない恥ずかしい過去」に分類されている一方で、「いじめ加害体験」は「スクールカースト上位者であったことの証」「仲間の多い魅力的な子供であったことの証明」として、もっぱら「武勇伝」「自慢話」の文脈で語られることになっている。 唐突に聞こえるかもしれないが、私は、現政権のメンバーが、いずれも、謝罪・軌道修正・戦術的撤退のできない、極めて硬直的な人物に限られていることの理由は、現政権が、つまるところ、スクールカーストの延長上に形成されたヤンキー集団だからなのだと考えている。 ホモソーシャルのサル山で暮らすマッチョが、なにより避けたいと願っているのは、自分の体面が失われる場面だ。 彼らは、誰かにアタマを下げたり、自分の非を認めたり、前言を撤回したり、方針を変更したりすることを、自分の男としての体面を台無しにする、最悪の事態と考えている。 であるから、間違っていても、足元に穴が開いていても、不利益をこうむることになっても、簡単には非を認めないし、謝ろうともしない。 これも唐突な話に聞こえるかもしれないが、私は、たとえば、閣議のメンバーに女性が半数いれば、おそらくこういうことにはならないと思っている。 たとえ、閣議に招集される女性閣僚のメンバーが自民党の「オンナのオッサン」みたいな女性議員ばかりであっても、女性が半分混じっている会議は、男ばかりの会議とはまるで違う展開をする。そういうことになっている。だから 「そうですね。たしかにGo Toをいま強行するのは無茶かもしれない」「じゃあ、とりあえず一カ月延期することにして、その間に細部をもう少し考え直して再出発しましょう」と、なんということもなく延期の決断ができたと思う』、「現政権のメンバーが、いずれも、謝罪・軌道修正・戦術的撤退のできない、極めて硬直的な人物に限られていることの理由は、現政権が、つまるところ、スクールカーストの延長上に形成されたヤンキー集団だからなのだと考えている」、傑作な比喩だ。「閣議のメンバーに女性が半数いれば、おそらくこういうことにはならないと思っている」、その通りなのかも知れない。
(注)ジモティー:無料の広告掲示板(同社HP)
・『男だけの集団では、その簡単な決断ができない。 「オレの顔をツブすのか?」「いや、そんなことでは……」「でも、延期なんてことになったら、各方面に謝罪行脚をすることになるのはオレだぞ。それをおまえたちはオレにやれというのか?」てな調子の、メンツの問題が持ち上がるからだ。 私にもおぼえがある。 とにかく、男が10人以上集まって何かを決める話になると、話は、プランの妥当性より会議参加者のメンツの問題、ないしはサル山メンバー相互のマウントの取り合いの話になる。必ずそうなる。 現政権は、特にその傾向が強い。 もうひとつ指摘しておきたいのは、男の子(いっそ「クソガキ」という言葉を使っても良い)の集団が何かを決める段になると、いつしか、焦点は「度胸比べ」に落着するということだ。 ホモソの会議では、「妥当な案」や、「穏当なプラン」よりも、「冒険的な結論」や、「男らしいチャレンジ」に人気が集まる。 「なにビビってんだよw」とつっこまれそうな意見は、そもそも持ち出すことさえはばかられる。 むしろ「そんな思い切ったこと言って大丈夫ですか」みたいなあおり意見が無言の尊敬を集めるわけです。 そういう意味で、「どっちにしたってある程度の感染は防げないわけだから、そこんとこは目ぇつぶって、ひとつ経済をバンバン回す方向で行こうじゃないか」「そうだとも、長い目で見れば、そっちの方が人の命を救うことになる」「勇気だよ勇気」「そうだよな。ほっといても死ぬような年寄りが一年か二年早くくたばることを恐れて、経済をシュリンクさせたら、それこそ将来を担う若者や子供たちが中長期的に死ぬことになる」「おっしゃる通りですね先生。政治家は時には臆病な国民が目を向けないところに向けて断を下さないといけない」「オレはこの政策にクビをかけるつもりでいるよ」「オレもコワいものはない」って、これ、出入り前の反社会勢力の決起集会みたいだけど、昨今の閣議って、たぶんこんな空気なんだと思う。 一億総玉砕みたいなことを、たったの十数人で決められるのはいやだなあ。 だから、私は思いっきりビビった意見を繰り返しておくことにします。 ぼくは死にたくないです。 望むことはそれだけです』、「男が10人以上集まって何かを決める話になると、話は、プランの妥当性より会議参加者のメンツの問題、ないしはサル山メンバー相互のマウントの取り合いの話になる。必ずそうなる。 現政権は、特にその傾向が強い」、「ホモソの会議では、「妥当な案」や、「穏当なプラン」よりも、「冒険的な結論」や、「男らしいチャレンジ」に人気が集まる」、鋭い指摘だ。「一億総玉砕みたいなことを、たったの十数人で決められるのはいやだなあ。 だから、私は思いっきりビビった意見を繰り返しておくことにします。 ぼくは死にたくないです。 望むことはそれだけです」、出色の締めだ。
タグ:パンデミック 一億総玉砕みたいなことを、たったの十数人で決められるのはいやだなあ。 だから、私は思いっきりビビった意見を繰り返しておくことにします。 ぼくは死にたくないです。 望むことはそれだけです モソの会議では、「妥当な案」や、「穏当なプラン」よりも、「冒険的な結論」や、「男らしいチャレンジ」に人気が集まる 男が10人以上集まって何かを決める話になると、話は、プランの妥当性より会議参加者のメンツの問題、ないしはサル山メンバー相互のマウントの取り合いの話になる。必ずそうなる。 現政権は、特にその傾向が強い 閣議のメンバーに女性が半数いれば、おそらくこういうことにはならないと思っている 現政権のメンバーが、いずれも、謝罪・軌道修正・戦術的撤退のできない、極めて硬直的な人物に限られていることの理由は、現政権が、つまるところ、スクールカーストの延長上に形成されたヤンキー集団だからなのだと考えている 途中で見直すなり延期するなり修正してれば、これほどまでにバカなインパール事案にはなっていない。 進軍前に撤退したのであれば、大手柄だったと言ってさしあげても良い 持ち出してくる施策やスローガンのいちいちが、どうにも広告屋のプレゼンくさい点にある。それも、有能な広告マンによる秀逸な広告文案ではなくて、代理店ワナビーの大学生が仲間うちの宴会で得意になって振り回している感じの、恥ずかしくも不思議大好きなバブル臭横溢の安ピカ自足コピー塾だったりする 優生思想のど真ん中 「数年たてば、総死亡者数は変わらない」というこの論法は、「医療」という営為を、かなり根本的な次元で否定し去っている 癌患者専門の在宅緩和ケア医」 「政治部の記者さんたちにしてからが、ファッション誌のフロントページ企画担当みたいな口調で、古い記事をネグレクトしにかかっている 現政権は、検証ということをしない。 彼らは、森友案件を踏み消して以来、自分たちの失策や見込み違いを 「過ぎたこと」「終わった話」として下水に流し去る自分たちの処理手法に自信を抱いている 「私たちはどこへ行くのか」 小田嶋 隆 日経ビジネスオンライン どこまで「補償」するのかは、財政負担も含め慎重に検討するべき 「失われた粗利の100%補償」は行き過ぎ 「コロナ倒産」が急増の懸念 今やるべきことはなにか 日刊ゲンダイ「安倍自民「GoTo」強行の裏に…受託団体と献金通じた“蜜月”」 Go Toキャンペーンが事業者支援になっていない理由 「キャンペーン」対象から「東京都」を外すといった小手先の対策ではなく、「キャンペーン」全体を本来の「収束後」まで延期し、宿泊施設などに対しては、売上減少に対して、別途、助成金を出すといったオーソドックスな対応が望ましい 「Go Toキャンペーンがそもそも「筋の悪い」支援策である理由」 室伏謙一 厚労省の一技官すらコントロール出来ない現状の指導力欠如、こそが問題 首相の「権限強化」」には賛成できない。「首相官邸・内閣府に何もかもが集中するし、混乱状態に陥ることが少なくない。コロナ対策の迷走も、この首相官邸の混乱状態で起こっている」、というのは「官邸」の前さばきが悪いためで、「首相の「権限強化」」とは無関係 首相の「権限強化」を今あえて提言する理由 専門性の高い感染症対策のような政策を適切に立案するには 「専門家会議へのないものねだりに過ぎない。経済的リスクを考えた上で、総合判断するのが「政治」(官邸)の役割の筈 首相官邸が非常に悩まされた専門家会議から上がる情報とは 分科会を新たに設立しても専門家会議の本質的問題は未解決 専門家会議の「廃止」を巡り安倍政権の「唐突な決定」に反発 「8割おじさん」西浦博・北大教授と山中伸弥・京大教授が対談 「山中伸弥教授「コロナ死者10万人も」発言に見る政策立案の機能不全」 上久保誠人 いかにこの人災を乗り越えるべきか “規制”より“推進”を優先した西村大臣 最近の「感染者数の増加」は、「東京問題」から大阪府や神奈川県、埼玉県などに広がりを見せている 7月に入ってからの感染者数の増加が「東京問題」であることに疑いの余地はありません 小池都知事のひどい無策ぶり 「感染者数急増は、小池都知事と西村大臣が引き起こした「人災」だ」 岸 博幸 ダイヤモンド・オンライン (その4)(感染者数急増は 小池都知事と西村大臣が引き起こした「人災」だ、山中伸弥教授「コロナ死者10万人も」発言に見る政策立案の機能不全、Go Toキャンペーンがそもそも「筋の悪い」支援策である理由、小田嶋氏:私たちはどこへ行くのか) (経済社会的視点)
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本日はパソコン不調のため更新を休むので、明日にご期待を!

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パンデミック(医学的視点)(その15)(コロナの届け出「ファックスで保健所に提出」がやめられない理由 この機会に明らかにすべき本当の問題、《東京都公表のデータでは全体像が見えない》“世界一安心な都市”になるために必要な2つのこと WHO事務局長上級顧問が提言「五輪開催の最低条件」、新型コロナ 日本で重症化率・死亡率が低いワケ 高橋泰教授が「感染7段階モデル」で見える化) [国内政治]

パンデミック(医学的視点)については、6月24日に取上げた。今日は、(その15)(コロナの届け出「ファックスで保健所に提出」がやめられない理由 この機会に明らかにすべき本当の問題、《東京都公表のデータでは全体像が見えない》“世界一安心な都市”になるために必要な2つのこと WHO事務局長上級顧問が提言「五輪開催の最低条件」、新型コロナ 日本で重症化率・死亡率が低いワケ 高橋泰教授が「感染7段階モデル」で見える化)である。

先ずは、6月29日付け現代ビジネスが掲載した北見工業大学教授の奥村 貴史氏による「コロナの届け出「ファックスで保健所に提出」がやめられない理由 この機会に明らかにすべき本当の問題」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73632
・『国民を驚かせた「いまだにファックス」  「令和の時代にファックスだって…?」 新型コロナウイルス感染症の患者を診察した際、医療機関は保健所に患者の発生を届け出なければならない。医師は、その届けを「手書きの書類をファックスする」という方法で提出していると言えば、驚かれる方が多いかもしれない。 実際、4月末にはその煩雑さを嘆く医師の声が大臣の目に留まり、ウェブ化が進められる運びとなったとの海外報道までなされた。たしかに、このネット時代に書類をファックスするという業界の後進性には、多くの方が驚かれるだろう。 だが実は、この発生届は、性急にウェブ化すべきでない。誤解を恐れずに言えば、ファックスでの報告が「現段階では」望ましいのである。 前回の寄稿において、私は新型コロナ対策を支える最前線である保健所の苦境について記したが、その後、4月に入って各地で保健所がパンク状態であることを伝える報道が多数なされた。そのなかには、保健所にファックスされる発生届を、保健師がパソコン入力する煩雑さを伝えるものも含まれていた。 にもかかわらず、なぜファックスでの報告が現段階では望ましいのか。今回は、公衆衛生分野の情報化に関わってきた立場から、普段日の当たることのない公衆衛生行政の情報化が抱える問題という観点から解説したい。 いっけん非効率な患者発生届の運用には、一般には知られることのない公衆衛生行政内部の話が多く関わる。シンプルに言えば、この問題は日本の感染症対策の体制に由来しており、「患者発生届だけ」をウェブ化しても問題は解決しない。それどころか、この部分だけをウェブ化することで全体ではより効率が下がってしまう懸念もある。この問題は、短期的に予算を掛けても一朝一夕には解決しない。 以下では、その背景を、「アカウント管理の問題」、「医師側の問題」、「保健所側の問題」、「施設間連携の問題」、「検体管理の問題」の5点に分けて解説したい』、「公衆衛生分野の情報化に関わってきた」筆者の見解とは、興味深そうだ。
・『アカウント管理の問題  まず、医師の患者発生報告をオンライン化するとして、そもそも(提出者が本当にしかるべき人物であるかという)「認証」をどうするかという問題がある。要するに、医師に「アカウントとパスワードをどう配るか」という問題である。 もともと、医師をオンライン上で認証するために、保健医療福祉分野公開鍵基盤(HPKI)という仕組みが整備されてきた。しかし、この方法は現時点で普及しているとは言い難い。今回、オンライン報告を希望する医師にアカウントを配ってしまうのも手だが、医師はとりわけ「気難しい顧客」で、一般的な情報システムと比べて、ユーザーサポート体制を充実させる必要がある。そうした体制を短期間に立ち上げるためには、相応のコストが掛かる。 仮にコストをかけて体制を作り、アカウントを配布したとしよう。しかし、単一疾患(今回の場合は新型コロナウイルス感染症)の患者報告にしか利用できないアカウントは非効率である。そもそも医療機関と公衆衛生行政の間には、感染症発生届に限らずさまざまな情報共有上の課題がある。そうした論点を整理しないまま、既存の政策との整合性が取れない施策を進めるのは問題の解決を遅らせる』、確かに部分的にシステム化するより全体を踏まえて解決すべきだ。
・『医師側の問題  仮に認証の問題が解決し、これで希望する医師によるウェブ報告可能となったとする。しかし、それで医師の負担が下がるかどうかは、医師個人や施設毎の差が大きい。 そもそも医療機関では、個人情報の保護のため、患者情報の入った情報システムは基本的にインターネットに接続しないことになっている。ネットに接続した少数の閲覧用端末は外来や病棟にあるだろうが、電子カルテから患者の氏名や住所等の情報を持ってくることができなければ、「二重入力」が生じる。 電子カルテをネット接続できるよう改造するのは極めて高コストであり、短期間にできるものではない』、「個人情報の保護のため、患者情報の入った情報システムは基本的にインターネットに接続しないことになっている」、クラウド化した「情報システム」に切り替えるのも一案だ。
・『保健所側の問題  さて、病院などの検査機関から保健所に届けが提出されると、保健所はその情報を自治体本庁や国と共有していくことになる。この保健所から国へと情報共有がなされる過程も問題となる。 そもそも、感染症対策には地方自治体に相応の裁量があり、各都道府県や政令指定都市は独自の感染症対応体制を有している。 前述の通り保健所は、入手した検体(分かりやすく言えば、患者から採取した鼻水など)を検査施設に送り、検査結果を行政機関内部で情報共有している。その仕組みは、新型コロナウイルス感染症のためだけのものでなく、さまざまな感染症への対策のために日常的に運用されている。 仮にもし、ここに新たな新型コロナ用のシステムが導入されるとどうなるか。たとえ病院からの報告がデジタル化しても、すでに業務効率化のため独自の感染症情報システムを導入している大規模自治体においては、自治体側システムと新型コロナ用システムとが相互接続されていない限り、保健所側で入力負担が生じることになる。 独自の情報システムを有していない自治体であっても、他の日常的な感染症対応フローと新型コロナのフロー、2つの業務フローが並立してしまう。これは、パンデミック対応に追われる保健所にとって余分な負担となる。 さらに、国はもともと、国と地方自治体との間で感染症情報を共有するためのシステムを運用してきた。今回、国と自治体の間では発生件数などの情報を共有するための新型コロナシステムが整備されたが、新型コロナシステムと国側システムへの二重報告を課すのはさすがに非合理であるため、新型コロナシステムを利用する際には国側システムへの入力は免除されるようである。 しかし、仮に病院と公衆衛生行政をつなぐシステムが導入された場合、病院から保健所へと報告されていた患者の発生連絡は、新型コロナ感染症についてのみ国システムを用いて保健所へ連絡されることになり手間が増しうる。パンデミック発生後に保健所の負担軽減のために専用システムを導入した一部の自治体にとっては、さらにメリットは乏しくなるだろう』、「国と地方自治体との間で感染症情報を共有するためのシステム」と「一部の自治体」の「専用システム」がバラバラに混在しているのも、不効率の極みだ。
・『施設間連携の問題  問題はまだ続く。法律的に届出義務が課されている感染症については、患者発生に際して医療機関は保健所に適切な連絡をしなければならない。しかし、届け出た後、患者が軽快したのか重症化したのか、という経過情報については、効率的な情報集約手段が存在しなかった。 もし、多大なコストを掛けて新たな情報システムを導入するのであれば、単なる発生届の受け付けだけでなく、こうした経過情報を含む効率的な収集が望まれる。そのためには、重症化によって転院する運びとなった際、医師間で患者情報を引き継いで報告できるような仕組みも求められる。また、患者からの直接報告も有用であろう。このように有益な情報を得ようとすればするほど、システムの肥大化は避けられない。 肥大化したシステムの開発には時間がかかり、自治体、保健所、医療機関での調整・導入コストが増すことになる。しかし、パンデミックにおいては、一般的に、患者数が増すにつれ全症例の詳細情報を収集する意義は薄れていく。患者の発生が始まり、現場の混乱と負担が増す時期に、タイムリーに負担の軽減策を投入する必要があった』、「有益な情報を得ようとすればするほど、システムの肥大化は避けられない」、全体システムと個別システムの切り分けの問題なのだろう。いずれにしろ、これから作るのであれば、「タイムリーに負担の軽減策を投入する必要があった」、というのは意味がない。
・『検体管理の問題  最後に、患者検体の管理に関わる問題がある。患者から得られる検体は、さまざまな検査施設に送られうる。それぞれの検体には、採取した患者の情報、検体がどこに送られているかという移動情報に加えて、その検体の検査結果に関する情報が生じる。そのうえで、検査の結果を効率的に臨床側(病院側)に伝える必要がある。 今まで自治体は、それぞれが独立してこの検体情報を管理してきた。この検体情報を全国的に統一して管理する基盤は存在しなかったため、全国で何件検査が行われ、何件陽性が出たかという最低限の管理をするためだけに、全国的な情報集約に相当な手作業が介在することになっていたわけだ。 ひとつの検体が、精度管理のために複数の検査機関に送られるケースもあるため、管理の手間はさらに複雑となる。医師側からみると患者発生届に意識が向くが、情報システムは、この検体と検査結果情報を全国レベルで管理する手法にこそ価値を発揮する。 システムを整備する場合には、このように、地方自治体を含む公衆衛生行政の情報管理と合致する必要があり、それができなければ、コロナ禍が去った後にそのシステムの扱いに難しさが残る』、新たな「情報システム」は国が主体的に作ってゆくべきだ。
・『ウェブ化だけでは解決しない  医療機関からの報告をウェブ化することそのものは、技術的には容易な話である。しかし、医療機関側から見えないところに、感染症対策におけるさまざまな業務が存在する。患者発生届は、そうした公衆衛生活動における情報のやり取りの一部に過ぎない。 仮にこの発生届をウェブ化するとしよう。しかし、その結果、保健所側での業務が増す懸念がある。導入には解決すべき様々な課題があり、実際、迅速な投入を行うことはできなかった。そして、効率的な統計取得に至るまでに相当な作業を要しながらも、公衆衛生に存在する情報共有上の根本的な問題解決には繋がらない。本稿では割愛したが、情報セキュリティ上のリスクも孕んでいる。 ここで根本に立ち返りたい。出来る限り短期間に、どうすれば医療機関と保健所双方の負担を下げることができたか。患者発生届に限定して述べれば、まずは煩雑な患者発生届を必要最小限のものへと簡素化し、保健所側でOCR処理(手書き等の文字を自動的に読み取り処理する技術)すれば良かったものと考えられる』、「患者発生届に限定」に関しては、その通りだろう。
・『性急な情報化は、事態を悪化させる  このようにパンデミックの国内発生早期に患者情報の効率的な集約に困難が生じることは、感染症危機管理業界では既知であった。というのも、2009年の新型インフルエンザパンデミックにおいて、同じ問題が生じていたからである。2003年に生じたSARS(重症急性呼吸器症候群)においても、同様であったと伝え聞いている。 そこで、来るべき「有事」に向けて解決のためのシミュレーションが繰り返し試みられ、簡素な仕組みによりまずは関係機関間の情報共有に要する現場負担を下げることが求められると認識されていた。 行政機関においては、地道で解決に時間を要する問題に予算はつき難く、社会の耳目を集める問題には予算がつきやすい。その結果、今までも、何らかの問題が発覚するたびに、発生した問題へと過剰に特化した対策が導入されがちであった。 しかし、そうして導入されたシステムには柔軟性がなく業務に合致しない等の問題が生じうる。そのため、しばらく後に利用率の低さを問題視され、廃止されるような事態が繰り返されてきた。その愚を繰り返してはならない。 医療機関と公衆衛生行政の間における情報共有には、感染症の患者発生届を含めてさまざまな非効率が存在する。医療現場と公衆衛生行政双方の負担を軽減していくために、この非効率は解消されるべきである。そのためには、時間にも予算にも人材にも限りがある以上、即効性のある短期的な負担軽減策と、根本的な課題の整理に基づく中長期的な対策とをバランス良く実施していく必要がある。 ウェブでの報告を望む医療機関にとっては、ウェブからの報告窓口が存在していても良い。しかし、それは問題の根本的な解決とはならない。「ファックスは後進的だ」と前提した拙速な対策は、「ウェブ化により問題が解決した」という歪んだ認知を通じて公衆衛生行政に存在するさまざまな問題の解決をむしろ遠ざける可能性がある。この一件は、冷静な検証と客観的な報道を通じて、今まで発言権を与えられて来なかった医療機関と公衆衛生行政双方の現場の声を政策へと届ける契機となることが望ましい』、現段階では、「即効性のある短期的な負担軽減策」よりも、「根本的な課題の整理に基づく中長期的な対策」を重視、かつ部分最適化ではなく全体最適化を目指して、国が主体的に進めてゆくべきだろう。

次に、7月6日付け文春オンラインが掲載したWHO事務局長上級顧問、英国キングス・カレッジ・ロンドン教授の渋谷 健司氏による「《東京都公表のデータでは全体像が見えない》“世界一安心な都市”になるために必要な2つのこと WHO事務局長上級顧問が提言「五輪開催の最低条件」」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/38846
・『東京では歓楽街を中心に感染者数が増えており、100人を超える日が続いている。6月19日の休業要請解除からちょうど2週間であり、現在の感染者数はその頃の状況が反映されている。自粛の解除に伴うある程度の再燃は予想されたことであり、今後とも報告感染者数は増えることが予想されるが、今のところ本格的な第2波の到来とは言えないであろう。 しかし、予断は許さない。過度な悲観論で国民経済を混乱させることは避けるべきであるが、油断して少しでも対応が遅れれば、新型コロナの被害が大きくなることは欧米の例を見れば明らかだ。7月4日には小池百合子都知事は都外への移動自粛を要請し、緊張感が高まってきている。 緊急事態宣言等で抑えた第1波の再燃にどう対応していくのかという点は、日本だけでなく、世界の国々が共通して頭を悩ます課題となっている』、世界的な権威の見方とは興味深そうだ。
・『世界的に感染は勢いを増している  第1波を抑え、ロックダウンや緊急事態宣言を解除したアジアや欧州の各国では、経済活動の再開とともに、感染の再燃を繰り返している。ある程度の再燃は当然予想されたことであるものの、今秋以降に予想される世界的な第2波に向けて、「検査・追跡・隔離」と医療体制の準備を進めようとしていた矢先の度重なる再燃は、各国においても大きな不安を投げかけている。 第1波の初期対応に失敗した米国では、早期に解除をした州で感染の再拡大が起こっており一部の州ではバーやレストランの再開を停止した。ワシントン大学保健指標評価研究所のシミュレーションでは、今のままの状況が続けば、早ければ米国では9月には第1波を超える第2波が来ることが予測されている。 同様に初期対応に失敗した英国でも、7月4日にバーやレストランが再開されたが、感染者が急増しているレスター市では、再びロックダウンが実施されている。初期対応の優等生であるドイツでも、食肉加工工場での集団感染が起こった西部の街では再度のロックダウンが行われている。さらに、スペインやオーストラリアでも地域封鎖が実施された。 さらに、欧米諸国では、経済を止めないために、夏休みシーズンを前に国境を再開しようとしているが、南半球の国々が第1波の荒波を受け、北半球の国々では第1波からの再燃を繰り返している状況で、国境再開がさらなる感染拡大を引き起こすことが懸念されている。 今秋以降に予想されている第2波を前に、世界中が全く予断を許さない状況が続いている。WHOのテドロス事務局長は「世界的な感染は加速しており、最悪の事態がこれから起きる可能性がある」と警告している』、確かに危機感を持って臨むべきだろう。
・『安易な楽観論は極めて危険  このような状況の中、日本国内には、「日本を含めアジア諸国は、感染が拡がらない特別なファクターがあるはずである」との楽観論も多い。勿論、その可能性は否定されるものでもないが、安心するのはそのエビデンスが確認できてからにするべきだ。 解除後にまず感染が増えるのは活動が活発な若者だ。それは韓国、米国、そして、東京でも変わらない。感染が急増しているアリゾナ州では若者が感染者の半数以上を占めており、バーやレストランの再開とともに感染が増加している。 米国CDC(疾病対策センター)のレッドフィールド所長は、「若者の多くは無症状の感染者で、知らないうちに感染を拡大させてしまっている。実際には報告感染者の最低10倍の感染者はいるだろう」と危機感を表している。東京都の感染者急増に関して、都の関係者や厚労省が、「若者が多く、軽症や無症状が多いから前回と異なる」という見解を示すことにより、危機感を払拭しようとしているのとは対照的だ。 重症化しやすい高齢者に比べて、若者は軽症や無症状感染者が多い。しかし、彼らが自らの感染に無自覚で活動を続けることで、感染をさらに広げていく可能性がある。特に、東京のような大都市でそのような潜伏患者が増えたら、症状のある感染者を特定して対応していくクラスター対策が、以前よりも効果の薄いものとなってしまうであろう。 筆者は、日本が第1波を抑え込めたのは、日本特有の「ファクターX」などではなく、1~2月の地道なクラスター対策で感染の急拡大を食い止められたことと、3月末のギリギリのタイミングによる自粛効果によるものであったと考えている。だが、今回はクラスター対策による時間稼ぎが難しくなる可能性がある。 また、今は死亡者は増えていないのだから慌てて対応を取る必要はないという意見もある。 解除後に、感染が再拡大している米国などでも同様に感染者数の増加に比べ死亡者の増加が抑えられている。それは、重い症状のある感染者のみならず軽症者へも検査するようになったこと、治療自体も改善してきたこと等がその要因と考えられる。しかし、この感染が次のステージに入り、リスクの高い人々に拡がってしまうと死亡率はすぐに上昇に転じる可能性があることを米国等の関係者は強く警戒している。 日本においても同様に、感染が次のステージに入り、リスクの高い人々に感染が広まれば、死亡率は上昇に転じるであろう。症状のある感染者を中心に検査をしていた第1波の頃は、感染から死亡までのタイムラグが2週間程度であったが、より早い段階での検査が広まってきている現在は3~4週間に延びていると考えられる。 このタイムラグの長期化は、第1波の時に比べると、同じ水準の死亡者数でも、その背後にある感染の拡がり・深刻度は、より大きなものになっていることを意味する。第1波の時と同じような感覚で死亡者が増え出してから対応をすると、感染拡大が止められなくなるリスクがあることに細心の注意を払う必要がある』、「東京都の感染者急増に関して、都の関係者や厚労省が・・・危機感を払拭しようとしている」、経済再開の狙いが見え透いていて問題だ。「タイムラグの長期化は・・・第1波の時と同じような感覚で死亡者が増え出してから対応をすると、感染拡大が止められなくなるリスクがあることに細心の注意を払う必要がある」、その通りだ。
・『全体像が見えない東京都のデータ  今回のような無症状の若者中心の感染拡大期には、ミクロに感染者を絞り込むクラスター対策が困難となるため、マクロの視点からの感染トレンドを、PCR検査の大幅拡充により的確に把握し、必要に応じて機動的かつ効果的なタイミングで再度の緊急事態宣言等を行える枠組みを整備することが何よりも重要となってくる。 そのPCR検査については、東京都の検査数は最近増えたとはいえ、毎日2000~2500件程度であり、患者の増加率や東京都の人口規模から言えば、まだまだ少ない。 ホストクラブなどの事例がセンセーショナルに大きく報道されているが、感染経路不明者が増加しており、それ以外の状況は全く不明だ。また、そうした報道によれば、検査を拒むケースも出てきている。ホストクラブ以外でも、一般の方の屋内の小規模な集会でも、若年層の無症状感染者等が動き回ることにより容易に広がる可能性はある。そして、仮に万全の感染対策をとっていたとしても、感染をゼロにすることは困難だ。 歓楽街以外にも市中感染が広がっていないか、病院や介護施設への感染の可能性はないかも含め、幅広いモニタリングが不可欠だ。 厚労省の専門家会議は休業再要請の指標を作成している。それは、直近1週間の人口10万人当たりの感染者数が2.5人以上というものである。東京都では、6月29日以降すでに厚労省の基準を超えている。しかし、東京都は6月30日に新たなモニタリング項目を定めたが、都民に警戒を呼びかける基準となる数値は設けられていない。もちろん基準を機械的に採用するのではなく総合的な判断が必要だが、曖昧さは否めない。 いま東京都に一番必要な事は、「誰もが信頼できる感染トレンドを示すデータの公表」の枠組みを整備することではないだろうか。最近の新宿を中心とした感染者数増加についても、楽観論者は「新宿区の10万円補助によりホストクラブ関係者が検査をこぞって受け始めた結果だ」と主張し、悲観論者は「感染爆発の入口に入っている」と受け止めている。つまり、現在の感染者数のデータは、都民の多くが感染トレンドの認識が共有できるものになっていない。 よりテクニカルに説明すれば、東京都からは、どのような状況の方々(例:疑いのある症状のある方、無症状の方等)が何人検査を受け、そのうち何人が陽性なのか、分母が公表されておらず、また、発症日の情報も公開されていない。感染状況を把握するための実効再生産数の推定も困難な状況であり、第2波に向けてのモニタリング体制の不備も明らかになってきている。 歓楽街に出入りする若者の感染が多いから前回と違うという説明のみでは、感染拡大は防ぐことはできない。今こそ、危機感を持って検査を徹底的にやり、タイムリーなデータの公表を進めるべきだ。オープンソースでデータ共有システムを開発し、プログラミングのコードまでも世界の人々と共有してきた東京都にできないはずがない』、「オープンソースでデータ共有システムを開発し、プログラミングのコードまでも世界の人々と共有してきた」、初めて知ったが、説得力溢れた主張だ。
・『自粛を繰り返さないために  皮肉なことではあるが、緊急事態宣言解除後の新型コロナの再燃は、自粛に大きな効果があったことを示している。 欧米における検証では、緊急事態宣言、ロックダウンなどによる社会的距離の徹底が感染拡大抑制につながったことが科学的に示されており、国際的コンセンサスになっている。そして、初期の迅速な対応を取ることができるかどうかで、その後の被害状況が大きく異なることも示されている。 しかし、ロックダウンや緊急事態宣言は、大きな社会経済的ダメージを引き起こす。日本をはじめ各国が経済活動をできるだけ早期に再開したいと考えることは当然であり、西村康稔新型コロナ対策担当大臣も「緊急事態宣言は誰もやりたくない」と会見で述べたが、まさに本音であろう。それでも、解除をすれば感染の再燃が起こり、感染が大きく拡大する局面となれば、緊急事態宣言やロックダウンの繰り返しをせざるを得なくなる。 しかも、今回の東京の例でも明らかなように、3密回避や新しい生活様式を守ることに一定の限界のある職種も多い。それは夜の街に限らず、医療や介護職でも同様だ。休業補償がない自粛に頼る限り、このしわ寄せは社会的弱者やエッセンシャルワーカーに来る。 新型コロナの感染リスクは個人の年齢や基礎疾患の有無に加えて、職場や生活環境などに大きく左右されることがよく知られている。誰が感染しているか分からない状況では、マスク着用や社会的距離をとることは非常に大切だが、画一的な対応だけでは社会を回すことはできない』、「3密回避や新しい生活様式を守ることに一定の限界のある職種も多い・・・画一的な対応だけでは社会を回すことはできない」、同感である。
・『それぞれの「新しい日常」のために圧倒的な検査拡充を  だからこそ、自分自身の感染の有無だけでなく、社会全体の感染トレンドの状況を正確に把握したうえで、各個人の感染リスク(同居人への感染も含む)や職業等のライフスタイルに合った、それぞれの「最適解」となる新しい日常を過ごせるようにするための環境整備が極めて重要になるであろう。そのためには、検査・追跡・隔離キャパシティの圧倒的充実が必要だ。 解除を決めた国は全て競うように検査体制を拡充している。筆者の勤務する大学の担当する地域は南ロンドンの貧困層であり、英国でも最もコロナの被害が大きかった地域だ。人口約200万でも、1日2万5000件のPCR検査ができるように急ピッチで対応を進めている。また、唾液検体を用いた在宅での自己検査のための実証が進められている。 PCR検査の目的は3つある。1つ目は、症状のある個別の患者にどのような治療が必要なのかを診断することである。2つ目には、感染拡大を防ぐために、無症状感染者を含めて予防的にスクリーニング・隔離すること、そして、3つ目は、再度の緊急事態宣言等が仮に必要な状況となった場合に、的確なタイミングでの迅速な対応を可能にするための感染トレンドの正確な把握をすること、である。これまでの日本の対策は、主に最初の目的に重きが置かれていた。しかし、感染トレンドを的確にコントロールをして、経済・社会を回すという目的には、後2者の視点が重要だ。 PCR検査ができるだけ多くの人々に幅広く行われるよう検査体制の拡充を進めつつ、特に感染抑制が必要な病院・介護施設の関係者やエッセンシャルワーカーについては定期的な検査を徹底することが不可欠だ。併せて無症状感染者や軽症者が代替施設で療養できるシステムも確立することにより、感染抑制のための総合的なインフラ整備を進めることが最優先となる。 感染者の隔離を進めて感染抑制をするとともに、医療機関からの定点サーベイランスを確立し、信頼性の高い感染トレンドのデータを公表しながら、万が一再度の緊急事態宣言が必要になった時も、最も効果的なタイミングで必要最小限の地域やセクターに対して機動的かつ緻密な措置をとることにより、経済への影響を最小限にとどめることを可能とする体制整備が、第2波に向けて必要となる。 来年に延期された五輪の無事の開催を望む方も多いと思うが、五輪開催には、「世界一安心なコロナ対策を実施する国・都市」となることが最低限必要だ。再選された小池都知事と国は、東京から世界一安心なコロナ対応をしている国・都市であることを誰もが信頼できるデータにより示していくべきだ』、説得力溢れた主張で、全面的に同感である。

第三に、7月17日付け東洋経済オンライン「新型コロナ、日本で重症化率・死亡率が低いワケ 高橋泰教授が「感染7段階モデル」で見える化」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/363402
・『東京都を中心に新型コロナウイルスの検査で陽性と判明する人が増加している。東京都は15日、警戒レベルを4段階のうち最も深刻な「感染が拡大していると思われる」に引き上げた。ただ、無症状者や軽症者が多く、専門家の間でもレベルを引き上げるかどうかでは意見が割れたという。また、2月から現在までの5カ月余りの間に日本で新型コロナにより亡くなった人は1000人に及ばず、例年のインフルエンザ死亡の3分の1にとどまる。新型コロナウイルスの流行当初の予測や欧米の被害実態とも大きなギャップがある。 国際医療福祉大学の高橋泰教授は、新型コロナの臨床に関わる論文から仮説を立て、公表データを使って「感染7段階モデル」を作成した。ファクト(事実)に基づくわかりやすいモデルで新型コロナの特性を説明し、適切な対策をとるための議論を活発化したいという。高橋教授に話を聞いた(Qは聞き手の質問、Aは高橋教授の回答)』、興味深そうだ。
・『新型コロナとインフルエンザには大きな違い  Q:足元では新型コロナウイルスの流行再拡大の不安が広がっています。10万人死ぬ、といった予測も流布していますが、先生はそうした見方を否定していますね。 A:発表されている数字はあくまでもPCR検査で判明した「PCR陽性者判明数」であり、正確には「感染者数」ではない。もちろん「発症者数」でもない。特に若年者の場合、PCR陽性者が発症する可能性は低く、多くが無症状・軽微な症状で治ってしまう。また「数十万人が死ぬ」といった予測は、新型コロナウイルスについての前提が間違っていると考えている。 Q:ではその辺りの説明と、作成された新型コロナの「感染7段階モデル」の狙いを教えてください。 A:新型コロナは、全国民の関心事ながら「木を見て森を見ず」の状態で全体像が見えてこない。そこで、ファクト(事実)を基に、全体像が見通せ、かつ数値化できるモデルを作ろうと思った。それが「感染7段階モデル」だ。新型コロナの感染ステージをStage0からStage6までの7段階に分けて、それぞれに至る確率やそれに関わる要因を見える化したものだ。 新型コロナウイルスは、初期から中盤までは、暴露力(体内に入り込む力)は強いが、伝染力と毒性は弱く、かかっても多くの場合は無症状か風邪の症状程度で終わるおとなしいウイルスである。しかし、1万~2.5万人に1人程度という非常に低い確率ではあるが、サイトカイン・ストームや血栓形成という状況を引き起こし、肺を中心に多臓器の重篤な障害により、高齢者を中心に罹患者を死に至らせてしまう。 このウイルスの性質の特徴は、自身が繁殖するために人体に発見されないように毒性が弱くなっていることだ。したがって、一定量増殖しないと人体の側に対抗するための抗体ができない。そしてまれに宿主となる人体の免疫を狂わせ殺してしまうこともある。 日本も含めた各国でそれぞれ数十万人死亡するというような、当初流布された予想は大きく外れた。その原因はインフルエンザをベースとしたモデルを使っているためだと思われる。2つのウイルスには大きな違いがある。 Q:新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの違いをご説明ください。 A:病原体が体内に入ると、まず貪食細胞(マクロファージ)などを中心とする自然免疫が働く。次に数日かかって獲得免疫が動き出し、抗体ができる。 (注)自然免疫: 侵入してきた病原体を感知し排除しようとする生体の仕組み。外敵への攻撃能力はあまり高くないが、常時体内を巡回している警察官に相当する。 獲得免疫:病原体を他のものと区別して見分け、それを記憶することで、同じ病原体に出会ったときに効果的に排除する仕組み。1種類の外敵にしか対応しないが殺傷能力の高い抗体というミサイルで敵を殲滅する軍隊に相当する。 インフルエンザの場合は、ウイルス自体の毒性が強く、すぐに、鼻汁、咳、筋肉痛、熱と明らかな症状が出る。暴れまくるので、生体(人の体)はすぐに抗体、いわば軍隊の発動を命令し、発症後2日~1週間で獲得免疫が立ち上がり、抗体ができてくる。よって、抗体検査を行えば、ほぼ全ケースで「陽性」となる。多くのケースにおいて生体側が獲得免疫で抑え込み、1週間~10日の短期で治癒する。だが、抑え込みに失敗すると肺炎が広がり、死に至ることもある』、なるほど。
・『毒性が弱いので獲得免疫がなかなか立ち上がらない  新型コロナはどうか。今年5月6日のJAMA Published online(The Journal of the American Medical Association、『アメリカ医師会雑誌』)に発表された「新型コロナの診断テストの解釈」という論文に、新型コロナは抗体の発動が非常に遅いことが報告された。 私の研究チームはこの現象を、新型コロナは毒性が弱いため、生体が抗体を出すほどの外敵ではなく自然免疫での処理で十分と判断しているのではないかと解釈し、「なかなか獲得免疫が動き出さないが、その間に自然免疫が新型コロナを処理してしまい、治ってしまうことが多い」という仮説を立てた。 こうした仮説で想定した状態が実際に存在するなら、この時期の人は無症状または風邪のような症状であり、自身が新型コロナに感染したという自覚がないうちに治ってしまう。もしこの時期にPCR検査を行えれば、新型コロナは体にいるのでPCR陽性となることもある。一方、まだ抗体はできていないので、抗体検査を行えば当然「陰性」となる。そして、その後、症状が進んで獲得免疫が発動しても新型コロナを抑え込めなかったごく一部の人でサイトカイン・ストームが起きてしまい、死に至ることもある。 (注)サイトカイン・ストーム:免疫システムの暴走。免疫細胞の制御ができなくなり、正常な細胞まで免疫が攻撃して死に至ることもある。 Q:第2波が来たら日本は脆弱だという見方も根強くあります。 A:抗体検査を行ったところ、ロンドンで16.7%、ニューヨークは12.3%、東京が0.1%だった。これをインフルエンザと同じような感染症モデルで考えると、東京では感染防止は完璧だったが、抗体を持つ人が少ないので、次に防御に失敗したら多くの死者が出る、という解釈になる。このような解釈には、強い疑義を持つ必要がある。 日本は強力なロックダウンを実施しておらず、新型コロナに暴露した人が欧米より極端に少ないとは考えにくい。むしろ先に述べた「これまで多くの人が新型コロナにすでに感染しているが、自然免疫でほとんどの人が治っている」という仮説に立って、抗体ができる前に治っているので、抗体陽性者が少ないと考えるほうが自然であろう。 この仮説を用いれば、無症状のPCR陽性者が数多く発生している現状の説明もできる。第2波が来ても、自然免疫の強さは日本人にとって強い助けとなり、再び欧米より被害が軽くなるという考え方が成り立つ』、「日本・・・「これまで多くの人が新型コロナにすでに感染しているが、自然免疫でほとんどの人が治っている」という仮説に立って、抗体ができる前に治っているので、抗体陽性者が少ないと考えるほうが自然であろう」、なるほど面白い見方だ。
・『日本では暴露した人が多いが自然免疫で98%治癒  Q:「感染7段階モデル」により新型コロナの感染や症状に関わる要因を数値化してみたということですね。 A:新型コロナの患者数を予測するために使えるデータが現状では非常に限られる。かかった人の重症化率や死亡率という最も基本的なデータすらない。 新型コロナの全体像を把握するためには、全国の暴露者数を推計することが大切なので、①全国民1億2644万人、②年代別患者数の実数値、③抗体陽性率推計値(東京大学の推計と神戸市民病院の推計)を使って、パラメータである暴露率(新型コロナが体内に入る率)をいくつか設定し、動かしながら、実際の重症者や死亡者のデータに当てはまりのよいものを探るシミュレーションを行った。 シミュレーションの結果の概略はこうだ。 まず、国民の少なくとも3割程度がすでに新型コロナの暴露を経験したとみられる。暴露率はいろいろやってみたが、30~45%が妥当だろう。そして、暴露した人の98%がステージ1かステージ2、すなわち無症状か風邪の症状で済む。すなわち自然免疫までで終了する。 獲得免疫が出動(抗体が陽性になる)するステージ3、ステージ4に至る人は暴露者の2%程度で、そのうち、サイトカイン・ストームが発生して重症化するステージ5に進む人は、20代では暴露した人10万人中5人、30~59歳では同1万人中3人、60~69歳では同1000人中1.5人、70歳以上では同1000人中3人程度ということになった。 あくまでもデータが限られる中での大ざっぱなシミュレーションだが、今後、データがもっと明らかになれば精緻化できる。) Q:欧米との死者数の違いに大きな関心が寄せられています。 A:日本の死者数が欧米の100分の1であることについて、以下のような3つの要因の差という仮説で試算を試みた。 まず、第1に暴露率。日本の場合、重症化しやすい「高齢者の暴露率」が低かったのが効いたのではないか。例えば特別養護老人ホームではインフルエンザやノロウイルスの流行する季節は家族の面会も禁じている。これらウイルスに対する対策も取られている。高齢者の外出自粛など自発的な隔離も積極的に行われた。他方、海外では介護施設や老人ホームのクラスター化による死者数が多い。「高齢者の暴露率」は日本が10%、欧米が40%と設定してみた』、「国民の少なくとも3割程度がすでに新型コロナの暴露を経験・・・暴露した人の98%がステージ1かステージ2、すなわち無症状か風邪の症状で済む。すなわち自然免疫までで終了する。 獲得免疫が出動(抗体が陽性になる)するステージ3、ステージ4に至る人は暴露者の2%程度で、そのうち、サイトカイン・ストームが発生して重症化するステージ5に進む人は、20代では暴露した人10万人中5人、30~59歳では同1万人中3人、60~69歳では同1000人中1.5人、70歳以上では同1000人中3人程度ということになった」、あくまでも同氏のモデル上の結果ではあるが、あまり深刻視する必要はなさそうだ。
・『自然免疫力のわずかな差が大きな違いを生む  第2に、自然免疫力。自然免疫で治る人の比率が欧米より日本人(アジア人)のほうが高く、その結果「軽症以上の発症比率」が低くなるが、抗体陽性率も低くなる。自然免疫力(特に細胞性免疫)の強化にBCGの日本株とロシア株が関与した可能性は高いとみている。 「(暴露した人の)軽症以上の発症比率」については、自然免疫力が標準分布と仮定し、シミュレーションの結果を当てはめると、自然免疫で処理できる率が日本人は98%で、対応できないのは2%ということになる。 日本では、新型コロナにかかった人が次の人にうつしても、その大半が自然免疫で処理され、次の人への感染につながらない。すなわち新型コロナ感染のチェーンが切れやすい。よほど多くの人に暴露を行わないと、そこで感染が途切れる可能性が高い。一方、抗体陽性率から考えると欧米では自然免疫で対応できずしっかり発症する人が、日本よりもはるかに多いと考えられるので、「軽症以上の発症比率」を日本の5倍の10%と想定した。 日本と欧米の自然免疫力の差をそれぞれ2%と20%と想定すると、両者の差はわずかに見えるかもしれないが、このわずかな差が欧米と日本の新型コロナ被害の大きな差を生んだ可能性が高い。欧米では感染後、しっかり発症して他の人にうつす、再生産確率が高いため、日本と比べて感染スピードが速く、かつ感染拡大のチェーンが途切れないということになる。 第3は、「発症者死亡率」。日本は欧米に比べて低いと考えられる。その理由としては、欧米人に比べて血栓ができにくいことがある。サイトカイン・ストームが起きても、日本のほうが重症化する可能性が低いと考えられる。「発症者死亡率」は、日本では0~69歳で0.01%、70歳以上では40倍の0.4%だが、欧州は0~69歳で0.05%、70歳以上が2%とした。 他の条件は変わらないという前提で、このような数字を設定すると、10万人当たり日本の死亡者は0.9人、ベルギーの死亡者は82人となり、現在の実態とほぼ一致する。「暴露率、軽症以上の発症比率、発症者死亡率の数字の設定はもちろん仮説的なものであり信頼性は低い。だが、全部の数字を掛けたり足したりして求められる日本の死亡率が、欧米の死亡率の100分の1になる必要があるので、3要因のいずれか、またはすべてにおいて、日本が欧米に大きく勝っていることは間違いない』、「自然免疫力・・・の強化にBCGの日本株とロシア株が関与した可能性は高い」、通説が一応裏付けられたようだ。ただ、「10万人当たり日本の死亡者は0.9人、ベルギーの死亡者は82人・・・」、何故、「ベルギー」のような小国が出てくるのだろう。
・『死者は最大で3800人、検査ではなく重症化対策を  Q:緊急事態宣言の解除後は「感染者数」、正確には検査でPCR陽性とわかった人の数ですが、増えています。しかし、自然免疫で98%も治るとすれば、とるべき対策は違ってきます。 PCR検査でどこから見ても元気な人を捕捉することには大きな問題があると考えている。PCR検査はコロナウイルスの遺伝子を探すものなので、体内に入って自然免疫で叩かれてしまい他の人にうつす危険性のないウイルスの死骸でも、陽性になってしまう。発症可能性がゼロに近い抗体陽性者でも、再度新型コロナウイルスが体内に入った時点で検査を行えば陽性になる。 また、新型コロナウイルスにとって東京は人口密度が高く、そうした中でもいわゆる3密を形成するような、ウイルスが生き延びるための条件が揃う場所がある。だが、地方ではそうした場所ができにくい。98%自然免疫で処理されるので、人が密集していないと、次の人にうつしていくチェーンがすぐ途切れてしまうからだ。 Q:7月15日、東京都は警戒レベルを最高に引き上げました。しかし、怖くなってまた活動制限を行うことは適切ではないということですね。 A:日本ではこれまでのところ、人口10万人に対し0.8人が亡くなっている。われわれは自然免疫の存在を重視しており、それを前提としたシミュレーションでは、新型コロナウイルスが現状の性格を維持する限り、どんなに広がっても10万人中3人以上、つまり全国で3800人以上死ぬことはなさそうだというのが、結論の一つだ。 一方、人口10万人に対して16人、全国で2万人強が自殺で亡くなっている。過去に景気が悪化したときは3万人を超えて10万人当たり24人になった。そうであれば、10万人対比で見て、新型コロナによって2人亡くなるのを防ぐために、景気悪化で8人の死者を増やすのかということになる。対策のメリットとデメリットのバランスを考えないといけないのではないか。 また、ステイホームによって肥満の人が増えると、ACE2受容体が増加し、新型コロナの感染リスクも血栓形成のリスクも高まる。社会活動の停止で暴露率は下がっても、感染率や重症化率が上がる。そうしたバランスも考える必要があるだろう。 (注)ACE2受容体:新型コロナウイルスのスパイクと結びついて、細胞の中に取り込んでしまい、感染が成立する。子どもにはほとんどなく、年齢が上がると増える。また、高血圧や糖尿病でも数が増える。 Q:年齢やリスクに応じた対策を打つべきだということになります。 A:30歳未満では重症化リスクは限りなくゼロに近いのに、対面授業を行わないとかスポーツをさせないというのは誤った政策だと思う。対面での教育が行われず、オンライン教育のみにすることの弊害のほうがずっと大きい。平常に戻すべきだ。そして、そこで学生からPCR陽性者が出てもマスコミが騒がないことが重要だ。明らかな症状が複数の学生に現われる集団発生が起きてはじめて、報道を行い学級閉鎖を行えばいいのではないだろうか。 30~59歳も通常の経済活動を行ってよいはずだ。罹患した場合は症状に応じて自宅待機などを行い、集団発生すれば職場の閉鎖をすればよい。70歳以上の高齢者は流行している間は隔離的な生活を維持せざるをえないだろう。何度も言うが、感染リスクはある。しかし、2%未満の重症化リスクを減らせばいい』、「PCR検査は・・・他の人にうつす危険性のないウイルスの死骸でも、陽性になってしまう」、そんな問題があるとは初めて知った。「新型コロナウイルスが現状の性格を維持する限り・・・全国で3800人以上死ぬことはなさそうだ」、ちなみに昨日までの死亡者は984人だ。一安心させてくれる数字だ。「社会活動の停止で暴露率は下がっても、感染率や重症化率が上がる。そうしたバランスも考える必要があるだろう」、「30歳未満では重症化リスクは限りなくゼロに近いのに、対面授業を行わないとかスポーツをさせないというのは誤った政策だと思う」、などは同感である。
・『感染パターンを注視しつつ、社会活動は続けるべき  Q:すでに東京都の7月15日の会議では、PCR陽性で無症状や軽症の人を入院させているため病床が逼迫しつつあると報告されています。 A:肺炎や呼吸困難といった兆候が認められなければ宿泊所、無症状・軽症なら自宅待機といった変更が必要だ。老齢者の施設等の対策に重点を置くべきだ。 Q:先ほどウイルスの性格が変わらなければという条件付きでお話しされました。そこはいかがでしょうか。 A:第2波が来たと判断したら、最初にやるべきはPCR検査の拡大ではなく、ウイルスの遺伝子解析だ。従来と同じ型のものなのか、違うものが来たのかを判別することが重要だろう。感染者を捕まえて隔離することより、感染パターンを把握することが重要だ。感染力が上がったのか、毒性が強まって死亡率が上昇するのか。それに応じて対策も変わる。感染7段階モデルのようなものを作っておくと、そうした議論をすることが可能になる』、頷ける部分もあるが、全体的には通説とは大きく異なるユニークな見解で、私には正誤を判断することは出来ない。要はまだまだ分からないことだらけ、ということだけは確かなようだ。今後、解明がさらに進んで欲しいものだ。
タグ:全体的には通説とは大きく異なるユニークな見解で、私には正誤を判断することは出来ない 感染パターンを注視しつつ、社会活動は続けるべき 死者は最大で3800人、検査ではなく重症化対策を 自然免疫力のわずかな差が大きな違いを生む 日本では暴露した人が多いが自然免疫で98%治癒 毒性が弱いので獲得免疫がなかなか立ち上がらない 新型コロナとインフルエンザには大きな違い 高橋泰 「新型コロナ、日本で重症化率・死亡率が低いワケ 高橋泰教授が「感染7段階モデル」で見える化」 東洋経済オンライン それぞれの「新しい日常」のために圧倒的な検査拡充を 自粛を繰り返さないために 全体像が見えない東京都のデータ 安易な楽観論は極めて危険 世界的に感染は勢いを増している 「《東京都公表のデータでは全体像が見えない》“世界一安心な都市”になるために必要な2つのこと WHO事務局長上級顧問が提言「五輪開催の最低条件」」 渋谷 健司 文春オンライン 性急な情報化は、事態を悪化させる ウェブ化だけでは解決しない 検体管理の問題 施設間連携の問題 保健所側の問題 医師側の問題 アカウント管理の問題 国民を驚かせた「いまだにファックス」 「コロナの届け出「ファックスで保健所に提出」がやめられない理由 この機会に明らかにすべき本当の問題」 奥村 貴史 現代ビジネス (その15)(コロナの届け出「ファックスで保健所に提出」がやめられない理由 この機会に明らかにすべき本当の問題、《東京都公表のデータでは全体像が見えない》“世界一安心な都市”になるために必要な2つのこと WHO事務局長上級顧問が提言「五輪開催の最低条件」、新型コロナ 日本で重症化率・死亡率が低いワケ 高橋泰教授が「感染7段階モデル」で見える化) (医学的視点) パンデミック
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アパレル(その3)(コロナ禍「アパレル壊滅」の中 ワークマンが一人勝ち「真の理由」 強みは商品開発力だけではなかった、レナウン経営破綻の真因 アパレルと百貨店は「共依存崩壊」で淘汰・再編も、ユニクロ・セルフレジ特許訴訟「泥沼化」の内情 今度はGUも提訴へ) [産業動向]

アパレルについては、5月9日に取上げた。今日は、(その3)(コロナ禍「アパレル壊滅」の中 ワークマンが一人勝ち「真の理由」 強みは商品開発力だけではなかった、レナウン経営破綻の真因 アパレルと百貨店は「共依存崩壊」で淘汰・再編も、ユニクロ・セルフレジ特許訴訟「泥沼化」の内情 今度はGUも提訴へ)である。

先ずは、5月13日付け現代ビジネスが掲載したディマンドワークス代表・ファッション流通コンサルタントの齊藤 孝浩氏による「コロナ禍「アパレル壊滅」の中、ワークマンが一人勝ち「真の理由」 強みは商品開発力だけではなかった」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72488
・『窮地の3月・4月に見せた「底力」  日本全国の郊外ロードサイド立地を中心に868店舗を展開するワーキングウエア(作業服)チェーン、ワークマン(20年3月末現在、うちワークマンプラス業態は175店舗)。 地味なアイテムを販売する存在ながら、アウトドアやタウンウエアとしても使える機能的コスパアイテムがあるということで、18年からSNSで話題となり、さらにメディアやバラエティ番組でも頻繁に取り上げられることによって、昨年、一般ユーザーにも一気に知名度を高めた急成長中チェーンだ。 従来の作業服、作業用品需要以外に、アウトドアウエア、スポーツウエアを強化し、一般顧客の需要を増やしたことで、20年3月期のチェーン全店売上高は1220億円(前年比31.2%増、既存店売上高25.7%増)、営業利益は191億円(41.7%増)と9期連続の最高益を計上した。 新型コロナウィルスによる外出自粛、商業施設の休業が続く3月、4月のアパレル流通市場の中でも、3月の既存店の売上高前年比は17.7%増、4月も5.7%増。多くの上場アパレル専門店が3月は前年比25〜30%減、4月は60〜70%減といった窮地の中でも、前年比増収を続ける。 もっとも、同社は都心の駅ビルや近郊のショッピングセンターに出店する外出自粛、自主休業の影響を大きく受けた他社と比べて事情が違う。 まず、郊外ロードサイド立地に単独で出店している、社会インフラを支えるプロ向け店舗ということで、休業店舗が極めて少なかったこと(同社がHPで発表しているのはショッピングセンター内の9店舗の休業のみ、その他数日間の休業や時短営業店舗はあり)。次にメイン客層である「社会インフラに関わる働く人」の現場は稼働中であり、その需要に応え続けていたこと。また、4月は現場工事の自粛・中止はあったものの、一方でもともと取り扱っていた感染予防、衛生用品の需要が高まったこと。 そのため、他のアパレル専門店と対前年比の業績比較をして、ワークマンプラス(スポーツウエア・アウトドアウエア)が好調のため、という指摘は適切とは言えない。 一般メディアでは機能性商品開発力やコスパばかりが取り上げられることが多いが、当記事では、そういった表に見える商品力を裏で支える、同社の本当の強さ=ビジネスモデルに注目してみたいと思う』、確かに郊外をドライブしていると、「ワークマン」の店舗が目につくようになった。「3月の既存店の売上高前年比は17.7%増、4月も5.7%増」、とは大したものだ。
・『「持続可能」なフランチャイズ方式  ワークマンは、ホームセンターのカインズホームやスーパーマーケットのベイシアを展開するベイシアグループに属する唯一の上場企業だ。ワークマン単体のチェーン全体売上規模は年商1220億円だが、グループの合計年商規模は1兆円に迫る巨大流通コングロマリットである。 同社はチェーンストアと言っても、フランチャイズ(FC)方式の展開がメインである。全国868店舗の内訳は834店舗のFC店と34店舗の直営店だが、後者の直営店も、ほとんどが、いきなり6年のFC契約(後述)に踏み切れないオーナー候補のための「お試し体験用」(業務委託店舗と呼ぶ)や、トレーニング店舗やワークマンプラスのフラッグシップ店舗である。FC店の多さは、直営店を毎年徐々にFC店に移行し続けて来た結果だ。 店舗のフランチャイズ契約の対象者は、「ワークマンが見つけた新規出店物件から通勤時間30分以内に住む夫婦」が原則というのが面白い。 つまり、地域特性や地域イベントを理解する夫婦と契約を結び、6年ごとに更新をする。初回契約年齢制限は夫婦ともに50歳未満を条件に、平均初回契約年齢は子供に手がかからなくなる年齢に近い42歳。現在の全店長の平均年齢は52歳、最高年齢は70代までいるようで、リタイヤする際は6〜7割が次世代に引き継ぐという。たとえ後継者がいなくても、あとは本部が何とかしてくれるので心配はない。 年間定休日は年間22日で、営業時間は毎日朝7時開店、夜20時閉店。忙しいのは、社会インフラに関わる働く人々が現場に行く前の朝と、帰宅前に作業服、作業用品を買いに来る夕の2つの時間帯。 そんな来客状況の中で、旦那さんが店を開け、奥さんには子供を学校に送り出してから店舗に来てもらい、夜は19時前に上がらせて、家で夕食の支度をしておいてもらう。仕入も販売業務もシステム化されており、残業は5分程度。そのため、帰宅後、8時半には夫婦で一緒に食事がとれるというわけだ。 コンビニだと24時間営業のため、家族で働くことを前提にFC契約をするとすれ違いが起こり、家族関係が崩壊するケースが少なくないという話を耳にするが、同じFCでもワークマンの場合、収入がそこそこ伴えば(後述)、かなり持続可能な脱サラ・独立の選択肢ではないかと思われる』、確かに「持続可能な脱サラ・独立の選択肢」のようだ。
・『人件費の負担が軽い  同社のビジネスモデルの強みは、ローコストオペレーションと稼いだ利益を投資に回し続けるキャッシュフロー経営である。 一般の専門店の販売管理費、特に固定費の中で最も大きなウエイトを占めるツートップが、人件費と家賃(一般的に併せて経費の6割以上)である。同社はバリューのある商品を低価格で顧客に提供するためのローコストオペレーションを行うにあたり、この小売業の2大経費の負担を軽くするしくみを採る。 まず、人件費については、同社はフランチャイズシステムを採ることによって、大幅に軽減している。 本社の負担になるのは、本社に勤務する社員人件費と直営店を運営する人員の業務委託料のみで、チェーン全体売上比率の4.5%に過ぎない(20年3月期決算、以下同様)。一方、FC店のオーナーの収入と同アルバイト人件費は、各店が実際に稼いだ粗利益の中から一定割合が支払われる変動歩合のしくみで、チェーン全体売上高の10%程度である。 つまり、チェーン全体人件費のうち約7割に相当する分が粗利高に応じて支払えばよい変動費となっている。これであれば、本部の人件費負担リスクは小さいし、FCオーナーも頑張った分だけ収入が増えるというウィンウィン構造になる。 ちなみに、同社のFCオーナー募集資料によれば、同社の1店舗あたりの年間平均売上高である1億3800万円の場合、粗利連動の取り分から店舗経費が差し引かれて、オーナーに振り込まれるのは月平均120万円程度(報奨金含む)とのことだ。 オーナーはそこからアルバイトの人件費約40万円を支払うことになるが、残ったオーナー自身の報酬に相当する月80万円は、地方のサラリーマンの年収や、脱サラして一から独自のファミリービジネスを始める場合の収入の不安定さと比べても、決して悪くはない収入になりそうだ(同社フランチャイズ加盟説明資料より)』、「オーナー自身の報酬に相当する月80万円」、第二の人生としては、決して悪くない水準だ。
・『家賃も抑え、高い利益率を実現  次に家賃である。一般の衣料専門店は店舗を賃貸条件で運営し、その賃料は売上比率で10%前後から高い場合で20%近くに上るが、ワークマンの場合、チェーン全体売上高に占める地代家賃比率はたったの1.1%だ。 なぜ、同社の地代家賃比率が格段に低いかというと、ワークマンのほとんどの店舗が同社の所有物だからである。出店先が郊外立地のため、土地の取得も店舗の建設費もローコストで済むので、同社は店舗を賃借するのではなく、自ら取得してしまっているわけだ。 ワークマンの経営の肝は、人件費が変動経費化され、地代家賃は物件取得によってほとんどかからないため、販売管理費の中の固定費が低く済むという点だ。そのため、顧客が商品バリューを感じてもらえる低価格、低粗利率設定(粗利率36.2%; 2020年3月期)で販売しても、同社には営業利益がしっかり残る。 2020年3月期の営業利益は191億円。チェーン全体売上対比17%、決算書上の同社売上対比20.7%となり、ファーストリテイリングの11.2%(2019年8月期)、しまむらの4.4%(2020年2月期)あたりと比べても利益率が格段に高いことがわかるであろう。 稼いだ営業利益は税引き後、投資、すなわち新規出店のための物件取得や店舗改装、店舗作業を効率化させるための前向きなシステム投資に循環することになり、ますます、販売効率アップ、利益向上へとつながっていく。 コストを抑えて、価値のある商品を安く販売する。FCオーナーは持続可能な生活とまずまずの収入を得る。本部は儲けた利益で改善のための再投資を繰り返す。三方よし、キャッシュフロー経営のお手本のようなビジネスモデルと言える』、「経営の肝は、人件費が変動経費化され、地代家賃は物件取得によってほとんどかからないため、販売管理費の中の固定費が低く済む」、素晴らしいビジネスモデルだ。
・『まだまだ伸びしろがある  そんなローコストオペレーションの基盤の上に、ワークマン本社は更なる店舗販売効率アップの施策を次々に打ち続ける。 ひとつめは、プロ向け販売の朝と夕方が忙しいのに対し、比較的閑散としていた昼間の時間帯に対して、一般客に向けたスポーツウエア、アウトドアウエア需要を見込んだことだ。これが、ここ1年間で同社の売上が増えた主要因である。実際、一日あたり1店舗あたりの買上客数はここ2年間で110人から145人に増えているという。 次に、2019年3月期から始めたユニホームの法人営業である。日中、店舗の近隣の零細・中小法人向けに、本部のセールススタッフとFC店舗のオーナーが営業をかける。受注された商品は本部が調達し、FC店舗経由で法人に届けて店舗売上とする。いわゆる外商売上による上乗せである。 さらにクリック&コレクト、つまり、オンライン注文の店舗受け渡しの促進である。「3980円以上送料無料」問題で楽天市場から撤退した同社は、自社公式サイトでのオンライン通販、ローカル店舗受取に力を入れる。これにより、店舗在庫の活用もできるし、倉庫→各店舗の既存ルート便物流網も利用できるわけで、顧客もワークマン側も追加運賃を負担せずに済み、顧客も自分の都合で欲しい商品をスムーズに受け取ることができる。 これらのローコスト運営店舗と物流プラットフォームを活かせば、まだまだ来店機会、販売機会を上乗せし、生産性を上げるアイデアは出て来そうである』、「まだまだ伸びしろがある」、というのは確かなようだ。
・『コロナ禍にも強い財務体質  最後に、コロナ禍の休業に苦しむ流通業の中で、浮き彫りになった同社のビジネス構造の強さをもうひとつご紹介しよう。それはフリーキャッシュフロー(現預金)の厚さ、つまり、いざという時の手元資金の潤沢さ、言い換えれば有事耐久性の強さである。 下の表は、上場アパレル企業の直近の財務諸表(PL、BS、CF)を元に、期末のフリーキャッシュフロー(手元資金)が何カ月分の販売管理費を賄えるかを表した数字だ。 【計算式……フリーキャッシュフロー経費耐久月数(※筆者の造語)=期末フリーキャッシュフロー÷(年間販売管理費÷12)】 売上を上げるために必要な販売管理費には固定費と変動費があるが、小売業にとって固定費が大半を占める。固定費はいうまでもなく、何らかの事情で営業ができず、売上がゼロだったとしても払い出さなければならない経費であり、もしそのような状況に陥った時に、各社の手元資金が何か月持つかという話である。 大手上場衣料専門店の売上上位から、ファーストリテイリングは16.2か月、しまむらは6.8か月、青山商事は6.0か月、アダストリアは2.9か月、AOKIは4.5か月、ユナイテッドアローズは1.0か月、西松屋は10.6か月、パルは9.7か月分保有する。これに対して、ワークマンは22.3カ月分ものフリーキャッシュフローを有する(すべて直近四半期決算短信を元に、経過期間月数で計算)。 あくまでも、これらの数字は、各社の決算期末という断片的に切り取った数字であり、大手企業であれば、借り入れなど資金調達手段はあるので、そう簡単に資金ショートを起こすことはないだろう。 一般的に小売業は店舗を開けていれば、日銭が稼げ、資金が回せるので、手元資金(現預金)をたんまりと持っている必要はなかったが、こうして計算してみると、各社の手元資金は意外と潤沢とは言えない企業もある、というのが筆者の印象だった。 しかし今、新型コロナウィルスショックにより、3月の後半および4月、5月は営業自粛でオンライン通販以外ではほとんど売上が立たない、まさしく有事の状況となった。 有事の時は手元資金がモノを言う。一定月数の手元資金があれば、目先にあたふたせず、落ち着いて未来を考えることができることを、今回、多くの企業が思い知らされたことであろう。そして、このような事態は今後、もう二度と起こらないとは誰も断言できないわけだ。 そんな状況下で今、多くの企業が有事に備えて、かつ投資家にプレッシャーをかけられない範囲で、どれくらいの手元資金を持つべきかを考え、また販売管理費(固定費)の見直しを迫られていることだろう。 ワークマンのフリーキャッシュフローの販売管理費耐久月数が長いのは、同社が営業利益をしっかり稼ぎ、未来の出店やシステム投資に循環させるキャッシュフロー経営発想であること、そして、ローコストオペレーションの徹底により、そもそも販売管理費が低いためである。 商品開発力ばかりが話題になるワークマンであるが、実は、そのビジネス構造や経営発想からも学ぶことがたくさんありそうだ』、今後の展開が楽しみだ。

次に、5月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した流通ジャーナリストの森山真二氏による「レナウン経営破綻の真因、アパレルと百貨店は「共依存崩壊」で淘汰・再編も」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/238299
・『老舗アパレルのレナウンが民事再生手続きに入り経営破綻した。レナウンの破綻をめぐっては新型コロナウイルスの影響、EC(電子商取引)事業への出遅れ、さらに中国の山東如意科技集団見限り説など諸説ある。しかし、真因は別にある』、興味深そうだ。
・『レナウンを“経営破綻の淵”に追い詰めた百貨店業界  レナウンの経営破綻については、「中国企業の傘下に入って以降の経営の混乱」や「EC(電子商取引)の出遅れ」が原因という説が目立っている。 もちろん、それは正しいし、直接的にはレナウンの53%の株を保有している山東如意の香港子会社から売掛金53億円を回収できず、山東如意自らが苦境に陥る中で、レナウンを踏み台にして経営破綻の引き金を引いたからだろう。 しかし、レナウンの経営破綻の“真因”はもっと別のところにある。 実は、レナウンを真綿で首を絞めるようにして“経営破綻の淵”に追い詰めていったのは、言うまでもない。百貨店業界なのだ。 「どんなもの持ってきてくれたの。これ、あまり売れないんじゃない。まあ、いいや。検討するから」 ある日の百貨店バイヤーと大手アパレルの担当者とのやり取りだ。 そう、多くの百貨店のバイヤーはこれまで、アパレルメーカーがシーズンごとに持ってくる商品から選んで売り場に並べる手配をするだけ。 あとは、アパレルから派遣された店員が百貨店の売り場で販売を行い、売れなかったら、アパレルにリスクを取ってもらって返品という見事なまでの「ノーリスクの仕組み」が展開されてきたことは、周知の通りだ』、「レナウンの53%の株を保有している山東如意の香港子会社から売掛金53億円を回収できず、山東如意自らが苦境に陥る中で、レナウンを踏み台にして経営破綻の引き金を引いた」、中国企業頼みが裏切られたようだ。ただ、「経営破綻の“真因”は」「百貨店業界」、はその通りなのだろう。
・『多くの百貨店バイヤーは“ぬるま湯”に浸かっている  多くの百貨店バイヤーは、自らの目利きで商材を探し、仕入れてくるという本来の業務を忘れ、アパレルメーカーが運んでくる商品をひたすらチョイスするという“ぬるま湯”に浸かった状態だ。 硬直化した商慣習が百貨店の衣料品の弱体化を招き、消費者から百貨店の衣料品離れを加速させたのは間違いないところだろう。 百貨店とアパレルは抜き差しならぬ関係とでもいうか、「共依存」とでもいうべき関係を築きあげてきた。あたかもサンクチュアリのように』、ただ、「百貨店」自体も殿様商売は許されなくなってきた。
・『オンワードのSC向け「組曲」に百貨店がクレーム  それを象徴するこんなエピソードがある。 百貨店の衣料品不振が鮮明になってきた2005年、オンワード樫山(現オンワードホールディングス)は百貨店以外の新たな販路を築こうと当時、台頭していたショッピングセンター(SC)向けのブランド、「組曲SiS(シィス)」「組曲FAM(ファム)」を売り出そうとした。 しかし、ここで百貨店からクレームがついた。) 「組曲」といえば、オンワードが百貨店ブランドとして流通しており、百貨店側から「SC向けに、少しだけ名前を変えて販売するのはけしからん」と、同じ「組曲」をつけての販売はまかりならぬという注文がついたのである。 百貨店が組曲の育成にあたって出資したわけでもなく、法的な制約もない。ひたすら、“長年の関係”を持ち出して「けしからん」というだけである。 結局、オンワードでは、組曲のブランド名を外し「any SiS(エニィスィス)」「any FAM(エニィファム)」にブランド名を変えて販売、現在に至っている。 アパレル側もオンワードが6割超、レナウンンも6割の売上高を百貨店に依存。そんな中で、百貨店の発言は絶対。従うしか、なかったのである。 仮定の話ではあるが、レナウンにしても、オンワードにしても百貨店の衣料品が曲がり角を迎え、凋落傾向に入った時点でSCやECに本格的にかじを切っていれば、レナウンは今日のような事態を免れていたかもしれない。 しかし、オンワード樫山の「組曲」のように、アパレルが新しいことをしようとすると、つねに百貨店から“監視の目”が入った。 アパレルが自ら作り上げたとはいえ、百貨店との商慣習に縛られ続けたのだ』、「百貨店」も「アパレルが新しいことをしようとすると」邪魔するとは、大人気ない。
・『アパレルの淘汰は百貨店の危機を招く  レナウンが中国の山東如意に翻弄(ほんろう)され、経営破綻した今回の件だが、アパレルの中でも“特殊なケース”とみるのは早計だ。 アパレルの淘汰(とうた)は、回り回って百貨店にも大きな影響を及ぼすのは明白だ。 百貨店とアパレルは運命共同体であり、一心同体の関係にある。ゆえに、アパレルの淘汰が相次げば、百貨店自体も危機に陥る構図なのだ。 2019年の百貨店の商品別の売り上げ構成比は、食品が27.6%、衣料品が約29.2%、化粧品や宝飾品、貴金属など雑貨が約20%だ。 百貨店の利益は、インバウンド(訪日外国人)に人気の「化粧品」と、商慣習に守られた「衣料品」の2本柱が担っているのが実情だ。 食品の構成比が大きくなっているのだから、アパレルに依存しなくても平気ではないか」というご指摘もあろうが、いくら売り上げ構成が大きくなっても食品の利益貢献度は低い。 足元、コロナでインバウンドが霧消しているのは周知の通り。そこで主流だった中国人観光客らは利益率の高い化粧品を購入してくれたから、非常に良い顧客だった。 しかし、現在は、インバウンドの免税売上高はほぼゼロに近い状態だ。もちろん、この先も中国人をはじめ、多くの外国人観光客らが以前のように日本を訪れ、百貨店で買い物をしていくという保証はまったくない。 ましてや、衣料品の購入場所は、ECや低価格のカジュアル衣料品店に移行している。コロナ禍で百貨店やSCの営業休止が続いているし、過剰在庫問題にも苦しめられている。 「コロナの第2波、第3波が来れば、まず、体力のない地方の百貨店は経営危機を迎える」(証券アナリスト)のは確かだ。 つまり、百貨店、アパレルには共依存が生んだ悲劇ともいうべき「共倒れの構図」が待ち受けているのだ』、その通りなのだろう。
・『ささやかれる百貨店大手同士の再編  今、百貨店業界でまことしやかにささやかれている再編話がある。 それはずばり、大手同士の経営統合だ。地方百貨店の次に苦境は大手にも襲い掛かるという見立てだが、代表的なのが「高島屋」と「エイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)」の経営統合と「東武百貨店」と、「松屋」の経営統合だ。 また、再燃していると思われる方は相当な業界通だろうが、高島屋とH2Oは、かつて、伊勢丹の大阪進出にあたって“共闘”、株式まで持ち合っている。 アパレルをはじめとする取引先に無言の圧力がかかったのはいうまでもない。この関係を再び持ち出し、コロナ禍を乗り切ろうということか。 そして東武百貨店と松屋は、松屋の浅草店が東武鉄道の浅草駅にあることでも知られるように、もはや切っても切れない間柄で、東武鉄道は松屋の大株主でもある』、「百貨店大手同士の再編」も確かにありそうだ。
・『四面楚歌の状態に追い込まれるのは必至  その一方、アパレルもオンワード樫山などの持ち株会社であるオンワードホールディングスの20年2月期のECの売上高が前期比30.6%増の333億円、EC比率は13%に達してきており、百貨店離れは着実に進んでいる。 百貨店業界にとって“最後に駆け込む砦(とりで)”となってきたアパレル業界ではあるが、そのアパレル業界自体で淘汰が進み、“百貨店離れ”を引き起こしている。 やがて、百貨店はアパレルに依存できない状態に陥るのは明らかだろう。化粧品や宝飾品などのインバウンド需要も当面、まったく当てにできないとあって四面楚歌(そか)の状態に追い込まれるのは必至だ。 レナウンの経営破綻は、アパレル淘汰の序章であると同時に、百貨店の淘汰・再編の序章でもあるのだ』、「共依存」が進んだ「百貨店、アパレル」の今後の「淘汰・再編」に注目したい。

第三に、6月22日付けダイヤモンド・オンライン「ユニクロ・セルフレジ特許訴訟「泥沼化」の内情、今度はGUも提訴へ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/240953
・『セルフレジの特許侵害で取引先から訴えられているユニクロが、今度はGUでも同型のレジを全国に設置し始めた。特許訴訟の決着はまだついておらず、グレーのままでレジを全国展開するファーストリテイリング。いったい何が起こっているのか』、初めて知ったが、興味深そうだ。
・『特許訴訟中のセルフレジをGUにまで設置するファストリ  「GUの店舗に行ったら、セルフレジがユニクロと同じ形態に変わっていたんです。うちが特許権侵害行為差し止めの仮処分を求めている、あのレジです。店員さんに聞いたら、『5月20日に設置しました』と。ファーストリテイリングさんが何を考えているのか全く分からなくて、頭を抱えました」 そう嘆くのは、セルフレジの特許侵害についてファストリと争っているアスタリスク社の鈴木規之社長だ。 ファストリが全国に設置しているセルフレジは、商品のICタグを読み取り、かごをレジのくぼみに置いただけで決済できる。アスタリスク社は19年1月にこの仕組みと同様のセルフレジに関する特許を取得しており、同年9月、ユニクロに対して特許権侵害行為差し止めの仮処分を求めて東京地裁に申し立てた(詳細記事:https://diamond.jp/articles/-/217080)。 これに対しファストリは、特許そのものが無効であると主張して特許庁に無効審判を請求し、審理が進行中だ。さらにその後、ファストリはアスタリスクのセルフレジに関する別の特許も含めて計5件の無効申請を行う徹底抗戦ぶりだ。 「あれから毎日ファストリさんとの訴訟の資料作りをしている気がします」と鈴木社長は苦笑する。 仮処分申し立ての結果そのものは、2020年初頭にも結果が出るとみられていた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で裁判所や特許庁が業務を縮小し、審理がストップしてしまっていた。 訴訟の進展の見られぬ中、ファストリはユニクロだけでなくGUの店舗内のセルフレジも、いつの間にかユニクロと同型のレジへとひっそりと置き換えていた。 GUのセルフレジは、もともとはユニクロのレジとは違い、カゴを置いた後に扉を閉じる仕組みだった。これは、ファストリと東芝テックが共同で特許出願しているタイプだ。ところが今回、わざわざ訴訟中のレジと同型のレジに交換したのである。 GUの店舗を全国的に調査したアスタリスクは6月16日、今度はジーユーに対しても、特許権侵害行為差し止めの仮処分命令を大阪地裁に申し立てた。 「レジが交換されたのは、たまたまコロナの外出自粛期間でした。ですが調達から考えると、昨年末から用意していたはずだ」と鈴木社長は推測する。 GUのセルフレジに対してアスタリスクが仮処分申請したことについて、ファストリにコメントを求めたが期限までに回答はなかった。 昨年5月にファストリがアスタリスクの特許に対して請求している特許無効審判は、最近になってようやく進展が見られた。 6月5日、特許庁は「審決の予告」を行った。審決の予告とは、特許審判で被請求人に「無効審決」など不利な審決の前に出るものだ。つまり、アスタリスク側に不利な内容の結論になりそうだということだ。 ただし、その内容を詳しく見ていくと、どうやらそうともいえないようだ。 特許無効審判では、有効・無効の判断は特許単位ではなく請求項(クレーム)単位で行われる。1つの請求項でも有効とされれば侵害責任は生じるというわけだ。 今回の審決の予告では、ファストリが無効と訴えた特許の請求項1~4のうち、3つの請求項が無効とされた。これは、米国にある1つの特許に引っかかったからだ。 ただし、請求項3は無効とはならなかった。つまりアスタリスクの特許の一部は認められたというわけだ。 テックバイザー国際特許商標事務所弁理士の栗原潔氏は、「一般論として言えば、請求項3が生き残ったということは、『シールド部が、電波吸収層と、電波吸収層の外側に形成された電波反射層から成る』という構成要素をユニクロの機器が持っているか(あるいは、設計変更で持たないように回避可能か)が今後のポイントになる」と指摘した上で、「この点は実際に機器を開発している企業でないとわからない」と解説する。 また、審決の予告の場合は、無効とされた請求項について、60日以内であれば特許権者側が訂正をすることが認められる。これをアスタリスクがクリアできれば、審理は継続する。」』、「ファストリが」「GUのセルフレジ」を、「ファストリと東芝テックが共同で特許出願しているタイプ」から、「わざわざ訴訟中のレジと同型のレジに交換した」、よほど自信があるのかも知れない。
・『特許制度は大企業に有利という最大の問題点が浮き彫りに  ただし、知財の専門家の間では、審決の予告を出す特許庁の意図は、当事者に和解の可能性を探らせる効果があると判断した場合だと考えられている。 もちろんファストリ側も、特許が認められた請求項3に関して、セルフレジがそれを侵害していないと主張する戦い方もできる。 しかし、そもそもアスタリスク側はファストリにライセンス料を求めていただけだったので、金銭的な和解で解決可能だと見るのが妥当だ。 ただ和解するにしても、ファストリができるだけ有利に事を進めたいと考えた場合、考えられる作戦は「裁判の長期化」だ。 実はこの審決が確定した後、ファストリ側が「この審決自体が無効だ」と知財高裁に駆け込めば、ファストリは延長戦に持ち込める。 一方、セルフレジの特許侵害に関する裁判については、7月ごろに審理が再開することが決まった。コロナの影響で延びることも考えられるが、一般的には年内には決定が出る。仮処分が出ればレジを使えなくなるため、ファストリ側は和解するという見方が強い。 こちらもファストリ側は、仮処分ではなく本案訴訟(本訴、一般的な訴訟のこと)にさせて裁判所で決着したいと考えているだろう。仮処分ではなく本訴となった場合、仮処分の決定は先送りされ、最長で最高裁まで戦う可能性も出てくる。 そうなると、勝負を左右する要素の一つに、アスタリスク側の体力が関係してきてしまう。 現時点でファストリとの戦いのために、アスタリスクは弁護士や弁理士費用に月250万円を充てているという。中小企業にとって年間3000万円の出費は痛い。 「たまたま新型コロナの影響が小さかったため訴訟を続けられたが、業績が悪かったら戦えなかった」と鈴木社長は打ち明ける。 このまま仮処分も出ず、特許そのものの争いも知財高裁へと進めば、あと数年はセルフレジが何台置かれようと金は入らず、アスタリスク側にはただ費用だけが積み上がっていく。 知財コンサルタントの藤野仁三氏は、裁判の長期化は、特許制度の本質的な問題であると指摘する。 知財高裁は「後知恵による特許性の否定」を排除しており、特許が審決で無効とされる割合は減っている。 ただし、「裁判所で争う道は依然として残されているので、資金力の有無が最終的な結果に影響することは避けられない。裁判所も現行の制度は中小企業に不利という雰囲気を感じているようなので、それが本件にどのような影響を及ぼすかが今後のポイントだ」(藤野氏)。 ファストリとアスタリスクの戦いからはっきりとわかることは、特許紛争については圧倒的に資本力のある大企業が有利であるということだ。金がなければ、特許を持っていたとしても、そもそも最後まで訴訟を戦い切ることすらできない。 現状は、特許侵害は大企業の「やり得」になっている。ここに、問題の本質があるようだ。 ファストリは6月19日、東京・銀座に日本最大級のグローバル旗艦店「UNIQLO TOKYO」をオープン。その発表会の席上、柳井正会長兼社長は、「客のためになる店は栄える。店に意義があり、働く人が使命感を持ち、良い商品を売っている。行ってよかったという体験ができる。そういう店が生き残る。それ以外の店は今回のコロナでほとんどダメになる」と語った。 確かにその通りだが、世界のアパレル業界の潮流はその先を行っている。アパレルは下請けへの搾取構造がまかり通ってきた業界だ。ただ、社会的責任を果たすべく工場や協力会社を開示し、クリーンさを打ち出すアパレルが海外では急成長している。 商品はもちろん大事だが、顧客の目は厳しくなっている。UNIQLO TOKYOに並ぶレジのほとんどが、係争中のセルフレジだ。特許争いに審決が下されたときのファストリの振る舞いに本性が表れるだろう』、「特許紛争については圧倒的に資本力のある大企業が有利である・・・現状は、特許侵害は大企業の「やり得」になっている」、中小企業が不利にならないよう「特許紛争」の解決のあり方を見直すべきだろう。
タグ:「特許紛争」の解決のあり方を見直すべき 現状は、特許侵害は大企業の「やり得」になっている 特許紛争については圧倒的に資本力のある大企業が有利である 中小企業にとって年間3000万円の出費は痛い 特許制度は大企業に有利という最大の問題点が浮き彫りに わざわざ訴訟中のレジと同型のレジに交換した アスタリスク社 gu 特許訴訟中のセルフレジをGUにまで設置するファストリ 「ユニクロ・セルフレジ特許訴訟「泥沼化」の内情、今度はGUも提訴へ」 四面楚歌の状態に追い込まれるのは必至 ささやかれる百貨店大手同士の再編 アパレルの淘汰は百貨店の危機を招く オンワードのSC向け「組曲」に百貨店がクレーム 多くの百貨店バイヤーは“ぬるま湯”に浸かっている レナウンの53%の株を保有している山東如意の香港子会社から売掛金53億円を回収できず、山東如意自らが苦境に陥る中で、レナウンを踏み台にして経営破綻の引き金を引いた レナウンを“経営破綻の淵”に追い詰めた百貨店業界 「レナウン経営破綻の真因、アパレルと百貨店は「共依存崩壊」で淘汰・再編も」 森山真二 ダイヤモンド・オンライン コロナ禍にも強い財務体質 まだまだ伸びしろがある 経営の肝は、人件費が変動経費化され、地代家賃は物件取得によってほとんどかからないため、販売管理費の中の固定費が低く済む ワークマンのほとんどの店舗が同社の所有物 家賃も抑え、高い利益率を実現 オーナー自身の報酬に相当する月80万円 本部の人件費負担リスクは小さいし、FCオーナーも頑張った分だけ収入が増えるというウィンウィン構造になる ビジネスモデルの強みは、ローコストオペレーションと稼いだ利益を投資に回し続けるキャッシュフロー経営 人件費の負担が軽い 持続可能な脱サラ・独立の選択肢 「持続可能」なフランチャイズ方式 窮地の3月・4月に見せた「底力」 「コロナ禍「アパレル壊滅」の中、ワークマンが一人勝ち「真の理由」 強みは商品開発力だけではなかった」 齊藤 孝浩 現代ビジネス (その3)(コロナ禍「アパレル壊滅」の中 ワークマンが一人勝ち「真の理由」 強みは商品開発力だけではなかった、レナウン経営破綻の真因 アパレルと百貨店は「共依存崩壊」で淘汰・再編も、ユニクロ・セルフレジ特許訴訟「泥沼化」の内情 今度はGUも提訴へ) アパレル
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大学(その6)(教員全員が現役実務家の新学部誕生へ Yahoo!アカデミア伊藤学長が目指す教育とは?、北大学長 文科省が解任を通知 学長「不当な処分」、「かくて私は教授を『クビ』になった」大月隆寛、地方大学の窮状を語る) [社会]

大学については、昨年7月14日に取上げた。今日は、(その6)(教員全員が現役実務家の新学部誕生へ Yahoo!アカデミア伊藤学長が目指す教育とは?、北大学長 文科省が解任を通知 学長「不当な処分」、「かくて私は教授を『クビ』になった」大月隆寛、地方大学の窮状を語る)である。

まずは、本年4月2日付けBUSINESS INSIDER「教員全員が現役実務家の新学部誕生へ。Yahoo!アカデミア伊藤学長が目指す教育とは?」を紹介しよう。
https://www.businessinsider.jp/post-210272
・『会社役員や起業家など一線で活躍する現役実務家が教員を務める、日本ではほぼ例がない新学部が2021年4月、武蔵野大学に開設される(設置構想中、変更の可能性あり)。 学部長に就任予定なのは、ベストセラー『1分で話せ』で知られる、Yahoo!アカデミア学長の伊藤羊一氏。 伊藤氏は、「私の大学時代はバイト、バンド、デートばかりだった」と笑うが、設立にかかわる新学部ではこれまでにない実践に特化した教育を標榜する。 「学問と実践を分けるという考え方もありますが、どっちが正しいということではなく、バランスの問題だと思っている。今回はバランスの極を作ってみたい。日本の教育に何かしらの提案ができる可能性を提示したい」  教員陣の招へいや、カリキュラムつくりに奔走中の伊藤氏に、日本経済を取り巻く問題点や、目指す教育について聞いた』、「実践に特化した教育」、面白い試みだが、学問的裏付けのない「実践」のみで、学生が理解できるのだろうか。
・『在学中に起業目指す。教員に篠田氏ら  新学部は、起業家精神を意味する「アントレプレナーシップ学部」と命名。定員は60人で、在学中の起業を目指すという。社会人経験者を対象にした入試も予定している。 新学部の特徴は、講義を担当する教員全員が、起業家や会社役員など、現役の実務家である点だ。 「今はアカデミックとビジネス界が分断されている。実務家が大学で教えることもあるが、学部の教員みなが実務家ということは珍しいと思う。私もヤフーに勤めながら教えます。教員側はハードだけど、みんな面白いと言って賛同してくれた」 専任教員には、エール取締役・篠田真貴子氏、ERRORs・柏谷泰行氏、GRA岩佐大輝氏など約20人が就任し、それぞれ「本業」の傍ら、週3コマ(1コマ100分)の講義を担当する。 客員教員には、リバネス副社長の井上浄氏、元リクルートで教育者の藤原和博氏などの就任も予定している』、「講義を担当する教員全員が、起業家や会社役員など、現役の実務家」、「アカデミック」出身者が全くいないのはユニークだが、学生は果たしてついてゆけるのだろうか。
・『毎週1人、起業家をゲストに  「新学部では、実践に始まり実践に終わることを重視したい。とにかく双方向で対話し、ケーススタディを議論し、実践する。一方通行の講義ではなく、楽しい授業を展開したい」 講義では座学の割合は全体の10%に抑える方針だ。1年~4年まで必修科目になる「アントレプレナーシップ」の授業では、毎週1人、起業家をゲストに呼び話を聞く。 「4年間で約120人の起業家の話を聞くことになる。こういう人になれではなく、いろんな人がいることを知ってほしいと思っています。」』、「双方向で対話し、ケーススタディを議論し、実践する」、理想論ではあるが、「双方向で対話」が成り立つためには、学生にも一通りの基礎知識が必要なのではなかろうか。
・『日本が生き残る道は新事業への挑戦  伊藤氏があくまで実践にこだわるのは、人口減少が進んでいく日本が生き残るためには、新事業に取り組む人材を育てないといけないという危機感があるからだ。 「インターネット上にある情報量は増え続けている。 例えば照明やエアコンがインターネットにつながるIoTが普及してきたが、これからはもっと加速度的に増えていく。 例えばこの机とエアコンとスマホがつながったときに何ができるか。これまでは想像できなかった世界が必ず来る。そこにチャンスがある」 インターネットの普及により、店舗に行かなくても商品を探し、購入することは当たり前になったが、伊藤氏はこれまでのように、現実の行動をネット上でリプレイスする(置き換える)だけではない、新しい未来がやってくると指摘する。 「高度経済成長の時は、レールに乗っている人生が正しかったかもしれないが、今はこれをやれば正解という時代ではない。正解のない世界で、一人ひとりが決めていかないといけない。大学生がそれを考え実践する場を作りたい」』、意気込みは理解できる。
・『「僕の大学生活はとにかく『無』」  新学部の学部長という重責を担う予定の伊藤氏だが、自身の大学生活はどんなものだったのか? 「僕の大学生活は、とにかく『無』ですね。大学に行くって何だろうと。いや、それすら思わない学生で、バイト、バンド、デートばかりの毎日でした。 勉強して、人と話して、悩んで、ということをせず、ものすごい大事な時間を無駄にしてしまって、僕は社会に出てから苦労しました」 伊藤氏は東大卒業後、日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)に就職したが、人とコミュニケーションをとることが苦手で、仕事がうまくいかずうつ病になり、会社に行けなくなった時期もあったという。 「社会人になって修羅場をくぐって初めて学べることもあると思うけど、早いうちから『経験をためる経験』はたくさん積んだ方がいいと思う。 僕自身は悩むばかりで一歩踏み出すのに時間がかかってしまった。同じ悩むのでも、たくさん経験して、たくさん嫌な思いをして、たくさん悩んで、ときどき成功して、振り返りながら次に進む。そのサイクルを若いうちからたくさん踏んでほしい。 まあ、後悔はしても無駄なので、僕自身の学生時代は後悔していませんけど」』、「東大卒業後、日本興業銀行に就職したが、人とコミュニケーションをとることが苦手で、仕事がうまくいかずうつ病になり、会社に行けなくなった時期もあったという」、エリートではあったが、「人とコミュニケーションをとることが苦手」であれば銀行員失格で、挫折を経験したようだ。
・『「自分の人生は自分でリードする」  伊藤氏が学生に学んでほしいのは、経済的なチャンスをとらえて成功することだけではないという。 「人の笑顔に貢献したいという動機を持ってほしいし、もう一つは自分で自分の人生をリードするという気持ちを持ってほしい。 大きな事をドカーンと成し遂げなくても、自分で商売をやってみて、失敗して振り返って、自分の思いでチャレンジする人をひとりでも増やしたい。そうすることで、日本を変えたいと思っています」』、「武蔵野大学」のホームページでは、「アントレプレナーシップ学部」の詳細は下記のように未定のようだ。今後の展開を注目したい。
https://emc.musashino-u.ac.jp/

次に、6月30日付けNHK NEWS WEB「北大学長 文科省が解任を通知 学長「不当な処分」」を紹介しよう。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200630/k10012489001000.html
・『大学の職員らに対しふさわしくない言動があったなどとして、北海道大学が解任を求めていた名和豊春学長について、文部科学省が解任を通知していたことがわかりました。学長は「解任は不当な処分で取り消しの訴えを起こすなどの対応を検討したい」と話しています。 名和学長によりますと、29日、萩生田文部科学大臣の名で自宅に文書が届き、「学長に適さないと判断したことから、6月30日付けで解任する」といった内容の通知だったということです。 名和学長を巡っては、北海道大学が設けた「学長選考会議」が、去年7月、大学の職員らに対し、学長にふさわしくない言動があったなどとして、国立大学法人の学長を任命する権限がある文部科学大臣に解任するよう申し出ていました。 NHKの取材に対し、名和学長は「解任は不当な処分だ。どのような審査の結果この決定をしたのか、説明を求めるとともに、処分の取り消しの訴えを起こすことなどを含めて対応を検討したい」と話しています。 名和学長は、3年前の4月に学長に就任しましたが、体調不良を理由におととし12月から休職していました。 その後、体調は回復したものの、去年7月に大学側が文部科学大臣に解任を申し出たため、いまも復職していないということです』、「国立大学法人の学長」に対する初の「解任」とはいえ、「学長選考会議」からの「解任するよう申し出」から1年近くかかったのは、慎重過ぎた気がする。
・『28件の不適切な行為確認  文部科学省によりますと、去年7月、北海道大学から名和学長の解任の申し出があり、調査した結果、大学の役員や職員に対し、威圧的な言動など、合わせて28件の不適切な行為が確認されたということです。 これらを踏まえ、文部科学省は、国立大学の学長に適していないとして30日、名和学長を解任する処分をしたということです。 2004年に、国立大学が法人化されてから、学長が解任されたのは、今回が初めてです』、「28件の不適切な行為確認」、実際には氷山の一角である可能性もあるだろう。
・『萩生田文科相「誠に遺憾」  萩生田文部科学大臣は、記者会見で、30日付けで、北海道大学の名和豊春学長に対して解任処分を行ったことを明らかにしました。 そのうえで、萩生田大臣は、「私個人は名和氏と直接面識はないが、今回、北海道大学の選考会議の申し出を重く受け止め、法令に定める手続きにのっとって省内で検討を行い、慎重に判断した。国立大学法人の学長の解任は初めてのことであり、このような事態となったことは誠に遺憾だ」と述べました。 また、「少なくとも選考会というきちんと法的根拠のある会議の中で、代わるべきだと意見が出てきてしまったことは重たいことではないかと思う。これ以上、不正常な状態が北海道大学で続くことのほうが、現役学生たちに与える影響が大きいと判断した」と述べました』、「名和学長は・・・体調不良を理由におととし12月から休職していました」、実務的には学長代行が取り仕切っていたのだろう。
・『北海道大学広報課「大変重く受け止めている」  萩生田文部科学大臣が30日付けで北海道大学の名和豊春学長の解任を通知したことについて、北海道大学の広報課は、「本学としてはこの事態を大変重く受け止めている。解任に関する経緯など詳細について、あす記者会見を開いて説明したい」とコメントしています』、大学でのパワハラは、アカハラとも呼ばれ、必ずしも珍しくはないが、あの「北大」の「学長」までがそれで「解任」されるとは、やはり驚きである。

第三に、7月9日付けNewsweek日本版が掲載した民俗学者の大月隆寛氏による「「かくて私は教授を『クビ』になった」大月隆寛、地方大学の窮状を語る」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/post-93911_1.php
・『<民俗学者の大月隆寛氏が本誌に緊急寄稿。札幌国際大学を「懲戒解雇」された経緯と、経営難が続く地方大学が抱える問題とは>  勤めていた大学から「懲戒解雇」を申し渡された。北海道は札幌にある札幌国際大学という、今年で創立51年目になる小さな私大だ。地元の人たちには前身の静修短期大学という名前のほうが今でも通りがいいかもしれない。 こういう地方の私大のご多分に漏れず近年は定員割れが続き、わらにもすがる起死回生の策ということだったのだろうか、2019年度から外国人留学生を大量に入れるようになった。 ところが、その入れ方がずさんで、大学で学べるだけの日本語の能力の目安として留学生受け入れの条件になっている「N2」という日本語能力試験の基準をクリアしていない学生をたくさん入れてしまった。しかも、留学生を抱えた大学に課されている在学中の在籍管理──勉学面のみならず、一定時間以上のバイトをしていないか、など生活面含め──の義務の履行もいろいろ怪しげなまま、といった難儀な実態が昨年春の新学期早々から発覚。 これを何とか是正しようとあれこれ学内で当時の城後豊学長以下、同僚有志たちと対策を講じて頑張ったのだが、経営側がそれを察知して学長を解任しようと画策、暮れには議事録も明らかにしないまま新しい学長の選任を強行してしまった。 もうこれ以上内部での事態改善が求められないと判断した城後学長が、今年に入ってから入国管理局や文部科学省など外部の関係諸機関に実情を知らせ、同時に報道機関などにも協力を求めた結果、3月末に事態がいよいよ表沙汰になったという経緯が背景の舞台装置。経緯は3月31日付の毎日新聞や北海道新聞などに詳しい。 事実上解任された城後学長が3月31日に北海道庁で行った記者会見の場に同席していた、というのが私の「懲戒解雇」の理由の1つだ。その他、都合4点の理由がもっともらしく挙げられ「本学の関係者全体の名誉、組織運営の健全性を損なう行為」だから、と理由付けされていたが、要は「おまえ、前学長と一緒になって留学生を入れようとする経営側のやり方に盾突いて邪魔していただろう、けしからん」というだけのことだった。 「懲戒解雇」に当たるまっとうな理由も理屈も何も見当たらない代物でした、というお粗末さだ。とはいえ、売られたけんかは買わなきゃ損、という性格ゆえ、即刻けんか支度に掛かり、地位保全の仮処分などできる限りの法的措置を講じて全力で交戦中、というのが現時点での状況である』、「経営側のやり方」は余りに酷く、信じ難いほどだ。
・『どうしてこういうワヤ(注)なことになったのか。それは今後の法廷で明らかにされてゆくだろうし、その都度、できる限り世間の皆さまの目に触れるような機会をつくってゆくつもりだが、「グローバル化」の掛け声に流され留学生を考えなしに導き入れた結果、こういう地方の零細私大が抱える現状に関する個別具体の「リアル」は言葉にされず、大文字の言葉だけが飛び交う空中戦で「大学」問題は「処理」されてゆく。 「自己責任」の正義任せに大学の淘汰が叫ばれ、大都市圏の大規模大学だけが生き残り、地元に根差した小さな教育の場は国公立・私立を問わず枯れてゆくばかり。事は単に、北海道の片隅の小さな私大のやらかしたワヤ、というだけではない。最後に、その「どうして」を解く際の大事なカギになるだろう事実を少しだけ。 ・今年からこの大学の理事会に「嶋●和●」という名前が新たに加わっていること。 ・この御仁は以前から経営戦略会議で留学生受け入れの「アドバイス」をしており、天下り斡旋事件で有名な元文科省事務次官の前川喜平氏の片腕とされた人物であること。 現場からは、ひとまず以上です。北海道、今年の夏は肌寒いです』、「前川喜平氏の片腕」が「理事会」に加わったのは、経営側に有利に作用するのだろうか。それとも正常化に向かうのだろうか、当面の動きを注目したい。
(注)ワヤ:だめなこと。むちゃくちゃなさま(コトバンク) 
タグ:前川喜平氏の片腕 記者会見の場に同席していた、というのが私の「懲戒解雇」の理由の1つ 城後学長が、今年に入ってから入国管理局や文部科学省など外部の関係諸機関に実情を知らせ、同時に報道機関などにも協力を求めた結果、3月末に事態がいよいよ表沙汰になったという経緯が背景の舞台装置 城後豊学長以下、同僚有志たちと対策を講じて頑張ったのだが、経営側がそれを察知して学長を解任しようと画策 「N2」という日本語能力試験の基準をクリアしていない学生をたくさん入れてしまった。しかも、留学生を抱えた大学に課されている在学中の在籍管理──勉学面のみならず、一定時間以上のバイトをしていないか、など生活面含め──の義務の履行もいろいろ怪しげなまま、といった難儀な実態が昨年春の新学期早々から発覚 2019年度から外国人留学生を大量に入れるようになった。 札幌国際大学 「「かくて私は教授を『クビ』になった」大月隆寛、地方大学の窮状を語る」 大月隆寛 Newsweek日本版 北海道大学広報課「大変重く受け止めている」 萩生田文科相「誠に遺憾」 28件の不適切な行為確認 北海道大学が設けた「学長選考会議」が、去年7月、大学の職員らに対し、学長にふさわしくない言動があったなどとして、国立大学法人の学長を任命する権限がある文部科学大臣に解任するよう申し出ていました 名和豊春学長 萩生田文部科学大臣の名で自宅に文書が届き、「学長に適さないと判断したことから、6月30日付けで解任する」といった内容の通知 北海道大学 「北大学長 文科省が解任を通知 学長「不当な処分」」 NHK News web 東大卒業後、日本興業銀行に就職したが、人とコミュニケーションをとることが苦手で、仕事がうまくいかずうつ病になり、会社に行けなくなった時期もあったという 「僕の大学生活はとにかく『無』」 日本が生き残る道は新事業への挑戦 双方向で対話し、ケーススタディを議論し、実践する 4年間で約120人の起業家の話を聞くことになる 毎週1人、起業家をゲストに 講義を担当する教員全員が、起業家や会社役員など、現役の実務家 定員は60人で、在学中の起業を目指す 「アントレプレナーシップ学部」 在学中に起業目指す。教員に篠田氏ら 実践に特化した教育 Yahoo!アカデミア学長の伊藤羊一氏 学部長に就任予定 武蔵野大学 「教員全員が現役実務家の新学部誕生へ。Yahoo!アカデミア伊藤学長が目指す教育とは?」 BUSINESS INSIDER (その6)(教員全員が現役実務家の新学部誕生へ Yahoo!アカデミア伊藤学長が目指す教育とは?、北大学長 文科省が解任を通知 学長「不当な処分」、「かくて私は教授を『クビ』になった」大月隆寛、地方大学の窮状を語る) 大学
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女性活躍(その17)(「女性の社会進出」妨害する日本の悪習の正体 「役割の押し付け」「賃金格差」問題は山積みだ、「専業主婦に憧れる女性」がドイツにいない理由 1977年まで「働く自由」なかった既婚女性たち、伊藤詩織氏2題:第1回「世界で2億人の女性が"性器切除"を経験している」 女性「だから」は圧力になっている、「性被害を受け、13歳で母になる…アフリカの少女が流した涙」 何があっても、あなたは悪くない) [社会]

女性活躍については、5月29日に取上げた。今日は、(その17)(「女性の社会進出」妨害する日本の悪習の正体 「役割の押し付け」「賃金格差」問題は山積みだ、「専業主婦に憧れる女性」がドイツにいない理由 1977年まで「働く自由」なかった既婚女性たち、伊藤詩織氏2題:第1回「世界で2億人の女性が"性器切除"を経験している」 女性「だから」は圧力になっている、「性被害を受け、13歳で母になる…アフリカの少女が流した涙」 何があっても、あなたは悪くない)である。

先ずは、6月22日付け東洋経済オンラインが掲載したフリージャーナリストの吉川 ばんび氏による「「女性の社会進出」妨害する日本の悪習の正体 「役割の押し付け」「賃金格差」問題は山積みだ」を紹介しよう。
・『日本で女性の社会進出が叫ばれる一方で、「ジェンダーギャップ指数(男女格差指数)」は153か国中121位という結果からもわかるように、理想と現実は遠くかけ離れている。長年、女性が働きづらい状況が続く理由とは? フリージャーナリスト・吉川ばんび氏による新書『年収100万円で生きるー格差都市・東京の肉声ー』より一部抜粋・再構成してお届けする。 日本で「女性の社会進出」が大きくテーマに掲げられるようになって、すでに数十年が経過している。 しかしながら、世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)が発表した2019年の「ジェンダー・ギャップ指数」(グローバル・ジェンダー・ギャップ指数、世界経済フォーラムが毎年発表している、各国を対象に、政治・経済・教育・健康の4部門について分析した世界の男女格差指数のこと)において、日本は前年の110位からさらに順位が下がり、153か国中121位という悲惨な結果に終わった。 父親が絶対的な権威を持つ「家父長制」下に長らくあった日本において、仕事は男性のものであり、女性は家庭に入ることが一般的とされていた。女性への教育はさほど重要視されず、親世代からは「女はいい学校を出ると嫁の貰い手がなくなる」などと平気で教えられていたのだ。 そんな環境で、高い水準の教育や就労から遠ざけられていた女性たちは、突然、社会進出を推奨されることになった。 女性の社会進出自体は前向きで大変喜ばしいことであるし、そもそも性別のみで社会における役割を決められたり就労の機会を奪われたりすることは絶対にあってはならない。しかしながら、社会が女性に求める役割が大きく変化したことで、これまでの「家庭の人」という役割との狭間に取り残された女性たちもいるのは事実だ』、「ジェンダー・ギャップ指数」がさらに下がり、「153か国中121位」とはみっともないことだ。
・『「出産後の再就職」はまだまだ難しい  実際に、日本ではまだ「女」であるだけで就労の自由を制限されることがある。 就職活動の時点で、面接官から「彼氏の有無」や「結婚する予定」、さらには「出産後に育児を手伝ってくれる親族の有無」を聞かれることがある。このとき数年以内に結婚する予定があるか、子育てに協力してくれる親族が遠方にいるといった場合はほとんどマイナスに評価されるのだ。 さらに子どもを持つ女性たちにとって、出産後の再就職や転職はさらに難易度がはね上がる。企業の人事担当に話を聞くと、みな同じように「一人の採用枠に子どもがいる女性を含む複数人が面接を受けにきた場合、申し訳ないが、どうしても他の人より不利になってしまう」と漏らす。 その女性本人がどれだけ優秀だったとしても、会社側からすれば「子どもが熱を出すたびに休むのではないか」「早い時間に帰らないといけないのではないか」という不安から、男性の選考対象者のほうが条件的に有利になると言わざるを得ない、というのだ。 女性としては大変腹立たしいことではあるが、今の日本の現状を考えるに、人事担当の言っていることがまったく間違っている、とも言い切れない。企業にはより利益を生み出すであろう人間を面接で選別し、雇用しようとする動機があるためだ』、「人事担当」だけでなく、現場の管理者にとっても、結婚したり、「子どもを持つ女性」を部下に持つと、人繰りに苦労することになる。
・『「子育て」「家事」今も女性に押し付ける日本  女性の社会進出が掲げられていても、日本社会にはいまだに「子育ては女性のもの」「家事は女性がやるもの」といった風潮が根強く残っていて、多くの企業や人々が変わろうともせず、負の遺制に依存し、女性にその役割を押し付けているのだ。 国や政府はこうした問題には目もくれず、ろくな保障もしない。形だけ取り繕った「女性の社会進出」をうたい、そのため社会的土壌も育てず、保育所不足が深刻な状況下でも「重要なポストは任せられないけど、子どもがいる女性も当然働いてください。家事育児はもちろん女性で、男性はこれまでどおり仕事に重きを置いてね」と言わんばかりだ。 その結果がジェンダー・ギャップ指数121位であり、「保育園落ちた日本死ね!!」だったのだと思う 政府が「女性の社会進出」や「少子化対策」をうたうのであれば「子育ては女性がメインで行うべきもの」という日本の陋習(ろうしゅう)を、ここで断ち切るべきだろう。「女性の社会進出」と「育児は女性のもの」論は、令和を迎えた今でも矛盾が解消されることなく、子どもを持つ女性たちの首を絞め続けている。 テレビや雑誌などでは「貧困」がコンテンツにされやすいが、「女性の貧困」、特に性風俗や売春で生活費を稼いでいるケースなどはウケがよく、人気がはっきりと数字に反映される。 女性の、特に性産業に従事する人の貧困ばかりを扱うメディアたちは貧困問題を報じたいのではない。彼女たちを二重、三重に性的搾取しているだけであり、肝心な「女性が陥りやすい貧困」の背景には触れようともしない』、その通りだ。
・『解消されない「男女の賃金格差」  先述のどおり、日本ではまだ「女性が自由に職業選択をしながらひとりで生きていく」環境が整っているとは言えない。もちろん自分の思うようなキャリアを実現している女性も存在するが、そうはできない女性もまだまだ多い。 特に「女性が家庭に入ること」が一般的だった時代に結婚・出産をした女性たちは、就業経験がないまま「女性も働くのが普通」の時代に入ってしまった。しかし、例えば50代で職歴のない女性が就労の意思を持っていても、「ひとりで生きていけるだけの収入」を得られる仕事に就くことは難しい。 就労が困難な状況は夫婦共働きならまだしも、シングルマザーであればなおさら地獄だ。「労働政策研究・研修機構」が2018年に調査したデータによると、最低限度の生活も維持できないと考えられる統計上の境界線「貧困線」を下回っている世帯の割合は、母子世帯の貧困率は51.4%で、過半数を超えていた。父子世帯の22.9%、ふたり親世帯の5.9%と比べても、母子世帯の貧困率が圧倒的に高いことがわかる。 賃金差もいまだ大きい(画像:『年収100万円で生きる(扶桑社)』より) さらに、可処分所得が貧困線の50%を満たない「ディープ・プア」世帯の割合は、母子世帯が13.3%、父子世帯が8.6%、ふたり親世帯が0.5%だ。 困窮して追い詰められた女性の中には、昼の仕事とは別に売春や風俗の仕事を掛け持ちすることでなんとか食い繋ぐ人たちもいる。彼女たちの仕事は楽に稼げるものではないし、極めて高いリスクを伴う。それでも、生活を支えるためにはこうした働き方を選ばざるを得なかったのだ。 家父長制における「女は家庭に入るもの」といった考えは、女性によって培われたものではない。にもかかわらず、時代の変化の狭間に取り残された女性たちは「働く気があれば仕事は何でもある」「専業主婦で楽をしてきたのだから仕事に就けなくても自業自得」などと、安易に切り捨てられたりする。 「今の日本に男女格差はない」は、本当だろうか』、「母子世帯の貧困率は51.4%・・・父子世帯の22.9%、ふたり親世帯の5.9%と比べても、母子世帯の貧困率が圧倒的に高い」、「貧困」は教育を通じて、次世代にも引き継がれる可能性が高いだけに、「自己責任」と切り捨てずに、本腰を入れて対策に取り組むべきだろう。

次に、7月12日付け東洋経済オンラインが掲載したコラムニスト のサンドラ・ヘフェリン氏による「「専業主婦に憧れる女性」がドイツにいない理由 1977年まで「働く自由」なかった既婚女性たち」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/361433
・『かつて日本には「寿退社」という言葉もありましたが、今や女性が結婚後も働くことは珍しいことではありません。「結婚後も働くのは当たり前」と言いたいところですが、その一方でこの国には根強い「専業主婦願望」も見られます。 マイナビが実施した「大学生のライフスタイル調査」によると、2021年卒の女子大生・女子大学院生のうち、16.7%が将来は専業主婦になることを望んでいます。 6人に1人というと、数としてそれほど多くないかもしれませんが、「大学や大学院に通う女性」の中にも専業主婦になりたいと考える人がいるのはある意味、日本特有の現象かもしれません。 例えばドイツでは大学に通う女性に専業主婦願望の人はまずいません。今回は海外と日本を比べながら「日本の専業主婦願望の根底にあるもの」を考えてみたいと思います』、「寿退社」を知っているとは、相当な知日ドイツ人なようだ。
・『ドイツの女性は「専業主婦」に憧れない  筆者の母国ドイツでも今から30年以上前までは専業主婦をしている女性は珍しくありませんでした。ドイツで「家事」というと、「掃除」の優先順位が非常に高く、その中でも家の窓を常にピカピカに磨く女性が専業主婦の鑑だとされていました。 数年前、筆者がドイツに行った際、知人女性の実家に遊びに行きました。当時、彼女の母親は既に高齢だったにもかかわらず家の中は掃除が行き届いていて、もちろん窓ガラスもピカピカでした。 「あなたのお母さん、家の中をきれいにしていて凄いわね」と言ったところ、彼女は「母親はずっと専業主婦だったからね。でも、ワンピース一枚も買えない生活で、母親が一時期パートをしていたときは好きな服が買えて本当に幸せそうだった」と話していて、色々と考えさせられました。 彼女の実家は貧乏ではありません。むしろ裕福なほうです。それなのに、なぜ母親がワンピース一枚も買えなかったのかというと、日本で見られるような「夫が稼いだ給料を、専業主婦の妻が管理する」というスタイルはドイツにはないからです。 昔ながらのドイツの家庭では家計の管理は男性である夫がしていました。夫の収入が高くても、夫が「専業主婦である妻に微々たるお金しか渡さない」ケースも多かったのです。そのため「家自体は裕福」なのに、服もロクに買えず自分の好きなものにお金を使えない専業主婦が昔のドイツにはたくさんいました。 そのような母親を見て育った娘は当然ながら専業主婦になりたいとは思いません。ドイツで「専業主婦」というと「男性である夫にお金を管理されているかわいそうな女」のイメージがどうしても強いため、専業主婦に憧れる人はあまりいないわけです』、「昔ながらのドイツの家庭では家計の管理は男性である夫がしていました。夫の収入が高くても、夫が「専業主婦である妻に微々たるお金しか渡さない」ケースも多かった」、のでは、「ドイツで「専業主婦」というと「男性である夫にお金を管理されているかわいそうな女」のイメージがどうしても強い」、初めて知った。
・『かつては「男女不平等国」だったドイツ  日本では「ドイツは男女平等」だというイメージが浸透しています。確かに2019年の男女平等ランキングを見ると、153カ国中の日本の121位に対し、ドイツは10位でした。アイスランドやスウェーデンなどと比べるとおくれをとってはいるとはいえ、ドイツは世界の中でも男女平等が進んだ国だといえるでしょう。 そのため筆者を含むドイツ人は「男女平等が進んでいない国」に対して厳しい見方をしがちですが、そのドイツも「ついこの間まで」は実にひどい状況でした。 既婚女性が仕事をする場合、ドイツの法律では1977年までは「夫の同意」が必要でした。既婚女性が働く場合は職場に「妻が働くことに同意します」と書かれた夫からの同意書(証明書)を提出しなければなりませんでした。それというのも、ドイツには1977年まで「既婚女性は家事をする責任がある。既婚女性の仕事は家事や家庭に差し支えない範囲でのみ可能」という法律があったからです。 ところで先ほど「専業主婦である妻に微々たるお金しか渡さないドイツ人の夫」の話を書きましたが、1958年までは法律上、夫のみに妻や子に関する決定権があったため、妻が外で働いている場合も「妻の給料は夫が管理する」ことが普通でした。 日本と比べると、今もなおドイツでは金銭にシビアな男性が多いのは、あの頃の名残なのかもしれません。 ドイツで専業主婦願望の女性が少ないのは、金銭感覚がシビアな男性が多いからだけではありません。ドイツでは「学んだ分野の仕事に就く」のが理想だとされています。 日本では、大学の法学部を出た人が必ずしも法律関係の仕事に進むとは限らず、別分野の仕事に就くこともありますが、ドイツでは法学部を出た人は弁護士などの仕事を目指すのが一般的です。法学部に限らず、専門学校や大学で習った分野をそのまま仕事に生かすべきだという考え方が強いのです。そのため、もし大学で学んでいる女性が「専業主婦になりたい」と言った場合、ドイツでは即「せっかく勉強したのにもったいない」と言われてしまいます。 ドイツで専業主婦になる場合、ドイツ語に堪能でなかったり持病があるなどの「理由」がないと、周囲の人から「なぜ働かないの?」と聞かれてしまいます。 日本でドイツ人男性と結婚したある日本人女性は、夫の都合でドイツに引っ越しましたが、住んでまだ間もないのに、現地で会うドイツ人に「あなたはなぜ働かないの?」と頻繁に聞かれ精神的につらかったと言います。ドイツへの引っ越しの理由は前述通り「夫の仕事の都合」によるものでしたが、そのことを説明しても、「あなたも早くドイツ語を覚えて働けばいいのに」と言われたのだとか。 「女性の生き方」について考えるとき、日本ではよく「欧米のほうが自由に生きられる」と思われがちです。確かに役職がついているポジションであっても時短で働くことが可能であるなど、「働く女性」は日本よりも自由です。しかし「専業主婦という選択肢」はないに等しいので、意外にも日本で言う「女性の多様な生き方」は認められていないのでした』、「1958年までは法律上、夫のみに妻や子に関する決定権があったため、妻が外で働いている場合も「妻の給料は夫が管理する」ことが普通でした」、かつては、マッチョな社会だったようだ。
・『「専業主婦願望」は決しておかしなことではない  以前、ある食事会で会った20代の日本人女性は「将来は専業主婦になりたい」と話していました。理由を聞くと「専業主婦の母が楽しそうだったので、自分も母のように暮らしたい」と語りました。 一家はかつて海外に住んでいた時期がありましたが、日本に帰国後、母親は海外で習った料理を近所の人などに教えていました。自宅で開いた料理教室に大人も子供も集い楽しかったそうで、女性は「自分も将来は時間を気にすることなくお稽古事をしたり、サロンを開いたりという生活がしたい」とのことでした。 考えてみれば、茶道や着付け、生け花などの伝統的な習い事から、アイシングクッキー作りやアロマセラピーなど現代的なものまで、日本には多岐にわたるお稽古事があります。面白いのは「お稽古事」がどこか「女性」と関連付けられていることです。 現に女性から「今日はお稽古事なんだ」という発言を聞くことはあっても、男性から「お稽古事をしている」という発言はあまり聞きません。そして「お稽古事」が「時間的にも経済的にもゆとりのある専業主婦の生活」と結び付けて考えられていることもまた多いのでした。 そういったことを考えると、冒頭の「ロクに服も買えないドイツの専業主婦」とは違い、「日本の専業主婦」にはどこか優雅なイメージがあり、そのあたりが日本で「専業主婦に憧れる女性がいる」一因の気がします。 ヨーロッパとは違い、日本で女性が「専業主婦に憧れている」と堂々と言えるのは、もしかしたら幸せなことなのかもしれません』、ただ、そんな「優雅な」「日本の専業主婦」は、実際にはかなり少なくなっているのではなかろうか。

第三に、5月24日付けプレジデントが掲載したジャーナリストの伊藤 詩織氏による「伊藤詩織の待望連載、第1回「世界で2億人の女性が"性器切除"を経験している」 女性「だから」は圧力になっている」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/35450
・『世界で2億人の女性が“性器切除”を経験している  平成初期、NHKの子ども向け番組「おかあさんといっしょ」では「ドレミファ・どーなっつ!」という着ぐるみの人形劇があった。私はこの番組を見て育った。今、振り返ると何で「おかあさんといっしょ」なのだろう。番組名からは「子育てをするのは母親だ」というメッセージが受け取れる。「母だから」「男だから」。そんな「だから」は勝手に人を縛り付ける。そして時に、命に関わる。 女性に生まれ、社会から女性として受け入れてもらうための通過儀礼として世界で2億人の女の子や女性が女性器切除(FGM)を経験している。FGMにはさまざまなタイプがあり、性的快感を得づらくさせるためにクリトリスを切り落とすタイプや、外陰部の広範囲を切除し尿や経血が通るだけの小さな穴を残し縫い合わせるタイプも。縫い合わされた女性器は結婚すると切り開かれる』、「伊藤 詩織氏」は、当時TBSの政治部記者でワシントン支局長であった山口敬之と会食、飲酒後に記憶をなくし、ホテルで乱暴されたとして準強姦容疑で警視庁に被害届を提出。山口敬之は安部首相と親しかったこともあり、空港で逮捕される予定だったが、官邸からの圧力で、逮捕を免れ、地検は嫌疑不十分で不起訴。検察審査会も不起訴相当となった。しかし、民事訴訟の第一審では、伊藤 詩織氏が勝訴した(Wikipediaなど)。こうした経緯もあって女性問題を取上げたのだろう。
・『西アフリカのシエラレオネでは90%の女性がFGMを経験している。同国では儀式としてFGMが行われ、ほとんどの場合、医療従事者ではなく、地域の女性コミュニティーで権力をもつ長老の女性が隔離された森の中で行う。5歳でFGMを経験した20代のファタマタさんは儀式の夜の、ほかの女の子たちの叫び声や泣き声が今でも忘れられない。FGMによって出血多量や感染症で命を落とすこともある。そして、強い恐怖が、心の傷としても残り続けるのだ。 親として、愛する娘の命のリスクを冒してまで危険なFGMを受けさせるのは何故なのか。それは、もし娘がFGMを受けないと結婚ができなかったり、就職できなかったり、農村部においては村八分にあってしまうからだ。つまり生きることが難しくなってしまう。 FGMは遠い国の話ではない。アジアでもインドネシアやマレーシアなどで行われている。欧米でも確認されており、2019年は英国で3歳の娘にFGMを受けさせたとして母親が有罪判決を受けた。 女性だから。「だから」は圧力になって人にのしかかる。この「だから」に私たちはどう向き合うべきなのか。自分の意思で選べない「だから」の型に押し込められないために何ができるか。「だから」を伝統や文化として片づけてはいけない』、ただ、「伝統や文化」は、先進国と途上国では大きく異なるケースがあり、一概に野蛮と決めつけることは出来ない気もする。

第四に、この続きを、6月6日付けプレジデン「連載・伊藤詩織「性被害を受け、13歳で母になる…アフリカの少女が流した涙」 何があっても、あなたは悪くない」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/35741
・『アフリカで出会った、13歳で母になる少女の涙  取材をした日はラマダン中で、アザーンという礼拝への呼びかけがどこからか流れると、男性が外に集まり、祈りを始めていた。 アフリカ、シエラレオネ。首都フリータウンにあるレイプクライシスセンターを訪れる8割以上が18歳未満だという。そこで話を聞かせてもらった子どもたちを一生忘れることはできない。 13歳のアニマタは性被害に遭い、犯人から脅され、家族に相談できずにいた。彼女はセックスで妊娠することを知らなかった。膨らんだお腹に家族が気づいたときは、もう人工中絶するには遅すぎた。淡々と被害を医者に話すアニマタの瞳から、大粒の涙があふれたのは学校に行けなくなったと口にしたとき。私はカメラのレンズを彼女に向けることが苦しくなった』、「13歳」なのに性教育を母親から受けてなかったようだ。「犯人から脅され、家族に相談できずにいた」、犯人は親戚など近い関係にある者なのかも知れない。
・『クマのぬいぐるみで、ポツリポツリと悪夢を説明  アニマタは数学が大好きだという。取材した2018年当時、シエラレオネではエボラ出血熱がきっかけで性暴力が増加。それを理由に妊娠した女子生徒は登校が禁止されていた。その後、19年に性暴力に対して緊急事態宣言が出され警鐘が鳴り、同年レイプに対する法律は厳罰化された。そして20年にようやく登校禁止令も撤廃された。 子どもたちの多くは、自分が受けた性暴力をどう言葉で表現すればいいのかわからない。センターで出会った母親は4歳の娘にプライベートゾーンを教えようとした際、初めてわが子が夫から性暴力を受けていたことを知った。「水着で隠れる場所はあなたの大切な体の場所なの。もしも誰かがここを触ろうとしたらお母さんに教えてね」。そう娘に話した。すると性器の名前も知らない子がクマのぬいぐるみを使い、ポツリポツリと彼女を襲った悪夢を説明しだした。母親は「何があってもあなたは悪くない」と娘を抱きしめた。 いまだに性的同意年齢が13歳とされている日本だが(注)、20年はその法律の見直しが検討される年でもある。110年以上変わらなかった同意年齢や、同意のない性行為をした加害者が処罰されない現状に変化が起きるかもしれない。 そして法律だけではなく、子どもに対する性教育の実施も被害発覚や防止につながる重要な要素だ。そう、シエラレオネの性被害サバイバーたちは教えてくれた』、「法律だけではなく、子どもに対する性教育の実施も被害発覚や防止につながる重要な要素」、同感である。
(注)性的同意年齢:精神的・機能的に発達した年齢であることを意味するもの。「日本」の13歳は、G7で最も低く、明治時代に制定された刑法から変更されていない。2008年に、国連は日本に対して性的同意年齢の引き上げを勧告する所見を採択(Wikipedia)。今年は「見直しが検討される年」らしいが、どうなるのだろう。
タグ:20年はその法律の見直しが検討される年 13歳とされている日本 性的同意年齢 法律だけではなく、子どもに対する性教育の実施も被害発覚や防止につながる重要な要素 性的同意年齢が13歳とされている日本 クマのぬいぐるみで、ポツリポツリと悪夢を説明 犯人から脅され、家族に相談できずにいた 彼女はセックスで妊娠することを知らなかった。膨らんだお腹に家族が気づいたときは、もう人工中絶するには遅すぎた アフリカで出会った、13歳で母になる少女の涙 「連載・伊藤詩織「性被害を受け、13歳で母になる…アフリカの少女が流した涙」 何があっても、あなたは悪くない」 伝統や文化 世界で2億人の女の子や女性が女性器切除(FGM)を経験 「母だから」「男だから」。そんな「だから」は勝手に人を縛り付ける。そして時に、命に関わる 世界で2億人の女性が“性器切除”を経験している 伊藤詩織の待望連載、第1回「世界で2億人の女性が"性器切除"を経験している」 女性「だから」は圧力になっている 伊藤 詩織 プレジデント 「専業主婦願望」は決しておかしなことではない 958年までは法律上、夫のみに妻や子に関する決定権があったため、妻が外で働いている場合も「妻の給料は夫が管理する」ことが普通でした ドイツには1977年まで「既婚女性は家事をする責任がある。既婚女性の仕事は家事や家庭に差し支えない範囲でのみ可能」という法律があった 既婚女性が仕事をする場合、ドイツの法律では1977年までは「夫の同意」が必要 153カ国中の日本の121位に対し、ドイツは10位 男女平等ランキング かつては「男女不平等国」だったドイツ ドイツで「専業主婦」というと「男性である夫にお金を管理されているかわいそうな女」のイメージがどうしても強い 昔ながらのドイツの家庭では家計の管理は男性である夫がしていました。夫の収入が高くても、夫が「専業主婦である妻に微々たるお金しか渡さない」ケースも多かった ドイツで「家事」というと、「掃除」の優先順位が非常に高く、その中でも家の窓を常にピカピカに磨く女性が専業主婦の鑑だとされていました ドイツの女性は「専業主婦」に憧れない 2021年卒の女子大生・女子大学院生のうち、16.7%が将来は専業主婦になることを望んでいます 寿退社 「「専業主婦に憧れる女性」がドイツにいない理由 1977年まで「働く自由」なかった既婚女性たち」 サンドラ・ヘフェリン 母子世帯の貧困率は51.4%で、過半数を超えていた。父子世帯の22.9%、ふたり親世帯の5.9%と比べても、母子世帯の貧困率が圧倒的に高い 解消されない「男女の賃金格差」 「子育て」「家事」今も女性に押し付ける日本 「出産後の再就職」はまだまだ難しい 家父長制 『年収100万円で生きるー格差都市・東京の肉声ー』 153か国中121位 ジェンダーギャップ指数 「「女性の社会進出」妨害する日本の悪習の正体 「役割の押し付け」「賃金格差」問題は山積みだ」 吉川 ばんび 女性活躍 (その17)(「女性の社会進出」妨害する日本の悪習の正体 「役割の押し付け」「賃金格差」問題は山積みだ、「専業主婦に憧れる女性」がドイツにいない理由 1977年まで「働く自由」なかった既婚女性たち、伊藤詩織氏2題:第1回「世界で2億人の女性が"性器切除"を経験している」 女性「だから」は圧力になっている、「性被害を受け、13歳で母になる…アフリカの少女が流した涙」 何があっても、あなたは悪くない) 東洋経済オンライン
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東京オリンピック(五輪)(その12)(山中教授も懸念…東京五輪、2021年夏の開催は非現実的すぎる 集団免疫もワクチンも間に合わない…、五輪追加費用がコロナ対策でさらに膨張 簡素化でむしろコスト増も?、小田嶋氏:いっそ、閉会式だけリモートで) [社会]

東京オリンピック(五輪)については、5月7日に取上げたばかりだが、今日は、(その12)(山中教授も懸念…東京五輪、2021年夏の開催は非現実的すぎる 集団免疫もワクチンも間に合わない…、五輪追加費用がコロナ対策でさらに膨張 簡素化でむしろコスト増も?、小田嶋氏:いっそ、閉会式だけリモートで)である。

先ずは、5月8日付け現代ビジネスが掲載した放射線科医・医療ライターの松村 むつみ氏による「山中教授も懸念…東京五輪、2021年夏の開催は非現実的すぎる 集団免疫もワクチンも間に合わない…」を紹介しよう。付注は省略した。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72414
・『5月6日の夜、動画サイト「ニコニコ生放送」の番組に出演した安倍晋三首相とノーベル医学生理学賞 受賞者で京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授のやりとりが大きな注目を集めた。 来年の7月に延期になった東京オリンピックに向けて、治療薬やワクチンの開発を日本が中心になって進めることを安倍首相が告げると、山中教授は、オリンピックには世界中の人が集まり人の大移動が起こるうえ、「それを可能にするだけのワクチン量をあと1年で準備することはかなりの幸運が重ならないと難しい」と懸念を示したのだ。 医師の松村むつみさんも、3月末に東京オリンピックの開催延期が発表された際、同様の考えを記事「東京五輪が『1年延期でも安心できない』これだけの理由」で述べている。以下、同記事に最新の情報を加えてアップデートしたものをお届けする』、興味深そうだ。
・『世界的に感染終息まで長期化する  緊急事態宣言が出されてからひと月ほど経った5月4日、政府は緊急事態宣言の期限を当初の5月6日から31日に延長した。感染者数の減少が十分ではないこと、また、医療崩壊の可能性が懸念されることが理由だという。 緊急事態宣言が出されたばかりの4月上旬から中旬にかけては、感染症病床や物資の不足により、救急車や発熱患者の受け入れが困難な施設が増え、医療崩壊が叫ばれていた。しかし緊急事態宣言後、病床などが整備された影響で地域によって医療状況は落ち着いてきている。国内の新規感染者もいま、若干減少傾向にある(潜伏期や発症から検査までの期間を考えると、「緊急期待(注:正しくは「事態」)宣言の効果で低下した」というよりは、「3月末の週末自粛要請の効果」というほうが整合性があるが)。 ただ、だからといって安心していいわけではない。日本をはじめ多くの国はずっと、外出自粛などよって感染のピークをできるだけ後ろにズラすことで一時的な患者数の急増を防ぎ、医療のキャパシティを超えないようにする戦略をとってきたが、この戦略は感染終息までの時間が長期化するのだ』、「新規感染者」数は東京都を中心に再び増勢に転じている。
・『今年の秋以降に感染の「第3波・第4波」の可能性も  また、感染症は一旦流行が治まっても、ときにはシーズンをまたいで第2、第3の波が来ることがある。有名なのがスペイン風邪だ。1918年のスペイン風邪は、3月にアメリカとヨーロッパで始まり、春から夏にかけて第1波を形成した。 第1波の致死率はそれほど高くはなかったが、フランスやアメリカなどで秋に発生した第2波は致死率も高く、世界的流行を引き起こし、1919年および1920年にも流行が起こった。スペイン風邪による全世界の死者は4000万人(WHO)にのぼり、日本でも38万人が亡くなっている。 100年前のスペイン風邪の頃は、衛生状態や医療技術が今とは雲泥の差で、感染の蔓延を止めるすべはなく、速やかに蔓延し終息しただろうが、衛生状態や医療が改善され、流行を遅延させることが以前よりは可能になった現代では、流行はより長期化する可能性がある。 新型コロナウイルス感染症は、武漢からの帰国者、入国者によって形成された第1波が収束し、ヨーロッパからの帰国者を中心に形成された第2波が現在の新規感染を引き起こしているといわれ、秋以降に第3波、第4波の発生が危惧されている』、先の「新規感染者」数の増勢は、既に「第3波」が発生している可能性もある。
・『「医療崩壊」と「第3・4波」の間で  感染症の終息は、人口のある一定割合が感染して免疫を獲得する(集団免疫)か、ワクチンができるかにかかっているといわれる。 ただ、「集団免疫論」には当初から賛否両論あり、イギリスのジョンソン首相が当初、高齢者などのハイリスク集団を除く国民がゆるやかに感染して集団免疫獲得を目指したが、集団免疫を実践した場合のシミュレーションを、ニール・ファーガソン博士を中心とするインペリアル・カレッジ・ロンドンのCOVID-19対策チームが行ったところ、医療崩壊が起こり膨大な死者数が出ることがわかり方針転換したのは有名である。 西欧諸国ではロックダウンなどの介入により新規感染者数は鈍化しているものの、制圧に苦戦している国は多い。一方、スウェーデンは積極的なロックダウンを行わず、集団免疫戦略を採用していると報道されている(集団免疫は結果論であって、あくまで医療キャパシティを超えないように感染の拡大を遅延しているのだという報道もある)。日本はその間をとったような戦略で、外出自粛で感染のカーブを緩やかにし、医療崩壊をぎりぎりのところで踏みとどまっている状態だ。 集団免疫を積極的に獲得することのリスクは冒頭で述べたが、自粛や封鎖についても、実はリスクがある。それを解いた瞬間、免疫のない人々に感染が一気に拡大し、新たな感染の波を形成する可能性があるのだ。1918年のスペイン風邪でも封鎖が解かれたあとに再燃が起こっているが、現在の札幌でも、第1波よりも大きな第2波が観測されている。 先述のインペリアル・カレッジ・ロンドンの報告書は、「封じ込めがうまくいくほど、次に来る波が大きくなることがある」と指摘する。また同報告書は、ワクチンができるまでの期間の3分の2は隔離などの政策を続けなければならないこと、封鎖の解除と再導入を終息までに何度か行わなければならない可能性に言及している。 さらに、4月14日に科学誌『Science』に掲載されたハーバード大学のチームの論文では、新型コロナウイルスの流行を、風邪を引き起こす他のコロナウイルスの流行から数理モデルで予測し、最初のパンデミックが収まった後で、冬期に大きな波が来る可能性を指摘している。ICUのキャパシティを超えるなどの医療崩壊を起こさないためには、設定された条件にもよるが、2022年まで断続的な、社会的距離に関する介入が必要になるという。 ファーガソン博士による報告もハーバード大学の研究も、あくまで数理モデルの結果であり、イギリスやアメリカにおける予測が日本にそのまま当てはまるとは言い切れないが、長期化を考えるうえで考慮しなければならないデータだろう』、日本でも「長期化」を覚悟しておくべきだろう。
・『ワクチン開発には1年以上かかる  感染の終息にワクチンは必須だが、開発に少なくとも1年以上かかることも、東京オリンピックの来年夏の開催が現実的ではない要因だ。現在、いくつかのワクチンが臨床試験に入っているが、ワクチンが実用化されるためには長い時間がかかる。 ワクチンの開発段階では、人への副作用や効果を確かめるために第1〜第3相の臨床試験が行われる。第1相では、開発されたワクチン候補となる薬剤を少数の人に投与し、副作用などが出ないかをみる。続く第2相で投与量や投与スケジュールなどを確定し、第相で大規模な安全性、有効性を確かめる臨床試験を行った上で、初めてワクチンは承認され、使用できるようになる。さらに、量産できるようになり、ある程度の人口に接種するとなると、非常に順調にいったとしても、さらに2、3年以上はかかってしまうだろう。 ワクチンが成功しない可能性も多いにある。同じコロナウイルス感染症であるSARSやMERSにおいても、ワクチン開発が試みられたものの成功していない。SARSの流行は2002〜2003年にかけてだが、15年以上経過してもまだワクチンは開発されていないのだ(SARSはワクチンが開発される前に終息したので、開発がすすまなかったという背景もある)。 また、一般的な風邪を引き起こすコロナウイルスには、長期的な免疫がつかないことが知られている。新型コロナウイルスに関しては、国内外で抗体検査がいくつか実施され、実際の既感染者は、検査を受けて発表された感染者数よりもはるかに多い可能性が示唆されているが、抗体ができたからといって二度とかからないかはまだわかっていないのだ』、「抗体ができたからといって二度とかからないかはまだわかっていない」、やっかいなことだ。
・『治療薬にも「特効薬」がない  新型コロナウイルスの治療薬についても、「特効薬」の登場が待たれている状況だ。 5月7日、エボラ出血熱に使用されるレムデシビルが国の「特例承認」によって早期に承認されたが、4月29日に発表された中国の237人を対象としたランダム化比較試験では、レムデシビルは症状改善までの時間や死亡率を有意に改善せず、有害事象があることも報告されている。 ※まだ論文化はされていないが、同29日に発表されたNIH(アメリカ国立衛生研究所)の研究によると、1063名規模の多国にまたがる共同研究によって、レムデシビルはプラセボに比べて症状の改善を早める(とはいえ、有意と言える死亡率低下はなかった)という報告もあり、論文化が待たれている。 インフルエンザ治療薬として開発された日本発の薬であるアビガンも5月中の承認を目指しているが、国内での第3相臨床試験は6月末に終了する見込みであり、まだ各国での大規模試験の結果も明らかになっておらず、医師のあいだでは拙速であるという意見がある。 アビガンの効果についての研究で現在明らかになっているものとしては、抗HIV薬カレトラと比較しての80人規模の臨床試験で、カレトラに比べてCTで見たときにより改善を示しており、ウイルス消失までの時間がやや短いという結果だった(この論文は一度撤回され再掲載されている。理由は不明)。 つまり、現在注目されているレムデシビルにしてもアビガンにしても、「特効薬」であるとはいえないのだ』、「特効薬」がない」、現在までの冷酷な現実だ。
・『五輪による再流行で「東京医療崩壊」のリスクも  西村経済再生担当相は5月4日の衆院議院運営委員会で、東京や大阪など「特定警戒都道府県」に含まれない地域については段階的に行動制限を緩和していく方針を述べていたが、解除すると再度感染者数が増えるため、再度の自粛と解除を何度か繰り返しながら対応していくことが予想される。 また、国内での感染が終息したとしても、他国でもそうとは限らない。現在、アメリカなど貧富の差が激しく医療アクセスの悪い国では、感染者数と死者数が爆発的に増え、制圧が困難なまま経済活動を再開する議論がなされている。Finalcial Timesのデータでは、最近になってブラジルやロシアでも急速な患者数の増大が見られる。 アフリカなどの医療資源の少ない国での流行も始まっているが、これらの国々では、一旦流行が始まると、なかなか終息しづらい傾向がある。自粛や封鎖が終わり、オリンピックでこれらの国々から人の流入があると、再度の流行のきっかけになり得る。 新型コロナウイルス感染症は、軽症者や無症状者が非常に多いことで知られているが、無症状あるいは軽症のまま海外に渡航したり、外国から帰国したりすると、そこでまた感染が広がってしまう。ひとつの国で終息したように見えても、外国との行き来が盛んな現代においては、再び持ち込まれて流行が起こることは十分考えられる。 ほぼ全員が軽症であるのなら問題ないが、20%は重症化し、5%は重篤となり人工呼吸器などが必要になる。もともと日本はICUの病床数が先進国の中でも少ないことで知られている。5月6日、厚労省はICUに相当する病室(HCU:高度治療室などを含む)のキャパシティが増えたことを発表したが、人口10万人当たりのICU病床数は、日本は(ICUに相当する集中治療室も含めれば)約13.5床と、アメリカ(35床)とドイツ(30床)の3分の1で、余裕があるとはいえない。 現在では、首都圏の感染症病床は以前よりも拡充され、医療崩壊のリスクは若干は緩和され、重症患者数も減ってきたが、まだ予断を許さない。今後、人工呼吸器やECMOの台数、またスタッフの人数に劇的な拡充が可能なわけではない。今のような「予断を許さない状態」はしばらく続くのではないかと思われる。 人工呼吸器装着者数の推移 日本COVID-19対策ECMOnet作成(リンク先参照) 国内ですら、ぎりぎりの状態が続いている。東京オリンピックの延期発表時、安倍首相は「完全な形で開催したい」と希望を述べていたが、仮に「完全な形で」オリンピックが行われたとしたら、再度の感染爆発リスクにさらされるかもしれない。無観客試合にすることや、選手村での感染予防など、工夫しなければならないことは山積みだ。先行きは非常に不透明だと言わざるを得ない』、1年の延期では到底、無理で、やはり中止すべきなのだろう。

次に、6月12日付けダイヤモンド・オンライン「五輪追加費用がコロナ対策でさらに膨張、簡素化でむしろコスト増も?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/240058
・『延期によるコスト増加分の抑制に加え、新型コロナウイルスへの対策まで求められるようになった東京オリンピック・パラリンピック。中止の可能性も高まる不安定な状態は、組織委や行政の現場に歪みを生み出している。コロナの終息もままならない中、“スポーツの祭典”に酔いしれる余裕はあるのだろうか。膨らんだコストを負担するのもまた、私たちなのである』、興味深そうだ。
・『設計や仕様の変更が生むコスト 警備計画や動線の見直しも必至  新型コロナウイルスの感染拡大によって開催が来年7月に延期された東京オリンピック・パラリンピック。延期に伴い3000億円程度の追加費用がかかると試算されているが、国際オリンピック委員会(IOC)は、そのうち約700億円しか負担しないと早々に予防線を張った。つまり、残りの経費は日本が、主に開催都市である東京都が被ることになるだろう。 財政的な問題や、コロナの感染防止策を採るため、政府や東京都の幹部たちは6月4日、来夏開催の東京五輪について、開閉会式などのセレモニーを中心に簡素化を検討していると明らかにした。 同日の東京株式市場では、五輪関連で多額の収益を上げるとみられていた電通グループの株価が前日比4%下落。コロナの給付金問題に揺れる同社には“泣き面に蜂”となったが、懊悩しているのはもちろん、電通だけではない。 「施設を簡素化しろと言われても、仕様や設計を変更してやり直せば、余計にコストがかかるというジレンマがある」と、ある五輪組織委員会関係者は打ち明ける。 五輪の延期や中止によって発生しうるコストの内容や、組織委内部で懸念されていた問題について、本編集部は3月13日に公開した記事「五輪中止・延期でスポンサー料3480億円はどうなる?組織委内部の議論を暴露」で詳報している。 五輪の延期は3月24日に正式に決まったが、南米など海外では今なお新型コロナの感染拡大が続く一方、ワクチンや特効薬が開発される見通しはまだ立っていない。 安倍晋三首相は5月28日、国連のコロナ関連会合に寄せたビデオメッセージで、「人類が打ち勝った証として来年の東京五輪を完全な形で開催する決意だ」と発言した。しかし、都や組織委は簡素化に向けて動き始めている。 セレモニーや施設の簡素化に加え、小池百合子東京都知事が6月5日の定例記者会見で「密にしてはだめです」と語ったように、コロナの感染防止対策も必須となる。だがこれとて決して容易ではない。 例えば、東京湾岸の有明にある展示施設「東京ビッグサイト」では、東展示棟と東新展示棟を国際放送センター(IBC)、西展示棟と会議棟をメインプレスセンター(MPC)として組織委が借り上げる。 IBCは発電機などを備えた巨大で複雑な装置を要するもので、一連の設備はすでにそのまま据え置かれている。 一方でMPCの工事は、中止が決まらない限り来年に始まる予定だが、従来通りの計画のまま工事を進めていいのかどうか、まだ結論が出ていない。 総工費を減らすために設計をやり直すにしても、新たに設計するだけで多額のコストを要する。加えて、重要な施設であるため警察などと協議して警備の計画を作り上げているが、施設の仕様や設計が変われば、これらも変更を求められる可能性がある。 また工事に使うパーテーションのような壁材などは購入済みのものもあり、設計や仕様の変更に応じて発注し直すことになれば、コストが余計に発生する可能性があるという。 そこへ加わるのがコロナの感染予防対策だ』、「残りの経費は日本が、主に開催都市である東京都が被ることになるだろう」、「東京都」は「コロナ」対策で、これまでの黒字の積み立て分を既に使い切ってしまったので、赤字の公債に頼らざるを得ないだろう。
・『三密回避のためにも設備を見直し 論点をすり替える小池都知事  組織委関係者によると、国内外の主要メディア関係者が集うMPCは、記事を書くペン記者の座席が600、カメラマンの座席が200用意される計画だ。だが、ソーシャルディスタンスを実現するためには、同じ広さの空間で席数を半分から3分の1に抑えなければならない。 またMPCの記者会見場の席数も700~1000を想定しているが、大幅な削減が必要になる。「設備を縮小し仕様を落とすだけでもコストがかかる可能性がある。コロナ対策でコストがさらに増すうえに、本来のキャパシティを賄えない」(前出の組織委関係者)となるわけだ。 同様の問題は、国立競技場や日本武道館などすべての競技会場や関連施設で起こりうる。各競技会場に設けられる記者席や記者会見スペースなどはMPCよりももっと狭い。加えて、選手の控室である「ドレッシングルーム」は、着替えを行うなどいわゆる“三密状態”となりやすい典型的な場所だ。 また観客にも、入場時の検温や手指の消毒を求めることになれば、施設の動線計画に狂いが生じる。これが施設の設計や仕様に影響する可能性もある。 もしも、コロナ対策に万全を期すためにこうした施設の仕様や設計を改めるとすれば、増加する手間やコストは決して小さくはない。 その一方で、三密回避のために観客数を絞れば、チケットの販売枚数は減ってしまい、組織委の収入が減る。開催延期とコロナ対策は、組織委にとってデメリットしか生み出さない。冒頭で触れたように、IOCは追加コストの負担について既に予防線を張っているため、超過したコストは開催都市である東京都が負担を強いられる可能性が高い。 小池知事は7月5日投開票の都知事選での再選は固いとされながらも、ここにきてエジプト・カイロ大学“首席卒業”という従来の売り文句に重大な疑義が呈せられるなど冴えない。都知事選では五輪の経費負担をめぐる議論も大きな争点となるはずだ。 にもかかわらず小池知事は、6月5日の定例記者会見で一連の簡素化やコストの問題について尋ねられたのに対し、「(7月に予定されている)五輪1年前のイベントのあり方が問題だ」と語るなど、論点をすり替えてやり過ごした』、「小池知事」が「論点をすり替えてやり過ごした」のは、彼女らしい不誠実な姿勢だ。それを問題視できないマスコミもだらしがない。
・『職員の4割が自治体出向の組織委員会 コロナで業務パンクする現場の悲鳴  「出向者を戻してもらえないか」――。組織委の職員約3800人のうち実に約1500人が、都や区市町村など自治体からの出向者で占められており、組織委には出向元からこうした切実な声が寄せられているという。 いうまでもなく自治体の現場は今、コロナ対策の一環である給付金の申請書類の審査や支払いといった業務に忙殺されている。3~4月にコロナの感染者が増えていた時期には、保健所の業務がパンクしていたことも記憶に新しい。 1年延期した五輪の準備が本格化するであろう今秋以降は、コロナ感染の第2波が起きる可能性が取りざたされている。数週間の“スポーツの祭典”よりもはるかに緊急性の高い業務が生じる恐れは大きい。 未曽有の感染症リスクが今なお続いている中で、夢に酔っているだけでいいのかどうか。多くの都民や国民は、すでに気付いているはずだ』、今からでも中止するのが、傷が最も浅くて済むのではなかろうか。

第三に、7月10日付け日経ビジネスオンラインが掲載したコラムニストの小田嶋 隆氏による「いっそ、閉会式だけリモートで」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00078/?P=1
・『東京都知事選挙は、現職の小池百合子都知事による圧勝という結果に終わった。 小池氏が圧勝することそのものは、ずっと前からはっきりしていたことだし、投票率が前回を下回ったことも、大方の予想通りだった。 ただ、私の個人的な予測としては、小池さんが、コロナ対策や五輪へのマイナス評価によって、多少とも得票数を落とすであろう結果を思い描いていた。 ところが、フタを開けてみると、小池候補は、得票率、得票数ともに前回を上回る結果で当選している。 なるほど。 グウの音も出ないとはこのことだ。 私は、どうやら、今回のこの結果についてあれこれ分析をする資格を持っていない。ともあれ、私の戦前予測が、またしても願望によって歪められていたことがはっきりした以上、結果が出た後の弁解で恥の上塗りをする愚は避けるべきだろう。 さてしかし敗軍の将が兵を語らないのだとして、それでは、選挙で勝った陣営が総取りにする権利を手にしているのかというと、そういうことではない。民主主義は、多数派がすべてを独り占めにするシステムではない。少数派の声をトップに届ける仕組みを整備していない権力は、いずれ滅びることになっている。そう考えないといけない。 ところが、知事選の投開票が行われた7月5日の夜、小池都知事の再選という結果を受けて、五輪組織委員会は、新聞記者の取材に対して「五輪開催に向け一定の都民の支持を得られた」という回答を披露している。 さらに、五輪組織委は、森喜朗会長の言葉として「大会成功に向け、東京都と一層の協力体制ができることを心強く思う。開催都市東京のトップとして、一層の緊密な連携をお願いしたい」というコメントを発表している。 これは、選挙結果の恣意的な政治利用と呼ぶべき暴挙だと思う。 安倍首相も、選挙での自党の勝利を国民による憲法改正への支持と読み取る旨の発言を何度か繰り返しているが、今回の五輪組織委の発言は勝手読みの度合いにおいて、よりはなはだしいと申し上げねばならない。 NHKが都知事選の投票日に実施した出口調査の結果によれば 「来年7月からに延期された東京オリンピック・パラリンピックを開催すべきだと思うか」 という質問に対しての回答として 「開催すべき」が27%、「中止すべき」が36%、「さらに延期すべき」が17%「わからない」が21%だったことが明らかになっている。 この結果には、「選挙当日に投票所に足を運んだ都民」というバイアス(ついでにいえば「出口調査を拒否しなかった都民」というバイアスも)がかかっている。ということは、無作為に選んだ都民のナマの声とは多少違う。とはいえ、このバイアスを念頭に置いた上で結果を見たのだとしても、「開催すべき」と回答した都民が27%しかいないこの結果は、やはり重く受けとめなければならない。 なにしろ「開催すべき」だと答えた都民の数は、「中止すべき」の36%と「さらに延期すべき」の17%を合わせた53%と比べて、半分しかいないのだ。 つまり、都民の声の大勢は、現時点で「中止」に傾いていると見て良い。 都民の願望とは別に、来年7月の開催が本当に可能なのかという「見込み」ないしは「実現可能性」の問題もある。 これについても、おそらく多数派の都民(国民も)は、来年の夏に五輪を完全な形で開催することはむずかしいと考えているはずだ。 なにしろ、コロナが収束していない。 仮に、来年の春くらいのタイミングで、収束のメドが立ったとか、あるいは画期的で安価なワクチンが開発されたというようなことがあったにしても、広い世界のことを考えれば、すべての競技で期待通りの大会が運営できるのかどうかは、はなはだ疑問だ。 参加を見合わせる国やアスリートもあらわれるだろうし、競技によっては、まるごと開催を断念する団体も出てくるはずだ。 アスリートだけではない。 観客や取材陣が、世界中からやってくるのかどうかは、いまの段階でははっきりしていない。仮にやってくるのだとしても、その彼らが、関係者の期待にかなう利益をもたらしてくれるのかは、なおのこと不透明だ。 仮に、売り上げなり利益が、想定の半分にとどまるのだとしたら、その数字は、中止した場合よりもさらに深刻な赤字につながるのではなかろうか』、「「開催すべき」が27%、「中止すべき」が36%、「さらに延期すべき」が17%」、との「出口調査の結果」は恥ずかしながら初めて知った。私も「都知事選」の結果に、がっかりして新聞をよく読む気も失せていたのだろう。
・『とにかく、現時点では、先のことは、何もわからない。 関係者は、その「何もわからない」状況の中で、準備を進めなければならない。 うまくいかない可能性を想定しながら準備をすることは、参加する者の心構えとして、とてもむずかしい。 かといって、うまくいくと決めつけて準備を進めることも、危ういといえば危うい。 どっちにしてもひどい話になる。 ちょっと前のニュースで私があきれたのは、政府が「完全な形での五輪開催」という3月時点での国際社会への約束をひるがえしたことだった。 そのひるがえし方がまた、現政権らしくて、ひとしきり笑わせてもらった。 彼らは 「COVIDー19ウイルスが世界中で猛威をふるう現今の状況を踏まえて考えまするに、2021年の夏に、以前お約束した《完全な形》で五輪を開催することは、困難になってしまいました。このことを、まず、皆様におわび申し上げます。来年の夏、わたくしたちは、アスリートや観客の安全と健康を確保した上で、可能な限り完全に近い形での五輪開催を目指す所存です。最後に、国際社会の皆様の、変わらぬご支援とご理解をお願いして、ワタクシのごあいさつに代えさせていただきます」 とは言わなかった。 菅官房長官は、11日の記者会見でこう言っている。「世界のアスリートが万全のコンディションでプレーを行い、観客の皆さんにとっても安全・安心な大会、すなわち『完全な形』で実施できるよう、東京都や国際オリンピック委員会(IOC)などと連携していく」 この言明のキモは 「すなわち」という接続詞のアクロバティックな運用法にある。 辞書を引くと、「すなわち」の語義は、 「言い換えれば、とりもなおさず」ということになっている(もうひとつ「即座に」の用法・意味もあるが、それはここでは無視する)。 ということは、「すなわち」という接続詞の前と後には、「同じ意味を持った言葉」が配置されなければならない。 「大豆すなわち畑の肉」「バロンドール賞受賞者すなわちサッカーの王様」「フェラーリ308すなわちガレージの宝石にしてハイウエーの狼」「大阪すなわち食の都」 というふうに、前段に置いた言葉と後段に置いた言葉の意味が一致していることが、「すなわち」という接続詞の使用条件であるわけだ。 ここで 「遅刻すなわち連日の精勤による寝過ごしの結果」式の言い方をしてしまうと、前段と後段の間にある、ごまかしが、(すなわち)という言葉の機能を裏切ることになる。というのも 「遅刻」と「連日の精勤による寝過ごしの結果」は、一対一対応の同義語ではなくて、後者が前者の弁解を申し述べているだけの一方的な強弁だからだ。 「安全安心な大会・すなわち・《完全な形》」という菅さんの発言も、構造としてはこれと同じだ。 「一個100円のリンゴ・すなわち・健康な中学生にとって理想の昼食」みたいな、恣意的な価値判断を持ち込んだ詭弁にも似ている。 こういうのならいくらでもできる。 「締切の遅延・すなわち・文筆家の良心」とだって言えば言える。 編集者がどう思うのかは知らないが、言い張ることだけは一応できる』、「菅官房長官・・・観客の皆さんにとっても安全・安心な大会、すなわち『完全な形』で実施できるよう」、というのも初めて知り、驚いた。
・『現政権の中枢にある人々は、どうやら、どんな強弁であれ屁理屈であれ、自信満々に押し通せば国民はついてくると思い込んでいる。 どこまで国民を舐めれば気が済むのか、という問いかけは、この際無意味だ。 むしろ、私たちが、自分たち自身に向けて、 「自分たちは、いったいどれほど舐められたら目を覚ますのだろうか」と問いかけなければならないはずなのだが、目を覚ましていない人間が、自分がいつ目覚めるのかを自分に問いかけられるはずもないわけで、ということは、この一連のパラグラフは無効だった。 われわれは、一生涯コケにされ続けるだろう。 せいぜいその覚悟を固めておこうではないか。 以前、安倍首相は 「来年(2015年)10月の(消費税)引き上げを18カ月延期し、そして18カ月後、さらに延期するのではないかといった声がある。再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言いたします。平成29年(2017年)4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします」 と2014年の11月にこう「断言」していた「約束」を翻す時に、 「これまでのお約束と異なる新しい判断」という驚天動地の詭弁を持ち出したことがあった。 あの時にも私は声を限りにその悪質さを叫んだものだったのだが、われらが善良な世間の人々は、なんということもなく納得してしまった。 とすれば、「すなわち」という接続詞の語義を改変することによって、前言をスムーズに裏切ることなど、官房長官にとっては朝飯前なのであろうし、このレベルの稚拙な詭弁にまんまと騙されることも、われら愚民にとってはお茶の子さいさいなのだろう。残念なことだが。 余計な話が長くなってしまった。 都知事選を間近に控えた7月1日、NHKが 《東京オリンピック開催の最終判断「来年3月以降で間に合う」》という見出しで以下のニュースを伝えた。 NHKのホームページを見にいくと、記事には、安倍首相、五輪組織委の遠藤会長代行ら6人のメンバーが決議文を手に並んだ写真が添えられている。 さらに、7月の9日には、《五輪判断「4月だろう」》という、森喜朗会長の言葉を伝える報道が伝わってきている。 五輪組織委は、来年の春まで五輪開催の判断を先送りにするつもりのようだ。 理由は、おそらく、現時点(2020年7月時点)で、世論の大勢が「中止」に傾いていることを察知したからだ。 コロナ危機の収束がいまだに見えず、五輪開催時期の夏を控えて災害多発のこの時期に、あえて五輪開催の可否を問う議論を起こすのは得策ではない、と、組織委は考えている。 「寝た子を起こしてはいけない」「とにかく、いま五輪の話を持ち出すのは好ましくない」「コロナパニックが収まるのを待とう」「大丈夫。うちの国民は忘れっぽいから」てなことで、彼らは、とりあえず来年の春まで、五輪の議論にフタをするつもりでいるのだろう』、スポーツ記者も「組織委」を忖度してあえて突っ込むことはしないようだ。
・『でもって、粛々と水面下で五輪のための準備を進めつつ外堀を埋めて、来年の4月あたりの引っ込みがつかなくなるタイミングを待った上で、 「いまさら後には引けない」「もうこんなに準備が進んでしまっている」「散らばもろともえいままよ、だ」 てな調子で、一億そうままよのなし崩しで開催に持ち込むスキームを実施するつもりでいるのだろう。 思うに、しかしながら、この計画はうまくいかない。 というのも、われら国民が忘れっぽいのはその通りなのだとしても、というよりも、そうであるからこそ、お国が本気で五輪を隠蔽しにかかったら、すべてが水泡に帰するはずだからだ。 これまで、忘れっぽくも軽薄な日本国民の中で五輪ムードがなんとか盛り上がっていたのは、NHKをはじめとする五輪協賛メディアが、夜を日に継いで五輪関連の煽り情報を垂れ流してきたからにほかならない。 それをやめたら、国民の気持ちは、半月もしないうちに冷めるだろう。 じっさい、コロナ禍からこっち、五輪熱はほとんど消えかかっていると言って良い。多くの都民はもはや来年の開催を信じていない。都民以外の国民も、五輪への熱狂を忘れて久しい。 こんな状態があと半年続いたら、五輪熱は完全に死滅するはずだ。 4月になって 「皆さん。お忘れになっていませんか? そうです五輪です。私たちの東京オリンピック・パラリンピックがいよいよ近づいてきました」てなことを、テレビのアナウンサーがいくぶん裏返った声を作って告知したところで、ほとんどの視聴者は耳を傾けない。 「うるせえアナウンサーだなあ」と、視聴者は、テレビのスイッチをNetflixかアマゾン・プライムに切り替えるだろう。 それでも、東京2020大会のオフィシャルパートナーになっている新聞4紙(朝日、読売、毎日、日経)と、NHKをはじめとするテレビ各局は、全力をあげて開催をアピールするだろう。 というのも、新聞とテレビに電通を加えた商業メディア企業群は、五輪を通じて収益を上げる側の陣営で、のみならず先払いで相当額の投資をしてしまっている後に引けない立場のステイクホルダーだからだ。 以前、彼らについて、「祭りで言えばテキ屋」だと言ったことがあるが、それだけでは足りない 「イベントで言えばダフ屋」でもある。ついでに言えば 「競馬におけるノミ屋」と申し上げても過言ではない。 いずれにせよ、商業メディアの人間たちは、こと五輪に関する限りにおいて、他人のふんどしで相撲を取るアスリートでもあれば、他人の興行の上前をハネる地回りでもあれば、他人の祭りのおこぼれを拾い歩くヤカラでもあるわけで、その彼らのもたらす五輪情報は信用できない。このことはこの場を借りて強く断言しておきたい。 COVID-19は、グローバル資本主義の走狗と成り果ててしまった五輪を正常化すべく、クーベルタン男爵の亡霊が現世につかわした使い魔なのだ、と、私は半ば本気でそう考えはじめている。 であるのならば、なんとか今年中に五輪中止の結論を確定させて、国民一体となってコロナ対策に全力を尽くせる体制を確保した方が良いに決まっている。 「人類がコロナウイルスに打ち勝った証の祭典として」みたいな空疎なスローガンを掲げることは、できれば勘弁してほしい。 「復興五輪」という、いまとなっては関係者のほとんど全員が忘れてしまっているキャッチフレーズを思い出してみれば明らかな通り、商業主義に毒されたある種の祝祭は、人々の不幸を踏み台にして立ち上がることになっている。 東京五輪は、人類の勘違いを戒める「不幸五輪」として、永遠に歴史の行間の中に葬るのが、未来志向の人類が採るべき正しい対処法だと思う。 いっそ、閉会式だけを開催するテもある。 もちろんリモート開催で、だ。 良い花道になることだろう』、「新聞とテレビに電通を加えた商業メディア企業群は、五輪を通じて収益を上げる側の陣営で、のみならず先払いで相当額の投資をしてしまっている後に引けない立場のステイクホルダーだからだ。・・・「イベントで言えばダフ屋」でもある。ついでに言えば 「競馬におけるノミ屋」と申し上げても過言ではない」、同感だ。最後の落ちは、最大限の嫌味でさすがと感心した。
タグ:観客の皆さんにとっても安全・安心な大会、すなわち『完全な形』で実施できるよう 菅官房長官 「競馬におけるノミ屋」 「イベントで言えばダフ屋」 「祭りで言えばテキ屋」 三密回避のためにも設備を見直し 論点をすり替える小池都知事 治療薬にも「特効薬」がない 「いっそ、閉会式だけリモートで」 五輪による再流行で「東京医療崩壊」のリスクも いっそ、閉会式だけを開催するテもある。 もちろんリモート開催で、だ。 良い花道になることだろう 抗体ができたからといって二度とかからないかはまだわかっていない 小田嶋 隆 NHKが都知事選の投票日に実施した出口調査の結果 (五輪) 五輪熱は完全に死滅するはず 新聞とテレビに電通を加えた商業メディア企業群は、五輪を通じて収益を上げる側の陣営で、のみならず先払いで相当額の投資をしてしまっている後に引けない立場のステイクホルダーだ 東京オリンピック 来年の4月あたりの引っ込みがつかなくなるタイミングを待った上で、 「いまさら後には引けない」「もうこんなに準備が進んでしまっている」「散らばもろともえいままよ、だ」 てな調子で、一億そうままよのなし崩しで開催に持ち込むスキームを実施 ダイヤモンド・オンライン 彼らは、とりあえず来年の春まで、五輪の議論にフタをするつもりでいるのだろう 職員の4割が自治体出向の組織委員会 コロナで業務パンクする現場の悲鳴 設計や仕様の変更が生むコスト 警備計画や動線の見直しも必至 現政権の中枢にある人々は、どうやら、どんな強弁であれ屁理屈であれ、自信満々に押し通せば国民はついてくると思い込んでいる 日経ビジネスオンライン 「五輪追加費用がコロナ対策でさらに膨張、簡素化でむしろコスト増も?」 先ずは、5月8日付け現代ビジネスが掲載した放射線科医・医療ライターの松村 むつみ氏による「山中教授も懸念…東京五輪、2021年夏の開催は非現実的すぎる 集団免疫もワクチンも間に合わない…」 「医療崩壊」と「第3・4波」の間で ワクチン開発には1年以上かかる 松村 むつみ 現代ビジネス (その12)(山中教授も懸念…東京五輪、2021年夏の開催は非現実的すぎる 集団免疫もワクチンも間に合わない…、五輪追加費用がコロナ対策でさらに膨張 簡素化でむしろコスト増も?、小田嶋氏:いっそ、閉会式だけリモートで) 今年の秋以降に感染の「第3波・第4波」の可能性も 世界的に感染終息まで長期化する 山中教授は、オリンピックには世界中の人が集まり人の大移動が起こるうえ、「それを可能にするだけのワクチン量をあと1年で準備することはかなりの幸運が重ならないと難しい」と懸念を示した 「開催すべき」が27%、「中止すべき」が36%、「さらに延期すべき」が17%
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保育園(待機児童)問題(その10)(日本で幼児教育を「義務教育」にできないわけ 最大のハードルは幼稚園と保育所の「壁」、保育園や幼稚園に通わない「無園児」は9万5000人 自治体も放置で救済方法はただ一つ、全国で波紋「保育士賃金カット」横行の残念実態 今後は「監査対象」になる可能性がある、公然と消える「保育士給与」ありえないカラクリ 国も黙認する 都合のいい「弾力運用」の実態) [社会]

保育園(待機児童)問題については、昨年4月15日に取上げた。久しぶりの今日は、(その10)(日本で幼児教育を「義務教育」にできないわけ 最大のハードルは幼稚園と保育所の「壁」、保育園や幼稚園に通わない「無園児」は9万5000人 自治体も放置で救済方法はただ一つ、全国で波紋「保育士賃金カット」横行の残念実態 今後は「監査対象」になる可能性がある、公然と消える「保育士給与」ありえないカラクリ 国も黙認する 都合のいい「弾力運用」の実態)である。

先ずは、昨年7月15日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学 経済学部教授の土居 丈朗氏による「日本で幼児教育を「義務教育」にできないわけ 最大のハードルは幼稚園と保育所の「壁」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/291939
・『7月21日に投開票される参議院議員選挙。与党は、10月に予定通り消費税率を10%に引き上げるとともに、その増税財源で幼児教育の無償化を実施することを公約に掲げている。 2017年9月に衆議院を解散する際、10%への消費増税分の使途を変更し、教育無償化にも充てると安倍晋三首相は明言した。その衆院選で与党が勝利し、3歳から5歳までのすべての子どもたちの幼稚園、保育所、認定こども園の費用を無償化することを2017年12月に閣議決定した』、「消費増税分の使途を変更」与党だけで勝手に決めた頂けない。
・『教育無償化と義務教育化には違いがある  フランス議会上院では7月4日、義務教育を現在の6歳から3歳に引き下げる法案が賛成多数で成立し、今年9月の新学期から実施されることが決まった。義務教育を3歳からとする国は、ハンガリーに次いで2カ国目という。義務教育開始年齢の引き下げはマクロン大統領による改革の一環として提案された。これにより教育の不均衡を是正したい意向だ。 わが国も、日本国憲法で義務教育は無償とするとしている。3歳からすべての子どもたちの教育を無償にするとうたうのであれば、なぜ「義務教育は3歳から」と言わないのだろうか。 実は、教育無償化と義務教育化には、かなりの隔たりがある。 日本国憲法では義務教育は無償とするとしており、授業料が無料でないと義務教育にはならない。ただ、授業料を無料にしたからといって、必ずしも義務教育になるわけではない。 義務教育とは、一義的には親に対して子に教育を受けさせる義務を負わせることだ。日本国憲法でも、国民の義務として教育を受けさせる義務を規定している。それが全うされなければ、いかに教育費が無償になっても義務教育とは言えない。別の言い方をすれば、子を任意で通わせた学校の教育費が無償だからといって、その学校教育を義務教育とは言わないのである。) 今般、フランスが義務教育を3歳からとした背景には、97.6%の3歳児が、日本の幼稚園にあたる保育学校に通っている現状がある。3歳児を通わせるのは任意である状況でこれほどの通学率だから、親の教育を受けさせる義務という点で、3歳から義務教育にしてもほとんど支障がないとみられる。ただ、貧困地域では6歳未満で保育学校などに通う子どもの割合は高くないのが実情である。 さらに、フランス政府の意図として、この義務教育の開始年齢引き下げによって、生まれた家庭の事情にかかわらず、皆が公平に人生のスタートラインに立てることを目指している。 親の世代の所得格差が子の世代に引き継がれないようにするには、子の教育機会の均等を確保することが重要である。とくに、幼児期に育まれる読み書きの能力に差があると、その後の人生を大きく左右するという。 幼児教育は認知能力を高める意味でも、生涯を通じた生産性を高める意味でも、ほかの年齢層の教育よりも一層重要であることは、教育経済学の知見から明らかになっている。国際的にもそのように認識されており、幼児教育に力点を置くことは論理的にも正当化できる』、「幼児教育は認知能力を高める意味でも、生涯を通じた生産性を高める意味でも、ほかの年齢層の教育よりも一層重要」、その通りなのだろう。
・『義務教育化の実現には高いハードル  フランスのこの取り組みについて、日本でも一部に賛成する声があるが、日本の実情はどうか。2014年7月に出された教育再生実行会議の第5次提言は「3〜5歳児の幼児教育について、財源を確保しつつ、無償化を段階的に推進し、(中略)幼稚園、保育所及び認定こども園における5歳児の就学前教育について、設置主体の多様性等も踏まえ、より柔軟な新たな枠組みによる義務教育化を検討する」と打ち出した。 その後、前述のように、消費税10%時に3~5歳児の幼児教育を全面的に無償化する財源を確保した。この提言どおり、5歳児の義務教育化が検討されるのだろうか。 参院選の公約に、教育無償化はあっても義務教育化はない。義務教育化の選択肢が消えたわけではないが、実現が難しいのが現状である。 幼児教育を義務教育にすると、教育を受けさせたい親が子どもを通わせる教育機関が日本中どこにでも存在しなければならない。待機児童のような事態が起きてはならない。目下、政府は待機児童をなくす努力をしてはいるが、3歳児でもまだ待機児童は残っている。 今回の教育無償化は、親が3歳以上の子どもを幼稚園や保育所などで教育を受けさせたいならその費用を無償化することを決めたまでで、親の意向とは無関係に3歳以上の子どもに全員、教育を受けさせる義務を課すことを意味するわけではない。教育・保育費用を無償にする財源が確保でき、最低限の教育カリキュラムを確保できても、3歳以上の子どもに教育を受けさせる義務を親に負わさなければ、3歳からの義務教育とは言えないのである。 確かに、前述の教育再生実行会議の提言も、明記しているのは5歳児の教育だけである。ちなみに、5歳児義務化は1971年に中央教育審議会が出した答申で一度打ち出されたことがあるが、結局実現には至っていない』、何故なのだろう。
・『保育所は学校教育法上の教育機関ではない  日本で3歳以上を義務教育化する最大のハードルは、保育所は学校教育法が定めた教育機関ではない点だ。前述の提言でも、設置主体の多様性を踏まえなければならないほどである。義務教育である以上、教育機関がその教育を担い、政府が定めた学習指導要領などに準じた教育を税金を投じて無償で施す。義務教育は学校教育法で規定されており、同法に基づく教育機関ではない保育所は義務教育を担えるのか、と問われたりもする。 そもそも、保育士と幼稚園教諭は資格が異なる(ちなみに、保育士資格取得後に3年以上の実務経験を経て、幼稚園教員資格認定試験に合格すれば、幼稚園教諭2種免許状が取得できる仕組みはある)。教育を受けさせたい親からすれば、どちらであってもいい教育をしてくれればそれでよいのだから、つべこべ言わずともと思うかもしれない。 しかし、義務教育化するとなれば、幼児教育の質をどう担保するかが問われる。税金を投じただけでは解決できない課題の1つである。 結局、フランスは人材育成策としての幼児教育義務化を3歳児から進めることにしたのに対し、わが国は少子化対策としての幼児教育無償化をするにとどまった。教育を施す機関は幼稚園も保育所も従来と変わらない。 日本で幼児教育を義務化するには、幼稚園と保育所の「壁」を解かなければならない。幼稚園と保育所の区別にとらわれている間に、わが国にとって大切な次世代の育成が滞ってしまっては本末転倒である』、幼保一体化の動きもいつの間にか尻すぼみになったようだ。縦割り行政の弊害は深刻だ。

次に、4月20日付けデイリー新潮「保育園や幼稚園に通わない「無園児」は9万5000人 自治体も放置で救済方法はただ一つ」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2020/04200556/?all=1&page=1
・『2018年3月、東京都目黒区で両親から虐待されて亡くなった船戸結愛ちゃん(当時5歳)は、保育園や幼稚園に通っていない「無園児」だった。北里大学医学部の講師で医学博士の可知悠子氏は、4月に『保育園に通えない子どもたち―「無園児」という闇』(ちくま新書)を出版。虐待を受けている無園児が少なからずいると警鐘を鳴らしている。 保育園や幼稚園に通わない未就園児は、地域社会とのつながりがないことから、「無縁」とかけて「無園児」と呼ばれている。可知氏の専門は、社会疫学。健康は社会環境などの要因に影響されることを明らかにする学問で、幼児教育は本来、専門外だ。彼女が無園児の存在を知ったのは、2017年10月である。 「安倍首相が同じ年の9月の会見で、3~5歳の幼児教育を無償化すると発表しました。それを受ける形で、厚労省のさる官僚が10月にフォーラムを開催しました。その方は講演で無園児の統計を紹介。3~5歳の子どもの1割は保育園や幼稚園に通っておらず、生育状況すら確認されていないと話していました。この無園児はどういう子どもなんだろう、と私の心がざわつきました。ひょっとして、無園児の中には虐待を受けている子どもがいるのではないかと、危機感を覚えたのです」 と語るのは、可知氏。彼女は無園児のことが気になり、研究を始めたという。 「幼児教育の色んな専門家にも話を聞きました。ですが、私のような危機感を持っていた人はいませんでした。保育園や幼稚園に通わせないのは、お金持ちで自宅で独自の教育を受けさせているからだろうと言うのです。正直言って、私の危機感は間違っているのかもしれないとも思いました。そんな時、目黒女児虐待事件が起こったのです。結愛ちゃんが無園児だとわかった時、『やはり、問題だ』と思いました」 2018年の内閣府「幼児教育の無償化に係る参考資料」によると、無園児の割合は、3歳児で5・2%(5万1000人)、4歳児で2・7%(2万7000人)、5歳児で1・7%(1万7000人)となっている。3~5歳までの無園児は9万5000人もいることになる』、「無園児」がこんなにいるとは驚かされたが、確かに「虐待」の温床なのかも知れず、問題だ。
・『義務化しかない  「3歳から5歳というのは、脳の発達が最も著しい時期です。この時期に友達や大人と関わってコミュニケーション能力をつけ、生活習慣、集団生活を学びます。また、親だけでなく、養育者となる人との信頼関係も築きます。それによって、自分が人として価値があると理解し、他人も価値があると認識するようになるのです。ちゃんとした家庭でしたら適切な養育環境を整えることができるので、保育園や幼稚園に通わなくてもそれほど問題はありません。ところが貧困家庭や児童虐待をしている家庭は、十分な養育環境とはいえません。そういう家庭の子どもたちこそ、幼児教育を受けさせる必要があるのです」(同) 幼児教育がいかに重要か、これを裏付ける調査がある。1962年から67年にかけて米ミシガン州のペリー小学校付属幼稚園で行われた「ペリー就学前プロジェクト」は、3~4歳の貧困家庭のアフリカ系アメリカ人の子どもたちを対象に、手厚い幼児教育を行った。「このプロジェクトは2年間にわたって、週5日、毎日2時間半ずつ教育を受けさせています。教育といっても、子どもの自発的な遊びを重視したものです。優秀な先生が子ども5~6人を担当し、週に1回先生が家庭訪問を行って学校と家庭での子どもの様子などについて話し合うのです。このプロジェクトに参加した58人の子どもたちと、参加しなかった65人の子どもたちを40歳まで追跡調査しています。その結果、プロジェクトに参加した子としなかった子の間に大きな差が生じていることがわかりました。幼児教育が貧困の連鎖を断つ鍵となることが判明しました」(同) IQが90以上の5歳の子は、プロジェクトに参加した子で67%、参加しない子は28%。高卒以上は、参加で77%、不参加は60%。27歳時点で、過去10年間に生活保護受給は、参加が59%、不参加が80%。40歳時点で仕事に就いている人は、参加が76%、不参加が62%。40歳で年収が2万ドル以上は、参加が60%、不参加が40%。40歳で5回以上逮捕は、参加が36%、不参加は55%と、明らかに差が出ているのである。 「厚労省は2014年度より、児童虐待防止対策の一環で『居住実態が把握できない児童に関する調査』を実施。さらに、18年度からは、目黒女児虐待事件を受け、『乳幼児健診未受診者、未就園児、不就学児等の緊急把握調査』を行っています。これによって市区町村は、無園児を把握するようになりました」(同) ところが、無園児は把握していても、無園児を幼児教育施設へ通わせる取り組みを行っている自治体は、ほとんどないというのが現状だ。 「東京の杉並区は、19年度から無園児家庭へアウトリーチ(支援者が直接出向く家庭訪問)し、子育て支援サービスの情報提供や相談を行う『子育て寄りそい訪問事業』を始めました。まだノウハウがないので、手探り状態ですね。足立区は、15年度から4~6歳児を対象に『あだちっ子歯科健診』を始めたところ、支援を要する無園児がたくさんいることがわかりました。兵庫県明石市は、子どもの政策に力を入れている全国でも珍しい自治体で、今年の10月から、0歳児のいる家庭に月に1回程度、おむつなどの育児関連用品を無償で届け、母子の健康状態や虐待の有無をチェックする予定です。自治体が無園児家庭を支援しないのは、高齢者の支援に重点を置いているからです」(同) では、十分な養育環境下にない無園児を救うにはどうしたらよいのか。 「昨年10月から、3~5歳の幼児教育が無償化されました。フランスは、昨年から義務教育を3歳からに引き下げました。日本は、幼児教育が無償化されたのですから、3歳から義務化してもいいのではないか。そうすれば、自治体も動かざるを得なくなります。子どもの数だけ必要な保育園や幼稚園をつくるでしょう。無園児家庭を救うには、こういう方法しかないと思っています」』、「ペリー就学前プロジェクト」の結果は、「幼児教育」が「貧困の連鎖を断つ鍵となることが判明」、とその重要性を明確に示している。「保育園や幼稚園」の違いといった問題はさておいても、やはり「3歳から義務化」を政治主導で強力に推進するべきだろう。

第三に、6月5日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの小林 美希氏による「全国で波紋「保育士賃金カット」横行の残念実態 今後は「監査対象」になる可能性がある」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/354676
・『新型コロナウイルスの感染拡大に伴い緊急事態宣言が発令された後、保育園は休園になるか登園自粛要請を行ってきた。登園児数が減ったことで職員配置は縮小され、その結果、保育士たちの自宅待機・休業が広がり、賃金カットとなるケースが全国各地で続出した。 しかし「保育士の賃金カット」は完全に誤っている。休業しても認可保育園などで働く保育士の給与は満額支給されることを国が保証しているのだ。 この問題について筆者は「コロナで保育士の『給与4割カット』は大問題だ」(4月21日)、「コロナがあぶり出した保育士『ありえない格差』」(5月31日)の2回にわたって報じてきた。この記事を読んだことを機に、賃金カットに疑問を持った保育士らが声をあげる動きが広がり、行政も対応を急いでいる。 全国で緊急事態宣言が解除されたものの、6月末まで保育園の登園自粛を要請する自治体は少なくない。いつ第2波が起こるかもわからないなか、まだ保育士の給与について誤った運用を行う園は後を絶たず、問題は深刻だ。そこで公費で運営費が補償される保育園では保育士の賃金が守られることを、改めて整理したい』、このような不当労働行為が何故横行しているのだろうか。
・『「納得がいかない」立ち上がる保育士たち  「自宅待機を命じられ、賃金は4割支給と言われて納得がいかない」 筆者の元に、関西地方の公立保育園で働く保育士Aさんから、メッセージが寄せられた。Aさんはもともと正規雇用だったが、子育てを機に非正規雇用に転じた。 Aさんは仲間に呼びかけ、筆者の記事をプリントアウトして自治体と交渉。最終的に賃金は100%補償に変更されたが、過去3カ月の平均賃金から算出されたのは、なんと実質6割の金額で、それ以上の交渉の余地はなかった。Aさんは、「非正規雇用で働いている私が悪いのか」と退職を考え始めている。 すでに報じたとおり、コロナの影響で保育士が辞めることなく体制を維持できるように、国は特例を設けている。具体的には、私立の認可保育園には「委託費」という名の運営費が、公立保育園や認定こども園などには「施設型給付費」という名の運営費が、満額支払われている。委託費と施設型給付費は、園児の年齢や地域、保育園の規模に基づく保育単価の「公定価格」から計算される。 委託費の給付関係を所管する内閣府の担当者は、「公定価格に含まれる保育士の人件費も含めて“満額支給”している。休業しても給与を減らさず支給するものと想定して委託費を減らさずに支給している。ノーワークノーペイという状況は想定していない」と説明した。 これを記した初回の記事が掲載された1週間後の4月28日、内閣府は「コロナの影響を受けても運営費用は通常どおり給付を行うため、人件費も適切に対応するように」という内容の通知を出すに至った。 その後、新聞各紙も同様の報道を行った。5月29日には、前述した内閣府の通知に重ねる形で厚生労働省もより具体的な通知を出して、適正な賃金の支払いと年次有給休暇を強制して取得させないよう呼び掛けた』、「休業しても給与を減らさず支給するものと想定して委託費を減らさずに支給している」、「内閣府」や「厚労省」の通知は余りに遅い。
・『横浜市や世田谷区は…  国に先駆け、横浜市では4月8日に施設給付費・委託費や職員給与について、保育園の園長や事業者に通知を出している。園児の登園や職員の配置状況に関わらず、給付費・委託費等の支給は通常通り行うこと、職員は常勤・非常勤を問わず、今月に予定されていた勤務表に基づいた給与を払うよう求めている。FAQ(よくある質問と答え)では、残業代や交通費などの手当についても、給与規定等に基づいて対応するよう書かれている。 東京都世田谷区は5月1日、横浜市と同様の通知やFAQを出し、休業や年次有給休暇の取得を促すこと等がないよう、適切な対応をするように求めている。世田谷区では、処遇改善加算について「賃金改善の実績報告で、賃金が減額されていた場合は処遇改善加算が返還となる場合がある」と注意する徹底ぶりだ。処遇改善加算は基準年度(原則、2012年度)と比べて賃金が上がっていなければ、つかないからだ。 こうした通知が市区町村から直接届くことで、不当な賃金カットには歯止めがかかるはずだ。 ある自治体の保育課長は「市区町村が通知を出さないなら守らなくてもいいと考える事業者がいるため、通知をきちんと出したほうがいい」と明かす。実際、都内のある区では、私立の認可保育園で働く保育補助者が、4月中旬の段階では「自宅待機の間は無給」と宣告されていた。国が4月末に人件費に関する通知を出し、ゴールデンウィーク明けに自治体が同様の通知を出すと、園側は「休業中の賃金は満額支給する」と手の平を返した。 東京都小平市では、保育士らが市に通知を出すよう求めた。筆者の記事を読んだことで休業しても満額の賃金が得られると知った非正規雇用の保育士や保育補助者が声をあげた。 小平市内の保育園では、「無給と言われた」「最初は無給と言われたが、あとから6割支給と言われた」「これから園の収入が減るからと言われるばかりで、満額補償に応じてくれない」「正規と非正規は区別する」という露骨なケースまであり、「本来は全額補償されるべきだ」と納得いかない保育士らが、市議会議員や国会議員に窮状を訴えた。 保育士から相談を受けた竹井ようこ市議会議員は小平市に対して、保育士の声を伝え、「きちんと対応している保育園もあるが、非正規雇用の保育士が休業しても人件費を100%補償するよう、市としての通知を改めて保育園に出すべきだ」と何度も要望したが、「園の事情もあるため個別に対応する」と叶わなかった。 小平市役所の保育課に確認すると、「市にも直接、保育士からの相談が寄せられ、どの保育園かわかれば、保育園と話をしている。市としての正式な通知は出していないが、東京都による賃金に関する通知を添付して5月7日ごろに、各園に保育士への給与の満額支給を意図するメールを配信した。減収とならないような国の通知を事業者が知らないこともあるため、周知徹底に努めたい」と答えた。 竹井市議は、「市として通知を出す意味は大きいはず。国が特例措置をしているのだから、市はコロナ禍で個々の保育士が100%補償されているか、不利な立場になりやすい非正規が理由なく賃金カットされていないか調査し、毅然とした態度で指導すべき。正規と非正規に対応の差があってはいけない」と憤る』、「小平市役所」が「「園の事情もあるため個別に対応する」と一律の「通知」を拒否したとは驚くべき「保育園」寄りの姿勢だ。
・『参議院の厚生労働委員会でも紛糾  6月2日、参議院の厚生労働委員会では、竹井市議とともに保育士の窮状をヒアリングした石橋通宏参議院議員が、不当な賃金カットについて取り上げ、「国は実態を把握しているのか。常勤職員や非常勤職員を問わずに賃金を支払うということでいいか」と問いただした。 内閣府は「全体像は把握していないが、個別に問い合わせや相談を受けている。保育施設の収入を補償し、そこには非常勤職員の人件費も含まれている。通常の賃金を支給するよう自治体には指導を依頼している。同じ条件で自宅待機する常勤と非常勤を区別するのは望ましくない。非常勤にも適切に人件費が払われるよう指導したい」と明確に答えた。石橋議員は、「人件費を他に流用してはいけないということ。きちんと支払うよう指導をお願いしたい」と念を押した。 また、小平市では、小学生の子がいる保育者が「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」の活用を事業者に拒まれ、賃金カットが言い渡されたケースがあった。竹井市議は「手続きの煩雑さを嫌って事業者が申請しない例がある。手続きの簡素化、雇用されている側でも個人申請できるようにする、職員から助成申請の申し出があれば事業者が必ず申請するよう義務付けるなど、制度の改善が必要だ」と指摘する。 石橋参議院議員も同助成金が活用されていないことや、相談窓口で「保育士が対象外」と言われているケースがあることも問題視し、委員会の場で改めて同助成金が保育士も対象であることを確認し、「子どもの未来をつくるのが保育士。常勤・非常勤で差別や区別のない、穴のない制度にし、助成金が分け隔てなく届くようにしてほしい」と国に要請した。 この「小学校休業等対応助成金」や「雇用調整助成金」は認可保育園なども対象になるかどうか、内閣府は4月21日に記事が掲載された段階では「正式見解を準備中」としていたが、5月29日に結論を通知した。 雇用調整助成金については、認可保育園など給与に公費が充てられている職種(保育士や調理員など)は対象外となる。ただ、認可保育園や認定こども園などでも人件費のなかで明示されていない職種、認可外保育園、施設型給付費や地域型保育給付費以外で実施する地域子ども・子育て事業は、雇用調整助成金の対象になる可能性があり、個別に都道府県やハローワークに問い合わせる。 一方の小学校休業等対応助成金は、公定価格とは趣旨が異なり、要件を満たす認可保育園の事業者は助成金の申請ができる。ただ、そもそも公定価格で施設の収入が保証されていることから、「助成金の活用にあたっては代替要員の人件費など追加的な費用に充てるなどして、人件費の支出は適切に対応するのが望ましい」と書かれている』、こんなに混乱が予想されるのであれば、国は自治体任せにせず、率先して「通知」で周知徹底を図るべきだろう。
・『延長保育を理由にする園もあるが…  このような制度があるため賃金カットを行う理由はないはずだが、保育園によっては「委託費は守られたとしても、延長保育など利用実績に応じて受ける補助が大きく減る」ことを心配し、賃金カットの理由にするケースもある。しかし、延長保育などについても国は目を配っている。 延長保育、一時預かり、病児保育事業への交付金について、内閣府と厚生労働省は連名で4月17日に「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う子ども・子育て支援交付金の取り扱いについて」という事務連絡を行い、保育園の収入が減らないよう配慮している。 延長保育、一時預かり、病児保育の事業は、自治体が1年単位で民間事業者へ委託し、職員の雇用が行われるため、コロナで減収となっては影響が出てしまう。そこで、コロナの影響で事業が実施できなかった場合でも、利用者の家での見守り、利用予定だった保護者へ電話で相談支援するなど、できる限りの支援を行ったと市区町村が認めた場合は、通常の利用と同等のサービスをしたとみなして補助が受けられるようになっている。 ほか、保護者が病気になったときや育児疲れのときにも利用できる「ショートステイ」、仕事で夜間や休日に利用できる「トワイライトステイ」をはじめとした、市区町村が行う子育て関連事業も、すでに雇用していた職員の人件費など、実際に事業者の負担が発生する経費は担保される。 ちなみに、「コロナ対策で消毒液などの出費がかさむ」ことも賃金カットの理由にされやすいが、厚生労働省は3月10日、感染対策で物品を購入する費用の補助を決めている。自治体が窓口となり、認可保育園、幼保連携型認定こども園、認可外保育園などは、1施設当たり50万円を上限に、子ども用マスク(不足があれば大人用マスクも可)、消毒液、体温計、空気清浄機、液体石鹸、うがい薬などを幅広く買うことができる。国内で初めて感染者が確認された2020年1月16日から、今年度内の購入費用が対象となる。 だからこそ厚生労働省は5月29日、前月の内閣府通知に重ねて通知を出し、登園自粛で園児が減った場合の職員の賃金と年次有給休暇の取り扱いについて、より強いトーンで注意喚起したのだろう。 具体的には、①コロナの影響で職員体制が縮小し、やむを得ず職員を休業させる場合には、休業中の手当を支払うよう就業規則に定め、安心して休める体制を整えること、②施設型給付費や委託費が支給されている認定こども園、幼稚園、認可保育所、そして小規模保育、家庭的保育などは、運営費が通常どおり給付されていることを踏まえ、職員体制の縮小にあたっては、休ませた職員についても通常の賃金を支給するなど人件費の支出を適切に対応すること、という2点を記載した。 そして、年次有給休暇は原則、労働者が請求する時期に与えるもので、使用者が一方的に取得させることはできないものだと踏み込んだ。さらに、「都道府県や政令市・中核市は、管内の市町村や保育所にこの通知を周知し、指導監査の際に確認する項目として留意すること」を求めた。 つまり、賃金が満額支払われない、年次有給休暇を強制されることは不適切で、指導監査すべきことだというのだ。日頃から自治体は「民間の給与額に口を挟めない」という悩みを抱えてきたが、今回のコロナ禍では、それは通用しないことを意味する』、「日頃から自治体は「民間の給与額に口を挟めない」という悩みを抱えてきた」、というのも「保育士」などの給与に対しては、大いに「口を挟め」る筈なのに、単に一般論で責任放棄しているに過ぎないようだ。
・『江東区が送った、毅然とした通知文  6月3日、東京都の江東区は、コロナ禍の賃金と年次有給休暇の取り扱いについて、認可保育園の運営事業者に通知文を送った。国の通知と同様、「職員の賃金について減額等することなく通常どおりの金額を支払うこと」「年次有給休暇を使用者が一方的に取得させないこと」と記した。そのうえで、保育施設の検査(監査のこと)で、賃金の支払いと年次有給休暇の取得状況について確認すると、厳しい姿勢を見せている。 江東区役所の保育課長は「国が具体的に通知したことを受け、区も対応した。企業の論理ではノーワークノーペイという概念があるかもしれないが、保育所は別。委託費が満額支払われているのに、理由のない賃金カットがあってはいけない。保育士からの不安の声もあり、それに応じたかった」と話す。 国は保育園の収入が減らずにすむ手だてを打ち、通常どおり給与を支払うよう通知している。それにもかかわらず、不当な賃金カットが行われるのであれば、ウイルスと隣り合わせで働く保育士が、あまりに報われない。 保育園とは自治体の責任で設置する福祉施設であり、事業者の性善説が通用しないことがあるなかでは、行政はより厳しく監督する責任があるはずだ。保育士の離職が進めば、保育は完全に崩壊してしまう』、「江東区役所」の対応は立派だが、本来は国がやるべきことだ。

第四に、同じ小林 美希氏による6月17日付け東洋経済オンライン「公然と消える「保育士給与」ありえないカラクリ 国も黙認する、都合のいい「弾力運用」の実態」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/356874
・『新型コロナウイルスの感染が拡大して緊急事態宣言が発令されるなかで、「保育士の不当な賃金カット」が全国で起こり大波紋を広げた。保育園を休業しても、認可保育園などで働く保育士の給与は満額支給されることを国が保証しているにもかかわらず、現場の判断による大幅な賃金カットが後を絶たない。 この問題について、筆者は「コロナで保育士の『給与4割カット』は大問題だ」(4月21日)、「コロナがあぶり出した保育士の『ありえない格差』」(5月31日)、「全国で波紋『保育士賃金カット』横行の残念実態」(6月5日)の3回に渡って報じてきた。 後述するように保育士の給与は保育園運営の構造上、多くの園で低く抑えられている。そこにさらに今回のような賃金カットを行うと、保育士の離職といった人手不足につながり、待機児童問題の解決をますます遅らせる要因になる。日々の保育の質にも関わりかねない。 なぜこのようなことが起こるのか。その背景には、筆者がかねてより指摘してきた「委託費の弾力運用」の問題がありそうだ。 私立の認可保育園が受け取る運営費である「委託費」。その大部分を占めるのが人件費だが、保育士に全額を支払うことなく、他に流用しても良いとされている。そのため、事業者側のなかには「人件費を満額支払わなくてもいいものだ」という認識が浸透してしまい、保育士が低賃金になる温床になっている。 その結果としてコロナ禍の中、保育士の不当な賃金カットが起きてしまったのではないだろうか。本稿では「委託費の弾力運用」とはどういう仕組みなのかを解説し、本来もらえるはずの保育士の給与額と実際の支給額に大きな差があることを検証する』、多くの「私立の認可保育園」で問題が発生している背景には、確かに「「委託費の弾力運用」の問題がありそうだ」。具体的にみてみよう。
・『給与はどこに消えるのか?  「コロナでカットされた私たちの給与は、いったい、どこに消えるのか」 保育士らの疑問が膨らむ。都内のある保育士は、「園長は”収入が減る”の一点張りで、賃金カットの理由を明確にしない。国が園の収入が減らないよう委託費を出しているというのを、まるでフェイクニュースといわんばかり」と憤る。 また、ある保育士は「私は正職員だからコロナでもフル出勤だったのに、諸手当がつかず手取りが20万円を切っていた」と納得がいかない。他の保育士は、「不当な扱いはコロナの時ばかりではない。私たちは保育で必要な折り紙でさえ満足に買う費用が渡されない。絵本もない。積み木もない。自腹を切って100円ショップで買うしかないのに、(私立保育園の)経営者は高級車を乗り回している」と不信感を募らせる。 コロナに関係なく、人件費はもちろん、折り紙や絵本、玩具を買う費用なども含めて、必要なだけ保育園に「委託費」が支給されているのに、なぜ、こうしたブラック経営が許されるのだろうか。問題の根底にあるのが、冒頭でも触れた「委託費の弾力運用」という制度がある。 まず委託費とは、私立の認可保育園が受け取る運営費のことを指す。国、都道府県、市区町村が負担する税金と、保護者の支払う保育料が原資になっている、いわば公金だ。委託費は、地域、保育園の定員、園児の年齢別で子ども1人当たりの単価である「公定価格」に基づいて計算され、毎月、市区町村を通して保育園に支払われる。 委託費の使途は、「人件費」「事業費」「管理費」の3つ。「人件費」には常勤、非常勤の保育士などの給与、法定福利費、嘱託医、年休代替要員費、研修代替要員費など含まれている。次に「事業費」には、給食費、折り紙や玩具、絵本などの保育材料費、保健衛生費、水道光熱費(保育で使う分)などが含まれる。そして「管理費」には、職員の福利厚生(健康管理や被服費など)、旅費交通費、研修費、事務消耗品、土地建物の賃借料、業務委託費、水道光熱費(事務で使う分)などとなる』、なるほど。
・『国は「人件費が8割」と積算しているが…  保育に必要な経費が「積み上げ方式」で積算されているため、委託費は「支給された保育園のなかで使い切る性質のものだ」と、国は説明する。 内閣府は委託費の8割が人件費、そして事業費と管理費はそれぞれ約1割程度と積算して支給している。この人件費と事業費と管理費の各費目について、相互に流用していいというのが「委託費の弾力運用」で、国が通知を出して認めている。 委託費の弾力運用を行うには、一定の基準をクリアする必要がある。具体的には、 +職員配置などが遵守されていること +給与規定があり、適正な給与水準で人件費が適正に運用されていること +給食が必要な栄養量が確保され嗜好を生かした調理がされている。日常生活に必要な諸経費が適正に確保されていること +児童の処遇が適切であること などがあり、ほとんどの私立の認可保育園が対象となっている。 認可保育園の運営は公共性が高いことから、もともとは自治体と社会福祉法人にしか設置が認められていなかった。そして委託費には「人件費は人件費に」「事業費は事業費に」「管理費は管理費に」という使途制限があった。 ところが待機児童の増加に伴う「規制緩和」により、この仕組みが変更された。 1990年代のバブル崩壊と不況、男女雇用参画の進展により、共働き世帯が増加。山一證券が経営破たんした1997年には専業主婦世帯と共働き世帯が完全に逆転、待機児童が社会的な問題になった。 そして2000年、待機児童解消を狙って営利企業(株式会社や有限会社)やNPО法人、宗教法人にも認可保育園の設置が認められた。 ただ、「人件費8割」というガチガチの使途制限があっては、営利企業が儲けを出す余地が小さい。そこで営利企業の参入と同時に、委託費の弾力運用が大きく規制緩和されたのだった。 この規制緩和で人件費、事業費、管理費の相互流用が認められた。そして、人件費や園舎の修繕費、備品などの購入費を上限額なく積み立てられるようになった。 積み立てを目的外で使う場合は、社会福祉法人は理事会の協議が必要だが、そこで認められれば新しく開園する保育園の建設費用に回すことも可能となった。また、同一法人が設置する保育園や保育関連事業に委託費を流用することもできるようになった。 この規制緩和の前夜、厚生大臣だったのは小泉純一郎氏だった。2001年に小泉政権が発足すると、さらに規制緩和が行われた。 2004年3月、同一法人で運営する介護施設にも委託費を流用可能となった。続く2005年3月、委託費を流用できる金額が大きく緩和された。年度(4月から翌年3月まで)の収入のうち3カ月分、つまり年間収入の4分の1も弾力運用してよいとされたのだ。この時の制度変更について、当時の関係者は、筆者の取材に対して「失政だった」と本音を語っている』、「営利企業の参入」のために「委託費の弾力運用が大きく規制緩和」、ある程度はやむを得なかったが、「年間収入の4分の1も弾力運用してよい」、とまで「緩和」したのは、確かに「失政だった」のかも知れない。
・『大手が運営するA認可保育園の場合  大手が運営する都内のA認可保育園の財務情報を例にしてみよう。委託費のほか東京都独自の処遇改善費や市区町村独自の補助金を合計した収入が2億3000万円。そのうち人件費は約4割、事業費は平均的な1割かけられている。 給食調理やリトミックの講師料の業務委託費が2900万円、土地・建物の賃借料も2000万円かかり管理費は3割に膨らんでいる。A保育園の収入を弾力運用して約5000万円が、積立てや本部経費のほか系列のB保育園、C保育事業、新規開設の費用などに回されている。 年間の収入の4分の1が流用可能であるため、制度上はA保育園では5750万円まで、他の施設の運営などに流用可能となる。本部で事務作業や採用活動などを行えば効率的だったとしても、実際に流用された5000万円の大半は、もともとはA保育園で全て使うべき収入だ。 保育園の財務情報を見ていくと、1~2億円の収入から数千万円もの金額を積み立てや他施設に流用しているケースはザラにある。他に流用することにより、本来その園で必要経費として使用されるべき保育士の給与が低くなり、また、子どものための費用が削られるのでは本末転倒だ。 安倍晋三政権の下でも、小泉政権の頃と同様、経済界が規制緩和を求めた結果、2015年に株式会社の株主配当まで認められた。「委託費の弾力運用は必要だ」とする保育の業界団体の幹部ですら「行き過ぎている」と本音を漏らす。 そして、待機児童解消が目玉政策となって急ピッチで保育園が作られるなか、「波に乗ろう」「ビジネスチャンスだ」といって異業種のからの参入が加速した。「保育への再投資だ」といって施設整備に委託費が流用され、株式会社の右にならえと社会福祉法人も規模拡大していく。 こうした一連の“制度活用”の結果、国が想定する「人件費8割」が大きく崩れた。そして、実際に支出される人件費比率は低くなった』、「他に流用することにより、本来その園で必要経費として使用されるべき保育士の給与が低くなり、また、子どものための費用が削られるのでは本末転倒だ」、その通りだ。ただ、「人件費比率」を押さえた結果、「保育士」不足が深刻化するのも「本末転倒だ」。
・『実際の支出を比較してみると…  東京都「保育士等キャリアアップ補助金の賃金改善実績報告書等に係る集計結果」(2017年度)から、実際に支出されている人件費、事業費、管理費(事務費)の比率の平均値を示した。 社会福祉法人の人件費は約7割、事業費と管理費が約1割。一方の株式会社は人件費が約5割、事業費が1割弱、管理費が2割強だった。人件費が抑えられ、給食調理の業務委託や賃料がかさみ管理費が膨らんでいる。 株式会社の人件費比率が低い理由には、新卒採用の割合が高くなり保育士が若いことのほか、土地や建物の賃貸料がかさむこと、社会福祉法人と違って法人税が課せられることなどが挙げられる。株式会社の認可保育の歴史が浅いことも背景にはある。しかし、営利企業が進出するなら、不利な条件は織り込み済みのはず。経営を考え利益を確保するのであれば、人件費を抑えることになるだろう。 東京都は社会福祉法人と株式会社を比較するため、前述の集計結果で、定員数、職員の平均経験年数を同じ条件(定員66~76人まで、職員の平均経験年数5年)にして費目区分の割合を算出している。その数値を見てもやはり、人件費分が土地建物の費用に吸収されてしまっていることが窺える。預ける側、働く側にしてみれば、重要なポイントだ。 国や自治体は多額の税金を投入して保育士の処遇改善を図っているが、本来、保育士が受け取ることのできる給与の金額はいったいいくらなのか。筆者は内閣府の資料を基に、計算した。 国は毎年度、通知で「公定価格」のなかの保育士の”年収”を示しており、2020年度は全国平均で約395万円(法定福利費や交通費、処遇改善費は含まない金額)。そこに、常勤・非常勤を問わず全職員が対象の「処遇改善加算①」がつく。処遇改善①にはキャリアアップの取り組みに応じた「賃金改善要件分」と職員の平均経験年数に応じた「基礎分」の2種類があって、まず「賃金改善要件分」を足すと保育士の年収は約417万円になる。 次に、技能や経験を積んだ保育士につく「処遇改善加算②」は、おおむね経験3年以上の「リーダー」役の保育士は月5000円が、おおむね経験7年以上で「副主任」を任される保育士は月4万円が支給される。それぞれの年収は経験3年以上で約423万円、経験7年以上で約465万円になる。 そこに、もうひとつの「処遇改善加算①基礎分」が個々に平均経験年数に応じて、1%から12%の加算がついていく。1%は約3000円なので、月約3000円から約3万6000円が前述した年収に上乗せされていく。理論上、年収500万円という賃金も国が用意していることになる。 すると、保育士は経験7年以上で、会社員の平均年収の441万円(平均勤続年数12.2年、国税庁「民間給与実態統計調査」)を超える計算になる。さらに都内で働く保育士は、東京都のキャリアアップ補助金が月平均で約4万4000円が出ているため(定員100人の場合)、年収は国の想定より年間で約53万円も多くなる』、「理論上、年収500万円という賃金も国が用意していることになる」、決して悪くない水準だ。
・『国の想定と比較して30~100万も年収が少ない  しかしながら、保育士が実際に手にとる給与は少ない。内閣府「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果(速報値)」(2019年度)で約362万円、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」(2019年)で約363万円となる。処遇改善費が反映されているのに、国の想定より約30万~100万円も年収が少なくなっている。 委託費がおおむね配置基準の人件費で支払われることから、それより多く保育士を雇っていれば一人当たり賃金が低くなる要因もある。ただ、保育士不足で配置基準ギリギリの現場も少なくない。既に全産業平均を超えるほどの人件費が国から出ているのに、委託費の弾力運用によってバケツの底に穴が空いたような状態だ。コロナ禍の不当な賃金カットも、そもそも保育士の給与水準が不当に低く抑えられている問題の延長線上にあるのだ。 政府は第2次補正予算で、コロナ患者を受け入れた医療機関の職員や、感染が発生した介護施設などの職員に「慰労金」を1人当たり最大で20万円給付することとした。しかし、保育園はコロナの影響を受けることなく委託費が満額支給されることを理由に、対象外になっている。そのため、業界団体は保育園なども慰労金の対象にするよう国に緊急要望し、賛同者は増えている。 もちろん、保育士も危険手当に相当する慰労金が国費で支払われるべきだろう。しかし、全国各地で不当な賃金カットが横行している。東京大学大学院の発達保育実践政策学センターが4月17日から5月1日までに行ったアンケート調査では、常勤職員の約8割は休業しても満額の賃金を得ていたが、フルタイムの非常勤職員は約6割、パート職員は約5割にとどまった。「賃金補償なし」は常勤職員でも7.6%いて、フルタイム非常勤は9.8%、パートタイム職員は15.8%に上った。 そうしたなか、本当に保育士の手に慰労金が渡たるのかという心配も生じる。業界団体が慰労金を要望するのは当然だが、業界団体をはじめ自治体はそれ以前の問題として、事業者がコロナ禍で給与を適切に支払っていたか実態調査し、結果を公表する必要があるのではないか。 国は、一連の問題について行政が監査や指導を徹底するよう改めて文書をまとめており、近く明示される予定だ』、「既に全産業平均を超えるほどの人件費が国から出ているのに、委託費の弾力運用によってバケツの底に穴が空いたような状態だ」、「常勤職員の約8割は休業しても満額の賃金を得ていたが、フルタイムの非常勤職員は約6割、パート職員は約5割にとどまった」、酷い実態だ。「国は、一連の問題について行政が監査や指導を徹底するよう改めて文書をまとめており、近く明示される予定」、余り期待できそうもないが、1つの注目点ではある。
タグ:国は、一連の問題について行政が監査や指導を徹底するよう改めて文書をまとめており、近く明示される予定 常勤職員の約8割は休業しても満額の賃金を得ていたが、フルタイムの非常勤職員は約6割、パート職員は約5割にとどまった 国の想定と比較して30~100万も年収が少ない 理論上、年収500万円という賃金も国が用意していることになる 実際の支出を比較してみると… 大手が運営するA認可保育園の場合 年間収入の4分の1も弾力運用してよい」 国は「人件費が8割」と積算しているが… 給与はどこに消えるのか? 事業者側のなかには「人件費を満額支払わなくてもいいものだ」という認識が浸透してしまい、保育士が低賃金になる温床になっている 「委託費の弾力運用」の問題 「公然と消える「保育士給与」ありえないカラクリ 国も黙認する、都合のいい「弾力運用」の実態」 江東区が送った、毅然とした通知文 民間の給与額に口を挟めない 延長保育を理由にする園もあるが… 参議院の厚生労働委員会でも紛糾 横浜市や世田谷区は 休業しても給与を減らさず支給するものと想定して委託費を減らさずに支給している 「納得がいかない」立ち上がる保育士たち 「全国で波紋「保育士賃金カット」横行の残念実態 今後は「監査対象」になる可能性がある」 小林 美希 IQが90以上の5歳の子は、プロジェクトに参加した子で67%、参加しない子は28%。高卒以上は、参加で77%、不参加は60%。27歳時点で、過去10年間に生活保護受給は、参加が59%、不参加が80%。40歳時点で仕事に就いている人は、参加が76%、不参加が62%。40歳で年収が2万ドル以上は、参加が60%、不参加が40%。40歳で5回以上逮捕は、参加が36%、不参加は55%と、明らかに差が出ている ペリー就学前プロジェクト 義務化しかない 無園児の割合は、3歳児で5・2%(5万1000人)、4歳児で2・7%(2万7000人)、5歳児で1・7%(1万7000人)となっている。3~5歳までの無園児は9万5000人もいることになる 無園児 「保育園や幼稚園に通わない「無園児」は9万5000人 自治体も放置で救済方法はただ一つ」 デイリー新潮 保育所は学校教育法上の教育機関ではない 義務教育化の実現には高いハードル 教育無償化と義務教育化には違いがある 「日本で幼児教育を「義務教育」にできないわけ 最大のハードルは幼稚園と保育所の「壁」」 土居 丈朗 東洋経済オンライン (その10)(日本で幼児教育を「義務教育」にできないわけ 最大のハードルは幼稚園と保育所の「壁」、保育園や幼稚園に通わない「無園児」は9万5000人 自治体も放置で救済方法はただ一つ、全国で波紋「保育士賃金カット」横行の残念実態 今後は「監査対象」になる可能性がある、公然と消える「保育士給与」ありえないカラクリ 国も黙認する 都合のいい「弾力運用」の実態) (待機児童)問題 保育園
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